少子化が進む日本では、合計特殊出生率が2024年に1.15と過去最低を記録し、社会保障制度や労働力維持への影響が深刻化している。女性の就労率は上昇しているものの、長時間労働や不十分な育児支援のため、キャリアと出産・育児の両立は依然として課題である。こうした中、東京・丸の内エリアの企業に勤務する女性を対象に、キャリア志向と妊娠意欲の関連を明らかにする大規模調査が行われ、その結果がBMC Women’s Health誌2025年9月2日号に掲載された。
本研究は「働く女性の健康スコア」プロジェクトとして産学連携で実施され、三菱地所、ファムメディコの協力のもと、神奈川県立保健福祉大学教授の吉田 穂波氏らが中心となって行った。2022年9月13~10月11日に14社に勤務する19~65歳の女性社員を対象にオンライン調査を行い、3,425人が回答した。妊娠意欲の分析対象は40歳未満の1,621人とした。調査内容には年齢、婚姻状況、妊娠希望の有無に加え、月経症状や婦人科受診歴、生活習慣、勤務形態、職場環境、キャリア意識などの情報が含まれた。
主な結果は以下のとおり。
・妊娠希望は、現在子供がいるかどうかにかかわらず、「将来子供を持つこと、またはさらに子供を持つことを希望する人」と定義された。40歳未満の妊娠希望群1,108例(将来妊娠を希望:922例、すでに子供がおり、さらに妊娠を希望:186例)と妊娠希望なし群513例が解析対象となった。
・妊娠希望群は妊娠希望なし群と比較して、若く、既婚で、自身の健康管理に積極的である傾向が強かった。また、身体的健康への自信があり、睡眠の質も良好な傾向があった。
・月経困難症の重症度、月経前症候群、健康リテラシー全般に関しては、両群間に有意差は認められなかった。
・妊娠希望群は、正社員・フルタイム労働者であること、事務職ではなく営業職に就いていること、キャリアアップへの意欲が高い傾向があった。
・職場環境要因(仕事へのエンゲージメントや、女性特有の症状に対する男性同僚の理解など)については、両群間に有意差は認められなかった。
研究者らは「調査の結果、妊娠意欲と関連していたのは、職業の安定性、職種、キャリア志向、健康管理への積極性であった。自身のキャリアの将来性に自信を持つ女性は、子供を持つことにも前向きになる可能性が示された。一方、日本では女性管理職比率が13%と主要国に比べ低水準であり、長時間労働や男性の育児休業取得率の低さ(2023年時点で17.1%)が依然として障壁となっている。昇進の継続性や雇用安定性を保障し、家庭形成とキャリアを両立可能にする制度設計が、出生率回復に寄与する可能性がある」とした。
(ケアネット 杉崎 真名)