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ベルイシグアト、急性増悪のないHFrEFのイベント抑制効果は?/Lancet

 急性増悪の認められない左室駆出率が低下した心不全(HFrEF)患者において、ベルイシグアトは複合エンドポイント(心血管死または心不全による入院までの期間)のリスクを低下させなかったことが、米国・Baylor Scott and White Research InstituteのJaved Butler氏らVICTOR Study Groupによる第III相の無作為化二重盲検プラセボ対照試験「VICTOR試験」の結果で報告された。ただし、心血管死についてプラセボ群よりベルイシグアト群で少なかったことが観察されている。ベルイシグアトは、急性増悪が認められたHFrEF患者において、心血管死または心不全による入院リスクを軽減するための使用が認められている。VICTOR試験の目的は、急性増悪の認められないHFrEF患者におけるベルイシグアトの有効性を評価することであった。Lancet誌オンライン版2025年8月29日号掲載の報告。36ヵ国482施設で経口ベルイシグアトとプラセボを比較 VICTOR試験は36ヵ国482施設で行われ、18歳以上、HFrEF(左室駆出率≦40%)で無作為化前6ヵ月以内に心不全による入院歴がなく、無作為化前3ヵ月以内に外来での利尿薬の静脈内投与を必要としなかった患者を対象とした。 被験者を、経口ベルイシグアト群または適合プラセボ群に、双方向応答システムを用いて無作為に1対1の割合で割り付けた。経口ベルイシグアトの投与量は、導入時1日1回2.5mgとし、無作為化後14(±4)日目に5mg、28(±4)日目に10mgへと漸増された 主要エンドポイントは、心血管死または心不全による入院までの期間の複合とした。重要な副次エンドポイントは、無作為化から心血管死までの期間とした。その他の副次エンドポイントとして、無作為化から心不全による初回の入院までの期間なども評価した。探索的エンドポイントとして、無作為化から心不全による初回の入院または予定外の心不全外来受診までの期間などを評価した。有効性のエンドポイントは、ITT集団で評価した。 有害事象の評価は、無作為化され試験薬を少なくとも1回投与された全患者(安全性集団)を対象に行われた。主要エンドポイントの発生に統計学的有意差認められず 2021年11月2日~2023年12月21日に、1万921例がスクリーニングを受け6,105例が無作為化された(ベルイシグアト群3,053例、プラセボ群3,052例)。年齢中央値は68.0歳(四分位範囲[IQR]:61.0~75.0)、女性1,440例(23.6%)、男性4,665例(76.4%)、白人3,934例(64.4%)であり、2,899例(47.5%)には心不全による入院歴がなかった。 追跡期間中央値18.5ヵ月(IQR:13.6~24.7)において、主要エンドポイントのイベントは、ベルイシグアト群549例(18.0%)、プラセボ群584例(19.1%)が報告され、両群間に統計学的有意差はみられなかった(ハザード比[HR]:0.93、95%信頼区間[CI]:0.83~1.04、p=0.22)。 プロトコールで事前に規定されていたように、主要エンドポイントについて統計学的有意差が示されなかったため、すべての副次エンドポイントおよび探索的エンドポイントについては正式な統計解析を実施せず、名目上の値として報告された。心血管死の発生は、ベルイシグアト群292例(9.6%)、プラセボ群346例(11.3%)であった(HR:0.83、95%CI:0.71~0.97)。心不全による入院の発生は、ベルイシグアト群348例(11.4%)、プラセボ群362例(11.9%)であった(0.95、0.82~1.10)。 重篤な有害事象は、ベルイシグアト群717/3,049例(23.5%)、プラセボ群751/3,049例(24.6%)に発現した。最も多くみられた有害事象は症候性の低血圧で、ベルイシグアト群345/3,049例(11.3%)、プラセボ群281/3,049例(9.2%)に認められた。全死因死亡は、ベルイシグアト群377/3,049例(12.3%)、プラセボ群440/3,049例(14.4%)が報告された(HR:0.84、95%CI:0.74~0.97)。

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AIチャットボットによるてんかん教育介入の効果、「えぴろぼ」の実用性と今後の課題

 てんかんを正しく理解し、偏見なく接する社会をつくるには、患者本人だけでなく周囲の人々の知識と意識の向上が欠かせない。こうした中、患者やその支援者にてんかんに関する情報や心理的サポートを提供する新しい試みとして、人工知能(AI)を活用したチャットボット「えぴろぼ」が登場した。今回、「えぴろぼ」の利用によって、てんかん患者に対する態度の改善や疾患知識の向上が認められたとする研究結果が報告された。研究は、国立精神・神経医療研究センター病院てんかん診療部の倉持泉氏らによるもので、詳細は「Epilepsia Open」に7月28日掲載された。 近年、AIやデジタルヘルスの進展により、チャットボットを活用した医療支援が注目されている。てんかん患者の多くは、自身の疾患に関する知識が不十分で、治療への関与や生活の質(QoL)にも影響を及ぼしている。また、スティグマや心理的負担から、教育プログラムへの参加率も低いのが現状である。こうした課題を受けて、埼玉医科大学、埼玉大学、国立精神・神経医療研究センターなどの研究チームは、患者や支援者が場所や時間を問わず情報にアクセスできる新たな教育支援ツールとして、AIチャットボット「えぴろぼ」を開発した。本研究では、「えぴろぼ」がてんかんに関する知識や意識の改善にどのように寄与するかを検討した。 本研究は2つのフェーズで構成されていた。最初に、チャットボットの内容を洗練させるための予備的な試験フェーズを実施し、その後、本介入フェーズに移行した。本フェーズでは、スマートフォンアプリを通じて「えぴろぼ」を利用するために176名(てんかん患者13名、現在支援者として関わっている者69名、将来支援者となる可能性がある者28名、その他66名)が登録した。調査では、チャットボット使用前後での、てんかんに関する知識や偏見・スティグマ、患者自身のセルフスティグマ(内在化されたスティグマ)を評価した。経時的な変化の分析には、対応のあるt検定およびWilcoxonの符号付き順位検定を用いた。 登録した176名のうち、82名(てんかん患者9名、患者家族25名、支援者25名、医療従事者12名、その他11名)が介入前後の調査を完了した。参加者の平均年齢は41.8歳であり、ほとんどの参加者がてんかんについてある程度の知識をもっていた。約半数の参加者はてんかん発作を目撃した経験があると回答していたが、発作への対応について自信があると回答した者は半数に満たなかった。 「えぴろぼ」による介入は、てんかん患者に対する職場での平等に関する意識に有意な改善をもたらし(P<0.001)、てんかん治療に関する知識の向上にもつながった(P=0.022)。QOLやてんかんに関する一般的な知識については、統計的に有意ではなかったものの改善傾向を示した。一方で、てんかん患者(n=9)では、てんかんに関連するセルフスティグマのわずかな増加が観察された(P=0.31)。 本研究について著者らは、「今回の結果は、『えぴろぼ』がてんかんに関する教育や心理的支援において、広く活用できるデジタルツールとしての可能性を示している。その一方で、患者自身のセルフスティグマへの対応は今後の課題として残されている」と述べた。 なお、介入によりセルフスティグマが増加した理由について、著者らは評価期間が約1カ月と短いこと、また対象に含まれるてんかん患者が少数であることを限界として指摘した上で、「教育介入によって知識が増えた結果、むしろ自身が置かれた社会的立場や偏見を意識するようになり、結果として一時的にセルフスティグマが強まった可能性が考えられる」と言及している。

