CLEAR!ジャーナル四天王|page:23

食道がんの治療にニボルマブが大きな影響を与える可能性が示された(解説:上村直実氏)-1382

食道がんおよび胃食道接合部がんに対する治療は、進行度により内視鏡的切除術、外科的手術および化学放射線治療による集学的治療が行われる。Stage II/IIIすなわち外科的切除可能な食道がんおよび胃食道接合部がんに対する標準治療は、術前の化学放射線療法と根治的手術とされている。比較的予後が良いとされているStage II/IIIの食道がんであっても、術後に再発する症例が多く、補助療法が必要であるケースも多い。

南アフリカ株(B.1.351)の遺伝子変異とワクチンの効果(解説:山口佳寿博氏)-1381

前回の論評で考察したように、コロナウイルスは間断なく進化/変異を遂げ、世界に流布するウイルスは武漢原株からD614G株(S蛋白614位のアミノ酸がアスパラギン酸[D]からグリシン[G]に置換)へ、さらには、N501Y株(S蛋白501位のアミノ酸がアスパラギン[N]からチロシン[Y]に置換)に変化しつつある。2021年度には、N501Y変異株が世界に流布するウイルスの主流を占めるようになるものと予測される。本論評ではD614G株を“従来株”と定義し論を進める。N501Y株に分類される変異株の主たるものとして、英国株(B.1.1.7)、南アフリカ株(B.1.351)、ブラジル株(P.1)の3種類が存在するが、これらの変異株の実効再生産数(R)は、英国株、南アフリカ株、ブラジル株の順であり、英国株が最も高い値を示す(WHO 2021年3月21日)。それ故、現時点では、英国株が流布する地域が最も多く、4月13日現在、世界132ヵ国/地域に及ぶ。

英国株(B.1.1.7)の遺伝子変異、疫学、臨床、今後の重要性(解説:山口佳寿博氏)-1380

2019年の末に発生した新型コロナの原型である武漢原株は、2020年2月末ごろからD614G株(S蛋白614位のアミノ酸がアスパラギン酸(D)からグリシン(G)に置換、その他、4個の遺伝子変異を伴う)に置換された。D614G変異は生体へのウイルス侵入量を増加させ武漢原株より高い感染性を示す(山口. 医事新報 No.5026:26-31, 2020)。2020年9月ごろまではD614G変異株が世界の中心的ウイルスであったが、9月以降、英国、南アフリカ、ブラジルを中心にD614G株からさらなる変異を遂げたN501Y株(S蛋白501位のアミノ酸がアスパラギン(N)からチロシン(Y)に置換)が蔓延するようになった。以上のような背景を鑑み、本論評ではD614G株を“従来株”と定義する。英国、南アフリカ、ブラジルで播種しているN501Y変異株は同じウイルスではなく互いに独立したものであるが3種の変異株の共通項がN501Y変異である(山口. 医事新報 No.5053:32-38, 2021)。PANGO lineageに則った名称として、英国株はB.1.1.7、南アフリカ株はB.1.351、ブラジル株はP.1と命名された。別名として、英国株はVOC 202012/01、20I/501Y.V1、南アフリカ株はVOC 202012/02、20H/501Y.V2、ブラジル株はVOC 202101/02、20J/501Y.V3とも呼称される。2021年4月13日現在、世界206ヵ国/地域の中で英国株は132ヵ国/地域(64%)、南アフリカ株は82ヵ国/地域(40%)、ブラジル株は52ヵ国/地域(25%)で検出され、N501Y株がD614G株を凌駕し世界に流布するコロナウイルスの中心的存在になりつつある(WHO 2021年4月13日)。これら代表的なN501Y変異株に加え、フィリピンではN501Y変異を有するが英国株、南アフリカ株、ブラジル株とは異なる変異株が同定されている(B.1.1.28.3/P.3)。以上のN501Y関連変異株以外にN501Y変異を有さない5種類の変異株が米国(B.1.427/B.1.429、B.1.526)、英国(B.1.525)、フランス(B.1.616)、ブラジル(B.1.1.28.2/P.2)、ナイジェリア(B.1.525)において同定されている。以上の変異株にあって英国株の流布範囲が最も広く、アフリカ、中南米の一部を除き多数の感染者が確認されている。アフリカ、中南米の一部で英国株が検出されていないのは、検査不十分である可能性が高く、実際は、これらの地域にも英国株は侵入しているものと考えなければならない。すなわち、今後の世界的ウイルス播種として、この数ヵ月の間に従来株が英国株を中心とするN501Y株に置換されていくものと推察される。

