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第296回 「子どもを医師にしますか?」2026(前編)“医師氷河期”到来の予感、「皆が医学部行こうとするのは不思議」と玉川徹氏

病院経営をテーマに取り上げた「羽鳥慎一モーニングショー」こんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。2025年の最終回ということで、日々の事件から離れて、最近改めて気になっていることを書いてみたいと思います。それは、「今、医師は、自分の子どもを医師にしたいと考えているのか」ということです。きっかけは12月3日に放送されたテレビ朝日系「羽鳥慎一モーニングショー」です。この日はテーマの1つに病院経営の悪化が取り上げられていました。11月26日に厚労省が公表した医療経済実態調査の結果を紹介しながら、病院経営が危機的な状況に陥っていることを報じたのですが、コメンテーターの玉川 徹氏が、経営がとても厳しい状況にもかかわらず「医師の数は増えているんだけど、いまだに東大とか京大行くよりも医師になる方を選ぶんですよ、各進学校は。あれは、何なんですかね?」と疑問を投げ掛け、解説者として出演していた千葉大学病院次世代医療構想センター特任教授の吉村 健佑氏に対し、「僕はこれから人口も減っていくし、AIもどんどん導入されるなかで、今のように医師の地位が社会的な地位とか収入とかも含めて、ずっと高いまま続いていくのかなと(疑問に)思っているのに、何でみんな医学部行こうとするのか不思議。なんでしょうね?」と問い掛けたのです。「儲かると思っているのかなぁ?と思って」と玉川氏が畳み掛けると、吉村氏は「保険診療に対する信頼があるのかなと思っています。その中で専門的な技術を身に付けたい。とくに最近女子の学生さんの進学が多くて、資格を得て技術を得てご自身でやっていく力をつける1つの職業としての魅力はまだあるのかなと思います」と回答。続けて吉村氏が「私も実は東京大学理科二類を最初に入って辞めて医学部入り直したんです」と明かすと玉川氏がその理由を尋ね、吉村氏が「理系の学部で進学していた時の先のイメージが、貢献に対するやり方が見えなかった。医師の方がわかりやすくて、社会に対する貢献ができるんじゃないかと私は25年前に考えた」と答え、玉川氏は「皆がそうだったら素晴らしいね。皆がそうだったら直美なんかないよ」と発言、議論は大した深まりをみせず、中途半端な形で収束しました。テレビ番組なので議論の尻切れ感は仕方ないかもしれません。しかし、玉川氏の「いまだに東大とか京大行くよりも医師になる方を選ぶんですよ、各進学校は。あれは、何なんですかね?」という問い掛けは、なかなかに芯を突いたコメントだと感じました。来年医学部に入る若者が一人前になる2040年は“医師氷河期”医療機関、とくに病院の経営の苦境が伝えられ、かつ医療現場の過酷さや報酬の低さなどもあって、消化器外科医や心臓外科医の不足や、医師が初期研修後に一般的な専門科を経ずに直接美容医療の道へ進む“直美”問題などが報道されています。また、「第294回  改正医療法やっと成立、医療機関の集約化、統合・再編、病床削減さらに加速へ 『地域医療構想の見直し』8つのポイント」でも書いたように、人口減少を背景に、病院はこれから集約化、統合・再編が進み、各病院の診療科が減るとともに、ポスト(部長ポストなど)自体も減るでしょう。病院のポストが減るなら開業すればいいのかと言えば、それも得策とは言えません。人口減少はそのまま診療所の患者数減少につながるからです。高齢者の人口増も早晩頭打ちとなりますので、あと15~20年もしたらあらゆる診療科の患者(訪問診療ですら)は減っていくに違いありません。仮に都心部で開業でき(改正医療法では外来医師が多い地域で無床診療所の新規開設が規制されることになります)、熾烈な患者獲得競争を勝ち抜いたとしても、早晩、患者数減少という局面が待ち受けます。来年医学部に入ったとして、卒業するのは2030年前半、一人前の医師になる2040年頃(「新たな地域医療構想」の目標年でもあります)はそれこそ“医師氷河期”に突入すると予想されます。そうした状況を考えると、玉川氏の「みんな医学部行こうとするのは不思議」発言はまさに正論と言えます。今の高校教育にも残る医学部偏重、東大至上主義とはいえ、大学医学部の人気は依然高いままです。2025年度の国公立医学部一般選抜(前期)の志願倍率はおおよそ4倍強で、全学部平均(約3倍)よりかなり高い水準が続いています。 一方、私立医学部では「第292回 藤田医科大の学費800万円値下げから見えてくる、熾烈を極める大学医学部サバイバル戦」でも書いた学費の値下げや、奨学金拡充により「手の届く選択肢」として検討する受験生が増えています。なお、学費下げによってサラリーマンの子弟も比較的“手軽に”医学部受験ができるようになって、開業医など医師の子どもがなかなか入学できなくなっている、というまた別の問題もあるようです。こうした医学部人気の背景には、医学部受験の強さを相変わらず看板にしている進学校の存在があります。3年前の本連載「第93回 医学部進学実績トップ校の生徒が起こした事件で考えた教育現場の時代錯誤」でも取り上げた、愛知県の私立、東海高校がその代表ですが、その他、全国各地の名だたる中高一貫校が「医学部受験」を売りにしているのは、皆さんもご存じのとおりです。この「第93回」では、「今の高校生が医学部に行って、一人前の医師になる四半世紀後は、医師の仕事内容は大きく変わっている可能性があります。脳神経外科や心臓外科といった専門医の数は極力絞られ、総合診療医や家庭医といったジェネラリストが医師の主な職務となっているかもしれません。今回の事件で気になったのは、進学高校の教育現場における時代錯誤です。何十年も前の私の高校時代にあった医学部偏重、東大至上主義の構図が、今の高校教育にも厳然として残っていることはある意味驚きです」と書きましたが、3年経ってもその状況はまったく変わっていないわけです。進学校や予備校は、本当に受験生の将来を考えて教育をしているのでしょうか?2009年に医学雑誌に掲載された特集記事「子どもを医者にしますか?」そんなことを考えていたら、昔読んだある記事を思い出しました。今から17年前、まだ紙の雑誌だった日経メディカルが2009年1月号に掲載した「子どもを医者にしますか?」というタイトルの特集記事です。 「過重労働、訴訟の増加、医療費抑制など医師を取り巻く環境が悪化する中、『子どもは医師にしたくない』という医師が目立つようになった」として、当時の医師の本音をアンケートで調査するとともに、将来を予測しています。アンケートでは、今よりも医療機関の経営環境は良好だった当時でも、「子どもは医師にはなってほしくない」という医師は一定数いたようです。年明けの次回は今読んでもなかなかに興味深い、同記事の内容を紹介するとともに、今、「子どもを医者にすべきなのかどうか」について、改めて考えます。(この項続く)

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疼痛治療薬の副作用が心不全の誤診を招く?

 オピオイドに代わる鎮痛薬として使用されている薬剤のせいで、医師が心不全と誤診してしまう例が少なくないことが、新たな研究で示された。米カリフォルニア大学サンフランシスコ校(UCSF)医学部教授のMichael Steinman氏らによるこの研究の詳細は、「JAMA Network Open」に12月2日掲載された。 ガバペンチンやプレガバリンなどのガバペンチノイドと呼ばれる種類の薬剤は、神経痛の治療目的で処方されることが多い。しかし、これらの薬剤の副作用の一つに、下肢のむくみ(浮腫)の原因となる体液貯留がある。体液貯留は、心不全の症状としても広く知られている。そのため、この副作用が生じた患者の多くに、利尿薬のような本来は不要であるはずの薬剤が追加で処方され、その結果、腎障害やふらつき、転倒によるけがなどのリスク上昇につながっていることが、今回の研究から明らかになった。このように、ある薬の副作用が別の疾患に関わる症状と認識され、それに対してさらに薬が処方される現象は、処方カスケードと呼ばれる。 研究グループによると、オピオイド危機を背景に、ガバペンチノイドの処方はこの10年でほぼ倍増した。Steinman氏は、「ガバペンチノイドは非オピオイド系薬剤であり、比較的安全性が高いと考えられがちだ。しかし、ガバペンチノイドを使用している患者は、それがベストの治療法なのかどうかを評価するために、定期的に医師に相談し、非薬物療法を含めた、より適切な別の治療選択肢について検討すべきだ」とニュースリリースの中で述べている。 Steinman氏らは今回の研究で、ガバペンチノイドとループ利尿薬の処方カスケードを経験している可能性の高い66歳以上の退役軍人120人(平均年齢73.9歳)の医療記録を調べた。120人のうち、106人(88.3%)は、5種類以上の薬を長期にわたって使用していた。73人(60.8%)では、浮腫の原因が記録されていたが、心不全(39.2%)や静脈うっ血(13.3%)を原因とする例が多く、ガバペンチノイドを考慮した医師はわずか4人(3.3%)にとどまっていた。また、116人(96.7%)にループ利尿薬が処方されていたが、そのほとんどは、下肢浮腫(86.7%)、心不全(13.3%)、呼吸困難(12.5%)の治療を目的としていた。 ループ利尿薬による治療開始から60日以内に、28人(23.3%)の患者で、腎機能の低下や起立時のめまい、低ナトリウムや低カリウムなどの電解質異常、転倒などのループ利尿薬に関連した健康問題が37件発生した。入院あるいは救急外来での治療が必要となった患者も6人(5.0%)いた。 Steinman氏らによると、下肢に浮腫が現れてからガバペンチノイドの服用を中止するよう指示した医師は1人だけだったという。一方で、浮腫の原因となり得る命に関わる疾患を除外するため、患者の約5人に1人が画像検査を受けていたことも明らかになった。 論文の筆頭著者であるUCSF医学部のMatthew Growdon氏は、「ガバペンチノイドは必要以上に高用量が処方されたり、効果が期待できない状態に対して処方されたりしている可能性がある。そのようなケースでは、医師はこれらの薬を処方しないこと、あるいは用量を減らして処方カスケードやその他の副作用のリスクを軽減することを検討すべきだ」とニュースリリースの中で述べている。

