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オレキシン受容体拮抗薬を使用している日本人不眠症患者の特徴

 日本におけるオレキシン受容体拮抗薬(ORA)の処方パターンに関して、臨床現場のリアルワールドデータを調査した研究はほとんどない。MSDの奥田 尚紀氏らは、日本の不眠症患者へのオレキシン受容体拮抗薬処方に関連する因子を特定する初の調査を実施し、睡眠薬による治療歴の有無により、オレキシン受容体拮抗薬処方に関連する因子は異なることを明らかにした。著者らは、「本調査結果は、オレキシン受容体拮抗薬を用いた適切な不眠症治療の指針となりうる可能性がある」としている。Drugs - Real World Outcomes誌オンライン版2023年3月3日号の報告。オレキシン受容体拮抗薬処方のオッズ比の高さと関連していた因子 対象は、2018年4月~2020年3月の間に、不眠症による1つ以上の睡眠薬の処方が12ヵ月以上継続していた20~74歳の外来患者。JMDC Claims Databaseより患者データを抽出した。睡眠薬の新規/非新規の使用(処方歴がない/ある)患者それぞれにおいてオレキシン受容体拮抗薬処方に関連する因子(患者の人口統計学的因子および精神医学的合併症)を特定するため、多変量ロジスティック回帰を用いた。 日本の不眠症患者へのオレキシン受容体拮抗薬処方に関連する因子を特定する調査の主な結果は以下のとおり。・睡眠薬の新規使用患者5万8,907例中、評価時点でオレキシン受容体拮抗薬が処方されていた患者は1万1,589例(19.7%)であった。・睡眠薬の新規使用患者において、オレキシン受容体拮抗薬処方のオッズ比(OR)の高さと関連していた因子は、男性(OR:1.17、95%信頼区間[CI]:1.12~1.22)、双極性障害の合併(OR:1.36、95%CI:1.20~1.55)であった。・睡眠薬の非新規(処方歴がある)患者8万8,611例中、評価時点でオレキシン受容体拮抗薬が処方されていた患者は1万5,504例(17.5%)であった。・睡眠薬の処方歴がある患者において、オレキシン受容体拮抗薬処方のORの高さと関連していた因子は、若年と以下の精神疾患の合併であった。 ●神経認知障害(OR:1.64、95%CI:1.15~2.35) ●物質使用障害(OR:1.19、95%CI:1.05~1.35) ●双極性障害(OR:1.14、95%CI:1.07~1.22) ●統合失調症スペクトラム障害(OR:1.07、95%CI:1.01~1.14) ●不安症(OR:1.05、95%CI:1.00~1.10)

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アリピプラゾールの自律神経への影響、長時間作用型注射剤と経口剤の比較

 非定型抗精神病薬は、自律神経系(ANS)の活動にさまざまな影響を及ぼす。中でも、経口の抗精神病薬であるアリピプラゾールは、ANS機能不全と関連しているといわれている。長時間作用型注射剤(LAI)は統合失調症の主な治療オプションであるが、ANS活性に対するLAIと経口剤との違いは、これまでよくわかっていなかった。横浜市立大学の服部 早紀氏らは、統合失調症におけるアリピプラゾールの経口剤と月1回LAI(AOM)のANS活性への影響を比較検討した。その結果、AOMによる単剤治療は、経口アリピプラゾールと比較し、交感神経系などの副作用リスクが低いことを報告した。BMC Psychiatry誌2023年3月3日号の報告。 対象は、日本人統合失調症患者122例(入院患者:10例、外来患者112例、男性:51例、女性:71例、平均年齢[±SD]:43.2±13.5歳)。内訳は、経口アリピプラゾール単剤治療患者72例、AOM単剤治療患者50例であった。ANS活性の評価には、心拍変動パワースペクトル解析を用いた。 主な結果は以下のとおり。・経口アリピプラゾールで治療された患者は、AOMで治療された患者と比較し、交感神経活性の有意な減少が観察された。・重回帰分析では、アリピプラゾール製剤は、交感神経活性に有意な影響を及ぼすことが明らかとなった。・AOMは、経口アリピプラゾールよりも、交感神経系などの副作用リスクが低いことが示唆された。

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統合失調症長期入院患者の半数でみられる非アルコール性脂肪性肝疾患

 長期入院の統合失調症患者は身体的な疾患を呈しやすく、平均余命や治療アウトカムを害することにつながるとされる。しかし、長期入院患者における非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)の影響に関する研究はほとんどない。中国・安徽医科大学のXuelong Li氏らは、統合失調症入院患者のNAFLDについて、有病率と影響を及ぼす因子を調査した。その結果、重度の統合失調症による長期入院患者はNAFLDの有病率が高く、糖尿病、抗精神病薬の多剤併用、過体重や肥満、アラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)およびアポリポ蛋白B(ApoB)の高値などが負の影響を及ぼす因子として特定された。Neuropsychiatric Disease and Treatment誌2023年2月18日号の報告。 長期入院を経験していた統合失調症患者310例を対象に、横断的レトロスペクティブ研究を実施した。NAFLDは腹部超音波検査の結果に基づき診断した。NAFLDに影響を及ぼす因子を特定するため、t検定、マン・ホイットニーのU検定、相関分析、ロジスティック回帰分析を用いた。 主な結果は以下のとおり。・NAFLDの有病率は54.84%であった。・NAFLD群と非NAFLD群で有意差が認められた因子は、抗精神病薬の多剤併用、BMI、高血圧、糖尿病、総コレステロール、ApoB、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST)、ALT、トリグリセライド(TG)、尿酸、血清グルコース、γ-GTP、HDL、好中球/リンパ球比、血小板/リンパ球比であった(各々、p<0.05)。・NAFLDと正の相関が認められた因子は、高血圧、糖尿病、抗精神病薬の多剤併用、BMI、TG、総コレステロール、AST、ApoB、ALT、γ-GTPであった(各々、p<0.05)。・ロジスティック回帰分析の結果では、統合失調症患者のNAFLDに影響を及ぼす因子は、抗精神病薬の多剤併用、糖尿病、BMI、ALT、ApoBであることが示唆された。・これらの知見は、統合失調症患者のNAFLDの予防および治療の理論的な基礎を提供し、新たな標的治療の開発に役立つ可能性がある。

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妊娠中の抗うつ薬使用、リスクとベネフィットは?~メタ解析

 妊娠中の抗うつ薬使用は数十年にわたり増加傾向であり、安全性を評価するため、結果の統計学的検出力および精度を向上させるメタ解析が求められている。フランス・Centre Hospitalier Universitaire de Caen NormandieのPierre Desaunay氏らは、妊娠中の抗うつ薬使用のベネフィットとリスクを評価するメタ解析のメタレビューを行った。その結果、妊娠中の抗うつ薬使用は、ガイドラインに従い第1選択である心理療法後の治療として検討すべきであることが示唆された。Paediatric Drugs誌オンライン版2023年2月28日号の報告。 2021年10月25日までに公表された文献を、PubMed、Web of ScienceデータベースよりPRISMAガイドラインに従い検索した。対象研究は、妊娠中の抗うつ薬使用と、妊婦、胎芽、胎児、新生児、発育中の子供などの健康アウトカムの関連を評価したメタ解析とした。研究の選択およびデータの抽出は、2人の独立した研究者により重複して実施した。研究の方法論的質の評価にはAMSTAR-2ツールを用いた。各メタ解析の重複部分は、修正された対象エリアを算出することにより評価した。4段階のエビデンスレベルを用いて、データの統合を行った。主な結果は以下のとおり。・51件のメタ解析をレビューに含め、1件を除くすべてのリスク評価を行った。・各リスクの有意な増加は以下のとおりであった。 ●主な先天性奇形(メタ解析8件:SSRI、パロキセチン、fluoxetine) ●先天性心疾患(11件:パロキセチン、fluoxetine、セルトラリン) ●早産(8件) ●新生児の適応症状(8件) ●新生児遷延性肺高血圧症(3件)・分娩後出血の有意なリスク増加および、死産、運動発達障害、知的障害の有意なリスク増加については高いバイアスリスクで、限られたエビデンスが認められた(各々1件のみ)。・自然流産、胎児週数や出生時低体重による児の小ささ、呼吸困難、痙攣、摂食障害のリスク増加および、早期抗うつ薬曝露による自閉症のその後のリスク増加に関して、矛盾した不確実なエビデンスが確認された。・妊娠高血圧、妊娠高血圧腎症のリスク増加および、ADHDのその後のリスク増加に関するエビデンスはみられなかった。・重度または再発性のうつ病の予防について、1件の限られたエビデンスのみで、抗うつ薬使用のベネフィットが評価されていた。・新生児の症状(小~大)を除きエフェクトサイズは小さかった。・結果の方法論的な質は低く(AMSTAR-2スコア:54.8±12.9%[19~81%])、バイアスリスク(とくに適応バイアス)が高いメタ解析に基づいていた。・修正された対象エリアは3.27%であり、重複はわずかであった。・妊娠中の抗うつ薬治療は、第2選択として用いられるべきであることが示唆された(ガイドラインに従い心理療法後に検討)。・ガイドラインを順守し、パロキセチンやfluoxetineの使用をとどまらせることで、主要な先天性奇形リスクを防ぐことが可能である。・今後の研究では、不均一性やバイアス減少のため、母体の精神疾患と抗うつ薬の投与量を調整し、曝露のタイミングで分析を実行することが求められる。

