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拡張期血圧、下がらなくても大丈夫。本当?(解説:桑島巖氏)-1188

 拡張期のみが高い高血圧患者(Isolated Diastolic Hypertension:IDH)の降圧治療には、難渋したことのある医師は少なくないであろう。とくに40~60歳の成人では、収縮期血圧は下げることはできても拡張期血圧をガイドラインで定めるレベルまで下げることは難しい。ガイドラインでも米国のJNC7(2003年)では140/90mmHg未満だったものが、14年後にJNC8に代わって公式発表されたACC/AHAガイドラインでは130/80mmHg未満を目標とせよ、というのだから、90mmHg未満でさえ難渋していたのが、さらに困難になったわけである。 そこで朗報と思えるのが、この論文である。長期追跡コホート研究の結果、拡張期型高血圧が90mmHgと80mmHgの患者では心血管系予後はそれほど変わりがないというのである。そこで一安心といいたいところだが、注意が必要だ。この結果はあくまでも長期追跡研究であり、「黙って観察」した結果の報告である。 しかし実際には、対象となった症例は医療機関に行ってただ観察されていただけではなく、当然血圧が高ければさらなる降圧治療は強化されていたであろうし、塩分制限などの努力もしたであろう。そのように観察期間での治療内容が結果に反映されないのが観察研究の最大の欠点である。しかも、人間、歳をとると、血管の弾力性がなくなり、拡張期血圧が下がってくるという厄介な問題も内包する。 本試験はあくまでも、観察を開始した時点での拡張期80mmHgと90mmHgの症例群での追跡結果にすぎないのである。エビデンスとしての確実性を上げるためには、ランダム化試験が不可欠だが、今のところIDHに関するランダム化試験はまだ存在しない。 それでは、現実的に拡張期血圧だけが80mmHg以上あるいは90mmHg以上の高血圧患者にはどう対応すべきか? まず収縮期血圧を十分130mmHg以下に下げることを第一目標とし、それでも拡張期血圧がガイドラインレベルまで下がらないようであれば、収縮期血圧の低下によりめまいなどの低血圧症状の発現に注意しつつ、減塩や体重減少指導を強化し、非サイアザイド系利尿薬を追加するなど降圧療法を強化する。それでも下がらなければ、高血圧は血管に対する負担(負荷)であることを考えると、当然収縮期血圧のほうが拡張期血圧よりも数字が高い分血管への負荷が大きいことを考慮しつつ、多剤服用による降圧副作用や低血圧症状に注意しながら、あるレベルで妥協するのが現実的であろう。

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先生方から寄せられたおすすめリンク集

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Dr.岡の感染症プラチナレクチャー 医療関連感染症編

第1回 医療関連感染症診療の原則と基本第2回 カテーテル関連血流感染症第3回 カテーテル関連尿路感染症第4回 院内肺炎第5回 手術部位感染第6回 クロストリジウム・ディフィシル感染症第7回 免疫不全と感染症第8回 発熱性好中球減少症第9回 細胞性免疫不全と呼吸器感染 あの医療者必携のベストセラー書籍「感染症プラチナマニュアル」のレクチャー版!岡秀昭氏による大人気番組「感染症プラチナレクチャー」の第2弾は医療関連感染症編です。医療関連感染症は、どの施設でも避けることのできない感染症であり、その対策にはすべての医療者が取り組まなくてはなりません。この番組では、医療関連感染症診療の原則と、その診断・治療・予防について臨床の現場で必要なポイントに絞って岡秀昭氏が解説していきます。2019年4月の診療報酬改定で、抗菌薬適正使用を推進するため、入院患者を対象とした「抗菌薬適正使用支援加算」が新設されています。その中心を担うAST(抗菌薬適正使用推進チーム)やICTはもちろん、その他の医療者の教育ツールとしてもご活用ください。さあ、ぜひ「感染症プラチナマニュアル2019」を片手に本番組をご覧ください。※書籍「感染症プラチナマニュアル」はメディカル・サイエンス・インターナショナルより刊行されています。該当書籍は以下でご確認ください。amazon購入リンクはこちら ↓【感染症プラチナマニュアル2019】第1回 医療関連感染症診療の原則と基本初回は、医療関連感染症診療の原則と基本について解説します。基本的に原則は市中感染症編と“いっしょ”です。この番組を見る前にDr.岡の感染症プラチナレクチャー市中感染症編 第1回「感染症診療の8大原則」をご覧いただくとより理解が深まります。ぜひご覧ください。入院患者の感染症は鑑別診断が限られるため、一つひとつ確認しながら進めていけば、診断は比較的容易です。まずは、その鑑別診断について、考えていきましょう。第2回 カテーテル関連血流感染症今回のテーマはカテーテル関連血流感染症(CRBSI:catheter related blood stream infection)です。重要なことは、医療関連感染のCRBSIは「カテーテル感染」ではなく、「血流感染」であるということです。そのことをしっかりと頭に入れておきましょう。番組では、CRBSIの定義、診断、治療そして予防について詳しく解説します。第3回 カテーテル関連尿路感染症今回のテーマはカテーテル関連尿路感染症(CAUTI:Catheter-associated Urinary Tract Infection)です。院内感染が疑われた患者さんに膿尿・細菌尿がみられたら尿路感染症と診断していませんか?とくに医療関連感染で起こる尿路感染症は、特異的な症状を呈さないことも多く、Dr.岡でさえ、悩みながら、自問しながら、診断する大変難しい感染症です。その感染症にどう立ち向かうか!明快なレクチャーでしっかりと確認してください。第4回 院内肺炎今回のテーマは院内肺炎(HAP:hospital-acquired pneumonia)です。医療関連感染である院内肺炎は診断が非常に難しく、また、死亡率が高く、予後の悪い疾患です。その中で、どのように診断をつけ、治療を行っていくのか、診断の指針と治療戦略を明快かつ、詳細に解説します。また、医療ケア関連肺炎(HCAP:Healthcare-associated pneumonia)に関するDr.岡の考えについてもご説明します。第5回 手術部位感染今回のテーマは手術部位感染(SSI:Surgical Site Infection)です。手術部位感染の診断は簡単でしょうか?確かに、手術創の感染であれば、見た目ですぐに感染を判断することができますが、実は「深い」感染はかなり診断が難しく、手術部位や手術の種類によって対応も異なります。もちろん、手術を行った科の医師が対応すべきことですが、基本的なことについて理解しておきましょう。第6回 クロストリジウム・ディフィシル感染症今回はクロストリジウム・ディフィシル感染症(CDI:Clostridium Difficile Infection)です。院内発症の感染性腸炎はほとんどがCDIであり、それ以外だと非感染性(薬剤、経管栄養など)になります。CDIの診断と抗菌薬治療、そして感染予防について、明快にレクチャーします。とくに抗菌薬選択に関しては、アメリカのガイドラインだけに頼らない、岡秀昭先生の経験を基にした臨床での対応方法をお教えします。第7回 免疫不全と感染症免疫不全だからといって、ひとくくりにして、一律に広域抗菌薬を開始したり、やみくもにβ-Dグルカンやアスペルギルス抗原をリスクのない患者で測定するようなプラクティスをしていませんか?本当に重要なのは、まずは、どのような免疫不全かを判断すること。そのうえで、起こりうる病態、病原微生物を考えていきましょう。第8回 発熱性好中球減少症今回は発熱性好中球減少症(FN: Febrile Neutropenia)についてです。発熱性好中球減少症は診断名ではなく、好中球が減少しているときにおこる発熱の状態のことです。白血病やがんの化学療法中に起こることがほとんどです。FNは感染症エマージェンシーの疾患ですので、原因微生物や、臓器を特定できなくても、経験的治療を開始します。どの抗菌薬で治療を開始すべきか、またどのように診断をつけていくのか、治療効果の判断は?そして、また、その治療過程についてなど、岡秀昭先生の経験を交え、詳しく解説します。第9回 細胞性免疫不全と呼吸器感染最終回!今回は細胞性免疫不全者の呼吸器感染(肺炎)について、解説します。細胞性免疫不全者の呼吸器感染は、多様な微生物が原因となりうるため、安易に経験的治療を行わず、まずは微生物のターゲットを絞ることが重要となります。番組では、原因となる微生物の分類、そして、臨床像やCT画像で微生物を鑑別するポイントや、必要となる検査など、臨床で必要となる知識をぎゅっとまとめて、しっかりとお教えします。

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乳房温存術後の早期乳がん患者に対して加速乳房部分照射(APBI)は勧められるか?-RAPID試験の結果から(解説:岩瀬俊明氏)-1182

 加速乳房部分照射(Accelerated Partial Breast Irradiation:APBI)とは、乳房温存術後の乳房内再発の約70%以上の症例が切除後の腫瘍床周囲から発生することから、全乳房照射(Whole Breast Irradiation:WBI)の代わりに腫瘍床のみに部分照射を行う方法である。 メリットとしては1.線量を増加して短期間に照射を終えられる2.照射野を縮小することで有害事象を軽減できる3.短期間の治療により治療費を軽減できる(小線源治療を除く) デメリットとしては1.小線源治療や術中照射を選択した場合、手技の煩雑さや治療を受けられる施設が限られる2.長期的な有害事象、局所再発率や生存率が不明などが挙げられる。 現在乳がん診療ガイドラインでは“APBIは長期のエビデンスがまだ十分でなく、行わないことを弱く推奨する”とされている。一方で臨床の場では仕事または家族のケアのためにスケジュールを調整しながら放射線治療に通わなければならない乳がん患者は多く、APBIの潜在的な需要は大きい。 RAPID試験は乳房温存術後の2,135例の早期乳がん患者において乳房内再発(Ipsilateral Breast Tumor Recurrence:IBTR)を1次アウトカムに設定し、APBI後のIBTRがWBIに対して劣らない、という仮説に基づいたランダム化第III相非劣性試験である。非劣性マージンはハザード比の90%信頼区間の上限の2.02に設定された。結果としてAPBI群のハザード比は1.27(90%信頼区間:0.84~1.91)と非劣性が示され、2次アウトカムであるdisease-free survival、 event-free survival、overall survivalも両群で有意な差を認めなかった。一方で、APBI群では晩期有害事象の増加や整容性の低下が認められた。 本試験のポイントは以下のとおりである。1.対象が腫瘍径<3cm、リンパ節転移陰性、小葉がんは除外など、再発リスクが低い症例だった2.APBIは三次元外照射のみを用いた(総線量38.5Gyを10分割し、2回/日)3.晩期有害事象は乳房硬化と毛細血管拡張が多かった4.APBI後7年目の整容性の評価では、WBI群(15%)に対して約2倍のAPBI群の患者(31%)が整容性をFairまたはPoorと評価していた 本試験で示されたのは、APBI後のIBTRはWBIに劣らないものの、短縮治療のベネフィットは晩期有害事象と整容性に対してトレードオフの関係にある、ということであろう。今回長期予後が得られたことで、晩期有害事象と整容性の低下を許容できるならば、本邦でも再発低リスク乳がん患者に対して三次元外照射によるAPBIが治療の選択肢になる可能性はある。ただ、本試験にアジア人は1~2%しか参加しておらず、欧米人との体格の違いによるアウトカムへの影響は不明である。また試験デザインは異なるものの、NSABP B-39/RTOG 0413ではAPBIのWBIに対する同等性は示されなかった(別コラムを参照)。 現在整容性と晩期有害事象の改善を目的に、1回/日の三次元外照射を用いた試験が進行中である。今後も日本人に最適なAPBIの方法を臨床試験の枠内で検討していくことが望まれる。

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患者団体は製薬企業からの資金提供をもっと公開すべきだろう(解説:折笠秀樹氏)-1179

 患者団体とは患者の声を代表し、患者や家族と支え合うとともに、療養環境の改善を目指す患者会および患者支援団体のことである。ほぼ定款や会則を有している。がん・難病を中心に患者団体は数多く存在し、講演会や勉強会を開催している。疾病理解への啓発活動なども行っている。会費だけでは活動資金が不足しており、寄付金や協賛金に強く依存しているのが現状のようだ。26研究のシステマティックレビューがその実態を浮き彫りにした。 26研究あったが、資金提供の有無を報告していたのは15研究だった。患者団体への資金提供割合は、20%(少ない)という報告から83%(多い)という報告まであった。どの研究結果が正しいのかよくわからない。資金提供を受けている団体の中で、ウェブサイトで資金提供を公開しているのは27%(642団体中175で公開)にすぎなかった。定款や会則の中に資金受け入れ方針を示している患者団体は、2%という報告から64%という報告まであった。研究によって結果はひどく異なる。このような調査に答えている患者団体はしっかりしているところが多く、実態はこれよりもさらに低いと思われる。製薬企業のほうは完全に公開しているが、患者団体は非常に遅れていると言わざるを得ない。 日本製薬工業協会(製薬協)は2012年ごろから透明性ガイドラインを作り始め、「患者団体との協働に関するガイドライン」および「企業活動と患者団体の関係の透明性ガイドライン」を発行した。患者団体のほうはそれぞれに任されており、その公開実態は団体ごとに千差万別であり、総じて公開度は大変低いことが明らかとなった。 取り上げられた研究報告に日本からの報告はなかったが、日本にもそういった調査はあった。製薬協は2014年および2017年に調査を実施した。2017年の調査によると、製薬企業から支援を受けている割合は92.9%と報告されている。本研究の20~83%という報告よりもはるかに高い。こちらのほうが実態だと思われる。 われわれ医療機関はどうかというと、同じように公開しているところはほとんどないだろう。指針と言えるかどうかわからないが、教職員倫理規程なるものは存在する。毎年ネットで倫理を勉強しテストで合格することが求められている。利害関係者を含むすべての兼業は届け出て、実績報告を毎月出している。

