サイト内検索|page:3

検索結果 合計:59件 表示位置:41 - 59

41.

自己免疫性溶血性貧血〔AIHA: autoimmune hemolytic anemia〕

1 疾患概要■ 概念・定義自己免疫性溶血性貧血(autoimmune hemolytic anemia:AIHA)は、赤血球膜上の抗原と反応する自己抗体が産生され、抗原抗体反応の結果、赤血球が傷害を受け、赤血球の寿命が著しく短縮(溶血)し、貧血を来す。AIHAは、自己抗体の性状によって温式抗体によるものと、冷式抗体によるものに2大別される。温式抗体(warm-type autoantibody)による病型を単に自己免疫性溶血性貧血(AIHA)と呼ぶことが多い。冷式抗体(cold-type autoantibody)による病型には、寒冷凝集素症(cold agglutinin disease:CAD)と発作性寒冷ヘモグロビン尿症(paroxysmal cold hemoglobinuria:PCH)とがある。温式抗体は体温付近で最大活性を示し、原則としてIgG抗体である。一方、冷式抗体は体温以下の低温で反応し、通常4℃で最大活性を示す。IgM寒冷凝集素とIgG二相性溶血素(Donath-Landsteiner抗体)が代表的である。時に温式抗体と冷式抗体の両者が検出されることがあり、混合型(mixed type)と呼ばれる。■ 疫学AIHAの推定患者数は100万人対3~10人、年間発症率は100万人対1~5人で、病型別比率は、温式AIHA90.4%、CAD7.7% 、PCH1.9%とされている。温式AIHAの特発性/続発性は、ほぼ同数に近いと考えられる。特発性温式AIHAは、小児期のピークを除いて二峰性に分布し、若年層(10~30歳で女性が優位)と老年層(50歳以後に増加し70代がピークで性差はない)に多くみられる。全体での男女比は1~2:3で女性にやや多い。CADのうち慢性特発性は40歳以後にほぼ限られ男性に目立つが、続発性は小児ないし若年成人に多い。PCHは、現在そのほとんどは小児期に限ってみられる。■ 病因自己抗体の出現機序として次のように整理されている。1)免疫応答機構は正常だが患者赤血球の抗原が変化して、異物ないし非自己と認識される。2)赤血球抗原に変化はないが、侵入微生物に対して産生された抗体が正常赤血球抗原と交差反応する。3)赤血球抗原に変化はないが、免疫系に内在する異常のために免疫的寛容が破綻する。4)すでに自己抗体産生を決定付けられている細胞が、単または多クローン性に増殖または活性化され、自己抗体が産生される。■ 症状1)温式AIHA臨床像は多様性に富み、発症の仕方も急激から潜行性まで幅広い。とくに急激発症では発熱、全身衰弱、心不全、呼吸困難、意識障害を伴うことがあり、ヘモグロビン尿や乏尿も受診理由となる。急激発症は小児や若年者に多く、高齢者では潜行性が多くなるが例外も多い。受診時の貧血は高度が多く、症状の強さには貧血の進行速度、心肺機能、基礎疾患などが関連する。黄疸もほぼ必発だが、肉眼的には比較的目立たない。特発性でのリンパ節腫大はまれである。脾腫の触知率は32~48%で、サイズも1~2横指程度が多い。温式AIHAの5~10%程度に直接クームス試験が陰性のものがあり、クームス陰性AIHAと呼ばれる。クームス試験が陽性にならない程度のIgG自己抗体が赤血球に結合しており、診断には赤血球結合IgG定量が有用である。クームス陽性AIHAと同様にステロイド反応性は良好である。特発性血小板減少性紫斑病(ITP)を合併する場合をエヴァンス症候群と呼び、特発性AIHAの10~20%程度を占める。2)寒冷凝集素症(CAD)臨床症状は溶血と末梢循環障害によるものからなる。感染に続発するCAD は、比較的急激に発症し、ヘモグロビン尿を伴い貧血も高度となることが多い。マイコプラズマ感染では、発症から2~3週後の肺炎の回復期に溶血症状を来す。血中には抗マイコプラズマ抗体が出現し、寒冷凝集素価が上昇する時期に一致する。溶血は2~3週で自己限定的に消退する。EBウイルス感染に伴う場合は症状の出現から1~3週後にみられ、溶血の持続は1ヵ月以内である。特発性慢性CADの発症は潜行性が多く慢性溶血が持続するが、寒冷曝露による溶血発作を認めることもある。循環障害の症状として、四肢末端・鼻尖・耳介のチアノーゼ、感覚異常、レイノー現象などがみられる。これは皮膚微小血管内でのスラッジングによる。クリオグロブリンによることもある。皮膚の網状皮斑を認めるが、下腿潰瘍はまれである。脾腫はあっても軽度である。3)発作性寒冷ヘモグロビン尿症(PCH)現在ではわずかに小児の感染後性と成人の特発性病型が残っている。以前よくみられた梅毒性の定型例では、寒冷曝露が溶血発作の誘因となり、発作性反復性の血管内溶血とヘモグロビン尿を来す。寒冷曝露から数分~数時間後に、背部痛、四肢痛、腹痛、頭痛、嘔吐、下痢、倦怠感に次いで、悪寒と発熱をみる。はじめの尿は赤色ないしポートワイン色調を示し、数時間続く。遅れて黄疸が出現する。肝脾腫はあっても軽度である。このような定型的臨床像は非梅毒性では少ない。急性ウイルス感染後の小児PCHは5歳以下に多く、男児に優位で、季節性、集簇性を認めることがある。発症が急激で溶血は激しく、腹痛、四肢痛、悪寒戦慄、ショック状態や心不全を来したり、ヘモグロビン尿に伴って急性腎不全を来すこともある。発作性・反復性がなく、寒冷曝露との関連も希薄で、ヘモグロビン尿も必発とはいえない。成人の慢性特発性病型はきわめてまれである。気温の変動とともに消長する血管内溶血が長期間にわたってみられる。■ 分類AIHAは臨床的な観点から、有意な基礎疾患ないし随伴疾患があるか否かによって、続発性(2次性)と特発性(1次性、原発性)に、また臨床経過によって急性と慢性とに区分される。基礎疾患としては全身性エリテマトーデス(SLE)、関節リウマチ(RA)などの自己免疫疾患とリンパ免疫系疾患が代表的である。マイコプラズマや特定のウイルス感染の場合、卵巣腫瘍や一部の潰瘍性大腸炎に続発する場合などでは、基礎疾患の治癒や病変の切除とともにAIHAも消退し、臨床的な因果関係が認められる。 ■ 予後温式AIHAで基礎疾患のない特発例では、治療により1.5年までに40%の症例でクームス試験の陰性化がみられる。特発性AIHAの生命予後は5年で約80%、10年で約70%の生存率であるが、高齢者では予後不良である。続発性の予後は基礎疾患によって異なり、リンパ系疾患に比べてSLEなどの自己免疫性疾患に続発する場合のほうが良好である。CADは感染後2~3週の経過で消退し、再燃しない。リンパ増殖性疾患に続発するものは基礎疾患によって予後は異なるが、この場合でも溶血が管理の中心となることは少ない。小児の感染後性のPCH は発症から数日ないし数週で消退する。強い溶血による障害や腎不全を克服すれば一般に予後は良好であり、慢性化や再燃をみることはない。梅毒に伴う場合の多くは、駆梅療法によって溶血の軽減や消退をみる。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)(図1 AIHAの診断フローチャート)最初に溶血性貧血としての一般的基準を満たすことを確認し、次いで疾患特異的な検査によって病型を確定する。溶血性貧血の診断基準と自己免疫性溶血性貧血の診断基準を表1と表2に示す。画像を拡大する血液検査や臨床症状から溶血性貧血を疑った場合は、直接クームス試験を行い、陽性の場合は特異的クームス試験で赤血球上のIgG と補体成分を確認する。補体のみ陽性の場合は、寒冷凝集素症(CAD)や発作性寒冷ヘモグロビン尿症(PCH)の鑑別のため、寒冷凝集素価測定とDonath-Landsteiner(DL)試験を行う。寒冷凝集素は、凝集価が1,000 倍以上、または1,000 倍未満でも30℃以上で凝集活性がある場合には病的意義があるとされる。スクリーニング検査として、患者血清(37~40℃下で分離)と生食に懸濁したO型赤血球を混和し、室温(20℃)に30~60分程度放置後、凝集を観察する。凝集が認められない場合は病的意義のない寒冷凝集素と考えられる。凝集がみられた場合には、さらに温度作動域の検討を行う。凝集素価が低値でもアルブミン法などで30℃以上での凝集が認められる場合は低力価寒冷凝集素症とする。DL 抗体の検出は、現在外注で依頼できる検査機関がないことから、自前の検査室で行う必要がある。直接クームス試験が陰性であったり、特異的クームス試験で補体のみ陽性の場合でも、症状などから温式AIHA が疑われる場合やほかの溶血性貧血が否定された場合は、赤血球結合IgG 定量を行うとクームス陰性AIHA と診断できることがある。温式AIHAと寒冷凝集素症が合併している場合は、混合型AIHA の診断となる。表1 溶血性貧血の診断基準(厚生労働省 特発性造血障害に関する調査研究班[平成16年度改訂])1)1)臨床所見として、通常、貧血と黄疸を認め、しばしば脾腫を触知する。ヘモグロビン尿や胆石を伴うことがある。2)以下の検査所見がみられる。(1)へモグロビン濃度低下(2)網赤血球増加(3)血清間接ビリルビン値上昇(4)尿中・便中ウロビリン体増加(5)血清ハプトグロビン値低下(6)骨髄赤芽球増加3)貧血と黄疸を伴うが、溶血を主因としない他の疾患(巨赤芽球性貧血、骨髄異形成症候群、赤白血病、congenital dyserythropoietic anemia、肝胆道疾患、体質性黄疸など)を除外する。