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レベチラセタムは、全般/分類不能てんかんの第一選択薬か/Lancet

 全般てんかんおよび分類不能てんかんの治療において、レベチラセタムにはバルプロ酸に匹敵する臨床効果はなく、質調整生存年(QALY)に基づく費用対効果もバルプロ酸のほうが良好であることが、英国・リバプール大学のAnthony Marson氏らが実施した「SANAD II試験」で示された。研究の成果は、Lancet誌2021年4月10日号で報告された。英国の全般/分類不能てんかんの無作為化第IV相非劣性試験 研究グループは、新たに診断された全般てんかんおよび分類不能てんかんの治療におけるレベチラセタムの長期的な臨床的有効性と費用対効果を、バルプロ酸と比較する目的で、非盲検無作為化第IV相非劣性試験を行った(英国国立健康研究所[NIHR]医療技術評価プログラムの助成による)。 2013年4月~2016年8月の期間に、英国国民保健サービス(NHS)の69施設で、年齢5歳以上(上限なし)、治療を要する非誘発性てんかん発作が少なくとも2回認められ、臨床的に全般てんかんまたは分類不能てんかんと診断され、登録前の2週間に緊急治療を除き抗けいれん薬治療を受けていない参加者の募集が行われた。 被験者は、レベチラセタムまたはバルプロ酸の投与を受ける群に、1対1の割合で無作為に割り付けられ、2年間の追跡が行われた。参加者と担当医はマスクされず、試験薬の割り付け情報を認識していた。 520例が登録され、レベチラセタム群に260例、バルプロ酸群に260例が割り付けられた。全体の年齢中央値は13.9歳(範囲:5.0~94.4)、女性が183例(35%)で、397例が全般てんかん、123例は分類不能てんかんであった。全例がintention-to-treat(ITT)解析に含まれた。重大なプロトコル違反や、後にてんかんではないと診断された参加者を除外したper-protocol(PP)集団は、509例(レベチラセタム群254例、バルプロ酸群255例)だった。女性でのバルプロ酸回避の議論を進めるべき ITT解析では、12ヵ月の時点におけるてんかん発作の寛解(主要評価項目)に関して、レベチラセタム群はバルプロ酸群に対する非劣性の基準(非劣性マージン:1.314)を満たさなかった(ハザード比[HR]:1.19、95%信頼区間[CI]:0.96~1.47)。 一方、PP解析では、12ヵ月時の発作寛解について、バルプロ酸群のレベチラセタム群に対する優越性(HR:1.68、95%CI:1.30~2.15)が示された。この試験は非劣性を検出するものだが、優越性を示すようにもデザインされていた。 2例(両群1例ずつ)が死亡したが、いずれも試験薬との関連はなかった。有害事象は、バルプロ酸群が96例(37%)、レベチラセタム群は107例(42%)で報告された。レベチラセタム群で精神症状(14% vs.26%)が多く、バルプロ酸群では体重増加(10% vs.3%)が多くみられた。 費用効用分析では、バルプロ酸群が優位であった。すなわち、費用対効果の閾値を1 QALY当たり2万ポンドとした場合のレベチラセタム群の増分純健康便益は、-0.040 QALY(95%中央範囲[central range]:-0.175~0.037)とマイナスであり、この閾値でレベチラセタム群の費用対効果が優れる確率は0.17であった。 著者は、「男性では、全般てんかんの第一選択薬は引き続きバルプロ酸とすべきである。女性では、将来の妊娠における潜在的な有害性のリスクを最小化するために、最も有効な治療の回避に関して、実臨床と施策に有益な情報をもたらす議論をさらに進めるべきと考えられる」としている。

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ラモトリギン、焦点てんかんの第1選択薬の可能性/Lancet

 焦点てんかんの治療において、ラモトリギンはレベチラセタムやゾニサミドと比較して、1年後のてんかん発作の寛解率が優れ(per-protocol[PP]解析)、質調整生存年(QALY)に基づく費用効用も良好で、第1選択薬となる可能性があることが、英国・リバプール大学のAnthony Marson氏らが行った「SANAD II試験」で示された。研究の成果は、Lancet誌2021年4月10日号に掲載された。英国の焦点てんかんの無作為化第IV相非劣性試験 本研究は、新たに診断された焦点てんかん患者の治療におけるレベチラセタムとゾニサミドの長期的な臨床的有効性と費用効果を、ラモトリギンと比較する非盲検無作為化対照比較第IV相非劣性試験(英国国立健康研究所[NIHR]医療技術評価プログラムの助成による)。 2013年5月~2017年6月の期間に、英国国民保健サービス(NHS)の65施設で、年齢5歳以上(上限なし)、抗てんかん薬を要する非誘導性てんかん発作が少なくとも2回認められ、臨床的に焦点てんかんと診断され、過去2週間に緊急治療を除き抗けいれん薬治療を受けていない参加者の募集が行われた。 被験者は、ラモトリギン、レベチラセタム、ゾニサミドのいずれかの投与を受ける群(いずれも経口投与)に、1対1対1の割合で無作為に割り付けられ、2年間追跡された。参加者と担当医はマスクされず、試験薬の割り付け情報を認識していた。 990例(intention-to-treat[ITT]集団)が登録され、ラモトリギン群に330例、レベチラセタム群に332例、ゾニサミド群に328例が割り付けられた。全体の平均年齢は39.3(SD 21.2)歳、177例(17.9%)が18歳未満であり、429例(43%)は女性であった。重大なプロトコール違反や、後にてんかんではないと診断された参加者を除外したPP集団は959例(ラモトリギン群324例、レベチラセタム群320例、ゾニサミド群315例)だった。ITT解析では、ゾニサミド群は非劣性基準満たす ITT解析では、12ヵ月の時点におけるてんかん発作の寛解(主要評価項目)に関して、レベチラセタム群はラモトリギン群に対する非劣性の基準(非劣性マージン:1.329)を満たさなかった(ハザード比[HR]:1.18、97.5%信頼区間[CI]:0.95~1.47)。一方、ゾニサミド群はラモトリギン群に対する非劣性の基準を満たした(1.03、0.83~1.28)。 PP解析では、12ヵ月の時点でのてんかん発作寛解に関して、ラモトリギン群のレベチラセタム群(HR:1.32、97.5%CI:1.05~1.66)およびゾニサミド群(1.37、1.08~1.73)に対する優越性が確認された。 試験期間中に37例が死亡した。内訳は、ラモトリギン群が15例(4例が発作関連の可能性)、レベチラセタム群が12例(同2例)、ゾニサミド群は10例(同2例)であった。有害事象は、ラモトリギン群が108例(33%)、レベチラセタム群が144例(44%)、ゾニサミド群は146例(45%)で報告された。 費用効用分析では、ラモトリギン群の優越性が示された。すなわち、費用効果の閾値を1QALY当たり2万ポンドとした場合の純健康便益は、ラモトリギン群が1.403QALY(97.5%中央範囲[central range]:1.319~1.458)と、レベチラセタム群の1.222(1.110~1.283)、およびゾニサミド群の1.232(1.112~1.307)と比較して高かった。 著者は、「レベチラセタムとゾニサミドは、それぞれ単剤で焦点てんかんに対する有効性のエビデンスはあるが、第1選択薬としての使用を支持するエビデンスはない。今回の結果は、第1選択薬としてのラモトリギンの継続的な使用と、今後の比較試験における標準的な比較対照薬としてのその使用を支持するものである」としている。

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総合内科専門医試験オールスターレクチャー 神経

第1回 脳卒中 超急性期第2回 脳卒中 急性期~慢性期第3回 免疫性神経疾患(1)第4回 免疫性神経疾患(2)第5回 神経変性疾患第6回 機能性疾患 総合内科専門医試験対策レクチャーの決定版登場!総合内科専門医試験の受験者が一番苦労するのは、自分の専門外の最新トピックス。そこでこのシリーズでは、CareNeTV等で評価の高い内科各領域のトップクラスの専門医を招聘。各科専門医の視点で“出そうなトピック”を抽出し、1講義約20分で丁寧に解説します。キャッチアップが大変な近年のガイドラインの改訂や新規薬剤をしっかりカバー。Up to date問題対策も万全です。神経については、福島県立医科大学脳神経内科の井口正寛先生がレクチャーします。近年ガイドラインの変更が顕著な脳卒中の血栓溶解療法から、免疫系の希少疾患まで詳しく確認します。※「アップデート2022追加収録」はCareNeTVにてご視聴ください。第1回 脳卒中 超急性期神経の第1回のテーマは、超急性期の脳卒中。近年では血栓溶解療法や血管内治療が推奨されています。rt-PA静注血栓溶解療法は有効性のエビデンスが蓄積され、発症から治療可能な時間が延長されています。MRIの画像所見を評価スケールに照らし合わせて適応を判断することが重要です。血管内治療は、ステントリトリーバーの登場によって大幅に進歩しました。第2回 脳卒中 急性期~慢性期神経の第2回は、急性期から慢性期の脳卒中について解説します。急性期の脳卒中には、抗血小板薬による薬物療法を行います。重症度によって薬剤の種類と使用法が変わるので注意しましょう。慢性期の脳卒中には、再発防止のための治療をします。ラクナ梗塞、アテローム血栓性脳梗塞、心原性脳塞栓症、潜因性脳梗塞といった病型に応じて、適用できる薬剤やデバイスが異なります。第3回 免疫性神経疾患(1)神経の第3回は、免疫性神経疾患のうち、多発性硬化症とその類縁疾患の視神経脊髄炎関連疾患について解説します。多発性硬化症は、時間的、空間的多発性のある、中枢神経系の脱髄を特徴とする炎症疾患です。近年のガイドラインでは、診断基準が変更されました。視神経脊髄炎関連疾患は、多発性硬化症と比較しながら診断基準や治療法を整理し、新規薬剤を確認します。第4回 免疫性神経疾患(2)神経の第4回は、免疫性疾患のうち、骨格筋の筋力低下を起こす重症筋無力症、急性の末梢神経障害であるギランバレー症候群、自己免疫性脳症について解説します。自己免疫性脳症の抗原には、抗NMDA受容体抗体だけでなく、その他多くの抗体が知られています。また、昨今話題の抗がん剤・免疫チェックポイント阻害薬によって、自己免疫性神経疾患が副作用として引き起こされることがあります。その機序や臨床像なども解説します。第5回 神経変性疾患神経の第5回は、神経変性疾患のパーキンソン病、レビー小体型認知症、アルツハイマー病、前頭側頭葉変性症、筋委縮性側索硬化症、クロイツフェルト・ヤコブ病を取り上げます。パーキンソン病は、他疾患を除外して診断する必要があるため、進行性核上性麻痺や多系統萎縮症といった主な鑑別疾患の特徴を確認しましょう。各神経変性疾患の病態や診断基準、治療法を解説します。第6回 機能性疾患神経の第6回は、てんかん、片頭痛、群発頭痛、本態性振戦について解説します。てんかんを診断するための実用的臨床定義では、新しい概念が定義されました。分類に応じた薬剤選択、発作重積時の対応を確認しましょう。片頭痛は、発作時と予防治療に用いる薬剤を確認します。激しい痛みを伴う群発頭痛は、内服薬ではなく皮下注射と酸素吸入による治療を行います。本態性振戦は、パーキンソン病との鑑別が重要です。

