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アルコール依存症に対するナルメフェンの安全性と治療継続率

 アルコール依存症に対するナルメフェンの安全性と治療継続率を評価するため、英国・Castle Craig HospitalのJonathan Chick氏らは、2つの市販後研究を基に評価を行った。Alcohol and Alcoholism誌オンライン版2021年7月1日号の報告。 START研究(EUPAS5678)およびマルチデータベースレトロスペクティブコホート(MDRC)研究(EUPAS14083)の2つの研究を評価した。START研究は、ナルメフェン治療を開始した外来患者を対象とした18ヵ月の非介入多国間プロスペクティブコホート研究(フォローアップ受診:8回)である。MDRC研究では、ドイツ、スウェーデン、英国の医療データベースより、ベースラインデータおよびフォローアップデータを収集した。両研究ともに、明確な除外基準は設けず、すべての患者を対象とした。高齢者(65歳以上)および重大な精神的および/または身体的併存疾患を有する患者によるサブグループ解析を行った。 主な結果は以下のとおり。・START研究では、ナルメフェンによる平均治療期間は10.3±7.3ヵ月(1,348例)、1年以上治療を継続していた割合は49.0%であった。治療中止の主な理由は、治療目標達成と薬剤費の問題であった。・主な副作用は、悪心(4.7%)、めまい(3.2%)、不眠(2.0%)であった。・副作用発現率は、高齢者で18.6%とより高い傾向にあったが(全体集団:12.0%)、他のサブグループでは違いが認められなかった。・MDRC研究では、2,892例を18ヵ月間以上フォローアップしたところ、ナルメフェン治療期間は2~3ヵ月、1年以上のナルメフェン治療率は5%未満であった。 著者らは「高齢者や併存疾患を有する患者を含む幅広い患者を対象とした研究であるにもかかわらず、日常診療におけるナルメフェン治療の安全性および忍容性プロファイルは、臨床研究での評価と一致していた。両試験における治療率の違いは、方法論の違いを反映している可能性があり、フォローアップ受診による心理社会的サポートとの関連が示唆された」としている。

42.

実臨床におけるナルメフェンの使用状況~フランスでのコホート研究

 フランス・パリ・サクレー大学のHenri-Jean Aubin氏らは、アルコール依存症患者におけるナルメフェンの実際の使用状況およびアルコールによる健康状態への影響を評価した。Alcohol and Alcoholism誌オンライン版2021年5月10日号の報告。 次の2つの補完的研究を用いて評価を行った。USE-PACT研究は、アルコール依存症のマネジメントにおけるナルメフェンの実際の有効性を評価したプロスペクティブコホート研究であり、1年間の総アルコール消費量(TAC)と大量飲酒日数(HDD)の評価を行った。USE-AM研究は、フランスの代表的なレセプトデータベースを用いたコホート研究であり、プロスペクティブ研究における母集団の外的妥当性の評価に用いた。 主な結果は以下のとおり。・USE-PACT研究に登録されたナルメフェン新規使用患者700例のうち、1年間の有効なデータを有していた患者は、256例であった。・ナルメフェン治療1年後、TACおよびHDDは、ベースラインと比較し、減少が認められた。 ●TACの平均変化:-41.5±57.4g/日 ●HDDの平均変化:-10.7±11.7日/4週間・最初の3ヵ月間のナルメフェン平均使用量は、20.0±12.0錠/4週間(中央値:1錠/日)であり、その後は用量が減少していた。・ナルメフェンを使用しなくなった患者の割合は、1ヵ月後の5%から1年後の52%へと徐々に増加していた。・USE-AM研究により、2016年にナルメフェンの1回目の医療費還付を受けた患者486例が特定された。USE-PACT研究の外的妥当性は、ベースライン特性により確認された。・USE-AMにおける最初の処方の46.3%はGPで行われており、ほとんどの患者(91.8%)は、フォローアップ中に治療を中断していた。・しかし、治療中止患者の15.2%は、その後治療を再開していた。 著者らは「フランスの実臨床における本分析では、ナルメフェン治療を行ったアルコール依存症患者は、アルコール消費量の減少が認められ、一般的に忍容性は良好であった」としている。

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M-1グランプリ(続編・その1)【実はツッコミはセラピー!?】Part 1

今回のキーワード教える行動療法支える支持療法考えさせる認知行動療法前回は、お笑いのボケについて詳しく分析しました。今回は、ツッコミです。なぜツッコミをするのでしょうか? 前回に、ボケがメンタルヘルスで見られる症状に重なることを指摘しましたが、実は、ツッコミは、メンタルヘルスで行われるセラピーに重なります。今回は、そのスタイルをテレビ番組の「M-1グランプリ」でのネタを通して、精神医学的に分類し、普段目にしないそれぞれのセラピーをイメージアップしてみましょう。なお、お笑い芸人の表記は通称として、敬称は省略しています。なぜツッコミするの?お笑いのツッコミとは、ボケ(異常)を指摘する(=突っ込む)ことです。そして、ツッコミする理由は、笑いどころを見ている人に分かりやすく伝えるためです。ここから、そのツッコミのスタイルを大きく3つに分けてみましょう。教える1つ目は、教えるスタイルです。これは、主に3つ挙げられます。(1)罰して分からせる―行動療法・カミナリの「どつき漫才」(2017)ボケ:「この世の中で一番強い生物って何だと思う?」ツッコミ:「クマだな」(中略)ボケ:「実はね。(自分は)ホオジロザメだと思うんだ」(中略)「だってクマは水中で息できないから溺れちゃう。そこをホオジロザメが食べちゃう。よって、ホオジロザメが一番強いんです!」ツッコミ:(ボケの頭を平手で思いっきり叩き)「バトルフィールドが海前提の話だな!」→ボケを叱る(=どつく)。これは、ツッコミ(罰)が与えられることで、悪い行動(ボケ)が減るというセラピーに当たります(正の罰)。いわゆる「アメとムチ」のムチです。実際のメンタルヘルスでは、抗酒剤がこれに当てはまります。抗酒剤とは、この内服中は、飲酒すると気持ち悪くなる作用があります。よって、アルコール依存症の人は、気持ち悪くなることで、飲酒しなくなります。・オードリー若林の「すかしツッコミ」(2008)春日:「皆さん、夢でお会いして以来ですね」若林:「だいぶ、寝汗かいたと思いますけどね。今日も楽しく漫才をやっていきたいなと思いますけどね」→あえて取り合わない(=すかす)。ツッコミ(この場合はご褒美)がなくなる(与えられない)ことで、悪い行動(ボケ)が減るというセラピーに当たります(負の罰)。実際のメンタルヘルスでは、行動制限がこれに当てはまります。落ち着かないなら、自由を制限します。よって、発達障害の子どもは、自由がなくなることで、暴れなくなります(タイムアウト)。1つ目は、罰して分からせることです。これは、セラピーの中で、行動療法に分類されます。行動療法とは、罰や報酬によって行動を変えていくセラピーです(オペラント条件づけ)。なお、体罰、暴力、ハラスメントに敏感な時代の流れから、従来の「どつき漫才」は受け入れられなくなってきています。「どつく」にしても、身体的には叩くふりや腕を引っ張るなどマイルドなスタイルに変わってきています。ちなみに、トム・ブラウン(2018)は、頭を叩いたあとに、ぺたっと手をくっつけて痛そうに見えない工夫をしています。逆に、この分類でまだツッコミのスタイルとして使われていないのは、褒めることです。たとえば、ベタにボケるところで真面目になること(ある意味ボケ)で、びっくりして褒めるというツッコミをすることです。これは、ご褒美がもらえることで、良い行動(真面目)が増えるというオーソドックスなセラピーに当たります(正の強化)。これは、「アメとムチ」のアメです。また、同じく、ベタにボケるところで真面目になること(ある意味ボケ)で、激しくどつくツッコミ(罰)ができずに肩すかしになる展開です。「すかしボケ」と名付けられそうです。これは、ツッコミ(罰)が与えられないことで、良い行動(真面目)が増えるというセラピーに当たります(負の強化)。分かりやすい例は、拷問です。実際のメンタルヘルスでは、最初から行動制限を行うことです。ルールを守っているなら、少しずつ自由が拡大します。よって、発達障害の子どもは、自由が得られることでルールを守るように学習するようになります。(2)説明する―心理教育・ナイツ(2008)ボケ:「ヤホーってサイトで調べてきたんですけど」ツッコミ:「ヤフーね。ヤフーって読むんだわ、あれ」→丁寧に説明・フットボールアワー後藤の「たとえツッコミ」一発ギャグがスベった芸人に「おまえ、ようそんなギャグ出せたな。陶芸家やったら割ってるヤツやで」→分かりやすく説明2つ目は、説明することです。これは、セラピーの中では、心理教育に分類されます。クライエントに、心理状態についての説明、内服継続が必要な理由、家族の対応の仕方などを説明することです。逆に、この分類でまだツッコミのスタイルとして使われていないのは、現実を突き付ける(直面化)、矛盾を問い詰める(知性化)、細かく口出しする(過干渉)などが挙げられます。やりすぎると、ツッコミがボケになっていくおもしろさもあるでしょう。(3)主張する―アサーション・南海キャンディーズ山ちゃん(2004)相方のしずちゃんについてのツッコミレパートリー「だめだ、俺、こんな状況、生まれて初めてだ…」「ナイスざわざわ」「やばい、涙で明日が見えない」「あれ、左から妖気を感じる」→受け入れやすい言い方3つ目は、主張することです。これは、セラピーの中では、アサーションに分類されます。これは、ネガティブなことを伝える時に、主語が「あなた」(あなたメッセージ)ではなく、「私」(私メッセージ)であることによって、「あなたが悪いと決め付けているわけではない」というメッセージを伝えることです。 次のページへ >>

44.

