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急性期および治療抵抗性統合失調症に対する抗精神病薬治療戦略~ガイドラインのレビュー

 慶應義塾大学の下村 雄太郎氏らは、急性期および治療抵抗性統合失調症に対する抗精神病薬の治療戦略に関する現状を要約するため、ガイドラインおよびアルゴリズムのシステマティックレビューを実施した。Schizophrenia Research誌オンライン版2021年9月8日号の報告。治療抵抗性統合失調症に対するクロザピンの使用を多くのガイドラインが推奨 急性期および治療抵抗性統合失調症に対する抗精神病薬治療に関する臨床ガイドラインおよびアルゴリズムを特定するため、MEDLINEおよびEmbaseを用いて、システマティックに文献検索を行った。治療反応不良(抗精神病薬の増量や切り替えなど)や治療抵抗性を含む抗精神病薬治療戦略の推奨事項に関する情報を収集した。 主な結果は以下のとおり。・2011年以降に公開された、各国の急性期および治療抵抗性統合失調症治療のガイドラインやアルゴリズムを17件特定した。・急性期および治療抵抗性統合失調症に対する抗精神病薬の投与量に関しては、ほとんどのガイドライン(11件中10件)において、低用量または有効最低用量から開始し、漸増することとしていた。・治療反応不良例に対する抗精神病薬治療戦略に関しては、すべてのガイドライン(9件中9件)において、承認用量範囲の最大用量に向かって抗精神病薬の増量が推奨されていた。・例外的な場合に、承認用量範囲を超えた抗精神病薬の増量に肯定的であったガイドラインは5件、否定的であったガイドラインは10件であった。・多くのガイドライン(17件中16件)において、治療反応不良例には、他の抗精神病薬への切り替えを推奨していたが、クロザピン以外の抗精神病薬については、エビデンスが十分でないことが、いくつかのガイドラインにおいて指摘されていた。・すべてのガイドライン(17件中17件)において、2種類の抗精神病薬で治療反応が不十分であった場合に、クロザピンの使用を推奨していた。・4件のガイドラインでは、クロザピンの早期使用を推奨していたが、あくまで第3選択薬としてであった。 著者らは「現在利用可能なガイドラインやアルゴリズムでは、急性期統合失調症治療に対し治療反応が不良な場合には、抗精神病薬の増量や他の抗精神病薬への切り替えが推奨されていた。とくに、治療抵抗性統合失調症に対するクロザピンの使用が推奨されていた」としている。

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肥大型心筋症〔HCM:hypertrophic cardiomyopathy〕

1 疾患概要■ 概念・定義肥大型心筋症(hypertrophic cardiomyopathy:HCM)は、主に遺伝的変異を原因として不均一な心肥大を左室や右室に来し、心機能低下をもたらすとされる特発性心筋症であり、わが国では指定難病とされている。臨床的には左室流出路閉塞を来す閉塞性obstructive HCMと来さない非閉塞性non-obstructive HCMに分類され、前者では収縮期に左室内圧較差が生じることが臨床的に問題となることが多いのに対し、後者は予後が比較的安定しているとされている。■ 疫学日本全国に推計患者数が2万1,900人、有病率は人口10万人あたり17.3人と報告されている(1998年の全国疫学調査)。男女比は2.3:1と男性に多い。■ 病因心筋収縮関連蛋白の遺伝子異常が主な病因であり、2019年時点では11の原因遺伝子と、サルコメアを構成するタンパク質をコードする遺伝子の1,500以上の変異が報告されている。しかし、遺伝子異常が特定されない症例も多くみられ(20~50%)、病因に関しては不明な点も多い。 ■ 症状閉塞性肥大型心筋症では胸部症状(労作時呼吸困難や相対的心筋虚血による胸痛・胸部絞扼感)や神経学的症状(起立時のめまい・ふらつき、眼前暗黒感、失神)が認められる。非閉塞性肥大型心筋症患者は無症候であることも多く、健康診断での心電図などを契機にわが国では発見される場合も多い。■ 分類肥大型心筋症は以下の5つのタイプに分類される:1.閉塞性肥大型心筋症(HOCM)HOCM(basal obstruction):安静時に30mmHg以上の左室流出路圧較差を認める。HOCM(labile/provocable obstruction):安静時に圧較差は30mmHg未満であるが、運動などの生理的な誘発で30mmHg以上の圧較差を認める。2.非閉塞性肥大型心筋症(non-obstructive HCM):安静時および誘発時に30mmHg以上の圧較差を認めない。3.心室中部閉塞性心筋症(MVO):肥大に伴う心室中部での30mmHg以上の圧較差を認める。4.心尖部肥大型心筋症(apical HCM):心尖部に限局して肥大を認める。5.拡張相肥大型心筋症(dilated phase of HCM; D-HCM):肥大型心筋症の経過中に,肥大した心室壁厚が減少・菲薄化し、心室内腔の拡大を伴う左室収縮力低下(左室駆出率50%未満)を来し、拡張型心筋症様病態を呈する。■ 予後1982年の厚生省特定疾患特発性心筋症調査研究班の報告では肥大型心筋症の5年生存率および10年生存率は、それぞれ91.5%と81.8%であった。死因として若年者では心臓突然死が多く、致死性不整脈、失神・心停止の既往、突然死の家族歴、左室最大壁厚>30mmのうち2項目以上で突然死リスクが高いとされる。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)■ 心エコー検査心室中隔の肥大、非対称性中隔肥厚(拡張期の心室中隔厚/後壁厚≧1.3)など心筋の限局性肥大、左室拡張能障害(左室流入血流速波形での拡張障害パターン、僧帽弁輪部拡張早期運動速度低下)を認める。閉塞性肥大型心筋症では、僧帽弁の収縮期前方運動、左室流出路狭窄を認める。■ 心臓MRI検査ガドリニウム造影剤を用いた遅延相でのガドリニウム増強効果(Late Gadolinium Effect)は心筋線維化の存在を反映する。■ 心臓カテーテル検査圧測定で左室拡張末期圧上昇、左室−大動脈間圧較差(閉塞性)、Brockenbrough現象(期外収縮発生後の脈圧減少)が認められる。■ 心内膜下心筋生検他の原因による心筋肥大を鑑別する上で重要であり、病理検体で肥大心筋細胞、心筋線維化(線維犯行および間質線維化)、心筋細胞の錯綜配列などが認められる。■ 運動負荷検査心肺運動負荷試験により、肥大型心筋症症例では症状の出現閾値、Peak VO2を評価することで適切な運動制限を設定することが可能となる。■ 遺伝子検査ルーチンでの遺伝子検査は推奨されていないが、左室肥大を引き起こすことが知られている他の遺伝的疾患(ファブリー病、ライソゾーム蓄積病など)の除外診断のため、あるいは患者の一等親血縁者などを対象として希望があれば実施されることが多い。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)閉塞性肥大型心筋症に対する現在の治療は、β遮断薬、非ジヒドロピリジン系カルシウム拮抗薬、ジソピラミドなどによる対症療法が中心であるが、後述のmavacamtenが近い将来使用可能になることが予想される。薬物療法に抵抗性を示す症例では、外科的中隔切除術やアルコールを用いた中隔焼灼術(percutaneous transluminal septal myocardial ablation:PTSMA)などの侵襲的中隔縮小療法を検討するが、リスクを伴うことから事前に入念な評価を要する。また、心臓突然死リスクを評価することは重要であり、心停止の既往、持続性心室頻拍、原因不明の失神、左室壁30mm以上、2014ESCガイドライン計算式(HCM Risk-SCD Calculator)でハイリスク(5年間のイベント予測が6%より大きい)、第1度近親者の突然死、運動時の血圧反応異常などが認められる場合には致死的不整脈による心臓突然死リスクが高く、植込み型除細動器の植え込みを検討する。4 今後の展望肥大型心筋症に対しての根本的治療として世界初の疾患特異的治療薬であるmavacamtenの登場によってパラダイム・シフトを迎えている。mavacamtenは、肥大型心筋症筋組織のアクチン・ミオシンの架橋形成を抑制する低分子選択的アロステリック阻害剤であり、心筋の過剰収縮を低下させ、心筋エネルギー消費を改善するまったく新しい機序の経口薬である。EXPLORER-HCM試験では、症候性の閉塞性肥大型心筋症(左室流出路における圧較差50mmHg以上)の成人患者を対象とし、mavacamtenまたはプラセボに1対1で無作為に割り付け、それぞれを30週間投与し、主要評価項目である(1)最高酸素摂取量(peak VO2)が1.5mL/kg/分以上増加し、かつNYHAクラスが1つ以上低下した場合、または(2)NYHAクラスの悪化を伴わずにpeak VO2が3.0mL/kg/分以上の増加が、プラセボ投与128例中22例(17%)に対し、mavacamten投与123例中45例(37%)で達成し、有意な改善を認めており、2022年以降米国などで市販が望まれている。5 主たる診療科循環器内科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報難病情報センター 肥大型心筋症(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)日本循環器学会/日本心不全学会合同ガイドライン 心筋症診療ガイドライン(2018年改訂版)(医療従事者向けのまとまった情報)2014 ESC HCM Risk-SCD Calculator(医療従事者向けのまとまった情報)1)Maron BJ. N Engl J Med. 2018;379:655-668.2)Ommen SR, et al. Circulation. 2020;142:e533-e557.3)Olivotto I,et al. Lancet. 2020;396:759-769.公開履歴初回2021年10月14日

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造血器腫瘍における遺伝子パネル検査、現状と今後の課題は?/日本血液学会

 2019年6月に固形がんに対する遺伝子パネル検査が保険適用となり実臨床で使われるようになっているが、リキッドバイオプシーを使ったパネル検査が登場し、造血器腫瘍においても数年内にパネル検査が保険適応となる見込みだ。2021年9月23~25日にオンライン開催された第83回日本血液学会学術集会では「血液内科におけるゲノム医療の現状と課題」と題するシンポジウムが行われ、現状の課題と今後について情報が共有された。 冒頭、国立がん研究センター研究所の片岡 圭亮氏が「造血器腫瘍におけるパネル検査の活用:診断・予後予測」と題する発表を行った。この中で片岡氏は「固形がんのパネル検査は遺伝子異常を発見して適合する薬を見つける、いわゆるコンパニオン診断が主な目的なのに対し、造血器腫瘍では治療のほか、診断と予後予測にも使われる。現在、固形がんのパネル検査は標準治療後の患者が対象だが、造血器腫瘍では初発段階から使えることが望ましい」と説明した。さらに「造血器腫瘍で多く発生する遺伝子異常は固形がんとは異なるため、新たな専用パネルが必要となる」と述べた。 すでにがんセンターでは、2020年から大塚製薬や他医療機関と合同で国産の造血器腫瘍専用パネルの開発と臨床現場への応用を行う試験的プロジェクトを開始しており、この試験の中間解析からも、造血器腫瘍における遺伝子パネル検査の結果は、治療よりも診断・予後予測に役立つ確率が高く、とくに骨髄系腫瘍においてその傾向が顕著であることが裏付けられたという。 後半は、岡山大学の遠西 大輔氏を座長として、現場でパネル検査を運用する医師も加わり、臨床現場での応用と今後の課題をテーマとしたパネルディスカッションが行われた。現時点での造血器腫瘍におけるパネル検査は保険適用外であり、がん関連3学会が合同で作成する「次世代シークエンサー等を用いた 遺伝子パネル検査に基づくがん診療ガイダンス」でも造血器腫瘍は対象外となっている。日本血液学会が独自に「造血器腫瘍ゲノム検査ガイドライン」を発表・改訂しているが、患者側への説明事項やエキスパートパネルの開催方法などの実務面については今後議論される段階だ。 このような状況下で試験的にパネル検査を行う各医師からは、「エキスパートパネルがないので、検査結果が実際に診療に役立てられているかがわからない」「生殖細胞系列変異が検出された場合、どこまで患者さんに伝えるべきか」といった声が上がった。これに対し、パネル検査が先行している固形がん、とくに遺伝子外来・カウンセリングを重点的に行っている小児がん分野の取り組みから学ぶことが多いのではないか、という意見が出されていた。

