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あいまいな診断を巡るモノローグ(解説:岡村毅氏)

 アルツハイマー病を明確に診断するための血液バイオマーカーに関する重要なポジションペーパーである。その意義を記す前に、精神医学の診断についてちょっとお話をしよう。 その昔、精神医学の診断はきわめてあいまいだった。うつ病の人が妄想を持つことはよくあることは知っているだろうか? そして妄想性障害や統合失調症の人がうつ状態になることもある。すると、「どちらを本体とみるか」というのは人間観や疾病観による。というわけで、その昔、精神科医の診断は学派によって異なることもあった。 これでは会話できないということで、最低限の共通認識として出来上がったのが操作的診断(DSMやICD)である。この症状がいくつある状態を、○○と定義しよう、というものである。ネット上にもたくさん落ちているのでご覧になった方も多いだろう。 なんだ、精神科の診断なんて簡単だ、というのはちょっと待ってほしい。文章を理解できても、実際に疾患の人を何人も診たことがなければ実際の診断は不可能だ。「飛行機を操縦するための本」をいくら読んでも、実際には操縦できないのと同じである。 とはいえ研修を終えるころには、こうした操作的診断に従って正しい診断はできるようになる。ところが、操作的診断ができるようになると、その限界も見えてくる。人生は多様であり、患者さんの人生(ライフコースなどという)から見ると、症状の配置も一回きりの人生のさまざまな経路を経た結果である(記述精神医学などともいう)。「操作的診断なんて浅いなあ」と思うのが若い精神科医の普通の成長過程だ。 とはいえ、操作的診断をばかにし続けていたら、それは思春期をこじらせたようなものである。操作的診断がなければ業界は回らない、というのもまた事実だ。 もっと正確な、科学的な診断はできないだろうか。精神医学でも、血液バイオマーカーとか、脳画像とか、体の動きとかで精神疾患を診断するという研究も行われている。生物学的精神医学の重要性を十分わかったうえで言うが、きわめて危険な研究であることも確かだ。心の中のことは誰にもわからないが、外に表出されたときに、たとえば統合失調症などと診断される。しかし、まったく症状もないのに「あなたの血液、あるいは脳画像は、統合失調症の特徴があるので、あなたは統合失調症だ」と診断されたらどうだろうか。 このように整理するとわかりやすいだろう。心は、脳や血液や遺伝子といったものと同じ次元にはない。したがって、脳や血液や遺伝子で心に「迫る」ことはできるが、明確に心の病を診断することはできない。あくまで別のものなのだ。ゴッホの絵を精密に分析しても、ゴッホの絵の価値を科学的に明らかにできないのと同じである。ちなみにゴッホは、後世の学者によれば妄想を伴う双極性感情障害とも、気分の変調を伴う統合失調症とも診断されている。 さて、本論文に戻ると、脳内のアミロイドやタウの変化を末梢血液で調べることができるようになったという重要な結果である。実は私は最初、この論文の意義がいまいちぴんときていなかったが、正直に書くと、友人の脳神経内科医に聞いて初めてわかった。 現代のアルツハイマー病の診断には、臨床診断と脳病理(髄液かアミロイドペット)が必要である。しかし、かかりつけ医では髄液検査やアミロイドペットはなく、かかりつけ医から専門医へのルートには壁があった。本研究により、壁がなくなり、道が広がったといえる。国際アルツハイマー病学会でも血液バイオマーカーの話題で持ちきりだったとのことである。アルツハイマー病の診断学は、恐るべき速度で正確さを獲得している。ここには「あいまいもまたいい」などと言う余地はなさそうである。

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ADHDとASDを鑑別する多遺伝子リスクスコア、統合失調症との関連は?

 統合失調症は、臨床的にも遺伝学的にも特殊な疾患であり、自閉スペクトラム症(ASD)や注意欠如多動症(ADHD)とも遺伝的因子が類似している。最近、ADHDとASDを鑑別するゲノムワイド関連研究(GWAS)が実施されている。岐阜大学の蔵満 彩結実氏らは、ASDとADHDを鑑別する多遺伝子リスクスコア(PRS)が、統合失調症患者の認知障害や皮質構造の変化と関連しているかを調査した。European Child & Adolescent Psychiatry誌オンライン版2024年8月7日号の報告。 GWASデータ(ASD:9,315例、ADHD:1万1,964例)に基づき、統合失調症患者168例におけるASDとADHDを鑑別するPRS(ADHD高リスクでASD低リスク)を算出した。言語理解(VC)、知覚統合(PO)、ワーキングメモリー(WM)、処理速度(PS)などの認知機能は、WAIS-IIIを用いて評価した(145例)。34の両側脳領域の表面積および皮質厚は、FreeSurferを用いて調べた(126例)。PRSと統合失調症患者の認知機能および皮質構造との関連性を調査した。 主な結果は以下のとおり。・ADHD高リスクを示す高PRSは、4つの認知領域のうち、WMの障害と関連が認められた(β=−0.21、p=0.012)。・ASD高リスクを示す低PRSは、統合失調症患者の次の脳領域の表面績の減少と関連が認められた。【左内側眼窩前頭皮質】β=0.21、p=0.000829【左嗅内皮質】β=0.21、p=0.025【左中心後回】β=0.18、p=0.00752【右紡錘状皮質】β=0.17、p=0.00664【左紡錘状皮質】β=0.17、p=0.00777・高PRSは、左右の横側頭葉における皮質厚の減少と関連していた(左:β=−0.17、p=0.039、右:β=−0.17、p=0.045)。 著者らは、「ADHDとASDを鑑別するPRSは、統合失調症患者の皮質構造および認知機能と関連していることが明らかとなった。これらの知見は、統合失調症の異質性は、統合失調症以外の神経発達および精神疾患に関連する遺伝的因子が部分的に関与している可能性があることを示唆している」としている。

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多剤併用中の統合失調症患者に対するアリピプラゾール月1回製剤の臨床ベネフィット