4)1)、2)によって溶血性貧血を疑い、3)によって他疾患を除外し、診断の確実性を増す。しかし、溶血性貧血の診断だけでは不十分であり、特異性の高い検査によって病型を確定する。表2 自己免疫性溶血性貧血(AIHA)の診断基準(厚生労働省 特発性造血障害に関する調査研究班[平成16年度改訂])1)1)溶血性貧血の診断基準を満たす。2)広スペクトル抗血清による直接クームス試験が陽性である。3)同種免疫性溶血性貧血(不適合輸血、新生児溶血性疾患)および薬剤起因性免疫性溶血性貧血を除外する。4)1)~3)によって診断するが、さらに抗赤血球自己抗体の反応至適温度によって、温式(37℃)の(1)と、冷式(4℃)の(2)および(3)に区分する。(1)温式自己免疫性溶血性貧血臨床像は症例差が大きい。特異抗血清による直接クームス試験でIgGのみ、またはIgGと補体成分が検出されるのが原則であるが、抗補体または広スペクトル抗血清でのみ陽性のこともある。診断は(2)、(3)の除外によってもよい。(2)寒冷凝集素症(CAD)血清中に寒冷凝集素価の上昇があり、寒冷曝露による溶血の悪化や慢性溶血がみられる。直接クームス試験では補体成分が検出される。(3)発作性寒冷ヘモグロビン尿症(PCH)ヘモグロビン尿を特徴とし、血清中に二相性溶血素(Donath-Landsteiner抗体)が検出される。5)以下によって経過分類と病因分類を行う。急性推定発病または診断から6ヵ月までに治癒する。慢性推定発病または診断から6ヵ月以上遷延する。特発性基礎疾患を認めない。続発性先行または随伴する基礎疾患を認める。6)参考(1)診断には赤血球の形態所見(球状赤血球、赤血球凝集など)も参考になる。(2)温式AIHAでは、常用法による直接クームス試験が陰性のことがある(クームス陰性AIHA)。この場合、患者赤血球結合IgGの定量が有用である。(3)特発性温式AIHAに特発性血小板減少性紫斑病(ITP)が合併することがある(エヴァンス症候群)。また、寒冷凝集素価の上昇を伴う混合型もみられる。(4)寒冷凝集素症での溶血は寒冷凝集素価と平行するとは限らず、低力価でも溶血症状を示すことがある(低力価寒冷凝集素症)。(5)自己抗体の性状の判定には抗体遊出法などを行う。(6)基礎疾患には自己免疫疾患、リウマチ性疾患、リンパ増殖性疾患、免疫不全症、腫瘍、感染症(マイコプラズマ、ウイルス)などが含まれる。特発性で経過中にこれらの疾患が顕性化することがある。(7)薬剤起因性免疫性溶血性貧血でも広スペクトル抗血清による直接クームス試験が陽性となるので留意する。診断には臨床経過、薬剤中止の影響、薬剤特異性抗体の検出などが参考になる。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)■ 温式AIHAの治療(図2 特発性温式AIHAの治療フローチャート)画像を拡大する特発性の温式AIHAの治療では、副腎皮質ステロイド薬、摘脾術、免疫抑制薬が三本柱であり、そのうち副腎皮質ステロイド薬が第1選択である。特発性の80~90%はステロイド薬単独で管理が可能と考えられる。1)急性期:初期治療(寛解導入療法)ステロイド薬使用に対する重大な禁忌条件がなければ、プレドニゾロン換算で1.0mg/kgの大量(標準量)を連日経口投与する。高齢者や随伴疾患があるときは、減量投与が勧められる。約40%は4週までに血液学的寛解状態に達する。AIHAでは輸血はけっして安易に行わず、できる限り避けるべきとするのが一般的であるが、薬物治療が効果を発揮するまでの救命的な輸血は、機を失することなく行う必要がある。その場合、生命維持に必要なヘモグロビン濃度の維持を目標に行う。安全な輸血のため、輸血用血液の選択についてあらかじめ輸血部門と緊密な連携を取ることが勧められる。2)慢性期:ステロイド減量期ステロイド薬の減量は、状況が許すならば急がず、慎重なほうがよく、はじめの1ヵ月で初期量の約半量(中等量0.5mg/kg/日)とし、その後は溶血の安定度を確認しながら2週に5mgくらいのペースで減量し、10~15mg/日の初期維持量に入る。減量期に約5%で悪化をみるが、その際はいったん中等量(0.5mg/kg/日)まで増量する。3)寛解期:維持療法・治療中止時期ステロイド薬を初期維持量まで減量したら、網赤血球とクームス試験の推移をみて、ゆっくりとさらに減量を試み、平均5mg/日など最少維持量とする。直接クームス試験が陰性化し、数ヵ月以上経過しても再陽性化や溶血の再燃がみられず安定しているなら、維持療法をいったん中止して追跡することも可能となる。4)増悪期:再燃時、ステロイド不応例維持療法中に増悪傾向が明らかならば、早めに中等量まで増量し、寛解を得た後、再度減量する。ステロイド薬の維持量が15mg/日以上の場合、また副作用・合併症の出現があったり、悪化を繰り返すときは、2次・3次選択である摘脾や免疫抑制薬、抗体製剤の採用を積極的に考える。ステロイドによる初期治療に不応な場合は、まず悪性腫瘍などからの続発性AIHAの可能性を検索する。基礎疾患が認められない場合は、特発性温式AIHAとして複数の治療法が考慮されるが、優先順位や適応条件についての明確な基準はなく、患者の個別の状況により選択され、いずれの治療法もAIHAへの保険適用はない。唯一、摘脾とリツキシマブについては短期の有効性が実証されており、摘脾が標準的な2次治療として推奨されている。(1)摘脾脾臓は感作赤血球を処理する主要な臓器であり、自己抗体産生臓器でもある。わが国では特発性AIHAの約15%(欧米では25~57%)で摘脾が行われており、短期の有効性は約60%と高い。ステロイド投与が不要となる症例や20%程度に治癒症例もみられることから、ステロイド不応性AIHAの2次治療として推奨されている。(2)リツキシマブステロイド不応性温式AIHAに対する新たな治療法として注目されている。短期の有効性について多くの報告はあるが、まだ保険適用ではない。標準的治療としては375mg/m2を1週間おきに4回投与する。80%の有効率が報告されている。安全性に関しても大きな問題はない。短期間のステロイド投与を併用した低用量のリツキシマブ(100mg、4週ごと投与)も試みられている。(3)免疫抑制薬ステロイドに次ぐ薬物療法の2次選択として、シクロホスファミドやアザチオプリンなどが用いられる。主な作用は抗体産生抑制で、有効率は35~40%で、ステロイド薬の減量効果が主である。免疫抑制、催奇形性、発がん性、不妊症など副作用に注意が必要であり、有効であったとしても数ヵ月以上の長期投与は避ける。■ 冷式AIHAの治療保温が最も基本的である。室温、着衣、寝具などに十分な注意を払い、身体部分の露出や冷却を避ける。輸血や輸液の際の温度管理も問題となる。CADに対する副腎皮質ステロイド薬の有効性は温式AIHAに比しはるかに劣るが、激しい溶血の時期には短期間用いて有効とされることが多い。貧血が高度であれば、赤血球輸血も止むを得ないが、補体(C3d)を結合した患者赤血球が溶血に抵抗性となっているのに対し、輸注する赤血球はむしろ溶血しやすい点に留意する。摘脾は通常適応とはならない。リンパ腫に伴うときは、原疾患の化学療法が有効である。マイコプラズマ肺炎に伴うCADでは適切な抗菌薬を投与するが、溶血そのものに対する効果とは別であり、経過が自己限定的なので、保存療法によって自然経過を待つのが原則である。特発性慢性CADの治療として、リツキシマブ単独療法やリツキシマブ+フルダラビン併用療法が報告されている。■ PCHの治療小児で急性発症するPCHは、寒冷曝露との関連が明らかではないが、保温の必要性は同様である。急性溶血期を十分な支持療法で切り抜ける。溶血の抑制に副腎皮質ステロイド薬が用いられ、有効性は高い。小児PCHでは、摘脾を積極的に考慮する状況は少ない。貧血の進行が急速なら赤血球輸血も必要となるが、DL抗体はP特異性を示すことが多く、供血者赤血球は大多数がP陽性なので、溶血の悪化を招く恐れもある。急性腎不全では血液透析も必要となる。4 今後の展望AIHAの治療では、リツキシマブが登場したことで、ステロイド不応例などでの治療選択の幅が広がった。今後、自己抗原反応性T細胞などを対象にした疾患特異的な治療法の開発が期待される。5 主たる診療科血液内科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報特発性造血障害に関する調査研究班(医療従事者向けのまとまった情報)難病情報センター 自己免疫性溶血性貧血(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)1)改訂版作成のためのワーキンググループ(厚生労働科学研究費補助金 難治性疾患政策研究事業特発性造血障害に関する調査研究). 自己免疫性溶血性貧血 診療の参照ガイド(平成26年度改訂版). 特発性造血障害に関する調査研究班.(参照2015.4.17)2)改訂版作成のためのワーキンググループ(厚生労働科学研究費補助金 難治性疾患政策研究事業特発性造血障害に関する調査研究). 自己免疫性溶血性貧血 診療の参照ガイド(平成28年度改訂版). 特発性造血障害に関する調査研究班. (参照2017)公開履歴初回2015年05月26日更新2017年04月04日

