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座って過ごすことは眠っているよりも心臓の健康に悪い

 心臓の健康にとって、座って過ごすことほど悪いことはないことが、新たな研究で確認された。研究論文の筆頭著者である、英ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン(UCL)スポーツ・運動・健康研究所のJoanna Blodgett氏は、「われわれの研究から得られた大きな収穫は、活動量を少し増やすだけでも心臓の健康に良い影響を与えることができるということと、その強度も重要だということだ」と述べている。Blodgett氏らの研究では、心臓の健康に最も効果的なのは、たとえ数分でも、座って過ごす時間をランニングや早歩きなどの心拍数と呼吸数を上げるような中等度から高強度の運動(moderate to vigorous physical activity;MVPA)に置き換えることであり、立っていることや眠っていることでさえ、座っているよりは良いことが示されたという。この研究結果は、「European Heart Journal」に11月10日掲載された。 心血管疾患は世界の死因の第1位を占める疾患だ。研究グループによると、2021年には3人に1人が心血管疾患により死亡し、1997年以来、世界中で心血管疾患の罹患者数は倍増しているという。 この研究では、Prospective Physical Activity, Sitting, and Sleep(ProPASS)コンソーシアムから6件の研究(5カ国の対象者の総計1万5,253人、平均年齢53.7±9.7歳)のデータを抽出し、5種類の身体活動と6種類の肥満度および心血管代謝の指標との関連を調べた。5種類の身体活動とは、睡眠、座位行動、立位行動、低強度の運動(light intensity physical activity;LIPA)、MVPAで、6種類の指標とは、BMI、ウエスト周囲径、HDLコレステロール(HDL-C)、総コレステロール(TC)とHDL-Cの比(TC/HDL-C比)、トリグリセライド(中性脂肪)、HbA1cであった。対象者は、太ももに装着するウェアラブルデバイスで1日の活動量を測定していた。 対象者は平均して、睡眠に7.7時間、座位行動に10.4時間、立位行動に3.3時間、LIPAに1.5時間、MVPAに1.3時間を費やしていた。解析からは、座位行動と比べた場合に心臓の健康に最も良い影響をもたらすのはMVPAであり、次いで、LIVP、立位行動、睡眠の順であることが明らかになった。また、1日の中に占める座位行動、立位行動、LIPA、睡眠の時間の一部をMVPAに置き換えるだけで、検討した指標の全てが改善することも示された。例えば、BMIが26.5の54歳女性の場合、30分の座位時間をMVPAに置き換えることで、BMIが0.64、ウエスト周囲径が2.5cm、HbA1cが1.33mmol/mol減少した(それぞれ、2.4%、2.7%、3.6%の減少)。心血管代謝を改善させるためにMVPA以外の身体活動をMVPAに置き換えるのに必要な最小の時間には、3.8分(LIPAをMVPAに置き換えることでHbA1cが改善)から12.7分(座位をMVPAに置き換えることで中性脂肪が改善)の幅があった。 本研究に資金を提供した英国心臓財団のアソシエイトメディカルディレクターであるJames Leiper氏は、「運動が心血管の健康に実質的な効果をもたらすことはすでに知られている。今回の研究結果は、毎日のルーチンを少し調整するだけで心筋梗塞や脳卒中の発症リスクを低下させられることを示したもので、励みになる」とコメントしている。 Leiper氏は、「毎日を活動的に過ごすのは、容易なことではない。どのようなものであれ心拍数が上がるような活動を長く楽しみながら続けるには、何らかの変化を加えることが重要となる。電話をかけながら歩く、時計のアラームをセットして1時間おきに立ち上がってスタージャンプをするなどの『運動スナック』を取り入れることは、1日の活動の中に身体活動を取り入れるための良い方法だろう」と述べている。

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妊婦の不眠症に対する認知行動療法の有用性~メタ解析

 妊婦の不眠症を改善するために、第一選択治療として認知行動療法(CBT-I)を用いることは、有用である可能性がある。しかし、フォローアップ時における妊婦に対するCBT-Iのコンポーネント、方法、回数、有効性については、明らかになっていない。中国・香港大学のXingchen Shang氏らは、妊婦に対するCBT-Iの有効性を評価し、効果的な介入のためのコンポーネント、方法、回数を特定するため、システマティックレビューおよびメタ解析を実施した。その結果、妊婦に対するCBT-Iは、短期的な不眠症改善に有効である可能性が示唆されたものの、長期的な有効性は依然として不明なままであり、今後の長期フォローアップを伴う研究が必要であることを報告した。Sleep Medicine誌2023年12月号の報告。 2023年1月10日までに6つの英語データベース(PubMed、Embase、Cochrane Library、Web of Science、PsycINFO、CINAHL)と4つの中国語データベース(CNKI、WanFang Data、SinoMed、CQVIP)より検索を行った。妊婦に対するCBT-Iについて、不眠症重症度指数(ISI)で測定した不眠症重症度またはピッツバーグ睡眠質問票(PSQI)で測定した睡眠の質を、アウトカムとして評価したランダム化比較試験(RCT)を対象とした。2人の独立した査読者による選定、データ抽出、品質評価を行った。プール分析には、固定効果モデルまたは変量効果モデルを用いた。サブグループ解析は、各提供タイプと介入期間に基づき実施した。エビデンスの確実性の評価には、GRADEアプローチを用いた。メタ解析が適切でない場合には、ナラティブ分析を行った。主要アウトカムは、不眠症重症度および睡眠の質のスコアの95%信頼区間(CI)との平均差(MD)とした(高スコアほど重症度が高い)。 主な結果は以下のとおり。・選択基準を満たした9件のRCT(978例)をメタ解析に含めた。・研究の内訳は、個人ベース介入6件、グループベース介入3件であり、対面介入5件、デジタル介入3件、電話および電子メール介入3件であった。・妊婦に特有の介入コンポーネントについて検証された研究は、6件であった。・介入直後(1ヵ月未満)および短期(1ヵ月以上6ヵ月未満)のフォローアップにおいて、妊婦に対するCBT-Iは、不眠症の重症度と睡眠の質に対する改善を示した。●介入直後【不眠症重症度】MD:-2.69、95%CI:-3.41~-1.96、p<0.001、エビデンスの質:高【睡眠の質】MD:-2.85、95%CI:-4.73~-0.97、p=0.003、エビデンスの質:中程度●短期フォローアップ【不眠症重症度】MD:-3.69、95%CI:-5.91~-1.47、p=0.001、エビデンスの質:高【睡眠の質】MD:-1.88、95%CI:-2.89~-0.88、p<0.001、エビデンスの質:中程度・2件のRCTでは、中期(6ヵ月以上12ヵ月未満)フォローアップにおいて、不眠症重症度に対する有効性が報告されなかった。・長期(12ヵ月以上)のフォローアップにおいて、不眠症の軽減が認められた報告は1件のみであった。・1件のRCTでは、中期フォローアップでの睡眠の質の改善に対する有効性が報告されておらず、長期フォローアップでも有用性は報告されていなかった。

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ネモリズマブ、結節性痒疹のそう痒・皮膚病変を改善/NEJM

