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1.

糖尿病患者の将来リスクをAI活用で予測/福島医大・日本糖尿病学会ほか

 福島県立医科大学と千葉大学、国立健康危機管理研究機構(JIHS)らの研究グループは、株式会社エフコムとの共同研究により、AIを活用して糖尿病を5つのサブタイプに分類し、将来の合併症・併存症リスク(糖尿病関連腎臓病、透析導入、心血管障害など)を推計するウェブプラットフォーム「福島医大 糖尿病未来予測ナビ」を研究・開発した。このウェブプラットフォームは、2026年5月20日に福島県立医科大学附属病院、日本糖尿病学会、てだこ浦西駅循環器・糖尿病クリニックの各ホームページ上で公開された。 糖尿病患者では、合併症の進行に大きな個人差がある。この研究は、国内最大級のデータベース「J-DREAMS」(日本糖尿病学会運営)を活用し、日本人の病態に最適化された予測モデルの構築を目的に開発され、患者の将来リスクを推計する。 ウェブプラットフォームの主なポイントは以下の3点。1)AIが糖尿病を5つのタイプに分類 日常診療で得られるデータ(年齢、BMI、血糖値など)を解析し、患者を5つのサブタイプ(クラスター)に分類、合併症リスクを可視化する。2)診断時点で将来の「透析リスク」を推計 早期段階のデータから将来の透析導入リスクを推計できる。とくに「重症インスリン抵抗性(SIRD)」は、8年間で透析導入リスクが約4%に達することを特定している。3)日常診療ですぐに活用可能な「ゼロセットアップ」設計 特別な検査を必要とせず、一部データが不足していてもAIが補完する独自技術を搭載。幅広い医療現場での活用が期待される。 研究・開発者の1人である島袋 充⽣氏(福島県立医科大学医学部糖尿病内分泌代謝内科学講座 教授)は、「患者と医療者が同じ未来を共有し、ともに歩んでいく。そんな新しい糖尿病医療のスタンダードを、福島から全国へ広げていきたい」と期待を寄せている。

2.

第320回 次世代“3G”薬retatrutideが肥満手術に匹敵するほど体重を減らした

Lillyのいわば「一挙三得」の3重アゴニストのretatrutide皮下注射が、第III相試験で肥満手術に匹敵するほどの30%近い体重低下をもたらしました1,2)。昨今の肥満薬の先駆けのNovo Nordiskのウゴービ(セマグルチド)は、糖に応じたインスリン放出を促すホルモンの一種のグルカゴン様ペプチド1(glucagon-like peptide-1:GLP-1)の受容体を活性化します。糖に応じたインスリン放出を助けるホルモンはGLP-1をはじめとしてインクレチンと総称されます。直接対決試験3)でウゴービを上回る体重減少作用を示したLillyの肥満薬ゼップバウンド(チルゼパチド)は、GLP-1受容体に加えてグルコース依存性インスリン分泌刺激ポリペプチド(glucose-dependent insulinotropic polypeptide:GIP)というもう1つのインクレチン受容体も活性化するいわば両取り効果があります。Lillyの次なる肥満薬のretatrutideはそれら2つのインクレチン受容体に加えてさらにグルカゴン(glucagon:GCG)という一味違うホルモンの受容体も活性化します。マウスでの検討結果によると、retatrutideのGCG受容体活性化はエネルギー消費を亢進させることでさらなる体重低下を引き出すようです4)。それら3つのホルモンの英語表記の頭文字がどれもGであることからretatrutideはちまたでは3G薬(triple-G)と呼ばれたりします2)。当のLillyはというと、retatrutideを先に記したとおり3重アゴニスト(triple agonist)と称しています。TRIUMPH-1と銘打つ第III相試験には、BMIが30以上の肥満か、BMIが27以上で体重に関連する疾患がある過体重の成人2,339例が参加しました5)。糖尿病患者は参加していません。retatrutide投与群の体重は用量が多いほど減りました。被験者全員が試験の決まりどおりに治療されたとみなす解析(efficacy estimand)での低用量(4mg)、中用量(9mg)、高用量(12mg)群の80週時点の体重は、ベースラインに比べてそれぞれ19.0%、25.9%、28.3%低くて済んでいました。プラセボ群の体重はほぼ変化なしで、ほんの2.2%減ったのみです。別の解析手段(treatment-regimen estimand)でのretatrutide低用量、中用量、高用量群の体重低下率は若干低めで、それぞれ17.6%、23.7%、25.0%の低下を示しました(プラセボ群は3.9%低下)。ベースラインのBMIが35以上の患者に対する24週間のretatrutide継続投与で体重は一層減り、およそ2年の104週時点で多ければ30%ほどの体重減少に至っています。retatrutideの有害事象はインクレチンのように働く薬の試験で認められるものとおおむね一致しており、胃腸系の悪心、下痢、便秘、嘔吐が多く認められました。先立つ試験で認められた神経有害事象の感覚異常(dysesthesia)は、retatrutide低用量、中用量、高用量群でそれぞれ5.1%、12.3%、12.5%に生じました。プラセボ群ではほとんど生じていません(0.9%)。感覚異常はおおむね軽~中等度で、多くは試験中に解消し、retatrutide投与はたいてい継続しました。80週時点の体重がプラセボ効果差し引きで26%ほども減れば試験名のTRIUMPH-1にふさわしく上出来なようですが、今や肥満薬への期待はどうやら天井知らずで、そうでもないとする向きもあるようです。たとえばBMO Capital Marketsのアナリスト達はretatrutide投与群のプラセボ効果差し引き体重減少を実際の26%ほどより多い27~28.5%と見込んでいました2)。当のアナリスト達は、このまま進めば今年中にretatrutideは米国で承認申請されるとみています。TRIUMPH-1試験のさらなる結果は、来月に米国のニューオーリンズで開催される米国糖尿病協会年次総会で発表されます1,6)。 参考 1) Lilly's triple agonist, retatrutide, delivered powerful weight loss in pivotal Phase 3 obesity trial / PRNewswire 2) Lilly’s triple-G drug helps patients lose roughly a quarter of weight, showcasing competitive profile / FierceBiotech 3) Aronne LJ, et al. N Engl J Med. 2025;393:26-36. 4) Coskun T, et al. Cell Metab. 2022;34:1234-1247. 5) ClinicalTrials.gov(TRIUMPH-1試験) 6) What to know about retatrutide: An investigational triple hormone receptor agonist / Eli Lilly

3.

糖尿病患者の心血管リスク軽減のための先手必勝手段:PCSK9阻害薬による早期介入?(解説:島田俊夫氏)

1. セールスポイント:2次予防から「高リスク1次予防」へのパラダイムシフト 本研究の最大のセールスポイントは、これまで主に「心筋梗塞や脳卒中の既往がある患者(2次予防)」に限定されていたPCSK9阻害薬の有効性を、「イベント未発症でリスクが高い糖尿病患者(1次予防)」において初めて証明した点にある。・劇的な脂質改善:エボロクマブ投与により、LDLコレステロール(LDL-C)値をプラセボ群の111mg/dLに対し、エボロクマブ投与群では52mg/dLまで大幅に低下させた。・確かなイベント抑制効果:主要心血管イベント(心血管死、心筋梗塞、虚血性脳卒中)のリスクを31%減少(ハザード比:0.69)させた。・早期および持続の効果:治療開始1年後から効果が顕著になり、その後もリスク低下が持続することが確認された。2. 臨床的価値:糖尿病治療における「未充足のニーズ」への応答 臨床現場において、周知のごとく糖尿病患者は動脈硬化のリスクは高く、イベントを起こすまではスタチン単剤などの標準治療にとどまることが多かった。本論文は、以下の価値を示している。・「先手必勝」の正当化:有意な動脈硬化が確認される以前の段階から強力に脂質を低下させることで、将来の重篤なイベントを未然に防げる可能性を示した1)。・ベネフィット:性別、年齢(65歳以上・未満)、ベースラインのLDL-C値によらず、一貫した有効性が確認された2)。・安全性:重篤な有害事象や副作用による投与中止率はプラセボ群と同等であり、長期投与における安全性が再確認された。3. 論文の弱点と限界 非常に強力なデータを示す一方で、以下の点には留意が必要である。・「超高リスク」への限定:対象は糖尿病罹病期間10年以上、インスリン使用など、リスクの高い糖尿病患者に限定されており、すべての糖尿病患者に一律に一般化できるわけではない。・死因分析の解釈:全死因死亡率の減少(ハザード比:0.76)も示唆されたが、統計学的な検定順序の規約により、この結果はあくまで「探索的」な結果として扱うことが妥当である。本研究はサブ解析に基づく結果であり、探索的結果と受け止めることが望ましい。・コスト対効果の課題:PCSK9阻害薬は高価な薬剤であるため、1次予防として広く普及させるには、さらなる経済性評価が求められる(※本論文内では直接的なコストの言及はないが、臨床応用上の一般的課題と理解する)3)。コメント 本論文は、糖尿病患者における心血管疾患予防の新たなスタンダードを示している。「悪くなってからたたく」のではなく、**「悪くなる前に強力に抑え込む」**ことの重要性を科学的に裏付けた、きわめて意義深い研究と言っても過言ではない。しかし、費用対効果については依然として問題が残っていることも事実である。サイレントキラーとしての糖尿病に関しては、大きな成果として素直に受け入れたい結果だと考える。

4.

