サイト内検索|page:5

検索結果 合計:3323件 表示位置:81 - 100

81.

高血圧管理・治療ガイドライン2025(9):禁煙指導【一目でわかる診療ビフォーアフター】Q167

高血圧管理・治療ガイドライン2025(9):禁煙指導Q167禁煙指導の有効手段として「5Aアプローチ」が知られており、『高血圧管理・治療ガイドライン2025』でも取り上げられた1)。5Aとは何か?

82.

第296回 ナフサ不足で医療資材逼迫、医療用手袋5,000万枚を放出/政府

<先週の動き> 1.ナフサ不足で医療資材逼迫、医療用手袋5,000万枚を放出/政府 2.血管炎薬アバコパンで死亡20例、添付文書に「警告」新設/厚労省・キッセイ薬品 3.AIを悪用したサイバー攻撃に備え、医師会や病院団体と対策を協議/厚労省 4.マイナカード「任意」から義務化検討へ、全員保有を提言/自民党 5.禁忌の抗菌薬処方でSJS発症か、患者死亡で遺族に補償へ/三重県 6.東大医学系研究科の贈収賄事件、元特任准教授に有罪判決/東京地裁 1.ナフサ不足で医療資材逼迫、医療用手袋5,000万枚を放出/政府中東情勢の悪化を背景に、石油由来原料を使う医療資材の供給不安が医療現場に広がっている。政府は5月23日、感染症などの流行に備え国が備蓄していた医療用手袋のうち、まず5,000万枚の放出を開始した。都内の歯科診療所には同日、第1弾が到着。受け取った院長は「診療所は在庫を抱えられない。購入できて安心した」と語った。放出対象は、病院、診療所、訪問看護事業所、薬局、助産所など。在庫量が「今後1週間の想定消費量から購入見込み量を差し引いた数」の4週間分を下回る場合、医療機関等情報支援システム(G-MIS)を通じて申請できる。販売は1,000枚単位で、価格は1セット5,980円、1枚当たり約6円。購入可能数は想定消費量の2週間分を基準に決まり、条件を満たせば複数回の申請も可能とされる。21日時点で2,000を超える医療機関が対象となっており、茨城県でも第1弾として63医療機関から27万1,000枚の購入申し込みがあった。ただ、逼迫しているのは手袋だけではない。ナフサ価格の上昇を受け、廃液回収容器、投薬瓶、軟こう容器、点眼瓶、松葉杖、透析回路、医薬品包装用フィルムなどでも値上げや納期遅延、受注制限が相次いでいる。調剤薬局では小児用シロップ容器が不足し、粉薬での処方を依頼する例も出ている。医療資材卸では4月以降、平均2~3割の値上げが行われ、製品によっては1.5~2倍の値上げ要請もあるという。診療報酬や薬価は公定価格であり、医療機関や製薬企業は一般産業のようにコスト上昇分を価格転嫁しにくい。物価高、人件費高、光熱費高に加え、資材不足が中小医療機関の経営をさらに圧迫している。政府は追加放出も検討するとしているが、手袋の使用量は月9,000万枚規模ともされ、備蓄放出だけで不安を払拭するのは難しい。医療提供体制を維持するには、資材供給の安定化に加え、物価変動を診療報酬や薬価に反映する仕組みの検討が求められる。 参考 1) 医療用手袋の政府備蓄品が到着 厚労省、都内歯科で公開(日経新聞) 2) 国が備蓄している医療用手袋 購入要請があった医療機関にきょうから配送開始 中東情勢の影響を受けて放出(TBS NEWS) 3) ナフサ不足で医療資材逼迫 軟こう容器・松葉杖・手袋…中小医院資材逼迫で苦境(日経新聞) 4) 中東情勢悪化に伴う医療用グローブの国家備蓄放出、「医療機関在庫が不足する」場合に購入可能-厚労省(Gem Med) 2.血管炎薬アバコパンで死亡20例、添付文書に「警告」新設/厚労省・キッセイ薬品厚生労働省は5月21日、選択的C5a受容体拮抗薬アバコパン(商品名:タブネオスカプセル10mg)について、製造販売元のキッセイ薬品に対し、添付文書に「警告」欄を新設し、医療関係者へ安全性速報(ブルーレター)を発出するよう指示した。同薬の服用後、肝臓の胆管がなくなる「胆管消失症候群」を含む重篤な肝機能障害が報告され、国内で20例の死亡があったことを受けた措置。ブルーレターの発出は5年ぶりで、迅速な安全対策が必要と判断された。アバコパンは、顕微鏡的多発血管炎と多発血管炎性肉芽腫症を対象とする飲み薬で、いずれも国の指定難病。ステロイド使用量を減らせる薬として期待され、国内では2022年6月に発売され、直近1年間で推定約8,500例に使用された。死亡した20例は60~90代で、19例は投与開始から3ヵ月以内に肝機能障害を発症。胆管消失症候群は22例報告され、このうち13例が死亡しており、とくに深刻な副作用とみられている。改訂後の添付文書では、投与開始前と投与中の定期的な肝機能検査を求める。投与開始後3ヵ月間は少なくとも2週間に1回、その後3ヵ月間は少なくとも4週間に1回、6ヵ月以降も定期的に検査する。ALTまたはASTが基準値上限の3倍を超えた場合は投与を中断し、8倍超、5倍超が2週間以上続く場合、総ビリルビンやALPの上昇、黄疸やかゆみなどがあれば中止する。胆管消失症候群が疑われる場合も速やかに中止することを求めている。キッセイ薬品は、新規患者への投与を控えるよう注意喚起していたが、その後は頻回の検査を前提に新規投与も可能とされた。すでに服用中の患者には、自己判断で中止せず、体調変化があれば医師や薬剤師に相談するよう呼びかけている。その一方で、米国食品医薬品局(FDA)は有効性や承認申請資料を巡る疑義から米国での承認撤回を提案しており、厚労省も海外当局と連携し、有効性や安全性の確認を進める。 参考 1) タブネオスの安全性確保のための注意喚起について(キッセイ薬品) 2) タブネオスにブルーレター発出、添付文書の「警告」欄を新設(日経ドラッグインフォメーション) 3) 血管炎治療剤タブネオス 安全性速報を発出-添付文書に「警告」新設 キッセイ薬品(CB news) 4) キッセイ薬品工業が「ブルーレター」発出 タブネオス服用後の死亡患者20人報告で(中日新聞) 5) 投与患者20人死亡の血管炎治療薬、添付文書に「警告」欄を新設・頻繁な肝機能検査を要請…厚労省(読売新聞) 6) キッセイ薬品の血管炎薬、添付文書に「警告」欄 有効性に疑義も(朝日新聞) 7) キッセイ薬品、血管炎治療薬で安全性速報 死亡報告で厚労省指示(日経新聞) 3.AIを悪用したサイバー攻撃に備え、医師会や病院団体と対策を協議/厚労省厚生労働省は5月22日に、AIを悪用したサイバー攻撃への懸念が高まっているとして、医療機関や病院団体とサイバーセキュリティ対策に関する意見交換会を開いた。背景にあるのは、米アンソロピックが4月に発表した高性能AI“Claude Mythos”(クロード・ミュトス)で、ソフトウエアの脆弱性を自律的に検出し、攻撃プログラムの生成にもつながり得るとされる。国家サイバー統括室は18日、AIの急速な進展により攻撃の規模が拡大する恐れがあるとして、医療や金融など重要インフラ15分野に注意を呼びかけていた。意見交換には上野 賢一郎厚労相、厚労省や国家サイバー統括室の担当者、全国自治体病院協議会、全日本病院協会、日本病院会、日本医療法人協会などの関係者が出席した。上野厚労相は、医療現場では日々の診療や運営に追われ、サイバー対策が後回しになりがちだと指摘し、「現場任せではなく経営層の主体的な関与が不可欠」と強調。「サイバー攻撃の脅威はさらに増大する。必要な対応を速やかに進める」と述べた。医療機関ではこれまでも電子カルテが使えなくなり、診療を一時中断する被害が発生している。出席した医療機関側からは、「対策に充てる財源が乏しい」や「専門人材を確保できないこと」への不安が示され、国による財政的・技術的支援を求める声が上がった。厚労省は、医療情報システムの安全管理ガイドラインに基づく基本対策の徹底、攻撃を受けた場合の事業継続計画作り、補助金や経営層向け研修の活用を呼びかけた。政府は重要インフラ15分野ごとに安全基準を整備する方針で、厚労省も医療分野の実情に応じた対策を具体化する。今後、関係機関に事務連絡を出し、医療機関の機能停止が国民生活に重大な影響を及ぼさないよう、医療現場と連携して実効性ある体制作りを進める。診療継続を支える経営課題として、各病院の備えが問われる。 参考 1) ミュトス対応 医療機関と意見交換、厚労省 セキュリティー対策具体化へ(CB news) 2) 医療機関にサイバー攻撃対策を要請 厚労省、AI「ミュトス」念頭(日経新聞) 3) 新型AI「ミュトス」 厚生労働省と医療機関が意見交換 上野大臣「必要な対応を速やかに進める」 サイバー攻撃で診療一時中断も 「財源ない」「専門人材いない」の声も(TBS NEWS) 4) 「医療機関等におけるサイバーセキュリティ対策に関する厚生労働省との意見交換」を開催します(厚労省) 4.マイナカード「任意」から義務化検討へ、全員保有を提言/自民党自由民主党は5月19日、マイナンバーカードの取得義務化の検討を政府に求める政策提言「デジタル・ニッポン2026」を公表した。国民全員がカードを保有することを前提に、行政サービスの拡充や民間利用を進める狙いで、早ければ来年の通常国会で関連法改正を目指す。現在、マイナンバーカードの取得は任意で、4月末時点の保有率は82.7%。提言では、取得を法的に義務付ける必要性や実効性を検討すべきとするが、罰則は設けない方針。背景には、中低所得の現役世代支援として検討される「給付付き税額控除」や迅速な現金給付への活用がある。提言では、給付に必要な公金受取口座の登録義務化の検討も盛り込み、マイナカードを「デジタル社会のパスポート」と位置付けている。党デジタル社会推進本部長の平井 卓也衆院議員は、交付開始当初に比べ肯定的に受け止める人が増えたとして、「持っていることを前提に政策を組み上げる」と説明した。その一方で、個人情報の漏えいや目的外利用、プライバシー侵害への懸念はいまだに根強い。マイナ保険証の原則化を巡っては、医療機関の受付負担や高齢者の利用困難、資格確認書の併存などから「事実上の義務化」との批判もある。会計検査院の調査では、2025年7月末までに本人希望で廃止されたカードが累計93万枚に上り、トラブルへの不安や利便性を実感できないことが背景にあるとの見方も出ている。コンビニ交付や本人確認で「期待通りの使い勝手になっていない」との指摘もあり、普及策の妥当性が問われている。松本 尚デジタル相は22日の会見で、義務化について「法的に縛り付けることは議論が必要だ」と述べ、必要性への明言を避けた。カードを持ちたくない人が納得できる根拠や、どの政策と一体で進めるのかを検討する必要があるとの認識を示した。利便性向上と行政効率化を掲げる政府・与党に対し、制度への信頼回復と不安払拭が課題となる。 参考 1) デジタル・ニッポン2026ー責任あるアジャイル・ガバナンスー(自民党) 2) マイナカード、取得義務化を提言 自民「来年国会で法改正めざす」(朝日新聞) 3) マイナカード義務化「必要性もう少し議論」 松本デジタル相(日経新聞) 4) 任意だったのに…「マイナカード義務化」自民が提言へ 給付付き税額控除の議論が「絶好のラストチャンス」(東京新聞) 5) 「93万枚」が廃止されていたマイナンバーカード このままでは“第2の住基カード”に? 「多くの人が“便利さ”を感じていない」(デイリー新潮) 5.禁忌の抗菌薬処方でSJS発症か、患者死亡で遺族に補償へ/三重県三重県桑名市の地方独立行政法人 桑名市総合医療センターは5月21日、気管支喘息で入院した60代男性に禁忌薬を誤って処方し、男性が重い薬剤アレルギーとみられる症状を発症後、3月23日に死亡したと発表した。病院側は薬剤投与ミスを認め、遺族に謝罪するとともに補償する方針を示している。男性は2月中旬、喘息発作で同センターに入院し、ステロイド治療に伴う感染症予防のため、担当医が抗菌薬トリメトプリム スルファメトキサゾール(商品名:バクトラミン)を処方した。男性は退院後に服用したが、高熱や全身の発疹、皮膚や口腔内のただれなどを起こし、愛知県内の病院に搬送された。その後、スティーブンス・ジョンソン症候群(SJS)を発症したとみられ、より重篤な中毒性表皮壊死症(TEN)の可能性も指摘されている。最終的には腸閉塞を伴う敗血症性ショックなどで死亡した。バクトラミンは、スルファメトキサゾール・トリメトプリムを成分とするST合剤で、男性は過去に同じ成分を含む別の商品名の抗菌薬でアレルギー症状を起こしていた。電子カルテには投与禁忌の記載があったが、担当医は商品名の違いから同一成分だと認識せず、成分確認を十分に行わなかったという。一部報道では、医師がアレルギー歴を別系統の薬剤と誤認していたともされる。病院は、誤投薬とアレルギー反応との関連性は極めて高いと説明する一方で、死亡との直接の因果関係については病理解剖の結果や外部専門家を含む調査で検証する方針。県医師会には医療事故として報告しており、院内事故調査委員会や第三者委員会で原因究明と再発防止策を検討する。山田 典一病院長は記者会見で「痛切に責任を感じている」と謝罪し、「全職員がリスクを感じたら拾い上げる体制に変えなければならない」と述べた。 参考 1) 桑名市総合医療センターで男性に禁忌薬処方、難病発症 別の病院に転院後死亡(中日新聞) 2) 禁忌薬誤投与後に患者男性が死亡 三重の医療センター 因果関係調査(産経新聞) 3) 抗菌薬誤投与で難病発症、患者死亡 医師が成分確認せず-三重・桑名市総合医療センター(時事通信) 4) 桑名市総合医療センターの患者死亡 薬剤の投与ミス認める(NHK) 6.東大医学系研究科の贈収賄事件、元特任准教授に有罪判決/東京地裁東京大学大学院医学系研究科の共同研究を巡る贈収賄事件で、収賄罪に問われた元特任准教授の吉崎 歩被告(46)に対し、東京地裁は5月22日、懲役1年、執行猶予2年、追徴金約196万円の有罪判決を言い渡した。求刑は懲役1年2ヵ月、追徴金約196万円で、吉崎被告は公判で起訴内容を認めていた。判決によると、吉崎被告は2023年3月から2024年8月にかけて、東京大学大学院医学系研究科皮膚科学分野の元教授、佐藤 伸一被告(62)とともに、一般社団法人日本化粧品協会の代表理事だった引地 功一被告(52)から、都内の高級クラブや性風俗店などで30回にわたり、計約196万円相当の接待を受けた。接待は、皮膚疾患に対する大麻草由来成分カンナビジオール(CBD)の有効性などを調べる「臨床カンナビノイド学社会連携講座」の設置や共同研究の推進で便宜を図る見返りだったとされた。吉崎被告は同講座の講座長として、佐藤被告と日本化粧品協会との間に入り、研究実務や接待の段取りを調整していた。弁護側は、吉崎被告が佐藤被告を師と仰ぎ、強い影響下にあったため異を唱えることは難しかったと主張。判決も、上司である佐藤被告の意向に反することが困難だった点は認めた。その一方で、吉崎被告が接待の調整役を担い、単独で接待を受けたこともあり、自ら積極的に接待を受けたい意向があったとして、「刑事責任は軽視できない」と指摘した。遊興接待の内容についても、職務の廉潔性を害したことは明らかだとした。判決はさらに、東大の社会連携講座についても言及。大学の看板を営利目的で利用しようとする企業に悪用されかねない側面があり、公益的な研究として適切に運用されるかどうかが、講座を統括する担当教授のモラルに大きく依存していたと指摘した。産学連携を進める上で、研究費の受け入れや企業との距離感を個人の倫理観に委ねる危うさが改めて浮き彫りになった形。しかしながら、吉崎被告が事件後に東大を退職し、犯行を認めて反省していること、再び公職に就く可能性が低く再犯の可能性も低いことなどから、執行猶予付き判決が相当と判断された。事件では、佐藤被告も収賄罪で起訴されているほか、贈賄罪に問われた引地被告の判決は5月26日に予定されている。東大では別件でも医療機器選定を巡る収賄事件が起きており、大学病院における企業連携と利益相反管理のあり方が厳しく問われている。 参考 1) 東大病院汚職、元特任准教授に有罪判決 風俗店やクラブで接待受ける(朝日新聞) 2) 東大院汚職で元特任准教授に有罪判決 東京地裁(日経新聞) 3) 懲役1年執行猶予2年、性接待などを受け 東大病院の収賄事件、「教授の強い影響下にあった」元特任准教授に有罪判決(日経メディカル)