44.

結節性多発動脈炎〔PAN: polyarteritis nodosa〕

1 疾患概要■ 概念・定義主として中型の筋性動脈が侵される壊死性動脈炎である。国際的な血管炎の分類であるChapel Hill Consensus Conference 2012分類(CHCC2012)1)では、血管炎を障害される血管のサイズにより分類しており、本疾患はmedium vessel vasculitis(中型血管炎)に分類されている。剖検時に動脈に沿って粟粒大から豌豆大の小結節が多発して認められる場合があり、KussmaulとMaierにより結節性動脈周囲炎として1866年に提唱された。現在では、結節性多発動脈炎(polyarteritis nodosa:PAN)の呼称が一般的に用いられている。本症の壊死性動脈炎は、肝臓、胆嚢、脾臓、消化管、腸間膜、腎泌尿生殖器、皮膚、骨格筋、中枢神経系、心臓、肺など全身に認め、とくに血管の分岐部が侵されやすい。肺では気管支動脈に病変を認め、肺動脈が侵されることはまれである。原則として腎糸球体は侵されない。■ 疫学50~60歳に好発し、男女比では男性にやや多い。厚生労働省より結節性動脈周囲炎として、特定疾患医療受給者証を交付された患者数は2011年の時点でおよそ9,000人であるが、この中には顕微鏡的多発血管炎の患者も含まれているので、PANの患者が実際にどのくらい存在するかは不明である。しかしながら、PANの患者数は顕微鏡的多発血管炎に比べて圧倒的に少なく、500人未満と推定される。2006年以降、PANと顕微鏡的多発血管炎は別個に登録されるようになったため、今後その実数が明らかになるものと思われる。■ 病因不明である。アデノシンデアミナーゼ2(adenosine deaminase 2: ADA2)の一塩基多型による先天的機能欠損が、小児期のPAN類似血管症の原因となることが報告されている2、3)が、成人例でADA2の量的または質的異常があるとの報告はない。本疾患に特徴的な自己抗体は知られていない。■ 症状発熱や全身倦怠感、体重減少のほか、急速進行性腎障害、高血圧、中枢神経症状、消化器症状、紫斑、皮膚潰瘍、末梢神経障害などの多彩な症状を呈する。■ 分類本症の組織学的病期はArkinにより、I期:変性期、II期:炎症期、III期:肉芽期、IV期:瘢痕期に分類されている(Arkin分類)。変性期には内膜から中膜にかけて、浮腫とフィブリノイド変性が認められる。炎症期には中膜から外膜にかけて、好中球、時に好酸球、リンパ球、形質細胞が浸潤し、フィブリノイド壊死は血管全層に及ぶ。その結果、内弾性板は破壊され、断裂、消失する。炎症期が過ぎると、組織球や線維芽細胞が外膜より侵入し、肉芽期に入る。肉芽期には内膜増殖が起こり、血管内腔が閉塞するほど高度になることがある。瘢痕期では、炎症細胞浸潤はほとんどみられず、血管壁は線維性組織に置換される。このような場合でも、弾性線維染色を行うと内弾性板の断裂が認められ、診断に有用である。また、これら各期の病変が、同一症例内に同時期に混在して認められることも特徴である。■ 予後本症の予後は急性期の治療によるところが大きい。副腎皮質ステロイドによる治療を基本としたフランスの臨床研究では、57例中48例(84.2%)が初期治療により寛解し、残りの9例中8例も免疫抑制薬の併用などにより寛解導入されている4)。しかしながら、寛解導入された56例中、26例(46.4%)で再燃しており、再燃率は比較的高いといえる。5年生存率は90%強である。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)厚生労働省指定難病診断基準(難治性血管炎に関する調査研究班2006年改訂)に基づいて行われる(表1)。重症度に応じて、1度~5度に分類される(表2)。表1 結節性多発動脈炎の診断基準(厚生労働省難治性血管炎に関する調査研究班2006年改訂)【主要項目】1) 主要症候(1)発熱(38℃以上、2週以上)と体重減少(6ヵ月以内に6kg以上)(2)高血圧(3)急速に進行する腎不全、腎梗塞(4)脳出血、脳梗塞(5)心筋梗塞、虚血性心疾患、心膜炎、心不全(6)胸膜炎(7)消化管出血、腸閉塞(8)多発性単神経炎(9)皮下結節、皮膚潰瘍、壊疽、紫斑(10)多関節痛(炎)、筋痛(炎)、筋力低下2) 組織所見中・小動脈のフィブリノイド壊死性血管炎の存在3) 血管造影所見腹部大動脈分枝(とくに腎内小動脈)の多発小動脈瘤と狭窄・閉塞4) 判定(1)確実(definite)主要症候2項目以上と組織所見のある例(2)疑い(probable)(a)主要症候2項目以上と血管造影所見の存在する例(b)主要症候のうち(1)を含む6項目以上存在する例5) 参考となる検査所見(1)白血球増加(10,000/μL以上)(2)血小板増加(400,000/μL以上)(3)赤沈亢進(4)CRP強陽性6) 鑑別診断(1)顕微鏡的多発血管炎(2)多発血管炎性肉芽腫症(旧称:ウェゲナー肉芽腫症)(3)好酸球性多発血管炎性肉芽腫症(旧称:アレルギー性肉芽腫性血管炎)(4)川崎病動脈炎(5)膠原病(SLE、RAなど)(6)IgA血管炎(旧称:紫斑病性血管炎)【参考事項】(1)組織学的にI期:変性期、II期:急性炎症期、III期:肉芽期、IV期:瘢痕期の4つの病期に分類される。(2)臨床的にI、II期病変は全身の血管の高度の炎症を反映する症候、III、IV期病変は侵された臓器の虚血を反映する症候を呈する。(3)除外項目の諸疾患は壊死性血管炎を呈するが、特徴的な症候と検査所見から鑑別できる。表2 結節性多発動脈炎の重症度分類●1度ステロイドを含む免疫抑制薬の維持量ないしは投薬なしで1年以上病状が安定し、臓器病変および合併症を認めず、日常生活に支障なく寛解状態にある患者(血管拡張剤、降圧剤、抗凝固剤などによる治療は行ってもよい)。●2度ステロイドを含む免疫抑制療法の治療と定期的外来通院を必要とするも、臓器病変と合併症は併存しても軽微であり、介助なしで日常生活に支障のない患者。●3度機能不全に至る臓器病変(腎、肺、心、精神・神経、消化管など)ないし合併症(感染症、圧迫骨折、消化管潰瘍、糖尿病など)を有し、しばしば再燃により入院または入院に準じた免疫抑制療法ないし合併症に対する治療を必要とし、日常生活に支障を来している患者。臓器病変の程度は注1のa~hのいずれかを認める。●4度臓器の機能と生命予後に深く関わる臓器病変(腎不全、呼吸不全、消化管出血、中枢神経障害、運動障害を伴う末梢神経障害、四肢壊死など)ないしは合併症(重症感染症など)が認められ、免疫抑制療法を含む厳重な治療管理ないし合併症に対する治療を必要とし、少なからず入院治療、時に一部介助を要し、日常生活に支障のある患者。臓器病変の程度は注2のa~hのいずれかを認める。●5度重篤な不可逆性臓器機能不全(腎不全、心不全、呼吸不全、意識障害・認知障害、消化管手術、消化・吸収障害、肝不全など)と重篤な合併症(重症感染症、DICなど)を伴い、入院を含む厳重な治療管理と少なからず介助を必要とし、日常生活が著しく支障を来している患者。これには、人工透析、在宅酸素療法、経管栄養などの治療を要する患者も含まれる。臓器病変の程度は注3のa~hのいずれかを認める。注1:以下のいずれかを認めることa.肺線維症により軽度の呼吸不全を認め、PaO2が60~70Torr。b.NYHA2度の心不全徴候を認め、心電図上陳旧性心筋梗塞、心房細動(粗動)、期外収縮あるいはST低下(0.2mV以上)の1つ以上を認める。c.血清クレアチニン値が2.5~4.9mg/dLの腎不全。d.両眼の視力の和が0.09~0.2の視力障害。e.拇指を含む2関節以上の指・趾切断。f.末梢神経障害による1肢の機能障害(筋力3)。g.脳血管障害による軽度の片麻痺(筋力6)。h.血管炎による便潜血反応中等度以上陽性、コーヒー残渣物の嘔吐。注2:以下のいずれかを認めることa.肺線維症により中等度の呼吸不全を認め、PaO2が50~59Torr。b.NYHA3度の心不全徴候を認め、胸部X線上CTR60%以上、心電図上陳旧性心筋梗塞、脚ブロック、2度以上の房室ブロック、心房細動(粗動)、人口ペースメーカーの装着のいずれかを認める。c.血清クレアチニン値が5.0~7.9mg/dLの腎不全。d.両眼の視力の和が0.02~0.08の視力障害。e.1肢以上の手・足関節より中枢側における切断。f.末梢神経障害による2肢の機能障害(筋力3)。g.脳血管障害による著しい片麻痺(筋力3)。h.血管炎による肉眼的下血、嘔吐を認める。注3:以下のいずれかを認めることa.肺線維症により高度の呼吸不全を認め、PaO2が50Torr 未満。b.NYHA4度の心不全徴候を認め、胸部X線上CTR60%以上、心電図上陳旧性心筋梗塞、脚ブロック、2度以上の房室ブロック、心房細動(粗動)、人口ペースメーカーの装着、のいずれか2つ以上を認める。c.血清クレアチニン値が8.0mg/dLの腎不全。d.両眼の視力の和が0.01以下の視力障害。e.2肢以上の手・足関節より中枢側の切断。f.末梢神経障害による3肢以上の機能障害(筋力3)、もしくは1肢以上の筋力全廃(筋力2以下)。g.脳血管障害による完全片麻痺(筋力2以下)。h.血管炎による消化管切除術を施行。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)2006~2007年度合同研究班による『血管炎症候群の診療ガイドライン』の中で、「寛解導入療法と寛解維持療法の指針」が示されているので、以下に示す。■ 寛解導入療法1)副腎皮質ステロイドプレドニゾロン0.5~1mg/kg/日(40~60mg/日)を重症度に応じて経口投与する。腎、脳、消化管など生命予後に関わる臓器障害を認めるような重症例では、パルス療法すなわちメチルプレドニゾロン大量点滴静注療法(メチルプレドニゾロン500~1,000mg + 5%ブドウ糖溶液500mLを2~3時間かけ点滴静注、3日間連続)を行う。後療法としてプレドニゾロン0.5~0.8mg/日の投与を行う5)。2)ステロイド治療に反応しない場合シクロホスファミド点滴静注療法(intravenous cyclophosphamide:IVCY)または経口シクロホスファミド(CY)の経口投与(0.5~2mg/kg/日)を行う。IVCYは、シクロホスファミド500~600mg/生理食塩水または5%ブドウ糖溶液500mLを2~3時間かけて点滴静注し、4週間間隔、計6回を目安に行う6、7)。IVCY治療中は白血球減少に注意し3,000/㎜3以下にならないように次回のIVCY量を減量する。なお、CYは腎排泄性のため腎機能低下に応じて減量投与を行う(クラスIIb、レベルC)8)。表3に年齢、腎機能に応じたIVCY量を示す。なお、IVCYは経口CYに比べて有効性は同等だが副作用が少ないと報告されている9)。画像を拡大するその他の免疫抑制薬としてアザチオプリン、メトトレキセートも用いられる(クラスIIb、レベルC)9)。いずれも腎排泄性である。アザチオプリンは腎機能低下時には減量が必要であり、メトトレキセートは腎不全には禁忌である。3)重要臓器傷害の重症例肺・腎・消化管・膵などの重要臓器を2ヵ所以上傷害された重症例では、ステロイドパルスと共に血漿交換療法を行い、生命予後を改善させるようにする(クラスIIb、レベルC)10、11)。4)HBウイルス肝炎併発例活動性のHBウイルス肝炎を伴っている場合には、抗ウイルス薬および免疫複合体除去目的で血漿交換療法を併用する(クラスIIb、レベルC)5、6)。■ 寛解維持療法初期治療による寛解導入後は、再燃のないことを確認しつつ副腎皮質ステロイド薬(プレドニゾロン)を漸減し維持量(5~10mg/日)とする。副腎皮質ステロイド薬や免疫抑制薬の治療期間は原則として2年を超えない(クラスIIb、レベルC)12)。CYは3ヵ月間用い、その後寛解維持薬として、より副作用の少ないアザチオプリンに変更し、半年~1年間用いる(クラスIIb、レベルC)13)。なお、免疫抑制薬、血漿交換療法は、本疾患に対する保険適用薬でないため、投薬時には十分なインフォームドコンセントが必要である。4 今後の展望血管炎症候群の中でも、顕微鏡的多発血管炎などのANCA関連血管炎の病因・病態解明が進み、新規治療法が考案されてきているのに対し、PANに対する基礎研究ならびに臨床研究は、ここ数年あまり大きな進展が得られていないのが実情である。とはいえ、厚生労働省難治性血管炎に関する調査研究班をはじめとする地道な基礎的・臨床的研究が継続されており、その中からブレイクスルーが生まれることが期待される。5 主たる診療科膠原病・リウマチ科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報難病情報センター 結節性多発動脈炎(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)日本血管病理研究会(医療従事者向けのまとまった情報)1)Jennette JC, et al. Arthritis Rheum. 2013;65:1-11.2)Zhou Q, et al. New Engl J Med.2014;370:911-920.3)Navon Elkan P, et al. New Engl J Med.2014;370:921-931.4)Samson M, et al. Autoimmun Rev. 2014;13:197-205.5)中林公正ほか. ANCA関連血管炎の治療指針. 厚生労働省厚生科学特定疾患対策研究事業難治性血管炎に対する研究班(橋本博史編). 2002;19-23.6)Gayraud M, et al. Br J Rheumatol. 1997;36:1290-1297.7)Guillevin L, et al. Arthritis Rheum. 2003;49:93-100.8)難病医学研究財団/難病情報センター 免疫疾患調査研究班(難治性血管炎に関する調査研究班). IVCY治療における年齢、腎機能に応じたシクロホスファミドの投与量設定表. 難病情報センター. (参照 2015.1月26日)9)Jayne D. Curr Opin Rheumatol. 2001;13:48-55.10)Guillevin L, et al. Arthritis Rheum. 1995;38:1638-1645.11)寺田典生ほか. 日内会誌. 1988;77:494-498.12)Guillevin L, et al. Arthritis Rheum. 1998;41:2100-2105.13)Jayne D, et al. N Engl J Med. 2003;349:36-44.公開履歴初回2015年05月15日更新2016年06月07日

