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コロナワクチン接種後の中和抗体価、ウイルス株や年齢での違いは?/JAMA

 ファイザー製ワクチン(BNT162b2)を2回接種すると、有効率は約95%だと言われている。その一方で、患者の年齢が新型コロナウイルス感染症の発生率や重症度のリスクに寄与することも知られている。そこで、オレゴン健康科学大学のTimothy A Bates氏らはファイザー製ワクチン2回接種後のUSA-WA1/2020株とP.1系統の変異株(γ株、以下、P.1変異株)に対する年齢と中和抗体価の関係を調べた。その結果、USA-WA1/2020株に対するワクチン接種後の中和抗体価は年齢と負の相関が見られた。一方で、P.1変異株に対する中和抗体価はすべての年齢で減少したが、年齢による差は小さく、全体的にワクチンの有効性に寄与する要因として年齢を特定することができなかった。JAMA誌オンライン版2021年7月21日号リサーチレターでの報告。 研究者らは、2020年12月~2021年2月、オレゴンワクチン接種ガイドラインに従って実施されたワクチン接種の参加者を対象に調査を行った。参加者はファイザー製ワクチン1回目接種の時点で本研究に登録され、血清サンプルはワクチン1回目を受ける前と2回目を受けてから14日後に収集された。SARS-CoV-2スパイク受容体結合ドメイン特異的抗体レベルを酵素免疫測定法で測定し、中和抗体50%効果濃度(EC50、ウイルス中和アッセイで50%の感染を阻害する血清希釈)を計算した。新型コロナウイルスの50%中和力価は、USA-WA1/2020株とP.1変異株の生きた臨床分離株を使用した焦点還元中和試験(FRNT50、焦点減少中和検査で50%のウイルスを中和する血清希釈)で決定した。 主な結果は以下のとおり。・50例がこの研究に登録された(女性:27例[54%]、年齢の中央値[範囲]:50.5歳[21~82])。・すべての参加者において、ワクチン接種前のEC50は事前曝露がないことを示す定量限界未満だった。・ワクチン接種後のEC50は、年齢と有意な負の関連を示した(R2=0.19、p=0.002)。・USA-WA1/2020株に対しては、全参加者で中和抗体の強い活性が観察され、幾何平均抗体価(GMT:geometric mean antibody titer)は393(95%信頼区間[CI]:302~510)だった。一方、P.1変異株に対しての免疫応答は低く、GMTは91(95%CI:71~116)で、76.8%の減少を示した。・USA-WA1/2020株とP.1変異株の両方において、年齢はFRNT50と有意に負の相関があった(p<0.001およびp=0.001)。・USA-WA1/2020株の場合、年少参加者ら(20~29歳、n=8)のGMTは938(95%CI:608~1447)に対し、年長参加者ら(70~82歳、n=9)のGMTは138(95%CI:74~257)と85%の減少を示した(p<0.001)。・P.1変異株の場合、年少参加者らのGMTは165(95%CI:78~349)に対し、年長参加者らのGMTは66(95%CI:51~86)と60%の減少を示した(p=0.03)。 研究者らは「中和抗体価は感染からの保護と強く相関していると考えられる。ただし、今回の研究ではサンプル数が少ないこと、閾値がまだ正確に決定されないことを踏まえ、今後の研究では、ワクチン接種を受けた高齢者に見られる抗体レベルの低下が、同時に防御機能の低下につながるかどうかを具体的に取り上げる必要がある」としている。

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日本のウイルス肝炎診療に残された課題~今、全ての臨床医に求められること~

COVID-19の話題で持ち切りの昨今だが、その裏で静かに流行し続けている感染症がある。ウイルス肝炎だ。特に問題になるのは慢性化しやすいB型およびC型肝炎で、世界では3億人以上がB型、C型肝炎ウイルスに感染し、年間約140万人が死亡している。世界保健機関(WHO)は7月28日を「世界肝炎デー」と定め、ウイルス肝炎の撲滅を目的とした啓発活動を実施している。検査方法や治療薬が確立する中、ウイルス肝炎診療に残された課題は何か?今、臨床医に求められることは何か?日本肝臓学会理事長の竹原徹郎氏に聞いた。自覚症状に乏しく、潜在患者が多数―日本の肝がんおよびウイルス肝炎の発生状況を教えてください。日本では、年間約26,000人程度が肝がんで死亡しているという統計があります。その大半はウイルス肝炎によるもので、B型肝炎は約15%、C型肝炎は約50%を占めています。B型およびC型肝炎ウイルスに感染して慢性肝炎を発症しても、自覚症状はほとんど現れません。気付かぬうちに病状が進行し、肝がん発症に至るわけです。日本においてB型、C型肝炎ウイルスの感染に気付かずに生活している患者さんは数十万人程度存在すると考えられています。こうした患者さんを検査で拾い上げ、適切な医療に結び付けることが、肝がんから患者さんを救うことにつながります。検査後の受診・受療のステップに課題―臨床では、どのような場面で肝炎ウイルス検査が実施されるのでしょうか。臨床で肝炎ウイルス検査が実施される場面は様々ですが、(1)肝障害の原因を特定するために行う検査、(2)健康診断で行う検査、(3)手術時の感染予防のために行う術前検査などが挙げられます。(1)はそもそも肝障害の原因を特定するために行われているので問題ないのですが、(2)では、検査で異常が指摘されても放置される場合がありますし、(3)では、陽性が判明してもその後の医療に適切に活用されないことがあり、課題となっています。その要因は様々ですが、例えば他疾患の治療が優先され、検査結果が陽性であることが二の次になるケースや、長く診療している患者さんでは、変にその結果を伝えて不安にさせなくても良いのではないか、とされるケースもあるでしょう。また患者さんの中には、検査結果を見ない、結果が陽性であっても気にしない、陽性であることが気になっていても精密検査の受診を躊躇する、といった方も多いです。そのため医療者側にどのような事情があっても、陽性が判明した場合はその結果を患者さんに伝え、精密検査の受診を促すことが大事です。非専門の先生で、ご自身では精密検査の実施が難しいと思われる場合は、ぜひ近隣の肝臓専門医に紹介してください。そのうえで、最終的に治療が必要かどうかまで結論付け、治療が必要な場合には専門医のもとでの受療を促すことが重要です。目覚ましい進歩を遂げる抗ウイルス治療―ウイルス肝炎の治療はどのように変化していますか。近年、ウイルス肝炎の治療は劇的に変化しています。特にC型肝炎治療の進歩は目覚ましいものがあります。従来のC型肝炎治療はインターフェロン注射によるものが中心で、インターフェロン・リバビリン併用でウイルスを排除できる患者さんの割合は50%程度でした1)。また、インフルエンザ様症状やその他の副作用が多くの患者さんで出現し、治療対象の患者さんも限られていました1),2)。しかしここ数年、経口薬である直接作用型抗ウイルス剤(DAA)が複数登場し、その様相は変化しています。まず治療奏効率は格段に向上し、ほとんどの患者さんでウイルスが排除できるようになりました。そして従来ほど副作用が問題にならなくなり3)、患者さんにとって治療がしやすい環境になっています。治療対象が高齢の患者さんや肝疾患が進行した患者さんに広がったことも、大きな変化です。B型肝炎治療では、まだウイルスを完全に排除することはできないものの、抗ウイルス治療によってウイルスの増殖を抑え、肝疾患の進行のリスクを下げることができます。このように、現在は治療に進んだ後のステップにおける課題はクリアされてきています。そのため、日本のウイルス肝炎診療の課題は、やはり検査で陽性の患者さんを受診・受療に結び付けるまでのステップにあるといえるでしょう。術前検査などで陽性が判明した患者さんがいらっしゃいましたら、ぜひ検査結果を患者さんに適切に伝え、受診・受療を促すと共に、近隣の肝臓専門医に紹介していただきたいと思います。日本肝臓学会のウイルス肝炎撲滅に向けた取り組み―日本肝臓学会では、ウイルス肝炎撲滅に向けてどのような取り組みを実施されていますか。日本肝臓学会では「肝がん撲滅運動」という活動を20年以上にわたって行ってきています。具体的には、肝炎や肝がん診療の最新情報を患者さんや一般市民の皆さまに知っていただくための公開講座を、毎年全国各地で開催しています。3年ほど前からは、肝炎医療コーディネーターを育成するための研修会も設けています。肝炎医療コーディネーターとは、看護師、保健師、行政職員など多くの職種で構成され、肝炎の理解浸透や受診・受療促進などの支援を担う人材です。また最近では、製薬企業のアッヴィ合同会社と共同で、「AbbVie Elimination Award」を設立しました。肝臓領域の臨床研究において優れた成果を上げた研究者を表彰する、研究助成事業です。「Elimination」は「排除」という意味で、一人でも多くの患者さんから肝炎ウイルスを排除したい、という意図が込められています。このように、日本肝臓学会ではウイルス肝炎撲滅に向けて、啓発活動や研究助成事業など、様々な活動に取り組んでいます。世界の先陣を切ってWHOが掲げる目標の達成を目指す―ウイルス肝炎の治療にあたる肝臓専門医の先生方に向けて、メッセージをお願いします。WHOはウイルス肝炎の撲滅に向けて「2030年までにウイルス肝炎の新規患者を90%減らし、ウイルス肝炎による死亡者を65%減らすこと」を目標に掲げています。COVID-19の流行によって、受診控えや入院の先送りなどの問題が発生し、この目標への到達は困難に感じられることもあるかもしれません。しかし、日本のウイルス肝炎診療には、国民の衛生観念がしっかりしている、肝臓専門医の数が潤沢である、行政的な施策が整備されている、など様々なアドバンテージがあります。世界の先陣を切ってWHOが掲げる目標を達成できるよう、今後も取り組んでいきましょう。肝炎ウイルス検査で陽性の患者さんは、肝臓専門医に紹介を―最後に、非専門の先生方に向けてメッセージをお願いします。従来のウイルス肝炎の治療は、副作用が問題になる、高齢の患者さんでは治療が難しい、といったイメージがあり、現在もそのように思われている先生がいらっしゃるかもしれません。患者さんも誤解している可能性があります。しかし、ウイルス肝炎の治療はここ数年で劇的に変化しています。肝炎ウイルス検査を実施して陽性が判明した場合は、患者さんにとって良い治療法があるかもしれない、と思っていただいて、ぜひ近隣の肝臓専門医に紹介してください。日本肝臓学会のHPに、肝臓専門医とその所属施設の一覧を都道府県別に掲載していますので、紹介先に迷われた際は、参考にしていただければと思います。1)竹原徹郎. 日本内科学会雑誌. 2017;106:1954-1960.2)日本肝臓学会 肝炎診療ガイドライン作成委員会 編「 C型肝炎治療ガイドライン(第8版)」 2020年7月, P16.3)日本肝臓学会 肝炎診療ガイドライン作成委員会 編「 C型肝炎治療ガイドライン(第8版)」 2020年7月, P57,63.