83.

肥大型心筋症の長期予後予測、心臓MRIとNT-proBNPが有用/JAMA

 肥大型心筋症(HCM)患者のリスク評価に、心臓MRIおよびNT-proBNPの組み入れが有用であることが示された。米国・University of Virginia HealthのChristopher M. Kramer氏らHCMR Investigatorsが、米国国立心肺血液研究所(NHLBI)主導の大規模前向き登録研究「NHLBI HCM Registry」の結果を報告した。HCMに関する現在のリスク予測ガイドラインは心臓突然死のみを予測するものであり、そのため回避可能であったはずの死亡や、不必要であったはずの植込み型除細動器装着という事態を招いているとされる。JAMA誌オンライン版2026年5月11日号掲載の報告。欧米6ヵ国の44施設で2,750例のデータを登録 研究グループは、2014年4月1日~2017年4月7日に、欧米6ヵ国の44施設において、HCM患者2,750例を前向きに登録した。 患者の健康歴についてアンケート調査を行い、臨床心エコー検査報告書を含む臨床データを収集し、バイオマーカーおよび遺伝子検査のための採血、造影剤を用いた心臓MRI検査を実施した。イベントの確認のため、電話および診療記録により毎年追跡調査を行った。 主要エンドポイントは、HCMに関連する心血管死、電気的除細動または除細動を要する非致死的持続性心室性不整脈(VA)、および左室補助装置(LVAD)埋設または心臓移植の複合、副次エンドポイントは心臓突然死および非致死的VAイベントの複合とすることが事前に規定された。エラスティックネット法を用いて最も重要な予測因子を特定し、Cox比例ハザード回帰分析を用いて最終モデルを推定した。心臓MRIとNT-proBNPをリスク評価に組み込むことが有用 前向きに登録された2,750例のうち、HCMの表現型類似疾患と診断された9例、および同意撤回または追跡データがない43例を除外した2,698例(98%)が解析対象となった。1,919例(71%)が男性で、平均(±標準偏差)年齢は50±11歳、423例(16%)が少数民族グループに属していた。 平均追跡期間6.9±2.1年において、104例(3.9%)に117件の主要エンドポイントのイベントが認められた。 主要イベント初回発生に関するモデルには、ガドリニウム遅延造影による左室心筋重量に対する左室瘢痕の割合(LGE%、ハザード比[HR]:1.86、95%信頼区間[CI]:1.58~2.20、p<0.001)、左室心筋重量係数(HR:1.09、95%CI:1.01~1.17、p=0.03)、ならびに左室収縮末期容積係数(HR:1.28、95%CI:1.12~1.46、p<0.001)(いずれも10単位増加当たりのHR)、研究開始時の心不全既往歴(HR:2.89、95%CI:1.75~4.77、p<0.001)、およびNT-proBNPのlog変換値(log単位当たりHR:1.41、95%CI:1.17~1.70、p<0.001)が含まれた(全体のC統計量0.77)。 左室心筋重量に対するLGE%が9%以上の場合、主要エンドポイントの複合イベント発生率が著明に増加した(p=0.001)。 副次エンドポイントの心臓突然死およびVAのリスク因子モデル(69例)には、LGE%、左室心筋重量係数、左室駆出率、およびNT-proBNPのlog変換値が含まれた(C統計量0.76)。

84.

肺がん診療ガイドライン2025押さえておきたい3つのポイント【DtoD ラヂオ ここが聞きたい!肺がん診療Up to Date】第11回

第11回:肺がん診療ガイドライン2025押さえておきたい3つのポイントパーソナリティ日本鋼管病院 田中 希宇人 氏ゲスト岡山大学病院 二宮 貴一朗 氏※番組冒頭に1分ほどDoctors'PicksのCMが流れます参考1)日本肺癌学会 肺癌診療ガイドライン2025(オンライン版)関連サイト専門医が厳選した、肺がん論文・ニュース「Doctors'Picks」(医師限定サイト)講師紹介

85.

子どもの溺水による心停止、人工呼吸の有無で生存・神経予後に差――全国データ解析

 プール監視や学校現場などで遭遇しうる子どもの溺水では、その場での初期対応が転帰を左右するとされている。今回、日本の全国データを用いた研究で、小児の溺水による心停止において、人工呼吸を伴う心肺蘇生(CPR)は胸骨圧迫のみのCPRと比べて、生存および神経予後の点で良好である可能性が示された。研究は岡山大学学術研究院医歯薬学域地域救急・災害医療学講座の小原隆史氏らによるもので、詳細は3月10日付の「Resuscitation」に掲載された。 溺水は世界的に不慮の事故死の主要な原因の一つであり、日本でも小児の事故死の上位を占める。溺水による心停止では、体に酸素が行き渡らなくなるため、人工呼吸を含むCPRが重要と考えられてきた。実際、小児や心臓以外が原因の心停止では、人工呼吸を伴うCPRが胸骨圧迫のみのCPRより良好な転帰と関連することが報告されている。一方、近年は簡便さなどから胸骨圧迫のみのCPRが広く行われるようになっているが、こうした変化が溺水による心停止の転帰に与える影響は十分に検討されていない。そこで本研究では、小児の溺水による院外心停止において、一般市民によるCPRの方法の変化と、生存および神経予後との関連を検討した。 本研究では、2012~2023年の全国データを用い、小児(17歳以下)の溺水による院外心停止のうち、一般市民によるCPRが実施された症例を解析した。データは全国の院外心停止症例を登録したデータベース(All-Japan Utstein Registry)から取得し、CPRが行われていない症例やCPRの方法が不明な症例は除外した。対象は、人工呼吸を伴うCPRと胸骨圧迫のみのCPRの2群に分類した。主要評価項目は発生から30日以内の死亡とし、副次評価項目として病院到着前に心拍が再開しなかったこと、および30日後の神経予後不良(重度障害、昏睡、または死亡と定義)を設定した。解析には多変量解析を用い、年齢や目撃の有無による層別解析も行った。 対象となった740例のうち、人工呼吸を伴うCPRは41.6%、胸骨圧迫のみのCPRは58.4%に行われていた。人工呼吸を伴うCPRの割合は、2012年の約45%から2020年以降は約30%に減少していた。人工呼吸を伴うCPRは、特に乳幼児や家族が目撃していたケースで行われることが多かった。 胸骨圧迫のみのCPRは、人工呼吸を伴うCPRと比べて、30日以内の死亡リスクが約38%高く、病院到着前に心拍再開が得られなかった割合も約22%高かった。また、神経予後も不良となる傾向がみられた。こうした差は、目撃者がいない心停止(溺水の場面を直接見ていないケース)や、1~7歳の子どもで特に顕著であった。この結果は、目撃がない症例であっても発見次第速やかに人工呼吸を開始する重要性を示唆する。一方、目撃されていたケースや8歳以上の子どもでは、死亡の差はそれほど大きくなかったが、神経予後には差が認められた。 本研究では、小児の溺水による心停止において、人工呼吸を伴うCPRが減少し、胸骨圧迫のみのCPRが増加している実態が示された。一方で、胸骨圧迫のみのCPRは、人工呼吸を伴うCPRと比べて死亡や神経予後の点で不良であった。溺水のように呼吸が保てなくなる心停止では、人工呼吸が重要な役割を果たす可能性が示唆される。こうした結果は、溺水では人工呼吸を含むCPRを推奨する海外のガイドラインとも一致しており、その重要性を裏付けるものといえる。 著者らは、小児や溺水といった医学的に人工呼吸の効果が期待されるケースにおいても、その重要性が十分に理解されていない可能性を指摘する。その上で、保護者や教職員などを対象に人工呼吸を含むCPR教育を強化することや、救急通報時のオペレーターによる口頭指導において年齢や原因に応じた対応を行うことの重要性を強調している。

86.

マバカムテンは青年期の閉塞性肥大型心筋症にも有効である(解説:原田和昌氏)

 成人では閉塞性肥大型心筋症(HOCM)に対して心筋の収縮力を抑制する薬が承認されたが、小児の薬はなかった。わが国のガイドラインでは、HOCMの左室流出路閉塞軽減のためマバカムテンがClass 1で推奨されている。米国・フィラデルフィア小児病院のRossano氏らは、第III相二重盲検無作為化比較試験であるSCOUT-HCM試験にて、青年期(12歳以上18歳未満)のHOCM患者において、マバカムテンがプラセボと比較して、28週間にわたり左室流出路閉塞を有意に改善することを報告した。 NYHA心機能分類II度またはIII度の症候性HOCM患者44例を、マバカムテン群23例(14.7±1.7歳)、プラセボ群21例(14.6±1.7歳)に無作為に割り付け、有効性と安全性を評価した。マバカムテン群では、ベースラインにおける体重45kg以上は1日1回5mg、35kg以上45kg未満は1日1回2.5mgで投与を開始した。バルサルバ法による左室流出路圧較差および左室駆出率(LVEF)に基づき、増量または減量が可能であった。主要エンドポイントは、誘発時の左室流出路圧較差のベースラインから28週時の変化量であった。 誘発時の左室流出路圧較差は、それぞれ78.4±34.1mmHg、80.8±47.4mmHgであった。28週時点の誘発時左室流出路圧較差の最小二乗平均変化量は、マバカムテン群 -48.5 mmHg、プラセボ群 -0.5mmHgであった(p<0.001)。有害事象の発現率は両群で同程度で、重篤な有害事象は各群2例で認められた。マバカムテン群では1例で失神、もう1例で植込み型除細動器による不適切ショックが報告された。プラセボ群では1例で胸痛、もう1例で自殺念慮を伴ううつ病が報告された。LVEFが50%未満に低下した患者はなく、試験期間中に死亡の報告はなかった。また、心臓のリモデリングが改善し、病気の自然経過が改善される可能性を示唆する兆候がみられた。 本研究の限界として、被験者数が比較的少ない、研究期間が短い、被験者の大部分が白人であることが挙げられる。そのため、50週間の追跡調査、12歳未満の小児、さまざまなタイプのHOCM患者における有効性を今後研究すると書かれている。これまで、効果の高い新薬の、青年や小児への適応拡大に時間と治験費用がかかることが問題視されていた。その意味で、マバカムテンの青年患者への速やかな適応拡大を期待させる非常に意義のある試験である。

87.

