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心不全の新たな治療戦略:次の10年を見据えて【心不全診療Up to Date 2】第6回

心不全の新たな治療戦略:次の10年を見据えてKey PointsHFpEF治療は「SGLT2阻害薬+MRAを基盤」とする新パラダイムが確立され、治療戦略は“症候改善のみ”から“イベント抑制”の時代へ心臓指向性AAVベクター(AB-1002)を用いた遺伝子治療が安全性と有効性のシグナルを示し、心不全治療に新しい地平を拓きつつあるIL-6を標的とした抗炎症療法や、CCMなどのデバイス治療が、GDMT抵抗性の心不全患者に対する新たな選択肢として開発が進むはじめに本連載では1年間にわたり、心不全診療の最新トピックスを取り上げてきた。最終回となる本稿では、現在臨床試験段階にある新規治療や将来有望な治療戦略について考えていきたい。HFrEF治療ではβ遮断薬、RAS阻害薬/ARNI、MRA、SGLT2阻害薬の「4本柱」が確立し、HFrEF患者の予後は著しく改善した。一方、高齢化の進展とともに増加する左室駆出率の保たれた心不全(HFpEF)、そしてGDMT(guideline-directed medical therapy)に抵抗性を示す患者に対しては、さらなる治療選択肢が求められている。本稿では、(1)HFpEF治療の新展開、(2)遺伝子治療、(3)抗炎症療法、(4)デバイス治療の4領域について、最新のエビデンスと今後の展望を述べる。HFpEF治療の新展開:フィネレノンの登場第4回で述べたように、HFpEF治療においてSGLT2阻害薬が不動の地位を確立した。これに加え、2025年7月、米国・FDAは非ステロイド性ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(nsMRA)であるフィネレノン(商品名:ケレンディア)を、左室駆出率(LVEF)≧40%の心不全患者に対する適応で承認した。本邦でも、2025年12月22日、慢性心不全への適応追加が承認された。この承認の根拠となったFINEARTS-HF試験では、HFpEF/HFmrEF患者6,001例(左室駆出率(LVEF)≧40%、NYHA II~IV度)を対象に、標準治療へのフィネレノン上乗せ効果が検証された1)。中央値2.7年の追跡期間において、主要評価項目である心血管死および心不全イベント総数(初発および再発の心不全入院、緊急心不全受診)の複合は、フィネレノン群でプラセボ群と比較して16%有意に減少した。また、フィネレノンは従来のステロイド性MRA(商品名:スピロノラクトン、エプレレノン)と比較してMRへの選択性が高く、性ホルモン関連の副作用(女性化乳房など)が少ないことが特徴である2)。なお、本試験ではプラセボと比較して高カリウム血症の頻度は増加したが、従来のステロイド性MRAと比較して高カリウム血症リスクが低い可能性が示唆されてきた点や、忍容性の観点から実臨床での使いやすさが期待される薬剤と位置付けられる。フィネレノンの登場により、HFpEF/HFmrEFにおいても「SGLT2阻害薬+MRAを基盤とした治療」が現実的な標準治療戦略となりつつある。とくにCKDや糖尿病を併存する症例では、心不全イベント抑制とともに心腎双方のアウトカム改善を期待できる点で臨床的意義は大きい。第4回で述べた「SGLT2阻害薬を基盤とし、表現型に応じた治療を追加する」というHFpEF治療の新パラダイムにおいて、フィネレノンが加わることで、「SGLT2阻害薬+MRAを基盤とした治療」へと進化したといえる。なお、ステロイド性MRAのHFpEF患者に対する有効性は、TOPCAT試験の結果を受け※、SPIRRIT試験(NCT02901184)、SPIRIT-HF試験(NCT04727073)にて改めて検証中である。今後、nsMRAとステロイド性MRAの位置付けや使い分けが、HFpEF/HFmrEF領域における重要な論点となるだろう。※TOPCAT試験にて、HFpEFに対するMRAの有効性が検証されたが、結果は、心血管死、蘇生できた心停止、心不全入院の主要複合エンドポイントの有意な低下は認めなかったが…続きはこちら副次エンドポイントの1つである心不全入院については有意な低下を認めた(HR:0.83、95%信頼区間[CI]:0.69~0.99、p=0.043)。心不全入院は、本試験の主要複合エンドポイントの中で最も高頻度に発生したイベントでもあり、心不全入院率低下、それによるQOL改善効果については有用性が期待できる結果であったといえる。また、本試験は事後解析でHFpEFに対するMRAの有効性に関する興味深いデータが多く報告されていることでも有名な試験である。その1つとして、本試験は、12ヵ月以内の心不全(各施設の診断)の入院歴(第1層)、またはこれを満たさない場合、60日以内のナトリウム利尿ペプチド上昇(BNP≧100pg/mLあるいはNT-proBNP≧360pg/mL)(第2層)をエントリー条件とした試験であるが、その第2層でエントリーされたサブグループにおいては、主要エンドポイントの低下が認められた4)。また、本試験は米国、カナダ、アルゼンチン、ブラジルというグループと、ロシア、グルジアというグループの間に心不全の重症度や試験開始後の収縮期血圧4)、イベント発生に大きな差があっただけでなく、前者のグループでは1次エンドポイントに有意差が認められた5)。さらには、スピロノラクトンを内服していれば血中に認めるはずの代謝産物が、ロシアの症例では認めない症例の割合が30%とかなり多かったという報告があり(米国やカナダの症例では3%のみ)、ロシアの症例ではアドヒアランスがかなり悪かった(スピロノラクトン群であるにもかかわらずスピロノラクトンがしっかり内服されていなかった)可能性も指摘されている6)。心不全に対する遺伝子治療の進歩心不全に対する遺伝子治療は、これまでSERCA2a(筋小胞体Ca2+-ATPase)を標的としたCUPID試験シリーズが先駆的に行われてきた。CUPID第I/II相試験では、AAV1ベクターを用いたSERCA2a遺伝子の冠動脈内投与が安全に実施され、予備的な有効性シグナルが観察された7-9)。しかし、続く第IIb相試験(CUPID2)では主要評価項目を達成できなかった。その原因として、AAV1ベクターの心臓向性(cardiotropism)の限界、投与量の不足、既存の中和抗体の影響などが指摘されている。2025年、Nature Medicine誌に新たな遺伝子治療AB-1002のfirst-in-human第I相試験結果が報告され、心不全遺伝子治療に再び期待が高まっている10)。AB-1002は、心臓向性を強化したキメラAAVベクター(AAV2i8)を用いて、恒常活性型プロテインホスファターゼ1阻害因子(I-1c)を心筋細胞に導入する治療法である。心不全患者では、プロテインホスファターゼ1(PP1)の活性が亢進し、ホスホランバン(phospholamban:PLN)の脱リン酸化が進行してSERCA2a活性が低下する。I-1cはPLNの脱リン酸化を抑制することでSERCA2a活性を回復させ、カルシウムサイクリングを正常化する。すなわち、CUPID試験がSERCA2aの「発現量増加」を目指したのに対し、AB-1002は「活性回復」という異なるアプローチを採用している。本試験では、非虚血性心筋症によるNYHA III度心不全患者11例(LVEF 15~35%)を対象に、冠動脈内投与によるAB-1002の単回投与が実施された10)。低用量群と高用量群の2コホートで検討され、12ヵ月の追跡が行われた。主要評価項目である安全性について、治療に起因する重篤な有害事象は認められず、1例の死亡(治療との関連なしと判定)を除き、有害事象は軽度から中等度であった。高用量群で一過性の肝酵素上昇が観察されたが、自然軽快している。有効性評価では、両群でNYHAクラスの改善、LVEFの改善、peak VO2や6分間歩行距離の改善傾向が観察された。もちろん、長期有効性、安全性、費用対効果といった課題は残されている。しかしAB-1002は、「心不全を遺伝子レベルで修飾する時代」が現実味を帯びてきたことを示す重要な一歩であり、現在進行中の第II相GenePHIT試験(NCT05598333)を含め、今後の大規模試験の結果が強く待たれる。(表1)AAVベクターを用いた心不全遺伝子治療の臨床開発の歩み画像を拡大する炎症を標的とした新規治療心不全の病態生理において炎症が重要な役割を果たすことは古くから知られていたが、初期の抗炎症療法は期待された結果を示せなかった。TNF-α阻害薬を用いたATTACH試験およびRENEWAL試験は、いずれも有効性を示すことができず、むしろ高用量群では有害事象の増加が観察された11-13)。これらの失敗は、心不全における炎症制御の複雑さを示すとともに、より選択的な標的の必要性を浮き彫りにした。近年、インターロイキン(IL)シグナルを標的とした治療戦略に注目が集まっている。IL-1βに対するモノクローナル抗体カナキヌマブ(商品名:イラリス)を用いたCANTOS試験では、心筋梗塞の既往歴がある高感度C反応性蛋白(hsCRP)値2mg/L以上の患者において主要心血管イベントの有意な減少が示され、さらに心不全入院リスクの低下も観察された14)。この結果を受けて、心不全患者を対象としたIL-1阻害薬anakinra(国内未承認)の複数の第II相試験が実施され、運動耐容能や炎症マーカーの改善が報告されている15)。TNF-α阻害薬が失敗に終わった一方で、IL-1βやIL-6が注目されている背景には、これらのサイトカインが動脈硬化・心不全リモデリングにおける慢性炎症ネットワークの”ハブ”として機能しているという病態理解の進展がある。すなわち、全体の炎症反応を無差別に抑え込むのではなく、病態の中核となるシグナルを選択的に制御する方向に戦略がシフトしているといえる。さらに、IL-6を直接標的とした大規模臨床試験が複数進行中である。IL-6リガンド阻害薬ziltivekimabは、動脈硬化性心血管疾患の既往を有するCKD患者(hsCRP≧2mg/L)を対象としたZEUS試験(NCT05021835)、HFpEF/HFmrEF患者(hsCRP≧2mg/L)を対象としたHERMES試験(NCT05636176)、急性心筋梗塞入院患者を対象としたARTEMIS試験(NCT06118281)などで検証中である。2025年に発表されたACC Scientific Statementは、心血管疾患における炎症の役割を包括的にまとめ、今後の抗炎症療法の方向性を示している16)。IL-6阻害薬の心不全に対する大規模試験結果は2026年後半から2027年にかけて報告される見込みであり、心不全治療における炎症制御の意義が明らかになることが期待される。デバイス治療の新たな展開:心臓収縮力調節療法心臓収縮力調節(Cardiac Contractility Modulation:CCM)療法は、心臓の絶対不応期に非興奮性電気刺激を与えることで心筋収縮力を増強する植込み型デバイス治療である。心臓再同期療法(CRT)の適応とならないQRS幅正常(<130ms)の症候性心不全患者に対する新たな治療選択肢として注目されている17)。CCM療法の作用機序は、非興奮性電気刺激により細胞内カルシウムハンドリングが改善され、心筋収縮力が増強されることに加え、心不全で異常発現している複数の遺伝子発現を正常化することにあるとされる18)。興味深いことに、このカルシウムハンドリングの改善という点で、前述の遺伝子治療AB-1002と共通する機序を有している。FIX-HF-5C試験およびFIX-HF-5C2試験の結果から、CCM療法はLVEF 25~45%の症候性心不全患者において、運動耐容能(peak VO2)とQOL(Minnesota Living with Heart Failure Questionnaire)を有意に改善することが示されている19)。また現在、HFpEF/HFmrEF患者(LVEF 40~70%)を対象としたAIM HIGHer試験(NCT05064709)が進行中であり、GDMT抵抗性のHFpEF/HFmrEF患者に対するCCM療法の有効性が検証されている。第4回で述べたように、HFpEF/HFmrEFにおいても収縮障害が潜在している可能性があり、CCM療法による収縮力増強が有効であるかどうか結果が楽しみである20,21)。また、HFrEF患者を対象としたCCM療法とICDを組み合わせたCCM-Dシステムの第III相INTEGRA-D試験(NCT05855135)も2025年に組み入れを完了しており、心不全症状の軽減と突然死予防の両立を目指した新たなデバイス戦略として期待されている。おわりに:次の10年に向けて1年間の連載を通じて、心不全診療が近年急速に進歩していることをお伝えしてきた。HFrEFに対する「4本柱」の確立、HFpEFに対するSGLT2阻害薬とフィネレノンの登場、インクレチン製剤による肥満合併HFpEFへの新たなアプローチ、そして特定の心筋症に対する分子標的治療(例:マバカムテン、ブトリシラン、アコラミディス)など、治療選択肢は着実に広がっている。今後の10年を展望すると、本稿で紹介した遺伝子治療や抗炎症療法といった病態修飾治療の実用化、精密医療(Precision Medicine)の進展、そしてデバイス治療のさらなる進化が期待される。とくに、心不全の表現型(phenotype)に基づいた個別化治療戦略の確立は、治療反応性を最大化し、非反応者を最小化するために不可欠である。画像を拡大する心不全治療は今も進化の途上にあり、その最前線はこれからも更新され続けるだろう。本連載が、その変化を少しでも臨床現場につなぐ一助となっていたなら望外の喜びである。最後に、本連載を1年間ご愛読いただいた先生方に心より感謝申し上げる。心不全診療は依然として多くの課題を抱えているが、エビデンスに基づいた最適な治療を患者一人ひとりに提供することで、予後改善とQOL向上を実現できると確信している。読者の先生方とともに、今後も心不全診療のさらなる発展に貢献していきたい。 1) Solomon SD, et al. N Engl J Med. 2024;391:1475-1485. 2) Agarwal R, et al. Eur Heart J. 2021;42:152-161. 3) Pitt B, et al. N Engl J Med. 2014;370:1383-1392. 4) Shah AM, et al. Circulation. 2015;132:402-414. 5) Rossignol P, et al. Circulation. 2015;131:7-10. 6) de Denus S, et al. N Engl J Med. 2017;376:1690-1692. 7) Hajjar RJ, et al. J Card Fail. 2008.;14:355-367. 8) Jessup M, et al. Circulation. 2011;124:304-313. 9) Zsebo K, et al. Circ Res. 2014;114:101-108. 10) Henry TD, et al. Nat Med. 2025;31:3845-3852. 11) Chung ES, et al. Circulation. 2003;107:3133-3140. 12) Mann DL, et al. Circulation. 2004;109:1594-1602. 13) Lincoff AM, et al. JAMA. 2003;289:853-863. 14) Ridker PM, et al. N Engl J Med. 2017;377:1119-1131. 15) Hartrampf N, et al. Science. 2020;368:980-987. 16) Mensah GA, et al. J Am Coll Cardiol. 2025;S0735-1097:07555-2. 17) Pipilas DC, et al. J Soc Cardiovasc Angiogr Interv. 2023;2(6Part B):101176. 18) Butter C, et al. J Am Coll Cardiol. 2008;51:1784-1789. 19) Abraham WT, et al. JACC Heart Fail. 2018;6:874-883. 20) Talha KM, et al. J Card Fail. 2022 Dec;28:1717-1726. 21) Tschope C, et al. ESC Heart Fail. 2020;7:3531-3535.

