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片頭痛発作の発症抑制薬、アイモビーグ皮下注発売/アムジェン

 アムジェン株式会社は2021年8月12日、ヒト化抗CGRPモノクローナル抗体製剤 エレヌマブ(遺伝子組換え)(商品名:アイモビーグ)を発売したことを発表した。本剤は2021年6月に「片頭痛発作の発症抑制」の効能又は効果で製造販売承認を取得していた。 本剤はCGRP受容体を阻害することで片頭痛患者における片頭痛を予防できるように特異的にデザインされた完全ヒトモノクローナル抗体。複数の臨床試験で本剤の安全性および有効性が検討されている。4,000人以上の患者が本臨床試験プログラムに参加した。アイモビーグは、米国食品医薬品局(FDA)、欧州医薬品庁(EMA)、スイスメディック(Swissmedic)、オーストラリア医療製品管理局(TGA)など、世界の多くの規制当局から成人の片頭痛予防薬として承認されている。製品概要販売名:アイモビーグ皮下注70mgペン一般名:エレヌマブ(遺伝子組換え)効能又は効果:片頭痛発作の発症抑制効能又は効果に関する注意:・十分な診察を実施し、前兆のある又は前兆のない片頭痛の発作が月に複数回以上発現している、又は慢性片頭痛であることを確認した上で本剤の適用を考慮すること。・最新のガイドライン等を参考に、非薬物療法、片頭痛発作の急性期治療等を適切に行っても日常生活に支障をきたしている患者にのみ投与すること。用法及び用量:通常、成人にはエレヌマブ(遺伝子組換え)として70mgを4週間に1回皮下投与する。製造販売承認日:2021年6月23日薬価基準収載日:2021年8月12日発売日:2021年8月12日薬価:アイモビーグ皮下注70mgペン 41,356円製造販売元:アムジェン株式会社

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腰部脊柱管狭窄症診療ガイドライン2021、“腰痛の有無”を削除

 『腰部脊柱管狭窄症診療ガイドライン2021 改訂第2版』が5月に発刊された。2011年の初版を踏襲しつつも今版では新たに蓄積された知見を反映し、診断基準や治療・予後に至るまで構成を一新した。そこで、腰部脊柱管狭窄症診療ガイドライン(GL)策定委員長の川上 守氏(和歌山県立医科大学 名誉教授/済生会和歌山病院 院長)に、脊柱管狭窄症の評価方法や難渋例などについて話を聞いた。腰部脊柱管狭窄症診療ガイドラインに“腰痛の有無は問わない”基準 腰部脊柱管狭窄症診療ガイドラインの目的の1つは、これを一読することで今後の臨床研究の課題を見つけてもらい、質の高い臨床研究が多く発表されるようになることだが、脊柱管狭窄症の“定義”自体に未だ完全な合意が得られていない。そのため診断基準も日進月歩で、明らかになった科学的根拠を基に随時更新を続けている。今回は腰部脊柱管狭窄症診療ガイドライン初版の診断基準で提示していた「歩行で増悪する腰痛は単独であれば除外する」を削除し、以下のとおりに「腰痛の有無は問わない」と明記された。<診断基準>(1)殿部から下肢の疼痛やしびれを有する(2)殿部から下肢の症状は、立位や歩行の持続によって出現あるいは増悪し、前屈や座位保持で軽減する(3)腰痛の有無は問わない(4)臨床初見を説明できるMRIなどの画像で変性狭窄所見が存在する その理由は、脊柱管や椎間板の狭小化による神経組織や血流の障害から惹起される腰痛と非特異的腰痛を鑑別する確立された評価法がないためである。さらに、川上氏によると「ガイドライン作成の基本は論文査続だが、腰痛の定義が一致していないことが問題で、臀部の痛みを腰痛に含める場合もある。腰部脊柱管狭窄症診療ガイドライン2021の6ページにあるように、腰痛を明確に鑑別することができないことから『腰痛の有無を問わない』とした。ただし、診断基準の(1)(2)(4)は従来通りで、これが揃えば腰部脊柱管狭窄による症状であると判断できる」と説明した。 一方で、「腰部脊柱管狭窄症患者の腰痛が除圧術で良くなったという報告がある。臀部痛を腰痛に含めた場合には神経障害性の痛みである可能性があり、神経除圧で腰痛が改善する例もある。前任地の和歌山県立医科大学紀北分院では、腰部脊柱管狭窄症患者の腰痛を明確に定義して、他の症状や画像所見との関係を調査した。その結果は投稿中だが、狭窄の程度や有無よりも椎間板や終板の障害と関連することが明らかとなったので、次回の腰部脊柱管狭窄症診療ガイドライン改訂には引用してもらえるのではと考えている」とも話した。腰部脊柱管狭窄症診断ツールの利用とその状況、紹介タイミング 診断に有用な病歴や診察所見は、NASS(North American Spine Society)ガイドラインやISSLS(International Society for the Study of the Lumbar Spine)のタスクフォースによる国際的調査で報告された7つの病歴などに基づいている。また、診断ツールとしては、初版より“腰部脊柱管狭窄症診断サポートツール”(p12.表1)の使用が推奨されており、専門医のみならず、プライマリ・ケア医による診断、患者の自己診断にも有用とされる。 診断ツールの普及率や実際の使用例について、同氏いわく「このツールは広く使われているのではないか。と言うのは、優秀な友人の内科医が、“立位で下肢痛あり、ABI 0.9以上、下肢深部腱反射消失した75歳の女性を、腰部脊柱管狭窄症サポートツール8点と紹介状につけて紹介してくれたことがあった。実際は、変形性膝関節症だったが、地域でプライマリ・ケアを担っている先生が使ってくれているのだなぁと実感したことがあった」とし「しかしながら、腰部脊柱管狭窄症サポートツールは参考にはなるものの、最終的な診断は画像所見を含めて整形外科医、脊椎外科医にお願いしてほしい。7点をカットオフ値に設定した場合の感度は92.8%、特異度は72.0%である」と専門医への紹介理由を補足した。腰部脊柱管狭窄症、非専門医が鑑別できる症例と難しい症例 腰部脊柱管狭窄症と鑑別すべき疾患には“末梢動脈疾患などの血管性間欠跛行”がある。一般的にはABIを使って鑑別するが、非専門医などでABIを導入していない場合は「足背動脈や後脛骨動脈が触知するかどうかでABIの代わりになるだろう。また、糖尿病や高血圧症などの併存疾患があり、上述した動脈に触れない、または触れにくい場合には、専門医に紹介することを推奨している」と専門医への紹介タイミングにも触れた。 一方で、脊柱管狭窄症と鑑別が難しいのは、慢性硬膜下血腫、脳梗塞、パーキンソン病、頚髄症、胸髄症、末梢神経障害、そして末梢動脈疾患(PAD)の存在だ。同氏は「腰部脊柱管狭窄症と紹介された人の中に、実際はほかの疾患であった患者さんが結構いたのは事実。今はMRIが簡単に撮像できるが、画像上の脊柱管狭窄は高齢者であればかなりの頻度である。そこに下肢症状があると腰部脊柱管狭窄症と考えられてしまう傾向にある。そのため、他疾患がないか、他科への対診も含めて十分に検討した上で『腰部脊柱管狭窄症である』と分かった時には安心する。何故ならば、希望があれば最終的には手術で対応できるから」と自身の経験した難渋例と向き合い方を語った。 最後に腰部脊柱管狭窄症診療ガイドライン2021の編集にあたって苦労した点を伺うと、「やはり、“CQ12-2:腰部脊柱管狭窄症に対する椎弓根スクリューを用いた制動術は保存治療、除圧術、除圧固定術よりも有用か”のところ。論文の少ない項目もあったが、比較的質の高そうな論文を見ても最近の動向とかけ離れていることがわかった。併発症の発生率の高さや従来の術式を凌駕する臨床成績ではない点、並びにコストを考えると推奨し難い結果だった」と述べるとともに「今回の改訂で力を入れた1つに文言・文章の統一がある。委員会の先生方は育った大学・医局が違うため、文章の表現も微妙に異なる。文章の言い回しの統一を3人のコアメンバー(井上 玄氏[北里大学 診療教授]、関口 美穂氏[福島県立医科大学 教授]、竹下 克志氏[自治医科大学 教授])にお願いして、一緒に校正を行った。十分読み応えがあり、なおかつ非常に読みやすい文章のガイドライン改訂版になったと自負している」と振り返り、次回の腰部脊柱管狭窄症診療ガイドライン改訂では、「医療者と患者双方に有益で相互理解に役立つか、効率的な治療により人的・経済的負担の軽減が期待できるかを視野に進めたい」と締めくくった。

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高用量オピオイドの長期投与、用量漸減のリスクは?/JAMA

 高用量オピオイドを長期にわたり安定的に処方されている患者において、用量漸減は、過剰摂取およびメンタルヘルス危機のリスク増加と有意に関連することが、米国・カリフォルニア大学のAlicia Agnoli氏らによる後ろ向き観察研究の結果、示された。オピオイド関連死亡率の増加や処方ガイドラインにより、慢性疼痛に対してオピオイドを長期間処方された患者における用量漸減が行われている。しかし、過剰摂取やメンタルヘルス危機など、用量漸減に伴うリスクに関する情報は限られていた。JAMA誌2021年8月3日号掲載の報告。高用量オピオイドの長期投与患者約11万4千例を後ろ向きに解析 研究グループは2008~19年のOptumLabs Data Warehouseデータベースから、匿名化された医療費・薬剤費および登録者のデータを用いて後ろ向き観察研究を実施した。解析対象は、ベースラインの12ヵ月間に高用量オピオイド(モルヒネ換算平均50mg以上)を処方され、2ヵ月以上追跡された米国の成人患者11万3,618例。 オピオイドの用量漸減については、7ヵ月の追跡期間中の6つの期間(1期間60日、一部期間は重複)のいずれかにおいて、1日平均投与量が少なくとも15%相対的に減量された場合と定義し、同期間中の最大月間用量減量速度を算出した。 主要アウトカムは、最長12ヵ月の追跡期間中の(1)薬剤の過剰摂取または離脱、(2)メンタルヘルス危機(うつ、不安、自殺企図)による救急受診。統計には、離散時間型の負の二項回帰モデルを用い、用量漸減(vs.用量漸減なし)および用量減量速度に応じた2つのアウトカムの補正後発生率比(aIRR)を推算して評価した。用量漸減で過剰摂取やメンタルヘルス危機が約2倍増加 解析対象11万3,618例のうち、用量漸減が行われた患者は2万9,101例(25.6%)、行われなかった患者は8万4,517例(74.4%)で、患者背景は、女性がそれぞれ54.3% vs.53.2%、平均年齢57.7歳 vs.58.3歳、民間保険加入38.8% vs.41.9%であった。 用量漸減後の期間(補正後発生率は9.3件/100人年)は、非漸減期間(5.5件/100人年)と比べて過剰摂取イベントの発生との関連がみられた(補正後発生率の差:3.8/100人年[95%信頼区間[CI]:3.0~4.6]、aIRR:1.68[95%CI:1.53~1.85])。 用量漸減は、メンタルヘルス危機イベントの発生とも関連していた。補正後発生率は同期間7.6件/100人年に対して、非漸減期間3.3件/100人年であった(補正後発生率の差:4.3/100人年[95%CI:3.2~5.3]、aIRR:2.28[95%CI:1.96~2.65])。 また、最大月間用量減量速度が10%増加することで、過剰摂取のaIRRは1.09(95%CI:1.07~1.11)、またメンタルヘルス危機のaIRRは1.18(95%CI:1.14~1.21)増加することが認められた。 これらの結果を踏まえて著者は、「今回の結果は、用量漸減の潜在的な有害性に関する問題を提起するものであるが、観察研究のため解釈は限定的なものである」との見解を述べている。

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COVID-19に対する薬物治療の考え方 第8版、中和抗体薬を追加/日本感染症学会

 日本感染症学会(理事長:舘田一博氏[東邦大学医学部教授])は、8月6日に新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の治療薬について指針として「COVID-19に対する薬物治療の考え方第8版」をまとめ、同会のホームページで公開した。 今回の改訂では、前回7版からの知見の追加のほか、先日承認された中和抗体薬の項目が追加された。また、デルタ株の猛威に対し「一般市民の皆様へ ~かからないために、かかった時のために~」を日本環境感染学会と連名で公開した。中和抗体薬を新たに追加 第8版では「中和抗体薬」として下記を追加した(一部を抜粋して示す)。【機序】中和抗体薬は単一の抗体産生細胞に由来するクローンから得られたSARS-CoV-2スパイク蛋白の受容体結合ドメインに対する抗体。【海外での臨床報告】中和抗体薬は、発症から時間の経っていない軽症例ではウイルス量の減少や重症化を抑制する効果が示され、また投与時にすでに自己の抗体を有する患者では効果が期待できないことが示されている。重症化リスク因子を1つ以上持つCOVID-19外来患者4,057人を対象としたランダム化比較試験では、カシリビマブ/イムデビマブの単回投与により、プラセボと比較して、COVID-19による入院または全死亡がそれぞれ71.3%、70.4%有意に減少した。また、症状が消失するまでの期間(中央値)は、両投与群ともプラセボ群に比べて4日短かった。【投与方法(用法・用量)】通常、成人および12歳以上かつ体重40kg以上の小児には、カシリビマブ(遺伝子組換え)およびイムデビマブ(遺伝子組換え)としてそれぞれ600mgを併用により単回点滴静注。【投与時の注意点】1)SARS-CoV-2による感染症の重症化リスク因子を有し、酸素投与を要しない患者を対象に投与を行うこと。2)高流量酸素または人工呼吸器管理を要する患者において症状が悪化したとの報告がある。3)本剤の中和活性が低いSARS-CoV-2変異株に対しては本剤の有効性が期待できない可能性があるため、SARS-CoV-2の最新の流行株の情報を踏まえ、本剤投与の適切性を検討すること。4)SARS-CoV-2による感染症の症状が発現してから速やかに投与すること。臨床試験において、症状発現から8日目以降に投与を開始した患者における有効性を裏付けるデータは得られていない。5)重症化リスク因子については、その代表的な例として、承認審査での評価資料となった海外第III相試験(COV-2067試験)の組み入れ基準、新型コロナウイルス感染症に係る国内の主要な診療ガイドラインである「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)診療の手引き」または特例承認の際に根拠とした米国の緊急使用許可(EUA)において例示されている重症化リスク因子が想定される。外来で聞かれたら答えたい4項目 一般向けとして公開された「私たちからのメッセージ」では、・COVID-19 に関して知っておきたいこと・かからないためにわたしたちは何をすべきなのか・かかってしまった人に・皆さんへのお願いの4項目を示し、解説としてデルタ株の特性、現況の感染状況、医療体制への悪影響、ワクチンの重要性、感染しないために個人ができる対策を記している。また、最後に「皆さんへのお願い」では、ワクチン接種と感染対策の励行、正しい情報の共有、他人への気遣い、ワクチン未接種者への理解を訴えている。