Ca拮抗薬、ARBで降圧不十分な場合には低用量のサイアザイド系利尿薬がきわめて有効であるが、合剤は高齢者では慎重に(解説:桑島巖氏)

 TRIDENT研究は、脳出血発症後、収縮期血圧が130~160mmHgに安定した状態の1,670例(平均年齢58歳)を、テルミサルタン20mg、アムロジピン2.5mg、インダパミド1.25mgの1つの合剤治療(ピル)群とプラセボ群に1:1にランダム化して追跡した国際試験である。 結果としては、2.5年間の追跡期間中に、主要エンドポイントである脳卒中の再発は合剤(ピル)群は38例(4.6%)であり、プラセボ群の62例(7.4%)に比して有意に少なかったというものである。追跡中の血圧値はピル群127mmHg、プラセボ群138mmHgであった。重大な有害事象には両群で差がなかったが、試験の中止の理由は合剤群で血清クレアチニンレベルが有意に上昇したためであると報じている。 本試験の結果は、以下の2点について示唆的である。1つは、脳出血の最初には積極的な降圧が重要である点。そしてそのためには、ARB、ACEなどのRA系抑制薬にサイアザイド系類似薬インダパミドを加える降圧治療がきわめて有用であることはPROGRESS試験でも証明されている。ただし、本試験の合剤は、テルミサルタン20mg、アムロジピン2.5mg、インダパミド1.25mgであるが、わが国では1.25mgは発売されておらず、1mg・2mg錠のみである。さらに、高齢者の多いわが国では、インダパミドは高齢者では低ナトリウム血症や低カリウムなどを来すため、0.5mg(1錠の半分)で安全かつ十分な効果を発揮できる。また、本試験の中断の要因となったクレアチニン値の上昇が可逆性とはいえ使いづらい。したがって、本試験で用いられているピルは、日本人では副作用による用量調整が困難となり、適用は困難である。わが国のガイドラインで示されているように、カルシウム拮抗薬、RA系で降圧不十分な場合、積極的にサイアザイド系利尿薬を少量追加するのが妥当である。本試験のようにインダパミド1.25mgを含有する合剤をいきなり処方することは、高齢者では慎重であるべきである。まずは0.5mgから開始し、電解質異常が発生しないことを確認しながら処方すべきである。 近年、ARNI(アンジオテンシン受容体ネプリライシン阻害薬)であるエンレストが降圧薬としてかなり処方されているというが、本来は心不全治療薬であり、欧米では降圧薬としては認可されていない。製薬会社は、心不全に比べて高血圧市場のほうが圧倒的に多いという事情から、降圧薬としての高血圧治療の認可を取得したが、最近発表された日本高血圧学会のガイドライン2025では、ステップ1段階では、カルシウム拮抗薬、ARB/ACE阻害薬、少量のサイアザイド系利尿薬、β遮断薬のみに限定し、それでも降圧不十分な場合にのみARNI、MR拮抗薬を用いるべきとの指針を示している。南江堂の『今日の治療薬』にも、エンレストは慢性心不全の治療を受けている患者に限定して用いると明記、強調されている点は立派である。 その指針に従わない場合には、保険審査により査定される可能性があることは忘れてはならない。ARB/ACE阻害薬に少量のサイアザイド系利尿薬を追加するのみで、かなりの降圧効果が得られることは念頭に置くべきである。 本試験の奇異に感じる点は、オーストラリアや英国などの先進国にスリランカ、ナイジェリアなどの発展途上国を交えた国際試験であることだが、60歳未満ですでに脳出血に罹患している例が多いことは、発展途上国では健康管理がいまだ不十分な症例が多いことをうかがわせる。

88.

「MASLD診療ガイドライン」改訂、脂肪肝を全身疾患として再定義/日本消化器病学会

 2026年4月、「MASLD診療ガイドライン」が改訂された1)。2020年に発刊した前版の「NAFLD/NASH診療ガイドライン」から6年ぶりの改訂で、第3版となる。2026年4月16~18日に開催された第112回日本消化器病学会総会では、改訂ポイントを解説するパネルディスカッションが開催された。 今改訂の最大のトピックスは、疾患名の変更とその定義だ。従来、脂肪性肝疾患に用いられてきた「NAFLD(非アルコール性脂肪性肝疾患)」「NASH(非アルコール性脂肪肝炎)」の疾患名は国際的コンセンサスに基づき、2023年に「MASLD(metabolic dysfunction-associated steatotic liver disease)」「MASH(metabolic dysfunction-associated steatohepatitis)」に変更された。日本でも日本消化器病学会・日本肝臓学会がこれに賛同し、2024年8月に「MASLD:代謝機能障害関連脂肪性肝疾患」「MASH:代謝機能障害関連脂肪肝炎」との日本語名を発表している。改訂版ガイドラインでは、これらの新たな疾患名・定義を踏まえた診断・診療体系が提唱された。疾患定義:世界的な名称変更 NAFLDという名称は1980年代に提唱され、その後40年以上にわたり使用されてきた。しかし「non-alcoholic(非アルコール性)」という否定形表現や、「fatty」という言葉が患者へのスティグマにつながるとの指摘が国際的に強まっていた。これを受け、脂肪性肝疾患を「SLD(steatotic liver disease)」という1つの大きな疾患群として捉え直し、そのなかで心代謝系危険因子(CMRF)の有無、飲酒量、その他(薬物、ウイルス、遺伝子など)の要因に応じて疾患を再分類したうえで、その中心的な病態としてMASLDが位置付けられた。従来のNAFLD/NASHとMASLD/MASHの臨床像や診断アルゴリズムはおおむね一致しており、従来のエビデンスは引き続き活用される。診断フローチャート:新たに「MetALD」を設定 新たな疾患分類では、SLDを認めた患者に対し、まず、CMRFの有無を評価する。ガイドラインではCMRFとして 1)肥満:BMI≧23kg/m2 or 腹囲男性>94cm・女性>80cm 2)血糖:空腹時≧100mg/dL or 食後2時間≧140mg/dL or HbA1c≧5.7% or 2型糖尿病 or その治療 3)血圧:収縮期≧130mmHg or 拡張期≧85mmHg or 降圧薬内服 4)中性脂肪:≧150mg/dL or 脂質異常症治療薬内服 5)HDL:男性≦40mg/dL、女性≦50mg/dL or 脂質異常症治療薬内服の5項目を採用している。これらのリスク因子が1つ以上あり、かつ飲酒量が基準未満(純エタノール量:男性30g/日未満・女性20g/日未満)であればMASLDと診断される。 今回のガイドラインでは、新たな疾患カテゴリとして、CMRFが1つ以上の中等量飲酒例(男性30~60g/日・女性20~50g/日)を「MetALD(代謝機能障害アルコール関連肝疾患)」として独立して規定した。これを超える飲酒量であれば「ALD(アルコール関連肝疾患)」となる。MetALDは従来ではNAFLDから除外されていた群だが、近年、代謝異常とアルコール双方が病態進展に関与すると示されたことを背景に設定され、MASLDよりも肝関連イベントリスクが高いことが報告されている。さらに心血管イベントも増加するとの報告もあることがFRQで示され(FRQ1-1)、今後はこれらの病態に応じた治療法やサーベイランス法の開発が重要となる。診断:肝生検が「必須」から外れる BQ4-1 MASLDの診断に肝生検は必須か? MASLDの診断に肝生検は必須ではない。 今回の改訂で大きな変更点が、確定診断にあたって「肝生検は必須ではない」とされた点だ。これは近年のNIT(非侵襲的検査)の発達によるもので、NITには血液検査による肝線維化マーカー、年齢と検査値を組み合わせたスコアリングシステム(FIB-4 indexなど)、画像検査、そしてこれらの組み合わせがあり、非侵襲的かつ繰り返し評価できることが大きなメリットとなる。とくに複数の線維化マーカーが保険収載されているのは世界中で日本だけであり、この点に関するエビデンスを蓄積することも求められている。一方、肝生検を必要とするケースも依然として存在しており、高リスクMASHの確定診断、炎症の程度の把握が必要なケース、複数のNITの不一致例などが挙げられている。 今回、診断フローチャートのほかに「肝疾患高リスク症例の絞り込み・フォローアップのフローチャート」が作成された。これはNITと肝生検を組み合わせて高リスク症例を絞り込む手順と、その検査や重症度別の患者のフォローアップをかかりつけ医と専門医でどう分担すべきか、という2軸のマトリクスからなる。NITを使った2段階のハイリスク症例の絞り込み、2次リスク評価で使用できるNITのリストアップ、肝生検・超音波エラストグラフィ・MRエラストグラフィによる最終評価と治療方針の決定、その後のリスクに応じたフォローアップ体制など、診断の全体像と医師の役割分担の提唱が可視化されている。非専門医が押さえるべきポイント・従来、「飲酒歴を確認し、ウイルス性肝炎、アルコール性肝障害を除外した残り」としてNAFLDを診断していたが、MASLDにおいてはBMI、糖代謝異常、高血圧、脂質異常症などのCMRFの確認が診断プロセスの中心となる。・飲酒評価の重要性も増した。とくにMetALD概念の導入により、「少量飲酒であれば問題ない」と一律に扱うことは難しくなった。ガイドラインではMASLDを男性30g/日未満、女性20g/日未満、MetALDを男性30~60g/日、女性20~50g/日の飲酒群として整理しているが、実際にはMASLD基準内の少量飲酒でも線維化リスク上昇が報告されており、診療現場では飲酒量を細かく聴取することが重要になる。・「MASLD患者の消化器科へのコンサルテーション基準は?」という設問(BQ4-2)に対しては、「FIB-4 index>2.67(65歳以下の場合)」の高リスク群を紹介基準とし、同1.3~2.67の中間リスク群でも「血小板数<20万/μL」「AST値・ALT値が持続高値」「画像検査で肝硬変の所見を認める」場合には紹介が望ましいとされている。全身疾患としてのMASLD MASLDは多くの疾患と関連するが、診断基準となるCMRF関連4疾患である「2型糖尿病、脂質異常症、肥満、高血圧」についてはBQが設定され、相互補完関係にあることが示されている(BQ3-1~3-4)。さらに、慢性腎障害、内分泌異常、睡眠時無呼吸症候群など、多様な合併症との関連も整理された(BQ3-5、3-6)。また、肝臓以外の悪性腫瘍リスク上昇についても大腸がんを中心に、胃がん、食道がん、婦人科がんとの関連が解説された(BQ3-7)。中でも心血管疾患はMASLD患者の主要死因の1つであり、大規模メタ解析では、MASLD患者の心不全新規発症リスクは一般人口の約1.5倍と報告されている。一方で、肝線維化が心血管リスクを上昇させる独立した因子であるかについては現時点ではまだ明確ではなく、今後探索していくべき課題とされた(FRQ3-1、3-2)。 治療面では、生活習慣介入が中心である点は従来と変わらないが、「単純性脂肪肝だから経過観察のみ」という従来型対応は見直されつつある。肥満、糖尿病の合併例、線維化進展を伴う例では、早期から積極的介入を行う方向性がより明確になっている。GLP-1受容体作動薬やSGLT2阻害薬など代謝改善薬への期待も高まっており、今後の承認に向けての動きやエビデンス蓄積が注目される。

89.

うつ病治療戦略、第2世代抗精神病薬増強療法はどのタイミングで検討すべきか

 重篤な疾患を有する患者では、うつ病が頻繁に認められる。重篤な疾患に合併するうつ病は、日常生活に支障を来し、多くの場合、迅速な改善が求められる。従来の抗うつ薬では、効果が現れるまでに数週間かかることが課題となっていたが、第2世代抗精神病薬(SGA)は、一般的な精神疾患患者において、より迅速な効果発現と強力な増強効果を示すことが示唆されている。米国・エモリー大学のGregg Robbins-Welty氏らは、一般的な精神疾患および重篤な疾患を有する患者のうつ病に対するSGAの単剤療法および増強療法としての使用に関するエビデンスのレビューを実施した。Journal of Pain and Symptom Management誌オンライン版2026年3月21日号の報告。 主な内容は以下のとおり。・精神医学的エビデンスでは、SGAの増強療法は、奏効率および寛解率を改善し(オッズ比:1.34~2.93、治療必要数:7~13)、その効果は1~2週間以内に認められた。・単剤療法は、忍容性が低く、ガイドラインでは推奨されていなかった。・重篤な疾患を有する患者におけるうつ病に対するSGAの有効性を特異的に評価したランダム化比較試験は存在しなかった。しかし、多くの悪性腫瘍の臨床試験において、悪心、食欲不振、その他の症状に対するSGAの安全性が支持されていた。・重篤な疾患に特化した精神医学的臨床試験は実施されていなかった。しかし、SGAは増強療法の中で最も強力なエビデンスを有しており、予後や症状の重症度から迅速な改善が求められる場合には、好影響をもたらす可能性が示唆された。 著者らは「SGAの増強療法は、複数の抗うつ薬が無効であった場合だけでなく、早期に低用量での導入を検討すべきである。とくに、SGAは緩和ケアに関連して併発する身体症状にも効果を発揮する可能性がある」としている。

90.

コントロール不良の高血圧、チームベースの介入は有効か

 チームによる集中的な治療によって、コントロール不良の高血圧患者の血圧が大幅に低下する可能性があることが、米テュレーン大学疫学教授のKatherine Mills氏らによる新たな臨床試験で示された。高血圧患者のうち、チームベースの多角的な治療を1年半にわたって受けた患者では、収縮期血圧が平均で約16mmHg低下したという。この臨床試験の結果は、「The New England Journal of Medicine(NEJM)」に4月8日掲載された。 研究グループによると、米国では成人の半数以上が130/80mmHg超で定義される高血圧に該当する。さらに問題なのは、高血圧患者の約78%で血圧が適切にコントロールされていないことだ。コントロール不良の高血圧は、心疾患や脳卒中、腎不全、認知症、早期死亡のリスク上昇と関連している。 今回の臨床試験では、コントロール不良の高血圧患者1,272人(平均年齢58.8歳、女性56.7%)を対象に、チームベースの多角的な高血圧治療の効果が検討された。対象者は、多角的なアプローチで血圧管理を受ける介入群(642人)と、強化された標準ケアを受ける対照群(630人)にランダムに割り付けられた。多角的なアプローチは、医師や看護師などによるチーム医療、プロトコルに基づく厳格な血圧管理、血圧管理の評価とフィードバック、生活習慣・服薬のコーチング、家庭血圧測定で構成されていた。一方、標準ケアの強化として、医師に対して高血圧の診療ガイドラインに関する教育が実施された。 18カ月後、介入群の収縮期血圧はベースラインから平均で15.5mmHg低下したのに対し、対照群では9.1mmHgの低下にとどまった。両群間の差は統計学的に有意であった(P<0.001)。研究グループによると、この収縮期血圧の差は、心筋梗塞や脳卒中、心不全といった心血管イベントの約10%の減少につながる可能性があるという。また、介入群では、収縮期血圧130mmHg未満の達成率が47.7%、120mmHg未満の達成率が21.8%だったのに対し、対照群の達成率は、それぞれ36.4%、15.1%にとどまっていた。 筆頭著者のMills氏は、「高血圧を治療するためのツールは既に複数あるが、難しいのは、こうしたツールをプライマリケアに効果的に取り入れ、患者の薬物療法や生活習慣の改善の遵守につなげることだ。本試験では、農村部と都市部の低所得地域において、コントロール不良の高血圧患者を支援し、治療するチームによるアプローチが、血圧を効果的に低下させ得ることが示された」とニュースリリースの中で述べている。 共著者でテュレーン大学医学部プライマリケア医学部門長のMarie Krousel-Wood氏は、「臨床試験に参加した患者の多くは長年にわたって高血圧の治療を受けてきた患者であった。このことから、臨床現場のような困難を伴う状況においてもこのアプローチが血圧低下に有効であることが示されたといえる」とニュースリリースで述べている。 研究グループは、全米の約1,400施設に上る連邦政府認定保健センターや、人々がプライマリケアを受けるあらゆる場所に、こうしたチームベースのアプローチが導入されることを望んでいるという。論文の上席著者で米テキサス大学サウスウェスタン医療センター公衆衛生大学院疫学部門長のJiang He氏は、「コントロール不良の高血圧は、臨床および公衆衛生における重大な課題である。血圧コントロールを向上させるため、この効果的で持続可能かつ拡張可能な導入戦略を米国で広く採用すべきだ」と、ニュースリリースで主張している。

91.