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乳房温存術後の早期乳がん患者に対して加速乳房部分照射(APBI)は勧められるか?-NSABP B-39/RTOG 0413試験結果から(解説:岩瀬俊明氏)-1181

 加速乳房部分照射(Accelerated Partial Breast Irradiation:APBI)とは、乳房温存術後の乳房内再発の約70%以上の症例が切除後の腫瘍床周囲から発生することから、全乳房照射(Whole Breast Irradiation:WBI)の代わりに腫瘍床のみに部分照射を行う方法である。 メリットとしては1.線量を増加して短期間に照射を終えられる2.照射野を縮小することで有害事象を軽減できる3.短期間の治療により治療費を軽減できる(小線源治療を除く) デメリットとしては1.小線源治療や術中照射を選択した場合、手技の煩雑さや治療を受けられる施設が限られる2.長期的な有害事象、局所再発率や生存率が不明などが挙げられる。 現在乳がん診療ガイドラインでは“APBIは長期のエビデンスがまだ十分でなく、行わないことを弱く推奨する”とされている。一方で臨床の場では仕事または家族のケアのためにスケジュールを調整しながら放射線治療に通わなければならない乳がん患者は多く、APBIの潜在的な需要は大きい。 NSABP B-39/RTOG 0413は乳房温存術後の4,216例の早期乳がん患者において乳房内再発(Ipsilateral Breast Tumor Recurrence:IBTR)を1次アウトカムに設定し、APBI後のIBTRがWBIに対して同等である、という仮説に基づいたランダム化第III相同等性試験である。同等性マージンはハザード比の90%信頼区間の上限の1.5に設定された。結果としてAPBI群のハザード比は1.22(90%信頼区間:0.94~1.58)と同等性は示されなかった。2次アウトカムであるrecurrence-free intervalはAPBI群が有意に短縮していたが、distant disease-free interval、overall survivalでは両群間で有意な差を認めなかった。有害事象に関しては両群に有意な差は認めなかった。 本試験のポイントは以下のとおりである。1.対象が40歳以下、腋窩リンパ節転移3個まで、多中心性がんや小葉がんなど、再発リスクが高い症例を含んでいた2.APBIは三次元外照射に加えて小線源治療も用いた3.同等性は示されなかったもののAPBI後10年目でのIBTRの違いはわずか0.7%だった(recurrence-free intervalに関しても<1.6%) 本試験で示されたのは、同等とまではいかないものの、ある程度局所再発リスクが高い患者でもAPBIはWBIにかなり近い割合でIBTRを予防することができる、ということであろう。本試験の結果は統計学的にはネガティブであったが、10年目のIBTRの絶対差は1%以内である。今回、より再発リスクの低い症例を対象としたRAPID試験と併せて長期予後が得られたことで(別コラムを参照)、本邦でも再発低リスク乳がん患者に対してAPBIが治療の選択肢になる可能性はある。ただ、RAPID試験と同様にアジア人の参加が少なかったことや小線源治療の侵襲性、コストなど検討の余地がある。 本試験の整容性に関しては有意差がなかったと2019年の北米放射線学会にて追加報告があり、おそらくは27%の症例が小線源治療を受けていたことに起因すると考えられる。小線源治療は三次元外照射よりも整容性の面で優れていることが報告されており、今後も小線源治療を含め日本人に最適なAPBIの方法を臨床試験の枠内で検討していくことが望まれる。

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高血圧の定義改定で有病率増もCVアウトカム関連なし/JAMA

 米国心臓病学会/米国心臓協会(ACC/AHA)は高血圧治療ガイドラインを2017年に改訂し、高血圧症の定義を140/90mmHgから130/80mmHgに引き下げた。それにより、米国成人の孤立性拡張期高血圧症(IDH)の有病率は1.3%から6.5%に増加し、一方で新たな定義でIDHと診断された人と心血管アウトカムとの関連はないことが明らかになったという。アイルランド国立大学ゴールウェイ校のJohn W. McEvoy氏らが、2つの大規模コホートについて断面・縦断的解析を行った結果で、JAMA誌2020年1月28日号で発表した。「NHANES」と動脈硬化症リスク研究「ARIC」の被験者について解析 研究グループは、2013~16年の米国国民健康栄養調査「NHANES」について断面解析を、また1990~92年に開始し2017年まで追跡した地域における動脈硬化症リスク研究「ARIC」について縦断的解析を行い、2017 ACC/AHAと2003 JNC7の定義によるIDHの有病率および心血管アウトカムを比較した。 縦断的解析の結果について、外部の2コホート([1]NHANES・III[1988~94]とNHANES[1999~2014]、[2]CLUE[Give Us a Clue to Cancer and Heart Disease]IIコホート[ベースライン1989])で検証した。 IDHの定義は、2017 ACC/AHAでは収縮期血圧(SBP)<130mmHg、拡張期血圧(DBP)≧80mmHgであり、2003 JNC7ではそれぞれ<140mmHg、≧90mmHgだった。 主要アウトカムは、米国成人のIDH有病率、および2017 ACC/AHAガイドラインに基づきIDHに対する薬物療法を勧告された人の割合だった。また、ARIC試験については、アテローム動脈硬化性心血管疾患(ASCVD)、心不全、慢性腎臓病(CKD)の発症リスクも評価した。IDH有病率、JNC7定義で1.3%に対し2017 ACC/AHA定義では6.5% 解析に包含された被験者数は、NHANESコホートからは9,590例(ベースラインの平均年齢49.6[SD 17.6]歳)で、うち女性は5,016例(52.3%)であり、ARIC試験からは8,703例(同56.0[5.6]歳)で、うち女性は4,977例(57.2%)だった。 NHANESコホートにおけるIDH有病率は、JNC7定義では1.3%だったのに対し、2017 ACC/AHA定義では6.5%だった(絶対群間差:5.2%、95%信頼区間[CI]:4.7~5.7)。 2017 ACC/AHA定義で新たにIDHとされた被験者のうち、ガイドラインにより降圧治療の適応となった割合は0.6%(95%CI:0.5~0.6)だった。 ARIC試験の正常血圧値の被験者と比べて、2017 ACC/AHA定義によるIDHの被験者は、ASCVD(イベント数:1,386件)、心不全(同:1,396件)、CKD(同:2,433件)のいずれの発症リスクとの関連も認められなかった。それぞれのハザード比(追跡期間中央値25.2年における)は、ASCVDが1.06(95%CI:0.89~1.26)、心不全が0.91(0.76~1.09)、CKDが0.98(0.65~1.11)。 外部の2コホートにおいても、2017 ACC/AHA定義によるIDHと心血管死との関連は認められなかった。ハザード比は、NHANESではイベント数1,012件で1.17(95%CI:0.87~1.56)、CLUE IIでは1,497件で1.02(0.92~1.14)だった。

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慢性炎症性皮膚疾患、帯状疱疹リスクと関連

 アトピー性皮膚炎や乾癬などの慢性炎症性皮膚疾患(CISD)と帯状疱疹の関連が示された。米国における横断研究の結果、帯状疱疹ワクチン接種が低年齢層で推奨されているにもかかわらず、多くのCISDで帯状疱疹による入院増大との関連が認められたという。米国・ノースウェスタン大学フェインバーグ医学院のRaj Chovatiya氏らが報告した。CISD患者は、帯状疱疹の潜在的リスク因子を有することが示されていたが、CISDの帯状疱疹リスクについては、ほとんど知られていなかった。今回の結果を踏まえて著者は、「さらなる研究を行い、CISDに特異的なワクチンガイドラインを確立する必要があるだろう」と述べている。Journal of the American Academy of Dermatology誌オンライン版2020年1月17日号掲載の報告。 研究グループは、CISDと帯状疱疹の関連を明らかにする目的で、2002~12年の全米入院患者サンプル(Nationwide Inpatient Sample)のデータを用いて、米国の入院患者の代表コホート(小児と成人6,808万8,221例)について解析を行った。 年齢、性別、人種/民族、保険状況、世帯収入、および長期の全身性コルチコステロイド使用を含む多変量ロジスティック回帰モデルを用いて評価した。 主な結果は以下のとおり。・帯状疱疹による入院と、アトピー性皮膚炎(補正後オッズ比[OR]:1.38、95%信頼区間[CI]:1.14~1.68)、乾癬(4.78、2.83~8.08)、天疱瘡(1.77、1.01~3.12)、類天疱瘡(1.77、1.01~3.12)、菌状息肉症(3.79、2.55~5.65)、皮膚筋炎(7.31、5.27~10.12)、全身性強皮症(1.92、1.47~2.53)、皮膚エリテマトーデス(1.94、1.10~3.44)、白斑(2.00、1.04~3.85)、サルコイドーシス(1.52、1.22~1.90)との関連が認められた。・扁平苔癬(補正前OR:3.01、95%CI:1.36~6.67)、セザリー症候群(12.14、5.20~28.31)、限局性強皮症(2.74、1.36~5.51)、壊疽性膿皮症(2.44、1.16~5.13)は、二変量モデルにおいてのみオッズ比の上昇が示された。・60歳未満および50歳未満の感度解析でも、類似の結果が示された。・CISDにおける帯状疱疹の予測因子は、「女性」「慢性症状がより少ない」「長期にわたるコルチコステロイドの全身使用」などであった。

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乳がん治療、ガイドラインに従わないときの生存率

 乳がん治療において、ガイドラインで推奨される治療を受け入れない乳がん患者もいる。もしガイドラインに従わない場合、生存率にどの程度影響するのだろうか。今回、シンガポールゲノム研究所のPeh Joo Ho氏らは、大規模な乳がん患者集団において推奨治療の非順守の予測因子および生存率への影響を検討した。その結果、ガイドラインで推奨された手術や放射線療法を順守しない場合、全生存が2倍以上悪化し、ガイドラインによる適切な治療に従うことの重要性が強調された。また、高齢患者でも同様の結果が得られ、推奨治療により恩恵を受ける可能性が示唆された。Scientific Reports誌2020年1月28日号に掲載。 本研究の対象は、2005~15年にシンガポールで乳がんと診断された患者のうち、転移のない乳がん患者1万9,241例で、3,158例(16%)が診断後10年以内に死亡した(生存期間中央値:5.8年)。シンガポールの公立病院では、一般にNCCNガイドラインとザンクトガレン2005コンセンサスに従っている。ロジスティック回帰を用いた治療非順守と因子との関連、パラメトリック生存モデルフレームワークを用いた治療非順守が全生存に及ぼす影響を検討した。 主な結果は以下のとおり。・治療非順守率が最も高かった治療は化学療法(18%)であった。・化学療法、放射線療法、内分泌療法が順守されない予測因子は、年齢、腫瘍の大きさ、リンパ節転移、サブタイプ(放射線療法を除く)であった。・手術拒否に関連する因子は、年齢とサブタイプであった。・治療非順守は、手術(ハザード比[HR]:2.26、95%信頼区間[CI]:1.80~2.83)、化学療法(HR:1.25、95%CI:1.11~1.41)、放射線療法(HR:2.28、95%CI:1.94~2.69)、内分泌療法(HR:1.70、95%CI:1.41~2.04)において全生存が悪化した。・ガイドラインが通常適用されない高齢患者でも同様の結果が得られた。

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Lp(a)低下核酸医薬の途中経過報告(解説:興梠貴英氏)-1175

 Lp(a)の存在は古くから知られており1)、その生理的意義はいまだ不明だが、虚血性心疾患を含む心血管リスクとしての報告も1970年代からある2)。しかし、薬物により直接低下させる手段がないため、これまでさまざまな心血管ガイドラインでも対処について積極的に触れられていないことが多い3)。一方で核酸医薬の発達により、遺伝子発現レベルで標的蛋白の抑制が可能となってきており、本試験は肝細胞への特異性を高めた第2世代のアポリポプロテイン(a)低下核酸医薬の効果・安全性をみたものである。結果として大きな副作用がなく、有効にLp(a)を低下させることができたが、本邦における治験は行われていないと思われる。今後はLp(a)を直接低下させることが心血管リスクの低下に結び付くのかという試験が行われると考えられ、有効な治療薬として用いるにはまだ数年以上かかると思われる。