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緑内障点眼薬の治療継続率、製品間で大きな差

 自覚症状に乏しく進行が緩やかな緑内障では、点眼治療を長期にわたって継続することが困難であることが大きな課題とされてきた。今回、日本の大規模医療保険レセプトデータを用いた解析により、同じ薬剤クラスであっても、緑内障点眼薬の治療継続率は製品によって大きく異なることが示された。研究は東京大学大学院薬学系研究科育薬学教室の壁矢健司氏、佐藤宏樹氏らによるもので、詳細は11月28日付で「BMC Ophthalmology」に掲載された。 緑内障は日本における不可逆的な失明の主因であり、QOL低下など医療費に反映されない社会的負担も大きい。治療の基本は点眼薬による眼圧下降で、作用機序の異なる多様な薬剤が用いられている。一方、緑内障は自覚症状に乏しく進行が緩徐なため、点眼治療の継続率は低い。近年、製剤や容器の改良などにより、治療継続性は同一薬剤クラス内でも製品によって異なる可能性が示唆されてきた。しかし、個々の製品レベルで継続率を体系的に評価した研究はなく、臨床での製品選択を支える情報は乏しい。このような背景を踏まえ、本研究は、日本の医療保険レセプトデータを用い、緑内障点眼薬の実臨床における治療継続性を製品別・製剤特性別・患者背景別に明らかにすることを目的とした。 本研究では、株式会社JMDCが提供する、日本の0~74歳を対象とした医療保険レセプトデータ(2005年1月~2024年6月)を後ろ向きに解析した。外来で緑内障点眼薬を処方された患者のうち、原則として単一製品を継続使用した症例を抽出した。直前の処方の推定されるカバー終了日から観察終了日までに90日以上空いた場合を治療中断と定義し、最長5年間の年次治療継続率を算出した。継続率は製品、薬剤クラス、投与回数、年齢、性別ごとに評価し、多変量ロジスティック回帰分析で関連因子を検討した。感度分析や薬剤変更・併用を含む追加解析も行った。 データ精査後、7万3,027人の調剤記録が抽出され、解析に用いられた。対象患者の大半は男性で、年齢層では50代が最も多かった。全患者における治療継続率は、1年時点で57.5%(2万6,170/4万5,544人)で、その後徐々に低下し、5年時点では23.8%(2,060/8,667人)となっていた。 年齢、性別、薬剤クラス、1日の点眼回数を説明変数とした多変量ロジスティック回帰分析では、女性(回帰係数〔B〕=0.210)、60代(B=0.247)、および点眼回数が少ないこと(点眼回数が1回増えるごとにB=−0.660)が、いずれも治療継続率の高さと有意に関連していた(すべてP<0.001)。 最も多く処方された薬剤クラスはプロスタノイド受容体作動薬で、次いでβ遮断薬であり、両クラスで全処方の約80%を占めていた。薬剤クラス別の解析では、プロスタノイド受容体作動薬およびβ遮断薬との配合剤において、他の薬剤クラスと比べて相対的に高い治療継続率が示された。さらに、同一の薬剤クラス内であっても、製品ごとに1年および5年時点の継続率には大きなばらつきが認められた。 一方、薬剤変更や複数点眼を許容したサブ解析では、全体的な継続率が主要解析よりも14~19%ポイント高かった。炭酸脱水酵素阻害薬を含む治療や、1日2~3回投与の治療レジメンにおいて、単剤・固定条件下の解析と比べて継続率が特に高かった。 著者らは、「今回、国内の緑内障点眼薬の製品別治療継続率を初めて網羅的に解析した。解析の結果、製品ごとの継続率は同じ薬剤クラスでも40%ポイント以上の差があることがわかった。これは点眼容器や製剤の違いが使いやすさに影響し、治療を続けるかどうかの決定に関与していることを示唆している。これらの知見は、臨床現場で製品を選択する際に、使いやすさを慎重に考慮することの重要性を強調するものである」と述べている。 本研究の限界として、解析対象には緑内障患者の多くを占める75歳以上の高齢者は含まれていない為、結果の一般化には注意が必要である点や、本研究における治療継続率はレセプト上の処方継続を指標としたものであり、実際の点眼実施状況(服薬コンプライアンス)を直接評価したものではない点などを挙げている。

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診療科別2025年下半期注目論文5選(循環器内科編)

Transcatheter or Surgical Aortic-Valve Replacement in Low-Risk Patients at 7 YearsLeon MB, et al. N Engl J Med. 2025 Oct 27. [Epub ahead of print]<PARTNER 3試験>:TAVI vs.外科的弁置換、低手術リスクの大動脈弁狭窄症の7年追跡結果重症の大動脈弁狭窄症を持つ低手術リスク患者に対して、従来の外科手術とカテーテルを使ったTAVI(経カテーテル的大動脈弁置換術)を比較した研究。TAVIは手術と同等の安全性と有効性を示し、回復が早く入院期間も短いことが確認されました。長期的にも弁の機能や耐久性に差はなく、低リスク患者においてTAVIが有力な選択肢となることを示しました。TAVIの適応拡大が加速するものと思われます。Antithrombotic Therapy after Successful Catheter Ablation for Atrial FibrillationVerma A, et al. N Engl J Med. 2025 Nov 8. [Epub ahead of print]<OCEAN試験>:アブレーション後の抗血栓薬は減弱化するか心房細動カテーテルアブレーションの成功から1年以上経過し、再発なしの患者を対象に、DOACであるリバーロキサバンと低用量アスピリンを比較しています。3年間の追跡の結果、脳梗塞や無症候性の新規虚血性病変の発生率は両群で同等で、リバーロキサバン群は出血リスクが高い傾向でした。アブレーション成功例では術後に抗凝固薬から抗血小板薬へ切り替える選択肢の妥当性を示し、現行ガイドラインの見直しにつながる可能性があります。Aficamten or Metoprolol Monotherapy for Obstructive Hypertrophic CardiomyopathyGarcia-Pavia P, et al. N Engl J Med. 2025;393:949-960.<MAPLE-HCM試験>:症候性の閉塞性肥大型心筋症に新薬aficamten登場有症候の閉塞性肥大型心筋症患者を対象に、aficamten(心筋ミオシン阻害薬)とβ遮断薬メトプロロールとを比較しています。aficamten群では、運動能力や息切れなど生活の質が改善し、心臓の負担も軽減されました。重篤な有害事象の発現に差はなく、安全性も良好でした。臨床的には1次治療として使用する新たな戦略の可能性を示し、今後ガイドラインへの影響も予想されます。Evolocumab in Patients without a Previous Myocardial Infarction or StrokeBohula EA, et al. N Engl J Med. 2025 Nov 8. [Epub ahead of print]<VESALIUS-CV試験>:PCSK9阻害薬エボロクマブによる1次予防の可能性心筋梗塞や脳卒中の既往がない動脈硬化や糖尿病のある患者を対象に、標準的な脂質治療に加えてPCSK9阻害薬であるエボロクマブとプラセボを比較。エボロクマブは重篤な心血管イベントの発生を統計学的有意に減少させました。一方、安全性に関しては懸念される問題はとくにありませんでした。これまで2次予防を対象としていたPCSK9阻害薬が、1次予防への選択拡大の可能性という臨床的意義を持ちます。Nationwide Trends in Coronary Revascularization in Japan, 2017 to 2023: From Decline to PlateauKohsaka S, et al. J Am Coll Cardiol. 2025;86:2391-2394.<J-PCIレジストリ・JCVSDデータ解析>:日本のPCI・CABG数の動向、エビデンスが必ずしも迅速に実臨床へ反映されず2017~23年の日本における安定冠動脈疾患に対する冠血行再建(PCI・CABG)の全国的動向をJ-PCIおよびJCVSDデータから解析。2017年以降減少傾向でしたが、2020年第3四半期から減少傾向が頭打ちに。この転換点は、エビデンスに基づく医療への移行よりも、臨床的慣性とCOVID-19後の診療回復が作用したと考えられます。エビデンス(ISCHEMIA試験)やガイドライン改訂が必ずしも迅速に実臨床へ反映されないことを示唆しています。

