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zenagamtide:アミリン受容体がもたらす新たな経口糖尿病治療薬の展望(解説:永井聡氏)

 zenagamtideは、食欲を抑制するGLP-1受容体と、満腹感を促進するアミリン受容体の双方に作用する経口のペプチドデュアルアゴニストである。アミリンは、インスリンとともに膵β細胞から分泌されるホルモンであり、食欲中枢に作用して満腹感を促進する。アミリン受容体作動薬としてはcagrilintideが先行して開発されており、セマグルチドとの配合剤であるCagriSemaが、肥満症治療において最近良好な結果を報告している1)。次世代のGLP-1関連薬であるzenagamtideは、単一のペプチドでこれらと同等の効果を実現しつつ、2型糖尿病や肥満症に対する「経口薬」としても開発が進められている点が大きな特徴である。 今回報告された、2型糖尿病患者262例を対象としたzenagamtideの第II相試験では、高用量群(25mgおよび50mg)において、36週後にHbA1cがそれぞれ1.3%、1.4%低下し、体重は10.3%、9.0%減少するという優れた結果が示された。さらに、試験終了時点でも体重減少効果はプラトーに達しておらず、さらなる減量効果の可能性を示唆している。なお、zenagamtideは経口薬だけでなく、週1回皮下投与の注射製剤も同時に開発中である。 経口GLP-1受容体作動薬の領域では最近、空腹時の服用や飲水制限といった条件を必要としないorforglipronが、経口セマグルチドを大きく上回る臨床成績を示し話題となった2)。zenagamtideは対象患者や投与期間が異なるため単純比較はできないものの、今回の試験ではorforglipronと同等の臨床成績を示している。ただし、zenagamtideは経口セマグルチドと同様に吸収促進剤であるSNACを含有しており、服用には空腹時という条件が求められる。利便性の面ではorforglipronに一歩譲るかもしれないが、それを補って余りある特異的な作用機序や効果が確認されれば、強力な選択肢として期待できるだろう。 ここで特筆すべきは、zenagamtideが持つアミリン受容体介在性の付加価値である。アミリン受容体への刺激は、骨格筋や骨組織の減少を抑制する効果が期待されている。また、グルカゴン分泌の抑制を介して食後血糖を低下させ、血糖変動を改善する働きも持つ。実際、本試験のCGM(持続血糖測定)を用いた解析においても、TIR(Time in Range)の改善が報告されている。 現在、日進月歩で新薬の開発が進むGLP-1関連薬は、それぞれ明確な強みを持つようになっている。GIP/GLP-1受容体作動薬(チルゼパチドなど)は強力な「体重減少効果」を誇り、GCG/GLP-1受容体作動薬(mazdutideやsurvodutideなど)は「脂肪性肝疾患への効果」に優れている。これらに対し、zenagamtideはアミリン受容体を介した作用により、減量時の「除脂肪体重(筋肉量)の維持」や「血糖変動の安定化」という独自の強みを発揮する。過度な減量に伴うるい痩(筋肉量減少)のリスクが問題視される中、サルコペニア肥満のように筋肉量の維持が重要な場合は、zenagamtideが優先されるのかもしれない。 2型糖尿病や肥満症をターゲットとしたGLP-1関連薬の開発競争は、イーライリリー社とノボ ノルディスク ファーマ社を中心に激化している。CagriSemaの開発が先行しているため、臨床現場でのアミリン受容体作動薬としての利用はCagriSemaが先になると思われるが、アミリン受容体作動薬の臨床的評価が確立されれば、zenagamtideの未来も明るい。単なる「減量率の競争」から脱却し、患者個々の病態に合わせた最適な薬剤選択が求められるこれからの肥満症治療において、過度な期待は避けつつも、独自の特徴を持つ本薬の今後の動向に大いに注目したい。

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(シタグリプチンと比べて)チルゼパチドでMACEリスク32%低減(解説:小川大輔氏)

 GLP-1受容体作動薬やGIP/GLP-1受容体作動薬には、主要心血管イベント(MACE:心血管死・非致死性心筋梗塞・非致死性脳卒中)のリスクを抑制する効果が認められている。ただ、実際にどの程度抑制する効果が認められるかは明らかではない。最近、GIP/GLP-1受容体作動薬のチルゼパチドの実臨床における心血管イベント抑制効果を検討した研究結果が報告された1)。 この研究は米国の保険請求データベースを用いて、心筋梗塞や脳卒中などアテローム動脈硬化性心血管疾患の既往のある2型糖尿病のデータを解析したコホート研究である。標準治療にチルゼパチドの投与を開始した群と、その対照としてDPP-4阻害薬のシタグリプチンの投与を開始した群の合計5万2,971例の解析が行われ、チルゼパチド投与群はシタグリプチン投与群と比較してMACEの発生を32%抑制したという結果であった。 MACEの個別の構成要素の解析において、チルゼパチド群で虚血性脳卒中のリスク低下は認めず、心筋梗塞のリスク低下が全体を牽引していた点は興味深い。しかし、チルゼパチドがシタグリプチンと比べて心血管イベントの発症を抑制したという内容は、それ自体とくに驚きはない。従来DPP-4阻害薬には心保護効果は認められず、GLP-1受容体作動薬には認められることが知られており、GIP/GLP-1受容体作動薬で認められても違和感はない。 ちょうど1年前にチルゼパチドのMACE抑制効果をGLP-1受容体作動薬のデュラグルチドと比較した試験(SURPASS-CVOT試験)の結果が欧州糖尿病学会で発表され、その後NEJM誌に掲載2)、ジャーナル四天王でも取り上げられた3)。結論はチルゼパチドのデュラグルチドに対する非劣性が認められたが、優越性は認められなかったというものであった。このSURPASS-CVOT試験は30ヵ国640施設で行われた無作為化二重盲検実薬対照試験であり、今回の米国の保険請求データベースを用いる試験とはまったく異なるデザインである。今回の試験でチルゼパチドの対照薬がDPP-4阻害薬のシタグリプチンに選定されているが、SURPASS-CVOT試験ではGLP-1受容体作動薬のデュラグルチドに対する優越性を認めなかったので、個人的にはデュラグルチドやセマグルチドと比較して優越性があるかどうかのほうに興味がある。データはあるはずなので再調査してほしいものだ。

3.

