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スタチンによる好ましくない作用、多くは過大評価~メタ解析/Lancet

 スタチン製剤の製品ラベル(たとえば、製品特性概要[SmPC])には、治療関連の可能性がある作用として特定の有害なアウトカムが記載されているが、これらは主に非無作為化・非盲検試験に基づくため、バイアスの影響を受けている可能性があるとされる。英国・オックスフォード大学のChristina Reith氏らCholesterol Treatment Trialists’ (CTT) Collaborationは、このようなスタチン製剤の好ましくない作用(undesirable effect)のエビデンスをより高い信頼性をもって評価することを目的に、大規模な二重盲検試験の個別の参加者データを用いたメタ解析を実施した。研究の成果は、Lancet誌2026年2月14日号で発表された。5つのスタチン製剤の有害作用をメタ解析で評価 CTT Collaborationは、二重盲検無作為化試験の個別の参加者データを用いたメタ解析において、5つのスタチン製剤(アトルバスタチン、フルバスタチン、プラバスタチン、ロスバスタチン、シンバスタチン)について電子医薬品集(electronic medicines compendium:EMC)を検索し、スタチンのSmPCに記載されている好ましくない作用の用語のリストを作成した(本解析は英国心臓財団などの助成を受けた)。 メタ解析の対象とした無作為化試験は、(1)参加者数が1,000例以上、(2)予定された投与期間が2年以上、(3)スタチンとプラセボ、あるいは高強度と低強度スタチン療法の二重盲検比較試験であった。 イベント発生の率比(RR)と95%信頼区間(CI)を算出し、偽発見率(FDR)を5%で調整して統計学的有意性を評価した。66項目中62項目は有害作用ではない 19件がスタチン療法とプラセボを比較した二重盲検試験であった(合計12万3,940例、追跡期間中央値4.5年[四分位範囲[IQR]:3.1~5.4])。参加者の平均年齢は63(SD 9)歳、3万4,533例(28%)が女性であり、5万9,610例(48%)に血管疾患の既往歴があり、2万2,925例(18%)が糖尿病の病歴を有していた。 筋肉関連アウトカムや糖尿病への有害な作用に加えて、スタチンに起因するとされた66項目の追加的な好ましくないアウトカムのうち、FDR有意水準を満たしたのは、わずかに次の4項目のみであった。・肝トランスアミナーゼ値異常:スタチン群783例(0.30%/年)vs.プラセボ群556例(0.22%/年)、RR:1.41(95%CI:1.26~1.57)・その他の肝機能検査値異常:スタチン群651例(0.25%/年)vs.プラセボ群518例(0.20%/年)、RR:1.26(95%CI:1.12~1.41)、肝機能検査値異常の合計における絶対的な年間超過率:0.13%・尿組成の変化:スタチン群556例(0.21%/年)vs.プラセボ群472例(0.18%/年)、RR:1.18(95%CI:1.04~1.33)・浮腫:スタチン群3,495例(1.38%/年)vs.プラセボ群3,299例(1.31%/年)、RR:1.07(95%CI:1.02~1.12)従来の結論を強化する知見 4件の高強度と低強度スタチン療法を比較した二重盲検試験(合計3万724例、追跡期間中央値:5.0年[IQR:2.3~6.6]、平均年齢:62[SD 10]歳、全例に血管疾患の既往歴)でも、用量依存性の肝トランスアミナーゼ値異常およびその他の肝機能検査値異常の有意な過剰発生を認めた。一方、尿組成の変化や浮腫については、有意な過剰発生はみられなかった。 これらの知見について、著者は「スタチン療法の既報の有害作用(筋肉関連アウトカム、糖尿病への影響)以外では、肝臓の生化学的異常のわずかな絶対的増加と、臨床的な意義不明の尿組成の異常および浮腫への潜在的な有害作用と関連するのみで、スタチン製剤のSmPCに記載されたその他のアウトカムとは関連しないことを示している」「スタチン療法が心血管系に及ぼす有益性は、スタチン関連のあらゆるリスクを大きく上回るという従来の結論を強化するものである」としている。 また、「スタチン製剤の製品ラベルの好ましくない作用の項はリスクを過大評価しており、臨床医と患者の誤解を招く恐れがあるため、有益な情報に依拠したエビデンスに基づく意思決定をより適切に支援するよう改訂すべきである」と主張している。

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副腎偶発腫瘍【日常診療アップグレード】第50回

副腎偶発腫瘍問題72歳女性。腎盂腎炎のため救急室を受診した際、CT検査で偶然に内部が均一な直径3cmの左副腎腫瘍が見つかった。単純CT検査でのCT値は8ハンスフィールド単位(Hounsfield Unit: HU)である。既往歴は高血圧、脂質異常症、2型糖尿病。処方薬はアムロジピン、アトルバスタチン、メトホルミン、デュラグルチドである。バイタルサインを含む身体所見は正常である。低用量デキサメタゾン抑制試験および血漿メタネフリン、血漿アルドステロン濃度/血漿レニン活性比の結果は正常であった。追加検査や治療は不要である。

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経口PCSK9阻害薬enlicitide、LDL-C値を有意に低下/NEJM

 アテローム動脈硬化性心血管疾患(ASCVD)イベントの既往/初回リスクを有する患者において、経口PCSK9阻害薬enlicitideはプラセボと比較して、24週時点でLDL-C値を有意に低下させたことが示された。米国・University of Texas Southwestern Medical CenterのAnn Marie Navar氏らCORALreef Lipids Investigatorsが、日本を含む14ヵ国168施設で実施した国際共同第III相二重盲検無作為化プラセボ対照試験「CORALreef Lipids試験」の結果を報告した。第II相試験において、enlicitide decanoateはLDL-C値を低下させることが示され、より長期のデータが求められていた。NEJM誌2026年2月5日号掲載の報告。24週時点におけるLDL-C値の平均変化率を対プラセボで評価 CORALreef Lipids試験の対象は、主要なASCVDイベント既往でLDL-C値55mg/dL以上、または初回ASCVDイベント発症リスクが中等度~高度でLDL-C値70mg/dL以上の18歳以上の成人。 被験者は、enlicitide 20mg 1日1回投与群またはプラセボ群に2対1の割合で無作為に割り付けられ、52週間投与を受けた。 主要エンドポイントは、ベースラインから24週時点におけるLDL-C値の平均変化率であった。重要な副次エンドポイントは、52週時点におけるLDL-C値の平均変化率、24週時点におけるnon-HDL-C値およびアポリポ蛋白B(APOB)値の平均変化率、リポ蛋白(a)[Lp(a)]値の変化率であった。平均変化率はenlicitide群-57.1%、プラセボ群3.0% 2023年8月~2025年7月に、2,909例が無作為化された(ITT集団:enlicitide群1,940例、プラセボ群969例)。このうち試験薬を投与されなかった5例を除く2,904例(enlicitide群1,935例、プラセボ群969例)が主要および副次の有効性エンドポイントと安全性の解析に包含された。 被験者の平均(±SD)年齢は62.8±10.7歳、39.3%が女性、53.9%が白人で、主要なASCVDイベント既往者は58.3%であった。ベースラインで96.6%がスタチンを服用しており、25.8%がエゼチミブまたはhybutimibeの投与を受けていた。ベースラインの平均(±SD)LDL-C値は96.1±38.9mg/dLであった。 24週時点における平均LDL-C値は、enlicitide群38.7±35.6mg/dL、プラセボ群98.6±42.5mg/dLで、主要エンドポイントのLDL-C値の平均変化率は、enlicitide群-57.1%(95%信頼区間[CI]:-61.8~-52.5)、プラセボ群3.0%(95%CI:0.9~5.1)であり、補正後群間差は-55.8%ポイント(95%CI:-60.9~-50.7)で有意な差が認められた(p<0.001)。 52週時点におけるLDL-C値の平均変化率、24週時点におけるnon-HDL-C値およびAPOB値の平均変化率、Lp(a)値の変化率は、いずれもenlicitide群がプラセボ群より有意に大きかった(すべての比較のp<0.001)。 有害事象の発現は、両群間で差はみられなかった。