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左室駆出率が正常な急性心筋梗塞患者にβ遮断薬は有益ではない(解説:佐田政隆氏)

 急性心筋梗塞後の患者で、左室駆出率が40%未満の場合にβ遮断薬が有効であることは議論の余地がない。一方、駆出率の低下を伴わない心筋梗塞後に対しても、現在の各国ガイドラインではβ遮断薬の使用を推奨している。しかし、その根拠となったエビデンスは、再灌流療法や、スタチンやレニン・アンジオテンシン系阻害薬などの心保護薬の使用も一般的ではない1990年代までの臨床試験に基づくものであった。最近は、急性期再灌流療法の普及で、左室駆出率が良好なまま回復する症例が増え、本当にそのような場合に漫然と長期間β遮断薬を投与したほうがよいかどうかは、エビデンスがないのが現状であった。 そこで、最近、左室駆出率が40%以上の急性心筋梗塞を対象にβ遮断薬の有効性を検討する臨床試験が各国で行われた。そのメタ解析が2025年11月、American Heart Association 2025で発表され、同日New England Journal of Medicine誌に掲載された。スペインで行われたREBOOT試験(7,459例)、スウェーデン、エストニア、ニュージーランドで行われたREDUCE-AMI試験(4,967例)、ノルウェーで行われたBETAMI試験(2,441例)、デンマークで行われたDANBLOCK試験(2,277例)、日本で行われたCAPITAL-RCT試験(657例)の統合解析で、急性心筋梗塞(ST上昇型・非ST上昇型)後14日以内で左室駆出率が50%以上、高血圧や不整脈などβ遮断薬の積極的な適応がない患者を対象にしている。主要評価項目(全死因死亡、心筋梗塞、心不全の複合エンドポイント)について、β遮断薬群と非投与群で有意差は認められなかった(β遮断薬群:8.1%、非投与群:8.3%、HR:0.97、95%CI:0.87~1.07)。本試験で、左室駆出率が正常な急性心筋梗塞患者では、β遮断薬の有益性が否定されたことになる。 一方、BETAMI試験、DANBLOCK試験、REBOOT試験、CAPITAL-RCT試験のメタ解析では、心不全の徴候がなく左室駆出率が軽度低下(40~49%)した急性心筋梗塞患者において、β遮断薬は総死亡、再梗塞、心不全を減少させることが2025年欧州心臓病学会で発表された(Rossello X, et al. Lancet. 2025;406:1128-1137.)。 このような最近のエビデンスに基づき、急性心筋梗塞患者に対するガイドラインは改訂されていくものと思われる。

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新たな作用機序の緑内障・高眼圧症点眼薬「セタネオ点眼液0.002%」【最新!DI情報】第52回

新たな作用機序の緑内障・高眼圧症点眼薬「セタネオ点眼液0.002%」今回は、緑内障・高眼圧症治療薬「セペタプロスト(商品名:セタネオ点眼液0.002%、製造販売元:参天製薬)」を紹介します。本剤は、FPおよびEP3受容体に結合・刺激することで眼圧を下降させる新たな作用機序の点眼薬であり、新たな緑内障・高眼圧症の治療選択肢として期待されています。<効能・効果>緑内障、高眼圧症の適応で、2025年8月25日に製造販売承認を取得し、2025年10月23日に発売されました。<用法・用量>1回1滴、1日1回点眼します。<安全性>重大な副作用として、虹彩色素沈着(0.3%)があります。その他の副作用として、結膜充血(29.6%)、睫毛の異常(睫毛が長く、太く、多くなるなど)(18.2%)、眼瞼部多毛(5%以上)、眼瞼色素沈着、眼瞼炎、点状角膜炎などの角膜障害、眼乾燥感、眼刺激(いずれも1~5%未満)、眼のそう痒感、結膜浮腫、眼脂(いずれも1%未満)、黄斑浮腫、眼瞼溝深化(いずれも頻度不明)があります。<患者さんへの指導例>1.この薬は、緑内障や高眼圧症の治療に使用する点眼薬です。眼圧を調節する水分の排出を促進して眼圧を下げます。2.ソフトコンタクトレンズを装着している場合は、必ずレンズを外してから点眼してください。点眼後は5~10分以上間隔を空けてからレンズを再装着してください。3.点眼液が目の周りについたままになると、目の周りが黒ずむ、毛が濃くなる、まつげが長く太くなるなどの副作用が起こることがあります。濡らしたガーゼやティッシュで目の周囲をよくふき取るか、目を閉じて洗顔してください。<ここがポイント!>緑内障は、「視神経と視野に特徴的変化を有し、通常、眼圧を十分に下降させることにより視神経障害を改善もしくは抑制しうる眼の機能的構造的異常を特徴とする疾患」と定義されています(緑内障診療ガイドライン)。緑内障は放置すると徐々に視野が狭まり、最終的には失明に至る可能性があり、わが国において中途失明の原因の第1位です。緑内障の視野障害の進行を抑制する唯一確実な治療法は眼圧の下降であり、眼圧下降薬による薬物治療が治療の中心となっています。第一選択薬としては、房水流出を促進するFP受容体作動薬やEP2受容体作動薬、房水産生を抑制するβ遮断薬が用いられます。治療は通常、単薬療法から開始されますが、効果が不十分な場合には多剤併用(配合点眼薬を含む)が行われます。ただし、多剤併用により点眼回数が増加すると、副作用の増加、アドヒアランスやQOLの低下などが懸念されるため、新たな作用機序を有する強力な眼圧下降薬の開発が進められてきました。本剤は、有効成分としてセペタプロストを含有する水性点眼薬です。セペタプロストは、プロドラッグであり、点眼後は主に角膜中で速やかに加水分解され、FPおよびEP3受容体に結合・刺激することで眼圧を下降させます。その眼圧降下作用は、ぶどう膜強膜流出路および線維柱帯流出路を介した房水流出促進によるものです。両眼が原発開放隅角緑内障または高眼圧症の患者を対象とした多施設共同無作為化評価者遮蔽並行群間比較試験(第III相検証試験)において、主要評価項目である点眼後4週におけるベースラインからの平均日中眼圧変化量(最小二乗平均値[LS Mean])は、本剤群で-5.77mmHg、ラタノプロスト点眼液群で-6.10mmHgでした。MMRM解析における投与群間差(本剤群-ラタノプロスト点眼液群)は0.32mmHg(95%信頼区間:-0.120~0.769mmHg)であり、信頼区間の上限値は非劣性マージンとして事前に規定した1.5mmHgを超えず、本剤群のラタノプロスト点眼液群に対する非劣性が検証されました。なお、信頼区間の上限値は0mmHg以上であったことから、本剤群のラタノプロスト点眼液群に対する優越性は検証されませんでした。

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心筋梗塞後のβ遮断薬、LVEF保持例の死亡・再発・心不全を抑制せず/NEJM

 左室駆出率(LVEF)が50%以上に保たれ、β遮断薬のほかに適応がない心筋梗塞後の患者において、β遮断薬の投与は非投与の場合と比較して、全死因死亡、心筋梗塞、心不全の複合の発生率を低減しないことが、デンマーク・コペンハーゲン大学病院のAnna Meta Dyrvig Kristensen氏らBeta-Blocker Trialists’ Collaboration Study Groupが行ったメタ解析の結果で示された。研究の詳細は、NEJM誌オンライン版2025年11月9日号で発表された。5つの無作為化試験の約1万8,000例を解析 研究グループは、心筋梗塞後のβ遮断薬の有効性の評価を目的とする、5つの研究者主導型非盲検無作為化優越性試験(β遮断薬群と非β遮断薬群を比較)の参加者の個別データを用いたメタ解析を実施した(Centro Nacional de Investigaciones Cardiovasculares Carlos IIIなどの助成を受けた)。 5つの試験から、心筋梗塞を発症し、LVEFが50%以上に保持され、β遮断薬以外に適応がない参加者の個別患者データを収集した。 主要エンドポイントは、全死因死亡、心筋梗塞、心不全の複合とした。1段階固定効果Cox比例ハザードモデルを用いてイベント発生率を解析した。 REBOOT(7,459例)、REDUCE-AMI(4,967例)、BETAMI(2,441例)、DANBLOCK(2,277例)、CAPITAL-RCT(657例、日本の試験)の各試験に参加した合計1万7,801例を解析の対象とした。β遮断薬群が8,831例、非β遮断薬群が8,970例であった。主要エンドポイント個々の発生率にも差はない 全体の年齢中央値は62歳(四分位範囲[IQR]:55~71)、女性が20.7%で、8.1%に心筋梗塞の既往歴があり、2.0%が心房細動を有していた。また、45.7%がST上昇型心筋梗塞で、94.4%が経皮的冠動脈インターベンション(PCI)を受けていた。 追跡期間中央値3.6年(IQR:2.3~4.6)の時点で、主要エンドポイントのイベントは、β遮断薬群で717例(8.1%)、非β遮断薬群で748例(8.3%)に発生し、両群間に差を認めなかった(ハザード比[HR]:0.97、95%信頼区間[CI]:0.87~1.07、p=0.54)。 主な副次エンドポイントである主要エンドポイントの3つの構成要素の発生率にも、両群間で有意な差はなかった(全死因死亡:β遮断薬群3.8%vs.非β遮断薬群3.6%[HR:1.04、95%CI:0.89~1.21]、心筋梗塞:4.1%vs.4.5%[0.89、0.77~1.03]、心不全:0.8%vs.1.0%[0.87、0.64~1.19])。安全性エンドポイントも同程度 安全性のエンドポイントである虚血性脳卒中は、β遮断薬群で115例(1.3%、0.37件/100人年)、非β遮断薬群で94例(1.0%、0.30件/100人年)に発生した(3年追跡時の制限付き平均無イベント生存期間の群間差:2.6日、95%CI:-0.73~4.4)。また、高度房室ブロックが、それぞれ69例(0.8%、0.23件/100人年)および68例(0.8%、0.23件/100人年)にみられた(HR:1.03、95%CI:0.73~1.44)。 著者は、「心筋梗塞患者では、LVEF低下例に比べLVEF保持例は、梗塞範囲が小さく、心筋瘢痕も少ない可能性があり、心室性不整脈や突然死に対する脆弱性が低いと考えられるため、この患者集団では、心筋梗塞後のβ遮断薬の薬理学的効果は、重要性が低い可能性がある」「本研究では、β遮断薬の種類による明らかな差異は認めなかったが、非選択的β遮断薬(カルベジロール、プロプラノロールなど)を処方された患者は少なかった。また、5つの試験のすべてで、全般にβ遮断薬の用量は低く、これは現在の実臨床を反映したものと考えられる」としている。

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ベルイシグアトはHFrEF治療のファンタスティック・フォーに入れるか?―VICTOR試験(解説:原田和昌氏)