食後高血糖がアルツハイマー型認知症のリスクと関連

 食後高血糖がアルツハイマー型認知症のリスクを高める可能性があることを示すデータが報告された。この関連性は、全脳体積や白質の変化では説明できないものだという。英リバプール大学のAndrew C. Mason氏らの研究の結果であり、詳細は「Diabetes, Obesity and Metabolism」に12月12日掲載された。 疫学研究により、高血糖、2型糖尿病、インスリン抵抗性などが、認知症リスクの上昇を含む脳の健康状態の悪化と関連することが示されている。しかし、そのメカニズムには不明点が多く、直接的な因果関係が存在するかどうかも明らかでない。一方、近年では空腹時血糖値、空腹時インスリン値、糖負荷2時間後血糖値(2hPG)といった糖代謝関連指標について、遺伝的背景との関係を検討することが可能となってきている。これにより、糖代謝異常と認知症との関連や、その基盤となるメカニズムをより詳細に解析できる環境が整いつつある。こうした背景の下、Mason氏らは、英国の一般住民を対象とした大規模疫学研究「UKバイオバンク」のデータを用いた検討を行った。 この研究では、観察研究の弱点である残余交絡や逆因果関係の影響を受けにくい2標本メンデルランダム化解析(2SMR)を実施した。解析対象は35万7,883人で、平均年齢56.9±8.0歳、女性54%、BMI27.4±4.8、脳卒中の既往2.6%だった。遺伝的素因に関して、インスリン抵抗性関連の53変異、空腹時血糖値関連の109変異、空腹時インスリン値関連の48変異、2hPG関連の15変異を採用し、変異と転帰との関連は10個の主成分(PCs)を調整した上で解析した。 2SMR解析の結果、2hPGが高いことが、アルツハイマー型認知症のオッズ比(OR)上昇と関連していた。具体的には、主解析に用いた逆分散重み付け法(IVW)でOR1.69(95%信頼区間1.38~2.07)、感度分析に用いた加重中央値推定法(WME)でOR1.66(同1.25~2.20)だった。つまり、2hPGの高さは、全脳体積や海馬体積の萎縮などとは独立して、アルツハイマー型認知症のリスクを高める可能性が示唆された。また2hPGは、認知症全体(あらゆる原因による認知症)との関連も有意だった(IVWでのOR1.23〔1.06~1.42〕)。ただし血管性認知症との関連は非有意だった。 2hPG以外に検討した、インスリン抵抗性、空腹時血糖値、空腹時インスリン値についてはいずれも、全脳体積、海馬体積、白質高信号病変体積との関連が見られなかった。なお、2hPGとアルツハイマー型認知症との関連の再現性をゲノムワイド関連解析(GWAS)で検討した結果、この関連は再現されなかった。 Mason氏は、「われわれの研究結果は、血糖値の全体的な管理だけでなく、特に食後の血糖値を管理することの重要性を示している。この知見は、今後のアルツハイマー型認知症予防戦略の確立に役立つのではないか」と述べている。 なお、1人の著者がアストラゼネカ社と利益相反(COI)に関する情報を開示している。

5.

1型糖尿病合併CKDに対するフィネレノンの可能性と限界―FINE-ONE試験が示したもの(解説:石上友章氏)

 1型糖尿病合併CKDに対する腎保護は、2型糖尿病合併CKDとは景色が異なる。2型ではSGLT2阻害薬が腎・心血管保護の中核に位置付けられ、そこにフィネレノンをどう上乗せするかが論点になりやすい。一方、1型では今なおインスリンを基盤とした良好な血糖管理が治療の根幹であり、KDIGOも1型では血糖管理の基盤をインスリンと整理している。さらにDCCT/EDICは、早期からの強化血糖管理が腎症を含む合併症の発症・進展抑制につながることを示しており、1型糖尿病合併CKDではまず血糖管理の質そのものが腎保護の出発点である。近年はCGM活用の重要性も一段と高まっている。 そのうえでFINE-ONE試験は、RAS阻害薬投与下の1型糖尿病合併CKD患者において、フィネレノンが6ヵ月時点のUACRを有意に低下させた点で意義深い。もっとも、その効果は手放しでは評価できない。高カリウム血症は増加し、eGFRは治療中により低下した一方、washout後にはeGFR差が縮小し、UACR改善もやや減弱した。したがって本剤の効果の少なくとも一部は、糸球体内圧変化を含むhemodynamicな機序を介した可逆的・機能的変化である可能性がある。これはRAS阻害薬や従来のステロイド性MRAにも通じる現象であり、本試験だけで長期腎予後や構造的腎保護を断定するのは早い。ただし、1型糖尿病合併CKDで新たな上乗せ治療の選択肢を示した意義は小さくない。 SGLT2阻害薬との比較では、2型糖尿病の経験をそのまま1型に持ち込めない点にも注意が必要である。FINE-ONE試験では、少なくともスクリーニング前8週間以内のSGLT2/1阻害薬またはGLP-1受容体作動薬使用例が除外されており、1型糖尿病合併CKDでフィネレノンとSGLT2阻害薬の優劣を直接論じられる設計ではない。加えて米国では、ダパグリフロジンは1型糖尿病の血糖管理適応を有しておらず、DKAリスク増加への注意喚起がなされている。欧州でも1型糖尿病適応は撤回されている。したがって現時点での本試験の位置付けは、「1型糖尿病合併CKDでは血糖管理とRAS阻害薬が主軸であり、そのうえにフィネレノンという新たな腎保護オプションが加わった」とみるのが最も妥当だろう。なお、民族差やアジア人集団での解釈は、今回の試験規模では探索的にとどまると受け止めたい。

6.

認知症の病理を叩く「表街道」、脳を育む「援護射撃」――Lancetの14の危険因子を読み解く(その3)【外来で役立つ!認知症Topics】第40回

前回、私はLancet誌の提唱する認知症の修正可能な14の危険因子1)を、「疾患・障害リスク」と「生活・環境リスク」とに分ける考え方を述べた。前者は従来のアミロイド仮説を軸に、そこから派生した慢性炎症や抗酸化などの病理から説明しやすいもので、糖尿病や高LDLコレステロール(LDL-C)が代表的だ。これはいわば、アルツハイマー病の病理進行をくい止めようという「表街道」の予防法である。一方、後者はアミロイド仮説とは異なり、脳内ネットワークや認知予備能といった考え方で説明される。健常な神経細胞を増やす、あるいは減少させないという、側面からの「援護射撃」ともいえる。この考え方をイラストに示した。以下に示す個々の危険因子について、それが「表街道」と「援護射撃」のどちらに属するかを述べていく。画像を拡大する筆者作成若年期の教育:脳の「控え選手」を育てる援護射撃若年期の危険因子だが、これは「教育」が中心となる。ここで作る大脳の基礎力が十分でなかったとしても、後年これを育み続けることが予防につながると考えればいい。この考え方の基本は、以前から知られる「認知予備能」に関連する。ざっくり言えば、人は生まれ持った脳細胞の一部しか使わないうちに一生を終える。これまで使ってこなかった「控え選手の神経細胞(予備能)」に働きかけるのである。具体的な方法としては、新たな社会交流が勧められる。とくにインターネットリテラシーが低い人こそ、ここで情報を得る習慣を持てば大きな成果が期待できる。教育は、まさに一生続く「援護射撃」なのである。中年期の危険因子:再発とうっかり事故を防ぐ表街道中年期の危険因子のトップは、第38回で述べたとおり難聴と高LDL-Cだが、続いて「うつ病」に触れたい。うつ病経験者は、そうでない者と比べ認知症の危険性が2倍とされる。背景には、神経炎症や、脳由来栄養因子を介した神経の可塑性障害、コルチゾール過剰分泌による海馬体積の減少説などがある。臨床的に大切なのは、うつ病は何度も繰り返しやすく、その再発自体が認知症発症の危険性を高める点だ。だからこそ再発予防が重要であり、主治医と共にフォローを欠かさないことが、病理を抑える「表街道」の対策となる。次に「頭部外傷」については、中等度のもので認知症リスクを2.3倍、重度で4~4.5倍にも増大させる2)。ボクシングなどによる頭部外傷が、50年以上も後にリスクとして現れる。なお高齢者では「転落が脳挫傷原因の3分の2以上」とされるだけに、住環境への配慮が重要になる。照明の改善、手すりやレールの設置、段差の除去や滑りにくい床への改善などが望ましい。身体機能面からは、運動機能の維持、視力や聴力の調整も重要となる。そして、単純ながら基本となるのが「適切な履物」の着用だ。屋内でスリッパなど履かないほうがよい人は多い。これもまた、脳への物理的ダメージを回避する「表街道」の予防といえる。運動不足:座りっぱなしを解消する援護射撃運動不足という危険因子は、従来からいわれてきた運動の予防効果の裏返しである。最近は、単に「たくさん運動すればよい」というより、「身体活動をしない者が運動すれば効果が生まれる」という考え方に変化してきた。最近、老年医学の分野では「座りがちな」という意味の英語で「sedentary」という言葉をよく見かける。そこですべき運動は、有酸素運動の一辺倒ではなく、レジスタンス運動やバランス運動を組み合わせることが重要だ。腰や膝の障害で運動が難しい人の場合でも、皿洗いや掃除、洗濯物干しなどの家事労働を長時間行えば、運動不足をかなり補える。こうした活動の積み重ねが、脳を支える「援護射撃」となる。糖尿病と高血圧:血管から病理を断つ表街道の王道糖尿病は認知症リスクを60%高めるとされるが、アルツハイマー病以上に、血管性認知症の危険性を高める。生物学的メカニズムとしては、直接的な血管障害や神経障害のほかにインスリン分解酵素(IDE)の影響が指摘されている。インスリンとアミロイドβ(Aβ)は同じIDEで分解されるため、高インスリン血症になるとAβの分解が滞り、蓄積していくと考えられる。なお低血糖発作は深刻な危険因子だと強調されている。食事による対応では、地中海食、そこに減塩を超えたダッシュ食、低炭水化物が推奨される。運動では、有酸素運動、レジスタンス運動、バランス運動を組み合わせた「表街道」の包括的な管理が求められる。そして、高血圧こそ認知症発症における最重要な修正可能リスクだろう。40~65歳の中年期の高血圧は、認知症リスクを61~69%増加させるが、降圧薬による治療により、認知症全体で12%、アルツハイマー病で16%のリスクを低減できるとされる3)。高血圧が認知症の危険因子となる理由として複数の説がある。まず脳血管損傷経路、また酸化ストレスと神経炎症経路、血液脳関門破壊経路、さらに脳構造変化と脳萎縮などである。これらをみると、アルツハイマー病の病理が形成されていくプロセスに関わる仮説の多くが高血圧と関連すると改めてわかる。治療面では、とくに血流の改善と脳構造の保護が重要である。わが国のガイドラインでは、年齢別、個人差を考慮した段階的な血圧管理を推奨している。また、いわゆる白衣高血圧の多さを考慮してか、最近では家庭用血圧計における継続的な測定結果が重視される。診察室での血圧よりも、自宅でリラックスして測定した値こそ「真の値」と考えるからだ。『高血圧管理・治療ガイドライン2025』では、全年齢の降圧目標が、「診察室血圧130/80mmHg未満、家庭血圧125/75mmHg未満」に定められている4)。なお言うまでもないが、血圧コントロールのみならず糖尿病や脂質異常症などの関連疾患の包括的な管理を通して、大きな予防効果が期待できる。これも「表街道」の予防法だ。認知症の修正可能な危険因子に関する今回の解説は以上である。14の危険因子のうちあと6つ、主にライフスタイルに関連するものが残っているが、これについては次回に述べることにしよう。参考文献・参考サイト1)Livingston G, et al. Dementia prevention, intervention, and care: 2024 report of the Lancet standing Commission. Lancet. 2024;404:572-628.2)Gottlieb S. Head injury doubles the risk of Alzheimer's disease. BMJ. 2000;321:1100.3)Ding J, et al. Antihypertensive medications and risk for incident dementia and Alzheimer's disease: a meta-analysis of individual participant data from prospective cohort studies. Lancet Neurol. 2020;19:61-70.4)日本高血圧学会高血圧管理・治療ガイドライン委員会編. 高血圧管理・治療ガイドライン2025. ライフサイエンス出版; 2025.