45.

認定内科医試験完全対策 総合内科専門医ベーシック vol.4

第10回 血液 第11回 神経第12回 循環器 第13回 総合内科/救急(※正誤表) 日本内科学会の認定内科医試験を受験する先生方、必見です。出題基準ランクAの疾患を中心に各領域の予想問題を作成、出題意図と関連知識を解説していく“完全対策”DVDができました(全4巻)。講師は、若手育成に定評があり数々の資格試験を突破してきた、聖マリア病院の長門直先生。総合内科専門医試験を受ける先生方にとっては、基礎固め、総復習に最適。これを見れば、勉強するポイント、頻出のトピックがわかります!第10回 血液 治療のアップデートが頻繁な血液領域は、必ず出題されるところが決まっています。そこを落とさないようにすることが得点を上げるカギです。AMLとALLの分類・検査・治療の比較や血栓性血小板減少性紫斑病の5徴など、頻出のポイントをしっかり押さえて試験に臨んでください。第11回 神経神経領域では、似た症状を持つ疾患でも使う薬剤や検査が異なる場合がよくあり、出題のポイントになることが多いようです。また、試験に出題されそうな箇所をまとめた脳卒中治療ガイドライン2009と2015の改訂点についても、しっかり確認してください。第12回 循環器 各疾患の検査所見に関する出題が多い循環器領域。中でも、弁膜症、心筋症、狭心症、心筋梗塞などの代表的な心疾患については、しっかりと整理をしておく必要があります。必ず出題されるポイントを押さえて、試験に挑んでください。第13回 総合内科/救急 最終回の総合内科/救急は、出題数は少ないですが、とくに確率統計に関する計算は毎年のように出題されているので必ず得点できるようにしておきましょう。また、心肺蘇生ガイドライン2010から2015への変更点についてもよく確認しておいてください。

46.

免疫性血小板減少症〔ITP:immune thrombocytopenia〕(旧名:特発性血小板減少性紫斑病

1 疾患概要■ 概念・定義特発性血小板減少性紫斑病(ITP:idiopathic thrombocytopenic purpura)は、厚生労働省の特定疾患治療研究事業対象疾患(特定疾患)に認定されている疾患であり、他の基礎疾患や薬剤などの原因がなく、血小板の破壊が亢進し減少する後天性の自己免疫疾患と考えられている。欧米では本疾患に対し、免疫性(immune)あるいは自己免疫性(autoimmune)という表現が用いられており、わが国においても本疾患の病名を免疫性血小板減少症(ITP:immune thrombocytopenia)へと改定する予定である。血小板が減少していても、必ずしも出血症状を伴うわけではないことが“purpura”を削除した理由であり、この考え方は本疾患の治療戦略とも密接に関連する。■ 疫学わが国におけるITPの有病者数は約2万人で、年間発症率は人口10万人当たり約2.16人と推計される。つまり年間約3,000人が新規に発症している計算になる。最近の調査では、慢性ITPの好発年齢として20~40代の若年女性に加え、60~80代でのピークが認められるようになってきている。高齢者の発症に男女比の差はない。急性ITPは5歳以下の発症が圧倒的である。■ 病因ITPの病因はいまだ不明な点が多いが、その主たる病態は血小板の破壊亢進である。ITPでは血小板膜GPIIb-IIIaやGPIb-IXなどに対する自己抗体が産生され、それらに感作された血小板は早期に脾臓を中心とした網内系においてマクロファージのFc受容体を介して捕捉され、破壊されて血小板減少を来す。これらの自己抗体は主として脾臓で産生されており、脾臓は主要な血小板抗体の産生部位であるとともに、血小板の破壊部位でもある。さらに最近では、ITPにおける抗血小板自己抗体は巨核球の分化・成熟にも障害を与え、血小板産生も正常コントロールと比べ減少していることが示されている。■ 症状症状は皮下出血、歯肉出血、鼻出血、性器出血など皮膚粘膜出血が主症状である。血小板数が1万/μL未満になると血尿、消化管出血、吐血、網膜出血を認めることもある。口腔内に高度の粘膜出血を認める場合は、消化管出血や頭蓋内出血を来す危険があり、早急な対応が必要である。血友病など凝固因子欠損症では関節内出血や筋肉内出血を生じるが、ITPでは通常、これらの深部出血は認めない。■ 分類ITPはその発症様式と経過より、急性型と慢性型に分類され、6ヵ月以内に自然寛解する病型は急性型、それ以後も血小板減少が持続する病型は慢性型と分類される。急性型は小児に多くみられ、ウイルス感染を主とする先行感染を伴うことが多い。一方、慢性型は成人に多い。しかしながら、発症時に急性型か慢性型かを区別することはきわめて困難である。最近では、12ヵ月経過したものを慢性型とする意見もある。■ 予後ITPでは、血小板数が3万/μL以上の場合、死亡率は正常コントロールと同じであり、予後は比較的良好と考えられている。しかし、3万/μL以下だと出血や感染症が多くなり、死亡率が約4倍に増加すると報告されている。この成績より、血小板数3万/μL以上を維持することが治療目標となっている。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)ITPの診断に関しては、いまだに他の疾患の除外診断が主体であり、薬剤性やC型肝炎など血小板減少を来す他の疾患を鑑別しなければならない。とくに血小板数が3~5万/μL以下の症例で無症状の場合や検査コメントに血小板凝集(+)と記載されている場合は、末血用スピッツ内のEDTAにより誘導される「見かけ上」の血小板減少(EDTA依存性偽性血小板減少症)を除外すべきである(治療の必要なし)。ITPと同様に免疫学的機序で血小板が減少する二次的ITPとして、全身性エリテマトーデスなどの膠原病やリンパ系腫瘍、ウイルス肝炎、HIV感染などが挙げられる。詳しい病歴の聴取や身体所見、時には骨髄穿刺により先天性血小板減少症や薬剤性血小板減少症、さらには血小板産生障害に起因する骨髄異形成症候群や再生不良性貧血などの鑑別を行う。骨髄検査において典型的ITPでは、幼若な巨核球が目立つが巨核球数は正常あるいは増加しており、その他はとくに異常を認めない。PAIgG(Platelet-associated IgG:血小板関連IgG)は2006年に保険収載されたが、PAIgGは血小板に結合した(あるいは付着した)非特異的なIgGも測定するため、再生不良性貧血などの血小板減少時にも高値になることがあり、その診断的意義は少ない。2023年に血漿トロンボポエチン濃度と幼若血小板比率(IPF%)を組み込んだ新たなITPの診断基準が公表されている。一方、これらのバイオマーカーの測定は現時点で保険適用外であり、その保険収載が急務の課題である。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)■ ITPにおける治療目標ITPの治療目標は血小板数を正常化させることではなく、危険な出血を予防することである。具体的には血小板3万/μL以上かつ出血症状が無い状態にすることが当面の治療目標となる。「成人ITP治療の参照ガイド2019改訂版」では、初診時血小板が3万/μL以上あり出血傾向を認めない場合は、無治療での経過観察としている。血小板数を正常に維持するために高用量の副腎皮質ステロイドを長期に使用すべきではないとの立場である。図に「成人ITP治療の参照ガイド2019 改訂版」の概要を示す。なお、本ガイドは、https://www.jstage.jst.go.jp/article/rinketsu/60/8/60_877/_pdfにて公開されている。画像を拡大する1)第1選択治療(1)ピロリ菌除菌療法(2010年6月より保険適用)わが国においては、ITPに関してH.pylori(ピロリ菌)除菌療法の有効性が示されている。ピロリ菌感染患者には、第1選択として試みる価値がある。出血症状を伴う例に対しては、ステロイド療法をまず選択し、血小板数が比較的安定した時点で除菌療法を試みる。(2)副腎皮質ステロイド療法ピロリ菌陰性患者や除菌無効例には、副腎皮質ステロイド(プレドニゾロン)が第1選択となる。副腎皮質ステロイドは網内系における血小板の貪食および血小板自己抗体の産生を抑制する。血小板数3万/μL以下の症例で出血症状を伴う症例が対象である。とくに口腔内や鼻腔内の出血を認める場合は積極的に治療を行う。50~75%において血小板が増加するが、多くは副腎皮質ステロイド減量に伴い血小板が減少する。初期投与量としては0.5~1mg/kg/日を2~4週間投与後、血小板数の増加がなくても8~12週かけて10mg/日以下にまで漸減する。経過が良ければさらに減量する。2)第2選択治療(1)トロンボポエチン(TPO)受容体作動薬ITPでは血小板造血が障害されているものの、血清TPO濃度は正常~軽度上昇に止まる。この成績より、血小板造血を促進する治療薬としてTPO受容体作動薬が開発され、2011年より保険適用となっている。薬剤としては、ロミプロスチム(商品名:ロミプレート/皮下注)やエルトロンボパグ オラミン(同:レボレード/経口薬)があり、優れた有効性が示されている。血栓症の発症や骨髄線維化のリスクがあるため、これらに関しては慎重にモニターすべきである。妊婦には使用できない。(2)リツキシマブB細胞に発現しているCD20抗原を認識するヒトマウスキメラモノクローナル抗体で、B 細胞を減少させ、抗体産生を低下させる作用がある。わが国では2017年3月よりITPに対して適応拡大されている。(3)脾臓摘出術(脾摘)発症後6~12ヵ月以上経過し、各種治療にて血小板数3万/μL以上を維持できない症例に考慮する。寛解率は約60%。摘脾の1週間前より免疫グロブリン大量療法(後述)にて血小板を増加させる。近年では、TPO受容体作動薬などの新規薬剤の登場により、脾摘施行例は減少している。(4)新規ITP治療薬「成人ITP治療の参照ガイド2019改訂版」公開後に新たに上市されたITP治療薬として、ホスタマチニブ([Syk阻害剤]およびエフガルチギモド(胎児性Fc受容体阻害剤)が挙げられる。これらの薬剤の治療上の位置付けに関しては、今後の検討課題である。3)難治ITP症例への治療法(第3選択治療)本項で述べる薬剤は、ITPへの適応は無いものの、文献などにて有効性が示唆されている薬剤である。4)緊急時の治療診断時、消化管出血や頭蓋内出血などの重篤な出血を認める症例や、脾摘など外科的処置が必要な症例には、免疫グロブリン大量療法やメチルプレドニンパルス療法にて血小板を速やかに増加させ、出血をコントロールする必要がある。血小板輸血は一般には行わないが、活動性出血を伴う重症例では血小板輸血も積極的に考慮する。4 今後の展望上記以外の新たなITP治療薬として、BTK阻害薬、新規TPO受容体作動薬、抗CD38抗体薬など種々の薬剤が開発、治験されており、これらの薬剤の上市が待たれる。5 主たる診療科血液内科、あるいは血液・腫瘍内科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報難病情報センター(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)成人特発性血小板減少性紫斑病治療の参照ガイド2012年版(医療従事者向けのまとまった情報)妊娠合併特発性血小板減少性紫斑病診療の参照ガイド(医療従事者向けのまとまった情報)患者会情報つばさのひろば(血液疾患患者とその家族の会)1)Cines DB, et al. N Engl J Med.2002;346:995-1008.2)冨山佳昭. 臨床血液. 2011;52:627-632.3)柏木浩和ほか. 臨床血液. 2019;60:877-896.4)柏木浩和ほか. 臨床血液. 2024;64:1245-1257.公開履歴初回2013年03月28日更新2015年11月02日更新2024年9月16日