 可溶性グアニル酸シクラーゼ刺激薬であるベルイシグアトは、左室駆出率の低下した心不全(HFrEF)患者で、かつ、直近の心不全増悪があった患者に対するVICTORIA試験で、心血管死ならびに心不全入院からなる複合エンドポイントを10%有意に減少させた。しかし、心血管死単独、心不全入院単独では有意差を認めなかった。そのため、心不全のガイドラインでは、十分なガイドライン推奨治療にもかかわらず心不全増悪を来したNYHA心機能分類II~IVのHFrEF患者の心血管死または心不全入院の抑制を目的として、ベルイシグアトの使用が認められている(クラスIIa)。 VICTOR試験は、6ヵ月以内の入院歴や3ヵ月以内の外来での利尿薬静注といった直近の心不全増悪の認められない、NT-proBNP 600~6,000pg/mLのHFrEF患者に対するベルイシグアトの有効性を調べた二重盲検ランダム化比較試験である。ベルイシグアトの適応をより安定した外来患者に広げることを目的としたものであったが、複合エンドポイント(心血管死または心不全入院までの期間)は有意に低下しなかった。 6,105例が無作為化され、2,899例(47.5%)には心不全による入院歴がなかった。β遮断薬(94.5%)、ARNI(56.0%)、SGLT2阻害薬(59.1%)、MRA(77.8%)、CRT(14.8%)が導入されており、追跡期間中央値18.5ヵ月において主要エンドポイントは、ベルイシグアト群549例(18.0%)、プラセボ群584例(19.1%)で、両群間に統計学的有意差はみられなかった(ハザード比[HR]:0.93、95%信頼区間[CI]:0.83~1.04、p=0.22)。そのため、副次エンドポイントは名目上の値として報告された。心血管死は、ベルイシグアト群292例(9.6%)、プラセボ群346例(11.3%)であった(HR:0.83、95%CI:0.71~0.97)。心不全による入院は、ベルイシグアト群348例(11.4%)、プラセボ群362例(11.9%)であった(HR:0.95、95%CI:0.82~1.10)。全死因死亡は、ベルイシグアト群377例(12.3%)、プラセボ群440例(14.4%)であった(HR:0.84、95%CI:0.74~0.97)。有害事象に差はなかった。 著者らは、これだけファンタスティック・フォーが処方されたうえで、心血管死、全死因死亡などの副次エンドポイントも十分な統計学的パワーと観察期間を有することから、探索的ではあるが有意な結果としてもよいのではないかと述べている。また、VICTOR試験とVICTORIA試験の事前規定された統合解析が報告され、主要エンドポイントの心血管死または心不全入院は、ベルイシグアト群で低く(HR:0.91、95%CI:0.85~0.98)、心血管死・全体および初回心不全入院、全死亡の副次エンドポイントも低かった。ベルイシグアトの臨床的有用性を否定するものではないが、主として心血管死、全死因死亡を減らす「目に見えない治療」という位置付けでは、ガイドラインの推奨レベルは上がらないかもしれない。

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経口選択的心筋ミオシン阻害薬aficamtenは症候性の閉塞性肥大型心筋症患者においてβ遮断薬よりも臨床的に有効である(解説:原田和昌氏)

 Cohen、Braunwaldらの約60年前のエキスパートオピニオンと限定的なエビデンスにより、β遮断薬は症候性閉塞性肥大型心筋症(HCM)の第1選択の治療として使い続けられてきた。一方、経口選択的心筋ミオシン阻害薬であるaficamtenの上乗せは標準治療と比較して左室流出路圧較差を軽減し、運動耐容能を改善してHCMの症状を軽減することが第III相二重盲検比較試験であるSEQUOIA-HCM試験により示された。今回、スペイン・CIBERCVのGarcia-Pavia氏らMAPLE-HCM研究者たちは、HCMの治療においてβ遮断薬単剤投与とaficamtenの単剤投与との臨床的有益性を比較する目的で、国際共同第III相二重盲検ダブルダミー無作為化試験であるMAPLE-HCM試験を実施した。 年齢18~85歳、左室壁厚が15mm以上(疾患の原因となる遺伝子変異またはHCMの家族歴がある場合は13mm以上)のHCMと診断され、LVEFが60%以上、かつ安静時の左室流出路圧較差が30mmHg以上、またはバルサルバ法で誘発時の左室流出路圧較差が50mmHg以上の患者175例を世界71施設で登録した。ダブルダミー法により、被験者をaficamten(漸増)+プラセボ群、またはメトプロロール(漸増)+プラセボ群に1対1の割合で無作為に割り付け、24週間投与した。aficamten群は88例、メトプロロール群は87例で、平均年齢58歳、58.3%が男性であった。ベースラインの安静時の平均左室流出路圧較差は47mmHg、誘発時の平均左室流出路圧較差は74mmHgで、平均LVEFは68%、NYHA心機能分類II群が70.3%を占めた。NT-proBNP値中央値は468pg/mLであった。 メトプロロール単剤に比べaficamten単剤は、主要エンドポイントである最高酸素摂取量の改善に関して優越性を示し、副次エンドポイントである症状の軽減や安静時および誘発時の左室流出路圧較差、NT-proBNP値、左房容積係数の改善と関連した。有害事象の発現状況は同程度であった。 現在のガイドラインではHCMに対してマバカムテンが推奨されているが、本試験の結果により、aficamtenはβ遮断薬中心の標準治療に代わって、HCMの第1選択ないしは単剤治療として推奨される可能性がある。逆に、β遮断薬はHCMの安静時および誘発時の左室流出路圧較差、NT-proBNP値、左房容積係数をいずれも改善しないことが明らかになった。もっとも、Braunwald先生らの名誉のために付け加えると、β遮断薬でKCCQ-CSSやNYHA心機能分類がわずかに改善する傾向はみられた。

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心不全はないが左室駆出率が軽度低下した急性心筋梗塞患者にβ遮断薬は有効(解説:佐田政隆氏)

 急性心筋梗塞後の患者で、左室駆出率が40%未満の場合にβ遮断薬が有効であることは議論の余地がない。一方、左室駆出率が40%以上で心不全がない急性心筋梗塞にβ遮断薬が有効であるかどうかは、今までほとんどRCTが行われてこなかった。 日本で行われて2018年にPLoS Oneに報告されたCAPITAL-RCT試験ではβ遮断薬の有効性は示されなかった。デンマークとノルウェーで行われたBETAMI-DANBLOCK試験が2025年8月30日のNEJM誌に報告されたが、β遮断薬は総死亡と主要心血管イベントを減少させた。一方、同日、同じNEJM誌にスペインとイタリアで行われたREBOOT試験の結果が報告されたが、総死亡、再梗塞、心不全入院にβ遮断薬は有効性を示さなかった。上記の4試験は、「左室駆出率が40%以上で心不全がない急性心筋梗塞」を対象に行われたが、その中の「左室駆出率が軽度低下した」サブグループの解析は、対象患者数が少なくて、個々の試験では統計的検定を行うに至らなかった。そこで、本研究では4研究のメタ解析を行った。 結果としては、心不全徴候がなく、左室駆出率が軽度低下(40~49%)した急性心筋梗塞患者において、β遮断薬は、総死亡、再梗塞、心不全を減少させることが明らかとなった。急性心筋梗塞後、左室駆出率が40%未満だけでなく、40~49%でもβ遮断薬投与が推奨されることになると思われる。 ただし、急性心筋梗塞後、とくに早期に再灌流療法が成功した場合には、急性期に低下していた左室壁運動が回復期に著明に改善することをしばしば目にする。上記の4試験では、急性心筋梗塞後14日以内に割り付けがなされているが、発症後何日目の左室駆出率をもとにしているかが大きな問題であると思われる。1回の心エコー図検査などで判断するのではなく、個々の症例で心機能の変化や残存狭窄の有無などを参考に、β遮断薬の適応を注意深く検討すべきであると考える。

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さまざまなリスクの左室駆出率の低下した心不全へのベルイシグアトの効果―VICTORIA・VICTOR試験統合解析より(解説:加藤貴雄氏)

 VICTORIA試験は、直近の心不全増悪があった左室駆出率の低下した心不全(HFrEF)患者に対する試験であり(Armstrong PW, et al. N Engl J Med. 2020;382:1883-1893.)、2025年8月の欧州心臓病学会で発表されたVICTOR試験は、6ヵ月以内の入院歴や3ヵ月以内の外来での利尿薬静注の「最近増悪した症例」を除外し、NT-proBNP 600~6,000pg/mL(心房細動は900~6,000pg/mL)を組み入れ基準とした試験で、可溶性グアニル酸シクラーゼ刺激薬であるベルイシグアトの二重盲検ランダム化比較試験である(Butler J, et al. Lancet. 2025;406:1341-1350.)。 VICTORIA試験では、プラセボ群よりも心血管死または心不全による入院の発生率が低かったが、VICTOR試験では、主要評価項目イベント(心血管死または心不全入院)はハザード比(HR)0.93(95%信頼区間[CI]:0.83~1.04、p=0.22)とプラセボ群との有意差は認めなかった。心血管死と全死亡(および、事後的に解析された突然死)はプラセボ群に比して低下を示したものの、心不全による入院はプラセボ群との差を認めなかった。 今回取り上げた論文(Zannad F, et al. Lancet. 2025;406:1351-1362.)は、そのVICTOR試験とVICTORIA試験の事前規定された統合解析である。アジア人が20%弱含まれ、過去の心不全入院歴のない患者が26%、NYHA心機能分類ではII度70%の背景であった。β遮断薬は94%、RAS系阻害薬も90%超(ARNIを含む)、MRAは74%で、SGLT2阻害薬はVICTORIA試験時代は投与率が低かったため、全体で34%であった。ICDは31%に入っていた。主要評価項目の心血管死または心不全入院は、ベルイシグアト群で低く(HR:0.91、95%CI:0.85~0.98)、心血管死・全体および初回心不全入院・全死亡の副次評価項目もベルイシグアト群でリスクを低下させた。治療効果は、ベースラインのNT-proBNPが低いほど大きく認められた。 この結果から、どのような患者がベルイシグアトの好適例となるかを考察する。心不全増悪や過去の心不全入院歴があってもなくてもGDMTが処方されたうえでも、HFrEFにとどまり、NYHA II度以上の症状があり、NT-proBNPが600pg/mLを超える患者は、心血管死または心不全入院の発生率がプラセボでも0.21/年であり、ベルイシグアトの投与対象となりうる患者と考えられる。したがって、外来通院中でも直近の悪化歴がなかったとしても、外来で入院していない=「安定している」とは考えず、BNP/NT-proBNPや症状の出現や増悪に注意しながら、常にGDMTの最適化や治療の見直しを行いつつ、上に記したようにHFrEFでNYHA II度以上の症状があり、NT-proBNPが600pg/mLを超える事態は、心不全診療において要注意のフェーズと考えられる。

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心筋梗塞後にβ遮断薬は今日でも標準治療薬か?正反対の結論を導いた2つのトライアル(解説:桑島巌氏)

