CLEAR!ジャーナル四天王|page:21

CKDの早期透析導入の意義は?(解説:浦信行氏)

末期腎不全(ESKD)では、その時点での腎移植が望めない場合には生命維持のための透析導入は必須である。あまりに導入が遅ければ、導入後の病状改善に時間を必要とし、また、回復にたどり着く以前に重症感染症や心血管事故などで不幸な転機を取る危険性も増加する。しかし、ほとんどすべての症例は透析導入には抵抗感が大きく、可能な限りの先延ばしを望む。20年ほど前なので数字の記憶は曖昧であるが、実際に経験した症例では透析導入の必要性をお話ししたところ、了解を頂けずに間もなく連絡先不明となった。1年後に重度の倦怠感のため再診された時のBUNが230mg/dL程度であったと思うが、低Na血症が少し血清浸透圧上昇に代償的に働いたのと、若い男性であったので何とかイベントもなく経過したと考えられる。緊急透析はきわめて低い血流量と透析液流量で始めたが、一過性に脳浮腫を発症したか、中程度の意識障害を来した苦い経験がある。このような危険を避ける意味でも透析導入時期の適正化が必要であるが、明らかな臨床指標はないのが現状で、症例の病態、自覚症状、臨床検査値を総合的に勘案して開始時期を決定する。

COVID-19ワクチンと季節性インフルエンザワクチン同時接種における安全性と免疫原性(解説:小金丸博氏)

 COVID-19ワクチンと季節性インフルエンザワクチンの同時接種における安全性や免疫原性を検討した研究がLancet誌オンライン版(2021年11月11日号)に報告された。英国で行われた多施設共同ランダム化比較第IV相試験であり、2種類のCOVID-19ワクチン(アストラゼネカ社製とファイザー社製)と3種類の季節性インフルエンザワクチンによる6通りの組み合わせで検討された。その結果、同時接種によって接種後7日間以内の全身反応(発熱、悪寒、関節痛、筋肉痛、疲労、頭痛、倦怠感、嘔気など)の有意な増加はなく、両ワクチンに対する抗体反応も維持されることが示された。2通りのワクチンの組み合わせで95%信頼区間の上限があらかじめ規定された非劣性マージンをわずかに超える全身反応を認めたものの、許容できる範囲と考察されている。

広い範囲で有効なアスピリンでもCOVID-19には効かないみたい(解説:後藤信哉氏)

アスピリンには抗炎症効果がある。また、アスピリンは心筋梗塞などの血栓イベント予防効果もある。COVID-19はウイルス感染なので炎症が起こる。COVID-19では血栓症も増える。抗炎症効果、抗血栓効果のあるアスピリンはCOVID-19の予後改善効果があると期待された。話は変わるが筆者はOxford大学と密接に共同研究している数少ない日本の研究者であると思う。Oxford大学は多くのカレッジからなる。臨床研究を主導するのはNuffield Department of Population Health(旧称 Clinical Trial Service Unit:CTSU)である。彼らの臨床医学における実証的ポリシーは揺るがない。

DOAC時代の終わりの始まり(解説:後藤信哉氏)

製薬企業というのは戦略的な情報企業だと思う。経口Xa阻害薬アピキサバン、リバーロキサバンが世界で毎年1兆円以上売れている。現状をつくるために、製薬企業はきわめて巧みな情報統制を行った。非弁膜症性心房細動は、心不全、突然死などのリスクのマーカーである。しかし、「非弁膜症性心房細動=脳血栓塞栓症」と徹底的に宣伝した。確かに、心房細動症例に脳卒中が多いことはFramingham研究が示した事実である。しかし、脳血栓塞栓症が多いことは誰も示していない。部分的に真実を入れた広報はプロパガンダの初歩である。将来を見越してしっかりとストーリーをつくった能力には敬服する。

サクビトリル・バルサルタン:ステージBにエビデンスが出なかったけど、日本だけはステージAから使えてしまう矛盾(解説:絹川弘一郎氏)

