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生理食塩水での口腔ケアは、ICU死亡率を低減【論文から学ぶ看護の新常識】第5回

生理食塩水での口腔ケアは、ICU死亡率を低減集中治療室(ICU)にて機械的人工呼吸管理を行っている患者に、口腔ケアで酸化剤を使用することは人工呼吸器関連肺炎(VAP)の発症を抑え、生理食塩水の使用ではICU死亡率を低下させる効果が示された。Qianqian He氏らの研究で、Australian Critical Care誌2025年1月号に掲載された。集中治療室患者における人工呼吸器関連の転帰と死亡率に対するさまざまなマウスウォッシュの効果:ネットワークメタアナリシス研究グループは、ICUにおける機械的人工呼吸管理患者に対する異なるマウスウォッシュの効果と安全性を、VAPの発生率、ICU死亡率、人工呼吸器装着期間、および大腸菌定着率を指標に比較評価した。PubMed、Web of Science、Embase、Cochrane Libraryを検索し、生理食塩水、クロルヘキシジン(CHX)、重炭酸ナトリウム、酸化剤、ハーブ抽出物、ポビドンヨード(PI)を比較したランダム化比較試験(RCT)を対象とした。14件のランダム化比較試験(RCT)に登録された1,644人のICU患者(平均年齢57.86歳、男性58.73%)が対象となった。評価項目は、VAP発生率、ICU死亡率、人工呼吸器装着期間、大腸菌の定着率。統計手法は、Rソフトウェアを用いたネットワークメタアナリシスで、異質性はI2検定で評価され、優越率は累積順位曲線下面積(SUCRA)で推定された。主な結果は以下のとおり。VAP発生率:酸化剤はVAP発生率を低減する傾向を示した(リスク比[RR]:0.24、95%信頼区間[CI]:0.05~1.10)。ICU死亡率:生理食塩水はICU死亡率を有意に低下させた(RR:0.18、95%CI:0.04~0.88)。CHXやPIはICU死亡率に有意な影響を与えなかった。人工呼吸器装着期間:CHXおよびPIは人工呼吸器装着期間に有意な影響を与えなかった。大腸菌定着率:すべての介入群で統計的有意差は観察されなかった。クロルヘキシジンなどの抗菌性マウスウォッシュは、ICU患者に対して潜在的なリスクを伴う可能性がある。一方で、酸化剤は比較的安全であると考えられる。また、生理食塩水はICU死亡率を有意に低下させる有望な選択肢として示唆された。今後は、より大規模で高品質なRCTが必要である。この論文は、ICU患者における異なるマウスウォッシュの効果を比較検討したネットワークメタアナリシスです。特に、人工呼吸器関連肺炎の発生率、ICU死亡率、人工呼吸器装着期間、大腸菌定着率に焦点を当てています。まず、最も注目すべきは生理食塩水に関する結果です。これまで生理食塩水は「標準的で無害な選択肢」にすぎず、口腔内に殺菌する成分が入っていたほうがよいという考えが強かったと思います。しかし、今回の研究では、生理食塩水の使用はICU死亡率を有意に低下させることが示されました。これは、抗菌薬を使用しないことで副作用を回避しつつ、安全に口腔ケアを行える点で重要な知見かと思います。論文での考察としては、生理食塩水は、抗菌性マウスウォッシュと比較すると口腔内の自然な細菌叢のバランスを崩さず、維持に貢献すると考えられるとされています。一方で、よく使用されるクロルヘキシジンやポビドンヨードについては、注意が必要です。日本国内では、クロルヘキシジンを海外のように高い濃度で口腔内へ使用することはできません。そのため、主流になっていくことはないかと思いますが、クロルヘキシジンは心臓外科手術後の患者には効果的である可能性がある一方、非心臓外科患者では死亡リスクが増加する可能性が示されています。また、味覚障害や歯の変色といった副作用があることも臨床現場では無視できません。次に、過酸化水素いわゆるオキシドールなどの酸化剤の効果も見逃せません。酸化剤は人工呼吸器関連肺炎の発生率を抑制する可能性があることが示唆されており、特にクロルヘキシジンの副作用を軽減する効果も期待されています。これにより、患者の快適性や口腔ケアの継続性が向上する可能性があります。しかし、臨床に看護師主導で酸化剤のマウスウォッシュを導入するのはハードルが高い印象です。これらをまとめると、すぐに導入でき、また日頃からも行われている、生理食塩水での口腔ケアは「意外とよい」と言えるでしょう。論文はこちらHe Q, et al. Aust Crit Care. 2025;38(1):101095.

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病院向けマーケティングサービス

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尿路上皮がんの遺伝子異常に基づく治療薬「バルバーサ錠3mg/4mg/5mg」【最新!DI情報】第34回

尿路上皮がんの遺伝子異常に基づく治療薬「バルバーサ錠3mg/4mg/5mg」今回は、経口FGFRチロシンキナーゼ阻害薬「エルダフィチニブ(商品名:バルバーサ錠3mg/4mg/5mg、製造販売元:ヤンセンファーマ)」を紹介します。本剤は、日本国内で初めてかつ唯一の遺伝子異常に基づく尿路上皮がん治療薬であり、FGFR遺伝子異常を有する患者の予後の改善が期待されています。<効能・効果>本剤は、がん化学療法後に増悪したFGFR3遺伝子変異または融合遺伝子を有する根治切除不能な尿路上皮がんの適応で、2024年12月27日に製造販売承認を取得しました。<用法・用量>通常、成人にはエルダフィチニブとして1日1回8mgを2週間経口投与し、それ以降は1日1回9mgを経口投与します。なお、患者の状態により適宜減量します。<安全性>重大な副作用として、網膜剥離(12.6%)、角膜障害(5.2%)、高リン血症(78.5%)、重度の爪障害(爪甲剥離症[23.0%]、爪囲炎[11.9%]、爪ジストロフィー[8.1%]など)、手足症候群(30.4%)、急性腎障害(3.0%)があります。その他の副作用は、下痢(54.8%)、口内炎(45.9%)、食欲減退、味覚不全、口内乾燥、脱毛症、皮膚乾燥、爪甲脱落症、ALT増加(いずれも20%以上)、貧血、低ナトリウム血症、ドライアイ、霧視、流涙増加、眼球乾燥症、鼻出血、悪心、便秘、嘔吐、口腔内潰瘍形成、爪変色、爪の障害、疲労、無力症、AST増加、体重減少(いずれも5%以上20%未満)、結膜炎、副甲状腺機能亢進症、高カルシウム血症、視力低下、視力障害、眼瞼炎、白内障、血管石灰化、鼻乾燥、肝細胞融解、高ビリルビン血症、肝機能異常、腹痛、消化不良、発疹、爪線状隆起、湿疹、乾皮症、そう痒症、皮膚亀裂、爪痛、爪破損、皮膚剥脱、皮膚病変、皮膚毒性、過角化、爪の不快感、皮膚萎縮、粘膜乾燥、血中クレアチニン増加(いずれも5%未満)、手掌紅斑、爪床出血(いずれも頻度不明)があります。本剤は、ラットを用いた胚・胎児発生に関する試験において、胚・胎児死亡、着床後胚損失率高値および催奇形性が報告されています。そのため、妊婦または妊娠している可能性のある女性には、治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ投与されます。妊娠可能年齢にある女性には、服用中および服用中止後1ヵ月間は妊娠を避けるよう指導します。また、男性には、服用中および服用中止後1ヵ月間は避妊するよう指導します。<患者さんへの指導例>1.この薬は、遺伝子異常を持つ線維芽細胞増殖因子受容体(FGFR)というタンパク質の働きを阻害することにより、がん細胞の増殖を抑える抗悪性腫瘍薬です。2.がん化学療法後に増悪したFGFR3遺伝子変異または融合遺伝子を有する根治切除不能な尿路上皮がんに用いられます。3.PD-1/PD-L1阻害薬による治療が可能な場合には、これらの治療が優先されます。4.妊婦または妊娠している可能性のある人は、必ず医師または薬剤師に伝えてください。5.視力の低下など目の異常が現れた場合には、ただちに受診してください。<ここがポイント!>尿路上皮がんは、腎盂、尿管、膀胱、尿道などに発生するがんであり、とくに膀胱に多く認められます。根治的切除が不可能、もしくは転移を有する尿路上皮がんの治療は薬物療法が主体となり、化学療法や免疫チェックポイント阻害薬が用いられます。転移を有する尿路上皮がんと診断された患者の約20%は、FGFR遺伝子異常を有しています。エルダフィチニブは、1日1回経口投与されるFGFRチロシンキナーゼ阻害薬であり、尿路上皮がんに対する日本国内で初めてかつ唯一の遺伝子異常に基づく治療薬です。FGFR1~4のキナーゼ活性を阻害し、FGFR3融合遺伝子を有するヒト膀胱がん細胞株(RT-112およびRT-4)に対して増殖抑制作用を示します。PD-1/PD-L1阻害薬を含む治療歴のあるFGFR遺伝子異常を有する根治切除不能な尿路上皮がん患者を対象とした国際共同第III相試験(BLC3001試験コホート1)において、主要評価項目である全生存期間(OS)の中央値は、本剤群で12.06ヵ月(95%信頼区間[CI]:10.28~16.36)、化学療法群で7.79ヵ月(95%CI:6.54~11.07)であり、本剤群でOSが有意に延長し、死亡リスクが36%低下しました(ハザード比:0.64、95%CI:0.47~0.88、p=0.0050、非層別log-rank検定)。

