観察研究でRCT模倣可能な“target trial emulation”/BMJ

提供元:ケアネット

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公開日:2022/09/16

 

 観察研究は研究デザインにかかわらず交絡の影響を受けやすいが、目標となる無作為化比較試験(RCT)の模倣が成功すれば、観察研究でRCTと同じ効果推定値が得られる。スウェーデン・カロリンスカ研究所のAnthony A. Matthews氏らは、観察研究にRCTの研究デザイン原則を適用した“target trial emulation”のプロセスを概説した。BMJ誌2022年8月30日号掲載の報告。

“target trial emulation”の必要性

 観察研究は、費用、倫理的観点あるいは迅速性などの理由でRCTを実施できない場合に、介入の有効性に関するエビデンスを提供することができる。しかし、観察研究は、無作為化されていないため交絡バイアスが存在するだけでなく、誤った研究デザインの選択(追跡調査開始時期の指定など)が自らバイアスを引き起こす可能性もあり、因果推論には課題がある。

 このような研究デザインの欠陥は、まず、関心のある問題に答えが得られるであろう仮定のRCT(target trial)をデザインし、次に、このtarget trialを、利用可能な観察データと適切な方法を用いて模倣することで克服できるという。

“target trial emulation”のデザイン

 “target trial emulation”の最初のステップは、利用可能な観察データの制約事項内で、理想的に実施されたであろうRCTのプロトコールを特定することである。観察データは、プラセボ対照試験の模倣には使用できないため、target trialは実践的試験(pragmatic trial)でなければならない。観察データを用いてtarget trialを模倣する前に、target trialのプロトコールを明確に定義することで、多くの一般的な研究デザインの落とし穴を回避できるとする。

 以下に、プロトコールの各構成要素をまとめる。

・適格基準:target trialの適格基準を明示し、ベースライン時の値にのみ基づくようにすることを保証する必要がある。
・治療法:target trialで対象者を割り付ける具体的な治療、持続的な治療の場合は対象者がその治療を順守すべき期間、および割り付けられた治療を中止または変更できる正当な理由を策定する(例:試験開始時にアトルバスタチン10mg/日で服用を開始し5年間または禁忌が生じるまで継続する群vs.試験開始時または今後5年以内、スタチンの適応が生じるまでいかなるスタチンも服用しない群)。
・割り付け:観察データは日常臨床ですでに行われている治療を反映しているため、データが適合する治療に個人を割り付け、ベースラインの共変量を調整して交絡をコントロールしなければならない。交絡の調整に必要な共変量の最小セットは、因果関係を示す有向非巡回グラフを用いて選択されるべきである。
・アウトカム:アウトカムの定義(例:ICD-10診断コードの使用)、使用した測定アルゴリズムやツールの妥当性および信頼性を明示しなければならない。
・フォローアップ:フォローアップ開始は、対象者選択(適格基準を満たしたとき)、治療割り付け、アウトカム集計開始の3つの時点と一致する必要がある。観察研究ではこのルールから外れやすく、選択バイアス、不死時間バイアスなどが生じる可能性がある。その後のフォローアップは、アウトカムの発生、打ち切り、死亡、競合イベントまたはフォローアップ終了(管理上またはそれ以外)のいずれか早い時点まで継続される。
・因果関係:治療割り付けに関するデータ(たとえば、処方箋)が利用可能で、対象者がベースライン時にデータが適合する治療に従って解析される場合、intention-to-treat効果の観察的類似点を目標とすることができる。per-protocol効果(割り付けられた治療を完全に順守した場合の効果)を目標とすることも可能である。
・統計方法:観察データを用いてintention-to-treat解析を行う場合、標準的な統計手法を用いてベースラインの共変量を調整する。

(医学ライター 吉尾 幸恵)

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コメンテーター : 折笠 秀樹( おりがさ ひでき ) 氏

統計数理研究所 大学統計教員育成センター 特任教授

滋賀大学 データサイエンス・AIイノベーション研究推進センター 特任教授

J-CLEAR評議員