日本語でわかる最新の海外医学論文|page:556

心臓血管疾患を合併しない高齢者においてアスピリン投与は死亡率、とくにがん死亡を増やす可能性がある(解説:今井靖氏)-951

心臓血管疾患におけるアスピリンの効果は周知のことであるが、心臓血管疾患を合併しない高齢者におけるアスピリン投与の意義は必ずしも明らかではない。心臓血管疾患を合併しない高齢者におけるアスピリン投与がイベント抑制に寄与するか否か検討した臨床試験(ASPREE)の報告がすでにNEJM誌においてなされているが、その最初の報告においてはアスピリンの投与を行っても認知症および身体障害の複合についてイベント回避効果がないことが示されている。すべての原因による死亡(全死亡)が副次エンドポイントとされていたがアスピリン投与においてはるかに高率であるとの結果であり、それは他の類似した臨床試験に比較してイベント発症が高率であったことなどを含め注視すべき内容である。

合成麻薬は心にも身体にも恐ろしい!(解説:後藤信哉氏)-946

米国は競争社会である。経済格差が深刻化するなかで、絶望的に生きる人が多い国であることは長く住んでみるとわかる。心が病んでいる国では麻薬などの広がりを抑えることが難しい。麻薬中毒症例には合成麻薬としてのカンナビノイドが使用される。各種の重篤な疾病の末期には人工的に多幸感、鎮痛が必要な症例もいるかもしれない。大麻中に含まれるカンナビノイドを合成して医療応用に使おうという方向性は日本にもある。 しかし、本論文はカンナビノイドが心に作用するのみならず、身体にも破滅的副作用を惹起することを示している。ワルファリンはvitamin K依存性の凝固因子の機能的完成を阻害する。強力な抗凝固作用が継続すれば致死となる。その効果を利用したbrodifacoumは殺鼠剤として使用される。このbrodifacoumが合成麻薬に混入して、肝臓における酵素反応の競合を介して重篤な出血イベントを起こすことを本研究は示している。

CV高リスク2型DMへのSGLT2iのCV死・MI・脳卒中はプラセボに非劣性:DECLARE-TIMI58/AHA

 先ごろ改訂された米国糖尿病学会・欧州糖尿病学会ガイドラインにおいてSGLT2阻害薬は、心血管系(CV)疾患既往を有する2型糖尿病(DM)例への第1選択薬の1つとされている。これはEMPA-REG OUTCOME、CANVAS programという2つのランダム化試験に基づく推奨だが、今回、新たなエビデンスが加わった。米国・シカゴで開催された米国心臓協会(AHA)学術集会の10日のLate Breaking Clinical Trialsセッションにて発表された、DECLARE-TIMI 58試験である。SGLT2阻害薬は、CV高リスク2型DM例のCVイベント抑制に関しプラセボに非劣性であり(優越性は認めず)、CV死亡・心不全(HF)入院は有意に抑制した。Stephen D. Wiviott氏(Brigham and Women’s Hospital、米国)が報告した。

益と害を見極めてポリファーマシーを解消させる

 超高齢化社会に伴い多剤併用が問題視されているが、果たして何が原因なのだろうか。2018年11月6日にMSD株式会社が主催する「高齢者の多剤併用(ポリファーマシー)に関する実態と不眠症治療の課題」について、秋下 雅弘氏(東京大学大学院医学系研究科加齢医学講座教授)と池上 あずさ氏(くわみず病院院長)が登壇し、ポリファーマシーの原因と不眠症治療のあり方について語った。  多剤服用でも、とくに害をなすものをポリファーマシーと呼ぶ。そして、薬物有害事象、アドヒアランス不良など多剤に伴う諸問題だけを指すのではなく、不要な処方、過量・重複投与などあらゆる不適正処方を含む概念に発展している。

慢性うつ病と非慢性うつ病の差に関するシステマティックレビュー

 慢性うつ病(Chronic Depression:CD)が、非CDと対照的に、明確な特徴をどの程度有しているかはよくわかっていない。ドイツ・シャリテー大学病院のStephan Kohler氏らは、CD患者の社会人口統計学的要因、精神病理および疾患の経過に関して、非CD患者との比較を行うため、システマティックレビューを行った。Depression and Anxiety誌オンライン版2018年10月9日号の報告。