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体がだるくて横になりたい【漢方カンファレンス2】第5回

体がだるくて横になりたい以下の症例で考えられる処方をお答えください。(経過の項の「???」にあてはまる漢方薬を考えてみましょう) 【今回の症例】 30代男性 主訴 全身倦怠感、頭痛、めまい、微熱 既往 特記事項なし 生活歴 医療従事者、喫煙なし、機会飲酒 病歴 X年8月に新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に罹患。咽頭痛や38℃台の発熱があったが、合併症はなく2日後には解熱した。 その後、全身倦怠感、頭痛、ふらふらとするめまいが出現、夕方になると37℃台の微熱がでる日が続いた。疲労感が強く仕事に支障が出るようになり、休息をとったり、欠勤したりしないと体が動かない。 総合診療科で精査を受けたが明らかな異常なし。11月に漢方治療目的に受診。 現症 身長174cm、体重78.5kg。体温37.2℃、血圧110/60mmHg、脈拍56回/分 整 経過 初診時 「???(A)」エキス+「???(B)」エキス3包 分3で治療を開始。 2週後 少し動けるようになった。まだ仕事を休むことがある。 寒くなって体が冷えるようになった。 ブシ末エキス1.5g 分3を併用。 1ヵ月後 めまいや頭痛が改善した。まだ体が冷える。 「???(B)」を「???(C)」エキスに変更した。(解答は本ページ下部をチェック!) 2ヵ月後 冷えと全身倦怠感が軽くなった。 5ヵ月後 普通に働けるようになり、残業もできるようになった。 問診・診察漢方医は以下に示す漢方診療のポイントに基づいて、今回の症例を以下のように考えます。【漢方診療のポイント】(1)病態は寒が主体(陰証)か、熱が主体(陽証)か?(冷えがあるか、温まると症状は改善するか、倦怠感は強いか、など)(2)虚実はどうか(症状の程度、脈・腹の力)(3)気血水の異常を考える(4)主症状や病名などのキーワードを手掛かりに絞り込む【問診】<陰陽の問診> 寒がりですか? 暑がりですか? 体の冷えを自覚しますか? 体のどの部位が冷えますか? 横になりたいほどの倦怠感はありませんか? 感染してから寒がりになって体が冷えるようになりました。 いつも厚着をしています。 体全体が冷えます。 きつくていつも横になりたいです。 微熱はどのくらいですか? いつ出ますか? 熱っぽさはありますか? 37℃前半です。 夕方に出ることが多いです。 体熱感はありません。 熱が出る前はぞくぞくと体が冷えます。 入浴では長くお湯に浸かるのが好きですか? 入浴で温まると体は楽になりますか? 冷房は苦手ですか? 入浴時間は長いです。 温まると少し楽になるのですが、入浴後はすぐに体が冷えてしまいます。 冷房は嫌いです。 のどは渇きますか? 飲み物は温かい物と冷たい物のどちらを好みますか? のどは渇きません。 温かい物を飲んでいます。 <飲水・食事> 1日どれくらい飲み物を摂っていますか? 食欲はありますか? 味覚はありますか? 1日1Lくらいです。 食欲はあります。 味覚は異常ないです。 <汗・排尿・排便> 汗はよくかくほうですか? 尿は1日何回出ますか? 夜、布団に入ってからは尿に何回行きますか? 便秘や下痢はありませんか? 汗はあまりかきません。 尿は4〜5回/日です。 布団に入ってからはトイレに行きません。 下痢気味で1日2〜3回です。 便の臭いは強いですか? 弱いですか? 嘔気はありませんか? 便の臭いは強くありません。 嘔気はありません。 <ほかの随伴症状> 頭痛やめまいはどのような感じですか? 雨や低気圧で悪化しませんか? 頭痛は頭全体が重い感じがします。 歩くとふらふらとめまいがします。 雨が降ると頭痛やめまいはひどい気がしますが、天気がよくても頭痛はあります。 全身倦怠感はとくにいつが悪いですか? とくにきついときはいつですか? 横になると楽になりますか? 日中きついですが朝がとくにぐったりします。 仕事をしたり、動いたりすると悪化します。 仕事もきつくて休みがちです。 よく眠れますか? 中途覚醒や悪夢はありませんか? 眠れますが熟睡感はありません。 中途覚醒や悪夢はありません。 咳や痰はありませんか? 昼食後に眠くなりませんか? のどのつまりはありませんか? 抜け毛が多いですか? 集中力がなかったりしませんか? 皮膚は乾燥しますか? 咳や痰はなくなりました。 昼食後は眠くなります。休みの日はほぼ1日中寝ています。 のどのつまりはありません。 抜け毛が多いです。 集中できずに、頭が働かない感じがあります。 皮膚は乾燥します。 意欲の低下や不安はありませんか? 体がきつくてやる気が出ません。 このまま治らないのではと不安です。 【診察】診察室でも厚手の上着を羽織っている。脈診では沈で反発力の非常に弱い脈。また、舌は暗赤色、湿潤した薄い白苔、舌下静脈の怒張あり。腹診では腹力はやや充実、両側胸脇苦満(きょうきょうくまん)、心下痞鞕(しんかひこう)、腹直筋緊張、両臍傍の圧痛を認めた。下肢の触診では冷感あり。カンファレンス 今回は30代男性のCOVID-19罹患後症状の症例です。 頻度は高くないものの、コロナ感染後にいわゆる後遺症といわれるような全身倦怠感を中心としたさまざまな症状が持続する方がいます。現代医学的にも確立された治療法がないので漢方という選択肢があるのはよいですね。 漢方治療でもCOVID-19罹患後症状は症状が多彩でまだ確立された治療があるとはいえませんが、こんなときこそ漢方診療のポイントに沿った治療が大事です。今回の症例は、全身倦怠感以外にも、頭痛、めまい、微熱、集中力の低下と症状がたくさんあります。 どこから手をつけるべきか悩ましいですね。全身倦怠感、めまい、頭痛ということで気虚や水毒が目立つ気がします。 漢方診療のポイントに沿って全体像を捉えていくことが大事だよ。 わかりました。では漢方診療のポイント(1)病態の陰陽ですが、本症例は37℃台前半の熱があることから陽証で、さらに夕方に熱が出るという病歴から少陽病の往来寒熱(おうらいかんねつ)が考えられます。 よく覚えていますね。胸脇苦満もありますし、少陽病の往来寒熱と合致しますね。 体温をそのまま熱ととってはいけないよ。漢方では体温計で測定した温度でなく、あくまで患者の自覚的な熱や冷えを重視するんだ。陰証で発熱するときに用いる漢方薬があるよ。覚えているかい? えっと、少陰病の麻黄附子細辛湯(まおうぶしさいしんとう)です。寒が主体の陰証の風邪に用いるのでした。 そのとおり。発熱はあってもゾクゾクと冷えて倦怠感が強いことが特徴でしたね。 ほかには?? …わかりません。 同じく少陰病の真武湯(しんぶとう)、さらに四逆湯(しぎゃくとう)でも発熱がみられることがあるんだ。陰証の最後のステージである厥陰病では「陰極まって陽」のように強い冷えがあるにもかかわらず、逆に発熱があったり、顔が赤かったりすることがあり、それを裏寒外熱(りかんがいねつ)とよぶよ。だから、一見すると陽証にみえることもあるんだ。 厥陰病でも発熱がみられることがあるのですね。アイスクリームの天ぷらのような状態ですね。 裏寒外熱がある場合は通脈四逆湯(つうみゃくしぎゃくとう)が典型だけど、真武湯や四逆湯の適応例でも発熱する場合があるとされているよ。これらは、真の熱ではなく、見せかけの熱といった意味で虚熱(きょねつ)というよ。 患者の自覚的な熱感や冷えのほかに鑑別する方法はありますか? 入浴や飲み物などの寒熱刺激に対する情報や四肢の触診などの所見も大事だけど、最終的には脈の浮沈や反発力が頼りになるね。陰証の場合の脈は沈・弱が特徴だからね。 もう一度、本症例の漢方診療のポイント(1)陰陽の判断からみていきましょう。 微熱がありますが体熱感がなく、感染後から寒がりで体が冷えるようになった、厚着、入浴時間は長い、入浴後にすぐに体が冷えるなどから陰証が揃っていますね。それに脈も沈ですから少陽病とは考えにくいですね。 そうだね。入浴で温まってもすぐに冷える、下肢の触診でも冷感があり、冷えの程度が強そうだね。六病位はどうだろう? 横になりたいほどの倦怠感からは少陰病が示唆されます。本症例の微熱を裏寒外熱とすれば、厥陰病の可能性もありますか? そうですね。脈の力が非常に弱いので厥陰病で四逆湯の適応も考えられます。ですからこの症例は少陰病〜厥陰病、虚証でよいでしょう。 「しまりがなく、細い茹でうどんが水にふやけたような」軟弱無力な脈は四逆湯の診断に重要だね。当科の回診でもこの脈が四逆湯の適応だ! と強調して必ず研修に来た先生に触れてもらっているよ。 本症例の虚実ですが、脈は弱ですが、腹力は中等度より充実と一致していません。どう考えたらよいでしょうか? 脈のほうが変化が早く、現在の状態を表しているといえるので、脈の所見を重視したほうがよいだろうね。それも軟弱無力な典型的な四逆湯の脈だからね。 漢方診療のポイント(3)気血水の異常はどうでしょうか? 全身倦怠感、昼食後の眠気は気虚です。頭痛やめまいがありますが、雨天と関連があるので水毒です。 気虚と水毒がありますね。下痢や尿の回数が4〜5回と少ないのも水毒です。ほかはどうでしょうか? 抜け毛が多い、皮膚の乾燥は血虚です。 頭が働かない感じで集中できないというのも血虚を示唆するよ。血虚は皮膚、筋肉、髪だけの問題ではないからね! COVID-19罹患後症状のブレインフォグは血虚や腎虚と考えるとよい印象があるね。 覚えておきます。とくに朝調子が悪い、やる気が起きないというのは気鬱でしょうか。 そうだね。これだけきつそうだと気鬱もあるよね。ほかにはどうだろう? 舌下静脈の怒張、臍傍圧痛は瘀血です。今回の症例は気血水の異常もたくさんありますね。 なかなか手強い症例ですね。また精査で明らかな異常はなく、30代と働き盛りなのにこれだけきつがっているのは非常につらい倦怠感で煩躁(はんそう)と考えてよさそうですね。 ハンソウ? どこかで聞いたような? 非常に苦しがっている状態を煩躁というのでしたね。煩躁といえば、考えられる処方は? …。 陽証だと大青竜湯(だいせいりゅうとう)、陰証だと呉茱萸湯(ごしゅゆとう)、茯苓四逆湯(ぶくりょうしぎゃくとう)が代表でした。インフルエンザの症例で、麻黄湯(まおうとう)のように無汗、多関節痛に加えて、非常に苦しがっている場合に大青竜湯、頭痛で非常に苦しがっている場合に呉茱萸湯、冷えて非常につらい倦怠感を訴える場合に茯苓四逆湯が適応になるのでした。 ここはキモだから覚えておかないといけないね。その他エキス剤にはないけど、小青竜加石膏湯(しょうせいりゅうかせっこうとう)、乾姜附子湯(かんきょうぶしとう)、桂枝加黄耆湯(けいしかおうぎとう)などが煩躁に適応する処方だよ。 本症例をまとめます。 【漢方診療のポイント】(1)病態は寒が主体(陰証)か、熱が主体(陽証)か?厚着、寒がり、体が冷える、下肢の冷感、横になりたいほどの倦怠感、脈:沈→陰証(少陰病〜厥陰病)×微熱、往来寒熱、胸脇苦満→脈や冷えから少陽病ではなさそう(2)虚実はどうか脈:非常に弱い、腹:やや充実→虚証(脈を優先)(3)気血水の異常を考える全身倦怠感、食後の眠気→気虚意欲の低下、朝調子が悪い→気鬱頭痛、めまい、雨天に悪化→水毒抜け毛、皮膚の乾燥、集中力の低下→血虚舌下静脈の怒張、臍傍圧痛→瘀血(4)主症状や病名などのキーワードを手掛かりに絞り込む非常につらい倦怠感、脈が軟弱無力解答・解説【解答】本症例は、茯苓四逆湯の方意でA:真武湯+B:人参湯(にんじんとう)で治療開始しました。また経過中に人参湯からC:附子理中湯(ぶしりちゅうとう)に変更しました。【解説】四逆湯は少陰病〜厥陰病に用いられる漢方薬で附子(ぶし)、乾姜(かんきょう)、甘草(かんぞう)で構成されます。四逆湯を現代医学で例えると、敗血症性ショックで低体温をきたした症例に保温しながら急速補液とノルアドレナリンで昇圧するイメージです。動物実験で出血性ショックモデルに対して茯苓四逆湯を投与すると心拍出量の増加と体温保持作用を示したという研究1)や四逆湯類がエンドトキシンショックに対して、血圧上昇、好中球数の上昇の抑制などによりショック予防効果を示したとする報告2)があります。現代は四逆湯を重篤な急性疾患に用いることはまれですが、慢性疾患で冷えや全身倦怠感がともに高度な場合に活用します。通脈四逆湯も四逆湯と同じく附子、乾姜、甘草で構成されますが、乾姜の比率が多くなります。乾姜はとくに消化・呼吸に関連する臓器を温めて賦活する作用が主体で、通脈四逆湯は体の中心を温めて元気をつけていくような漢方薬です。茯苓四逆湯は四逆湯に補気作用のある茯苓(ぶくりょう)と人参(にんじん)を加えたものです。茯苓四逆湯や通脈四逆湯はエキス製剤にはありませんが、茯苓四逆湯は人参湯エキスと真武湯エキスで代用できます。今回のポイント「少陰病・厥陰病」の解説陰証は寒が主体の病態で、少陰病になってくると寒が強く全身に及び、陰証のまっただ中になります。新陳代謝が低下して体力が衰えていることが特徴です。そのため少陰病は、生体の闘病反応が乏しく実証(じっしょう)であることはなく虚証(きょしょう)のみになります。脈も沈んで反発力が弱くなります。疲れやすくてすぐに横になりたがることが多く、「横になるところがあれば横になりたいですか?」「座るところがあったら座りたいですか?」と問診して、少陰病でないか確認します。さらに陰証の最後のステージである厥陰病に進行すると、冷えと全身倦怠感の程度が一段と強くなり、「極度の虚寒」、「極虚(きょくきょ)」といわれます。脈は沈んで、反発力が非常に弱い軟弱無力な脈で、「しまりがなく、細い茹でうどんが水にふやけたような、緊張感のない脈」とたとえられます。厥陰病は急性感染症ではショック状態に陥ったような危篤状態ですが、慢性疾患では冷えと倦怠感がどちらも強度で極度に疲弊した状態を厥陰病と捉えて治療します。また厥陰病では「陰極まって陽」のように強い冷えがあるにもかかわらず、逆に発熱があったり、顔が赤かったりすることがあります(裏寒外熱)。そのため一見すると陽証にみえることもあります。少陰病や厥陰病の治療では、代表的な熱薬である附子(トリカブトの根を加熱処理して弱毒化したもの)を含む漢方薬を用いて治療します。少陰病では真武湯や麻黄附子細辛湯が代表です。さらに進行すると附子とともに乾姜(生姜を蒸して乾燥させたもの)を用いて強力に体を温める治療を行います。附子、乾姜、甘草の3つの生薬から構成される漢方薬は四逆湯が基本となり、茯苓四逆湯や通脈四逆湯を用いて治療します。今回の鑑別処方附子と乾姜はそれぞれ温める力の強い熱薬といわれる生薬です。それぞれ温める部位や作用に違いがあって附子は先天の気を貯蔵する腎とかかわりが強く、そのほかに関節痛などに対する鎮痛作用があります。乾姜は消化や呼吸にかかわる消化管や肺を温める作用があります。また温め方にも違いがあり、附子はバーナーで炙ったり、電子レンジで温めたりするような急速に体全体を温めるイメージですが、乾姜は炭火でコトコトじっくり内臓を温めるイメージです。表に附子や乾姜が含まれる代表的な漢方薬を示しました。乾姜を含む漢方薬の場合、漢方薬が合っている場合は乾姜の辛みを感じずに甘く感じることがあります。逆に乾姜を含む漢方薬を必要としない症例では、辛くて飲みづらいと訴えます。人参湯には乾姜が含まれ、さらに附子を加えると附子理中湯になります。同様に大建中湯(だいけんちゅうとう)や苓姜朮甘湯(りょうきょうじゅつかんとう)も冷えが強ければ附子を加えて治療します。四逆湯は附子と乾姜を両方とも含みます。本症例のように茯苓四逆湯は人参湯エキスと真武湯エキスを併用するとエキス製剤で代用が可能です。通脈四逆湯には乾姜が多く含まれています。ちょっと苦しいですが、エキス剤のなかで比較的乾姜の量の多い苓姜朮甘湯にブシ末を併用することで代用することもあります。また実際の附子の漸増の方法として、慎重に行う場合、(1)最も気温が低下する朝1包(0.5g)増量、(2)朝夕に1包ずつ増量(1.0g)、(3)毎食後3包 分3に増量(1.5g)と順を追ってするとよいでしょう。慣れてくれば本症例のように、常用量のブシ末を一度に3包(1.5g)分3で増量することも可能です。参考文献1)木多秀彰 ほか. 日東医誌. 1995;46:251-256.2)Zhang H, et al. 和漢医薬雑誌. 1999;16:148-154.

