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新たな薬剤、デバイスが続々登場する心不全治療(後編)【東大心不全】

急増する心不全。そのような中、新たな薬剤やデバイスが数多く開発されている。これら新しい手段が治療の局面をどう変えていくのか、東京大学循環器内科 金子 英弘氏に聞いた。前編はこちらからデバイス治療についてはどのような進歩があるのでしょうか。デバイスによる治療でも薬剤と同様に病因に応じて治療を使い分けなければならないのは同様です。その観点から最近着目されているのは、日本人の心不全患者さんの病因として弁膜症が多いと指摘されていることです。これまでに日本人の心不全の約2割、報告によって3割は弁膜症が原因と報告されています。また、弁膜症が本来の原因でなくても、虚血性心筋症や拡張型心筋症では、左室のリモデリングが進行することで僧帽弁の弁輪が拡大した結果、機能性僧帽閉鎖不全症をきたし、さらに予後を悪化させることが知られています。このように考えると日本人の心不全患者では、かなり多くの割合で、心不全の原因として、あるいは心不全の合併症として、弁膜症が関わってくると言えます。心不全の原因として頻度の高い弁膜症は、大動脈弁狭窄症と僧帽弁閉鎖不全症です。これらに対して、弁形成や弁置換手術ができれば最良ですが、実際には心機能の著しい悪化や高齢などの事情で手術ができない患者さんも少なくありません。この場合、大動脈弁狭窄症では経カテーテル的大動脈弁留置術(Transcatheter Aortic Valve Implantation:TAVI)の適応となり、カテーテルで新しい人工大動脈弁(生体弁)を植え込むことになります。日本では2013年10月に始まり、すでに1万件以上の実績があります。MitraClip治療を行う金子英弘氏。新規デバイス治療は心不全の有力な治療選択肢として期待が集まる。僧帽弁閉鎖不全症では、2018年4月から日本でMitraClip NTシステムが使用できるようになりました。これは僧帽弁の前尖と後尖をつなぎ合わせて僧帽弁の逆流を少なくするカテーテル治療です。僧帽弁閉鎖不全を減らす効果は外科手術には劣るものの、開胸や人工心肺を必要としない低侵襲治療で、心不全の症状改善は外科手術と同等であることが示されています。すでに全世界では7万件の実績がある治療です。また、HFpEFでは、新たな心房間シャントデバイスによる治療が注目を集めています。これは心房中隔に穴を開け、左心房から右心房に圧を逃がすデバイスです。2017年の米国心臓協会(American Heart Association:AHA)学術集会ではこのデバイス留置により、労作時の肺動脈喫入圧が対照群と比べて有意に低下すると報告され、現在大規模な試験が行われています。心不全では治療のみならずモニタリングでもさまざまなデバイスが使用されていますが、この点では注目すべきものはありますか。その点で興味深いのは米国FDAにより初めて承認された心不全モニタリングシステムのCardioMEMS HFシステムです。これは肺動脈の先にセンサーを留置し、患者さんがシステムのボタンを押すだけで、肺動脈圧のトレンドが医療機関に転送されるシステムです。スワンガンツカテーテルを常時留置しているような状態と考えれば良いかもしれません。CardioMEMSに関しては、これを使用した群と使用しなかった群を比較した「CHAMPION」試験が行われ、6ヵ月間の比較期間で使用群では心不全関連の入院リスクが28%、有意に低下したと報告されています。まだ、生命予後を改善するとの確固たるエビデンスまではありませんが、日本国内で心不全の患者さんが増加し、患者さんも通院にすら苦労するケースもある中では非常に有用ではないかと考えています。非専門の先生方に伝えたいメッセージがあればお話しください。心不全の患者さんは現在増加の一途をたどっています。今回のガイドラインで示された心不全の進展ステージAやBの患者さんまで含めると、国内の心不全患者さんあるいは心不全のハイリスクと考えられる患者さんは200万人超になるとの推測もあるほどです。しかし、日本循環器学会が認定する循環器専門医は現在全国で1万5,000人弱です。したがって、すべての心不全患者さんの治療を循環器専門医のみで完結するというのはきわめて困難です。近年では内科医、外科医、コメディカルなどの多職種が連携して心不全の治療に取り組むハートチームの重要性が強調されています。しかしながら、多くの場合、ハートチームは個々の医療機関内での連携です。今回、お話ししたような現状を考えれば、今後重要になるのはそれぞれの地域でハートチームを形成することです。つまり各地域で、心不全の診断や先進的治療を行う専門施設、多くの心不全患者さんの入院や心臓リハビリを行う中規模病院、開業医の先生方やコメディカルによる連携です。その中で開業医の先生方には、心不全の進展ステージでA、Bに分類される患者さんの早期発見やリスク管理、たとえ心不全を発症してステージCに移行しても適切な治療により症状が安定化した患者さんの受け入れ先としての役割を担っていただければと考えています。心不全においてはリハビリテーションも重要な治療になりますし、ステージDとなった患者さんに対する緩和医療も地域の先生方に是非とも取り組んでいただきたい分野だと考えております。そのためにも、今回述べたように、心不全の各ステージにおいて数々の有効な治療法があることをご理解いただければと考えています。前編はこちらから講師紹介

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シルデナフィル併用で特発性肺線維症のQOLは改善するか/NEJM

 特発性肺線維症(IPF)の治療において、ニンテダニブにシルデナフィルを併用しても、ニンテダニブ単剤に比べて健康関連QOLは改善されないことが、カナダ・マックマスター大学のMartin Kolb氏らが行ったINSTAGE試験で示された。研究の成果は、NEJM誌オンライン版2018年9月15日号に掲載された。チロシンキナーゼ阻害薬ニンテダニブは、IPFの治療薬として承認されている。また、既報の試験のサブグループ解析により、ホスホジエステラーゼ5阻害薬シルデナフィルは、IPF患者の酸素化能、ガス交換機能(一酸化炭素の肺拡散能[DLCO]で評価)、症状、QOLに便益をもたらし、重度に障害されたDLCOを改善する可能性が示唆されている。SGRQの変化を無作為化試験で評価 本研究は、13ヵ国が参加した二重盲検無作為化試験である(Boehringer Ingelheimの助成による)。対象は、年齢40歳以上、2011年版の国際ガイドラインでIPFと診断され、DLCOが予測値の35%以下の患者であった。 被験者は、ニンテダニブ(150mg、1日2回)+シルデナフィル(20mg、1日3回)またはニンテダニブ(150mg、1日2回)+プラセボを投与する群に、1対1の割合で無作為に割り付けられ、24週の治療が行われた。 主要エンドポイントは、ベースラインから12週時までの、St. George's Respiratory Questionnaire(SGRQ)の総スコア(50項目、0~100点、点数が高いほど健康関連QOLが不良)の変化とした。副次エンドポイントには呼吸困難(University of California, San Diego, Shortness of Breath Questionnaire[UCSD-SOBQ]、24項目、0~120点、点数が高いほど息切れが重度)および安全性などが含まれた。 2016年7月~2017年9月の期間に273例が登録された。このうち、137例が1回以上のニンテダニブ+シルデナフィルの投与を受け、136例が1回以上のニンテダニブ+プラセボの投与を受けた。12、24週時のSGRQ、UCSD-SOBQ、EQ-5D VASに差はない ベースラインの平均年齢は、ニンテダニブ+シルデナフィル群が70.3±8.6歳、ニンテダニブ群は70.0±7.9歳であり、男性がそれぞれ80.3%、77.9%を占めた。平均DLCOは、25.8±6.8%、25.6±7.0%、SGRQの平均総スコアは56.7±18.5点、54.0±17.9点だった。 SGRQ総スコアのベースラインから12週時までの変化は、ニンテダニブ+シルデナフィル群が-1.28点、ニンテダニブ群は-0.77点であり、両群間に有意差は認めなかった(群間差:-0.52点、95%信頼区間[CI]:-3.33~2.30、p=0.72)。また、24週時までの変化は、それぞれ0.23点、2.42点と、有意な差はなかった(-2.19点、-5.40~1.02)。 UCSD-SOBQの変化は、12週時(ニンテダニブ+シルデナフィル群:1.46点vs.ニンテダニブ群:4.40点、群間差:-2.94点、95%CI:-7.27~1.39)および24週時(4.44 vs.6.85点、-2.41点、-7.39~2.58)のいずれにも、意味のある差はみられなかった。また、全般的な健康状態の指標であるEQ-5Dの視覚アナログスケール(0~100点、点数が高いほど健康状態が良好)にも、12週時(1.31 vs.-2.22点、3.54点、-0.02~7.09)、24週時(-1.48 vs.-2.98点、1.50点、-2.86~5.86)ともに有意な差はなかった。 酸素飽和度およびDLCOの12、24週時の変化にも両群間に差はなかった。また、急性増悪(7.3 vs.7.4%)、全死因死亡(10.2 vs.11.0%)の割合もほぼ同等であった。 安全性に関しては、既報の試験と比べて、新たな兆候は認めなかった。最も頻度の高い有害事象は下痢であり、ニンテダニブ+シルデナフィル群の57.7%、ニンテダニブ群の48.5%にみられた。重篤な有害事象の頻度は、それぞれ27.0%、32.4%であった。 著者は、「努力肺活量(FVC)の予測値の5%以上の低下または死亡の複合エンドポイントの発生率は、ニンテダニブ+シルデナフィル群のほうが有意に低かったが、この知見が偶然によるものか、真の治療効果かは不明である」としている。

