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脳卒中発症AF患者の8割強、適切な抗凝固療法を受けず/JAMA

 抗血栓療法は心房細動患者の脳卒中を予防するが、地域診療では十分に活用されていないことも多いという。米国・デューク大学医療センターのYing Xian氏らPROSPER試験の研究グループは、急性虚血性脳卒中を発症した心房細動患者約9万5,000例を調査し、脳卒中発症前に適切な経口抗凝固療法を受けていたのは16%に過ぎず、30%は抗血栓療法をまったく受けていない実態を明らかにした。JAMA誌2017年3月14日号掲載の報告。抗血栓療法の有無別の脳卒中重症度を後ろ向きに評価 PROSPER試験は、心房細動の既往歴のある急性虚血性脳卒中患者において、脳卒中の発症前にガイドラインが推奨する抗血栓療法を受けていない患者と、各種抗血栓療法を受けた患者の脳卒中の重症度および院内アウトカムの評価を行うレトロスペクティブな観察研究である(米国患者中心アウトカム研究所[PCORI]の助成による)。 対象は、2012年10月~2015年3月に、米国心臓協会(AHA)/米国脳卒中協会(ASA)によるGet With the Guidelines–Stroke(GWTG-Stroke)プログラムに参加した心房細動の既往歴のある急性虚血性脳卒中患者9万4,474例(平均年齢:79.9[SD 11.0]歳、女性:57.0%)であった。 主要評価項目は、米国国立衛生研究所脳卒中スケール(NIHSS、0~42点、点が高いほど重症度が重く、≧16点は中等度~重度を表す)による脳卒中の重症度および院内死亡率とした。高リスク例でさえ84%が適切な治療を受けていない 7万9,008例(83.6%)が脳卒中発症前に適切な抗凝固療法を受けておらず、脳卒中発症時に治療量(国際標準化比[INR]≧2)のワルファリンが投与されていたのは7,176例(7.6%)、非ビタミンK拮抗経口抗凝固薬(NOAC)の投与を受けていたのは8,290例(8.8%)に過ぎなかった。 また、脳卒中発症時に1万2,751例(13.5%)が治療量に満たない(INR<2)ワルファリンの投与を受け、3万7,674例(39.9%)は抗血小板薬のみが投与されており、2万8,583例(30.3%)は抗血栓療法をまったく受けていなかった。 高リスク(脳卒中発症前のCHA2DS2-VASc≧2)の患者9万1,155例(96.5%)のうち、7万6,071例(83.5%)が脳卒中発症前に適切な抗凝固療法(治療量ワルファリンまたはNOAC)を受けていなかった。 中等度~重度脳卒中の未補正の発症率は、治療量ワルファリン(INR≧2)群が15.8%(95%信頼区間[CI]:14.8~16.7%)、NOAC群は17.5%(16.6~18.4%)であり、非投与群の27.1%(26.6~27.7%)、抗血小板薬単独群の24.8%(24.3~25.3%)、非治療量ワルファリン(INR<2)群の25.8%(25.0~26.6%)に比べて低かった(p<0.001)。 院内死亡の未補正発症率も、治療量ワルファリン群が6.4%(95%CI:5.8~7.0%)、NOAC群は6.3%(5.7~6.8%)と、非投与群の9.3%(8.9~9.6%)、抗血小板薬単独群の8.1%(7.8~8.3%)、非治療量ワルファリン群の8.8%(8.3~9.3%)に比し低かった(p<0.001)。 交絡因子で補正すると、非投与群に比べ、治療量ワルファリン群、NOAC群、抗血小板薬単独群は中等度~重度脳卒中のオッズが有意に低く(補正オッズ比:0.56[95%CI:0.51~0.60]、0.65[0.61~0.71]、0.88[0.84~0.92])、院内死亡率も有意に良好であった(同:0.75[0.67~0.85]、0.79[0.72~0.88]、0.83[0.78~0.88])。 著者は、「脳卒中発症前に何らかの経口抗凝固薬の投与を受けていたのは30%で、ワルファリン投与患者の64%は治療量に満たない用量(INR<2)であり、脳卒中発症前の血栓塞栓症リスクが高い患者でさえ、84%がガイドラインで推奨された抗凝固療法を受けていなかった」とまとめている。

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PCI後のDAPT期間決定に有用な新規出血リスクスコア/Lancet

 スイス・ベルン大学のFrancesco Costa氏らは、簡易な5項目(年齢、クレアチニンクリアランス、ヘモグロビン、白血球数、特発性出血の既往)を用いる新しい出血リスクスコア「PRECISE-DAPTスコア」を開発し、検証の結果、このスコアが抗血小板薬2剤併用療法(DAPT)中の院外での出血を予測する標準化ツールとなりうることを報告した。著者は、「包括的に臨床評価を行う状況において、このツールはDAPT期間を臨床的に決める支援をすることができるだろう」とまとめている。アスピリン+P2Y12阻害薬によるDAPTは、PCI後の虚血イベントを予防する一方で、出血リスクを高める。ガイドラインでは、治療期間を選択する前に出血リスクの高さを評価することを推奨しているが、そのための標準化ツールはこれまでなかった。Lancet誌2017年3月11日号掲載の報告。約1万5,000例のデータで新たな出血リスクスコアを開発し、検証 研究グループは、それぞれ独立したイベント評価が行われている多施設無作為化試験8件から、PCI後にDAPT(主にアスピリン+クロピドグレル、経口抗凝固薬の適応なし)を受けた患者合計1万4,963例の個人レベルのデータを用い、プール解析を行った。解析にはCox比例ハザードモデルを使用し、院外出血(TIMI出血基準の大出血/小出血)の予測因子を試験で層別化して特定し、数値的出血リスクスコアを開発した。 新しいスコアの予測性能は、予測因子を導き出した抽出コホートで評価し、PLATelet inhibition and patient Outcomes(PLATO)試験(8,595例)およびBernPCI registry(6,172例)におけるPCI施行患者群(検証コホート)で評価した。また、異なるDAPT期間に無作為化された患者(10,081例)において、新しいスコアの四分位数でベースラインの出血リスクを4つに分類し(高、中、低、最低リスク)、長期治療(12~24ヵ月)または短期治療(3~6ヵ月)の出血/虚血への影響を評価した。5項目から成るPRECISE-DAPTスコア、院外出血の予測性能あり 開発したPRECISE-DAPTスコア(年齢、クレアチニンクリアランス、ヘモグロビン、白血球数、特発性出血の既往)は、院外でのTIMI大/小出血に関する予測性能を示すC統計値が、抽出コホートで0.73(95%信頼区間[CI]:0.61~0.85)、検証コホートのPLATO試験で0.70(95%CI:0.65~0.74)、BernPCI registryで0.66(95%CI:0.61~0.71)であった。 長期DAPTは、高リスク患者(スコア≧25)では出血を有意に増加させたが、低リスク患者では増加させなかった(相互作用のp=0.007)。一方、虚血イベントの予防に関して有意な有用性が認められたのは、低リスク患者群のみであった。 著者は、今回のモデルにはフレイル(高齢者の虚弱)など新しい出血予測因子が欠けている可能性を挙げ、スコアの予測性能を改善するためさらなる研究が必要だと述べている。

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RAS阻害薬によるクレアチニン値増加、30%未満でもリスク/BMJ

 RAS阻害薬(ACE阻害薬またはARB)服用開始後のクレアチニン値の上昇は、ガイドラインで閾値とされる増大幅が30%未満であっても、末期腎不全や心筋梗塞などの心・腎臓有害イベントや死亡リスクが漸増する関連があることが明らかにされた。クレアチニン値10%未満との比較で、10~19%の増加で死亡リスクは約1.2倍に、20~29%の増加で約1.4倍に増大することが示されたという。英国・ロンドン大学衛生熱帯医学校のMorten Schmidt氏らが、RAS阻害薬(ACE阻害薬・ARB)の服用を開始した12万例超について行ったコホート試験の結果、明らかにした。BMJ誌2017年3月9日号掲載の報告。RAS阻害薬と末期腎不全、心筋梗塞、心不全、死亡との関連を検証 研究グループは1997~2014年の、英国プライマリケア医の電子診療録を含むデータベース「Clinical Practice Research Datalink」(CPRD)と病院エピソード統計「Hospital Episode Statistics」(HES)を基に、RAS阻害薬(ACE阻害薬またはARB)の服用を開始した12万2,363例を対象に、ACE・ARB開始後のクレアチニン値上昇と、心・腎臓アウトカムとの関連を調べた。 ポアソン回帰分析法を用いて、クレアチニン値30%以上の増加や10%増加ごとと、末期腎不全、心筋梗塞、心不全、死亡との関連についてそれぞれ検証した。解析では、年齢、性別、歴期間、社会経済状況、生活習慣、CKD、糖尿病、心血管の併存疾患、その他の降圧薬、NSAIDsの使用で補正を行った。RAS阻害薬服用後のクレアチニン値増加に伴い心・腎イベントリスクも段階的に増加 RAS阻害薬服用後にクレアチニン値が30%以上増加したのは、被験者の1.7%にあたる2,078例だった。クレアチニン値の30%以上の増加は、評価項目としたすべての心・腎イベントの発症と関連が認められた。 クレアチニン値の増加30%未満での発生と比較した補正後罹患率比は、末期腎不全については3.43(95%信頼区間[CI]:2.40~4.91)、心筋梗塞は1.46(同:1.16~1.84)、心不全は1.37(1.14~1.65)、死亡は1.84(1.65~2.05)だった。 クレアチニン値の増加幅に応じた心・腎アウトカムについて調べたところ、10%未満、10~19%、20~29%、30~39%、40%以上と段階的にすべての評価アウトカムについてリスクが増加する傾向が認められた(いずれも傾向のp<0.001)。 死亡に関する補正後罹患率比は、クレアチニン値10%未満の増加との比較で、10~19%の増加で1.15(1.09~1.22)、20~29%の増加で1.35(1.23~1.49)だった。 これらの結果は、歴期間、サブグループ、服用継続の有無などで検討した場合も一貫して認められた。

