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再発性多発軟骨炎〔RP:relapsing polychondritis〕

1 疾患概要■ 概念・定義再発性多発軟骨炎(relapsing polychondritis:RP)は、外耳の腫脹、鼻梁の破壊、発熱、関節炎などを呈し全身の軟骨組織に対して特異的に再発性の炎症を繰り返す疾患である。眼症状、皮膚症状、めまい・難聴など多彩な症状を示すが、呼吸器、心血管系、神経系の病変を持つ場合は、致死的な経過をたどることがまれではない。最近、この病気がいくつかのサブグループに分類することができ、臨床的な特徴に差異があることが知られている。■ 疫学RPの頻度として米国では100万人あたりの症例の推定発生率は3.5人。米国国防総省による有病率調査では100万人あたりの症例の推定罹患率は4.5人。英国ではRPの罹患率は9.0人/年とされている。わが国の全国主要病院に対して行なわれた疫学調査と人口動態を鑑みると、発症年齢は3歳から97歳までと広範囲に及び、平均発症年齢は53歳、男女比はほぼ1で、患者数はおおよそ400~500人と推定された。RPは、平成27年より新しく厚生労働省の指定難病として認められ4~5年程度経過したが、筆者らが疫学調査で推定した患者数とほぼ同等の患者数が実際に医療を受けているものと思われる。生存率は1986年の報告では、10年生存率55%とされていた。その後の報告(1998年)では、8年生存率94%であった。筆者らの調査では、全症例の中の9%が死亡していたことから、90%以上の生存率と推定している。■ 病因RPの病因は不明だが自己免疫の関与が報告されている。病理組織学的には、炎症軟骨に浸潤しているのは主にCD4+Tリンパ球を含むリンパ球、マクロファージ、好中球や形質細胞である。これら炎症細胞、軟骨細胞や産生される炎症メディエーターがマトリックスメタロプロテナーゼ産生や活性酸素種産生をもたらして、最終的に軟骨組織やプロテオグリカンに富む組織の破壊をもたらす。その発症に関する仮説として、初期には軟骨に向けられた自己免疫反応が起こりその後は、非軟骨組織にさらに自己免疫反応が広がるという考えがある。すなわち、病的免疫応答の開始メカニズムとしては軟骨組織の損傷があり、軟骨細胞または細胞外軟骨基質の免疫原性エピトープを露出させることにある。耳介の軟骨部分の穿孔に続いて、あるいはグルコサミンコンドロイチンサプリメントの摂取に続いてRPが発症したとする報告は、この仮説を支持している。II型コラーゲンのラットへの注射は、耳介軟骨炎を引き起こすこと、特定のHLA-DQ分子を有するマウスをII型コラーゲンで免疫すると耳介軟骨炎および多発性関節炎を引き起こすこと、マトリリン-1(気管軟骨に特異的な蛋白の一種)の免疫はラットにRPの呼吸障害を再現するなどの知見から、軟骨に対する自己免疫誘導の抗原は軟骨の成分であると考えられている。多くの自己免疫疾患と同様にRPでも疾患発症に患者の腫瘍組織適合性抗原は関与しており、RPの感受性はHLA-DR4の存在と有意に関連すると報告されている。臨床的にも、軟骨、コラーゲン(主にII型、IX、XおよびXIの他のタイプを含む)、マトリリン-1および軟骨オリゴマーマトリックスタンパク質(COMP)に対する自己抗体はRP患者で見出されている。いずれの自己抗体もRP患者の一部でしか認められないために、RP診断上の価値は認められていない。多くのRP患者の病態に共通する自己免疫反応は明らかにはなっていない。■ 症状1)基本的な症状RPでは時間経過とともに、あるいは治療によって炎症は次第に治まるが、再発を繰り返し徐々にそれぞれの臓器の機能不全症状が強くなる。軟骨の炎症が基本であるが、必ずしも軟骨細胞が存在しない部位にも炎症が認められる事があり、注意が必要である。特有の症状としては、軟骨に一致した疼痛、発赤、腫脹であり、特に鼻根部(鞍鼻)や耳介の病変は特徴的である。炎症は、耳介、鼻柱、強膜、心臓弁膜部の弾性軟骨、軸骨格関節における線維軟骨、末梢関節および気管の硝子軟骨などのすべての軟骨で起こりうる。軟骨炎は再発を繰り返し、耳介や鼻の変形をもたらす。炎症発作時の症状は、軟骨部の発赤、腫脹、疼痛であるが、重症例では発熱、全身倦怠感、体重減少もみられる。突然の難聴やめまいを起こすこともある。多発関節炎もよく認められる。関節炎は通常、移動性で、左右非対称性で、骨びらんや変形を起こさない。喉頭、気管、気管支の軟骨病変によって嗄声、窒息感、喘鳴、呼吸困難などさまざまな呼吸器症状をもたらす。あるいは気管や気管支の壁の肥厚や狭窄は無症状のこともあり、逆に二次性の気管支炎や肺炎を伴うこともある。わが国のRPにおいてはほぼ半数の症例が気道病変を持ち、重症化の危険性を有する。呼吸器症状は気道狭窄によって上記の症状が引き起こされるが、狭窄にはいくつかの機序が存在する。炎症による気道の肥厚、炎症に引き続く気道線維化、軟骨消失に伴う吸・呼気時の気道虚脱、両側声帯麻痺などである。気道狭窄と粘膜機能の低下はしばしば肺炎を引き起こし、死亡原因となる。炎症時には気道過敏性が亢進していて、気管支喘息との鑑別を要することがある。この場合には、吸引、気管支鏡、気切、気管支生検などの処置はすべて死亡の誘因となるため、気道を刺激する処置は最小限に留めるべきである。一方で、気道閉塞の緊急時には気切および気管チューブによる呼吸管理が必要になる。2)生命予後に関係する症状生命予後に影響する病変として心・血管系症状と中枢神経症状も重要である。心臓血管病変に関しては男性の方が女性より罹患率が高く、また重症化しやすい。これまでの報告ではRPの患者の15~46%に心臓血管病変を認めるとされている。その内訳としては、大動脈弁閉鎖不全症(AR)や僧帽弁閉鎖不全症、心筋炎、心膜炎、不整脈(房室ブロック、上室性頻脈)、虚血性心疾患、大血管の動脈瘤などが挙げられる。RP患者の10年のフォローアップ期間中において、心血管系合併症による死亡率は全体の39%を占めた。筆者らの疫学調査では心血管系合併症を持つRP患者の死亡率は35%であった。心血管病変で最も高頻度で認められるものはARであり、その有病率はRP患者の4~10%である。一般にARはRPと診断されてから平均で7年程度の経過を経てから認められるようになる。大動脈基部の拡張あるいは弁尖の退行がARの主たる成因である。MRに関してはARに比して頻度は低く1.8~3%と言われている。MRの成因に関しては弁輪拡大、弁尖の菲薄化、前尖の逸脱などで生じる。弁膜症の進行に伴い、左房/左室拡大を来し、収縮不全や左心不全を呈する。RP患者は房室伝導障害を合併することがあり、その頻度は4~6%と言われており、1度から3度房室ブロックのいずれもが認められる。高度房室ブロックの症例では一次的ペースメーカが必要となる症例もあり、ステロイド療法により房室伝導の改善に寄与したとの報告もある。RP患者では洞性頻脈をしばしば認めるが、心房細動や心房粗動の報告は洞性頻脈に比べまれである。心臓血管病変に関しては、RPの活動性の高い時期に発症する場合と無症候性時の両方に発症する可能性があり、RP患者の死因の1割以上を心臓血管が担うことを鑑みると、無症候であっても診察ごとの聴診を欠かさず、また定期的な心血管の検査が必要である。脳梗塞、脳出血、脳炎、髄膜炎などの中枢神経障害もわが国では全経過の中では、およそ1割の患者に認める。わが国では中枢神経障害合併症例は男性に有意に多く、これらの死亡率は18%と高いことが明らかになった。眼症状としては、強膜炎、上強膜炎、結膜炎、虹彩炎、角膜炎を伴うことが多い。まれには視神経炎をはじめより重症な眼症状を伴うこともある。皮膚症状には、口内アフタ、結節性紅斑、紫斑などが含まれる。まれに腎障害および骨髄異形成症候群・白血病を認め重症化する。特に60歳を超えた男性RP患者において時に骨髄異形成症候群を合併する傾向がある。全般的な予後は、一般に血液学的疾患に依存し、RPそのものには依存しない。■ RP患者の亜分類一部の患者では気道病変、心血管病変、あるいは中枢神経病変の進展により重症化、あるいは致命的な結果となる場合もまれではない。すなわちRP患者の中から、より重症になり得る患者亜集団の同定が求められている。フランスのDionらは経験した症例に基づいてRPが3つのサブグループに分けられると報告し、分類した。一方で、彼らの症例はわが国の患者群の臨床像とはやや異なる側面がある。そこで、わが国での実態を反映した本邦RP患者群の臨床像に基づいて新規分類について検討した。本邦RP症例の主要10症状(耳軟骨炎、鼻軟骨炎、前庭障害、関節炎、眼病変、気道軟骨炎、皮膚病変、心血管病変、中枢神経障害、腎障害)間の関連検討を行った。その結果、耳軟骨炎と気道軟骨炎の間に負の相関がみられた。すなわち耳軟骨炎と気道軟骨炎は合併しない傾向にある。また、弱いながらも耳軟骨炎と、心血管病変、関節炎、眼病変などに正の相関がみられた。この解析からは本邦RP患者群は2つに分類される可能性を報告した。筆者らの報告は直ちに、Dionらにより検証され、その中で筆者らが指摘した気管気管支病変と耳介病変の間に存在する強い負の相関に関しては確認されている。わが国においても、フランスにおいても、気管気管支病変を持つ患者群はそれを持たない患者群とは異なるサブグループに属していることが確認されている。そして、気管気管支病変を持たない患者群と耳介病変を持つ患者群の多くはオーバーラップしている。すなわち、わが国では気管気管支病変を持つ患者群と耳介病変を持つ患者群の2群が存在していることが示唆された。■ 予後重症度分類(案)(表1)では、致死的になりうる心血管、神経症状、呼吸器症状のあるものは、その時点で重症と考える。腎不全、失明の可能性を持つ網膜血管炎も重症と考えている。それ以外は症状検査所見の総和で重症度を評価する。わが国では、全患者中5%は症状がすべて解消された良好な状態を維持している。67%の患者は、病勢がコントロール下にあり、合計で71%の患者においては治療に対する反応がみられる。その一方、13%の患者においては、治療は限定的効果を示したのみであり、4%の患者では病態悪化または再発が見られている。表1 再発性多発軟骨炎重症度分類画像を拡大する2 診断 (検査・鑑別診断も含む)現在ではRPの診断にはMcAdamの診断基準(1976年)やDamianiの診断基準(1976年)が用いられる(表2)。実際上は、(1)両側の耳介軟骨炎(2)非びらん性多関節炎(3)鼻軟骨炎(4)結膜炎、強膜炎、ぶどう膜炎などの眼の炎症(5)喉頭・気道軟骨炎(6)感音性難聴、耳鳴り、めまいの蝸牛・前庭機能障害、の6項目の3項目以上を満たす、あるいは1項目以上陽性で、確定的な組織所見が得られる場合に診断される。これらに基づいて厚生労働省の臨床調査個人票も作成されている(表3)。表2 再発性多発軟骨炎の診断基準●マクアダムらの診断基準(McAdam's criteria)(以下の3つ以上が陽性1.両側性の耳介軟骨炎2.非びらん性、血清陰性、炎症性多発性関節炎3.鼻軟骨炎4.眼炎症:結膜炎、角膜炎、強膜炎、上強膜炎、ぶどう膜炎5.気道軟骨炎:喉頭あるいは気管軟骨炎6.蝸牛あるいは前庭機能障害:神経性難聴、耳鳴、めまい生検(耳、鼻、気管)の病理学的診断は、臨床的に診断が明らかであっても基本的には必要である●ダミアニらの診断基準(Damiani's criteria)1.マクアダムらの診断基準で3つ以上が陽性の場合は、必ずしも組織学的な確認は必要ない。2.マクアダムらの診断基準で1つ以上が陽性で、確定的な組織所見が得られる場合3.軟骨炎が解剖学的に離れた2ヵ所以上で認められ、それらがステロイド/ダプソン治療に反応して改善する場合表3 日本語版再発性多発軟骨炎疾患活動性評価票画像を拡大するしかし、一部の患者では、ことに髄膜炎や脳炎、眼の炎症などで初発して、そのあとで全身の軟骨炎の症状が出現するタイプの症例もある。さらには気管支喘息と診断されていたが、その後に軟骨炎が出現してRPと診断されるなど診断の難しい場合があることも事実である。そのために診断を確定する目的で、病変部の生検を行い、組織学的に軟骨組織周囲への炎症細胞浸潤を認めることを確認することが望ましい。生検のタイミングは重要で、軟骨炎の急性期に行うことが必須である。プロテオグリカンの減少およびリンパ球の浸潤に続発する軟骨基質の好塩基性染色の喪失を示し、マクロファージ、好中球および形質細胞が軟骨膜や軟骨に侵入する。これらの浸潤は軟骨をさまざまな程度に破壊する。次に、軟骨は軟骨細胞の変性および希薄化、間質の瘢痕化、線維化によって置き換えられる。軟骨膜輪郭は、細胞性および血管性の炎症性細胞浸潤により置き換えられる。石灰化および骨形成は、肉芽組織内で観察される場合もある。■ 診断と重症度判定に必要な検査RPの診断に特異的な検査は存在しないので、診断基準を基本として臨床所見、血液検査、画像所見、および軟骨病変の生検の総合的な判断によって診断がなされる。生命予後を考慮すると軽症に見えても気道病変、心・血管系症状および中枢神経系の検査は必須である。■ 血液検査所見炎症状態を反映して血沈、CRP、WBCが増加する。一部では抗typeIIコラーゲン抗体陽性、抗核抗体陽性、リウマチ因子陽性、抗好中球細胞質抗体(ANCA)陽性となる。サイトカインであるTREM-1、MCP-1、MIP-1beta、IL-8の上昇が認められる。■ 気道病変の評価呼吸機能検査と胸部CT検査を施行する。1)呼吸機能検査スパイロメトリー、フローボリュームカーブでの呼気気流制限の評価(気道閉塞・虚脱による1秒率低下、ピークフロー低下など)2)胸部CT検査(気道狭窄、気道壁の肥厚、軟骨石灰化など)吸気時のみでなく呼気時にも撮影すると病変のある気管支は狭小化がより明瞭になり、病変のある気管支領域は含気が減少するので、肺野のモザイク・パターンが認められる。3)胸部MRI特にT2強調画像で気道軟骨病変部の質的評価が可能である。MRI検査はCTに比較し、軟骨局所の炎症と線維化や浮腫との区別をよりよく描出できる場合がある。4)気管支鏡検査RP患者は、気道過敏性が亢進しているため、検査中や検査後に症状が急変することも多く、十分な経験を持つ医師が周到な準備をのちに実施することが望ましい。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)全身の検索による臓器病変の程度、組み合わせにより前述の重症度(表2)と活動性評価票の活動性(表3)を判定して適切な治療方針を決定することが必要である。■ 標準治療の手順軽症例で、炎症が軽度で耳介、鼻軟骨に限局する場合は、非ステロイド系抗炎症薬を用いる。効果不十分と考えられる場合は、少量の経口ステロイド剤を追加する。生命予後に影響する臓器症状を認める場合の多くは積極的なステロイド治療を選ぶ。炎症が強く呼吸器、眼、循環器、腎などの臓器障害や血管炎を伴う場合は、経口ステロイド剤の中等~大量を用いる。具体的にはプレドニゾロン錠を30~60mg/日を初期量として2~4週継続し、以降は1~2週ごとに10%程度減量する。これらの効果が不十分の場合にはステロイドパルス療法を考慮する。ステロイド減量で炎症が再燃する場合や単独使用の効果が不十分な場合、免疫抑制剤の併用を考える。■ ステロイド抵抗性の場合Mathianらは次のようなRP治療を提唱している。RPの症状がステロイド抵抗性で免疫抑制剤が必要な場合には、鼻、眼、および気管の病変にはメトトレキサートを処方する。メトトレキサートが奏功しない場合には、アザチオプリン(商品名:イムラン、アザニン)またはミコフェノール酸モフェチル(同:セルセプト)を次に使用する。シクロスポリンAは他の免疫抑制剤が奏功しない場合に腎毒性に注意しながら使用する。従来の免疫抑制剤での治療が失敗した場合には、生物学的製剤の使用を考慮する。現時点では、抗TNF治療は、従来の免疫抑制剤が効かない場合に使用される第1選択の生物学的製剤である。最近では生物学的製剤と同等以上の抗炎症効果を示すJAK阻害薬が関節リウマチで使用されている。今後、高度の炎症を持つ症例で生物学的製剤を含めて既存の治療では対応できない症例については、JAK阻害薬の応用が有用な場合があるかもしれない。今後の検討課題と思われる。心臓弁膜病変や大動脈病変の治療では、ステロイドおよび免疫抑制剤はあまり有効ではない。したがって、大動脈疾患は外科的に治療すべきであるという意見がある。わが国でも心臓弁膜病変や大動脈病変の死亡率が高く、PRの最重症病態の1つと考えられる。大動脈弁病変および近位大動脈の拡張を伴う患者では、通常、大動脈弁置換と上行大動脈の人工血管(composite graft)置換および冠動脈の再移植が行われる。手術後の合併症のリスクは複数あり、それらは術後ステロイド療法(および/または)RPの疾患活動性そのものに関連する。高安動脈炎に類似した血管病変には必要に応じて、動脈のステント留置や手術を行うべきとされる。呼吸困難を伴う症例には気管切開を要する場合がある。ステント留置は致死的な気道閉塞症例では適応であるが、最近、筆者らの施設では気道感染の長期管理という視点からステント留置はその適応を減らしてきている。気管および気管支軟化病変の患者では、夜間のBIPAP(Biphasic positive airway pressure)二相性陽性気道圧または連続陽性気道圧で人工呼吸器の使用が推奨される。日常生活については、治療薬を含めて易感染性があることに留意すること、過労、ストレスを避けること、自覚的な症状の有無にかかわらず定期的な医療機関を受診することが必要である。4 今後の展望RPは慢性に経過する中で、臓器障害の程度は進展、増悪するためにその死亡率はわが国では9%と高かった。わが国では気管気管支病変を持つ患者群と耳介病変を持つ患者群の2群が存在していることが示唆されている。今後の課題は、治療のガイドラインの策定である。中でも予後不良な患者サブグループを明瞭にして、そのサブグループにはintensiveな治療を行い、RPの進展の阻止と予後の改善をはかる必要がある。5 主たる診療科先に行った全国疫学調査でRP患者の受診診療科を調査した。その結果、リウマチ・免疫科、耳鼻咽喉科、皮膚科、呼吸器内科、腎臓内科に受診されている場合が多いことが明らかになった。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報難病情報センター 再発性多発軟骨炎(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)聖マリアンナ医科大学 再発性多発軟骨炎とは(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)患者会情報再発性多発軟骨炎患者会ホームページ(患者とその家族および支援者の会)1)McAdam P, et al. Medicine. 1976;55:193-215.2)Damiani JM, et al. Laruygoscope. 1979;89:929-946.3)Shimizu J, et al. Rheumatology. 2016;55:583-584.4)Shimizu J, et al. Arthritis Rheumatol. 2018;70:148-149.5)Shimizu J, et al. Medicine. 2018;97:e12837.公開履歴初回2020年02月24日