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続々と選択肢増、慢性便秘症治療の最新事情

 相次いで新薬が登場している慢性便秘症治療で、各治療薬はどのように使い分けていけばよいのか。9月11日、都内で慢性便秘症治療の最新事情をテーマとしたプレスセミナーが開催された(主催:アステラス製薬株式会社)。演者として登壇した三輪 洋人氏(兵庫医科大学 内科学消化管科 主任教授)は、「便秘は治療満足度に対する医師と患者側のギャップが大きい。単純に排便回数を改善するだけでなく、症状を改善していく治療が求められている」と話し、便秘治療の考え方や各治療薬の特徴について解説した。慢性便秘症の診断で医師は排便回数の減少を、患者は腹部の膨満感を重視 慢性便秘症の診療を行っている医師400人と、症状が6ヵ月以上あり通院あるいは市販薬を服用している患者700人を対象とした2017年の調査1)で、医師が慢性便秘症の診断にあたり重視する項目は多い順に、「排便回数の減少」「便の硬さ」「排便困難」であった。一方、患者側は「腹部の膨満感」「排便回数の減少」「便の硬さ」の順に回答が多く、特に腹部症状を改善したいと感じていることが明らかになった。 また、慢性便秘症治療の各薬剤(上皮機能変容薬は含まれていない)について満足度を尋ねたところ、浸透圧性下剤で80%以上など医師の満足度がおおむね高かったのに対し、患者側では全薬剤で50%以下となり、医師と比較すると圧倒的に低い傾向がみられた。 三輪氏は、「われわれはつい、“週2回だった排便が4回になりましたか、よかったですね”と排便回数を慢性便秘症治療の目安としてしまいがちだが、患者さん側は症状を改善したいと感じている。漫然と治療を続けるのではなく、どうしたら症状がとれるのかという観点からも治療を考えていかなければいけない」と話した。慢性便秘症の薬物療法、ガイドラインでの推奨は? 慢性便秘症の薬物療法について、まず前提として、骨盤底筋の機能障害に起因する便排出障害型の便秘には効果がなく、リハビリ療法の一種であるバイオフィードバック療法の有効性が確立されていることに三輪氏は言及。「2時間以上もトイレにこもる、手でかき出さないと出せないなど、排便の困難感が極度に強い患者さんは、便排出障害型の可能性がある」と話した。 2017年10月発行の「慢性便秘症診療ガイドライン2017」では、複数ある薬剤の中で、浸透圧性下剤(酸化マグネシウム、ラクツロース、ソルビトールなど)と上皮機能変容薬(ルビプロストン、リナクロチドなど)に、「強い推奨(1)」と「最も高いエビデンスレベル(A)」が示されている。 しかし、兵庫医科大学の関連病院で2017年10月~2018年2月にかけて薬剤の使用状況を調べたところ、酸化マグネシウムと刺激性下剤の使用が90%以上を占めており、上皮機能変容薬の使用は数%に留まっていた。「市販薬や一部の漢方薬(“大黄”が含まれるもの)を含む刺激性下剤は、一時的な効果はあるが習慣性や依存性があるため、短期間の投与とすることがガイドラインでも推奨されている」と三輪氏。酸化マグネシウムについては、慢性便秘症治療において「今後も第一選択であることは変わらないだろう」としたうえで、副作用(高マグネシウム血症)が報告されており高齢者や腎機能低下患者では定期的な血清マグネシウム濃度の測定が求められていることから2)、「とくに高齢者などでは、慢性便秘症治療に漫然と酸化マグネシウムを投与するのではなく、効果や症状の改善がみられない場合は上皮機能変容薬に切り替えていくという考え方がいいのではないか」と話した。新薬と既存薬をどのように使い分けるか 2018年に入り、4月に胆汁酸トランスポーター阻害薬エロビキシバットが発売、8月には便秘型過敏性腸症候群の治療薬として発売されていたリナクロチドが慢性便秘症に適応拡大された。リナクロチドは2012年発売のルビプロストンと同じく、腸管上皮に直接作用して管腔内への水分分泌を促進する上皮機能変容薬だが、作用機序は異なる。 リナクロチドは腸管上皮に存在するグアニル酸シクラーゼC(GC-C)を活性化させ、サイクリックGMP(cGMP)を増加させることで、水分分泌を増加させる。このcGMPには求心性神経の痛覚過敏を抑制するはたらきがあり、便秘治療薬の中で唯一、大腸痛覚過敏改善作用が示されている。三輪氏は「上皮機能変容薬の使い分けは非常に難しいが、それぞれ特徴はある」と話し、「リナクロチドは薬物相互作用が比較的少ないため、他剤を併用している高齢者などでも使いやすく、また腹痛などの症状が強い人に向いているのではないかと考えている」と期待感を示した。 今後も新薬ラッシュは続く見込みで、ポリエチレングリコール(PEG)製剤が近く発売予定となっている。PEGは酸化マグネシウムと同じ浸透圧性下剤で、欧米では慢性便秘症治療の第一選択薬として広く使われている。「直接比較したデータはないのでどちらがいいと明言するのは難しいが、PEGは水に溶かして飲む形状なので、その点が日本の患者さんたちにどの程度受け入れられるかという部分もある」と話した。

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新たな薬剤、デバイスが続々登場する心不全治療(前編)【東大心不全】

急増する心不全。そのような中、新たな薬剤やデバイスが数多く開発されている。これら新しい手段が治療の局面をどう変えていくのか、東京大学循環器内科 金子 英弘氏に聞いた。後編はこちらから現在の心不全での標準的な治療を教えてください。心不全と一言で言っても治療はきわめて多様です。心不全に関しては今年(2018年)3月、「急性・慢性心不全診療ガイドライン(2017年改訂版)」が第82回日本循環器学会学術集会で公表されました。これに沿ってお話ししますと、現在、心不全の進展ステージは、リスク因子をもつが器質的心疾患がなく、心不全症候のない患者さんを「ステージA」、器質的心疾患を有するが、心不全症候のない患者さんを「ステージB」、器質的心疾患を有し、心不全症候を有する患者さんを既往も含め「ステージC」、有効性が確立しているすべての薬物治療・非薬物治療について治療ないしは治療が考慮されたにもかかわらず、重度の心不全状態が遷延する治療抵抗性心不全患者さんを「ステージD」と定義しています。各ステージに応じてエビデンスのある治療がありますが、ステージA、Bはあくまで心不全ではなく、リスクがあるという状態ですので、一番重要なことは高血圧や糖尿病(耐糖能異常)、脂質異常症(高コレステロール血症)の適切な管理、適正体重の維持、運動習慣、禁煙などによるリスクコントロールです。これに加えアンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬、左室収縮機能低下が認められるならばβ遮断薬の服用となります。最も進行したステージDの心不全患者さんに対する究極的な治療は心臓移植となりますが、わが国においては、深刻なドナー不足もあり、移植までの長期(平均約3年)の待機期間が大きな問題になっています。また、重症心不全の患者さんにとって補助人工心臓(Ventricular Assist Device; VAD)は大変有用な治療です。しかしながら、退院も可能となる植込型のVADは、わが国においては心臓移植登録が行われた患者さんのみが適応となります。海外で行われているような植込み型のVADのみで心臓移植は行わないというDestination Therapyは本邦では承認がまだ得られていません。そのような状況ですので、ステージDで心臓移植の適応とならないような患者さんには緩和医療も重要になります。また、再生医療もこれからの段階ですが、実現すれば大きなブレーク・スルーになると思います。その意味では、心不全症状が出現したステージCの段階での積極的治療が重要になってきます。この場合、左室駆出率が低下してきた患者さんではACE阻害薬あるいはアンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)をベースにβ遮断薬の併用、肺うっ血、浮腫などの体液貯留などがあるケースでは利尿薬、左室駆出率が35%未満の患者さんではミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(MRA)を加えることになります。一方、非薬物療法としてはQRS幅が広い場合は心臓再同期療法(Cardiac Resynchronization Therapy:CRT)、左室駆出率の著しい低下、心室頻拍・細動(VT/VF)の既往がある患者さんでは植込み型除細動器(Implantable Cardioverter Defibrillator:ICD)を使用します。そうした心不全の国内における現状を教えてください。現在の日本では高齢化の進展とともに心不全の患者さんが増え続け、年間26万人が入院を余儀なくされています。この背景には、心不全の患者さんは、冠動脈疾患(心筋梗塞)に伴う虚血性心筋症、拡張型心筋症だけでなく、弁膜症、不整脈など非常に多種多様な病因を有しているからだと言えます。また、先天性心疾患を有し成人した、いわゆる「成人先天性心疾患」の方は心不全のハイリスクですが、こうした患者さんもわが国に約40万人いらっしゃると言われています。高齢者や女性、高血圧の既往のある患者さんに多いと報告されているのが、左室収縮機能が保持されながら、拡張機能が低下している心不全、heart failure with preserved ejection fraction(HFpEF)と呼ばれる病態です。これに対しては有効性が証明された治療法はありません。また、病因や併存疾患が複数ある患者さんも多く、治療困難な場合が少なくありません。近年、注目される新たな治療について教えてください。1つはアンジオテンシン受容体・ネプリライシン阻害薬(Angiotensin Receptor/Neprilysin Inhibitor:ARNI)であるLCZ696です。これは心臓に対する防御的な神経ホルモン機構(NP系、ナトリウム利尿ペプチド系)を促進させる一方で、過剰に活性化したレニン・アンジオテンシン・アルドステロン系(RAAS)による有害作用を抑制する薬剤です。2014年に欧州心臓病学会(European Society of Cardiology:ESC)では、β遮断薬で治療中の心不全患者(NYHA[New York Heart Association]心機能分類II~IV、左室駆出率≦40%)8,442例を対象にLCZ696とACE阻害薬エナラプリルのいずれかを併用し、心血管死亡率と心不全入院発生率を比較する「PARADIGM HF」の結果が公表されました。これによると、LCZ696群では、ACE阻害薬群に比べ、心血管死や心不全による入院のリスクを2割低下させることが明らかになりました。この結果、欧米のガイドラインでは、LCZ696の推奨レベルが「有効・有用であるというエビデンスがあるか、あるいは見解が広く一致している」という最も高いクラスIとなっています。現在日本では臨床試験中で、上市まではあと数年はかかるとみられています。もう1つ注目されているのが心拍数のみを低下させる選択的洞結節抑制薬のivabradineです。心拍数高値は従来から心不全での心血管イベントのリスク因子であると考えられてきました。ivabradineに関しては左室駆出率≦35%、心拍数≧70bpmの洞調律が保持された慢性心不全患者6,505例で、心拍数ごとに5群に分け、プラセボを対照とした無作為化試験「SHIFT」が実施されました。試験では心血管死および心不全入院の複合エンドポイントを用いましたが、ivabradineによる治療28日で心拍数が60bpm未満に低下した患者さんでは、70bpm以上の患者さんに比べ、有意に心血管イベントを抑制できました。ivabradineも欧米のガイドラインでは推奨レベルがクラスIとなっています。これらはいずれも左室機能が低下した慢性心不全患者さんが対象となっています。その意味では現在確立された治療法がないHFpEFではいかがでしょう?近年登場した糖尿病に対する経口血糖降下薬であるSGLT2阻害薬が注目を集めています。SGLT2阻害薬は尿細管での糖の再吸収を抑制して糖を尿中に排泄させることで血糖値を低下させる薬剤です。SGLT2阻害薬に関しては市販後に心血管イベントの発症リスクが高い2型糖尿病患者さんを対象に、心血管イベント発症とそれによる死亡を主要評価項目にしたプラセボ対照の大規模臨床試験の「EMPA-REG OUTCOME」「CANVAS」で相次いで心血管イベント発生、とくに心不全やそれによる死亡を有意に減少させたことが報告されました。これまで糖尿病治療薬では心不全リスク低下が報告された薬剤はほとんどありません。これからはSGLT2阻害薬が糖尿病治療薬としてだけではなく、心不全治療薬にもなりえる可能性があります。同時にHFpEFの患者さんでも有効かもしれないという期待もあり、そうした臨床試験も始まっています。後編はこちらから講師紹介

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その痛み、がんだから? がん患者の痛みの正体をつきとめる