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妊娠中の潜在性甲状腺疾患治療は児のIQを改善するか/NEJM

 妊娠8~20週の妊婦の潜在性甲状腺機能低下症または低サイロキシン血症に、甲状腺ホルモン補充療法を行っても、児の5歳までの認知アウトカムは改善しないことが、米国・テキサス大学サウスウェスタン医療センターのBrian M Casey氏らの検討で示された。妊娠中の潜在性甲状腺疾患は、児のIQが正常値より低いなどの有害なアウトカムに関連する可能性が指摘されている。レボチロキシンは、3歳児の認知機能を改善しないとのエビデンス(CATS試験)があるにもかかわらず、欧米のいくつかのガイドラインではいまだに推奨されているという。NEJM誌2017年3月2日号掲載の報告。約1,200例の妊婦を疾患別の2つの試験で評価 研究グループは、児のIQに及ぼす妊娠中の潜在性甲状腺機能低下症と低サイロキシン血症のスクリーニング、およびサイロキシン補充療法の有効性を評価するために、2つの多施設共同プラセボ対照無作為化試験を実施した(Eunice Kennedy Shriver National Institute of Child Health and Human Developmentなどの助成による)。 妊娠8~20週の単胎妊娠女性において、潜在性甲状腺機能低下症および低サイロキシン血症のスクリーニングを行った。潜在性甲状腺機能低下症は、甲状腺刺激ホルモンが≧4.00mU/L、遊離サイロキシン(T4)が正常値(0.86~1.90ng/dL[11~24pmol/L])と定義し、低サイロキシン血症は、甲状腺刺激ホルモンが正常値(0.08~3.99mU/L)、遊離T4が低値(<0.86ng/dL)と定義した。 試験は2つの疾患別に行い、被験者はレボチロキシンを投与する群またはプラセボ群にランダムに割り付けられた。甲状腺機能は毎月評価し、甲状腺刺激ホルモン(サイロトロピン)または遊離T4の正常値を達成するためにレボチロキシンの用量を調整し、プラセボは偽調整を行った。児には、発達および行動の評価が年1回、5年間行われた。 主要評価項目は、5歳時のIQスコア(検査データがない場合は3歳時)または3歳未満での死亡とした。IQの評価には、幼児版ウェクスラー知能検査(Wechsler Preschool and Primary Scale of Intelligence III[WPPSI-III])を用いた。 2006年10月~2009年10月に、潜在性甲状腺機能低下症677例(レボチロキシン群:339例、プラセボ群:338例)と、低サイロキシン血症526例(265例、261例)が登録された。割り付け時の平均妊娠週数は、それぞれ16.7週、17.8週であった。児のIQ、母子のアウトカムに差はない ベースラインの平均年齢は、潜在性甲状腺機能低下症のレボチロキシン群が27.7±5.7歳、プラセボ群は27.3±5.7歳、低サイロキシン血症はそれぞれ27.8±5.7歳、28.0±5.8歳であった。また、平均妊娠期間は、潜在性甲状腺機能低下症のレボチロキシン群が39.1±2.5週、プラセボ群は38.9±3.1週(p=0.57)、低サイロキシン血症はそれぞれ39.0±2.4週、38.8±3.1週(p=0.46)であった。 児の4%(47例、潜在性甲状腺機能低下症:28例、低サイロキシン血症:19例)で、IQのデータが得られなかった。妊婦および新生児の有害なアウトカムの頻度は低く、2つの試験とも2つの群に差はみられなかった。 潜在性甲状腺機能低下症の試験では、児のIQスコア中央値はレボチロキシン群が97(95%信頼区間[CI]:94~99)、プラセボ群は94(92~96)であり(差:0、95%CI:-3~2、p=0.71)、有意な差は認めなかった。また、低サイロキシン血症の試験では、レボチロキシン群が94(91~95)、プラセボ群は91(89~93)であり(-1、-4~1、p=0.30)、やはり有意差はなかった。 12、24ヵ月時のBayley乳幼児発達検査第3版(Bayley-III)の認知、運動、言語の各項目などを含む副次評価項目は、いずれも2つの試験の2つの群に差はみられなかった。 著者は、「本研究の結果は、英国とイタリアで2万1,846例の妊婦を対象に実施されたCATS試験と一致する」としている。

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脳卒中後の慢性期失語、集中的言語療法が有効/Lancet

 70歳以下の脳卒中患者の慢性期失語症の治療において、3週間の集中的言語療法は、言語コミュニケーション能力を改善することが、ドイツ・ミュンスター大学のCaterina Breitenstein氏らが行ったFCET2EC試験で示された。失語症の治療ガイドラインでは、脳卒中発症後6ヵ月以降も症状が持続する場合は集中的言語療法が推奨されているが、治療効果を検証した無作為化対照比較試験は少ないという。Lancet誌オンライン版2017年2月27日号掲載の報告。従来の言語療法と比較する無作為化試験 FCET2EC試験は、年齢18~70歳、虚血性または出血性脳卒中の発症後6ヵ月以上持続する慢性期失語症(アーヘン失語症検査[AAT]で判定)がみられる患者を対象に、集中的言語療法の日常的な言語コミュニケーション能力の改善効果を評価する多施設共同無作為化対照比較試験(ドイツ連邦教育研究省などの助成による)。 被験者は、通常治療下に、3週間以上の集中的言語療法(≧10時間/週)を行う群(介入群)または同様の治療を3週間遅れて開始する群(対照群)に無作為に割り付けられた。言語療法は、研究グループが作成したマニュアルに従って、専門のセラピストが個別の患者およびグループで行った。対照群は、待機中の3週間、従来の言語療法を受けた。 主要評価項目は、日常的な言語コミュニケーション能力(Amsterdam-Nijmegen Everyday Language Test[ANELT]A-scaleで判定)のベースラインから治療終了時までの変化とした。解析には、1日以上の治療を受けた全患者が含まれた。 2012年4月1日~2014年5月31日に、ドイツの19の入院/外来リハビリテーション施設で156例が登録され、両群に78例ずつが割り付けられた。言語能力、患者知覚QOLも改善 ベースラインの平均年齢は、介入群が53.5(SD 9.0)歳、対照群は52.9(SD 10.2)歳、女性がそれぞれ59%、69%を占めた。脳卒中の重症度(修正Rankinスケール[mRS])は、両群とも2(2~3)、脳卒中発症後の経過期間中央値は介入群が43.0ヵ月(IQR:16.0~68.3)、対照群は27.0ヵ月(13.0~48.8)であり、虚血性脳卒中がそれぞれ58%、72%だった。 言語療法は、全体で3~10週間行われ(期間中央値:介入群4.8週[IQR:3.0~5.6]、対照群4.0週[3.0~5.0])、このうち3週間の集中的言語療法は22.5~49.0時間実施された(期間中央値:介入群31.0時間[30.0~34.5]、対照群32.0時間[30.0~34.6])。対照群は、待機中の3週間、従来の言語療法を0~22.5時間受けた。それぞれ92%、94%の患者が、6ヵ月時に言語療法を継続していた(1.0時間[IQR:0.6~1.7]/週)。 言語コミュニケーション能力は、介入群ではベースラインに比べ3週間の集中的言語療法により有意に改善した(ANELT Aスコアの平均差:2.61[SD 4.94]点、95%信頼区間[CI]:1.49~3.72、p<0.0001)のに対し、対照群(従来言語療法期間)では3週後に有意な効果はみられず(-0.03[SD 4.04]点、-0.94~0.88、p=0.95)、両群間に有意な差が認められた(p=0.0004、効果量[Cohen’s d]:0.58)。また、対照群も、3週間の集中的言語療法後に、介入群と同様の言語コミュニケーション能力の改善効果が得られた。 全体で、ベースラインから3週間の集中的言語療法終了時までにANELT Aスコアが3点以上改善した患者は44%(69/156例)であり、同様の期間に3点以上低下(増悪)した患者は10%(16/156例)だけだった。 また、3週間の集中的言語療法により、言語能力(Sprachsystematisches APhasieScreening[SAPS]:音韻、語彙、統語法、言語理解、言語産出)の総合スコア(p<0.0001、Cohen’s d:0.73)および患者知覚QOL(Stroke and Aphasia Quality of Life Scale-39[SAQOL-39]:身体機能、コミュニケーション、心理社会、活力)の総合スコア(p=0.0365、Cohen’s d:0.27)が有意に改善された。 有害事象は、集中治療中の介入群が6%(5例:風邪1例、消化管または心臓の症状3例、治療開始前の脳卒中の再発1例)、待機中および集中治療中の対照群は3%(2例:自動車事故1例、風邪1例)に認められ、割り付け前に脳卒中の再発が1例にみられたが、いずれも試験への参加とは関連がなかった。 著者は、「有益な治療効果を得るための最小限の治療強度を調査し、反復介入期間以降も治療効果が持続するかを検証するために、さらなる研究を要する」としている。