OSASの根本的要因の「肥満」への治療に期待/リリー・田辺ファーマ

 日本イーライリリーと田辺ファーマは、2026年5月に持続性GIP/GLP-1受容体作動薬チルゼパチド(商品名:ゼップバウンド)が「中等症以上の閉塞性睡眠時無呼吸症候群(以下"OSAS")」における効能・効果追加の承認を取得したことに寄せて、「閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSAS)の実態と新たな治療選択肢」をテーマに都内でメディアセミナーを開催した。セミナーでは、OSASの病態やリスク、チルゼパチドの概要、診療でのアンメットニーズなどが説明された。 両社では今回の追加承認により、OSASの根本的な要因である肥満へアプローチできる治療として期待を寄せるとともに、適正使用の推進に取り組むとしている。わが国のOSAS患者数は約943万人 「閉塞性睡眠時無呼吸症候群の実態と課題 新たな治療選択肢の登場」をテーマに葛西 隆敏氏(順天堂大学大学院医学研究科循環器内科学 先任准教授)が、OSASの診療、チルゼパチドの臨床試験結果などを説明した。 OSASは、睡眠中に気道が閉塞することにより、無呼吸や低呼吸が発生する疾患であり、主な症状として「いびき」「無呼吸」「日中の眠気」「起床時の頭痛」などがある。わが国のOSAS患者数は約943万人と推定され、東アジア人では顔面形態の影響からOSASになりやすいといわれている。 発症の機序としては、上気道周囲の軟部組織の脂肪沈着などを介し、舌容積増大に伴う上気道の虚脱と上気道の閉塞が起こるとされる。そして、OSAS患者の80%以上は高度または中等度の上気道虚脱を有しており、そのほとんどは肥満と関連している。 OSASの定義としては、睡眠1時間当たり5回以上の無呼吸または低呼吸イベント(AHI≧5回/時間)がみられる疾患であり、OSASの重症度は無呼吸低呼吸指数(AHI)を用いて、軽症(5≦AHI<15回/時間)、中等症(15≦AHI<30回/時間)、重症(AHI≧30回/時間)で判定される。 OSASでは、高血圧、2型糖尿病、心房細動、心不全、冠動脈疾患、脳卒中、死亡などの心血管系および代謝系の併存疾患のリスク増加にも関与しており、とくに心・脳の血管疾患1)や高血圧と深く関与すると指摘されている。 また、重症OSAS患者では、致死的・非致死的CVDリスクが高くなることが報告されている2)。OSASの最大の危険因子は「肥満」である。肥満が気道閉塞や肺容積減少によりOSASを引き起こす一方で、OSASが睡眠の断片化やホルモン分泌を乱すことで肥満を引き起こすという悪循環が見られる。そのため体重が10%増加すると、中等症以上のOSASを発症するリスクが6倍に増大するとされる一方で、10%の減量によりAHIが26%改善したという報告もある3)。肥満治療がOSASの治療の鍵となるが、生活習慣への介入だけでは、体重減少と維持が不十分な場合があり、他の治療法を検討する必要もある4,5)。チルゼパチドの使用は最適使用推進ガイドラインに沿って 睡眠時無呼吸症候群の診療アルゴリズムによれば、現在中等症以上のOSASの標準治療は持続陽圧呼吸療法(CPAP)となる。また、肥満を併発しているOSASでは、CPAP療法以外の治療法もあわせて検討される。 OSASの治療法には、「OA(マウスピース)療法」「CPAP療法」「手術」「減量」があるが、各々の治療法で利点と課題がある。たとえばCPAP療法では、上気道の開存性の維持やAHIの低下(OSAS症状の改善)という利点がある一方で、アドヒアランス不良などの影響でOSASに対する治療効果が維持できない、CPAP療法に対する忍容性が悪い患者の存在などの課題もある。その他、CPAP療法での治療患者は年々増加している(2022年時点で73万人)、その一方で、未診断・未治療の患者も多数存在する(約943万人)と葛西氏は指摘する。 こうした診療環境の中でGIP/GLP-1受容体作動薬チルゼパチドがOSAS治療にも適応となった。チルゼパチドは、中枢神経系における食欲調節と脂肪細胞における脂質などの代謝亢進を通じて体重減少に寄与する。この体重減少作用が、「OSASの病態の根本原因の1つにアプローチする治療となる可能性がある」と葛西氏は期待を寄せる。 チルゼパチドによる治療対象は、中等症以上のOSASでBMIが27以上の患者であり、その使用では「最適使用推進ガイドライン」に沿ってさまざまな要件が必要とされる。処方に際しては2つの要件があり、施設要件として循環器内科、呼吸器内科などの標榜診療科、学会認定教育研修施設、専門医の常勤などがある。また、医師要件としては、OSASの診療に5年以上の臨床経験を有していることや日本循環器学会や日本呼吸器学会などの学会の専門医であることが要件とされている。とくに前者の要件のハードルが高く、教育研修施設など大きな医療機関での使用に限定されている。チルゼパチドは無呼吸低呼吸指数の改善と変化率、体重などを有意に低下 次に中等症から重症のOSASを有する日本人を含む国際共同第III相臨床試験(SURMOUNT-OSA試験)について説明した。この試験は、AHIが15以上のOSASを有するBMI30以上(わが国の実施医療機関ではBMI27以上)の患者を対象とし、多施設共同、無作為化、並行群間、プラセボ対照、二重盲検比較試験で行われた。 それぞれ最大耐用量(MTD)のチルゼパチド(10または15mg)を週1回投与したときのプラセボ投与に対する優越性を検討し、投与52週時点のベースラインからのAHIの低下を指標とすることを目的に、次の2つの試験を実施した。 ・GPI1試験は、気道陽圧(positive airway pressure:PAP)療法を使用できないまたは望まない患者234例(うち日本人7例)。 ・GPI2試験は、スクリーニング前に少なくとも3ヵ月連続してPAP療法を実施中であり、試験期間中にPAP療法を継続する予定の患者235例(うち日本人13例)。 方法として二重盲検下でGPI1およびGPI2試験それぞれについて1:1でチルゼパチド(10または15mg)、プラセボ群に対象を無作為に割り付けた。また、チルゼパチドの開始用量を2.5mgとして週1回4週間投与後、MTD(10または15mg)に到達するまで4週間隔で2.5mgずつ増量し52週間投与した。 主要評価項目は、AHIのベースラインから投与52週時点の変化量(件/時)を評価した。その結果、投与52週時点のAHIのベースラインからの変化量について、GPI1試験ではチルゼパチド群(114例)で-25.3、プラセボ群(120例)で-5.3、GPI2試験ではチルゼパチド群(119例)で-29.3、プラセボ群(114例)で-5.5であり、プラセボ群に対し有意に減少した。また、主な副次評価項目である投与52週時点のAHIのベースラインからの変化率について、GPI1試験ではチルゼパチド群で-50.7、プラセボ群で-3.0であり、GPI2試験ではチルゼパチド群で-58.7、プラセボ群で-2.5と、プラセボ群に対し有意に低下した。同じく投与52週時点の体重のベースラインからの変化率について、GPI1試験ではチルゼパチド群で-17.7、プラセボ群で-1.6となり、GPI2試験ではチルゼパチド群で-19.6、プラセボ群で-2.3と、プラセボ群に対し有意に低下した。 安全性については、他のSURMOUNT試験と同等の安全性が示唆され、死亡などの重篤な有害事象はなかった。主な有害事象は下痢、悪心、嘔吐の順で多く、消化器症状が多く報告されていた。 最後に葛西氏は「OSASは、心不全や脳卒中などの重篤な合併症リスクが高く、生命にかかわる治療すべき疾患であり、肥満がOSASの最大の危険因子となる。肥満を合併したOSASでは減量が重要な治療法の1つであり、チルゼパチドは、OSAS治療で重要な治療選択肢として期待できる」と展望を述べ、講演を終えた。

4.

