サイト内検索|page:5

検索結果 合計:3162件 表示位置:81 - 100

81.

シャーガス心筋症の心不全、サクビトリル・バルサルタンvs.エナラプリル/JAMA

 シャーガス心筋症により左室駆出率が低下した心不全(HF)患者において、アンジオテンシン受容体ネプリライシン阻害薬(ARNI)サクビトリル・バルサルタンは、エナラプリルとの比較において臨床的アウトカムに関する有意差は認められなかったが、サクビトリル・バルサルタン投与患者では、12週時点でNT-proBNPの顕著な低下が認められた。米国・Duke Clinical Research InstituteのRenato D. Lopes氏らPrevention and Reduction of Adverse Outcomes in Chagasic Heart Failure Trial Evaluation(PARACHUTE-HF)Investigatorsが非盲検多施設共同無作為化試験の結果を報告した。HFに対してガイドラインで推奨される治療の有効性と安全性は、シャーガス心筋症患者におけるHFについては明らかになっていなかった。JAMA誌オンライン版2025年12月3日号掲載の報告。win ratioアプローチで階層的複合アウトカムを評価 研究グループは、2019年12月10日~2023年9月13日に、アルゼンチン、ブラジル、コロンビア、メキシコの83施設で、シャーガス心筋症と診断され左室駆出率が低下したHF患者を対象に、サクビトリル・バルサルタンの有効性と安全性を評価した。 適格患者は、シャーガス心筋症と診断、左室駆出率が40%未満に低下、NT-proBNP値600pg/mL超(またはBNP値150pg/mL以上)、直近12ヵ月間にHFにより入院していた場合はNT-proBNP値400pg/mL超(またはBNP値100pg/mL以上)とした。 被験者は、標準治療に加えてサクビトリル・バルサルタン(目標投与量200mg 1日2回)またはエナラプリル(目標投与量10mg 1日2回)の投与を受ける群に無作為に割り付けられた。 主要エンドポイントは、心血管死、HFによる入院、またはベースラインから12週時点のNT-proBNP値の相対的変化量の階層的複合アウトカムであった。 主要解析は、win ratio(勝利比)アプローチを用いて行われた(統計学的解析は2025年5~7月に実施)。サクビトリル・バルサルタン群の層別化勝利比は1.52 全体で922例が、サクビトリル・バルサルタン群(462例)またはエナラプリル群(460例)に無作為化された(平均年齢64.2歳[SD 10.8]、女性387例[42.0%])。 追跡期間中央値25.2ヵ月(四分位範囲[IQR]:18.4~33.2)において、心血管死はサクビトリル・バルサルタン群110例(23.8%[階層的比較の勝率18.3%])、エナラプリル群117例(25.4%[勝率17.5%])であった。 初回のHFによる入院は、サクビトリル・バルサルタン群102例(22.1%[勝率7.7%])、エナラプリル群111例(24.1%[勝率6.9%])であった。 ベースラインから12週時点でNT-proBNP値中央値は、サクビトリル・バルサルタン群で-30.6%(IQR:-54.3~-0.9)低下(勝率22.5%)、エナラプリル群では-5.5%(-31.9~37.5)低下(勝率7.2%)した。 結果的に、エナラプリル群と比較したサクビトリル・バルサルタン群の層別化勝利比は1.52(95%信頼区間:1.28~1.82、p<0.001)であった。

82.

肺がん治療における経済的視点/治療医に求められる役割

 がん治療の経済的毒性が注目される中、日本肺癌学会が開催する肺がん医療向上委員会において、近畿大学の高濱 隆幸氏が講演した。高濱氏は肺がん診療の現場において、治療医が患者とのShared Decision Making(SDM)に、経済的視点を組み込む重要性を訴えた。治療の進歩と経済的負担の長期化 分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬といった新薬の登場により、肺がん患者の生存期間中央値は2年を超え、予後は著しく改善している。これらの新薬は高額であり、生存期間の長期化の見返りとして治療費や通院費などの副次的費用が増加する。また、離職による収入減で経済的負担を長期にわたって強いられる患者もいる。日本肺がん患者連絡会の調査では、肺がん患者の88%が高額療養費制度を利用しているにもかかわらず、63%が何らかの経済的負担を感じているという。診察室での経済的負担への対応 現状、診察室で医療費に関する議論を行うことは時間的制約などから難しく、患者も医師も金銭的な話題を避けがちである。この結果、患者は治療選択に必要な重要な経済情報を得る機会を逸している可能性が高い。 治療医は、治療の説明を行うだけでなく、患者にとって「最初の窓口」としての役割を再認識し、金銭的な問題を持つ患者を院内の適切な専門職へ迅速につなぐことが求められる。医師がすべての経済的負担を抱え込むのではなく、専門家との連携を強化することが、患者にとって最善のサポートを提供するカギとなる、と高濱氏は述べる。SDMにおける経済的背景の考慮 SDMにおいては、エビデンスに加え、患者の価値観、ライフスタイル、さらに経済的背景を把握する姿勢が不可欠である。肺癌診療ガイドライン2025年版に、初めて薬剤費の目安が記載されたことは、その必要性の高まりを示すものである。処方医は、自身が選択するレジメンのコストを最低限の基礎知識として身に付けておくべき時代、ともいえる。 国際的には、ASCOのValue FrameworkやESMOのMagnitude of Clinical Benefit Scaleなど、コスト効率を評価するツールが存在する。今後は、日本国内でも実用的なツール開発が今後検討されるべきであろう。 治療医は、最善の治療を届けたいという気持ちを忘れずに、どのようにしたら日本の医療制度が残せるのかを考えていくべきであり、学会は客観的なデータに基づいた議論を主導していくことが、最善の治療を患者に届けるための基盤となる、と高濱氏は結んだ。

83.

『肝細胞癌診療ガイドライン』改訂――エビデンス重視の作成方針、コーヒー・飲酒やMASLD予防のスタチン投与に関する推奨も

 2025年10月、『肝細胞癌診療ガイドライン 2025年版』(日本肝臓学会編、金原出版)が刊行された。2005年の初版以降、ほぼ4年ごとに改訂され、今回で第6版となる。肝内胆管がんに独自ガイドラインが発刊されたことを受け、『肝癌診療ガイドライン』から名称が変更された。改訂委員会委員長を務めた東京大学の長谷川 潔氏に改訂のポイントを聞いた。Good Practice StatementとFRQで「わかっていること・いないこと」を明示 今版の構成上の変更点としては、「診療上の重要度の高い医療行為について、新たにシステマティックレビューを行わなくとも、明確な理論的根拠や大きな正味の益があると診療ガイドライン作成グループが判断した医療行為を提示するもの」については、Good Practice Statement(GPS)として扱うことにした。これにより既存のCQ(Clinical Question)の一部をGPSに移行した。 また、「今後の研究が推奨される臨床疑問」はFuture Research Question(FRQ)として扱うことにした。FRQは「まだデータが不十分であり、CQとしての議論はできないが、今後CQとして議論すべき内容」を想定している。これらによって、50を超える臨床疑問を取り上げることが可能になり、それらに対し、「何がエビデンスとして確立しており、何がまだわかっていないのか」を見分けやすくなった。診療アルゴリズム、3位以下の選択肢や並列記載で科学的公平性を保つ ガイドラインの中で最も注目されるのは「治療アルゴリズム」だろう。治療選択肢が拡大したことを受け、前版までは推奨治療に優先順位を付けて2位までを記載していたが、今版からはエビデンスがあれば3位以下も「オプション治療」として掲載する方針とした。たとえば、腫瘍が1~3個・腫瘍径3cm以内の場合であれば、推奨治療は「切除/アブレーション」だが、オプション治療として「TACE/放射線/移植」も選択肢として掲載している。これにより、専門施設以外でも自施設で可能な治療範囲を判断したり、患者への説明に活用したりしやすくなっている。 また、治療やレジメンの優先順位もエビデンスを基に厳格に判断した。たとえば、切除不能例の1次治療のレジメンでは、実臨床ではアテゾリズマブ+ベバシズマブ療法が副作用管理などの面で使用頻度が高い傾向にあるが、ガイドライン上ではほかの2つのレジメン(トレメリムマブ+デュルバルマブ、ニボルマブ+イピリムマブ)と差を付けず、3つの治療法を並列に記載している。実臨床での使いやすさや感覚的な優劣があったとしても、それらを直接比較した試験結果がない以上、推奨度には差を付けるべきではないと判断した。 結果として、多くの場面で治療選択肢が増え、実臨床におけるガイドラインとしては使い勝手が落ちた面があるかもしれないが、あくまで客観的なデータを重視し、科学的な公平性を保つ方針を貫いた。判断の根拠となるデータ・論文はすべて記載しているので、判断に迷った場合は原典にあたって都度検討いただければと考えている。予防ではコーヒー・飲酒の生活習慣に関するCQを設定 近年ではB/C型肝炎ウイルス由来の肝細胞がんは減少している一方、非ウイルス性肝細胞がんは原因特定が困難で、予防法も確立されていない。多くの研究が行われている分野ではあるので、「肝発癌予防に有効な生活習慣は何か?」というCQを設定し、エビデンスが出てきた「コーヒー摂取」と「飲酒」について検討した。結果として「コーヒー摂取は、肝発癌リスクを減少させる可能性がある」(弱い推奨、エビデンスの強さC)、「肝発癌予防に禁酒(非飲酒)を推奨する」(弱い推奨、エビデンスの強さC)との記載となった。いずれもエビデンスレベルが低く、そのまま実臨床に落とし込むことは難しい状況であり、今後のエビデンスの蓄積が待たれる。MASLD患者の予防にスタチン・メトホルミンを検討 世界的に増加している代謝機能障害関連脂肪性肝疾患(MASLD) では、とくに肝線維化進行例で肝がんリスクが高い。今版では新設CQとしてこの集団における肝発がん抑制について検討した。介入としては世界で標準的に使用されており論文数の多い薬剤としてスタチンとメトホルミンを選択した。ガイドラインの記載は「肝発癌予防を目的として、スタチンまたはメトホルミンの投与を弱く推奨する(エビデンスの強さC)」となった。ただ、予防目的で、高脂血症を合併していない患者へのスタチン投与、糖尿病を合併していない患者へのメトホルミン投与を行った研究はないため、これらは対象から外している。MASLD患者に対してはGLP-1受容体作動薬などが広く投与されるようになり、肝脂肪化および肝線維化の改善効果が報告されている。今後症例の蓄積とともにこれら薬剤の肝発がん抑制効果の検討も進むことが期待される。放射線治療・肝移植の適応拡大 その他の治療法に関しては、診断/治療の枠組みは大きく変わらないものの、2022年4月から保険収載となった粒子線(陽子線・重粒子線)治療の記載が増え、アルゴリズム内での位置付けが大きくなった。また、肝移植については、保険適用がChild-Pugh分類Bにも拡大されたことを受け、適応の選択肢が増加している。経済的だけでなく学術的COIも厳格に適用 改訂内容と直接は関係ないものの、今回の改訂作業において大きく変更したのがCOI(利益相反)の扱いだ。日本肝臓学会のCOI基準に従い、経済的COIだけでなく学術的COIについても厳密に適用した。具体的には、推奨の強さを決定する投票において、経済的なCOIがある者はもちろん、該当する臨床試験の論文に名前が掲載されている委員もその項目の投票を棄権するルールを徹底した。Minds診療ガイドライン作成の手法に厳格に沿った形であり、ほかのガイドラインに先駆けた客観性重視の取り組みといえる。投票結果もすべて掲載しており、委員会内で意見が分かれたところと一致したところも確認できる。今後の課題は「患者向けガイドライン」と「医療経済」 今後の課題としては、作成作業が追いついていない「患者・市民向けガイドライン」の整備が挙げられる。また、今版では医療経済の問題を「薬物療法の費用対効果の総説」としてまとめたが、治療選択における明確な指針の合意形成までには至らなかった。今後、限られた医療資源を最適に配分するために、医療経済の視点におけるガイドラインの継続的なアップデートも欠かせないと考えている。

