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第6回HBOCコンソーシアム学術総会レポート 後編

本年(2018年)1月21日(日)、第6回日本HBOCコンソーシアム学術総会(会長:山内 英子氏/聖路加国際病院副院長)が、「実戦! THE NEXT STEP HBOC診療」をテーマに、聖路加国際大学で開催された。今回は、後編として、シンポジウム2「リスク低減手術」、同3「サーベイランス」、同4「前立腺がん」の概要を紹介する。リスク低減手術…RRSOとRRMリスク低減卵巣卵管切除術(RRSO)について野村 秀高氏(がん研究会有明病院)、塩田 恭子氏(聖路加国際病院)が、リスク低減乳房切除術(RRM)については山内 清明氏(北野病院)、吉田 敦氏(聖路加国際病院)が、それぞれ発表した。野村氏は、自施設にてRRSOを施行した55例を報告した。同氏によると、オカルトがんおよびSTIC(漿液性卵管上皮内がん)はMRIを含む術前検査でも指摘できず、p53シグネチャーを含めて病理学的に異常を認めた症例はすべて50歳以上であり、無症状の進行卵巣がんも経験したという。塩田氏は、BRCA1/2変異保因者の卵巣がんの発症リスクおよびRRSOのベネフィットとリスクについて概説し、卵巣がんのリスク低減エビデンスが確立しているのはRRSOのみだが、RRSO後の腹膜がんの増加などの問題があるため、術後のフォローアップが必要だと述べた。山内氏は、より高い整容性とより少ない残存乳腺組織量を目指したRRMの解剖学的な至適切除範囲を考察した。また、HBOC診療のnext stepとして、薬物、ゲノム改編治療の可能性について期待を示し、臨床試験やさらなる技術革新の必要性を強調した。吉田氏からは、BRCA遺伝子変異陽性例へのRRMの施行状況が紹介され、整容、残存リスク、患者の意思決定などの問題点が提示された。そして、患者自身による選択を導き出すためには、患者の理解力や経済的な状況なども考慮し、十分なコミュニケーションをとることが重要であると言及した。サーベイランス…乳房MRI、卵巣がん、Li-Fraumeni症候群HBOCやほかの遺伝性腫瘍のサーベイランスについて、戸崎 光宏氏(相良病院附属ブレストセンター)、秋谷 文氏(聖路加国際病院)、舩戸 道徳氏(長良医療センター)らが発表し、討論がなされた。その中で、課題として、NCCNガイドラインで推奨されているMRIによるサーベイランスがあまり知られていないこと、それを実施できる施設・人材が限られていること、経済的負担、患者・家族の精神的な負担などが挙げられた。前立腺がん…HBOCとの関連従来、前立腺がんとBRCA遺伝子に関連はないとされてきたが、最近になって、その関連を示唆するデータが報告され注目を集めている。この点に関し、前立腺がん専門医の立場からみたHBOCについて、新保 正貴氏(聖路加国際病院)と大家 基嗣氏(慶應義塾大学)が発表した。新保氏は、家族歴および原因遺伝子からみたHBOCと前立腺がんの関連について概説した。現在のところ、HBOCと強く関連する前立腺がんの頻度は、前立腺がん全体の中ではおそらく1%程度ではないかと予想されるが、実際にBRCA1/2遺伝子変異例も見つかるため、HBOCと診断された家族へは前立腺がんの注意喚起をすべきだとした。また、同氏は、「今後は、前立腺がんを発端としてHBOCの可能性を疑っていくというアプローチも必要かもしれない」と述べた。大家氏は『遺伝性乳癌卵巣癌症候群(HBOC)診療の手引き2017年版』への執筆を依頼された時、初めてHBOCに注目したという。BRCA1/2遺伝子変異保因者は、通常より若い40歳でのPSA検査と、より低いPSA値(3.0ng/mL以上)での生検が推奨される。BRCA1/2変異を原因とした前立腺がん発症は、人種差が大きく罹患率と死亡率を一般化することが難しいため、全国的な調査が必要だという。また、BRCA1/2遺伝子変異陽性の転移性前立腺がんでは、今後、PARP阻害薬(未承認)が有効となる可能性がある。コメント…医師の視点から(ケアネットCMO 宮本 研)HBOCは乳腺外科や婦人科の疾患と考えがちであるが、今回の学術総会を聴講し、泌尿器科や消化器内科・外科、小児科も連携すべき遺伝性疾患と再認識した。患者のみならず親族のBRCA1/2遺伝子変異が確認されたり、疑われたとき、かかりつけ医も最新の知識に基づき発症予防策を提案すべきだ。世代を超えた家族歴の聴取が改めて重要視されるだろう。

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第6回HBOCコンソーシアム学術総会レポート 前編

本年(2018年)1月21日(日)、第6回日本HBOCコンソーシアム学術総会(会長:山内 英子氏/聖路加国際病院副院長)が、「実戦! THE NEXT STEP HBOC診療」をテーマに、聖路加看護大学アリスホールで開催された。ここでは、4つのシンポジウムで構成された当総会を2回に分けてレポートする。今回は、前編として、シンポジウム1「チーム医療」の概要を紹介する。HBOCのチーム医療の現況…6施設の報告から当シンポジウムでは、6施設が、遺伝性乳がん卵巣がん症候群(HBOC)のチーム医療の現況を報告した。引き続き、来場者参加型の投票システムを用いて、HBOC診療に関する質問への回答を即座に集計してスクリーンに掲示することで、HBOC診療の現状を広く共有し、議論を深める試みがなされた。最初に報告を行った関西ろうさい病院(兵庫県尼崎市)では、臨床遺伝専門医、遺伝カウンセラー、各種専門看護師を中心とした遺伝カウンセリング外来を設置して遺伝性腫瘍の診療を行っている。また、乳腺科や婦人科などとの連携を常に意識して診療に当たっている。臨床試験に頼らずにHBOCの拾い上げを行うことが今後の課題であり、日本遺伝性乳癌卵巣癌総合診療制度機構(JOHBOC)の基幹施設になることが目標だという。東京医療センター(東京都目黒区)では、HBOC診療において、乳腺科・婦人科との連携から、臨床遺伝センターでの遺伝カウンセリング、遺伝学的検査、各科のサーベイランス、予防切除術まで、一貫して行える体制を整備してきた。HBOC疑い例の拾い上げには、問診票を用いているが、かかりつけ医からの紹介なども重要だという。そのため、かかりつけ医を対象とする講演会を実施し、リーフレットを作製して保健所や福祉センター、区役所に送付するなど、地域連携を積極的に進めている。北野病院(大阪府大阪市)では、遺伝性疾患サポートチームを中心に、複数の診療科などが連携している。HBOC疑い例の拾い上げを重視し、乳腺外科では初診患者に対し初診問診票を用いて、婦人科では卵巣がんと診断された患者に対し遺伝性腫瘍に特化した問診票を用いて家族歴を聴取している。最近、消化器内科と乳腺外科との連携による、膵がんへの取り組みも開始した。また、地域の他施設医療者への遺伝性腫瘍セミナーや、市民公開講座を開催し、院外からの遺伝カウンセリングや、リスク低減手術の依頼にも応じている。今後は、HBOC診療に関わる診療科を増やすとともに、人材育成、保険診療の実現に向けた学会からの働きかけを推進する予定だという。名古屋市立大学病院(愛知県名古屋市)では、臨床遺伝専門医と認定遺伝カウンセラーから成る臨床遺伝医療部が、他科との連携のもとで遺伝性腫瘍の遺伝カウンセリングを行っている。今後は、消化器内科、外科、泌尿器科との連携を強化し、認定遺伝カウンセラーの雇用条件の改善と増員、遺伝子パネル検査の導入を進める予定だ。新潟大学医歯学総合病院(新潟県新潟市)は、新潟県立がんセンター新潟病院(新潟県新潟市)との共同でHBOC niigata meetingを組織した。両施設の連携のもと、症例の拾い上げからカウンセリング、BRCA遺伝子検査、リスク低減手術、サーベイランスまで、包括的なHBOC診療の取り組みを開始している。当面の課題として、県内のほかの地域の施設との連携強化、リスク低減手術を含めたHBOC診療の県内での完結、とくに乳がんからの拾い上げ基準の確立などを目指している。四国がんセンター(愛媛県松山市)では、遺伝性がん診療科を中心にHBOC診療を進めている。最近、看護師や遺伝カウンセラーが、卵巣がん患者、子宮体がん患者から家族歴を聴取し、家系図の作成に取り組んだ。この経験を踏まえ、HBOCを考慮した問診票を作成し、家系図の作成に活用する試みを開始している。今後は、このアプローチをよりよく継続するための工夫を重ね、HBOC診療に関わる多職種の連携の円滑化を図りたいという。来場者参加型アンケート調査の結果来場者参加型の投票システムを用いたアンケート調査の主な結果は、以下のとおりであった。同一施設所属者が複数いること、HBOC診療に興味を示す者であること、誤操作した可能性などがあり、一般調査結果とは異なると予想されるが、参考値として紹介する。質問1)拾い上げの基準はどのように設定しているか?NCCNガイドラインに準拠:18%NCCNガイドラインを参考に一部改変して使用:40%NCCNガイドライン以外の基準を参考にしている:3%施設内で検討した基準を使用:14%検討中:24%質問2)一次拾い上げをする人は主に誰か?主治医:62%臨床遺伝専門医:1%外来看護師:12%病棟看護師:2%認定遺伝カウンセラー:16%その他:6%質問3)主治医がどのくらい遺伝カウンセリングに関わっているか?主治医が遺伝カウンセリングをしている:18%主治医はまったく関わっていない:36%状況に応じて:46%質問4)RRM(リスク低減乳房切除術)は実施しているか?実施している:29%実施していない:25%準備中:28%導入する予定はない:8%その他:10%質問5)RRSO(リスク低減卵巣卵管切除術)は実施しているか?実施している:48%実施していない:17%準備中:19%導入する予定はない:6%その他:9%質問6)リスク低減手術の合併症の治療は保険か自費か?保険:14%自費:29%症例に応じて:12%準備中:45%