47.

1分でわかる家庭医療のパール ~翻訳プロジェクトより 第23回

第23回:消化性潰瘍とH. pylori感染症の診断とH. pylori除菌治療について監修:吉本 尚(よしもと ひさし)氏 筑波大学附属病院 総合診療科 消化器病領域で遭遇する頻度が多い疾患の1つに消化性潰瘍が挙げられますが、その原因のほとんどが、ヘリコバクター・ピロリ菌感染とNSAIDsの使用によるものと言われています。ヘリコバクター・ピロリ菌には日本人の約50%弱が感染していると言われ、がんの発生にも関与しているため、どのような人にどのような検査・治療を行うべきかを理解しておくことが重要です。 除菌治療に関連して、カリウムイオン競合型アシッドブロッカー(P-CAB)などの新しい治療薬も販売されていますが、日本での除菌適応は「H. pylori 陽性の胃潰瘍、十二指腸潰瘍、胃MALTリンパ腫、特発性血小板減少性紫斑病、早期胃がんに対する内視鏡的治療後胃、ヘリコバクター・ピロリ感染胃炎」で、胃炎の場合には上部消化管内視鏡での確認が必須となっていることに注意が必要です。いま一度、既存の診断と除菌治療戦略について知識の整理をしていただければ幸いです。 タイトル:消化性潰瘍とH. pylori感染症の診断とH. pylori除菌治療について以下、 American Family Physician 2015年2月15日号1)より一部改変H. pyloriはグラム陰性菌でおよそ全世界の50%以上の人の胃粘膜に潜んでいると言われ、年代によって感染率は異なる。十二指腸潰瘍の患者の95%に、胃潰瘍の患者の70%の患者に感染が見られる。典型的には幼少期に糞口感染し、数十年間持続する。菌は胃十二指腸潰瘍やMALTリンパ腫、腺がんの発生のリスクとなる。病歴と身体所見は潰瘍、穿孔、出血や悪性腫瘍のリスクを見出すためには重要であるが、リスクファクターと病歴、症状を用いたモデルのシステマティックレビューでは機能性dyspepsiaと器質的疾患を、明確に区別できないとしている。そのため、H. pyloriの検査と治療を行う戦略が、警告症状のないdyspepsia(胸やけ、上腹部不快感)の患者に推奨される。米国消化器病学会では、活動性の消化性潰瘍や消化性潰瘍の既往のある患者、dyspepsia症状のある患者、胃MALTリンパ腫の患者に検査を行うべきとしている。現在無症状である消化性潰瘍の既往のある患者へ検査を行う根拠は、H. pyloriを検出し、治療を行うことで再発のリスクを減らすことができるからである。H. pyloriを検出するための検査と治療の戦略は、dyspepsiaの患者のほか、胃がんのLow Risk群(55歳以下、説明のつかない体重減少や進行する嚥下障害、嚥下痛、嘔吐を繰り返す、消化管がんの家族歴、明らかな消化管出血、腹部腫瘤、鉄欠乏性貧血、黄疸などの警告症状がない)の患者に適当である。内視鏡検査は55歳以上の患者や警告症状のある患者には推奨される。H. pyloriの検査の精度は以下のとおりである。<尿素呼気試験>感度と特異度は100%に達する。尿素呼気試験は除菌判定で選択される検査の1つであり、除菌治療終了から4~6週間空けて検査を行うべきである。プロトンポンプ阻害薬(PPI)は、検査の少なくとも2週間前からは使用を控えなければならず、幽門側胃切除を行った患者では精度は下がる。<便中抗原検査>モノクローナル抗体を用いた便中抗原検査は、尿素呼気試験と同等の精度を持ち、より安くて簡便にできる検査である。尿素呼気試験のように便中抗原検査は活動性のある感染を検出し、除菌判定に用いることができる。PPIは検査の2週間前より使用を控えるべきだが、尿素呼気試験よりもPPIの使用による影響は少ない。<血清抗原>血清抗原検査は血清中のH. pyloriに特異的なIgGを検出するが、活動性のある感染か、既感染かは区別することができない。そのため除菌判定に用いることはできない。検査の感度は高いが、特異的な検査ではない(筆者注:感度 91~100% 特異度 50~91%)2)。PPIの使用や、抗菌薬の使用歴に影響されないため、PPIを中止できない患者(消化管出血を認める患者、NSAIDsの使用を続けている人)に最も有用である。<内視鏡を用いた生検>内視鏡検査による生検は、55歳以上の患者と1つ以上の警告症状のある患者には、がんやその他の重篤な原因の除外のために推奨される。内視鏡検査を行う前の1~2週間以内のPPIの使用がない患者、または4週間以内のビスマス(止瀉薬)や抗菌薬の使用がない患者において、内視鏡で施行される迅速ウレアーゼテストはH. pylori感染症診断において精度が高く、かつ安価で行える。培養とPCR検査は鋭敏な検査ではあるが、診療所で用いるには容易に利用できる検査ではない。除菌治療すべての消化性潰瘍の患者にH. pyloriの除菌が推奨される。1次除菌療法の除菌率は80%以上である。抗菌薬は地域の耐性菌の状況を踏まえて選択されなければならない。クラリスロマイシン耐性率が低い場所であれば、標準的な3剤併用療法は理にかなった初期治療である。除菌はほとんどの十二指腸潰瘍と、出血の再発リスクをかなり減らしてくれる。消化性潰瘍が原因の出血の再発防止においてはH. pyloriの除菌治療は胃酸分泌抑制薬よりも効果的である。<標準的3剤併用療法>7~10日間の3剤併用療法のレジメン(アモキシシリン1g、PPI、クラリスロマイシン500mgを1日2回)は除菌のFirst Lineとされている。しかし、クラリスロマイシン耐性が増えていることが、除菌率の低下に関連している。そのため、クラリスロマイシン耐性のH. pyloriが15%~20%を超える地域であれば推奨されない。代替療法としては、アモキシシリンの代わりにメトロニダゾール500mg1日2回を代用する。<Sequential Therapy(連続治療)>Sequential TherapyはPPIとアモキシシリン1g1日2回を5日間投与し、次いで5日間PPI、クラリスロマイシン500mg1日2回、メトロニダゾール500mg1日2回を投与する方法である。全体の除菌率は84%、クラリスマイシン耐性株に対して除菌率は74%である。最近の世界規模のメタアナリシスでは、sequential therapyは7日間の3剤併用療法よりも治療効果は優れているが、14日間の3剤併用療法よりも除菌率は劣るという結果が出ている。<ビスマスを含まない4剤併用療法>メトロニダゾール500mg1日2回またはチニダゾール500mg1日2回を標準的な3剤併用療法に加える治療である。Sequential Therapyよりも複雑ではなく、同様の除菌率を示し、クラリスロマイシンとメトロニダゾール耐性株を有する患者でも効果がある。クラリスロマイシンとメトロニダゾールの耐性率が高い地域でも90%にも及ぶ高い除菌率であるが、クラリスロマイシンを10日間服用する分、sequential therapyよりも費用が掛かってしまう。除菌判定H. pyloriの除菌判定のための尿素呼気試験や便中抗原の試験の適応は、潰瘍に関連したH. pylori感染、持続しているdyspepsia症状、MALTリンパ腫に関連したH. pylori感染、胃がんに対しての胃切除が含まれる。判定は除菌治療が終了して4週間後以降に行わなければならない。※本内容は、プライマリケアに関わる筆者の個人的な見解が含まれており、詳細に関しては原著を参照されることを推奨いたします。 1) Fashner J , et al. Am Fam Physician. 2015;91:236-242. 2) 日本ヘリコバクター学会ガイドライン作成委員会.H. pylori 感染の診断と治療のガイドライン 2009 改訂版

48.