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ノバルティスが新たな抗マラリア薬を発売

 ノバルティス ファーマ株式会社(代表取締役社長:ダーク・コッシャ)は2017年3月7日、マラリア治療薬としてアルテメテル/ルメファントリン(商品名:リアメット配合錠)を発売した。 アルテメテル/ルメファントリンは、ヨモギ属植物(artemisia annua)の抽出化合であるアルテミシニン誘導体と作用機序の異なる薬剤を組み合わせた併用療法(artemisinin-based combination therapy、以下、ACT)の配合剤。WHOのマラリア治療ガイドラインでは、マラリアの治療薬としてACTが推奨されており、とくに重症化しやすい「合併症のない急性熱帯熱マラリア」の治療には第1選択薬に位置付けられている。 アルテメテル/ルメファントリンは代表的なACT薬剤として、米国や英国を含む60以上の国または地域で承認されている。これまで日本においては、熱帯病治療薬研究班が輸入し、本研究班に所属する医療機関で使用されてきた。このような状況において、熱帯病治療薬研究班より「医療上の必要性の高い未承認薬・適応外薬」として開発要望があっため、厚生労働省から開発要請を受け、2016年12月19日付でマラリアの治療薬として製造販売承認を取得した。マラリアについて 感染の予防や制御などの対策が進み、感染者数および死亡者数は減少しているものの、マラリアは現在でも世界最大の感染症の1つである。アフリカ、アジア、オセアニア、および中南米など、熱帯、亜熱帯地域を中心に約100の国または地域で流行し、年間2億人以上が新たに感染し、43万8,000人が死亡している。現在、日本で報告されるマラリア患者は、すべて外国に渡航した際の感染者。最近の国内の年間患者数は50~70人で推移している。ノバルティス ファーマ株式会社のプレスリリースはこちら

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IPF初ガイドライン 抗線維化薬治療の指針示す

 2017年3月1日、塩野義製薬株式会社主催の第3回「いのちを考える」メディアセミナーが都内で開催された。「変わる難病治療―国内初の特発性肺線維症(IPF)治療ガイドライン―」と題し、本セミナーでは杉山 幸比古氏(練馬光が丘病院 常勤顧問/自治医科大学 名誉教授)と本間 栄氏(東邦大学医学部内科学講座 呼吸器内科学分野 教授)が、「特発性肺線維症」(以下IPF)の治療とガイドラインについて解説を行った。 IPFは、肺胞壁にできた傷を修復する過程で慢性かつ進行性の線維化が起こり、肺のガス交換が障害される疾患である。治療薬としては、2008年に抗線維化薬開発の火付け役ともいえるピルフェニドン(商品名:ピレスパ)、2015年にニンテダニブ(商品名:オフェブ)が発売され、抗炎症薬に代わる有用な治療薬として、これら二剤の抗線維化薬が利用可能となっている。では、抗線維化薬を用いた治療方針はどのように決定すればよいのだろうか。その指針となるべく、本年2月に国内初となるIPFの治療ガイドラインが刊行された。 系統的レビューの結果、本ガイドラインにおいては、ピルフェニドン、ニンテダニブ共に慢性安定期の単剤治療として、「投与することを提案する(中程度のエビデンスに基づく弱い推奨)」と位置付けられる結果となった。二剤の使い分けに関する質問が出ると、杉山氏は「効果はほぼ同じで、副作用のプロファイルが違う。ピルフェニドンでは光線過敏症や胃障害、ニンテダニブでは下痢といった症状が特徴的であり、患者さんのライフスタイルや副作用の出方に合わせて薬剤を選択する」との回答を行った。 2015年には新たな「難病医療費助成制度」が開始され、IPF患者のうち重症度I、IIの軽症患者でも、基準を満たす場合には軽症者特例として医療費助成を受けることができるようになった。本間氏いわく、助成対象となる重症度IIIになるまで症状の進行を待っていたIPF患者は多い。これらの患者に対して比較的軽症の段階から抗線維化薬による治療を開始することで治療効果が高まり、結果としてIPF全体の予後改善も見込まれるという。「ガイドラインや医療費助成制度を活用することで、より多くの患者さんが抗線維化薬の恩恵を受けることができる」と本間氏は今後の展望を述べた。

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Dr.香坂のアカデミック・パスポート 「文献の引き方」から「論文の書き方」まで

第1回 「失神の鑑別疾患を知りたい」マニュアルや教科書の使い方を考える第2回 「利尿薬の量を決めたい」原著論文の使い方を考える第3回 論文を効率的に読む 第4回 前向き研究を読む 第5回 後向き研究を読む第6回 研究スタイルの使い分けの意味を知る第7回 学会発表、論文執筆にチャレンジ 学術的知見を臨床に、臨床の知見を研究に生かす。そんなアカデミックな医師を目指す方のために、臨床の第一線で活躍しながら、臨床研究のスペシャリストでもあるDr.香坂が道筋を指南します。広い話題・狭い話題の調べ方、効率的な論文・研究の読み方、そして、学会発表や論文執筆のやり方をシンプルかつ明快にレクチャーします。臨床が忙しい、現場主義という方に、見てほしい番組です。さあ、アカデミック・ドクターへの第一歩を踏み出してください。第1回 「失神の鑑別疾患を知りたい」マニュアルや教科書の使い方を考えるDr.香坂の研究室にアカデミック・ドクターを目指す1人の医師が「失神の鑑別疾患を知りたい!」と相談に訪れます。教科書、マニュアル、ガイドライン・・・・いろいろなものがあって何をどう調べればいいのかわからなくなったようです。そんな広い話題を調べるにはどうすればいいのか、Dr.香坂がお教えします。第2回 「利尿薬の量を決めたい」原著論文の使い方を考えるDr.香坂の研究室にアカデミック・ドクターを目指す1人の医師が「利尿薬の量を決めるのに、何を見ればいいですか!」と相談に訪れます。前回の広い話題のときにでた「マニュアル」や「ガイドライン」などもみたようですが・・・なかなか決められません。簡単過ぎる「マニュアル」、そして長過ぎる「ガイドライン」。こんな狭い話題を調べるのにちょうどいいこととは?現代ならではwebサービスでの調べ方や原著論文の使い方をDr.香坂が指南。英語が苦手な人でも大丈夫。第3回 論文を効率的に読むいよいよ医学論文の読み方です。有名な医学雑誌の傾向と特徴を紹介。医学絵論文の構成を考察。すると・・・論文は臨床家向けに書かれていない!?臨床に生かすための論文のどこを読むべきか、その読み方をDr.香坂が指南します。第4回 前向き研究を読むここまでで、論文を探し、そして読めるようになってきましたか?そこで、次は“統計”です。統計は複雑で難しく、誰もが1度はぶち当たる壁かもしれません。でも大丈夫!Dr.香坂がプライドをかけてお教えします!まずは、シンプルな比較研究すなわち前向きランダム化研究から始めてみましょう!第5回 後向き研究を読む手っ取り早く研究をするなら「後向き研究」?後向き研究では、条件をそろえてスタートする前向き研究とは異なり、エンドポイントを満たした時点からさかのぼって、データを分析するため、統計的にフェアな状況に当てはめることが重要となります。それが「交絡因子の補正」。えっ?「交絡因子って?」と思ったあなた、Dr.香坂がしっかりとお教えします。そのほか、「ロジスティック回帰分析」「Cox Hazard重回帰分析」など、統計やってる感満載でありながら、単純明快に解説します。第6回 研究スタイルの使い分けの意味を知るこれまで、前向き研究と後向き研究について解説してきました。やはり、前向き研究のほうがエビデンスレベルも高いから、スゴイ?後向き研究はすぐできるし、大したことない?そう思っていませんか?いやいやそんなことはありません!それぞれの研究に、得意・不得意があり、それぞれの研究にメリット・デメリットがあります。そしてそれらはお互いに相補的な役割を果たしています。そのあたりをスッキリとまとめてお教えします。第7回 学会発表、論文執筆にチャレンジアカデミック・ドクターを目指すDr.澤野が、いよいよ学会発表にチャレンジ!でも発表は1週間後。PCを片手に焦ってスライドを作ろうとするのですが、それにDr.香坂が待ったをかけます。そう、まずはPCから離れてアウトラインから始めること!スライド作成から発表の作法まで、学会発表の“キモ”をコンパクトにわかりやすく解説します。そして、学会発表のあとは論文へ。その方法も併せて指南します。

