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ハイリスク患者の術前説明やリスク評価、どこまでやる? 術式選択の裁量はある?【医療訴訟の争点】第22回

症例本稿では、食道がん患者に対する手術前のリスク評価及び説明のあり方、さらに術後合併症発生後の再手術における術式選択の適否が争われた岡山地裁令和7年5月20日判決を紹介する。<登場人物>患者60歳・男性原告患者の妻及び子ら(相続人)被告地方独立行政法人(市民病院)、担当消化器外科医事案の概要は以下の通りである。平成29年(2017年)1月20日本件患者は他院に入通院してアルコール依存症治療中であったが、発熱、全身倦怠感、低栄養、腹水貯留等の精査加療目的で被告病院へ転院。2月6日上部消化管内視鏡検査により食道がん発見。その後の2月8日、体調を整えるため、もともと入院治療を受けていた病院に転院。2月22日食道がんの治療のため、被告病院へ再入院。2月23日担当医は本件患者に対し、食道がんの病状などについて以下を説明。食道がんは現時点ではStageIと考えられている。この場合、手術が最も確実な治療法であるが、手術が嫌なら放射線、化学療法の治療法もあること手術を行う場合の手術概要手術は患者の協力がなければできない、断酒、禁煙は当然であるが、呼吸訓練も含め努力していただきたいこともある、これらができないのであれば手術に伴うリスクは高くなる、どうするかについては家族とよく相談すること。3月8日担当医は本件患者及び家族に対し、食道がんに対する手術について、以下を説明。StageIの食道がん治療としては、手術、放射線+抗がん剤による治療法があること胸腔鏡下食道亜全摘術など(本件手術1)の手術時間は8時間前後、出血量は200~600mL、入院期間は3~4週間の見込みであること食道がんに対する手術のリスクについては、その合併症によって異なり、手術に関連した合併症による死亡率は2~3%。併存疾患によりその程度は変化するが、食道がん手術において術後の合併症で1番問題となるのは、呼吸器系、とりわけ胸水の貯留、無気肺、肺炎などの発症に起因する呼吸不全があり、一旦起こると長期の管理が必要となること消化管吻合(初回の手術は食道胃吻合術)における縫合不全の発症は、治癒が遷延することがあり、一旦発症すると唾液漏の形をとりなかなか治癒しないで厄介になり、縫合不全の合併症が生じるリスクは約10%であることそのほか、創部の感染、腸管麻痺による腸閉塞など、また健康人でも発症する心筋梗塞、脳卒中などが周術期に偶然発症することがあること3月10日午前9時頃から午後9時30分頃まで本件手術1が施行。患者にはアルコール性肝障害や腹水貯留などが認められていたが、担当医はICG負荷試験を実施しないまま手術が施行した。食道がん術後、人工呼吸管理中の重篤な状態であると判断され、ICUに入室した。3月12日午前6時ころ、心拍数上昇、血圧低下、胃管出血が認められ、循環動態が悪化。担当医は緊急再手術を決定し、午前8時頃から午後6時頃まで、止血術、胃管抜去及び食道再建術(本件手術2)を施行。本件手術2では、出血性ショック状態に近い状況下で、結腸再建及び空腸再建を含む長時間かつ高侵襲な再建術が実施された。3月16日午後4時30分頃、患者の状態はさらに悪化し、担当医は本件患者家族に対し、腸管気腫症が広範囲に発生しており広範囲に腸が壊死している可能性もあり得る、原因除去のための再手術は危険性は極めて大きいが、緊急手術が必要であると説明した上で、午後7時30分頃から午後10時頃にかけて再度の緊急手術(本件手術3)を施行。3月17日患者は多臓器不全により死亡。 実際の裁判結果本件では、以下が主な争点となった。(1)食道がん手術(本件手術1)前にICG負荷試験を実施しなかったこと及びその結果を踏まえた説明を行わなかったことが検査・説明義務違反に当たるか(2)その義務違反と死亡との間に相当因果関係が認められるか(3)術後出血に対する再手術(本件手術2)時に、食道切除と再建を別の機会に行う二期的再建術とするのではなく一期的再建術を選択したことが術式選択義務違反に当たるか(4)その義務違反と死亡との間に相当因果関係が認められるか争点(1)について裁判所は、争点(1)について、本件手術1当時の最新のガイドラインであった『食道癌診断・治療ガイドライン 第3版』(日本癌治療学会編、2012年4月発行)の記載や、関連する医学的知見を指摘した上で、「本件手術1が施行された平成29年3月当時、食道がんの治療方針決定のために、治療方針を患者へ提示し、診断根拠や診断過程などを説明するに当たっては、がんの進行度診断や病巣特性(悪性度)の把握のほか、全身状態の把握・評価が重要とされており、その中でも肝硬変症例については、患者の肝機能ないし肝予備能が保たれているかを確認・判定することが必要・重要であり、ICG負荷試験はそのための重要な検査と位置付けられ、かかる試験の結果、高い数値が出た場合には、術後合併症やそれによる死亡のリスクが高まると理解されていたものと認めるのが相当である」とした。そして、本件患者が、腹部CTで腹水や肝硬変が指摘されていたこと、アルブミン点滴で経過を見たものの、2週間が経っても腹水は減少しつつも依然として貯留していたこと、肝細胞の合成能障害を反映するChEは被告病院受診当初から手術前まで基準値を大幅に下回る値であったこと等を指摘し、「アルコール性の代償性肝硬変の疑いが強く、肝機能が低下していることを示す具体的な所見が認められていたのであり、肝機能ないし肝予備能が保たれているかを慎重に確認・判定する必要があったものというべきであった」とした。その上で、「食道がんに対する治療方針を提案・説明するに当たっては、肝機能ないし肝予備能が保たれているかを確認・把握するためにICG負荷試験を実施した上で、その結果を踏まえて、全身状態の評価、さらにはリスク評価をして、治療方針を本件患者に提示して説明をすべき注意義務を負っていたものと認めるのが相当」とし、特別な事情や理由もないまま、ICG負荷試験を実施せず、適切な全身状態の評価やリスク評価をしないまま、縫合不全になるリスクは10%程度、多臓器不全等で死亡するリスクが2ないし3%程度として、リスクを過小にとどめた説明をしたことに説明義務違反があるとした。争点(2)について裁判所は、本件手術1に先立ち、本件患者にICG負荷試験を実施した場合には、20%を超える相当に高い数値が出る蓋然性があったこと、その場合、本件手術1につき術後合併症発生率は80%以上であり、術後合併症死亡率は15~30%かそれ以上であること、手術以外の治療法として根治的化学放射線療法も適応があったことを指摘し、「これらの説明を受けていれば、本件患者においては、本件手術1をせずに根治的化学放射線療法ないしは放射線単独療法を選択していた高度の蓋然性があり、また、その場合、本件患者が死亡した3月17日時点でなお生存していた高度の蓋然性があると認めるのが相当である」として、説明義務違反と死亡との間の因果関係を認めた。争点(3)について食道切除と再建をそれぞれ分けて2回手術をするか、1回にまとめて手術をするかについて、裁判所は、関連する文献の記載を指摘した上で、「二期的分割手術の適応について明確な基準は確立しておらず、緊急再手術時にどのような方針で手術を行うかについては具体的状況によって対応するしかなく、原則として、手術に当たる医師の現場における合理的な裁量に委ねられるものというべきであるが、ただし、全身状態が悪く、耐術能が十分でないと判断される患者に対しては、一期的再建手術ではなく二期的分割手術を実施すべき場合もあるものと認めるのが相当である」とした。そして、本件患者はそもそも10時間以上にわたる本件手術1を受けてから本件手術2開始までに約35時間しか経っていない状態にあったこと、肝硬変であると確認されていたこと、重症の出血性ショックに陥り、複数の昇圧剤を継続的に大量投与しなければ循環動態等を保つことが困難な状態にあったことを指摘し、「本件患者の全身状態は悪く、耐術能が十分でないと判断される患者であり、その救命を最優先とすべき具体的状況にあったといわなければならない」とした。その上で、「高侵襲かつ長時間を要する一期的再建術から、侵襲の小さい二期的分割手術へと方針を変更するか否かを具体的に検討・判断しなければならなかった」として、「本件手術2の術中の本件患者の状態について、循環動態等を保つことが困難な重篤な状態にあり、救命が最優先であると評価すべきところ、出血については迅速にコントロールができ血圧も安定しているなどと合理性を欠く評価をし、これを前提として胃管抜去後、右側結腸再建及び有茎空腸再建等を行って9時間15分にわたって本件手術2を継続・実施したものであり、術者としての合理的な裁量を逸脱し、術式選択義務に違反したものと認めるのが相当」と判示し、術式選択義務違反を認めた。争点(4)について裁判所は、分割手術の死亡率が一期的手術よりも低い旨が報告されている文献を指摘し、「本件手術2において、再建術まで実施せず、胃管抜去後、食道瘻を造設し、栄養チューブを留置する等して再建術を実施せずに閉腹していれば、正午ころには手術を終えることができ、9時間15分もの長時間にわたり大量の昇圧剤を継続使用することや、結腸・空腸再建術に伴う高い侵襲を回避することができ、本件患者においては、循環不全、呼吸不全等を引き起こすことなく状態が安定していた高度の蓋然性があり、また、その場合、本件患者が死亡した3月17日時点でなお生存していた高度の蓋然性があると認めるのが相当」と判断し、術式選択義務違反と死亡との因果関係を認めた。損害等以上の結果、裁判所は病院及び担当医の責任を認め、患者妻に対して約2,812万円、その余の遺族に対して各55万円の支払を命じた。注意ポイント解説本件は、食道がん手術後に患者が死亡した事案であるが、裁判所が問題としたのは手術手技そのものではなく、「術前のリスク評価及び説明」と「術後合併症発生後の再手術時の術式選択(に関する医師の裁量)」であったが、それぞれ以下の点が注目される。1. 術前のリスク評価と説明について医療訴訟では、説明義務違反のみが認定される場合には自己決定権侵害の慰謝料のみが認められるにとどまり、死亡との因果関係が否定されることも少なくない。しかし本件では、手術以外に有効な代替治療が存在し、適切な説明があれば患者が手術を選択しなかった高度の蓋然性があるとして、死亡結果との因果関係まで認められた点が重要である。本件の裁判所がこのような判断を下した背景には、以下の点があると考えられる。本件患者にアルコール依存症の既往があり、画像検査上も肝硬変を疑わせる所見が存在し、さらに腹水貯留や低アルブミン血症等も認められていたことから、担当医は肝機能障害の存在を十分認識し得たと判断したこと。食道がん手術は消化器外科領域の中でも侵襲の大きい手術の一つであり、肝機能障害を有する患者では術後合併症や死亡リスクが上昇することは広く知られていること。当時の食道がん診療ガイドラインにおいて肝硬変症例に対する術前評価としてICG負荷試験が挙げられていたこと患者の食道がんがStageIであったことに加え、当時すでに根治的化学放射線療法が有力な治療選択肢として存在していたこと裁判所は、ICG負荷試験を実施しなかったこと自体を形式的に問題視したのではなく、肝硬変ないし肝機能障害が疑われる患者に対し、十分なリスク評価を行わないまま死亡率を2~3%程度と説明し、その結果、患者が危険な治療を選択してしまったことを問題視したといえる。したがって、然るべき検査をして適切なリスク評価をした上で、合併症や死亡のリスクを説明しなければ、患者の自己決定に必要な情報提供がなされたとは言えず、説明義務を果たしたとは認められないことを改めて認識する必要がある。2. 術式選択に関する医師の裁量について一般に術式選択は高度に専門的な医療判断であり、複数の合理的選択肢が存在する場合には裁量が広く認められる傾向があり、本判決もこのことを認める判示をしている。しかし本判決は、患者の全身状態、再手術時の循環動態、昇圧剤の使用状況、手術時間、侵襲度等を詳細に検討した上で、「救命を優先すべき局面であった」という事実認定をし、侵襲の大きい一期的再建術を選択したことを裁量の範囲外と評価した。かかる判断において裁判所は、長時間手術後わずか約35時間しか経過していない状況で、さらに約10時間近い再建術を実施したことについて、患者の耐術能との関係を厳しく検討しているが、これは「一期的再建術は危険だから違法である」としたものではなく、「極めてハイリスクな患者に対して救命より根治性を優先した判断」を問題としたものである。ここでは、術式選択について「どちらの術式が正しかったか」という議論ではなく、「当時の患者状態に照らして合理的な判断過程がとられていたか」が問題となっていると言えるため、医療機関としては、ハイリスク患者に対する治療方針決定の際には、カンファレンス記録、説明記録、診療録への記載等を通じて判断根拠を残しておくことが極めて重要である。とくに複数の合理的選択肢が存在する場面では、「なぜその選択肢を採用したのか」という思考過程を後から説明できる状態にしておくことが、訴訟対応上も重要になると言える。医療者の視点本件では、「術前評価の不備」と「術中の術式選択」の2点が問われています。術前評価については、ガイドライン上の基本的な検査であるICG負荷試験を省略し、客観的根拠に乏しい楽観的なリスク説明を行ったことが問題視されました。これは実臨床の感覚に照らしても、患者の自己決定権を担保する説明義務のあり方として不適切であり、裁判所の判断は妥当と受け止められます。一方で、術式選択における裁量逸脱の認定には、臨床現場の医師として悩ましさを覚えます。裁判所は、昇圧剤を大量に使用する重篤な状況下で、高侵襲な一期的再建術を継続したことを裁量逸脱と断じました。たしかに結果から見ればその通りですが、実際の緊急手術の現場では事情が複雑です。二期的再建を選択した場合、長期にわたる生活の質の低下や、癒着による将来の再建手術の困難さが予想されます。そのため、術中の出血がコントロールできていると術者が判断すれば、患者の将来を見据えて一期的に再建を完了させたいと考えるのは、十分にあり得る思考回路です。とはいえ、訴訟においては事後的な客観的データに基づき、救命最優先の局面であったと厳格に評価されます。実臨床で私たちが身を守るためには、ハイリスク症例において術前に最悪の事態を想定しておくことが不可欠です。どの状態に至ればダメージコントロールに切り替えるのか、チーム内で明確な撤退基準を共有し、それを診療録に記録しておく姿勢が求められます。Take home message治療法の説明は、然るべき検査をして適切なリスク評価をした上で行う必要がある。高侵襲手術においては、術式そのものだけでなく、術前リスク評価、代替治療を含めた説明内容、そして合併症発生時の意思決定過程までが後に検証対象となる。特にハイリスク症例においては、「なぜその治療を選択したのか」を説明できる診療録・説明記録を残しておくことが重要である。キーワード食道がん、周術期リスク評価、説明義務、ICG負荷試験、肝硬変合併症例、術後合併症、手術適応、術式選択、二期的再建術、医師の裁量、ハイリスク症例 、意思決定過程 、チームカンファレンス

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腎デナベーションの国内治療成績と期待されること/メドトロニック