 がん治療の進歩により“助かる”だけではなく、生活や就労に結びつく“動ける”ことの大切さが認識されるようになってきた。そして、がん患者の多くは中・高齢者であるが、同年代では、変形性関節症、腰部脊柱管狭窄症、そして骨粗鬆症のような運動器疾患に悩まされることもある。2018年9月6日、 日本整形外科学会主催によるプレスセミナー(がんとロコモティブシンドローム~がん時代に求められる運動器ケアとは~)が開催され、金沢大学整形外科教授 土屋 弘行氏が、がん治療における整形外科医の果たすべき役割について語った。骨転移の現状と治療方法 骨転移は多くのがんで発生する。なかでも臨床的に問題となる骨転移の年間発生数は、肺>乳腺>前立腺>腎>大腸>肝臓>甲状腺>胃の順で多く、患者数は10~15万人とも言われている1)。また、骨転移は身体の中心部の骨(背骨、骨盤、大腿骨近位・遠位)で起こりやすい。このような患者はがん治療の主治医から、「骨転移部分が全身に広がっているため、ベッド上で動かないように」「麻痺します」「動くと折れます」などといった内容の指導を受ける場合が多く、土屋氏は「整形外科医へのコンサルがないままの症例が多い」と整形外科医の介入状況を指摘。さらに、同氏は「現在、Performance Status(PS)が3、4に該当する患者には積極的ながん治療を行わない。つまり、がんの治療は動けるレベルの患者だけに留まっている。“がん”という言葉は通常の医療行為に大きな先入観を与え、正しい診断や適切な治療の妨げになる場合がある」と、危惧した。 骨転移による骨の変化には溶骨型、硬化型、混合型の3種類があり、多くの患者はこれらが原因で骨折や脊髄圧迫をきたし、疼痛や麻痺によって動けなくなってしまう。骨転移の主な治療法には、鎮痛薬(オピオイド製剤)、放射線治療などがあり、近年、その価値が再認識されているのが手術治療である。 手術治療はQOLの改善を目的とし、疼痛の減少・消失などのほか、生命予後の改善にも繋がるため、積極的緩和医療に位置づけられるようになった。手術が有効ながんに代表される腎がんは、骨の転移をきちんと治すことで生命予後が改善することが証明されており、同氏は「骨転移の病巣部を人工関節に置換することが積極的に行われている」と述べた。骨転移にキャンサーボードの活用を がん診療連携拠点病院の要件を達成する上で、キャンサーボードの実施は必須となる。全国の整形外科研修施設(1,423施設)を対象とした「整形外科研修施設におけるがん診療実態調査」によると、がん診療連携拠点病院の約60%の施設において整形外科医の参加がみられ、全体では約50%の施設で参加していた。骨転移に対する手術については、がん診療連携拠点病院の90%が自施設で対応可能という回答結果が得られた。このほかに、整形外科医に骨転移診療に関わってほしいという他診療科や施設からの要望は、がん診療連携拠点病院では全体で60%もみられた。この結果を踏まえ、同氏は「骨転移に特化したキャンサーボードを行う病院も増えてきている」と述べた。しかし、「残念なことに、現時点で整形外科医がキャンサーボードに呼ばれるのは、疼痛コントロールが悪化した時がほとんど」と付け加えた。整形外科が骨転移患者へ果たすべき役割 土屋氏は、このようながん患者の現状を踏まえ、以下の役割を整形外科医に提言した。 ・運動器の専門家として装具治療や手術を行い、痛みの軽減や機能回復を行う ・骨質の維持や改善、抗がん剤による末梢神経障害の改善や緩和に寄与 ・がん患者の日常生活の維持・改善、がん治療の治療継続に役割を果たす ・がん患者の痛みを見分け、骨折や麻痺を予防・治療し、移動能力を改善する役割  を担う ・運動器の専門家として“がん”に関わる運動器の問題解決に役割を果たすがんとロコモティブシンドローム 整形外科医の診療は、時代と共に外傷治療から変形性関節症などの高齢化に対する診療、そしてがん治療に関わるQOLの向上へと変遷している。がんとロコモティブシンドロームを『がんロコモ』と名付け、がんによる運動器の問題、がんの治療による運動器の問題、がんと併存する運動器疾患の進行に対して学会が立ち上がった今、同氏は「がん患者全員に理解してもらうためには、がん治療を行う時点での啓発を求める。医師同士の連携だけではなく、薬剤師らによる呼びかけも必要である」と、整形外科医の今後のあり方とがんロコモに取り組む重要性を呼びかけた。 なお、整形外科学会は平成30年より10月8日を『運動器の健康・骨と関節の日』と名称を改めている。■参考1)厚生労働省がん研究助成金「がんの骨転移に対する予後予測方法の確立と集学的治療法の開発班」編.骨転移治療ハンドブック.金原出版;2004.p.3‐4ロコモチャレンジ!推進協議会骨転移診療ガイドライン■関連記事ロコモってなんですか?(患者向けスライド)第29回「ロコモティブシンドローム」回答者:NTT東日本関東病院 整形外科 大江 隆史氏

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降圧目標<130/80mmHgに厳格化の見通し-新高血圧ガイドライン草案

 2018年9月14~16日、北海道・旭川で開催された第41回日本高血圧学会総会で、2019年に発行が予定されている「高血圧治療ガイドライン2019(JSH2019)」の草案が示された。作成委員長を務める梅村 敏氏(横浜労災病院 院長)による「日本高血圧学会高血圧治療ガイドライン2019の作成経過」と題した発表で、JSH2019が「Minds診療ガイドライン作成の手引き(2014年版)」に準拠したClinical Question(CQ)方式で作成が進められたことなど、作成方法の概要が示され、高血圧診断時の血圧値の分類や降圧目標における具体的な改訂案が説明された。ACC/AHA、ESH/ESC高血圧ガイドラインが降圧目標値を相次いで引き下げ 2017年に発表された米国心臓病学会(ACC)/米国心臓協会(AHA)高血圧ガイドラインでは、一般成人の高血圧の基準値が従来の140/90mmHg以上から130/80mmHg以上に引き下げられ、降圧目標は130/80mmHg未満とすることが推奨されている。 また、2018年8月発表の欧州高血圧学会(ESH)/欧州心臓病学会(ESC)高血圧ガイドラインでは、一般成人(65歳未満)の基準値は140/90mmHg以上とされたものの、降圧目標は120~130/70~<80mmHgとして、目標値を厳格化する形をとっていた。高血圧診断の基準値は≧140/90mmHgで従来通りとなる方針 「高血圧治療ガイドライン2019」では、まず血圧値の分類について、高血圧の基準値は従来通り140/90mmHg以上とする見通しが示された。そのうえで、正常域血圧の分類について名称と拡張期血圧の値を一部改訂予定であることが明らかになった。以下、JSH2014での分類とJSH2019での改訂案を示す。・至適血圧:120/80mmHg未満→正常血圧:120/80mmHg未満・正常血圧:120~129/80~84mmHg→正常高値血圧:120~129/80mmHg未満・正常高値血圧:130~139/85~89mmHg→高値血圧:130~139/80~89mmHg降圧目標は10mmHgずつ引き下げの見通し 「高血圧治療ガイドライン2019」では、降圧目標については、75歳未満の一般成人では、130/80mmHg未満(診察室血圧)、125/75mmHg未満(家庭血圧)とそれぞれ10mmHgずつ引き下げる方向で進められている。 糖尿病、蛋白尿陽性のCKD、安定型の冠動脈疾患といった合併症のある患者については同じく診察室血圧で130/80mmHg未満、蛋白尿陰性のCKD、脳卒中既往のほか、75歳以上の高齢患者については140/90mmHg未満とすることが草案では示された。 また講演では、久山町研究ならびに日本動脈硬化縦断研究(JALS)に基づきCVDリスク(低~中等度~高リスクの3群に分類)を層別化した表(改訂案)も示され、高値血圧を含むより早期から生活習慣介入を中心に管理していく必要性が指摘された。 最後に梅村氏は、「一般成人に対する日欧米3つのガイドラインの降圧目標値は130/80mmHg未満で共通となる見通しで、旧ガイドライン時と比較して適用対象となる患者数は増加するだろう」と述べた。 今後関連学会との調整やパブリックコメント等を経て、改訂内容について最終決定のうえ、2019年春ごろをめどに「高血圧治療ガイドライン2019」は発行される予定。〔9月21日 記事の一部を修正いたしました〕■「高血圧治療ガイドライン2019」関連記事高血圧治療ガイドライン2019で降圧目標の変更は?

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第6回 内科からのオーグメンチン・クラリスロマイシンの処方 (後編)【適正使用に貢献したい  抗菌薬の処方解析】

前編 Q1処方箋を見て、思いつく症状・疾患名は?Q2患者さんに確認することは?Q3 患者さんに何を伝える?副作用と再受診 キャンプ人ペニシリン系の副作用である下痢、発疹、クラリスロマイシンの副作用である下痢について説明します。また、原因菌が不明なので、出張中もきちんと薬を飲んで再度病院へ受診して点滴するように説明します。抗菌薬を決まった時間に服用 奥村雪男オーグメンチン®配合錠に含まれるアモキシシリンがペニシリン系で時間依存であることから、飲み忘れなく定時に服用することが大事であることを説明します。他院受診時に服薬状況を伝えることとアセトアミノフェンの服用方法 ふな3出張先などで体調が急変した場合に備えて、必ずおくすり手帳(もしくは薬情)を携帯して、これらの薬剤を服用していることを受診先でも伝えるように説明します。また、アセトアミノフェンの量が多めなので、高熱や寒気がひどくなければ、1回300mg 1錠でも効果は得られることと、1回2錠で服用する場合にはできれば6時間、最低4時間をあけて、1日2回までの服用にとどめるよう伝えます。飲酒や喫煙を控える JITHURYOU薬剤と同時に飲酒することはもちろん、飲酒も控える(特にアセトアミノフェンと飲酒は代謝が促進され、肝毒性のリスクが上昇する)ことを伝えます。仕事が多忙のようですが、安静にして外出は控えたほうが良いです。咳嗽が誘発されるので当然喫煙は控えるよう伝えます。他者にうつさないように わらび餅仕事を続けるとのことなので、他者にうつさぬよう感染対策(マスクや手洗い、消毒など)をお願いします。原因菌がはっきりしていないので、良くなっても途中で服薬を中断せず、3日以内に再受診するよう説明します。治癒傾向 中西剛明治療の経過で、食欲不振、横になるより起きていたほうが楽、という状況が改善されない場合は「無効」「悪化」を疑わなくてはいけません。眠ることができるようになった、食欲が回復してきたら治癒傾向ですよ、とお話しします。Q4 疑義照会をする?しない?疑義照会するオーグメンチン®配合錠の規格 奥村雪男添付文書上のオーグメンチン®配合錠の用法用量は「1回375mg 分3~4 6~8時間」なので、念のためオーグメンチン®配合錠の規格が125RSでなく250RSで良いか確認します。ただし、原因菌としてペニシリン耐性肺炎球菌を想定して、アモキシシリンを高用量で処方した可能性を踏まえておきます。CYP3A4を基質とする併用禁忌の薬剤を服用していて中止できない場合は、マクロライド系でCYP3A4阻害作用の弱いアジスロマイシンへの変更を提案します。消化器系の副作用予防を考慮 清水直明オーグメンチン®配合錠250RS 6錠/日は添付文書の年齢、症状により適宜増減の範囲内、アモキシシリンは1,500mgと高用量で、S. pneumoniaeを念頭においた細菌性肺炎の治療としては妥当と考えます。ただし、オーグメンチン®配合錠250RSでアモキシシリンを1,500mg投与しようとすると、必然的にクラブラン酸の量も多くなり、消化器系の副作用が出やすくなると思います。小児用ではクラブラン酸の比率を下げた製剤がありますが、成人用ではありません。そのため、オーグメンチン®配合錠250RS 3錠/日+アモキシシリン錠250mg 3錠/日を組み合わせて投与する方が、消化器系副作用の可能性は低くできると思うので疑義照会します(大部分のM. catarrhalisや一部のH. influenzae、あるいは一部の口腔内常在菌は、β-ラクタマーゼを産生しアモキシシリンを不活化する可能性があり、β-ラクタマーゼ阻害薬の配合剤が治療には適しているとされているので、あえてオーグメンチン®配合錠とアモキシシリンの組み合わせを提案します)。クラリスロマイシンについては、非定型肺炎も視野に入れて併用されていますが、M. pneumoniaeについてはマクロライド耐性株が非常に増加しています。しかし、そのような中でもM. pneumoniaeに対しての第1選択はクラリスロマイシンなどのマクロライド系薬であり4)、初期治療としては妥当と考えます。細菌性肺炎であったとしても、マクロライド系薬の新作用※3を期待して併用することで、症状改善を早めることができる可能性があるため併用する意義があると思います。※3 クラリスロマイシンなどのマクロライド系抗菌薬は、抗菌作用の他に、免疫炎症細胞を介する抗炎症作用、気道上皮細胞における粘液分泌調整作用、バイオフィルム破壊作用などをもつことが明らかになっている。保険で査定されないように 中西剛明抗菌薬の2種併用のため、疑義照会をします。医師から見ると「不勉強な薬剤師だ」と勘違いされてしまうかもしれませんが、抗菌薬の併用療法は根拠がない場合、査定の対象になることがあり、過去査定された経験があります。そのため「併用の必要性を理解している」上での問い合わせをします。耐性乳酸菌製剤の追加 中堅薬剤師過去に抗菌薬でおなかが緩くなって飲めなかったことがある場合は、耐性乳酸菌製剤の追加を依頼します。併用禁忌に注意 児玉暁人クラリスロマイシンとの併用禁忌薬を服用していれば、疑義照会をします。クラリスロマイシンの処方日数 ふな3セフトリアキソンを点滴していることから,処方医は細菌性肺炎を想定しつつも「成人市中肺炎診療ガイドライン」から非定型肺炎の疑いも排除できないため、クラリスロマイシンを追加したと考えました。セフトリアキソン単剤では、万一、混合感染であった場合に非定型肺炎の原因菌が増殖しやすい環境になってしまうことが懸念されるため、治療初期からクラリスロマイシンとの併用が望ましいと考えられるので、クラリスロマイシンの処方を4日に増やして、今日からの服用にしなくて良いのか確認します。基礎疾患の有無を確認してから 柏木紀久細菌性肺炎で原因菌が不明の場合を考え、まず「成人市中肺炎診療ガイドライン」に沿って基礎疾患の有無を確認します<表3> 。軽症基礎疾患がある場合のβ-ラクタマーゼ阻害薬配合ペニシリンは常用量と考えられるので、軽度基礎疾患が確認できた場合にはオーグメンチン®配合錠が高用量で良いのか確認します。膿や痰などの培養検査の有無の確認。検査をしていなければ検査依頼をします。基礎疾患がない場合では、細菌性肺炎を考えつつも出張などで他者へ感染させる可能性を考慮して、非定型肺炎や混合感染を完全には排除せずクラリスロマイシンも処方したのでは、などと考えますが、念のためクラリスロマイシンの処方意図を確認します。疑義照会をしないガイドラインに記載有り キャンプ人特にしません。非定型肺炎との鑑別がつかない場合は、「JAID/JSC感染症治療ガイド2014」2)にも同用量の記載があります。協力メンバーの意見をまとめました疑義照会については・・・ 疑義照会をする オーグメンチン®配合錠の消化器系の副作用予防・・・3名抗菌薬の2種併用について・・・2名オーグメンチン®配合錠の規格の確認・・・1名耐性乳酸菌製剤の追加依頼・・・1名併用禁忌薬について・・・1名クラリスロマイシンの処方日数・・・1名基礎疾患に基づいて疑義照会・・・1名 疑義照会をしない 2名1)日本呼吸器学会呼吸器感染症に関するガイドライン作成委員会. 成人市中肺炎診療ガイドライン. 東京、 日本呼吸器学会、 2007.2)JAID/JSC感染症治療ガイド・ガイドライン作成委員会. JAID/JSC感染症治療ガイド2014. 東京, 一般社団法人日本感染症学会, 2015.3)日本結核病学会. 結核診療ガイドライン 改訂第3版. 東京, 南江堂, 2015.4)「 肺炎マイコプラズマ肺炎に対する治療方針」策定委員会. 肺炎マイコプラズマ肺炎に対する治療指針. 東京, 日本マイコプラズマ学会, 2014.