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悪性黒色腫〔malignant melanoma〕

1 疾患概要■ 概念・定義悪性黒色腫(メラノーマ:malignant melanoma)は、メラノサイト(メラニン色素産生細胞)ががん化して生じる悪性腫瘍である。表皮基底層部のメラノサイトが、がん化して皮膚に生じることが多いが、粘膜(口腔、鼻腔、肛門部など)や眼内(脈絡膜など)に生じることもある。■ 疫学人種によって発生頻度が大きく異なる。日本人では1~2/10万人年と見積もられている。白人では15~30/10万人年、黒人では0.5/10万人年程度の発生率である。■ 分類表皮に沿った悪性黒色腫細胞の組織学的増殖様式の特徴によって、以下の4型に分けるClark分類が用いられている(図1)1)。(1)表在拡大型: 白人の悪性黒色腫の70~80%を占める病型で、男性の背部や女性の下肢などに好発する(図1a)。日本人では全悪性黒色腫の20%程度を占め、近年増加している。(2)末端黒子型: 掌蹠や爪部を侵す病型であって(図1b)、日本人の悪性黒色腫の最多病型で50%程度を占める。(3)悪性黒子型: 高齢者の顔面に好発する病型で(図1c)、日本人、白人のいずれでも10%程度を占める。(4)結節型: 病変周囲に色素斑を伴わない病型で(図1d)、全身各所に生じうる。日本人の悪性黒色腫の15~20%を占める。なお最近、Bastianらによる新たな分類法が提案され、遺伝子変異を反映する分類として注目されている2)。■ 病因日光からの紫外線が主要発がん因子であり、表在拡大型は強い紫外線への間欠的曝露が、悪性黒子型は長年月にわたる慢性的な紫外線曝露が発生に関与するとされている。ただし、末端黒子型の発生には紫外線は関与せず、機械的刺激の関与が推定されている。■ 症状腫瘍細胞によるメラニン色素産生のために黒褐色調の病変としてみられることが多い1)。臨床的には濃淡不整な不規則形状の黒褐色斑として生じてくる。その後、一部に隆起性結節が生じ、さらに進行すれば潰瘍化を来す。■ 予後Tumor thickness(表皮顆粒層から最深部の悪性黒色腫細胞までの垂直距離をmm単位で表すもの)が最も重要な予後因子であり、T分類もこれによって規定される。AJCC(American Joint Committee on Cancer)の病期別の5年生存率は(同一病期でも亜病期によってかなり大きな差があるが)、病期Iが90%以上、病期IIが50~80%、病期IIIが25~60%程度、病期IVが10%程度である3)。後掲の表に各病期の概要を示した。なお、AJCCの予後予測ツールがネット上に公開されているので参考にされたい(http://www.melanomaprognosis.net/)。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)■ 臨床診断悪性黒色腫の原発巣は、臨床的には大型で不整形状の黒褐色病変としてみられ、多くは色調に無秩序な濃淡差が認められる(図2a)。黒褐色調を呈する皮膚病変は悪性黒色腫以外にも多数存在するので、慎重に鑑別しなければならない1)。主要な鑑別診断と鑑別のポイントは、以下のとおりである。(1)色素細胞母斑: 径7mm程度までの小型の病変で、形状・色調に不規則、不整は目立たない(図2b)。ただし、先天性母斑は大きなことがある。(2)脂漏性角化症: 境界きわめて明瞭な隆起性結節としてみられ、表面が角化性で規則的な顆粒状凹凸を示すことが多い(図2c)。(3)基底細胞がん: 高齢者の頭頸部に好発し、青黒色調の局面、結節としてみられ、潰瘍化することも多い。周囲に色素斑を伴わないこと、病変表面が平滑で、透明感を呈することが特徴である(図2d)。■ ダーモスコピー診断近年、皮膚科診療に導入された診断法であり、乱反射を防止したうえで病変部に白色光を照射しながら10~20倍の拡大像を観察する。肉眼的に認識できないさまざまな所見を明瞭に観察することができ、とくに色素性皮膚病変の診断に有用である。その詳細は成書に譲るが4)、一点だけ日本人に多い掌蹠の悪性黒色腫の診断への有用性を記載する。掌蹠の悪性黒色腫は、ダーモスコピーにて早期段階から皮野(指紋)の隆起部(皮丘)に一致する色素沈着(parallel ridge pattern)を呈するのに対し、良性の母斑は皮野の溝(皮溝)に一致する色素沈着(parallel furrow pattern)を呈する(図3)。この所見の差異は両者の鑑別にきわめて有用であり、掌蹠の悪性黒色腫の早期検出と診断確定に役立つ4、5)。■ 病理組織診断臨床所見やダーモスコピー所見にて診断が確定できない場合は、生検して病理組織学的に診断を確定する。生検は可能ならば全摘生検が望ましい。生検することにより、もっとも重要な予後因子であるtumor thicknessを計測することもできる。悪性黒色腫は病理組織診断も難しいことが知られている。悪性黒色腫早期病変と良性のClark母斑の鑑別、結節型などの悪性黒色腫とSpitz母斑(良性の母斑の一種で、増殖するメラノサイトが顕著な核異型を示す)との鑑別がしばしば問題になる。疑わしい症例は、この方面のエキスパートにコンサルテーションすることが望ましい。■ 画像検査と病期の確定悪性黒色腫と診断されたら、AJCCの病期を決定する。原発巣のtumor thicknessを評価するとともに、理学的に所属リンパ節やその他の部位・臓器への転移がないかを検討する。必要に応じてCTやMRIなどの画像検査も施行する。PETも悪性黒色腫の転移の検出に、きわめて有用である。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)AJCCの病期に対応して表のような治療を施行することが推奨されている。病期I、IIの段階ならば、原発巣の外科的切除を施行する。切除マージンはtumor thicknessによって規定されるが、早期病変は0.5~1cmのマージン、進行病変は2~3cmのマージンが推奨されている。症例によってはセンチネルリンパ節生検の実施を考慮する。病期IIIには原発巣の切除に加えて、所属リンパ節の郭清術を施行する。メラノーマは化学療法に抵抗性で、標準薬とされてきたダカルバジン(商品名:同)でも奏効率は15%程度に過ぎない。近年、分子標的薬が病期IVあるいは外科的根治術不能な病期IIICのメラノーマ患者に有効なことが明らかにされ、治療方針が激変した。病期IVにはMAPK経路の阻害薬や免疫チェックポイント阻害薬が選択される6)。現在、わが国で保険適用となっているのは、MAPK阻害薬では変異BRAF阻害薬のベムラフェニブ(同:ゼルボラフ)、ダブラフェニブ(同:タフィンラー)とMEK阻害薬のトラメチニブ(同:メキニスト)である。免疫チェックポイント阻害薬ではニボルマブ(抗PD-1抗体、同:オプジーボ)、ペムブロリズマブ(抗PD-1抗体、同:キイトルーダ)とイピリムマブ(抗CTLA-4抗体、同:ヤーボイ)である。いずれの薬剤も特有の強い有害反応を有するので、施設内で治療チームを設けて対応することが望ましい。薬剤の選択順位は、確定的な推奨ではないが、増殖スピードの速いメラノーマにはまずベムラフェニブ単独またはベムラフェニブとトラメチニブの併用療法を考える。増殖スピードの遅いメラノーマには当初から抗PD-1抗体(ニボルマブまたはペムブロリズマブ)あるいはイピリムマブを用いる。抗PD-1抗体はイピリムマブよりも奏効率、有害反応の点から臨床的意義が高い可能性がある。ただし、腫瘍細胞がPD-L1陰性の場合はイピリムマブを選択する。これらの治療に抵抗性となった高度進行例には、適切な緩和療法を施行する。4 今後の展望ニボルマブとイピリムマブの併用療法の治験が進んでいる。また、上記以外の分子標的薬も続々と開発され、わが国においても臨床治験が進められている。術後補助療法としてニボルマブとイピリムマブの有用性の比較やペムブロリズマブの有用性も治験が実施されている。5 主たる診療科皮膚科が主たる診療科であり、診断から治療まで一貫した対応ができる。病理組織診断には病理科が、切除後の外科的再建などには形成外科が対応することもある。分子標的薬、免疫チェックポイント阻害薬の使用にあたっては施設内に多職種診療チームを発足させることが望ましい。※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報日本皮膚悪性腫瘍学会が作成した日本皮膚科学会皮膚悪性腫瘍診療ガイドライン(ほぼ同じものがMindsと日本がん治療学会のホームページにも掲載されている)(医療従事者向けのまとまった情報)米国NCCNの診療ガイドライン(リスト中“Melanoma”の項を参照)(医療従事者向けの英文のまとまった情報)国立がん研究センターがん情報サービス:「悪性黒色腫」患者用解説冊子(一般利用者向けのまとまった情報)1)斎田俊明ほか編. 1冊でわかる皮膚がん. 文光堂;2011.p.220-237.2)Curtin JA, et al. N Engl J Med. 2005;353:2135-2147.3)Balch CM, et al. J Clin Oncol. 2009;27:6199-6206.4)斎田俊明編. ダーモスコピーのすべて 皮膚科の新しい診断法.南江堂;2012.5)Saida T, et al. J Dermatol. 2011;38:25-34.6)宇原 久. 癌と化学療法. 2016;43:404-407.公開履歴初回2014年02月27日更新2017年02月21日