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米国の医療支出に大きな地域差、その要因は?/JAMA

 米国では、3,110の郡の間で医療支出に顕著なばらつきがみられ、支出が最も多い健康状態は2型糖尿病であり、郡全体では支出のばらつきには治療の価格や強度よりも利用率のばらつきの影響が大きいことが、米国・Institute for Health Metrics and EvaluationのJoseph L. Dieleman氏らの調査で示された。研究の成果は、JAMA誌オンライン版2025年2月14日号に掲載された。2010~19年の米国の郡別の観察研究 研究グループは2010~19年の期間に、米国の3,110の郡のそれぞれにおいて、4つの医療費支払元(メディケア、メディケイド、民間保険、自己負担)で、148の健康状態につき38の年齢/性別グループ別に7種の治療の医療支出を推定する目的で、400億件以上の保険請求と約10億件の施設記録を用いて観察研究を行った(Peterson Center on HealthcareとGates Venturesの助成を受けた)。 38の年齢/性別グループは、男女別の19の年齢層(0~<1歳から≧85歳)で、7種の治療とは、外来治療、歯科治療、救急治療、在宅治療、入院治療、介護施設での治療、処方された医薬品の購入であった。主要アウトカムは、2010~19年の医療支出および医療利用状況(たとえば、受診・入院・処方の回数)とした。1人当たりの支出、郡間で最大約1万ドルの差 本研究では、2010~19年における個人医療支出のうち76.6%を捕捉した。これは、人口の97.3%の支出を反映している。医療支出は、2010年の1兆7,000億ドルから2019年には2兆4,000億ドルに増加した。この支出に占める割合は、20歳未満が11.5%で、65歳以上は40.5%であった。 健康状態別の支出は、2型糖尿病が最も高額で、1,439億ドル(95%信頼区間[CI]:1,400億~1,472億)であった。次いで、関節痛や骨粗鬆症を含むその他の筋骨格系疾患が1,086億ドル(1,064億~1,103億)、口腔疾患が930億ドル(927億~933億)、虚血性心疾患が807億ドル(790億~824億)だった。 総支出のうち、外来医療費が42.2%(95%CI:42.2~42.2)、入院医療費が23.8%(23.8~23.8)、処方医薬品購入費が13.7%(13.7~13.7)を占めた。郡レベルの1人当たりの年齢標準化支出は、最も低かったアイダホ州クラーク郡の3,410ドル(95%CI:3,281~3,529)から、最も高かったニューヨーク州ナッソー郡の1万3,332ドル(1万3,177~1万3,489)の範囲にわたっていた。説明のつかない支出ばらつきの調査が、医療施策の立案に役立つ可能性 郡間で最もばらつきが大きかったのは、年齢標準化自己負担額で、次いで民間保険による支出であった。また、郡全体でのばらつきは、治療の価格や強度よりも医療利用率のばらつきによって大きく影響を受けた。 著者は、「このようなばらつきを、健康状態、性別、年齢、治療の種類、支払い元の違いで地域別に理解することが、異常値の特定、成長パターンの追跡、不平等の顕在化、医療能力の評価において重要な考察をもたらす」「最も支出の多い健康状態に焦点を当てて説明のつかない支出のばらつきをさらに調査することが、コストの削減と治療へのアクセスの改善を目的とした保健医療施策の立案に役立つ可能性がある」としている。

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日本人の頭内爆発音症候群の有病率は1.25%で不安・不眠等と関連―忍者睡眠研究

 目覚める直前に、頭の中で爆発音のような音が聞こえることのある頭内爆発音症候群(exploding head syndrome;EHS)の有病率が報告された。EHSが、不安や不眠、疲労感などに影響を及ぼす可能性も示された。滋賀医科大学精神医学講座の角谷寛氏らの研究によるもので、詳細は「Sleep」に1月10日掲載された。 EHSは、睡眠から覚醒に近づいている最中に、頭の中で大きな音が知覚されるという症状で、睡眠障害の一つとして位置付けられている。この症状は通常自然に消失するため良性疾患と考えられているが、EHSを経験した本人は不安を抱き、生活の質(QOL)にも影響が生じる可能性が指摘されている。しかし、EHSには不明点が多く残されており、有病率についても信頼性の高いデータは得られていない。角谷氏らは、日本人のEHS有病率の推定、およびEHSと不安や不眠等との関連について、「Night in Japan Home Sleep Monitoring Study;Ninja Sleep study(忍者睡眠研究)」のデータを用いて検討した。 忍者睡眠研究は、滋賀県甲賀市の市職員2,081人を対象とする睡眠に関する疫学調査で、今回の研究ではデータ欠落者、および、てんかんの既往のある人を除いた1,843人(平均年齢45.9±12.9歳、女性61.7%)を解析対象とした。EHSの有無は、「睡眠障害国際分類 第3版(ICSD-3)」に準拠して作成したアンケートにより判定した。具体的には、(A)覚醒から睡眠への移行時または夜間の覚醒時の、突然の大きな音または頭の中での爆発感覚、(B)その事象の後に覚醒して多くの場合は恐怖感を伴う、(C)激しい痛みは伴わない――という3項目の全てが該当する場合を「EHS」群、(A)のみが該当する場合を「爆発音のみ」群とした。 調査の結果、(A)が該当するのは46人(2.49%)であり、その半数(各23人、1.25%)ずつが、EHS群および爆発音のみ群に分類された。EHS群とその他の群(非EHS群〔爆発音のみ群も含む〕)を比較した場合、年齢、性別の分布、BMI、現喫煙・飲酒習慣、睡眠時間、睡眠薬の服用、睡眠時無呼吸の既往などに有意差はなかった。 続いて、EHSとメンタルヘルス状態やQOLとの関連を検討。するとEHS群は、抑うつや不安、不眠、疲労といった症状が有意に多く認められた。詳しく見ると、抑うつについてはPHQ-9という評価指標が10点以上の割合がEHS群50.0%、非EHS群16.4%、不安についてはGAD-7が10点以上の割合が同様に47.4%、12.7%、不眠はAISが10点以上の割合が33.3%、12.1%、疲労はCFSが22点以上の割合が47.8%、22.0%だった。また、QOLの評価指標のうち、メンタル面のQOLが良好(SF-8MCSが50点以上)な割合は、21.7%、42.2%でEHS群が有意に少なかった。身体面のQOLは有意差がなかった。 年齢、性別、BMI、および睡眠時間の影響を調整した解析でも、EHS群は非EHS群に比べて、抑うつ(オッズ比〔OR〕1.197〔95%信頼区間1.125~1.274〕)、不安(OR1.193〔同1.114~1.277〕)、不眠(OR1.241〔1.136~1.355〕)、疲労(OR1.112〔1.060~1.167〕)が多く認められた。なお、EHS群と爆発音のみ群を合わせて1群として、その他の群と比較した解析の結果も、ほぼ同様だった。 著者らは本研究を、「日本人のEHS有病率に関する初の研究」と位置付けている。一方、調査対象が1自治体の公務員のみであり一般化が制限されること、横断研究であるためEHSとメンタルヘルス状態との関連の因果関係は不明であることなどの限界があるとし、さらなる研究の必要性を指摘している。 なお、本研究で示されたEHSの有病率1.25%という数値は、海外での先行研究に比べてかなり低い値だという。この乖離の理由として、先行研究の多くは睡眠関連疾患の患者を対象としていたりオンライン調査であったりするため、EHS既往者が多く含まれている集団で調査されていた可能性が高いこと、および、本研究のようなICSD-3の定義に準拠した方法ではなく、EHSの有無を一つの質問のみにて判定していることによる精度差などが考えられるとのことだ。

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高齢者のコレステロール値の変動は脳の健康に関与

 コレステロール値が年ごとに急上昇したり急降下したりする高齢者は、認知症や認知機能低下のリスクが高い可能性のあることが、新たな研究で示唆された。モナシュ大学(オーストラリア)のZhen Zhou氏らによる同研究で、コレステロール値の変動幅が最も大きい高齢者では、最も小さい高齢者と比べて認知症のリスクが60%高いことが示されたという。詳細は、「Neurology」に1月29日掲載された。Zhou氏は、「毎年測定したコレステロール値の変動幅は、ある時点で測定されたコレステロール値よりも多くの情報をもたらし、認知症リスクのある人を特定するための新たなバイオマーカーとなり得ることを示唆する研究結果だ」と米国神経学会(AAN)のニュースリリースで述べている。 Zhou氏らは本研究の背景について、中年期の高コレステロール値は、その後の認知機能の低下や認知症のリスク因子であることが示されていると説明する。しかし、コレステロールが高齢者の脳の健康状態に与える影響に関しては、何も影響しないとする研究がある一方で、コレステロール値が低いと認知症リスクが高まる可能性があるとする研究があるなど一貫していないという。 Zhou氏らは今回、研究開始時には認知症やその他の記憶障害がなかったオーストラリアと米国の65歳以上の男女9,846人(年齢中央値73.9歳、女性54.9%)の脳の健康状態を追跡調査した。研究参加者のコレステロール値は、研究開始時に加え、開始から3年後まで年1回の受診時に測定された。また、参加者は記憶力の検査も毎年受けた。開始から3回目の受診後、参加者は、認知症の発症について中央値で5.8年、認知症の前段階を表す概念の一つであるcognitive impairment with no dementia(CIND)について中央値5.4年にわたり追跡された。追跡期間中に認知症発症例が509例、CINDイベント発生が1,760件記録されていた。参加者は、総コレステロール(TC)、LDL-C(悪玉コレステロール)、HDL-C(善玉コレステロール)、トリグリセライドの変動幅に応じて、Q1群からQ4群に分類された。 その結果、研究開始時から最後の測定時までの間のTCの変動幅が最も大きいQ4群では、認知症の発症率が最も高く(1,000人年当たり11.3人)、変動幅が最も小さいQ1群(1,000人年当たり7.1)と比べてリスクが60%増加することが明らかになった(ハザード比1.60、P=0.001)。LDL-C値の変動についても、変動幅が大きい群ほど認知症リスクが高くQ2群、Q3群、Q4群のハザード比はそれぞれ、1.17、1.26、1.48であった(P=0.002)。さらに、CINDについても同様の傾向が認められ、TCとLDL-Cの変動幅が最も大きいQ4群ではCINDリスクが最も高く、Q1群と比べたハザード比はそれぞれ1.23と1.27であった。 ただしZhou氏らは、この研究でコレステロール値の変動と認知症には因果関係があることが証明されたのではなく、あくまでも両者が関連することが示されたに過ぎないと説明している。 Zhou氏らは、コレステロール値の変動が認知症リスクを高める理由として、変動が動脈壁の脂質プラークの組成を変化させることで脳に損傷を与え、脳細胞への血流を妨げたり、脳卒中を引き起こしたりするリスクを高める可能性があるとの推測を示している。また、こうしたコレステロール値の変動は、認知機能の低下を引き起こす真の要因となっている他の慢性疾患の副次的な影響である可能性も考えられるとの見方を示している。 Zhou氏は、「認知機能低下や認知症のリスクがあり、介入の効果を期待できそうな人を特定するため、高齢者のコレステロール値の経時的な変動を監視すべきである。具体的な介入法としては生活習慣の是正やスタチンの使用開始または使用継続に確実につなげることなどが考えられる」と話している。