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連休中に健康的な生活習慣を維持する秘訣

 年末年始などの連休には、旅行に出かけたり家族でのイベントがあったりして、普段よりもかえって忙しくなり、健康的な生活習慣を続けられなくなる人も少なくない。ただ、専門家によると、健康を維持するために、そのような限られた期間も常に完璧であろうとする必要はないようだ。また、米バージニア工科大学のSamantha Harden氏は、気を付けるべきは忙しさもさることながら、連休という機会への過剰な期待だと、同大学が12月1日に発表したリリースの中で述べている。 人々が実生活の中でどのようにウェルビーイングを形成しているのかを研究しているHarden氏は、「私たちはしばしば、仕事から離れて時間ができたなら、健康づくりのためのルーティンを編み出して『最高の自分』に変わるチャンスが訪れると期待している。しかし、実際に連休に入ると、好むと好まざるを問わず他のさまざまな用事に時間が奪われてしまい、計画通りにいかないことが多い」と話す。そして同氏は、連休こそ生活習慣改善の理想的な機会と考えるのではなく、むしろ普段の休日の生活に健康的な行動を少しずつ取り入れることを提案している。 具体的に、以下のような工夫をいくつか示すことができる。・良い習慣を積み重ねる:既に習慣的に行っていることに、何かもう一つ健康に良い行動を組み合わせる。例えば、歯磨きの後に何か感謝することを見つけるようにしたり、夕食後には短時間の散歩をしたりするなど。・ゲームの要素を盛り込む:健康のための行動をゲームのように楽しむ。例えば、皿洗いが終わるたびにプランクチャレンジ(体重を使って手軽にできる体幹トレーニング)をして、事前に作っておいた運動メニューのビンゴカードを塗りつぶしていくなど。・ほかの人を巻き込む:例えば、友人や家族をフィットネスクラスに誘ったり、屋外を散歩しながら誰かに電話をかけたりするなど。 なお、連休中に旅行へ行く場合には、移動中に時間ができたらこまめに体を動かし、水分を十分に取り、交通ダイヤの乱れの影響で不安が生じないように余裕をもって行動することが大切だという。 Harden氏は、ウェルビーイングを運動や栄養のみで考えるのではなく、それ以上の視点で捉えることを勧めている。同氏によると、ウェルビーイングには六つの側面があるとのことだ。六つの側面とは、幸福、心身の健康、親密な社会関係、生きがいと目的、人格と美徳、物質的・経済的な安定だ。そして同氏は、「連休中は身体の健康のために充てる時間やその他のリソースは減るかもしれない。しかし一方で、親しい人とのつながりや社会関係を意識する機会は多くなるのではないか」と述べている。 最後に同氏は、「連休中に限らず普段の生活についても当てはまることだが、健康的であるためには1日たりともルーティンから外れたら失敗だとは考えないことだ。ゼロか百かという考え方はたいていうまくいかない。自分の目標や状況、あるいはリソースに見合わない期待を抱くことで、かえって生きづらさを感じるようなことは避けるべきだ。健康のためのチェックリストをあまり盛り込み過ぎない方がよい」とアドバイスしている。

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第294回 初めてづくしの診療報酬大幅改定、その中身とは

とにかく異例づくしである。2026年診療報酬改定のことだ。正直、診療報酬本体の改定率が+3.09%と伝わった瞬間の個人的な感想は「嘘だろ!」というものだった。もうすでに+1%未満に慣れてしまったせいか、「何が起きたんだ?」とさえ思った。確かに事前に漏れ伝わってきた話は、さすがの財務省も病院経営の苦境への対応はやむを得ないとして1%台のプラスを主張し、これに対して厚生労働省は3%台を主張する形で平行線をたどっているというものだった。私自身は「おそらく1%台の後半、もしかしたら2%に届くかも?」との読みを持っていたが、まさかの決着である。ちなみに私が医療専門紙記者となった1990年代前半は+4%超の改定があり、1996年は+3.4%。その後は小泉 純一郎政権下での史上初のマイナス改定まで、半ば倍々ゲームの逆を行くかのような下がり方をした。旧民主党政権下では久々に1%台となったものの、自民党の政権復帰とともに前回の2024年までは1%未満という微々たる改定率が続いてきた。つまりは1996年改定以来、実に30年ぶりの数字である。薬価・医療材料の引き下げ幅は0.87%であり、本体と薬価引き下げ分を合わせた最終改定率がプラスとなるのも14年ぶり、最終改定率が2%超となるのも実に32年ぶりで、すべてにおいて異例の改定率である。しかも、さらに今回驚かされたのが、当初発表された+3.09%も2年分の平均であり、2026年度が2.41%、27年度が3.77%という段階的な改定率が設定されたことだ。こうした仕組みは診療報酬史上初のことである。もはや異次元の診療報酬改定と言ってもよいかもしれない。さてその内訳だが、これは2020年改定時から新たに公表され始めたもので、要は特例や特定の目的に紐付けられたものなどを以下のように明示している。(1)賃上げ対応分:+1.70%(2)物価対応分:+0.76%(3)食費・光熱水費分:+0.09%(4)24年度診療報酬改定以降の経営環境の悪化を踏まえた緊急対応分:+0.44%(5)政策医療・医療高度化対応:+0.25%(6)適正化・効率化対応分:-0.15%このうち(1)と(2)も単年度ごとの改定率があり、(1)は26年度が+1.23%、27年度が+2.18%、(2)は26年度が+0.55%、27年度が+0.97%。さらに(2)については、とくに2026年度以降の物価上昇への対応として2年分平均として+0.62%(2026年度が+0.41%、2027年度が+0.82%)を充て、施設類型ごとの費用関係データに基づき、病院が+0.49%、医科診療所が+0.10%、歯科診療所が+0.02%、保険薬局が+0.01%。残る+0.14%は大学病院も含む高度機能医療を担う病院への特例的な対応としての上乗せ分である。また、(4)は病院が+0.40%、医科診療所が+0.02%、歯科診療所が+0.01%、保険薬局が+0.01%の配分。このように特例の対応分について医科部分を病院と診療所に分けたのも初のことである。一方、正味の診療報酬アップは政策医療・医療高度化対応分の+0.25%であり、この配分は医科が+0.28%、歯科が+0.31%、調剤が+0.08%となる。これは1972年7月、田中 角栄政権時に厚生大臣、大蔵大臣、内閣官房長官の閣僚合意で決められた診療報酬配分である医科:歯科:調剤=1:1.1:0.3が踏襲された形だ。こうして俯瞰してみると、異例の高改定率とはいえ、とりわけ急性期を担う病院に手厚くしたことがわかる。その意味では今年初めくらいから各方面で伝えられた病院の苦境という情報発信が功を奏したとも言える。そして今回の診療報酬改定の発表文書では、付帯事項のような説明文書もかなりの分量が割かれている。まず、注目すべきは物価高騰対応である。実際の経済・物価の動向が今回の改定時の見通しから大きく変動し、医療機関などの経営状況に支障が生じた場合は2027年度予算編成で「加減算を含め更なる必要な調整を行う」と記述している。「加減算」という文言はインフレ鎮静化時の減算もあり得ることを示唆している。また、賃上げについても、2024年改定でベースアップ評価料の対象外の医療者(入院基本料や初・再診料を賃上げ原資として配分される40歳未満の勤務医師・勤務歯科医師・薬局の勤務薬剤師、事務職員、歯科技工士など)への賃上げ措置を確認するため、「実効性が確保される仕組みの構築や実績の把握を迅速かつ詳細に行う」ことをうたっている。さらに医師偏在対策についても具体的な記述があり、「改正医療法に基づき、外来医師過多区域において無床診療所の新規開業者が都道府県知事からの要請に従わない場合には、診療報酬上の減算措置を講じることで、医師偏在対策の実効性を高めることとする」という文言がある。そして何より個人的に注目したのは、前述の(4)の中で「メリハリ」という言葉を使ってきたことである。実は先頃の自民党と日本維新の会による社会保障関連政策に関する政調会長間合意文書でも「令和8年度診療報酬改定におけるメリハリ付け」が筆頭に来ている。このメリハリは多くの人が想像できていると思うが、「今回は病院、とくに急性期医療を担う本格的な病院の苦境は救うが、そのほかについては厳しくする」という意味に読めてしまう。実際、前述の医師偏在対策の文言や効率化・適正化分に「長期処方・リフィル処方の取り組み強化等による効率化」が含まれていることなども併せれば、経営実態調査からも比較的良好だった医科診療所をかなり意識しているのではないだろうか?そして改定率では手厚いはずの病院についても、改定率決定に先立ち成立した2025年度補正予算の中身を見ると、一定の締め付けをしてくることは予想できる。補正予算では「医療・介護等支援パッケージ」に1兆3,649億円が付けられ、このうち最大だった「医療機関・薬局における賃上げ・物価上昇に対する支援」の5,341億円に次いだのが「病床数の適正化に対する支援」の3,490億円だった。これは医療需要の変化を踏まえて病床数の適正化を進める一般・療養・精神病院と有床診療所に対し、1床当たり410.4万円(休床の場合は205.2万円)を支援するもの。従来から病床の転換・再編では国や都道府県から補助金が支出されていたが、今回の額は破格である。これらを総合すると、私自身は「今回は大目に見てやるが、この間に国の政策に沿った自助努力をしなければ、後は知らないよ」と読めてしまうのである。 参考 1) 厚生労働省:診療報酬改定について

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国試直前の12月、僕が勉強を抜けてインターンに行った理由【研修医ケンスケのM6カレンダー】第9回

国試直前の12月、僕が勉強を抜けてインターンに行った理由さて、お待たせしました「研修医ケンスケのM6カレンダー」。この連載は、普段は初期臨床研修医として走り回っている私、杉田研介が月に1回配信しています。私が医学部6年生当時の1年間をどう過ごしていたのか、月ごとに振り返りながら、皆さんと医師国家試験までの1年をともに駆け抜ける、をテーマにお送りして参ります。2025年ももうおしまい。すっかりオリオン座も見慣れるようになりました。年を重ねるごとに、1年の早さを感じます。先月の国立保健医療科学院での研修は国内外での移動が多く、人生で初めてインフルエンザA・B両方に罹患しました。みなさまはいかがお過ごしでしょうか。2025年ラストの今回は必修対策とキャリアの考え方についてお話しさせていただきます。必修分野、とくに救命救急に関する得点率をあげよう(フィリピン大学医学部附属病院の救急外来)医師国家試験に合格するためには必修問題(B・Eブロック)で80%以上の正答率が絶対条件。しかも、他の問題と違って、必修は「足切り」があるので、どんなに一般・臨床で得点しても、ここでつまずくと不合格になってしまいます。逆に言えば、「必修は大丈夫」と自信を持てるだけで、メンタル的にかなり安心できます。必修対策の基本は(1)必修ガイドラインを読む、(2)過去問を徹底する、の2つです。とくに強化してほしいのが救命救急に関する分野です。心肺蘇生、ショックや意識障害への初期対応など、必修で毎年問われる定番テーマで、これらの基礎知識をもとにした判断力が問われるので、各論ブロックでも得点差がつくところ。必修でも各論でも通用する、お得な分野を攻略して、全体の得点力アップにつなげましょう! 直前講座は「完成度アップ」のためにぜひ使おう!(フィリピン大学医学部の正面入り口。手前の白いロゴは踏むと試験に落ちるという噂)12月といえば、いよいよ各予備校の直前講座が始まる時期。私も正直講義のスライドやテキストのボリュームに圧倒されましたが、ここには本当によく練られた「得点源のエッセンス」が詰まっています。過去問の焼き直しだけじゃない「得点差がつくテーマ」最新のガイドラインやトピック国家試験で出やすい「ひっかけ」のパターンなど、今の自分の知識をブラッシュアップするのに最適。どの予備校のコンテンツでもOKですが、勉強会などでそれぞれが学んだことをアウトプットし合うのはとてもおすすめ。違う視点や表現に触れることで、理解が一気に深まることもありますよ。「学生」でいられる時間、あと4ヵ月だけ!(WHO西太平洋地域の事務局本会議場内にて)国試の直前期で、毎日勉強漬けの日々かもしれません。でも、忘れないで欲しいのが「学生でいられるのはあと4ヵ月だけ」ということ。「学生です」っていうだけで、社会ではまだまだ優しくしてもらえます。見学、インターン、イベント参加、会いたい人に会う…自分の興味に素直に動くことができる時間は、すごく貴重です。私は6年生の12月に、思い切って厚生労働省でのインターンに参加しました。そのときに出会った医系技官や公衆衛生医師の話をきっかけに、研修医2年目の秋に国立保健医療科学院で研修することまでつながりました。あのとき、「やってみたい」と思って一歩踏み出せて本当に良かったと感じています。最後に(世界三大夕陽の1つ、マニラ湾の夕陽)この時期、やるべきことが多すぎて、焦る気持ちもあると思います。でも、大丈夫。大事なのは「全部をやる」ことではなく、「合格に必要なことを確実に積み上げていく」ことです。必修、とくに救急は基礎を固めよう直前講座は力の底上げにうまく活用しようそして、「今しかない学生生活」も少しだけ大事にしてみよう応援しています。あともう一踏ん張り!