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無常と中道:認知症の人に処方され過ぎる中枢神経作動薬(解説:岡村毅氏)-1377

 たとえば90歳の軽度認知症の人から、何もかもが昔と違う、うつになってしまった、「薬をください」と切々と訴えられることがある。そして家族もまた「元気になる薬をください」「専門医でしょ」と訴えたりする。とはいえ病的な「うつ」ではない。医学や精神科への高い期待や信頼を感じる一方で、安直に薬など出しては本人を不幸にしてしまうので、なかなかつらい局面である。 さて本論文は、米国のメディケアのデータベースから、認知症をもつ地域在住の高齢者の14%が、中枢神経作動薬の多剤併用状態であるという報告だ。薬剤としては「抗うつ薬」「抗精神病薬」「ベンゾジアゼピン受容体作動薬(睡眠薬、抗不安薬)」の順で多かった。組み合わせとしては「抗うつ薬」「抗てんかん薬」「抗精神病薬」の組み合わせが多かった。 いうまでもなく、これらの多剤併用は、呼吸抑制、不整脈、転倒、認知機能低下などを起こす可能性があり望ましくない。米国は(私は生活したことはあるが臨床医をしたことはないので伝聞なのだが)簡単には処方箋を切ってくれないと聞くが、その米国ですら結構な薬が出ているのだと驚いた。わが国は、諸外国に比べると医療費は無料みたいなものだし、薬を出さないとやぶ医者だと思われる文化もかつてはあったので、おそらくもっと大量に処方されていることであろう。近年は多剤併用はこんなに怖い、といった雑誌記事を見ない日はないので、解消されつつあるのだろうか。 人間は時間的存在だとハイデガーは言ったが、生きることは加齢することでもある。年を取ることは、経験を積み、他者を知り、世界となじんでいくというプロセスと考えれば、だんだん生きることは楽になるはずだ。一方で、体力の衰え、記憶力の衰え、知人の死などは必ず起きるものであり、「うつっぽく」なる人はとても多い。これは精神異常とか精神症状とかそういうレベルではなく、生きることには楽しいこともつらいこともあるというだけの話である。 さて冒頭の90歳の人であるが、何もかもが昔と違うのは当たり前のことで、年をとると体も心も変わっていくのである、昔の肉体や心をいつまでも持ち続けることはできないのだ、それはあなたも医師も家族も同じであり、これは無常ともいうという話をさせていただいた。納得する人もいるし、納得しない人もいる。 このような人に「これは老化なのですから薬なんて絶対出しませんよ」と言い続けるのもちょっと冷たいように思う。中道を求めたい。かくいう私も、場合によっては処方することもある。さすがに老年精神医学会専門医なので本格的な向精神薬を処方するのは芸がなく、短時間精神療法と漢方などで何とかするが…。 長生きする人が増えたので、喪失や弱さと生きる機会は増えている。認知症の人の医療的意思決定においては、変数はとても多い:認知症疾患の種類および認知機能、頭蓋内の器質因、身体疾患、個人の考え方や歴史、周囲の人の考え方や歴史、置かれた社会状況、ほかに通院している医院の処方などなど。これらの変数は常に変わり続ける。昔の人はよく言ったもので、無常と中道というのはよい思考の枠組みである。 なお、認知症はせん妄や老年期のてんかんや睡眠障害を伴うことも多く、これらは致死的にもなりえるので、多剤併用も絶対にダメだというわけではない。冷静に、大局的に考えるべきだ。

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「ちょうどいい薬の量もっと早くわからないの?」~蓄積率の活用による定常状態血中濃度の推測~【ダイナミック服薬指導(2)】

ダイナミック服薬指導(2)「ちょうどいい薬の量もっと早くわからないの?」~蓄積率の活用による定常状態血中濃度の推測~講師佐藤 ユリ氏 / 株式会社プリスクリプション・エルムアンドパーム 企画統括部部長、特定非営利活動法人どんぐり未来塾代表理事麻生 敦子氏 / 株式会社オオノ薬局業務部教育課課長、特定非営利活動法人どんぐり未来塾副理事動画解説新規で抗てんかん薬が開始になった高齢女性が来局。「しばらく服用した後に用量を検討しましょう」と医師に言われたというこの患者さん、薬剤師に「もっと早くわからないの?」と尋ねます。そんなときは蓄積率を活用すれば、簡易的に定常状態の血中濃度を推測することができます!

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「効果を出すにはどのくらい増量すればいいかな?」~一次速度過程の投与量変更~【ダイナミック服薬指導(2)】

ダイナミック服薬指導(2)「効果を出すにはどのくらい増量すればいいかな?」~一次速度過程の投与量変更~講師佐藤 ユリ氏 / 株式会社プリスクリプション・エルムアンドパーム 企画統括部部長、特定非営利活動法人どんぐり未来塾代表理事麻生 敦子氏 / 株式会社オオノ薬局業務部教育課課長、特定非営利活動法人どんぐり未来塾副理事動画解説抗てんかん薬服用中だが最近発作が増えたという若い主婦。診察時に医師に伝え忘れたとのことで、薬剤師が問い合わせることに。すると医師から増量するべきか聞かれ、薬剤師は悩んでしまいます。実は一次速度過程の投与量変更は、とても簡単な比例式で計算することができます!

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認知症への中枢神経系作用薬巡るポリファーマシーの実態/JAMA

 2018年に、米国の認知症高齢患者の13.9%で、中枢神経系作用薬の不適切な多剤併用(ポリファーマシー)の処方が行われており、曝露日数中央値は193日に及び、最も多い薬剤クラスの組み合わせは抗うつ薬+抗てんかん薬+抗精神病薬であることが、同国・ミシガン大学のDonovan T. Maust氏らの調査で示された。研究の成果は、JAMA誌2021年3月9日号に掲載された。米国では、地域居住の認知症高齢者は、向精神薬やオピオイドの使用率が高いとされる。また、これらの患者では、中枢神経系作用薬の不適切な多剤併用により、認知機能の低下、転倒関連の傷害、死亡のリスクが増加する可能性があるという。不適切な多剤併用の広まりを評価する米国の横断研究 研究グループは、米国の地域居住の認知症高齢患者における中枢神経系作用薬の不適切な多剤併用の広まりを評価する目的で横断研究を行った(米国国立老化研究所[NIA]の助成による)。 対象は、2015~17年の期間に、認知症を有し、従来のメディケア保険に加入していた地域居住のすべての高齢患者であった。薬剤曝露は、2017年10月1日~2018年12月31日の期間の処方箋の調剤データを用いて推定した。観察期間は2018年で、最終的な調査コホートに含まれるには、2018年1月1日の時点でメディケア・パートD(外来処方薬の保険給付)の保険適用があることが求められた。 主要アウトカムは、2018年における中枢神経系作用薬の不適切な多剤併用の発生とされ、抗うつ薬、抗精神病薬、抗てんかん薬、ベンゾジアゼピン系薬剤、非ベンゾジアゼピン系ベンゾジアゼピン受容体作動性催眠薬、オピオイドのうち3剤以上に、30日以上連続的に曝露した場合と定義された。 また、不適切な多剤併用の基準を満たした患者において、曝露期間、処方された薬剤と薬剤クラスの数、最も多い薬剤クラスの組み合わせ、最も使用頻度の高い中枢神経系作用薬を調べた。6.8%が1年曝露、全曝露日数の92%に抗うつ薬 認知症の高齢患者115万9,968例(年齢中央値83.0歳[IQR:77.0~88.6]、女性65.2%)が解析に含まれた。このうち13.9%(16万1,412例)が中枢神経系作用薬の不適切な多剤併用の基準を満たし、全曝露日数は3,213万9,610人日であった。 中枢神経系作用薬の不適切な多剤併用の基準を満たした患者は、満たさなかった患者に比べて年齢中央値が低く(79.4歳[IQR:74.0~85.5]vs.84.7歳[78.8~89.9])、女性が71.2%を占めた。また、基準を満たした患者の曝露日数中央値は193日(IQR:88~315)で、57.8%が180日以上、6.8%は365日曝露しており、29.4%は5剤以上、5.2%は5クラス以上に曝露していた。 全曝露日数(3,213万9,610人日)の92.0%に抗うつ薬が、62.1%に抗てんかん薬が、47.1%に抗精神病薬が、40.7%にベンゾジアゼピン系薬剤が含まれた。最も多い薬剤クラスの組み合わせは、抗うつ薬+抗てんかん薬+抗精神病薬で、全曝露日数の12.9%に相当した。 また、最も多く処方されていた薬剤はガバペンチンで、全曝露日数の33.0%、すべての抗てんかん薬の曝露日数の53.2%を占めた。次いで、トラゾドン(全曝露日数の26.0%)、クエチアピン(24.4%)、ミルタザピン(19.9%)、セルトラリン(18.7%)の順であった。 著者は、「処方の適応に関する情報がないため、個々の患者における薬剤の組み合わせの臨床的妥当性に関する判断には限界がある」としている。