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抜管前の絶食は不要?【論文から学ぶ看護の新常識】第4回

抜管前の絶食は不要?抜管直前まで絶食をせずに経腸栄養を継続しても抜管失敗に影響がないことが示された。Mickael Landais氏らの研究で、Lancet Respiratory Medicine誌の 2023年4月号に掲載された。集中治療室の患者における抜管前の絶食と比較した抜管直前までの経腸栄養の継続:非盲検、クラスターランダム化、並行群間、非劣性試験研究グループは、集中治療室(ICU)の患者を対象に、挿管抜管前の絶食と比較して、経腸栄養を継続した場合に抜管失敗率が変わらないかを評価するための非盲検、クラスターランダム化、並行群間比較試験を実施した。フランス国内のICU22施設を対象とし、施設単位で、経腸栄養継続群(抜管直前まで経腸栄養を継続)と、絶食群(抜管前6時間の絶食および胃内容物の持続吸引を行う)に、1:1の割合で無作為に割り付けた。対象患者は、(1)ICU入室後48時間以上の侵襲的人工呼吸管理を受けている、(2)抜管決定時点で24時間以上幽門前経腸栄養を受けている18歳以上の患者とした。主要評価項目は、抜管後7日以内の再挿管または死亡からなる複合指標(抜管失敗)とし、Intention to treat(ITT)解析およびPer protocol解析の双方で評価し、非劣性マージンは10%に設定した。副次評価項目として抜管後14日以内の肺炎発症率を含めた。結果は以下の通り。ITT解析(1,130例)では、経腸栄養継続群の617例中106例(17.2%)で抜管失敗が発生した。一方、絶食群では、513例中90例(17.5%)で抜管失敗が発生し、事前に定義された非劣性基準を満たした(絶対差異:-0.4%、95%信頼区間[CI]:-5.2~4.5)。Per protocol解析(1,008例)では、経腸栄養継続群の595例中101例(17.0%)で抜管失敗が発生したのに対し、絶食群では、413例中74例(17.9%)であった(絶対差異:-0.9%、95%CI:-5.6~3.7)。抜管後14日以内の肺炎発生数は、経腸栄養継続群で10例(1.6%)、絶食群で13例(2.5%)であった(発生率比0.77、95%CI:0.22~2.69)。ICUの重症患者において、抜管までの経腸栄養の継続は、6時間の絶食と胃内容物の持続吸引を併用した方法と比較して、抜管後7日以内の抜管失敗率に関して非劣性であることが示された。このため、ICU重症患者において、抜管直前までの経管栄養の継続が、絶食に代わる選択肢のひとつとなる可能性を示唆している。挿管チューブの抜管前には誤嚥を予防する目的で絶食を習慣的に行っている施設が多いと思いますが、患者の栄養不足や医療者の作業負担の増加という課題も指摘されています。今回の研究では、「抜管前まで経腸栄養を続ける群」と「6時間の絶食と胃内容物持続吸引を行う群」の2群をクラスターランダム化比較試験(RCT)という方法で比較しています。日本では朝食分を抜いて午前中抜管しても、12時間近く絶食のため、6時間の絶食という方法でも、絶食時間は短い印象です。本研究は「非劣性」を評価していますが、これは新しい介入が従来法より明らかに劣っていないかを統計的に確かめる枠組みです。抜管後7日以内の再挿管や死亡を「抜管失敗」と定義し、その発生率があらかじめ設定した許容範囲(非劣性マージン)を超えないかどうかを調べました。その結果、経腸栄養継続群での抜管失敗率は従来の絶食群とほぼ同等で、事前設定した範囲を超える悪化はみられませんでした。14日以内の肺炎発症率も大きな差はなく、リスク面での不利益が示されなかったことは臨床にとって重要です。以上から、抜管前の絶食が当然とされてきた現場において、今後患者さんの栄養を損なわずに抜管を行う新しい選択肢となる可能性があります。とくに長期間挿管されていた患者さんの場合、1食抜くだけでも筋肉量の低下につながる可能性があります。また、できるだけ患者さんが3食摂取できることは、QOLの向上や、人道的な観点からも重要であると考えます。ぜひ臨床現場での活用を検討してください。論文はこちらLandais M, et al. Lancet Respir Med. 2023;11(4): 319-328.

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睡眠時無呼吸症候群の鑑別で見落としがちな症状とは?

 帝人ファーマは「家族となおそう睡眠時無呼吸」と題し、1月27日にメディア発表会を行った。今回、内村 直尚氏(久留米大学 学長)が「睡眠時無呼吸症候群とそのリスク」について、平井 啓氏(大阪大学大学院人間科学研究科/Cobe-Tech株式会社)が「睡眠医療のための行動経済学」について解説した。睡眠時無呼吸症候群の現状 まず、内村氏は睡眠障害について、国際分類第3版に基づく診断分類を示した。・不眠症 ・睡眠関連呼吸症候群 ・中枢性過眠症 ・概日リズム睡眠覚醒症候群 ・睡眠時随伴症群 ・睡眠時運動障害群 ・その他の睡眠障害 ・身体疾患及び神経疾患に関する睡眠障害 このなかの睡眠関連呼吸症候群に該当する睡眠時無呼吸症候群(Sleep Apnea Syndrome:SAS)は、無呼吸が一晩(7時間の睡眠中)に30回以上、または睡眠1時間あたりに無呼吸および低呼吸が5回以上起こる状態を指す。国内の潜在患者数は940万人以上で、30~60代の約7人に1人が該当するというが、CPAP(Continuous Positive Airway Pressure)治療を受けている患者数は約73万人と、潜在患者の10%に満たないと言われている。 治療法の第一は生活習慣の是正(睡眠時の体位の工夫、禁煙、禁酒)や減量であるが、日中の眠気などの臨床症状が強い中~重症例に用いるCPAPをはじめ、無呼吸低呼吸指数(AHI)による重症度分類や併存疾患に応じたさまざまな方法がある。現在国内で保険適用となっているのは、OA(口腔内装置)療法(CPAP治療の適応とならない軽~中等症)、口蓋垂軟口蓋咽頭形成術(CPAP、OAいずれも使用できない症例)に加え、舌下神経電気刺激療法がある。医師が押さえておきたい患者像 続いて、SAS患者の主な特徴としては、喫煙者、寝酒の習慣化、肥満傾向、そして高血圧症や糖尿病、脂質異常症などの既往歴を有することなどが挙げられるが、痩せている女性でも疾患リスクを有している点には注意が必要である。その理由について同氏は、「SASの発症は顔などの形態的特徴が強く関わっているため、頸が短い・太い、頸の周囲に脂肪が付いている、下顎が小さい、下顎が後方に引っ込んでいる、歯並びが悪い、舌や下の付け根が大きい患者では夜間の血中酸素濃度が低下しやすいため」と指摘。患者自身ができるセルフチェックについても触れ、「鏡の前で大きく口を開けて舌を下に出した時、口蓋垂が見えていない場合には、形態的に上気道が狭い可能性がある」と解説した。さらに同氏はSASによる疾患発症リスクについても言及し、「睡眠の障害はもちろん、血中酸素濃度の低下がさまざまな疾患リスクの引き金となる。たとえば、高血圧症の発症リスクは1.42~2.89 倍1)、脳卒中においては1.75~3.3倍2)にもなる。また、CPAPを装着することで、致死的心血管イベントの累積発生率3)がとくに重症OSA群で抑制される」と述べ、「起床時の頭痛、薬物治療を行っても改善されない夜間高血圧症例の場合にもSASの可能性4)があることから、そのような症状を有する患者には検査を勧めてほしい」ともコメントした。患者・家族と医療者がすれ違う理由と5つのバイアス 続いて平井氏が行動経済学の側面から解説した。同氏は患者と医療者では「見えている世界や景色が違う」とし、「慢性疾患は患者にとって、森の中を抜けていくような感覚だが、家族や医療者は俯瞰的に森全体を捉え、将来リスク、出口がどこにあるのかが見えている。患者は主観的な世界観を、家族や医療者は合理的な世界観を持っている」と説明した。また、行動経済学的に人の意思決定は常に合理的であるわけではなく、バイアスが生じることがあり、「通常、人間の考え方は損失回避的であり、それが自然な反応であることを医療者も理解が必要」ともコメントした。<5つのバイアス>・現在バイアス:将来の利益よりも、現在の利益を優先してしまう・利用可能性バイアス:意思決定において身近で目立つ情報を優先して用いてしまう・現状維持バイアス:自分の慣れた方法を変えることに大きな抵抗を感じる・正常性バイアス:自分は大丈夫だと思う・確証バイアス:自分にとって都合のよい情報を集める さらに、患者と医療者のすれ違い解消法として、フレーミング効果*やリバタリアン・パターナリズム**の活用を推奨し、今回のセミナーにゲスト出演した北斗 晶さんと佐々木 健介さん夫妻が、それぞれの睡眠時の状況を説明するために二人で一緒に病院を受診した点について、「コミットメントとナッジの視点から非常に有用である」と同氏は評価した。*同じ現象のポジティブな側面とネガティブな側面のどちらに焦点を当てるかで意思決定が変化すること。**「選択の自由」を尊重しつつも、望ましい行動を自然に選びやすくする環境や仕組みを提供する考え方。ナッジとは行動を始めやすくし、選択のしやすさや選択肢を提供すること。一方のコミットメントは行動を継続させ、実行を確実にする。 なお、帝人ファーマはいびきや睡眠時無呼吸症候群(SAS)に悩む方のためのポータルサイト「睡眠時無呼吸なおそう.com」5)を運営しており、これを利用することで、セルフチェックや専門の医療機関を検索することが可能である。■参考文献1)Peppard PE, et al. N Engl J Med. 2000;342:1378-1384.2)Good DC, et al. Stroke. 1996;27:252-259.3)Marin JM, et al. Lancet. 2005;365:1046-1053.4)日本循環器学会編:2023年改訂版循環器領域における睡眠呼吸障害の診断・治療に関するガイドライン5)帝人ファーマ:睡眠時無呼吸なおそう.com日本呼吸器学会:睡眠時無呼吸症候群(SAS)の診療ガイドライン2020大竹文雄ほか. 医療現場の行動経済学. 2024. 東洋経済新報社

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「1社流通の医薬品」は患者に迷惑をかける?【早耳うさこの薬局がざわつくニュース】第146回

