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若年肥満症に対するGLP-1受容体作動薬セマグルチドの効果(解説:小川大輔氏)

 わが国では肥満症の治療としてGLP-1受容体作動薬の使用はまだ認められていないが、欧米では一般によく用いられている。これまでにリラグルチドやセマグルチドなどのGLP-1受容体作動薬の有用性が多数報告されているが、主に成人を対象とした試験であった。今回、若年者(12~18歳)の肥満症を対象とした試験の結果が報告された1)。 この試験は201例の12歳から18歳未満の肥満症を対象に、セマグルチド2.4mgまたはプラセボを投与する群に2対1の割合で無作為に割り付け、週1回皮下投与を行い68週間後のBMIの変化率を評価した。また全例が食事や運動など生活様式への介入を受けた。その結果、試験開始から68週目までのBMIの平均変化量は、プラセボ群(67例)では+0.6%であったのに対し、セマグルチド群(134例)では-16.1%と有意差を認めた(p<0.001)。また5%以上の体重減少の達成割合も、プラセボ群は18%であったが、セマグルチド群は73%と有意に達成割合が高かった(p<0.001)。 肥満症は成人だけでなく小児や青少年でも増加している。高血糖や脂質異常症などの代謝疾患や肝機能障害、さらに睡眠時無呼吸症候群などを併発することが多いため早期からの対策が必要である。生活様式への介入をまず行うが、一般的に効果は弱い。欧州では薬物療法としてリラグルチドが、米国ではリラグルチドに加えて、orlistat、トピラマートが12歳以上の肥満症の治療薬として承認されている。 今回の試験で、肥満のある若年者に対し、週1回セマグルチド2.4mgの皮下投与がBMIや体重を有意に減少し、さらに糖化ヘモグロビン、脂質、肝機能などの代謝パラメーターも改善することが明らかになった。一方、有害事象として消化器症状(悪心、嘔吐、下痢など)はセマグルチド群のほうが多く認められたが、試験の完遂率は90%と高く、おおむね許容できる範囲と推測される。成人だけでなく若年者の肥満症の薬物治療として、セマグルチドの有用性が示されたことは意義深いと思われる。

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世界初の持続性GIP/GLP-1受容体作動薬「マンジャロ皮下注アテオス」【下平博士のDIノート】第111回

世界初の持続性GIP/GLP-1受容体作動薬「マンジャロ皮下注アテオス」今回は、持続性GIP/GLP-1受容体作動薬「チルゼパチド注射液(商品名:マンジャロ皮下注2.5mg/5mg/7.5mg/10mg/12.5mg/15mgアテオス、製造販売元:日本イーライリリー)」を紹介します。本剤は、GIPとGLP-1の2つの受容体に単一分子として作用する世界初の持続性GIP/GLP-1受容体作動薬であり、選択的かつ長時間にわたる血糖値の改善が期待されています。<効能・効果>本剤は、2型糖尿病の適応で、2022年9月26日に製造販売承認を取得しました。<用法・用量>通常、成人には、チルゼパチドとして週1回2.5mgを4週間皮下投与した後、維持用量である週1回5mgに増量します。患者の状態に応じて適宜増減し、週1回5mgで効果不十分な場合は、4週間以上の間隔を空けて2.5mgずつ増量することができます。最大用量は週1回15mgです。<安全性>日本人および外国人2型糖尿病患者を対象とした国際共同第III相試験、日本人2型糖尿病患者を対象とした国内第III相試験の本剤5mg投与群において、副作用は544例中232例(42.6%)で報告されています。主なものは、悪心60例(11.0%)、下痢48例(8.8%)、食欲減退46例(8.5%)、便秘44例(8.1%)などでした。なお、重大な副作用として、低血糖(頻度不明)、急性膵炎(0.1%未満)が報告されています。<患者さんへの指導例>1.この薬は、GIP/GLP-1受容体作動薬と呼ばれる2型糖尿病の治療薬です。血糖値が高くなるとインスリンの分泌を促進し、またインスリンを効きやすくすることで血糖値を下げます。2.週1回、同じ曜日に投与してください。オートインジェクター型注入器は1回使い切りです。3.めまいやふらつき、動悸、冷や汗などの低血糖症状を起こすことがあるので、高所作業、自動車の運転など危険を伴う作業を行う際は注意してください。これらの症状が認められた場合は、ただちに糖質を含む食品を摂取してください。4.悪心、嘔吐、下痢、便秘、腹痛、消化不良、食欲減退が強い場合はご相談ください。5.嘔吐を伴う激しい腹痛が現れた場合は使用を中止し、速やかに受診してください。6.冷蔵庫内などで光が当たらないように保管してください。凍結は避けて、もし凍結した場合は使用しないでください。室温で保管する場合は、外箱から出さずに保管し、21日以内に使用してください。30℃を超える場所では保管しないでください。<Shimo's eyes>本剤は、39個のアミノ酸を含む合成ペプチドであり、単一分子でグルコース依存性インスリン分泌刺激ポリペプチド(GIP)受容体およびグルカゴン様ペプチド-1(GLP-1)受容体の双方に作用する世界初の持続性GIP/GLP-1受容体作動薬です。GIPとGLP-1はいずれも食事が小腸を通過することで分泌されるホルモンで、血糖が高い場合には膵臓におけるインスリン分泌を促進するとともに、食欲減退や満腹感亢進による体重増加の抑制作用が期待されています。なお、米国では2022年5月に「成人2型糖尿病治療における血糖コントロール改善のための食事および運動療法の補助療法」として承認を取得しているので、わが国よりも早期のステージでの使用が想定されます。注入器のアテオスは、既存のトルリシティにも使用されているオートインジェクターで、1回使い切りのキットです。注射針付きのシリンジがあらかじめ装填されており、空打ちをすることなく、ボタンを押すだけで自動的に投与することができます。医療機関において、適切な在宅自己注射教育を受けた患者さんやご家族は本剤の自己注射が可能です。国内の実薬対照二重盲検比較試験(SURPASS J-mono試験)では、主要評価項目であるHbA1cのベースラインから投与52週時までの平均変化量について、デュラグルチド0.75mg(商品名:トルリシティ)に対する本剤5mg、10mg、15mgの優越性が認められました。また、非盲検長期安全性試験(SURPASS J-combo試験)では、本剤5mg、10mg、15mgを経口血糖降下薬単剤と併用し、安全性および有効性が確認されました。主な副作用として、悪心、嘔吐、下痢、便秘、腹痛、消化不良、食欲減退などの消化器症状が報告されており、投与開始時の用量の漸増は、胃腸障害リスクの回避・軽減を目的としています。用量依存的な体重減少も認められているため、過度の体重減少にも注意する必要があります。投与開始時のBody Mass Index(BMI)が23kg/m2未満の患者での有効性および安全性は検討されていません。なお、本剤とDPP-4阻害薬はいずれもGLP-1受容体およびGIP受容体を介した血糖降下作用を有しています。両剤を併用した際の臨床試験成績はないため、併用処方の場合には疑義照会が必要です。