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末梢静脈穿刺における「超音波ガイド法」vs.「ランドマーク法」【論文から学ぶ看護の新常識】第30回

末梢静脈穿刺における「超音波ガイド法」vs.「ランドマーク法」超音波ガイド法の有用性は患者の穿刺困難度によって大きく異なり、困難例には有用な一方で、容易例には逆効果となり得ることが、多田 昌史氏らの研究により示されている。The Cochrane Database of Systematic reviews誌2022年12月12日号掲載のこの報告を紹介する。成人患者の末梢静脈穿刺における超音波ガイド法とランドマーク法との比較研究チームは、成人患者への末梢静脈カニューレ挿入時における超音波ガイド法の有用性を、ランドマーク法(触診と視診だけを頼りに血管を探す標準的な方法)と比較評価することを目的に、システマティックレビューとメタアナリシスを行った。主要評価項目は、初回穿刺成功率、カニューレ挿入の全体的成功率、および疼痛とした。副次評価項目は、初回穿刺の処置時間、カニューレ挿入全体の処置時間、試行回数、患者満足度、および合併症とした。主な結果は以下の通り。合計2267例の参加者を対象とした16の研究(うちランダム化比較試験[RCT]14件、準RCT2件)が分析対象となった。穿刺が「困難」な患者の場合:超音波ガイド下では、初回穿刺の成功率が1.5倍に上昇し(リスク比[RR]:1.50、95%信頼区間[CI]:1.15~1.95)、穿刺の試行回数も減少した(平均差[MD]:−0.33、95%CI:−0.64~−0.02)。カニューレ挿入の全体的成功率(RR:1.40、95%CI:1.10~1.77)、および患者満足度(標準化平均差[SMD]0.49、95%CI:0.07~0.92)も向上した。一方で、初回穿刺の手技時間は119.9秒延長した(95%CI:88.6~151.1)。穿刺の困難度が「中等度」の患者の場合:超音波ガイドは、初回穿刺の成功率が1.14倍(RR:1.14、95%CI:1.02~1.27)に上昇したが、手技時間も95.2秒延長した(95%CI:72.8~117.6)。穿刺が「容易」な患者の場合:超音波ガイド下では、初回穿刺の成功率が11%低下し(リスク比:0.89、95%CI:0.85~0.94)、疼痛が有意に増加した(MD:0.60、95%CI:0.17~1.03)。また、初回穿刺の手技時間も94.8秒延長した(95%CI:81.2~108.5)。超音波ガイドは、穿刺が困難な患者では利益をもたらす可能性があるが、穿刺が容易な患者においては初回成功率の低下や疼痛の増加により利益をもたらさない可能性がある。今回は、多くの看護師が直面する「困難な末梢静脈確保(Difficult IntraVenous Access:DIVA)」という課題に対し、超音波ガイド下末梢静脈カテーテル挿入の有用性を評価した、システマティックレビューをご紹介します。看護師が主体となってエコーを用いる機会は増えているように感じます。その効果を最大化させるための参考になると思いますので、ぜひ活用してみてください。ポイント1:DIVAが予測される、または既に複数回穿刺に失敗している患者さんには、超音波ガイド下穿刺を積極的に検討研究結果では、DIVA患者に対する超音波ガイド法の有効性が明確に示されました。視触診で血管が見えない・触れない場合や、過去に複数回の穿刺失敗歴がある患者さんには、積極的に超音波の使用を検討すべきです。これにより、患者さんの苦痛軽減と効率的な血管確保に繋がります。ポイント2:容易に血管が見つかる患者さんには、従来のランドマーク法を優先研究結果から、穿刺が容易な患者さんへの超音波ガイド法は逆効果であることが示されています。実際に手技時間が延長するだけでなく、初回穿刺の失敗率も上昇、痛みも増加しています。全例に超音波を適用すると、機器の準備や管理、スタッフの重複などから業務負担が増加するかと思います。あくまでも超音波の使用が適切か判断して使用することが望ましいでしょう。ポイント3:技術の習得が不可欠超音波ガイド下穿刺の効果を最大限に引き出すには、看護師の技術習得が不可欠です。定期的なトレーニングや経験を積み、熟練度を維持・向上させることが重要です。また超音波ガイド下で挿入が可能なスタッフを少しずつ増やして行きましょう。この研究結果から、末梢静脈確保における超音波の適切な活用が、看護ケアの質を向上させる有力な手段であることが示されました。適切な患者選定と、看護師の皆さんのスキルアップが、より安全で効率的な血管確保に繋がります。論文はこちらTada M, et al. Cochrane Database Syst Rev. 2022;12(12): CD013434.

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irAE治療中のNSAIDs多重リスク回避を提案【うまくいく!処方提案プラクティス】第68回

今回は、免疫チェックポイント阻害薬による免疫関連有害事象(irAE)の治療でステロイド投与中の高齢がん患者に対し、NSAIDsによる多重リスクを評価して段階的中止を提案した事例を紹介します。複数のリスクファクターが併存する患者では、アカデミック・ディテーリング資材を用いたエビデンスに基づくアプローチが効果的な処方調整につながります。患者情報93歳、男性基礎疾患肺がん(ニボルマブ投与歴あり)、急性心不全、狭心症、閉塞性動脈硬化症、脊柱管狭窄症ADL自立、息子・嫁と同居喫煙歴40本/日×40年(現在禁煙)介入前の経過2020年~肺がんに対してニボルマブ投与開始2025年3月irAEでプレドニゾロン40mg/日開始、その後前医指示で中止2025年6月3日irAE再燃でプレドニゾロン40mg/日再開処方内容1.プレドニゾロン錠5mg 8錠 分1 朝食後2.テルミサルタン錠40mg 1錠 分1 朝食後3.クロピドグレル錠75mg 1錠 分1 朝食後4.エソメプラゾールカプセル10mg 2カプセル 分1 朝食後5.フロセミド錠20mg 1錠 分1 朝食後6.スピロノラクトン錠25mg 1錠 分1 朝食後7.フェブキソスタット錠10mg 1錠 分1 朝食後8.リナクロチド錠0.25mg 2錠 分1 朝食前9.ジクトルテープ75mg 2枚 1日1回貼付本症例のポイント本症例は、93歳という超高齢で複数の基礎疾患を有するがん患者であり、irAE治療のステロイド投与とNSAIDsの併用が引き起こす可能性のある多重リスクに着目しました。患者は肺がんに対する免疫チェックポイント阻害薬の副作用であるirAEに対して、プレドニゾロン40mg/日という高用量ステロイドの投与を受けていました。同時に疼痛管理としてNSAIDsであるジクトルテープ2枚を使用していました。一見すると症状は安定していましたが、薬剤師の視点で患者背景を詳細に評価したところ、見過ごされがちな重大なリスクが潜んでいることが判明しました。第1に胃腸障害リスクです。高用量ステロイドとNSAIDsの併用は消化性潰瘍の発生率を相乗的に増加させることが知られており、93歳という高齢に加え、既往歴も有する本患者ではとくにリスクが高い状況でした。第2に心血管リスクです。患者には急性心不全や狭心症の既往があり、さらに閉塞性動脈硬化症も併存していました。NSAIDsは心疾患患者において心血管イベントのリスクを増加させるため、この併用は極めて危険な状態といえました。第3の最も注意すべきは腎臓リスク、いわゆる「Triple whammy」の状況です。NSAIDs、ループ利尿薬(フロセミド)、ARB(テルミサルタン)の3剤併用は急性腎障害の発生率を著しく高めることが報告されており、高齢者ではとくに致命的な合併症につながる可能性がありました。これらの多重リスクは単独では見落とされがちですが、患者の全体像を包括的に評価することで初めて明らかになる重要な安全性の問題です。医師への提案と経過患者の多重リスクを評価し、服薬情報提供書を用いて医師に処方調整を提案しました。現状報告として、irAE治療でプレドニゾロン40mg/日投与中であり、ジクトルテープ2枚使用で疼痛は安定しているものの、複数のリスクファクターが併存していることを伝えました。懸念事項については、アカデミック・ディテーリング※資材を用いて消化性潰瘍リスク(ステロイドとNSAIDsの併用は潰瘍発生率を有意に増加)、心血管リスク(NSAIDsは既存心疾患患者で心血管イベントリスクを増加)、Triple whammyリスク(3剤併用による急性腎障害発生率の増加)について説明しました。※アカデミック・ディテーリング:コマーシャルベースではない、基礎科学と臨床のエビデンスを基に医薬品比較情報を能動的に発信する新たな医薬品情報提供アプローチ 。薬剤師の処方提案力を向上させ、処方の最適化を目指す。提案内容として段階的中止プロトコールを提示し、ジクトルテープ2枚から1枚に減量、2週間の疼痛評価期間を設定、疼痛悪化がないことを確認後に完全中止するという方針を説明しました。将来的な疼痛悪化時のオピオイド導入準備と疼痛モニタリング体制の強化についても提案しました。医師にはエビデンス資料の提示により多重リスクの危険性について理解が得られ、段階的中止プロトコールが採用となり、患者の安全性を優先した方針変更となりました。経過観察では1週間後にジクトルテープ1枚に減量しましたが疼痛悪化はなく、2週間後も疼痛コントロールが良好であることを確認し、3週間後にジクトルテープを完全中止しましたが疼痛の悪化はありませんでした。現在も疼痛コントロールは良好で、多重リスクからの回避を達成しています。参考文献1)日本消化器病学会編. 消化性潰瘍診療ガイドライン2020(改訂第3版). 南山堂;2020.2)Masclee GMC, et al. Gastroenterology. 2014;147:784-792.3)Lapi F, et al. BMJ. 2013;346:e8525.

