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101.

精神疾患ドライバー、疾患による特徴の違い

 米国・バージニア大学のPaula A. Aduen氏らは、注意欠如・多動症(ADHD)、うつ病を有するドライバーと、精神疾患のないドライバーを比較し、衝突事故等との関連を調べた。結果、ADHDドライバーとうつ病ドライバーでは交通違反や衝突事故リスクが異なり、ADHDは多様な衝突事故や違反、衝突関連の障害と特異的に関連している一方、うつ病は自己報告による衝突後の受傷と関連していると思われる所見が示されたという。Psychiatric Research誌2015年5月号の掲載報告。 臨床においてほとんど議論にならないが、自動車運転は、複雑で多岐にわたる動作努力を要し、瞬間的な不注意が壊滅的な結果を招く。先行研究において、ADHDのような罹病率の高い精神障害は、過度の衝突率に関連し、種々の有害な社会的、経済的、健康、死亡そして法的なアウトカムの前兆となることが示唆されていたが、自己バイアスや精神疾患の比較群の欠落により、所見は限定的なものにとどまっていた。 研究グループはそうした限界に焦点を当て、ADHD、うつ病と、有害運転アウトカム、自己バイアスのない選択、運転曝露および紹介バイアスとの特徴的な関連を調べるStrategic Highway Research Program(SHRP-2)Naturalistic Driving Studyを行った。試験には、確率抽出法に基づくサンプリングにより6地域から米国ドライバーが参加し、Barkley ADHD評価、精神科診断質問票によって、ADHD群(275例)、うつ病群(251例)、健康対照(1,828例)にグループ分けされた。主要アウトカムは、自己報告による衝突事故、走行中の交通違反、衝突に関連した受傷および障害(過去3年間における)が含まれた。 主な結果は以下のとおり。・ADHDは、多様な違反(OR:2.3)や衝突(同:2.2)、また衝突関連の障害(同2.1)のリスク増大要因となることが、統計学的差をもって示された。うつ病についてはいずれも認められなかった。・一方、ADHDにはなくうつ病がリスク増大要因となることがみられたのは、自己報告による衝突後の受傷であった(OR:2.4)。 結果を踏まえ、著者らは「こうしたリスクの特異的な基礎メカニズムを明らかにすることが重要であり、高罹病率の精神障害を有するドライバーについて長期的な機能改善を図る効果的な研究を考案することが求められる」とまとめている。関連医療ニュース 認知症ドライバーの運転能力、どう判断すべきか 成人ADHDをどう見極める うつになったら、休むべきか働き続けるべきか  担当者へのご意見箱はこちら

102.

アリピプラゾール、脳卒中後の抑うつに対するメカニズム

 虚血性脳卒中後、うつ病を発症することは少なくない。虚血性脳卒中の発作後、慢性弱ストレス(chronic mild stress:CMS)が加わることにより抑うつに進展するか否かに関し、韓国・釜山大学校のYu Ri Kim氏らは、マウスを用いて検討を行った。その結果、発作後のCMSにより生じるドパミン作動性ニューロン損傷や海馬におけるニューロン新生低下をアリピプラゾールが回復させ、抗うつ作用を発揮する可能性を示唆した。Behavioural Brain Research誌2015年7月号の掲載報告。 マウスを用い、CMS、左中大脳動脈閉塞(MCAO)、MCAO後のCMS(MCAO+CMS)の各種条件下におけるうつ障害を、行動学的および病理組織学的分析により評価した。抑うつスクリーニングテストとしてオープンフィールドテスト、スクロース嗜好性試験、強制水泳試験、モリス水迷路試験を実施した。 主な結果は以下のとおり。・MCAO+CMSマウスはMCAOマウスに比べ、有意な抑うつ行動を示した。・MCAO+CMSマウスはCMSマウスに比べ、強制水泳試験およびモリス水迷路試験において明らかな障害を示した。・病理組織学的分析において、MCAO治療マウスはCMSマウスに比べ、線条体と中脳に顕著な萎縮性変化が認められた。・MCAO+CMSマウスはCMSあるいはMCAO単独治療マウスに比べ、中脳におけるドパミン作動性ニューロンの損傷と線条体および海馬における神経細胞の増殖および分化の減少が顕著に認められた。・MCAO+CMSマウスをアリピプラゾールで治療したところ、評価したすべての抑うつ行動が減少し、とくにモリス水迷路テストにおいてその効果がみられた。・中脳におけるドパミン作動性ニューロンの損傷回復および海馬におけるニューロン新生の増強も示された。関連医療ニュース 日本人うつ病患者に対するアリピプラゾール補助療法:名古屋大学 難治性うつ病にアリピプラゾールはどの程度有用か 抗精神病薬間で虚血性脳卒中リスクに違いはあるか

103.

