災害避難で車中泊は危険なのか?【実例に基づく、明日はわが身の災害医療】第11回

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公開日:2025/12/03

地震や豪雨など、予測できない災害。その時、地域の医療を担う医師として、戸惑いや不安を感じる先生も少なくないかもしれません。本連載では、岡山大学 救命救急・災害医学講座 主任教授 中尾 篤典氏監修のもと、災害発生時に被災地の医師が直面するであろう課題と、それに対する具体的な対応策を解説します。いざという時に冷静に対応するための実践的ガイドとして、ぜひご活用ください。

災害避難で車中泊は危険なのか?

大規模災害の後、体育館が避難所として運営され、多くの避難者が生活していますが、避難所ではなく自家用車の中で生活している避難者も多くいるようです。避難所管理医師として、車中泊をする避難者の健康管理を行政から依頼されました。どのようなケアをすればいいでしょうか?

車中泊する人は多い

大規模災害時、避難所の収容限界や感染対策、プライバシーの問題から「車中泊」を選ぶ避難者は少なくありません。

車中泊であれば、他人の物音に悩まされることもなく、周囲に気を使わずに夜中でもパソコンやスマートフォンを操作できます。実際、2016年の熊本地震では、避難者の6~7割が一時的に車中泊を経験しました1)

一方、震災関連死した被災者の約3割が車中泊経験者でした2)。こうした経緯から、車中泊は「避けるべきリスク」として語られがちです。しかし、指定避難所が満員である場合や、家族・ペットの事情などを考慮すると、多くの被災者にとって「積極的に選ばれる避難手段」となっているのが現実です。

車中泊は血栓症のリスクなのか?

医療者が注目すべきは、この避難様式が深部静脈血栓症(DVT)や肺血栓塞栓症(PTE)のリスク因子となる点です3~5)

熊本地震後の調査では、車中泊経験者のDVT発症率は約10%に達し、心肺停止に至る重症PTEの症例も報告されています6)。このような事実から、「車中泊は極力避けるべき」と主張する支援者もおられます。しかし近年の研究では、問題の本質は「車中泊」そのものではなく、その過ごし方と環境にあることが示されています。

とくに以下の要因がリスクを高めるといわれています。

  • 長時間の下肢屈曲保持(座席での就寝など)
  • トイレ不足による水分制限 → 脱水・血液濃縮
  • 下肢運動不足 → 筋ポンプ機能の低下
  • 高齢、肥満、静脈瘤、悪性腫瘍、妊産婦、血栓症などの家族歴
  • 経口避妊薬や睡眠薬などの服薬歴
  • 寒冷環境や強いストレスによる交感神経の緊張

車中泊中の血栓症の予防はどうするか?

これらのリスクを有する避難者に対しては、車内でも可能な非薬物的予防が有効であり、避難所を預かる医師として、以下のような適切なアドバイスが必要です。

  • 足を伸ばせる姿勢を確保する
  • 弾性ストッキングや保温具を活用し、下肢を冷やさない
  • 1~2時間ごとの足関節運動や体位変換を行う
  • 簡易トイレを活用してトイレの不安を減らし、水分を十分に摂取する

ハイリスク群に対しては、薬物療法としてDOAC(直接作用型経口抗凝固薬)の予防的投与も一案です。しかし、腎機能障害時の出血リスクが高まり、とくに災害時は脱水環境になりやすいため、慎重な判断が求められます。現実的には薬物よりも、まずは非薬物的な予防と環境整備を優先すべきでしょう。

災害時の車中泊を一律に「危険」と断じるのではなく、適切な介入と支援を行うことで、DVTやPTEは予防することができます。われわれ医療者は、やみくもにリスクばかり強調するのではなく、避難行動の多様性を尊重しながら、あらゆる状況で被災者の健康を守れる体制を事前に整えておく必要があります。

講師紹介

上田 浩平 ( あげた こうへい ) 氏岡山大学学術研究院医歯薬学域 地域医療DX推進講座 助教

[略歴]

2008年自治医科大学医学部医学科を卒業。高知医療センターにて初期臨床研修の後、高知県内の地域医療機関での勤務を経て、高知医療センター救命救急科・循環器科に勤務。2020年より岡山大学病院救命救急科に着任。
日本救急医学会救急科専門医、プライマリケア認定医・指導医、日本内科学会認定内科医、日本救急医学会認定ICLSコースディレクター、臨床研修指導医。
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