第308回 手足口病、全国25都道県で警報レベル 東北でも感染拡大/JIHS

<先週の動き> 1.手足口病、全国25都道県で警報レベル 東北でも感染拡大/JIHS 2.千葉の豪雨で25市町に災害救助法、マイナ保険証なくても受診可能に/厚労省 3.地域ごとに「推奨薬」選定へ 地域フォーミュラリ普及を本格化/厚労省 4.チルゼパチドの薬価25%減 低価格化による不適正使用を懸念/リリー 5.MMR混合ワクチンを個別接種へ 接種率低下と感染拡大に懸念/米国 6.沢井製薬が46品目販売中止、低薬価・設備老朽化で安定供給が課題に/沢井 1.手足口病、全国25都道県で警報レベル 東北でも感染拡大/JIHS国立健康危機管理研究機構(JIHS)の感染症動向調査によると乳幼児を中心に流行する手足口病が、東北各県で高い水準となっている。青森県では8月3~9日の患者報告数が257人で、6週間ぶりに減少したものの、1定点医療機関当たり7.56人と警報基準の5人を上回った。県内6保健所管内のうち5管内が警報レベルで、青森市・東津軽では10.33人、八戸市・三戸では9.14人だった。その一方で、岩手県では同期間の患者数が415人と前週から69人増加。1定点当たり15.37人で10週連続の増加となり、警報基準の3倍を超えた。一関27.0人、中部26.5人、県央25.0人など、10管内中7管内が警報レベルとなっている。宮城県も1定点当たり10.45人と今季最多を更新し、4週連続で警報基準を超えた。同じく福島県でも9.71人と2週連続で今季最多となり、警報レベルが4週続いている。全国では7月27日~8月2日の定点当たり報告数は6.03人。2週連続で減少したものの、25都道県で警報基準を超えており、依然として広範な流行が続いている。手足口病はエンテロウイルスなどによる感染症で、多くは軽症だが、まれに脳炎などの中枢神経合併症を来す。飛沫や接触のほか便を介して感染し、症状消失後も数週間にわたり便中へウイルスが排泄されることがある。医療現場では乳幼児の発熱、口腔内病変、手足の発疹に加え、意識障害、けいれんなど重症化を示唆する症状に注意が必要である。家庭や保育施設では石けんと流水による手洗い、タオルの共用回避、おむつ交換時の排泄物処理の徹底が求められる。 参考 1) 手足口病の減少続くも、感染性胃腸炎やコロナは増転【感染症動向調査第31週:7月27日~8月2日】(Medical Tribune) 2) 青森「手足口病」感染者数減少も依然5保健所管内で警報レベル(NHK) 3) 岩手県内「手足口病」患者数さらに増加 警報基準の3倍余に(同) 4) 福島県内 「手足口病」今季最多に お盆休みの感染対策徹底を(同) 2.千葉の豪雨で25市町に災害救助法、マイナ保険証なくても受診可能に/厚労省8月13日に千葉県を中心に発生した記録的豪雨で、県内の医療機関にも浸水や停電などの被害が広がっている。厚生労働省によると、14日午前10時時点で大規模病院を含む22医療機関から被害報告があり、千葉市、柏市、八千代市などを中心に影響が確認された。内閣府は多数の住民が生命・身体に危害を受ける、またはその恐れがあるとして、千葉県の21市4町、計25市町に災害救助法を適用した。厚労省は14日、被災者の保険診療や診療報酬に関する特例措置を通知した。避難時にマイナンバーカードや資格確認書を紛失、または自宅に残した場合でも、氏名、生年月日、連絡先に加え、被用者保険では事業所名、国保・後期高齢者医療では住所などを申し立てれば保険診療を受けられる。医療機関は可能な限り保険者を確認した上でレセプト請求するが、特定できない場合も住所や事業所名、連絡先などを記載して請求できる。被災者受け入れに伴う診療報酬上の特例も適用される。許可病床数を超えて患者を受け入れても減額措置を適用せず、DPC病院も従来通り診断群分類点数表による算定が可能となる。患者急増や災害支援への職員派遣によって看護配置や夜勤時間などの施設基準が一時的に満たせなくなった場合も、一定範囲では変更届を不要とする。また、被災医療機関からの転院患者については、平均在院日数や重症度、医療・看護必要度などの算定から除外できる場合があり、ICU・HCUにやむを得ず本来の対象外患者を収容した場合も特例が設けられた。そのほか、避難所で継続的な診療が必要な通院困難患者には、条件を満たせば在宅患者訪問診療料の算定も認められる。その一方で、保団連は医療機関や介護施設、在宅人工呼吸器・酸素療法、人工透析患者への電力・水供給の早期確保、医薬品・医療材料の供給、被災者の医療費窓口負担免除などを政府に要望した。豪雨災害では直接的な外傷だけでなく、停電・断水による透析や在宅医療の継続困難、慢性疾患治療の中断も重要な課題となる。 参考 1) 令和8年8月13日からの大雨に伴う災害に係る災害救助法の適用について(内閣府) 2) 令和8年8月13日からの大雨に伴う災害の被災者に係るマイナ保険証又は資格確認書の提示等について(厚労省) 3) 千葉豪雨 県内の22の医療機関から被害報告 厚労省(テレビ朝日) 4) 千葉の大雨、死者8人に…被災者の“医療費免除”と“最大850万円の支給”を医師団体が国に緊急要望(弁護士JPニュース) 5) 2026年8月13日からの千葉県を中心とする大雨被害、保険診療受診や診療報酬算定に関する特例を適用-厚労省(Gem Med) 3.地域ごとに「推奨薬」選定へ 地域フォーミュラリ普及を本格化/厚労省厚生労働省は、地域ごとに使用を推奨する医薬品を定める「地域フォーミュラリ」の普及を本格化させる。今秋をめどに、医療関係者らを対象とした全国説明会を開き、制度への正確な理解を広げる方針。地域フォーミュラリは、高血圧、脂質異常症、胃潰瘍などの治療薬について、有効性、安全性、費用、供給状況などを踏まえ、地域で推奨する医薬品をリスト化する仕組み。院内フォーミュラリと異なり、病院だけでなく診療所や薬局も含む地域全体で運用する。医師の処方権を制限するものではなく、標準的な薬物療法の共有、後発医薬品の適正使用、医薬品の安定供給を目的とする。日本フォーミュラリ学会によると、2026年2月時点で18都道府県30地域に導入が済んでおり、31地域が準備中。大阪府八尾市ではスタチンなど10薬効群、茨城県つくば地域では14薬効群について策定している。学会も31薬効群の「モデルフォーミュラリ」を公開しており、各地域はこれを参考に独自の事情を加味して策定できる。2026年度診療報酬改定では、医科・調剤の施設基準に、地域の医療機関、薬局、関係団体と医薬品の品目情報を共有し、安定供給に向けた事前の取り決めを行うことが望ましいとの考え方が盛り込まれた。現時点では努力目標だが、国が地域フォーミュラリを政策的に後押しする姿勢が鮮明になった。厚労省は全都道府県に医師会や薬剤師会などが参画する検討会の設置を求める。普及の背景には医療費適正化に加え、後発薬の供給不安や災害対応がある。健保連は2019年、高血圧、脂質異常症、糖尿病で後発薬への切り替えが進めば、全国で年間3,100億円の薬剤費削減につながると試算している。また、地域で使用薬をある程度集約すれば、薬局の在庫負担軽減や供給途絶時の代替、災害時の備蓄・配送にも役立つ。今後は、地域の実情を反映しながら、医師の処方判断とどう両立させるかが普及の鍵となる。 参考 1) 地域フォーミュラリ、厚労省が「全国説明会」今秋、医療関係者ら向けも(MEDIFAX) 2) 高血圧・脂質異常症・胃潰瘍…地域ごとに異なる「使用が推奨される医薬品」、リスト作りを国が推進(読売新聞) 3) 報酬改定も策定を後押し、広がる地域フォーミュラリ(日経メディカル) 4.チルゼパチドの薬価25%減 低価格化による不適正使用を懸念/リリー日本イーライリリーは、2型糖尿病治療薬チルゼパチド(商品名:マンジャロ皮下注)の薬価が8月1日付で25%引き下げられたことを受け、「画期的な医薬品に対する不当に不利益な対応」とする声明を発表した。今回の引き下げは、販売額が想定を上回った医薬品の価格を調整する「持続可能性特例価格調整」の適用によるもの。厚生労働省によると、同薬の保険診療での年間販売額は1,000~1,500億円規模に達している。薬価は2.5mg製剤で1本1,443円、15mg製剤で8,658円となった。リリーは、日本の価格は従来からG7で最も低い水準にあり、今回の引き下げにより同規模の経済圏でも最低水準になるとしている。同社は低価格化により、適応外となる痩身目的での不適正使用、海外からの医療ツーリズム、利益目的の買い占めや海外転売が拡大し、本来治療を必要とする2型糖尿病患者への安定供給に影響する可能性があると警告。政府に海外転売を厳格に規制する措置を求めている。チルゼパチドは週1回投与のGIP/GLP-1受容体作動薬で、食欲を抑制する作用も有する。わが国では2023年に2型糖尿病治療薬として発売されたほか、2025年には肥満症治療薬として別製品が発売されている。その一方で、糖尿病治療用製剤を美容・ダイエット目的で自由診療に使用する例が広がっており、適応外使用に伴う健康被害や、医薬品副作用被害救済制度の対象外となる可能性も指摘される。リリーは、今回の薬価引き下げについて、研究開発や国内投資の予見可能性を損ない、将来的なドラッグラグ・ドラッグロスにつながる恐れもあると主張している。高額な革新的医薬品による医療費増大への対応と、適正使用、安定供給、創薬イノベーションをどう両立させるか、薬価政策のあり方が改めて問われている。 参考 1) マンジャロの大幅な薬価引き下げに対する声明を発表~国際競争下における日本への長期的投資の持続のために、そして患者さんがイノベーションを享受するためには、予見可能で透明性の高い政策環境が不可欠~(日本イーライリリー) 2) 糖尿病薬マンジャロ「インドより安い」 不適正使用の助長に懸念(日経新聞) 3) 英アストラゼネカCSO 革新医薬への支出「先進国で公平負担を」(同) 4) リリー、マンジャロ薬価引き下げは「不当に不利益な対応」(AnswersNews) 5.MMR混合ワクチンを個別接種へ 接種率低下と感染拡大に懸念/米国米国のトランプ大統領は8月10日、小児のワクチン接種方針を見直す大統領令に署名した。麻しん、おたふく風邪、風しんを予防するMMR混合ワクチンについて、それぞれを別の機会に接種することを推奨するとともに、すべての小児に一律で推奨するワクチンを従来の17種類から11種類に縮小する方針を示した。A型・B型肝炎、ロタウイルス、髄膜炎菌、インフルエンザ、新型コロナワクチンなどは、医師と保護者による個別判断に移行するとしている。トランプ氏はワクチン接種数の増加と自閉症との関連を示唆しているが、米国小児科学会は「数百万人を対象とした多くの研究で関連がないことが示されている」と反論し、今回の見直しを「危険で誤解を招く」と批判している。WHOも、ワクチンと自閉症との因果関係を示す証拠はなく、MMRを単独接種に分ける医学的利点を裏付ける根拠もないとしている。さらに、麻しん・風しん・おたふく風邪の単独ワクチンは現在米国内では入手ができず、分割接種には製造体制の整備が必要となる。接種回数や受診回数の増加により、接種完遂率が低下するとの懸念も強い。米国では今年、8月6日時点で麻疹患者が2,465人に達しており、専門家はワクチン忌避の拡大がさらなる流行につながる可能性を警告している。なお、接種義務の決定権は各州にあり、大統領令のみでただちに接種スケジュールや保険適用が変更されるわけではない。 参考 1) 米、混合ワクチンを個別接種に 推奨対象も削減(共同通信) 2) 「ワクチンと自閉症が関連」が持論のトランプ氏、混合ワクチンを別々に接種する方針打ち出す…感染リスク拡大の恐れ(読売新聞) 3) 米医師ら、トランプ氏の大統領令に懸念 家庭でのワクチン離れにつながるか(CNN) 6.沢井製薬が46品目販売中止、低薬価・設備老朽化で安定供給が課題に/沢井沢井製薬は、後発医薬品22成分46品目について、在庫がなくなり次第、順次販売を中止すると医療関係者に通知した。大半は安定供給体制の構築と生産効率改善を目的とした製品構成の見直しによるもので、一部は協業する日医工グループ製品などへ統合する。対象にはアテノロール、アマルエット配合錠、アルファカルシドール、エバスチン、クアゼパム、テルミサルタンOD錠、ドネペジル、ニフェジピン、フルボキサミン、ブロナンセリン、メマンチンなど、日常診療で処方される薬剤も多数含まれる。沢井製薬は各品目について代替品・代替候補品を提示している。たとえばアマルエット配合錠はアムロジピンとアトルバスタチンの単剤、セチリジンOD錠は通常錠、ドネペジル錠は同社OD錠への切り替えが候補とされている。在庫消尽時期は品目ごとに異なり、多くは2027年4月だが、プロブコールは2026年10月、ザルトプロフェンやプロピベリン20mgは同年11月、ニフェジピンカプセルは2028年3月とされる。その一方で、アテノロールやアルファカルシドール、クアゼパムなどはすでに供給停止中となっている。経過措置期間の満了は2028年3月の予定。背景には後発薬業界の構造的な供給問題がある。日本製薬団体連合会の調査では、医療上の必要性が高い2,882品目のうち255品目、約9%で将来の供給継続が困難と回答された。主因は薬価低下や製造設備の老朽化であり、なかには全身麻酔薬や注射用抗菌薬など重要薬も含まれている。臨床現場では今後、単なる銘柄変更だけでなく、剤形や規格、配合剤から単剤への変更が必要となるケースもあり、処方時には院内採用品や地域薬局の在庫状況を含めた確認が求められる。 参考 1) 販売中止品目のお知らせ(沢井製薬) 2) 沢井製薬、後発薬46品目を販売中止へ 供給安定へ製品構成見直し(日経新聞) 3) 沢井製薬が46品目、高田製薬が31品目を販売中止に(日経メディカル) 4) 重要度高い薬「供給継続できず」1割 低薬価や老朽化で、日薬連調査(日経新聞) 5) 医療用医薬品供給状況報告(厚労省)