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うつ病治療において有酸素運動と組み合わせるべき最適な治療は

 非薬理学的介入としての有酸素運動は、これまでのうつ病治療における有効な補助療法であるといわれている。しかし、有酸素運動による介入に関する包括的な評価は依然として不十分である。中国・海南師範大学のLei Chen氏らは、うつ病患者における有酸素運動と併用したさまざまな治療介入の有効性をシステマティックに評価するため、ネットワークメタ解析を実施した。Frontiers in Psychiatry誌2025年7月25日号の報告。 PICOSフレームワークに基づき、2024年6月までに公表されたランダム化比較試験(RCT)をPubMed、Web of Science、Cochrane Library、Embase、Scopus、CNKI、Wanfang、CBMより検索した。スクリーニングおよびデータ抽出は、独立して実施した。ネットワークメタ解析はStata 15.0およびR 4.4.1、バイアスリスクはCochrane Risk of Biasツール、エビデンスの質はCINeMAを用いて評価した。 主な結果は以下のとおり。・RCT合計37件(うつ病患者3,362例)をメタ解析に含めた。・5つの有酸素運動との併用治療(電気痙攣療法[ECT]、反復経頭蓋磁気刺激療法[rTMS]、中国伝統医学[TCM]、選択的セロトニン再取り込み阻害薬[SSRI]治療、認知行動療法[CBT])を評価した。・累積順位曲線下面積(AUC)に基づく結果は、次のとおりであった。【ハミルトンうつ病評価尺度(HAMD)】ECT併用>rTMS併用>TCM併用>SSRI併用>CBT併用>理学療法>運動療法>CBT単独>TCM単独>対照療法【ベックうつ病評価尺度(BDI)】SSRI併用>ECT併用>CBT併用>運動療法>CBT単独>対照療法>理学療法【うつ性自己評価尺度(SDS)】TCM併用>CBT併用>対照療法>CBT単独 著者らは「現在のエビデンスでは、うつ病治療における有酸素運動介入の併用は、単独療法よりも優れていることが示唆されている。なかでも、SSRI併用による有酸素運動介入は、強いRCTエビデンスおよび高品質のエビデンスにより評価されており、最も推奨される併用療法であると考えられる。その他の併用療法については、今後の大規模かつ高品質の試験による検証が求められる」と結論付けている。

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オメガ3脂肪酸が小児の近視抑制に有効?

 オメガ3系多価不飽和脂肪酸(以下、オメガ3脂肪酸)には、心臓病、認知症、一部のがんのリスク低下など、健康に対するさまざまな潜在的効果のあることが示されているが、小児の近視の発症を防ぐのにも役立つ可能性のあることが、新たな研究で示された。香港中文大学(中国)眼科学分野教授のJason Yam氏らによるこの研究結果は、「British Journal of Ophthalmology」に8月19日掲載された。 近視は、目の形状により、入射光線が目の奥にある光を感じる視細胞の壁である網膜に到達できないときに発生する。近視の罹患率は世界的に上昇傾向にあり、予防戦略を策定するためには食事などの修正可能なリスク因子を特定する必要がある。これまでの動物実験では、EPAやDHAなどのオメガ3脂肪酸が、脈絡膜の血流と強膜の低酸素状態を調節することで近視の進行を抑制する可能性のあることが示唆されている。脈絡膜は網膜の外側の血管が豊富な膜のことであり、強膜は眼球の白目の部分のこと。オメガ3脂肪酸は、主に油の多い魚に含まれているが、一部の種子やナッツにも含まれている。 Yam氏らは今回、香港で行われたより大規模な眼科研究からランダムに選ばれた6〜8歳の小児1,005人(平均年齢7.64歳、男児52.1%)を対象に、食事からのオメガ3脂肪酸摂取やその他の食事因子と近視との関連を検討した。対象児の食事内容を妥当性が確認されている食事摂取頻度調査法を用いて評価し、オメガ3脂肪酸の摂取量に基づき対象児を4群に分類した。オートレフラクトメータで測定した調節麻痺下の等価球面度数(SE)と、IOLマスターを用いて測定した眼軸長(AL)により、近視の有無や程度を評価した。ALは黒目の表面から網膜までの長さであり、長くなり過ぎると近視、短くなり過ぎると遠視の状態になる。一方、SEは目の屈折状態を数値で表す指標であり、近視だとマイナスの値、遠視だとプラスの値となる。 対象児のうち276人(27.5%)が近視であった。解析の結果、4群の中でALが最も長いのはオメガ3脂肪酸の摂取量が最も少ない群での23.29mmであり、年齢や性別、BMI、近距離での作業時間、屋外で過ごす時間、親の近視歴を調整後も、最も多い群(23.08mm)との差は有意であった(P=0.01)。また、SEについても同様の傾向が見られ、最も少ない群で−0.13D(ディオプター)、最も多い群で0.23Dであった(P=0.01)。一方、バター、パーム油、赤肉などに含まれる飽和脂肪酸の摂取量が最も多い群では最も少ない群に比べてALが有意に長く(23.30mm対23.13mm、P=0.05)、飽和脂肪酸が近視リスクを高める可能性のあることも示唆された。その他の栄養素と近視の間に関連は認められなかった。 Yam氏は、「これらの結果は、オメガ3脂肪酸が近視の発症を防ぐ潜在的な食事因子であることを浮き彫りにしている」と結論付けている。同氏らは、オメガ3脂肪酸が目の血流を増加させ、健康な目の発達を促進することで近視を防ぐのではないかと推測している。

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心理教育的介入で、地域社会の精神保健ケア構築は可能か/Lancet

 医療提供者の不足と文化的に適合したケアの欠如が、世界中で多文化集団への精神保健サービスの提供の妨げになっているとされる。米国・マサチューセッツ総合病院のMargarita Alegria氏らは、人種/民族的、言語的に少数派の集団における抑うつや不安への地域社会の対処能力の構築を目指す心理教育的介入(Strong Minds-Strong Communities[SM-SC]と呼ばれる)の有効性を評価するために、6ヵ月間の研究者主導型多施設共同無作為化臨床試験「SM-SC試験」を実施。SM-SCによる文化的に適合した介入が黒人、ラテン系、アジア系の住民に抑うつ、不安症状の改善をもたらすことが示唆され、これによって地域社会の対処能力を構築することで、精神保健ケアの不足を補う選択肢の提供が可能であることが示されたという。研究の成果は、Lancet誌2025年8月23日号に掲載された。2州の37ヵ所で参加者を募集 本研究では、2019年9月~2023年3月に米国の2州(マサチューセッツ州とノースカロライナ州)の20の地域共同体を基盤とする組織と17の診療施設で参加者を募集した(米国国立精神衛生研究所[NIMH]の助成を受けた)。 年齢18歳以上の英語、スペイン語、標準中国語、広東語の話者で、「精神保健分野のコンピューター適応型テスト(CAT-MH)」を用いた評価で中等度から重度の抑うつまたは不安の症状を呈する患者を対象とした。被験者を、文化的背景を踏まえ、適切な言語の使用が可能で臨床的な指導を受けた地域保健師によるSM-SCを受ける群、または通常ケア(対照)を受ける群に無作為に割り付けた。 SM-SCは、エビデンスに基づく文化的な個別化介入で、認知行動療法(CBT)、マインドフルネス訓練、健康的な習慣に関する心理教育、動機付けのための面接、心地良いい活動(pleasant activity)や支持的関係(supportive relationship)を通じた行動の活性化などのアプローチで構成される。通常ケアでは、参加者に米国国立衛生研究所(NIH)が作成した不安と抑うつに関する小冊子が配布された。 有効性の主要アウトカムは、ITT集団における次の3項目のベースラインから6ヵ月後(介入終了時)および12ヵ月後までの変化量とした。(1)自己報告による抑うつ・不安症状(Hopkins Symptom Checklist-25[HSCL-25]のスコア[1~4点、高点数ほど抑うつ・不安症状が悪化]で評価)。(2)機能水準(WHO障害評価スケジュール2.0[WHODAS 2.0]のスコア[12~60点、高点数ほど機能が低下]で評価)。(3)ケアの質に関する認識(Perceptions of Care Outpatient Survey[PoC-OP]のGlobal Evaluation of Careドメインのスコア[0~100点、高点数ほどケアの質が高いと認識]で評価)。6ヵ月時に3項目とも改善 1,044例を登録し、524例をSM-SC群、520例を通常ケア群に割り付けた。全体の平均年齢は42.6(SD 13.3)歳で、女性875例(83.8%)、男性165例(15.8%)、その他4例(0.4%)であった。人種別では、ラテン系654例(62.6%)、非ラテン系黒人149例(14.3%)、非ラテン系アジア人137例(13.1%)、非ラテン系白人92例(8.8%)であり、704例(67.4%)が外国生まれだった。 ベースラインから6ヵ月後までに、HSCL-25スコアは通常ケア群で0.24低下したのに対し、SM-SC群では0.44の低下と抑うつ・不安症状が有意に改善した(群間差:0.20[95%信頼区間[CI]:0.14~0.26]、標準化効果量[Cohen’s d]:0.39[95%CI:0.27~0.52])。 また、機能水準(WHODAS 2.0スコア低下の群間差:2.39[95%CI:1.38~3.40]、標準化効果量[Cohen’s d]:0.28[95%CI:0.16~0.39])およびケアの質の認識(PoC-OPスコア上昇の群間差:8.75[5.87~11.63]、標準化効果量[Cohen’s d]:0.47[0.31~0.62])についてもSM-SC群で有意な改善を示し、とくに後者における効果が顕著に高かった。12ヵ月後も有意差を保持 介入終了後、介入の効果は減衰した(標準化効果量が約30%低下)が、ベースラインから12ヵ月(介入終了後6ヵ月)の時点で3項目とも通常ケア群との比較で有意差を保持しており(標準化効果量[Cohen’s d]:抑うつ・不安症状0.28[95%CI:0.16~0.40]、機能水準0.21[0.08~0.33]、ケアの質の認識0.33[0.16~0.50])、SM-SCの有効性が示された。 著者は、「今後の研究では、このモデルへの投資が、実臨床や保健システム上のさまざまな課題にどのように対処できるかを検討する必要がある」としている。

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遅発型ポンペ病の新規併用療法薬「ポムビリティ点滴静注用105mg」【最新!DI情報】第46回