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切り傷の縫合処置(皮下縫合・真皮縫合)【漫画でわかる創傷治療のコツ】第6回

第6回 切り傷の縫合処置(皮下縫合・真皮縫合)《解説》さて、道具も準備できたことですし、いよいよ縫合処置に入りましょう。まずは皮下縫合:目的は死腔をなくすこと!皮下縫合では、真皮縫合より太い糸(3-0か4-0)、大きな針を選ぶことが多いです。脂肪組織は脆弱で組織を大きくつかまないとすぐに裂けてしまうため、3−5号の針(できれば丸針)、持針器もマチュー型のようにしっかり把持できるものがいいです。糸について、皮下縫合では吸収糸を主に使いますが、感染リスクが低いのはモノフィラメント糸、組織の緊張が強い場合に緩まず縫合しやすいのはマルチフィラメント糸です。しかし実際のところ、外来での縫合処置のために道具をたくさん用意することは難しく、真皮縫合と皮下縫合で同じ縫合糸や針を使うことが多いです(よって、へガール型持針器とモノフィラメント縫合糸がよく使われます)。ポイントとしては、組織が裂けやすいので適切な力加減で縫合すること。きつく結び過ぎると血行障害を起こし、脂肪壊死から融解が起こってしまいます。死腔がなくなる程度の結紮に留め、死腔の残存が懸念される場合はドレナージ吸引装置(通称:サクションドレーン)などの使用を検討しましょう。※吸引圧で死腔がなくなるため、皮下縫合の必要もなくなり有用ですが、通院での処置が困難次に真皮縫合:目的は減張!真皮縫合では、通常吸収性のモノフィラメント合成糸や非吸収性のナイロン糸が使われます。術後6週間がコラーゲン形成のピークであり、この時点までしっかり抗張力(糸の張力)が保たれていることが大切です。吸収糸は時間の経過とともに抗張力が減少していきますし、表皮縫合の抜糸後にも緊張がかかり傷の幅が徐々に開くので、傷の程度に応じて糸の種類を選択しましょう。また、真皮の浅い部分に糸をかけると後で露出してくることもあるので注意が必要です。真皮は組織が強固で硬いので、針は角針を用いることが多いです。一般的には針付き縫合糸(針と糸がくっ付いているもの)を使用します。外来の縫合では、針と糸が別々の弾機針などはほぼ使いません。また、意外に教わる機会がありませんが、糸の太さは体幹・四肢では5−0、顔面では5−0から6−0が目安です。針も小さいので、持針器はへガール型や丹下式を用います。鑷子も小さめのもの(アドソンなど)や、外反しやすいスキンフックが使いやすいです。針を刺す前に皮膚を外反させるのは重要ですが、その際に皮膚をガッチリつかまないようにしましょう。参考1)波利井 清紀ほか監修. 形成外科治療手技全書I 形成外科の基本手技1. 克誠堂出版;2016.2)菅又 章 編. PEPARS(ペパーズ)123 実践!よくわかる縫合の基本講座<増大号>. 全日本病院出版会;2017.3)上田 晃一 編. PEPARS(ペパーズ)88 コツがわかる!形成外科の基本手技―後期臨床研修医・外科系医師のために―. 全日本病院出版会;2014.4)日本形成外科学会, 日本創傷外科学会, 日本頭蓋顎顔面外科学会編. 形成外科診療ガイドライン2 急性創傷/瘢痕ケロイド. 金原出版;2015.

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COVID-19外来患者へのロナプリーブ、第III相試験結果/NEJM

 重症化リスクを有する新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の外来患者の治療において、REGEN-COV(モノクローナル抗体カシリビマブとイムデビマブの混合静注薬、商品名:ロナプリーブ)はプラセボと比較して、COVID-19による入院/全死因死亡のリスクを低減するとともに、症状消退までの期間を短縮し、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)のウイルス量を迅速に低下させることが、米国・Regeneron PharmaceuticalsのDavid M. Weinreich氏らの検討で示された。研究の成果は、NEJM誌オンライン版2021年9月29日号に掲載された。外来患者4,000例の無作為化プラセボ対照第III相試験 本研究は、COVID-19外来患者におけるREGEN-COVの有用性の評価を目的とする適応的デザインを用いた第I~III相の二重盲検無作為化プラセボ対照比較試験であり、今回は、第III相試験の初期結果が報告された(米国・Regeneron Pharmaceuticalsなどの助成を受けた)。 対象は、年齢18歳以上、SARS-CoV-2陽性と診断され、COVID-19の重症化のリスク因子を1つ以上有する非入院患者であった。被験者は、いくつかの用量のREGEN-COVまたはプラセボを単回静脈内投与する群に無作為に割り付けられ、29日間のフォローアップが行われた。 事前に規定された階層的解析法を用いて、エンドポイントであるCOVID-19による入院または全死因死亡、症状消退までの期間、安全性の評価が行われた。 解析には、2020年9月24日~2021年1月17日の期間に米国とメキシコの施設で登録された4,057例(修正最大解析対象集団[mFAS])が含まれた。全体の年齢中央値は50歳(IQR:38~59)、14%が65歳以上で、49%が男性、35%がヒスパニック系であり、最も頻度の高い重症化のリスク因子は肥満(BMI≧30、58%)、年齢50歳以上(52%)、心血管疾患(36%)であった。重篤な有害事象の発現はプラセボより少ない 投与後29日の時点でのCOVID-19による入院または全死因死亡は、REGEN-COV 2,400mg(カシリビマブ1,200mg+イムデビマブ1,200mg)群では1,355例中18例(1.3%)で発生し、プラセボ群の1,341例中62例(4.6%)に比べ有意に低かった(相対リスク減少率[1から相対リスクを引いた値]:71.3%、p<0.001)。 また、REGEN-COV 1,200mg(同600mg+600mg)群では736例中7例(1.0%)でCOVID-19による入院または全死因死亡が発生し、プラセボ群の748例中24例(3.2%)に比し有意に良好だった(相対リスク減少率:70.4%、p=0.002)。 同様に、ベースラインの血清SARS-CoV-2抗体陽性例を含む全サブグループで、REGEN-COV群はプラセボ群に比べ、COVID-19による入院または全死因死亡の低下が認められた。 一方、症状消退までの期間中央値は、REGEN-COV群の2つの用量(1,200mg、2,400mg)ともプラセボ群よりも短縮され、4日早く消退した(2つの用量群とも10日vs.プラセボ群14日、いずれもp<0.001)。 また、ウイルス量は、2つの用量のREGEN-COV群とも、プラセボ群に比べ迅速に減少した。すなわち、ウイルス量のベースラインから7日までの最小二乗平均値のプラセボ群との差は、1,200mg群が-0.71 log10コピー/mL(95%信頼区間[CI]:-0.90~-0.53)、2,400mg群は-0.86 log10コピー/mL(-1.00~-0.72)であった。 重篤な有害事象の頻度は、プラセボ群が4.0%と、REGEN-COV 1,200mg群の1.1%、2,400mg群の1.3%に比べて高かった(Grade2以上の注入に伴う反応の発生率は3群とも0.3%未満)。死亡の原因となった有害事象の頻度は、プラセボ群が0.3%であり、1,200mg群の0.1%、2,400mg群の<0.1%に比し高率だった。REGEN-COV群の2つ用量の安全性プロファイルはほぼ同様で、安全性のイベントに目立った不均衡はなかった。 REGEN-COVの2,400mg投与は、2020年11月、軽症~中等症の高リスクCOVID-19外来患者の治療において、米国食品医薬品局の緊急使用許可(EUA)を取得しており、本試験で1,200mgでも2,400mgと同程度の入院/死亡リスクの低減とウイルス学的有効性が示されたことから、2021年6月、2,400mgに代わり1,200mgでEUAを受けた。また、REGEN-COVは、高リスクCOVID-19外来患者の治療法として、米国国立衛生研究所(NIH)の診療ガイドラインにも含まれている。 著者は、「軽症例などではさまざまな程度で回復までの期間が長引くとのエビデンスが増えているため、今回のREGEN-COVはCOVID-19からの回復を早めるとの知見は、患者にとって新たな利点になると考えられる」としている。

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降圧薬の第1選択としての4剤合剤(解説:石川讓治氏)

 心血管イベントを抑制するうえで、高血圧を速やかに改善し、確実に目標血圧レベルまで到達することが重要である。わが国の日常臨床で行われている1剤ずつ増量していく方法では、目標血圧レベルへの到達に時間を要する場合があり、その間の心血管イベントリスク増加が問題になっている。近年、降圧薬の合剤が広く使用されるようになり、降圧薬の第2、第3の選択枝として、ポリファーマシーの改善の目的で臨床応用されている。わが国では3剤合剤も使用可能であるが、その使用法に厳しい制限がされており、臨床の現場で使用するうえで困難を感じる場合も多い。 本研究は、降圧薬の第1選択薬として、それぞれ4分の1量の4剤合剤(イルベサルタン37.5mg+アムロジピン1.25mg+インダパミド0.625mg+ビソプロロール2.5mg)と通常量の単剤(イルベサルタン150mg)の降圧度と忍容性を12ヵ月間評価した研究である。ノンレスポンダーが存在する可能性のあるアンジオテンシンII受容体阻害薬がコントロール群に使用されており、4剤合剤投与群に若干有利な研究デザインになっているようにも思われるが、診察ごとに目標血圧に達するまで降圧薬を追加できるプロトコールになっている(アムロジピンから追加)。当然、コントロール群において追加された降圧薬は多かったが、それにもかかわらず12ヵ月の時点で、4剤合剤群では診察室の自動血圧測定における収縮期血圧で6.9mmHg低値であり、目標血圧への到達率は76%(コントロール群58%)と、有意差(p<0.001)が認められた。以前の2剤合剤、3剤合剤の研究同様に降圧薬の第1選択薬としての合剤の有効性が示された。問題となる副作用に関しては、4剤合剤群においてめまい(dizziness)が多い傾向が認められ(p=0.07)、有意にカリウム値が低く、尿酸、空腹時血糖、クレアチニン値が高値であったが、重篤な副作用は2群間で有意差は認められなかった。 降圧薬の第1選択薬として、合剤を使用することは欧米の高血圧治療ガイドラインではすでに認められており、そのための対象患者や血圧基準が記載されている。しかし、わが国では、降圧薬合剤の添付文書において第1選択薬として使用しないように記載されているものが多い。心血管イベントの抑制のためには降圧薬合剤を第1選択にすることの有効性が副作用による不利益を上回ると考えられているが、万が一の副作用を重要視するわが国の風潮が影響しているのであろうか? 高齢化の進んだわが国において、降圧薬合剤を第1選択とできるようにするためには、より厳格な適応基準が必要であり、薬のリスクに対する患者や社会への説明と理解も必要であろう。また、4剤合剤投与で副作用が起こった場合に実地医師がどのように対応するかといった指針も必要になるものと思われる。