 抗精神病薬の多剤併用は、臨床現場で頻繁に行われているが、多剤併用による副作用軽減のために長時間作用型注射剤の使用頻度が高まる傾向にある。これまでの研究では、長時間作用型アリピプラゾール月1回注射剤(AOM)の使用により、治療アドヒアランスの向上、機能回復、症状改善が実証されている。しかし、多剤併用療法を行っている患者におけるAOMの治療効果に関するエビデンスは、十分とはいえなかった。韓国・成均館大学校のJiwan Moon氏らは、実臨床におけるAOMの臨床ベネフィットおよび有効性を調査するため、薬剤投与量、薬剤数、臨床機能、精神症状、薬剤の有効期間の変化を評価した観察研究を行った。Progress in Neuro-psychopharmacology & Biological Psychiatry誌オンライン版2024年8月6日号の報告。 対象患者は、研究施設8施設より募集した139例。AOM薬物療法開始時をベースラインとした。スクリーニング時、ベースライン時、1、3、6、9、12ヵ月目に医療記録より臨床データおよび人口統計学的データを収集した。薬剤投与量、薬剤数、6項目陽性・陰性症状評価尺度(PANSS-6)、機能の全体的評価尺度(GAF)、臨床全般印象度-重症度(CGI-S)のスコア変化を12ヵ月にわたり分析した。 主な結果は以下のとおり。・クロルプロマジン(CP)換算量で算出した12ヵ月間の抗精神病薬の総投与量は、32.6%減少した。・初月と最終月の抗精神病薬の総月間投与量を比較すると、投与量がCP換算量で24.6%減少していた。・さらに、ベンゾジアゼピン経口投与数、ロラゼパム換算のベンゾジアゼピン総投与量、気分安定薬、抗コリン薬、β遮断薬の経口投与数の有意な減少が認められた。・GAFスコアは12ヵ月間で14.1%増加し、PANSS-6総スコアは12ヵ月間で17.3%減少し、いずれも1ヵ月目およびベースライン時から有意な変化が認められた。・スコアは、9ヵ月目までは前月と比較し改善がみられ、12ヵ月目まで維持された。・CGI-Sスコアは12ヵ月間で14.3%減少し、1ヵ月目から有意な減少がみられ、6ヵ月目まで改善を続け、この効果は12ヵ月目まで継続した。 著者らは「多剤併用療法を行っている統合失調症患者に対するAOMの早期有効性が確認された。AOMは、治療開始から統合失調症患者の機能および臨床症状を改善し、経口薬の数や投与量を減少させることが示唆された」とまとめている。

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日本の実臨床における統合失調症に対するアセナピンの治療継続予測因子

 統合失調症における薬物療法の継続率は、薬剤の種類や年齢、罹病期間などの患者関連因子により影響を受け、変動する。関西医科大学の嶽北 佳輝氏らは、特殊な製剤特性を有するアセナピン舌下錠における治療継続率の予測因子を明らかにするため、リアルワールドデータを用いた分析を行った。Annals of General Psychiatry誌2024年8月2日号の報告。 日本におけるアセナピンの市販後調査で収集した3,236件のリアルワールドデータを用いて、分析を行った。多変量ロジスティック回帰分析を用いて、主要アウトカムである薬物治療継続率に関連する患者関連因子を特定した後、さらに生存分析を用いて評価した。副次的アウトカムは、有害事象の発生とした。 主な結果は以下のとおり。・多変量ロジスティック回帰分析では、アセナピンの治療継続に対する有意な予測因子が特定された。・とくに、クロルプロマジン(CP)換算量が600mg/日超、罹病期間が25年以上であることなどが、患者関連因子に含まれた。・継続率は、全体で40.6%であったが、CP換算量が600mg/日超の場合は46.3%、罹病期間が25年以上の場合は47.9%であった。・注目すべきは、両方の因子を有する患者では、アセナピン継続率は52.5%と最も高かった。 著者らは「アセナピン舌下錠の治療継続を予測する患者関連因子は、他の抗精神病薬とは異なり、薬剤の特性により治療継続に関連する因子に違いがあることが示唆された。さまざまな抗精神病薬の治療継続に関連する予測因子を解明することは、統合失調症治療においてきわめて重要であり、患者個々の特性に合わせた治療介入の実現に役立つであろう」とまとめている。

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幻覚成分シロシビンの抑うつ作用を抗うつ薬と比較/BMJ

 抑うつ症状に対するサイケデリックス薬による介入のうち、高用量のシロシビンの投与を受けた患者は、抗うつ薬(エスシタロプラム)の試験においてプラセボを投与された患者と比較して、抑うつ症状の改善において良好な反応を示すものの効果量は小さいことが、台湾・義守大学のTien-Wei Hsu氏らの調査で示された。研究の詳細はBMJ誌2024年8月21日号に掲載された。5剤の経口単剤療法のベイズ流ネットワークメタ解析 研究グループは、抑うつ症状を有する患者において、4つのサイケデリックス薬またはエスシタロプラム(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)を用いた経口単剤療法の有効性と受容性を、盲検化の失敗による効果の過大評価の可能性を考慮して比較することを目的に、文献の系統的レビューとベイズ流ネットワークメタ解析を行った(台湾国家科学技術委員会[NSTC]の助成を受けた)。 2023年10月12日の時点で医学関連データベースに登録された文献を検索した。対象は、抑うつ症状を有する成人患者を対象としたサイケデリックス薬またはエスシタロプラムに関する無作為化対照比較試験とした。サイケデリックス薬は、3,4-メチレンジオキシメタンフェタミン(MDMA)、リゼルグ酸ジエチルアミド(LSD)、シロシビン、アヤワスカのいずれかで、抗うつ薬を併用しない経口単剤療法とした。 主要アウトカムは、17項目のハミルトンうつ病評価尺度(HAMD-17)で評価した抑うつ状態の変化であった。推定バイアスを回避するために、プラセボ反応をサイケデリックス薬と抗うつ薬の試験で区別した。プラセボ反応はサイケデリックス薬の試験で低い サイケデリックス薬の試験におけるプラセボ反応は、エスシタロプラムを用いた抗うつ薬の試験におけるプラセボ反応に比べて低かった(平均差:-3.90、95%信用区間[CrI]:-7.10~-0.96)。 サイケデリックス薬の試験の多くでは、プラセボに比べサイケデリックス薬で抑うつ症状の改善効果が高かったが、エスシタロプラムを用いた抗うつ薬の試験のプラセボと比較して効果が優れたのは高用量シロシビンのみだった(平均差:6.45、95%CrI:3.19~9.41)。 一方、参照群をサイケデリックス薬の試験のプラセボ反応から抗うつ薬の試験に変更すると、高用量シロシビンの効果量(標準化平均差)は「大きい(0.88)」から「小さい(0.31)」へ低下した。高用量シロシビンの効果は2つの用量の抗うつ薬より高い 高用量シロシビンの相対的な効果は、エスシタロプラム10mg(平均差:4.66、95%CrI:1.36~7.74、標準化平均差:0.22)および同20mg(4.69、1.64~7.54、0.24)のいずれよりも高かった。 プラセボに比べて、サイケデリックス薬やエスシタロプラムで投与中止や重度有害事象の頻度が高かった介入(高用量、低用量、超低用量など)はなかった。 著者は、「高用量シロシビンは、抑うつ症状の治療に有効である可能性があるが、本研究のデザインはサイケデリックス薬の有効性を過大評価していると考えられる」と述べるとともに、「高用量シロシビンの標準化平均差は、現在の抗うつ薬と同程度であり、効果量は小さいことが示唆される」としている。