 ネモリズマブ単剤療法はプラセボとの比較において、結節性痒疹のそう痒と皮膚病変を有意に改善したことが、海外第III相二重盲検無作為化比較試験「OLYMPIA 2試験」で示された。結節性痒疹は、慢性の神経免疫疾患であり、重度のそう痒を伴い疾病負荷が大きいとされる。ネモリズマブは、インターロイキン(IL)-31受容体αを標的としたモノクローナル抗体で、結節性痒疹の発症に重要な経路を阻害する。第II相試験では、IL-31を介したシグナル伝達を阻害し、そう痒と皮膚病変の改善、Th2細胞(IL-13)とTh17細胞(IL-17)を介した免疫応答を抑制することが示されていた。本結果は、米国・ジョンズ・ホプキンス大学のShawn G. Kwatra氏らによって、NEJM誌2023年10月26日号で報告された。 OLYMPIA 2試験は、9ヵ国68施設において実施され、18歳以上の中等度~重度の結節性痒疹患者が対象となった。登録は2020年9月~2021年11月に行われた。対象患者は、ネモリズマブ群(初回用量60mg、その後は30mgまたは60mg[ベースライン時の体重[90kg未満または90kg以上]に基づく]を4週ごとに16週間皮下注射)、プラセボ群へ無作為に2対1の割合で割り付けられた。 有効性の主要評価項目は、16週目のPeak Pruritus Numerical Rating Scale(PP-NRS、スコア範囲:0~10点、スコアが高いほど重度)に基づくそう痒の改善(PP-NRSスコアが4点以上低下)と、16週目のInvestigator's Global Assessment(IGA、スコア範囲:0~4点)に基づく奏効(IGAスコア0点[消失]または1点[ほとんど消失]かつベースラインから2点以上低下)であった。 主要な副次評価項目は以下の5つ。(1)4週目のPP-NRSスコアがベースラインから4点以上低下(2)4週目の週間平均PP-NRSスコアが2点未満(3)16週目の週間平均PP-NRSスコアが2点未満(4)4週目のsleep disturbance numerical rating scale(SD-NRS、スコア範囲:0~10点、スコアが高いほど重度)スコアがベースラインから4点以上低下(5)16週目のSD-NRSスコアがベースラインから4点以上低下 主な結果は以下のとおり。・合計274例が無作為化された(ネモリズマブ群183例、プラセボ群91例)。・16週目において、2つの主要評価項目に関して治療効果が示された。・16週目においてそう痒の改善を達成した患者の割合は、ネモリズマブ群56.3%、プラセボ群20.9%であり、ネモリズマブ群が有意に改善した(調整群間差:37.4パーセントポイント[95%信頼区間[CI]:26.3~48.5]、p<0.001)。・16週目においてIGAに基づく奏効を達成した患者の割合も、ネモリズマブ群37.7%、プラセボ群11.0%であり、ネモリズマブ群が有意に改善した(調整群間差:28.5パーセントポイント[95%CI:18.8~38.2]、p<0.001)。・5つの主要な副次評価項目について、いずれもネモリズマブ群が有意に改善した(いずれもp<0.001)。(1)4週目のPP-NRSスコアがベースラインから4点以上低下:41.0% vs.7.7%(2)4週目の週間平均PP-NRSスコアが2点未満:19.7% vs.2.2%(3)16週目の週間平均PP-NRSスコアが2点未満:35.0% vs.7.7%(4)4週目のSD-NRSスコアがベースラインから4点以上低下:37.2% vs.9.9%(5)16週目のSD-NRSスコアがベースラインから4点以上低下:51.9% vs.20.9%・主な有害事象(ネモリズマブ群で5%以上に発現)は、頭痛(ネモリズマブ群6.6%、プラセボ群4.4%)、アトピー性皮膚炎(それぞれ5.5%、0%)であった。

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死亡リスクを低下させる睡眠のとり方、睡眠時間よりも〇〇!?

 睡眠は健康と密接な関係があることが知られているが、研究の多くは睡眠時間に焦点が当てられており、睡眠の規則性と死亡リスクの関係は明らかになっていない。そこで、オーストラリア・Monash UniversityのDaniel P. Windred氏らの研究グループは、英国のUKバイオバンクの6万人超のデータを用いて、睡眠時間および睡眠の規則性と死亡リスクとの関連を検討した。その結果、睡眠時間と睡眠の規則性はいずれも全死亡リスクの予測因子であることが示されたが、睡眠の規則性のほうがより強い予測因子であった。Sleep誌オンライン版2023年9月21日号に掲載の報告。 本研究では、UKバイオバンクに登録された40~69歳のうち、手首に加速度センサーを7日間装着し、データが取得できた6万977人が対象となった。睡眠時間と睡眠の規則性は加速度センサーのデータを基に推定した。対象を睡眠時間と睡眠の規則性でそれぞれ五分位に分類し、第1五分位群(0~20パーセンタイル)に対する第2~5五分位群(20~40、40~60、60~80、80~100パーセンタイル)の全死亡、原因別死亡(がん、心代謝性疾患、その他)のリスクを検討した。Cox比例ハザードモデルを用い、最小限の調整をしたモデル(年齢、性別、民族で調整)と完全調整モデル(最小限の調整をしたモデルに身体活動レベルなどの10因子を追加して調整)の2つのモデルで解析した。 主な結果は以下のとおり。・本研究の対象となった6万977人の平均年齢は62.8歳、平均睡眠時間は6.77時間、平均追跡期間は6.30年であった。・追跡期間中の死亡数は1,859人であった(1,000人年当たり4.3人)。・睡眠の規則性の第2~5五分位群は、最小限の調整をしたモデルおよび完全調整モデルのすべての群で全死亡リスクが有意に低下した(20~48%低下)。・同様に、がん死亡リスク(16~39%低下)、心代謝性疾患による死亡リスク(22~57%低下)もすべての群で有意に低下し、その他の原因による死亡リスクも完全調整モデルの第2五分位群を除くすべての群で有意に低下した。・睡眠時間の第2~5五分位群も、同様にすべての群で全死亡リスクが有意に低下したが(18~31%低下)、がん死亡リスクとの関連はいずれの群でも認められなかった。・赤池情報量基準(AIC)に基づくモデル比較において、睡眠の規則性は睡眠時間よりも全死亡リスクの強い予測因子であった。 本研究結果について、著者らは「死亡リスクの予測において、睡眠時間が重要な役割を果たしていることが確認されたが、睡眠の規則性は睡眠時間よりも強い予測因子であることが明らかになった。睡眠の規則性を向上させるためには、睡眠時間を増やすことよりも、毎日の睡眠時間をそろえることのほうが現実的かもしれない」とまとめた。

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変形性手関節症の症状軽減に効果的な治療法とは?