Vol. 3 No. 3 経カテーテル大動脈弁植え込み術(TAVI) 手技と治療成績

髙木 健督 氏新東京病院心臓内科治療手技Edwards SAPIEN(Edwards Lifesciences Inc, Irvine, CA)は、経大腿動脈、経心尖部アプローチが可能である(本誌p.27図1を参照)。(1) 経大腿動脈アプローチ(transfemoral:TF)(図1)現在、Edwards SAPIENの留置は16、18FrのE-Sheathを用いて行っている。E-Sheath挿入は、外科的cutdown、またはpunctureで行う2つの方法があり、どちらの場合も術前の大動脈造影、造影CTを用いて石灰化の程度、浅大腿動脈と深大腿動脈の分岐位置を確認することが大切である。TAVIに習熟している施設では、止血デバイス(パークローズProGlideTM)を2~3本使用し、経皮的に止血するケースも増えてきている。しかしながら、血管の狭小化、高度石灰化を認める場合、またTAVIを始めたばかりの施設ではcutdownのほうが安全に行うことができる。E-Sheathは未拡張時でも5.3~5.9mmあり、通常ExtrastiffTMのような固いワイヤーを用いて、大動脈壁を傷つけないよう慎重に進める。ガイドワイヤーの大動脈弁通過は、Judkins Right、Amplatz Left-1、Amplatz Left-2カテーテルを上行大動脈の角度に応じて使い分ける。また、ストレートな形状(TERUMO Radifocus、COOK Fixed Core wire)を用いると通過させやすい。ガイドワイヤーを慎重に心尖部に進めたあと、カテーテルも注意深く左室内に進める。その後、通常のコイルワイヤーを用いてPigtailカテーテルに入れ替える。さらに、Pigtailの形を用いながら、心尖部にStiffワイヤーを進める。StiffワイヤーはAmplatz Extra Stiff Jカーブを用いることが多い。左室の奥行きを十分に観察するため、RAO viewで可能な限りガイドワイヤーの先端を心尖部まで進めるが、経食道エコーを用いるとより正確に心尖部へ進めることが可能である。Edwards SAPIEN23mmには20/40mm、26mmには23/40mmのバルーンが付随しており、通常はこれを使用する。バルーン内の造影剤は15%程度に希釈すると粘度が下がり、バルーン自体の拡張、収縮をスムーズにする。バルーンを大動脈弁まで進め、一時的ペースメーカーにて180~200ppmのrapid pacingを行い、血圧を50mmHg以下にし、バルーンをinflation、そしてdeflationする。Rapid pacingは、血圧が50mmHg以下になるように心拍を調整する。一時pacingが1:2になるときは、160〜180ppmの低めからスタートし徐々に回数を上げるとよい。Pigtailカテーテルからの造影は、バルーンinflationの際に、冠動脈閉塞の予測、valveサイズの決定に有用である(図2a)。大動脈内にデリバリーシステムを進め、E-Sheathから出たところで、バルーンを引き込み、ステントバルブをバルーン上に移動させる。デバイスのalignment wheelを回転させバルーンのマーカー内にステントバルブの位置を調整する(図2b)。大動脈弓でデバイスのハンドルを回し、デバイスを大動脈に添わせるように進めていく(LAO view)。デバイスを左室内に進めたあと、システムの外筒をステントバルブから引き離し、Pigtailからの造影剤で位置を確認し、rapid pacing下で留置する(図2c, d)。留置後、経食道エコー、大動脈造影でparavalvular leakがないことを確認し、問題なければE-Sheathを抜去、止血を行う。図1 経大腿動脈アプローチ画像を拡大する(1)画像を拡大する(2)画像を拡大する(3)画像を拡大する画像を拡大する画像を拡大する図2 経大腿動脈アプローチの画像a 画像を拡大するb 画像を拡大するc 画像を拡大するd 画像を拡大する(2) 経心尖部アプローチ(transapical:TA)(図3)左胸部に5~7cmの皮膚切開をおき、第5、6肋間にて開胸を行う。ドレーピング後に清潔なカバーをした経胸壁エコーを用いてアクセスする肋間を決定する。心膜越しに心尖部をふれ、心尖部であることを経食道エコーで確認する。心尖部の心膜を切開し、心膜を皮膚に吊り上げる。穿刺部位を決定したら、その周囲にマットレス縫合またはタバコ縫合をかける。縫合の中央より穿刺し、透視下にガイドワイヤーを先行させる。その後、Judkins Rightを用いて下行大動脈まで進め、Stiffワイヤーに変更する。さらに、24Frデリバリーシースに変更し、20mmバルーンで拡張したあとにスタントバルブを留置する(図4a, b)。図3 経心尖部アプローチ画像を拡大する(1)画像を拡大する(2)画像を拡大する(3)画像を拡大する画像を拡大する画像を拡大する図4 経心尖部アプローチの画像a 画像を拡大するb 画像を拡大する治療成績症候性重症大動脈弁狭窄症(symptomatic severe AS:s AS)に対して、効果的な薬物療法がないため、保存的治療を選択した患者の予後が悪く、手術可能である患者には、外科手術(sAVR)が標準治療となっている1-3)。しかしながら、30%以上のs ASは、さまざまな理由で、sAVRは見送られているのが現状である4,5)。TAVIは、ハイリスクs ASに対して、sAVRの代替治療として2002年にDr. Alain CribierによってFirst In Man(FIM)が施行され6)、現在はヨーロッパを中心に10万例以上の治療が施行されている。TAVIは、balloon expandableタイプのEdwards SAPIEN、self expandableのCoreValve system(Medtronic, Minneapolis, MN)といった2つのシステムが、欧州を中心に用いられている。(1) Edwards' Registries現在までにEdwards SAPIENを用いたregistryでは、さまざまな報告がなされているが、有害事象が施設ごとに異なり統一された基準を用いていなかった。そうした状況を踏まえ、2011年には統一評価基準を定めたValve Academic Research Consortium (VARC)guidelines7)が発表され、その後はVARCを用いた治療成績が発表されるようになった。2012年に報告されたFrance 2 registryでは、3,195例の初期成績と1年成績が報告された(平均82.7歳、logistic EuroSCORE 21.9±14.3%、STS score 14.4±12.0%)。Edwards SAPIENが66.9%で用いられ、CoreValveは33.1%であった。アプローチはTF 74.6%、TS 5.8%、TA 17.8%であり、手技成功は96.9%で得られた。また、30日全死因死亡率9.7%、1年死亡率24.0%、30日心血管死亡率7.0%、1年心血管死亡率13.6%であり、手術ハイリスクであるs ASに対してTAVIは妥当な治療法であることが示された8)。また、長期予後に関しては、Webbら9)が、84人のTAVI施行後5年成績を発表しており、5年間で3.4%の中等度valve dysfunctionを認めたものの重篤なvalve dysfunctionを引き起こした症例は認めず、SAPIEN valveの長期耐久性が優れていることを証明した。またそのなかで、生存率は1年83%、2年74%、3年53%、4年42%、5年35%であり、COPD、中等度以上のmoderate paravalvular aortic regurgitation(PR)が全死因死亡に与える影響が大きいことを示した。(2) 無作為化比較試験PARTNER試験(Placement of AoRtic Tra-NscathetER Valves)はs ASにおけるハイリスク手術、手術不適応症例において、TAVIと標準治療(バルーン拡張術+薬物療法)、外科手術を比較した初めての多施設無作為試験である。Cohort Aは、手術ハイリスクのs AS患者をTAVIとsAVRに割りつけ、cohort Bにおいては手術適応がないと判断されたs AS患者をTAVIと標準治療(バルーン拡張術)に割りつけた。手術ハイリスクとは、(1) STSスコアが10%以上、(2)予想30日死亡率が15%以上、(3)予測30日死亡率が高く、また50%以上の死亡率の併存疾患がある状態、と考えられた。除外基準は、2尖弁、非石灰化大動脈弁、クレアチニン3.0mg/dLまたは透析の重症腎不全、血行再建が必要な冠動脈疾患、左室機能低下(EF 20%以下)、大動脈弁径18mm以下または25mm以上、重症僧帽弁逆流症(>3+)、大動脈弁逆流症(>3+)、そして6か月以内に起きた一過性脳虚血発作または脳梗塞であった。2つのコホートの主要エンドポイントは研究期間中の全死亡であり、全死亡、再入院を合わせた複合イベントも検討された。PARTNER trial -cohort A-PARTNER trial cohort Aでは、手術ハイリスク(STS平均スコア11.8%)と判断されたs AS患者(25施設、699例)をTAVIとsAVRに割りつけ、術後1年時(中央値1.4年)の全死因死亡、心血管死亡、NYHA分類のクラス、脳卒中、血管合併症、出血を比較した。TA 104人に対しsAVRから103人、TF 244人に対しsAVRから248人が割りつけられた。30日全死因死亡率はTAVI群全体で3.4%、sAVR群で6.5%(p=0.07)であった。またTF群3.3%に対しsAVR群は6.2%(p=0.13)、TA群3.8%に対しsAVR群は7.0%(p=0.32)で有意差は認めなかった。主要エンドポイントに設定された1年時死亡率は、TAVI群24.2%とsAVR群26.8%(p=0.44)であり、TAVIの非劣性が確認された(非劣性のp=0.001)。TF、TAに分けて分析しても、sAVRと比較し非劣性が確認された。脳卒中または一過性脳虚血発作の発生率はTAVI群で高かった(30日TAVI 5.5% vs. sAVR 2.4% p=0.04、1年時8.3% vs. 4.3% p=0.04)。しかしながら、重症の脳卒中(修正Rankinスケールが2以上)では、有意差はみられなかった(30日TAVI 3.8% vs. sAVR 2.1% p=0.20、1年5.1% vs. 2.4% p=0.07)。全死因死亡または重症脳卒中を合わせた複合イベントの発生率に差はなかった(30日TAVI 6.9% vs. sAVR 8.2% p=0.52、1年26.5% vs. 28.0% p=0.68)。主要血管合併症は、TAVI群に有意に多かったが(11.0% vs. 3.2% p<0.001)、大出血と新規発症した心房細動はsAVR群で多かった(出血9.3% vs. 19.5% p<0.001、心房細動8.6% vs. 16.0% p=0.006)。TAVI群では、sAVR群より多くの患者が30日時点で症状の改善(NYHA分類でクラスII以下)を経験していたが、1年経つと有意差がなくなった。TAVI群のICU入院期間、全入院期間はsAVR群より有意に短かった(3日 vs. 5日 p<0.001、8日間 vs. 12日間 p<0.001)。以上のように、PARTNER trial -cohort A-より、1年全死因死亡率においてTAVIはsAVRに劣らないことが証明された10)。PARTNER trial -cohort B-PARTNER trial cohort Bでは、手術不適応と判断されたs AS患者(21施設、358例)を、バルーン大動脈弁形成術を行う標準治療群(control群)と、TAVI群に無作為に割りつけ比較検討を行った。1年全死因死亡率はTAVI群30.7%、control群50.7%であり(p<0.001)、全死因死亡または再入院の複合割合は、TAVI群42.5%、control群71.6%であった(p<0.001)。1年生存は、NYHA分類でⅢ/Ⅳ度を示した症例はTAVI群のほうが有意に少なかった(25.2% vs. 58.0% p<0.001)。しかし、TAVI群はcontrol群と比較して30日での脳卒中(5.0% vs. 1.1% p=0.06)と血管合併症(16.2% vs. 1.1% p<0.001)を多く発症した。血管、神経合併症が多いものの、全死因死亡率、全死因死亡または再入院の複合割合は有意に低下し、心不全症状は有意に改善した10)。その後、2年成績も報告され、2年全死因死亡(TAVI群43.3% vs. control群68.0% p<0.001)、心臓関連死(31.0% vs. 68.4% p<0.001)はTAVI群で著明に少なく、TAVIで得られたadvantageは2年後も継続していることが示された11)。上記2つの試験により、現時点では手術不適応、手術がハイリスクであるs AS患者に対するTAVIはsAVRの代替療法になることが示されたが、中等度リスク患者においては、未だエビデンスが不十分である。そのため、中等度手術リスクのs AS患者に対する、TAVIの有効性、安全性を証明するには、TAVIとsAVRを比較したPARTNER2 trialの結果が待たれるところである。TAVIに関連する特記事項血管合併症(vascular complication)血管合併症はTFアプローチのTAVIの大きな問題であり、大口径カテーテルを用いること、治療対象がハイリスク症例であることから高率に発生する。小血管径、重篤な動脈硬化、石灰化、蛇行した血管はTAVIにおける血管合併症の主な原因である。最新の報告であるFrance 2 registryでは、デバイスは18Fr Edwards SAPIEN XTを含んではいるものの、全体で4.7%、TF群で5.5%と主要血管合併症の発生頻度は減少している8)。主要血管合併症、または主要出血と生存の関係は、何人かの著者によって証明されており、この合併症を予防するために、十分なスクリーニングが最も重要である。脳卒中(stroke)TAVIにおける有症状の脳梗塞は、致命的合併症である(1.7~8.3%)10-17)。脳梗塞発症の機序ははっきりしていないが、大口径のカテーテルが大動脈弓を通過するとき、高度狭窄した大動脈弁を通過させるとき、大動脈弁拡張時、rapid pacing中の血行動態に伴うもの、デバイス留置など、手技中のさまざまな因子によって引き起こされている可能性が示唆されている。現在のTAVI症例は、高齢であり心房細動、そして動脈硬化病変の割合が高く、脳梗塞イベントを増加させている。Diffusion-weighted magnetic resonance imaging(DW-MRI)を用いた2つの研究において、TFアプローチTAVI後に、新規に発症した脳梗塞が70%以上の患者に発生していたことが報告された18,19)。また、Rodés-CabauらはDW-MRIによってTAで71%、TFでも66%と同じように、脳梗塞を発症していることを報告した20)。しかしながら、ほとんどの症例が症状を伴わないため、臨床的なインパクトを決定するにはさらなる研究が必要である。脳梗塞予防デバイスが開発中であり、TAVI後の無症候性、症候性脳梗塞を減少させると期待されていたが、満足できる結果は報告されていない。また、術後の抗血小板療法については、抗血小板薬2剤併用療法を3か月以上行うのが主流だが、はっきりとした薬物療法の効果については報告されておらず、議論の余地がある。調律異常(rhythm disturbance)文献により新規ペースメーカー植え込み率は異なっているものの(CoreValve 9.3~42.5% vs. Edwards SAPIEN 3.4~22%)、CoreValveは、左室流出路深くに留置し、長期間つづく強いradial forcesを生じることから、Edwards SAPIENよりも新規ペースメーカー留置を必要とする頻度が高いと報告されている。持続する新しい左脚ブロックの新規発現は、TAVI後の最も明らかな心電図上の所見であると報告されており、CoreValve留置後1か月の55%の症例で、そしてSAPIEN留置後1か月の20%の症例において認められ21)、その出現は全死因死亡の独立した因子であることが報告されている22)。一方で、TAVI後の完全房室ブロックの予測因子は、右脚ブロック、低い位置での弁の留置、植え込まれた弁と比較して小さな大動脈弁径、手技中の完全房室ブロック、そしてCoreValveと報告されており23,24)、一般的に心電図モニター管理は最低72時間、TAVI後の患者すべてに行われるが、この合併症の高リスク患者は退院するまでのモニター管理が必要である。弁周囲逆流(paravalvular regurgitation)Paravalvular regurgitation(PR)は、TAVI後に一般的にみられる。多くの症例では、mild PRを認め、7~24%の患者でmoderate以上のPRが観察される12,25-28)。SAPIEN Valveにおいて、moderate以上のPRの割合に経年的変化は認められない12,28)。一方、CoreValveは強いradial forcesによりPRが改善したと報告があるが25)、はっきりとしたコンセンサスは得られていない。TAVI後のmoderate PRは(PARTNER試験ではmild PRであっても)長期成績に影響を与えることがわかっており29-31)、PRを減らすことが非常に重要な問題となっている。PRを減らすためには、より大きなvalve sizeを選択する必要があるが32,33)、致命的な合併症である大動脈弁破裂を引き起こす可能性が増える。そのため、慎重なCT、エコーでの大動脈弁径、石灰化分布の評価が必要である。冠動脈閉塞(coronary obstruction)左冠動脈主幹部閉塞は稀であるが、BAV、TAVIの最中に起こりうる重篤な合併症である。急性冠動脈閉塞に対して迅速なPCI、またはバイパス手術で救命されたという報告がされている34-36)。大動脈弁輪と冠動脈主幹部の距離は、分厚い石灰化弁と同様に重要な予測因子となり、3Dエコー、CTでの正確な評価がこの致命的な合併症を避けるために必要である37)。ラーニングカーブTAVIにはラーニングカーブがあり、正確な大動脈弁径、腸骨大腿動脈径の測定、リスク評価、適切な症例選択、手技の習熟により、治療成績は劇的に改善することが報告されている。Webbらは168例の成績を報告し、初期の30日死亡率がTF 11.3%、TA 25%から、後半でTF 3.6%、TA 11.1%と改善したことを示し、TAVIにおけるラーニングカーブの重要性を明らかにした38)。おわりに本邦でも、Edwards SAPIEN XTを用いたPREVAIL JAPAN試験の良好な成績が発表され、2013年から保険償還され、本格的なTAVIの普及が期待されている。しかしながら、現在の適応となる患者群のTAVI治療後の1年全死因死亡率は20%以上であり、TAVIの適応については、議論の余地がある。特にADLの落ちている高齢者、frailtyの高い患者は、ブリッジ治療としてBAVを行い、心機能だけでなくADLが改善することを確認したうえで、TAVI治療を選択するといったstrategyも考慮する必要があるのではないだろうか。文献1)Bonow RO et al. 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疼痛管理の改善が認知症患者の問題行動を減らす?

 認知症患者の痛みは、気付かれることが少なく治療が不十分である。英国・ロンドン大学のElizabeth L Sampson氏らは、急性期総合病院に入院中の認知症患者を対象とした縦断的コホート研究において、疼痛が認知症の行動・心理症状(BPSD)と関連しており、疼痛管理の改善が問題行動を減少させ、認知症患者に対する入院ケアの質を向上させる可能性があることを示した。Pain誌2015年4月号の掲載報告。 研究グループは、認知症患者における疼痛の有病率、ならびに疼痛とBPSDとの関連を調べるため、英国の急性期総合病院2施設に入院した70歳超の認知症患者230例を対象に縦断的コホート研究を行った。 ベースライン、および4日ごとに、疼痛の有無と程度(はい/いいえの質問票、およびFACESスケールによる)、運動時ならびに安静時の疼痛(Pain Assessment in Advanced Dementia[PAINAD]による)、焦燥性興奮(agitation)(Cohen-Mansfield Agitating Inventory[CMAI]による)、BPSD(Behavioural Pathology in Alzheimer Disease Scale [BEHAVE-AD]による)について評価した。 主な結果は以下のとおり。・疼痛有病率は、入院時が27%で、入院中は39%まで増加した時期もあった。・FACESスケールを完全に実施できたのは5割で、重度の認知症患者ではこの割合が減少した。・PAINADでは、少なくとも1度は安静時疼痛あり19%、同様に運動時疼痛あり57%であった(うち16%は入院期間中を通して持続していた)。・疼痛は、CMAIスコアとは関連していなかった。・疼痛は、BEHAVE-AD合計スコアとは強く関連していた(運動時疼痛:β=0.20、95%信頼区間[CI]:0.07~0.32、p=0.002/安静時疼痛:β=0.41、95%CI:0.14~0.69、p=0.003)。関連性は、攻撃性および不安に関して最も強かった。

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小児への抗精神病薬使用で推奨される血糖検査、その実施率は

 米国糖尿病協会(ADA)は2004年に、小児および青少年について、第2世代抗精神病薬の治療開始前後に代謝スクリーニングを実施することを推奨する治療ガイドラインを発表した。これに関連し、ブリガム&ウィメンズ病院のJohn G. Connolly氏らは、ガイドライン発表時期とその後8年間のスクリーニング実施率の変化を調べ、ガイドライン発表後はわずかに実施率が上昇したが、その後は低下していたことを明らかにした。先行研究で、ガイドライン公表時期に小児および成人の血糖検査がわずかだが増大していることが報告されていたが、その後についての報告は限定的であった。Psychiatr Services誌オンライン版2015年3月1日号の掲載報告。 研究グループは、全米をカバーする大規模民間保険の支払データベースで、2003年1月1日~2011年12月31日の期間中に5万2,407例の試験患者を特定した。試験集団は、第2世代抗精神病薬を使用する5~18歳の非糖尿病集団であった。アメリカ医師会(AMA)独自の診療コーディングCPT(Current Procedural Terminology)-4により、同薬服用開始前後に血糖値検査およびHbA1c検査完了の有無を特定した。また、処方されていた第2世代抗精神病薬、および精神科の診断ごとの代謝スクリーニング実施率についても調べた。 主な結果は以下のとおり。・第2世代抗精神病薬の治療開始前に血糖値検査を受けていた患者の割合は、2003年17.9%から2004年18.9%に増大していた。同時期に、治療開始後の検査は14.7%から16.6%に増大していた。・これら血糖値検査のわずかな増大は、その後は継続していなかった。2008年に再上昇がみられたが、それまでの期間は低下していた。・血糖スクリーニングの頻度は、アリピプラゾール服用患者で最も高かった。一方、多動障害を診断された患者の検査頻度が、最も低いと思われた。・HbA1c検査の実施頻度は、より低かったが、実施パターンについては類似していた。・以上のように、2004年のADAガイドライン発表後、代謝スクリーニング実施率はわずかに改善していたが、継続していなかったことが明らかになった。・全体として、代謝スクリーニング率は調査対象期間中、最適には及ばない基準で推移していた。関連医療ニュース 非定型抗精神病薬、小児への適応外使用の現状 抗精神病薬治療中の若者、3割がADHD 本当にアリピプラゾールは代謝関連有害事象が少ないのか