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認知症リスクを高める修正可能な因子、2つが追加

 新たな研究により、認知症発症のリスクを高める修正可能なリスク因子のリストに、視力喪失と高コレステロールの2つが加えられた。研究グループは、いずれの因子も予防が可能であるとし、その具体的な方法もアドバイスしている。英ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン(UCL)のGill Livingston氏らが中心となって、認知症の予防や介入、ケアに関する最新の研究や取り組みを取りまとめた、今回で3報目となるこの報告書は、「Dementia prevention, intervention, and care 2024」として、「The Lancet」に7月31日掲載された。 Livingston氏は、「本研究は、認知症リスクを抑制するためにできることやするべきことは、まだたくさんあることを明らかにした。行動を起こすのに早過ぎることも遅過ぎることもない。人生に影響を与えるチャンスは常にある」とUCLのニュースリリースで述べている。さらに同氏は、「リスクにさらされる時間が長ければ長いほど、その影響は大きくなること、また、リスクは脆弱な人においてより強く作用するということに関するさらに強力なエビデンスが得られた。だからこそ、予防を最も必要とする人に対して、予防の努力を倍加させることが不可欠なのだ」と主張している。 前回の2020年の報告書では、認知症のリスク因子として12因子が特定されていた。それらは、教育不足、頭部外傷、運動不足、喫煙、過度の飲酒、高血圧、肥満、糖尿病、難聴、うつ病、社会的孤立、大気汚染である。今回は、最新のエビデンスに基づき、これらの12因子に新たに40代頃からの高LDLコレステロール(悪玉コレステロール)値と視力喪失が追加された。 今回の研究では、世界中で認知症発症との関連が最も強いのは難聴と高LDLコレステロール値であり、これらの因子を予防することで、それぞれ認知症の発症を7%ずつ予防できるものと推定された。次いで関連が強かったのは、人生早期における教育不足と社会的孤立で、それぞれ認知症の発症を5%ずつ予防できると推定された。 Livingston氏は、「定期的な運動、禁煙、中年期の認知活動(正式な教育以外も含む)、過度の飲酒を避けるなどの健康的なライフスタイルは、認知症リスクを低下させるだけでなく、認知症の発症を遅らせる可能性がある。つまり、いつか認知症を発症するにしても、認知症患者として生きる年数を短くできる可能性が高いということだ。このことは、個人の生活の質(QOL)に対して大きな影響を及ぼすだけでなく、社会的に見ても大幅なコスト削減につながる」と話す。 一方、新たに加わった2つのリスク因子について研究グループは、医師に対し、中年期以降にコレステロール値が上昇する人を見つけ出して治療することを促すとともに、視力低下のスクリーニングと治療をより身近なものにするよう求めている。 大気汚染が認知症のリスク因子であることはあまり知られていないが、2023年に発表された研究では、米国で毎年18万8,000件近くの認知症が大気汚染によって引き起こされている可能性があると推定されている。さらに、山火事の煙に曝露すると認知症の診断リスクが高まる可能性があるとする研究結果も、米フィラデルフィアで開催されたアルツハイマー病協会年次総会で発表されている。この研究を率いた米ペンシルバニア大学神経学分野のHolly Elser氏は、「山火事は日常生活を大混乱に陥れるため、そのストレスや不安、日常生活の崩壊が、未診断の認知症を露わにすることがあるのではないか」とCBSニュースに対して語っている。

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妊娠糖尿病は乳がんのリスクを高めない

 妊娠糖尿病は乳がんのリスクとは関連がないようだ。平均12年間追跡した結果、妊娠糖尿病を発症しなかった女性と比べ、乳がんの発症率に差は認められなかったという。デンマークのステノ糖尿病センターおよびオーデンセ大学病院のMaria Hornstrup Christensen氏らが、欧州糖尿病学会(EASD 2024、9月9~13日、スペイン・マドリード)で発表する。 妊娠糖尿病は妊娠中に生じる、糖尿病の診断基準を満たさない程度の高血糖であり、難産や巨大児出産などのリスクが上昇する。妊婦の約14%が妊娠糖尿病を発症するとされ、症例数は増加傾向にある。通常、出産後に糖代謝は正常化するが、その後に心血管代謝疾患リスクが上昇することが知られている。また妊娠糖尿病の発症にはインスリン抵抗性が関与していて、そのインスリン抵抗性は心血管代謝疾患のほかに、乳がんを含むいくつかのがんのリスクと関連する可能性が示唆されている。Christensen氏らの今回の研究では、それらの中で乳がんに焦点が当てられた。 解析の対象は、1997~2018年に出産し、妊娠前に糖尿病や乳がんの既往がなかった70万8,121人のデンマーク人女性(平均年齢28歳)。このうち、2万4,140人(3.4%)に妊娠糖尿病の診断の記録が認められた。平均11.9年(範囲0~21.9年)の追跡で、7,609人が乳がんを発症していた。 妊娠糖尿病の記録のある人とない人で、乳がんの発症リスクに有意差は認められなかった(粗ハザード比0.99〔95%信頼区間0.85~1.15〕)。さらに、年齢や民族、妊娠前の体重、喫煙習慣、子どもの人数、収入、職業、教育歴、高血圧の既往などを調整しても、この結果に大きな変化はなかった(調整ハザード比0.96〔同0.93~1.12〕)。また、この結果は、閉経前乳がんと閉経後乳がんに分類した上で行った解析でも同様だった。 Christensen氏は、「妊娠中に妊娠糖尿病の診断を受けた女性にとって、乳がんを発症するリスクが高くないという事実は、安心材料と言えるだろう」と述べている。ただし同氏は、「妊娠糖尿病は乳がんとは関連がないものの、妊娠糖尿病と診断されたことのある女性は、その後の健康に気を配る必要がある」と強調している。研究者らによると、妊娠糖尿病は後年の糖尿病やメタボリックシンドローム、慢性腎臓病、心臓病のほかに、産後うつ病を含むメンタルヘルス疾患のリスク上昇に関連しているという。 なお、学会発表される報告は、査読を受けて医学誌に掲載されるまでは一般に予備的なものと見なされる。

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うつ病や双極症、季節性と日光曝露は初回使用の診断や薬剤使用量に影響するのか

 うつ病や双極症の季節性は、ICD-10/11やDSM-Vにおいても認識されている。デンマーク・Mental Health Services Capital RegionのCarlo Volf氏らは、デンマーク国内におけるうつ病および双極症の診断や抗うつ薬の初回処方パターンに対する季節性の影響を評価した。Nordic Journal of Psychiatry誌オンライン版2024年7月24日号の報告。 デンマーク患者登録(Danish National Patient Registry)より、1999~2019年にうつ病または双極症と初めて診断された患者の日付と年を検索した。疾患の定義には、うつ病はICD-10 F32-F33、双極症はF30またはF31を用いた。1999~2021年の抗うつ薬処方(ATC分類:N06A)の初めての購入の日付と年は、1995年以降に薬局で調剤されたすべての処方薬に関する情報を含む処方登録(Danish National Prescription Registry)から収集した。2012~21年の日照時間に関するデータは、デンマーク気象研究所より入手した。 主な結果は以下のとおり。・うつ病および双極症の診断発生率と薬剤処方は、月および季節により違いが認められた。・月ごとの変動は、抗うつ薬で最も大きく、双極症で最も小さかった。・多重線形回帰分析では、うつ病または双極症の初回診断数は、季節と相関しないことが示唆された。・抗うつ薬の初回処方は、冬季と比較し、夏季のほうが有意に少なかった。 著者らは「抗うつ薬の初回処方に関して、季節変動性が明らかとなった。うつ病重症度、双極症の症状やタイプ、日照時間、年間光周期の特定については、さらに調査する必要性がある」とまとめている。