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「肥満」との違いは?肥満症診療ガイドライン改訂

 11月24日に日本肥満学会(理事長:横手 幸太郎氏[千葉大学医学部附属病院長])は、『肥満症診療ガイドライン2022』についてプレスセミナーを開催した。 セミナーでは、肥満症の現況や治療に関する解説と今回刊行されたガイドラインの概要が説明された。また、本ガイドラインは12月2・3日に那覇市で開催される第43回日本肥満学会(会長:益崎 裕章氏[琉球大学大学院 医学研究科 内分泌代謝・血液・膠原病内科学講座 教授])で発刊される。肥満症とはBMI25以上で何らかの健康障害がある人 はじめに理事長の横手 幸太郎氏が「わが国における肥満症の現況と肥満症診療ガイドライン2022の位置づけ」をテーマに講演を行った。 肥満とは、「脂肪組織に脂肪が過剰に蓄積した状態」をいい、わが国ではBMI25以上が肥満とされている。その数は、年を経て全世界で増えており、とくにアメリカやアフリカで増加している。 肥満になると糖尿病、高血圧、脂質異常症などの健康障害のほか、膝・腰・足首などへの運動器障害、睡眠時無呼吸症候群などが生じるリスクが高くなる。 そこで、BMIが25以上あり、一定の健康障害(糖尿病、高血圧、脂質異常症、痛風など11項目)がある人を「肥満症」として、医学的に治療が必要な対象者としている(BMI35以上は高度肥満症)。 肥満症の治療は、食事療法、運動療法、行動療法、薬物療法、外科療法と5つの考え方があり、他職種連携によるチーム医療がなされる必要がある。実際、一番身近な保健指導の介入により6ヵ月後のHbA1cは-0.2%減少、中性脂肪は-81.5%減少など改善効果が報告されている1)。 肥満に関して最近のトピックスとしては、若い女性にはBMI18.5未満の「やせ過ぎ」の女性がむしろ増えていることやそのやせ過ぎが将来的に骨粗鬆症や不妊のリスクとなること、高齢者の肥満ではフレイルなどとの関連も考慮し、無理な減量よりも筋肉量維持や増強に心がけることなども指摘されている。 横手氏は終わりに本ガイドラインの目的について「体重を減らすことにメリットがある。『やせるべき人』を選び出す、そして、適切に治療と予防を行うことである」と述べ講演を終えた。小児や高齢者の肥満にも言及 続いて、同学会のガイドライン作成委員会委員長の小川 渉氏(神戸大学大学院医学研究科 糖尿病・内分泌内科 教授)が「肥満症診療ガイドライン2022の改訂のポイント」をテーマに、今回の改訂内容や今後の展望などを解説した。 本ガイドラインは、2006年、2016年と発刊され、今回の2022年版では、主に「肥満症治療の目標と学会が目指すもの」「高度肥満症」「小児の肥満」「高齢者の肥満」「肥満症の治療薬」「コラム」について改訂が行われた。 「肥満症治療の目標と学会が目指すもの」と「高度肥満症」では、肥満症治療指針について「肥満症」と「高度肥満症」とで目標、治療などの治療方針が異なることが記載された。とくに肥満の外科治療の減量・代謝改善手術では保険適用の内容などが改訂された。薬物治療についてはGLP-1受容体作動薬の治験に関して言及され、セマグルチドの68週後の体重変化率についてプラセボ-2.1%に対し、セマグルチド-13.2%と有意な体重減少があったこと、また、本試験が学会の定める肥満症の診断基準に基づいて作成されたプロトコ-ルで実施された試験であることなどが記載されている2)。 「高齢者の肥満」では、日本老年医学会のガイドラインの内容 と統一性を考慮して改訂され、 高齢者肥満症の減量目標をフレイル予防と健康障害発症予防の両者も考慮し「BMI22~25」の範囲とすることが記載され、過剰な減量には留意が必要とされている。 「小児の肥満」では、将来の成長を考慮しBMIではなく、肥満度で判定し、身体面だけでなく、肥満に伴う「いじめ」など生活面への配慮も記載されている。 「肥満症の治療薬」では、「肥満の治療」ではなく、「肥満症の治療」という基本概念のもと、記載の整備と概念を明確化したほか、改訂では製薬企業の開発担当者とも意見交換を行い、評価基準と適応基準は必ず同一ではないことが記載されている。 その他、今回の改訂では「肥満へのスティグマ」についても触れられ、肥満の原因が個人への帰責事由という偏見からくる社会的スティグマと肥満を自分自身の責任とする個人的スティグマへの配慮が述べられている。 最後に小川氏は「肥満症の課題は、認知度がまだ低く、社会的な浸透もメタボリックシンドローム(72.5%)や肥満(81.8%)と比較しても、肥満症(58.3%)は低い。このガイドラインが、診療に役立つだけでなく社会の啓発に寄与することを期待する」と抱負を述べ、レクチャーを終えた。

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2型DM患者の高TG血症へのペマフィブラート、心血管イベント抑制効果は?/NEJM

 軽度~中等度の高トリグリセライド血症を伴い、HDLコレステロールとLDLコレステロールの値が低い2型糖尿病患者において、ペマフィブラート(選択的ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体αモジュレーター)はプラセボと比較して、トリグリセライド、VLDLコレステロール、レムナントコレステロール、アポリポ蛋白C-IIIの値を低下させたが、心血管イベントの発生は抑制しなかったことが、米国ブリガム&ウィメンズ病院のAruna Das Pradhan氏らが実施した「PROMINENT試験」で示された。研究の詳細は、NEJM誌2022年11月24日号に掲載された。24ヵ国のイベント主導型試験 PROMINENT試験は、日本を含む24ヵ国876施設が参加した二重盲検無作為化プラセボ対照イベント主導型試験であり、2017年3月~2020年9月の期間に患者の登録が行われた(Kowa Research Instituteの助成を受けた)。 対象は、2型糖尿病と診断され、軽度~中等度の高トリグリセライド血症(空腹時トリグリセライド値200~499mg/dL)を伴い、HDLコレステロール値が40mg/dL以下の患者であった。また、患者は、ガイドラインに基づく脂質低下療法を受けているか、有害事象なしでスタチン療法を受けることができず、LDLコレステロール値が100mg/dL以下の場合に適格とされた。 被験者は、ペマフィブラート(0.2mg錠、1日2回)またはプラセボを経口投与する群に無作為に割り付けられた。 有効性の主要エンドポイントは、非致死的心筋梗塞、虚血性脳卒中、冠動脈血行再建術、心血管死の複合とされた。非アルコール性脂肪性肝疾患の頻度は低い 1万497例(年齢中央値64歳、女性27.5%)が登録され、ペマフィブラート群に5,240例、プラセボ群に5,257例が割り付けられた。1次予防の集団(年齢が男性50歳以上、女性55歳以上でアテローム動脈硬化性心血管疾患がない)が33.1%、2次予防の集団(年齢18歳以上で、アテローム動脈硬化性心血管疾患が確立されている)は66.9%であった。 ベースラインで95.7%がスタチンの投与を、80.1%がACE阻害薬またはARBの投与を、9.3%がGLP-1受容体作動薬を、16.8%がSGLT2阻害薬の投与を受けていた。空腹時トリグリセライド中央値は271mg/dL、HDLコレステロール中央値は33mg/dL、LDLコレステロール中央値は78mg/dLだった。追跡期間中央値は3.4年。 4ヵ月の時点におけるプラセボ群と比較した脂質値のベースラインからの変化率の差は、トリグリセライドが-26.2%(95%信頼区間[CI]:-28.4~-24.10)、VLDLコレステロールが-25.8%(-27.8~-23.9)、レムナントコレステロールが-25.6%(-27.3~-24.0)、アポリポ蛋白C-IIIが-27.6%(-29.1~-26.1)と、いずれもペマフィブラート群で低かった。一方、HDLコレステロールは5.1%(4.2~6.1)、LDLコレステロールは12.3%(10.7~14.0)、アポリポ蛋白Bは4.8%(3.8~5.8)であり、ペマフィブラート群で高かった。 有効性の主要エンドポイントは、ペマフィブラート群が572例(3.60/100人年)、プラセボ群は560例(3.51/100人年)で発生し(ハザード比[HR]:1.03、95%CI:0.91~1.15、p=0.67)、両群間に差はなく、事前に規定されたすべてのサブグループで明確な効果修飾(effect modification)は認められなかった。 重篤な有害事象の発生には両群間に有意な差はみられなかった(ペマフィブラート群 14.74/100人年vs.プラセボ群14.18/100人年、HR:1.04、95%CI:0.98~1.11、p=0.23)。一方、ペマフィブラート群では、腎臓の有害事象(10.67/100人年vs.9.55/100人年、HR:1.12、95%CI:1.04~1.20、p=0.004)、静脈血栓塞栓症(0.43/100人年vs.0.21/100人年、HR:2.05、95%CI:1.35~3.17、p<0.001)の発生率が高く、非アルコール性脂肪性肝疾患(0.95/100人年vs.1.22/100人年、HR:0.78、95%CI:0.63~0.96、p=0.02)の発生率が低かった。 著者は、「ペマフィブラート群で観察されたアポリポ蛋白BとLDLコレステロール値の上昇が、トリグリセライド値やレムナントコレステロール値の低下による有益性を打ち消した可能性は否定できない」としている。

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Pharmacoequity―SGLT2阻害薬/GLP-1受容体作動薬は公正に処方されているか?-(解説:住谷哲氏)