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2型糖尿病に対するトリプルアゴニストretatrutideの効果(解説:小川大輔氏)

 2型糖尿病の治療薬としてGLP-1受容体作動薬が登場し、その後GIP受容体に対する作用を併せ持つGIP/GLP-1受容体作動薬が使用されるようになった。そしてGIP受容体、GLP-1受容体に加え、グルカゴン受容体を同時に刺激するGIP/GLP-1/グルカゴン受容体作動薬、いわゆる「トリプルアゴニスト」が開発されている。今回2型糖尿病に対するトリプルアゴニストretatrutideの第III相試験の結果が報告された1)。 食事療法と運動療法で血糖コントロール不良(HbA1c 7.0~9.5%)の2型糖尿病患者を対象に、retatrutide群(4mg、9mg、12mg)とプラセボ群に無作為に割り付け、40週間投与した。retatrutideはGLP-1受容体作動薬セマグルチドやGIP/GLP-1受容体作動薬チルゼパチドと同じく週1回投与の注射製剤である。主要エンドポイントであるベースラインから40週時のHbA1cの変化量は、プラセボ群と比較しretatrutide群で有意差を認めた(retatrutide 4mg群-0.88%、9mg群-1.04%、12mg群-1.12%)。 グルカゴンは膵臓のα細胞から分泌されるホルモンで、肝臓でのグリコーゲン分解促進、糖新生の促進、脂肪組織での脂肪分解の促進などの作用により血糖値を上げる働きをする。retatrutideのグルカゴン受容体刺激により血糖値上昇が懸念されるが、グルカゴン受容体への作用が低親和性に調整されていること、またGLP-1およびGIPによるインスリン分泌作用、食欲抑制作用および胃排泄遅延作用により実際には血糖値は上昇しない2)。またretatrutideのグルカゴン受容体への作用により、エネルギー消費量の増加、肝臓の脂肪代謝改善、中枢性の食欲抑制などにより血糖値はむしろ低下し、さらに体重減少効果もあると考えられている3)。 GLP-1とGIPの受容体に働くデュアルアゴニストのチルゼパチドは、血糖降下作用に加えて体重減少効果もあり、現在実臨床でよく使用されている。そしてGLP-1、GIPに加え、グルカゴン受容体にも働くトリプルアゴニストのretatrutideは、グルカゴン受容体の刺激が加わることで、食欲抑制やインスリン分泌だけでなく、エネルギー消費や脂肪燃焼の効果がさらに高まると考えられ、チルゼパチドよりも強力なのではないかと期待されている。現在、retatrutideをシングルアゴニストのセマグルチドと比較する試験や、腎障害のある糖尿病患者を対象とした試験が行われており、今後の報告に注目したい。

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第318回 マンジャロ問題、なぜ厚労省は“名指し”で呼びかけた?

