世界の健康維持に必要な人的資源、医師は640万人不足か/Lancet

2019年の世界の医師密度は人口1万人当たり約17人、看護師・助産師の密度は約39人と、ユニバーサルヘルスカバレッジ(UHC:すべての人が適切な保健医療サービスを、支払い可能な費用で受けられる状態)の達成に要する、健康のための人的資源(HRH)としては不十分で、医師は640万人、看護師・助産師は3,060万人が足りておらず、今後、世界の多くの地域で保健人材の拡充を進める必要があることが、米国・ワシントン大学のAnnie Haakenstad氏らGBD 2019 Human Resources for Health Collaboratorsの調査で示された。研究の詳細は、Lancet誌オンライン版2022年5月23日号で報告された。
GBD研究の一環の系統的解析
研究グループは、比較可能で標準化されたデータ源を用いて世界のHRH密度を推定し、HRHの中核となる最小限の保健人材とUHCの有効なカバレッジの遂行能力との関係を評価する目的で、「世界の疾病負担(GBD)研究」の一環として系統的な解析を行った(Bill & Melinda Gates財団の助成を受けた)。国際労働機関(ILO)とGlobal Health Data Exchangeのデータベースを用いて、労働力調査から1,404ヵ国年のデータと、国勢調査から69ヵ国年のデータが特定され、医療関連の雇用に関する詳細なマイクロデータが収集された。また、世界保健機関(WHO)のNational Health Workforce Accountsから2,950ヵ国年のデータが同定された。
すべての職業コーディングシステムのデータを、国際標準職業分類1988(ISCO-88)にマッピングすることで、全時系列で医療従事者の16項目のカテゴリーについて、その密度の推定が可能となった。
204の国と地域のうち196(GBDの7つの広域圏と21の地域を網羅)の1990~2019年のデータを用い、時空間ガウス過程回帰(ST-GPR)を適用することで、1990~2019年のすべての国と地域のHRH密度がモデル化された。
また、UHCの有効カバレッジインデックスと、持続可能な開発目標(SDG)の指針3.c.1のHRHにかかわる保健人材の4つのカテゴリー(医師、看護師・助産師、歯科医師等[歯科医、歯科衛生士等(dental assistants)]、薬剤師等[薬剤師、pharmaceutical assistants])の密度との関係が、確率的フロンティアメタ回帰(SFM)でモデル化された。
UHCの有効カバレッジインデックスに関して、特定の目標の達成(100のうち80)に要する保健人材の最小限の密度の閾値が同定され、これらの最小閾値に関して国ごとの保健人材の不足分が定量化された。
過小評価の可能性を考慮
2019年に、世界には1億400万人(95%不確実性区間[UI]:8,350万~1億2,800万)の保健人材が存在し、このうち医師が1,280万人(970万~1,660万)、看護師・助産師が2,980万人(2,330万~3,770万)、歯科医師等が460万人(360万~600万)、薬剤師等は520万人(400万~670万)であった。2019年の世界の医師密度は、人口1万人当たり平均16.7人(95%UI:12.6~21.6)で、看護師・助産師は1万人当たり38.6人(30.1~48.8)であった。日本は人口1万人当たり、それぞれ23.5人(17.8~30.1)および119.2人(94.7~148.8)で、高所得国(それぞれ33.4人[26.9~41.0]および114.9人[94.7~137.7])の中では医師密度が低かった。
GBDの7つの広域圏のうち、サハラ以南のアフリカ(人口1万人当たりの医師密度2.9人[95%UI:2.1~4.0]、看護師・助産師密度18.3人[13.6~24.0])、南アジア(6.5人[4.8~8.5]、9.7人[7.3~12.8])、北アフリカ/中東(10.8人[8.0~14.3]、25.8人[19.6~33.5])でHRH密度が低かった。
UHC有効カバレッジインデックスの100のうち80の目標を達成するのに要する最小限の保健人材は、人口1万人当たり、医師が20.7人、看護師・助産師が70.6人、歯科医師等が8.2人、薬剤師等は9.4人であった。2019年に、この最小限の閾値の達成に不足していた保健人材数は各国の合計で、医師が640万人、看護師・助産師が3,060万人、歯科医師等が330万人、薬剤師等は290万人だった。
著者は、「中核となる保健人材の最小限の閾値は、人的資源を最も効率的にUHCの達成に結び付ける保健システムを基準としているため、実際のHRHの不足は推定よりも大きい可能性がある。この過小評価の可能性を考慮すると、UHCの有効カバレッジを向上させるには、多くの地域で保健人材の拡充を進める必要がある」としている。
(医学ライター 菅野 守)
原著論文はこちら
GBD 2019 Human Resources for Health Collaborators. Lancet. 2022 May 23. [Epub ahead of print]
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