 変形性手関節症に対する一般的な治療法であるステロイド薬やヒアルロン酸の注射は、ガイドラインでも推奨されているにもかかわらず、実際には症状を緩和する効果がないとする研究結果が報告された。Parker研究所(デンマーク)リウマチ科のAnna Døssing氏らによるこの研究結果は、「RMD Open」に9月21日掲載された。 Døssing氏らは、MEDLINE、Embase、およびCochrane Central Register of Controlled Trials(CENTRAL)を検索して、2021年12月26日までに発表された、変形性手関節症の患者に対する薬物療法の効果に関するランダム化比較試験(RCT)を65件選出。これらの研究結果から痛みに対する治療の効果量を計算し、それぞれの治療法の効果をネットワークメタアナリシスおよびペアワイズメタアナリシスで評価した。これらのRCTでは、総計5,975人を対象に、29種類の治療法について検討されていた。 解析の結果、プラセボに比べて、経口非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)と経口糖質コルチコイドには変形性手関節症の痛みを軽減する効果のあることが示された〔効果量はNSAIDsで−0.18(95%信頼区間−0.36〜0.02)、経口糖質コルチコイドで−0.54(同−0.83〜−0.24)〕。また、NSAIDsでは、手の機能、患者全般評価、握力に改善が、糖質コルチコイドでは、手の機能、患者全般評価、健康関連QOLに改善が認められた。 これに対して、研究対象者の多くが母指手根中手関節症(母指CM関節症)に対する治療として受けていたヒアルロン酸や糖質コルチコイドの関節内注射、全身性エリテマトーデスや関節リウマチなどに使用されるヒドロキシクロロキン、および局所NSAIDsがプラセボよりも変形性手関節症の症状軽減に有効であることを示す結果は得られなかった。また、痛みに対する局所クリームやジェルの有効性に関する明確なエビデンスは得られなかった。 この研究報告を受けて、米レノックス・ヒル病院ニューヨーク手関節センターの共同ディレクターであるDaniel Polatsch氏は、「変形性手関節症、特に母指CM関節症に対しては、以前より糖質コルチコイドの関節内注射が基本的な治療法として実施されている。しかし、今回の研究により、この治療法の有効性に対するエビデンスが驚くほど欠如していることが明らかになった」と話し、「自分も含めた多くの手外科医が共有している考え方や、臨床現場で経験していることとは真逆の結果だ」と驚きを表す。 Polatsch氏は、変形性手関節症の治療は個別化されるべきだとの考えを示す。「私は常に、最もリスクの低い選択肢から治療を開始するべきことを提唱している。経口NSAIDsや経口糖質コルチコイドの短期使用は、その意味で合理的なアプローチだと言える」と話す。とはいえ、これらの薬の長期使用は副作用を引き起こす可能性があることにも留意すべきだ。例えば、NSAIDsの長期使用は、出血性潰瘍と関連することが指摘されている。また、経口ステロイド薬の長期間の服用は、高血圧、体重増加、皮膚の菲薄化、感染症を招く可能性がある。 Polatsch氏は、「変形性手関節症の患者は、医療従事者とさまざまな治療法について話し合い、一緒に計画を立てるべきだ」と助言する。また、「症状が長引く患者は、薬物療法、スプリント療法、ハンドセラピー、注射、そして最終手段として手術など、あらゆる選択肢を徹底的に評価できる手外科医に診てもらうのも良いだろう」と話している。

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第184回 熟睡を促す音刺激で心機能が向上しうる

熟睡を促す音刺激で心機能が向上しうる生きていくのに睡眠は不可欠で、ぐっすりと眠ることは健康を保つのにとりわけ重要です。より深い眠りに落ちていることを示す脳の活動である徐波(slow wave)を音で増やすことで高齢者の記憶を改善しうることが先立つ研究で示されています1)。また、軽度認知障害(MCI)患者の睡眠中にピンクノイズ※というかすかな音を流したところ徐波が増え、44の単語対を覚える記憶検査成績が改善しました2)。※ピンクノイズ:周波数が高いほどよりもの静か(周波数が1オクターブ上がるごとに音圧が3デシベルずつ下がる)という特性がある音(擦れる木の葉、雨、滝、心拍の音など)。そのピンクノイズがどうやら心臓機能の改善効果も有するらしいことがスイスの連邦工科大学やチューリッヒ大学のチームによる新たな試験で示されました3)。試験に参加した健康な男性18人には睡眠研究所で間を置いて3泊してもらい、そのうちの2泊ではピンクノイズを流し、1泊ではそうしませんでした。寝ている間の被験者の脳の活動、血圧、心臓の活動が記録され、深い睡眠に至ったことを示す合図があった時点から10秒間のピンクノイズが10秒間の間を挟んで4時間繰り返しコンピューターから発せられました。その結果、ピンクノイズが発せられている間は徐波が増え、翌朝の心エコー検査で左心室の伸縮機能の向上が示唆されました。今回の試験の被験者は全員男性で、年齢は30~57歳でした。男性に限ったのは女性に比べてより均一だからです。被験者と同年齢層の女性は睡眠に大きな影響を及ぼす月経周期や閉経があり、今回のような取っ掛かりの試験ではせっかくの効果がそれらの影響で検出できない恐れがありました4)。今後の試験では女性を含めた検討が必要なことを研究者は承知しています。睡眠や心血管の調子の明らかな性差が判明しつつあり、そういう性差を考慮した治療の開始が重要視されるようになっています。ピンクノイズやそれに似た脳刺激手段で将来的には心血管疾患の治療を向上させることができるかもしれません。また、心血管分野の治療のみならず運動選手にとっても意義があると研究者は考えています。ピンクノイズのような徐波睡眠の亢進手技で心機能を改善し、きつい練習や競技の後の回復を早めてより好調にできる可能性があります。研究者らはさらに先を見据えており、ピンクノイズよりもっと強力な刺激で心血管系を上向かせる手段も目指しています。今回の試験の筆頭著者であるStephanie Huwiler氏は試験を指揮したCaroline Lustenberger氏らとともに睡眠刺激の事業EARDREAMを立ち上げています。上述したとおり徐波睡眠を底上げすることは認知機能障害患者の記憶改善効果があるかもしれず、EARDREAMはアルツハイマー病患者の早期診断や睡眠不調を回復させる睡眠亢進手段に取り組んでいます5)。また、アルツハイマー病のみならず今回の成果の臨床応用に向けた開発も目指しています4)。参考1)Papalambros NA, et al. Front Hum Neurosci. 2017;11:109.2)Papalambros NA, et al. Ann Clin Transl Neurol. 2019;6:1191-1201.3)Huwiler S, et al. Eur Heart J. 2023 Oct 05. [Epub ahead of print]4)Increased deep sleep benefits your heart / ETH Zurich5)Startups developing tailored sleep interventions for Alzheimer disease, aquafarming using mycellium technology, regeneration through protein engineering, a vital patient data stream, and revolutionizing open source each win CHF 10,000 / Venture Kick

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労働者の不眠症に対し認知行動療法は有効か?~メタ解析

 不眠症に対する認知行動療法(CBT-I)は、第1選択の治療として推奨されているが、労働者の不眠症に対する有効性は、よくわかっていない。東京医科大学の高野 裕太氏らは、労働者の不眠症状のマネジメントにおけるCBT-Iの有効性を評価するため、システマティックレビューおよびメタ解析を実施した。Sleep Medicine Reviews誌2023年10月号の報告。 3つの電子データベース(PubMed、PsycINFO、Embase)より文献検索を行った。 主な結果は以下のとおり。・21件の研究をメタ解析に含めた。・全体としてCBT-Iは、対照群と比較し、不眠症状の有意な改善が認められた。 ●不眠症重症度(g=-0.91) ●入眠潜時不眠症重症度(g=-0.62) ●中途覚醒不眠症重症度(g=-0.60) ●早朝覚醒不眠症重症度(g=-0.58) ●睡眠効率不眠症重症度(g=0.71)・対照群と比較し、総睡眠時間の改善は認められなかった。・CBT-Iは、対照群と比較し、うつ症状(g=-0.37)、不安症状(g=-0.35)、疲労(g=-0.47)の有意な軽減が認められた。 著者らは、「私たちの研究結果は、CBT-Iは、Webベースおよび対面のいずれにおいても日中労働者の不眠症状のマネジメントに効果的な介入であることが示唆しているが、臨床的に意味のある改善が認められたのは対面でのCBT-Iのみであることに注意することが重要である。なお、交代勤務の労働者に対するCBT-Iの有効性は、判断できなかった」としている。

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閉塞性睡眠時無呼吸のCPAP治療で長引く咳や胸焼けも改善か