INDEX厚労省よ、やっと本腰入れたかSNSに商品名で言及、なぜ?本当に恐ろしい副作用は…厚労省よ、やっと本腰入れたか【マンジャロは糖尿病のお薬です】マンジャロは「糖尿病」の治療を目的に承認された薬です。ダイエットなど、本来の目的以外で使用した場合、思わぬ健康被害が生じるおそれがあり危険です。医療者から薬のリスクについて十分な説明を受け、薬について正しく理解することが重要です。上記は厚生労働省(以下、厚労省)のX(旧Twitter)アカウントが6月16日に行ったポストである。同アカウントのフォロワー数は101万3,000アカウント超だが、このポストに関しては、19日午前の表示件数は1,970万1,000件以上である。同アカウントのポストの表示件数が万単位なことはごく普通だが、これだけの表示件数はきわめてまれだ。正確な分析ツールは使用していないが、同アカウントのなかでも間違いなくトップ10に入るポストだろう。この日、厚労相の上野 賢一郎氏は閣議後の記者会見冒頭で以下のように語った。「私から冒頭1点申し上げます。マンジャロ等の適正使用についてです。マンジャロは、2型糖尿病のみを効能・効果として承認されており、臨床試験ではダイエットなどの効果は証明されておらず、本来の目的以外で使用した場合、思わぬ健康被害が生じる可能性があります。お使いになる方には正しく理解して適正に使用いただくことが必要ですので、医療者の方からのリスクについての十分な説明を改めてお願いしたいと考えています。このため、本日、XなどのSNSを通じて国民の皆様向けにも改めて注意喚起を行うとともに、マンジャロ等の治療薬の適正使用を徹底するために、改めて医療機関等に通知を発出します」実際、この日、同省は都道府県・保健所設置市・特別区の衛生主管部(局)長宛の「GLP-1受容体作動薬及びGIP/GLP-1受容体作動薬の適正使用について」と各製造販売業者代表取締役社長宛の「GLP-1受容体作動薬及びGIP/GLP-1受容体作動薬の適正使用に係る対応の徹底について」という2件の通知を発出した。要は2型糖尿病や肥満症の治療目的ではなく、自由診療を通じた適応外の美容、痩身目的のGLP-1受容体作動薬関連製品の使用に対して注意喚起をした通知である。そして、この日の夜の民放のニュースではやたらと「マンジャロ」という個別商品名が飛び交う、やや異常な状態となった。SNSに商品名で言及、なぜ?もはや言うまでもないが、GLP-1受容体作動薬関連薬(以下、GLP-1製剤)では、2型糖尿病治療薬として発売された当初から美容目的の適応外使用が問題視されてきた。これまで厚労省がこの問題に関連して発出した通知は、美容目的の使用が原因の1つとみられる在庫ひっ迫や自由診療での広告規制をフックにしたもので、適正使用だけにフォーカスした通知は今回が初である。この件の適応外使用について苦々しく思っていた医療者にとっては、遅きに失した対応と受け止められていることだろう(私個人も同様である)。改めて整理すると、国内で承認されている主なGLP-1製剤は以下の表のようになる。ご存じのように体重減少に重きを置いた肥満症の適応症があるのは現在2種類のみ。成分として体重減少効果が顕著とされているのは表の上位5製品だが、美容・痩身目的の自由診療では、表にあるそれ以外のGLP-1製剤も使われている。(表)国内で承認されているGLP-1製剤画像を拡大するはっきり言って、どの製剤であっても自由診療での美容・痩身目的での使用は適応外、あえて言えば「不適切使用」である。ただ今回、厚労省がわざわざマンジャロという商品名を挙げた理由は、肥満症の適応を有する同一成分のゼップバウンドが、同じく肥満症の適応を有するウゴービより体重減少効果が高いとされ、美容・痩身目的の人たちの間では人気があり、かつマンジャロは2型糖尿病のみが適応症であることを踏まえたからと考えられる。本当に恐ろしい副作用は…さて、これらの適応外使用が問題となるのは、何よりも副作用の観点からだろう。これまた周知の通り、GLP-1製剤では悪心・嘔吐、下痢、便秘などの消化器症状の副作用発現率は大まかに言えば20~40%ほどとかなり高頻度である。多くの場合、これ自体が生命の危険には直結しないものの、実際私の周囲で使用している人(適応症に対して使用)のSNS投稿を見ても、相当苦しそうなことだけはよくわかる。そして副作用の中でもとくに問題なのは、実は頻度の低い重篤な副作用である。世界的に美容・痩身目的の使用がかなり広まっている現実を考えれば、ごくわずかな頻度の副作用でもそれ相応の発生件数を記録することになる。例を挙げると、GLP-1製剤による低血糖、膵炎が該当する。ゼップバウンド、ウゴービともに過去の臨床試験結果を見ると、軽症も含めた低血糖の発生頻度は5%未満であり、重度低血糖になると1%未満といわれている。もちろんこの数字は、2型糖尿病患者の場合には併用薬もある前提でのものなので、美容・痩身目的ならば理論上の発生頻度は相当低いはずである。ただ、保険診療下で定期的な受診をし、医師の管理下に置かれている人と自由診療で処方されてフォローアップがほぼなしという人では、この理論上の発生頻度も大きく異なってくるだろう。前者の場合は主治医が低血糖への最大限の警戒を行っているのに対し、後者はよほど危険な兆候を本人が自覚しない限り事実上野放しである。さらに言えば、美容・痩身目的の人の場合、自己判断による過度な食事制限をしている場合もあるだろう。となると、こうした人での真の低血糖発生頻度は掴めないということになる。発生頻度が1%に満たない急性膵炎でも、美容・痩身目的の人では膵臓機能自体が2型糖尿病や肥満症の人に比べ、より健康に近いと考えられるため、本来であれば、この発生頻度はほぼ無視できるかもしれない。とはいえ、肥満かつ2型糖尿病での事例ではあるが、米国ではGLP-1製剤の関与が否定できない重症急性膵炎による死亡例の報告1)もある。そして何よりも恐ろしいのは、まだ既知とはいえない副作用のリスクである。実際、そうした事例は報告されている。これも米国での報告で、2型糖尿病がない高度肥満患者に横紋筋融解症が出現した事例2)である。GLP-1製剤の中止で改善し、投与再開で症状が再出現したというもの。このため、GLP-1製剤の使用が因果関係の可能性として示唆されている。このようにしてみると、改めて美容・痩身目的の自由診療における安全管理の甘さに強い危機感を抱かざるを得ない。今回、厚労省は今までよりは一歩踏み込んだが、どれだけ注意喚起の通知を出したところで、現状では自由診療で処方する一部の医師による不適切な処方の横行を止める有効な手立てにはなっていない。「約2,000万回以上表示のポスト」というSNS上の数字の裏で、いつ深刻な健康被害が顕在化してもおかしくない薄氷の状況が続いている。今求められているのは、単なるアナウンスメントではなく、不適切な自由診療に対する実効性のある規制ではないか?厚生労働省:GLP-1受容体作動薬及びGIP/GLP-1受容体作動薬の適正使用に係る 対応の徹底について1)Dagher C, et al. Cureus. 2024;16:e69704.2)Billings SA, et al. Cureus. 2023;15:e50227.

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糖代謝異常者における循環器病の診断・予防・治療に関するコンセンサスステートメント改訂版の概要/日本糖尿病学会

 日本糖尿病学会の第69回年次学術集会(会長:下村 伊一郎氏[大阪大学大学院医学系研究科 内分泌・代謝内科学 教授])が、5月21~23日の日程で、大阪国際会議場、リーガロイヤルホテル大阪をメイン会場に開催された。 今回の学術集会は「IMAGINE いのち輝く 糖尿病の医療・医学を共に目指して」をテーマに、41のシンポジウム、143の口演、ポスターセッション、会長特別企画による講演、特別企画「糖尿病とともに生活する人々の声をきく」などが開催された。 糖尿病患者の生命予後を左右するリスクに心血管障害がある。そこで、日本糖尿病学会(JDS)と日本循環器学会(JCS)は、2017年より合同委員会を立ち上げ、臨床知見の情報交換などを行ってきた。また、2020年にはこれらを成書化した『糖代謝異常者における循環器病の診断・予防・治療に関するコンセンサスステートメント』が刊行された。今回、6年ぶりにその内容が更新されたことから、本稿ではシンポジウム14より「JDS・JCSコンセンサスステートメントについて」の概要をお届けする。前心不全の早期からの治療介入を記載 「JDS・JCS合同コンセンサスステートメント改訂のオーバービュー」をテーマにJCS側を代表し田中 敦史氏(佐賀大学医学部循環器内科)が今回の改訂のポイントを説明した。 全体の改訂としては、循環器疾患、高血圧に関連する最新の診療ガイドラインの内容を盛り込んだほか、慢性腎臓病(CKD)のセクションを新たに設け、口腔管理についても記載した。また、専門医への紹介基準や両科の連携についてもより内容を充実させている。 今回の改訂では目次は2020年の前版と変更なく、1章では「診断」、2章では「予防・治療」、3章では「紹介(連携)基準」を踏襲している。診断対象は糖代謝異常と循環器疾患(アテローム性動脈硬化性心血管疾患、心不全、不整脈)であり、循環器疾患は3つの軸で記載されている。 2章では、糖代謝異常患者の大血管障害の予防・治療に対応する非薬物療法について、ライフスタイル介入として運動療法や食事療法、禁煙指導などのほかに、今回は口腔(歯)衛生についても記載された。 同じく薬物療法では、血圧、脂質のほかに、近年エビデンスが集積してきたCKDについても1つのセクションとして取り上げた。また、糖尿病治療薬が、心血管疾患の治療や予防にどの程度寄与するのか、内容をアップデートした。そのほか、糖尿病患者の経皮的冠動脈形成術(PCI)について、どのような患者を対象にするかを記載している。 糖代謝異常患者の心不全の予防・治療、心房細動の治療についても同様に記載し、エビデンスなどアップデートしている。 3章では「紹介(連携)基準」として、今改訂ではあえて「専門医」という言葉を使わずに「診療する医師」と幅広くとらえる変更を行った。対象を広げて糖尿病、循環器疾患、それぞれを診療する医師からの紹介とした。 心不全のフローチャートについて、今回は早期に心不全のリスクを検出する目的で、BNP(35pg/mL以上)/NT-proBNP(125pg/mL以上)の数値基準を記載し、ステージA・B・C・Dで分類。とくにステージBは前心不全ということで早期介入での進行予防を、ステージCとDでは循環器専門医へ紹介するように示している。また、糖代謝異常者に対する心不全の予防および治療については、『心不全診療ガイドライン2025』(日本循環器学会/日本心不全学会)に準拠した記載に改訂されている。 高血圧では『高血圧管理・治療ガイドライン2025』(日本高血圧学会)を反映し、糖尿病患者の目標値も診察室で130/80mmHg未満、家庭(自宅)で125/75mmHg未満で新たに記載し、アンジオテンシン受容体ネプリライシン阻害薬(ARNI)、MR拮抗薬が第2段階では同列などの記載がされている。 脂質異常症へのアプローチは、基本的には糖尿病患者の高LDL-C血症、低HDL-C血症、高TG血症などの1・2次予防として薬物治療やそのエビデンスなどについて『動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022年版』(日本動脈硬化学会)から引用している。 大血管障害に対する糖尿病治療については、特定の薬剤推奨は前回版では見送りとなっていたが、その後、薬剤の個別化が欧米を中心に普及しエビデンスも蓄積されてきたことを受け、とくに2次予防のためにGLP-1受容体作動薬もしくはGIP/GLP-1受容体作動薬、ならびにSGLT2阻害薬の推奨がされている。 本ステートメントの目次は次のとおり。【I 診断】1 糖代謝異常2 循環器疾患  2-1 アテローム性動脈硬化性心血管疾患(とくに冠動脈疾患)  2-2 心不全  2-3 不整脈(心房細動と心臓突然死)【II 予防・治療】 1 糖代謝異常者における大血管障害(冠動脈疾患・末梢動脈疾患)の予防・治療  1-1 Lifestyle介入  1-2 薬物療法  1-3 糖尿病患者における冠血行再建術 2 糖代謝異常者における心不全の予防・治療  2-1 Lifestyle介入  2-2 薬物療法 3 糖代謝異常者における心房細動の治療【III 紹介(連携)基準】 1 糖尿病を診療する医師から循環器疾患を診療する医師(とくに専門医)への紹介(連携)基準 2 循環器疾患を診療する医師から糖尿病を診療する医師(とくに専門医)への紹介(連携)基準 3 循環器疾患・糖尿病を診療する両医師間で糖尿病治療について連携する場面での留意点