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アルツハイマー病、生存期間・悪化速度・入院/入所までの期間は?【外来で役立つ!認知症Topics】第20回

アルツハイマー病(AD)者に関わる臨床医なら、自分の治療は本当にうまくいっているのかと、時に心配になるのではなかろうか? 少なくとも筆者はそうである。たとえば「どんどん進行している」とか「一向に良くならないばかりか悪化した」などの訴えがあると、「むむっ!」と口元がゆがむ。ご家族は、医療者が思うような認知機能テストやADLなど数値化できるものの変化でなく、暴言・暴力、幻覚や妄想、衝動性、BPSDなど出れば、ひどく悪化したと思いがちだ。だから、その訴えと医師側の評価とが乖離することは稀でない。とはいえ、何が臨床経過の客観的な指標であり、それぞれの指標はどの程度の率で変化するかを知っていることは、認知症治療者にとっての素養かもしれない。そこで成書やレビューなどに当たってみた。結果として、生存期間、認知機能の悪化速度、そして入院・入所までの期間が3大ポイントと考えた。認知症と生存期間認知症性疾患全体の生命予後のメタアナリシス1)によれば、認知症全体としての死亡率は、認知症のない者に比べて5.9倍も高い。認知症全体の平均では、発症年齢が68.1±7.0歳で、診断された年齢は72.7±5.9歳。そして、初発から死亡まで7.3±2.3年で、診断から死亡まで4.8±2.0年との由。ADでは、初発から死亡まで7.6±2.1年、診断から死亡までが5.8±2.0年とされる。注目すべきは、いわゆる4大認知症性疾患の中で、ADの生命予後が一番良いことだ。もっともメタアナリシスの対象は、私が対応する患者さんの年齢より、少し若いかなという印象がある。それはさておき、ADの診断がついた患者さんやその家族から、余命は何年か?の質問を筆者が受けたなら、以上のメタアナリシスの結果を参考にして4~8年程度と答える。MMSEやADAS-cogで認知症の進行速度を評価認知機能の評価尺度として、ミニメンタルステート(MMSE:30点満点)が最もよく研究されている。ある教科書2)によると、年間の点数変化は1.8から4.2と幅が大きい。その理由は、観察開始時の重症度がどうだったかによる。つまり開始時に軽度なら点数変化は小さく、重度なら大きい。最近の研究で、MMSE、ADAS-cogについて大人数(開始時769例)のMCI者を対象にした報告を読んだ3)。開始時のMMSE得点は平均で27.3±1.9であった。これが3年後には、対象が473例になり、そのMMSE得点は25.3±4.8になった。3年で300例ものドロップアウトがあるが、以上の結果を分析して、MMSEについて低下が小さい群では年間2~3点の低下、中程度低下群では年間6~7点としている。この結果は従来の報告をほぼ支持すると思われる。次にADAS-Cogが注目される。このオリジナル版は11項目により、総合的にADの認知機能を評価する70点満点の尺度であり、問題なしが0点、最重度が70点である。従来のAD治療薬の治験においては、一番よく用いられてきた。ADAS-Cogが公表された頃の中等度のADを対象にした研究によれば、本尺度の年間変化は平均8点前後とまとまっている。なお上記したMCI者を対象にしてMMSE、ADAS-cogを詳細に検討した研究3)では、ADAS-Cogの研究開始時の平均得点は14.1±8.8である。3年の追跡結果から、ADAS-Cogについて、小変化群で年間2点の増加、中程度の群で年間3~4点の増加としている。はじめはゆっくり、途中で加速、再びゆっくり以上より、MMSEとADAS-Cogの成績推移では、当初ADが軽度なら両者における得点変化も少ないが、進行すれば大きくなるとまとめられる。これに関して2点の追記が欠かせない。まずこれらの経時的な変化の仕方(形状)は直線的なものではない。図に示すようなシグモイド、すなわち当初ゆっくりと、途中から直線的に加速し、末期は再度ゆっくりと変化する形状と考えられている。次に臨床経過を考えるとき、Rapid Declinerと言われる悪化速度の速いAD患者の一群が存在することは以前から注目されてきた。そのような患者を捉えるうえで、たとえばMMSEが半年で3点(年間6点)以上の低下をしていくことと提案したものがある。このような進行の予測因子を知ることは、臨床家が患者・家族にアドバイスするうえで重要である2)。まず教育年数が高いと進行が速いと考えられている。次に幻覚や妄想など神経精神医学的な症状があると進行が速くなるとする意見が多い。もっとも、こうした症状自体ではなく症状に対して処方される抗精神薬等が問題ではないかという意見がある。一方で、発症年齢が若いほど進行も速いと考えられがちだが、これは確立していない。性別も確立したものではない。アポリポ蛋白E4(APOE4)があるとAD発症のリスクが高くなり、発症年齢も早まることは有名だが、進行予測の要因としては確立していない。また合併症の脳血管障害も確立していない。なお錐体外路徴候も以前は検討されたが、今日ではレビー小体型認知症(DLB)の疾患概念が浸透してADと鑑別がかなり正確になった。それだけに従来の知見はADとDLBの進行の差異を論じていたのかもしれない。入院・入所までの期間は?入所予測因子について80の報告をレビューしたものによれば、施設入所を予測する因子として、患者要因では認知機能の重篤度、日常生活動作の自立と依存の度合い、BPSD、そしてうつ病が重要であった4)。介護者要因として、情緒的ストレスの高さが指摘されている。系統的な報告ではないが、失禁、焦燥、歩行困難、徘徊と過活動そして夜間の不穏などが、介護者が述べる入所の決定要因として最も多いと述べた報告があった。この意見は臨床の場でわかりやすく、筆者は大いに頷く。参考1)Liang CS, et al. Mortality rates in Alzheimer's disease and non-Alzheimer's dementias: a systematic review and meta-analysis. Lancet Healthy Longev. 2021 Aug;2(8): e479-e488.2)Fleisher AS, Corey-Bloom J. The natural history of Alzheimer’s disease. In Ames D, Burns A, O’Brien J. Dementia 4th ed. Boca Raton:CRC Press;2010.p.405-416.3)Lansdall CJ, et al. Establishing Clinically Meaningful Change on Outcome Assessments Frequently Used in Trials of Mild Cognitive Impairment Due to Alzheimer's Disease. J Prev Alzheimers Dis. 2023;10:9-18.4)Gaugler JE, et al. Predictors of nursing home admission for persons with dementia. Med Care. 2009;47:191-198.