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タンジール病〔Tangier disease〕

1 疾患概要■ 概念・定義タンジール病は、高比重リポ蛋白(HDL)コレステロール(HDL-C)、アポリポ蛋白(アポ)A-I濃度が著しく低下し、オレンジ色の咽頭扁桃腫大、肝脾腫、角膜混濁、末梢神経障害などの種々の臓器にコレステロールエステルが蓄積することに伴う臨床症状を特徴とする常染色体潜性(劣性)遺伝疾患である。なお、血清脂質値は常染色体共優性遺伝。1961年に米国バージニア州タンジール島の5歳の少年から摘出されたオレンジ色の異常扁桃の病理所見で、多数の泡沫細胞が存在し、この少年と姉の血清HDL-Cが極端な低値を示すことが、Fredricksonらによって報告され「タンジール病」と命名された1)。アポA-Iによる細胞からのコレステロール引き抜きに関与するATP-binding cassette transporter A1(ABCA1)の遺伝子異常に起因する極めてまれな疾患で、早発性冠動脈疾患を来すため早期診断が重要である。■ 疫学極めてまれな難病で、世界全体でこれまで約130例程度しか報告がなく2)、有病率はおよそ100万分の1と推定されている。わが国でも報告例は十数家系程度であるが、未診断例も存在する可能性がある。HDL-C値の下位1%未満の集団の10%にABCA1変異が同定されている。■ 病因ABCA1遺伝子は染色体9q31に位置し、その機能喪失型変異によりタンジール病が生じる3)。ABCA1は細胞膜上のコレステロール輸送体で、血中の遊離アポA-IがABCA1に結合し、ABCA1は細胞内から余剰のコレステロールとリン脂質を細胞外へ排出し、アポA-Iに受け渡し、原始HDLである円盤状のpreβ-HDL粒子を形成する役割を担う。本症では、ABCA1の機能喪失によりpreβ-HDL粒子が形成されず、HDL産生が著しく低下する。また、細胞内からのコレステロール搬出が障害された結果、コレステロールエステルが網内系、皮膚、粘膜、末梢神経のシュワン細胞などの細胞内に異常蓄積し、多臓器で泡沫細胞が出現して機能障害や細胞死を引き起こす。骨髄、肝、脾、リンパ節、皮膚、大腸粘膜、平滑筋などに泡沫細胞が認められ、その結果種々の症状を来す。■ 症状1)臓器腫大と機能障害コレステロールエステルの異常沈着は全身の網内系臓器や粘膜に及ぶため、多彩な臓器腫大・障害が生じる。主な所見は以下のとおりである。(1)オレンジ色扁桃腫大:扁桃は分葉・腫大し、明らかなオレンジ色または黄~灰色の表面を持つ。再発性扁桃炎や扁桃摘出の病歴がしばしば認められる(図1)。(2)肝脾腫:肝腫大は約3分の1に認めるが、肝機能障害は通常軽微である。脾腫は約半数で認められ、軽度の血小板低下症と網状赤血球増加を伴う。脾臓・肝臓への脂質沈着により腹部膨満や肝脾腫が身体診察で認められる。(3)その他臓器へのコレステロールエステル蓄積:リンパ節、胸腺、腸管粘膜、皮膚などで、組織学的には泡沫細胞浸潤として確認される。大腸粘膜沈着に起因する難治性の慢性下痢を呈したまれな症例もある。(4)眼病変:角膜へのコレステロール沈着により角膜混濁(角膜の乳白色の濁り)を来す。多くは軽度で視力障害は生じないが、進行すると視力低下を来す可能性がある。網膜にも色素変性様所見(斑点状の色素沈着)が報告されている。(5)血液・骨髄:血中HDL欠損に伴い赤血球形態異常(棘状赤血球や口裂赤血球など)が報告されており、軽度の溶血性貧血を伴う例もある。骨髄生検では泡沫化マクロファージの貯留像を認める。図1 タンジール病患者のオレンジ色扁桃A:舌扁桃 B:咽頭扁桃(文献2より引用)画像を拡大する2)末梢神経障害軽度から重症までさまざまな末梢神経障害が報告されている。知覚障害、運動障害または混合障害が、一過性または持続性に出現する。小児~若年期から発症し、シュワン細胞内へのコレステロール沈着により髄鞘脱落を起こし、多彩な神経症候を呈する。深部知覚や腱反射の低下はまれで、脳神経を含む末梢神経の再発性非対称性障害や下肢に強い対称性の末梢神経障害や脊髄空洞症様の末梢神経障害として出現する。3)早発性の動脈硬化性疾患タンジール病(ABCA1遺伝子変異ホモ接合体)中の20%で狭心症・心筋梗塞などの動脈硬化性心血管病変の症状が認められる。さらに35~65歳の本症患者では約44%と対照群(男性6.5%、女性3.2%)と比較すると著しく高頻度である。ただ、ABCA1のミスセンス変異の機能障害の違いにより、動脈硬化の程度は個々の症例により異なる。したがって、各患者での動脈硬化のリスク評価と画像診断が必要である。血管内超音波法(IVUS:intravascular ultrasound)による冠動脈の観察で、強度のびまん性の石灰化病変を認めた報告4)や、全身性の重症の動脈硬化病変を合併した症例の報告2)がある。4)耐糖能異常・2型糖尿病膵β細胞におけるABCA1欠損はインスリン分泌障害を引き起こすことが示されており、本症の患者で耐糖能異常や2型糖尿病を合併しやすい一因と考えられる。ABCA1欠損により、膵島(とくにβ細胞)へのコレステロール蓄積によるインスリン初期分泌能低下が機序と考えられる5)。耐糖能異常や2型糖尿病の管理は心血管リスク低減のためにも重要である。■ 予後タンジール病そのものは先天的代謝異常であり、生涯にわたりHDL欠損状態が続くため、長期療養と経過観察が必要である。適切な管理により小児~成人期まで比較的良好に経過する症例もあるが、若年~中年期での冠動脈疾患発症や脳卒中により生命予後が短縮するケースもある。予後改善には動脈硬化性合併症の予防と早期介入が最も重要であり、患者のQOL維持のためには症状コントロールと包括的なリスク管理を続ける必要がある。とくに、狭心症、心筋梗塞などの早発性冠動脈疾患の発症に留意し、定期的な動脈硬化性疾患のチェックが重要である。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)■ 一般検査血液検査で脾機能亢進による血小板減少症(巨大血小板性血小板低下症)や溶血性貧血(間接ビリルビンや網状赤血球増加)が見られることがある。空腹時血糖上昇、経口糖負荷試験(OGTT)で耐糖能異常やインスリン初期分泌能の指標であるinsulinogenic index を評価し、インスリン初期分泌低下が認められることがある。■ 特殊検査1)脂質検査タンジール病(変異ABCA1遺伝子ホモ接合体または複合ヘテロ接合体)患者では、血中HDL-Cは通常5mg/dL以下(同定された症例の平均3±3mg/dL)と正常の約6%に低下しており、アポA-I値も10mg/dL以下に低下する。LDLコレステロール(LDL-C)も平均正常値の約37%に低下している。これはABCA1欠損により末梢から肝へのコレステロール逆転送が低下し、肝細胞のコレステロール不足からLDL受容体発現が亢進してLDL-Cが低下するためと考えられる。軽度の高TG血症を認めることが多く、TGに富むレムナントリポ蛋白の増加を認める。近年の研究で、ABCA1欠損が肝臓由来のangiopoietin-like protein 3(ANGPTL3)の分泌増加を招き、これが本症患者でみられる高TG血症に関与する可能性が報告されている。一方、変異ABCA1遺伝子ヘテロ接合体(キャリア)では血中HDL-CおよびアポA-I値は正常者の約50%程度に低下する。2)眼科検査コレステロール蓄積による角膜混濁を認めることがあり、眼科で角膜検査が必須である。3)耳鼻科検査本症に特徴的なオレンジ色の扁桃腫大を認めることがあり、耳鼻科での目視検査が必要となる。幼少~青年期に扁桃の著明な腫大と黄色~橙色調への変色がしばしば最初の兆候として現れる。扁桃は分葉状に肥大し、独特のオレンジ~黄灰色を呈するため「オレンジ色扁桃」と呼ばれる。小児期に反復する扁桃炎や扁桃摘出術の既往を有する患者も少なくない。4)画像・生検所見腹部超音波検査で肝脾腫を検査する。オレンジ色扁桃や肝脾腫、角膜混濁などの身体所見から本症を疑った場合、組織生検で泡沫細胞沈着を確認する。とくに直腸粘膜生検は侵襲が比較的低く有用とされ、粘膜固有層にコレステロールエステルを蓄積して泡沫化したマクロファージの集積像が認められれば支持所見となる。同様の所見は骨髄、生検可能な皮膚、肝・脾、生検可能なリンパ節などでも検出される。5)神経内科的検査末梢神経障害精査のため神経伝導速度や筋電図検査で神経障害の分布・程度を評価する。6)早発性動脈硬化性疾患の有無の評価早発性動脈硬化性疾患の有無の精査のため、運動負荷心電図、経胸壁心臓超音波検査、頸動脈エコーや冠動脈CTスキャン検査などで、動脈硬化病変のスクリーニングを行う。無症状でも思春期以降は定期的に心血管評価を実施し、動脈硬化性疾患の発症防止と早期発見に努める。家族内発症が疑われる場合は保因者(ヘテロ接合体)に対する脂質検査によるスクリーニングも重要である。■ 確定診断遺伝子診断でABCA1(ATP-binding cassette transporter A1)遺伝子変異(ホモ接合または複合ヘテロ接合体)を認める。常染色体優性遺伝でHDL-Cが著減するfamilial HDL deficiency(ABCA1遺伝子変異のヘテロ接合体やアポA-I遺伝子変異で起こり、早発冠動脈疾患を合併し、タンジール病のような全身性のコレステロール沈着[オレンジ扁桃・肝脾腫・神経障害]は伴わない)との鑑別が必要である。以下に、厚生労働省難治性疾患政策研究事業「原発性脂質異常症に関する調査研究班」による本症の診断基準を示す。難病情報センターのホームページ「タンジール病」より引用した(2026年1月20日)。最新の情報については、当該ホームページまたは厚生労働省「原発性脂質異常症に関する調査研究班」のホームページで確認いただきたい。【タンジール病の診断基準】Definite、Probableを対象とする。A.必須項目1)血清HDLコレステロールが25mg/dL未満2)血中アポA-I濃度20mg/dL未満B.症状1.オレンジ色の特徴的な扁桃腫大2.肝腫大または脾腫3.角膜混濁4.末梢神経障害5.動脈硬化性心血管病変C.鑑別診断以下の疾患を鑑別する。レシチンコレステロールアシルトランスフェラーゼ(LCAT)欠損症、アポリポタンパクA-I欠損症、二次性低HDLコレステロール血症*1*1:外科手術後、肝障害(とくに肝硬変や重症肝炎、回復期を含む)、全身性炎症疾患の急性期、がんなどの消耗性疾患など、過去6ヵ月のプロブコールの内服歴、プロブコールとフィブラートの併用(プロブコール服用中止後の処方も含む)HDL-C<25mg/dLの場合、低HDL-C血症の診断フローチャート(図2)6)に従って、二次性低HDL血症を除外し、他の原発性低HDL血症である、古典的LCAT欠損症、魚眼病、アポA-I欠損症を鑑別して診断する(表)6)。遊離コレステロールは増加しておらず、アポA-Iが20mg/dL未満であるが検出限界以下ではない場合、タンジール病が強く疑われる。D.遺伝子検査ABCA1遺伝子変異の同定。ABCA1遺伝子解析が2021年4月に保険収載されている。<診断のカテゴリー>Definite必須項目の2項目をすべて満たす例のうち、Bの1項目以上を満たし、Cの鑑別すべき疾患を除外し、Dを満たすもの。Probable必須項目の2項目をすべて満たす例のうち、Bの2項目以上を満たし、Cの鑑別すべき疾患を除外したもの。図2 遺伝性HDL欠損症の診断フローチャート(文献6より引用)表 遺伝性HDL欠損症の臨床所見の比較(文献6より引用)画像を拡大する3 治療HDL-C低値そのものを直接是正する薬剤は存在しない。また、現在のところ、遺伝子治療によるABCA1の補充などの根本的な治療はなく、臨床で利用可能な特異的治療薬は存在しない。過去にナイアシン(ニコチン酸)薬やフィブラート系薬がHDL-C上昇の目的で試みられたが、タンジール病ではABCA1欠損が根本原因のため薬物でのHDL-C正常化は困難であり、有効性を支持する明確なエビデンスはない。粥状動脈硬化性疾患の著しい増加が問題となるので、心血管リスクを下げる目的でHDL-Cを可能な範囲で増加させるための生活習慣の改善が推奨される。具体的には、有酸素運動、適正体重の維持、禁煙に加え、食事では飽和脂肪酸を不飽和脂肪酸に置き換える(地中海食的なアプローチ)ことなどが推奨される。これらによりHDL-Cが僅かに上昇し得るほか、末梢神経症状の改善が報告されている。高TG血症を伴う場合にはフィブラート系薬、選択的PPARαモジュレーターのペマフィブラート(商品名:パルモディア)や魚油製剤の使用を検討する。本症の血清LDL-C値は一般に低いが、もしそうでない場合はスタチンあるいはそのほかの薬でLDL-C値を低下させる。治療目標は症状軽減と動脈硬化危険因子の管理に置かれ、高血圧があれば厳格な降圧、喫煙者には禁煙指導を行い、すべての心血管リスク因子を包括的に管理する。血糖コントロールのための食事・運動療法(必要に応じ経口血糖降下薬やインスリンなど)も糖尿病合併例では重要となる。さらに、合併する早発性動脈硬化性疾患の早期発見と治療も行う。一方、タンジール病に伴う各臓器・組織の症状には、必要に応じて対症的・外科的介入を行う場合がある。扁桃肥大による呼吸・嚥下障害や反復炎症がある場合、扁桃摘出術を検討する。オレンジ色扁桃そのものは病的ではないが、大きさにより気道狭窄や感染温床となる場合がある。角膜混濁が進行し、視力障害を来した場合には角膜移植が考慮されるが、タンジール病の角膜混濁は軽度で視機能に問題はない例が多く、定期フォローに留めることもある。末梢神経障害に対してはリハビリテーションと支持療法を行う。筋力低下や足下垂に対しては装具装着(足関節装具など)や理学療法による歩行補助を行う。痛みやしびれが強い場合は、プレガバリンやデュロキセチンといった神経障害性疼痛の薬物療法を用いることもあるが、エビデンスは症例報告レベルである。なお、本症は2015年から「指定難病 261」として、医療費給付の対象となっている。4 今後の展望(治験中・研究中の診断法や治療薬剤など)将来的な治療法として遺伝子治療が期待されている。たとえば、肝臓におけるABCA1発現をウイルスベクターなどで補充し、HDL産生を回復させる試みが提案されている。ただし、HDL代謝は全身の細胞で営まれるため、肝細胞への遺伝子導入だけでどこまで臨床効果が得られるかは不明である。また、アポA-Iや合成HDLの補充療法、肝X受容体(LXR)作動薬による残存ABCA1の発現誘導なども理論上考えられるが、いずれも現時点では成功していない。総じて現時点では対症療法と合併症予防が中心であり、新規治療法の実現には今後の研究の進歩が必要である。5 主たる診療科(紹介すべき診療科) 患者の予後は主に動脈硬化性疾患の発症に左右されるため、長期的には主に循環器内科で心血管イベント予防に重点を置きつつ、管理を行う。神経障害やその他臓器合併症への対策を継続するために多職種チーム医療が重要であり、循環器内科医、脳神経内科医、眼科医、消化器科医、遺伝カウンセラーなどが連携して患者を包括的にケアする。また、定期フォローアップでは以下の点に留意する。1)早発性動脈硬化性疾患のモニタリング若年期より定期的な循環器内科的評価を行う。具体的には詳細な問診・診察に加え、必要に応じて心電図や心エコー、運動負荷試験、頸動脈エコー、冠動脈CTなどで無症候性の動脈硬化病変のスクリーニングを行う。血清脂質、血糖、血圧、喫煙の有無のチェックも継続し、LDL-C、TGや血圧が管理目標を逸脱していれば治療を行う。2)末梢神経障害の管理神経症状は進行したり寛解したりするため、脳神経内科医による神経学的評価を定期的に行い、筋力低下や感覚障害の変化をモニタリングする。必要に応じてリハビリ計画を見直し、装具の調整や痛みのコントロールを図る。重度の神経障害に対しては日常生活動作のサポート(理学療法士・作業療法士の介入、補助具導入など)も検討する。3)眼合併症の管理眼科検査を定期施行し、角膜混濁の進展や視力変化を評価する。角膜混濁による視力障害が生じれば眼科的介入のタイミングを検討する。4)脾腫・感染症対策脾摘を施行した場合は感染症予防を徹底する。脾腫を温存している場合も、脾臓破裂を防ぐため、激しいスポーツ時のプロテクター装着や事故防止策について指導する。5)家族検査とカウンセリング患者の血縁者に対しては遺伝カウンセリングを提供し、希望があれば保因者検査(ABCA1遺伝子検査や脂質検査)を実施する。ヘテロ接合体では動脈硬化リスクがやや高い可能性もあるため、生活習慣指導を行う。※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報、主要な研究グループ、その他参考となるサイト)診療、研究に関する情報厚生労働省難治性疾患政策研究事業「原発性脂質異常症に関する調査研究」(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)難病情報センター タンジール病(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)日本動脈硬化学会(編):動脈硬化性疾患予防のための脂質異常症診療ガイド 2023年版 「低脂血症の診断と治療」 日本動脈硬化学会(2023年6月30日発行)(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)大阪大学医学部附属病院循環器内科(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)りんくう総合医療センター循環器内科  (一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報) 1) Fredrickson DS, et al. Ann Intern Med. 1961;55:1016-1031. 2) Muratsu J, et al. J Atheroscler Thromb. 2018;25:1076-1085. 3) Brooks-Wilson A, et al. Nat Genet. 1999;22:336-345. 4) Komuro R, et al. Circulation. 2000;101:2446-2448. 5) Koseki M, et al. J Atheroscler Thromb. 2009;16:292-296. 6) 日本動脈硬化学会(編). 動脈硬化性疾患予防のための脂質異常症診療ガイド 2023年版. 低脂血症の診断と治療. 日本動脈硬化学会. 2023. 公開履歴初回2026年2月16日