全粒穀物、豆類そして野菜をしっかり食べよう!―低GI食と心血管疾患(解説:住谷哲氏)-1379

今から20年ほど前に「低インスリンダイエット」なるものが世間で流行した。筆者も糖尿病の食事療法との関係で何冊か本を読んだ記憶がある。「低インスリンダイエット」は米国で流行したダイエット本「Sugar Busters!」(邦訳:「シュガーバスター」1999年、講談社)がわが国でアレンジされたもののようであるが、そこで初めてグリセミック指数(glycemic index:GI)について知った。GIの概念を提唱したのはカナダ・トロント大学のJenkinsであるが、本論文の筆頭著者を見て少々驚いた。JenkinsがGIに関する最初の論文を報告したのが今から40年前の1981年であるから、はじめは別人かと思ったが、David J.A. Jenkins, Torontoとあるので間違いなく本人である。40年以上にわたって1つのテーマに専心して研究を続けられるところが、やはり欧米の学問の層の厚さである。

高用量セマグルチドが肥満糖尿病患者の体重減量やQOLに有効である(解説:安孫子亜津子氏)-1378

わが国では2010年からGLP-1受容体作動薬を糖尿病治療薬として使用しており、血糖降下作用以外の、食欲抑制効果、胃内容物排出遅延効果により、体重の減少効果も期待できる薬剤である。2020年からわが国でも使用できるようになった週1回注射製剤のセマグルチド(Sema)(商品名:オゼンピック)は、26位アミノ酸のリジンに脂肪酸を結合させることでアルブミンへの結合が増強されて分解が遅延するため、血中半減期が約1週間のGLP-1アナログである。これまでにSemaの2型糖尿病患者への臨床試験は「SUSTAINプログラム」として、多くの試験が実施され、Sema 0.5mgおよび1.0mgの血糖降下作用、および体重減少作用が報告されてきた。わが国でのSema 1.0mg単独療法での30週における体重減少効果は-3.87kgであった。さらにSUSTAIN-6では心血管イベントの有意な抑制効果が認められている。

無常と中道:認知症の人に処方され過ぎる中枢神経作動薬(解説:岡村毅氏)-1377

たとえば90歳の軽度認知症の人から、何もかもが昔と違う、うつになってしまった、「薬をください」と切々と訴えられることがある。そして家族もまた「元気になる薬をください」「専門医でしょ」と訴えたりする。とはいえ病的な「うつ」ではない。医学や精神科への高い期待や信頼を感じる一方で、安直に薬など出しては本人を不幸にしてしまうので、なかなかつらい局面である。さて本論文は、米国のメディケアのデータベースから、認知症をもつ地域在住の高齢者の14%が、中枢神経作動薬の多剤併用状態であるという報告だ。薬剤としては「抗うつ薬」「抗精神病薬」「ベンゾジアゼピン受容体作動薬(睡眠薬、抗不安薬)」の順で多かった。組み合わせとしては「抗うつ薬」「抗てんかん薬」「抗精神病薬」の組み合わせが多かった。

妊娠糖尿病スクリーニングの実用的無作為化試験(解説:小川大輔氏)-1376

妊娠糖尿病は妊娠中に初めて発見された糖代謝異常であり、妊娠中に高血糖があると流産、形態異常、巨大児などの合併症が起こる危険性があるため、妊娠中は厳密に血糖の管理を行う。なお、妊娠前からすでに糖尿病と診断されている場合や、妊娠中に「明らかな糖尿病」と診断された場合は妊娠糖尿病とは別に区別されるが、厳格な血糖コントロールは妊娠糖尿病と同様に必要である。妊娠糖尿病のスクリーニングとして、妊娠24~28週時に妊娠糖尿病スクリーニング検査が推奨されている。1段階法と2段階法の2つのスクリーニング法があるが、どちらを使用すべきかに関して専門家の合意は得られていない。従来からある2段階法(Carpenter-Coustan基準)に対し、1段階法(IADPSG基準)は一度のブドウ糖負荷試験で診断ができるというメリットがある。しかし、母児の周産期合併症に関するアウトカムについては不明であった。