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抗うつ効果に文化的背景は影響するか

 大うつ病性障害(MDD)を有するラテン系アメリカ人は、非ラテン系白人と比べ、薬物療法へのアクセス、薬物治療開始、服用、治療維持など、どの定義においても、抗うつ療法の実施が低調である。こうした差異がみられる理由の1つとして、ラテン系アメリカ人の薬物療法に対する文化的適合性が低い可能性が挙げられる。そこで、南カリフォルニア大学のSylvanna M. Vargas氏らは、ラテン系アメリカ人のうつ病と抗うつ療法に対する認識を明らかにする調査を行った。その結果、うつ病を有していないラテン系アメリカ人には、うつ病およびその治療に対して批判的な意見があること、その一方、うつ病患者は抗うつ療法に関心はあるものの、薬物中毒や薬物依存への懸念があることがわかったという。著者は「ラテン系アメリカ人の抗うつ療法への関わり方を改善するには、処方医がそうした見解や懸念に着目していかなくてはならない」と指摘している。Transcultural Psychiatry誌オンライン版2015年3月3日号の掲載報告。 研究グループは、ラテン系アメリカ人のうつ病および抗うつ療法に対する見解を調査した。抗うつ療法を始めようとしているラテン系アメリカ人の外来患者30例に対し、半構造化された治療遵守および維持に関する質問票を用いて、初回治療前に質的インタビューを実施した。ベースラインでのインタビューは、ラテン系アメリカ人のうつ病外来患者の治療参加を高める新たな介入を検証する無作為化対照試験で収集されたデータより、ランダムに選択された。聞き取った内容はグラウンデッド・セオリーに基づくオープン・コーディングおよび反復解析的アプローチを用いて分析した。 主な結果は以下のとおり。・患者は、彼らが同じ社会集団に属する非患者から受けるスティグマを気にかけていることが認められた。・大半の被験者はそうした見解に対して、うつ病の経験を説明することで直接的に反論した。・また、抗うつ療法についても明らかにスティグマを意識していたが、被験者はそうした見解に対しては反論しない傾向がみられた。むしろ、抗うつ薬に関する懸念を表出し、精神科医療を求めることへの葛藤が認められた。・一方で被験者は、抗うつ療法に対する懸念に対処するため臨床医と患者が協力する方法があることを示唆した。・薬物中毒や薬物依存への懸念といった文化的見解は、乗り越えられる治療障壁であると思われた。・処方を行う医師は、ラテン系アメリカ人の抗うつ療法への関与を改善するために、文化的見解や懸念に対処する必要があると思われた。関連医療ニュース 治療抵抗性うつ病患者が望む、次の治療選択はどれ うつ病患者とかかりつけ医、認識のギャップが浮き彫りに 呼称変更から10年、統合失調症患者へのスティグマを減らすためには:日医大  担当者へのご意見箱はこちら

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Vol. 3 No. 2 脳卒中を巡るコントロバーシー 脳卒中の再発予防にスタチンは有効か?

北川 一夫 氏東京女子医科大学医学部神経内科学はじめにスタチンは、脂質低下作用以外に多面的作用を有し、脂質低下と抗炎症作用をはじめとしたさまざまな機序により心血管疾患発症予防に寄与していると考えられている。本稿では、最初に脳卒中と血清脂質の疫学的な関連について解説したうえで、スタチンの脳卒中予防効果に関する臨床研究を概説し、最後に本件に関する著者の意見を述べてみたい。脳卒中発症と脂質との関係 ―臨床疫学的検討―脳卒中と脂質の関連は“cholesterol paradox”といわれるほど複雑である1)。疫学的に明確なのは、低コレステロール血症が脳出血のリスクとなる点である2)。臨床疫学研究のメタ解析でもコレステロールが低下すると脳出血リスクが高まることが報告されている。ちょうど30年以上前の日本人の食生活では、蛋白質、脂質の摂取量が少なく低栄養状態であり、かつ塩分摂取が多いため、高血圧とともに低コレステロール血症が脳出血リスクを増大していたと考えられる。近年の茨城県の一般住民を対象としたコホート研究でも、LDLコレステロールが80mg/dL未満の群では脳出血リスクが高いことが報告されている(本誌p.45図1を参照)3)。一方、脳梗塞と血清脂質との関連は明確でない。脳梗塞には、アテローム硬化を基盤として発症するアテローム血栓性脳梗塞、脳細動脈の閉塞が原因のラクナ梗塞以外に、脂質との関連が少ないと考えられる心原性脳塞栓症が含まれ、久山町研究では血清脂質とアテローム血栓性脳梗塞、ラクナ梗塞との関連が示されている(本誌p.45図1を参照)4)。しかし脳梗塞の各病型を含めた解析では、LDLコレステロールで160mg/dL、総コレステロールで260mg/dLまでの軽度から中等度の脂質異常が脳梗塞のリスクとなるかどうかについては明確となっていない。心筋梗塞と血清脂質の関連が各年代でこれら脂質レベルでも明確なのと対照的である5)。また近年、脳梗塞を発症した患者ではむしろ血清脂質レベルが軽度上昇しているほうが、機能予後がよいことが報告されている6)。血清脂質レベルが低下している症例では、全身栄養状態が低下していることが多く、血清脂質レベル低値そのものあるいは、そのことに反映される栄養状態不良のどちらが、脳出血リスクや脳卒中発症後の予後不良に寄与しているのかは明らかとなっていない。スタチンの脳卒中予防効果脳卒中と血清脂質レベルの関連が疫学的に不明瞭であるのと対照的に、スタチンが脳卒中発症予防効果を示すことは多くの臨床試験から示されている。もともと冠動脈疾患の発症、再発予防を目的としたスタチンの介入試験で、副次エンドポイントとして評価されていた脳卒中が20%程度発症抑制されていた7)。特に冠動脈疾患既往を有する患者での臨床試験では一貫して脳卒中発症が抑制されていた。一方、血管疾患の既往を有さない患者を対象としたプラバスタチンの冠動脈疾患の初発予防効果を検証したMEGA研究では、プラバスタチン投与群で脳梗塞発症が低下する傾向がみられたが有意な差に至らなかった8)。海外では血管疾患の既往を有さないが血液高感度CRP濃度が軽度上昇した患者を対象としたJUPITER試験が実施され、ロスバスタチン投与により血清LDLコレステロール値とともに高感度CRP濃度も低下し、心筋梗塞および脳卒中発症が50%近く抑制されていた9)。このように多くの試験でスタチンの脳卒中予防効果が示されているが、発症抑制された脳卒中病型は脳梗塞であった。またスタチンの脂質低下レベルと脳卒中抑制効果には直線的な関係があり、治療開始時の脂質レベルによらず、スタチンを投与してLDLコレステロールが低下するほど脳卒中発症抑制効果が高いことが報告されている7)。一方、脳卒中既往患者を対象とした臨床試験としてSPARCL研究が発表されている。脳卒中または一過性脳虚血発作症例を対象としてアトルバスタチン80mg/日またはプラセボを投与して脳卒中再発を主要エンドポイントとした試験であるが、アトルバスタチン投与群で脳卒中再発が16%抑制され、特に脳梗塞再発が20%抑制されることが明らかとなった(本誌p.46図2を参照)10)。アトルバスタチン投与によりLDLコレステロールが十分に低下した場合に脳卒中、心筋梗塞発症が有意に抑制されていた。脳梗塞病型別の検討ではアテローム血栓性脳梗塞、内頸動脈狭窄を有する症例では、スタチン投与により脳卒中再発とともに心筋梗塞発症が抑制されることが明らかとされた11)。日本では常用量のスタチンであるプラバスタチンを用いた非心原性脳梗塞患者の再発予防効果を検証するJ-STARS試験が終了しており、その結果発表が待たれている12)。SPARCL研究では、脳卒中および脳梗塞再発は有意に抑制したが、アトルバスタチン投与群で脳出血が1.68倍増加したため、スタチンの脳出血リスクが危惧された。SPARCL試験のサブ解析では、脳出血のリスクとなる因子として、脳出血の既往、男性、高血圧が抽出されたが、LDLコレステロール値と脳出血との間には関連がみられず、LDLコレステロール値が50mg/dL未満の群でも脳出血リスクが高まる傾向はみられなかった13)。またスタチンを用いた臨床試験の大規模なメタ解析も行われ、スタチン投与と脳出血リスクとの間には関連がないことが報告されている14)。ただSPARCL研究のサブ解析では、脳梗塞のなかでも脳内小血管の疾患であるラクナ梗塞ではスタチン投与群で脳出血リスクが有意に高まっており、基盤に脳小血管病(脳出血、ラクナ梗塞)を有する患者では、スタチン投与に際して脳出血リスクを念頭におく必要があると考えられる。脳卒中再発予防にスタチンを使用すべきか?前述の内容をもとに、脳卒中再発予防におけるスタチンの意義について考察する。まず脳卒中のなかでも出血性脳卒中―脳出血、くも膜下出血―では脂質異常の関与は少ないため、脂質管理は動脈硬化疾患ガイドラインに沿ってLDLコレステロールが140mg/dL未満であれば、スタチンの投与は必要ないと考えられる。脳梗塞では、病型ごとにスタチンの投与を考えるべきであり、アテローム血栓性脳梗塞およびラクナ梗塞では、スタチンは脳卒中、特に脳梗塞再発抑制効果が期待できるため積極的に投与すべきと考えられる。一方動脈硬化疾患ガイドラインでは、これら脳梗塞病型ではLDLコレステロールを120mg/dL未満に管理することが推奨されているが、スタチンには血管炎症抑制効果15)があるため、LDLコレステロールの値にかかわらず投与したほうがよいという考えもあり、筆者も同意見に賛成である。内頸動脈狭窄や脳主幹動脈病変を有する場合は積極的なスタチン投与の適応と考えられ、脳卒中再発のみならず冠動脈疾患発症抑制効果も期待できる。一方、SPARCL研究で危惧されたスタチンの脳出血リスクについては、脳血管事故の既往のない症例ではメタ解析の結果から心配する必要はないと思われる。しかし脳卒中既往症例については、SPARCL試験の成績を念頭におく必要があろう。すなわち脳出血、ラクナ梗塞など脳小血管病の既往のある症例では、スタチン投与により脳出血リスクが高まる可能性が示唆されており、ラクナ梗塞でのスタチン投与に際しては、血圧管理を厳格に行うべきと考えられる。MRI検査の発達により、無症候性脳小血管病として脳微小出血(図)が検出されるようになり16)、脳微小出血が観察される症例についてもスタチンを投与する際には血圧管理を特に厳格にすべきであろう。脳梗塞既往患者ではほとんどの症例が抗血栓薬を内服しており、抗血栓薬、スタチンを併用しているラクナ梗塞患者では、収縮期血圧130mmHg未満をめざした管理が望ましいと考えられる。図 脳微小出血(脳MRI T2*画像)a. 健常者に観察される皮質下微小出血  (→で示す)画像を拡大するb. 遺伝性脳小血管病患者で観察される  多数の微小出血(→で示す)画像を拡大する脳卒中再発予防にスタチン以外の脂質低下手段は有効か?スタチン以外の脂質低下薬については、フィブラート、ナイアシンでは脳卒中発症予防に有効とのエビデンスは示されていない17)。近年、次々と新規薬剤が開発されているが、これらの薬剤について脳卒中予防効果は検討されていない。日本で脂質異常を有する患者にエイコサペンタエン酸(EPA)を常用量のスタチンに追加投与したJELIS試験が実施された。脳卒中発症に関しては全症例ではEPA投与の有用性は示されなかったが、卒中既往症例に限った解析ではEPAにより脳卒中再発が抑制されることが示されている18)。しかしpost hoc解析であり、脳卒中発症から登録までの期間も明らかでないため、強いエビデンスを示すには至っていない。おわりに表題の脳卒中再発予防にスタチンは有効か、という問いかけに対しては、出血性脳卒中、心原性脳塞栓症では有効性は低く、非心原性脳梗塞であるアテローム血栓性脳梗塞、ラクナ梗塞では有効であるというのが現時点のコンセンサスであろう。なかでも内頸動脈狭窄、頭蓋内動脈閉塞・狭窄を伴いアテローム硬化の強い症例では、脂質レベルに関わりなくスタチンは積極的に投与すべきであろう。一方、ラクナ梗塞既往があり脳MRIで微小出血を有する症例ではスタチン投与の有効性は十分期待できるが、脳出血リスク低減のため血圧管理を厳格にした上でスタチンを使用すべきであるというのが著者の考えである。文献1)Amarenco P Steg PG. The paradox of cholesterol and stroke. Lancet 2007; 370: 1803-1804.2)Wang X et al. Cholesterol levels and risk of hemorragic stroke: a systematic review and meta-analysis. Stroke 2013; 44: 1833-1839.3)Noda H et al. Low-density lipoprotein cholesterol concentrations and death due to intraparenchymal hemorrhage: the Ibaraki Prefectural Health Study. Circulation 2009; 119: 2136-2145.4)Imamura T et al. LDL cholesterol and the development of stroke subtypes and coronary heart disease in a general Japanese population: the Hisayama study. Stroke 2009; 40: 382-388.5)Prospective Studies Collaboration, Lewington S et al. Blood cholesterol and vascular mortality by age, sex, and blood pressure: a meta-analysis of individual data from 61 prospective studies with 55,000 vascular deaths. Lancet 2007; 370: 1829-1839.6)Olsen TS et al. 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Sedation for All ―安全で確実な鎮静・鎮痛プログラム―

