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日常の血圧を心臓1拍ごとに測定する時代がまもなく到来

 4月18日、オムロンヘルスケア株式会社(京都府向日市、代表取締役社長:荻野 勲)は、心臓の拍動1拍ごとの血圧を測る、連続血圧測定技術を世界で初めて開発したことを発表した。 同社は1973年に家庭血圧計「マノメータ式手動血圧計(HEM-1)」を開発した。その後、同社の製品を中心に家庭血圧計が普及し、わが国ではいまや約3,500万台に上り、各家庭に備わっていると言われるまでになった。さらに高血圧診療においても、家庭血圧測定の位置付けは『高血圧治療ガイドライン』の2009年版における「家庭血圧の測定は有用であり、日常診療の参考とする」から、2014年版の「診察室血圧と家庭血圧の間に診断の差がある場合、家庭血圧による診断を優先する」へと格上げされている。 このように、家庭血圧が診察室血圧に比べ、日常の血圧をより捉える方法であると言っても、それでも一時点の血圧を検出しているにすぎない。心臓は1日10万回拍動し、血圧値は10万回変動している。家庭血圧でも24時間自由行動下血圧でも、カフ・オシロメトリック法による血圧測定は、カフで上腕などの血管全体を圧迫し血流を一時止める方法を採用しているため、負荷なく、連続して血圧を測ることはできなかった。 今回、同社はトノメトリ法を用いて、世界で初めて、手首に機器をつけるだけで簡単に1拍ごとの血圧を測定する技術を開発した。トノメトリ法は、手首の体表近くにある橈骨動脈に圧力センサを平らに押し当てて、1拍ごとの血圧を測定する方法である。トノメトリ法を用いた血圧測定装置はこれまでも実用化されていたが、手首で捉えた1拍ごとの血圧値と、上腕で測った血圧値とを照合させる必要があったため、大型の機器にならざるを得なかった。しかし、同社は46個のセンサを1列に並べた圧力センサを開発し、それを血圧測定に採用することで小型化に成功した。 発表されたプロトタイプは重量約200g、これまでに連続10時間以上の測定を実現しているようだ。オムロン社員が実際に装着し、1心拍ごとの血圧測定モニタリングをライブでお披露目した。若干緊張しているのか収縮期血圧は120mmHg台を推移していたかと思うと、当人が呼吸を止めた間は10mmHg前後低下するなど、血圧の推移がリアルタイムに見てとれた。 当日の苅尾 七臣氏(自治医科大学 循環器内科学)の発表では、脳出血の既往がある、睡眠時無呼吸症候群の患者さんの睡眠中の映像と、それにシンクロした血圧値を見ることができた。映像では22秒間無呼吸状態が続き、その間、収縮期血圧値は100mmHg程度まで低下。呼吸が再開されると血圧変動パターンは一転し、血圧値は見る見るうちに上昇、最高190mmHgまで到達した。苅尾氏は、1心拍ごと変動、日内変動、日間変動、季節変動、年間変動といった時相の異なった血圧急上昇が複雑に絡み合って脳・心血管イベントが発症するのではないか、と「ダイナミックサージ」という仮説を、この患者さんにも適用した。 本年3月から、夜間血圧を連続的に測定する臨床研究が開始されている。また、医学的価値の検証とともに、プロトタイプはさらなる小型化とユーザビリティの改善を図る計画だという。これによって、従来の測定方法では検出できなかったハイリスク群を特定し、未病のうちから治療を施す先制治療によって、脳・心血管イベントゼロを目指す時代が幕開けした。逆に、これまで治療対象とされてきた集団のうち、実はハイリスクではなかった集団をこの新たな技術で特定し、医療経済的に効率的な治療を目指すことも、これからのわが国に課せられた課題ではないだろうか。この技術が高血圧研究だけでなく、高血圧診療のパラダイムシフトを起こすことを期待したい。

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スタチン不耐容患者へのエボロクマブ vs.エゼチミブ/JAMA

 筋肉関連の有害事象によるスタチン不耐容の患者において、新規開発の脂質低下薬エボロクマブはエゼチミブと比較して、24週後のLDL-コレステロール(LDL-C)値を有意に低下したことが、米国・クリーブランドクリニックのSteven E. Nissen氏による無作為化試験「GAUSS-3」試験の結果、示された。筋肉関連の有害事象によるスタチン不耐容の患者は5~20%と報告されており、スタチンの超低用量投与や間欠的投与あるいはエゼチミブ投与などが行われるが、ガイドラインで推奨される50%超低下を達成することはまれである。PCSK9阻害薬エボロクマブは、LDL-Cの低下が顕著で、スタチン不耐容患者の代替療法となる可能性が示唆されていた。JAMA誌オンライン版2016年4月3日号掲載の報告より。24週投与し、エボロクマブとエゼチミブの脂質低下の有効性と安全性を比較 GAUSS-3試験は、スタチンを再投与し筋肉症状の発現を確認する(フェーズA)、エゼチミブとエボロクマブの2つの非スタチン薬の脂質低下の有効性を比較する(フェーズB)、2段階から成る無作為化試験であった。 2013年12月10日~14年11月28日に、LDL-C値コントロール不良、2剤以上のスタチン不耐容歴のある511例を登録。フェーズAにおいて、クロスオーバー法を用いて24週間、アトルバスタチン(20mg)あるいはプラセボを投与し、アトルバスタチン投与でのみ筋肉症状を認めた患者を確認した。2週間のウォッシュアウト後、フェーズBにおいて、患者を2対1の割合でエボロクマブ(月1回420mg皮下注)もしくはエゼチミブ(1日1回10mg経口投与)群に無作為に割り付け、24週間の投与を行った。 主要エンドポイントは2つで、LDL-C値のベースラインからの平均変化率を、22週と24週の平均値、および24週値について評価した。24週時の平均変化率、エボロクマブ群-52.8%、エゼチミブ群-16.7% フェーズAの被験者は491例であった。平均年齢60.7(SD 10.2)歳、女性246例(50.1%)、170例(34.6%)が冠動脈疾患歴あり、試験開始時の平均LDL-C値は212.3(SD 67.9)mg/dLであった。結果、アトルバスタチン服用時のみ筋肉症状が認められたのは209例(42.6%)であった。 209例のうちフェーズBには199例が参加した。また、クレアチンキナーゼ高値であった19例がフェーズBより参加し計218例で行われた。エゼチミブ群に73例、エボロクマブ群に145例が割り付けられた。試験開始時の平均LDL-C値は219.9(SD 72)mg/dLであった。 LDL-C値の22週と24週の平均値は、エゼチミブ群は183.0mg/dLで、ベースラインからの平均変化率は-16.7%(95%信頼区間[CI]:-20.5~-12.9%)、絶対変化値は-31.0mg/dLであった。一方、エボロクマブ群は103.6mg/dL、-54.5%(95%CI:-57.2~-51.8%)、-106.8mg/dLで変化が有意に大きかった(LDL-C値の両群差:-37.8%、絶対変化値差:-75.8mg/dL、p<0.001)。 また24週時のLDL-C値についても、エゼチミブ群は181.5mg/dL、平均変化率は-16.7%(95%CI:-20.8~-12.5%)、絶対変化値は-31.2mg/dLであった一方、エボロクマブ群は104.1mg/dL、-52.8%(95%CI:-55.8~-49.8%)、-102.9 mg/dLで変化が有意に大きかった(LDL-C値の両群差:-36.1%、絶対変化値差:-71.7mg/dL、p<0.001)。 筋肉症状の報告は、エゼチミブ治療群で28.8%、エボロクマブ群で20.7%で有意差はみられなかった(log-rank検討によるp=0.17)。なお、筋肉症状のために試験薬投与を中止したのは、エゼチミブ治療群73例中5例(6.8%)であったのに対し、エボロクマブ群は145例中1例(0.7%)であった。 これらの結果を踏まえて著者は、「さらなる試験で、長期の有効性と安全性を評価する必要がある」とまとめている。

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第31回 特別編「医療事故調査制度」の概要と展望

2015年10月より医療事故調査制度が正式に始まった。医療事故調査・支援センターとして指定された「日本医療安全調査機構」には、2016年3月現在、累計で188件の医療事故報告(相談は累計1,012件)が行われている。今後、さらに報告を収集・分析していくことで、同じような医療事故を防ぐ防波堤となり、患者さんの医療安全へつながることが期待されている。本コンテンツでは、厚生労働省の「医療事故調査制度の施行に係る検討会」の構成員として、わが国の医療安全を担う新制度の構築に参画してきた医師・弁護士であり、「MediLegal」の執筆者である大磯 義一郎 氏(浜松医科大学医学部医学科医療法学 教授)に新制度の概要を聞いた。2015年10月に発足した医療事故調査制度の概要について教えてください。この医療事故調査制度の目的は、医療法の「第3章 医療の安全の確保」に位置付けられているとおり、「医療の安全を確保するために、医療事故の再発防止を行うこと」です。また、医療法上、この制度の対象となる医療事故は、「当該病院等に勤務する医療従事者が提供した医療に起因し、又は起因すると疑われる死亡又は死産であって、当該管理者が当該死亡又は死産を予期しなかったもの」とされています。そして、新医療事故調査制度では、この「医療事故」については、医療事故調査支援センターへの報告義務と調査義務が各医療機関の管理者(院長や施設長)に課せられています。どのような場合が「報告対象」に当たるかについては、1)「予期しなかった死亡」、かつ、2)「医療に起因する死亡」の2つの要件を満たす必要があります。1)の「予期しなかった死亡」とは、「当該死亡又は死産が予期されていなかったものとして、以下の事項のいずれにも該当しないと管理者が認めたもの」(医療法施行規則1条の十の二 第1項)と定義されており、国語辞典的な「そのようなことが起こるとは想定していなかった」という意味ではありません。省令では、(1)あらかじめ患者さんに説明していた場合、(2)診療録その他の文書等に記録していた場合、(3)管理者が医療従事者や医療安全管理委員会からの意見を聞き、当該死亡が予期できたと認めた場合のいずれにも該当しないと管理者が認めた場合には、本制度における「予期しなかった死亡」となるとしています。医療機関に対し、積極的に患者に情報提供をしたり、記録化を進めることで、報告義務を免除するというインセンティブを与えているのです。2)「医療に起因する死亡」とは、原則的には、侵襲的な医療行為(手術、処置、投薬、検査、輸血など)をいい、単なる療養、転倒や転落、誤嚥などの行為は本制度での「医療」には当たらず、報告の対象外とされています。発生した事故が、1)と2)の要件を満たすかどうかを最終的に管理者が判断することになります。その際、現場の医療従事者個人に過重な責任を負わせてきた過去の苦い反省を踏まえ、「当該医療事故に関わった医療従事者などから十分事情を聴取したうえで、組織として判断する」とされています。新制度では、院内調査が中心となり、その主体、調査手法については、管理者の幅広い裁量に委ねられています。したがって、外部委員を入れることは必須ではありません。最後に、医療機関が「医療事故」として医療事故調査・支援センターに報告した事案について、遺族または医療機関が医療事故調査・支援センターに調査を依頼した時は、医療事故調査・支援センターが調査を行うことができます。調査終了後、医療事故調査・支援センターは、調査結果を医療機関と遺族に報告することになります。画像を拡大する医療安全の議論から新制度発足まで、10年近くを要した経緯を教えてください。医療安全への取り組みは、一般に医療萎縮が始まったとされる大野病院事件が起こる、少し前からあった議論です。ただ、当時は医療安全が主たる目的ではなく、過熱した医療紛争の処理が中心的な課題でした。したがって、「診療行為に関連した死亡の調査分析モデル事業」では、個別事案の医学的評価、すなわち、誰の責任かを明らかにすることが中心的な活動となりました。その後、大野病院事件が発生し、医療領域への司法の過剰介入により医療萎縮が起こり、日本の医療が崩壊しかけました。このままでは日本の医療は本当に崩壊してしまうというところまで来て、ようやくトカゲのしっぽ切り的な責任追及ではなく、真面目に医療安全を行おうという機運が生まれてきました。そこで、ちょうどモデル事業が終了するということで、厚生労働省の支援により「医療安全」を主目的に、さらに発展拡大する本制度、組織の発足へとつながりました。この新しい制度では、医療事故事例を収集・集積し、内容を分析することで、次の事故の発生を防止し、患者さんの安全に役立てようということが理念として掲げられました。事故を起こした個人の責任追及の場には、決してしないということです。ただ、患者訴訟団体やその他の団体のそれぞれの思いもあり、本制度の設計の際には議論が難航しました。しかし、最終的に当初の理念通り、2015年10月に正式にスタートすることとなりました。制度構築の途中でとくに議論された事項は何ですか?新制度構築の中でとくに議論された内容は、その理念と運用です。この制度の理念は「医療安全」です。これについては、審議会でも、ほぼ異論なく受け入れられました。しかし、運用については、議論の途中で「医療事故を起こした個人への責任追及」や「裁判で使える文書作成」などさまざまな意見も出されました。そこで、わが国の医療安全のエキスパートに意見を聞いたり、諸外国の同じような制度との比較・検討により、医療安全のためには『WHOドラフトガイドライン2005』でも示しているように、「非懲罰性」と「秘匿性」を報告システムに盛り込むことが重要となりました。「医療安全」とは、将来の同種事故の発生リスクを低下させることで、患者さんの生命を守ることを目的としています。それに加え、患者さんに直接医療行為を行う頻度が高いことから、「加害者」の立場に立たされやすい未来ある若い医師、看護師など医療従事者を守ることも重要です。そうでないと、再び医療萎縮が再燃し、かえって患者さんの利益を害することになりかねないからです。医療事故は、確率的に何万回かに1回は、必ず起きます。これは人的、物的さまざまな要因により、完全に防ぐことは不可能です。ですから、たまたまそのときに行為者となった医療者だけに責任を負わせるような従来の事故対応では、今後も事故の発生を減少させることはできません。そこで、今回の制度では、個人責任追及ではなく、医療をシステムとして捉え、科学的に検証を行い、医療安全という結果を出していこうということが話し合われました。何よりも大事なことは、これまでの「収集事業」のように、医療事故のデータを収集するだけではだめで、分析、検証し、次のアクションへつなげることが重要です。一例を紹介しますと、米国でも日本と同じように脊髄撮影造影剤での事故が起きています。当初、日本と同じように造影剤の添付文書に警告を入れましたが、また同じような事故が起こった。なぜ同じ事故が起こるのか、分析し、検証することで医療者のダブルチェック体制の構築や薬剤保管場所の分離、臨床現場での啓発など具体的な行動が推奨され、事故を防止する対策が取られています。そして、この間、日本で行われたような個人への責任追及は行われていません。新しい医療事故調査制度では、医療事故データを集め、きちんとPDCA(Plan-Do-Check-Action)サイクルを回すこと。すなわちデータ収集・分析後、対応策を考え、その効果検証を行い、さらにブラッシュアップし、新しいサイクルを回すことが運用として求められます。日本では、約十数年の間、医療安全対策について何ら結果が出せていない状態でした。そのため、医療事故を科学的に検証し、ブラシュアップしていくことで、アウトカムを出そうということになりました。医療事故発生時の対応やグレーゾーン事案での対応はどうなりますか?医療事故発生時のフローは最初に述べたようになりますが、新制度で重要なことは、事故が起こった場合に、最初に本制度における「医療事故」に該当するか判断しなければなりません。新制度では、予期要件(患者さんへの説明と同意、カルテに記載など)があれば、医療機関へのインセンティブとして報告を免除する仕組みもあり、同じ態様の死亡事故でも、個々のケースで報告するか・しないかが変わってきます。医療起因性があるかどうかも含め、報告事案になるかどうかを、管理者は初めに見極める必要があります。原則として、病院などが患者さんへインフォームドコンセントやカルテへの記載で死亡のリスクを明示していれば、報告の必要はありません。しかし、そうでない場合、当該事故が予期できなかったのかおよびその事故がはたして医療に起因する死亡事故なのかどうか、判断する必要があります。ここで注意しておきたいのが、誤診のようなそもそも事故ではない場合や介助などの医療起因性のない場合は含まないということです。本制度は管理者に幅広い裁量権を認めておりますので、グレーゾーン事案では、管理者の判断に負うところが大きいと言えます。新制度はそのように規定していますので、管理者が判断し、事故の報告をする・しないを決定することになります。ただ、将来的にはグレーゾーン事案も、医療事故調査・支援センターへの報告が望ましいと全国の管理者が考えるようになればと考えています。そのためにも、医療事故調査・支援センターは、これまでのように、個別事案の評価を行い、個人責任の追及を支援していくのではなく、医療安全をサイエンスとして分析・検証し、医療安全という結果を示すことができる組織へと変身していく必要があると考えています。今後の新制度の展望について教えてください。また、個々の医療機関でできることには何があるでしょうか。まず、新制度に望むものとして、医療事故として報告された事例を収集するだけでおしまいではなく、医療安全のために、集めたデータを解析して、対策を立て、それを現場に落とし込んで、その効果を検証するというサイクルを回してほしいということです。検証していくことが、日本の医療をより良くしていきます。その中で医療事故調査・支援センターの役割は、大きくなる可能性があります。センターは、個別具体的な事案に捉われるのではなく、将来の同種事故を防ぐため、サイエンスとして医療安全を行い、結果を出していくことが重要になってくるでしょう。また、個々の医療機関でできることとして、院内でも事故防止のため独自に決めたPDCAサイクルを回しながら、日々の診療に当たることです。その際、患者さんへのインフォームドコンセントやカルテへの記載など、きちんと行うべきことは必ず実施してほしい事項です。関連リンク厚生労働省医療安全対策日本医療安全調査機構