遅発型ポンペ病の新規併用療法薬「ポムビリティ点滴静注用105mg」今回は、ポンペ病治療薬「シパグルコシダーゼ アルファ(遺伝子組換え)(商品名:ポムビリティ点滴静注用105mg、製造販売元:アミカス・セラピューティクス)」を紹介します。ポンペ病の筋組織に蓄積するグリコーゲンを減少させる作用を有する薬剤であり、成人の遅発型ポンペ病の新たな治療選択肢として期待されています。<効能・効果>遅発型ポンペ病に対するミグルスタットとの併用療法の適応で、製造販売承認を2025年6月24日に取得し、8月27日より発売されています。<用法・用量>ミグルスタットとの併用において、通常、体重40kg以上の成人にはシパグルコシダーゼ アルファ(遺伝子組換え)として、1回体重1kg当たり20mgを隔週点滴静脈内投与します。なお、ミグルスタットを投与してから1時間後に本剤の投与を開始します。<安全性>重大な副作用として、infusion reaction(23.5%)、アナフィラキシー(1.2%)があります。その他の副作用として、頭痛(5%以上10%未満)、浮動性めまい、味覚不全、片頭痛、平衡障害、認知障害、錯感覚、傾眠、振戦、頻脈、悪夢、潮紅、高血圧、呼吸困難、腹部膨満、下痢、腹痛、鼓腸、食道痙攣、そう痒症、発疹、蕁麻疹、紅斑性皮疹、筋痙縮、筋力低下、筋骨格硬直、筋肉痛、発熱、悪寒、胸部不快感、顔面痛、疲労、注入部位腫脹、倦怠感、疼痛、血中尿素増加、体温変動、リンパ球数減少、眼瞼痙攣、皮膚擦過傷(1%以上5%未満)があります。急性呼吸器疾患のある患者、または心機能もしくは呼吸機能が低下している患者に本剤を投与する場合、症状の急性増悪が起こる可能性があるので、患者の状態を十分に観察し、必要に応じて適切な処置が必要です。<患者さんへの指導例>1.この薬は、遺伝子組換えポンペ病治療剤と呼ばれる薬です。ミグルスタット(オプフォルダカプセル65mg)と併用されます。2.体内で不足している酵素(酸性アルファグルコシダーゼ)を補充してライソゾーム中のグリコーゲンを分解します。<ここがポイント!>ポンペ病(Pompe disease)はライソゾーム病の一種であり、酸性アルファグルコシダーゼ(GAA)の遺伝子変異により発症する先天性代謝異常症です。GAAはライソゾーム内でグリコーゲンを分解する酵素であり、欠損または活性低下により、骨格筋、肝臓、心筋などにグリコーゲンが異常に蓄積します。その結果、筋力低下、肝腫大、心筋症などの症状を引き起こします。ポンペ病は、発症時期によって幼児型と遅発型(小児型および成人型)に分類されます。乳児型は完全酵素欠損であり、自然経過では呼吸不全や心不全により、多くの場合、1歳未満で死に至ります。一方、患者の大多数を占める遅発型は、発症年齢が幅広く、残存酵素活性(正常の40%未満)を有しています。遅発型の主な症状は、近位筋筋力や呼吸筋筋力の低下であり、心機能低下はまれです。治療には、酵素欠乏状態を改善するために、アルグルコシダーゼアルファやアバルグルコシダーゼアルファを用いた酵素補充療法(ERT)が行われます。ERTの導入により、ポンペ病の治療は飛躍的に進歩し、患者のQOLは大きく向上しましたが、効果不十分な症例も報告されており、とくに筋肉への標的指向性特性の改善が求められていました。本剤は、既存のアルグルコシダーゼアルファと同様にヒトGAAの遺伝子組換え製剤ですが、ライソゾームへの送達効率を高めるための改良がなされています。ライソゾーム移行に必要な天然構造であるマンノース-6-リン酸(M6P)を多く含んでおり、とくにカチオン非依存性マンノース-6-リン酸受容体(CI-MPR)への結合親和性を高めるため、2ヵ所がリン酸化されたビスマンノース-6-リン酸(bis-M6P)を有する糖鎖が付加されています。この構造により、投与直後の酵素濃度が低い骨格筋においても、酵素の細胞内取込みおよびライソゾームへの送達(標的指向性)が改善されています。なお、本剤はミグルスタットとの併用が必須です。ミグルスタットは本剤の血中の安定性を高め、酵素活性の低下を防ぐことで治療効果を維持します。遅発型ポンペ病患者を対象としたATB200-03試験において、6分間歩行距離(6MWD)の52週でのベースラインからの変化量(外れ値の患者を除いたITT-OBS集団)の平均値±SDは、本剤+ミグルスタット併用群では20.6±42.3m、アルグルコシダーゼアルファ/プラセボ群では8.02±40.6mであり、本併用群では52週までの6MWDの経時的改善がみられました。MMRM(Mixed-effect model for repeated measures)から得られた最小二乗平均値の群間差は14.2m(95%信頼区間:-2.60~31.0)でした(p=0.097、名目上のp値)。

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骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン 2025年版

10年ぶり改訂!人生100年時代に必要な、骨粗鬆症の最適な治療法を選択するためのガイドライン骨粗鬆症による骨折は、QOL、ADLを低下させ、生命予後を悪化させる。健康寿命延伸に骨粗鬆症の予防と治療は欠かせない。加齢とともに有病率が高まり、さまざまな疾患と関連する骨粗鬆症についての知識・情報は、専門医のみならず一般医、メディカルスタッフにも必須といえる。2025年版では、新たにCQ(クリニカルクエスチョン)を設定してシステマティックレビューを行い、エビデンスの評価・統合をして推奨文を作成。また、多くの医療従事者が臨床上疑問に思う課題をQ(クエスチョン)として取り上げ、回答を用意した。骨粗鬆症診療における予防と治療、さらに疫学、成因、リエゾンサービス、医療経済など多様な分野を網羅したガイドラインである。画像をクリックすると、内容の一部をご覧いただけます。※ご使用のブラウザによりPDFが読み込めない場合がございます。PDFはAdobe Readerでの閲覧をお願いいたします。目次を見るPDFで拡大する目次を見るPDFで拡大する骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン 2025年版定価4,400円(税込)判型A4変形判頁数272頁発行2025年7月編集骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン作成委員会(日本骨粗鬆症学会 日本骨代謝学会 骨粗鬆症財団)ご購入はこちらご購入はこちらAmazonでご購入の場合はこちら

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経管投与時の投与負担軽減のため、バイアスピリンからダイアルミネート製剤への変更を提案【うまくいく!処方提案プラクティス】第67回

 在宅医療では、薬学的な有効性・安全性に加えて、実際の投与場面での実用性も重要な要素です。とくに、同等の効果を有する製剤間で投与負担の違いがある場合、患者・介護者の負担軽減を考慮した製剤選択が求められます。しかし、このような製剤特性の違いを理解し、個々の患者さんの状況に応じて最適な選択を行うためには、薬剤師の専門的な判断が不可欠です。患者情報89歳、女性、要介護4基礎疾患脳梗塞、アルツハイマー型認知症、高血圧症服薬管理娘による管理、経管栄養(胃瘻)にて投与月1回の往診あり処方内容(簡易懸濁法での投与)1.バイアスピリン錠100mg 1錠 朝食後2.タケキャブOD錠10mg 1錠 朝食後3.ビオフェルミン配合散 3g 朝昼夕食後4.アムロジピン錠5mg 1錠 朝食後5.フロセミド20mg 1錠 朝食後6.アジルサルタン錠20mg 1錠 朝食後7.塩化ナトリウム 3g 朝昼夕食後8.ラコールNF配合経腸用半固形剤 900g 毎食後(300-300-300)症例のポイントこの患者さんは、同居の娘さんが主に簡易懸濁法を実施していました。ある日、「懸濁時に熱湯を使用すると懸濁時に薬剤がスムーズに流れないため、錠剤をすべて潰して投与している」と相談をいただきました。粉砕した薬剤は保管時の安定性や取り出しにくさの問題もあり、介護者にとって大きな負担となります。さらに、ICTの情報連携において、下記の要望が寄せられていました。医師「簡易懸濁できるかどうか判断がつかない。処方箋にはどのように入力したらよい?」訪問看護師「懸濁時にお湯でドロドロになることがあるが、何か適さない薬はある? チューブ径の問題? 娘さんも不安そう」ケアマネジャー「同居の娘さんが懸濁は大変、と漏らしている。もっとよい方法があれば娘さんも助かると思う」薬学的な観点から分析すると、まず、熱湯投与していたというビオフェルミン配合散は、お湯で崩壊・懸濁するとチューブ閉塞の要因となる可能性があります(第31回参照)。さらに、バイアスピリン錠は腸溶性製剤であり、簡易懸濁法には不適切な製剤でした。腸溶性コーティングのため崩壊前に亀裂を入れる必要があり、フィルム残渣が残存して完全な懸濁が困難です。崩壊に時間がかかることで投与作業が煩雑になり、粉を取り出しにくいという物理的な問題も介護者の負担を増大させていました。そこで、バイアスピリン錠100mgからバファリン配合錠A81へ変更することで、単に剤形変更ではなく、患者さんの服薬環境を根本的に改善することができると考えました。バファリン配合錠はダイアルミネート製剤であり、亀裂を入れる必要がなく、残渣も残りません。胃酸による刺激を緩和しつつ簡易懸濁法にも適応するため、経管投与患者にとって理想的な選択肢です。画像を拡大する医師への相談と経過バイアスピリンの簡易懸濁法での技術的課題に加え、ビオフェルミン配合散の澱粉による懸濁困難も合わせて説明するため、訪問診療への同行の機会を活用して、医師へ情報共有を行いました。まずは「ドロドロになってしまう薬」の正体が澱粉であることを明確にし、製剤選択による根本的解決の必要性を説明しました。また、バイアスピリンとバファリン配合錠の簡易懸濁法の違いを具体的に説明し、投与負担軽減による服薬コンプライアンス向上への期待について提案することで、医師の理解を得ることができました。その結果、提案のとおりバファリン配合錠A81および酪酸菌製剤への変更が決定されました。処方箋備考欄には「簡易懸濁法で投与」と明記され、家族や看護師に変更内容と投与方法の詳細な説明を実施しました。本症例でとくに重要であったのは、医師、薬剤師、看護師、ケアマネジャーという多職種の連携により、各々の専門性を活かした包括的な問題解決が実現できたことです。各職種の強みが統合されることで、患者・介護者のQOL向上につながる実践的な解決策が見出されました。経管投薬支援料の算定が可能にこの一連の経管投与に関する薬学的管理指導により、経管投薬支援料の算定が可能になりました。経管投薬支援料は、経管投与患者に対する薬剤師の専門的関与を評価する診療報酬項目であり、適切な簡易懸濁法の指導や製剤変更提案などの薬学的管理が算定要件となります。経管投薬支援料の算定は、体系的で継続的な薬学的関与が評価される仕組みです。単発の処方変更提案ではなく、問題の発見から解決、そして効果の検証まで一貫した薬学的管理を提供することで、診療報酬の適正算定と患者利益の向上を両立させることが可能になると実感した症例でした。バファリン配合錠A81販売中止への対応このようにうまくいった処方提案でしたが、バファリン配合錠A81は2025年7月頃に販売が中止されました(経過措置期間は2026年3月末日まで)。この歴史ある製剤の販売終了は、経管投与患者にとって大きな影響を与えます。メーカーは代替候補としてバイアスピリン100mgを案内していますが、本症例のように腸溶性製剤からの変更を目的とした場合には、同じダイアルミネート製剤を選択する必要があります。そこで代替品としては、同じくダイアルミネート製剤である他の後発医薬品(ニトギス配合錠A81、バッサミン配合錠A81、ファモター配合錠A81など)が候補となります。これらの製剤も同様に簡易懸濁法に適応するため、バファリン配合錠で得られた投与負担軽減効果を維持することが可能です。1)藤島一郎監修, 倉田なおみ編集. 内服薬 経管投与ハンドブック〜簡易懸濁法可能医薬品一覧〜 第4版. じほう;2020.2)バファリン配合錠添付文書情報3)バファリン配合錠販売中止情報

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看護師人数の改善は「患者の命」と「現場」を救う!【論文から学ぶ看護の新常識】第29回