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HR+/HER2-転移乳がん内分泌療法後の1次治療、SGはPFS延長せず(ASCENT-07)/SABCS2025

 局所進行切除不能または転移のあるホルモン受容体陽性(HR+)/HER2陰性(HER2-)乳がん患者における内分泌療法(ET)後の1次治療として、サシツズマブ ゴビテカン(SG)は医師選択の化学療法と比較して、統計学的に有意な無増悪生存期間(PFS)の延長を示さなかった。米国・メモリアルスローンケタリングがんセンターのKomal Jhaveri氏が、日本も参加している第III相ASCENT-07試験の主要解析結果を、サンアントニオ乳がんシンポジウム(SABCS2025、12月9~12日)で発表した。・試験デザイン:第III相非盲検無作為化試験・対象:局所進行切除不能または転移のあるHR+/HER2-乳がん患者(進行がんに対する化学療法歴がなく、以下のうち1つ以上に該当:2ライン以上のET±標的療法後に進行/1次治療としてのET±CDK4/6阻害薬開始後<6ヵ月に進行/術後ET+CDK4/6阻害薬開始後<24ヵ月に再発し追加のETの対象外)・試験群:SG(21日サイクルの1日目と8日目に10mg/kg点滴静注) 456例・対照群:医師選択治療(カペシタビンもしくはパクリタキセルもしくはnab-パクリタキセル) 234例・評価項目:[主要評価項目]盲検下独立中央判定(BICR)によるPFS[重要な副次評価項目]全生存期間(OS)、BICRによる奏効率(ORR)、QOL[その他の副次評価項目]治験責任医師評価によるPFS、ORR、安全性など・観察期間中央値:15.4ヵ月(データカットオフ:2025年9月15日) 主な結果は以下のとおり。・ベースライン特性は両群でバランスが取れており、年齢中央値はSG群57歳vs.対照群58歳、HER2発現状態はIHC 0が42%vs.43%、転移の診断から無作為化までの期間中央値は23.9ヵ月vs.26.2ヵ月、内臓転移ありが89%vs.88%、肝転移ありが70%vs.67%であった。・前治療歴については、治療ライン中央値はともに2ライン、ET+CDK4/6阻害薬治療歴ありがSG群91%vs.対照群92%、CDK4/6阻害薬による治療期間≦12ヵ月が43%vs.42%であった。・BICRによるPFS中央値は両群で8.3ヵ月(層別ハザード比[HR]:0.85、95%信頼区間[CI]:0.69~1.05、p=0.130)で、SG群における統計学的に有意な改善は認められなかった。・BICRによるPFSのサブグループ解析の結果は、全体集団とおおむね一致していたが、HER2 IHC 0の患者ではSG群で数値的に良好な傾向を示した。・治験責任医師評価によるPFS中央値はSG群8.4ヵ月vs.対照群6.4ヵ月(層別HR:0.78、95%CI:0.64~0.93、名目上のp=0.008)であり、SG群で数値的な改善傾向を示した。・OSデータは未成熟であり(maturity:27%)、OS中央値は両群ともに未到達であったが、SG群で良好な傾向が示された(HR:0.72、95%CI:0.54~0.97、名目上のp=0.029)。・試験治療中止後の次治療は、ADCがSG群32%vs.対照群61%、化学療法が84%vs.66%などであった。・BICRによるORRはSG群37%(CR:1%)vs.対照群33%(CR:0%)、奏効期間中央値は12.1ヵ月vs.9.3ヵ月であった。・Grade3以上の試験治療下における有害事象(TEAE)はSG群72%vs.対照群48%で発現し、TEAEによる治療中止は3%vs.7%であった。SG群の安全性プロファイルはこれまでの報告と一致しており、多く発現したGrade3以上のTEAEは、好中球減少症(56%)、白血球減少症(14%)、貧血(10%)などであった。 Jhaveri氏は、TROPiCS-02試験に基づき、SGはHR+/HER2-転移乳がんに対する内分泌療法および化学療法後の標準治療として引き続き位置付けられるとした(本邦では2025年12月25日現在未承認)。なお、ASCENT-07試験は進行中で、OSが継続して評価される予定。

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HNRNP関連疾患

1 疾患概要2 診断3 治療4 今後の展望5 主たる診療科6 各論7 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)1 疾患概要■ 概念・定義hnRNP(ヘテロ核リボヌクレオプロテイン、Heterogeneous Nuclear Ribonucleoproteins)は、RNAのスプライシング、輸送、安定性、翻訳などに関わるRNA結合タンパク質のファミリーである。このhnRNPの異常は、さまざまな先天異常症候群、神経発達症、成人の神経筋疾患、がん、自己免疫疾患などと関係する。本稿では主に神経疾患との関連について記載する。遺伝子名の場合、HNRNPと大文字・斜体で記載する。■ HNRNP関連疾患の疫学正確な疾患頻度は不明であるが、数万出生に1人程度の希少疾患と考えられる。遺伝子別にみるとHNRNPH2、HNRNPU、HNRNPK関連疾患が多い。海外では多数の報告がある1)。筆者は10例以上の診断に関与しているが、国内未診断例も多いと思われる。■ HNRNP関連疾患の病因遺伝情報がDNA→RNA→タンパク質という経路で、DNAがRNAをコードし、RNAがタンパク質に翻訳されるという基本原則を「セントラルドグマ」と呼ぶ。生物では核内でDNAから遺伝情報を写し取ったmRNA前駆体(pre-mRNA)が、修飾を受けて成熟mRNAとなる。その後、細胞質に輸送され、適切な時期にタンパク質に翻訳される。この一連の過程には、さまざまなRNA結合タンパク質が関与している。hnRNPは、核内でmRNA前駆体やその他のRNA分子に結合するタンパク質ファミリーである。hnRNPは、mRNA前駆体のスプライシング(イントロン除去とエクソン結合)に関与する。一部のhnRNPはスプライシング部位の選択に影響を与え、選択的スプライシングを調節する。hnRNPは、核内でRNAを輸送する際に誘導する役割を持つ。とくにRNA分子が核膜を通過して細胞質に移動する際に重要である。また、hnRNPはRNA分子を安定化し、分解から保護する役割を持つ。一部のhnRNPは、mRNAの翻訳効率に影響を与え、遺伝子発現を調節する。hnRNPはRNA分子の二次構造形成や構造変化を助ける。このように、hnRNPの異常により、さまざまなレベルでRNAに異常が生じることが病態の背景にある。ヒトでは30種類以上のhnRNPが知られており、それぞれが異なる機能やRNA結合特性を持つ。■ 症状後述の「6 HNRNP関連疾患の各論」で各疾患ごとに述べる。■ 分類主なHNRNP関連疾患を表に示す。まだ、メンデル遺伝病として確立していないものも存在する。表 疾患との関連が判明しているHNRNP遺伝子画像を拡大する■ 予後遺伝子タイプで異なるが、ALSの場合は人工呼吸管理が必要になる。先天異常症候群の場合は成人期以降も精神運動発達遅滞が持続する。2 HNRNP関連疾患の診断後述するような臨床所見を持つ症例において、責任遺伝子の病的バリアントを検出することが基本である。微細欠失例が存在するので、マイクロアレイ染色体検査が最初に必要である。マイクロアレイ染色体検査で異常がない場合は、エクソーム解析などの網羅的遺伝子解析の適応となる。最初から診断を疑って遺伝子診断を行うことは難しい。ただし、筆者の経験ではHNRNPK異常(Au-Kline-Okamoto症候群)は特徴的所見により、臨床的に疑うことが可能である。遺伝形式は常染色体顕性遺伝によるが、HNRNPH2はX連鎖性である。基本的に両親にバリアントはなく、生殖細胞系列の新生突然変異である。染色体の微細欠失でHNRNP関連遺伝子が欠失する場合、近傍の遺伝子も同時に欠失することで、症状が修飾される可能性がある。3 HNRNP関連疾患の治療 現在のところ、根本的な治療方法はなく、対症療法に留まる。精神運動発達遅滞に対しては療育訓練が必要である。てんかんを合併した場合は一般的なてんかん治療を行う。4 HNRNP関連疾患の今後の展望HNRNPH2などでASO(Anti-sense Oligonucleotide)を用いた遺伝子治療が海外で研究的に実施されている。5 HNRNP関連疾患の主たる診療科HNRNPA1、HNRNPA2/B1遺伝子関連疾患は脳神経内科の領域であるが、他のものは小児科ないし小児神経科が関わる例が多い。合併症によっては多くの分野の医療が必要となる。遺伝学的検査や遺伝カウンセリングについては、臨床遺伝学の領域となる。6 HNRNP関連疾患の各論■ HNRNPA1、HNRNPA2/B1関連疾患ALS(筋萎縮性側索硬化症)、FTD(前頭側頭型認知症)、MSP(多系統タンパク質症)などの原因となる。ALSではSOD1など多くの責任遺伝子が知られているが、HNRNPA1、HNRNPA2/B1も原因の1つである。HNRNPA1は、mRNAのスプライシング、輸送、安定性調節などに関わる。ストレス顆粒(stress granule)形成にも関与する。この遺伝子のバリアントにより産生タンパク質の構造が変化し、異常な凝集(aggregation)や細胞質移行が起こることで神経細胞や筋細胞の機能障害が生じる。なお、HNRNPA2とHNRNPB1は、同じ遺伝子から由来する。家族性ALSの発症は中年期以降に多いが、若年例も報告がある。上位運動神経および下位運動神経の障害による進行性筋力低下、嚥下障害、呼吸筋障害がみられる。現時点で根治療法はない。ALS例では呼吸管理、リハビリ、栄養管理を行う。多発性筋炎様筋疾患(Inclusion Body Myopathy with early-onset Paget disease and Frontotemporal Dementia:IBMPFD)類似病態では筋力低下、骨疾患、認知症の組み合わせを呈する例がある。筋病理ではリムドボディを含む封入体筋炎の所見がみられる。筋疾患例では理学療法と補助具使用を考慮する。■ HNRNPH2異常によるBain症候群(Bain型X連鎖性知的障害)Bain症候群は、HNRNPH2遺伝子(heterogeneous nuclear ribonucleoprotein H2)における機能喪失型または機能異常型バリアントによって生じる先天異常症候群である。2016年にBainらが報告した2)。X連鎖顕性であり、女性患者に多く、男性では知的障害の程度が強く、重症例は新生児期に死亡する。HNRNPH2に病的バリアントが存在すると、スプライシング制御異常やRNA代謝障害を引き起こし、神経発達に影響する。とくに神経細胞の成熟やシナプス形成が阻害される。症状として、中等度~重度の精神運動発達遅滞、知的障害を認める。言語発達は遅れ、重度の例では言語獲得ができない。自閉症スペクトラム障害や行動異常の例もある。筋緊張低下、運動発達遅滞がみられ、重度の例では独歩獲得ができない。てんかんを発症する場合があり、脳波検査や脳MRI検査が必要である。MRI検査では脳梁形成不全や大脳白質異常を認める。小頭症や軽顔貌特徴を認める場合がある。レット症候群に類似した常同運動などの症状を認める例もある。確定診断は遺伝学的検査(全エクソーム解析、遺伝子パネルなど)でHNRNPH2の病的バリアントを同定することが必要である。さまざまなバリアントの報告があるが、p.Arg206Trpが最も多い。現時点では根本的な治療方法はなく、療育訓練やてんかん治療など、対症療法が中心となる。また、能力に応じた特別支援教育が必要となる。■ HNRNPH1関連疾患“Neurodevelopmental disorder with craniofacial dysmorphism and skeletal defects”の原因疾患である。主な症状は精神運動発達遅滞、知的障害、特徴的顔貌、乳児期の哺乳栄養障害、胃食道逆流症、低身長、小頭症などである。眼科的には斜視、近視などを認める。頭部MRI検査では側脳室拡大、脳梁異常、小脳虫部低形成などを認める。■ HNRNPK関連疾患(Au-Kline-Okamoto症候群)Au-Kline-Okamoto症候群は染色体9q21にあるHNRNPK遺伝子の病的バリアントないし欠失による先天異常症候群である3)。Okamoto症候群として知られていた先天異常症候群において、HNRNPKのバリアントが同定され、Au-Kline症候群とOkamoto症候群は同一疾患であることが判明した4)。神経系の症状として精神運動発達遅滞、知的障害、筋緊張低下などを認める。頭部が長頭などの変形を認める場合、頭蓋縫合早期癒合症を鑑別する必要があり、3D-CT検査が有用である。脳MRI検査では髄鞘化遅延、脳梁低形成ないし欠損、異所性灰白質などの所見を認める。特異顔貌は診断の参考となる。眼瞼裂斜下、長い眼瞼裂、眼瞼下垂、眼球突出傾向、大きい耳、耳輪低形成、耳介低位、広い鼻梁、鼻翼低形成、鼻根部平低、開口、高口蓋、口蓋裂、軟口蓋裂、舌の中央線などを認める。歌舞伎症候群が鑑別に上がる。泌尿器系では停留精巣、膀胱尿管逆流症、水腎症、神経因性膀胱の例がある。心室中隔欠損や心房中隔欠損症など先天性心疾患の精査も必要である。骨格系では股関節脱臼、側彎症などを認める例がある。根本的な治療法はなく、合併症に合わせた治療を行う。また、精神運動発達遅滞に対しては療育が必要である。■ HNRNPU関連神経発達症染色体1q44に座位するHNRNPUの病的バリアントや欠失が原因である5)。神経発達に必要な多くの遺伝子の発現制御に関わるHNRNPUの機能喪失により、神経発生やシナプス形成に必要な多くの遺伝子の転写・スプライシング制御に異常が生じる。多くは常染色体顕性の突然変異である。精神運動の発達遅滞、中等度~重度の知的障害、筋緊張低下がみられる。言語表出の遅れもみられる。HNRNP関連疾患の中でもてんかんの合併が多いことが特徴である。乳児早期てんかん脳症の形態をとる場合がある。West症候群やLennox-Gastaut様などの報告もある。頭囲については軽度小頭症や巨頭症の報告がある。顔貌特徴(非特異的だが、やや長い顔、広い前額部など)が報告される。脳MRI検査異常として、脳梁低形成、白質異常などを認める。滲出性中耳炎や斜視にも注意が必要である。マイクロアレイ染色体検査でHNRNPUを含む、1q44領域の欠失を同定する場合もある。この場合は1q44微細欠失症候群として確立した症候群となる。根本的治療法は未確立であり、てんかんに対する治療、療育訓練が必要である。てんかんは薬剤抵抗性に経過する場合がある。7 参考になるサイト診療、研究に関する情報HNRNP Family Foundation(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)患者会情報HNRNP疾患患者家族会(患者とその家族向けのまとまった情報) 1) Gillentine MA, et al. Genome Medicine. 2021;13:63. 2) Bain JM, et al. Am J Hum Genet. 2016;99:728-734. 3) Au PYB, et al. Hum Mut. 2015;36:1009-1014. 4) Okamoto N. Am J Med Genet. 2019;179A:822-826. 5) Carvill GL, et al. Nature Genet. 2013;45:825-830. 公開履歴初回2025年12月25日