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認知症に対するロボットケア介入の有効性~メタ解析

 認知症ケアへの利用に期待が高まるロボット介入。認知症に対するロボット介入の研究は進んでいるものの、その効果はどの程度なのだろうか。台湾・高雄医学大学のIta Daryanti Saragih氏らは、認知症患者におけるロボット介入の有効性を調査するため、システマティックレビューおよびメタ解析を実施した。Journal of Clinical Nursing誌オンライン版2021年5月26日号の報告。 各種データベース(Academic Search Complete、CINAHL、Cochrane Library、MEDLINE、PubMed、SocINDEX、UpToDate[OVID]、Web of Science)よりシステマティックに検索した。適格基準は、認知症患者、ランダム化比較試験、英語での出版とした。対象研究の方法論的質を評価するため、PEDroスケールを用いた。ロボット介入のプールされた効果を算出するため、固定効果モデルを用いて、メタ解析を実施した。統計分析には、STATA 16.0を用いた。PRISMAガイドラインに従って結果報告を行った。 主な結果は以下のとおり。・適格基準を満たした研究は、15件(1,684例)であった。・全体として、認知症患者に対するロボット介入により、以下に対するプラスの影響が認められた。 ●興奮症状(SMD:0.09、95%CI:-0.22~0.33) ●不安症状(SMD:-0.07、95%CI:-0.42~0.28) ●認知機能(SMD:0.16、95%CI:-0.08~0.40) ●うつ症状(SMD:-0.35、95%CI:-0.69~0.02) ●神経精神症状(SMD:0.16、95%CI:-0.29~0.61) ●日中の総睡眠時間(SMD:-0.31、95%CI:-0.55~0.07) ●QOL(SMD:0.24、95%CI:-0.23~0.70)・認知症患者の健康状態を改善するうえで、ロボット介入は、効果的かつ代替的な介入である可能性が示唆された。 著者らは「今後の研究において、ロボット介入の不安症状への効果や介入頻度、期間、ネガティブなアウトカムについて検討する必要がある」としながらも「認知症患者のケアを提供する際、看護スタッフは、非薬理学的なアプローチとして、臨床的なベネフィットをもたらすロボット介入を取り入れる可能性がある」としている。

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新たな薬物療法などを収載、「胃癌治療ガイドライン」が3年ぶりの改訂

 2021年7月下旬、「胃癌治療ガイドライン 第6版」が発行された。胃癌治療ガイドラインとしては前版(2017年11月発行、2018年1月改訂)から3年ぶりの改訂となる。前版で採用された構成(教科書形式による解説+CQ)を踏襲しつつ、Minds診療ガイドライン作成マニュアル2017を参考とした作成方法を採用し、新たな薬剤や治療法の解説・推奨が追加された。胃癌治療ガイドラインは3年ごとを目処に改訂を予定 胃癌治療ガイドラインの前版からの主な変更点は以下のとおり。1)外科・内視鏡治療、化学療法、緩和的治療に関するCQを前版の26項目から32項目に増加(新たに設けられたCQには免疫チェックポイント阻害薬、ゲノム検査に関するものが含まれる)。2)日本胃癌学会と日本食道学会の実施した前向き研究結果に基づき、cT2-T4の食道胃接合部癌に対する手術アプローチとリンパ節郭清のアルゴリズムを示した。また食道胃接合部癌に関する3つのCQを作成し推奨を示した。3)腹腔鏡下手術およびロボット支援下手術について、最新の研究状況を踏まえた推奨を示した。4)切除不能進行・再発胃癌に対する化学療法のレジメンは、「推奨されるレジメン」、「条件付きで推奨されるレジメン」として、「治療法」の章のアルゴリズムに列記した。治療選択肢は増す一方、個々のレジメントを比較したエビデンスは十分でないため、優先順位は付けず、エビデンスレベルも記載しなかった。5)免疫チェックポイント阻害薬の最新の研究成果をCQにて解説した。 胃癌治療ガイドラインの巻末には、これまでのガイドラインが臨床現場でどう使われているか、実際を知るための調査として行われている「Quality Indicatorによる胃がん医療の均てん化・実態に関する研究」のデータ解析結果が収載されている。胃癌治療ガイドラインは今後も3年ごとを目処に改訂を予定するが、重要事項は学会サイト上の速報で発表するという。■胃癌治療ガイドライン 第6版編集:日本胃癌学会定価:1,650円(税込)発行:金原出版発行日:2021年7月20日金原出版サイト

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HFrEFの質改善プログラムの介入効果、通常ケアと差なし/JAMA

 症状を有する左室駆出率40%以下の心不全(HFrEF)で入院した患者において、院内および退院後のさまざまな質の改善を目的とした介入を行っても、通常ケアと比較して、初発の心不全再入院または全死因死亡までの期間、ならびに複合心不全ケアの質スコアの変化に有意差は認められなかった。米国・デューク大学医学部のAdam D. DeVore氏らが5,746例を対象に行ったクラスター無作為化試験の結果、示された。心不全患者に対するガイドラインに基づく治療の採択にはばらつきがあり、ガイドラインに基づく治療を改善する介入は、目標とする評価基準を一貫して達成できておらず、心不全のケアの質を改善するための取り組みに役立つデータは限られていた。JAMA誌2021年7月27日号掲載の報告。161施設において、質の改善を目的とした介入と通常ケアを比較 研究グループは、米国の病院161施設において、自宅に退院するHFrEF成人患者を登録し、心不全アウトカムとケアについて、通常ケアと比較した院内および退院後の質的改善の介入効果を評価した。 無作為化は病院単位で行われ、161施設を介入群(82施設)と通常ケア群(79施設)に無作為に割り付け、介入群施設は、心不全と質改善の専門家のトレーニングを受けたグループによる医師への定期的な教育と、心不全プロセス指標(たとえば、HFrEFのガイドラインに基づく薬物療法の使用)およびアウトカムに関する監査とフィードバックを受けた。通常ケア群施設は、ウェブサイトにアクセスして一般的な心不全の教育を受けた。 主要評価項目は、初発の心不全再入院または全死因死亡と、心不全の質に関する複合スコアの変化であった。心不全の質に関する複合スコアは、退院時および外来フォローアップ時に提供されるケアの質に関するガイドラインに基づいた推奨事項を評価し、全機会のうち無事達成されたものの割合とした。 本試験は、2017~20年に実施された(最終フォローアップ日は2020年8月31日)。介入群の臨床アウトカム、ケアの質スコアは改善せず 5,746例が登録され、退院前にイベントが発生した患者を除く5,647例(介入群2,675例、通常ケア群2,972例)が解析対象となった。平均年齢は63歳、女性33%、黒人38%、慢性心不全87%、最近心不全で入院した患者49%であった。このうち、5,636例(99.8%)で試験終了時に生命予後が判明した。 心不全再入院または全死因死亡の発生率は、介入群38.6% vs.通常ケア群39.2%であった(補正後ハザード比[HR]:0.92、95%信頼区間[CI]:0.81~1.05)。ベースラインのケアの質のスコアは、それぞれ42.1% vs.45.5%、ベースラインから追跡期間終了時までの変化は2.3% vs.-1.0%(群間差:3.3%、95%CI:-0.8%~7.3%)であり、最終フォローアップ時に高い心不全の質のスコアを達成するオッズ比は、両群間に有意差はなかった(補正後オッズ比:1.06、95%CI:0.93~1.21)。

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認知症による幻覚妄想に何を処方するべきか(解説:岡村毅氏)

 認知症がある方のサイコーシス(幻覚・妄想)は、本人や介護者にとっては過酷な状況である。 本研究は、海外ではパーキンソン病認知症によるサイコーシスに使われているpimavanserinを、アルツハイマー型、前頭側頭型、血管性の認知症によるサイコーシスにも広げる試みだ。この第III相試験で良好な結果が得られたので、将来われわれが手にする可能性も高いと思われる。 認知症がある方のサイコーシスに対する医学的な対応はここ数十年で大きく変貌した。かつては抗精神病薬が安易に処方されることが多かった。これらは、強弱はあるがドパミン遮断薬でもあるのだから、パーキンソン症状のリスクが大きく、誤嚥や転倒につながる。さらにレビー小体病やパーキンソン病認知症といった新たなカテゴリーが出現し、このカテゴリーでは当然ながらドパミン遮断薬は禁忌である。 現在では、抗精神病薬はなるべく使わずに、環境調整(たとえば日中は明るい所で活動してもらう)、非薬物療法(介護スタッフへのケア方法の提案)、心理社会的な解釈の可能性の探求(その幻覚妄想には意味があるのではないか、こうすればよいのではないか)などをまずは行う。それでも改善しない場合は漢方薬を使い(ただし粉の形状が嫌われる場合もある)、最後の手段でリスクベネフィットを熟慮したうえで関係者の総意で少量の抗精神病薬を開始する、効果が得られたらすぐに撤退する、というのが一般的であろう。 とはいえ、処方者はなかなか厳しい立場にいることも自覚せねばならない。進歩的な人々からは「高齢者に抗精神病薬を使うなんて非人道的だ」と言われる。一方で、家族介護者や施設介護者からは、「私たちの生活は破綻しています」という悲鳴と共に使用の希望を頂くことが多い。「すぐに使ってくれ、でなければ入院させてくれ」と言われることもあるし、期待に沿えないとおそらく他の医療機関で処方してくれるところを探し続けるということもあろう。また減薬を提案すると反発されることが多い。臨床とはそういうものだが、柔軟さと大局観が必要だ。 このpimavanserinの強みは、パーキンソン症状がほぼないことであろう。本研究では誤嚥や転倒はみられておらず、これまでの困難を大きく解消するだろう。 以上はあくまで臨床家の経験に基づく語りである。そして以下はそれを受けた研究者としての考察である。 もちろん処方データベース等を用いた疫学研究も重要であるが(私も疫学研究者の端くれである)、現実世界の変化はとても大きく複雑なので、臨床家の生の声が意外に本質に迫っていることもある。 臨床現場は、患者の急激な高齢化(いまや100歳も普通)、一人暮らしの人の急増、地域包括支援センターの支援技術の向上(出来上がったころに比べると雲泥の差だ、そもそも昔は認知症の人は病院だといって拒否していたところもあった)、介護スタッフの技術の向上(たとえば好き嫌いはあるだろうがユマニチュードのおかげで支配的なスタッフはだいぶ減った印象だ)、家族の意識の変化(かつては親の死や弱さを受け入れない人も多かったが、いまでは自然なこととわかってくださる人が増えた)など変わり続ける。おそらく未知の変数もあるだろう。そして正解もまた変わり続ける。かつて私は、ガイドラインや疫学研究が臨床を導く光だと思っていた。いまでもそうした気持ちはあるが、おそらくガイドラインや疫学研究は、現実には臨床を追いかけているに過ぎないのだろうと思っている。 最後におとなしくまとめると、両方大事であって、どちらかだけでは視野狭窄だということだ。

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統合失調症に対する抗精神病薬の長期継続性

 統合失調症の治療では、抗精神病薬の長期投与が必要となることが少なくない。米国・ザッカーヒルサイド病院のJose M. Rubio氏らは、統合失調症治療における抗精神病薬の継続性、治療中断に関連する因子について、調査を行った。Schizophrenia Bulletin誌オンライン版2021年6月15日号の報告。 フィンランドの初回エピソード精神疾患患者を対象とした全国コホートを最長18年間フォローアップした。初回治療との比較および本コホートで最も使用頻度の高かったオランザピンと比較した特定の抗精神病薬についての治療中止リスクを評価するため、層別Cox比例ハザード回帰を用いた。調整ハザード比(aHR)および95%信頼区間(CI)を算出した。 主な結果は以下のとおり。・平均8年間フォローアップを行った患者3,343例の継続治療エピソード回数の中央値は6回(四分位範囲[IQR]:3~11)、期間中央値は11.4ヵ月(IQR:5.3~25.6)であった。・診断初年度における治療中止の発生率は、30.12イベント/100患者年(95%CI:29.89~30.35)であったが、10年目には8.90イベント/100患者年(95%CI:8.75~9.05)に減少した。・治療中止リスクは、治療エピソード回数が連続するにしたがって徐々に減少した(初回エピソードと比較した15回以降のエピソードのaHR:0.30、95%CI:0.20~0.46)。・抗精神病薬の長時間作用型注射剤は、経口剤と比較し、治療中断リスクが67%低かった(aHR:0.33、95%CI:0.27~0.41)。 著者らは「長期にわたる統合失調症治療では、抗精神病薬の中断と再開が繰り返されることが多いが、これは統合失調症マネジメントガイドラインで推奨されていない。治療のなるべく早い段階で抗精神病薬の長時間作用型注射剤を用いることにより、抗精神病薬の治療継続性が高まる可能性がある」としている。