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代用塩(Salt substitute)の摂取と心血管イベントや死亡の減少(解説:石川讓治氏)

 食塩の過剰摂取が高血圧の原因の1つであり、日本高血圧治療ガイドライン2019においてもDASH食などの研究に基づいて食塩6g/日、カリウムやマグネシウムを含む野菜や果物を食べることが推奨されている。しかし、日本人の食塩の摂取量はその2倍近くあり、高血圧患者における食事療法は困難を要する。 本研究は中国のへき地において、高血圧を有し脳卒中既往もしくは年齢60歳以上であった対象者に対して(平均年齢65歳程度、BMI 25弱)、代用塩(75%の塩化ナトリウムと25%の塩化カリウム)を使用した地域と通常の食塩を使用した地域に無作為割り付けし、平均4.74年間追跡し、総死亡、心血管死亡、脳卒中発症、非致死性急性冠症候群発症のすべてのイベントにおいて、代用塩を使用した対象者において通常の塩を使用した対象者よりも有意に少なかったことを報告した。本研究において、割り付け群が研究対象者にオープンにされた効果の影響も否定できないが、降圧効果によって心血管イベントのみならず総死亡まで有意に低下していることは驚きであった。オーストラリアの研究費を用いて中国のへき地で研究が行われてはいるが、塩分摂取量が多いアジア人でイベント抑制効果が認められており、わが国においても代用塩の普及が進む可能性がある。代用物として塩化カリウムが使用されており、高齢化の進むわが国では腎機能低下者における高カリウム血症による突然死の増加が危惧されるが、本研究においては有意な突然死の増加は認められなかった。 スーパーマーケットでは、さまざまな減塩調味料があり代用塩も売られている。味や値段はどうだろうかと興味がわいた。腎機能障害のある人でも摂取しやすくするため塩化カリウムは含まれていないことを大きく記載しているものも認められた。自治医科大学が日本のへき地で行ったJMSコホート研究の対象者は脳卒中発症が心筋梗塞発症より多く、本研究の対象者より肥満者が少なかった。そのため本研究の結果をすぐに日本人に当てはめることは難しいかもしれないが、高齢化が進み、塩分摂取量が多く、肥満度の少ない、わが国においても同様の結果が認められるかどうか今後の研究が待たれる。

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術後化療なしのTN乳がん患者、TILとPD-L1で予後を層別化可能/ESMO2021

 早期トリプルネガティブ(TN)乳がんにおいて、腫瘍浸潤リンパ球(TIL)とPD-L1を組み合わせると、術後補助化学療法を受けていないTN乳がん患者の予後を層別化できることが示された。間質TIL(sTIL)が30%以上かつPD-L1陰性の患者は予後が良好であり、補助化学療法を省略できる可能性がある。国立がん研究センター中央病院の矢崎 秀氏らは、補助化学療法を受けていない早期TN乳がん患者の予後と、TILとPD-L1、Tertiary lymphoid structures(TLS)の関連を検討した後ろ向き解析の結果を、欧州臨床腫瘍学会(ESMO Congress 2021)で発表した。 2001~15年に国立がん研究センター中央病院で術後補助化学療法を受けなかったStageI~IIIのTN乳がん患者を特定、sTIL、TLSおよびPD-L1発現状態を手術標本で評価した。sTILとTLSはそれぞれガイドラインと以前の研究に従って評価され、免疫細胞におけるPD-L1の発現状態は、VENTANASP142アッセイによって評価された。 sTIL-highを≧30%、PD-L1陽性(+)をIC≧1と定義し、4つのグループに分類した:sTIL-high/PD-L1(+)、sTIL-high/PD-L1(+)、sTIL-high/PD-L1(-)、sTIL-high/PD-L1(-)。コックス比例ハザードモデルを使用して、sTIL、TLS、およびPD-L1の予後予測因子としての価値を検討した。 主な結果は以下のとおり。・125例が解析対象とされ年齢中央値は68(32~99)歳、69%がT1、85%がリンパ節転移陰性だった。・sTILの中央値は10%(IQR:0~30)であり、35例(28%)はsTILが30%以上だった。・36例(29%)がPD-L1陽性、63例(50%)がTLSを示した。・sTIL-high/PD-L1(+)が28例(22.4%)、sTIL-low/PD-L1(+)が8例(6.4%)、sTIL-high/PD-L1(-)が7例(5.6%)、sTIL-low/PD-L1(-)が82例(65.6%)だった。・多変量解析の結果、sTIL≧30%は無浸潤疾患生存(iDFS)率の改善と有意に関連し(HR: 0.19、95%信頼区間[CI]:0.059~0.62、p=0.006)、PD-L1陽性はiDFSの悪化と有意に関連していた(HR:3.39、95%CI:1.07~10.8、p=0.039)。一方で、TLSとiDFSの間に関連はみられなかった(HR:0.95、95%CI:0.31~2.91、p=0.93)。・sTIL-high/PD-L1(-)の腫瘍の患者は最も予後が良好であり(5年iDFS率:100%)、sTIL-low/PD-L1(+)の腫瘍の患者は予後が最も悪かった(5年iDFS率:28.6%、95%CI:4.1~61.2)。・sTIL-high/PD-L1(+)の腫瘍(5年iDFS率:80.7%、95%CI:56.3~92.3)およびsTIL-low/ PD-L1(-)の腫瘍(5年iDFS率:83.6%、95%CI:72.9~90.4)の患者は中等度の予後だった(p<0.001)。 研究者らは、sTILとPD-L1はそれぞれ予後の改善と悪化に有意に関連しており、それらの組み合わせで、補助化学療法を受けていないTN乳がんの予後を層別化できるとまとめている。症例の5.6%を占めたsTIL-high/PD-L1(-)の早期TN乳がん患者では、補助化学療法なしで良好な予後を示していた。

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新世代ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬finerenoneは2型糖尿病性腎臓病において心・腎イベントを軽減する(FIGARO-DKD研究)(解説:栗山哲氏)

ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬は心血管リスクを軽減 心・腎臓障害の一因としてミネラルコルチコイド受容体(MR)の過剰発現が知られている。MR拮抗薬(MRA)が心血管系イベントを抑制し、生命予後を改善するとのエビデンスは、RALES(1999年、スピロノラクトン)やEPHESUS(2003年、エプレレノン)において示されている。そのため、実臨床においてもMRAは慢性心不全や高血圧症に標準的治療として適応症をとっている。 2型糖尿病は、長期に観察すると高頻度(約40%)に腎障害(Diabetic Kidney Disease:DKD)を合併し、生命予後を規定する。DKDに対しては、ACE阻害薬やARBなどのRAS阻害薬が第一選択であるが、この根拠はLewis研究、MARVAL、RENAAL、IDNT、IRMA2など、多くの検証により裏付けされている。一方、RAS阻害薬によっても尿アルブミン低減が十分でない症例も少なからずあり、より一層の腎保護効果、尿アルブミン低減効果を期待できる薬物療法が求められている。ステロイド型MRAであるスピロノラクトンやエプレレノンは、降圧効果だけでなく、ACE阻害薬やARBとの併用で一層の尿アルブミン低減効果が示唆されている。しかし、これらのMRAは、高K血症の誘発や推算糸球体濾過量(eGFR)の低下を引き起こすことが問題視されている。とくにエプレレノンは、DKDや中等度以上のCKDでは禁忌である。 最近、新世代の非ステロイド型選択的MRAとしてエサキセレノンやfinerenoneなどが開発され、本稿で紹介するFIGARO-DKDなどの臨床研究が進んでいる、しかし、はたしてこれら新規薬剤がDKDの心・腎保護において真に「新たな一手」となりうるかは現時点で必ずしも明確でない。FIGARO-DKDの概要 Finerenoneは、MR選択性が高い非ステロイド型選択的MRAである。2015年Bakrisらは、finerenoneの初めてのランダム化試験を行い、DKD患者において尿アルブミン低減効果を報告した(Bakris GL, et al. JAMA. 2015;314:884-894.)。FIGARO-DKDは、2021年8月に開催された欧州心臓病学会(ESC 2021)において米国・ミシガン大学のPittらにより、2型糖尿病と合併するCKD患者においてfinerenoneの上乗せ効果が発表された。本研究は、欧州、日本、中国、米国など48ヵ国が参加した二重盲検プラセボ対照無作為化イベント主導型第III相試験である。対象は、18歳以上の2型糖尿病患者とDKD患者7,352例が登録され、finerenone群に3,686例、プラセボ群に3,666例が割り付けられた。対象患者は、最大用量のRAS阻害薬(ACE阻害薬あるいはARB)が受容された患者であり、実薬群でfinerenoneの上乗せ効果を観察した。腎機能からは、持続性アルブミン尿が中等度(尿アルブミン/クレアチニン比[ACR]:30~<300)でeGFRが25~90mL/min/1.73m2(ステージ2~4のCKD)、あるいは持続性アルブミン尿が高度(尿ACR:300~5,000)でeGFRが≧60mL/min/1.73m2(ステージ1~2のCKD)の群について解析された。開始時の血清K値は4.8mEq/L以下であった。 主要エンドポイント(EP)は、心血管死、非致死的心筋梗塞、非致死的脳卒中、心不全による入院の心血管複合アウトカムであり、副次EPとして、末期腎不全(ESRD)、eGFRの40%以上の持続的な低下、腎関連死など、腎複合アウトカムである。結果は、主要EPのイベントは、finerenone群が12.4%(458/3,686例)、プラセボ群は14.2%(519/3,666例)であり、前者で有意に良好であった(HR:0.87、95%CI:0.76~0.98、p=0.03)。その内訳は、心不全による入院(3.2% vs.4.4%、HR:0.71、95%CI:0.56~0.90)がfinerenone群で有意に低かった。一方、心血管死、非致死的心筋梗塞、非致死的脳卒中には差異はみられなかった。なお、収縮期血圧は、4ヵ月で-3.5mmHg、24ヵ月で-2.6mmHg低下した。副次EPは腎関連で、ESRDへの進展がfinerenone群(0.9%)でプラセボ群(1.3%)に比し有意に低値であった(HR:0.64、95%CI:0.41~0.995)。さらに、尿ACRは、finerenone群でプラセボ群に比し32%低下した(HR:0.68、95%CI:0.65~0.70)。腎複合アウトカムであるeGFRの基礎値からの57%低下と腎関連死の評価においても、finerenone群(2.9%)はプラセボ群(3.8%)より低値であった(HR:0.77、95%CI:0.60~0.99)。一方、高K血症(5.5mEq/L以上)の発現頻度は、finerenone群はプラセボ群の約2倍であった(10.8% vs.5.3%)。 以上の成績から、RAS阻害薬へのfinerenoneの上乗せ療法は、CKDステージ2~4で中等度のアルブミン尿を呈するDKD患者と、CKDステージ1~2で高度のアルブミン尿を呈するDKD患者の両者において、心血管アウトカムを改善すると結論された。FIGARO-DKDとFIDELIO-DKD FIGARO-DKDに先行し、2020年のNEJM誌に類似の研究FIDELIO-DKDが発表されている。両者の基本的な差異は、(1)主要EP:FIDELIO-DKDは腎複合、FIGARO-DKDは心血管複合、(2)平均eGFR:FIDELIOで44mL/min/1.73m2、FIGAROで68mL/min/1.73m2、(3)追跡期間中央値:FIDELIOで2.6年、FIGAROでは3.4年と、やや長い点である。 FIDELIO-DKDの結果、主要EPは腎複合アウトカムで18%低下、副次EPとして心血管複合アウトカムは14%低下した。このことから、finerenoneの上乗せ療法は、CKDの進展と心血管系イベントを抑制し、心・腎リスクを低下させることが示唆された。ただし、FIDELIO-DKDにおいて高K血症の発現頻度は、finerenone群でプラセボ群(21.7% vs.9.8%)より多く、これはFIGARO-DKDの頻度に比べて約2倍であった。 研究の患者背景や試験デザインに差異はあるものの、2021年のFIGARO-DKDは、2020年のFIDELIO-DKDと同様、finerenoneの心・腎保護作用を追従した結果であった。とくに、腎機能が正常なDKD患者でのFIGARO-DKDにおいて心血管系イベントの抑制効果が再現されたことは、MRAによる早期介入の重要性を示唆するものであり、臨床的意義はある。わが国の新規透析導入の原因疾患の第1位が糖尿病によるDKDであることから、新規非ステロイド型MRA、finerenoneによる薬物治療は一定の光明をもたらす期待がある。MRAの上乗せはDKD治療として生き残れるか? 振り返ると、2010年ごろまでの状況においては、2型糖尿病を合併するCKD患者では、RAS阻害薬とMRAを併用することが標準治療となる可能性が期待されていた。しかし、2015年から普及したSGLT2阻害薬は、DKD治療に劇的なインパクトを与えた。すなわち、2015年から2019年にかけてEMPA-REG OUTCOME、CANVAS、CREDENCE、DECLARE-TIMI 58でSGLT2阻害薬の心血管イベント改善や腎保護が次々に明らかにされた。さらに、2019年から2021年にはEMPEROR-Preserved、Emperor-Reduced、DAPA-HF、DAPA-CKDなどにより、糖尿病CKDに限らず、非糖尿病CKDの心・腎保護のエビデンスも集積されてきた。これらのSGLT2阻害薬の成績は、血糖降下療法に確実な心・腎保護のエビデンスの報告が少なかった時代を経験してきた著者ら腎臓・糖尿内科医にとっては、まさに青天の霹靂なる大きな驚きであった。GLP-1受容体アゴニスト(GLP-1 RA)についても、SUSTAIN、REWIND、LEADERなどで心血管リスクや腎保護が観察され、DKD治療学の根幹が大きく変わろうとしている。欧米のレスポンスは迅速で、「KDIGOガイドライン2020年版」においては、DKDに対する第一選択としてRAS阻害薬と共にメトホルミンとSGLT2阻害薬の併用が推奨されている。 MRAのDKD治療上の位置付けに関しては、「KDIGOガイドライン2020年版」では、DKD治療の難治例に限り使用が推奨されている。確かに、SGLT2阻害薬やGLP-1 RAがなかった時代を時系列で振り返ると、治療抵抗性DKDの腎保護に対してRAS阻害薬とMRAの2剤によるdual blockadeで腎保護を目指すのは、一戦略ではあった。しかし、上述したごとくSGLT2阻害薬とGLP-1 RAの登場と関連する多くの心・腎保護のエビデンス集積から、MRAを上乗せする選択枝に疑問が生じつつある。その最も大きな問題点は、やはり高K血症であろう。MR阻害によるアルドステロン作用の低下が、高K血症を招来させることは自明である。DKDの病態には、普遍的に低レニン性低アルドステロン症(Hyporeninemic hypoaldosteronism:HRHA)が存在する。HRHAの病態下では、アルドステロン作用の低下から高K血症を来しやすい。また、DKDによる腎機能低下は、Kクリアランス低下から高K血症を助長する。RAS抑制薬とMRAのdual blockadeが、DKDでは期待するほどのベネフィットはないと考えるのは、腎臓専門医の立場からの著者の独断と偏見ではないであろう。とはいうものの、DKD治療を離れ循環器専門医の立場から考えると、MRAの慢性心不全への心保護のメリットは決して否定されるものではない。 なお、2019年に日本で開発された非ステロイド型選択的MRA・エサキセレノンもRAS阻害薬との併用療法に期待が持たれている。2型糖尿病で微量アルブミン尿(ACR:45~<300)を呈するDKD患者449例を対象にした第III相ランダム化試験(ESAX-DN試験、Ito S, et al. Clin J Am Soc Nephrol. 2020;15:1715-1727.)において、プラセボに比べ尿ACRの低下は認めるものの、5.5mEq/L以上の高K血症出現率は4倍と高頻度であった。本剤の適応症は高血圧症のみであり、現時点でDKDや慢性心不全への適応拡大は未定である。

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高齢者がCOVID-19に感染する場所と感染対策/感染研

 国立感染症研究所実地疫学研究センターは、9月29日に同研究所のウェブサイト上で「高齢者の会合等、人が集う場面での新型コロナウイルス感染症に関する感染事例の所見と公民館や体育館等を利用する際の感染対策についての提案」を発表した。 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の第5波はピークアウトし、全国的に緊急事態宣言も解除され、今後秋祭りなどの行事がCOVID-19に警戒しながら行われていくことが予想されている。「とくに多くの高齢者は、新型コロナワクチンの接種も進んでいるが、高齢者が集った場合に発生したCOVID-19のクラスター事例を再度振り返り、これまでに得られた知見や必要な対策について考えてみたい」と同研究所は提案の目的を示している。<これまでに得られた主な所見>・高齢者が日常生活で集合して楽しむ場での感染としては、昼カラオケ、フィットネスクラブ、サークル・クラブ活動など、が知られていた。・主に高齢者を対象とした催事場(ショッピングモールでの対面販売など)での数週間程度の比較的長期間のイベントにおいて、アルファ株流行下より、複数のクラスター事例の発生を認めた。・イベントでは、物品の無料体験会、説明会などの場面で、地域の高齢者が連日、時に繰り返し訪れている様子が観察された。・上記のようなイベントでは、地域の高齢者が集まり、参加者(利用者)同士での談笑、飲食を通した憩いの場になっていた。そのプラス面を考慮する必要がある一方で、調査により、感染した高齢者が、他の感染機会を認めなかった場合も多く、対策上の重要性が認められた・利用者のマスクについては、一般に着用が推奨されていたが、とくに飲食時やそれ以外のマスク着用の状況は詳細な情報が得られていない。・説明会などにおける講師や他の大会関係者のマスク着用に関する情報は乏しかった。・とくに扱う対象が食品の場合、試飲や試食などマスクを外す機会があった。・一部密な状態(狭い空間に多数の者がいた状態)があったことが観察され、換気についても不十分であった可能性が見受けられた(CO2センサーなどでの測定情報無し)。・感染者の店舗利用日が共通していない事例があり、利用者間ではなく、感染した従業員が感染伝播に寄与した事例があった可能性が考えられた。<これまでの所見に基づく主な提案:公民館ガイドラインを踏まえて> 高齢者を含む地域住民が集う場としての公民館における新型コロナウイルスへの対応に関しては、公益社団法人全国公民館連合会により作成された、「公民館における新型コロナウイルス感染拡大予防ガイドライン」(2020年10月2日)が同会ホームページ上で公開されている。本ガイドラインは、「感染防止のための基本的な考え方」の中で、いわゆる3つの密(密閉、密集、密接)を徹底して避けることの重要性について触れ、リスク評価の項では、接触感染・飛まつ感染それぞれの対策、集客施設としてのリスク評価、地域における感染状況のリスク評価の重要性について言及している。具体的には、イベント・講座などの実施で講じるべき具体的対策、公民館における公演などの開催に際して、公演主催者が講じるべき具体的対策(対人距離を最低1m(出来れば2m)確保する、入館時に検温する、直接手で触れることができる展示物などは展示しない、トイレの管理などの注意点が分かりやすく列挙されている。 以上を踏まえ、同研究所は、「利用者自身が注意すべき事項」「従業員の感染予防が重要であることに関する注意事項」「施設の換気に関する注意点」の3つに大別して注意事項を説明している。◯利用者に対して・屋内で複数の者が集まる機会では密集・密接になる場面を避けることを徹底する。具体的には、良好な換気への対策が十分に行われているイベントに参加することを心がける。マスク着用は必須である。イベント終了後の談笑や長時間の利用を避けることが必要。また、対人距離は最低1m(できるだけ2m)を確保する。座席の配置についても同様。高齢者では耳が聞こえにくい、見にくいなどで距離を保てない状況からどうしても近い距離の接触となりがちではあるが、適切なマスク着用をさらに徹底し、参加は短時間に留めるなどの工夫を行う。・試飲や試食を伴う屋内のイベントへは、できる限り参加を控える。参加する場合、マスクを外す時間を短時間に留め、その間は会話しない。適切なアルコール消毒剤を用いた手指衛生を適切に行う。◯運営者(開催されているイベントがある場合の主催者を含む)・従業員に対して・従業員は施設内感染拡大の要因となり得ることから感染予防ができるように指導を徹底する。・具体的には従来通りの基本として、適切なマスク着用、手指衛生、換気を徹底する。・説明会や講演会の開催にあたっては、運営者・主催者は、屋内で、長時間に渡り、参加者が集まってしまうことを避け、屋外での開催やオンラインを組み入れたイベントとなるように工夫する。換気が十分に実施できる環境の整備を行う。◯換気を十分に実施する具体的方法(林 基哉氏[北海道大学]による補足)・機械換気設備がある場合には、施設使用時には常時運転する。・寒さや暑さに配慮しながら、窓とドアをなるべく常時開放して、部屋の空気がこもらないようにする(暖冷房の利用や着衣に配慮しながら、より換気を確保する)。・扇風機、サーキュレーターなどで、屋内の空気を動かして空気の淀みを少なくする。・とくに換気が十分ではない場合、滞在時間を最小限にすることが望ましい。・二酸化炭素濃度の測定機器(CO2センサー)を利用して、換気の確認を行うことができる。杜撰な感染対策下では再度感染する恐れも 本提案では、最後に2021年9月末現在、新型コロナワクチンの接種が進む中での医療機関や高齢者施設における、いわゆる「ブレークスルー感染事例」やワクチンの有効性について触れ、「『適切なマスクの着用をしない、手指衛生を怠る、換気をきちんと行わない』などの杜撰な感染対策下においては、デルタ株はたやすく人々に感染し、大きな脅威をもたらす」と警鐘を鳴らすとともに、「高齢者を中心とする年齢層の方が集う場をどのように安全に運営するか、は運営者のみならず、利用者である市民も一体となって取り組むべき課題」と問題を提起している。 また、「屋外においても3つのうち1つの密でも発生すると、感染リスクが増大することが観察されている。付設する広場などにおいても、常に警戒を怠らず、十分な間隔をおきながら交流を楽しむことが求められる」とさらなる注意を促している。