 筆者は本論文で初めてpharmacoequityという用語を知った。「処方の公正性」とでも訳せばよいのだろうか。平等equalityと公正equityとの違いもなかなか難しいが、この用語の生みの親であるDr. Utibe R. Essienは、Ensuring that all individuals, regardless of race, ethnicity, socioeconomic status, or availability of resources, have access to the highest quality medications required to manage their health is “pharmacoequity”. と述べている1)。その意味するところを簡単に言えば、エビデンスに基づいた治療薬を必要とするすべての患者に公正に処方することを担保するのがpharmacoequityである、となる。 Essienが最初に報告したのは、心房細動患者に対するDOACをはじめとする抗凝固薬の処方率が人種race/民族ethnicityで異なり、白人に比較してアジア人と黒人で有意に低かった、とするものである2)。この研究も本論文と同じく対象患者は退役軍人保健局(Veterans Health Administration)の加入者であり、これが両論文のポイントであるが、すべての加入者に薬剤が無料または低価格で提供されるため、薬価によるバイアスがほとんどない。本論文は同様のアプローチで、心房細動患者に対する抗凝固薬の代わりに、2型糖尿病患者に対するSGLT2阻害薬/GLP-1受容体作動薬の処方率を検討した研究である。その結果は、抗凝固薬の場合と同様に、SGLT2阻害薬/GLP-1受容体作動薬の処方率は白人に比較して黒人で有意に低率であった。 人種/民族が、なぜ抗凝固薬またはSGLT2阻害薬/GLP-1受容体作動薬の処方率と関連していたのかは、両研究では明らかになっていない。しかし心房細動患者に対する抗凝固薬の処方だけではなく、本論文によって2型糖尿病患者に対するSGLT2阻害薬/GLP-1受容体作動薬の処方にも人種/民族が影響していることが明らかとなった。したがって、他のエビデンスに基づいた治療薬の処方においても同様の状況にある可能性は十分にある。EBMの実践が人種/民族によって影響される状況は公正とは言えないだろう。多民族国家ではないわが国ではこのあたりの状況に敏感ではないが、医療における公正性equity in medicine をいま一度よく考える契機となる報告である。

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非専門医が使える「糖尿病治療のエッセンス」2022年版/日本糖尿病対策推進会議

 わが国の糖尿病患者数は、糖尿病が強く疑われる予備群を含め約2,000万人いるとされているが、糖尿病の未治療者や治療中断者が少なくない。 そこで、糖尿病診療のさらなる普及を目指し、日本糖尿病学会をはじめとする日本糖尿病対策推進会議は、糖尿病治療のポイントをとりまとめて作成した『糖尿病治療のエッセンス(2022年版)』を制作し、日本医師会のホ-ムページより公開した。糖尿病治療のエッセンスの改訂は今回で5回目となる。 糖尿病治療のエッセンスの今改訂では、(1)かかりつけ医から糖尿病・腎臓の専門医・専門医療機関への照会基準を明確に解説、(2)最新の薬剤情報へアップデートなど、よりわかりやすい内容に見直しを行った。『糖尿病治療のエッセンス(2022年版)』主な内容と使用図表の一覧(主な内容)1)糖尿病患者初診のポイント2)治療目標・コントロール指標3)治療方針の立て方4)食事療法・運動療法 薬物療法のタイミングと処方の実際5)糖尿病合併症 医療連携 (使用図表)図1 糖尿病の臨床診断のフローチャート図2 血糖コントロール目標図3 高齢者糖尿病の血糖コントロール目標(HbA1c値)図4 糖尿病患者の治療方針の立て方図5 有酸素運動とレジスタンス運動図6 かかりつけ医から糖尿病専門医・専門医療機関への紹介基準図7 かかりつけ医から腎臓専門医・専門医療機関への紹介基準表1 その他のコントロール指標表2 主な経口血糖降下薬の特徴(赤字は重要な副作用)表3 GLP-1受容体作動薬 (リベルサス以外は注射薬)表4 インスリン注射のタイミング、持続時間と主な製剤の比較表5 基礎インスリン製剤とGLP-1受容体作動薬の配合注射薬表6 代表的なインスリンを用いた治療のパターン表7 糖尿病性腎症病期分類図 2型糖尿病の薬物療法のアルゴリズム別表 安全な血糖管理達成のための糖尿病治療薬の血糖降下作用・低血糖リスク・禁忌・服薬継続率・コストのまとめ 同会議では「糖尿病診療は新しい取り組みや薬物療法など、そのとりまく環境は大きく変化している。本書を活用し、最新の知見について理解を深め、日常診療において、糖尿病患者の早期発見、治療に役立てて、糖尿病診療に携わる医療関係者にとって医療連携のツールとして、その発展につながることを願っている」と『糖尿病治療のエッセンス(2022年版)』に期待を寄せている。

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セマグルチド、12~18歳でも優れた抗肥満効果/NEJM

 グルカゴン様ペプチド-1(GLP-1)受容体作動薬セマグルチドは、成人の肥満治療薬として欧米で承認を得ている。オーストリア・Paracelsus医科大学のDaniel Weghuber氏らは「STEP TEENS試験」において、肥満症の青少年(12~18歳未満)に対する本薬の有用性を検討し、セマグルチド+生活様式への介入は生活様式への介入単独と比較して、68週の時点でBMI値の有意な低下をもたらし5%以上の体重減少の達成割合を有意に増加させたが、消化器系の有害事象の頻度が高かったことを示した。研究の成果は、NEJM誌オンライン版2022年11月2日号で報告された。12~18歳の肥満、過体重の無作為化試験 STEP TEENSは、8ヵ国37施設が参加した二重盲検無作為化プラセボ対照第IIIa相試験であり、2019年10月~2020年7月の期間に参加者のスクリーニングが行われた(Novo Nordiskの助成を受けた)。 対象は、年齢12~18歳未満で、肥満(BMIが性・年齢別の成長曲線で95パーセンタイル以上)または少なくとも1つの体重関連の併存症を有する過体重(同85パーセンタイル以上)の青少年であった。 被験者は、セマグルチド(2.4mg)またはプラセボを週1回、68週間皮下投与する群に、2対1の割合で無作為に割り付けられた。全例が減量を目的とする生活様式への介入(栄養、運動)を受けた(両親または保護者を含む)。 主要エンドポイントは、ベースラインから68週目までのBMIの変化率とされた。副次エンドポイントは、68週目までの5%以上の体重減少であった。10%、15%、20%以上の体重減少も著明に改善 201例(平均年齢 15.4歳、女性 62%)が無作為化の対象となり、このうち180例(90%)が試験を完遂した。セマグルチド群に134例、プラセボ群に67例が割り付けられた。1例(過体重)を除く全例が肥満だった。ベースラインの平均体重(109.9kg vs.102.6kg)、BMI値(37.7 vs.35.7)、ウエスト周囲長(111.9cm vs.107.3cm)が、セマグルチド群でわずかに高値であった。 ベースラインから68週目までのBMIの平均変化量は、セマグルチド群が-16.1%と、プラセボ群の0.6%に比べ有意に良好であった(推定群間差:-16.7ポイント、95%信頼区間[CI]:-20.3~-13.2、p<0.001)。 68週の時点で、5%以上の体重減少の達成割合は、セマグルチド群が73%(95/131例)であったのに対し、プラセボ群は18%(11/62例)であり、セマグルチド群で有意に優れた(推定オッズ比[OR]:14.0、95%CI:6.3~31.0、p<0.001)。 また、68週時の10%以上の体重減少(62% vs.8%)、15%以上の体重減少(53% vs.5%)、20%以上の体重減少(37% vs.3%)についても、セマグルチド群で達成割合が顕著に高かった。 セマグルチド群で改善された心血管代謝リスク因子として、ウエスト周囲長(-12.7cm vs.-0.6cm、推定群間差:-12.1cm[95%CI:-15.6~-8.7])と糖化ヘモグロビン値(-0.4% vs.-0.1%、-0.3%[-0.3~-0.2])のほか、総コレステロール、LDLコレステロール、VLDLコレステロール、トリグリセライド、アラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)が挙げられた。 最も頻度の高い有害事象は消化器症状(主に吐き気、嘔吐、下痢)で、セマグルチド群のほうが高頻度(62% vs.42%)であったが、重症度は全般に軽症~中等症であり、発症期間中央値は吐き気、嘔吐、下痢とも2~3日と短かった。セマグルチド群の5例(4%)で急性胆嚢疾患が発現し、いずれも胆石症で、1例が胆嚢炎を併発した。重篤な有害事象は、セマグルチド群で11%(15/133例)にみられた。 著者は、「セマグルチド群で観察された体重およびBMIの減少の程度は、先行研究で他のGLP-1受容体作動薬や肥満治療薬を投与された青少年よりも、実質的に大きかった」としている。

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2型糖尿病のCOPD重症化、GLP-1受容体作動薬とSGLT-2阻害薬が有効か/BMJ