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片頭痛の予防治療に関するレビュー

 米国・ハーバード大学医学大学院のRebecca Burch氏は、片頭痛の予防的治療の開始時期と選択方法、薬理学的オプション(従来からある経口剤治療およびカルシトニン遺伝子関連ペプチド[CGRP]またはその受容体に対する新規モノクローナル抗体)、神経調節などの非薬理学的治療、難治性片頭痛の予防的治療などの片頭痛に対する介入について、レビューを行った。Continuum誌2021年6月1日号の報告。 主なレビューは以下のとおり。・片頭痛の予防的治療は、CGRPまたはその受容体を標的としたモノクローナル抗体が開発されたことにより変化した。・これらの治療法は、毎月または四半期ごとに皮下または静脈内投与することにより、高い有効性と良好な忍容性が臨床試験で確認された。・リアルワールドでの研究において、有害事象は、臨床試験よりも高率で認められた。・従来からある2つの予防的治療で効果不十分な場合、CGRPまたはその受容体を標的としたモノクローナル抗体の使用が推奨されている。・一般的に引用される米国頭痛学会、米国神経学会の頭痛予防ガイドライン2012が発表されて以来、リシノプリル、カンデサルタン、メマンチンの予防的使用を支持する臨床試験が報告されている。・外部三叉神経刺激法および単発経頭蓋磁気刺激法を含む神経調節デバイスによる予防的使用を支持するいくつかのエビデンスが報告されている。・片頭痛の予防的治療に関する米国頭痛学会、米国神経学会の頭痛予防ガイドラインは、現在アップデートされている。・新クラスの経口CGRP受容体アンタゴニスト(gepant)が、片頭痛の予防的治療に対し試験されている。 著者らは「片頭痛の予防的治療の成功は、疾患負荷の軽減やQOLの向上が期待できる。片頭痛の予防には、CGRPを標的とした新規治療法や、十分なエビデンスを有する従来治療など、多くの薬理学的および非薬理学的治療オプションが選択可能である。個々の患者に最適な治療法を見つけるためには、複数の臨床試験が必要になると考えられる」としている。

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事例031 股関節症でのヒアルロン酸Na関節注の査定【斬らレセプト シーズン2】

解説両変形性股関節症の患者に、ヒアルロン酸Na関節注 25mgシリンジを使用して股関節腔内に注入を行い、関節腔内注射で算定したところ、薬剤のみC事由(医学的理由による不適当)により査定となりました。査定理由を調べるために、まずはカルテを確認しました。「強くなった痛みに対して効果があるとして、股関節へのヒアルロン酸注入を選択した」ことが記載されていました。選択の参考とされた文献のコピーも添付されていました。医学的有効性としてその内容がレセプトに記載されていました。ヒアルロン酸Na関節注の添付文書による適応症を参照したところ、「変形性膝関節症、肩関節周囲炎」と記載され、股関節への適応はありませんでした。また、「股関節へのヒアルロン酸注入は、生理食塩液と効果の差が認められなかったため、保険診療が認められていない」とする診療ガイドラインがありました。以上の理由から、薬剤のみが医学的に保険診療上適当でないとC事由にて査定になったものと推測できます。診察した医師にはこれらの資料を示して伝え、再審査はできないことを説明しました。当該医師には最近のコンピュータ審査の状況を説明し、できる限り添付文書の範囲内に収まる診療をお願いしました。

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オピオイドから認知症在宅診療まで、「緩和ケア」の旬のトピックを学ぶ【非専門医のための緩和ケアTips】第8回

第8回 オピオイドから認知症在宅診療まで、「緩和ケア」の旬のトピックを学ぶ今日の質問開業してからは多忙で学術大会から足が遠ざかっています。参加するメリットはありますか?今回は2021年6月に開催された第26回日本緩和医療学会学術大会について、開催レポートを兼ねて紹介したいと思います。新型コロナウイルス流行下ということで、現地とオンライン参加のハイブリッド開催で行われました。緩和ケア学会、というとどんな内容をイメージするでしょうか? 医学系学会といえば、改定ガイドラインの解説や最新の研究分野の発表とシンポジウム、みたいなところがメジャーですよね。緩和ケア学会もそうした内容はあるのですが、他学会では見られないユニークな内容もあります。今回の学術大会のテーマは「初心忘るべからず(初心不可忘)」。私は知らなかったのですが、これは世阿弥が生み出した能の有名な言葉だそうです。大会ポスターも能のシーンを基に作られ、特別講演は能楽師をお招きしての「能楽の時代を超えた役割」。医学の学術大会になぜ能?と思った方も多いでしょう。ですが、緩和ケア系の学会でこうした文化的なトピックと緩和ケアの接点を探るセッションが開催されることは珍しくありません。これまでも音楽や地域づくりなど、文化人類学的な演題が行われてきました。緩和ケアという領域の特性として、文化・教育と医療の融合に関する議論は欠かすことができず、「死生観の醸成」といった議論を大切にされている方も多くいます。とはいえ、私たち臨床医がこうした分野を勉強する機会はあまりありませんから、学術大会だからこその学びでもあります。もちろん、緩和ケアの実践的な演題も多くあります。印象的だったのは「オピオイド」に関する発表です。がん治療の成績向上に伴い、オピオイドの使用が長期化する患者さんが増えてきました。読者の中にも、オピオイドを長期使用しているがん患者を外来でフォローされている方がいるのではないでしょうか。海外ではオピオイド依存症が大きな社会問題になっており、不適切使用を防ぐための指導がこれまで以上に重要になっています。発表でも慢性疼痛のマネジメントや長期使用のアセスメント、留意点の議論が活発に行われました。私が運営を手伝った「認知症BPSDの在宅緩和ケア成功の秘訣」のセッションも興味深いものでした。介護者の負担が大きい状況下にあって、医師は緩和ケアをどのように実践すべきか、薬物療法や各職種への働き掛けについて議論が交わされました。質問も活発で、がん以外の疾患に対する緩和ケアの重要性とその実践の難しさに多くの人が直面していると感じました。私は今回の学術大会の実行委員であり、現地で参加しました。オンラインは自宅でリラックスして参加できるメリットがありますが、各分野の第一人者や懐かしい仲間と直接会うことができる現地参加のメリットも再確認できました。コロナの影響で1年以上会えなかった先生方と言葉を交わすこともできました。こうした機会はバーンアウトを防ぐためにも有効だといわれています。開業されて1人で診療している先生も多いことでしょう。知識のアップデートのほか、ネットワーキングの機会としてもぜひ学術大会を有効活用していただければと思います。次の第27回日本緩和医療学会学術大会は2022年7月1日(金)~2日(土)、神戸で開催予定です!今回のTips今回のTips他分野とは一線を画したユニークなトピックに触れられる、緩和ケアの学術大会にぜひご参加ください!

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不眠症とメタボリックシンドロームリスク~メタ解析

 不眠症と高血圧、高血糖、脂質異常症、肥満などのメタボリックシンドロームリスクとの関連を調査するため、中国・Third Military Medical UniversityのYuanfeng Zhang氏らは、システマティックレビューおよびメタ解析を実施した。Journal of Clinical Neuroscience誌2021年7月号の報告。 PRISMAガイドラインに従ってメタ解析を実施した。PubMedおよびEmbaseより、不眠症とメタボリックシンドロームリスクとの関連を調査した2020年12月1日までに公表された観察研究を検索した。各研究のリスク推定値を集計し、プールされたデータのオッズ比(OR)および95%信頼区間(CI)を算出するため、ランダム効果モデルを用いた。研究の不均一性は、I2統計量を用いて評価した。 主な結果は以下のとおり。・高血圧、高血糖、脂質異常症、肥満のメタボリックシンドロームに関連する症状を含む12件の研究を、最終的にメタ解析に含めた。・不眠症患者のメタボリックシンドロームに関連する症状のリスクは、以下のとおりであった。 ●高血圧:OR=1.41(95%CI:1.19~1.67) ●高血糖:OR=1.29(95%CI:1.11~1.50) ●脂質異常症:OR=1.12(95%CI:0.92~1.37) ●肥満:OR=1.31(95%CI:1.03~1.67) 著者らは「不眠症患者では、そうでない人と比較し、高血圧、高血糖、肥満のリスクがそれぞれ1.41倍、1.29倍、1.31倍高かった」としている。

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ASCO2021 レポート 消化器がん(肝胆膵がん)

