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スタチン使用は本当にうつ病リスクを低下させるのか?

 これまで、スタチンのうつ病に対する潜在的な影響については調査が行われているものの、そのエビデンスは依然として一貫していない。台北医学大学のPei-Yun Tsai氏らは、スタチン使用とうつ病の関連性を明らかにするため、最新のシステマティックレビューおよびメタ解析を実施した。General Hospital Psychiatry誌2025年11〜12月号の報告。 2025年9月11日までに公表された研究をPubMed、the Cochrane Library、EMBASEより、言語制限なしでシステマティックに検索した。また、対象論文のリファレンスリストの検討を行った。プールされたオッズ比(OR)および95%信頼区間(CI)の算出には、ランダム効果モデルを用いた。 主な結果は以下のとおり。・選択基準を満たした15研究(10ヵ国、540万3,692例)をメタ解析に含めた。・スタチン使用は、スタチン非使用と比較し、うつ病リスクが有意に低かった(統合OR:0.84、95%CI:0.74〜0.96、p=0.009)。しかし、研究間の異質性が大きかった(I2=85%)。・感度分析では、結果のロバスト性が確認された。・サブグループ解析では、コホート研究(OR:0.86、95%CI:0.76〜0.98、p=0.02)、検証済みの質問票/尺度を用いた研究(OR:0.71、95%CI:0.54〜0.94、p=0.02)、併存疾患を有する患者(OR:0.74、95%CI:0.55〜0.98、p=0.04)、抗炎症薬または抗うつ薬を併用している患者(OR:0.82、95%CI:0.71〜0.95、p=0.009)において有意な関連が認められた。・北米集団(OR:0.63、95%CI:0.51〜0.78、p<0.001)および西洋型の食生活(OR:0.61、95%CI:0.45〜0.81、p<0.001)、アジア型の食生活(OR:0.75、95%CI:0.64〜0.89、p=0.001)を順守する人において、スタチンのうつ病予防効果が認められた。 著者らは「とくに特定の集団および特定の臨床的または生活習慣条件において、スタチン使用はうつ病リスクの低下と関連していると考えられる。この因果関係を明らかにし、影響を及ぼす関連因子を特定するには、さらなる研究が求められる」とまとめている。

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『肝細胞癌診療ガイドライン』改訂――エビデンス重視の作成方針、コーヒー・飲酒やMASLD予防のスタチン投与に関する推奨も

 2025年10月、『肝細胞癌診療ガイドライン 2025年版』(日本肝臓学会編、金原出版)が刊行された。2005年の初版以降、ほぼ4年ごとに改訂され、今回で第6版となる。肝内胆管がんに独自ガイドラインが発刊されたことを受け、『肝癌診療ガイドライン』から名称が変更された。改訂委員会委員長を務めた東京大学の長谷川 潔氏に改訂のポイントを聞いた。Good Practice StatementとFRQで「わかっていること・いないこと」を明示 今版の構成上の変更点としては、「診療上の重要度の高い医療行為について、新たにシステマティックレビューを行わなくとも、明確な理論的根拠や大きな正味の益があると診療ガイドライン作成グループが判断した医療行為を提示するもの」については、Good Practice Statement(GPS)として扱うことにした。これにより既存のCQ(Clinical Question)の一部をGPSに移行した。 また、「今後の研究が推奨される臨床疑問」はFuture Research Question(FRQ)として扱うことにした。FRQは「まだデータが不十分であり、CQとしての議論はできないが、今後CQとして議論すべき内容」を想定している。これらによって、50を超える臨床疑問を取り上げることが可能になり、それらに対し、「何がエビデンスとして確立しており、何がまだわかっていないのか」を見分けやすくなった。診療アルゴリズム、3位以下の選択肢や並列記載で科学的公平性を保つ ガイドラインの中で最も注目されるのは「治療アルゴリズム」だろう。治療選択肢が拡大したことを受け、前版までは推奨治療に優先順位を付けて2位までを記載していたが、今版からはエビデンスがあれば3位以下も「オプション治療」として掲載する方針とした。たとえば、腫瘍が1~3個・腫瘍径3cm以内の場合であれば、推奨治療は「切除/アブレーション」だが、オプション治療として「TACE/放射線/移植」も選択肢として掲載している。これにより、専門施設以外でも自施設で可能な治療範囲を判断したり、患者への説明に活用したりしやすくなっている。 また、治療やレジメンの優先順位もエビデンスを基に厳格に判断した。たとえば、切除不能例の1次治療のレジメンでは、実臨床ではアテゾリズマブ+ベバシズマブ療法が副作用管理などの面で使用頻度が高い傾向にあるが、ガイドライン上ではほかの2つのレジメン(トレメリムマブ+デュルバルマブ、ニボルマブ+イピリムマブ)と差を付けず、3つの治療法を並列に記載している。実臨床での使いやすさや感覚的な優劣があったとしても、それらを直接比較した試験結果がない以上、推奨度には差を付けるべきではないと判断した。 結果として、多くの場面で治療選択肢が増え、実臨床におけるガイドラインとしては使い勝手が落ちた面があるかもしれないが、あくまで客観的なデータを重視し、科学的な公平性を保つ方針を貫いた。判断の根拠となるデータ・論文はすべて記載しているので、判断に迷った場合は原典にあたって都度検討いただければと考えている。予防ではコーヒー・飲酒の生活習慣に関するCQを設定 近年ではB/C型肝炎ウイルス由来の肝細胞がんは減少している一方、非ウイルス性肝細胞がんは原因特定が困難で、予防法も確立されていない。多くの研究が行われている分野ではあるので、「肝発癌予防に有効な生活習慣は何か?」というCQを設定し、エビデンスが出てきた「コーヒー摂取」と「飲酒」について検討した。結果として「コーヒー摂取は、肝発癌リスクを減少させる可能性がある」(弱い推奨、エビデンスの強さC)、「肝発癌予防に禁酒(非飲酒)を推奨する」(弱い推奨、エビデンスの強さC)との記載となった。いずれもエビデンスレベルが低く、そのまま実臨床に落とし込むことは難しい状況であり、今後のエビデンスの蓄積が待たれる。MASLD患者の予防にスタチン・メトホルミンを検討 世界的に増加している代謝機能障害関連脂肪性肝疾患(MASLD) では、とくに肝線維化進行例で肝がんリスクが高い。今版では新設CQとしてこの集団における肝発がん抑制について検討した。介入としては世界で標準的に使用されており論文数の多い薬剤としてスタチンとメトホルミンを選択した。ガイドラインの記載は「肝発癌予防を目的として、スタチンまたはメトホルミンの投与を弱く推奨する(エビデンスの強さC)」となった。ただ、予防目的で、高脂血症を合併していない患者へのスタチン投与、糖尿病を合併していない患者へのメトホルミン投与を行った研究はないため、これらは対象から外している。MASLD患者に対してはGLP-1受容体作動薬などが広く投与されるようになり、肝脂肪化および肝線維化の改善効果が報告されている。今後症例の蓄積とともにこれら薬剤の肝発がん抑制効果の検討も進むことが期待される。放射線治療・肝移植の適応拡大 その他の治療法に関しては、診断/治療の枠組みは大きく変わらないものの、2022年4月から保険収載となった粒子線(陽子線・重粒子線)治療の記載が増え、アルゴリズム内での位置付けが大きくなった。また、肝移植については、保険適用がChild-Pugh分類Bにも拡大されたことを受け、適応の選択肢が増加している。経済的だけでなく学術的COIも厳格に適用 改訂内容と直接は関係ないものの、今回の改訂作業において大きく変更したのがCOI(利益相反)の扱いだ。日本肝臓学会のCOI基準に従い、経済的COIだけでなく学術的COIについても厳密に適用した。具体的には、推奨の強さを決定する投票において、経済的なCOIがある者はもちろん、該当する臨床試験の論文に名前が掲載されている委員もその項目の投票を棄権するルールを徹底した。Minds診療ガイドライン作成の手法に厳格に沿った形であり、ほかのガイドラインに先駆けた客観性重視の取り組みといえる。投票結果もすべて掲載しており、委員会内で意見が分かれたところと一致したところも確認できる。今後の課題は「患者向けガイドライン」と「医療経済」 今後の課題としては、作成作業が追いついていない「患者・市民向けガイドライン」の整備が挙げられる。また、今版では医療経済の問題を「薬物療法の費用対効果の総説」としてまとめたが、治療選択における明確な指針の合意形成までには至らなかった。今後、限られた医療資源を最適に配分するために、医療経済の視点におけるガイドラインの継続的なアップデートも欠かせないと考えている。