日本保険薬局協会(NPhA)が、薬局における医薬品流通の現状について2024年11~12月に調査を行い、その結果を1月23日に発表しました。回答した薬局はNPhA所属の4,551薬局で、300薬局以上のいわゆるチェーン薬局が87%を占めています。医薬品の流通が滞っていて、薬局で医薬品が不足していて、それがまだ続いている…ということはもう誰がどう見ても明らかなので、今回はこの調査で新たに明らかになった3点について紹介します。卸が限定されている医薬品の流通についてまずは、いわゆる1社流通の医薬品についてです。1社流通の医薬品を取り扱ったことがあるのは、わからないと回答した薬局を除いた3,495薬局のうち2,550薬局で、73%にも上りました。そのうち、1社流通であるために患者さんに迷惑をかけたことがある薬局は65%でした。フリーコメントでは、代替発注先がなく、納品遅延・欠品で患者さんの薬物治療に支障が出たという事例が多く寄せられています。また、1社流通の医薬品を扱っている薬局において、なぜ1社流通なのか? という説明をきちんと受けた薬局は7%であり、ほとんどの薬局はその理由を説明されていないことがわかりました。ちなみに、その理由の多くは「対象患者が限定的」「特殊な流通・保管が必要」「高薬価」「トレーサビリティ管理が必要」などでした。休日の卸の配送について次に、休日の対応についてです。土曜・日曜・祝日のいずれかに営業している薬局は70%でした。土曜日の定期配送に対応してくれる卸がいないと回答したのが58%、日曜日の定期配送に対応してくれる卸がいないと回答したのが64%で、薬局と卸の営業日のギャップがあるようです。ただし、この回答は都道府県によってばらつきが大きいこともわかりました。後発品から先発品への変更の事務連絡について後発品から先発品への変更調剤を可能とする「変更調剤の取扱いについて」の事務連絡(2024年3月15日発出)については、85%の薬局がメリットがあると感じたと回答しました。本事務連絡は期間限定ではありますが、これが恒常的に認められた場合には、待ち時間の削減や疑義照会に係る負担軽減、患者さんの継続服用が可能になるなどの、薬局だけでなく患者さんのメリットも大いにあるという意見が多く出されました。いまさら、どこも医薬品が不足していて供給が不安定とわかった…なんていう報告は、もう聞き飽きていて目新しくもなんでもありません。その点では、NPhAは会員薬局の課題にきちんとフォーカスした調査を行っていると感じました。自分たちが困っている事実をきちんと数字をもって公表・主張するというのはとても大事なことです。今回明らかになった課題を解決するような施策が提案・採用されるには要望書を提出するなどのロビー活動が必要かと思いますが、こういった活動はぜひ続けてほしいです。あまり話題になっていないのが残念ではありますが、厚生労働省などもきちんと目を向けてくれるといいなと思います。

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妊娠可能年齢の女性と妊婦を守るワクチン 後編【今、知っておきたいワクチンの話】総論 第8回

本稿では「妊娠可能年齢の女性と妊婦を守るワクチン」について取り上げる。これらのワクチンは、女性だけが関与するものではなく、その家族を含め、「彼女たちの周りにいる、すべての人たち」にとって重要なワクチンである。なぜなら、妊婦は生ワクチンを接種することができない。そのため、生ワクチンで予防ができる感染症に対する免疫がない場合は、その周りの人たちが免疫を持つことで、妊婦を守る必要があるからである。そして、「胎児」もまた、母体とその周りの人によって守られる存在である。つまり、妊娠可能年齢の女性と妊婦を守るワクチンは、胎児を守るワクチンでもある。VPDs(Vaccine Preventable Diseases:ワクチンで予防ができる病気)は、禁忌がない限り、すべての人にとって接種が望ましいが、今回はとくに妊娠可能年齢の女性と母体を守るという視点で、VPDおよびワクチンについて述べる。今回は、ワクチンで予防できる疾患、生ワクチンの概要の前編に引き続き、不活化ワクチンなどの概要、接種スケジュール、接種で役立つポイントなどを説明する。ワクチンの概要(効果・副反応・不活化・定期または任意・接種方法)妊婦に生ワクチンの接種は禁忌である。そのため妊娠可能年齢の女性には、事前に計画的なワクチン接種が必要となる。しかし、妊娠は予期せず突然やってくることもある。そのため、日常診療やライフステージの変わり目などの機会を利用して、予防接種が必要なVPDについての確認が重要となる。そこで、以下にインフルエンザ、百日咳、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)、RSウイルス(生ワクチン以外)の生ワクチン以外のワクチンの概要を述べる。これら生ワクチン以外のワクチン(不活化ワクチン、mRNAワクチンなど)は妊娠中に接種することができる。ただし、添付文書上、妊娠中の接種は有益性投与(予防接種上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ接種が認められていること)と記載されているワクチンもあり注意が必要である。いずれも妊娠中に接種することで、病原体に対する中和抗体が母体の胎盤を通じて胎児へ移行し、出生児を守る効果がある。つまり、妊婦のワクチン接種が母体と出生児の双方へ有益ということになる。(1)インフルエンザ妊婦はインフルエンザの重症化リスク群である。妊婦がインフルエンザに罹患すると、非妊婦に比し入院率が高く、自然流産や早産だけでなく、低出生体重児や胎児死亡の割合が増加する。そのため、インフルエンザ流行期に妊娠中の場合は、妊娠週数に限らず不活化ワクチンによるワクチン接種を推奨する1)。また、妊婦のインフルエンザワクチン接種により、出生児のインフルエンザ罹患率を低減させる効果があることがわかっている。生後6ヵ月未満はインフルエンザワクチンの接種対象外であるが、妊婦がワクチン接種することで、胎盤経由の移行抗体による免疫効果が証明されている1,2)。接種の時期はいつでも問題ないため、インフルエンザ流行期の妊婦には妊娠週数に限らず接種を推奨する。妊娠初期はワクチン接種の有無によらず、自然流産などが起きやすい時期のため、心配な方は妊娠14週以降の接種を検討することも可能である。流行時期や妊娠週数との兼ね合いもあるため、接種時期についてはかかりつけ医と相談することを推奨する。なお、チメロサール含有ワクチンで過去には自閉症との関連性が話題となったが、問題がないことがわかっており、胎児への影響はない2)。そのほか2024年に承認された生ワクチン(経鼻弱毒生インフルエンザワクチン:フルミスト点鼻薬)は妊婦には接種は禁忌である3)。また、経鼻弱毒生インフルエンザワクチンは、飛沫または接触によりワクチンウイルスの水平伝播の可能性があるため、授乳婦には不活化インフルエンザHAワクチンの使用を推奨する4)。(2)百日咳ワクチン百日咳は、成人では致死的となることはまれだが、乳児(とくに生後6ヵ月未満の早期乳児)が感染した場合、呼吸不全を来し、時に命にかかわることがある。一方、百日咳含有ワクチンは生後2ヵ月からしか接種できないため、この間の乳児の感染を予防するために、米国を代表とする諸外国では、妊娠後期の妊婦に対して百日咳含有ワクチン(海外では三種混合ワクチンのTdap[ティーダップ]が代表的)の接種を推奨している5,6)。百日咳ワクチンを接種しても、その効果は数年で低下することから、アメリカ疾病予防管理センター(CDC)は2回目以降の妊娠でも、前回の接種時期にかかわらず妊娠する度に接種することを推奨している。百日咳は2018年から全数調査報告対象疾患となっている。百日咳感染者数は、コロナ禍前の2019年は約1万6千例ほどであったが、コロナ禍以降の2021~22年は、500~700例前後と減っていた。しかし、2023年は966例、2024年(第51週までの報告7))は3,869例と徐々に増加傾向を示している。また、感染者の約半数は、4回の百日咳含有ワクチンの接種歴があり、全感染者のうち6ヵ月~15歳未満の小児が62%を占めている8)。さらに、重症化リスクが高い6ヵ月未満の早期乳児患者(計20例)の感染源は、同胞が最も多く7例(35%)、次いで母親3例(15%)、父親2例(10%)であった9)。このように、百日咳は、小児の感染例が多く、かつ、ワクチン接種歴があっても感染する可能性があることから、感染源となりうる両親のみならず、その兄弟や同居の祖父母にも予防措置としてワクチン接種が検討される。わが国で、小児や成人に対して接種可能な百日咳含有ワクチンは、トリビック(沈降精製百日咳ジフテリア破傷風混合ワクチン)である。本ワクチンは、添付文書上、有益性投与である(妊婦に対しては、予防接種上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ接種が認められている)10)が、上記の理由から、丁寧な説明と同意があれば、接種する意義はあるといえる。(3)RSウイルスワクチン2024年より使用可能となったRSウイルスワクチン(組み換えRSウイルスワクチン 商品名:アブリスボ筋注用)11)は、新生児を含む乳児におけるRSウイルス感染症予防を目的とした妊婦対象のワクチンである(同時期に承認販売開始となった高齢者対象のRSウイルスワクチン[同:アレックスビー筋注用]は、妊婦は対象外)。アブリスボを妊娠中に接種すると、母体からの移行抗体により、出生後の乳児のRSウイルスによる下気道感染を予防する。そのため接種時期は妊娠28~36週が最も効果が高いとされている12)(米国では妊娠32~36週)。また、本ワクチン接種後2週間以内に児が出生した場合は、抗体移行が不十分と考えられ、モノクローナル抗体製剤パリミズマブ(同:シナジス)とニルセビマブ(同:ベイフォータス)の接種の必要性を検討する必要があるため、妊婦へ接種した日時は母子手帳に明記することが大切である13)。乳児に対する重度RSウイルス関連下気道感染症の予防効果は、生後90日以内の乳児では81.8%、生後180日以内では69.4%の有効性が認められている14)。これまで、乳児のRSウイルス感染の予防には、重症化リスクの児が対象となるモノクローナル抗体製剤が利用されていたが、RSウイルス感染症による入院の約9割が、基礎疾患がない児という報告もあり15)、モノクローナル抗体製剤が対象外の児に対しても予防が可能となったという点において意義があるといえる。一方で、長期的な効果は不明であり、わが国で接種を受けた妊婦の安全性モニタリングが不可欠な点や、他のワクチンに比し高額であることから、十分な説明と同意の上での接種が重要である。(4)COVID-19ワクチンこれまでの国内外の多数の研究結果から、妊婦に対するCOVID-19ワクチン接種の安全性は問題ないことがわかっており16,17)、前述の3つの不活化ワクチンと同様に、妊婦に対する接種により胎盤を介した移行抗体により出生後の乳児が守られる。逆にCOVID-19に感染した乳児の多くは、ワクチン未接種の妊婦から産まれている17)。妊婦がCOVID-19に罹患した場合、先天性障害や新生児死亡のリスクが高いとする報告はないが、妊娠中後期の感染では早産リスクやNICU入室率が高い可能性が示唆されている17)。また、酸素需要を要する中等症~重症例の全例がワクチン未接種の妊婦であったというわが国の調査結果もある17)。妊婦のCOVID-19重症化に関連する因子として、妊娠後期、妊婦の年齢(35歳以上)、肥満(診断時点でのBMI30以上)、喫煙者、基礎疾患(高血圧、糖尿病、喘息など)のある者が挙げられており、これらのリスク因子を持つ場合は産科主治医との相談が望ましい。一方で、COVID-19ワクチンはパンデミックを脱したことや、インフルエンザウイルス感染症のように、定期的流行が見込まれることから、2024年度から第5類感染症に変更され、ワクチンも定期接種化された。よって、定期接種対象者である高齢者以外は、妊婦や、基礎疾患のある小児・成人に対しても1回1万5千円~2万円台の高額なワクチンとなった。接種意義に加え、妊婦の基礎疾患や背景情報などを踏まえた総合的・包括的な相談が望ましい。また、COVID-19ワクチンについては、いまだにフェイクニュースに惑わされることも多く、医療者が正確な情報源を提供することが肝要である。接種のスケジュール(小児/成人)妊婦と授乳婦に対するワクチン接種の可否について改めて復習する。ワクチン接種が禁忌となるのは、妊婦に対する生ワクチンのみ(例外あり)であり、それ以外のワクチン接種は、妊婦・授乳婦も含めて禁忌はない(表)。表 非妊婦/妊婦・授乳婦と不活化/生ワクチンの接種可否についてただし、ワクチンを含めた薬剤投与がなくても流産の自然発生率は約15%(母体の年齢上昇により発生率は増加)、先天異常は2~3%と推定されており、臨界期(主要臓器が形成される催奇形性の感受性が最も高い時期)である妊娠4~7週は催奇形性の高い時期である。たとえば、ワクチン接種が原因でなくても後から胎児や妊娠経過に問題があった場合、実際はそうでなくても、あのときのあのワクチンが原因だったかも、と疑われることがあり得る。原因かどうかの証明は非常に困難であるため、妊娠中の薬剤投与と同様に、医療従事者はそのワクチン接種の必要性や緊急性についてしっかり患者と話し、接種する時期や意義について理解してもらえるよう努力すべきである。※その他注意事項生ワクチンの接種後、1~2ヵ月の避妊を推奨する。その一方で、仮に生ワクチン接種後1~2ヵ月以内に妊娠が確認されても、胎児に健康問題が生じた事例はなく、中絶する必要はないことも併せて説明する。日常診療で役立つ接種ポイント1)妊娠可能年齢女性とその周囲の家族について妊孕性(妊娠する可能性)が高い年代は10~20代といわれているが、妊娠可能年齢とは、月経開始から閉経までの平均10代前半~50歳前後を指す。妊娠可能年齢の幅は非常に広いことを再認識することが大切である。また、妊婦や妊娠可能年齢の女性を守るためには、その周囲にいるパートナーや同居する家族のことも考慮する必要があり、その年齢層もまちまちである(同居する祖父母や親戚、兄弟など)。患者の家族構成や背景について、かかりつけ医として把握しておくことは、ワクチンプラクティスにおいて、非常に重要であることを強調したい。2)接種を推奨するタイミング筆者は下記のタイミングでルーチンワクチン(すべての人が免疫を持っておくと良いワクチン)について確認するようにしている。(1)何かしらのワクチン接種で受診時(とくに中高生のHPVワクチン、インフルエンザワクチンなど)(2)定期通院中の患者さんのヘルスメンテナンスとして(3)患者さんのライフステージが変わるタイミング(進学・就職/転職・結婚など)今後の課題・展望妊娠可能年齢の年代は受療行動が比較的低く、基礎疾患がない限りワクチン接種を推奨する機会が限られている。また、妊娠が成立すると、基礎疾患がない限り産科医のみのフォローとなるため、妊娠中に接種が推奨されるワクチンについての情報提供は産科医が頼りとなる。産科医や関連する医療従事者への啓発、学校などでの教育内容への組み込み、成人式などの節目のときに情報提供など、医療現場以外での啓発も重要であると考える。加えて、フェイクニュースやデマ情報が拡散されやすい世の中であり、妊婦や妊娠を考えている女性にとっても重大な誤解を招くリスクとなりうる。医療者が正しい情報源と情報を伝える重要性が高いため、信頼できる情報源の提示を心掛けたい。参考となるサイト(公的助成情報、主要研究グループ、参考となるサイト)妊娠可能年齢の女性と妊婦のワクチン(こどもとおとなのワクチンサイト)妊娠に向けて知っておきたいワクチンのこと(日本産婦人科感染症学会)Pregnancy and Vaccination(CDC)参考文献・参考サイト1)Influenza in Pregnancy. Vol. 143, No.2, Nov 2023. ACOG2)産婦人科診療ガイドライン 産科編 2023. 日本産婦人科学会/日本産婦人科医会. 2023:59-62.3)経鼻弱毒生インフルエンザワクチン フルミスト点鼻液 添付文書4)経鼻弱毒生インフルエンザワクチンの使用に関する考え方. 日本小児科学会予防接種・感染症対策委員会(2024年9月2日)5)Tdap vaccine for pregnant women CDC 6)海外の妊婦への百日咳含有ワクチン接種に関する情報(IASR Vol.40 p14-15:2019年1月号)7)感染症発生動向調査(IDWR) 感染症週報 2024年第51週(12月16日~12月22日):通巻第26巻第51号8)2023年第1週から第52週(*)までに 感染症サーベイランスシステムに報告された 百日咳患者のまとめ 国立感染症研究所 実地疫学研究センター 同感染症疫学センター 同細菌第二部 9)全数報告サーベイランスによる国内の百日咳報告患者の疫学(更新情報)2023年疫学週第1週~52週 2025年1月9日10)トリビック添付文書11)医薬品医療機器総合機構. アブリスボ筋注用添付文書(2025年1月9日アクセス)12)Kampmann B, et al. N Engl J Med. 2023;388:1451-1464.13)日本小児科学会予防接種・感染症対策委員会. 日本におけるニルセビマブの使用に関するコンセンサスガイドライン Q&A(第2版)(2024年9月2日改訂)14)Kobayashi Y, et al. Pediatr Int. 2022;64:e14957.15)妊娠・授乳中の新型コロナウイルス感染症ワクチンの接種について 国立感染症成育医療センター16)COVID-19 Vaccination for Women Who Are Pregnant or Breastfeeding(CDC)17)山口ら. 日本におけるCOVID-19妊婦の現状~妊婦レジストリの解析結果(2023年1月17日付報告)講師紹介

