日本語でわかる最新の海外医学論文|page:559

スタチンに加え注射でLDL-Cをさらに下げると、心血管リスクが減少(解説:佐田政隆氏)-980

約30年前にスタチンが発売されてから、数々のエビデンスが築かれてきた。2次予防はもちろん、ハイリスク症例の1次予防にも、有効性が示された。その後、スタチン間のhead to headの試験が組まれ、LDLコレステロールを大量のストロングスタチンで積極的に低下させる方が、より心血管イベント抑制効果が大きいことが示され、Lower is Better という概念が確立した。そして、LDLコレステロール値と心血管イベントがほぼ直線的に低下するグラフが作られ、その直線を外挿するとLDLコレステロールを20~30 mg/dL程度まで低下させれば心血管イベントを0にすることができるのではないかと予想されていた。しかし、最大耐用量のストロングスタチンと小腸でのコレステロール吸収阻害薬であるエゼチミブを用いても、LDLコレステロールはせいぜい50 mg/dLまでしか下げられなかった。そして、至適薬物療法を施しても、冠動脈病変が進行していく症例が存在し、いわゆるスタチン投与後の残余リスクとして問題になっている。

日本と世界の平均寿命は2040年にどうなるか?(解説:有馬久富氏)-979

日本人の平均寿命は、戦後右肩上がりで延び続け、世界でもトップクラスの長寿国となった。2017年の平均寿命は、男性で81年、女性で87年と報告されている。先日、Global Burden of Diseases, Injuries, and Risk Factors Study(GBD)研究2016のデータを用いて、2040年の世界平均寿命を予測した成績がLancetに掲載された。その結果、世界の平均寿命は、男女ともに平均4.4年延び、日本の平均寿命も85年を超えて世界のトップクラスにあり続けると予測された。

アトピー性皮膚炎患者、皮膚以外の感染症リスク上昇

 アトピー性皮膚炎(AD)は、皮膚への細菌定着や感染の増加、皮膚以外の感染症の多数のリスク因子に関連している。しかし、ADが皮膚以外の感染症の増加と関連しているかどうかについては、これまでの研究では相反する結果が得られていた。米国・ノースウェスタン大学のLinda Serrano氏らはシステマティックレビューおよびメタ解析を実施。その結果、AD患者は、皮膚以外の感染症リスクが高いことが明らかとなった。著者は「今後、これらの関連を確認し、その機序を明らかにする必要がある」とまとめている。Journal of the American Academy of Dermatology誌オンライン版2018年11月21日号掲載の報告。

薬剤耐性菌の拡大を防ぐ「かぜ診療」最前線

 薬剤耐性(AMR)の問題は、これに起因する死亡者数が2050年には1,000万人に上ると推定されている喫緊の課題だ。2018年12月8日、国立国際医療研究センター病院AMR臨床リファレンスセンターは抗菌薬の適正使用を目指し「かぜ診療ブラッシュアップコース」を都内で開催した。  「適切なかぜ診療を行う際に知っておきたいこと」と題し、藤友結実子氏(国立国際医療センター病院 AMR臨床リファレンスセンター)が、一般市民の抗菌薬に関する意識調査の結果を紹介した。抗菌薬・抗生物質という言葉を聞いたことがある割合は94.2%だが、効果に関しては、71.9%が「細菌が増えるのを抑える」と正しく認識している一方、40.9%「熱を下げる」、39.9%が「痛みを抑える」とも回答している。

抗うつ薬使用と道路交通事故による死亡との関連

 抗うつ薬は、最も一般的に使用されている精神疾患治療薬の1つである。しかし、抗うつ薬治療において、薬剤のクラス間または各物質に関連する交通事故リスクへの影響については、ほとんど知られていない。韓国・ソウル大学校病院のBo Ram Yang氏らは、道路交通事故における抗うつ薬使用と死亡リスクとの関連について調査を行った。Social Psychiatry and Psychiatric Epidemiology誌オンライン版2018年11月24日号の報告。