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ASCO2021 レポート 泌尿器科腫瘍

レポーター紹介2021 ASCO Virtual Scientific ProgramCOVID-19の影響で昨年に引き続きバーチャル開催となったASCO2021。この1年でわれわれもバーチャル開催の学会に随分慣れてしまった感があります。将来、現地開催が復活した時にはどのように感じるのでしょうか。本年のPresidential Themeは“Equity: Every Patient. Every Day. Everywhere.”ということで、いまや全世界に蔓延しているCOVID-19を強烈に意識してのことでしょうか。何はともあれ急速に進歩していくがん治療をさらに推進することももちろん重要ですが、時には足下を見直して、がん患者のケア・治療・研究の偏在をなくし、世界中の人々に平等なアクセスを可能にする努力も忘れてはならないことだと思います。さて、Scientific Programの中から注目の演題をピックアップして紹介するこのレポート、前立腺がん領域では昨年に引き続きPSMA-PET関連の重要な報告が、尿路上皮がんと腎細胞がんでも引き続き免疫チェックポイント治療の話題が中心となっています。米国におけるアフリカ系米国人の若年男性におけるPSA検診の増加は前立腺がんの転帰を改善する(Abstract #5004)上記のPresidential Themeに合致するように、racial disparityをテーマとしたアブストラクトが取り上げられています。背景として、アフリカ系米国人の男性は、前立腺がんの罹患率・死亡率ともに多人種に比べて高いことが知られています。つまり、開始年齢や頻度などスクリーニングを強化すべき対象であると考えられます。実際に家族歴などの他のリスク因子も有する場合には、アフリカ系米国人のPSA検診開始推奨年齢は40歳とされています。にもかかわらず、PSA検診に関する研究への参加者におけるアフリカ系米国人の占める割合が低いことなどがしばしば指摘され、本集団に対する適切な受診勧奨の妨げになってきました。今回の研究では55歳未満のアフリカ系米国人男性におけるPSA検診の頻度と診断時の前立腺がんリスクおよび前立腺がん特異的死亡率(PCSM)との関連を調べるために、退役軍人保健局(Veterans Health Administration、退役軍人に対する健康保険プログラムがあるため医療受給に対するバリアが低いこと、病歴情報へのアクセスが可能なシステムが構築されていること、などから本研究のような解析に適している)が有する登録データを用いて、2004~17年に前立腺がんと診断された40〜55歳のアフリカ系米国人男性を特定しました。前立腺がん診断からさかのぼること最長5年間に受けたPSA検診の頻度を算出し、診断時の転移の有無と、PCSMについてその関連を解析しました。前立腺がんと診断されたアフリカ系米国人男性が4,654例特定され、その平均年齢は51.8歳、毎年のPSA検診受診率は平均で53.2%でした。平均値を境にPSA検診受診頻度の高かったグループと低かったグループとに分けて比較すると、低グループでは高グループよりも診断時に転移を有する患者の割合が高かったとのことです(3.7% vs.1.4%、p<0.01)。PSA検診率の増加は診断時の有転移率の低下(オッズ比:0.61、95%信頼区間[CI]:0.47~0.81、p<0.01)およびPCSMのリスクの低下(サブ分布ハザード比:0.75、95%CI:0.59~0.95、p=0.02)と有意に関連していました。若年アフリカ系米国人男性に対するPSA検診は早期前立腺がん検出を促し、その転帰を改善する可能性があるという仮説を支持しています。ただし、前向きコントロール研究ではないこと、過剰診断・過剰治療の問題など、まだ解決すべき課題は残されているといえるでしょう。mCRPCに対するルテチウム-177-PSMA-617の効果:VISION Trial(Late-breaking abstract #LBA4)PSMAを標的にβ線を発する177Luを腫瘍微小環境に送達する標的放射性リガンド療法のmCRPCに対する効果を検証した国際ランダム化非盲検第III層試験(VISION Trial, NCT03511664)の結果が公表されました。対象は少なくとも1剤の新規ARシグナル阻害薬と1剤のタキサン系抗がん剤に抵抗性となったmCRPC患者で、事前に68Ga-PSMA-11 PETでPSMA陽性が確認されました。参加者は標準治療に加えて1回7.4GBqの177Lu-PSMA-617を6週間ごとに6サイクル投与する治験薬群と標準治療のみの群(標準治療群)とに2:1の割合で無作為割り付けされました。主要評価項目は、PCWG3 criteriaに基づき、独立した中央レビューによる画像評価によって判定されたrPFSと、OSでした。計831例が治験薬群(551例)あるいは標準治療群(280例)に割り付けられ、観察期間の中央値は20.9ヵ月でした。治験薬群は、標準治療群と比較して有意に長いrPFSを示しました(rPFS中央値:8.7ヵ月vs.3.4ヵ月、HR:0.40、99.2%CI:0.29~0.57、p<0.001、片側)。OSも治験薬群では標準治療群と比較して有意に延長されました(OS中央値:15.3ヵ月vs.11.3ヵ月、HR:0.62、95%CI:0.52~0.74、p<0.001、片側)。治験薬群ではGrade3以上の有害事象の発生率が標準治療群と比較して高くなりましたが(52.7% vs.38.0%)、治療の忍容性は良好でした。177Lu-PSMA-617治療は忍容性の高いレジメンであり、既存治療に対して抵抗性を獲得したPSMA陽性mCRPC患者において、標準治療単独と比較して、rPFSおよびOSの延長効果を示しました。わが国では、放射性医薬品規制の面で解決すべき課題があるものの、今後、本セッティングにおける標準治療として承認されることが期待されます。mCSPCに対する新規ARシグナル阻害薬治療時代の局所療法:PEACE-1 Trial (Abstract #5000)mCSPC患者に対する局所放射線照射は、低腫瘍量(low metastatic burden)の患者でOSベネフィットを示しており、NCCNガイドラインでも低腫瘍量患者において推奨されています。しかしこれらの根拠となった臨床試験(HORRADやSTAMPEDE)における全身治療はADTが標準でした。しかし現在、リスクにかかわらずmCSPC患者に対する全身治療はADTに新規ARシグナル阻害薬を上乗せすることが推奨されています。PEACE-1試験(NCT01957436, Abstract #5000)は、mCSPC患者に対するベースラインADT治療にアビラテロン(プレドニゾン併用)と局所放射線治療(EBRT)のいずれかあるいは両方を追加することがOSの延長につながるかどうかを、2×2の分割デザインで検証しようというものです。途中ドセタキセルの併用が許容されるなどのプロトコール変更があり、やや複雑となっていますが、基本的なデザインはmCSPC患者をADT治療のみあるいは、アビラテロンとEBRTのいずれかあるいは両方を追加する4群に無作為割り付けするというものです。主要評価項目はrPFSとOSで、今回はEBRTの有無にかかわらず、アビラテロンの有無がrPFSに与える影響を解析した結果が報告されました。アビラテロン(±EBRT)群はADT(±EBRT)群と比較してrPFSを有意に延長(HR:0.54[0.46~0.64]、p<0.0001、中央値2.2年vs.4.5年)し、その効果はドセタキセル併用群でも一貫していました(HR:0.38[0.31~0.47]、p<0.0001、中央値1.5年vs.3.2年)。今回の結果は既存のSTAMPEDE試験の結果などにそれほどの新規知見を加えるわけではありませんが、今後EBRTの有無によるrPFSあるいはOSの延長効果の解析結果が待たれるところです。腎細胞がん患者の術後補助療法としてのペムブロリズマブの効果:KEYNOTE-564 Trial(Late-breaking abstract #LBA5)淡明細胞型腎細胞がん(ccRCC)におけるペムブロリズマブの術後再発予防効果を検証した、プラセボ対照ランダム化二重盲検第III相試験(KEYNOTE-564 Trial, NCT03142334)の結果が公表されました。これまでに、ccRCCにおいて術後補助療法として明確な再発予防効果やOS延長効果を示した薬剤は存在しませんでした。本試験は、組織学的に診断された術後再発リスクの高いccRCC患者を対象として実施されました。術後再発の高リスクは、(1)pT2N0M0でグレード4あるいは肉腫様コンポーネントを有する、(2)pT3-4N0M0(組織学的悪性度は問わない)、(3)pTanyN1M0(組織学的悪性度は問わない)、(4)M1 NED(腎摘除術後1年以内に再発巣あるいは軟部組織転移巣が完全切除され残存病変を認めない)と定義されました。3週ごとのペムブロリズマブあるいはプラセボ投与は術後1年間(計17回投与)続けられました。主要評価項目は無再発生存(DFS)で全生存(OS)は副次的評価項目とされました。計994例がペムブロリズマブ群(496例)あるいはプラセボ群(498例)に割り付けられ、観察期間の中央値(範囲)は24.1ヵ月(14.9~41.5ヵ月)でした。事前に計画されていた第1回目の中間分析で、主要評価項目であるDFSにおいてペムブロリズマブ群の優位性が示されました(両群とも中央値未到達、HR:0.68、95%CI:0.53~0.87、p=0.0010、片側)。24ヵ月での推定DFS率は、ペムブロリズマブ群で77.3%、プラセボ群で68.1%でした。全体として、ペムブロリズマブ群のDFSに対する効果はサブグループ間で一貫していました。OSイベントが観察されたのは51例(ペムブロリズマブ群で18例、プラセボ群で33例)とまだ少なく、両群間のOSに統計学的な有意差は認めませんでした(両群とも中央値未到達、HR:0.54、95%CI:0.30~0.96、p=0.0164、片側)。24ヵ月での推定OSは、ペムブロリズマブ群で96.6%、プラセボ群で93.5%でした。Grade3以上の有害事象の発生頻度はペムブロリズマブ群で32.4%、プラセボ群で17.7%でした。ペムブロリズマブ群における治療関連死亡は報告されませんでした。ペムブロリズマブは、術後再発リスクの高いccRCCの患者において、プラセボと比較して、統計学的に有意かつ臨床的に意義のあるDFS延長効果を示しました。OSに関しては追加のフォローアップが計画されています。今回、KEYNOTE-564試験は、RCCの術後補助療法として免疫チェックポイント阻害薬を用いた第III相試験としては初めて主要エンドポイントを満たしました。今後、本セッティングにおける新たな標準治療として期待が持てる結果といえるでしょう。長期フォローアップでOSの延長効果も示すことができるかが重要なポイントであると考えます。また、長期フォローの結果、プラセボ群の無再発生存率がどれくらいでプラトーに達するのか(プラセボ群での無再発生存率が高いということは不必要なアジュバント治療を受ける患者が多いことを示しており、対象患者のさらなる最適化が望ましいということになります)という点にも注目したいと思います。このほか腎がん領域では、上記のほかにKEYNOTE-426試験(NCT02853331)の長期(42ヵ月)フォローアップデータ(Abstract #4500)が公表されました。筋層浸潤性膀胱がん(MIBC)における選択的膀胱温存療法:3つのP II試験の結果(Abstracts #4503/#4504/#4505)MIBCの標準治療はネオアジュバント化学療法に続く根治的膀胱全摘ですが、以前から膀胱を温存しながら根治を目指す治療が一部患者で可能であることは知られています。しかし、膀胱温存可能な患者の治療前からの予測が難しいこと、臨床的CRの基準が曖昧であること、そして救済膀胱全摘の意義が不明であることなどから、適応の是非が未確定な状態が続いています。今回は3つの第II相試験の結果がOral sessionで報告されています。1つ目はHCRN GU 16-257試験(NCT03558087, Abstract #4503)で、本試験ではシスプラチン適格なcT2-T4aN0M0の膀胱尿路上皮がん患者をエントリーし、ゲムシタビン+シスプラチン(GC)にニボルマブを上乗せしたレジメンを4コース施行後に画像検査(CT/MRI)、尿細胞診、経尿道的生検/切除によって再評価を行っています。いずれの検査でもがんなしと判断された場合(Ta腫瘍の残存は許容)には、cCRと判断しニボルマブを2週間隔で8回投与した後に経過観察となります。主要評価項目はcCRの達成率に加え、cCRによる2年無転移性生存(MFS)の予測能となっています。また、副次的評価項目としてcCRによるMFS予測において初回TUR-BT組織を用いて解析した遺伝子変異プロファイル(TMB、ERCC2変異、FANCC変異、RB1変異、ATM変異)の有用性も評価されました。今回はcCR達成率と1年の中間解析の結果が報告されました。76例(男性79%、年齢の中央値69歳、cT2:56%、cT3:32%、cT4:12%)がエントリーされ、うち64例(84%)が4サイクルのGC+ニボルマブ治療後の再評価を受けました。64例中31例(48%、95%CI:36~61%)がcCRと判定されました。TMB≧10 mutations/Mb(p=0.02)、ERCC2変異(p=0.02)がCRと関連していました。今後より長期の観察に基づくアウトカムに期待を持たせる結果と考えられます。2つ目は放射線治療も組み合わせた、いわゆるTrimodality therapyの第II相試験(NCT02621151, Abstract #4504)で、これもcT2-T4aN0M0のMIBC患者が対象ですが、こちらは膀胱全摘拒否または不耐患者が対象となっています。シスプラチン適/不適は不問でeGFR>30mL/minが条件となっています。治療プロトコールは、ペムブロリズマブの初回投与の2~3週間後にTURによる可及的切除を行い、さらに膀胱に寡分割照射によるEBRT(52Gy/20回、IMRTを推奨)と同時に週2回(×4週間)のゲムシタビン(27mg/m2)と3週ごとのペムブロリズマブを3回投与するというものです。EBRTの12週後に画像検査(CT/MRI)、尿細胞診、経尿道的生検/切除による効果判定を実施します。その後も画像検査(CT/MRI)、尿細胞診、膀胱鏡によるフォローアップを行いました。最初の6例が安全性評価の対象となり、さらに48例が治療効果評価の対象となりました。主要評価項目は2年の膀胱温存無病生存(BIDFS)でした。本研究でも腫瘍検体およびPBMCを用いた解析が行われています。予定されていた54例がエントリーされ、ステージの内訳はcT2が74%、cT3が22%、cT4が4%でした。安全性評価の対象となった最初の6例全例が治療プロトコールを完遂しました。治療効果評価の対象となった48例のうち1例(2%)がEBRTとゲムシタビンを、2例(4%)がゲムシタビンを、4例(8%)がペムロリズマブを主に副作用を理由に中断しました。48例の観察期間の中央値(範囲)は11.7ヵ月(0.6~32.2ヵ月)で、12例(25%)が何らかの様式で再発を来しました(NMIBC 6例、MIBC 0例、所属リンパ節2例、遠隔転移4例)。Grade3以上の有害事象は35%の症例で観察され、ペムブロリズマブに限るとGrade3以上の有害事象発生率は6%でした。ここまでのところ、有害事象は既報と同等で、2年フォローアップの最終解析と、バイオマーカー探索の結果が報告される予定になっています。3つ目はIMMUNOPRESERVE-SOGUG trial試験(NCT03702179, Abstract #4505)で、本試験でもcT2-T4aN0M0の膀胱尿路上皮がんを有し、膀胱全摘拒否または不耐患者が対象となっています。治療プロトコールは、まずTUR-BTを先行し、それに続くデュルバルマブ(1,500mg/body)+トレメリムマブ(75mg/body)を4週間ごとに3回投与しました。治療開始2週間後には、小骨盤に46Gy、膀胱に64~66Gyの線量で正常分割EBRTを開始しています。腫瘍残存あるいは再発例に対しては救済膀胱全摘を推奨しています。主要評価項目は経尿道的生検による筋層浸潤がんの消失によって定義されるCR達成率でした。最初の12例で6例以上がCRを達成した場合にさらに20例を追加する2段階デザインが採用されました。32例がエントリーされ、臨床病期の内訳はT2が28例(88%)、T3が3例(9%)、T4が1例(3%)でした。全例が少なくとも2コースのデュルバルマブ+トレメリムマブ治療を受け、膀胱への照射線量の中央値(範囲)は64Gy(60~65)でした。経尿道的生検によるCR達成率は81%でした。観察期間の中央値(範囲)は6.1ヵ月(2.5~20.1)で、BIDFS、DFS、OSはそれぞれ76%(95%CI:61~95%)、80%(95%CI:66~98%)、93%(95%CI:85~100%)でした。Grade3以上の有害事象は31%の症例で観察されています。前二者に比べてT2症例の割合が比較的高いものの、本レジメンも良好な成績を残しているといえるでしょう。今回の報告のほかにもさまざまなレジメンが膀胱温存療法として試されており、今後どのような治療レジメンが標準治療として残ってくるのか不透明な状態ですが、バイオマーカー探索などにより、対象症例とレジメンの最適化が進めば、MIBC患者にとって福音となることが期待されます。このほか尿路上皮がん領域ではKEYNOTE-052試験(NCT02335424, Abstract #4508)およびKEYNOTE-045試験(NCT02256436, Abstract #4532)の5年フォローアップデータが発表されております。おわりに総じて、前立腺がんではPSMA-PET関連の話題が昨年に引き続き大きなインパクトをもって報告されています。腎がんでは術後アジュバント、尿路上皮がんではネオアジュバントあるいは膀胱温存と、免疫チェックポイント阻害薬を絡めた治療が着実にEarly lineに食い込んできています。とくに尿路上皮がんではそのタイミングや併用薬、放射線治療の有無など、治療プロトコールが多様化しており、今のところは混沌としています。ゲノム関連を中心としたバイオマーカーによる個別化に進むか、それを凌駕する効果的な治療法が開発されるか、いずれにしても今後どのように最適化されてくるのか注視したいと思います。