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第78回 新百合ヶ丘総合病院の訴えで浮き彫り、地域医療構想調整会議の壁と限界

「第6波は必ず来る」と全国知事会こんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。自民党の総裁選、白鵬引退、小室 圭さん帰国、緊急事態宣言の解除、日ハム・斎藤 佑樹投手の引退、大谷 翔平選手の本塁打王逃し、新しい総理大臣の就任…と、この1週間は各方面実にいろいろなことがありました。斎藤投手は早稲田実業高校時代の西東京大会から観ていたので、現役引退はなかなか感慨深いものがあります。NPBの記録を見てみると、11年間のプロ生活でなんと15勝しかしておらず、防御率は4.34。それでもその引退が白鵬並に大きく報じられるのは、やはり“持っている”からなのでしょうか。日ハムファンの私の娘は、「引退後は本社でシャウエッセンの営業かな」と言っていましたが、どうなることか。挫折を経験しているので指導者に向いているという声もあるようです。“持っている”男の今後がとても気になります。さて、政府が19都道府県に出していた緊急事態宣言と8県に適用していたまん延防止等重点措置が9月30日にやっと解除となったことは、個人的には歓迎すべきニュースでした。10月1日から都内の飲食店で夜8時まで、酒類の提供が可能となったからです。その1日金曜日、台風の強風が吹く中、とある焼鳥屋に友人と出かけました。17時に入店したのですが、お店は既にほぼ満員。皆、仕事を休んで来たのか、常連さんたちが既にいい感じで酔っ払っていました。飲み屋の賑わい自体が懐かしかったのですが、こんな具合で皆が飲み始めると、11月頃に第6波が来るのは必至でしょう。厚生労働省は1日、第6波に備え、医療提供体制を整備するよう都道府県に通知を出しました。10月中を目処に整備方針を作り、11月末までの体制づくりを求めるとのことです。一方、全国知事会は翌2日、第6波が必ず到来するとしたうえで、第5波の経過検証や感染拡大防止策の充実を政府に求める緊急提言をまとめています。第6波が来たとしても、国も都道府県も今度はバタバタしないよう、しっかりと準備を進めておいてほしいものです。今回は少し前の9月10日、政府の規制改革推進会議「医療・介護ワーキング・グループ(WG)」で突然議題に取り上げられた「地域医療構想調整会議のガバナンス向上」について書いてみたいと思います。「地域医療構想調整会議の透明性の向上を徹底せよ」とWG委員「ガバナンス」と聞いてもピンとこないでしょうが、要は、医師会中心にクローズドで行われている各地の地域医療構想調整会議について、議事の公開など、透明性の向上を徹底していくことが必要ではないか、という趣旨の問題提起がWG委員からなされたのです。この日、WGのオンライン会議のヒアリングには、神奈川県川崎市麻生区にある新百合ヶ丘総合病院の笹沼 仁一院長氏が招かれていました。同病院は3次救急指定に向け、 2016年から県と打ち合わせを開始し、20年度から計3回の調整会議で議論したもののコンセンサスが得られていない、というのです。 さらに3回の調整会議のうち2回は非公開だったそうです。新百合ヶ丘総合病院の訴えに対し、厚生労働省の担当者は、3次救急として認めるか否かはあくまで県の判断であること、指定の可否について調整会議の議論を国が求めているわけではないことなどを説明しましたが、委員の1人からは「地域医療の将来像について議論をするのは大事だが、他の病院からの反対で、指定が円滑に進まない状況を踏まえると、議事の公開など、透明性の向上を徹底していくことが必要ではないか」という意見が出たとのことです。新百合ヶ丘総合のケースはNHKニュースでも詳報このWGでの議論と新百合ヶ丘総合病院の訴えは9月13日のNHKのニュースウオッチ9でも「重症病床・“増やしたくても増やせない”」というタイトルで、コロナ関連のニュースとして大きく取り上げられました。このニュースでは、全国でコロナの重症病床が十分に増えていない、と前置きした上で、「新百合ヶ丘総合病院ではこの4月に、重症者も受け入れることのできる救命救急センターの開設を目指していたが、5ヵ月たった今も重症者の受け入れはできていない。導入したECMOも使われない状態が続いている」と報じ、その原因として地域医療構想調整会議を挙げたのです。さらに、「神奈川県は、救命救急センターを稼働させるにあたり、調整会議に諮問し合意が必要としている」と指摘し、実際の会議中の神奈川県医師会理事の「一番の問題はベッドではなく人の問題。取り合いが起こったり結果として(医療機関が)共倒れになってしまう」という生々しい発言も紹介。最後には調整会議に参加する川崎市の医務監の「非常に焦りを感じている。利害関係者にある者を議論させることがそもそも難しいのではないか」というコメントも伝えています。このニュースには慈恵会医科大学外科学講座の大木 隆生教授も反応しており、Twitterに「新百合ヶ丘総合病院は慈恵から外科医を8名派遣している関連病院で、半年前からコロナ重症者を受け入れる準備をしていましたが主に医師会(地域医療構想調整会議)の反対でまだ稼働できていません。この夏、神奈川県では東京以上に医療が逼迫していたと言うのに…」と記しています。日医もすぐに反応、WGの懸念は「無用」と中川会長事が大きくなりそうになったためか、あるいは規制改革会議のWGながら一見”規制”には見えない地域医療構想調整会議が取り上げられたためか、日本医師会もすぐに動きました。9月15日、中川 俊男会長は記者会見でこの問題に関してコメントしました。メディファクス等の報道によれば、中川会長は、「地域医療構想策定ガイドラインでは、協議の内容・結果は原則として周知・広報するとされている」と説明、その上で、「地域医療構想は自主的な収れんを理念としているため、地域医療構想調整会議で関係者が地域の実情を踏まえた議論を行う過程で、地域の医療関係者と共有すべき課題を地域住民にも理解してもらう必要があることから、適切な情報公開は既に行われている」と述べ、規制改革推進会議のWGの懸念は「無用という気もする」と述べたとのことです。東北地方有数のチェーン病院への私怨?コロナ禍の中、地域で必要とされている3次救急の指定が滞っている現状があるにも関わらず、懸念は「無用」とは、相変わらずのん気で問題に正対しないコメントです。地域医療構想や地域医療構想調整会議は、基本的に「規制」とは無関係で、「医療・介護ワーキング・グループ」の議題に相応しくない、との見方もあったようです。しかし、もしそこでの議論(地元医師会の意向など)が3次救急への新規参入を妨害する要因だとしたら、それは立派な規制と言えるでしょう。新百合ヶ丘総合病院もそこを突くために詳細な資料提出をしたのだと思われます。新百合ヶ丘総合病院は、2011年開院の急性期病院です。経営する医療法人社団三成会は、福島県郡山市に本拠を置く、南東北病院グループの一法人。2006年3月末に川崎市多摩区の稲田登戸病院が廃止となって北部地域の病床数が不足となり、川崎市が事業者を公募して三成会が選出された、という経緯があります。ここからはあくまで想像ですが、東北地方有数のチェーン病院の川崎市進出に、地元の医師会などはあまり良い印象を持っていなかったのではないでしょうか。患者だけではなく、看護師などの医療スタッフの争奪戦も繰り広げられたでしょう。地域医療構想調整会議の場では、そこで生まれた私怨が住民の医療ニーズよりも優先されたのかもしれません。「自主的な収れん」に任せる仕組みにもメスを中川会長の言葉でもう一つ気になったのは、「自主的な収れん」という言葉です。確かに地域医療構想は、行政が一方的に押し付けるのではなく、医療機関の自主的取り組みと協議を通じて地域のあるべき医療提供体制を実現するための制度です。中川会長の言う「自主的な収れんが理念」というのは、確かにその通りです。しかし、各地域で協議の場である地域医療構想調整会議が、利害ばかりを主張する場所となり、一向に調整が進まないのも事実です。コロナ禍において病床の調整がうまくいかなかったのは、「自主的な収れん」に任せるあまり、地域の医療機関の棲み分けがほとんど進んでいなかったことも大きな原因の一つです。医療法改正で2022年度からは、高度な医療機器など医療資源を重点的に活用する外来等について報告を求める「外来機能報告制度」が創設されます。報告を基に、地域医療構想と同様不足する外来医療機能の棲み分けや確保について「地域の協議の場」などで話し合い、調整することになります。この「地域の協議の場」をどうするかについて、現在議論が行われている最中ですが、9月15日に開催された「外来機能報告等に関するワーキング・グループ」(「第8次医療計画等に関する検討会」の下部組織)では、「地域の協議の場」に住民代表が参画することが重要、との指摘が多数あったとのことです。よくよく考えてみれば、外来機能では住民が必要で、入院機能は住民不要というのも変な話です。冒頭で紹介した、新百合ヶ丘総合病院の3次救急の議論にしても、地域医療構想会議のメンバーに住民代表が入り、議論が公開されていれば、3次救急指定もスムーズに進み、規制改革会議のWGの議題にもならなかったはずです。ポストコロナの医療提供体制構築に向けては、地域構想をどう実効性のあるものにしていくかがカギだと言われています。地元医師会の意向だけを反映した、住民無視の医療提供体制にしないために、地域医療構想調整会議での「自主的な収れん」に任せる仕組みにも、厳しいメスを入れるべきときではないでしょうか。

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脳卒中治療ガイドラインが6年ぶりに改訂、ポイントは?