 10年ほど前までは、β遮断薬は心筋梗塞発症後の再発予防と生命予後改善薬の標準治療薬の代表格として位置付けられており、その処方が行われていない場合には、その医療機関や担当医師がEvidence Based-Medicineを順守していないとみなされていた時代が長く続いた。しかし近年、急性心筋梗塞後の治療は、PCIによる血行再建術が普及し、アスピリンやクロピドグレルなどの抗血小板薬処方が必須となり、また高脂血症治療薬による厳格なコレステロール管理がなされるようになるなど、その状況は大きく変わった。 そのような時代の変遷の中で、β遮断薬は心筋梗塞後に必須の治療薬として残存しているのか。その問題に関しては、REDUCE-AMI試験(スウェーデン)では不要、ABYSS試験(フランス)では中止すべきではない、と異なった結論の臨床試験結果が発表されている。今回もまったく正反対の2つの大規模臨床試験結果が、NEJM誌8月30日号に並んで発表された。その2つの試験について対比させながら、コメントを試みる。 スペインとイタリアという南欧を代表する国から発表されたREBOOT-CNIC試験は、左室EFが40%以上の急性心筋梗塞8,438例をβ遮断薬を使用する群と使用しない群にランダム化して、3.7年追跡したオープン臨床試験である。主要エンドポイントである総死亡、心筋梗塞再発、心不全入院の発生率は、β遮断薬使用群22.5件(1,000 patient-years)、非使用群21.7件で、ハザード比(HR)は1.04(95%信頼区間[CI]:0.89~1.22)と両群に有意差は認められなかった。注目すべきは、両群共に対象者の約82%が完全血行再建を受けているということである。 一方、β遮断薬は今でも有効であるという結論を示したノルウェーのBETAMI-DANBLOCK試験を見てみよう。 本試験も、EF40%以上の心筋梗塞5,574例をβ遮断薬使用群と非使用群にランダム化してオープンラベルで3.5年追跡した試験である。 結果は、主要エンドポイントである総死亡、心筋梗塞再発、血行再建、脳梗塞、心不全、致死的心室性期外収縮の総合は、β遮断薬使用群14.2%、非使用群16.3%で、HRが0.85(95%CI:0.75~0.98、p=0.03)であり、β遮断薬使用群で有意に少なかったという結論であった。本試験でも両群共に約92%がPCIによる血行再建術を受けており、抗血小板薬も両群の約90%が処方されていた。 そこで両試験の結果をまとめてみたのが以下の表である。  以上をまとめると、心機能低下例では有効の可能性はあるがが、心不全のない例では血行再建が完全、かつ、脂質や血圧管理などが良好であれば必要はないかもしれない。しかし、すでにβ遮断薬を継続している症例では中止すべきではないであろう。

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LVEF保持/軽度低下例へのβ遮断薬、死亡・MACEの複合を抑制/NEJM

 ノルウェー・Drammen HospitalのJohn Munkhaugen氏らBETAMI-DANBLOCK Investigatorsは、左室駆出率(LVEF)が保持または軽度低下していた心筋梗塞後の患者において、β遮断薬の投与は非投与の場合と比較して、死亡または主要心血管イベント(MACE)のリスク低下に結びついたことを報告した。心筋梗塞後のβ遮断薬療法を支持するエビデンスは、現代の再灌流療法や2次予防戦略が導入される以前に確立されたものであり、研究グループは、「加えて、β遮断薬療法は狭心症症状の緩和、および心室性不整脈ならびに心不全の発症率の低下と関連している」として、類似するプロトコールが用いられていた心筋梗塞後のβ遮断薬療法に関する2つの試験(ノルウェー[BETAMI試験]とデンマーク[DANBLOCK試験])を統合評価した。NEJM誌オンライン版2025年8月30日号掲載の報告。β遮断薬療法適応あり患者を除外、長期β遮断薬療法vs.非β遮断薬療法を評価 2つの試験はいずれも非盲検無作為化エンドポイント評価者盲検にて行われ、被験者は、type 1心筋梗塞でLVEF≧40%、7日以内にインフォームド・コンセント(IC)を受けた患者(BETAMI試験)またはtype 1または2心筋梗塞でLVEF 40%超、14日以内にICを受けた患者(DANBLOCK試験)であった。両試験における主な除外基準は、心不全またはその他のβ遮断薬療法適応の診断を受けていたこと、ならびにβ遮断薬療法が禁忌であったこと。心筋梗塞前のβ遮断薬の投与は問われていなかった。 適格被験者は、1対1の割合で、イベント14日以内に長期β遮断薬療法群または非β遮断薬療法群に無作為に割り付けられた。 主要エンドポイントは、全死因死亡またはMACE(再梗塞、予定外の冠動脈血行再建術、虚血性脳卒中、心不全、または悪性心室性不整脈)発生の複合であった。追跡期間中央値3.5年後、主要エンドポイント発生は14.2%vs.16.3%で有意差 計5,574例が無作為化を受け主要解析に含まれた(β遮断薬療法群2,783例、非β遮断薬療法群2,791例)。 追跡期間中央値3.5年(四分位範囲:2.2~4.6)後、主要エンドポイントのイベント発生は、β遮断薬療法群394例(14.2%)、非β遮断薬療法群454例(16.3%)であった(ハザード比[HR]:0.85、95%信頼区間[CI]:0.75~0.98、p=0.03)。 エンドポイントを個別にみると、全死因死亡はそれぞれ4.2%と4.4%であり、再梗塞は5.0%と6.7%であった(HR:0.73、95%CI:0.59~0.92)。また、予定外の冠動脈血行再建術は3.9%と3.9%、虚血性脳卒中は1.6%と1.3%、心不全は1.5%と1.9%、悪性心室性不整脈は0.5%と0.6%であった。 安全性アウトカムに関する明らかな差は、両群間でみられなかった。 著者は、「本試験は、副次エンドポイントを統計学的に評価するようデザインされていなかったが、β遮断薬群に割り付けられた患者において再梗塞の発生率が低かったようであった」と考察している。

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LVEF軽度低下の心筋梗塞、β遮断薬の有用性は?/Lancet

 左室駆出率(LVEF)が低下した(<40%)心筋梗塞患者では、β遮断薬の有効性を強く支持するエビデンスがあるが、LVEFが低下していない(≧40%)心筋梗塞患者へのβ遮断薬療法に関しては、最近の4つの無作為化試験の結果は一致せず(有益性を認めたのは1試験のみ)、LVEFが軽度低下した(40~49%)サブグループにおける治療効果についてはどの試験も検出力不足であった。スペイン・Centro Nacional de Investigaciones Cardiovasculares Carlos III(CNIC)のXavier Rossello氏らは、LVEF軽度低下の心筋梗塞入院患者におけるβ遮断薬の有効性の評価を目的に行った個別の患者データを用いたメタ解析を実施。心不全の既往歴や臨床徴候がないLVEF軽度低下を伴う急性心筋梗塞患者において、β遮断薬療法は全死因死亡、新規心筋梗塞、心不全の複合エンドポイントの発生を減少させたことを示した。研究の成果は、Lancet誌2025年9月13日号で発表された。LVEFが40~49%の患者、4試験・1,885例を解析 研究チームは、心不全の既往歴や臨床徴候がなく、LVEFが軽度低下した(40~49%)心筋梗塞患者を対象に含め、発症後14日以内に無作為化を行い、経口β遮断薬療法の長期効果(追跡期間中央値1年超)を検討した無作為化対照比較試験の論文(2000年1月1日以降に発表)を調査した(本研究はCNICなどの助成を受けた)。 LVEF≧40%の心筋梗塞患者を対象とした4つの試験(REBOOT、BETAMI、DANBLOCK、CAPITAL-RCT[日本の67施設の試験、801例])に参加したLVEFが40~49%の患者1,885例(全体1万4,418例の13%)を解析に含めた。 主要エンドポイントは、全死因死亡、新規心筋梗塞、心不全の複合とした。 β遮断薬群が991例(年齢中央値63歳[四分位範囲[IQR]:55~71]、男性791例[80%]、LVEF中央値45.0%、PCI 95%)、非β遮断薬群が894例(同62歳[55~71]、735例[82%]、45.0%、96%)であった。追跡期間中央値は3.5年(IQR:2.3~4.5)。主要複合エンドポイントが有意に優れる 主要複合エンドポイントの発生率は、非β遮断薬群が14%(129/894例、43.0/1,000人年)であったのに対し、β遮断薬群は11%(106/991例、32.6/1,000人年)と有意に低かった(ハザード比[HR]:0.75[95%信頼区間[CI]:0.58~0.97]、p=0.031)。4つの試験間(交互作用のp=0.95)、および患者を登録した5ヵ国間(スペイン、イタリア、デンマーク、ノルウェー、日本)(p=0.98)で、治療効果の異質性は認めなかった。 5つの主な副次エンドポイントはいずれも、両群間に有意差はみられなかった。(1)全死因死亡(β遮断薬群6%[58例]vs.非β遮断薬群8%[69例]、HR:0.78[95%CI:0.55~1.11])、(2)新規心筋梗塞(4%[39例]vs.5%[46例]、0.77[0.50~1.18])、(3)心不全(3%[30例]vs.4%[39例]、0.71[0.44~1.14])、(4)心臓死(2%[14例]vs.3%[23例]、0.55[0.28~1.06])、(5)予期せぬ冠動脈血行再建術(4%[35例]vs.4%[38例]、0.83[0.52~1.31])。2つの安全性エンドポイントに差はない 2つの安全性のエンドポイントにも両群間で差はなかった。(1)脳卒中による入院(β遮断薬群1%[13例]vs.非β遮断薬群1%[7例]、HR:1.70[95%CI:0.68~4.25])。(2)症候性進行性(第2度または3度)房室ブロック(1%[12例]vs.1%[11例]、1.00[0.44~2.27])。 著者は、「これらの結果は、LVEFが低下した心筋梗塞患者におけるβ遮断薬療法の既知の有益性を、軽度に低下した患者サブグループにまで拡張するものである」「今後の研究は、LVEFが保持された(LVEF≧50%)患者に焦点を当てるべきである」としている。

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低リスク急性心筋梗塞、PCI後1ヵ月でアスピリンは中止可能か/NEJM