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成人のうつ病や不安症と関連する幼少期の要因とは

 うつ病および不安症の発症率について、子宮内・周産期・幼児期の発達段階における5つの人生早期の因子(母乳育児、出産前後の母親の喫煙、出生体重、多児出産、養子縁組)との長期的な関連性を明らかにするため、中国・Medical College of Soochow UniversityのRuirui Wang氏らが40~69歳の成人を対象に調査を行った。Translational Psychiatry誌2024年7月20日号の報告。 UK Biobankのデータを用いて、2006~10年に40~69歳の50万2,394例を募集した。ベースライン時にタッチスクリーンアンケートまたは口頭でのインタビューを通じて、参加者より幼少期の情報を収集した。主要アウトカムは、うつ病および不安症の発症とした(ICD-10に従って定義)。各因子のハザード比(HR)および95%信頼区間(CI)を算出した。 主な結果は以下のとおり。・フォローアップ期間中央値13.6年の間に、うつ病の発症は1万6,502例(3.55%)、不安症の発症は1万5,507例(3.33%)であった。・潜在的な交絡因子で調整後、5つの人生早期の因子はうつ病リスクの有意な増加と関連していることが示唆された。【非母乳育児】HR:1.08、95%CI:1.04~1.13【出産前後の母親の喫煙】HR:1.19、95%CI:1.14~1.23【多胎児】HR:1.16、95%CI:1.05~1.27【低出生体重】HR:1.14、95%CI:1.07~1.22【養子】HR:1.42、95%CI:1.28~1.58・不安症リスクの増加も5つの人生早期の因子と関連が認められた。【非母乳育児】HR:1.09、95%CI:1.04~1.13【出産前後の母親の喫煙】HR:1.11、95%CI:1.07~1.16【多胎児】HR:1.05、95%CI:0.95~1.17【低出生体重】HR:1.12、95%CI:1.05~1.20【養子】HR:1.25、95%CI:1.10~1.41・用量反応関係も観察され、人生早期のリスク因子の数が増えると、うつ病および不安症のリスクが高まる可能性が示唆された。 著者らは、「5つの人生早期の因子は、それぞれが成人期のうつ病および不安症発症に対する独立したリスク因子であると考えられる」とし、「これら人生早期の因子を考慮することは、その後の人生のメンタルヘルスに対する感受性を理解するうえで不可欠である」とまとめている。

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加糖飲料とうつ病リスク〜前向きコホート研究

 加糖飲料とうつ病リスクの遺伝的素因との関連性は、いまだ明らかとなっていない。中国・天津医科大学のYanchun Chen氏らは、加糖飲料、人工甘味飲料、天然ジュースとうつ病との関連を調査し、これらの関連が遺伝的素因により変化するかを評価した。General Psychiatry誌2024年7月17日号の報告。 ベースライン時のうつ病でない39〜72歳の一般集団18万599人を英国バイオバンクのデータより抽出した。加糖飲料、人工甘味飲料、天然ジュースの摂取量は、2009〜12年の24時間思い出し法(24-hour dietary recall)より収集した。うつ病の多遺伝子リスクスコアを推定し、低リスク(最低三分位)、中リスク(中間三分位)、高リスク(最高三分位)に分類した。ハザード比(HR)および95%信頼区間(CI)の算出には、Cox比例ハザードモデルおよびsubstitutionモデルを用いた。 主な結果は以下のとおり。・12年間のフォローアップ期間中にうつ病を発症した人は、4,915人であった。・加糖飲料と人工甘味飲料の摂取量が多い(1日当たり2単位超)人では、うつ病リスクの上昇が認められた。【加糖飲料】HR:1.26、95%CI:1.12〜1.43【人工甘味飲料】HR:1.40、95%CI:1.23〜1.60・天然ジュースの適度な摂取(1日当たり0〜1単位超)は、うつ病リスク低下と関連が認められた。【天然ジュース】HR:0.89、95%CI:0.83〜0.95・遺伝的素因により、これらの関連性に影響を及ぼさなかった(p interaction>0.05)。・substitution-モデルでは、1日当たり1単位の加糖飲料または人工甘味飲料を天然ジュースに変更することにより、うつ病リスクのHRはそれぞれ0.94(95%CI:0.89〜0.99)、0.89(95%CI:0.85〜0.94)へと低下することが示唆された。 著者らは「加糖飲料や人工甘味飲料の摂取量が多いとうつ病リスクは上昇し、天然ジュースの適度な摂取は、うつ病リスク低下と関連していた。理論的には、加糖飲料や人工甘味飲料を天然ジュースに変更することで、うつ病リスクが軽減されると考えられる」としている。

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長期のコロナ罹患後症状、入院後6ヵ月時点がカギに

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は、急性期以降の認知および精神医学的転帰のリスク増加と関連することが知られている。英国で行われた大規模研究ではCOVID-19による入院後2~3年間における認知・精神症状の進行を追跡し、その症状と就労への影響について調査した。The Lancet Psychiatry誌2024年9月号掲載の報告。 本研究は英国の臨床医コンソーシアムであるThe Post-hospitalisation COVID-19 study(PHOSP-COVID)の登録データを使い、英国全土の参加病院でCOVID-19の臨床診断を受けて入院した成人(18歳以上)を対象とした前向き縦断コホート研究だった。参加者は入院から2~3年の間に、客観的な認知機能、うつ病、不安障害、慢性疾患治療疲労機能を評価する課題と、主観的な認知機能を評価する質問票に回答した。また、参加者は就労状況の変化やその理由についても報告した。6ヵ月後、12ヵ月後、2〜3年後の追跡調査において症状の絶対リスクの変化を評価し、2〜3年後の症状が初期症状によって予測できるかを検討した。 主な結果は以下のとおり。・83病院の入院患者2,469例が対象となり、うち475例(男性284例[59.8%]、平均年齢58.3[SD 11.13]歳)が2~3年後の追跡調査時にデータを提供した。・参加者は、テストされたすべての認知領域において、社会人口統計学的に予想されるよりもスコアが悪かった。・多くの参加者が、軽度以上のうつ病(263/353例[74.5%])、不安(189/353例[53.5%])、疲労(220/353例[62.3%])、主観的な認知機能低下(184/353例[52.1%])を報告した。・5分の1以上が重度のうつ病(79/353例[22.4%])、重度の疲労(87/353例[24.6%])、重度の認知機能低下(88/353例[24.9%])を報告した。・抑うつ、不安、疲労は、6ヵ月後や12ヵ月後よりも2〜3年後のほうが悪化しており、既存の症状の悪化と新たな症状の出現の両方が認められた。新たな症状の出現は、6ヵ月後と12ヵ月後にほかの症状がみられた人に多くみられ、それ以前の時点で完全に良好であった人にはみられなかった。・2~3年後の症状は、COVID-19の急性期の重症度とは関連しなかったが、6ヵ月後の回復度、急性期のC反応性蛋白に関連するD-ダイマー値上昇、および6ヵ月後の不安、抑うつ、疲労、主観的な認知機能低下と強い関連がみられた。・2〜3年後の客観的な認知機能低下と関連する因子は、6ヵ月後の客観的な認知機能低下のみだった。・95/353例(26.9%)が「職業が変わった」と報告し、その理由として最も多いものは「健康不良」であった。職業の変化は、客観的な認知機能低下(オッズ比[OR]:1.51 )および主観的な認知機能低下(OR:1.54)と強く特異的に関連していた。 著者らは「精神症状および認知症状は、入院後2〜3年の間に、6ヵ月時点ですでに存在していた症状の悪化と、新たな症状の出現の両方により増加するようだ。新たな症状は6ヵ月時点ですでにほかの症状がみられる人に多くみられた。したがって、症状を早期に発見し管理することは、後に複合症候群が発症するのを防ぐ有効な戦略である。COVID-19は、客観的および主観的な認知機能低下を伴う。COVID-19の機能的・経済的影響を抑制するためには、認知機能の回復を促進する、あるいは認知機能の低下を予防するための介入が必要である」としている。