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血清BDNF濃度、短時間睡眠を伴う不眠と関連か

 神経系から分泌されるタンパク質である脳由来神経栄養因子(BDNF) は、神経細胞の発生・成長・維持・修復に働くが、ヒトの睡眠の調節にも関与することが示されている。今回、京都大学の降籏 隆二氏らは、血清BDNF濃度と睡眠障害との関連について短時間睡眠を伴う不眠(insomnia with short sleep duration:ISS)に着目し、横断研究を実施した。その結果、ISSが血清BDNF濃度の低下と関連している可能性が示された。Sleep Medicine誌2020年4月号に掲載。 本研究の対象は、東京の総合病院1施設に勤務する看護師から登録された女性577人(35.45±10.90歳)。2015年11~12月に、血清BDNF濃度を測定し、自記式質問票により不眠(入眠困難、中途覚醒、早朝覚醒)の有無、睡眠時間を調査した。ISSは、入眠困難、中途覚醒、早朝覚醒のいずれか1つがあり、睡眠時間が6時間未満のものとした。 主な結果は以下のとおり。・577人のうち、21.3%が不眠と回答し、41.4%が短時間睡眠(6時間未満)であり、最終的にISSとされたのは12.5%だった。・ISS群は、非ISS群と比較して血清BDNF濃度が有意に低かった。・短時間睡眠を対象とした解析では、不眠のある群では、不眠のない群と比較して有意に血清BDNF濃度が低下していたが、正常睡眠時間(6時間以上)では不眠の有無による血清BDNF濃度の差は認められなかった。 著者らは「本研究は、ISSでは血清BDNF濃度が低下することを示した初めての研究であり、これらの結果が睡眠の悪化とBDNFの病態生理学的な関連性を解明するかもしれない」としている。

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「がん免疫」ってわかりにくい?【そこからですか!?のがん免疫講座】第1回