aHUS診断基準公表による、早期診断・早期治療に期待

 非典型溶血性尿毒症症候群(atypical hemolytic uremic syndrome:aHUS)は、志賀毒素産生性大腸菌由来尿毒症症候群(Shiga toxin-producing E. coli hemolytic uremic syndrome:STEC-HUS)とADAMTS13 (a disintegrin-like and metalloproteinase with thrombospondin type 1 motifs:member13)活性著減による血栓性血小板減少性紫斑病(thrombotic thrombocytopenic purpura:TTP) 以外の血栓性微小血管障害(thrombotic microangiopathy:TMA)と定義される。 aHUSの主徴は、「微小血管症性溶血性貧血」、「血小板減少」、「急性腎障害(acute kidney injury:AKI)」の3つである。 近年、このaHUSの病因として補体制御機構の異常が注目されている。50-60%の症例でH因子をはじめとするさまざまな補体制御因子の遺伝子異常が報告され、目下aHUSにおける病態解析は急速に進んでいる。 aHUSは、発症早期にはSTEC-HUSやTTPとの鑑別が必ずしも容易ではなく、積極的な治療が遅れると腎不全に進行するリスクが高い症候群であることから、早期に診断し、機を逃すことなく適切な治療を実施することが重要である。 これらを背景に、日本腎臓学会・日本小児科学会は非典型溶血性尿毒症症候群診断基準作成委員会を発足し、徳島大学大学院 発生発達医学講座(小児医学)香美 祥二 委員長、東京女子医科大学 腎臓小児科 服部 元史 氏、東京大学大学院 腎臓内科学、内分泌病態学 南学 正臣 氏らによってわが国で初めてとなる「非典型溶血性尿毒症症候群(aHUS)診断基準」を公表した。 この診断基準の公表により、今後、日本におけるaHUS患者の早期診断・早期治療への道が開かれ、ひとりでも多くの患者さんの予後改善につながることが期待される。さらに、aHUS に対する治療のエビデンスを構築することにより、将来的に新しい治療ガイドラインの作成にも結び付くことが望まれる。「非典型溶血性尿毒症症候群(aHUS)診断基準」の詳細は下記のいずれかのURLより閲覧いただけます。日本腎臓学会日本小児科学会

49.

薬剤投与後の肝機能障害を見逃し、過誤と判断されたケース

消化器最終判決判例時報 1645号82-90頁概要回転性の眩暈を主訴として神経内科外来を受診し、脳血管障害と診断された69歳男性。トラピジル(商品名:ロコルナール)、チクロピジン(同:パナルジン)を処方されたところ、約1ヵ月後に感冒気味となり、発熱、食欲低下、胃部不快感などが出現、血液検査でGOT 660、GPT 1,058と高値を示し、急性肝炎と診断され入院となった。入院後速やかに肝機能は回復したが、急性肝炎の原因が薬剤によるものかどうかをめぐって訴訟に発展した。詳細な経過患者情報69歳男性経過1995年4月16日朝歯磨きの最中に回転性眩暈を自覚し、A総合病院神経内科を受診した。明らかな神経学的異常所見や自覚症状はなかったが、頭部MRI、頸部MRAにてラクナ型梗塞が発見されたことから、脳血管障害と診断された(4月17日に行われた血液検査ではGOT 21、GPT 14と正常範囲内であり、肝臓に関する既往症はないが、かなりの大酒家であった)。6月7日トラピジル、チクロピジンを4週間分処方した。7月5日再診時に神経症状・自覚症状はなく、トラピジル、チクロピジンを4週間分再度処方した。7月7日頃~感冒気味で発熱し、食欲低下、胃部不快感、上腹部痛などを認めた。7月12日内科外来受診。念のために行った血液検査で、GOT 660、GPT 1,058と異常高値であることがわかり、急性肝炎と診断された。7月15日~9月1日入院、肝機能は正常化した。なお、入院中に施行した血液検査で、B型肝炎・C型肝炎ウイルスは陰性、IgE高値。薬剤リンパ球刺激検査(LST)では、トラピジルで陽性反応を示した。当事者の主張患者側(原告)の主張1.急性肝炎の原因本件薬剤以外に肝機能に異常をもたらすような薬は服用しておらず、そのような病歴もない。また、薬剤中止後速やかに肝機能は改善し、薬剤リンパ球刺激検査でトラピジルが陽性を示し、担当医らも薬剤が原因と考えざるを得ないとしている。したがって、急性肝炎の原因は、担当医師が処方したトラピジル、チクロピジン、またはそれらの複合によるものである2.投薬過誤ついて原告の症状は脳梗塞や脳血栓症ではなく、小さな脳血栓症の痕跡があったといっても、これは高齢者のほとんどにみられる現象で各別問題はなかったので、薬剤を処方する必要性はなかった3.経過観察義務違反について本件薬剤の医薬品取扱説明書には、副作用として「ときにGOT、GPTなどの上昇があらわれることがあるので、観察を十分に行い異常が認められる場合には投与を中止すること」と明記されているにもかかわらず、漫然と4週間分を処方し、その間の肝機能検査、血液検査などの経過観察を怠った病院側(被告)の主張1.急性肝炎の原因GOT、GPTの経時的変動をみてみると、本件薬剤の服用を続けていた時点ですでに回復期に入っていたこと、薬剤服用中に解熱していたこと、本件の肝炎は原因不明のウイルス性肝炎である可能性は否定できず、また、1日焼酎を1/2瓶飲むほどであったのでアルコール性肝障害の素質があったことも影響を与えている。以上から、本件急性肝炎が本件薬剤に起因するとはいえない2.投薬過誤ついて初診時の症状である回転性眩暈は、小梗塞によるものと考えられ、その治療としては再発の防止が最優先されるのだから、厚生省告示によって1回30日分処方可能な本件薬剤を処方したことは当然である。また、初診時の肝機能は正常であったので、その後の急性肝炎を予見することは不可能であった3.経過観察義務違反について処方した薬剤に副作用が起こるという危険があるからといって、何らの具体的な異常所見もないのに血液検査や肝機能検査を行うことはない裁判所の判断1. 急性肝炎の原因原告には本件薬剤以外に肝機能障害をもたらすような服薬や罹病はなく、そのような既往症もなかったこと、本件薬剤中止後まもなく肝機能が正常に戻ったこと、薬剤リンパ球刺激試験(LST)の結果トラピジルで陽性反応が出たこと、アレルギー性疾患で増加するIgEが高値であったことなどの理由から、トラピジルが単独で、またはトラピジルとチクロピジンが複合的に作用して急性肝炎を惹起したと推認するのが自然かつ合理的である。病院側は原因不明のウイルス性肝炎の可能性を主張するが、そもそもウイルス性肝炎自体を疑うに足る的確な証拠がまったくない。アルコール性肝障害についても、飲酒歴が急性肝炎の発症に何らかの影響を与えた可能性は必ずしも否定できないが、そのことのみをもって薬剤性肝炎を覆すことはできない。2. 投薬過誤ついて原告の症状は比較的軽症であったので、本件薬剤の投与が必要かつもっとも適切であったかどうかは若干の疑問が残るが、本件薬剤の投与が禁止されるべき特段の事情は認められなかったので、投薬上の過失はない。3. 経過観察義務違反について医師は少なくとも医薬品の能書に記載された使用上の注意事項を遵守するべき義務がある。本件薬剤の投与によって肝炎に罹患したこと自体はやむを得ないが、7月5日の2回目の投薬時に簡単な血液検査をしていれば、急性肝炎に罹患したこと、またはそのおそれのあることを早期(少なくとも1週間程度早期)に認識予見することができ、薬剤の投与が停止され、適切な治療によって急性肝炎をより軽い症状にとどめ、48日にも及ぶ入院を免れさせることができた。原告側合計102万円の請求に対し、20万円の判決考察この裁判では、判決の金額自体は20万円と低額でしたが、訴訟にまで至った経過がやや特殊でした。判決文には、「病院側は入院当時、「急性肝炎は薬剤が原因である」と認めていたにもかかわらず、裁判提起の少し前から「急性肝炎の発症原因としてはあらゆる可能性が想定でき、とくにウイルス性肝炎であることを否定できないから結局発症原因は不明だ」と強調し始めたものであり、そのような対応にもっとも強い不満を抱いて裁判を提起したものである」と記載されました。この病院側の主張は、けっして間違いとはいえませんが、本件の経過(薬剤を中止したら肝機能が正常化したこと、トラピジルのLSTが陽性でIgEが高値であったこと)などをみれば、ほとんどの先生方は薬剤性肝障害と診断されるのではないかと思います。にもかかわらず、「発症原因は不明」と強調されたのは不可解であるばかりか、患者さんが怒るのも無理はないという気がします。結局のところ、最初から「薬剤性でした」として変更しなければ、もしかすると裁判にまで発展しなかったのかも知れません。もう1点、この裁判では重要なポイントがあります。それは、新規の薬剤を投与した場合には、定期的に副作用のチェック(血液検査)を行わないと、医療過誤を問われるリスクがあるという、医学的というよりもむしろ社会的な問題です。本件では、トラピジル、チクロピジンを投与した1ヵ月後の時点で血液検査を行わなかったことが、医療過誤とされました。病院側の主張のように、「何らの具体的な異常所見もないのに(薬剤開始後定期的に)血液検査や肝機能検査を行うことはない」というのはむしろ常識的な考え方であり、これまでの外来では、「この薬を飲んだ後に何か症状が出現した場合にはすぐに受診しなさい」という説明で十分であったと思います。しかも、頻回に血液検査を行うと医療費の高騰につながるばかりか、保険審査で査定されてしまうことすら考えられますが、今回の判決によって、薬剤投与後何も症状がなくても定期的に血液検査を行う義務のあることが示されました。なお、抗血小板剤の中でもチクロピジンには、以前から重篤な副作用による死亡例が報告されていて、薬剤添付文書には、「投与開始後2ヵ月は原則として2週間に1回の血液検査をしなさい」となっていますので、とくに注意が必要です。以下に概要を提示します。チクロピジン(パナルジン®)の副作用Kupfer Y, et al. New Engl J Med.1997; 337: 1245.3週間前に冠動脈にステントを入れ、チクロピジンとアスピリンを服用していた47歳女性。48時間前からの意識障害、黄疸、嘔気を主訴に入院、血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)と診断された。入院後48時間で血小板数が87,000から2,000に激減し、輸血・血漿交換にもかかわらず死亡した。吉田道明、ほか.内科.1996; 77: 776.静脈血栓症と肺塞栓症のため、42日前からチクロピジンを服用していた83歳男性。42日目の血算で好中球が30/mm3と激減したため、ただちにチクロピジンを中止し、G-CSFなどを投与したが血小板も減少し、投与中止6日目に死亡した。チクロピジンの薬剤添付文書には、警告として「血小板減少性紫斑病(TTP)、無顆粒球症、重篤な肝障害などの重大な副作用が主に投与開始後2ヵ月以内に発現し、死亡に至る例も報告されている。投与開始後2ヵ月間は、とくに前記副作用の初期症状の発現に十分に留意し、原則として2週に1回、血球算定、肝機能検査を行い、副作用の発現が認められた場合にはただちに中止し、適切な処置を行う。投与中は定期的に血液検査を行い、副作用の発現に注意する」と明記されています。消化器

50.