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J-CLEAR特別座談会(9)「GLP-1受容体作動薬、GIP/GLP-1受容体作動薬―その適正使用を巡って」

J-CLEAR特別座談会(9)「GLP-1受容体作動薬、GIP/GLP-1受容体作動薬―その適正使用を巡って」GLP-1受容体作動薬、GIP/GLP-1受容体作動薬といったインクレチン関連薬をめぐり、肥満症治療における副作用などの安全性を軽視した自由診療や個人売買が多発し、厚生労働省も注意喚起を強める事態になっています。そのため、医療者は処方が適切とされる患者像や、論文で報告されている有効性・安全性などを改めて理解・整理することが求められています。今回のJ-CLEAR特別座談会では、糖尿病専門医4名がインクレチン製剤の歴史的背景、現時点での適正使用と実処方における課題など、さまざまな問題に踏み込んだディスカッションを展開します。なお、この番組は2026年5月19日に収録したもので、当時の情報に基づく内容であることをご留意ください。GLP-1受容体作動薬、GIP/GLP-1受容体作動薬―その適正使用を巡って出演    吉岡 成人 氏NTT東日本札幌病院 院長住谷 哲 氏大阪府済生会泉尾病院 糖尿病・内分泌内科 部長小川 大輔 氏おかやま内科 糖尿病・健康長寿クリニック 院長永井 聡 氏NTT東日本札幌病院 糖尿病内分泌内科 部長オブザーバー桑島 巖 氏臨床研究適正評価教育機構 理事長

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第299回 子供の軽症時、保護者の7割が「まず医療機関」 医療費構造の認知に課題/健保連