84.

第294回 改正医療法やっと成立、医療機関の集約化、統合・再編、病床削減さらに加速へ 「地域医療構想の見直し」8つのポイント

「医療法等の一部を改正する法律」遅れに遅れてやっとの成立こんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。MLB各チームの補強が佳境を迎えています。ポスティングでの移籍を目指すヤクルト・村上 宗隆内野手と巨人・岡本 和真内野手はまだ決まっていませんが、それに先駆ける形で大物の移籍が続々と決まっています。12月9日(現地時間)には、昨シーズンまでニューヨーク・メッツに在籍していたエドウィン・ディアス投手のロサンゼルス・ドジャースへの移籍が報道されました。ディアス投手と言えば、高らかなトランペットの登場曲、「Narco」でも有名なクローザーです。気分が滅入って仕事から逃げたい時に聴くとやる気が出てくる、あの曲「Narco」をドジャーススタジアムでも聴くことができるのでしょうか。今からとても楽しみです。さて、医師偏在対策、病床削減支援、医療DXの推進などを柱とする「医療法等の一部を改正する法律」が、2025年12月5日の参議院本会議で可決・成立しました。本連載(第265回 “米騒動”で農水相更迭、年金法案修正、医療法改正案成立困難を招いた厚労相の責任は?)でも書いてきたように、法案が国会に提出されてから実に10ヵ月、遅れに遅れてやっとの成立です。最重要政策「地域医療構想の見直し」を盛り込んだ医療法の改正「医療法等の一部を改正する法律」は2026年4月1日以降に順次施行されます。「等」と銘打たれているように、複数の医療関連法令をまとめた一括法です。柱は「地域医療構想の見直し」「医師偏在是正に向けた総合的な対策」「医療DXの推進」の3つとなります。一般マスコミの中にはキャッチーな「医師偏在是正」を前面に押し出した記事もありますが、やはり今回の最重要政策は「地域医療構想の見直し」を盛り込んだ医療法の改正だと言えます。「地域医療構想の見直し」は、これまでの地域医療構想の目標年であった2025年が到来したことを受け、2040年を目標年とする「新たな地域医療構想」を作るための政策です。85歳以上人口の増加や、各地での人口減少がさらに進む2040年とその先を見据え、すべての地域・世代の人々が適切に医療・介護サービスを受けながら生活できるための医療提供体制の構築を目的としています。以下に「地域医療構想の見直し」の主なポイントをまとめてみました。1)病床の機能分化だけでなく、外来・在宅、介護との連携、人材確保等の計画も「新たな地域医療構想」の目標年が2040年とされたのは、「団塊ジュニア世代」が全員65歳以上となり、高齢者人口がピークを迎える年と推計されていること、85歳以上の高齢者が大幅に増加し、救急医療や在宅医療、介護との連携といった多様で複雑な医療ニーズが急増すること、日本全体で人口減少が進み、医療従事者を含む働き手の確保が困難になる見込みであることなどが理由です。そうした理由から、これまでの地域医療構想は主に入院医療(病床数の調整、病床の機能分化など)が主体でしたが、「新たな地域医療構想」では「治す医療」と「治し支える医療」の役割分担の明確化とともに、外来医療・在宅医療、介護との連携、人材確保等の計画も含めた、より包括的で地域完結型の医療・介護体制の構築を目指すことになります。2)医療法の規定で「地域医療構想」が「医療計画」よりも上位の概念にこれまで「地域医療構想」は、「医療計画」の記載事項の1つに過ぎませんでした。しかし、今回の法改正で「地域医療構想」が「医療計画」の上位概念に位置付けられることになりました。今後は地域医療構想で地域の医療提供体制全体の将来ビジョン・方向性を定め、それに則って医療機関の分化・連携、病床の機能分化・連携等を進めていくことになります。都道府県が6年ごとに定める「医療計画」は、地域医療構想の具体的な実行計画という位置付けとなり、5疾病・6事業、在宅医療、外来医療、医師確保、医師以外の医療従事者の確保等について、中長期的な計画を立てて進めていくことになります。3)基準病床数は「新たな地域医療構想」における将来(2040年)の病床必要量の範囲内に「医療計画」との関係では、「医療計画」における許可病床の上限数(基準病床数)を、「新たな地域医療構想」における将来(2040年)の病床必要量の範囲内に収めることになります。特定の医療機関の増床計画により、地域の総病床数が必要病床数を上回ってしまう場合は、地域医療構想調整会議で了承が得られた場合に限り増床が許可されます。4)病床機能の区分、「回復期」は「包括期」に名称変更病床機能の区分については、現行の「高度急性期」「急性期」「回復期」「慢性期」という4区分は基本変わりませんが、「回復期」という名称は「包括期」に変更されます。これは、今後増加する高齢者救急等の受け皿として、急性期と回復期の両方の機能を併せ持つ病床が必要との考えからです。「包括期」の機能は、「高齢者救急等を受け入れ、入院早期からの治療とともに、リハビリテーション・栄養・口腔管理の一体的取り組み等を推進し、早期の在宅復帰等を包括的に提供する機能、急性期を経過した患者への在宅復帰に向けた医療やリハビリテーションを提供する機能」と定義されており、従来の「回復期=リハビリテーション」という考え方から大きく変わり、単なる回復期にとどまらず、軽症の急性期患者も対象とし、医療・リハビリ・退院支援を一体的に行う新しい病床機能になります。5)新たに「医療機関機能報告」の制度が創設「新たな地域医療構想」では、医療機関機能に着目して地域医療構想を策定・推進することになっており、それに伴って新たに「医療機関機能報告」の制度が創設されます。「医療機関機能報告」とは、地域(二次医療圏等を基礎とした構想区域)ごとに確保すべき医療機関機能として高齢者救急・地域急性期機能在宅医療等連携機能急性期拠点機能専門等機能より広域な観点で確保すべき医療機関機能として医育及び広域診療機能をそれぞれ位置付け、各医療機関(病床機能報告の対象となる医療機関)が定期的にどのような医療機関機能を有しているかを報告する制度です。なお、1医療機関がさまざまな医療機関機能を担い、1医療機関が報告する医療機関機能は複数になることも想定されています。具体的な「医療機関機能報告」の報告項目、報告方法等の詳細については、これから策定されるガイドラインで明らかにされる予定です。ところで、「医療機関機能報告」の中で「急性期拠点機能」に入るのが「がん診療連携拠点病院等」です。国は、がん診療連携拠点病院等についても連携・再編・集約等を進める考えです。「新たな地域医療構想」における議論では、がん医療を含む急性期医療について、「地域ごとに必要な連携・再編・集約を進め、二次救急医療施設も含めた医療機関において一定の症例数を集約して対応する地域の拠点として対応できる医療機関を確保することが求められる」としています。6)人口規模が小さ過ぎる構想区域は合併、大き過ぎる構想区域は分割「新たな地域医療構想」では、構想区域の考え方も柔軟になります。構想区域については引き続き2次医療圏を基本としつつ、人口規模が20万人未満や100万人以上の構想区域など、医療需要の変化や医療従事者の確保、医療機関の維持、アクセスなどの観点から課題がある場合には、必要に応じて構想区域を見直すことが適当とされました。人口規模が小さ過ぎる構想区域は合併、大き過ぎる構想区域は分割できるようになります。構想区域の具体的な設定方法については、今後策定されるガイドラインにその詳細が盛り込まれる予定です。7)精神医療も地域医療構想で位置付けこれまで地域医療構想の対象外だった精神医療が「新たな地域医療構想」では新しく位置付けられます。精神医療はこれまで、精神障害者の退院促進、地域移行・地域生活支援といった施策を推進することで、「入院医療中心から地域生活中心へ」という精神保健医療福祉施策の基本的方策の実現が図られてきました。今後、2040年頃を見据えると、高齢化の進展等に伴い、精神医療についても入院患者数の減少、病床利用率の低下などが見込まれます。そのため、一般病床と同様、精神科病床についても適正化を進めるとともに、急性期、回復期といった精神病床の機能分化・連携や、救急医療を含む一般医療との連携体制の強化、外来・在宅医療提供体制の整備が行われます。具体的には、2040年頃の精神病床数の必要量を推計した上で、計画的かつ効率的に地域の精神病床等の適正化・機能分化を進めていくことや、一般病床と同様、病床機能報告の対象に精神病床も追加することなどが予定されています。8)病床数の削減を支援する事業を都道府県が実施できるように病床数の削減を支援する事業等が法律で規定され、病床削減への公的支援が明文化されました。都道府県は、医療機関が経営安定のため緊急に病床数を削減する場合に支援事業を実施でき、国が予算の範囲内で費用を補助することができるようになります。これは、自民、日本維新の会、公明の3党合意を踏まえ、当初の法案に衆議院厚生労働委員会で修正・追加された内容です。2025年度補正予算では約3,490億円の「病床数適正化緊急支援基金」を創設し、稼働病床1床当たり410万円、非稼働病床では205万円を支給することになっています。これまでの補助分と合わせ、最大約11万床の削減が想定され、削減後は基準病床数も原則引き下げられます。自らの医療機関がどのような医療機関機能を担っていけるのか、担っていきたいのかの検討を以上述べてきたように、一般病床が主な対象だった地域医療構想が、外来・在宅、介護との連携、人材確保等の計画も含めたより包括的な“構想” へとバージョンアップします。地域医療構想は、医療機関の集約化、統合・再編、病床削減を強力に推し進める強力なツールになったといえます。個々の医療機関の経営者(とそこで働く医師)は、自らの医療機関が現状どのような医療機関機能を担っているのか、そして2040年に向けてどのような医療機関機能を担っていけるのか、あるいはいきたいのかを早急に検討し、医療機関機能報告制度の開始に向け、その準備を進めておく必要があるでしょう。

85.