こどものみかた<下巻> ~シミュレーションで学ぶ見逃せない病気~

第4回「もう大丈夫!子どもの喘鳴」第5回「これですっきり!嘔吐のみかた」第6回「子どもの腹痛 便秘と重症疾患の見極め!」 小児科医でなくても、日常診療や夜間救急・輪番で「こどもを診る」機会のある一般内科医や看護師も多いのではないでしょうか。そんな時、慌てずに対応できていますか?本DVDは、診療所に緊急度の高い小児救急患者が訪れた場面のシミュレーションをふまえ、適切なトリアージ、処置、診断、家族への病状説明、小児専門医への搬送などを身に付ける、小児救急の実践的プログラムです。第4回「もう大丈夫!子どもの喘鳴」小児の小急性疾患のひとつ喘鳴を取り上げます。レクチャーにおける到達目標は3つです。1)小児の喘鳴の鑑別疾患を5つ挙げることができる 2)緊急性を判断し小児科に相談ができる 3)喘鳴の鑑別診断と初期治療を行うことができる番組では、症例動画を参考に喘鳴患者の見た目と呼吸音を理解し、ロールプレイをとおして病歴聴取法やバイタルサインの確認法など学習していきます。本シリーズ恒例のおさらいクイズで喘鳴診療の学習度をチェックしましょう。第5回「これですっきり!嘔吐のみかた」子どもの救急外来で「発熱」に次いで多いのが「嘔吐」です。高熱でお腹が張り嘔吐、咳が出てむせこみ嘔吐、泣きすぎて嘔吐…などコモンな症状に関わらずその原因は様々で、緊急度の高い疾患も潜むため、嘔吐の診断は的確さが求められます。とはいえ焦る必要はありません。ABC(見た目)の確認、バイタルサインの数値化、的確な問診・診察を行い、胃腸炎、腸重積、虫垂炎、髄膜炎、代謝性など嘔吐をきたす疾患を見極める術を学びます。そしておさらいクイズで学習度をチェック!第6回「子どもの腹痛 便秘と重症疾患の見極め!」小児救急の3大主訴のひとつ「腹痛」です。乳幼児は大人のように腹痛を訴えることができません。不機嫌、哺乳力低下、啼泣など子どもの様子から迅速かつ的確にトリアージしなくてはなりません。小児になると便秘による腹痛が大半です。便が出ていても便秘!?激痛が浣腸だけで収まる!といったことも珍しくありません。このように小児の腹痛は便秘や胃腸炎などが多いのですが、虫垂炎、腸重積、鼠径ヘルニア、精巣捻転、紫斑病などを念頭に鑑別する必要があります。ABCで見た目の異常を確認し、虫垂炎や腸重積などの特徴を念頭に便秘と重症疾患を見極める術を学びます。最後のおさらいクイズで学習度をチェックしましょう。

52.

「ヘリコバクター・ピロリ感染胃炎」保険適用の意義

 2012年3月18日(月)、マスコミセミナー「ヘリコバクター・ピロリ感染胃炎」保険適用の意義 が開催された。国立国際医療研究センター国府台病院 院長 上村直実氏と東海大学医学部総合内科 教授 高木敬司氏が、ヘリコバクター・ピロリ感染胃炎保険適用のメリット、プロバイオティクス併用除菌の可能性などについて最近の知見を紹介した。 ヘリコバクター・ピロリ菌感染症の保険適用は、2000年の消化性潰瘍に対するプロトンポンプ阻害薬、アモキシシリン、クラリスロマイシンの3剤併用療法(PAC療法)に始まる。その後、2007年の同疾患に対する2次除菌療法プロトンポンプ阻害薬、アモキシシリン、メトロニダゾール(PAM療法)の公知承認、2009年には全身疾患としての位置づけから、胃MALTリンパ腫、特発性血小板減少性紫斑病、早期胃癌に対する内視鏡治療後胃の3疾患への適応拡大が行われた。そして、本年(2013年)2月21日、ヘリコバクター・ピロリ感染胃炎が保険適用に加わった。 上村氏は、ヘリコバクター・ピロリ感染胃炎が保険病名として登録されたことで、慢性胃炎の診療および胃がん死の予防戦略が大きく変わるであろうと述べる。ピロリ感染胃炎の定義は内視鏡で慢性胃炎が証明され、種々の検査でピロリ菌の感染が証明される事である。一方、日本で多く用いられる保険病名「慢性胃炎」は日本特有のものであり、その概念は曖昧である。ヘリコバクター・ピロリ感染胃炎の保険適用により、機能的疾患としての機能性ディスプシア、器質的疾患としてのピロリ感染胃炎といった、病態に応じた疾患のとらえ方へと変化してくであろうという。また、ほとんどの胃がんはピロリ菌の関与により発症していることは明らかであるが、早期がん摘出後に除菌治療で、異時性胃がんの発現リスクが33%低下するというデータも発表されている。今回の保険適用により、胃がん死予防の戦略も大きく変わっていくのではないかという。 東海大学の高木敬司氏は除菌療法の実際と問題点について述べた。現在、1次除菌と2次除菌の薬剤の組み合わせは限定されている。ところが、1次除菌で用いられるクラリスロマイシンの耐性化が進んでいる。くわえて、2次治療で用いられるメトロニダゾールはさまざまな疾患の特効薬であり、乱用は避けたい。そのような中、プロバイオティクス乳酸菌LG-21がピロリ菌定着を抑制するとして注目されている。3剤除菌療法(前述PAC療法)群と除菌療法+LG-21乳酸菌含有ヨーグルト3週間(1日2回)事前摂取群を比較した臨床試験では、同ヨーグルト摂取群で有意に除菌率が良好であった。また、この効果はクラリスロマイシン感受性菌と耐性菌の混合感染例でも認められている。さらなる研究が必要であるものの、除菌療法の補助療法として期待されそうだ。

53.

クラリスロマイシン製剤、ヘリコバクター・ピロリ感染症に係る適応症追加を申請

大正製薬株式会社とアボット ジャパン株式会社は8月31日、両社がそれぞれ日本において製造・販売している「クラリス錠200」と「クラリシッド錠200mg」(クラリスロマイシン製剤)について、プロトンポンプ阻害薬(4成分・5ブランド)及びアモキシシリン水和物(一般名、3ブランド)を用いた3剤併用によるヘリコバクター・ピロリ感染症に係る、ヘリコバクター・ピロリ感染胃炎の適応症を追加する申請を、9社共同で厚生労働省に行ったと発表した。ヘリコバクター・ピロリ感染胃炎は、ヘリコバクター・ピロリ感染によりひき起こされる慢性活動性胃炎であり、胃・十二指腸潰瘍をはじめとした様々なヘリコバクター・ピロリ関連疾患の発症に大きく関与していると考えられている。しかし、日本におけるヘリコバクター・ピロリ除菌療法の保険適用上の対象疾患は、胃・十二指腸潰瘍、胃MALTリンパ腫、特発性血小板減少性紫斑病、早期胃癌の内視鏡的治療後胃に限られている。そこで、日本消化器病学会、日本消化器内視鏡学会、日本ヘリコバクター学会の3学会は、連名で2011年12月にヘリコバクター・ピロリ感染胃炎における除菌療法の早期承認を求める要望書が厚生労働大臣に提出した。これを受け、今般、関連9社は、平成11年(1999年)2月1日付研第4号、医薬審第104号「適応外使用に係る医療用医薬品の取扱いについて」に基づき、公知の文献等を科学的根拠とし、各薬剤について医薬品製造販売承認事項一部変更の申請を行った。今回、承認事項の一部変更申請を行った製品名等は下記の通り。 ※( )内は一般名、< >内は製造販売会社●プロトンポンプ阻害薬・タケプロンカプセル15、30、同OD錠15、30(ランソプラゾール)<武田薬品工業株式会社>・オメプラール錠10、20(オメプラゾール)<アストラゼネカ株式会社>・オメプラゾン錠10mg、20mg(オメプラゾール)<田辺三菱製薬株式会社>・パリエット錠10mg(ラベプラゾールナトリウム)<エーザイ株式会社>・ネキシウムカプセル10mg、20mg(エソメプラゾールマグネシウム水和物)<アストラゼネカ株式会社、第一三共株式会社>●アモキシシリン水和物製剤・パセトシンカプセル125、250、同錠250<協和発酵キリン株式会社>・サワシリンカプセル125、250、同錠250<アステラス製薬株式会社>・アモリンカプセル125、250、同細粒10%<武田薬品工業株式会社>●クラリスロマイシン製剤・クラリス錠200<大正製薬株式会社(発売:大正富山医薬品株式会社)>・クラリシッド錠200mg<アボット ジャパン株式会社>●メトロニダゾール製剤・フラジール内服錠250mg<塩野義製薬株式会社>●組合せ製剤・ランサップ400、同800<武田薬品工業株式会社>・ランピオンパック<武田薬品工業株式会社>詳細はプレスリリースへhttp://www.abbott.co.jp/press/2012/120831.asp

54.

自己免疫疾患が、肺塞栓症のリスクを増強

自己免疫疾患によって肺塞栓症のリスクが有意に増大し、特に入院1年目のリスクが高いことが、スウェーデン・ルンド大学のBengt Zoller氏らの調査で示された。肺塞栓症は静脈血栓塞栓症の致死的な合併症で、自己免疫疾患は入院患者における静脈血栓塞栓症のリスク因子であることが示唆されている。これまでに静脈血栓塞栓症と自己免疫疾患の関連を検討した試験の多くは小規模で、ほとんどが特定の自己免疫疾患に限定した研究だという。Lancet誌2012年1月21日号(オンライン版2011年11月26日号)掲載の報告。スウェーデンにおける40年以上の全国規模の追跡調査研究グループは、スウェーデンにおける自己免疫疾患と肺塞栓症の関連を検証する全国規模の追跡調査を実施した。1964年1月1日~2008年12月31日の間に、自己免疫疾患と診断され、過去に静脈血栓塞栓症による入院歴のない患者を対象とし、肺塞栓症の発症状況について追跡調査した。スウェーデンの全居住者の情報が登録されたMigMed2データベースから個々の住民のデータを取得した。一般住民を参照集団(reference population)とし、年齢、性別などの変数で調整した肺塞栓症の標準化罹患比(SIR)を算出した。入院1年目のSIRは6.38、その後は経時的にリスクが低下1964~2008年に、53万5,538人(女性:33万5,686人、男性:19万9,852人)が33種の自己免疫疾患で入院した。自己免疫疾患による入院の1年目に肺塞栓症を発症する全体のリスクは、SIRで6.38(95%信頼区間[CI]:6.19~6.57)であった。33種の自己免疫疾患のすべてで、入院1年目の肺塞栓症の発症リスクが有意に増大しており、なかでも免疫性血小板減少性紫斑病(SIR:10.79、95%CI:7.98~14.28)、結節性多発動脈炎(同:13.26、9.33~18.29)、多発性筋炎/皮膚筋炎(同:16.44、11.57~22.69)、全身性エリテマトーデス(同:10.23、8.31~12.45)が高リスクであった。全体のリスクは経時的に低下し、SIRは1~5年後に1.53(95%CI:1.48~1.57)、5~10年後には1.15(同:1.11~1.20)、10年以降は1.04(同:1.00~1.07)となった。リスクの増大は性別や年齢層の区別なく認められた。著者は、「自己免疫疾患は入院1年目の肺塞栓症の発症リスクを増大させた」と結論し、「自己免疫疾患は凝固性亢進性(hypercoagulable)の病態ととらえるべきである」と指摘している。(菅野守:医学ライター)

55.