脳卒中後の機能回復にfluoxetineは有効か/Lancet

 急性脳卒中患者へのfluoxetineの6ヵ月毎日投与により、うつ病の発症は低下するものの骨折が増加し、機能的アウトカムの改善は得られない可能性が、英国・エディンバラ大学のMartin Dennis氏らが行ったFOCUS試験で示された。研究の成果は、Lancet誌オンライン版2018年12月5日号に掲載された。選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)fluoxetineによる脳卒中後の機能的アウトカムの改善効果を示唆する小規模なプラセボ対照試験の結果が報告されており、コクランレビューでは、SSRIは脳卒中後の機能障害を抑制する可能性が示唆されている。しかし、これらのデータだけでは、治療ガイドラインの改訂には十分でなく、便益と有害反応が相殺される懸念も軽減されないという。

海洋由来オメガ3脂肪酸サプリの心血管疾患・がん1次予防効果に厳しい判定?(解説:島田俊夫氏)-978

n-3脂肪酸(PUFAs)の摂取は心血管疾患・がん予防に好ましいとされてきたが、エビデンスに関しては必ずしもコンセンサスが得られていたわけでなく、議論の多いところである。この根拠の発端になったのが、グリーンランドのイヌイットに心筋梗塞が少ないとの報告である。これによりPUFA信仰が世界的に広がり、魚油、とくにその成分であるEPA、DHAなどがサプリとして広く普及し多くの人々に愛用されている。ところが、最近その効果に関して雲行きが怪しくなってきている。最近のビッグジャーナルに掲載された論文には、その効果に否定的な見解も多く見られるようになり、戸惑いが世の中に広がっている。2018年11月10日のNEJM誌に掲載された米国・Brigham and Women’s病院のManson JE氏らの論文は、無作為化二重盲検n-3脂肪酸群とプラセボ群との比較試験「VITAL試験」の結果報告であり、関心も高く時宜にかなっており私見をコメントする。

若年者に増加しているヒトパピローマウイルス陽性中咽頭がんに対する標準的放射線化学治療(解説:上村直実氏)-976

中咽頭がんは頭頸部がんの1つで、日本では年間の罹患者数が数千人であるのに対して、米国では毎年5万人が罹患し1万人が死亡する疾患である。生命予後とともに嚥下や発生などの機能の温存が重要で、手術療法とともに放射線化学療法が用いられる機会が多いのが特徴的である。近年、中咽頭がんの原因の1つとしてヒトパピローマウイルス(HPV)が同定された後、HPV関連(p16陽性)がんと非関連(p16陰性)がんに大別され、前者は後者に比べて若年者に多く、予後が良いのが特徴であり、罹患者が急増していることで注目されている。

日本人の血圧は意外とコントロールできていない

 生活習慣病のなかで最も罹患率の高い高血圧。これを治療するための有用な薬剤が普及し、世界的に治療率は改善している。ところが、日本人の高血圧のコントロール率はアジア諸国と比較してもまだまだ低く、高血圧パラドックスに陥っている。 2018年11月14日に日本心臓財団が主催する「高血圧パラドックスの解消に向けて‐脳卒中や認知症、心不全パンデミックを防ぐために必要なこととは?‐」が開催され、楽木 宏実氏(大阪大学大学院 医学系研究科老年・総合内科学 教授)が登壇した。

第2世代抗精神病薬と代謝変化に対する腸内微生物の役割

 第2世代抗精神病薬(SGA)の中で、代謝機能不全を誘発する薬剤がいくつか知られている。このような副作用の発現には、さまざまな要因が影響している。ポーランド・Pomeranian Medical UniversityのKarolina Skonieczna-Zydecka氏らは、SGAがディスバイオーシス(バランス失調)を引き起こすかの調査、腸内細菌叢の変化が体重や代謝に及ぼす影響の評価、動物やヒトを対象とした研究におけるSGA治療誘発性代謝異常のメカニズムについての検討を行った。Psychopharmacology誌オンライン版2018年11月20日号の報告。