第1回 モニタリングと医療機器第2回 鎮静の薬理学(総論) 第3回 鎮静の薬理学(各論) 第4回 合併症予防 第5回 特殊な領域(高齢者編) 第6回 特殊な領域(小児編) 第7回 成人症例ディスカッション 第8回 小児症例ディスカッション 第9回 Procedural Sedation 実践編 外来や救急で処置を行う際、必要最低限の鎮静や鎮痛を行うのに有用なのが「Procedural Sedation」。一般的には、現場の医師の経験則や勘を頼りに行われることが多く、体系化されたマニュアルがなかったのがこの分野。そこで、米国ニューメキシコ大学で開発されたProcedural Sedationを体系的に学べる研修プログラムを取り入れ、国内での普及に務めている健和会大手町病院のセデーションチームが、患者のモニタリングや症例に応じた薬剤の選択、適切な薬剤の投与法などをコンパクトにまとめた。この番組では、本来ならば大手町病院で丸1日かけて実施されるセデーションの研修プログラムから、最も重要なエッセンスを抽出して短時間で学べるよう再編。安全で確実なセデーション・マスターになろう!第1回 モニタリングと医療機器」 まず「Procedural Sedation」とは何か、具体的にどういう場合に有用なのかを解説します。ここでは75歳女性の右前腕変形と腫脹という症例を提示。徒手整復を行うにあたって、どんな鎮静・鎮痛が必要でしょうか。セデーションのマニュアルに沿って、患者をモニタリングする上でのポイント、鎮静・鎮痛の程度の見極め、処置後に注意すべきことなどを、順を追って詳しく解説。軽度の鎮静・鎮痛であっても、薬剤の投与量が不十分だったり、逆に過剰だったりすると、それだけ患者の身体的負担は大きなものに。救急外来や病棟で、最適かつ安全なセデーションができるようになれば、処置の精度と効率は格段にアップします。第2回 鎮静の薬理学(総論) セデーションを実施するには、まず薬剤の特性をきちんと把握することが大事。今回は、薬理学の総論として、一般的な原則を解説します。薬剤の投与量や投与法を決定する上で最も重要なこと―それは、各薬剤で異なるピーク時間(最大効果発現時間)を知ることです。薬剤は投与後、血流に乗って中枢神経系に到達することで、徐々に効果を現し始めますが、ピーク時間を待たずに慌てて追加投与すると、過鎮静になり、患者の体に無用な負担を与えることになります。安全で確実なセデーションとは、患者にとって無理がなく、かつ無駄のない薬剤投与を実施できること。今回のレクチャーでは、この原則を徹底的にマスターしましょう。第3回 鎮静の薬理学(各論) 安全で確実なセデーションを実施するために、薬剤によって異なるピーク時間(最大効果発現時間)を知っておく、という大原則を押さえた上で、今回は個別の薬剤の特性について具体的に解説します。セデーションで主に使用する薬剤は、鎮静効果のみ得られるもののほか、鎮痛効果のみ、そして鎮静と鎮痛の効果を同時に得る場合に使用するものに大別できます。また、薬剤の投与量が結果的に過多になってしまった場合に使用する拮抗薬についても解説。これも、鎮静薬と鎮痛薬によってそれぞれ使用すべき拮抗薬が異なります。ただし、やみくもに拮抗薬を使用することは危険。このレクチャーでは、その役割と効果だけでなく、副作用やリスクにも言及し、どんな場合に投与を検討すべきかを明解に示しています。第4回 合併症予防 急セデーションを実施する際に、注意しなければいけない気道や呼吸、循環などに関連した合併症があります。患者の特性やリスク因子をしっかり把握して起き得る合併症を防ぐことが大切ですが、医療者側の知識が不十分だったり、技術に問題があったりする場合もあります。このレクチャーでは、セデーションによる合併症を予防するために最低限やっておくべき10カ条について解説。いずれの項目もセデーションを実施する上での基本の「キ」ですが、合併症のリスクを回避するためにはとても重要です。第5回 特殊な領域(高齢者編)救急に搬送されてくる高齢者は、増加の一途です。もし、セデーションが必要な高齢患者に遭遇した時には、何を注意をすべきなのでしょうか。既往症が多く、多数の薬を服用している患者も少なくありません。また、加齢によって腎・肝機能の低下や、循環・呼吸器系の予備能についても、若い世代に比べて低下している人が多いはずです。そうした高齢者の特徴を踏まえて、安全かつ確実なセデーションを実施するための薬剤投与量や投与方法についてわかりやすく解説します。第6回 特殊な領域(小児編)このセッションでは、PSAを小児に実施する時に注意すべきポイントについて解説します。PSAの手順や鎮静・鎮痛に必要な薬理学は、大人も小児も体格差があるだけでベースは変わらないのでは?と思いがちですが、そこが大きな落とし穴!小児は“小さな大人”ではありません。解剖や生理の違いをきちんと理解し、適切な薬剤・器具の選択、大人と異なるモニタリングのポイントと注意点について詳しく説明します。第7回 成人症例ディスカッション ここまで学んできたセデーションの手順と薬理学を、実際の場面でどう生かすのか。この回では、成人の急患が運ばれてきた想定で、何をポイントに、どのレベルの鎮静や鎮痛が必要かを考え、どんな手順で実施するのかを学びましょう。ここで示されるケースの男性はかなりの肥満体。この体格的特徴によって、セデーションを行うに際にどのような注意が必要となるのでしょうか。適切な器具や薬剤の選び方も詳しく解説します。第8回 小児症例ディスカッション この回では、小児の急患が運ばれてきた想定で、セデーションのケースシミュレーションを行います。処置前の鎮静・鎮痛を実施する際、小児は“小さな大人”ではないため、成人とは異なる解剖や生理の違いをきちんと理解した上で対応する必要があることは、これまでの回ですでに学んだ通りです。ここで示されるケースは、唇にけがをした2歳児に対する、縫合前の鎮静と鎮痛。小児に対して、また家族への説明についてどんな注意と配慮が必要でしょうか。セデーションの手順の共に、忘れがちな処置前後の注意点を改めておさらいしましょう。第9回 Procedural Sadation 実践編 これまで8回にわたって、セデーションの基本的な考え方から、実際の手順、モニタリングのポイント、使用する薬剤などを網羅的に解説してきました。それらを実践でどのように生かせばよいのでしょうか。この回では、健和会大手町病院のセデーション研修で参加者たちが体験したシミュレーションの模様を観ながら、セデーションの流れを改めて確認しましょう。シミュレーションでは、交通事故で搬送されてきた患者の足関節脱臼を徒手整復するにあたって、セデーションを実行しますが、救急外来は時間勝負。速やかな方針決定だけでなく、スタッフへの伝達、関係科の医師への説明なども必要になってきます。そして、案外見落としがちなのが、一連の処置が終わった後の患者モニタリング。4人の講師たちが重要なポイントとして挙げたことや注意点を思い出しながらご覧ください。

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Na摂取増による血圧上昇、高血圧・高齢者で大/NEJM

 ナトリウム・カリウム摂取量と血圧とには、非線形の相関がみられ、それらは高塩分食摂取者や、高血圧症、高齢者で顕著であることが、カナダ・マックマスター大学のAndrew Mente氏らPURE研究グループによる検討の結果、明らかにされた。ナトリウム摂取量が高値であるほど血圧値が高値である相関性は報告されている。しかし同関連が、ナトリウムまたはカリウム摂取量の違いや集団の違いで異なるのかについては、これまで検討されていなかった。NEJM誌2014年8月14日号掲載の報告より。18ヵ国10万2,216人の成人について分析 PURE(Prospective Urban Rural Epidemiology)研究グループは、18ヵ国10万2,216人の成人について、電解質排泄量と血圧との関連を評価する検討を行った。 単回採取の早朝空腹時尿検体から24時間尿中ナトリウム・カリウム排泄量を推定し、ナトリウム・カリウムの摂取量の代替指標として用いた。血圧の測定は自動血圧計で行った。 被験者は、年齢51.0±9.7歳、女性は57.2%、低位中所得国者が53.6%(うち中国が42.1%)、高位中所得国25.1%、高所得国14.2%、またBMI値26.1±5.1、糖尿病7.1%、自己申告の高血圧症または≧140/90mmHgの人は42.0%などの特性を有していた。平均ナトリウム摂取量は4.93±1.73g、カリウムは2.12±0.60gと推定され、女性よりも男性で摂取量が多い傾向がみられた(いずれもp<0.001)。相関の傾きは、ナトリウム高摂取、高血圧症、高齢者ほど急に 回帰分析の結果、推定ナトリウム排泄量が1g増加するごとに、収縮期血圧は2.11mmHg、拡張期血圧は0.78mmHgの上昇が示された。この相関の傾きは、ナトリウム摂取量が多いほど急であり、ナトリウム排泄量が5g/日超において収縮期血圧は2.58mmHg/g、同3~5g/日では1.74mmHg/g、3g/日未満では0.74mmHg/gの上昇が示された(交互作用についてp<0.001)。 また相関の傾きは、高血圧症者(2.49mmHg/g)のほうが非高血圧症者(1.30mmHg/g)よりも急であり(交互作用p<0.001)、年齢が高いほど大きくなった。すなわち55歳超では2.97mmHg/g、45~55歳では2.43mmHg/g、45歳未満では1.96mmHg/g(交互作用p<0.001)だった。 一方、カリウム排泄量と収縮期血圧とには、負の相関が認められた。相関の傾きは高血圧症者のほうが非高血圧症者よりも急であり(p<0.001)、年齢が高いほど大きかった(p<0.001)。

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塩分摂取と死亡リスクの関係はJカーブ/NEJM

 心血管の健康に最適なナトリウム摂取量は3~6g/日(食塩換算量:7.5~15.0g/日)であり、これより多くても少なくても、死亡や心血管イベントのリスクが高くなることが、カナダ・マックマスター大学のMartin O’Donnell氏らが行ったPURE試験で示された。世界の心血管疾患予防ガイドラインが推奨するナトリウム摂取量は1.5~2.4g/日だが、これを達成するには、ほとんどの人が食生活の根本的な変更を迫られると考えられる。ナトリウム摂取量の減少が心血管疾患リスクの低下をもたらすことを証明した大規模無作為化試験はなく、前向きコホート試験の結果からは一致した見解は得られていないという。NEJM誌2014年8月14日号掲載の報告。推定排泄量を摂取量の代替指標とし、約10万人で検討 PURE(Prospective Urban Rural Epidemiology)試験は、尿中ナトリウムおよびカリウム排泄量と、死亡、心血管疾患イベントの関連を調査する前向きコホート試験。対象は、17ヵ国628地域に居住する35~70歳の一般住民であった。 朝の空腹時尿検体を採取して24時間ナトリウムおよびカリウム排泄量を推定し、摂取量の代替指標とした。尿中ナトリウムおよびカリウムの推定排泄量と、死亡および主要心血管イベントの複合アウトカムの関連を評価した。 2003年1月に登録が開始された。今回の解析には、10万1,945例(全体の48.4%がアジア人で、全体の42%は中国人)のデータを用いた。平均推定24時間ナトリウム排泄量は4.93g/日、カリウム排泄量は2.12g/日であった。平均血圧はナトリウム摂取量が多いほど高かった(p<0.001)。カリウム排泄量は多いほどリスクが低下 平均フォローアップ期間3.7年で、3,317例(3.3%)に複合アウトカムが発生した。死亡は1,976例で、そのうち650例が心血管死であった。857例が心筋梗塞、872例が脳卒中、261例が心不全を来した。 推定ナトリウム排泄量4.00~5.99g/日を基準とすると、排泄量≧7.00g/日では複合アウトカムのリスクが有意に上昇し(オッズ比[OR]:1.15、95%信頼区間[CI]:1.02~1.30)、死亡(1.25、同:1.07~1.48)および主要心血管イベント(1.16、同:1.01~1.34)のリスクもそれぞれ有意に上昇していた。 推定ナトリウム排泄量高値と複合アウトカムの関連は、高血圧を有する参加者で最も強く(交互作用検定p=0.02)、排泄量が6.00g/日を超えるとリスクが上昇した(6.00~6.99g/日;OR:1.14、95%CI:1.00~1.30/≧7.0g/日;同:1.21、1.05~1.40)。 推定ナトリウム排泄量が<3.00g/日の場合も、基準値(4.00~5.99g/日)に比べ複合アウトカムのリスクが有意に上昇した(OR:1.27、95%CI:1.12~1.44)。 推定カリウム排泄量が<1.50g/日の場合と比較して、≧1.50g/日の場合に複合転帰のリスクが有意に低下した(1.50~1.99g/日;OR:0.86、95%CI:0.77~0.97/2.00~2.49g/日;同:0.81、0.73~0.91/2.50~3.00g;同:0.86、0.75~0.98/>3.00g/日;同:0.78、0.67~0.91)。複合アウトカムの発生に関して、ナトリウム排泄量とカリウム排泄量に交互作用は認めなかった(p=0.55)。 著者は、「推定ナトリウム摂取量が3~6g/日より多い場合も少ない場合も、死亡および心血管イベントのリスクが増大した」とまとめ、「本試験はナトリウム摂取量の異なる群を疫学的に比較した調査であって、摂取量の減少が臨床アウトカムに及ぼす効果に関する情報を提供するものではない。それゆえ、意図的に摂取量を減らせばリスクが軽減するとのエビデンスとは解釈すべきでない」と指摘している。