はじめに約1世紀前にW. Coleyが「感染症によりがんが縮む」と報告したことが「がん免疫」の最初とされています1)。その後、20世紀初頭にP. Ehrlichが「免疫ががんから生体を防御している」という考えを唱え、M. BurnetとL. Thomasにより「がん免疫監視機構」としてまとめられました2)。がん免疫療法は期待されつつも長らく臨床応用されないままで、懐疑的に見られた時代もありましたが、近年ついに免疫チェックポイント阻害薬の効果がさまざまながんで証明されたことから、がん治療にパラダイムシフトをもたらしています3,4)。従来の抗がん剤やEGFR阻害薬といった分子標的薬は、一部の薬剤を除き、がん細胞を直接標的にすることでがん細胞の増殖を止めたり殺したりしています。一方、免疫チェックポイント阻害薬は、薬剤ががん細胞に直接作用するわけではなく、免疫細胞に作用することでがんを治療しています。さらに免疫細胞にもさまざまな種類が存在しており、これらのことががん免疫療法の理解を難しくしてしまっています。本連載では、あまり「がん免疫」に詳しくない方にも理解しやすい内容で、5回にわたってがん免疫の基礎から今後の展望まで紹介します。そもそも免疫って何しているの?「がんに対する免疫」について書く前に、「普通の免疫」について簡単に触れたいと思います。現在の死因第1位は皆さんご存じのように「悪性新生物」ですが、過去には死因第1位は「感染症」でした。これは、感染症が生物の生きていくうえで大きな問題になってきたことを示しています。現代でも肺炎は死因として大きなウエイトを占めていますし、悪性新生物という死因であっても最終的には感染症が原因で亡くなる方は非常に多く、常に問題になっています。その感染症の原因となる細菌やウイルスといった病原体から、自分の身を守るために身体に備わっているシステムが「免疫」です。つまり免疫とは、細菌やウイルスといった自分とは違う外来の異物(非自己)を排除し、自分の身体(自己)を守るためのシステムです。皆さんがインフルエンザにかかれば高熱が出ますが、あれは免疫が頑張ってインフルエンザウイルスを排除しようとしている証拠です。「自然免疫」と「獲得免疫」があるヒトの免疫は、大きく「自然免疫」と「獲得免疫」に分けられます(図1)。画像を拡大する自然免疫とは、病原体をいち早く感知し、それを排除する仕組みで、身体を守る最前線に位置しています。主に好中球やマクロファージ、樹状細胞といったものがこの役割を担っており、獲得免疫へ情報を伝達する橋渡しの役割も果たしています。獲得免疫とは、病原体を特異的に見分け、それを「記憶」することで同じ病原体に出会ったときに効率的に病原体を排除できる仕組みです。自然免疫に比べると、応答までにかかる時間は数日と長いですが、一度病原体を「記憶」してしまえば効率よく反応することができます。主にT細胞やB細胞といったリンパ球がこの役割を担っています。自然免疫は特定の病原体に繰り返し感染しても増強することはなく、この点が獲得免疫と異なります。「自己」を免疫が攻撃すると大変なことになる免疫は細菌やウイルスのような「非自己」を攻撃して自分の身体である「自己」を守る、と述べました。ですので、免疫はさまざまな仕組みで「自己」を攻撃しないようにしています。たとえば、われわれの身体ではT細胞ができてくる過程で「自己」を攻撃するようなT細胞を身体の中に極力残さないようにしています。さらに、万が一そういったT細胞が身体の中に残ってしまっても、それらが「自己」を攻撃しないようにする「免疫寛容」というセーフティーネットの仕組みを持っていたりもします。もし、これらの仕組みが働かず、免疫が「自己」を攻撃してしまうと、関節リウマチやSLEに代表される「自己免疫疾患」になってしまいます。このことはがん免疫療法特有の副作用につながってきますので、また次回以降に述べたいと思います。がん細胞も「非自己」として認識されれば免疫系が作用するさて、話をがんに戻します。段々おわかりかと思いますが、がん細胞も細菌やウイルスなどと同じように「非自己」として認識されれば、免疫にとっては排除の対象となるわけなのです。それが「がん免疫」です。「高齢の方は免疫系が落ちていてがんになりやすい」だとか「免疫抑制薬を使用している患者さんはがんになりやすい」といった事実から、「がん細胞に対しても免疫系が働いている」というのは感覚的には理解できるかと思います。それを証明したのがマウスの実験です。遺伝子改変で免疫不全状態になったマウスは、普通の野生型マウスに比べて、明らかに発がんしやすいことが報告されました。一時はがん免疫に対して懐疑的な時代もありましたが、これにより「やはりがん免疫は存在する」ということが徐々に受け入れられ、ついにはがん免疫療法の効果が証明されたのです。がん免疫に大事な「がん免疫編集」という考え方われわれ人間の身体では、1日3,000個くらいのがん細胞ができているといわれます。それが、そう簡単に「がん」になってしまったら大変です。今まで述べてきたように、免疫系が正常に働き、がん細胞を「非自己」として認識して排除することで臨床的な「がん」にはならないとされ、その段階を「排除相」と呼んでいます。一方で、がん細胞の中でも排除されにくいものが残ってしまい、完全には排除されていないものの進展が抑制されている平衡状態の「平衡相」になり、最終的には生存に適したがん細胞が選択され、積極的に免疫を抑制する環境を作り上げて免疫系から逃避してしまう「逃避相」として、臨床的な「がん」になるといわれています。がん細胞と免疫系の関係性をこの「排除相」「平衡相」「逃避相」の3つにまとめた考え方は「がん免疫編集」と呼ばれ5)、現代のがん免疫・がん免疫療法を考えるうえで非常に重要な概念です(図2)。英語ではそれぞれ“exclude”、“equivalent”、“escape”となるので、頭文字をとって“3E”とも呼ばれています。画像を拡大する基本的な話はこの辺にして、次回以降はもう少し臨床に近い話をしたいと思います。1)Wiemann B, et al. Pharmacol Ther. 1994;64:529-564.2)BURNET M. Br Med J. 1957;1:779-786.3)Topalian SL, et al. N Engl J Med. 2012;366:2443-2454.4)Brahmer JR, et al. N Engl J Med. 2012;366:2455-2465.5)Schreiber RD, et al. Science. 2011;331:1565-1570.

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第16回 新ガイドラインで総エネルギー摂取量の設定法はどう変わったか【高齢者糖尿病診療のコツ】

第16回 新ガイドラインで総エネルギー摂取量の設定法はどう変わったかQ1 高齢糖尿病患者の総エネルギー摂取量の決め方は?1)高齢者の栄養状態をどうとらえるか高齢糖尿病患者の栄養状態は個人差が大きく、低栄養と過栄養が混在しています。J-EDIT研究によると、高齢糖尿病患者の実際の総エネルギー摂取量は、男性で1,802±396kcal(31.0±6.8 kcal/kg体重)、女性で1,661±337kcal(33.7±6.9kcal/kg体重)であり、指示量よりも多くとっていました1)。この値は、これまで高齢者に指示していた標準体重当たりエネルギー指示量の25~30kcal/kg体重と乖離しています。一方、高齢糖尿病患者は低栄養を起こしやすく、体重減少やBMI低値となり、総エネルギー摂取量が低下している人もいます。これまでの考え方では、(身長)2×22で求めた標準体重に活動係数をかけて総エネルギー量を求めていました。その根拠は、高齢者を除いた一般住民の疫学調査から、死亡のリスクが最も低いBMIが22であることに基づいています。また、JDCSとJ-EDITの糖尿病患者のプール解析では、最も死亡リスクが低いBMIは22.5以上、25前後であるという結果でした。一方、75歳以上ではBMI 18.5未満の群の死亡リスクが8.1倍と75歳未満と比べて高くなり、後期高齢者では低栄養が死亡リスクに及ぼす影響が著しいことが示されました2)。高齢糖尿病患者ではサルコペニアやフレイルをきたしやすくなりますが、これらの成因には低栄養が大きく関わっており、とくにエネルギー摂取量とタンパク質摂取量の低下が関係しています。2)総エネルギー摂取量の設定の仕方は?上記のことから、高齢糖尿病患者の総エネルギー摂取量は過栄養だけでなく、低栄養やサルコペニア・フレイル予防の観点も考慮しながら決める必要があります。日本糖尿病学会は「糖尿病診療ガイドライン2019」で食事療法について改訂を行い、標準体重ではなくて、年齢を考慮した目標体重を用いた新たな総エネルギー摂取量の設定法を提案しました3)。総エネルギー摂取量(kcal/日)は目標体重(kg)にエネルギー係数(kcal/kg)をかけて求めます(表1)。目標体重の目安は65歳未満では従来通り[身長(m)]2×22ですが、前期高齢者は[身長(m)]2×22~25、後期高齢者も[身長(m)]2×22~25となっています。身体活動レベルと病態によるエネルギー係数(kcal/kg)は、(1)軽い労作:25~30、(2)普通の労作:30~35、(3)重い労作:35~のように設定します。肥満症やフレイルがある場合は、エネルギー係数を柔軟に変えることができるとされています。画像を拡大する3)目標体重当たりのエネルギー摂取と死亡の関係高齢糖尿病患者の追跡調査であるJ-EDIT研究では、目標体重当たりのエネルギー摂取量と6年間の死亡リスクとの間にU字型の関連が認められました(図1)4)。すなわち、約25kcal/kg体重未満の群と約35kcal以上の群で死亡リスクが上昇し、高齢糖尿病患者のエネルギー摂取量は25~35kcal/目標体重が最も死亡のリスクが低いという結果です。目標体重にかけるエネルギー係数は高齢者では25~35になることがほとんどですので、この結果は目標体重をもとにしたエネルギー量の設定が妥当であることを示唆しています。標準体重当たりの摂取エネルギー量の場合も、同様にU字型の関係が認められました。しかし、最も死亡リスクが小さい摂取エネルギー量は31.5~36.4kcal/kgであり、25~30kcal/kg標準体重で摂取エネルギー量を設定すると、摂取量不足になる可能性があります。また、目標体重当たりのエネルギー摂取と死亡の関係は、実体重と死亡との関係に近似していますので、これも目標体重当たりで考えた方がいいという理由の1つになります。画像を拡大する4)従来よりも指示量は増える? 実際に総エネルギー量を算出してみる目標体重による計算法では、従来の標準体重による計算法と比べて総エネルギー摂取量の指示量が多くなることが予想されます。身長150cm、体重53kgの76歳の女性で、目標体重が1.5×1.5×24=54.0kgとなったとき、軽い運動を行っている場合には30をかけてエネルギー摂取量は1,620kcalとなり、1,600kcalを処方することになります。従来であれば標準体重49.5 kgから28をかけて1,386kcalとなり、1,400kcalの食事を処方したと思われ、200~300kcal多い食事を処方することになります。こうした目標体重によるエネルギー量の設定法は、高齢者においてメタボ対策から低栄養・フレイル対策にシフトしていく観点からみると有用である可能性があります。しかし、現在の食事量や体重をみながら段階的に設定することと、身体機能、心理状態、体重、血糖コントロール状況、食事内容などの推移を見ながら、適宜変更していく必要があります。また、十分に摂取できない高齢者に対して、エネルギー摂取量を増やす方法についても個別に検討すべきであると思います。Q2 タンパク質摂取量はどのように決めますか?1)フレイル・サルコペニア予防の観点からは?フレイルやサルコぺニアの発症や進行を予防するためには、十分なタンパク質の摂取が大切です。欧州栄養代謝学会(ESPEN)のガイドラインでは、高齢者の筋肉の量と機能を維持するためには少なくとも1.0~1.2 g/kg体重/日のタンパク質摂取が推奨されています5)。また、急性疾患または慢性疾患がある高齢者では1.2~1.5 g/kg体重のタンパク質摂取が勧められています。高齢糖尿病女性の3年間の追跡調査でも1.0g/kg体重以上のタンパク質摂取の群の方が1.0g/kg体重未満の群と比べて膝進展力低下や身体機能低下が少ないという結果が得られています6)。2)タンパク質摂取を勧める理由タンパク質を十分にとる理由は、タンパク質中のアミノ酸であるロイシンが、筋肉のタンパク質合成に働くためです。ロイシンは肉類だけでなく、魚、乳製品、卵、大豆製品にも多いので、さまざまなタンパク質をバランス良くとるよう勧めることが大切です。なかなかタンパク質がとれない高齢者には、温泉たまご、魚の缶詰、プロセスチーズなどタンパク質やロイシンの多い食品を付加するような指導を行います。朝のタンパク質摂取の割合が低いとフレイル・サルコペニアになりやすいという報告もあるので、朝にタンパク質をとることを勧めるといいと思います。3)タンパク質摂取と腎機能との関係一方、タンパク質の摂取量を増やした場合には腎機能の悪化が懸念されます。しかしながら、高齢者のタンパク質摂取増加と腎機能低下との関係は明らかではありません。高齢者の追跡調査ではタンパク質摂取量とシスタチンCから求めたeGFRcys低下との関連は認められませんでした7)。顕性アルブミン尿がない2型糖尿病患者6,213人(平均年齢65歳)の追跡調査でもタンパク質摂取の最も低い群ではむしろ、CKDの悪化が見られています8)。高齢者のタンパク質制限に関してもエビデンスが乏しく、13のRCT研究のメタ解析ではタンパク質制限がeGFR低下を抑制しましたが9)、うち高齢者の研究は2件のみです。進行したCKDを合併した糖尿病患者のタンパク質制限は腎機能の悪化を抑制したという報告もありますが10)、MDRD trialのようにタンパク質制限群では死亡率の増加が認められた報告もあります11)。また、本邦の糖尿病を含むCKD患者にタンパク質制限を行った報告では65歳以上ではタンパク質摂取が最も多い群で死亡リスクが減少しています12)。したがって、重度の腎機能障害がなければ、フレイル・サルコぺニア予防のためには充分なタンパク質を摂ることが望ましいように思われます。腎症4期の患者では腎機能、骨格筋量、筋力などの変化をみながら、タンパク質制限か十分なタンパク質摂取の確保かを個別に判断する必要があります。また、高齢者ではタンパク質制限のアドヒアランスが不良であることが多いことにも注意する必要があります。1)Yoshimura Y, et al. Geriatr Gerontol Int. 2012; Suppl: 29-40.2)Tanaka S, et al. J Clin Endocrinol Metab. 2014;99: E2692-2696.3)日本糖尿病学会 編著.糖尿病診療ガイドライン2019.南江堂,東京, 31-55, 2019.4)Omura T, et al. Geriatr. Gerontol. Int. 2019;1–7.5)Deutz NE, et al. Clin Nutr. 2014; 33:929-936.6)Rahi B, et al. Eur J Nutr. 2016; 55:1729-1739.7)Beasley JM, et al. Nutrition. 2014; 30:794-799.8)Dunkler D, et al. JAMA Intern Med. 2013; 173:1682-1692.9)Nezu U, et al. BMJ Open. 2013 May 28 [Epub ahead of print].10)Giordano M, et al. Nutrition. 2014 Sep;30:1045-9.11)Menon V, et al. Am J Kidney Dis. 2009 Feb;53:208-17.12)Watanabe D, et al. Nutrients. 2018 Nov 13;10: E1744.

