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複雑性黄色ブドウ球菌菌血症へのceftobiprole、ダプトマイシンに非劣性/NEJM

 複雑性黄色ブドウ球菌菌血症の成人患者において、ceftobiproleはダプトマイシンに対し、全体的治療成功に関して非劣性であることが示された。米国・デューク大学のThomas L. Holland氏らが、390例を対象に行った第III相二重盲検ダブルダミー非劣性試験の結果を報告した。ceftobiproleは、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)などの複雑性黄色ブドウ球菌菌血症の治療に効果的である可能性が示されていた。NEJM誌オンライン版2023年9月27日号掲載の報告。ceftobiproleまたは、ダプトマイシンと必要に応じアズトレオナム投与 研究グループは、複雑性黄色ブドウ球菌菌血症の成人被験者を無作為に2群に分け、一方の群にはceftobiprole(500mgを静脈内投与、8日間は6時間ごと、その後は8時間ごと)、もう一方の群にはダプトマイシン(6~10mg/kg体重を静脈内投与、24時間ごと)を投与し、ダプトマイシン群では必要に応じてアズトレオナムも投与した。 主要アウトカムは、無作為化70日後の全体的治療成功(生存、血液培養陰性化、症状改善、新たな黄色ブドウ球菌菌血症関連の合併症がない、他の効果がある可能性のある抗菌薬を非投与)だった。非劣性マージンは15%とし、データ評価委員会が判断した。安全性についても評価した。全体的治療成功率、両群ともに69~70% 無作為化された390例のうち、黄色ブドウ球菌菌血症が確認され実薬を投与されたのは387例(ceftobiprole群189例、ダプトマイシン群198例)だった(修正ITT集団)。 全体的治療成功を達成したのは、ceftobiprole群189例中132例(69.8%)、ダプトマイシン群198例中136例(68.7%)であった(補正後群間差:2.0%ポイント、95%信頼区間[CI]:-7.1~11.1)。主なサブグループ解析および副次アウトカムの評価についても、両群の結果は一貫しており、死亡率はそれぞれ9.0%と9.1%(95%CI:-6.2~5.2)、菌消失率は82.0%と77.3%(-2.9~13.0)だった。 有害事象は、ceftobiprole群191例中121例(63.4%)、ダプトマイシン群198例中117例(59.1%)で報告された。重篤な有害事象は、それぞれ36例(18.8%)と45例(22.7%)で報告された。消化器関連の有害事象(主に軽度の悪心)は、ceftobiprole群でより発現頻度が高かった。

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第180回 宮城の病院でレジオネラ症集団感染、病院利用がない地域住民への感染はなぜ起こった?

入院患者、外来患者だけでなく病院利用が全くなかった地域住民にも感染広がるこんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。日本のプロ野球は、オリックス・バファローズがパ・リーグ三連覇を決めました。阪神、オリックスがこのままの勢いで行けば、今年の日本シリーズは大阪と兵庫の球場だけで行われる関西シリーズになります。関東在住者としては少々寂しいです。一方、米国のMLBでは、藤浪 晋太郎投手が所属するボルチモア・オリオールズと、前田 健太投手が所属するミネソタ・ツインズが、それぞれアメリカン・リーグの東地区、中地区の優勝を決めました。シーズン後半になって持ち直してきた両投手のポストシーズンでの活躍に期待したいと思います。さて、今回は東北の地方都市にある民間病院で起こった、レジオネラ症の集団感染について書きます。7月に発覚したこの事件、その後の調査で、入院や外来など病院を利用した人の感染だけではなく、病院利用がまったくなかった地域住民にも感染が広がっていました。温泉入浴施設での集団感染事例が多いレジオネラ症ですが、どうして病院で起こったのでしょうか。また、どうして病院利用者以外にも広がってしまったのでしょうか…。一般病床80床、透析病床60床を有する地域の急性期病院宮城県は9月11日、県内の病院で、今年6~7月にかけて病院の利用者6人がレジオネラ症に感染し、80代と40代の男女2人が死亡した問題で、病院の利用歴のない近隣住民ら11人も感染していた、と発表しました。県は「病院の集団感染と関連があるとみられる」として、詳しい因果関係を調べているとのことです。宮城県の発表によると、ことの経緯は以下のようなものでした。6月下旬~7 月中旬、「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」(感染症法)に基づくレジオネラ症患者の届け出があった6人について、届け出を受理した大崎保健所が調査を行いました。その結果、同一医療機関を利用していたことが判明、健康被害拡大防止と重症化防止のため、7月19日に施設名の公表を行いました。集団感染を起こしたのは、宮城県大崎市の医療法人永仁会・永仁会病院です。一般病床80床、透析病床60床を有する地域の急性期病院で、Webサイトによれば、消化器、腎臓、糖尿病、乳腺疾患などを専門としています。その後、同病院の施設調査が行われ、空調設備(空調冷却塔2基の拭取検体)からレジオネラ属菌が検出。1基は安全とされる目安の97万倍、もう1基は68万倍の菌が検出されたとのことです。菌を含んだ水がエアロゾル状となり冷却塔外に舞い散る空調の冷却は冷却塔内のファンを回して行うため、菌を含んだ水がエアロゾル状となって冷却塔外に舞い散り、新型コロナ対策の換気で開放されていた病室の窓などから入り感染につながったとみられています。コロナ予防のための換気対策が逆にレジオネラ症の感染拡大につながったわけです。皮肉なものです。また、遺伝子検査により、6人の患者のうち4人の患者由来菌株と病院の空調冷却塔由来菌株との遺伝子パターンが一致したため、8月4日にはその事実も公表されました。県はこの事実に基づいて、近隣医療機関に対する注意喚起を行い、併せて同病院に対して、厚労省の「レジオネラ症を予防するために必要な措置に関する技術上の指針」1)に基づき指導を行いました。半径3km以内に住む住民も感染3回目となる9月11日の宮城県の発表では、さらなる感染拡大が明らかになりました。7月に公表された患者6人に加え、7月下旬にレジオネラ症患者の届け出があった1人についても同病院を利用していたことが判明、遺伝子検査でこの患者由来菌株と病院の空調冷却塔由来菌株の遺伝子パターンの一致が確認されました。ちなみに、計8人の患者の年齢は40〜90代、入院5人、通院3人でした。死亡したのは40代と80代の2人で、残り6人は入院加療により軽快したとのことです。この時の発表では意外な事実も明らかにされました。病院の利用歴がない近隣住民らの感染です。大崎保健所の管内では、同病院を利用していた患者8人とは別に、利用歴がない13人のレジオネラ症患者の届け出が出ていました。これは、大崎管内の例年のレジオネラ症発生状況と比較しても多い数字であったことに加え、13人のうち11人については、自宅や勤務先が同病院に近接(半径3km以内)している事実が判明、うち4人については患者由来菌株と同病院の空調冷却塔由来菌株の遺伝子パターンが一致していました。宮城県は、「当該医療機関の冷却塔が感染源であることは科学的に完全には証明できておりませんが、同種事案の再発防止や県民の健康を守る観点から、県内において冷却塔を有する施設管理者に対し注意喚起を行う」と発表しました。なお、永仁会病院は県の指導の下、7月23日に清掃業者が空調冷却塔2基の清掃と薬品による化学的洗浄を実施、8月以降はこの冷却塔との関連性が疑われるレジオネラ症患者の発生はないとのことです。温泉入浴施設での集団感染が多いレジオネラ症レジオネラ症は感染症法上の4類感染症に分類されており、全数報告対象です。よくニュースになるのは、温泉入浴施設などでの感染です。最近の大きな集団感染事例は、2017年3月に発生した広島県内の温泉入浴施設で起きたもので、入浴客の中から58人の患者が発生し、1人が死亡しています。なお、2002年7月に宮崎県内の温泉入浴施設で起きた集団感染では295人が感染し、7人が死亡しています。厚生労働省のWebサイトによれば、レジオネラ症は、レジオネラ・ニューモフィラ(Legionella pneumophila)を代表とするレジオネラ属菌による細菌感染症で、その病型は劇症型の肺炎と、肺炎は起こさない一過性のポンティアック熱があるとのことです。もともと土壌や水環境に普通に存在する菌ですが、エアロゾルを発生させる人工環境(ビル屋上に立つ空調冷却塔、ジャグジー、加湿器等)や循環水を利用した風呂などが菌の増殖を促し、感染機会を増やしているとされています。レジオネラ属菌で汚染されたエアロゾルを吸入すること等で感染し、潜伏期間は2~10日間、ヒトからヒトへ感染することはない、とされています。もっとも、菌に曝露しても誰もが発症するわけではなく、細胞性免疫能の低下した高齢者やがん患者、透析患者などで肺炎を発症しやすいとされています。今回の永仁会病院のケースも、病院屋上の空調冷却塔でレジオネラ属菌が増殖し、それを含んだエアロゾルが拡散、免疫の落ちた患者らが吸引し、感染したと考えられます。同病院は透析病床も多く抱えているので、そのあたりも感染拡大の一因かもしれません。病院の空調設備だけでなく給水設備も汚染源に調べてみると、院内感染によるレジオネラ症は決して珍しいことではなく、世界的にも問題になっているようです。原因は今回問題となった病院の空調設備だけでなく、給水設備も汚染源になり得るようです。たとえば、神奈川県衛生研究所の研究者らが、2015年に神奈川県内の3病院(200床以上)を対象に給水設備(病衣内の蛇口水及びシャワー水と、蛇口及びシャワーヘッドのスワブ)のレジオネラ属菌による汚染を遺伝子の検出と培養により調査した文献によれば、3病院でのレジオネラDNAの検出は水試料では6.7~93.8%、スワブ試料では0~7.1%、培養によるレジオネラ属菌の検出は水試料では26.7〜66.7%、スワブ試料では0~14.3%だったそうです。著者らはこの結果を踏まえ、「医療機関においては高リスクグループに配慮し、感染防止対策と給水設備の管理の徹底が必要である」と結んでいます2)。「藻が生えているのが目視で分かっても放置することがあった」と病院それにしても、病院利用者以外への感染はどう考えたらいいのでしょうか。宮城県はその後、調査結果を公表しておらず想像するしかありませんが、空調冷却塔からレジオネラ属菌で汚染されたエアロゾルが風などに乗って相当広範囲に飛んだのが原因だと考えられます。空調冷却塔は通常、気温が上がり始めた5~9月頃まで使用されます。同病院の場合、冷却塔の洗浄を十分にしないで今シーズンを迎えたのかもしれません。7月20日付の朝日新聞の報道等によれば、病院は「これまで、毎年1回換水し、冷房を使い終わる10月と、使い始める5月ごろに病院職員がデッキブラシなどで清掃していた」と説明し、「今年も5月に清掃した」とのことです。しかし、「冷却塔の動作確認を毎月する際、塔内に藻が生えているのが目視で分かっても放置することがあった」そうです。安全とされる目安の100万倍近い菌が棲み着いたエアロゾルが、風に乗って病院から半径3キロ内に飛び散っていたわけです。まさにモダンホラーです。これでは病院の近くにはおちおち住めませんね。駅弁で大騒動のセレウス菌も過去には医療機関で集団感染先週、青森県の駅弁メーカーの弁当で起きたセレウス菌による食中毒もそうですが、集団感染や院内感染は忘れた頃に突然起きます。医療機関以外での集団感染が一般的な感染症も、時として病院などで起こるので注意が必要です。ちなみに、セレウス菌については、病院のリネン類(外部に洗濯を依頼していた清拭タオルなど)を介した集団感染が時折起きています。大きく報道されたところでは、2006年の自治医科大学附属病院、2013年の国立がん研究センター中央病院の事例が有名です。いずれも死亡例が出ています。病院管理者の皆さん、病院が思わぬ菌の感染源とならないためにも、MRSA対策だけでなく、レジオネラ属菌やセレウス菌にも気を付けて下さい。参考1)レジオネラ症を予防するために必要な措置に関する技術上の指針/厚労省2)大屋日登美ほか.医療機関の給水設備におけるレジオネラ属菌の汚染実態.感染症誌.2018;92:678~685.