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新薬GIP/GLP-1受容体ダブルアゴニストは糖尿病診療に新たなインパクトを与えるか?(解説:栗山哲氏)

本論文は何が新しいか? 本論文は、2型糖尿病治療薬として開発された新規薬剤GIP/GLP-1のダブルアゴニストtirzepatideを臨床評価したものである。 同剤は、グルコース依存性インスリン刺激性ポリペプチド(GIP)に類似した39個のアミノ酸残基に長鎖脂肪酸を結合させた週1回注射製剤である。本剤の特徴は、グルカゴン様ペプチド(GLP-1)とGIPの両受容体を刺激するダブルアゴニスト製剤として開発されたことである(GIP受容体の単独作動薬はない)。 GLP-1受容体作動薬のエビデンスは、多くの臨床研究でその有用性が肯定されている。すなわち、LEADER、SUSTAIN-6、REWINDなどでは心血管イベント(MACE)の改善効果が、さらにLEADER、SUSTAIN-6、AWARD-7などで2型糖尿病腎症の腎エンドポイントにも改善効果が報告されている。 本論文(SURPASS-1試験)は、tirzepatideのHbA1cや体重への効果をプラセボ群と比較した臨床研究である。その改善結果は、既存の糖尿病治療薬に比較しても驚くほど顕著であり、今後の糖尿病治療に一石を投じるものと考えられる。本論文の主たる結果 SURPASS-1試験においては、試験参加者の54%は未治療、糖尿病の平均罹病期間は4.7年、ベースラインの平均HbA1c 7.9%、平均体重85.9kg、BMI 31.9kg/m2であった。主要評価項目と重要な副次評価項目に、ベースラインから40週投与後のHbA1c低下および体重減少を指標とした。tirzepatideの最高用量群(15mg)において、プラセボに対してHbA1cは2.07%低下、体重は9.5kg(11.0%)減少した。この投与群の半数以上(51.7%)は、非糖尿病レベルであるHbA1c 5.7%未満に改善した。全体的な安全性は、既知のGLP-1受容体作動薬と同等で、消化器系の副作用が最も多い有害事象であった。 以上の結果から、tirzepatideが従来の糖尿病治療薬と比較しても顕著なHbA1cと体重の低下効果を有する可能性が示唆された。特徴は、本剤によるHbA1c低下や体重の減少は、従来の糖尿病治療薬に比べても著明な薬効であるも、しかるに胃腸障害の副作用が増加しないことであろう。また、重症低血糖がほとんどないことも特筆に値する。HbA1c 5.7%未満を達成でき、低血糖が少ない薬効を証明できた成績は、糖尿病内科医にとってもインパクトの高い論文と思われる。推定されるtirzepatideの作用機序 脂肪細胞にあるGIP受容体にGIPが結合すると脂肪蓄積に働くため、GIPは体重を増加させる作用がある。一方、視床下部にもGIP受容体があり、こちらにGIPが結合すると食事量を減らし体重減少効果が認められる。そのため、全体的には、GIP自体はそれほど体重を増やさないのではないかと考えられる。一方、GLP-1受容体刺激とGIP受容体刺激が相加されると、なぜGLP-1受容体作動効果が相乗的に高まるか、という疑問に関しては不明であり、今後の研究課題と思う。本論文の日本での意義付け 本研究を今後の糖尿病治療に外挿すると、BMIが30超の高度の肥満を伴う2型糖尿病患者が最も良い適応症になると思われる。今後、日本人にも多いと思われるBMI 25~27あたりでの層別解析が注目される。また、この効果が実際にMACE抑制に結び付くか否かはそれにも増してさらに興味深い。現在進行中のSURPASS-CVOT(NCT04255433)においては、デュラグルチドとの比較が計画され2024年末ごろには効果が確認される。 ただ、危惧される点もいくつかある。試験を完了できなかった対象患者が15%と多いこと、体重減少が大き過ぎること、などである。とくに、本邦のように高齢者2型糖尿病患者が多い条件下では、体重が下がり過ぎることがデメリットになる可能性がある。このことから、本邦での薬剤選択上は第1・第2選択薬のように早期ステージでの使用は少なかろうと思う。治療継続率が対照薬よりも良くなかったことからも、あくまでも現在のGLP-1受容体作動薬などの糖尿病注射剤と近似した位置付けになるのではないかと推察する。一方、インスリン/GLP-1受容体作動薬の配合剤がtirzepatideに置き換わっていく可能性もありえよう。本論文から何を学ぶ? 今後のインクレチン薬の展望は? GIP/GLP-1受容体ダブルアゴニストtirzepatideは優れた糖代謝改善作用を有することが示された。SURPASS-1に追従して、ほぼ同時にSURPASS-2の結果が報告され、ここではtirzepatide群をセマグルチド群と比較して検討し、SURPASS-1の結果と同様に前者で優れたHbA1c低下効果ならびに体重減少効果が確認されている(Frias JP, et al. N Engl J Med. 2021 Jun 25. [Epub ahead of print])。今後、SURPASS-3やSURPASS-5などで本剤の評価が次々と報告されていく予定があり、すべての試験で結果が一貫していると聞く。これらの集積は、現行の糖尿病ガイドラインを変える可能性もあろう。 また、インクレチン関連薬の配合剤の創薬の新たな話題として、GLP-1受容体作動薬にグルカゴンを付帯したデュアル製剤(cotadutide)が2型糖尿病腎症やNASHの治療薬として開発されている(Nahra R, et al. Diabetes Care. 2021 May 20. [Epub ahead of print])。グルカゴンは糖代謝の絶対悪ではなく、エネルギー産生作用を有しておりエネルギー消費を上げる方向に作用し、蠕動運動の低下や中枢神経を介して食欲を抑制する作用もあるようだ。これらの作用をGLP-1と組み合わせて効果を増強しようというのが、GLP-1/グルカゴン受容体作動薬である。実際に、GLP-1/グルカゴン受容体作動薬に関してグルコース吸収の遅延とインスリン感受性の改善がみられている。作用機序の面から、まだまだ検討の余地は残されるものの、興味深いダブル製薬の1つと思われる。

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肺静脈閉塞症/肺毛細血管腫症〔PVOD:pulmonary veno-occlusived isease/PCH:pulmonary capillary hemangiomatosis〕

1 疾患概要■ 定義肺静脈閉塞症/肺毛細血管腫症(pulmonary veno-occlusive disease:PVOD/pulmonary capillary hemangiomatosis:PCH)は、肺高血圧症(pulmonary hypertension:PH)を呈する極めてまれな疾患であり、臨床所見のみでは肺動脈性肺高血圧症(pulmonary arterial hypertension:PAH)との鑑別が困難とされている。しかし、病理組織学的には肺動脈に病変が生じるPAHと明らかに異なり、PVOD/PCHの主たる病変は肺静脈/毛細血管にある。2013年2月に開催された第5回世界肺高血圧症シンポジウム(フランス、ニース)では、PVOD/PCHは肺高血圧症分類I群の中の1つと位置付けられ、他のPAHとは明らかに病態が異なるI’群のサブクラスとして分類された。さらに2015年8月に発表されたESC/ERS(欧州心臓病/呼吸器学会)ガイドラインでは、その亜分類として1)特発性PVOD/PCH、2)遺伝性PVOD/PCH(EIF2AK4およびその他の遺伝子変異あり)、3)毒物/薬物/放射線惹起性PVOD/PCH、4-1)膠原病に伴うPVOD/PCH、4-2)HIV感染症に伴うPVOD/PCHが示された。2015年1月より厚生労働省の難病対策が改定され、指定難病として「PAH」「慢性血栓塞栓性肺高血圧症(CTEPH)」に加え、「PVOD/PCH」が追加された。また難病指定に伴い、2014年度難治性疾患政策研究事業「呼吸不全に関する調査研究班」によって、特発性または遺伝性のPVOD/PCHを対象に、難病申請に必要な具体的な臨床診断基準が立案された。これが2021年7月時点での公的な指定難病「PVOD/PCH」の概念である。2018年に開催された第6回世界肺高血圧症シンポジウム(フランス、ニース)でPH臨床分類は改訂され「PVOD/PCH」概念は軌道修正された。PVOD/PCHはPAHスペクトラムの中の1つの病態という位置付けに変わった。なお、本稿では異なる2つの概念を合わせて記述している。■ 疫学PVOD/PCHの疾患概念は、2013年から2018年世界肺高血圧症シンポジウムで変化を認めた。2021年7月の時点でわが国における正確な有病率は把握されていない。PVOD/PCHの位置付けをPAHスペクトラムの一部とすると疫学はまったく不明となる。PVOD病態は、さまざまな疾患に合併しており、特に強皮症を始めとする膠原病での合併が多いとされている。また、内科治療に不応性のPAH患者14例の病理組織学的検討で86%にPVODの所見が認められたとする報告もあり、IPAH、心不全、間質性肺疾患などに混在している可能性がある。■ 病因強皮症に合併したPVOD病変を合併した患者のsmall-andpost-capillary vesselでは細胞増殖に関与するPDGFR-βの発現亢進があり、肺静脈のリモデリング/狭窄に関与する可能性が示唆されているが指摘されている。また、EIF2AK4遺伝子変異の関与から、TGFβ1経路の抑制、mTOR経路との関連も指摘されている。造血幹細胞移植後のPVODでは、移植による内皮障害/凝固活性亢進が要因の1つとして挙げられている。しかし、どの説も全体像の説明には至っていない。■ 症状自覚症状はPAHスペクトラムの一部であるという観点からもPAHと同様である。労作時息切れが主な自覚症状である。PAHと比較して肺からの酸素の取り込みが制限されているため、より低酸素血症が強度であることもあり、診断時の労作時息切れの程度は強い可能性がある。■ 分類世界肺高血圧症シンポジウムは5年毎に開催される。2013年から2018年にかけてのPVOD/PCH概念の変遷はその分類(位置付け)の違いに反映されている(表1、2)。表1 第5回世界肺高血圧症シンポジウム2013におけるPH臨床分類の中でのPVOD/PCHの位置づけ(一部のみ抜粋)※PVOD/PCHは第1群の亜分類となっている第1群 肺動脈性肺高血圧症(PAH)1.1特発性肺動脈性肺高血圧症(idiopathic PAH:IPAH)1.2遺伝性肺動脈性肺高血圧症(heritable PAH:HPAH)1.2.1BMPR21.2.2ALK1、Endoglin、SMAD9、CAV1、KCNK3などBMPR2以外の変異第1'群 肺静脈閉塞症(PVOD)および/または肺毛細血管腫症(PCH) 1’.1特発性1’.2遺伝性1’.2.1EIF2AK4変異1’.2.2EIF2AK4以外の変異1’.3薬物・毒物誘発性1’.4各種疾患に伴うPVOD/PCH1’.4.1結合組織病1’.4.2HIV感染症表2 第6回世界肺高血圧症シンポジウム2018におけるPH臨床分類の中でのPVOD/PCHの位置づけ(一部のみ抜粋)※PVOD/PCHは第1群に含まれている1肺動脈性肺高血圧症(PAH)1.1特発性PAH1.2遺伝性PAH1.3薬物・毒物誘発性PAH1.4各種疾患に伴うPAH1.5カルシウム拮抗薬に長期間にわたり反応するPAH1.6静脈/毛細血管(PVOD/PCH)病変の明らかな特徴を示すPAH1.7新生児遷延性肺高血圧症■ 予後PVOD/PCHは病態が急速に進行する予後不良の疾患とされているが、診断が困難であることもあり、いまだその正確な予後を示す報告は少ない。PAHに有効な選択的肺血管拡張薬の効果は限定され、ほとんどの症例が診断から2年の経過で死亡するとされる。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)■ 診断1)病理診断所見PVOD末梢肺静脈(特に小葉間静脈)のびまん性かつ高度(静脈の30~90%)な閉塞所見ありPCH    肺胞壁の毛細管様微小血管の多層化および増生。さらにPVODに準じた末梢肺静脈病変を認める場合もあり2)臨床診断基準【主要項目】(1)右心カテーテル所見が肺動脈性肺高血圧症(PAH)の診断基準を満たす(a)肺動脈圧の上昇(安静時肺動脈平均圧で25mmHg以上、肺血管抵抗で3Wood Unit、240dyne・sec・cm-5以上のすべてを満たす)(b)肺動脈楔入圧(左心房圧)は正常(15mmHg以下)(2)PVOD/PCHを疑わせる胸部高解像度CT(HRCT)所見(小葉間隔壁の肥厚、粒状影、索状影、スリガラス様影(ground glass opacity)、縦隔リンパ節腫大)があり、かつ間質性肺疾患など慢性肺疾患や膠原病疾患を除外できる(3)選択的肺血管拡張薬(ERA、PDE5 inhibitor、静注用PGI2)による肺うっ血/肺水腫の誘発【副次的項目】(1)安静時の動脈血酸素分圧の低下(70Torr以下)(2)肺機能検査:肺拡散能の著明な低下(%DLco4 今後の展望疾患概念の変遷はあったが、PVOD/PCH病態を有するPAH患者さんの診断・治療に難渋することは変わっていない。前毛細血管でなく、毛細血管・肺静脈病変がより強い症例では肺血管拡張療法の有用性が低下して、肺血管拡張療法に伴う有害事象が増えると想定される。今後、病因解明、新規治療法の探求を継続する必要がある。図 PAH spectrumの中のPVOD/PCH画像を拡大する5 主たる診療科循環器内科、呼吸器内科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報難病情報センター 肺静脈閉塞症/肺毛細血管腫症(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)「肺静脈閉塞症/肺毛細血管腫症診療ガイドライン」(Minds認証)日本肺高血圧・肺循環学会ホームページMindsガイドラインライブラリ(医療従事者向けのまとまった情報)難治性呼吸器疾患・肺高血圧症に関する調査研究班ホームページ(医療従事者向けのまとまった情報)公開履歴初回2021年7月20日