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ベンゾジアゼピンや気分安定薬の併用率低下に長時間作用型注射剤は寄与するか

 統合失調症は、再発と寛解を繰り返す慢性疾患である。治療には主に抗精神病薬が用いられ、その剤形には経口剤または長時間作用型注射剤(LAI)がある。さまざまな理由で気分安定薬やベンゾジアゼピンが補助療法として頻用されるが、国際的なガイドラインで推奨されることはめったにない。ルーマニア・トランシルバニア大学のAna Aliana Miron氏らは、慢性期統合失調症患者を対象に、抗精神病薬の剤形が気分安定薬やベンゾジアゼピンの併用に及ぼす影響を明らかにするため、観察的横断研究を実施した。その結果、安定期統合失調症患者に対する気分安定薬およびベンゾジアゼピンの長期併用率は、抗精神病薬の剤形とは関係なく高いままであることが示唆された。ただし、第2世代抗精神病薬のLAI(SGA-LAI)治療患者では、経口抗精神病薬治療患者と比較し、単剤療法で安定している可能性が高かった。Brain Sciences誌2023年1月20日号の報告。 主な結果は以下のとおり。・対象は、慢性期統合失調症患者315例。・LAI抗精神病薬治療で安定していた患者は77例(24.44%)、経口抗精神病薬治療で安定していた患者は238例(75.56%)であった。・気分安定薬を併用していた患者は84例(26.66%)、ベンゾジアゼピンを併用していた患者は119例(37.77%)であった。・気分安定薬またはベンゾジアゼピンの併用率について、LAIと経口剤の間に有意な差は認められなかった。・抗精神病薬の単剤療法で安定していた患者は、全体で136例(43.17%)であった。・SGA-LAIで治療されていた患者は、経口抗精神病薬で治療されていた患者と比較し、単剤療法で安定している可能性が高かった。

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コロナ疾患後症状患者、1年以内の死亡/重篤心血管リスク増

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染から1年間のコロナ罹患後症状(Post-COVID-19 Condition:PCC[いわゆるコロナ後遺症、long COVID])について、米国の商業保険データベースを用いて未感染者と比較した大規模調査が、保険会社Elevance HealthのAndrea DeVries氏らによって実施された。その結果、コロナ後遺症患者は心血管疾患や呼吸器疾患のリスクが約2倍上昇し、1年間の追跡期間中の死亡率も約2倍上昇、1,000人あたり16.4人超過したことが明らかとなった。JAMA Health Forum誌2023年3月3日号に掲載の報告。コロナ後遺症群の死亡率は2.8%で未感染群は1.2% 米国50州の18歳以上の健康保険会員において、2020年4月1日~7月31日の期間にCOVID-19に罹患し、その後コロナ後遺症と診断された1万3,435例と、未感染者2万6,870例をマッチングし、2021年7月31日まで12ヵ月追跡してケースコントロール研究を実施した。評価項目は、心血管疾患、呼吸器疾患、死亡など。コロナ後遺症の診断は、疲労、咳嗽、痛み(関節、喉、胸)、味覚・嗅覚の喪失、息切れ、血栓塞栓症、神経認知障害、うつ病などの症状に基づいて行われた。統計学的有意性はカイ2乗検定とt検定で評価し、相対リスク(RR)と95%信頼区間(CI)を算出した。Kaplan-Meier法を用いて死亡率を算出した。 コロナ後遺症について未感染者と比較した大規模調査の主な結果は以下のとおり。・コロナ後遺症群(1万3,435例)の平均年齢は50.1歳(SD 15.1)、女性7,874例(58.6%)。PCC群のうち3,697例がCOVID-19診断後1ヵ月以内に入院していた(平均年齢57.4歳[SD 13.6]、女性44.7%)。未感染群(2万6,870例)の平均年齢は50.2歳(SD 15.4)、女性1万5,672例(58.3%)。・コロナ後遺症群はCOVID-19を発症する前に、高血圧(39.2%)、うつ病(23.7%)、糖尿病(20.5%)、COPD(19.1%)、喘息(中等症/重症)(13.3%)、高度肥満(10.3%)などの慢性疾患を有する人が多かった。・コロナ後遺症群の追跡期間中によく観察された症状は、息切れ(41%)、不安(31%)、筋肉痛/脱力(30%)、うつ病(25%)、疲労(21%)だった。・コロナ後遺症群において、未感染群と比較して医療利用が増加した疾患は次のとおり。 -不整脈の発症率:PCC群29.4% vs.未感染群12.5%、RR:2.35(95%CI:2.26~2.45) -肺塞栓症:8.0% vs.2.2%、RR:3.64(95%CI:3.23~3.92) -虚血性脳卒中:3.9% vs.1.8%、RR:2.17(95%CI:1.98~2.52) -冠動脈疾患:17.1% vs.9.6%、RR:1.78(95%CI:1.70~1.88) -心不全:11.8% vs.6.0%、RR:1.97(95%CI:1.85~2.10) -末梢血管疾患:9.9% vs.6.3%、RR:1.57(95%CI:1.48~1.70) -COPD:32.0% vs.16.5%、RR:1.94(95%CI:1.88~2.00) -喘息(中等症/重症):24.2% vs.12.4%、RR:1.95(95%CI:1.86~2.03)・追跡期間中の死亡率はコロナ後遺症群2.8% vs.未感染群1.2%で、コロナ後遺症群は1,000人あたり16.4人の超過死亡となる。・COVID-19発症初期に入院を経験したコロナ後遺症群において、未感染群と比較して医療利用が増加した疾患は次のとおり。 -不整脈:51.7% vs.17.4%、RR:2.97(95%CI:2.81~3.16) -肺塞栓症:19.3% vs.3.1%、RR:6.23(95%CI:5.36~7.15) -虚血性脳卒中:8.3% vs.2.7%、RR:3.07(95%CI:2.59~3.66) -冠動脈疾患:28.9% vs.14.5%、RR:1.99(95%CI:1.85~2.15) -心不全:25.6% vs.10.1%、RR:2.53(95%CI:2.32~2.76) -末梢血管疾患:17.3% vs.8.9%、RR:1.94(95%CI:1.75~2.15) -COPD:43.1% vs.19.2%、RR:2.24(95%CI:2.11~2.38) -喘息(中等症/重症):31.6% vs.14.7%、RR:2.15(95%CI:2.00~2.31) コロナ罹患後症状に関する米国での最大規模の追跡調査において、コロナ後遺症患者は死亡率だけでなく心血管疾患や呼吸器疾患のリスクが有意に増加し、とくにCOVID-19発症初期に入院した人では肺塞栓症が6倍、脳卒中が3倍以上など、さらにリスクが高くなることが示された。また、本研究はワクチン利用可能以前のサンプルを用いているため、ワクチン普及後では、ワクチンのコロナ後遺症緩和効果により、個人の医療利用パターンが変化する可能性もあると著者は指摘している。