<先週の動き> 1.子供の軽症時、保護者の7割が「まず医療機関」 医療費構造の認知に課題/健保連 2.令和5年度病院立入検査、医師・看護師・薬剤師の人員適合率が低下/厚労省 3.高額療養費見直しでパブコメ開始、2026年8月から月額上限引き上げへ/厚労省 4.病院の情報管理に警鐘、研究用PC端末と廃棄媒体から患者データ流出か/九大ほか 5.チルゼパチド製剤の不適切使用に注意喚起、違法流通にも警鐘/リリー 6.髄腔内注射後に死亡、事故調が報告書概要 混入経路は特定できず/埼玉県 1.子供の軽症時、保護者の7割が「まず医療機関」 医療費構造の認知に課題/健保連健康保険組合連合会は6月3日、全国の20~80代3,000人を対象に2026年1月に実施した「医療・介護に関する国民意識調査」の速報版を公表した。医療費・介護費の増加と支え手の減少が進む中、保険料負担を「非常に重い」「やや重い」と感じる人は62.7%に上り、健保連は保険料のさらなる引き上げには限界感があるとみている。医療保険の給付と負担のあり方では、「給付を大幅に絞り込み、負担を軽減」が15.0%、「給付を絞り込み、負担の水準を維持」が25.0%で、給付範囲の見直しを求める回答が計40.0%となった。増加する医療費を賄う方法としては、「自己負担の増加(患者本人の窓口負担)」を選んだ人が30.2%に上り、税金の引き上げまたは新設(12.0%)や保険料の引き上げ(10.8%)を上回った。ただし「わからない」が44.1%と最多で、制度や財源構造への理解不足も示された。世代間負担では、「高齢者の負担増はやむを得ない」が37.1%で、「高齢者負担増は難しく、現役世代の負担増はやむを得ない」の18.1%を大きく上回った。75歳以上でも40.0%が高齢者自身の負担増を容認していた。高齢者医療では、70~74歳の原則2割負担の対象年齢を5歳引き上げる案に賛成35.7%、反対22.5%。将来的に高齢者の窓口負担を原則3割に見直す案も賛成34.2%が反対29.9%を上回ったが、60代以上では慎重姿勢が目立った。その一方で、軽度の体調不良時の受診行動では、大人で「まず医療機関を受診する」は30.6%にとどまるのに対し、18歳未満の子どもでは69.2%に達した。自治体の子供医療費助成について、自己負担が無料でも残りの多くは保険料で賄われることを「知らない」は全体で67.1%、子育て世帯でも54.4%だった。小児の軽症受診には不安軽減という側面がある一方で、時間外受診や小児科・救急外来の負荷にもつながる。健保連は、「無償化の下でも必要性に応じた適切な受診を考えて欲しい」としている。2026年度の健保組合収支は2,890億円の赤字見通しで、約7割の組合が赤字とされる。現役世代の保険料負担、高齢者医療への拠出、子供・子育て支援金の上乗せが重なる中、制度改革には国民への丁寧な説明が欠かせない。医療現場には、単なる受診抑制ではなく、救急性の見極め、家庭での観察、市販薬の活用、適正受診を患者・家族に伝える役割が一段と求められる。 参考 1) 医療・介護に関する国民意識調査-速報版-(健保連) 2) 医療費が増加する中で「患者の窓口負担増で対応すべき」「高齢者の負担増もやむなし」と考える国民が比較的多い-健保連(Gem Med) 3) 体調不良、子ども7割すぐ受診 「無償でも適切利用を」-健保連(時事通信) 4) 健康保険組合 2026年度は「2,890億円赤字」の見通し 加盟組合の約7割が赤字 高齢者医療費への拠出増などで 健保連が集計(TBSテレビ) 2.令和5年度病院立入検査、医師・看護師・薬剤師の人員適合率が低下/厚労省厚生労働省は、2023年度の「医療法第25条に基づく病院に対する立入検査結果」を公表した。対象は全国8,138病院で、7,587病院に検査を実施。実施率は93.2%と前年度から5.4ポイント上昇し、コロナ禍前に近い水準まで回復した。検査は、病院が医療法上の人員、構造設備、管理体制を満たしているかを確認するものだ。その一方で、医療法に基づく医療従事者の標準数への適合率は、主要職種でそろって低下した。医師数は97.9%で前年度比0.4ポイント減、看護師・准看護師数は99.4%で0.1ポイント減、薬剤師数は97.7%で0.4ポイント減だった。医師数では、北海道・東北が94.2%、北陸・甲信越が97.1%と低く、東海99.0%、近畿99.6%との差が目立った。病床規模別では、20~49床の一般病院で医師95.3%、看護師など98.1%、薬剤師93.9%と、小規模病院ほど人材確保の厳しさが示された。医師と看護師などの双方が標準数を満たした病院は全体の97.0%で、前年度の97.5%から低下。医師のみ不足する病院は155施設、看護師などのみ不足する病院は65施設、双方不足は5施設だった。薬剤師は中国地方95.2%、九州96.2%などで低く、病院薬剤師不足の地域差も浮き彫りとなった。管理面では、最も適合率が低かった項目が「サイバーセキュリティの確保」の91.1%だった。次いで職員の健康管理92.1%、医療法許可事項の変更92.7%が低かった。医療情報システムへの攻撃が診療継続を脅かす中、サイバー対策は医療安全上の重要課題として、立入検査でも確認が強まっている。人員不足と情報セキュリティの遅れは、地域医療提供体制と病院運営の持続性に直結する論点となる。人員適合率は医師の働き方改革、地域医療構想、薬剤師確保計画とも重なる課題として、各病院には自院だけでなく地域単位での人材配置と安全管理の再点検が求められる。 参考 1) 医療法第25条に基づく病院に対する立入検査結果について[令和5年度](厚労省) 2) 医療法に基づく人員の適合率、医師、看護職員、薬剤師とも低下-23年度病院立入検査(日本医事新報) 3) 病院の医師配置適合率は97.9%、看護師等は99.4%に低下、サイバーセキュリティ確保が遅れている-2023年度立入検査結果(Gem Med) 3.高額療養費見直しでパブコメ開始、2026年8月から月額上限引き上げへ/厚労省厚生労働省は6月6日、高額療養費制度の見直しに伴う健康保険法施行令等の改正案について、パブリック・コメントの募集を開始した。意見提出の期限は7月6日で、政令案と省令案の双方が対象となる。改正案は、2026年8月から月額負担上限額を1人当たり医療費の伸びに応じて見直し、2027年8月からは応能負担の観点で所得区分を細分化する内容で、公布は2026年7月、施行は同年8月1日を予定している。高額療養費制度は、重い疾病や高額な治療を受ける患者にとって、医療費負担を一定範囲に抑える公的医療保険の中核的なセーフティネットである。今回の見直しでは、低所得者や長期療養者への配慮として、多数回該当の限度額は原則維持し、年収約200万円未満の課税世帯では2027年8月から引き下げる。また、2026年8月から新たに年間上限を設け、長期にわたり継続治療を受ける患者への負担軽減を図るとしている。見直しを巡っては、2025年3月に当時の石破 茂首相がいったん実施見合わせを表明し、その後、社会保障審議会医療保険部会の専門委員会で患者団体、保険者、医療者、有識者へのヒアリングを重ねてきた経緯がある。その一方で、患者団体や保険医協会からは、月額上限の引き上げが治療継続や生活に与える影響を懸念する声が出ている。全国がん患者団体連合会と日本難病・疾病団体協議会の共同声明は、制度の一定の見直し自体には理解を示しつつ、月ごとの限度額については十分に抑制されていないと指摘している。例として、70歳未満で年収約650~770万円の区分では、現行の月額8万100円に医療費超過分の1%を加える水準から、見直し案では11万400円となり、37%増になるとしている。医療現場では、高額薬剤、がん治療、難病治療、透析、免疫疾患治療など、継続的に高額医療を必要とする患者への説明が重要になる。制度変更は、単なる「上限額の引き上げ」にとどまらず、月額負担、多数回該当、年間上限、所得区分の変更を組み合わせて患者ごとの実負担が変わる点に注意が必要となる。受診抑制や治療中断を避けるため、医療機関には、医療ソーシャルワーカーや医事課と連携し、限度額適用認定証、付加給付、自治体制度、分割払い相談などを含めた支援体制の再確認が求められる。 参考 1) 健康保険法施行令等の一部を改正する政令案に関するご意見の募集について(厚労省) 2) 健康保険法施行規則等の一部を改正する省令案に関するご意見の募集について(同) 3) 高額療養費見直し、厚労省が意見募集 7月5日まで(CB news) 4) 今年8月からの高額療養費「値上げ」 厚労省が意見募集開始(保団連) 5) 【募集】高額療養費制度の見直しについてのパブリック・コメント(日本難病・疾病団体協議会) 4.病院の情報管理に警鐘、研究用PC端末と廃棄媒体から患者データ流出か/九大ほか九州大学は6月10日、九州大学病院の患者43人分の氏名と手術動画データが外部に流出した可能性が否定できないと発表した。病院キャンパス内の研究室が管理する研究用端末1台が5月25日に不正アクセスを受け、ランサムウェアに感染したとみられる。教員が端末を起動した際、金銭を求める脅迫文が表示され、大学は直ちにネットワークから遮断した。端末は診療用ネットワークとは分離されており、電子カルテや診療業務への影響は確認されていない。情報の公開や悪用も現時点では確認されておらず、対象患者には個別に連絡し、謝罪している。大学では福岡県警とも連携し、侵入経路や被害範囲を調査する。その一方で、国立病院機構は6月8日、北海道医療センターと北海道がんセンターで廃棄処理を委託したハードディスクがインターネットオークションに転売され、患者や職員の個人情報が流出した可能性があると発表した。回収した90点のうち、31点が北海道医療センター、2点が北海道がんセンターで電子カルテシステムなどに使われていた。少なくとも約18万6,900人分、最大で約51万人分の氏名、住所、疾患名などが含まれる可能性がある。現時点で不正利用は確認されていないが、同機構は処分を受託した石狩市の産業廃棄物処理業者を廃棄物処理法違反の疑いで刑事告発した。2つの事案は、医療情報の漏えいリスクが電子カルテ本体へのサイバー攻撃だけではないことを示す。研究室端末に保存された手術動画、廃棄予定媒体に残った電子カルテ情報のいずれも、診療・研究・教育・廃棄の周辺工程で発生した。医療機関には、端末のアクセス管理、研究データの匿名化、ネットワーク分離、外部記録媒体の暗号化、廃棄時の物理破壊確認、委託先監査まで含めた情報管理体制の再点検が求められる。 参考 1) 九州大学 病院の患者データ 外部流出の可能性否定できない(NHK) 2) 手術動画流出の可能性、九大病院患者43人分 ランサムウェア感染か(朝日新聞) 3) 不正アクセスで手術動画データなど流出か 九州大病院 診療業務は通常通り(CB news) 4) 北海道がんセンターなどの患者情報が流出、最大51万人分…処分予定のHDDがネットオークションに転売(読売新聞) 5.チルゼパチド製剤の不適切使用に注意喚起、違法流通にも警鐘/リリー日本イーライリリーは6月10日、2型糖尿病治療薬チルゼパチド(商品名:マンジャロ)の不適切使用に関する声明を公表した。SNSや広告で、美容・痩身・ダイエット目的の使用を推奨していると受け取れる情報が拡散し、さらに許可なく同薬を売買した疑いで男女3人が書類送検されたことを受けた対応。上野 賢一郎厚生労働大臣も、個人間売買は違法であり、適応外使用では思わぬ副作用につながる可能性があるとして、適正使用を呼びかけている。同社は、「国内で承認されているチルゼパチドの効能・効果は『2型糖尿病』のみであり、医師の診断、管理、指導のもと、電子添付文書に則って使用される処方箋医薬品だ」と強調した。2型糖尿病以外の人が美容目的などで使用した場合の有効性・安全性は医学的に確認されていない。また、医薬品を許可なく個人間で売買・転売する行為は薬機法違反であり、管理されていない流通経路で入手した製品は品質や安全性が担保されず、本来の効果が得られないだけでなく、重篤な健康被害を招くリスクがあると警告した。その一方で、同一成分のチルゼパチド製剤には、肥満症治療薬「ゼップバウンド」もある。ただし、対象は高血圧、脂質異常症、耐糖能障害などを伴い、食事療法・運動療法で十分な効果が得られない肥満症患者などに限られ、単なる美容目的の減量とは異なる。医師による客観的診断と適切な処方プロセスが前提となる。報道では、使用済み注射針の不適切廃棄も問題化している。公共トイレなどへの投棄は清掃員らの針刺し事故や血液媒介感染のリスクにつながる。医療機関には、適応、禁忌、副作用説明に加え、入手経路や廃棄方法まで含めた患者教育が求められる。GIP/GLP-1受容体作動薬の需要が急拡大する中、適正使用、違法流通対策、供給管理は、糖尿病診療と肥満症治療の信頼性を守る医療安全上の課題となっている。 参考 1) 当社製品の適正使用に関する取り組み(日本イーライリリー) 2) 美容目的「マンジャロ」使用、製造元日本法人が警告 不適切使用や違法売買「容認できず」(J-CASTニュース) 3) 2型糖尿病治療薬「マンジャロ」の適正使用を推進 日本イーライリリーが不適切使用や違法転売に注意喚起(糖尿病ネットワーク) 4) 「マンジャロ注射針」不法投棄が横行で感染リスクへの懸念も…東京メトロが明かした“針刺し事故”の実例(女性自身) 6.髄腔内注射後に死亡、事故調が報告書概要 混入経路は特定できず/埼玉県埼玉県立小児医療センターは6月12日、白血病患者が抗がん剤の髄腔内注射後に神経症状を発症し、1人が死亡、2人が重体となった問題で、医療事故調査委員会の報告書概要を公表した。センターでは2025年1~10月、髄腔内化学療法を受けた患者5人に発熱、四肢疼痛、意識障害、呼吸障害などの神経症状が出現。死亡した10代男性を含む一部症例の保存髄液から、髄腔内に投与されるはずのない抗がん剤ビンクリスチンが検出された。委員会は、ビンクリスチンが通常の静脈内投与で中枢神経系へ移行する可能性は限定的であることなどから、「髄注薬に混入した状態で投与された可能性が極めて高い」と判断した。その一方で、混入経路を直接示す客観的証拠は確認されず、具体的な工程の特定には至らなかった。搬送、病棟保管、投与の各工程では、専用接続部品が注射筒に装着されていたことなどから、混入は極めて考えにくいと評価した。焦点となったのは無菌調製室での薬剤調製工程だ。報告書は、髄注薬とビンクリスチンが同じ空間に存在し得る運用で、空間的・時間的分離が十分とは言えなかったと指摘。調製完了時刻を客観的に確認できる記録や映像記録がなく、複数名によるリアルタイムの相互確認体制も整備されていなかったため、「調製時に混入した可能性を否定できない」と結論付けた。再発防止策として、髄注薬とビンカアルカロイド系抗がん剤の空間的・時間的分離、薬剤師2人によるダブルチェック、在庫・廃棄管理の強化、監視カメラ設置、マニュアル改定、投与前確認や廃棄工程の標準化、シリンジ払い出し廃止とミニバッグ化、定期監査、継続的な安全教育の9項目を提言した。センターは現在、髄腔内化学療法を中止しており、岡 明病院長は「まずは再発防止策を徹底して安全確保を図る」と述べ、再開時期は県や保健所と協議して検討する考えを示している。 参考 1) 使われるはずない薬「調製時混入の可能性」 埼玉・小児医療センター(朝日新聞) 2) 劇薬管理強化へ9項目 事故調報告書 小児医療センター(毎日新聞) 3) 埼玉の病院の医療死亡事故、調査報告「調剤時の混入否定できず」(日経新聞)