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在宅吸入可能な肺非結核性抗酸菌症治療薬「アリケイス吸入液590mg」【下平博士のDIノート】第78回

在宅吸入可能な肺非結核性抗酸菌症治療薬「アリケイス吸入液590mg」今回は、「アミカシン硫酸塩(商品名:アリケイス吸入液590mg、製造販売元:インスメッド合同会社)」を紹介します。本剤は、内服薬による多剤併用療法の抗菌効果が不十分な肺非結核性抗酸菌(NTM)症に上乗せすることができるアミノグリコシド系抗菌吸入薬です。<効能・効果>本剤は、アミカシンに感性のマイコバクテリウム・アビウムコンプレックス(MAC)による肺NTM症の適応で、2021年3月23日に承認されました。なお、本剤の適用は、肺MAC症に対する多剤併用療法による前治療において効果不十分な患者に限定されています。<用法・用量>通常、成人にはアミカシンとして590mg(力価)を1日1回、専用ネブライザ(ラミラネブライザシステム)を用いて吸入投与します。なお、使用に当たっては、ガイドラインなどを参照し、多剤併用療法と併用します。喀痰培養陰性化が認められた以降も、一定期間は本剤の投与を継続します。臨床試験においては、喀痰培養陰性化が認められた以降に最大12ヵ月間、本剤の投与を継続しました。投与開始後12ヵ月以内に喀痰培養陰性化が得られない場合は、本剤の継続投与の必要性を再考する必要があります。<安全性>肺NTM症患者を対象とした第II、第III相試験の併合結果404例中330例(81.7%)で副作用が確認されました。主な副作用として、発声障害172例(42.6%)、咳嗽125例(30.9%)、呼吸困難57例(14.1%)、喀血42例(10.4%)、口腔咽頭痛37例(9.2%)、疲労29例(7.2%)、耳鳴り21例(5.2%)などが報告されています。重大な副作用として、過敏性肺臓炎(2.7%)、気管支痙攣(21.5%)、第8脳神経障害(15.1%)、急性腎障害(3.2%)、ショックおよびアナフィラキシー(頻度不明)が現れる可能性があります。<患者さんへの指導例>1.この薬は、在宅で吸入する抗菌薬です。肺の奥まで浸透することで感染細胞に取り込まれ、抗菌作用を発揮します。2.冷蔵庫(2~8℃)で保管し、凍らせないでください。25℃の室温で最大4週間保管が可能ですが、一旦室温に戻した場合は、未使用であっても4週間で廃棄してください。3.使用するときは、冷蔵庫から取り出して室温(20~25℃)に戻し、内容物が均一になるように10~15秒間激しく振り混ぜます。電池を入れるかACアダプターを接続した専用の吸入器を用いて、1日1回、約14~20分間吸入します。4.吸入後は、毎回洗浄・消毒をして、乾燥させてください。エアロゾルヘッドは週1回の超音波洗浄を行い、ハンドセット(吸入部)は1ヵ月ごとに新しいものに取り替えます。5.本剤を使用中に、咳、息切れ、発熱、呼吸困難、疲労感、発疹、めまい、耳鳴り、難聴、むくみ、尿量減少、食欲不振、悪心・嘔吐などの症状が現れたら、ただちに医師に連絡してください。<Shimo's eyes>近年、わが国の肺NTM症の罹患率および死亡率が増加しており、MACが原因菌種の80~90%超を占めています。治療は通常、リファンピシン、エタンブトール、クラリスロマイシンの3種類による多剤併用療法が選択され、必要に応じてストレプトマイシンまたはカナマイシンの併用を行います。しかし、選択肢が限られ、副作用や耐性化により治療が難しくなっているという課題があります。なお、本剤と同成分であるアミカシンの注射製剤もありますが、肺への浸透性が低く、重大な全身的副作用のリスクもあることから在宅での投与は困難です。本剤は、専用ネブライザを用いることで、吸入により、全身曝露を抑えて副作用を軽減しつつ、肺末梢の肺胞まで薬剤が効率的に分布して、感染細胞であるマクロファージへの取り込みを促進します。単剤では用いずに、上記の多剤併用内服療法に加えて使用します。国際共同第III相試験(CONVERT試験)では、投与6ヵ月目までの培養陰性化率は、GBT(ガイドラインに基づく多剤併用療法)単独群よりも本剤+GBT群のほうが高いことが認められました。海外のATS/ERS/ESCMID/IDSAガイドライン2020では、すでに難治性肺MAC症の推奨治療に組み込まれています。副作用としては、気管支痙攣のほか、第8脳神経障害が現れることがあるので、血中濃度が高くなりやすい腎機能障害がある患者、高齢者ではとくに注意が必要です。また、急性腎障害の報告もあります。治療早期には症状が見られないこともあるので、定期的なフォローを欠かさないようにしましょう。本剤による治療は、MAC菌が検出されなくなった最初の月から、12ヵ月後まで治療を継続することが推奨されています。長期間・連日の吸入となりますので、アドヒアランスや器具の取り扱い、副作用の確認のほか、治療モチベーションの維持についてもサポートしましょう。参考1)PMDA 添付文書 アリケイス吸入液590mg

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ペミガチニブ、FGFR2変異胆道がんに期待/インサイト

 インサイト・バイオサイエンンシズ・ジャパンは2021年7月15日、「胆道がんにおけるがんゲノム診断に基づく分子標的治療薬がもたらす新しい未来」と題したWebメディアセミナーを開催。日本胆道学会理事長の東北大学大学院 消化器外科学分野教授 海野倫明氏らが、胆道がん治療と本年発売されたFGFR2阻害薬ペミガチニブ(製品名:ペマジール)について紹介した。予後不良な胆道がん。なかでも深刻な肝内胆管がん 胆道がんには3つの病型があるが、いずれも予後不良である。なかでも肝内胆管がんは、黄疸などの症状が現れにくく、初回診断時すでに進行した病期であることが多い。そのため、生存期間中央値13.5ヵ月と3病態のなかで、もっとも予後不良である。肝内胆管がんの罹患数は(肝臓がんの一部として集計される)、肝臓がんの6%とされる。推奨薬剤がない切除不能例の2次治療 切除不能胆道がんの薬物治療、1次治療の推奨はゲムシタビンとシスプラチンの併用またはS-1とシスプラチンの併用である。しかし、2次治療のガイドライン推奨薬剤はなく、新たな治療選択肢が望まれていた。FGFR2遺伝子変異と肝内胆管がん標的治療 そのような中、遺伝子解析により、FGFR2遺伝子融合/再構成が肝内胆管がんにもっとも多い遺伝子変異であることが明らかになり、また、FGFR2をターゲットした分子標的薬ペミガチニブが胆道がんを適応として承認された。 ペミガチニブの有効性は、既治療のFGFR2変異陽性胆道がんの第II相試験FIGHT-202で検討されている。試験の結果、FGFR2遺伝子融合/再構成患者(コホートA)に対する全奏効率35.5%と主要評価項目を達成し、病勢制御率も82%と良好な成績を示した。初期標準治療の終了後には、がん遺伝子パネル検査でFGFR2変異を確認し、ペミガチニブが選択可能か検討して欲しいと海野氏は述べる。 なお、ペミガチニブのコンパニオン診断薬としてはFoundation One CDxが、本年(2021年)2月に承認されている。

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精神疾患治療薬と自動車運転能力~システマティックレビュー

 モビリティは、日常生活において重要な機能であるが、薬理学的な治療を行っている精神疾患患者では、交通安全に関する特定の課題を抱えている。ドイツ・kbo-Inn-Salzach-KlinikumのAlexander Brunnauer氏らは、精神疾患治療薬と自動車運転能力との関連を調査した。The International Journal of Neuropsychopharmacology誌オンライン版2021年5月26日号の報告。 PRISMAガイドラインに従って、PubMedより1970~2020年に公表された文献をシステマティックに検索した。主要評価項目として、交通法規に従って運転するための対象患者の適合性を推定するため、路上教習でのパフォーマンス、ドライビングシミュレータでのパフォーマンス、精神運動、視覚機能を評価した。 主な結果は以下のとおり。・特定された40件の研究(精神疾患患者数:1,533例、女性の割合:38%、年齢中央値:45歳)のうち、60%以上は横断的および非盲検試験であった。・安定期の治療薬投与下において、運転関連スキルに重度の問題が認められた患者の割合は、以下のとおりであった。 ●抗精神病薬投与中の統合失調症または統合失調感情障害患者:31%(範囲:27~42.5%) ●抗うつ薬投与中の単極性または双極性障害患者:18%(範囲:16~20%)・運転能力に対し、第1世代抗精神病薬より第2世代抗精神病薬、三環系抗うつ薬より新規抗うつ薬のほうが優れることが示唆された。・多くの患者において、非鎮静または鎮静系抗うつ薬治療開始から2~4週以内に、運転スキルの有意な改善または安定が認められた。・ジアゼパムでは、治療開始後最初の3週間に運転能力の有意な悪化が確認されたが、メダゼパム(低用量)、temazepam、ゾルピデムでは、影響が認められなかった。・鎮静系抗うつ薬またはベンゾジアゼピンの長期使用患者では、明らかな路上教習での問題は認められなかった。 著者らは「臨床的に配慮した精神疾患治療薬の長期使用は、運転能力を改善または安定させることが示唆された。治療コンプライアンスを強化するため、運転能力に影響を及ぼす医薬品に関する既存の分類システムに、長期使用の影響に関する情報も盛り込む必要がある」としている。