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うつ、不安、苦痛に対する身体活動介入の有効性~アンブレラレビュー

 オーストラリア・南オーストラリア大学のBen Singh氏らは、成人のうつ病、不安、精神的苦痛に関する症状に対する身体活動の影響を明らかにするためアンブレラレビューを行った。その結果、身体活動は、幅広い成人に対しうつ病、不安、精神的苦痛の改善に有益であることが確認された。British Journal of Sports Medicine誌オンライン版2023年2月16日号の報告。 2022年1月1日までに公表された適格研究を、12件の電子データベースより検索した。成人を対象に、身体活動によるうつ病、不安、精神的苦痛を評価したランダム化比較試験のメタ解析によるシステムを適格基準とした。研究の選択は、2人の独立したレビュアーによる重複チェックにより実施した。 主な結果は以下のとおり。・91件のレビュー(1,039試験、12万8,119例)を検討に含めた。・対象には、健康成人、精神疾患を有する成人、さまざまな慢性疾患を有する成人が含まれていた。・77件の研究は、システマティックレビューの方法論的な質を評価するための測定ツール(AMSTAR)のスコアが非常に低かった。・身体活動は、通常ケアと比較し、うつ病、不安、精神的苦痛に対する中程度の効果が認められた。 ●うつ病 エフェクトサイズ中央値:-0.43、四分位範囲[IQR]:-0.66~-0.27 ●不安 エフェクトサイズ中央値:-0.42、IQR:-0.66~-0.26 ●精神的苦痛 エフェクトサイズ:-0.60、95%CI:-0.78~-0.42・うつ病、HIV、腎臓病の成人、妊娠中または産後の女性、健康成人において、最大の効果が認められた。・高強度の身体活動は、症状の大幅な改善と関連が認められた。・身体活動介入の有効性は、介入期間が長くなるほど減少していた。・身体活動は、うつ病、不安、精神的苦痛のマネジメントにおいて主要なアプローチであることが示唆された。

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統合失調症患者の体重増加や代謝機能に対する11種類の抗精神病薬の比較

 抗精神病薬の投与量と代謝機能関連副作用との関係を明らかにするため、スイス・ジュネーブ大学のMichel Sabe氏らは、統合失調症患者を対象に抗精神病薬を用いたランダム化比較試験(RCT)の用量反応メタ解析を実施した。その結果、抗精神病薬ごとに固有の特徴が確認され、アリピプラゾール長時間作用型注射剤を除くすべての抗精神病薬において、体重増加との有意な用量反応関係が認められた。著者らは、利用可能な研究数が限られるなどの制限があったものの、本研究結果は、抗精神病薬の用量調整により、体重や代謝機能に対する悪影響を軽減するために有益な情報であるとしている。The Journal of Clinical Psychiatry誌2023年2月8日号掲載の報告。 2021年2月までに英語で公表された研究をMEDLINE、Embase、PubMed、PsyARTICLES、PsycINFO、Cochrane Database of Systematic Reviewsおよび各トライアルレジストリより検索した。第1世代または第2世代抗精神病薬を用いたフィックスドーズのRCTを特定した。RCTの質は、Cochrane's Risk of Bias toolを用いて評価した。主要アウトカムは体重の平均変化とし、副次的アウトカムは代謝パラメータの平均変化とした。抽出したデータを用いて、用量反応メタ解析を実施した。 主な結果は以下のとおり。・52件のRCT(2万2,588例)が抽出された。・アリピプラゾール長時間作用型注射剤を除くすべての抗精神病薬において、体重増加との有意な用量反応関係が認められた。・体重増加と抗精神病薬の用量との関連は、準放物線上の曲線関係(ルラシドン、RCT:9件、95%推定有効用量[ED95:59.93mg/d]:0.53kg/6週間)から用量の増加とともに増加を続ける曲線関係(オランザピン、RCT:1件、[ED95:15.05mg/d]:4.29kg/8週間)までが認められた。・すべての曲線は、準放物線、定常、上昇のいずれかに分類可能であった。・有効用量の中央値が比較的低い場合において体重増加が認められることが多く、さらに増量した場合では、一部の薬剤において体重増加が顕著となる可能性が示唆された。

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睡眠の時間や質とうつ病リスク~コホート研究

 睡眠の時間や質およびその変化が抑うつ症状リスクに及ぼす縦断的な影響は、よくわかっていない。韓国・Hallym University Dongtan Sacred Heart HospitalのYoo Jin Um氏らは、睡眠の時間や質およびその変化が抑うつ症状の発症にどのような影響を及ぼすかを明らかにするため、検討を行った。その結果、睡眠の時間や質およびその変化は、若年成人の抑うつ症状と独立して関連しており、不十分な睡眠や睡眠の質の低下がうつ病リスクと関連していることが示唆された。Journal of Affective Disorders誌オンライン版2023年2月14日号掲載の報告。 ベースライン時にうつ病を発症していない韓国人成人22万5,915人(平均年齢:38.5歳)を対象に平均4.0年間のフォローアップ調査を実施した。睡眠の時間や質の評価には、ピッツバーグ睡眠質問票を用いた。抑うつ症状の評価には、うつ病自己評価尺度(CES-D)を用いた。フレキシブル・パラメトリック比例ハザードモデルを用いて、ハザード比(HR)および95%信頼区間[CI]を算出した。 主な結果は以下のとおり。・フォローアップ期間中に抑うつ症状が認められた人は、3万104人であった。・睡眠時間7時間の人と比較したうつ病の多変量調整HRは、以下のとおりであった。 【5時間以下】HR:1.15、95%CI:1.11~1.20 【6時間】HR:1.06、95%CI:1.03~1.09 【8時間】HR:0.99、95%CI:0.95~1.03 【9時間以上】HR:1.06、95%CI:0.98~1.14・睡眠の質が不良な人においても、同様の傾向が認められた。・睡眠の質が持続的に良好な人と比較し、持続的に不良な人(HR:2.13、95%CI:2.01~2.25)または低下した人(HR:1.67、95%CI:1.58~1.77)では、抑うつ症状発症リスクが高かった。・本研究の限界として、睡眠時間の報告が自己申告によるものである点が挙げられる。・睡眠の時間や質およびその変化は、若年成人の抑うつ症状と独立して関連しており、不十分な睡眠量や睡眠の質の低下がうつ病リスクと関連していることが示唆された。

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統合失調症の入院リスクと日照時間の関連性に対する建築環境の影響

 統合失調症と日照時間との関係を検討した研究では、関連性を明らかにすることができていない。要因の1つとして、統合失調症患者の日照時間に対する建築環境の影響が考えられる。中国・安徽医科大学のLi Liu氏らは、統合失調症と日照時間の関連性に対する建築環境の影響について調査を行った。その結果、さまざまな建築環境において、日照時間は統合失調症による入院リスクに影響を及ぼすことが明らかとなった。著者らは、「本結果は、特定の地域居住で脆弱性を有する患者の識別に役立ち、医療資源の合理的な割り当てや悪影響の適時な回避によって、統合失調症発症リスク低減のための助言を政策立案者が提供することを示唆するものである」と述べている。The Science of the Total Environment誌オンライン版2023年2月8日号の報告。 中国・合肥市の主要都市部において、2017~20年の毎日の統合失調症入院データおよび、それに対応する気象要因や環境汚染に関するデータを収集した。都市部における統合失調症入院期間での日照時間の影響を評価するため、分布ラグ非線形モデルと組み合わせた一般化加法モデルを用いた。さらに、建築物の密度や高さ、正規化植生指数、夜間の光が、統合失調症と日照時間の関連性に及ぼすさまざまな影響も調査した。 主な結果は以下のとおり。・不十分な日照時間(5.3時間未満)は、統合失調症による入院リスク増加と関連しており、最大相対リスクは、2.9時間での1.382(95%信頼区間:1.069~1.786)であった。・適切な日照時間は、統合失調症による入院リスク低下と関連が認められた。・サブグループ解析では、女性と高齢者において、とくに脆弱性が認められた。・日照時間が不十分な場合、建築物の密度が高く夜間の光が多いほど、統合失調症リスクに有意な好影響が認められた。・正規化植生指数が高いほど、また、建築物の高さが高いほど、統合失調症のリスク低下と関連が認められた。