 慢性閉塞性肺疾患(COPD)で2型糖尿病(DM)の患者において、GLP-1受容体作動薬とSGLT-2阻害薬は、スルホニル尿素(SU)薬と比べ、COPD増悪による入院リスクを約30~38%低減することが示された。また、GLP-1受容体作動薬は、中等度増悪リスクを37%低減した。一方でDPP-4阻害薬は、COPD増悪リスクの明らかな低減は認められなかったという。カナダ・マギル大学のRicheek Pradhan氏らが、英国国民保健サービス(NHS)データを基に行った住民ベースの3種実薬比較新規使用者デザインコホート試験の結果で、BMJ誌2022年11月1日号で発表した。3種の新規血糖降下薬vs.SU薬を評価 研究グループは、英国の全NHS病院入院データ「Hospital Episode Statistics Admitted Patient Care and Office for National Statistics」とリンクした、大規模プライマリケアデータ「Clinical Practice Research Datalink」を基に住民ベースコホート試験を行った。 被験者は、試験薬(GLP-1受容体作動薬、DPP-4阻害薬、SGLT-2阻害薬)のいずれか、またはSU薬を、新たに服用開始したCOPD既往の2型DM患者だった。 第1コホートにはGLP-1受容体作動薬の服用を開始した1,252例とSU薬服用を開始した1万4,259例が、第2コホートにはDPP-4阻害薬服用を開始した8,731例とSU薬服用を開始した1万8,204例が、第3コホートにはSGLT-2阻害薬服用を開始した2,956例とSU薬服用を開始した1万841例がそれぞれ含まれた。 主要アウトカムはCOPDの重症増悪(COPDによる入院と定義)で、GLP-1受容体作動薬、DPP-4阻害薬、SGLT-2阻害薬それぞれについて、傾向スコア層別化重み付けCox比例ハザードモデルを用いてハザード比(HR)と95%信頼区間(CI)値を推算して評価した。また、これら3つの試験薬が中等度増悪(同日に、COPD急性増悪の外来診断と、経口コルチコステロイドと抗菌薬の同時処方と定義)のリスク減少と関連するかどうかも検証した。COPD重症増悪リスク、GLP-1受容体作動薬は30%、SGLT-2阻害薬は38%低減 SU薬と比較して、GLP-1受容体作動薬はCOPD重症増悪リスクを30%低減した(100人年当たり3.5 vs.5.0、HR:0.70、95%CI:0.49~0.99)。また中等度増悪リスクも37%低減した(0.63、0.43~0.94)。 同様にSGLT-2阻害薬も、COPD重症増悪リスクを38%低減した(100人年当たり2.4 vs.3.9、HR:0.62、95%CI:0.48~0.81)。一方で、中等度増悪リスクの低減は認められなかった(1.02、0.83~1.27)。 DPP-4阻害薬は、COPD重症増悪リスク、中等度増悪リスクともに低減はわずかだった(それぞれHR:0.91[95%CI:0.82~1.02]、0.93[0.82~1.07])。

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糖毒性glucose toxicityと進行性β細胞機能不全との関係-再考が必要か?-(解説:住谷哲氏)

 1型糖尿病患者のβ細胞機能は診断時に完全に廃絶しているわけではなく、診断後次第に低下していくことが知られている。この進行性β細胞機能不全のメカニズムは明らかではないが、自己免疫および糖毒性glucose toxicityの2つが関与していると考えられている。1型糖尿病診断直後からの抗TNF-α抗体ゴリムマブの投与により、β細胞機能不全の進行が抑制されることが報告されている1)。糖毒性については、高血糖に起因する細胞内酸化ストレスなどを介してβ細胞機能不全が進行するため、診断直後からの厳格な血糖管理がその進行を抑制するために有効である、と考えられてきた。しかしこの考えを支持するエビデンスは実は十分ではない。いくつかの介入試験がこれまでに報告されているが、その結果はcontroversialである。そこで本試験ではHybrid closed loop(HCL)を用いた厳格な血糖コントロールが、診断直後の1型糖尿病患者における進行性β細胞機能不全を抑制するか否かを検討した。 HCL群とMDI(multiple daily injections)群とを比較したRCTであり当然open-labelである。β細胞機能は食事負荷後の血清CPRのAUCで評価した。さらに血糖管理状態をより厳密に比較するためにprofessional CGMであるFreeStyleリブレProを用いたmasked CGMで種々のパラメータを比較した。結果は、12ヵ月後のHbA1cおよびTIR(time in range)はHCL群、MDI群でそれぞれ6.9%および64%、7.3%および54%であった。一方、主要評価項目である12ヵ月後の血清CPRのAUCは両群間で有意差を認めなかった。 この結果をどのように解釈するか? 著者らがDiscussionで指摘しているように、両群間の血糖コントロールの差が試験開始前の設定よりも小さかったため、糖毒性の影響がマスクされてしまったのかもしれない。一方、上述したように抗TNF-α抗体ゴリムマブを12ヵ月投与することでβ細胞機能不全の進行が抑制された。つまり発症直後の1型糖尿病患者における進行性β細胞機能不全に及ぼす糖毒性の影響はわれわれが考えているほど大きいものではなく、むしろ炎症性サイトカインの影響がより大きいのかもしれない。 2型糖尿病患者においてもβ細胞機能不全の進行を抑制することが良好な血糖コントロールを維持するために重要である。1型糖尿病患者と2型糖尿病患者とにおける進行性β細胞機能不全のメカニズムが同一であるとは考えにくいが共通する部分も少なくないと思われる。現時点で2型糖尿病患者の進行性β細胞機能不全を抑制することが証明されている薬剤は存在しない。しかし本試験の結果から想像をたくましくすれば、2型糖尿病患者においても進行性β細胞機能不全に及ぼす糖毒性の影響はそれほど大きくはなく、むしろβ細胞における慢性炎症がより重要かもしれない。そうであれば、抗炎症作用を有する可能性が示唆されている血糖降下薬(ピオグリタゾン、メトホルミン、GLP-1受容体作動薬)を積極的に選択するのも1つの方法である。

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GRADE試験―比較効果研究(comparative effectiveness research)により示されたGLP-1受容体作動薬の優位性(解説:景山茂氏)

 GRADE試験は著者らが述べているように比較効果研究(comparative effectiveness research)である。糖尿病治療薬については2008年の米国FDAのrecommendation以来、新規に開発される薬物については治験段階から心血管イベントに対する影響が検討されている。これらの成果として、近年はGLP-1受容体作動薬とSGLT2阻害薬の臓器保護効果が検証された。しかし、これらはプラセボを対照とした試験が多く、必ずしも数多くある治療薬の中でどれがよいかを示すものではなく、また、それを目的として行われたわけでもない。 比較効果研究で観察するのは、efficacyではなく、実臨床における効果effectivenessである。そして、対照はプラセボではなく実薬である。GRADE試験はランダム化比較試験 (randomized controlled trial:RCT)であるが、盲検化はされておらず、日常診療に近い形で行われている。また、比較効果研究のスタディ・デザインはRCTに限らず、観察研究やデータベース研究によっても行われる。 さて、GRADE試験は、これまでのプラセボ対照試験で示された成績からある程度推測される結果を示した。本試験は心血管イベントの群間差を把握するようデザインされていないが、GLP-1受容体作動薬の心血管系保護の優位性を示唆している。本試験にSGLT2阻害薬が含まれていないのは残念であるが、これはGRADE試験の計画開始時期によるのかもしれない。 糖尿病治療薬のように数多くの選択肢のある領域においては、何が最善の選択であるかを明確にすることを目的とした比較効果研究が必要であり、この分野の充実が望まれる。

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4種類の血糖降下薬、メトホルミン併用時のHbA1c値への効果に差は?/NEJM