レポーター紹介今年のASCOもCOVID-19の影響でVirtual meetingとなり、2年連続Web開催となった。2021年6月4日から始まったが、いつものようなワクワク感がない。今年は、肝胆膵領域でそこまで面白い演題がなかったこともあるのだが、海外の先生と接する機会もなく質問もできないので、演題を生で聞かなきゃという気持ちに焦りもなく、あとでon demandで見ようという感じになる。また、ASCO期間中に集中して行われていたmeetingも数少なくなり、ASCOが終わって1ヵ月たってもだらだらと行われている感じである。そして、気が付いたらESMO-GI(WCGC)まで終わっているという状況であり、ASCOだという華やかさがなく、寂しさを感じた。やはり顔を見ながら、お互いの意見を突き付けてdiscussionする機会が欲しい。いろんな先生と交流の機会があることで、やる気も高まってくるものである。しかも、昨年、ASCO memberは参加費が不要だったので、今年も不要になることを信じて事前登録もしていなかったため、ASCO当日、慌てて全額を支払い、Virtual meetingに参加することとなった。当日参加は1,395ドルもかかり、非常に痛い出費である。「くっそー、COVIDの野郎め」と八つ当たりしながら、ChicagoでDeep-Dish Pizzaを食べている自分をイメージして、いつものDomino’s Pizzaを食べつつ、今年のASCOを振り返りたいと思う。肝臓がんさて、本題です。まずは肝臓がんから解説します。今年の肝胆膵領域はあまり面白い演題がなかったなというのが本音である。肝細胞がん領域では、Oral presentationに2演題が選ばれていたが、Poster discussionでは1演題も採択されていなかった。また、今年発表されるであろうと期待されていたデュルバルマブ+tremelimumabの第III相試験(HIMALAYA)やペムブロリズマブ+レンバチニブの第III相試験(LEAP-002)、tislelizumabの第III相試験(RATIONALE-301)などの大規模試験の結果を期待していたのだが、報告されなかった。そして、今年も中国からFOLFOX肝動注化学療法の第III相試験が2演題であり、中国1国のみでいくつもの第III相試験を発表しており、どんなに肝細胞がんの患者さんがいるのだろうかと感じずにはいられなかった。進行肝細胞がんに対するオキサリプラチン+フルオロウラシル併用肝動注療法とソラフェニブ療法の比較:ランダム化第III相試験(The FOHAIC-1 study)著者:Ning Lyu, et al.、Oral presentation本試験は、肝内腫瘍量が多い進行肝細胞がん症例に対する1次薬物療法として、FOLFOX肝動注療法の有効性を、ソラフェニブをコントロールとして検証するランダム化第III相試験(FOHAIC-1試験)である。主な適格基準はBarcelona Clinic Liver Cancer(BCLC)Stage BまたはC、Child-Pugh分類A~B7、Eastern Cooperative Oncology Group(ECOG)-Performance Status(PS)0~2などで、肝動注群とソラフェニブ群に1:1で割り付けられた。FOLFOX肝動注療法は、オキサリプラチン130mg/m2、ロイコボリン(LV)200mg/m2、5-フルオロウラシル(5-FU)400mg/m2および5-FU 2,400mg/m2 46時間持続投与を3週間ごとに行い、ソラフェニブ群はソラフェニブ1回400mgを1日2回内服した。ソラフェニブ群の全生存期間(OS)の中央値を8.0ヵ月、肝動注群を14ヵ月、検出力90%、両側α=0.05として、36ヵ月間の登録期間、最大60ヵ月の追跡期間として、247例の登録が必要となり、260例の登録を目標症例数として設定された。登録患者は肝動注群(130例)とソラフェニブ群(132例)に割り付けられた。患者背景は両群において有意な差は認めなかった。本試験の治療成績を表に示す。主要評価項目であるOSは、ソラフェニブ群と比べて肝動注群で有意に良好であった。薬物療法によるダウンステージングは、肝動注群で16例(12.3%)、ソラフェニブ群で1例(0.8%)に認めた。また、腫瘍の肝占拠割合が50%以上または門脈本幹に腫瘍栓を有する高リスク群のOSも肝動注群で有意に良好であった。RECISTv1.1による客観的奏効割合(ORR)は肝動注群で有意に良好だった(p<0.001)。薬剤に関連したGrade3以上の有害事象はむしろソラフェニブ群で有意に多く、主な有害事象は、肝動注群のオキサリプラチン投与に伴う腹痛(40.6%)であったが、投与による有害事象で肝動注療法を中止した患者はいなかった。画像を拡大するこのように、肝内病変が進行した肝細胞がん患者を対象として、FOLFOX肝動注療法はソラフェニブと比較した第III相試験において、有意に良好なOSとORRが示された。かなり予後の厳しい肝腫瘍量が50%以上の症例や門脈本幹に腫瘍栓を有する症例でも有効であり、ダウンステージできた症例、局所療法にコンバージョンできた症例も高率に認められ、有害事象も低頻度であり、今後が期待される結果であった。しかし、本試験は中国単施設の結果で、B型肝炎の患者が90%前後を占める対象で行われた試験であり、解釈には注意が必要であることや、現在の標準治療であるアテゾリズマブ+ベバシズマブ併用療法と比較してどうなのかなど疑問点も残っており、この試験の結果に基づきFOLFOX肝動注療法が標準治療と位置付けられるまでには至っていない。術前補助療法としてのFOLFOX肝動注療法は、ミラノ基準外の切除可能BCLC Stage A/Bの肝細胞がん患者の予後を改善させた:多施設共同ランダム化第III相試験の中間解析著者:Li S, et al.、Oral presentationミラノ基準外のBCLC Stage A/Bの切除可能肝細胞がんに対して、術前補助療法FOLFOX肝動注療法を行った患者と肝動注療法は行わずに切除した患者の有効性と安全性を、多施設共同ランダム化第III相試験にて検討した。ミラノ基準外の切除可能BCLC Stage A/Bの肝細胞がん患者に対して、術前補助療法としてFOLFOX肝動注療法を施行した群と、術前補助療法を行わずに直接手術を行う群に1:1でランダムに割り付けられた。術前肝動注群は2サイクルのFOLFOX肝動注療法を施行し、忍容性があれば抗腫瘍効果を確認し、完全奏効/部分奏効が得られていれば切除、安定であれば追加の2サイクルの肝動注療法を行い、増悪の場合には次治療へ移行した。主要評価項目は全生存期間(OS)、副次評価項目は無増悪生存期間(PFS)、無再発生存期間(RFS)と安全性とした。切除可能肝細胞がん患者208例が登録され、術前化療群99例、切除先行群100例が解析対象となった。患者背景において、両群間に差は認めなかった。本試験の治療成績を表に示す。術前化療群では、ORR 63.6%、病勢制御割合(DCR)96.0%で、88例(88.9%)で肝切除が施行された。術前化療群は、脈管浸潤の割合が11.4%であり、切除先行群(39.0%)と比べて低値であった。OSとPFSは術前化療群で有意に良好であったが、RFSは両群間に有意差はなかった。FOLFOX肝動注療法群の有害事象は、Grade1を59.6%、Grade2を26.3%に認めたが、Grade3以上の重篤な有害事象は認めなかった。なお、OSとPFSのサブグループ解析では、50歳以下の若い患者や腫瘍が単発である患者、AFPが400ng/mL以上と高い患者、HBV-DNAが低い患者においてより良好な結果が示された。画像を拡大する著者らは、FOLFOXによる肝動注療法は、肝細胞がんに対して効果的で安全であること、ミラノ基準外の切除可能BCLC A/Bの肝細胞がん患者に対して生存期間の延長効果が見込まれることを結論付けた。本試験の結果、肝細胞がんの術前補助療法として、FOLFOX肝動注療法の有用性が示された。この演題のDiscussantは、39%の症例が多発例であり、通常、切除しないような症例が多数含まれていることや中国の5施設の結果であり、B型肝炎の患者が中心である点については注意して解釈すべきであり、日常診療に取り入れる前に世界規模または欧米での検証が必要であろうとコメントしていた。このように、中国からFOLFOX肝動注療法に関連する2演題が発表された。ともに、中国1ヵ国での第III相試験であり、全世界で受け入れられるには、さらなる試験が必要である。しかし、これだけの試験を中国だけで、症例集積できることが驚きである。しかも、この試験のほかにも、昨年、sintilimab+ベバシズマブ-バイオシミラーの第III相試験(ORIENT-32)、donafenibの第III相試験、apatinibの第III相試験など、進行がんでも中国1ヵ国で行った試験の結果が報告されており、計り知れないほど患者さんがいて、臨床試験に参加してくれる環境ができていることを考慮すると、今後の肝細胞がんの薬物療法の開発において、中国の存在が重要になってくることが改めて予想された。また、この数年、アジアを中心に肝細胞がんに対する肝動注療法の有用性を示唆する結果が報告されてきており、肝細胞がんの薬物療法において、肝動注療法が再度、見直される日が来る可能性も十分にあることが示された。余談であるが、Q&Aセッションで、抗がん剤の投与方法についてDiscussionがあった。通常、米国では肝動注を行う場合に抗がん剤が100mL程度注入できるポンプを皮下に埋め込んで投与を行うことが多い(ポンプは結構な大きさで、皮下に埋められる米国人患者もすごいのではあるが…)。中国ではポンプの合併症はどうかという質問があり、演者らはポンプを使用していないことを説明し、腫瘍の多いところにカテーテルを挿入して投与しているとのことであった。柔軟に対応が可能で、より効率よく抗がん剤が投与できることを解説していたが、では、カテーテルを留置せず、どうやって2日間のFOLFOXを投与しているのか、私には謎であった。質問できる知り合いの先生が中国にはいなかったため答えはわからないのであるが、おそらく3週に1回、血管造影を行い、カテーテルを挿入した後は2日間、動かずに安静にして投与しているのかなと勝手に想像しているところである。胆道がん胆道がんでは、ナノリポソーマルイリノテカン(Nal-IRI)+5-フルオロウラシル(5-FU)+ロイコボリン(LV)と5-FU/LVを比較したランダム化第II相試験がOral presentationで1演題、取り上げられていた。非常に期待できる2次治療のレジメンが報告されたが、遺伝子異常に基づく分子標的治療薬の開発に移行していた胆道がんが、また細胞障害性抗がん剤の開発に戻るのかなと、少し不安も隠せなかった。ゲムシタビン+シスプラチン併用療法後の転移性胆道がん患者に対するリポソーム型イリノテカンとフルオロウラシル、ロイコボリンの併用療法:多施設ランダム化比較第IIb相試験(NIFTY試験)著者:Yoo C, et al.、Oral presentation切除不能・転移性胆道がんに対してゲムシタビン+シスプラチン療法(GC)後に進行した症例の2次治療の標準治療は確立していない。ABC-06試験によって、2次治療としてFOLFOX療法を行うことで、積極的な症状コントロールのみを行った患者と比べて、OSが延長したことが示されたが、まだその治療成績は十分とは言い難い。ゲムシタビン耐性の膵がんに対するナノリポソーマルイリノテカン(Nal-IRI)+5-FU/ロイコボリン(LV)療法は、NAPOLI-1試験の結果、プラセボと比較してPFSとOSの延長が示された。胆道がんでも本レジメンによる治療が有効である可能性がある。1次治療でGC療法を行った転移性胆道がん患者を対象として、2次治療としてNal-IRI+5-FU/LVと5FU/LVを比較した多施設共同非盲検ランダム化比較第IIb相試験(NIFTY試験)が行われた。対象は、1次治療でGC療法を行って病勢の進行が確認された胆道がん患者174例であった。患者は、Nal-IRI(70mg/m2、90分)+5-FU(2400mg/m2、46時間)/LV(400mg/m2、30分)を2週に1回投与する群と、5-FU(2400mg/m2、46時間)/LV(400mg/m2、30分)を2週に1回投与する群に、1:1でランダムに割り付けられた。主要評価項目は盲検下の独立中央判定委員会によるPFSとして、副次評価項目は担当医師によるPFS、OS、ORR、安全性などであった。症例数設定は、Nal-IRI+5-FU/LV群のPFS中央値を3.3ヵ月、5-FU/LV群の中央値を2ヵ月、検出力80%、両側α=5%、ハザード比0.6で有意差が検出できるように設定し、総数174例が必要と判断された。患者背景において、両群に差は認めなかった。本試験の治療成績を表に示す。主要評価項目である独立中央判定委員会によるPFSはNal-IRI+5-FU/LV群で有意に良好であった。副次評価項目である担当医師によるPFSやOSもNal-IRI+5-FU/LV群で有意に良好であった。独立中央判定委員会によるORRは両群で有意差を認めなかったが、担当医師判定では統計学的な有意差を認めた。安全性について、好中球減少症と疲労は、5-FU/LV群と比較してNal-IRI+5-FU/LV群に多く認められたが、膵がんに対して行われたNAPOLI-1試験の結果と同様の結果であった。画像を拡大するNal-IRI+5FU/LV療法は、1次治療でGC療法を行った転移性胆道がん患者に対してPFS、OS、ORRを有意に改善させた。Nal-IRI+5-FU/LV療法の有害事象は十分に管理可能で、膵がんに対するNAPOLI-1試験で示された安全性と同様の結果であった。今回の検討は韓国のみで行われた臨床試験であり、全世界に一般化できる結果ではないが、この試験の統計学的事項は十分な検出力があり、PFSやORRも中央判定で行われており、抗腫瘍効果も十分に評価できる。この試験の結果から、Nal-IRI+5-FU/LV療法はGC療法で増悪した進行胆道がん患者に対する標準治療の1つとして考慮されるべきであると著者らは結論していた。確かに、本試験の結果はNal-IRI+5-FU/LV療法は、GC療法の2次治療としてABC-06試験で優越性が示されたFOLFOXレジメンよりも良好なPFS、OS、ORRが示されており、かなり期待できるレジメンである。また、ランダム化第II相試験ではあるが、第III相試験と遜色のない試験デザインで行われている。演者であるYoo先生は知り合いなので、直接、試験デザインについて聞いてみたところ、症例数設定は第III相試験としても十分であるが、主要評価項目としてPFSを選択したので、第IIb相試験としたとコメントがあった。なるほど、第IIb相試験というあまり聞き慣れない相にしているのはそういうことであったか、と。そして、Yoo先生は、第III相試験と宣言して行えばよかったなと後悔されていた。しかし、仮に本試験が第III相試験であったとしても、韓国1ヵ国の試験であり、アジアの結果を米国のFDAや欧州のEMEAが受け入れるかどうかは微妙である。また、本試験でOSでも有意差があるといっても、PFSが主要評価項目であるランダム化第II相試験であり、OSを主解析として行った試験ではないため、この試験結果をもって標準治療とするには時期尚早と考える。今後、Nal-IRI+5-FU/LVとFOLFOXのどちらが良いのかを明らかにする検討も必要であり、IDH1変異に対するIDH阻害剤、FGFR変異に対するFGFR阻害剤など、actionableな遺伝子変異を有する患者において、どちらを先行して治療すべきかなども明らかにする必要があると思われる。膵がん膵がんでは、Oral presentationに1演題も取り上げられていなかったが、Poster discussionでは6演題、取り上げられていた。膵がんにおいては薬物療法も停滞期で、なかなか次の良い薬剤が登場してこない状況である。今回のASCO2021で何らかの目を見張る結果が報告されることを期待したが、まだ突破口が見えていない現状であった。その中でも、やはり日本臨床腫瘍研究グループ(JCOG)からの発表などいくつか知っておいてほしい結果があるので、取り上げて解説する。局所進行膵がんに対するmodified FOLFIRINOXとゲムシタビン+ナブパクリタキセル併用療法の無作為化比較第II相試験(JCOG1407)著者:Ozaka M, et al.、Poster discussionFOLFIRINOX療法とゲムシタビン+ナブパクリタキセル併用療法(GEM+nab-PTX療法)は、それぞれProdige4-ACCORD11試験およびMPACT試験においてゲムシタビン単剤と比較して優越性を示したレジメンである。どちらも遠隔転移膵がんのみを対象とした試験であり、局所進行膵がんに対する評価はこれまで十分に行われていない。今回、局所進行膵がん患者を対象として、FOLFIRINOX療法の5-FUの静注とイリノテカンの投与量を150mg/m2に減量し、有害事象を軽減させたmodified FOLFIRINOX(mFOLFIRINOX)療法とGEM+nab-PTX療法の有効性と安全性を検討し、より有望な治療法を選択することを目的としてランダム化第II相試験(JCOG1407)が行われた。本試験の対象は、全身化学療法歴のない局所進行膵がん患者であり、mFOLFIRINOX療法群とGEM+nab-PTX療法群に1:1でランダムに割り付けられた。主要評価項目はOS(1年生存割合)、副次的評価項目はPFS、無遠隔転移生存期間、ORR、CA19-9奏効割合、有害事象発生割合などであった。症例数設定は、2つの試験治療群のうち、1年生存割合が良好な群を53%、不良な群を63%と仮定し、良好な試験治療を正しく選択できる確率が85%以上となるように算出した。また、2つの試験治療群のうち、良好な群の期待1年生存割合を70%と仮定し、閾値1年生存割合を53%、片側有意水準α=5%、検出力80%とし、必要症例数は120例と算出された。mFOLFIRINOX療法群に62例、GEM+nab-PTX療法群に64例で、計126例が登録された。患者背景では、両群に大きな偏りは見られなかった。JCOG1407試験の結果を表に示す。1年生存割合はGEM+nab-PTX療法群で良好だったが、2年生存割合はmFOLFIRINOX療法群で良好であり、ハザード比は1.162(95%CI:0.737~1.831)であった。PFSと無遠隔転移生存期間は有意差を認めなかったが、mFOLFIRINOX療法群で良好な傾向であった。ORRは有意差を認めなかったが、GEM+nab-PTX療法群で良好であった。CA19-9奏効割合はGEM+nab-PTX療法群で有意に良好であった。有害事象において、Grade3~4の好中球減少/白血球減少はGEM+nab-PTX療法群で高率、全Gradeの悪心/嘔吐や下痢はmFOLFIRINOX療法群で高率に認められたが、治療関連死は見られなかった。画像を拡大する本試験は、局所進行膵がんに対する2つのレジメンを比較した最初のランダム化試験であった。GEM+nab-PTX療法群の1年生存割合はmFOLFIRINOX療法群より良好であったが、mFOLFIRINOX療法群は2年生存割合が高く、その他の項目では良かったり悪かったりとなっており、どちらが良好とは言い難い結果であった。局所進行膵がんに対しては、『膵癌診療ガイドライン2019年版』でも転移性膵がんのエビデンスに基づき、mFOLFIRINOXとGem+nab-PTXが提案されているが、しっかりしたランダム化比較試験は行われていない。今回はJCOG肝胆膵グループで行われたmFOLFIRINOXとGem+nab-PTXを比較するランダム化第II相試験の結果は、主要評価項目である1年生存割合では、Gem+nab-PTXが良好であったが、全体の生存曲線や2年生存割合ではmFOLFIRINOXが優勢であった。下痢、悪心、嘔吐などの消化器毒性はmFOLFIRINOX群で高頻度に認められたが、骨髄抑制や神経障害はGem+nab-PTX群で高頻度に認められており、優劣はつけ難い結果であった。今後、長期間の追跡調査を行い、どちらを選択すべきかを明らかにしていくことが必要である。NRG1融合遺伝子陽性の膵がんや他の固形がんに対するzenocutuzumabの有効性と安全性著者:Schram AM, et al.、Oral presentation膵がんに対するNRG1融合遺伝子に対するzenocutuzumabのpreliminaryな結果が報告されていた。zenocutuzumab(MCLA-128)はADCC活性を持つHER2、HER3を阻害する二重特異性抗体で、HER3にNRG1 fusionのEGF-likeドメインの結合を阻害することで、HER2/HER3の二量体形成を阻害し、下流のPI3K/AKT/mTORシグナルによる腫瘍増殖を阻害する抗体製剤である。NRG1融合遺伝子を有する患者に有効性が期待され、開発が進んでいる。膵がんパートに登録された12例のうち5例(42%)に奏効が得られており、11例中11例全例でCA19-9の50%以上の低下が認められ、7例(64%)においては正常値まで低下したことが報告された。有害事象はGrade1~2であり、重篤な消化器や皮膚、心毒性は認めなかったことが報告され、期待されている薬剤である。膵がんにおけるNRG1融合遺伝子の頻度は1%未満といわれており、非常にまれではあるが、60歳以下の若年者やKRAS wildの患者に多く認められることを手掛かりとして、聖マリアンナ医大と国立がん研究センター東病院を中心に、NRG1のスクリーニングが行われている。術前化学放射線療法が膵がん患者の生存期間を改善させる:多施設共同第III相試験(PREOPANC)の長期治療成績著者:Van Eijck C, et al.、Poster discussion切除可能膵がんまたは切除可能境界膵がんに対して、ゲムシタビンによる術前化学放射線療法は、切除先行と比べて、R0切除割合や無病生存期間を改善させた。生存期間においては良好な傾向は示されていたが、有意な差を認めていなかった。今回、この試験を長期フォローアップすることで、生存期間への効果が検討された。結果を表に示す。R0切除割合やN0切除割合、Intention to treatによるOS、切除できた患者のOS、補助療法を受けた患者のOSにおいて、化学放射線療法群で有意に良好な結果が示された。切除可能膵がんまたは切除可能境界膵がんに対する術前治療の有効性が示されたことにより、日本ではすでに術前治療が標準治療であるが、海外でも術前治療へよりシフトすることが推測された。画像を拡大するまとめ今年のASCO2021では、肝細胞がんでは初回薬物療法として肝動注化学療法、胆道がんでは2次治療としてNal-IRI+5-FU/LV、膵がんでは局所進行膵がんの1次治療としてmFOLFIRINOX/Gem+nab-PTX、切除可能/切除可能境界膵がんに対する術前化学放射線療法など、少し昔の時代に戻ったかのように、主要演題には細胞障害性抗がん剤による治療が席巻していた。しかし、肝胆膵がんでは分子標的治療や免疫チェックポイント阻害薬を中心に治療開発が進んでおり、今後、新たなエビデンスはこれらの治療から生まれてくると思われる。今年のASCOでは世の中を大きく変えるような結果は出てこなかったが、世界的にも注目される重要な学会であり、Web開催であろうと、みんなが参加する学会である。ぜひ来年は、COVID-19が落ち着いて、現地でみんなと一緒にFace to Faceで談笑しながら、肝胆膵のOncologyについて語り合いたいものである。1)Ning Lyu, Ming Zhao. Hepatic arterial infusion chemotherapy of oxaliplatin plus fluorouracil versus sorafenib in advanced hepatocellular carcinoma: A biomolecular exploratory, randomized, phase 3 trial (The FOHAIC-1 study). J Clin Oncol 39, 2021 (suppl 15; abstr 4007)2)Shaohua Li, Chong Zhong, Qiang Li, et al. Neoadjuvant transarterial infusion chemotherapy with FOLFOX could improve outcomes of resectable BCLC stage A/B hepatocellular carcinoma patients beyond Milan criteria: An interim analysis of a multi-center, phase 3, randomized, controlled clinical trial. J Clin Oncol 39, 2021 (suppl 15; abstr 4008)3)Changhoon Yoo, Kyu-Pyo Kim, Ilhwan Kim, et al. Liposomal irinotecan (nal-IRI) in combination with fluorouracil (5-FU) and leucovorin (LV) for patients with metastatic biliary tract cancer (BTC) after progression on gemcitabine plus cisplatin (GemCis): Multicenter comparative randomized phase 2b study (NIFTY). J Clin Oncol 39, 2021 (suppl 15; abstr 4006)4)Masato Ozaka, Makoto Ueno, Hiroshi Ishii, et al. Randomized phase II study of modified FOLFIRINOX versus gemcitabine plus nab-paclitaxel combination therapy for locally advanced pancreatic cancer (JCOG1407). J Clin Oncol 39, 2021 (suppl 15; abstr 4017)5)Alison M. Schram, Eileen Mary O'Reilly, Grainne M. O'Kane, et al. Efficacy and safety of zenocutuzumab in advanced pancreas cancer and other solid tumors harboring NRG1 fusions. J Clin Oncol 39, 2021 (suppl 15; abstr 3003)6)Casper H.J. Van Eijck, Eva Versteijne, Mustafa Suker, et al. Preoperative chemoradiotherapy to improve overall survival in pancreatic cancer: Long-term results of the multicenter randomized phase III PREOPANC trial. J Clin Oncol 39, 2021 (suppl 15; abstr 4016)