成人の不眠症、アルコール摂取とADHD症状との関係

 薬物使用障害や不眠症は、成人の注意欠如多動症(ADHD)患者でよくみられる。ノルウェー・ベルゲン大学のAstri J. Lundervold氏らは、不眠症やアルコール摂取とADHD症状との関係を調査した。Frontiers in Psychology誌2020年5月27日号の報告。 成人ADHD患者235例(男性の割合:41.3%)と対照群184例(男性の割合:38%)を対象に、不眠症、アルコール摂取、ADHD症状をアンケートで収集した。不眠症はBergen Insomnia Scale(BIS)、アルコール摂取は飲酒習慣スクリーニングテスト(AUDIT)、ADHD症状は成人ADHD自己記入式症状チェックリストを用いて評価した。対象の大部分(95%)より、小児期のADHD症状はWender Utah Rating Scaleを用いて追加情報として収集し、内在化障害の生涯発生に関する情報は、背景情報の一部に含めた。 主な結果は以下のとおり。・ADHD患者は対照群と比較し、不眠症の頻度が高く、アルコール摂取量が多く、内在化障害の頻度が高かった。・不眠症を有する患者は、不眠症を有さない患者と比較し、現在および小児期のADHD症状がより重度であった。・ADHD症状のスコアは、不眠症や内在化障害の影響を受けていたが、アルコール摂取からは対照群に限定的であった。 著者らは「不眠症、アルコール摂取、内在化障害は、機能的影響が大きいことが知られている。本研究では、ADHD症状との関係に焦点を当てたことにより、機能的影響との強い関連は、ADHDの臨床診断を受けた成人に限定されないことがわかった。このことから、ADHD症状と併発する問題の測定基準を含む、さらなる研究が求められる」としている。

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アルコール摂取と自殺リスク~メタ解析

 アルコール摂取はいくつかのアウトカムと関連するが、その1つに自殺リスクの増加がある。イラン・Baqiyatallah University of Medical SciencesのSohrab Amiri氏らは、アルコール摂取と自殺との関連を明らかにするため、コホート研究のメタ解析を実施した。Journal of Addictive Diseases誌2020年4~6月号の報告。 コホート研究30件をメタ解析に含めた。分析は、変量効果モデルに基づき実施し、その後、さまざまな変数を基にサブグループ解析を行った。 主な結果は以下のとおり。・分析の結果、アルコール摂取と自殺との関連が認められた。・アルコール摂取と自殺のリスク比(RR)は、1.65であった。・プールされたRRは、男性で1.56(95%CI:1.20~2.03)、女性で1.40(95%CI:1.11~1.77)であった。 著者らは「アルコール摂取は、自殺のリスク因子であることが示唆された。アルコール摂取の予防や抑制は、メンタルヘルスの促進に有効であると考えられる」としている。

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日本人アルコール依存症に対するナルメフェンの長期有用性

 久里浜医療センターの樋口 進氏らは、アルコール依存症におけるWHOの飲酒レベルリスクが高いまたは非常に高い日本人患者に対するナルメフェンの安全性および有効性を評価した多施設ランダム化二重盲検プラセボ対照第III相(導入)試験完了後の患者を対象に、ナルメフェンの非盲検延長試験を実施し、長期の安全性および有効性を検討した。Psychiatry and Clinical Neurosciences誌オンライン版2020年5月2日号の報告。 24週間の導入試験を完了した患者を対象に延長試験を実施した。必要に応じてナルメフェン20mg/日による24週間の治療を行った。合計48週間におけるナルメフェン20mg/日による治療の長期安全性および有効性を評価した。研究期間中に治療で発生した有害事象を記録し、多量飲酒した日数および総飲酒量のベースラインからの変化量を算出した。 主な結果は以下のとおり。・全体として、ナルメフェン20mg/日の長期忍容性は良好であった。・患者の5%以上で報告された治療で発生した主な有害事象は以下のとおりであった。 ●鼻咽頭炎(37.2%) ●悪心(36.5%) ●傾眠(21.2%) ●めまい(16.8%) ●倦怠感(14.6%) ●嘔吐(12.4%)・多量飲酒した日数(-15.09±0.77日/月)および総飲酒量(-53.20±2.29g/日)は、ベースラインから48週までに減少した(反復測定混合モデル、最小二乗平均±標準誤差)。 著者らは「飲酒リスクの高いまたは非常に高い日本人アルコール依存症患者におけるナルメフェン長期評価は、忍容性が高く、効果的であることが示唆された」としている。

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双極性障害とアルコール使用障害

 これまでの研究において、双極性障害(BD)患者のアルコール使用障害(AUD)の合併が報告されているが、BD患者のアルコール使用パターンはよくわかっていない。英国・ウスター大学のKatherine Gordon-Smith氏らは、大規模英国サンプルを用いて、生涯で最も大きい平均週間アルコール消費量の調査を行った。Bipolar Disorders誌オンライン版2020年4月2日号の報告。 定期的な飲酒経験のある双極I型障害の女性1,203例および男性673例を対象に、半構造化インタビューを実施した。 主な結果は以下のとおり。・現在の英国推奨アルコール摂取ガイドラインの2倍以上定期的に飲酒していた患者は、女性で52.3%、男性で73.6%であった。・男女ともに、生涯アルコール消費量の増加と有意な関連が認められたのは以下の項目であった。 ●自殺企図:女性(OR:1.82、p<0.001)、男性(OR:1.48、p=0.005) ●ラピッドサイクリング:女性(OR:1.89、p<0.001)、男性(OR:1.88、p<0.001)・女性のみで、アルコール消費量の増加と有意な関連が認められたのは以下の項目であった。 ●うつ病エピソード(OR:1.35、p<0.001) ●躁病エピソード(OR:1.30、p<0.004) ●最も悪い躁病エピソード中の機能障害の少なさ(OR:1.02、p<0.001) ●精神科入院の減少(OR:0.51、p<0.001) ●パニック症の合併(OR:2.16、p<0.001) ●摂食障害の合併(OR:2.37、p<0.001) 著者らは「実臨床において、BD患者のアルコール消費量に関する詳細な情報を収集する意義は大きいと考えられる。アルコール消費量が多いからといって、必ずしもAUDの基準に達しているわけではないが、BDの疾患経過、とくに女性の摂食障害の合併を予測するうえで役立つであろう」としている。

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アルコール使用障害に対する運動介入~メタ解析

 アルコール使用障害(AUD)患者に対する運動介入の影響について、トルコ・パムッカレ大学のFatih Gur氏らが、システマティックレビューおよびメタ解析を実施した。American Journal of Health Promotion誌オンライン版2020年3月26日号の報告。 2000~18年に公表された、成人AUD患者を対象に運動介入の有効性を評価した研究を、PubMed、Medline、Web of Science、Scopus、Academic Search complete、Sport Discuss、ERICデータベースより検索した。システマティックレビュー・メタ解析の標準的プロトコールおよび観察研究ガイドラインに基づき、データを抽出した。身体活動レベルおよびフィットネス(最大酸素摂取量[VO2max]、最大心拍数[HRmax])、うつ病、不安、自己効力感、QOL、アルコール消費(1日および1週間に消費される標準的な飲酒数)のデータを収集した。 主な結果は以下のとおり。・VO2max(標準平均差[SMD]:0.487、p<0.05)およびHRmax(SMD:0.717、p<0.05)による評価では、運動介入は、身体的なフィットネスを有意に改善した。・運動介入は、QOLにより評価されるメンタルヘルスを有意に改善したが(SMD:0.425、p<0.05)、うつ病、不安、自己効力感、アルコール消費では、有意な変化が認められなかった。・有酸素運動では、ヨガや混合した場合と比較し、うつ症状や不安症状の緩和が認められた。・運動時間も、うつ症状や不安症状に影響を及ぼしていた。 著者らは「AUD患者に対する運動介入は、効果的かつ持続可能な補助療法となりうる」としている。

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オピオイド中止によって増大するリスクとは?/BMJ

 オピオイド治療を受けている退役軍人保健局の患者では、処方の中止により過剰摂取または自殺による死亡リスクが増大し、治療期間が長い患者ほど死亡リスクが高いことが、米国退役軍人局精神保健自殺予防部のElizabeth M. Oliva氏らの調査で示された。研究の成果は、BMJ誌2020年3月4日号に掲載された。米国では、オピオイドの過剰摂取やオピオイド使用障害による死亡の増加に伴い、オピオイド処方関連リスクの軽減戦略が求められており、リスクがベネフィットを上回った時点での治療中止が推奨されている。その一方で、長期の治療を受けている患者では、治療中止後の有害事象(過剰摂取による死亡、自殺念慮、自傷行為、薬物関連イベントによる入院や救急診療部受診)の増加が報告されている。約140万例の観察研究 研究グループは、オピオイド治療の中止またはオピオイド治療の期間と、過剰摂取または自殺による死亡の関連を評価する目的で、観察研究を行った(米国退役軍人局精神保健自殺予防部の助成による)。 対象は、2013~14年の会計年度(2012年10月1日~2014年9月30日)に、米国の退役軍人保健局の施設を受診し、オピオイド鎮痛薬の外来処方を受けた退役軍人の患者139万4,102例であった。過剰摂取の薬物には、オピオイドのほか、鎮静薬、アセトアミノフェン、その他の薬物中毒が含まれた。オピオイド治療を中止した患者と、継続した患者を比較した。 多変量Cox非比例ハザード回帰モデルを用いて、過剰摂取または自殺による死亡(主要アウトカム)を評価し、主な共変量としての治療期間別(30日以下、31~90日、91~400日、400日以上)のオピオイド中止の交互作用を検討した。開始後と中止後最低3ヵ月間は、リスク低減の取り組み強化 全体の平均年齢は約60歳、女性が約8%で、ほぼ半数が既婚者、61%が都市部居住者であった。また、半数強が3つ以上の医療診断を受けており、アルコール使用障害の診断は約10%、ニコチン使用障害の診断は約22%の患者が受けていた。最も頻度の高い精神疾患は、うつ状態と心的外傷後ストレス障害だった。 79万9,668例(57.4%)がオピオイド治療を中止し、59万4,434例(42.6%)は治療を継続した。2,887例が、過剰摂取(1,851例)または自殺(1,249例)により死亡した。オピオイド治療の期間が30日以下の患者は32.0%、31~90日は8.7%、91~400日は22.7%、400日以上は36.6%であった。 オピオイド治療中止と治療期間には交互作用が認められ(p<0.001)、治療期間が長い患者ほど治療中止後の過剰摂取または自殺による死亡リスクが高いことが示唆された。治療を中止した患者における過剰摂取または自殺による死亡リスクのハザード比(他のすべての共変量を参照値として比較)は、治療期間30日以下が1.67、31~90日が2.80、91~400日が3.95、400日以上は6.77であった。 過剰摂取または自殺による死亡リスク増加の他の独立の関連因子として、長時間作用型/短時間作用型オピオイドの処方(トラマドールとの比較)、医療診断数、精神疾患の診断、薬物使用障害(ニコチンを除く)などが挙げられた。一方、高齢、女性、既婚は低リスクの独立の関連因子だった。 また、生命表の記述的データでは、過剰摂取または自殺による死亡はオピオイドの開始と中止の双方の直後に増加し、発生率が低下するまで約3~12ヵ月を要すると示唆された。 著者は、「オピオイド治療の開始後および中止後は、それぞれ少なくとも3ヵ月間は、リスク軽減の取り組み(患者モニタリング、自殺および過剰摂取の防止)を強化する必要がある」と指摘している。