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コーヒーと大腸がんの関連、日本の8研究をプール解析

 コーヒーは、がん発症を抑制する可能性のある生物活性化合物が豊富な供給源だが、大腸がんとの関連は不明であり、がんの部位別に調べた研究はほとんどない。今回、わが国の「科学的根拠に基づく発がん性・がん予防効果の評価とがん予防ガイドライン提言に関する研究」の研究班が、日本の8つのコホート研究のプール解析により、コーヒーと大腸がんの関連を検討した。その結果、女性において1日3杯以上のコーヒー摂取が結腸がんリスクを低下させる可能性が示唆された。International Journal of Cancer誌オンライン版2018年2月15日号に掲載。 本研究では、32万322人の参加者における450万3,276人年の追跡調査の結果、6,711件の大腸がんが確認された。Cox比例ハザードモデルを用いて、研究ごとのハザード比(HR)および95%信頼区間(CI)を推定し、ランダム効果モデルを用いて統合した。 主な結果は以下のとおり。・男女とも、コーヒー摂取は大腸がんリスクに実質的に関連していなかった(男性における統合HR:0.92、95%CI:0.82~1.03、女性における統合HR:0.90、95%CI:0.76~1.07)。・部位別の解析においては、1日3杯以上コーヒーを飲む女性で結腸がんリスクが低下した(統合HR:0.80、95%CI:0.64~0.99)が、男性ではこのような関連はなかった。・男女ともコーヒー摂取は直腸がんリスクに関連していなかった。・非喫煙者でも、頻回のコーヒー摂取で直腸がんリスクが高いことを除き、結果は事実上同様であった。

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疑義照会を巡るあれこれ【Dr. 中島の 新・徒然草】(209)

二百九の段 疑義照会を巡るあれこれ先日、薬剤師さんの会合に招かれました。そこで出た質問。「薬剤師として、医師とどのようにコミュニケーションをとったらいいのか苦慮している。もし良かったらそのコツを教えて欲しい」というものでした。医師と薬剤師とのコミュニケーションというのは、調剤薬局からの疑義照会というのもあれば、職場の同僚としてのディスカッションもあります。会合の時の質問に対しては3つほど自分の考えを述べましたが、後で考えてみると、結構、広く使える回答だったので、忘れないうちに記録しておこうと思います。その1:みんな忙しい。だから結論から先に言い、手短かにまとめること。多くの医師は患者さんの長話に忍耐力を使い果たしている。その2:「添付文書にある」とか「ガイドラインではこうだ」と言っても聞く耳を持たない医師は少なくない。でもロジカルな話は好きなので「薬理学的にはこうですよ」というと乗ってくる。さらに自分の知識が増えると大喜び。その3:誰にとっても、自分の仕事を減らしてくれる人が善人で、仕事を増やす人は悪人だ。だから、相手の仕事を減らす話だと耳を傾けてもらいやすい。ということで、架空のやりとりを考えてみました。薬剤師「先生の処方ですけど、この薬は中止した方がいいんじゃないでしょうか」医師「えっ、何でまた!」薬剤師「この薬が患者さんのせん妄の原因になっていると思うからです」医師「せん妄の原因になることがあるわけ?」薬剤師「ええ、抗コリン作用による精神症状は珍しくないですよ」医師「ほんまか! 勉強になったわ。ほな、やめとこ」薬剤師「では、こちらで処方から削除しておいていいですか」医師「おお、気が利くなあ。ありがとう!」こんな感じでしょうか。最後に1句疑義照会 賢くなった いい気分

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リファキシミンの腸内細菌叢への調整作用で肝性脳症を抑える

 2018年1月31日、あすか製薬株式会社は、同社が販売する経口難吸収性抗菌薬リファキシミン(商品名:リフキシマ)の処方制限が昨年12月に解除され、長期投与が可能となったことを機に、都内において肝性脳症に関するプレスセミナーを開催した。 セミナーでは、「『肝性脳症』診断・治療の最新動向 腸内細菌への働きかけによる生存率向上への兆し」をテーマに、吉治 仁志氏(奈良県立医科大学 内科学第三講座 教授)を講師に迎え、レクチャーが行われた。原因不明の認知症10%に潜む肝性脳症 はじめに、認知症の概要が語られた。2025年には、認知症患者が推定730万人になると予想される。そして、認知症の原因ではアルツハイマー型が一番多く、次いで脳血管性型、レビー小体型と続き、そのほか原因不明も全体の1割(70万人以上)を占めるという。現在の『認知症疾患診療ガイドライン』では、認知症と鑑別が必要な疾患として、「ビタミン欠乏症」「甲状腺機能低下症」「神経梅毒」「肝性脳症」「特発性正常圧水頭症」の5つが規定されている。なかでも「肝性脳症」では、認知症やうつ病と同じように睡眠異常、指南力低下、異常行動、物忘れなど共通する症状がみられ、正確に診断されていない例もあると指摘した。 肝性脳症は、肝臓の線維化によりアンモニアの分解能が落ちることで、アンモニアが体内に蓄積され、さまざまな認知機能を障害する。その原因となる肝細胞障害、とくに肝硬変はC型肝炎ウイルスによるものが多く、そのウイルス保菌者数は年齢に比例して増加することから、肝性脳症が発症した場合、認知症と診断されている例もあると示唆した。服薬アドヒアランスを上げるリファキシミン 肝性脳症の症状は、人格・行動の微妙な変化から始まり、判断力の低下、睡眠の不規則、見当識障害、興奮・せん妄、昏睡状態へと進展する。典型的な患者の訴えでは、「頭がボーッとする」「足がつまずく」「手が震える」などが聞かれ、家族の訴えでは「目つきがおかしい」「おかしなことを言う」「食事を摂らない」などがある。 本症の診断では、身体所見など一般的な診断のほかに、認知症との鑑別のためナンバーコネクション、ブロックデザインテストなども行われ、「本症を疑った場合、アンモニア値の検査も重要」と吉治氏は述べる。 本症の治療では、これまで合成二糖類、カルニチン・亜鉛、BCAA製剤などの治療薬が使われてきたが、服用のしにくさや副作用などでアドヒアランスは決して良好とはいえなかった。 そこで、今回長期投与が可能になったリファキシミンは、こうした問題に対応し、他の治療薬の減量・削減の可能性、全身症状の改善、医療コストの削減などで期待されている。リファキシミンの作用機序は腸管内でのアンモニアの産生を防ぐことで、血中濃度が低下し、脳へのアンモニア移行を減少、肝性脳症を改善し、便と共に排泄される作用を持つ。リファキシミンは欧米では30年以上前より使用されてきたが、わが国では2016年に保険適用となった。 エビデンスでは、リファキシミンは使用群とプラセボ群との比較で、本症の再発を0.42ポイント有意に軽減したほか1)、5年間の長期投与でも肝硬変患者の生存率を改善したことが報告されている2)。リファキシミンの腸内細菌叢の調整機能 次に、わが国で増えている肥満型の肝硬変患者に触れ、現在1,000万人と推定される非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)の患者のうち、約200万人が非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)に移行すると考えられ、今後の肝硬変の患者数増加に警鐘を鳴らした。 さらに最近の話題として、腸内細菌叢について語った。この細菌叢のバランスの崩れから起こる疾患として、NAFLD、NASH、肝硬変、炎症性腸疾患などを挙げ、近年この腸内細菌叢の構成に注目が集まっているという。 肝硬変患者に、実際にリファキシミンを投与した前後で腸内細菌叢を調べた結果、細菌叢の多様性に変化はなかったものの、属レベルでは、肝硬変患者で増加するとされていた細菌が減少したと自験例を報告した3)。また、リファキシミンは、腸内細菌モジュレーターとして、肝硬変患者の予後を改善することが示唆されると期待を寄せた。 最後に吉治氏は、「今後、リファキシミンの腸内細菌叢の調整機能も踏まえ、日本人の長期投与効果の研究を行い、日本発のエビデンスを出していきたい」と今後の展望を語り、セミナーを終了した。