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オールシングスマストパス~高齢者の抗うつ薬の選択についての研究の難しさ(解説:岡村毅氏)

 従来のRCTの論文とはずいぶん違う印象だ。無常(All Things Must Pass)を感じたのは私だけだろうか。この論文、老年医学を専門とする研究者には、突っ込みどころ満載のように思える。とはいえ現実世界で大規模研究をすることは大変であることもわかっている。 順に説明していこう。2種類の抗うつ薬に反応しないものを治療抵抗性うつ病という。こういう場合、臨床的には「他の薬を追加する増強療法」(augmentation)か「他の種類の薬剤への変更」(switch)のどちらを選択するべきかというのは臨床的難問だ。これに対して、うつ病一般においてはSTAR*Dなどの大規模な研究が行われてきた。本研究はOPTIMUM研究と名付けられ、やはりNIH主導で大規模に行われた。 結果であるが、アリピプラゾールの増強療法が比較的優れた効果を示した。とはいえ、ステップ1で比較されているbupropionは本邦未承認であるから日本の臨床家への示唆はあまりない。なおステップ2で比較対象となっているのはリチウムの増強療法とノルトリプチリンへの変更であるが、これらは本邦でも使用できる。 以下は、この論文を批判的に眺めた感想である。 第1にプロトコルがまったく安定していない。途中までステップ2への直接参加が可能になっているが、途中から禁じられた。参加基準も当初PHQ-9で6点以上であったのが、途中から10点以上になっている。さまざまな横やりがあったことが推測される。 第2に参加者は普通に薬局で薬をもらっているので、増強(追加)されているのか変更されているのかがわかってしまう。単純化すると、前者は錠剤が1錠増えるし、後者は増えない。プラセボで良くなる高齢者が多いから、この点は重要だ。 第3に認知機能の検査は一応しているが(supplementaryの隅まで読んでようやく書いてあったが、これは最も重要な点ではないか?)、Short blessed testで10点以上はダメというあまりにも粗い基準だ。さまざまな認知機能の人が含まれているに違いない。 第4に脳梗塞に伴う治療抵抗性うつ病も含まれているはずだが、これはdepression-executive dysfunctionともいい、高齢期のうつ病の難問の一つである。生活障害が大きく、むしろ非薬物治療が効果的とされる。この群は何をやっても変わらないだろうが、期間中に良いデイケアに行き始めたら劇的に回復することだろう。この議論が抜け落ちている。 第5に、アウトカムは「健やかさ」(wellbeing)になっている。これは当事者団体の意見等を反映させたということである。「症状は外から見ると減ったようです、でも本人は苦しいです」というのでは意味がないのだから良いことともいえる。薬剤の効果を症状だけで見るのは「古い」医学者であり、リカバリーのようなより主観的なものが現在好まれる。しかし薬剤の効果をwellbeingで見ることは、拡大した医療化であり、危険をはらんでいると個人的には思っている。というのは、高齢者ではとくにそうだが、さまざまな出来事(人間関係、出会いと別れ、とくに死別、体調、他の疾患の状態など)によりwellbeingは大きく影響を受けるのだ。公平を期すために、この研究でも「社会参加」も測定されていることは述べておく。 第6に、結果的には、bupropion変更組とリチウム増強組では、きちんと定められた分量までいって寛解している者は10%もいないとのことであり、とても低いところで比較しているというのは否めまい。 第7に転倒が多い。対照がないので、高齢者とはそういうものだと言われればそれまでだが、良い結果の治療でも3人に1人は転倒しているし、最も悪い群は55%が転倒している。この研究は増強vs.変更を比較しているので、これを言ってしまうとちゃぶ台返しになってしまうが…「この人はうつ病で、薬で治すべし」という大前提がここでは間違っているんじゃないか。この際、漢方薬に変えて、生活も変えてみてはどうかと提案する(たとえば地域の集まりや運動に行くとか、それこそお寺に行ってみるとか)というのが日本の小慣れた臨床医の対応ではないだろうか。 第8に…これくらいでやめておこう。 僕らはRCTで少しでも科学的に妥当な知見を手に入れて、患者さんにより妥当な治療を提案し、結果的に多くの患者さんを幸せにしたいという根源的な欲求がある。しかし高齢者を対象にしたこの論文を読むと、さまざまな現実のノイズにより、非常に読みにくく、苦しい印象を受けた。RCT、メタアナリシス、さらにネットワークメタアナリシスに心躍らされた時代はもしかしたら、長い歴史の中のそよ風なのかもしれず(Times They Are A-Changin)、無常(All Things Must Pass)を感じる。一方で、批判だけするつもりはない。医療者の主観や勘に頼った時代に戻ってよいわけはない。なんか苦しいなあと思いながら、批判的に読み、そしてこのような大規模研究を苦しみながら遂行した仲間に最大の敬意を払いつつも、この知見が目の前の患者さんに適応できるかどうかを考え続けるしかないのではないか。 考えてみれば、この薬が一番いいですという単純な世界(うつ病ですか、じゃあエスシタロプラムかゾロフトでしょうみたいな)なら、医師なんていらないではないか。目の前の患者さんが、医療の対象にするべきことが何割で、医療が対象にしてはいけないことが何割かを判断する必要があるし、どの見方を採用するか(たとえば高齢者の抑うつ症状なら、感情障害、認知機能障害、脳血管障害といったさまざまな次元がある)を常に選択する必要がある。患者の高齢化に伴い、臨床はより頭を使う仕事になってきたように感じる。

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第155回 コロナ罹患後症状をメトホルミンが予防 / コロナで父親の顔がわからなくなった女性