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「新型コロナワクチン接種に伴う重度の過敏症の管理・診断・治療」を公開/日本アレルギー学会

 新型コロナウイルスワクチンが特例承認され、2月から医療関係者を対象とした接種が始まっている。現時点でアナフィラキシー発症頻度が従来のワクチンよりも高いことが報告されているが、いずれも適切な対処により回復している。ワクチン接種に際してはその益と害のバランスを考えることが必要であり、副反応に対する過度な懸念や対応は社会に大きな損失と負担をもたらす。日本アレルギー学会では、新型コロナウイルスワクチン接種に伴う副反応のうち、とくに重度の過敏反応(アナフィラキシー等)を起こし得る危険因子、管理、診断および治療について現時点の情報を整理し、適切にワクチン接種を行うための指針として、「新型コロナウイルスワクチン接種にともなう重度の過敏症(アナフィラキシー等)の管理・診断・治療」を作成し、3月1日学会ホームページに公開した。3月12日に改訂版が公開されている。 本指針には、副反応の種類と頻度、副反応の機序、ワクチン接種の対象(不適格者、要注意者)、アレルギー反応/アナフィラキシー対策(準備体制、アレルギー反応/アナフィラキシーの診断と対応、アナフィラキシー類似の症候・疾患の鑑別と初期対応)がまとめられている。ワクチン接種を実施する際の具体的な対応として、ワクチン接種後の観察時間、アレルギー反応が見られたときの対応方法、アナフィラキシーの診断基準、アナフィラキシー発症時の対応方法のほか、アナフィラキシー類似症状を起こしうる症状(血管迷走神経反射、パニック発作、喘息発作、過換気症候群、てんかん)の対応方法も解説している。

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救急でのてんかん重積状態に対するベンゾジアゼピン投与戦略の評価

 全身痙攣重積状態(GCSE)の治療に特定のベンゾジアゼピンを投与することがガイドラインで推奨されているが、一般的には少用量で投与されている。米国・サウスカロライナ大学のKyle A. Weant氏らは、救急受診したGCSE患者の初期マネジメントにおけるベンゾジアゼピン投与戦略について、評価を行った。The American Journal of Emergency Medicine誌オンライン版2021年2月6日号の報告。 GCSE治療のために救急科でベンゾジアゼピン投与を受けた患者を対象に、レトロスペクティブにレビューした。初回ベンゾジアゼピン治療後に発作の改善を達成した患者の特徴を評価した。救急受診した患者222例に対し、ベンゾジアゼピンは403回投与されていた。そのうち、推奨事項を順守していた割合は1.5%であった。 主な結果は以下のとおり。・1次治療では、ベンゾジアゼピン平均投与量1.6mg(0.02mg/kg)であり、患者の86.8%に良好な反応が認められた。・早期に発作が改善した患者とそうでない患者との間に、投与量の差は認められなかった(p=0.132)。・早期に発作が改善した患者では、以下の割合が有意に低かった(各々、p<0.05)。 ●ベンゾジアゼピン追加投与 ●挿管 ●集中治療室または病院への入院・早期に抗てんかん薬治療を受けた患者では、以下の割合が有意に低かった(各々、p<0.05)。 ●ベンゾジアゼピンの追加投与 ●挿管 ●集中治療室または病院への入院 著者らは「入院前や救急受診環境におけるベンゾジアゼピン投与は、ガイドラインで推奨されているよりも少用量であった。早期の発作改善や早期に抗てんかん薬を投与された患者では、いくつかの重要な臨床アウトカムと関連していることが明らかとなった。今後は、ベンゾジアゼピンの最適な投与戦略や早期の抗てんかん薬投与の影響を調査する必要性がある」としている。

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頬粘膜投与でてんかん重積発作を抑える「ブコラム口腔用液2.5mg/5mg/7.5mg/10mg」【下平博士のDIノート】第68回

頬粘膜投与でてんかん重積発作を抑える「ブコラム口腔用液2.5mg/5mg/7.5mg/10mg」今回は、抗けいれん薬「ミダゾラム(商品名:ブコラム口腔用液2.5mg/5mg/7.5mg/10mg、製造販売元:武田薬品工業)」を紹介します。本剤を使用することで、医療機関外であっても18歳未満のてんかん重積状態患者の発作を速やかに抑えることができます。<効能・効果>本剤は、てんかん重積状態の適応で、2020年9月25日に承認され、2020年12月10日より発売されています。<用法・用量>通常、ミダゾラムとして、修正在胎52週(在胎週数+出生後週数)以上1歳未満の患者には1回2.5mg、1歳以上5歳未満の患者には1回5mg、5歳以上10歳未満の患者には1回7.5mg、10歳以上18歳未満の患者には1回10mgを頬粘膜投与します。シリンジ液剤の全量を片側の頬粘膜に緩徐に投与しますが、体格の小さい患者や用量が多い場合は、必要に応じて両側の頬粘膜に半量ずつ投与することができます。なお、18歳以上の患者に対する有効性および安全性は確立されていません。<安全性>国内第III相試験(SHP615-301試験、SHP615-302試験)において、副作用は25例中5例(20.0%)で報告されており、主なものは、鎮静、傾眠、悪心、嘔吐、下痢各1例(いずれも4.0%)でした。なお、重大な副作用として、呼吸抑制が1例(4.0%)で報告されており、無呼吸、呼吸困難、呼吸停止などが注意喚起されています。<患者さんへの指導例>1.この薬は、歯ぐきと頬の間に投与することで、脳内の神経の過剰な興奮を鎮めて、てんかん重積状態の発作を抑えます。2.発作が開始してすぐに本剤を投与せず、自然に発作がおさまるかどうか観察し、投与判断の目安は医師の指示に従ってください。患者さんに嘔吐やよだれがある場合は、投与前に拭き取ってください。3.投与する際は、片側の頬をつまみ広げ、シリンジの先端を下の歯ぐきと頬の間に入れ、ゆっくりと全量を注入します。体格が小さい場合や使用量が多い場合は、医師の指示によって両側の頬に半量ずつ注入することもできます。4.この薬は頬粘膜から吸収されるため、可能な限り飲み込まないように注意してください。5.投与後は、原則救急搬送の手配を行い、医療者がこの薬の使用状況を確認できるように使用済みのシリンジを提示してください。6.保管時は、プラスチックチューブに封入された状態でふた側を上向きにして立てた状態にしてください。ふた側を下向きまたは水平にして保管すると、含量が低下する恐れがあります。<Shimo's eyes>通常、てんかん発作の多くは1~2分でおさまりますが、30分以上持続すると脳への長期的な後遺障害に至る可能性が高くなります。そのため、発作が5分以上持続する場合はてんかん重積状態と判断して、治療を始めることが国内外のガイドラインで推奨されています。2020年2月時点で、ミダゾラム口腔用液は欧州を中心に世界33ヵ国で承認されていますが、わが国で発売されているのは注射製剤(商品名:ミダフレッサ)のみで、ほかの小児を含む早期てんかん重積状態の第1選択薬として推奨されている薬剤もジアゼパムやロラゼパムの注射製剤でした。注射製剤は医療機関で投与されますが、救急搬送に時間を要して治療開始までに30分以上経過してしまう例が多く、患者団体や関連学会から非静脈経路で利便性および即効性の高い薬剤の開発が要望されていました。本剤は、国内初のてんかん重積状態に対する頬粘膜投与用のプレフィルドシリンジ製剤で、医療機関外でも家族や介護者などによって投与することができます。第III相臨床試験では、5分以内に64%、10分以内に84%で持続性発作が消失するという速やかな効果が認められました。適応があるのは18歳未満の患者さんで、年齢別に4種類の投与量のシリンジがあり、ラベルで色分けされています。主成分であるミダゾラムはCYP3A4の基質であり、本剤はCYP3A4を阻害あるいは誘導する薬剤との併用は禁忌です。副作用として呼吸抑制および徐脈などが現れる恐れがあるため、本剤の投与時は患者さんの呼吸や脈拍数に異常がないかなどを注意深く観察するとともに、救急車の手配も並行して行うなど冷静な対応が求められます。近年、アナフィラキシーに対するアドレナリン注射液(同:エピペン)に加え、糖尿病の低血糖状態に対する点鼻グルカゴン製剤(同:バクスミー点鼻粉末剤)、そして本剤など、患者さんの緊急時に身近な人が対応できる製剤が増えてきました。薬局では、患者さんや家族・介護者がいざというときに正しく安全に使えるよう、使用方法について理解度の確認が重要です。※2022年7月より、学校・保育所等で児童がてんかんを発症した場合、教職員が当該児童生徒等に代わって投与可能となりました。参考1)PMDA 添付文書 ブコラム口腔用液2.5mg/ブコラム口腔用液5mg/ブコラム口腔用液7.5mg/ブコラム口腔用液10mg

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HPVワクチン接種と33の重篤な有害事象に関連なし、韓国/BMJ