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敗血症性ショックに対するグルココルチコイドの投与:長い議論の転機となるか(解説:吉田 敦 氏)-813

 敗血症性ショックにおいてグルココルチコイドの投与が有効であるかについては、長い間議論が続いてきた。グルココルチコイドの種類・量・投与法のみならず、何をもって有効とするかなど、介入と評価法についてもばらつきがあり、一方でこのような重症病態での副腎機能の評価について限界があったことも根底にある。今回大規模なランダム化比較試験が行われ、その結果が報告された。 オーストラリア、英国、ニュージーランド、サウジアラビア、デンマークのICUに敗血症性ショックで入室し、人工呼吸器管理を受けた18歳以上の患者3,800例を、無作為にヒドロコルチゾン(200mg/日)投与群とプラセボ投与群とに割り付けた。この際、SIRSの基準を2項目以上満たすこと、昇圧薬ないし変力作用のある薬剤を4時間以上投与されたことを条件とした。ヒドロコルチゾンは200mgを24時間以上かけて持続静注し、最長で7日間あるいはICU退室ないしは死亡までの投与とした。ランダム化から90日までの死亡をプライマリーアウトカム、さらに28日までの死亡、ショックの再発、ICU入室期間、入院期間、人工呼吸器管理の回数と期間、腎代替療法の回数と期間、新規の菌血症・真菌血症発症、ICUでの輸血をセカンダリーアウトカムとし、原疾患による死亡は除いた。 患者の平均年齢は約62歳、外科手術が行われた後に入室した患者は約31%、感染巣は肺(35%)、腹部(25%)、血液(7%)、皮膚軟部組織(7%)、尿路(7%)の順であり、介入前の基礎パラメーターや各検査値に2群間で差はなかった。なおショック発症からランダム化までは平均約20時間、ランダム化から薬剤投与開始までは0.8時間(中央値)であり、ヒドロコルチゾンの投与期間は5.1日(中央値)であった。 まずプライマリーアウトカムとしての90日死亡率は、ヒドロコルチゾン投与群では27.9%(1,832例中511例)、プラセボ投与群では28.8%(1,826例中526例)であり、有意差はなかった。次いでセカンダリーアウトカムでは、ショックから回復するまでの期間も、ICU退室までの期間も、さらに1回目の人工呼吸器管理の期間もヒドロコルチゾン投与群で有意に短かった(それぞれ3日と4日、p<0.001、10日と12日、p<0.001、6日と7日、p<0.001)。ただし再度人工呼吸器管理が必要な患者もおり、人工呼吸器を要しなかった期間としてみると差はなかった。輸血を要した割合も前者で少なかったが(37.0%と41.7%、p=0.004)、その他、28日死亡率やショックの再発率、退院までの日数、ICU退室後の生存期間、人工呼吸器管理の再導入率、腎代替療法の施行率・期間、菌血症・真菌血症発生率に差はなかった。 これまでの検討では、グルココルチコイドは高用量よりは低用量のほうが成績がよかったものの、二重盲検ランダム化比較試験では一致した結果が得られなかった1,2)。現行のガイドラインでも“十分な輸液と昇圧薬の投与でも血行動態の安定が得られない例”に対し、エビデンスが弱い推奨として記載されている3)。本検討は、上記のランダム化比較試験よりも症例数がかなり増えているのが特徴であり、2群で比較が可能であった項目も多い。したがって、グルココルチコイド投与の目的—改善を目指す指標—をより詳しく評価できたともいえる。一方で21例対6例と少数ではあるが、グルココルチコイド群で副作用が多く、中にはミオパチーなど重症例も存在した。グルココルチコイドとの相関の可能性を含んで、この結果は解釈したほうがよいであろう。本検討は、これまでの議論の転機となり、マネジメントや指針の再考につながるであろうか。これからの動向に注目したい。

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左脚ブロックを伴う心筋症患者は左室機能が回復しにくい

 左脚ブロックの患者は、心臓再同期療法(CRT)によって左室駆出率(LVEF)が改善することがある。ところが、左脚ブロックを伴うLVEF低下患者に対し最初に行われる治療は、ガイドラインに準じた薬物療法であり、CRTではない。一方で、LVEFの低下および左脚ブロックが、ガイドラインに準じた薬物療法にどの程度影響するかについてのデータは少ない。現在、CRT植込みの前に、少なくとも3ヵ月のガイドラインに準じた薬物療法が勧められており、これは薬物療法のみでもLVEF改善が期待されているからと考えられる。米国・Duke大学のEdward Sze氏らのグループによる本研究は、心筋症患者について、左脚ブロックの患者とその他のQRS波形を呈する患者におけるLVEFの改善率を評価した。Journal of American College of Cardiology誌2018年1月号に掲載。左脚ブロック、その他のwide QRSとnarrow QRSでLVEFの変化を比較 本研究では、Duke大学のエコーラボのデータベースを用いてベースラインの心電図が記録され、LVEFが35%以下で、3~6ヵ月後にLVEFがフォローアップされている患者を特定した。なお、重症な弁膜症患者と、心臓デバイス、左室補助デバイスもしくは心移植患者を除外した。QRS波形は(1)左脚ブロック、(2)QRS 120ms未満、(3)QRS 120ms以上で左脚ブロックではない、という3つのカテゴリーに分類し、3群間におけるLVEFの平均変化を、重要な併存疾患とガイドラインに準じた薬物療法で調整して分散分析を行った。ガイドラインに準じた薬物療法の有無でLVEFの改善度は変わらず 659例が試験の基準に適合した。このうち左脚ブロックは111例(17%)、wide QRS(≧120ms)で左脚ブロックではない患者は59例(9%)、そしてnarrow QRS(<120ms)は489例(74%)であった。3~6ヵ月におけるLVEFの増加は、それぞれ2.03%、5.28%、8.00%であった(p<0.0001)。その間における再灌流療法、心筋梗塞の有無で調整した結果も同様であった。左脚ブロック患者では、ガイドラインに準じた薬物療法実施の有無にかかわらず、LVEFの改善は同程度であった(3.50%vs. 3.44%)。心不全による入院と死亡率は、左脚ブロックで最も高かった。 左脚ブロックは、その他のQRS波形と比べて、ガイドラインに準じた薬物療法を行っていてもLVEF改善の程度が少なかった。左脚ブロック患者の一部は、現在のガイドラインが推奨するよりも早くCRTの恩恵を受けられる可能性がある。(カリフォルニア大学アーバイン校 循環器内科 河田 宏)関連コンテンツ循環器内科 米国臨床留学記

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「正しいからではなく自分がどう生きたいか」あるHBOC患者の選択