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わが国初の表皮水疱症の遺伝子治療薬への期待/Krystal Biotech

 Krystal Biotech Japanは、指定難病である栄養障害型表皮水疱症(DEB)の治療薬としてわが国では最初の遺伝子治療薬ベレマゲン ゲペルパベク(商品名:バイジュベック ゲル)が、適用承認・発売されたことに寄せ、都内でプレスセミナーを開催した。セミナーでは、表皮水疱症の病態、診療の解説や患者からの疾患での苦労や新しい治療薬への期待などが語られた。皮膚の苦痛が続く表皮水疱症の病態 「栄養障害型表皮水疱症と最新治療について」をテーマに夏賀 健 氏(北海道大学大学院医学研究院皮膚科学教室 准教授)が、本症の疾患概要と今回発売されたベレマゲン ゲペルパベクの臨床試験結果などを解説した。 DEBは、7型コラーゲンの異常により、表皮に水疱やびらんが生じる疾患であり、顕性・潜性の2種類がある。 症状として皮膚の水疱やびらんによる痛みや感染症があり、患者は毎日1~2時間おきに被覆材の交換が必要となり、QOLに重大な悪影響を及ぼす。皮膚症状が顕著であるが、確定診断では遺伝子検査が必要となる(保険適用)。 わが国には数百例の患者が推定されるとともに、根治療法はなく、保険適用治療として自家培養表皮の移植だけとなっている。 今回発売されるベレマゲン ゲペルパベクは、7型コラーゲン遺伝子治療薬であり、ヘルペスウイルスベクターを利用し表皮と真皮の接着を促す。皮膚の傷に週1回塗布することで、たんぱくを補充し、皮膚を修復する。 ベレマゲン ゲペルパベクの海外第III相試験は、標的創傷の完全閉鎖を主要評価項目として、ベレマゲン ゲペルパベク群31例とプラセボ群31例で行われた。その結果、創傷の完全治癒率はベレマゲン ゲペルパベク群で67.4%、プラセボ群で21.6%だった。 ベレマゲン ゲペルパベク群において、有害事象は58.1%(13/31例)、副作用は3.2%(1/31例)に発現した。有害事象は掻痒症、悪寒、発疹など、副作用は紅斑が報告された。 これらの結果から夏賀氏は、ベレマゲン ゲペルパベクのDEBへのインパクトとして「患者の創傷が早く治り、痛み軽減、感染リスクの減少、そして、被覆材交換時間短縮につながる。患者のQOLの向上に役立つ治療薬となる」と期待を寄せた。さらなる国の患者支援を望む 次に患者の視点から「表皮水疱症と生きる困難と希望~在宅で使える遺伝子治療薬への期待~」をテーマに宮本 恵子 氏(表皮水疱症友の会 DebRA Japan 代表理事)が、患者の苦労や新薬への期待を語った。 宮本氏自身も潜性栄養障害型表皮水疱症であり、毎日繰り返す水疱とびらんの処置で苦労をしている。症状が進むと指の癒着などが起こり、機能不全や生活障害を起こすこと、患者の8割が皮膚がんを発症して亡くなることなど、患者の現状を紹介した。 そして、本症は、ほぼ医療者の間でも知られていない疾患であり、症状をフォローできる医師がいないことが課題であると指摘し、重要なことはわが国に数人しかいない専門医につなげることだと語った。また、わが国の診療の遅れについても触れ、患者は医療器材が毎月50万円近く必要だが満足な補助はされていないという。現在患者会には200人近く会員がおり、希少疾病治療薬の早期承認や訪問看護の条件にかなうように厚生労働省に要請している。その他、患者会では、海外団体との連携・協力や疾患の学習会の実施、市民向けの啓発活動もYouTubeなどで行っていることを説明した。

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長期QOL予測の共有に家族の抑うつ予防とチーム連携改善効果【論文から学ぶ看護の新常識】第44回(最終回)

長期QOL予測の共有に家族の抑うつ予防とチーム連携改善効果集中治療室(ICU)での家族面談において、個別化された長期的な生活の質(QOL)予測を共有することは、1年後の家族の抑うつの増加を抑制し、医療者間の協働が改善する効果があることが示された。Lucy L Porter氏らの研究で、Intensive Care Medicine誌2025年3月号に掲載の報告を紹介する。集中治療室における長期QOL予測の共有:患者、家族、臨床医の経験と結果への影響―ランダム化比較試験研究チームは、個別化された長期的なQOL予測を共有することが、患者、家族、臨床医の経験と結果にどのような影響を与えるのかを評価することを目的に、ランダム化比較試験を実施した。オランダの2病院の成人ICU患者160例を通常ケア群(79例)または介入群(81例)に割り付けた。介入群では、ICUでの家族面談において、検証済み予測モデルに基づく「長期QOL予測」を共有した。主要評価項目は、共同意思決定(SDM)に関する患者および家族の経験(CollaboRATE、範囲:0~100)とし、家族面談から3日以内に評価した。副次評価項目には、ICU医療従事者の経験(Collaboration and Satisfaction about Care Decisions:CSACD、集中治療室での意思決定に関する倫理的風土の調査票[Ethical Decision-Making Climate Questionnaire:EDMCQ])、患者および家族の不安・抑うつ症状、ICU退室3ヵ月後・1年後の患者のQOLが含まれた。主な結果は以下の通り。患者および家族の経験において、両群間に有意差は認められなかった。CollaboRATEスコア中央値:介入群89(四分位範囲[IQR]:85〜100)vs.通常ケア群93(IQR:85〜100)、p=0.6。患者のアウトカムに差はなかったが、ICU退室1年後の時点において、通常ケア群の家族は抑うつ症状のより大きな増加を報告した(平均値:通常ケア群2.3 vs.介入群0.2、p=0.04)。ICU医療従事者の経験に関しては、介入後にCSACDスコアの改善が認められた(中央値:介入群40 vs.通常ケア群37、p=0.01)一方で、EDMCQには有意な変化は見られなかった。家族面談に個別化された長期QOL予測を取り入れることは、患者および家族の経験に対して測定可能な効果を示さなかった。しかしながら、家族の抑うつ症状およびICU医療従事者が実感する協働に対しては、肯定的な効果が認められた。ICUでの長期QOL予測を家族面談で共有する介入の有効性を評価した本研究は、集中治療後の患者の長期予後や後遺症(PICS)に対する家族の「備え」を支援するという点で、臨床現場の看護師にとって極めて重要な示唆を与えてくれます。ICUの生存率向上に伴い、短期的な救命だけでなく退院後のQOL確保が重要となる中、予測モデルに基づいた個別化された長期QOL予測を、会話ガイドやリーフレットと共に提供する本介入は、家族の長期的な精神衛生に明確な効果をもたらしました。具体的には、ICU退院後1年時点で通常ケア群では家族の抑うつ症状が増加したのに対し、介入群ではその増加が大幅に抑制されるという、統計的に有意な効果が示されました。これは医療者の楽観的になりがちな予測や、家族の長期的影響を過小評価しやすい背景に対し、客観的な予測情報が「現実的な期待」を醸成し、家族が予後に向けて精神的な準備ができた結果と解釈されます。また、本介入はICU医療従事者の職種間の協働とケア決定への満足度(CSACDスコア)も有意に向上させました。これは、客観的な長期予後情報を共有することで、多職種間でのケアや予後に関する目標設定が標準化され、チーム連携の強化につながったためと推察されます。一方、患者・家族の共同意思決定への満足度(CollaboRATEスコア)には有意差が見られなかった点は、両群とも高い満足度を示していたことによる「天井効果」の可能性が高いと考えられます。私たち看護師は日常の家族対応において、予後を尋ねられた際に「人によって異なります」と回答する場面も多いのではないでしょうか。もちろんその通りではありますが、家族の不安を高める可能性も否定できません。また、個々のスタッフが単独で正確な予後を説明することは、責任の重さからも困難です。今回の介入のようにリーフレット等を活用し、さらには学会などが予後に関するデータを積極的に公表して現場で活用できるようになれば、家族の抑うつ症状の予防、職種間協働の促進だけでなく、説明を行う医療者自身の心理的負担軽減にもつながる可能性があります。そうした環境が整うことで、私たちは患者さんとご家族の未来をより力強く支えていけるのではないでしょうか。本連載は今回で最終回となります。最新の知見を臨床現場にどう落とし込むか、そのヒントを皆様と共有できたことは大きな喜びでした。これまでの記事が、より良い看護の実践につながることを願っております。論文はこちらPorter LL, et al. Intensive Care Med. 2025;51(3):478-489.