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パニック症患者におけるアルコール依存症発症率に関する性差研究

 パニック症患者におけるアルコール依存症発症率に性差があるかについては、よくわかっていない。台湾・台北市立連合医院のHu-Ming Chang氏らは、この疑問を明らかにするため、調査を行った。Drug and Alcohol Dependence誌オンライン版2019年12月23日号の報告。 対象は、台湾全民健康保険研究データベースより抽出したパニック症患者9,480例。このうち、フォローアップ期間中にアルコール依存症を発症した患者は169例(男性:89例、女性:80例)であった。アルコール依存症発症の相対リスクを一般集団と比較するため、標準化罹患比(SIR:standardized incidence ratio)を用いた。ネステッドケースコントロール研究デザインに基づき、各ケースについてコントロール10例を選択した。アルコール依存症診断前の診療や精神医学的併存疾患を分析するため、条件付きロジスティック回帰を用いた。 主な結果は以下のとおり。・アルコール依存症発症のSIRは、男性で3.36、女性で6.29であった。・アルコール依存症を発症した女性パニック症患者は、対照群よりも、外来受診が多かった。男性では、有意な差は認められなかった。・アルコール依存症を発症した女性では、以下を併発する可能性が高かった。 ●うつ病(調整リスク比[aRR]:2.94) ●人格障害(aRR:5.03) ●睡眠障害(aRR:1.72)・アルコール依存症を発症した男性では、以下を併発する可能性が高かった。 ●睡眠障害(aRR:1.85) ●その他の物質使用障害(aRR:3.08) 著者らは「パニック症患者は、一般集団と比較し、アルコール依存症発症リスクが高く、女性のほうがリスクが高かった。アルコール依存症発症前の精神医学的な併存疾患は、性差が認められたことから、予防的介入を検討する際には、性別を考慮する必要がある」としている。

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アルコール使用障害治療におけるAlcohol Quality of Life Scale(AQoLS)日本語版の検証

 Alcohol Quality of Life Scale(AQoLS)は、西洋において健康関連QOL(HR-QoL)に対するアルコール使用障害(AUD)の影響を評価する際に有用な尺度として用いられている。久里浜医療センターの樋口 進氏らは、AQoLS日本語版の心理測定特性について評価を行った。Quality of Life Research誌オンライン版2019年10月4日号の報告。 日本においてAUDの日常的な治療を受けている患者を対象に、3ヵ月間の観察コホート研究を実施した。HR-QoLは、AQoLS日本語版(34項目、7ディメンション)を用いて評価を行った。心理測定スケールは、相関法を用いて分析を行った。 主な結果は以下のとおり。・132例の患者データを分析した。・AQoLS日本語版の項目間およびスケールの相関は、中程度から強度であった。・確認的因子分析の結果では、AQoLS日本語版の仕組みはサポートされたが、いくつかの項目と因子との間に相互依存的証拠が認められた。・内的整合性は、クロンバックのα係数が0.73~0.97で比較的良好で、ベースライン時と2週間後の間のスコアの級内相関係数は、0.65~0.82であった。・収束的妥当性、弁別的妥当性、既知のグループの妥当性は、サポートされた。・グループ内での変化の評価では、AQoLS日本語版の総スコアとドメインは、経時的なHR-QoLの有意な改善を一貫して示した(すべてのケースにおいてp<0.001)。・AQoLS日本語版総スコアの臨床的に重要な最少差推定値は、グループレベルの変化で13.2~18.2、グループレベルの差で2.4~15.7であった。 著者らは「AQoLS日本語版は、HR-QoLの信頼できる有効な指標であり、日本においてAUDの日常的な治療にベネフィットを与えることができる」としている。

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医師の認知症リスク~コホート研究

 より良い医療知識を多く有している医師は、認知症リスクが低いのではないだろうか。この疑問を明らかにするため、台湾・Chi-Mei Medical CenterのLi-Jung Ma氏らが検討を行った。Aging Clinical and Experimental Research誌オンライン版2019年8月19日号の報告。 医師2万9,388人、一般集団5万人、医師以外の医療従事者3万446人を含む、全国規模の人口ベース調査を実施した。2006~12年の病歴を追跡し、3群間および医師のサブグループ間で認知症有病率の比較を行った。 主な結果は以下のとおり。・年齢、性別、頭部外傷、甲状腺機能低下、高血圧、糖尿病、脳卒中、血管疾患、心房細動、高コレステロール血症、うつ病、アルコール依存症で調整した後、医師は、一般集団と比較し、認知症有病率が低かった(調整オッズ比[AOR]:0.56、95%信頼区間[CI]:0.47~0.67)。・医師以外の医療従事者は、一般集団と比較し、認知症有病率が低かった(AOR:0.46、95%CI:0.36~0.60)。・医師と医師以外の医療従事者における認知症有病率に有意な差は認められなかった(AOR:0.98、95%CI:0.71~1.36)。・認知症有病率の高かった医師のサブグループは、高齢、小児科専門医、地方病院およびクリニック勤務であった。 著者らは「医師の認知症有病率は、一般集団よりも低かった。医師の中でも、特定のサブグループにおいて認知症有病率が高いことから、さらなる研究が必要とされる」としている。

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若者に対するアルコールスクリーニングと評価尺度~メタ解析

 臨床医は、アルコールによる有害な影響を受けた若者における飲酒リスクを特定するための強力な理論的根拠を求めている。英国・ヨーク大学のPaul Toner氏らは、25歳未満の若者を対象としたアルコールスクリーニングと評価尺度に関する検証文献のエビデンスの質を評価するため、システマティック・レビューを行った。Drug and Alcohol Dependence誌2019年9月1日号の報告。 6つの電子データベース(MEDLINE、EMBASE、PsycINFO、SSCI、HMIC、ADAI)より、2016年5月までの公表されている文献および灰色文献を検索した。1980年以降に英語で公表された、以前のアルコール測定と比較したスクリーニングまたは評価尺度に関するフルテキストレポートを検証に含めた。バイアスリスクは、COSMINおよびQUADAS-2を用いて評価した。 主な結果は以下のとおり。・135件の個別検証研究で構成される39件のレポートが特定された。・サマリ推定値は、スクリーニング機器が良好に機能することを示唆していた(AUC:0.91[95%CI:0.88~0.93]、感度:0.98[95%CI:0.95~0.99]、特異性:0.78[95%CI:0.74~0.82])。・既存の評価手法の検証エビデンスが不足している点を考慮し、10項目で調整した集計された信頼度推定値は、0.81(95%CI:0.78~0.83)であり、信頼性が示唆された。・バイアスリスクは、スクリーニングおよび評価尺度に関する研究のいずれも高かった。 著者らは「スクリーニングに関する利用可能なエビデンスの量および質は、良好であった。単一質問の場合には、アルコールの頻度または量について質問することが推奨される。さらに質問可能であれば、3項目のAUDIT-Cまたは10項目のAUDITの使用が推奨される。若者のアルコール関連問題を評価するためには、新たな手法を開発する必要がある」としている。

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重度の日本人アルコール依存症に対するナルメフェンのランダム化比較試験(第III相試験)

 アルコール摂取量を減らすことは、アルコール依存症患者にとっての治療アプローチの1つである。東京慈恵会医科大学の宮田 久嗣氏らは、飲酒リスクレベル(drinking risk level:DRL)が高い、または非常に高い日本人アルコール依存症患者を対象に、ナルメフェンの多施設共同ランダム化二重盲検比較試験を実施した。Psychiatry and Clinical Neurosciences誌オンライン版2019年7月12日号の報告。 対象患者は、心理社会的治療と併せて、必要に応じてナルメフェン20mg群、10mg群、プラセボ群にランダムに割り付けられ、24週間治療を行った。主要評価項目は、大量飲酒日数(heavy drinking day:HDD)のベースラインから12週目までの変化とした。副次的評価項目は、総アルコール摂取量(total alcohol consumption:TAC)のベースラインから12週目までの変化とした。 主な結果は以下のとおり。・12週目の主要評価項目の分析対象症例数は、ナルメフェン20mg群206例、ナルメフェン10mg群154例、プラセボ群234例であった。・ナルメフェン群は、プラセボ群と比較し、12週目のHDDの有意な減少が認められた(20mg群:-4.34日/月[95%CI:-6.05~-2.62、p<0.0001]、10mg群:-4.18日/月[95%CI:-6.05~-2.32、p<0.0001])。・同様に、ナルメフェン群は、プラセボ群と比較し、12週目のTACの有意な減少が認められた(p<0.0001)。・治療に起因する有害事象の発生率は、ナルメフェン20mg群87.9%、ナルメフェン10mg群84.8%、プラセボ群79.2%であった。これらの重症度は、ほとんどが軽度または中程度であった。 著者らは「ナルメフェン20mgまたは10mgは、DRLが高い、または非常に高い日本人アルコール依存症患者に対し、アルコール摂取量を効果的に減少させ、忍容性も良好であった」としている。

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~プライマリ・ケアの疑問~ Dr.前野のスペシャリストにQ!【精神科編】