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白内障手術前の検査【日常診療アップグレード】第45回

白内障手術前の検査問題83歳女性。両眼の白内障手術を1ヵ月後から段階的に予定している。既往歴には高血圧、脂質異常症、甲状腺機能低下症がある。服用薬はアムロジピン、リシノプリル、アトルバスタチン、レボチロキシンである。全身状態は良好で、身体診察では、バイタルサインおよび、その他の所見に異常はない。6ヵ月前の検査では、血清電解質、クレアチニン、甲状腺刺激ホルモン(TSH)は正常範囲であった。術前チェックとして、心電図検査を行った。

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終末期がん患者の反跳性離脱症状を発見して処方再開を提案【うまくいく!処方提案プラクティス】第70回

 今回は、終末期がん患者における薬剤性の反跳性離脱症状を早期に発見し、処方再開を提案した症例を紹介します。がん患者では、疼痛管理や不眠に対して複数の薬剤が併用されることがありますが、全身状態の悪化に伴い服用が困難になることがあります。服用困難という理由だけで急に中止するのではなく、離脱症状のリスクを総合的に評価し、適切な漸減・代替薬への切り替えを検討することが重要です。患者情報79歳、男性(施設入居)基礎疾患小細胞肺がん(T2aN3M1c、StageIV ED)、頸髄損傷後遺症、神経因性膀胱、狭心症(時期不明)治療経過2025年6月に小細胞肺がんと診断され、7月より薬物治療(カルボプラチン+エトポシド+デュルバルマブ)を開始した。しかし発熱性好中球減少症・敗血症性ショックにより再入院。8月に家族へ病状を説明した後、緩和ケアへ移行する方針となり、施設へ転院・入居となった。社会・生活環境ほぼ寝たきり状態、自宅受け入れ困難のため施設入居ADLほぼ寝たきり状態処方内容1.ベザフィブラート錠50mg 1錠 分1 朝食後2.アジルサルタンOD錠20mg 1錠 分1 朝食後3.エチゾラム錠0.5mg 1錠 分1 就寝前4.クロピドグレル錠75mg 1錠 分1 朝食後5.ボノプラザン錠10mg 1錠 分1 夕食後6レンボレキサント錠5mg 1錠 分1 就寝前7.トラマドール・アセトアミノフェン配合錠 3錠 分3 毎食後8.ドキサゾシン錠1mg 1錠 分1 就寝前9.トラゾドン錠25mg 2錠 分1 就寝前10.プレガバリンOD錠75mg 1錠 分1 就寝前11.フロセミド錠20mg 1錠 分1 朝食後12.ロスバスタチン錠2.5mg 1錠 分1 夕食後13.酸化マグネシウム錠330mg 3錠 分3 毎食後本症例のポイント施設に入居して約1ヵ月後、誤嚥リスクと覚醒(意識)レベルの低下により全内服薬が一時中止となりました。食事摂取量は0~5割とムラがあり、尿路感染症に対してST合剤内服を開始しました。その後、患者さんは右足先の疼痛を訴え、アセトアミノフェン坐剤を開始しても効果が不十分な状態となりました。傾眠傾向にはあるものの、夜間の入眠困難もありました。問題点の評価患者さんの状態から、プレガバリン(半減期約6時間)とトラゾドン(半減期約6時間)の中断により、反跳性離脱症状が出現した可能性があると考えました。プレガバリンは電位依存性Caチャネルのα2δサブユニットに結合し、神経伝達物質の放出を抑制する薬剤であり、突然の中止により不眠、悪心、疼痛の増悪などの離脱症状が出現することが報告されています。トラゾドンについても、抗うつ薬の中止後症候群として不安、不眠、自律神経症状(悪心・嘔吐)が出現することがあります。また、トラマドール・アセトアミノフェン配合錠の中断による除痛効果の喪失と、プレガバリンの中断による中枢性GABA様調節の急変が、疼痛と自律神経症状の悪化に関与している可能性もあります。頸髄損傷後遺症を有する本患者にとって、プレガバリンは神経障害性疼痛の管理に有効かつ重要な薬剤と推察しました。医師への提案と経過診察へ同行した際に、医師に以下の内容を伝えました。【現状報告】全内服薬中止後に右足先の疼痛が持続し、アセトアミノフェン坐剤では十分な除痛効果が得られていない。夜間の入眠困難が続いている。傾眠傾向はあるものの睡眠の質が低下している。【懸念事項】プレガバリンとトラゾドンの急な中止により反跳性離脱症状が出現している可能性がある。プレガバリンは神経障害性疼痛の管理に有効であり、頸髄損傷後遺症を有する患者にとって重要な薬剤である。プレガバリンの中止により中枢性GABA様調節の急変が自律神経症状の悪化に寄与している可能性がある。その上で、プレガバリン75mg 1錠とトラゾドン25mg 1錠を就寝前に再開することを提案しました。就寝前の1回投与にすることで服薬負担を最小限にしつつ、離脱症状の軽減と疼痛・睡眠の改善を図ることができるためです。また、疼痛と睡眠状態のモニタリングを継続し、効果判定を行うことも提案しました。医師に提案を採用いただき、プレガバリン75mg 1錠とトラゾドン25mg 1錠を就寝前に再開することになりました。再開後、疼痛は軽減傾向を示し、アセトアミノフェン坐剤の使用頻度も減少しました。睡眠状態も改善し、夜間の入眠が得られるようになりました。覚醒(意識)レベルについても徐々に軽快しました。振り返りと終末期がん患者での注意点本症例では、疼痛の増悪が単に疾患の進行によるものではなく、プレガバリンの離脱による反跳性の症状である可能性を考慮しました。このような薬剤性の症状を見逃さないためには、処方歴の確認と薬剤の薬理作用・半減期の理解が不可欠です。さらに、症状の原因を多角的に評価することが重要になるため、医師や施設スタッフとの密な連携により、症状の経時的変化を把握して適切なタイミングで処方調整を提案することが求められます。終末期がん患者における薬物療法の最適化では、不要な薬剤を中止することも重要ですが、必要な薬剤を適切に継続・再開することも同様に重要です。本症例では、離脱症状のリスクを評価し、患者さんのQOL維持のために必要な薬剤の再開を提案することで、服薬負担を最小限にしつつ離脱症状を回避することができました。薬剤師として、薬剤の薬理作用と離脱症状のリスクを理解し、患者さんの症状変化を注意深く観察することで、終末期患者の苦痛緩和に貢献できます。参考文献1)厚生労働省医薬食品局:医薬品・医療機器等安全性情報No.308(2013年12月)2)トラゾドン添付文書情報

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低用量アスピリン処方が2型糖尿病患者の初回イベントリスク低下と関連――AHA

 動脈硬化性心血管疾患(ASCVD)の既往のない成人2型糖尿病患者に対する低用量アスピリン(LDA)の処方が、心筋梗塞や脳卒中、全死亡リスクの低下と関連しているとする、米ピッツバーグ大学医療センターのAleesha Kainat氏らの研究結果が、米国心臓協会(AHA)年次学術集会(AHA Scientific Sessions 2025、11月7~10日、ニューオーリンズ)で発表された。追跡期間に占めるLDA処方期間の割合が高いほど、より大きなリスク低下が認められるという。 AHA発行のリリースの中でKainat氏は、「これまでのところ、ASCVD一次予防でのLDAの有用性は証明されていない。しかし、2型糖尿病はASCVDのリスク因子である。本研究では、2型糖尿病を有し、かつASCVDリスクが中等度以上に高い集団における、一次予防としてのLDA投与の意義を検討した」と、研究背景を述べている。 この研究は、ピッツバーグ大学関連の医療機関(35以上の病院、400以上の診療所)の患者データを用いて行われた。AHAおよび米国心臓病学会(ACC)によるASCVDリスク評価スコアにより、向こう10年間でのASCVDリスクが中等度から高度と判定された、成人2型糖尿病患者1万1,681人(平均年齢61.6歳、女性46.2%)を解析対象とした。出血ハイリスク患者は除外されている。 約8年間の医療記録に基づき、LDA処方の有無、およびLDA処方期間の長さ(8年間のうち30%未満にLDAが処方されていた群、同30~70%の群、70%超の群)と、10年にわたる追跡期間中の心筋梗塞、脳卒中、および全死亡の発生率との関連を検討した。解析に際しては、傾向スコアマッチングにより背景因子を一致させた。なお、対象全体の88.6%にLDAが処方され、53.2%にスタチンが処方されていた。 解析の結果、LDAが処方されていない患者を基準として、LDAが処方されていた患者は心筋梗塞の累積発生率が低く(61.2%対42.4%)、脳卒中(24.8%対14.5%)や全死亡(50.7%対33%)も同様に、LDAが処方されていた患者の発生率の方が低かった。また、LDA処方によるそれらイベントの発生率低下は、LDA処方期間が最も長い群で最も顕著に見られた。サブグループ解析からは、LDA処方とイベント発生率低下の関連はHbA1cにかかわりなく観察されたが、HbA1cが良好な群でより顕著な関連が認められた。 Kainat氏は、「この結果にわれわれは少なからず驚いた。ASCVD既往がなくLDAが処方されていた2型糖尿病患者は、10年間の追跡期間中の心筋梗塞、脳卒中、および全死亡リスクが大きく抑制されており、LDAが長期間継続的に処方されていた患者でその影響が顕著だった」と述べている。ただし、「出血ハイリスク者を解析から除外しており、出血イベントの発生率を比較していないことは、結果解釈上の大きな限界点である」と付け加えている。 なお、学会発表された研究結果は、査読を受けて医学誌に掲載されるまでは一般に予備的なものと見なされる。