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腎機能障害患者でも用量調節が不要な抗てんかん薬「ブリィビアクト錠25mg/錠50mg/静注25mg」【最新!DI情報】第21回

腎機能障害患者でも用量調節が不要な抗てんかん薬「ブリィビアクト錠25mg/錠50mg/静注25mg」今回は、抗てんかん薬「ブリーバラセタム(商品名:ブリィビアクト錠25mg/錠50mg/静注25mg、製造販売元:ユーシービージャパン)」を紹介します。本剤は、既存薬の課題であった眠気や精神症状が少なく、腎機能障害患者でも用量調節が不要な薬剤として期待されます。<効能・効果>下記の適応で、2024年6月24日に製造販売承認を取得しました。錠 てんかん患者の部分発作(二次性全般化発作を含む)静注一時的に経口投与ができない患者における、てんかん患者の部分発作(二次性全般化発作を含む)の治療に対するブリーバラセタム経口製剤の代替療法<用法・用量>錠 通常、成人にはブリーバラセタムとして1日50mgを1日2回に分けて経口投与します。静注ブリーバラセタムの経口投与から本剤に切り替える場合は、通常、ブリーバラセタム経口投与と同じ1日用量および投与回数で、1回量を2~15分かけて静脈内投与します。ブリーバラセタムの経口投与に先立ち本剤を投与する場合は、通常、成人にはブリーバラセタムとして1日50mgを1日2回に分け、1回量を2~15分かけて静脈内投与します。いずれの場合においても、症状により適宜増減できますが、1日最高投与量は200mgです。<安全性>重大な副作用に攻撃性(0.3%)があります。本剤の服用中は、攻撃性、激越、精神病性障害、易刺激性などの精神症状が現れ、自殺企画に至ることがあるので、患者の状態および病態の変化を注意深く観察する必要があります。その他の副作用として、傾眠(14.9%)、浮動性めまい(10.9%)、疲労(3%以上)、易刺激性、不安、不眠症、悪心、食欲減衰、回転性めまい(いずれも1~3%未満)、うつ病、激越、精神病性障害、好中球減少症、便秘、嘔吐、上気道感染、咳嗽(いずれも1%未満)、インフルエンザ、1型過敏症(いずれも頻度不明)があります。<患者さんへの指導例>1.この薬は、てんかん患者の部分発作(二次性全般化発作を含む)に使用されます。脳内の神経の過剰な興奮を鎮めて、てんかん発作を抑えます。2.この薬は、指示どおり飲み続けることが重要です。自己判断で服用を中止したり、量を加減したりすると、発作の悪化やてんかん重積状態が現れることがあります。3.傾眠やめまいなどが起こることがあるので、自動車の運転などの危険を伴う機械の操作は行わないようにしてください。4.妊婦または妊娠している可能性がある人は医師に相談してください。5.アルコールを含む飲食物はこの薬に影響しますので、控えてください<ここがポイント!>ブリーバラセタムは2ピロリドン誘導体で、脳内のシナプス小胞タンパク質2A(SV2A)に選択的に結合して、てんかん発作抑制作用を発揮します。作用機序は、レベチラセタム(商品名:イーケプラ)と同様ですが、レベチラセタムに比べてカルシウムチャネルおよびAMPA受容体に対する作用がほとんどなく、SV2Aに対する親和性も高いことから、眠気や精神症状が軽減されることが期待されます。また、レベチラセタムとは異なり、腎機能障害を有する患者での用量調節は不要です。剤形としては錠剤と注射剤がありますが、基本は錠剤です。注射剤は、一時的に経口投与ができない患者における代替療法として、てんかん患者の部分発作(二次性全般化発作を含む)に使用されます。部分発作を有する成人てんかん患者(アジア人)を対象としたブリーバラセタム併用療法の国際共同第III相試験(EP0083試験)において、治療期間の28日あたりの部分発作回数のプラセボ群に対する減少率は、全体集団で50mg/日群が24.5%および200mg/日群が33.4%であり、いずれの本剤群もプラセボ群との間に優越性が検証されました(それぞれp=0.0005およびp<0.0001、ANCOVA)。また、日本人集団においては、50mg/日群が14.5%および200mg/日群が30.0%であり、全体集団と同様に、いずれの本剤群もプラセボ群と比較して高い減少率でした。しかし、日本人被験者は例数が少ないため、統計解析処理は実施されませんでした。

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境界性パーソナリティ障害、思春期〜成人期の経過

 境界性パーソナリティ障害(BPD)の治療において、思春期以降の中長期にわたる臨床的および機能的経過に関する研究は、不十分である。デンマーク・Mental Health ServicesのMie Sedoc Jorgensen氏らは、思春期BPD患者における診断から5年後の精神病理学的および機能的状態についての検討を行った。Comprehensive Psychiatry誌2024年7月号の報告。 対象は、思春期BPDに対するメンタライゼーション・ベースド・セラピーによるグループ介入と通常治療を比較したランダム化臨床試験(RCT)に登録された患者。5年後のフォローアップ調査時に、Schedules for Clinical Assessment in Neuropsychiatry(Scan)およびStructured Clinical Interview for DSM-5 Personality Disorders(SCID-5-PD)を含む半構造化面接評価を行った。自己報告ツールを用いて、注意欠如多動症(ADHD)、アルコール、薬物、タバコの使用、心的外傷後ストレス障害(PTSD)、複雑性PTSD、一般機能の評価を行った。 主な結果は以下のとおり。・最初のRCT対象患者111例中97例(87%)が本研究に参加した。・年齢範囲は、19〜23歳であった。・最も多くみられた疾患は、ADHD(59%)、さまざまな人格障害(47%)であり、そのうち半数はBPD(24%)、不安症(37%)、うつ病(32%)、PTSDまたは複雑性PTSD(20%)、統合失調症(16%)、摂食障害(13%)の基準を満たしていた。・精神疾患の基準を満たさなかった患者は、わずかに16%であった。・フォローアップ調査時点で、心理療法およびまたは精神薬理学的治療を行っていた患者は、約半数であった。・一般的な機能は、依然損なわれたままであり、ニート状態は36%でみられた。これは、一般集団の同年齢層のニート率の約4倍であった。 著者らは「BPD診断の安定性は中程度ではあるが、思春期にBPD診断基準を満たしていた患者は、5年間のフォローアップ調査において、広範なアウトカム不良を示していた。BPDは、思春期の一般的な不適応の指標となるが、成人期への移行よる重篤な問題発生の前兆であるとも考えられる。思春期BPD患者に対する早期介入プログラムは、現在のBPDだけでなく、幅広い機能的および精神病理学的アウトカム、とくに将来の社会的および職業的サポートに焦点を当てる必要がある」としている。