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発作性心房細動へのアブレーション、冷凍 vs.高周波/NEJM

 薬剤抵抗性発作性心房細動に対するクライオバルーンアブレーション(冷凍アブレーション)は、高周波アブレーションに対し非劣性であることが認められ、安全性も同等であった。ドイツ・Asklepios Klinik St. GeorgのKarl-Heinz Kuck氏らが、多施設共同無作為化非盲検並行群間比較試験「FIRE AND ICE」の結果、報告した。現在のガイドラインでは、薬剤抵抗性発作性心房細動の治療としてカテーテルアブレーションによる肺静脈隔離術が推奨されている。高周波アブレーションが最も頻用されているが、冷凍アブレーションは比較的簡便で手術時間の短縮や合併症の軽減などが期待できる。これまで、両者の比較試験は小規模なものが多く、無作為化試験はほとんどなかった。NEJM誌オンライン版2016年4月4日号掲載の報告。769例を対象に非劣性試験を実施 研究グループは、2012年1月19日~15年1月27日の間に、8ヵ国16施設において、クラスI群またはIII群抗不整脈薬あるいはβブロッカーに抵抗性の症候性発作性心房細動患者769例を登録した。このうちスクリーニング失敗例等を除いた762例をクライオバルーンアブレーション(クライオバルーン)群または高周波アブレーション(RF)群に、施設および年齢(≦65歳 vs.>65歳)で層別化して1対1の割合で無作為に割り付けた(それぞれ378例および384例)。 有効性に関する主要評価項目は、アブレーション後90日以降の治療不成功(30秒以上持続する心房細動の再発、心房粗動または心房頻拍の発生、クラスI群またはIII群抗不整脈薬の使用、再アブレーション)で、非劣性マージンはハザード比(HR)1.43とした。 安全性の主要評価項目は、全死因死亡、脳血管イベント(脳卒中または一過性脳虚血発作)、重篤な治療関連有害事象の複合エンドポイントであった。アブレーション後90日以降の治療不成功は冷凍35%、高周波36% 解析対象は、割り付け後にアブレーションが実施された750例(クライオバルーン群374例、RF群376例)で、追跡期間は平均1.5年であった。 アブレーション後90日以降の治療不成功は、クライオバルーン群138例、RF群143例であった。Kaplan-Meier法で推算した1年時のイベント発生率は、それぞれ34.6%、35.9%で、HRは0.96(95%信頼区間[CI]:0.76~1.22)であり、クライオバルーン群はRF群に対して非劣性であることが認められた(非劣性のp<0.001、log-rank検定)。 安全性の主要評価項目の発生は、クライオバルーン群40例、RF群51例に認められた。Kaplan-Meier法で推定した1年時のイベント発生率は、それぞれ10.2%、12.8%であった(HR:0.78、95%CI:0.52~1.18、p=0.24)。

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膵・胆管合流異常〔pancreaticobiliary maljunction〕

1 疾患概要■ 概念・定義膵・胆管合流異常(合流異常)は、解剖学的に膵管と胆管が十二指腸壁外で合流する先天性の形成異常と定義される。東洋人種で頻度が高く、女性に多い。合流異常の発生論には諸説があり合意は得られていないが、胎生早期における胆管下部と腹側膵の導管系の合流の異常が大きな影響を及ぼすと考えられている。合流異常は、総胆管の拡張を伴う拡張型(多くは先天性胆道拡張症)と、総胆管の拡張を伴わない胆管非拡張型合流異常に二分される。先天性胆道拡張症は、胆道系が限局性に拡張した先天性の胆道形成異常で、戸谷分類では5つの型に分類されてきた(図1)。しかし、狭義の先天性胆道拡張症として、先天性胆道拡張症は総胆管を含む肝外胆管が限局性に拡張する先天性の形成異常で、膵・胆管合流異常を合併するものと2015年に定義された。戸谷分類では、肝外胆管の嚢腫状拡張を呈するIa型、円筒状拡張を呈するIc型と肝内・肝外胆管とも拡張を認めるIV-A型で表現される。画像を拡大する■ 病態と合併症1)病態正常の十二指腸主乳頭部には、乳頭部括約筋(oddi括約筋)が存在し、胆管末端部から膵胆管の合流部を取り囲んで胆汁の流れを調節し、同時に膵液の逆流を防止している。これに対し、合流異常ではその括約筋が膵管と胆管合流後の共通管を取り囲むため、括約筋の作用が合流部に及ばないので、膵液と胆汁の相互混入(逆流)が起こり、膵胆道系に胆道がんや膵炎などの合併症を生じる。通常、膵管内圧は胆管内圧より高いので、合流異常では膵液が胆道系に容易に逆流する(膵液胆道逆流現象)。ただし、胆道内圧上昇時などでは、胆汁の膵管内への逆流も起こりうる(胆汁膵管逆流現象)(図2)。画像を拡大する2)合併症:胆道がん合流異常では高率に胆道がんを合併する。圧勾配により長い共通管を介して胆道内に逆流した膵液と胆汁の混和液がうっ滞して、慢性炎症に伴う胆道の粘膜上皮障害と修復が繰り返され最終的にがん化する。全国集計では、成人の先天性胆道拡張症で22%、胆管非拡張型合流異常で42%に胆道がんの合併が認められた。その局在の割合は先天性胆道拡張症において胆嚢がん62%、胆管がん32%で、胆管非拡張型合流異常においては胆嚢がんが88%と高率であった。胆管非拡張型合流異常の肝外胆管は、胆汁うっ滞がないため、傷害作用を受けにくいと考えられている。合流異常に合併した胆嚢がん例を、合流異常を合併しない通常の胆嚢がん例と比較検討すると、ともに女性に好発するが、合流異常合併例では診断時の年齢が約15歳若く、重複がんが多く、胆石の保有率が低率である。3)合併症:膵炎先天性胆道拡張症では、高率に急性膵炎を合併する。臨床的に一過性のものや、軽症で再発性のものが多い。合流異常の慢性膵炎合併率は、全国集計では3%である。合流異常に合併する慢性膵炎は若年症例が多く、カルシウムを主成分とする膵石ではなくX線透過性のタンパク質を主成分とする非陽性結石を認めることが多い。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)膵・胆管合流異常の診断基準2013(表)によって診断する。表 膵・胆管合流異常の診断基準2013日本膵・胆管合流異常研究会日本膵・胆管合流異常研究会診断基準検討委員会(定義)膵・胆管合流異常とは、解剖学的に膵管と胆管が十二指腸壁外で合流する先天性の形成異常をいう。(病態)膵・胆管合流異常では、機能的に十二指腸乳頭部括約筋(Oddi筋)の作用が膵胆管合流部に及ばないため、膵液と胆汁の相互逆流が起こり、胆汁や膵液の流出障害や胆道癌など胆道ないし膵にいろいろな病態を引き起こす。(診断基準)膵・胆管合流異常の診断は、画像または解剖学的検索によって行われ、以下のいずれかを満たせばよい。1. 画像診断1)直接胆道造影(ERCP、経皮経肝胆道造影、術中胆道造影など)またはMRCPや3D-DIC-CT像などで、膵管と胆管が異常に長い共通管をもって合流するか、異常な形で合流することを確認する。ただし、共通管が比較的短い例では、直接胆道造影で乳頭部括約筋作用が膵胆管合流部に及ばないことを確認する必要がある。2)EUSまたはmultidetector-row CT(MD-CT)のmulti-planar reconstruction(MPR)像などで、膵管と胆管が十二指腸壁外で合流することを確認する。2. 解剖学的診断手術または剖検などで、膵胆管合流部が十二指腸壁外に存在するか、または膵管と胆管が異常な形で合流することを確認する。(補助診断)つぎのような所見は、膵・胆管合流異常の存在を強く示唆しており、有力な補助診断となる。1. 高アミラーゼ胆汁開腹直後または内視鏡的あるいは経皮的に採取した胆管内または胆嚢内の胆汁中膵酵素が異常高値を示す。しかし、膵・胆管合流異常例でも血清濃度に近い例や、それ以下の低値例も少なからずある。また、膵胆管合流部に乳頭部括約筋作用が及ぶ例でも、胆汁中膵酵素が異常高値を呈し、膵・胆管合流異常と類似する病態を呈する例もある。2. 肝外胆管拡張膵・胆管合流異常には、胆管に拡張を認める例(先天性胆道拡張症)と胆管に拡張を認めない例(胆管非拡張型)がある。肝外胆管に嚢胞状、紡錘状、円筒状などの拡張がみられるときには、膵・胆管合流異常の詳細な検索が必要である。なお、胆管拡張の診断は、年齢に相当する総胆管径の基準値を参考にする。日本膵・胆管合流異常研究会診断基準検討委員会神澤 輝実(東京都立駒込病院内科、委員長)、安藤 久實(愛知県心身障害者コロニー)、濵田 吉則(関西医科大学附属枚方病院小児外科)、藤井 秀樹(山梨大学第一外科)、越永 従道(日本大学小児外科)、漆原 直人(静岡県立こども病院小児外科)、糸井 隆夫(東京医科大学消化器内科)■ 画像診断1)直接胆道造影[内視鏡的逆行性膵胆管造影:ERCP(図3、4)、経皮経肝胆道造影、術中胆道造影など]またはMR胆管膵管撮影(MRCP)や3D-DIC-CT像(図5)などで、膵管と胆管が異常に長い共通管をもって合流するか、異常な形で合流することを確認することより合流異常と診断できる。MRCPは、小児例の診断や拾い上げ診断に有用であるが、共通管の短い例や複雑な合流様式を示す例では直接胆道造影による確定診断が必要となる。画像を拡大する画像を拡大する画像を拡大する2)超音波内視鏡(EUS)またはmultidetector-row CT(MD-CT)のmulti-planar reconstruction(MPR)像などで、膵管と胆管が十二指腸壁外で合流することを確認できた場合、合流異常と診断できる。しかし、非典型例ではやはりERCPによる確定診断が必要である。■ 解剖学的診断手術または剖検などで、膵胆管合流部が十二指腸壁外に存在するか、または膵管と胆管が異常な形で合流することを確認する。■ 補助診断次のような所見は、膵・胆管合流異常の存在を強く示唆しており、有力な補助診断となる。1)高アミラーゼ胆汁膵管内圧は通常胆管内圧より高いので、合流異常では膵液が胆管内へ容易に逆流する。したがって胆汁中のアミラーゼ値の上昇は、膵液胆道逆流現象の有力な診断証拠となる。合流異常では胆汁中アミラーゼ値が10,000IU/L以上の異常高値を示すことが多い。しかし、合流異常でも胆汁中アミラーゼ値が高値を示さない例もある。一方、乳頭部括約筋作用が膵胆管合流部まで及んでいても、比較的長い共通管を有する症例(膵胆管高位合流)では、胆汁中膵酵素が異常高値を呈し、合流異常と類似する病態を呈することがある。胆汁中アミラーゼ値の上昇だけで合流異常とは診断できないが、その異常高値は合流異常を強く示唆する所見である。2)肝外胆管拡張肝外胆管に嚢胞状、紡錘状、円筒状などの拡張がみられるときには、先天性胆道拡張症の存在が疑われ、合流異常の詳細な検索が必要である。従来、胆管拡張の診断においては、総胆管径の基準値を15歳以上で10mmにすることが多かったが、小児・成人とも胆管径は年齢とともに大きくなるので、年齢に相当する総胆管径の基準値を参考にすることが推奨される。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)合流異常では高率に胆道がんを合併することより、合流異常と診断されれば、胆道がんの合併がなくても、予防的に胆道切除術の適応となる。先天性胆道拡張症では、膵液と胆汁の相互逆流を遮断する分流術(肝外胆道切除術と胆道再建)が基本術式として行われている。しかし、胆管非拡張型合流異常では、高率に胆嚢がんを合併するが胆管がんの合併はきわめてまれであるので、胆嚢摘出術のみでよいとする施設と、先天性胆道拡張例と同様に肝外胆道切除術と胆道再建が必要であると考える施設があり、意見の一致をみていない。4 今後の展望胆管非拡張型合流異常では、予防的胆嚢摘出のみで経過を観察するのか、肝外胆管切除も行うべきなのか議論の最中であり、長期経過を調べて結論を出していく必要がある。そのためには、胆管非拡張型合流異常の診断をより明確にする必要がある。肝外胆管の拡張基準として、年齢別の総胆管径の基準値の策定が行われたが、胆管非拡張型合流異常の診断には単に総胆管径のみでなく形態も考慮するべきだとの意見も少なくない。また、症状の出にくい胆管非拡張型合流異常は、合併した胆嚢がんによる黄疸などの症状を契機に診断されることが多い。合流異常では胆嚢粘膜の過形成を呈することが多いので、検診の超音波(US)で胆嚢粘膜(胆嚢壁内側の低エコー層)の肥厚を認めた場合にMRCPなどを行って、発がん前に胆管非拡張型合流異常を拾い上げることができる。胆管非拡張型合流異常の早期診断の体系を確立し、普及させる必要がある。先天性胆道拡張症の分流術後の長期経過において、重篤な合併症が出現する例があるので、長期予後を明らかにして治療法の妥当性について検証する必要がある。5 主たる診療科消化器内科、消化器外科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報日本膵・胆管合流異常研究会(医療従事者向けのまとまった情報)1)日本膵・胆道合流異常研究会、日本膵・胆管合流異常研究会診断基準検討委員会. 胆道.2013;27:785-787.2)日本膵・胆管合流異常研究会、日本胆道学会編. 膵・胆管合流異常診療ガイドライン. 医学図書出版;2012.3)日本膵・胆道合流異常研究会、日本膵・胆管合流異常研究会診断基準検討委員会. 胆道.2015;29:870-873.公開履歴初回2014年04月22日更新2016年04月05日

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原発性胆汁性胆管炎〔PBC : Primary Biliary Cholangitis〕