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肺動脈性肺高血圧症〔PAH : pulmonary arterial hypertension〕

1 疾患概要■ 概念・定義肺高血圧症(pulmonary hypertension:PH)の定義は長らく、安静時の平均肺動脈圧25mmHg以上が用いられてきたが、2018年にニースで開催された第6回肺高血圧症ワールドシンポジウムではPHの定義が平均肺動脈圧「25mmHg以上」から「20mmHg以上」へ変更するという提言がなされた。肺循環は低圧系であり健常者の平均肺動脈圧の上限が20mmHgであること、21~24mmHgの症例は20mmHg以下の症例と比較して、運動耐容能が低くかつ入院率や死亡率が上昇した報告などを根拠としている。また、PAHの定義には平均肺動脈圧20mmHg以上かつ肺動脈楔入圧15mmHg以下とともに「肺血管抵抗3Wood Units以上」が付加された。しかし、21~24mmHgの症例に対する治療薬の効果や安全性は改めて検証される必要があり、当面、実臨床では、PAHの血行動態上の定義として平均肺動脈圧25mmHg以上かつ肺動脈楔入圧15mmHg以下が採用される。■ 疫学特発性PAHは一般臨床では100万人に1~2人、二次性または合併症PAHを考慮しても100万人に15人ときわめてまれである。特発性は30代を中心に20~40代に多く発症する傾向があるが、最近の調査では高齢者の新規診断例の増加が指摘されている。小児は成人の約1/4の発症数で、1歳未満・4~7歳・12歳前後に発症のピークがある。男女比は小児では大差ないが、思春期以降の小児や成人では男性に比し女性が優位である。厚生労働省研究班の調査では、膠原病患者のうち混合性結合織病で7%、全身性エリテマトーデスで1.7%、強皮症で5%と比較的高頻度にPAHを発症する。■ 病因主な病変部位は前毛細血管の細小動脈である。1980年代までは血管の「過剰収縮ならびに弛緩低下の不均衡」説が病因と考えられてきたが、近年の分子細胞学的研究の進歩に伴い、炎症-変性-増殖を軸とした、内皮細胞機能障害を発端とした正常内皮細胞のアポトーシス亢進、異常平滑筋細胞のアポトーシス抵抗性獲得と無秩序な細胞増殖による「血管壁の肥厚性変化とリモデリング(再構築)」 説へと、原因論のパラダイムシフトが起こってきた1, 2)。遺伝学的には特発性/遺伝性の一部では、TGF-βシグナル伝達に関わるBMPR2、ALK1、ALK6、Endoglinや細胞内シグナルSMAD8の変異が家族例の50~70%、孤発例(特発性)の20~30%に発見される3,4)。常染色体優性遺伝の形式をとるが、浸透率は10~20%と低い。また、2012年にCaveolin1(CAV1)、2013年にカリウムチャネル遺伝子であるKCNK3、2013年に膝蓋骨形成不全(small patella syndrome)の原因遺伝子であるTBX4など、TGF-βシグナル伝達系とは直接関係がない遺伝子がPAH発症に関与していることが報告された5-7)。■ 症状PAHだけに特異的なものはない。初期は安静時の自覚症状に乏しく、労作時の息切れや呼吸困難、運動時の失神などが認められる。注意深い問診により診断の約2年前には何らかの症状が出現していることが多いが、てんかんや運動誘発性喘息、神経調節性失神などと誤診される例も少なくない。進行すると易疲労感、顔面や下腿の浮腫、胸痛、喀血などが出現する。■ 分類第6回肺高血圧症ワールドシンポジウムでは、PHの臨床分類については前回の1~5群は踏襲されたものの、若干の修正がなされた。主な疾患を以下に示す8)。1.肺動脈性肺高血圧症(PAH)1.1 特発性(idiopathic)1.2 遺伝性(heritable)1.3 薬物/毒物誘起性1.4 各種疾患に伴うPAH(associated with)1.4.1 結合組織病(connective tissue disease)1.4.2 HIV感染症1.4.3 門脈圧亢進症(portal hypertension)1.4.4 先天性心疾患(congenital heart disease)1.4.5 住血吸虫症1.5 カルシウム拮抗薬に長期反応を示すPAH1.6 肺静脈閉塞性疾患(pulmonary veno-occlusive disease:PVOD)/肺毛細血管腫症(pulmonary capillary hemangiomatosis:PCH)の明確な特徴を有するPAH1.7 新生児遷延性PH(persistent pulmonary hypertension of newborn)2.左心疾患によるPH3.呼吸器疾患および/または低酸素によるPH3.1 COPD3.2 間質性肺疾患4.慢性血栓塞栓性PH(chronic thromboembolic pulmonary hypertension: CTEPH)5.原因不明の複合的要因によるPH■ 予後1990年代まで平均生存期間は2年8ヵ月と予後不良であった。わが国では1999年より静注PGI2製剤エポプロステノールナトリウムが臨床使用され、また、異なる機序の経口肺血管拡張薬が相次いで開発され、併用療法が可能となった。以後は、この10年間で5年生存率は90%近くに劇的に改善してきている。一方、最大限の内科治療に抵抗を示す重症例には、肺移植の待機リストを照会することがある。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)右心カテーテル検査による「肺動脈性のPH」の診断とともに、臨床分類における病型の確定、および他のPHを来す疾患の除外診断が必要である。ただし、呼吸器疾患 および/または 低酸素によるPH では呼吸器疾患 および/または 低酸素のみでは説明のできない高度のPHを呈する症例があり、この場合はPAHの合併と考えるべきである。2017年に改訂されたわが国の肺高血圧症治療ガイドラインに示された診断手順(図1)を参考にされたい9)。 画像を拡大する■ 主要症状および臨床所見1)労作時の息切れ2)易疲労感3)失神4)PHの存在を示唆する聴診所見(II音の肺動脈成分の亢進など)■ 診断のための検査所見1)右心カテーテル検査(1)肺動脈圧の上昇(安静時肺動脈平均圧で25mmHg以上、肺血管抵抗で3単位以上)(2)肺動脈楔入圧(左心房圧)は正常(15mmHg以下)2)肺血流シンチグラム区域性血流欠損なし(特発性または遺伝性PAHでは正常または斑状の血流欠損像を呈する)■ 参考とすべき検査所見1)心エコー検査にて、三尖弁収縮期圧較差40mmHg以上で、推定肺動脈圧の著明な上昇を認め、右室肥大所見を認めること2)胸部X線像で肺動脈本幹部の拡大、末梢肺血管陰影の細小化3)心電図で右室肥大所見3 治療 (治験中・研究中のものも含む)SC/ERS(2015年)のPH診断・治療ガイドラインを基本とし、日本人のエビデンスと経験に基づいて作成されたPAH治療指針を図2に示す9)。画像を拡大するこれはPAH患者にのみ適応するものであって、他のPHの臨床グループ(2~5群)に属する患者には適応できない。一般的処置・支持療法に加え、根幹を成すのは3系統の肺血管拡張薬である。すなわち、プロスタノイド(PGI2)、ホスホジエステラーゼ 5型阻害薬(PDE5-i)、エンドセリン受容体拮抗薬(ERA)である。2015年にPAHに追加承認された、可溶性guanylate cyclase賦活薬リオシグアト(商品名:アデムパス)はPDE5-i とは異なり、NO非依存的にNO-cGMP経路を活性化し、肺血管拡張作用をもたらす利点がある。欧米では急性血管反応性が良好な反応群(responder)では、カルシウム拮抗薬が推奨されているが、わが国では、軽症例には経口PGI2誘導体べラプロスト(同:ケアロードLA、ベラサスLA)が選択される。セレキシパグ(同:ウプトラビ)はプロスタグランジン系の経口肺血管拡張薬として、2016年に承認申請されたPGI2受容体刺激薬である。3系統の肺血管拡張薬のいずれかを用いて治療を開始する。治療薬の選択には重症度に基づいた予後リスク因子(表1)を考慮し、リスク分類して治療戦略を立てることが推奨されている。重症度別(WHO機能分類)のPAH特異的治療薬に関する推奨とエビデンスレベルを表2に示す。従来は低リスク群では単剤療法、中等度リスク以上の群では複数の肺血管拡張薬を導入することが基本とされてきたが、肺動脈圧が高値を示す症例(平均肺動脈圧40mmHg以上)では、2剤、3剤の異なる作用機序をもつ治療薬の併用療法が広く行われている。併用療法には治療目標に到達するように逐次PAH治療薬を追加していく「逐次併用療法」と初期から複数の治療薬をほぼ同時に併用していく「初期併用療法」があるが、最近では後者が主流になっている。画像を拡大する画像を拡大する単剤治療を考慮すべき病態には下記のようなものがある。1)カルシウム拮抗薬のみで1年以上血行動態の改善が得られる、2)単剤治療で5年以上低リスク群を維持している、3)左室拡張障害による左心不全のリスク要因を有する高齢者(75歳以上)、4)肺静脈閉塞性疾患(PVOD)/肺毛細血管腫症(PCH)の特徴を有することが疑われる、5)門脈圧亢進症を伴う、6)先天性心疾患の治療が十分に施行されていない、などでは単剤から慎重に治療すべきと考えられる。経口併用療法で機能分類-III度から脱しない難治例は時期を逸さぬようPGI2持続静注療法を考慮する。右心不全ならびに左心還流血流低下が著しい最重症例では、体血管拡張による心拍出量増加・右心への還流静脈血流増加に対する肺血管拡張反応が弱く、かえって肺動脈圧上昇や右心不全増悪を来すことがあり、少量から開始し、急速な増量は避けるべきである。また、カテコラミン(ドブタミンやPDEIII阻害薬など)の併用が望まれ、体血圧低下や脈拍数増加、水分バランスにも留意する。エポプロステノール(同:フローラン、エポプロステノールACT)に加えて、2014年に皮下ならびに静脈内投与が可能なトレプロスチニル(同:トレプロスト注)が承認された。皮下投与は、注射部位の疼痛対策に課題を残すが、管理が簡便で有利な点も多い。エポプロステノールに比べ力価がやや劣るため、エポプロステノールからの切り替え時には用量調整が必要とされる。さらにPGI2吸入薬イロプロスト(ベンテイビス)、選択的PGI2受容体作動薬セレキシパグ(ウプトラビ)が承認され、治療薬の選択肢が増えた。抗腫瘍薬のソラフェニブ(multikinase inhibitor)、脳血管攣縮の治療薬であるファスジル(Rhoキナーゼ阻害薬)、乳がん治療薬であるアナストロゾール(アロマターゼ阻害薬)も効果が注目されている。4 今後の展望近年、肺血管疾患の研究は急速に成長をとげている。PHの発症リスクに関わる新たな遺伝的決定因子が発見され、PHの病因に関わる新規分子機構も明らかになりつつある。特に細胞の代謝、増殖、炎症、マイクロRNAの調節機能に関する研究が盛んで、これらが新規標的治療の開発につながることが期待される。また、遺伝学と表現型の関連性によって予後転帰の決定要因が明らかとなれば、効率的かつテーラーメイドな治療戦略につながる可能性がある。5 主たる診療科循環器内科、膠原病内科、呼吸器内科、胸部心臓血管外科、小児科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報難病情報センター/肺動脈性肺高血圧症(公費対象)(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)グラクソ・スミスクライン肺高血圧症情報サイトPAH.jp(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)肺高血圧症治療ガイドライン(2017年改訂)(医療従事者向けのまとまった情報)2015 ESC/ERS Guidelines for the diagnosis and treatment of pulmonary hypertension(European Respiratory Journal, 2015).(医療従事者向けのまとまった情報:英文のみ)患者会情報NPO法人 PAHの会(PAH患者と患者家族の会が運営している患者会)Pulmonary Hypertension Association(PAH患者と患者家族の会 日本語選択可能)1)Michelakis ED, et al. Circulation. 2008;18:1486-1495.2)Morrell NW, et al. J Am Coll Cardiol. 2009;54:S20-31.3)Fujiwara M, et al. Circ J. 2008;72:127-133.4)Shintani M, et al. J Med Genet. 2009;46:331-337.5)Austin ED, et al. Circ Cardiovasc Genet. 2012;5:336-343.6)Ma L, et al. N Engl J Med. 2013;369:351-361.7)Kerstjens-Frederikse WS, et al. J Med Genet. 2013;50:500-506.8)Simonneau G, et al. Eur Respir J. 2019;53. pil:1801913.9)日本循環器学会. 肺高血圧症治療ガイドライン(2017年改訂版)公開履歴初回2013年07月18日更新2020年02月03日