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抗グルタミン酸受容体抗体が神経疾患に重大関与か

 グルタミン酸は中枢神経系(CNS)の主な興奮性神経伝達物質であり、多くの主要な神経機能に必要な物質である。しかし、過剰なグルタミン酸はグルタミン酸受容体活性化を介した有害な興奮毒性により、重度の神経細胞死と脳害を引き起こす。イスラエル・School of Behavioral Sciences, Academic College of Tel-Aviv-YafoのMia Levite氏は、抗グルタミン酸受容体抗体に関して、これまでに得られている知見をレビューした。抗AMPA-GluR3B抗体、抗NMDA-NR1 抗体、抗NMDA-NR2A/B抗体、抗mGluR1抗体、抗mGluR5抗体、以上5種類の抗グルタミン酸受容体抗体について言及し、いずれもさまざまな神経疾患に高頻度に認められ、神経系にきわめて有害な影響を及ぼしていることを示唆した。Journal of Neural Transmission誌オンライン版2014年8月号の掲載報告。 グルタミン酸による興奮毒性は、多くのタイプの急性および慢性CNS疾患および傷害に生じる主要な病理学的プロセスである。近年、過剰なグルタミン酸だけでなく、いくつかのタイプの抗グルタミン酸受容体抗体もまた、重度の脳傷害を引き起こしうることが明らかになってきた。抗グルタミン酸受容体抗体は神経疾患患者の血清および脳脊髄液(CSF)中に存在し、CNSにおいて何らかの強い病理学的影響を誘導することにより、脳に傷害を引き起こす。抗グルタミン酸受容体自己免疫抗体ファミリーは、これまでに開発されたなかで最も広範かつ強力、危険で興味深い抗脳自己免疫抗体だと思われる。ヒトの神経疾患および自己免疫疾患において種々のタイプの抗グルタミン酸受容体抗体が認められ、髄腔内産物に由来しCNS内に高濃度存在し、脳にさまざまな病理学的影響を及ぼし、またユニークかつ多様なメカニズムでグルタミン酸受容体とシグナル伝達に作用し、神経伝達を障害して脳に傷害を誘導する。2つの主な自己免疫抗グルタミン酸受容体抗体ファミリーが神経および/または自己免疫疾患患者においてすでに発見されており、抗AMPA-GluR3抗体、抗NMDA-NR1抗体、抗NMDA-NR2抗体などイオンチャンネル型のグルタミン酸受容体に直接作用する抗体、そして抗mGluR1抗体、抗mGluR5抗体など代謝型のグルタミン酸受容体に直接作用する抗体などがCNSに有害な影響を及ぼすことが示されている。 この包括的レビューでは、それぞれの抗グルタミン酸受容体抗体について、発現が認められたヒト疾患、神経系における発現と産物、さまざまな精神/行動/認知/運動障害との関連、特定の感染臓器との関連の可能性、マウス、ラット、ウサギなど動物モデルにおけるin vivoでの有害な作用そしてin vitroにおける有害な作用、多様でユニークなメカニズム、以上についてそれぞれの抗グルタミン酸受容体抗体別に言及する。また、これら抗グルタミン酸受容体抗体を有し、さまざまな神経疾患および神経系の問題を抱える患者における免疫療法に対する反応性についても言及する。5種類の抗グルタミン酸受容体抗体について、それぞれ項目を立て有用な図を用いて解説し、最後にすべての主要な知見をまとめ、診断、治療、ドラッグデザインおよび今後の検討に関する推奨ガイドラインを提示する。 ヒトを対象とした試験、in vitro試験、マウス、ラット、ウサギなど動物モデルを用いたin vivo試験から、5種類の抗グルタミン酸受容体抗体に関して得られた知見は以下のとおり。(1)抗AMPA-GluR3B抗体・さまざまなタイプのてんかん患者で~25~30%に認められる。・てんかん患者にこれら抗グルタミン酸受容体抗体(またはその他のタイプの自己免疫抗体)を認める場合、およびこれら自己免疫抗体がしばしば発作や認知/精神/行動障害を誘発または促進していると思われる場合、てんかんは“自己免疫性てんかん”と呼ばれる。・“自己免疫性てんかん”患者の中には、抗AMPA-GluR3B抗体が有意に精神/認知/行動異常に関連している者がいる。・in vitroおよび/または動物モデルにおいて、抗AMPA-GluR3B抗体自身が多くの病理学的影響を誘発する。すなわち、グルタミン酸/AMPA受容体の活性化、“興奮毒性”による神経細胞死、および/または補体調節タンパク質による補体活性化により脳への複数のダメージ、痙攣誘発化学物質による発作、行動/運動障害の誘発などである。・抗AMPA-GluR3B抗体を有する“自己免疫性てんかん”患者の中には、免疫療法に対する反応性が良好で(時々一過性ではあるが)、発作の軽減および神経機能全体の改善につながる者がいる。(2)抗NMDA-NR1 抗体・自己免疫性“抗NMDA受容体脳炎”に認められる。・ヒト、動物モデルおよびin vitroにおいて、抗NMDA-NR1抗体は海馬神経に発現している表面NMDA受容体を著しく減少させうること、そしてNMDA受容体のクラスター密度ならびにシナプス性局在もまた減少させることから重要な病因となりうる。・抗NMDA-NR1抗体は、NMDA受容体と架橋結合およびインターナリゼーションを介してこれらの作用を誘発する。・このような変化はNMDA受容体を介するグルタミン酸シグナル伝達を障害し、さまざまな神経/行動/認知/精神の異常を来す。・抗NMDA-NR1抗体は、その髄腔内産物により抗NMDA受容体脳炎患者のCSF中にしばしば高濃度に認められる。・抗NMDA受容体脳炎患者の多くは、いくつかの免疫療法に良好に反応する。(3)抗NMDA-NR2A/B抗体・神経精神的問題の有無にかかわらず、全身性エリテマトーデス(SLE)患者の多くに認められる。・抗NMDA-NR2A/B抗体を有するSLE患者の割合は報告により14~35%とさまざまである。・ある1件の試験では、びまん性神経精神的SLE患者の81%、焦点性“神経精神的SLE”患者の44%で抗NMDA-NR2A/B抗体が認められることが報告されている。・抗NMDA-NR2A/B抗体は、いくつかのタイプのてんかん、いくつかのタイプの脳炎 (慢性進行性辺縁系脳炎、傍腫瘍性脳炎または単純ヘルペス性脳炎など)、統合失調症、躁病、脳卒中またはシェーグレン症候群患者にも認められる。・患者の中には、抗NMDA-NR2A/B抗体が血清とCSFの両方に認められる者がいる。・dsDNAと交差反応する抗NMDA-NR2A/B抗体もある。・いくつかの抗NMDA-NR2A/B抗体は、SLE患者の神経精神/認知/行動/気分障害と関連している。・抗NMDA-NR2A/B抗体は、NMDA受容体の活性化により神経死をもたらすこと、“興奮毒性”を誘発して脳を傷害する、膜NMDA受容体発現の海馬神経における著明な減少、そして動物モデルにおいて認知行動障害を誘発することなどから、病因となりうることは明らかである。・しかし、抗NMDA-NR2A/B抗体の濃度は、グルタミン酸受容体に対するポジティブまたはネガティブな影響、神経の生存を決定付けていると思われる。・このため、低濃度において抗NMDA-NR2A/B抗体は受容体機能のポジティブモジュレーターであり、NMDA受容体を介した興奮性シナプス後電位を増加させる一方、高濃度ではミトコンドリア膜透過性遷移現象を介した“興奮毒性”を促進して病因となる。 (4)抗mGluR1抗体・これまでに、少数の傍腫瘍性小脳運動失調患者に認められており、これら患者では髄腔内で産生されるため血清中よりもCSF中濃度のほうが高い。・抗mGluR1抗体は、基本的な神経活性の減弱、プルキンエ細胞の長期抑圧の誘導阻害、プルキンエ細胞の急性および可塑反応の両方に対する速やかな作用による脳運動調節欠乏、慢性的な変性などにより脳疾患のきわめて大きな原因になりうる。・抗mGluR1抗体をマウス脳に注射後30分以内に、マウスは著しい運動失調に陥る。・運動失調患者に由来する抗mGluR1抗体は、動物モデルにおいて眼球運動もまた障害する。・抗mGluR1抗体を有する小脳性運動失調患者の中には、免疫療法が非常に効果的な者がいる。(5)抗mGluR5抗体・これまでに、ホジキンリンパ腫および辺縁系脳炎(オフェリア症候群)患者の血清およびCSF中にわずかに認められている。・抗GluR5抗体を含むこれら患者の血清は、海馬の神経線維網およびラット海馬ニューロン細胞表面と反応し、培養ニューロンを用いた免疫沈降法および質量分析法により抗原がmGluR5であることが示された。 以上のエビデンスから、著者は「抗グルタミン酸受容体抗体は、これまでに認識されていた以上にさまざまな神経疾患に高頻度に存在し、神経系に対してきわめて有害であることがわかった。したがって、診断、治療による抗グルタミン酸受容体抗体の除去あるいは鎮静化、および将来の研究が求められる。広範な抗グルタミン酸受容体抗体ファミリーに関しては、興味深く、新規でユニークかつ重要であり、将来に向けた努力はいずれも価値があり必須であることがわかった」とまとめている。関連医療ニュース 精神疾患におけるグルタミン酸受容体の役割が明らかに:理化学研究所 精神疾患のグルタミン酸仮説は支持されるか グルタミン酸作動薬は難治性の強迫性障害の切り札になるか

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うつ病と殺虫剤、その関連が明らかに

 これまで、うつ病と殺虫剤曝露が関連する可能性は指摘されていたが、うつ病エピソードの経過または殺虫剤個々についての検討はほとんど行われていなかった。米国・ノースカロライナ大学のJohn D Beard氏らは、Agricultural Health Studyに登録された殺虫剤を個人で散布した男性のデータを解析し、殺虫剤の曝露とうつ病との関連を調べた。その結果、2系統(燻蒸剤・有機塩素系)、7種類(リン化アルミニウム、二臭化エチレン、2,4,5-トリクロロフェノキシ酢酸、ジエルドリン、ジアジノン、マラチオン、パラチオン)において、うつ病との明らかな関連が認められたことを報告した。Environmental Health Perspectives誌オンライン版2014年6月6日号の掲載報告。 研究グループは、Agricultural Health Studyへと1993~1997年に登録され、2005~2010年に電話インタビューによる追跡調査を完了した被験者について、10系統50種類の殺虫剤に関するデータを解析した。逆確率重み付け法により潜在的な交絡因子を補正し、多分割ロジスティック回帰により、オッズ比(OR)と95%信頼区間(CI)を推算した。解析には、Agricultural Health Study参加者のうち、共変数データ不明の3,315例、電話インタビューにより追跡を完了しなかった2万4,619例を除外した2万1,208例が含まれた。 主な結果は以下のとおり。・被験者2万1,208例のうち、1,702例(8%)が、医師によりうつ病と診断されていた。・それらのうち、登録時にうつ病と診断されたが追跡時にうつ病を認めなかった者は474例(28%)、登録時と追跡時の両方でうつ病と診断された者540例(32%)、登録時にうつ病と診断されておらず追跡時にうつ病と診断された者は688例(40%)であった。・上記3群について、2系統(燻蒸剤・有機塩素系)、以下7種類の殺虫剤について解析した結果、各ケース群のORは1.1~1.9と、すべてうつと明確な関連が認められた。 …リン化アルミニウムおよび二臭化エチレン …フェノキシ系除草剤(2,4,5-トリクロロフェノキシ)酢酸 (2,4,5-T) …有機塩素系殺虫剤ジエルドリン …有機リン系殺虫剤ジアジノン、マラチオン、パラチオン関連医療ニュース 殺虫剤でアルツハイマー病リスクが増加 河川や水道水で抗うつ薬検出:東ヨーロッパ ゲームのやり過ぎは「うつ病」発症の原因か?!  担当者へのご意見箱はこちら

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Vol. 2 No. 2 transcatheter aortic valve implantation(TAVI)現状と将来への展望