 持続陽圧呼吸療法(CPAP)は閉塞性睡眠時無呼吸(OSA)だけでなく、それに合併することの多い胸焼けや慢性的な咳にも効果がある可能性が、新たな研究で示された。この研究結果は、「ERJ Open Research」に8月31日掲載された。 研究論文の上席著者でアイスランド国立大学病院のThorarinn Gislason氏によると、OSAの患者では、OSAのない人と比べて胃食道逆流現象(GER)を発症するリスクが3倍高いという。しかしGislason氏は、GERがあるからといってOSAの検査を受けるべきだと考えているわけではない。「OSAは、日中の眠気や喘鳴などの呼吸器症状など、さまざまな症状や合併症を伴うことがある。これらの症状があるのなら、OSAの検査を受けることを考慮しても良いかもしれない」と同氏は言う。 OSAは、喉の奥の筋肉の過度な弛緩により気道が狭窄や閉塞を起こすことで生じる。これにより、睡眠中に十分な空気が取り込めなくなり、気道を広げるために目を覚ますが、この覚醒時間は非常に短く、目が覚めたことを忘れてしまっている場合が多い。また、OSAは、いびきや息の詰まり、息切れの原因ともなり、これらの症状が1時間に5~30回、あるいは30回以上のペースで一晩中繰り返される。 このようにコンスタントに眠りが妨げられると、健康にも深刻な影響が及ぶ。OSAは、日中の眠気や心血管の問題、2型糖尿病、肝臓の問題などのリスクを高める可能性が指摘されている。Gislason氏によると、最も効果的なOSAの治療法はCPAPで、「OSAのない人と同じ状態をもたらすため最も有効性が高い」という。 一方、米国肺協会(ALA)のスポークスパーソンを務める米イェール大学医学部臨床准教授のDavid Hill氏は、GERがOSAに関連する理由について、「OSAで気道の閉塞が生じると、閉塞を解消しようと強く呼吸することになる。それによって酸が食道を逆流し、場合によっては肺にまで流れ込むため、GERが悪化する可能性がある。OSAを解消することで呼吸が楽になり、GERの改善が促される」と説明する。 Gislason氏らは今回、アイスランドで中等症~重症のOSAと診断され、CPAPによる治療を開始する822人を対象に研究を行った。研究参加者はCPAP治療の開始前に1泊の睡眠検査を受け、夜間のGERや呼吸器の症状を含む睡眠に関する質問票に回答した。治療開始から2年後にフォローアップ評価が実施され、CPAPに記録されたデータが収集・評価された。フォローアップ評価を完了した対象者738人のうち732人(CPAPを日常的に使用:366人、部分的に使用/非使用:366人)はフォローアップ時にもGERに関する調査に回答していた。 その結果、日常的にCPAPを使用していたOSAの患者では、CPAPの使用頻度が低いか、使用していなかった患者と比べて夜間のGERのリスクが42%(オッズ比0.58、95%信頼区間0.40〜0.86)、喘鳴のリスクが44%(同0.56、0.35〜0.88)低下することが示された。また、GERが起こりにくくなったことで朝の咳のリスクが4倍以上低下し、慢性気管支炎のリスクもほぼ4倍低下していた。 CPAPは睡眠中に上気道を開いた状態に保つため、胃と食道の間の弁が閉じたままになり、胃から酸が漏れ出しにくくなるのではないかと研究グループは考察している。 睡眠専門医でSleepApnea.orgのシニア・メディカル・アドバイザーのJoseph Krainin氏は、「この研究結果は、われわれ睡眠の専門医の多くが経験から知っていることを裏付けるものだ。CPAPによるOSAの治療は胃食道逆流症(GERD)の症状の劇的な改善をもたらし得る」と話す。同氏はまた「この研究は夜間のGERについて調べたものだが、私の経験から、日中のGERも著明に改善する可能性がある」としている。 Hill氏は、OSAの治療では胃酸逆流を軽減するCPAPの効果にも注目すべきだとの考えを示す。同氏は、「GERや胸焼け、長引く咳といった症状を抱えているのであれば、CPAPによってOSAに関連する問題をコントロールしながら、そうした症状にも対処できる可能性がある」と付け加えている。

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1型糖尿病リスクの高い小児、コロナ感染で発症しやすいか/JAMA

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界的流行の時期に、小児で糖尿病の増加が観察されている。ドイツ・ドレスデン工科大学のMarija Lugar氏らは、「GPPAD試験」において、1型糖尿病の遺伝的リスクが高い小児では、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)抗体が検出されなかった場合と比較して、検出された集団は膵島自己抗体の発生率が高く、とくに生後18ヵ月未満でリスクが増大していることを明らかにした。研究の成果は、JAMA誌オンライン版2023年9月8日号に掲載された。生後4~7ヵ月の幼児を追跡した欧州のコホート研究 GPPADは、欧州の5ヵ国(ドイツ、ポーランド、スウェーデン、ベルギー、英国)の施設が参加した進行中の縦断的コホート研究である(米国・Leona M. and Harry B. Helmsley Charitable Trustなどの助成を受けた)。 この研究では、2018年2月~2021年3月に、1型糖尿病発症の遺伝的リスクが10%以上の生後4~7ヵ月児1,050人(女児517人)を登録したPrimary Oral Insulin Trial(POINT)のデータを用いた。 SARS-CoV-2の感染は、2018年4月~2022年6月に、被験児が2歳になるまでに2~6ヵ月の間隔で行われた追跡調査の受診時にSARS-CoV-2抗体の発現を特定することで確認した。 主要アウトカムは、2つの連続した検体または単一の検体における2つ以上の膵島自己抗体の発現と、1型糖尿病の発症であった。 生後6ヵ月からの抗体測定について、血液検体を保管するバイオバンクの同意が得られた885人(女児441人)を解析の対象とした。膵島自己抗体陽性者の33.3%が1型糖尿病発症 年齢中央値18ヵ月(範囲:6~25)の時点で、170人にSARS-CoV-2抗体の発現を認めた。膵島自己抗体は60人(6.8%)で発現し、このうち6人はSARS-CoV-2抗体陽性と同時に、6人はSARS-CoV-2抗体陽性後の診察時に、膵島自己抗体陽性であった。これら60人の小児は最終受診時まで膵島自己抗体が陽性で、このうち20人(33.3%)が1型糖尿病を発症した。 SARS-CoV-2抗体陽性時の膵島自己抗体発現の、性・年齢・国で補正したハザード比(HR)は3.5(95%信頼区間[CI]:1.6~7.7、p=0.002)であった。また、膵島自己抗体発現の累積リスクは、SARS-CoV-2抗体陰性の場合は2.9%(95%CI:1.8~4.8)であったのに対し、陽性の場合の6ヵ月以内の累積リスクは7.3%(4.2~12.7)だった(p=0.01)。 膵島自己抗体の発生率は、SARS-CoV-2抗体陰性の場合は100人年当たり3.5(95%CI:2.2~5.1)であったのに対し、陽性の場合は同7.8(5.3~19.0)と有意に高かった(p=0.02)。 さらに、SARS-CoV-2抗体陽性の幼児における膵島自己抗体が陽性となるリスクは、生後18~24ヵ月と比較して、生後18ヵ月未満で有意に高かった(HR:5.30、95%CI:1.50~18.30、p=0.009)。 著者は、「膵島自己抗体の発現が、COVID-19の世界的流行の初期における1型糖尿病発症率の急激な上昇の原因とは考えにくいが、将来の1型糖尿病の発症率に関連すると考えられる」とし、「生後12ヵ月ごろに膵島自己抗体の発現がピークに達したが、これは糖尿病原性障害の原因への初期曝露が相対的に多いか、またはこの年齢での膵島自己免疫に対する脆弱性の増加のいずれかを反映すると推測され、本研究はこれらの仮説の評価に道を開くものである」と指摘している。

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前庭機能障害は認知機能低下の修正可能なリスク因子である可能性