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心原性ショックへのlevosimendan、ECMO離脱を促進せず/JAMA

 静脈-動脈体外式膜型人工肺(VA-ECMO)による管理を受けている重篤だが可逆性の心原性ショック患者の治療において、強心血管拡張薬levosimendanの早期投与はプラセボと比較して、ECMO離脱までの時間を短縮せず、集中治療室(ICU)入室期間や60日死亡率に差はないが、心室性不整脈の頻度が高いことが、フランス・ソルボンヌ大学のAlain Combes氏らLEVOECMO Trial Group and the International ECMO Network(ECMONet)が実施した「LEVOECMO試験」で示された。研究の成果は、JAMA誌オンライン版2025年12月1日号で報告された。フランスの無作為化プラセボ対照比較試験 LEVOECMO試験は、フランスの11ヵ所のICUで実施した研究者主導型の二重盲検無作為化プラセボ対照比較試験であり、2021年8月~2024年9月に参加者を募集した(フランス保健省などの助成を受けた)。 年齢18歳以上、急性心原性ショックを発症し、従来治療が不応で、VA-ECMO開始から48時間以内の患者を対象とした。 被験者を、levosimendan 0.15μg/kg/分(2時間後に0.20μg/kg/分に増量)またはプラセボの24時間持続注入を受ける群に、1対1の割合で無作為に割り付けた。 主要アウトカムは、無作為化から30日以内におけるECMO離脱成功までの時間とした。ECMO離脱成功率:68.3%vs.68.3% 205例(年齢中央値58歳[四分位範囲[IQR]:50~67]、女性56例[27.3%])を登録し、101例をlevosimendan群、104例をプラセボ群に割り付けた。心原性ショックの主な病因は、開心術後(79例[38.5%])、急性心筋梗塞(56例[27.3%])、心筋炎(28例[13.7%])であった。無作為化の時点でのSOFAスコア中央値は12点(IQR:9~15)だった。投与量は、levosimendan群の93%、プラセボ群の96%で0.20±0.01μg/kg/分に増量した。 30日以内のECMO離脱成功は、levosimendan群の101例中69例(68.3%)、プラセボ群の104例中71例(68.3%)で達成し(リスク群間差:0.0%[95%信頼区間[CI]:-12.8~12.7]、部分分布ハザード比:1.02[95%CI:0.74~1.39])、両群間に有意な差を認めなかった(p=0.92)。 ECMO離脱成功の競合イベントであるECMO離脱失敗(離脱後30日以内における2回目のECMOの必要性、他の機械的循環補助デバイスの使用、心臓移植または死亡:15例[14.9%]vs.21例[20.2%]、p=0.32)およびECMO離脱前の死亡(15例[14.9%]vs.12例[11.5%]、p=0.47)にも、両群間に有意差はみられなかった。 また、ECMO使用期間中央値(levosimendan群5日[IQR:4~7]vs.プラセボ群6日[4~11]、p=0.53)、平均ICU入室期間(18日[SD 15]vs.19日[SD 15]、p=0.42)、60日死亡率(27.7%vs.25.0%、リスク群間差:2.7%、95%CI:-9.0~15.3、p=0.78)についても、両群間に有意な差はなかった。一方、60日以内の平均入院期間(28日[SD 18]vs.35日[SD 19]、リスク群間差:-7日、95%CI:-12~-2)は、プラセボ群で長かった。全般的な有害事象の頻度は同程度 薬剤関連の有害事象の発生率は両群で同程度であったが、心室性不整脈の頻度がlevosimendan群で高かった(18例[17.8%]vs.9例[8.7%]、絶対リスク群間差:9.2%、95%CI:0.4~18.1)。電気的除細動を要する心室性不整脈は、それぞれ4例(4.0%)および1例(1.0%)であった。 事前に規定されたサブグループ(開心術後、急性心筋梗塞、心筋炎、その他)のいずれにおいても、治療効果について両群間に差を認めなかった。 著者は、「これらの知見は、この患者集団におけるアウトカムの改善を目的とするlevosimendanの日常診療での使用を支持しない」「バイアスを最小化し、95%以上の患者で重大な血行動態の不安定化を伴わずに最大投与量に達したにもかかわらず、levosimendanは主要・副次エンドポイントに関して、またすべてのサブグループにおいて有益性の徴候を示さなかった」「ICU入室期間に差がないにもかかわらずプラセボ群で入院期間が長かったのは、levosimendan群で有意差はないものの死亡率(とくに試験開始後2週間以内)が高かったこと、プラセボ群で移植患者が多かったことなどによる可能性が考えられる」としている。

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薬局に「傷病名」が共有される時代がすぐそこに!【早耳うさこの薬局がざわつくニュース】第162回

薬局を含む電子カルテの共有サービスが1年後に始まる予定です。いよいよ薬局に「傷病名」が共有される時代になりそうです。厚生労働省は2025年12月10日に開催した「第26回健康・医療・介護情報利活用検討会医療等情報利活用ワーキンググループ」で、電子カルテ情報共有サービスについて、2026年度の冬ごろをめどに全国での運用開始を目指す方針を示した。進行中のモデル事業で複数の課題が明らかになり、それに対応する期間を想定してのスケジュールだ。(2025年12月15日付 日経メディカル)2022年5月に、自由民主党政務調査会より提言された「医療DX令和ビジョン2030」の中の三本の柱の1つとして電子カルテ情報共有サービスが掲げられました。政府は、日本の医療分野のデジタル化を推進する取り組みとして電子カルテ情報共有サービスを構築し、医療の効率化と情報共有の改善を目指しています。電子カルテ情報共有サービスは、全国の医療機関や薬局などで患者の電子カルテ情報を共有するための仕組みで、提供するサービスは次の4点です。1.診療情報提供書を電子で共有できるサービス(退院時サマリーについては診療情報提供書に添付)2.各種健診結果を医療保険者及び全国の医療機関等や本人等が閲覧できるサービス3.患者の6情報を全国の医療機関等や本人等が閲覧できるサービス4.患者サマリーを本人等が閲覧できるサービス具体的には、「3文書6情報」と呼ばれる情報の標準化が進められています。「診療情報提供文書」「退院時サマリー」「健康診断結果報告書」の3文書(文書情報)と、「傷病名」「感染症情報」「薬剤アレルギー等」「その他アレルギー等」「検査」「処方」の6情報です。これらの情報が患者の同意のもと、スムーズに共有されることで、医療の質の向上や継続性の確保が期待されています。電子カルテ情報共有サービスは、2025年度中の本格運用を目標に、一部の地区ではすでに試験運用が始まっています。この試験運用によって得られた課題をクリアした後の2026年の冬ごろに全国で運用を開始するとのことです。現在、薬局でも医療機関でも、DX加算が設けられており、DX化は加速しています。薬局においては、今も手計算で調剤報酬を計算している薬局はほぼないでしょう。一方、厚生労働省の令和5年(2023年)の調査によると、一般病院全体での電子カルテシステムの普及率は65.6%ですが、一般診療所では55.0%にとどまっています。さらに、2024年に日本医師会が実施した「診療所における医療DXに係る緊急調査」では、電子処方箋の導入率は14.5%と低迷しています。電子処方箋の導入率の低さを考慮すると、全国で展開されるのはもう少しあとになるのでは…という気もします。この電子カルテ情報共有サービスで「傷病名」が共有されるという情報に小躍りしそうになるのは私だけでしょうか。処方から病名を推察するというのが薬局薬剤師のある種の技術だったところもありますが、新しい時代が来るという予感がしますね! 検査結果などが共有されるというのは、医薬品の安全使用にとってはうれしい限りです。共有された後の薬局業務が楽しみです。

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米国でアルファガル症候群による初の死亡例を確認

 米国で、ダニが媒介するまれな肉アレルギーであるアルファガル(α-gal)症候群による死亡例が初めて確認されたことを、米バージニア大学医学部のアレルギー専門医であるThomas Platts-Mills氏らが報告した。この症例報告は、「The Journal of Allergy and Clinical Immunology: In Practice」に11月12日掲載された。 Platts-Mills氏らによると、アルファガル症候群で死亡したのは、米ニュージャージー州在住の健康な47歳の男性である。この男性は、2024年夏、キャンプ先で夕飯に牛肉を食べた4時間後の深夜2時に、腹部に不快感を感じて目を覚ました。不快感はもがき苦しむほどの強さになり、下痢と嘔吐も生じたが、2時間後に容態は改善し、再び眠りについたという。翌朝、男性の体調は良く、5マイル(8km)歩いた後に朝食を食べた。夫婦でこの出来事について話し合い、医師に診てもらうことも考えたが、結局、受診しなかった。ただ、男性は息子の1人に「死ぬかと思った」と話したという。 2週間後、男性は午後3時にハンバーガーを食べた。妻が外出した午後7時の時点で、男性に消化器症状はなかった。しかし、7時30分頃までに男性の子どもが母親に電話をかけ、父親の様子が再びおかしいことを告げた。その後、息子は男性がバスルームの床の上に意識不明で倒れているのを見つけた。周囲には吐瀉物が見られた。息子は7時37分に救急車を呼び、蘇生措置を開始した。男性は病院に搬送され、2時間にわたる蘇生措置が施されたが、午後10時22分に死亡が確認された。 剖検では、心臓、呼吸器、神経系、腹部に異常は認められず、心臓、右肺、肝臓の顕微鏡検査、心臓病理学検査でも異常はなかった。毒物検査の結果は、血中エタノール濃度は0.049%、ジフェンヒドラミン濃度は440ng/mLだった。剖検の結論は、「原因不明の突然死」とされた。しかし、妻は原因究明を求め、この男性を診察していた医師は、バージニア大学の研究者に連絡を取った。Platts-Mills氏らが行った血液検査から、アルファガル症候群が確認された。 アルファガル症候群は、マダニに噛まれた際に、ダニの唾液に含まれるアルファガルが体内に取り込まれ、それに対するIgE抗体が産生されることを原因として発症する。このようにして感作が成立した人が、牛、豚、羊、その他の哺乳類の肉を摂取すると、この抗体が肉に含まれるアルファガルと反応してアレルギー反応を引き起こすのだ。主な症状は、蕁麻疹、吐き気、胃の痛みだが、専門家は以前より重症化してアナフィラキシーにより死に至る可能性もあると懸念していた。 今回死亡した男性の場合、直近でダニに噛まれた経験はなかったものの、2024年の夏に、足首に12~13カ所、かゆみを伴うダニの刺し口が見られた。Platts-Mills氏は、これらは主にローンスターダニの幼虫によるものと指摘している。また研究グループは、男性のアレルギー反応を悪化させた可能性のある要因として、ハンバーガーとともにビールを飲んでいたことや運動、花粉などを挙げている。 Platts-Mills氏はこの症例を踏まえた注意喚起として、「一般の人にとって重要な情報は、第一に、牛、豚、羊の肉を食べてから3~5時間後に激しい腹痛が起こった場合は、アナフィラキシーショックの可能性があるため、検査が必要だということ。第二に、1週間以上かゆみが続くダニの刺し口がある場合も、哺乳類由来の肉に対する過敏症を誘発したり、悪化させたりする可能性があることだ。一方、軽度から中程度の蕁麻疹であれば、ほとんどの場合、食事管理で症状をコントロールすることができる」とニュースリリースで述べている。