 韓国のヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチン接種を受けた11~14歳の女子において、コホート分析では33種の重篤な有害事象のうち片頭痛との関連が示唆されたものの、コホート分析と自己対照リスク間隔分析(self-controlled risk interval[SCRI] analysis)の双方でワクチン接種との関連が認められた有害事象はないことが、同国・成均館大学校のDongwon Yoon氏らの調査で示された。研究の成果は、BMJ誌2021年1月29日号に掲載された。HPVワクチン接種後の重篤な有害事象は、このワクチンの接種に対する大きな懸念と障壁の1つとなっている。HPVワクチンの安全性に関する実臨床のエビデンスは、西欧では確立しているが、アジアのエビデンスは十分ではないという。韓国の大規模データベースを用いたコホート研究 研究グループは、韓国の思春期女子におけるHPVワクチン接種と重篤な有害事象の関連を評価する目的で、コホート研究を実施した(韓国Government-wide R&D Fund project for infectious disease research[GFID]などの助成による)。 韓国予防接種登録情報システムと国立保健情報データベースのデータを統合し、2017年に11~14歳だった女子の同年1月~2019年12月の大規模データベースを構築した。 44万1,399人のデータが解析に含まれた。このうち、38万2,020人が42万9,377回のHPVワクチン接種を受け(HPVワクチン接種群)、残りの5万9,379人はHPVワクチン接種を受けず、8万7,099回の日本脳炎ワクチンまたは破傷風・ジフテリア・無細胞性百日咳混合ワクチンの接種を受けた(HPVワクチン非接種群)。 主要アウトカムは、33種の重篤な有害事象とした。重篤な有害事象には、内分泌(グレーブス病、橋本甲状腺炎など)、消化器(クローン病、潰瘍性大腸炎など)、心血管(レイノー病、静脈血栓塞栓症など)、筋骨格・全身性(強直性脊椎炎、ベーチェット症候群など)、血液(特発性血小板減少性紫斑病、ヘノッホ-シェーンライン紫斑病)、皮膚(結節性紅斑、乾癬)、神経系(ベル麻痺、てんかんなど)の疾患が含まれた。 主解析はコホートデザインで行い、SCRI分析を用いて2次解析を実施した。4価ワクチン接種者で片頭痛が増加 ワクチン接種時の平均年齢は、HPVワクチン接種群が12.42(SD 0.82)歳、HPVワクチン非接種群は11.84(0.56)歳であった。接種群のうち38.7%は1回、61.3%は2回のHPVワクチン接種を受け、29万5,365人が4価、8万6,655人は2価ワクチンの接種を受けた。合計51万6,476回のHPVワクチン接種が行われた。 コホート分析では、たとえば橋本甲状腺炎(10万人年当たりの発生率:接種群52.7 vs.非接種群36.3、補正後率比[RR]:1.24、95%信頼区間[CI]:0.78~1.94)や、関節リウマチ(168.1 vs.145.4、0.99、0.79~1.25)などではHPVワクチン接種との関連はみられず、唯一の例外として片頭痛(1,235.0 vs.920.9、1.11、1.02~1.22)で関連が認められた。 SCRI分析による2次解析では、片頭痛(補正後相対リスク:0.67、95%CI:0.58~0.78)を含め、HPVワクチン接種と重篤な有害事象には関連がないことが確かめられた。 フォローアップ期間の違いやHPVワクチンの種類別でも、結果の頑健性は高かった。また、2価ワクチン接種者では、片頭痛の有意な増加はみられなかった(補正後RR:1.07、0.96~1.20)が、4価ワクチン接種者では非接種者に比べ片頭痛が有意に増加していた(1.13、1.03~1.24)。 著者は、「これらの結果は、西欧の集団でHPVワクチン接種の安全性を示した試験と一致する」とまとめ、「片頭痛に関する矛盾した知見については、その病態生理と関心対象の集団を考慮して慎重に解釈すべきである」と指摘している。

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脳腱黄色腫症〔CTX:CerebrotendinousXanthomatosis〕

1 疾患概要■ 概念・定義脳腱黄色腫症は、CYP27A1遺伝子変異を原因とする常染色体劣性の遺伝性代謝疾患である。■ 疫学「脳腱黄色腫症の実態把握と診療ガイドライン作成に関する研究班」が実施した全国調査では、2012年9月~2015年8月の3年間に日本全国で40例の脳腱黄色腫症患者の存在が確認された1)。また、これまでにわが国から約60例の本症患者の報告がある。一方、ExAC(The Exome Aggregation Consortium)のゲノムデータベースを用いた検討による本症の頻度は、東アジア人で64,267~64,712人に1人と推測されており、わが国の潜在的な患者数は1,000人以上である可能性がある。■ 病因脳腱黄色腫症の原因遺伝子であるCYP27A1は、27-水酸化酵素をコードしており、本症の患者では遺伝子変異により本酵素活性が著しく低下している。27-水酸化酵素は、肝臓における一次胆汁酸の合成に必須の酵素であり、酵素欠損によりケノデオキシコール酸などの胆汁酸の合成障害を来す(図1)。また、ケノデオキシコール酸によるコレステロール分解へのネガティブフィードバックが消失するため、コレスタノール・胆汁アルコールの産生が助長される(図1)。上昇したコレスタノールが脳、脊髄、腱、水晶体、血管などの全身臓器に沈着し、さまざまな臓器障害を惹起する。下痢や胆汁うっ滞は、ケノデオキシコール酸の欠乏や胆汁アルコールの上昇などの機序によると推測される。図1 脳腱黄色腫症の病態画像を拡大する■ 症状・分類脳腱黄色腫症の臨床症状は、腱黄色腫、新生児期の黄疸・胆汁うっ滞、小児期発症の慢性下痢、若年性白内障、若年性冠動脈疾患、骨粗鬆症といった全身症状と、精神発達遅滞・認知症、精神症状、錐体路徴候、小脳性運動失調、てんかん、末梢神経障害、錐体外路症状といった神経症状に大別される。臨床病型は、多彩な臨床症状を呈する古典型、痙性対麻痺を主徴とする脊髄型、神経症状を認めない非神経型、新生児胆汁うっ滞型に分類される(表1)。古典型は、小児期に精神発達遅滞/退行、てんかん、歩行障害、慢性の下痢、白内障などで発症することが多い。腱黄色腫(図2)は20歳代に生じることが多くアキレス腱に好発するが、黄色腫を認めない例もまれではない。表1 脳腱黄色腫症の病型画像を拡大する図2 脳腱黄色腫患者のアキレス腱黄色腫画像を拡大する(A)肉眼所見 (B)単純X線所見 (C)MRI所見 T1強調像(文献3の図1A-Cを転載)■ 予後未治療のまま経過すると進行性の神経症状により、高度の日常生活動作障害を呈する。2 診断 (検査・鑑別診断を含む)腱黄色腫、進行性の神経症状または精神発達遅滞、若年発症の白内障・下痢・冠動脈疾患・骨粗鬆症、新生児~乳児期の遷延性黄疸・胆汁うっ滞など本症を疑う症状を認めた場合、血清コレスタノールの測定を行う。血清コレスタノールは外注検査が可能であるが保険収載はされていない。血清コレスタノールが上昇しており、他疾患が否定されればProbable、さらにCYP27A1遺伝子の変異が証明されればDefiniteの診断となる。遺伝子検査は、脳腱黄色腫症の実態把握と診療ガイドライン作成に関する研究班のホームページから申し込みが可能である。2018年に改訂された本症の新しい診断基準1,2)を表2に示す。表2 脳腱黄色腫症の診断基準画像を拡大する3 治療治療の基本は、著減しているケノデオキシコール酸の補充(保険適用外)である。ケノデオキシコール酸投与により胆汁酸合成経路の律速酵素であるコレステロール7α-水酸化酵素へのネガティブフィードバック(図1)が正常化し、血清コレスタノールの上昇などの生化学的検査異常が改善する。また、その結果として組織へのコレスタノールの蓄積が抑制される。早期治療により臨床症状の改善も期待できる。ケノデオキシコール酸の投与量は成人例では750mg/日、小児例では15mg/kg/日が推奨されている2)。HMG-CoA還元酵素阻害薬(スタチン製剤、保険適用外)も血清コレスタノールの低下作用を有するが、臨床的な有用性のエビデンスは十分に蓄積されていない。LDLアフェレシス(保険適用外)も血清コレスタノールを低下させることが可能であるが、約2週間で治療前値に戻ってしまうことからケノデオキシコール酸やスタチン製剤による治療効果が不十分な例に実施を検討する。4 今後の展望現在わが国で、脳腱黄色腫症に対するケノデオキシコール酸の治験が進行中であり、近い将来保険適用になる可能性がある。わが国で実施した全国調査の結果では、本症の発症から診断までに平均で16.5±13.5年を要しており、特に小児期の未診断例が多いことが明らかになっている1)。現状では、診断の遅れにより重篤な神経系の後遺症を残している患者が多いが、発症早期に治療介入することで本症患者の予後が改善すると期待される。5 主たる診療科脳神経内科、小児神経科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報脳腱黄色腫症の実態把握と診療ガイドライン作成に関する研究班(医療従事者向けのまとまった情報)原発性高脂血症に関する調査研究班(医療従事者向けのまとまった情報)難病情報センター 脳腱黄色腫症(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)1)Sekijima Y, et al. J Hum Genet.2018;63:271-280.2)脳腱黄色腫症の実態把握と診療ガイドライン作成に関する研究班、原発性高脂血症に関する調査研究班編. 脳腱黄色腫症診療ガイドライン 2018. 2018.3)Yoshinaga T, et al. Intern Med.2014;53:2725-2729.公開履歴初回2021年2月15日

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限局性皮質異形成〔FCD:Focal cortical dysplasia〕