林田 健太郎 氏慶應義塾大学医学部循環器内科はじめに経カテーテル的大動脈弁留置術 (transcatheter aortic valve implantation:TAVI)は、周術期リスクが高く外科的大動脈弁置換術(surgical aortic valve replacement:SAVR)の適応とならない患者群、もしくは高リスクな患者群に対して、より低侵襲な治療として開発されてきた。2002年にフランスのRouen大学循環器内科のCribier教授によって第1例が施行されて以後1)、2007年にヨーロッパでCEマーク取得、2011年にはEdwards社のSapien valveがアメリカでFDA認可を受けている。現在までにヨーロッパ、アメリカを中心に世界中で7万例以上が治療されており、世界的に急速に進歩、普及しつつある治療法である。現在ヨーロッパでは2種類のTAVIデバイスが商業的に使用可能である(本誌p.16図を参照)。フランスでは2010年にすでにTAVIの保険償還がされており、現在では33施設がTAVI施行施設として認可を受けている。またTAVI症例はnational registryに全例登録が義務づけられている2)。TAVIにおける周術期死亡率の低下TAVIの歴史は合併症の歴史であるといっても過言ではない。2006、2007年のTAVIプログラム開始当初は多くの重篤な合併症を認め、低侵襲な経大腿動脈TAV(I TF -TAVI)においても20%を超える30日死亡率を認めていた。しかし、年月とともに術者・施設としての経験の増加、知見の蓄積、さらにデバイスの改良により徐々に合併症発生率は低下し、それに伴って死亡率は低下していった(図1)。特に最近では、transfemoral approachにおいては30日死亡率が5%以下まで低下しており、この数字が今後日本におけるTAVI導入においてわれわれが目指していく基準になっていくであろう。それではどのように合併症を減らしていくのか?図1 30日死亡率の推移(Institut Cardiovasculaire Paris Sudにおけるデータ)画像を拡大する2006年のTAVI開始当初は非常に高い周術期死亡率であったが、その後経験の蓄積やデバイスの改良により、現在では5%程度まで低下している。欧米のデータをいかに日本の患者さんに応用するか?私がヨーロッパにいる間は、日本の患者さんに対していかに安全にTAVIを導入するかということを常に考えて研究を行っていた。フランスにいながらにして体の小さな日本人におけるTAV Iの結果をいかにsimulateするかというのが課題であったが、われわれは体表面積(BSA)をフランスにおけるTAVIコホートの中央値である1.75をcutpointとし、small body size群とlarge body size群に分けて比較を行った(表1)。するとsmall body size群では有意に大動脈弁輪径が小さく(21.3±1.58 vs. 22.8±1.86mm, p< 0.01)、大腿動脈径も小さかった(7.59±1.06 vs. 8.29±1.34mm, p<0.01)。それに伴って弁輪破裂も増加する傾向があり(2.3 vs. 0.5%, p=0.11)、重大な血管合併症(major vascular complication)も増加した(13.0% vs. 4.3%, p<0.01)3)。われわれはsmall body size群で十分日本人のデータを代表できるのではと考えていたが、2012年の日本循環器学会で発表された日本人初のEdwards Sapien XTを用いたTAVIのtrialであるPREVAIL Japanのデータを見ると、われわれの想像をはるかに超え、日本人の平均BSAは1.4±0.14m2であり、われわれのコホートにおけるsmall body size群(1.59±0.11m2)よりさらに小さく、それに伴って大動脈弁輪径も小さかった(表1)。幸いPREVAIL Japanでは弁輪破裂は1例のみに認められ、また重大な血管合併症は6.3%であった。今後日本においてTAVIが普及していく過程において、体格の小さい日本人特有の合併症を予防することがたいへん重要であると考えられる。ではどのようにこのような合併症を低減していくことができるのか?表1 small body size群とlarge body size群の比較画像を拡大する大動脈弁輪径の計測の重要性まず弁輪破裂(もしくはdevice landing zone rupture)は心タンポナーデにより瞬時に血行動態の破綻をきたすため、致死率の高いたいへん重篤な合併症である(図2)4, 5)。Sapien valveでより頻度が高いが、CoreValveでも理論上は前拡張や後拡張時に起きうるため注意が必要である。TAVIにおいては外科手術と異なり直接sizerをあてて計測することができないため、事前に画像診断による詳細な弁輪径やバルサルバ洞径の計測、石灰化の評価とそれに最適なデバイス選択が必要である。この合併症を恐れるがあまり小さめのサイズの弁を選択すると、逆にparavalvular leakが生じやすくなり、30日死亡率6)、1年死亡率7)を増加させることが報告されている。さらには近年、中等度のみならず軽度(mild)のparavalvular leakも予後を悪化させる可能性が示唆されており8)、われわれも同様の結果を得ている(本誌p.19図を参照)9)。弁輪の正確な計測には、その構造の理解が重要である。弁輪ははっきりとした構造物ではなく、3枚の弁尖の最下部からなる平面における“virtual ring”で構成される部分であり(本誌p.19図を参照)、正円ではなく楕円であることが知られている(図3左)。この3次元構造の把握には2Dエコーに比べCTが適しているという報告があり10-12)、エコーに比べTAVIにおける後拡張の頻度を低下させたり13)、弁周囲逆流を減少させたりする14, 15)ことが報告されている。われわれもCT画像における弁輪面積より算出される幾何平均を平均弁輪径として使用し(図3右)、弁逆流量の低下を達成している16)。3Dエコーは3次元構造の把握には優れているものの、低い解像度、石灰化などによるアーティファクトの影響が除外しきれないため、現在のところ弁輪計測のモダリティとしてはガイドライン上勧められていないが17)、造影剤を必要としないなどのメリットもあり、今後の発展が期待される。図2 Sapien XT valve 留置後弁輪破裂を認めた1例画像を拡大する急速に進行する心タンポナーデに対し心嚢穿刺を行い、救命しえた1例。大動脈造影上左冠動脈主幹部の直下にcontrast protrusionを認め、弁輪破裂と考えられた。図3 CTにおける弁輪径の計測画像を拡大する大動脈弁輪は、ほとんどの症例において正円ではなく楕円である。この症例の場合、短径24.2mm、長径31.7mm、長径弁輪面積より幾何平均(geometric mean)は26.7mmと算出される。血管アクセスの評価TAVIにおいてmajor vascular complicationは周術期死亡リスクを増加させることが示唆されており18, 19)、特に骨動脈破裂は急速に出血性ショックをきたし致命的であるため、血管アクセスの評価もたいへん重要である。ほとんどの施設ではより低侵襲な大腿動脈アプローチ(transfemoral approach)が第一選択とされるが、腸骨大腿動脈アクセスの血管径や性状が適さない、もしくは大動脈にmobile plaqueが認められるなどの要因があると、その他のalternative approach、例えば心尖部アプローチ(transapical approach)、鎖骨下アプローチ(transsubclavian approach)などが適応となる。われわれはmajor vascular complicationの予測因子として、経験、大腿動脈の石灰化とともにシース外径と大腿動脈内径の比(sheath to femoral artery ratio:SFAR)を同定しており(本誌p.20表を参照)19)、そのSFARのcut pointは1.05であった(本誌p.20図を参照)。大腿動脈が石灰化していない場合は1.1であり、石灰化があると1.0まで低下していた。つまり、大腿動脈の石灰化がなければシース外径は大腿動脈内径より少し大きくなっても問題ないが、石灰化がある場合は、シース外径は大腿動脈内径を超えないほうがよいと考えられる。後にバンクーバーからも同様の報告がされており、われわれの知見を裏づけている20)。heart team approachの重要性以上、弁輪径の評価と血管アクセスなどの患者スクリーニングについて述べてきたが、いずれも画像診断が主であり、imaging specialistと働くことはたいへん重要である。またTAVIにおいては、デバイス自体がいまだ発展途上でサイズも大きく(18Frほど)、また治療対象となる患者群が非常に高齢・高リスクであることから、一度合併症が生じるとたいへん重篤になりやすく致命的であるため、PCI以上に外科医のバックアップが重要かつ必須である。特にearly experienceでは重篤な合併症が起きやすいため、経験の豊富な術者の指導のもと、チームとしての経験を重ねていくべきである。またエコー、CTなどイメージング専門医、外科医、麻酔科医との緊密な連携に基づいた集学的な“heart team approach”がたいへん重要である。TAVIのSAVR件数に与える影響2004年から2012年までの、MassyにおけるSAVRとTAVI件数の推移を図4に示す。TAVI導入以前は年間SAVRが180例ほどであったが、2006年に導入後急速に増加し、2011年には350例以上と倍増している。このように、TAVIは従来の外科によるSAVRを脅かすものではなく、今まで治療できなかった患者群が治療対象となる、まさに内科・外科両者にとって“win-win”の手技である。またSAVRに対するTAVI件数の割合も増加しており、2011年にはSAVRの半分ほどに達している。現時点では弁の耐用年数などまだ明らかになっていない点があるものの、TAVIの重要性は急激に増加している。TAVIは内科・外科が“heart team”として共同してあたる手技であり、冠動脈疾患の歴史を繰り返すことなく、われわれの手で両者にとっての共存の場にしていくことが重要であろう。図4 Institut Cardiovasculaire Paris SudにおけるTAVI導入後の外科的大動脈弁置換術とTAVI症例数の推移画像を拡大するTAVI導入後、外科的大動脈弁置換術の症例数は倍増している。将来への展望筆者が2009年から3年間留学していたフランスのMassyという町にあるInstitut Cardiovasculaire Paris Sud(ICPS)という心臓血管センターでは2006年よりTAVIを開始している。当初は22-24Frの大口径シースを用いた大腿動脈アクセスに対し外科的なcutdownを用いていたが、2008年からは穿刺と止血デバイス(Prostar XL)を用いた“true percutaneous approach”に完全移行している(図5)。 また2009年からは挿管せず全例局所麻酔と軽いセデーションのみでTF -TAVIを行っており、現在は“true percutaneous approach”と局所麻酔の両方を併せた“Minimally invasive TF -TAVI”として、良好な成績を収めている21)。このように局所麻酔とセデーションを用い、穿刺と止血デバイスを用いた“true percutaneous approach”は、経験を積めば安全で、高齢でリスクの高い大動脈弁狭窄症患者に対し、非常に低侵襲に大動脈弁を留置することができるたいへん有用な方法である。離床も早く、合併症がない場合の平均入院期間は1週間以下であるため、従来のSAVRに比べ大幅に入院期間を短縮でき、ADLを損なう可能性も低い。手技自体も、穿刺、止血デバイスを用いることから合併症がなければ1時間以内で終了し、通常の冠動脈インターベンション(PCI)のイメージと近くなっている。しかし、経験の初期は全TAVIチームメンバーのlearning curveを早く上げることが先決であり、無理をして最初から導入する必要はないが、次世代TAVIデバイスであるEdwards Sapien 3は14Frシースであるため、この方法が将来主流となってくる可能性が高い。筆者が2010年に参加したスイスで行われているCoreValveのtraining courseでは止血デバイスの使用法が講習に含まれており、特に超高齢者におけるメリットは大きく、今後日本でもわれわれが目指していくべき方向である。今年2013年でfirst in man1)からいまだ11年というたいへん新しい手技であり、弁の耐久性など長期成績が未確定であるものの、今後急速に普及しうる手技である。日本においてはEdwards Lifesciences社のSapien XTを用いたPREVAIL Japan trialが終了し、早ければ2013年度中にも同社のTAVIデバイスの保険償還が見込まれている。また現在、Medtronic社のCoreValveも治験が終了しようとしており、高リスクな高齢者に対するより低侵襲な大動脈弁治療のために、早期に使用可能となることが望まれる。現在ヨーロッパを中心とした海外では、Sapien、CoreValveなどの第1世代デバイスの弱点を改良した、もしくはまったく新しいコンセプトの第2世代デバイスが続々と誕生し、使用されつつある。いくつかのデバイスはすでにCEマークを取得しているか、もしくはCEマーク取得のためのトライアル中であり、今後急速に発展しうるたいへん楽しみな分野である。図5 18Fr大口径シースに対する止血デバイス(Prostar XL)を用いたtrue percutaneous approach画像を拡大するA:造影ガイド下に総大腿動脈を穿刺する。B:シース挿入前に止血デバイス(Prostar XL)を用い、糸をかける(preclosure technique)。C:弁留置後シース抜去と同時にknotを締めていく。D:非常に小さな傷しか残らず終了。おわりに本稿ではTAVIの現状と将来への展望について概説した。TAVI適応となるような高リスクの患者群ではminor mistakeがmajor problemとなりうるため、綿密なスクリーニングと経験のあるインターベンション専門医による丁寧な手技による合併症の予防がたいへん重要である。また、ヨーロッパではすでに2007年にCEマークが取得され、多くの症例が治療されているが、いまだこの分野の知識の発展は激しく日進月歩であり、解明すべき点が多く残っている。日本におけるTAVI導入はデバイスラグの問題もあり遅れているが、すでに世界で得られている知見を生かし、また日本人特有の繊細なスクリーニング、手技により必ず世界に誇る成績を発信し、リードすることができると確信している。そのためには“Team Japan”として一丸となってデータを発信していくための準備が必要であろう。文献1)Cribier A et al. Percutaneous transcatheter implantation of an aortic valve prosthesis for calcific aortic stenosis: first human case description. Circulation 2002; 106: 3006-3008. 2)Gilard M et al. Registry of transcatheter aorticvalve implantation in high-risk patients. N Engl J Med 2012; 366: 1705-1715. 3)Watanabe Y et al. Transcatheter aortic valve implantation in patients with small body size. Cathether Cardiovasc Interv (in press). 4)Pasic M et al. Rupture of the device landing zone during transcatheter aortic valve implantation: a life-threatening but treatable complication. Circ Cardiovasc Interv 2012; 5: 424-432. 5)Hayashida K et al. Successful management of annulus rupture in transcatheter aortic valve implantation. JACC Cardiovasc Interv 2013; 6: 90-91. 6)Abdel-Wahab M et al. Aortic regurgitation after transcatheter aortic valve implantation: incidence and early outcome. Results from the German transcatheter aortic valve interventions registry. Heart 2011; 97: 899-906. 7)Tamburino C et al. Incidence and predictors of early and late mortality after transcatheter aortic valve implantation in 663 patients with severe aortic stenosis. Circulation 2011; 123: 299-308. 8)Kodali SK et al. Two-year outcomes after transcatheter or surgical aortic-valve replacement. N En gl J Me d 2 012; 36 6: 1686-1695. 9)Hayashida K et al. Impact of post-procedural aortic regurgitation on mortality after transcatheter aortic valve implantation. JACC Cardiovasc Interv 2012 (in press). 10)Schultz CJ et al. Cardiac CT: necessary for precise sizing for transcatheter aortic implantation. EuroIntervention 2010; 6 Suppl G: G6-G13. 11)Messika-Zeitoun D et al. Multimodal assessment of the aortic annulus diameter: implications for transcatheter aortic valve implantation. J Am Coll Cardiol 2010; 55: 186-194. 12)Piazza N et al. Anatomy of the aortic valvar complex and its implications for transcatheter implantation of the aortic valve. Circ Cardiovasc Interv 2008; 1: 74-81. 13)Schultz C et al. Aortic annulus dimensions and leaflet calcification from contrast MSCT predict the need for balloon post-dilatation after TAVI with the Medtronic CoreValve prosthesis. EuroIntervention 2011; 7: 564-572. 14)Willson AB et al. 3-Dimensional aortic annular assessment by multidetector computed tomography predicts moderate or severe paravalvular regurgitation after transcatheter aortic valve replacement a multicenter retrospective analysis. J Am Coll Cardiol 2012; 59: 1287-1294. 15)Jilaihawi H et al. Cross-sectional computed tomographic assessment improves accuracy of aortic annular sizing for transcatheter aortic valve replacement and reduces the incidence of paravalvular aortic regurgitation. J Am Coll Cardiol 2012; 59: 1275-1286. 16)Hayashida K et al. Impact of CT-guided valve sizing on post-procedural aortic regurgitation in transcatheter aortic valve implantation. EuroIntervention 2012; 8: 546-555. 17)Zamorano JL et al. EAE/ASE recommendations for the use of echocardiography in new transcatheter interventions for valvular heart disease. Eur Heart J 2011; 32: 2189-2214. 18)Genereux P et al. Vascular complications after transcatheter aortic valve replacement: insights from the PARTNER (Placement of AoRTic TraNscathetER Valve) trial. J Am Coll Cardiol 2012; 60: 1043-1052. 19)Hayashida K et al. Transfemoral aortic valve implantation: new criteria to predict vascular complications. J Am Coll Cardiol Intv 2011; 4: 851-858. 20)Toggweiler S et al. Percutaneous aortic valve replacement: vascular outcomes with a fully percutaneous procedure. J Am Coll Cardiol 2012; 59: 113-118. 21)Hayashida K et al. True percutaneous approach for transfemoral aortic valve implantation using the Prostar XL device: impact of learning curve on vascular complications. JACC Cardiovasc Interv 2012; 5: 207-214.