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ALT・AST上昇例へのスタチン【日常診療アップグレード】第49回

ALT・AST上昇例へのスタチン問題75歳男性。現在、症状はない。狭心症と2型糖尿病、高血圧、代謝機能障害関連脂肪性肝疾患(Metabolic dysfunction-Associated Steatotic Liver Disease:MASLD)による代償性肝硬変の既往がある。処方薬はアスピリン、クロピドグレル、カルベジロール、リシノプリル、デュラグルチド、ピタバスタチンである。過去1年間に薬剤の変更はない。身体診察では、バイタルサインおよびその他の所見は正常である。1年前と同様の軽度の肝トランスアミナーゼ上昇がある(AST 55U/L、ALT 65U/L)。肝トランスアミナーゼ値が上昇しているが、ピタバスタチンを継続した。

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GLP-1受容体作動薬は大腸がんリスクを低下させる?

 オゼンピックやウゴービなどのGLP-1(グルカゴン様ペプチド-1)受容体作動薬は、減量や糖尿病の管理だけでなく、大腸がんの予防にも役立つ可能性のあることが、新たな研究で示唆された。GLP-1受容体作動薬の使用者では、アスピリン使用者と比べて大腸がんを発症するリスクが26%低かったという。米テキサス大学サンアントニオ校血液腫瘍内科のColton Jones氏らによるこの研究結果は、米国臨床腫瘍学会消化器がんシンポジウム(ASCO GI 2026、1月8〜10日、米サンフランシスコ)で発表された。 Jones氏は、「これまでアスピリンの大腸がん予防効果について研究されてきたが、効果は限定的であり、また、出血リスクが使用の妨げになる。糖尿病や肥満の治療で広く使われているGLP-1受容体作動薬は、代謝管理とがん予防の両面で、より安全な選択肢になる可能性がある」と述べている。 米国では、2025年には約15万人が大腸がんと診断され、5万人以上が死亡したと推定されている。GLP-1受容体作動薬は、インスリンや血糖値の調節を助け、食欲を抑え、消化を遅らせるホルモンであるGLP-1の作用を模倣する薬剤である。代表的な薬剤には、オゼンピックやウゴービなどのセマグルチド、マンジャロやゼップバウンドなどのチルゼパチドがある。 今回の研究では、商業医療データベースTriNetXから、GLP-1受容体作動薬の使用者と、アスピリン使用者を傾向スコアマッチング後に14万828人ずつ(計28万1,656人、平均年齢58歳、女性69%)抽出し、大腸がんの発症を比較した。各薬剤の初回処方日を起点に、その6カ月後から追跡を開始した。追跡期間中央値は、GLP-1受容体作動薬群で2,153日、アスピリン群で1,743日であった。 その結果、GLP-1受容体作動薬群ではアスピリン群と比較して、大腸がんリスクが26%低いことが明らかになった(リスク比0.741、95%信頼区間0.612〜0.896)。絶対リスク差から算出した治療必要数(NNT)は2,198であった。この結果は、追跡開始後12カ月および36カ月を対象とした感度解析においても、また、年齢層、BMI、糖代謝などで層別化したサブグループ解析においても、概ね一貫していた。GLP-1受容体作動薬を個別に解析すると、セマグルチドのみが有意な効果を示した。副作用については、GLP-1受容体作動薬使用者の方が、腎障害、胃潰瘍、消化管出血といった重篤な副作用は少なかった一方で、下痢や腹痛はより多く発生していた。 この研究をレビューした米クリーブランド・クリニックTaussig Cancer CenterのJoel Saltzman氏は、「GLP-1受容体作動薬は、体重減少以上の恩恵をもたらす可能性がある。これらの結果は、がん予防戦略においても重要な役割を果たす可能性を示している。アスピリンや非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)、スタチンの大腸がん予防効果は長年研究されてきたが、今回のリアルワールドデータは、GLP-1受容体作動薬がこの分野で有望な役割を担う可能性を示唆している」と述べている。 なお、学会発表された研究結果は、査読を受けて医学誌に掲載されるまでは一般に予備的なものと見なされる。