1 疾患概要■ 概念・定義原発性胆汁性胆管炎(PBC)は、病因・病態に自己免疫学的機序が想定される慢性進行性の胆汁うっ滞性肝疾患である。中高年女性に好発し、皮膚掻痒感で初発することが多い。しかし、多くの症例では無症候性の時期にたまたま発見され、長く無症候性のまま経過する。黄疸はいったん出現すると、消退することなく漸増することが多い。一部の症例では門脈圧亢進症状が高頻度に出現する(表1)。画像を拡大する従来、病名は「原発性胆汁性肝硬変」となっていたが、現在は早期に診断することができるようになり、またウルソデオキシコール酸(ursodeoxycholic acid;UDCA)の効果もみられることから、現在診断されている多くの患者は肝硬変には至っていない。実際は肝硬変ではないにもかかわらず「肝硬変」が病名に入っていることで、患者の精神的負担が大きい、との患者団体の要請に応じ、2016年より世界的に、英文字略語のPBCはそのまま残し、「Primary Biliary Cholangitis(PBC)」と改名された。日本語では、「原発性胆汁性胆管炎」と改名されることになった。■ 疫学男女比は約1:7、診断時平均年齢は50~60歳で、幼小児期での発症はみられない1)。発生数は1980年の調査開始以来増加傾向にあったが、1990年代以降は横ばいで推移している。新たに診断される症例のうち約70~80%は無症候性PBCである。無症候性PBCを含めた総患者数は全国で約5万~6万人と推計される1)。■ 病因本症は種々の免疫異常とともに、自己抗体の1つである抗ミトコンドリア抗体(Anti-mitochondrial antibody:AMA)が特異的(90%)かつ高率(90%)に陽性化し、また、慢性甲状腺炎、シェーグレン症候群などの自己免疫性疾患や膠原病を合併しやすい。さらに、組織学的には障害胆管周囲にT細胞優位の高度の単核球浸潤がみられることなどから、病態形成には自己免疫学機序が強く関与していると考えられる。多くの疾患同様、本疾患も多因子疾患であり、遺伝学的要因を基盤に環境要因が作用することよって発症し、病態形成がなされることが想定されている。家族集積性のあることや一卵性双生児における一致率がきわめて高いことなどから、発症には遺伝的素因の関与が示唆される。HLA-DR8 (DRB1*08)が人種を超えて疾患感受性遺伝子として働いている可能性が想定され、ゲノムワイド関連解析(GWAS)により、HLA-DR以外の新たな疾患関連遺伝子多型の情報が集積されつつある2)。環境因子としては、大腸菌などの細菌からの感染が想定されている。また、工業地帯や汚染廃棄物処理施設の近郊で発症が多いとの疫学研究などより、大気汚染や化学物質、化粧品などによる抗原の修飾がPBC発症のきっかけとなっている可能性が想定されている。■ 症状本疾患にみられる症状は、(1)胆汁うっ滞に基づく症状(2)肝障害・肝硬変および随伴する病態に伴う症状(3)合併した他の自己免疫疾患に伴う症状に分けて考えることができる。病初期は無症状であるが(無症候性PBC)、黄疸を呈する以前から胆汁うっ滞に基づく搔痒感が出現する。身体所見としては、症候性PBCでは黄疸のほか、掻痒のために生じた掻き傷、高脂血症に伴う眼瞼黄色腫が観察され、肝臓は腫大していることが多い。本疾患は他の自己免疫性疾患・膠原病を合併しやすく、なかでもシェーグレン症候群、慢性甲状腺炎、関節リウマチの頻度が高い。門脈圧亢進症状を早期から呈しやすく、高齢者や進行例では肝細胞がんの併発も考慮する必要がある。■ 分類1)臨床病期分類皮膚搔痒感、黄疸、食道静脈瘤、腹水、肝性脳症など肝障害に基づく症候を伴う症候性PBC(sPBC)とこれらの症候を欠く無症候性PBC(aPBC)に分類される。症候性PBCはさらに、皮膚掻痒感のみ認め血清総ビリルビン値が2.0mg/dL未満のs1PBCと、血清総ビリルビン値が2.0mg/dL以上の黄疸を認めるs2PBCに細分される1)。2)組織学的病期分類わが国の診療ガイドラインでは、サンプリングエラーを最小限にするように工夫された中沼らによる新しい分類の使用が推奨されている。1期(no progression)、2期(mild progression)、3期(moderate progression)、4期(advanced progression)の4期に分類される。3)特殊型特殊なタイプとして、以下の病態がある。(1)PBC-AIHオーバーラップ症候群(PBC-AIH overlap syndrome)PBCの特殊な病態として、肝炎の病態を併せ持ちALTが高値を呈する本病態がある。副腎皮質ステロイドの投与によりALTの改善が期待できるため、PBCの亜型ではあるが、PBCの典型例とは区別して診断する必要がある。(2)AMA陰性PBC、自己免疫性胆管炎(AIC)AMAは陰性であるが、PBCに特徴的な臨床像と肝組織像を呈し、PBC症例の約10%を占める。これらのうち抗核抗体陽性を呈する病態に対しautoimmune cholangiopathyあるいはautoimmune cholangitis(AIC)などの名称が提唱された。副腎皮質ステロイドの投与が奏効する症例もあり、UDCAの効果がみられない症例に対して試みられる。■ 予後PBCの進展形式は、緩徐進行型、門脈圧亢進症先行型、黄疸肝不全型の大きく3型に分類される(図)。多くは長期間の無症候期を経て徐々に進行するが(緩徐進行型)、黄疸を呈することなく食道静脈瘤が比較的早期に出現する症例(門脈圧亢進症型)と早期に黄疸を呈し、肝不全に至る症例(黄疸肝不全型)がみられる。肝不全型は比較的若年の症例にみられる傾向がある。黄疸期(s2PBC)になると進行性で予後不良である。5年生存率は、血清総ビリルビン値が5.0mg/dLで55%、8.0mg/dLを超えると35%となる。画像を拡大する2 診断 (検査・鑑別診断も含む)診断は、厚労省研究班の診断基準(表1)に則って行うが、(1)血液所見で慢性の胆汁うっ滞所見(ALP、γ-GTPの上昇)(2)AMA陽性所見(間接蛍光抗体法またはELISA法)(3)肝組織学像で特徴的所見(CNSDC、肉芽腫、胆管消失)の3項目が重要である1)。〔肝組織像が得られる場合〕(1)組織学的にCNSDCを認め、検査所見がPBCとして矛盾しないもの。(2)AMAが陽性で、組織学的にはCNSDCの所見を認めないが、PBCに矛盾しない(compatible)組織像を示すもの。〔肝組織像が得られない場合〕AMAが陽性で、しかも臨床像および経過からPBCと考えられるもの。■ 臨床検査成績慢性の胆道系酵素(ALP、γ-GTP)の上昇、血清IgMの高値、AMAの出現が特徴的である。■ 抗ミトコンドリア抗体(AMA)と抗核抗体AMAの対応抗原として、ピルビン酸脱水素酵素E2コンポーネント(PDC-E2)をはじめとするミトコンドリア内膜に存在するオキソ酸脱水素酵素複合体を構成する蛋白が明らかになっている。PDC-E2反応性CD4陽性T細胞がPBC患者の肝臓、所属リンパ節および末梢血で有意に増加していることが示され、本疾患の成立・維持に重要な役割を果たしていることが想定される。PBCではAMAのほか、抗セントロメア抗体、抗核膜孔抗体(抗gp210抗体)、抗multiple nuclear dot抗体(抗sp100抗体)など数種の抗核抗体も陽性化する。核膜孔の構成成分に対する抗gp210抗体は特異度ほぼ100%と疾患特異性が高く、PBC患者の約20~30%で陽性化する。本抗体は予後不良なPBC症例で陽性になる率が高く、PBCの臨床経過の予測因子として有用であることが示されている1)。■ 肝組織像自己免疫機序を反映する肝内胆管病変(CNSDC)がPBC肝の基本病理所見であり、肉芽腫の形成も特徴的である。肝内小型胆管が選択的に進行性に破壊される。その結果、慢性に持続する肝内胆汁うっ滞が出現し、肝細胞障害、線維化、線維性隔壁が2次的に形成され肝硬変に進行する。■ 鑑別診断・除外診断画像診断(超音波、CT)で閉塞性黄疸を完全に否定したうえで、慢性の胆汁うっ滞性肝疾患および自己抗体を含む免疫異常を伴った疾患という観点から鑑別診断が挙げられる(表2)。画像を拡大する3 治療 (治験中・研究中のものも含む)根治的治療法は確立されていないが、ウルソデオキシコール酸はPBC進展抑制効果を有し、現在第1選択薬である。予後の改善も期待でき、実際UDCAが投与される以前の時期と比較するとPBCの予後はかなり改善している。進行したPBCではUDCAで進展を止めることは難しく、肝硬変・肝不全に進行すれば肝移植が唯一の治療手段となる。血清総ビリルビン値が5.0mg/dL以上になると肝移植を考慮し、肝移植専門医へ紹介することが望まれる。■ 薬物療法1)ウルソデオキシコール酸(UDCA)(商品名:ウルソなど)胆道系酵素の低下作用のみでなく、組織の改善、肝移植・死亡までの期間の延長効果が確認されている1)。通常1日600mgが投与されるが、効果が不十分の場合は900mgに増量される。2)ベザフィブラート(同:ベザトールSR、ベザリップなど)UDCAの効果が乏しい症例でベザフィブラート(400mg/日)が有効な症例もみられる1)。UDCAとは作用機序が異なることから併用投与が望ましいとされる。3)副腎皮質ステロイド通常のPBCに対する投与は病態の改善には至らず、とくに閉経後の中年女性においては骨粗鬆症を増強する副作用が表面に出てくるので、むしろ禁忌とされている。PBC-AIHオーバーラップ症候群で肝炎所見が明瞭である場合は、本剤の投与が推奨される1)。■ 肝移植胆汁うっ滞性肝硬変へと進展した場合は、もはや内科的治療で病気の進展を抑えることができなくなるため、肝移植が唯一の救命法となる1)。肝移植適応時期の決定は、Mayo(updated)モデルや日本肝移植適応研究会のモデルが用いられている。移植後は免疫抑制薬を投与し、術後合併症、拒絶反応、再発、感染に留意し経過を追う。4 今後の展望本疾患を含め、自己免疫疾患の病因および発症原因の早期解明は期待しがたい。したがって、根本治療の開発にはまだ長い期間がかかるものと思われる。しかし、UDCAについては確実に長期効果もみられており、また、ベザフィブラートについては長期効果のレベルの高いデータは得られていないものの、作用機序に関する基礎データを含め、臨床データも集積しつつあり、UDCAとの併用効果が確立するものと思われる。一方、細胞レベルでの解析や、疾患感受性および進行に関与する遺伝子の解析データも出つつあり、病因の解明とともに、個別化医療が可能となる日もそう遠いものではないと思われる。5 主たる診療科内科、肝臓内科、消化器内科、肝臓移植外科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報難病情報センター(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)診療ガイドライン厚生労働科掌研究費補助金難治性疾患克服研究事業「難治性の肝・胆道疾患に関する調査研究」班:原発性胆汁性胆管炎(PBC)の診療ガイドライン2012(医療従事者向けのまとまった情報)厚生労働省難病情報センターホームページ 原発性胆汁性胆管炎(PBC)ガイドブック(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)公的助成情報難病情報センター 各相談窓口紹介(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)患者会東京肝臓友の会(患者向けの情報)大阪肝臓友の会(患者向けの情報)1)厚生労働省難治性疾患克服研究事業「難治性の肝・胆道疾患に関する調査研究」班.原発性胆汁性胆管炎(PBC)の診療ガイドライン(2012年). 肝臓. 2012; 53: 633-686.2)厚生労働省「難治性の肝・胆道疾患に関する調査研究」班. 原発性胆汁性胆管炎(PBC)の診療ガイド. 文光堂. 2010.3)厚生労働省難治性疾患克服研究事業「難治性の肝・胆道疾患に関する調査研究」班. 患者さん・ご家族のための原発性胆汁性胆管炎(PBC)ガイドブック. 研究班2013事務局. 2013.4)The Intractable Hepatobiliary Disease Study Group supported by the Ministry of Health, Labour and Welfare of Japan Guidelines for the management of primary biliary cirrhosis. Hepatol Res. 2014; 44: 71-90.公開履歴初回2014年01月09日更新2016年03月29日

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ACC(米国心臓病学会)2016 注目のLate Breaking Clinical Trial