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うつや不安に対するウォーキング効果〜メタ解析

 ウォーキングから得られるメンタルヘルスのベネフィットに関する総括的な情報は、十分ではない。中国・香港中文大学のZijun Xu氏らは、さまざまなウォーキングパターンがうつや不安症状に及ぼす影響を評価したランダム化比較試験(RCT)のシステマティックレビュー、およびメタ解析を実施した。JMIR Public Health and Surveillance誌2024年7月23日号の報告。 2022年4月5日、各種データベース(MEDLINE、CENTRAL、Embase、PsycINFO、AMED、CINAHL、Web of Science)より検索を行った。研究のスクリーニングおよびデータ抽出は、2人の独立した著者により実施した。ランダム効果メタ解析を用いて、データを統合した。フォレストプロットの95%信頼区間(CI)による標準化平均差(SDM)を算出した。バイアスリスクの評価には、Cochrane Risk of Bias toolを用いた。 主な結果は以下のとおり。・レビューには、RCT 75件、8,636例を含めた。研究の内訳は、抑うつ症状の研究68件、不安症状の研究39件、両症状の研究32件であった。・思春期の結果を報告した1件は、メタ解析に含めなかった。・成人における統合結果では、ウォーキングは、非活動的な対照群と比較し、抑うつ症状(RCT:44件、SMD:−0.591、95%CI:−0.778〜−0.403、I2=84.8%、τ2=0.3008、p<0.001)および不安症状(RCT:26件、SMD:−0.446、95%CI:−0.628〜−0.265、I2=81.1%、τ2=0.1530、p<0.001)を有意に軽減することが示唆された。・ウォーキングは、頻度、期間、場所(屋内/屋外)、形式(グループ/個人)などの異なるサブグループの多くにおいて、抑うつまたは不安症状を有意に軽減させる可能性が示唆された(各々、p<0.05)。・うつ病患者(RCT:5件、SMD:−1.863、95%CI:−2.764〜−0.962、I2=86.4%、τ2=0.8929)と非うつ病患者(RCT:39件、SMD:−0.442、95%CI:−0.604〜−0.280、I2=77.5%、τ2=0.1742)のいずれにおいても、ウォーキングによる抑うつ症状への効果が示された。とくに、うつ病患者では、そのベネフィットが大きい可能性が示唆された(p=0.002)。・ウォーキングは、活動的な対照群と比較し、抑うつ症状(RCT:17件、SMD:−0.126、95%CI:−0.343〜−0.092、I2=58%、τ2=0.1058、p=0.26)および不安症状(RCT:14件、SMD:−0.053、95%CI:−0.311〜0.206、I2=67.7%、τ2=0.1421、p=0.69)の軽減に有意な差が認められなかった。 著者らは「いずれのウォーキングパターンにおいても、抑うつおよび不安症状の軽減に効果的であり、その効果は活動的な対照群と同様であった。うつや不安の軽減に対するウォーキング介入は採用可能であると考えられる。今後は、低強度ウォーキングの効果に関するさらなるエビデンスが求められる」としている。

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映画「心のままに」(その1)【どうハイテンションになるの?そのあとは?(双極性障害)】Part 2

抑うつ状態にはどんな症状があるの?ジョーンズの強制入院の継続を判断する公聴会(日本にはない制度)で、彼は判事に対して、屋根の上に上がって空を飛ぶと言ったことや、ステージに上がって勝手に指揮を始めたことについても、「つい子供っぽいことをしちゃっただけなんだ」「おれはもともと陽気で明るい性格なんだ」と熱弁を振るいます。彼は、たまたま判事とはうまくやり取りができてしまったことで、強制入院は免れます。しかし、その後まもなく、ボーエン先生が予告していたとおり、彼は抑うつ状態になってしまいます。建築現場の元同僚ハワードの自宅に招かれた時、ジョーンズは、もともと計算が得意だったのに、ハワードの小学生の子供の宿題を手伝おうにも、頭が回らず、茫然としているだけなのでした。これは、思考制止が当てはまります。その後も、ジョーンズは、沈んだ表情で、街をさまよっていました。心配して訪ねてきたボーエン先生には、「悲しみが止まらない」と涙ぐむのです。これは、抑うつ気分です。精神科病院に自ら再入院しますが、自分で体を洗うこともできません。これは、精神運動制止が当てはまります。以上より、表2の診断基準で、ジョーンズは、9はみられず、5と6は不明だとしても、1・3・8を確実に満たし、2・4・7は満たすであろうと推定されます。なお、先ほどの躁状態(表1)とこの抑うつ状態(表2)は、感情、意欲、思考の精神機能の点で、ほぼ真逆であることもわかります。また、この双極性障害の抑うつ状態は、うつ病の抑うつ状態とまったく同じ症状(診断基準)です。うつ病の詳細については、関連記事1をご覧ください。<< 前のページへ | 次のページへ >>

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映画「心のままに」(その1)【どうハイテンションになるの?そのあとは?(双極性障害)】Part 3

なんで双極性障害になるの?ジョーンズは、これまで入退院を20回以上繰り返してきたことが判明します。ボーエン先生は、ジョーンズが双極性障害になった原因を、彼のかつての恋人エレンとの失恋ではないかと考えました。しかし、さすがにこれでは、入退院を繰り返すわけを説明できません。また、ジョーンズは、双極性障害によって、仕事やお金の管理ができなくなり、社会的なトラブルを繰り返してしまいました。それでも、公聴会では「生まれつきなんです」「これがおれなんだ」と言うのです。躁状態は気分が良いので、このままがいいと思う気持ちは理解できるのですが、それにしても、もはや双極性障害が彼らしさ(アイデンティティ)になっています。実際には、双極性障害の遺伝率は、約80%です1)。つまり、原因はストレス(環境)よりも遺伝が大きいことになります。ただし、その発症メカニズムについては、現時点で詳しくわかっていません。なお、ジョーンズが一時持ち歩いていたリチウム(気分安定薬)は、薬理メカニズムは不明なのですが、予防効果が確かにあり、治療薬として使われています。このリチウムはアルカリ金属の1つであり、地中に広く微量に存在します。実際の疫学研究において、水道水に含まれる微量のリチウムの濃度が相対的に低い地域ほど自殺率が高くなるという結果が出ています2)。これを応用して、自殺予防の医療政策として、水道水に微量のリチウムを人為的に添加するというアイデアがあります3)。虫歯予防にキシリトールを水道水に添加する医療政策をすでにしている国もあるくらいなので、一見合理的に思われます。しかし、キシリトールとは違い、リチウムは高濃度で胎児奇形性などのリスクがあります。この点も踏まえて、やはり倫理的な議論を呼ぶでしょう。1)「標準精神医学 第8版」p.306、p.337:医学書院、20212)「飲料水中の天然リチウムと自殺率との関連 生態学的研究の系統的レビューとメタアナリシス」:the British Journal of Psychiatry、20203)「水道水に含まれるリチウムが自殺防止に?」:松丸さとみ、ニューズウィーク日本版、2020<< 前のページへ■関連記事ツレがうつになりまして。【うつ病