トロンボポエチン受容体作動薬eltrombopag、特発性血小板減少性紫斑病に有用

eltrombopagは、慢性免疫性血小板減少(特発性血小板減少性紫斑病:ITP)の管理に有用であり、特に脾臓摘出などの治療に反応しなかった患者にベネフィットをもたらす可能性があることが、中国・香港中文大学のGregory Cheng氏らによる検討で明らかとなった。ITPでは、抗血小板抗体によって血小板の破壊が増進されるとともに巨核球からの血小板の放出が抑制されるため、軽度~重度の出血をきたす。eltrombopagは経口投与が可能な小分子の非ペプチド性トロンボポエチン受容体作動薬で、ITPのほかC型肝炎やがんの化学療法に伴う血小板減少の治療に使用されている。Lancet誌2011年1月29日号(オンライン版2010年8月24日号)掲載の報告。6ヵ月治療のプラセボ対照無作為化第III相試験研究グループは、ITPに対するeltrombopagとプラセボの効果、安全性を評価する二重盲検無作為化第III相試験を実施した。対象は、6ヵ月間以上の治療を受け、ベースラインの血小板数が<30,000/μLの成人ITP患者。これらの患者が、各国の標準治療+eltrombopag 50mg/日を投与する群あるいは標準治療+プラセボを投与する群に無作為に割り付けられ、6ヵ月間の治療が行われた。患者、医師、データの評価者には治療割り付け情報は知らされなかった。用量は治療への反応としての血小板数の変動に基づいて調節した。治療への反応(血小板数:5万~40万/μLと定義)は、最初の6週間は毎週1回、その後は少なくとも4週に1回評価した。主要評価項目は、上記の定義による治療への反応とし、intention-to-treat解析を行った。血小板数が増加、レスキュー治療や重度出血は減少2006年11月22日~2007年7月31日までに23ヵ国75施設から197例が登録され、eltrombopag群に135例が、プラセボ群には62例が割り付けられた。治療期間中に1回以上の治療への反応が確認された患者は、eltrombopag群が79%(106例)、プラセボ群は28%(17例)であり、オッズ比は8.2(95%信頼区間:3.59~18.73)と有意な差が認められた(p<0.0001)。併用された標準治療の減量が可能となったのは、eltrombopag群の59%(37例)に対しプラセボ群は32%(10例)であり、有意差がみられた(p=0.016)。治療期間中にレスキュー治療(用量の増量、新たな治療の追加、血小板輸血、脾臓摘出)を要した患者は、eltrombopag群が18%(24例)と、プラセボ群の40%(25例)に比べ有意に良好であった(p=0.001)。血栓塞栓イベントは、eltrombopag群の2%(3例)にみられたが、プラセボ群では認められなかった。ALT値の軽度上昇がeltrombopag群の7%(9例)、プラセボ群の3%(2例)に、総ビリルビン値の上昇がeltrombopag群の4%(5例)に認められた(プラセボ群は0%)。重度出血イベントは、eltrombopag群が<1%(1例)であったのに対し、プラセボ群は7%(4例)で発生した。著者は、「eltrombopagはITPの管理に有用であり、特に脾臓摘出などの治療に反応しなかった患者にベネフィットをもたらす可能性がある」と結論した上で、「これらのベネフィットを選択する場合は、eltrombopag治療に伴う潜在的なリスクとのバランスを十分に考慮して決めるべきである」と指摘する。(菅野守:医学ライター)

56.

プロトンポンプ阻害薬の3剤併用によるヘリコバクター・ピロリ除菌療法に係る追加適応を、製薬9社が共同申請

武田薬品工業、アストラゼネカ、田辺三菱製薬、エーザイの4社が、1日、各社が日本において製造・販売しているプロトンポンプ阻害薬(3成分・4ブランド)について、アモキシシリン水和物(一般名)、及びクラリスロマイシン(一般名)またはメトロニダゾール(一般名)を用いた3剤併用による胃MALTリンパ腫、早期胃がんに対する内視鏡的治療後胃、および特発性血小板減少性紫斑病におけるヘリコバクター・ピロリの除菌療法に係る効能・効果追加を、協和発酵キリン、アステラス製薬、大正製薬、アボット ジャパン、塩野義製薬を含む3剤併用療法に係る9社が共同で申請したことを発表した。日本では、ヘリコバクター・ピロリ除菌療法の保険適用上の対象疾患は胃潰瘍または十二指腸潰瘍に限定されている。2008年12月に、日本ヘリコバクター学会は、「胃MALTリンパ腫、特発性血小板減少性紫斑病(ITP)、早期胃癌の内視鏡的治療後の異時性胃癌発生抑制に対して、3剤併用療法が有効であることは、多くの臨床研究等によって確認されている」として、これら3疾患におけるヘリコバクター・ピロリ除菌療法の早期承認を求める要望書を厚生労働大臣に提出していた。これを受けて、関連する各社は、平成11年(1999年)2月1日付研第4号、医薬審第104号「適応外使用に係る医療用医薬品の取扱いについて」に基づき、公知の文献等を科学的根拠として、医薬品製造販売承認事項一部変更の申請に至ったという。詳細はプレスリリースへhttp://www.takeda.co.jp/press/article_35226.html

57.

慢性特発性血小板減少性紫斑病に対する新しい経口治療薬eltrombopag:第Ⅲ相試験

米国FDAにおいて昨年末に承認された、慢性特発性血小板減少性紫斑病(Idiopathic Thrombocytopenic Purpura:ITP)に対する新しい経口治療薬eltrombopag(商品名:Promacta)の第Ⅲ相試験の結果が、Lancet誌2009年2月21日号で公表された。eltrombopagは、血小板新生を促す非ペプチド性トロンボポエチン受容体刺激薬で、第Ⅲ相試験では、安全性、有効性、1日1回50mg投与の忍容性、および服用量を75mgまで増加した場合の有効性について検討された。無作為化二重盲検プラセボ対照試験にて検討23ヵ国63施設からITP患者が参加し、無作為化二重盲検プラセボ対照試験にて行われた第Ⅲ相試験は、血小板数30,000/μL未満で、1つ以上の標準治療を受けたことがある患者を最大6週間、標準治療+eltrombopagを1日1回50mg服用群(n=76)と、+プラセボ服用群(n=38)に、検証済無作為化システムを用いて2対1の割合になるよう割り付け実行された。投与量の増加(75mg)は血小板数50,000/μL未満の患者に対して、試験開始3週時点で行われた。主要評価項目は、43日時点までに血小板数50,000/μL以上に改善した患者の割合とされた。eltrombopag治療群の血小板数50,000/μL以上達成割合はプラセボ群の9.61倍43日間の解析が析可能だったのは、eltrombopag群は73例、プラセボ群は37例で、このうちeltrombopag群では43例(59%)が、血小板数50,000/μL以上となった。プラセボ群では6例(16%)で、オッズ比は9.61(95%信頼区間:3.31~27.86、p

58.

Promactaが米国FDAより承認を取得

グラクソ・スミスクライン株式会社は5日、英国本社が、Promacta(一般名:エルトロンボパグ)の、コルチコステロイド、免疫グロブリンあるいは脾臓摘出術に対する反応が不十分な慢性特発性血小板減少性紫斑病(Idiopathic Thrombocytopenic Purpura:ITP)患者さんにおける血小板減少症治療薬として米国FDAより迅速承認を取得したと発表した。エルトロンボパグは、成人の慢性ITP患者に対して初めて承認された経口トロンボポエチン(TPO)受容体作動薬であり、今回の承認はエルトロンボパグおよびITP関係者にとって重要な節目となる。詳細はプレスリリースへhttp://glaxosmithkline.co.jp/press/press/2008_07/P1000513.html

59.

多発性硬化症へのalemtuzumabの有効性

リンパ球と単球上のCD52を標的とするヒト型モノクローナル抗体alemtuzumabは、B細胞性慢性リンパ性白血病の治療薬として海外で承認されている。同薬剤の早期多発性硬化症に対する治療効果について、インターフェロンβ-1aとの比較で検討していたイギリス・ケンブリッジ大学医学部のAlasdair J. Coles氏らは、「alemtuzumabは症状進行や再発を抑える上で有効だったが、深刻な自己免疫疾患との関連もみられた」と報告した。NEJM誌2008年10月23日号より。欧米で治療歴のない早期患者334例を追跡調査試験は、ヨーロッパと米国の計49の医療センターで、治療歴のない早期再発寛解型の多発性硬化症患者を対象とし行われた第2相無作為盲検試験。総合障害度評価尺度(EDSS、スコアは10点制で高いほど重症)が3点以下、罹患期間3年以下の患者334例が2002年12月~2004年7月の間に登録され、インターフェロンβ-1aの週3回皮下投与(44μg/回)群、もしくはalemtuzumabの1年1回静脈投与(12mg/日か24mg/日)群に割り付けられ、36ヵ月にわたる投与を受けた。なお最後の患者が治験をスタートしたのは2004年9月だったが、2005年9月にalemtuzumab治療群で免疫性血小板減少性紫斑病が3例発症、うち1例が死亡したため試験は中断されている。インターフェロンβ-1aによる治療は継続された。障害蓄積や再発率は低下するが自己免疫疾患もalemtuzumab群はインターフェロンβ-1a群と比較して、障害の持続的蓄積の割合(9.0%対26.2%、ハザード比:0.29、95%信頼区間:0.16~0.54、P

検索結果 合計:59件 表示位置:41 - 59