 低リスクの急性心筋梗塞で、血行再建術を受けた後、合併症の発現なく1ヵ月間の抗血小板薬2剤併用療法(DAPT)を完了した患者では、1年後(無作為化から11ヵ月後)の心血管・脳血管イベントの発生に関して、P2Y12阻害薬単剤療法はDAPTに対し非劣性であり、出血イベントの発生率は低減したことが示された。イタリア・University of Padua Medical SchoolのGiuseppe Tarantini氏らTARGET-FIRST Investigatorsが、多施設共同非盲検無作為化対照比較試験「TARGET-FIRST試験」の結果を報告した。研究の成果は、NEJM誌オンライン版2025年8月31日号で発表された。欧州40施設で1,942例を登録 TARGET-FIRST試験は、最新の薬剤溶出性ステント(DES)を用いた経皮的冠動脈インターベンション(PCI)を受け、虚血イベントや出血イベントのリスクが低い急性心筋梗塞患者の抗血小板療法において、DAPTを1ヵ月間行った時点でのアスピリン早期中止の、DAPT継続に対する非劣性を検証する目的で、2021年3月~2024年3月に、欧州の40施設で参加者を登録して行われた(フランス・MicroPortの助成を受けた)。 対象は、年齢18歳以上、急性心筋梗塞発症から7日以内に生体分解性ポリマーを用いたrapamycin(和名:シロリムス)溶出性ステント(MicroPort製)による血行再建術が成功し、その後1ヵ月間、虚血イベントや大出血イベントの発現なしにDAPT(P2Y12阻害薬[プラスグレル、チカグレロル、クロピドグレルから選択]+アスピリン)を完了した患者であった。 被験者を、アスピリンの投与を中止してP2Y12阻害薬単剤に移行する群、またはDAPTを継続する群に、1対1の割合で無作為に割り付け、11ヵ月間投与した。 1,942例を登録し、P2Y12阻害薬単剤群に961例、DAPT継続群に981例が無作為化された。PCI施行から無作為化までの期間中央値は37日であった。全体の平均(±SD)年齢は61.0(±10.6)歳、78.4%が男性で、14.5%が糖尿病、38.7%が高血圧、27.8%が高コレステロール血症を有していた。 無作為化の時点で、P2Y12阻害薬は74.0%でチカグレロル、20.9%でプラスグレル、5.1%でクロピドグレルが処方されていた。また、97.0%がスタチン、79.1%がβ遮断薬、76.7%がACE阻害薬またはARBの投与を受けていた。主要複合アウトカムは非劣性 主要アウトカムは、無作為化から11ヵ月の時点での全死因死亡、心筋梗塞、ステント血栓症、脳卒中、大出血(BARC出血基準タイプ3または5)の複合とした。非劣性マージンは1.25%ポイントと定義した。 11ヵ月後の主要アウトカムのイベントは、P2Y12阻害薬単剤群で20例(2.1%)、DAPT継続群で21例(2.2%)に発現し(群間差:-0.09%ポイント、95%信頼区間[CI]:-1.39~1.20、非劣性のp=0.02)、P2Y12阻害薬単剤群のDAPT継続群に対する非劣性が示された。 主要アウトカムの個別の構成要素のイベント発生状況は次のとおりだった。(1)全死因死亡(P2Y12阻害薬単剤群0.4%vs.DAPT継続群0.2%、ハザード比[HR]:2.04[95%CI:0.37~11.14])、(2)心筋梗塞(0.7%vs.1.1%、0.72[0.27~1.88])、(3)ステント血栓症(definiteまたはprobable)(0.1%vs.0%)、(4)脳卒中(0.3%vs.0.2%、1.53[0.26~9.18])、(5)大出血(0.7%vs.0.7%、1.02[0.36~2.91])。BARCタイプ2、3、5の出血イベントが有意に改善 主な副次アウトカムであるBARC出血基準タイプ2、3、5の出血イベントは、DAPT継続群で54例(5.6%)に発生したのに対し、P2Y12阻害薬単剤群では25例(2.6%)と有意に少なく(HR:0.46、95%CI:0.29~0.75、優越性のp=0.002)、P2Y12阻害薬単剤群の優越性を確認した。 重篤な有害事象の頻度は両群で同程度であり、P2Y12阻害薬単剤群で108例(11.2%)に144件、DAPT継続群で122例(12.4%)に157件が報告された。 著者は、「今回得られた知見は、虚血イベントや出血イベントのリスクが低い患者を慎重に選択した集団における、早期の解剖学的に完成度の高い血行再建術という特定の条件下で解釈すべきであり、広範で異質性の高い患者集団に直接的に一般化できるものではない」としている。

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閉塞性肥大型心筋症、aficamtenが有効/NEJM

 β遮断薬は、有効性に関するエビデンスが限定的であるにもかかわらず、症候性閉塞性肥大型心筋症(HCM)の初期治療に用いられてきた。心筋ミオシン阻害薬であるaficamtenは、標準治療への追加投与で左室流出路圧較差を軽減し、運動耐容能を改善してHCMの症状を軽減することが示されている。スペイン・Centro de Investigacion Biomedica en Red Enfermedades Cardiovaculares(CIBERCV)のPablo Garcia-Pavia氏らMAPLE-HCM Investigatorsは、HCMの治療におけるこれら2つの薬剤の単剤投与の臨床的有益性を直接比較する目的で、国際的な第III相二重盲検ダブルダミー無作為化試験「MAPLE-HCM試験」を実施。メトプロロール単剤に比べaficamten単剤は、最高酸素摂取量の改善に関して優越性を示し、症状の軽減や左室流出路圧較差、NT-proBNP値、左房容積係数の改善と関連したことを示した。研究の成果は、NEJM誌2025年9月11日号で報告された。世界71施設で参加者を登録 MAPLE-HCM試験は2023年6月~2024年8月に、北米、欧州、ブラジル、イスラエル、中国の71施設で参加者のスクリーニングを募り行われた(Cytokineticsの助成を受けた)。 対象は、年齢18~85歳、左室壁厚が15mm以上(疾患の原因となる遺伝子変異またはHCMの家族歴がある場合は13mm以上)のHCMと診断され、スクリーニングにおいて左室駆出率(LVEF)が60%以上、かつ安静時の左室流出路圧較差が30mmHg以上、またはバルサルバ法で誘発時の左室流出路圧較差が50mmHg以上の患者であった。 被験者を、aficamten(5mg/日で開始し、2週ごとに5mgずつ増量して6週目に20mg/日とする)+プラセボを投与する群、またはメトプロロール(50mg/日で開始し、2週ごとに50mgずつ増量して6週目に200mgとする)+プラセボを投与する群に1対1の割合で無作為に割り付け、24週間投与した。 主要エンドポイントは、ベースラインから24週目までの最高酸素摂取量の変化とした。主要エンドポイントが有意に良好 175例を登録し、aficamten群に88例、メトプロロール群に87例を割り付けた。全体の平均年齢は58歳で、58.3%が男性であった。ベースラインの安静時の平均左室流出路圧較差は47mmHg、バルサルバ法で誘発時の平均左室流出路圧較差は74mmHgであり、平均LVEFは68%で、NYHA心機能分類IIの心不全が70.3%を占めた。NT-proBNP値中央値は468pg/mL(四分位範囲:198~968)だった。 主要エンドポイントは、メトプロロール群が-1.2mL/kg/分(95%信頼区間[CI]:-1.7~-0.8)であったのに対し、aficamten群は1.1mL/kg/分(0.5~1.7)と有意に良好であった(最小二乗平均群間差:2.3mL/kg/分、95%CI:1.5~3.1、p<0.001)。6つの副次エンドポイント、5つが有意に優れる 次の5つの副次エンドポイントは、aficamten群で有意に優れた。(1)24週時のNYHA心機能分類が1分類以上改善の達成率(51%vs.26%、最小二乗平均群間差:25%[95%CI:11~39]、p<0.001)、(2)ベースラインから24週目までのカンザスシティ心筋症質問票-臨床サマリースコア(KCCQ-CSS)の変化量(15.8点vs.8.7点、6.9点[2.6~11.3]、p=0.002)、(3)24週目までのバルサルバ法で誘発時の左室流出路圧較差の変化量(-40.7mmHg vs.-3.8mmHg、-34.9mmHg[-43.4~-26.4]、p<0.001)、(4)NT-proBNPのベースライン値に対する24週時の値の相対的な変化(0.3 vs.1.4、0.19[0.15~0.24]、p<0.001)、(5)24週目までの左房容積係数の変化量(-3.8mL/m2 vs.2.8mL/m2、-7.0mL/m2[-9.1~-4.9]、p<0.001)。 一方、24週目までの左室心筋重量係数の変化量(-6.9g/m2 vs.-3.8g/m2、-4.9g/m2[-11.7~2.0]、p=0.16)は両群間に有意な差を認めなかった。有害事象の発現状況は同程度 投与開始後に、aficamten群の65例(74%)、メトプロロール群の66例(76%)で1件以上の有害事象が発現した。重篤な有害事象はそれぞれ7例(8%)および6例(7%)に、早期の投与中止に至った有害事象は1例(1%、短期間のウイルス性疾患を発症後に突然死)および3例(3%)に、減量に至った有害事象は1例(1%、めまい)および4例(5%、立ちくらみ2例、徐脈1例、疲労感1例)に認めた。 著者は、「本試験で認めたメトプロロールに対するaficamtenの臨床的有益性は、心筋ミオシンの阻害による左室流出路閉塞の軽減に起因する可能性が高い」「本試験はaficamten単剤療法だけでなく、閉塞性HCM患者におけるメトプロロール単剤の投与量、治療効果、副作用に関する独自の知見をも提供する」としている。

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主要5クラスの降圧薬、単剤・併用の降圧効果を定量化/Lancet

 オーストラリア・University of New South WalesのNelson Wang氏らは、主要5クラスの降圧薬の降圧効果およびそれらの組み合わせによる降圧効果の定量化を目的に、無作為化二重盲検プラセボ対照試験のシステマティックレビューとメタ解析を行った。降圧薬のあらゆる組み合わせについて、期待される降圧効果の強固な推定値を提示し、その降圧効果の程度を低強度・中強度・高強度に分類可能であることを示した。著者は、「得られた知見は、世界中の高血圧治療を受ける人々の、不良な血圧コントロールを改善するための処方決定に役立つ情報となるだろう」と述べている。Lancet誌2025年8月30日号掲載の報告。診察室SBPの低下を定量化、各療法の降圧効果の強度を低・中・高に分類 研究グループは、成人参加者がアンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬、アンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)、β遮断薬、Ca拮抗薬、利尿薬のいずれかまたは組み合わせの投与を受けた無作為化二重盲検プラセボ対照試験を対象に、システマティックレビューとメタ解析を行った。適格基準は、追跡期間は4~26週、降圧薬治療(投与量と種類)が血圧のフォローアップ前4週間以上にわたり固定していること、治療群間の収縮期血圧(SBP)の平均群間差を算出するために診察室血圧が利用できることとした。クロスオーバー期間のウォッシュアウト期間が2週間未満のクロスオーバー試験は除外した。 データベースの公開~2022年12月31日に発表された適格試験を、Cochrane Central Register of Controlled Trials、MEDLINE、Epistemonikosを検索して特定した。さらに検索の更新を行い、2023年1月1日~2025年2月28日に発表された試験を含めた。 主要アウトカムは、プラセボと比較した実薬治療の診察室SBPの低下(ベースラインから最長追跡時点[最短4週]までの平均SBP変化量の差)とした。 降圧効果は、ベースライン血圧(包含試験全体の平均ベースライン血圧154/100mmHg)により標準化し、固定効果メタ解析を用いて平均差と95%信頼区間(CI)を推算した。また、単剤・併用それぞれの薬物療法を、SBPのベースライン値154mmHgからの低下の程度で、低強度(<10mmHg低下)、中強度(10~19mmHg低下)、高強度(≧20mmHg低下)に分類した。あらゆる降圧薬の併用療法の有効性を計算するモデルを開発し、2剤併用または3剤併用の外部試験で検証した。標準用量単剤療法、SBP低下8.7mmHg、79%が低強度 解析には、484試験の10万4,176例が含まれた。平均年齢は54歳(SD 8)、男性5万7,422例(55%)、女性4万6,754例(45%)であり、平均追跡期間は8.6週(SD 5.2)であった。 平均して、標準用量での単剤療法によるSBP低下は8.7mmHg(95%CI:8.2~9.2)であった。クラス別では、ACE阻害薬6.8mmHg、ARB 8.5mmHg、β遮断薬8.9mmHg、Ca拮抗薬9.5mmHg、利尿薬10.8mmHg。複数のメタ解析で薬剤クラスによってかなりの異質性が認められ(I2>50%)、同一クラスでも薬剤間の有効性は異なることが示唆された。 また、単剤療法では用量倍増で、SBPは追加で1.5mmHg(1.2~1.7)低下した。用量反応性はβ遮断薬が最も小さく0.5mmHg、Ca拮抗薬が最も大きく2.6mmHgだった。 さらに、単剤療法ではベースラインSBPが10mmHg低下するごとに、降圧効果は1.3mmHg(95%CI:1.0~1.5)低下したが、薬剤クラス間で差がみられた。 降圧の程度は、標準用量での単剤療法57種のうち45種(79%)が低強度に分類された。標準用量2剤併用療法、SBP低下14.9mmHg、58%が中強度、11%が高強度 平均して、標準用量での2剤併用療法によるSBP低下は14.9mmHg(95%CI:13.1~16.8)であった。併用する両剤の用量倍増で、SBPは追加で2.5mmHg(1.4~3.7)低下した。 降圧の程度は、2剤併用療法の異なる薬剤・用量の組み合わせ189種のうち、110種(58%)が中強度に分類され、21種(11%)が高強度に分類された。 あらゆる併用療法の有効性モデルを外部試験で検証した結果、SBPの予測値と測定値の間に高い相関関係があることが示された(r=0.76、p<0.0001)。