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高齢者のベンゾジアゼピン中止、長期的な抑うつ症状改善に寄与

 カナダ・ケベック大学モントリオール校のArnaud Allary氏らは、ベンゾジアゼピン(BZD)の使用が、将来の抑うつ症状、不安、睡眠の質に及ぼす影響を調査した。Aging & Mental Health誌オンライン版2024年7月2日号の報告。 大規模ランダム化比較試験(RCT)であるPASSE-60+研究よりデータを抽出した。60歳以上の参加者73例を対象に、4ヵ月間の中止プログラムを実施し、16ヵ月で4回の評価を行った。BZD使用の変化は、2回の評価時における1日当たりの投与量の差と定義した。コントロール変数は、RCT中止群、プログラム開始前でのBZD使用および抑うつ症状、不安、睡眠の質のいずれかとした。データ分析には、階層的多重回帰分析を用いた。 主な結果は以下のとおり。・短期的には、中止プログラム直後にBZDの使用量減量に伴い、睡眠の質の悪化がみられた。・この関連は、3ヵ月および12ヵ月のフォローアップ調査において有意差は消失した。・長期的には、BZD使用量減量に伴い、抑うつ症状の軽減が認められた。・すべての評価時点において、BZD使用量と不安の強さとの関連は認められなかった。 著者らは「BZD中止により、抑うつ症状が改善される可能性が示唆された。不安や睡眠の質との長期的関連が認められなかったことから、BZD使用の長期有効性についても疑問が残る結果となった」としている。

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1型糖尿病の子どもたちは「糖尿病の苦痛」にさらされている

 1型糖尿病の子どもは、いくつかのメンタルヘルス上の問題を抱えることが多いとする研究結果が報告された。英ケンブリッジ大学およびチェコ共和国国立精神保健研究所のTomas Formanek氏らの研究によるもので、詳細は「Nature Mental Health」に7月17日掲載された。 報告された研究によると、1型糖尿病の子どもは糖尿病のない子どもに比べて、気分障害を発症する可能性が2倍以上高く、不安症に苦しむ可能性は50%高く、また摂食障害や睡眠障害などの行動上の問題が発生する可能性は4倍以上高いという。ただし、この研究結果は同時に、このようなメンタルヘルス疾患が、1型糖尿病という病態が原因で引き起こされるものではないことも示唆しており、「子どもたちが抱えるこのようなリスクは、むしろ慢性疾患を継続的に管理し続けることに伴う『糖尿病の苦痛』が原因のようだ」と、著者らは述べている。 1型糖尿病は、インスリンを生成している膵臓のβ細胞を免疫系が攻撃することで発症する。β細胞がダメージを受けると、インスリンを生成する能力が失われるため、生存のためにインスリン療法が必要となる。治療は生涯にわたり、日々、絶え間ない自己管理の負担に直面する。また、偏見や差別、自己効力感の低下、将来の合併症の不安、経済的な負担などによるストレスが生じやすく、これらを「糖尿病の苦痛(diabetes distress)」と呼ぶことがある。これまでにもこのような糖尿病の苦痛が、1型糖尿病の子どもたちのメンタルヘルス状態を悪化させたり、自己管理に悪影響を及ぼしたりする可能性が指摘されていた。 Formanek氏らの研究では、チェコ共和国の1型糖尿病の子どもたち4,500人以上の患者登録データが用いられた。データ解析の結果、1型糖尿病の子どもたちに見られるメンタルヘルス関連の問題は、この病気を発症後には常に食事の摂取量を判断したり、血糖値をチェックしたり、インスリンを注射したりしなければならないといった、生活に大きな変化を強いられることに起因するものである可能性が見いだされた。また、社交行事へ参加する機会が減ったり、ほかの子どもたちや教師、さらには家族からも孤立していると感じたりすることも少なくないという実態が明らかになった。 その影響もあって前述のように、1型糖尿病の子どもたちの間で、不安症や摂食障害、睡眠障害などが多く見られた。ただし、統合失調症などの精神疾患を発症するリスクは低く、同年代の子どもたちの約2分の1だった。 論文の上席著者であるケンブリッジ大学のBenjamin Perry氏は、「1型糖尿病患者は『糖尿病の苦痛』を経験しやすいことが知られている。その苦痛には、血糖値に対する極度のフラストレーションや孤立感なども含まれると考えられ、成人でも燃え尽き症候群や絶望感、あるいはコントロールの放棄につながる可能性がある。そのため、1型糖尿病の子どもたちが成人するまでの間に、メンタルヘルス上の問題が顕在化するリスクが高いとしても、不思議なことではない」と述べている。

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ゲーム療法は統合失調症患者の認知機能改善に有効か

 統合失調症患者における認知機能は、機能的アウトカムや日常生活機能の低下の主な原因であり、治療対象として有望である。近年、精神疾患の治療において、さまざまな認知機能領域をターゲットとしたデジタル介入(ゲームベースの介入など)の使用が増加しつつある。そして、統合失調症患者に対するゲームベースのデジタル介入は、治療価値があるとの見解が示唆されている。中国・首都師範大学のJunkai Wang氏らは、統合失調症患者の認知機能をターゲットとした新たなオンライントレーニングプログラム(Komori Life)の利用可能性と初期の有効性を評価した。Translational Psychiatry誌2024年7月16日号の報告。 統合失調症入院患者を対象に、ゲーム介入群(セッション完了:40例)または通常療法群(セッション完了:40例)のいずれかにランダムに割り付け、20回のセッションを実施した。すべての患者に対し、登録時および介入完了後に認知機能、臨床症状の評価を行った。また、健康対照群32例を含むすべての対象に対し、感情情報への注意バイアスを評価するためアイトラッキングを用いた。 主な結果は以下のとおり。・ゲーム介入群および通常療法群において、認知機能または臨床症状の評価で差は認められなかった。・ゲーム介入後も、認知機能または臨床症状のスコアに群×時間の相互関係は認められなかった。・アイトラッキングについては、ベースライン時の注意維持に関して、ゲーム介入群および通常療法群は、健康対照群と比較し、脅威刺激に対する注意力の増加が認められた。・ゲーム介入群は、通常療法群と比較し、介入後の脅威場面への注意バイアスが大幅に改善した(脅威刺激への総持続時間の割合、総注視の割合が減少)。・ゲーム介入の有効性が、認知機能改善と関連しており、脅威への注意維持の向上が認知パフォーマンスの低下と関連していることが部分的に示唆された。 著者らは「本研究は、統合失調症患者の認知機能改善に対する遠隔オンライン認知機能トレーニングプログラムの利用可能性および有効性に関する初めてのエビデンスである。本介入は、既存の精神科治療の補完療法として機能する可能性がある」としている。

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