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脂肪萎縮症〔lipodystrophy〕

1 疾患概要■ 概念・定義脂肪萎縮症は、脂肪細胞機能の異常により、脂肪組織が全身性あるいは部分性に減少・消失し、それに起因する糖脂質代謝異常(糖尿病、高中性脂肪血症)および脂肪肝などを合併する疾患の総称で、エネルギー摂取不良による痩せとは区別される。■ 疫学脂肪萎縮症の有病率についての報告は少ない。わが国においては、1985年の厚生省特定疾患、難病の疫学調査研究による脂肪萎縮性糖尿病の全国調査の結果、2007年の日本内分泌学会内分泌専門医を対象としたアンケート調査の結果から、有病率は約130万人に1人と推定される。米国では、100~500万人に1人と推定されている。■ 病因脂肪萎縮症は、全身の脂肪組織が減少・消失する全身性脂肪萎縮症と、下肢などの特定の身体領域に限局して脂肪組織が減少・消失する部分性脂肪萎縮症に大別される。原因として、遺伝子異常、自己免疫、ウイルス感染、薬剤などが知られている。主に、脂肪細胞の発生・分化や、脂肪組織における脂質蓄積に関わる遺伝子変異が原因であることが知られているが、その詳細は明らかではない。原因遺伝子としては、先天性全身性脂肪萎縮症ではAGPAT2、BSCL2、CAV1、PTRF遺伝子が、家族性部分性脂肪萎縮症ではLMNA、PPARG、AKT2、PLIN1、CIDEC、LIPE遺伝子が報告されている。遺伝性が疑われるが、原因遺伝子が特定されていない症例もある。また、脂肪萎縮を発症しやすい特定の自己免疫疾患やウイルス感染は解明されていない。薬剤性としては、ヌクレオチド系逆転写酵素阻害薬やプロテアーゼ阻害薬などのHIV治療薬による後天性部分性脂肪萎縮症がある。■ 症状先天性全身性脂肪萎縮症では、生下時より全身性の脂肪組織の減少・消失が認められるが、家族性部分性脂肪萎縮症では、乳幼児期の脂肪組織分布は正常で、小児期あるいは思春期に四肢の脂肪組織が減少・消失してくることが多い。また、後天的に脂肪萎縮症を発症する症例の中には、ウイルス感染を契機として、短期間に全身の脂肪萎縮に至る症例もある。脂肪萎縮症では、原因のいかんにかかわらず、糖尿病、高中性脂肪血症などの糖脂質代謝異常および脂肪肝を高頻度に合併する。脂肪萎縮の程度と、代謝異常の重症度は相関するとされている。脂肪萎縮に伴う糖尿病は、とくに「脂肪萎縮性糖尿病」とも呼ばれ、重度のインスリン抵抗性のために従来の経口血糖降下薬は無効であり、インスリンを大量に使用しても十分な血糖コントロールが得られないことがしばしばである。また、黒色表皮腫、女性症例では多嚢胞性卵巣を伴う月経異常が高頻度に認められる。脂肪萎縮症では、脂肪細胞由来ホルモンであるレプチンは著しく低下し、食欲は亢進する。まれに精神発達遅滞、下顎顔面異形成、早老症を合併することもある。■ 分類脂肪萎縮症は、脂肪萎縮の程度や部位により、全身性脂肪萎縮症あるいは部分性脂肪萎縮症に大別される。さらに脂肪萎縮の原因により、それぞれ先天性あるいは後天性に区別されることから、典型的には先天性全身性脂肪萎縮症、後天性全身性脂肪萎縮症、家族性部分性脂肪萎縮症、後天性部分性脂肪萎縮症の4つに分類される。薬剤の皮下注射や皮下脂肪織炎、圧迫などにより、狭い範囲に限局した脂肪萎縮が起こることがあるが、脂肪萎縮に起因する代謝異常の合併はない。■ 予後脂肪萎縮症は、糖尿病合併症、非アルコール性脂肪肝炎、肝硬変、肥大型心筋症などにより、平均寿命は30~40歳ともいわれる予後不良な疾患である。レプチン補充治療は、合併する代謝異常の改善に有効で、予後の改善が期待される。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)〔診断基準〕■ 脂肪萎縮症の診断脂肪組織の萎縮の確認低栄養や消耗性疾患などによる痩せの除外病歴聴取による先天性、後天性の判断先天性→遺伝子解析により原因遺伝子に異常を認めた場合には確定後天性→発症原因が明らかである場合には確定インスリン抵抗性高中性脂肪血症脂肪肝※中尾一和・編. 最新内分泌代謝学. 診断と治療社; 2013. より引用■ 脂肪萎縮症を強く示唆する臨床的特徴脂肪萎縮症の主要臨床症候全身あるいは部分的な皮下脂肪の減少または欠損家族性部分性脂肪萎縮症の主要臨床症候思春期以降に発症する四肢や臀部の皮下脂肪の減少(頭頸部や腹部の脂肪は残存もしくは過剰に蓄積)脂肪萎縮症を示唆する臨床的症候1)重度のインスリン抵抗性を伴う糖尿病の存在(1)高用量のインスリン治療を必要とする糖尿病(200単位/日以上、2単位/体重kg/日以上、U-500インスリン製剤の使用など)(2)ケトーシスに陥りにくい糖尿病2)重度のインスリン抵抗性を示唆するその他の所見(1)黒色表皮腫(2)PCOSあるいはPCOS様の症候(高アンドロゲン血症、過少月経、多嚢胞性卵巣など)3)高中性脂肪血症の存在(1)重度の高中性脂肪血症(500mg/dL以上)(2)食事療法などの治療への反応が乏しい(250mg/dL以上)(3)高中性脂肪血症に起因する膵炎の既往4)脂肪肝や脂肪性肝炎の存在(1)明らかな原因(例: ウイルス感染)のない、肝腫大や血中トランスアミナーゼ値の上昇などの非アルコール性脂肪肝に合致する所見(2)脂肪肝の画像所見(超音波検査やCT)5)身体的症候や脂肪組織の減少に関する家族歴6)四肢の著明な筋肥大や静脈の怒張7)体格に見合わない過食(食事を止められない、空腹で目が覚める、食欲と葛藤しているなど)8)2次性の性腺機能低下(男性)、原発性あるいは2次性の無月経(女性)※米国臨床内分泌学会[AACE]のコンセンサスステートメントより引用3 治療 (治験中・研究中のものも含む)脂肪萎縮症の治療は、脂肪萎縮に対する治療と脂肪萎縮に起因する合併症に対する治療に大別される。最近承認されたレプチン補充治療は、脂肪萎縮に起因する合併症を改善させる。■ 脂肪萎縮に対する治療現時点では、脂肪萎縮に対する根本的な治療法はない。後天性の脂肪萎縮については、原因疾患の治療、すなわち皮下脂肪織炎の治療、自己免疫異常の治療、HIV関連脂肪萎縮症ではHIV感染によるものと治療薬によるものを区別して治療する必要がある。脂肪細胞分化のマスターレギュレーターであるPPARγを活性化させるチアゾリジン誘導体は、全身性脂肪萎縮症では無効、部分性脂肪萎縮症では残存脂肪組織を肥大させたのみで脂肪分布異常を改善しなかったと報告されている。また、後述するレプチン補充治療によっても、脂肪萎縮は改善しない。■ 脂肪萎縮に起因する合併症に対する治療従来は、低脂肪食を中心とした食事療法や運動療法のみであった。わが国ではIGF-I製剤による治療が試みられたが、その治療効果は限定的である。脂肪萎縮症では、脂肪細胞由来ホルモンであるレプチンが欠乏しており、生理量のレプチン(商品名: メトレレプチン)を補充するレプチン補充治療は、脂肪萎縮に起因する糖脂質代謝異常(糖尿病、高中性脂肪血症)、脂肪肝などの合併症を改善させる。さらに、亢進した食欲を抑制し、食事療法を行いやすくする。レプチン補充治療は、2013年に世界で初めてわが国で承認され、2014年には米国でも承認された。4 今後の展望今後、脂肪萎縮に対する根本的な治療法の開発が期待される。とくに原因遺伝子が同定されている脂肪萎縮症については、脂肪萎縮の発症機序を明らかにすることで、脂肪の再生治療を含めた、新規治療法が開発される可能性がある。また、最近、少数例ではあるが、全身性あるいは部分性の脂肪萎縮とともに付随する特徴的な身体徴候(早老症様顔貌、皮膚病変、骨病変など)を呈する疾患群が報告されてきており、典型例とは区別する必要がある。5 主たる診療科内分泌代謝内科、糖尿病内科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報難病情報センター 脂肪萎縮症(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)認定NPO法人日本ホルモンステーション 脂肪萎縮症委員会(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)1)Garg A. J Clin Endocrinol Metab. 2011;96:3313-3325.2)海老原健ほか.肥満研究. 日本肥満学会. 2011;17:15-20.3)中尾一和 編. 最新内分泌代謝学. 診断と治療社;2013.4)Handelsman Y, et al. Endocr Pract. 2013;19:107-116.5)Ebihara K, et al. J Clin Endocrinol Metab. 2007;92:532-541.6)Brown RJ, et al. J Clin Endocrinol Metab. 2016;101:4500-4511.7)日本内分泌学会. 脂肪萎縮症診療ガイドライン. 2018;94:1-31.公開履歴初回2015年02月12日更新2020年02月03日

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慢性血栓塞栓性肺高血圧症〔CTEPH:chronic thromoboembolic pulmonary hypertension〕

1 疾患概要■ 概念・定義慢性肺血栓塞栓症とは、器質化した血栓により肺動脈が閉塞し、肺血流分布および肺循環動態の異常が6ヵ月以上にわたって固定している病態である。また、慢性肺血栓塞栓症において、平均肺動脈圧が25mmHg以上の肺高血圧を合併している例を、慢性血栓塞栓性肺高血圧症(chronic thromoboembolic pulmonary hypertension:CTEPH)という。■ 疫学正確な疫学情報はない。わが国において、急性例および慢性例を含めた肺血栓塞栓症の発生頻度は、欧米に比べ少ないと考えられている。剖検輯報にみる病理解剖を基礎とした検討でも、その発生率は米国の約1/10と報告されている。米国では、急性肺血栓塞栓症の年間発生数が50~60万人と推定され、急性期の生存症例の約0.1~0.5%がCTEPHへ移行するものと考えられてきた。しかしその後、急性例の3.8%が慢性化したとも報告され、急性肺塞栓症例では、常にCTEPHへの移行を念頭におくことが重要である。わが国における指定難病CTEPHの患者数は3,790名(2018年度)である。■ 病因肺血管閉塞の程度が肺高血圧症成立機序になる。しかし、画像所見での肺血管の閉塞率と肺血管抵抗の相関は良いとは言えない。この理由として、血栓反復、肺動脈内での血栓の進展が関与していることも考えられており、さらに、(1)肺動脈性肺高血圧症でみられるような亜区域枝レベルの弾性動脈での血栓性閉塞、(2)血栓を認めない部位の増加した血流に伴う筋性動脈の血管病変、(3)血栓によって閉塞した部位より遠位における気管支動脈系との吻合を伴う筋性動脈の血管病変など、small vessel disease の関与も示唆されている。また、わが国では女性に多く、深部静脈血栓症の頻度が低いHLA-B*5201やHLA-DPB1*0202と関連する病型がみられことが報告されている。これらのHLAは、急性例とは相関せず、欧米では極めて頻度の少ないタイプのため、欧米例と異なった発症機序を持つ症例の存在が示唆されている。■ 症状1)労作時の息切れ2)急性例にみられる臨床症状(突然の呼吸困難、胸痛、失神など)が、以前に少なくとも1回以上認められている3)下肢深部静脈血栓症を疑わせる臨床症状(下肢の腫脹および疼痛)が以前に少なくとも1回以上認められている。4)肺野にて肺血管性雑音が聴取される5)胸部聴診上、肺高血圧症を示唆する聴診所見の異常(II音肺動脈成分の亢進など)が挙げられる■ 分類CTEPHの肺動脈病変の多くは深部静脈からの繰り返し飛んでくる血栓が、肺葉動脈から肺区域枝、亜区域枝動脈を閉塞し、その場所で血栓塞栓の器質化が起る。この病変は主肺動脈から連続して肺区域枝レベルまで内膜肥厚が起っている場合(中枢型)と、主に区域枝から内膜肥厚が始まっている場合(末梢型)がある。血栓塞栓の部位によらず薬物療法は必要であるが、侵襲的治療介入戦略が異なるため、部位により次のように大別している。1)中枢型:肺動脈本幹から肺葉、区域動脈に病変を認める(肺動脈内膜摘除術:PEAの適用を考慮)2)末梢型:区域動脈より末梢の小動脈の病変が主体である(バルーン肺動脈形成術:BPAの適用を考慮)■ 予後平均肺動脈圧が30mmHgを超える症例では、肺高血圧は時間経過とともに悪化する場合も多く、一般には予後不良である。CTEPHは肺動脈内膜摘除術(PEA)によりQOLや予後の改善が得られる。また、最近ではカテーテルを用いたバルーン肺動脈形成術(balloon pulmonary angioplasty:BPA)が比較的広く施行されており、手術に匹敵する肺血管抵抗改善が報告されている。また、手術適用のない症例に対して、肺血管拡張薬を使用するようになった最近のCTEPH症例の5年生存率は、87%と改善がみられている。一方、肺血管抵抗が1,000~1,100dyn.s.cm-5を超える例の予後は不良である。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)■ 診断診断は(肺動脈内の血栓・塞栓の存在診断)+(肺高血圧症の存在診断)である(図1、2)。1)右心カテーテル検査で肺高血圧症の存在診断(1)肺動脈圧の上昇(安静時の平均肺動脈圧が25mmHg以上)(2)肺動脈楔入圧(左心房圧)が正常(15mmHg以下)2)肺換気・血流シンチグラム所見で肺動脈内の慢性血栓・塞栓の存在診断換気分布に異常のない区域性血流分布欠損(segmental defects)が、血栓溶解療法または抗凝固療法施行後も6ヵ月以上不変あるいは不変と推測できる。3)肺動脈造影所見、胸部造影CT所見で肺動脈内の慢性血栓・塞栓の存在診断慢性化した血栓による変化が証明される。図1 CTEPH症例の画像所見画像を拡大するCTEPH症例の胸部X-Pおよび胸部造影CT(自験例)胸部X-Pで肺動脈陰影の拡大を認める胸部造影CTで肺動脈主幹部に造影欠損(慢性血栓塞栓症の疑い)を認める図2 CTEPH症例のシンチグラフィ所見画像を拡大する慢性血栓塞栓性肺高血圧症 症例の肺血流シンチおよび肺換気シンチ(自験例)換気分布に異常のない区域性血流分布欠損(segmental defects)が認められる■ 鑑別診断肺高血圧症を来す病態を除外診断する。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)本症に対し有効であることがエビデンスとして確立されている治療法としては、肺動脈血栓内膜摘除術(PEA)がある。わが国では手術適応とされなかった末梢側血栓が主体のCTEPHに対し、カテーテルを用いたバルーン肺動脈形成術(balloon pulmonary angioplasty:BPA)の有効性が報告されている。さらに、手術適用のない末梢型あるいは術後残存あるいは再発性肺高血圧症を有する本症に対して、可溶性グアニル酸シクラーゼ刺激薬であるリオシグアト(商品名:アデムパス)が用いられる。CTEPHの治療方針としては、まず確定診断と重症度評価を行うことである(図3)。ついで病状の進展防止を期待して、血栓再発予防と二次血栓形成予防のための抗凝固療法を開始する。抗凝固療法が禁忌である場合や抗凝固療法中の再発などに対して、下大静脈フィルターを留置する場合もある。低酸素血症対策、右心不全対策も必要ならば実施する。重要な点は、本症の治療に習熟した専門施設へ紹介し、PEAまたはBPAの適応を検討することである。図3 CTEPHの診断と治療の流れ画像を拡大する4 今後の展望PEAの適用やBPAの適用に関してさらなる症例集積が必要である。可溶性グアニル酸シクラーゼ刺激薬であるリオシグアト以外の肺血管拡張薬が承認される可能性がある。5 主たる診療科循環器内科、呼吸器内科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報難病情報センター 慢性血栓塞栓性肺高血圧症(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)Mindsガイドラインライブラリ 慢性血栓塞栓性肺高血圧症(CTEPH)診療ガイドライン(日本肺高血圧・肺循環学会)(医療従事者向けのまとまった情報)難治性呼吸器疾患・肺高血圧症に関する調査研究(医療従事者向けのまとまった情報)公開履歴初回2020年02月03日