サクビトリル・バルサルタンはとても良い心不全治療薬である。もう少し正確に言うと素晴らしい軽症心不全治療薬である。Paradigm-HFやLifeのデータを見てもNYHA 4度には効かないし、自分の臨床経験でもその通りである。サクビトリル・バルサルタンは重症テスターともいえ、この薬剤に忍容性がない(=血圧が下がりすぎる、ないしは腎機能が悪化する)場合、NYHA 4度と認定しても構わないのではとすら、最近思う。しかし、血行動態が安定しているNYHA 2度のHFrEFには実によく効くし、リバースリモデリングも大いに期待できる。

ダプロデュスタットの透析患者での有効性と初発の主要有害心血管系イベントはESAと同等(解説:浦信行氏)

CKDにおける腎性貧血の治療薬として低酸素誘導因子プロリン水酸化酵素(HIF-PH)阻害薬が透析の有無にかかわらず使用可能となり、これまでにロキサデュスタットをはじめとして5剤が使用可能となっている。HIF-PH阻害薬は転写因子であるHIF-αの分解を抑制して蓄積させ、HIF経路を活性化させる。その結果、生体が低酸素状態に曝露されたときに生じる赤血球造血反応と同様に、正常酸素状態でも赤血球造血が刺激され、貧血が改善する。これまでの臨床試験は5剤いずれも赤血球造血刺激因子(ESA)を対象とした非劣性試験であり、いずれも有効性と有害事象の頻度には非劣性が確認されている。少なくとも有効性に関しては5剤間で大きな違いはないようである。今回はダプロデュスタットの貧血改善効果や有害事象のESAに対する非劣性評価に加えて、初発の主要有害心血管イベント(MACE:全死因死亡、非致死的心筋梗塞、非致死的脳卒中の複合)に対する評価が行われ、主な副次評価項目は、初発のMACEに加えて入院あるいは血栓塞栓イベントの発症であり、5月に発表されたバダデュスタットとほぼ同様の解析がなされている。

妊娠高血圧腎症pre-eclampsiaとメトホルミン(解説:住谷哲氏)

筆者は内科医で産科は専門外なのではじめに用語を整理したい。2018年に発表された日本産科婦人科学会の「妊娠高血圧症候群の定義分類」によると、「妊娠時に高血圧を認めた場合、妊娠高血圧症候群とする。妊娠高血圧症候群は妊娠高血圧腎症、妊娠高血圧、加重型妊娠高血圧腎症、高血圧合併妊娠に分類される」とあり、病型分類から子癇eclampsiaを除外し、高血圧に母体の臓器障害や子宮胎盤機能不全を認める場合は蛋白尿がなくても妊娠高血圧腎症とする、とされている。妊娠高血圧腎症が以前の妊娠中毒症であり、本論文のpre-eclampsiaと同一概念である。HELLP(Hemolysis, Elevated Liver enzymes, and Low Platelet count)症候群のような腎症を伴わない病態を妊娠高血圧腎症の訳語に含めるのは何となく違和感があるが、本稿でもpre-eclampsiaの訳語として妊娠高血圧腎症を使用する。 妊娠高血圧腎症の病態は現在も明らかではないが、何らかの胎盤機能異常が存在するとされている。胎盤機能異常があるので、最も確実な治療法は分娩または中絶による妊娠終了であるが現実的には妊娠継続を選択する場合がほとんどである。妊娠高血圧腎症の高リスク妊婦に対する低用量アスピリン投与が発症予防に有効であるとのエビデンスがあるが、発症した妊娠高血圧腎症に対する治療薬は現在存在しない。そこでこれまで、drug-repurposingの観点から、プラバスタチン、プロトンポンプ阻害薬、それとメトホルミンなどの投与が試みられてきた。本論文はメトホルミンの有効性を検証するためのproof-of-concept trialである。

抗血小板薬抵抗性などの問題(解説:後藤信哉氏)