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コロナワクチン接種後の中和抗体価、ウイルス株や年齢での違いは?/JAMA

 ファイザー製ワクチン(BNT162b2)を2回接種すると、有効率は約95%だと言われている。その一方で、患者の年齢が新型コロナウイルス感染症の発生率や重症度のリスクに寄与することも知られている。そこで、オレゴン健康科学大学のTimothy A Bates氏らはファイザー製ワクチン2回接種後のUSA-WA1/2020株とP.1系統の変異株(γ株、以下、P.1変異株)に対する年齢と中和抗体価の関係を調べた。その結果、USA-WA1/2020株に対するワクチン接種後の中和抗体価は年齢と負の相関が見られた。一方で、P.1変異株に対する中和抗体価はすべての年齢で減少したが、年齢による差は小さく、全体的にワクチンの有効性に寄与する要因として年齢を特定することができなかった。JAMA誌オンライン版2021年7月21日号リサーチレターでの報告。 研究者らは、2020年12月~2021年2月、オレゴンワクチン接種ガイドラインに従って実施されたワクチン接種の参加者を対象に調査を行った。参加者はファイザー製ワクチン1回目接種の時点で本研究に登録され、血清サンプルはワクチン1回目を受ける前と2回目を受けてから14日後に収集された。SARS-CoV-2スパイク受容体結合ドメイン特異的抗体レベルを酵素免疫測定法で測定し、中和抗体50%効果濃度(EC50、ウイルス中和アッセイで50%の感染を阻害する血清希釈)を計算した。新型コロナウイルスの50%中和力価は、USA-WA1/2020株とP.1変異株の生きた臨床分離株を使用した焦点還元中和試験(FRNT50、焦点減少中和検査で50%のウイルスを中和する血清希釈)で決定した。 主な結果は以下のとおり。・50例がこの研究に登録された(女性:27例[54%]、年齢の中央値[範囲]:50.5歳[21~82])。・すべての参加者において、ワクチン接種前のEC50は事前曝露がないことを示す定量限界未満だった。・ワクチン接種後のEC50は、年齢と有意な負の関連を示した(R2=0.19、p=0.002)。・USA-WA1/2020株に対しては、全参加者で中和抗体の強い活性が観察され、幾何平均抗体価(GMT:geometric mean antibody titer)は393(95%信頼区間[CI]:302~510)だった。一方、P.1変異株に対しての免疫応答は低く、GMTは91(95%CI:71~116)で、76.8%の減少を示した。・USA-WA1/2020株とP.1変異株の両方において、年齢はFRNT50と有意に負の相関があった(p<0.001およびp=0.001)。・USA-WA1/2020株の場合、年少参加者ら(20~29歳、n=8)のGMTは938(95%CI:608~1447)に対し、年長参加者ら(70~82歳、n=9)のGMTは138(95%CI:74~257)と85%の減少を示した(p<0.001)。・P.1変異株の場合、年少参加者らのGMTは165(95%CI:78~349)に対し、年長参加者らのGMTは66(95%CI:51~86)と60%の減少を示した(p=0.03)。 研究者らは「中和抗体価は感染からの保護と強く相関していると考えられる。ただし、今回の研究ではサンプル数が少ないこと、閾値がまだ正確に決定されないことを踏まえ、今後の研究では、ワクチン接種を受けた高齢者に見られる抗体レベルの低下が、同時に防御機能の低下につながるかどうかを具体的に取り上げる必要がある」としている。

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日本のウイルス肝炎診療に残された課題~今、全ての臨床医に求められること~