RAS阻害薬、TAVR予後を改善するか/JAMA

 経カテーテル大動脈弁置換術(TAVR)を受けた患者では、退院時のRAS阻害薬(ACE阻害薬またはARB)の処方により、死亡および心不全による再入院のリスクが低減することが、米国・デューク大学医療センターのTaku Inohara氏らの検討で示された。研究の成果は、JAMA誌2018年12月4日号に掲載された。TAVR施行後のRAS阻害薬処方の有効性に関するデータはないが、RAS阻害薬は左室の逆リモデリングをもたらし、心機能を改善する可能性が示唆されている。

術前治療で浸潤病変残存の早期乳がん、術後T-DM1が有望/NEJM

 術前補助療法終了後に浸潤性病変が残存するHER2陽性早期乳がん患者の術後補助療法において、T-DM1(トラスツズマブ・エムタンシン)はトラスツズマブに比べ、浸潤性乳がんの再発および死亡のリスクを半減させることが、ドイツ・German Breast GroupのGunter von Minckwitz氏らが行ったKATHERINE試験で示された。研究の成果は、NEJM誌オンライン版2018年12月5日号に掲載された。術前補助化学療法+HER2標的治療を受けたのちに残存する浸潤性乳がんを有する患者は、残存がんのない患者に比べ予後不良とされる。T-DM1は、モノクローナル抗体であるトラスツズマブと、メイタンシン誘導体で微小管阻害薬であるエムタンシン(DM1)を結合させた抗体薬物複合体で、化学療法+HER2標的治療を受けた転移を有する乳がん患者に便益をもたらすことが知られている。

MitraClipは低左心機能(HFrEF)に伴う二次性MR症例に有効(COAPT試験)(解説:許俊鋭 氏)-977

MitraClip僧帽弁形成術の臨床的有効性に関する先行のEVEREST II試験は、僧帽弁逆流(MR)3~4度の症例を対象としたMitraClip僧帽弁形成術と外科的僧帽弁形成術との無作為比較試験(RCT)である。EVEREST II試験の1年後までの経過観察ではMitraClip群のMR軽減効果は低く、MitraClip群では残存MRに対して外科的再修復をより高率に必要とした。しかし、その後の1~5年の経過では両群ともに外科的再修復を必要とした頻度は同程度に低く、死亡率にも有意差はなかったものの、MitraClipの外科手術に対する著明な有効性は示せなかった。

麻疹ウイルスをベクターとしたチクングニアウイルスワクチンの免疫原性・安全性・忍容性(解説:吉田敦氏)-975

チクングニア熱は、蚊媒介感染症として、いまや世界の大多数の地域に広まりつつある感染症である。以前にも増して大規模流行を来すようになっているが、これにはウイルスのエンベロープタンパク質が変異して媒介蚊であるネッタイシマカにより適応できるようになったことと、地球温暖化によってヒトスジシマカの生息域が拡大したことが関与している。チクングニア熱は急性熱性疾患であるが、治療法がなく、関節痛やうつ状態が後遺症として続く。一方、旅行者感染症としてウイルスを持ち帰り、帰国後に温帯地域の蚊に刺咬されることで、温帯地域の蚊がウイルスを保有することが大きな懸念となっている。実際に米国・欧州では媒介蚊が効率よくウイルスを増殖させる能力があることが判明しており、渡航者が増加している現在、その脅威も大きくなっている。このため自国内で伝播した例がないか厳重な監視が続いており、ワクチン開発は急務であるといえる。

認知症やパーキンソン病における幻視のマネジメント

 幻視は、認知症やパーキンソン病において発現する共通の症状であり、大幅な認知機能低下や機能低下と関連しているといわれているが、その最適なマネジメント戦略はよくわかっていない。英国・Papworth Hospital NHS Foundation TrustのPeter Swann氏らは、認知症やパーキンソン病における幻視の頻度や発現機序を再調査し、それらのマネジメントについてエビデンスベースで検討を行った。International Psychogeriatrics誌オンライン版2018年11月6日号の報告。

骨粗鬆症検診、受診率が最も低い県は?