第6回日本HBOCコンソーシアム学術総会 市民公開講座で、患者の立場から講演を行った冨田 多香音氏に、HBOCとの向き合い方について話を伺った。 まず家族歴などの背景と乳がん診断までのプロセスについて教えてください。父方の祖母と妹が40代で乳がんを発症しており、また乳がん発症後に家族歴を調べる過程でわかったことですが、父の従妹2人が30代と40代で乳がんを、父方の叔母が50代で卵管がんを発症していました。乳がん検診は毎年受けていましたが、2011年、47歳の時に右胸のハリと右脇の違和感を覚えて、クリニックを受診したところ、5cmの腫瘍が見つかり、リンパ節にも転移していました。サブタイプ分類はトリプルネガティブでした。妹が乳がんを発症した際に家族性腫瘍を疑われていたので、漠然と自分も乳がんになるかもしれないと思っていましたが、妹の発症から1年も経たないうちに、しかも毎年検診を受けていたのにもかかわらず、発見された時にはすでに5cmもの大きさになっていたことにショックを受けました。その後、どのようなプロセスで遺伝性乳がん卵巣がん症候群(以下HBOC)と向き合っていかれたのでしょうか?まず、聖路加国際病院で半年間の術前化学療法を受けました。治療当初は抗がん剤の有効性や副作用、そして治療と仕事の両立などで頭がいっぱいで、HBOCや遺伝カウンセリングについて説明はありましたが、そこまで考える余裕はありませんでした。化学療法終了後、術式決定の参考になるかもしれないからと主治医から再度勧められたため、遺伝カウンセリングを受けることにしました。カウンセリング前に自分でもHBOCについて勉強しようとたくさんの本を読みあさりましたが、どの本にも情報が少なく、リスク低減手術に関しては、判で押したように「日本では一般的ではない」と書かれているのみでした。ここで、私は「本はダメだ。インターネットなら何か出ているかもしれない」と思い、インターネットで調べました。すると、ようやく2つの有用な情報が見つかりました。1つ目はNCCN ガイドラインでした。医療者ではない私には、どこを読めば良いかわからなかったため、ガイドラインをすべて読みました。そして、その中に「BRCA遺伝子変異陽性の場合にはリスク低減手術を検討すべき」という記述を見つけました。そして2つ目はHBOC患者であるアメリカ人女性の手記です。そこには遺伝子検査から治療、リスク低減手術までの過程が詳しく書かれていました。アメリカでは10年も前からリスク低減手術が行われているのに、なぜ日本ではほとんど行われていないのか、不思議に思った覚えがあります。遺伝カウンセリングを受けてよかったことは何でしょうか?正しい情報を得られたことはもちろんですが、最もよかったことは将来への希望を得られたことです。遺伝カウンセリングを受けるまでは、費用が高いことやそのメリットがわからなかったので、遺伝子検査を受けようとは思っていませんでした。しかし、カウンセリングの中で、BRCA遺伝子変異陽性の場合には重点的にフォローを受けられること、現在治験中の薬剤があること、リスク低減手術は乳がんの手術と同時に受けられることがわかり、カウンセリング室から出るときには、すでに遺伝子検査を受けることを決めていました。遺伝子検査の結果から、すぐにリスク低減手術を受けることを決断できましたか?検査結果が出る前から、陽性の場合には卵巣・卵管のリスク低減手術は受けようと決めていました。なぜなら36歳で卵巣のう腫の手術を受けたとき、がんのマーカーの値が非常に高く卵巣がんが疑われたことがあり、卵巣がんの怖さを知っていたからです。一方、対側の乳房切除については、とても迷いました。ただ、時間的猶予はそれほどなく、手術日がすでに決まっていたため、遺伝子検査から結果が出るまでの約1週間で決断する必要がありました。これまでの人生の決断と同様に、メリットとデメリットを紙に書き出して整理してみたものの、頭の中でぐるぐる回って自力では決断することができなかったため、友人にたくさん話を聞いてもらいました。また、形成外科の先生に乳房再建について相談した際に「片方だけ再建するよりも両方再建するほうが仕上がりがきれいになる」と言われ、それまで見た目のことまで意識が向いていなかったため、目から鱗が落ちました。最後まで自分の中でひっかかっていたのは、まだ病気になっていない部分を切除することが倫理的にどうなのかという点でしたが、自分の好きなように決めていいのだなと、先生の言葉で肩の力が抜けた気がしました。最終的には、元気に過ごせる時間をできるだけ長く維持したいという気持ちが大きく、右側の乳がん切除手術の際に、対側の乳房と卵巣・卵管も予防的に切除することにしました。遺伝子検査の結果は、予想どおり陽性でしたが、「やっぱり」という気持ちが大きく、悲しいという気持ちは湧いてきませんでした。むしろがんの原因がわかってすっきりしたことを覚えています。乳がん告知を受けてから現在までを振り返っていかがですか?HBOCの情報に触れ、遺伝カウンセリングを受ける機会に恵まれ、すべての偶然が重なって今の自分があります。適切な病院選びを始め、それぞれのポイントで1つでも違う選択をしていたらここにいることはないと思います。適切なタイミングで適切なアドバイスをしてくださった医師および医療関係者、そして私の話を根気強く聞いてくれた家族、友人に感謝しています。私がHBOCと診断された頃と比較すると、日本でもHBOCを診療する施設が増え、入手できる情報も増えてきました。ただ、実際にリスク低減手術を受けた当事者の経験が聞ける機会はほとんどないようです。そのため、BRCA遺伝子変異陽性の方から「リスク低減手術を受けてどうだったのか?」と相談や質問を多く受けます。そのような方々のために自分の経験をお話しすることで、少しでも不安を軽減できたらと思っています。最後にHBOCを診療する先生へメッセージをお願いします。私自身、正しい情報から自分の状況を客観的に把握でき、将来への希望を持つことができたので、遺伝カウンセリングを受けて本当によかったと感じています。ただ、患者さんは目先の治療のことで頭がいっぱいで、遺伝について考える余裕がないことも多いと思います。ですので、患者さんの気持ちの余裕があるタイミングで、複数回にわたってカウンセリングを勧めていただければ幸いです。また、カウンセリングを受けやすい態勢も重要だと思います。HBOCは一生付き合っていかなければならない疾患なので、患者さんが望むときに客観的な情報が得られる窓口があると、多くの患者さんに安心感を与えられるのではないでしょうか。【インタビューを終えて】HBOCという疾患を抱えつつも、現実を受け止め、力強く前向きに生きる姿に勇気付けられた。今後、医療技術の発展に伴い遺伝医療を受ける患者さんが増えていくことが予想されるが、日本ではまだ遺伝医療に対する理解が十分であるとは言えない。科学的な知識を踏まえつつ、患者さん一人ひとりの価値観を最大限尊重し、その価値観に沿った意思決定が行えるよう手助けをすることが重要であると、今回のインタビューを通じて感じた。

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心房細動合併心不全の予後、アブレーションで大幅改善/NEJM

 心房細動を合併した心不全患者で、種々の理由で抗不整脈薬治療を受けられない場合においても、心房細動に対するカテーテルアブレーションを行うことで、薬物治療のみでのレートコントロールやリズムコントロールに比べ、全死因死亡および心不全悪化による入院の複合リスクは、約4割減少することが示された。米国・ユタ大学のNassir F.Marrouche氏らが、患者363例を対象に行った無作為化比較試験で明らかにし、NEJM誌2018年2月1日号で発表した。心房細動を合併した心不全患者は、心不全単独患者よりも脳卒中や心不全悪化による入院、死亡のリスクが高い。心房細動に対するカテーテルアブレーションは、そのほかの心機能は正常で薬物療法が無効の症候性心房細動に推奨されており、これまでの試験で、心房細動合併の心不全患者においてアウトカムを改善することが示唆されていた。NYHA心機能分類II~IV、左室駆出率35%以下、除細動器植込み患者を無作為化 研究グループは、発作性/持続性の症候性心房細動で、抗不整脈薬が無効、または忍容できない副作用や本人の意思で抗不整脈薬非服用の患者を対象に、試験を行った。 被験者を無作為に2群に分け、臨床ガイドラインに基づく心不全治療に加えて、一方の群には心房細動に対するカテーテルアブレーションを(179例)、もう一方の群には薬物治療によりレートコントロールまたはリズムコントロールを行った(184例)。 被験者は、NYHA心機能分類II~IV度の心不全で、左室駆出率が35%以下、植込み型除細動器を装着していた。 主要評価項目は、全死因死亡および心不全の悪化による入院の複合エンドポイントだった。主要複合エンドポイント、アブレーション群のHRは0.62 中央値37.8ヵ月の追跡期間中、主要複合エンドポイントの発生は、薬物治療群82例(44.6%)のに対し、アブレーション群は51例(28.5%)と、有意に少なかった(ハザード比[HR]:0.62、95%信頼区間[CI]:0.43~0.87、p=0.007)。 また、全死因死亡についても、薬物治療群46例(25.0%)に対しアブレーション群は24例(13.4%)と、リスクはほぼ半減した(HR:0.53、95%CI:0.32~0.86、p=0.01)。心不全の悪化による入院も、それぞれ66例(35.9%)、37例(20.7%)(HR:0.56、同:0.37~0.83、p=0.004)、心血管系の原因による死亡は41例(22.3%)、20例(11.2%)(HR:0.49、同:0.29~0.84、p=0.009)と、いずれもアブレーション群が有意に少なかった。

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1分でわかる家庭医療のパール ~翻訳プロジェクトより 第43回

第43回:二次性高血圧症の考え方と検索法監修:表題翻訳プロジェクト監訳チーム 高血圧患者の多くに明確な病因はなく、本態性高血圧に分類されます。しかし、このうち5~10%の患者については二次性高血圧症の可能性があり、潜在的かつ治療可能な原因を含みます。この二次性高血圧症の有病率および潜在的な原因は、年齢によって異なりますので今回の記事で確認してみましょう。 また、国内では「高血圧治療ガイドライン2014」2)が出ているので、この機会に併せてご覧ください。 以下、American family physician 2017年10月1日号1)より【疫学】二次性高血圧症は潜在的に治療可能な原因を伴う高血圧症で、高血圧の症例の5~10%とわずかな割合しか占めていない。二次性高血圧の罹患率は年齢によって異なり、18~40歳の高血圧患者では30%に近い有病率で、若年者ではより一般的である。すべての高血圧症患者において、二次性高血圧の網羅的な検査が勧められるわけではないか、30歳未満の患者では、詳細な検査が推奨される。【二次性高血圧を疑い評価を考慮する場合】*これまで安定していた血圧が急に高値になった場合思春期前に高血圧を発症した場合高血圧の家族歴がなく、非肥満性で非黒人の30歳未満の場合(末梢臓器障害の徴候を伴う)悪性高血圧もしくは急速進行の高血圧の場合重症高血圧(収縮期血圧>180mmHgおよび/または拡張期血圧>120mmHg)または、ガイドラインに準じて1つの利尿薬を含む3つの適切な降圧薬使用にもかかわらず持続する治療抵抗性の高血圧【アプローチ】(1)まずは正確な血圧測定の方法を確認し、食生活や肥満による高血圧を除外する(2)既往歴、身体診察、検査(心電図、尿検査、空腹時血糖、ヘマトクリット、電解質、クレアチニン/推定糸球体濾過率、カルシウム、脂質)を確認する(3)二次性高血圧を疑う症状/徴候があれば、以下の表のように検索をすすめる画像を拡大する(4)二次性高血圧を疑う症状/徴候がなくても、上記の二次性高血圧を疑い評価を考慮する場合(*の項目を参照)は下記を考え、検索をすすめる【二次性高血圧の年齢別の一般的な原因】11歳までの子ども(70~85%):腎実質疾患、大動脈縮窄症12~18歳の青年(10~15%):腎実質疾患、大動脈縮窄症19~39歳の若年成人(5%):甲状腺機能不全、線維筋性異形成、腎実質疾患40~64歳の中高年(8~12%):高アルドステロン症、甲状腺機能不全、閉塞性睡眠時無呼吸、クッシング症候群、褐色細胞腫65歳以上の高齢者(17%):アテローム硬化性腎動脈狭窄、腎不全、甲状腺機能低下症【二次性高血圧の稀な原因】強皮症、クッシング症候群、大動脈縮窄症、甲状腺・副甲状腺疾患、化学療法薬、経口避妊薬※本内容は、プライマリケアに関わる筆者の個人的な見解が含まれており、詳細に関しては原著を参照されることを推奨いたします。 1) Am Fam Physician. 2017 Oct 1; 96:453-461. 2) 高血圧治療ガイドライン2014