COVID-19の話題で持ち切りの昨今だが、その裏で静かに流行し続けている感染症がある。ウイルス肝炎だ。特に問題になるのは慢性化しやすいB型およびC型肝炎で、世界では3億人以上がB型、C型肝炎ウイルスに感染し、年間約140万人が死亡している。世界保健機関(WHO)は7月28日を「世界肝炎デー」と定め、ウイルス肝炎の撲滅を目的とした啓発活動を実施している。検査方法や治療薬が確立する中、ウイルス肝炎診療に残された課題は何か?今、臨床医に求められることは何か?日本肝臓学会理事長の竹原徹郎氏に聞いた。自覚症状に乏しく、潜在患者が多数―日本の肝がんおよびウイルス肝炎の発生状況を教えてください。日本では、年間約26,000人程度が肝がんで死亡しているという統計があります。その大半はウイルス肝炎によるもので、B型肝炎は約15%、C型肝炎は約50%を占めています。B型およびC型肝炎ウイルスに感染して慢性肝炎を発症しても、自覚症状はほとんど現れません。気付かぬうちに病状が進行し、肝がん発症に至るわけです。日本においてB型、C型肝炎ウイルスの感染に気付かずに生活している患者さんは数十万人程度存在すると考えられています。こうした患者さんを検査で拾い上げ、適切な医療に結び付けることが、肝がんから患者さんを救うことにつながります。検査後の受診・受療のステップに課題―臨床では、どのような場面で肝炎ウイルス検査が実施されるのでしょうか。臨床で肝炎ウイルス検査が実施される場面は様々ですが、(1)肝障害の原因を特定するために行う検査、(2)健康診断で行う検査、(3)手術時の感染予防のために行う術前検査などが挙げられます。(1)はそもそも肝障害の原因を特定するために行われているので問題ないのですが、(2)では、検査で異常が指摘されても放置される場合がありますし、(3)では、陽性が判明してもその後の医療に適切に活用されないことがあり、課題となっています。その要因は様々ですが、例えば他疾患の治療が優先され、検査結果が陽性であることが二の次になるケースや、長く診療している患者さんでは、変にその結果を伝えて不安にさせなくても良いのではないか、とされるケースもあるでしょう。また患者さんの中には、検査結果を見ない、結果が陽性であっても気にしない、陽性であることが気になっていても精密検査の受診を躊躇する、といった方も多いです。そのため医療者側にどのような事情があっても、陽性が判明した場合はその結果を患者さんに伝え、精密検査の受診を促すことが大事です。非専門の先生で、ご自身では精密検査の実施が難しいと思われる場合は、ぜひ近隣の肝臓専門医に紹介してください。そのうえで、最終的に治療が必要かどうかまで結論付け、治療が必要な場合には専門医のもとでの受療を促すことが重要です。目覚ましい進歩を遂げる抗ウイルス治療―ウイルス肝炎の治療はどのように変化していますか。近年、ウイルス肝炎の治療は劇的に変化しています。特にC型肝炎治療の進歩は目覚ましいものがあります。従来のC型肝炎治療はインターフェロン注射によるものが中心で、インターフェロン・リバビリン併用でウイルスを排除できる患者さんの割合は50%程度でした1)。また、インフルエンザ様症状やその他の副作用が多くの患者さんで出現し、治療対象の患者さんも限られていました1),2)。しかしここ数年、経口薬である直接作用型抗ウイルス剤(DAA)が複数登場し、その様相は変化しています。まず治療奏効率は格段に向上し、ほとんどの患者さんでウイルスが排除できるようになりました。そして従来ほど副作用が問題にならなくなり3)、患者さんにとって治療がしやすい環境になっています。治療対象が高齢の患者さんや肝疾患が進行した患者さんに広がったことも、大きな変化です。B型肝炎治療では、まだウイルスを完全に排除することはできないものの、抗ウイルス治療によってウイルスの増殖を抑え、肝疾患の進行のリスクを下げることができます。このように、現在は治療に進んだ後のステップにおける課題はクリアされてきています。そのため、日本のウイルス肝炎診療の課題は、やはり検査で陽性の患者さんを受診・受療に結び付けるまでのステップにあるといえるでしょう。術前検査などで陽性が判明した患者さんがいらっしゃいましたら、ぜひ検査結果を患者さんに適切に伝え、受診・受療を促すと共に、近隣の肝臓専門医に紹介していただきたいと思います。日本肝臓学会のウイルス肝炎撲滅に向けた取り組み―日本肝臓学会では、ウイルス肝炎撲滅に向けてどのような取り組みを実施されていますか。日本肝臓学会では「肝がん撲滅運動」という活動を20年以上にわたって行ってきています。具体的には、肝炎や肝がん診療の最新情報を患者さんや一般市民の皆さまに知っていただくための公開講座を、毎年全国各地で開催しています。3年ほど前からは、肝炎医療コーディネーターを育成するための研修会も設けています。肝炎医療コーディネーターとは、看護師、保健師、行政職員など多くの職種で構成され、肝炎の理解浸透や受診・受療促進などの支援を担う人材です。また最近では、製薬企業のアッヴィ合同会社と共同で、「AbbVie Elimination Award」を設立しました。肝臓領域の臨床研究において優れた成果を上げた研究者を表彰する、研究助成事業です。「Elimination」は「排除」という意味で、一人でも多くの患者さんから肝炎ウイルスを排除したい、という意図が込められています。このように、日本肝臓学会ではウイルス肝炎撲滅に向けて、啓発活動や研究助成事業など、様々な活動に取り組んでいます。世界の先陣を切ってWHOが掲げる目標の達成を目指す―ウイルス肝炎の治療にあたる肝臓専門医の先生方に向けて、メッセージをお願いします。WHOはウイルス肝炎の撲滅に向けて「2030年までにウイルス肝炎の新規患者を90%減らし、ウイルス肝炎による死亡者を65%減らすこと」を目標に掲げています。COVID-19の流行によって、受診控えや入院の先送りなどの問題が発生し、この目標への到達は困難に感じられることもあるかもしれません。しかし、日本のウイルス肝炎診療には、国民の衛生観念がしっかりしている、肝臓専門医の数が潤沢である、行政的な施策が整備されている、など様々なアドバンテージがあります。世界の先陣を切ってWHOが掲げる目標を達成できるよう、今後も取り組んでいきましょう。肝炎ウイルス検査で陽性の患者さんは、肝臓専門医に紹介を―最後に、非専門の先生方に向けてメッセージをお願いします。従来のウイルス肝炎の治療は、副作用が問題になる、高齢の患者さんでは治療が難しい、といったイメージがあり、現在もそのように思われている先生がいらっしゃるかもしれません。患者さんも誤解している可能性があります。しかし、ウイルス肝炎の治療はここ数年で劇的に変化しています。肝炎ウイルス検査を実施して陽性が判明した場合は、患者さんにとって良い治療法があるかもしれない、と思っていただいて、ぜひ近隣の肝臓専門医に紹介してください。日本肝臓学会のHPに、肝臓専門医とその所属施設の一覧を都道府県別に掲載していますので、紹介先に迷われた際は、参考にしていただければと思います。1)竹原徹郎. 日本内科学会雑誌. 2017;106:1954-1960.2)日本肝臓学会 肝炎診療ガイドライン作成委員会 編「 C型肝炎治療ガイドライン(第8版)」 2020年7月, P16.3)日本肝臓学会 肝炎診療ガイドライン作成委員会 編「 C型肝炎治療ガイドライン(第8版)」 2020年7月, P57,63.

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ASCO2021 レポート 泌尿器科腫瘍

レポーター紹介2021 ASCO Virtual Scientific ProgramCOVID-19の影響で昨年に引き続きバーチャル開催となったASCO2021。この1年でわれわれもバーチャル開催の学会に随分慣れてしまった感があります。将来、現地開催が復活した時にはどのように感じるのでしょうか。本年のPresidential Themeは“Equity: Every Patient. Every Day. Everywhere.”ということで、いまや全世界に蔓延しているCOVID-19を強烈に意識してのことでしょうか。何はともあれ急速に進歩していくがん治療をさらに推進することももちろん重要ですが、時には足下を見直して、がん患者のケア・治療・研究の偏在をなくし、世界中の人々に平等なアクセスを可能にする努力も忘れてはならないことだと思います。さて、Scientific Programの中から注目の演題をピックアップして紹介するこのレポート、前立腺がん領域では昨年に引き続きPSMA-PET関連の重要な報告が、尿路上皮がんと腎細胞がんでも引き続き免疫チェックポイント治療の話題が中心となっています。米国におけるアフリカ系米国人の若年男性におけるPSA検診の増加は前立腺がんの転帰を改善する(Abstract #5004)上記のPresidential Themeに合致するように、racial disparityをテーマとしたアブストラクトが取り上げられています。背景として、アフリカ系米国人の男性は、前立腺がんの罹患率・死亡率ともに多人種に比べて高いことが知られています。つまり、開始年齢や頻度などスクリーニングを強化すべき対象であると考えられます。実際に家族歴などの他のリスク因子も有する場合には、アフリカ系米国人のPSA検診開始推奨年齢は40歳とされています。にもかかわらず、PSA検診に関する研究への参加者におけるアフリカ系米国人の占める割合が低いことなどがしばしば指摘され、本集団に対する適切な受診勧奨の妨げになってきました。今回の研究では55歳未満のアフリカ系米国人男性におけるPSA検診の頻度と診断時の前立腺がんリスクおよび前立腺がん特異的死亡率(PCSM)との関連を調べるために、退役軍人保健局(Veterans Health Administration、退役軍人に対する健康保険プログラムがあるため医療受給に対するバリアが低いこと、病歴情報へのアクセスが可能なシステムが構築されていること、などから本研究のような解析に適している)が有する登録データを用いて、2004~17年に前立腺がんと診断された40〜55歳のアフリカ系米国人男性を特定しました。前立腺がん診断からさかのぼること最長5年間に受けたPSA検診の頻度を算出し、診断時の転移の有無と、PCSMについてその関連を解析しました。前立腺がんと診断されたアフリカ系米国人男性が4,654例特定され、その平均年齢は51.8歳、毎年のPSA検診受診率は平均で53.2%でした。平均値を境にPSA検診受診頻度の高かったグループと低かったグループとに分けて比較すると、低グループでは高グループよりも診断時に転移を有する患者の割合が高かったとのことです(3.7% vs.1.4%、p<0.01)。PSA検診率の増加は診断時の有転移率の低下(オッズ比:0.61、95%信頼区間[CI]:0.47~0.81、p<0.01)およびPCSMのリスクの低下(サブ分布ハザード比:0.75、95%CI:0.59~0.95、p=0.02)と有意に関連していました。若年アフリカ系米国人男性に対するPSA検診は早期前立腺がん検出を促し、その転帰を改善する可能性があるという仮説を支持しています。ただし、前向きコントロール研究ではないこと、過剰診断・過剰治療の問題など、まだ解決すべき課題は残されているといえるでしょう。mCRPCに対するルテチウム-177-PSMA-617の効果:VISION Trial(Late-breaking abstract #LBA4)PSMAを標的にβ線を発する177Luを腫瘍微小環境に送達する標的放射性リガンド療法のmCRPCに対する効果を検証した国際ランダム化非盲検第III層試験(VISION Trial, NCT03511664)の結果が公表されました。対象は少なくとも1剤の新規ARシグナル阻害薬と1剤のタキサン系抗がん剤に抵抗性となったmCRPC患者で、事前に68Ga-PSMA-11 PETでPSMA陽性が確認されました。参加者は標準治療に加えて1回7.4GBqの177Lu-PSMA-617を6週間ごとに6サイクル投与する治験薬群と標準治療のみの群(標準治療群)とに2:1の割合で無作為割り付けされました。主要評価項目は、PCWG3 criteriaに基づき、独立した中央レビューによる画像評価によって判定されたrPFSと、OSでした。計831例が治験薬群(551例)あるいは標準治療群(280例)に割り付けられ、観察期間の中央値は20.9ヵ月でした。治験薬群は、標準治療群と比較して有意に長いrPFSを示しました(rPFS中央値:8.7ヵ月vs.3.4ヵ月、HR:0.40、99.2%CI:0.29~0.57、p<0.001、片側)。OSも治験薬群では標準治療群と比較して有意に延長されました(OS中央値:15.3ヵ月vs.11.3ヵ月、HR:0.62、95%CI:0.52~0.74、p<0.001、片側)。治験薬群ではGrade3以上の有害事象の発生率が標準治療群と比較して高くなりましたが(52.7% vs.38.0%)、治療の忍容性は良好でした。177Lu-PSMA-617治療は忍容性の高いレジメンであり、既存治療に対して抵抗性を獲得したPSMA陽性mCRPC患者において、標準治療単独と比較して、rPFSおよびOSの延長効果を示しました。わが国では、放射性医薬品規制の面で解決すべき課題があるものの、今後、本セッティングにおける標準治療として承認されることが期待されます。mCSPCに対する新規ARシグナル阻害薬治療時代の局所療法:PEACE-1 Trial (Abstract #5000)mCSPC患者に対する局所放射線照射は、低腫瘍量(low metastatic burden)の患者でOSベネフィットを示しており、NCCNガイドラインでも低腫瘍量患者において推奨されています。しかしこれらの根拠となった臨床試験(HORRADやSTAMPEDE)における全身治療はADTが標準でした。しかし現在、リスクにかかわらずmCSPC患者に対する全身治療はADTに新規ARシグナル阻害薬を上乗せすることが推奨されています。PEACE-1試験(NCT01957436, Abstract #5000)は、mCSPC患者に対するベースラインADT治療にアビラテロン(プレドニゾン併用)と局所放射線治療(EBRT)のいずれかあるいは両方を追加することがOSの延長につながるかどうかを、2×2の分割デザインで検証しようというものです。途中ドセタキセルの併用が許容されるなどのプロトコール変更があり、やや複雑となっていますが、基本的なデザインはmCSPC患者をADT治療のみあるいは、アビラテロンとEBRTのいずれかあるいは両方を追加する4群に無作為割り付けするというものです。主要評価項目はrPFSとOSで、今回はEBRTの有無にかかわらず、アビラテロンの有無がrPFSに与える影響を解析した結果が報告されました。アビラテロン(±EBRT)群はADT(±EBRT)群と比較してrPFSを有意に延長(HR:0.54[0.46~0.64]、p<0.0001、中央値2.2年vs.4.5年)し、その効果はドセタキセル併用群でも一貫していました(HR:0.38[0.31~0.47]、p<0.0001、中央値1.5年vs.3.2年)。今回の結果は既存のSTAMPEDE試験の結果などにそれほどの新規知見を加えるわけではありませんが、今後EBRTの有無によるrPFSあるいはOSの延長効果の解析結果が待たれるところです。腎細胞がん患者の術後補助療法としてのペムブロリズマブの効果:KEYNOTE-564 Trial(Late-breaking abstract #LBA5)淡明細胞型腎細胞がん(ccRCC)におけるペムブロリズマブの術後再発予防効果を検証した、プラセボ対照ランダム化二重盲検第III相試験(KEYNOTE-564 Trial, NCT03142334)の結果が公表されました。これまでに、ccRCCにおいて術後補助療法として明確な再発予防効果やOS延長効果を示した薬剤は存在しませんでした。本試験は、組織学的に診断された術後再発リスクの高いccRCC患者を対象として実施されました。術後再発の高リスクは、(1)pT2N0M0でグレード4あるいは肉腫様コンポーネントを有する、(2)pT3-4N0M0(組織学的悪性度は問わない)、(3)pTanyN1M0(組織学的悪性度は問わない)、(4)M1 NED(腎摘除術後1年以内に再発巣あるいは軟部組織転移巣が完全切除され残存病変を認めない)と定義されました。3週ごとのペムブロリズマブあるいはプラセボ投与は術後1年間(計17回投与)続けられました。主要評価項目は無再発生存(DFS)で全生存(OS)は副次的評価項目とされました。計994例がペムブロリズマブ群(496例)あるいはプラセボ群(498例)に割り付けられ、観察期間の中央値(範囲)は24.1ヵ月(14.9~41.5ヵ月)でした。事前に計画されていた第1回目の中間分析で、主要評価項目であるDFSにおいてペムブロリズマブ群の優位性が示されました(両群とも中央値未到達、HR:0.68、95%CI:0.53~0.87、p=0.0010、片側)。24ヵ月での推定DFS率は、ペムブロリズマブ群で77.3%、プラセボ群で68.1%でした。全体として、ペムブロリズマブ群のDFSに対する効果はサブグループ間で一貫していました。OSイベントが観察されたのは51例(ペムブロリズマブ群で18例、プラセボ群で33例)とまだ少なく、両群間のOSに統計学的な有意差は認めませんでした(両群とも中央値未到達、HR:0.54、95%CI:0.30~0.96、p=0.0164、片側)。24ヵ月での推定OSは、ペムブロリズマブ群で96.6%、プラセボ群で93.5%でした。Grade3以上の有害事象の発生頻度はペムブロリズマブ群で32.4%、プラセボ群で17.7%でした。ペムブロリズマブ群における治療関連死亡は報告されませんでした。ペムブロリズマブは、術後再発リスクの高いccRCCの患者において、プラセボと比較して、統計学的に有意かつ臨床的に意義のあるDFS延長効果を示しました。OSに関しては追加のフォローアップが計画されています。今回、KEYNOTE-564試験は、RCCの術後補助療法として免疫チェックポイント阻害薬を用いた第III相試験としては初めて主要エンドポイントを満たしました。今後、本セッティングにおける新たな標準治療として期待が持てる結果といえるでしょう。長期フォローアップでOSの延長効果も示すことができるかが重要なポイントであると考えます。また、長期フォローの結果、プラセボ群の無再発生存率がどれくらいでプラトーに達するのか(プラセボ群での無再発生存率が高いということは不必要なアジュバント治療を受ける患者が多いことを示しており、対象患者のさらなる最適化が望ましいということになります)という点にも注目したいと思います。このほか腎がん領域では、上記のほかにKEYNOTE-426試験(NCT02853331)の長期(42ヵ月)フォローアップデータ(Abstract #4500)が公表されました。筋層浸潤性膀胱がん(MIBC)における選択的膀胱温存療法:3つのP II試験の結果(Abstracts #4503/#4504/#4505)MIBCの標準治療はネオアジュバント化学療法に続く根治的膀胱全摘ですが、以前から膀胱を温存しながら根治を目指す治療が一部患者で可能であることは知られています。しかし、膀胱温存可能な患者の治療前からの予測が難しいこと、臨床的CRの基準が曖昧であること、そして救済膀胱全摘の意義が不明であることなどから、適応の是非が未確定な状態が続いています。今回は3つの第II相試験の結果がOral sessionで報告されています。1つ目はHCRN GU 16-257試験(NCT03558087, Abstract #4503)で、本試験ではシスプラチン適格なcT2-T4aN0M0の膀胱尿路上皮がん患者をエントリーし、ゲムシタビン+シスプラチン(GC)にニボルマブを上乗せしたレジメンを4コース施行後に画像検査(CT/MRI)、尿細胞診、経尿道的生検/切除によって再評価を行っています。いずれの検査でもがんなしと判断された場合(Ta腫瘍の残存は許容)には、cCRと判断しニボルマブを2週間隔で8回投与した後に経過観察となります。主要評価項目はcCRの達成率に加え、cCRによる2年無転移性生存(MFS)の予測能となっています。また、副次的評価項目としてcCRによるMFS予測において初回TUR-BT組織を用いて解析した遺伝子変異プロファイル(TMB、ERCC2変異、FANCC変異、RB1変異、ATM変異)の有用性も評価されました。今回はcCR達成率と1年の中間解析の結果が報告されました。76例(男性79%、年齢の中央値69歳、cT2:56%、cT3:32%、cT4:12%)がエントリーされ、うち64例(84%)が4サイクルのGC+ニボルマブ治療後の再評価を受けました。64例中31例(48%、95%CI:36~61%)がcCRと判定されました。TMB≧10 mutations/Mb(p=0.02)、ERCC2変異(p=0.02)がCRと関連していました。今後より長期の観察に基づくアウトカムに期待を持たせる結果と考えられます。2つ目は放射線治療も組み合わせた、いわゆるTrimodality therapyの第II相試験(NCT02621151, Abstract #4504)で、これもcT2-T4aN0M0のMIBC患者が対象ですが、こちらは膀胱全摘拒否または不耐患者が対象となっています。シスプラチン適/不適は不問でeGFR>30mL/minが条件となっています。治療プロトコールは、ペムブロリズマブの初回投与の2~3週間後にTURによる可及的切除を行い、さらに膀胱に寡分割照射によるEBRT(52Gy/20回、IMRTを推奨)と同時に週2回(×4週間)のゲムシタビン(27mg/m2)と3週ごとのペムブロリズマブを3回投与するというものです。EBRTの12週後に画像検査(CT/MRI)、尿細胞診、経尿道的生検/切除による効果判定を実施します。その後も画像検査(CT/MRI)、尿細胞診、膀胱鏡によるフォローアップを行いました。最初の6例が安全性評価の対象となり、さらに48例が治療効果評価の対象となりました。主要評価項目は2年の膀胱温存無病生存(BIDFS)でした。本研究でも腫瘍検体およびPBMCを用いた解析が行われています。予定されていた54例がエントリーされ、ステージの内訳はcT2が74%、cT3が22%、cT4が4%でした。安全性評価の対象となった最初の6例全例が治療プロトコールを完遂しました。治療効果評価の対象となった48例のうち1例(2%)がEBRTとゲムシタビンを、2例(4%)がゲムシタビンを、4例(8%)がペムロリズマブを主に副作用を理由に中断しました。48例の観察期間の中央値(範囲)は11.7ヵ月(0.6~32.2ヵ月)で、12例(25%)が何らかの様式で再発を来しました(NMIBC 6例、MIBC 0例、所属リンパ節2例、遠隔転移4例)。Grade3以上の有害事象は35%の症例で観察され、ペムブロリズマブに限るとGrade3以上の有害事象発生率は6%でした。ここまでのところ、有害事象は既報と同等で、2年フォローアップの最終解析と、バイオマーカー探索の結果が報告される予定になっています。3つ目はIMMUNOPRESERVE-SOGUG trial試験(NCT03702179, Abstract #4505)で、本試験でもcT2-T4aN0M0の膀胱尿路上皮がんを有し、膀胱全摘拒否または不耐患者が対象となっています。治療プロトコールは、まずTUR-BTを先行し、それに続くデュルバルマブ(1,500mg/body)+トレメリムマブ(75mg/body)を4週間ごとに3回投与しました。治療開始2週間後には、小骨盤に46Gy、膀胱に64~66Gyの線量で正常分割EBRTを開始しています。腫瘍残存あるいは再発例に対しては救済膀胱全摘を推奨しています。主要評価項目は経尿道的生検による筋層浸潤がんの消失によって定義されるCR達成率でした。最初の12例で6例以上がCRを達成した場合にさらに20例を追加する2段階デザインが採用されました。32例がエントリーされ、臨床病期の内訳はT2が28例(88%)、T3が3例(9%)、T4が1例(3%)でした。全例が少なくとも2コースのデュルバルマブ+トレメリムマブ治療を受け、膀胱への照射線量の中央値(範囲)は64Gy(60~65)でした。経尿道的生検によるCR達成率は81%でした。観察期間の中央値(範囲)は6.1ヵ月(2.5~20.1)で、BIDFS、DFS、OSはそれぞれ76%(95%CI:61~95%)、80%(95%CI:66~98%)、93%(95%CI:85~100%)でした。Grade3以上の有害事象は31%の症例で観察されています。前二者に比べてT2症例の割合が比較的高いものの、本レジメンも良好な成績を残しているといえるでしょう。今回の報告のほかにもさまざまなレジメンが膀胱温存療法として試されており、今後どのような治療レジメンが標準治療として残ってくるのか不透明な状態ですが、バイオマーカー探索などにより、対象症例とレジメンの最適化が進めば、MIBC患者にとって福音となることが期待されます。このほか尿路上皮がん領域ではKEYNOTE-052試験(NCT02335424, Abstract #4508)およびKEYNOTE-045試験(NCT02256436, Abstract #4532)の5年フォローアップデータが発表されております。おわりに総じて、前立腺がんではPSMA-PET関連の話題が昨年に引き続き大きなインパクトをもって報告されています。腎がんでは術後アジュバント、尿路上皮がんではネオアジュバントあるいは膀胱温存と、免疫チェックポイント阻害薬を絡めた治療が着実にEarly lineに食い込んできています。とくに尿路上皮がんではそのタイミングや併用薬、放射線治療の有無など、治療プロトコールが多様化しており、今のところは混沌としています。ゲノム関連を中心としたバイオマーカーによる個別化に進むか、それを凌駕する効果的な治療法が開発されるか、いずれにしても今後どのように最適化されてくるのか注視したいと思います。