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輸血ドナーの性別、レシピエントの死亡率には影響せず/NEJM

 血液ドナーの特性が輸血レシピエントのアウトカムに影響を及ぼす可能性を示唆する観察研究のエビデンスが増えているという。カナダ・モントリオール大学のMichael Chasse氏らは「iTADS試験」において、女性の赤血球ドナーからの輸血を受けた患者と男性の赤血球ドナーからの輸血を受けた患者で、生存率に有意差はないことを示した。研究の詳細は、NEJM誌2023年4月13日号で報告された。カナダの二重盲検無作為化試験 iTADS試験は、カナダの3施設が参加した二重盲検無作為化試験であり、2018年9月~2020年12月の期間に患者の登録が行われた(カナダ保健研究機構の助成を受けた)。 赤血球輸血を受ける患者が、男性ドナーの赤血球を輸血する群、または女性ドナーの赤血球を輸血する群に無作為に割り付けられた。無作為化は、血液供給業者による過去の配分とマッチさせるため、60対40(男性ドナー群対女性ドナー群)の割合で行われた。 主要アウトカムは生存(無作為化の日から死亡または追跡期間終了の日まで)であり、男性ドナー群が参照群とされた。 8,719例が登録され、輸血前に男性ドナー群に5,190例が、女性ドナー群に3,529例が割り付けられた。ベースラインの全体の平均(±SD)年齢は66.8±16.4歳、女性が50.7%であった。入院患者が79.9%、外来患者が11.3%、救急患者が6.9%であり、入院患者のうち外科治療が42.2%、集中治療が39.7%を占めた。MRSA感染リスクは女性ドナー群で高い ベースラインの輸血前ヘモグロビン値は79.5±19.7g/Lであった。女性ドナー群の患者は平均5.4±10.5単位の赤血球の投与を受け、男性ドナー群の患者は平均5.1±8.9単位の投与を受けた(群間差:0.3単位、95%信頼区間[CI]:-0.1~0.7)。 平均追跡期間11.2ヵ月の時点で、女性ドナー群の1,141例、男性ドナー群の1,712例が死亡した。生存率は女性ドナー群が58.0%、男性ドナー群が56.1%で、死亡の補正後ハザード比(HR)は0.98(95%CI:0.91~1.06)であり、両群間に有意な差は認められなかった(p=0.43[log-rank検定])。 30日、3ヵ月、6ヵ月、1年、2年時の生存率にも、両群間に有意差はみられなかった。メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)感染の発生率は、男性ドナー群よりも女性ドナー群で高かった(HR:2.00、95%CI:1.15~3.46)。入院患者における平均入院日数は、女性ドナー群が21.0±26.6日、男性ドナー群は20.8±27.3日だった(群間差:0.2日、95%CI:-1.1~1.5)。 著者は、「サブグループ解析では、男性ドナー群の男性患者に比べ女性ドナー群の男性患者で死亡リスクが低く(HR:0.90、95%CI:0.81~0.99)、20~29.9歳のドナーから輸血を受けた患者においては男性ドナー群に比べ女性ドナー群の患者で死亡リスクが高かった(HR:2.93、95%CI:1.30~6.64)が、これらの知見は偶然によるものと考えられる」としている。

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多剤耐性抗結核治療薬を用いた薬剤感受性結核の治療期間短縮トライアル(解説:栗原宏氏)

Strong point 8週間(標準治療24週の1/3の治療期間)でも非劣性が示された標準治療と比較して死亡、治療失敗、有害事象に有意差なしWeak point リファンピシン感受性結核菌に対し多剤耐性抗結核薬を使用している高額な治療コスト日本国内ではベダキリン、リネゾリドは薬剤感受性結核には適応外 結核は、発展途上国を中心に年間約1千万人が発症、約160万人が死亡する疾患である。日本国内では減少傾向ではあるものの、2021年には約1.1万人が新規に登録され、約2千人が死亡している。 結核の治療は結核菌の耐性化予防が非常に重要であり、多剤併用、長期間投与が基本となる。一方、複雑な治療方法や長期間の治療は患者の服薬アドヒアランスの低下、ひいては治療失敗、耐性化の原因にもなり得る。このような背景の下、結核治療は治療期間の短縮が模索されてきた。 1950年代前半に登場した3剤併用レジメンが24ヵ月であった。新薬の開発とともにエビデンスが積み上げられ、1980年代に登場した現在行われている標準治療レジメンでは6ヵ月になった。最近ではrifapentineを用いたレジメンで4ヵ月に短縮できたという報告もある1)。現在も短縮は模索されており、本研究もその1つである。 本研究で使用された薬剤について簡単に解説する。rifapentine(本邦未発売):いくつかの調査から治療期間の短縮が期待されている1),2)。副作用として好中球減少、肝機能障害、C.ディフィシル腸炎が知られている。ベダキリン:本邦では2018年に承認された多剤耐性結核治療薬。耐性発現を防ぐため、適正使用が強く求められ、製造販売業者が行うRAP(Responsible Access Program)に登録された医師・薬剤師のいる登録医療機関・薬局において、登録患者に対して行うこととされている。副作用としてQT延長を来す。リネゾリド:本邦ではMRSA治療薬として使用されるが、世界的には多剤耐性結核の治療薬としても用いられており、今後国内でも認可される可能性がある。副作用として骨髄抑制が有名。 本研究での対象は多剤耐性結核菌ではなくリファンピシン感受性結核菌である点、多剤耐性結核菌に対するレジメンで使用される治療薬であるベダキリン、リネゾリドを用いている点に留意する必要があるが、治療期間が8週間と標準治療24週の1/3に短縮できる可能性が示された。治療終了後96週時点で標準治療と比較して、ベダキリン+リネゾリド レジメンでは死亡例、治療失敗例の数、有害事象ともに有意な差がなかった。 一方、先行研究で治療期間短縮が有望視されているrifapentineを用いたレジメンは調査に組み込まれていたが、プロトコルにより途中で登録が中止されており評価対象とならなかった。また、完遂したレジメンのうち、日本国内でも使用可能なリファンピシンを、高用量(体重によって異なるが大まかに標準レジメンの3倍)で用いたレジメンでは非劣性を示すことができなかった。 治療期間短縮は魅力的であるが、日本国内では現時点において、多剤耐性結核治療薬であるベダキリンおよび適応外使用となるリネゾリドを用いる本レジメンは薬剤感受性結核菌の治療に直ちに適用できるものではない。日本国内における多剤耐性結核の治療成功率は40~70%とされる。開発が容易ではない多剤耐性結核治療薬は非常に貴重であり、今後も使用適応は限定されると思われる。 参考までに、本レジメンでの治療コストは、ベダキリンとリネゾリドの主要薬剤2剤で約230万円となり、結核治療としてはかなり高額になる。