7.

猫さん糖尿病の顛末記 ― 主治医は獣医、コンサル先は教授【Dr.中川の「論文・見聞・いい気分」】第95回

帰宅しても返事がない家「ただいま」玄関のドアを開けた瞬間、空気の密度が違うことに気付きます。これまでは決まって「ニャオー」と勇ましい出迎えがあったはずの気配が、ない。2025年10月、愛猫レオは猫の星へと旅立ちました。こうしてわが家には、静かすぎる帰宅が日常となりました。猫の糖尿病は、予想以上に「フルスペック」だった以前の本エッセイでも触れましたが、2024年春、レオに持病が見つかりました。主訴は多飲多尿。獣医さんを受診すると、血糖値は500mg/dLを超えています。文句なしのDM(糖尿病)診断です。治療はもちろんインスリン。持続型製剤を朝夕2回投与する生活が始まりましたが、問題は用量調節です。人間と違い、猫の体はあまりにコンパクト。1.8単位、2.2単位……この「0.2単位を刻む世界」は、老眼が進み始めた眼球にはきわめて非友好的です。さらに、猫用SGLT2阻害薬も併用。ナトリウム・グルコース共輸送体をブロックし、尿糖排泄を促進する――。学生時代、まさか人間と同じ最新の医学ロジックを、ヒゲの生えた四足歩行の患者に適応する日が来るとは夢にも思いませんでした。教授への「アポなし猫コンサルト」ここで白状します。血糖コントロールが難航し、低血糖リスクに怯えていたある日、私は禁じ手を使いました。勤務先の糖尿病内分泌・腎臓内科の教授の部屋をノックしたのです。もちろん、患者は猫。しかもアポなし。完全なる「猫糖尿病コンサルト」です。にもかかわらず、教授は嫌な顔ひとつせず、インスリンの薬物動態から投与量調整のロジックまで、実に真顔でレクチャーしてくださいました。「猫ですか……なるほど、興味深い」この一言に、医師としての、そして人としての底知れぬ懐の深さ(あるいは重度の動物好きの片鱗)を見ました。この場を借りて、改めて深謝申し上げます。予後は一進一退、そして「終末期」の選択多くの方のサポートもあり、レオは一時、QOLを取り戻しました。「このまま維持できるかも」という淡い期待を抱いた時期もありましたが、2024年秋に再入院。点滴で持ち直しはしたものの、それ以降は緩やかな下り坂でした。それでも、レオは1年以上も病魔と付き合い、立派に生き抜きました。2025年夏の終わり、食欲不振が顕著になります。9月下旬にはADLが著しく低下。再入院の際、獣医さんは静かに言いました。「……そろそろ、お家で過ごさせてあげませんか」医師としての私、飼い主としての妻、そしてプロフェッショナルである獣医さん。三者の目に映る「予後」の景色が、完全に一致した瞬間でした。「これ以上、何ができるのか」その問いへの答えは、ガイドラインには載っていないシンプルなものでした。「ただ、最後までそばにいること」です。プロ顔負けのラスト・メッセージレオは最期まで見事でした。バスタオルの上で静かに横たわり、撫でるとしっぽの先を数ミリだけ動かす。それが彼なりの「インフォームド・コンセント」だったのかもしれません。午前3時頃。妻がおでこを撫でていると、彼は残った力を振り絞るように前脚を伸ばし、おでこで指をぐっと押し返します。「もっと撫でろ」そう命じられた直後、彼は静かに呼吸を止めました。不思議なことに、押し寄せたのは悲しみよりも安堵でした。「もう、打たなくていいんだ。苦しくないんだ」という想いだけが、深夜のリビングに満ちていました。ちなみに、毛並みは最期まで最高の手触りでした。いつまでも撫でていたかった。瞳も綺麗なままです。美しい姿です。猫のいない家と、尊敬の過去形声を上げて泣きたい時、一緒に泣いてくれる妻がいます。レオのいたずら、表情、賢さを語り合いながら、私たちは「欠員」の出た家で、生活を続けました。「ほんと、すごい猫だったよね」これは単なる過去形ではありません。最大の敬意を込めた、完了形に近い過去形です。「新患」ルナの来訪「次の猫は迎えない」それが当初の夫婦のコンセンサスでした。しかし半年が過ぎ、悲しみが穏やかな思い出へと昇華された頃、自然とこう思えたのです。「また、猫と暮らしたい」それはきっと、レオが遺していった最高のギフトでした。そんな折、運命の出会いがありました。里親を探していたメスの子猫――ルナです。初対面で直感しました。「……ビビッときた」医学的根拠はありません。しかし、臨床医としての長年の勘によれば、この「ビビッ」は、エビデンスを凌駕する正解なのです。オチ:主治医交代のお知らせ ルナと運動療法中 現在、わが家には再び猫がいます。ただし、以前とは立ち位置が異なります。今度は、私が「診察」される側です。深夜の運動療法(強制運動)、早朝の覚醒チェック、そして厳格な生活指導(主に激しい叱責)。レオは「人生」を教えてくれましたが、ルナは「生活習慣の矯正」を徹底してくれます。 私は今日も帰宅し、「ただいま」と言います。 今度は、耳をつんざくような、やたら元気なレスポンスが返ってきます。

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エボロクマブ追加、動脈硬化のない糖尿病患者の1次予防に有効/JAMA

 既知の重度動脈硬化がなく糖尿病を有する患者において、エボロクマブによる早期の強化LDLコレステロール(LDL-C)低下療法は有益であることが、米国・ブリガム&ウィメンズ病院のNicholas A. Marston氏らVESALIUS-CV Investigatorsによる「VESALIUS-CV試験」の事前に規定されたサブグループ解析で示された。同試験は、心筋梗塞や脳卒中の既往歴がなく心血管イベントのリスクは高いという、比較的リスクが低い集団の1次予防において、PCSK9阻害薬の追加投与が主要心血管イベント(MACE)のリスクを低減することを実証した初めての臨床試験であるが、患者の多くが既知の重度の動脈硬化を有していた。研究の成果は、JAMA誌オンライン版2026年3月28日号で報告された。33ヵ国の無作為化プラセボ対照比較試験 本研究は、33ヵ国774施設で実施した二重盲検無作為化プラセボ対照比較試験(Amgenの助成を受けた)。2019年6月に参加者の登録を開始し、2025年7月に最後の患者の追跡を終了した。 対象は、重度の動脈硬化を認めず(以下のいずれにも該当しない:動脈血行再建術の既往、動脈の50%以上の狭窄、冠動脈石灰化スコア≧100Agatston単位)、高リスク糖尿病(以下の少なくとも1つに該当:罹患期間10年以上、インスリンの連日使用、細小血管疾患)を有し、心筋梗塞や脳卒中の既往歴がなく、LDL-C値≧90mg/dL、非HDL-C値≧120mg/dL、アポリポ蛋白B値≧80mg/dLがみられ、至適な脂質低下療法により病態が2週間以上安定している患者であった。 被験者を、忍容可能な至適な用量のスタチン療法に加え、エボロクマブ(140mg、2週ごと)またはプラセボを皮下投与する群に、1対1の割合で無作為に割り付けた。 主要エンドポイントは次の2つとした。(1)3つの主要心血管イベント(冠動脈性心疾患死、心筋梗塞、虚血性脳卒中)の複合(3-P MACE)、(2)4つのMACE(3-P MACEと虚血による動脈の血行再建術)の複合(4-P MACE)。48週でLDL-C値が52mg/dLに低下 試験全体の参加者1万2,257例のうち適格基準を満たしたサブグループ3,655例(年齢中央値65歳[四分位範囲[IQR]:60~70]、女性57%)を解析の対象とした。エボロクマブ群に1,849例、プラセボ群に1,806例を割り付けた。 サブグループのベースラインBMI中央値は31.4(IQR:28.0~35.6)、9割弱が高血圧、ほぼ全例が糖尿病で、LDL-C中央値は132mg/dL(IQR:108~156)、89%が脂質低下療法を、64%は高強度スタチン療法を受けていた。 48週の時点で、LDL-C値中央値はエボロクマブ群が52mg/dL、プラセボ群は111mg/dLであった(p<0.001)。96週時にはそれぞれ44mg/dLおよび105mg/dLまで低下した。3-P・4-P MACEイベントとも有意に優れる 3-P MACEイベントは、プラセボ群で117例(5年Kaplan-Meier推定値7.1%)に発生したのに対し、エボロクマブ群では83例(5.0%)と有意に少なかった(ハザード比[HR]:0.69[95%信頼区間[CI]:0.52~0.91]、p=0.009、群間差:2.1%[95%CI:0.4~3.8])。 また、4-P MACEイベントは、プラセボ群で178例(5年Kaplan-Meier推定値10.5%)に認めたのに対し、エボロクマブ群では127例(7.6%)と有意に少なかった(HR:0.69[95%CI:0.55~0.86]、p=0.001、群間差:2.9%[95%CI:0.9~4.9])。 さらに、心血管死(エボロクマブ群2.38%vs.プラセボ群3.49%、HR:0.68[95%CI:0.46~0.99])および全死因死亡(7.36%vs.9.52%、HR:0.76[95%CI:0.61~0.95])の発生率も、エボロクマブ群で良好だった。重篤・試験薬中止有害事象は同等 重篤な有害事象(エボロクマブ群24.5%vs.プラセボ群25.7%、p=0.41)、試験薬の投与中止に至った有害事象(同4.1%vs.4.3%、p=0.75)の発生率は両群で同程度だった。死亡は、エボロクマブ群で136例(5年Kaplan-Meier推定値7.8%)、プラセボ群で172例(10.1%)に認めた(HR:0.76、95%CI:0.61~0.95)。 著者は、「既知の重度な動脈硬化がなく糖尿病を有する高リスク患者の1次予防において、至適なスタチン療法にエボロクマブを加えると、プラセボと比較して初回MACEリスクが低減した」とまとめ、「これらのデータは、アテローム動脈硬化性心血管疾患の進行の初期段階にある患者に対して、スタチン療法に上乗せした強化治療を行うこと、および通常はきわめて高リスクの2次予防患者にのみ適用されるLDL-Cの目標値を目指すことを支持するものである」としている。