 昨夏に発刊された『高血圧管理・治療ガイドライン2025』での治療に関するClinical Question*に対し、作成委員の合意率100%のもとで盛り込まれた腎デナベーション。2026年2月には『腎デナベーションシステムの適正使用指針』が各関連学会を通じて公表され、翌3月にはその治療システムが国内初の保険適用を取得、2社より同時発売された**。高血圧症治療における唯一の侵襲的治療であることからも、現時点での実施可能施設や施行可能医師は限定的であるが、治療の個別最適化が求められる今、このシステムがどのように活用されていくべきなのだろう―。*CQ16「治療抵抗性高血圧の治療において、腎デナベーションは推奨されるか?」(推奨の強さ2、エビデンスの強さB)**日本メドトロニックの「Symplicity SpyralTM腎デナベーションシステム」、大塚メディカルデバイスの「ParadiseTM 超音波式腎デナベーションシステム」 2026年5月15日、『Symplicity SpyralTM腎デナベーションシステム』の製造販売元である日本メドトロニックが主催するメディアセミナーが開催され、苅尾 七臣氏(自治医科大学循環器内科学部門 教授/日本高血圧学会 理事長)が「治療抵抗性高血圧における治療選択肢の進展―腎デナベーションがもたらす高血圧治療の新たな選択肢」と題し、現時点での治療成績、本治療が適する患者像について解説した。薬剤が到達しない領域の治療に貢献 前述のガイドラインでは、合併症を考慮しながらも“全年齢で130/80mmHg未満”の降圧目標が設定されたが、現状は140/90mmHgでさえも高血圧有病者の27%しか達成できていない。この目標未達者のうち、“真の治療抵抗性高血圧”患者を救い出すためにも腎デナベーション(Renal Denervation:RDN)の保険適応は大きな前進といえる。苅尾氏は「高血圧有病者4,300万人のうち、3ヵ月以上多剤服用を続けていても降圧しない治療抵抗性高血圧患者は約10%(400万人)と推定される」と潜在患者について触れた。また、治療抵抗性高血圧への介入の必要性について、「2007~17年に実施されたJ-HOP研究(日本人における家庭血圧の心血管予後推定能に関する研究)1)からも治療抵抗性高血圧患者では10年間で3人に1人が循環器疾患を発症していたことが明らかになっている」とコメントした。―――――――――――――――――――<RDNの適応となる“真の治療抵抗性高血圧”>◆治療抵抗性高血圧の定義:利尿薬を含むクラスの異なる3剤の降圧薬を用いても血圧が目標値まで下がらないもの・診察室血圧140/90mmHg以上 かつ・診察室外血圧 自由行動下血圧測定(ABPM):24時間130/80mmHg以上、昼間135/85mmHg以上、夜間120/70mmHg以上 いずれかに該当 家庭血圧:朝/晩 135/85mmHg以上、夜間 120/70mmHg以上 いずれかに該当・eGFR40mL/分/1.73m2未満は除外する―――――――――――――――――――期待される治療効果、国内症例から明らかに RDNシステムとは、高周波エネルギー(ラジオ波)あるいは超音波を用いて腎動脈周囲を走行する交感神経線維(遠心路、求心路)を選択的に焼灼することでパーフェクト24時間血圧コントロール2)の達成が可能となるという。同氏はこれまでに実施された国内試験(SYMPLICITY HTN-Japanほか)や7つのシャム対照試験を比較した研究などを踏まえ、「シャム群の降圧には薬剤のOn-Offが影響している可能性が高いが、薬剤を完全OffしたHTN-OFF MED試験でもRDNによる降圧効果が認められている」と述べ、「(多剤)薬物治療では長期持続性がないため、24時間血圧のなかでも夜から朝にかけてのコントロールに難渋するが、RDNではとくに“モーニングサージ型”あるいは“夜間高血圧型”患者の血圧改善が見込まれる」と強調した。 RDNの特徴は、交感神経線維を完全に焼灼するのではなく部分的に焼灼することで、起立性低血圧や腎機能低下などの予測しうる副作用の回避につながっている。一方で、「手技のエンドポイントがない」「ドラッグフリーになるまでの降圧効果が現時点で明らかになっていない」「高周波システムと超音波システムの患者ごとの使い分けに対するエビデンスが不足している」といったウィークポイントもあり、その解決は今後の検討課題であるという。また、二次性高血圧のうち、原発性アルドステロン症例は治療対象外となる。これについて「降圧の作用機序が異なるため、効果が得られにくい可能性がある」と同氏は説明した。学会総会で実施症例を徹底検討!恩恵を受ける患者発掘に注力 本システムを使用するには、日本高血圧学会(JSH)・日本循環器学会(JCS)・日本心血管インターベンション治療学会(CVIT)の3学会合同で作成された適正使用指針ならびにコンセンサスステートメントに則り、認定専門施設でのみ実施可能である。それらの施設には“高血圧RDN治療チーム(HRT)”があり、3学会専門医、看護師、薬剤師、管理栄養士が患者介入し、患者嗜好を共有意思決定(SDM)したうえでようやく適応となる。なお、日本人高血圧患者のRDN嗜好/希望について同氏が調査3)を行った結果、約3割の患者が「希望する」と回答していた。 現在、3学会合同で1例ごとに実施可否の判断がなされ、全国で約10例に実施されている(2026年5月時点)。将来的な適応について同氏は、「脳卒中、急性心筋梗塞、心不全、大動脈解離など、重篤な循環器イベントの抑制を目指していく」と述べ、「現時点での最大の課題は、最も恩恵を受ける対象者を探すこと」だという。 そこで、同氏が会長を務め10月10~12日に開催される第48回日本高血圧学会総会において、実施症例の患者背景やベースライン時の血圧情報(診察室血圧・家庭血圧・ABPMなど)、併存疾患、服薬状況に関する報告がなされる予定だ。これまでに例をみない学会の試みにより、「専門医に向けて、患者発掘や実施可能例の理解につなげていく」と締めくくった。

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病名や薬物治療手順を一部変更、「蕁麻疹診療ガイドライン」改訂/日本皮膚科学会

 国際ガイドラインの改訂や病態解明の進展、新たな生物学的製剤の登場などを背景に、8年ぶりの改訂版となる「蕁麻疹診療ガイドライン2026(第4版)」が2026年4月に公開された。病型分類および病名の一部変更や治療アルゴリズムのアップデートが行われた今回の改訂について、ガイドライン策定委員会の委員長を務めた福永 淳氏(大阪医科薬科大学)が第125回日本皮膚科学会総会で講演した。慢性蕁麻疹→慢性特発性蕁麻疹、アスピリン蕁麻疹→NSAID誘発蕁麻疹へ 蕁麻疹の病型について、特発性の蕁麻疹、刺激誘発型の蕁麻疹、血管性浮腫、蕁麻疹関連疾患という4つの大分類に変更はないが、その下の分類や病名がいくつか変更された。まず、特発性の蕁麻疹は「急性特発性蕁麻疹(発症後6週間以内)」と「慢性特発性蕁麻疹(発症後6週間超)」に、“特発性”という言葉を加える形に病名が変更された。 刺激誘発型の蕁麻疹は、食物依存性運動誘発アナフィラキシーがアレルギー性蕁麻疹の一部であるという考え方に基づき、別分類されていた2018年版から、アレルギー性の蕁麻疹(食物依存性運動誘発アナフィラキシーを含む)という表記に変更された。またアスピリン蕁麻疹は、アスピリンでのみ生じるという誤解を生む可能性があることから、NSAID誘発蕁麻疹と改めた。 血管性浮腫に関しては、「マスト細胞起因性」および「非マスト細胞起因性」という中分類を新たに設け、非マスト細胞起因性の病型の1つとして「メディエーター不明の血管性浮腫」が追加された。 さらに、病態に関する記述も最新の知見をもとに大きくアップデートされた。その中で最大の特徴といえるのが、すべての文言において「肥満細胞」という名称を削除し、「マスト細胞」に統一した点である。「脂肪細胞(肥満に関わる細胞)」と混同することを避けるための配慮であり、疾患の正しい理解を促進する狙いがあるという。日本独自の疫学データを追加、慢性特発性蕁麻疹患者のボリュームゾーンは40〜50代 これまでの日本のガイドラインでは、蕁麻疹に関する詳細な疫学データが不足していたが、今回の改訂では新たに医療情報データベースなどを用いた研究結果が追加された。日本人の慢性特発性蕁麻疹の推定有病率は1.2〜1.6%であり、全国でおよそ200万人の患者が存在すると推測される。新規発症率はおよそ0.7〜0.8%である。 福永氏は、「慢性特発性蕁麻疹の有病率はヨーロッパ諸国と比較して、東アジアでより高い傾向がある。年齢分布を見ると、実は0〜9歳の小児期に新規発症の大きなピークが存在する。しかし、この年代の多くは自然治癒に向かうため、実際に医療機関で継続的な治療を要する患者のボリュームゾーンは40~50代となる。また、男女比は2対3で女性に多いことも明らかになった」と語った。網羅的検査の実施は推奨されない 検査に関しては、2018年版から「原因検索のための網羅的な検査」を推奨しない方向性であることに変更はないが、今回その姿勢をより明確に打ち出している。I型アレルギーの検査実施については、1型アレルギーが疑われる詳細な問診・病歴がある場合にのみ、疑わしい抗原に対して個別の検査を選択的に行うべきとされた(CQ1)。急性特発性蕁麻疹(CQ2)および慢性特発性蕁麻疹(CQ3)に対する検査についても、全例でルーチンに実施する必要はないとしたうえで、推奨文では以下のように記載された。急性特発性蕁麻疹:発熱などの全身症状を伴い,細菌やウイルスの感染が疑われる場合には血算・血清・生化学検査などの一般的な検査を行ってもよい慢性特発性蕁麻疹:非定型的な症例、難治性の症例などで、背景因子、合併症の存在が疑われる場合は抗ヒスタミン薬やオマリズマブの反応性を予測できる可能性があり、それらに応じた検査(血清総IgE値,甲状腺自己抗体,CRPの測定)を行ってもよいPROMs活用を推奨し、治療の第1目標を変更 今回のガイドライン策定委員会で全員一致で推奨に強い合意が得られたのが、UAS7(Urticaria Activity Score over 7 days)や、UCT(Urticaria Control Test)などの患者報告アウトカム尺度(PROMs:Patient-Reported Outcomes Measures)を用いた疾患コントロール状態の客観的評価である。治療の第1目標は、2018年版での「治療により症状が現れない状態」から「治療により生活に支障がない状態」と変更された。またその目安をUCTのスコアで表しており、第1目標(治療により生活に支障がない状態)がUCT12点以上、第2目標(治療により症状が現れない状態)がUCT16点と明記された。福永氏は、「日常診療のアセスメントの際には、ぜひUCTを活用して客観的な評価を行っていただきたい」と呼びかけた。薬物治療はStep 2にオマリズマブまたはデュピルマブ、ステロイドは「急性増悪時のみ」 治療手順については、急性と慢性でアルゴリズムが明確に分けられた。急性は主に救急外来などでの短期間の対応を想定している。薬物治療手順は、慢性特発性蕁麻疹について以下が示された。Step 1:第2世代抗ヒスタミン薬Step 2:Step1に追加してオマリズマブまたはデュピルマブStep 3:Step1に追加してシクロスポリンまたは試行的治療 2018年版でStep 2とされていたH2-拮抗薬、抗ロイコトリエン薬、トラネキサム酸については、国際ガイドラインやエビデンスレベルの低さなどを背景に、Step1の補助的治療としての位置付けに変更された。 また、Step 3に含まれていた副腎皮質ステロイドに関しては、「急性増悪時のみ」とされて、プレドニゾロン換算量0.2mg/kg/日未満で2週間以内の使用に限定することが明記された。

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双極症の維持療法に有効な薬剤とその用量〜ネットワークメタ解析

 双極症は、生涯にわたる治療を必要とする慢性精神疾患である。イタリア・University School of Medicine of Naples Federico IIのMichele Fornaro氏らは、双極症の維持療法における薬物療法の有効性と安全性を、年齢層別の用量効果を考慮して比較検討するため、システマティックレビューおよびネットワークメタ解析を実施した。Journal of Affective Disorders誌2026年8月15日号の報告。 PubMed/MEDLINE、Embase、Web of Science、Scopusより創刊から2026年1月12日までに公表された研究を、システマティックに検索した。双極症の維持療法における薬物療法の比較またはプラセボとの比較を行ったランダム化比較試験(RCT)を対象としてネットワークメタ解析を実施した。主要アウトカムは、再発率(すべての気分極性の急性エピソードの再発)および忍容性(副作用による治療中止)とした。副次的アウトカムは、特定の気分極性(うつ病、躁病、混合極性など)のエピソードの再発、受容性(すべての原因による治療中止)、特定の有害事象の発生率とした。ネットワークメタ解析の信頼性も評価した。 主な結果は以下のとおり。・23種類の異なる治療の組み合わせを含む44件のRCTを解析に含めた(1万867例)。・バイアスリスクの低い研究のみを残し、効果修飾因子の可能性のある外れ値を除外した感度分析の結果、プラセボよりも優れていることが示された治療および用量は、次のとおりであった。 アセナピン:20mg/日 アリピプラゾール:20mg/日、30mg/日 クエチアピン:300mg/日、600mg/日、550mg/日 リチウム:800mg/日 ルラシドン:80mg/日 カルバマゼピン:400mg/日、650mg/日 バルプロ酸:71~125μg/mL オランザピン:20mg/日 アリピプラゾール持続性注射製剤:400mg/4週間 リスペリドン持続性注射製剤:25mg/2週間 アリピプラゾール(30mg/日)とラモトリギン(200mg/日)の併用・対象患者の平均年齢、女性の割合、双極症I/II型患者の割合、躁病/うつ病のベースライン重症度、試験期間といった点で外れ値として浮上したものの、ほかにも有効性が示唆される薬剤がいくつか存在した。 著者らは「本研究の結果は、これまでのネットワークメタ解析および現行のガイドラインと一致する。しかし、異なる薬剤、用量、年齢層を同時に評価することで、既存の知見を拡張するものである」としている。

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パーキンソン病へのiPS細胞由来「ラグネプロセル」薬価収載、最適使用推進ガイドライン発出