薬剤性過敏症症候群〔DIHS:drug-induced hypersensitivity syndrome〕

1 疾患概要■ 概念・定義薬剤性過敏症症候群(drug-induced hypersensitivity syndrome:DIHS)は、発熱と多臓器障害を伴う重症型薬疹の1つである。抗けいれん薬など特定の薬剤を内服開始後、遅発性に発症し、原因薬剤を中止しても症状の再燃や遷延化がみられることが特徴である。多くの場合、発症後3週間前後でヒトヘルペスウイルス6(HHV-6)に代表されるヘルペスウイルスの再活性化を伴うことから、薬剤アレルギーとヘルペスウイルス感染症が複合して生じる新たな病態として認識されている(図1)。DIHSのもう1つの特徴として、回復期に1型糖尿病や慢性甲状腺炎などの自己免疫疾患を発症することが知られている。なお、欧米を中心にDRESS(drug reaction with eosinophilia and systemic symptoms)という疾患概念が用いられるが、DRESSの診断基準にはヘルペスウイルスの再活性化については言及されておらず、DIHSよりも広い範囲の薬疹が含まれる。図1 DIHSの病態の仮説■ 疫学2021年の全国調査によれば、年間受療患者数は人口100万人当たり2.82人と推計されている。男女比は1:1で、発症年齢は40~60代(中央値58歳)が最多である。原因薬剤は比較的限定的であり、カルバマゼピン、ラモトリギン、フェニトイン、フェノバルビタール、ゾニサミドなどの抗てんかん薬のほか、アロプリノール、ジアフェニルスルホン、サラゾスルファピリジン、メキシレチンなどが代表的である。DIHSの致死率は約10%程度と高く、死因の多くはサイトメガロウイルス(CMV)肺炎やニューモシスチス肺炎などの感染症である。■ 病因本症は、原因薬剤を通常2~6週間(平均1ヵ月)内服した後に発症する。病態は、T細胞を主体とする薬物アレルギー反応とヘルペスウイルスの再活性化が中心である。急性期にはTARC/CCL17の著明な上昇や好酸球増多に象徴されるTh2反応の亢進がみられる。また、急性期には制御性T細胞(Treg)の増加がみられるが、経過中にその機能やバランスが崩れることが、ウイルス再活性化や後遺症としての自己免疫疾患発症に関与すると考えられている。さらに、急性期には末梢血のCD4陽性T細胞表面にHHV-6の受容体であるCD134/OX40の発現が亢進しており、これがウイルスの効率的な感染拡大を許容する一因である可能性が示唆されている。■ 症状初期症状として発熱、頸部リンパ節腫脹、顔面や躯幹の紅斑が生じる。皮疹は播種状紅斑丘疹型や多形紅斑型で始まり、急速に拡大してしばしば紅皮症状態に移行する(図2)。特徴的な顔貌として、顔面の浮腫を伴う紅斑、眼周囲の蒼白、鼻孔・口周囲に鱗屑・痂皮を伴う丘疹や小膿疱がみられる(図3)。肝機能障害や腎機能障害などの内臓病変や、異型リンパ球の出現、好酸球増多、白血球増多などの血液学的異常を伴う。図2 DIHSにおける紅皮症状態画像を拡大する図3 DIHSに特徴的な顔貌■ 予後原因薬剤を中止しても皮疹や臓器障害が遷延し、経過中に再燃を繰り返す。発症3~5週間前後にCMVの再活性化が生じ、肺炎、腸炎、消化管出血、肝障害などの致死的な合併症を引き起こすことがある。また、DIHSの症状が軽快した数ヵ月から数年後に、橋本病、劇症1型糖尿病、円形脱毛症、白斑などの自己免疫疾患を発症することがあり、長期的な経過観察が必要である。2 診断診断は、厚生労働省研究班による診断基準(2005年)(表)に基づいて行う。表 薬剤性過敏症症候群(DIHS)診断基準(2005)■ 概念高熱と臓器障害を伴う薬疹で、薬剤中止後も遷延化する。多くの場合、発症2~3週間後にHHV-6の再活性化を生じる。■ 主要所見1. 限られた薬剤投与後に遅発性に生じ、急速に拡大する紅斑、多くの場合紅皮症に移行する。2. 原因薬剤中止後も2週間以上遷延する。3. 38℃以上の発熱4. 肝機能障害5. 血液学的異常:a、b、cのうち1つ以上a. 白血球増多(11,000/mm3以上)b. 異型リンパ球の出現(5%以上)c. 好酸球増多(1,500/mm3以上)6. リンパ節腫脹7. HHV-6の再活性化典型DIHS1~7すべて非典型DIHS1~5すべて、ただし4に関しては、その他の重篤な臓器障害をもって代えることができる。■ 参考所見1. 原因医薬品は、抗けいれん薬、ジアフェニルスルホン、サラゾスルファピリジン、アロプリノール、ミノサイクリン、メキシレチンであることが多く、発症までの内服期間は2~6週間が多い。2. 皮疹は、初期には紅斑丘疹型、多形紅斑型で、後に紅皮症に移行することがある。顔面の浮腫、口囲の紅色丘疹、膿疱、小水疱、鱗屑は特徴的である。粘膜には発赤、点状紫斑、軽度のびらんがみられることがある。3. 臨床症状の再燃がしばしばみられる。4. HHV-6の再活性化は、(1)ペア血清でHHV-6 IgG抗体価が4倍(2管)以上の上昇、(2)血清(血漿)中のHHV-6 DNAの検出、(3)末梢血単核球あるいは全血中の明らかなHHV-6 DNAの増加のいずれかにより判断する。ペア血清は発症後14日以内と28日以降(21日以降で可能な場合も多い)の2点で確認するのが確実である。5. HHV-6以外に、サイトメガロウイルス、HHV-7、EBウイルスの再活性化も認められる。6. 多臓器障害として、腎障害、糖尿病、脳炎、肺炎、甲状腺炎、心筋炎も生じうる。■ 早期診断の補助検査診断基準項目に「中止後2週間以上の症状の遷延」や「発症2~3週間後のHHV-6再活性化」が含まれるため、発症早期の確定診断は困難である。早期にDIHSを疑う指標として、急性期の血清TARC値の測定が有用であり(4,000pg/mL以上で疑う)、2023年に「DIHS/DRESSの診断の補助」としての保険適用が追加された。■ 鑑別診断と原因薬剤の特定通常の薬疹や、麻しん・風しんなどのウイルス性発疹症との鑑別を要する。DIHSを疑う臨床的ポイントとして、原因薬剤が比較的限られていることから、詳細な薬剤内服歴(2~6週間の服用歴)の聴取が不可欠である。また、原因薬剤中止後も皮疹や臓器障害が遷延・悪化することも、他の薬疹との重要な鑑別点となる。特有の顔貌(図3)や、皮疹が急速に紅皮症化する経過(図2)も診断の有力な手掛かりとなる。HHV-6の再活性化は、一般に末梢血液中のHHV-6 DNAの定量(リアルタイムPCR法)によって判断するが、現時点では保険適用外の検査である。被疑薬の特定には、薬剤添加リンパ球刺激試験(DLST)やパッチテストが有用である。ただし、DLSTは発症早期には偽陰性となりやすく、発症後5週目以降の回復期に実施する必要がある。なお、重症化リスクを考慮し、薬剤の再投与試験(誘発試験)は行わない。3 治療■ 治療の実際DIHSを疑った場合は、第一に被疑薬を中止し、原則として入院加療とする。病初期に起こる全身症状と臓器障害の寛解を目指し、副腎皮質ステロイドの全身投与が治療の基本となる。中等~高用量(プレドニゾロン換算0.5~1mg/kg/日)で開始し、症状が十分に改善するまで(通常7~14日間)維持する。その後は、症状をみながら1~2週間ごとに5~10mg/日ずつ緩徐に漸減する。急激なステロイドの減量は、免疫再構築症候群を招きCMV感染症を顕在化させるリスクがあるため避けるべきである。臓器病変を伴わない軽症例に対しては、ステロイド全身投与を行わず、局所ステロイド外用や補液などの支持療法(supportive therapy)で経過観察することもある。ステロイドパルス療法は、CMVの再活性化や自己免疫疾患の発症に関与するとの否定的見解が主流であり、重篤な臓器障害への進展など特殊な状況に限り検討される。■ CMV感染症への対応発症3~5週前後にCMVが再活性化し、ステロイドの減量を契機として突然、肺炎や消化管出血などの致死的合併症を発症することがある。経過中は常にCMVのモニタリングを行い、顕性感染症を認めた場合には、抗ウイルス薬(ガンシクロビル)の投与による積極的な介入を行う。■ 多剤感作への配慮DIHSの経過中は多剤感作を引き起こしやすいため、解熱や感染予防目的での非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)や抗菌薬の新たな投与は可能な限り避けるべきである。4 今後の展望DIHSの病態については、HHV-6やCMV再活性化の病態への関与について多くの知見が得られてきたものの、依然として未解明な点が残されている。とくに、最適なステロイド減量プロトコールの確立は急務であり、大規模な症例レジストリに基づくエビデンスの蓄積と治療指針の更新が期待される。また、回復期に発症する自己免疫疾患などの遅発性合併症は、患者の長期予後を左右する重要な課題である。今後は、これらの合併症を予測するバイオマーカーの同定や、その発症を制御する新たな介入法の開発が望まれる。5 主たる診療科皮膚科(重篤な臓器障害を伴うため、十分な検査と全身管理を行える施設への早期のコンサルテーションが重要である)。6 参考になるサイト診療、研究に関する情報薬剤性過敏症症候群診療ガイドライン 2023(日本皮膚科学会/重症多形滲出性紅斑に関する厚労省調査研究班)(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)重篤副作用疾患別対応マニュアル(厚生労働省)(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)医薬品副作用被害救済制度(独立行政法人 医薬品医療機器総合機構)  (一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)公開履歴初回2026年5月12日

92.

高血圧管理・治療ガイドライン2025(8):新型タバコ【一目でわかる診療ビフォーアフター】Q166

高血圧管理・治療ガイドライン2025(8):新型タバコQ166高血圧症でかかりつけの40代男性。1箱/日の喫煙をしており、禁煙指導を試みたが「加熱式タバコだから大丈夫」と無関心な状態。本当に大丈夫だろうか?

93.

最適な輸液ルート選択の考え方 その弐【ケースで学ぶ輸液オーダー】第3回

最適な輸液ルート選択の考え方 その弐中心静脈カテーテル(CVC)を選択する際、ルーメン数は「大は小を兼ねる」と考えがちですが、実はそうではありません。ルーメンが1つのみのほうが最適な場合もあります。今回は、あえてシングルルーメンを選ぶべき状況について確認しましょう。症例70代女性、胃がんによる幽門狭窄。1ヵ月前からの食欲不振と繰り返す嘔吐により全身倦怠感を来して受診、るいそうが顕著です。幸い遠隔転移はなく根治手術を目指せますが、高度の低栄養状態です。経口からの十分な栄養摂取は困難なことから、2週間の静脈栄養ののちに手術を行う方針となりました。研修医A君は指導医から栄養管理を任されました。さて、どのような静脈路が望ましいでしょうか?図1 幽門狭窄を来した胃がん画像を拡大する考えかたの整理高度な栄養障害を認める場合、ESPENのガイドラインでは術前7~14日間の栄養療法を推奨しています1)。第1選択は経腸栄養ですが、本例のような通過障害がある場合は静脈栄養の出番です。高カロリー輸液を行うには中心静脈路が必要ですが、静脈栄養以外の他の薬剤投与の予定がないのであれば、ルーメン数は1つで十分です。さらに、CDCガイドラインでは、カテーテル関連血流感染(CRBSI)防止の観点から、「必要最小限のルーメン数」の使用を強く推奨しています2)。ここでお勧めしたいのが末梢挿入型中心静脈カテーテル(PICC)です。PICCのシングルルーメンは外径わずか1mm程度(3Fr)。これを上肢から挿入することで、血胸や気胸といった穿刺に伴う重篤な合併症のリスクを避けつつ、安全に中心静脈路を確保できます。PICCのピットフォールPICCは安全なデバイスですが、弱点もあります。それは従来のCVCに比して深部静脈血栓症(DVT)のリスクが高いという点です3)。このリスクを回避する鍵は「血管選び」にあります。カテーテル外径は、血管内径の45%を超えると血流の停滞により血栓リスクが高まるという報告があり4)、「血管径の33%(1/3)以内」に収めるべしとされています5)。つまり、穿刺前のエコー観察で上腕にカテーテルの3倍以上の太さがある血管を見付けることができれば、その時点で「頂き」と言えるでしょう。また、解剖学的な走行も重要です。尺側皮静脈(Basilic vein)は直線的に鎖骨下静脈へ連続しますが、橈側皮静脈は急峻な角度で合流しています。このため、穿刺の第1選択は尺側皮静脈をお勧めします。もう1つのPICCの弱点として、カテーテルが細くて長いため急速輸液には使えないことも知っておきましょう。図2 PICCの至適挿入部位画像を拡大する本症例の対応A君は、栄養投与のみを目的としてシングルルーメンのPICC(外径1mm)を選択しました。右上腕をエコーで観察したところ、カテーテル径の3倍を優に超える直径5mmの尺側皮静脈を確認できました。エコー下穿刺でスムーズに挿入し、合併症なく術前栄養療法を行い、手術の準備を整えることができました。中心静脈輸液の目的が1つであれば、穿刺が安全なシングルルーメンのPICCを選びましょう。シングルルーメンカテーテルから輸液する場合の注意点シングルルーメンカテーテルから注射薬を投与する場合には、投与ルートがメインの輸液ルートとその側管に限られてしまうため、投与方法に工夫が必要になります。配合変化が混合直後に発生する場合は、各注射薬を物理的に接触させないためにメインの輸液をいったん止める必要がありますが、メインの輸液を中断するリスクについても検討して投与ルートの設計を行うことが大切です。シングルルーメンカテーテルから中心静脈栄養施行中の患者さんに、セフトリアキソンの投与が開始されたケースで投与ルートの設計をしてみましょう。国外において、新生児にセフトリアキソンとカルシウム含有注射薬を同一経路から同時に投与した場合に肺、腎臓などに生じたセフトリアキソンを成分とする結晶により、死亡に至った症例が報告されています6)。高カロリー輸液はカルシウムを含有しており、セフトリアキソンとの同一経路からの同時投与は推奨されません。そのため、通常は(1)高カロリー輸液の投与をいったん中断する、(2)ルート内を生理食塩液でフラッシュする、(3)側管からセフトリアキソンを投与する、(4)ルート内を生理食塩液でフラッシュする、(5)カロリー輸液の投与を再開する、という対策をとることで高カロリー輸液とセフトリアキソンの物理的接触を回避できると考えるでしょう。では、セフトリアキソン投与中の30~60分間にわたって高カロリー輸液を中断することは問題ないのでしょうか? 高カロリー輸液(糖濃度12%)中止後の血糖変動をみた報告7)では、低血糖症状は呈さないものの、いずれの症例においても24~80mg/dL低下していたことが確認され、中止20分で44mg/dLまで低下している例もありました。高カロリー輸液の急な中断は、30分程度といえども低血糖を引き起こすリスクがあることから、何かしらの対策が必要と考えられます。具体的には、(1)セフトリアキソンのみ末梢静脈から投与することは可能か、(2)低血糖への対策(高カロリー輸液を中断する1時間前から投与速度を半減する8))をとることは可能か、(3)同じ第3セフェム系薬剤で同等のスペクトラムをもつセフォタキシムへの変更は可能か、からどの対策をとるか医師・看護師・薬剤師などのチームで議論することが望ましいでしょう。注射薬を効果的かつ安全に投与するためには、多職種チームでルート管理に対応していく必要があります。1)Weimann A, et al. Clin Nutr. 2021;40:4745-4761.2)O'Grady NP, et al. Clin Infect Dis. 2011;52:e162-193.3)Chopra V, et al. Lancet. 2013;382:311-325.4)Sharp R, et al. Int J Nurs Stud. 2015;52:677-685.5)Nifong TP, et al. Chest. 2011;140:48-53.6)医薬品安全性情報 Vol.7 No.10(2009/05/14)7)日本消化器外科学会編. 日消外会誌.1982;15:491-500.8)井上善文著. 静脈経腸栄養ナビゲータ エビデンスに基づいた栄養管理. 照林社;2021.