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HER2低発現乳がんの臨床的特徴/Lancet Oncol

 抗HER2抗体薬物複合体の開発により、HER2低発現の患者を含む乳がん患者に新たな治療オプションがもたらされている。この新たなサブタイプの臨床的・分子生物学的特徴は、HER2陰性乳がん患者とどのように異なるのか。ドイツ・University Hospital of Giessen and MarburgのCarsten Denkert氏らが、術前化学療法への反応や予後を含む、HER2低発現症例の特徴をHER2陰性乳がん症例と比較し、Lancet Oncology誌オンライン版2021年7月9日号に報告した。HER2低発現乳がんはHER2陰性乳がんより生存期間が長い 研究者らは、2012年7月30日~2019年3月20日に実施された4つの前向き試験(GeparSepto、GeparOcto、GeparX、Gain-2 neoadjuvant)において、併用術前補助化学療法で治療されたHER2非増幅型の原発性乳がん患者2,310例のコホートを対象に、プール解析を実施。HER2検査は、すべての試験で参加者の無作為割り付け前に前向きに行われた。HER2低発現の状態の評価は米国臨床腫瘍学会/米国病理学会のガイドラインに基づき、IHC1+またはIHC2+/ in-situ陰性と定義され、HER2陰性はIHC0と定義された。 無病生存率および全生存率のデータは、1,694例(GeparXを除く3試験から)で利用可能であり、追跡期間中央値は46.6ヵ月であった(IQR:35、0~52、3)。2変量および多変量ロジスティック回帰モデルとコックス比例ハザードモデルは、エンドポイントの病理学的完全奏効(pCR)、無病生存率、および全生存率の分析のために事前定義された統計分析計画に基づいて実行された。 HER2低発現乳がん患者の状態を評価した主な結果は以下のとおり。・2,310の腫瘍のうち計1,098(47.5%)がHER2低発現であり、1,212(52.5%)がHER2陰性であった。・HER2低発現腫瘍を有する患者1,098例中703例(64.0%)がホルモン受容体陽性であったのに対し、HER2陰性腫瘍を有する患者では1,212例中445例(36.7%)であった(p<0.0001)。・HER2低発現腫瘍のpCR率は、HER2陰性腫瘍よりも有意に低かった(1,098例中321例[29.2%] vs.1,212例中473例[39.0%]、p=0.0002)。・また、ホルモン受容体陽性サブグループのpCR率は、HER2低発現腫瘍ではHER2陰性腫瘍と比較して有意に低かった(703例中123例 [17.5%] vs.445例中1053例 [23.6%]、p = 0.024)、しかしホルモン受容体陰性サブグループではこの差はみられなかった(395例中198例 [50.1%] vs.767例中368例 [48.0%]、p=0.21)。・HER2低発現腫瘍を有する患者は、HER2陰性腫瘍を有する患者よりも有意に長い生存期間を示した(3年無病生存率:83.4%[95%CI:80.5~85.9] vs.76.1% [72.9~79.0]、層別ログランク検定p=0.0084/3年全生存率:91.6%[84.9~93.4] vs.85.8%[83.0~88.1]、層別ログランク検定p=0.0016)。・ホルモン受容体陰性腫瘍の患者でも生存率に差がみられた(3年無病生存率:84.5%[79.5~88.3] vs.74.4%[70.2~78.0]、層別ログランク検定p=0.0076/3年全生存率:90.2%[86.0~93.2] vs.84.3%[80.7~87.3]、層別ログランク検定p=0.016)、ただしホルモン受容体陽性腫瘍の患者ではみられなかった(3年無病生存率:82.8%[79.1~85.9] vs.79.3%[73.9~83.7]、層別ログランク検定p=0.39/3年全生存率:92.3%[89.6~94.4] vs.88.4%[83.8~91.8]、層別ログランク検定p=0.13)。 研究者らは、これらの結果はHER2低発現腫瘍がHER2陰性腫瘍とは異なり、標準化されたIHC評価によって乳がんの新しいサブグループとして識別できることを示すとまとめている。また、HER2低発現腫瘍には特定の生物学的特徴があり、治療と予後への反応に違いがみられ、治療抵抗性のホルモン受容体陰性腫瘍でとくにその傾向がみられるとしている。

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緩和ケアを体系的に学ぶなら、まずはここから!【非専門医のための緩和ケアTips】第7回

第7回 緩和ケアを体系的に学ぶなら、まずはここから!だんだん暑くなってきましたね。外来に通院している患者さんに「熱中症に気を付けて」とアドバイスするのもこんな時期です。今日の質問緩和ケアを学んでみたいのですが、何から始めればいいのでしょうか? 関連する学会は入ったほうがいいですか?今回は、緩和ケアを学びはじめた若手の先生からよく聞かれる質問です。実は5、6月にかけ、緩和ケア業界は忙しくなります。それは、毎年6月に最も会員数が多い関連学会である、日本緩和医療学会の学術大会が開催されるからです。コロナの影響による学会オンライン化の流れもあり、演題の打ち合わせだけでなく発表の事前収録なども含め、タスクが多くなる時期です。私も所属するこの日本緩和医療学会について、少し紹介させてください。会員数は1万2,012名(2021年7月1日時点)、医師は約半数で、残りは看護師が最多、次いで薬剤師、リハビリテーション専門職など多職種で構成されています。緩和ケアを実践するうえでチーム医療は非常に大切であり、いろいろな職種が参加する学会である点が特徴です。日本緩和医療学会が取り組んでいる事業をいくつか紹介します。緩和ケアに関連したガイドラインの作成エビデンスの集積が難しい分野ではありますが、その中でもわかっていることを理解し、根拠をもって診療することは大切です。学会では「がん疼痛」「がん患者の呼吸器症状の緩和」「がん患者の消化器症状の緩和」「苦痛緩和のための鎮静」といった、緩和ケアで重要な分野についてのガイドラインを作成しています。これらのガイドラインは学会サイトより無料でダウンロード可能となっており、困ったとき、迷ったときに調べてみるのに便利です。緩和ケアセミナー学会では、緩和ケアを学びたい医療者を対象としたセミナーを数多く開催しています。たとえば、年2回開催される「教育セミナー」では、1日かけてさまざまなトピックの講演が行われます。最近はオンライン形式で参加が容易になり、1,000人近い参加者が一緒に学ぶ場となっています。医師だけでなく看護師など緩和ケアに関わる多職種が参加し、テーマも他学会ではなかなか聞くことのできないものがめじろ押し。最近でも、臨床宗教師の方のお話や、意思決定を支援するうえで知っておきたい法律と倫理のセッションなどユニークな講演が行われています。学会に入会すればストリーミング配信も視聴できるので、自己学習教材にもなります。こうした、ほかにないコンテンツを利用できるだけでも学会入会のメリットがあると感じます。また、緩和医療認定医や専門医を目指す先生にとっては資格取得要件ともなっているので、計画的に受講いただければと思います。2021年6月18日~19日に第26回日本緩和医療学会学術大会がオンラインと現地開催のハイブリッド形式で開催されました。どこの分野も同様でしょうが、学術大会はパンデミック下における学術活動を基盤とした、貴重な学びとネットワーキングの機会を創出しています。次回は、開催直後の今年の学術大会の内容を報告します。日本緩和医療学会今回のTips今回のTips緩和ケアを学ぶならぜひ日本緩和医療学会へ。ガイドラインやセミナーを通じて、緩和ケアの学習機会を提供しています。近年はオンラインで参加しやすくなっています!

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10種の待機的整形外科手術、臨床的効果は?/BMJ

 多くの一般的な待機的整形外科手術は保存治療と比較して、全体/サブグループにおいて有効と思われるが、より効果的であることを示す強力で質の高いエビデンスはないという。英国・National Institute for Health Research Bristol Biomedical Research CentreのAshley W. Blom氏らが、レベル1のエビデンスのアンブレラレビューの結果を報告した。著者は、「強力なエビデンスが不足しているにもかかわらず、これらの手技のいくつかは、特定の状況下において国のガイドラインで推奨されている」として、「一般的な待機的整形外科手術と無治療、プラセボ、非手術的治療と比較する研究を優先することが急務である」とまとめている。BMJ誌2021年7月7日号掲載の報告。10種の手術について、無作為化比較試験のメタ解析のアンブレラレビューを実施 研究グループは、Medline、Embase、Cochrane Libraryおよび参考文献を、2020年9月まで検索し、最も一般的な10種類の待機的整形外科手術のいずれかの臨床効果を無治療、プラセボまたは非手術的治療と比較した無作為化試験のメタ解析(メタ解析がない場合は他の研究デザイン)を特定し、アンブレラレビューを行った。 10種類の整形外科手術とは、関節鏡視下前十字靭帯再建術、関節鏡視下膝半月板修復術、関節鏡視下膝半月板部分切除術、関節鏡視下腱板修復術、関節鏡視下肩峰下除圧術、手根管減圧術、腰椎除圧術、腰椎固定術、人工股関節全置換術、人工膝関節全置換術である。 2人の研究者が独立して要約データを抽出し、3人目の研究者が加わりコンセンサスを得た。各メタ解析の方法論的な質はAssessment of Multiple Systematic Reviews instrumentを用いて評価し、Jadad decision algorithmを用いてどのエビデンスが最も優れているかを確認した。また、英国国立医療技術評価機構のエビデンス検索を用いて、各手技の推奨がエビデンスを反映しているかについて確認した。 主要評価項目は、一般的な待機的整形外科手術のエビデンスの質と量、および関連する国の臨床ガイドラインにおける推奨度との比較であった。手根管減圧術および人工膝関節全置換術のみ、非手術的治療より優れる 無作為化比較試験では、手根管減圧術および人工膝関節全置換術については、非手術的治療に対する優越性が支持された。人工股関節全置換術または半月板修復術については、非手術的治療と比較した無作為化比較試験はなかった。他の6つの手技に関する臨床試験のエビデンスは、非手術的治療と比較して有益性はないことを示した。 ほとんどの一般的な待機的整形外科手術は、決定的な無作為化比較試験が行われていないため、質の高いエビデンスに裏付けられていないことが明らかとなった。

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英国のうつ病診療で使用されている治療法

 うつ病は、経口抗うつ薬で治療可能な慢性的または一時的な精神疾患である。しかし、現在利用可能な治療では、3人に1人は十分な治療反応が得られない。FDAやEMAでは、1度のうつ病エピソードに対し、連続で2つ以上の抗うつ薬治療に反応が得られない場合、治療抵抗性うつ病であるとしている。英国・ヤンセンのTom Denee氏らは、英国のうつ病および治療抵抗性うつ病に対する現在の臨床的マネジメント、治療戦略、メンタルヘルスの2次医療機関への紹介について調査を行った。Journal of Psychiatric Research誌2021年7月号の報告。 プライマリケアにおいて、うつ病と診断された成人(治療抵抗性うつ病を含む)を対象としたレトロスペクティブコホート研究を実施した。Hospital Episode Statistics and Mental Health Services Data Set dataにリンクした英国の大規模データベース(Clinical Practice Research Datalink GOLD primary care database)を用いて実施した。 主な結果は以下のとおり。・うつ病患者4万1,375例(平均年齢:44歳、女性の割合:62%、フォローアップ期間中央値:29ヵ月)、治療抵抗性うつ病患者1,051例(3%)が特定された。・治療抵抗性うつ病の診断までの平均期間は、18ヵ月であった。・99%超の患者は、第1選択抗うつ薬の単剤療法を受けていた。・治療抵抗性うつ病の診断後、単剤療法は、第1選択治療時の70%から第5選択治療時の48%まで比較的維持されていた。・2剤または3剤の抗うつ薬併用は、一定程度認められた(範囲:24~26%)。・抗うつ薬の使用量は、治療抵抗性うつ病の第1選択治療時の7%から第3選択治療時の17%へ増加が認められた。・最低限の非薬理学的介入が行われていた。 著者らは「現在の臨床ガイドラインでは、段階的アプローチが推奨されるにもかかわらず、同様の作用機序と有効性を有する多くの抗うつ薬が、繰り返し使用されていた。このような患者に対し、治療アウトカムを改善する新たな治療法へのアンメットニーズの高さが示唆される」としている。