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侍オンコロジスト奮闘記~Dr.白井 in USA~ 第52回

第52回:アファチニブのEGFR変異適応追加の意義キーワード肺がんメラノーマ動画書き起こしはこちら遅くなりましたが、2018年、明けましておめでとうございます*。ダートマス大学 腫瘍内科の白井 敬祐です。(*このビデオは1月下旬に収録されたものです)去年の秋にESMOヨーロッパで、durvalumabの(非小細胞がんの)アジュバント陽性ということ(結果)が報告されたり、オシメルチニブの1stラインでの大きなPFSの改善あるいはニボルマブがメラノーマのアジュバントで陽性となった臨床試験の話をしましたが、1月の初っぱな、アファチニブのパッケージインサートに新しい効能が加わりました。これは、EGFRの変異(の効能追加)です。僕たちが薬を保険会社に認可してもらうときには…いろんな保険会社があるのはアメリカの良くないところなんですけど…保険会社に簡易認可フォームみたいなものがあって、そこにEGFR mutationがあるかないかだけではなくて、FDAの認可基準であるEGFR Exon19delがあるか、Exon21 mutationがあるかというチェックボックスがあるんです。けれども、実際に臨床をしていると、L861QだとかG719Xだとか、S768Iというまれなmutationがあるんです。そういうmutationでも、“実はエルロチニブが効く”だとか、“アファチニブはエルロチニブよりもよく効く”とか…pre clinicalだったり、ケースレポートだったり、臨床試験のサブセットアナリシスだったりするのですが…そこに申請するときに論文を添付したり、ASCOの発表の抄録を添付して認めてもらうことはあるんですけれども、そういうことをしなくても(済むようになりました)。アファチニブに関しては1stラインで、L861Q、とかG719Xとか、S768Iというmutationに対しての認可が、1月に入ってすぐにおりました。アファチニブは確かに効果はあるんですけれども、必ずしも副作用が少ないわけではないので、使いにくいところもあるんですが、「1stラインで最もブロードな適応を受けたEGFR-TKIですよ」ということを製薬会社はアピールしだしました。この辺は面白くて、製薬会社が何をクレームしていいのかというのは、かなり厳密に決まっているようで。オシメルチニブは1stラインでプラセボよりも良かったというPhase IIIの結果がNew England Journalに出たんですけど、Drug Rep(MR)さんは、そういうことは一切触れることがまだできません。それはなぜかというと、FDAで認可されてないからですね。もちろん実際のところは、NCCNガイドラインの肺がんのところを見てもらうとわかるんですけど。(NCCNガイドラインは)2017年11月に更新があったと思ったら、12月17日にまた新たなバージョンが発表されています。もし、最近NCCNのガイドラインをのぞいておられなかったら、見てください。FDA、EGFR陽性NSCLCに対するアファチニブの適応拡大を承認(CareNet.com)FDAアナウンスメント

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ASCO-GI2018レポート

レポーター紹介2018年1月18日から1月20日まで米国サンフランシスコにて米国臨床腫瘍学会消化器がん会議(ASCO-GI)が開かれた。初日こそ雨であったものの、2日目、3日目は快晴であり過ごしやすい日程であった。学会ではOral Presentation、Poster Presentation、Rapid-Fire Abstract Session、Trials in Progress Sessionなどに分けられ、大規模臨床試験の結果だけでなく、小規模なデータや現在試行中の臨床試験の紹介も行われた。本稿では、そのなかのいくつかを紹介する。RAINFALL試験 抗VEGFR-2抗体であるラムシルマブ(RAM)は、RAINBOW試験、REGARD試験により胃がんに対する有効性が証明され、現在では本邦、NCCN、ESMOの胃がん治療ガイドラインにおいて、標準的な2次化学療法として位置付けられている。RAINFALL試験はRAMを1次治療として使用したときの効果、安全性を検証する第III相無作為化比較試験である。対象は、前治療歴のないHER2陰性胃がん・胃食道接合部がん症例であり、RAM+カペシタビン+CDDP(RAM群)、Placebo+カペシタビン+CDDP(Placebo群)に1:1に無作為割り付けされた。主要評価項目はPFSであり、副次評価項目はOS、RR、Safety、QOL、PK profileであった。全体で645例が登録され、326例がRAM群、319例がPlacebo群に割り付けられた。主要評価項目であるPFSは、RAM群5.72ヵ月、Placebo群5.39ヵ月(HR:0.75、95%CI:0.61~0.94、p=0.011)であり、統計学的に有意な結果であった。副次評価項目であるOSは、RAM群11.17ヵ月、Placebo群10.74ヵ月(HR 0.98、95%CI:0.80~1.16、p=0.68)であり両群に有意差を認めなかった。有害事象の解析では、高血圧、血小板減少、食思不振、消化管穿孔、出血、蛋白尿の比率がRAM群で高く認められた。後治療の導入率はRAM群46%、Placebo群51%であり、いずれの群でも2次治療以後にRAMを使用した症例が認められた。PFSはpositiveであったものの、その差はMedianでわずか0.3ヵ月であり、また、OSの延長効果は認められず、全体としてnegativeという趣旨の発表であった。興味深かったのが2次治療導入からのOSの解析であり、2次治療以後でRAMを使用した場合のOSは、RAM群7.7ヵ月、Placebo群8.8ヵ月、また2次治療以後でRAMを使用しなかった場合のOSは、RAM群6.5ヵ月、Placebo群6.7ヵ月であり、2次治療以後でRAMを使用したほうがOSは良好な傾向であった。Discussantはコストについても言及し、今回得られたPFSの延長0.3ヵ月(=9日)のためにかかるコストは、体重70kgの場合、1サイクルで7,457ドル、9サイクルで6万7,112ドルであり、その意義について疑問を呈していた。胃がんに対する1次治療としてのRAMはnegativeであったわけだが、今後の胃がん1次治療の新たな展開としては現在、免疫チェックポイント阻害剤の臨床試験が進められており、本学会においても、ニボルマブ+イピリムマブ、ニボルマブ+化学療法(XELOX or FOLFOX)、化学療法の3群の比較試験 (CheckMate-649, TPS 192)や 、FOLFOX、XELOXでInduction治療を行った後に維持療法として同じ治療を継続するか、抗PD-L1抗体であるアベルマブに変更するかを比較するJAVELIN試験(TPS 195)などが、Trials in Progress Sessionにおいて紹介されていた。RAINFALL: A randomized, double-blind, placebo-controlled phase III study of cisplatin (Cis) plus capecitabine (Cape) or 5FU with or without ramucirumab (RAM) as first-line therapy in patients with metastatic gastric or gastroesophageal junction (G-GEJ) adenocarcinoma. (Abstract No.:5)Charles SREVERCE試験 本邦で行われたREVERCE試験がRapid-Fire Sessionで報告された。現在、進行再発大腸がんにおけるガイドラインにおいては、セツキシマブ(C)などの抗EGFR抗体の後にレゴラフェニブ(R)を使用することが勧められている。一方、治療早期にRを使用することにより良好な効果が得られることも報告されており、CとRのより適正な投与順序を探索する本試験が行われた。対象は、フルオロピリミジン、オキサリプラチン、イリノテカンなどの標準治療に不耐、不応となった、KRASもしくはRAS野生型の進行再発大腸がんであり、R→Cの順番で治療を行うR-C群と、C→Rの順番で治療を行うC-R群に無作為化割り付けされた。主要評価項目はOS、副次評価項目はTTF、PFS、RR、DCR、AE、QOLであった。当初180例の登録と132のイベントが必要とされたが、101例で登録終了となり、今回その結果が報告された。主要評価項目のOSは、R-C群17.4ヵ月、C-R群11.6ヵ月であり、R-C群において有意に良好であった(HR:0.61、95%CI:0.39~0.96、p=0.029)。先に行う治療のPFS(PFS1)は、R-C群(R)2.4ヵ月、C-R群(C)4.2ヵ月であり、後に行う治療のPFS(PFS2)はR-C群(C)5.2ヵ月、C-R(R)群1.8ヵ月であった。奏効率はRでは4.0%(R-C群)、0.0%(C-R群)、Cは20.4%(R-C群)、27.9%(C-R群)と、それぞれほぼ既報の通りであった。RをCの前に投与することでOSの延長がみられた、ということが今回の結果である。その機序であるが、PFSの比較をみるとR後のCのPFSが良好な印象である。Rの投与により、AKT系などさまざまな分子生物学的な変化が腫瘍細胞に起こることが基礎研究で明らかになっており、これらの変化がCの効果を増強した可能性は考えられるかもしれない。試験としては予定された症例数に満たず、Under Powerであることは念頭に置く必要があるが、これまで広く行われてきた治療方針と違う結果が示されたということは、その機序も含め、非常に興味深いところである。Reverce: Randomized phase II study of regorafenib followed by cetuximab versus the reverse sequence for metastatic colorectal cancer patients previously treated with fluoropyrimidine, oxaliplatin, and irinotecan.)(Abstract No.:557)Kohei ShitaraSAPPHIRE試験 RAS野生型進行再発大腸がんにおいてパニツムマブ(pani)+mFOLFOX6は標準治療の1つであるが、オキサリプラチン継続に伴う末梢神経障害は、患者のQOLを低下させるだけでなく、治療意欲の減退、治療継続性にも影響しうる重要な有害事象である。本試験は6コースのpani+mFOLFOX6を行った後に、そのまま同じ治療を継続するA群と、7コース目からはオキサリプラチンを休薬し、pani+5-FU+LVとして治療を継続するB群との2つの群を設定した無作為化第II相試験である。主要評価項目は無作為化後9ヵ月時点での無増悪生存率(PFS rate)であり、副次評価項目はPFS、OS、TTF、Safetyが設定された。本試験は2つの治療群のそれぞれの成績を検証するParallel-group studyという形がとられ、閾値30%、期待値50%、片側 α 値 0.10として各群50例、全体で100例の無作為化が必要な統計学的計算であった。164例が登録され、6コースのpani+FOLFOX後に腫瘍進行や手術移行などによる脱落を除いた113例がA群(56例)とB群(57例)に無作為化割り付けされた。主要評価項目である無作為化後9ヵ月(治療開始から約12ヵ月)時点でのPFS rateは、A群46.4%(95%CI:38.1~54.9、p=0.0037)、B群47.4%(95%CI: 39.1~55.8、p=0.0021)であり、両群ともに主要評価項目を満たした。副次評価項目であるPFSはA群9.1ヵ月、B群9.3ヵ月、RRはA群80.4%、B群87.7%であり、両群で近似した治療成績であった。Grade2末梢神経障害は、A群10.7%に対してB群1.9%であり、オキサリプラチンを早期で終了したB群において少なかった。昨年publishされたPan-Asian adapted ESMO consensus guidelinesにおいて、RAS野生型進行再発大腸がんにおいて原発巣が左側であれば1次治療からの抗EGFR抗体+doubletの使用が推奨され、本邦の各施設において同治療を行う機会は増えてくると予想される。そのときに、効果、有害事象をみながらであるが、早期にオキサリプラチンを中止し、pani+5-FU+LVという形で治療を継続しても、効果は大きくは落ちないことを示唆した結果であり、臨床での応用性は高いと考えられる。SAPPHIRE: A randomized phase II study of mFOLFOX6 + panitumumab versus 5-FU/LV + panitumumab after 6 cycles of frontline mFOLFOX6 + panitumumab in patients with colorectal cancer.(Abstract No.:729)Masato Nakamuraまとめ本稿では殺細胞薬、分子標的治療薬の演題につき報告したが、免疫チェックポイント阻害剤の話題も多くあり消化管、肝胆膵領域の化学療法も新たな時代に移ろうとしているのを実感した学会であった。