第1回 うつ病の診断と治療第2回 うつ病の薬物療法第3回 双極性障害第4回 発達障害第5回 不眠第6回 不安障害第7回 認知症の診断第8回 認知症の治療第9回 自傷・摂食障害第10回 人格障害・心気症第11回 アルコール依存症第12回 統合失調症 うつ、不眠、認知症や発達障害。精神科領域の疾患は内科で日々出合うもの。頻繁に診察するものの精神科領域の対応や処方は実は苦手…という先生も多いのではないでしょうか。「Dr.前野のスペシャリストにQ!」第7弾は精神科を取り上げます。CareNet.com医師会員から集めた疑問をプライマリケア医視点で前野哲博先生が厳選。精神科のスペシャリスト松崎朝樹先生が、日常診療に役立つノウハウを交えてズバリ一問一答で解決します。第1回 うつ病の診断と治療内科で最もよく診察する精神疾患はうつ病。頻度が高いからこそ出てくる疑問を前野先生が厳選。簡便なスクリーニング方法、希死念慮の確認方法、疑ったときのファーストアクションなどのエッセンスを松崎先生がクリアカットに解説します。第2回 うつ病の薬物療法今回はうつ病の薬物療法、専門医の治療戦略と、内科で使いやすい1剤を伝授。症状が軽くなったら薬をやめていい?とりあえず抗不安薬で様子をみてもいい?うつ病の薬物療法で内科医が陥りがちなピットフォールもひとつずつ解消します。第3回 双極性障害実はうつ病と見誤りやすいのが双極性障害。どんなときに双極性障害を疑うか。内科医は決して手をつけてはいけないと思いがちですが、患者が精神科に受診するまでのつなぎに、していいこと、してはいけないことをズバリ回答します。第4回 発達障害一時期、診断自体が”流行”してしまった発達障害。自閉スペクトラム症とADHDそれぞれの疾患像と必要な対応をコンパクトに解説します。プライマリケアでは、診断や処方よりも、QOLを向上させる関わり方を理解し家族に指導できることが重要。そのポイントを松崎先生に教えてもらいます。第5回 不眠プライマリケアでよく出会う”不眠”。睡眠薬を処方する前に確認すべきことが実は多いんです。つまり、睡眠薬が必要ない例を見極める質問を2つ紹介します。そして、睡眠薬を処方するときのポイントを伝授。ベンゾジアゼピン系の依存をなるべく作らない最新の処方、そしてすでに依存になっている睡眠薬の減らし方を学びましょう。第6回 不安障害”抗不安薬”という名前に惑わされないでください。不安障害の治療薬はSSRI。わかっていても抗不安薬のほうが出しやすいと感じる先生へ、初めの一手として専門医が勧める処方例をお教えします。長期服用してきた抗不安薬の減らし方も、スペシャリストのワザをあれもこれも惜しげなく伝授します!第7回 認知症の診断最近もの忘れがひどくて、という患者。エピソード記憶があれば認知症ではないとするのは実は間違い。認知症を早期発見するには、こうした訴えを無視しないことが重要。ではどう対応するのがよいのか?認知症の診断に関する疑問に答えます。第8回 認知症の治療抗認知症薬はどれを使うべき?専門医受診を促すよい方法は?疲弊した家族にどう対応すべきか?周辺症状への対処は?認知症治療で必ず遭遇する”困った”を解消します。第9回 自傷・摂食障害アピールだろう、どうせ死ぬ気はない、と邪険にしがちな自傷や摂食障害。面倒と感じる気持ちはあっても、医療者として押さえておくべき対応をお教えします。第10回 人格障害・心気症パーソナリティ障害、心気症、いずれも医療者の陰性感情が生じやすいもの。診断も薬物療法もあまり効果がない、それでも診療を続けないといけないとき、精神科専門医はどのように考えて対応しているのか、スペシャリストのノウハウを紹介します。第11回 アルコール依存症酒が1週間止められないなら、アルコール依存と診断し断酒あるいは節酒を指示する。治療方針はシンプルですが断酒できないから病気なので、診療にへきえきすることもあるのではないでしょうか。治療のポイントは患者そして患者家族との関わり方にあります。離脱対策や長期入院時の注意点など、必要不可欠なトピックを10分にまとめました。第12回 統合失調症統合失調症はきちんと服薬していれば、恐れるような疾患ではありません。統合失調症の陰性症状とうつ病をどう見分けるか、専門医受診までのファーストチョイス、内科で出合う慢性期統合失調症管理のポイント、入院が決まったときに確認すべき点といった非専門医に必要十分な統合失調症対応のエッセンスを伝授します。

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ベンゾジアゼピン系睡眠薬とアルコールの併用率を日本の精神科外来患者で調査

 ベンゾジアゼピンとアルコールの併用は、一般的に認められる。慶應義塾大学の内田 貴仁氏らは、精神科外来患者におけるベンゾジアゼピン系睡眠薬とアルコールの併用率、併用と関連する臨床的特徴および因子、併用に関する精神科医の意識について調査を行った。International Clinical Psychopharmacology誌オンライン版2019年4月15日号の報告。ベンゾジアゼピン系睡眠薬とアルコールの併用率は39.8% ベンゾジアゼピン系睡眠薬の投与を受けている統合失調症、うつ病、不眠症の外来患者を対象に、睡眠薬とアルコールの使用も記録可能な睡眠日誌を7日間連続で記入するよう依頼した。臨床的特徴を評価し、併用に関連する因子を調査するため、ロジスティック分析を実施した。さらに、担当精神科医に対し、患者がベンゾジアゼピン系睡眠薬とアルコールを併用したと思ったかどうかを調査した。 主な結果は以下のとおり。・ベンゾジアゼピン系睡眠薬とアルコールの併用率は、39.8%(93例中37例)であった。・CAGE(アルコール依存症スクリーニング尺度)スコアが、併用と有意な正の相関を示した(オッズ比:2.40、95%信頼区間:1.39~4.16、p=0.002)。・精神科医によってベンゾジアゼピン系睡眠薬とアルコールの併用が疑われた患者は、併用患者のうち32.4%のみであった。 著者らは「これらの結果は、ベンゾジアゼピン系睡眠薬とアルコールの併用は一般的であり、これを精神科医は見過ごしている可能性があることを示唆している。このような潜在的な危険性を有する患者をスクリーニングするために、CAGE質問票が役立つであろう」としている。

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レディ・プレーヤー1【なぜゲームをやめられないの?どうなるの?(ゲーム依存症)】