抗肥満薬としてのGLP-1受容体作動薬セマグルチドの有効性(解説:住谷哲氏)-1375

高血圧、高脂血症および2型糖尿病などの生活習慣病の多くは肥満と関連している。さらに肥満を改善すれば高血圧、高脂血症および2型糖尿病の改善がみられることも少なくない。高血圧には降圧薬、高脂血症にはスタチンやフィブラート製剤、2型糖尿病には血糖降下薬が使用可能であるが、肥満に対する治療薬としてわが国で認可されているのは食欲抑制剤としてのマジンドール(商品名:サノレックス)のみである。肥満大国の米国ではこれに加えて、腸管からの脂肪吸収を抑制するリパーゼ阻害薬であるorlistat(商品名:Xenical)、中枢神経系に作用するphentermine/topiramate(商品名:Qsymia)、naltrexone/bupropion(商品名:Contrave)も販売されているがいずれも副作用が問題で長期使用できる薬剤ではない。

新型コロナウイルスの血栓対策(解説:後藤信哉氏)-1374

当初肺炎が主病態と考えられた新型コロナウイルス感染症であるが、症例が蓄積されるとともに主な病態は血管系におけるimmunothrombosisであることがわかってきた。結果として静脈血栓症、脳梗塞などの典型的な血栓症の病態を呈することもあるが、血栓形成の開始機序は明確に異なる。成長メカニズムには相同性と特殊性があると想定される。静脈血栓症、心筋梗塞などの動脈血栓症を標的として抗血小板薬、抗凝固薬が開発されてきたが、新型コロナウイルス感染に対する至適抗血栓療法は現時点では未知である。欧米では静脈血栓リスクが一般に高いためICUに入る症例では全例抗凝固療法を受けるのが普通であった。静脈血栓予防と治療では用量が異なる。血栓治療量は血栓症に対して使用される。新型コロナウイルス感染では、一般的な静脈血栓の有無の判定に用いるD-dimerが陽性のことが多い。ならば血栓予防量と治療量のランダム化比較試験を企画しても倫理的問題は起こらない。本研究では新型コロナウイルス感染にてICUに入院した症例における予防量と治療量の抗凝固療法が比較された。

降圧治療と副作用:システマティックレビューおよびメタ解析(解説:石川讓治氏)-1370

高血圧は心血管イベント発症のリスク増加と関連し、降圧治療が心血管イベント発症を抑制することが報告されている。STRATIFY研究グループのメンバーは、降圧薬の介入試験や大規模観察研究の結果のシステマティックレビューとメタ解析を行い、降圧治療は全死亡、心血管死亡、脳卒中の発症抑制と関連し、降圧治療の副作用としては、転倒のリスク増加とは有意な関連がなく(1次評価項目:リスク比1.05、95%信頼区間0.89~1.24)、2次評価項目である急性腎障害(リスク比1.18、95%信頼区間1.01~1.39)、高カリウム血症(リスク比1.89、95%信頼区間1.56~2.30)、低血圧(リスク比1.97、95%信頼区間1.67~2.32)、失神(リスク比1.28、95%信頼区間1.03~1.59)といった副作用のリスク増加と関連していたことを報告した1)。Bromfieldら2)の以前の研究においても、降圧治療中の転倒のリスクは血圧レベルよりもフレイルの存在やポリファーマシーと関連していたことが報告されており、本研究のメタ解析においても降圧治療は転倒のリスク増加と関連していなかったことが再確認された。

脳卒中再発予防のためには、一過性脳虚血発作(TIA)症状をどこまで広くとらえるべきか?(解説:森本悟氏)-1372

日本脳卒中学会(2019)や国際疾病分類(ICD-11)により、一過性脳虚血発作(TIA)とは、“局所脳または網膜の虚血に起因する神経機能障害の一過性のエピソードであり、急性梗塞の所見がないもの。かつ、神経機能障害のエピソードは、長くとも24時間以内に消失すること。”と定義されている。また、1975年の米国国立神経疾患・脳卒中研究所(NINDS)による報告では、突然発症の“複視、構音障害、眩暈、失調、感覚低下、両側の視覚障害”といった非進行性かつ単発の症状は、TIAとしては典型的ではないとしている(Stroke. 1975;6:564-616.)。2017年にLavallee氏らが、これらの症状をisolated atypical transient symptomsとして、1年後の脳卒中再発率を検討したところ、典型的なTIA患者と比較しても差は認められなかった(Lavallee PC, et al. Stroke. 2017;48:1495-1500.)。

