肩インピンジメント症候群への鏡視下肩峰下除圧術は有効か/BMJ

提供元:ケアネット

印刷ボタン

公開日:2018/08/08

 

 鏡視下肩峰下除圧術(arthroscopic subacromial decompression:ASD)は、最も一般的に行われている肩関節手術であり、肩インピンジメント症候群の治療にも用いられる。フィンランド・ヘルシンキ大学病院のMika Paavola氏らは、肩インピンジメント症候群へのASDは、プラセボとしての外科的介入を上回るベネフィットはもたらさないことを無作為化試験(FIMPACT試験)で示し、BMJ誌2018年7月19日号で報告した。最近の3つの系統的レビューでは、肩峰下除圧術の効果は運動療法を凌駕しないと報告されているが、ASDの有効性の評価には、適切な盲検化のために、手術をプラセボとした比較が求められるという。

2年後の肩痛の改善度を3群で比較
 本研究は、ASDの有用性を、プラセボとしての外科的介入および非手術的選択肢としての運動療法と比較する多施設共同二重盲検無作為化試験である(Sigrid Juselius Foundationなどの助成による)。

 2005年2月1日~2015年6月25日の期間に、フィンランドの3つの公立病院に肩インピンジメント症候群の症状がみられる患者(35~65歳)が登録された。被験者(210例)は、手術を行う群(139例)または運動療法を行う群(71例)に無作為に割り付けられた。次いで、手術群は、診断的関節鏡検査(DA)を受けた後、さらにASDを施行する群(59例)またはそれ以上の外科的介入は行わない群(プラセボ群:63例)に無作為に割り付けられた。2年間のフォローアップが行われた。

 運動療法群では、標準化されたプロトコールを用いた運動療法が、無作為化から2週間以内に開始された。DA群では、全身麻酔下で、肩甲上腕関節と肩峰下腔の関節鏡検査が行われた。ASD群では、DAを施行後に、肩峰下滑液包切除と、肩峰の骨棘および肩峰下面前外側の突出の切除が行われた。

 主要アウトカムは、24ヵ月時の安静時および上肢挙上動作時の肩痛(視覚アナログスケール[VAS]:0[痛みなし]~100[極度の痛み]点)。肩痛VASの、臨床的に意義のある最小変化量の閾値は15点とした。

2つの手術群で著明な効果、バイアスの可能性も
 ベースラインの平均年齢は、ASD群(59例)が50.5歳、DA群(63例)が50.8歳、運動療法群(71例)は50.4歳で、女性がそれぞれ71%、73%、66%を占めた。安静時VASの平均スコアは、41.3点、41.6点、41.7点、上肢動作時VASの平均スコアは、71.2点、72.3点、72.4点だった。

 intention to treat解析では、ベースラインから24ヵ月時までに、ASD群、DA群ともに2つの主要アウトカムが著明に改善した(ASD群は安静時の肩痛VASが36.0点、上肢動作時の肩痛VASが55.4点に低下、DA群はそれぞれ31.4点、47.5点に低下)。肩痛VASの群間差(ASD群-DA群)は、安静時が-4.6点(95%信頼区間[CI]:-11.3~2.1、p=0.18)、上肢動作時は-9.0点(-18.1~0.2、p=0.054)と、いずれも有意差を認めなかった。

 副次評価項目(Constant-Murleyスコア、Simple shoulder testスコア、15Dスコアなど)は、いずれもASD群とDA群に有意な差はみられなかった。

 ASD群と運動療法群の比較では、ベースラインから24ヵ月時までに、両群とも2つの主要アウトカムが著明に改善し、肩痛VASの群間差(ASD群-運動療法群)は、安静時が-7.5点(95%CI:-14.0~-1.0、p=0.023)、上肢動作時は-12.0(-20.9~-3.2、p=0.008)であり、いずれもASD群の効果が有意に優れたが、両群間の平均差は事前に規定された臨床的に意義のある最小変化量を上回らなかった。

 注意すべき点として、ASD群と運動療法群の比較では、非盲検による交絡だけでなく、2回目の無作為化の前にDAの結果などに基づき、手術群から予後不良の可能性が高い患者17例(12%)が除外されたが、運動療法群ではこれに相当する除外は行われておらず、結果としてASD群に有利となるバイアスが生じた可能性がある。

 著者は、「ASDとDAは、いずれも痛みおよび機能的アウトカムを著明に改善し、有害事象の発生にも差はなかったが、ASDにはDAを超える効果を認めなかった」とまとめ、「これらの知見は、実臨床における肩インピンジメント症候群への肩峰下除圧術の施行を支持しない」と結論している。

(医学ライター 菅野 守)