脳卒中後の血糖管理が認知機能低下抑止の鍵となる可能性

提供元:HealthDay News

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公開日:2023/07/11

 

 脳卒中を発症後に血糖値が高い状態で推移していると、認知機能の低下が速くなる可能性が報告された。一方、血圧やLDL-コレステロール(LDL-C)が高いことに関しては、そのような関連は認められないという。米ミシガン大学のDeborah Levine氏らの研究によるもので、詳細は「JAMA Network Open」に5月17日掲載された。

 Levine氏によると、「脳卒中の発症後は認知症のリスクが最大50倍増加するが、これまで、脳卒中の再発を防ぐこと以外に、そのリスクを抑制する治療アプローチはなかった」という。そのような状況で明らかになった今回の研究結果は、「脳卒中後に血糖値の高い状態が続いていることが、認知機能の低下を速めることを示唆しており、糖尿病に該当するか否かにかかわりなく、脳卒中後の慢性高血糖が認知機能低下を抑制するための潜在的な治療標的である可能性を示唆している」と話している。

 Levine氏らの研究は、米国で1971~2019年に行われた4件のコホート研究のデータを統合して解析するという手法で実施された。脳卒中発症前に認知症がなく、解析に必要なデータが記録されている982人〔年齢中央値74.6歳(四分位範囲69.1~79.8)、女性48.9%、糖尿病20.9%〕を中央値4.7年追跡。脳卒中後に行われた検査での空腹時血糖値、収縮期血圧、LDL-Cの累積平均値を算出。主要評価項目として総合的な認知機能の変化との関連、副次的評価項目として実行機能と記憶力の変化との関連を検討した。

 結果に影響を及ぼし得る因子〔年齢、BMI、喫煙・飲酒・運動習慣、腎機能、心疾患の既往、遺伝的背景(ApoE4)、教育歴、収入など〕を調整後の解析で、収縮期血圧、LDL-Cの累積平均値については、認知機能との有意な関連が認められなかった。それに対して空腹時血糖値については、累積平均値が10mg/dL高いごとに、1年間での総合的な認知機能の評価が-0.04ポイント(95%信頼区間-0.08~-0.001)、より速く低下するという有意な関連が認められた。実行機能や記憶力との関連は非有意だった。この結果についてLevine氏は、「脳卒中を発症した後の厳格な血糖コントロールが、認知機能低下や認知症発症のリスクを抑制するかという疑問の答えを得るには、さらなる研究が必要とされる」としている。

 糖尿病患者においては、血糖コントロールを厳格に行うことで、目や腎臓、神経という細小血管障害による合併症のリスクが抑制されるという強固なエビデンスが存在する。研究者によると、厳格な血糖コントロールによって、脳の細小血管障害による疾患のリスクも軽減される可能性があるものの、証明はされていないという。ただ、脳卒中や一過性脳虚血発作を経験した人は、医療チームと相談して、血糖値のモニタリングとコントロールに関して最適な方法を検討すべきであり、その対象者には糖尿病患者に限らず、前糖尿病の人も含まれるとのことだ。その一方でLevine氏は高血糖の反対に当たる、血糖値が低くなりすぎる「低血糖」も認知症のリスクとなるため、低血糖を避けることも重要と付け加えている。

 なお、本研究は米国立老化研究所(NIA)などの資金提供により実施された。

[2023年5月19日/HealthDayNews]Copyright (c) 2023 HealthDay. All rights reserved.利用規定はこちら