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死に至る薬剤耐性菌感染症、最も多い疾患と原因菌は/Lancet

 薬剤耐性(AMR)は、世界中で人々の健康を脅かす主要な原因となっている。これまでのAMR研究は、特定の地域における限られた病原体と薬剤の組み合わせについて、感染症の発生率や死亡数、入院期間、医療費に及ぼすAMRの影響の評価を行い、広範な地域や、病原体と薬剤の網羅的な組み合わせに関する包括的な検討は行われていないという。米国・ワシントン大学のMohsen Naghavi氏らAntimicrobial Resistance Collaboratorsは、今回、AMR負担に関して現時点で最も包括的な検討を行い、2019年に世界で495万人が細菌のAMRに関連する感染症で死亡し、このうち127万人は薬剤耐性菌感染症が直接の原因で死亡したことを明らかにした。研究の成果は、Lancet誌オンライン版2022年1月18日号に掲載された。204の国と地域で、88件の病原体と薬剤の組み合わせを評価 研究グループは、2019年時点の204の国と地域における、23種の病原体および、88件の病原体と薬剤の組み合わせについて、細菌のAMRに起因する死亡と、これによる障害調整生存年数(DALY)などを推算した(ビル&メリンダ・ゲイツ財団などの助成を受けた)。 データは、文献の系統的レビュー、病院やサーベイランスのシステム、その他の情報源から収集された。解析には4億7,100万件の患者記録や分離株が含まれ、調査地の数×年数は7,585であった。 予測統計モデルを用いて、データのない場所を含むすべての地域のAMR負担の推定値が算出された。AMR負担には、次の5つの一般的な要素が含まれた。(1)感染症に起因する死亡数、(2)特定の感染性症候群に起因する感染性の死亡の割合、(3)特定の病原体に起因する感染性症候群による死亡の割合、(4)対象となる抗菌薬に対する特定の病原体の耐性の割合、(5)この耐性に関連する死亡または感染期間の過剰リスク。 これらの要素を用いて、2つの反事実的シナリオ(AMR菌に起因する死亡、AMRに関連する死亡)に基づく疾病負担が推定された。世界全体および地域別の最終的な推定値とその95%不確実性区間(UI)が算出された。負担は下気道感染症、関連死は大腸菌、死亡はMRSAで多い 2019年、世界全体における細菌のAMRに関連する死亡数は495万件(95%UI:3.62~6.57)であり、このうちAMR菌に直接起因する死亡数は127万件(91万1,000~171万)と推定された。 地域別のAMR負担は、サハラ以南のアフリカ西部で最も高く、AMR関連の全年齢死亡割合は10万人当たり114.8件、AMR菌に起因する死亡割合は10万人当たり27.3件であった。これに対し、AMR負担が最も低かったのはオーストララシアで、AMR関連の死亡割合は10万人当たり28.0件、AMR菌に起因する死亡割合は10万人当たり6.5件だった。 また、2019年の世界全体のAMR負担は、主に3つの感染性症候群(下気道感染症/胸部感染症、血流感染症、腹腔内感染症)の割合が大きく、AMR菌に起因する死亡の78.8%をこれらが占めた。さらに、下気道感染症だけで、AMR関連死亡が150万件以上、AMR菌に起因する死亡は40万件以上に達し、最も負担の大きい感染性症候群だった。 世界全体のAMR関連死亡の最も多い原因となった病原体は大腸菌で、次いで黄色ブドウ球菌、肺炎桿菌、肺炎球菌、Acinetobacter baumannii、緑膿菌の順であった。これら6つの主要な病原体による2019年のAMR関連死亡は357万件(全495万件中)で、AMR菌に起因する死亡は92万9,000件(全127万件中)に達していた。 一方、2019年にAMR菌に起因する死亡数が10万件を超え、DALYが350万年以上であった病原体と薬剤の組み合わせは、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)(12万1,000件)だけであった。 また、AMR菌に起因する死亡数が5万~10万件の組み合わせは6つあり、死亡数が多い順に、超多剤耐性菌(XDR)を除く多剤耐性(MDR)結核菌(6万4,600件)、第3世代セファロスポリン耐性大腸菌(5万9,900件)、カルバペネム耐性Acinetobacter baumannii(5万7,700件)、フルオロキノロン耐性大腸菌(5万6,000件)、カルバペネム耐性肺炎桿菌(5万5,700件)、第3世代セファロスポリン耐性肺炎桿菌(5万100件)であった。 著者は、「AMRは、世界各地で主要な死因であり、低医療資源環境では最大の負担となっている。AMR負担と、その原因となる病原菌と薬剤の組み合わせを理解することは、とくに感染予防や管理計画、必須抗菌薬の評価、新たなワクチンや抗菌薬の研究開発に関して、十分な情報を得たうえで地域ごとの施策を決定する際にきわめて重要である。低所得国の多くでは深刻なデータ不足があり、この重要な健康上の脅威に関する理解を深めるためには、微生物学研究所の能力とデータ収集システムの拡充が必要である」と指摘している。

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「ザイボックス」の名称の由来は?【薬剤の意外な名称由来】第71回

第71回 「ザイボックス」の名称の由来は?販売名ザイボックス注射液600mgザイボックス錠600mg一般名(和名[命名法])リネゾリド(JAN)効能又は効果○〈適応菌種〉本剤に感性のメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)〈適応症〉敗血症、深在性皮膚感染症、慢性膿皮症、外傷・熱傷及び手術創等の二次感染、肺炎○〈適応菌種〉本剤に感性のバンコマイシン耐性エンテロコッカス・フェシウム〈適応症〉各種感染症用法及び用量<ザイボックス注射液 600mg>通常、成人及び12歳以上の小児にはリネゾリドとして1日1200mgを2回に分け、1回600mgを12時間ごとに、それぞれ30分~2時間かけて点滴静注する。通常、12歳未満の小児にはリネゾリドとして1回10mg/kgを8時間ごとに、それぞれ30分~2時間かけて点滴静注する。なお、1回投与量として600mgを超えないこと。<ザイボックス錠 600mg>通常、成人及び12歳以上の小児にはリネゾリドとして1日1200mgを2回に分け、1回600mgを12時間ごとに経口投与する。通常、12歳未満の小児にはリネゾリドとして1回10mg/kgを8時間ごとに経口投与する。なお、1回投与量として600mgを超えないこと。警告内容とその理由警告本剤の耐性菌の発現を防ぐため、「5.効能又は効果に関連する注意」、「8.重要な基本的注意」 の項を熟読の上、適正使用に努めること。禁忌内容とその理由禁忌(次の患者には投与しないこと)本剤の成分に対し過敏症の既往歴のある患者※本内容は2021年9月29日時点で公開されているインタビューフォームを基に作成しています。※副作用などの最新の情報については、インタビューフォームまたは添付文書をご確認ください。1)2021年6月改訂(第17版)医薬品インタビューフォーム「ザイボックス®注射液600mg・ザイボックス®錠600mg」2)Pfizer for Professionals:製品情報

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「塩酸バンコマイシン」の名称の由来は?【薬剤の意外な名称由来】第51回