今回のキーワード多人数同時参加型オンラインロールプレイングゲームeスポーツ「デジタルドラッグ」「ゲーム脳」「シンデレラ法」「スマホ育児」AI(人工知能)「ホモ・ルーデンス」(遊ぶ人)皆さんは、ゲームをしますか? またはお子さんがゲームをしますか? 今や、ゲームと言えば、多人数同時参加型オンラインロールプレイングゲーム(MMORPG)です。これは、インターネット上のサーバーを介して、不特定多数の人が同じゲームの中で、数人のチーム(ギルド)をつくり、冒険、狩り、モンスター退治などをするものです。自分のプレイの分身(アバター)によって、ほかのプレーヤーと文字のやりとりや会話を行うこともできます。さらにこれからは、VR(仮想現実)ゴーグルによる、よりリアルな体験をするゲームが注目されています。最近では、ゲームをeスポーツと呼び、従来のスポーツ大会の種目の1つに入れようとする動きがあります。また、学校の部活動の1つとして、「eスポーツ部」を認めようとする動きもあります。これは、サークルや同好会ではなく、部活動としてゲーム関連の費用を学校が負担することを意味します。どうやらゲームは、今、世の中でますます広がりを見せています。ところで、そのゲームをやめられない、やめさせられないと困っている人はいませんか? または、そのようは相談を受けることはありませんか? なぜゲームをやめられないのでしょうか? やめられないとどうなるのでしょうか? そもそも、なぜゲームは「ある」のでしょうか? そして、どうすれば良いのでしょうか? これらの疑問を解き明かすために、今回は、2018年の映画「レディ・プレーヤー1」を取り上げます。この映画を通して、ゲームをする心理を脳科学的に、そして、その起源を進化心理学的に掘り下げ、ゲーム依存症の理解を深めましょう。そして、私たちの未来の生き方について、一緒に考えていきましょう。なぜゲームをやめられないの?ストーリーの舞台は、未来の西暦2045年。多くの人は、食べる、寝る、トイレに行く以外は、VR(仮想現実)ゴーグルを着けて、オアシスというネット上のVR(仮想現実)の世界で過ごしています。まさに「食う、寝る、遊ぶ」です。まずここから、このVRの世界を現在のゲームと照らし合わせながら、その3つの特徴を整理してみましょう。そして、「なぜゲームをやめられないの?」という問いへの答えを導きましょう。(1)何でもできる -達成感主人公のウェイドは、「今、現実は重くて暗い。みんな逃げ場を求めている」「(一方で)オアシスは、想像が現実になる世界。何でもできる」と言っています。現実の世界は、ゴミだらけで荒廃しており、彼はぱっとしない日常を送ります。一方、オアシスは、色鮮やかで華やかで、魅力的なキャラクターたちが次々と登場し、冒険、戦闘、自動車レースなどが、毎日繰り返されています。ウェイドは、パーシヴァルという名のアバターで、やりたいことをして、毎日生き生きとした時間を過ごしています。1つ目の特徴は、何でもできる、つまり達成感が得られることです。これは、現在のゲームにも通じています。そのからくりは、主に3つあります。1つ目は、時間とお金をかければ必ずうまくいくように作られていることです。お金をかけるとは、課金システムで強い武器などのアイテムを得て、地位を上げることです。2つ目は、繰り返しやればチャンスが増すように作られていることです。たとえば、「連続ログインボーナス」は、毎日必ずログインして一定期間が経つと、ボーナスがもらえる仕組みです。また、「1日1回だけのチャンス」は、1日1回だけ特級アイテムを得る「ガチャ」(抽選)のチャンスがもらえる仕組みです。逆に言えば、1日1回しかチャンスがないので、毎日必ずログインしてチャレンジするよう仕向けられていると言えます(機会損失の回避)。3つ目は、次から次へと新しい課題が出され、飽きないように作られていることです。これは、ゲームの設定が常にアップデートされるためです。つまり、従来のゲームのようなクリア(ゴール)という概念がなく、延々とやり続けることが可能になります。このように、ゲームをやめられなくなるのは、やればやるほど達成感が得られるからです。逆に言えば、現実の世界では、そう簡単に達成感は得られません。そのわけは、ゲームほど何でもできる状況がそもそもあまりないからです。(2)仲間がいる -連帯感オアシスで、パーシヴァル(ウェイド、以下略)は「エイチは、はっきり言って親友だ。現実の世界では会ったことないけど」と言い、エイチと過ごします。やがて、彼は、オアシスの後継者の権利を掛けた宝探しレースをする最中、ランキングで暫定1位になり、オアシスの住人全員から注目を集めて、人気者になります。そして最後に彼は、エイチたちと5人組の仲間となり、オアシスの共同運営者になります。2つ目の特徴は、仲間がいる、つまり連帯感が得られることです。これは、現在のゲームにも通じています。そのからくりは、主に3つあります。1つ目は、自分の居場所があるように作られていることです。これは、毎回プレイ中にチームのメンバーとコミュニケーションをすることで、仲良くなり、信頼され、つながっている感覚が得られることです(所属欲求)。2つ目は、自分の役割があるように作られていることです。これは、チームで協力することで、お互いに必要とされ、勇気や決断力が認められる感覚が得られることです(承認欲求)。3つ目は、自分の目指すものがあるように作られていることです。これは、チームで敵や宝などの分かりやすいターゲットに向かって突き進んで達成していくことです(自己実現欲求)。これは、ゲームの1つ目の特徴である達成感にもつながります。もはや、チームのメンバーは「戦友」で、ターゲットは「戦果」とも言えます。逆に言えば、自分がやめると、チームのメンバーに遅れをとってしまったり、迷惑をかけることになります。このように、ゲームをやめられなくなるのは、やればやるほど連帯感が得られるからです。逆に言えば、現実の世界は、そう簡単に連帯感は得られません。そのわけは、ゲームほど仲間でいることの理由が見いだせないことが多いからです。(3)気楽である -安全感パーシヴァルは、現実のウェイドと違って、ビジュアルが良く、おしゃれで、身体能力も高いです。もちろん、見た目だけでなく声を変える設定もできます。彼は、アルテミスという女性とデートをして、イケイケのダンスもします。彼は、彼女に「現実の世界で会いたい」「君に恋してる」と言うと、「私の顔はこんなんじゃない。がっかりするよ」と言われてしまいます。また、パーシヴァルは、ライバルのソレントと向き合った時、VRゴーグルを一時的に外して、動悸を隠します。また、オアシスでは、死ぬと所持金は0になりますが、リセットすれば生き返るようになっています。3つ目の特徴は、気楽である、つまり安全感です。これは、現在のゲームにも通じています。そのからくりは、主に3つあります。1つ目は、見せたくない自分を見せないように作られていることです。これは、顔などの見た目から相手にされないのではないかという不安がなくなります。2つ目は、見たくない相手やものを見ないように作られていることです。これは、気が合わない相手でもその場にいなければならないという義務感がなくなります。また、音や光などの感覚刺激は、調節したり遮断することができます。3つ目は、いつでも休めたりやり直しができるように作られていることです。これは、失敗すると取り返しが付かないという緊張感がなくなります。このように、ゲームをやめられなくなるのは、安全感が保たれているからです。逆に言えば、現実の世界は、そう簡単に安全感は保たれません。そのわけは、ゲームほど気楽なままで何かを達成する機会はあまりないからです。ゲームをやめられないとどうなるの? ―ゲーム依存症ウェイドと同居する叔母の恋人は、オアシス内の戦闘ゲームでアバターが死んでしまい、「(高性能の武器を使うために)全部つぎ込んだ。勝てるはずだった」と怒り狂います。同じように、ある幼児は、アバターが死んで、泣き叫びます。ある男性は、飛び降り自殺をしようとします。ある母親は、ゲームに夢中になり、家事や育児に手が付かなくなっています。ウェイドは、「みんな、全部オアシスにつぎ込んでるから、全部失ったら(ゲームに負けてアバターが死んだら)、そりゃ正気も失うよね」と説明します。このように、お金や時間などが奪われて日常生活に差し障るほどゲームがやめられなくなる、コントロールができない状態は、通称、ゲーム依存症と言います。精神医学的には、ゲーム障害(ICD-11)、インターネットゲーム障害(DSM-5研究枠)と呼ばれます。また、先ほどご紹介した「ガチャ」(抽選)によってアイテムを得る課金システムは、必ずしも欲しいアイテムが得られるわけではないので、つい「ガチャ」をやりすぎてお金をつぎ込んでしまうというギャンブル依存症の要素もあります。ここから、ゲーム依存症の特徴を3つに分けて、脳科学的に考えてみましょう。そして、「どうなるの?」という問いへの答えを導きましょう。(1)もっとやりたくなる -渇望先ほどご紹介した達成感や連帯感は、脳へのご褒美、つまり報酬です。とくに連帯感は、社会的報酬と言います。これらは、満足感、幸福感、わくわく感、胸のときめき、快感などと自覚され、ドパミンという脳内ホルモン(神経伝達物質)が大きく関わっています(報酬系)。たとえば、栄養価が高いものを食べると、ドパミンが刺激され、美味しいと感じます。それが、もう1回食べようという動機付けになります。まさに、「味を覚える」「味を占める」というわけです。ゲームは、このドパミンがより効率的に分泌し続けるように人工的に作られたものです。分かりやすく言えば、安楽なままで快感がすぐに得られてしまう覚醒剤に似ています。実際の論文では、脳画像検査(PET)によって、ゲームの開始前と50分後での脳内(線条体)のドパミンの放出量が2倍に増えていると報告されています。これは、覚醒剤(0.2mg/kg)の静脈注射に匹敵します。もちろん現実の世界でも、達成感や連帯感からドパミンがこのレベルに増えることはあります。ただし、その頻度はまれで、時間は一瞬からせいぜい数十分です。美味しいものも満腹になればそれ以上食べられません。それに対して、ゲームは、やっている時間すべてです。つまり、ゲームによるドパミン分泌は、そもそも覚醒剤と同じくらい刺激が強くて長続きするものであるということです。もはやゲームは、「デジタル・ドラッグ」とも言えるでしょう。すると、どうなるでしょうか?1つ目の特徴は、ゲームをもっとやりたくなります(渇望)。言い換えれば、脳がゲームの刺激をより欲してしまいます。そのメカニズムは、大きく3つあります。1つ目は、ゲームの刺激に鈍くなることです(耐性)。これは、ちょうど1回目の覚醒剤の摂取が一番快感で、その後に同じ快感を得るために量が増えていくことに似ています。その理由として、ドパミンを使いすぎて足りなくなっていることがあげられます。もう1つの理由としては、慢性的なドパミンの刺激によって、脳内のドパミンの受け皿(受容体)の数が減ってしまうことがあげられます(ダウンレギュレーション)。これは、過剰な刺激で神経細胞が消耗するのを防ぐため、その反応を抑えることでバランスを保つ生体の調節機能が自動的に働くからです(ホメオスタシス)。2つ目は、ゲームをしないといらいらすることです(離脱症状)。これは、ちょうどアルコール依存症の人が断酒後に手が震えて汗が出るなどのいわゆる禁断症状に似ています。その理由として、慢性的な刺激を受けていると、それがバランスのとれた通常の状態(ホメオスタシス)であると脳が誤認識してしまい、逆に刺激がなくなると脳が異常だと誤作動を起こしてしまうからです。3つ目は、ゲーム関連に敏感になることです(プライミング、キュー)。たとえば、それは、ゲームの宣伝を見ることから、パソコンやスマホの画面をただ見ること、そして自室の椅子にただ座ることなどです。これは、ちょうど覚醒剤依存症の人が注射器を見ただけで覚醒剤を打ちたくなったり、アルコール依存症の人がおつまみを見ただけでビールが飲みたくなったり、ギャンブル依存症の人がネオンサインを見ただけパチンコがしたくなることに似ています。その理由として、刺激を受け続けることで脳神経のネットワークが変わり(短絡回路)、頭の中はその報酬がすべてになってしまうからです(投射ニューロン)。言い換えれば、その刺激と結び付いた情報や体験がセットになって脳に記憶として刻まれることで、報酬が予測されやすくなるからです(報酬予測、条件反射)。ひと言で言えば、「ゲーム漬け」「ゲームに溺れる」ということです。逆に言えば、現実の世界の達成感や連帯感は、苦労しても少ししか得られないばかりか、脳がゲームだけでなく現実の生活の刺激にも鈍くなってしまうため、ますますバカらしくてどうでも良くなってしまいます。つまり、報酬系とは、その人の価値観であり、生き方を決めてしまうものです。まさに、ゲーム依存症になると、その人の生き方が変わってしまうと言えるでしょう。(2)頭が働かなくなる -認知機能障害ドパミンが慢性的に出すぎていると、興奮状態になった神経細胞がやがて消耗していき、死んでいきます(変性)。実際の論文では、脳画像検査(MRIのDTIやVBM)によって、ゲーム依存症の人の前頭葉などで、覚醒剤などの薬物依存症と同じように、神経ネットワークの統合性の低下や萎縮が認められていることが報告されています。すると、どうなるでしょうか?2つ目の特徴は、頭が働かなくなります(認知機能障害)。体が酷使されて弱るのと同じように、脳も酷使されて弱っている状態です。たとえば、衝動的でキレやすくなったり(眼窩前頭葉)、相手の気持ちに無関心で冷淡になったり(前帯状回)、無気力で無関心になります(外包)。これは、ちょうど同じくドパミンが慢性的に出すぎていることで引き起こされる統合失調症の陰性症状に似ています。かつて、根拠がないと批判され、「疑似科学」の烙印を押された「ゲーム脳」が、いまや現実の科学として認められたことになります。ウェイドは、「重くて暗い」現実から軽やかでまぶしいオアシスに逃げ場を求めていきました。しかし、実は、彼はオアシスでの強い刺激を受け続けていることで脳が消耗してしまい、現実が「重くて暗い」ようにますます見えてしまっているという解釈もできるでしょう。ここで、皆さんに考えていただきたいことがあります。それは、ゲームが、冒頭でもご紹介したeスポーツとしてスポーツ大会の種目の1つになったり、学校の部活動になるのは良いと言えるでしょうか? 答えは、ノーです。なぜなら、スポーツの理念(スポーツ基本法)の1つが健康になることであるという点で、ゲームは不健康になるリスクがあまりにも高いからです。もちろん、従来のスポーツもトレーニングをしすぎて体を壊すということはありえます。ただし、決定的な違いは、ゲームは刺激性や依存性があることです。そして、それによって「脳を壊す」おそれが著しく高いことです。そのゲームが従来のスポーツと並んでしまうと、あたかも健康的なイメージを子供にも植え付けてしまいます。ゲーム会社のマーケティング戦略に完全に取り込まれているように思われます。やはり、望ましいのは、ゲームは「eスポーツ」とは名乗らないこと、そしてゲームは「ゲーム大会」として従来のスポーツ大会とは区別し、別々に開催されることです。(3)気疲れしやすくなる -ストレス脆弱性先ほどご紹介した安全感が保たれることは、逆に言えば、ストレスフリーの時間が増えることになります。ストレスとは、相手からどう見られるか緊張したり、相手が何を考えているか察知し、状況により我慢するなど、周りの空気を読む意識的な労力です(社会脳)。また、外界で複雑に絡み合ってざわざわと揺らいでいる音や光などの感覚刺激の無意識的な情報処理です(デフォルトモードネットワーク)。すると、どうなるでしょうか?3つ目の特徴は、気疲れしやすくなります(ストレス脆弱性)。体を動かさないで鈍るのと同じように、頭も動かさないで鈍っている状態です。たとえば、人混みが耐えられなくなったり、初対面の相手に極度に緊張したり、雑談ができなくなったり、逆に、言われたことを過剰に気にするようになることです。これは、ちょうど同じく社会的参加のストレスを避けた「社会的ひきこもり」の精神状態に似ています。ウェイドは、オアシスで、アルテミスとイケイケのダンスをして体を密着させていたのに、現実の世界で会った時はキスするのをためらっていました。これは、もともと彼が奥手であったということに加えて、生身の人間と触れ合うことに緊張しやすくなっていたという解釈もできるでしょう。ゲーム依存症になりやすい人は? ―リスクそれでは、ゲーム依存症になりやすいのは、どんな人でしょうか? そういう人を特徴と状況に分けて、ゲーム依存症のリスクを考えてみましょう。(1)特徴特徴、つまり個人因子としては、主に2つあげられます。a.探究心が強いウェイドは、宝探しのヒントが、オアシスの開発者の言動にあるとひらめき、オアシスの博物館に何度も通い、探し求めます。1つ目の特徴は、探究心が強いことです(新奇性探求)。それを、ゲームが達成感として手軽に満たしてくれます。これは、ADHDとの関連が強いです。その特性としては、興味のあることに飛び付きます(衝動性)。一か八かの勝負事が好きで、スリルと興奮を追い求めます(衝動性)。ひらめきなどの発想の転換が早く、アイデアマンの素質もあります(多動性)。また、ADHDの気の早さ(衝動性)や気の多さ(多動性)と同時に見られる気の散りやすさ(不注意)が、ゲームをすることで改善し、一時的に注意力や集中力が高まることです。そもそもADHDは前頭葉のドパミンの働きが弱いです。そのため、ゲームをすることは、ADHD治療薬と同じようにドパミンの働きを活性化させます。ゲームが、あたかもADHDの自己治癒行動になっています。b.内気であるオアシスの開発者のハリデーは、「オアシスをつくったのは、現実世界はどうにも居心地が悪かったからなんだ」「周りの人たちと、どうつながっていいか分からなかった」「ずうっとびくびくしながら生きてきた」と言っています。現実のハリデーがおどおどしている一方で、オアシスでのアノラック(ハリデーのアバター名)は、堂々として威厳があります。2つ目の特徴は、内気であることです(回避性)。それを、ゲームが安心感として満たしてくれます。これは、社交不安、回避性パーソナリティ、そして自閉症スペクトラムとの関連が強いです。とくに自閉症スペクトラムの特性は、周りの空気を読むのが苦手であることです(社会的コミュニケーションの低さ)。これが、ゲームの中では目立たなくなります。そのわけは、コミュニケーションの目的や手段は、現実の世界では曖昧で複雑である一方、ゲームの中では明確で単純だからです。また、興味のあることには、のめり込みます(こだわり、過集中)。特性であるこだわりが生かされているとも言えます。