2016年4月2~4日、米国シカゴでACC2016(米国心臓病学会)が開催されます。今年のACCは、5つのLate Breaking Clinical Trialセッションと2つのFeatured Clinical Researchセッションで最新の研究が発表される予定です。ケアネットでは、聴講スケジュールの参考としていただくために、Late Breaking Trialでの注目演題のアンケートを実施いたしました。その結果をセッションごとに、北里大学医学部循環器内科学 教授 阿古潤哉氏のコメントとともにご紹介いたします。また、レストランをはじめ開催地シカゴのおすすめスポットについても、会員の方々から情報をお寄せいただきました。ぜひ、ご活用ください。開催地シカゴのおすすめスポットはこちらOpening Showcase and the Joint ACC/JACC Late-Breaking Clinical Trials<Session 401:4/2(土)8:00am~10:00am、Main Tent (North Hall B1)>Partner 2: Transcatheter Aortic Valve Replacement Compared with Surgery in Intermediate Risk Patients with Aortic Stenosis: Final Results from the Randomized Placement of Aortic Transcatheter Valves 2 StudyHOPE 3: Blood Pressure Lowering in People at Moderate RiskHOPE 3: Effects of Combined Lipid and BP-Lowering on Cardiovascular Disease in a Moderate Risk Global Primary Prevention PopulationQ.上記のうち、注目している演題は?(複数回答可、n=99)画像を拡大する阿古 潤哉氏のコメントこの日はTAVRに注目が集まっている様子。最初は手術リスクが高い人にのみ行われてきたTAVRが、中等度リスクの患者でどのような結果になるか、無作為化試験に注目が集まる。結果次第では現在の適応を大きく変えていく可能性も。Joint American College of Cardiology/Journal of the American Medical Association Late-Breaking Clinical Trials<Session 404:4/3(日) 8:00am~9:15am、Main Tent (North Hall B1)>ACCELERATE: Impact of the Cholesteryl Ester Transfer Protein Inhibitor Evacetrapib on Cardiovascular Events: Results of the ACCELERATE trialGAUSS-3: Comparison of PCSK9 Inhibitor Evolocumab Versus Ezetimibe in Statin-intolerant Patients: The Goal Achievement After Utilizing an Anti-PCSK9 Antibody in Statin Intolerant Subjects 3 (GAUSS-3) TrialFH Mutations: Low-density Lipoprotein Cholesterol, Familial Hypercholesterolemia Mutation Status and Risk for Coronary Artery DiseaseStepathlon: Reproducible Impact of a Global Mobile Health (mHealth) Mass-Participation Physical Activity Intervention on Step Count, Sitting Behavior and Weight: the Stepathlon Cardiovascular Health StudyLow Risk Chest Pain: Involving Patients with Low Risk Chest Pain in Discharge Decisions: A Multicenter TrialQ.上記のうち、注目している演題は?(複数回答可、n=99)画像を拡大する阿古 潤哉氏のコメントこの日はGAUSS試験に注目が集まっている。わが国でも承認されたPCSK9阻害薬が、スタチンを投与することができない患者に対してどの程度、有効性・安全性を示すか注目される。ACCELERATEはCETP阻害薬の試験。今までHDL-Cを上げる治療はなかなか有効性が示されていないが、evacetrapibでどのような結果となるか?Joint American College of Cardiology/TCT Late-Breaking Clinical Trials<Session 405:4/3(日)10:45am~noon、Main Tent (North Hall B1)>DANish (DEFERred stent): The Third DANish Study of Optimal Acute Treatment of Patients with ST-segment Elevation Myocardial Infarction: DEFERred stent implantation in connection with primary PCIDANish (iPOST conditioning): The Third DANish Study of Optimal Acute Treatment of Patients with ST-segment Elevation Myocardial Infarction: iPOSTconditioning during primary PCIEarly-BAMI: Effect Of Early Administration Of Intravenous Beta Blockers In Patients With ST-elevation Myocardial Infarction Before Primary Percutaneous Coronary Intervention. The Early-BAMI trial.Sapien 3: Sapien 3 Transcatheter Aortic Valve Replacement versus Surgery in Intermediate-Risk Patients with Severe Aortic Stenosis: A Propensity-Matched Comparison of One-Year OutcomesTAVR Volume/Outcome: Relationship Between Procedure Volume and Outcome for Transcatheter Aortic Valve Replacement in U.S. Clinical Practice: Insights from the STS/ACC TVT RegistryQ.上記のうち、注目している演題は?(複数回答可、n=99)画像を拡大する阿古 潤哉氏のコメントこの日はSTEMIに対する試験が注目されている様子である。TAVRの演題は数字上低めとなっている。しかし、この日もSapienはintermediate riskの患者のデータであり、TAVR治療の今後の広がりを考える上では注目されよう。Featured Clinical Research Session I<Session 406:4/3(日)12:30pm~1:45pm、ACC.16 Main Tent (Room S103cd)>MR: Papillary Muscle Approximation versus Undersizing Restrictive Annuloplasty Alone for Severe Ischemic Mitral Regurgitation: a Randomized Clinical TrialIsch MR: Two-year Outcomes of Surgical Treatment of Moderate Ischemic Mitral Regurgitation: A Randomized Clinical Trial from The Cardiothoracic Surgical Trials NetworkSurgery Ischemic HF: Ten-Year Outcome of Coronary Artery Bypass Graft Surgery Versus Medical Therapy in Patients with Ischemic Cardiomyopathy: Results of the Surgical Treatment for Ischemic Heart Failure Extension StudyCoreValve: 3-Year Results From the CoreValve US Pivotal High Risk Randomized Trial Comparing Self-Expanding Transcatheter and Surgical Aortic ValvesValve Deterioration: Incidence and Outcomes of Valve Hemodynamic Deterioration in Transcatheter Aortic Valve Replacement in U.S. Clinical Practice: A Report from the Society of Thoracic Surgery / American College of Cardiology Transcatheter Valve Therapy RegistryQ.上記のうち、注目している演題は?(複数回答可、n=99)画像を拡大する阿古 潤哉氏のコメントこの日はischemic MRに対する試験と、虚血性心筋症に対するバイパス術と内科的治療を比較した臨床試験が注目を集めている。いずれも、clinical decision makingの助けとなる臨床試験が不足している領域であり、今後のガイドラインにも影響を与えそうな試験内容である。Joint American College of Cardiology/New England Journal of Medicine Late-Breaking Clinical Trials<Session 410:4/4(月)8:00am~9:15am、Main Tent (North Hall B1)>Resuscitation Outcomes: Antiarrhythmic Drugs for Shock-Refractory Out-of-Hospital Cardiac Arrest: The Resuscitation Outcomes Consortium Amiodarone, Lidocaine or Placebo StudyFIRE AND ICE: Largest Randomized Trial Demonstrates an Effective Ablation of Atrial Fibrillation: the FIRE AND ICE TrialRate v Rhythm: A Randomized Trial of Rate Control Versus Rhythm Control for Atrial Fibrillation after Cardiac SurgeryLATITUDE-TIMI 60: The Losmapimod To Inhibit P38 MAP Kinase As A Therapeutic Target And Modify Outcomes After An Acute Coronary Syndrome (LATITUDE-TIMI 60) Trial: Primary Results Of Part ACARIN: CMX-2043 for Prevention of Contrast Induced Acute Kidney Injury: The Primary Results of the CARIN TrialQ.上記のうち、注目している演題は?(複数回答可、n=99)画像を拡大する阿古 潤哉氏のコメントこの日はresuscitation、ablation、rate control or rhythm controlに注目が集まっているが、個人的にはLATITUDE試験の結果も興味深いのではないかと考える。Late-Breaking Clinical Trials<Session 412:4/4(月)10:45am~noon、Main Tent (North Hall B1)>ATMOSPHERE: Direct Renin-inhibition With Aliskiren Alone And In Combination With Enalapril, Compared With Enalapril, In Heart Failure (the ATMOSPHERE Trial)TRUE-AHF: Effect of Ularitide on Short- and Long-Term Clinical Course of Patients with Acutely Decompensated Heart Failure: Primary Results of the TRUE-AHF TrialIxCell-DCM: The Final Results of the IxCell-DCM Trial: Transendocardial Injection of Ixmyelocel-T in Patients with Ischemic Dilated CardiomyopathyINOVATE-HF: The Effect of Vagal Nerve Stimulation in Heart Failure: Primary Results of the INcrease Of VAgal TonE in chronic Heart Failure (INOVATE-HF) TrialIMPEDANCE-HF: Non-invasive Lung IMPEDANCE-Guided Preemptive Treatment in Chronic Heart Failure Patients: a Randomized Controlled Trial (IMPEDANCE-HF trial)Low Risk Chest Pain: Involving Patients with Low Risk Chest Pain in Discharge Decisions: A Multicenter TrialQ.上記のうち、注目している演題は?(複数回答可、n=99)画像を拡大する阿古 潤哉氏のコメントこの日は心不全関連の演題が多く出されている。アリスキレンの演題の注目度が高いようだが、vagal stimulationなどの新たな試みも出てくるということで、心不全に関する新たな知見が期待される。Featured Clinical Research Session II<Session 416:4/4(月)2:00pm~3:30pm、Main Tent (Grand Ballroom S100bc)>PROMISE (Sex Differences): Sex Differences in Functional Stress Test vs CT Angiography Results and Prognosis in Symptomatic Patients with Suspected Coronary Artery Disease: Insights from the PROMISE TrialSTOP-CHAGAS: Short and Long Term Effects of Benznidazole, Posaconazole, Monotherapy and their Combination in Eliminating Parasites in Asymptomatic T. cruzi Carriers: The Study of Oral Posaconazole in the Treatment of Asymptomatic Chagas Disease (STOP-CHAGAS Trial)STAMPEDE: Bariatric Surgery vs. Intensive Medical Therapy for Long-term Glycemic Control and Complications of Diabetes: Final 5-Year STAMPEDE Trial ResultsVindicate: Vitamin D Supplementation Improves Cardiac Function In Patients With Chronic Heart Failure - Preliminary Results Of The Vitamin D Treating Chronic Heart Failure (vindicate) StudyRxEACH Trial: The Effect of Community Pharmacist Prescribing and Care on Cardiovascular Risk Reduction: The RxEACH Multicenter Randomized Controlled TrialQ.上記のうち、注目している演題は?(複数回答可、n=99)画像を拡大する阿古 潤哉氏のコメントこのセッションにはさまざまなものが混じって入れられている。わが国にも関連があるのはsex differenceの演題かもしれないが、世界的にみるとCHAGAS病、肥満に対するbariatric surgeryなども重要な位置を占める。

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治療抵抗性うつ病は本当に治療抵抗性なのかを検証

 うつ病患者は、適切な第1選択の抗うつ薬治療を受けていなかった場合、誤って治療抵抗性うつ病として分類されることがある。治療レジメンへの第2選択薬の追加は、患者と医療システムの両方における負担を増加させる。米国・D'Youville CollegeのAmany K Hassan氏らは、うつ病患者が第2選択治療を開始する前に、適切な抗うつ薬治療を受けていたかを検討し、単極性 vs.双極性患者における第2選択治療の種類とうつ病重症度との関連も調査した。International journal of clinical pharmacy誌オンライン版2016年3月2日号の報告。治療抵抗性として分類され第2選択治療を受けたうつ病患者を分析 2006~11年のオクラホマ州医療申請データを使用した。対象は、2種類以上の処方を受けた後、第2選択治療を受けた成人うつ病患者。対象患者は第2選択治療の種類により、非定型抗精神病薬群、他の増強薬(リチウム、buspirone、トリヨードサイロニン)治療群、抗うつ薬追加群の3群に分類された。適格とした試験は、米国精神医学会のガイドラインの定義に準じたものとした。治療の種類に関連する要因は、うつ病のタイプ(単極性 vs.双極性)で層別化した多項ロジスティック回帰分析を用い検討した。主要評価項目変数は、適切な抗うつ薬治療(投与期間、アドヒアランス、投与量の妥当性、個々の抗うつ薬治療の数など)が受けられたかを調べるために使用した。 主な結果は以下のとおり。・合計3,910例の患者による分析を行った。・ほとんどの患者で、推奨用量の抗うつ薬が処方されていた。・28%の患者は、抗うつ薬治療期間が4週未満であった。また、第2選択治療を行う前に、2種類以上の抗うつ薬治療レジメンが試みられた患者は60%のみであった。・対象者の約50%は、全群を通じてアドヒアランス不良であった。・重症度と適切な抗うつ薬治療の受療は、第2選択治療の種類を予測するものではなかった。 著者らは「多くの患者は、第2選択薬治療を開始する前に、十分な抗うつ薬治療を受けていなかった。また、第2選択治療の種類は、うつ病の重症度との関連が認められなかった」とし、「第2選択薬治療を追加する前に、第1選択薬の推奨投与量や投与期間を確認する必要がある」としている。■関連記事治療抵抗性うつ病に対する非定型抗精神病薬の比較治療抵抗性うつ病に対し抗精神病薬をどう使う治療抵抗性うつ病患者が望む、次の治療選択はどれ

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高リスク処方回避の具体的方策が必要(解説:木村 健二郎 氏)-499

 プライマリケア医のみならず、すべての医師の処方から、予防可能な薬剤関連の合併症を可能な限り減らすことは、医療人に全幅の信頼を寄せて服薬される患者さんに対する、われわれの義務である。 私は、健康被害救済制度における副作用被害判定に関わっているが、医療の現場では、かなり際どいことが行われている現実に驚かされることがしばしばある。 ある薬剤が腎障害があるにもかかわらず、投与され続けて末期腎不全になった症例を最近経験した。これは、添付文書情報を得ていれば防げたはずである。また、「慢性腎臓病ならRA系阻害薬」と一時喧伝されたため、慢性腎臓病の高齢者に大量のRA系阻害薬が処方され急性腎障害を発症したという事例もある。これは、腎臓学会のガイドラインの情報を得ていれば防げたはずである。 このように、処方する医師にとって、薬剤に関する情報は必須であるにもかかわらず、十分にその情報が浸透していないという現実がある。本研究は、専門家による教育、情報科学、患者の病歴の見直しなどの介入を48週行った結果、高リスク処方が減少することを示した点で意義がある。日本においても、高リスク処方回避のための、全般的かつ具体的な方策を検討すべきである。関連コメント診療所における高リスク処方を減らすための方策が立証された(解説:折笠 秀樹 氏)ステップウェッジ法による危険な処方を減らす多角的介入の効果測定(解説:名郷 直樹 氏)「処方箋を書く」医師の行為は「将棋」か「チェス」か?(解説:後藤 信哉 氏)診療の現場における安全な処方に必要なものは何か…(解説:吉岡 成人 氏)

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自己免疫性膵炎〔AIP : autoimmune pancreatitis〕