 2型糖尿病患者では、糖化ヘモグロビン(HbA1c)の目標値を維持するために、メトホルミンに加えいくつかの種類の血糖降下薬が投与されるが、その相対的有効性は明らかにされていない。米国・マサチューセッツ総合病院のDavid M. Nathan氏らGRADE Study Research Groupは、「GRADE研究」において、4種類の血糖降下薬の効果を比較し、これらの薬剤はいずれもメトホルミンとの併用でHbA1c値を低下させたが、その目標値の達成と維持においては、グラルギンとリラグルチドが他の2剤よりもわずかながら有意に有効性が高いことを確認した。研究の成果は、NEJM誌2022年9月22日号で報告された。米国の無作為化並行群間比較試験 GRADE研究は、2型糖尿病患者の治療における4種類の血糖降下薬の相対的有効性の評価を目的とする無作為化並行群間比較試験であり、2013年7月~2017年8月の期間に、米国の36施設で参加者の登録が行われた(米国国立糖尿病・消化器・腎疾病研究所[NIDDK]などの助成を受けた)。 対象は、2型糖尿病の診断時の年齢が30歳以上(アメリカインディアンとアラスカ先住民は20歳以上)、糖尿病の罹病期間が10年以内で、500mg/日以上のメトホルミンによる治療を受けており、過去6ヵ月間に他の血糖降下薬を使用しておらず、HbA1c値が6.8~8.5%の患者であった。 被験者は、インスリン グラルギンU-100(以下、グラルギン)、スルホニル尿素薬グリメピリド、GLP-1受容体作動薬リラグルチド、DPP-4阻害薬シタグリプチンを投与する群に無作為に割り付けられた。全例がメトホルミンの投与を継続した。 代謝に関する主要アウトカムは、HbA1c値≧7.0%とされ、年4回の測定が行われた。代謝に関する副次アウトカムは、HbA1c値>7.5%であった。体重減少はリラグルチドで最も大きい 5,047例が登録され、グラルギン群に1,263例、グリメピリド群に1,254例、リラグルチド群に1,262例、シタグリプチン群に1,268例が割り付けられた。ベースラインの全体の平均(±SD)年齢は57.2±10.0歳、41.5%が60歳以上で、10ヵ所の退役軍人省医療センターの参加を反映して63.6%が男性であり、白人が65.7%、黒人が19.8%、ヒスパニック/ラテン系が18.6%含まれた。 それぞれの平均値は、糖尿病の罹病期間4.2±2.7年、メトホルミンの1日投与量1,994±205mg、BMI 34.3±6.8、HbA1c値7.5±0.5%であった。平均追跡期間は5.0年であり、85.8%が4年以上の追跡を受けた。 HbA1c値≧7.0%の累積発生割合には、4つの治療群で有意な差が認められた(全体的な群間差の検定のp<0.001)。すなわち、100人年当たりグラルギン群が26.5、リラグルチド群は26.1とほぼ同様であり、これらはグリメピリド群の30.4、シタグリプチン群の38.1に比べて低かった。これは、HbA1c値<7.0%の期間が、シタグリプチンに比べグラルギンとリラグルチドで約半年間長くなることを意味する。 また、HbA1c値>7.5%の発生割合に関しては、群間差に主要アウトカムと同様の傾向がみられ、100人年当たりグラルギン群が10.7、リラグルチド群は13.0であり、グリメピリド群の14.8、シタグリプチン群の17.5よりも低かった。 事前に規定された性別、年齢、人種/民族別のサブグループでは、主要アウトカムに関して4つの治療群で実質的な差はみられなかった。一方、ベースラインのHbA1c値が高かった(7.8~8.5%)患者では、HbA1c値<7.0%の維持または達成において、シタグリプチン群は他の3剤と比較して効果が低かった。 重症低血糖はまれだったが、グリメピリド群(2.2%)は、グラルギン群(1.3%、p=0.02)、リラグルチド群(1.0%、p≦0.001)、シタグリプチン群(0.7%、p≦0.001)に比べ有意に高頻度であった。消化器系の副作用の頻度は、リラグルチド群(43.7%)が他の治療群(グラルギン群35.7%、グリメピリド群33.7%、シタグリプチン群34.3%)に比べて高かった。また、4年間の平均体重減少はリラグルチド群(3.5kg減)とシタグリプチン群(2.0kg減)が、グラルギン群(0.61kg減)とグリメピリド群(0.73kg減)よりも大きかった。 著者は、「本試験で得られた重要な示唆は、たとえすべての治療が無料で提供される臨床試験であっても、HbA1cの目標値の維持は困難なことである。このデータは、2型糖尿病患者における長期的な血糖コントロールの、より効果的な介入の必要性を強調するものである」と指摘し、「これらの知見は、メトホルミンへの追加の薬剤を選択する際に、医療者と患者の共有意思決定の基礎となるだろう」としている。

152.

SGLT2阻害薬とGLP1受容体作動薬の処方率、人種・民族間で格差/JAMA

 2019~20年の米国における2型糖尿病患者へのSGLT2阻害薬またはGLP-1受容体作動薬の処方率は低く、白人や非ヒスパニック/ラテン系と比較して、とくに他の人種やヒスパニック/ラテン系の患者で処方のオッズ比が有意に低いことを、米国・カリフォルニア大学のJulio A. Lamprea-Montealegre氏らが、米国退役軍人保健局(VHA)の大規模コホートデータ「Corporate Data Warehouse:CDW」を用いた横断研究の結果、報告した。2型糖尿病に対する新しい治療薬は、心血管疾患や慢性腎臓病の進行リスクを低減することができるが、これらの薬剤が人種・民族にかかわらず公平に処方されているかどうかは、十分な評価がなされていなかった。著者は、「これらの処方率の差の背景にある要因や、臨床転帰の差との関連性を明らかにするために、さらなる研究が必要である」とまとめている。JAMA誌2022年9月6日号掲載の報告。2型DM患者約120万例について2019~20年の処方率を人種・民族別に検討 研究グループは、成人2型糖尿病患者におけるSGLT2阻害薬およびGLP-1受容体作動薬の処方における人種・民族による差異を調査する目的で、CDWのデータを用い、2019年1月1日~2020年12月31日の期間にプライマリケア診療所を2回以上受診した2型糖尿病成人患者を対象に解析した。 医療給付申請時またはVHA施設の受診時に質問票で確認した、自己申請に基づく人種・民族別に、研究期間中のSGLT2阻害薬またはGLP-1受容体作動薬の処方(あらゆる有効処方箋)率を評価した。なお、SGLT2阻害薬はertugliflozin、カナグリフロジン、ダパグリフロジン、エンパグリフロジン、GLP-1受容体作動薬はセマグルチド、リラグルチド、albiglutide、デュラグルチドを評価対象とした。 解析対象は、119万7,914例(平均年齢68歳、男性96%、アメリカ先住民/アラスカ先住民1%、アジア人/ハワイ先住民/他の太平洋諸島民2%、黒人/アフリカ系アメリカ人20%、白人71%、ヒスパニック/ラテン系7%)であった。処方率は全体で8~10%、白人以外の人種、とりわけヒスパニック/ラテン系で低い 全対象における処方率は、SGLT2阻害薬10.7%、GLP-1受容体作動薬7.7%。人種・民族別ではそれぞれ、アメリカ先住民/アラスカ先住民で11%、8.4%、アジア人/ハワイ先住民/他の太平洋諸島民11.8%、8.0%、黒人/アフリカ系アメリカ人8.8%、6.1%、白人11.3%、8.2%であった。また、ヒスパニック/ラテン系では11%、7.1%、非ヒスパニック/ラテン系では10.7%、7.8%であった。 患者およびシステムレベルの因子を調整後のSGLT2阻害薬およびGLP-1受容体作動薬の処方率は、白人と比較して、他のすべての人種で有意に低かった。白人との比較で処方オッズが最も低かったのは黒人であった(SGLT2阻害薬の補正後オッズ比[OR]:0.72[95%信頼区間[CI]:0.71~0.74]、GLP-1受容体作動薬の補正後OR:0.64[95%CI:0.63~0.66])。 また、ヒスパニック/ラテン系の患者は、非ヒスパニック/ラテン系の患者と比較して、処方オッズが有意に低かった(SGLT2阻害薬の補正後OR:0.90[95%CI:0.88~0.93]、GLP-1受容体作動薬の補正後OR:0.88[95%CI:0.85~0.91])。

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4つのステップで糖尿病治療薬を判断/日本糖尿病学会

 日本糖尿病学会(理事長:植木 浩二郎)は、9月5日に同学会のホームページで「2型糖尿病の薬物療法のアルゴリズム」を発表した。 このアルゴリズムは2型糖尿病治療の適正化を目的に、糖尿病の病態に応じて治療薬を選択することを最重要視し、エビデンスとわが国における処方実態を勘案して作成されている。 具体的には、「Step 1」として病態に応じた薬剤選択、「Step 2」として安全性への配慮、「Step 3」としてAdditional benefitsを考慮するべき併存疾患をあげ、「Step 4」では考慮すべき患者背景をあげ、薬剤を選択するアルゴリズムになっている。 同アルゴリズムを作成した日本糖尿病学会コンセンサスステートメント策定に関する委員会では序文で「わが国での糖尿病診療の向上に貢献することを期待するとともに、新しいエビデンスを加えながら、より良いものに進化し続けていくことを願っている」と今後の活用に期待をにじませている。体形、安全性、併存疾患、そして患者背景で判断 わが国の2型糖尿病の初回処方の実態は欧米とは大きく異なっている。高齢者へのビグアナイド薬(メトホルミン)やSGLT2阻害薬投与に関する注意喚起が広く浸透していること、それに伴い高齢者にはDPP4阻害薬が選択される傾向が認められている。 その一方で、初回処方にビグアナイド薬が一切使われない日本糖尿病学会非認定教育施設が38.2%も存在していたことも明らかになり、2型糖尿病治療の適正化の一助となる薬物療法のアルゴリズムが必要とされた。 そこで、作成のコンセプトとして、糖尿病の病態に応じて治療薬を選択することを最重要視し、エビデンスとわが国における処方実態を勘案して制作された。 最初にインスリンの適応(絶対的/相対的)を判断したうえで、目標HbA1cを決定(目標値は熊本宣言2013などを参照)し、下記のステップへ進むことになる。【Step 1 病態に応じた薬剤選択】・非肥満(インスリン分泌不全を想定)DPP-4阻害薬、ビグアナイト薬、α-グルコシダーゼ阻害薬など・肥満(インスリン抵抗性を想定)ビグアナイト薬、SGLT2阻害薬、GLP-1受容体作動薬など【Step 2 安全性への配慮】別表*に考慮すべき項目で赤に該当するものは避ける(例:低血糖リスクの高い高齢者にはSU薬、グリニド薬を避ける)【Step 3 Additional benefitsを考慮するべき併存疾患】・慢性腎臓病:SGLT2阻害薬、GLP-1受容体作動薬・腎不全:SGLT2阻害薬・心血管疾患:SGLT2阻害薬、GLP-1受容体作動薬【Step 4 考慮すべき患者背景】別表*の服薬継続率およびコストを参照に薬剤を選択(フォロー)・薬物療法開始後、およそ3ヵ月ごとに治療法の再評価と修正を検討する。・目標HbA1cを達成できなかった場合は、病態や合併症に沿った食事療法、運動療法、生活習慣改善を促すと同時に、Step1に立ち返り、薬剤の追加などを検討する。*別表 安全な血糖管理達成のための糖尿病治療薬の血糖降下作用・低血糖リスク・禁忌・服薬継続率・コストのまとめ―本邦における初回処方の頻度順の並びで比較―(本稿では省略)