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レトロゾールが無排卵性不妊の1次治療に最良か/BMJ

 WHOグループII無排卵女性の治療として、アロマターゼ阻害薬レトロゾールは、ほかの治療に比べ生児出産率が高く、妊娠率や排卵誘発率も良好で、多胎妊娠率は低いことが、オーストラリア・アデレード大学のRui Wang氏らの検討で明らかとなった。研究の成果は、BMJ誌2017年1月31日号に掲載された。英国のNICEガイダンス(2013年)によれば、7組の男女に1組の割合で不妊がみられ、その4分の1が排卵障害に起因する。無排卵性不妊の多くが性腺刺激正常無排卵(WHOグループII無排卵)で、ほとんどが多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)によって引き起こされる。現行ガイドラインの多くが選択的エストロゲン受容体調節薬クロミフェンを標準的1次治療としているが、最も有効性が高い治療法は必ずしも明確ではないという。8つの排卵誘発治療をネットワークメタ解析で比較 研究グループは、妊娠を望むWHOグループII無排卵女性の1次治療における8つの排卵誘発治療の効果を比較するために、文献を系統的にレビューし、ネットワークメタ解析を行った(オーストラリア政府研究訓練プログラムなどの助成による)。 2016年4月11日現在、医学データベース(Cochrane Central Register of Controlled Trials、Medline、Embase)に登録された関連文献を検索した。対象は、クロミフェン、レトロゾール、メトホルミン、クロミフェン+メトホルミン、タモキシフェン、ゴナドトロピン製剤、腹腔鏡下卵巣多孔術、プラセボ/無治療を比較した無作為化対照比較試験の論文とした。 主要評価項目は妊娠(臨床的妊娠が望ましい)とした。臨床的妊娠は、超音波エコーによる1つ以上の胎嚢の描出で診断された妊娠と定義した。副次評価項目は生児出産、排卵、流産、多胎妊娠であった。surface under the cumulative ranking curve(SUCRA)を用いて、各項目の有効性の順位付けを行った(流産と多胎妊娠は順位が低いほど有効)。 1966~2015年に発表された57試験(56論文)に参加した8,082人のWHOグループII無排卵女性がネットワークメタ解析の対象となった。45試験は最近10年間に報告されていた。レトロゾール:妊娠3位、生児出産1位、排卵誘発2位、多胎妊娠6位 妊娠率と排卵誘発率は、すべての薬物療法がプラセボ/無治療よりも有意に良好であった。一方、腹腔鏡下卵巣多孔術は、いずれについてもプラセボ/無治療との間に有意な差はなかった。 妊娠率は、クロミフェン単剤と比較してレトロゾールおよびクロミフェン+メトホルミンが有意に高く(それぞれ、オッズ比[OR]:1.58、95%信頼区間[CI]:1.25~2.00、1.81、1.35~2.42)、排卵誘発率も有意に優れた(それぞれ、1.99、1.38~2.87、1.55、1.02~2.36)。 レトロゾールは、妊娠率が3位(SUCRA:80%)、排卵誘発率は2位(同:86%)であった。クロミフェン+メトホルミンは妊娠率が最も高かった(同:90%)が、生児出産率は3位(同:71%)だった。 生児出産率は、レトロゾールが最も優れ(SUCRA:81%)、クロミフェン単剤(5位、同:36%)との間に有意差が認められた(OR:1.67、95%CI:1.11~2.49)。また、多胎妊娠率は、クロミフェン単剤(2位、SUCRA:70%)に比し、レトロゾール(6位、同:34%)およびメトホルミン単剤(最下位、同:14%)が有意に低かった(それぞれ、0.46、0.23~0.92、0.22、0.05~0.92)。 流産については、有意な差を認めた比較の組み合わせはなかった。 腹腔鏡下卵巣多孔術に関して、著者は「長期フォローアップのデータも含めた最近のエビデンスによれば、クロミフェン抵抗性PCOS女性の排卵誘発の有効かつ実用的な2次治療として推奨される」と記している。

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妊娠中の甲状腺ホルモン治療、流産・死産への影響は?/BMJ

 潜在性甲状腺機能低下症の妊婦では、甲状腺ホルモン薬の投与により妊娠喪失のリスクが低減するが、早産などのリスクは増加することが、米国・アーカンソー大学のSpyridoula Maraka氏らの検討で示された。研究の成果は、BMJ誌2017年1月25日号に掲載された。潜在性甲状腺機能低下症は妊婦に有害な転帰をもたらすことが、観察研究で示唆されている。甲状腺ホルモン薬のベネフィットを支持するエビデンスは十分でないにもかかわらず、米国の現行ガイドラインではレボチロキシンが推奨されているという。甲状腺ホルモン薬は5年間で約16%に投与 研究グループは、潜在性甲状腺機能低下症の妊婦における甲状腺ホルモン薬(レボチロキシン、リオチロニン、甲状腺抽出物製剤)の有効性と安全性を評価するレトロスペクティブなコホート試験を実施した(Mayo Clinic Robert D. and Patricia E. Kern Center for the Science of Health Care Deliveryの助成による)。 米国の全国的なデータベース(Optum-Labs Data Warehouse)を検索し、2010年1月1日~2014年12月31日に登録された潜在性甲状腺機能低下症(甲状腺刺激ホルモン[TSH]:2.5~10mIU/L)の妊婦のデータを抽出した。 主要評価項目は妊娠喪失(流産、死産)とし、副次評価項目には早産、早期破水、胎盤早期剥離、妊娠糖尿病、妊娠高血圧、妊娠高血圧腎症、胎児の発育不全などが含まれた。 解析の対象となった5,405例の妊婦のうち、843例(15.6%)が甲状腺ホルモン薬の投与を受け、4,562(84.4%)例は受けていなかった。832例(98.7%)がレボチロキシン、7例(0.8%)が甲状腺抽出物製剤、4例(0.5%)はレボチロキシン+リオチロニンを投与されていた。ベネフィットは治療前TSH 4.1~10.0mIU/Lに限定 甲状腺ホルモン薬の投与を受けた妊婦の割合は経時的に増加し(2010年:12%~2014年:19%)、地域差(北東部/西部>中西部/南部、p<0.01)がみられた。TSH検査から投与開始までの期間中央値は11日(IQR:4~15)、出産までの期間中央値は30.3週(IQR:25.4~32.7)だった。 ベースラインの平均年齢は、治療群が31.7(SD 4.7)歳、非治療群は31.3(SD 5.2)歳と差はなかったが、18~24歳が非治療群で多かった(5.8% vs.9.5%)。平均TSHは治療群が4.8(SD 1.7)mIU/Lと、非治療群の3.3(SD 0.9)mIU/Lに比べ高値であった(p<0.01)。また、治療群は妊娠喪失の既往(2.7% vs.1.1%、p<0.01)、甲状腺疾患の既往(6.2% vs.3.4%、p<0.01)のある妊婦が多かった。 解析の結果、妊娠喪失の発生率は治療群が10.6%と、非治療群の13.5%に比べ有意に低かった(補正オッズ比:0.62、95%信頼区間[CI]:0.48~0.82、p<0.01)。 一方、治療群では、早産(7.1% vs.5.2%、補正オッズ比:1.60、95%CI:1.14~2.24、p=0.01)、妊娠糖尿病(12.0% vs.8.8%、1.37、1.05~1.79、p=0.02)、妊娠高血圧腎症(5.5% vs.3.9%、1.61、1.10~2.37、p=0.01)の頻度が非治療群に比し高かった。その他の妊娠関連の有害な転帰の頻度は両群でほぼ同等であった。 さらに、妊娠喪失は、ベースラインのTSHが4.1~10.0mIU/Lの妊婦では、治療群が非治療群よりも有意に抑制された(補正オッズ比:0.45、95%CI:0.30~0.65)のに対し、2.5~4.0mIU/Lの妊婦では治療の有無で差はなく(0.91、0.65~1.23)、これらのサブグループの間に有意な差が認められた(p<0.01)。 逆に、妊娠高血圧は、TSH 4.1~10.0mIU/Lの妊婦では治療群と非治療群に有意な差はなかった(補正オッズ比:0.86、0.51~1.45)が、2.5~4.0mIU/Lの妊婦では治療群のほうが有意に多くみられ(1.76、1.13~2.74)、サブグループ間に有意差を認めた(p=0.04)。 著者は、「甲状腺ホルモン薬による妊娠喪失の抑制効果は、治療前のTSHが4.1~10.0mIU/Lの妊婦に限られ、早産、妊娠糖尿病、妊娠高血圧腎症はむしろ増加した」とまとめ、「甲状腺ホルモン薬の安全性を評価するために、さらなる検討を要する」と指摘している。