心筋梗塞、脳梗塞などの疾病予防のため降圧、糖尿病管理などが行われる。降圧薬の効果は血圧で簡便・正確に計測できる。血糖もしかりである。アスピリン、クロピドグレルなどの抗血小板薬の効果を簡便・正確に計測する方法は確立されていない。このため、新薬が開発されるごとに古い薬の「抵抗性」などが強調された。クロピドグレルの特許切れ前には「アスピリン抵抗性」などが喧伝された。簡便・正確な薬効指標がないため、反論は困難であった。一世を風靡したクロピドグレルも特許切れした。同一の薬効標的に対してプラスグレル、チカグレロルが開発された。しかし、臨床家が実感できるクロピドグレルの欠点を探すのは困難であった。多くの医師は自らが処方する多く薬剤の代謝経路など理解していない。しかし、クロピドグレルについてはCYP2C19という肝酵素により活生体が産生されることが強調された。CYP2C19の遺伝子型も解明され、代謝の速いヒト、遅いヒトがいるとされた。代謝の遅いヒトではクロピドグレルの効果が発現しないように喧伝された。日本人を含むアジア人では代謝の遅いpoor metabolizerが多いのでクロピドグレルが効きにくいとされた。クロピドグレルの臨床開発に寄与して、日本人はむしろ効き過ぎて出血が増える懸念があるとして50mgの減量を承認したプロセスを熟知する筆者には世の中の風の変化が驚きであった。

新型コロナウイルスワクチン接種者のブレークスルー感染(既感染者と未感染者の比較)(解説:小金丸博氏)

新型コロナウイルスワクチン接種後にブレークスルー感染が起こることはすでに知られた事実である。今回、mRNAワクチンである「BNT162b2」(Pfizer-BioNTech製)または「mRNA-1273」(Moderna製)の接種者を対象に、ブレークスルー感染発生率を既感染者と未感染者で比較した観察研究がJAMA誌に報告された。BNT162b2接種群の累積感染発生率(追跡期間120日)は既感染者で0.15%(95%信頼区間[CI]:0.12~0.18)、未感染者で0.83%(同:0.79~0.87)、mRNA-1273接種群では既感染者で0.11%(同:0.08~0.15)、未感染者で0.35%(同:0.25~0.48)だった。既感染者は感染により自然免疫を獲得できているため、感染発生率が低いのは予想できる結果である。今回の研究では、既感染者の中でワクチン接種群と非接種群を比較したデータはなく、既感染者にワクチンを接種することによるワクチン免疫の上乗せ効果がどれだけあったかは不明である。また、既感染者のうち、初回ワクチン接種が感染後6ヵ月以上経過していた人の方が6ヵ月未満だった人よりも、ブレークスルー感染率が低いという結果が得られた。興味深い結果ではあるが、このような結果が得られた理由は説明できていない。既感染者に対するワクチンの適切な接種時期、スケジュールは確立されておらず、今後の課題の1つである。 本研究はカタールで実施された全国レベルの大規模なコホート研究である。注意すべきLimitationとしては、未感染者の中に見逃された感染者が含まれている可能性があること、対象に小児や高齢者の割合が少なく一般化できないこと、基礎疾患に関してマッチングをできていないこと、2種類のワクチンの直接比較はできなかったこと、などが挙げられる。

欧州人では血管内治療前の血栓溶解療法は必要か?(解説:内山真一郎氏)