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第274回 診療報酬26年度改定「本体3.09%引き上げ」で決着へ、医療現場の賃上げ原資に/政府

<先週の動き> 1.診療報酬26年度改定「本体3.09%引き上げ」で決着へ、医療現場の賃上げ原資に/政府 2.薬価0.8%引き下げで最終調整、新薬維持制度で創薬力強化へ/政府 3.OTC類似薬に「25%追加負担」を自民・維新が合意、2026年度開始へ/自民・維新 4.東京科学大が国際卓越研究大学に認定、東大は継続審査に/文科省 5.赤字の大学病院が譲渡に、市川総合病院が国際医療福祉大学へ/国際医療福祉大 6.生活保護で6,650万円不正、歯科医院名を公表/東京都 1.診療報酬26年度改定「本体3.09%引き上げ」で決着へ、医療現場の賃上げ原資に/政府政府は2026年度診療報酬改定で、医療行為の対価となる「本体」を+3.09%とする方針を固め、週明けの厚労・財務両大臣折衝を経て月内に正式決定する見通しとなった。3%超の引き上げは1996年度の3.4%以来の30年ぶりの高さで、2024年度の+0.88%を大きく上回る。首相官邸で高市 早苗首相、上野 賢一郎厚労相、片山 さつき財務相が協議し、物価高と賃上げ圧力の下で悪化する医療機関経営を支える必要性を優先した。内訳は賃上げ対応1.70%、物価対応(光熱水費・食費などを含む)1.29%、医療の高度化など0.25%で、適正化として0.15%を差し引く。厚生労働省は当初より3%台を主張し、財務省は「適正化・効率化を前提に1%台」としてきたが、最終的に高市首相が厚労省案を選択した。日本医師会は、公定価格ゆえ賃金・物価上昇を転嫁できない点を挙げ、賃上げ・物価対応の「真水」確保に謝意を示した。医療経済実態調査では一般病院の医業・介護損益率がマイナス7.3%とされ、補正予算でも医療・介護等支援パッケージ約1.4兆円が計上されたが、現場はなお厳しい。その一方で、診療報酬の財源は保険料が約5割、公費約4割、患者負担約1割とされ、1%引き上げで約5,000億円、3%での単純計算で約1.5兆円規模の国民負担増になる。政府・与党は現役世代の保険料軽減も掲げるため、今後は中央社会保険医療協議会(中医協)で「病院・診療所・調剤のメリハリ」や、急性期・高度医療、地域医療維持、人材確保へどう配分するかが焦点となる。財務省は、利益率の高い無床診療所や調剤への報酬点検を求めており、病院への傾斜配分を主張している。改定率の決定後は、各点数の算定要件の厳格化が実収入を左右するため、医療機関はDXによる効率化と、地域医療構想に合致した機能分化への対応が不可欠となる。改定率決定後、入院基本料、手術・救急、地域包括ケア、外来・在宅、薬局などへの配分と算定要件について取りまとめることになる。国立大学病院長会議は12月18日、44国立大学病院のうち32病院で現金収支の悪化のために、321億円の赤字を見込む数字を公表し、機器更新の先送りや人事院勧告に沿った賃上げができない例を指摘した。3%台を評価しつつ「危機は脱していない」として、高度医療への傾斜配分や、物価上昇に連動して診療報酬を改定する枠組みの検討を求めた。 参考 1) 診療報酬本体、3.09%上げ 物価高対応で30年ぶり水準-政府(時事通信) 2) 26年度診療報酬改定 本体プラス3.09% 賃上げ対応1.70%、物価対応0.76%、適正化はマイナス0.15%に(ミクスオンライン) 3) 診療報酬30年ぶりの高水準、3%こだわった首相 「不十分」の声も(朝日新聞) 4) 診療報酬改定「本体」30年ぶりに3%超引き上げで最終調整(NHK) 2.薬価0.8%引き下げで最終調整、新薬維持制度で創薬力強化へ/政府政府は12月19日、2026年度の薬価を0.8%程度引き下げる方向で最終調整に入った。今回の改革の柱は、創薬イノベーションの評価と医薬品の安定供給確保の両立にある。中央社会保険医療協議会(中医協)が示した骨子(たたき台)では、特許期間中の薬価を維持する仕組みを「革新的新薬薬価維持制度(PMP)」と改称し、制度の透明性を高める方針が示された。注目すべきは、収載時には加算対象でなかった品目でも、後に国内の診療ガイドラインで「標準的治療法」に位置付けられた場合に、薬価改定時に評価を行う新ルールの導入である。これにより、医療機関には、よりエビデンスに基づいた処方の「標準化」が強く求められることになる。医療現場の経営に直結するのは、医薬品の安定供給対策である。昨今の供給不安定化を受け、不採算品再算定の要件が緩和される。これまで同一組成・規格の「全類似薬」が不採算である必要があったが、一部の類似薬にシェアが集中している場合は、品目単位での再算定が可能となる。これは現場で多用される基礎的医薬品の確保に資する一方、改定のたびに薬価が上下する不安定な状況は、医療機関の「在庫負担」や「購入価格交渉」に複雑な影響を与える。さらに、年間1,500億円を超える巨大市場を形成した高額医薬品への対応も強化される。効能追加の有無に関わらず、NDB(レセプト情報等データベース)を用いて使用量を把握し、年4回の新薬収載の機会に合わせた機動的な再算定が実施される。今回の改定は、単なる引き下げにとどまらず、イノベーション評価と供給不安解消を同時に進める構造改革の側面が強い。医療機関にとっては、新制度による薬剤費の変動を注視しつつ、地域連携やDXを通じた適正な在庫管理と標準ガイドラインに準拠した効率的な薬剤選択が、経営の安定化と質の高い医療提供の鍵となる。 参考 1) 令和8年度薬価制度改革の骨子[たたき台](厚労省) 2) 薬価 0.8%程度引き下げる方向で最終調整(NHK) 3) 2026年度薬価制度改革の骨子たたき台、医薬品業界は「イノベーション評価のメッセージが不十分」と指摘-中医協・薬価専門部会(Gem Med) 3.OTC類似薬に「25%追加負担」を自民・維新が合意、2026年度開始へ/自民・維新自由民主党と日本維新の会は12月19日、市販薬と成分・効能が近い「OTC類似薬」について、保険適用は維持しつつ、対象薬で薬剤費の4分の1(25%)を保険外で追加負担させる新制度を導入することで合意した。対象は77成分・約1,100品目(湿布、胃腸薬、アレルギー薬、外用薬などを想定)で、政府は2026年通常国会に法案提出し、26年度中(来年度末ごろ)の開始を目指す。追加負担は、薬代の25%は全額自己負担、残る75%は従来通り保険給付(窓口1~3割)という整理。子供、がん・難病など長期治療が必要な患者、低所得者、慢性疾患や入院患者などへの配慮(除外)を検討し、具体的な品目選定は厚生労働省が詰める。協議では、維新が当初主張した「保険適用除外(全額自己負担)」は見送り、制度創設で折り合った。あわせて薬剤給付の見直しとして、長期収載品の選定療養は先発品選択時の特別料金を薬価差の1/4から1/2へ引き上げ、長期処方・リフィル処方箋の活用(安定患者で原則化も視野、院内掲示要件拡大)、食品類似薬は「食事で栄養補給可能な患者」への使用を保険給付外とする方針で合意した。これらを通じて、約900~1,880億円規模の医療費抑制を見込み、27年度以降の対象拡大や負担割合見直しも検討事項に入った。狙いは保険料負担の軽減だが、患者負担増と受診行動への影響、対象外の線引きが今後の論点となる。 参考 1) 自民・維新 長期収載品の選定療養 価格差の「2分の1」に引上げへ リフィル処方箋の活用にも合意(ミクスオンライン) 2) OTC類似薬、1,100品目で25%を患者が追加負担へ 自維が合意(朝日新聞) 3) 市販類似薬の追加負担、薬価の4分の1で自維合意…湿布薬や胃腸薬など1,100品目対象(読売新聞) 4.東京科学大が国際卓越研究大学に認定、東大は継続審査に/文科省文部科学省は12月19日、世界最高水準の研究力を持つ大学を重点支援する「国際卓越研究大学」の第2回公募で、東京科学大学を新たに認定し、京都大学を認定候補として選定したと発表した。一方、東京大学は計画の実効性やガバナンス面に課題があるとして、最長1年間の継続審査となった。国際卓越研究大学は、政府が設立した10兆円規模の大学ファンドの運用益を原資に、認定校へ最長25年間にわたり巨額の助成を行う制度。研究力に加え、財務戦略やガバナンス、組織改革の実行力が厳しく問われる。第1号としては2024年に東北大学が認定されている。東京科学大は、東京工業大と東京医科歯科大が統合して2024年に発足した新大学で、理工系と医療系を融合した医工連携を中核に据える全学的改革が評価された。2026年度から百数十億円規模の助成を受ける見通しで、「日本の新しい大学モデル」として期待が集まる。京都大は、従来の小講座制を見直し、研究領域ごとのデパートメント制を導入する大胆な組織改革や若手研究者の活躍促進、スタートアップ創出を掲げた点が高く評価された。ただし計画は策定途上とされ、2026年末までに具体化を確認した上で正式認定される。一方、東京大は「10年で世界トップ10の研究大学」を掲げたものの、大学本部が改革を主導できるか不透明と判断された。加えて、東大病院を巡る贈収賄事件などガバナンス上の不祥事も影を落とし、有識者会議は「新たな不祥事が生じた場合は審査を打ち切る」と厳しい条件を付した。今回の選定は、日本の研究大学に対し、研究実績だけでなく、組織改革と統治能力を含めた「大学経営力」が問われる段階に入ったことを示している。 参考 1) 国際卓越研究大学の認定等に関する有識者会議(文科省) 2) 国際卓越研究大学に東京科学大と京都大を認定へ 東大は継続審査(毎日新聞) 3) 「国際卓越研究大学」 東京科学大学を認定へ 京都大学も候補に(NHK) 4) 「国際卓越大」に東京科学大を認定へ、京大も候補 不祥事続く東大は保留(日経新聞) 5.赤字の大学病院が譲渡に、市川総合病院が国際医療福祉大学へ/国際医療福祉大国際医療福祉大学(栃木県大田原市)は、東京歯科大学市川総合病院(千葉県市川市)を取得し、来年4月に「国際医療福祉大市川総合病院」として開院する。両大学は12月18日、無償での譲渡契約を締結した。大学病院が他大学に経営譲渡されるのは極めて異例なケース。市川総合病院は1946年開院、511床・26診療科を有する地域の中核病院だが、物価高や人件費、医療機器コストの上昇を背景に経営が悪化し、2023年度に約9億円、24年度には約16億5千万円の赤字を計上した。病院閉院は地域医療への影響が大きいとして、東京歯科大は存続を最優先に経営譲渡を決断。今年に入り、歯科医師交流などの実績がある国際医療福祉大に打診していた。国際医療福祉大は全国で6つの付属病院を運営し、千葉県内でも2病院を展開している。取得後も病床数や診療科、職員の雇用は維持し、東京歯科大からの歯科医師派遣や学生・研修医の受け入れを継続する方針。医科と歯科の連携を強化し、臨床実習の場を拡充するとともに、グループ病院間の連携や調達の効率化によるスケールメリットで早期の経営改善を目指す。全国的にも大学病院の赤字は深刻で、全国医学部長病院長会議によれば、81大学病院の収支は2024年度に計508億円の赤字となった。高度医療を担う大学病院ほどコスト増の影響を受けやすく、国の補正予算による支援も講じられているが、構造的な再編や集約化の議論は避けられない。今回の譲渡は、地域医療を守るための経営再編という新たな選択肢を示した事例といえる。 参考 1) 学校法人国際医療福祉大学による東京歯科大学市川総合病院の承継について(国際医療福祉大学) 2) 国際医療福祉大が病院取得=東京歯科大から、来年4月開院へ(時事通信) 3) 国際医療福祉大、市川総合病院を取得…多額の赤字で東京歯科大が譲渡を打診(読売新聞) 6.生活保護で6,650万円不正、歯科医院名を公表/東京都東京都は12月18日、都内で過去最大額となる約6,650万円の診療報酬を不正請求したとして、板橋区前野町の歯科医院「医療法人社団山富会 タカシデンタルクリニック」(廃止済み)の名称を公表した。対象期間は2020年4月~2024年9月で、生活保護受給者89人分の診療報酬を不正・不当に請求した。内訳の多くは、実際に診療していないにもかかわらず請求する架空請求で約5,000万円に上る。不正は、来院していない患者の診療実績を捏造したり、診療内容を水増ししたりする手口で行われた。確認された架空請求の中には、一時帰国中、入院中、さらには死亡していた患者に関する請求も含まれていた。2024年2月、福祉事務所からの情報提供(帰国中の受給者に対する請求)を端緒に、都が生活保護法に基づく検査を2024年11月~2025年6月まで実施し、不正を認定した。同医院は都から検査通知を受けた後の2024年10月に廃止されたが、同一理事長が同一所在地で名称を変えて再開業しているとの情報もある。都は、利用者が適切な医療機関を選択するために必要として、医院名の公表に踏み切った。被害を受けた板橋区は警視庁への告訴を検討している。本件は、生活保護医療におけるレセプト管理・内部統制の不備が巨額不正に直結し得ることを示した。医療機関には、診療実績の実在性確認、レセプト点検の多重化、異常値の早期検知、職員教育の徹底など、ガバナンス強化と日常的なコンプライアンス運用が改めて求められる。 参考 1) 生活保護法に基づく元指定医療機関の不正請求について(東京都) 2) 生活保護受給者の診療報酬6,600万円超を不正・不当請求…板橋区の歯科医院の名称を公表(読売新聞) 3) 診療報酬6,650万円を不正請求の歯科医院名を公表 東京都内では過去最大額(産経新聞)