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脳室内出血の血腫洗浄、アルテプラーゼ vs.生理食塩水で機能改善に有意差なし(解説:中川原 譲二 氏)-642

 米国・ジョンズ・ホプキンス大学のDaniel F Hanley氏らが、世界73施設で実施した無作為化二重盲検プラセボ対照第III相試験CLEAR III(Clot Lysis:Evaluating Accelerated Resolution of Intraventricular Hemorrhage Phase III)の結果を報告し、脳室内出血に対して、脳室ドレーンを介した血栓溶解剤:アルテプラーゼによる血腫洗浄を行っても、生理食塩水での洗浄と比較して有意な機能改善は認められなかったとした。 脳室内出血は、死亡と生存者の重度障害が50%を超えると報告されているが、これまでメタ解析などで血腫の除去が閉塞性水頭症の軽減や神経毒性の減少をもたらし、生存率や機能転帰を改善することが示唆されていた。今回のCLEAR III試験の目的は、脳室ドレーンを介したアルテプラーゼと、生理食塩水による脳室内出血の洗浄除去のどちらが患者の機能アウトカムを改善するかを確認することであった。 CLEAR III試験では、出血量が30mL未満の非外傷性脳出血患者で、集中治療室にて状態が安定しており、脳室内出血により第3または第4脳室が閉塞し脳室ドレーンを留置した患者を対象に行われた。被験者を、アルテプラーゼ群(脳室ドレーンを介して8時間間隔でアルテプラーゼ1mgを最大12回注入)、またはプラセボ群(0.9%生理食塩水を同様に注入)に1対1の割合で無作為に割り付け、投与期間中24時間ごとにCTを撮影した。 500例を対象として、180日後のmRS:3点以下を機能良好として比較 主要有効性アウトカムは、良好な機能アウトカム(180日後のmRSが3点以下)とした。2009年9月18日~2015年1月13日の間に500例が無作為化され、アルテプラーゼ群で249例中246例、プラセボ群で251例中245例が解析対象となった。良好な機能アウトカムを示した患者の割合は、両群で同程度であった(アルテプラーゼ群48% vs.プラセボ群45%、リスク比[RR]:1.06、95%CI:0.88~1.28、p=0.554)。脳室内出血量と視床出血で補正後の両群差は3.5%で有意差はなかった(RR:1.08、95%CI:0.90~1.29、p=0.420)。180日後の致死率は、アルテプラーゼ群で有意に低かった(18% vs.29%、ハザード比:0.60、95%CI:0.41~0.86、p=0.006)が、mRS 5点(寝たきりなどの重度障害)の割合が有意に多かった(17% vs.9%、RR:1.99、95%CI:1.22~3.26、p=0.007)。脳室炎(7% vs.12%、RR:0.55、95%CI:0.31~0.97、p=0.048)や重篤な有害事象(46% vs.60%、RR:0.76、95%CI:0.64~0.90、p=0.002)は、アルテプラーゼ群で低かったが、症候性出血の割合は同程度であった(2% vs.2%、RR:1.21、95%CI:0.37~3.91、p=0.771)。 脳室内出血で通常の脳室ドレーンで管理される患者では、アルテプラーゼ洗浄は、mRS3点をカットオフとする機能アウトカムを大幅には改善しない。脳室ドレーンに使用されるアルテプラーゼは安全と思われるので、今後は、アルテプラーゼによる完全な脳室内血腫の除去の頻度を上げることが機能回復をもたらすかどうか、を検討する必要があるとまとめている。(Lancet誌オンライン版2017年1月9日号掲載の報告。) CLEAR III試験のパイロット試験として位置付けられたCLEAR-IVH試験では、アルテプラーゼ洗浄の有効性が示されたが、CLEAR III試験では、その効果は限定的であった。著者らは、現在のアルテプラーゼ洗浄による脳室内血腫の除去は不十分であると評価しており、将来の研究では、有効な脳室内血腫の除去がより高頻度でより迅速に行われるために脳室内カテーテルの外科的留置法の改良が必要であるとしている。わが国の脳卒中治療ガイドライン2015では、(1)脳室内出血に関して、血腫除去を目的とする血栓溶解薬の投与は考慮しても良い(グレードC1)、(2)脳室内出血の外科治療に関しては、神経内視鏡手術や定位的血腫除去を考慮しても良い(グレードC1)とされているが、その有効性に関する国内での検証が必要である。

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双極性障害に対する抗うつ薬使用の現状は

 エビデンスに基づく臨床実践ガイドラインにおける双極性障害I型II型のための薬物療法は、双極性障害治療のために利用可能である。スウェーデン・サールグレンスカ大学病院のCharlotte Persson氏らは、本ガイドラインがスウェーデンの臨床現場でどの程度利用されているかを調査した。Lakartidningen誌オンライン版2017年1月10日号の報告。 双極性障害のための国際品質のレジスタ(BipolaR)を用いて、2015年の双極性障害患者に対する薬物療法を分析した。そして、双極性障害I型(BD I)とII型(BD II)とを比較した。 主な結果は以下のとおり。・大部分の患者に対し、単剤療法または一部併用療法で気分安定薬が処方されていた(BD I:87%、BD II83%、p<0.001)。・リチウムはBD I(BD I:65%、BD II:40%、p<0.001)、ラモトリギンはBD II(BD I:18%、BD II:42%、p<0.001)に対して、もっとも一般的な気分安定薬として処方されていた。・抗うつ薬は、BD IにおいてBD IIよりも使用されていなかった(BD I:35%、BD II:53%、p<0.001)。・抗精神病薬(第1または第2世代)は、BD IにおいてBD IIよりも頻繁に使用されていた(BD I:49%、BD II:35%、p<0.001)。・中枢神経刺激薬は、あまり使用されていなかった(BD I:3.1%、BD II:6.6%、p<0.001)。・気分安定薬と抗精神病薬の併用は、BD IにおいてBD IIよりも多かった(BD I:27%、BD II:12%、p<0.001)のに対し、気分安定薬と抗うつ薬の併用は、BD IにおいてBD IIよりも少なかった(BD I:16%、BD II:28%、p<0.001)。 著者らは「ほとんどの双極性障害患者に対し気分安定薬が使用されており、BD IとBD IIの違いは臨床症状の違いと合理性があると結論付けられる。また、長年議論されている双極性障害に対する抗うつ薬の使用は、非常に高かった」としている。関連医療ニュース 双極性障害の過去のエピソードや治療反応を評価する簡便なスケール 双極性障害に抗うつ薬は使うべきでないのか 成人てんかんに対するガイドライン準拠状況は

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ここが知りたい!糖尿病診療ハンドブック Ver.3

患者さんのより良いコントロールと合併症予防を目指して新知見を注入糖尿病領域で好評をいただいている書の全面改訂版の登場です。前書Ver.2の刊行から約2年。この間にも、新たなエビデンスの集積、ADA(アメリカ糖尿病協会)の新ガイドラインやわが国学会の高齢者糖尿病の血糖コントロール目標2016の公表など、糖尿病診療を取り巻く環境は、日々進歩を続けています。Ver.3ではこれらの知見を織込み、また、ライゾデグ、トルリシティ、ジャディアンスやウィークリー製剤などの新しい薬剤に関する情報も追加いたしました。糖尿病診療に携わるすべてのかかりつけ医、一般内科医に必携の書です。画像をクリックすると、内容の一部をご覧いただけます。画像をクリックすると、内容の一部をご覧いただけます。    ここが知りたい!糖尿病診療ハンドブック Ver.3定価3,600円 + 税判型A5判頁数368頁発行2017年1月編著岩岡秀明 / 栗林伸一Amazonでご購入の場合はこちら

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Sepsis-3の予後予測に最適な指標について(解説:小林 英夫 氏)-638