前方循環系の脳内主幹動脈閉塞による急性虚血性脳卒中において血管内治療(EVT)前のアルテプラーゼ静注療法の有無を比較した無作為化比較試験はいずれもアジア(中国と日本)で行われており、欧州で行われた本試験(MR CLEAN-NO IV)はアジア以外では初めての試験であった。EVTが可能で、かつアルテプラーゼ静注療法の適応がある539例を対象に行われた本試験では、主要評価項目であった90日後の転帰に両群間で有意差はなく、EVT単独療法の非劣性は証明されず、安全性の評価項目であった症候性頭蓋内出血もEVT単独群とアルテプラーゼ併用群の間に有意差がなかった。これまでに行われた同様の試験としては、中国で行われたDIRECT-MT試験とDEPT試験、および日本で行われたSKIP試験の3試験があり、それらのメタ解析によれば、血管内治療単独群と血栓溶解橋渡し療法群の間に3ヵ月後の転帰は有意差がなく、症候性頭蓋内出血も有意差がないという結果が示されている。本試験の結果もこのメタ解析と同様であり、この論争に決着をつけるには、さらなるエビデンスの集積が必要になる。

併用療法の有効性が示唆される結果となった(解説:高梨成彦氏)

 経皮的脳血栓回収術では、血栓吸引カテーテルとステントリトリーバーの2種類のデバイスが使用される。基本的にはそれぞれ単独で使用するが、効率的な回収を期待して両者を組み合わせた併用療法も行われている。  本研究は併用療法がステントリトリーバー単独療法よりも有効性が高いという作業仮説を証明するために組まれた、オープンラベルのランダム化比較試験である。  主要評価項目は手術終了時のTICI 2c/3の有効再開通率と設定され、最終的に408例の患者が参加した。年間100例以上の脳血栓回収術を行っている施設のみが参加しており、術者は血栓吸引法とステントリトリーバー法をそれぞれ10例以上経験していることが条件である。

降圧薬の心血管イベント抑制効果 年齢やベースラインの血圧で異なるか (解説:江口和男氏)

わが国の高血圧ガイドラインでは、高齢者における降圧目標を65~74歳については非高齢者と同様の130/80mmHg未満、75歳以上では原則として140/90mmHg未満としている(JSH2019ガイドライン)。同様に、ESHガイドラインでは60~79歳では140/90mmHg以上、80歳以上では160/90mmHg以上と年齢により降圧薬開始の基準を分けている。英国のNICEガイドラインでは80歳以上の高齢者で血圧が150/90mmHg以下であれば降圧治療を推奨しないとし、ISH2020ガイドラインでは冠動脈疾患、脳卒中などの併存疾患がある際の各降圧目標について、通常の130/80mmHgでなく高齢者は140/80mmHg未満と記載している。一方、米国ACC/AHA2017ガイドラインでは65歳以上のすべての外来通院可能な高齢者かつ収縮期血圧(SBP)≧130mmHgではSBPゴール130mmHg未満を目標とした降圧治療を推奨している。このようにわが国および国際的高血圧ガイドラインにおいて高齢者高血圧に対する降圧治療の考え方が異なっている。では、高齢者において積極的降圧療法を行う場合、降圧療法の開始基準や降圧目標を年齢で分けなければならないのだろうか? 高齢者における降圧療法では過降圧が危惧されるが、血圧レベルがさほど高くない場合(たとえば130/80mmHg)では、低血圧などの有害事象が出るだけでイベント抑制効果はないのであろうか?

国・地域により評価が分かれる研究(解説:野間重孝氏)

チカグレロルはcyclo pentyl triazolo pyrimidine (CPTP)系の薬剤に分類される抗血小板薬である。クロピドグレルやプラスグレルなどのチエノピリジン系の薬剤がプロドラッグであり肝臓で代謝されることにより活性体となるのに対し、チカグレロルは自身が活性体であるためその作用の出現が速やかであるとともに肝代謝による影響を受けることがない。いずれの系統の薬剤も血小板のP2P12受容体に結合することによりその作用を発揮するが、チエノピリジン系の結合が非可逆的なものであるのに対し、チカグレロルの結合は可逆的である。そのため中止後の効果消失も速やかであるが、その反面作用時間が短いため1日2回の服用が必要である。

ステロイド投与に関連する臨床試験の難しさ:心肺蘇生の現場から(解説:香坂俊氏)

