ビタミンD欠乏は多発性硬化症(MS)のリスク因子であり、疾患活動性上昇のリスクと関連しているが、補充による有益性のデータは相反している。フランス・モンペリエ大学のEric Thouvenot氏らD-Lay MS Investigatorsは、プラセボと比較して高用量ビタミンD(コレカルシフェロール10万IU、2週ごと)は、clinically isolated syndrome(CIS)および再発寛解型MS(RRMS)の疾患活動性を有意に低下させることを示した。研究の成果は、JAMA誌オンライン版2025年3月10日号に掲載された。
フランス36施設の無作為化プラセボ対照第III相試験
D-Lay MS試験は、高用量コレカルシフェロール単剤療法がCIS患者の疾患活動性を抑制するか評価することを目的とする二重盲検無作為化プラセボ対照第III相試験であり、2013年7月~2020年12月にフランスの36のMS施設で患者を登録した(French Ministry of Healthの助成を受けた)。
年齢18~55歳、未治療、罹患期間が90日未満、血清ビタミンD濃度が100nmol/L未満で、McDonald診断基準2010年改訂版の空間的多発性の条件を満たすか、MSと一致するMRI上の2つ以上の病変を有し、脳脊髄液陽性(2つ以上のオリゴクローナルバンドの存在)の患者を対象とした。これらの患者を、コレカルシフェロール(10万IU)またはプラセボを2週ごとに24ヵ月間経口投与する群に1対1の割合で無作為に割り付けた。
主要アウトカムは疾患活動性とし、24ヵ月の追跡期間中の再発またはMRI活動性(MRI上で脳FLAIR病変または脊髄T2病変、あるいはT1強調造影病変が新たに発生、または明らかに拡大すること)で定義した。
3つのMRI関連の副次アウトカムも有意に良好
316例(年齢中央値34歳[四分位範囲:28~42]、女性70%)を登録し、試験薬の投与を少なくとも1回受けた303例(95.9%)(ビタミンD群156例、プラセボ群147例)を主解析の対象とした。最終的に、288例(91.1%)が24ヵ月の試験を完了した。
疾患活動性の発現は、プラセボ群が74.1%(109例)であったのに対し、ビタミンD群は60.3%(94例)と有意に少なかった(ハザード比[HR]:0.66[95%信頼区間[CI]:0.50~0.87]、p=0.004)。また、疾患活動性の発現までの期間中央値は、プラセボ群の224日に比べビタミンD群は432日と有意に長かった(p=0.003[log-rank検定])。
3つのMRI関連の副次アウトカムは、いずれも以下のとおり、プラセボ群に比べビタミンD群で発生率が有意に低かった。MRI活動性(ビタミンD群57.1%[89例]vs.プラセボ群65.3%[96例]、HR:0.71[95%CI:0.53~0.95]、p=0.02)、新規病変(46.2%[72例]vs.59.2%[87例]、0.61[0.44~0.84]、p=0.003)、造影病変(18.6%[29例]vs.34.0%[50例]、0.47[0.30~0.75]、p=0.001)。
一方、10項目の臨床関連の副次アウトカムはいずれも両群間に差はなく、たとえば再発についてはビタミンD群17.9%(28例)、プラセボ群21.8%(32例)であった(HR:0.69[95%CI:0.42~1.16]、p=0.16)。
33件の重篤な有害事象は試験薬との関連はない
治療開始時にMcDonald診断基準2017年改訂版のRRMSの条件を満たした患者247例を対象としたサブグループ解析では、主要アウトカムはプラセボ群に比べビタミンD群で有意に良好だった(HR:0.66[95%CI:0.49~0.89]、p=0.007)。
試験期間中に、30例(ビタミンD群17例[10.9%]vs.プラセボ群13例[8.8%]、p=0.55[χ
2検定])で33件の重篤な有害事象の報告があったが、いずれも高カルシウム血症を示唆するものではなく、試験薬との関連もなかった。また、腎不全および中等度・重度の高カルシウム血症(カルシウム濃度>2.88mmol/L)の報告はなかった。
著者は、「これらの結果は、追加治療としての高用量ビタミンDのパルス療法の役割の可能性を含め、さらなる検討を正当化するものである」「ビタミンDの有効性は、視神経炎を有するCIS患者とこれを有さないCIS患者で同程度であったことから、この治療の対象はすべてのCIS表現型に拡大される可能性がある」としている。
(医学ライター 菅野 守)