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総合内科専門医試験オールスターレクチャー 感染症

第1回 コロナウイルス第2回 新型コロナワクチン第3回 マダニ媒介感染症第4回 血液培養第5回 発熱と発疹を伴う感染症第6回 性感染症 総合内科専門医試験対策レクチャーの決定版登場!総合内科専門医試験の受験者が一番苦労するのは、自分の専門外の最新トピックス。そこでこのシリーズでは、CareNeTV等で評価の高い内科各領域のトップクラスの専門医11名を招聘。各科専門医の視点で“出そうなトピック”を抽出し、1講義約20分で丁寧に解説します。キャッチアップが大変な近年のガイドラインの改訂や新規薬剤をしっかりカバー。Up to date問題対策も万全です。感染症については、国立国際医療研究センター国際感染症センター(※収録当時)の忽那賢志先生がレクチャー。猛威を振るう新型コロナウイルスの最新情報から、試験で問われやすいマイナーな感染症まで、狙いを定めて解説します。※「アップデート2022追加収録」はCareNeTVにてご視聴ください。第1回 コロナウイルス猛威を振るう新型コロナウイルスについて、最新の知見をまとめます。新型コロナと、SARSコロナウイルスやMARSコロナウイルスとの特徴を比較。新型コロナの発生起源、動物を介した感染経路など、これまでに判明している事実を整理し、コロナウイルスについての理解を深めます。世界各地で拡大し国内でも増加傾向にある変異株まで、気になる最近の動向も解説。※このレクチャーは、2021年3月21日時点の情報に基づいています。第2回 新型コロナワクチン国内で2021年2月下旬より医療者への先行接種が開始されたワクチン。新型コロナワクチンに採用された新しいプラットフォームであるmRNA2ワクチンについて、その原理を解説。非常に高い確率の発症予防効果ならびに重症化予防効果が証明されています。報告されている副反応や、アレルギーのある人に接種した場合のアナフィラキシーの頻度について、データを確認します。※このレクチャーは、2021年3月21日時点の情報に基づいています。第3回 マダニ媒介感染症マダニ媒介感染症は、まず媒介者となるダニの生息分布域を確認。ライム病、ツツガムシ病、日本紅斑熱、SFTSなどの各種マダニ媒介感染症は、国内の流行地域が異なり、同じ県内でも微妙な地域差があります。輸入感染症の側面もあり、海外渡航歴も診断の手がかりに。症状には共通する特徴が多く見られますが、流行時期、潜伏期や刺し口の違いなどに注目して鑑別します。マニアックな感染症は、知っていると試験で差がつくポイントです。第4回 血液培養菌血症を疑ったときに行う血液培養。ガタガタと震える悪寒戦慄があると菌血症を疑うポイント。細菌性髄膜炎、腎盂腎炎、感染性心内膜炎といった、菌血症の頻度が高い感染症を知っておきましょう。血培は基本的に2セット採取します。コンタミネーションしやすい菌なのか、しにくい菌なのか、検出された菌の種類も判断の指標となります。血培で検出された真の起炎菌に対して、投与する抗菌薬の種類も忘れずに。第5回 発熱と発疹を伴う感染症麻疹と風疹はどう鑑別するのか、症例から診断のポイントを解説。発疹の性状だけで鑑別するのは非常に難しく、ワクチン接種歴、罹患歴が極めて重要。髄膜炎菌感染症、リケッチア症、毒素性ショック症候群、アナフィラキシー、感染性心内膜炎といったショックを伴う皮疹では、診断の決め手となるキーワードを確認します。発熱・皮疹は輸入感染症の可能性もあります。輸入感染症診療の3つのポイントは、渡航地、潜伏期、曝露歴。第6回 性感染症性感染症を疑った場合、性交渉歴を聞く上で大事な“5P”を確認。感染リスクの高い行為を聞き逃さないようにします。近年増加傾向にある梅毒は、発疹の性状がさまざまで、神経梅毒による認知症など多彩な症状が特徴。病期によって治療内容が異なります。性感染症を診断した場合、他の性感染症の合併リスクも高く、スクリーニング検査やパートナーの診断治療も必要です。無症状が多いHIV、梅毒、淋菌感染症、クラミジアなどに要注意。

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総合内科専門医試験オールスターレクチャー 消化器(肝胆膵)

第1回 ウイルス性肝炎第2回 アルコール性肝疾患とNAFLD第3回 自己免疫性肝炎の原発性胆汁性胆管炎第4回 肝硬変第5回 急性胆嚢炎・胆管炎第6回 急性膵炎第7回 慢性膵炎 IPMN 総合内科専門医試験対策レクチャーの決定版登場!総合内科専門医試験の受験者が一番苦労するのは、自分の専門外の最新トピックス。そこでこのシリーズでは、CareNeTV等で評価の高い内科各領域のトップクラスの専門医11名を招聘。各科専門医の視点で“出そうなトピック”を抽出し、1講義約20分で丁寧に解説します。キャッチアップが大変な近年のガイドラインの改訂や新規薬剤をしっかりカバー。Up to date問題対策も万全です。消化器の肝胆膵については、東京医科歯科大学の山田徹先生がレクチャー。最新のガイドラインに合わせて、変更された標準治療など要点を押さえます。肝胆膵のいずれ疾患も、アルコール性か否かによって異なる治療法を整理します。※「アップデート2022追加収録」はCareNeTVにてご視聴ください。第1回 ウイルス性肝炎ウイルス性肝炎では、まず最も多いB型とC型を解説。B型肝炎は各種抗原抗体と一般的な感染パターンを相関図で整理。C型肝炎は、新しい直接型抗ウイルス薬(DAA)の開発が進み、慢性肝炎・代償期肝硬変だけでなく、非代償期肝硬変を含むすべてが治療対象となっています。最新のガイドラインに記載されている重症度別の第1選択薬を押さえます。日常臨床ではあまり見られない、A型・D型・E型肝炎についてもポイントを確認。第2回 アルコール性肝疾患とNAFLDウイルス性や自己免疫性が除外された肝疾患は、アルコール性と非アルコール性に分けられます。非アルコール性脂肪性肝疾患NAFLDの日本での有病率はおよそ30%で、現在増加傾向。肥満でない人にも多いのがポイント。NAFLD のうち、NASHは肝硬変への進展や肝がんの発生母地になるため、臨床的に重要な疾患概念です。バイオマーカーは未確定で、鑑別には原則肝生検が必要です。肝生検を行う目安を確認します。第3回 自己免疫性肝炎の原発性胆汁性胆管炎自己免疫性肝炎AIHは中年以降の女性に好発する肝疾患で、約30%に慢性甲状腺炎やシェーグレン症候群といった他の自己免疫性疾患を合併。AIHの10~20%に原発性胆汁性胆管炎PBCを合併したオーバーラップ症候群がみられます。PBCも中年以降の女性に好発し、他の自己免疫性疾患と合併する場合があります。ともに無症状から非特異的な症状が多く、診断のポイントとなる血液検査と病理検査が問題を解くカギです。第4回 肝硬変肝硬変の主な原因は、これまではC型肝炎でしたが、直接型抗ウイルス薬(DAA)の進歩により減少が予想されており、対してNASHの割合が増加傾向です。特徴的な身体所見を確認します。診断と予後予測には肝線維化を評価。肝硬変は低栄養や低血糖に陥りやすく、死亡率増加や各種合併症につながります。合併症となる食道静脈瘤、肝性脳症、腹水、特発性細菌性腹膜炎、肝腎症候群、肝細胞がんの各治療法も試験で問われるポイント。第5回 急性胆嚢炎・胆管炎急性胆嚢炎と急性胆管炎を比較しながら解説します。まず原因に胆石性の有無を確認することが重要。無石胆嚢炎は、症状は胆石性胆嚢炎と同じですが、外傷、心臓手術後、敗血症など高ストレス下で発症し、重症化しやすく死亡率が高いため、早期発見・早期治療が必須。急性胆嚢炎の画像診断は、腹部エコーが第1選択。診断基準となる数値を押さえます。急性胆嚢炎・胆管炎の治療は、抗菌薬・ドレナージ・手術の使い分けがポイント。第6回 急性膵炎急性膵炎の2大原因はアルコールと胆石。強い腹痛を伴う疾患で、約7割が心窩部痛です。重症度診断のスコアとともに、重症垂炎を除外するためのHAPSというスコアも有用です。発症早期の多量輸液が死亡率を下げるため重要。治療については、抗菌薬や蛋白分解酵素阻害薬の有効性について、最新の見解を整理します。膵周囲の液体貯留の定義である「改訂Atlanta分類」を踏まえて、感染性膵壊死の治療法を押さえます。第7回 慢性膵炎 IPMN慢性膵炎の原因はアルコールが68%を占めています。飲酒と喫煙がリスク因子で、原因が不明瞭な場合は遺伝子検査の対象になります。試験で出題されやすい画像診断では、膵石・石灰化、主膵管不整拡張といった所見が重要。無症状で偶発的に見つかることが多い膵管内乳頭粘液性腫瘍IPMN。画像診断はMRCPが第1選択。浸潤がんや悪性所見を見落とさないように、MCNやSCNとの鑑別ポイントを確認します。

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総合内科専門医試験オールスターレクチャー 消化器(消化管)

第1回 ピロリ菌感染症関連第2回 消化管悪性腫瘍第3回 消化管出血 腹部緊急疾患第4回 消化管機能性疾患第5回 感染症 炎症性腸疾患第6回 遺伝性疾患 好酸球性胃腸症 内分泌 総合内科専門医試験対策レクチャーの決定版登場!総合内科専門医試験の受験者が一番苦労するのは、自分の専門外の最新トピックス。そこでこのシリーズでは、CareNeTV等で評価の高い内科各領域のトップクラスの専門医11名を招聘。各科専門医の視点で“出そうなトピック”を抽出し、1講義約20分で丁寧に解説します。キャッチアップが大変な近年のガイドラインの改訂や新規薬剤をしっかりカバー。Up to date問題対策も万全です。消化器の消化管については、公立豊岡病院の宮垣亜紀先生がレクチャー。消化管は内視鏡画像の診断がポイント。豊富な症例画像を使って、頻出の内視鏡検査問題を徹底的にトレーニングします。※「アップデート2022追加収録」はCareNeTVにてご視聴ください。第1回 ピロリ菌感染症関連消化管は、内視鏡画像診断がポイント。非専門医にとっては普段見慣れない内視鏡画像ですが、試験に出題される疾患はある程度絞られているので、それを押さえれば攻略できます。第1回は、胃十二指腸潰瘍や胃がんのリスクとなるヘリコバクター・ピロリ菌。ピロリ菌に起因する疾患は、胃がんや潰瘍だけではありません。ピロリ菌感染関連疾患は、内視鏡で胃炎を証明し、ピロリ菌を証明するための各種検査も覚えておくことが重要です。第2回 消化管悪性腫瘍消化管悪性腫瘍には、胃がん、大腸がん、食道がん、消化管間質腫瘍GISTがありますが、共通して問われやすいのは、リスクファクター、内視鏡所見の診断、疾患に関する知識です。胃がんは内視鏡所見から深達度と組織型を診断し、内視鏡的粘膜下層剥離術の適応を判断。近年のトピックスとして、バレット食道がんの報告が増えています。粘膜下腫瘍の形態をとるGISTは、どの消化管でも起こりえます。超音波内視鏡やCTで診断します。第3回 消化管出血 腹部緊急疾患消化管出血と、試験に出題されやすい腹部緊急疾患について、身体所見、検査、治療を整理します。上部消化管出血の中でも緊急性が高いのは静脈瘤出血。静脈瘤結紮術で治療します。下部消化管出血で最もコモンな疾患は虚血性腸炎と大腸憩室出血。X線・CTで特徴的な画像所見を示すS状結腸軸捻転。腸閉塞とイレウスは概念を混同しないように注意。生の海産物を摂取した後の激烈な腹痛はアニサキス症を疑います。第4回 消化管機能性疾患機能性疾患の中でもよく出題される食道アカラシア。見た目ではっきりわかる腫瘍があるわけではないので、内視鏡検査では見つかりにくく、食道造影やマノメトリーという検査が有用です。新たな治療法として、経口内視鏡的括約筋切開術POEMが注目されています。機能性ディスペプシアと過敏性腸症候群は器質的疾患の除外が重要。胃食道逆流症にはびらん性と非びらん性があり、同じ薬剤でも効果に差があります。第5回 感染症 炎症性腸疾患多岐にわたる腸管感染症から、感染性腸炎、アメーバ性大腸炎、抗菌薬起因性腸炎について解説します。感染性腸炎は、抗菌薬が必要な状況の見極めがポイント。内視鏡的所見が特徴的なアメーバ性大腸炎。潰瘍の周囲にタコいぼ様びらんが見られます。日常臨床でもよくある潰瘍性大腸炎は、重症度に応じて薬剤か手術を選択。非連続性の全層性の肉芽腫性炎症が起きるクローン病は、狭窄を考慮しながら適した画像検査を選択します。第6回 遺伝性疾患 好酸球性胃腸症 内分泌好酸球性消化管疾患は、原因がまだ明らかになっていないアレルギー疾患です。遺伝性疾患では、大腸にポリープが多発する家族性腺腫性ポリポーシスは、放置するとがん化するため、大腸全摘が必要です。Peutz-Jeghers症候群は過誤腫性ポリープで、こちらはほとんどがん化しません。毛細血管拡張の画像所見が特徴的なオスラー病も覚えておきましょう。消化管内分泌のトピックスとして、神経内分泌腫瘍のガストリノーマについて確認します。