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急性期病院におけるBPSDの有病率〜メタ解析

 認知症の行動・心理症状(BPSD)は、急性期病院における治療を複雑にする可能性があり、このようなケースにおけるBPSDに関するエビデンスは多様である。タイ・Prince of Songkla UniversityのKanthee Anantapong氏らは、急性期病院におけるBPSDの有病率を特定し、関連するリスク因子、治療法、アウトカムを評価した。Age and Ageing誌2025年1月6日号の報告。 2024年 3月5日までに公表された急性期病院入院中の認知症高齢者におけるBPSDの有病率に関する研究をCochrane Library、MEDLINE、PsycINFOより検索し、システマティックレビューおよびメタ解析を実施した。研究のスクリーニング、選択、データ抽出には、独立した二重レビュープロセスを用いた。12項目のBPSDに関するデータは、Neuropsychiatric Inventory Questionnaire(NPI)およびアルツハイマー病行動病理学尺度(BEHAVE-AD)に基づき抽出した。リスク因子、治療、アウトカムをレビューした。メタ解析を用いて、結果を統合した。 主な結果は以下のとおり。・1万5,101件中30件(23研究)を分析に含めた。・ほとんどの研究の品質は、中程度(12件)〜低(17件)であった。・メタ解析では、急性期病院入院中の認知症高齢者における全体的なBPSDのプールされた有病率(BPSD症状が1つ以上)は60%(95%信頼区間:43〜78)であった(11研究)。・サブグループ解析では、評価ツールに基づくBPSDの有病率のばらつきが示唆された(BEHAVE-AD:85%、NPI:74%、その他:40%)。・一般的なBPSD症状として、攻撃性/興奮(39%)、睡眠障害(38%)、摂食障害(36%)、易怒性(32%)がみられた。・BPSDは、せん妄、痛み、不快な介入、向精神薬使用、介護者のストレスの増加との関連が認められた。・患者とスタッフのやり取りが不十分で、退院計画が断片化しているため、緊急入院や再入院の発生率が高かった。 著者らは「急性期病院でのBPSDマネジメントのためのカスタマイズされたアプローチの実施、スタッフトレーニングの強化、介護者とのコミュニケーション改善、統合された退院計画の策定が、現在の医療システムに求められる」と結論付けている。

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肥満者の鎮静下内視鏡検査、高流量鼻カニューレ酸素投与で低酸素症が減少/BMJ

 肥満患者への鎮静下消化管内視鏡検査中に、高流量鼻カニューレ(HFNC)を介し酸素投与を行うことで、他の有害事象が増加することなく、低酸素症、無症候性呼吸抑制、および重度低酸素症の発生率が有意に減少した。中国・上海交通大学のLeilei Wang氏らが、上海の大学病院3施設で実施した無作為化並行群間比較試験の結果を報告した。HFNCによる酸素投与は、正常体重患者における鎮静下消化管内視鏡検査中の低酸素症の発生率を減少させるが、肥満患者におけるHFNCを介した酸素投与に関する見解には議論の余地があった。BMJ誌2025年2月11日号掲載の報告。通常の鼻カニューレ群とHFNC群に無作為化 研究グループは、肥満(BMI≧28)および米国麻酔学会(ASA)クラスI~IIで、鎮静下消化管内視鏡検査を受ける予定の18~70歳の患者を、通常の鼻カニューレ群とHFNC群に1対1の割合で無作為に割り付け、プロポフォールと低用量sufentanilによる鎮静処置中にそれぞれ酸素投与を行った。 主要アウトカムは、処置中の低酸素症(75%≦SpO2<90%・<60秒)の発生率とした。副次評価項目は、処置中の無症候性呼吸抑制(90%≦SpO2<95%・すべての時間)、重度低酸素症(SpO2<75%・すべての時間、または75%≦SPO2<90%・>60秒)、およびその他の有害事象とした。鎮静下内視鏡検査中の低酸素症の発生率は、21.2%vs.2.0% 2021年5月6日~2023年5月26日に1,000例が登録され、無作為化された。このうち、同意撤回などを除く984例(平均年齢49.2歳、女性36.9%[363例])が試験を終了し、最大解析対象集団(FAS)として包含された。 鼻カニューレ群と比較してHFNC群で、低酸素症の発生が有意に減少した。低酸素症の発生率はHFNC群2.0%(10/497例)、鼻カニューレ群21.2%(103/487例)であった(群間差:-19.14、95%信頼区間[CI]:-23.09~-15.36、p<0.001)。 無症候性呼吸抑制はHFNC群5.6%(28/497例)、鼻カニューレ群36.3%(177/487例)であり(群間差:-30.71、95%CI:-35.40~-25.92、p<0.001)、重度低酸素症はそれぞれ0%(0/497例)、4.1%(20/487例)であった(-4.11、-6.26~-2.48、p<0.001)。 その他の鎮静関連の有害事象は、両群間で差は認められなかった。

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妊娠可能年齢の女性と妊婦を守るワクチン 前編【今、知っておきたいワクチンの話】総論 第7回