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新薬GIP/GLP-1受容体ダブルアゴニストは糖尿病診療に新たなインパクトを与えるか?(解説:栗山哲氏)

本論文は何が新しいか? 本論文は、2型糖尿病治療薬として開発された新規薬剤GIP/GLP-1のダブルアゴニストtirzepatideを臨床評価したものである。 同剤は、グルコース依存性インスリン刺激性ポリペプチド(GIP)に類似した39個のアミノ酸残基に長鎖脂肪酸を結合させた週1回注射製剤である。本剤の特徴は、グルカゴン様ペプチド(GLP-1)とGIPの両受容体を刺激するダブルアゴニスト製剤として開発されたことである(GIP受容体の単独作動薬はない)。 GLP-1受容体作動薬のエビデンスは、多くの臨床研究でその有用性が肯定されている。すなわち、LEADER、SUSTAIN-6、REWINDなどでは心血管イベント(MACE)の改善効果が、さらにLEADER、SUSTAIN-6、AWARD-7などで2型糖尿病腎症の腎エンドポイントにも改善効果が報告されている。 本論文(SURPASS-1試験)は、tirzepatideのHbA1cや体重への効果をプラセボ群と比較した臨床研究である。その改善結果は、既存の糖尿病治療薬に比較しても驚くほど顕著であり、今後の糖尿病治療に一石を投じるものと考えられる。本論文の主たる結果 SURPASS-1試験においては、試験参加者の54%は未治療、糖尿病の平均罹病期間は4.7年、ベースラインの平均HbA1c 7.9%、平均体重85.9kg、BMI 31.9kg/m2であった。主要評価項目と重要な副次評価項目に、ベースラインから40週投与後のHbA1c低下および体重減少を指標とした。tirzepatideの最高用量群(15mg)において、プラセボに対してHbA1cは2.07%低下、体重は9.5kg(11.0%)減少した。この投与群の半数以上(51.7%)は、非糖尿病レベルであるHbA1c 5.7%未満に改善した。全体的な安全性は、既知のGLP-1受容体作動薬と同等で、消化器系の副作用が最も多い有害事象であった。 以上の結果から、tirzepatideが従来の糖尿病治療薬と比較しても顕著なHbA1cと体重の低下効果を有する可能性が示唆された。特徴は、本剤によるHbA1c低下や体重の減少は、従来の糖尿病治療薬に比べても著明な薬効であるも、しかるに胃腸障害の副作用が増加しないことであろう。また、重症低血糖がほとんどないことも特筆に値する。HbA1c 5.7%未満を達成でき、低血糖が少ない薬効を証明できた成績は、糖尿病内科医にとってもインパクトの高い論文と思われる。推定されるtirzepatideの作用機序 脂肪細胞にあるGIP受容体にGIPが結合すると脂肪蓄積に働くため、GIPは体重を増加させる作用がある。一方、視床下部にもGIP受容体があり、こちらにGIPが結合すると食事量を減らし体重減少効果が認められる。そのため、全体的には、GIP自体はそれほど体重を増やさないのではないかと考えられる。一方、GLP-1受容体刺激とGIP受容体刺激が相加されると、なぜGLP-1受容体作動効果が相乗的に高まるか、という疑問に関しては不明であり、今後の研究課題と思う。本論文の日本での意義付け 本研究を今後の糖尿病治療に外挿すると、BMIが30超の高度の肥満を伴う2型糖尿病患者が最も良い適応症になると思われる。今後、日本人にも多いと思われるBMI 25~27あたりでの層別解析が注目される。また、この効果が実際にMACE抑制に結び付くか否かはそれにも増してさらに興味深い。現在進行中のSURPASS-CVOT(NCT04255433)においては、デュラグルチドとの比較が計画され2024年末ごろには効果が確認される。 ただ、危惧される点もいくつかある。試験を完了できなかった対象患者が15%と多いこと、体重減少が大き過ぎること、などである。とくに、本邦のように高齢者2型糖尿病患者が多い条件下では、体重が下がり過ぎることがデメリットになる可能性がある。このことから、本邦での薬剤選択上は第1・第2選択薬のように早期ステージでの使用は少なかろうと思う。治療継続率が対照薬よりも良くなかったことからも、あくまでも現在のGLP-1受容体作動薬などの糖尿病注射剤と近似した位置付けになるのではないかと推察する。一方、インスリン/GLP-1受容体作動薬の配合剤がtirzepatideに置き換わっていく可能性もありえよう。本論文から何を学ぶ? 今後のインクレチン薬の展望は? GIP/GLP-1受容体ダブルアゴニストtirzepatideは優れた糖代謝改善作用を有することが示された。SURPASS-1に追従して、ほぼ同時にSURPASS-2の結果が報告され、ここではtirzepatide群をセマグルチド群と比較して検討し、SURPASS-1の結果と同様に前者で優れたHbA1c低下効果ならびに体重減少効果が確認されている(Frias JP, et al. N Engl J Med. 2021 Jun 25. [Epub ahead of print])。今後、SURPASS-3やSURPASS-5などで本剤の評価が次々と報告されていく予定があり、すべての試験で結果が一貫していると聞く。これらの集積は、現行の糖尿病ガイドラインを変える可能性もあろう。 また、インクレチン関連薬の配合剤の創薬の新たな話題として、GLP-1受容体作動薬にグルカゴンを付帯したデュアル製剤(cotadutide)が2型糖尿病腎症やNASHの治療薬として開発されている(Nahra R, et al. Diabetes Care. 2021 May 20. [Epub ahead of print])。グルカゴンは糖代謝の絶対悪ではなく、エネルギー産生作用を有しておりエネルギー消費を上げる方向に作用し、蠕動運動の低下や中枢神経を介して食欲を抑制する作用もあるようだ。これらの作用をGLP-1と組み合わせて効果を増強しようというのが、GLP-1/グルカゴン受容体作動薬である。実際に、GLP-1/グルカゴン受容体作動薬に関してグルコース吸収の遅延とインスリン感受性の改善がみられている。作用機序の面から、まだまだ検討の余地は残されるものの、興味深いダブル製薬の1つと思われる。