1 疾患概要■ 概念・定義限局性皮質異形成(Focal cortical dysplasia:FCD)は、1971年にTaylorらが“Focal dysplasia of the cerebral cortex in epilepsy”として報告し、その後、難治性てんかんの外科切除病変で認められる特異的な病理像を呈する疾患単位として確立された。FCDは、単なる“限局した皮質の形成異常”ではなく、特徴的な臨床症状と画像を呈し、病理学的に確定診断がなされる独立した1つの疾患単位である。FCDの一部と片側巨脳症は病態が共通しており、病変の大きさは異なるが、連続した疾患として位置付けられている。■ 疫学国内、海外ともに正確な頻度は不明である。日本てんかん外科学会による主要な施設を対象とした2005年から2011年のアンケート調査では、1年間に30件程度の皮質形成異常が登録されていた。海外ではてんかん外科手術例の25%がFCDと報告されている。手術に至っていない例も多いと思われ、国内では数千例と見積もられている。■ 病因後述する病理所見の違いによりI〜III型に分類され、型(タイプ)によって病因は異なる。脳の発生段階による区分では、I型とIII型は神経細胞の移動後の発生異常に分類され、II型は異常な細胞増殖に伴う皮質形成異常に分類される。I型ではCOL4A1、SCN1A、STXBP1などの遺伝子変異が症例として報告されているが、共通の病態は不明であり、病因は多様であると推測される。II型では細胞内の信号伝達を担うmTOR経路の遺伝子変異によるmTOR機能の活性化が主要な病因である1)。III型は併発病変により病因が異なると推測される。■ 症状主要な症状である薬剤抵抗性のてんかん発作は乳幼児期に発症することが多く、約60%の症例は4歳まで、約90%の症例は12歳までに発症する。組織学的な変化が軽度(IA型)の場合は60歳以上での成人発症も報告されている。発症時には強直発作・強直間代発作が比較的多く認められる。年齢が上がると病変部位に応じた焦点起始発作が認められる。群発する症例が多く、重積発作は10%程度に認められる。症状が進行すると、認知機能の障害や片麻痺など局所症状の出現を伴う。■ 予後発作は薬剤抵抗性である。17%の症例は薬剤に反応するが、効果は一時的である。焦点切除術により約半数で発作消失が得られる。FCDのタイプによって発作消失率は異なり、I型では43%、II型では75%である。10年間の長期予後では、手術から1年後の発作消失率は61%、5年後42%、10年後33%である。MRIで病変が検出される方が手術成績は良い。1歳未満の発症、てんかん性スパズムの既往、頻回の発作、長い罹病期間、群発や重積発作は知的障害の併発リスクとなる。国内のてんかん専門施設におけるFCD 77例の調査では、53%に知的障害を認め、発達・知能指数の平均は60であった2)。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)FCDの確定診断は病理所見によって行われ、国際抗てんかん連盟(ILAE)により細分類されている(表)3)。表 限局性皮質異形成の 病理組織 診断分類画像を拡大するMRIは術前評価の非侵襲的な基本検査である。I型の大多数でMRIは正常であり、術前の診断は困難である。II型では局所的な皮質の肥厚、脳回異常、T2もしくはFLAIRの高信号、皮質と白質の境界不明瞭化が認められる。IIa型で3割程度、IIb型ではほぼ全例でMRIの異常所見が得られる。IIb型では病巣直下の白質内に脳室周囲から脳表に向けてT2とFLAIRで高信号を呈する線状の所見が認められ、“transmantle sign”と呼ばれる。脳波でI型を診断することは困難である。II型では発作間欠期に病変の解剖学的分布範囲と関連して焦点性の律動性てんかん発射が認められる。脳溝深部に限局するbottom-of-sulcus型では頭皮表面の脳波では異常を検出できないこともある。その他に、局在性の多型性徐波polymorphic delta activity、低振幅性速波、多棘波、二次性両側同期棘徐波が認められる。切除範囲を決める術前検査として、SPECT、FDG-PET、SISCOMが有用である。画像で病変範囲が不明確な場合は、頭蓋内電極の埋め込み術を行い皮質脳波を記録する。鑑別診断として、結節性硬化症、ラスムッセン脳炎、low-grade glioma(神経節膠腫、神経節細胞腫、胚芽異形成性神経上皮腫瘍など)が挙げられる。結節性硬化症は、病変が多発性でありCTで石灰化を伴う。また、FCDに比べグリオーシスが強く、皮質下白質のT2高信号が目立つ。ラスムッセン脳炎は、病変が進行性で、初期に脳回の腫大を認めることがあるが、萎縮性変化が主体である。Low-grade gliomaでは、皮質の肥厚は少なく、病変の高信号は不均一である。FCDでは、脳室に向かって皮質下白質の高信号が減弱するが、low-grade gliomaでは同所見は10%にしかみられない。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)発作型に応じ薬剤を選択し、2剤以上の適切な抗てんかん薬を使用しても発作が消失しないときは、発作焦点の皮質切除術を行う。発作焦点が運動野など一次領野にかかっていないことを確認する。発作再発のリスクは焦点の取り残しであり、病変が一次領野から離れ、術後に神経学的脱落症状を来すリスクが低ければ完全切除を目指す。4 今後の展望FCDII型の病因診断として研究レベルで遺伝子解析が行われる。MTOR、PIK3CA、AKT3、TSC1/2などの体細胞モザイク変異とDEPDC5、NPRL2、TSC1/2などの生殖細胞系列変異があり、前者は手術標本の脳組織から、後者は血液からDNAを抽出し、次世代シーケンス技術を用いた変異解析が行われる。FCDII型の主要な病態がmTOR活性の亢進であることが判明し、mTOR阻害剤がてんかん発作の抑制に期待され、医師主導の臨床研究が行われている。5 主たる診療科小児科、神経小児科、脳神経外科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報難病情報センター(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)限局性皮質異形成(FCD)研究会(臨床研究を含む一般利用者向けのまとまった情報)てんかん診療ネットワーク(てんかんの診療を行っている施設の検索)1)Nakashima M, et al. Ann Neurol. 2015;78:375-386.2)Kimura N, et al. Brain Dev. 2019;41:77-84.3)Blumcke I, et al. Epilepsia. 2011;52:158-174.公開履歴初回2021年02月09日

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国内初の1日2回投与型トラマドール製剤「ツートラム錠50mg/100mg/150mg」【下平博士のDIノート】第67回

国内初の1日2回投与型トラマドール製剤「ツートラム錠50mg/100mg/150mg」今回は、慢性疼痛治療薬「トラマドール塩酸塩徐放錠(商品名:ツートラム錠50mg/100mg/150mg、製造販売元:日本臓器製薬)」を紹介します。本剤は、1日2回(12時間間隔)の投与に最適化された徐放性製剤であり、非オピオイド鎮痛薬で十分な効果が得られない患者の疼痛緩和やアドヒアランス向上が期待されています。<効能・効果>本剤は、非オピオイド鎮痛薬で治療困難な慢性疼痛における鎮痛の適応で、2020年9月25日に承認され、2021年1月8日より発売されています。なお、2022年5月に「疼痛を伴う各種がん」の効能・効果が追加されました。<用法・用量>通常、成人にはトラマドール塩酸塩として1日100~300mgを2回(朝、夕が望ましい)に分けて経口投与します。症状に応じて1回200mg、1日400mgを超えない範囲で適宜増減できますが、1回50mg、1日100mgずつ行うことが推奨されています。なお、初回投与は1回50mgから開始することが望ましく、ほかのトラマドール塩酸塩経口薬から切り替える場合は、切り替え前の薬剤の1日投与量、鎮痛効果および副作用を考慮して本剤の初回投与量を設定します。<安全性>国内で日本人を対象に実施された第II、III相試験(慢性疼痛6試験併合)において、本剤との因果関係を否定できない有害事象は749例中597例(79.7%)で報告されています。主なものは、悪心329例(43.9%)、便秘308例(41.1%)、傾眠160例(21.4%)、嘔吐113例(15.1%)、浮動性めまい81例(10.8%)、口渇58例(7.7%)、食欲減退43例(5.7%)でした。なお、重大な副作用として、ショック、アナフィラキシー、呼吸抑制、痙攣、依存性、意識消失(いずれも頻度不明)が注意喚起されています。<患者さんへの指導例>1.この薬は、脳内への痛みの伝達を抑え、一般的な鎮痛薬では治療困難な痛みを和らげます。2.眠気、めまい、意識消失が起こることがあるので、本剤を服用中は自動車の運転など危険を伴う機械の操作をしないでください。3.この薬はゆっくり効く部分を持っていますので、割ったり、粉砕したり、かみ砕いたりせずに、そのまま服用してください。4.悪心・嘔吐、便秘、めまい、口が乾く、食欲が低下するなどの症状が現れることがあります。症状が重く、持続する場合はすぐに受診してください。5.有効成分が出た後の錠剤が糞便中に排泄されることがありますが心配ありません。6.飲酒により薬の作用が強くなり、呼吸抑制が起こることがあります。服用中の飲酒は避けてください。<Shimo's eyes>本剤は、速やかに有効成分が放出される速放部と、徐々に有効成分が放出される徐放部の2層錠にすることで、安定した血中濃度推移が得られるように設計された国内初の1日2回投与のトラマドール製剤です。厚生労働省の「医療上の必要性の高い未承認薬・適応外薬検討会議」で検討され、製造販売会社に開発が要請されました。トラマドールを含有する既存の経口薬としては、1日4回服用の速放性製剤(商品名:トラマール)、1日1回服用の徐放性製剤(同:ワントラム)、アセトアミノフェン配合製剤(同:トラムセットなど)が販売されていています。なお、トラマドールはWHO三段階除痛ラダーで「ステップ2」に位置付けられる弱オピオイド鎮痛薬ですが、わが国では麻薬の指定は受けていません。適応症である「慢性疼痛」は、腰痛症、変形性膝関節症、関節リウマチ、脊柱管狭窄症、帯状疱疹後神経痛、有痛性糖尿病性神経障害、線維筋痛症、複合性局所疼痛症候群など幅広い原因によって引き起こされます。本剤は、慢性疼痛治療で汎用されているプレガバリンやセレコキシブなどと同じ1日2回投与ですので、併用薬や生活様式に合わせた薬剤を選択することでアドヒアランスが維持・向上できると期待されます。22年5月の改訂で、がん患者の疼痛管理にも本剤が使えるようになりました。本剤を定時服用していても疼痛が増強した場合や突出痛が発現した場合は、即放性のトラマドール製剤(商品名:トラマール錠など)をレスキュー薬として使用します。なお、レスキュー投与の1回投与量は、定時投与に用いている1日量の8~4分の1とし、総投与量は1日400mgを超えない範囲で調節します。鎮痛効果が不十分などを理由に本剤から強オピオイドへの変更を考慮する場合、オピオイドスイッチの換算比として本剤の5分の1量の経口モルヒネを初回投与量の目安として、投与量を計算することが望ましいとされています。禁忌となるのは、ほかのトラマドール製剤と同様に、12歳未満の小児、本剤に対する過敏症、アルコールや睡眠薬、鎮痛薬、オピオイド鎮痛薬または向精神薬による急性中毒、モノアミン酸化酵素(MAO)阻害薬を投与中または投与中止後14日以内、ナルメフェン塩酸塩水和物を投与中または投与中止後1週間以内、てんかん患者などです。副作用としては、高頻度で悪心・嘔吐、便秘が報告されています。必要に応じて制吐薬や下剤の併用を提案するようにしましょう。※2022年6月、添付文書改訂の内容を基に、一部内容の修正を行いました。参考1)PMDA 添付文書 ツートラム錠50mg/ツートラム錠100mg/ツートラム錠150mg