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『肝細胞癌診療ガイドライン』改訂――エビデンス重視の作成方針、コーヒー・飲酒やMASLD予防のスタチン投与に関する推奨も

 2025年10月、『肝細胞癌診療ガイドライン 2025年版』(日本肝臓学会編、金原出版)が刊行された。2005年の初版以降、ほぼ4年ごとに改訂され、今回で第6版となる。肝内胆管がんに独自ガイドラインが発刊されたことを受け、『肝癌診療ガイドライン』から名称が変更された。改訂委員会委員長を務めた東京大学の長谷川 潔氏に改訂のポイントを聞いた。Good Practice StatementとFRQで「わかっていること・いないこと」を明示 今版の構成上の変更点としては、「診療上の重要度の高い医療行為について、新たにシステマティックレビューを行わなくとも、明確な理論的根拠や大きな正味の益があると診療ガイドライン作成グループが判断した医療行為を提示するもの」については、Good Practice Statement(GPS)として扱うことにした。これにより既存のCQ(Clinical Question)の一部をGPSに移行した。 また、「今後の研究が推奨される臨床疑問」はFuture Research Question(FRQ)として扱うことにした。FRQは「まだデータが不十分であり、CQとしての議論はできないが、今後CQとして議論すべき内容」を想定している。これらによって、50を超える臨床疑問を取り上げることが可能になり、それらに対し、「何がエビデンスとして確立しており、何がまだわかっていないのか」を見分けやすくなった。診療アルゴリズム、3位以下の選択肢や並列記載で科学的公平性を保つ ガイドラインの中で最も注目されるのは「治療アルゴリズム」だろう。治療選択肢が拡大したことを受け、前版までは推奨治療に優先順位を付けて2位までを記載していたが、今版からはエビデンスがあれば3位以下も「オプション治療」として掲載する方針とした。たとえば、腫瘍が1~3個・腫瘍径3cm以内の場合であれば、推奨治療は「切除/アブレーション」だが、オプション治療として「TACE/放射線/移植」も選択肢として掲載している。これにより、専門施設以外でも自施設で可能な治療範囲を判断したり、患者への説明に活用したりしやすくなっている。 また、治療やレジメンの優先順位もエビデンスを基に厳格に判断した。たとえば、切除不能例の1次治療のレジメンでは、実臨床ではアテゾリズマブ+ベバシズマブ療法が副作用管理などの面で使用頻度が高い傾向にあるが、ガイドライン上ではほかの2つのレジメン(トレメリムマブ+デュルバルマブ、ニボルマブ+イピリムマブ)と差を付けず、3つの治療法を並列に記載している。実臨床での使いやすさや感覚的な優劣があったとしても、それらを直接比較した試験結果がない以上、推奨度には差を付けるべきではないと判断した。 結果として、多くの場面で治療選択肢が増え、実臨床におけるガイドラインとしては使い勝手が落ちた面があるかもしれないが、あくまで客観的なデータを重視し、科学的な公平性を保つ方針を貫いた。判断の根拠となるデータ・論文はすべて記載しているので、判断に迷った場合は原典にあたって都度検討いただければと考えている。予防ではコーヒー・飲酒の生活習慣に関するCQを設定 近年ではB/C型肝炎ウイルス由来の肝細胞がんは減少している一方、非ウイルス性肝細胞がんは原因特定が困難で、予防法も確立されていない。多くの研究が行われている分野ではあるので、「肝発癌予防に有効な生活習慣は何か?」というCQを設定し、エビデンスが出てきた「コーヒー摂取」と「飲酒」について検討した。結果として「コーヒー摂取は、肝発癌リスクを減少させる可能性がある」(弱い推奨、エビデンスの強さC)、「肝発癌予防に禁酒(非飲酒)を推奨する」(弱い推奨、エビデンスの強さC)との記載となった。いずれもエビデンスレベルが低く、そのまま実臨床に落とし込むことは難しい状況であり、今後のエビデンスの蓄積が待たれる。MASLD患者の予防にスタチン・メトホルミンを検討 世界的に増加している代謝機能障害関連脂肪性肝疾患(MASLD) では、とくに肝線維化進行例で肝がんリスクが高い。今版では新設CQとしてこの集団における肝発がん抑制について検討した。介入としては世界で標準的に使用されており論文数の多い薬剤としてスタチンとメトホルミンを選択した。ガイドラインの記載は「肝発癌予防を目的として、スタチンまたはメトホルミンの投与を弱く推奨する(エビデンスの強さC)」となった。ただ、予防目的で、高脂血症を合併していない患者へのスタチン投与、糖尿病を合併していない患者へのメトホルミン投与を行った研究はないため、これらは対象から外している。MASLD患者に対してはGLP-1受容体作動薬などが広く投与されるようになり、肝脂肪化および肝線維化の改善効果が報告されている。今後症例の蓄積とともにこれら薬剤の肝発がん抑制効果の検討も進むことが期待される。放射線治療・肝移植の適応拡大 その他の治療法に関しては、診断/治療の枠組みは大きく変わらないものの、2022年4月から保険収載となった粒子線(陽子線・重粒子線)治療の記載が増え、アルゴリズム内での位置付けが大きくなった。また、肝移植については、保険適用がChild-Pugh分類Bにも拡大されたことを受け、適応の選択肢が増加している。経済的だけでなく学術的COIも厳格に適用 改訂内容と直接は関係ないものの、今回の改訂作業において大きく変更したのがCOI(利益相反)の扱いだ。日本肝臓学会のCOI基準に従い、経済的COIだけでなく学術的COIについても厳密に適用した。具体的には、推奨の強さを決定する投票において、経済的なCOIがある者はもちろん、該当する臨床試験の論文に名前が掲載されている委員もその項目の投票を棄権するルールを徹底した。Minds診療ガイドライン作成の手法に厳格に沿った形であり、ほかのガイドラインに先駆けた客観性重視の取り組みといえる。投票結果もすべて掲載しており、委員会内で意見が分かれたところと一致したところも確認できる。今後の課題は「患者向けガイドライン」と「医療経済」 今後の課題としては、作成作業が追いついていない「患者・市民向けガイドライン」の整備が挙げられる。また、今版では医療経済の問題を「薬物療法の費用対効果の総説」としてまとめたが、治療選択における明確な指針の合意形成までには至らなかった。今後、限られた医療資源を最適に配分するために、医療経済の視点におけるガイドラインの継続的なアップデートも欠かせないと考えている。

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術前療法後に残存病変を有するHER2+早期乳がん、T-DXd vs.T-DM1(DESTINY-Breast05)/NEJM