第51回 「塩酸バンコマイシン」の名称の由来は?販売名塩酸バンコマイシン点滴静注用0.5g※塩酸バンコマイシン散はインタビューフォームが異なるため、今回は情報を割愛しています。ご了承ください。一般名(和名[命名法])バンコマイシン塩酸塩(JAN)[日局]効能又は効果1.<適応菌種>バンコマイシンに感性のメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)<適応症>敗血症、感染性心内膜炎、外傷・熱傷及び手術創等の二次感染、骨髄炎、関節炎、肺炎、肺膿瘍、膿胸、腹膜炎、化膿性髄膜炎2.<適応菌種>バンコマイシンに感性のメチシリン耐性コアグラーゼ陰性ブドウ球菌(MRCNS)<適応症>敗血症、感染性心内膜炎、外傷・熱傷及び手術創等の二次感染、骨髄炎、関節炎、腹膜炎、化膿性髄膜炎3.<適応菌種>バンコマイシンに感性のペニシリン耐性肺炎球菌(PRSP)<適応症>敗血症、肺炎、化膿性髄膜炎4.MRSA 又は MRCNS 感染が疑われる発熱性好中球減少症用法及び用量通常、成人にはバンコマイシン塩酸塩として1日2g(力価)を1回0.5g(力価)6時間ごと又は1回1g(力価)12時間ごとに分割して、それぞれ60分以上かけて点滴静注する。なお、年齢、体重、症状により適宜増減する。高齢者には、1回0.5g(力価)12時間ごと又は1回1g(力価)24時間ごとに、それぞれ60分以上かけて点滴静注する。なお、年齢、体重、症状により適宜増減する。小児、乳児には、1日40mg(力価)/kgを2~4回に分割して、それぞれ60分以上かけて点滴静注する。新生児には、1回投与量を10~15mg(力価)/kgとし、生後1週までの新生児に対しては12時間ごと、生後1ヵ月までの新生児に対しては8時間ごとに、それぞれ60分以上かけて点滴静注する。警告内容とその理由本剤の耐性菌の発現を防ぐため、「効能・効果に関連する使用上の注意」、「用法・用量に 関連する使用上の注意」の項を熟読の上、適正使用に努めること。禁忌内容とその理由(原則禁忌を含む)【禁忌(次の患者には投与しないこと)】本剤の成分に対し過敏症の既往歴のある患者【原則禁忌(次の患者には投与しないことを原則とするが、特に必要とする場合には慎重に投与すること)】1.テイコプラニン、ペプチド系抗生物質又はアミノグリコシド系抗生物質に対し過敏症の既往歴のある患者2.ペプチド系抗生物質、アミノグリコシド系抗生物質、テイコプラニンによる難聴又はその他の難聴のある患者[難聴が発現又は増悪するおそれがある。]※本内容は2021年5月12日時点で公開されているインタビューフォームを基に作成しています。※副作用などの最新の情報については、インタビューフォームまたは添付文書をご確認ください。1)2020年10月改訂(改訂第16版)医薬品インタビューフォーム「塩酸バンコマイシン点滴静注用0.5g」2)シオノギ製薬:製品情報一覧

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グラム陰性菌血症への抗菌薬、個別vs.7日間vs.14日間/JAMA

 合併症のないグラム陰性菌血症の成人患者において、抗菌薬の投与期間をC反応性蛋白(CRP)に基づいて個別に設定した場合および7日間固定とした場合のいずれも、30日臨床的失敗率は14日間固定に対して非劣性であることが示された。スイス・ジュネーブ大学病院のElodie von Dach氏らが、スイスの3次医療機関3施設において実施した無作為化非劣性臨床試験の結果を報告した。抗菌薬の過度の使用は抗菌薬耐性を引き起こす。グラム陰性菌血症は一般的な感染症で、十分な抗菌薬使用を必要とするが、投与期間で有効性に差があるかは十分に解明されていなかった。JAMA誌2020年6月2日号掲載の報告。CRPによる個別設定投与、7日間投与、14日間投与の3群に無作為化 研究グループは、2017年4月~2019年5月にグラム陰性菌血症で入院した成人患者を登録し、2019年8月まで追跡した。適格基準は18歳以上、24時間以内の発熱および複雑性感染症(膿瘍など)または重度の免疫抑制の所見がなく、血液培養で発酵性グラム陰性細菌が検出され微生物学的に有効な抗菌薬が投与されている患者であった。 有効な抗菌薬が投与されて5日(±1日)目に、投与期間をCRPに基づき設定する群(CRPがピークから75%低下で中止)(以下、CRP群)、7日間固定群(7日群)、14日間固定群(14日群)に、1対1対1の割合で無作為化した。患者および医師は、無作為化から抗菌薬投与中止まで盲検化された。投与開始後30日、60日、90日時に電話で追跡調査を行った。 主要評価項目は、30日以内の臨床的失敗(菌血症の再発、局所の化膿性合併症、最初の菌血症と同じ菌種による遠隔部位の合併症、臨床的悪化によるグラム陰性菌に対する抗菌薬の再投与、全死因死亡のいずれか1つ以上)で、非劣性マージンは10%とした。副次評価項目は、90日以内の臨床的失敗などであった。30日以内の臨床的失敗、14日間投与に対し個別設定および7日間投与は非劣性 2,345例がスクリーニングされ、504例(年齢中央値79歳、四分位範囲:68~86歳)が無作為化された。このうち、493例(98%)が30日間、448例(89%)が90日間の追跡調査を完遂した。CRP群(170例)は、投与期間中央値が7日(四分位範囲:6~10、範囲:5~28)で、30日間の追跡調査を完遂した164例のうち34例(21%)はプロトコール違反(CRP低下前の退院など)があった。 主要評価項目である30日以内の臨床的失敗は、CRP群で164例中4例(2.4%)、7日群で166例中11例(6.6%)、14日群で163例中9例(5.5%)に確認された(CRP群vs.14日群の差:-3.1%[片側97.5%信頼区間[CI]:-∞~1.1、p<0.001]、7日群vs.14日群の差:1.1%[片側97.5%CI:-∞~6.3、p<0.001])。また、90日以内の臨床的失敗は、CRP群143例中10例(7.0%)、7日群151例中16例(10.6%)、14日群153例中16例(10.5%)であった。 なお、著者は、盲検化が無作為化から抗菌薬中止までに限られたことなどを研究の限界として挙げたうえで、「発生したイベントが少ないのに対して非劣性マージンが広く、CRP群でのアドヒアランスの低さや投与期間の幅広さなどから、結果の解釈には限界がある」とまとめている。

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MRSA菌血症におけるβラクタム薬の併用効果(解説:吉田敦氏)-1207

 MRSA菌血症では、限られた抗菌薬の選択肢を適切に使用しても、血液培養陰性化が達成できなかったり、いったん陰性化しても再発したり、あるいは播種性病変を来してしまう割合は高い。in vitroや動物実験の結果を背景とし、抗MRSA薬にβラクタム薬を追加すれば臨床的な効果が上乗せできるのではないかと長らく期待されてきたが、実際は培養結果判明までなど短期間併用されている例は相当数存在するものの、併用のメリット・デメリットが大規模試験で前向きに評価されたことはほとんどなかった。 本試験はオーストラリアで行われ、MRSA菌血症判明例を、βラクタム薬と抗MRSA薬の併用群と抗MRSA単独投与群にランダムに割り付けた。プライマリーエンドポイントは90日後の総死亡、5日目の持続菌血症、菌血症再発、14日目以降の無菌検体からのMRSA検出とし、さらにセカンダリーエンドポイントとして14、42、90日の総死亡、2日目と5日目の持続菌血症、急性腎障害(AKI)、微生物学的な再発・治療失敗、静注抗菌薬の投与期間を解析している。なおβラクタム薬の併用期間は7日間と定めた。 最終的に、用いられた抗MRSA薬のほとんど(99%)はバンコマイシンで、3日目の血中濃度のトラフは20μg/mL程度と十分上昇しており、残りはダプトマイシンの4%であった(重複があると思われる)。βラクタム薬はflucloxacillinないしクロキサシリンが主体で、セファゾリンは少数であった。MRSA菌血症の治療効果に関する指標では、2群間で有意な差はなく、βラクタム薬による上乗せ効果は証明できなかったが、併用群でAKI発症割合が高いことが判明し、この臨床試験は途中で打ち切りとなることが決定した。なお薬剤別のAKI発症割合は、flucloxacillinは28%、クロキサシリンは24%、セファゾリンは4%であった。 途中での打ち切りのために長期的な予後や、症例数を増やした2群間差のさらなる解析は難しくなったが、仮に上乗せ効果が多少ある結果となっても、併用によってAKI発生が増加したことを鑑みると、全体としてβラクタム薬の併用を支持することにはならないと思われる。なお本研究には、抗ブドウ球菌用ペニシリンのnafcillinは含まれていない。さらに本邦は状況が異なり、クロキサシリンはアンピシリンとの合剤として発売されているのみであり、flucloxacillinとnafcillinは利用できない。現実的にはセファゾリンのデータを参考にすることになるが、セファゾリンにはそもそも中枢神経への移行が乏しいという欠点があり、黄色ブドウ球菌菌血症で中枢神経病変が合併しやすい点から好ましいとは言い難い。一方でこれまでの前向きのランダム化試験では、症例数が少ないながらバンコマイシン・flucloxacillinの併用と、バンコマイシン単剤が比較され、併用群で菌血症持続期間が短かったという1)。しかしこの菌血症持続期間は本試験ではアウトカムとされず、再現性があるかは明確にされなかった。 このように本試験自体の限界もあるが、本試験のような大規模比較試験を組み、実行することは容易ではない。過去を含めても、少なくとも併用のメリットを支持する報告(臨床的な比較試験による)が少ないのは一致するところといえ、併用療法に相当のメリットがあることが示されなければ、今後も併用に関する積極的な支持は出にくいと考える。

