多枝冠動脈疾患を有する適格患者において、経験豊富なチームが施行した低侵襲冠動脈バイパス術(MICS CABG)は胸骨正中切開によるCABGと比較し、術後1ヵ月時点の患者報告による身体的回復を改善し、かつ術後12ヵ月までの安全性に明らかな不利益は認められなかった。カナダ・オタワ大学のMarc Ruel氏らが、研究者主導の国際共同無作為化非盲検比較試験「Multivessel coronary artery bypass grafting via small thoracotomy versus sternotomy:MIST」の結果を報告した。CABGは一般的であるが侵襲性が高い手術で、従来は胸骨正中切開によって行われてきた。小開胸によるMICS CABGは術後の回復を改善する可能性があるが、無作為化試験によるエビデンスは限られていた。今回の結果について著者は、「適切な患者選択の下での経験豊富なチームによるMICS CABGを支持するものであり、今後は実施体制、回復プロセスおよび長期アウトカムについて、さらなる研究が必要である」とまとめている。Lancet誌オンライン版2026年7月31日号掲載の報告。
術後1ヵ月時点のSF-36 PCSを比較
MIST試験は、カナダ(2施設)、インド、中国、ドイツ、米国および日本(各1施設)の計7施設(大学病院4施設、市中病院3施設)で実施された。
対象は、18歳以上でCABGの適応があり、血管造影で多枝冠動脈疾患(2本以上の主要心外膜冠動脈および2つ以上の異なる冠動脈領域[左前下行枝、左回旋枝または右冠動脈]において少なくとも70%の狭窄、あるいは左冠動脈主幹部の50%以上の狭窄)が確認され、胸骨正中切開CABGまたは小開胸によるMICS CABGのいずれかの冠動脈手術の適応がある患者であった。血行動態が不安定な患者、いずれかの手術法が禁忌の患者、心臓手術歴のある患者、併施手術を要する患者は除外された。
研究グループは、適格患者をMICS CABG群または胸骨正中切開CABG群に、1対1の割合で無作為に割り付けた。
主要評価項目は、術後1ヵ月時点における患者報告による身体的回復度で、SF-36の身体的側面のQOLサマリースコア(PCS)を用いて評価した。
主要解析はITT集団を解析対象とし、安全性解析は実際に施行された治療に基づいて行った。1ヵ月時点の欠測データは、多重代入法を用いて補完した。
術後1ヵ月時点のSF-36 PCSスコア、MICS CABG群で有意に高値
2018年8月24日~2024年11月26日に176例が登録され、同意撤回の6例を除く170例がMICS CABG群(86例)または胸骨正中切開CABG群(84例)に無作為化された。患者背景は、年齢中央値67.0歳(四分位範囲:61.0~72.0)、男性154例(91%)、女性16例(9%)で、全例に割り付けられた手術が施行された。
術後1ヵ月時点で、SF-36 PCSスコア平均値はMICS CABG群45.1(SD 8.0)、胸骨正中切開CABG群42.2(SD 9.1)であり、MICS CABG群が有意に高値であった(平均群間差:2.9、95%信頼区間:0.3~5.5、p=0.031)。
術後1ヵ月時点の臨床および安全性追跡調査は全例で完了し、術後12ヵ月時点の追跡調査は胸骨正中切開CABG群の3例を除く全例で完了した。術後12ヵ月までにいずれの群でも死亡や脳卒中は認められなかった。術後1ヵ月より前にMICS CABG群で主要有害心・脳血管イベントが1例に発生したが、胸骨正中切開CABG群では発生しなかった。
(医学ライター 吉尾 幸恵)