看護師人数の改善は「患者の命」と「現場」を救う!オーストラリアで導入された「看護師の最低配置基準政策」。その効果を調べた研究により、適正な人員配置と患者の安全性、そして看護師自身の幸福度の間に、明確な因果関係があることが示された。Karen B. Lasater氏らの研究で、International Journal of Nursing Studies誌オンライン版2025年8月6日号に掲載された。オーストラリア・クイーンズランド州の看護師最低配置基準政策の導入が、看護師のウェルビーイングと患者安全を改善:準実験的介入研究研究チームは、看護師の最低配置基準政策の導入が、看護師のウェルビーイング、離職意向、および患者安全を改善したかを評価する目的で準実験的介入研究を実施した。最低配置基準政策の対象となった27病院(介入病院)では、内科・外科病棟における平均の看護師(准看護師を含む)対患者比を、日勤帯(朝・午後シフト)では看護師1人あたり患者4人以下、夜勤帯では看護師1人あたり患者7人以下とすることが義務付けられた。この介入病院と、対象とならなかった41病院(比較病院)を、政策導入前と導入2年後の2つの時点で比較。看護師のアウトカム、患者安全指標、ケアの質指標、運営上の失敗(インシデントなど)について評価した。主な結果は以下の通り。介入病院では、導入前と比べて明確な改善が確認された。重度の燃え尽き状態になる確率が24%低下(オッズ比:0.76、95%信頼区間[CI]:0.61〜0.94、p<0.05)職務不満足になる確率が27%低かった(オッズ比:0.73、95%CI:0.59〜0.91、p<0.01)業務量、専門能力開発、職務上の自律性、および勤務スケジュールに対する職務不満足度がすべて有意に低下し、看護師の労働環境スコアも改善した。(一方、比較病院ではこれらの項目は時間とともに悪化した。)介入病院では、ケアの質、患者安全、および運営上の失敗が著しく改善した。(比較病院では概して悪化した。)この研究は、政策立案者や病院管理者に、最低配置基準政策の導入が、看護師にとってより好ましい労働環境、看護師の燃え尽きや職務不満足度の低下を含むより良い職務成果、そして患者ケアの質と安全性の向上をもたらし得るという、強い確信を与えるものである。この研究で最も興味深いのは、もしこの政策がなければ、事態は悪化の一途を辿っていたという衝撃の事実です。実際に、政策が導入されなかった病院では、この調査期間中に看護師たちが自院のケアの質を「悪い」と評価する確率が増加していました。現場は、静かに、しかし確実に疲弊し、質が低下する負のスパイラルに陥っていくことがデータで示されました。この「比較病院の姿」こそ、多くの医療現場が直面している「現在の姿」であり、何もしなかった場合の「現場の未来」だとも言えるのではないでしょうか。この状況に対し、最低配置基準政策は、悪化する流れを完全に断ち切るだけでなく、状況を劇的に好転させる効果を持っていました。具体的には、ケアの質が「悪い」と評価される確率を42%も引き下げるという、明確な効果を示したのです。まさに流れを逆転させる「ゲームチェンジャー」であり、現場を救う「救世主」とも言える一手となっています。さらに、この研究の素晴らしい点は、長年「そうに違いない」と信じられてきた「看護師配置の改善が、現場と患者を救う」という仮説を、信頼性の高い準実験デザインによって、科学的に証明した点です。これにより、両者の関係は単なる「相関関係」から明確な「因果関係」のレベルにまで引き上げられました。看護師の適正な配置が、現場と医療の質を守るための最も確実で強力な一手であると揺るぎない根拠をもって示された、私たち看護師にとって大変希望的な研究です。論文はこちらLasater KB, et al. Int J Nurs Stud. 2025 Aug 6. [Epub ahead of print]

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起立時のめまいや動悸に心不全治療薬が有効かも

 立ち上がったときに動悸やめまい、ふらつきを感じたことはないだろうか。これは、体位性頻脈症候群(POTS)と呼ばれる症状で、上記の症状に加え、疲労感や運動障害、胸痛、ブレインフォグ、吐き気などを伴うこともある。新たなパイロット研究の結果によると、イバブラジンと呼ばれる心不全治療薬が、POTS患者の心拍数の増加を抑え、血圧には影響を与えずに他の症状を大幅に改善する可能性のあることが示された。米バージニア大学保健学部のAntonio Abbate氏らによるこの研究結果は、「Journal of Cardiovascular Pharmacology」7月号に掲載された。 Abbate氏は、「これらの結果は、不適切な心拍数の増加こそが不調の原因であり、血圧に影響しない薬により心拍数を減らすことで生活の質(QOL)に違いをもたらすことができることを示唆している」とバージニア大学のニュースリリースの中で述べている。 研究グループによると、POTSの有病率は一般人口の1%以下と極めて低いが、近年、TikTokやその他のソーシャルメディアでPOTSが話題になっているという。POTSの原因は明らかになっていないため、POTSと診断してもらうことの難しさを訴える患者は多い。「患者は、かかりつけ医がPOTSに関する詳しい知識を持ち合わせていなかったり、治療方法が分からなかったりするため、別の専門医の診察を受けに行く。ところが、心臓専門医は心臓の問題ではないと判断する。実際にその通りだ。また、神経科医は脳に問題はないと言うが、それも正しい。POTSは『ハードウェア』の問題というより、『ソフトウェア』の問題なのだ」と話す。 イバブラジンは、心臓にある過分極活性化環状ヌクレオチド依存性(HCN)チャネルを阻害することで心拍数の増加を抑える薬で、心不全の悪化予防のために使用される。POTSの主な特徴は心拍数の増加であることから、研究グループは、イバブラジンがPOTSの症状改善に効果を発揮する可能性があると考えた。 そこで研究グループは、POTS患者10人(平均年齢28歳、女性8人)にイバブラジンを投与した。その結果、起立時の1分当たりの心拍数の増加幅は、イバブラジン投与前は平均40回であったのが、投与後は平均15回に減少したことが示された。また、研究参加者は心拍数以外の症状が改善したことも報告した。なかでも改善度が高かったのは、失神感(69%減)と胸痛(66%減)であった。 Abbate氏らは、「この全体的な症状の改善は、心拍数の増加がPOTSの他の症状を引き起こすことを示唆している」と述べている。同氏は、「POTS患者では、起立時に心拍数を制御するメカニズムが機能不全に陥り、心拍数が過度に増加する。すると、脳がこれを危険信号と感知し、ストレスホルモンであるノルアドレナリンの放出を促す。その結果、不安やパニック発作に似た症状が引き起こされる。イバブラジンで心拍数をコントロールすることによりこのループが抑制され、患者の気分が改善するのではないか」との見方を示している。 ただし研究グループは、これらの研究結果を確認し、POTSの原因をより深く理解するためには、さらなる研究が必要だと述べている。Abbate氏は、「かつては低血圧に起因する代償メカニズムとしか考えられていなかった高い心拍数自体が症状の原因となっている可能性がある。心拍数がどのように調節され、症状にどのように影響するかをより深く理解することが、POTS患者に対するより良い治療法の開発につながる可能性がある」と話している。

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ギャンブル依存の“やめられない”、複数の脳領域が連動か

 「なぜギャンブルをやめられないのか?」。最新の研究から、その背景には“脳の複数の領域”と“気分の落ち込み”が関わっていることがわかってきた。扁桃体と腹側線条体という脳の領域が連動すると、「ギャンブルをしたい」という強い欲求が生まれ、この関係にはうつ症状が関与しているという。研究は京都大学大学院医学研究科(当時)の石川柚木氏、同大学附属病院精神科神経科/デイ・ケア診療部の鶴身孝介氏らによるもので、詳細は「Addiction Biology」に7月17日掲載された ギャンブル障害(GD)は、持続的なギャンブル行動とその悪影響を特徴とする精神疾患であり、強い欲求(渇望)が中心的な役割を担う。ギャンブルへの渇望は多面的なプロセスであり、楽しいと認識する「期待(Anticipation)」、強い衝動を表す「欲求(Desire)」、ネガティブな気分からの逃避を意味する「解放(Relief)」の3側面から構成される。この構造はコカインやたばこの渇望とも類似している。報酬が存在する際の渇望は、報酬追求行動に関与する扁桃体と腹側線条体(VS)の機能的結合によって調整されると考えられるが、報酬が存在しない際の渇望と両者の安静時機能的結合(rs-FC)との関係は未解明である。さらに、うつ症状がこの関係を仲介する可能性も示唆されている。本研究では、GD患者において扁桃体-VSのrs-FCが渇望と関連するという仮説を立て、うつ症状がその媒介因子として機能するかを検討することを目的とした。 本研究には、日本人のギャンブル障害(GD)患者51名(うち男性48名)と健常者45名(うち男性41名)が参加した。全GD患者はDSM-5-TRのGD診断基準を満たしていた。ギャンブルへの渇望は、スコアが高いほど渇望が強いことを示すリッカート尺度であるギャンブル渇望尺度(GACS)を用いて評価した。GACSは「期待」「欲求」「解放」の3つの下位尺度に分ける尺度であり、それぞれ対応する項目の合計点を算出した。うつ症状はベック抑うつ評価尺度II(BDI-II)により評価した。扁桃体と腹側線条体のrs-FCは、安静時fMRIで取得した両領域のBOLD信号の時系列データ間の相関係数を計算することで評価した。 GD患者では、右扁桃体‐右腹側線条体のrs-FCはGACSの「欲求」スコアと有意な負の相関を示した(相関係数ρ=−0.377、95%信頼区間〔CI〕〔−0.591~-0.113〕、P=0.006)。その他のrs-FC値はいずれのGACS下位尺度とも有意な相関を示さなかった。また、右扁桃体‐右腹側線条体のrs-FCはBDI-IIスコアとも有意な負の相関を示した(ρ=−0.390、95%CI〔−0.616~−0.130〕、P=0.005)。 次に、GD患者を対象に、右扁桃体‐右腹側線条体のrs-FCを独立変数、BDIを媒介変数、GACSサブスケール(欲求)を従属変数とする因果媒介分析を実施した。その結果、有意な全体効果(−0.341、95%CI〔−0.617~−0.069〕、P=0.017)と平均因果媒介効果(ACME)(−0.137、95%CI〔−0.306~−0.018〕、P=0.015)が認められた。 男性GD患者(48名)に限定した感度分析では、右扁桃体‐右腹側線条体のrs-FCとGACS「欲求」スコアとの相関は依然として有意であった(ρ=−0.353、95%CI〔−0.634~−0.070〕、P=0.016)。一方で、ACMEは有意ではなかった(−0.110、95%CI〔−0.278~0.010〕、P=0.069)。 本研究について著者らは、「本研究では、扁桃体‐腹側線条体のrs-FCとギャンブルへの渇望との関連が示された。さらに、因果媒介分析により、うつ症状が渇望に対して媒介的な役割を果たす可能性が示唆された。これらの結果は、ギャンブル障害における渇望に関する重要な知見を提供し、その基盤となる神経メカニズムを標的とした効果的な介入法の開発に寄与すると考えられる」と述べている。(HealthDay News 2025年8月25日)

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東海大学医学部 乳腺・腫瘍科学【大学医局紹介~がん診療編】