本庶 佑氏が語るがんと共生する未来

 ノーベル生理学・医学賞受賞が決まった、本庶 佑氏(京都大学高等研究院副院長/特別教授)が、2018年11月1日、都内の日本医師会館で、「驚異の免疫力」と題して特別講演を行った。本講演では、がん免疫療法の現状と課題、そして将来への展望が語られた。  本庶氏が発見した抗PD-1抗体とその応用による「免疫療法」は、ヒト個人の免疫力・体力によってがん細胞を殺す新たな治療法だ。ノーベル賞受賞のきっかけとなったPD-1阻害によるがん免疫治療は、1)すべての種類のがんに効く可能性が高い、2)投与を止めても数年以上有効なので再発が少ない、3)がん細胞を直接攻撃せず、免疫系を活性化するので副作用があっても軽い、という理由から画期的な治療法だと、本庶氏は自信を持って紹介した。

中強度運動が緑内障の視野欠損進行を遅らせる?

 身体活動レベルと緑内障による視野欠損には関連があるのだろうか。米国・ジョンズ・ホプキンス大学のMoon Jeong Lee氏らは、縦断研究において、1日の平均歩数、中等度以上の身体活動(MVPA)時間および非座位活動時間の増加が、緑内障患者の視野欠損の進行抑制と関連していることを明らかにした。毎日5,000歩または非座位活動を2.6時間行えば、緑内障における視野欠損の平均的な割合が10%減少するという。著者は、「今後、身体活動が緑内障の視野欠損を遅らせることができるか、または視野欠損の進行が活動制限をもたらすかを、前向き研究で検討する必要がある。もし前者が確認されれば、身体活動は緑内障によるダメージを防ぐ新たなリスク因子として特徴付けられるだろう」とまとめている。Ophthalmology誌オンライン版2018年10月10日号掲載の報告。

外傷性脳損傷の再生医療、目の前に…細胞薬SB623有意差示す

 サンバイオ株式会社は、平成30年11月1日、再生細胞薬SB623の外傷性脳損傷を対象にした日米グローバル第II相STEMTRA試験において、主要評価項目を達成したと発表。  STEMTRA試験の主要評価項目である脳卒中後感覚運動機能回復度評価尺度のFugl-Meyer Motor Scaleにおいて、SB623投与群は、コントロール(プラセボ)群と比較して、運動障害を伴う慢性期外傷性脳損傷(TBI)患者の運動機能を、統計学的に有意に改善し、主要評価項目を達成した。24週時点のFugl-Meyer Motor Scaleのベースラインからの改善量は、SB623投与群の8.7点に対し、コントロール群では2.4点であった。

死亡への影響が強いのは酷暑か極寒か/BMJ

 中国・復旦大学のRenjie Chen氏らによる同国主要都市272を対象とした時系列研究の結果、中国では外気温と死亡(すべての自然死および主な心肺疾患死)の関連を包括的に描くと非線形の関係性が示され、疾患負荷は主に中程度の寒さに起因していることが明らかにされた。先行研究において、すべての死亡負荷原因は評価されているが、非至適気温に起因する特異的疾患についてはほとんど評価されていない。また、非至適気温と関連する死因の包括的評価は行われていなかった。BMJ誌2018年10月31日号掲載の報告。

帯状疱疹ワクチン、弱毒生vs.組換え型/BMJ

 50歳以上における帯状疱疹ワクチンの有効性と安全性について、カナダ・St. Michael's HospitalのAndrea C. Tricco氏らは、弱毒生ワクチンとアジュバント組換え型サブユニットワクチンおよびプラセボを比較するシステマティックレビューとメタ解析を行った。これまで、弱毒生ワクチンとアジュバント組換え型サブユニットワクチンを直接比較する検討は行われていなかったが、今回の解析により、アジュバント組換え型サブユニットワクチンのほうが、より多くの帯状疱疹の発症を予防できる可能性が示された。ただし一方で同ワクチンは、注射部位での有害事象のリスクがより大きいことも示された。BMJ誌2018年10月25日号掲載の報告。