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心筋梗塞後のβ遮断薬、LVEF>40%なら不要?/NEJM

 心筋梗塞で侵襲的治療を受け退院した左室駆出率(LVEF)40%超の患者において、β遮断薬の投与は全死因死亡、再梗塞、または心不全による入院の発生に影響を与えないことが示された。スペイン・Centro Nacional de Investigaciones Cardiovasculares Carlos IIIのBorja Ibanez氏らREBOOT-CNIC Investigatorsが、研究者主導の「Treatment with Beta-Blockers after Myocardial Infarction without Reduced Ejection Fraction trial:REBOOT試験」の結果を報告した。駆出率が保持された心筋梗塞後のβ遮断薬の使用に関する現行ガイドラインの推奨事項は、再灌流療法、侵襲的治療、完全血行再建術、および現代的な薬物療法が標準治療となる前に実施された試験に基づいている。研究グループは、β遮断薬の役割について再検討する必要があるとして本検討を行った。NEJM誌オンライン版2025年8月30日号掲載の報告。退院前LVEF>40%の患者をβ遮断薬投与vs.非投与に無作為化 REBOOT試験は、スペインとイタリアの109施設で実施された、PROBE(Prospective Randomized Open Blinded End-Point)デザインの試験である。 研究グループは、急性心筋梗塞(ST上昇の有無を問わず)で入院中に侵襲的治療(最終的な治療戦略にかかわらず冠動脈造影により定義)を受け、かつ退院前のLVEFが40%超の患者を、退院時または退院後14日以内にβ遮断薬投与群または非投与群に1対1の割合で無作為に割り付けた。 β遮断薬投与群では担当医師がβ遮断薬の種類と用量を決定し、また、すべての患者が標準治療を受けた。 主要アウトカムは、全死因死亡、再梗塞、または心不全による入院の複合であった。副次アウトカムは主要アウトカムの個別のイベント、心臓死など。ITT解析で評価した。 2018年10月~2024年4月に計8,505例が無作為化され(β遮断薬投与群4,243例、非投与群4,262例)、同意撤回などを除く8,438例(それぞれ4,207例、4,231例)がITT解析対象集団に組み込まれた。β遮断薬投与は、全死因死亡、再梗塞または心不全による入院の発生に影響を与えず 追跡期間中央値3.7年において、主要アウトカムのイベントはβ遮断薬投与群で316例(1,000患者年当たり22.5件)、非投与群で307例(21.7件)に発生した(ハザード比[HR]:1.04、95%信頼区間[CI]:0.89~1.22、p=0.63)。 全死因死亡は、β遮断薬投与群161例、非投与群153例(1,000患者年当たり11.2件vs.10.5件、HR:1.06[95%CI:0.85~1.33])、再梗塞はそれぞれ143例、143例(10.2件vs.10.1件、1.01[0.80~1.27])で、心不全による入院はそれぞれ39例、44例(2.7件vs.3.0件、0.89[0.58~1.38])であった。 事前に規定したサブグループ解析の結果、女性ならびにST上昇型心筋梗塞では非投与群のほうが予後良好であることが示唆された。 安全性アウトカムについては、群間差は認められなかった。

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全年齢で130/80mmHg未満を目標に、『高血圧管理・治療ガイドライン2025』発刊/日本高血圧学会

 日本高血圧学会は『高血圧管理・治療ガイドライン2025』(以下、JSH2025)を8月29日に発刊した。6年ぶりとなる今回の改訂にあたり、大屋 祐輔氏(琉球大学名誉教授/高血圧管理・治療ガイドライン2025作成委員長)と苅尾 七臣氏(自治医科大学循環器内科学部門 教授/日本高血圧学会 理事長)が降圧目標や治療薬の位置付けと選択方法などについて、7月25日に開催されたプレスセミナーで解説した。 本書は高血圧患者(140/90mmHg以上)のほか、高値血圧(130~139/80~90mmHg)、血圧上昇に伴い脳心血管リスクが高まる正常高値血圧以上(120/80mmHg以上)のすべての人を対象に作成され、Clinical Question(CQ)全19項目が設けられた。主な改訂点は(1)降圧目標を合併症などを考慮し全年齢「130/80mmHg」*へ、(2)降圧薬選択におけるβ遮断薬の復活、(3)治療の早期介入と治療ステップ、(4)治療アプリの活用など。各パラグラフで詳細に触れていく。*診察室血圧130/80mmHg未満、家庭血圧125/75mmHg未満個別性に配慮し、全年齢で130/80mmHg未満を目指す 日本高血圧学会は2000年から四半世紀にわたってガイドラインを作成し、高血圧の是正問題に力を入れてきた。しかし、高所得国における日本人の高血圧有病率は最も不良であり、昨今の罹患率は2017年の推計値とほぼ同等の4,300万例に上る1)。そこで、今回の改訂では、国民の血圧を下げるために、“理論でなく行動のためのもの、シンプルでわかりやすい、エビデンスに基づくもの”という理念を基に、正常血圧の基準(120/80mmHg未満)や、高血圧の基準(140/90mmHg以上)などの数値は欧米のガイドラインを踏まえて据え置くも、JSH2025作成のために実施されたシステマティック・レビューならびにメタ解析の結果から脳心血管病発症リスクを考慮し、「原則的に収縮期血圧130mmHg未満を降圧目標とする」とした(第2部 5.降圧目標[p.67~69]、CQ4、8、9、12、14参照)。 これについて大屋氏は「降圧目標130/80mmHg。これが本改訂で押さえておくべき値である。前版の『高血圧治療ガイドライン2019(JSH2019)』では75歳以上の高齢者、脳血管障害や慢性腎臓病(蛋白尿陰性)を有する患者などは有害事象の発現を考慮して140/90未満と区別していた。しかし、これまでの国内外の研究からも高値血圧(130~139/80~89mmHg)でも心血管疾患の発症や死亡リスクが高いことから、高血圧患者であれば、120/80mmHg以上の血圧を呈するすべての者を血圧管理の対象とする。また、降圧目標も75歳以上の高齢者も含めて、診察室血圧130/80mmHg未満に定めることとした。ただし、大屋氏は「一律に下げるのではなく、副作用や有害事象に注意しながら個別性を考慮しつつ下げる」と注意点も強調している。 JSH2019発刊後も高血圧の定義が140/90mmHg以上であるためか、降圧目標をこの値に設定して治療にあたっている医師が少なくない。「130/80mmHg未満を目標に、血圧レベルや脳心血管病発症の危険因子などのリスクを総合的に評価し、個々に応じた治療計画を設定することが重要」と同氏は繰り返し強調した。苅尾氏も「とくに朝の血圧上昇がさまざまなリスク上昇に影響を及ぼしているにもかかわらず、一番コントロールがついていない。ガイドライン改訂と血圧朝活キャンペーンを掛け合わせ、朝の血圧130未満の達成につなげていく」と言及した。β遮断薬の処方減に危機感 高血圧に対する治療介入は患者を診断した時点が鍵となる。まず治療を行うにあたり、脳心血管病に対する予後規定因子(p.65、表6-1)を基に血圧分類とリスク層別化(同、表6-2)を行い、そのリスク判定を踏まえて、初診時血圧レベル別の高血圧管理計画(p.67、図6-1)から患者個々の血圧コントロールを進めていく。実際の処方薬を決定付けるには、主要降圧薬の積極的適応と禁忌・重要な注意を要する病態(p.95、表8-1)、降圧薬の併用STEPにおけるグループ分類(p.95、表8-2)を参考とする。今回の改訂では積極的適応がより具体的になり、脳血管障害はもちろん、体液貯留や大動脈乖離、胸部大動脈瘤の既往にも注意を払いたい。 そしてもう1つの変更点は、降圧薬のグループ分類が新設されたことである。「治療薬の選択については、β遮断薬を除外した前回の反省点を踏まえ、単剤でも脳心血管病抑制効果が示されている5種類(長時間作用型ジヒドロピリジン系Ca拮抗薬、ARB、ACE阻害薬、サイアザイド系利尿薬、β遮断薬)を主要降圧薬(グループ1、以下G1降圧薬)に位置付けた(表8-2)」と大屋氏は説明。とくにβ遮断薬の考え方について、「JSH2019では糖尿病惹起作用や高齢者への適応に関してネガティブであったが、それらの懸念は一部の薬剤に限るものであり、有用性と安全性が確立しているビソプロロールとカルベジロールの使用は推奨される。また、耐糖能異常を来す患者への投与について、前版では慎重投与となっていたが重要な注意の下で使用可能な病態とした」とし、「各薬剤の積極的適応、禁忌や注意すべき病態を考慮するために表8-1を参照して処方してほしい。もし積極的適応が表8-1にない場合には、コラム8-1(p.96)のアドバイスを参考にG1降圧薬を選択してもらいたい」ともコメントした。 また、治療を進めていく上では図8-1の降圧薬治療STEPの利用も重要となる。G1降圧薬の単剤投与でも効果不十分であれば2剤併用やG2降圧薬(ARNI、MR拮抗薬)の処方を検討する。さらに降圧目標を達成できない場合にはG1・G2降圧薬から3剤併用を行う必要がある。ただし、それでも効果がみられない場合には、専門医への紹介が考慮される。 なおMR拮抗薬は、治療抵抗性高血圧での追加薬として有用であることから、実地医家の臨床上の疑問に応える形でクエスチョンとしても記されている(p.181、Q10)。薬物療法は診断から1ヵ月以内に 続いて、大屋氏は治療介入のスピードも重要だとし、「今改訂では目標血圧への到達スピード(薬物投与の時期)も押さえてほしい」と話す。たとえば、低・中等リスクなら生活習慣の改善を実施して1ヵ月以内に再評価を行い、改善がなければ改善の強化とともに薬物治療を開始する。一方、高リスクであれば生活習慣の改善とともにただちに薬物療法を開始するなど、降圧のスピードも考慮しながらの管理が必要だという。 ただし、急性腎障害や症候性低血圧、過降圧によるふらつき、高カリウム血症などの電解質異常といった有害事象の出現に注意が必要であること、高齢者のなかでもフレイルや要介護などに該当する患者の対応については、特殊事例として表10-4に降圧指針(p.151)が示されていることには留意したい。利用者や対象者を明確に、血圧管理にアプリの活用も 本書の利用対象者は多岐にわたるため、各利用対象を考慮して3部構成になっている。第1部(国民の血圧管理)は自治体や企業団体や一般市民など、第2部(高血圧患者の管理・治療)は実地医家向け、第3部(特殊な病態および二次性高血圧の管理・治療)は高血圧、循環器、腎臓、内分泌、老年の専門医療に従事する者やその患者・家族など。 新たな追加項目として、第7章 生活習慣の改善に「デジタル技術の活用」が盛り込まれた点も大きい。高血圧治療補助アプリは成人の本態性高血圧症の治療補助として2022年9月1日に保険適用されている。苅尾氏が降圧目標達成に向けた血圧管理アプリの利用について、「デジタル技術を活用した血圧管理に関する指針が発刊されているが、その内容が本ガイドラインに組み込まれた(CQ7)。その影響は大きい」ともコメントしている。現在、日本高血圧学会において、製品概要や使用上の注意点を明記した『高血圧治療補助アプリ適正使用指針(第1版)』を公開している。 同学会は一般市民への普及にも努めており、7月25日からはYouTubeなどを利用した動画配信を行い、血圧目標値130/80mmHgの1本化についての啓発を進めている。あわせてフェイク情報の拡散問題の解決にも乗り出しており、大屋氏は「フェイク情報を放置せず、正確な情報提供が必要だ。本学会からの提言として、『高血圧の10のファクト~国民の皆さんへ~』を学会ホームページならびに本書の付録(p.302)として盛り込んでいるので、ぜひご覧いただきたい」と締めくくった。

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「高齢者の安全な薬物療法GL」が10年ぶり改訂、実臨床でどう生かす?