完全人工膵臓開発における熾烈な競争(解説:住谷哲氏)-1371

筆者は本連載1167回の『完全人工膵臓実現へのさらなる一歩』で、高血糖時に投与するcorrection bolusを自動化したControl-IQシステムについてコメントした。この点でControl-IQシステムに一歩遅れをとっていたMedtronicが新たに開発したシステムであるadvanced hybrid closed-loop system(AHCL)についての報告である。Medtronicはすでにhybrid closed-loop system(HCL)としてMiniMed 670Gを市場に送り出していたが、MiniMed 670Gにcorrection bolus投与自動化アルゴリズムを持つMD-Logic artificial pancreas algorithm(DreaMed Diabetes[イスラエル、ペタフ・ティクバ])を組み込んだAHCLを新たに開発した。MiniMed 670Gとハード(インスリンポンプとCGM)はまったく同一で、新しいソフトを搭載した機種になる。

高度狭窄なくても脆弱なプラークを持つ脆弱な患者を近赤外分光法‐血管内超音波検査で同定できる(解説:佐田政隆氏)-1373

急性心筋梗塞の発症原因として、軽度な狭窄しか来さない動脈硬化病変の破裂やびらんに起因する急性血栓性閉塞が注目されている。破綻した病変では、脂質コアの増大、被膜の菲薄化、平滑筋細胞数の減少などが認められる。しかしプラーク不安定化の機序などに関しては不明な点が多く、急性冠症候群の発症を予知することは困難であった。バイオマーカーとして高感度CRP、ペントラキシン3などが急性冠症候群の発症を予測する因子となることが報告されているが特異度が十分とはいえない。一方、冠動脈CT、血管内超音波、MRI、OCT(光干渉断層撮影)など不安定プラークを検出するイメージング技術は開発されてきたが、いまだゴールデンスタンダードとなる方法が存在しないのが現状であった。

乳がんリスクの高い9遺伝子を同定(解説:下村昭彦氏)-1369

1月20日のNEJM誌に乳がんリスク遺伝子を網羅的に解析した大規模試験が2本掲載された。そのうちの1つは英国からの報告であり、11万3,000例以上のBreast Cancer Association Consortiumに参加した乳がん患者と対象者において34遺伝子を搭載したパネルで5つ(ATM、BRCA1、BRCA2、CHEK2、PALB2)の乳がんリスク遺伝子を同定した。また4つの遺伝子(BARD1、RAD51C、RAD51D、TP53)におけるタンパク切断型変異も乳がんリスクと関連した。もう1つは米国からの同様の研究であり、こちらは6万5,000例以上を解析し、BRCA1、BRCA2、PALB2、BARD1、RAD51C、RAD51D、ATM、CDH1、CHEK2の9遺伝子がリスクを増加させる遺伝子として報告され、またそれぞれの遺伝子ごとにリスクの高い乳がんのサブタイプが示された。

これまでの研究の盲点を突くかたちで投げ込まれた一石(解説:野間重孝氏)-1368

虚血性心疾患を発症しやすくする要素を危険因子と呼ぶことは、現在では一般の方でもよく知るところではないかと思う。その中でも本論文に取り上げられている危険因子は、可変的危険因子と呼ばれるものに当たる。危険因子には年齢・性別・家族歴なども入るが、これらは治療や本人の努力によって変えることができないためである。ところが、ここで危険因子に関する誤解がある。それが本論文の指摘の主旨でもあるのだが、危険因子というのは発生リスクの予想ができたり、それらをコントロールすることによって1次予防、2次予防に資することができる因子を指している。しかし、それら因子は一旦起こってしまった虚血性心疾患の予後を規定する因子ではない。この点について、多くの人たちが無意識的に誤解している。さらに、危険因子をまったく持っていなくても、虚血性心疾患を発症する人は常にある一定数いるという事実である。著者らは、ST上昇型心筋梗塞(STEMI)に関しては全発症数の10~20%強に上ることを、経験および疫学調査から示している。

BNT162b2(コミナティ筋注)のReal-World Settingにおける有効性と免疫回避変異ウイルスの発生など今後の課題(解説:山口佳寿博氏)-1367

2021年3月20日現在、Pfizer社のBNT162b2ワクチンは米国FDA、欧州連合(EU)医薬品庁(EU-EMA)の製造承認に加えWHOによる使用正当性の承認(validation)を得ており、スイス、ニュージーランド、バーレーン、サウジアラビア、ブラジルの5ヵ国で完全使用が、英国、米国など37ヵ国(EUを含む)で緊急使用が承認されている(The New York Times 3/20, 2021)。本邦においても、2021年2月14日、厚生労働省は本ワクチンを特例承認し、2月中旬より医療従事者に対する接種が開始されている。BNT162b2の接種は人口923万人の小国イスラエルにおいて最も速く積極的に推し進められ、2020年12月20日から2021年2月6日までの間に60歳以上の高齢者の90%が1回目のワクチン接種を、80%が2回目のワクチン接種を終了した(Rossman H, et al. medRxiv. 2021;2021.02.08.21251325.)。