妊娠中の細菌性膣症に対する早期のクリンダマイシンの効果:多施設二重盲検ランダム化比較試験(PREMEVA)(解説:吉田敦氏、吉田穂波氏)-949

細菌性膣症(BV)では、膣内のラクトバチルス属が減少、嫌気性菌やマイコプラズマが増加する。いわば膣のマイクロバイオータ(microbiota)のバランスが乱れるものとされているが、妊娠中ではBVは2倍以上に増加する。とくに16~20週での合併率は4~7倍に上昇するという。さらにBVを有する妊婦では、自然流産のリスクが9倍、母体感染のリスクが2倍以上になると報告されたが、この相関の原因は不明であった。 しかしながら膣細菌叢の乱れが、子宮への感染を生じることで流早産を来すと考えれば、妊娠早期の抗菌薬投与によって早期産が減ると予想される。ただし先行研究をまとめたメタアナリシスでは相反する結果にとどまっていた。このため今回の大規模PREMEVA試験に至った訳であるが、結果としてfirst trimesterにクリンダマイシンを内服しても、後期流産やごく早期の自然早産は減少せず、クリンダマイシンの副作用によると思われる下痢や腹痛が増加した。

突然死予防のためのライフジャケットは有効か?(解説:香坂俊氏)-947

心臓突然死は恐ろしい。その恐ろしさはどう表現すればわかってもらえるかわからないが、たとえば自分の患者さんが突然外来に来なくなり、後日ご家族の方から「突然亡くなりました」と聞かされたときの衝撃は相当なものである。  この突然死を防ぐためさまざまな試みがなされている。ここ10年の最大の進歩といえばAEDが人の集まるところに設置されるようになった、ということではないか。かつて2010年のNEJM誌に、AEDの普及に伴い日本での院外の心肺停止例の予後が改善傾向にあることが示された。

統合失調症患者が正常に抗精神病薬を中止した臨床的特徴に関するレビュー

 抗精神病薬の中止は統合失調症患者の再発リスクを増加させるが、一部の患者では、抗精神病薬を継続することなく臨床的に良好な状態を持続することができる。しかし、このような患者の特徴に関するデータは不十分である。慶應義塾大学の谷 英明氏らは、正常に抗精神病薬を中止した統合失調症患者の臨床的特徴を明らかにするため、システマティックレビューを行った。Journal of Clinical Psychopharmacology誌オンライン版2018年10月8日号の報告

知らずに食べている超悪玉脂肪酸、動脈硬化学会が警鐘

 農林水産省がトランス脂肪酸(TFA)に関する情報を掲載してから早10年。残念なことに、トランス脂肪酸に対する日本の姿勢には進展が見られない。2018年10月31日、動脈硬化学会が主催するプレスセミナー「トランス脂肪酸について」が開催され、丸山 千寿子氏(日本女子大学家政学部食物学科教授)、石田 達郎氏(神戸大学大学院医学研究科特命教授)がTFA摂取によるリスクに警鐘を鳴らした。  TFAと飽和脂肪酸を同量摂取して比較した場合、TFAは飽和脂肪酸と比べ動脈硬化の発症を10倍も増やし、糖尿病の原因となるインスリン抵抗性の悪化などを引き起こす。そのため、TFAは超悪玉脂肪酸とも呼ばれている。にもかかわらず、なぜ、TFAがいまだに食品に使用されているのだろうか。石田、丸山の両氏は「現時点では日本人において、直接その有害性を証明した根拠が少ないため」とコメント。

在宅医療で使う漢方薬の役割と活用法

 2018年10月24日、漢方医学フォーラムは、都内で第138回目のプレスセミナーを開催した。当日は、在宅医療における漢方薬の役割について講演が行われた。  講演では、北田 志郎氏(大東文化大学 スポーツ・健康科学部 看護学科 准教授/あおぞら診療所 副院長)を講師に迎え、「地域包括ケアシステムと漢方~“暮らしのなかでいのちを支える” 在宅医療で発揮される漢方薬の役割~」をテーマに講演が行われた。