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アルポート症候群〔AS:Alport syndrome〕

1 疾患概要1-3)■ 概念・定義アルポート症候群(Alport syndrome:AS)は、古典的には進行性の遺伝性腎症(しばしば腎炎とも呼ばれる)に難聴を伴う症候群をさすが、近年ではIV型コラーゲン遺伝子バリアントによるものとするのが一般的である2、3)。■ 疫学約8割がX連鎖型であるが、常染色体劣性・優性のものもある。頻度は欧米の報告では1/5,000~1/10,000で、人種差や地域差はないと考えられている。また、約50,000出生に1例との報告がある。■ 病因1,3)ASの原因は、IV型コラーゲンの遺伝子バリアントである。1)IV型コラーゲンとα鎖IV型コラーゲンの網目状ネットワークを形成する基本分子はモノマーと呼ばれ、3本のα鎖がらせんを巻いた構造をしている。α鎖はN末端側のGly-X-Yの繰り返し構造をもつ約1,400残基のコラーゲンドメイン(collagenous domain)と、C末端側の約230残基の非コラーゲンドメイン(NC domain)からなる。IV型コラーゲンの構成鎖はαl〜α6鎖が知られているが、α6鎖は糸球体基底膜には存在しない。生体においてらせんを形成する3本のα鎖の組み合わせは、(1)αl-α1-α2、(2)α3-α4-α5、(3)α5-α5-α6の3種類である。2つのモノマーがC末端側の非コラーゲンドメインで結合してダイマー、4つのモノマーがN末端側のコラーゲンドメインで結合してテトラマーを形成する。モノマー、テトラマーが互いに絡み合い、かつ側面で結合しIV型コラーゲンのネットワーク構造を形成する。α1、α2鎖は糸球体基底膜以外にもメサンギウム基質、尿細管基底膜、血管基底膜など、腎組織に広範に存在する。一方、α3、α4、α5鎖は糸球体基底膜、ボーマン嚢、一部の尿細管基底膜に限局して存在する。α6鎖は糸球体基底膜には存在せずボーマン嚢に発現している。2)IV型コラーゲン遺伝子1,3)IV型コラーゲン遺伝子はいずれも非常に大きく約250kbある。αl、α2鎖をコードするCOL4A1、COL4A2遺伝子は13番染色体上に、α3、α4鎖をコードするCOL4A3、COL4A4遺伝子は2番染色体上に、α5、α6鎖をコードするCOL4A5、COL4A6遺伝子はX染色体上に存在する。したがって、大部分を占めるX連鎖型ではα5鎖、常染色体性ではα3またはα4鎖の遺伝子バリアントが原因である。これらの遺伝子バリアントにより、糸球体基底膜に存在するIV型コラーゲン分子のネットワークの破綻が引き起こされる。■ 症状3)病初期には血尿が唯一の所見となる。血尿は持続性の顕微鏡的血尿に、発熱時などに肉眼的血尿を伴うことが多い。タンパク尿は進行とともに増加していき、ネフローゼ症候群を呈することもよくある。発熱時の肉眼的血尿はIgA腎症でもしばしばみられることがよく知られているが、ASでも珍しくないことに留意が必要である。特徴的な難聴や眼病変がみられれば診断上有用である。難聴は神経性(感音性)難聴で、7~10歳頃両側性に出現し、まず高周波領域における聴力低下が起こり、進行性に増悪していく。患者の約1/3に難聴がみられるが、男児に多く、女児にはまれである。本人、家族に難聴がみられなくても、本症であることがしばしばあり、注意が必要となる。眼病変としてはanterior lenticonus、posterior subcapsular cataract、posterior polymorphous dystrophy、retinal flecksなどがある。びまん性平滑筋腫症(diffuse leiomyomatosis)の合併が認められることがある。本症は良性の平滑筋細胞の増殖で、食道での報告が多い。本症合併例ではCOL4A5遺伝子5'端とCOL4A6遺伝子5'端を含む欠失が報告されており、食道にはα6鎖が多く発現していることから、本症責任遺伝子はα6鎖遺伝子と考えられている。■ 分類先述の通り、遺伝形式は80%がX連鎖型であるが、常染色体劣性(15%)・優性(5%)のものもある。常染色体優性遺伝形式を示し、複数世代で血尿を認めるが腎不全に進行しない家系において、臨床的に良性家族性血尿と呼ばれてきた。しかし、遺伝子解析の進歩・普及により、これらにおいてIV型コラーゲン遺伝子バリアントが原因となることが明らかになり、これらの家系のバリアントがペアとなって遺伝した場合に、常染色体劣性型ASになる。さらに、片方のアリルのバリアントのみでもまれに末期腎不全に進行する場合があり、この患者は常染色体優性型ASということになる。したがって、近年ではASと良性家族性血尿の境界は曖昧である2,3)。■ 予後ASの重症度は、腎機能、難聴の程度、視力により規定される。本症候群は進行性の慢性腎症であるが小児期には通常腎機能は正常で、思春期以後徐々に腎機能が低下しはじめ、男性患者では10代後半、20代、30代で末期腎不全に至る例が多い。腎保護薬なしでの末期腎不全進行への自然歴は、X連鎖型男性患者で25歳までに50%、42歳までに90%とされる。X連鎖型の女性患者は一般に進行が遅く、腎不全に進行することは少ないと考えられていたが、近年ではX連鎖型女性患者でも中年期以降腎不全に進行することも珍しくなく、蛋白尿が持続する症例では注意がいる。X連鎖型女性に関しては、40歳までに12%、60歳以降に30~40%が末期腎不全に進行するということが判明している。一方、X連鎖型では原因遺伝子バリアントを有するが無徴候の女性例が約10%存在し、本人はまったく正常であっても子供に発症する場合がある。この場合、家系内で世代間に隔たりがあるようにみえるが、それにより本症候群を否定してはいけない。また、X連鎖型女性患者が男性と同様に重症で、10代後半に末期腎不全に進行することもある。このようにX連鎖型女性患者の重症度はバリエーションに富んでおり、胎児期早期に起きるX染色体の不活化によるものと推測されている。一方、男性患者の重症度は遺伝子バリアントパターンによるところが大きい。常染色体性ASでは、症状に男女差はなく予後不良である。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)3)ASの診断基準を表に示す。血尿患者をみたときに、患者やその家族が積極的に家族の検尿異常を述べるとは限らないので、必ずできる限り詳細に家族歴を聴取し、家族性の尿異常をもらさないことが重要である。家族に尿異常者がある場合は、腎不全の有無を詳細に確認し、腎不全の家族歴がある場合は腎生検を施行する。表 アルポート症候群診断基準(平成27年2月改訂)●主項目に加えて副項目の1項目以上を満たすもの。●主項目のみで副項目がない場合、参考項目の2つ以上を満たすもの。※主項目のみで家族が本症候群と診断されている場合は「疑い例」とする。※無症候性キャリアは副項目のIV型コラーゲン所見(II-1かII-2)1項目のみで診断可能である。※いずれの徴候においても、他疾患によるものは除く。たとえば、糖尿病による腎不全の家族歴や老人性難聴など。タイトルI.主項目:I-1 持続的血尿 *1II 副項目:II-1IV型コラーゲン遺伝子変異 *2II-2IV型コラーゲン免疫組織化学的異常 *3II-3糸球体基底膜特異的電顕所見 *4III 参考項目:III-1腎炎・腎不全の家族歴III-2両側感音性難聴III-3特異的眼所見 *5III-4びまん性平滑筋腫症厚生労働科学研究費補助金(難治性疾患等政策研究事業)「腎・泌尿器系の希少・難治性疾患群に関する診断基準・診療ガイドラインの確立」班*1 3ヵ月は持続していることを少なくとも2回の検尿で確認する。まれな状況として、疾患晩期で腎不全が進行した時期には血尿が消失する可能性があり、その場合は腎不全などのしかるべき徴候を確認する。*2 IV型コラーゲン遺伝子変異:COL4A3またはCOL4A4のホモ接合体またはヘテロ接合体変異、またはCOL4A5遺伝子のヘミ接合体(男性)またはヘテロ接合体(女性)変異をさす。*3 IV型コラーゲン免疫組織化学的異常:IV型コラーゲンα5鎖は糸球体基底膜だけでなく皮膚基底膜にも存在する。抗α5鎖抗体を用いて免疫染色をすると、正常の糸球体、皮膚基底膜は線状に連続して染色される。しかし、X連鎖型アルポート症候群の男性患者の糸球体、ボーマン嚢、皮膚基底膜はまったく染色されず、女性患者の糸球体、ボーマン嚢、皮膚基底膜は一部が染色される。常染色体劣性アルポート症候群ではα3、4、5鎖が糸球体基底膜ではまったく染色されず、一方、ボーマン嚢と皮膚ではα5鎖が正常に染色される。注意点は、上述は典型的パターンであり非典型的パターンも存在する。また、まったく正常でも本症候群は否定できない。*4 糸球体基底膜の特異的電顕所見:糸球体基底膜の広範な不規則な肥厚と緻密層の網目状変化により診 断可能である。良性家族性血尿において、しばしばみられる糸球体基底膜の広範な菲薄化も本症候群においてみられ、糸球体基底膜の唯一の所見の場合があり注意を要する。この場合、難聴、眼所見、腎不全の家族歴があればアルポート症候群の可能性が高い。また、IV型コラーゲン所見があれば確定診断できる。*5 特異的眼所見:前円錐水晶体(anterior lenticonus)、後嚢下白内障(posterior subcapsular cataract)、後部多形性角膜変性症(posterior polymorphous dystrophy)、斑点網膜(retinal flecks)など。ASがIV型コラーゲン異常によるものであることが判明し、特徴的な糸球体基底膜の電子顕微鏡所見やIV型コラーゲン異常が証明されれば、家族歴や難聴は診断に必須ではない。したがって、家族歴のない例ではASを念頭に置かないと正しく診断できないことがあり、注意を要する。すなわち、家族歴のない血尿症例においても突然変異例が含まれるので、原則的に血尿がみられる疾患はすべて鑑別疾患となる。したがって、非家族性血尿の症例においても腎生検をする場合には、電顕による糸球体基底膜の観察が重要である。小児期、特に10歳以下の症例では血尿が唯一の症状であることが多く、腎不全の家族歴が明らかでない場合、鑑別は困難である。家族性に血尿がみられるが腎不全の家族歴がない場合、その血尿患者の腎生検の適応は通常の腎生検の適応と同じであるが、経過中に腎不全の家族歴が確認された場合や本人に病的タンパク尿が持続するときは腎生検を施行し、糸球体基底膜の電顕による観察により鑑別することが重要である。1)ASの腎病理所見1,3)光学顕微鏡所見は非特異的である。泡沫細胞は高度タンパク尿によるもので、本症候群に特異的というわけではないが診断上参考になる。電子顕微鏡所見は特異的で、糸球体基底膜の広範な不規則な肥厚と緻密層の網目状変化がみられれば本症候群と診断できる。良性家族性血尿において、しばしばみられる糸球体基底膜の広範な菲薄化も本症候群においてみられ注意を要する。糸球体基底膜の厚さは正常では300nm以上あるが、良性家族性血尿や本症候群では150〜200nmと異常に薄い場合がみられ、糸球体基底膜が断裂して糸球体上皮細胞と内皮細胞が直接接触していることもある。本症候群の糸球体基底膜は、網目状変化のために肥厚した部分、異常に薄い部分、正常な部分が混在する。疾患の進行に伴い糸球体基底膜は肥厚し、薄い部分、正常な部分は減少していく。正確に評価された腎電顕所見により家族歴や難聴等の無い場合でも診断が可能である。2)免疫組織学的検索による診断1,3,4)IV型コラーゲン遺伝子バリアントの影響を蛋白レベル、すなわちα鎖の発現を検索し、本症候群の確定診断可能な場合がある。IV型コラーゲンα5鎖は糸球体基底膜だけでなく皮膚上皮基底膜にも存在する。抗α5鎖抗体を用いて免疫染色をすると、正常の糸球体、皮膚基底膜は線状に連続して染色される。しかし、X連鎖型ASの男性患者の糸球体、皮膚基底膜はまったく染色されず、女性患者の糸球体、皮膚基底膜は一部が染色される。X連鎖型ASの男性患者の糸球体基底膜は正常では存在するα3鎖とα4鎖も欠損し、かつ疾患の重症度と関係を認める。注意を要する点は、上述は典型的パターンであり、非典型的パターンも存在する。また、抗α5鎖抗体を用いた染色が正常でも本症候群は否定できない。X連鎖AS男性患者の糸球体基底膜では、患者の一部にα5鎖が発現している例があり、これらの患者は非発現例と比較して、軽症例であることが明らかになっている5)。3)遺伝子診断1-3)確定診断のためα3〜α5鎖遺伝子のバリアントが検索されている。ゲノムDNAを用いてすべてのエクソンとプロモーター領域をPCRで増幅し、ダイレクトシークエンスを行うことで80%を超える遺伝子バリアントの検出率が得られる。さらに、RNAを使用する方法やMLPA法(Multiplex Ligation-dependent Probe Amplification)などによりほぼ100%原因遺伝子バリアントが検出できる。近年では、次世代シーケンサを用いたパネル解析が有用である。ASの遺伝子診断について、原因遺伝子が大きくホットスポットもなく、現時点で労力とコストの面から考えて容易とは言えないが、遺伝子解析技術の進歩に伴い診断における意義が高まると考えられる。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)3)現時点では疾患特異的治療はなく、対症療法が中心である。アンジオテンシン変換酵素阻害薬(ACEI)やアンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)の投与により、腎機能障害進行阻止が可能となり、末期腎不全への進行年齢を遅らせられていることが報告されている。ただし、一般的にACEIやARB使用中は容易な脱水から腎機能低下を引き起こすので、水分が十分摂取できないときは中止するなどの指示が重要である。これまでの知見では、AS患者の透析導入後および腎移植後の予後は、他疾患に存在する腎予後に影響する併存合併症が少ないために良好であると考えられる。そのため、ASに対する腎代替療法を特別視することなく、他の慢性腎臓病と同様の腎代替療法導入基準・適応でよいと考えられる。各腎代替療法における注意事項としては、血液透析ではASに特異的な注意事項はないと考えられる。腹膜透析では血管基底膜への影響により被嚢性腹膜硬化症が増加するのではないかという可能性を論じた報告があるが推測の域を出ず、大規模データの予後結果を踏まえると、腹膜透析を避ける根拠にはならないと考えられる。腎移植においては、遺伝性疾患であるため生体腎移植時の腎提供者(ドナー)の問題、また、腎移植後の再発性腎炎(新規抗糸球体基底膜抗体腎炎)の問題が存在する。4 今後の展望■ 薬物療法近年、バルドキソロンメチルの治験がASで実施され、eGFRの改善において有効な結果が示されている(ClinicalTrials.gov Identifier: NCT03019185: A Phase 2/3 Trial of the Efficacy and Safety of Bardoxolone Methyl in Patients With Alport Syndrome – CARDINAL.■ 遺伝子治療遺伝子治療の1つとして、神戸大学小児科を中心にエクソンスキッピング療法の開発が進行中である(AMED:希少難治性疾患に対する画期的な医薬品医療機器等の実用化に関する研究薬事承認を目指すシーズ探索研究(ステップ0)「Alport症候群に対する新規治療法の開発」)。5 主たる診療科腎臓専門医(小児科、内科)、耳鼻科、眼科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報小児慢性特定疾病情報センター 慢性糸球体腎炎(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)難病情報センター アルポート症候群(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)Alport Syndrome Foundationホームページ(日本語の選択も可能)(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)1)Nozu K, et al. Clin Exp Nephrol. 2019;23:158-168.2)Kashtan CE, et al. Kidney Int.2018;93:1045-1051.3)日本小児腎臓病学会編集. アルポート症候群診療ガイドライン2017. 診断と治療社;2017.p.1-85.4)Nakanishi K, et al. Kidney Int. 1994;46:1413-1421.5)Hashimura Y, et al. Kidney Int.2014;85:1208-1213.公開履歴初回2020年02月10日