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PPI長期使用は本当に胃がんリスクを高めるのか/BMJ

 2023年に発表された3つのメタ解析では、プロトンポンプ阻害薬(PPI)の使用により胃がんのリスクが約2倍に増加することが示されているが、解析の対象となった文献にはいくつかの方法論的な限界(因果の逆転[プロトパシック バイアス]、症例分類法の違い[方法論的異質性]、Helicobacter pylori[H. pylori]菌感染などの交絡因子の調整不能など)があるため、この結論は不確実とされる。スウェーデン・カロリンスカ研究所のOnyinyechi Duru氏らは、これらの限界を考慮したうえで、無作為化試験の実施は現実的でないためさまざまなバイアスの防止策を講じた観察研究「NordGETS研究」を行い、PPIの長期使用は胃腺がんのリスク増加とは関連しない可能性があることを示した。研究の成果は、BMJ誌2026年1月21日号に掲載された。北欧5ヵ国の人口ベースの症例対照研究 NordGETS研究は、1994~2020年に、北欧5ヵ国(デンマーク、フィンランド、アイスランド、ノルウェー、スウェーデン)の各国で前向きに収集されたレジストリデータを用いた人口ベースの症例対照研究(Swedish Research Councilなどの助成を受けた)。 噴門部を除く胃腺がん患者1例に対し、背景因子をマッチさせた対照を10例ずつ5ヵ国の全人口から無作為に抽出した。胃噴門部の腺がんは、PPIの適応症である胃食道逆流症による交絡を回避するために除外した。 曝露は長期(1年超)のPPIの使用とし、診断日(症例)と登録日(対照)の前の12ヵ月間のアウトカムは解析から除外した。PPI使用に関する知見の妥当性と特異性を評価するために、ヒスタミンH2受容体拮抗薬(H2RA)の長期(1年超)使用の解析も行った。 主要アウトカムは、胃(非噴門部)腺がんであった。マッチング変数の調整とともに、多変量ロジスティック回帰分析により、国、H. pylori菌治療、消化性潰瘍、喫煙関連疾患、アルコール関連疾患、肥満または2型糖尿病、メトホルミン・非ステロイド性抗炎症薬・スタチンによる薬物療法を調整したオッズ比(OR)と95%信頼区間(CI)を算出した。H2RAの長期使用も関連がない 胃(非噴門部)腺がん群に1万7,232例(年齢中央値74歳[四分位範囲:65~81]、女性42.4%)および対照群に17万2,297例(74歳[65~81]、42.4%)を登録した。PPIの長期使用は、胃(非噴門部)腺がん群で1,766例(10.2%)、対照群で1万6,312例(9.5%)であった。 最長で26年に及ぶ調査期間中に、PPIの長期使用は胃(非噴門部)腺がんの発症と関連しなかった(補正後OR:1.01、95%CI:0.96~1.07)。粗オッズ比は上昇していたが(1.16、1.10~1.23)、交絡因子(とくにH. pylori菌関連の変量)で調整すると関連性は消失した。 また、H2RAの長期使用も、胃(非噴門部)腺がんのリスク上昇とは関連がなかった(補正後OR:1.03、95%CI:0.86~1.23)。長期使用の利益と不利益を慎重に検討すべき 偽陽性をもたらすエラーの発生源として、(1)胃腺がん診断直前のPPI使用の包含、(2)PPIの短期使用、(3)噴門部腺がん、(4)H. pylori菌関連の変数の調整不足を特定した。 著者は、「本研究の結果は、PPIの長期使用が胃腺がんのリスク増加と関連するとの仮説を支持しない」「バイアスの防止に用いたさまざまな手順のすべてが、潜在的な誤った関連性の発生を防ぐために不可欠であった」「これらの知見は、胃食道逆流症などの適応症の治療でPPIの長期使用を要する患者に安心感をもたらすが、クロストリジウム・ディフィシル関連下痢や骨粗鬆症、ビタミン・電解質吸収不良などの重篤な病態のリスク増加の可能性が指摘されているため、長期使用の利益と不利益を慎重に検討し、PPI継続の必要性を定期的に再評価する必要があると考えられる」としている。

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第303回 がん細胞が作るアルツハイマー病予防タンパク質を発見

中国の研究者らによる10年を優に超える研究が実を結び、がん細胞が放つタンパク質のシスタチンC(Cyst-C)がどうやらアルツハイマー病を阻止する効果を担うことが突き止められました1,2)。がんとアルツハイマー病の併発がまれなことは長く知られており、そのどちらかがもう片方を防ぐ仕組みがあるのかもしれないと考えられてきました。イタリア北部の100万人超を調べた2013年の報告では、アルツハイマー病患者のがんのリスクは50%低く、がん患者のアルツハイマー病のリスクは35%低いことが示されています3)。米国でのFramingham Heart試験も同様で、がん生存者のアルツハイマー病のリスクががんでない人に比べて33%低いという結果となっています4)。最近のメタ解析でもやはりがん患者はアルツハイマー病をより免れていました。2020年9月2日までの22の観察試験の960万例超が解析され、がんと診断された人のアルツハイマー病発生率はがんではない人より11%低いことが示されます5)。アルツハイマー病の病変を抑制するがんの効果を示唆する報告もあります。785例を死ぬまで追跡した試験では、アルツハイマー病のアミロイドやタウ病変の程度ががんと診断された人では低くて済んでいました6,7)。それらの裏付けの数々に背中を押され、中国の武漢市の華中科技大学(Huazhong University of Science and Technology)の神経学者Youming Lu氏らはがんがアルツハイマー病を生じにくくする仕組みを調べることを思い立ちます2)。まずLu氏らは研究に最適なマウス作りに取り掛かります。実に6年の歳月を費やした後に、アルツハイマー病を模すマウスに3種類(肺、前立腺、大腸)の腫瘍を移植する手段に行き着きます。それらのマウスはアルツハイマー病に特有の脳のアミロイド病変を生じずに済みます。続いてがん細胞が放つタンパク質の数々を解析し、血液脳関門を通過して脳に浸透しうるタンパク質が探索されました。6年を超える取り組みの甲斐あって、Lu氏らはとうとうCyst-Cにたどり着きます。Cyst-Cは脳のアミロイド重合体に結合し、続いて脳の免疫細胞のマイクログリアの受容体TREM2を活性化します。そうしてマイクログリアがアミロイド病変を分解できるようにします。水に濡れずに済む抜け道をマウスに覚えさせる迷路実験でCyst-Cの記憶改善効果も確認されました。アルツハイマー病マウスはその抜け道を探すのに苦労しますが、Cyst-Cやがん細胞の分泌タンパク質一揃いを与えたところ手際が良くなり、抜け道をより早く見つけられるようになりました8)。アルツハイマー病の薬といえば大抵が脳の新たな障害の予防が焦点ですが、Cyst-Cはすでに生じてしまったアミロイド病変の除去を促す効果があります。ヒトでもマウスと同様の効果があるなら、認知症の新たな治療法へと通じる道が開けそうです。参考1)Li X, et al. Cell. 2026 Jan 22. [Epub ahead of print] 2)Cancer might protect against Alzheimer’s - this protein helps explain why / Nature3)Musicco M, et al. Neurology. 2013;81:322-328.4)Driver JA, et al. BMJ. 2012;344:e1442.5)Ospina-Romero M, et al. JAMA Netw Open. 2020;3:e2025515.6)Karanth SD, et al. Brain. 2022;145:2518-2527.7)Cancer Tied to Reduced Risk of Alzheimer’s Disease / TheScientist8)Cancer tumors may protect against Alzheimer's by cleaning out protein clumps / Medical Xpress

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併存疾患を有する関節リウマチ患者の疼痛・ADLを処方提案で改善【うまくいく!処方提案プラクティス】第71回

 今回は、関節リウマチの疼痛増悪により日常生活動作(ADL)に支障を来していた慢性骨髄性白血病も併存する患者について、病態と治療を評価して処方提案を行うことで疼痛とADLの顕著な改善を達成した症例を紹介します。慢性骨髄性白血病治療中の患者では、免疫抑制薬の追加・増量は慎重に検討する必要があり、薬剤の特性を理解した処方提案が重要となります。患者情報80歳、女性(外来)、身長147cm、体重46kg基礎疾患関節リウマチ、慢性骨髄性白血病、脂質異常症、不安神経症、高血圧症、腰部脊柱管狭窄症、睡眠障害生活状況独居(近くに娘が居住)ADL障害高齢者の日常生活自立度J1、認知症高齢者の日常生活自立度I検査値Scr 0.71mg/dL(推定CCr>60)、AST 23U/L、ALT 27U/L、Hb 10.9g/dL薬学的管理開始時の処方内容1.プレドニゾロン錠1mg 1錠 分1 朝食後2.ボノプラザン錠10mg 1錠 分1 朝食後3.ロスバスタチン錠2.5mg 1錠 分1 朝食後4.アムロジピンOD錠2.5mg 1錠 分1 朝食後5.デュロキセチンOD錠20mg 2錠 分1 朝食後6アセトアミノフェン錠500mg 疼痛時頓用 1回1錠他科受診・併用薬大学病院にて慢性骨髄性白血病をフォロー中アシミニブ錠40mg 2錠 分1 朝食後本症例のポイント患者は関節リウマチによる疼痛増悪(Numerical Rating Scale[NRS]:9)により、服の着脱も困難な状態でADLが著しく低下していました。施設入居を計画していましたが、疼痛のため外出もできず、このままでは生活の質がさらに低下します。この状況では疼痛管理の強化が急務であり、通常であればMTXなどの免疫抑制薬の追加や服薬中のプレドニゾロンの増量を検討します。しかし、本患者は慢性骨髄性白血病を併存しておりアシミニブを内服中です。免疫抑制薬やプレドニゾロンを追加・増量すると、感染リスクの増大や慢性骨髄性白血病治療に影響する恐れがあるため慎重に検討すべきです。そこで、NSAIDsの導入を提案することにしました。NSAIDsは中等度の活動性を持つ関節リウマチ患者において、痛みや全体的な健康状態を効果的に管理できることが報告されています1)。適切なNSAIDsを選択すれば安全に導入でき、患者のADL制限を解除することができると考えました。医師への提案と経過まず、医師に現状の課題として、患者の疼痛が高度でADLが著しく低下していること、そしてアセトアミノフェン頓用では疼痛コントロールが不十分であることを伝えました。懸念事項として、慢性骨髄性白血病治療中であることから免疫抑制の恐れのある薬剤の追加・増量は慎重に検討すべきであること、そして疼痛管理が不十分なままではADLのさらなる低下や施設入居計画にも支障を来す可能性があることを伝えました。その上で、メロキシカムの追加を提案しました。幸い、患者の腎機能(推定CCr>60)は保たれており、NSAIDsの使用に大きな障壁はありません。すでにボノプラザンが併用されているため胃粘膜保護が図られており、消化性潰瘍の既往もとくにありません。メロキシカムは選択的COX-2阻害薬であり、非選択的NSAIDsと比較して消化管障害のリスクが相対的に低く、1日1回投与のため服用時点を朝食後に統一できることから服薬アドヒアランスの維持も期待できます。医師に提案を採用いただき、翌日からメロキシカム5mg 1錠 分1 朝食後が開始となりました。開始1週間後のフォローアップの電話では、患者から「だいぶ痛みがすっきりしてきた。手先も動くので服の着脱がしやすくなった」とのうれしい報告がありました。NRSは9から4まで改善し、可動範囲が広がり行動制限が解除されました。さらに、入居を希望していた施設の見学にも行けるようになるなど、ADLの顕著な改善を認めました。考察とまとめ本症例では、慢性骨髄性白血病を併存する関節リウマチ患者に対してNSAIDsを適切に選択することで、免疫抑制薬を追加・増量させずに疼痛とADLの改善を達成できました。また、患者の腎機能や消化管リスクなどを総合的に評価し、NSAIDsの中でも消化管リスクが相対的に低いメロキシカムを選択したことで、高齢者でも安全に治療をすることができました。特殊な背景を有する患者では、リスク・ベネフィットバランスを慎重に検討することがとくに重要です。参考文献1)Karateev AE, et al. Mod Rheumatol. 2021;15:57-63.