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eGFRcysとeGFRcrの乖離は死亡・心血管イベントと関連/JAMA

 外来患者において、eGFRcys(シスタチンC値を用いて算出した推定糸球体濾過量)の値がeGFRcr(クレアチニン値を用いて算出した場合)の値より30%以上低い患者は、全死因死亡、心血管イベントおよび腎代替療法を要する腎不全の発現頻度が有意に高いことが示された。米国・カリフォルニア大学サンフランシスコ校のMichelle M. Estrella氏らChronic Kidney Disease Prognosis Consortium Investigators and Collaboratorsが、Chronic Kidney Disease Prognosis Consortium(CKD-PC)の患者データのメタ解析結果を報告した。eGFRの算出にクレアチニン値を用いた場合とシスタチンC値を用いた場合でeGFR値が異なる可能性があるが、これまでその差異の頻度および重要性は明らかになっていなかった。今回の解析では、外来患者の約11%および入院患者の約35%で、eGFRcys値がeGFRcr値より30%以上低い患者が認められることも示されている。JAMA誌オンライン版2025年11月7日号掲載の報告。eGFRcys値がeGFRcr値より30%以上低い患者の割合および特色を評価 研究グループは2024年4月~2025年8月に、CKD-PCの被験者で、ベースラインでシスタチンC値とクレアチニン値を同時に測定し、臨床アウトカムの情報が得られた患者のデータを集約し、個人レベルのメタ解析を行った。eGFRcys値とeGFRcr値の不一致率を評価し、不一致率がより高いことと関連する特色を明らかにし、また不一致率と有害アウトカムの関連を評価した。 主解析では、負の大きなeGFR値の差(eGFRdiff)を評価した(eGFRcys値がeGFRcr値より30%以上低いことと定義)。副次(従属的)アウトカムは、全死因死亡、心血管死、アテローム動脈硬化性疾患、心不全、腎代替療法を要する腎不全などであった。外来患者の11.2%が該当、全死因死亡などが高いことと関連 23の外来患者コホート82万1,327例(平均年齢59[SD 12]歳、女性48%、糖尿病13.5%、高血圧症40%)と2つの入院患者コホート3万9,639例(67[16]歳、31%、30%、72%)のデータが包含された。 外来患者において、11.2%が負の大きなeGFRdiffを有していた。負の大きなeGFRdiffは、コホート間でばらつきがみられた(範囲:2.8%~49.8%)。外来患者全体の平均eGFRcr-cys値(クレアチニン値とシスタチンC値を用いて算出)は86(SD 23)であった。 入院患者では、34.2%が負の大きなeGFRdiffを有していた。全体の平均eGFRcr-cys値は63(SD 33)であった。 外来患者の平均追跡期間11(SD 4)年において、負の大きなeGFRdiffは、eGFRdiffが-30%~30%であった場合と比較して、全死因死亡(28.4 vs.16.8/1,000人年、ハザード比:1.69、95%信頼区間:1.57~1.82)、心血管死(6.1 vs.3.8、1.61、1.48~1.76)、アテローム動脈硬化性疾患(13.3 vs.9.8、1.35、1.27~1.44)、心不全(13.2 vs.8.6、1.54、1.40~1.68)、腎代替療法を要する腎不全(2.7 vs.2.1、1.29、1.13~1.47)の発現頻度がいずれも高かった。

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エボロクマブは、高リスクでない患者にも有効か/NEJM

 PCSK9阻害薬によるLDLコレステロール(LDL-C)低下療法の研究は、心筋梗塞や脳卒中などの重大なアテローム性心血管イベントの既往歴のある、きわめてリスクの高い患者を中心に進められてきた。米国・ブリガム&ウィメンズ病院のErin A. Bohula氏らVESALIUS-CV Investigatorsは、国際的な臨床試験「VESALIUS-CV試験」において、心筋梗塞、脳卒中の既往歴のないアテローム性動脈硬化症または糖尿病患者でも、エボロクマブはプラセボとの比較において、初発の心血管イベントリスクを有意に低下させたことを報告した。本研究の詳細は、NEJM誌オンライン版2025年11月8日号に掲載された。33ヵ国の無作為化プラセボ対照比較試験 VESALIUS-CV試験は、33ヵ国774施設で実施した二重盲検無作為化プラセボ対照比較試験(Amgenの助成を受けた)。2019年6月~2021年11月に参加者の無作為化を行った。本試験は、エボロクマブ療法の長期的な有効性と安全性をより詳細に評価するために、中央値で少なくとも4.5年間の追跡調査を行うようデザインされた。 対象は、年齢が男性50~79歳、女性55~79歳で、冠動脈疾患、アテローム性脳血管疾患、末梢動脈疾患、高リスク糖尿病のうち1つ以上を有し、心筋梗塞または脳卒中の既往歴がなく、LDL-C値≧90mg/dL、非HDL-C値≧120mg/dL、アポリポタンパク質B値≧80mg/dLで、安定した至適な脂質低下療法を2週間以上受けている患者であった。 適格患者を、エボロクマブ(140mg、2週ごと)またはプラセボを皮下投与する群に、1対1の割合で無作為に割り付けた。 主要エンドポイントは、(1)3点主要心血管イベント(MACE):冠動脈性心疾患による死亡、心筋梗塞、虚血性脳卒中の複合エンドポイント、(2)4点MACE:3点MACEまたは虚血動脈の血行再建の複合エンドポイントの2つとした。48週時のLDL-C中央値は45mg/dL 1万2,257例(年齢中央値66歳[四分位範囲[IQR]:60~71]、女性43%、白人93%)を登録し、6,129例をエボロクマブ群、6,128例をプラセボ群に割り付けた。ベースラインの全体のLDL-C中央値は122mg/dL(IQR:104~149)で、患者の92%が脂質低下療法を受け、72%が高強度脂質低下療法を、68%が高強度スタチン療法を、20%がエゼチミブの投与を受けていた。追跡期間中央値は4.6年(IQR:4.0~5.2)だった。 2,014例が中央検査室による脂質検査を受けた。プラセボ群との比較におけるエボロクマブ群のベースラインから48週までのLDL-C値の最小二乗平均変化率は-55%(95%信頼区間[CI]:-59~-52)、最小二乗平均絶対群間差は-63mg/dL(95%CI:-67~-59)であった。48週時のLDL-C中央値は、エボロクマブ群が45mg/dL(IQR:26~73)、プラセボ群は109mg/dL(86~144)だった。 また、エボロクマブ群では、48週時の非HDL-C値(最小二乗平均変化率:-47%)、アポリポタンパク質B値(-44%)などの他のアテローム性脂質においてもプラセボ群に比べ大きな減少がもたらされた。3点MACE、4点MACEとも有意に改善 3点MACEのイベントは、プラセボ群で443例(5年Kaplan-Meier推定値:8.0%)に発生したのに対し、エボロクマブ群では336例(6.2%)と有意に少なかった(ハザード比[HR]:0.75、95%CI:0.65~0.86、p<0.001)。 また、4点MACEのイベントは、プラセボ群の907例(5年Kaplan-Meier推定値:16.2%)に比べ、エボロクマブ群は747例(13.4%)であり有意に良好だった(HR:0.81、95%CI:0.73~0.89、p<0.001)。心血管死、全死因死亡も良好な傾向 副次エンドポイントのうち、次の6項目のイベント発生率(5年Kaplan-Meier推定値)が、プラセボ群に比しエボロクマブ群で有意に優れた(すべてのp<0.001)。・心筋梗塞・虚血性脳卒中・虚血動脈の血行再建の複合(プラセボ群と比較したエボロクマブ群のリスク低下率21%)・冠動脈心疾患死・心筋梗塞・虚血動脈の血行再建の複合(同21%)・心血管死・心筋梗塞・虚血性脳卒中の複合(同27%)・冠動脈心疾患死・心筋梗塞の複合(同27%)・心筋梗塞(同36%)・虚血動脈の血行再建(同21%) 試験薬の投与中止の原因となった有害事象および重篤な有害事象の発生率は、両群間に差を認めなかった。 著者は、「事前に規定された階層的検定計画のため正式な仮説検定は不可能で、結論は導けないものの、心血管死(HR:0.79、95%CI:0.64~0.98)および全死因死亡(0.80、0.70~0.91)の発生率も、エボロクマブ群で低い傾向がみられた」「本試験の知見は、これまでの試験の対象よりもリスクが低い集団における、初回の重大な心血管イベントの予防を目的とするPCSK9阻害薬の使用を支持する」「従来の短期間の試験では、PCSK9阻害薬の長期的な臨床的有益性が過小評価されていた可能性が高く、PCSK9阻害薬によるLDL-Cの長期的な低下は、スタチンと同様に致死的なイベントの予防に寄与し得ると考えられる」としている。

