白内障の手術は最も安全性の高い手術の一つであり、成功率は95%に達する。それにもかかわらず、多くの高齢者は失明を恐れて手術を受けていないことが、米シンシナティ大学医学部のLisa Kelly氏らによる研究で明らかにされた。この研究の詳細は、「The Journal of Clinical Ophthalmology」に3月28日掲載された。
白内障は、目のレンズの役割を担う水晶体が白く濁り、視界がぼやけたり暗くなったりする病態を指す。原因は、主に加齢に伴い水晶体を構成するタンパク質が酸化して白く濁ることにある。米クリーブランド・クリニックによると、90代の約半数では、どこかの時点で濁った水晶体を透明な人工水晶体に置換する手術を受ける必要があるという。手術に要する時間は非常に短い上に、痛みはほとんどない。米国では毎年300万件以上の白内障手術が行われている。
今回の研究でKelly氏らは、シンシナティ大学医療センターのHoxworth眼科クリニックで募集した50歳以上の白内障患者42人(平均年齢66.2歳、男性17人)を対象に、白内障手術および失明に対する恐怖心と健康リテラシーとの関係を評価した。全ての対象者が、白内障の病理や治療に関する理解や態度を評価する質問票に回答した。また、Rapid Estimate of Adult Literacy in Medicine-Short Form(REALM-SF〔成人の医療リテラシー簡易評価法〕)による健康リテラシーの評価も受けた。
その結果、REALM-SFのスコアと白内障手術に対する恐怖心は関連しておらず、健康リテラシーが白内障手術に対する恐怖心に影響しないことが示唆された。実際、約36%の患者が白内障手術に対する恐怖心を報告し、そのうちの53%は「失明に対する不安」を恐怖心の理由として挙げていた。解析からは、白内障手術に対する恐怖心と「手術により視力が改善する可能性がある」との考えの間に、統計学的に有意な関連が見られ、手術効果に対する患者の考えが手術に対する恐怖心に影響することが示唆された。一方、失明に対する恐怖心と「手術によって視力が改善する可能性がある」との考えとの間に有意な関連は見られなかった。研究グループは、「つまり、失明に対する恐怖心は知識不足に基づくものではなく、より本能的な何かに基づくということだ」との考えを示している。
論文の筆頭著者であるシンシナティ大学医学部のSamantha Hu氏は、「患者に大量の情報を提供しても、必ずしも不安が軽減されるわけではない」と同大学のニュースリリースの中で話す。Kelly氏は、「この研究結果はむしろ、オープンなコミュニケーションによる医師と患者の良好な関係の重要性を指摘している。患者教育は確かに重要だが、それだけでは不十分なこともある。患者が恐怖心を克服できるよう、人間関係と信頼関係を築くことも同様に重要だ。これは医師にとって重要な教訓だ」と述べている。
さらにKelly氏は、「この研究は、患者が恐怖心を抱えていることを改めて認識させてくれる。われわれの役割は、健康管理のパートナーとして患者と協力しながら医療に取り組むことだ」と述べている。
[2025年5月21日/HealthDayNews]Copyright (c) 2025 HealthDay. All rights reserved.利用規定はこちら