 高齢者の薬物療法に関するエビデンスは乏しく、薬物動態と薬力学の加齢変化のため標準的な治療法が最適ではないこともある。こうした背景を踏まえ、高齢者の薬物療法の安全性を高めることを目的に作成された『高齢者の安全な薬物療法ガイドライン』が2025年7月に10年ぶりに改訂された。今回、ガイドライン作成委員会のメンバーである小島 太郎氏(国際医療福祉大学医学部 老年病学)に、改訂のポイントや実臨床での活用法について話を聞いた。11領域のリストを改訂 前版である2015年版では、高齢者の処方適正化を目的に「特に慎重な投与を要する薬物」「開始を考慮するべき薬物」のリストが掲載され、大きな反響を呼んだ。2025年版では対象領域を、1.精神疾患(BPSD、不眠、うつ)、2.神経疾患(認知症、パーキンソン病)、3.呼吸器疾患(肺炎、COPD)、4.循環器疾患(冠動脈疾患、不整脈、心不全)、5.高血圧、6.腎疾患、7.消化器疾患(GERD、便秘)、8.糖尿病、9.泌尿器疾患(前立腺肥大症、過活動膀胱)、10.骨粗鬆症、11.薬剤師の役割 に絞った。評価は2014~23年発表の論文のレビューに基づくが、最新のエビデンスやガイドラインの内容も反映している。新薬の発売が少なかった関節リウマチと漢方薬、研究数が少なかった在宅医療と介護施設の医療は削除となった。 小島氏は「当初はリストの改訂のみを行う予定で2020年1月にキックオフしたが、新型コロナウイルス感染症の対応で作業の中断を余儀なくされ、期間が空いたことからガイドラインそのものの改訂に至った。その間にも多くの薬剤が発売され、高齢者にはとくに慎重に使わなければならない薬剤も増えた。また、薬の使い方だけではなく、この10年間でポリファーマシー対策(処方の見直し)の重要性がより高まった。ポリファーマシーという言葉は広く知れ渡ったが、実践が難しいという声があったので、本ガイドラインでは処方の見直しの方法も示したいと考えた」と改訂の背景を説明した。「特に慎重な投与を要する薬物」にGLP-1薬が追加【削除】・心房細動:抗血小板薬・血栓症:複数の抗血栓薬(抗血小板薬、抗凝固薬)の併用療法・すべてのH2受容体拮抗薬【追加】・糖尿病:GLP-1(GIP/GLP-1)受容体作動薬・正常腎機能~中等度腎機能障害の心房細動:ワルファリン 小島氏は、「抗血小板薬は、心房細動には直接経口抗凝固薬(DOAC)などの新しい薬剤が広く使われるようになったため削除となり、複数の抗血栓薬の併用療法は抗凝固療法単剤で置き換えられるようになったため必要最小限の使用となっており削除。またH2受容体拮抗薬は認知機能低下が懸念されていたものの報告数は少なく、海外のガイドラインでも見直されたことから削除となった。ワルファリンはDOACの有効性や安全性が高いことから、またGLP-1(GIP/GLP-1)受容体作動薬は低体重やサルコペニア、フレイルを悪化させる恐れがあることから、高齢者における第一選択としては使わないほうがよいと評価して新たにリストに加えた」と意図を話した。 なお、「特に慎重な投与を要する薬物」をすでに処方している場合は、2015年版と同様に、推奨される使用法の範囲内かどうかを確認し、範囲内かつ有効である場合のみ慎重に継続し、それ以外の場合は基本的に減量・中止または代替薬の検討が推奨されている。新規処方を考慮する際は、非薬物療法による対応で困難・効果不十分で代替薬がないことを確認したうえで、有効性・安全性や禁忌などを考慮し、患者への説明と同意を得てから開始することが求められている。「開始を考慮するべき薬物」にβ3受容体作動薬が追加【削除】・関節リウマチ:DMARDs・心不全:ACE阻害薬、ARB【追加】・COPD:吸入LAMA、吸入LABA・過活動膀胱:β3受容体作動薬・前立腺肥大症:PDE5阻害薬 「開始を考慮するべき薬物」とは、特定の疾患があった場合に積極的に処方を検討すべき薬剤を指す。小島氏は「DMARDsは、今回の改訂では関節リウマチ自体を評価しなかったことから削除となった。非常に有用な薬剤なので、DMARDsを削除してしまったことは今後の改訂を進めるうえでの課題だと思っている」と率直に感想を語った。そのうえで、「ACE阻害薬とARBに関しては、現在では心不全治療薬としてアンジオテンシン受容体ネプリライシン阻害薬(ARNI)、β遮断薬、ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(MRA)、SGLT2阻害薬が登場し、それらを差し置いて考慮しなくてもよいと評価して削除した。過活動膀胱治療薬のβ3受容体作動薬は、海外では心疾患を増大させるという報告があるが、国内では報告が少なく、安全性も高いため追加となった。同様にLAMAとLABA、PDE5阻害薬もそれぞれ安全かつ有用と評価した」と語った。漠然とした症状がある場合はポリファーマシーを疑う 高齢者は複数の医療機関を利用していることが多く、個別の医療機関での処方数は少なくても、結果的にポリファーマシーとなることがある。高齢者は若年者に比べて薬物有害事象のリスクが高いため、処方の見直しが非常に重要である。そこで2025年版では、厚生労働省より2018年に発表された「高齢者の医薬品適正使用の指針」に基づき、高齢者の処方見直しのプロセスが盛り込まれた。・病状だけでなく、認知機能、日常生活活動(ADL)、栄養状態、生活環境、内服薬などを高齢者総合機能評価(CGA)なども利用して総合的に評価し、ポリファーマシーに関連する問題点を把握する。・ポリファーマシーに関連する問題点があった場合や他の医療者から報告があった場合は、多職種で協働して薬物療法の変更や継続を検討し、経過観察を行う。新たな問題点が出現した場合は再度の最適化を検討する。 小島氏らの報告1,2)では、5剤以上の服用で転倒リスクが有意に増大し、6剤以上の服用で薬物有害事象のリスクが有意に増大することが示されている。そこで、小島氏は「処方の見直しを行う場合は10剤以上の患者を優先しているが、5剤以上服用している場合はポリファーマシーの可能性がある。ふらつく、眠れない、便秘があるなどの漠然とした症状がある場合にポリファーマシーの状態になっていないか考えてほしい」と呼びかけた。本ガイドラインの実臨床での生かし方 最後に小島氏は、「高齢者診療では、薬や病気だけではなくADLや認知機能の低下も考慮する必要があるため、処方の見直しを医師単独で行うのは難しい。多職種で協働して実施することが望ましく、チームの共通認識を作る際にこのガイドラインをぜひ活用してほしい。巻末には老年薬学会で昨年作成された日本版抗コリン薬リスクスケールも掲載している。抗コリン作用を有する158薬剤が3段階でリスク分類されているため、こちらも日常診療での判断に役立つはず」とまとめた。

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降圧薬の種類と心血管リスク、ARB vs.CCB vs.利尿薬vs.β遮断薬

 血圧が良好にコントロールされている高齢高血圧患者において、アンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)およびカルシウム拮抗薬(CCB)の長期使用は、サイアザイド系利尿薬やβ遮断薬と比較して、心血管イベントの複合アウトカムに対してより大きなベネフィットをもたらす可能性が示唆された。中国・北京協和医学院のXinyi Peng氏らは、STEP試験の事後解析として、ARB、CCB、サイアザイド系利尿薬、β遮断薬という4つの降圧薬クラスに焦点を当て、それらの長期投与と心血管リスクの関連について評価した。BMC Medicine誌2025年7月1日号掲載の報告より。 本研究は、脳卒中の既往のない60~80歳の中国人高血圧患者を対象としたSTEP試験のデータを用いて実施された。追跡不能となった234例および無作為化後に血圧記録が得られなかった20例を除外し、最終的に8,257例が解析対象となった。各降圧薬クラスについて、相対的曝露期間(薬剤投与期間/イベント発生までの期間)を算出した。 主要アウトカムは、脳卒中の初回発症、急性冠症候群(ACS)、急性非代償性心不全、冠動脈血行再建術、心房細動、心血管死の複合とされた。副次アウトカムは、これら主要アウトカムの各構成要素であった。各アウトカムに対するハザード比(HR)および95%信頼区間(CI)は、Cox回帰分析により算出した。 主な結果は以下のとおり。・追跡期間中央値3.34年において、主要アウトカム解析の結果、ARBまたはCCBへの相対的曝露期間が長いほど、心血管複合リスクが有意に低下することが明らかになった。・ARBへの相対的曝露期間が1単位増加するごとに、主要アウトカムのリスクは45%低下した(HR:0.55、95%CI:0.43~0.70)。CCBへの曝露においてはリスクが30%低下した(HR:0.70、95%CI:0.54~0.92)。・利尿薬は中間的な結果を示した(HR:1.02、95%CI:0.66~1.56)。・一方で、β遮断薬の相対的曝露期間が長いほど、主要アウトカムのリスクは有意に上昇した(HR:2.20、95%CI:1.81~2.68)。・副次アウトカムに関しては、ARBおよびCCBの相対的曝露期間が長いほど、全死亡および心血管死のリスクが有意に低下していた。さらにARBの相対的曝露期間の長さは、脳卒中、ACS、主要心血管イベント(MACE)のリスク低下と関連していた。・相対的曝露期間の1単位増加当たりのHRは、主要アウトカム、MACE、脳卒中のいずれにおいても、ARBがCCBより一貫して低く(いずれもp<0.05)、より大きなベネフィットを示した。 著者らは、「本事後解析の結果は、ARBおよびCCBの長期投与が、利尿薬およびβ遮断薬と比較して、高齢の高血圧患者における複数の心血管イベントについて良好な予後と関連する可能性を示唆した。さらに、ARBはCCBよりも大きな心血管ベネフィットをもたらすことが推察された」とまとめている。一方、β遮断薬の長期投与が心血管リスクの上昇と関連を示したことについては、医学的適応による選択バイアスを反映している可能性があるとしている。

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