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仕事のストレスと不眠症との関係

 横断的データによると、仕事のストレスと睡眠不足は密接に関連しているといわれているが、プロスペクティブデータによるエビデンスは限られている。スウェーデン・ストックホルム大学のJohanna Garefelt氏らは、認識されたストレスや仕事のストレッサー(仕事の要求、意思決定、職場の社会的支援)が不眠症に及ぼす経時的な影響について、構造方程式モデリングを用いて分析を行った。Journal of Sleep Research誌オンライン版2019年12月2日号の報告。 スウェーデン労働者の大規模サンプルから得られた2008~14年の2年ごとの測定値より、ストレスから睡眠への影響および睡眠からストレスへの影響の両方向について分析を行った。 主な結果は以下のとおり。・全体として、不眠症と4回すべてのストレス測定値との間に相互の関連が認められた。・しかし、不眠症の各症状と各ストレス測定値の関連は、影響の方向においていくつかの違いが認められた。・ストレスから睡眠への影響においては、認識されたストレスを含むすべての仕事のストレッサーが、入眠困難と睡眠維持困難を予測した。・また、意思決定を除き、熟眠障害においても同様の影響が認められた。・睡眠からストレスへの影響においては、睡眠維持困難が、仕事の要求および認識されたストレスレベルの増加を予測した。・ストレス測定値を予測しなかった不眠症状としては、入眠困難が最も顕著であった。・一方、すべてのストレス測定値を予測した唯一の症状は、熟眠障害であった。 著者らは「ストレスと睡眠の関係、不眠症と仕事のストレッサーおよび認識されたストレスとの潜在的な悪循環への理解がより深まり、職場における不眠症緩和のための介入の必要性が示唆された」としている。

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慢性不眠症患者へのベンゾジアゼピン中止のための心理社会的介入~メタ解析

 ベンゾジアゼピン(BZD)の長期使用は慢性不眠症の治療には推奨されておらず、心理社会的介入、とくに不眠症に対する認知行動療法(CBT-I)がBZD中止への潜在的なオプションとして期待される。杏林大学の高江洲 義和氏らは、慢性不眠症患者に対するBZD使用を中止するために心理社会的介入が有用であるかについて、システマティックレビューおよびメタ解析を実施した。Sleep Medicine Reviews誌2019年12月号の報告。 主要なデータベースより、2018年7月までの文献を検索した。関連文献の検索、データ抽出、コクラン基準にのっとった方法論の質の評価は、2人の独立した研究者により行われた。CBT-Iを評価したランダム化比較試験8件について、レビューおよびメタ解析を実施した。 主な結果は以下のとおり。・3ヵ月以内の短期CBT-IとBZD漸減療法は、CBT-I介入を行わなかった場合と比較し、より有効であった(リスク比:1.68、95%信頼区間[CI]:1.19~2.39、p=0.003)。・また、CBT-I介入は、不眠症状の改善に対しても効果的であった(g:-0.69、95%CI:-1.09~-0.28、p=0.0009)。・ただし、BZD中止に対するCBT-Iの長期(12ヵ月)介入の有効性に有意な差は認められなかった(リスク比:1.67、95%CI:0.91~3.07、p=0.10)。 著者らは「BZD系睡眠薬を中止するためのCBT-I介入は、3ヵ月以内だと効果的であることが示唆された。CBT-Iの長期的な有効性を明らかにするためには、さらなる研究が求められる」としている。

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うつ病予防の主要ターゲットとしての入眠障害

 うつ病は、世界中で問題となる疾患の1つであり、再発率が高いため、うつ病発症を予防することが重要である。メタ解析において、不眠症が、うつ病の修正可能なリスク因子であることが示唆されていたが、これまでの研究では、不眠症がうつ病前の残存症状なのか、うつ病の併存症状なのかについては、十分に考慮されていなかった。オランダ神経科学研究所のTessa F. Blanken氏らは、睡眠障害がうつ病のリスク因子であるかを検討するため、6年間のプロスペクティブ研究を実施した。Sleep誌オンライン版2019年12月2日号の報告。 対象は、うつ病および不安症に関するオランダの研究より、これまでにうつ病を経験していない参加者768例。合計6年間にわたり、4回の反復調査を実施し、フォローアップを行った。ベースライン時の不眠症の重症度、短時間睡眠、個々の不眠症に関する問題が、フォローアップ期間中にうつ病発症を予測したかを評価するため、Cox比例ハザード分析を用いた。個々の不眠症に関する問題の中に、直接的な予測因子があるかを評価するため、ネットワークアウトカム分析の新しい手法を用いた。 主な結果は以下のとおり。・6年間のフォローアップ期間中にうつ病を発症した参加者は、141例(18.4%)であった。・うつ病発症の予測は、睡眠時間ではなく、不眠症の重症度との関連が認められた(HR:1.11、95%CI:1.07~1.15)。この関連は、個々の不眠症に関する問題の中で、入眠障害により推進された(HR:1.10、95%CI:1.04~1.16)。・ネットワークアウトカム分析では、同様の結果が得られ、入眠障害に関する問題のみが、うつ病発症を直接的に予測した。 著者らは「入眠障害は、うつ病発症のリスク因子であることが示唆された。うつ病を予防し、世界的な負担を軽減するために、各不眠症状の中で、入眠障害をターゲットとした治療が有益な可能性がある」としている。■「うつ病軽減」関連記事うつ病患者、入浴がうつ症状を軽減

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がんや心血管疾患による死亡リスクに対する不眠症の影響~メタ解析

 不眠症が死亡率と関連する可能性を示唆するエビデンスが蓄積されつつある。しかし、これらの調査結果に一貫性は認められていない。中国・蘭州大学のLong Ge氏らは、不眠症と死亡率との関連を明らかにするため、メタ解析を実施した。Sleep Medicine Reviews誌2019年12月号の報告。 18歳以上の成人を対象に不眠症、不眠症状と死亡リスクとの関連を評価したプロスペクティブコホート研究を、MEDLINE、EMBASEよりシステマティックに検索した。ランダム効果メタ解析を用いてサマリーハザード比(HR)および95%信頼区間(CI)を算出した。また、エビデンスの質は、GRADEシステムを用いて評価した。 主な結果は以下のとおり。・159万8,628例(男性の割合:55.3%、平均年齢:63.7歳)を含むコホート研究29件が抽出された。フォローアップ期間の中央値は、10.5年であった。・入眠困難、熟眠困難は、すべての原因による死亡リスクの増加と有意な関連が認められた。 ●入眠困難 HR:1.13、95%CI:1.03~1.23、p=0.009、信頼性:中程度 ●熟眠困難 HR:1.23、95%CI:1.07~1.42、p=0.003、信頼性:高度・また、心血管疾患による死亡リスクとの有意な関連も認められた。 ●入眠困難 HR:1.20、95%CI:1.01~1.43、p=0.04、信頼性:中程度 ●熟眠困難 HR:1.48、95%CI:1.06~2.06、p=0.02、信頼性:中程度・入眠困難とすべての原因による死亡リスクとの関連は、中高年に限定的であった(信頼性:中程度)。・不眠症、睡眠維持困難、早朝覚醒と、すべての原因による死亡リスクおよび心血管疾患による死亡リスクとの関連は認められなかった。・不眠症状とがん関連の死亡リスクとの関連は認められなかった。

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ループス腎炎〔LN : lupus nephritis〕