long COVIDを糖尿病治療薬メトホルミンが予防昔ながらの糖尿病治療薬メトホルミンの新型コロナウイルス感染症罹患後症状(long COVID)予防効果が米国の無作為化試験で認められ1)、「画期的(breakthrough)」と評するに値する結果だと有力研究者が称賛しています2)。COVID-OUTと呼ばれる同試験では駆虫薬として知られるイベルメクチンとうつ病治療に使われるフルボキサミンも検討されましたが、どちらもメトホルミンのようなlong COVID予防効果はありませんでした。COVID-OUT試験は2020年の暮れ(12月30日)に始まり、被験者はメトホルミン、イベルメクチン、フルボキサミン、プラセボのいずれかに割り振られました。被験者、医師、その他の試験従事者がその割り振りを知らない盲検状態で実施されました。また、被験者をどこかに出向かせることがなく、試験従事者と直接の接触がない分散化(decentralized)方式の試験でもあります。募ったのは肥満か太り過ぎで年齢が30~85歳、コロナ発症から7日未満、検査でコロナ感染が判明してから3日以内の患者です。箱に入った服用薬一揃いは試験参加決定の当日または翌日に被験者に届けられ、結果的に試験参加同意から最初の服用までは平均して1日とかかりませんでした。メトホルミンの服用日数は14日間で、用量は最初の日は500mg、2~5日目は500mgを1日に2回、6~14日目は朝と晩にそれぞれ500mgと1,000mgです。メトホルミン投与群とプラセボ群合わせて1,125例がlong COVIDの検討に協力することを了承し、1ヵ月に1回連絡を取ってlong COVIDの診断があったかどうかが300日間追跡されました。その結果、およそ12例に1例ほどの8.4%がその診断に至っていました。肝心のメトホルミン投与群のlong COVID発生率はどうかというと約6%であり、プラセボ群の約11%に比べて40%ほど少なく済んでいました。発症からより日が浅いうちからのメトホルミン開始はさらに有効で、発症から4日未満で開始した人のlong COVID発現率は約5%、4日以上経ってから開始した人では約7%でした。上述のとおりイベルメクチンやフルボキサミンのlong COVID予防効果は残念ながら認められませんでした。COVID-OUT試験のlong COVID結果報告はまだプレプリントであり、The Lancet on SSRNに提出されて審査段階にあります。メトホルミンの効果はlong COVIDの枠にとどまらずコロナ感染の重症化予防も担いうることが他でもないCOVID-OUT試験で示されています。その結果はすでに査読が済んで昨夏2022年8月にNEJM誌に掲載されており、第一の目的である低酸素血症、救急科(ED)受診、入院、死亡の予防効果は認められなかったものの、メトホルミン投与群のED受診、入院、死亡は有望なことにプラセボ群より42%少なくて済みました3)。さらに試験を続ける必要はあるものの、値頃で取り立てるほど副作用がないことを踏まえるにメトホルミンが用を成すことは今や確からしいことをCOVID-OUT試験結果は示していると米国屈指の研究所Scripps Research Translational Instituteの所長Eric Topol氏は述べています2)。Topol氏はbreakthroughという表現を安易に使いませんが、安価で安全なメトホルミンのCOVID-OUT試験での目を見張る効果はその表現に見合うものだと讃えています。メトホルミンの効果を重要と考えているのはTopol氏だけでなく、たとえばハーバード大学病院(Brigham and Women's Hospital)の救急科医師Jeremy Faust氏もその1人であり、「コロナ感染が判明したらすぐにメトホルミン服用を開始する必要があるかと肥満か太り過ぎの患者に尋ねられたら、COVID-OUT試験結果を根拠にして “必要がある”と少なくとも大抵は答える」と自身の情報配信に記しています4)。コロナ感染で顔がわからなくなってしまうことがあるコロナ感染で匂いや味がわからなくなることがあるのはよく知られていますが、顔が区別できなくなる相貌失認(prosopagnosia)が生じることもあるようです。神経系や振る舞いの研究結果を掲載している医学誌Cortexに相貌失認になってしまった28歳のコロナ感染女性Annie氏の様子や検査結果などをまとめた報告が掲載されました5,6)。Annie氏は2020年3月にコロナ感染し、その翌月4月中ごろまでには在宅で働けるほどに回復しました。コロナ感染してから最初に家族と過ごした同年6月に彼女は父親が誰かわからず、見た目で叔父と区別することができませんでした。そのときの様子をAnnie氏は「誰か知らない顔の人から父親の声がした(My dad's voice came out of a stranger's face)」と説明しています。相貌失認に加えて行きつけのスーパーまでの道で迷うことや駐車場で自分の車の場所が分からなくなるという方向音痴のような位置把握障害(navigational impairment)もAnnie氏に生じました。また、long COVIDの主症状として知られる疲労や集中困難などにも見舞われました。Annie氏のような症状はどうやら珍しくないようで、long COVID患者54例に当たってみたところ多くが視覚認識や位置把握の衰えを申告しました。脳損傷後に認められる障害に似た神経精神の不調がコロナ感染で生じうるようだと著者は言っています。参考1)Outpatient Treatment of COVID-19 and the Development of Long COVID Over 10 Months: A Multi-Center, Quadruple-Blind, Parallel Group Randomized Phase 3 Trial. The Lancet on SSRN :Received 6 Mar 2023.2)'Breakthrough' Study: Diabetes Drug Helps Prevent Long COVID / WebMD3)Carolyn T, et al. N Engl J Med. 2022;387:599-610.4)Metformin found to reduce Long Covid in clinical trial. Jeremy Faust氏の配信5)Kieseler ML, et al. Cortex. 9 March 2023. [Epub ahead of print]6)Study Says Long COVID May Cause Face Blindness / MedScape

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PTSDやうつ病に対するドパミンD2受容体遺伝子変異の影響~メタ解析

 心的外傷後ストレス障害(PTSD)およびうつ病のリスク因子として、ドパミンD2受容体遺伝子の変異が多くの研究で評価されているが、その結果は一貫していない。中国・北京林業大学のXueying Zhang氏らは、ドパミンD2受容体遺伝子変異とPTSDおよびうつ病リスクとの関連を明らかにするため、メタ解析を実施した。その結果、ドパミンD2受容体遺伝子の変異は、PTSDおよびうつ病の遺伝的な感受性に潜在的な影響を及ぼしている可能性が示唆された。Journal of Affective Disorders誌オンライン版2023年2月4日号の報告。 2021年までの文献を、Web of Science、PubMed、Google Scholar、Excerpta Medica Database(EMBASE)、Springer、ScienceDirect、Wiley Online Library、Cochrane Central Register of Controlled Trials、Chinese Biomedical Literature Database (CBM)、WANFANG Data、CQVIP、Chinese National Knowledge Infrastructure(CNKI)よりシステマティックに検索した。 主な結果は以下のとおり。・ドパミンD2受容体遺伝子の27の遺伝子変異が収集され、それらのうち選択基準を満たした7つをメタ解析に含めた。・メタ解析では、rs1800497(TaqIA)多型がPTSDのリスク増加と有意に関連していることが示唆された(優性モデルA1A1+A1A2 vs.A2A2[オッズ比[OR]:1.49、95%信頼区間[CI]:1.08~2.04、Z=2.46、p=0.014])。・人種によるサブグループ解析では、アジア人(優性モデルA1A1+A1A2 vs.A2A2[OR:1.39、95%CI:1.08~1.79、Z=2.60、p=0.009])と白人(優性モデルA1A1+A1A2 vs.A2A2[OR:1.87、95%CI:1.02~3.41、Z=2.04、p=0.042])において、PTSDリスクの有意な増加が観察された。・うつ病とドパミンD2受容体遺伝子の関連については、rs1799978(ホモ接合型の比較GG vs.AA[OR:0.60、95%CI:0.37~0.97、Z=2.08、p=0.038])とrs2075652(ホモ接合型の比較AA vs.GG[OR:1.82、95%CI:1.32~2.50、Z=3.67、p<0.001])多型の間に有意な関連の強固性が検出された。・累積メタ解析では、PTSDおよびうつ病の関連の強固性に、継続的な傾向が認められた。・PTSDおよびうつ病のリスク因子としてドパミンD2受容体遺伝子の変異を用いるためには、適切に設計された大規模ケースコントロール研究でさらに検証する必要がある。

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治療抵抗性うつ病に対するガイドラインの推奨事項

 うつ病は、重篤かつ広範に及ぶメンタルヘルス関連疾患である。うつ病は、2つ以上の抗うつ薬による治療でも寛解が得られず、治療抵抗性うつ病に至ることも少なくない。ブラジル・サンパウロ大学のFranciele Cordeiro Gabriel氏らは、診断および治療の改善を目的に作成された臨床診療ガイドライン(CPG)における治療抵抗性うつ病に対する推奨事項について、それらの品質および比較をシステマティックに評価した。その結果、うつ病治療のための高品質なCPGにおいて、治療抵抗性うつ病の定義および使用が統一されておらず、治療抵抗性うつ病に対する共通したアプローチも見当たらなかった。PLOS ONE誌2023年2月6日号の報告。 CPGを作成している専門データベースおよび組織を検索した。CPGの品質および推奨事項は、独立した研究者によりAGREE IIおよびAGREE-REXを用いて評価した。治療抵抗性うつ病の定義および推奨事項を含む高品質なCPGのみを対象に、divergenciesとconvergenciesおよび長所と短所を調査した。 主な結果は以下のとおり。・高品質の推奨事項を含む高品質のCPG7件のうち、特定の治療抵抗性うつ病の定義を含む2つのCPG(ドイツの国民診療ガイドライン[NVL]、米国の退役軍人省および国防総省の臨床診療ガイドライン[VA/DoD])を選択した。・これら2つのCPG間で収束する治療戦略は、見当たらなかった。・電気けいれん療法は、NVLで推奨されているもののVA/DoDでは推奨されておらず、反復経頭蓋磁気刺激(rTMS)療法は、VA/DoDで推奨されているもののNVLでは推奨されていなかった。・NVLでは、リチウム、甲状腺または他のホルモン治療、精神刺激薬、ドパミン作動薬の使用を推奨していたが、VA/DoDでは、これらの薬剤による増強治療を記載していなかった。・VA/DoDでは、ケタミンまたはesketamineの使用を推奨していたが、NVLでは、これらの薬剤について言及されていなかった。・その他の違いでは、抗うつ薬の併用、心理療法による増強治療、入院の必要性の評価などは、NVLのみで推奨されていた。