本稿では「妊娠可能年齢の女性と妊婦を守るワクチン」について取り上げる。これらのワクチンは、女性だけが関与するものではなく、その家族を含め、「彼女たちの周りにいる、すべての人たち」にとって重要なワクチンである。なぜなら、妊婦は生ワクチンを接種することができない。そのため、生ワクチンで予防ができる感染症に対する免疫がない場合は、その周りの人たちが免疫を持つことで、妊婦を守る必要があるからである。そして、「胎児」もまた、母体とその周りの人によって守られる存在である。つまり、妊娠可能年齢の女性と妊婦を守るワクチンは、胎児を守るワクチンでもある。VPDs(Vaccine Preventable Diseases:ワクチンで予防ができる病気)は、禁忌がない限り、すべての人にとって接種が望ましいが、今回はとくに妊娠可能年齢の女性と母体を守るという視点で、VPDおよびワクチンについて述べる。ワクチンで予防できる疾患(疾患について・疫学)妊娠可能年齢・妊婦にとってワクチン接種が重要な理由は下記3つである。(1)妊婦がVPDに感染すると、重症化しやすい感染症がある。また、胎児に感染すると胎児に健康問題が生じ、最悪の場合、流産/早産を含め、胎児の生命に関わることがある。(2)一方で、あらかじめワクチンで予防できていれば、高確率でVPDによる上記の事態を免れる。(3)しかし、妊婦は生ワクチンを接種できないため、「妊娠前」に(計画的な)接種が必要である。上記の理由以外に、妊婦が免疫をつけておくと新生児のVPD感染や、それによる重症化を予防することにもつながるVPDもある。つまり、女性1人のワクチン接種の有無が、その女性(妊婦)以外に、胎児、産後の新生児の健康問題にまで関りうるという点において、本稿の重要性は高い。妊娠前に免疫をつけておくべきVPDを表に示す。表 感染症に罹患した場合の胎児および母体への影響画像を拡大する上記以外のあらゆる感染症でも、流早産のリスクが伴うどのワクチンも世界的に安全性と有効性が確かめられているワクチンの概要(効果・副反応・生または任意・接種方法)妊婦に生ワクチンの接種は禁忌である。そのため妊娠可能年齢の女性には、事前に計画的なワクチン接種が必要となる。しかし、妊娠は予期せず突然やってくることもある。そのため、日常診療やライフステージの変わり目などの機会を利用して、予防接種が必要なVPDについての確認が重要となる。一方、不活化ワクチンは妊娠中でも接種が可能である(詳細は後編で詳述する)。以下に生ワクチン(麻疹、風疹、水痘、ムンプス)について説明する。1)麻疹、風疹、水痘、ムンプス(生ワクチン)これら4つの生ワクチンはしばしばMMRV(Measles Mumps Rubella Varicella)と略して表現されることが多い、重要性の高いVPDである。MMRVそれぞれのワクチンについての共通点としては、1歳以上でそれぞれ計2回の接種を受けていることが必要であることが挙げられる。また、感染症としても基本再生産数(R0)*1が高く、麻疹・水痘は空気感染するなど、その感染性の高さも共通項といえる(R0:麻疹12-18、風疹6-7、水痘8-10、ムンプス4-7)。いずれも子供の感染症であるという印象を持つ医師も少なくないかもしれないが、現代においては、小児は定期接種で予防されている割合が格段に増えた。そして、幼少期に定期接種になっていなかったがために、ワクチンを接種する機会がなく、かつ、感染機会もないまま、キャッチアップの機会に恵まれなかった、「置いてけぼりの成人」が主に罹患する感染症であると心得たい。*1基本再生産数(R0:アールノート)集団にいるすべての人間が感染症に罹る可能性をもった(感受性を有した)状態で、1人の感染者が何人に感染させうるか、感染力の強さを表す。つまり、数が大きいほど感染力が強い。それぞれの疾患やワクチンの詳細については、本コンテンツのバックナンバーを参照していただきたい。MRワクチン(麻疹・風疹)水痘、帯状疱疹ワクチン流行性耳下腺炎(ムンプス)妊婦に関連する内容を下記に述べる。(1)麻疹麻疹は先進国でも死亡率0.1%の重症感染症である。また、命をとり止めたとしても、呼吸器(肺炎、中耳炎など)や消化器(下痢、口内炎)の合併症が多い。頻度は少ないが神経系合併症は予後不良で、感染してから数週間、数年、数十年後に発症するものもある。胎児が麻疹に感染しても奇形などを来すことはないが、妊婦が感染することで、妊婦の重症化やそれに伴う流・早産のリスクが伴う。わが国での麻疹発生数は、コロナ禍はその感染対策の影響で年間10例以下であったが、いわゆる「コロナ明け」に伴いその数は徐々に増加傾向にある。世界全体では継続的に毎年12~15万人の死者が出ている。麻疹感染の発端はそのほとんどが輸入麻疹(海外から持ち込まれた麻疹のこと:日本人が渡航先で感染して帰国するパターンや、麻疹に感染した海外の人がわが国で発症するパターンなどが代表例)である。インバウンド(海外からの旅行客)が確実に回復し、増加傾向である以上、再度感染者数が増えるのは想像に難くない(図)。図 麻疹累積報告数の推移 2017~2024年(第1~47週)画像を拡大する感染症発生動向 2024年第47週(2024/11/27) 国立感染症研究所より引用麻疹の年代別感染者の割合は、例年20~30代が約半数以上を占めており、女性では妊孕性の高い年代といえる。2000(平成12)年4月2日以降に生まれた人(2024年4月1日時点で23歳以下)は、予防接種制度で2回のワクチン接種を推奨されていた年代であるが、それ以外(24歳以上)は、接種回数が不足している可能性がある*2。妊娠可能年齢の女性には、日常診療での積極的なワクチン接種歴の確認が望ましい。*2 2008(平成20)年4月1日から行われた特例措置(5年間)では、1990(平成2)年4月2日~2000(平成12)年4月1日生まれの人に対して、MRワクチン2回目接種が行われた。そのため、この24~33歳(2024年4月1日時点)で特例措置を受けている人は2回接種していることになる。(2)風疹妊婦が妊娠初期に風疹に感染すると、高い確率で胎児にも感染し、先天性風疹症候群(Congenital Rubella Syndrome:CRS)の赤ちゃんが生まれる可能性がある。CRSの3大症状は、難聴、心疾患、白内障だが、その他、精神や身体の発達の遅れなどもある。感染時期が、妊娠初期であればあるほど胎児に異常が認められる確率は高くなるが、妊娠20週以降では異常がないことが多いと報告されている1)。また、成人でも15%程度不顕性感染があるため、母親が無症状であってもCRSは発生し得ることにも留意したい。2012~13年の風疹大流行時には45例のCRSの赤ちゃんが生まれた。その後のフォローアップ調査でCRS児の致命率は24%、CRSを出生した母親の中で風疹含有ワクチンを2回接種した人は0人であった2)。CRSを出生した母親の多くは、単に「風疹ワクチンの必要性や重要性について知らなかった」「誰かが教えてくれていたら…」という、自身の無知に対する後悔の念を述べている3)。妊娠可能年齢の女性やそのパートナーへの事前の情報提供がいかに重要か、また、他人事ではなく、自分事として考えることの難しさについて考えさせられる体験談をぜひご一読頂きたい。なお、風疹流行時の首座は、幼少期に予防接種の機会がなかった40~50代の成人男性である。その年代に対して2019年4月から実施された風疹第5期定期接種は2024年度末まで延期されたが、2024年11月時点で抗体検査を受けた人は500万人弱(対象男性人口の32.4%)、ワクチン接種を受けた人は107万人強(対象男性人口の7.0%)*3と、目標には程遠い結果である。残りの期間(抗体検査は2月末、定期接種は3月末まで)でどこまで接種率が伸びるか、これにはわれわれ医療従事者の啓発力が試されるかもしれない。*3 風疹に関する疫学情報 2025年1月29日現在(3)水痘水痘は2014年10月に1~2歳児での2回の接種が定期接種化され、患者数は大幅に減少した。しかし、そんな中でも国立感染症研究所(感染研)のレポートでブレイクスルー水痘による集団感染事例が報告されるなど、気が抜けない感染症である。水痘は小児に比し、成人で重症化しやすく、中でも妊婦は重症化しやすいハイリスク者である。風疹は妊娠初期の感染でCRSとなるリスクが高いと述べたが、水痘は妊娠中だけでなく、周産期の母児に対しても大きな影響を及ぼす。たとえば、水痘に対する免疫がない妊婦が妊娠中に初感染すると、10~20%で水痘肺炎を発症し、時に致死的となる。その他、妊娠中期の感染で胎児が先天性水痘症候群(Congenital Varicella Syndrome:CVS)を発症するリスク(2%程度の頻度で出生)があり、周産期(分娩5日前~2日後)では重篤な新生児水痘を生じ得る。妊娠前のブライダルチェックなどで、麻疹・風疹についてはよく議論に上がりやすいが、水痘はなぜか忘れられがちである。妊娠前に接種記録を確認し、1歳以降で2回の接種歴が確認できない場合は不足分の接種を推奨したい。次回、後編では、不活化ワクチンなどの概要、接種のスケジュール、接種時のポイントなどを説明する。参考文献・参考サイト1)病原微生物検出情報 (IASR) 先天性風疹症候群に関するQ&A(2013年9月)2)2012~2014年に出生した先天性風疹症候群45例のフォローアップ調査結果報告. 国立感染症研究所.3)体験談「妊娠中に風疹になって~予防の大切さを伝えたい!~」(風疹をなくそうの会 「hand in hand」)講師紹介

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クロルヘキシジン含浸ドレッシング材はCVC関連感染症予防に有効【論文から学ぶ看護の新常識】第3回