 今年7月、『脳卒中治療ガイドライン2021』が発刊された。2015年の前版(2017年、2019年に追補発行)から6年ぶりの全面改訂ということで、表紙デザインから一新。脳卒中治療ガイドライン2021では追補の内容に加え、関連学会による各指針など最新の推奨が全面的に取り入れられている。そこで、脳卒中ガイドライン委員会(2021)の板橋 亮氏(岩手医科大学内科学講座脳神経内科・老年科分野 教授)に、近年目覚ましい変化を遂げる脳梗塞急性期の治療を中心として、主に内科領域の脳卒中治療ガイドライン2021の変更点について話をうかがった。脳卒中治療ガイドライン2021の変更点にエビデンスレベルの追加 まず脳卒中治療ガイドライン2021の1番大きな変更点としては、追補2019までは推奨文にエビデンスレベルはついておらず、文献のエビデンスを踏まえた推奨度のみが記載されていたが、2021年版では推奨文に推奨度(ABCDE)とエビデンス総体レベル(高中低)の両方が記載された。すべての引用文献に、エビデンスレベル(1~5)が示されている。 さらに、脳卒中治療ガイドライン2021では今回初めてクリニカルクエスチョン(CQ)方式が一部に採用され、重要な臨床課題をピックアップしている。利便性を考慮し、あえてCQ方式と従来の推奨文方式の両方にて記載した内容もある。 また、脳卒中治療ガイドライン2021の全般的な構成の変更点として、前版までリハビリテーション関連の内容はすべて後半のページにまとめられていたが、今回から急性期に関してのリハビリテーションは前半ページ(目次I「脳卒中全般」)に記載された。脳卒中治療ガイドライン2021脳梗塞急性期の変更点 脳卒中治療ガイドライン2021の具体的な内容に関しては、たとえば目次II「脳梗塞・一過性脳虚血発作(TIA)」項の冒頭に、CQ「脳梗塞軽症例でもrt-PA(アルテプラーゼ)は投与して良いか?」「狭窄度が軽度の症候性頸動脈狭窄患者に対して頸動脈内膜剥離術(CEA)は推奨されるか?」が追加された。 また、脳卒中治療ガイドライン2021では、脳梗塞急性期における抗血小板療法の推奨として、DAPT(抗血小板薬2剤併用療法)の推奨度が見直され、発症早期の軽症非心原性脳梗塞患者の亜急性期までの治療法として、推奨度BからA(エビデンスレベル高)に引き上げられた(なお、高リスクTIAの急性期に限定した同療法は、DAPTの効果の大きさと出血リスク上昇を総合的に勘案し、推奨度Bで据え置きとなっている)。これに伴い、従来経静脈投与で用いられていた抗凝固薬アルガトロバン、抗血小板薬オザグレルNaは、推奨度BからCに引き下げられている。 さらに、脳梗塞急性期の抗凝固療法における直接阻害型経口抗凝固薬(DOAC)についての推奨、脳梗塞慢性期の塞栓源不明の脳塞栓症における抗血栓療法についての推奨などが、脳卒中治療ガイドライン2021には新たに追加された。 全体的には、『静注血栓溶解(rt-PA)療法適正治療指針 第三版』『経皮経管的脳血栓回収用機器 適正使用指針 第4版』などの推奨に準じた内容で、目新しさには欠けるかもしれないが、それが脳卒中治療ガイドライン2021として1つにまとめられたことは大きな意義を持つだろう。 詳細は割愛するが、塞栓源となる心疾患に対するインターベンションについての記載も充実した。たとえば、脳梗塞慢性期の奇異性脳塞栓症(卵円孔開存を合併した塞栓源不明の脳塞栓症を含む)については、『潜因性脳梗塞に対する経皮的卵円孔開存閉鎖術の手引き』に準じた推奨が、出血の危険性が高い非弁膜症性心房細動患者については、『左心耳閉鎖システムに関する適正使用指針』に準じた推奨が追記されている。脳卒中治療ガイドライン2021にテネクテプラーゼを記載 機械的血栓回収療法は、急性期治療の中でもとくに注目されており、軽症例や単純CTで広範な早期虚血が見られる例に関して、国際的な無作為化試験が行なわれている。本治療に関するエビデンスはここ数年で変わる可能性が高い。 また、海外ではCTPT系P2Y12拮抗薬チカグレロルとアスピリンによるDAPTの臨床試験が行われ,米国ではすでに脳卒中領域の承認を得ているが、わが国で導入される見通しは不明である。このように、推奨文にするほどではない、もしくはわが国では保険適用がない場合でも、臨床医に知っておいてほしい情報は、脳卒中治療ガイドライン2021の解説文の中にコラム形式で記載されている。 推奨文としては書いていないが、脳卒中治療ガイドライン2021の脳梗塞急性期の経静脈的線溶療法の解説文には、海外の一部で使われ始めているテネクテプラーゼについても記載がある。おそらく、無作為化試験の結果が揃えば、今後アルテプラーゼに代わって使われるようになるだろう。国内での臨床試験も行われる予定だが、わが国で導入できる目途は立っていないため、こちらも今後の展開に注目されたい。脳卒中治療ガイドライン2021は読みやすさを重視した構成 驚くことに、脳卒中治療ガイドライン2021は、前版から解説文の文字数を半分近くに減らしたという。現場で参照することを第一に、各項目はできる限り2ページ以内に収めるなど、読みやすさを重視した工夫が凝らされている。板橋氏は、「推奨文だけ読めば最低限の重要事項が確認できるように作られてはいるが、推奨度そしてエビデンスの根拠となる解説文の内容も是非確認していただきたく、できるだけ読んでもらえるように短くまとめた」と語った。また、手元に置いておきたくなるような脳卒中治療ガイドライン2021のスタイリッシュなデザインは、委員会事務局の黒田 敏氏(富山大学脳神経外科 教授)が選んだこだわりの青色が採用されたという。脳卒中治療ガイドライン2021の電子版は11月に発売予定だ。『脳卒中治療ガイドライン2021』・発行日 2021年7月15日・編集 一般社団法人日本脳卒中学会 脳卒中ガイドライン委員会・定価 8,800円(税込)・体裁 A4判、320ページ・発行 株式会社協和企画

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腹膜播種診療ガイドライン 2021年版

腹膜播種診療に本邦初となる臓器横断的なガイドライン登場!腹膜播種は、腫瘍細胞が腹腔内に散布された形で多数の転移を形成する予後不良の病態で、がん種や地域ごとに様々なアプローチで診断・治療がされており、統一した治療指針が確立されていない。日本腹膜播種研究会では臓器横断的な観点から腹膜播種患者の予後向上を目指し、本邦初となるガイドラインを策定。腹膜播種特有の手技(審査腹腔鏡、腹腔内温熱化学療法、CART)に対するCQ等、臨床で有用な推奨を明示した。画像をクリックすると、内容の一部をご覧いただけます。※ご使用のブラウザによりPDFが読み込めない場合がございます。PDFはAdobe Readerでの閲覧をお願いいたします。画像をクリックすると、内容の一部をご覧いただけます。※ご使用のブラウザによりPDFが読み込めない場合がございます。PDFはAdobe Readerでの閲覧をお願いいたします。    腹膜播種診療ガイドライン 2021年版定価3,300円(税込)判型B5判頁数B5判・212頁・図数:3枚発行2021年8月編集日本腹膜播種研究会電子版でご購入の場合はこちら

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早期乳がんの術後トラスツズマブは6ヵ月で十分か?~メタ解析/ESMO2021

 HER2陽性早期乳がん患者に対するトラスツズマブ単剤での術後補助療法の無浸潤疾患生存期間(iDFS)について、これまでの無作為化非劣性試験の個々の患者データを用いてメタ解析を実施した結果、標準である12ヵ月投与に対して6ヵ月投与での非劣性が示された。英国・Cambridge University Hospitals NHS Foundation TrustのHelena M. Earl氏が、欧州臨床腫瘍学会(ESMO Congress 2021)で発表した。 Earl氏らは、系統的レビューを用いて5つの無作為化非劣性試験を特定した。そのうち、PERSEPHONE、PHARE、HORGの3試験は12ヵ月と6ヵ月の比較、SOLDとShort-HERの2試験は12ヵ月と9週の比較。主要評価項目はiDFSとし、ITT解析を行った。事前に絶対的非劣性マージンを2%と設定、5年iDFS率をランダム効果モデルおよび固定効果モデルで推定した。絶対的マージン2%でのハザード比(HR)の非劣性限界値は、12ヵ月と12ヵ月未満を比較する5試験では1.19、12ヵ月と6ヵ月を比較する3試験では1.20、12ヵ月と9週を比較する2試験では1.25と計算された。 主な結果は以下のとおり。・12ヵ月と12ヵ月未満の比較(5試験を結合したランダム効果モデル)では、5年iDFS率はそれぞれ88.46%と86.87%だった。調整HRは1.14(95%信頼区間[CI]:0.88~1.47)で、上限値の1.47は非劣性限界値の1.19を大きく上回り、非劣性は示されなかった(非劣性のp=0.37)。・12ヵ月と6ヵ月の比較(3試験を結合した固定効果モデル)では、5年iDFS率はそれぞれ89.26%と88.56%だった。調整HRは1.07(90%CI:0.98~1.17)で、上限値の1.17は非劣性限界値の1.2よりも小さく、非劣性が示された(非劣性のp=0.02)。・12ヵ月と9週の比較(2試験を結合した固定効果モデル)では、5年iDFS率はそれぞれ91.40%と89.22%だった。調整HRは1.27(90%CI:1.07~1.49)で、上限値の1.49は非劣性限界値の1.25を大幅に超え、非劣性は示されなかった(非劣性のp=0.56)。 Earl氏は、「個々の患者の選択を可能にするためにガイドラインの変更を検討すべきである。トラスツズマブ単剤での術後補助療法を6ヵ月実施後12ヵ月まで継続した場合、0.7%というわずかな上乗せベネフィットしか得られないというエビデンスを示すことができる。患者はオンコロジーチームと共に、12ヵ月まで継続するかどうかを選択可能」とした。

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迅速承認がん治療薬、確認試験が否定的でも推奨薬のまま?/BMJ