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治療抵抗性うつ病の高齢者、抗うつ薬増強で改善/NEJM

 治療抵抗性うつ病の高齢者において、既存の抗うつ薬にアリピプラゾールを併用する10週間の増強療法は、bupropionへの切り替えと比較し、ウェルビーイングを有意に改善し寛解率も高かった。また、増強療法あるいはbupropionへの切り替えが失敗した患者において、リチウム増強療法またはノルトリプチリンへの切り替えは、ウェルビーイングの変化量や寛解率が類似していた。米国・ワシントン大学のEric J. Lenze氏らが、医師主導によるプラグマティックな2ステップの非盲検試験「Optimizing Outcomes of Treatment-Resistant Depression in Older Adults:OPTIMUM試験」の結果を報告した。高齢者の治療抵抗性うつ病に対する抗うつ薬の増強療法または切り替えのベネフィットとリスクは、広く研究されていなかった。NEJM誌オンライン版2023年3月3日号掲載の報告。抗うつ薬の増強療法と切り替えについて、2ステップで比較 研究グループは、ステップ1として、60歳以上の治療抵抗性うつ病患者を、現在の抗うつ薬+アリピプラゾール(2.5mg/日で開始、最大15mg/日まで増量)(アリピプラゾール増強群)、現在の抗うつ薬+徐放性bupropion(150mg/日で開始、目標300mg/日、最大450mg/日まで増量)(bupropion増強群)、現在の抗うつ薬から徐放性bupropionへの切り替え(bupropion切り替え群)の3群に、1対1対1の割合で無作為に割り付けた。次にステップ2として、ステップ1で寛解が得られなかった患者または不適格であった患者を、現在の抗うつ薬+リチウム増強群、ノルトリプチリンへの切り替え群に1対1の割合で無作為に割り付けた。各ステップは、10週間とし、最大10週間追加可とした。 主要アウトカムは、心理的ウェルビーイングのベースラインからの変化とし、米国立衛生研究所Toolbox Emotion Battery(NIHTB-EB)のPositive AffectとGeneral Life Satisfactionの2つのサブスケールの平均値をTスコアとして算出して評価した(標準集団の平均値50、スコアが高いほどウェルビーイングが良好)。副次アウトカムは、うつ病の寛解率とした。アリピプラゾール増強療法、切り替えと比較して有意に改善 2017年2月22日~2019年12月31日の期間に合計742例が登録された。ステップ1が619例、ステップ2が248例(主に治療失敗のためステップ1からステップ2への移行125例、ステップ2に直接登録123例)であった。 ステップ1において、心理的ウェルビーイングTスコアのベースラインからの増加(改善)は、アリピプラゾール増強群(211例)で4.83点、bupropion増強群(206例)で4.33点、bupropion切り替え群(202例)で2.04点であった。アリピプラゾール増強群とbupropion切り替え群の群間差は2.79点(95%信頼区間[CI]:0.56~5.02、p=0.014)で有意差が認められた(事前に設定した有意水準はp=0.017)が、アリピプラゾール増強群vs.bupropion増強群、あるいはbupropion増強群vs.bupropion切り替え群とでは有意差はなかった。 うつ病の寛解率は、アリピプラゾール増強群28.9%、bupropion増強群28.2%、bupropion切り替え群19.3%であった。 ステップ2において、心理的ウェルビーイングTスコアのベースラインからの増加は、リチウム増強群(127例)で3.17点、ノルトリプチリン切り替え群(121例)で2.18点(群間差:0.99、95%CI:-1.92~3.91)、うつ病寛解率はそれぞれ18.9%、21.5%であった。

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抗精神病薬とプロラクチンレベル上昇が骨折リスクに及ぼす影響

 抗精神病薬による治療が必要な患者は、骨粗鬆症関連の脆弱性骨折を含む骨折リスクが高いといわれている。これには、人口統計学的、疾患関連、治療関連の因子が関連していると考えられる。インド・National Institute of Mental Health and NeurosciencesのChittaranjan Andrade氏は、抗精神病薬治療と骨折リスクとの関連を調査し、プロラクチンレベルが骨折リスクに及ぼす影響について、検討を行った。The Journal of Clinical Psychiatry誌2023年1月30日号掲載の報告。 主な結果は以下のとおり。・たとえば、認知症患者では、認知機能低下や精神運動興奮により転倒リスクが高く、統合失調症患者では、身体的に落ち着きがない、身体攻撃に関連する外傷リスクが高く、抗精神病薬服用患者では鎮静、精神運動興奮、動作緩慢、起立性低血圧に関連する転倒リスクが高くなる。・抗精神病薬は、長期にわたる高プロラクチン血症により生じる骨粗鬆症に関連する骨折リスクを高める可能性がある。・高齢者中心で実施された36件の観察研究のメタ解析では、抗精神病薬の使用が大腿骨近位部骨折リスクおよび骨折リスクの増加と関連していることが示唆された。この結果は、ほぼすべてのサブグループ解析でも同様であった。・適応疾患と疾患重症度の交絡因子で調整した観察研究では、統合失調症患者の脆弱性骨折は、1日投与量および累積投与量が多く、治療期間が長い場合に見られ、プロラクチンレベルを維持する抗精神病薬よりも、上昇させる抗精神病薬を使用した場合との関連が認められた。また、プロラクチンレベル上昇リスクの高い抗精神病薬を使用している患者では、アリピプラゾール併用により保護的に作用することが示唆された。・骨折の絶対リスクは不明だが、患者の年齢、性別、抗精神病薬の使用目的、抗精神病薬の特徴(鎮静、精神運動興奮、動作緩慢、起立性低血圧に関連するリスク)、1日投与量、抗精神病薬治療期間、ベースライン時の骨折リスク、その他のリスク因子により異なると考えられる。・社会人口統計学的、臨床的、治療に関連するリスク因子に関連する転倒および骨折リスクは、患者個々に評価し、リスクが特定された場合には、リスク軽減策を検討する必要がある。・プロラクチンレベルの上昇リスクの高い抗精神病薬による長期的な治療が必要な場合、プロラクチンレベルをモニタリングし、必要に応じてプロラクチンレベルを低下させる治療を検討する必要がある。・骨粗鬆症が認められた場合には、脆弱性骨折を予防するための調査やマネジメントが求められる。

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慢性期統合失調症患者の認知機能に対する抗精神病薬、抗コリン薬の影響