 前庭機能障害は認知機能低下の修正可能なリスク因子かもしれないとする研究結果が、「Frontiers in Neuroscience」に4月4日掲載された。 北京清華長庚医院および清華大学医学部(中国)のJiake Zhong氏らは、メニエール病(MD)患者において、治療前および治療後3、6、12カ月時点の認知機能、および回転性めまい症状とそれによる身体活動、社会的機能、感情への影響を評価した。アウトカムは、モントリオール認知評価尺度(MoCA)およびめまい問診票(Dizziness Handicap Inventory)を用いて評価した。 その結果、MD患者では、治療前の認知機能、中でも記憶機能が健康成人対照群と比較して低下していた。認知機能障害は効果的な治療の実施後に改善しており、この改善は回転性めまい症状の重症度の低下、特に社会的機能、身体活動に対する影響の低下に関連していた。 著者らは「中後期のMD患者に回復困難な進行性難聴が多く見られることを考慮すると、前庭機能は認知機能低下の潜在的に修正可能なリスク因子である可能性が高い。今後は、回転性めまい発作の回数、持続時間、頻度、さまざまな下位領域における認知課題、神経電気生理学的指標などの、より客観的かつ包括的な評価を実施し、より大きなサンプルにおいてそれらの関連性をさらに探索する予定である」と述べている。

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睡眠中のアロマセラピー、高齢者の記憶を200%超改善

 高齢者が睡眠中にエッセンシャルオイルの香りに曝露することで、記憶力が大幅に改善したという研究結果が報告された。高齢者の認知機能低下は重要な社会問題であり、安価かつ簡便に家庭内で実施可能な対処法が求められていることから、本研究の手法は非常に有用と考えられた。本研究結果は、米国・カリフォルニア大学アーバイン校のCynthia C. Woo氏らによって、Frontiers in Neuroscience誌2023年7月24日号で報告された。 認知機能障害や認知症のない60~85歳の男女43人を対象とした。睡眠時にエッセンシャルオイルの香りに曝露する群(嗅覚刺激群)、微量の匂い物質の香りに曝露する群(対照群)に1対1の割合で無作為に割り付け、6ヵ月間嗅覚刺激を実施した。嗅覚刺激群は、7種類のエッセンシャルオイルを用いて、毎晩1種類ずつ2時間曝露した。対照群は、同様に微量の匂い物質の香りに曝露した。ベースライン時と6ヵ月後において、神経心理学的評価と機能的磁気共鳴画像法(fMRI)を用いた脳機能の解析を行った。記憶機能は、Rey Auditory Verbal Learning Test(RAVLT)を用いて評価した。また、Wechsler Adult Intelligence Scale 3rd edition(WAIS-III)を用いた知能検査も実施した。 主な結果は以下のとおり。・6ヵ月後におけるベースライン時からのRAVLTスコア(第5試行)の変化量(標準偏差)は、対照群が-0.73点(1.74)であったのに対し、嗅覚刺激群は0.92点(1.31)であり、嗅覚刺激群は対照群と比較して226%の有意な改善が認められた(p=0.02)。・知能検査については、両群間に有意差は認められなかった。・嗅覚刺激群は対照群と比較して、左鉤状束※の平均拡散能(mean diffusivity)が有意に増加した(p=0.02)。・ベースライン時の14日間の平均睡眠時間と6ヵ月後における14日間の平均睡眠時間を比較した結果、対照群は3分減少したのに対し、嗅覚刺激群は22分増加した。※ 鉤状束はエピソード記憶、言語、社会的感情処理などの機能を担っていることが示唆されており、加齢やアルツハイマー病によって機能が低下するとされている。

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第175回 コロナ後遺症への抗ウイルス薬パキロビッド長期投与の試験開始

コロナ後遺症への抗ウイルス薬パキロビッド長期投与の試験開始新型コロナウイルス感染症(COVID-19)罹患後症状(long COVID)を治療しうる手段をいくつかに分類して次々に検討する第II相試験の2つが米国で始まりました1)。それら試験はCOVID-19の長期経過の把握、治療、予防を目指す米国国立衛生研究所(NIH)の取り組みであるResearching COVID to Enhance Recovery(RECOVER)の一環として実施されています。早速始まった2試験の1つはRECOVER-VITAL2)と呼ばれます。ウイルス感染の持続、ウイルスの再活性化、過剰あるいは慢性的な免疫反応や炎症がlong COVIDに寄与し、ウイルスの除去や炎症の抑制をもたらす治療でlong COVIDが改善しうるという仮説の検証を目的としています。RECOVER-VITAL試験でプラセボと対決する治療の先鋒として白羽の矢が立てられたのはファイザーの抗ウイルス薬であるニルマトレルビル・リトナビル(日本での商品名:パキロビッドパック)です。より長期(25日間)の同剤投与によるlong COVID症状改善効果の検討への被験者組み入れはすでに始まっています。RECOVER-VITALとともに始まったRECOVER-NEURO3)という名称のもう1つの試験は遂行機能や注意などのlong COVID絡みの認知機能の低下を改善しうる治療手段の検討を目当てとしています。RECOVER-NEUROで検討される手段はすでに3つが決まっています。1つはインターネットを介した脳トレで、BrainHQと呼ばれます。BrainHQは認知障害の改善手段としてすでに普及しています。もう1つはPASC-Cognitive Recovery(PASC CoRE)と呼ばれ、BrainHQと同様にインターネットを介した脳トレであり、注意や遂行機能を改善する効果があります。3つ目は脳の活動や血流増加を助けることが知られるSoterix Medical社の製品を利用した脳の電気刺激です。同社の経頭蓋直流刺激(tDCS)製品は自宅で簡単にできるように作られています。睡眠や自律神経に注目した2つの試験RECOVER-SLEEPとRECOVER-AUTONOMICも準備段階にあり、間もなく始まります。RECOVER-SLEEPはコロナ感染後に変化した睡眠習慣や寝付きに対処しうる手段を検討します。同試験の一環として過眠や日中の過度の眠気への覚醒促進薬2種の効果がプラセボと比較されます。また、入眠や睡眠の維持の困難などの睡眠障害に睡眠の質を改善する手段が有効かどうかも検討されます。準備段階のもう1つの試験はRECOVER-AUTONOMICと呼ばれ、心拍、呼吸、消化などの生理機能ひとそろいを制御する自律神経系の失調と関連する症状への対処法を調べます。心拍異常、めまい、疲労などの症状を特徴とする体位性頻脈症候群の治療手段いくつかが手始めに検討されます。免疫疾患治療薬とプラセボの比較がその1つで、心拍亢進を伴う慢性心不全の治療薬とプラセボの比較も予定されています。運動できなくなることや疲労への手段を検討する試験も患者や専門家からの意見を取り入れて開発されています。今後次々に始まっていくRECOVER試験はlong COVIDの影響が最も大きい地域を含めて被験者を募っていきます。試験参加施設は自治体と協力してlong COVIDについての理解を促し、RECOVER試験への参加の普及に努めます。効果的な治療や手当てを検討する臨床試験はlong COVIDへの政府の取り組みの肝であり、苦労が絶えない患者やその家族が楽になるように努力していくと米国政府の役員は言っています1)。参考1)NIH launches long COVID clinical trials through RECOVER Initiative, opening enrollment / NIH 2)RECOVER-VITAL試験(ClinivalTrials.gov) 3)RECOVER-NEURO試験(ClinivalTrials.gov)

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ナルコレプシータイプ1、経口OX2受容体作動薬の第II相試験データ/NEJM