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認知症リスクを低下させるコーヒー、紅茶の摂取量は1日何杯?

 コーヒーと紅茶の摂取量と認知症の長期リスクとの関連性は、これまで十分に解明されていなかった。さらに、これらの関連性における循環炎症バイオマーカーの潜在的な媒介的役割についても、ほとんど研究されていない。中国・浙江大学のMinqing Yan氏らは、コーヒーと紅茶の摂取量と循環炎症バイオマーカーおよび認知症の長期リスクとの関連を明らかにするため、2つの縦断的研究を評価した。European Journal of Epidemiology誌オンライン版2025年10月27日号の報告。 対象は、Health and Retirement Study(HRS、2013~20年、6,001例)およびFramingham Heart Study Offspringコホート(FOS、1998~2018年、2,650例)に参加したベースライン時点で認知症でない人。コーヒーと紅茶の摂取量は、両コホートにおいて半定量的な食物摂取頻度調査票を用いて評価した。認知症の診断は、検証済みのアルゴリズムと臨床審査パネルを用いて確定した。コーヒーと紅茶の摂取量と認知症との関連性を評価するために、Cox比例ハザードモデルを用いた。循環炎症バイオマーカーがこれらの関連性を媒介しているかどうかを検討するため、媒介分析を実施した。 主な内容は以下のとおり。・フォローアップ期間中央値は、HRSで7.0年、FOSで11.1年。認知症を発症した人は、HRSで231例、FOSで204例であった。・コーヒー摂取が1日2杯以上の場合は、1日1杯未満と比較し、認知症リスクの28~37%低下が認められた。【HRS】ハザード比(HR):0.72、95%信頼区間(CI):0.52~0.99、p-trend=0.045【FOS】HR:0.63、95%CI:0.45~0.90、p-trend=0.015・適度な紅茶摂取は、非摂取者と比較して、HRSにおいて認知症リスクの低下と関連していたが、FOSでは有意な関連性は認められなかった。【HRS:1日0~1杯未満】HR:0.65、95%CI:0.48~0.89【HRS:1日1~2杯未満】HR:0.53、95%CI:0.30~0.94・媒介分析の結果、コーヒー摂取量と認知症との関連性は、インターロイキン-10(IL-10、29.30%)、シスタチンC(24.45%)、C-反応性蛋白(CRP、16.54%)、インターロイキン-1受容体拮抗薬(IL-1RA、11.06%)、可溶性腫瘍壊死因子受容体-1(sTNFR-1、10.78%)によって部分的に媒介されていることが示唆された。 著者らは「コーヒーの摂取量が多いほど、認知症リスクの低さに関連しており、この関連性は一連の炎症性バイオマーカーによって部分的に媒介されていると考えられる。適量の紅茶摂取も、認知症のリスク低下と関連している可能性がある。これらの知見を検証するためにも、今後さらに大規模な観察研究および介入研究が求められる」と結論付けている。

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新規作用機序の高コレステロール血症治療薬ベムペド酸を発売/大塚

 大塚製薬の新規作用機序の高コレステロール血症治療薬ベムペド酸(商品名:ネクセトール)が2025年11月21日に発売された。効能・効果は「高コレステロール血症、家族性高コレステロール血症」で、スタチン効果不十分またはスタチンによる治療が適さない高コレステロール血症患者への新たな治療選択肢とされる。 本剤は、肝臓中のコレステロール合成経路においてスタチンの作用点よりも上流にあるATPクエン酸リアーゼに作用し、血中のLDLコレステロールの低下をもたらす。すでに米国や欧州をはじめ、世界の複数国・地域で高コレステロール血症治療薬として販売されており、国内においては、大塚製薬が2020年4月に本剤の独占的開発販売権を米国・エスペリオンから取得、2025年9月に製造販売承認を取得していた。<製品概要>販売名:ネクセトール錠180mg一般名:ベムペド酸製造販売承認日:2025年9月19日薬価基準収載日:2025年11月12日効能又は効果:高コレステロール血症、家族性高コレステロール血症用法及び用量:通常、成人にはベムペド酸として180mgを1日1回経口投与する。 薬価:371.50円製造販売元:大塚製薬株式会社

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足底の潰瘍【日常診療アップグレード】第43回

足底の潰瘍問題73歳男性。3日前、右足底に10日前にはなかった潰瘍ができているのに気が付き受診した。外傷歴はない。3週間前、新しい靴を購入して使用し始めた。既往歴は2型糖尿病、糖尿病性神経障害、高血圧である。内服薬はメトホルミン、デュラグルチド、ガバペンチン、アトルバスタチン、リシノプリルである。発熱や悪寒はない。バイタルサインは正常で、身体診察では右足底の前中央部に直径約1cmの浅い潰瘍を認める。熱感や発赤、浸出液、腫脹、圧痛はない。両足底の痛覚は低下している。足の単純X線撮影をオーダーした。

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スタチンでケモブレインを防げる?

 最も一般的なコレステロール治療薬であるスタチン系薬剤(以下、スタチン)が、がん患者を「ケモブレイン」から守るのに役立つかもしれない。新たな研究で、スタチンは乳がんやリンパ腫の患者の認知機能を最大2年間保護する可能性のあることが示された。米バージニア・コモンウェルス大学パウリー心臓センターのPamela Jill Grizzard氏らによるこの研究結果は、「JAMA Network Open」に10月21日掲載された。 Grizzard氏は、「がん治療は患者を衰弱させる可能性があり、化学療法による認知機能の低下は治療終了後も長期間続くことがある」と話す。その上で、「この研究結果は、スタチン投与群に割り付けられたがん患者において、治療開始から2年間にわたり認知機能に予想外の改善傾向が認められたことを示している。がん治療中に知性を守ることは、心臓を守るのと同じくらい重要だ」と述べている。 化学療法を受ける患者の多くは、記憶力、問題解決能力、自制心、計画力の低下など、頭がぼんやりするブレインフォグや思考力の低下を訴える。これらの副作用は一般に「ケモブレイン」と呼ばれている。研究グループによると、ケモブレインの原因は医師にもはっきりと分かっておらず、化学療法薬が脳細胞に直接作用している可能性や、化学療法の副作用として知られている疲労感や貧血が原因となっている可能性が示唆されているという。 今回、Grizzard氏らは、スタチンが化学療法による心毒性から心臓を保護できるのかどうかを調べた過去の臨床試験のデータの2次解析を行った。対象者である、ドキソルビシンによる治療中でステージI~IVのリンパ腫、またはステージI~IIIの乳がんの患者238人(平均年齢49歳、女性91.2%)は、ドキソルビシン治療開始前から最長で24カ月間にわたり、アトルバスタチン(40mg/日)を投与する群(118人)とプラセボを投与する群(120人)に割り付けられていた。今回の研究では、対象者の注意機能(Trail Making Test Part A〔TMT-A〕で評価)、実行機能(TMT-Bで評価)、言語流暢性(Controlled Oral Word Association Testで評価)が評価された。 その結果、治療前と比べて治療開始から24カ月時点の実行機能は、アトルバスタチン投与群では平均10.2秒有意に改善したのに対し、プラセボ群では平均0.2秒の改善にとどまり、統計学的に有意ではなかった。ただし、時間の経過による変化の仕方に両群間で有意な差はなかった。注意力と言語流暢性の改善度についても、両群で同程度であった。 研究グループは、「このような認知スキルは、治療の選択と日常生活のさまざまな課題を両立させようと努力しているがんサバイバーにとって不可欠である」と述べている。Grizzard氏は、「今後の研究で有益な効果が確認されれば、スタチンはがんサバイバーが治療中も認知機能と生活の質(QOL)を維持する上で貴重なツールとなる可能性がある」と結論付けている。