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最適な輸液ルート選択の考え方 その壱【ケースで学ぶ輸液オーダー】第2回

最適な輸液ルート選択の考え方 その壱これから集中治療を行う患者さんに対して、「どこから、何のために、どんなルートを確保するのが安全か」ということをあまり考えずに、先輩医師のやり方を見てなんとなく慣習で選んでいたということは少なくないかもしれません。今一度、輸液ルート選択の思考回路を一緒に整理してみましょう。症例肺炎によるI型呼吸不全、敗血症性ショックでICUに入室した患者さんに対応するよう、指導医とともに緊急呼び出しされた初期研修医A君。酸素10L/分(マスク)、両側肘正中皮静脈から18Gを1本ずつ確保、両側とも細胞外液補充液を急速投与中、それでも血圧80/40mmHg、脈拍120/分、呼吸回数30回/分、SpO2 88%、ショックと低酸素血症が持続しています。迅速導入気管挿管(rapid sequence intubation)を行い、人工呼吸管理となりました。指導医は「あとは頼んだよ」と言って去っていきました。挿管後、患者さんは強い体動を認め、上肢をばたつかせています。ショックの治療と並行して持続的な鎮静・鎮痛が必要です。併存症に糖尿病があり血糖800mg/dL、さらに播種性血管内凝固症候群(DIC)も合併しています。さて、A君は次に何を行うべきでしょうか?考えかたの整理集中治療では、複数の薬剤・輸液を同時並行で安全に投与する必要があります。想定される投与内容は、ショックに対する細胞外液補充液・昇圧薬、人工呼吸中の鎮静薬・鎮痛薬、抗菌薬、維持輸液(将来的に栄養輸液に移行する可能性あり)、インスリンなどです。ここで大切なことが3つあります。1. 流量変動の影響を受けてはいけない薬剤がある例:昇圧薬、鎮静薬・鎮痛薬、インスリン持続投与などこれらは流量が変わると、血圧や鎮静レベル、血糖値が一気に変動するため、急速に注入するラインと同じラインにすべきではありません。2. 配合変化がありうる例:オメプラゾール、セフトリアキソン、アミオダロンなど他剤との混合で沈殿・失活が起こる薬剤があるため、不明な場合は必ず薬剤師に相談しましょう。ちなみに輸血と同一ラインで流せるのは生理食塩液のみです。3. 末梢で理論上可能でも現実的ではないことがある理論上、すべて末梢静脈から投与可能な薬剤でも、必要な薬剤が多すぎて、メイン点滴ルートの側管などを駆使しても現実的にすべて末梢から行えない場合もあります。その場合は、ルートの本数かせぎに複数のルーメンを持つトリプルやクワッドルーメンの中心静脈カテーテル挿入が必要です。中心静脈カテーテル挿入の主な適応は、(1)末梢静脈の確保困難、(2)薬剤の多剤併用、(3)刺激性、腐食性、高浸透圧性の薬剤投与(抗がん剤、昇圧薬、50%ブドウ糖、高カロリー輸液など)、(4)血行動態のモニタリング(スワンガンツカテーテル挿入、中心静脈圧測定などの圧モニター)です。本症例は、(2)多剤併用、(3)昇圧薬投与が該当します。本症例の対応本症例には以下の輸液、薬剤の投与が必要です。ショック:細胞外液補充液、ノルアドレナリン人工呼吸中の鎮静、鎮痛:プロポフォール、フェンタニル敗血症:抗菌薬維持輸液(将来的に中心静脈栄養に移行する可能性あり)インスリン(持続投与)本患者は強い体動を認めているため、現在の両側肘静脈ラインは今にも抜けそうで不安定であり、流量管理が困難かつ薬剤が組織侵襲性のある薬剤を投与すると血管外へ漏出する恐れがあります。以上から、組織侵襲性のある薬剤や一定の流量で投与すべき薬剤を複数かつ安全に投与する目的で、マルチルーメン中心静脈カテーテル挿入が必須です。中心静脈カテーテルの挿入部位はさまざまでそれぞれ長所・短所がありますが、本症例はDICを合併していることから止血の確実性が重要であり、動脈誤穿刺時の圧迫止血の容易さを考えると、内頸静脈または大腿静脈が有利です。ただし、清潔性・感染管理・将来の離床を考えると、右内頸静脈が第1選択となることも多いでしょう。もちろん、超緊急時は理想に固執せずに最も得意な部位から確実に挿入することも許容されます。図1 中心静脈カテーテル各挿入部位の利点、欠点1)画像を拡大する本症例はベテランICUナースによって図2で示す投与経路が組み立てられました。医師が投与経路の組み立てを自ら行うことはまれですが、たとえば昇圧薬、鎮静薬や鎮痛薬、時間をかけて静注する必要のある薬剤にグループ分けするなど、看護師が多くの薬剤を限られたルートからいかに工夫して投与しているか、そのオキテに着目するのは勉強になります。図2 本症例における輸液・薬剤投与経路の実際2)画像を拡大する目的に見合う最適な輸液ルートやカテーテルを選択しましょう。混ぜても大丈夫?注射薬は単独での使用を想定し開発されていますが、臨床現場では輸液バッグやルート内で配合されて投与される場合が多く、配合変化の危険が存在します。配合変化とは、2種類以上の注射薬を混合した際に生じる変化であり、物理的配合変化(例:混濁・沈殿)と化学的配合変化(例:有効成分の力価低下)に分けられます。配合変化による影響としては、力価の低下やルート閉塞、まれではありますが国外において死亡例が報告されています3)。ICUでは複数の静注薬を限られたルートの中で同時投与せざるを得ない状況があります。そのため、最適なルート選択をする上で配合変化の有無の確認は欠かせません。施設によっては配合変化表を作成し、ICUに配置していると思います。ルート選択の際に活用することにより、配合変化の頻度を下げる可能性が報告されており4)、有用なツールです。最後に、ルート管理において注射薬から内服薬への変更や不要な薬剤の中止を検討することも大事な視点になります。安易に継続処方とせず、薬剤の投与方法についても検討するようにしましょう。図3 (左)坂総合病院ICUの配合変化の問い合わせ記録集、(右)坂総合病院救急室の配合変化の有無の一覧表画像を拡大する1)Marino PL. ICUブック第4版. MEDSI;2015.p15-33.2)濱野繁. 10薬剤投与. In:道又元裕. これならわかるICU看護:照林社;2018.p.159.3)セフトリアキソンナトリウム 添付文書4)Kondo M, et al. J Nippon Med Sch. 2022;89:227-232.

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働く世代の肥満・肥満症への正しい理解を促す取り組み始動/日本糖尿病協会