さらに、自閉症スペクトラムの別のこだわりである音や光、肌触りへの敏感さ(感覚過敏)が、ゲームの環境では、調節・遮断することができるため、快適になることです。(2)状況状況、つまり環境因子としては、主に2つあげられます。a.居場所がないウェイドの両親は早くに病死しているため、ウェイドは叔母さんとその恋人の家に居候し、とても肩身の狭い思いをしています。1つ目の状況は、居場所がないことです(自尊心の低さ)。それを、ゲームが連帯感として満たしてくれます。これは、反応性愛着障害や境界性パーソナリティとの関連が強いです。自分を大切にしてくれるつながり(愛着対象)がないため、それを極度に欲してしまいます。また、自尊心の低さは、社交不安や回避性パーソナリティの根っこにもなっています。b.ストレスがたまっているウェイドは、叔母の恋人から暴力を振るわれ、叔母さんからは「あんたも出ていきな」と言われ、家出してから3日間、ゲーム漬けになっています。2つ目の状況は、ストレスがたまっていることです(ストレス負荷)。それを、ゲームが達成感、連帯感、安心感のある逃げ場として満たしてくれます。これは、適応障害やPTSDなどのストレス障害との関連が強いです。最近の研究では、トラウマなどのストレス体験を脳に記憶させることをある程度阻害するために、その体験から6時間以内にコンピューターゲームのテトリスをやり続ける予防策が提唱されています。まさにストレス解消法です。ゲームが、あたかもストレス障害の予防行動になっています。なぜゲームは「ある」の?そもそも、なぜゲームは「ある」のでしょうか? ここから、ゲームの起源を進化心理学的に考えてみましょう。そして、ゲームの三大要素に重ねてみましょう。(1)コミュニケーションをするため -相手約2億年前に哺乳類が誕生し、生まれてからより多くの記憶を学習する脳を進化させました。たとえば、ネズミは、相手のネズミと上になったり下になったりするじゃれ合いをします(プレイ・ファイティング)。また、犬は、相手の犬に頭を下げてお尻を上げて尻尾を振るあいさつ遊びをします(プレイ・バウ)。それらは、人間の1歳児から好まれる、体が触れ合うじゃれ合いや「グーチョキパーでなにつくろう」「てをたたきましょう」などの手遊びに通じます。ゲームの起源の1つ目は、コミュニケーションです。相手との相互作用によって、身体感覚を発達させ、あいさつをはじめとするコミュニケーションを学習するようになったと考えられます。ゲームの三大要素の1つに重ね合わせると、コミュニケーションとして相手がいることです。相手とは、ゲームでいう対戦相手、競争相手、つまり敵に当たります。さらには、チームメイト、協力関係の相手、つまり味方も当てはまります。(2)トレーニングをするため -ルール約700万年前に人類が誕生し、約300~400万年前に相手の気持ちをくむ脳を進化させました(社会脳)。それは、2歳児から好まれる「おままごと」などのふり遊び、見立て遊び、ごっこ遊びに当たります。そして、約10~20万年前に喉の構造を進化させ、言葉を話すようになり、抽象的な思考ができるようになりました。それは、現代の4歳児から好まれる「鬼ごっこ」「カード遊び」などのルール遊びに通じます。ゲームの起源の2つ目は、トレーニングです。ルール遊びを理解することを通して、社会生活のルールの学習をトレーニングとして積み重ねるようになったと考えられます。ゲームの三大要素の1つに重ね合わせると、トレーニングとしてルールがあることです。ルールとは、ゲームでいう武器を揃えることや戦略に当たります。(3)シミュレーションをするため -勝ち負け約1万数千年前に農業革命が起こり、人間は、食料という富を蓄積し、定住するようになりました。すると、部族同士の縄張り争いや略奪、つまり戦争が頻発するようになりました。また、食料の取り置きが可能になったため、時間の余裕ができるようになりました。その暇つぶしや娯楽として、戦いのまねごと、シミュレーションをするようになったでしょう。それは、現代の大人からも好まれるスポーツなどの競技に通じます。ゲームの起源の3つ目は、シミュレーションです。競技で勝ち負けの結果を重視することを通して、実際の社会生活をうまく切り抜けるシミュレーションの能力を発達させるようになったと考えられます。ゲームの三大要素の1つに重ね合わせると、シミュレーションとして勝ち負けがあることです。勝ち負けとは、ゲームでいう得点、生死、結果に当たります。このように、ゲームが「ある」のは、コミュニケーション、トレーニング、そしてシミュレーションをして、生存や生殖に有利になる手段として発達したからと言えます。人類は、「ホモサピエンス」(賢い人)と呼ばれますが、それだけでなく、「ホモ・ルーデンス」(遊ぶ人)とも呼ばれています。これは、遊びという現実から離れた想像力を持つ人類という意味です。ただし、その想像力の賜物(たまもの)であるゲームが、これからの技術革新によって、生活を支える手段を超えて、生活(人生)のすべて、つまり目的そのものになってしまう時代に来ています。どうすれば良いの?それでは、そんな生活と結び付きを強めるゲームの特徴を踏まえて、ゲーム依存症にどうすれば良いのでしょうか? その対策を主に3つ挙げてみましょう。(1)オフラインの時間を設ける ―ゲームの制限ウェイドは、オアシスの運営者となり、新しい取り組みを進めます。彼は、「3つ目の変更はいまいちウケなかったけど、火曜日と木曜日はオアシスを休みにしたんだ。」「人には現実で過ごす時間も必要だよ」と言っています。1つ目の対策は、オフラインの時間を設ける、つまりゲームの制限です。たとえば、韓国では、オンラインゲームをするためのIDが必要で、ユーザーが16歳未満の場合は、0時から6時までオフラインになるシャットダウン制が設けられています(「シンデレラ法」)。個人だけでなく、家族や社会としての取り組みも重要になるでしょう。たとえば、家族全員でオフラインにする時間帯を設定するなど家族の一体感も利用できます。また、オフラインによる制限の程度は、アルコール依存症や薬物依存症などの物質の依存症と、過食嘔吐(摂食障害)や抜毛症や自傷行為(境界性パーソナリティ)などの行動の依存症の中間であると考えることができます。もちろん、ゲームをアルコールや薬物のように完全に断つ制限ができれば一番良いです。たとえば、それは、ゲームのメインアカウントを消去すること、刺激(キュー)となる通知も来ないようにすることです。しかし、ゲームは、デジタル機器との結び付きが強く、食べること、毛を抜くこと、リストカットをすることと同じくらい身近に溢れ手軽にできてしまう行動です。そのため、まず日常生活に差し障らない上限のお金や時間を決めて制限するのが現実的でしょう(ハームリダクション)。(2)現実の世界で社会生活をする ―「リアル」な体験ウェイドは、現実の世界で、サマンサ(アルテミスの実名)に「ここってゆっくりだね。風も人も」と言います。サマンサの住まいは自然の緑に囲まれており、オアシスの無機的な世界とのギャップに気付かされ、見ている私たちもほっとします。ラストシーンで、オアシスの開発者のハリデーはウェイドに「ようやく分かったんだよ。確かに現実はつらいし、苦しいし」「でも、唯一、現実の世界でしか、うまい飯は食えないってな。なぜなら、現実だけがリアルだから」と言っています。2つ目の対策は、現実の世界で社会生活をする、つまり「リアル」な体験です。つまり、ただゲームをしなければ良いというわけではなく、もともと人間に必要な社会生活を十分にすることです。なぜなら、私たちの脳は、原始の時代から大きく変わってはいないからです。そのために、ゲーム以外の、たとえば、相手に直接会ったり、スポーツをするなど、ゲームの代わりになる達成感や連帯感をあえて見いだし、安心感のない適度なストレスをあえて味わうことです。(3)子供に予防する ー低年齢化の予防ハリデーの子供時代、テレビゲームばかりしている様子が当たり前のように映し出されます。3つ目は、子供に予防する、つまり低年齢化の予防です。たとえば、使用時間帯と使用時間制限を書面にするなど、親子でルール作りをする取り組みです(ペアレンタル・コントロール)。フィルタリング機能やタイマー機能を駆使することもできます。同時に、先ほど触れたように、ほかの「リアル」な体験を一緒にすることです。学校や病院などの理解者、第三者を介入させるのも一案です。子供の予防対策が重要な理由は、ゲームの開始年齢が早いほど、ゲーム依存症の発症リスクが上がることが分かっているからです。子供の脳は、大人よりも刺激に敏感で、影響を受けやすいです(可塑性)。そして、影響を受けたら、大人よりも回復しにくいです。だからこそ、より刺激(嗜癖性)の強い、アルコールとタバコは20歳から、パチンコやポルノは18歳からと法律的に制限されています。ちなみに、スマートフォンのアプリでぐずる乳児をあやす、いわゆる「スマホ育児」は、どうでしょうか? とても危ういです。なぜなら、乳児には刺激が強すぎるからです。実際に、日本小児科医会からは「スマホに子守りをさせないで!」というポスターが出され、問題の提言がされています。現時点で、子供へのスマートフォンは制限されていないので、実質0歳から見せることができます。タバコは、麻薬へのゲートウェイ・ドラッグと言われます。「スマホ育児」は、ゲーム依存症への「ゲートウェイ・デジタルドラッグ」と言えるかもしれないです。よって、子供に早くからその「味」を覚えさせない取り組みが重要になります。そういう意味では、今後の社会的な取り組みとしては、刺激の強いゲームの宣伝を規制することになるでしょう。これは、ゲーム依存症の特徴でも触れたように、子供をなるべくゲームの刺激にさらさないことです。海外で映画の喫煙シーンがR指定になっているように、手がかり刺激(キュー)への反応性を高めなくするためです。私達の未来の生き方は? ―「幻」か「リアル」かパーシヴァルが「オアシスでは、結婚もできるし、離婚もできる」と説明するシーンがあります。その後、「オアシスで現実の世界で見つけられないものをやっと見つけた。生きがいとか。友達とか。愛も見つけた」とオアシスの住人に高らかに語るシーンもあります。彼はオアシスで大まじめで苦労もしています。自分は頼りにされていると実感もしています。オアシスで生きることが、人生そのものになっています。ストーリーの中では、現実の世界とうまくつながり、ハッピーエンドになりました。しかし、もしその達成感や連帯感、そして苦労さえもが、AI(人口知能)によって本人に都合良く作られたものだったらどうでしょうか?その答えに近いことをアルテミス(サマンサ)が答えています。彼女は、パーシヴァルに「あんたが見てるのは、私が見せたいと思ってる私」「私の夢に恋してるの」「あんたはリアルの世界に生きてない」「あんたが生きてるのは幻の中」と言い放っています。サマンサの父親は、課金による借金で強制労働をさせられて、現実の世界で死んでいました。彼女は、その敵討ちのためにオアシスの宝探しレースに参加していたのでした。彼女は、実は駆け引きに長けた現実主義者なのでした。ゲームと現実の世界の決定的な違いは、「幻」か「リアル」かです。「リアル」とは、単に食べ物が美味しい、セックスが気持ち良いだけでなく、仕事や人間関係がうまくいかないで逃げ出したくなる生々しい苦しさや葛藤も含まれます。そして、その「リアル」な苦労があるからこそ、些細な喜びにも意味を見いだせます。そして、苦労するからこその「リアル」な人間的成長があります。たとえば、山頂まで自分で登るのと、VRゴーグルを着けて空を飛んで登った気分になるのとでは、山頂に立つ喜びの「味」やそれを感じる「舌」の感度がまったく変わってくるということです。現在のゲームでも、時間とお金をかければ、自分に都合の良い理想の親友、パートナー、そして子供をつくることができます。それは、ユーザーが満足することを最優先にした「友情ごっこ」「恋愛ごっこ」「子育てごっこ」というコンテンツです。そこに、「リアル」な苦労はありません。その「幻」をどこまで生活(人生)の一部にするかです。つまり、「幻」をどこまで「リアル」の代わりとして望むかということです。私たちの未来の生き方が問われてきます。その生き方を見極めるために、3つの価値観を考えてみましょう。(1)「こうでなければならない」1つ目は、「こうでなければならない」という価値観です。これは、これまでの社会の価値観です。その社会構造としては、貧富の格差がありました。これは、約1万数千年前の農業革命によって生まれ、200年前の産業革命によって広がりました。その社会を生き残る個人の価値観としても、たとえば「親や先生の言うことを聞かなければならない」「友達と仲良くしなければならない」「勉強しなければならない」「仕事をしなければならない」「出世しなければならない」「結婚して子供を生まなければならない」「子育てをしなければならない」「子供を良い学校に行かせなければならない」「親の介護をしなければならない」という義務感がありました。そこには、親をはじめとする社会の同調圧力が個人に対して機能していました。同時に、その価値観に従ってさえいればうまくいくので、個人としても、あまり深く考えなくても良かったのでした。良く言えば、受け身で生きていれば良かった時代でした。(2)「どうであっても良い」ところが、時代が変わりつつあります。20世紀後半の情報革命により、社会よりも個人に重きがますます置かれるようになりました。「かけがえのない自分」「特別な存在」という自意識を根っこに、忍耐や自己犠牲よりも、個性や自己実現が尊ばれるようになりました。このような多様化した社会では、もはや「こうでなければならない」という価値観は通じにくくなります。そして、AI(人口知能)の登場です。貧富の格差を生み出す「面倒な仕事」がすべてAI化されたら、社会はどうなるでしょうか?2つ目は、「どうであっても良い」という価値観です。これは、これからの社会の価値観になるでしょう。2040年頃に「シンギュラリティ(技術的特異点)」というAIが人間の知能を超える転換点を迎えると言われています。その頃には、「生活革命」が起きるでしょう。それは、人間が何もしなくても生活(人生)が送れることです。ストーリーの設定である2045年のオアシスのように、「食う、寝る、遊ぶ(VRの世界で過ごす)」という生活が現実になるでしょう。この点で、現代の「ひきこもり」は、未来の生活を先駆けていると言えるかもしれません。彼らがますます増えているのも、彼らこそが時代の最先端だからとも言えるかもしれません。(3)「こうありたい」ただし、果たしてその生活は自分が望んでいるものでしょうか? 仕事をしないで遊んで暮らせているから、得しているようにも見えます。しかし、実はその分、何かを失って損しているかもしれないです。その生活は、安楽かもしれませんが、退屈で楽しくないかもしれません。なぜなら、やはり「リアル」な苦労をしていないからです。たとえば、それは、「友達とけんかする」「第一志望の学校に落ちる」「がんばっても仕事がうまく行かない」「交際相手から振られる」「夫婦喧嘩をする」「子供の夜泣きで眠れない」「子供が反抗期になる」「親が認知症になる」などの生々しい人生経験です。これらの「リアル」な苦労をしてこそ得られる人間的成長やそれを乗り越えた時の喜びがあります。なぜなら、先ほどにも触れましたか、私たちの脳は、ほとんど原始の時代のままだからです。原始の時代の環境と同じく、苦労することもセットであってこそ脳は恒常性(ホメオスタシス)を保つからです。ちょうど飽食の現代だからと言って食べ過ぎたりお酒を飲み過ぎたりすると、また便利な時代だからと言って運動不足になると不健康になるのと同じです。AIの時代だからと言って、ストレスフリー、つまり「ストレス不足」になると、不健康になるとも言えるでしょう。それでは、ストレスフルながらも人間的成長やその喜びを得るための価値観とは何でしょうか?3つ目は、「こうありたい」という価値観です。たとえば、けんかしながらも相手の気持ちに思いをはせることで、相手のことをより深く理解できるようになります。雑務を含め自分が最初から最後までかかわった仕事だからこそ思い入れや、やりがいを感じます。腹を立てながらも粘り強く子供の面倒を見ることで子供への愛情が深まり、そして子供からの愛着も深まります。逆に言えば、AIを相手にしていたら、「リアル」なコミュ力は高まりません。AIに仕事を任せたら、仕事をこなす能力も思い入れも高まりません。AIに子育てを任せたら、子供が懐くのはAIであり、自分ではなくなるかもしれません。つまり、自分が納得して「こうありたい」と主体的に思う気持ちが重要になっていきます。そして、その程度は、人それぞれになっていくでしょう。それは、未来の社会構造を大きく揺るがす、文化の較差と言えます。進化心理学的に言えば、受け身なままで安楽に生きれば、遺伝子(ジーン)も文化(ミーム)も残せません。残す人が、その先の未来をつくります。つまり、何をしたいか、何を与えたいか、そして何を残したいかは自分次第であることをますます問われる時代になってきました。そして、どういう自分になりたいか、どういう生き方を子供(次の世代)に伝えたいか、そしてどういう社会をつくっていきたいかを考えさせられます。「レディプレーヤー1」とは?「レディプレーヤー1」とは、初期のテレビゲームの最初に表示される「プレーヤー1、準備を」という意味です。原作者の思い入れからタイトルとされました。これを先ほどの3つの生き方に重ね合わせると、かつて人生はプレーヤーの1人としてクリアすべきという価値観がありました。つまり、人生は苦労しなければならないという考え方です。今や、人生はプレーヤー1(主役)として好きに生きていける価値観が広がりつつあります。これは、人生は苦労しなくても良いという考え方です。そして、その先は、「リアル」な人生のプレーヤー1(主役)としての「レディ」(心構え)をより意識する価値観が生き残ると言えるでしょう。つまり、人生は苦労したいという考え方です。この映画から、「リアル」な人生という苦労する「ゲーム」を通して、今、その瞬間の苦労をあえて買って出る、その苦労に意味付けをすることの大切さに気付くことができるのではないでしょうか? そして、「幻」への受け身ではなく、「リアル」への働きかけの大切さをより学ぶことができるのではないでしょうか?■関連記事(外部サイト含む)2019年サンプルスライド「嗜癖性障害」「カイジ」と「アカギ」(前編)【ギャンブル依存症とギャンブル脳】酔いがさめたら、うちに帰ろう。(前編)【アルコール依存症】酔いがさめたら、うちに帰ろう。(後編)【アルコール依存症】だめんず・うぉ~か~【共依存】1)スマホゲーム依存症:樋口進、内外出版社、20182)インターネット・ゲーム依存症:岡田尊司、文春新書、20153)進化発達心理学―ヒトの本性の起源:D.F.ビョークランドほか、新曜社、2008