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自己免疫性肝炎〔AIH:Autoimmune hepatitis〕

1 疾患概要■ 概念・定義自己免疫性肝炎(AIH)は、中年以降の女性に好発し慢性、進行性に肝障害を来す疾患である。本疾患の原因は不明であるが、肝細胞障害に自己免疫機序が関与し、免疫抑制剤、とくに副腎皮質ステロイドが奏効することを特徴とする。臨床的にはトランスアミナーゼの上昇、抗核抗体、抗平滑筋抗体などの自己抗体陽性、血清IgG高値を高率に伴う。■ 疫学2016年を調査年として厚労省研究班で実施された疫学調査では、推定患者数は3万330人、有病率は23.9、男女比が1:4.3と過去調査と比較して患者数と男性患者の比率が増加している1)。また、2018年のAIHの全国調査では、診断時年齢(中央値)は63歳である。■ 病因本症は、何らかの機序により自己の肝細胞に対する免疫学的寛容が破綻し、自己免疫反応によって生じる疾患とされる。本邦例の遺伝的要因としてHLA-DR4との相関があるが、海外で報告されているSH2B3やCARD10との関連は認められていない。免疫学的要因では、自然免疫でのToll-like receptorの機能異常、DAMPsによる樹状細胞の活性化、獲得免疫での制御性T細胞の異常、IL -17、Th17細胞の増加などが報告されている2)。 発症誘因として先行する感染症や薬剤服用、妊娠・出産との関連が示唆されており、ウイルス感染や薬物代謝産物による自己成分の修飾、外来蛋白と自己成分との分子相同性、ホルモン環境などが発症に関与する可能性がある。■ 症状本症に特徴的な症候はなく、発症型により無症状から食欲不振・倦怠感・黄疸といった急性肝炎様症状を呈するなどさまざまである。初診時に肝硬変へ進行した状態で肝性脳症や食道静脈瘤出血にて受診する症例も存在する。また、合併する慢性甲状腺炎、シェーグレン症候群、関節リウマチなどの症状を呈することもある。■ 分類自己抗体の出現パターンにより1型と2型に分類される。1型は抗核抗体や抗平滑筋抗体が陽性で多くは中高年に発症する。2型は抗肝腎ミクロソーム(LKM)-1抗体陽性で、主に若年に発症する。わが国では1型が多く、2型はきわめて少ない。■ 予後AIHの予後は、わが国においては10年生存率90%以上と良好であるが、急性肝不全の対応が予後の改善に重要である。また、肝硬変例はAIHの約20%を占め、その多くは初診時すでに肝硬変である。とくに経過観察中に肝硬変へ進展する例は、非肝硬変例と比較し有意に再燃率、免疫抑制剤の使用率が高く、治療抵抗性であることが報告されている。線維化進行例では肝細胞がんの合併もあることから、他の肝疾患と同様に定期的な画像検査が重要である。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)AIHの診断は、わが国の診断指針(表1)3)ならびにInternational Autoimmune Hepatitis Group(IAIHG)が提唱した改訂版あるいは簡易版国際診断基準が用いられている。改訂版は診断感受性に優れ自己抗体陽性、IgG高値などの所見が目立たない非定型例も拾い上げて診断することができ、簡易版は特異性に優れステロイド治療の決定に参考となる。重症度判定は表2の基準を用いて行う3)。鑑別診断では、ウイルス性肝炎および肝炎ウイルス以外のウイルス感染(サイトメガロウイルス、EBウイルスなど)による肝障害、健康食品による肝障害を含む薬物性肝障害、非アルコール性脂肪性肝疾患、他の自己免疫性肝疾患などとの鑑別を行う。とくに薬物性肝障害や非アルコール性脂肪性肝疾患では抗核抗体が陽性となる症例があり、詳細な薬物摂取歴の聴取や病理学的検討が重要である。最近ではIgG4関連疾患や免疫チェックポイント阻害薬による肝障害との鑑別も課題となっている。表1 自己免疫性肝炎の診断指針・治療指針(2021年)●診断1.抗核抗体陽性あるいは抗平滑筋抗体陽性2.IgG高値(>基準上限値1.1倍)3.組織学的にinterface hepatitisや形質細胞浸潤がみられる4.副腎皮質ステロイドが著効する5.他の原因による肝障害が否定される典型例上記項目で、1~4のうち3項目以上を認め、5を満たすもの非典型例上記項目で、1~4の所見の1項目以上を認め、5を満たすもの表2 自己免疫性肝炎の重症度判定画像を拡大する3 治療 (治験中・研究中のものも含む)治療の基本は、副腎皮質ステロイドによる薬物療法である。プレドニゾロン導入量は0.6mg/kg/日以上とし、中等症以上では0.8mg/kg/日以上を目安とする3)。早すぎる減量は再燃の原因となるため、ゆっくり漸減し、最低量のプレドニゾロンを維持量として長期投与する。ウルソデオキシコール酸は、副腎皮質ステロイドの減量時に併用あるいは軽症例に単独で投与することがある。再燃例では、初回治療時に副腎皮質ステロイドへの治療反応性が良好であった例では、ステロイドの増量または再開が有効である。繰り返し再燃する例やステロイドを使用しにくい例ではNUDT15遺伝子多型検査で問題が無ければアザチオプリン(1~2mg/kg/日、成人では50~100mg/日)の併用を考慮する3)。重症例では、ステロイドパルス療法や肝補助療法(血漿交換や血液濾過透析)などの特殊治療を要することがある。また、非代償性肝硬変例や急性肝不全例では肝移植が有効な治療法となる場合がある。4 今後の展望急性肝炎様に発症する症例では、抗核抗体陽性やIgG高値といった典型像を呈さないことがあるため、疾患特異的な診断マーカーの探索が求められている。ステロイド剤やアザチオプリンで抵抗性あるいは不耐例に対する2nd line治療が課題となっており、海外で多く使用されているミコフェノール酸モフェチルのわが国における使用についても保険適用も含め検討が必要である。5 主たる診療科肝臓内科・消化器内科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報難病情報センター 自己免疫性肝炎(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)難治性の肝・胆道疾患に関する調査研究ホームページ(医療従事者向けのまとまった情報)1)Tanaka A, et al. Hepatol Res. 2019;49:881-889.2)Christen U, et al. Int J Mol Sci. 2016;17:2007.3)厚生労働科学研究費補助金 難治性疾患等政策研究事業「難治性の肝・胆道疾患に関する調査研究」班:自己免疫性肝炎(AIH)の診療ガイドライン(2021年).2022.公開履歴初回2020年2月3日更新2023年7月13日