 3月4日の「世界肥満デー」に日本糖尿病協会(JADEC)は、都内で「肥満アドボカシー活動」のスタートに関して記者発表会を開催した。このセミナーは、糖尿病発症の重要なリスク因子である肥満を「ダイアベティス(糖尿病)の前段階」と位置付け、厚生労働省などと連携し、就労世代を対象とした全国的な「肥満アドボカシー活動」の開始を表明したもの。同協会では、今回の活動によりダイアベティス予防を社会に広げ、予防の入口から環境を変える取り組みに踏み出す。肥満の放置は社会経済に悪影響 初めに「『肥満の解消』によるダイアベティスの発症予防の取り組み」をテーマに清野 裕氏(JADEC理事長/関西電力病院 総長)が、わが国の糖尿病、肥満症の実態とJADECが行ったアンケート調査の結果などを説明した。 厚生労働省の調査によると糖尿病の受診率は改善している一方で30・40代では、依然として7割以上が治療を受けていない状況を示した。次にJADECが行ったアンケート「医師・一般消費者・肥満者を対象にした肥満に関する意識調査結果」について触れ、一般消費者の7割、肥満者の9割が「肥満は自己責任」と考えていることを報告した。肥満は「治療が必要」という人が全体で7割以上回答している一方で、保険診療で治療する場合では、一定の回答者には心理的抵抗があるという結果だった。また、他の調査結果でも「体重について気軽に医師に話すことができるか」と患者に聞くと、「気軽に話せる」という人は約20%で、医師側もあまり真剣に取り組んでこなかったということを指摘した。 肥満は、自己管理ができていない、意志が弱いなど個人の責任であるという「体重スティグマ」が、学校や職場などで差別的な評価につながる。医療の世界でも、医療者が一定の偏見をもって患者に診療にあたることで、気軽に医療者と話し合って減量に取り組むということができなくなり、治療への妨げともなる。さらに肥満者は、いろいろな疾患を併発しやすく、放置したままになると、社会全体の経済損失につながるといわれ、将来的に50兆円の損失になると予想されている。 そこで、JADECでは、とくに就労者に焦点を当て厚生労働省、経済団体・関係団体と協調し、医学的・社会的な観点から肥満や肥満症に介入し、肥満者がスティグマで診療萎縮することがないように社会啓発活動を今回展開すると経緯を説明した。 「厚生労働省の栄養・食生活の改善に向けた取り組み 」について丹藤 昌治氏(厚生労働省 健康・生活衛生局健康課 課長)が、厚生労働省の取り組みを説明した。現在、第3次の「健康日本21」が2024年より行われている。そのビジョンは「すべての国民が健やかで、心豊かに生活できる持続可能な社会の実現」であり、豊かに生活できる持続可能な社会を示し、「誰一人取り残さない健康づくりを推進する」と記している。とくに生活習慣の改善の中で「栄養食生活」を行うことで、適正体重を維持するという目標を提示し、バランスの良い食生活、減塩食などの励行により生活習慣病の発症予防とともに循環器疾患や糖尿病対策を行うものである。具体的には毎年9月に「食生活改善普及運動」を実施し、バランスのよい食事を摂ることをインターネットなどでも啓発している。そのほか「スマート・ライフ・プロジェクトにおける適切な栄養・食生活の普及」という、国民や企業への健康づくりの新しい施策も行われ、「健康寿命をのばそう」を合言葉に国民運動となることを目指す取り組みも行われる。肥満・肥満症患者に医療者も理解を 「肥満症の成因と病態」について窪田 直人氏(熊本大学大学院 生命科学研究部 代謝内科学講座 教授)が、肥満症になるメカニズムを説明した。肥満症は生活習慣と遺伝要因の両方の相互作用で成り立っている。とくに20・30代では約7割が遺伝要因であり、その後、環境要因も重なることで肥満が進行する。代謝的に健康な肥満(MHO)と代謝的に不健康な肥満(MUO)を比較すると、脂肪分布、インスリン感受性、アディポカイン分泌などに違いがあることが明らかになってきた。また、MHOはけっして健康ではなく、医療介入の余地があることも最近の研究からわかってきた1)。そのほか、心血管死亡などの合併症を起こさない肥満はどのような肥満かを研究した結果では、収縮期血圧が<130mmHgかつ降圧薬なし、内臓脂肪蓄積がなく、糖尿病ではない肥満者が比較的合併症を起こしにくいということが判明した2)。肥満の概念は、BMIが肥満領域にある人を、どう層別化するかということであり、肥満症(MUHO)であってもMHOであっても全員が健康的生活を基盤に据えるべきであり、MHOでも生活習慣を改善することで代謝的健康を維持・補強することができる。その中には、食事療法や運動療法、行動療法に加えて、場合によっては、薬物療法や外科的な治療の選択肢もあると説明を行った。 「ダイアベティス予防からみた肥満へのアプローチ」について門脇 孝氏(虎の門病院 病院長)が、肥満者の合併症で多いダイアベティスからみた肥満の現状について説明を行った。わが国のダイアベティス患者は1,100万人と推定されており、とくにアジア人は欧米人と比べ、軽度肥満や内臓脂肪蓄積で発症しやすいとされている。以前行われたプレダイアベティスに対する生活習慣介入研究である「虎の門スタディー」では、強力介入群は通常介入群と比較して、約1.8kg体重が減少し、ダイアベティス発症が67%抑制されたという結果がある3)。肥満、肥満症の要因は、先述の説明通り環境と遺伝があるが、自己責任論は大きな誤解と偏見となる。そのような誤解と偏見が「スティグマ」と呼ばれ、社会的偏見による差別へ発展する。肥満のある人と医療スタッフの認知のギャップとそれを埋める必要性に関する調査研究では、多くの肥満者が減量は自己責任と回答する一方で、減量成功の責任は医療スタッフにあると答えている医療スタッフが多かった。また、肥満について患者と医療スタッフの間で話し合わない理由としては、医療スタッフ側に「患者は減量したいという意識に欠ける」「患者が減量できるとは思えない」「患者は減量には関心がない」の回答数が肥満患者の回答数よりも多く、医療スタッフでも社会的偏見があることがわかった。こうした結果からオベシティ・スティグマ(肥満への偏見)に終止符を打つことを目指す合同国際コンセンサスステートメント「肥満への認識」「差別への非難」「肥満患者などへの敬意を持ち、治療を支援すること」などが策定された。また、JADECでは「肥満・肥満症のある人に関するスティグマを解消するアドボカシー活動の提案」として、肥満・肥満症患者が置かれている現状を認識し、正しい診療の認識などを啓発するとしている。わが国では中高年までのダイアベティスでは肥満対策が喫緊の課題となっているほか、肥満のある人の割合は、成人男性で増加しており、肥満の解消はダイアベティスはじめ慢性疾患の発症を予防すると説明を行った。 最後に就労している肥満症患者の声として、患者自身の診療経験や体重減少後の効果が語られ、「肥満は単なる自己責任ではなく、生活や環境、体の状態が影響するものだと身をもって感じた。そして、医療のサポートを受けながら取り組めば体はきちんと応えてくれるということも実感した。今、肥満治療をためらっている方がいれば1人で抱え込まず医師に相談してほしい」と思いを述べた。

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初の人乳由来母乳強化剤が承認、超早産児の栄養管理に新たな選択肢/クリニジェン

 2026年3月18日、「極低出生体重児等の体重増加不全を呈する新生児及び乳児の栄養管理」を効能又は効果とする、プリミーフォート経腸用液が薬価収載され、2026年4月下旬の発売が予定されている。プリミーフォート経腸用液は、極低出生体重児等の栄養管理を目的とした人乳由来母乳強化剤の医薬品として、本邦で承認された初めての製品となる。クリニジェンは同日「超早産児の新しい栄養管理とNICUの未来~本邦初の完全人乳栄養による経腸栄養の可能性~」と題したメディアセミナーを開催。水野 克己氏(昭和医科大学小児科学講座)が登壇し、超早産児の栄養管理の考え方と同製品の役割について解説した。早産児栄養管理戦略の変遷と人乳由来母乳強化剤の位置付け 超早産児に対する母乳は、量依存性に壊死性腸炎、後天性敗血症、慢性肺疾患、未熟児網膜症、神経発達異常などの罹患率・重症度の低下、NICU退院後の再入院リスクの低下と関連することが報告されており1,2)、母親の母乳が児にとって最適なことは疑う余地がない。しかし、母乳が得られるまで静脈栄養のみを続けることは、腸管粘膜の萎縮や炎症、感染症のリスクとなる3)。一方で、いつでも使用できる人工乳は、腸管透過性、腸管粘膜の炎症、腸内細菌叢の問題から慎重な使用が求められる4)。 こうした背景を踏まえ、2019年、日本小児医療保健協議会(日本小児科学会、日本小児保健協会、日本小児科医会、日本小児期外科系関連学会協議会)は、自母乳が得られるまで絶食とするNICU施設が散見される、生後早期からの経腸栄養開始による短期予後の改善が報告されているなどとして、「早産・極低出生体重児の経腸栄養に関する提言」5)において、以下の3項目を提言として発表した:1.早産・極低出生体重児にとって自母乳は最適な栄養であり、NICUにおいても母乳育児を推奨し支援すべきである。2.自母乳が不足する場合や得られない場合、次の選択肢は認可された母乳バンクで低温殺菌されたドナーミルクである。3.将来的には、母乳と人乳由来の母乳強化で栄養するEHMD(完全人乳由来栄養[Exclusive Human Milk Diet])が早産・極低出生体重児に与えられることが望ましい。 提言3で将来的な実現が期待されていたEHMDが、今回初めて承認・発売に至った形となる。母乳強化が必要な理由 胎児において、脳の成長スパートは妊娠28週ころから始まり、おおよそ2歳まで続く6)。水野氏は、「23週と39週では、脳の発達状況に大きな差がある。単に生存退院を目指すのではなく、可能な限り正期産児に近い発達状態での退院を目指すべきである」として、早産児における適切な栄養介入の重要性を指摘した。 母乳強化による効果については、いくつかエビデンスが報告されている。超低出生体重児における母乳栄養下での十分なタンパク強化により、頭囲成長や2歳時の神経発達予後が改善し、静脈栄養期間および入院期間が短縮したという報告7)や、極低出生体重児にEHMDを与えることで網膜症や敗血症、慢性肺疾患が減少したという報告がある8)。 現在、本邦で販売されているのは牛乳由来強化物質のみで、牛乳アレルギーのリスクがあるほか、結石が形成された症例が報告されている。水野氏は、EHMDがとくに必要と考えられるケースとして、消化管手術後の超早産児を挙げた。また、実際の症例として、胎便関連性腸閉塞と高インスリン性低血糖を有する症例で、EHMDを与えることにより体重増加のほか低血糖の改善もみられた症例を提示し、その臨床的有用性について言及した。プリミーフォートの有効性と安全性を評価した第III相試験の結果 JASMINE(JApanese Study of an Exclusive Human MIlk Diet in Premature Neonates)試験9)は、極低出生体重児を対象としたEHMDにおける成長および安全性評価のための多施設共同無作為化比較対照試験。新生児集中治療室に入室している極低出生体重児147例を対象に、EHMD群(プリミーフォートを母乳またはドナーミルクに添加)と標準栄養群(母乳、ドナーミルク、牛乳由来の人工乳および栄養強化剤を使用)の成長速度を比較した。主な結果は以下のとおり。・試験参加者の背景は両群でおおむね同様であったが、在胎期間22~25週で出生した新生児割合は、標準栄養群27.1%に比べ、EHMD群では36.4%と多かった。・主要評価項目である出生から在胎34週0日までの体重増加速度は、標準栄養群に対しEHMD群で有意に速かった(11.96g/kg/日vs.13.44g/kg/日、p=0.0063)。・副次評価項目である出生から経腸栄養確立(160mL/kg/日)までの日数はEHMD群で有意に短く(25.90日vs.20.00日、p=0.03)、身長増加速度(0.67cm/週vs.0.83cm/週、p=0.0016)および頭囲増加速度(0.58cm/週vs.0.66cm/週、p=0.0312)はEHMD群で有意に速かった。・発現頻度の高かった試験治療下における有害事象(TEAE)は感染症で、標準栄養群8.6%、EHMD群10.4%に認められたが、「母乳強化物質との因果関係はなし」と判断された。・重篤な有害事象および死亡に至ったTEAEはそれぞれ標準栄養群2.9%、EHMD群3.9%に認められたが、「母乳強化物質との因果関係はなし」と判断された。・EHMD群で試験中止に至ったTEAEのうち、「母乳強化物質との因果関係あり」とされたのは、胃腸障害関連のTEAE(2例、うち1例が重度)、130mL/kg/日の栄養不耐症(1例)であった。<製品概要>・販売名:プリミーフォート経腸用液6、8、CF・効能又は効果:極低出生体重児等の体重増加不全を呈する新生児及び乳児の栄養管理・用法及び用量: 本剤を電子添文の表のとおり母乳と混合して強化乳を調製し、経管又は経口投与する。通常、「強化乳6」を50mL/kg/日から投与開始し、徐々に投与量を増やし、100mL/kg/日に到達後は必要に応じて強化乳の切替えを行う。栄養補給量は160mL/kg/日まで継続的に漸増する。また、必要に応じて160mL/kg/日より増量することもできる。なお、強化乳の投与開始時期、投与経路及び投与速度は、児の在胎期間、体重、症状、栄養状態等を考慮して決定する。また、強化乳の増量及び切替えは、体重増加速度、在胎期間、子宮内発育遅延の有無、補給時間、水分制限の要否、タンパク質及びエネルギーの必要量等を考慮して行う。・薬価:プリミーフォート経腸用液6(15mL1瓶29,171.30円、30mL1瓶58,199.30円)、8(40mL1瓶77,580.50円)、CF(10mL1瓶14,079.50円)・製造販売承認日:2025年12月22日・薬価基準収載日:2026年3月18日・発売日:2026年4月下旬・製造販売元:クリニジェン株式会社■参考文献・参考サイトはこちら1)Meier PP. Nestle Nutr Inst Workshop Ser. 2019;90:163-174.2)Quitadamo PA, et al. Foods. 2024;13:649.3)Quiroz-Olguin G, et al. Eur J Clin Nutr. 2021;75:1533-1539.4)Rao K, et al. Front Pediatr. 2022;10:902798.5)水野克己ほか. 日本小児科学会雑誌. 2019;123:11086)Dobbing J. Am J Dis Child. 1970;120:411-415.7)Mariani E, et al. Front Public Health. 2018;6:272.8)Assad M, et al. J Perinatol. 2016;36:216-220.9)JASMINE試験(JRCT)