クロルヘキシジン含浸ドレッシング材はCVC関連感染症予防に有効クロルヘキシジン含浸ドレッシング材は中心静脈カテーテル(CVC)関連感染症予防に有効であり、組織接着剤は固定の持続時間を延長させる効果が示された。Hui Xu氏らによる研究で、International Journal of Nursing Studies誌の2024年1月号に掲載された。中心静脈カテーテル関連合併症予防のためのドレッシング材および固定器具の有効性:システマティックレビューとメタアナリシス研究グループは、CVCに関連する合併症を予防するためのドレッシング材および固定器具の効果を、システマティックレビューとメタアナリシスで評価した。46のランダム化比較試験(RCT)が含まれ、対象者は1万54例。主な評価指標をカテーテル関連血流感染症(CRBSI)、カテーテル先端の細菌感染、皮膚の刺激や損傷、固定の失敗率などとした。コクランの基準に従って、Cochrane Wounds Trials Registerなど6つのデータベースを2022年11月まで検索。ランダム効果モデルでメタアナリシスを実施。クロルヘキシジン含浸ドレッシング材は、従来のポリウレタン製ドレッシング材と比較して、CRBSIの発生率を低減する可能性が示された(リスク比[RR]:0.60、95%信頼区間[CI]:0.44~0.83、低確実性)。また、クロルヘキシジン含浸ドレッシング材は、カテーテル先端の細菌感染も減少させる可能性がある(RR:0.70、 95%CI:0.52~0.95、非常に低確実性)。組織接着剤については、ドレッシング材と比較して、皮膚刺激のリスクを増加させる可能性があるが(RR:1.88、95%CI:1.09~3.24、低確実性)、固定の持続時間を延長する効果もあった(平均差[MD]:43.03時間、95%CI:4.88~81.18、中等度確実性)。臨床現場での適切なデバイス選択の指針として役立つ結果が得られた。ドレッシング材と組織接着剤を用いたCVC固定について言及した論文です。まず、クロルヘキシジン含浸ドレッシングは感染率を下げるというのは、みなさん納得の結果でしょう。組織接着剤の論争の背景の一つとして、原材料のシアノアクリレートにはホルムアルデヒドが含まれており、炎症を誘発することからも、この論文を含むさまざまな議論が行われています。この背景知識からも予想できるように、当然の結果とも言える皮膚刺激となる可能性、固定の持続時間を延長する効果が示されました。この研究の考察で述べられているのですが、どの固定がよいか(組織接着剤を用いた方がよいかなど)に関しては、エビデンスを示せるレベルに達していません。その根拠は、一部の研究に結果が引っ張られているような状況が生じています。よって、今後どちらがよいかは大きく変わってくる可能性があります。臨床看護師の感覚のように、その場その場に応じて固定方法を考えていくことが今は大事だということがある意味示されているように思います。1点注目すべきは、心臓外科術後の状態においては、CVC固定は縫合を行わず組織接着剤の固定を行っていたが、安全性の理由から縫合を行うようになっているような研究があり、この研究はこの領域では比較的規模が大きい研究であることからも、心臓外科術後の固定は縫合が必要と考えさせられる結果でもあります。論文はこちらXu H, et al. Int J Nurs Stud. 2024;149:104620.

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有給休暇取得率の高い診療科は?/医師1,000人アンケート

 有給休暇は一定の条件を満たしたすべての労働者に付与されるもので、医師も例外ではない。しかし、緊急性の高い患者のケアや医師不足などにより、医師の労働環境は有給休暇が取得しやすい状況ではないケースも多いと考えられる。今回CareNet.comでは会員医師約1,000人を対象に、有給休暇の取得状況や2024年4月の働き方改革の影響などについてアンケートを実施した(2025年1月23~24日実施)。2024年度の平均有給休暇取得日数は7.6日 2024年度の有給休暇の取得日数(予定含む)は、平均で7.6日、最も多かったのは5~9日(40.7%)との回答で、7.5%の医師は0日と回答した。厚生労働省による「令和6年就労条件総合調査」1)では、調査対象の全産業における平均取得日数は11.0日と報告されており、医師の取得日数は全体平均と比較して少ないことがうかがえる。 平均取得日数を年代別にみると、20代(7.0日)と30代(6.9日)でやや少ない傾向がみられたものの、40~60代では8.0~8.2日で、年代による大きな差はみられなかった。診療科別にみると、10日以上と回答した医師がリハビリテーション科、精神科で50%以上を占めた一方、呼吸器外科、血液内科では20%以下に留まった。平均有給休暇取得率が最も高かったのは皮膚科で71.8% 全体の平均有給休暇取得率(取得日数/付与日数)は59.3%で、上述の厚生労働省調査では65.3%であり、医師の取得率は6%低い結果となった。年代別にみると40代が最も高く(61.3%)、60代が最も低かった(56.6%)。診療科別にみると、皮膚科(71.8%)、リハビリテーション科、精神科(ともに67.2%)などで高かった一方、総合診療科、救急科、呼吸器外科、血液内科では50%を下回った。 有給休暇の最長連続取得日数について聞いた結果、2~4日との回答が39.9%と最も多く、連続取得なしとの回答も36.0%を占めた。自由記述欄では、「土日に絡めて取得したがる者が増え、争奪戦になっている」「内科管理があるため、なかなか長期間とりにくい」「いまだに長期休暇を取得できない体制だし、雰囲気もある」などの声が寄せられた。医師の働き方改革による影響、半数が「変化なし」3割は「取得しやすくなった」 2024年4月の医師の働き方改革施行以降、有給休暇取得状況に変化はあったかどうかを聞いた結果(複数回答)、54.9%が「変化なし」と回答した一方、29.1%は「有給休暇が取得しやすくなった」と回答した。また、「勤務間インターバル確保や代償休息のための有給休暇消化が発生するようになった」(8.9%)、「有給休暇取得者が増加し希望日に取れない/取りにくくなった」(4.6%)、「実働のある有給休暇消化が発生するようになった」(3.9%)などの回答もみられた。 自由記述欄では、「気兼ねなく取得できる環境になってきた」など状況の改善を示唆するコメントがあった一方、「宿日直許可制度が始まってから、休めない当直なのに休んでいる扱いとなり、有給も取りづらい」「働き方改革の影響で給料が減るため、それを補うため有給休暇を利用して他院にパートに行かなければならなくなった」といった声も聞かれている。 このほか、地方別にみた平均有給休暇取得率、有給休暇の主な過ごし方などのアンケート結果の詳細を以下のページにて公開している。『医師の有給休暇取得事情』

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化学療法誘発性末梢神経障害患者の10人に4人が慢性的な痛みを経験

 化学療法誘発性の末梢神経障害(chemotherapy induced peripheral neuropathy;CIPN)の診断を受けたがん患者の10人に4人が慢性的な痛みを抱えていることが、新たなシステマティックレビューとメタアナリシスにより明らかになった。米メイヨー・クリニックの麻酔科医であるRyan D’Souza氏らによるこの研究は、「Regional Anesthesia & Pain Medicine」に1月29日掲載された。D’Souza氏は、「われわれの研究結果は、慢性的な痛みを伴うCIPNは、末梢神経障害と診断された人の40%以上に影響を及ぼす、世界的に見ても重大な健康問題であることを明示している」と述べている。 化学療法薬はがん細胞を殺すが、同時に健康な細胞や組織、神経系にもダメージを与え、特に末梢神経への影響が大きい。CIPNの症状には、バランスや協調運動の喪失などの運動障害と、感覚の喪失、しびれ、うずき、「針で刺されたような感覚」、皮膚の灼熱感などの感覚障害がある。CIPNの有病率については、これまでにも複数の研究で報告されているが、どの程度が慢性的な痛みを経験するのかについては明らかになっていない。 この点を明らかにするために、D’Souza氏らは、28カ国でCIPNの診断を受けた計1万962人を対象に実施された77件の研究データを用いて解析を行い、慢性的な(3カ月以上)痛みを伴うCIPNの統合有病率を推定した。28カ国のうち実施研究数が最も多かったのは、米国での13件、次いで日本での10件だった。また、研究の多く(45.45%)は前向き観察研究であり、その他は、後ろ向き観察研究(37.66%)、ランダム化比較試験(16.88%)などであった。対象者のがん種としては、大腸がん(25件の研究、32.47%)、乳がん(17件の研究、22.08%)が多かった。 解析の結果、対象者における慢性的な痛みを伴うCIPNの統合有病率は41.22%であることが明らかになった。化学療法の種類別に解析を行うと、同有病率が最も高かったのはプラチナ系抗がん薬での40.44%、次いでタキサン系抗がん薬での38.35%であった。がん種別に見ると、肺がん患者を対象にした研究で最も高い有病率(60.26%)、卵巣がん患者(31.40%)とリンパ腫患者(35.98%)を対象にした研究で最も低い有病率が報告されていた。 研究グループは、「今後の研究では、化学療法が神経痛を引き起こす具体的な機序を解明するとともに、命を救うための治療を受けているがん患者をその痛みから守ることができる治療法の開発に焦点を当てるべきだ」と話している。

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胃酸分泌抑制薬との併用が可能になった慢性リンパ性白血病治療薬「カルケンス錠100mg」【最新!DI情報】第33回