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敗血症性ショックへの低用量ステロイド、死亡率は低下せず/NEJM

 人工呼吸器を装着した敗血症性ショック患者において、低用量ステロイド(ヒドロコルチゾン持続静脈内投与)は、プラセボと比較し90日死亡率を低下させるという結果は得られなかった。オーストラリア・ニューサウスウェールズ大学のBalasubramanian Venkatesh氏らが、国際共同無作為化二重盲検プラセボ対照並行群間比較試験「ADRENAL(Adjunctive Corticosteroid Treatment in Critically Ill Patients with Septic Shock)試験」の結果を報告した。現在、敗血症性ショックに対する低用量ステロイド療法は、敗血症ガイドラインにおいてショックの離脱を目的とした投与は推奨されているが、エビデンスの質が低く推奨度は低い。死亡率低下については賛否両論が報告されていた。NEJM誌オンライン版2018年1月19日号掲載の報告。敗血症性ショック3,800例で、低用量ステロイドとプラセボの90日死亡率を比較 研究グループは、18歳以上で敗血症性ショックにより人工呼吸器を装着している患者を、ステロイド群(ヒドロコルチゾン200mg/日)またはプラセボ群に無作為に割り付け、7日間または死亡/ICU退室までそれぞれ投与した。主要評価項目は90日全死因死亡率で、ロジスティック回帰分析により解析した。 2013年3月~2017年4月に、3,800例が無作為化され、うち3,658例(ステロイド群1,832例、プラセボ群1,826例)が主要評価項目の解析対象となった。90日全死因死亡率は両群で有意差なし 90日時点で、ステロイド群27.9%(511例)、プラセボ群28.8%(526例)で死亡が認められた(オッズ比[OR]:0.95、95%信頼区間[CI]:0.82~1.10、p=0.50)。事前に定義された6つのサブグループ(入院の種類、カテコールアミン投与量、敗血症の主要部位、性別、APACHE IIスコア、ショックの期間)において、有効性は類似していた。 ショックからの離脱については、ステロイド群がプラセボ群より早かった(中央値[四分位範囲]で3日[2~5]vs.4日[2~9]、ハザード比[HR]:1.32、95%CI:1.23~1.41、p<0.001)。また、ステロイド群はプラセボ群と比較し、初回の人工呼吸器の使用期間が短かったが(6日[3~18]vs.7日[3~24]、HR:1.13、95%CI:1.05~1.22、p<0.001)、人工呼吸器の再装着を考慮すると、人工呼吸器から離脱した状態での生存日数に有意差は認められなかった。 ステロイド群ではプラセボ群と比較し、輸血を受けた患者が少なかったが(37.0% vs.41.7%、OR:0.82、95%CI:0.72~0.94、p=0.004)、28日死亡率、ショック再発率、ICU退室後の生存日数、退院後の生存日数、人工呼吸器の再装着、腎代替療法率、菌血症/真菌血症の新規発生率は、両群間に差はなかった。

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肥満合併2型糖尿病における体重コントロールの効果(解説:小川 大輔 氏)-801

 欧米人では2型糖尿病に肥満を合併することが多く、糖尿病を発症すると年余にわたり血糖および体重のコントロールが必要となる。肥満症に対する治療として、欧米では外科治療が行われているが、すべての肥満症が適応となるわけではなく、減量手術を施行される割合は決して多くない。今回Lancet誌に掲載されたDiRECT試験は、英国のプライマリケアでの集中的な食事療法による減量の効果を検証した、非盲検クラスター無作為化試験である。 肥満合併2型糖尿病患者を体重管理プログラム実施群(介入群)とガイドラインに沿った治療を行う群(対照群)に1対1の割合で割り付けし、主要評価項目はベースラインから12ヵ月までの減量(15kg以上の体重減少)と糖尿病の寛解(HbA1c 6.5%未満)の2項目であった。その結果、介入群では平均約10kgの体重減少を認め、約4分の1の症例は15kg以上の減量を達成した。また約半数の症例でHbA1c 6.5%以下の寛解を達成した。興味深いことに、12ヵ月時点の体重減少が多いほど糖尿病の寛解率が高く、10~15kgの減量では約57%、15kg以上の減量では約86%が寛解を達成した。 糖尿病の罹病期間が長くなるほど治療が困難となることは日常よく経験する。DiRECT試験の結果から、発症後6年未満の肥満合併2型糖尿病患者に約850kcal/日の集中的な食事療法を実施したら、15kg以上減量した症例においては糖尿病治療薬を中止しても高率に糖尿病が寛解することが示された。ただ、この試験の対象はおおよそ体重100kg、BMI35の欧米人であり、日本人のように高度の肥満を伴わない糖尿病症例で同じ結果になるかどうかはわからない。また、プライマリケアでこのような食事療法を12ヵ月間継続できたことは驚きであり、減量に対するモチベーションが非常に高い症例が多く参加したと考えられる(実際、介入群と対照群を1対1に割り付けるため、対照群には50ポンドのアマゾンのバウチャーが提供されている)。この試験は、肥満糖尿病患者および医療従事者の両者が、診断早期から積極的に食事療法に取り組むことの重要性を示唆している。