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尿路感染症状を伴わない細菌尿【日常診療アップグレード】第47回

尿路感染症状を伴わない細菌尿問題57歳女性。3日前に脊椎硬膜外膿瘍のため手術を受けた。手術室で留置された尿道カテーテルを装着している。昨日、38.3℃の発熱が認められ、尿検体を尿検査および培養検査に提出した。服用中の薬剤はアムロジピン、アトルバスタチンである。身体診察では37.3℃の発熱以外はバイタルサインに異常はない。背部の切開部位に軽度の発赤を認めるが、滲出液は認めない。恥骨上部の圧痛や肋骨脊柱角叩打痛は認めない。白血球8,500/μL、尿検査:エステラーゼ陽性、白血球22/HPF、尿培養:103CFU/mL、感受性良好なEscherichia coliが検出された。尿バルーンを抜去し、セファレキシンを開始した。

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セマグルチドは抗肥満薬から第2のスタチンになりうるか?(解説:住谷哲氏)

 セマグルチド注2.4mgは、抗肥満薬(商品名:ウゴービ)としてわが国でも薬価収載されている。本論文はASCVDの既往を有する肥満患者(2型糖尿病患者は含まれていない)に対するセマグルチドの有用性を、MACE(非致死性心筋梗塞、非致死性脳卒中および心血管死の複合)を主要評価項目として評価したSELECT試験1)の事前指定された解析に関する報告である。本解析は、試験開始時の肥満指標adiposity measures(体重および腹囲)、試験開始後20週までの肥満指標の変化および試験終了時(104週)までの肥満指標の変化とMACEリスクとの関連を明らかにすることを目的とした。 結果は予想どおり試験開始時の体重および腹囲ともにMACEリスクと正に相関していた。つまり、より太った患者がよりMACEリスクが大きかった。また、セマグルチドのMACE抑制作用は試験開始時の体重および腹囲とは関連がなかった。しかし試験開始後20週までの体重減少量は20週以降のMACEリスクの減少と関連せず、一方で20週までの腹囲の減少は20週以降のMACEリスクの減少と関連していた。試験終了時までの体重および腹囲の減少とMACEリスクとの関連も同様であった。さらに媒介解析mediation analysisによると、MACEリスク減少の33%は腹囲の減少で説明可能であった。 腹囲の減少を単純に内臓脂肪量の減少と考えれば、セマグルチドは内臓脂肪量を減少させることでMACEリスクを減少させると解釈することもできる。しかし媒介解析の結果からは、それは主要なメカニズムではないだろう。本解析の結果からは、セマグルチドのMACE抑制作用は体重減少および腹囲減少によるものではない可能性が高い。多様なメカニズムが考えられるが、筆者はセマグルチドの抗炎症作用が鍵ではないかと考えている2)。 SELECT試験の選択基準はBMIが27kg/m2以上なので、それよりBMIの小さい患者に今回の結果が外挿できるかは不明である。しかし著者らがDiscussionの最後に“the reconceptualization of GLP-1RAs as potential cardiovascular disease-modifying agents”と記載しているように、セマグルチドが心血管イベント2次予防における第2のスタチンになるのも夢物語ではないかもしれない。

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左室駆出率が正常な急性心筋梗塞患者にβ遮断薬は有益ではない(解説:佐田政隆氏)

 急性心筋梗塞後の患者で、左室駆出率が40%未満の場合にβ遮断薬が有効であることは議論の余地がない。一方、駆出率の低下を伴わない心筋梗塞後に対しても、現在の各国ガイドラインではβ遮断薬の使用を推奨している。しかし、その根拠となったエビデンスは、再灌流療法や、スタチンやレニン・アンジオテンシン系阻害薬などの心保護薬の使用も一般的ではない1990年代までの臨床試験に基づくものであった。最近は、急性期再灌流療法の普及で、左室駆出率が良好なまま回復する症例が増え、本当にそのような場合に漫然と長期間β遮断薬を投与したほうがよいかどうかは、エビデンスがないのが現状であった。 そこで、最近、左室駆出率が40%以上の急性心筋梗塞を対象にβ遮断薬の有効性を検討する臨床試験が各国で行われた。そのメタ解析が2025年11月、American Heart Association 2025で発表され、同日New England Journal of Medicine誌に掲載された。スペインで行われたREBOOT試験(7,459例)、スウェーデン、エストニア、ニュージーランドで行われたREDUCE-AMI試験(4,967例)、ノルウェーで行われたBETAMI試験(2,441例)、デンマークで行われたDANBLOCK試験(2,277例)、日本で行われたCAPITAL-RCT試験(657例)の統合解析で、急性心筋梗塞(ST上昇型・非ST上昇型)後14日以内で左室駆出率が50%以上、高血圧や不整脈などβ遮断薬の積極的な適応がない患者を対象にしている。主要評価項目(全死因死亡、心筋梗塞、心不全の複合エンドポイント)について、β遮断薬群と非投与群で有意差は認められなかった(β遮断薬群:8.1%、非投与群:8.3%、HR:0.97、95%CI:0.87~1.07)。本試験で、左室駆出率が正常な急性心筋梗塞患者では、β遮断薬の有益性が否定されたことになる。 一方、BETAMI試験、DANBLOCK試験、REBOOT試験、CAPITAL-RCT試験のメタ解析では、心不全の徴候がなく左室駆出率が軽度低下(40~49%)した急性心筋梗塞患者において、β遮断薬は総死亡、再梗塞、心不全を減少させることが2025年欧州心臓病学会で発表された(Rossello X, et al. Lancet. 2025;406:1128-1137.)。 このような最近のエビデンスに基づき、急性心筋梗塞患者に対するガイドラインは改訂されていくものと思われる。

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多疾患併存に迷わない:高齢者診療の「5つの型」実践フレーム【こんなときどうする?高齢者診療】第17回