94.

喘鳴をみたら喘息?【喘息・COPDのここが知りたい!】第1回

皆さま、こんにちは。神奈川県川崎市にあります日本鋼管病院という地域の総合病院で呼吸器内科医として働いています田中 希宇人(たなか きゅうと)と申します。ネット上では「キュート先生」の名前で医療情報発信を行っています。川崎南部地域は肺がん・COPD・喘息など、呼吸器疾患の患者さんが多く、呼吸器の症状で困っている方を10年以上診療してきています。喘息・COPDのガイドラインはしっかり策定されておりますが、すべての患者さんがガイドラインに当てはまるわけではありません。本連載では、それらのガイドラインの隙間を埋めるような実臨床で役立つ内容、悩む状況などについて一緒に考えていきたいと思います。ぜひご意見やご感想もお寄せいただけますと幸いです。喘鳴をみたら喘息?はじめに:その喘鳴をどう診ますか?日常診療において、患者さんが「ゼーゼーする」「ヒューヒューいう」と訴えて来院された際、真っ先に頭に浮かぶのは「喘息」ではないでしょうか。実際に喘息は非常に頻度の高い疾患であり、その症状の1つに「喘鳴(ぜんめい)」があります。喘鳴とは、気道が狭くなることで「ゼーゼー」や「ヒューヒュー」といった異常な呼吸音が連続的に発生する状態を指します。この音は、狭くなった気道を空気が無理に通過する際に生じる振動によるものです。喘鳴は、聴診器を使わなくても聞こえることもあります。息を吸う時に聞かれる「吸気性喘鳴」と吐く時に聞かれる「呼気性喘鳴」があります。音が聞こえるタイミングや、気道のどの部分が狭くなっているかで病気を推測できる場合があります。しかし「All that wheezes is not asthma(喘鳴がすべて喘息とは限らない)」1,2)という言葉があります。ガイドラインには「喘息の治療法」については詳しく書いてありますが、「この喘鳴が本当に喘息なのか」という診断や鑑別プロセスについては、多くを語ってくれません。ましてや、目の前の患者さんが「喘息なのか」については教えてくれません。本連載では、ガイドラインの行間に隠れた、実臨床での「診療のコツ」をお伝えしていきたいと考えています。第1回は多くの先生方が最も迷いやすく、かつ見逃してはならない「喘鳴の鑑別」について深掘りしていきます。喘鳴の「音」を解剖する:stridorとwheeze聴診器を当てて何か「音がする」だけで満足してはいけません。その異常な音が「いつ」「どこで」聞こえるかが、診断の最大のヒントになります。外来診療では長い時間がとれないため、患者の頸部で聴診します。深呼吸で、呼気は勢いよく最後の最後まで吐ききってもらいます。典型的な喘息の喘鳴は、呼気終末に聴取されます。喘鳴が聞かれる場合に、まず重要なのは音が吸気時(息を吸うとき)に強いのか、呼気時(吐くとき)に強いのかという点です。呼気性喘鳴(wheeze)主に末梢気道が狭窄しているサインです。喘息やCOPDの典型的な音です。吸気性喘鳴(stridor)主に上気道・中枢気道の閉塞を示唆します。喉頭浮腫、声帯機能不全、異物、気管腫瘍などが疑われます。もし吸気時に強い「ヒュー」という音が聞こえたなら、それは喘息の増悪ではなく「上気道の緊急事態」かもしれません。この見極め一つで対応が劇的に変わります。次に、聞かれる音がmonophonic(単音性)なのか、polyphonic(多音性)かということがわかると、さらに病気が絞られます。monophonic聴診してどこの部位で聞いても同じ高さの「ピー」という音が聞こえる状態。これは、特定の太い気道が1点で狭まっている、腫瘍や異物などの病態の可能性を考えます。polyphonic胸のあちこちで異なる高さの音が混ざって聞こえる状態。これは喘息のように、肺全体であちこちの気道が狭くなっている病態を示します。喘息と間違えやすい3つの病態咳・息切れ・喘鳴などの症状があると「喘息」が疑われ、呼吸器外来を受診することが多いです。そこで気を付けなければいけない、喘息と間違えやすい代表的な3つの疾患を紹介しましょう。(1)心不全最も頻度が高く、かつ命にかかわるのが心不全です。左心不全による肺水腫で気管支粘膜が浮腫を起こすと、喘息そっくりの喘鳴が聴取されます。見分けるポイントがいくつかあります。喘息の喘鳴は「夜間・早朝」に強く認められますが、心不全は「横になる時(臥位)」に症状が悪化します。また、心不全徴候であるIII音の聴取、下腿浮腫や頸静脈怒張の有無、X線で心拡大やバタフライシャドウ、採血でBNP高値などをあわせて確認します。喘息の既往がある高齢者が「最近ゼーゼーがひどい」と受診した場合、じつは心不全がベースにあるケースは珍しくありません。喘息とうっ血性心不全が合併していることがあり、私も気管支拡張薬、ステロイド、利尿薬、降圧薬を同時に投与したことがあります。(2)声帯機能不全(VCD)喘息と考えて吸入ステロイドや気管支拡張薬など各種吸入薬を使ってもまったく症状が改善しない「難治性喘息」の中に紛れ込んでいるのが、声帯機能不全(Vocal Cord Dysfunction:VCD)です。本来、息を吸うときに開くはずの声帯が上手に開かない病態です。VCDによる喘鳴が最も強く聞こえるのは「胸」ではなく「首」です。また、喘息増悪(発作)時にはSpO2が低下することが多いですが、VCDでは正常に保たれていることが多いのも特徴です。「吸入薬が効かない」と訴える方や、心理的ストレスを抱える方では、VCDの可能性を考え耳鼻科医に診察してもらうことも重要です。(3)中枢気道病変(腫瘍・異物)ときどき呼吸器外来で診るのが、肺がんや気管支結核、あるいは高齢者の誤嚥による異物などが原因の喘鳴です。肺がん・気管支がんなどの悪性腫瘍、異物などによる物理的閉塞による喘鳴は「片側だけ」「ある特定の部位だけ」で聞こえます。喘鳴は全肺野で聞かれるはず、という思い込みを捨て、左右の胸の音を丁寧に聞き比べるとわかることがあります。また、喘息増悪で聞かれる喘鳴は、比較的急な経過で聴取されますが、悪性腫瘍が原因の場合には徐々に症状が強くなることが特徴です。喫煙歴のある高齢者の喘鳴で安易に「喘息やCOPDが原因」と決めつけるのは危険です。X線やCTでの精査を躊躇してはいけません。喘鳴を正しく見極めるためのコツ喘鳴が聴取される患者さんで喘息か他疾患の病態かで迷ったとき、実際の医療現場で行っているいくつかのコツを紹介しましょう。(1)SABA(短時間作用性β2刺激薬)に対する反応をみるまず比較的簡単にできるのが、喘息増悪に準じてメプチンなどのSABAをネブライザーで吸入させ、その場で喘鳴が消失あるいは軽減するかを確認することです。これは、非常に有用な診断的治療になります。喘息であれば反応が良いはずですが、心不全や腫瘍による気道の物理的狭窄では反応が乏しいことがわかります。(2)「いつもの喘鳴」との違いを聞いてみる喘息増悪を繰り返す患者さんが一番自分の状態をわかっています。しかし、喘息患者さんでも別の病気を合併することがあります。「今回の症状は、今までの喘息発作と同じ感じですか?」という一言が、別の病気を見つけるカギになることがあります。患者さんが感じる「今回はなんか違う、息が吸い込みにくい感じがする」といった症状には注意が必要です。(3)喘鳴の起こり方を探る喘息の増悪は何かをきっかけに発作的に起こりますが、COPDや心不全の増悪は、動いたときの息切れが先行し、徐々に症状が悪化することが多いです。そのようなきっかけ、安静時の喘鳴なのか労作時の喘鳴なのか、など喘鳴の起こり方を探ってみましょう。おわりに:診断の「質」が治療の「質」を決める喘息治療の進歩により、多くの患者さんが発作を経験せずに平穏に過ごせるようになりました。喘息死も私が研修医だった20年前に比べるとだいぶ減りました。しかし、その一方で咳・息切れ・喘鳴のような症状がある場合に、「とりあえず喘息として吸入薬を出す」ことが、本来見つけるべき他の疾患を見逃すリスクを生んでいる側面もあります。「喘鳴=喘息」という思考をいったんやめて、聴診器から聞こえる音の正体を疑ってみる姿勢が第一歩です。正しい診断が下されれば、正しい治療につながります。そこで既存のガイドラインがさらに活きてくるものと考えています。 1) Jackson C. BMQ. 1865;16:86 2) Kaminsky DA. Chest. 2015;147:284-286.

95.