異種アデノウイルス混在ワクチン(Gam-COVID-Vac, Sputnik V)の特性を読み解く (解説:山口佳寿博氏)-1366

ロシアGamaleya研究所によって開発された遺伝子ワクチンはアデノウイルス(Ad)をベクター(輸送媒体)とし、そのDNAに新型コロナウイルスのS蛋白全長をコードする遺伝子情報を組み込んだ非自己増殖性ワクチン(Ad-vectored vaccine)の一種である。本ワクチンは“Gam-COVID-Vac”と命名されたが別名“Sputnik V”とも呼称される。“Sputnik”は1957年に旧ソ連が世界に先駆け打ち上げに成功した人工衛星の名前であり、ロシアのプーチン大統領は“Sputnik”という名称を用いることによって本ワクチンが新型コロナに対する世界初のワクチンであることを強調した。本ワクチンは2020年8月11日にロシアで承認、2021年3月18日現在、ロシアを含め世界53ヵ国で早期/緊急使用が承認されており、第III相試験を終了したワクチンの中で最も多くの国に導入されている(The New York Times 3/18, 2021)。しかしながら、現時点においてWHOはSputnik V使用に関する正当性(validation)を保証していない。さらに、欧州連合(EU)も製造を承認していない(現在、欧州医薬品庁(EMA)に製造認可を申請中とのこと)。ロシアはSputnik Vの医学的正当性(副反応を含む)の詳細を正式論文として発表する前からワクチン不足が深刻な貧困国、低開発国に対してワクチン外交を積極的に推進してきた。ワクチンの正当性が医学的に担保されていない段階でワクチン配布を政治的な具として利用するロシアの姿勢は医学的側面からは許容できるものではない。ロシアと同様の政治姿勢は中国においても認められるが、少なくとも中国の場合、中国製ワクチンに関する学問的内容を早期に正式論文として発表するという良識を有していた。

ChAdOx1 nCoV-19(AZ社)における1回接種の有効性と血栓形成を含む新たな展開 (解説:山口佳寿博氏)-1364

AstraZeneca社のChAdOx1 nCoV-19(AZD1222)は、チンパンジーアデノウイルス(Ad)をベクターとして用いた非自己増殖性の同種Adワクチンである。ChAdOx1に関する第I~III相試験は、英国、ブラジル、南アフリカの3ヵ国で4つの試験が施行された。それら4つの試験に関する総合的評価は中間解析(Voysey M, et al. Lancet. 2021;397:99-111.)と最終解析(Voysey M, et al. Lancet. 2021;397:881-891.)の2つに分けて報告された。

過体重・肥満におけるGLP-1受容体作動薬注射製剤の体重減少効果(解説:小川大輔氏)-1365

肥満症の治療において食事療法と運動療法は重要であるが、実際には適切なカロリー摂取と適度な運動を実践し継続することは難しい。現在、肥満症の薬物療法として日本で認められている薬剤としてはマジンドールがあるが、BMI 35以上の高度肥満症に対象が限られており、投与期間も3ヵ月までと制限があるため実際にはほとんど使用されていない。また胃バイパス術という選択肢もあるが、外科療法ということもありハードルが高い。過体重または肥満の成人に対し、食事療法と強化行動療法を行ったうえでGLP-1受容体作動薬セマグルチド2.4mgの週1回皮下投与により、プラセボと比較し有意な体重減少効果が示された(セマグルチド群-16.0%、プラセボ群-5.7%、p<0.001)。また有害事象としては消化器症状が最も多く認められた(セマグルチド群82.8%、プラセボ群63.2%)。

セントラルドグマが崩れたのか(解説:岡村毅氏)-1363

現代のアルツハイマー型認知症の病理のいわばセントラルドグマであるアミロイド仮説がかなり危なくなってきた。背景から説明したい。 アルツハイマー型認知症で亡くなった方の脳では、アミロイドが蓄積している。もっと詳しく書くと、後頭葉や側頭葉内側面から出現したアミロイドプラークが病気の進行とともに広がっていく(Braakらの研究)。このようにしてできたのが「アミロイド・カスケード仮説」である。この仮説は2005年から2010年にかけて行われたADNI(Alzheimer’s Disease Neuroimaging Initiative)によって生きているヒトの脳でも確認された。