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冬季の高齢者の感染症対策はワクチンで

 2018年9月6日、ファイザー株式会社は都内において、高齢者の冬場の感染症対策に関するプレスセミナーを開催した。セミナーでは、冬季の肺炎についてや同社が行った肺炎球菌ワクチンに関するアンケート結果が公表された。高齢者が陥る肺炎の「負のスパイラル」 セミナーでは、講師に長谷川 直樹氏(慶應義塾大学医学部 感染症制御センター 教授)を迎え、「今から取り組む冬場に向けての高齢者の感染症対策~65歳以上の肺炎球菌ワクチン接種についてのコミュニケーション実態調査を踏まえて~」をテーマにレクチャーが行われた。 高齢化の進行するわが国では、65歳以上の97.9%が肺炎で死亡するなど肺炎への対応は大きな課題となっている(厚生労働省 平成29年人口動態統計)。高齢者では、肺炎を発症し入院などするとADLが低下し、それにより退院後も心身機能が低下、寝たきりになったり、嚥下機能が弱ったりすることで、さらに肺炎を再発する「負のスパイラル」を引き起こすと危惧されている。 市中肺炎における原因微生物では、圧倒的に肺炎球菌が多く、医療・介護関連でも肺炎球菌が一番多い検出菌として報告されている。また、基礎疾患として、COPDなどの慢性肺疾患、喘息、慢性心疾患、糖尿病などがある65歳以上の高齢者では肺炎発症リスクが高く1)、さらには重症インフルエンザに罹患後、肺炎に感染するリスクも報告されている(日本呼吸器学会インフルエンザ・インターネットサーベイ)。肺炎、インフルエンザはワクチンの併用接種でリスクを縮小 こうした肺炎には予防ワクチンが有効であるが、現在わが国で成人に接種できる肺炎球菌ワクチンは2種類ある。 1つは23価肺炎球菌ポリサッカライドワクチン(商品名:ニューモバックス)で、2歳以上から接種ができる多糖体ワクチンである。接種経路は筋肉内または皮下となっている。幅広い年代で使用できる反面、約5年で抗体価が低下するために再接種の必要があるとされている。もう1つは13価肺炎球菌結合型ワクチン(同:プレベナー)で、2ヵ月齢~6歳未満(接種経路は皮下)、65歳以上(接種経路は筋肉内)で接種できる。主に小児の肺炎予防ワクチンとして定期接種され、修正免疫を獲得するワクチンであるとされる。 両ワクチンの使い分けについては、長谷川氏は私見としながらも「高齢者や慢性疾患のある患者には両方接種が望ましい選択。外来などでは、日本呼吸器学会と日本感染症学会の合同委員会表明の『65歳以上の成人に対する肺炎球菌ワクチン接種の考え方』などに従って患者と相談し決めていくことになる」と考えを述べた。 また、インフルエンザワクチンとの併用接種については、「『成人肺炎診療ガイドライン』や日本内科医会の見解にもあるように併用接種が強く推奨されていることから、機会を捉えて高齢者や肺炎リスクの高い患者などには接種の必要性を説明・実施するなど、医療者側の対応が必要だ」と強調した。ワクチン接種について医師と患者で大きな溝 つぎに医師と患者のワクチンギャップに関するアンケート調査結果を報告した。この アンケートは、全国の呼吸器内科の医師150名および65歳以上の男女300名を対象に、「成人の肺炎球菌ワクチンについてのコミュニケーション実態調査」を行ったもの(2018年3月30日~31日・インターネット調査、ファイザー株式会社が実施)。 「肺炎球菌ワクチン接種の考え方」ついて、医師の80%が「定期接種に限らず任意接種制度も上手に利用すべき」と考えているのに対し、患者では17.7%しか同様の考えを持っておらず、53.7%の患者は「定期接種またはその予定で十分」と考えていること(医師の同じ考えは18.0%)が判明した。また、「ワクチン接種に関する患者との質問のやり取り」では、医師の72.7%(109/150)が「患者は疑問に思うことを医師に十分に伝えていない」と考えているのに対し、5分以上診療で話している患者の77.1%(54/70)が「気になることは医師に質問できている」と回答するなど、両者の意識の違いも明らかとなった。 こうしたアンケートを踏まえ同氏は、「ワクチンが肺炎罹患の減少と健康寿命延伸の1つとして活かされるには、患者が納得して接種できるように、両者でよりよいコミュニケーションがなされる必要があり、呼吸器内科だけでなく診療科を超えた取り組みがカギとなる」と期待を語り、講演を終えた。●文献1)Shea KM, et al. Open Forum Infect Dis. 2014;1:ofu024.■参考65歳以上の肺炎球菌ワクチン接種についてのコミュニケーション実態調査(ファイザー社調査結果)

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リバーロキサバン、 非心房細動・冠動脈疾患併発の心不全増悪に有効か/NEJM

 心不全は、不良な予後が予測されるトロンビン関連経路の活性化と関連する。フランス・Universite de LorraineのFaiez Zannad氏らCOMMANDER HF試験の研究グループは、慢性心不全の増悪で入院し、左室駆出率(LVEF)の低下と冠動脈疾患がみられ、心房細動はない患者の治療において、ガイドラインに準拠した標準治療に低用量のリバーロキサバンを追加しても、死亡、心筋梗塞、脳卒中の発生を改善しないことを示した。リバーロキサバンは、トロンビンの産生を抑制する経口直接第Xa因子阻害薬であり、低用量を抗血小板薬と併用すると、急性冠症候群および安定冠動脈疾患の患者において、心血管死、心筋梗塞、脳卒中の発生が低減することが知られている。NEJM誌オンライン版2018年8月27日号掲載の報告。32ヵ国628施設で、心不全増悪患者約5,000例を登録 本研究は、32ヵ国628施設が参加した二重盲検無作為化プラセボ対照比較試験(Janssen Research and Development社の助成による)。対象は、3ヵ月以上持続する慢性心不全がみられ、LVEF≦40%、心不全増悪(インデックスイベント)による入院後21日以内で、冠動脈疾患を有し、ガイドラインに準拠した適切な薬物療法を受け、抗凝固療法は受けていない患者であった。心房細動がみられる患者は除外された。 2013年9月~2017年10月の期間に、5,022例(ITT集団)が登録され、リバーロキサバン(2.5mg、1日2回)+標準的抗血小板療法を施行する群に2,507例、プラセボ+標準的抗血小板療法を施行する群に2,515例が割り付けられた。追跡期間中央値は21.1ヵ月であった。 有効性の主要アウトカムは、全死因死亡、心筋梗塞、脳卒中の複合であり、安全性の主要アウトカムは、致死的出血と、後遺障害が発生する可能性がある重要部位(頭蓋内、髄腔内、眼内など)の出血の複合であった。脳卒中は抑制、大出血リスクが高い 平均年齢はリバーロキサバン群が66.5±10.1歳、プラセボ群は66.3±10.3歳で、女性がそれぞれ22.0%、23.8%含まれた。心筋梗塞が76.2%、75.2%、脳卒中が8.3%、9.7%、糖尿病が40.8%、40.9%、高血圧が75.7%、75.0%に認められた。 有効性の主要複合アウトカムの発生率は、リバーロキサバン群が25.0%(626/2,507例)、プラセボ群は26.2%(658/2,515例)であり、両群間に有意な差は認めなかった(ハザード比[HR]:0.94、95%信頼区間[CI]:0.84~1.05、p=0.27)。項目別にみると、全死因死亡はリバーロキサバン群:21.8% vs.プラセボ群:22.1%(HR:0.98、95%CI:0.87~1.10)、心筋梗塞3.9 vs.4.7%(0.83、0.63~1.08)、脳卒中は2.0 vs.3.0%(0.66、0.47~0.95)であった。 安全性の主要複合アウトカムの発生率は、リバーロキサバン群が0.7%(18/2,499例)、プラセボ群は0.9%(23/2,509例)と、両群間に有意な差はみられなかった(HR:0.80、95%CI:0.43~1.49、p=0.48)。項目別にみると、致死的出血(リバーロキサバン群:0.4% vs.プラセボ群:0.4%、HR:1.03、95%CI:0.41~2.59、p=0.95)および後遺障害が発生する可能性のある重要部位の出血(0.5 vs.0.8%、0.67、0.33~1.34、p=0.25)について両群間の有意差はなかったが、大出血リスクはリバーロキサバン群のほうが有意に高かった(3.3 vs.2.0%、1.68、1.18~2.39、p=0.003)。 著者は、「リバーロキサバンが心血管アウトカムを改善しなかった最も可能性の高い理由は、トロンビン介在性イベントは、心不全で入院したばかりの患者における心不全関連イベントの大きな要因ではないことである」とし、「事実、本試験で最も頻度の高い単一のイベントは心不全による再入院であり、アテローム血栓性イベントよりもむしろ心不全が、実質的な死亡割合に寄与している可能性がある」と指摘している。