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総合内科専門医試験オールスターレクチャー 膠原病

第1回 関節リウマチ 乾癬性関節炎第2回 痛風 成人スチル病 ベーチェット病第3回 全身性エリテマトーデス シェーグレン症候群第4回 全身性強皮症 混合性結合組織疾患 皮膚筋炎・多発性筋炎第5回 大型血管炎第6回 ANCA関連血管炎 総合内科専門医試験対策レクチャーの決定版登場!総合内科専門医試験の受験者が一番苦労するのは、自分の専門外の最新トピックス。そこでこのシリーズでは、CareNeTV等で評価の高い内科各領域のトップクラスの専門医11名を招聘。各科専門医の視点で“出そうなトピック”を抽出し、1講義約20分で丁寧に解説します。キャッチアップが大変な近年のガイドラインの改訂や新規薬剤をしっかりカバー。Up to date問題対策も万全です。膠原病については、杏林大学医学部付属病院の岸本暢將先生がレクチャー。多彩な疾患に分類される膠原病。問題文に散りばめられた症状や検査所見などの膨大な情報の中から、診断のポイントを拾い上げるスキルを学びます。※「アップデート2022追加収録」はCareNeTVにてご視聴ください。第1回 関節リウマチ 乾癬性関節炎膠原病の問題では、膨大に提示された症状や検査所見の数値から、素早く異常を見つけるスキルが問われます。読み解くポイントについて、疾患別に例題を使って解説します。第1回は、国内に70万人以上の患者がいるとされ、日常診療でもよくみられる関節リウマチ。各治療薬と副作用の組み合わせや、症状別に禁忌の薬剤について確認します。乾癬性関節炎は、付着部炎など関節周囲から炎症が起きる点が関節リウマチと異なります。第2回 痛風 成人スチル病 ベーチェット病赤く腫れる症状が特徴的な自然免疫系の疾患を取り上げます。痛風は、急性期に尿酸降下薬を使用すると急性発作を誘発することがあるので注意。発作を誘発する食品や薬剤を押さえましょう。ピンク色の皮疹が現れる成人スチル病は、悪性腫瘍、感染症、薬剤アレルギーとの除外診断がポイント。白血球増多に注目します。20~30代に多いベーチェット病。症状として、口内炎やざ瘡様皮疹、結節性紅斑、ぶどう膜炎が現れます。第3回 全身性エリテマトーデス シェーグレン症候群リンパ球に関わる獲得免疫系の疾患を取り上げます。全身性エリテマトーデスSLEを発症するのはほとんどが女性で、多彩な症状を呈します。血小板数、白血球数、赤血球数の低下、CH50、C3、C4の低下が非常に特徴的な所見です。疾患と関連する抗核抗体も試験に出やすいポイント。ループス腎炎はSLEに起因する糸球体腎炎です。口腔乾燥やドライアイを呈するシェーグレン症候群。悪性リンパ腫のリスクにもなります。第4回 全身性強皮症 混合性結合組織疾患 皮膚筋炎・多発性筋炎皮膚や内臓が硬化、線維化する全身性強皮症SSc。限局皮膚型とびまん皮膚型に分けられ、手指にレイノー現象がみられます。抗体の種類によって合併する臓器障害が異なる点が試験でもよく問われます。混合性結合組織疾患MCTDの診断のポイントは、抗U1-RNP抗体と肺高血圧症。皮膚筋炎・多発性筋炎PM/DMでは、悪性腫瘍と急速進行性の間質性肺炎に要注意。肘や膝などにみられるゴットロン徴候が特異的な皮疹です。第5回 大型血管炎血管炎のうち大型血管炎に分類される高安動脈炎と巨細胞性動脈炎について解説します。小型血管炎に比べて症状が出にくい大型血管炎。間欠性跛行や大動脈解離など深刻な症状が起きる前に見つけるには、不明熱、倦怠感、体重減少、関節痛などの症状で疑うことが重要です。高安動脈炎の9割が女性、発症年齢は20歳前後がピーク。X線、CT、MRIの画像検査がメインです。巨細胞性動脈炎は高齢者にみられ、側頭動脈の生検がポイント。第6回 ANCA関連血管炎ANCA関連血管炎は、国内では高齢者が多いため顕微鏡的多発血管炎MPAが多く、対して海外では多発血管炎性肉芽腫GPA、好酸球性多発血管炎性肉芽腫EGPAの比率が多くなっています。小血管が破れるか詰まるため、紫斑や爪下出血など目に見える症状が出やすいのが特徴的。薬剤誘発ANCA関連疾患も頻出ポイント。MPA、GPA、EGPAを鑑別できるように、症状の似た他疾患の除外と、各診断基準を押さえます。

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脳梗塞の再発を予防するために:老刑事のように心房細動を追う(解説:香坂俊氏)

この原稿を読んでいる方の「4人に1人」は今後の人生のどこかで脳梗塞を経験することになる。上記はAmerican Heart Association(AHA)をはじめとする世界の主要学会が脳梗塞予防の啓蒙活動でしばしば用いる文言であるが、確かに「4人に1人」と言われるとずっしりと重みを感じられる方も多いのではないだろうか。が、残念ながら脳梗塞予防のために行動に移せることはそれほど多くはない。血圧やコレステロールを下げ、健全なライフスタイルを実施し、禁煙や減塩食を心掛ける、といったところだろうか。このあたりの危険因子は過去四半世紀の公衆衛生分野の先生方の献身的な努力により危険因子として浮き彫りにされ、すでに医療の現場でもそのコントロールに向けての努力が広く実践されるに至っている。そこにここ10年来、心房細動に対する抗凝固療法が脚光を浴びている。なにしろ60~70%近く脳梗塞イベントをカットできるというのだから(前述の個々の危険因子に対する介入は5~10%といったところで、累積で30~50%程度のイベントカットを目指している)、抗凝固療法を適切に実施できれば脳梗塞「4人に1人」を「10人に1人」くらいの割合に下げることも夢ではない。そこで、現在の問題はどのように心房細動を拾ってくるかというところに焦点が当てられている。心房細動の半分程度は潜在性(あるいは発作性)と考えられており、1回や2回心電図をとったくらいでは見つけられないということが知られている。今回取り上げるSTROKE-AFでは、すでに脳梗塞を起こした患者496例(平均年齢67歳、CHADS VASc 4~6点程度)を対象に、植込み型の心電図記録計(insertable cardiac monitorいわゆるループレコーダー)を用いる(ICM群)か、通常のケアを続行する(コントロール群)か、というところでランダム化を行い、その後1年間の心房細動の検出率を比較した。そしてその後1年間で、ICM群では7倍多く心房細動が検出されたという結果を得ている(12.1% vs.1.8%)。この結果をどう捉えるか? 心房細動は執念深く追い続ける必要がある、ということに尽きる。以前より3秒程度の記録しか残さない通常の心房細動の記録では検査として不十分だということは言われてきており、一部の診療ガイドラインでは心房細動が強く疑われるケース(動悸症状を繰り返したり、原因不明の失神症例)ではこのICMを積極的に用いるように推奨されているが、ここに「原因不明の脳梗塞」という項目も近い将来加わることになるかもしれない。ただ、このSTROKE-AFではまだ心房細動の検出率が比較されたにすぎず、今後本格的な抗凝固療法を使った介入試験が組まれていくものと思われる。その結果を待つ必要があるし、さらに発達著しいデジタルデバイス(スマートウォッチ)が今後ICMに取って代わる可能性もあり、そのあたりも注視していくべきだろう。

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小児および青年期のうつ病に対する新規抗うつ薬~ネットワークメタ解析

 小児および青年期のうつ病は、教育や仕事の成果、対人関係、身体的健康、メンタルヘルス、ウェルビーイングなどに重大な影響を及ぼす。また、うつ病は自殺念慮、自殺企図、自殺との関連がある。中等度~重度のうつ病には抗うつ薬が使用されるが、現在さまざまな新規抗うつ薬が使用されている。ニュージーランド・オークランド大学のSarah E. Hetrick氏らは、抑うつ症状、機能、自殺に関連するアウトカム、有害事象の観点から、小児および青年期のうつ病に対する新規抗うつ薬の有効性および安全性を比較するため、ネットワークメタ解析を実施し、年齢、治療期間、ベースライン時の重症度、製薬業界からの資金提供が臨床医によるうつ病評価(CDRS-R)および自殺関連アウトカムに及ぼす影響を調査した。The Cochrane Database of Systematic Reviews誌2021年5月24日号の報告。 2020年3月までに公表された文献をCochrane Common Mental Disorders Specialised Register、Cochrane Library、Ovid Embase、MEDLINE、PsycINFOより検索した。うつ病と診断された6~18歳の男女を対象に、新規抗うつ薬の有効性を他剤またはプラセボと比較したランダム化比較試験を含めた。新規抗うつ薬には、選択的セロトニン再取り込み阻害薬、選択的ノルエピネフリン再取り込み阻害薬、ノルエピネフリン再取り込み阻害薬、ノルエピネフリンドパミン再取り込み阻害薬、ノルエピネフリンドパミン阻害薬、四環系抗うつ薬を含めた。独立した2人のレビュアーが、タイトル、アブストラクト、フルテキストよりスクリーニングし、データ抽出およびバイアスリスク評価を行った。評価アウトカムは、うつ症状の重症度(臨床医による評価)、うつ症状の治療反応または寛解、うつ症状の重症度(自己評価)、機能、自殺関連アウトカム、全体的な有害事象とした。2値データはオッズ比(OR)、連続データは平均差(MD)として分析した。ランダム効果ネットワークメタ解析は、多変量メタ解析を用いて、頻度論的フレームワークで実行した。エビデンスの確実性は、CINeMA(Confidence in Network Meta-analysis)を用いて評価した。結果の解釈や説明を標準化するため、informative statementsを用いた。 主な結果は以下のとおり。・分析には、26件の研究を含めた。・2つの主要アウトカム(臨床医面談によるうつ病の臨床診断、自殺)のデータは十分ではなかったため、副次的アウトカムのみで結果は構成された。・ほとんどの抗うつ薬において、プラセボと比較し、CDRS-Rスケールにおけるうつ症状の「小さく、重要でない」軽減(範囲:17~113)が認められた。 【エビデンスの確実性:高】 ●パロキセチン(MD:-1.43、95%CI:-3.90~1.04) ●vilazodone(MD:-0.84、95%CI:-3.03~1.35) ●desvenlafaxine(MD:-0.07、95%CI:-3.51~3.36) 【エビデンスの確実性:中】 ●セルトラリン(MD:-3.51、95%CI:-6.99~-0.04) ●fluoxetine(MD:-2.84、95%CI:-4.12~-1.56) ●エスシタロプラム(MD:-2.62、95%CI:-5.29~0.04) 【エビデンスの確実性:低】 ●デュロキセチン(MD:-2.70、95%CI:-5.03~-0.37) ●ボルチオキセチン(MD:0.60、95%CI:-2.52~3.72) 【エビデンスの確実性:非常に低】 ●その他の抗うつ薬・うつ症状の軽減効果において、ほとんどの抗うつ薬の間に「小さく、重要でない」違いが認められた(エビデンスの確実性:中~高)。他のアウトカムにおいても同様であった。・ほとんどの研究において、自傷行為または自殺リスクは、研究の除外基準であった。・含まれているほとんどの研究において、自殺関連アウトカムの割合は低く、すべての比較で95%信頼区間は広くなっていた。・自殺関連アウトカムに対する効果については、プラセボと比較し、エビデンスの確実性は非常に低かった。 ●ミルタザピン(OR:0.50、95%CI:0.03~8.04) ●デュロキセチン(OR:1.15、95%CI:0.72~1.82) ●vilazodone(OR:1.01、95%CI:0.68~1.48)●desvenlafaxine(OR:0.94、95%CI:0.59~1.52)●citalopram(OR:1.72、95%CI:0.76~3.87)●ボルチオキセチン(OR:1.58、95%CI:0.29~8.60)・エスシタロプラム(OR:0.89、95%CI:0.43~1.84)は、プラセボと比較し、自殺関連アウトカムのORを「少なくともわずかに」低下させる可能性が示唆された(エビデンスの確実性:低)。・以下の薬剤は、プラセボと比較し、自殺関連アウトカムのORを「少なくともわずかに」増加させる可能性が示唆された。 ●fluoxetine(OR:1.27、95%CI:0.87~1.86) ●パロキセチン(OR:1.81、95%CI:0.85~3.86) ●セルトラリン(OR:3.03、95%CI:0.60~15.22) ●ベンラファキシン(OR:13.84、95%CI:1.79~106.90)・ベンラファキシンは、desvenlafaxine(OR:0.07、95%CI:0.01~0.56)およびエスシタロプラム(OR:0.06、95%CI:0.01~0.56)と比較し、自殺関連アウトカムのORを「少なくともわずかに」増加させる可能性が示唆された(エビデンスの確実性:中)。・抗うつ薬間のその他の比較においては、エビデンスの確実性は非常に低かった。・全体として、ランダム化比較試験の方法論的欠如により、新規抗うつ薬の有効性および安全性に関する調査結果を解釈することは困難であった。 著者らは「ほとんどの新規抗うつ薬は、プラセボと比較し、うつ症状を軽減する可能性が示唆された。また、抗うつ薬間でのわずかな違いも認められた。しかし、本結果は、抗うつ薬の平均的な効果を反映しているため、うつ病は不均一な状態であることを考慮すると、患者ごとに治療反応が大きく異なる可能性がある。したがって、ガイドラインやその他の推奨事項を作成する際、新規抗うつ薬の使用が、状況により一部の患者に正当化される可能性があるかを検討する必要がある」としている。 さらに「自殺リスクを有する可能性のある小児および青年は、試験から除外されるため、その効果については明らかにならなかった。小児および青年への抗うつ薬使用を検討する際には、患者およびその家族と相談する必要がある。そして、新規抗うつ薬間の効果や自殺関連アウトカムの違いを考えると、治療効果および自殺関連アウトカムを注意深くモニタリングすることが重要であろう。さらに、ガイドラインの推奨事項に従い、心理療法、とくに認知行動療法を考慮することが求められる」としている。