 パーキンソン病に対する再生医療等製品「ラグネプロセル(商品名:アムシェプリ)」について、住友ファーマが日本における製造販売承認(条件及び期限付承認)を2026年3月6日に取得し、5月20日に薬価収載された。本品の使用に当たっては、厚生労働省より5月19日に「最適使用推進ガイドライン」が発出された。 ラグネプロセルは、世界初となる日本発のiPS細胞由来製品で、京都大学iPS細胞研究財団が提供するiPS細胞ストックを原材料とした、「非自己(他家)iPS細胞由来ドパミン神経前駆細胞」を有効成分とする再生医療等製品に分類される。本品の効能、効果又は性能として、レボドパ含有製剤を含む既存の薬物療法で十分な効果が得られないパーキンソン病患者の運動症状の改善とされている。本品は1回当たりの薬価が5,530万6,737円となるが、公的医療保険の対象となり、高額療養費制度や難病医療費助成制度も適用される。製造販売後のスケジュールと流通 ラグネプロセルは「条件及び期限付承認」の品目であり、製造販売後承認条件評価として製造販売後臨床試験(第IV相試験)および使用成績調査の実施が義務付けられている。住友ファーマの3月6日付のリリースによると、2026~29年頃までは、第IV相試験に参加する患者のみが移植対象となる。登録患者数は計35例(18歳以上65歳以下が30例、30例の移植完了後に65歳超が5例)を予定しており、実施施設は選定中の7施設となる見込みである。第IV相試験の終了後にあらためて申請を行い、本承認を取得した後に施設や対象患者の範囲が拡大される見込みとなっている。移植対象となる患者の選択基準 「最適使用推進ガイドライン」に定められた患者選択における主な適格基準は以下のとおり。・パーキンソン病と診断され、罹病期間が5年以上の者。・既存の薬物療法ではパーキンソン病の運動症状のコントロールが十分に得られていない者。・MDS-UPDRS Part III及び/又は症状日誌からオンとオフの状態を有する者。・オフ時のH&Y重症度分類が2度以上の者。・オン時のH&Y重症度分類が3度以下の者。・抗パーキンソン病薬休薬時(practically defined off)のレボドパ反応性が30%以上である者。 なお、臨床試験において70歳超の患者への移植経験がないことなどから、70歳超の患者への移植については有益性と危険性をより慎重に評価した上で判断することが求められている。ガイドラインに基づく施設要件 本品は定位脳手術による局所投与を行うため、以下の厳格な施設要件が規定されている。・対象施設:特定機能病院、大学附属病院(脳神経外科に係る診療科を有する場合に限る)、日本脳神経外科学会の基幹・連携施設、若しくは日本定位・機能神経外科学会の認定施設。・人員配置:適切な患者選択および術後管理が実施できる日本脳神経外科学会認定専門医、および日本神経学会認定神経内科専門医がそれぞれ1名以上配置されていること。また、随伴する免疫抑制療法(タクロリムス)に関連する有害事象発現時に適切に対応できる医師が配置されていること。・診療体制:重篤な不具合・副作用が発生した際に、24時間診療体制の下、当該施設または連携施設において当日中に入院管理および必要な検査結果が得られ、直ちに対応可能であること。・検査体制:自施設または連携施設で[18F]FDOPA PET検査の実施体制を有し、かつオフ時のMDS-UPDRSスコアを評価できること。有効性および安全性の評価 承認の根拠となった第II相試験の非盲検非対照国内試験(IACT16049-01試験)(有効性解析対象集団6例)における、移植後24ヵ月時の主な成績は以下のとおり。・有効性について、オフ時でのMDS-UPDRS Part III合計スコアのベースラインからの平均変化量は-9.5±13.8であり、6例中4例で著効(5点以上の改善)と判断された。また、6例全例で移植後12ヵ月および24ヵ月時点で被殻への細胞生着が確認された。・安全性について、本品の副作用発現割合は14.3%(1/7例)であった。タクロリムスの副作用発現割合は42.9%(3/7例)であり、2例以上に認められた副作用は軽度の腎機能障害(2例)であった。左右それぞれで3cm3を超える脳内の移植片の増大は全例で認められなかった。 ただし、本品はiPS細胞由来の製品であり、移植片の増大や腫瘍形成の理論的リスクを完全には否定できないため、投与後は定期的なMRI観察(移植翌日、12週、6ヵ月、12ヵ月、16ヵ月、18ヵ月、24ヵ月、その後は定期的に実施)を行うことが留意事項として挙げられている。【製品概要】商品名:アムシェプリ(18瓶1組)一般名:ラグネプロセル対象となる効能、効果又は性能:レボドパ含有製剤を含む既存の薬物療法で十分な効果が得られないパーキンソン病患者の運動症状の改善薬価:55,306,737円対象となる用法及び用量又は使用方法・本品の移植 通常、成人には、非自己iPS細胞由来ドパミン神経前駆細胞として片側あたり5.4×106個を目標として、定位脳手術により、両側の被殻に移植する。頭蓋骨の小孔1箇所を通る3つの投与経路から、1投与経路あたり約1.8×106個を1〜2mm間隔で6〜9箇所に分けて移植する。注入速度は約0.1μL/秒とする。・本品に対する免疫反応の抑制を目的とした本品移植前後のタクロリムス水和物の投与方法 通常、初期にはタクロリムスとして1回0.03~0.15mg/kgを1日2回、移植日の朝から経口投与する。以後、目標血中トラフ濃度を5~10ng/mLとし、血中トラフ濃度をモニタリングしながら投与量を調節する。 拒絶反応が認められた場合は、目標血中トラフ濃度を10~20ng/mLとする。 投与開始後1年を目安に、以後12週間かけて漸減し投与を中止するが、必要に応じて投与期間を延長する。製造販売業者:住友ファーマ株式会社

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第300回 従来の保険証の暫定措置7月末で終了へ 窓口・救急対応で混乱防止を/厚労省

<先週の動き> 1.従来の保険証の暫定措置7月末で終了へ 窓口・救急対応で混乱防止を/厚労省 2.電子処方箋の導入促進へ 7月14日に医療機関・薬局向け説明会/厚労省 3.診療情報共有、チャットでは不可 DX関連加算の要件を明確化/厚労省 4.診療所にもサイバー対策調査へ 7月からG-MISで実態把握/厚労省 5.介護保険法改正が成立 人口減少地域と身寄りなし高齢者支援を強化/厚労省 6.成年後見制度が「終われる制度」へ 退院支援にも対応求められる/国会 1.従来の保険証の暫定措置7月末で終了へ 窓口・救急対応で混乱防止を/厚労省厚生労働省は6月18日に開催された社会保障審議会医療保険部会で、マイナ保険証の利用状況と、従来の健康保険証に関する暫定措置を7月末で終了する方針を示した。2025年12月に従来の保険証は廃止され、マイナ保険証または資格確認書による資格確認が原則となっていたが、期限切れの保険証を持参した患者についても、医療機関側で被保険者番号などを確認できる場合は3割などの通常負担で受診を認める暫定運用が続いていた。これが8月以降は終了し、受診時にはマイナ保険証か資格確認書の持参が必須となる。4月のマイナ保険証利用率は68.15%だった。施設別では病院68.50%、医科診療所71.16%、歯科診療所71.52%、薬局63.29%で、昨年12月以降は6割台で推移している。 その一方で、加入者に占める利用登録割合は全保険制度で7割を超え、共済組合84.6%、健康保険組合83.7%、後期高齢者医療75.8%などとなった。マイナンバーカード保有率も8割を超えており、制度は移行期から本格運用の段階に入ったといえる。医療機関にとって重要なのは、8月以降の窓口混乱への備えである。厚労省は保険者、医療機関、薬局向けにリーフレットを配布し、SNSや福祉関係団体を通じて周知する。とくに高齢者、障害者、施設入所者、在宅患者では、本人がマイナ保険証を持参できない、資格確認書の所在がわからない、家族や施設職員が制度変更を十分に把握していないといった事態が想定される。外来受付だけでなく、救急外来、入退院支援、訪問診療部門でも、患者・家族への早期案内が必要である。関連して、スマートフォン搭載のマイナ保険証利用も広がっている。対応施設は約12.5万、スマホ搭載件数は約800万件に達し、訪問診療・訪問看護で用いるマイナ資格アプリでも読み取りが可能となった。さらに令和8年度からは、スマホ読み取りや音声案内、顔認証エラー低減に対応した第2世代顔認証付きカードリーダーの導入も進む。救急領域では、救急隊がマイナ保険証から受診歴や薬剤情報を確認する「マイナ救急」の本格運用が始まっている。吐血患者で食道静脈瘤手術歴を推定できた事例、意識障害患者で抗てんかん薬の処方歴を把握できた事例など、病歴聴取が困難な場面で搬送先選定や初期対応に役立つ可能性が示された。制度変更は事務手続きにとどまらず、医療安全、救急医療、地域医療DXの基盤整備として捉える必要がある。 参考 1) マイナ保険証の円滑な利用について(厚労省) 2) マイナ保険証の最新利用率68% 7月末に暫定措置の終了「早期切り替えを」厚労省(テレビ朝日) 3) 8月から「マイナ保険証」か「資格確認書」必須に 期限切れた保険証でも保険診療認める「暫定措置」終了へ(東京新聞) 4) マイナ保険証、4月の利用率は68% 従来の保険証は7月末で完全終了(日経新聞) 5) マイナ保険証、病院の利用率68.50% 4月 医科診療所は71.16%(CB news) 2.電子処方箋の導入促進へ 7月14日に医療機関・薬局向け説明会/厚労省厚生労働省は、電子処方箋の導入・利用促進に向けたオンライン説明会を7月14日午後7~8時で開催する。名称は「令和8年度電子処方箋オンライン説明会~診療報酬改定でどう変わる? 業務・経営面のポイントを解説~」(視聴先URL)。医療機関や薬局を対象に、YouTubeでライブ配信し、参加登録は不要となっている。説明会後には、アーカイブ動画と説明資料を厚労省ウェブサイトに掲載する予定。説明会では、電子処方箋導入による医療安全や業務効率化のメリットに加え、導入補助金、2026年度診療報酬改定での位置付けを解説する。未導入施設だけでなく、すでに電子処方箋システムを導入した施設も対象としており、運用開始後の業務や経営上のポイントを確認できる内容となる。2026年度の診療報酬改定では、従来の医療DX推進体制整備加算などが整理され、新たに電子的診療情報連携体制整備加算が設けられた。同加算では、オンライン資格確認、マイナ保険証利用率、電子処方箋、電子カルテ情報共有サービスなどが施設基準に関わる。疑義解釈では、当面の間、2名以上、常勤医師が1名のみの場合は1名以上の常勤医師が電子処方箋を発行できればよいことや、院外処方では電子処方箋の発行に加え、引換番号付き紙処方箋を発行し、処方情報を登録する運用でもよいことが示されている。その一方で、電子処方箋の導入には、システムの改修、HPKIカード、電子署名環境、院内運用ルールの整備が必要となる。導入補助金を活用した準備も求められる。医師にとっては、処方入力後の確認手順、重複投薬・併用禁忌チェック、薬局との情報連携、紙処方箋との併用時の運用整理が実務上の焦点となる。電子処方箋は、単なる処方箋の電子化ではなく、医療DX関連加算や地域医療連携、薬剤情報の共有と一体で進む仕組みである。各医療機関では、説明会を機に、自院の導入状況、常勤医師の利用体制、薬局との連携、補助金活用の可否を確認しておきたい。 参考 1) 電子処方箋の運用開始や導入準備に関するオンライン説明会(厚労省) 2) 令和8年度電子処方箋オンライン説明会の実施について(同) 3) 電子処方箋オンライン説明会「改定でどう変わる?業務・経営面のポイント」(ドラビズオンライン) 3.診療情報共有、チャットでは不可 DX関連加算の要件を明確化/厚労省厚生労働省は6月17日、2026年度診療報酬改定に関する疑義解釈資料(その8)を示し、新設項目を中心に算定上の取り扱いを明確化した。医療機関、とくに医師の実務に影響が大きいのは、医療DX関連加算、心不全管理、在宅医療、リハビリ・摂食嚥下、精神科、訪問看護などである。まず、電子的診療情報連携体制整備加算では、施設基準にある「地域の複数医療機関で検査結果や画像情報等を含む診療情報を共有・閲覧できるネットワーク」の考え方が整理された。厚労省は、診療情報提供料Iの検査・画像情報提供加算または電子的診療情報評価料の施設基準を満たし、電子カルテ情報を参加医療機関が随時閲覧できるネットワークであることが必要と明示した。単にチャットやメーリングリストで日々の報告や一部情報を共有するサービスでは要件を満たさないとした。さらに地域連携ツールを使っている医療機関は、実際に検査、画像、投薬、注射、退院時要約などを共有・閲覧できる体制か、アクセスログを含め確認が必要となる。電子処方箋については、当面、2名以上、常勤医師が1名のみの場合は1名以上の常勤医師が電子処方箋を発行できればよいとの扱いが再確認された。常に電子処方箋を発行する必要まではなく、引換番号付き紙処方箋を発行し処方情報を登録する運用でもよい。また、電子処方箋システムを導入済みで利用申請も行ったが、HPKIカード取得待ちの場合は、当面、接続インターフェース要件を満たすとされた。心不全再入院予防継続管理料では、心不全再入院予防チームに薬剤師や理学療法士が所属してよく、研修修了が望ましいとされた。管理料1・2を届け出る病院は、地域に管理料3を算定する医療機関がない場合でも研修会を開催する必要があり、二次医療圏の医療機関に広く参加や連携を呼びかけることが求められる。在宅CPAPでは、海外赴任などやむを得ない事情で3ヵ月以上中断し、再開時期が事前にわかる場合、再開時は開始後3ヵ月以内と同様に扱える。ただし中断理由を診療録に記載する必要がある。在医総管・施設総管の新規届出では、初回届出時はいったん基準該当として差し支えないが、その後は定期的な確認と届出が必要である。このほか、身体的拘束最小化推進体制加算は2026年度中の届出に限り、講習・委員会の開催予定を添付すれば1年間要件を満たす扱いとなるが、講習会の開催などの要件を満たさない場合には、直ちに届出を取り下げることが必要になる。さらに摂食嚥下支援計画の説明者、心理支援加算の再算定、認知行動療法の医師要件、脳血管内治療やてんかん手術の適正使用指針も明確化された。訪問看護では紹介料などによる利用者誘導の禁止が明記されたため、医療機関側も連携先の選定や患者紹介の透明性に注意が必要となる。 参考 1) 疑義解釈資料の送付について(その8)(厚労省) 2) 電子的診療情報連携体制整備加算、心不全再入院予防継続管理料、物価対応料等の詳細明確化-疑義解釈8(Gem Med) 3) 診療情報の共有、「チャット」では要件満たせず 新設のDX関連加算(MEDIFAX) 4) 26年度改定・疑義解釈資料(その8)医療DXの新加算、診療情報共有でチャットは対象外(CB news) 4.診療所にもサイバー対策調査へ 7月からG-MISで実態把握/厚労省厚生労働省は、医療情報システムのサイバーセキュリティ対策に関する実態調査を、従来の病院中心から診療所へ拡大する。医政局医療情報担当参事官室が6月15日付で事務連絡を発出し、医療機関等情報支援システム(G-MIS)を利用している診療所を対象に、7月6日~8月21日まで調査を実施する。回答は6月末時点の状況について求められ、医療情報システム安全管理責任者の設置、サイバー攻撃等を想定したBCP策定と訓練、サーバ・端末・ネットワーク機器の台帳管理、職員研修、電子カルテ利用の有無などを確認する。背景には、医療機関を狙うランサムウェア被害の増加がある。過去には徳島県の半田病院、大阪急性期・総合医療センター、岡山県精神科医療センターなどで、保守用VPNや外部委託業者の接続点を経由した攻撃により電子カルテが停止し、診療継続に大きな影響が出た。厚労省でも、中・大規模病院では外部ネットワーク接続点を網羅的に把握できていないことが課題とされ、病院調査では情報システム部門の人員不足、CSIRT未整備、二要素認証の遅れなどが明らかになっている。政府でも、AIを悪用したサイバー攻撃への警戒が強めている。高性能AIにより脆弱性の発見が高速化すれば、医療機関の未更新機器や外部接続点が狙われるリスクはさらに高まる。日本医師会も、医療機関は知識・人材・財源が不足しており、対策は自己責任ではなく地域医療を守る社会インフラ投資として支援すべきだと訴えている。医療法施行規則では、病院、診療所、助産所の管理者にサイバーセキュリティ確保のため必要な措置を講じる義務が位置付けられている。今回の診療所調査は、地域医療の足元にあるリスクを可視化し、チェックリストや安全管理ガイドラインに基づく具体的支援につなげる狙いがある。医療DXの前提として、院長・管理者主導のサイバーセキュリティ体制の確認が急務となる。 参考 1) 令和8年度診療所における医療情報システムのサイバーセキュリティ対策に係る調査について(厚労省) 2) 診療所のサイバー対策、実態調査へ 厚労省(MEDIFAX) 3) サイバー攻撃は激化、医療機関等は「チェックリスト」用いて自院のセキュリティ対策の再確認を-医療等情報利活用ワーキング(2)(Gem Med) 4) 医療機関等におけるサイバーセキュリティ対策の課題等を共有(日医オンライン) 5.介護保険法改正が成立 人口減少地域と身寄りなし高齢者支援を強化/厚労省人口減少と高齢単身世帯の増加を背景に、介護保険法、社会福祉法、老人福祉法などの改正法が6月19日、参院本会議で可決・成立した。今回の改正は、医療機関にも退院支援、在宅療養調整、施設入所支援に直結する内容である。柱の1つは、中山間地域など人口減少地域で介護サービスを維持するための「特定地域サービス」の創設である。介護人材の確保が難しく、訪問に時間を要する地域では、全国一律の人員配置基準や出来高払いでは事業継続が困難になっていた。改正後は、対象地域に限って職員配置基準を弾力化し、訪問系サービスでは月単位の定額報酬も選択可能とする。これでも提供体制の維持が難しい場合には、介護保険財源を用いて市町村が居宅サービスなどを実施できる仕組みも設けられる。厚労省は今後、対象地域や基準を議論し、2027年度の導入を目指す。もう1つの重要な点は、頼れる身寄りのない高齢者への支援拡充である。これまで主に判断能力が不十分な人を対象としてきた金銭管理などの支援を広げ、入院・入所手続き、日常生活支援、葬儀・納骨・家財処分などの死後事務まで、地域の支援機関が担えるようにする。国の推計では2040年に単身高齢者世帯は1,000万世帯を超える。医療現場では、保証人の不在、退院先調整、死亡後の対応が大きな課題であり、地域包括支援センターや社会福祉協議会などとの連携がより重要になる。有料老人ホームについては、住宅型有料老人ホームなどで指摘されてきた「囲い込み」対策として登録制を導入する。入居者に同一・関連法人の介護サービス利用を求めること、ケアマネジャーやかかりつけ医の変更を強いることなどを防ぎ、ケアマネジメントの独立性を確保する狙いがある。医師が施設入所後の療養方針や訪問診療先を確認する際にも、患者本人の選択権が守られているかを意識する必要がある。このほか、ケアマネジャー資格の更新制は廃止される。ただし、研修受講は義務として残り、オンデマンド化や時間短縮で負担軽減を図る。夜間対応型訪問介護は、機能が重なる定期巡回・随時対応型訪問介護看護へ統合される方向である。今回の改正は、介護サービスを「全国一律」から「地域の実情に応じて維持する」方向へ転換するものといえる。病院側には、退院支援の早期介入、身寄りなし高齢者の意思決定支援、施設紹介時の透明性確認など、医療と介護の接点での実務対応が求められる。 参考 1) 改正社会福祉法など成立 身寄りない高齢者支援拡充 参院本会議(NHK) 2) 介護保険法が成立 人口減少地域のサービス維持へ基準を緩和(朝日新聞) 3) ケアマネ資格の更新制の廃止が正式決定 改正介護保険法が成立 研修受講は義務に オンデマンド化で負担減へ(Joint) 4) 介護保険法改正で有料老人ホームの“囲い込み”や人口減少地域の介護はどう変わる?専門家に聞いた3つのポイント(ジョブメドレー) 5) 国会審議中の2027年度介護保険法改正法案のポイント(メディカルサポネット) 6.成年後見制度が「終われる制度」へ 退院支援にも対応求められる/国会認知症や知的障害などで判断能力が不十分な人を支える成年後見制度を抜本的に見直す改正民法が6月17日、成立した。現行制度では、1度利用を始めると本人の判断能力が回復しない限り原則として死亡まで継続し、後見人には包括的な代理権や取消権が与えられる。このため、本人の意思決定を過度に制限する、報酬負担が長期化する、必要な場面だけ使いにくいといった批判があった。改正後は、制度を「必要なときに、必要な範囲で」使える仕組みに改める。現在の後見、保佐、補助の3類型は、後見人と保佐人を廃止して補助人に一本化する。補助人の権限は、遺産分割、不動産売却、施設入所契約、預貯金管理など、本人に必要な個別行為ごとに家庭裁判所が判断する。必要がなくなれば途中終了でき、本人の利益のためとくに必要な場合は、不正がなくても補助人の交代が可能になる。補助人には年1回の家裁への状況報告も義務付けられる。医療現場では、認知症の高齢者や身寄りのない患者の入退院手続き、医療費の支払い、施設入所、相続・財産管理をめぐり成年後見制度が関わる場面が多い。今後は、単に「後見人を立てる」発想ではなく、患者本人の意思を確認し、どの法律行為にどの程度の支援が必要かを整理することが重要になる。退院支援では、地域包括支援センター、社会福祉協議会、法律専門職、行政との連携がより求められる。報酬面でも見直しが入る。これまでは本人の資産額が報酬判断で大きな比重を持っていたが、改正後は支援する事務の内容や難易度をより重視する方向となる。短期間・限定的な利用が可能になれば、利用者負担の軽減につながる可能性がある。その一方で、制度終了後の生活支援、金銭管理、意思決定支援を誰が担うのかは残された課題である。単身高齢者の増加を踏まえ、成年後見制度の改正は、医療と福祉が地域で本人を支える体制作りを迫るものといえる。 参考 1) 成年後見制度の見直し 改正民法などが成立 参院本会議(NHK) 2) 成年後見大改正「終われる制度」に 利用者が払う報酬どう変わる?(朝日新聞) 3) 「死ぬまで継続」廃止へ 成年後見制度見直し 背景に単身世帯増(毎日新聞) 4) 成年後見、終身利用を見直し 改正民法が成立、デジタル遺言導入(時事通信) 5) 財産管理の成年後見、途中終了・交代しやすく 改正民法が成立(日経新聞)