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Dr.水谷の妊娠・授乳中の処方コンサルト

第1回 【妊娠中】解熱鎮痛薬・抗菌薬・抗インフルエンザ薬第2回 【妊娠中】抗てんかん薬・抗うつ薬・麻酔薬第3回 【妊娠中】β刺激薬・チアマゾール・レボチロキシン第4回 【妊娠中】経口血糖降下薬・ワルファリン・制酸薬第5回 【妊娠中】抗リウマチ薬・抗アレルギー薬・タクロリムス外用薬第6回 【妊娠中】漢方薬・CT,MRI検査・悪性疾患の治療方針第7回 【授乳中】解熱鎮痛薬・抗菌薬・抗ウイルス薬第8回 【授乳中】抗てんかん薬・向精神薬・全身麻酔第9回 【授乳中】胃腸薬・降圧薬・抗アレルギー薬第10回 【授乳中】ステロイド・乳腺炎への対処・造影検査後の授乳再開 臨床では妊娠中・授乳中であっても薬が必要な場面は多いもの。ですが、薬剤の添付文書を見ると妊婦や授乳婦への処方は禁忌や注意ばかり。必要な治療を行うために、何なら使ってもいいのでしょうか?臨床医アンケートで集めた実際の症例をベースとした30のQ&Aで、妊娠中・授乳中の処方の疑問を解決します。産科医・総合診療医の水谷先生が、実臨床で使える、薬剤選択の基準の考え方、そして実際の処方案を提示します。第1回 【妊娠中】解熱鎮痛薬・抗菌薬・抗インフルエンザ薬臨床医アンケートで集めた妊婦・授乳婦への処方の疑問を症例ベースで解説・解決していきます。初回は、妊娠中の解熱鎮痛薬、抗菌薬、抗インフルエンザ薬の選択についてです。明日から使える内容をぜひチェックしてください。第2回 【妊娠中】抗てんかん薬・抗うつ薬・麻酔薬妊娠を機に服薬を自己中断してしまう患者は少なくありません。そして症状の悪化とともに受診することはよくあります。今回は抗てんかん薬、抗うつ薬の自己中断症例から妊娠中の薬剤選択について解説します。緊急手術時に必須の麻酔薬の処方についても必見です。第3回 【妊娠中】β刺激薬・チアマゾール・レボチロキシン喘息は妊娠によって症状の軽快・不変・増悪いずれの経過もとりえます。悪化した場合にβ刺激薬やステロイド吸入など一般的な処方が可能のか?甲状腺関連の疾患では妊娠の希望に応じて、バセドウ病患者はチアマゾールを継続していいのか?橋本病ではレボチロキシンを変更すべきなのか?といった実臨床で遭遇する疑問を解決します。第4回 【妊娠中】経口血糖降下薬・ワルファリン・制酸薬今回のクエスチョンは弁置換術既往の妊婦の抗凝固薬選択。ワルファリンからヘパリンへの変更は適切なのでしょうか?降圧薬の選択では妊娠週数に応じて使用可能な薬剤が変わる点を必ず押さえましょう!そのほか、妊娠中の内視鏡検査の可否とその判断、2型糖尿病の薬剤選択についても取り上げます。2型糖尿病管理は、薬剤選択とともに血糖管理目標についてもチェックしてください。第5回 【妊娠中】抗リウマチ薬・抗アレルギー薬・タクロリムス外用薬膠原病があっても妊娠を継続するにはどのような薬剤選択が必要なのでしょうか?メトトレキサートや抗リウマチ薬の処方変更について解説します。花粉症症状に対する抗アレルギー薬処方、アトピー性皮膚炎へのタクロリムス外用薬の継続可否など、臨床で頻用される薬剤についての解説もお見逃しなく。第6回 【妊娠中】漢方薬・CT,MRI検査・悪性疾患の治療方針妊娠中に漢方薬を希望する患者は多いですが、どういうときに漢方薬を使用すべきなのでしょうか?上気道炎事例を入り口に、妊婦のよくある症状に対する漢方薬の処方について解説します。CTやMRIの適応判断に必要な放射線量や妊娠週数に応じたリスクを押さえ、がん治療については永久不妊リスクのある治療をチェックしておきましょう。第7回 【授乳中】解熱鎮痛薬・抗菌薬・抗ウイルス薬今回から授乳中の処方に関する質問を取り上げます。授乳中処方のポイントはRID(相対的乳児投与量)とM/P比(母乳/母体濃度比)。この2つの概念を理解して乳児への影響を適切に検討できるようになりましょう。今回取り上げるのは、解熱鎮痛薬、抗菌薬、抗インフルエンザ薬といった日常診療に必要不可欠な薬剤。インフルエンザについては、推奨される薬剤はもちろん、家庭内での感染予防に対する考え方なども必見です。第8回 【授乳中】抗てんかん薬・向精神薬・全身麻酔ほとんどの母親は服薬中も授乳継続を希望します。多くの薬剤は添付文書上で授乳中止が推奨されていますが、実は授乳を中断しなくてはならないケースはあまり多くありません。育児疲労が増悪因子になりやすい、てんかんや精神疾患について取り上げ、こうした場合の対応を解説します。治療と母乳育児を継続するための、薬剤以外のサポートについても押さえておきましょう。第9回 【授乳中】胃腸薬・降圧薬・抗アレルギー薬授乳中の処方で気を付けるべきは、薬剤の児への移行だけではありません。見落としがちなのが、乳汁分泌の促進・抑制をする薬剤があるということ。症例ベースのQ&Aで、胃腸薬、降圧薬、抗アレルギー薬など日ごろよく処方する薬の注意点を解説していきます。OTC薬で気を付けるべき薬剤やピロリ菌除菌の可否なども押さえておきましょう。第10回 【授乳中】ステロイド・乳腺炎への対処・造影検査後の授乳再開ステロイド全身投与で議論になるのは児の副腎抑制と授乳間隔。どちらも闇雲に恐れる必要はありません。乳腺炎については、投与可能な薬剤だけでなく再発を予防するための知識を押さえておきましょう。造影剤使用後の授乳再開については日米での見解の違いを臨床に活かすための知識を伝授します。

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高齢入院患者のせん妄予防に対する薬理学的介入~メタ解析

 入院中の高齢患者に対するせん妄予防への薬理学的介入の効果について、スペイン・Canarian Foundation Institute of Health Research of Canary IslandsのBeatriz Leon-Salas氏らがメタ解析を実施し、包括的な評価を行った。Archives of Gerontology and Geriatrics誌2020年9~10月号の報告。 2019年3月までに公表された、65歳以上の入院患者を対象としたランダム化比較試験を、MEDLINE、EMBASE、WOS、Cochrane Central Register of Controlled Trialsの電子データベースよりシステマティックに検索した。事前に定義した基準を用いて研究を抽出し、それらの方法論的な質を評価した。 主な結果は以下のとおり。・各データベースより抽出された1,855件から重複を削除し、1,250件の評価を行った。・メタ解析には、以下の25件のランダム化比較研究が含まれた。 ●抗てんかん薬(1件、697例) ●抗炎症薬(2件、615例) ●抗精神病薬(4件、1,193例) ●コリンエステラーゼ阻害薬(2件、87例) ●催眠鎮静薬(13件、2,909例) ●オピオイド(1件、52例) ●向精神薬・認知機能改善薬(1件、81例) ●抑肝散(1件、186例)・プラセボや通常ケアと比較し、せん妄の発生率を減少させた薬剤は、以下のとおりであった。 ●オランザピン(RR:0.36、95%CI:0.24~0.52、k=1、400例) ●リバスチグミン(RR:0.36、95%CI:0.15~0.87、k=1、62例) ●デクスメデトミジン(RR:0.52、95%CI:0.38~0.71、I2=55%、k=6、2,084例) ●ラメルテオン(RR:0.09、95%CI:0.01~0.64、k=1、65例)・デクスメデトミジンのみが、せん妄期間の短縮(0.70日短縮)、抗精神病薬の使用量低下(48%)と関連が認められた。・死亡率、有害事象、尿路感染症、術後合併症への影響は認められなかった。 著者らは「本メタ解析では、デクスメデトミジンが入院中の高齢患者におけるせん妄の発生率減少と期間短縮に有用であることが示唆された。各研究において、ラメルテオン、オランザピン、リバスチグミンの効果が報告されているが、確固たる結論を導き出すにはエビデンスが不十分である」としている。

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ラコサミドに点滴静注100mgが登場/ユーシービージャパン