フェニルケトン尿症の新治療薬セピアプテリンへの期待/PTCセラピューティクス

 PTCセラピューティクスは、フェニルケトン尿症(PKU)の治療薬セピアプテリン(商品名:セピエンス)の発売に伴い、都内でメディアセミナーを開催した。わが国のPKUの発生頻度は約6万人の出生に1人の割合で、年間20人前後が診断され、累計で800人以上の患者が報告されている。PKUは未治療や管理が不十分な状態が続くと知的障害、痙攣発作、発達遅延など重度かつ不可逆的な障害が生じる。治療の基本は食事療法で、フェニルアラニン(Phe)が多く含まれる特定の食材(肉・魚・卵など)の摂取が厳しく制限される。 セミナーでは、PKUの病態や治療薬セピアプテリンの臨床試験の概要と今後の治療の位置付けなどについて講演が行われた。新生児マススクリーニング検査で早期診療が可能に 「フェニルケトン尿症に対するセピエンスへの期待」をテーマに濱崎 考史氏(大阪公立大学大学院医学系研究科発達小児医学 教授)が、PKUの病態やセピアプテリンの臨床試験結果、今後の治療の展望などを説明した。 PKUは、いわゆる教科書疾患であり、実臨床で診療する機会は少ない疾患である。PKUは、Pheを代謝するPhe水酸化酵素の先天的な活性低下により、Pheがチロシンに代謝されずに蓄積する。血中Phe濃度の上昇は、発達遅滞や神経症状を来すことがある。そのため無治療の場合、脳の発達障害、小頭症、重度の発達遅滞、行動障害などを来し、治療不十分の場合は、頭痛、うつ状態、神経症、認知能力低下などがある。 PKUは、新生児のマススクリーニング検査の契機となった疾患であり、現在では日齢4または5に血液を採取し、ろ紙検査により診断が行われている。これにより今では早期に診断、治療介入することができるようになっている。 PKUでは血中Phe値を上昇させないために、Pheの摂取を制限する必要があり、治療としては食事からのタンパク質の摂取制限とPheを除去した治療用特殊ミルクによる食事療法が中心となる。食事療法は低タンパク食が中心となり、特別の食材を用意する必要がある。そのため、多額の費用が必要であり(保険適用外)、味も悪く、患者は外食などが難しく社会的孤立を招きやすいという。実際、患者は年齢とともに血中Phe濃度の管理が難しくなることも報告されている1)。 薬物療法について現在わが国で承認されている薬剤では、サプロプテリンとペグバリアーゼの2種類がある。サプロプテリンは顆粒の粉末で服用するが、対象が異型高フェニルアラニン血症など限定されており、全体の20~30%の患者にしか適用がなく普及していない。ペグバリアーゼは皮下注製剤で、成人のみが対象であり、副作用としてアナフィラキシーショックがあるために、アドレナリン自己注射薬(商品名:エピペン)を帯同する必要があるという。 PKU治療の課題として、食事療法ではタンパク制限食へのコスト高やアドヒアランスの問題、薬物療法では使用できる対象年齢や効果不十分の患者への対応などが指摘されている。また、患者からも食事制限への疾病負担や食事への精神的苦痛、QOLの低下などを訴える声も多い。そこで、すべてのPKU患者が血中Phe濃度の管理を負担なく継続できる治療法が求められている。患者の食事の幅を広げるセピアプテリン 今回発売されたセピアプテリンは、Pheの代謝に関わるPAHの補酵素であるBH4の前駆体であり、プテリンのサルベージ経路を介し細胞内BH4に急速に変換され、速やかに細胞内に移行して、細胞内BH4濃度を高める働きがある。 海外で行われた第III相試験のAPHENITY試験では、157例の患者について、導入期にセピアプテリンを14日間投与後に無作為にセピアプテリン群とプラセボ群に割り付け、プラセボ対照を42日間行った。主要評価項目はベースラインから5~6週までの血中Phe値の平均変化量とした。その結果、セピアプテリン投与14日後に血中Phe濃度が30%以上低下した患者割合は66%だった。また、投与5~6週後、血中Phe濃度(5および6週目の平均値、単位:µmol/L)のベースラインからの平均変化量についてプラセボ群(49例)では-16.2だったのに対し、セピアプテリン群(49例)が-410.1とプラセボ群に対する優越性が検証された。安全性については、死亡や重篤な有害事象は報告されず、下痢、胃腸炎などの消化器症状や頭痛などが報告された。 国際共同第III相試験のAPHENITY延長試験では、APHENITY試験後の被験者と非被験者について非盲検継続投与を行い1ヵ月後の平均Pheについて360μmol/Lを基準に分けて、食事によるPhe耐性の評価を行った。主要評価項目はセピアプテリンの長期安全性とベースラインから26週目までの食事中のPhe/タンパク質摂取量の変化である。その結果、血中Phe濃度が360μmol/L未満に維持された患者集団では、食事性Phe摂取量(平均値)が増加した。また、安全性でも主な有害事象は、上気道感染、上咽頭炎、頭痛、下痢、嘔吐、発熱であり、死亡に至るものや重篤なものはなかった。 海外第III相実薬対照試験のAMPLIPHY試験では、セピアプテリンとサプロプテリンの非盲検クロスオーバー試験で効果比較を行った。その結果、平均血中Phe濃度(μmol/L)について、セピアプテリン群(58例)のベースラインが725.8だったものが3、4週目の平均で312.7に低下していた。その一方でサプロプテリン群(56例)はベースラインが790.4だったものが3、4週目の平均で504.8に低下していた。また、血中PheのLS平均変化量について、ベースラインから3、4週目の数値でセピアプテリン群(58例)が-437.0、サプロプテリン群(56例)が-256.6とセピアプテリンはサプロプテリンと比較して血中Phe値を有意に低下させていた。安全性の面でも重篤な有害事象はなく、両薬剤ともに上気道炎、上咽頭炎、下痢などが報告された。 最後に濱崎氏は、わが国の患者の置かれている現状として、次の7項目を挙げた。・食事療法はPKUの治療において大きな役割を担っているが、成人期において継続することが困難・指定難病の対象に加えられたのは、2015年と最近・Phe除去ミルクの医療費負担は軽減されたが、低タンパク食は自己負担・PKUに特化した治療用食品の開発は進んでいない・BH4が反応する可能性はあっても患者が幼少期には負荷試験を実施していないことがある・成人男性PKU患者の通院、食事療法へのアドヒアランスは低いと考えられる・2019年の診療ガイドラインの改訂で、成人の血中Phe濃度の目標値について管理目標値が360μmol/L(6mg/dL)に下がっていることが成人患者には伝わっていない これらの現状を踏まえ、今後のセピアプテリンの臨床的位置付けとして「セピアプテリンは、患者の年齢に制限なく、すべての年代のPKU患者に投与可能な1日1回投与の経口顆粒剤であり、食事療法で非常に困っている患者が、新しい治療薬を服用することで食事療法の幅が広がるものと期待している」と語り、講演を終えた。

96.

シリアスゲームで診療ガイドライン順守率が改善/JAMA

 診療ガイドラインは医療の質向上に寄与するが、米国では順守率が依然として低く、時間的制約のある疾患の典型とされる外傷のトリアージ、とくに高齢者の治療では順守率が50%を下回るという。米国・ピッツバーグ大学のDeepika Mohan氏らは、医師の誤診の低減を目指して開発されたシリアスゲーム(serious game、娯楽以外の目的[知識習得、技術向上、行動変容など]を志向するビデオゲーム)が、救急医による高齢者の外傷トリアージのガイドライン順守状況を改善するかを無作為化試験で検討した。研究の成果は、JAMA誌オンライン版2026年4月20日号に掲載された。米国の非外傷専門施設の救急医800人が参加 本試験は研究者主導型にて行われ(米国国立老化研究所[NIA]などの助成を受けた)、米国の非外傷専門施設の救急部門で、メディケアの出来高払い制度(fee-for-service)に加入している65歳以上の外傷患者のトリアージを担当する救急医800人(男性563人[71%]、臨床経験年数中央値10年[四分位範囲[IQR]:6~17]、Advanced Trauma Life Support[ATLS]修了者750人[94%])を対象とした。 介入群(400人)の医師は、タブレットPCを用いたゲーム形式の訓練(初回に2時間の研修、その後四半期ごとに20分の研修を3回、合計4回)を受け、対照群の医師(400人)は通常の教育を受けた。 ゲームは、行動変容理論に基づいて構築され、トリアージが十分でない場合の結果を明示する症例ベースの物語形式の記事や、迅速かつ正確なパターン認識を習得するためのフィードバック機能を備えた時間制限型パズルなどが組み込まれた。また、あらゆる重症外傷のパターンを網羅する一方で、とくに年齢およびフレイルの程度が患者アウトカムに及ぼす影響に重点が置かれた。 主要アウトカムは、無作為化から1年間のアンダートリアージ(緊急度の過小評価:重症患者のうち高次の外傷専門施設へ搬送されなかった患者の割合)であった。また、副次アウトカムは、オーバートリアージ(緊急度の過大評価:軽症でありながら高次施設へ搬送された患者の割合)、および30日以内の死亡と再入院の複合とした。重症例のうち47%を搬送、過小評価が有意に低減し過大評価は増加せず 1,147病院の医師が、65歳以上のメディケア受給患者4万1,073例(平均年齢79[SD 8.4]歳、白人3万6,927例[93%]、Charlson併存疾患指数≧1点が3万918例[74%])を治療した。このうち1,738例(4.2%)が重症で、外傷性脳損傷(1,343例[77%])、肋骨骨折(552例[32%])、四肢骨折(313例[18%])の頻度が高かった。 介入群の99%(397/399人)が少なくとも1回のゲームを用いた研修を受け、67%(268/399人)が4回の研修のすべてを修了した。 1,738例の重症外傷患者のうち、809例(47%)が高次施設に搬送され、初回入院日から30日以内に273例(16%)が死亡し、30日以内に865例(50%)が再入院した。入院日数中央値は4日(IQR:2~8)だった。 重症外傷患者のうちアンダートリアージの割合は、対照群(救急医399人、年齢中央値41歳)が57%(527/919例)であったのに対し、介入群(398人、42歳)は49%(402/819例)と有意に低率であった(モデル補正後絶対群間差:-7%、95%信頼区間[CI]:-13~-0.8、p=0.02)。 一方、オーバートリアージ(介入群71%[1,038/1,455例]vs.対照群74%[1,132/1,524例]、モデル補正後絶対群間差:-3%[95%CI:-6~1]、p=0.14)、および30日以内の死亡と再入院の複合アウトカム(63%[516/819例]vs.64%[584/919例]、-0.4%[95%CI:-5~4]、p=0.87)には、両群間に差を認めなかった。ゲーム回数、経過期間が効果と関連 著者は、「これらの知見は、シリアスゲームが、救急医のガイドラインに準拠した外傷トリアージを改善し、ガイドライン順守率を向上させる新たなアプローチとなることを示唆する」としている。 また、「1回または2回だけゲームを行った医師に比べ、4回の研修すべてでゲームを行った医師はアンダートリアージの割合が低かった(交互作用のp=0.047)」「ゲームを行っていない、あるいは30日以上前に行った医師に比べ、ゲームを行ってから30日以内に診察した医師はアンダートリアージの割合が低かった(同p<0.001)」と指摘している。

97.