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高齢者の前立腺がんは、本当にすぐ治療すべき?【高齢者がん治療 虎の巻】第10回

講師紹介<今回のPoint>早期前立腺がんではPSA検査の普及に伴い「過剰診断」と「過剰治療」が問題となっている。監視療法は、低リスクから一部の予後良好中間リスク前立腺がんに対して即時の根治療法を回避し、慎重に経過観察を行いながら、患者の希望あるいは時期を逸しないタイミングで適切な治療を提案する治療戦略である。高齢者前立腺がんでは、期待余命、フレイル、患者の価値観を踏まえ、監視療法によりQOLを保ちながら過剰治療を避ける視点が重要となる。<症例>73歳、男性。健診でPSA 5.6ng/mLを指摘され、泌尿器科を受診。MRIと前立腺生検の結果、転移のない低リスク前立腺がん(cT1cN0M0)と診断された。特記すべき既往歴はなく、PSは良好。現在はシルバー人材センターを通じて地域施設の管理業務に従事し、月に1回の友人とのゴルフのラウンドを楽しみにしている。夫婦仲は良好で、患者本人は「できれば性機能は保ちたい。手術や放射線治療の体への負担が気になるので、詳しく話を聞きたい」と希望している。この患者に対して、すぐに前立腺全摘術や放射線治療を勧めるべきでしょうか。それとも、慎重に経過をみる選択肢を提示すべきでしょうか。早期前立腺がんで問題となる「治療しすぎ」前立腺がんは高齢男性に多いがんであり、国内の診断者数でみると男性がんの第1位です1)。PSA検査の普及により早期に発見される機会が増えた一方で、前立腺がんには生命予後にほとんど影響しない、いわゆる“おとなしいがん(insignificant cancer)”も少なくありません。前回(第9回「高齢者の前立腺がん疑い、本当にすぐに検査すべき?」)でも説明したように、高齢者に対してPSA検査や前立腺生検を積極的に行うことで、将来的に問題とならないinsignificant cancerまで発見してしまう可能性があります。さらに、前立腺生検は決して無害な検査ではありません。血尿、直腸出血、発熱、感染、まれには敗血症などを来すことがあります2)。高齢者では、一度の入院や感染をきっかけにADLが低下することもあります。また、根治治療として行われる前立腺全摘術や放射線治療は、がん制御の観点では有効ですが、尿失禁、排尿障害、直腸障害、性機能障害など、生活の質に関わる有害事象を伴うことがあります。また、経済的な負担も看過できる問題ではありません。とくに高齢者では、「がんを治療する利益」と「治療による不利益」のバランスを慎重に考える必要があります。近年の前立腺がん診療では、単にがんを見つけるのではなく、「治療介入が本当に必要ながんを見極めること」が重視されています2-4)。監視療法は「何もしない」治療ではないこのような過剰診断と過剰治療を回避するために確立された治療戦略が、監視療法(Active Surveillance:AS)です。監視療法は、低リスク前立腺がんを中心に、ただちに手術や放射線治療を行わず、PSA検査、直腸診、MRI、再生検などで慎重に経過を確認し、進行の兆候を認めた場合に治療へ移行する管理方法です。現在では、低リスク前立腺がんに対する標準的な治療選択肢として国内外のガイドラインで推奨されています2-4)。近年では、予後良好中間リスク前立腺がんにも適応が広がりつつあります3-5)。ただし、この場合にはMRI所見、PSA密度(PSAを前立腺体積で割った指標)、生検での陽性コア数、病理学的予後不良因子の有無などを慎重に確認する必要があります。監視療法の重要な点は、「何もしない」ことではないという点です。定期的にがんの状態を確認し、必要な時期に根治療法へ移行できるように備える、“積極的な経過観察”です。そのため、患者には、前立腺の再生検を含めた定期検査を継続する必要性と、途中で根治療法へ移行する可能性を十分に説明しておくことが大切です。また、患者の希望に合わせていつでも根治療法へ方針を変更できる点を説明しておくことも重要なポイントです。【監視療法とは】監視療法は早期前立腺がんに対してただちに治療を行わず、定期的なPSA検査、直腸診、MRI、前立腺生検などで病状を確認しながら、必要な時点で手術や放射線治療などの根治治療へ移行する治療戦略。似たような言葉に「待機療法」がありますが、両者は異なります。待機療法は、根治治療を前提とせず、症状や病勢の変化に応じて緩和的治療やホルモン療法を行う方針です。主に期待余命が限られる患者や、年齢・併存疾患などから根治治療の利益が乏しいと考えられる患者で選択されます。一方、監視療法は、根治の機会を残しながら、あらかじめ定めたスケジュールで慎重に経過をみる方法2-4)です。つまり監視療法は、「治療をしない」のではなく、「今すぐ治療しなくてもよいがんを見極め、必要なときに根治治療へ移行する」ための管理方法といえます。高齢者に監視療法を選ぶと、治療機会を逃すのか?高齢者において監視療法を選択する際、多くの医師や患者が心配するのは、「治療のタイミングを逃すのではないか」という点です。これには、高齢者前立腺がんに特化した監視療法のエビデンスが、これまで十分ではなかったという背景があります。そこでわれわれは、国際的な前向き監視療法研究PRIASの日本人コホート、PRIAS-JAPAN6)のデータを用いて、75歳以上の高齢前立腺がん患者における監視療法の成績を検討しました7)。解析対象は1,274例で、そのうち231例が75歳以上でした。その結果、高齢群では若年群と比べて全生存率は低いものの、前立腺がん特異的生存率は同等の成績でした。さらに、75歳以上の監視療法症例では、観察期間中に前立腺がん死を認めず、転移の発生も認めませんでした(図1)。(図1)画像を拡大する一方で、高齢群では監視療法後の治療選択として、前立腺全摘術や小線源療法は少なく、ホルモン療法や待機療法を選択する割合が高い傾向にありました。これは、高齢者では「根治性」だけでなく、「侵襲を避けること」「生活の質を守ること」がより重視されていることを示しています。高齢者では監視療法を一定期間行い、その後、年齢や全身状態の変化に応じて待機療法へ移行することも現実的な選択肢です。とくに、前立腺がんで亡くなるリスクよりも、他疾患や老衰による死亡リスクが高い患者では、過剰な治療を避けること自体が重要な医療判断となります(図2)。(図2)画像を拡大する監視療法を支える体制づくりへ日本では、監視療法の普及率は欧米に比べて依然として低い状況です。われわれの全国調査でも、早期前立腺がん患者における監視療法の選択率は約10%にとどまっていました8)。その背景には、患者の不安、医師側の説明負担、定期的な経過観察に対する診療報酬上の評価不足などがあると考えられます。そのような中、2026年度診療報酬改定では、前立腺がん監視療法に関連する加算が新たに認められました(がん患者指導管理料 イ*)。これは、監視療法が単なる「経過観察」ではなく、患者説明、意思決定支援、定期的な評価を要する医療行為として、制度上でも一定程度評価されたものと考えられます。*病状変化に伴い診療方針変更等の協議が必要となった場合に追加で1回算定可能(500点)高齢者前立腺がん診療では、「何歳まで治療するか」に明確な答えはありません。暦年齢だけではなく、期待余命、フレイル、併存疾患、認知機能、そして患者が何を大切にしているかを踏まえて、治療方針を考える必要があります。監視療法は、過剰治療を避けながら、将来の治療選択肢を残す戦略です。とくに高齢者前立腺がんにおいては、がんを治すことだけでなく、生活の質を守り、自分らしい時間を保つための重要な選択肢になると考えられます。 1) がん情報サービス:がん統計予測 がん罹患数予測2025年 2) 日本泌尿器科学会編. 前立腺がん診療ガイドライン 2023年版 2023. p.173-181. 3) Urology EAU. Oncology Guidelines . Prostate Cancer. 2026. 4) National Comprehensive Cancer Network. NCCN Clinical Practice Guidelines in Oncology:Prostate Cancer version 5. 2026. 5) 日本泌尿器科学会編.. 前立腺がん診療ガイドライン 2023年版 2023. p.65-71. 6) Kato T, et al. Int J Urol. 2023;30:289-297. 7) Kato T, et al. BJU Int. 2026;137:650-658. 8) Kato T, et al. Int J Urol. 2024;31:1438-4140.