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心房細動患者における脳梗塞リスクを示すバイオマーカーを同定

 抗凝固療法を受けている心房細動(AF)患者においても、既知の脳梗塞リスクのバイオマーカーは脳梗塞リスクと正の関連を示し、そのうち2種類のバイオマーカーがAF患者の脳卒中発症の予測精度を改善する可能性があるとする2報の研究結果が、「Journal of Thrombosis and Haemostasis」に8月6日掲載された。 米バーモント大学のSamuel A.P. Short氏らは、抗凝固療法を受けているAF患者におけるバイオマーカーと脳梗塞リスクの関連を検討するために、登録時に45歳以上であった黒人および白人の成人3万239人を対象とし、前向きコホート研究を実施した。ベースライン時に、対象者の9種類のバイオマーカーが測定された。解析の結果、ワルファリンを内服していたAF患者713人のうち67人(9%)が、12年間の追跡期間中に初発の脳梗塞を発症していた。交絡因子を調整した後も、標準偏差1単位の上昇ごとに、N末端プロ脳性ナトリウム利尿ペプチド(NT-proBNP)、血液凝固第VIII因子、D-ダイマー、成長分化因子-15(GDF-15)は、いずれも新規脳卒中発症と正の関連を示した。ハザード比は、NT-proBNPで1.49(95%信頼区間1.11〜2.02)、GDF-15で1.28(同0.92〜1.77)であった。ただし、D-ダイマーとGDF-15の関連は、統計学的に有意とはならなかった。 2件目の研究で、Short氏らは、以前一般集団で脳卒中リスクと関連が報告されていたバイオマーカーが、AF患者でも同様に脳卒中リスクと関連するか、さらにCHA2DS2-VAScスコアによる予測を改善できるかを検討した。13年間の追跡期間中に、AF患者2,411人のうち163人(7%)が初発の脳梗塞を発症していた。解析の結果、NT-proBNP、GDF-15、シスタチンC、インターロイキン6(IL-6)、リポ蛋白(a)の高値は、それぞれ独立して脳卒中リスクの上昇と関連していた。CHA2DS2-VAScモデルの適合度と予測能は、これらのバイオマーカーを加えることで大きく改善した。NT-proBNPとGDF-15の2種類のみを追加したモデルが、最も適合性・予測能に優れていた。 Short氏は、「今回示されたモデルにより、医師は抗凝固療法の対象となる患者をより適切に選択できるようになり、救命や医療費削減につながる可能性がある」と述べている。

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アブレーション後の再発予防、スタチンが最適か~ネットワークメタ解析

 心房細動(AF)はアブレーションや薬物療法を実施しても再発率が高く、大きな臨床課題となっている。AFの再発リスクには炎症が影響しているともされ、抗炎症作用を有する薬剤が再発抑制の補助療法として注目されている。今回、米国・ユタ大学のSurachat Jaroonpipatkul氏らは、コルヒチンとスタチンが炎症と心房リモデリングの軽減における潜在的な役割を担い、アブレーション後早期での最も有望な治療法であることを示唆した。Journal of Cardiovascular Electrophysiology誌オンライン版2025年7月9日号掲載の報告。 本研究では、アブレーション後のAF再発予防における抗炎症作用の有効性を評価するため、アブレーション後のAF再発を検討したランダム化比較試験に対し、PRISMA-NMAガイドラインに基づくシステマティックレビューとネットワークメタ解析を実施した。対象試験で投与されていたのは、コルヒチン、スタチン(アトルバスタチン)、コルチコステロイド(メチルプレドニゾロン、ヒドロコルチゾン、プレドニゾロン)、ACE阻害薬(ペリンドプリル)、アスコルビン酸であった。今回、直接比較と間接比較を統合させ、治療成績の順位付けは累積順位曲線下面積(Surface Under the Cumulative Ranking、SUCRA)を、エビデンスの質はCINeMA(Confidence in Network Meta-analysis)を用いて評価を行った。 主な結果は以下のとおり。・21試験群を対象とした13研究の2,283例が解析対象となった。・プラセボと比較し、コルヒチンとスタチンはAF再発率を有意に減少させ(コルヒチンのリスク比[RR]:0.59[95%信頼区間:0.46~0.77、p<0.001]、スタチンのRR:0.57、[同:0.38~0.86、p=0.008])、スタチンはSUCRAランキングで最高の評価を得た。・コルヒチンは、CRPやIL-6などの炎症マーカーを抑制させることで、早期再発率を顕著に減少させる有効性を示した。・コルチコステロイドとACE阻害薬は再発率に有意な影響を与えず、アスコルビン酸には効果が認められなかった。・対象研究間の異質性は最小限であり、感度分析により堅牢性が確認された。 なお、本研究の限界として、研究間でのAF再発定義のばらつきや治療エビデンスが少ない試験を対象とした点などがあった。

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シンバスタチン、二次性進行型多発性硬化症への効果は?/Lancet

 先行の疫学研究により、多発性硬化症(MS)の重症度と血管合併症の関連が指摘され、第IIb相のMS-STAT試験では、HMG-CoA還元酵素阻害薬シンバスタチンはプラセボに比べ、二次性進行型多発性硬化症(SPMS)患者の脳萎縮率を年間43%低減するととともに、総合障害度評価尺度(EDSS)の有意な改善が報告されている。英国・ユニバーシティ・カレッジ・ロンドンのJeremy Chataway氏らMS-STAT2 Investigatorsは、第III相の「MS-STAT2試験」において、SPMS患者の障害進行の抑制に関して、シンバスタチンは有意な効果をもたらさないことを示した。研究の成果は、Lancet誌オンライン版2025年10月1日号で発表された。英国の無作為化プラセボ対照比較試験 MS-STAT2試験は、英国の31施設で実施した二重盲検無作為化プラセボ対照比較試験であり、2018年5月~2021年9月に参加者の適格性を評価した(英国国立医療・社会福祉研究所[NIHR]医療技術評価プログラムなどの助成を受けた)。 McDonald診断基準でMSと確定され、EDSSのスコアが4.0~6.5であり、過去2年間に身体障害の継続的な進行がみられるためSPMSと診断された患者964例(平均年齢[±SD]54±7歳、女性704例[73%])を登録した。 被験者を、シンバスタチン80mgを経口投与する群(482例)、またはプラセボ群(482例)に無作為に割り付け、3~4.5年間投与した。 主要アウトカムは、6ヵ月後にEDSSで確定された身体障害の進行(ベースラインのEDSSスコアが6.0未満の場合は1点以上の増加、6.0以上の場合は0.5点の増加)とし、ITT解析を行った。副次アウトカムにも差はない 主要アウトカムのイベントは、シンバスタチン群で173例(36%)、プラセボ群で192例(40%)に発生し、両群間に有意な差を認めなかった(補正後ハザード比:1.13、95%信頼区間[CI]:0.91~1.39、p=0.26)。主要アウトカムの感度分析およびper-protocol解析でも、両群間に有意差はみられなかった。 5つの臨床的副次アウトカム(multicomponent disability progression、multiple sclerosis functional composite[MSFC]、Sloan low contrast visual acuity[SLCVA]、修正Rankinスケール[mRS]、brief international cognitive assessment for multiple sclerosis[BICAMS])については、シンバスタチン群の有益性を示すエビデンスは得られなかった。一方、multicomponent disability progressionの3つの構成要素のうち、上肢機能の指標である9-hole peg test(9HPT)はシンバスタチン群で優れた(補正後オッズ比:1.68、95%CI:1.05~2.69、p=0.031)。 4つの患者報告による副次アウトカム(multiple sclerosis impact scale-29 version 2[MSIS-29v2]、multiple sclerosis walking scale 12[MSWS-12v2]、modified fatigue impact scale 21[MFIS-21]、Chalder Fatigue Questionnaire[CFQ])は、いずれも両群間に差はなかった。 また、再発率はシンバスタチン群で有意に高かった(0.05 vs.0.07/人年、補正後発生率比:1.43、95%CI:1.01~2.01、p=0.044)が、数値そのものは低かった。SPMSの進行抑制に実質的な効果はない 追跡期間中に79例が疾患修飾薬による治療を開始した(シンバスタチン群43例[9%]、プラセボ群36例[7%])。このうち73例がシポニモドを使用した。 安全性に関する緊急の問題や、予期せぬ重篤な有害反応を疑わせる事例の報告はなかった。シンバスタチン群の1例で、重篤な有害反応が発現した(治療開始から56日後に横紋筋融解症で入院、続発症の発現なく回復)。心血管系の重篤な有害事象は、シンバスタチン群で5例(1%)、プラセボ群で12例(2%)に発生した。 著者は、「シンバスタチンは、SPMSの進行抑制において実質的な治療効果はないことが明らかとなった」「MSの疾患修飾薬としてのシンバスタチンの位置付けは確立していないが、スタチンは引き続きMS患者の血管合併症の1次および2次予防において重要な役割を担うと考えられる」としている。