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セリンクロの登場がアルコール依存症治療を継続させるきっかけに

 2019年3月28日、大塚製薬株式会社は、同社の製造販売する飲酒量低減薬ナルメフェン(商品名:セリンクロ)が発売されたことを機し、都内でプレスセミナーを開催した。セミナーでは、アルコール依存症の現状と治療の最新情報が解説された。推定患者数107万のうち受診者はわずか5万人 セミナーでは、「アルコール依存症をとりまく現状と治療 新しい診断治療ガイドラインを踏まえて」をテーマに、樋口 進氏(久里浜医療センター 院長)が講師としてレクチャーを行った。 わが国の飲酒実態とアルコール依存症治療のギャップに触れ、飲酒量全体は横ばいまたは微減となっている中で、アルコール依存症患者は約107万人と推定されているが、実際に治療を受けている患者は、約5万人とかなりの未診療患者がいると指摘した。この治療ギャップを埋めるためにも「医療連携の促進・地域の取り組み・軽症例のプライマリケアでの受診・診療ガイドラインの作成」などの取り組みが必要と同氏は提起する。重症依存症になる前に アルコール依存症の治療目標は、「飲酒を完全に断ち続けることが、最も安全かつ安定的」とされているが、そもそも患者が医療機関を受診しなかったり、治療中断をするために難渋しているという。そうした状況を変える取り組みとして、同氏が所属する久里浜医療センターでは、アルコール依存症手前の患者を対象に「プレアルコホリック外来」が開設されている。同外来では、アルコールの有害使用者を対象に、1ヵ月に1回外来個人精神療法とミーティングを行うもので、まず6ヵ月の断酒に挑戦し、その後断酒または節酒をするか患者に決めてもらうという。また、2017年4月からは「減酒外来」も開設し、この外来には比較的社会機能が保たれている患者が、自分の意思で来院するという。受診理由の多くは男女ともに「ブラックアウト(一時的記憶喪失)」であり、「社会機能が保たれているうちに、介入・進行予防をすることが重要」と同氏は早期治療の必要性を強調する。治療継続に期待できるナルメフェン(商品名:セリンクロ) 軽症例からの早期介入に使える治療薬が、3月より発売されたナルメフェン(商品名:セリンクロ)である。ナルメフェンの効果、安全性について行われた国内第III相試験では、アルコール依存症患者(DSM-IV-TR)と診断された20歳以上の男女666例のうち、ナルメフェン10mg群(180例)、同20mg群(242例)、プラセボ群(244例)に分け、24週、プラセボ対照、無作為化、多施設共同二重盲検並行群間比較試験で行われた。主要評価項目は、12週目におけるHDD(多量飲酒日)数*のベースラインからの変化量である。その結果、ベースラインからの変化量はプラセボ群で-7.91日/月であったのに対し、ナルメフェン10mg群で-12.09日/月、ナルメフェン20mg群で-12.25日/月とナルメフェン群で有意な減少を示した。安全性については、有害事象として悪心、めまい、傾眠などが報告されたが、重篤なものはなかった。以上の結果を受け、「減酒のための治療薬の登場により、患者に治療継続をさせるきっかけができる」と同氏は期待をにじませる。*1日のアルコール消費量が男性60g、女性40gを超えた日の1ヵ月あたりの日数新ガイドラインの重点は「軽依存症患者」「非専門医」に重点 次に2018年に上梓された『新アルコール・薬物使用障害の診断治療ガイドライン』について触れ、新ガイドラインでは「軽依存症」「有害な使用」に焦点をおいた内容であること、非専門医でも対応できる基準を示していることを説明した。また、アルコール依存症の治療目標に関する推奨事項は「断酒とその継続」としながらも、選択肢の1つとして飲酒量低減を目標にして、失敗時の断酒への切り替え、軽症依存症では飲酒低減も目標になりうるなど柔軟な目標設定をしていることを説明した。そのほか、断酒への薬物治療としては、第1選択薬はアカンプロサートが推奨され、断酒への動機付けなどの第2選択薬としてジスルフィラムシアナミドが、飲酒量低減を目標にする場合はナルメフェンを考慮すると説明した。 最後に、国は施策として「アルコール健康障害対策基本法」を制定するとともに、依存症拠点機関事業も実施し、アルコール依存症の対策を行っていると説明。「今後、各地域で依存症対策事業も開始されるので、アルコール依存症を非専門の医師が診療する機会も増えると思う。今後関係する学会や研究会も開催されるので、こうした場で知見を吸収してもらいたい」と述べ、セミナーを終えた。