 本論文は、オセアニア地域の18万例以上のデータベースを用いた後方視的コホート研究で、結論は、感染症疑いで集中治療室(ICU)に入院した症例の院内死亡予測には「連続臓器不全評価(SOFA)スコア2点以上」が、全身性炎症反応症候群(SIRS)診断基準や迅速SOFA(qSOFA)スコアよりも有用、となっている。この研究背景は、集中治療以外の医師にとっては、ややなじみにくいかもしれないので概説する。 敗血症(Sepsis)の定義が、2016年にSepsis-3として改訂された。Sepsisは病態・症候群であり決定的診断基準が確立していないため、研究の進歩とともにその基準が改定される。SIRSという過剰炎症に引き続き、代償性抗炎症反応症候群(CARS)という免疫抑制状態が生じるなど、敗血症ではより複雑多様な変化が生じていることから、その視点を臓器障害に向ける必要性が指摘された。Sepsis-3は、15年ぶりの改定で従来と大きく変化している。その新定義は「感染症に対する制御不十分な宿主反応に起因した生命を脅かす臓器障害」となった。1991年のSepsis-1の定義「感染によって生じたSIRS」とは大きく変化した。定義の変更は診断基準の変更を伴い、ICUにおいては「SOFAスコア計2点以上」がSepsis-3で導入された。SOFAスコアとは、呼吸・凝固・肝・血圧・中枢神経・腎の6項目を各々5段階評価し、合計点で評価する手法である。Sepsis-3は、菌血症やSIRSの有無が条件から消え、より重症度が高い患者集団すなわち旧基準の重症敗血症に限定されている。 さらに、Sepsis-3ではICUとICU以外の診断手順が異なる。ICU以外では検査やモニタリングをせずとも、ベッドサイドの観察だけで判定可能なqSOFAがスクリーニングツールに導入された。スコア2つ以上でSepsis疑いとなり、引き続きSOFAスコア評価を実施することとなる(qSOFAは、呼吸数22回/分以上、収縮期血圧100mmHg以下、意識障害(GCS<15)で規定される)。この診断特異度は低いものの、外来やベッドサイドでのSepsis-3疑い検出には簡便で、多方面での普及が望まれる。なお、本論文に直接関わらないが、Septic shockとは「死亡率を増加させるのに十分に重篤な循環、細胞、代謝の異常を有する敗血症のサブセット」で、適切な輸液負荷にもかかわらず平均血圧65mmHg以上を維持するための循環薬を必要とし、かつ血清乳酸値の2mmol/L以上、と定義されている。 以上の背景を鑑みれば、文頭に記述した本論文の結論は予測された内容であろう。注意点として、Sepsisには絶対的指標がないため、Sepsis-3診断基準が何をみているのかを常に念頭に置く必要がある。また、院内死亡率は全死亡率なので死亡原因は時期によっても異なり、敗血症以外の死亡集団も含んでしまうことになるといった側面も指摘できよう。参考までに、日本集中治療医学会・日本救急医学会のホームページには日本版敗血症診療ガイドライン2016が、JAMA誌2017年1月19日号にはManagement of Sepsis and Septic Shockが公表されている。参考Howell MD, et al. JAMA. 2017 Jan 19.[Epub ahead of print]日本版敗血症診療ガイドライン2016(日本集中治療医学会/日本救急医学会)PDF

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安定冠動脈疾患にRAS阻害薬は他剤より有効か/BMJ

 心不全のない安定冠動脈疾患の患者に対するレニン・アンジオテンシン系(RAS)阻害薬の投与は、プラセボとの比較では心血管イベント・死亡のリスクを低減するものの、Ca拮抗薬やサイアザイド系利尿薬などの実薬との比較では、同低減効果は認められなかった。また、対プラセボでも対照集団が低リスクの場合は、同低減効果は認められなかった。米国・ニューヨーク大学のSripal Bangalore氏らが、24の無作為化試験についてメタ解析を行い明らかにし、BMJ誌2017年1月19日号で発表した。心不全のない安定冠動脈疾患患者へのRAS阻害薬投与については、臨床ガイドラインでは強く推奨されているものの、最近の現行治療への上乗せを検討した試験結果では、対プラセボの有効性が示されなかった。非心不全・冠動脈疾患患者100例以上、追跡期間1年以上の試験を対象にメタ解析 研究グループは、PubMed、EMBASE、コクラン・ライブラリCENTRALを基に、2016年5月1日までに発表された、心不全のない(左室駆出分画率40以上または臨床的心不全なし)安定冠動脈疾患を対象に、RAS阻害薬とプラセボまたは実薬を比較した24の無作為化試験についてメタ解析を行い、RAS阻害薬の有効性を検証した。 対象とした試験は100例以上の該当患者を含み、また追跡期間は1年以上だった。アウトカムは死亡、心血管死、心筋梗塞、狭心症、脳卒中、心不全、血行再建術、糖尿病発症、有害事象による服薬中止だった。RAS阻害薬は死亡率14.10/1,000人年超の集団で有効 分析対象とした試験の総追跡期間は、19万8,275人年だった。 RAS阻害薬群はプラセボ群に比べ、全死因死亡(率比:0.84、95%信頼区間[CI]:0.72~0.98)、心血管死(0.74、0.59~0.94)、心筋梗塞(0.82、0.76~0.88)、脳卒中(0.79、0.70~0.89)、また、狭心症(0.94、0.89~0.99)、心不全(0.78、0.71~0.86)、血行再建術(0.93、0.89~0.98)のリスクをいずれも低減した。一方で実薬との比較では、いずれのアウトカム発生リスクの低減は認められなかった。率比は全死因死亡1.05(95%CI:0.94~1.17、交互作用のp=0.006)、心血管死1.08(0.93~1.25、p<0.001)、心筋梗塞0.99(0.87~1.12、p=0.01)、脳卒中1.10(0.93~1.31、p=0.002)などだった。 ベイズ・メタ回帰分析の結果、RAS阻害薬による死亡・心血管死リスクの低減が認められたのは、対照群のイベント発生率が高値の集団(全死因死亡14.10/1,000人年超、心血管死7.65/1,000人年超)だった試験のみで、低値の集団だった試験では同低減効果は認められなかった。 著者は、「心不全のない安定冠動脈疾患患者において、RAS阻害薬の心血管イベントおよび死亡の抑制は、プラセボ対照群の試験でのみみられ、実薬対照群の試験ではみられなかった。またプラセボ対照群においても、RAS阻害薬の有益性は、主に対照群のイベント発生率が高かった試験では認められたものの、低い場合は認められなかった」と述べている。そのうえで、「その他の実薬対照を含めてRAS阻害薬が優れていることを支持するエビデンスはない」とまとめている。

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FITZROY試験:活動性クローン病におけるJAK1選択的阻害薬filgotinibの有用性と安全性(解説:上村 直実 氏)-634

 クローン病は原因不明の炎症性腸疾患であり、わが国の特定疾患に指定されているが、最近、抗TNF-α阻害薬の出現とともに本疾患に対する薬物治療の方針が大きく変わってきている。症状や炎症の程度によって、5-ASA製剤、ステロイド、代謝拮抗薬、抗TNF-α阻害薬および栄養療法などを段階的にステップアップする治療法から、代謝拮抗薬と抗TNF-α阻害薬を早期から使用する方法が推奨されつつある。今回、新たに、非受容体型チロシンキナーゼであるJAK1の選択的阻害薬filgotinibの有効性を検証した研究成績が報告された。 欧州9ヵ国52施設が参加して施行された第II相無作為化プラセボ対照二重盲検試験(FITZROY試験)は、18歳以上の活動性クローン病患者(クローン病活動指数[CDAI]が220~450)174例を対象として、filgotinib 200mg/日群(130例)とプラセボ群(44例)2群で検討した結果、10週間投与における活動指数150未満で示される臨床的寛解率はプラセボ群の23%に対し、filgotinib群で47%と有意に高かった(95%信頼区間:9~39、p=0.0077)。その後、filgotinibが奏効した被験者を、filgotinib 100mg/日、200mg/日、プラセボの群に分けて、さらに10週間投与して安全性を検証した結果、観察期間を含めた20週間での重篤な有害事象発現の報告は、filgotinib群9%、プラセボ群4%だった。 わが国では、日本消化器病学会によるクローン病診療ガイドラインが2011年に刊行されて、さらに2015年に潰瘍性大腸炎・クローン病診断基準・治療指針が厚労省の鈴木班から報告されているが、本邦での大規模な介入試験の成績は乏しい。今後、わが国のクローン病患者を対象として最適とされる治療方針を導く臨床研究を遂行する体制が必要と思われる。