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1分でわかる家庭医療のパール ~翻訳プロジェクトより 第4回

第4回:小児のいぼのnatural history-約半数が自然治癒する いぼ(wart, 疣贅)は年に何回かはお母さん方から質問/相談を受けます。経過観察でよいのか?皮膚科に紹介したほうがよいのか?それとも診療所でも冷凍凝固を導入して治療したほうがよいのか?対応が悩ましいことも多いですが、Annals of Family Medicine誌の2013年12月15日号にも総説があり、日常的に遭遇する問題ですのでご紹介いたします。 以下、Annals of Family Medicine 2013年12月15日号1)よりいぼ(疣贅)1.背景いぼは自然に軽快することが多く、仮に治療を行った場合でも失敗するケースがある。したがって、家庭医および患者は経過観察という方法も知っておいたほうがよい。この研究では、いぼの自然経過および、どのようなタイミングで治療が行われているかをプライマリ・ケアベースでのコホート研究によって調査した。2.方法オランダの3つの小学校に通う4~12歳の小児を対象に、手掌足底にいぼがないかをベースライン時に調べた。その後平均15ヵ月間追跡調査を行った。また、対象小児の親にいぼがあることによる不便さと治療の有無についてアンケート調査した。3.結果1,134人の小児のうち1,009人(97%)が参加した。そのうち366 (33%)にベースライン時、いぼがあった。いぼを有する小児のうち9%がフォローできなかった。親のアンケートに回答した割合は83%であった。完全に治癒するのは、100人年中52であった。年齢が若い、非コーカサス系の肌は治癒率が高かった。フォローアップの期間中38%がなんらかの治療を受け、そのうち18%が市販薬(over-the-counter)、15%が家庭医の治療、5%がいずれの治療も受けた。1cmを超えるいぼでは、とくに治療を受ける割合が高かった。また、いぼがあることによって不便さを感じている小児も治療を受ける割合が高かった。4.結語約半数のいぼが自然軽快をした。より若年、非コーカサス系の肌は治癒率が高かった。大きくて不便を感じるいぼでは、治療する傾向があった。※本内容は、プライマリ・ケアに関わる筆者の個人的な見解が含まれており、詳細に関しては原著を参照されることを推奨いたします。 1) Bruggink SC, et al. Ann Fam Med. 2013;11:437-441.

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片頭痛の予防に抗てんかん薬、どの程度有用か

 片頭痛はしばしば慢性化・難治化する疾患である。海外では、重要の片頭痛患者に対し、抗てんかん薬が使用されている。インド・UP Rural Institute of Medical Sciences and ResearchのArchana Verma氏らは、成人の片頭痛予防に対する、抗てんかん薬レベチラセタム(商品名:イーケプラ、本疾患には国内未承認)の有効性および忍容性を評価した。Clinical neuropharmacology誌2013年11-12月号の報告。 片頭痛患者65例を対象とした、前向き無作為化プラセボ対照試験。対象患者は、レベチラセタム(LEV)群32例、プラセボ群33例に無作為に割り付けられた。試験完了症例数は、LEV群25例、プラセボ群27例であり、13例は早期に試験を中止した。LEVは250mg/日から投与を開始し、1週間おきに250mgずつ追加し、最終投与量である1000mg/日まで増量した。観察期間は3ヵ月間。 主な結果は以下のとおり。・LEV群ではプラセボ群と比較し、片頭痛の頻度(1ヵ月当たりの回数)が有意に減少し(ベースライン時5.17回[SD:1.19]→最後の4週間2.21回[1.47])、重症度も有意に減少した(2.75[0.44]→1.29[0.75])。・また、LEV群ではプラセボ群と比較し、症状コントロールのために使用する対症療法薬の投与量も有意に減少した(p<0.0001)。・頭痛頻度が50%以上減少した患者の割合は、LEV群64%、プラセボ群22%であった。・成人片頭痛患者へのレベチラセタム投与は、頭痛の頻度や重症度を改善し、対症療法薬の使用も軽減できることが示された。関連医療ニュース てんかん患者の頭痛、その危険因子は:山梨大学 抗てんかん薬による自殺リスク、どう対応すべきか 「片頭痛の慢性化」と「うつ」の関係

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Vol. 1 No. 1 ACSの治療-2次予防を考えた長期治療

大倉 宏之 氏川崎医科大学循環器内科はじめに急性冠症候群(acute coronary syndrome:ACS)の慢性期治療には、責任病変での再発防止と非責任病変の新規発症防止、すなわち2次予防が含まれる。責任病変の再発予防には、薬剤溶出ステント(DES)による再狭窄抑制と、適切な抗血小板療法によるステント血栓症の予防が重要である。一方、非責任病変の新規発症を防ぐには、抗血小板薬を含むさまざまな薬物による長期にわたる2次予防が必要である。ACSの予後:欧米と日本の違いACS患者の予後は不良である。欧米のデータでは、その20%は1年以内に再入院し、男性の18%、40歳以上の女性の23%が死亡するとの報告がある1)。また、心筋梗塞(AMI)後の患者は退院後1年以内にその8~10%がAMIを再発するとも報告されている2)。ただ、その再発率は保有するリスクによって異なる。Finnish studyでは、糖尿病例(年率7.8%)は非糖尿病例(年率3%)と比較して心筋梗塞再発が高率であることが示されている3)。ランダム化試験のデータでは、AMIの再発率は1~5%程度とおおむねレジストリーよりも低めである。AMIに対するDESと金属ステント(BMS)を比較したランダム化試験のメタ解析によると、AMI再発はDES留置例で3.1%、BMS留置例で3.3%であった4)。日本のデータでも非ACS症例と比較すると、ACS例の予後は不良であるが(図:本誌p21参照)5, 6)、ACS発症後のAMI再発率は、日本や韓国では1%以下と欧米と比較すると低率である7, 8)。もともとAMIの発症自体が少ないことに加えて、急性期に速やかに経皮的冠動脈インターベンション(percutaneous coronary intervention:PCI)による治療がなされていることと、その後も主治医によるきめ細やかな2次予防が行われていることがその理由かもしれない。至適薬物療法によるACSの2次予防欧米では、ACSの予後は経年的に改善していることが示されている。The Global Registry of Acute Coronary Events(GRACE)レジストリーに登録されたACS患者約4万例のデータ(図:本誌p21参照)において、入院中の死亡や心不全、6か月後のAMI新規発症が2000年から2005年にかけて有意に減少していることが示された9)。これは、エビデンスに基づいた薬物治療の浸透と、急性期のPCI施行率が高くなってきた結果である(図:本誌p22参照)。ACS後の2次予防を目指した薬物療法についてはガイドラインに詳細に述べられており10-15)、β遮断薬、ACE阻害薬(またはARB)、アルドステロン阻害薬、スタチン等の有用性が示されている。これらの薬物療法が、日本の臨床の現場にどの程度浸透しており、その結果、日本人のACS患者の予後が実際に改善しているのかどうかについては今後検証すべき課題である。ACS患者では、非責任病変の血管内超音波所見によって、ハイリスク病変を予測可能との報告がなされている16)。もともとイベント発生率の低い日本人でも、同様の予測が可能であるのかについても明らかにすべきである。抗血小板薬によるACSの2次予防薬物による2次予防のうちでも、特に重要な役割を果たしているのが抗血小板療法である。表に日本、米国、欧州の各ガイドライン10-15)に記載されている抗血栓療法の推奨をまとめた(Class I、Class IIaのみ記載)(表:本誌p23参照)。アスピリンが第1選択である点はすべてのガイドラインに共通である。欧州、米国のガイドラインでは、アスピリンに加えてクロピドグレル(または他のP2Y12阻害薬)を12か月間投与することが推奨されている。日本のガイドラインにはその期間は特定されていない11)。抗血小板薬2剤併用療法の至適期間抗血小板薬2剤併用療法(dual anti-platelet therapy: DAPT)の至適投与期間は、ステントの種類(BMSかDESか)と病型(安定狭心症かACSか)により異なる。一般に、DESの場合は12か月間以上のDAPTが推奨されているが20)、至適期間についてのエビデンスは十分ではない。j-Cypherレジストリーでは、ACS例において6か月以上DAPTを継続していた例と、DAPTを6か月時点で中止していた例との間には、その後2年間のイベント発生率に差を認めなかったことが示されている5)。日本では、患者背景や病変背景を考慮した至適な抗血小板薬療法が行われていることが反映されているのかもしれない。ACSの研究ではないが、韓国からはステント留置後12か月以上イベントのなかった2,701例を、DAPT群とアスピリン単剤群にランダム化した試験が報告されている18)。2年間の観察期間中、両群間に心筋梗塞+心臓死の頻度に差はなく、ステント血栓症にも差はなかった(図:本誌p24参照)。EXCELLENT試験は、CypherもしくはXience/Promusステント留置例1,443例のDAPT期間を、6か月間と12か月間にランダム化したものである19)。12か月後のTVF(target vessel failure)や死亡もしくは心筋梗塞の発生には両群間に差を認めなかったが、ステント血栓症はDAPT6か月間群で多い傾向にあった。ただし、6か月間群のステント血栓症発症例6例中5例は6か月以内の発生であり、DAPTの期間が影響した可能性は低い。Prolonging Dual Antiplatelet Treatment after Grading Stent-induced Intimal Hyperplasia study(PRODIGY)では、ステント留置例約2,000例を対象にランダム化し、DAPTの期間を6か月間と24か月間で比較したものである。2年間の追跡期間中に全死亡+心筋梗塞+脳血管障害+ステント血栓症の頻度は6か月間群と24か月間群は同等であったが(10.0% vs. 10.1%, p=0.91)、出血は6か月間群で少なかったとの結果であった(ESC2011で報告)。The Dual Antiplatelet Therapy(DAPT)study20)は、15,000例のDES留置例と5,400例のBMS留置例を登録し、DAPTの投与期間を12か月間と30か月間にランダム化して両者を比較する大規模臨床試験である。すでに患者登録は終了し、現在フォローアップが進行中である。本邦においても、Optimal Duration of DAPT Following Treatment with Endeavor in Real-world Japanese Patients: A Prospective Multicenter Registry (OPERA) studyやNobori Dual antiplatelet therapy as appropriate duration (NIPPON) studyが現在進行中である。これらの研究にはACSも含まれており、日本人独自のエビデンスが得られるものと期待される。抗血小板薬投与と出血性合併症抗血小板薬投与に関連した問題点には出血性合併症がある。ACSに出血性合併症を発生した場合には、その長期予後は不良である21)。DAPT継続にあたっては、そのベネフィットのみならず出血のリスクも考慮せねばならない。ACSにおいて、出血のリスクが特に問題となるのが心房細動合併例である。欧州心臓病学会の心房細動ガイドライン22)では、心房細動合併例に対するステント留置術後の抗血栓療法は表のごとく推奨されている(Class IIa)(表:本誌p25参照)。注目すべき点は、塞栓症のリスクを有する心房細動例では最後的には抗血小板薬は中止し、ワルファリンのみを一生継続することが推奨されている点である。日本でも、心房細動合併ACS例に対する至適抗血栓療法をいかにすべきかは重要な検討課題である。おわりにACSの予後改善には、急性期治療に加えて、抗血小板薬を中心とした長期にわたる2次予防が重要な役割を演じている。ただし、これら多くは欧米のデータに基づいたものであるため、今後、日本人における検証はぜひとも行われるべきである。文献1)Menzin J et al. One-year costs of ischemic heart disease among patients with acute coronary syndromes: findings from a multi-employer claims database. Curr Med Res Opin 2008; 24 (2): 461-4682)Buch P et al. Temporal decline in the prognostic impact of a recurrent acute myocardial infarction 1985 to 2002. Heart 2007; 93 (2): 210-2153)Haffner SM et al. Mortality from coronary heart disease in subjects with type 2 diabetes and in nondiabetic subjects with and without prior myocardial infarction. N Engl J Med 1998; 339 (4): 229-2344)De Luca G et al. Efficacy and safety of drug-eluting stents in ST-segment elevation myocardial infarction: a meta-analysis of randomized trials. Int J Cardiol 2009; 133 (2): 213-2225)Kimura T et al. j-Cypher Registry Investigators. Antiplatelet therapy and stent thrombosis after sirolimus-eluting stent implantation. Circulation 2009; 119 (7): 987-9956)Kawaguchi R et al. Safety and efficacy of sirolimus-eluting stent implantation in patients with acute coronary syndrome in the real world. Am J Cardiol 2010; 106 (11): 1550-15607)Hiro T et al. Effect of intensive statin therapy on regression of coronary atherosclerosis in patients with acute coronary syndrome: a multicenter randomized trial evaluated by volumetric intravascular ultrasound using pitavastatin versus atorvastatin (JAPAN-ACS [Japan assessment of pitavastatin and atorvastatin in acute coronary syndrome] study). J Am Coll Cardiol 2009; 54 (4): 293-3028)Chen KY et al. Triple versus dual antiplatelet therapy in patients with acute ST-segment elevation myocardial infarction undergoing primary percutaneous coronary intervention. Circulation 2009; 119 (25): 3207-32149)Fox KA et al. Decline in rates of death and heart failure in acute coronary, syndromes 1999-2006. JAMA 2007; 297 (17): 1892-190010)日本循環器学会 (班長:山口徹) 急性冠症候群の診療に関するガイドライン. 2007年改訂版/オンライン版11)日本循環器学会 (班長:小川久雄) 心筋梗塞二次予防に関するガイドライン. 2011年改訂版/オンライン版12)Wright RS et al. 2011 ACCF/AHA focused update of the guidelines for the management of patients with unstable angina/non-ST-elevation myocardial infarction (updating the 2007 guideline). J Am Coll Cardiol 2011; 57 (19). 1920-195913)Kushner FG et al. 2009 focused updates: ACC/AHA guidelines for the management of patients with ST-elevation myocardial infarction (updating the 2004 guideline and 2007 focused update) and ACC/AHA/SCAI guidelines on percutaneous coronary intervention (updating the 2005 guideline and 2007 focused update). J Am Coll Cardiol 2009; 54 (23). 2205-224114)Van de Werf F et al. Management of acute myocardial infarction in patients presenting with persistent ST-segment elevation: the task force on the management of ST-segment elevation acute myocardial infarction of the European Society of Cardiology. 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CHD、脳卒中患者の健康的な生活習慣の実践状況が明らかに/JAMA