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MRSA、バンコマイシン/ダプトマイシンへのβラクタム系追加投与は?/JAMA

 MRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)菌血症患者に対し、バンコマイシンまたはダプトマイシン静脈投与による標準治療にβラクタム系抗菌薬を追加投与しても、90日時点の複合アウトカムおよび全死因死亡について、有意な改善は認められないことが示された。オーストラリア・Peter Doherty Institute for Infection and ImmunityのSteven Y C Tong氏らが、約350例の患者を対象に行った無作為化試験で明らかにした。MRSA菌血症による死亡率は20%超となっている。これまで標準治療+βラクタム系抗菌薬による介入が死亡率を低下することが示されていたが、検出力が十分な無作為化試験による検討はされていなかった。JAMA誌2020年2月11日号掲載の報告。標準治療に加えβラクタム系抗菌薬を7日間投与 研究グループは2015年8月~2018年7月にかけて、4ヵ国27病院でMRSA菌血症が確認された成人患者352例を対象に、非盲検無作為化試験を開始し、2018年10月23日まで追跡した。 被験者を無作為に2群に分け、一方には標準治療(バンコマイシンまたはダプトマイシン)に加えβラクタム系抗菌薬(flucloxacillin、クロキサシリン、セファゾリンのいずれか)を静脈投与した(174例)。もう一方の群には、標準治療のみを行った(178例)。 合計治療日数については担当臨床医の判断とし、またβラクタム系抗菌薬投与は7日間とした。 主要エンドポイントは、90日時点における死亡、5日時点の持続性菌血症、微生物学的再発、微生物学的治療失敗の複合エンドポイントとした。 副次アウトカムは、14日、42日、90日時点の死亡率と、2日、5日時点の持続性菌血症、急性腎障害(AKI)、微生物学的再発、微生物学的治療失敗、抗菌薬静脈投与期間などだった。主要エンドポイント発生はともに約4割 試験は当初440例を登録する予定だったが、同試験のデータ・安全性モニタリング委員会は安全性への懸念から、試験の早期中止を勧告。無作為化を受けた被験者は352例であった。被験者の平均年齢は62.2歳、女性は34.4%、試験を完了したのは345例(98%)だった。 主要エンドポイントの発生は、βラクタム群59例(35%)、標準治療群68例(39%)だった(絶対群間差:-4.2ポイント、95%信頼区間[CI]:-14.3~6.0)。事前に規定した副次評価項目9項目のうち、7項目で有意差がなかった。 90日全死因死亡は、βラクタム群35例(21%)vs.標準治療群28例(16%)(群間差:4.5ポイント、95%CI:-3.7~12.7)、5日時点の持続性菌血症発生率はそれぞれ11% vs.20%(-8.9ポイント、-16.6~-1.2)であり、また、ベースライン時に透析を受けていなかった被験者におけるAKIの発生率は23% vs.6%(17.2ポイント、9.3~25.2)だった。 結果について著者は、「安全性への懸念から試験が早期に中止となったこと、介入を支持する臨床的に意義のある差異が検出されなかったことを考慮して、所見を解釈すべきであろう」と述べている。

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聴診器を消毒していますか?【Dr. 倉原の“おどろき”医学論文】第155回

聴診器を消毒していますか?ぱくたそより使用ラエンネックが聴診器を発明してから、約200年が経ちましたが1)、臨床でまだまだ活躍している聴診器。形状や性能は進化しましたが、まさか自分が開発したものが200年先まで使われているとはラエンネックも予想していなかったでしょう。さて、聴診器を介して病原微生物がアウトブレイクすることはまれな現象と思いますが、明らかに接触感染対策が必要とされる患者さんでも、消毒されていないことがしばしばあります。聴診器が微生物によって汚染されるのは間違いないので、できる限りこまめに聴診器を消毒したいものです。聴診器、血圧計のマンシェット(カフ)などのノンクリティカル器具は、はっきりと目に見える汚染がなくとも、患者ごとにアルコール系消毒薬注で清拭を行うべきというのが世界的な常識です。さて、聴診器の消毒ってどのくらいの頻度で行われているのでしょうか? 過去の文献をいくつかひも解いてみると、ある事実が見えてきました。Bukharie HA, et al.Bacterial contamination of stethoscopes.J Family Community Med. 2004 Jan;11(1):31-3.サウジアラビアのとある病院のスタッフから集めた100本の聴診器を調査したところ、消毒頻度は毎日が21%、週に1回が47%、年に1回が32%という散々な結果でした。毎日消毒していない人が8割近くいるということになります。とくに医師30人のうち、15人(50%)は「一度も消毒したことがない」と回答していました。Merlin MA, et al.Prevalence of methicillin-resistant Staphylococcus aureus on the stethoscopes of emergency medical services providers.Prehosp Emerg Care. 2009 Jan-Mar;13(1):71-4.これも救急部からの報告で、50本の聴診器を前向きに調べたところ、スタッフの32%は最後にいつ聴診器を消毒したのかさえ覚えていなかったそうです。スタッフが覚えている日が古いほど、聴診器はMRSAに汚染されやすいと報告されました。Tang PH, et al.Examination of staphylococcal stethoscope contamination in the emergency department (pilot) study (EXSSCITED pilot study).CJEM. 2011 Jul;13(4):239-44.3施設の救急スタッフ100人の聴診器を調べた前向き観察コホート研究です。患者さんを診察する前後で消毒できていたのは、全体の8%だけだったそうです。Saunders C, et al.Factors influencing stethoscope cleanliness among clinical medical students.J Hosp Infect. 2013 Jul;84(3):242-4.医療先進国であるイギリスの医学校では、回答者の22.4%は聴診器を一度も消毒したことがなく、すべての患者診察の後に聴診器を消毒していたのは、わずか3.9%という結果でした。Sahiledengle B.Stethoscope disinfection is rarely done in Ethiopia: What are the associated factors?PLoS One. 2019 Jun 27;14(6):e0208365.エチオピア21施設576人の医療従事者に対する調査によると、39.7%は聴診器使用後に毎回消毒を実施していました。しかし、34.6%はまったく消毒していなかったそうです。消毒の習慣すらない人がかなり多いことが示されました。Bansal A, et al.To assess the stethoscope cleaning practices, microbial load and efficacy of cleaning stethoscopes with alcohol-based disinfectant in a tertiary care hospital.J Infect Prev. 2019 Jan;20(1):46-50.インドの三次医療施設における調査では、62人の医療従事者のうち53%が「消毒をしたことがない」と回答しました。消毒の習慣がない、ではなく、したことがないというのです。さて、いろいろな文献を紹介しましたが、要は「みんな聴診器ほとんど消毒しないじゃん!」ということです。時間もないし、面倒くさいんですね、たぶん。これらは、われわれも身につまされるデータではないでしょうか。1)Atalic B. 200th Anniversary of the Beginning of Clinical Application of the Laennec's Stethoscope in 1819. Acta Med Hist Adriat. 2019 Jun;17(1):9-18.