1 疾患概要■ 概念・定義自己免疫性膵炎(autoimmune pancreatitis:AIP)は、わが国から世界に発信された新しい疾患概念である。わが国におけるAIPは、病理組織学的に膵臓に多数のIgG4陽性形質細胞とリンパ球の浸潤と線維化および閉塞性静脈炎を特徴とする(lymphoplasmacytic sclerosing pancreatitis:LPSP)。高齢の男性に好発し、初発症状は黄疸が多く、急性膵炎を呈する例は少ない。また、硬化性胆管炎、硬化性唾液腺炎などの種々の硬化性の膵外病変をしばしば合併するが、その組織像は膵臓と同様にIgG4が関与する炎症性硬化性変化であることより、AIPはIgG4が関連する全身性疾患(IgG4関連疾患)の膵病変であると考えられている。一方、欧米ではIgG4関連の膵炎以外にも、臨床症状や膵画像所見は類似するものの、血液免疫学的異常所見に乏しく、病理組織学的に好中球病変による膵管上皮破壊像(granulocytic epithelial lesion:GEL)を特徴とするidiopathic duct-centric chronic pancreatitis(IDCP)がAIPとして報告されている。この疾患では、IgG4の関与はほとんどなく、発症年齢が若く、性差もなく、しばしば急性膵炎や炎症性腸疾患を合併する。近年、IgG4関連の膵炎(LPSP)をAIP1型、好中球病変の膵炎(IDCP)をAIP2型と分類するようになった。本稿では、主に1型について概説する。■ 疫学わが国で2016年に行われた全国調査では、AIPの年間推計受療者数は1万3,436人、有病率10.1人/10万人、新規発症者3.1人/10万人であり、2011年の調査での年間推計受療者数5,745人より大きく増加している。わが国では、症例のほとんどが1型であり、2型はまれである。■ 病因AIPの病因は不明であるが、IgG4関連疾患である1型では、免疫遺伝学的背景に自然免疫系、Th2にシフトした獲得免疫系、制御性T細胞などの異常が病態形成に関与する可能性が報告されている。■ 症状AIPは、高齢の男性に好発する。閉塞性黄疸で発症することが多く、黄疸は動揺性の例がある。強度の腹痛や背部痛などの膵炎症状を呈する例は少ない。無症状で、糖尿病の発症や増悪にて発見されることもある。約半数で糖尿病の合併を認め、そのほとんどは2型糖尿病である。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)自己免疫性膵炎臨床診断基準2018(表)を用いて診断する。表 自己免疫性膵炎臨床診断基準2018【診断基準】A.診断項目I.膵腫大:a.びまん性腫大(diffuse)b.限局性腫大(segmental/focal)II.主膵管の不整狭細像:a.ERPb.MRCPIII.血清学的所見高IgG4血症(≧135mg/dL)IV.病理所見a.以下の(1)~(4)の所見のうち、3つ以上を認める。b.以下の(1)~(4)の所見のうち、2つを認める。c.(5)を認める。(1)高度のリンパ球、形質細胞の浸潤と、線維化(2)強拡1視野当たり10個を超えるIgG4陽性形質細胞浸潤(3)花筵状線維化(storiform fibrosis)(4)閉塞性静脈炎(obliterative phlebitis)(5)EUS-FNAで腫瘍細胞を認めない.V.膵外病変:硬化性胆管炎、硬化性涙腺炎・唾液腺炎、後腹膜線維症、腎病変a.臨床的病変b.病理学的病変VI.ステロイド治療の効果B.診断I.確診(1)びまん型 Ia+<III/IVb/V(a/b)>(2)限局型 Ib+IIa+<III/IVb/V(a/b)>の2つ以上またはIb+IIa+<III/IVb/V(a/b)>+VIまたはIb+IIb+<III/V(a/b)>+IVb+VI(3)病理組織学的確診 IVaII.準確診限局型:Ib+IIa+<III/IVb/V(a/b)>またはIb+IIb+<III/V(a/b)>+IVcまたはIb+<III/IVb/V(a/b)>+VIIII.疑診(わが国では極めてまれな2型の可能性もある)びまん型:Ia+II(a/b)+VI限局型:Ib+II(a/b)+VI〔+;かつ、/;または〕(日本膵臓学会・厚生労働省IgG4関連疾患の診断基準並びに治療指針を目指す研究班. 膵臓. 2020;33:906-909.より引用、一部改変)本症の診断においては、膵がんや胆管がんなどの腫瘍性の病変を否定することがきわめて重要である。診断に際しては、可能な限りのEUS-FNAを含めた内視鏡的な病理組織学的アプローチ(膵液細胞診、膵管・胆管ブラッシング細胞診、胆汁細胞診など)を施行すべきである。診断基準では、膵腫大、主膵管の不整狭細像、高IgG4血症、病理所見、膵外病変とステロイド治療の効果の組み合わせにより診断する。びまん性の膵腫大を呈する典型例では、高IgG4血症、病理所見か膵外病変のどれか1つを満たせばAIPと診断できる。一方、限局性膵腫大例では、膵がんとの鑑別がしばしば困難であり、従来の診断基準では内視鏡的膵管造影(ERP)による主膵管の膵管狭細像が必要であった。しかし、昨今診断的ERPがあまり行われなくなってきたことなどを考慮して、MR胆管膵管撮影(MRCP)所見、EUS-FNAによるがんの否定所見とステロイド治療の効果を組み込むことにより、ERPなしで限局性膵腫大例の診断ができるようになった。■ 膵腫大“ソーセージ様”を呈する膵のびまん性(diffuse)腫大は、本症に特異性の高い所見である。しかし、限局性(segmental/focal)腫大では膵がんとの鑑別が問題となる。腹部超音波検査では、低エコーの膵腫大部に高エコースポットが散在することが多い(図1)。腹部ダイナミックCTでは、遅延性増強パターンと被膜様構造(capsule-like rim)が特徴的である(図2)。画像を拡大する画像を拡大する■ 主膵管の不整狭細像ERPによる主膵管の不整狭細像(図3、4)は本症に特異的である。狭細像とは閉塞像や狭窄像と異なり、ある程度広い範囲に及んで、膵管径が通常より細くかつ不整を伴っている像を意味する。典型例では狭細像が全膵管長の3分の1以上を占めるが、限局性の病変でも、狭細部より上流側の主膵管には著しい拡張を認めないことが多い。短い膵管狭細像の場合には膵がんとの鑑別がとくに困難である。主膵管の狭細部からの分枝の派生や非連続性の複数の主膵管狭細像(skip lesions)は、膵がんとの鑑別に有用である。MRCPは、主膵管の狭細部からの分枝膵管の派生の評価は困難であることが多いが、主膵管がある程度の広い範囲にわたり検出できなかったり狭細像を呈する、これらの病変がスキップして認められる、また、狭細部上流の主膵管の拡張が軽度である所見は、診断の根拠になる。画像を拡大する画像を拡大する■ 血清学的所見AIPでは、血中IgG4値の上昇(135mg/dL以上)を高率に認め、その診断的価値は高い。しかし、IgG4高値は他疾患(アトピー性皮膚炎、天疱瘡、喘息など)や一部の膵臓がんや胆管がんでも認められるので、この所見のみからAIPと診断することはできない。今回の診断基準には含まれていないが、高γグロブリン血症、高IgG血症(1,800mg/dL以上)、自己抗体(抗核抗体、リウマチ因子)を認めることが多い。■ 膵臓の病理所見本疾患はLPSPと呼ばれる特徴的な病理像を示す。高度のリンパ球、形質細胞の浸潤と、線維化を認める(図5)。形質細胞は、IgG4免疫染色で陽性を示す(図6)。線維化は、紡錘形細胞の増生からなり、花筵状(storiform fibrosis)と表現される特徴的な錯綜配列を示し、膵辺縁および周囲脂肪組織に出現しやすい。小葉間、膵周囲脂肪組織に存在する静脈では、リンパ球、形質細胞の浸潤と線維化よりなる病変が静脈内に進展して、閉塞性静脈炎(obliterative phlebitis)が生じる。EUS-FNAで確定診断可能な検体量を採取できることは少ないが、腫瘍細胞を認めないことよりがんを否定できる。画像を拡大する画像を拡大する■ 膵外病変(other organ involvement:OOI)AIPでは、種々のほかのIgG4関連疾患をしばしば合併する。その中で、膵外胆管の硬化性胆管炎、硬化性涙腺炎・唾液腺炎(ミクリッツ病)、後腹膜線維症、腎病変が診断基準に取り上げられている。硬化性胆管炎は、AIPに合併する頻度が最も高い膵外病変である。下部胆管に狭窄を認めることが多く(図4)、膵がんまたは下部胆管がんとの鑑別が必要となる。肝内・肝門部胆管狭窄は、原発性硬化性胆管炎(primary sclerosing cholangitis:PSC)や胆管がんとの鑑別を要する。AIPの診断に有用なOOIとしては、膵外胆管の硬化性胆管炎のみが取り上げられている。AIPに合併する涙腺炎・唾液腺炎は、シェーグレン症候群とは異なって、涙腺分泌機能低下に起因する乾燥性角結膜炎症状や口腔乾燥症状は軽度のことが多い。顎下腺が多く、涙腺・唾液腺の腫脹の多くは左右対称性である。後腹膜線維症は、後腹膜を中心とする線維性結合織のびまん性増殖と炎症により、腹部CT/MRI所見において腹部大動脈周囲の軟部影や腫瘤を呈する。尿管閉塞を来し、水腎症を来す例もある。腎病変としては、造影CTで腎実質の多発性造影不良域、単発性腎腫瘤、腎盂壁の肥厚病変などを認める。■ ステロイド治療の効果ステロイド治療の効果判定は、画像で評価可能な病変が対象であり、臨床症状や血液所見は対象としない。ステロイド開始2週間後に効果不十分の場合には再精査が必要である。できる限り病理組織を採取する努力をすべきであり、ステロイドによる安易な診断的治療は厳に慎むべきである。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)経口ステロイド治療が、AIPの標準治療法である。経口プレドニゾロン0.6mg/kg/日の初期投与量を2~4週間投与し、その後画像検査や血液検査所見を参考に約1~2週間の間隔で5mgずつ漸減し、3~6ヵ月ぐらいで維持量まで減らす。通常、治療開始2週間ほどで改善傾向が認められるので、治療への反応が悪い例では膵臓がんを疑い、再検査を行う必要がある。AIPは20~40%に再燃を起こすので、再燃予防にプレドニゾロン5mg/日程度の維持療法を1~3年行うことが多い(図7)。近年、欧米では、再燃例に対して免疫調整薬やリツキシマブの投与が行われ、良好な成績が報告されている。図7 AIPの標準的ステロイド療法画像を拡大する4 今後の展望AIPの診断においては、膵臓がんとの鑑別が重要であるが、鑑別困難な例がいまだ存在する。病因の解明と確実性のより高い血清学的マーカーの開発が望まれる。EUS-FNAは、悪性腫瘍の否定には有用であるが、採取検体の量が少なく病理組織学的にAIPと診断できない例があり、今後採取方法のさらなる改良が求められる。AIPでは、ステロイド治療後に再燃する例が多く、再燃予防を含めた標準治療法の確立が必要である。5 主たる診療科消化器内科、内分泌内科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報自己免疫性膵炎診療ガイドライン 2020(日本膵臓学会ホームページ)(医療従事者向けのまとまった情報)自己免疫性膵炎臨床診断基準[2018年](日本膵臓学会ホームページ)(医療従事者向けのまとまった情報)1)日本膵臓学会・厚生労働科学研究費補助金(難治性疾患等政策研究事業)「IgG4関連疾患の診断基準並びに治療指針の確立を目指す研究」班.自己免疫性膵炎診断基準 2018. 膵臓. 2018;33:902-913.2)日本膵臓学会・厚生労働省IgG4関連疾患の診断基準並びに治療指針を目指す研究班.自己免疫性膵炎診療ガイドライン2020. 膵臓. 2020;35:465-550.公開履歴初回2014年03月06日更新2016年03月22日更新2024年07月25日

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アレルギー予防、生後3ヵ月からの食物摂取の効果は?/NEJM

 生後3ヵ月という早期からアレルギー性食物の摂取を始めても、食物アレルギー発症防止に関する有意な効果は認められなかったことが、英国・ロンドン大学のMichael R. Perkin氏らが行った1,303例を対象とした無作為化試験の結果、示された。世界保健機関(WHO)が生後6ヵ月までの完全母乳哺育を推奨している一方で、アレルギー性食物摂取の待機的開始を推奨していた欧米の2つのガイドラインはすでに撤回されている。これまでに観察研究や無作為化試験で、早期からアレルギー性食物を与えることの食物アレルギー発症の抑制効果が報告されていたが、開始年齢については明らかになっていなかった。研究グループは、生後3ヵ月での開始の効果について検証した。NEJM誌オンライン版2016年3月4日号掲載の報告より。生後3ヵ月で6種のアレルギー性食物摂取を開始、食物アレルギー発症率低下を評価 試験は、英国セント・トーマス病院単施設で2009年11月2日~12年7月30日に、イングランドとウェールズの一般集団から、生後3ヵ月間、母乳のみで育てられた乳児1,303例を集めて行われた。 被験者を、6種のアレルギー性食物(ピーナッツ、鶏卵、牛乳、ゴマ、白身魚、小麦)の早期摂取開始群(652例)、または現在英国で推奨されている生後約6ヵ月間は完全母乳哺育を行う(標準摂取開始)群(651例)に無作為に割り付けた。 主要アウトカムは、1~3歳で発症した6種のうち1種以上の食物アレルギーとした。標準摂取開始(6ヵ月)群と有意差みられず 結果、intention-to-treat解析(追跡データが得られ解析できた全被験者を包含)では、6種のうち1種以上の食物アレルギーを発症したのは、標準摂取開始群7.1%(42/595例)に対し、早期摂取開始群は5.6%(32/567例)であり、早期開始による有意な抑制効果はみられなかった(相対リスク[RR]:0.80、95%信頼区間[CI]:0.51~1.25、p=0.32)。 per-protocol解析は、割り付け介入の十分順守(両群とも母乳は月齢5ヵ月以上与え、標準摂取開始群は月齢5ヵ月以前にピーナッツ、鶏卵、ゴマ、白身魚の消費なし、早期摂取開始群は、月齢3~6ヵ月に5種以上を5週間以上摂取など)が確認された全被験者を包含して行った。その結果では、全食物アレルギー発症率は、標準摂取開始群(7.3%、38/524例)よりも早期摂取開始群(2.4%、5/208例)で有意な低下が認められた(RR:0.33、95%CI:0.13~0.83、p=0.01)。種別では、ピーナッツアレルギーが早期摂取開始群は0%、標準摂取開始群2.5%(p=0.003)、卵アレルギーは1.4% vs.5.5%(p=0.009)で有意差がみられた。牛乳、ゴマ、白身魚、小麦については有意な効果がみられなかった。 ピーナッツまたは卵の白身の2g/週摂取が、非摂取と比較して、有意なピーナッツアレルギー、卵アレルギーの発症の抑制と関連していた。 なお、6種すべての食物の早期摂取開始について、安全性に問題はなかったが、早期摂取の達成に困難性がみられた。 これらの結果を踏まえて著者は、「今回の試験でintention-to-treat解析の結果では、アレルギー性食物の早期摂取開始の有効性は示されなかった」と述べるとともに、「さらなる解析の結果、標準母乳哺育で複数のアレルギー性食物の早期摂取を開始するという食物アレルギー予防策は、アドヒアランスや用量によって可能であることが示唆された」とまとめている。

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また新たに創薬のターゲットにされる脂質異常症関連遺伝子(解説:興梠 貴英 氏)-495

 2013年11月に発表されたAHA(米国心臓協会)の脂質異常症治療に関するガイドラインでは、動脈硬化性心血管疾患の発症リスクを有意に減少させるのはスタチンのみである、と結論付けている。その後、IMPROVE-IT試験でエゼチミブのスタチンへの上乗せ効果が認められたこともあり、臨床現場でも脂質異常症治療として、まずLDL-C低下が治療の第1選択肢となっている。しかし、LDL-Cを十分に下げても必ずしもイベント発症を完全に予防できるわけではなく、残存リスク低減のための新しい脂質異常症治療がいまだに求められており、たとえばAPOC3やLPAをターゲットにしたアンチセンス療法の治験が進みつつある。 Dewey氏らは、LPLを阻害することで中性脂肪濃度を上昇させる作用があるANGPTL4に機能喪失型の変異があるときにTG濃度が下がることを、4万2,930人を対象にエクソームシーケンスを行うことで調べ、さらに心血管系リスクも低下することを示した。また、この研究ではANGPTL4を低下させる抗体医薬をマウスおよびサルに対して投与し、TG濃度が下がることを確認している。 一方で、Angptl4のノックアウトマウスではTG濃度は下がるものの、高脂肪食を与えた場合には、小腸由来のリンパ管や腸間膜リンパ節に乳糜腹水を伴う脂肪肉芽腫様の炎症を起こし、寿命が短くなることが報告されており1)、本研究においても抗体医薬投与を受け、高脂肪食を与えられたマウスにおいて、脂肪を蓄積したツートン型巨細胞および腸管リンパ節の腫脹を認めている。 さらに、サルでもメスにおいてのみではあるが、腸管リンパ節に脂肪の蓄積を認めている。ANGPTL4に機能喪失型の変異を有する被験者のカルテ調査をした限りでは、腹部その他のリンパ関連疾患は見つからなかった、ということであるが、今後薬剤の開発が進んでいく中では、同様の副作用が出現しないか注目する必要があるだろう。 また、ターゲット遺伝子や蛋白の発現量を下げるための手法として、アンチセンスや抗体医薬は比較的開発しやすいのかもしれないが、脂質異常症があったからといって、ただちに生命の危機につながるわけではなく、逆に、薬物によって減らせるリスクがさほど大きくないことを考えた場合、高価になりがちな治療法が現実に用いられるようになるのかはやや疑問である。LPAのようにそれ自身に酵素活性などなく、遺伝子発現を抑えるしかない場合はともかく、それ以外の場合は将来的には(発見されれば、という条件付きではあるが)低分子薬が本命となるのではないか、と考えられる。

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尿素サイクル異常症〔UCD : urea cycle disorders〕