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QRS≦110msの慢性AF患者への房室結節アブレーション+CRT vs.レートコントロール【Dr.河田pick up】

 洞調律維持を諦めた永続性心房細動症例でレートコントロールが困難な場合、房室結節のアブレーションを行ったうえで、心臓再同期療法(CRT)を植込む両心室ペーシングが必要となることがある。この研究では、永続性心房細動でQRS幅が狭い症例において、房室結節アブレーションとCRTによる治療がレートコントロールよりも心不全を改善し、入院を減らすという仮説を検証した。イタリアのBrignole M氏らによるEuropean Heart Journal 誌オンライン版8月26日号掲載の報告。症状が重くQRS幅が狭い永続性心房細動患者102例を無作為化 症状が重篤で6ヵ月超持続している心房細動患者で、QRS幅が狭く(QRS≦110ms)、前年に少なくとも1回以上入院している患者102例(平均年齢72±10歳)を房室結節アブレーション+CRT群もしくは薬物によるレートコントロール群(両群ともガイドラインに従い除細動器を植込む)に無作為に割り付けた。房室結節アブレーション+CRT群で心不全による入院が有意に減少 平均16ヵ月のフォロー後、主要複合アウトカムである心不全による死亡、心不全による入院、もしくは心不全の増悪の発生は、房室結節アブレーション+CRT群で10例(20%)であったのに対してレートコントロール群では20例(38%)であった(ハザード比[HR]:0.38、95%信頼区間[CI]:0.18~0.81、p=0.013)。また、房室結節アブレーション+CRT群で、全死亡および心不全による入院(6 [12%] vs. 17 [33%]、HR:0.28、95%CI:0.11~0.72、p=0.008)、および心不全による入院(5 [10%] vs. 13 [25%]、HR:0.30、95% CI:0.11~0.78、p=0.024)が有意に少なかった。レートコントロール群と比較すると、房室結節アブレーション+CRT群で、特有の症状と心房細動による活動制限が1年後のフォローアップ時で36%減少していた(p=0.004)。この結果から、著者らは永続性心房細動でQRS幅が狭い高齢患者において、房室結節アブレーション+CRTはレートコントロールと比較して、心不全による入院を減らし、生活の質を改善すると結論づけている。(カリフォルニア大学アーバイン校 循環器内科 河田 宏)関連コンテンツ循環器内科 米国臨床留学記

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第3回 高齢者の高血糖で気を付けたいこと【高齢者糖尿病診療のコツ】

第3回 高齢者の高血糖で気を付けたいことQ1 高齢者では基準が緩和されていますが、血糖値高めでも様子をみる方針でいいのでしょうか? 注意すべき病態はありますか?最近のガイドラインでは、高齢者、とくに認知機能やADLが低下している場合血糖コントロールが甘めに設定されていますが、どんなに高くてもよいというものではありません。高血糖で緊急性を要する病態として、高浸透圧高血糖状態(HHS)と糖尿病ケトアシドーシス(DKA)があり、注意が必要です(表)。画像を拡大するHHSはインスリン分泌が保たれている患者に、何らかの血糖上昇をきたす因子(感染症やステロイド投与、経管栄養など)が加わり、著明な高血糖と高度脱水をきたす病態です。血糖値は通常600mg/dLを超え、重症では意識障害をきたし、死亡率は10~20%とされています。HHSはとくに高齢者で起こりやすく、糖尿病治療中でこれらの因子を伴った場合は、十分な水分摂取を促すこと、こまめに血糖値をチェックすることが大切です。水分摂取困難や意識障害の症例はもちろん、血糖300mg/dL以上が持続する場合も専門医を受診させ、入院を考慮するべきでしょう。以前行った調査1)では、HHS患者では認知症有の患者が86%を占め、要介護3以上、独居または高齢夫婦世帯がそれぞれ半数以上を占めていました。これらの患者ではとくに注意が必要です(図1)。画像を拡大するDKAは、インスリンの絶対的欠乏によって脂肪が分解され、血中のケトン体が上昇し、アシドーシスを呈する病態です。高齢者のDKAの多くは1型糖尿病で治療中の患者さんでの、感染症合併やインスリンの不適切な減量・中断による発症です。体調不良時のインスリンの使用法(シックデイルール)を指導しておく必要があります。食事がとれないような場合でも、安易にインスリン(とくに持効型)を中止しないよう指導することが重要になります。HbA1c9%以上では、HbA1c7~7.9%に比べHHSやDKAなどの急性代謝障害をきたすリスクが2倍以上となります。高齢者ではHbA1c8.5%以上だと肺炎、尿路感染症などの感染症のリスクも高くなります。そのため私たちは、認知機能やADLが低下している患者さんでも、HbA1c8.5%未満を目標としています。HbA1c8.5%以上が持続する症例では、入院での血糖コントロールを行い、その後の環境調整を行っています。Q2 HbA1cが正常なのに、 食後血糖が高い患者へはどのように対応すべきでしょうか?HbA1cは平均血糖の指標であり、HbA1cが正常でも、血糖変動が大きい可能性があります。食後高血糖は血糖変動の大きな要因であるため、外来受診の患者さんでも、空腹時のみでなく、定期的に食後血糖(1、2時間値)を測定するようにしています。食後高血糖は、糖尿病予備軍の患者さんの糖尿病への進展リスクを高めるといわれています。また高齢者のみでの研究ではありませんが、心血管疾患の発症率や死亡率も高いことが知られています(図2) 2)。一方で、SU薬やインスリン使用中で食後高血糖、かつHbA1cが低い場合は、低血糖が隠れていることがあるため、注意が必要です。また早朝の血糖が高値を示す場合、実は夜間に低血糖があり、それに引き続いてインスリン拮抗ホルモンが分泌されて血糖が上昇している場合があります(ソモジー効果)。ソモジー効果が疑われる場合は深夜の血糖を測ることが望ましく、低血糖が疑われる場合は、インスリンやSU薬の減量を行います。画像を拡大する食後高血糖に対しては、まず生活指導を行います。ゆっくり時間をかけて食べる、糖質を食物線維が多いものと一緒にとる、清涼飲料水など糖質が速やかに吸収される食品を避ける、食後1時間後を目安にウォーキングや軽い体操を行うこと、などを勧めます。これらの指導を行ったにもかかわらず、食後血糖が常に200mg/dLを超えている場合は、α-グルコシダーゼ阻害薬(非糖尿病でも使用可能)や、グリニド製剤(糖尿病のみ使用可能)などの食後高血糖改善薬の投与も考慮します。前者は糖質の吸収を緩やかにする薬剤ですが、腹部手術後は慎重投与となっています。後者はインスリン分泌を刺激する薬剤ですので、低血糖への配慮が必要になります。いずれも1日3回食直前の内服が必要なので、服薬アドヒアランスの不良な患者さんには適していません。そのような患者さんには、効果は劣るものの服薬回数の少ないDPP-4阻害薬を考慮しますが、認知機能やADLが低下している患者さんでは食後のみの高血糖であれば、無投薬で様子をみることも多いです。Q3 高血糖に対する認識の低さを感じます。患者指導のポイントがあれば教えてください。まず、年齢、認知機能やADL低下の程度、合併症や併発疾患、生命予後によって、コントロールの目標も変わってきます。認知機能やADLが低下している場合は、厳格なコントロールは必ずしも必要ありません(第6回で詳述予定です)。一方、比較的若く、認知機能やADLが保たれている患者さんには、しっかり指導をしなければなりません。ここではこういった患者さんで病識が低い人への対応を考えます。これらの患者さんでは何よりも、通院を中断してしまうことが問題です。通院しているだけである程度の意欲はあるわけですから、その部分は褒めるようにしています。また、看護師や栄養士にも協力してもらい、治療に対するご本人の考えや感情を十分に傾聴することが大切でしょう。チームとしてのサポートが重要となります。「もう歳だからいい」と言う場合や、配偶者の介護の負担などで治療に向き合えないこともあります。医療スタッフが来院時に悩みを聞きながら、少しずつ治療に向き合えるように粘り強く待つことが大切です。長期間来院しない時はスタッフから連絡してもらい、心配していることやあなたの健康を一緒に支えているということをわかっていただきます。教育面では、休日の糖尿病教室への参加をお勧めしたりしますが、強制はしません。また、診療時間は限られているので、教育資材やビデオを貸し出したりして、合併症予防の重要性を学んでいただくようにしています。そして1つでも合併症を理解していただいたら、褒めるようにします。治療に関しては、同時にいくつものことを要求しないことも重要です。禁煙と運動、食事内容を一度に全て改善しろといってもできません。患者さんの取り組みやすいところから1つずつ、しかも達成しやすいところに目標をおきます。例えばまったく運動していない人では、「まず1日3,000歩歩いてみましょう」とします。この際、目標は具体的に、数値化したものが望ましいでしょう。そして患者さんにはかならず記録をつけてもらうようにしています。たとえ目標が達成できなくても、記録をつけはじめたということについてまず褒めます。とにかく、できないことを責めるのではなく、できたことを褒める、という姿勢です。投薬の面でも、できるだけ負担のないようにし、例えば軽症で連日の投薬に抵抗がある患者さんには、週1回の製剤からはじめたりしています。なお、認知機能やADLが低下している場合でも、著明な高血糖は避ける必要があります。Q1で述べた内容を、家族・介護者に指導します。 1)Yamaoka T, et al. Nihon Ronen Igakkai Zasshi. 2017;54:349-355.2)Tominaga M, et al. Diabetes Care. 1999;22:920-924.

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第5回 内科からのオーグメンチン・クラリスロマイシンの処方 (前編)【適正使用に貢献したい  抗菌薬の処方解析】