大動脈弁逆流症、専用弁によるTAVIが有望/Lancet

 手術のリスクが高いと考えられる中等度~重度または重度の先天性大動脈弁逆流症患者では、本症専用の人工弁を用いた経カテーテル的大動脈弁植込み術(TAVI)は、事前に規定した安全性と有効性の性能目標を達成するとともに、最長で2年間にわたり、大動脈弁逆流症の大幅な改善が得られ、心機能状態の改善と生活の質の向上をもたらすことが示された。米国・Cedars-Sinai Medical CenterのRaj R. Makkar氏らALIGN-AR Investigatorsが、多施設共同試験「ALIGN-AR試験」の結果を報告した。研究の成果は、Lancet誌オンライン版2025年11月16日号で発表された。米国の前向き単群試験 ALIGN-AR試験は、米国の30施設で進行中の前向き単群試験であり、2018年6月~2025年7月に参加者のスクリーニングを行った(JenaValve Technologyの助成を受けた)。 年齢18歳以上、症候性の中等度~重度(米国心エコー図学会[ASE]基準の3+)または重度(ASE 4+)の大動脈弁逆流症で、手術による死亡または合併症のリスクが高く、NYHA心機能分類II以上の患者を対象とした。 これらの患者に対し、ブタ心膜弁尖を用いて先天性大動脈弁逆流症の専用に設計された人工弁であるトリロジー弁(Trilogy valve、JenaValve Technology製)を使用したTAVIを施行した。 安全性の主要複合エンドポイントは、術後30日以内の主要有害事象(全死因死亡、脳卒中、生命を脅かす出血または大出血、急性腎障害、主要血管合併症、外科的または経皮的インターベンションの追加の必要性、新規のペースメーカー植込み術、中等度以上の大動脈弁逆流症)の複合とした。 文献に基づく安全性エンドポイントの発生率は30%であり、これに安全性エンドポイントの非劣性マージンである1.35を乗じた40.5%を性能目標とし、検証を行った。また、1年全死因死亡率について、性能目標である25.0%に対する優越性を検証した。解析は、ITT集団で実施した。主要複合エンドポイントの非劣性を確認 700例を登録した。全体の年齢中央値は79.0歳(四分位範囲[IQR]:72.0~84.0)、女性が321例(46%)で、白人が532例(76%)、黒人またはアフリカ系米国人が68例(10%)、アジア系が36例(5%)であった。大動脈弁逆流症の重症度は、379例(55%)が中等度~重度、304例(44%)が重度だった。664例(95%)で技術的成功が達成された。追跡期間中央値は472日(IQR:352~891)。 30日の時点で、安全性の主要複合エンドポイントは700例中168例(24.0%、97.5%信頼区間[CI]の上限値:27.3%)で発生し、性能目標である40.5%に対し非劣性を示した(非劣性のp<0.0001)。 30日時の、安全性の主要複合エンドポイントの個別の構成要素については、全死因死亡が700例中11例(1.6%)、脳卒中が12例(1.7%)、大出血/生命を脅かす出血が19例(2.7%)、急性腎障害(7日目の時点でステージ2または3)が5例(0.7%)、主要血管合併症が17例(2.4%)、デバイスまたは手技関連の手術、インターベンション、主要血管合併症が21例(3.0%)に発生し、新規ペースメーカー植込み術は、すでに装着している患者を除く589例中127例(21.6%)、中等度または重度の大動脈弁逆流症は、30日までに心エコー図の解釈が行われていない患者を除く569例中3例(0.5%)に発生した。1年全死因死亡率は優越性を示した 1年時の全死因死亡は、1年の追跡を完了した492例中38例(7.7%[97.5%CIの上限値:10.4%])で発生し、性能目標である25.0%に対し優越性を示した(優越性のp<0.0001)。また、2年時までに、全死因死亡は53例(13.3%)で発生した。 最長で2年間にわたり、大動脈弁逆流症の大幅な改善(2年後に逆流なし/わずかに残存85%、軽度13%)が得られ、心機能状態の改善(2年後のNYHAクラスI 63%、II 29%、III 8%)と生活の質の向上(2年後の平均KCCQ-OSスコア81.8点)をもたらした。 著者は、「これらのデータは、手術後の死亡または合併症のリスクが高い先天性大動脈弁逆流症の患者において、専用に設計されたデバイスを用いたTAVIが実行可能かつ効果的な治療選択肢であるとの見解を支持するものである」「高い技術的成功率(95%)、低い死亡率(30日死亡率1.6%、1年死亡率7.7%)、最小限の残存大動脈弁逆流症(1年および2年時点で発生した中等度以上の残存大動脈弁逆流症は約1%)が確認され、大動脈弁逆流症における手技上の課題を克服した」「これらの知見は、臨床応用と将来のガイドライン策定に必要な、重要なエビデンスを提供する」としている。

86.

ゾンゲルチニブ発売、HER2変異陽性NSCLCの治療の変化は?/ベーリンガーインゲルハイム

 日本ベーリンガーインゲルハイムは、ゾンゲルチニブ(商品名:ヘルネクシオス)を2025年11月12日に発売した。発売を機に「非小細胞肺がん(NSCLC)のアンメットニーズと最新治療」をテーマとしたメディアセミナーを2025年11月18日に開催した。後藤 功一氏(国立がん研究センター東病院 副院長 兼 呼吸器内科 科長)がHER2遺伝子変異陽性NSCLC治療のアンメットニーズと最新治療について紹介し、HER2遺伝子変異陽性NSCLC患者の清水 佳佑氏(肺がんHER2「HER HER」代表)が、患者会の運営経験、患者が抱える課題やアンメットニーズを述べた。HER2遺伝子変異陽性NSCLCの特徴 後藤氏は、LC-SCRUM-Asiaの取り組み、HER2遺伝子変異陽性肺がんの特徴や治療法などについて紹介した。 LC-SCRUM-Asiaは、肺がんの原因となる希少遺伝子変化を見つけ出し、有効な治療薬を届けることを主な目的としている。後藤氏によると、これまでに2万5千例以上の肺がん患者が登録され、これまでの活動に伴って14種類の分子標的薬が臨床応用されているとのことだ。 LC-SCRUM-Asiaにおける遺伝子解析結果によると、HER2遺伝子変異は日本人NSCLC患者の2.6%にみられる。このうちexon20挿入変異が79%であり、そのなかでYVMA変異(HER2 A775_G776insYVMA)が66%を占める。HER2遺伝子exon20挿入変異を有するNSCLC患者の特徴としては、若年発症が多い(年齢中央値65歳[範囲:29~90])、女性の割合が多い(57%)、非喫煙者が多い(55%)、腺がんがほとんど(98%)といったことが挙げられる1)。 現在、HER2遺伝子変異陽性NSCLC患者に対する1次治療の標準治療の1つとして、免疫チェックポイント阻害薬+化学療法があるが、LC-SCRUM-Asiaの登録患者における無増悪生存期間(PFS)中央値は8.5ヵ月であった1)。化学療法単独と比較してPFSは延長しているが、アンメットニーズが存在すると言える。新たな治療選択肢の登場 そのようななか、2次治療以降の選択肢として、HER2を標的とする抗体薬物複合体トラスツズマブ デルクステカン(T-DXd)が登場した。既治療のHER2遺伝子変異陽性NSCLC患者を対象とした国際共同第II相試験「DESTINY-Lung02試験」2)において、T-DXd 5.4mg/kgは奏効割合(ORR)50.0%(完全奏効[CR]2.9%、部分奏効[PR]47.1%)、PFS中央値10.0ヵ月、全生存期間(OS)中央値19.0ヵ月といった良好な治療成績を示した。ただし、後藤氏は「有効な薬剤であることに間違いないが、限界も存在する」と述べる。 そこで、新たな治療選択肢として登場したのがゾンゲルチニブである。ゾンゲルチニブは、HER2と構造的な関連のある野生型EGFRに対する阻害活性を弱め、HER2を選択的に阻害するように設計された薬剤である。野生型EGFRを阻害すると、発疹や下痢などのEGFR関連有害事象が生じやすくなるが、ゾンゲルチニブはその毒性を軽減するように開発された。 既治療のHER2遺伝子変異陽性NSCLC患者を対象とした国際共同第I相試験「Beamion LUNG-1試験」3)において、ゾンゲルチニブはORR 71%(CR 7%、PR 64%)、PFS中央値12.4ヵ月という良好な有効性を示した。安全性については、主な治療関連有害事象(TRAE)として下痢(56%)や肝機能障害(AST増加24%、ALT増加21%)、発疹(33%)などがみられたが、全体のGrade3以上のTRAEの発現割合は17%であった。 Beamion LUNG-1試験の結果から、『肺癌診療ガイドライン2025年版』では、T-DXdと並んで、2次治療以降でゾンゲルチニブ単剤療法を行うことが強く推奨された(推奨の強さ:1、エビデンスレベル:C)4)。 後藤氏は、ゾンゲルチニブについて「最も大きな特徴は毒性が軽いという点である。非常に使いやすい薬剤であり、HER2遺伝子変異陽性NSCLCの治療において、最も使われる薬剤になるのではないかと考えている」と期待を語った。HER2肺がんの患者会設立と活動 清水氏は、2017年にStageIIIBの肺腺がんの告知を受け、標準治療および臨床試験への参加を経てCRに至ったがんサバイバーであり、HER2遺伝子変異またはHER2過剰発現を有する肺がんを対象とした患者会として、2018年に肺がんHER2「HER HER」を設立した。 清水氏は「日常のことやHER2に関することを話したいと思っても話す場がない。臨床試験の情報を得ても共有する場所がなく、もったいない。HER2遺伝子変異またはHER2過剰発現を有する肺がん患者が安心して集まる場があるとよい」という思いを抱えていたという。そのようななか、日本臨床腫瘍学会学術集会の懇親会において、ROS1融合遺伝子陽性の肺がんを対象とした患者会の会員と出会ったことで、肺がんHER2「HER HER」の設立を決意したとのことだ。 現在(講演時)の会員数は52名であり、30~60代の患者が中心で、とくに50代の患者が多い。患者家族も会員の約4分の1を占めている。HER2遺伝子に特化した患者会であることから、沖縄県から宮城県まで会員が分布している。そのため、活動はオンラインが中心とのことである。 本患者会では「治療と共に」「仲間と共に」「社会と共に」という3つのテーマを掲げている。活動としては、患者同士で日々の治療や副作用、治療や生活の不安や悩みなどについて情報共有をするほか、臨床試験の情報を共有しているという。また、ほかの肺がんの患者団体、疾患を超えた団体とも活動を行っており、「社会と一緒に医療を作っていきたい」と考えながら、研究への患者・市民参画(PPI)の活動も積極的に進めているとのことである。患者会の活動で得られた変化とアンメットニーズ このような活動を進めていくなかで、周囲との関係性に変化があったと清水氏は語る。その例として、医療者とのコミュニケーションの変化、家族や周囲の方との関係の変化などを挙げた。医療者との関係性について、清水氏は「患者会内の先輩患者から医療者とのコミュニケーション方法を学ぶことで、医療者との信頼関係の構築につながることがあった。治療に関する知識や情報を持つことで、主治医と共に納得して治療を進められるようになった方もいた」と述べた。また、生活の工夫など、普段聞くことのできない体験談を聞くことで、家族や周囲の方との関係に変化が生まれ、生活がしやすくなったという方もいたとのことである。 一方で、課題も存在すると清水氏は述べる。EGFR遺伝子などの主要なドライバー遺伝子と比較し、希少遺伝子異常は治療選択肢が限られる場合があり、臨床試験情報へのアクセスが求められることもある。実際に、臨床試験の探し方や参加方法がわからないといった相談を受けることもあるという。これについて、後藤氏は「遺伝子解析結果とその結果に関連する臨床試験情報を患者へ直接提供するLC-SCRUM-Supportというプロジェクトを開始している。患者またはその近親者のメールアドレスを登録いただくと、現在進行中の臨床試験情報が届くため、患者会の皆さまにも活用いただきたい」と述べた。 以上を踏まえ、清水氏は「形式的なPPIにとどまらず、双方向のコミュニケーションが当たり前になることが重要だと捉えている。より患者の声が生きる設計を共に作っていき、情報が誰でも届く社会になることを期待している」と述べた。また、今後の活動について「がん治療を行っている患者や家族には、それぞれの悩みや不安がある。少しでもその不安や悩みを解消し、穏やかな生活を送っていただきたい。そのため、一人ひとりの声をしっかりと聞き、寄り添いながら活動を進めたいと考えている。私たちの声が誰かの治療に繋がり、誰かの声が私たちの希望に繋がる。『HER HER』はその架け橋のような存在でありたいと思っている」と語った。