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サン・アントニオ2016 レポート-2

レポーター紹介DBCG 07-READは、6サイクルのDC(ドセタキセル+エンドキサン)と3サイクルのEC→3サイクルのDを比較する第III相試験である。アントラサイクリンはトポイソメラーゼⅡ阻害剤であるため、トポイソメラーゼⅡA(TOP2A)の変化により治療効果に差がある可能性がある。過去のDBCG89D試験(CMF vs CEF)の結果からTOP2A正常例ではアントラサイクリンの有益性がなかったことから、TOP2Aの遺伝子が正常である症例(TOP2A/Cen17 ratio 0.8~1.9)に絞って比較を行った。初回解析として5年の経過観察を行ったが、DFS、OS共にまったく差がなかった。各群約1,000例と大規模であり、生存曲線もほぼ完全に重なっていることから、さらに経過観察しても有意差は出ないであろう。有害事象の頻度も、末梢性浮腫、筋肉痛/関節痛、末梢神経障害などの割合は両群でまったく変わらないことから、TOP2A遺伝子が正常な症例ではアントラサイクリンのベネフィットはなく、DCのみで良いであろうということになる。さて、TOP2A遺伝子をアントラサイクリン使用の指標とすべきかどうかであるが、TOP2Aに関するメタアナリシスでは、TOP2A増幅/欠失例ではわずかにCMFよりアントラサイクリンでベネフィットがありそうではある(Di Leo A, et al. Lancet Oncol. 2011; 12: 1134-1142.)。別の報告では、CEP17重複またはTOP2A異常例でやはりCMFよりアントラサイクリンでベネフィットがあるとのことである(Bartlett JM, et al. J Clin Oncol. 2015; 33: 1680-1687.)。しかしその差はわずかであるようであり、また、ASCO2016レポートのABC試験のところでも述べたが、TC6サイクルが行われているものの、アントラサイクリンにしてもタキサンにしても4サイクルを超えて有効性を示している報告はないので、DCを行うとしても現時点では4サイクルで十分と考えられる。術前化学療法の効果を予測するためのバイオマーカーとしての腫瘍リンパ球浸潤(TILs)の意義について、ドイツの6つの術前化学療法試験(3,771名)のメタ分析が報告された。TILsは推奨に従って評価された(Salgado R, et al. Ann Oncol. 2014)。pCR率はトリプルネガティブ、HER2+、Lum/HER2-ともTILsが多いほど高かった。一方、無病再発はトリプルネガティブとHER2+で有意差があるものの、Lum/HER2-ではなかった。しかし、OSはトリプルネガティブとLum/HER2-で有意差があり、HER2+ではなかった。HER2+とTNBCでは高いTILsで予後良好の傾向があり、Lum/HER2-では内分泌療法抵抗性に関係している可能性が示唆されている。ただ、いずれにしても予後の差はわずかであり、TILsを指標に治療方針を決める段階にはなく、もっと多くの研究結果が統合されたり、単なるTILsの評価だけでなくさらなる指標が組み合わされたりすることで、初めて臨床的に有用なものとなるであろう。また、TILsの状況によってどの種類の化学療法(+分子標的薬)が効果をもたらすかということも合わせて考えていく必要があろう。Poster(およびPoster Discussion)より乳がん腋窩治療後の患側上肢からの点滴は、従来までは一般に禁忌とされてきたが、2014年のサン・アントニオ乳癌シンポジウムで大規模な前向き試験の結果が報告され、乳がん術後患側上肢からの静脈注射は浮腫の増加につながらないとの結果であった。この結果は論文化され(Ferguson CM, et al. J Clin Oncol, 2016;34:691-698.)、当院でも乳がん術後患側上肢に対するマネージメントを変更した。しかし、静脈注射とはいってもさまざまであり、血管刺激性がある薬剤には不安もあり、抗がん剤点滴に関して従来の考え方を守っていた。今回は抗がん剤静脈注射とリンパ浮腫の関連を前向きに検討したものが報告された。630名の乳がん術後患者に対してリンパ浮腫の発症率をみた。化学療法は術前(16%)または術後に受けていた。2年間のリンパ腫発生は全体として12.32%であり、末梢点滴群9.13%、中心静脈ポート群16.16%、 末梢点滴+中心静脈ポート群15.99%であった。多変量解析にてBMI≧30、リンパ節転移の個数のみがリンパ浮腫のリスク因子であり、点滴経路や化学療法のサイクル数、薬剤の種類(タキサン、非タキサン)は関連していなかった。これらのことから、患側上肢からの穿刺はリンパ浮腫のリスクを増加させないだろうと結論している。しかし、末梢点滴において患側からどれくらい穿刺されたのかが、方法にも結果にも記載されていないため、この結論を素直に受け取ることができない。論文化されるのを待ち、内容をよく吟味してから改めて検討したいところである。ここからOncotype DXの報告をいくつか紹介する。SEERレジストリを用いた研究である。n0またはn1でHR+、HER2-、Grade3の腫瘍を持つ患者の5年乳がん特異的生存率を評価することが目的である。9,201名の患者が対象となっており、n+でも50歳未満の方が20%以上含まれている。n+での化学療法施行の割合は低リスクで27%(腫瘍径≦2cm)、22%(>2cm)、中間リスクで56%(腫瘍径≦2cm)、63%(>2cm)、高リスクでは72%(腫瘍径≦2cm)、76%(>2cm)であった。低リスク(<18)と中間リスク(18~30)の生存率は、Grade3腫瘍でも、n0、n+に関わらず同程度にきわめて予後良好であった。しかしGrade3、高リスクでは、n+や腫瘍径によらず有意に予後不良であった。ここで学ぶべきことは、単に腫瘍のGradeが3、n+というだけでは、治療選択には不十分であり、やはりこのような多遺伝子アッセイを利用したほうが、予後と化学療法の選択をするのにより適しているということ、中間リスクはほぼ低リスクと同等であること、米国ですでに閉経の有無にかかわらずn+でもOncotype DXが用いられているということだろう。Oncotype DXをn+にも行ったこれまでの臨床試験が総括されていた(9,833名)。transATAC/SWOG S8814/ECOG E2197/NSABP P-28/PACS-01/SEER/WSG Plan Bの7試験を要約している。2014年までのエビデンスに基づくASCOガイドラインでは、n+においてこのようなエビデンスの多くを考慮に入れていないが、最近のNCCNガイドラインでは素早くn1~3に対してOncotype DXのオプションを取り入れている、という違いをサマリーで述べていた。しかし、NCCNガイドライン(Version 2. 2016)をみると変わっておらず、次期改訂で修正されるということだろうか。次は聖路加国際病院からの報告である。目的は低リスクのER陽性浸潤性乳がんを予測するための臨床病理学的因子を明らかにすることである。症例はすべてn0であり、99.1%がAllred7以上であった。多変量解析からはPRとKi67が重要な予測因子であり、PR強陽性(Allred7以上)、Ki67<24%であれば92.4%の確率で低リスクであった。このようなデータからいえることは、ER強陽性、PR強陽性、Ki67がおおむね20%以下であれば、低リスクであり、Oncotype DXによる検索はまず不要ということになる。このことは腫瘍径やnの状況にはよらないと思われる。ただし、Ki67の評価は診断医、染色条件、判定部位によってかなり変わってしまうこともあるので慎重に判断する必要はあろう。

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5~18歳の脳震盪、7日以内の運動が回復を促進/JAMA

 急性脳震盪を発症した5~18歳の小児・年少者について、受傷後7日以内に運動を行ったほうが、行わなかった患者と比べて、28日時点の持続性脳震盪後症状(PPCS)を有するリスクが低いことが、カナダ・東オンタリオ研究センター小児病院(CHEO)のAnne M Grool氏らによる前向き多施設共同コホート研究の結果、示された。脳震盪治療ガイドラインでは、受傷直後は症状が治まるまで安静を支持しており、運動が回復を促進するという明白なエビデンスはなかった。今回の結果を踏まえて著者は、「適切に設計した無作為化試験で、脳震盪後の運動のベネフィットを確認する必要がある」と提言している。JAMA誌2016年12月20日号掲載の報告。カナダ9つの救急部門で前向きコホート研究 検討は、2013年8月~2015年6月に、カナダ小児救急研究ネットワークに参加する9つの救急部門(ED)を急性脳震盪で受診した5.00~17.99歳の小児・年少者3,063例を登録して行われた。 登録患者は、受傷後7日と28日にWebベースのサーベイもしくは電話のフォローアップを受け、受傷後早期の運動有無などの調査を受けた。 標準化質問票を用いてEDと7日、28日時点で、運動の有無と脳震盪後症状の重症度を評価した。主要アウトカムは、28日時点のPPCS(3つ以上の新たなまたは増悪した症状)。早期運動とPPCSの関連性の分析を、未補正解析、1対1の傾向スコア適合コホート、治療の逆確率加重(IPTW)法にて評価した。また7日時点の3つ以上の症状あり群で感度解析も行った。早期運動は28日時点のPPCSリスクの低下と関連 評価を完了したのは2,413例であった。平均年齢(SD)は11.77(3.35)歳、女子が1,205例(39.3%)。被験者のうち、早期に運動を行っていたのは1,677例(69.5%)。内訳は、軽い有酸素運動が795例(32.9%)、スポーツとしての運動214例(8.9%)、ノンコンタクトな練習運動143例(5.9%)、フルコンタクトな練習運動106例(4.4%)、試合としての運動419例(17.4%)であった。一方、736例(30.5%)が運動を行っていなかった。 28日時点で、PPCSを有した患者は733例(30.4%)であった。 未補正解析において、早期運動群は、非運動群よりもPPCSリスクが低いことが示された(24.6 vs.43.5%、絶対リスク差[ARD]:18.9%、95%信頼区間[CI]:14.7~23.0%)。 傾向スコア適合コホート(1,108例)でも、早期運動はPPCSのリスク低下と関連していた(早期運動群28.7 vs.非運動群40.1%、ARD:11.4%[95%CI:5.8~16.9%])。IPTWの分析でも同様に認められた(2,099例、相対リスク:0.74[95%CI:0.65~0.84]、ARD:9.7%[95%CI:5.7~13.7%])。 7日時点で症状(PPCS)を認めた患者は、早期運動群803例(43.0%)に対し非運動群は584例(52.9%)であった。また、運動の種類別にみたサブグループ解析においても、早期運動群のPPCS発症率は低かった。それぞれのARDは、軽い有酸素運動群が6.5%(95%CI:5.7~12.5%)、中程度運動群14.3%(同:5.9~22.2)、フルコンタクト運動16.8%(同:7.5~25.5%)。このサブグループの傾向適合解析(早期運動群388例 vs.非運動群388例の計776例)における有意な差はみられなかった(47.2 vs.51.5%、ARD:4.4%[95%CI:-2.6~11.3%])。

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