BRAF V600E遺伝子変異大腸がん、MAPK経路標的の3剤併用は?/NEJM

提供元:ケアネット

印刷ボタン

公開日:2019/10/16

 

 BRAF V600E遺伝子変異陽性の転移を有する既治療大腸がん患者の治療では、エンコラフェニブ(BRAF阻害薬)+セツキシマブ(抗EGFRモノクローナル抗体)+ビニメチニブ(MEK阻害薬)併用療法およびエンコラフェニブ+セツキシマブ併用療法は標準治療と比較して、いずれも全生存(OS)期間を有意に延長し、奏効率も有意に高いことが、米国・テキサス大学MDアンダーソンがんセンターのScott Kopetz氏らが行ったBEACON CRC試験で示された。研究の成果は、NEJM誌オンライン版2019年9月30日号に掲載された。BRAF V600E遺伝子変異陽性の転移を有する大腸がんの予後は不良であり、初回治療不成功後のOS期間中央値は4~6ヵ月とされる。また、BRAFだけを阻害しても、上皮成長因子受容体(EGFR)シグナル伝達を介して伝達路が再活性化されるため、腫瘍縮小効果は限定的だという。この3剤併用レジメンは、MAPKシグナル伝達経路を最も効果的に阻害する併用療法としてデザインされた。

BRAF V600E遺伝子変異陽性の転移を有する既治療大腸がん患者を3群で比較

 研究グループ(日本を含む)は、BRAF V600E遺伝子変異陽性の転移を有する既治療大腸がん患者において、エンコラフェニブ+セツキシマブ±ビニメチニブの効果を標準治療と比較する目的で、非盲検無作為化第III相試験を実施した(Array BioPharmaなどの助成による)。

 対象は、組織学的および細胞学的に確定されたBRAF V600E遺伝子変異陽性の転移を有する大腸がんで、1または2レジメンの治療を受けた後に病勢が進行した患者であった。

 被験者は、3剤併用群、2剤併用群、対照群(標準治療)に1対1対1の割合で無作為に割り付けられた。3剤併用群にはエンコラフェニブ(300mg/日)+セツキシマブ(初回400mg/m2、以降は250mg/m2/週)+ビニメチニブ(45mg、1日2回)が、2剤併用群にはエンコラフェニブ(300mg/日)+セツキシマブ(初回400mg/m2、以降は250mg/m2/週)が投与され、対照群では、治験責任医師の裁量でセツキシマブ+イリノテカンまたはセツキシマブ+FOLFIRI(フォリン酸、フルオロウラシル、イリノテカン)のいずれかが選択された。

 主要エンドポイントは、3剤併用群の対照群と比較したOS期間および客観的奏効率とした。副次エンドポイントは、2剤併用群の対照群と比較したOS期間であった。今回は、事前に規定された中間解析の結果が報告された。

 2017年5月~2019年1月の期間にBRAF V600E遺伝子変異陽性の転移を有する既治療大腸がん患者665例が登録され、3剤併用群に224例(年齢中央値62歳[範囲:26~85]、女性53%)、2剤併用群に220例(61歳[30~91]、48%)、対照群には221例(60歳[27~91]、57%)が割り付けられた。客観的奏効率の評価は331例(3剤併用群111例、2剤併用群113例、対照群107例)で行われた。フォローアップ期間中央値は7.8ヵ月だった。

OSは標準治療よりも3剤が48%、2剤は40%改善

 対象となったBRAF V600E遺伝子変異陽性の転移を有する既治療大腸がん患者のOS期間中央値は、3剤併用群が9.0ヵ月と、対照群の5.4ヵ月に比べ48%有意に延長した(ハザード比[HR]:0.52、95%信頼区間[CI]:0.39~0.70、p<0.001)。また、2剤併用群のOS期間中央値は8.4ヵ月であり、対照群の5.4ヵ月に比し40%有意に長かった(0.60、0.45~0.79、p<0.001)。
 客観的奏効率は、3剤併用群が26%(完全奏効4%、部分奏効23%)と、対照群の2%(部分奏効2%)に比べ有意に高かった(p<0.001)。また、2剤併用群の客観的奏効率は20%(完全奏効5%、部分奏効15%)であり、対照群の2%よりも有意に高率であった(p<0.001)。

 無増悪生存(PFS)期間中央値は、3剤併用群が4.3ヵ月、2剤併用群が4.2ヵ月、対照群は1.5ヵ月であった。対照群と比較した3剤併用群のHRは0.38(95%CI:0.29~0.49、p<0.001)、2剤併用群のHRは0.40(0.31~0.52、p<0.001)であり、いずれも有意な差が認められた。

 3剤併用群のBRAF V600E遺伝子変異陽性の転移を有する既治療大腸がん患者で頻度の高い有害事象は、消化器関連イベント(下痢62%、悪心45%、嘔吐38%)および皮膚関連イベント(ざ瘡様皮膚炎49%)であった。Grade3以上の有害事象は、3剤併用群が58%、2剤併用群が50%、対照群は61%で認められた。有害事象による治療中止はそれぞれ7%、8%、11%で、致死的有害事象は4%、3%、4%でみられ、治療関連死は3例が報告された(3剤併用群:結腸穿孔、対照群:アナフィラキシー、呼吸器不全)。

 著者は、「対照群の結果は、最近の前向き研究のデータに基づき予測されたとおりであった。この試験は3剤と2剤を比較する検出力はなく、中間解析の性質上の限界もあるが、OSは3剤のほうが良好な傾向がみられた(HR:0.79、95%CI:0.59~1.06)。2つのレジメンの相対的な利益を明らかにするには、さらなるフォローアップが必要である」としている。

(医学ライター 菅野 守)