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国が進める医療DX、診療や臨床研究の何を変える?~日本語医療特化型AI開発へ

 内閣府主導の国家プロジェクト「戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)」では、分散したリアルワールドデータの統合とデータに基づく医療システムの制御を目指し、日本語医療LLM(大規模言語モデル)や臨床情報プラットフォームの構築、患者・医療機関支援ソリューションの開発などを行っており、一部はすでに社会実装が始まっている。2025年9月3日、メディア勉強会が開催され、同プログラム全体のディレクターを務める永井 良三氏(自治医科大学)のほか、疾患リスク予測サービスの開発および受診支援・電子カルテ機能補助システムの開発を目指すグループの代表を務める鈴木 亨氏(東京大学医科学研究所)・佐藤 寿彦氏(株式会社プレシジョン)が講演した。厚労省主導の医療DXとの関係、プログラムの全体像 厚生労働省主導の医療DXが、診療行為に必要最低限の3文書(健康診断結果報告書、診療情報提供書、退院時サマリー)6情報(傷病名、感染症、薬剤アレルギーなど、その他アレルギーなど、検査、処方)に絞って広く全国規模で収集・利活用(全国医療情報プラットフォームの創設、電子カルテ情報の標準化、診療報酬改定DX)を目指すものであるのに対し、本プログラムではデータ取得対象は限定されるものの電子カルテデータに加えPHR、介護データ、医療レセプトや予後データなど含めたデータを収集し、臨床情報プラットフォーム構築や医療機関支援ソリューションの開発などを行うことを目的としている。2つのプロジェクトは、将来的には相互に連携していくことが期待される。 具体的には、SIPでは大きく以下の5つの課題が設定されており、医療機関・大学・関連企業からそれぞれ研究開発責任者が選任されている1)。課題A:研究開発支援・知識発見ソリューションの開発(臨床情報プラットフォーム構築と拠点形成、PHRによる突然死防止・見守りサービス開発など)課題B:患者・医療機関支援ソリューションの開発(受診支援・電子カルテ機能補助システムの開発、症例報告・病歴要約支援システム開発を通じた臨床現場支援など)課題C:地方自治体・医療介護政策支援ソリューションの開発課題D:先進的医療情報システム基盤の開発(ベンダーやシステムの垣根を超えた医療情報収集、僻地診療支援のためのクラウド型標準電子カルテサービスの開発など)課題E:大容量リアルタイム医療データ解析基盤技術の開発(大規模医療文書・画像の高精度解析基盤技術の開発) 同プログラムは2023年からの5年計画で進められており、可能なものから随時社会実装を進めつつ、今後は医療データプラットフォームの中核的病院への導入などを目指している。医療テキスト800億トークンを学習させた日本語医療LLMを構築 さらに令和5年度補正予算により生成AIの活用プロジェクトが開始され、日本語医療LLMの開発が進み、上記の各プロジェクトにおける応用が始まっている。現在世界中で使われている主なLLMでは、たとえばOpenAIのGPT-3の学習に使われた言語として日本語は0.11%に過ぎず、これらのLLMをベースに医療LLMを構築・利用した場合、・診断を行うLLMにおいて、日本人の症例や日本の疫学ではなく、英語圏の症例や疫学がベースに出力される・治療法を推奨するLLMにおいて、日本の医療/保険制度や法律に合わない出力がされるといった問題が生じうる。また、データ主権の観点からも、現在各国で政府主導の自国語LLM開発が進んでいる背景がある。 国立情報学研究所の相澤 彰子氏らは、さまざまな実臨床での利用に展開するためのベースモデルとして、医療テキスト800億トークンを学習させた日本語医療LLMのプレビュー版をすでに構築、医師国家試験で77~78%のスコア(注釈:尤度ベースと呼ばれる正解の算出方法に基づく)を達成した。開発したモデルは、推論時に利用するパラメータ数が220億と比較的軽量であるにも関わらず、700億クラスの海外モデルに匹敵する性能を示した。 この医療LLMはSIPの各プロジェクトへの組み入れが始まっており、診療現場の会話からカルテを下書きし鑑別疾患を提示するシステムや、感染症発生届の下書き支援システムなどの開発が行われている。また、計算機科学者と医師がタッグを組む形で、循環器用医療LLM、がん病変CT画像用医療LLM、健診支援医療LLMの開発がそれぞれ進められているという。電子カルテを活用した臨床情報プラットフォームや診断困難例サーチシステムがすでに始動 電子カルテには、診療録、検査データ、手術レポートなどの多くの情報が集積しているが、それらを匿名化・統合した状態で臨床研究に活用するには人的・時間的に大きな負担がかかっていた。SIPの課題A1として取り組まれている「臨床情報プラットフォーム構築による知識発見拠点形成」では、CLIDAS研究2)と称して多施設から複数のモダリティの診療データを標準化・収集するシステムを構築。国内11大学・2ナショナルセンターの電子カルテはすでに統一・連携されている。循環器領域では、PCI後のスタチン強度と予後の関係について3)など、CLIDASデータを用いた研究成果がすでに発表、論文化されているものもあり、今後も本データの臨床研究への活発な活用が期待される。 鈴木氏が責任者を務める課題A-3「臨床情報プラットフォームと連携したPHRによるライフレコードデジタルツイン開発」グループでは、NTTグループ約10万人の健診データ・約15年の追跡データを活用し、東京大学医科学研究所のスーパーコンピュータで疾患リスク予測モデルのアルゴリズム構築に着手。健診データを元に将来の疾患リスク(糖尿病・高血圧症・脂質異常症・心房細動)、検査や予防法の推奨などを提示する疾患リスク予測サービスの開発を行っている。将来的には、AIを用いた保健指導への展開も視野に開発中という。 佐藤氏が責任者を務める課題B-2「電子問診票とPHRを用いた受診支援・電子カルテ機能補助システムの開発」グループでは、日本内科学会地方会のデータ化された症例報告(約2万5千例)を基に、鑑別診断の際に参考となる疾患や病態を検索できるシステム(診断困難例ケースサーチ J-CaseMap)をすでに社会実装済で、日本内科学会会員は無料で利用できる。そのほか、電子カルテと連携した知識支援チャットボット(富士通と連携)や、再診時電子問診票、医療特化AI音声認識システムが開発中となっている。

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新規作用機序の高コレステロール薬「ネクセトール錠180mg」【最新!DI情報】第48回