 骨粗鬆症患者は約1,280万人と推計されているが、自覚症状がないことが多いため気づかれにくい。骨折などでQOLが急激に低下することを防ぐためには早期に診断し、治療に取り組むことが重要となっている。12月7日、骨粗鬆症財団は厚生労働省の公表データをもとに都道府県別に骨粗鬆症検診受診率を調べた結果を発表した。検診受診率が最も高い栃木県と最も低い鳥取県では47倍もの開きがあり、相関解析の結果、検診受診率が低い地域ほど大腿骨骨折の発生率が高く、介護が必要になる人が多くなる傾向が明らかになった。

退職後も働く日本人、脳卒中・糖尿病の発症が遅い

 60歳以上の日本人男性の追跡調査の結果、現在の退職年齢を過ぎて働くことが健康にプラスの影響を与えることが示唆された。慶應義塾大学の岡本 翔平氏らが報告した。Bulletin of the World Health Organization誌2018年12月号に掲載。  著者らは、わが国の全国高齢者調査の公開されたデータから、60歳以上の男性1,288人を抽出し、死亡・認知機能低下・脳卒中・糖尿病の4つの健康アウトカムの発症について最大15年間追跡調査した。傾向スコア法を用いて、経済的、社会的および健康のデータを独立変数の形で組み込み、健康労働者効果を調整した。就業している人としていない人の健康アウトカムの時間差を計算し、退職年齢を過ぎて働くことによる健康について平均処置効果(ATE)を推定した。

高齢の未治療CLL、イブルチニブでPFS延長/NEJM

 高齢の未治療慢性リンパ性白血病(CLL)患者において、イブルチニブの単剤またはリツキシマブとの併用は、ベンダムスチン+リツキシマブ併用療法と比較し、無増悪生存期間(PFS)を有意に延長することが認められた。イブルチニブ単剤投与とイブルチニブ+リツキシマブ併用投与との間で、PFSに差はなかった。米国・オハイオ州立大学総合がんセンターのJennifer A. Woyach氏らが、イブルチニブの第III相試験「A041202試験」の結果を報告した。イブルチニブは、未治療CLLの1次治療として米国では2016年に承認されているが、化学免疫療法との比較はされていなかった。NEJM誌オンライン版2018年12月1日号掲載の報告。

経口抗凝固薬+PPIで、上部消化管出血による入院率低下/JAMA

 経口抗凝固療法における上部消化管出血による入院発生率は、リバーロキサバンを処方された患者で最も高く、アピキサバンが処方された患者で最も低かった。いずれの抗凝固薬も、プロトンポンプ阻害薬(PPI)との併用で同入院発生率は低下することが示された。米国・ヴァンダービルト大学のWayne A. Ray氏らが、後ろ向きコホート研究の結果を報告した。PPIの併用は、経口抗凝固療法でしばしば起こる潜在的に重篤な合併症である上部消化管出血のリスクに影響を与える可能性が示唆されていた。JAMA誌2018年12月4日号掲載の報告。

免疫再構築症候群(IRIS)による結核発症・悪化の予防にprednisoneが有効(解説:吉田敦氏)-973

HIV感染者において、抗ウイルス療法(ART)開始後に併存している感染症が悪化することを経験するが、これはARTによって免疫再構築が生じることによるとされ、免疫再構築症候群(IRIS)と総称されている。ニューモシスチス肺炎やサイトメガロウイルス感染症、結核、クリプトコッカス髄膜炎が代表的であり、これらの感染症を発症した後にARTを開始する際には、IRISによる悪化ないし発症を少なくするために、感染症治療からある程度の時間をおいてからARTを開始するのがよいとされてきた。