CareNeTVスクール「Dr.樋口の老年医学オンラインサロンアーカイブズ」から、高齢者診療に役立つトピックをお届けします。今回はマルモ(多疾患併存)患者の治療に向き合うための型を学びます。高齢者の多疾患併存(マルモ)は、“ガイドラインの足し算”では解けません。(1)意向 (2)エビデンス適用 (3)予後×時間 (4)実行可能性 (5)最適化の5項目で落としどころを構造化しましょう。今回は、初めに皆さんも出合ったことがあるかもしれない典型的なマルモの症例を5つ挙げてみます。(1)90歳男性 心房細動があるものの、抗凝固薬を飲みたくない(2)85歳女性 高脂血症に対して長年スタチンを服用している(3)80歳女性 大腸がん検査の大腸内視鏡を勧められている既往症糖尿病、心不全、慢性腎機能不全(4)88歳女性 15種類の薬を服用中既往症認知症・心不全・骨粗鬆症・糖尿病・慢性腰痛(5)92歳男性 再発する心不全急性増悪発作に対して、埋め込み式除細動器を勧められている既往症認知症・慢性変形性関節症、抑うつ、不安症挙げたケースはいずれも、高齢者診療で頻繁に遭遇する場面です。65歳以上の2人に1人は、3つ以上の慢性疾患を有する状態・マルモ(多疾患併存)です。そして、同じ疾患であっても、AさんとBさんでは、併存疾患の状況や本人の価値観、自立度や家族との関係・住んでいる土地や利用できるサービスなどの条件がまったく異なります。1人の患者が持つ疾患の複雑性に加えて、身体認知機能・心理社会的な複雑性も考慮したうえで、患者それぞれに適した医療やケアの落としどころを見つけることが高齢者を診るときに欠かせません。ですが、複数の疾患ガイドラインをあてはめて治療してもよいアウトカムにつながらないのは皆さんもすでにご経験なさっていると思います。また高齢者やマルモ患者は臨床研究の対象から除外されていることが多く、ガイドラインの適応範囲に入っていないことがほとんどです。つまり65歳以上の約半数が3疾患以上のマルモ。併存疾患だけでなく家族・住環境・利用資源が異なる。ガイドライン合算=最適とは限らない(除外基準・一般化の限界)。ではどうしたらいいのか?頭を抱えて動けなくなって当たり前です。だからこそ落としどころを「5つの型」で探ることが思考停止に陥らないために重要なのです。マルモに向きあう5つの型そこで今回は、米国老年医学会が出している1)、高齢者のマルモに向き合う型をご紹介します。状況に応じて、以下の5つの項目を確認することで落としどころを見つけやすくなります。1:意向(What Matters)- 患者の意向・希望・気がかりなこと患者が何を望んでいるか。あるいは何はしたくないか。たとえば自立した生活や症状がコントロールされること、身体認知機能の維持を望む方は多くいます。逆にしたくないことやこうなったら死んだほうがまし、ということを聞くことで理由が明らかになる場合もあります。2:エビデンス適用の可能性 - エビデンスが目の前の患者に使えるか?参照しようとしているガイドラインや研究において、その推奨は誰を対象に、どのアウトカムに、どの時間軸で価値があるか。除外基準や外的妥当性を確認し、目の前の患者に適用できるか?患者の優先事項と統合することができるか、を検討しましょう。3:予後×時間 - 患者の予後は?患者の希望する治療/ケアと、その治療の効果が発現するまでにかかる時間を考慮にいれることは不可欠です。4:実行可能性 - ケアは実行可能か?負担は大きすぎないか?継続できるか?治療やケアの負担が大きすぎないか、本人や介護者が継続できるケアの範囲に治療方針は収まっているかを確認することが必要です。5:最適化 - 最適化のために何ができるか?患者のおかれた状況において、ベネフィットを増やしリスクを小さくするために何をしたらいいかを考えることです。最初に挙げた5つの症例に、これらの型から必要な項目を使うとどうなるか、みてみましょう。(1)90歳男性 抗凝固薬NO!心房細動があるものの、抗凝固薬を飲みたくない→1:意向を深掘りし、抗凝固薬を飲みたくないという意向の背後にどんな希望や気がかりがあるのかを探るのが近道です。それにより本人は頻回採血や通院の負担を懸念していることが明らかになり、選択肢として、生活背景に合う抗凝固法(採血不要のDOAC等)を検討し、転倒・出血リスク評価、目標の再設定が挙がってきます。このケースでは一時的にアスピリン投与としましたが、定期的に再検討し、本人の価値観×安全性の最適点を探る視点が必要です。(2)85歳女性 高脂血症に対して長年スタチンを服用してきた…これからも続ける?→2:エビデンス適用可能性と、3:予後×時間 の2項目が判断のポイントです。高脂血症に対するスタチンは、二次予防や高リスク群の一次予防では有益ですが、高齢者(75~80歳以降)の一次予防はエビデンスが限定的です2)。さらに、スタチンのベネフィットの発現は2~5年後とされています。予後や本人の優先事項と照合し、減量/中止を含めて再評価するのが妥当です3)。とすると、この方が長年スタチンを服用してきたとしても、現在のエビデンスに照らし合わせると効果が見込めない薬として中止にするほうが妥当でしょう。(3)80歳女性 既往は糖尿病・心不全・慢性腎機能不全。大腸がん検査のために大腸内視鏡を勧められている→3:予後×時間を見積もり、治療介入の効果発現の時間と併せて考えるのが適当です。大腸がん検診が利益になるのはおよそ10年後。この方の既往症から予測すると、検査のメリットが発生する前に予後が障害される可能性が高く、大腸内視鏡は不適当と考えられます。娘さんを含めて、予後予測をもとに話合いを設定するとよいでしょう。(4)88歳女性 15種類の薬を服用中。マルモ(認知症・心不全・骨粗鬆症・糖尿病・慢性腰痛)。→4:ケアの実行性について確認する認知機能が低下してきている状態で15種類を飲み続けるのは現実的ではありません。それぞれの疾患に対してガイドライン通りに処方すると15種類になりますが、本人や介護者の負担が大きすぎて服薬自体ができないならば、残す薬を絞る、あるいは服用しないといった選択肢も視野にいれた調整を行うのが妥当でしょう。(5)92歳男性 再発する心不全急性増悪発作があり、埋め込み式除細動器を勧められる。認知症・慢性変形性関節症、抑うつ、不安症の既往。→5:最適化を考えるこの患者の場合、認知症や不安症に加えて変形性関節症があり、家を出て入院し、手術でデバイスを埋め込むという一連の流れに、身体的・心理的負担が大きいことが予想できます。入院から退院までの間にパニックに陥り転倒するといったリスクも考えられます。ガイドラインではデバイス埋込みが推奨されますが、”この患者”にとってデバイスを埋め込むことが、本当にQOLの向上につながるのか、患者にメリットがあるのか、あるとすれば何か、延命することが本当にベネフィットか?といったゴールの再確認をする必要があると考えます。このように、一つの項目をあてはめるだけでも、すべきことがクリアになると思います。ケースによっては5つすべてを検討する場合もあるかもしれません。日ごろ5つのMを使うときに、これらの項目を少しずつ加えて確認することをおすすめします。明日のカンファで(1)意向 (2)エビデンス適用 (3)予後×時間 (4)実行 (5)最適化を確認してみましょう。迷いが整理され、次の一手が見えてきます。 ※今回のトピックは、2022年10月度、2024年11月度の講義・ディスカッションをまとめたものです。CareNeTVスクール「Dr.樋口の老年医学オンラインサロンアーカイブズ」でより詳しい解説やディスカッションをご覧ください。参考 1) Cynthia Boyd,et al. J Am Geriatr Soc. 2019 Apr;67(4):665-673. 2) Han BH, et al. JAMA Intern Med. 2017;177(7):955-965. 3) Yourman LC, et al. JAMA Intern Med. 2021;181(2):179-185.

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スタチン使用は本当にうつ病リスクを低下させるのか?

 これまで、スタチンのうつ病に対する潜在的な影響については調査が行われているものの、そのエビデンスは依然として一貫していない。台北医学大学のPei-Yun Tsai氏らは、スタチン使用とうつ病の関連性を明らかにするため、最新のシステマティックレビューおよびメタ解析を実施した。General Hospital Psychiatry誌2025年11〜12月号の報告。 2025年9月11日までに公表された研究をPubMed、the Cochrane Library、EMBASEより、言語制限なしでシステマティックに検索した。また、対象論文のリファレンスリストの検討を行った。プールされたオッズ比(OR)および95%信頼区間(CI)の算出には、ランダム効果モデルを用いた。 主な結果は以下のとおり。・選択基準を満たした15研究(10ヵ国、540万3,692例)をメタ解析に含めた。・スタチン使用は、スタチン非使用と比較し、うつ病リスクが有意に低かった(統合OR:0.84、95%CI:0.74〜0.96、p=0.009)。しかし、研究間の異質性が大きかった(I2=85%)。・感度分析では、結果のロバスト性が確認された。・サブグループ解析では、コホート研究(OR:0.86、95%CI:0.76〜0.98、p=0.02)、検証済みの質問票/尺度を用いた研究(OR:0.71、95%CI:0.54〜0.94、p=0.02)、併存疾患を有する患者(OR:0.74、95%CI:0.55〜0.98、p=0.04)、抗炎症薬または抗うつ薬を併用している患者(OR:0.82、95%CI:0.71〜0.95、p=0.009)において有意な関連が認められた。・北米集団(OR:0.63、95%CI:0.51〜0.78、p<0.001)および西洋型の食生活(OR:0.61、95%CI:0.45〜0.81、p<0.001)、アジア型の食生活(OR:0.75、95%CI:0.64〜0.89、p=0.001)を順守する人において、スタチンのうつ病予防効果が認められた。 著者らは「とくに特定の集団および特定の臨床的または生活習慣条件において、スタチン使用はうつ病リスクの低下と関連していると考えられる。この因果関係を明らかにし、影響を及ぼす関連因子を特定するには、さらなる研究が求められる」とまとめている。

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『肝細胞癌診療ガイドライン』改訂――エビデンス重視の作成方針、コーヒー・飲酒やMASLD予防のスタチン投与に関する推奨も

 2025年10月、『肝細胞癌診療ガイドライン 2025年版』(日本肝臓学会編、金原出版)が刊行された。2005年の初版以降、ほぼ4年ごとに改訂され、今回で第6版となる。肝内胆管がんに独自ガイドラインが発刊されたことを受け、『肝癌診療ガイドライン』から名称が変更された。改訂委員会委員長を務めた東京大学の長谷川 潔氏に改訂のポイントを聞いた。Good Practice StatementとFRQで「わかっていること・いないこと」を明示 今版の構成上の変更点としては、「診療上の重要度の高い医療行為について、新たにシステマティックレビューを行わなくとも、明確な理論的根拠や大きな正味の益があると診療ガイドライン作成グループが判断した医療行為を提示するもの」については、Good Practice Statement(GPS)として扱うことにした。これにより既存のCQ(Clinical Question)の一部をGPSに移行した。 また、「今後の研究が推奨される臨床疑問」はFuture Research Question(FRQ)として扱うことにした。FRQは「まだデータが不十分であり、CQとしての議論はできないが、今後CQとして議論すべき内容」を想定している。これらによって、50を超える臨床疑問を取り上げることが可能になり、それらに対し、「何がエビデンスとして確立しており、何がまだわかっていないのか」を見分けやすくなった。診療アルゴリズム、3位以下の選択肢や並列記載で科学的公平性を保つ ガイドラインの中で最も注目されるのは「治療アルゴリズム」だろう。治療選択肢が拡大したことを受け、前版までは推奨治療に優先順位を付けて2位までを記載していたが、今版からはエビデンスがあれば3位以下も「オプション治療」として掲載する方針とした。たとえば、腫瘍が1~3個・腫瘍径3cm以内の場合であれば、推奨治療は「切除/アブレーション」だが、オプション治療として「TACE/放射線/移植」も選択肢として掲載している。これにより、専門施設以外でも自施設で可能な治療範囲を判断したり、患者への説明に活用したりしやすくなっている。 また、治療やレジメンの優先順位もエビデンスを基に厳格に判断した。たとえば、切除不能例の1次治療のレジメンでは、実臨床ではアテゾリズマブ+ベバシズマブ療法が副作用管理などの面で使用頻度が高い傾向にあるが、ガイドライン上ではほかの2つのレジメン(トレメリムマブ+デュルバルマブ、ニボルマブ+イピリムマブ)と差を付けず、3つの治療法を並列に記載している。実臨床での使いやすさや感覚的な優劣があったとしても、それらを直接比較した試験結果がない以上、推奨度には差を付けるべきではないと判断した。 結果として、多くの場面で治療選択肢が増え、実臨床におけるガイドラインとしては使い勝手が落ちた面があるかもしれないが、あくまで客観的なデータを重視し、科学的な公平性を保つ方針を貫いた。判断の根拠となるデータ・論文はすべて記載しているので、判断に迷った場合は原典にあたって都度検討いただければと考えている。予防ではコーヒー・飲酒の生活習慣に関するCQを設定 近年ではB/C型肝炎ウイルス由来の肝細胞がんは減少している一方、非ウイルス性肝細胞がんは原因特定が困難で、予防法も確立されていない。多くの研究が行われている分野ではあるので、「肝発癌予防に有効な生活習慣は何か?」というCQを設定し、エビデンスが出てきた「コーヒー摂取」と「飲酒」について検討した。結果として「コーヒー摂取は、肝発癌リスクを減少させる可能性がある」(弱い推奨、エビデンスの強さC)、「肝発癌予防に禁酒(非飲酒)を推奨する」(弱い推奨、エビデンスの強さC)との記載となった。いずれもエビデンスレベルが低く、そのまま実臨床に落とし込むことは難しい状況であり、今後のエビデンスの蓄積が待たれる。MASLD患者の予防にスタチン・メトホルミンを検討 世界的に増加している代謝機能障害関連脂肪性肝疾患(MASLD) では、とくに肝線維化進行例で肝がんリスクが高い。今版では新設CQとしてこの集団における肝発がん抑制について検討した。介入としては世界で標準的に使用されており論文数の多い薬剤としてスタチンとメトホルミンを選択した。ガイドラインの記載は「肝発癌予防を目的として、スタチンまたはメトホルミンの投与を弱く推奨する(エビデンスの強さC)」となった。ただ、予防目的で、高脂血症を合併していない患者へのスタチン投与、糖尿病を合併していない患者へのメトホルミン投与を行った研究はないため、これらは対象から外している。MASLD患者に対してはGLP-1受容体作動薬などが広く投与されるようになり、肝脂肪化および肝線維化の改善効果が報告されている。今後症例の蓄積とともにこれら薬剤の肝発がん抑制効果の検討も進むことが期待される。放射線治療・肝移植の適応拡大 その他の治療法に関しては、診断/治療の枠組みは大きく変わらないものの、2022年4月から保険収載となった粒子線(陽子線・重粒子線)治療の記載が増え、アルゴリズム内での位置付けが大きくなった。また、肝移植については、保険適用がChild-Pugh分類Bにも拡大されたことを受け、適応の選択肢が増加している。経済的だけでなく学術的COIも厳格に適用 改訂内容と直接は関係ないものの、今回の改訂作業において大きく変更したのがCOI(利益相反)の扱いだ。日本肝臓学会のCOI基準に従い、経済的COIだけでなく学術的COIについても厳密に適用した。具体的には、推奨の強さを決定する投票において、経済的なCOIがある者はもちろん、該当する臨床試験の論文に名前が掲載されている委員もその項目の投票を棄権するルールを徹底した。Minds診療ガイドライン作成の手法に厳格に沿った形であり、ほかのガイドラインに先駆けた客観性重視の取り組みといえる。投票結果もすべて掲載しており、委員会内で意見が分かれたところと一致したところも確認できる。今後の課題は「患者向けガイドライン」と「医療経済」 今後の課題としては、作成作業が追いついていない「患者・市民向けガイドライン」の整備が挙げられる。また、今版では医療経済の問題を「薬物療法の費用対効果の総説」としてまとめたが、治療選択における明確な指針の合意形成までには至らなかった。今後、限られた医療資源を最適に配分するために、医療経済の視点におけるガイドラインの継続的なアップデートも欠かせないと考えている。