 ナルコレプシータイプ1の患者において、経口オレキシン(OX)2受容体選択的作動薬のTAK-994はプラセボと比較して8週間にわたり眠気およびカタプレキシー(情動脱力発作)を大きく改善したが、肝毒性との関連が認められた。フランス・モンペリエ大学のYves Dauvilliers氏らが、北米、欧州およびアジアで実施された第II相無作為化二重盲検プラセボ対照用量設定試験の結果を報告した。ナルコレプシーは、日中の過度の眠気を特徴とするまれで慢性的な中枢神経系の過眠障害で、カタプレキシー、入眠時または出眠時幻覚、睡眠麻痺などを伴うことがある。ナルコレプシーはタイプ1とタイプ2に大別され、タイプ1は視床下部外側野に局在するオレキシン産生ニューロンの著しい欠乏によって引き起こされることが明らかになっていた。NEJM誌2023年7月27日号掲載の報告。平均睡眠潜時をプラセボと比較 研究グループは、睡眠障害国際分類第3版に基づきナルコレプシータイプ1と診断された18~65歳の患者を、TAK-994の30mg群、90mg群、180mg群またはプラセボ群に1対1対1対1の割合に無作為に割り付け、それぞれ1日2回経口投与した。 主要エンドポイントは、覚醒維持検査(Maintenance of Wakefulness Test:MWT)による平均睡眠潜時(入眠に要する時間)(範囲:0~40分、正常:20分以上)のベースラインから8週目までの変化量であった。副次エンドポイントはエプワース眠気尺度(Epworth Sleepiness Scale:ESS)スコア(範囲:0~24、正常:10未満、スコアが高いほど日中の眠気が強いことを示す)の変化量、1週間当たりのカタプレキシー発現頻度、および安全性とした。有効性は認められるも、肝毒性により早期中止 2021年1月16日~2021年9月9日に154例がスクリーニングを受け、うち73例が無作為化され少なくとも1回試験薬を投与された(30mg群17例、90mg群20例、180mg群19例、プラセボ群17例)。 本試験は、後述のように肝毒性が数例に認められたため早期中止となり、主要エンドポイントのデータが入手できたのは41例(56%)であった。 評価可能症例において、MWTによる平均睡眠潜時の8週目までの変化量(最小二乗平均値)は、30mg群23.9分、90mg群27.4分、180mg群32.6分、プラセボ群-2.5分で、プラセボ群との差(最小二乗平均差)はそれぞれ26.4分、29.9分、35.0分であった(すべての比較でp<0.001)。 ESSスコアの8週目までの変化量(最小二乗平均値)は、30mg群-12.2、90mg群-13.5、180mg群-15.1、プラセボ群-2.1で、プラセボ群との差(最小二乗平均差)はそれぞれ-10.1、-11.4、-13.0であった(すべての比較でp<0.001)。8週目のカタプレキシー発現頻度は30mg群0.27、90mg群1.14、180mg群0.88、プラセボ群5.83であった(プラセボに対する発生率比はそれぞれ0.05、0.20、0.15)。 TAK-994投与群56例中44例(79%)に有害事象が認められ、主なものは尿意切迫感または頻尿であった。また、5例でALT値またはAST値の臨床的に重要な上昇を認め、Hy's Law(ALT/ASTの正常値上限の3倍を超える上昇とビリルビンの正常値上限の2倍を超える上昇)の基準を満たす薬物性肝障害が3例認められた。

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急性期うつ病治療における21種の抗うつ薬の睡眠への影響~ネットワークメタ解析

 抗うつ薬による急性期治療中に見られる睡眠関連副作用は、コンプライアンスの低下や寛解を阻害する要因となりうる。中国・北京大学のShuzhe Zhou氏らは、抗うつ薬の睡眠関連副作用の種類、抗うつ薬の用量と睡眠関連副作用との関連を評価するため、本検討を行った。その結果、ほとんどの抗うつ薬において、プラセボと比較し、不眠症または傾眠のリスクが高かった。また、抗うつ薬の用量と睡眠関連副作用との関係は、さまざまであった。結果を踏まえて著者らは、「抗うつ薬による急性期治療中には、睡眠関連副作用の発現に、より注意を払う必要がある」としている。Sleep誌オンライン版2023年7月9日号の報告。 2023年4月までに公表されたうつ病に対する二重盲検ランダム化比較試験をPubMed、Embase、Cochrane Central Register of Controlled Trials、Web of Scienceより検索した。短期間の抗うつ薬単剤療法中の睡眠関連副作用を報告した研究を解析に含めた。ネットワークメタ解析により睡眠関連副作用のオッズ比(OR)を算出した。用量反応性を評価するため、ベイジアンアプローチを用いた。研究間の不均一性の評価には、τ2およびI2統計を用いた。感度分析は、バイアスリスクの高い研究を除いて実施した。 主な結果は以下のとおり。・分析対象は、6万4,696例(216試験)であった。・13種類の抗うつ薬において、プラセボと比較し、傾眠の高いORが確認された。最も高いORが認められた薬剤は、フルボキサミンであった(OR:6.32、95%信頼区間[CI]:3.56~11.21)。・11種類の薬剤は、不眠症リスクが高く、最も高かった薬剤は、reboxetineであった(OR:3.47、95%CI:2.77~4.36)。・傾眠または不眠症との用量反応曲線は、直線形、逆U字形、その他が含まれていた。・研究間に有意な不均一性は認められなかった。・ネットワークメタ解析結果のエビデンスの質は、非常に低い~中程度(GRADE)であった。

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スタチン、ゾコーバなど、重大な副作用追加で添付文書改訂/厚労省

 厚生労働省は7月20日、HMG-CoA還元酵素阻害薬を含有する医薬品(スタチン)、エンシトレルビルなどの添付文書について、使用上の注意改訂指示を発出した。HMG-CoA還元酵素阻害薬を含有する医薬品 国内副作用症例において、スタチンと重症筋無力症との因果関係が否定できない症例が認められた。また、公表文献において、スタチンの再投与で重症筋無力症の症状が再発した症例、スタチンの中止で重症筋無力症の症状が消失した症例など、スタチンと重症筋無力症との因果関係が否定できない症例が報告されていることを踏まえ、改訂が適切と判断された。<改訂点>1.「特定の背景を有する患者に関する注意」(新記載要領)または「慎重投与」(旧記載要領)の項に「重症筋無力症又はその既往歴のある患者」を追記2.「重大な副作用」の項に「重症筋無力症」を追記<該当医薬品>(1)アトルバスタチンカルシウム水和物(商品名:リピトール錠 ほか)(2)シンバスタチン(リポバス錠 ほか)(3)ピタバスタチンカルシウム水和物(リバロ錠 ほか)(4)プラバスタチンナトリウム(メバロチン錠 ほか)(5)フルバスタチンナトリウム(ローコール錠 ほか)(6)ロスバスタチンカルシウム(クレストール錠 ほか)(7)アムロジピンベシル酸塩・アトルバスタチンカルシウム水和物(カデュエット配合錠1~4番 ほか)(8)エゼチミブ・アトルバスタチンカルシウム水和物(アトーゼット配合錠LD/HD ほか)(9)エゼチミブ・ロスバスタチンカルシウム(ロスーゼット配合錠LD/HD)(10)ピタバスタチンカルシウム水和物・エゼチミブ(リバゼブ配合錠LD/HD)エンシトレルビル フマル酸(ゾコーバ錠) アナフィラキシー関連の国内症例として3例が報告されており、うち、医薬品と事象との因果関係が否定できない症例は1例(死亡0例)であった。しかし、異物である本剤に対するアナフィラキシーの発現は潜在的リスクとして自明であり、緊急承認品目として遅滞ない安全対策措置が重要と、さらなる症例集積を待たずに改訂が判断された。<改訂点>「重大な副作用」の項に「アナフィラキシー」を追記 このほか、チルゼパチド(マンジャロ皮下注)の重大な副作用の項に「アナフィラキシー、血管性浮腫」が追加。ミノサイクリン(ミノマイシンカプセル ほか)の重大な副作用の項「全身性紅斑性狼瘡(SLE)様症状の増悪」を「ループス様症候群」へ変更し、長期投与例における当該事象の発現に関する注意喚起が追加された。