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第311回 妊娠中のつわりとの関連で知られるホルモンが飲み過ぎを防ぐらしい

妊娠中のつわりとの関連で知られるホルモンのGDF15が、酒量の制限にどうやら携わることがドイツでのビール祭り(オクトーバーフェスト)の参加者を含む検討で示されました1,2)。GDF15は吐き気や食べ物を嫌がることに携わる脳領域(最後野)に限って発現するタンパク質複合体に結合します。妊娠初期のGDF15急増と関わる吐き気は、慣れない食物や傷んだ食物を食べないようにして胎児に害が及ばないようにする働きがあると考えられています。GDF15は妊娠していない人にもあり、肥満の人に多いことが示されています。栄養状態、代謝ホルモン、体重が変化しても一定のままであるものの、げっ歯類での検討で摂食抑制効果が示されています。それゆえGDF15は肥満治療に役立ちそうであり、実際、太っている成人の摂食を減らす効果が長時間作動型GDF15受容体作動薬LY3463251の第I相試験で確認されています3)。ただし取るに足る体重低下はあいにく認められませんでした。今や世界中に広まる西洋食での摂取エネルギーの5~10%を占めるアルコールは、多臓器や発達中の胎児に害を及ぼしうる毒物でもあります。妊婦に吐き気を催させる働きに示されるように、GDF15は毒物感知に携わり、その摂取を止めさせ、再びその毒物が口に入らないようにする役割も担うようです。ゆえに毒物の側面をもつアルコールはGDF15によって制御されているかもしれません。その予想を裏付ける結果として、アルコールでGDF15生成が増えることが肝細胞やマウスでの検討で示されています4)。ヒトでも同様かもしれず、デンマークでの野外音楽フェスティバル(ロスキレ・フェスティバル)に参加して一週間大量に飲酒した若い男性の血中のGDF15上昇が認められています5)。その試験に携わった同国のコペンハーゲン大学の内分泌学者Matthew Gillum氏らは、GDF15が飲酒で作られてアルコール飲料の欲求を減らすように働くと仮説を立ててさらに調べてみました。まずは12人の医学部生に協力してもらい、5杯分に相当するアルコール(60g)を1回きり摂取してもらいました。するとGDF15血中濃度は上昇せずむしろ低下しました。一方、オクトーバーフェストで過飲を続けた3人のGDF15は上昇傾向を示しました。3人は連続する3日間に各々が1日に1Lのジョッキおよそ7杯(3人合わせて平均22杯)のビールを飲んでいます。アルコール依存患者のGDF15値も高く、どうやらGDF15の上昇は短期ではなく続けざまの過飲で生じるようです。GDF15の上昇にどんな働きがあるかといえば、Gillum氏の仮説のとおり、飲み過ぎの抑制に一役買っているようです。英国の50万人超を追跡しているUK Biobankの遺伝情報と生活習慣の記録を解析したところ、GDF15が結合する受容体の一部のGFRALを損なわせる変異を有する人は、そうでない人に比べてアルコールをより多く摂取していました。また、GDF15はマウスの飲酒を減らしました。GDF15が携わる経路の増強がアルコール乱用やアルコール関連肝疾患の治療に役立つかどうかのさらなる検討を今回の結果は後押しするでしょう。アルコール依存症患者は生来のGDF15がすでにだいぶ上昇していることからGDF15経路を鈍くする抵抗性があるのかもしれず、GDF15経路の別口でのさらなる活性化が必要かもしれません。とはいうものの、2型糖尿病患者のインスリン抵抗性をインスリンの投与で解決できるように、内因性GDF15が過剰でもその働きをさらに高めてGDF15感受性低下を克服できる望みはあると著者は言っています。参考1)Justesen JM, et al. bioRxiv. 2026 Mar 9. [Epub ahead of print]2)Hormone linked to morning sickness may help reduce alcohol intake / Science3)Benichou O, et al. Cell Metab. 2023;35:274-286.4)Chung HK, et al. Sci Rep. 2017;7:17238.5)Demant M, et al. Eur J Endocrinol. 2021;185:23-32.

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夜食を控えると心臓にメリットがもたらされる

 1日の終わりの習慣を少し変えるだけで、心臓の健康上のメリットを得られることが、新たな研究で明らかになった。就寝前の数時間、食事を控えるだけでよく、摂取カロリーは減らさなくても良いという。 この研究は、米ノースウェスタン大学ファインバーグ医学部睡眠医学科神経学研究室のDaniela Grimaldi氏らの研究によるもので、詳細は「Arteriosclerosis, Thrombosis, and Vascular Biology」に2月12日掲載された。論文の筆頭著者である同氏は、「体の自然な覚醒・睡眠リズムに合わせて絶食時間を調整することで、心臓、代謝、睡眠の状態を改善できる。これらは全て、心血管の健康を守るために協調して働いている」と解説している。 重要な時間帯は、就寝前の3時間だという。眠りに就く3時間前から照明を抑えて食事を控えると、睡眠中、そして翌日1日を通して、心血管代謝に関わる指標が目に見えるほど改善するとのことだ。注目すべきことは、この研究参加者は摂取カロリーを減らしたわけではなく、単に夜間の食事の時間帯を変更しただけだったという点だ。 論文の上席著者である同大学医学部概日リズム・睡眠医学センターのPhyllis Zee氏は、「時間制限食の生理学的効果を得るには、『何をどれだけ食べるか』だけでなく、『睡眠との関係でいつ食べるか』も重要だ」と話す。なお、時間制限食は、心血管代謝関連マーカーを改善し、時には古くから行われているカロリー制限に匹敵する効果をもたらす可能性があることが研究で示唆されており、近年ますます人気が高まっている。 心血管代謝関連マーカーの数値が良くないと、心臓病や2型糖尿病、代謝機能障害関連脂肪性肝疾患(MASLD)などの慢性疾患のリスクが上昇する。時間制限食がそれを抑制する可能性が示唆されているが、これまでの時間制限食に関する研究の多くは、代謝調節の鍵となる睡眠のタイミングと絶食のタイミングが一致しているか否かを考慮せずに、どれだけ長く断食するかということに焦点を当ててきていた。 Grimaldi氏らの研究には、36~75歳で肥満・過体重に該当する39人が参加した。参加者全体を2群に分け、7週間半にわたり、介入群は夜間に13~16時間絶食し、対照群は通常通りに食事を続けた。両群ともに、就寝の3時間前に照明を抑えることとした。 解析の結果、介入群は、心血管の健康状態を表す指標に明らかな改善が認められた。例えば、夜間の血圧は3.5%低下し、心拍数も5%低下していた。研究者らは、「これらの変化は、日中の活動中に心拍数と血圧が上昇し、夜間の休息中にそれらが低下するという、より健康的な変化のパターンを反映している。昼夜のメリハリがはっきりするということは、心血管の健康状態の改善と関連している」と述べている。 さらに、介入群では、日中の血糖状態も良好となった。研究者らによると、この変化は「ブドウ糖が体内に入ると、膵臓はより効果的に反応してインスリンが分泌され、血糖値が安定することを示唆している」という。 論文では、「睡眠のタイミングに合わせた時間制限食というこのアプローチは、心血管代謝機能を改善する有望な可能性を秘めた、実用性の高い新たなライフスタイル介入と言える」と結論付けている。

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日本のインスリン治療、非インスリン薬併用が20年で2倍に

 日本におけるインスリン療法の実態とその変遷を解析した大規模リアルワールド研究「Insulin JP2DB Study」の結果が報告された。日本では近年、インスリンと非インスリン薬の併用が増加している。本研究では、その割合が約20年間で大きく増加していることが示された。京都府立医科大学の福井 道明氏らによる本研究はDiabetes Therapy誌オンライン版2026年1月27日号に掲載された。 日本の医療データベース(JP2DB)を用いて、インスリン治療の導入パターンおよび併用薬の使用動向を後ろ向きに解析した。解析は、年次ごとの治療動向を評価する「連続横断解析」と、インスリン導入後の治療法の推移を追跡(2型糖尿病は9ヵ月、1型糖尿病は21ヵ月)した「縦断コホート解析」の2つのデザインで実施された。 インスリン治療法は、bolus(追加インスリン)、basal(基礎インスリン)、premixed(混合型インスリン)、basal-bolus(強化インスリン)などに分類した。さらにDPP-4阻害薬やSGLT2阻害薬などの非インスリン血糖降下薬の併用状況を評価した。 主な結果は以下のとおり。・連続横断解析では、4,953例(2型糖尿病4,693例、1型糖尿病260例)が対象となった。2型糖尿病においてインスリン治療と非インスリン薬を併用する割合は、2002年の31%から2021年には61%へと倍増した。とくに2014年以降はインスリン使用者の30%以上がDPP-4阻害薬を併用した。SGLT2阻害薬の併用率は2013年の0%から2021年には20.2%に増加した。2018年以降は、1型糖尿病でも非インスリン薬併用の増加傾向が確認された。・縦断コホート解析では、2万7,492例(2型糖尿病2万7,031例、1型糖尿病461例)が対象となった。2型糖尿病では、入院中にインスリン療法を開始した患者は、導入時は追加インスリンが70.8%と高かったが、9ヵ月後には17.3%まで低下した。その代わりに基礎インスリン(6.3%→31.1%)、強化インスリン(17.0%→23.4%)が増加した。外来で開始した場合、導入時は基礎インスリンが最も多く、病院では53.9%、診療所では58.9%を占めた。・1型糖尿病患者では、入院時にインスリン療法を開始した患者の57.9%が追加インスリンを投与されたが、1ヵ月後には強化インスリンが主流(85.0%)となった。外来で開始した場合は、研究期間を通じて強化インスリンが主流であった。 著者らは「2型糖尿病では、導入環境によって治療法に違いが見られた。入院中は高血糖是正を目的に強化インスリンが行われることが多いが、時間の経過とともに退院後の外来管理を想定した治療法へ移行する傾向が示された。外来では低血糖リスクや治療負担を考慮し、初回治療は比較的簡便な基礎インスリンから開始する戦略が一般的であることが示唆された。一方、1型糖尿病では、入院導入例では約6割が追加インスリンで開始されたが、1ヵ月後には85.0%が強化インスリンへ移行していた。外来導入例でも研究期間を通じて強化インスリンが主流であり、導入環境による違いが少なかった。さらに、インスリン治療患者における非インスリン薬併用は年々増加しており、本試験は日本の糖尿病治療が多剤併用戦略へと移行していることを示す結果である」とまとめている。