1 疾患概要■ 概念・定義ループス腎炎(lupus nephritis: LN)は、全身性エリテマトーデス(SLE)患者でみられる腎炎であり、多くは糸球体腎炎の形をとる。蛋白尿や血尿を呈し、ステロイド療法、免疫抑制薬に反応することが多いが、一部の症例では慢性腎不全に進行する。SLEの中では、中枢神経病変と並んで生命予後に影響を及ぼす合併症である。■ 疫学SLEは人口の0.01~0.1%に発症するといわれ、男女比は約1:9で、好発年齢は20~40歳である。そのうち明らかな腎症を来すのは50%程度といわれている。通常の慢性糸球体腎炎では、尿所見や腎機能異常が発見の契機となるが、SLEでは発熱、関節痛や顔面紅斑、検査所見から診断されることが多い。しかし、尿所見や腎機能異常がない段階でも、腎生検を行うと腎炎が発見されることが多く(silent lupus nephritis)、程度の差はあるが、じつはほとんどの症例で腎病変が存在するという報告もある。■ 病因SLEにおける臓器病変は、DNAと抗DNA抗体が結合した免疫複合体が組織沈着するために起こる。しかし、その病因は不明である。LNでは、補体の活性化を介して免疫複合体が腎糸球体に沈着する。■ 症状SLE患者では、発熱、関節痛、皮疹、口腔内潰瘍、脱毛、胸水や心嚢水貯留による呼吸困難などを来すが、LNを合併すると蛋白尿や血尿が認められ、ネフローゼ症候群に進展した場合は、浮腫、高コレステロール血症が認められる。しかし前述のように、まったく尿所見、腎機能異常を示さない症例も存在する。LNが進行すると腎不全に陥ることもある。■ 分類長らくWHO分類が使用されていたが、2004年にInternational Society of Nephrology/Renal Pathology Society(ISN/RPS)分類が採用された1)(表1)。IV型の予後が悪いこと、V型では大量の蛋白尿が認められることなど、基本的にはWHO分類を踏襲している。画像を拡大する■ 予後早期に診断し治療を開始することで、SLEの予後は飛躍的に改善しており、5年生存率は95%を超えている。しかし、LNに焦点を絞ると、2013年の日本透析医学会の統計報告では、新規透析導入患者では、年間258人がLNを原疾患として新規に透析導入となっている。しかも、導入年齢がそれ以前よりも3~4歳ほど高齢化している2)。生命予後のみならず、腎予後の改善が望まれる。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)SLEの診断は、1997年に改訂された米国リウマチ学会の分類基準に基づいて行われていた3)。しかし、SLEの治療を行った患者で、この分類ではSLEとならず、米国では保険会社が支払いを行わないという問題が生じ、SLICC(Systemic Lupus lnternational Collaborating Clinics)というグループが、National Institute of Health (NIH)の支援を受けて、より感度の高い分類基準を提案したが4)、特異度は低下しており、慎重に使用すべきと考えられる。この度、米国リウマチ学会、ヨーロッパリウマチ学会合同で、SLE分類基準が改訂されたため、今後はこの分類基準が主に使用されることが予想される(表2)5,6)。日常診療で行われる検査のほかに、抗核抗体、抗二本鎖DNA抗体、抗Sm抗体、抗リン脂質抗体(IgGまたはIgM抗カルジオリピン抗体、ループスアンチコアグラント)を検査する。さらにLNの診断には、尿沈渣、蓄尿をしての蛋白尿の測定や、クレアチニンクリアランス、腎クリアランスなどの腎機能検査を行うが、可能な限り腎生検によって組織的な診断を行う。図に、ISN/RPS分類class IV-G(A)の症例を示す7)。画像を拡大する画像を拡大する画像を拡大する3 治療 (治験中・研究中のものも含む)■ ステロイド1)経口ステロイド0.8~1.0mg/kg/日 程度のプレドニゾロン(PSL)〔商品名:プレドニゾロン、プレドニン〕が使用されることが多いが、とくに抗DNA抗体高値や低補体血症の存在など、疾患活動性が高い場合、ISN/RPS分類のIV型の場合、あるいはネフローゼ症候群を合併した場合などは、1.0mg/kg/日 の十分量を使用する。初期量を4~6週使用し、その後漸減し、維持量に持っていく。維持量については各施設で見解が異なるが、比較的安全な免疫抑制薬であるミゾリビン(商品名:ブレディニン)やタクロリムス(同:プログラフ)の普及により、以前よりも低用量のステロイドでの維持が可能になっているものと考えられる。2)メチルプレドニゾロン(mPSL)パルス療法血清学的な活動性が高く、びまん性の増殖性糸球体腎炎が認められる場合に行われる。長期的な有効性のエビデンスは少なく、またシクロホスファミドパルス療法(IVCY)の方が有効性に優るという報告もあるが、ステロイドの速効性に期待して、急激に腎機能が悪化している症例などに行われる。感染症や大腿骨頭壊死などの副作用も多く、十分な注意が必要である。mPSLパルス療法は各種腎・免疫疾患で行われるが、LNでは1日1gを使用するパルス療法と、500mgを使用するセミパルス療法は同等の効果を示すという報告もある。■ 免疫抑制薬1)シクロホスファミド静注療法(IVCY)1986年に、National Institute of Health(NIH)グループが、LNにおけるIVCYの報告を行ってから、難治性LNの治療として、IVCYは現在まで世界各国で幅広く行われている。NIHレジメンは、シクロホスファミド0.5~1.0g/m2を、月に1回、3~6ヵ月間投与するものであるが、Euro Lupus Nephritis Trial(ELNT)のレジメンは、500mg/日を2週に1回、6回まで投与するものである。シクロホスファミドの経口投与では、不可逆性の無月経が重大な問題であったが、IVCYとすることでかなり減少したとされる。しかし、20代の女性で10人に1人程度の不可逆性無月経が出現するとされており、年齢が上がるとさらにそのリスクは増大する。挙児希望のある場合は、十分なインフォームドコンセントが必要である。長らく保険承認がない状態で使用されていたが、2010年に公知申請が妥当と判断され、同時に保険償還も可能となった。2)アザチオプリン(商品名:イムラン、アザニン)LNの治療に海外、国内ともに幅広く使用されているが、シクロホスファミド同様長らく保険承認がない状態で使用されていた。やはり2010年に公知申請が妥当と判断され、同時に保険償還も可能となった。シクロホスファミドに比べ骨髄障害の副作用が少なく、また、妊娠は禁忌となっていたが、腎移植などでの経験から大きな問題はないと考えられ、2018年に禁忌が解除された。3)シクロスポリン(同:サンディミュン、ネオーラル)“頻回再発型あるいはステロイドに抵抗性を示す場合のネフローゼ症候群”の病名で保険適用がある。血中濃度測定が保険適用になっており、6ヵ月以上使用する場合は、トラフ値を100ng/mL程度に設定する。投与の上限量が定められていないので、有効血中濃度が得られやすいことが利点である。トラフ値を測定するには、入院時は内服前の早朝に採血し、外来では受診日だけは内服しないように指導することが必要である。アザチオプリン同様、2018年に妊娠時の使用禁忌が解除された。4)ミゾリビン(同:ブレディニン)1990年にLNの病名で保険適用が追加された。最近は血中濃度を上昇させることの重要性が提唱され、150mgの朝1回投与や、さらに多い量を週に数回使用するパルス療法などが行われているが、「保険で認められている使用法とは異なる」というインフォームドコンセントが必要である。比較的安全な免疫抑制薬であるが、妊娠時の使用は禁忌であることに注意する必要がある。5)タクロリムス(同:プログラフ)LNの病名で保険適用がある。血中濃度測定が保険適用になっており、投与12時間後の濃度(C12)をモニタリングし、10ng/mLを超えないように留意する。しかし、LNでの承認最大用量3mg/日を使用しても、血中濃度が上昇しないことの方が多い。臨床試験において、平均4~5ng/mL(C12)で良好な成績を示したが、5~10ng/mLが至適濃度との報告もある。内服が夕方なので、午前の採血で血中濃度を測定するとC12値が得られる。併用禁忌薬、慎重投与の薬剤、糖尿病の発症や増悪に注意をする。アザチオプリン同様、2018年に妊娠時の使用禁忌が解除された。6)ミコフェノール酸モフェチル(MMF)〔同:セルセプト〕MMFは生体内で速かに加水分解され活性代謝物ミコフェノール酸(MPA)となる、MPAはプリン生合成のde novo 経路の律速酵素であるイノシンモノホスフェイト脱水素酵素を特異的に阻害し、リンパ球の増殖を選択的に抑制することにより免疫抑制作用を発揮する。海外では、ACR(American College of Rheumatology)、EULAR(European League Against Rheumatism)、KDIGO(Kidney Disease: Improving Global Outcomes)LN治療ガイドラインにおいて、活動性LNの寛解導入と寛解維持療法にMMFを第1選択薬の一つとして推奨され、標準薬として使用されている8,9)。わが国では、「医療上の必要性の高い未承認薬・適応外薬検討会議」において検討された「ループス腎炎」の公知申請について、2015年7月31日の薬事・食品衛生審議会の医薬品第一部会で事前評価が行われ、「公知申請を行っても差し支えない」とされ、保険適用となった。用法・用量は、成人通常、MMFとして1回250~1,000mgを1日2回12時間毎に食後経口投与する。なお年齢、症状により適宜増減するが、1日3,000mgを上限とする。副作用には、感染症、消化器症状、骨髄抑制などがある。また、妊娠時は禁忌であることに注意が必要である。2019年に日本リウマチ学会から発行された、SLEの診療ガイドラインでは、MMFがLNの治療薬として推奨された10)。7)multi-target therapyミゾリビンとタクロリムスの併用療法の有効性が報告されている11,12)。両剤とも十分な血中濃度を確保することが重要な薬剤であるが、単剤での有効血中濃度確保ができないような症例に有効である可能性がある。また、海外を中心にMMFとタクロリムスの併用療法の有効性も報告されている13-15)。■ ACE阻害薬(ACEI)、アンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)LNでの難治性の蛋白尿にACEIやARBが有効であるとの報告がある。筆者らは両者の併用を行い、さらなる有効性を確認している。特に、ループス膜性腎症で免疫抑制療法を行っても、難治性の尿蛋白を呈する症例では試みてもよいのではないかと考えている。4 今後の展望世界的に広く使用されていたシクロホスファミドとアザチオプリンが保険適用となり、使用しやすくなったため、わが国でのエビデンスの構築が望まれる。公知申請で承認されたMMFの効果にも、期待がもたれる。SLEに対する新規治療薬としては、BLysに対するモノクローナル抗体のbelimumabが非腎症SLEに対する有効性が認められFDAの承認を受け、さらにわが国でも使用可能になった。しかし、LNでの有効性についてはいまだ明らかではない。さらに、海外ではSLEの標準的治療薬であるハイドロキシクロロキンもわが国で使用可能になった。LNに対する適応はないが、再燃予防効果やステロイド減量効果が報告されており、期待がもたれる。5 主たる診療科リウマチ科・膠原病内科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報全身性エリテマトーデス(難病情報センター)(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)ACRガイドライン(WILEYのオンラインライブラリー)EULAR/ERA-EDTAリコメンデーション(BMJのライブラリー)KDIGO Clinical Practice Guideline for Glomerulonephritis(International Society of Nephrologyのライブラリー)公的助成情報全身性エリテマトーデス(難病ドットコム)(患者向けの医療情報)患者会情報全国膠原病友の会(膠原病患者と家族の会)参考文献1)Weening JJ, et al. 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全身性エリテマトーデス診療ガイドライン2019、本邦で初めて発刊

 2019年10月、日本初の『全身性エリテマトーデス診療ガイドライン2019』が発刊された。全身性エリテマトーデス(SLE)はさまざまな全身性疾患を伴うため、治療の標準化が困難であったことからガイドラインの作成着手までに時間を要してきた。全身性エリテマトーデス診療ガイドライン2019は専門医を対象とし、SLEの臨床的多様性に対応する総合的なガイドラインとして作成されている。 サノフィ株式会社は2019年10月30日、メディアラウンドテーブル「本邦初の全身性エリテマトーデス(SLE)診療ガイドライン発行~SLE診療の現在 医師と患者の立場から~」を開催。全身性エリテマトーデス診療ガイドライン統括委員会の委員長を務めた渥美 達也氏(北海道大学大学院医学研究院免疫・代謝内科学教室 教授)が「SLE診療の標準化~全身性エリテマトーデス(SLE)診療ガイドライン~」について講演した。会の後半では患者代表の後藤 眞理子氏(全国膠原病友の会神奈川県支部 支部長)を交えてトークセッションが行われた。臨床的多様性が強い疾患、全身性エリテマトーデスの治療目標 高血圧症は血圧を下げる、糖尿病は血糖値を下げるなど治療目的が非常に明確である。一方、全身性エリテマトーデスは多様な臓器病変を呈する症候群であることから、症状の出方や治療ゴールが個々によって異なり、ガイドラインの作成自体が困難を極めていた。また、これまでの治療では全身性エリテマトーデスの非可逆的な臓器病変やグルココルチコイドの長期大量投与に伴う合併症によって患者の生活の質の低下が問題になっていた。このことから渥美氏はガイドライン作成の前提条件について「“SLEの社会的寛解の維持”を治療目標に設定」とコメント。加えて、「患者さんにとって、生活活動を維持してもらうことが重要。とくに若年女性の労働生産性を落とさず家庭への生活ウェイトも置けるよう、患者の多様性を考慮したモニタリング項目が記載されている」とも説明した。 この“社会的寛解の維持“という定義については、「子供の運動会に参加するなど、自分の生活目標が達成されること。総合指標やそれぞれの臓器についての寛解を評価することが目的」と渥美氏は語った。全身性エリテマトーデス診療ガイドラインの日本と海外の違いは? 米国や欧州では2012年頃から全身性エリテマトーデスの臓器病変からループス腎炎を切り出したガイドラインなどが発刊され、日常臨床に用いられてきた。2018年には英国リウマチ学会がガイドラインを発刊、症状の時期や重症度が表で示されており利便性がある。その反面で「NHS(National Health Service:国営医療サービス)のためのガイドラインであるため、作成目的が医療費の償還である」と、海外ガイドラインの怖い側面について指摘した。 日本の全身性エリテマトーデス診療ガイドライン2019はこれとは異なり、さまざまな医療に対応でき、世界で1つの全身性エリテマトーデス診療アルゴリズムが盛り込まれている点が特徴的である。このアルゴリズムには二次療法の記載がなく、初回療法で寛解に入らない場合は三次治療に進む。これについて同氏は「初回療法はエビデンスがあるのに対し、二次治療としてのエビデンスが少ないため」とコメントした。このほか、推奨の強さは3段階に設定、重症度分類は英国GLに準じ、 軽症・中等症・重症に区分される。さらに、システマティックレビュー(腎炎、神経精神病変、皮膚病変、血液病変)またはナラティブレビューに基づく推奨文とその合意度も参照可能である。 全身性エリテマトーデス診療ガイドライン2019の制作は厚生労働省の自己免疫研究班SLE分科会と日本リウマチ学会による共同作業で、日本臨床免疫学会、日本腎臓学会、日本小児リウマチ学会、日本皮膚科学会の協力を得ている。全身性エリテマトーデス診療ガイドラインでは治療ゴールを明確にした 続いて、渥美氏と後藤氏によるトークセッションが行われた。後藤氏は「全身性エリテマトーデスの症状なのか薬の副作用なのか言葉にしがたい症状が生じた時、それらを医師にうまく伝えられないのは辛い。たとえば、倦怠感という概念の受け捉え方は患者も医師も人それぞれ。なので医師に具体的な表現を求める」と、症状の言語化できない問題について訴えた。これに対し、渥美氏は「寛解後の特有症状である倦怠感には医学的改善方法がないため、医師は“そうですか”と受け流すような返答になってしまう。医師は活動性指標の1つとして患者の訴えをきちんと評価すべき」と回答した。また、「薬剤の追加がネックで症状変化を医師に伝えないこともある」との後藤氏のコメントに対して、渥美氏は「どんな治療を行い、どんな治療目標とするのか。これを話せる医師が現時点では少ないため、今回のガイドラインではそのゴールを明確にした」と答えた。 最後に後藤氏は「GLが作成されたことによって全国どこでも標準的な治療が受けられるのは嬉しい。これによって患者会のメンバーの人生が広がればと感じた」と喜びを漏らした。渥美氏は「SLEの病態は例外が多いため、改善しなかった場合の対応策の盛り込み、まれな症状に対するエビデンス構築などが必要」と、今後の課題を語った。