87.

DES留置後1年以上の心房細動、NOAC単剤vs.NOAC+クロピドグレル併用/NEJM

 1年以上前に薬剤溶出ステント(DES)の留置を受けた心房細動患者において、非ビタミンK拮抗経口抗凝固薬(NOAC)単剤療法はNOAC+クロピドグレルの併用療法と比較し、全臨床的有害事象(NACE)に関して非劣性であることが認められた。韓国・Yonsei University College of MedicineのSeung-Jun Lee氏らが、同国32施設で実施した研究者主導の無作為化非盲検非劣性試験「Appropriate Duration of Antiplatelet and Thrombotic Strategy after 12 Months in Patients with Atrial Fibrillation Treated with Drug-Eluting Stents trial:ADAPT AF-DES試験」の結果を報告した。ガイドラインの推奨にもかかわらず、DES留置後の心房細動患者におけるNOAC単剤療法の使用に関するエビデンスは依然として限られていた。NEJM誌オンライン版2025年11月8日号掲載の報告。第2または第3世代DES留置後1年以上の高リスク心房細動患者が対象 研究グループは、心房細動と診断され、登録の1年以上前に第2世代または第3世代のDESを留置するPCIを受け、CHA2DS2-VAScスコアが2以上の19~85歳の患者を、NOAC単剤療法群またはNOAC+クロピドグレル併用療法群に1対1の割合で無作為に割り付けた。 NOACは担当医師の選択としたが、試験ではアピキサバンまたはリバーロキサバンのみを使用した。 主要エンドポイントは、無作為化後12ヵ月時点における全死因死亡、心筋梗塞、ステント血栓症、脳卒中、全身性塞栓症または大出血もしくは臨床的に重要な非大出血の複合であるNACEで、非劣性マージンは主要エンドポイント発現率の群間差の片側97.6%信頼区間(CI)の上限が3.0%とし、ITT解析を行った。なお、非劣性が認められた場合、主要エンドポイントにおけるNOAC単剤療法の優越性を第1種過誤率4.8%(両側)として検定することが事前に規定された。12ヵ月時のNACE発現率、単剤群9.6%vs.併用群17.2% 2020年4月~2024年5月に計1,283例がスクリーニングされ、このうち960例が無作為化された(単剤療法群482例、併用療法群478例)。平均年齢は71.1歳、女性が21.4%であった。 主要エンドポイントのイベントは単剤療法群で46例(Kaplan-Meier推定値9.6%)、併用療法群で82例(17.2%)に発現し、絶対群間差は-7.6%(95.2%CI:-11.9~-3.3、非劣性のp<0.001)、ハザード比(HR)は0.54(95.2%CI:-0.37~0.77、優越性のp<0.001)であった。 大出血もしくは臨床的に重要な非大出血は、単剤療法群で25例(5.2%)、併用療法群で63例(13.2%)に発現した(HR:0.38、95%CI:0.24~0.60)。大出血の発現率はそれぞれ2.3%および6.1%(HR:0.37、95%CI:0.18~0.74)、臨床的に重要な非大出血の発現率は2.9%および7.1%(0.40、0.21~0.74)であった。

88.

SGLT2阻害薬の腎保護作用:eGFR低下例・低アルブミン尿例でも新たな可能性/JAMA(解説:栗山哲氏)

本論文は何が新しいか? SGLT2阻害薬は、2型糖尿病、糖尿病関連腎臓病(DKD)、慢性腎臓病(CKD)、心不全患者などにおいて心・腎アウトカムを改善する明確なエビデンスがある。しかし、腎保護作用に関し、従来、ステージ4 CKD(G4)や尿アルブミン排泄量の少ない患者での有効性は不明瞭であり、推奨度は低かった。この点に注目し、SGLT2阻害薬が腎アウトカムに与える「クラス効果(class effect)」を高精度に評価することを目的とし、オーストラリアのBrendon L. Neuen氏らは、SGLT2阻害薬の大規模臨床研究(ランダム化二重盲検プラセボ対照試験:RCT)を、SGLT2 Inhibitor Meta-Analysis Cardio-Renal Trialists' Consortium(SMART-C:国際共同研究)として統合的にメタ解析した(JAMA誌オンライン版2025年11月7日号、ケアネット11月28日掲載)。本解析の結果、SGLT2阻害薬の腎保護作用は、ステージ4のeGFR低下群や低UACR群でも認められ、糖尿病の有無にかかわらず一貫した効果が確認された。この新たな知見は、腎機能の中等度以上低下群や低尿アルブミン群への適応拡大を示唆する。SMART-C研究の主な成績 解析対象は、SGLT2阻害薬のRCT10件、計7万361例(平均年齢64.8±8.7歳)。主要アウトカムはCKD進行(腎不全、eGFRの50%以上低下、腎死)とし、年間eGFR低下率、腎不全単独なども評価。治療効果は、逆分散加重メタ解析を用いて統合した。その主な結果は、CKD進行リスクを低下させた(ハザード比[HR]:0.62、95%信頼区間[CI]:0.57~0.68)。この効果は、ベースラインの推定糸球体濾過量(eGFR)に関係なく一貫して認められた(eGFR≧60mL/分/1.73m2の場合HR:0.61、45~<60の場合HR:0.57、30~<45の場合HR:0.64、<30の場合HR:0.71、傾向p値=0.16)。また、尿中アルブミン排泄(尿アルブミン・クレアチニン比[UACR])別でも効果は一貫しており(UACR<30mg/gでHR:0.58、30~300でHR:0.74、>300でHR:0.57、傾向p値=0.49)、低UACR群でも有効性が確認された。さらに、糖尿病の有無にかかわらず、すべてのeGFRおよびUACRサブグループにおいて、eGFR年間低下率を改善し、また、腎不全単独のリスクも減少させた(HR:0.66、95%CI:0.58~0.75)。なお、RAS阻害薬の使用率は、各サブグループ間で81~93%であった。また、論文記載のイベント率(SGLT2群25.4 vs.プラセボ群40.3/1,000人年)を基に筆者が算出した治療必要数(NNT)は、中央値3年で約22、高リスク群では16程度と推定された。SMART-C研究のインパクト 従来、SGLT2阻害薬は2型糖尿病やDKDを中心に使用されてきた。本研究の大きな意義は、糖尿病の有無、eGFR、UACRにかかわらず腎保護作用が一貫して認められた点である。現在、日本腎臓学会の「SGLT2阻害薬適正使用の推奨案」では、DKDで第1選択薬としてSGLT2阻害薬が明記されている。開始基準として、DKDではeGFR≧20mL/分/1.73m2での開始を推奨するものの、G5(eGFR<15)での新規開始は不可としている。さらに、DKDでは蛋白尿の有無にかかわらずSGLT2阻害薬は推奨されるが、非糖尿病CKDで蛋白尿陰性の場合は、G2(eGFR≧60)以下では慎重投与となっている(日本腎臓学会誌. 2023;65:1-10.)。一方、SMART-CではG4 CKD(eGFR15~29)でも、低UACR群でも腎保護効果が確認された。この結果は、本邦のガイドラインでは積極的に推奨されないCKD進行例や尿蛋白陰性例でも、SGLT2阻害薬の適応が拡大する可能性を示唆しており、将来的にガイドライン改訂に影響を与えると考えられる。いずれにしても、SMART-Cの成果は、SGLT2阻害薬を「血糖降下薬」から、「心・腎保護の基盤治療薬(foundation therapy)」と位置付ける根拠を提供した。とくに、糖尿病・心不全・CKDなどが複数併存する高リスク患者にとっても有益性が高いことが示され、実臨床/ガイドラインでの採用を裏付けるデータとなった。医療経済の面から、CKD進行イベント率から算出したNNTは約22、高リスク群では16程度と推定され、絶対的ベネフィットは大きい。また、発売10年が経過し、ジェネリック医薬品の登場によりコスト面でのハードルも低下する見込みである。 SMART-C研究には課題もある。この解析研究では、対象の約85%でRAS阻害薬が併用されている。つまり、ここで観察された腎保護効果はRAS阻害薬存在下で得られたものであり、SGLT2阻害薬の単独効果は未検証である。このことから、現時点においてSGLT2阻害薬による腎保護の介入は、RAS阻害薬の併用を前提とすることが望ましい。今後の検討事項としては、初期治療でのSGLT2阻害薬単独の腎保護効果を検証する必要がある。なお、SGLT2阻害薬の腎保護機序は、DKDでは主に糸球体過剰濾過の改善とされるが、それ以外にも諸説が提唱されている(Vallon V. Am J Hypertens. 2024;37:841-852)。かかりつけ医と腎臓専門医の役割 本邦の実臨床においてSMART-Cの結果をどのように導入するか。病態早期(G1~G2、eGFR≧60)やステージG3b(eGFR30~44)の中等症までのDKD/CKD患者でのSGLT2阻害薬導入は、かかりつけ医で可能と考えられる。初期投与後、2~4週でeGFRが一過性に10~20%低下する「initial dip」が観察されるが、これは糸球体過剰濾過腎では病態生理学的に許容範囲と考えられており、中長期的には緩徐なeGFRスロープ低下に移行する。一方、ステージG4(eGFR15~29)のDKD/CKDや複雑な腎病態を呈する症例でのSGLT2阻害薬開始は、腎臓専門医との病診連携が好ましい。この際、かかりつけ医は定期的モニタリングを担うことが望ましい。SGLT2阻害薬導入時の具体的な安全管理として、脱水・低血圧・利尿状況の確認、糖尿病合併例でのシックデイ時の休薬指導・ケトアシドーシス予防、急性腎障害のリスク管理、尿路感染症などへの対応が重要である。高齢者に多い高血圧性腎硬化症では、UACRは低値でeGFRは中等度に低下した虚血腎が病態のベースにある。こうした症例でもSMART-Cのベネフィットが再現できるか、また長期安全性や副作用リスクをどこまで担保できるかは、今後のリアルワールドデータの構築と検証が課題である。