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全身性強皮症〔SSc:systemic sclerosis〕

1 疾患概要■ 概念・定義全身性強皮症(systemic sclerosis:SSc)は、指趾から左右対称性に中枢側へと及ぶ線維性皮膚硬化を主徴とし、しばしば内臓(肺、食道病変の頻度が高い)にも線維性硬化を伴う慢性疾患である。■ 疫学わが国では約2万人が特定疾患として認定されている。しかし、見逃されている症例や他の膠原病とされている症例、軽症例では患者自身が受診していないことも多く、正確な患者数は不明である。男女比は1:12で、30~50歳代の女性に好発する。まれに、幼児期~小児期、70歳以降の高齢者に発症することもある。■ 病因SScの病因は不明である。本症は、(1)線維性硬化(皮膚におけるコラーゲンの過剰蓄積。内臓病変では臓器傷害部位をコラーゲンが置換する)、(2)末梢循環障害(レイノー現象、指趾潰瘍など)、(3)免疫異常(抗セントロメア抗体、抗トポイソメラーゼ(Scl-70)抗体、抗RNAポリメラーゼIII抗体などの自己抗体産生)の3要素によって特徴付けることができる。ただし、自己抗体そのものが疾患を惹起しているわけではなく、SSc特異的自己抗体を産生しやすい遺伝的背景とSScを発症させる疾患感受性の遺伝的背景とが密接にリンクしていると考えられる。■ 症状初発症状としてはレイノー現象(典型例では、寒冷刺激などによって手指が白色、紫藍色、赤色の3相性に変化する。図1)、手指の腫脹・こわばり(図2)が多い。その後、強指症に代表される皮膚硬化が明確となり、皮膚潰瘍・壊疽、肺線維症(図3)、逆流性食道炎をしばしば伴う。手指の屈曲拘縮、肺高血圧症、心外膜炎、不整脈、右心不全、腎クリーゼ(乏尿と高血圧)、関節炎、筋炎、偽性イレウス(腸閉塞)(図4)、吸収不良、便秘、下痢など合併することがある。図1 レイノー現象による手指の蒼白化画像を拡大する図2 手指の浮腫性硬化画像を拡大する図3 肺線維症画像を拡大する図4 偽性イレウス画像を拡大する■ 分類強皮症にはSScと限局性強皮症(Localized scleroderma)とがある。SScは皮膚硬化が肘・膝を超えるびまん皮膚硬化型(diffuse cutaneous type SSc)と肘・膝より遠位側に留まる限局皮膚硬化型(limited cutaneous type SSc)とに分類される。びまん皮膚硬化型は内臓病変が重症である確率が高い。びまん皮膚硬化型では、抗トポイソメラーゼ(Scl-70)抗体、抗RNAポリメラーゼIII抗体の陽性率が高く、内臓病変は重症化しやすい。限局皮膚硬化型では抗セントロメア抗体の陽性率が高く、生命予後に関わる内臓病変として肺高血圧症がある。SSc特異的自己抗体の有無は病型判別に役立つ。なお、皮膚硬化が部分的に生じる限局性強皮症(localized scleroderma)とSScの限局皮膚硬化型(limited cutaneous type SSc)とは別疾患であり、混同してはならない。■ 予後日本人の成人発症SSc患者の10年生存率は88%である。先に述べたように、びまん皮膚硬化型SScでは内臓病変が重症化しやすく、内臓病変が生命予後を左右する。内臓病変は慢性に進行するわけではなく、重症例は発症5、6年以内に急速に進行することが多い。このような症例を正確に見極め、できるかぎり早期に治療を開始して組織破壊を抑制し、組織損傷を軽減することが重要である。一方、限局皮膚硬化型SScでは、肺高血圧症以外に重篤な内臓病変を合併することは少なく、生命予後について過度の心配は不要である。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)SScは、症例毎に多彩な症状を呈するため、診断に際しては皮膚病変、内臓病変の正確な評価が不可欠である。分類(診断)基準案として厚生労働省研究班(表1)のものと、欧米リウマチ学会のもの(表2)を示す。表2はポイント制であり、早期例の診断に有用性が高い。特に、爪上皮の出血、後爪郭部毛細血管異常は早期診断には重要である(図5)鑑別すべき疾患として、腎性全身性線維症(造影剤を使用された腎不全患者に発症)、汎発型限局性強皮症(斑状強皮症、帯状強皮症などの限局性病変が多発したもの)、好酸球性筋膜炎、糖尿病性浮腫性硬化症、硬化性粘液水腫、ポルフィリン症、移植片宿主病(GVHD)、糖尿病性手関節症、クロウ-フカセ症候群、ウェルナー症候群などが挙げられる(表1)。表1 全身性強皮症診断基準(厚生労働省研究班,2014)◎大基準両側性の手指を超える皮膚硬化◎小基準(1)手指に限局する皮膚硬化*1(2)爪郭部毛細血管異常*2(3)手指尖端の陥凹性瘢痕,あるいは指尖潰瘍*3(4)両側下肺野の間質性陰影(5)抗トポイソメラーゼI(Scl-70)抗体、抗セントロメア抗体、抗RNAポリメラーゼIII抗体の何れかが陽性◎除外基準以下の疾患を除外すること腎性全身性線維症、汎発型限局性強皮、好酸球性筋膜炎、糖尿病性浮腫性硬化症、硬化性粘液水腫、ポルフィリン症、移植片宿主病(GVHD)、糖尿病性手関節症、クロウ-フカセ症候群、ウェルナー症候群【診断の判定】大基準、あるいは小基準(1)および(2)~(5)のうち1項目以上を満たせば全身性強皮症と診断する【注釈】*1:MCP関節よりも遠位に留まり、かつPIP関節よりも近位に及ぶものに限る*2:肉眼的に爪上皮出血点が2本以上の指に認められる、またはcapillaroscopyあるいはdermoscopyで全身性強皮症に特徴的な所見が認められる*3:手指の循環障害によるもので、外傷などによるものを除く表2 アメリカリウマチ学会と欧州リウマチ学会の分類(診断)基準(2013)画像を拡大する図5 後爪郭部の毛細血管拡張と爪上皮内の点状出血画像を拡大する3 治療 (治験中・研究中のものも含む)現時点でSScを完治させる、あるいは進行を完全に抑制できる薬剤はない。しかし、ある程度の効果が期待できる治療薬は揃いつつある。(1)皮膚硬化に対する副腎皮質ステロイド(少量内服、20mg/日以下)(2)肺線維症(間質性肺炎)に対するシクロフォスファミド・パルス療法(点滴静注を1回/月、6回)(3)逆流性食道炎に対するプロトンポンプ阻害薬(内服)(4)末梢循環障害に対するプロスタサイクリンなど(5)肺高血圧症、手指潰瘍再発に対するエンドセリン受容体拮抗薬(内服)(6)腎クリーゼに対するアンギオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬(内服)4 今後の展望強皮症を含む自己免疫性リウマチ性疾患の発症機序は不明である。近年の研究成果からは、自然免疫(innate immunity)の制御異常が注目されている。自然免疫は獲得免疫(acquired immunity)が成立するまでの期間に働く生体防御システムであり、外来性病原体に由来する、あるいは我々自身の体細胞に由来する物質の刺激によって始動する。これらの物質は生体の恒常性を破綻させる可能性があるため、自然免疫システムは炎症を起こしてこれら物質を排除しようとする。この炎症が上手くコントロールされて適切な段階で終息すれば正常状態であるが、炎症が遷延化して臓器損傷が慢性に進行するのが異常状態であり、これこそが自己免疫性リウマチ性疾患の発症機序ではないかと推測されている。したがって、最初にスイッチオンする物質の種類、その後の自然免疫による炎症の強弱によって患者さんごとの多様な病態が形成されると考えられる。根本治療薬の開発は、発症機序の解明を待たねばならないが、炎症制御に関わるさまざまな生体物質を制御する薬剤(分子標的薬)の探索へと向かうであろう。5 主たる診療科皮膚科、膠原病内科(SScを専門とする医師がいることが望ましい)。罹患臓器の重症度によって呼吸器内科、循環器内科、消化器内科などに診療する。※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報難病情報センター全身性強皮症(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)平成26年度厚生労働省科学研究費補助金難治性疾患等政策研究事業「強皮症・皮膚線維化疾患の診断基準・重症度分類・診断ガイドライン作成事業」(医療従事者向けのまとまった情報)公開履歴初回2020年02月10日

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治療方針が明確に、「皮膚真菌症診療ガイドライン2019」

 2019年12月、日本皮膚科学会は「皮膚真菌症診療ガイドライン」を10年ぶりに改訂した。日本において、真菌感染症のなかでも、足白癬の有病率は人口の約21.6%、爪白癬では10.0%と推計される。この10年間に外用剤(クリーム、液剤、スプレー)や新たな内服薬が発売され、治療状況も変化しつつあるため、改訂した皮膚真菌症診療ガイドラインのポイントを紹介する。「皮膚真菌症診療ガイドライン2019」改訂のポイント 皮膚真菌症診療ガイドライン2019によれば、“保険診療上認められていない治療法や治療薬であっても、すでに本邦や海外において医学的根拠のある場合には取り上げ、推奨度も書き加えた。保険適用外使用についても記載した”と記され、各疾患の治療についてはClinical question(CQ)が設定されている。 CQは1~21まで作成され、足白癬や爪白癬をはじめとする真菌症治療に対して、外用・内用療法、各薬剤の有用性について推奨度が示されている。この推奨度は、GRADE分類を参考にしつつも日本皮膚科学会編「皮膚悪性腫瘍診療ガイドライン第2版」で採用されたエビデンスレベル分類と推奨度の分類基準に準拠している。併用注意や投与時の注意事項を簡潔に記載 第1章の「疾患概念と診断・治療の原則」には、手・足白癬治療の中心は外用の抗真菌薬(CQ1)を、角化型や接触皮膚炎を合併しているような難治例に対しては内服の抗真菌薬で治療を行うのも良い(CQ2)旨が記されている。また、手・足白癬の爪白癬合併例や爪白癬単独症例では、経口抗真菌薬を第1選択とすべき(CQ5、6、7)とも記載されている。 皮膚真菌症診療ガイドライン2019中盤では各CQの解説がなされており、CQ1では足白癬に対する外用抗真菌薬の有用性が各薬剤の研究報告とともに書かれているほか、皮膚真菌症診療ガイドライン2019発刊時点で発売されている外用薬の一覧表が公開されている。爪白癬治療については、外用薬だけによる完全治癒率は低いものの、経口抗真菌薬が服用できない患者や希望しない患者に使用される、などの注意点が盛り込まれている。<主なCQを抜粋>*CQ8~21については、ガイドラインを参照。CQ1: 足白癬に抗真菌薬による外用療法は有用か(推奨度:A)CQ2: 足白癬に抗真菌薬による内服療法は有用か(推奨度:A)CQ3: 爪白癬にエフィナコナゾール爪外用液は有用か(推奨度:B)CQ4: 爪白癬にルリコナゾール爪外用液は有用か(推奨度:B)CQ5: 爪白癬にテルビナフィンの内服は有用か(推奨度:A)CQ6: 爪白癬にイトラコナゾールの内服は有用か(推奨度:A)CQ7: 爪白癬にホスラブコナゾールの内服は有用か(推奨度:A) なお、皮膚真菌症診療ガイドライン2019は日本皮膚科学会のホームページ上でも公開されている。

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小児双極性障害患者の不安症合併率~メタ解析

 不安症は、成人の双極性障害への合併や経過に対し影響を及ぼすことが知られている。しかし、小児の双極性障害における不安症の合併に関する研究は限られている。トルコ・コチ大学のHale Yapici Eser氏らは、小児双極性障害と不安症合併に関するメタ解析を実施した。Acta Psychiatrica Scandinavica誌オンライン版2020年1月3日号の報告。 PRISMAガイドラインの定義に基づき、2019年5月までに公表された関連文献をシステマティックに検索した。不安症の関連する特徴および有病率を抽出した。 主な結果は以下のとおり。・データ分析に用いた研究は、37件であった。・不安症の生涯合併率は44.7%であった。各不安症の内訳は以下のとおり。 ●パニック症 12.7% ●全般不安症 27.4% ●社交恐怖 20.1% ●分離不安症 26.1% ●強迫症 16.7%・小児期の研究では、全般不安症と分離不安症の合併率が高かった。・青年期の研究では、パニック症、強迫症、社交恐怖の合併率が高かった。・小児双極性障害と各不安症の合併には、発症年齢、性別およびADHD、物質使用障害、反抗挑発症、素行症の合併が異なる影響を及ぼしていた。 著者らは「小児双極性障害は不安症が合併していることが多く、早期発症患者では、不安症リスクが上昇する。合併や経過の生物心理社会的側面についてのさらなる評価が求められる」としている。