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Dr.白石のLet's エコー 運動器編

第1回 外来超音波診療の実際第2回 MPS(筋膜性疼痛症候群)第3回 エコーガイド下穿刺第4回 肩こり第5回 腰臀部痛(前編)「特異的圧痛点」第6回 腰臀部痛(後編)「筋膜性疼痛症候群」第7回 五十肩(前編)第8回 五十肩(後編)第9回 膝痛 「肩が痛い」、「腰が痛い」、「膝が痛い」・・・そんな訴えをしてくる外来患者に湿布と痛み止めの処方だけで終わらせていませんか?外来超音波診療の達人Dr.白石が、外来で行う運動器 エコーの診療について、実技や実際の診療映像を用い、解説します。エコーのあて方や画像診断はもちろんのこと、身体診察、治療、フォローアップまでをしっかりとカバー。さらに痛みを軽減する手技”ハイドロリリース/Hydrorelease”の方法やコツについても詳しくお教えします。明日からの外来でちょっとエコーをあててみませんか?あなたの外来がガラリと変わります。第1回 外来超音波診療の実際初回は外来法音波診療の実際について解説します。外来のどのような場面で超音波が使えるか、あるいはどのように使えばいいのか、実際の症例の映像を使用しながら解説します。腰痛はもちろん、肋骨骨折、粉瘤、痛風、ばね指など、外来のさまざまな場面で超音波を使って診断、治療ができます。第2回 MPS(筋膜性疼痛症候群)今回はMPS:Myofascial Pain Syndrome(筋膜性疼痛症候群)についてです。MPSの定義や診断基準、トリガーポイントについて、詳しくお教えします。なぜ痛みが発生するのか、関連痛はどのようにして起こるのかをまずはしっかりと確認しましょう。そのうえで、痛みを取るために行う治療、エコー下のFascia(ファシア)を液体でリリースするHydroreleaseについて、実際の症例の映像を見ながら解説します。第3回 エコーガイド下穿刺今回はエコーガイド下で行う穿刺について実技を交えて解説します。さらには、穿刺や異物除去の練習の実際もレクチャー。明日からの超音波診療のためにまずは練習してみませんか?さらには、外来でのプローブの選択や使い方まで、Dr.白石の豊富な経験をもとにお教えします。第4回 肩こりさて、いよいよそれぞれの症状に合わせた診療について入っていきます。肩こりを訴える人は多いもの。しかしながら、これといった治療を行うことはないのが現状ではないでしょうか?そこで外来超音波診療です。今回は肩の筋肉の触診の仕方から、エコーのあて方・見方、Hydroreleaseによる治療、そして、その後の生活指導まで。Dr.白石が実技を交えてしっかりとお教えします。エコーを用いることによって、どこの筋肉が発痛源かがわかり、その治療は即時的な効果を得ることができます。ぜひ、明日からの診療に取り入れてみませんか?第5回 腰臀部痛(前編)「特異的圧痛点」腰痛を訴える患者の80~85%程度は、非特異的腰痛、すなわち、原因のわからない腰痛だと言われています。実は、その非特異的腰痛の多くはワンポイントの圧痛で特定できます。なんと78%は診断可能なのです。腰痛の診察では、まず。特異的腰痛を除外したのち、その圧痛点を探していくことです。触診で圧痛点が確認できたら、そこからはエコーの出番です!エコーで圧痛点を同定し、そのまま治療へと進めていくことができます。腰痛の診断に必要な診療テクニックを、実演および実際の症例を基にDr.白石が詳しく解説します。第6回 腰臀部痛(後編)「筋膜性疼痛症候群」腰臀部痛の中でもとくに多い筋膜性疼痛症候群(MPS)を症例を通して紹介します。腰臀部痛のMPSで代表されるのは「ぎっくり腰」。ぎっくり腰の患者さんにはどのように対処していますか?痛み止めを出すだけでなく、罹患した筋肉をリリースするだけで、劇的に痛みが改善します!そのためにも腰の筋肉をきちんと理解しておくことが重要です。Dr.白石の実演で、エコーをあてながら、腰のそれぞれの筋肉を確認していきます。皆さんも実際にエコーを当てながら、触診することで、触診の技術も向上します。この番組を見て、腰痛の患者さんへエコーをあててみませんか?第7回 五十肩(前編)今回は五十肩(肩関節周囲炎)の超音波診療について取り上げます。五十肩は、肩峰下滑液包炎、腱板断裂、上腕二頭筋長頭腱炎、変形性肩関節症、石灰沈着性腱板炎、凍結型などの疾患が含まれています。その中でX線で診断できる疾患は変形性肩関節症、石灰沈着性腱板炎のみで、五十肩のうちのわずか10%程度であると考えられます。五十肩の原因は肩関節周囲の軟部組織に原因があることが多く、エコーを用いることで診断することができ、さらには治療も可能となります。この番組では、身体診察から、エコーによる診断、治療について、実技と実際の症例を交え、解説します。第8回 五十肩(後編)今回はさらに一歩上の五十肩診療についてみていきます。前回紹介した五十肩の6~7割の患者の痛みを軽減させる「肩峰下滑液包へのヒアルロン酸注射」。その注射後も痛みが取れない場合、考えられる原因とその治療法を提示します。また、肩関節の可動域が制限される凍結肩に対しては行う手技「サイレントマニピュレーション」についても実際の症例映像を見ながら解説します。サイレントマニピュレーションは非観血的肩関節授動術のことで、覚醒下で徒手的に行います。エコーを用いることで、より安全により確実に行うことが可能です。第9回 膝痛膝が痛い、水がたまったなどという訴えは多いもの。その際、どう対応していますが、膝の関節穿刺では太い針を使うので、患者から「痛い!」といわれると心が折れませんか?エコーを使用することで、関節穿刺、注射がより安全にかつ正確に行うことができます。膝痛の患者に対する身体診察方法や、エコーのあて方、見方を実技を交えて、しっかりとお教えします。内側側副靭帯損創、関節液貯留、ベーカー嚢胞、変形性膝関節症など、実際の症例も多数提示。明日からの外来診療で、エコーを使ってみませんか?

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乳がん術後再発、局所vs.全身麻酔で差なし/Lancet

 乳がんの根治的切除術時の麻酔法として、局所的な麻酔/鎮痛(傍脊椎ブロックとプロポフォール)は、全身麻酔(揮発性麻酔[セボフルラン]とオピオイド)と比較して、乳がんの再発を抑制しないことが、米国・クリーブランドクリニックのDaniel I. Sessler氏らBreast Cancer Recurrence Collaborationの検討で示された。研究の詳細は、Lancet誌オンライン版2019年10月20日号に掲載された。手術時のストレス応答、揮発性吸入麻酔の使用、鎮痛のためのオピオイドは、がん手術の周術期因子であり、いずれも再発に対する宿主防御を減弱させるという。一方、これらの因子はすべて、局所的な麻酔/鎮痛によって改善するとされている。8ヵ国13施設が参加、2つの仮説を検証する無作為化試験 研究グループは次の2つの仮説を立て、これを検証する目的で無作為化対照比較試験を行った(アイルランド・Sisk Healthcare Foundationなどの助成による)。 (1)傍脊椎ブロックとプロポフォールを用いた局所麻酔/鎮痛は、揮発性麻酔薬セボフルランとオピオイド鎮痛による全身麻酔に比べ、治癒が期待される根治的切除術後の乳がんの再発を抑制する(主要仮説)、(2)局所麻酔/鎮痛は、乳房の持続性の術後痛を低減する(副次仮説)。 8ヵ国(アルゼンチン、オーストリア、中国、ドイツ、アイルランド、ニュージーランド、シンガポール、米国)の13病院で、治癒が期待される根治的切除術(初回)を受ける乳がん女性(85歳未満)が登録され、局所麻酔/鎮痛を受ける群または全身麻酔を受ける群に無作為に割り付けられた。 主要アウトカムは、局所または転移を有する乳がん再発とし、intention-to-treat解析を行った。副次アウトカムは、6ヵ月後と12ヵ月後の術後痛であった。再発率:10% vs.10%、1年後の術後痛:28% vs.27% 2007年1月30日~2018年1月18日の期間に、2,108例の女性が登録され、1,043例(平均年齢53[SD 12]歳)が局所麻酔/鎮痛群に、1,065例(53[11]歳)は全身麻酔群に割り付けられた。1,253例(59%)が北京市、404例(19%)がダブリン市、170例(8%)はウィーン市からの患者であった。 ベースラインの患者背景は両群間でバランスがよくとれていた。追跡期間中央値は、両群とも36ヵ月(IQR:24~49)だった。 乳がんの再発は、局所麻酔/鎮痛群が102例(10%)、全身麻酔群は111例(10%)で報告され、両群間に有意な差は認められなかった(補正後ハザード比[HR]:0.97、95%信頼区間[CI]:0.74~1.28、p=0.84)。 術後痛は、6ヵ月の時点では局所麻酔/鎮痛群が856例中442例(52%)、全身麻酔群では872例中456例(52%)で報告され、12ヵ月時にはそれぞれ854例中239例(28%)、852例中232例(27%)で報告された(全体の中間補正後オッズ比:1.00、95%CI:0.85~1.17、p=0.99)。 神経障害性の乳房痛の発生には麻酔術による差はなく、6ヵ月時には局所麻酔/鎮痛群が859例中87例(10%)、全身麻酔群は870例中89例(10%)で認められ、12ヵ月時はそれぞれ857例中57例(7%)、854例中57例(7%)にみられた。 著者は、「乳がん再発と術後痛に関しては、局所麻酔と全身麻酔のどちらを使用してもよい」としている。