 再発リスクの高い、術前化学療法後に浸潤性残存病変を有するHER2陽性(+)の早期乳がん患者において、術後療法としてのトラスツズマブ デルクステカン(T-DXd)はトラスツズマブ エムタンシン(T-DM1)と比較して、無浸潤疾患生存期間(iDFS)を統計学的に有意に改善し、毒性作用は主に消化器系および血液系であったことが、ドイツ・Goethe University FrankfurtのSibylle Loibl氏らDESTINY-Breast05 Trial Investigatorsが行った第III相の国際共同非盲検無作為化試験「DESTINY-Breast05試験」の結果で示された。NEJM誌オンライン版2025年12月10日号掲載の報告。主要評価項目はiDFS、重要な副次評価項目はDFS 研究グループは、術前化学療法後(タキサン系化学療法と抗HER2療法を含む)に乳房または腋窩リンパ節に浸潤性残存病変を有する、あるいは初診時に手術不能病変を有する、再発リスクの高いHER2+乳がん患者を対象に、術後療法としてT-DXd 5.4mg/kgと現行の標準治療であるT-DM1 3.6mg/kgを比較した。再発高リスクの定義は、術前療法前にT4 N0~3 M0またはcT1~3 N2~3 M0で手術不能と判断、または術前療法前に手術可能と判断されたが(cT1~3 N0~1 M0)術前療法後に腋窩リンパ節転移が陽性(ypN1~3)であったこととされた。 主要評価項目はiDFS。重要な副次評価項目は無病生存期間(DFS、非浸潤性乳がんおよび二次原発性非乳がんのDFSを含む)であった。その他の副次評価項目は、全生存期間、無遠隔転移生存期間および安全性などであった。iDFSおよびDFSイベントの発生とも、T-DXd群で統計学的に有意に改善 2020年12月4日~2024年1月23日に1,635例が1対1の割合で無作為化され、T-DXd(818例)またはT-DM1(817例)の投与を受けた。データカットオフ(2025年7月2日)時点で、追跡期間中央値は両群ともおよそ30ヵ月(T-DXd群29.9ヵ月[範囲:0.3~53.4]、T-DM1群29.7ヵ月[0.1~54.4])であった。ベースライン特性は両群で類似しており、大半が65歳未満(T-DXd群89.9%vs.T-DM1群90.1%)、ホルモン受容体陽性(71.0%vs.71.4%)、術前療法後に腋窩リンパ節転移陽性(80.7%vs.80.5%)、術前療法として2剤併用抗HER2療法(78.5%vs.79.1%)、アントラサイクリンまたはプラチナ製剤ベースの化学療法(アントラサイクリン:51.7%vs.48.8%、プラチナ製剤:47.2%vs.48.0%)、および放射線療法(93.4%vs.92.9%)を受けていた。また、被験者のほぼ半数がアジア人(48.8%vs.47.2%)であった。 iDFSイベントの発生は、T-DXd群51例(6.2%)、T-DM1群102例(12.5%)であった(ハザード比[HR]:0.47、95%信頼区間[CI]:0.34~0.66、p<0.001)。3年iDFS率はそれぞれ92.4%と83.7%であった。 DFSイベントの発生は、T-DXd群52例(6.4%)、T-DM1群103例(12.6%)であった(HR:0.47、95%CI:0.34~0.66、p<0.001)。3年DFS率はそれぞれ92.3%と83.5%であった。間質性肺疾患リスクに対する適切なモニタリングと管理が必要 最も多くみられた有害事象は、T-DXd群では悪心(発現率71.3%)、便秘(32.0%)、好中球減少(31.6%)、嘔吐(31.0%)であり、T-DM1群では肝機能評価値の上昇(AST上昇50.2%、ALT上昇45.3%)および血小板数の低下(49.8%)であった。 治療薬に関連した間質性肺疾患の発現頻度は、T-DXd群(9.6%)がT-DM1群(1.6%)と比べて高かった。T-DXd群では、間質性肺疾患を呈した2例が死亡した。 著者は、「T-DXdの特定された重要なリスクは間質性肺疾患であり、適切なモニタリングと管理が必要である」と述べている。

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看護アドボカシーの新モデルを提唱【論文から学ぶ看護の新常識】第43回

看護アドボカシーの新モデルを提唱看護師の重要な責務の1つである、アドボカシー。その実践をベッドサイドにとどめることなく、持続可能な保健医療システムへとつなげるための新たなフレームワークが提唱された。Susanna Aba Abraham氏らの研究で、BMC Nursing誌2025年9月29日号に掲載の報告。ベッドサイドからシステム変革へ:持続可能な保健医療のためのTRIL看護アドボカシーモデル研究チームは、看護師主導のアドボカシーにおいて、ベッドサイドからシステムレベルに至るまで、持続可能な保健医療の実践と看護師主導の変革を促進するための概念的フレームワークを開発することを目的に記述的質的研究を行った。英国看護協会の2016年から2023年度の「Nurse of the Year」受賞者のストーリーから、公開されている7つの看護師主導のアドボカシーの取り組みを、フレームワーク法を用いて分析した。主要なアドボカシーの次元を統合するプロセスには、全体像の把握、主題的枠組みの特定、インデックス化、チャーティング、マッピング、および解釈が含まれた。主な結果は以下の通り。分析の結果、「TRIL看護アドボカシーモデル」が開発された。本モデルは、看護師主導のアドボカシーは「変革的行動」、「関係的コ・デザイン」、「制度的レガシー」という3つの相互に関連する柱で構成されることを示している。「変革的行動」は、危機対応型イノベーション、人中心の変革、健康格差是正の推進、および実践基準の再構築に対する看護師の能力を明示している。「関係的コ・デザイン」は、部門横断的な協働、地域主導のエンパワーメント、および医療従事者を鼓舞する重要性を強調している。「制度的レガシー」は、持続的な影響を確実にするための政策と資源の制度化、および持続可能なシステム統合の重要な役割を重視している。このモデルは障壁が存在する現実も認識しており、組織的な抵抗を克服し、持続可能な保健医療を創造するための戦略的なナビゲーションの必要性を強調している。TRIL看護アドボカシーモデルは、看護師主導のアドボカシーを推進するための包括的な視点を提供する。アドボカシー・スキルを育成するためのカリキュラム開発を導くことにより、看護教育に重要な示唆を与える。また、看護師がシステム変革に果たす貢献を浮き彫りにすることで政策に影響を与え、実践においては、強靭で持続可能な保健医療システム構築に向けた自身の取り組みを、看護師が戦略的に計画・評価する力を強化する。看護師の役割をベッドサイドのケアから持続可能な医療システムの構築者へと引き上げる重要な研究です。RCN-UK(英国看護協会)の受賞者たちの実践を分析し開発されたTRIL看護アドボカシーモデルは、アドボカシーをこれまでの単なる「患者の代弁」にとどめず、(1)変革的行動、(2)関係的コ・デザイン、(3)制度的レガシーという3つの柱で再定義しました。多くの看護師が経験する、「個人の情熱だけで終わってしまうプロジェクト」や「段々と消えてしまう改善活動」の虚しさ。この論文は、このような虚しく終わる活動をしっかりと「制度」として組織に定着させていくことで、自分たちの行動が未来の医療を形作るレガシー(遺産)になり得るのだという希望を与えてくれます。看護教育や政策に携わる方だけでなく、日々の業務の中で「何かを変えたい」と願うすべての看護師に届いてほしい、今後の看護の新たなスタンダードです。論文はこちらAbraham SA, et al. BMC Nurs. 2025;24(1):1224.

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白内障手術前の検査【日常診療アップグレード】第45回

白内障手術前の検査問題83歳女性。両眼の白内障手術を1ヵ月後から段階的に予定している。既往歴には高血圧、脂質異常症、甲状腺機能低下症がある。服用薬はアムロジピン、リシノプリル、アトルバスタチン、レボチロキシンである。全身状態は良好で、身体診察では、バイタルサインおよび、その他の所見に異常はない。6ヵ月前の検査では、血清電解質、クレアチニン、甲状腺刺激ホルモン(TSH)は正常範囲であった。術前チェックとして、心電図検査を行った。

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麻雀で統合失調症患者の認知機能は改善するか

 麻雀は、認知機能の向上と密接に関連していることが広く報告されている。しかし、統合失調症患者の認知機能に対する麻雀の影響については、これまで研究されていなかった。中国・重慶医学大学のRenqin Hu氏らは、統合失調症患者の認知機能改善を目的とした麻雀介入の有効性を評価するため、パイロット単盲検ランダム化比較試験を実施した。BMC Psychiatry誌2025年11月7日号の報告。 本パイロット研究では、統合失調症患者49例を対象に、介入群(麻雀と標準治療の併用)と対照群(標準治療)にランダムに割り付けた。介入群は、麻雀による認知トレーニングを1日2時間、週4日、12週間にわたり行った。主要認知アウトカムは、ケンブリッジ神経心理学的検査自動化バッテリー(CANTAB)を用いて評価した。副次的アウトカムには、生活の質(QOL)、臨床症状、無快感症、副作用、個人的および社会的機能を含めた。評価は、ベースライン時および4週目、8週目、12週目に実施された。 主な結果は以下のとおり。・介入群は、研究期間を通して反応時間と運動時間の両方に対し、改善効果を示した。・視覚記憶、新たな学習、戦略活用、空間記憶能力、複雑視覚課題の正確性に関して、介入群と対照群の間に有意な差は認められなかった。・介入群は、QOLにおいて緩やかな改善を示した。しかし、その他の副次的アウトカムでは、有意な変化は認められなかった。 著者らは「麻雀介入は、統合失調症患者の特定の認知機能とQOLに有益である可能性が示唆された。しかし、これらの結果は慎重に解釈する必要がある。本結果を明らかにするためにも、より大規模で多様なサンプルや長期介入によるさらなる研究が求められる」とまとめている。

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小児期の肥満は成人後に診療数が多くなる

 小児期のBMIは、成人になってからの疾患リスクに影響を与えるのだろうか。このテーマについて、デンマーク・コペンハーゲン大学病院臨床研究予防センターのJulie Aarestrup氏らの研究グループは、小児約11万人を対象に調査し、その結果、小児期に肥満だった人では、成人してからの診断件数が多かったことが判明した。この結果は、Obesity誌オンライン版2025年11月18日号で公開された。小児期の肥満では女性のほうが成人後に診断件数が多くなる 研究グループは、15~60歳までの性別特異的な疾患診断パターンが、小児期のBMIによって異なるかどうかを調査するために、コペンハーゲン学校健康記録登録簿中の1962~96年生まれで体重・身長が測定された児童11万2,952例(女子5万5,603例)を対象に、7歳時のBMIを低体重(4.3%)、正常体重(83.1%)、過体重(9.2%)、肥満(3.5%)に分類した。病院ベースの診断は、全国登録データから取得し、BMI群ごとに頻度の高い疾患上位50種について、性別別の累積発生率を算出した。 主な結果は以下のとおり。・小児期肥満の人は、60歳までの病院での診断件数の推定値が高く、女性で18.2件(95%信頼区間[CI]:16.9~19.5)、男性で15.1件(95%CI:13.8~16.4)だった。・正常体重の人の診断件数の推定値は、女性で14.7件(95%CI:14.5~14.9)、男性で11.7件(95%CI:11.5~11.8)だった。・小児期肥満の女性と男性において、60歳までの診断で最も多かったのは、成人期の過体重(36.4%)と肥満(11.8%)だった。・小児期のBMI区分によるその他の疾患の差はわずかだった。 これらの結果から研究グループでは、「小児期に肥満だった成人は、病院ベースの診断数が最も多かった。成人期の過体重および肥満を除き、小児期のBMIグループ間における生涯にわたる疾患パターンはおおむね類似していた」と結論付けている。

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