1 疾患概要■ 概念・定義尿素サイクル異常症(urea cycle disorders:UCD)とは、尿素サイクル(尿素合成経路)を構成する代謝酵素に先天的な異常があり高アンモニア血症を来す疾患を指す。N-アセチルグルタミン酸合成酵素欠損症、カルバミルリン酸合成酵素欠損症、オルニチントランスカルバミラーゼ欠損症、シトルリン血症I型、アルギニノコハク酸尿症、高アルギニン血症(アルギナーゼ欠損症)、高アンモニア高オルニチン高ホモシトルリン尿(HHH)症候群、リジン尿性蛋白不耐症、シトリン異常症、オルニチンアミノ基転移酵素欠損症(脳回転状脈絡膜網膜萎縮症)が含まれる。■ 疫学UCDは、希少難病である先天代謝異常症のなかで最も頻度が高い疾患のひとつであり、尿素サイクル異常症に属する各疾患合わせて、約8,000人に1人の発生頻度と推定されている。家族解析やスクリーニング検査などで発見された「発症前型」、新生児早期に激しい高アンモニア血症を呈する「新生児期発症型」、乳児期以降に神経症状が現れ、徐々に、もしくは感染や飢餓などを契機に、高アンモニア血症と症状の悪化がみられる「遅発型」に分類される。■ 病因尿素サイクルは、5つの触媒酵素(CPSI、OTC、ASS、ASL、ARG)、補酵素(NAGS)、そして少なくとも2つの輸送タンパクから構成される(図1)。UCDはこの尿素サイクルを構成する各酵素の欠損もしくは活性低下により引き起こされる。CPSI:カルバミルリン酸合成酵素IOTC:オルニチントランスカルバミラーゼASS:アルギニノコハク酸合成酵素ASL:アルギニノコハク酸分解酵素ARG:アルギナーゼ補助因子NAGS:N-アセチルグルタミン酸合成酵素ORNT1:オルニチンアミノ基転移酵素CPSI欠損症・ASS欠損症・ASL欠損症・NAGS欠損症・ARG欠損症は、常染色体劣性遺伝の形式をとる。OTC欠損症はX連鎖遺伝の形式をとる。画像を拡大する■ 症状疾患の重症度は、サイクル内における欠損した酵素の種類、および残存酵素活性の程度に依存する。一般的には、酵素活性がゼロに近づくほど、かつ尿素サイクルの上流に位置する酵素ほど症状が強く、早期に発症すると考えられている。新生児期発症型では、出生直後は明らかな症状を示さず、典型的には異化が進む新生児早期に授乳量が増えて、タンパク負荷がかかることで高アンモニア血症が助長されることで発症する。典型的な症状は、活力低下、傾眠傾向、嘔気、嘔吐、体温低下を示し、適切に治療が開始されない場合は、痙攣、意識障害、昏睡を来す。神経症状は、高アンモニア血症による神経障害および脳浮腫の結果として発症し、神経学的後遺症をいかに予防するかが重要な課題となっている。遅発型は、酵素活性がある程度残存している症例である。生涯において、感染症や激しい運動などの異化ストレスによって高アンモニア血症を繰り返す。高アンモニア血症の程度が軽い場合は、繰り返す嘔吐や異常行動などを契機に発見されることもある。睡眠障害や妄想、幻覚症状や精神障害も起こりうる。障害性脳波(徐波)パターンも、高アンモニア血症においてみられることがあり、MRIによりこの疾患に共通の脳萎縮が確認されることもある。■ 予後新生児透析技術の進歩および小児肝臓移植技術の進歩により、UCDの救命率・生存率共に改善している(図2)。それに伴い長期的な合併症(神経学的合併症)の予防および改善が重要な課題となっている。画像を拡大する2 診断 (検査・鑑別診断も含む)UCDの診断は、臨床的、生化学的、分子遺伝学的検査に基づいて行われる(図3)。血中アンモニア濃度が新生児は120μmol/L(200μg/dL)、乳児期以降は60μmol/L(100 μg/dL)を超え、アニオンギャップおよび血清グルコース濃度が正常値である場合、UCDの存在を強く疑う。血漿アミノ酸定量分析が尿素サイクル異常の鑑別診断に用いられる。血漿アルギニン濃度はアルギナーゼ欠損症を除くすべてのUCDで減少し、一方、アルギナーゼ欠損症においては5~7倍の上昇を示す。血漿シトルリン濃度は、シトルリンが尿素サイクル上流部の酵素(OTC・CPSI)反応による生成物であり、また下流部の酵素(ASS・ASL・ARG)反応に対する基質であることから、上流の尿素サイクル異常と下流の尿素サイクル異常との鑑別に用いられる。尿中オロト酸測定は、CPSI欠損症・NAGS欠損症とOTC欠損症との判別に用いられる。肝生検が行われる場合もある。日本国内の尿素サイクル関連酵素の遺伝子解析は、研究レベルで実施可能である。画像を拡大する3 治療 (治験中・研究中のものも含む)確定診断後の治療は、それぞれのUCDの治療指針に従い治療を行う。各専門書もしくはガイドライン(EUおよび米国におけるガイドライン)が、インターネットで利用できる。日本国内では、先天代謝異常学会を中心として尿素サイクル異常症の診療ガイドラインが作られて閲覧可能である。専門医との連携は不可欠であるが、急性発作時には搬送困難な場合も多く、状態が安定しないうちには患児を移動せずに、専門医と連絡を取り合って、安定するまで拠点となる病院で治療に当たることが望ましい場合もある。■急性期の治療は、以下のものが主柱となる。1)血漿アンモニア濃度の迅速な降下を目的にした透析療法血漿アンモニア濃度を早急に下降させる最善策は透析であり、血流量を速くするほどクリアランスはより早くに改善される。透析方法は罹患者の病状と利用可能な機材による。具体的には、血液濾過(動脈‐静脈、静脈‐静脈のどちらも)、血液透析、腹膜透析、連続ドレナージ腹膜透析が挙げられる。新生児に対しては、持続的血液濾過透析(CHDF)が用いられることが多い。2)余剰窒素を迂回代謝経路により排出させる薬物治療法アンモニア生成の阻害は、L-アルギニン塩酸塩と窒素除去剤(フェニル酪酸ナトリウムと安息香酸ナトリウム)の静脈内投与により行われる。負荷投与後に維持投与を行い、初期は静脈内投与により行い、病状の安定に伴い経口投与へ移行する(投与量は各専門書を参照のこと)。フェニル酪酸ナトリウム(商品名:ブフェニール)は、2013年1月に処方可能となった。投与量は添付文書よりも少ない量から開始することが多い(上記、国内ガイドライン参照)。3)食物中に含まれる余剰窒素の除去特殊ミルクが、恩賜財団母子愛育会の特殊ミルク事務局から無償提供されている。申請が必要である。4)急性期の患者に対してカロリーは炭水化物と脂質を用いる。10%以上のグルコースと脂肪乳剤の静脈内投与、もしくはタンパク質を含まないタンパク質除去ミルク(S-23ミルク:特殊ミルク事務局より提供)の経鼻経管投与を行う。5)罹患者において、非経口投与から経腸的投与への移行はできるだけ早期に行うほうがよいと考えられている。6)24~48時間を超える完全タンパク質除去管理は、必須アミノ酸の不足により異化を誘導するため推奨されていない。7)神経学的障害のリスクの軽減循環血漿量の維持、血圧の維持は必須である。ただし、水分の過剰投与は脳浮腫を助長するため昇圧薬を適切に併用する。心昇圧薬は、投与期間と神経学的症状の軽減度には相関が認められている。※その他マンニトールは、尿素サイクル異常症に伴う高アンモニア血症に関連した脳浮腫の治療には効果がないと考えられている。■慢性期の管理1)初期症状の防止異化作用を防ぐことは、高アンモニア血症の再発を防ぐ重要な管理ポイントとなる。タンパク質を制限した特殊ミルク治療が行われる。必要ならば胃瘻造設術を行い経鼻胃チューブにより食物を与える。2)二次感染の防止家庭では呼吸器感染症と消化器感染症のリスクをできるだけ下げる努力を行う。よって通常の年齢でのワクチン接種は必須である。マルチビタミンとフッ化物の補給解熱薬の適正使用(アセトアミノフェンに比べ、イブプロフェンが望ましいとの報告もある)大きな骨折後や外傷による体内での過度の出血、出産、ステロイド投与を契機に高アンモニア血症が誘発された報告があり、注意が必要である。3)定期診察UCDの治療経験がある代謝専門医によるフォローが必須である。血液透析ならびに肝臓移植のバックアップが可能な施設での管理が望ましい。罹患者年齢と症状の程度によって、来院回数と調査の頻度を決定する。4)回避すべき物質と環境バルプロ酸(同:デパケンほか)長期にわたる空腹や飢餓ステロイドの静注タンパク質やアミノ酸の大量摂取5)研究中の治療法肝臓細胞移植治療が米国とヨーロッパで現在臨床試験中である。:国内では成育医療センターが、わが国第1例目の肝臓細胞移植を実施した。肝幹細胞移植治療がベルギーおよび米国で臨床試験中である。:国内導入が検討されている。6)肝臓移植肝臓移植の適応疾患が含まれており、生命予後を改善している(図4)。画像を拡大する4 今後の展望UCDに関しては、長い間アルギニン(商品名:アルギUほか)以外の治療薬は保険適用外であり自費購入により治療が行われてきた。2013年に入り、新たにフェニル酪酸ナトリウム(同:ブフェニール)が使用可能となり、治療の幅が広がった。また、海外では適用があり、国内での適用が得られていないそのほかの薬剤についても、日本先天代謝異常学会が中心となり、早期保険適用のための働きかけを行っている。このような薬物治療により、アンモニアの是正および高アンモニア血症の治療成績はある程度改善するものと考えられる。さらに、小児への肝臓移植技術は世界的にも高いレベルに達しており、長期合併症を軽減した手技・免疫抑制薬の開発、管理方法の改善が行われている。また、肝臓移植と内科治療の中間の治療として、細胞移植治療が海外で臨床試験中である。細胞移植治療を内科治療に併用することで、コントロールの改善が報告されている。5 主たる診療科小児科(代謝科)各地域に専門家がいる病院がある。日本先天代謝異常学会ホームページよりお問い合わせいただきたい。学会事務局のメールアドレスは、JSIMD@kumamoto-u.ac.jpとなる。※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報日本先天代謝異常学会(医療従事者向けのまとまった情報)尿素サイクル異常症の診療ガイドライン(医療従事者向けのまとまった情報)患者会情報全国尿素サイクル異常症患者と家族の会日本先天代謝異常学会 先天代謝異常症患者登録制度『JaSMIn & MC-Bank』公開履歴初回2013年12月05日更新2016年03月15日

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妊婦の体重増加に関する国際基準が完成/BMJ

 英国・オックスフォード大学のLeila Cheikh Ismail氏らは、INTERGROWTH-21stプロジェクト「胎児発育追跡研究(Fetal Growth Longitudinal Study:FGLS)」のデータを用い、妊娠中の体重増加量について国際基準を作成した。現在利用されている妊娠中の体重増加のガイドラインやチャートは、特定の国の研究から得られたもので、研究方法などに違いがあるため適正な体重増加量にも差があり、コンセンサスが得られていなかった。BMJ誌オンライン版2016年2月29日号掲載の報告。8ヵ国で適切な妊婦管理を受けた母親を対象に検討 FGLSは、胎児発育の国際標準を作成する目的で、健康・栄養状態が良好で教育を受けた女性を登録し、適切な妊婦管理を行い胎児の発育を前向きに追跡調査した研究である。2009年4月~14年3月に、地理的に多様な8ヵ国(ブラジル・中国・インド・イタリア・ケニア・オマーン・イギリス・アメリカ)の都市部で実施された。 今回、研究グループは、妊娠中の体重増加量(gestational weight gain:GWG)について国際基準を作成すべく、FGLSのデータを解析した。解析対象は、FGLSに登録された妊娠14週未満の妊婦4,607人のうち、先天奇形のない単胎児を出産した4,313人であった。 母親の体重は、妊娠を確認した初回受診時(妊娠14週未満)から5週(±1週)ごとに、標準化された方法および同じ体重計で測定された。妊娠40週での体重増加量は平均13.7kg 地域におけるGWGの変動を調べたところ、地域内変動が59.6%、地域間変動が9.6%で、前者が6倍高かった。 妊娠時期別の平均GWGは、妊娠14~18週1.64kg、19~23週2.86kg、24~28週2.86kg、29~33週2.59kg、34~40週2.56kgであった。また、妊娠40週時における総GWGは、妊娠初期に標準体重(BMI:18.50~24.99)であった3,097人において、平均13.7kg(標準偏差[SD]:4.5)であった。 測定したすべてのGWG値のうち、71.7%(1万639/1万4,846)は期待値の1SD内に、94.9%(1万4,085/1万4,846)は閾値である2SD内であった。測定データを基に、妊娠週数ごとのGWGパーセンタイル値(3、10、25、50、75、90、97)を算出した。

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双極性障害治療、10年間の変遷は

 過去10年間メンタルヘルスケアにおいて、双極性障害と診断された患者の処方パターンや変化を明らかにするため、デンマーク・コペンハーゲン精神医学センターのLars Vedel Kessing氏らは、集団ベースおよび全国データを用いて検討した。さらに、国際的ガイドラインからの勧告と調査結果との関係も検討した。Bipolar disorders誌オンライン版2016年2月18日号の報告。 集団ベースで全国的な研究が実施された。デンマーク全人口より、2000~11年までの10年間に、メンタルヘルスケアで躁病・双極性障害と初めての受診で診断されたすべての患者のレジストリベース縦断データと、すべての処方データが含まれた。 主な結果は以下のとおり。・合計3,205例の患者が研究に含まれた。・調査期間中、リチウムはあまり処方されておらず、抗てんかん薬と非定型抗精神病薬は、より多く処方されていた。・リチウムは、第1選択薬から最終選択薬へ変化し、非定型抗精神病薬に置き換えられていた。・抗てんかん薬は、第4選択薬から第2選択薬クラスとして処方されていた。また、抗うつ薬は、10年間高いレベルでほぼ横ばいであった(1年間の値:40~60%)。・ラモトリギンおよびクエチアピンの処方が大幅に増加していた。・併用療法は、リチウムと抗うつ薬の併用を除き、すべての組み合わせで増加していた。 結果を踏まえ、著者らは「調査期間中、主な変化は薬物処方でみられた。リチウムの処方減少と抗うつ薬の変わらぬ大量の処方は、国際的ガイドラインの勧告に沿わない」としている。関連医療ニュース ラピッドサイクラー双極性障害、抗うつ薬は中止すべきか 双極性障害への非定型抗精神病薬、選択基準は 双極性障害に対する非定型抗精神病薬比較

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性差という個体の特徴の意義~女性は心房細動の予後規定因子なのか~(解説:西垣 和彦 氏)-491

性差医療とその本質とは? 歴史的に医学は成人男性を標準個体とし、その病態や臨床経過・予後、診断から治療に至るまでを確立してきた。しかし近年、危険因子や薬剤の効果においても性差があることが明らかになるにつれ、性差の存在がクローズ・アップされるようになった。この性差という個体の特徴における相違は、生物学的要因としてのホルモンバランスの違いなどがその原因として挙げられている。現代医学は、この性差を無視して成立しなくなったこともあり、性差研究を通して医療に反映させる性差医療が発展してきた。しかし、この性差医療に関し危惧されることがある。それは、性差がもたらすだろう損得を種々追求するがあまり、性差は個体の特徴の1つに過ぎないという本質を失念し、人種や年齢などの寄与度の高い危険因子の存在を無視・偏重して解析することであり、さらに性差がその疾患の予後を規定する普遍の定理かのような提起をしてしまうことである。このことは厳に慎まなければならない。 本論文のポイントは? 本論文のポイントをまとめる。本論文は、女性であることが心房細動の予後規定因子としてより強い心血管イベント/死亡リスクであるのか、30件のコホート研究、計437万1,714例を解析対象として行ったメタ解析研究である。 その結果、心房細動の各アウトカムに対する相対危険の男女比(女性/男性)は、全死亡:1.12(1.07~1.17)、脳卒中:1.99(1.46~2.71)、心血管死:1.93(1.44~2.60)、心イベント:1.55(1.15~2.08)、心不全:1.16(1.07~1.27)であった。したがって、心房細動は、女性であることが心血管イベントや死亡リスクに対し、より強い予後規定因子であると報告している。著者らはその機序として、女性のほうが男性より治療が遅れるのではないかということや、抗凝固薬による出血が多いことが、より強い心血管イベント/死亡リスクとなったのではないかとしているが、あくまでも著者らの推論の域を出ない。 各国の心房細動に対する抗凝固療法ガイドラインにおける性差 心房細動患者の生命予後に対する性差の影響に関しては、わが国も含めてこれまでも多くの研究報告がなされているが、その結果は混沌としていて一定の見解が得られていない。 フラミンガム心臓研究の38年に及ぶ追跡調査では、心房細動の危険度は高血圧があれば男性1.5倍、女性1.4倍とほぼ同等であったが、糖尿病があれば男性1.4倍、女性1.6倍高いという結果が報告された1)。 わが国の心房細動の有無と死亡リスクの関連を検討した、1万人以上の住民を登録したNIPPON DATA80では、非心房細動患者の死亡リスクを1としたとき、心房細動患者の循環器疾患死亡リスクは、男性で1.4倍、女性で4.0倍と多く、総死亡リスクは男性で1.4倍、女性で2.4倍と、女性において心房細動は全死亡あるいは心血管死の独立した危険因子であることが示された2)。しかし、この研究データは1980年~1999年の追跡調査より得られていることから、ワルファリンによる抗凝固療法が普及する以前を反映しているものと考えられ、現状に即応していないものと考えられている。 一方、最近では、心房細動患者の生命予後に関して、女性という因子はそれほど強い危険因子ではないのではないかという報告がなされている。デンマークで行われた、ワルファリン療法を受けていない心房細動患者7万例を登録したコホート研究によると、うっ血栓心不全、高血圧、および糖尿病といったCHADS2スコア1点のリスクと比較して、女性という性差のリスクがきわめて低いことが示された3)。 このような混沌とした結果を受けて、各国のガイドラインも異なった取り扱いをしている。2014年10月にアップデートされた、カナダの心房細動に対する抗凝固療法のガイドラインでは、女性という因子のみはエビデンスがないと抗凝固の対象には入れないとしている4)。これに対して、2015年2月にヨーロッパ心血管プライマリケア学会から出された、心房細動における脳梗塞予防のコンセンサスガイドラインでは、65歳以上の女性あるいは75歳以上の男性であるならば、CHA2DS2-VAScスコアの他のリスクを評価して抗凝固療法の適応を判断することとしており、女性という性差を心房細動の予後規定因子として重要視している5)。 わが国のガイドラインにおいては、65歳未満でほかに器質的心疾患を伴わない心房細動患者において、女性であることは単独の危険因子にならないとし、さらに65~74歳は性別にかかわらず考慮可となりうることから、単独因子として女性という性差は記載されていない6)。さらに、昨年5月に報告されたわが国のJ-RHYTHMレジストリを用いたCHA2DS2-VAScスコアの妥当性を検討した論文では7)、血栓塞栓症は男性(年1.6%)に比較し、女性(年1.2%)ではかえって少ないこと、CHA2DS2-VAScスコアから女性を除いたスコアリングは、血栓塞栓症のリスク層別化の点で有用であり、さらに日本人では、65歳以上や血管疾患もあまりリスク因子として効いていないことから、かえってこれらの因子を含めると予測能が落ちるため、むしろCHADS2スコアで抗凝固薬の使用を評価するのがよいと結論付けられている。はたして女性は心房細動の危険因子なのか? これまでの結果から、心房細動患者に対する抗凝固療法の適応を考慮するとき、女性という性差をその危険因子として考えることよりも、やはり人種による差が大きいといわざるを得ない。その点、この論文は所詮欧米のガイドラインを構築するエビデンスに過ぎず、わが国のガイドラインを左右するほどの影響力は持ち合わせていない。 米国心臓協会 (American Heart Association)の活動として、“Go Red for Women”が提唱されている。この標語は、日本人にとってわかりづらい英語の表現であったこともあり、私が『女性の心血管疾患を減らすことを目的として、女性に積極的に呼びかけていこうという運動の名称』であると知ったのは、かなり経ってからである。米国における女性の心血管疾患罹患の深刻化が問題となっていることの一端であるが、わが国の現状とはかなり異なっているといわざるを得ない。参考文献1)Kannel WB, et al. Am J Cardiol. 1998;82:2N-9N.2)Ohsawa M, et al. Circ J. 2007;71:814-819.3)Olesen JB, et al. BMJ 2011;342:d124.4)Verma A, et al. Can J Cardiol. 2014;30:1114-1130.5)Hobbs FR, et al. Eur J Prev Cardiol. 2016;23:460-473.6)日本循環器学会ほか. 心房細動治療(薬物)ガイドライン(2013年改訂版).PDF (2016.3.1参照)7)Tomita H, et al. Circ J. 2015;79:1719-1726.