89.

BRAF変異陽性大腸がん、最適な分子標的療法レジメンは?/BMJ

 中国・海軍軍医大学のBao-Dong Qin氏らは、BRAF遺伝子変異を有する切除不能大腸がんに対する分子標的療法ベースのレジメンの有効性と安全性について、システマティックレビューとネットワークメタ解析を行い、1次治療については、2剤併用化学療法+抗EGFR/BRAF療法が最善の生存ベネフィットをもたらすことを、また2次治療以降では、抗EGFR/BRAF療法をベースとしたレジメン(MEK阻害薬あるいはPI3K阻害薬併用あり・なし)が、最も高い有効性および良好な忍容性を有する選択肢であることを示した。BRAF遺伝子変異を有する切除不能大腸がん患者の予後は不良であり、従来療法に対して十分な効果が得られない場合が多い。これまで複数の分子標的レジメンが検討され、抗EGFR/BRAF療法ベースのレジメンの臨床導入後、治療効果は大幅な改善が認められた。しかしながら、BRAF遺伝子変異を有する大腸がんの発生率は比較的低く、レジメンの有効性および安全性の直接比較は限られていた。BMJ誌2025年11月19日号掲載の報告。メタ解析でレジメンの1次治療および2次治療以降のOSを評価 研究グループは、BRAF遺伝子変異を有する切除不能大腸がんの分子標的薬ベースの治療戦略について、レジメン別およびレジメンの直接比較による有効性と安全性を評価するシステマティックレビューとネットワークメタ解析を行った。 PubMed、Embase、Cochrane Library、ClinicalTrials.gov(データベース開始~2025年5月31日)および国際学会抄録を検索。BRAF遺伝子変異を有する切除不能大腸がんに対する分子標的療法の有効性と安全性を検討し、少なくとも1つの対象臨床アウトカムを含む臨床試験および多施設共同リアルワールド研究を適格とした。 主要評価項目は、1次治療および2次治療以降の全生存期間(OS)とした。副次評価項目は、無増悪生存期間(PFS)、奏効率(ORR)、病勢コントロール率(DCR)、およびGrade3以上の有害事象などであった。 シングルアームメタ解析、ペアワイズメタ解析およびネットワークメタ解析を行い、OSとPFSのハザード比(HR)および95%信用区間(CrI)を統合し、ORRとDCRと有害事象のオッズ比および95%CrIを統合した。順位確率と累積順位曲線下面積(SUCRA)により、ネットワークメタ解析でレジメンの相対的優位性を評価した。1次治療では、2剤併用化学療法+抗EGFR/BRAF療法が最も良好 60試験、BRAF遺伝子変異を有する患者4,633例が対象に含まれた。 統合推定値により、患者は抗EGFR/BRAF療法をベースとしたレジメンからベネフィットを得られる可能性が示唆された。 1次治療では、2剤併用化学療法+抗EGFR/BRAF療法のOSが最も良好で、2剤併用化学療法+抗VEGF療法(HR:0.49、95%CrI:0.36~0.66)、3剤併用化学療法+抗VEGF療法(0.51、0.33~0.80)、抗EGFR/BRAF療法(0.70、0.51~0.96)と比較して有意な有益性を示した。 1次治療のすべての分子標的療法戦略において、化学療法+抗EGFR/BRAF療法のOSが最も優れており(2剤併用化学療法+抗EGFR/BRAF療法のSUCRA=0.94、単剤化学療法+抗EGFR/BRAF療法のSUCRA=0.90)、またPFSも最も優れていた(2剤併用化学療法+抗EGFR/BRAF療法のSUCRA=0.93、単剤化学療法+抗EGFR/BRAF療法のSUCRA=0.92)。2次治療以降では、抗EGFR/BRAF療法±阻害薬が最上位 2次治療以降では、抗EGFR/BRAF療法が阻害薬(MEK阻害薬あるいはPI3K阻害薬)の併用あり・なしにかかわらず、他の代替戦略と比較して有効性が高く、順位確率とSUCRAに基づく試験の順位がエンドポイント全体で最上位であった。 著者は、「今回の試験結果は、BRAF遺伝子変異を有する切除不能大腸がん患者に対する、ライン別の治療方針決定の必要性を強調するとともに、抗EGFR/BRAF療法ベースの治療戦略の役割を明確にし、現行ガイドラインを補完する可能性がある」とまとめている。

90.

非小細胞肺がん、アミバンタマブ・ラゼルチニブ併用における予防的抗凝固療法に関する合同ステートメント/日本臨床腫瘍学会ほか

 日本臨床腫瘍学会、日本腫瘍循環器学会、日本循環器学会、日本肺癌学会、日本癌治療学会、日本血栓止血学会、日本静脈学会は2025年12月8日、非小細胞肺がん(NSCLC)のアミバンタマブ・ラゼルチニブ併用療法における予防的抗凝固療法の適正使用に関する合同ステートメントを発表した。 EGFR遺伝子変異陽性の切除不能進行・再発NSCLCに対する新たな治療戦略として二重特異性モノクローナル抗体であるアミバンタマブと第3世代EGFR-TKIラゼルチニブの併用療法が臨床導入された。アミバンタマブ・ラゼルチニブ併用療法では、静脈血栓塞栓症(VTE)の発症が高頻度であることが国内外の臨床試験により報告されている。このためVTE発症予防を目的として、併用療法開始後4ヵ月間にわたる直接経口抗凝固薬アピキサバンの投与が2025年3月27日付で厚生労働省保険局医療課により承認された。 しかし、本邦における診療ガイドラインでは外来化学療法時の抗がん薬によるVTE発症の予防目的で施行される抗凝固療法において推奨する抗凝固薬に関する記載がなく、同時にアミバンタマブ・ラゼルチニブ併用療法治療中のNSCLC患者に対するアピキサバンの臨床的経験は限られているのが現状である。そこで、今回承認された新たながん治療法を安全かつ適正に導入するために、患者の安全性を最優先に考慮する必要があることから本ステートメントが発出された。ステートメント 「EGFR変異陽性の進行・再発NSCLCに対してアミバンタマブ・ラゼルチニブ併用療法を施行する患者において、静脈血栓塞栓症予防を目的としてアピキサバン2.5mgを1日2回、4ヵ月間投与する。活動性悪性腫瘍症例に対しアピキサバンによる予防的抗凝固療法を施行するにあたり日本人では血中濃度が高くなることが知られているが、アピキサバン2.5mg1日2回投与の出血リスクについては安全性が確認されていない。そこで出血(ISTH基準の大出血*)などの重篤な合併症を生じるリスクを理解した上で、使用薬の特性、投与方法、薬剤相互作用を考慮した慎重な対応が必要である。そして、これらの治療は抗凝固療法に精通した腫瘍循環器医(循環器医)等と連携の取れる体制の下で実施されることが望ましい。」*:ISTH基準の大出血:実質的な障害をもたらす出血(脳出血、消化管出血、関節内出血など)、失明に至る眼内出血、2単位以上の輸血を要する出血

91.