第294回 増える診療所、減り続ける有床診療所 地域医療に懸念/厚労省

<先週の動き> 1.増える診療所、減り続ける有床診療所 地域医療に懸念/厚労省 2.18歳人口減少で、医療職の養成校の定員割れ深刻化、2040年へ確保を/厚労省 3.小規模クリニック苦境、医療・福祉倒産が3年連続最多/東京商工リサーチ 4.病院サイバー対策を強化、クラウド移行支援へ/政府 5.抗がん剤取り違えで乳児死亡 県立こども病院医師を減給処分/静岡県 6.奥能登の新病院構想、集約化か産科維持かで議論/石川県 1.増える診療所、減り続ける有床診療所 地域医療に懸念/厚労省厚生労働省の医療施設動態調査によると、2026年2月末時点の全国の病院数は7,972施設となり、前年同月比で75施設減少した。病院数は1990年の1万96施設をピークに減少が続いており、2025年には8,000施設を割り込んでいる。その一方で、一般診療所は10万5,548施設で、前年同月比407施設増となったが、その内訳をみると無床診療所が増える一方で、有床診療所の減少が続いている。有床診療所は2月末時点で5,080施設、病床数は6万6,672床となり、いずれも減少傾向にある。直近1年間では月平均約19施設、約348床のペースで減少しており、現在のペースが続けば2026年7月には5,000施設、6万5,000床を割り込み、2027年には6万床を下回る可能性も指摘されている。有床診療所は、在宅医療や高齢者医療、急性期病院からの受け入れなど、地域包括ケアを支える重要な役割を担っている。2次医療圏によっては総病床数の4分の1を有床診療所が占める地域もあり、その減少は地域医療体制の脆弱化につながることが懸念されている。厚労省はこれまで診療報酬改定で、有床診療所を「専門特化型」と「地域包括ケア型」に分類し、在宅患者や介護施設利用者の受け入れ評価、慢性透析患者対応、地域連携分娩管理加算などの支援策を拡充してきた。2026年度同改定でも入院基本料引き上げなどのテコ入れが行われている。しかし、減少傾向には歯止めがかかっていない。背景には経営難に加え、後継者不足や医師・看護師確保の困難さがあるとみられる。地域包括ケアシステムや高齢者医療を支える役割が期待される中、有床診療所の維持をどう図るかが今後の大きな課題となっている。 参考 1) 医療施設動態調査(2026年2月末概数)(厚労省) 2) 病院数が前年同月比75施設減、厚労省調べ 一般診療所は407施設増(CB news) 3) 有床診療所は2026年2月末に5,080施設・6万6,672床に減少、2026年7月に5,000施設・6万5,000床を切る公算-医療施設動態調査(Gem Med) 2.18歳人口減少で、医療職の養成校の定員割れ深刻化、2040年へ確保を/厚労省少子高齢化が進む中、看護師やリハビリ専門職など医療関係職種の養成・確保が新たな政策課題として浮上している。厚生労働省は5月7日、「医療関係職種の安定的な養成・確保に関する検討会」の初会合を開き、医師・歯科医師・薬剤師を除く12職種について、横断的な対策の検討を始めた。対象は、看護師、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士、救急救命士、診療放射線技師、臨床検査技師、臨床工学技士、視能訓練士、義肢装具士、歯科衛生士、歯科技工士である。背景にあるのは、18歳人口の減少と養成校の定員割れである。2024年度の定員充足率は、診療放射線技師が103.2%と唯一100%を上回った一方で、看護師は89.6%、理学療法士は87.8%、救急救命士は82.6%にとどまった。言語聴覚士は72.9%、臨床検査技師は76.1%、作業療法士は66.5%で、歯科技工士は53.5%、臨床工学技士は57.0%と6割を下回った。看護師国家試験の受験者数も2021年の6万6,124人をピークに減少し、2025年は6万3,131人となった。厚労省の推計では、2021年から2040年にかけて18歳人口は23道県で4割以上減少する見通しで、秋田県、青森県、岩手県、福島県では5割前後の減少が見込まれる。森光 敬子医政局長は、「養成校の努力だけで充足率の改善を図ることは、なかなか見込めない」と述べ、地域ごとの対応が必要との認識を示した。その一方で、現場では高年齢の看護職員の存在感が増している。55歳以上の看護職員は2008年の17.1万人から2024年には41.3万人へと2.4倍に増え、このうち65歳以上は10.8万人だった。厚労省は、ミドルやシニア層が希望に応じて働き続けられる支援が重要になるとしている。検討会では、養成校の集約化や共同化、遠隔授業、サテライト施設の活用、奨学金、社会人の参入促進、リカレント教育、育児・介護と両立できる働き方などが論点となる。さらに、限られた人員で医療水準を維持するため、各職種の質の確保や役割分担、地域別の需給推計の必要性も指摘された。2040年に向け、医療・介護ニーズは複雑化する一方で、支え手は減少する。養成校の定員割れは単なる学校経営の問題ではなく、地域医療の持続可能性に直結する。厚労省は年内をめどに意見を取りまとめ、2027年度予算や制度改正につなげたい考え。 参考 1) 第1回 医療関係職種の安定的な養成・確保に関する検討会(厚労省) 2) 少子高齢化進む2040年に向けて、看護職・リハ職など12医療専門職種の養成・確保策の検討開始-医療職種養成・確保検討会(Gem Med) 3) 18歳人口が4割超減少 23道県で 21-40年に(CB news) 4) 看護師国試、21年をピークに受験者数が減少 OT・PT・STの受験者数は定員割れで推移(同) 5) 医療職種の養成校、定員割れ改善「見込めない」厚労省医政局長が認識(同) 6) 医療職種、入学定員割れが顕著 安定的な養成・確保が課題に(同) 7) 55歳以上の看護職員、16年で2.4倍増 24年は41.3万人 厚労省集計(同) 3.小規模クリニック苦境、医療・福祉倒産が3年連続最多/東京商工リサーチ医療・福祉分野の経営悪化が深刻化している。東京商工リサーチによると、2025年度の医療・福祉事業の倒産は478件で、前年度比10%増となり、1988年度以降で過去最多を3年連続で更新した。とくに老人福祉・介護事業が182件と最多で、障害者福祉や児童福祉でも倒産が増加した。また、従業員5人未満の小規模事業者が大半を占めていた。病院やクリニック、歯科医院に限った「医療機関」の倒産も71件とこの20年間で最多となった。内訳はクリニック32件、歯科医院31件、病院8件で、とくに歯科医院の増加が目立つ。原因の約9割は「販売不振」と「既往債務のしわ寄せ」で、患者減少に加え、人件費や光熱費、医療材料費の高騰が経営を圧迫している。倒産の97%超は破産で、経営再建の難しさも浮き彫りとなった。歯科分野では、歯科診療所と歯科技工所の倒産が計39件に達し、過去20年で最多となった。全国の歯科診療所は約6万6,000施設と、コンビニの店舗数を上回る水準にある。予防歯科や審美歯科など需要は多様化しているものの、競争激化に加え、高額医療機器への投資、後継者不足、材料費高騰が重荷となっている。とりわけ歯科技工所では、銀など貴金属価格の上昇に加え、中東情勢悪化によるナフサ不足の影響で、樹脂系材料も値上がりしている。診療報酬改定でベースアップ支援料が新設されたが、コスト増を吸収できるかどうかは不透明だ。コロナ禍ではゼロゼロ融資などで倒産が抑えられていたが、支援終了後に経営悪化が顕在化した形。人口減少と高齢化が進む中、医療提供体制の維持には、単なる補助金ではなく、業務効率化や地域再編、M&Aも含めた抜本的な対策が求められている。 参考 1) 2025年度の「医療機関」倒産 20年で最多の71件 クリニック・歯科医院の淘汰が加速、「破産」が97%超(東京商工リサーチ) 2) 医療・福祉の倒産、3年連続で過去最多 東京商工リサーチ調べ(日経新聞) 3) 「歯科関連」倒産が過去20年で最多 「あると助かるがコンビニより多い」 コロナ禍後に医療現場で起きている「支援終了」(AERA DIGITAL) 4.病院へのサイバー対策を強化、クラウド移行支援へ/政府政府は、大規模病院に対するサイバーセキュリティ対策を強化するため、クラウド型システムへの移行を支援する方針を固めた。今夏にまとめる官民投資のロードマップでは、「2030年までに地域の拠点病院のサイバー対策100%実施」という数値目標を盛り込む見通し。背景には、医療機関を狙ったサイバー攻撃の増加がある。2022年には大阪急性期・総合医療センターが攻撃を受け、救急患者受け入れを制限。2026年2月には日本医科大武蔵小杉病院で個人情報漏洩が発生したほか、市立奈良病院でも今年4月にシステム障害が起き、救急受け入れ停止や外来制限に追い込まれた。市立奈良病院では、ネットワーク監視装置が異常通信を検知し、電子カルテを含む一部システムを停止。手術延期や紙カルテ運用への切り替えを余儀なくされた。現時点で個人情報漏洩や悪意ある侵入は確認されていないものの、奈良市は外部有識者による調査委員会を設置し、再発防止策を検討する。政府は、経済安全保障推進法の改正に合わせ、医療分野を「基幹インフラ」に追加する方向で調整している。対象は病床数400以上、診療科16以上などを満たす全国88病院で、多要素認証やサイバー攻撃を想定したBCP(事業継続計画)策定などを点検する。現在、多くの病院では院内サーバーで管理する「オンプレミス型」が主流だが、更新や監視の負担が大きく、データ連携にも障壁がある。このため政府は、クラウド型への移行を促進し、システム開発企業や医療機関への財政支援を検討している。また、厚労省は2026年5月にも「医療情報システムの安全管理ガイドライン第6.1版」を公表する予定で、AI利用に伴う情報漏洩リスクや職員教育の重要性も新たな論点となっている。診療継続と患者情報保護の両立に向け、医療機関のセキュリティ体制強化が急務となっている。 参考 1) 病院のサイバー対策支援 クラウド移行、政府が予算措置 今夏に数値目標(日経新聞) 2) 巧妙化するサイバー攻撃 医療機関のセキュリティ見直し急務(RESCHOニュース) 3) サイバー攻撃疑いの市立奈良病院、救急受け入れと外来診療を停止(日経メディカル) 4) 市立奈良病院システム障害 奈良市が謝罪、原因特定調査「継続中」(奈良新聞) 5.抗がん剤取り違えで乳児死亡 県立こども病院医師を減給処分/静岡県2021年に静岡県立こども病院にて生後3ヵ月の乳児に抗がん剤を誤投与した医療事故で、病院を運営する県立病院機構は5月8日、担当していた49歳の男性医師を減給の懲戒処分とした。乳児は重い障害を負い、約10ヵ月後に死亡している。事故当時、乳児は急性白血病で入院中だった。医師は本来、静脈内に投与すべき抗がん剤を、脊髄を囲む「髄腔」内に誤って投与した。病院の事故調査報告書によると、医師は看護師から薬剤を受け取る際、確認を十分に行わず、髄腔内投与用と静脈投与用の薬剤を取り違えたという。乳児は誤投与後、自発呼吸ができなくなる重大な障害を負い、治療が続けられたものの、10ヵ月後に死亡した。事故を受け、医師は昨年、業務上過失傷害の罪で略式起訴され、罰金50万円の略式命令を受けていた。病院と遺族側との間では民事上の示談も成立している。県立病院機構は5月8日付で、医師に対し「1日分賃金の半額」の減給処分を実施した。また、監督責任を問い、当時の院長と内科系診療部長についても文書厳重注意とした。男性医師は「大変申し訳ないことをしてしまった」と述べている。坂本 喜三郎理事長は「あってはならない重大事案」とした上で、「安全・安心な医療を提供できるよう、再発防止に職員一丸となって取り組む」とコメントしている。今回の事故では、薬剤確認の不徹底というヒューマンエラーが背景にあったとされる。小児がん治療のような高度医療では、複数人による確認体制や投与経路確認の徹底が不可欠であり、医療安全対策のあり方が改めて問われている。 参考 1) 医療ミスで生後3ヵ月の乳児死亡 薬剤を誤投与した男性医師を減給処分 1日分の賃金を半分に 患者は急性白血病で入院(テレビ静岡) 2) 乳児に薬を誤投与、重大な障害を負い10ヵ月後に死亡 静岡県立こども病院の男性医師を減給処分(中日新聞) 3) 静岡県立こども病院で乳児死亡“薬取り違え”で医師を懲戒処分(NHK) 6.奥能登の新病院構想、集約化か産科維持かで議論/石川県石川県が進める奥能登地域の病院再編を巡り、産科医療体制のあり方が大きな論点となっている。県は、人口減少や医療従事者不足が深刻化する奥能登地域の4つの公立病院について、救急や入院機能を集約した新病院を能登空港周辺に整備する方針で、7日に検討会を開いた。会議では、奥能登の妊婦は新病院で妊婦健診を受ける一方で、分娩は七尾市や金沢市の病院で行う案が県側から示された。県は、「分娩には24時間対応できる複数の産科医や小児科医、麻酔科医、新生児対応体制など膨大な人的・物的資源が必要であり、現状では医療従事者の確保が困難」と説明した。これに対し、輪島市や穴水町などの自治体側からは強い反発が相次いだ。輪島市の坂口 茂市長は「安全だけでなく、住民の安心感も重要だ」と述べ、奥能登で出産できない状況が若者流出にもつながると懸念を示した。出席者からは「若者は住むなと言っているに等しい」との声も上がった。奥能登では、能登半島地震以前は市立輪島病院が地域唯一の分娩機能を担っていたが、過去の医療事故を受けて複数医師体制を構築してきた経緯がある。現在は地震後の影響もあり、金沢からの医師派遣が週2回程度に減少し、妊婦健診など外来対応のみとなっている。その一方で、県側は宿泊費支援や搬送体制整備などで安全性を担保したい考えで、山野 之義知事は「安全第一が共通認識」とした上で、地域の要望も踏まえて工夫を検討したいと述べた。石川県は今後、産科や小児医療の分科会を設置し、専門家も交えて議論を継続する。今年度中に新病院の基本構想をまとめる方針だが、開院までにはさらに6~7年程度かかる見通しで、地域医療と人口維持をどう両立させるかが問われている。 参考 1) 石川 奥能登地域の病院再編 産科の医療体制について議論(NHK) 2) 「能登に住むなってことか」奥能登新病院に「分娩機能なし」提案 首長から反発 山野知事「どんな工夫ができるのか」議論する(石川テレビ) 3) 奥能登の新病院で分娩実施せず 石川県が体制案 市町首長から反論(朝日新聞) 4) 奥能登の新病院構想 自治体要望の分べん機能導入 医療従事者不足で石川県は慎重姿勢(テレビ金沢)

98.