 米国食品医薬品局(FDA)の迅速承認を受けたがん治療薬の適応症は、法令で定められた承認後確認試験で有効性の主要エンドポイントの改善が得られなかった場合であっても、3分の1が添付文書に正式なFDAの承認を得たものとして記載され、数年にわたり診療ガイドラインで推奨されたままの薬剤もあることが、カナダ・クイーンズ大学のBishal Gyawali氏らの調査で示された。研究の詳細は、BMJ誌2021年9月8日号で報告された。承認後確認試験で否定的な迅速承認薬の後ろ向き観察研究 研究グループは、FDAの迅速承認を受けたものの、承認後確認試験で主要エンドポイントの改善が得られなかったがん治療薬の規制上の取り扱いを調査し、承認後確認試験の否定的な結果が診療ガイドラインでの推奨にどの程度影響を及ぼしているかを評価する目的で、後ろ向き観察研究を実施した(米国・Arnold Venturesの助成を受けた)。 FDAのDrugs@FDAデータベースを用いて、2020年12月までに迅速承認を受けたすべてのがん治療薬が系統的に検索された。また、FDAのPostmarketing Requirements and Commitmentsデータベースを検索し、これらの薬剤の適応症について、法令で定められた承認後確認試験の結果が調査された。 規制措置や確認試験の否定的な結果が臨床現場に及ぼす影響を評価するために、迅速承認された各薬剤の適応症について、全米包括的がんネットワーク(NCCN)の診療ガイドラインにおける、2021年5月の時点での推奨状況の確認が行われた。自主的に撤回は61%、1項目はFDAが承認を取り消し 迅速承認を受けたが承認後確認試験で主要エンドポイントが改善されなかったがん治療薬とその適応症として、10剤の18項目(免疫チェックポイント阻害薬 11項目、モノクローナル抗体 4項目、分子標的薬、化学療法薬、抗体薬物複合体 各1項目)が特定された。 18項目のうち、11項目(61%)が製薬会社によって自主的に撤回され、1項目(HER2陰性乳がんのベバシズマブ)はFDAにより承認を取り消されていた。11項目の自主的撤回のうち6項目は2021年に行われていた。また、18項目のうち残りの6項目(33%)は、添付文書に適応と記載された状態だった。 一方、NCCNガイドラインでは、承認の自主的撤回および取り消し後も一定の頻度で、これらの薬剤が高いレベルで推奨されており、1項目(PD-L1陽性トリプルネガティブ乳がんのアテゾリズマブ)がカテゴリー1(高レベルのエビデンスに基づき、NCCNの統一したコンセンサスがある)、7項目はカテゴリー2A(比較的低レベルのエビデンスに基づき、NCCNの統一したコンセンサスがある)であった。 著者は、「これらの知見は、迅速承認の行程を支える速度とエビデンスの妥結点が達成されていないことを表している。最近の規制措置の動きからは、FDAがこのような状況に多大な注意を払ってきたことがうかがわれるが、FDAが承認したすべての薬剤が患者にとって安全で有効であることを示すには、迅速承認の行程の新たなガイダンスと改革が求められる」としている。

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進行食道がん1次治療に免疫チェックポイント阻害薬の併用療法が参入(解説:上村直実氏)

 外科的に切除不能な進行・再発または転移のある食道扁平上皮がんに対して、一般的には放射線・化学療法が行われている。このうち化学療法に関しては30年前からフルオロウラシルとシスプラチン等のプラチナ製剤の併用療法(FP療法)が標準治療として用いられてきたが、最近、免疫チェックポイント阻害薬(抗PD-L1阻害薬)の登場によって大きな変化が起こりつつある。すなわち、ニボルマブ(商品名:オプジーボ)やペムブロリズマブ(商品名:キイトルーダ)など抗PD-L1阻害薬とFP療法の併用がFP療法単独に比べて、全生存期間(OS)や無増悪生存期間(PFS)を有意に延長するという研究結果が報告されている。 今回は切除不能進行・再発食道扁平上皮がんに対する1次治療の有用性を検討するために世界26ヵ国で実施された国際共同第III相試験(KEYNOTE-590試験)の結果がLancet誌に報告された。CPSが10以上の症例を対象とした本試験では、ペムブロリズマブとFPの併用療法がFP単独に比べてOSならびにPFSを有意に延長し、食道扁平上皮がんに対する標準化学療法に名乗りを上げる研究結果と思われる。今後、手術不能進行食道がんに対する標準治療は、抗PD-L1阻害薬とFP療法の併用療法もしくは異なる抗PD-L1阻害薬の併用療法と放射線治療を加えた集学的治療の有用性が検討された後、食道がんに対する初期化学療法が大きく変わるものと思われる。 なお、日本における保険診療の現場に対しては、9月にニボルマブとイピリムマブ(商品名:ヤーボイ)の併用療法およびニボルマブと化学療法の併用療法の有用性を示した国際共同RCTであるCheckMate-648試験の結果に基づいて食道がんの1次治療に使用できるようにするための一変申請が提出されている。今後、ペムブロリズマブに関しても同様の内容で申請されることが予想される。現時点におけるニボルマブとペムブロリズマブの違いは、前者はCPSにかかわりなく使用可能であるが後者にはCPSが5以上という条件が付される可能性がある。いずれにせよ、近いうちに食道がんに対する標準的化学療法が大きく変化して診療ガイドラインにも反映されるものと思われる。 さらに、今年の6月に発表されたCheckMate-649試験では、切除不能進行・再発胃がん/食道胃接合部がん/食道腺がんを対象としてニボルマブと化学療法の併用ないしはニボルマブとイピリムマブの併用療法が化学療法単独に比べて優越性を認めたことから、胃がんに対する標準治療にも抗PD-L1阻害薬が参入する可能性が出てきており、上部消化管領域の切除不能進行がんに対する化学療法が大きな変革を迎えようとしており、ひいては患者さんが大きな恩恵を受けることが期待される。

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降圧薬の心血管イベント予防効果、年齢や血圧で異なるか/Lancet

 薬理学的な降圧は高齢になっても効果的であり、主要心血管イベント予防の相対的なリスク低下が無作為化時点での収縮期または拡張期の血圧値によって異なるというエビデンスはなく、120/70mmHg未満でも有効であるという。英国・オックスフォード大学のKazem Rahimi氏らBlood Pressure Lowering Treatment Trialists' Collaboration(BPLTTC)のメンバーらが、MACEのリスクに関する降圧薬の有効性を比較検証した無作為化比較試験のメタ解析結果を報告した。70歳以上の高齢者において、とくに、血圧が十分に上昇していない場合の心血管アウトカムに対する降圧の薬物療法の有効性は明らかになっていなかった。結果を踏まえて著者は、「降圧薬による治療は年齢にかかわらず重要な治療選択肢として考慮すべきであり、国際的なガイドラインから年齢に関連した血圧の閾値を撤廃すべきである」と述べている。Lancet誌2021年9月18日号掲載の報告。無作為化試験51件、約35万9千例についてメタ解析 研究グループは、BPLTTCのデータから得られた降圧薬群とプラセボまたは他のクラスの降圧薬群との比較、あるいはより強力な降圧療法と強力でない降圧療法との比較を行った無作為化比較試験のうち、各群1,000人年以上追跡した試験を対象に、個人レベルのデータを用いてメタ解析を実施した。心不全既往の被験者は除外された。 主要評価項目は、致死的または非致死的脳卒中、致死的または非致死的心筋梗塞・虚血性心疾患、死亡または入院を必要とする心不全の複合(主要心血管イベント)であった。データを統合して、ベースラインの年齢(<55、55~64、65~74、75~84、≧85歳)、収縮期血圧(<120、120~129、130~139、140~149、150~159、160~169、≧170mmHg)、および拡張期血圧(<70、70~79、80~89、90~99、100~109、≧110mmHg)で分類し、固定効果モデルの一段階法を用いたCox比例ハザードモデル(試験で層別化)により解析した。 解析には無作為化臨床試験51件の計35万8,707例が組み込まれた。55歳未満から85歳以上まで幅広い年齢層で有効 無作為化時の被験者の年齢は、中央値65歳(範囲:21~105、IQR:59~75)で、<55歳が4万2,960例(12.0%)、55~64歳12万8,437例(35.8%)、65~74歳12万8,506例(35.8%)、75~84歳5万4,016例(15.1%)、≧85歳4,788例(1.3%)であった。 各年齢層における収縮期血圧5mmHg低下ごとの主要心血管イベントリスクのハザード比は、<55歳0.82(95%信頼区間[CI]:0.76~0.88)、55~64歳0.91(0.88~0.95)、65~74歳0.91(0.88~0.95)、75~84歳0.91(0.87~0.96)、≧85歳0.99(0.87~1.12)であった(補正後の相互作用のp=0.050)。 拡張期血圧3mmHg低下ごとについても、同様の傾向が認められた。 主要心血管イベントの絶対リスク低下は、年齢によって異なり、高齢者でより大きかった(補正後の相互作用のp=0.024)。一方で、いずれの年齢層においても、ベースラインでの血圧分類によって相対的な治療効果に臨床的に意味のある不均一性は確認できなかった。

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大腸がんガイドライン改訂案に関するパブリックコメント募集/大腸癌研究会

 大腸癌研究会は、治療ガイドライン改訂案についてのパブリックコメント募集を開始した。 募集しているのは「大腸癌治療ガイドライン医師用」2022年版に関するパブリックコメントで、大腸癌研究会のホームページ上に改訂案を公開している。 今回の改訂は、「薬物療法」と「Stage IV大腸癌の治療方針」に限定している。 パブリックコメントの受け付け期間は、2021年9月30日(木)まで。 コメントは、大腸癌研究会事務局ホームページの「コメント送付用フォーム」に記入のうえ、研究会事務局に送付する。大腸癌研究会事務局ホームページhttp://www.jsccr.jp/guideline/index.html

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特発性後天性全身性無汗症〔AIGA:acquired idiopathic generalized anhidrosis〕