CKDへのSGLT2阻害薬、糖尿病・UACRを問わずアウトカム改善/JAMA

 慢性腎臓病(CKD)患者におけるSGLT2阻害薬の効果については不確実性が存在し、欧米のガイドラインでは糖尿病の状態や尿中アルブミン/クレアチニン比(UACR)に基づき推奨の強さが異なる。英国・オックスフォード大学のNatalie Staplin氏らSGLT2 Inhibitor Meta-Analysis Cardio-Renal Trialists’ Consortium(SMART-C)は、SGLT2阻害薬は糖尿病の有無やUACRの値にかかわらず、腎機能や入院、死亡のアウトカムに関して明確な絶対的便益(absolute benefit)を有するとメタ解析の結果を報告した。研究の成果は、JAMA誌オンライン版2025年11月7日号で発表された。8件の無作為化臨床試験のメタ解析 研究グループは、糖尿病の有無およびUACR(200mg/g以上、200mg/g未満)で層別化した臨床試験の参加者において、SGLT2阻害薬の使用が有効性や安全性のアウトカムに及ぼす相対的および絶対的な影響の評価を目的にメタ解析を行った。 対象は、腎疾患での使用の適応を有するSGLT2阻害薬について検討し、腎アウトカムの経過やベースラインのアルブミン尿のデータを記録した8件の無作為化臨床試験であった。 主要アウトカムとして、SGLT2阻害薬の使用が臨床的な有効性と安全性に及ぼす影響を評価した。糖尿病の有無にかかわらず、有効性のアウトカムが改善 SGLT2阻害薬とプラセボを比較した試験の参加者5万8,816例(平均年齢64[SD 10]歳、女性35%、糖尿病4万8,946例、非糖尿病9,870例)を解析の対象とした。 プラセボ群と比較してSGLT2阻害薬群では、次の4つの有効性のアウトカムが糖尿病の有無を問わず改善した(非糖尿病患者の総死亡を除く)。(1)腎疾患進行率が低下(糖尿病患者:SGLT2阻害薬群33件/1,000人年vs.プラセボ群48件/1,000人年、ハザード比[HR]:0.65[95%信頼区間[CI]:0.60~0.70]、非糖尿病患者:32件vs.46件、0.74[0.63~0.85])(2)急性腎障害(AKI)の発生率が低下(糖尿病患者:14件vs.18件、0.77[0.69~0.87]、非糖尿病患者:13件vs.18件、0.72[0.56~0.92])(3)総入院の発生率が低下(糖尿病患者:202件vs.231件、0.90[0.87~0.92]、非糖尿病患者:203件vs.237件、0.89[0.83~0.95])(4)総死亡の発生率が低下(糖尿病患者:42件vs.47件、0.86[0.80~0.91]、非糖尿病患者:42件vs.48件、0.91[0.78~1.05])アルブミン尿による層別化は不要 このようなSGLT2阻害薬の糖尿病の有無別のHRは、さらにUACR 200mg/g以上とUACR 200mg/g未満に分けて検討した場合も同様に良好であった。 たとえば、UACR 200mg/g以上で絶対リスクが高い場合でも、このサブグループでは腎疾患進行(糖尿病患者のHR:0.65[95%CI:0.59~0.71]、非糖尿病患者のHR:0.71[95%CI:0.60~0.84])に対するSGLT2阻害薬の絶対的便益が明らかに大きいと推定された。また、UACR 200mg/g未満の患者では、他の有効性のアウトカム、とくに入院(0.91[0.88~0.94]、0.89[0.82~0.98])に関して明らかな絶対的便益を認めた。 さらに、非心不全の患者集団や、推定糸球体濾過量が60mL/分/1.73m2未満の患者の解析でも、このSGLT2阻害薬の絶対的便益が保持されていた。 著者は、「これらのデータは、CKD患者におけるSGLT2阻害薬の使用に関するガイドラインの推奨から、アルブミン尿の値による患者の層別化を削除することを支持し、より広範な使用の根拠となるものである」としている。

92.

ガイドライン順守率が精神疾患の長期アウトカムに及ぼす影響〜統合失調症とうつ病におけるEGUIDEプロジェクト

 精神科医療の普及と教育に対するガイドラインの効果に関する研究(EGUIDEプロジェクト)は、精神科医に対してガイドラインの教育の講習を行い、統合失調症およびうつ病のガイドライン順守治療を促進することを目的として、日本で開始されたプロジェクトである。参加医師への短期的な効果は、すでに報告されていたが、長期的および施設全体への効果は依然として不明であった。国立精神・神経医療研究センターの長谷川 尚美氏らは、ガイドライン順守による治療が、施設間で時間の経過とともに改善するかどうかを評価した。その結果、潜在的な拡散効果またはスピルオーバー効果が示唆された。Neuropsychopharmacology Reports誌2025年12月号の報告。 2016〜23年に、精神科施設298件を対象としたプロスペクティブ観察研究を実施した。統合失調症患者1万9,623例とうつ病患者9,805例の退院時処方箋および治療データを収集した。ガイドライン順守は、11の統合失調症品質指標(QI-S)と7つのうつ病品質指標(QI-D)を用いて評価した。年齢、性別、施設で調整した後、多重比較ではBonferroni補正を用いたロジスティック回帰分析を行った。 主な結果は以下のとおり。・統合失調症については、11のQI-Sのうち7つにおいて、前年比で有意な改善が認められた。改善された項目には、治療抵抗性統合失調症の診断評価(42.2%→62.5%)、修正型電気けいれん療法(mECT)の使用(6.1%→11.8%)、抗コリン薬を使用しない(70.7%→81.7%)などが挙げられた。・うつ病については、7つのQI-Dのうち3つにおいて、前年比で有意な改善が認められた。改善された項目には、重症度診断の評価(51.2%→77.0%)、mECTの使用(12.8%→26.6%)などが挙げられた。・とくに、認知行動療法(CBT)の実施が減少した。・これらの知見は、すべての施設において、参加していない臨床医に対しても長期的な行動変化が及んでいることを示唆している。 著者らは「EGUIDE講習を受けた精神科医が施設内にいることで、施設レベルのガイドラインを順守した治療の持続的な改善が認められた。これらの結果は、個々の教育的利益だけでなく、実践文化の浸透、すなわちスピルオーバー効果によって精神科医療の質が向上することを示唆している。このことから、治療実践を大規模に改善するには、継続的な教育努力が不可欠である」と結論付けている。

93.

災害避難で車中泊は危険なのか?【実例に基づく、明日はわが身の災害医療】第11回

災害避難で車中泊は危険なのか?大規模災害の後、体育館が避難所として運営され、多くの避難者が生活していますが、避難所ではなく自家用車の中で生活している避難者も多くいるようです。避難所管理医師として、車中泊をする避難者の健康管理を行政から依頼されました。どのようなケアをすればいいでしょうか?車中泊する人は多い大規模災害時、避難所の収容限界や感染対策、プライバシーの問題から「車中泊」を選ぶ避難者は少なくありません。車中泊であれば、他人の物音に悩まされることもなく、周囲に気を使わずに夜中でもパソコンやスマートフォンを操作できます。実際、2016年の熊本地震では、避難者の6~7割が一時的に車中泊を経験しました1)。一方、震災関連死した被災者の約3割が車中泊経験者でした2)。こうした経緯から、車中泊は「避けるべきリスク」として語られがちです。しかし、指定避難所が満員である場合や、家族・ペットの事情などを考慮すると、多くの被災者にとって「積極的に選ばれる避難手段」となっているのが現実です。車中泊は血栓症のリスクなのか?医療者が注目すべきは、この避難様式が深部静脈血栓症(DVT)や肺血栓塞栓症(PTE)のリスク因子となる点です3~5)。熊本地震後の調査では、車中泊経験者のDVT発症率は約10%に達し、心肺停止に至る重症PTEの症例も報告されています6)。このような事実から、「車中泊は極力避けるべき」と主張する支援者もおられます。しかし近年の研究では、問題の本質は「車中泊」そのものではなく、その過ごし方と環境にあることが示されています。とくに以下の要因がリスクを高めるといわれています。長時間の下肢屈曲保持(座席での就寝など)トイレ不足による水分制限 → 脱水・血液濃縮下肢運動不足 → 筋ポンプ機能の低下高齢、肥満、静脈瘤、悪性腫瘍、妊産婦、血栓症などの家族歴経口避妊薬や睡眠薬などの服薬歴寒冷環境や強いストレスによる交感神経の緊張車中泊中の血栓症の予防はどうするか?これらのリスクを有する避難者に対しては、車内でも可能な非薬物的予防が有効であり、避難所を預かる医師として、以下のような適切なアドバイスが必要です。足を伸ばせる姿勢を確保する弾性ストッキングや保温具を活用し、下肢を冷やさない1~2時間ごとの足関節運動や体位変換を行う簡易トイレを活用してトイレの不安を減らし、水分を十分に摂取するハイリスク群に対しては、薬物療法としてDOAC(直接作用型経口抗凝固薬)の予防的投与も一案です。しかし、腎機能障害時の出血リスクが高まり、とくに災害時は脱水環境になりやすいため、慎重な判断が求められます。現実的には薬物よりも、まずは非薬物的な予防と環境整備を優先すべきでしょう。災害時の車中泊を一律に「危険」と断じるのではなく、適切な介入と支援を行うことで、DVTやPTEは予防することができます。われわれ医療者は、やみくもにリスクばかり強調するのではなく、避難行動の多様性を尊重しながら、あらゆる状況で被災者の健康を守れる体制を事前に整えておく必要があります。 1) 熊本県. 平成28年熊本地震における車中泊の状況について. 2023年10月15日 2) 日本経済新聞. 熊本地震1年 関連死の犠牲者、3割が車中泊を経験. 2017年4月16日 3) 日本循環器学会/日本高血圧学会/日本心臓病学会合同ガイドライン. 2014年版 災害時循環器疾患の予防・管理に関するガイドライン 4) Sato K, et al. Risk Factors and Prevalence of Deep Vein Thrombosis After the 2016 Kumamoto Earthquakes. Circ J. 2019;83:1342-1348. 5) Sueta D, et al. Venous Thromboembolism Caused by Spending a Night in a Vehicle After an Earthquake (Night in a Vehicle After the 2016 Kumamoto Earthquake). Can J Cardiol. 2018;34:813.e9-813.e10. 6) 坂本 憲治ほか. 熊本地震後に発生した静脈血栓塞栓症と対策プロジェクト. 日本血栓止血学会誌. 2022;33:648-654.

94.