新倉 直樹 氏(教授)寺尾 まやこ 氏(講師)清原 光 氏(助教)講座の基本情報医局独自の取り組み・特徴当科は乳腺の悪性疾患から良性疾患まで対応し、東海大学医学部付属病院(伊勢原・神奈川)では乳腺専門医5名を中心に乳がんの診療をし、2023年の当科の年間手術症例数は355件(全身麻酔での乳がん手術322例)でした。がん薬物療法専門医3名が所属しており、その他の悪性腫瘍の患者さんも積極的に受け入れ、薬物療法も行っています。遺伝性乳がん卵巣がん症候群(HBOC)に対しては遺伝子診療科と連携し、BRCA検査、その他の家族性腫瘍に対する検査にも対応しています。乳房再建においては形成外科と連携し腹直筋、広背筋皮弁再建やインプラント再建も行っております。独自の取り組みとしては、乳腺・腫瘍科の中に外科専門医と内科専門医が混在しているチームとなり、外科医が薬物治療を行うのと同時に、内科出身であっても、診断・手術を行っています。医師の育成方針当科では外科系以外に、2008年より内科系の乳腺専門医を目指す医師を育成しており、今後も外科・内科問わずさまざまなバックグラウンドを持つ乳腺専門医を目指す医師を募集しています。乳腺・腫瘍科として診断から外科的手術、薬物療法まで行える医師の育成を行っております。さらには研究については、基礎研究、データベース研究、新規薬剤の開発治験、留学制度など本人のやりたいことをサポートできる環境を整えてあります。同医局でのがん診療/研究のやりがい、魅力東海大学乳腺・腫瘍科学は、外科系・内科系を問わず乳がん診療全般に関わることができること、「がん薬物療法専門医」が複数名おりオンコロジストとして乳がん以外の悪性疾患の臨床や研究に携わることができるのが大きな魅力です。複雑な症例の相談や、原発不明がんの治療など自施設に限らず地域の医療機関の患者さんたちに適切な治療を提供することは、医師としてやりがいを感じられます。次世代オンコロジストの育成にも力を入れ、幅広く腫瘍学を学ぶことができる環境が整っており、基礎研究に関心のある方にも、多様なテーマに取り組める機会があります。復職・キャリア再開を考えている医師へのメッセージ当教室では、3年目専攻医でなくても、結婚・出産・家庭の事情などで一度離職された先生方や、過去に他の医療機関に在籍していた方の復職も可能です。東海大学医学部には「復職支援室」を設けており、復職支援、長期離職予防、キャリア支援などを積極的に行っています。復職にあたって不安をお持ちの方には、診療科を問わず個別相談や研修の提案なども可能です。まずは相談だけでも、ぜひお気軽にご連絡ください。これまでの経歴宮崎大学を卒業後、神奈川県内の市中病院で初期臨床研修を行いました。現在の医局に入局し、医師7年目になります。初期研修中に乳腺診療の魅力を知り、この分野を選びました。同医局を選んだ理由乳腺外科を選んだ理由は、1)診断から手術、周術期治療、再発転移の治療まで一貫して携わることができること、2)患者さんの多くが女性であり女性医師の需要が高いこと、3)ワークライフバランスも大切にできることの3点です。東海大学では、乳腺専門医取得に向けて外科系だけでなく内科系ローテーションを選択することができました。とくに薬物療法に興味があった私は、この点を魅力に感じ、東海大学に入局を決めました。現在学んでいること医師3~5年目は当院の内科系と乳腺外科で専攻医として勤務し、うち1年間は国立がん研究センター東病院で腫瘍内科を中心に研修させていただきました。その後内科専門医を取得し、現在は外来や手術を中心に乳腺診療全般を学んでいます。また、研究にも取り組み、学会発表や論文執筆を進めています。さらに、がん薬物療法の理解を深めるため、遺伝子パネル検査のエキスパートパネルにも参加し、他がん種についても学んでいます。東海大学医学部 乳腺・腫瘍科学住所〒259-1193 神奈川県伊勢原市下糟屋143問い合わせ先mamma@tokai.ac.jp医局ホームページ東海大学医学部 乳腺・腫瘍科学専門医取得実績のある学会日本外科学会日本内科学会日本乳癌学会日本臨床腫瘍学会日本癌治療学会日本遺伝性腫瘍学会研修プログラムの特徴(1)東海大学では、大学院に進学する場合、臨床助手・ハイブリッドコースを選択し、学位を取得することができます。また、臨床助手の7割の給与が支給されます。(2)男女を問わず、結婚・出産後の待遇について相談に応じます。産休・育休制度を活用し、最大産後1年間の休職が可能です。短時間勤務制度(20~28時間勤務/週、子供が9歳になるまで、最大3年間)を利用することもできます。この制度を利用し、復帰後も他医師と同様に臨床・研究・教育を継続することができる体制を整えております。本院(伊勢原)、八王子病院ともに院内保育所を併設しており、利用時間は7:00~22:00です。詳細はこちら

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2型糖尿病治療薬、国際的持続評価システムの最新結果/BMJ

 中国・四川大学のKailei Nong氏らは、2型糖尿病治療薬の無作為化比較試験についてリビングシステマティックレビュー(living systematic review:LSR)とネットワークメタ解析(NMA)を用いて評価するシステムを開発。SGLT-2阻害薬、GLP-1受容体作動薬(GLP-1RA)、フィネレノンおよびチルゼパチドは、死亡、心血管疾患、慢性腎臓病および体重減少に関してリスク依存的に異なる有益性をもたらすが、薬剤特有の有害事象があることを明らかにした。著者は、「本評価システムは、最新のエビデンスを随時統合できるよう設計されている。エビデンスを持続的に更新する国際的なシステムとして、政策立案者、臨床医および患者の情報に基づく意思決定を支援し、研究の無駄を減らす可能性がある」と述べている。BMJ誌2025年8月14日号掲載の報告。869試験、49万3,168例のデータを解析 研究グループは、MedlineおよびEmbaseを用い、2型糖尿病治療薬を相互に、またはプラセボあるいは標準治療と比較した24週以上の無作為化並行群間比較試験について、毎月検索を実施し(本報告では2024年7月31日までの検索を対象)、頻度(frequentist)ランダム効果モデルとGRADEアプローチを用いたLSRおよびNMAを行った。 LSRとNMAは、少なくとも年2回更新。本報告のLSRとNMAには、869試験(2022年10月以降に53試験を追加)の計49万3,168例の患者が含まれ、13の薬剤クラス(63種類の薬剤)と26の重要なアウトカムに関するデータが報告された。薬剤ごとに有益性が異なり、薬剤特有の有害事象も確認 有益性は、SGLT-2阻害薬、GLP-1受容体作動薬、およびフィネレノン(慢性腎臓病を有する患者に限る)について、心血管および腎臓へのベネフィットが確認された(エビデンスの確実性:中~高)。 体重減少に最も有効な薬剤は、チルゼパチド(平均差[MD]:-8.63kg[95%信頼区間[CI]:-9.34~-7.93]、エビデンスの確実性:中)、およびorforglipron(-7.87kg[-10.24~-5.50]、エビデンスの確実性:低)の順で、次いで他の8種類のGLP-1受容体作動薬(エビデンスの確実性:高~中)であった。 薬剤の絶対的有益性は、心血管および腎アウトカムに対するベースラインのリスクによって大きく異なっていた。リスク層別化された薬剤の絶対効果は、インタラクティブツールにまとめている。 薬剤特有の有害事象については、SGLT-2阻害薬は性器感染症(オッズ比[OR]:3.29[95%CI:2.88~3.77]、エビデンスの確実性:高)、糖尿病性ケトアシドーシス(2.08[1.45~2.99]、エビデンスの確実性:高)、切断(1.27[1.01~1.61]、エビデンスの確実性:中)を、チルゼパチドとGLP-1受容体作動薬は重度胃腸障害(チルゼパチドで最もリスクが増加、OR:4.21[95%CI:1.87~9.49]、エビデンスの確実性:中)、フィネレノンは重度高カリウム血症(OR:5.92[95%CI:3.02~11.62]、エビデンスの確実性:高)を、チアゾリジン系薬剤は主要な骨粗鬆症性骨折および心不全による入院、スルホニル尿素薬とインスリンおよびDPP-4阻害薬は重度低血糖のリスクをそれぞれ増加させる可能性が示された。 神経障害や視覚障害などその他の糖尿病関連合併症に対する効果については、エビデンスの確実性が低または非常に低の結果しか得られなかった。また、関心が高い認知症に関しても、GLP-1受容体作動薬が認知症を軽減するかどうかは不確実であった(OR:0.92[95%CI:0.83~1.02]、エビデンスの確実性:低)。

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「Pontaポイント コード」交換レート変更および交換受付停止期間のお知らせ

このたび、ケアネットポイントの交換先である「Pontaポイント コード」につきまして、2025年10月1日(水)12:00より、交換レートを以下のとおり変更いたします。【変更前】9月17日(水)13:59まで100pt=100ポイント分【交換受付停止期間】9月17日(水)14:00~10月1日(水)11:59※Pontaポイント コードの交換受付を一時停止いたします。【変更後】10月1日(水)12:00より100pt=95ポイント分※2025年9月17日(水)13:59までにお申し込みいただいた分は、現行のレート(100pt=100ポイント分)で交換いたします。※2025年9月17日(水)14:00~10月1日(水)11:59 は、Pontaポイント コードの交換受付を一時停止いたします。状況により、交換受付停止期間は前後する場合がございます。 ご利用中の皆さまにはご不便をおかけしますが、何卒ご理解賜りますようお願い申し上げます。ケアネットポイントの交換はこちらよりお手続きください。https://point.carenet.com/exchange※ログインが必要です

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米国の小児におけるインフルエンザ関連急性壊死性脳症(IA-ANE)(解説:寺田教彦氏)

 本報告は、米国2023~24年および2024~25年シーズンにおける小児インフルエンザ関連急性壊死性脳症(IA-ANE)の症例シリーズである。 IA-ANEは、インフルエンザ脳症(IAE)の重症型で、米国2024~25年シーズンのサーベイランスにおいて小児症例の増加が指摘されていた(MMWR Morb Mortal Wkly Rep 2025 Feb 27)。同レポートでは、小児インフルエンザ関連死亡例の9%がIAEによる死亡と報告され、早期の抗ウイルス薬使用と、必要に応じた集中治療管理、インフルエンザワクチン接種が推奨されていた。 本研究では、2024~25年シーズンで大規模小児医療センターの医師からIA-ANEが増加していると指摘があり、主症状、ワクチン接種歴、検査結果および遺伝学的解析結果、治療介入、臨床アウトカム(修正Rankinスケールスコア)、入院期間、機能的アウトカムを主要アウトカムとして調査結果が報告された。詳細は「インフルエンザ脳症、米国の若年健康児で増加/JAMA」に記載のとおりである。 本研究のdiscussionでは、サーベイランス結果と同様に、速やかな診断と集中治療管理、ならびにインフルエンザワクチン接種の有用性が強調されている。前者については、死亡例の多くが入院後1週間以内(中央値3日)に発生し、主因が脳浮腫に伴う脳ヘルニアであった点から指摘されている。後者については、米国における2023~24年および2024~25年シーズンの小児インフルエンザワクチン接種率がそれぞれ55.4%、47.8%であったのに対し、本研究に登録されたIA-ANE患者で接種歴を有したのは16%にとどまっていた点から指摘されている。 また、本研究では、アジア系の子供で急性壊死性脳症(ANE)が多かった。日本を中心としたアジアではANEが多い可能性が指摘されており、日本では2015~16年シーズン以降、IAEは新型コロナウイルス感染症の世界的な流行期間を除き毎年約100~200例が報告されており、2023~24年シーズンは189例が報告されていた(「インフルエンザ流行に対する日本小児科学会からの注意喚起」日本小児科学会)。本研究でもアジア人が登録された割合は高かったが、ANEに関連する可能性があるRANBP2やその他の遺伝的変異はアジア系の子供で多いわけではなく、非遺伝的要因が関与している可能性がある。 ANEは健康な小児でも発症することがあり、頻度は低いが壊滅的な神経学的合併症を来し、死亡することもある疾患である。日本での急性脳症の予後の報告でも、平成22年度の報告書では、急性脳症全体/急性壊死性脳症(ANE)で治癒56%/13%、後遺症(軽・中)22%/2%、後遺症(重)14%/33%、死亡6%/28%、その他・不明1%/3%だった。 本報告は米国におけるANEの臨床像と深刻さを明確に示すとともに、日本においても適切なワクチン接種の実施、IA-ANEの早期診断と集中管理、治療プロトコルの標準化が急務であることを再確認させられた。