入院患者の静脈血栓塞栓症予防【医療訴訟の争点】第21回

症例入院患者については、原疾患や手術そのほかの治療との関係で、診療科を問わず、肺血栓塞栓症の発症リスクがあるため、予防についても意識を払った対応がされている。本稿では、精神科入院患者に対する身体拘束下における肺血栓塞栓症(PTE)の予防義務の有無が争われた大阪高裁令和7年3月26日判決を紹介する。<登場人物>患者(P3)精神疾患を有する入院患者(肥満[BMI≧30]に該当)原告患者の母(唯一の相続人)被告大学医学部附属病院(国立大学法人)事案の概要は以下の通りである。平成29年(2017年)2月15日P3、精神症状の増悪により、被告病院に入院。入院後、精神科において薬物療法などが開始され、経過観察が行われた。2月中旬~5月下旬入院継続中、P3にはカタトニア様症状(強い緊張状態、反応低下など)が認められ、症状の増悪と改善を繰り返していた。向精神薬の投与が行われる一方、活動性の低下や脱水傾向などもみられていた。5月29日P3は精神症状の悪化により興奮・不穏状態が強まり、自傷他害のおそれがあると判断された。このため、保護室に隔離の上、四肢拘束を含む身体拘束が開始された。同日以降、看護師はバイタルサイン、呼吸状態、末梢循環(浮腫、皮膚色)、下肢の状態などの観察を、行動制限時フローシートなどに基づき継続的に実施した。もっとも、この時点で、Dダイマー検査や下肢静脈エコー検査といった客観的検査は実施されなかった。5月30日身体拘束の継続の要否についてカンファレンスが実施され、拘束継続の必要性が確認された。一方、拘束期間が長期化するかについては、この時点で明確な見通しは立っていなかった。5月31日午前P3は依然として拘束下にあり、自発的な運動は乏しい状態であった。医師は、血栓予防の観点から、同日午前11時頃、弾性ストッキングの装着を指示し、これが実施された。もっとも、体位変換の積極的実施、IPC(間欠的空気圧迫法)、抗凝固薬投与といったほかの予防措置は行われていなかった。また、同日午前までの時点においても、下肢の腫脹、発赤、疼痛など、深部静脈血栓症(DVT)を疑わせる症候は認められていなかった。午後2時頃看護師が訪室したところ、P3は反応が乏しく、呼吸・脈拍の異常が疑われる状態で発見された。午後2時20分頃スタットコールがなされ、医療スタッフが集結し、心肺蘇生措置(胸骨圧迫など)が開始された。なお、最初の異常指摘から蘇生開始までの時間は長くても約6分程度であったと認定されている。午後2時38分頃蘇生継続中の状態で院内搬送がなされたが、回復には至らなかった。同日P3死亡。 実際の裁判結果本件の第一審(神戸地裁)は、P3の死因を呼吸停止(呼吸不全)と認定し、呼吸管理義務違反を肯定して一部認容した。これに対し、被告病院が控訴し、原告も附帯控訴*を提起した。控訴審では、死因が急性肺血栓塞栓症(PTE)であるとの新たな主張がなされたほか、身体拘束後のVTE予防義務違反、検査義務違反などの主張も追加され、以下のような注意義務違反の有無が争われた。*控訴された側が、自身もより有利な内容へと一審判決を変更することを求めて控訴すること血液検査義務違反抗精神病薬の副作用防止義務違反呼吸管理義務違反救急対応義務違反PTE予防義務違反(控訴審で追加)VTE早期発見のための検査義務違反(控訴審で追加)控訴審(大阪高裁)は、P3の死因は急性PTEであると認定した上で、原告(患者家族)の主張する被告の注意義務違反をいずれも否定し、原告の請求を全面的に棄却した。控訴審で追加されたPTE予防義務違反とVTE早期発見のための検査義務違反を取り上げる。裁判所の判断1)P3の死因について詳細はこちら控訴審は、死因究明におけるAi(Autopsy imaging、死亡時画像診断)を用いた画像診断を行う第三者的医療機関として設立された一般財団法人Ai情報センターが作成したAi診断の報告書において、P3が心肺停止になってから1時間強後である5月31日午後3時35分頃に撮影された単純CT画像に、両側肺門部の肺動脈内に凝血塊を示唆する軽度高吸収が認められ、これらが肺動脈左右分岐部を横断するようにして連続していることから、P3の死因はPTEと考える旨の意見が述べられていることなどを踏まえ、P3の死因を「急性PTE」と認定した。2)PTE予防義務違反について詳細はこちら原告は、身体拘束開始後にVTEリスク評価を行い、体位変換、早期離床、弾性ストッキング、IPC、ヘパリンなどの予防策を講ずべき義務を主張した。しかし裁判所は、以下の点を指摘し、「控訴人病院スタッフである医師が、P3に対し、5月29日午後4時45分に体幹部及び両上肢を拘束したが、下肢拘束はせず、その時点ではVTEのリスクが高いとは判断せずに、積極的な運動(マッサージ、他動的な足関節運動など)、弾性ストッキング、IPC法または低用量未分割ヘパリンなどの予防法を取らず、それから48時間が経過する前である5月31日午前11時6分頃に、下肢を自発的に動かせないことから、DVTのリスクが高いと判断して弾性ストッキングの装着を指示したが、ほかの予防法を取らなかったことが、大学医学部の附属病院という控訴人病院の性格などの諸般の事情を考慮しても、当時の控訴人病院スタッフの医師に要求される医療水準に反すると認めることはできない」として、急性PTEの発症を回避するための予防策を取るべき注意義務違反があったとは認められないとした。5月29日以降、カタトニアにより下肢が不動化した状態にあったP3のDVTのリスクは客観的には相当に高かったといえ、P3が急性PTEにより死亡したのも、そのようなリスクが現実化したものと考えるのが自然であること日本血栓止血学会のガイドラインおよび研究班ガイドラインに挙げられたVTEの危険因子で、P3が該当するのは肥満だけであり、この場合の推奨予防法は「早期離床及び積極的な運動」であること72時間以上の身体拘束がVTEのリスクを高めるとの記載がある文献もあり、被告病院も含め、48時間以上の安静の必要をリスク評価の前提とする医療機関が多い中、P3につき5月29日の拘束開始時点やその翌日のカンファレンスにおいて、48時間以上の拘束が必要であると判断されていないこと平成29年当時、ほかの医療機関においても、ベッド上で拘束する場合は、高リスクとして薬物予防あるいはIPC法を考慮することにはなっていなかったこと弾性ストッキング、IPC法及び薬物療法(低用量未分割ヘパリン)には、それぞれ副作用などのリスクがある上、弾性ストッキングやIPC法には、PTEの発症リスクが高いことが保険適用の条件となっていること被告病院では、P3の身体拘束後、生体モニターシステムを用いた測定をするとともに、行動制限時フローシートなどに従い、看護師が末梢循環状態や皮膚状態を継続的に観察しており、症候性DVTの臨床症状である浮腫や皮膚色の変化の有無なども確認されていたが、症候性DVTを疑わせる所見は認められていないこと3)VTE早期発見のための検査義務違反について詳細はこちら原告は、身体拘束時などにDダイマー測定や下肢エコーを行うべきと主張したが、裁判所は、以下の点を指摘し、「医師がP3に対し、身体拘束時から5月31日の弾性ストッキングの装着開始指示時点までの間において、Dダイマー検査などを実施しなかったことが、控訴人病院の性格などの諸般の事情を考慮しても、当時の控訴人病院スタッフの医師に要求される医療水準に反すると認めることはできず、控訴人病院スタッフに、被控訴人主張の注意義務違反があったとは認められない」とした。Dダイマー検査などの実施は、学会予防指針では“身体拘束の解除の際に、場合によりDダイマーなどのスクリーニングを行う”と記載するに止まること大病院では入院時や身体拘束時にDダイマーを測定するとなっているが、病院の規模などからすると、これらの病院において実施されている予防措置が直ちに被告病院における注意義務の内容となると解することはできないことVTEの予防法などを定めるに当たって、Dダイマー検査などについて記載していないか、IPC法を行う症例の場合やDVTの可能性が高い患者またはDVTの臨床症状が疑われる患者に限って実施するという医療機関もあることDダイマー検査については、血栓症の発症リスクの高い症例についてのみ手術前のスクリーニング検査の保険適用がなされ、DVTリスクが高くない限り、患者に対するスクリーニングとしてDダイマー検査などを行うことに否定的な見解もあること被告病院では、下肢の不動化が認められた後は、弾性ストッキングを装着して予防法を取っており、その装着時を含め、DVTを疑わせる所見が存したとは認められないこと注意ポイント解説本件は、控訴審で提出されたAi画像診断の報告書に基づきP3の死因がPTEと認定された上で、その予防義務違反の有無が争われ、本判決は、患者側の主張する予防義務違反をいずれも否定した。PTEは突発的に発症し、救命困難な場合も多いため、その予防を実施しているかが重要となる。本件当時のガイドラインやほかの医療機関での予防の実施状況を踏まえた判断をしているが、本判決でも「平成30年時点の報告を前提にすると、ベッド上で拘束する場合は、高リスクとして薬物予防かIPC法を考慮することになっているが、平成29年5月当時、控訴人病院が、規模も異なるq1病院(注:他自治体が開設・運営する大規模な精神病院)の上記基準に従い、運用すべきであったとはいえない」としているように、ガイドラインの内容はアップデートされるものである。同様に、本判決が、被告病院では実施していない予防措置を実施している他院が存在していることについて「病院の規模などからすると、これらの病院において実施されている予防措置が直ちに控訴人における注意義務の内容となると解することはできない」としていることに表れているとおり、予防のために実施する対応内容については、医療機関の規模などによっても異なる。したがって、本判決と同様の対応をしていれば、予防措置が履行されているとして義務違反が否定されることになるとは限らない点に留意する必要がある。医療者の視点本件は、精神科における身体拘束中のPTE予防と検査のあり方が問われた事例です。裁判所は、当時のガイドラインや病院の規模を考慮し、Dダイマー検査や下肢静脈エコー検査、IPC法などの画一的な実施義務を否定しました。これは、予防策に伴う副作用リスクや患者ごとの状況を総合的に評価する、実際の臨床現場の感覚と合致しています。実臨床において、自傷他害の恐れがある興奮・不穏状態の患者の安全を確保するためには、身体拘束を実施せざるを得ない場面が多々あります。しかし、そのような患者に対して、PTE予防のための弾性ストッキングやIPC法を装着することは容易ではありません。不快感からさらなる不穏を招くリスクがあるためです。また、採血や長時間を要するエコー検査を安全に実施することも物理的に困難なケースが少なくありません。このようなジレンマの中で身を守るためには、入院時や拘束開始時にVTEのリスク評価をしっかり行うことが大事です。その上で、患者の状態に応じて早期離床や下肢の運動など、可能な予防策を選択してください。もし不穏などの理由で積極的な予防策や検査が困難な場合は、下肢の腫脹や色調変化などの継続的な観察を行い、その結果や「なぜ検査・処置ができないのか」という理由をカルテに詳細に記録しておくことを心がけると良いでしょう。Take home messagePTEは突発的に発症し、救命困難な場合があるため、裁判においては、然るべき予防措置を取っていたかが問題となる VTE予防はリスク評価に基づいて個別判断がなされるが、ガイドラインや同種医療機関での実施状況が、予防措置義務の履行がなされていたかの判断基準となるキーワード肺血栓塞栓症(PTE)/静脈血栓塞栓症(VTE)/身体拘束/予防義務/医療水準

99.

女性の単純性尿路感染症、nitrofurantoinが有効/Lancet

 女性の単純性尿路感染症(UTI)に対する治療は、nitrofurantoinが最も有効であり、次いでpivmecillinam、ホスホマイシン2回投与の順で、ホスホマイシン単回投与が最も有効性が低いことが、スペイン・Institute for Primary Health Care Research Jordi Gol i GurinaのCarl Llor氏らが同国のプライマリケア34施設で実施したプラグマティックな第IV相無作為化非盲検臨床試験「SCOUT試験」の結果で示された。ほとんどのガイドラインでは、単純性UTIに対しnitrofurantoin、ホスホマイシン、場合によってはpivmecillinamの投与が推奨されているが、これらの直接比較が求められていた。著者は、「単純性UTIに対する第1選択薬としてのホスホマイシンの役割は再評価されるべきである」とまとめている。Lancet誌2026年4月25日号掲載の報告。UTIに対する4つの治療法の有効性と安全性を比較 研究グループは、UTI特有の症状(排尿痛、尿意切迫感、頻尿、恥骨上部痛)を少なくとも1つ有し、かつ他の原因(性感染症や外陰膣炎を示唆する症状)がなく、尿試験紙法で亜硝酸塩または白血球エステラーゼのいずれかが陽性の18歳以上の女性を、ホスホマイシン3gの単回投与群、ホスホマイシン3gの2回投与群、nitrofurantoin(100mgを1日3回5日間)群、またはpivmecillinam(400mgを1日3回3日間)群のいずれかに、1対1対1対1の割合で無作為に割り付け追跡評価した。 主要アウトカムは、7日時点の臨床的治癒(すべての感染症状の消失と定義)を示した患者の割合であった。有効性はnitrofurantoinが最も高く、ホスホマイシン単回投与が最も低い 2022年4月4日~2024年11月14日に804例がスクリーニングを受け、このうち768例が無作為化された(ホスホマイシン単回投与群191例、ホスホマイシン2回投与群194例、nitrofurantoin群190例、pivmecillinam群193例)。被験者の年齢中央値は48歳(四分位範囲:34~63)で、人種および民族に関するデータは収集されなかった。 主要アウトカムのデータ欠測例を除く720例が主要解析の対象集団となった。 臨床的治癒率が最も低かったのはホスホマイシン単回投与群(109/185例[59%])、最も高かったのはnitrofurantoin群(128/172例[74%])で、群間差は15.5%(95%信頼区間[CI]:5.9~25.1、p=0.0168)であった。 次いで、pivmecillinam群(127/182例[70%]、ホスホマイシン単回投与群との差:10.9%、95%CI:1.1~20.6、p=0.2352)、ホスホマイシン2回投与群(122/181例[67%]、8.5%、-1.4~18.3、p=0.6935)の順であった。 有害事象は、ホスホマイシン単回投与群で191例中38例(19.9%、95%CI:14.9~26.1)、ホスホマイシン2回投与群で194例中51例(26.3%、20.6~32.9)、nitrofurantoin群で190例中51例(26.8%、21.0~33.6)、pivmecillinam群で193例中41例(21.2%、16.1~27.5)に発現した。ほとんどの有害事象は軽度で、主な事象は消化器系の症状であった。重篤な有害事象は4例に認められ、そのうちpivmecillinam群の腎盂腎炎1例が治験薬と関連ありと判定された。

100.

医療者向けChatGPT登場!米国在住の医師が特別レポート

 多くのAIツールを医療者が使うようになり、医療者の情報検索に特化したOpenEvidenceなどの専門AIツールも急速に普及するなか、4月末に汎用型AIツール・ChatGPTが医療者向けのChatGPT for Cliniciansをリリース。現時点では使用は米国在住の医師に限られるものの、医療AIの「本命」となるのかが注目される。CareNet.comで「タイパ時代のAI英語革命」「医療者のためのAI活用術」などを連載する原田 洸氏(米国・マウントサイナイ医科大学病院)が使用感を特別レポート。ChatGPT for Cliniciansとは何か ChatGPTをはじめとした生成AIを、日常生活や臨床業務の中で活用している医療者は、すでに少なくないのではないでしょうか。そうした中、米国で新たにリリースされたのが、医療者向けに設計された “ChatGPT for Clinicians” です1)。 一言で言えば、医学分野に特化したChatGPTであり、医師をはじめとする医療従事者が臨床疑問を調べることを想定してつくられたツールです。日々の診療で生じる疑問に対し、タイムリーに、かつ信頼できる情報に基づいて回答することを目的としています。現時点では利用対象は米国の医療従事者に限定されていますが(資格認証あり)、私は現在米国の病院で勤務しているため、実際に使用する機会がありました。ここでは、その概要と使用感について共有したいと思います。通常のChatGPTと何が違うのか 通常のChatGPTは、事前学習された膨大な情報や、Web検索で得られた情報をもとに回答を生成します。これは非常に便利な一方で、臨床現場でそのまま使うには注意が必要です。なぜなら、回答の根拠となる情報に誤りが含まれていたり、Web検索で信頼性の低い情報が拾われたりした場合、その内容が回答に反映される可能性があるからです。たとえば、「StageIVの大腸がんの治療は?」と入力した際に、十分なエビデンスのない自費診療を行うクリニックの情報が検索結果として参照されてしまえば、標準治療やガイドラインから大きく外れた回答が生成されるリスクがあります。 この課題に対応しようとしているのが、ChatGPT for Cliniciansです。米国の主要学会のガイドライン、CDC、FDA、査読済み論文など、信頼性の高い医療情報をもとに回答を生成することで、臨床的な正確性を高める設計になっています。実際に使ってみた印象は 使い方は非常にシンプルです。通常のChatGPTと同じ画面上で、「○○の治療は?」「□□の薬は△△の状況では中止すべきか?」といった日常診療で生じる疑問を入力すると、数十秒から1分程度で回答が生成されます。英語で入力すれば英語で、日本語で入力すれば日本語で回答されるため、言語面での使いやすさも通常のChatGPTと大きく変わりません。 実際に使用した印象としては、回答の質は高く、少なくとも私が試した範囲では、明らかなハルシネーション(AIが事実と異なる情報をもっともらしく出力する現象)はほとんど見られませんでした。また、回答には関連する論文やガイドラインへのリンクが示されるため、最終的な確認を自分で行いやすい点も大きな利点です。普段からChatGPTを使い慣れている医療者であれば、ほとんど抵抗なく導入できるツールだと感じました。対抗馬はOpenEvidence もっとも、医療分野に特化した生成AIツール自体がまったく新しいわけではありません。近年、米国では OpenEvidence という医療特化型の生成AIが急速に普及しており、すでにこちらを利用している医療者にとっては、ChatGPT for Cliniciansは大きな目新しさを感じないかもしれません2、3)。OpenEvidenceは、NEJMやJAMAなどの主要医学誌とも提携しており、これらのジャーナルに掲載された論文の図表にプラットフォーム上でアクセスできる点が強みです。また、私が勤務する医療機関では、OpenEvidenceがすでに電子カルテ上で利用可能になっており、臨床現場での活用の幅はますます広がっています4)。なお、OpenEvidenceは日本からも利用可能であるため、日本の医療者にとっては、現時点ではChatGPT for Cliniciansよりも身近な選択肢と言えるでしょう。今後注目したいポイント 現時点では、ChatGPT for Cliniciansが既存の医療特化型AIサービスをすぐに置き換える存在になるとは言い切れないでしょう。しかし、ChatGPTがもともと持っている画像生成、音声会話、動画生成、文書作成などの多様な機能と組み合わされることで、将来的な可能性は大きく広がると考えられます。 今後は、OpenEvidenceとの競争、電子カルテへの統合、日本を含む米国外への展開などが注目されます。生成AIが医療現場に入り込む流れは、もはや一時的なブームではなく、避けては通れない変化になりつつあります。医療者としては、その利点と限界を理解しながら、どのように安全かつ有効に使いこなすかが問われる時代に入っているのだと思います。

検索結果 合計:3323件 表示位置:81 - 100