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脳梗塞急性期患者に抗血小板薬の3剤併用療法は、有効性と安全性の両面から推奨できない(解説:内山真一郎氏)-803

 TARDIS試験は、発症後48時間以内の脳梗塞または一過性脳虚血発作(TIA)において、アスピリン、クロピドグレル、ジピリダモールの3剤併用療法の有効性と安全性を、英国のガイドラインに基づくクロピドグレル単独療法かアスピリンとジピリダモールの2剤併用療法と比較する、国際共同研究による非盲検の無作為化比較試験であった。結果として、3剤併用療法は脳卒中やTIAの頻度や重症度を減少させず、重大な出血を増加させてしまった。 発症後24時間以内のTIAと軽症脳梗塞を対象にしたCHANCE試験では、アスピリンとクロピドグレルの併用療法はアスピリン単独療法に比べて、出血を増加させることなく脳卒中の再発を抑制した。TARDISでは中等症や重症の脳梗塞患者も含まれており、このような患者に対して3剤併用療法は出血を助長して危険なのかもしれない。また、TARDISでは24~48時間後の患者も含まれたため、血栓溶解療法施行患者が多く含まれた。CHANCEやSOCRATES試験では、血栓溶解療法施行例は除外された。実際、TARDISでは、血栓溶解療法が終了してから24時間以後に抗血小板療法が開始されたにもかかわらず、血栓溶解療法との相互作用は存在した。 今回用いられた3剤のうち、日本ではジピリダモールではなくシロスタゾールが用いられているが、発症後48時間以内のすべての脳梗塞・TIA患者に対する3剤併用療法は、有効性と安全性の両面から推奨できないという結論になる。脳梗塞の重症度、発症からの時間、血栓溶解療法施行例以外に脳梗塞の病型も重要であり、急性期の強力な抗血小板療法はラクナ梗塞には危険であり、アテローム血栓性脳梗塞に限定すべきかもしれない。

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骨折治療用インプラント除去後感染に術前抗菌薬は有用か/JAMA

 膝下の骨折の治療に用いた整形外科用インプラント除去後の手術部位感染の予防において、手術前に抗菌薬投与を行っても感染リスクは低減しないことが、オランダ・アムステルダム大学医療センターのManouk Backes氏らが実施したWound Infections Following Implant Removal(WIFI)試験で示された。整形外科用インプラント除去術の手技は“clean(皮膚の菌汚染や局所感染がない)”とされ、手術部位感染率は2~3.3%と予測されるため、米国疾病管理予防センター(CDC)の最新のガイドラインでは抗菌薬の予防投与の適応はない。その一方で、予測を超える高い感染率が複数の研究で報告されている。JAMA誌2017年12月26日号掲載の報告。予防投与の効果を無作為化試験で評価 WIFI試験は、感染率が最も高い領域とされる膝下の骨折治療に用いられた整形外科用インプラント除去後の、抗菌薬予防投与の効果を評価する多施設共同二重盲検無作為化試験である(Netherlands Organization for Health Research and Development[ZonMw]の助成による)。 対象は、年齢18~75歳で、膝下(足、くるぶし、下腿)の骨折治療後に整形外科用インプラントの除去術を受けた患者であった。除外基準は、活動性の手術部位感染症や瘻孔、インプラント除去時の抗菌薬治療、術中の骨接合材の再設置、セファロスポリンのアレルギー、腎疾患、免疫抑制薬の使用、妊娠であった。 被験者は、術前にセファゾリン1,000mg+生理食塩液(0.9%)または生理食塩液(0.9%)をそれぞれ静脈内ボーラス投与する群に無作為に割り付けられた。 主要アウトカムは、米国CDCの判定基準に基づく術後30日以内の手術部位感染であり、副次アウトカムは身体機能、健康関連QOL、患者満足度とした。 2014年11月~2016年9月にオランダの19施設に500例が登録され、477例が割り付けの対象となった。6ヵ月間のフォローアップが行われ(最終フォローアップ日:2017年3月28日)、470例(セファゾリン群:228例、生食群:242例)が解析の対象となった。30日以内の手術部位感染:13.2% vs.14.9% 割り付け対象例(477例)の平均年齢は44歳(SD 15)、女性が274例(57%)であった。インプラント設置からの経過期間中央値は11ヵ月(IQR:7~16)だった。 30日以内の手術部位感染は66例(14.0%)で発症した(表層感染:58例、深層感染:8例)。このうちセファゾリン群が30例(13.2%)、生食群は36例(14.9%)と、両群間に有意な差を認めなかった(絶対リスク差:-1.7、95%信頼区間[CI]:-8.0~4.6、p=0.60)。 表層感染はセファゾリン群が29例(12.7%)、生食群は29例(12.0%)で、深層感染はそれぞれ1例(0.4%)、7例(2.9%)であり、いずれも両群間に有意差はみられなかった。 健康関連QOL(EuroQol 5-Dimension 3-Level[EQ-5D-3L])、身体機能(Lower Extremity Functional Scale[LEFS])、患者満足度(視覚アナログスケール[VAS])についても、両群間に有意な差はなかった。 著者は、「本試験の手術部位感染率は、既報の一連の後ろ向き試験に比べて高かった。前向き試験では退院後の手術部位感染の適切な把握は困難で、一般に過少報告となるため感染率は高くなることが多いとはいえ、14.0%は予想を超えて高く、観血的整復固定術後の感染率を上回る値である」としている。

1917.

初の「サルコペニア診療ガイドライン」発刊

 本邦初となる「サルコペニア診療ガイドライン2017年版」が2017年12月25日に発刊されたことを受け、2018年1月10日、都内でプレスセミナー(日本サルコペニア・フレイル学会主催)が開催された。セミナーでは本ガイドラインの作成委員長を務めた荒井 秀典氏(国立長寿医療研究センター 老年学・社会科学研究センター長)が登壇し、サルコペニア診療ガイドライン作成の背景と、その概要について解説した。サルコペニア診療ガイドラインはCQ形式で定義・診断から治療まで サルコペニアは、2016年10月に国際疾病分類第10版(ICD-10)のコード(M62.84)を取得し、独立した疾患として国際的に認められた。転倒・骨折につながるなど高齢者の日常生活動作(ADL)低下のリスク因子となるほか、併存疾患の予後にも影響を及ぼすが、早期介入により維持・改善が可能な場合もあることが明らかになっている。しかし、現在のところ本邦の傷病分類には含まれておらず、国際的にも診断・治療の標準となるガイドラインは存在しない。これらを背景に、“現時点での標準的な診療情報を提供すること”を目的として日本サルコペニア・フレイル学会、日本老年医学会、国立長寿医療研究センターが主体となり、ガイドライン作成が進められた。 サルコペニア診療ガイドラインは全編Clinical Question(CQ)形式で構成され、「サルコペニアの定義・診断」「サルコペニアの疫学」「サルコペニアの予防」「サルコペニアの治療」という4つの章ごとに全体で19のCQを設定。予防・治療に関しては、システマティックレビューによるエビデンスの評価に基づき、「エビデンスレベル」「推奨レベル」が提示されている。サルコペニア診療ガイドラインでは診断基準にAWGSのものを推奨 サルコペニアの診断に関しては、複数の基準が提唱されており、今回のガイドライン作成にあたってのレビューでは7種の診断基準が確認された。サルコペニア診療ガイドラインでは、アジア人を対象として設定されたAsian Working Group for Sarcopenia(AWGS)の診断基準を推奨している。「ただし、診断に使われる骨格筋量の測定/分析装置(DXAあるいはBIA)のある医療機関は限られているため、日本人を対象として開発された“指輪っかテスト”等、誰にでもできるスクリーニング法が有用だ。握力テストと組み合わせることで、診療所などでもリスクの高い患者をスクリーニングすることが可能だろう」と荒井氏は述べた。 サルコペニア診療ガイドラインは今後5年ごとの改訂を目指している。荒井氏は最後に、「長期的なアウトカム等、診断から治療まで全体としてまだまだエビデンスが不足している。より簡便・正確な診断法、薬物療法を含む新たな治療法も今後開発されていくと思われ、5年後を目途にエビデンスを蓄積していきたい」とまとめた。

1918.