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白内障手術前の検査【日常診療アップグレード】第45回

白内障手術前の検査問題83歳女性。両眼の白内障手術を1ヵ月後から段階的に予定している。既往歴には高血圧、脂質異常症、甲状腺機能低下症がある。服用薬はアムロジピン、リシノプリル、アトルバスタチン、レボチロキシンである。全身状態は良好で、身体診察では、バイタルサインおよび、その他の所見に異常はない。6ヵ月前の検査では、血清電解質、クレアチニン、甲状腺刺激ホルモン(TSH)は正常範囲であった。術前チェックとして、心電図検査を行った。

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終末期がん患者の反跳性離脱症状を発見して処方再開を提案【うまくいく!処方提案プラクティス】第70回

 今回は、終末期がん患者における薬剤性の反跳性離脱症状を早期に発見し、処方再開を提案した症例を紹介します。がん患者では、疼痛管理や不眠に対して複数の薬剤が併用されることがありますが、全身状態の悪化に伴い服用が困難になることがあります。服用困難という理由だけで急に中止するのではなく、離脱症状のリスクを総合的に評価し、適切な漸減・代替薬への切り替えを検討することが重要です。患者情報79歳、男性(施設入居)基礎疾患小細胞肺がん(T2aN3M1c、StageIV ED)、頸髄損傷後遺症、神経因性膀胱、狭心症(時期不明)治療経過2025年6月に小細胞肺がんと診断され、7月より薬物治療(カルボプラチン+エトポシド+デュルバルマブ)を開始した。しかし発熱性好中球減少症・敗血症性ショックにより再入院。8月に家族へ病状を説明した後、緩和ケアへ移行する方針となり、施設へ転院・入居となった。社会・生活環境ほぼ寝たきり状態、自宅受け入れ困難のため施設入居ADLほぼ寝たきり状態処方内容1.ベザフィブラート錠50mg 1錠 分1 朝食後2.アジルサルタンOD錠20mg 1錠 分1 朝食後3.エチゾラム錠0.5mg 1錠 分1 就寝前4.クロピドグレル錠75mg 1錠 分1 朝食後5.ボノプラザン錠10mg 1錠 分1 夕食後6レンボレキサント錠5mg 1錠 分1 就寝前7.トラマドール・アセトアミノフェン配合錠 3錠 分3 毎食後8.ドキサゾシン錠1mg 1錠 分1 就寝前9.トラゾドン錠25mg 2錠 分1 就寝前10.プレガバリンOD錠75mg 1錠 分1 就寝前11.フロセミド錠20mg 1錠 分1 朝食後12.ロスバスタチン錠2.5mg 1錠 分1 夕食後13.酸化マグネシウム錠330mg 3錠 分3 毎食後本症例のポイント施設に入居して約1ヵ月後、誤嚥リスクと覚醒(意識)レベルの低下により全内服薬が一時中止となりました。食事摂取量は0~5割とムラがあり、尿路感染症に対してST合剤内服を開始しました。その後、患者さんは右足先の疼痛を訴え、アセトアミノフェン坐剤を開始しても効果が不十分な状態となりました。傾眠傾向にはあるものの、夜間の入眠困難もありました。問題点の評価患者さんの状態から、プレガバリン(半減期約6時間)とトラゾドン(半減期約6時間)の中断により、反跳性離脱症状が出現した可能性があると考えました。プレガバリンは電位依存性Caチャネルのα2δサブユニットに結合し、神経伝達物質の放出を抑制する薬剤であり、突然の中止により不眠、悪心、疼痛の増悪などの離脱症状が出現することが報告されています。トラゾドンについても、抗うつ薬の中止後症候群として不安、不眠、自律神経症状(悪心・嘔吐)が出現することがあります。また、トラマドール・アセトアミノフェン配合錠の中断による除痛効果の喪失と、プレガバリンの中断による中枢性GABA様調節の急変が、疼痛と自律神経症状の悪化に関与している可能性もあります。頸髄損傷後遺症を有する本患者にとって、プレガバリンは神経障害性疼痛の管理に有効かつ重要な薬剤と推察しました。医師への提案と経過診察へ同行した際に、医師に以下の内容を伝えました。【現状報告】全内服薬中止後に右足先の疼痛が持続し、アセトアミノフェン坐剤では十分な除痛効果が得られていない。夜間の入眠困難が続いている。傾眠傾向はあるものの睡眠の質が低下している。【懸念事項】プレガバリンとトラゾドンの急な中止により反跳性離脱症状が出現している可能性がある。プレガバリンは神経障害性疼痛の管理に有効であり、頸髄損傷後遺症を有する患者にとって重要な薬剤である。プレガバリンの中止により中枢性GABA様調節の急変が自律神経症状の悪化に寄与している可能性がある。その上で、プレガバリン75mg 1錠とトラゾドン25mg 1錠を就寝前に再開することを提案しました。就寝前の1回投与にすることで服薬負担を最小限にしつつ、離脱症状の軽減と疼痛・睡眠の改善を図ることができるためです。また、疼痛と睡眠状態のモニタリングを継続し、効果判定を行うことも提案しました。医師に提案を採用いただき、プレガバリン75mg 1錠とトラゾドン25mg 1錠を就寝前に再開することになりました。再開後、疼痛は軽減傾向を示し、アセトアミノフェン坐剤の使用頻度も減少しました。睡眠状態も改善し、夜間の入眠が得られるようになりました。覚醒(意識)レベルについても徐々に軽快しました。振り返りと終末期がん患者での注意点本症例では、疼痛の増悪が単に疾患の進行によるものではなく、プレガバリンの離脱による反跳性の症状である可能性を考慮しました。このような薬剤性の症状を見逃さないためには、処方歴の確認と薬剤の薬理作用・半減期の理解が不可欠です。さらに、症状の原因を多角的に評価することが重要になるため、医師や施設スタッフとの密な連携により、症状の経時的変化を把握して適切なタイミングで処方調整を提案することが求められます。終末期がん患者における薬物療法の最適化では、不要な薬剤を中止することも重要ですが、必要な薬剤を適切に継続・再開することも同様に重要です。本症例では、離脱症状のリスクを評価し、患者さんのQOL維持のために必要な薬剤の再開を提案することで、服薬負担を最小限にしつつ離脱症状を回避することができました。薬剤師として、薬剤の薬理作用と離脱症状のリスクを理解し、患者さんの症状変化を注意深く観察することで、終末期患者の苦痛緩和に貢献できます。参考文献1)厚生労働省医薬食品局:医薬品・医療機器等安全性情報No.308(2013年12月)2)トラゾドン添付文書情報

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低用量アスピリン処方が2型糖尿病患者の初回イベントリスク低下と関連――AHA