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第170回 糖尿病の細胞移植治療を米国が承認

死亡した人の膵臓から単離したランゲルハンス島を成分とする1型糖尿病の細胞治療Lantidra(donislecel-jujn)が専門家一堂の承認賛成から約2年の歳月を経て米国FDA承認に漕ぎ着けました1)。Lantidraの開発はさかのぼること20年ほど前の2004年に米国・イリノイ大学で始まり2)、同大学育ちの細胞治療研究会社CellTrans社に2016年に引き継がれ、締めて30例ばかりが参加した第I~III相試験の結果をよりどころにして今から3年前の2020年にFDAに承認申請されました。その申請の翌年2021年4月15日に米国FDAが招集した専門家17人のうち大半の12人がLantidraの効果は害を押して余りあると判断し3)、それから2年後の先週6月28日についに承認されました。Lantidraを使えるのは徹底的な治療や教育にも関わらず重度低血糖を繰り返すがためにHbA1c目標未達成の1型糖尿病患者に限られます。第I~III相試験もそのような1型糖尿病患者を募って実施されました。第I~III相試験では30例にLantidraが1~3回肝門脈に投与されました。残念ながら5例はインスリン不要になった日がありませんでしたが、大半の21例がインスリン要らずで1年以上を過ごしました。また、それら21例の約半数10例は5年を超えてインスリン不要な状態を保っており、移植細胞の10年間体内生存率は60%超と推定されています4)。幹細胞起源の治療の開発も進むFDAはシカゴにあるイリノイ大学病院の一画でLantidraを作ることを認可しています5)。Lantidraは死亡者の膵臓から作るゆえ供給は限定的になりそうです。一方、嚢胞性線維症治療薬で一時代を築いて今や屈指のバイオテクノロジー企業へと成長したVertex Pharmaceuticals社はよりあまねく供給しうる細胞治療を目指しており、先月末の米国糖尿病協会(ADA)年次総会で有望な第I/II相試験途中成績を披露しています。Vertex社の開発品はVX-880と呼ばれ、患者以外の他者の幹細胞(同種幹細胞)から作るインスリン生成島細胞を成分とします。第I/II相試験ではこれまでに1型糖尿病患者7例にVX-880が投与されています。そのうち1例は途中で同意を撤回して試験を離脱しましたが、残りの6例の体内には島細胞が定着してインスリンを生成しました。6例中2例は移植から1年が経過し、両者とも重度低血糖なしでHbA1c低下(7.0%未満に落ち着いているか元から差し引きで少なくとも1%減少)を達成し、さらにはインスリンに頼らず過ごせています6)。有望な成績を上げているVX-880ですがLantidraと同様の欠点もあります。それは免疫に排除されないようにするために免疫抑制薬がずっと必要ということです。そこでVertex社はさらに先を見据え、免疫抑制薬の継続が不要の細胞治療VX-264の開発も進めています。VX-264もVX-880と同様に同種幹細胞から作った島細胞を成分としますが、免疫が手出しできないようにする包みで覆うという一工夫が施されています。VX-264もVX-880と同様に第I/II相試験が進行中で、被験者の組み入れが行われています。およそ17例が組み入れられる予定です。参考1)FDA Approves First Cellular Therapy to Treat Patients with Type 1 Diabetes / PRNewswire2)Piemonti L, et al. Transpl Int. 2021;34:1182-1186. 3)Food and Drug Administration Center for Biologics Evaluation and Research Office of Tissues and Advanced Therapies Cellular, Tissue and Gene Therapies Advisory Committee Meeting April 15, 2021 69th Meeting Summary Minutes OPEN Session / FDA4)Cellular, Tissue, and Gene Therapies Advisory Committee April 15, 2021 Meeting Presentation- Clinical / FDA5)June 28, 2023 Approval Letter - LANTIDRA / FDA6)Vertex Presents Positive VX-880 Results From Ongoing Phase 1/2 Study in Type 1 Diabetes at the American Diabetes Association 83rd Scientific Sessions / BUSINESS WIRE

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他の睡眠薬からレンボレキサントへの切り替え効果~SLIM研究

 ほりこし心身クリニックの堀越 翔氏らは、他の睡眠薬からデュアルオレキシン受容体拮抗薬レンボレキサント(LEB)への切り替えによる有効性および安全性を評価するため、本研究を行った。その結果、他の睡眠薬からLEBに切り替えることで、ベンゾジアゼピン(BZD)、Z薬に関連するリスクが低下する可能性が示唆された。Journal of Clinical Sleep Medicine誌オンライン版2023年5月30日号の報告。 対象は2020年12月~2022年2月に、ほりこし心身クリニックを受診した不眠症患者61例。アテネ不眠症尺度(AIS)、エプワース眠気尺度(ESS)、Perceived Deficits Questionnaire-5 item(PDQ-5)を含む診療記録から得られた臨床データを分析した。切り替え前の睡眠薬には、BZD、Z薬、スボレキサント、ラメルテオン、ミルタザピン、トラゾドン、抗精神病薬を含めた。主要アウトカムは、LEBへの切り替え3ヵ月後のAISスコアの平均変化とした。副次的アウトカムは、LEBへの切り替え3ヵ月後のESSスコアおよびPDQ-5スコアの平均変化とした。また、切り替え前後のジアゼパム換算量の比較も行った。 主な結果は以下のとおり。・LEBへの切り替え後3ヵ月間、平均AISスコアの減少が認められた。 【1ヵ月後】-2.98±5.19(p<0.001) 【2ヵ月後】-3.20±5.64(p<0.001) 【3ヵ月後】-3.38±5.61(p<0.001)・平均ESSスコアは、切り替え3ヵ月間で有意な変化が認められなかった。 【1ヵ月後】-0.49±3.41(p=0.27) 【2ヵ月後】0.082±4.62(p=0.89) 【3ヵ月後】-0.64±4.80(p=0.30)・平均PDQ-5スコアは、切り替え3ヵ月間で有意な改善が認められた。 【1ヵ月後】-1.17±2.47(p=0.004) 【2ヵ月後】-1.05±2.97(p=0.029) 【3ヵ月後】-1.24±3.06(p=0.013)・総ジアゼパム換算量の有意な減少が観察された(ベースライン時:14.0±20.2、切り替え3ヵ月後:11.3±20.6、p<0.001)。

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境界性パーソナリティ障害の自殺リスクに対する薬物療法の比較