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アジアにおける新薬早期開発/日本臨床腫瘍学会

 アジアが、がん新薬開発の“最初の一歩”を担う時代が到来するかもしれない。第23回日本臨床腫瘍学会学術集会(2026年3月26~28日)では、「アジアにおける新薬早期開発」をテーマとしたシンポジウムが開催され、第I相試験やトランスレーショナルリサーチの潮流が、従来の米国中心からアジア太平洋地域へと急速に移行している現状が示された。早期がん治験の進化と国立がん研究センター中央病院の取り組み 初めに、勝屋 友幾氏(国立がん研究センター中央病院 先端医療科)は、アジア視点から早期がん薬剤開発の現状と進展について解説した。第I相試験は従来、安全性の評価や最大耐用量の決定を主な目的としており、奏効率(ORR)は10%程度にとどまっていた。しかし近年では、バイオマーカーに基づく患者選択や多様なモダリティの導入により、ORRは18%まで向上しているという。とくに中国の創薬力とアウトライセンスの拡大が国際的競争環境を変化させる一方、日本は国民皆保険、充実したゲノム基盤、先駆け審査指定制度や治験効率化のプラットフォームなどの仕組みを背景に、早期治験の誘致力を高めている。 国立がん研究センター中央病院では2016年以降の8年間で1,642例が治験に登録され、その数は年々増加し2023年の登録者数は250例を超えた。さらに、ヒト初回投与(FIH)試験50件のうち、70%で初回コホート登録、25%で世界初症例登録を達成した。2019年の包括的ゲノムプロファイリング(CGP)保険収載後、CGP検査実施率は82.8%に上昇。これに伴いORRは12.6%から15.9%へ改善、ゲノム適合試験でのORRは29.1%と、非適合の約10%を大きく上回る成果が示された。 モダリティ別では、抗体薬物複合体(ADC)や免疫療法が増加している。治験のデザインは用量漸増段階からバイオマーカー選択を組み込んでおり、日本国内でのアクセスも拡大している。 さらに、勝屋氏は同院におけるトランスレーショナル研究基盤の強化(生検成功率94%以上、迅速検体処理、高度解析、患者由来オルガノイドライブラリーと縦断的サンプリングの完備)について紹介した。2030年代に向けた「築地バイオクラスター構想」を推進しており、多施設連携の重要性を強調した。米国第I相試験ネットワークとの連携による早期開発基盤の構築 次に、清水 俊雄氏(関西医科大学附属病院 新薬開発科)は、米国の第I相治験専門医療機関であり世界的ネットワークを有するNEXT Oncologyと学校法人関西医科大学が連携した国際合弁型の早期がん臨床開発基盤の構築について概説した。近年、がん領域の第I相試験は複雑化しており、拡大コホート設計の不備や過剰実施、予算配分の非効率、治験の長期化によって開発生産性が低下している。2023年にはメガファーマ(大手製薬企業)以外の新興バイオテック企業が全体の65%以上を担い、中国企業の台頭で競争も激化している。 ADCや多重特異性抗体、細胞療法など新規モダリティの登場により、高品質かつ迅速な治験体制の整備が不可欠となる一方、アジアでは規制や標準治療、償還制度の差異が障壁となっている。さらに、施設間競争や手続きの煩雑さ、電子カルテや標準業務手順書(SOP)の分断、IT連携の制約、倫理審査委員会(IRB)の審査遅延など、運営面での課題も顕在化している。 関西医科大学附属病院は、2024年11月に大学病院では国内初のがん新薬第I相治験に特化した専門診療科である新薬開発科を新設し、さらには米国NEXT Oncologyと学校法人関西医科大学が2026年1月にNEXT Oncologyのアジア拠点となるNEXT Oncology KMU JAPANを設立し、恒常的にファーストインマンPhase 1治験が実施可能な体制を整備した。米国型の高効率運営モデルを導入しつつ、日本の規制や個人情報保護に適合したインフラ、SOP、IT、IRBの高度化を推進している。加えて、東京などの首都圏に偏在する第I相治験実施施設・医療機関を西日本にも拡張し、患者さんのがん新薬治験アクセスに関する地域格差の是正を目指す点にも意義があると清水氏は指摘する。 今後は、定量指標による施設評価の標準化や多職種連携、人材育成などを通じ、国際競争力のある開発ネットワークの確立が求められる。この国際連携モデルは、日本におけるがん新薬へのアクセス向上と創薬エコシステムの強化に資する重要なモデルケースとなることが期待される。中国グレーターベイエリア(GBA)における初期臨床試験の統合運用と規制改革の動向 アジア太平洋地域は世界の臨床試験の約35%を担い、2028年には被験者登録の40%以上を占めると予測されている。中国では研究開発投資が年間約5,300億ドル規模に達し、従来の医薬品だけでなくADCや二重特異性抗体、細胞治療などの分野における開発の発展が目覚ましい。また、規制面でも迅速承認制度やバイオマーカーに基づく治験の審査加速により上市までの期間が短縮されている。こうした背景がある中、Aya El Helali氏(中国・香港大学)は、香港・マカオ・広東省を中心としたGBAにおける初期臨床試験の統合的・多施設運用と規制改革について講演した。 人口約8,600万人を有するGBAは、年間約39万例の新規がん患者を有し、バイオ・AI基盤も集積していることから、希少分子集団の迅速な患者登録が可能となっている。香港では、未収益のバイオ企業の上場を促進する制度や、他国規制当局の承認にローカルデータを組み合わせたワンプラス制度により治験環境が強化されており、さらには新たな規制機関の設立も計画されているという。加えて、GBA国際臨床試験研究所や香港ゲノム研究所の取り組みにより、地域横断的な早期臨床試験の同時実施体制が整備されつつある。 こうした背景からHelali氏は、従来の「地域ごとに段階的に進める試験モデル」から、「複数地域で、同時並行で実施する統合型モデル」への転換が重要であると指摘した。さらに、規制の調和と国際連携の強化が、精密医療の成果を実臨床へ迅速に届けるうえで不可欠であることを強調した。マレーシアにおける早期相試験体制の構築と発展 Pei Jye Voon氏(マレーシア・サラワク総合病院)がマレーシアにおける早期相試験の発展について報告した。世界的に臨床試験のグローバル化が進む中、人口規模や遺伝的多様性、市場性を背景にアジアの重要性が増している。マレーシアでも2024年までの12年間で企業主導の臨床試験が2,572件実施され、約3,000人の高度人材雇用が創出された。 一方で、早期相試験はこれまで十分に実施されていなかったが、2017年から2020年にかけて第I相試験エコシステムプロジェクトが実施され、第I相試験ガイドラインや危機管理マニュアル、科学審査体制などが構築された。サラワク総合病院の臨床研究センターはFIH試験実施拠点として中核的役割を担い、2023年にはKRAS G12C変異を標的とした分子標的薬のFIH試験を開始した。現在までの過去5年間で早期相試験は41件まで拡大した。また、臨床試験のエコシステムをさらに強化するため、763例の患者さんを対象とした臨床試験に対する理解や参加意欲に関するアンケート調査研究など、患者中心のアプローチに基づく研究も実施されている。 今後は、創薬研究基盤の強化、患者参画の制度化、規制・倫理審査の迅速化、政府およびアカデミアとの連携強化・維持が、マレーシアにおける早期相試験の持続的発展の鍵となるとVoon氏は結んだ。

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心臓MRI遅延造影とNT-proBNP値が肥大型心筋症の予後予測に有用(解説:佐田政隆氏)

 現在の肥大型心筋症のガイドラインは必ずしも完全ではなく(著者のコメント)、避けられたはずの突然死や不必要なICD(植込み型除細動器)植込みにつながっていると言われている。 本研究では、北米ならびに欧州の44施設から2,750例の肥大型心筋症が前向きに登録され、平均6.9年追跡された。注目すべきことには、全例で、造影剤を用いた心臓MRI(CMR)、遺伝子検査、各種バイオマーカー測定が行われた。主要評価項目は、肥大型心筋症関連死、持続性心室頻拍、左室補助装置植込みもしくは心移植であった。CMRで検出された遅延造影(心筋線維化)の割合、左室重量指数、左室収縮末期容量係数およびNT-proBNP値が予後規定因子であった。 欧州心臓病学会の肥大型心筋症突然死リスクスコアには、年齢、最大壁厚、左房径、左室流出路圧格差が含まれているが、今回はどれも予後予測因子にならなかった。本研究で、従来、補助的に用いられてきたCMRの重要性が明らかとなった。しかし、とくに本邦では、CMRは簡単に施行できず、解析にも高度な技量と時間が必要で、多くの施設で頻回に行われている検査ではない。 一方、NT-proBNPは日常臨床で頻用され保険適用もされている。他に、cTnT、ST2、MMP1、TIMP1、CICP、BAPなどが測定されているが、予後予測にはNT-proBNPが最も有効であったことは注目すべきである。 また、9例は遺伝子検査などで、肥大型心筋症の表現型模写(phenocopies)で肥大型心筋症でないと判断されて除外された。Fabry病やアミロイドーシスとして診断されているが、これらの疾患は、最近、有効な治療薬が開発されている。「心肥大」をみたら2次性心肥大を鑑別することの重要性を再認識した。

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最適な輸液ルート選択の考え方 その参【ケースで学ぶ輸液オーダー】第4回

はじめに「点滴ラインを何度も自己抜去してしまう認知症の患者さん」「その都度ルート再確保に奔走する看護師」「内心心苦しさを感じながら点滴を指示する医師」は、病棟「あるある」な光景でしょう。しかし、たとえ1日500mLの維持輸液だけだったとしても、必要な治療であればやめるわけにはいきません。そんなとき、全員をwin-winの関係にしてくれるのが、古くて新しい存在の「皮下輸液」です。症例特別養護老人ホームから誤嚥性肺炎で入院した90代女性。総合診療科に配属されたばかりの研修医A君が担当になりました。施設では普通食だったとのことですが、いざ服薬してみると明らかにむせています。言語聴覚士(ST)が介入し、嚥下訓練をしながら少しずつ嚥下調整食を試すことになりました。段階的にカロリーを上げていく間、どうしても経口以外からの水分補給が必要です。とはいえ、経鼻胃管の留置は自己抜去のリスクが高すぎます。そこでA君は、末梢静脈路から維持輸液500mLを1日2時間ほどかけて、まずは1週間行う計画を立てました。しかし、患者さんの末梢血管は細くて見えにくく脆弱です。看護師がなんとか確保したルートは、あえなく2日連続で自己抜去されてしまいました。「もう刺せる血管がありません」と看護師に詰められるA君。中心静脈カテーテルを留置するなら自己抜去対策に身体拘束が避けられない状況です。ほかに優しくて安全な方法はないのでしょうか?考えかたの整理19世紀中頃に登場した古典的治療法である皮下輸液は、経静脈栄養の発展・普及により廃れかかっていました。しかし近年では、高齢者の脱水治療や終末期ケアにおける「低侵襲で安全なルート」として見直されています。「血管が見つからなくて針が刺せない」「どうしても点滴を抜いてしまう」という場面において、皮下輸液は重篤な合併症がほとんどない、極めて安全な選択肢です。緩和ケア領域では、持続注入ポンプを用いた鎮痛薬の持続皮下注射も普及しています。『終末期がん患者の輸液療法に関するガイドライン 2013年版1)』『症状緩和のためのできる!使える!皮下投与 改訂2版2)』を参考に、皮下輸液の方法、注意点、皮下投与可能な薬剤例(表1)をまとめてみました。皮下輸液の方法投与速度60~500mL/時間1日投与量1,500mLまで(2ヵ所の場合は3,000mLまで)管理1~4日ごとの針・チューブ交換と、刺入部の観察(浮腫、発赤、痛み、感染、液漏れがないか)注意点静脈と違って効果発現までに時間がかかる。浮腫がある場所は吸収されにくいため穿刺に向かない。皮膚障害が起こることがある。出血傾向がある患者さんには禁忌。表1 皮下投与可能な薬剤例1,2)※添付文書上、皮下投与が可能なもの。その他は文献や経験的使用に基づく。画像を拡大するベテラン看護師に聞きました<皮下輸液の実際>当院で高齢者の皮下輸液を日常的に行っている病棟看護師に、現場のリアルを聞いてみました。準備するもの普段の点滴に使う24Gの静脈留置針と点滴セット。特別な道具は不要。点滴の落とし方たとえば維持輸液(ソリタT3など)500mLなら、約4時間かけてゆっくり落とすように重力滴下でクレンメを調整する。おすすめの穿刺部位頻用するのは腹部で、腹壁の厚みが少ない場合は大腿部を選択する。自己抜去のリスク管理リスクが極めて高い患者さんは点滴終了ごとに抜針する。また、大腿部に穿刺し、衣服のズボンの裾からこっそりラインを外へ誘導すると、患者さんの視界に入らず抜かれにくくなる。 痛みを訴えたら?もし注入開始後に痛みの訴えがあった場合は、刺入部をカイロや蒸しタオルで温めると痛みが和らぐ。図2 当院で入院患者に行われる皮下輸液の実際画像を拡大する保険適用上の注意点今回参照した本邦の文献1,2)では、海外文献や成書での使用例や国内での臨床経験に基づいた豊富な実例を紹介しているとともに、皮下投与が添付文書上の適応外に該当する場合は、「患者・家族に対する十分な説明を行い、場合によっては説明文書や同意書を作成したうえで、院内の手続きを経て適応外申請を行うなど、より厳格な対応が求められていく可能性がある2)」との認識も示しています。海外では、セファゾリンやセフトリアキソンなど、本邦では皮下投与の適応外となっている抗菌薬の皮下投与の安全性を示す報告3,4)や、皮下投与実施ガイドライン5)も存在し、皮下投与の安全性や有益性のよりどころになりますが、本邦で実施する場合は、医学的な正しさと制度の順守の両輪を念頭におきましょう。本症例の対応A君は、当面の輸液ルートとして皮下輸液を選択しました。腹部の皮下に24G静脈留置針を刺入し、ソリタT3 500mLを1日1本4時間程度で点滴しました。患者さんは刺入部を気にすることなく穏やかに過ごされ、鎮静薬の投与や身体拘束は必要ありませんでした。「末梢が見えない」「自己抜去のリスクがある」患者さんに維持輸液を500mL行わざるを得ない場合、皮下輸液を選択肢に入れましょう。皮下輸液に適する製剤、適さない製剤皮下組織への輸液投与は、静脈内投与と比較して薬剤の希釈および全身への拡散が起こりにくく、投与部位において一時的に高濃度で滞留する可能性があります。そのため、浸透圧、pH、局所刺激性といった薬剤の物理化学的特性の影響を強く受ける点に留意が必要です。皮下輸液に使用する輸液製剤は、原則として等張(浸透圧比約1)であり、かつ生体に近いpHであることが求められます。皮膚のpHは、表面では弱酸性(pH4~6)、角質下では中性から弱塩基性(pH6~7)とされており、これらの範囲から逸脱する製剤は局所刺激や組織障害のリスクを高める可能性があります。この観点から、生理食塩液、5%ブドウ糖液、1・3号液、リンゲル液は皮下投与が可能とされています。一方で、末梢静脈栄養輸液、高カロリー輸液は浸透圧比が3以上と高く、皮下投与には適しません。また、脂肪乳剤は浸透圧比が約1でありpHも6.5~8.5に調整されていますが、血管外漏出時に壊死や潰瘍形成を引き起こした症例が報告されています6)。このため、安全性の観点から皮下投与は推奨されません。1)日本緩和医療学会緩和医療ガイドライン委員会編. 終末期がん患者の輸液療法に関するガイドライン 2013年版. 金原出版;2013.2)梶山 徹ほか編. 症状緩和のためのできる!使える!皮下投与 改訂2版. 診断と治療社;2023.3)Moreal C, et al. New Microbiol. 2024;47:227-242.4)Forestier E, et al. Infect Dis Now. 2026;56:105232.5)Broadhurst D, et al. J Infus Nurs. 2023;46:199-209.6)Lu YX, et al. World J Clin Cases. 2021;9:4599-4606.