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肺静脈閉塞症/肺毛細血管腫症〔PVOD:pulmonary veno-occlusived isease/PCH:pulmonary capillary hemangiomatosis〕

1 疾患概要■ 定義肺静脈閉塞症/肺毛細血管腫症(pulmonary veno-occlusive disease:PVOD/pulmonary capillary hemangiomatosis:PCH)は、肺高血圧症(pulmonary hypertension:PH)を呈する極めてまれな疾患であり、臨床所見のみでは肺動脈性肺高血圧症(pulmonary arterial hypertension:PAH)との鑑別が困難とされている。しかし、病理組織学的には肺動脈に病変が生じるPAHと明らかに異なり、PVOD/PCHの主たる病変は肺静脈/毛細血管にある。2013年2月に開催された第5回世界肺高血圧症シンポジウム(フランス、ニース)では、PVOD/PCHは肺高血圧症分類I群の中の1つと位置付けられ、他のPAHとは明らかに病態が異なるI’群のサブクラスとして分類された。さらに2015年8月に発表されたESC/ERS(欧州心臓病/呼吸器学会)ガイドラインでは、その亜分類として1)特発性PVOD/PCH、2)遺伝性PVOD/PCH(EIF2AK4およびその他の遺伝子変異あり)、3)毒物/薬物/放射線惹起性PVOD/PCH、4-1)膠原病に伴うPVOD/PCH、4-2)HIV感染症に伴うPVOD/PCHが示された。2015年1月より厚生労働省の難病対策が改定され、指定難病として「PAH」「慢性血栓塞栓性肺高血圧症(CTEPH)」に加え、「PVOD/PCH」が追加された。また難病指定に伴い、2014年度難治性疾患政策研究事業「呼吸不全に関する調査研究班」によって、特発性または遺伝性のPVOD/PCHを対象に、難病申請に必要な具体的な臨床診断基準が立案された。これが2021年7月時点での公的な指定難病「PVOD/PCH」の概念である。2018年に開催された第6回世界肺高血圧症シンポジウム(フランス、ニース)でPH臨床分類は改訂され「PVOD/PCH」概念は軌道修正された。PVOD/PCHはPAHスペクトラムの中の1つの病態という位置付けに変わった。なお、本稿では異なる2つの概念を合わせて記述している。■ 疫学PVOD/PCHの疾患概念は、2013年から2018年世界肺高血圧症シンポジウムで変化を認めた。2021年7月の時点でわが国における正確な有病率は把握されていない。PVOD/PCHの位置付けをPAHスペクトラムの一部とすると疫学はまったく不明となる。PVOD病態は、さまざまな疾患に合併しており、特に強皮症を始めとする膠原病での合併が多いとされている。また、内科治療に不応性のPAH患者14例の病理組織学的検討で86%にPVODの所見が認められたとする報告もあり、IPAH、心不全、間質性肺疾患などに混在している可能性がある。■ 病因強皮症に合併したPVOD病変を合併した患者のsmall-andpost-capillary vesselでは細胞増殖に関与するPDGFR-βの発現亢進があり、肺静脈のリモデリング/狭窄に関与する可能性が示唆されているが指摘されている。また、EIF2AK4遺伝子変異の関与から、TGFβ1経路の抑制、mTOR経路との関連も指摘されている。造血幹細胞移植後のPVODでは、移植による内皮障害/凝固活性亢進が要因の1つとして挙げられている。しかし、どの説も全体像の説明には至っていない。■ 症状自覚症状はPAHスペクトラムの一部であるという観点からもPAHと同様である。労作時息切れが主な自覚症状である。PAHと比較して肺からの酸素の取り込みが制限されているため、より低酸素血症が強度であることもあり、診断時の労作時息切れの程度は強い可能性がある。■ 分類世界肺高血圧症シンポジウムは5年毎に開催される。2013年から2018年にかけてのPVOD/PCH概念の変遷はその分類(位置付け)の違いに反映されている(表1、2)。表1 第5回世界肺高血圧症シンポジウム2013におけるPH臨床分類の中でのPVOD/PCHの位置づけ(一部のみ抜粋)※PVOD/PCHは第1群の亜分類となっている第1群 肺動脈性肺高血圧症(PAH)1.1特発性肺動脈性肺高血圧症(idiopathic PAH:IPAH)1.2遺伝性肺動脈性肺高血圧症(heritable PAH:HPAH)1.2.1BMPR21.2.2ALK1、Endoglin、SMAD9、CAV1、KCNK3などBMPR2以外の変異第1'群 肺静脈閉塞症(PVOD)および/または肺毛細血管腫症(PCH) 1’.1特発性1’.2遺伝性1’.2.1EIF2AK4変異1’.2.2EIF2AK4以外の変異1’.3薬物・毒物誘発性1’.4各種疾患に伴うPVOD/PCH1’.4.1結合組織病1’.4.2HIV感染症表2 第6回世界肺高血圧症シンポジウム2018におけるPH臨床分類の中でのPVOD/PCHの位置づけ(一部のみ抜粋)※PVOD/PCHは第1群に含まれている1肺動脈性肺高血圧症(PAH)1.1特発性PAH1.2遺伝性PAH1.3薬物・毒物誘発性PAH1.4各種疾患に伴うPAH1.5カルシウム拮抗薬に長期間にわたり反応するPAH1.6静脈/毛細血管(PVOD/PCH)病変の明らかな特徴を示すPAH1.7新生児遷延性肺高血圧症■ 予後PVOD/PCHは病態が急速に進行する予後不良の疾患とされているが、診断が困難であることもあり、いまだその正確な予後を示す報告は少ない。PAHに有効な選択的肺血管拡張薬の効果は限定され、ほとんどの症例が診断から2年の経過で死亡するとされる。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)■ 診断1)病理診断所見PVOD末梢肺静脈(特に小葉間静脈)のびまん性かつ高度(静脈の30~90%)な閉塞所見ありPCH    肺胞壁の毛細管様微小血管の多層化および増生。さらにPVODに準じた末梢肺静脈病変を認める場合もあり2)臨床診断基準【主要項目】(1)右心カテーテル所見が肺動脈性肺高血圧症(PAH)の診断基準を満たす(a)肺動脈圧の上昇(安静時肺動脈平均圧で25mmHg以上、肺血管抵抗で3Wood Unit、240dyne・sec・cm-5以上のすべてを満たす)(b)肺動脈楔入圧(左心房圧)は正常(15mmHg以下)(2)PVOD/PCHを疑わせる胸部高解像度CT(HRCT)所見(小葉間隔壁の肥厚、粒状影、索状影、スリガラス様影(ground glass opacity)、縦隔リンパ節腫大)があり、かつ間質性肺疾患など慢性肺疾患や膠原病疾患を除外できる(3)選択的肺血管拡張薬(ERA、PDE5 inhibitor、静注用PGI2)による肺うっ血/肺水腫の誘発【副次的項目】(1)安静時の動脈血酸素分圧の低下(70Torr以下)(2)肺機能検査:肺拡散能の著明な低下(%DLco4 今後の展望疾患概念の変遷はあったが、PVOD/PCH病態を有するPAH患者さんの診断・治療に難渋することは変わっていない。前毛細血管でなく、毛細血管・肺静脈病変がより強い症例では肺血管拡張療法の有用性が低下して、肺血管拡張療法に伴う有害事象が増えると想定される。今後、病因解明、新規治療法の探求を継続する必要がある。図 PAH spectrumの中のPVOD/PCH画像を拡大する5 主たる診療科循環器内科、呼吸器内科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報難病情報センター 肺静脈閉塞症/肺毛細血管腫症(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)「肺静脈閉塞症/肺毛細血管腫症診療ガイドライン」(Minds認証)日本肺高血圧・肺循環学会ホームページMindsガイドラインライブラリ(医療従事者向けのまとまった情報)難治性呼吸器疾患・肺高血圧症に関する調査研究班ホームページ(医療従事者向けのまとまった情報)公開履歴初回2021年7月20日

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在宅吸入可能な肺非結核性抗酸菌症治療薬「アリケイス吸入液590mg」【下平博士のDIノート】第78回

在宅吸入可能な肺非結核性抗酸菌症治療薬「アリケイス吸入液590mg」今回は、「アミカシン硫酸塩(商品名:アリケイス吸入液590mg、製造販売元:インスメッド合同会社)」を紹介します。本剤は、内服薬による多剤併用療法の抗菌効果が不十分な肺非結核性抗酸菌(NTM)症に上乗せすることができるアミノグリコシド系抗菌吸入薬です。<効能・効果>本剤は、アミカシンに感性のマイコバクテリウム・アビウムコンプレックス(MAC)による肺NTM症の適応で、2021年3月23日に承認されました。なお、本剤の適用は、肺MAC症に対する多剤併用療法による前治療において効果不十分な患者に限定されています。<用法・用量>通常、成人にはアミカシンとして590mg(力価)を1日1回、専用ネブライザ(ラミラネブライザシステム)を用いて吸入投与します。なお、使用に当たっては、ガイドラインなどを参照し、多剤併用療法と併用します。喀痰培養陰性化が認められた以降も、一定期間は本剤の投与を継続します。臨床試験においては、喀痰培養陰性化が認められた以降に最大12ヵ月間、本剤の投与を継続しました。投与開始後12ヵ月以内に喀痰培養陰性化が得られない場合は、本剤の継続投与の必要性を再考する必要があります。<安全性>肺NTM症患者を対象とした第II、第III相試験の併合結果404例中330例(81.7%)で副作用が確認されました。主な副作用として、発声障害172例(42.6%)、咳嗽125例(30.9%)、呼吸困難57例(14.1%)、喀血42例(10.4%)、口腔咽頭痛37例(9.2%)、疲労29例(7.2%)、耳鳴り21例(5.2%)などが報告されています。重大な副作用として、過敏性肺臓炎(2.7%)、気管支痙攣(21.5%)、第8脳神経障害(15.1%)、急性腎障害(3.2%)、ショックおよびアナフィラキシー(頻度不明)が現れる可能性があります。<患者さんへの指導例>1.この薬は、在宅で吸入する抗菌薬です。肺の奥まで浸透することで感染細胞に取り込まれ、抗菌作用を発揮します。2.冷蔵庫(2~8℃)で保管し、凍らせないでください。25℃の室温で最大4週間保管が可能ですが、一旦室温に戻した場合は、未使用であっても4週間で廃棄してください。3.使用するときは、冷蔵庫から取り出して室温(20~25℃)に戻し、内容物が均一になるように10~15秒間激しく振り混ぜます。電池を入れるかACアダプターを接続した専用の吸入器を用いて、1日1回、約14~20分間吸入します。4.吸入後は、毎回洗浄・消毒をして、乾燥させてください。エアロゾルヘッドは週1回の超音波洗浄を行い、ハンドセット(吸入部)は1ヵ月ごとに新しいものに取り替えます。5.本剤を使用中に、咳、息切れ、発熱、呼吸困難、疲労感、発疹、めまい、耳鳴り、難聴、むくみ、尿量減少、食欲不振、悪心・嘔吐などの症状が現れたら、ただちに医師に連絡してください。<Shimo's eyes>近年、わが国の肺NTM症の罹患率および死亡率が増加しており、MACが原因菌種の80~90%超を占めています。治療は通常、リファンピシン、エタンブトール、クラリスロマイシンの3種類による多剤併用療法が選択され、必要に応じてストレプトマイシンまたはカナマイシンの併用を行います。しかし、選択肢が限られ、副作用や耐性化により治療が難しくなっているという課題があります。なお、本剤と同成分であるアミカシンの注射製剤もありますが、肺への浸透性が低く、重大な全身的副作用のリスクもあることから在宅での投与は困難です。本剤は、専用ネブライザを用いることで、吸入により、全身曝露を抑えて副作用を軽減しつつ、肺末梢の肺胞まで薬剤が効率的に分布して、感染細胞であるマクロファージへの取り込みを促進します。単剤では用いずに、上記の多剤併用内服療法に加えて使用します。国際共同第III相試験(CONVERT試験)では、投与6ヵ月目までの培養陰性化率は、GBT(ガイドラインに基づく多剤併用療法)単独群よりも本剤+GBT群のほうが高いことが認められました。海外のATS/ERS/ESCMID/IDSAガイドライン2020では、すでに難治性肺MAC症の推奨治療に組み込まれています。副作用としては、気管支痙攣のほか、第8脳神経障害が現れることがあるので、血中濃度が高くなりやすい腎機能障害がある患者、高齢者ではとくに注意が必要です。また、急性腎障害の報告もあります。治療早期には症状が見られないこともあるので、定期的なフォローを欠かさないようにしましょう。本剤による治療は、MAC菌が検出されなくなった最初の月から、12ヵ月後まで治療を継続することが推奨されています。長期間・連日の吸入となりますので、アドヒアランスや器具の取り扱い、副作用の確認のほか、治療モチベーションの維持についてもサポートしましょう。参考1)PMDA 添付文書 アリケイス吸入液590mg

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