治療抵抗性うつ病、SSRI/SNRIにミルタザピン追加は有用か/BMJ

 プライマリケアにおける治療抵抗性うつ病患者において、選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)またはセロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI)にミルタザピンを追加しても、臨床的に有意な臨床効果は確認されなかった。英国・ブリストル医科大学のDavid S. Kessler氏らが、第III相の多施設共同無作為化プラセボ対照試験「MIR試験」の結果を報告した。いくつかの小規模な臨床試験で、SSRI/SNRI+ミルタザピン併用療法の有効性が示唆され、使用頻度が増加していたが、結果を踏まえて著者は、「本試験の結果は、プライマリケアの治療抵抗性うつ病患者において、SSRI/SNRIにミルタザピンを追加する併用療法の拡大に異議を唱えるものである」とまとめている。BMJ誌2018年10月31日号掲載の報告。

血液透析患者には高用量鉄剤静注が有効/NEJM

 血液透析患者において、積極的な高用量鉄剤の投与は、低用量鉄剤投与に対して非劣性であり、赤血球造血刺激因子製剤投与が少量になることが認められた。英国・キングスカレッジ病院のIain C. Macdougall氏らが、成人維持血液透析患者を対象に、高用量鉄剤の低用量に対する安全性および有効性を検証した多施設共同非盲検無作為化試験「Proactive IV Iron Therapy in Haemodialysis Patients:PIVOTAL試験」の結果を報告した。鉄剤の静脈投与は透析患者の標準治療であるが、臨床的に有効なレジメンに関して比較検討したデータは限定的であった。NEJM誌オンライン版2018年10月26日号掲載の報告。

免疫CP阻害薬、心血管障害スクリーニングの結果/腫瘍循環器学会

 免疫チェックポイント阻害薬(ICI)の免疫関連有害事象(irAE)としての心血管障害は、報告数は少ないものの、発症すると重篤化する。しかし、真の発生頻度や種類、発生時期については明らかになっていない。国際医療福祉大学三田病院の古川 明日香氏らは、腫瘍循環器学会において、同院の腫瘍循環器外来におけるICI使用時における心血管障害イベントのスクリーニングの意義について発表した。  スクリーニングの検証は、Active Screening Protocolを作成して行われた。このProtocolは、ICI投与開始前に腫瘍循環器外来を予約。ベースライン(投与開始前)、開始後定期的に、血液学的検査(CK、CK-MB、トロポニンI、BNP、D-dimerなど)、心電図、胸部レントゲン、心エコー検査のフォローアップを行うというもの。

アルツハイマー病治療薬メマンチンの有効性と安全性

 現在、アルツハイマー病に対する薬物治療には5つの選択肢が存在する。コリンエステラーゼ阻害薬であるドネペジル、ガランタミン、リバスチグミンによる治療、メマンチン治療およびメマンチンとコリンエステラーゼ阻害薬の併用療法である。最良の治療方法の選択は、ランダム化比較試験のシステマティックレビューおよびメタ解析によって得られたエビデンスに基づいている。藤田医科大学の松永 慎史氏らは、アルツハイマー病の薬物治療における安全性と有効性に関するメタ解析のエビデンスを用いて、これらの治療法のリスクとベネフィットの分析を行った。Expert Opinion on Drug Safety誌2018年10月号の報告。

選択的JAK1阻害薬、乾癬性関節炎に有効/Lancet

 活動性の乾癬性関節炎の治療に、選択的JAK1阻害薬filgotinibは有効であることが、米国・ワシントン大学のPhilip Mease氏らによる第II相の無作為化プラセボ対照試験「EQUATOR試験」の結果、示された。16週時のACR20達成患者は80%に認められ、新たな安全性シグナルは認められなかった。JAK1経路は、乾癬性関節炎の病因への関わりが示唆されている。研究グループは、JAK1を選択的に阻害するfilgotinibの有効性と安全性を調べた。Lancet誌オンライン版2018年10月22日号掲載の報告。