敗血症性ショック症例に対するステロイド投与  今回のテーマはVAM-IHCA試験という院内の心停止症例に対してバソプレシン+メチルプレドニゾロンを投与するかどうかというRCTなのであるが(JAMA誌掲載)、このテーマに関しては少し昔の話から始めさせていただきたい。  ステロイドが集中治療の現場に登場したのは、2002年くらいからではないだろうか。Annane氏らによってフランスで敗血症性ショック症例を対象としたRCTが行われ(300例)、ACTH負荷不応だった患者に対して

ワクチンの3回目Booster接種は感染/重症化予防効果を著明に改善する(解説:山口佳寿博氏、田中希宇人氏)

前論評(山口, 田中. ワクチン接種後の液性免疫の経時的低下―3回目Booster接種必要性の基礎的エビデンス)で論じたように、ワクチン接種後の液性免疫は、野生株、従来株、Delta株を中心とする変異株の別なく、月単位で有意に低下する。この液性免疫の経時的低下によって、Delta株を中心とする新型コロナウイルスの感染拡大(第6波)が今年の12月以降の冬場に発生する可能性を論評者らは危惧している。第6波の発生を避けるためには、ワクチン接種後の時間経過と共に低下した液性免疫を再上昇させるためのワクチン3回目接種(Booster接種)、あるいは、Delta株を中心とするコロナ変異株抑制能力が高く効果持続期間がワクチンと同等、あるいは、それ以上に長いIgG monoclonal抗体をワクチン代替薬として考慮する必要がある。

ワクチン接種後の液性免疫の経時的低下 - 3回目booster接種必要性の基礎的エビデンス (解説:山口佳寿博氏、田中希宇人氏)

Levin氏らはイスラエルにおいてBNT162b2を2回接種した一般成人におけるS蛋白IgG抗体価、野生株に対する中和抗体価の時間推移を6ヵ月にわたり観察した(Levin EG, et al. N Engl J Med. 2021 Oct 6. [Epub ahead of print] )。その結果、S蛋白IgG抗体価はワクチン2回接種後30日以内に最大値に達し、それ以降、IgG値はほぼ一定速度で低下し、6ヵ月後には最大値の1/18.3まで減少することが示された。野生株に対する中和抗体価の低下はS蛋白IgGと質的に異なり、中和抗体価は、2回接種後3ヵ月間は一定速度で低下、それ以降は、低下速度が緩徐となりほぼ横ばいで推移、6ヵ月後には最大値の1/3.9まで低下した。高齢、男性、併存症(高血圧、糖尿病、脂質異常症、心/腎臓/肝疾患)が2つ以上存在する場合にはS蛋白IgG抗体価ならびに中和抗体価の時間経過に伴う低下はさらに増強された。Levin氏らが示したのと同様の知見はShrotri氏らによっても報告された(Shrotri M, et al. Lancet. 2021;398:385-387. )。Shrotri氏らによると、BNT162b2の2回接種後70日(2.3ヵ月)以上経過した時点でのS蛋白IgG抗体価は最大値の1/2まで低下していた。Shrotri氏らは、AstraZenecaのChAdOx1接種後のS蛋白IgG抗体価の時間推移についても検証し、ChAdOx1の2回接種後のS蛋白IgG抗体価の最大値はBNT162b2接種後に比べ1/10と低く、かつ、ワクチン接種後70日以上経過した時点でのS蛋白IgG抗体価は自らの最大値の1/5まで低下することを示した。

ファイザー製コロナワクチンBNT162b2 長期の有効性と安全性(解説:田中希宇人氏/山口佳寿博氏)