1 疾患概要■ 定義発汗を促す環境(高温、多湿)においても発汗がみられないものを無汗症とよぶ。そして、「後天的に明確な原因なく発汗量が低下し、発汗異常以外の自律神経および神経学的異常を伴わない疾患」を特発性後天性全身性無汗症(acquired idiopathic generalized anhidrosis:AIGA)と定義する1)。■ 疫学2011年に国内の大学病院神経内科、皮膚科94施設を対象に行った調査では過去5年間のAIGA患者数は145例であった1)。男性が126例を占め、発症年齢は1~69歳まで幅広いものの、10~40歳代にかけて多くみられた。その後に報告された単施設で結果でもおおむね同様の傾向にある2-4)。また、症例報告のほとんどは本邦からの報告となっている。まれな疾患ではあるが、患者の生活環境によっては無汗に気付かれないこと、後述するようにコリン性蕁麻疹として治療されている例もあり、実際にはより多くの患者がいる可能性がある。しかし、最近ではAIGAの存在が徐々に認知されるようになってきたためか、受診・紹介患者は増えてきている印象もある。■ 病因全身無汗になる病態として次の3つがありうる。(1)交感神経の中の発汗神経の障害(Sudomotor neuropathy)(2)特発性純粋発汗不全(Idiopathic pure sudomotor failure:IPSF)(3)特発性汗腺不全(Sweat gland failure)しかし、臨床経験上(1)(3)はまれであり、またその証明も難しいことから、AIGAの多くが(2)に相当する。(2)の具体的機序としては汗腺分泌部とその周囲のマスト細胞上のアセチルコリン受容体の発現低下が推定されている5)。本病型(IPSF)には減汗性/無汗性コリン性蕁麻疹として主に皮膚科領域から報告されてきたものも含まれる。■ 症状激しい運動や暑熱環境にさらされると無汗による体温上昇のためにほてり感、顔面紅潮、めまい、悪心、動悸などの症状がみられ、容易に熱中症に陥る。手掌や足底、腋窩は障害されにくく、また、前額も発汗が保たれやすい傾向がある。四肢は無汗でも体幹は低汗にとどまっている例もみかける。患者の6~8割程度に発汗誘発時のコリン性蕁麻疹を伴う(IPSF)。明瞭な膨疹が出現せずピリピリとした痛痒さを訴えるだけのこともある。体幹・四肢の無汗のために代償性に生じた顔面の多汗が主訴となることがあり、問診に際して注意が必要となる。■ 予後長期予後に関する大規模な調査はないが生命予後は良い。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)■ 鑑別のステップと検査無汗症の分類を図1に示す6)。先天性・遺伝性には無汗性/低汗性外胚葉形成不全症、先天性無痛無汗症、ファブリー病などがある。一方、後天性には種々の神経疾患、内分泌・代謝異常症、シェーグレン症候群、薬剤性などの要因による続発性のものがある。これらを除いた特発性とせざるをえない無汗症のうち、無汗部位が髄節性(分節性)でなくほぼ全身に及ぶものがAIGAとなる。診断基準を表6)に示す。図1 無汗症の分類画像を拡大する表 特発性後天性全身性無汗症(AIGA)の診断基準A明らかな原因なく後天性に非髄節性の広範な無汗/減汗(発汗低下)を呈するが、発汗以外の自律神経症候および神経学的症候を認めない。Bヨードデンプン反応を用いたミノール法などによる温熱発汗試験で黒色に変色しない領域もしくはサーモグラフィーによる高体温領域が全身の25%以上の範囲に無汗/減汗(発汗低下)がみられる。● 参考項目1.発汗誘発時に皮膚のピリピリする痛み・発疹(コリン性蕁麻疹)がしばしばみられる。2.発汗低下に左右差なく、腋窩の発汗ならびに手掌・足底の精神性発汗は保たれていることが多い。3.アトピー性皮膚炎はAIGA に合併することがあるので除外項目には含めない。4.病理組織学的所見:汗腺周囲のリンパ球浸潤、汗腺の委縮、汗孔に角栓なども認めることもある。5.アセチルコリン皮内テストもしくはQSARTで反応低下を認める。6.抗SS-A抗体陰性、抗SS-B抗体陰性、外分泌腺機能異常がないなどシェーグレン症候群は否定する。A+BをもってAIGA と診断する。(中里良彦ほか. 特発性後天性全身性無汗症診療ガイドライン改訂版. 自律神経.2015;52:352-359.より引用)■ 検査1)温熱発汗試験簡易サウナ、電気毛布などを用いて加温により患者の体温を上昇させて発汗を促し、ミノール法などで発汗の有無を評価する(図2)。正常人では15 分程度の加温により全身に発汗点を認める。サーモグラフィーでは、発汗のない領域に一致して体温の上昇が認められる。無汗部の面積の評価に有用。図2  AIGA患者でのミノール法所見画像を拡大する発汗反応(黒点部分)が低下している2)薬物性発汗試験(1)局所投与5%塩化アセチルコリン(オビソート:0.05~0.1mL)を皮内注射する。正常人では数秒後より立毛と発汗がみられ、5~15 分後までに注射部位を中心に発汗を認める。汗腺自体の発汗機能を評価できる。(2)定量的軸索反射性発汗試験(QSART:quantitative sudomotor axon reflex tests)アセチルコリンをイオントフォレーシスにより皮膚に導入し、軸索反射による発汗を定量する試験。AIGAでは、発汗が誘発されない。(3)皮膚生検AIGAのうち、特発性純粋発汗不全(IPSF)では光顕上、汗腺に顕著な形態異常を認めないが、汗腺周囲にリンパ球浸潤を認めるときがある。(4)血清総IgE値測定IPSF では血清総IgE値が高値の場合がある。(5)血清CEA値測定高値の症例でその値が発汗状態と相関することから、個々の症例における治療効果の指標になりうる。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)1)ステロイド全身投与現存する治療法のうち最も効果が期待できる方法である。点滴パルス療法(メチルプレドニゾロン500~1000 mg/日、3日間連続投与)が用いられることが多い。後療法として30mg/日程度の経口投与を行う場合もある。また、経口内服療法(30~60mg/日)のみで開始して漸減する方法などもとられる。パルス療法の回数や後療法の適否・容量については一定の見解がない。反応がみられる例では、パルス療法直後から2週間程度までに効果が表れ、また、コリン性蕁麻疹や疼痛発作もみられなくなる。ステロイド治療によって寛解する例がある一方、部分寛解にとどまる例、症状が再燃する例、そして、ステロイドにまったく反応しない例がある。パルス療法はおおむね3回程度行われていることが多いが、まったく反応がえられない例では漫然と繰り返すよりも、他の治療法への切り替えまたは積極的に発汗トレーニングによる理学療法を取り入れる。2)抗ヒスタミン薬内服ヒスタミンがアセチルコリンによる発汗を抑制することから試みられる7)。ただし抗コリン作用のない好ヒスタミン薬を選択すること。効果が明瞭でない場合には通常量より増量してみることも必要。3)免疫抑制剤内服シクロスポリンの内服(2~5mg/kg/日)が効果を示すことが知られるが、報告症例数は少ない。4)その他の内服療法漢方薬である紫苓湯、葛根湯、または塩酸ピロカルピン(や塩酸セビメリン)などの投与も試みる価値がある。5)理学療法薬物療法に頼りがちであるが、発汗を刺激するための発汗トレーニングは補助療法として、また、再発予防として重要である。熱中症に陥らない範囲、また、コリン性蕁麻疹によるピリピリ感が苦痛にならない程度に、半身浴や徐々に運動負荷をかけるなど工夫する。5 主たる診療科皮膚科および神経内科。ただし、発汗異常を取り扱っている医療機関であることが必要。※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報難病情報センター 特発性後天性全身性無汗症(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)1)中里良彦ほか. 特発性後天性全身性無汗症診療ガイドライン. 2013;50:67-74.2)柳下武士. 日本皮膚科学会雑誌. 2021;131:35-41.3)小野慧美ほか. 発汗学. 2016;23:23-25.4)中里良彦. 自律神経. 2018;55:86-90.5)Sawada Y, et al. J Invest Dermatol. 2010;130:2683-2686.6)中里良彦ほか. 特発性後天性全身性無汗症診療ガイドライン改訂版. 自律神経. 2015;52:352-359.7)Suma A, et al. Acta Derm Venereol. 2014;94:723-724.公開履歴初回2021年9月22日

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便秘からがんを疑うアラームサインを読み取る【Dr.山中の攻める!問診3step】第6回

第6回 便秘からがんを疑うアラームサインを読み取る―Key Point―大腸がんを疑うアラームサインに注意しよう薬剤が便秘の原因となっていることは多い下剤を処方する際、「酸化マグネシウム」は腎機能低下時に高マグネシウム血症を起こすので要注意!症例:76歳男性主訴)排便困難現病歴)12日前から便が突然出なくなった。4日前に近医で浣腸をしてもらったが排便なし。酸化マグネシウムと大腸刺激性下剤の処方を受けたが、やはり排便がないため当院を受診した。嘔吐はあるが腹痛はない。既往歴)老人性難聴薬剤歴)定期内服薬なし生活歴)たばこ:10本/日 x 55年間、酒:1合/日身体所見)意識清明、体温36.7℃、血圧120/50mmHg、心拍数92/分、SpO2:95%[室内気]直腸診を施行したところ、肛門から8cm、12時方向にカリフラワー様の約4×4cmの腫瘤を触知し易出血性であった。結局、直腸癌と診断され人工肛門増設のため緊急手術となった。大腸イレウスは珍しいが、穿孔すれば腹膜炎となるので緊急処置が必要となることも念頭に入れておくべき。◆今回おさえておくべき臨床背景はコチラ!大腸がんを疑うアラームサイン1) ―大腸がんの可能性はないのか鉄欠乏性貧血体重減少便潜血陽性血便便の狭小化高齢者の急性便秘大腸がんの家族歴50歳以上で大腸内視鏡検査を受けたことがない【STEP1】患者の症状に関する理解不足を解消させよう【STEP2】二次性の便秘を考える薬剤は二次性便秘の最大の原因である。薬剤歴の正確な聴取が大切である便秘を起こす薬剤2)3)はこちら降圧薬(カルシウム拮抗薬、利尿薬)、麻薬抗コリン薬(ブチルスコポラミン、抗うつ薬、抗精神病薬、抗パーキンソン病薬)抗ヒスタミン薬、NSAIDs、鉄剤高齢者の鉄欠乏性貧血は消化管の悪性腫瘍をまず考える便の狭小化+腹痛+液状便はS状結腸から直腸にかけての高度狭窄が示唆される症状である。大腸内視鏡の前処置で腸閉塞や腸管穿孔をきたす可能性があるため、腹部レントゲン検査と腹部CT検査を検査前にオーダーする甲状腺機能低下症、自律神経障害を起こす糖尿病やパーキンソン症候群、低カリウム血症、高カルシウム血症、うつ病、妊娠は便秘の原因となる【STEP3】治療1)を検討しよう毎日排便がないのは異常であるというイメージが TVコマーシャルなどによって作られているが、週に3回または1日3回の排便は正常である週3回以上排便があれば、病的ではないことを伝える。水分と食物繊維を十分にとる。朝食後15分間はトイレに座り、力まずに排便するよう指導する。改善がなければ、ポリエチレングリコール(商品名:モビコール)または酸化マグネシウムを処方する。酸化マグネシウムは腎機能低下時に高マグネシウム血症(嘔気・嘔吐、血圧低下、徐脈、筋力低下、意識障害)を起こす。効果が不十分ならルビプロストン(商品名:アミティーザ)を少量から検討する。大腸刺激性薬剤(センノシド、ピコスルファート)は習慣性や依存性が強いので頓用で用いる<参考文献・資料>1)山中 克郎企画. 総合診療 ヤブ化を防ぐ!総合診療基本のき. 医学書院.2019. p.1089-1091.(中野弘康 便秘)2)John P, et al. MKSAP18 Gastroenterology and Hepatology. 2018 .p.35-38.3)日本消化器病学会関連研究会 慢性便秘の診断・治療研究会編. 慢性便秘症診療ガイドライン. 2017.

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