 動脈硬化性心血管疾患(ASCVD)の既往のない成人2型糖尿病患者に対する低用量アスピリン(LDA)の処方が、心筋梗塞や脳卒中、全死亡リスクの低下と関連しているとする、米ピッツバーグ大学医療センターのAleesha Kainat氏らの研究結果が、米国心臓協会(AHA)年次学術集会(AHA Scientific Sessions 2025、11月7~10日、ニューオーリンズ)で発表された。追跡期間に占めるLDA処方期間の割合が高いほど、より大きなリスク低下が認められるという。 AHA発行のリリースの中でKainat氏は、「これまでのところ、ASCVD一次予防でのLDAの有用性は証明されていない。しかし、2型糖尿病はASCVDのリスク因子である。本研究では、2型糖尿病を有し、かつASCVDリスクが中等度以上に高い集団における、一次予防としてのLDA投与の意義を検討した」と、研究背景を述べている。 この研究は、ピッツバーグ大学関連の医療機関(35以上の病院、400以上の診療所)の患者データを用いて行われた。AHAおよび米国心臓病学会(ACC)によるASCVDリスク評価スコアにより、向こう10年間でのASCVDリスクが中等度から高度と判定された、成人2型糖尿病患者1万1,681人(平均年齢61.6歳、女性46.2%)を解析対象とした。出血ハイリスク患者は除外されている。 約8年間の医療記録に基づき、LDA処方の有無、およびLDA処方期間の長さ(8年間のうち30%未満にLDAが処方されていた群、同30~70%の群、70%超の群)と、10年にわたる追跡期間中の心筋梗塞、脳卒中、および全死亡の発生率との関連を検討した。解析に際しては、傾向スコアマッチングにより背景因子を一致させた。なお、対象全体の88.6%にLDAが処方され、53.2%にスタチンが処方されていた。 解析の結果、LDAが処方されていない患者を基準として、LDAが処方されていた患者は心筋梗塞の累積発生率が低く(61.2%対42.4%)、脳卒中(24.8%対14.5%)や全死亡(50.7%対33%)も同様に、LDAが処方されていた患者の発生率の方が低かった。また、LDA処方によるそれらイベントの発生率低下は、LDA処方期間が最も長い群で最も顕著に見られた。サブグループ解析からは、LDA処方とイベント発生率低下の関連はHbA1cにかかわりなく観察されたが、HbA1cが良好な群でより顕著な関連が認められた。 Kainat氏は、「この結果にわれわれは少なからず驚いた。ASCVD既往がなくLDAが処方されていた2型糖尿病患者は、10年間の追跡期間中の心筋梗塞、脳卒中、および全死亡リスクが大きく抑制されており、LDAが長期間継続的に処方されていた患者でその影響が顕著だった」と述べている。ただし、「出血ハイリスク者を解析から除外しており、出血イベントの発生率を比較していないことは、結果解釈上の大きな限界点である」と付け加えている。 なお、学会発表された研究結果は、査読を受けて医学誌に掲載されるまでは一般に予備的なものと見なされる。

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eGFRcysとeGFRcrの乖離は死亡・心血管イベントと関連/JAMA

 外来患者において、eGFRcys(シスタチンC値を用いて算出した推定糸球体濾過量)の値がeGFRcr(クレアチニン値を用いて算出した場合)の値より30%以上低い患者は、全死因死亡、心血管イベントおよび腎代替療法を要する腎不全の発現頻度が有意に高いことが示された。米国・カリフォルニア大学サンフランシスコ校のMichelle M. Estrella氏らChronic Kidney Disease Prognosis Consortium Investigators and Collaboratorsが、Chronic Kidney Disease Prognosis Consortium(CKD-PC)の患者データのメタ解析結果を報告した。eGFRの算出にクレアチニン値を用いた場合とシスタチンC値を用いた場合でeGFR値が異なる可能性があるが、これまでその差異の頻度および重要性は明らかになっていなかった。今回の解析では、外来患者の約11%および入院患者の約35%で、eGFRcys値がeGFRcr値より30%以上低い患者が認められることも示されている。JAMA誌オンライン版2025年11月7日号掲載の報告。eGFRcys値がeGFRcr値より30%以上低い患者の割合および特色を評価 研究グループは2024年4月~2025年8月に、CKD-PCの被験者で、ベースラインでシスタチンC値とクレアチニン値を同時に測定し、臨床アウトカムの情報が得られた患者のデータを集約し、個人レベルのメタ解析を行った。eGFRcys値とeGFRcr値の不一致率を評価し、不一致率がより高いことと関連する特色を明らかにし、また不一致率と有害アウトカムの関連を評価した。 主解析では、負の大きなeGFR値の差(eGFRdiff)を評価した(eGFRcys値がeGFRcr値より30%以上低いことと定義)。副次(従属的)アウトカムは、全死因死亡、心血管死、アテローム動脈硬化性疾患、心不全、腎代替療法を要する腎不全などであった。外来患者の11.2%が該当、全死因死亡などが高いことと関連 23の外来患者コホート82万1,327例(平均年齢59[SD 12]歳、女性48%、糖尿病13.5%、高血圧症40%)と2つの入院患者コホート3万9,639例(67[16]歳、31%、30%、72%)のデータが包含された。 外来患者において、11.2%が負の大きなeGFRdiffを有していた。負の大きなeGFRdiffは、コホート間でばらつきがみられた(範囲:2.8%~49.8%)。外来患者全体の平均eGFRcr-cys値(クレアチニン値とシスタチンC値を用いて算出)は86(SD 23)であった。 入院患者では、34.2%が負の大きなeGFRdiffを有していた。全体の平均eGFRcr-cys値は63(SD 33)であった。 外来患者の平均追跡期間11(SD 4)年において、負の大きなeGFRdiffは、eGFRdiffが-30%~30%であった場合と比較して、全死因死亡(28.4 vs.16.8/1,000人年、ハザード比:1.69、95%信頼区間:1.57~1.82)、心血管死(6.1 vs.3.8、1.61、1.48~1.76)、アテローム動脈硬化性疾患(13.3 vs.9.8、1.35、1.27~1.44)、心不全(13.2 vs.8.6、1.54、1.40~1.68)、腎代替療法を要する腎不全(2.7 vs.2.1、1.29、1.13~1.47)の発現頻度がいずれも高かった。

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エボロクマブは、高リスクでない患者にも有効か/NEJM

 PCSK9阻害薬によるLDLコレステロール(LDL-C)低下療法の研究は、心筋梗塞や脳卒中などの重大なアテローム性心血管イベントの既往歴のある、きわめてリスクの高い患者を中心に進められてきた。米国・ブリガム&ウィメンズ病院のErin A. Bohula氏らVESALIUS-CV Investigatorsは、国際的な臨床試験「VESALIUS-CV試験」において、心筋梗塞、脳卒中の既往歴のないアテローム性動脈硬化症または糖尿病患者でも、エボロクマブはプラセボとの比較において、初発の心血管イベントリスクを有意に低下させたことを報告した。本研究の詳細は、NEJM誌オンライン版2025年11月8日号に掲載された。33ヵ国の無作為化プラセボ対照比較試験 VESALIUS-CV試験は、33ヵ国774施設で実施した二重盲検無作為化プラセボ対照比較試験(Amgenの助成を受けた)。2019年6月~2021年11月に参加者の無作為化を行った。本試験は、エボロクマブ療法の長期的な有効性と安全性をより詳細に評価するために、中央値で少なくとも4.5年間の追跡調査を行うようデザインされた。 対象は、年齢が男性50~79歳、女性55~79歳で、冠動脈疾患、アテローム性脳血管疾患、末梢動脈疾患、高リスク糖尿病のうち1つ以上を有し、心筋梗塞または脳卒中の既往歴がなく、LDL-C値≧90mg/dL、非HDL-C値≧120mg/dL、アポリポタンパク質B値≧80mg/dLで、安定した至適な脂質低下療法を2週間以上受けている患者であった。 適格患者を、エボロクマブ(140mg、2週ごと)またはプラセボを皮下投与する群に、1対1の割合で無作為に割り付けた。 主要エンドポイントは、(1)3点主要心血管イベント(MACE):冠動脈性心疾患による死亡、心筋梗塞、虚血性脳卒中の複合エンドポイント、(2)4点MACE:3点MACEまたは虚血動脈の血行再建の複合エンドポイントの2つとした。48週時のLDL-C中央値は45mg/dL 1万2,257例(年齢中央値66歳[四分位範囲[IQR]:60~71]、女性43%、白人93%)を登録し、6,129例をエボロクマブ群、6,128例をプラセボ群に割り付けた。ベースラインの全体のLDL-C中央値は122mg/dL(IQR:104~149)で、患者の92%が脂質低下療法を受け、72%が高強度脂質低下療法を、68%が高強度スタチン療法を、20%がエゼチミブの投与を受けていた。追跡期間中央値は4.6年(IQR:4.0~5.2)だった。 2,014例が中央検査室による脂質検査を受けた。プラセボ群との比較におけるエボロクマブ群のベースラインから48週までのLDL-C値の最小二乗平均変化率は-55%(95%信頼区間[CI]:-59~-52)、最小二乗平均絶対群間差は-63mg/dL(95%CI:-67~-59)であった。48週時のLDL-C中央値は、エボロクマブ群が45mg/dL(IQR:26~73)、プラセボ群は109mg/dL(86~144)だった。 また、エボロクマブ群では、48週時の非HDL-C値(最小二乗平均変化率:-47%)、アポリポタンパク質B値(-44%)などの他のアテローム性脂質においてもプラセボ群に比べ大きな減少がもたらされた。3点MACE、4点MACEとも有意に改善 3点MACEのイベントは、プラセボ群で443例(5年Kaplan-Meier推定値:8.0%)に発生したのに対し、エボロクマブ群では336例(6.2%)と有意に少なかった(ハザード比[HR]:0.75、95%CI:0.65~0.86、p<0.001)。 また、4点MACEのイベントは、プラセボ群の907例(5年Kaplan-Meier推定値:16.2%)に比べ、エボロクマブ群は747例(13.4%)であり有意に良好だった(HR:0.81、95%CI:0.73~0.89、p<0.001)。心血管死、全死因死亡も良好な傾向 副次エンドポイントのうち、次の6項目のイベント発生率(5年Kaplan-Meier推定値)が、プラセボ群に比しエボロクマブ群で有意に優れた(すべてのp<0.001)。・心筋梗塞・虚血性脳卒中・虚血動脈の血行再建の複合(プラセボ群と比較したエボロクマブ群のリスク低下率21%)・冠動脈心疾患死・心筋梗塞・虚血動脈の血行再建の複合(同21%)・心血管死・心筋梗塞・虚血性脳卒中の複合(同27%)・冠動脈心疾患死・心筋梗塞の複合(同27%)・心筋梗塞(同36%)・虚血動脈の血行再建(同21%) 試験薬の投与中止の原因となった有害事象および重篤な有害事象の発生率は、両群間に差を認めなかった。 著者は、「事前に規定された階層的検定計画のため正式な仮説検定は不可能で、結論は導けないものの、心血管死(HR:0.79、95%CI:0.64~0.98)および全死因死亡(0.80、0.70~0.91)の発生率も、エボロクマブ群で低い傾向がみられた」「本試験の知見は、これまでの試験の対象よりもリスクが低い集団における、初回の重大な心血管イベントの予防を目的とするPCSK9阻害薬の使用を支持する」「従来の短期間の試験では、PCSK9阻害薬の長期的な臨床的有益性が過小評価されていた可能性が高く、PCSK9阻害薬によるLDL-Cの長期的な低下は、スタチンと同様に致死的なイベントの予防に寄与し得ると考えられる」としている。

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