 ユーシービージャパン株式会社は、6月11日に抗てんかん剤ラコサミド(商品名:ビムパット点滴静注100mg)を新発売した。 てんかんは、全世界で約6,500万人、わが国には約100万人の患者数が推定され、毎年57,000人が新たにてんかんを発症している。患者の大部分が長期的な薬物療法を必要とするが、既存の抗てんかん薬を使用しても、30%を超える患者がてんかん発作を十分にコントロールできていないとの報告もあり、てんかん治療ではアンメット・ニーズが高い。 今回発売されたラコサミドは、電位依存性ナトリウムチャネルの緩徐な不活性化を選択的に促進することにより、神経細胞の過剰な興奮を低下させる薬剤1)。2016年7月に成人の「てんかん患者の部分発作に対する併用療法」で製造販売承認を取得後、成人の「てんかん患者の部分発作に対する単剤療法」(2017年8月)、4歳以上の小児てんかん患者の部分発作に対する併用療法及び単剤療法に係る新用量(2019年1月)、ドライシロップと点滴静注(2019年1月)とそれぞれ追加承認されている。 ビムパット点滴静注100mgは、一時的に経口投与ができない患者への部分発作(二次性全般化発作を含む)の治療に対し承認されている先行の「同点滴静注200mg」の充填量を半量とした製剤。1回の投与で使い切ることができ、同社では「錠剤とドライシロップ10%、点滴静注200mgに加え、点滴静注100mgを追加することで、患者や医療関係者に一層貢献できる」と期待を寄せている。ビムパットの概要商品名:ビムパット点滴静注100mg一般名:ラコサミド効能または効果:一時的に経口投与ができない患者における、下記の治療に対するラコサミド経口製剤の代替療法てんかん患者の部分発作(二次性全般化発作を含む)用法・ラコサミドの経口投与から本剤に切り替える場合:通常、ラコサミド経口投与と同じ1日用量および投与回数にて、1回量を30分から60分かけて点滴静脈内投与する。・ラコサミドの経口投与に先立ち本剤を投与する場合:成人:通常、ラコサミドとして1日100mgより投与を開始し、その後1週間以上の間隔をあけて増量し、維持用量を1日200mgとするが、いずれも1日2回に分け、1回量を30分から60分かけて点滴静脈内投与する。小児:通常、4歳以上の小児にはラコサミドとして1日2mg/kgより投与を開始し、その後1週間以上の間隔をあけて1日用量として2mg/kgずつ増量し、維持用量を体重30kg未満の小児には1日6mg/kg、体重30kg以上50kg未満の小児には1日4mg/kgとする。いずれも1日2回に分け、1回量を30分から60分かけて点滴静脈内投与する。ただし、体重50kg以上の小児では、成人と同じ用法・用量を用いる。いずれの場合においても、症状により適宜増減できるが、1日最高投与量および増量方法は以下のとおりとする。成人:1日最高投与量は400mgを超えないこととし、増量は1週間以上の間隔をあけて1日用量として100mg以下ずつ行う。小児:4歳以上の小児のうち体重30kg未満の小児では1日12mg/kg、体重30kg以上50kg未満の小児では1日8mg/㎏を超えないこととし、増量は1週間以上の間隔をあけて1日用量として2mg/kg以下ずつ行う。ただし、体重50kg以上の小児では、成人と同じ1日最高投与量および増量方法とする。製造販売承認日:2020年1月27日薬価基準収載日:2020年5月27日薬価:ビムパット点滴静注100mg 1瓶2,459円発売日:2020年6月11日製造販売元:ユーシービージャパン株式会社販売元:第一三共株式会社

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第11回 GLP-1製剤の自由診療問題と教科書的な生活習慣改善指導との共通点

痩せてスリムな体になりたいというのは比較的万人に共通した願望ではないだろうか。とりわけ年齢を経れば代謝が低下し、太りやすくなるため、中年太りを解消したいという人は私の周りでも少なくない。ところが食事療法、運動療法は大変だから、なるべく楽に痩せたい。そんな「夢」を逆手に取る行為に日本医師会がご立腹のようである。6月17日の定例会見で、日本医師会(以下、日医)副会長の今村 聡氏が、一部の医療機関においてダイエット向けに糖尿病治療薬のGLP-1受容体作動薬を自由診療で処方していることを問題視し、そのことが報じられた。確かに好ましい話ではない。だが、こうした適応外処方の自由診療、あるいは薬の個人輸入代行業はかなり前から跳梁跋扈(ちょうりょうばっこ)している。実際、私も知人から個人輸入代行で痩せる薬を入手したと見せられたことがある。この時、見せられたのは抗てんかん薬のトピラマート(商品名:トピナ)である。てんかん専門医から肥満傾向のてんかん患者には使いやすいと聞いたことがあるが、こんな難しい薬が医師の管理もなく、ダイエット目的で入手できるのだと改めて驚いたものだ。これ以外にも同じく糖尿病で使われるSGLT2阻害薬も痩せ薬としてアンダーグラウンドで取引されていると聞いたことがある。GLP-1受容体作動薬の場合、既に海外で肥満症治療薬として承認されているのは事実であり、日本国内でも臨床試験中。ちなみにGLP-1受容体作動薬をダイエット目的で処方している自由診療クリニックのホームページを見ると、海外で承認済みであることを強調しながら、「日本では製薬メーカーで治験が行われず、日本では未承認です(原文ママ)」と事実とは異なる記載をしている。記事中ではGLP-1受容体作動薬の副作用として下痢が記述されているが、むしろ私が危惧するのは低血糖発作のほうだ。そもそもダイエットをしている人は、言っちゃ悪いが極端な糖質制限など偏った食事をしている人が通常集団よりも多いと推察される。そんなところにGLP-1受容体作動薬を投与しようものならば、低血糖発作リスクは高いはずである。その辺を会見で今村氏が言及したかどうかは個人的に気になる。というのも、痩せたい願望が強い人にとっては、下痢レベルの副作用を無視することは十分に考えられる。結果として、逆にこの記事が「寝た子を起こす」がごとく、痩せたい願望を持つ人への誘因になってしまう可能性すらある。(ちなみに日本医師会の定例記者会見は決まった企業メディアにしか参加が認められていない。企業メディアの場合は新たに参加が認められるケースもあるが、フリーランスは実績にかかわらず参加不可。私も過去に広報部門に参加を希望したが一蹴されている)問題のある自由診療はGLP-1だけじゃないしかし、このニュースに私は割り切れないものを感じてしまう。確かに今回のGLP-1受容体作動薬の自由診療による処方は問題ありだし、警告すべきものとは思う。しかし、従来から自由診療では、問題がある治療が行われていることをまさか日医執行部が知らぬわけはないだろう。代表例ががん患者に対する細胞免疫療法。要は患者から採取したT細胞などを増やし、活性化させて体内に戻してがんと戦わせるという「治療」だ。だが、これらは科学的エビデンスが確立されていないのは周知のこと。近年、血液がんを対象に承認されたキメラ抗原受容体T細胞療法(CAR-T細胞療法)のキムリアなどの成り立ちを見ても分かるように、ヒトのT細胞を抽出してちょっとやそっと増やしたりして体内に戻しても生存期間延長や治癒など得られないことは医師ならばわかるはずだ。しかし、がん終末期の患者が藁をもすがる思いで1回数十万円から百万円超ものこの「治療」に貴重なお金を注ぎ、期待したであろう効果を得られず患者が亡くなっている現実はもう30年以上横行している。むしろ例え事実上「糠に釘」でも日医が警鐘を鳴らし続けることが望ましいのではないだろうか。生活習慣改善指導は教科書的でいいのか?それ以上に割り切れないと思う点もある。それは痩せたい人への事実上の医療不在である。ちなみにここでいう痩せたい人とは、単に美容のために痩せたい人を意味するのではなく、疾患あるいはその予備群、代表例を挙げると生活習慣病で肥満傾向を持つ人などだ。患者の立場ならば、医師からなるべく体重を減らすため、過食を止め、運動するよう「指導」された経験のある人はいるだろう。だが、誤解を恐れずに言えば「そう言われただけ」の人がほとんどのはずだ。具体的にどんな運動をどれだけやればいいか、過食を止めるためにどうすれば良いか、何をどのように食べるべきか、単に教科書的文章の読み上げではなく、自分の生活に合わせてどのようにすればよいかを具体的に指導を受けた経験がある人は稀ではないだろうか?そのことをうかがわせる実例として、日本糖尿病学会の「糖尿病診療ガイドライン2019」を挙げよう。同ガイドラインは書籍として総ページ数は約380ページだが、食事療法、運動療法に関する記述ページはその1割弱。内容はほぼ国内外のエビデンスをさらりと紹介している程度である。多くの経口糖尿病治療薬の添付文書には判で押したように「本剤の適用はあらかじめ糖尿病治療の基本である食事療法、運動療法を十分に行ったうえで効果が不十分な場合に限り考慮すること」という記載がありながら、医師による食事療法、運動療法の指導も判で押したような教科書的なものばかりだ。もちろん個々の患者に合った運動療法、食事療法を指導することも、それを患者が継続することも容易でないことは分かるが、現状はあまりに受け皿がなさすぎるなかで、自由診療だけをとがめるのは穴の開いたバケツで水をくむようなものである。実際、私も経験がある。血液検査の結果、中性脂肪が若干正常上限値を上回っていた時のことだ。医師から次のように言われ、ポカン口状態になった。「肉、魚、卵はできるだけ控えるように」は? 何食べればいいんですか? 大豆? 豆腐? 納豆? 肉、魚、卵はできるだけ控えたら外食では食べるものがない。私たちが聞きたいのは、たとえば「お肉は脂身を残して量は少なめにして、その代わりに豆腐などを副菜に取り入れて」などより具体的なことである。幸いこの中性脂肪高値は一時的なものだったが、後に尿酸値の8.1mg/dLという検査結果に飛び上がらんばかりに驚いたことがある。この時の医師も某ジェネリック医薬品メーカーが作った高尿酸血症・痛風患者向けの冊子の内容を棒読みするだけだった。体重を減らす飲酒を控えるプリン体摂取を控える毎日2Lの飲水唯一棒読みではなかったのは、「体重を減らす」と言った後に「フフッ」と笑ったことぐらい。要はみんなできないんだよねという意味だろう。しかし、私はこれにややカチンときた。さらに飲酒は好きだし、控えるのは限界がある。プリン体をとりわけ多く含む食品はそもそも日常的にそれほど摂取機会がない。ということで体重減少と2L飲水に取り組んだ。いわば「おいしく楽しく酒を飲み続けるため」にそうしたのだ。詳細は省くが1年7ヵ月で14kg減。尿酸値も正常化している。だが、この間、運動をどう習慣化すればいいのか、その内容をどう変化させるかなど試行錯誤の連続。ちなみに一見簡単そうな飲水2Lのほうが楽しくもなく、習慣化までに苦労した。今この原稿を執筆中の傍らに1.5Lと600mLのペットボトルがある。こうしたことで医師などから工夫の伝授や励ましがあれば、どれだけ助けになっただろうと今も時々思う。こうした医療不在の隙を自由診療の囁きが埋めてしまっているのが現実ではないだろうか。このように書くと、「医師に何でも求めないで欲しい」と言われるかもしれないが、ならば医師から対応可能な職種へ繋ぐシステムが欲しいと思う。もちろんそうした職種への報酬の財源は医科診療報酬のプラス幅をやや抑えて捻出する。まあ、日医執行部が最も反発しそうではあるが。