胃酸分泌抑制薬との併用が可能になった慢性リンパ性白血病治療薬「カルケンス錠100mg」今回は、ブルトン型チロシンキナーゼ阻害薬「アカラブルチニブマレイン酸塩水和物(商品名:カルケンス錠100mg、製造販売元:アストラゼネカ)」を紹介します。本剤は、慢性リンパ性白血病治療薬としてすでに発売されているカプセル製剤とは異なり、胃酸分泌抑制薬を服用している患者にも使用しやすいフィルムコーティング錠です。<効能・効果>慢性リンパ性白血病(小リンパ球性リンパ腫を含む)を適応として、2024年12月27日に製造販売承認を取得しました。<用法・用量>通常、成人にはアカラブルチニブとして1回100mgを1日2回経口投与します。なお、患者の状態により適宜減量します。<安全性>重大な副作用として、出血(頭蓋内血腫[頻度不明]、胃腸出血、網膜出血[いずれも0.2%]など)、感染症(肺炎[3.2%]、アスペルギルス症[0.2%]など)、骨髄抑制(貧血[5.5%]、好中球減少症[17.5%]、白血球減少症[17.5%]、血小板減少症[7.7%]など)、不整脈(心房細動[1.5%]、心房粗動[頻度不明]など)、虚血性心疾患(急性冠動脈症候群[0.2%]など)、腫瘍崩壊症候群、間質性肺疾患(いずれも0.4%)が報告されています。その他の副作用は、頭痛、下痢、挫傷(いずれも10%以上)、悪心、発疹、筋骨格痛、関節痛、疲労(いずれも5~10%未満)、浮動性めまい、鼻出血、便秘、腹痛、嘔吐、無力症(いずれも5%未満)、皮膚有棘細胞がん、基底細胞がん(いずれも頻度不明)があります。本剤は主にCYP3Aにより代謝されるので、強~中程度のCYP3A阻害薬(イトラコナゾール、クラリスロマイシン、ボリコナゾールなど)、強~中程度のCYP3A誘導薬(フェニトイン、リファンピシン、カルバマゼピンなど)との併用は可能な限り避け、代替の治療薬を考慮します。また、セイヨウオトギリソウ含有食品は摂取しないように指導する必要があります。<患者さんへの指導例>1.この薬は慢性リンパ性白血病に用いられます。2.この薬は、自己判断して使用を中止したり、量を加減したりすると病気が悪化することがあります。指示どおりに飲み続けることが重要です。3.セイヨウオトギリソウ(セント・ジョーンズ・ワート)を含む食品は摂取しないでください。4.この薬を服用中に発熱、寒気、喉の痛み、鼻血、歯ぐきからの出血、青あざができるなどの症状が現れたら、速やかに主治医に相談してください。5.他の医師を受診する場合や薬局などで他の薬を購入する場合は、必ずこの薬を使用していることを医師または薬剤師に伝えてください。<ここがポイント!>慢性リンパ性白血病(chronic lymphocytic leukemia:CLL)は、Bリンパ球ががん化することで発症し、多くの場合は緩徐に進行します。CLLは初期段階では無症状であることが多いですが、進行すると脱力感、疲労感、体重減少、悪寒、発熱、寝汗、リンパ節の腫れ、腹痛などの症状が現れます。CLLの初回治療にはイブルニチブもしくはアカラブルニチブ±オビヌツズマブが推奨されています。アカラブルニチブは、経口投与可能なブルトン型チロシンキナーゼ(BTK)の阻害薬であり、BTKの酵素活性を選択的かつ不可逆的に阻害します。アカラブルチニブはBTKの活性部位のシステイン(Cys-481)残基と共有結合することで、B細胞性腫瘍の増殖および生存シグナルを阻害します。アカラブルニチブはカプセル製剤(商品名:カルケンスカプセル)として2021年に承認され、CLL治療薬として販売されていますが、胃内pHが4を超える条件下では溶解度が低下します。そのため、プロトンポンプ阻害薬との併用は可能な限り避け、制酸薬およびH2受容体拮抗薬と併用するときは投与間隔を2時間以上空けるなどの注意が必要です。しかし、血液がん患者の20~40%は、胃内pHを変化させる薬剤の投与を受けていると推定されているため、胃内pHの条件に左右されずに溶出する新しい薬剤の開発が望まれていました。今回承認されたカルケンス錠は、アカラブルチニブをマレイン酸水和物にすることでpH依存的溶解プロファイルを改善し、生理学的pHの範囲内で十分な溶解性を有することが確認されています。健康被験者を対象とした生物学的同等性試験(海外第I相試験であるD8223C00013試験)において、本剤およびカプセル剤を空腹時投与した結果、カプセル剤投与に対する本剤投与におけるアカラブルチニブのCmaxおよびAUC(0-last)の最小二乗幾何平均値の比は、それぞれ1.00(90%信頼区間:0.91~1.11)および0.99(0.94~1.04)であり、いずれも生物学的同等性の判定基準範囲内(0.8~1.25)でした。これにより、生物学的同等性の基準を満たすことが確認できました。

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MCI高齢者に対するVR介入の有効性〜メタ解析

 アルツハイマー病は、根治不能な疾患であるが、軽度認知障害(MCI)の段階で仮想現実(VR)を用いた介入を行うことで、認知症の進行を遅らせる可能性がある。中国・上海交通大学のQin Yang氏らは、MCI高齢者におけるVRの有効性を明らかにするため、ランダム化比較試験(RCT)のシステマティックレビューおよびメタ解析を実施した。Journal of Medical Internet Research誌2025年1月10日号の報告。 2023年12月30日までに公表された研究をWeb of Science、PubMed、Embase、Ovidよりシステマティックに検索した。対象研究は、55歳以上のMCI高齢者の認知機能、気分、QOL、体力に対するVRベース介入を自己報告で評価したRCT。調査されたアウトカムには、一般的な認知機能、記憶力、注意力/情報処理速度、実行機能、言語機能、視空間能力、うつ病、日常生活能力、筋力パフォーマンス、歩行/バランスなどを含めた。2人の独立した担当者により、特定された論文と関連レビューの検索結果およびリファレンスリストをスクリーニングした。介入の構成要素と使用された実施および行動変化の手法に関するデータを抽出した。適格基準を満たした場合に、メタ解析、バイアスリスク感度分析、サブグループ解析を実施し、潜在的なモデレーターを調査した。エビデンスの質の評価には、GRADEアプローチを用いた。 主な結果は以下のとおり。・18研究、MCI高齢者722例を分析に含めた。・VR介入は、VR認知トレーニング、VR身体トレーニング、VR認知運動デュアルタスクトレーニングがさまざまな没入レベルで行われていた。・VR介入により、記憶力、注意力/情報処理速度、実行機能の有意な改善が認められた。【記憶力】標準化平均差(SMD):0.2、95%信頼区間(CI):0.02〜0.38【注意力/情報処理速度】SMD:0.25、95%CI:0.06〜0.45【実行機能】SMD:0.22、95%CI:0.02〜0.42・セラピストによる介入のないVR介入でも、記憶力だけでなく注意力/情報処理速度の改善が認められた。・VR認知トレーニングにより、MCI高齢者の注意力/情報処理速度の有意な改善が認められた(SMD:0.31、95%CI:0.05〜0.58)。・没入型VRは、注意力/情報処理速度(SMD:0.25、95%CI:0.01〜0.50)および実行機能(SMD:0.25、95%CI:0.00〜0.50)の改善に対し有意な影響を示した。・一般的な認知機能、言語機能、視空間能力、うつ病、日常生活能力、筋力パフォーマンス、歩行/バランスに対するVR介入効果は、非常に小さかった。・GRADEアプローチに基づくエビデンスの質は多様であり、特定の認知機能評価に対しては中程度、その他の評価では低であった。 著者らは「MCI高齢者に対するVR介入は、記憶力、注意力/情報処理速度、実行機能の改善に有効であることが示唆された。エビデンスの質は中程度〜低であったことから、これらの結果を確認し、新たな健康関連アウトカムについても検討するうえで、さらなる研究が必要とされる」と結論付けている。

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第82回 臨床試験における「外れ値」の取り扱いは?【統計のそこが知りたい!】

第82回 臨床試験における「外れ値」の取り扱いは?日々の業務でデータ収集を行っていると、他のデータと比較して極端に大きい(もしくは小さい)データを目にすることがあるのではないでしょうか。他のデータと比べて極端な値のデータのことを「外れ値」と呼びます。外れ値を含んだままデータ分析を行うと、外れ値に引っ張られて、分析結果や傾向が変わってしまう場合があるため、取り扱いには注意を要します。しかし、場合によっては外れ値を分析することで、重要な知見が得られることもあるため、一概にすべて除けばよいとも言い切れません。本シリーズの第41回「外れ値とは」において外れ値の意味や判定方法について解説していますので、本稿では、「臨床試験や医療統計の分野」に限定して、「外れ値」の取り扱いについて解説します。■外れ値(outlier)臨床試験や医療統計の分野では、データの外れ値を扱うことは非常に重要な課題です。外れ値を単純に除外してしまうと、試験の結果が実際の状況を正確に反映していない可能性があるため、多くの論文で外れ値の扱いについては、慎重なアプローチが推奨されています。それでは、なぜ外れ値を除外してはいけないのか、主として以下の3つがあります。1)代表性の喪失臨床試験のデータは、対象とする集団を代表するものであるべきです。外れ値を除外することで、特定の症例や反応を無視することになり、集団の実際の特性を反映しない結果になる恐れがあります。2)バイアスの導入外れ値を除外することで、結果にバイアスが導入され、誤った結論に至る可能性があります。これは、とくに小さいサンプルサイズの研究で顕著になります。3)重要な情報の損失外れ値は、時に予期しない重要な発見や異常値の原因を示す可能性があります。これらを除外することで、重要な医学的洞察を見逃す可能性があります。■除外しない場合の臨床試験の結果の論文のまとめ方それでは、外れ値を除外しない場合、臨床試験の結果をどのように論文でまとめていくのでしょうか。1)データの詳細な記述外れ値を含めたすべてのデータを詳細に記述し、データの分布や特性を読者が理解できるようにします。2)感度分析の実施外れ値の影響を評価するために、外れ値を含むデータと除外したデータの両方で分析を行い、結果の差異を報告します。3)外れ値の探索的分析外れ値が発生した理由や背景を探求し、それが結果に与える影響を評価します。ICH-E9(臨床試験のための統計的原則)にも「外れ値の取り扱い」については、次のように記載があります。実際の値を用いた解析のほかに、外れ値の影響を除くか小さくする別の解析を少なくとも1つ行うべきであり、それらの結果の間の差異を議論すべきである。外れ値と思われるデータを含めた場合と除外した場合の解析の2つの間で差異がない場合には、その解析結果は「頑健」であると言えます。たとえ違いがあったとしても、それが薬剤の影響ではないということを、いろんな視点から論述することができれば、問題ありません。大切なことは「なぜそのような値が出てきたのか」を考察することにあります。■外れ値を除外してもよいケース外れ値を除外できる具体的なケースは限られていますが、以下のような状況では除外が許容されることがあります。1)データの記録や入力の明らかな誤りデータが明らかに誤って記録または入力された場合、それは除外してもよいと考えられます。2)プロトコル違反臨床試験のプロトコルに従わなかった参加者からのデータは、場合によっては分析から除外されます。3)機器の故障や操作ミスによるデータ測定機器の故障や操作ミスにより、誤ったデータが得られた場合、これを除外することがあります。それぞれのケースで外れ値をどのように扱うかは、研究のコンテキスト(context)や目的に応じて慎重に決定しなければなりません。また、外れ値を単純に除外してしまうことはできません。データの除外を行う場合には、その理由と方法を論文に明記し、データ除外が結果に与える可能性のある影響についての詳細な説明を述べることが重要です。データを除外する場合などの注意事項や配慮する事項を下記に4つ示します。1)除外の正当性の説明なぜ特定のデータポイントが外れ値とみなされ、除外されたのかについて、明確な根拠をもって記述します。これは、他の研究者が同様の状況でどのように対処すべきかを理解するのにも役立ちます。2)分析への影響の評価外れ値を除外することが結果にどのような影響を与えるかを評価し、記述します。これには、外れ値を含めた場合と除外した場合の分析結果を比較することが含まれることがあります。3)透明性の確保研究の再現性と透明性を確保するために、外れ値を特定し、除外するために使用した基準や手法を詳細に記述します。4)補足分析の提供可能であれば、外れ値を含む分析と除外する分析の両方を実施し、結果の違いを報告することで、外れ値が研究結果に与える影響を読者が理解できるようにします。これらのプロセスを通じて、研究者はデータの外れ値を適切に扱い、その結果、信頼性が高く、再現可能であり、透明性のあるものにするために努めなければなりません。データの除外は、研究の信頼性を損なわないように慎重に行われるべきということになります。■さらに学習を進めたい人にお薦めのコンテンツ統計のそこが知りたい!第41回 外れ値とは?第56回 正規分布とは?第78回 4種類あるエラーバーについて

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