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糖代謝異常者における循環器病の診断・予防・治療に関するコンセンサスステートメント改訂版の概要/日本糖尿病学会

 日本糖尿病学会の第69回年次学術集会(会長:下村 伊一郎氏[大阪大学大学院医学系研究科 内分泌・代謝内科学 教授])が、5月21~23日の日程で、大阪国際会議場、リーガロイヤルホテル大阪をメイン会場に開催された。 今回の学術集会は「IMAGINE いのち輝く 糖尿病の医療・医学を共に目指して」をテーマに、41のシンポジウム、143の口演、ポスターセッション、会長特別企画による講演、特別企画「糖尿病とともに生活する人々の声をきく」などが開催された。 糖尿病患者の生命予後を左右するリスクに心血管障害がある。そこで、日本糖尿病学会(JDS)と日本循環器学会(JCS)は、2017年より合同委員会を立ち上げ、臨床知見の情報交換などを行ってきた。また、2020年にはこれらを成書化した『糖代謝異常者における循環器病の診断・予防・治療に関するコンセンサスステートメント』が刊行された。今回、6年ぶりにその内容が更新されたことから、本稿ではシンポジウム14より「JDS・JCSコンセンサスステートメントについて」の概要をお届けする。前心不全の早期からの治療介入を記載 「JDS・JCS合同コンセンサスステートメント改訂のオーバービュー」をテーマにJCS側を代表し田中 敦史氏(佐賀大学医学部循環器内科)が今回の改訂のポイントを説明した。 全体の改訂としては、循環器疾患、高血圧に関連する最新の診療ガイドラインの内容を盛り込んだほか、慢性腎臓病(CKD)のセクションを新たに設け、口腔管理についても記載した。また、専門医への紹介基準や両科の連携についてもより内容を充実させている。 今回の改訂では目次は2020年の前版と変更なく、1章では「診断」、2章では「予防・治療」、3章では「紹介(連携)基準」を踏襲している。診断対象は糖代謝異常と循環器疾患(アテローム性動脈硬化性心血管疾患、心不全、不整脈)であり、循環器疾患は3つの軸で記載されている。 2章では、糖代謝異常患者の大血管障害の予防・治療に対応する非薬物療法について、ライフスタイル介入として運動療法や食事療法、禁煙指導などのほかに、今回は口腔(歯)衛生についても記載された。 同じく薬物療法では、血圧、脂質のほかに、近年エビデンスが集積してきたCKDについても1つのセクションとして取り上げた。また、糖尿病治療薬が、心血管疾患の治療や予防にどの程度寄与するのか、内容をアップデートした。そのほか、糖尿病患者の経皮的冠動脈形成術(PCI)について、どのような患者を対象にするかを記載している。 糖代謝異常患者の心不全の予防・治療、心房細動の治療についても同様に記載し、エビデンスなどアップデートしている。 3章では「紹介(連携)基準」として、今改訂ではあえて「専門医」という言葉を使わずに「診療する医師」と幅広くとらえる変更を行った。対象を広げて糖尿病、循環器疾患、それぞれを診療する医師からの紹介とした。 心不全のフローチャートについて、今回は早期に心不全のリスクを検出する目的で、BNP(35pg/mL以上)/NT-proBNP(125pg/mL以上)の数値基準を記載し、ステージA・B・C・Dで分類。とくにステージBは前心不全ということで早期介入での進行予防を、ステージCとDでは循環器専門医へ紹介するように示している。また、糖代謝異常者に対する心不全の予防および治療については、『心不全診療ガイドライン2025』(日本循環器学会/日本心不全学会)に準拠した記載に改訂されている。 高血圧では『高血圧管理・治療ガイドライン2025』(日本高血圧学会)を反映し、糖尿病患者の目標値も診察室で130/80mmHg未満、家庭(自宅)で125/75mmHg未満で新たに記載し、アンジオテンシン受容体ネプリライシン阻害薬(ARNI)、MR拮抗薬が第2段階では同列などの記載がされている。 脂質異常症へのアプローチは、基本的には糖尿病患者の高LDL-C血症、低HDL-C血症、高TG血症などの1・2次予防として薬物治療やそのエビデンスなどについて『動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022年版』(日本動脈硬化学会)から引用している。 大血管障害に対する糖尿病治療については、特定の薬剤推奨は前回版では見送りとなっていたが、その後、薬剤の個別化が欧米を中心に普及しエビデンスも蓄積されてきたことを受け、とくに2次予防のためにGLP-1受容体作動薬もしくはGIP/GLP-1受容体作動薬、ならびにSGLT2阻害薬の推奨がされている。 本ステートメントの目次は次のとおり。【I 診断】1 糖代謝異常2 循環器疾患  2-1 アテローム性動脈硬化性心血管疾患(とくに冠動脈疾患)  2-2 心不全  2-3 不整脈(心房細動と心臓突然死)【II 予防・治療】 1 糖代謝異常者における大血管障害(冠動脈疾患・末梢動脈疾患)の予防・治療  1-1 Lifestyle介入  1-2 薬物療法  1-3 糖尿病患者における冠血行再建術 2 糖代謝異常者における心不全の予防・治療  2-1 Lifestyle介入  2-2 薬物療法 3 糖代謝異常者における心房細動の治療【III 紹介(連携)基準】 1 糖尿病を診療する医師から循環器疾患を診療する医師(とくに専門医)への紹介(連携)基準 2 循環器疾患を診療する医師から糖尿病を診療する医師(とくに専門医)への紹介(連携)基準 3 循環器疾患・糖尿病を診療する両医師間で糖尿病治療について連携する場面での留意点

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高齢者におけるベンゾジアゼピン減量のための最適な戦略は?

 慢性的なベンゾジアゼピン受容体作動薬(BZRA)の使用は、転倒、認知機能低下、機能低下、その他の有害事象に関する懸念があるにもかかわらず、65歳以上の高齢者において依然として一般的に行われている。BZRAの減薬を支援するための複数の戦略が提案されているが、高齢者におけるこれらの減薬介入の安全性と有効性は、介入の種類を問わず包括的に統合されていない。スペイン・Clinica Psicogeriatrica Josefina ArreguiのKevin O'Hara-Veintimilla氏らは、65歳以上の高齢者における慢性的なBZRA使用を減らすための構造化された戦略の安全性と有効性に関する入手可能なエビデンスを統合することを試みた。Age and Ageing誌2026年5月4日号の報告。 本システマティックレビューは、PRISMA 2020ガイドラインに従って実施された。データベースの創設時から2025年9月までに公表された研究をOvid MEDLINE、PubMed、Embase、PsycINFOの各データベースより検索した。高齢者を対象とし、構造化されたBZRA減量介入を評価したランダム化比較試験および非ランダム化比較試験を対象に含めた。バイアスのリスクは、研究デザインに適したツールを用いて評価し、結果の異質性が高いため、記述的な統合を行った。 主な結果は以下のとおり。・約1万1,000人の高齢者を対象とした30研究を分析に含めた。・介入には、構造化された薬物漸減、患者主導の教育戦略、臨床医主導のアプローチ、システムレベルの介入が含まれていた。・いずれの戦略においても、減量はおおむね安全であった。離脱症状は、通常、軽度かつ一過性であり、重篤な有害事象はまれであった。・構造化された段階的減量は、投与の中止または減量率が最も高かった。一方、他のアプローチでは効果にばらつきがみられた。 著者らは「高齢者における慢性的なBZRA使用の減量は、構造化された段階的かつ患者中心のアプローチを用いれば、実現可能であり、おおむね安全であることが示唆された。その効果は、介入の種類や状況によって異なるため、老年医学におけるBZRAの減量には、個別化されたエビデンスに基づいたアプローチが推奨される」と結論付けている。

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HER2+およびTN早期乳がん、腫瘍径とリンパ節転移の関連

 2021年の米国臨床腫瘍学会(ASCO)ガイドラインでは、リンパ節転移陽性またはT1c以上のHER2陽性(HER2+)およびトリプルネガティブ(TN)早期乳がんに対して術前全身療法を推奨しているが、臨床的にはリンパ節転移陰性のT1c腫瘍の管理に関しては議論が続いている。今回、カナダ・トロント大学のYerin R. Lee氏らは、T1-T2のHER2+およびTN乳がんにおける腫瘍径とリンパ節転移の関連を評価し、T1c腫瘍におけるリンパ節転移陽性の予測因子を検討した。その結果、HER2+およびTN乳がんにおいて、T1a/bであってもリンパ節転移率は高く、T1cではホルモン受容体陰性(HR-)/HER2+および50歳以下がリンパ節転移リスクの独立した予測因子であることが示唆された。Annals of Surgical Oncology誌2026年7月号に掲載。 本研究は、オンタリオ州臨床評価科学研究所の2000~19年のデータを用いた人口ベースの後ろ向きコホート研究である。主要評価項目は、腫瘍サイズ(T1a-T2)およびサブタイプ別に層別化した局所リンパ節転移陽性(N1-N3)であった。多変量ロジスティック回帰分析により、T1cの乳がんにおけるリンパ節転移陽性の独立した予測因子を調べた。 主な結果は以下のとおり。・T1a-T2の1万1,007例を解析した。内訳はHR-/HER2+が1,923例、HR+/HER2+が4,542例、TNが4,542例であった。・T1a/bにおけるリンパ節転移陽性割合は、HR-/HER2+では11~22%、HR+/HER2+では11~14%、TNでは7~11%であった。・T1cにおけるリンパ節転移陽性割合は、HR-/HER2+では32%、HR+/HER2+では26%、TNでは19%であった。・T2におけるリンパ節転移陽性割合は、HR-/HER2+では38%、HR+/HER2+では42%、TNでは30%であった。・T1cでは、「HR-/HER2+」および「50歳以下」が、リンパ節転移陽性のオッズ増加と独立して関連していた。

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米国がん協会、大腸がん検診の改訂ガイドラインを公表

 米国がん協会(ACS)はこのほど、医療機関で受ける血液検査を大腸がん検診に使用できるとする大腸がん検診の改訂ガイドラインを公表した。同ガイドラインではまた、便中の血液とがんに関連するDNAマーカーの両方を検出できる自宅検査キット「Cologuard」の使用も推奨されている。ガイドラインの全文は、「CA: A Cancer Journal for Clinicians」に5月27日掲載された。 ガイドラインをまとめた研究グループによると、今回の改訂は、専門家らが大腸がん検診のさらなる普及と罹患率の低下を推し進めようとする中で行われた。ガイドラインの上席著者であるACSがん早期検出センターのRobert Smith氏はニュースリリースで、「大腸がんは治療可能なだけでなく予防可能な疾患であるという点も、これまで以上に重視する必要がある。このガイドラインでより多くの検診手段を提示することで、大腸がん検診の対象となる成人が、命を救う可能性のある検査を受けやすくなる。その結果、検診受診率の格差解消につながるとともに、より多くのがんを治療可能な早期段階で発見できるようになるだろう」と述べている。 大腸がんは予防可能な数少ないがんの一つであり、医師が前がん病変のポリープを検出して切除すれば予防できると、研究グループは説明している。ACSによると、米国では、大腸がんは早期に発見できれば5年生存率は90%を超える。しかし、大腸がん検診の対象となる米国人の3人に1人が検査を受けておらず、その数は2000万人を超えていると研究グループは指摘する。さらに、大腸がんの全体的な罹患率と死亡率は、年々着実に減少しているものの、50歳未満では近年、増加傾向にあるという。実際、大腸がんは、50歳未満の成人におけるがんによる死因の第1位である。 大腸がん検診のゴールドスタンダードが現在も大腸内視鏡検査であることに変わりはない。大腸内視鏡検査は、鎮静薬を投与した状態で細く柔軟なチューブを大腸に挿入して行う。ポリープが見つかった場合には、その場で切除することも可能だ。しかし、強力な下剤を使って大腸を洗浄する検査前処置を不快に感じる人は多い。また、鎮静薬の使用に不安を抱く人もいる。そのためACSは、Cologuardのような自宅検査キットを含む便検査、さらには血液検査も含めることで、検診方法の選択肢を広げた。 血液検査(商品名Shield)では、腫瘍から血液中に放出されたがん細胞由来のDNA断片を検出することができる。専門家らによると、Shieldによる前がん病変のポリープや早期がんの検出能はそれほど高くないが、検診を全く受けないよりは受ける方が良いという。ガイドラインでは、CologuardのようなDNAベースの便検査は3年ごとの受診が推奨されている。一方、CTを用いたバーチャル大腸内視鏡検査ともいえる大腸CT検査(CTコロノグラフィ)や、大腸内視鏡検査と同様に内視鏡を用いるが、結腸の下部3分の1のみを検査する軟性S状結腸鏡検査は5年ごと、大腸内視鏡検査は10年ごとの受診が推奨されている。 また、検診は45歳から受け始めること、大腸がんリスクが高い場合はそれよりも早い段階から受けることが推奨されている。さらに、85歳以降は定期検診を終了してもよいとされている。 ACSチーフ・サイエンティフィック・オフィサーのWilliam Dahut氏は、「どの検査を選択するにせよ、最も重要なのは検診を受けることだ。このことは、医療サービスが行き届いていない地域や農村部の住民、マイノリティの人にも当てはまる。今回の改訂は、大腸がん検診の選択肢を広げ、あらゆる人ががん予防のための医療サービスを受けられるようにすることを目的に行われた」とニュースリリースの中で説明している。 なお、研究グループは、非侵襲的な検査で結果に異常が見られた人は、大腸内視鏡検査を追加で受けることが極めて重要だと強調している。