 冠動脈心疾患(CHD)および脳卒中患者における健康的な生活習慣の実践率は世界的に低く、所得が低いほど実践状況も悪くなることが、カナダ・ハミルトンの公衆衛生研究所のKoon Teo氏らが行ったPURE試験で示された。急性冠症候群患者の観察試験では、より健康的な生活習慣を遵守することで再発リスクが低下することが確認されており、禁煙は死亡や心筋梗塞のリスクを低下させ、質のよい食事や定期的な運動は死亡や心筋梗塞後の心血管疾患の再発リスクを低減することが明らかにされている。一方、CHD、脳卒中患者における健康的な生活習慣の世界的な実践状況は、これまでほとんど知られていなかったという。JAMA誌2013年4月17日号掲載の報告。健康的な生活習慣の実践状況を前向きコホート試験で評価 PURE(Prospective Urban Rural Epidemiology)試験は、CHDおよび脳卒中患者における喫煙の回避、健康的な食事の摂取、定期的な運動の実践状況を評価する前向きコホート試験。 2003年1月~2009年12月までに、17ヵ国[高所得(HIC):3ヵ国、中所得上位(UMIC):7ヵ国、中所得下位(LMIC):3ヵ国、低所得(LIC):4ヵ国]の628地域(都市部348地域、地方280地域)から、35~70歳の15万3,996人が登録された。 喫煙状況(喫煙、禁煙、生涯非喫煙)、運動レベル[低:<600MET(metabolic equivalent task、代謝等量)-分/週、中:600~3,000MET-分/週、高:>3,000MET-分/週]、食事[食物摂取頻度調査票(Food Frequency Questionnaire:FFQ)で分類、代替健康的摂食指標(Alternative Healthy Eating Index:AHEI)で定義]について評価した。喫煙:約5分の1、高レベルの運動:約3分の1、健康的な食事:約5分の2 7,519人がCHD(発症時期は中央値で5.0年前、平均年齢57.4歳、女性53.7%)または脳卒中(4.0年前、56.8歳、53.1%)の既往歴があると自己申告した。 このうち、喫煙者が18.5%、就業中または余暇時に高レベルの運動を行っている者が35.1%、健康的な食事を摂っている者は39.0%で、14.3%はこれら3つの健康的な生活習慣をまったく実践しておらず、3つとも行っていたのは4.3%のみであった。 喫煙を止めた者の割合は全体では52.5%で、内訳はHICが74.9%、UMICが56.5%、LMICが42.6%、LICは38.1%であった。運動レベルは所得が高い国ほど上昇したが、この傾向に有意な差は認めなかった。 健康的な食事の摂取率はLICが25.8%と最も低く、LMICは43.2%、UMICは45.1%、HICは43.4%であった。 著者は、「さまざまな所得レベルの国のCHD、脳卒中患者における健康的な生活習慣の実践率は低く、所得が低いほど実践状況は悪くなる可能性が示された」と結論し、「世界のどの地域にも適用可能な、簡便かつ効果的で低コストの2次予防戦略の開発が求められる」と指摘している。

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抗うつ薬を使いこなす! 種類、性、年齢を考慮

 抗うつ薬の血中濃度は種類ごとに、性および年齢の影響を有意に受けている。このことが、ドイツ・ヴュルツブルク大学病院のS. Unterecker氏らによる自然条件下にて評価した治療薬物モニタリング(TDM)の結果、明らかにされた。抗うつ薬のTDMデータの評価は多くの場合、精神疾患の既往や身体的合併症のない均一サンプルを選択して行われており、日常診療では限界を有する可能性があることから、研究グループは自然条件下にての評価を行った。Journal of Neural Transmission誌オンライン版2012年12月20日号の掲載報告。 研究グループは、自然条件下にて抗うつ薬のTDMデータを評価し、すべての臨床的関連を明らかにすることを目的とした。TDM解析はレトロスペクティブの手法にて、2008~2010年の3年間を対象とし、標準的な臨床設定における抗うつ薬の用量補正後血中濃度について、性と年齢の影響を調べた。 主な結果は以下のとおり。・TDM解析に組み込まれたサンプルおよび数は下記であった。  アミトリプチリンとノルトリプチリン(AMI+NOR)693例  シタロプラム(CIT)160例  クロミプラミンとN-クロミプラミン(CLO+N-CLO)152例  ドキセピンとN-ドキセピン(DOX+N-DOX)272例  エスシタロプラム(ESC)359例  フルオキセチンとN-フルオキセチン(FLU+N-FLU)198例  マプロチリン(MAP)92例  ミルタザピン(MIR)888例  セルトラリン(SER)77例・女性では、AMI+NOR(32%)、CIT(29%)、DOX+N-DOX(29%)、MIR(20%)の用量補正後血中濃度が有意に高かった。・60歳超では、AMI+NOR(21%)、CIT(40%)、DOX+N-DOX(48%)、MAP(46%)、MIR(24%)とSER(67%)の用量補正後血中濃度が有意に高かった。・両方の極値群の比較において、女性60歳超群の用量補正後血中濃度が、男性60歳以下群と比較してAMI+NOR(52%)、CIT(78%)、DOX+N-DOX(86%)、MIR(41%)と顕著に高いことが示された。・抗うつ薬の血中濃度は種類ごとに、性および年齢の影響を有意に受けており、相加効果を考慮しなければならない。・TDMは、自然な臨床設定下でも高用量治療による副作用リスクを低下するために推奨される。関連医療ニュース ・【ポール・ヤンセン賞2012】うつ病に対するミルタザピンvs他の抗うつ薬 ・SSRI、インスリン抵抗性から糖尿病への移行を加速! ・【学会レポート】抗うつ効果の予測と最適な薬剤選択

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双極性障害とADHDは密接に関連している

 双極性障害は合併症を有する割合が高いことが報告されている。なかでもADHDでみられる多弁、注意欠陥、多動性などの症状が、双極性障害の症状と高率にオーバーラップしていることから、双極性障害とADHDの関連に注目が集まっている。トルコ・チャナッカレ・オンセキズ・マルト大学のElif Karaahmet氏らは、双極性障害における注意欠陥・多動性障害(ADHD)の合併頻度、ならびにADHD合併の有無による双極性障害の臨床的特徴の相違について検討した。その結果、双極性障害患者の約23%にADHDの合併が認められたこと、ADHD合併例では双極性障害の発症年齢が低く、躁病エピソードの回数が多くみられたことを報告した。Comprehensive Psychiatry誌オンライン版2013年1月7日号の掲載報告。双極性障害患者の23.3%に成人ADHD 本研究では、双極性障害におけるADHDの合併頻度、ならびにADHD合併患者の臨床的特徴を明らかにすることを目的に検討を行った。2008年8月1日から2009年6月30日までにゾングルダク・カラエルマス大学Research and Application病院の双極性障害ユニットを訪れ、DSM-IV 分類により双極性障害と診断された患者は142例であった。同意書にサインした118例のうち、試験を完了した90例を評価対象とした。試験に参加した全患者に、社会人口統計学評価票である「ウェンダー・ユタ評価尺度(Wender Utah Rating Scale;WURS)」、「成人ADD/ADHD Diagnostic and Evaluation Inventory」および「DSM-IV 第 I 軸障害構造化面接(Structural Clinical Interview for DSM-IV Axis I Disorders, Clinical Version;SCID-I)」を施行し、評価した。 主な結果は以下のとおり。・双極性障害患者の23.3%に成人ADHDが認められた。・成人ADHD合併の有無で、双極性障害患者の社会人口統計学的特性に相違はみられなかった。・成人ADHD合併患者は、成人ADHD非合併患者に比べて最低1年間留年している者が多く、その差は統計学的に有意であった。・成人ADHD合併群は、成人ADHD非合併群と比べて双極性障害発症年齢が有意に低く(p=0.044)、躁病エピソードの回数がより多かった(p=0.026)。・成人ADHD合併群ではパニック障害(p=0.019)が、小児ADHD合併群では強迫性障害(p=0.001)が最も高頻度にみられた。・双極性障害において成人ADHDは頻度の高い合併症であり、双極性障害の早期発症、多い躁病エピソード、Axis Iに分類されることなどと関連していた。

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