 精神疾患の治療には、さまざまな向精神薬が用いられるが、その多くは抗コリン作用を有しており、認知機能を低下させる可能性がある。フランス・Lebanese American UniversityのChadia Haddad氏らは、抗コリン作動性負荷と抗精神病薬の用量に焦点を当て、神経心理学的障害や症状の治療に用いられる薬剤と統合失調症患者の認知機能との関連を評価した。その結果、慢性期統合失調症患者の認知機能は、薬物療法や抗コリン作動性負荷の影響を受ける可能性があることを報告した。BMC Psychiatry誌2023年1月24日号の報告。 2019年7月~2020年3月、Psychiatric Hospital of the Cross-Lebanonで統合失調症と診断された120例の入院患者を対象に、横断的研究を実施した。抗コリン作動性負荷の算出にはAnticholinergic Drug Scale(ADS)を用いた。クロルプロマジン等価換算量はアンドレアセン法を用いて算出し、抗精神病薬の相対用量を評価した。客観的な認知機能の評価には、統合失調症認知機能簡易評価尺度(BACS)を用いた。 主な結果は以下のとおり。・クロルプロマジン等価換算量の低下と有意に関連していた因子は次のとおりであった。 ●BACS総スコアが高い(r=-0.33、p<0.001) ●言語性記憶スコアが高い(r=-0.26、p=0.004) ●ワーキングメモリスコアが高い(r=-0.20、p=0.03) ●運動機能スコアが高い(r=-0.36、p<0.001) ●注意と情報処理速度スコアが高い(r=-0.27、p=0.003)・認知機能の低下と有意に関連していた因子は次のとおりであった。 ●ADSが高い(標準化β[Sβ]=-0.22、p=0.028) ●クロルプロマジン等価換算量が高い(Sβ=-0.30、p=0.001) ●気分安定薬の使用(Sβ=-0.24、p=0.004)・慢性期統合失調症患者の認知機能に対し、薬物療法および抗コリン作動性負荷が影響を及ぼしている可能性が示唆された。・統合失調症患者の認知機能におけるコリン作動性神経伝達および一般的な神経化学的メカニズムを解明するためには、さらなる研究が求められる。

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ドキュメンタリー「WHOLE」(前編)【なんで自分の足を切り落としたいの!?(身体完全性違和)】Part 2

関連する症状は?身体完全性違和の特徴は、体の一部分(ほとんど左足)に違和感がある、命の危険を冒してでもそれをなくしたいと思う、それがなくなったら満足することであるとわかりました。また、ドキュメンタリーに登場する人たちが全員男性であったため、男性に起こりやすい可能性も考えられます。ただし、これまでほとんど知られてこなかった「病気」であり、発症頻度はとても低いと思われます。それでは、この原因は何でしょうか? この謎を解き明かすために、身体完全性違和と関連する症状(状態)を5つ挙げてみましょう。(1)感覚麻痺1つ目は、感覚麻痺です。これは、手足の感覚がしびれたり鈍くなることです。感覚中枢(頭頂葉の体性感覚野)または末梢神経などが障害されることで起こります。また、心理的なストレスや暗示(催眠)による感覚中枢の一時的な機能低下(ローカルスリープ)によって起こることもあります。これは、変換症(転換性障害)と呼ばれています。感覚麻痺と身体完全性違和は、感覚異常がある点では同じですが、感覚麻痺はその体の一部分をなくしたいとまでは思わない点で違います。なお、ローカルスリープの詳細については、関連記事2をご覧ください。(2)幻肢2つ目は、幻肢です。これは、存在しない手足が存在しているように感じることです。さらに、存在しない手足の痛みを感じるなら、幻肢痛と呼ばれます。事故や糖尿病性壊疽などによる四肢切断や先天性四肢欠損などによって、もともと末梢神経が障害されている(存在しない)場合、多くはただ手足の感覚がないだけです。しかし、「ないはずのものがある」と感じるということは、実は体の存在を認識する脳の機能(ボディイメージ)が備わっていることが考えられます。そして、幻肢ではこの機能が誤作動を起こしていることが考えられます。実際に、この「体の地図」(ボディイメージ)と実際の体の感覚や動きを統合する脳内のネットワークがあることがわかっています。この記事では、これを「身体認識ネットワーク」と名付けます。幻肢と身体完全性違和は、感覚異常がある点では同じですが、幻肢が「ないはずのものがある」と感じるのに対して、身体完全性違和は「あるはずのものがない(いらない)」と感じる点で違います。(3)ラバーハンド錯覚3つ目は、ラバーハンド錯覚です。これは、次のような実験で判明しています。まず、ゴム製の手(ラバーハンド)を被験者の手のように目の前で見えるようにして、自分の手は横に置いて衝立で見えなくします。そして、ゴム製の手と自分の手の両方が絵筆でなでられることで、被験者にゴム製の手が自分の手であると認識させます。すると、その後にゴム製の手だけをなでても、被験者は自分の手がなでられていると実際に感じて(錯覚して)しまうのです。このメカニズムは、幻肢と同じように身体認識ネットワークの誤作動が考えられています。なお、ラバーハンド錯覚の実験の詳細については、動画をご覧ください。(4)気付き亢進4つ目は、気付き亢進です。これは、体の触れ方や歩き方などの手足の身体感覚が研ぎ澄まされている(注意が向きすぎている)ことです。「身体過剰認識」とも言い換えられ、身体認識ネットワークの機能亢進が考えられます。これは、統合失調症の初期症状で見られます。なお、このメカニズムは、心理療法のマインドフルネスにも通じます。この詳細については、関連記事3をご覧ください。(5)身体失認5つ目は、身体失認です。これは、体の一部分が自分のものと認識できなくなることです。感覚中枢の障害に加えて、身体認識ネットワークの機能低下が考えられます。たとえば、片側の大脳半球(主に右半球)が機能低下することで反対側(左側)の手足の運動麻痺や感覚麻痺が起きる場合、さらにその部位を自分の体の一部分と認識できなくなることです。麻痺している部分自体を認識できないので、麻痺していないと言い張ることもあります。これは、病態失認と呼ばれています。身体失認が軽度の場合、その部位の手足の身体感覚に注意が向かなくなり(無視するようになり)、その半側でぶつかったり転びやすくなります。これは、半側空間無視と呼ばれています。身体失認と身体完全性違和は、「自分のものではない」と訴える点では同じですが、身体失認がその体の部分を認識できないのに対して、身体完全性違和は認識できている点で違います。ちなみに、視覚中枢(後頭葉)と一緒に身体認識ネットワークの機能低下が起きれば、目が見えないのに目が見えると言い張ります(皮質盲)。また、聴覚中枢(側頭葉)と一緒に起きれば、聞こえないのに聞こえると言い張ります(皮質聾)。これらも身体失認であり、病態失認です。原因は何なの?関連する症状との違いを踏まえて、身体完全性違和の原因は何でしょうか? その答えは、先ほどの身体認識ネットワークのみの機能低下であることが考えられます。感覚中枢も末梢神経も正常であるため、身体感覚はあるのに身体認識ができず、結果的にその体の一部分を「自分のものではない」(異物)として認識してしまうのです。もしも先ほどの身体失認の場合であれば、身体感覚もなく身体認識もできず、「自分のものではない」(何もない)と認識してしまいます。実際の画像検査の研究では、身体完全性違和の人の脳内の右上頭頂小葉は、健常の人よりも厚みがなく働き方が違っていることが確認されています2)。そこは、身体認識ネットワークの1つと考えられています。身体認識ネットワークがもともと右脳にあるからこそ、ドキュメンタリーで登場する人たちが違和感を訴える体の部分のほとんどが、右脳が支配する反対側の左側なのでしょう。また、だからこそ、身体失認も体の部分の左側が多いのでしょう。また、身体完全性違和の人の違和感のある体の部分への皮膚コンダクタンス反応(SCR)は、違和感のない体の部分の2~3倍の反応があったことが確認されています2)。だからこそ、その部分をわざわざ切り落としたいと思うのでしょう。ちなみに、もしも身体認識ネットワークの機能低下が体の一部分ではなく、全身で起きたらどうなるでしょうか? 軽度の場合は、「自分の体が自分のものではないように感じる」という離人感(離人症の一症状)が出てくるでしょう。重度の場合は、「自分の体が死んでいる(存在しない)」と思い込むコタール症候群(うつ病の虚無妄想)が出てくるでしょう。なお、身体完全性違和は体の部分についての身体認識に異常がありますが、「自分のものではない」体の部分を自分が持っているという自己認識には異常はありません。もしも自己認識も機能低下している場合は、自分のこととして認識できなくなるので、切断を希望しなくなるでしょう。この自己認識の中枢は右前頭葉であることがわかっており、身体認識ネットワークと同じ右脳であることはとても興味深いです。おそらく、左脳が言語の優位半球であるため、脳の側性化としてそのバランスをとって、右脳は認識の優位半球となったことが考えられます。ただし、あくまで右脳が優位に働いているだけで、左脳も「劣位」ながら働いているでしょう。また、これはあくまで世の中に右利きの人が多いからです。左利きの人の場合は逆になるでしょう。実際に、身体完全性違和によって切断を希望する体の部分が右足や両足である人も少ないながらいます。なお、残念ながら、彼らの利き手がどちらかまでは報告されていません。自己認識の詳細については、関連記事4をご覧ください。また、先ほど紹介した気付き亢進については、この症状により切断を希望する人がいる可能性は考えられます。ただし、その大本の原因が統合失調症であるため、やがて自己認識も障害され(亢進して)、さらに幻覚や妄想などの症状も出てきて、切断するという単純な解決を求められなくなります。なお、統合失調症の自殺者の中には、この気付き亢進がきっかけになっている人がいる可能性は考えられます。<< 前のページへ | 次のページへ >>