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ASCO2026 レポート 消化器がん

レポーター紹介[目次]RASolute 302試験FIGHT-302試験BREAKWATER Cohort3試験EPISODE-III/JCOG1503C試験欧州CIRCULATE/日本発GALAXY試験ONO-4578-08試験PANKU-Esophagus01試験膵がんRASolute 302試験:daraxonrasibが膵がん薬物療法の地図を塗り替える可能性RASolute 302は、前治療歴を有する転移のある膵管腺がん(PDAC)を対象に、経口RAS(ON) multi-selective inhibitorであるdaraxonrasibと医師選択化学療法(GnP、mFOLFIRINOX、Nal-IRI+5FU/LV、FOLFOX)を比較した国際共同非盲検第III相試験である。主要評価項目はRAS G12変異例における全生存期間(OS)および無増悪生存期間(PFS)で、全体集団500例のうち91.8%がRAS G12変異例であった。RAS G12変異例では、OS中央値が13.2ヵ月vs.6.6ヵ月(ハザード比[HR]:0.40)、PFS中央値が7.3ヵ月vs.3.5ヵ月(HR:0.45)と、daraxonrasib群で有意に改善した。全体集団でもOS中央値13.2ヵ月vs.6.7ヵ月(HR:0.40)、PFS中央値7.2ヵ月vs.3.6ヵ月(HR:0.49)と一貫した効果が示され、RAS G12以外やRAS変異未同定例を含めた広い集団で有効性が確認された。客観的奏効率(ORR)もRAS G12変異例で33.2%vs.11.8%(p<0.0001)、全体集団で31.6%vs.11.2%(p<0.0001)と改善した。QOLも改善し、有害事象は発疹(全Grade:85%、Grade3以上:14%)・口内炎(全Grade:53%、Grade3以上:12%)などが中心である。臨床的インパクトは非常に大きく、主要評価項目であるOSの有意な結果が報告されたタイミングでスタンディングオベーションが起き、発表と同時にNEJM誌にも掲載された1)点も注目される。daraxonrasibはFDAからBreakthrough Therapy designationおよびOrphan Drug designationを受けており、膵がんで長く創薬困難とされてきたRASを、G12C単独ではなくG12D/V/Rを含む広いRAS変異に対して標的化できることを第III相試験で示した意義は大きく、PDACの治療体系を大きく変えると思われる。RAS阻害薬はほかにも多数の薬剤が開発中であり、初回治療例を対象にdaraxonrasib単剤vs.daraxonrasib+GnP vs.GnPを検証するRASolute 303試験をはじめ、術後補助療法におけるエビデンス創出など、今後の拡大が期待される。1)O'Reilly EM, et al. N Engl J Med. 2026 May 31. [Epub ahead of print]目次に戻る胆道がんFIGHT-302試験:FGFR2融合・再構成陽性胆管がんで1次治療FGFR阻害の可能性を検証FGFR2融合・再構成陽性胆管がんでは、既治療例を対象とした第II相FIGHT-202試験でペミガチニブの有効性が示され、最終解析ではORR 37.0%、PFS中央値7.0ヵ月、OS中央値17.5ヵ月、奏効期間(DoR)中央値9.1ヵ月であった2)。これを背景に、ペミガチニブは既治療のFGFR2融合・再構成陽性胆管がんで承認されており、FIGHT-302試験では1次治療への前倒しが検証された。FIGHT-302は、未治療の切除不能・転移FGFR2再構成陽性胆管がんを対象に、ペミガチニブ単剤とゲムシタビン+シスプラチン(GC)を比較した国際共同非盲検第III相試験である。希少な分子サブタイプを対象とするため登録は難航し、4,000例超を事前スクリーニングしたものの、最終的なランダム化例数は167例で、試験は早期終了となった。主要評価項目のPFS中央値は8.3ヵ月vs.6.8ヵ月(HR:0.58、nominal p=0.0078)とペミガチニブ群で延長し、ORRも47.0%vs.15.5%、DoR中央値も14.2ヵ月vs.6.3ヵ月と良好であった。一方、OS中央値は24.4ヵ月vs.25.0ヵ月と同程度であった。化学療法群では進行後に42例がペミガチニブへクロスオーバーしており、OS解釈には注意を要する。本試験は、FGFR2陽性胆管がんで1次治療から標的治療を用いる可能性を示した点で重要であり、同時にJournal of Clinical Oncology誌にも掲載された3)。とくにORRはペミガチニブ群47.0%と、胆道がん全体を対象としたTOPAZ-1/KEYNOTE-966のGC+免疫チェックポイント阻害薬(ICIs)におけるORRが約27~29%であったことを踏まえると、クロストライアル比較ながら腫瘍縮小を重視するFGFR2再構成陽性例では魅力的に映る。一方で、FIGHT-302の対照群はGC単独であり、現在の1次治療標準であるGC+ICIsとの直接比較ではない。また、OS非改善、早期終了による検出力の限界、クロスオーバーの影響、FGFR阻害薬後の耐性変異を踏まえると、ただちに1次治療を置き換えるというより、診断時からFGFR2検査を行い、FGFR2陽性例における1次治療・2次治療の最適なシーケンスを考えるデータと整理するのが妥当である。2)Abou-Alfa GK, et al. Lancet Oncol. 2020;21:671-684.3)Bekaii-Saab TS, et al. J Clin Oncol. 2026 Jun 1. [Epub ahead of print]目次に戻る大腸がんBREAKWATER Cohort3試験:FOLFIRIバックボーンでも良好な治療効果BRAF V600E変異陽性転移性大腸がんは予後不良な分子サブタイプであり、1次治療からBRAF/EGFR阻害を組み込む治療開発が進められてきた。第III相BREAKWATER試験では、エンコラフェニブ+セツキシマブ(EC)+mFOLFOX6が標準治療に対し、ORR:65.7%vs.37.4%、PFS中央値12.8ヵ月vs.7.1ヵ月、OS中央値30.3ヵ月vs.15.1ヵ月と良好な結果を示した。これを受け、本邦でも2025年11月にエンコラフェニブが1次治療へ適応拡大され、FOLFOX+ECはBRAF V600E変異陽性切除不能進行・再発大腸がんにおける初回治療の標準的選択肢として位置付けられている。一方、ASCO GI 2026では、BREAKWATERの別コホートとして、EC+FOLFIRIをFOLFIRI±BEV(ベバシズマブ)と比較した成績が報告され、BICR評価のORRは64.4%vs.39.2%(片側p=0.0011)と有意に改善していた。今回のASCO 2026ではPFSおよびOS解析が発表され、PFS中央値は15.2ヵ月vs.8.3ヵ月(HR:0.44、片側p=0.0002)と有意に延長した。OS中央値も、未到達vs.20.3ヵ月(HR:0.56)であり、OSも良好な傾向を示した。本結果はASCO 2026で発表されるとともに、Annals of Oncology誌に同時掲載された4)。FOLFOX+ECが本邦でも1次治療標準として位置付けられた一方、今回のFOLFIRIコホートは、オキサリプラチン不適例や末梢神経障害を避けたい症例における将来的な代替バックボーンとしての可能性を示した。ただし、EC+FOLFIRIの国内実装には薬事・ガイドライン上の位置付けの整理が必要である。4)Kopetz S, et al. Ann Oncol. 2026 May 31. [Epub ahead of print]目次に戻る大腸がん・日本発EPISODE-III/JCOG1503C試験:アスピリン補助療法は“全例投与”から“分子選択”か?術後大腸がんに対するアスピリン/COX阻害薬は、非選択集団では明確な上乗せ効果に乏しい一方、PI3K経路異常例では有望な可能性が示されている。非選択大腸がんを対象としたASCOLT試験では、アスピリン200mgを3年間投与しても5年DFSは77.0%vs.74.8%(HR:0.91)で主要評価項目は未達であった5)。また、PI3K経路異常を有する局所大腸がんを対象としたALASCCA試験では、アスピリン160mg・3年間によりPIK3CA exon 9/20変異例、その他PI3K経路異常例のいずれでも再発リスク低下が示された6)。COX-2阻害薬セレコキシブについても、CALGB/SWOG 80702試験の解析でPIK3CA gain-of-function変異例におけるDFS/OS改善が報告されている7)。EPISODE-III/JCOG1503Cは、下部直腸がんを除くR0切除後StageIII大腸がん882例を対象に、標準的な術後補助化学療法へ低用量アスピリン100mgを3年間上乗せする意義を検証した、日本発の二重盲検プラセボ対照第III相試験である。ASCO 2026では、国立がん研究センター中央病院の高島 淳生氏により、主要解析結果がLate-Breaking Abstract(LBA3508)として発表された。主要評価項目の3年DFSは、アスピリン群78.8%vs.プラセボ群75.4%と数値上はアスピリン群で良好であったが、HR:0.84、片側p=0.0987で統計学的有意差には至らなかった。RFSも79.5%vs.77.2%(HR:0.87)と同方向の傾向にとどまり、OSは未成熟であった。安全性はおおむね許容範囲であったが、下部消化管出血はアスピリン群でやや多かった(全Grade:2%vs.0.2%)。アスピリンによる再発抑制機序としては、COX-1/COX-2阻害を介したプロスタグランジン産生低下、血小板凝集抑制による循環腫瘍細胞の転移形成阻害、炎症性腫瘍微小環境の抑制などが想定される。JCOG1503Cは、非選択のStageIII大腸がん全例にアスピリンを追加する方針を支持する結果ではなかった。一方で、本試験は当時のエビデンス状況を踏まえた重要な全例対象試験であり、今後のPI3K/PIK3CA解析により、COX阻害薬を分子選択的な術後補助療法として再評価する足掛かりになる可能性がある。5)Chia JWK, et al. Lancet Gastroenterol Hepatol. 2025;10:198-209.6)Martling A, et al. N Engl J Med. 2025;393:1051-1064.7)Meyerhardt JA, et al. JAMA. 2021;325:1277-1286.目次に戻る大腸がん欧州CIRCULATE/日本発GALAXY試験:本邦におけるMRD元年大腸がん術後のctDNA/MRD検査は、再発リスクを高精度に層別化する手法として期待されており、ASCO 2026ではctDNAを単なる予後予測マーカーにとどめず、術後補助化学療法(ACT)の要否や期間を決める“治療設計ツール”としての可能性が示された。StageII pMMR/MSS結腸がんを対象とした欧州CIRCULATE(AIO-KRK-0217/ABCSG)試験では、tumor-informed型のアカデミックMRDアッセイを用い、術後ctDNA陽性例をACT群と観察群にランダム化した。本試験はドイツ・オーストリアで実施された前向きランダム化第III相試験で、ctDNA陽性例は41例、ITT解析対象はACT群26例、観察群15例であった。主要評価項目の3年DFSは、ACT群61%vs.観察群38%(HR:0.55、p=0.12)で、統計学的有意差には至らなかった。一方、事前規定のper-protocol解析では、ACT群に割り付けられたものの治療を開始しなかった5例を除外し、実際にACTを受けた21例と観察群15例を比較した。その結果、3年DFSは77%vs.38%(HR:0.31、p=0.021)、3年再発率はACT群19%vs.観察群62%(HR:0.23、p=0.009)と、ACT群で良好であった。本試験ではctDNA陽性率が2.9%と低く、早期終了により検出力が限られた点には注意が必要であるが、ctDNA陽性StageII結腸がんにおいて、術後補助化学療法による再発抑制が期待できることを示した前向きランダム化データとして意義は大きい。さらに日本発のCIRCULATE-Japan/GALAXY解析では、SignateraによるACT中のctDNA変化とACT期間との関係について、九州大学の沖 英次氏により報告された。対象は、ACTを受け、術後6ヵ月以内に2回以上ctDNA測定が行われた1,028例であり、ACT期間は90日以上をlong ACT、90日未満をshort ACTとして比較された。ctDNAが一貫して陰性であった症例では、long ACTによる明確なDFS改善は認められなかった(HR:0.71、95%CI:0.46~1.09)。また、ACT治療中にctDNAが陰転化した症例でも、ACT延長の上乗せ効果は明確ではなかった(HR:1.06、95%CI:0.57~1.97)。一方、ctDNAは低下したものの陽性が残るpartial molecular response例では、DFS中央値がlong ACT群5.9ヵ月vs.short ACT群1.7ヵ月と、long ACT群で良好であった(short vs.long:HR:3.64、95%CI:1.33~9.97、p=0.008)。この結果から、ctDNAが残存する一部の症例では、ACT期間の延長が有益となる可能性が示された。ただし、本解析は観察研究であり、現時点ではctDNA動態のみでACT期間を決定する段階ではなく、今後の前向き試験による検証が求められる。CIRCULATE-Japan/GALAXYではNatera社のSignateraが用いられており、術後ctDNAは再発リスクや補助化学療法効果の予測に有用であることがすでに報告されている。2026年5月に本邦でMRD検査の薬事承認が了承された8)ことで、2026年は「MRD実装元年」ともいえる局面を迎えたが、実臨床での普及には、保険適用時期、算定要件、測定タイミング、MRD陽性例に対する介入の整理が今後の課題と考える。8)日経バイオテク(2026年6月3日付)目次に戻る胃がんONO-4578-08試験:EP4阻害でPD-1阻害薬+化学療法の効果を高める新戦略ONO-4578は、PGE2受容体の1つであるEP4を阻害する経口EP4拮抗薬で、腫瘍微小環境における免疫抑制を解除し、PD-1阻害薬の効果を高めることが期待される。ONO-4578-08試験は、HER2陰性の未治療切除不能進行・再発胃がん/食道胃接合部がんを対象に、ONO-4578+ニボルマブ+SOX/CAPOXを、プラセボ+ニボルマブ+SOX/CAPOXと比較した、日本・韓国・台湾の多施設二重盲検プラセボ対照ランダム化第II相試験であり、ASCO 2026での発表に合わせてJCO誌オンライン版に掲載された9)。主要評価項目である治験担当医評価PFS中央値は9.0ヵ月vs.6.9ヵ月(HR:0.67、p=0.040)と、事前規定の統計設定で有意に延長した。OS中央値は未到達vs.12.7ヵ月(HR:0.60)と未成熟ながらONO-4578群で良好であり、ORRも62.0%vs.48.7%と上回った。とくにPD-L1 CPS≧1集団では、PFS中央値9.9ヵ月vs.5.7ヵ月(HR:0.52)、OS HR:0.44、ORR:70.9%vs.50.9%と、より明瞭なベネフィットが示された。一方で、CPS<1/判定不能例では明確な上乗せ効果は示されておらず、今後の患者選択が重要となる。安全性ではGrade3以上の有害事象が79.2%vs.69.3%とONO-4578群で多く、下痢、貧血、低アルブミン血症、消化管潰瘍などには注意を要する。消化管潰瘍の予防目的でPPI投与が推奨され、ONO-4578群内ではPPI使用例で消化管潰瘍が少なかった(3.4%vs.10.0%)。第II相試験であり、ただちに標準治療を変える段階ではないが、PD-1阻害薬+化学療法が標準となったHER2陰性胃がん1次治療に、免疫微小環境制御を上乗せする新しい戦略として重要である。今後は、PD-L1陽性例を中心とした第III相試験での検証が注目される。9)Nakayama I, et al. J Clin Oncol. 2026 Jun 1. [Epub ahead of print]目次に戻る食道扁平上皮がんPANKU-Esophagus01試験:中国発新規EGFR×HER3二重特異性ADCizalontamab brengitecan(iza-bren/BL-B01D1)は、EGFRとHER3を標的とする二重特異性抗体薬物複合体(ADC)である。ASCO 2026では、再発・転移性食道扁平上皮がんを対象とした中国の第III相PANKU-Esophagus01の中間解析結果が報告された。対象は、1次治療のPD-1/PD-L1阻害薬+プラチナ系化学療法後に進行した患者で、iza-bren群249例もしくは医師選択化学療法(イリノテカン、パクリタキセル、ドセタキセル)群248例に割り付けられた。主要評価項目であるOS中央値は9.8ヵ月vs.7.2ヵ月(HR:0.64)、PFS中央値は4.2ヵ月vs.2.0ヵ月(HR:0.50)と、いずれもiza-bren群で有意に改善した。ORRも35.3%vs.13.1%と良好であった。安全性では、Grade3以上の治療関連有害事象は85.1%vs.60.2%とiza-bren群で多く、主に血液毒性が中心であった。一方、治療関連有害事象による中止は2.0%vs.3.3%、治療関連死亡は1.2%vs.1.6%であり、間質性肺疾患の頻度も低かった(全Grade:1.6%vs.0.4%、Grade3以上:0.8%vs.0%)。1次治療で免疫チェックポイント阻害薬+化学療法が標準化した後の食道扁平上皮がんでは、2次治療の選択肢が限られており、iza-brenは新たな標準治療候補として注目される。ただし、中国の試験の結果であり、医師選択化学療法の詳細も未発表である。今後、日本を含むグローバルでの開発・承認動向を見極める必要がある。目次に戻る

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うつ病の再発を予測する残存症状は?