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JAK阻害薬フィルゴチニブ、潰瘍性大腸炎の寛解導入・維持に有効(解説:上村直実氏)

 潰瘍性大腸炎(UC)は特定疾患に指定されている原因不明の炎症性腸疾患(IBD)であり、最近の全国調査によると18万人以上の患者が存在している。UCに対する薬物治療については、寛解導入および寛解維持を目的として5-ASA製剤、ステロイド製剤、免疫調節薬、生物学的製剤が使用されている。なかでも生物学的製剤については、抗TNF阻害薬、インターロイキン阻害薬ウステキヌマブ、インテグリン拮抗薬ベドリズマブ、ヤヌスキナーゼ(JAK)阻害薬など、異なる作用機序を有する分子標的薬が次々と開発され、それぞれの臨床試験結果が報告されている。なお、本邦のIBD診療ガイドライン2020において、血球成分除去療法や生物学的製剤の適応はステロイド依存例で免疫調節薬も効果のない患者やステロイド抵抗性の患者に限定されている。さらにJAK阻害薬と免疫調節薬チオプリン製剤との併用が原則禁忌となっている。 今回は中等度から重度の難治性UCを有する成人患者を対象として、10週間での寛解導入と58週間の寛解維持に対するJAK阻害薬フィルゴチニブの有効性と安全性に関する、第III相臨床試験(SELECTION試験)の結果がLancet誌に報告された。わが国では慢性関節リウマチ(RA)に対して承認されている経口剤フィルゴチニブが、TNF阻害薬やベドリズマブの治療歴の有無にかかわらず、難治性UCの寛解導入と寛解維持においてプラセボに比べて有意な有効性と同等の安全性を示したとされている。 今回の研究結果から、フィルゴチニブはステロイド依存性や抵抗性の難治性UCに対して有用性の高い経口治療薬として期待される。しかし、わが国においてRAに対して保険承認されている5種類のJAK阻害薬の中で唯一UCに対して保険適用を得ているトファシチニブに関しては、RA患者を対象とした安全性臨床試験の予備結果において、TNF阻害薬や低用量トファシチニブと比べて高用量のトファシチニブが心血管血栓イベントと死亡のリスク上昇を認めた結果、FDAにより慎重な使用に関する警告が発出されている。同じJAK阻害薬であるフィルゴチニブに関してもRAに加えてUCの適応が追加された場合、一般診療現場における長期間のリスクに注意した慎重な使用が必要と思われる。

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ASCO2021 レポート 老年腫瘍

レポーター紹介これまでは高齢がん患者を対象とした臨床試験が乏しいといわれてきたが、徐々に高齢者を対象とした第III相試験のデータが発表されつつある。ASCO2021では、高齢者進展型小細胞肺がんに対するカルボプラチン+エトポシド併用療法(CE療法)とカルボプラチン+イリノテカン併用療法(CI療法)のランダム化比較第II/III相試験(JCOG1201/TORG1528:#8571)、高齢者化学療法未施行IIIB/IV期扁平上皮肺がんに対するnab-パクリタキセル・カルボプラチン併用療法とドセタキセル単剤療法のランダム化第III相試験(#9031)、76歳以上の切除不能膵がんに対する非手術療法の前向き観察研究(#4123)など、高齢者を対象とした臨床研究の結果が複数、発表されている。これら治療開発に関する第III相試験の情報はさまざまな場所で得られると思われるため詳述はせず、ここでは老年腫瘍学に特徴的な研究を紹介する。高齢者の多様性を示すかのように、今回の発表内容も多様であった。高齢がん患者に対する高齢者総合的機能評価および介入に関するランダム化比較試験(THE 5C STUDY)高齢者総合的機能評価(Comprehensive Geriatric Assessment:CGA)は、患者が有する身体的・精神的・社会的な機能を多角的に評価し、脆弱な点が見つかれば、それに対するサポートを行う診療手法である。NCCNガイドライン1)をはじめ、高齢がん患者に対してCGAを実施することが推奨されている。これまで、がん領域では高齢者の機能の「評価」だけが注目されることが多かったが、最近では、「脆弱性に対するサポート」まで含めた診療の有用性を評価すべきという風潮になっている。昨年のASCOでは、「高齢がん患者を包括的に評価&サポートする診療」の有用性を評価するランダム化比較試験が4つ発表され、その有用性が検証されつつある。今回、世界的にも注目されていた第5のランダム化比較試験、THE 5C STUDY2)がシンポジウムで発表された。画像を拡大する主な適格規準は、70歳以上、がん薬物治療が予定されている患者(術前補助化学療法、術後補助化学療法は問わず、また分子標的治療薬や免疫チェックポイント阻害薬も対象)、PS:0~2など。標準診療群は「通常の診療」、試験診療群は「高齢者総合的機能評価および介入(CGAに加え、通常の腫瘍治療に加えて老年医学の訓練を受けたチームによるフォローアップ)を行う診療」である。primary endpointはEORTC QLQ-C30のGlobal health status(項目29および30)で評価した健康関連の生活の質(HR-QOL)であり、key secondary endpointは手段的日常生活動作(Instrumental Activities of Daily Living:IADL)。primary endpointについてはパターン混合モデルを使用した(0、3、6ヵ月目)。カナダの8つの病院から351例の参加者が登録され、治療開始翌日以降に介入が行われた(患者の要望に合わせた研究であるため)。HR-QOLスコアの変化は両群で差がなく(p=0.90)、またIADLも両群間で差はなかった(p=0.54)。筆者はlimitationとして、CGAを実施したタイミングが悪かったことを挙げている。本研究では、患者の利便性を考えて、「治療開始時」または「治療開始後」にCGAを実施していたが、一般的には、治療方針を決定する前にCGAを実施すれば、患者の脆弱性を考慮して適切な治療を選択できると考えられている。しかし、今回は治療開始時または治療開始後にCGAを実施された患者が多かったため、CGAの意義が乏しかった可能性があるという理屈である。その他、COVID-19により、十分な介入ができなかったこと、またHR-QOLが影響を受けた可能性があること、そもそも「高齢がん患者を包括的に評価&サポートする診療」の有用性を評価するためのアウトカムとしてEORTC QLQ-C30のGlobal health statusが適切でなかった可能性などをlimitationに挙げている。昨年のASCOで発表された研究では「高齢がん患者を包括的に評価&サポートする診療」の有用性が示されたが、残念ながら、本試験ではその有用性は検証できなかった。しかし、研究デザインに問題があること、またひと言で「高齢がん患者を包括的に評価&サポートする診療」といっても、その内容はさまざまであることなどから、本試験がnegative studyであるからといって、その有用性が否定されたわけではないだろう。個人的には、筆者がlimitationで挙げているとおり、治療開始「前」にCGAを実施できていれば、より適切な治療が選択され、その結果、介入もより効果的になって、本試験の結果も変わっていたのではないかと想像してしまう。高齢者総合的機能評価と局所進行頭頸部扁平上皮がんの治療方針単施設の後ろ向き研究ではあるが、THE 5C STUDYのlimitationと関係するため、ここで紹介する。要は、治療開始「前」に高齢がん患者を包括的に評価することで、適切な治療を選択できる可能性があるという発表である3)。局所進行頭頸部扁平上皮がん(LA-HNSCC)を伴う高齢者を対象として、2016~18年の間に通常の診療を受けた集団(通常診療コホート)と、2018~20年の間にCGAを実施された集団(CGAコホート)を比較し、実際に受けた治療(標準治療、毒性を弱めた治療、緩和目的の治療、ベストサポーティブケア)、治療完遂割合、奏効割合などを評価した。通常診療コホート96例、CGAコホート81例の計197例の患者が対象となった。CGAコホートでは、通常診療コホートと比較して、標準治療を受ける患者が多かったが(36% vs.21%、p=0.048)、治療完遂割合(84% vs.86%、p=0.805)や奏効割合(73.9% vs.66.7%、p=0.082)に有意な差は認めなかった。これまでは、CGAを実施することで過剰な治療を防ぐことができるという、いわば脆弱な患者を守る方向で議論されることが多いと感じていた。しかし、本研究では、CGAを実施することで標準的な治療を受けることができた患者が増え、またベストサポーティブケアを受ける患者が少なくなるということが示されたことで、CGAにより、過小な治療を受けていた患者が適切な治療を受けられることが示唆されたといえる。つまり、治療開始「前」に高齢がん患者を包括的に評価することは大事という話。Choosing Unwisely(賢くない選択):高齢者における骨髄異形成症候群の確定診断Choosing Wiselyとは科学的な裏付けのない診療を受けないように賢い選択をしましょうという国際的なキャンペーンだが、本研究ではChoosing Unwiselyとして、高齢者に対して骨髄異形成症候群(MDS)の正確な診断をすること、を挙げている4)。MDSに正確な診断(Complete Diagnostic Evaluation:CDE)をするためには、骨髄生検、蛍光 in situ ハイブリダイゼーション、染色体分析が必要だが、この意義があるか否かを2011~14年のメディケアデータベースを用いて検討した。対象は、2011~14年の間に66歳以上でメディケアを受けている患者のうち、MDSの診断を受けており、1種類以上の骨髄細胞減少を有し、MDS診断前後16週間に輸血を受けていない集団(1万6,779例)。CDEが臨床的に正当化されない患者の要因の組み合わせを特定するために、機械学習の手法であるCART(Classification and Regression Tree)分析を行い、CDEの有無による生存率の比較を行うためにCox比例ハザード回帰分析を行った。結果、1種類の血球減少(例:貧血のみ)を有する集団のうち、66~79歳の57.7%(1,156例)、80歳以上の46.0%(860例)がCDEを受けていた。また、血球減少がない患者3,890例のうち、866例がCDEを受けていた。背景因子を調整後の解析では、CDEを受けたことによる生存率の向上は認められなかった(p=0.24)。筆者は、高齢者のMDSに対して不要なCDEを減らすことを提案している。COVID-19患者の全米データベースの「がんコホート」高齢者に限定した研究ではないが、知っておくべきデータだと思うので簡単に紹介する。米国国立衛生研究所(NIH)が運営している全米COVIDコホート共同研究(National COVID Cohort Collaborative:N3C)のデータベースのうち、がん患者のみのコホートが公表された5,6)。N3Cコホートから合計37万2,883例の成人がん患者が同定され、5万4,642例(14.7%)がCOVID-19陽性。入院中のCOVID-19陽性患者の平均在院日数は6日(SD 23.1日)で、COVID-19の初回入院中に死亡した患者は7.0%、侵襲的人工呼吸が必要な患者は4.5%、体外式膜型人工肺(ECMO)が必要な患者は0.1%であった。生存割合は、10日目で86.4%、30日目で63.6%であった。65歳以上の高齢者(HR:6.1、95%CI:4.3~8.7)、併存症スコア2以上(HR:1.15、95%CI:1.1~1.2)などが全死因死亡のリスク増加と関連していた。18~29歳を基準とした場合、30~49歳のHRは1.09(0.67~1.76)、50~64歳では1.13(0.72~1.77)に対して、65歳以上ではHR:6.1と異常に高いことから、これまで以上に、高齢がん患者ではCOVID-19に注意を払う必要があると感じた。もちろん、併存症スコアが上昇するにつれ死亡割合が上昇していることから、暦年齢は併存症スコアに関連している可能性があり、暦年齢だけの問題ではない可能性はある。参考1)NCCN GUIDELINES FOR SPECIFIC POPULATIONS: Older Adult Oncology2)Comprehensive geriatric assessment and management for Canadian elders with Cancer: The 5C study.3)Impact of comprehensive geriatric assesment (CGA) in the treatment decision and outcome of older patients with locally advanced head and neck squamous cell carcinoma (LA-HNSCC).4)Choosing unwisely: Low-value care in older adults with a diagnosis of myelodysplastic syndrome.5)Outcomes of COVID-19 in cancer patients: Report from the National COVID Cohort Collaborative (N3C).6)Sharafeldin N, et al. J Clin Oncol. 2021:Jun 4. [Epub ahead of print]

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