新規作用機序の高コレステロール薬「ネクセトール錠180mg」今回は、ATPクエン酸リアーゼ阻害薬「ベムペド酸(商品名:ネクセトール錠180mg、製造販売元:大塚製薬)」を紹介します。本剤は新規作用機序を有する高コレステロール血症治療薬であり、スタチンの効果が不十分な患者やスタチン不耐となった患者の治療選択肢として期待されています。<効能・効果>高コレステロール血症、家族性高コレステロール血症の適応で、2025年9月19日に製造販売承認を取得しました。<用法・用量>通常、成人にはベムペド酸として180mgを1日1回経口投与します。なお、HMG-CoA還元酵素阻害薬による治療が適さない場合を除き、HMG-CoA還元酵素阻害薬と併用します。<安全性>副作用として、高尿酸血症(5%以上)、痛風、肝機能異常、肝機能検査値上昇(いずれも1~5%未満)、AST上昇、ALT上昇、四肢痛(いずれも1%未満)、貧血、ヘモグロビン減少、血中クレアチニン増加、血中尿素増加、糸球体濾過率減少(いずれも頻度不明)があります。なお、本剤とHMG-CoA還元酵素阻害薬を併用すると、HMG-CoA還元酵素阻害薬の血中濃度が上昇するので、横紋筋融解症などの副作用が現れる恐れがあります。定期的にクレアチンキナーゼを測定するなど患者の状態の十分な観察が必要です。また、これらの副作用の症状または徴候が現れた場合には、速やかに医師に相談するよう患者に指導します。<患者さんへの指導例>1.この薬は、高コレステロール血症または家族性高コレステロール血症の患者さんに処方されます。肝臓でコレステロールの生合成に関わるアデノシン三リン酸クエン酸リアーゼという酵素を阻害することにより、血液中のコレステロールを低下させます。2.HMG-CoA還元酵素阻害薬による治療が適さない場合を除き、HMG-CoA還元酵素阻害薬と併用されます。3.自己判断での使用の中止や量の加減はしないでください。指示どおり飲み続けることが重要です。<ここがポイント!>脂質異常症とは、血中のLDLコレステロール(LDL-C)、HDLコレステロール(HDL-C)、トリグリセリド(TG)が基準値から逸脱した状態を指し、動脈硬化の進行と密接に関連しています。とくにLDL-Cは、動脈硬化予防の中心的な管理指標とされており、高コレステロール血症の治療にはHMG-CoA還元酵素阻害薬であるスタチン系薬剤が広く用いられています。しかしながら、スタチンを使用しても十分な効果を得られない症例や有害事象により継続が困難になるスタチン不耐となる症例があります。本剤は、クエン酸をアセチルCoAに変換するアデノシン三リン酸クエン酸リアーゼ(ACL)を阻害することで、肝臓におけるアセチルCoAの新規合成を抑制し、スタチンの作用点よりも上流でコレステロールの生合成経路を阻害します。さらに、ベムペド酸は肝臓に高発現するACSVL1によって活性化されるプロドラッグです。骨格筋を含むその他の臓器にはACSVL1の発現がほとんどないため、骨格筋の機能維持に必要なコレステロール合成への影響は少ないと考えられています。本剤は、HMG-CoA還元酵素阻害薬で効果不十分、またはHMG-CoA還元酵素阻害薬を許容できない患者に対し、1日1回の経口投与によりLDL-C低下作用をもたらします。現在、スタチン効果不十分/不耐には注射薬である抗PCSK9抗体薬が使用されていますが、本剤は新規作用機序の経口薬であるので、新たな治療選択肢として期待できます。LDL-Cのコントロールが不十分な高LDLコレステロール血症患者を対象とした国内第III相試験(CLEAR-J試験)において、主要評価項目である投与12週時におけるLDL-Cのベースラインからの変化率は-25.25%であり、プラセボ群の-3.46%と比較して、LDL-Cの有意な低下が認められました(群間差:-21.78%、95%信頼区間:-26.71~-16.85、p<0.001、MMRM解析)。

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9月26日 大腸を考える日【今日は何の日?】

【9月26日 大腸を考える日】〔由来〕9の数字が大腸の形と似ていることと、「腸内フロ(26)ーラ」と読む語呂合わせから、健康の鍵である大腸の役割や生息する腸内細菌叢のバランスを健全に保つための方法を広く知ってもらうことを目的に森永乳業が制定。関連コンテンツ中等症~重症の活動性クローン病、グセルクマブ導入・維持療法が有効/Lancetコーヒー摂取量と便秘・下痢、IBDとの関連は?PPI・NSAIDs・スタチン、顕微鏡的大腸炎を誘発するか?日本人大腸がんの半数に腸内細菌が関与か、50歳未満で顕著/国立がん研究センターほか大腸がん死亡率への効果、1回の大腸内視鏡検査vs.2年ごとの便潜血検査/Lancet

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唾液に果汁ジュースによる虫歯を防ぐ効果

 虫歯になるのが心配で、果汁ジュースを子どもに与えないようにしている親がいる。しかし、唾液の驚くべき特性のおかげで、ジュースが子どもの口腔内の健康に与える悪影響は長くは続かないことが、新たな研究で示唆された。唾液は、歯の表面に滑らかな膜を作ることで歯や歯茎を細菌から守り、歯のエナメル質の初期の損傷の修復を助ける。研究からは、リンゴジュースを飲むと、一時的にこの保護作用が阻害されるものの、その影響は10分以内に消失し始めることが明らかになったという。英ポーツマス大学歯学・健康ケア学部のMahdi Mutahar氏らによるこの研究結果は、「PLOS One」に9月3日掲載された。 今回の研究では、32人の健康な大学生と大学職員が、水で口をすすぐ群(対照群)とリンゴジュースで口をすすぐ群(ジュース群)に分けられた。Mutahar氏らは両群から、ベースライン時、水またはジュースで口を1分間すすいでから1分後と10分後の3時点で唾液を採取し、口腔内の潤滑性を評価する摩擦測定(トライボロジー試験)や唾液中のタンパク質分析などを行い、両群の唾液の違いを比較検討した。 その結果、水やジュースで口をすすぐと一時的に唾液の潤滑力が低下するが、10分程度で元に戻ることが明らかになった。また意外なことに、潤滑力の低下の程度は水の方が強いことも示された。さらに、ジュースを飲むと、シスタチン類や炭酸脱水酵素など唾液に含まれる主要なタンパク質に影響が及ぶことも示された。 Mutahar氏は、「この結果には本当に驚かされた。これまで長い間、リンゴジュースなどの酸性の飲み物は、飲んだ直後から口腔内の健康、特に歯に対して悪影響を及ぼすものだと考えられてきた。しかし、われわれの研究は、口の中を保護し、迅速に修復して長期的な損傷を回避する上で、唾液が重要な役割を果たしていることを示している」と言う。同氏らは、「リンゴジュースをひと口飲んだ後には、潤滑の中心的役割を担う糖タンパク質のムチンの働きにより潤滑性が回復する可能性が考えられる」と考察している。ただし、注意点もある。同氏は、「リンゴジュースを何度も飲む、あるいは飲んだ後に口を水ですすがずにいるといった理由で長時間にわたって口の中にジュースが残っていると、口腔内の健康に長期的な悪影響が及ぶ可能性がある」と注意喚起している。 Mutahar氏はさらに、「一番の驚きは、水道水で口をすすぐ方がリンゴジュースよりも口腔内の摩擦や乱れを引き起こしやすいことだった」と言う。同氏は、「われわれが使用したポーツマスの水には、ジュースよりも唾液の潤滑性をもたらすタンパク質に干渉するミネラルが含まれているようだ」と話す。 Mutahar氏らは、果汁ジュースを飲みたい子どもや大人に対して以下の推奨を示している。・ゆっくり少しずつ飲むのではなく、素早く飲む。・飲んだ直後に水で口の中をすすいで残った酸や糖を取り除く。・ストローを使い、果汁ジュースが直接歯に触れにくくする。・果汁ジュースを飲んだ後は、次に飲むまで口の中が回復する時間を設ける。 Mutahar氏らは現在、人々が1日に何度も果汁ジュースを飲んだ場合に何が起こるかを調べている。同氏らは、将来的には日常的な飲み物にムチンのような保護的に働く成分を加えることで、人々の歯や歯茎を守れるかどうか検討することも研究課題になり得ると考えている。

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クロンカイト・カナダ症候群〔CCS:Cronkhite-Canada syndrome〕