Q1 予想される原因菌は?(協力メンバー12名、複数回答)Haemophilus influenzae(インフルエンザ菌)・・・11名Streptococcus pneumoniae(肺炎球菌)・・・10名Mycoplasma pneumoniae(肺炎マイコプラズマ)・・・9名Moraxella catarrhalis(モラクセラ・カタラーリス)・・・6名Chlamydia pneumoniae(肺炎クラミジア)・・・5名Legionella 属(レジオネラ属)・・・2名Staphylococcus aureus(黄色ブドウ球菌)・・・2名細菌性肺炎・非定型肺炎の両方の可能性 奥村雪男オーグメンチン®配合錠が選択されていることから、S. pneumoniae、 H.influenzae(BLPAR※1を含む)、M. catarrhalis。クラリスロマイシンが選択されていることから、M.pneumoniae、 Legionella 属、 C. pneumoniae。市中肺炎であり原因菌が同定されていないため、細菌性肺炎・非定型肺炎の両方の可能性を考え、原因菌として主要な6つの病原体を全てカバーしていると考えます。点滴を行った時点では細菌性肺炎が強く疑われていたようですが、出張となるので非定型肺炎であった場合でも対応できるようにマクロライドが追加され、このような処方になったと考えます。肺炎の重症度は、「成人市中肺炎診療ガイドライン」1)では、A-DROPシステム<表1>のスコアが0→外来治療、1~2→外来または入院、3→入院治療、4~5→ICU入院としているので、入院が望ましいが外来でも可とのことから、1~2に該当する中等度肺炎と予想されます。※1 BLPAR:β-lactamase-positive ampicillin-resistant H. influenzae(β-ラクタマーゼ産生アンピシリン耐性インフルエンザ菌)非定型肺炎の鑑別診断も参考に 荒川隆之一般成人の市中肺炎なので、細菌性肺炎としてはS. pneumoniaeやH. influenzae、 M. catarrhalis、非定型肺炎としてはM. pneumoniaeやC. pneumoniae、Legionella 属などを想定します。「成人市中肺炎診療ガイドライン」の細菌性肺炎と非定型肺炎の鑑別<表2>を参照すると、この患者さんの場合、1~5の5項目中1、2、5を満たすと考えれば、非定型肺炎を疑う必要もあります。結核菌の可能性も 中西剛明外来なので市中肺炎の3 大原因菌( S. pneumoniae、 H. influenzae、 M.pneumoniae)の中から絞り込みます。尿検査をしているので、S. pneumoniaeの可能性は低い(尿中肺炎球菌抗原で原因菌の絞り込みが可能)、血液検査でマイコプラズマ抗体の検査が可能なこと、1週間点滴に通うようにと提案されている(M. pneumoniaeに感受性のある点滴はミノサイクリンくらいしか外来治療では使えない)ことから、H. influenzaeを疑います。それも、耐性菌の可能性を念頭に、BLPAR/BLNAR※2の線が濃厚です。処方日数が3日なのは、原因菌の特定が完全ではないこと、感受性試験の結果を見て薬剤を変更する余地を残していることが考えられます。加えて、結核の除外診断はついていないと予想できます。もし医師が結核の可能性がないと判断していれば、BLPAR/BLNARに対してレボフロキサシン単剤で処方2)していたでしょう。なお、結核疑いのままレボフロキサシンなどのキノロン系薬単剤で治療を開始することは、「結核診療ガイドライン」3)では禁忌事項に記載されています。※2 BLNAR:β-lactamase-negative ampicillin-resistant H. influenzae(β-ラクタマーゼ非産生アンピシリン耐性インフルエンザ菌)複数の原因菌が混合している可能性も 柏木紀久喀痰検査が行われず、血液検査、尿検査を行った上での処方なので、細菌性肺炎か非定型肺炎か明らかでなかったか、または混合感染の可能性も考えますが、セフトリアキソンの点滴を行っているので原因菌不明の細菌性肺炎を主に想定していると考えます。Q2 抗菌薬について、患者さんに確認することは?併用薬と抗菌薬での副作用歴 中堅薬剤師併用薬と、今まで抗菌薬で副作用がなかったか。アレルギーと抗菌薬服用による下痢の経験 柏木紀久ペニシリンアレルギーと、抗菌薬の服用で下痢になったことがあるか。再受診と毎食後に服用可能か ふな33日後の再受診についてどのように指示されているか。食欲・嘔気の有無、食事は規則的か=毎食後で飲めるか。検査結果、既往歴、抗菌薬使用歴 佐々木康弘検査結果について確認したいです。Legionella属、M. pneumoniae、S. pneumoniaeの検査結果は抗菌薬選択に大きく影響します。既往歴や抗菌薬使用歴も確認したいです。気管支拡張症や慢性閉塞性肺疾患(COPD)などの既往歴があれば、Pseudomonas aeruginosa(緑膿菌)も想定した抗菌薬治療が必要ですし、抗菌薬治療していて増悪している場合はニューキノロン系薬剤の使用も考慮します。インフルエンザウイルスへの先行感染 奥村雪男受診時期が冬季であれば、インフルエンザウイルスへの先行感染が無かったか確認したいです。その場合は原因菌としてS. aureusを想定する必要があります。ただ、メチシリン感受性S. aureusであれば、オーグメンチン®配合錠で治療可能と考えます。職業や活動範囲などの情報収集 JITHURYOU患者インタビューの質を上げて、できるだけ多くの情報を得られるよう努めます。喫煙習慣、職業温泉や湖や沼などに最近行ってないか?(Legionella属鑑別)家族など周囲に咳が強く出ている人がいないか?(患者の年齢だと10~20代の子供がいる可能性があり、その年代は比較的M. pneumoniaeが多いとされている)鳥との接触はあるか?(オウム病鑑別)併用している抗菌薬の確認のため、ヘリコバクター・ピロリ除菌療法を受けているか、COPDなどの呼吸器系基礎疾患があるか(マクロライド長期療法を受けている可能性を考慮)後編では、本症例の患者さんに何を伝える、疑義照会をする/しない 理由を聞きます。1)日本呼吸器学会呼吸器感染症に関するガイドライン作成委員会. 成人市中肺炎診療ガイドライン. 東京、 日本呼吸器学会、 2007.2)JAID/JSC感染症治療ガイド・ガイドライン作成委員会. JAID/JSC感染症治療ガイド2014. 東京, 一般社団法人日本感染症学会, 2015.3)日本結核病学会. 結核診療ガイドライン 改訂第3版. 東京, 南江堂, 2015.4)「 肺炎マイコプラズマ肺炎に対する治療方針」策定委員会. 肺炎マイコプラズマ肺炎に対する治療指針. 東京, 日本マイコプラズマ学会, 2014.[PharmaTribune 2015年12月号掲載]

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侍オンコロジスト奮闘記~Dr.白井 in USA~ 第59回

第59回:ASCO/NCCN合同 irAEガイドライン発刊キーワード肺がんメラノーマ免疫関連有害事象irAE動画書き起こしはこちら2月14日にASCOとNCCN共同で、免疫チェックポイント阻害剤による副作用マネジメントについてのガイドラインが出ました。JCOのほうは60ページ位あるガイドラインで、NCCNのほうは、いつもよくあるPDFのアルゴリズムに沿ったようなガイドライン、2つが同時に発表されています。基本的にフォーマットは違いますけど、言っていることは同じです。目新しいものはなかったのですけれども、読まれてみると良いと思います。あとは『Clinical Care Options』というアメリカのwebサイトですね。そういうものがあるんですけど、そこではかなりタイムリーに、たとえば発表があるとその1週間2週間後には、新しいスライドセットが、その領域のエキスパートと呼ばれる人たちの監修で報告されるんですが、そこではiPhoneとかアンドロイドで「副作用」と入れると、そのマネジメントが出てくる、というようなアプリも紹介されています。Clinical Care Optionsのwebサイトに行っていただけると、そういうアプリも見つかると思います。もうここはものすごいスピードでアップデートしているので、定期的にチェックされると、非常によくまとまって、見やすいスライドが提供されています。もちろん、ここもたくさんの製薬会社からのお金が入って維持されているのだと思いますが。Brahmer JR, et al. Management of Immune-Related Adverse Events in Patients Treated With Immune Checkpoint Inhibitor Therapy: American Society of Clinical Oncology Clinical Practice Guideline.J Clin Oncol. 2018 Feb 14. [Epub ahead of print]CLINICAL CARE OPTIONSClinical Care Optionsアプリ inPracticeOncology( APPストア )Clinical Care Optionsアプリ inPracticeOncology( Google Play )

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第5回 臨床試験で必要なn数(サンプルサイズ)【統計のそこが知りたい!】

第5回 臨床試験で必要なn数(サンプルサイズ)前回は、地域住民や患者さんを対象にアンケート調査(市場調査、社会調査)を行う際に必要なn数(サンプルサイズ)の計算方法について解説しました。今回は、臨床試験を行う際に必要なn数(サンプルサイズ)について解説します。■臨床研究計画を立てるときのn数(サンプルサイズ)設定の考え方臨床試験は、被験者の負担や臨床試験にかかる費用を少なくするために、できるだけ少ない被験者で行いたいのが実情です。しかし、被験者が少な過ぎると標準誤差が大きくなることから信頼区間の幅が広くなり、治療に効果があるのにその効果を臨床試験の結果として検出できないことがあります。一方、被験者が多過ぎると母集団の信頼区間の幅は狭くなり過ぎて、医学的に意味のない結果を検出することもあります。ですから医学的に意味のある結果を、できるだけ少ない被験者(症例数)で示すためにn数(サンプルサイズ)の設定が重要になります。■検定結果で誤る2つの可能性臨床試験で避けなければならない失敗の1つは、「効果のない治療を効果がある」と判定してしまうことです。このような間違いを「第一種の誤り(過誤)」といいます。第一種の過誤は、「αエラー」ともいい、統計的観点から立てる仮説である帰無仮説(新しい治療法は従来の治療法と同じ効果である)が正しいのに、それを棄却してしまうという誤りです。n数(サンプルサイズ)が大きいときに起こる可能性が高くなります。このαは有意水準のことです。もう1つの失敗は、「本当は効果がある治療を効果がないと判断して臨床試験を中止してしまう」ことです。このような間違いを「第二種の誤り(過誤)」といいます。第二種の過誤は、「βエラー」といい、帰無仮説が間違っているのに、それを見逃す誤りです。n数(サンプルサイズ)が小さいときに起こる可能性が高くなります。臨床試験を行う研究者にとっては、治療が有効であると考えているのですから、このβエラーは極力避けたいものです。検出力は「1-β」で定義され、本当は効果がある治療が正しく「効果がある」と判断される確率です。■n数(サンプルサイズ)の設定臨床試験の際のn数(サンプルサイズ)の設定には、「有意水準」、「検出力」、「検出したい治療効果の大きさ」の値が必要です。有意水準(α)は0.05もしくは0.01が用いられることが多く、検出力(1-β)は0.8~0.9に設定されます。そのため、実際に算出する必要があるのは「治療効果の大きさ(効果量)」だけになります。治療効果の大きさ(効果量)は、過去の臨床試験データやそれまでの予備試験データなどから効果をどのくらいに設定するのか、ということです。たとえば、新しい治療と既存の治療との間で血圧の平均値の差が8mmHgであるというように、臨床試験によって起こりうる結果を試験開始前に推測しておくということです。効果が大きい場合にはn数(サンプルサイズ)は小さくてよく、一方で効果が小さい場合にはn数(サンプルサイズ)は大きくならなければなりません。たとえば効果が半分になれば必要なn数(サンプルサイズ)は4倍になります。また、臨床試験で得られたデータのバラツキ(標準偏差)が小さければn数(サンプルサイズ)は小さくてよく、一方でデータのバラツキが大きければ必要なn数(サンプルサイズ)は大きくなります。たとえば標準偏差が2倍になれば必要なn数(サンプルサイズ)は4倍となります。効果が半分になれば、必要なn数(サンプルサイズ)は4倍になります。■実際のn数(サンプルサイズ)の計算方法実際のn数(サンプルサイズ)の計算方法は、一様ではなく、どのような検定法で臨床試験結果を判断するのかによって、異なる数式から求められます。臨床試験で必要なn数(サンプルサイズ)を計算・シミュレーションできる、有償・無償のソフトウエアが、今ではたくさんありますので、簡単にn数(サンプルサイズ)を求めることができます。1つ注意しておきたいことは、国際的なガイドラインである「CONSORT声明(Consolidated Standards of Reporting Trials Statement:臨床試験報告に関する統合基準に関する声明)」では、研究結果をまとめた論文に、研究計画時にどのようにしてn数(サンプルサイズ)を決定したのかを記載するよう定めています。ですから、一度決めたn数(サンプルサイズ)を容易に変更することはできないということです。■実際のn数(サンプルサイズ)の計算方法の一例(母平均の検定)サンプルサイズの計算方法●検出力とは?実際は対立仮説が成り立っているときに、帰無仮説を正しく棄却する確率を検出力といいます。これは第二種の誤りを起こさない確率であり、「1-β」と表します。●サンプルサイズの検定【検出力】とは?母平均の検定を例に解説します。検定統計量の値は、サンプルサイズ(=標本数)と検出力に大きく影響を受けます。一般的に、サンプルサイズや検出力が大きくなれば、検定統計量の値は大きくなる傾向にあり、反対に小さくなれば値は小さくなります。帰無仮説m=m0で本当はmとm0に意味のある差がみられても、サンプルサイズや検出力が小さければ、統計量|t0|の値は大きくならず、「有意差なし」となります。逆にmとm0の差が小さくても、サンプルサイズや検出力が大きければ「有意差あり」となります。このような検定結果をうのみにするのは危険です。したがって、サンプルサイズと検出力の設定を行った後に、そのサンプルサイズの下で再度検定をやり直す必要があります。●計算方法母平均の検定において、を設定する場合のサンプルサイズの決定を解説します。帰無仮説の下での値m0と真のmとの差が母標準偏差σの何倍あるのかを示す量が、のとき、有意水準αに対して検出力1-βでH0を棄却したかったとします。そのために必要なサンプルサイズnの設定のための式は、以下のとおりです。分子のZα/2、Z1-βは、それぞれ標準正規分布の上側100(α/2)、100(1-β)%点です。【例題】有意水準αが0.05で、帰無仮説と対立仮説がそれぞれである母平均の検定を考えます。かつ 検出力 1-β=0.90でH0を棄却したい場合、サンプルサイズはいくつ必要でしょうか。【解答】サンプルサイズnを計算すると、*Z=標準正規分布表の値です。したがって、サンプルサイズの候補はn=13あるいはn=12です。今回は、臨床試験を行う際に必要なn数(サンプルサイズ)について解説してきました。臨床試験の論文を読むときには、主要エンドポイントとその統計手法、サンプルサイズの計算などを必ず確認するようにしましょう。■さらに学習を進めたい人にお薦めのコンテンツ「わかる統計教室」第3回 理解しておきたい検定セクション1 母集団、n数、サンプル数、サンプルサイズとは第4回 ギモンを解決! 一問一答質問2 何人くらいの患者さんを対象にアンケート調査をすればよいですか?