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DPP-4阻害薬は胆嚢炎発症リスクを増加させる(解説:住谷哲氏)

 DPP-4阻害薬は低血糖を生じにくい安全な血糖降下薬として多くの患者に処方されている。しかしこれまでにDPP-4阻害薬投与と、心不全1)、水疱性類天疱瘡2)、急性膵炎3)、重症関節痛4)との関連が示唆されてきた。とりわけ初回治療薬として処方される血糖降下薬の約70%がDPP-4阻害薬とされるわが国では5)、まれな副作用についても注意が必要である。 GLP-1が胆嚢のmotilityに影響することは以前から知られており、血中GLP-1濃度を上昇させるDPP-4阻害薬が胆道・胆嚢疾患の発症リスクを増大させるのではないかとの懸念は以前からあった。GLP-1受容体作動薬であるリラグルチドが胆嚢・胆道疾患の発症と関連することはすでに報告されていたが、DPP-4阻害薬について報告がなかった。そこで著者らは、これまでに報告された82のRCTの結果を用いて、DPP-4阻害薬と胆道・胆嚢疾患発症との関連を検討した。 その結果は、胆嚢炎、胆石症、胆道疾患の複合アウトカムである胆嚢・胆道疾患の発症リスク増加(オッズ比[OR]:1.22[95%信頼区間[CI]:1.04~1.43])が認められた。さらに、複合アウトカム構成項目のなかで有意なリスク増加を認めたのは胆嚢炎のみであり(OR:1.43[1.14~1.79])、胆石症と胆道疾患には有意なリスク増加を認めなかった。 胆嚢炎の絶対リスク増加は15/1万人年であり、著者らはそのリスク増加は微小ではあるが、DPP-4阻害薬のもたらすベネフィットとのバランスの下で投与が判断されるべきである、とコメントしている。現在わが国でDPP-4阻害薬が投与されている2型糖尿病患者が何人かは正確には不明であるが、仮に800万人の患者の50%にDPP-4阻害薬が投与されていると仮定すると、年間に800万×0.5×15/1万=6,000となり、年間6,000人の胆嚢炎患者がDPP-4阻害薬投与により余分に発生している計算になる。 DPP-4阻害薬が心血管イベントリスクを増加しない安全な薬剤であることは複数のCVOTで証明されている。しかし発売後10年以上が経過した今日、諸外国と比較して多数の2型糖尿病患者にDPP-4阻害薬が投与されているわが国においては、DPP-4阻害薬のもたらすリスクとベネフィットとを考え直す時期に来ているのではないだろうか。

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DPP-4阻害薬で胆嚢炎リスク増、とくに注意が必要な患者は/BMJ

 2型糖尿病患者において、DPP-4阻害薬は胆嚢炎リスクを増大することが、中国・北京連合医科大学病院のLiyun He氏らによるシステマティック・レビューとメタ解析の結果、示された。無作為化試験の被験者で、とくに医師の注意がより必要となる治療期間が長期の患者でその傾向が認められたという。先行研究で、GLP-1は胆嚢の運動性の障害に関与していることが示唆されており、主要なGLP-1受容体作動薬であるリラグルチドが、胆嚢または胆道疾患リスクとの増大と関連していることが報告されていた。また、GIPも胆嚢の運動性に影響を及ぼすことが報告されていた。BMJ誌2022年6月28日掲載の報告。エビデンスの質はGRADEフレームワークで評価 研究グループは、DPP-4阻害薬と胆嚢または胆道疾患の関連を調べるため、PubMed、EMBASE、Web of Science、CENTRALをデータソースとして、各媒体創刊から2021年7月31日までに発表されたDPP4阻害薬に関する無作為化対照試験について、システマティック・レビューとネットワーク・メタ解析を行った。適格とした試験は、2型糖尿病の成人患者を対象に、DPP-4阻害薬、GLP-1受容体作動薬およびSGLT2阻害薬と、プラセボまたはその他の糖尿病治療薬について比較した無作為化対照試験だった。 主要アウトカムは、胆嚢疾患または胆道疾患、胆嚢炎、胆石症、胆道疾患の複合とした。2人のレビュアーがそれぞれデータを抽出し、試験の質を評価。各アウトカムのエビデンスの質を、GRADEフレームワークを用いて評価した。メタ解析は、プールオッズ比(OR)と95%信頼区間(CI)を用いた。胆嚢/胆道疾患、胆嚢炎リスク増加、長期服用で関連増大 82件の無作為化対照試験、被験者総数10万4,833例を対象にペアワイズ・メタ解析を行った。 プラセボまたは非インクレチン製剤に比べ、DPP-4阻害薬は、胆嚢/胆道疾患の発症リスク増大(OR:1.22[95%CI:1.04~1.43]、群間リスク差:11[95%CI:2~21]/1万人年)および胆嚢炎リスク増大(1.43[1.14~1.79]、15[5~27]/1万人年)と有意に関連していた。 一方、胆石症の発症リスク(OR:1.08[95%CI:0.83~1.39])、胆道疾患の発症リスク(1.00[0.68~1.47])との関連は認められなかった。 DPP-4阻害薬と胆嚢/胆道疾患および胆嚢炎発症リスクの関連は、服用期間が長い患者で観察される傾向が認められた。 また、184試験を対象にネットワーク・メタ解析を行ったところ、DPP-4阻害薬はSGLT2阻害薬に比べ、胆嚢/胆道疾患リスクおよび胆嚢炎リスクをいずれも増大させたが、GLP-1受容体作動薬との比較では、同増大は認められなかった。

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10~18歳2型DMにデュラグルチド週1回投与は有効か/NEJM

 10~18歳の2型糖尿病において、GLP-1受容体作動薬デュラグルチドの週1回投与(0.75mgまたは1.5mg)は、メトホルミン服用や基礎インスリンの使用を問わず、26週にわたる血糖コントロールの改善においてプラセボよりも優れることが、米国・ピッツバーグ大学のSilva A. Arslanian氏らによる検討で示された。BMIへの影響は認められなかった。NEJM誌オンライン版2022年6月4日号掲載の報告。デュラグルチド0.75mg、1.5mgを週1回投与 研究グループは、10歳以上18歳未満の2型糖尿病で、BMIが85パーセンタイル超、生活習慣の改善のみ、もしくはメトホルミン治療(基礎インスリン併用または非併用)を受ける154例を対象に、26週にわたる二重盲検プラセボ対照無作為化試験を行った。 被験者を無作為に1対1対1の割合で3群に割り付け、それぞれプラセボ、デュラグルチド0.75mg、デュラグルチド1.5mgを週1回皮下注射で投与した。被験者はその後26週の非盲検の延長試験に組み込まれ、プラセボ群だった被験者に対し、デュラグルチド(0.75mg、週1回)を26週間皮下注射で投与した。 主要エンドポイントは、ベースラインから26週までの糖化ヘモグロビン値の変化だった。副次エンドポイントは、糖化ヘモグロビン値7.0%未満達成、および空腹時血糖値とBMIのベースラインからの変化など。安全性についても評価が行われた。糖化ヘモグロビン値7.0%未満、プラセボ群14%に対しデュラグルチド群51% 計154例が無作為化を受けた。26週時点の平均糖化ヘモグロビン値は、プラセボ群が0.6ポイント上昇したのに対し、デュラグルチド群では、0.75mg群で0.6ポイント、1.5mg群で0.9ポイント、いずれも低下した(対プラセボ群のp<0.001)。  また26週時点で、糖化ヘモグロビン値7.0%未満を達成した患者の割合は、プラセボ群14%に対しデュラグルチド群では51%と有意に高率だった(p<0.001)。 空腹時血糖値も、プラセボ群で上昇(17.1mg/dL)したのに対し、デュラグルチド群では低下が認められた(-18.9mg/dL、p<0.001)。一方でBMIについては、両群間で差は認められなかった(プラセボ群0.0、デュラグルチド統合群-0.1、p=0.55)。 有害事象は、胃腸有害イベントの発生頻度が最も多く、26週にわたってデュラグルチド群でプラセボ群よりも高率に認められた。 デュラグルチドに関する安全性プロファイルは、成人で報告されたものと一致していた。

