がんは治療前に心臓に変化を引き起こす?

提供元:HealthDay News

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公開日:2021/06/08

 

 がん種によっては、心臓の外観と機能に変化をもたらす可能性のあることが、治療を受ける前のがん患者の心臓を分析した研究から明らかになった。カルガリー大学(カナダ)医学部教授のJames A. White氏らによるこの研究は、「Journal of the American Heart Association」4月21日号に掲載された。

 米国立がん研究所によると、米国では2021年に190万人の人が、がんの診断を受けるものと予測されている。がんの既往歴は、心血管疾患の発症リスクを高めることが知られており、例えば、高齢の乳がんサバイバーの死因として最も可能性が高いのは、乳がんではなく心血管疾患であるという。また、がんと心血管疾患は、肥満や喫煙などのリスク因子を共有してもいる。さらに、標準的ながん治療は、がん患者での心血管疾患の発症リスクを高める。しかし、がん患者における心血管疾患の発症リスクが、どの程度がん自体に起因するのかは、明らかになっていない。

 White氏らの研究は、化学療法を受ける前の乳がんまたはリンパ腫の患者381人(がん患者群)と、がんの既往歴や心血管疾患を持たない人102人(対照群)を対象としたもの。同氏らは、対象者に心臓MRIスキャンを行って、拍動する心臓の3Dモデルと炎症が生じている心筋の位置を示すマップを作成し、これにより、対象者の心臓の外観と機能について調べた。

 その結果、がん患者群では対照群と比べて、全身に酸素が豊富な血液を供給する役割を担っている左心室の容積が減少しており、これにより、心拍ごとに送り出される血液量が減少していることが明らかになった。3Dモデルはまた、一心周期における局所心筋の収縮と拡張の評価指標となるストレイン値の上昇も示した。さらに、がん患者群では心臓に炎症の兆候があることも判明した。

 White氏は、「この研究結果は、がん自体が心筋の健康を変えるというエビデンスとなるものだ」と述べる。同氏によると、これまでの研究ではたいていの場合、化学療法が心血管系に及ぼす影響を解明することに焦点が当てられてきた。化学療法は、急速に増殖するがん細胞を死滅させる働きを持つが、それと同時に健康な心臓の細胞にもダメージを与える可能性がある。例えば、乳がんやリンパ腫の治療で使用されるアントラサイクリン系抗がん剤の副作用には、左心室機能不全、心不全、炎症なども含まれている。その他の特定の抗がん剤や胸部への放射線療法も心臓に影響を与える可能性がある。

 ただし、今回の研究対象となった乳がんとリンパ腫以外のがん種の患者でも、心臓に同様の変化が生じる可能性があるのかどうかは不明だ。White氏は、「今回の研究結果は、新規にがんと診断された人々の治療を開始する前に、その人たちの心臓の健康状態を把握することの重要性を強調するものだ」との見方を示している。その上で同氏は、「そもそも、がん治療開始前の患者の心臓の健康状態を正常とみなすことが間違っているのかもしれない。がんであること自体が、心血管系の働きを変えてしまう可能性があるのだから」と述べている。

 では、がんはどのような機序で心臓に変化をもたらすのか。White氏は、「全身性炎症がその役割を果たしている可能性が高い」とみている。つまり、がんのせいで免疫系が活性化すると、免疫応答により炎症が引き起こされ、それが心血管系に影響を与えている可能性があるということだ。

 今回の研究には関与していない、米ラッシュ大学医療センターで心臓腫瘍学サービスのディレクターを務めるTochukwu M. Okwuosa氏は、「もう1つの大きな疑問は、これらの心臓の変化がどのくらい続くかということだ。がんが完治すれば、心臓に生じた変化も消失するのだろうか。もしそうなら、長期的な影響はみられないだろう。あるいは、心臓に生じた変化は、将来、より多くの心血管疾患にかかりやすくなることを意味するのだろうか。この点に関しては今のところ、不確かであるとしか言えない」と述べている。

[2021年4月21日/American Heart Association] Copyright is owned or held by the American Heart Association, Inc., and all rights are reserved. If you have questions or comments about this story, please email editor@heart.org.
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