日本の心疾患スクリーニングは適切か? それとも過剰か?(解説:香坂俊氏)-795

 この研究(DOI: 10.1056/NEJMoa1615710)が我が国の医療政策にもたらす影響は大きい(と少なくとも自分には思われる)。 カナダのオンタリオ州のデータベースを用い、若年者(12~45歳)の突然死がどの程度スポーツに直接由来するかが推計された。医学的に興味深い点も多く、競技中の突然死がサッカーや陸上競技に多く、その原因のほとんどが肥大型閉塞性心筋症であったことなどは首肯できる。そんな中、今回の解析で自分が注目したのは突然死の頻度そのものである。このデータベース上では6年間で16件のスポーツに直接関連した突然死が観察されており、これを競技年数で換算すると0.76 件/100,000人年ということになるとの記載がある。若年者の突然死全体の頻度は4.84件/100,000人年であり(スポーツに関連しない突然死を含む)、このことから存外スポーツに由来する突然死の頻度は決して高くないということがわかる(むしろなにもしていないときにイベントを起こすことのほうがはるかに多い)。 このほか、16例の詳細な内容をみていくと、2例のHOCMのうち1例が事前に診察を受けていたものの、心電図や心エコーで異常が認められず「正常」とされていた。さらに、このほかに2例が「致死性不整脈」が原因とされており、この3~4名くらいがスクリーニングがもしも適切に行われていれば、その恩恵を得られたものと推定される。 これは極めて低い、というレベルの数値である。我が国の診療ガイドライン上で心疾患スクリーニングの妥当性を吟味するときに引用される突然死の頻度は4~5件/100,000人年というところであるが、今回の報告により、実質的に心疾患スクリーニングで防げる突然死の件数はこれよりもはるかに低くなる可能性が提示された。 日本の心電図やエコーの点数はそれぞれ130点と880点であり(2014年診療点数)、諸外国の1/2から1/3に抑えられている。しかし、それでも学校健診を含めた現在のスクリーニング制度の費用対効果がマッチするのかどうか、今後慎重に吟味していく必要があるだろう。

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抗血小板薬3剤併用、脳梗塞急性期への有効性は/Lancet

 虚血性脳卒中(脳梗塞)や一過性脳虚血発作(TIA)の急性期患者における抗血小板薬3剤併用療法は、再発とその重症度を減少させることはなく、大出血リスクは有意に増大することを、英国・ノッティンガム大学のPhilip M Bath氏らが、無作為化非盲検第III相優越性試験「TARDIS試験」の結果、報告した。これまでの検討で、脳梗塞急性期の2次予防として抗血小板薬2剤併用療法は単剤療法より優れていることが示唆されている。3剤併用療法はそれらガイドラインで推奨されている抗血小板療法より有効である可能性があったが、結果を踏まえて著者は、「抗血小板薬3剤併用療法は、日常診療で使用されるべきではない」とまとめている。Lancetオンライン版2017年12月20日号掲載の報告。アスピリン+クロピドグレル+ジピリダモール vs.標準療法で検討 TARDIS(Triple Antiplatelets for Reducing Dependency after Ischaemic Stroke)試験は、4ヵ国(デンマーク、ニュージーランド、ジョージア、イギリス)の106施設にて実施された。 対象は、発症後48時間以内の脳梗塞またはTIAの成人患者で、抗血小板薬3剤併用療法群(アスピリン[初日300mg、以降50~150mg/日、通常75mg/日]+クロピドグレル[初日300mg、以降75mg/日]+ジピリダモール[徐放製剤200mgを1日2回、または通常製剤100mgを1日3~4回]と、標準療法群(ガイドラインに基づいた治療:クロピドグレル単剤またはアスピリン+ジピリダモール2剤併用療法、各薬剤の用法用量は3剤併用療法群と同じ)に、コンピュータを用い1対1の割合で無作為に割り付けた。 割り付けは、国およびイベント(脳梗塞、TIA)で層別化するとともに、ベースラインの予後因子(年齢、性別、発症前の機能、収縮期血圧、病型)、薬剤使用歴、無作為化までの時間、脳卒中関連因子、血栓溶解で最小化した。 主要有効性アウトカムは、90日以内の脳卒中(虚血性または出血性、修正Rankin Scale[mRS]で評価)またはTIAの再発とその重症度で、電話による追跡調査によって評価された(評価者盲検化)。解析はintention–to-treatにて行われた。3剤併用療法で再発は減少せず、出血リスクは増加 2009年4月7日~2016年3月18日の期間に、3,096例が無作為化された(3剤併用療法群1,556例、標準療法群1,540例)。 本試験は、データ監視委員会の勧告により早期中止となった。脳卒中/TIAの再発は、3剤併用療法群93例(6%)、標準療法群で105例(7%)に発生し、両群で有意差は認められなかった(補正後共通オッズ比[cOR]:0.90、95%信頼区間[CI]:0.67~1.20、p=0.47)。一方で、3剤併用療法は、より重度の出血と関連していた(補正後cOR:2.54、95%CI:2.05~3.16、p<0.0001)。 なお、著者は研究の限界として、幅広い患者層で検証していること、非盲検下で抗血小板薬が投与されていること、早期中止となり検出力が低いことなどを挙げている。

1920.

侍オンコロジスト奮闘記~Dr.白井 in USA~ 第51回

第51回:予後を正確に知るとQOLが下がる? …コミュニケーションの話キーワード肺がんメラノーマ動画書き起こしはこちらこんにちは。ダートマス大学腫瘍内科の白井敬祐です。最近うちの科の抄読会で話題になったのはJournal of Clinical Oncology…JCOですね。あのTemelさん、2010年に、New England Journal of Medicineに、Massachusetts General Hospitalで行われたRandomized Trialで、早期から緩和ケアが介入したほうが、QOLが上がるだけではなく予後も2~3ヵ月、StageIVの肺がん患者で伸びたといって、ずいぶん話題になったんですけど…その筆頭著者のJennifer Temel先生が書いた「予後を正確に知った患者さんのほうが、QOLが下がる」という、少し衝撃的な論文がJCOに出ていました。たとえばStageIVの患者さんに僕らはよく、「残念ながら、がんの状況はNon Curable…治癒をゴールした状況ではありません。ただ、がんはコントロールできるかもしれないし、抗がん剤を使うことで症状を防いだり(症状が)出てくるのを遅らせ、QOLを維持することができる可能性が高いので治療しましょう」という説明をするんですけども。そのNon Curable Cancer、「自分のがんが治るわけではない」ということがわかった患者さんのほうが、QOLのスコアは下がると(いうことです)。今まで多くの緩和医療のStudyでは、予後を告知したり、そういう話題に対してしっかりと向き合うことは必ずしもQOLには影響しない、むしろ準備ができて悪いことはない、という感じの論調が多かったんですけども。今回のStudyでは、QOLのスコアが少し低く出たと報告されていました。正確に自分のがんの状態を理解するというのは…「正確に」とは何を意味するのか…本当に難しいですよね。肺がんについて、統計学的な数値をわかることが正確に理解したことになるのか? そうではないですよね。1人の患者さんはそれぞれ違うので、統計学的なことを知っても、ご本人がそれに当てはまるかどうかというのは、まったく別の話なので。そういう意味では問題提起というか、議論のネタになる良い論文だったと思います。興味があれば、読んでいただくと非常に参考になると思います。あと、フェローに「これは絶対必読だからベッドタイムリーディングで読みなさい」ってみんなに勝手に送りつけたんですけれども、ASCOのコミュニケーションガイドラインが出ました。「こういう家族がいたらどのように説明するか」「こういう患者さんがいたら、家族がいたら、どうサポートするのが良いのか」、本当によく書かれています。細かいところまで配慮してrecommendationを入れているのだなと、編集委員の方の苦労が伝わってくるような、非常に良いガイドラインだと個人的には思います。これもチャンスがあれば読んでいただけると非常に良いと思います。僕はフェローに「絶対読め」と言いましたけど。コミュニケーション能力については僕も興味があり、今度ワークショップに参加することになりました。Atul Gawandeというハーバード大学の外科医がいるのですが…皆さんも本を読まれたことあるかもしれないですが、『Being Mortal』という本を出されていて日本語訳にもなっているんですけども…彼は医療の質を上げるようなシンクタンク(?)そういう組織のトップになっていて、コミュニケーションだけではなく、チェックリストを作ることで、いかにComplicationを減らす…『Complications』という題の本を出しているんですね…手術のエラーとか、あるいは医療のミスをどうやったらコントロールできるのか、ということに興味を持たれている外科医です。非常に暖かい人で、何年か前の緩和ケアの学会で、『Being Mortal』が出たときに、本にサインしてもらうために並んだ記憶があります。彼が今やっているプロジェクトの1つ、SICG(Serious Illness Conversation Guide)では、重篤な病状の患者さんあるいは家族と、どのようにコミュニケーションを取るのが良いのかということについて、いろいろと模索をしています。そのSerious Illness Conversation Guideのワークショップに、科を代表して数人の同僚と一緒に参加します。そこでは、どういうシナリオを使って、フェローにあるいはレジデントにコミュニケーションの大切さを伝えるか、ということについて研修を積んでくる予定です。この話もぜひ(次回以降お話し)できたらと思うので、がんばって吸収してきます。Jennifer S. Temel JS, et al.Early Palliative Care for Patients with Metastatic Non–Small-Cell Lung Cancer.N Engl J Med. 2010;363:733-742.Nipp RD, et al. Coping and Prognostic Awareness in Patients With Advanced Cancer.J Clin Oncol.2017 ;35:2551-2557. Gilligan T, et al.Patient-Clinician Communication: American Society of Clinical Oncology Consensus Guideline.J Clin Oncol.2017;35:3618-3632. Atul Gawande著 Being MortalAtul Gawande著 ComplicationAtul Gawande著 The Checklist Manifesto: How To Get Things RightThe Conversation Project

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