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細菌性の市中肺炎に対する経口lefamulinとモキシフロキサシンの比較試験(解説:吉田敦氏)-1157

 今回、成人の細菌性の市中肺炎を対象とした経口lefamulin 5日間投与とモキシフロキサシン7日間投与の第III相ランダム化比較試験(LEAP 2 study)の結果が発表された。 lefamulinはプレウロムチリン(pleuromutilin)に近縁の抗微生物薬で、リボゾームの50Sサブユニットの23SリボゾーマルRNAに作用することで蛋白合成を阻害する。lefamulinはバイオアベイラビリティに優れ、経口、静注両方で利用可能であり、またin vitroでMSSA、MRSA、コアグラーゼ陰性ブドウ球菌、連鎖球菌に活性を持ち、さらにはS. pneumoniae、H. influenzae、L. pneumophila、C. pneumoniae、M. pneumoniaeといった肺炎の主な原因微生物まで非常に幅広いスペクトラムを有するという。これまで細菌性の市中肺炎を対象とし、静注で開始して経口にスイッチする方法が検討され(LEAP 1 study。モキシフロキサシン±リネゾリドを対照とするランダム化比較試験)1)、加えて、細菌性の皮膚軟部組織感染症においてバンコマイシンを対照として比較試験が行われた2)。LEAP 1 studyではPORTリスク*クラスIII相当の肺炎例が約70%含まれていたが、ITT解析による効果は両群でほぼ同等、また副作用については低カリウム血症、吐き気、不眠、注射部位の疼痛・血管炎がモキシフロキサシンに比してlefamulin群で多かった。一方、後者の皮膚軟部組織感染症の検討では、効果はバンコマイシンと同等であったものの、頭痛、吐き気、下痢といった副反応がみられ、注射部位の血管炎はバンコマイシンよりも多かった。*PORT(Pneumonia Outcomes Research Team)スコア:肺炎重症度指数pneumonia severity index(PSI)の合計点に基づき、I~Vの5段階に分類。入院後の生命予後判定を目的として提唱されたもので、おおよそI・IIは外来加療、IIIは短期入院加療、IV・Vは入院加療に相当する。 今回のLEAP 2 studyは、LEAP 1 studyの結果を受けて、lefamulin、モキシフロキサシンともに内服薬での比較を行っている。PORTリスクはII~Vの症例が含まれ(IIは約50%、IIIは約38%)、原因微生物はS. pneumoniae 64%、H. influenzae 27%、そしてM. pneumoniae、L. pneumophila、C. pneumoniaeが合計で22%であり、71%がmonomicrobialであった。プライマリーエンドポイントは開始から96時間の時点での臨床的改善であり、改善率はおよそ90%で2群に差はなかった。ただし黄色ブドウ球菌とL. pneumophilaの症例は両群合わせてそれぞれ19例、33例にとどまっていた。 今回の対象者はPORT II、IIIが主体で、モキシフロキサシンで治療がおおよそ可能なほどの、いわば重症ではない例である。そのような肺炎への単剤治療として、lefamulinの有効性と安全性を調べた結果としては参考になるであろうが、元々本当にlefamulinは中等度の肺炎や急性皮膚軟部組織感染症への経口単剤治療薬として、期待されねばならないのであろうか。スペクトラム、バイオアベイラビリティともに優れるが、lefamulinが治療薬として考慮されるべき病態と対象微生物は、ほかにもっと適切なものがあるのではないだろうか。臨床試験として組みやすかったのかもしれないが、このような貴重な財産である新薬について、適応と将来性を十分に考えて試験をデザインするのが必須であろう。これまで細菌性の肺炎で使用されてきたセファロースポリンやフルオロキノロンを避けるためという意見も一部にあったが3)、それらとは薬剤の使用と適応に関する概念も異なるうえ、原因微生物に特異的な治療を行う原則から大きく外れてしまっている。十分な議論と慎重な考慮の下に、今後の検討と適応の決定がなされるべきである。

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薬剤耐性菌の菌血症による死亡、国内で年8千例超

 これまで、わが国における薬剤耐性による死亡者数は明らかになっていなかった。今回、国立国際医療研究センター病院の都築 慎也氏らは、薬剤耐性菌の中でも頻度が高いメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)とフルオロキノロン耐性大腸菌(FQREC)について、日本におけるそれらの菌血症による死亡数を検討した。その結果、MRSA菌血症の死亡は減少している一方で、FQREC菌血症による死亡が増加していること、2017年には合わせて8,000例以上が死亡していたことがわかった。Journal of Infection and Chemotherapy誌オンライン版2019年12月1日号に掲載。 本研究では、厚生労働省院内感染対策サーベイランス(JANIS)のデータから、2011~17年における日本全国の菌血症症例数を算出し、過去の研究に基づいた死亡率と合わせて菌血症による死亡数を推定した。 主な結果は以下のとおり。・黄色ブドウ球菌による菌血症での死亡は、2011年は1万7,412例、2017年は1万7,157例と推定された。このうち、MRSA菌血症による死亡は、2011年は5,924例(34.0%)、2017年は4,224例(24.6%)と減少した。・大腸菌による菌血症での死亡は、2011年は9,044例、2017年は1万4,016例と増加した。このうち、FQREC菌血症は、2011年は2,045例(22.6%)、2017年は3,915例(27.9%)と増加した。

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蜂窩織炎、丹毒、最適な抗菌薬治療は?

 蜂窩織炎や丹毒は、よくみる細菌感染症であり、抗菌薬治療が至適治療とされている。しかし、その治療法についてのコンセンサスは得られておらず、入手可能な試験データではどの薬剤が優れているのかを実証することができない。最適な投与ルート、治療期間のデータも限定的である。英国・ブリストル大学のRichard Brindle氏らは、システマティックレビューとメタ解析により、非外傷性の蜂窩織炎に対する抗菌薬治療の安全性と有効性を評価した。しかし、低質なエビデンス結果しか得られず、著者は「標準的なアウトカム(重症度スコア、用量、治療期間)を設定した試験を行う必要がある」と提言している。JAMA Dermatology誌オンライン版2019年6月12日号掲載の報告。 研究グループは、システマティックレビューとメタ解析による分析を行うため、2016年6月28日時点で次のデータベースを検索した-Cochrane Central Register of Controlled Trials(2016、issue 5)、Medline(1946年~)、Embase(1974年~)、Latin American and Caribbean Health Sciences Information System(LILACS、1982年~)。さらに、5つの試験データベースとその試験内リファレンスのほか、2016年6月28日~2018年12月31日の期間におけるPubMedとGoogle Scholarも検索した。適格試験は、異なる抗菌薬、投与ルート、治療期間などを比較している無作為化試験とした。 データの抽出と解析は、Cochrane Collaborationの標準的な方法論的手法を用い、2値アウトカムのリスク比とその95%信頼区間(CI)を算出。エビデンスの質を評価するGRADEアプローチに合わせて、主要評価項目の結果要約テーブルを作成した。 主要アウトカムは、治療終了時に治癒、改善・回復が認められた、または症状が消失もしくは軽減した患者の割合(試験で報告されていたもの)。副次アウトカムは、あらゆる有害事象とした。 主な結果は以下のとおり。・43試験、5,999例(生後1ヵ月~96歳)の適格患者のデータが包含された。・蜂窩織炎が原発例であったのは15試験(35%)、そのほかの試験では蜂窩織炎患者の割合は中央値29.7%(四分位範囲:22.9~50.3%)であった。・全体として、どれか1剤がほかの製剤よりも優れていることを支持するエビデンスは見つからなかった。・MRSA活性のある抗菌薬に優位性があるとの所見は認められなかった。・経口剤より静脈内投与を支持、また5日超の投与期間を支持するエビデンスは、いずれもなかった。

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ABATE Infection trial:非ICUにおけるクロルヘキシジン清拭は耐性菌発生を抑制できるか?(解説:小金丸博氏)-1043

 医療関連感染(Health-care-associated infections)は頻度が高く、重大な合併症を引き起こすことがあるため、世界中で予防策が検討されている。予防策の1つが患者の皮膚や鼻腔に定着した病原体の除菌であり、医療関連感染の発生や伝播を減らすことが期待されている。これまでに発表された、いくつかのクラスター無作為化比較試験において、ICU入室患者に対するクロルヘキシジン清拭やMRSAの鼻腔除菌が血流感染症やMRSA感染症を抑制することを示してきたが、非ICU入院患者に対する効果ははっきりしていなかった。 今回発表された研究(ABATE Infection trial)は、非ICU入院患者に対するICU同様の感染対策(全例に対するクロルヘキシジン清拭とMRSA保菌者に対するムピロシン鼻腔内塗布の併用)の感染予防効果を検討したクラスター無作為化比較試験である。米国の53病院(ICUを除いた194病棟)を対象とし、介入群と通常ケア群(非消毒薬による清拭、石鹸を用いたシャワー浴)との間でMRSAやバンコマイシン耐性腸球菌(VRE)の培養検出率や、全病原体による血流感染症発生率などを比較検討した。その結果、ベースライン期と比べた介入期のMRSA培養陽性またはVRE培養陽性のハザード比は、クロルヘキシジン清拭+ムピロシン鼻腔除菌群0.79(95%信頼区間:0.73~0.87)、通常ケア群0.87(同:0.79~0.95)であり、有意差は認めなかった(p=0.17)。全病原体による血流感染症の発生率にも有意差はなかった。有害事象の発生率は、クロルヘキシジン清拭群で1%未満と低率だった。 本研究では、非ICU入院患者に対するクロルヘキシジン清拭とMRSA保菌者に対するムピロシン鼻腔内塗布の併用は、通常ケア群と比較して、MRSAやVREの発生率や全病原体による血流感染症発生率を有意に低下させなかった。本研究の結果は、大きなサンプルサイズの無作為化試験の中で、かつ高いプロトコル遵守率の中で得られた結果であり、非重症患者全例に対する介入はそれほど有用ではない可能性が高い。その一方で事後のサブグループ解析では、中心静脈カテーテルなどのデバイスが留置されていた患者において、介入群で全病原体による菌血症が32%、MRSAまたはVRE発生率が37%減少していた。デバイスが留置されている患者に対しては有用な介入である可能性があるが、あくまで事後解析の結果であり、追加の確認試験が必要であろう。 クロルヘキシジンは日常的によく用いられる消毒薬であり、忍容性は良好だが、局所の皮膚毒性やアナフィラキシーと関連する。クロルヘキシジンに繰り返し曝露されると細菌の感受性低下を誘導するため、クロルヘキシジンの使用は患者の利益が明確な状況に限定されるべきと考える。