血圧コントロールに地域差、降圧目標達成が高い/低い都道府県は?/東北医科薬科大ほか

 日本における降圧治療開始後の血圧コントロール状況には、地域間で格差が存在し、降圧目標達成割合は医師の偏在や脳血管疾患死亡と関連していることが、岩部 悠太郎氏(東北医科薬科大学)らによる大規模なリアルワールドデータ解析で示された。『高血圧管理・治療ガイドライン2025』1)では、年齢にかかわらず降圧目標を「130/80mmHg未満(診察室血圧)」としているが、本研究では治療開始後にこの目標を達成できた患者は26.7%にとどまった。本研究結果は、Hypertension Research誌オンライン版2025年11月18日号で報告された。 研究グループは、協会けんぽの健診データ(2015~22年度)を使用して、降圧治療を開始したと判断された40~74歳の男女131万8,437例を抽出し、後ろ向きコホート研究を実施した。降圧治療開始前後の健診データから、治療後の降圧目標(130/80mmHg未満[診察室血圧])達成割合を評価した。また、都道府県別の降圧目標達成割合の格差を算出するとともに、脳血管疾患死亡や医療資源指標(医師偏在指標など)との関連を検討した。 主な結果は以下のとおり。・降圧治療開始前の平均血圧は148.3/92.4mmHgで、治療開始後は134.1/83.1mmHgへ低下した。・治療開始後に降圧目標(130/80mmHg未満)を達成した患者の割合は、全体で26.7%であった。・都道府県別の降圧目標達成割合は、未調整解析では最大10.2%の差があった。調整後でも7.4%の差が認められた。・調整後の降圧目標達成割合が上位/下位の府県は以下のとおり。【上位】 1位:香川県(26.2%) 2位:沖縄県(25.9%) 3位:高知県(24.4%) 4位:滋賀県(24.4%) 5位:大阪府(24.4%) 6位:熊本県(24.4%)【下位】 43位:群馬県(20.4%) 44位:山口県(20.2%) 45位:山形県(19.8%) 46位:鳥取県(19.5%) 47位:和歌山県(18.8%)・調整後の都道府県別の140/90mmHg未満の達成割合は、49.4%(和歌山県)~58.9%(宮崎県)の範囲であった。・生態学的分析の結果、降圧目標達成割合が1%上昇するごとに、10万例当たりの脳血管疾患死亡は3.5例減少した。・医師偏在指標は、降圧目標達成割合と有意な正の相関を示した(r=0.47、p<0.001)。これは、地域の医師供給量が多いほど血圧管理が良好であることを示唆するものである。 本研究結果について、著者らは「本研究で観察された血圧コントロールの地域差は、医療従事者数と関連する可能性が示された。また、医療従事者の偏在改善によって、血圧コントロールの地域差が縮小し、脳血管疾患死亡の地域差の縮小にもつながる可能性が示唆された」と述べている。

95.

ピロリ菌が重いつわりを長引かせる可能性、妊婦を対象とした研究から示唆

 妊娠中の「つわり」は多くの人が経験する症状であるが、中には吐き気や嘔吐が重く、入院が必要になるケースもある。こうした重いつわり(悪阻)で入院した妊婦164人を解析したところ、ヘリコバクター・ピロリ菌(以下ピロリ菌)に対する抗体(IgG)が陽性である人は入院が長引く傾向があることが分かった。妊娠前や妊娠初期にピロリ菌のチェックを行うことで、対応を早められる可能性があるという。研究は、日本医科大学武蔵小杉病院女性診療科・産科の倉品隆平氏、日本医科大学付属病院女性診療科・産科の豊島将文氏らによるもので、詳細は10月6日付けで「Journal of Obstetrics and Gynaecology Research」に掲載された。 妊娠悪阻は妊娠の0.3〜2%にみられる重度のつわりで、持続する嘔吐や体重減少により入院を要することも多い。進行すると電解質異常や肝・腎機能障害、ビタミンB1欠乏によるウェルニッケ脳症(意識障害やふらつきを伴う急性脳症)などを生じることがある。原因としてヒト絨毛性ゴナドトロピン(hCG)や胎盤容積の大きさなどが知られるが、近年はピロリ菌感染との関連も指摘されている。しかし、日本人妊婦における感染と重症度や入院期間との関係は十分に検討されていない。本研究では、重度妊娠悪阻で入院した症例を対象に、入院時の各種指標とピロリ菌に対するIgG抗体の有無が入院期間に及ぼす影響を後ろ向きに検討した。 本研究では、2011年1月~2023年6月までに日本医科大学付属病院または日本医科大学武蔵小杉病院で入院治療を要した重度妊娠悪阻患者164人が含まれた。患者はまず、抗H. pylori IgG抗体の有無(陽性群 vs 陰性群)に基づき2群に分けられた。その後、すべての患者を長期入院群(21日以上)と短期入院群(21日未満)に分類して、二次解析が行われた。統計手法には、マン・ホイットニーのU検定、t検定、フィッシャーの正確確率検定、ロジスティック回帰分析が適宜用いられた。 解析対象164人中、抗H. pylori IgG抗体陽性の患者は23人(14.0%)、陰性は141人(86.0%)であった。これら2群の入院期間を比較したところ、抗H. pylori IgG抗体陽性群の入院中央値(範囲)は24日(6〜70日)であり、陰性群の中央値15日(2〜80日)と比べて有意に長かった(P=0.032)。 次に長期入院群と短期入院群を比較したところ、長期入院群では尿ケトン体強陽性(3≦)の割合(P=0.036)や抗H. pylori IgG陽性の割合(P=0.022)が有意に高かった。入院時の検査所見を比較すると、長期入院群では血清遊離サイロキシン(FT4)値が有意に高かったが、その他の検査項目に有意差は認められなかった。 多変量ロジスティック回帰分析の結果、単変量解析で有意だった因子を調整後も、入院長期化の独立したリスク因子として確認されたのは抗H. pylori IgG陽性のみであった(オッズ比〔OR〕 4.665、95%信頼区間〔CI〕 1.613~13.489、P=0.004)。尿ケトン体強陽性は入院期間延長の傾向を示したが、統計的有意差は認められなかった(OR 2.169、95%CI 0.97~4.85、P=0.059)。一方、尿ケトン体強陽性の有無で患者を層別すると、陽性群の入院中央値は19日(4〜80日)、陰性群の12日(2〜55日)であり、有意に入院期間が延長されていた(P=0.001)。 著者らは「今回の研究結果から、抗H. pylori IgG抗体の検査で、重度の悪阻で入院が長引きやすい妊婦を特定できる可能性が示唆された。抗体陽性の妊婦は、入院中により注意深く観察されることで、体調管理の助けになると考えられる。また、妊娠前からの準備(プレコンセプションケア)が、悪阻の予防策として有効かもしれない」と述べている。 また、著者らは、妊娠前のピロリ菌スクリーニングや除菌の有効性については現時点では仮説にすぎず、本研究はその可能性を示すにとどまると説明している。今後は、ガイドラインや保険制度の見直しを含め、前向き研究で有効性や費用対効果を検証することが重要だとしている。

96.

新たな作用機序の緑内障・高眼圧症点眼薬「セタネオ点眼液0.002%」【最新!DI情報】第52回

新たな作用機序の緑内障・高眼圧症点眼薬「セタネオ点眼液0.002%」今回は、緑内障・高眼圧症治療薬「セペタプロスト(商品名:セタネオ点眼液0.002%、製造販売元:参天製薬)」を紹介します。本剤は、FPおよびEP3受容体に結合・刺激することで眼圧を下降させる新たな作用機序の点眼薬であり、新たな緑内障・高眼圧症の治療選択肢として期待されています。<効能・効果>緑内障、高眼圧症の適応で、2025年8月25日に製造販売承認を取得し、2025年10月23日に発売されました。<用法・用量>1回1滴、1日1回点眼します。<安全性>重大な副作用として、虹彩色素沈着(0.3%)があります。その他の副作用として、結膜充血(29.6%)、睫毛の異常(睫毛が長く、太く、多くなるなど)(18.2%)、眼瞼部多毛(5%以上)、眼瞼色素沈着、眼瞼炎、点状角膜炎などの角膜障害、眼乾燥感、眼刺激(いずれも1~5%未満)、眼のそう痒感、結膜浮腫、眼脂(いずれも1%未満)、黄斑浮腫、眼瞼溝深化(いずれも頻度不明)があります。<患者さんへの指導例>1.この薬は、緑内障や高眼圧症の治療に使用する点眼薬です。眼圧を調節する水分の排出を促進して眼圧を下げます。2.ソフトコンタクトレンズを装着している場合は、必ずレンズを外してから点眼してください。点眼後は5~10分以上間隔を空けてからレンズを再装着してください。3.点眼液が目の周りについたままになると、目の周りが黒ずむ、毛が濃くなる、まつげが長く太くなるなどの副作用が起こることがあります。濡らしたガーゼやティッシュで目の周囲をよくふき取るか、目を閉じて洗顔してください。<ここがポイント!>緑内障は、「視神経と視野に特徴的変化を有し、通常、眼圧を十分に下降させることにより視神経障害を改善もしくは抑制しうる眼の機能的構造的異常を特徴とする疾患」と定義されています(緑内障診療ガイドライン)。緑内障は放置すると徐々に視野が狭まり、最終的には失明に至る可能性があり、わが国において中途失明の原因の第1位です。緑内障の視野障害の進行を抑制する唯一確実な治療法は眼圧の下降であり、眼圧下降薬による薬物治療が治療の中心となっています。第一選択薬としては、房水流出を促進するFP受容体作動薬やEP2受容体作動薬、房水産生を抑制するβ遮断薬が用いられます。治療は通常、単薬療法から開始されますが、効果が不十分な場合には多剤併用(配合点眼薬を含む)が行われます。ただし、多剤併用により点眼回数が増加すると、副作用の増加、アドヒアランスやQOLの低下などが懸念されるため、新たな作用機序を有する強力な眼圧下降薬の開発が進められてきました。本剤は、有効成分としてセペタプロストを含有する水性点眼薬です。セペタプロストは、プロドラッグであり、点眼後は主に角膜中で速やかに加水分解され、FPおよびEP3受容体に結合・刺激することで眼圧を下降させます。その眼圧降下作用は、ぶどう膜強膜流出路および線維柱帯流出路を介した房水流出促進によるものです。両眼が原発開放隅角緑内障または高眼圧症の患者を対象とした多施設共同無作為化評価者遮蔽並行群間比較試験(第III相検証試験)において、主要評価項目である点眼後4週におけるベースラインからの平均日中眼圧変化量(最小二乗平均値[LS Mean])は、本剤群で-5.77mmHg、ラタノプロスト点眼液群で-6.10mmHgでした。MMRM解析における投与群間差(本剤群-ラタノプロスト点眼液群)は0.32mmHg(95%信頼区間:-0.120~0.769mmHg)であり、信頼区間の上限値は非劣性マージンとして事前に規定した1.5mmHgを超えず、本剤群のラタノプロスト点眼液群に対する非劣性が検証されました。なお、信頼区間の上限値は0mmHg以上であったことから、本剤群のラタノプロスト点眼液群に対する優越性は検証されませんでした。

97.