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アルコール依存症患者の再入院とBMIや渇望との関連

 常習性の飲酒、渇望、過食は、共通の病理学的メカニズムを有している。ドイツのフリードリヒ・アレクサンダー大学エアランゲン=ニュルンベルクのChristian Weinland氏らは、BMIや渇望がアルコール依存症入院患者のアウトカムを予測するかどうかを調査した。Progress in Neuro-psychopharmacology & Biological Psychiatry誌2019年3月2日号の報告。 早期に禁酒したアルコール依存症入院男性患者101例および女性患者72例を対象に、プロスペクティブ研究を実施した。渇望は、Obsessive-Compulsive Drinking Scale(OCDS)スコアを用いて定量化した。24ヵ月以上のアルコール関連再入院を記録した。 主な結果は以下のとおり。・男性では、より高いBMIは、アルコール関連再入院と関連しており(中央値:26.1kg/m2 vs. 23.1kg/m2、p=0.007)、より高頻度(ρ=0.286、p=0.004)で、より早期(ρ=-0.256、p=0.010)の再入院との相関が認められた。・これらの関連性は、活発な喫煙者のサブグループ(79例)においてより強く認められた([アルコール関連再入院]中央値:25.9kg/m2 vs. 22.3kg/m2、p=0.005、[高頻度]ρ=0.350、p=0.002、[早期]ρ=-0.340、p=0.002)。・女性では、BMIは有意な予測因子ではなかった。・1回以上の再入院があった男性では、そうでない男性と比較し、OCDSスコアが高く(OCDS-total、OCDS-obsessive、OCDS-compulsive、p<0.040)、OCDSスコアは、再入院の高頻度(男性:OCDS-total、OCDS-obsessive、OCDS-compulsive、ρ>0.244、p<0.014、女性:OCDS-compulsive、ρ=0.341、p=0.003)と初回再入院までの期間短縮(男性:OCDS-total、OCDS-compulsive、ρ<-0.195、p<0.050、女性:OCDS-compulsive、ρ=-0.335、p=0.004)との相関が認められた。・OCDSスコアにより、男性におけるBMIとアウトカムとの関連は9~19%説明可能であった。 著者らは「BMIおよび渇望は、アルコール依存症入院患者における再入院の予測因子である。このことは、将来の再入院を予防するために使用できる可能性がある」としている。■関連記事アルコール関連での緊急入院後の自殺リスクに関するコホート研究飲酒運転の再発と交通事故、アルコール関連問題、衝動性のバイオマーカーとの関連アルコール依存症に対するナルメフェンの有効性・安全性~非盲検試験

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急性アルコール摂取による負傷リスク、男女で差

 飲酒による負傷リスクについて、性別、飲酒頻度、負傷の原因(交通事故、暴力、転倒など)によって違いがあるかを、米国・Alcohol Research GroupのCheryl J. Cherpitel氏らが、分析を行った。Alcohol and Alcoholism誌オンライン版2019年3月11日号の報告。 イベント後6時間以内に救急部(ED)に搬送された負傷患者1万8,627例についてケース・クロスオーバー分析を行った。 主な結果は以下のとおり。・男女間での飲酒による負傷リスクは、3杯以下では同等であった(男性OR:2.74、女性OR:2.76)。・大量飲酒における負傷リスクは、女性において男性よりも高く、3.1~6杯(OR:0.60、CI:0.39~0.93)および6.1~10杯(OR:0.50、CI:0.27~0.93)で、飲酒量の相互作用による性差(gender by volume interaction:GVI)が有意に大きかった。・5回/月以上飲酒をしていた女性は、飲酒量に関係なく男性よりも負傷リスクが高く、5回/月未満で3杯以下の女性(OR:0.51、CI:0.28~0.92)および6.1~10杯の女性(OR:0.39、CI:0.18~0.82)よりもGVIの強い関連が認められた。・女性では、6杯未満での交通事故に関連するものを除き、男性よりも負傷リスクが高く、GVIは、3.1~6杯でほかの原因による負傷についてのみ有意であった(OR:0.23、CI:0.09~0.87)。 著者らは「大量飲酒の頻度に関係なく、女性は男性よりも飲酒による負傷リスク(交通事故関連を除く)が高いことが示唆された」としている。■関連記事妊娠中の飲酒、子供の認知機能に及ぼす影響飲酒運転の再発と交通事故、アルコール関連問題、衝動性のバイオマーカーとの関連アルコール依存症に対するナルメフェンの有効性・安全性~非盲検試験

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