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Vol. 4 No. 3 ACC/AHA 脂質管理ガイドラインコントロバーシー その経緯と現在の考え

荒井 秀典 氏国立長寿医療研究センターはじめに米国のNHLBI(National Heart, Lung, and Blood Institute)が中心となって作成したNCEP-ATP III(National Cholesterol Education Program-Adult Treatment Panel)のガイドラインが2001年に発表され、そのガイドラインが2004年に改訂された。心筋梗塞、脳卒中などの動脈硬化性疾患の予防のための脂質管理に関しては、本ガイドラインが作成された米国だけでなく、アジアを含め多くの国々で脂質管理のガイドラインとして使われてきたと思われる。2008年頃よりNCEP-ATP IIIの改訂版であるNCEP-ATP-IV作成に向けた作業が行われていたが、結局NHLBIはその作成を断念せざるをえなかったと聞く。その後、American College of Cardiology(ACC)とAmerican Heart Association(AHA)という米国を代表する循環器の学会が、NHLBIと共同で動脈硬化性心血管疾患(atherosclerotic cardiovascular disease:ASCVD)のリスクを減少させるための脂質異常症治療に関するガイドラインを2013年11月に発表した1)。そのガイドラインは、これまでのガイドラインから180度転換を図るものであった。ACC/AHAガイドラインは、脂質異常症に関する3つのcritical questions(CQ)に対する回答の形で作成されており、質の高いrandomized controlled trial(RCT)とメタ解析の論文を中心に系統的にレビューし、作成された。したがって、フォローアップ期間の短いRCTやRCTのサブ解析などは採用されていない。ACC/AHAガイドラインは、これまで数多く実施されてきたスタチンによるRCTおよびそのメタ解析の結果をもとに脂質管理の指針が出された結果となっている。このため、実臨床とは解離したガイドラインとの批判もある。メタ解析についてはCholesterol Treatment Trialists' collaborationなどのメタ解析の結果から2-4)、ハイリスク群における高用量スタチンを推奨するガイドラインとなっている。スタチンによるASCVD発症予防効果が期待できる4つのグループを同定設定されたCQに対してシステマティックレビューを行った結果、スタチン治療による多くの心血管イベント抑制を示すエビデンスおよびそのメタ解析より、治療が有益と判断される以下の4つの患者群が同定された。その4つの患者群とは、「ASCVDを有する患者(2次予防患者)」、「LDL-コレステロール(LDL-C)が190mg/dL以上の患者(続発性は除く)」、「LDL-Cが70~189mg/dLで40~75歳のASCVD既往のない糖尿病患者」、「LDL-Cが70~189mg/dL、ASCVD既往も糖尿病もない40~75歳で、10年間のASCVDリスクが7.5%以上(10年のASCVD発症リスクはPooled Cohort Equationsによる計算に基づく)の患者」である。治療方針は、図に示すようなアルゴリズムに従って決定される。まず、2次予防で75歳以下の患者に対しては高用量スタチンによる治療を行うべきであり、76歳以上の患者には中用量スタチンによる治療を行う。1次予防においては、家族性高コレステロール血症など極めて冠動脈疾患の発症リスクの高い原発性高脂血症に対する治療の必要性から、LDL-Cが190mg/dL以上で21歳以上であれば、高用量スタチン治療を行う。わが国のガイドラインにおいてもLDL-Cが180mg/dL以上ある場合には家族性高コレステロール血症の可能性が強くなるため、スタチン治療を考慮すべきであるとしているが、家族性高コレステロール血症でなければ、高用量スタチン治療を推奨しているわけではない。次に40歳から75歳までの糖尿病患者は1型、2型を問わずスタチン治療が推奨されている。なかでも10年間のASCVD発症リスクが7.5%以上の患者においては高用量スタチンが、それ以外では中用量スタチンによる治療が推奨される。4つめのグループとしては、2次予防でもLDL-C 190mg/dL以上でも糖尿病でもなくても、10年のASCVD発症リスクが7.5%以上の群であり、この基準を満たす場合にはスタチン治療の適用となる(表)。このように、治療方針決定のための判断材料としては、10年間のASCVD発症リスクを用いる以外は理解しやすく、治療を行う医師は高用量か中用量のスタチンを選べばよいということで、decision makingが容易となっている。図 動脈硬化性疾患予防のためのスタチン治療の推奨画像を拡大する表 高用量、中用量スタチンの治療対象画像を拡大するLDL-Cおよびnon HDL-Cの管理目標値は設定しない本ガイドラインでは、LDL-Cやnon HDL-Cの管理目標値を設定せず、図に示すように高用量(50%以上のLDL-C低下)あるいは中用量(30~50%のLDL-C低下)のスタチンによる治療が推奨されている。その理由は特定のLDL-Cを目標として(例えば、130mg/dL未満と100mg/dL未満でどちらのグループでよりイベント発症が少ないかなど)比較をしたRCTがないからであると説明されている。わが国の動脈硬化性疾患予防ガイドライン2012年版でも20~30%のLDL-C低下を目標とすることも考慮すると記載されており、LDL-Cの管理目標値を決定するに足るエビデンスは現状ではないことに関して異論はないが、日本の実臨床の場では管理目標値があったほうが治療しやすく、アドヒアランスを維持するためには管理目標値が必要であると考えている。したがって、動脈硬化性疾患予防ガイドラインにあるようにLDL-Cの管理目標値を考慮しながら治療にあたるというのがより実際的ではなかろうか。なお、動脈硬化性疾患予防ガイドラインではLDL-Cの管理目標を設定しているが、“脂質管理目標値は到達努力目標値である”ことも認識すべきである。すなわち、100%その値をクリアすることを求めているわけではない。また、ASCVD予防のための脂質低下治療に関しては、高用量、中用量のスタチンのみが推奨されているが、わが国の保険診療では認められていない用量が推奨されている。非常にリスクが高い場合には、高用量スタチンが選択されるであろうが、日本で認められている最大用量のスタチンを用いることになるであろう。さらに、スタチン以外の薬剤でASCVDの発症リスクを有意に減少させる、あるいはスタチンとの併用で相加的なリスク減少が得られるとのエビデンスは得られなかったとされているが、JELISやACCORD Lipidのサブ解析などのエビデンスも考慮し、わが国のガイドラインでは、スタチン以外の薬剤の使用についても妥当としている。1次予防のための包括的リスク評価本ガイドラインにおいては、米国における5つのコホート研究10年のASCVD発症リスクはPooled Cohort Equationsによる計算に基づく。年齢、性別、人種(アフリカ系アメリカ人かそれ以外)、総コレステロール、HDL-C、収縮期血圧、降圧剤内服の有無、喫煙の有無、糖尿病の有無により、その患者の10年間のASCVD発症リスクが計算される。また、生涯リスクも計算される。しかしながら、このリスクチャートをアジア人に適用することは、リスクの過大評価につながることは容易に想像できる。すでに欧米人の解析でも、NCEP-ATP IIIを適用した場合と比べて、スタチンの治療対象となる患者がかなり増加するとの試算もある。例えば、60歳以上の高齢者はほとんどがスタチンによる治療対象となるといわれている。このようにスタチン治療の適応範囲を広げることは、日本人における動脈硬化性疾患発症リスクを考えても現実的ではない。現在わが国のガイドラインでは、NIPPON DATA80を元にしたリスクチャートを用いており、これが日本人のリスク予測には妥当と考えている。ただ、死亡がエンドポイントとなっているため、今後は発症をエンドポイントとしたリスク評価手法を検討していく必要性はあろう。なおこのガイドラインでは、当然ではあるが、スタチン治療を開始する前に患者とのdiscussionが必要であると述べられており、正しい方向性である。安全性への配慮本ガイドラインでは、採用したRCTの成績に基づいて安全性に関する推奨を行っているが、特にスタチンによる糖尿病の新規発症、筋症(CK上昇を伴わないケースも多い)、認知機能低下などである。スタチンによる糖尿病の新規発症に関してはメタ解析の結果も発表されており、明らかであるが、スタチンによる心血管イベント抑制効果をしのぐものではない。また、メタ解析の結果からスタチンによる糖尿病の新規発症は用量依存性であり、スタチンの用量が少ない日本においては糖尿病の新規発症が欧米に比べ低いことが予想できる。スタチンによる糖尿病の新規発症のメカニズムは十分に明らかになっておらず、今後の検討課題である。バイオマーカーや非侵襲性検査の役割本ガイドラインにおいて、すでに述べたように年齢、性別、人種、総コレステロール、HDL-C、収縮期血圧、降圧剤内服の有無、喫煙の有無、糖尿病の有無が主要な危険因子であり、これらの危険因子により計算された10年間のASCVD発症リスクが7.5%未満の際に、高感度CRP、冠動脈のカルシウムスコア、ankle brachial index(ABI)などのバイオマーカーあるいは非侵襲性検査を用いることも考慮してよいとなっているが、そもそも慢性腎臓病(CKD)がリスクとしてカウントされておらず、日本でよく使用されている頸動脈エコーについてもエビデンスの欠如から採用されていない。頸動脈エコーについては、もちろん症例を選ぶべきではあろうが、治療の意欲やアドヒアランスを考えると有用な検査であろう。もちろん、エビデンスの蓄積をさらに進めるべきである。脂質異常症ガイドラインの今後の方向性本ガイドライン作成委員は、本ガイドラインがASCVD抑制のみにフォーカスしたガイドラインであり、脂質異常症の包括的なマネジメントのためのガイドラインではないことは認めている。したがって、今後実施すべき臨床試験について以下のように記載している。すなわち、高TG血症の治療はどうすべきか、non HDL-Cを治療ターゲットとできるか、アポB、Lp(a)、LDL粒子数などのマーカーがリスク評価に使えるか、治療方針決定のための最もよい非侵襲検査はなにか、生涯ASCVDリスクは使えるか、心不全や透析患者のなかでスタチンの恩恵を受けることができるのはどのようなグループか、スタチンによる新規糖尿病発症の長期的な影響はどうなのか、RCTから除外されているグループ(HIV患者、臓器移植患者)へのスタチンの効果はどうなのか、などである。いずれも重要なテーマであるが、RCTにそぐわないものもあり、観察研究などの結果もガイドラインに反映させるべきであろう。まとめ今回のACC/AHAガイドラインの特徴の1つは、脂質管理目標値を設定しないことである。ACC/AHAガイドラインにおける治療指針はスタチンによるRCTのみに基づいているため、LDL-Cを中心とした管理のみが強調されている点は注意が必要であり、レムナントなど他の脂質マーカーにも着目して、残余リスクの管理を考慮しながら治療にあたるべきである。今後、ガイドラインの作成は、ACC/AHAガイドラインのようにRCTのみをベースとしたものになる可能性が高いが、時間、コストなどの問題を考えると観察研究などのエビデンスもある程度は取り入れながら、ガイドラインの作成を行うことが現実的ではないかと思われる。文献1)Stone NJ et al. 2013 ACC/AHA guideline on the treatment of blood cholesterol to reduce atherosclerotic cardiovascular risk in adults: a report of the American College of Cardiology/American Heart Association Task Force on Practice Guidelines. Circulation 2014; 129: S1-45.2)Baigent C et al. Efficacy and safety of cholesterol-lowering treatment: prospective meta-analysis of data from 90,056 participants in 14 randomised trials of statins. Lancet 2005; 366: 1267-1278.3)Cholesterol Treatment Trialists' (CTT) Collaboration et al. Efficacy and safety of more intensive lowering of LDL cholesterol: a meta-analysis of data from 170,000 participants in 26 randomised trials. Lancet 2010; 376: 1670-1681.4)Cholesterol Treatment Trialists' (CTT) Collaborators et al. The effects of lowering LDL cholesterol with statin therapy in people at low risk of vascular disease: meta-analysis of individual data from 27 randomised trials. Lancet 2012; 380: 581-590.