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3mm未満の冠動脈病変へのDCBvs.DES/Lancet

 小径の固有冠動脈疾患において、12ヵ月までの主要有害心イベント(MACE)の発生率は、薬剤コーティングバルーン(DCB)と薬剤溶出性ステント(DES)で類似しており、DESに対するDCBの非劣性が認められた。スイス・バーゼル大学のRaban V. Jeger氏らが、多施設共同非盲検無作為化非劣性試験「BASKET-SMALL 2」の結果を報告した。DCBは小径の固有冠動脈疾患に対する新たな治療法であるが、DESと比較した場合の安全性と有効性は明らかではなかった。結果を踏まえて著者は、「前拡張に成功した小径の固有冠動脈疾患は、DCBで安全に治療できる可能性がある」とまとめている。Lancet誌オンライン版2018年8月28日号掲載の報告。DCBとDESのMACE発生率を前拡張に成功した758例で比較 研究グループは、直径<3mmの新規冠動脈病変を有し経皮的冠動脈インターベンション(PCI)の適応となる患者を、前拡張成功後に、DCBによる血管形成術を行うDCB群と、第2世代DESを留置するDES群に、WEB登録システムを介して1対1の割合で無作為に割り付けた。抗血小板薬2剤併用療法は、現行ガイドラインに基づいて実施された。 主要評価項目は、12ヵ月後のMACE(心臓死、非致死性心筋梗塞、標的血管の血行再建術の複合)で、DESに対するDCBの非劣性を検証した(非劣性マージンは、MACEとの絶対リスク差の両側95%信頼区間[CI]上限値4%)。 2012年4月10日~2017年2月1日に、前拡張に成功した758例がDCB群(382例)とDES群(376例)に無作為に割り付けられた。DCB群7.5%、DES群7.3% per-protocol集団において、MACEの絶対差の95%CI上限値が非劣性マージンを下回り(95%CI:-3.83~3.93、p=0.0217)、DESに対するDCBの非劣性が示された。 最大解析対象集団(FAS)における12ヵ月後のMACE発生率は、DCB群7.5%、DES群7.3%であり、両群間で類似していた(ハザード比[HR]:0.97、95%CI:0.58~1.64、p=0.9180)。心臓関連死は、DES群で5例(1.3%)、DCB群では12例(3.1%)が確認された(FASにおいて)。 Academic Research Consortium(ARC)の定義に基づくprobable/definiteのステント血栓症(DCB群3例[0.8%]、DES群4例[1.1%]、HR:0.73[95%CI:0.16~3.26])と、BARC出血基準3~5の大出血(DCB群4例[1.1%]、DES群9例[2.4%]、HR:0.45[95%CI:0.14~1.46])が、最も多い有害事象であった。 なお、著者は、DCB群とDES群の両群で男性が多かったこと(70~77%)、定期的な血管造影による追跡調査が実施されておらず、イベント発生率が過小評価されている可能性があること、などを研究の限界として挙げている。

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睡眠薬の長期使用に関する10年間のフォローアップ調査

 催眠鎮静薬の長期使用は、非常によく行われているが、ガイドラインでは推奨されていない。新規睡眠薬使用患者における長期使用への移行率は、十分に研究されているわけではなく、現時点では、有益だと考えられる推奨薬は不明である。イスラエル・テルアビブ大学のYochai Schonmann氏らは、新規睡眠薬使用患者における長期使用リスクを定量化し、睡眠薬の選択とその後の使用パターンとの関連性を検討した。European Journal of Clinical Pharmacology誌オンライン版2018年8月8日号の報告。 イスラエル最大のヘルスケアプロバイダーのデータベースを用い、検討を行った。2000~05年に催眠鎮静薬を新たに使用した患者23万6,597例を対象に、10年間フォローアップを行った。2年目、5年目、10年目の処方箋が記録された。初回の睡眠薬選択(ベンゾジアゼピン/Z薬[非ベンゾジアゼピン系])と長期使用との関連は、多変量ロジスティック回帰モデルを用いて評価した。 主な結果は以下のとおり。・新規睡眠薬使用患者の平均年齢は、63.7歳(SD±16.4歳)であった。・女性の割合は、58.6%であった。・ベンゾジアゼピンは、15万4,929例(65.5%)に使用されていた。・ベンゾジアゼピン使用患者は、Z薬使用患者と比較し、より高齢であり、社会経済的状態もより低かった(p<0.001)。・10年目において、新規ベンゾジアゼピン使用患者の66.8%(10万3,912例)が30DDD(defined daily dose:規定1日用量)以下、20.4%(3万1,724例)が長期使用(180DDD/年以上)、0.5%(828例)が過量投与(720DDD/年以上)であった。・Z薬の使用は、長期使用リスクの増加と関連していた(p<0.0001)。 2年目:17.3% vs.12.4%、RR=1.40(1.37~1.43) 5年目:21.9% vs.13.9%、RR=1.58(1.55~1.61) 10年目:25. 1% vs.17.7%、RR=1.42(1.39~1.45)・Z薬使用患者における日常的投与および過量投与についても、同様の結果が観察された(p<0.001)。 著者らは「新規催眠鎮静薬使用患者のうち約20%が長期使用となっていた。また、過量投与は、0.5%に認められた。そして、Z薬の使用は、長期使用リスク増加と関連が認められた」としている。■関連記事ベンゾジアゼピン系薬の中止戦略、ベストな方法は高齢者へのZ薬と転倒・骨折リスクに関するメタ解析ベンゾジアゼピン依存に対するラメルテオンの影響

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第4回 耳鼻科からのアモキシシリン・アセトアミノフェン 5日間の処方 (後編)【 適正使用に貢献したい  抗菌薬の処方解析 】

前編 Q1処方箋を見て、思いつく症状・疾患名は?Q2患者さんに確認することは?Q3患者さんに何を伝える?Q4 疑義照会をする?しない?疑義照会するアモキシシリンの処方日数 児玉暁人中耳炎の抗菌薬効果判定は3日目なので、アモキシシリンの処方日数を確認したいです。エンテロノン®-Rの投与量 わらび餅アセトアミノフェンの用量からは、患者の体重は14kg。2歳児としては大きい方で、かつアモキシシリンも高用量なので、エンテロノン®-Rは1g/日以上飲んでもいいのではと考えます。整腸剤自体は毒性の高いものではないので、少なめにする必要はないかと考えます。抗菌薬変更、検査の有無、アセトアミノフェンの頻度 JITHURYOU直近1カ月の抗菌薬の使用状況を聞き、抗菌薬を連用している場合は耐性菌の可能性があるのでセフジトレンピボキシルなどへの変更を提案します。膿や痰などの培養検査の有無の確認。検査をしていなければ検査依頼をします。アセトアミノフェンの使用頻度を確認したいです。医師によっては、炎症が強いと考えられる場合は特別に指示をしている可能性(夜間の発熱や疼痛)があります。場合によっては坐薬への変更提案をします。カルボシステインの服用回数 柏木紀久カルボシステインは1日量としてはいいのですが、分2投与に疑問があります。夜間睡眠中は副腎皮質ホルモンの分泌低下や繊毛運動の低下による排膿機能の低下、仰臥位による後鼻漏も起こりうるので、これらを考慮してあえて分2にしたとも考えられますが、確認を含めて疑義照会します。投与3日後の症状によっては抗菌薬の変更を提案 荒川隆之「JAID/JSC感染症治療ガイド2014」では、中等症以上の中耳炎の場合、アモキシシリンは25~30mg/kgを1日3回投与とありますので、1回420mg投与は妥当と考えます。ただ、このガイドでは投与期間が3日となっているので、3日治療をしても効果が見られない場合は、抗菌薬の変更を医師に提案します。疑義照会をしないガイドラインに則った投与量 清水直明小児急性中耳炎の起因菌としては肺炎球菌やインフルエンザ菌が多く、それらはPISP、PRSP、BLNAR※などといったペニシリンに対する耐性株の分離が多いことが報告されており、アモキシシリンは高用量投与が推奨されています。本処方のアモキシシリン投与量は添付文書上の最大用量ですが、「JAID/JSC感染症治療ガイド2014」に則った投与量であり、このままの処方でOKとします。※PISP;Penicillin-intermediate Streptococcus pneumoniae(ペニシリン中等度耐性肺炎球菌) PRSP;Penicillin-resistant Streptococcus pneumoniae(ペニシリン耐性肺炎球菌) BLNAR;β-lactamase-negative ampicillin-resistant Haemophilus influenzae(β-ラクタマーゼ非産生アンピシリン耐性インフルエンザ菌)気になるところはあるが… 中堅薬剤師エンテロノン®-Rの投与量が少ない気はします。症例の子供の体重は14kgと思われ、60kgの成人は3g/日が標準とすれば、14kgでは0.7g/日と比例計算したのでしょう。しかし、これまでの経験から多くの小児科処方では体重1kgあたり0.1~0.15g/日くらいでしたので、14kgの子供であれば1.4~2.1gくらいと考えます。ただ、乳酸菌製剤には小児の用量設定がなく、医師に疑義照会できるだけの根拠がありません。問題があるわけではないので、実際にはこのまま調剤します。協力メンバーの意見をまとめました今回の抗菌薬処方で患者さんに確認することは・・・(通常の確認事項は除く)ペニシリンや牛乳のアレルギー・・・3名最近中耳炎になったかどうか・・・2名再受診を指示されているか・・・2名昼の服用について・・・1名鼓膜切開しているかどうか・・・1名集団保育・兄弟の有無・・・1名患者さんに伝えることは・・・抗菌薬は飲み忘れなく最後まで飲みきること・・・6名副作用の下痢がひどい場合は連絡すること・・・4名アモキシシリンとエンテロノン®-Rは指示通りの服薬時間でなくても、1日3回飲むこと・・・3名再受診を促すこと・・・1名服用後3日経っても症状が改善しない場合は連絡すること・・・1名アセトアミノフェンの使用方法(頻度)・・・1名鼻汁をとること、耳漏の処置・・・1名疑義照会については・・・ 疑義照会する カルボシステインの分2処方・・・5名アモキシシリンの処方日数・・・2名アセトアミノフェンの使用について。場合によっては坐薬への変更提案・・・2名エンテロノン®-Rの投与量・・・1名セフジトレンピボキシルなどへの変更提案・・・1名培養検査の依頼・・・1名 疑義照会をしない 6名