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第16回 その腹痛、重症?【救急診療の基礎知識】

●今回のPoint1)発症様式に要注意! 安易に胃腸炎と診断するな!2)お腹が軟らかくても安心するな! 血管病変を見逃すな!3)陥りやすいエラーを知り、常に意識して対応を!【症例】66歳女性。来院当日の就寝前に下腹部痛を自覚した。自宅で様子をみていたが、症状改善せず救急外来を受診。担当した医師は、お腹は軟らかいので消化管穿孔はないと判断し一安心。しかし、痛みの訴えが強いためルートを確保し、アセトアミノフェンを点滴から投与し、まずは腹部単純CT検査をオーダーし、ほかの患者を診ることとしたが…。●搬送時のバイタルサイン意識1/JCS血圧148/92mmHg 脈拍102回/分(整) 呼吸24回/分 SpO298%(RA)体温35.9℃ 瞳孔3/3mm+/+既往歴高血圧、脂質異常症内服薬アムロジピン(商品名:アムロジン)、アトルバスタチン(同:リピトール)腹痛診療は難しい!?腹痛は、救急外来、一般外来どちらでも頻度の高い症候です。ところが、問題なく帰宅とした患者さんが再受診することも珍しくありません。救急外来を受診し、72時間以内に再受診した患者のうち、最も頻度の高い症候が「腹痛」であったと報告されています1)。「心窩部痛で来院して、その後虫垂炎と判明した」「胃腸炎だと思ったら糖尿病ケトアシドーシスだった」「急性膵炎だと思ったらアルコール性ケトアシドーシスだった」など、誰もが経験あるでしょう。さらに、急性心筋梗塞、大動脈解離、腹部大動脈瘤切迫破裂、上腸間膜動脈塞栓症、精巣捻転、女性であれば異所性妊娠や卵巣捻転など、見逃してはならない疾患も複数存在するため、心して診療する必要があります。重篤な腹痛の見極め方救急外来など、発症早期に受診する場において、確定診断するのは簡単ではありませんが、目の前の患者が重篤なのか、緊急性が高いのかを判断することは、意外と難しくありません。危険な疼痛を見逃さないために着目するポイントは、表の6つです。腹痛を例に1つずつ確認していきましょう。表 危険な疼痛を見逃すな ―常に意識すべき6つのこと―1)痛みの訴えが強い場合は要注意!患者さんが痛みを強く訴えている場合には、慎重に対応する必要があります。当たり前のようですが、バイタルサインが安定しているケースで、検査で異常を見いだせない場合は、「大げさだなぁ」と思ってしまいがちです。また、発症早期の場合には検査上、異常がないことはよくあることです。さらに、今回の症例のように、単純CT検査ではなかなか腸管や血管の病変の詳細な評価が困難なことは容易に想像がつくでしょう。初療をしつつ、痛みはなるべく早期に取り除くようにしましょう。苦痛を取り除き、詳細な病歴を聴取し、十分な身体所見をとるのです。鎮痛薬を使用することで診断が遅れることはありません。むしろ適切な判断ができるでしょう2,3)。絞扼性腸閉塞、上腸間膜動脈塞栓症は、単純CTや造影CT検査で異常がなく問題なしと判断され、見逃される典型です。患者さんの訴えを重視し、対応しましょう。2)突然発症の疼痛は要注意!Sudden onsetの病歴はきわめて重要です。腹痛では大動脈解離、上腸間膜動脈閉塞症、腹部大動脈瘤切迫破裂などが代表的です。来院時にバイタルサインや痛みが安定しているようでも、発症様式が“突然”であった場合には、注意する必要があることはあらためて理解しておきましょう。大動脈解離や腹部大動脈瘤切迫破裂では、失神を主訴に来院することもあります。失神は瞬間的な意識消失発作でしたね(第13~15回を参照)。どちらの疾患も裂け止まっていると、バイタルサインも症状も落ち着いているものです。発症様式から具体的な疾患を想起し、意識して所見をとりにいきましょう。鑑別に挙げなければ、血圧の左右差を確認することもないですし、腹部の拍動、さらにはエコーで見るべきところを見忘れてしまいます。3)増強する疼痛は要注意!アセトアミノフェンの静注薬が使用可能となり、来院早期から鎮痛薬を使用することが多くなったのではないでしょうか。患者さんの痛みを早期に取り除くことは、望ましい対応ですが、1つ注意点があります。“鎮痛薬の使用は原則1回まで!”、これを意識しておきましょう。使いやすく投与時間が短い(15分)ため、繰り返し使用したくなりますが、一度使用し効果が乏しい場合には、その時点で“まずい”と判断し、対応する必要があります。もちろん、鎮痛薬使用前に評価は行いますが、同時に複数の患者を診ることが多いのが通常でしょうから、痛みは速やかにとりつつ、効果が乏しければ1時間様子をみるなどせず、次のアクションに移りましょう。絞扼性腸閉塞や上腸間膜動脈閉塞症では、痛みが持続し、増強していきます。時間が経てば誰でも判断可能ですが、その前の状態で拾い上げるためには、「経静脈的な鎮痛薬でも効果が乏しい」ということを意識しておくとよいでしょう。4)非典型的な経過は要注意!腹痛で見逃されやすい代表疾患の1つに虫垂炎があります。発症早期で疑いながらも診断へ至らないことも多いですが、胃腸炎と誤診されることも少なくありません。異所性妊娠も同様に胃腸炎と誤診されやすいことも合わせて覚えておいてください。これを防ぐのは意外と簡単です。胃腸炎の典型例を知ること、これだけでだいぶ違うでしょう。胃腸炎には満たすべき条件が3つ存在します。それが(1)嘔吐・腹痛・下痢の3症状あり、(2)上から下の順に(1)の症状が出現、(3)摂取してからの時間経過が合致、です4)。虫垂炎は心窩部痛→嘔気・嘔吐→右下腹部痛が典型的です。異所性妊娠も腹痛の後に嘔吐を認めることが多いでしょう。その他、腸閉塞や急性膵炎、胆管炎や尿管結石などなど、意識すれば拾い上げられる疾患は多岐にわたります。(3)は中毒との鑑別に有用です。食べた物によって消化管の症状が生じるには最低でも30分、通常数時間のタイムラグが生じます。食事中に、または食べてすぐに嘔吐などの症状を認める場合には、中毒を疑い、混入物などに気を配ったほうがいいでしょう。5)Common is common!腹痛を訴える30代の女性が、顔面に蝶形紅斑様、四肢の関節痛の症状を認めたら何を考えるでしょうか。蝶形紅斑とくれば全身性エリテマトーデス(SLE)と考えがちですが、それ以上に頻度の高い疾患が存在します。それが伝染性紅斑、いわゆる「りんご病」です。疫学は非常に重要であり、それを無視してしまうと、診療は複雑化し、さらに患者は不安をあおられます。頻度の高い疾患の非典型的症状と、頻度の低い疾患の典型的症状は、どちらが遭遇する頻度が高いかといえば、一般的には前者です。今回の例でいえば、伝染性紅斑は成人に起こると、発熱、関節痛がメインに出て、小児で認められるようなレース状皮疹を認める頻度は下がります。子供の間で流行していると、そこから接触時間の長い母親や保育士さんへ感染するのです。それに対して、SLEは名前こそ有名ですが、救急外来でSLEの初発症状に出くわすことはまれです。頻度の高い疾患から考え、対応し、確定できれば、重篤な疾患もルールアウトできるのですから、きちんと“common disease”を理解しておくことは重要なのです。「お子さんの学校で、りんご病流行っていませんか?」「息子さん、最近りんご病にかかりませんでしたか?」と問診し、「YES」と回答があればその時点で診断確定でしょう。抗核抗体をとりあえず提出、膠原病の可能性を患者に伝えてしまうと、患者は不安で仕方なくなってしまうでしょう。腹痛患者に皮疹を認める場合には、網状皮斑(livedo)であれば、ショックと考え焦る必要があります。その他、腹痛に加え関節痛、紫斑を認めれば、IgA血管炎(ヘノッホ・シェーンライン紫斑病)も考えましょう。6)病歴・身体診察・Vital signsは超重要!病歴(History)、身体診察(Physical)、Vital signs、これらは常に超重要です。Hi-Phy-Vi(ハイ・ファイ・バイ)を軽視し、検査を行うとまず見逃します。意識すべき病歴は前述のとおりであり、ここでは身体診察、Vital signsのポイントをコメントしておきましょう。(1)身体診察診察上、腹膜炎を示唆するカッチカチの腹部所見であれば、悩むことは少ないでしょう。それに対して、本症例のように腹部が軟らかい場合には判断を誤りがちです。漏れているのが消化液の場合(消化管穿孔など)には腹部がカッチカチとなりますが、血液の場合(腹部大動脈瘤切迫破裂や異所性妊娠)には軟らかいままです。腹部が軟らかいのに反跳痛を認める場合には、これらの疾患を積極的に疑い、エコーなど精査を迅速に進めましょう。(2)Vital signs呼吸数、意識にとくに注目しましょう。発熱がないから、頻脈でないから、血圧が保たれているからと、重症度を見誤ることがあります。内服薬の影響、糖尿病・アルコール多飲者・パーキンソン病などでは、自律神経障害の影響などによって、見た目の重症度がマスクされることがあります。呼吸数や意識状態に影響する薬剤を常時内服している人はまれであるため、頻呼吸を認める、意識障害を認める場合には“まずい”サインと認識し、精査を進めましょう。本症例の66歳の女性は、突然発症ではなかったものの、痛みの程度は強く、アセトアミノフェン投与後も症状は大きく変化しませんでした。単純CT検査では明らかな閉塞機転は見いだすことができず、対応に困って研修医から相談があった一例です。エコーでは、初診時に認めなかった少量の腹水を認め、その他腹痛を説明しうる所見が認められなかったため、来院後の経過から「絞扼性腸閉塞の疑い」として外科へコンサルトし緊急手術となりました。検査は以前と比較しオーダーしやすくなりました。しかしそのために、検査で異常を見いだせないと患者の訴えを無視してしまいがちです。Hi-Phy-Viに重きを置き、検査前確率を意識して適切な検査のオーダーと解釈を心掛けましょう。1)Soh CHW, et al. Medicina (Kaunas). 2019;55. pii:E457. doi:10.3390/medicina55080457.2)Ranji SR, et al. JAMA. 2006;296:1764-1774.3)坂本 壮. medicina.2019;56:1620-1623.4)坂本 壮. 見逃せない救急・見逃さない救急. プライマリ・ケア. 2019;4.(in press)

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スボレキサントの睡眠改善効果と聴覚刺激による目覚め効果

 不眠症患者の夜間の反応性に対するデュアルオレキシン受容体拮抗薬(DORA)スボレキサントの安全性プロファイルについて、米国・Thomas Roth Sleep Disorders and Research CenterのChristopher L. Drake氏らが、二重盲検プラセボ対照クロスオーバー試験により検討を行った。Journal of Clinical Sleep Medicine誌2019年9月15日号の報告。 不眠症患者(DSM-5診断)12例を対象に、スボレキサント10mg群、スボレキサント20mg群、プラセボ群にランダムに割り付けた。薬物最大血中濃度に達した時点で、安定期N2睡眠中に聴覚刺激音を再生し、目覚めるまで5デシベル(db)ずつ増加した。覚醒時のdbを聴覚刺激覚醒閾値(AAT)とし、群間比較を行った。また、85db超の割合についても比較を行った。最終的に、閾値周辺(80db、90db)を用いて感度分析を実施した。 主な結果は以下のとおり。・スボレキサント群は、プラセボ群と比較し、平均AATに有意な差は認められなかった。・AAT85dbで覚醒しなかった患者の割合についても、差は認められなかった。・スボレキサント20mg群では、プラセボ群と比較し、中途覚醒の減少および総睡眠時間の増加が認められた。 著者らは「スボレキサントのようなDORAは、不眠症改善効果が期待できる一方で、夜間の聴覚刺激に対する覚醒を可能とすることが示唆された」としている。

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アベマシクリブ+フルベストラント、HR+/HER2-乳がんのOS延長(MONARCH-2)/ESMO2019

 ホルモン受容体(HR)陽性HER2陰性進行乳がんを対象とした、CDK4/6阻害薬アベマシクリブ+フルベストラントの併用療法とフルベストラント単独療法との比較試験(MONARCH-2試験)の結果が、スペインで開催された欧州臨床腫瘍学会(ESMO2019)で、米国・スタンフォード大学のGeorge W.Sledge氏によって発表された。MONARCH-2試験でアベマシクリブ群のOS中央値が9.4ヵ月延長・国際共同二重盲検第III相比較試験・対象:HR陽性HER2陰性乳がんで、術前ホルモン療法中か術後ホルモン療法の12ヵ月以内に再発・病勢進行(PD)が認められた症例、または進行再発がんに対する1次内分泌療法中のPD症例(閉経状況問わず。進行再発がんに対する化学療法薬の投与は認められていない)・試験群:アベマシクリブ150mg×2回/日+フルベストラント500mg/回(アベマシクリブ群)・対照群:プラセボ×2回/日+フルベストラント500mg/回(プラセボ群)・アベマシクリブ群とプラセボ群に2対1の割合で割り付け・評価項目: [主要評価項目]主治医判定による無増悪生存期間(PFS) [副次評価項目]全生存期間(OS) [探索的解析]化学療法施行までの期間 MONARCH-2試験の主要評価項目のPFSについては、過去に統計学的に有意にアベマシクリブ群が有効であることの発表がなされていた。今回は副次評価項目であるOSの発表がメインであり、これは事前に規定された中間解析の結果である。 MONARCH-2試験の主な結果は以下のとおり。・今回のアップデートでもPFS中央値はアベマシクリブ群16.9ヵ月、プラセボ群9.3ヵ月、ハザード比(HR):0.536、95%信頼区間(CI):0.445~0.645、p<0.0001とアベマシクリブ群の有意性が再現されていた。・データカットオフは2019年6月20日で、観察期間中央値は47.7ヵ月。登録症例数はアベマシクリブ群で446例、プラセボ群で223例の合計669例であった。この時点ではまだアベマシクリブ群の17%、プラセボ群の4%の症例で投薬が継続中であった。・OS中央値は、アベマシクリブ群で46.7ヵ月、プラセボ群で37.3ヵ月と9.4ヵ月の延長が見られ、HRは0.757(95%CI:0.606~0.945)、p=0.0137とアベマシクリブ群が有意にOSを延長していた。この中間解析では、統計学的に意味のあるp値は0.0208と設定されており、今回の解析結果はこれを下回っていた。・探索的解析である化学療法までの期間中央値は、アベマシクリブ群50.2ヵ月、プラセボ群22.1ヵ月で、HR:0.625(95%CI:0.501~0.779)、p<0.0001と、有意にアベマシクリブ群で延長していた。・投薬中止後の治療は、分子標的薬がアベマシクリブ群28.5%、プラセボ群43.9%、内分泌療法がアベマシクリブ群41.7%、プラセボ群57.0%で行われ、化学療法がアベマシクリブ群44.8%、プラセボ群61.0%で行われた。逐次的にCDK4/6阻害薬の投与を受けたのは、アベマシクリブ群で5.8%、プラセボ群で17.0%であった。・安全性については、既報と同様の内容であり、新たな有害事象の発現はなかった。