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軽症から中等症のCOVID-19外来患者において、フルボキサミンはプラセボと比較して症状改善までの期間を短縮せず(解説:寺田教彦氏)

 本研究では、軽症から中等症のCOVID-19外来患者で、フルボキサミンが症状改善までの期間を短縮するか評価が行われたが、プラセボと比較して症状改善までの期間を短縮しなかったことが示された1)。 フルボキサミンは、うつ病や強迫性障害などの精神疾患に使用される選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)であり、比較的安価な薬剤である。COVID-19流行初期において、このフルボキサミンは、サイトカインの産生を制御するσ-1受容体のアゴニストとして機能することから、臨床転帰の改善効果を期待して臨床試験が行われた。初期の臨床試験では有効性を示した報告2)もあり、ブラジルで行われたプラセボ対照無作為化適応プラットフォーム試験(TOGETHER試験)でも有効性が示されていた3)。そして、これらの研究に基づいたsystematic review4)やCochrane COVID-19 Study Register5)では、フルボキサミンは28日の全死因死亡率をわずかに低下させる可能性や、軽症COVID-19の外来および入院患者の死亡リスクを低下させる可能性があると評されていた。 しかし、フルボキサミンの有効性を否定する報告6)や、新型コロナウイルスワクチンの開発に伴いワクチン接種の有無で治療薬の有効性が変化する可能性も考えられ、現時点でフルボキサミンの有効性がない可能性も考えられた。そのため、新型コロナウイルスワクチンの接種率が7割程度あり、流行株がデルタ株からオミクロン株の時期の米国において、フルボキサミンの有効性が再度検証され、結果は前述の通りであった1)。 これまでの経緯や今回の研究結果を踏まえ、私は、日本ではフルボキサミンを臨床的に使用する必要性はないと考える。 過去の研究と今回の研究を比較すると、初期に有効性を示した臨床研究2)では、試験の参加者が少なかったことや、経過観察期間が短かったために正確な結論が得られなかった可能性が懸念される。また、ブラジルで実施されたTOGETHER試験は重症の定義に「6時間以上の救急医療を要する患者」を含めており、フルボキサミンが真に重症化予防効果があったかの疑問が残る。 今回、検証された理由の1つである、新型コロナの流行株や国民の新型コロナウイルスワクチン接種率の観点からも、本邦では今回の研究参加者の背景が近いと考えられる。フルボキサミンの有用性を示せなかった理由に、薬剤の投与量が指摘されることもあるが7)、現在はCOVID-19の病態の解明も進み、ワクチンの効果や新型コロナウイルスの変異により、かつてよりも死亡率や重症化率はかなり低下している状況である。そのうえ、重症化リスクのある患者に対する有効な抗ウイルス薬も開発され、使用方法も確立している。これだけCOVID-19治療法が確立した現在の日本においては、いくら安価であるとはいえ、COVID-19に対する効果が不確定なフルボキサミンを使用するメリットはないだろう。 さて、欧米や本邦では、COVID-19の治療ガイドライン8)や薬剤使用方法の手引き9)が整備されており、われわれ医療従事者はこれらのエビデンスに容易にアクセスできるようになった。しかし、インターネットのホームページをみると、本原稿執筆時でも、フルボキサミンが有効だったことを報告した当初の論文のみを載せてフルボキサミンの販売をしている通販サイトが散見される。COVID-19診療を振り返ってみると、イベルメクチンなどのようにCOVID-19への治療が期待されたがために、本来投与が必要な患者さんの手に薬剤が回らないことが懸念された薬剤もあった。新興感染症の病態や有効な治療薬が不明確なときには、有効と考えられる薬剤の投与を通して、エビデンスを生み出す必要があるが、病態や治療方法が確立すれば、適切な治療を行うように努めるべきであろう。 また、治療の有効性が否定された薬剤はその結果を受け止め、本来医学的に必要とされる患者さんに同薬剤が行き渡るようにするべきであろう。医薬品が一般人でも入手しやすくなった現代では、非医療従事者にも適切な情報が届くように、インターネットを含めてFact-Checkを行ってゆく必要があると考える。【引用文献】1)フルボキサミン、軽~中等症コロナの症状回復期間を短縮せず/JAMA2)Lenze EJ, et al. JAMA. 2020;324:2292-2300.3)Reis G, et al. Lancet Glob Health. 2022;10:e42-e51.4)Lee TC, et al. JAMA Netw Open. 2022;5:e226269.5)Nyirenda JL, et al. Cochrane Database Syst Rev. 2022;9:CD015391.6)Bramante CT, et al. N Engl J Med. 2022;387:599-610.7)Boulware DR, et al. Lancet Glob Health. 2022;10:e329.8)Coronavirus Disease 2019 (COVID-19)Treatment Guidelines9)COVID-19 に対する薬物治療の考え方 第 15.1 版(2023年2月14日)

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うつ病に対するSSRIの治療反応

 うつ病に対する選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)の臨床反応の発現には、数週間を要することも少なくない。また、そのメカニズムは十分に把握されているとはいえない。オランダ・ユトレヒト大学のLynn Boschloo氏らは、うつ病の臨床症状に対するSSRIの直接的および間接的な効果について、プラセボ対照の状態と比較し評価を行った。その結果、SSRIは主に感情症状の改善を介して、間接的に認知症状やいくつかの覚醒/身体症状を改善することが明らかとなった。著者らは、本結果はSSRIの作用機序の解明や、臨床でのSSRIに対するレスポンダーおよび非レスポンダーの早期特定に役立つ可能性があると述べている。Translational Psychiatry誌2023年1月21日号の報告。 米国食品医薬品局(FDA)に登録されたSSRIの有効性に関する28件の試験に参加したうつ病成人患者8,262例のデータを分析した。うつ病の臨床症状は、治療後1、2、3、4、6週目に、ハミルトンうつ病評価尺度17項目(HDRS-17)を用いて評価した。 主な結果は以下のとおり。・Network estimation techniqueでは、SSRIは抑うつ気分および精神的不安といった2つの感情症状に対し、迅速かつ強力な直接的効果を示していた。なお、他の症状への直接的効果は弱い、または認められなかった。・4つの認知症状(罪責感、自殺念慮、仕事/活動での興味の喪失、集中困難を含む遅滞)のすべてに対しては実質的な間接的効果が認められており、SSRIによる大幅な改善が示されたが、主に抑うつ気分の大幅な改善が報告された患者においてであった。・精神的不安への直接的な影響を介して、身体的不安および焦燥といった2つの覚醒/身体症状に小さな間接的効果が認められた。・睡眠障害やその他の覚醒/身体症状に対する直接的および間接的な効果は弱い、または認められなかった。

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