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最新の薬剤情報追加の糖尿病治療ガイド2022-23/日本糖尿病学会

 日本糖尿病学会(理事長:植木 浩二郎)は、『糖尿病治療ガイド2022-2023』を発行した。本ガイドは、日本糖尿病学会が総力を挙げて編集・執筆したガイドブックで、コンパクトな1冊ながら、糖尿病診療の基本的な考え方から最新情報までがわかりやすくまとめれている。内科医はもとより、他の診療科の医師、コメディカルスタッフなどにも好評で、現在広く活用されている。 今回の改訂では、イメグリミンや経口GLP-1受容体作動薬の追加など、2022年3月現在の最新の内容がアップデートされた。 制作した「糖尿病治療ガイド」編集委員会は、「本ガイドが、日々進歩している糖尿病治療の理解に役立ち、毎日の診療に一層活用されることを願ってやまない」と期待を寄せている。主な改訂点・イメグリミンや経口GLP-1受容体作動薬の追加など、2022年3月現在の最新の薬剤情報にアップデート・かかりつけ医から糖尿病や腎臓の専門医・専門医療機関への紹介基準を、図を用いて明確に解説・上記だけでなく、低血糖時におけるグルカゴン点鼻粉末剤(バクスミー)の使用、糖尿病医療支援チーム(DiaMAT)設立の動きなど、内容全体をアップデート・「2型糖尿病の血糖降下薬の特徴」など図のアップデート・コラムなどを追加・改訂主な目次1.糖尿病:疾患の考え方2.診断3.治療4.食事療法5.運動療法6.薬物療法7.糖尿病合併症とその対策8.低血糖およびシックデイ9.ライフステージごとの糖尿病10.専門医に依頼すべきポイント11.病態やライフステージに基づいた治療の実例(31症例)付録・索引

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過去のものとは言わせない~SU薬の底力~【令和時代の糖尿病診療】第6回

第6回 過去のものとは言わせない~SU薬の底力~最近、新薬に押されてめっきりと処方数が減ったSU薬。低血糖を来しやすい、血糖変動が大きくなるなど罵詈雑言を並べ立てられ、以前はあれほど活躍していたのにもかかわらず、いまや悪者扱いされている。私が研修医のころは、経口薬といえばSU薬(BG薬はあったもののほとんど使われなかった)、注射剤といえばインスリン(それも速効型と中間型の2種類しかない)、加えて経口薬とインスリンの併用などはご法度だった時代である。同じような時代を生きてきた先生方にこのコラムを読んでいただけるか不安だが、今回はSU薬をテーマに熟年パワーを披露してみたい。最近の若手医師はこの薬剤をほとんど使用しなくなり、臨床的な手応えを知らないケースも多いだろう。ぜひ、つまらない記事と思わずに読んでいただきたい。もしかしたら考え方が変わるかもしれない。SU薬は、スルホンアミド系抗菌薬を研究していた際に、実験動物が低血糖を示したことで発見されたというユニークな経緯を持つ。1957年に誕生し、第一~三世代に分けられ、現在使用されているのは第二世代のグリベンクラミドとグリクラジド、第三世代のグリメピリドである。血糖非依存性のインスリン分泌促進薬で、作用機序は膵臓のβ細胞にあるSU受容体と結合してATP依存性K+チャネルを遮断し、細胞膜に脱分極を起こして電位依存性Ca2+チャネルを開口させ、細胞内Ca2+濃度を上昇させてインスリン分泌を促進する。血糖降下作用は強力だが、DPP-4阻害薬やGLP-1受容体作動薬と違い、血糖非依存性のため低血糖には注意が必要で、日本糖尿病学会の治療ガイドには、使用上の注意として(1)高齢者では低血糖のリスクが高いため少量から投与を開始する、(2)腎機能や肝機能障害の進行した患者では低血糖の危険性が増大する、と記載されている。この2点に気を付けていただければ、コストパフォーマンスが最も良好な薬剤かと思われる。まずはこの一例を見ていただきたい。75歳男性。罹病歴29年の2型糖尿病で、併存疾患は高血圧、脂質異常症、高尿酸血症および肺非結核性抗酸菌症。三大合併症は認めていない。α-GI薬から開始し、その後グリニド薬に変更したが、14年前からSU薬+α-GI(グリメピリド1mg+ボグリボース0.9mg/日)に変更。体重も大きな増減なく標準体重を維持し、HbA1cは6%台前半で低血糖症状もなく、経過は良好であった。そこで主治医は、朝食後2時間値70~80mg/dLが時折見られることから無自覚低血糖の可能性も加味し、後期高齢者になったのを機にグリメピリドを1mgから0.5mgに減量したところ、HbA1cがなんと1%も悪化してしまった。症例:血糖コントロール(HbA1c)および体重の推移この患者には肺病変があるのでもともと積極的な運動はできず、HbA1cの季節性変動もない。また、食事量も変わりなく体重変化もないため、SU薬の減量がもっともらしい原因として考えられた。よって、慌てて元の量に戻したケースである。このような症例に出くわすことは、同世代の先生方には十分理解してもらえるだろう。いわゆる「由緒正しき日本人糖尿病」で、非肥満のインスリン分泌が少し低い患者である。これを読んでも、あえてSU薬を使う必要があるのかという反論もあろう。新しい経口糖尿病治療薬は、血糖降下作用のみならず大血管障害などに対し少なくとも非劣性であることが必要だが、最近の薬剤はむしろ大血管障害や腎症に対しても優越性を持つ薬剤が出てきているではないか。さらには、血糖依存性で低血糖が起こりにくく、高齢者にも使用しやすい。確かにそのとおりなのだが、エビデンスでいうとSU薬も負けてはいないのだ。次に説明する。最近の報告も踏まえたSU薬のエビデンス手前みそにはなるが、まずはわれわれの報告1)から紹介させていただく。2型糖尿病患者における経口血糖降下薬の左室心筋重量への影響画像を拡大するネットワークメタ解析を用いて、2型糖尿病患者における左室拡張能を左室心筋重量(LVM)に対する血糖降下薬の効果で評価した結果、SU薬グリクラジドはプラセボと比較してLVMを有意に低下させた唯一の薬剤だった(なお、この時SGLT2阻害薬は文献不足により解析対象外)。左室拡張能の関連因子として、酸化ストレス、炎症性サイトカイン、脂肪毒性、インスリン抵抗性、凝固因子などが挙げられるが、なかでも線溶系活性を制御する凝固因子PAI-1(Plasminogen Activator Inhibitor-1)の血中濃度上昇は、血栓生成の促進、心筋線維化、心筋肥大、動脈硬化の促進および心血管疾患の発症と関連し、2型糖尿病患者では易血栓傾向に傾いていることが知られている。このPAI-1に着目し、2型糖尿病患者におけるSU薬の血中PAI-1濃度への影響をネットワークメタ解析で比較検討したところ、グリクラジドはほかのSU薬に比して血中PAI-1濃度を低下させた2)。これは、ADVANCE研究においてグリクラジドが投与された全治療強化群では心血管疾患の発症が少なかったことや、ACCORD研究においてグリクラジド以外の薬剤が投与された治療強化群での心血管疾患発症抑制効果は見られなかったことなど、大規模試験の結果でも裏付けられる。また、Talip E. Eroglu氏らのReal-Worldデータでは、SU薬単剤またはメトホルミンとの併用療法はメトホルミン単独療法に比べて突然死が少なく、さらにグリメピリドよりグリクラジドのほうが少ないという報告3)や、Tina K. Schramm氏らのnationwide studyでは、SU薬単剤はメトホルミンと比較して死亡リスクや心血管リスクを増加させるが、グリクラジドはほかのSU薬より少ないという報告4)もある。過去のものとは言わせない~SU薬の底力~以上より、SU薬のドラッグエフェクトによる違いについても注目すべきだろう。SU薬は血糖降下作用が強力で安価なため、世界各国では2番目の治療薬として少量から用いられており、わが国でも、やせ型の2型糖尿病患者の2~3剤目として専門医に限らず多く処方されている。結論として、SU薬の使用時は単剤で用いるよりは併用するほうが望ましく、少量で使用することにより安全で確実な効果が発揮できる薬剤だと理解できたかと思う。また、私見ではあるが、高齢者糖尿病が激増している中で、本来ならインスリンが望ましいが、手技的な問題や家庭状況により導入が難しい例、あるいは厳格なコントロールまでは必要ないインスリン分泌の少ない例などは良い適応かと考える。おまけに、とても安価である。決してお払い箱の薬剤ではないことも付け加えさせていただく!1)Ida S, et al. Cardiovasc Diabetol. 2018;17:129.2)Ida S, et al. Journal of Diabetes Research & Clinical Metabolism. 2018;7:1. doi:10.7243/2050-0866-7-1.3)Eroglu TE, et al. Br J Clin Pharmacol. 2021;87:3588-3598.4)Schramm TK, et al. Eur Heart J. 2011;32:1900-1908.

