7.
PCSK9阻害薬によるLDLコレステロール(LDL-C)低下療法の研究は、心筋梗塞や脳卒中などの重大なアテローム性心血管イベントの既往歴のある、きわめてリスクの高い患者を中心に進められてきた。米国・ブリガム&ウィメンズ病院のErin A. Bohula氏らVESALIUS-CV Investigatorsは、国際的な臨床試験「VESALIUS-CV試験」において、心筋梗塞、脳卒中の既往歴のないアテローム性動脈硬化症または糖尿病患者でも、エボロクマブはプラセボとの比較において、初発の心血管イベントリスクを有意に低下させたことを報告した。本研究の詳細は、NEJM誌オンライン版2025年11月8日号に掲載された。33ヵ国の無作為化プラセボ対照比較試験 VESALIUS-CV試験は、33ヵ国774施設で実施した二重盲検無作為化プラセボ対照比較試験(Amgenの助成を受けた)。2019年6月~2021年11月に参加者の無作為化を行った。本試験は、エボロクマブ療法の長期的な有効性と安全性をより詳細に評価するために、中央値で少なくとも4.5年間の追跡調査を行うようデザインされた。 対象は、年齢が男性50~79歳、女性55~79歳で、冠動脈疾患、アテローム性脳血管疾患、末梢動脈疾患、高リスク糖尿病のうち1つ以上を有し、心筋梗塞または脳卒中の既往歴がなく、LDL-C値≧90mg/dL、非HDL-C値≧120mg/dL、アポリポタンパク質B値≧80mg/dLで、安定した至適な脂質低下療法を2週間以上受けている患者であった。 適格患者を、エボロクマブ(140mg、2週ごと)またはプラセボを皮下投与する群に、1対1の割合で無作為に割り付けた。 主要エンドポイントは、(1)3点主要心血管イベント(MACE):冠動脈性心疾患による死亡、心筋梗塞、虚血性脳卒中の複合エンドポイント、(2)4点MACE:3点MACEまたは虚血動脈の血行再建の複合エンドポイントの2つとした。48週時のLDL-C中央値は45mg/dL 1万2,257例(年齢中央値66歳[四分位範囲[IQR]:60~71]、女性43%、白人93%)を登録し、6,129例をエボロクマブ群、6,128例をプラセボ群に割り付けた。ベースラインの全体のLDL-C中央値は122mg/dL(IQR:104~149)で、患者の92%が脂質低下療法を受け、72%が高強度脂質低下療法を、68%が高強度スタチン療法を、20%がエゼチミブの投与を受けていた。追跡期間中央値は4.6年(IQR:4.0~5.2)だった。 2,014例が中央検査室による脂質検査を受けた。プラセボ群との比較におけるエボロクマブ群のベースラインから48週までのLDL-C値の最小二乗平均変化率は-55%(95%信頼区間[CI]:-59~-52)、最小二乗平均絶対群間差は-63mg/dL(95%CI:-67~-59)であった。48週時のLDL-C中央値は、エボロクマブ群が45mg/dL(IQR:26~73)、プラセボ群は109mg/dL(86~144)だった。 また、エボロクマブ群では、48週時の非HDL-C値(最小二乗平均変化率:-47%)、アポリポタンパク質B値(-44%)などの他のアテローム性脂質においてもプラセボ群に比べ大きな減少がもたらされた。3点MACE、4点MACEとも有意に改善 3点MACEのイベントは、プラセボ群で443例(5年Kaplan-Meier推定値:8.0%)に発生したのに対し、エボロクマブ群では336例(6.2%)と有意に少なかった(ハザード比[HR]:0.75、95%CI:0.65~0.86、p<0.001)。 また、4点MACEのイベントは、プラセボ群の907例(5年Kaplan-Meier推定値:16.2%)に比べ、エボロクマブ群は747例(13.4%)であり有意に良好だった(HR:0.81、95%CI:0.73~0.89、p<0.001)。心血管死、全死因死亡も良好な傾向 副次エンドポイントのうち、次の6項目のイベント発生率(5年Kaplan-Meier推定値)が、プラセボ群に比しエボロクマブ群で有意に優れた(すべてのp<0.001)。・心筋梗塞・虚血性脳卒中・虚血動脈の血行再建の複合(プラセボ群と比較したエボロクマブ群のリスク低下率21%)・冠動脈心疾患死・心筋梗塞・虚血動脈の血行再建の複合(同21%)・心血管死・心筋梗塞・虚血性脳卒中の複合(同27%)・冠動脈心疾患死・心筋梗塞の複合(同27%)・心筋梗塞(同36%)・虚血動脈の血行再建(同21%) 試験薬の投与中止の原因となった有害事象および重篤な有害事象の発生率は、両群間に差を認めなかった。 著者は、「事前に規定された階層的検定計画のため正式な仮説検定は不可能で、結論は導けないものの、心血管死(HR:0.79、95%CI:0.64~0.98)および全死因死亡(0.80、0.70~0.91)の発生率も、エボロクマブ群で低い傾向がみられた」「本試験の知見は、これまでの試験の対象よりもリスクが低い集団における、初回の重大な心血管イベントの予防を目的とするPCSK9阻害薬の使用を支持する」「従来の短期間の試験では、PCSK9阻害薬の長期的な臨床的有益性が過小評価されていた可能性が高く、PCSK9阻害薬によるLDL-Cの長期的な低下は、スタチンと同様に致死的なイベントの予防に寄与し得ると考えられる」としている。