 うつ病の急性期治療が成功した後の再発予防は、依然として臨床上の課題となっている。残存する抑うつ症状は、再発の信頼できる予測因子であると考えられる。しかし、特定の残存症状が再発リスクにどの程度影響を及ぼしているかをシステマティックに評価した研究は、これまであまりなかった。ベルギー・ルーベン大学のDavid Borghgraef氏らは、うつ病の急性期治療が成功した後に残存する抑うつ症状と再発リスクとの関連を調査するため、スコーピングレビューを実施した。Canadian Journal of Psychiatry誌オンライン版2026年5月6日号の報告。 本スコーピングレビューは、システマティックレビューおよびメタ解析のための優先報告項目(PRISMA)拡張版ガイドラインに準拠して実施した。うつ病、残存症状、再発に関連する用語を用いて、システマティックな文献検索を行った。 主な結果は以下のとおり。・11研究を分析に含めた。・残存する睡眠障害と不安症状は、これらの症状を評価したほとんどの研究において、再発リスクの増加と統計学的に有意な関連を示した。・残存する疲労、食欲不振、体重変化、抑うつ症状、興味減退を評価したほとんどの研究では、再発リスクとの統計学的に有意な関連は認められなかった。・焦燥感や落ち着きのなさ、性欲減退に関する結果も一貫性がなく、統計学的に有意な関連を報告した研究もあれば、そうでない研究もあった。・残存する抑うつ症状の評価には、さまざまな症状評価尺度が用いられており、結果に大きなばらつきが認められた。 著者らは「特定の残存するうつ病症状、とくに睡眠障害と不安症状は、再発リスク増加の予測因子となりうるため、臨床医は注意を払うべきであることが示唆された。しかし、研究間のばらつきは大きく、これらの結果の一貫性と一般化可能性が制限された。残存症状の負担を包括的に把握し、再発リスクの予測精度を改善するためには、臨床医による評価と自己申告による評価の両方を統合した標準化された多次元的な評価戦略が必要とされる」としている。

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ジギタリス配糖体の再評価――復権ではなく再配置として読む(解説:野間重孝氏)

 私が循環器内科医として臨床の現場に入ったのは1980年(昭和55年)である。当時、心不全治療においてまず教えられたのは、利尿薬の使い方とジギタリスの使い方であった。病棟では、浮腫や肺うっ血に対して利尿薬をどう調節するか、また心不全例あるいは心房細動合併例に対してジギタリスをどのように用いるかが、循環器診療の基本手技の1つとして扱われていた。しかし、当時は現在のように、大規模ランダム化比較試験によって薬剤の有効性を検証し、その結果に基づいてガイドライン上の位置付けを定めるという考え方は、まだ一般的ではなかった。利尿薬もジギタリスも、経験的に症状を改善する薬として使用されていたのである。 その後、心不全治療は大きく変化した。ACE阻害薬、β遮断薬、ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬、さらにARNIやSGLT2阻害薬が、次々に生命予後を改善する薬剤として位置付けられた。一方、ジギタリスは、症状や心不全入院を減らす可能性は示されながらも、死亡率を改善しない薬剤として、次第に主役の座から退いていった。これは、必ずしもその臨床的有用性が完全に否定されたからではない。むしろ、心不全治療の評価軸が大きく変化したことが大きかった。 大規模臨床試験の時代に入り、死亡率あるいは心不全入院を減らす薬剤が次々に登場すると、心不全治療は、経験的治療から、臨床試験によって生命予後改善効果を示した薬剤を基軸とする治療へと移行していった。その中で、ジギタリスは不利な立場に置かれた。DIG試験では、ジゴキシンは心不全入院を減らす一方で、全死亡を減らすことは示せなかった。以後、ジギタリスは「症状や入院には効くかもしれないが、生命予後を改善する薬ではない」と理解され、心不全治療の主役から次第に外れていった。またジギタリスは治療域が狭く、腎機能低下、低カリウム血症、薬物相互作用などによって中毒を来しやすいという古典的な問題がある。新しい薬剤が次々に登場する中で、エビデンスが明確で安全域の広い新規治療を導入する方向へ臨床の関心が移ったことは、ある意味で自然であったといえる。 今回のメタ解析は、そのような歴史を持つジギタリス配糖体を、現代の心不全試験で用いられる評価項目に照らして再評価しようとしたものである。本研究の成果は、ジギタリス配糖体を現代心不全治療の中で再評価した点にある。解析の結果、ジギタリス配糖体は、HFrEFまたはHFmrEF患者において、心血管死または初回心不全悪化イベントからなる複合エンドポイントを有意に減少させた。しかし、その効果の主体は心不全悪化イベントの減少であり、心血管死および全死亡については有意な低下を示していない。 したがって、本研究から導かれる臨床的メッセージは、ジギタリス配糖体を生命予後改善薬として復権させることではなく、標準的心不全治療を行ってもなお心不全悪化リスクが残るHFrEF/HFmrEF患者において、低用量のジギタリス配糖体が心不全悪化・入院を減らす補助的治療となりうる、という点にある。この意味で、本研究は「ジギタリスの復権」を示したというより、長い歴史を持つ古典的薬剤を、現代の心不全治療体系の中でどこに置き直すべきかを考えるための研究と位置付けるべきであろう。 ただし、その臨床的射程は明確に限定しておく必要がある。本研究における複合エンドポイントの改善は、主として心不全悪化イベントの減少によるものであり、心血管死および全死亡の低下は示されていない。また、対象はHFrEFまたはHFmrEFに限られており、HFpEFへの外挿はできない。さらに、心不全の原因疾患別の検討は十分ではなく、虚血性心筋症、非虚血性心筋症、弁膜症性心疾患、心房細動関連心不全などにおいて、ジギタリス配糖体の意義が同一であるかどうかは、本研究からは明らかでない。 今回のメタ解析に取り上げられた3つの試験は、それぞれ異なる時代的背景を持っている。DIG試験は、ジギタリスがなお心不全治療の重要な薬剤として用いられていた時代に、その有効性を大規模臨床試験の枠組みで検証しようとした研究であった。当時問われた中心的課題は、ジゴキシンが全死亡を減らすかどうかであった。その結果、ジゴキシンは全死亡を減らさなかったが、心不全入院を減少させることが示された。 これに対して、DIGIT-HF試験とDECISION試験は、ジギタリスをかつてのような中心的治療薬として復活させようとした研究ではない。むしろ、ACE阻害薬/ARB/ARNI、β遮断薬、MRA、SGLT2阻害薬などの標準治療が普及した後にもなお残る心不全悪化リスクに対して、低用量のジギタリス配糖体が追加療法として意味を持つかどうかを検討した研究と位置付けるべきである。3者は同じ薬剤群を扱ってはいるが、問われている臨床的意味は同一ではない。 今回統合された3つの試験は、いずれもジギタリス配糖体を扱っているとはいえ、同じ臨床的問いに答えた試験ではない点には、十分な注意が必要である。DIG試験の主要エンドポイントは全死亡であり、DIGIT-HF試験では全死亡と心不全入院、DECISION試験では心血管死と反復性心不全悪化イベントが用いられている。さらに、DIG試験は現代的心不全治療が確立する以前の試験であり、最近の2試験とは背景治療が大きく異なる。すなわち、対象患者、治療背景、評価項目のいずれもそろっていない。 本メタ解析では、これらの試験を「心血管死または初回心不全悪化イベントまでの期間」という現代的複合エンドポイントに組み替えて統合している。これは統計学的には可能であっても、臨床的にはかなり人工的な再構成である。したがって、本研究は「3つの大規模試験が一貫してジギタリス配糖体の有効性を示した」と読むべきではない。むしろ、異なる時代、異なる背景治療、異なる評価項目を持つ試験を、現代的な物差しで読み替えた研究と理解すべきである。 さらに重要なのは、本メタ解析の結果が、量的にはDIG試験に大きく依存している点である。主要複合エンドポイントにおける試験ごとの重みをみると、DIG試験が全体の約8割を占めており、DIGIT-HF試験およびDECISION試験の寄与は相対的に小さい。したがって、本研究の統合結果は、3つの試験が均等に支えた結論というより、DIG試験で示されていた心不全悪化イベント抑制効果を、最近の2試験が大きく否定しなかったために成立している、と読むべきである。 つまり、本研究は古典的なDIG試験の結果を、近年の2試験を加えて現代的評価項目のもとに再解釈した研究と位置付けるのが妥当であろう。したがって、この論文はジギタリスの復権を宣言するものではなく、心不全悪化イベントを減らす補助薬として、現代的文脈で再評価した研究である。ただし、その結論は異質な3試験の再構成に基づくものであり、慎重に読む必要がある。

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がん関連症状:呼吸困難【かかりつけ医のためのがん患者フォローアップ】第9回

今回はがん患者の呼吸困難についてです。呼吸困難は、がん患者の約35%が経験するという頻度の高い症状です。初診から終末期までの経過を通じて、一度も呼吸困難を経験せずに過ごせる患者さんはわずか11%のみとも報告されています。呼吸困難による患者さんの苦痛や不安が非常に強い一方、その原因や重症度はさまざまであり、外来で対応に迷う場面も少なくありません。今回は、呼吸困難を訴える患者さんについて、症例を通して、鑑別のポイントと外来での対応を解説します。【症例1】74歳、男性主訴労作時呼吸困難病歴進行肺腺がん(StageIV)に対して化学療法後、best supportive careの方針となっている。以前より軽度の呼吸困難はあったが、2週前より徐々に歩行時の息苦しさが増悪し、外来を受診した。診察所見呼吸数22回/分、SpO2 97%(室内気)、体温36.7℃。会話は可能。右下肺野で呼吸音の減弱あり。下腿浮腫なし。【症例2】57歳、女性主訴咳嗽、呼吸困難病歴再発乳がんに対して化学療法施行中。2週間前より免疫チェックポイント阻害薬を含む治療を開始していた。数日前から乾性咳嗽が出現し、本日より労作時呼吸困難と発熱を認めたため受診。診察所見呼吸数30回/分、SpO2 82%(室内気)、体温38.1℃。会話は短文のみ可能。両側肺野にfine cracklesを聴取。ステップ1 呼吸困難のアセスメント呼吸困難は、「呼吸の際に生じる不快な感覚という主観的な経験」と定義されており、SpO2や血液ガス所見が正常で、呼吸不全を伴わない場合でも生じることがあります。呼吸困難を訴える患者さんを診た際には、まず症状の経過や随伴症状、診察所見などから原因をアセスメントする必要があります。下記にがん患者における呼吸困難の主な原因を示します(表1)。表1 呼吸困難の原因(参考文献3より一部筆者改変)画像を拡大する症例1では、SpO2は97%と保たれているものの、ここ1週間で労作時呼吸困難が徐々に増悪しています。また、右下肺野で呼吸音の減弱を認めており、胸水貯留による呼吸困難が考えられます。この症例では、発熱や咳嗽はなく、急激な症状悪化ではないことから、感染症や肺塞栓などの急性疾患の可能性は低いと考えられます。一方、症例2では、免疫チェックポイント阻害薬を含む治療歴があり、数日前からの乾性咳嗽に加えて、発熱と急速に進行する呼吸困難を認めています。さらに、SpO2低下、頻呼吸、両側肺野のfine cracklesを認めることから、まず薬剤性肺障害を疑う状況です。化学療法中の患者さんでは、薬剤性肺障害は急速に重症化することがあり注意が必要です。本症例では、会話も短文のみ可能であり、呼吸状態の急速な悪化を認めていることから、重症度の高い呼吸困難と考えられます。なお、肺炎などの感染症も重要な鑑別疾患となります。このように、呼吸困難ではSpO2のみで重症度を判断するのではなく、症状の経過や随伴症状、身体所見をもとに原因と緊急性をアセスメントすることが重要です。呼吸困難では、原因となる病態ごとに治療が異なり、早期介入を要する緊急性の高い病態も存在するため、外来での適切な評価が求められます。ステップ2 外来での対応上述のように、呼吸困難では原因となる病態ごとに治療方針が大きく異なります(表2)。そのため、外来では原因と重症度を踏まえた対応が重要となります。表2 呼吸困難の治療(参考文献4より一部筆者改変)画像を拡大する症例1は、SpO2は保たれており、会話も可能であることから、まずは外来での症状緩和を検討します。呼吸困難に対しては、体位調整や送風に加えて、少量オピオイド投与が症状緩和に有効な場合があります。また、本症例では胸水貯留が疑われることから、胸水ドレナージの適応評価も含めて、X線/CT検査や胸腔穿刺が可能な施設との連携を検討します。一方、症例2では、低酸素血症に加えて頻呼吸を認め、会話も短文のみ可能であることから、重症度の高い呼吸困難と考えられます。薬剤性肺障害では急速に呼吸状態が悪化することがあり、早期のステロイド導入が必要となる場合もあるため、外来での経過観察ではなく、速やかな病院への相談・紹介が必要です。呼吸困難は、がんそのものだけでなく、治療関連有害事象や併存疾患など、さまざまな病態によって生じます。外来では、原因と重症度を適切にアセスメントしたうえで、必要に応じて治療医や専門医療機関と連携しながら対応していくことが求められます。まとめ呼吸困難は、SpO2などの客観的所見だけでは評価しきれない症状です。そのため、日々患者さんを診ているかかりつけの先生方による症状経過や呼吸状態の細やかな観察が非常に重要となります。そうした情報共有は、病院側にとっても病態把握や早期介入の大きな助けとなります。クリニックと病院がそれぞれの立場から情報を共有しながら、一緒に患者さんの呼吸困難を支えていくことが大切だと考えます。 1) Teunissen SCCM, et al. J Pain Symptom Manage. 2007;34:94-104. 2) Currow DC, et al. J Pain Symptom Manage. 2010;39:680-690. 3) 日本緩和医療学会編. 進行性疾患患者の呼吸困難の緩和に関する診療ガイドライン(2023年版). 金原出版;2023. 4) 余宮 きよみ著. ここが知りたかった緩和ケア 改訂第3版. 南江堂;2023. 講師紹介

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抗凝固療法適応の心房細動患者、左心耳閉鎖術の非劣性を確認/NEJM

 抗凝固療法適応の心房細動患者において、Watchman Flx(米国・Boston Scientific製)デバイスを用いた左心耳閉鎖術は非ビタミンK拮抗経口抗凝固薬(NOAC)療法と比較し、3年時の心血管死、脳卒中または全身性塞栓症の複合エンドポイントに関して非劣性、かつ3年時の手技に関連しない出血に関して優越性が示された。米国・Cedars-Sinai Smidt Heart InstituteのShephal K. Doshi氏らCHAMPION-AF Investigatorsが、16ヵ国の141施設で実施中の無作為化試験「CHAMPION-AF試験」の、3年追跡解析結果を報告した。心房細動患者では、脳卒中予防のための経口抗凝固療法は出血リスクによって制限される。左心耳閉鎖術は、長期抗凝固療法が適さない患者で検討されるが、抗凝固療法適応患者における臨床的意義は確認されていなかった。NEJM誌2026年6月4日号掲載の報告。抗凝固療法適応の脳卒中リスクが高い心房細動患者を無作為化 研究グループは、抗凝固療法の適応となる脳卒中のリスクが高い心房細動患者(CHA2DS2-VAScスコアが男性は≧2、女性は≧3[スコア範囲:0~9、高スコアほど脳卒中リスクが高いことを示す])を、Watchman Flxデバイスを用いた左心耳閉鎖術群(デバイス群)またはNOAC群に1対1の割合で無作為に割り付けた。 デバイス群では、無作為化14日以内にデバイスを留置し、その後3ヵ月間、NOAC+アスピリン併用療法、NOAC単剤療法、または抗血小板薬2剤併用療法(DAPT)のいずれかを行った後、アスピリンまたはP2Y12阻害薬の単剤療法を推奨した。NOAC群のレジメンは、標準臨床ガイドラインに準拠した。 有効性の主要エンドポイントは、3年時の心血管死、脳卒中または全身性塞栓症の複合で、非劣性マージンを4.8%とした。安全性の主要エンドポイントは、3年時の手技に関連しない出血(ISTH基準の大出血または臨床的に重要な非大出血)とし、有意水準両側0.05で優越性を評価した。3年時の心血管死・脳卒中・全身性塞栓症の複合、デバイス群5.7%vs.NOAC群4.8% 計3,000例が無作為化された(デバイス群1,499例、NOAC群1,501例)。患者背景は、平均(±SD)年齢71.7±7.5歳、女性が31.9%で、平均CHA2DS2-VAScスコアは3.5±1.3であった。 3年時の有効性の主要エンドポイントのイベントは、デバイス群で81例(Kaplan-Meier推定値5.7%)、NOAC群で65例(4.8%)に発生した。群間差は0.9%(95%信頼区間[CI]:-0.8~2.6)であり、95%CIの上限が事前に設定された非劣性マージンを下回った(非劣性のp<0.001)。 安全性の主要エンドポイントのイベントは、デバイス群で154例(Kaplan-Meier推定値10.9%)、NOAC群で260例(19.0%)に発生した。ハザード比は0.55(95%CI:0.45~0.67)で、優越性が示された(優越性のp<0.001)。 なお、著者らは、非劣性マージンを絶対値で設定したこと、使用した左心耳閉鎖デバイスは1種類のみであったこと、対象患者の大半はCHA2DS2-VAScスコアが4以下であったため最もリスクの高い患者には一般化できない可能性があることなどを研究の限界として挙げている。

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