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新たなインクレチン関連薬(GIP/GLP-1受容体作動薬)がもたらす効果(解説:安孫子亜津子氏)

 わが国の2型糖尿病は欧米に比較してインスリン分泌能低下がメインの病態である患者が多いことが知られている。以前はSU薬中心であった2型糖尿病の治療が、2009年にDPP-4阻害薬が上梓されてからは、かなり多くの患者で使用され、SU薬の使用量が大きく減少した。さらにGLP-1受容体作動薬はDPP-4阻害薬に比較して、より血糖低下効果が大きく、食欲抑制効果なども併せ持っていることから、その使用患者は増加してきており、とくに週1回注射のGLP-1受容体作動薬の登場後は、幅広い患者で使われるようになってきている。このようにインクレチン関連薬の有用性が認知されている中、新たなインクレチン関連薬としてGIP/GLP-1受容体作動薬「tirzepatide」が登場し、現在次々と臨床試験の結果が報告されてきている。 今回の論文はtirzepatideのインスリンへの追加の有効性、安全性を検証した第III相試験「SURPASS-5」である。40週でのHbA1cの低下効果は2%以上であり、現在使用されているGLP-1受容体作動薬の臨床試験結果と比較しても大きな低下効果である。これまでGIPは脂肪細胞に作用し体重を増加させる方向に働くと考えられていたが、tirzepatideでは用量依存性に5~8kg台の体重減少効果が認められた。もちろんインスリン使用量の減量も認められている。週1回投与であることも本剤の魅力である。消化器症状を主体とした有害事象は、GLP-1特有のものであり、一定数の出現が認められている。投与量増量のタイミングなどをうまく調整することで、より安全に本剤の有効性を引き出せる可能性がある。本論文の結果から、新たなインクレチン関連薬tirzepatideが本邦でも使用できるようになれば、さらに幅広い患者での良好な血糖および体重コントロールに寄与できることが期待できると考える。

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第101回 私が見聞きした“アカン”医療機関(中編) オンライン診療、新しいタイプの“粗診粗療”が増える予感

18都道府県に出ていた「まん延防止等充填措置」がやっと解除こんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。3月21日、18都道府県に出ていた「まん延防止等充填措置」が解除されました。全面解除は実に約2ヵ月半ぶりです。ただ、これからの時期、お花見、春休み、新学期、新年度などで宴会や移動が活発化します。「第7波」に備えた体制は怠りなく進めておく必要がありそうです。ところで、先週のこのコラムで、「鈴木 誠也選手はサンディエゴ・パドレス、菊池 雄星投手はトロント・ブルージェイズと合意したとの報道もありました」と書きましたが、鈴木選手の情報は一部スポーツ紙の勇み足による“誤報”でした。その後、鈴木選手は歴史あるシカゴ・カブスと合意、契約しました。契約金は5年総額8,500万ドル(約101億3,000万円)と伝えられており、日本人野手の渡米時の契約としては、4年総額4,800万ドルの福留 孝介(当時、カブス)を上回る史上最高額とのことです。カブスと言えば「ヤギの呪い(Curse of the Billy Goat)」で有名なチームです。鈴木選手が何らかの呪いに襲われることなく、大活躍することを願っています(「ヤギの呪い」自体は2016年のワールドシリーズ優勝で解けたと言われていますが…)。さて、今回も前回に引き続き、少し趣向を変え、最近私や知人が体験した“アカン”医療機関について、書いてみたいと思います。【その3】オンライン診療ゆえの“マイルド”処方に困った友人新型コロナウイルス感染症のオミクロン株に感染した友人の話です。症状は軽快し、PCR検査も陰性となって療養解除となったのですが、数週間経ってもひどい咳がなかなか止みません。とくに夜間がひどく、「これは『いつもの処方』が必要だ」と感じた彼は、時節柄、外来診療ではなく近所のクリニックでオンライン診療を受けることにしました。「いつもの処方」とはステロイド内服薬の服用です。これまでも風邪などで気管支がひどくやられると、炎症が治まらずひどい咳が遷延することがたびたびありました。そんなときだけ、知り合いの呼吸器内科医に頼んで、ステロイド(プレドニゾロンなど)を頓服で処方してもらっていたのです。ただ、その呼吸器内科医は最近、遠方の病院に異動してしまったため、今回は渋々、呼吸器内科も標榜し、オンライン診療にも対応している近所のクリニックをネットで見つけ、受診することにしたわけです。ステロイド内服薬を出せない、出さないオンライン診療医LINEを用いてのオンライン診療は、初めての体験でとても緊張したそうです。これまでの咳治療の経験も詳しく説明し、「スパッ」と咳が止まるステロイド内服薬の処方を頼んでみたのですが、願いは叶えられなかったそうです。「結局、吸入薬のサルタノールインヘラーとツムラ麦門冬湯エキス顆粒が出されただけだった。粘ってみたんだけど…」と友人。サルタノールインヘラーは、β2アドレナリン受容体刺激剤です。ステロイドも入っている吸入薬(ブデホルなど)もあるはずなのに、それも避け、漢方を気休めに上乗せするというのは、幾多のしつこい咳と戦ってきた彼にとっては、効き目があまり期待できない“マイルド”過ぎる処方でした。「オンラインで初診だと、マイルドで安全な処方をしたくなるのはわかるが、患者側の意見もきちんと聞いて欲しい。これで咳にまだ数週間悩まされると思うとウンザリだ。結局、次は外来に来てくれと言われたし…」と、オンライン診療に不満たらたらの友人でした。処方箋が届いたのは診療から5日後実はこの話、これだけで終わりませんでした。水曜日にオンライン診療を受診し、「処方箋は郵送します」と言われたのですが、2日後の金曜になっても処方箋が届かなかったのです。金曜夕刻に診療所に電話すると、夜8時過ぎに、クリニックの事務職員が薬(おそらく院内調剤)を持って自宅にやって来たそうです。「処方箋はちゃんと郵送したのですが」と弁明する職員でしたが、現物が届いたのは翌週月曜でした。これは全く“アカン”ですね。最終的に彼は、最初の処方では全く軽快しませんでした。翌週末に外来を訪れ、今度はステロイドも入ったブデホルを入手することができ、その後徐々に快方に向かったそうです。新しいタイプの“粗診粗療”が増えるのではオンライン診療については、処方箋のやり取りと、薬剤のデリバリーが障害になることがある、とも聞きます。クリニックから薬局にファクスやメールで処方箋を送るにしても、その薬局が患者の近所にあるか、宅配を行っていなければなりません。また、そうしたオンライン診療の処方箋に対応できる“かかりつけ”薬局を持っている人もまだ多くはありません。診療から薬剤入手までのインターバルの解消は、オンライン診療普及に向けた大きな課題の一つでしょう。オンライン診療については、「第96回 2022年診療報酬改定の内容決まる(前編)オンライン診療初診から恒久化、リフィル処方導入に日医が苦々しいコメント」でも詳しく書きました。こうした新しい動きに対し、日本医師会の今村 聡副会長は3月2日の定例会見で、自由診療下でオンライン診療を活用し、GLP-1受容体作動薬のダイエット目的での不適切処方が横行している状況について問題提起をしました。今村氏は、「本来の治療に用いる医薬品が不適切に流通して健康な方が使用してしまうというような状況は、国民の健康を守るという日本医師会の立場としては看過できない」と話したとのことです。オンライン診療のこうした“悪用”は確かに問題ですが、私自身は、逆に友人が経験したような、対面でないために慎重になり、治療効果が低い、“マイルド”過ぎる薬剤を処方してしまうという、新しいタイプの“粗診粗療”が増えることを危惧しています。ステロイドと同様、抗菌薬も初診からの投与を嫌う医師が多い印象があります。診断が適切なら問題はないのですが、結局、2回目からはリアルの対面受診を余儀なくされ、本来服用が必要な薬にたどり着くまでに通院回数が増えるとしたら、オンライン診療のメリットはほぼないに等しいと思うのですが、皆さんどうでしょう。次回も、引き続き“アカン”医療機関を紹介します(この項続く)。

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