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安物椅子の効能【Dr. 中島の 新・徒然草】(595)

五百九十五の段 安物椅子の効能暦の上ではもう秋、朝夕は少しばかり過ごしやすくなりました。それでも日中に水道の蛇口を捻るとお湯が出てきます。「あれっ? 給湯になっているのかな」と思うのは、こんな時ですね。もちろんそんなはずもなく、暑さのせいで水がお湯になっているわけですが。さて、言うまでもなく、われわれが追求しているのは西洋医学。東洋医学や民間医療に比べると、生死を左右する病気の診断や手術を含む治療では絶大な威力を発揮します。しかし、日常生活の中で生じるちょっとした不調、たとえば頭痛や腰痛、不眠、倦怠感といった愁訴に対しては、私自身もなかなか本気になれません。先日、私の外来を訪れた70代の女性。背筋の伸びたダンスインストラクターでした。主訴は歩行障害です。3ヵ月ほど前から右足が動きにくくなったのだとか。実際に歩いてもらうと、確かに右足を軽く引きずっています。それだけでなく、右の腰と臀部の軽い痛み、右膝窩部から下腿前面にかけての違和感も訴えていました。すでに他の医療機関で撮影した頭、頚椎、腰椎のMRIでは、これといった異常が見当たらなかったとのこと。私はいろいろな問診と身体所見を取った結果、最終的に坐骨神経痛、それも梨状筋症候群が歩行障害の主たる原因ではないかと思うに至りました。これは坐骨神経が梨状筋によって圧迫され、下肢の運動障害や感覚障害を呈する疾患です。当然のことながら、患者さんの次の疑問は治療です。正直なところ、私自身は坐骨神経痛とか梨状筋症候群についてはまったくの素人。そこで汗だくになってネット検索をしたのです。患者さんの前でスマホをあれこれ触るのもカッコ悪いのですが、他に方法はありません。苦し紛れの説明をせざるを得ませんでした。 中島 「治療は大きく分けて3つ。外科的治療、内科的治療、その他といったところです」 患者 「外科的治療というのは手術のことですか?」 中島 「そういうことになりますね」 患者 「とんでもない、手術なんかしません!」 そりゃそうでしょうね。どう考えても「圧迫している梨状筋を切ろう」などというのは単純すぎる発想です。 患者 「内科的治療というのは薬ですか?」 中島 「薬とか湿布とかブロック注射あたりだと思います」 患者 「どんな薬を使うのでしょうか」 中島 「鎮痛剤とかかな」 患者 「そんなに痛いわけじゃないのに?」 痛くない人に痛み止めを使っても意味ないですよね。同じ理屈で、湿布もブロック注射も却下。「痛みさえ取れればスムーズに歩ける」という状況でもないわけだし。となると、次は「その他」の治療か?実は診察中、自発痛や圧痛を調べるために、この患者さんの臀部を押したり引いたりしたのです。そのことが結果的に梨状筋をマッサージすることになったのでしょうか。直後に、患者さんが軽快に歩けるようになりました。スムーズに歩けたのは、わずか2〜3メートルだけで、すぐに元に戻ってしまったわけですが。でも、このことは大切なヒントになっているかもしれません。つまり、アプローチとしてはマッサージやストレッチ、エクササイズの方向性も考えられるということです。それ以上のことは私にはわからなかったので、梨状筋症候群をホームページで熱く語っている整形外科クリニックを探し出し、そちらを受診するようお勧めしました。帰宅後に「梨状筋症候群 ストレッチ」で検索すると、YouTubeに大量の動画が存在することに気付きました。もちろん玉石混交だろうとは思いますが、その中には彼女に適したものもあるはず。幸い、1ヵ月後にフォローの再診予約を入れているので、その後の状況をお伺いしようと思います。後で聞いたところ、同僚の中には梨状筋症候群になったという医師もいました。彼女の場合、転勤して椅子が立派になってから、次第にこの患者さんと同じような症状に苦しめられたそうです。それまで愛用していた安物の椅子に変えると、徐々に元に戻ったのだとか。そう考えると、ひょっとして今回の患者さんも、椅子が変わった類のエピソードがあるのかもしれません。再診の時に確認してみましょう。さらに、この患者さんがダンスインストラクターであることを考えても、身体を動かす系の治療法を提案したほうが、納得感が得られるのではないかという気がします。これまで私は、マッサージ、ストレッチ、エクササイズといった方法をあまり重視してきませんでしたが、そういったものも有力な治療オプションの1つではないかと思うようになりました。日々、西洋医学を実践する一方で、少しばかり視野の広がる思いをした次第です。引き続き、この患者さんの経過を見守ることといたしましょう。最後に1句 秋の日々 あれこれ考え また試す

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富裕層の医師はどれくらい?/医師1,000人アンケート

 野村総合研究所が2025年2月に公開したレポート1)によると、2023年の日本の富裕層・超富裕層の世帯数は前回調査(2021年)から11.3%増加し、合計約165万世帯となった。これは全体の約3%に当たる。では、医師のなかに富裕層・超富裕層はどれくらいいるのだろうか。そこで、CareNet.comでは20~60代の医師1,005人を対象に、世帯年収・純金融資産額に関するアンケート調査を実施した(2025年7月27日~8月2日実施)。本アンケート調査では、世帯年収と純金融資産額を調査し、富裕層・超富裕層の割合を算出した。また、資産運用の成功/失敗のエピソードも募集した。世帯年収1,400万円以上は53.1%、3,000万円以上は16.1% 野村総合研究所が2025年2月に公開したレポート1)では、共働きで世帯年収1,500万円以上の家庭を「パワーファミリー」、都市部居住の共働きで世帯年収3,000万円以上の家庭を「スーパーパワーファミリー」としている。 では、医師の世帯ではどうだろうか。CareNet.comが実施したアンケート調査では、世帯年収1,400~3,000万円が49.8%、3,000万円以上が10.8%であった。この数字には、既婚かつ片働きの世帯(431人)や独身世帯(177人)が含まれている。そこで、共働き世帯(397人)に絞ってみると、世帯年収1,400~3,000万円が53.1%、3,000万円以上が16.1%であった。すなわち、共働き世帯のうちパワーファミリー相当は7割近くに上り、スーパーパワーファミリー相当も2割弱ということになる。富裕層・超富裕層は約13% 次に、世帯の純金融資産保有額※について聞いた。富裕層・超富裕層は純金融資産保有額に基づいて定義され、富裕層は「1億円以上5億円未満」、超富裕層は「5億円以上」である。野村総合研究所のレポート1)では、日本の富裕層は153.5万世帯(2.8%)、超富裕層は11.8万世帯(0.2%)とされている。 こちらも医師の世帯をみてみると、富裕層に当たる「1億円以上5億円未満」は11.2%、超富裕層に当たる「5億円以上」は2.0%であった。富裕層と超富裕層を合わせると13.2%に上り、日本全体の3.0%を大きく上回った。 富裕層・超富裕層の割合を開業医・勤務医別にみると、開業医では19.3%、勤務医では7.2%であり、開業医が高かった。また、共働き世帯は富裕層・超富裕層の割合が高く17.2%であった。片働き世帯は10.4%、独身世帯は11.3%であった。年代別にみると、年代が上がるほど富裕層・超富裕層の割合が高く、60代では18.3%に上った。※ 純金融資産は、現金・預金や株式などの金融資産総額から住宅ローンなどの負債総額を差し引いたものを指す。不動産や車などは含まない。資産運用の実施、20~40代は7割超 資産運用の実施状況を聞いた。その結果、運用中と回答した割合は、全体では64.7%であった。しかし、年代別にみると20代、30代、40代がそれぞれ71.4%、78.5%、75.6%と高かった一方で、50代、60代はそれぞれ55.1%、54.7%と低い傾向にあった。また、50代、60代の3割超が、資産運用を一度も実施したことがないと回答した。日本株、オルカンやS&P500などの投資信託が人気 資産運用の内訳をみると、運用対象は「日本株」が最も多く(60.0%)、次いで「投資信託/ETF(全世界):オールカントリーなど」(46.7%)、「投資信託/ETF(米国):S&P500など」(43.8%)であった。不動産(12.4%)、金・プラチナ(12.4%)、暗号資産(8.4%)なども一定数を占めた。 また、「投資・資産運用の成功/失敗エピソード」を募集したところ、成功例として「新型コロナ流行期の押し目買い」「S&P500の長期積立」「ドルコスト平均法」などが挙げられた。一方、失敗例としては「証券会社や銀行の勧誘で購入した商品の暴落」「FXなどでの大損」「株式を保有していた会社の倒産」などが目立った。【成功エピソード】・コロナショックの時、日本株を買いあさって、5,000万円の含み益がある(50代、腎臓内科)・駅直結の新築マンションを購入したら、期待通りに値上がりした(50代、その他)・S&P500を堅実に積み立てており、元本の倍くらいになっている(40代、精神科)・2022年ごろから、ひたすらドルコスト平均法。失敗は感じていない(20代、眼科)【失敗エピソード】・証券会社に勤める患者さんに勧められて人生で初めて購入した株があっという間に値下がりし、現在は100分の1になっている。その患者さんは来なくなった(50代、内科)・投資会社に勧められた株を買ったあと暴落した。すぐに損切りしてしまったが、その後10年経って株価が上がった。塩漬けでも持っておけばよかったと思った(60代、糖尿病・代謝・内分泌内科)・FXなどで一瞬で5,000万円くらい溶かしたことがあるので、リスクの高い投資は行わないようにしている(50代、産婦人科)・トルコリラの投資をしたら1/3になった(50代、泌尿器科)・株式を保有していた会社が倒産した(60代、内科)・研修医時代にワンルームマンションに投資。売却したがとんとんだった。苦労のほうが多い(40代、皮膚科)・最近株を盗まれた(60代、腎臓内科)・かなり前に株で大損して(2,000万円くらい)以後株の世界から足を洗った(60代、内科)・いつも損ばかり(60代、内科)【その他のエピソード】・知らないものには手を出さない(40代、内科)・投資信託に現金を使い過ぎて、給料日まで現金がギリギリとなり、ひもじい日々を過ごした(30代、放射線科)・株を買ったら買いっぱなし。その後の株価を見ることもない(60代、泌尿器科)・損失が怖くて大きなお金は株式投資できない(40代、脳神経外科)アンケート結果の詳細は以下のページに掲載中。医師の世帯年収・資産はどれくらい?/医師1,000人アンケート(ケアネット 佐藤 亮)■参考文献・参考サイトはこちら1)株式会社野村総合研究所ニュースリリース(2025年2月13日)

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