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「フォシーガ」の名称の由来は?【薬剤の意外な名称由来】第85回

第85回 「フォシーガ」の名称の由来は?販売名フォシーガ®錠 5mg フォシーガ®錠 10mg 一般名(和名[命名法])ダパグリフロジンプロピレングリコール水和物(JAN)効能又は効果◯2型糖尿病◯1型糖尿病◯慢性心不全ただし、慢性心不全の標準的な治療を受けている患者に限る。◯慢性腎臓病ただし、末期腎不全又は透析施行中の患者を除く。用法及び用量<2型糖尿病>通常、成人にはダパグリフロジンとして5mgを1日1回経口投与する。なお、効果不十分な場合には、経過を十分に観察しながら10mg1日1回に増量することができる。<1型糖尿病>インスリン製剤との併用において、通常、成人にはダパグリフロジンとして5mgを1日1回経口投与する。なお、効果不十分な場合には、経過を十分に観察しながら10mg1日1回に増量することができる。<慢性心不全、慢性腎臓病>通常、成人にはダパグリフロジンとして10mgを1日1回経口投与する。警告内容とその理由設定されていない禁忌内容とその理由1.本剤の成分に対し過敏症の既往歴のある患者2.重症ケトーシス、糖尿病性昏睡又は前昏睡の患者[輸液、インスリンによる速やかな高血糖の是正が必須となるので本剤の投与は適さない。]3.重症感染症、手術前後、重篤な外傷のある患者[糖尿病を有する患者ではインスリン注射による血糖管理が望まれるので本剤の投与は適さない。]※本内容は2026年3月16日時点で公開されているインタビューフォームを基に作成しています。※副作用などの最新の情報については、インタビューフォームまたは添付文書をご確認ください。1)2025年4月改訂(第15版)医薬品インタビューフォーム「フォシーガ®錠5mg、10mg」

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末梢動脈疾患(PAD)の症状改善にメトホルミンは無効(解説:小川大輔氏)

 末梢動脈疾患(Peripheral Artery Disease;PAD)は、動脈に脂肪やコレステロールが蓄積する動脈硬化によって、腹部大動脈から下肢の動脈が狭くなり血流が制限される疾患である。これにより、歩行時の足の痛み(間欠性跛行)などの症状が生じる。症状はゆっくりと現れることが多いが、急激に悪化する場合もある。主な原因は動脈壁への脂肪、コレステロールなどの蓄積、いわゆるアテローム性動脈硬化と考えられている。PADの患者は動脈硬化を原因とする狭心症や脳梗塞を合併することが多いため、下肢だけでなく全身の動脈硬化症の評価も必要となる。 PADの治療としては、禁煙、生活習慣病の管理、運動療法、薬物療法、血行再建術などがある。PADの最大の原因は喫煙であり、禁煙は必須の治療である。糖尿病、高血圧症、脂質異常症があればそれらの治療も行う。運動療法は血流改善や新しい血管(側副血行路)の発達を促すため、痛みが生じない範囲でのウォーキングなどの運動は有効である。血行再建術は、運動療法やシロスタゾールなどの薬物療法で症状の改善が見られない場合や重症の場合に検討される。カテーテル治療(血管内治療)やバイパス手術はPADの部位や患者の状態を考慮して実施される。 PADは歩行障害を引き起こす重篤な循環器疾患であり、効果的な治療法が限られている。そこで今回非糖尿病のPAD患者に対し、2型糖尿病の治療薬であるメトホルミンを6ヵ月間投与し、歩行能力に与える効果を検証したランダム化二重盲検試験が実施された1)。その結果、メトホルミンはPAD患者の歩行能力改善には効果がないと結論付けられた。 メトホルミンは主に肝臓での糖新生を抑制したり、筋肉や脂肪組織でのブドウ糖の取り込みを促進したりすることによって血糖値を下げる効果がある。その他、血管内皮細胞におけるAMP活性化プロテインキナーゼの活性化、酸化ストレスの抑制、内皮型一酸化窒素合成酵素の活性化などの作用も報告されている2)。メトホルミンのこれらの“pleiotropic effects”による血管内皮機能の改善により、PAD患者の血流改善や歩行時間延長を期待され、この試験が実施された。 メトホルミンがPAD患者の歩行能力改善に効果がなかった理由として、喫煙率が約30%と高かったことや、インスリン抵抗性の強くない症例が多かったこと、また観察期間が6ヵ月と短かったことなどが考えられる。その他の可能性として、著者らはPAD患者の骨格筋や血管内皮でAMP活性化プロテインキナーゼがすでに最大活性化されているため、メトホルミンの追加効果が得られなかった可能性を考察している。 いずれにしても今回の研究でPADの歩行障害に対するメトホルミンの効果はないことが示された。今後は異なる作用機序を持つ治療薬の開発や、PADの複雑な病態に対処する新たなアプローチの研究が求められる。またそれ以前に、完全禁煙や肥満の是正、厳格な血圧管理など、現状できることをまずはきちんと行うことが重要である。

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第309回 臨床医が扱い慣れたGLP-1薬なら依存症治療の敷居を低くできそう

セマグルチドやチルゼパチドなどのGLP-1受容体作動薬(以下、GLP-1薬)の使用が、アルコールやその他の薬物乱用を生じ難くするらしいことを示す大規模観察試験結果がまた1つ報告されました1-4)。BMJ誌に今回報告されたのは、米国の2型糖尿病の退役軍人の解析結果です。言わずもがなGLP-1薬は膵臓の受容体に働いてインスリン分泌を促します。しかしそれだけでなく、脳でも作用することが知られ、薬物乱用やアルコール依存を促す脳の報酬回路へのGLP-1薬の働きが盛んに検討されています4)。試験ではそのように脳でも働くGLP-1薬か、腎臓でもっぱら働くエンパグリフロジンなどのSGLT2阻害薬を使い始めた60万例超の経過が調べられました。3年間追跡したところ、薬物依存症の既往がない人のGLP-1薬使用は大麻、アルコール、コカイン、ニコチン、オピオイドの依存症の発生率がSGLT2阻害薬使用に比べて14%低いことと関連しました。すでに依存症の人の薬物乱用と関連した救急科受診、入院、オーバードーズの割合の比較でもGLP-1薬使用に分があり、SGLT2阻害薬に比べてそれぞれ約30%、25%、40%低いことが示されました。薬物乱用と関連する死亡や自殺念慮/自殺企図もGLP-1薬使用群がより少なく、SGLT2阻害薬群に比べてそれぞれ50%と25%低い割合で済んでいました。依存症へのGLP-1薬の効果は無作為化試験でも示されつつあります。昨年2月にはアルコール依存患者の飲酒量を減らすセマグルチド週1回注射の効果を裏付けた無作為化試験が報告されています5)。進行中の試験もあり、GLP-1薬の類いのmazdutideのアルコール依存治療を調べているプラセボ対照無作為化第II相試験がLillyの手によって実施されています。結果は今夏8月に判明するようです6)。セマグルチドの別の無作為化試験も米国立薬物乱用研究所(NIDA)医師のLorenzo Leggio氏の主導で進行中です7)。Leggio氏は、たいていが治療されないままのアルコール依存症の治療にGLP-1薬の類いが光明をもたらしうると考えています4)。日本もおよそ似たような状況と思われますが、Leggio氏によるとアルコール依存症患者のほぼ全員の98%は米国で承認されているアルコール依存治療薬を手にしていません。その原因の一端は臨床医のほとんどが依存症治療薬に精通していないことにあるとLeggio氏は言っています。アルコール依存症とは対照的に、糖尿病患者のほとんどの85%超は米国で承認された治療を受けており、臨床医はGLP-1薬を含む糖尿病薬の扱いに手慣れています。GLP-1薬が誰にでも効くというわけにはいかないでしょうが、もし効果の裏付けが済んでGLP-1薬による依存症治療が承認されたら専門医限定という垣根を超えて普及するだろうとLeggio氏は示唆しています。それに、糖尿病治療として社会的により受け入れられているGLP-1薬なら依存症の薬物治療への偏見も減らせるかもしれません4)。米国などでは承認されているnaltrexoneなどのめぼしい依存症治療薬が未承認の日本では、あくまでも有効性が確立して承認されればの話ですが、臨床医が扱いに慣れたGLP-1薬による依存症治療はとくに重宝されそうです。参考1)Cai M, et al. BMJ. 2026;392:e086886.2)GLP-1 diabetes drugs linked to reduced risk of addiction and substance-related death / Eurekalert3)GLP-1 medications get at the heart of addiction: study / Eurekalert4)GLP-1 drugs linked to lower addiction rates in large study of veterans / Science5)Hendershot CS, et al. JAMA Psychiatry. 2025;82:395-405.6)ClinicalTrials.gov(NCT06817356)7)ClinicalTrials.gov(STAR)