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非ICUでのdecolonisationは、耐性菌発生リスクに有効か?/Lancet

 ICU入室以外の入院患者について、全患者を対象としたクロルヘキシジンによる清拭・シャワー浴とハイリスク患者を対象にしたムピロシンでの除菌による介入(decolonisation)は、ルーチンに行う消毒薬を使わない清拭/シャワー浴の介入と比べて、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)やバンコマイシン耐性腸球菌(VRE)の発生リスクを有意に減少しなかったことが報告された。米国・カリフォルニア大学アーバイン校のSusan S. Huang氏らが、53病院194の病棟(ICUを除く)を対象に行ったクラスター無作為化比較試験「ABATE(active bathing to eliminate) Infection trial」の結果で、Lancet誌オンライン版2019年3月5日号で発表した。ベースライン期と介入期のハザード比を群間比較 ICU入室患者に対するユニバーサル皮膚・鼻腔decolonisationは、多剤耐性菌や血流感染症の発生を減少することが示されている。一方で、非クリティカルケアユニットでのユニバーサルdecolonisationの病原菌および感染症への影響は不明であった。 ABATE感染試験は、ICU入室患者に対する手法と同様に介入効果が非クリティカルケアユニットでも認められるか評価することを目的とし、米国内53病院(ICUを除いた194病棟)の入院患者を対象にクラスター法を用いて検討。ユニバーサルクロルヘキシジンおよび標的鼻腔ムピロシンによるdecolonisation介入(クロルヘキシジン群)と、ルーチン清拭による介入(通常ケア群)のMRSAやVREへの感染予防効果を比較した。 試験は、2013年3月~2014年2月の12ヵ月間をベースライン期とし、同年4~5月の2ヵ月間の導入期を経て、同年6月~2016年2月の21ヵ月間を介入期とし検討した。 クロルヘキシジン群には、介入期に全対象入院患者に対し、毎日クロルヘキシジンによる清拭と、シャワー時にはクロルヘキシジンを含む石鹸を使用し、MRSAキャリアに対してはムピロシン除菌を行った。通常ケア群には、介入期にも非消毒薬性のディスポーザブルクロスでの清拭を行い、シャワー時には通常の石鹸を使用した。 主要アウトカムは、病棟起因のMRSAまたはVREの臨床培養の発生で、補正前に、ITT解析で介入期のベースライン期に対するハザード比(HR)を算出し、クロルヘキシジン群と通常ケア群を比較した。介入期HR、クロルヘキシジン群0.79、通常ケア群0.87 ベースライン期の被験者数は18万9,081例、介入期は33万9,902例で、そのうち通常ケア群は15万6,889例、クロルヘキシジン群は18万3,013例だった。 病棟起因のMRSAまたはVREの臨床培養発生に関する、介入期のベースライン期に対するHRは、クロルヘキシジン群0.79(95%信頼区間[CU]:0.73~0.87)、通常ケア群0.87(同:0.79~0.95)だった。両群のHRに有意差はみられなかった(p=0.17)。 有害事象の発生は、クロルヘキシジン群で25件(1%未満)に認められた。ムピロシン除菌に関する報告はなかった。

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MRSA保菌者に対する退院後の除菌療法(解説:小金丸博氏)-1015

 メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)は、皮膚軟部組織感染症や医療処置に関連した感染症の原因として頻度が高い微生物である。MRSA保菌者では除菌することによって、手術部位感染症、繰り返す皮膚感染症、集中治療室における感染症のリスクを減らすことが過去の研究で示されている。MRSAを保菌している入院患者は退院後の感染リスクが高いことが知られており、今回、これらの患者に対する衛生教育や除菌療法の有用性を検討した研究が発表された。 本研究は、MRSA保菌者に対して退院後に除菌療法を行うことで、MRSA感染症を減らすことができるかどうかを検討した多施設共同ランダム化比較試験である。30日以内の入院をしていた18歳以上のMRSA保菌者を対象とし、①衛生教育を行う群と、②衛生教育に加え除菌療法を行う群に割り付けて、退院後1年以内のMRSA感染のリスクや入院リスクを評価した。除菌療法は、4%クロルヘキシジンを用いた入浴あるいはシャワー、0.12%クロルヘキシジンを用いた口腔洗浄、2%ムピロシンの鼻腔内塗布を施行した(5日間を月2回、6ヵ月間)。その結果、per-protocol集団におけるMRSA感染症の発生率は衛生教育群で9.2%に対し、衛生教育+除菌群で6.3%だった。MRSA感染リスクは衛生教育+除菌群で約30%低下し(ハザード比 0.70、95%信頼区間:0.52~0.96、p=0.03)、1例の感染を予防するための治療必要数(NNT)は30だった。除菌のレジメンをしっかり遂行できた群では、感染率はより低率だった。 本研究で、MRSA保菌者に対する退院後の除菌療法は、MRSA感染リスクを30%程度低下させることが示された。同時に、再入院のリスクやあらゆる原因による感染症のリスクも低下させており、有用な介入である可能性が高い。軽微な副反応しか認めなかった点も、介入を後押しする根拠の1つとなる。 しかしながら、除菌療法の煩雑さを考えるとMRSA保菌者全員に対して実施するのは現実的ではないと思われる。MRSA感染リスクの高いグループ、再入院リスクの高いグループが同定され、それらのグループに対して除菌療法を実施することができれば、さらに高い治療効果を見込めると考える。本治療の成功の鍵となるのが除菌レジメンの高い遵守率であり、患者自身、あるいは介護者の高い意識や努力が求められる治療法である。

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新規のアミノグリコシド系抗菌薬plazomicinの複雑性尿路感染症に対する効果(解説:吉田敦氏)-1013