 境界性パーソナリティ障害(BPD)患者では、自殺行動が臨床上の重大な懸念事項となるが、自殺リスクの低下に有効な薬物療法は依然として明らかになっていない。東フィンランド大学のJohannes Lieslehto氏らは、スウェーデンのBPD患者における自殺企図または自殺既遂の予防に対する、さまざまな薬物療法の有効性について比較検討を行った。その結果、BPD患者の自殺行動のリスク低下と関連が認められた唯一の薬物療法は、注意欠如・多動症(ADHD)治療薬であることが示され、逆に、ベンゾジアゼピンの使用は自殺リスク上昇との関連が示唆された。著者らは、BPD患者において、ベンゾジアゼピンは注意して使用する必要があると報告している。JAMA Network Open誌2023年6月1日号の報告。 対象は、2006~21年にスウェーデンの全国レジストリデータベースに登録された16~65歳のBPD患者。データの分析は2022年9月~12月に行った。選択バイアスを排除するため、個別(within-individual)デザインを用いた。初発症状バイアスを調整するため、薬物治療開始から最初の1ヵ月間または2ヵ月間を分析から除外し、感度分析を行った。主要アウトカムは自殺企図または自殺既遂で、ハザード比(HR)を算出し評価した。 主な結果は以下のとおり。・分析には、BPD患者2万2,601例(男性:3,540例[15.7%]、平均年齢:29.2±9.9歳)が含まれた。・16年のフォローアップ期間(平均:6.9±5.1年)に、自殺企図で入院した患者は8,513例、自殺既遂が確認された患者は316例であった。・ADHD治療薬による薬物療法は、同薬物療法を行わなかった場合と比較し、自殺企図または自殺既遂のリスク低下と有意な関連が認められた(HR:0.83、95%信頼区間[CI]:0.73~0.95、FDR補正p=0.001)。・気分安定薬による薬物療法は、主要アウトカムと有意な関連が認められなかった(HR:0.97、95%CI:0.87~1.08、FDR補正p=0.99)。・自殺企図または自殺既遂のリスク上昇と関連していた薬物療法は、抗うつ薬(HR:1.38、95%CI:1.25~1.53、FDR補正p<0.001)、抗精神病薬(HR:1.18、95%CI:1.07~1.30、FDR補正p<0.001)による治療であった。・調査された薬剤のうち、ベンゾジアゼピンによる治療は、自殺企図または自殺既遂のリスクが最も高かった(HR:1.61、95%CI:1.45~1.78、FDR補正p<0.001)。・これらの結果は、潜在的な初発症状バイアスで調整した場合でも同様であった。

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低リスク骨髄異形成症候群の貧血にluspaterceptは?/Lancet

 赤血球造血刺激因子製剤(ESA)による治療歴のない低リスクの骨髄異形成症候群(MDS)患者の貧血治療において、エポエチンアルファと比較してluspaterceptは、赤血球輸血非依存状態とヘモグロビン増加の達成率に優れ、安全性プロファイルは全般に既知のものと一致することが、ドイツ・ライプチヒ大学病院のUwe Platzbecker氏らが実施した「COMMANDS試験」で示された。研究の成果は、Lancet誌オンライン版2023年6月10日号に掲載された。26ヵ国の第III相無作為化対照比較試験 COMMANDSは、26ヵ国142施設が参加した第III相非盲検無作為化対照比較試験であり、2019年1月~2022年8月の期間に患者の登録が行われた(CelgeneとAcceleron Pharmaの助成を受けた)。今回は、中間解析の結果が報告された。 対象は、年齢18歳以上、ESAによる治療歴がなく、WHO 2016基準でMDSと診断され、国際予後判定システム改訂版(IPSS-R)で超低リスク、低リスク、中等度リスクのMDSと判定され、赤血球輸血を要し、骨髄芽球割合<5%の患者であった。 被験者は、luspaterceptまたはエポエチンアルファの投与を受ける群に1対1の割合で無作為に割り付けられた。luspaterceptは3週間に1回皮下投与され、1.0mg/kg体重から開始して可能な場合は最大1.75mg/kgまで漸増した。エポエチンアルファは週1回皮下投与され、450IU/kg体重から開始して可能な場合は最大1,050IU/kgまで漸増した(最大総投与量8万IU)。 主要エンドポイントは、intention-to-treat集団において、試験開始から24週までに、12週以上で赤血球輸血非依存状態が達成され、同時に平均ヘモグロビン量が1.5g/dL以上増加することであった。 356例(年齢中央値74歳[四分位範囲[IQR]:69~80]、男性 56%)が登録され、luspatercept群に178例、エポエチンアルファ群にも178例が割り付けられた。中間解析には、24週の投与を完遂、および早期に投与中止となった301例(luspatercept群147例、エポエチンアルファ群154例)が含まれた。主要エンドポイント達成率はluspatercept群59%、エポエチンアルファ群31% 主要エンドポイントを達成した患者は、エポエチンアルファ群が48例(31%)であったのに対し、luspatercept群は86例(59%)と有意に高率であった(奏効率の共通リスク差:26.6、95%信頼区間[CI]:15.8~37.4、p<0.0001)。 また、(1)24週のうち12週以上で赤血球輸血非依存状態を達成した患者(luspatercept群67% vs.エポエチンアルファ群46%、名目p=0.0002)、(2)24週のすべてで赤血球輸血非依存状態を達成した患者(48% vs.29%、名目p=0.0006)、(3)国際作業部会(IWG)基準で8週間以上持続する赤血球系の血液学的改善効果(HI-E)(74% vs.51%、名目p<0.001)は、いずれもluspatercept群で有意に良好だった。 投与期間中央値は、エポエチンアルファ群(27週[IQR:19~55])よりもluspatercept群(42週[20~73])が長かった。最も頻度の高いGrade3/4の治療関連有害事象(患者の≧3%)として、luspatercept群では高血圧、貧血、呼吸困難、好中球減少症、血小板減少症、肺炎、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)、MDS、失神が、エポエチンアルファ群では貧血、肺炎、好中球数減少症、高血圧、鉄過剰症、COVID-19肺炎、MDSがみられた。 luspatercept群の1例(78歳)が、3回目の投与後に急性骨髄性白血病と診断されて死亡し、担当医により試験薬関連と判定された。 著者は、「これらの結果をより強固なものにし、低リスクMDSの他のサブグループ(SF3B1遺伝子の変異なし、環状鉄芽球なしなど)に関する知見をさらに精緻なものにするために、今後、長期のフォーアップと追加データが求められるだろう」としている。

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頭蓋内爆発音症候群と心停止を繰り返した男性【Dr. 倉原の“おどろき”医学論文】第236回

【第236回】頭蓋内爆発音症候群と心停止を繰り返した男性Unsplashより使用「頭蓋内爆発音症候群」について皆さんご存じでしょうか。ネットでいろいろな情報が手に入る時代になったため、昔と比べると知名度が上がったと思います。寝入る直前や目覚めた直後に短時間の大きな幻聴が発生する病態で、原因、誘因、治療法など、とりあえずわかっていないことが多い現象です。Hayreh SS.Exploding head syndrome: new observations.Eur J Neurol. 2020 Nov;27(11):2333-2335.この論文のMethodsには興味深いことが書いていました。「この観察研究では、私の個人的な頭蓋内爆発音症候群の経験を記述し、その意義について論じる―――」。…おおお、なんと頭蓋内爆発音症候群になったのが著者本人とな! ちなみにこの著者の方、Wikipediaにも掲載されるくらい有名だったアイオワ大学眼科名誉教授です。2022年に逝去されています。自分自身を症例報告化してしまうケースは、希少疾患で時にみられる手法ですが、この著者はなかなか大変な症状だったそうです。彼は、頭蓋内爆発音症候群にかかっている間、洞不全症候群による一過性の心停止を繰り返し経験していたそうです。この2つの病態、通常おそらく関係ないだろうなと思われます。しかし、彼が心臓ペースメーカーを装着したところ、心停止と頭蓋内爆発音症候群の両方が、まったく出なくなったそうです。実は、洞不全症候群と頭蓋内爆発音症候群の関連については2012年に韓国で報告があります1)。結局のところ、この関連はよくわかっていません。脳の血流が賦活することが、何らかの刺激因子になっていると考えられています。遭遇することはないかもしれませんが、洞不全症候群の患者さんが頭蓋内爆発音症候群で困っている場合、「不整脈の治療によって症状が改善するかもしれない」を頭の片隅に入れておきましょう。1)Kim HY, et al. A Case of Sick Sinus Syndrome Presenting as Exploding Head Syndrome. J Korean Sleep Res Soc. 2012;9:61-63.

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