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宿日直や自己研鑽はどう扱う?~医師の働き方改革

 厚生労働省「医師の働き方改革に関する検討会(第9回)」が9月3日開かれ、今年度末のとりまとめに向け具体的な議論が開始された。医師の時間外労働の上限時間数の設定をはじめとした対応を議論していくにあたり、座長を務める岩村 正彦氏(東京大学大学院法学政治学研究科教授)は、(1)働き方改革の議論を契機とした、今後目指していく医療提供の姿(国民の医療のかかり方、タスク・シフティングの効率化等)、(2)医師の特殊性を含む医療の特性(応召義務の整理)、(3)医師の働き方に関する制度上の論点(時間外労働の上限時間数の設定、宿日直や自己研鑽の取り扱い等)の3つを軸とすることを提議。この日は事務局が示すデータを基に、宿日直と自己研鑽についての議論が開始された。 まず、勤務医の週勤務時間について分析した結果(病院・大学病院勤務医約20万人対象)、週50時間以上が6割以上を占めていた(オンコール待機は除外したデータ)、これまでのデータを紹介。性別、年代、診療科や地域ブロック別に分析されたデータも示され、「属性別に特段大きな特徴は見られない」とされたが、これに対し委員からは「全国的に一律の基準にしてしまったら医療は崩壊する。地域ごと・診療体制ごとにもっと丁寧な分析が必要」という声が上った。宿日直の類型化は必要? そして実現は可能なのか さらに四病院団体協議会が今年7~8月に実施した平日時間外の勤務実態についてのアンケート調査からは、当直勤務中(17時から翌9時までの16時間)の診療時間数について、2時間以下だった医師が全体の34%を占めた一方で、8時間を超える医師も19%存在することが明らかとなった。事務局側は、当直勤務の実態としては3つ(ほぼ診療なし/一定の頻度で診療が発生/日中と同程度に診療が発生)に大別できるのではないかとの視点を提供。委員からは、「当直勤務の負担レベルを労基署が判断するようなことは難しく、混乱を招きかねない。診療実態に即した形で、医療者側からみた類型化が必要なのではないか(今村 聡氏、日本医師会女性医師支援センター長)」、「総時間もあるが、断続的に対応している場合、睡眠が確保できない。睡眠の質の確保という観点も加えるべきではないか(黒澤 一氏、東北大学環境・安全推進センター教授)」、「健康への影響が大きい当直明けの連続勤務についての視点が抜けている(村上 陽子氏、日本労働組合総連合会総合労働局長)」などの意見が上った。自己研鑽にあたるもの、あたらないものとは 自己研鑽については、「病院勤務医の勤務実態調査(2017年12月~2018年2月実施)」において「自己研修」として記録された行為を参考に、事務局から自己研鑽と考えられているものの例が提示された(診療ガイドラインについての勉強、新しい治療法や新薬についての勉強、自らが術者等である手術や処置等についての予習や振り返り、自主参加の学会や外部の勉強会への参加・発表準備等、自主的な院内勉強会への参加・発表準備等、自主的な論文執筆・投稿、大学院の受験勉強、専門医の取得・更新[勤務先の雇用条件となっていない場合]、参加が必須ではない上司・先輩が術者である手術や処置等の見学、診療経験や見学の機会を確保するための当直シフト外での待機、臨床研究)。 委員からは、「健康管理をしたうえで、必要な自己研鑽が時間内にできるような勤務スケジュールのデザイン、システムの整備が必要(三島 千明氏、青葉アーバンクリニック総合診療医)」、「1つひとつの自己研鑽を評価するのではなく、“自己研鑽手当”のような形で包括的に評価していくことができないか(黒沢氏)」、「“使用者の指揮命令下かどうか”が1つの判断基準とすると、労働者は労働だと思っているが、使用者は自己研鑽だと思っているものが問題になるのではないか(赤星 昂己氏、東京医科歯科大学医学部附属病院救命救急センター医師)」などの多様な意見が出された。 今後は、国民の医療のかかり方について9月中にも懇談会が新たに設置される予定のほか、応召義務の解釈についても別途研究班が発足して議論が始まっており、これらの議論を検討会で吸い上げつつ、上限時間数の設定等について複数の試案を提案することも視野に入れ、引き続き議論を進める方針だ。■参考厚生労働省「第9回医師の働き方改革に関する検討会」資料■関連記事厚労省・医師の働き方改革検討会が初会合-残業規制の在り方など19年3月ごろ取りまとめ

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FHの発掘は内科と皮膚科・小児科の連携がカギ

 わが国における家族性高コレステロール血症(FH)の患者総数は、25万人以上と推定され、意外にも、日常診療において高頻度に遭遇する疾患と言われている。2018年8月22日に日本動脈硬化学会主催のプレスセミナー「FH(家族性高コレステロール血症)について」において、斯波 真理子氏(国立循環器病研究センター研究所病態代謝部部長)が登壇した。FHが襲った悲劇 競泳男子平泳ぎ100m 北島康介選手の最大のライバル、ノルウェーのダーレ・オーウェン選手(享年26歳)が2012年4月に急死したのをご存じだろうか。死因が遺伝性の心疾患と判定された彼は、もともと冠動脈疾患を抱え、急死する1、2ヵ月前にも軽い心臓発作を起こしていたという。にもかかわらず、治療を行っていなかった可能性があり、さらに、この選手の祖父は42歳の時に心臓病で急死しているとの報告もある。斯波氏によると、「トップアスリートは、スタチン系がもたらす運動機能低下の副作用を懸念し1)、薬物治療を拒むことがある」という。 また、FH患者は、冠動脈疾患(CAD)を発症し、その後10~15年経過後に脳血管疾患に陥る場合が多いと言われている。この理由について同氏は、「コレステロールは力が加わる部分に溜まりやすい。そのため、アキレス腱、大動脈や心臓弁に溜まり、CADを発症しやすい」と解説した。FHの種類と診断意義 FHはLDL受容体、PCSK9遺伝子の変異が原因とされ、大きく2種類に分類される。ヘテロ接合体、ホモ接合体、それぞれの主な特徴(15歳以上の場合)を以下に示す。FHヘテロ接合体・LDL受容体関連遺伝子変異・罹患率:200~500人に1人(遺伝性代謝疾患中、頻度最大)・血清総コレステロール値:230~500mg/dL・所見:皮膚および腱黄色腫・若年性動脈硬化症やCADの早期罹患FHホモ接合体・LDL受容体遺伝子変異・罹患率:100万人に1人以上・血清総コレステロール値:500~1,000mg/dL・所見:著明な皮膚および腱黄色腫・確定診断:LDL受容体活性測定やLDL受容体遺伝子解析の利用 各分類別に累積LDL-CとCADの発症を調べた研究2)における、CAD発症に係る累積LDL-C閾値到達年数は、ヘテロ接合体患者は35年、ホモ接合体患者は12.5年と報告されており、非FH患者の53年と比較しても両者のCADリスクの高さがうかがえる。同氏は「この報告が示すように、いかに早期発見し、適切な治療を開始するかがFH診断の鍵となる」と、診断の意義を語った。早期発見にはレントゲン・超音波・家系図を FHの最も有効な診断は遺伝子検査だが、同氏は「まずは、アキレス腱などの肥厚や皮膚結節性黄色腫、FHあるいは早発性CADの家族歴(2親等以内)を発見することが望ましい」と述べ、「アキレス腱厚は超音波[カットオフ値(mm):男性6.0、女性5.5]、レントゲン[カットオフ値(mm):9.0]で診断できるため、通常の診察において腹部や胸部だけでなく、アキレス腱のチェックをしてほしい」と、画像診断の有用性を訴えた。 さらに、LDL-C値が高い患者にはFHや心筋梗塞の家族歴の確認が重要となる。FHは家族を1人診断するとほかの家族の診断にも繋がるため、同氏は「医師がフリーハンドで家系図を描き、患者に家族一人ひとりをイメージしてもらいながら答えてもらう。それをカルテに残しておく」など、家族歴を尋ねるコツも紹介した。小児の健康診断に導入される日を目指して 小児の場合、腱黄色腫などの臨床症状が乏しく(ホモ接合体を除く)、健康診断などによるLDL-C値の早期発見が難しい。現時点で、10歳前後の血液検査を実施している自治体は非常に少なく、香川県や富山県の一部などにとどまることから、家族のFHから診断することが重要となる。 日本動脈硬化学会と日本小児科学会が合同でガイドラインを作成したことを踏まえ、同氏は「合併症がある場合は管理目標値140mg/dL未満を維持し、リスクが高い患児にはスタチン系を第1選択薬として考慮する」など治療ポイントについても述べた。 最後に同氏は「患者にとって、がんや高血圧の認知度は高いが、この疾患はほとんど知られていない。この疾患や早期発見、小児での血液検査の重要性を理解してもらうために、9月24日に世界FH Dayを制定し、啓発活動を行っている」と取り組みへの思いを綴った。 なお、日本動脈硬化学会では、より多くの先生方にFH診療を理解していただくために、医薬教育倫理協会(AMEE)と共同でeラーニングプログラムを開発、公開している。ケアネット医師会員は、ケアネットのID/パスワードにてこちらから受講可能である。■参考1)Sinzinger H,et al.Br J Clin Pharmacol. 2004;57:525-528.2)Nordestgaard BG et al. Eur Heart J 2013;34:3478-3490

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心房細動アブレーション後の肺静脈狭窄、ステント留置術でより良好な成績【Dr.河田pick up】

単施設における肺静脈狭窄に対するカテーテルインターベンションの成績を分析 心房細動のアブレーションに伴う肺静脈狭窄(pulmonary vein stenosis:PVS)に対するカテーテルインターベンションは、無作為化試験のデータやガイドラインがないため、いまだに難しい領域である。ドイツ・ライプチヒ大学のSchoene K氏らが、PVSに対するカテーテルインターベンションでの治療について、単施設後ろ向き研究の結果を報告した。JACC Cardiovascular interventions誌オンライン版2018年8月27日号に掲載。肺静脈狭窄の発生率は0.78% 2004年1月から2017年9月までの間の、心房細動アブレーションに伴うPVS発生率は0.78%(87/1万1,103例)であった。 PVSがあり、カテーテルインターベンションによる治療を受けた39例の患者のうち35例で何らかの症状があり、進行性の呼吸困難(79%)、肺動脈圧の上昇(33%)、喀血(26%)などが主要なものであった。39例の患者で84のカテーテルインターベンションの施行があり、うち経皮的バルーン血管形成術が68(81%)、ステント留置術が16(19%)であった。ステントの種類は薬剤溶出性ステントが3(19%)、ベアメタルステントが13(81%)であった。追跡期間中央値は6ヵ月(四分位範囲:3~55ヵ月)で、この間全体の再狭窄率はバルーン血管形成術で53%であったのに対して、ステント留置術では19%であった(p=0.007)。合併症の発生率はバルーン血管形成術で10%、ステント留置術で13%であった(p=NS)。ステント留置術がバルーン形成術よりも良好な成績 この研究から心房細動のアブレーションで引き起こされた肺静脈隔離術後のPVSにおいては、ステント留置術のほうがバルーン形成術よりも優れた成績であり、また、合併症の程度は同等であることが分かった。無作為化試験は行われていないが、今回のデータや入手可能なこれまでに発表された研究結果から、心房細動アブレーションに伴うPVSに対してはステント留置術が第一選択ではないかと考えられる。しかしながら、この研究は単施設の後ろ向き研究であり、無作為化試験やより症例数を増やした多施設での研究が必要である。

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