がん患者におけるせん妄ガイドライン 2025年版 第3版

がん診療の現場で役立つ、せん妄に関する指針を3年ぶりに改訂!せん妄はがん医療の現場において高頻度で認められる病態であり、超高齢社会を迎えた日本では今後さらに、せん妄の予防と対策が重要となる。今版では、予防ではラメルテオンとオレキシン受容体拮抗薬に関する臨床疑問を、症状緩和では抗精神病薬とベンゾジアゼピン系薬・抗ヒスタミン薬の併用に関する臨床疑問を追加した。また総論の章には、臨床現場で重要となるアルコール離脱せん妄や術後せん妄をはじめとした7項目の解説が新たに追加されている。画像をクリックすると、内容の一部をご覧いただけます。※ご使用のブラウザによりPDFが読み込めない場合がございます。PDFはAdobe Readerでの閲覧をお願いいたします。目次を見るPDFで拡大する目次を見るPDFで拡大するがん患者におけるせん妄ガイドライン 2025年版 第3版定価3,300円(税込)判型B5判頁数264頁発行2025年9月編集日本サイコオンコロジー学会/日本がんサポーティブケア学会ご購入(電子版)はこちらご購入(電子版)はこちら紙の書籍の購入はこちら医書.jpでの電子版の購入方法はこちら紙の書籍の購入はこちら

98.

薬局の4割が在庫調整目的の不適切返品を実施?【早耳うさこの薬局がざわつくニュース】第161回

本来、返品を含むような在庫調整はなるべく避けるべきですが、少しぎょっとするような調査結果が公表されました。厚生労働省は11月21日の中央社会保険医療協議会総会で、24年度診療報酬改定の特別調査の結果を報告。「流通改善ガイドライン」(GL)で自制を求めている、在庫調整を目的とした返品をしたことがあると答えた薬局が38.6%に上ったことを明らかにした。24年3月の改定版GLでは月末に返品して翌月に買い戻すような不適切な行為を「在庫調整」行為と規定。必ずしも薬局が正直に答えているとは限らないなかでも、約4割が不適切な返品を“自白”した格好だ。(2025年11月25日付 RISFAX)ご存じのように、医療用医薬品の価格は公的に定められた薬価によって決まっています。薬価は、医療費の公平性を保つために定期的に見直され、現在はおおむね2年に一度、4月に改定されます。特別な算定が行われなければ、基本的には薬価は下がっていきます。3月31日に薬局にある医薬品が、日をまたいで4月1日になるだけで資産価値が数%下がるということもあります。そのため、私が薬局長や薬局のエリア長をしていたときは、薬価改定のある3月末の在庫には気を付けていたことは事実です。今回の調査は、診療報酬・調剤報酬改定に向けた恒例の調査の一環で実施されました。8~9月に薬局1,500件を対象に調査票を送付し、690件の有効回答を得ています。返品経験といった流通改善に関する質問は、今回から新たに薬局向け調査にのみ追加されたものでした。おそらく、悪質な返品を行っている薬局がある程度あるということを事前に察知していたのでしょう。この調査の結果、在庫調整を目的とした返品をしたことがあると答えた薬局が38.6%に上ったとのことです。具体的には、3月中旬までは通常どおり発注・納品をして、余った医薬品を3月末にできる限り返品、月をまたいだ4月に改めて発注します。そうすることで、3月末の在庫金額を抑え、4月発注分は薬価が下がっているので安く仕入れることができます。また、さまざまな問題があるとされている医療用医薬品の流通過程を改善するための「流通改善ガイドライン」をそもそも「知らない」と答えた薬局が半数を超えたという結果も出ました。ということは、「え?この返品の何がいけないの?」と思っている薬局薬剤師が大多数となる可能性があります。これらの返品は、薬価改定の仕組みを用いた悪しき慣習とされており、流通ガイドラインのなかでも、「卸売販売業者、薬局・医療機関ともに慎むこと」とされています。メーカーや卸売業者は、コンプライアンスの一環としてこの流通改善ガイドラインを守っています。後発医薬品など必要な量の医薬品が届かないという現状に文句を言いたい気持ちはわからなくはないですが、不適切な返品が横行することで、流通量の把握や確保がより困難になり、最終的に薬局や医療機関に必要な量の医薬品が届かない…となる可能性があります。「薬局だけがこのガイドラインを遵守していない」とならぬよう、業界の一員としてガイドラインを一読し、日ごろの発注業務や商習慣を見直してみてはいかがでしょうか。

99.

解熱鎮痛薬による頭痛誘発、その原因成分とは

 日本のテレビコマーシャルでお馴染みの解熱鎮痛薬「イブ」に含有されている成分が、韓国では2025年4月に違法薬物に指定されて持ち込み禁止となった。その成分は、日本人医師や薬剤師にはさほど認知度が高くないものの、近年の頭痛外来患者の増加の原因の1つになっている可能性があるという。今回、頭痛専門外来患者の市販薬(OTC医薬品)の服用状況などを研究する佐野 博美氏(京都大学大学院医学研究科 社会医学系専攻健康情報学)と共同研究者の平 憲二氏(プラメドプラス)が、日本社会薬学会第43年会にて「薬剤の使用過多による頭痛(medication-overuse headache:MOH、薬物乱用頭痛)」に関する報告をしたことから、解熱鎮痛薬に含まれる依存性成分や頭痛患者が増える実態について話を聞いた。解熱鎮痛薬に配合されている依存性成分の正体 海外での規制に至った原因成分とは、鎮静催眠成分のアリルイソプロピルアセチル尿素(ア尿素)である。OTC解熱鎮痛薬は、解熱鎮痛成分(アスピリン、アセトアミノフェン、イブプロフェンなど)、制酸成分(乾燥水酸化アルミニウムゲル、酸化マグネシウムなど)、生薬成分、無水カフェイン、その他成分、そして鎮静催眠成分(ア尿素、ブロモバレリル尿素[ブ尿素])などで構成される。今回問題とされたア尿素に焦点を当てた場合、イブシリーズでは5製品中4製品に配合されている。もちろんOTC 解熱鎮痛薬の成分として厚生労働省から認可を受けており、その前提で使用されているので国内の規制上は問題ない。 一方で、『頭痛の診療ガイドライン2021』のCQI-13(OTC医薬品による頭痛治療をどのように指導するか)では、OTC医薬品の不適切使用によるMOHを問題視しているものの、その具体的な要因は明らかにされていない1)。患者支持ダントツ、依存性成分が満足度の底上げか そこで佐野氏らは、「頭痛専門外来患者における市販薬の鎮痛薬服用状況:問診票を用いた記述疫学研究」において、片頭痛や緊張型頭痛のような一次性頭痛患者のOTC医薬品の利用率増加と医療機関受診率低下の原因を“OTC医薬品に含まれる依存性成分”と仮定し、3つの依存性成分(カフェイン、ア尿素、ブ尿素)が含まれている解熱鎮痛薬の使用状況を頭痛専門外来2施設で調査、初診患者の市販薬服用状況を明らかにした。 解析対象者は、普段使用している頭痛治療薬の種類を問診票に記載し、適格基準を満たした15歳以上の6,756例で、そのうち市販薬のみを服用し、商品名を明記していた1,128例をサブ解析した。その結果、約6割強がイブシリーズ(イブA錠EX、イブクイック頭痛薬DX、イブA錠、イブクイック頭痛薬、どのシリーズかは不明)を使用していたことが示された。なお、イブシリーズの場合、依存性成分を含まない『イブ』は2023年に販売中止されているため、「イブを使用=依存性成分を摂取」と判断された。使用されていたOTC医薬品の依存性成分の内訳については、カフェイン&ア尿素が最も多く(8割弱)、続いてカフェイン&ブ尿素、依存性3成分なし、カフェインのみ、依存性3成分すべてであった。医療にアクセスするも適正薬剤届かず 本集団の特徴として、佐野氏は「病院にアクセスしづらい働き世代で、とくに40代以上の女性が多かった。驚いたことに、対象者は重症度が高い患者であるにもかかわらず、その約2割が市販薬のみでコントロールしていた。カルシトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP)抗体製剤などの新薬にたどりつくべき患者がたどり着けずに市販薬を手にしている可能性がある」と片頭痛治療の実際に危機感を抱いた。これについて平氏は、「依存性成分が処方箋医薬品とは異なる配合(比率)で含まれるOTC医薬品に“効果がある”と考えている患者は一定数存在する。患者自身がいろいろ試した結果、効果を実感してOTC医薬品に依存していくのではないか」と指摘し「通院しているが、“治療は市販薬”という患者も少なくない」と現状を説明した。 本調査の限界として、「ロキソニンやバファリンは処方薬との区別ができなかったため、集計結果の信頼性が低い」と説明し、「依存性成分は処方箋医薬品にも含まれているため、実際には本研究結果より多くの患者が依存性成分を摂取している可能性がある。さらに、鎮静作用のある成分とカフェインを同時摂取することは薬理作用が強化され、依存リスクが高まる可能性があるにもかかわらず、本対象者の使用薬剤の約9割にはそれらが一緒に含有されていた」と述べた。「今後は処方箋医薬品も含めた解析を実施していきたい」としながら、「医師・薬剤師をはじめ、医療者にはこのような実態を理解したうえで、患者に接してほしい」ともコメントした。

100.

肝細胞癌診療ガイドライン 2025年版 第6版

新たな名称にて堂々改訂! 待望の第6版!今回から書名を「肝細胞癌診療ガイドライン」と改め、従来のCQに加えて「Future Research Question」を新設。一部推奨については「Good Practice Statement」として提示することとなった。また、薬物療法では新たなレジメンが加わり、放射線治療でも粒子線治療が保険適用になるなど、治療選択肢の拡充に伴い、解説もさらに充実した。肝細胞癌診療に携わる医療者の必携書、待望の改訂版!画像をクリックすると、内容の一部をご覧いただけます。※ご使用のブラウザによりPDFが読み込めない場合がございます。PDFはAdobe Readerでの閲覧をお願いいたします。目次を見るPDFで拡大する目次を見るPDFで拡大する肝細胞癌診療ガイドライン 2025年版 第6版定価4,950円(税込)判型B5判頁数400頁発行2025年10月編集日本肝臓学会ご購入はこちらご購入はこちら

検索結果 合計:3162件 表示位置:81 - 100