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膵臓内脂肪沈着に予防効果があるのは食事かリラグルチドか

 肥満症について、カロリー制限食(CRD)の食事療法とリラグルチドによる薬物療法では、脂肪関連指標の変化に違いはあるのだろうか。このテーマに対し中国の南京医科大学附属無錫人民病院内分泌科のHaiyan Cheng氏らの研究グループは、肥満者におけるCRDとリラグルチドの膵内脂肪沈着への影響を比較し、脂肪関連指標と血糖関連パラメータの変化との関連性を探った。その結果、両療法ともに膵脂肪率(PFF)を改善することが判明した。この結果はObesity誌2026年オンライン版2月24日号で公開された。食事療法でもリラグルチドでもPFFを改善 研究グループは、肥満患者46例について24週間の前向き非無作為化試験を行った。患者はCRDによる食事療法またはリラグルチド治療を受けた。主要評価項目はPFFの変化とした。また、副次的評価項目には、体重、肝脂肪率(LFF)、内臓脂肪面積(VFA)、および血糖関連パラメータの変化が含まれた。 主な結果は以下のとおり。・CRD群(n=23)とリラグルチド群(n=23)のいずれも、PFFの有意かつ同等の減少を示した(時間効果:p<0.001、交互作用効果:p=0.560)。・体重、LFF、VFA、HbA1c、インスリン抵抗性指標(HOMA2-IR)、Insulin Sensitivity Index Matsuda(ISIM)においても、有意かつ同程度の改善が認められた(全時間効果:p<0.001、全交互作用効果:p>0.05)。・回帰分析では、ΔHOMA2-IRはΔ体重およびΔLFFと正の相関、ΔPFFと負の相関を示した一方で、ΔISIMはΔVFAと負の相関、ΔPFFと正の相関を示した。 この結果から研究グループは「CRDとリラグルチドはいずれも、肥満患者において膵脂肪、肝脂肪、内臓脂肪を有意かつ同程度に減少させると同時に、血糖関連パラメータを改善した。予備的な知見によれば、インスリン抵抗性の改善は主に肝脂肪および内臓脂肪の減少によって生じる一方、膵脂肪の減少はより微妙なインスリン動態の変化に関連している可能性があり、さらなる調査が必要」と結論付けている。

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高齢者の術後せん妄の予防に有効な薬物療法とは/BMJ

 術後せん妄の予防に鎮静薬デクスメデトミジンが有効であり、エビデンスの質は高くないもののコルチコステロイド、メラトニン受容体作動薬、parecoxib、経鼻インスリン、オランザピンにも潜在的な有益性があることが、英国・オックスフォード大学のMatthew Luney氏らの検討で示された。手術後に急激な意識障害や注意力の低下を来す術後せん妄は、認知症発症のリスクを高めるだけでなく、多大な医療コストの要因ともなっており、高齢化社会における重大な課題とされるが、有効な薬物療法は確立されていない。BMJ誌2026年2月12日号掲載の報告。158試験4万1,084例のネットワークメタ解析 研究グループは、高齢者の術後せん妄に有効な薬剤を特定し、罹患率や死亡率への影響を評価する目的で、既報の無作為化対照比較試験の系統的レビューとネットワークメタ解析を実施した(英国国立衛生研究所[NIHR]のdoctoral research fellowshipの助成を受けた)。 2024年3月4日の時点で、医学関連データベースに登録された関連文献を検索した。対象は、参加者の年齢が60歳以上で、全身または区域麻酔を要する手術後のせん妄の予防を目的に1つ以上の薬剤を投与し、妥当性の検証が済んでいるせん妄評価ツールをアウトカムの評価に用いた無作為化対照比較試験とした。局所麻酔のみの試験、術前に患者が機械換気を受けていた試験、せん妄の治療介入に関する試験は除外した。ベイズ法に基づくネットワークメタ解析を用いて介入法の比較を行った。 52種類の薬物介入を比較した158件の試験(参加者4万1,084例)を特定した。1件の試験の参加者数中央値は120例(四分位範囲:80~259、範囲:16~7,507)で、単施設試験が135件、多施設共同試験が23件だった。これらの試験の結果はすべて1999~2024年に発表され、87件(55%)は2021~24年に報告されていた。17件の試験を、バイアスのリスクが高いと判定した。術後せん妄は14.5%(5,957例)に発現した。術後の悪心・嘔吐の抑制効果も デクスメデトミジンは、外科領域全体(オッズ比[OR]:0.45、95%信用区間[CrI]:0.36~0.56)、胸部手術を除く各専門領域(非心臓手術のOR:0.41[95%CrI:0.31~0.54]、心臓手術:0.52[0.31~0.82]、大腿骨近位部骨折修復手術:0.35[0.17~0.63]、腹部手術:0.38[0.17~0.81]、整形外科手術:0.35[0.20~0.60]、待機的手術:0.47[0.37~0.59]、緊急手術:0.22[0.08~0.46])のいずれにおいても、プラセボに比べ術後せん妄の予防効果が高く、バイアスのリスクが高い試験を除外した感度分析(OR:0.46、95%CrI:0.36~0.57)でも高い効果を示した。 また、デクスメデトミジンの術後せん妄の予防効果は、手術時の麻酔法を問わず優れた(全身麻酔のOR:0.45[95%CrI:0.35~0.57]、区域麻酔:0.28[0.11~0.64])。 デクスメデトミジンは、低血圧(OR:1.40、95%CrI:1.08~1.81)と徐脈(1.60、1.32~2.00)の頻度が高かった一方で、術後の悪心・嘔吐(0.67、0.49~0.87)を抑制した。重症度軽減はコルチコステロイドのみ バイアスのリスクが高い試験を除外した感度分析で、デクスメデトミジンのほかに優れた術後せん妄予防効果を認めた介入として、コルチコステロイド(OR:0.53、95%CrI:0.31~0.87)、メラトニン受容体作動薬(0.54、0.34~0.85)、parecoxib(0.34、0.16~0.74)、オランザピン(0.27、0.07~0.94)、経鼻インスリン(0.13、0.04~0.34)が挙げられたが、これらの試験のエビデンスの質は中~非常に低いであった。 penehyclidineは、プラセボに比べ術後せん妄を有意に増加させた唯一の介入であった(外科領域全体のOR:6.20、95%CrI:1.19~35.37)。 Memorial Delirium Assessment Scale(MDAS)を用いた評価で、プラセボと比較してせん妄の重症度をわずかとはいえ軽減した薬剤は、コルチコステロイド(平均群間差:-2.42、95%CrI:-4.72~-0.12)のみであった。ほとんどの介入は、入院期間、死亡率、術後合併症、生活の質、術後の認知機能に影響を及ぼさなかった。また、コルチコステロイドにより感染症関連合併症が増加することはなかった(OR:0.97、95%CrI:0.66~1.65)。 著者は、「術後せん妄への介入が、せん妄の重症度、精神的苦痛(患者が重視しているにもかかわらず報告がほとんどない)、生活の質、認知機能、自立度、医療資源の消費量に及ぼす影響を評価し、医療経済分析に資する情報を得るために、厳格に実施される試験が必要なことは明らかである」としている。

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肝機能の「長期的な変化」が糖尿病リスクを予測か──日立コホート研究

 2型糖尿病は、発症前の段階でいかにリスクを捉えるかが重要となる。健康診断では肝機能検査が毎年行われているが、その数値は多くの場合、一過性の変動として単年ごとに評価されるにとどまってきた。日立コホート研究による約2万人・13年超の追跡解析から、若年期に一時的な肝機能高値を示し、その後数値が改善している人においても、将来の2型糖尿病リスクが高い傾向にあることが示された。肝機能の「一時点の値」ではなく長期的な変化のパターンに着目する重要性が浮き彫りになった。研究は、東海大学医学部基盤診療学系の深井航太氏らによるもので、詳細は12月14日付で「Scientific Reports」に掲載された。 肝機能障害と2型糖尿病との関連は、インスリン抵抗性や脂肪肝を介した双方向の関係が示唆されている。アラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST)、γ‐グルタミルトランスフェラーゼ(GGT)などの肝酵素は日常診療で広く測定されている指標であるが、これまでの研究の多くは単一時点の測定値に基づいており、肝機能の長期的変化を十分に捉えられていなかった。本研究では、年次健診データを有する日立コホート研究を用い、肝酵素の推移パターンを分類し、2型糖尿病発症との関連および基準値超過の頻度が与える影響を検討することを目的とした。 日立コホート研究は、茨城県日立市の準都市工業地帯にある日立健康管理センタの従業員に提供される企業の年次健康診断に基づいている。本研究では、日立コホート研究において、ベースライン時に2型糖尿病を有さない30~64歳の2万4,380人を対象とし、計29万6,171件の健康診断データを解析した。肝機能酵素として、ALT、AST、GGTを年1回測定した。肝酵素の長期推移をトラジェクトリ解析(group-based trajectory modeling;GBTM)により分類し、各軌跡群と2型糖尿病発症との関連をロジスティック回帰で検討した。年齢・性別、代謝指標、生活習慣因子を調整した。 ベースライン時の平均年齢は42.9歳だった。平均12.8年の追跡期間中に、3,840人(15.8%)が2型糖尿病を発症した。トラジェクトリ解析により、ALTは6群、ASTは3群、GGTは4群の推移パターンが同定された。 ALTが持続的に高値を示す群や、若年成人期に上昇を示す推移群では、2型糖尿病発症リスクが有意に高かった。ALTが一貫して高値で推移した群(群6)のオッズ比は7.97(95%信頼区間〔CI〕 7.40~8.57)、若年成人期に高値を示した群(群5)では4.23(95%CI 4.00~4.48)であり、いずれも一貫して低値の群(群1)と比べて高リスクであった(傾向P値、P<0.01)。 さらに、ALTおよびASTが基準値を繰り返し超過するほど2型糖尿病リスクは上昇し、閾値が高いほど、また超過頻度が多いほど関連は強かった。GGTについては、ALTほど強い関連ではなかったものの、基準値を2回以上超過した場合、2型糖尿病リスクが2倍以上に上昇していた。 著者らは、「ALTの高値が持続している人はもちろん、『以前高かった』人でも糖尿病発症リスクは約4倍に上昇していた。健康診断の結果は単年値ではなく経時的な推移を重視すべきであり、若年期からリスクの兆候を捉えることが、将来的な予防につながる可能性がある」と述べている。 なお、本研究の限界として、特定コホートに基づくため一般化が制限されること、薬物治療や生活習慣の変化などの影響が考慮されていない点などを挙げている。(HealthDay News 2026年2月2日)

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