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2004年新潟県中越地震後の心理的苦痛と認知症リスクとの関連

 大地震は極度のストレスを引き起こし、認知機能に悪影響を及ぼす可能性がある。新潟大学の中村 和利氏らは、2004年新潟県中越地震後の心理的苦痛と認知症との関連について検討を行った。Journal of Affective Disorders誌オンライン版2019年8月19日号の報告。 本研究は、10~12年フォローアップを行ったレトロスペクティブコホート研究である。対象者は、2004年新潟県中越地震後に年次健康診断を行った40歳以上の小千谷市民(2005年6,012人、2006年5,424人、2007年5,687人)。Kessler Psychological Distress Scale(K10)を用いて心理的苦痛を評価し、K10スコアが10以上を心理的苦痛ありと定義した。フォローアップ期間中の地方自治体からの介護保険データベースより、認知症発症を特定した。毎年の認知症発症に対する心理的苦痛のハザード比(HR)は、性別、年齢、職業、BMI、住居の物理的破損などの共変量について未調整および調整後に評価した。 主な結果は以下のとおり。・平均年齢は、2005年64.6歳、2006年64.6歳、2007年65.2歳であった。・心理的苦痛を有する人は、対照群と比較し、調整HRが有意に高かった(HR:1.20~1.66)。・とくに、2005~07年のすべての年において、心理的苦痛を有する人は、調整HRが高かった(HR:2.89)。 著者らは「心理的苦痛、とくに持続的な苦痛は、大災害の犠牲者において認知症発症のリスク因子である」としている。

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6時間睡眠に忍び寄る睡眠負債、解決策はコーヒーナップ

 日本人の睡眠時間は世界でダントツ短い。厚生労働省の『平成27年 国民健康・栄養調査』によると、睡眠時間6時間未満の人がわずか8年で11%も増加し、全体の4割を占めている。睡眠不足が日常的に継続した先には、健康被害はおろか経済損失としても影響がでるという。 2019年9月2日、働くひとの眠り方改革「Biz×Sleep」プロジェクト始動に先駆けたオープニングイベントが開催され、枝川 義邦氏(早稲田大学リサーチイノベーションセンター 研究戦略部門教授)が「『働き方改革』成功の鍵は“眠り方改革”!」について講演、問題解決の糸口について語った。トークセッションでは、お笑い芸人TKO(木本 武宏氏、木下 隆行氏)が、眠りの悩みについて打ち明けた。6時間寝ていても油断は禁物 枝川氏はまず日本と世界の睡眠状況を示すために、OECD(経済協力開発機構)加盟国の平均睡眠時間のグラフを提示し、「日本の平均的な睡眠時間は7時間22分で、加盟国で最も短い(OECDの平均は8時間25分)。ただし、この統計は15歳以上の睡眠時間を算出しているので、10代の睡眠が十分とれている者が含まれている」と述べた。 睡眠不足が積み重なった状態を『睡眠負債』というが、同氏は、「気づかないくらいわずかな睡眠不足でも、蓄積すると大きな影響を及ぼす可能性がある」とし、「実は、6時間未満で熟眠感を得ている人でも睡眠負債の可能性がある。睡眠不足が日常的な習慣になっている可能性もあり、自覚がないことも特徴」と警鐘を鳴らした。この現象は2003年に発表された論文1)で明らかとなり、2週間分の負債が蓄積することによるパフォーマンスの低下は、徹夜による負債に匹敵することが示された。 睡眠削減・労働時間多い=仕事がデキるの発想は時代遅れ!? 睡眠負債を抱えた人が働きに出れば、仕事効率に影響を及ぼしパフォーマンス低下は避けられない。2018年度『企業の睡眠負債』実態調査によると、仕事中に眠気を感じているのは8割近く、うち2割は毎日眠気を感じていた。回答者の6割近くが生産性への影響を訴えたという。 この“出勤しているにもかかわらず従業員のパフォーマンスが上がらない“残念な状態は、プレゼンティーイズムと呼ばれ、従業員の健康関連コストの8割弱を占める。同氏は「睡眠不足が原因の場合、1人あたり約3.4万円/年もの損失を職場に与えてしまう。以前は睡眠時間を削ってでも夜遅くまで働くことがカッコいいとされ、長時間労働を自負していた。しかし、今は規則正しい生活を行う人こそが素敵」とし、「睡眠負債は個人の問題ではなく、会社全体の問題として捉えることが重要」と強調した。遅寝遅起きでも◯、睡眠リズムとコーヒーナップが大切 睡眠不足にならない生活習慣を心がけることが一番だが、睡眠不足が避けられない場合もある。そのような時に、同氏は「コーヒーナップがお薦め」だという。コーヒーに含まれるカフェインの効果は摂取後20~30分後に効果を発揮する。また、人間の脳の活動は起きてから約12時間後に低下傾向に陥ることから、「(脳の活動が低下する前)昼食時にコーヒーを飲んで仮眠をとると、カフェインの効果で目が覚めやすく、午後の仕事が効率的にできる」と、それぞれのメカニズムを上手く利用した睡眠負債の対処法を推奨し、「まとまった睡眠時間が取れない人も、仕事中に眠気が襲ってきたときに10~15分の昼寝を取り入れることで、脳がスッキリして業務効率も上がる」とも述べた。 TKOとのトークセッションにおいて、木下氏は「不規則な生活が続いてしまう」と、悩みを吐露。それに対し枝川氏は、「睡眠はリズムが大切。前半と後半で役割が違うので、なるべくまとまった時間を睡眠にあてることが望ましい。短い睡眠時間を足し算するのは、最後の手段にしてほしい」とアドバイスした。

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不眠症とがんリスク~メタ解析

 近年、最も一般的な睡眠障害の1つである不眠症とがんとの関連について新たな研究が発表されているが、それらの結果は一貫していない。社会の発展や生活スピードの加速により、不眠症を経験する人は増加している。中国・Anhui Medical UniversityのTingting Shi氏らは、不眠症とがんとの関連を明らかにするため、メタ解析を実施した。Journal of Sleep Research誌オンライン版2019年7月28日号の報告。 関連文献は、7つのデータベースおよび補足検索により収集した。厳密なスクリーニング後、対象者57万8,809例とがんイベント7,451件を含む8つのコホート研究(プロスペクティブ研究:7件、レトロスペクティブ研究:1件)が抽出され、分析に組み込まれた。 主な結果は以下のとおり。・不眠症患者は、非不眠症者と比較し、全体的ながんリスクが24%増加していた。・感度分析では、安定した相関関係が認められた。・サブグループ解析では、女性を対象とした研究においてがん発症リスクが有意に高かったが(HR:1.24、95%CI:1.01~1.53)、男性では認められなかった(HR:1.28、95%CI:0.90~1.80)。・特定のがん種については、甲状腺がんのみで、プールされたHRが有意に高く(HR:1.36、95%CI:1.12~1.65)、他のがん種では認められなかった(p>0.05)。 著者らは「本調査結果より、不眠症はがん発症の早期警告として機能する可能性と、早期発見と早期介入の機会を提供する可能性が示唆された。限定的な研究数と潜在的なバイアスのため本調査結果は慎重に扱う必要があり、さらなる追加研究が必要性である」としている。

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仕事に関連した精神的疲労と不眠症リスク

 ノルウェー科学技術大学のEivind Schjelderup Skarpsno氏らは、仕事に関連した精神的疲労と不眠症状リスクとの将来にわたる関連性を調査し、余暇がこの関連性に影響を及ぼすかについて、検討を行った。Behavioral Sleep Medicine誌オンライン版2019年7月15日号の報告。 対象は、ノルウェーHUNT研究の調査に2回連続で参加した女性8,464人と男性7,480人。1995~97年のベースライン時に、不眠症状の認められない就労者に関する縦断的なデータを調査した。2006~08年のフォローアップ期間において、ベースライン時の仕事に関連した精神的疲労と、余暇の身体活動に関連した不眠症状の調整リスク比(RR)および95%信頼区間(CI)を算出するため、ポアソン回帰分析を用いた。 主な結果は以下のとおり。・就労日後、常に精神的疲労を経験していた人は、経験したことがない、またはめったにない人と比較し、不眠症状のRRが女性2.55(95%CI:1.91~3.40)、男性2.61(95%CI:1.80~3.78)であった。・この関連は、余暇の身体活動による強い修正効果は認められなかったが、常に精神的疲労を経験している就労者の不眠症状のRRは、低い身体活動で3.17(95%CI:2.28~4.40)、高い身体活動で2.52(95%CI:1.89~3.39)であった。 著者らは「高認知作業負荷によって引き起こされる仕事に関連した精神的疲労は、不眠症状の強いリスク因子であることが示唆された。余暇の身体活動に明らかな修正効果は認められなかったが、低い身体活動を伴う仕事に関連した精神的疲労を経験した就労者で、不眠症状リスクが最も高かった」としている。

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トラックドライバーの日中の眠気とアルコール消費との関係

 商用車ドライバーの交通事故の主な原因として、日中の過度な眠気(excessive daytime sleepiness:EDS)が挙げられる。アルコール消費は、睡眠に直接的な影響を及ぼし、翌日の注意力やパフォーマンスに悪影響を及ぼす。順天堂大学のRonald Filomeno氏らは、日本の商用トラックドライバーにおけるアルコール消費とEDSとの関係および、このことが公衆衛生に及ぼす影響について横断的研究を実施した。Occupational Medicine誌オンライン版2019年7月2日号の報告。 対象は、東京都および新潟県の商用車ドライバー。対象者は、年齢、BMI、アルコール消費量、エプワース眠気尺度(ESS)、タバコ消費量の詳細を含む自己管理型アンケートに回答した。対象者の酸素飽和度低下指数は、対象者が自宅に持ち帰ったパルスオキシメーターで評価された。 主な結果は以下のとおり。・全日本トラック協会に登録されている20~69歳の男性ドライバー1,422人が回答した。・43歳未満のドライバーにおいて、非飲酒者と比較したEDSの多変量調整オッズ比(OR)は、軽度飲酒者で0.81(95%CI:0.47~1.40)、中等度飲酒者で0.93(95%CI:0.51~1.70)、大量飲酒者で0.61(95%CI:0.21~1.79)であった。・43歳以上のドライバーにおいて、非飲酒者と比較したEDSの多変量調整ORは、軽度飲酒者で1.42(95%CI:0.59~3.45)、中等度飲酒者で1.53(95%CI:0.63~3.75)、大量飲酒者で3.37(95%CI:1.14~9.96)であった(P for interaction=0.05)。 著者らは「ESSとアルコール摂取との関連について、アルコール消費量の増加とともにEDSレベルが上昇することが示唆され、とくに43歳以上ではその関連がより顕著である」としている。

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