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第16回 新ガイドラインで総エネルギー摂取量の設定法はどう変わったか【高齢者糖尿病診療のコツ】

第16回 新ガイドラインで総エネルギー摂取量の設定法はどう変わったかQ1 高齢糖尿病患者の総エネルギー摂取量の決め方は?1)高齢者の栄養状態をどうとらえるか高齢糖尿病患者の栄養状態は個人差が大きく、低栄養と過栄養が混在しています。J-EDIT研究によると、高齢糖尿病患者の実際の総エネルギー摂取量は、男性で1,802±396kcal(31.0±6.8 kcal/kg体重)、女性で1,661±337kcal(33.7±6.9kcal/kg体重)であり、指示量よりも多くとっていました1)。この値は、これまで高齢者に指示していた標準体重当たりエネルギー指示量の25~30kcal/kg体重と乖離しています。一方、高齢糖尿病患者は低栄養を起こしやすく、体重減少やBMI低値となり、総エネルギー摂取量が低下している人もいます。これまでの考え方では、(身長)2×22で求めた標準体重に活動係数をかけて総エネルギー量を求めていました。その根拠は、高齢者を除いた一般住民の疫学調査から、死亡のリスクが最も低いBMIが22であることに基づいています。また、JDCSとJ-EDITの糖尿病患者のプール解析では、最も死亡リスクが低いBMIは22.5以上、25前後であるという結果でした。一方、75歳以上ではBMI 18.5未満の群の死亡リスクが8.1倍と75歳未満と比べて高くなり、後期高齢者では低栄養が死亡リスクに及ぼす影響が著しいことが示されました2)。高齢糖尿病患者ではサルコペニアやフレイルをきたしやすくなりますが、これらの成因には低栄養が大きく関わっており、とくにエネルギー摂取量とタンパク質摂取量の低下が関係しています。2)総エネルギー摂取量の設定の仕方は?上記のことから、高齢糖尿病患者の総エネルギー摂取量は過栄養だけでなく、低栄養やサルコペニア・フレイル予防の観点も考慮しながら決める必要があります。日本糖尿病学会は「糖尿病診療ガイドライン2019」で食事療法について改訂を行い、標準体重ではなくて、年齢を考慮した目標体重を用いた新たな総エネルギー摂取量の設定法を提案しました3)。総エネルギー摂取量(kcal/日)は目標体重(kg)にエネルギー係数(kcal/kg)をかけて求めます(表1)。目標体重の目安は65歳未満では従来通り[身長(m)]2×22ですが、前期高齢者は[身長(m)]2×22~25、後期高齢者も[身長(m)]2×22~25となっています。身体活動レベルと病態によるエネルギー係数(kcal/kg)は、(1)軽い労作:25~30、(2)普通の労作:30~35、(3)重い労作:35~のように設定します。肥満症やフレイルがある場合は、エネルギー係数を柔軟に変えることができるとされています。画像を拡大する3)目標体重当たりのエネルギー摂取と死亡の関係高齢糖尿病患者の追跡調査であるJ-EDIT研究では、目標体重当たりのエネルギー摂取量と6年間の死亡リスクとの間にU字型の関連が認められました(図1)4)。すなわち、約25kcal/kg体重未満の群と約35kcal以上の群で死亡リスクが上昇し、高齢糖尿病患者のエネルギー摂取量は25~35kcal/目標体重が最も死亡のリスクが低いという結果です。目標体重にかけるエネルギー係数は高齢者では25~35になることがほとんどですので、この結果は目標体重をもとにしたエネルギー量の設定が妥当であることを示唆しています。標準体重当たりの摂取エネルギー量の場合も、同様にU字型の関係が認められました。しかし、最も死亡リスクが小さい摂取エネルギー量は31.5~36.4kcal/kgであり、25~30kcal/kg標準体重で摂取エネルギー量を設定すると、摂取量不足になる可能性があります。また、目標体重当たりのエネルギー摂取と死亡の関係は、実体重と死亡との関係に近似していますので、これも目標体重当たりで考えた方がいいという理由の1つになります。画像を拡大する4)従来よりも指示量は増える? 実際に総エネルギー量を算出してみる目標体重による計算法では、従来の標準体重による計算法と比べて総エネルギー摂取量の指示量が多くなることが予想されます。身長150cm、体重53kgの76歳の女性で、目標体重が1.5×1.5×24=54.0kgとなったとき、軽い運動を行っている場合には30をかけてエネルギー摂取量は1,620kcalとなり、1,600kcalを処方することになります。従来であれば標準体重49.5 kgから28をかけて1,386kcalとなり、1,400kcalの食事を処方したと思われ、200~300kcal多い食事を処方することになります。こうした目標体重によるエネルギー量の設定法は、高齢者においてメタボ対策から低栄養・フレイル対策にシフトしていく観点からみると有用である可能性があります。しかし、現在の食事量や体重をみながら段階的に設定することと、身体機能、心理状態、体重、血糖コントロール状況、食事内容などの推移を見ながら、適宜変更していく必要があります。また、十分に摂取できない高齢者に対して、エネルギー摂取量を増やす方法についても個別に検討すべきであると思います。Q2 タンパク質摂取量はどのように決めますか?1)フレイル・サルコペニア予防の観点からは?フレイルやサルコぺニアの発症や進行を予防するためには、十分なタンパク質の摂取が大切です。欧州栄養代謝学会(ESPEN)のガイドラインでは、高齢者の筋肉の量と機能を維持するためには少なくとも1.0~1.2 g/kg体重/日のタンパク質摂取が推奨されています5)。また、急性疾患または慢性疾患がある高齢者では1.2~1.5 g/kg体重のタンパク質摂取が勧められています。高齢糖尿病女性の3年間の追跡調査でも1.0g/kg体重以上のタンパク質摂取の群の方が1.0g/kg体重未満の群と比べて膝進展力低下や身体機能低下が少ないという結果が得られています6)。2)タンパク質摂取を勧める理由タンパク質を十分にとる理由は、タンパク質中のアミノ酸であるロイシンが、筋肉のタンパク質合成に働くためです。ロイシンは肉類だけでなく、魚、乳製品、卵、大豆製品にも多いので、さまざまなタンパク質をバランス良くとるよう勧めることが大切です。なかなかタンパク質がとれない高齢者には、温泉たまご、魚の缶詰、プロセスチーズなどタンパク質やロイシンの多い食品を付加するような指導を行います。朝のタンパク質摂取の割合が低いとフレイル・サルコペニアになりやすいという報告もあるので、朝にタンパク質をとることを勧めるといいと思います。3)タンパク質摂取と腎機能との関係一方、タンパク質の摂取量を増やした場合には腎機能の悪化が懸念されます。しかしながら、高齢者のタンパク質摂取増加と腎機能低下との関係は明らかではありません。高齢者の追跡調査ではタンパク質摂取量とシスタチンCから求めたeGFRcys低下との関連は認められませんでした7)。顕性アルブミン尿がない2型糖尿病患者6,213人(平均年齢65歳)の追跡調査でもタンパク質摂取の最も低い群ではむしろ、CKDの悪化が見られています8)。高齢者のタンパク質制限に関してもエビデンスが乏しく、13のRCT研究のメタ解析ではタンパク質制限がeGFR低下を抑制しましたが9)、うち高齢者の研究は2件のみです。進行したCKDを合併した糖尿病患者のタンパク質制限は腎機能の悪化を抑制したという報告もありますが10)、MDRD trialのようにタンパク質制限群では死亡率の増加が認められた報告もあります11)。また、本邦の糖尿病を含むCKD患者にタンパク質制限を行った報告では65歳以上ではタンパク質摂取が最も多い群で死亡リスクが減少しています12)。したがって、重度の腎機能障害がなければ、フレイル・サルコぺニア予防のためには充分なタンパク質を摂ることが望ましいように思われます。腎症4期の患者では腎機能、骨格筋量、筋力などの変化をみながら、タンパク質制限か十分なタンパク質摂取の確保かを個別に判断する必要があります。また、高齢者ではタンパク質制限のアドヒアランスが不良であることが多いことにも注意する必要があります。1)Yoshimura Y, et al. Geriatr Gerontol Int. 2012; Suppl: 29-40.2)Tanaka S, et al. J Clin Endocrinol Metab. 2014;99: E2692-2696.3)日本糖尿病学会 編著.糖尿病診療ガイドライン2019.南江堂,東京, 31-55, 2019.4)Omura T, et al. Geriatr. Gerontol. Int. 2019;1–7.5)Deutz NE, et al. Clin Nutr. 2014; 33:929-936.6)Rahi B, et al. Eur J Nutr. 2016; 55:1729-1739.7)Beasley JM, et al. Nutrition. 2014; 30:794-799.8)Dunkler D, et al. JAMA Intern Med. 2013; 173:1682-1692.9)Nezu U, et al. BMJ Open. 2013 May 28 [Epub ahead of print].10)Giordano M, et al. Nutrition. 2014 Sep;30:1045-9.11)Menon V, et al. Am J Kidney Dis. 2009 Feb;53:208-17.12)Watanabe D, et al. Nutrients. 2018 Nov 13;10: E1744.

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早期前立腺がん、野菜摂取量増加で進行リスクへの影響は/JAMA

 監視療法で管理されている早期前立腺がん男性では、野菜摂取量を増やす行動的介入により、前立腺がんの進行リスクは抑制されないことが、米国・カリフォルニア大学サンディエゴ校のJ Kellogg Parsons氏らが行った「MEAL試験」(CALGB 70807[Alliance])で示された。研究の詳細は、JAMA誌2020年1月14日号に掲載された。米国臨床腫瘍学会の診療ガイドラインでは、野菜が豊富な食事は前立腺がんサバイバーの転帰を改善するとして積極的な摂取が推奨されている。一方、この推奨は専門家の意見や前臨床研究、観察研究のデータに基づいており、実践的な臨床エンドポイントに重点を置いた無作為化臨床試験は行われていなかった。TTPを評価する米国の無作為化試験 本研究は、米国の91の泌尿器科および腫瘍内科クリニックが参加した無作為化第III相試験であり、2011年1月~2015年8月の期間に患者登録が行われた(米国国立がん研究所[NCI]などの助成による)。 対象は、年齢50~80歳、ベースライン前の24ヵ月以内に前立腺生検(≧10コア)で前立腺腺がん(70歳未満:国際泌尿器病理学会[ISUP]のgrade group=1、70歳以上:ISUPのgrade group≦2)が証明され、ステージは≦cT2aで、血清前立腺特異抗原(PSA)<10ng/mLの男性であった。 被験者は、電話で毎日7サービング以上の野菜の摂取を促す行動的介入を受ける群(介入群)、または食事と前立腺がんに関する書面による情報を受け取る対照群に無作為に割り付けられた。 主要アウトカムは無増悪期間(TTP)とした。増悪は、PSA≧10ng/mL、PSA倍加時間<3年、フォローアップ中の前立腺生検で悪性度の進行(腫瘍量の増加またはグレードの進行)と定義された。影響みられず、ただし検出力が不十分であった可能性も 478例(平均年齢64[SD 7]歳、平均PSA 4.9[2.1]ng/mL)が登録され、443例(93%、介入群226例、対照群217例)が主解析に含まれた。TTPイベントは245例(介入群124例、対照群121例)で発生した。 TTPには、両群間で差は認められなかった(補正前ハザード比[HR]:0.96、95%信頼区間[CI]:0.75~1.24、p=0.76、補正後HR:0.97、95%CI:0.76~1.25、p=0.84)。24ヵ月時のKaplan-Meier法による無増悪率は、介入群が43.5%(95%CI:36.5~50.6)、対照群は41.4%(34.3~48.7)であった(群間差:2.1%、95%CI:-8.1~12.2)。 24ヵ月のフォローアップ期間中に積極的な前立腺がん治療へ移行した患者は、介入群が6例(2.7%)、対照群は4例(1.8%)であった(p=0.75)。治療期間のHRは1.38(95%CI:0.39~4.90、p=0.61)だった。 フォローアップ期間24ヵ月の時点で、ベースラインからの全体の野菜サービング数(/日)の平均変化は、介入群が2.01と、対照群の0.37に比較して有意に増加した(p<0.001)。また、アブラナ科野菜のサービング数(0.50 vs.0.01/日、p<0.001)および食事中の総カロテノイド量(9,687.87 vs.324.73μg/日、p<0.001)の平均変化も、介入群で増加の程度が大きかった。 著者は、「これらの知見は、監視療法で管理されている早期前立腺がん患者では、前立腺がんの進行を抑制する目的での野菜摂取量を増やす行動的介入の使用を支持しないが、臨床的に重要な差を同定するには、この試験の検出力は不十分であった可能性がある」としている。

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