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)による第5波で多くの医療機関で災害級の対応を強いられたものと考えているが、2021年10月中旬現在において波は完全に引き潮となっている。コロナが落ち着いてきた要因はいろいろ囁かれているが、日本全土でコロナワクチン接種が普及したこと(2021年10月19日現在、日本でのコロナワクチン2回目接種終了率68.0%)は大きく影響していると考える。現場でも実際にコロナが収束傾向な状況は大変喜ばしいことと思っている。ファイザー製コロナワクチンBNT162b2の効果としては最初に95%の発症予防効果(Polack FP, et al. N Engl J Med. 2020;383:2603-2615.)が示され、その後もリアルワールドセッティングで感染予防効果率:92%、重症化予防効果率:92%、入院予防効果率:87%(Dagan N, et al. N Engl J Med. 2021;384:1412-1423.)とさまざまな臨床的有用性がすでに報告されている。さらに12~15歳の若年者ではBNT162b2コロナワクチンを2回接種後に新型コロナウイルス感染症を発症した症例は1例も認めずに高い有効性や安全性も示されている(Frenck RW Jr, et al. N Engl J Med. 2021;385:239-250.PMID:34043894)。本邦では医療従事者が先駆けてコロナワクチンを接種したことから、現場でも長期の有効性や安全性プロファイルは関心の高いところである。

潰瘍性大腸炎の寛解導入および維持療法における低分子医薬品ozanimodの有用性(解説:上村直実氏)

選択的スフィンゴシン-1-リン酸(S1P)受容体調節薬ozanimodの潰瘍性大腸炎(UC)に対する有用性を検証した第III相臨床試験の結果、中等度から重度UCの寛解導入および寛解維持に有効性を認めたことがNEJM誌に掲載された。選択的S1P受容体調整薬ozanimodはUC患者の大腸粘膜へのリンパ球の浸潤を抑えることで炎症を抑制する効果が期待されている新規の低分子医薬品である。UCは特定疾患に指定されている原因不明の炎症性腸疾患(IBD)であり、現在の患者数は約18万人である。

COVID-19の血栓症は本当の問題なのか?(解説:後藤信哉氏)

新型コロナウイルス感染は血管内皮細胞にも起こる。血管内皮細胞障害を介して深部静脈血栓症、脳血栓症などが増える。とくに、最初の武漢からのレポートでは入院例にヘパリンの抗凝固療法を施行していないこともあり、約半数の症例に静脈血栓イベントを認めたと注目された。米国、欧州などでは静脈血栓イベント予防のための低分子ヘパリンがルーチンになっていたが、それでも10~20%の症例に静脈血栓イベントを認めた。また、最近のランダム化比較試験にて静脈血栓の治療量を用いても、予防量投与時と重症化後には重篤な予後イベント発症率に差がないとされた。本研究では症候性ではあるが外来症例が対象とされた。新型コロナウイルス感染の予後が血栓症により規定されているのであれば、従来確立された抗血栓療法である抗血小板薬アスピリン、抗凝固薬アピキサバンは有効なように思われる。考えられた仮説に対してランダム化比較試験による検証をするのが欧米人の偉いところである。登録された症例はPCR陽性、有症候性の40~80歳の男女であった。

新型コロナウイルスワクチン接種によりギラン・バレー症候群の発症リスクは4倍に高まる(解説:内山真一郎氏)

米国食品医薬品局(FDA)は、新型コロナウイルスワクチンAd26.COV2.S(ヤンセン/ジョンソン・エンド・ジョンソン)接種後のギラン・バレー症候群(GBS)に懸念を表明しているが、2021年7月までに全米で報告された130例を分析している。平均年齢は56歳、65歳未満が86%、男性が60%であった。ワクチン接種後GBS発症までの平均日数は13日、93%は重症、死亡は1例であった。これはワクチン接種10万回に1件発症する計算になる。期待値に対する観察値の比率は4.18であり、ワクチン接種によりGBSの発症リスクは4倍以上に高まることになり、年間10万人当たり6.36例発症すると推計される。このように、ワクチン接種後の発症率は低いものの、発症リスクは有意に高まることから、本ワクチン接種には安全性に懸念を持たざるを得ないと結論している。ただし、本研究は受動登録システムによる診療記録の分析であり、GBSの確定診断も確立する必要があることを課題として挙げている。