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らい性結節性紅斑〔ENL : erythema nodosum leprosum〕

1 疾患概要■ 概念・定義ハンセン病はらい菌(Mycobacterium leprae)による慢性抗酸菌感染症である。しかし、病気の経過中にらい菌の成分に対する免疫反応が亢進し、急性の炎症症状を呈することがあり、これをらい反応(lepra reaction)という1、2)。この反応によって組織障害、とくに末梢神経障害が起こり、後遺症となることがある。らい反応には2つの型、すなわち1型らい反応(type 1 reaction、同義語として境界反応〈borderline reaction〉、あるいはリバーサル反応〈reversal reaction:RR〉)と、2型らい反応(type 2 reaction、同義語としてらい性結節性紅斑〈erythema nodosum leprosum:ENL〉)がある。本項ではENLについて記載するが、理解を深めるためハンセン病についても適宜記載する2、3、4)。なお、ハンセン病、ENLは一般病院で保険診療として取り扱っている。■ 疫学ENLはハンセン病患者のうち、菌の多いタイプ(多菌型〈multibacillary:MB〉)に発症する(表1)。らい菌に対する生体の免疫応答を基にした分類であるRidley-Jopling分類では、LL型とBL型に発症する。ENLはMB患者の10~50%にみられる。発症はハンセン病治療前に1/3、1/3は治療6ヵ月以内(とくに治療数ヵ月後)に、残り1/3は6ヵ月後に起こるとされている。画像を拡大する■ 病因多菌型(MB)のLL型、BL型の患者では、らい菌に対する細胞性免疫能は低下しているが、十分なB細胞と形質細胞が存在するので、それらの細胞が活性化を受け、大量の菌抗原が大量の抗体を作る。この場合、過剰に作られた抗体と菌抗原と補体との間で免疫複合体(immune complex)が作られ、皮膚、神経、血管壁やほかの臓器に沈着し、多数の好中球浸潤を伴った炎症性反応を生む。TNF-αは、ENL発症で重要な役割を演じると考えられている。■ 症状ENLは、らい菌抗原があれば、すなわちLL型やBL型の病巣のある所では、皮膚、リンパ節、神経、関節、眼、睾丸など、どこでも急性炎症を起こしうる(表2)。画像を拡大する典型的なENLは、いわゆる発熱を伴って発症する。39~41℃ほどの高熱を発し、全身倦怠・関節痛が起きる。皮膚では一見正常の皮膚に、小豆大から拇指頭大までの圧痛を伴う硬結や隆起性紅斑を生ずる(図1)。画像を拡大する四肢によくみられるが半数の症例で顔面にも生じる。個疹は数日で消退するが、次々と皮疹が新生する。重症例では圧痛を伴う膿疱ができたり、膿瘍形成や、平坦な紅斑に囲まれた紫斑様皮疹、中心臍窩を有する結節性紅斑、水疱をもつもの、自壊して潰瘍を形成し瘢痕化するものもある。白斑や瘢痕を残すことがある。鼻腔粘膜のENLは、結節形成よりも浸潤性変化として、鼻閉、鼻汁、痂皮、鼻中隔の萎縮が起こる。病理組織学的には真皮から皮下脂肪織に多数の好中球の集積を認める。血管壁に多核球が浸潤し壊死性血管炎を認めたり、免疫組織化学染色で免疫複合体が沈着したりすることもある。末梢神経炎を起こし、耐え難い疼痛に苦しめられる。とくに尺骨神経の上方の部分に腫脹疼痛がよく起こり、ENLの経過中に手指などに変形を起こしてくる例も少なくない。神経炎だけで不眠・食欲減退・うつ状態が起こる。ENLの末梢神経炎が引き起こす機能障害は、急激に高度に現れるものではないが、目立たない形で徐々に障害が起こる。眼に急性の虹彩毛様体炎や上強膜炎を起こし、充血・眼痛・羞明・視力低下を来す。ENLを繰り返すと慢性の虹彩毛様体炎を起こし、虹彩癒着・小瞳孔の原因ともなり、続発性緑内障につながって失明の遠因になる。感覚神経障害性の難聴が起こる。精巣炎や陰嚢水腫を起こすが、その後の睾丸の萎縮の程度は、罹病期間とENLの既往歴に深く関係する。■ 予後通常良好である。しかし、軽度の炎症が数ヵ月から数年にわたって持続し、神経障害が少しずつ進行することもある。ENLは再発しやすいので、ENLを発症したときには長く経過観察を続けるようにする。ENLが起こっても、この反応自体が菌を殺したり、排除するためには役に立たないので、菌陰性化が進むわけではない。したがってハンセン病そのものの予後とは関係がない。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)現在、反応状態であるという診断は、主に臨床像で決められている。らい反応を診断するには、らい反応を疑うことから始まる。ハンセン病の診断がなされていなくてENLを主訴として初めて外来受診することもある。診断は臨床症状(表2)と検査所見(白血球数増加、好中球数増多、血沈亢進、CRP高値、血清TNF-α上昇など)、皮膚病理組織所見などを総合して行う。ENLとその他の主な皮膚疾患との鑑別を表3に示した。画像を拡大する3 治療 (治験中・研究中のものも含む)基本的な注意として安静を守らせる。仕事、学校などは無理のない程度に行う。飲酒を控え睡眠を十分にとる。多臓器症状を呈する場合には、入院安静も考慮する。ENLを軽症と重症に分類し、それに従って治療方針を立てる(表4)。なお、ハンセン病の治療については、ENLを起こしていても継続する。画像を拡大する軽症では、疼痛に対して非ステロイド性抗炎症薬(non-steroidal anti-inflammatory drugs:NSAIDs)や鎮静薬などを適宜投与する。重症と診断すれば、積極的に反応を抑制する治療を行う。ENLにはサリドマイド(thalidomide)が著効する。投与したその日から、ENLの自覚症状や発熱などの全身症状が劇的に消退する。サリドマイドは、ENLの90%の患者で効果的であり、第1選択薬である。サリドマイドが効果的であることが、ENLの診断を確定する方法としても有用である。サリドマイドの使用法を図2に示した。「らい性結節性紅斑(ENL)に対するサリドマイド診療ガイドライン」が作成されているので、使用にあたっては熟読する5)。画像を拡大するサリドマイドは、ヒトにおいて催奇形性が確認されているので、安全管理手順を順守する。現在日本で保険適用になっているサリドマイドは、サレド(商品名)カプセルであり、「サリドマイド製剤安全管理手順(Thalidomide Education and Risk Management System:TERMS®)」を厳守する。何らかの事情でサリドマイド治療が困難な場合、ステロイド内服薬の全身投与も有効である。投与量は0.5~1mg/kg/日で開始する。減量方法は通常の漸減方法と同様であるが、とくに少量になってからは漸減の間隔を延ばすほうがよい。ステロイド内服薬の長期投与が必要なときは、クロファジミン(clofazimine:CLF、B663〈商品名:ランプレン〉)を併用するとよい。CLFはENLを抑制する効果がある。虹彩毛様体炎を抑制するともいわれている。したがって、ENLが生じた場合に、あるいは神経痛などの症状があり、らい反応も疑われるような時期にCLFの投与を行うことがある。しかし、サリドマイドやステロイド内服薬に認められるような明らかな抗ENL作用はないと考えられる。通常50mg/日を100mg/日(外国では最大200mg/日処方する例もある)にすることで、サリドマイドやステロイド内服薬の投与量の減少を試みる。ただし100mg/日の投与で色素沈着が顕著になり、まれに下痢・腹痛も起こる。ENLについては、何か自覚症状に気付いたら、すぐに受診させる。皮疹の発赤と腫脹、新しい皮疹、神経の急な腫脹、神経痛、羞明、発熱などのほかに、かすかな筋力の低下や感覚異常、時にはかゆみ、神経過敏にも注意深い観察をするように指導する。ハンセン病治療終了後に初めてのENLが起きることがあること、3年以内は皮膚症状も生じうること、それ以降も数年にわたって神経症状だけが出ることがあることも事前に説明しておく。ENLは、年余にわたり服薬指導の厳しいサリドマイド、副反応の起こりやすいステロイド内服薬を長期間内服し、さらに全身の痛みや発熱、失明の不安などもあるため、精神的なケア(カウンセリング、抗うつ薬投与など)も重要である。4 今後の展望ENLの治療薬であるサリドマイドは、ブラジル、日本、米国などでは使用されているが、患者の多い途上国では催奇形性の関係から使用されていない。安全で有効性の高い抗ENL薬の早期の開発が望まれる。5 主たる診療科皮膚科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報国立感染症研究所 ハンセン病研究センター(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)WHOのハンセン病ページ(医療従事者向けのまとまった英文情報サイト)国立感染症研究所 感染症疫学センター(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)1)熊野公子. 日ハンセン病会誌.2002;71:3-29.2)石井則久著 中嶋 弘監修. 皮膚抗酸菌症テキスト.金原出版;2008.p.1-130.3)石井則久ほか責任編集. ハンセン病アトラス.金原出版;2006.p.1-70.4)後藤正道ほか. 日ハンセン病会誌.2013;82:143-184.5)石井則久ほか. 日ハンセン病会誌.2011;80:275-285.公開履歴初回2013年11月28日更新2016年03月01日

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循環器内科 米国臨床留学記 第6回

第6回:米国で使用されている冠動脈疾患に対する新しい薬 ticagrelor、ranolazine前回に引き続き、日本では未承認ですがアメリカでは処方されている薬を紹介したいと思います。ticagrelor(商品名:Brilinta、日本では2016年2月現在、承認申請中)ticagrelorは、比較的新しいP2Y12受容体拮抗薬です。日本ではチカグレロルと呼ばれていると思いますが、アメリカではタイカグレロールと発音します。ご存じのとおり、日本では長らくチクロピジンしか使用できませんでしたが、その後クロピドグレルが登場し、最近ではプラスグレルも使用されていると思います。ticagrelorは、シクロペンチルトリアゾロピリミジン群に分類される新しい薬剤です。プロドラッグであるチエノピリジン系(クロピドグレルやプラスグレル)は肝臓で代謝された後、非可逆的にP2Y12受容体を阻害します。一方、ticagrelorは同じ受容体に直接かつ可逆的に作用します。結果として、作用が発現するまでの時間は短くなります。また、可逆的な結合のため、使用中止後、3日ほどで血小板機能も回復します。プラスグレルやticagrelorは血小板機能の抑制作用がクロピドグレルよりも早いため、急性冠症候群(ACS)の患者においては、より早い効果が期待できます。また、クロピドグレルに抵抗性のある患者は2割程度いますが、プラスグレルやticagrelorはその点でも優れています。ACS患者を対象にしたランダマイズド試験であるPLATO試験において、ticagrelorは、クロピドグレルに比べて死亡や心筋梗塞、脳卒中が少ないことが示されました(大出血イベントは同等、バイパス術に関連しない出血は増加)(図1)。表1 12ヵ月の時点での複合一次エンドポイント(心血管イベントによる死亡、心筋梗塞、脳卒中)の発生(PLATO試験) バイパス手術が必要となる3枝病変が予想されるようなACSの患者においては、P2Y12受容体拮抗薬の選択や投与のタイミングは難しい問題です。米国では、日本と比べて診断から手術までの時間が圧倒的に短いため、バイパス術が冠動脈造影の翌日となることも珍しくありません。初期投与(loading dose)だけなら気にされない心臓外科医もいますが、クロピドグレルやプラスグレルは手術を遅らせる原因となります(クロピドグレルやプラスグレルの使用中止後5~7日待つことが勧められている)。また、プラスグレルは、クロピドグレルに比べて、バイパスに関連した大出血イベントが有意に増加する可能性があります(TRITON-TIMI 38試験)。ticagrelorは可逆的な結合のため、使用中止後、3日ほどで血小板機能が回復します。実際、欧州心臓病学会(ESC)からの勧告でも、バイパス前の中止期間は、クロピドグレルとticagrelorでは最低でも3日となっていますが、プラスグレルは5日となっています。この待機時間は、入院費用が高い米国においては大きな問題です。このような背景から、現状では、費用の問題を除けばticagrelorが最も使いやすいP2Y12受容体拮抗薬と考えられています。同様の薬で静注薬であるcangrelorも2015年に認可されています。ranolazine(商品名:Ranexa、日本では未承認)ranolazineは、2006年に承認された慢性狭心症の薬です。2012年のガイドラインでは、β遮断薬に忍容性がないもしくは有効でない患者に、β遮断薬の代わりとしてもしくはβ遮断薬と組み合わせて用いることが、class IIaとして推奨されています。狭心症患者が多い米国では、経皮的冠動脈血行再建術(PCI)によって改善できない慢性狭心症の患者が非常に多く、治療に難渋することがあります。内向きの遅延ナトリウムチャネルを阻害し、心筋内のカルシウムを減らし、心筋の酸素消費を減らすと考えられていますが、詳しい効果の機序は不明です。TERISA試験は、14ヵ国で行われた、2型糖尿病と慢性狭心症を有する患者に対する前向きのプラセボ対照比較試験です。薬剤投与前の観察期間中の狭心症発作は、ranolazine群6.6回/週とプラセボ群で6.8回/週でしたが、薬剤投与開始後2~8週間後では、それぞれ3.8回/週(95% CI:3.57~4.05)と4.3回/週(95% CI:4.01~4.52)で、プラセボ群と比較してranolazine群で有意に減少したという結果でした(図2)。表2 ranolazine投与前後の狭心症状発生回数(TERISA試験) しかし、解釈には注意が必要です。というのも、有意といっても週0.5回というわずかなものでしたし、プラセボでも発作が減っていたのです。個人的には、プラセボ群でも発作が減る、狭心症状は経過とともに頻度が減っていくという結果のほうが、興味深く感じられました。実際には、ranolazineは最後の切り札といった感じで使用しています。なぜなら、前述のような軽度の改善効果に加えて、高価(1錠6ドル)であることもネックになっているからです。大規模で見ると改善効果があるのかもしれませんが、実際の臨床で効果を感じるのは難しい印象です。次回は、米国の心疾患治療で使用されている新しいデバイスについて書きたいと思います。

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“糖尿病合併高血圧にはRAS阻害薬”という洗脳から解き放たれるとき(解説:桑島 巖 氏)-487

 多くの臨床医は、“糖尿病合併高血圧にはRAS阻害薬”という考えにとりつかれてはいないだろうか。この問題にあらためて挑戦し、メタ解析を行ったのが、“的確な臨床試験コメンテーター”で知られるMesserli氏らのグループである。 彼らは、PubMed、Embaseやコクランライブラリーなどといった信頼性の高いデータベースから、糖尿病患者に対するRAS阻害薬の心血管合併症予防効果を、他の降圧薬と比較するメタ解析を行った。メタ解析で最も注意すべきセレクションバイアスは、独立した3名の専門家による論文選択と、コクランライブラリー基準にのっとりながら極力除外している。 RCT選択は、100例以上のサンプルサイズであること、最低1年以上の追跡期間であること、プラセボ対照試験を除外していること、そして注意すべきことは心不全を含んだトライアルは除外していることである。ACE阻害薬の心不全予防効果が他の降圧薬よりも優れていることは、証明されているからとしている。 そのメタ解析の結果、総死亡、心血管死、心筋梗塞、狭心症、脳卒中のいずれにおいても、RAS阻害薬が他の降圧薬よりも優れているという結果は得られなかったと結論付けている。個々の降圧薬との比較をみると、Ca拮抗薬との比較では、心不全以外ではまったく差が認められず、利尿薬、β遮断薬との比較においても、心血管イベント抑制効果に優位性は認めることができなかった。 そもそも、臨床医が“糖尿病合併高血圧ではRAS阻害薬”という考えにとりつかれたきっかけは、糖尿病性腎症に対するRAS抑制薬の蛋白尿抑制効果が大規模臨床試験で報告され、以来“糖尿病にはRAS阻害薬”というように拡大解釈された結果ではないかと著者らは考察している。 わが国の「高血圧治療ガイドライン2014」では、糖尿病合併高血圧患者における降圧薬選択に関しては、糖脂質への影響と糖尿病性腎症に対する効果のエビデンスより、RA系阻害薬(ARB、ACE阻害薬)を第1選択薬として推奨するとある。 しかも、その根拠としてABCD試験やFACET試験のようなきわめて小規模なトライアルを引用しているにすぎない。さらに問題は、CASE-Jのサブ解析結果を引用していることである。CASE-JにおけるARBカンデサルタンの糖尿病新規発症予防効果は、実はスポンサーの指示によって定義を後付けで変更するという不正な操作によって導き出されたことが、調査報告書で明らかになっているのである。それにもかかわらず、ガイドラインはいまだこの部分を訂正していない。 本メタ解析では、ベースライン時に腎症を合併している糖尿病のアウトカムについても解析しているが、他の降圧薬に比べて優位性を認めることができなかったとしている。 ここ20年間、ARBの降圧を超えて臓器保護効果や、糖尿病にはRAS阻害薬といった、誤ったマインドコントロールから覚めるときが来たようである。

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