 腸内細菌科(Enterobacteriaceae)の薬剤耐性は、現在、われわれが日常最も遭遇する薬剤耐性と言ってよいであろう。たとえば本邦で分離される大腸菌の約4割はフルオロキノロン耐性、約2割はESBL産生菌である。実際に複雑性尿路感染症の治療を開始する際に、主原因である腸内細菌科細菌の抗菌薬耐性をまったく危惧しない場合は、ほぼないと言えるのではないだろうか。そして結果としてβラクタム系およびフルオロキノロン系が使用できないと判明した際、残る貴重な選択肢の1つはアミノグリコシド系であるが、腎障害等の副作用が使用を慎重にさせている点は否めない。 今回の検討では、腎盂腎炎を含む複雑性尿路感染症例をアミノグリコシド系であるplazomicin群(1日1回静脈内投与)とメロペネム群にランダムに割り付け、少なくとも4日間以上続けた後、およそ8割の例で経口抗菌薬に変更し、合計7~10日の治療期間としている。なお投与開始から5日目、および15~19日目の臨床的、微生物学的改善がプライマリーエンドポイントとして設定された。そして結果としてplazomicinはおおよそメロペネムに劣らなかったが、特に15~19日目における臨床的、微生物学的改善率がplazomicin群において高かった。 本検討において最も関心が持たれる点はおそらく、(1)薬剤耐性菌の内訳と、それらへの効果、(2)plazomicinの副作用の有無と程度、(3)経口抗菌薬による影響、そして(4)再発に対する効果ではないだろうか。今回の検討例ではレボフロキサシン耐性は約4割、ESBL産生は約3割、カルバペネム系耐性(CRE)は約4%であるから、本邦の現在よりやや耐性株が多い。そしてESBL産生菌、アミノグリコシド(AMK、GM、TOBのいずれか)耐性株ともにplazomicin群がメロペネム群よりも微生物学的改善率が高かった。検討例はクレアチニンクリアランスが30mL/min以上の者であるが、うち30~60mL/minが35%、60~90mL/minが38%、90mL/min以上が26%を占める。このような集団でのCr 0.5mg/dL以上の上昇例がplazomicin群で7%、メロペネム群で4%認められた。一方、経口抗菌薬の第1選択はレボフロキサシンであるが、実際にはレボフロキサシン耐性株分離例の60%でレボフロキサシンが選択されていた。また治療後の無症候性細菌尿と、それに関連する再発がplazomicin群で低かった。 ほかにも結果解釈上の注意点がある。まず微生物学的改善の基準は、尿路の基礎状態にかかわらず、治療前に尿中菌数が105CFU/mL以上であったものが、治療後104CFU/mL未満になることと定義している点である。尿中菌数とその低下は基礎状態にも左右されるし、実際の低下度合いについては示されていない。さらに微生物学的改善の評価における重要な点として、当初から検討薬に耐性である例は除外されていることである(plazomicin感性は4μg/mL以下としている)。また治療前に感性であったものが、治療後に耐性になった例はplazomicin群の方がやや多かった。 以上のような注意点はあるものの、多剤耐性菌が関わりやすい複雑性尿路感染症の治療手段として有用な選択肢が増えた点は首肯できると言えよう。なおplazomicinはアミノグリコシド修飾酵素によって不活化されにくい点が従来のアミノグリコシドに勝る利点であるが、リボゾームRNAのメチル化酵素を産生するNDM型カルバペネマーゼ産生菌には耐性であり1)、ブドウ糖非発酵菌のPseudomonas、Acinetobacterについては従来のアミノグリコシドを凌駕するものではないと言われている2)。反面、尿路感染症では関与は少ないが、MRSAに対する効果が報告されている3)。本邦への導入検討に際しては、本邦の分離株を対象とした感受性分布ならびに耐性機構に関するサーベイランスが行われるのが望ましいと考える。そのような検討が進むことに期待したい。

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感染性心内膜炎の静注抗菌薬による治療を部分的に経口抗菌薬に変更できるか(解説:吉田敦氏)-1007

オリジナルニュースPartial Oral versus Intravenous Antibiotic Treatment of Endocarditis 感染性心内膜炎の静注抗菌薬による治療は長期にわたる。中には臨床的に安定したため、抗菌薬の静注が入院の主な理由になってしまう例もある。安定した時期に退院とし、外来で静注抗菌薬の投与を続けることも考えられるが、この場合、患者本人の負担は大きく、医療機関側の準備にも配慮しなければならない。このような背景から、今回デンマークにおいて左心系の感染性心内膜炎を対象とし、静注抗菌薬による治療を10日以上行って安定した例において、そのまま静注抗菌薬を継続・完遂するコントロール群と(治療期間中央値19日)、経口抗菌薬にスイッチして完遂する群(同17日)について、死亡率、(あらかじめ想定されていない)心臓手術率、塞栓発生率、菌血症の再発率が比較された(プライマリーアウトカム指標)。 結果として、プライマリーアウトカム指標の発生率に差はなかった(コントロール群:12.1%、経口スイッチ群:9%)。このため著者らは、左心系の心内膜炎例でも安定していれば、静注抗菌薬の継続に比べ経口スイッチは劣らないと結論付けている。ただし、ここで検討された患者の内訳・原因微生物・除外基準・治療レジメンについてよく確認したうえで、結果は解釈すべきと考える。 まず原因微生物については、Streptococcus、E. faecalis、S. aureus、コアグラーゼ陰性ブドウ球菌(CNS)の4種のみであり、半数近くをStreptococcusが占め、S. aureusは2割程度であった。それもMSSAのみでMRSAは含まれていない。さらにHACEKや培養陰性IEも含まれていない。自己弁・人工弁両方の心内膜炎が含まれるが、人工弁は25%程度であり、ペースメーカー感染が明らかであった例は3~4%、大きな疣贅(径>9mm)を有していた者は4~6%であった。心内膜炎に対する手術適応あるいはペースメーカー抜去の判断は主治医チームに委ねられており、詳細や施設間差の有無は不明である。さらには2群の割り付けの際、経食道心臓超音波を施行して膿瘍や手術を要するほどの弁異常がないことを確認し、加えて吸収不良がないといった複数の選択基準・除外基準をクリアすることが要求される。治療レジメンについては、代謝経路の異なる2薬剤を併用するが、この中には本邦で市販されていないdicloxacillinとfusidic acidの内服や、高価であるリネゾリドの内服も含まれている。 一方で、経口抗菌薬の血中濃度の測定も行っており、内服薬の吸収とバイオアベイラビリティに配慮している点は評価できる。今回の報告は、画一的な結論は付けがたいと考えられる。つまり、ある範囲の集団で、条件を満たし、臨床的に安定し、かつ腸管吸収にも問題がない例において、特定の組み合わせの経口抗菌薬が適応になるのではないかということである。この意味においては、ある集団に特化した(たとえば「Streptococcusによる自己弁の感染性心内膜炎」に対する「アモキシシリン+リファンピシン」のような)検討が今後さらに必要になるであろうし、半面、別な集団に対しては内服スイッチが適応でないという提示も行われるべきであろう。さらには、そのような層別化を行うにあたって、個別の症例の評価そのものが、よりいっそう精密さを求められるといえる。今回の検討は、あくまで嚆矢としての位置付けではないだろうか。

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MRSA保菌者、衛生教育+除菌指導で退院後感染リスク3割減/NEJM

 メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)の保菌患者に対し、病院や介護施設を退院・退所する際、衛生教育に加えてクロルヘキシジンによる口腔洗浄や入浴などの除菌指導を行うことで、退院後1年のMRSA感染リスクが約3割減少したことが示された。米国・カリフォルニア大学アーバイン校のSusan S. Huang氏らが、2,000例超を対象に行った多施設共同無作為化比較試験の結果で、NEJM誌2019年2月14日号で発表した。MRSA保菌入院患者は、退院後の感染リスクが高いことが知られている。MRSA保菌者の退院時に「衛生教育vs.衛生教育+除菌指導」 研究グループは、病院や介護施設に入院・入所し、MRSA保菌が確認された被験者を無作為に2群に分け、退院・退所時に、一方には衛生管理に関する教育を、もう一方には衛生教育と除菌指導を行い、1年間追跡した。除菌指導のレジメンは、クロルヘキシジンによる口腔洗浄と入浴またはシャワー浴、ムピロシンの鼻腔内塗布(5日間を月2回、6ヵ月)だった。 主要アウトカムは、米国疾病予防管理センター(CDC)基準によるMRSA感染とした。副次アウトカムは、臨床的判断に基づくMRSA感染、あらゆる原因による感染、感染による入院とした。 解析は、per-protocol集団(無作為化され、包含基準を満たし退院後も生存した全被験者)と、as-treated集団(指導を受けたレジメン順守の程度により階層化した被験者)を対象にそれぞれ実施した。MRSA保菌者のすべての感染リスクや入院リスク、いずれも約2割減少 MRSA保菌が確認された被験者は、2011年1月10日~2014年1月2日に南カリフォルニアにある17病院と7介護施設から集められ、2,140例が無作為化と追跡を受けた。 per-protocol集団(2,121例)において、MRSA感染の発生率は、衛生教育群9.2%(98/1,063例)に対し、衛生教育+除菌群は6.3%(67/1,058例)で同感染者の入院率は84.8%だった。 あらゆる原因による感染の発生率は、衛生教育群23.7%に対し、衛生教育+除菌群は19.6%で同感染者の入院率は85.8%だった。 MRSA感染リスクは、衛生教育+除菌群が衛生教育群よりも有意に低下した(ハザード比[HR]:0.70、95%信頼区間[CI]:0.52~0.96、p=0.03)。1例の感染を予防するための治療必要数[NNT]は30(95%CI:18~230)だった。 また、同感染リスクが低いことが、MRSA感染による入院リスクの低下にもつながっていた(HR:0.71、95%CI:0.51~0.99)。 臨床的判断に基づくあらゆる原因による感染リスクも、衛生教育+除菌群が衛生教育群に比べて有意に低く(HR:0.83、95%CI:0.70~0.99)、感染に伴う入院リスクも有意に低下した(HR:0.76、95%CI:0.62~0.93)。ただし著者は、「これら副次アウトカムの治療効果は、事前に多重比較に関する補正を規定していなかったため、慎重な解釈を要する」としている。 as-treated集団の解析では、除菌レジメンを順守した衛生教育+除菌群の被験者のMRSA感染リスクは、衛生教育群に比べ44%低く(HR:0.56、95%CI:0.36~0.86)、あらゆる原因による感染リスクは40%低かった(同:0.60、0.46~0.78)。

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