1 疾患概要■ 概念・定義クロンカイト・カナダ症候群(Cronkhite-Canada syndrome:CCS)は、消化管に非腫瘍性ポリポージスが分布し、高率に蛋白漏出性胃腸症を合併する非遺伝性疾患である。消化器症状と消化器外症状(色素沈着、脱毛、爪甲萎縮)がある。■ 疫学現在までおよそ500例超の症例報告がなされ世界的に希少な疾患とされるが、わが国からの報告が大半を占める。厚生労働省班会議で実施されたわが国の疫学調査では推定患者数473人、有病率3.7/10万人(男性4.0、女性3.7)1)。以前筆者らの教室で行った210例のCCS患者を対象とした全国調査では、発症平均年齢は63.5歳(31~86歳)、男女比は1.84:1と報告されている2)。■ 病因非遺伝性疾患で、家系内発症例はほとんどなく、飲酒・喫煙・食生活などの環境因子も有意なものはなく、病因はまったく明らかではない。ステロイドの高い奏効率、ポリープや介在粘膜の炎症細胞浸潤、治療によるポリープの可逆性、抗核抗体高値例、IgG4陽性細胞のポリープへの浸潤例、甲状腺機能低下症合併例、膜性腎症合併例の報告などから、免疫異常の関与が想定されている。ポリープ内のmRNAの網羅的検索ではCXCL3、CXCL1、IL1b、Lipocalin2の有意な上昇を認め、自然免疫系の亢進が示唆されている3)。薬剤内服後に発症した症例報告もあり、アレルギー反応の一種の可能性も考えられている。精神的ストレス、肉体的ストレスが発症に影響を及ぼしている可能性を示唆する報告もある。ヘリコバクター・ピロリ(HP)の関与も想定され、わが国の全国調査ではCCS患者15例でHP除菌療法を行い、8例で内視鏡的に寛解もしくは改善を認めた。また、DNA依存性プロテインキナーゼをコードしているPRKDC遺伝子の変異との関連を示唆する報告もある。患者の消化管粘膜から作成したオルガノイドは内分泌細胞を多く含み、セロトニンが増殖亢進に関与しているとの報告がある4)。■ 症状消化器症状と消化器外症状(外胚葉症状)がある。典型的な消化器症状には、慢性の下痢(多くは非血性)、腹痛、味覚鈍麻がある。消化器外症状として、皮膚に特徴的皮膚症状(Triad:脱毛、皮膚の色素沈着、爪甲萎縮・脱落)がある。診断時に認められる頻度が高い症状としては下痢、味覚鈍麻、爪甲萎縮である。味覚鈍麻は亜鉛不足が一因と想定されている。皮膚の色素沈着は重要な所見であり、頭部、手首、手掌、足底、四肢、顔、胸にみられる茶色い色素斑や非掻痒性の結節性丘疹が特徴的だが、口腔内、口唇にも色素沈着がみられることもある。皮膚の色素沈着は診断時にはおよそ半分の症例でみられる。爪の変化も特徴的な所見である。脱毛は頭髪のみならず、睫毛、眉毛、陰毛などにもみられる。脱毛の機序は、増毛期の毛根にリンパ球浸潤を認めることから免疫異常の関与が示唆されている。内視鏡所見でポリポーシスが無症状のうちに先行し、後に臨床症状が揃い確定診断された報告もある。その他の臨床症状には、蛋白漏出胃腸症、栄養吸収障害に伴う末梢の著明な浮腫、舌炎、口腔内乾燥、貧血も認められる。カルシウム、カリウム、マグネシウムなどの電解質異常に伴う痙攣やテタニー、無嗅症、白内障、血栓症、心不全、末梢神経障害、前庭神経障害、繰り返す膵炎、精神障害を来すことがある。■ 分類ポリポージスの発生部位、数、大きさ、分布形式で内視鏡的分類がされている。胃・大腸ポリープの分布様式の例を以下に挙げる5)。A)散在型(sparse)ポリープ間に健常粘膜が介在する。介在粘膜には炎症や浮腫を認めない。B)密集型(confluent)ポリープは密集し、間に介在する粘膜がほとんど確認されない。C)類密集型(close proximity)ポリープ間を介在する粘膜に、炎症や浮腫性変化を認める。D)肥厚型(thickening)ポリープの形状および大小を判別できないが、観察範囲内はすべて、炎症もしくは浮腫性変化で肥厚している。■ 予後以前は約半数が死亡との報告があったが、症例の蓄積による治療方針の進歩により、そこまでの死亡率ではないと考えられている。わが国の全国調査では、約10年間の観察期間で、3割近くの患者に胃がんまたは大腸がんを認めている2)。2 診断診断基準が、難治性疾患克服研究事業の研究班で以下のように提唱されている。【主要所見】1)胃腸管の多発性非腫瘍性ポリポーシスがみられる。とくに胃・大腸のポリポーシスがみられ、非遺伝性である。2)慢性下痢を主徴とする消化器症状がみられる。3)特徴的皮膚症状(Triad)がみられる。脱毛、爪甲萎縮、皮膚色素沈着【参考所見】4)蛋白漏出を伴う低蛋白血症(低アルブミン血症)がみられる。5)味覚障害あるいは体重減少・栄養障害がみられる。6)内視鏡的特徴:消化管の無茎性びまん性のポリポーシスを特徴とする。胃では粘膜浮腫を伴う境界不鮮明な隆起大腸ではイチゴ状の境界鮮明なポリープ様隆起7)組織学的特徴:過誤腫性ポリープ(hamartomatous polyps[juvenile-like polyps]): 粘膜固有層を主座に、腺の嚢状拡張、粘膜の浮腫と炎症細胞浸潤を伴う炎症像。介在粘膜にも炎症/浮腫を認める。【診断のカテゴリー】主要所見のうち1)は診断に必須主要所見の3つが揃えば確定診断[1)+2)+3)]1)を含む主要所見が2つあり、4)あるいは6)+7)があれば確定診断。[1)+2)+4)]、[1)+3)+4)]、[1)+2)+6)+7)]、[1)+3)+4)+6)+7)]のいずれか。1)があり、上記以外の組み合わせで主要所見や参考所見のうちいくつかの項目がみられた場合は疑診。3 治療ステロイドが唯一無二の確立した治療薬である。30mg/日以上の投与で85%以上の患者が反応し、30~50mg/日の経口投与が寛解導入に適当とされる5)。高齢の発症者が多いこともあり、60mg/日を超えた使用では、敗血症や血栓症といった重篤な副作用の頻度が増加する。治療に反応すると、2ヵ月程度で下痢、3ヵ月程度で味覚障害が軽快していく。それに続いて数ヵ月~半年で体重減少などの栄養障害および皮膚所見が改善する。内視鏡所見の改善にかかる時間は8ヵ月前後と最も遅く、数年を要する症例も存在する5)。急激な減薬は再燃を引き起こす可能性があるため、臨床症状および内視鏡所見の十分な改善を投薬の中止・減量の指標とするが、多くの場合は、寛解維持のために少量のステロイドを継続投与する5)。4 今後の展望(治験中・研究中の診断法や治療薬剤など)難治例に対し、カルシニューリン阻害薬、抗TNFα抗体、ソマトスタチンアナログ製剤、チオプリン製剤、ヒスタミンH2受容体拮抗薬、アミノサリチル酸製剤を使用して寛解に至った例もあるが5)、いずれも有効性の検証は不十分である。5 主たる診療科消化器内科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト診療、研究に関する情報厚生労働科学研究費補助金 難治性疾患政策研究事業「難治性炎症性腸管障害に関する調査研究」班でクロンカイト・カナダ症候群のレジストリーを実施(医療従事者向けのまとまった情報) 1) Watanabe C, et al. J Gastroenterol. 2016;51:327-336. 2) Oba MS, et al. J Epidemiol. 2021;31:139-144. 3) Poplaski V, et al. J Clin Invest. 2023;133:e166884. 4) Liu S, et al. J Rare Dis. 2024;19:35. 5) 久松理一、穂苅量太ほか. Cronkhite-Canada症候群 内視鏡アトラス. 厚生労働科学研究費補助金難治性疾患等政策研究事業「難治性炎症性腸管障害に関する調査研究」令和3年6月作成. 公開履歴初回2025年9月24日

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脳梗塞への抗血小板薬【日常診療アップグレード】第39回

脳梗塞への抗血小板薬問題62歳の男性が3ヵ月前に脳梗塞の診断を受けた。後遺症として左上下肢の麻痺がある。既往歴は高血圧、脂質異常症、末梢動脈疾患である。内服薬はアムロジピン、アスピリン、アトルバスタチンである。バイタルサインは正常。左上下肢に軽度の筋力低下がある。頸動脈エコーと心電図は正常である。クロピドグレルを追加した。

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