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ホモシスチン尿症〔homocystinuria〕

1 疾患概要■ 概念・定義ホモシスチン尿症は先天性アミノ酸代謝異常症の一種であり、メチオニンの代謝産物であるホモシステインが血中に蓄積することにより発症する1)。図にメチオニンの代謝経路を示す。メチオニンは、メチオニンアデノシルトランスフェラーゼによりS-アデノシルメチオニン(SAM)に変換、さらに脱メチル化することでS-アデノシルホモシステイン(SAH)が生成される。SAHが加水分解されるとホモシステインが生成される。ホモシステインはシスタチオニンβ合成酵素(CBS)によりシスタチオニン合成されるだけでなく、メチオニン合成酵素(MS)、もしくはベタインホモシステインによる再メチル化経路をたどり、メチオニンに変換される。CBSの異常は、ホモシスチン尿症I型もしくは古典的ホモシスチン尿症と称され、血中ホモシステイン値、メチオニン値が高値となる。II型はMSの補酵素である細胞内コバラミン(ビタミンB12、Cb1)の代謝異常、III型はN5、N10-メチレンテトラヒドロ葉酸還元酵素(MTHFR)の障害による葉酸代謝異常であり、II型、III型ともに再メチル化によるメチオニン合成が障害されるため、メチオニン値が低下し、ホモシステイン増加する。ホモシスチン尿症I型は頻度が最も多いとされており、新生児マススクリーニングではメチオニン増加を指標としてスクリーニングが行われている。図 メチオニン代謝経路画像を拡大する■ 疫学CBS欠損症は常染色体劣性遺伝を呈する疾患であり、発症頻度は1,800~90万人に1人と推測されているが、わが国での患者発見頻度は、約80万人に1人である1,2)。■ 病因CBSの活性低下によりホモシステインが蓄積すると、ホモシステインは酸化されて二量体であるホモシスチンが尿中に排泄される。また、蓄積したホモシステインはメチオニンへと再メチル化が促され、血中メチオニンが上昇し、シスタチオニンとシステインが欠乏する。ホモシステインはチオール基を介して生体内の種々のタンパクとも結合する。その過程で生成されるスーパーオキサイドなどにより、血管内皮細胞障害を来すと考えられている。また、ホモシステインがフィブリリンの機能を障害するため、マルファン症候群様の、眼症状や骨格異常を発現すると考えられている1)。■ 症状古典的ホモシスチン尿症の臨床症状は骨格系の異常、眼症状、中枢神経症状、血管系の障が認められる1)。1)中枢神経系異常知的障害、てんかん、精神症状(パーソナリティ障害、不安、抑うつなど)2)骨格異常骨粗鬆症、高身長、くも状指、側弯症、鳩胸、凹足、外反膝(マルファン症候群様体型)3)眼症状水晶体亜脱臼に伴う近視(無治療では10歳までに80%以上の症例で水晶体亜脱臼を呈する)、緑内障4)血管系障害冠動脈血栓症、肺塞栓、脳血栓塞栓症、大動脈解離血栓症■ 分類CBSはビタミンB6(ピリドキシン)を補酵素とする。CBS欠損症には大量のビタミンB6投与により血中メチオニン、ホモシステインが低下するビタミンB6反応型と、低下しないビタミンB6不応型がある。欧米白人ではビタミンB6反応型が約半数を占めるが、日本人ではまれである1)。■ 予後早期に治療導入され、適切にコントロールが行われた症例では、全般的に予後良好とされているが、長期的予後は明らかにされていない。ビタミンB6不応型において無治療の場合には、生命予後は著明に悪化する。ビタミンB6反応型の生命予後は明らかになってない3)。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)一般血液検査・尿検査では特徴的な所見は認めない。以下の診断の根拠となる特殊検査のうち、血中メチオニン高値(1.2mg/dL〔80μmol/L〕)以上、かつ総ホモシステイン基準値(60μmol/L)以上を満たせば、CBS欠損症の確定診断とする1)。■ 診断の根拠となる特殊検査1)血中メチオニン高値:1.2mg/dL(80μmol/L)以上〔基準値:0.3~0.6mg/dL(20~40μmol/L)〕2)高ホモシステイン血症:60μmol/L以上(基準値:15μmol/L以下)3)尿中ホモシスチン排泄:基準値が検出されない。4)線維芽細胞、あるいはリンパ芽球でのCBS活性低下5)遺伝子解析:CBS遺伝子の両アレルに病因として病原性変異を認める。■ 鑑別診断臨床症状からはマルファン症候群や血栓性疾患との鑑別が必要である3)。生化学的検査所見からの診断を以下に示す、メチオニン高値、またはホモシステイン高値を来す疾患が鑑別に挙がる1)。1)高メチオニン血症を来す疾患(1)メチオニンアデノシルトランスフェラーゼ欠損症(2)シトリン欠損症(3)新生児肝炎などの肝機能異常2)高ホモシステイン血症(広義の「ホモシスチン尿症」)を来す疾患(1)メチオニン合成酵素欠損症(2)MTHFR欠損症(ホモシスチン尿症II型)(3)ホモシスチン尿症を伴うメチルマロン酸血症(コバラミン代謝異常症C型など)3 治療 (治験中・研究中のものも含む)ホモシスチン尿症の治療目標は、臨床症状の緩和や発症リスクを減らすために、血中ホモシステイン値を正常範囲でコントロールすることである。■ 食事療法メチオニンの摂取制限を実施し、血中メチオニン濃度を1mg/dL(67μmol/L)以下に保つようにする。ヨーロッパのガイドラインにおいては、ビタミンB6反応性ホモシスチン尿症では、総ホモシステイン<50μmol/Lを目標とすることが推奨されている3)。新生児・乳児期には許容量かつ必要量のメチオニンを母乳、一般粉乳、離乳食などから摂取し、不足分のカロリー、必須アミノ酸などは治療乳メチオニン除去粉乳(商品名:雪印S-26)から補給する1)。幼年期以降の献立は、食事療法ガイドブック(特殊ミルク事務局のホームページより入手可能)を参考にする1)。血中ホモシステイン値のコントロールが不良(100μmol/L以上)の場合には、血栓塞栓症のリスクが高まるため、厳格な食事療法を継続する必要性がある。■ L-シスチン補充ホモシステインの下流にあるL-シスチンを補充する。メチオニン除去乳(同:雪印S-26)にはL-シスチンが添加されている。市販されているL-シスチンのサプリメントを併用することもある1)。■ ビタミンB6大量投与ビタミンB6反応型か否かの確認は、ホモシスチン尿症の確定診断後、まず低メチオニン・高シスチン食事療法を行い、生後6ヵ月時に検査を行う。入院のうえ、食事を普通食にした後に、ピリドキシン40mg/kg/日を10日間経口投与する。血中メチオニン、ホモシスチン値の低下が認められた場合には投与量を漸減し、有効最小必要量を定め継続投与する。反応がなければ食事療法を再開し、体重が12.5kgに達する2~3歳時に再度ピリドキシン500mg/日の経口投与を10日間試みる1)。ビタミンB6反応型では、CBS活性を上昇させるためにピリドキシンの大量投与(30~40mg/kg/日)を併用する。ビタミンB6を併用することで食事療法の緩和が可能であることが多い。■ ベタインベタイン(同:サイスタダン)は再メチル化の代替経路を促進し、過剰なホモシステインをメチオニンへと変換し、血中ホモシステイン値を低下させることができる。ベタインの投与量は11歳以上には1回3g、11歳未満では50mg/kg/日を1日2回経口投与する。ただしベタイン単独でホモシステイン値を50μmol/L以下にコントロールすることは困難であり、食事療法との併用が必要である。ベタイン投与により血中メチオニン上昇を伴う脳浮腫が報告されており、メチオニン値が15mg/dL(1,000μmol/L)を超える場合には、ベタインや自然蛋白摂取量を減量する1)。■ 葉酸、ビタミンB12CBS欠損症では、血中葉酸、ビタミンB12が低下する場合があり、適宜補充する。4 今後の展望CBS欠損症の新規治療法として、ケミカルシャペロン療法の検討がなされている4)。また酵素補充療法の治験が欧米で進行中であり、結果が待たれる。5 主たる診療科小児科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報先天代謝異常学会(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)特殊ミルク事務局(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)1)日本先天代謝異常学会 編集. 新生児マススクリーニング対象疾患等診療ガイドライン2019.2019.p.35-42.2)Jean-Marie Saudubray, et al. Inborn Metabolic Diseases Diagnosis and Treatment 6th Ed.Springer-verlag.;2016.p.314-316.3)Morris AA, et al. J Inherit Metab Dis. 2017;40:49-74.4)Melenovska P, et al. J Inherit Metab Dis. 2015;38:287-294.公開履歴初回2020年05月12日

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