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第298回 医学部地域枠「9年勤務」の運用緩和へ、留学・子育てに配慮/厚労省

<先週の動き> 1.医学部地域枠「9年勤務」の運用緩和へ、留学・子育てに配慮/厚労省 2.「やせ薬」目的で拡散するマンジャロ、個人売買の監視強化/厚労省 3.外来医師過多区域で新規開業対応を強化、9医療圏を候補に提示/厚労省 4.出生率1.14で過去最低、周産期・小児医療の集約化議論へ/厚労省 5.外科医への退職強要で大津市民病院側に100万円支払い命令/大津地裁 6.私物PCとクラウド利用に警鐘、患者情報1,365件漏えいの可能性/藤田医大 1.医学部地域枠「9年勤務」の運用緩和へ、留学・子育てに配慮/厚労省厚生労働省は、医学部入試の「地域枠」について、卒業後に特定地域で原則9年以上勤務する現在の運用を見直す検討に入った。地域枠は、一般入試とは別に定員を設け、奨学金の貸与と引き換えに、卒後一定期間、都道府県知事が指定する医療機関などで勤務する仕組み。2025年度は医学部定員9,393人のうち1,847人と約2割をこの地域枠の学生が占めた。医師偏在対策の柱の1つだが、若手医師の20~30歳代は、専門医取得、海外留学、結婚・出産・育児、家族介護などの時期と重なる。10~18年度に地域枠で入学した4,917人のうち、入学時の条件を満たさなかった人は301人。その理由としては「個人的な理由」が最多だった。厚労省は有識者検討会で議論を進め、留学や専門医資格取得のための猶予期間、一時中断の柔軟化などを検討し、年内の取りまとめを目指す。地域枠をめぐっては、都道府県ごとの運用差も課題となっている。育児休業による中断は全都道府県で認められている一方で、留学は35、介護は31都道府県にとどまる。高知大学のように、臨床研修後の残り7年間を15年間のうちに終えればよいとする柔軟な制度や、自治医科大学のように卒業生同士の結婚に配慮し、一定条件で配偶者の出身都道府県勤務を認める例もある。山梨県では、県内勤務を条件に修学資金返還を免除する制度について、条件を満たさない場合に最大約842万円を求める違約金条項を廃止する方針が示された。同条項をめぐっては、消費者機構日本が差し止めを求め、甲府地裁が今年1月に「平均的な損害を超え不当」として差し止めを命じていた。県は控訴していたが、制度を見直し、県による面接、在学中の地域医療実習、勤務年数に応じた段階的な返還免除、貸与額の引き上げなどを導入する。地域医療を支える制度の実効性を保ちつつ、18歳時点の選択で30代までのキャリアを過度に拘束しない制度設計が問われている。 参考 1) 医師の「地域枠9年」緩和 厚労省検討 医学部入試 留学・子育てに配慮(日経新聞) 2) 山梨県 医師確保のための「地域枠」制度 違約金条項を廃止へ(NHK) 3) 山梨県が医学部の修学資金制度を見直し、「違約金」を廃止(朝日新聞) 4) 山梨、医師修学資金貸与の違約金を廃止 裁判踏まえ見直し(毎日新聞) 2.「やせ薬」目的で拡散するマンジャロ、個人売買の監視強化/厚労省糖尿病治療薬チルゼパチド(商品名:マンジャロ)をダイエット目的で使用したり、SNSで個人間売買したりする動きが広がっているとして、厚生労働省が注意喚起と監視を強化する。上野 賢一郎厚生労働大臣は6月5日の閣議後の会見で、「マンジャロを個人間で売買することは違法」と明言。都道府県など関係機関と連携し、SNSを含むネットパトロールを強化し、法違反には厳正に対処する考えを示した。マンジャロは米・イーライリリーが開発したGIP/GLP-1受容体作動薬で、国内では2型糖尿病において効能・効果で承認され、医師の処方のもとで使用されている。その一方で、食欲を抑える作用が注目され、美容・ダイエット目的での使用を勧めるSNS投稿や美容クリニックの広告が拡散している。上野厚労相は「糖尿病治療以外で使用した場合の安全性、有効性は確認されていない。思わぬ副作用につながる可能性も否定できない」と述べ、適正使用を呼びかけた。6月2日には、大阪府警がマンジャロをSNS経由で無許可販売したなどとして、大阪府・奈良県の20~30代の男女3人を医薬品医療機器法(薬機法)違反の疑いで書類送検した。薬機法は、許可を受けていない者が業として医薬品を販売することを禁じており、違反すれば3年以下の拘禁刑または300万円以下の罰金の対象となる。処方箋医薬品であるマンジャロは、許可業者であっても処方箋なしには販売できない。また、販売目的で保管する「貯蔵」も処罰対象となり得る。購入しただけの人を直接処罰する規定はないとされるが、余った薬を友人に有償で譲ったり、SNSで転売したりすれば無許可販売に問われる可能性がある。さらに、正規ルート外で入手した医薬品は偽造品や不適切な温度管理のリスクがあり、重い副作用が出ても医薬品副作用被害救済制度の対象外となる。医療者には、マンジャロが単なる「やせ薬」ではなく糖尿病治療薬であることを患者に説明し、安易な個人売買や自己判断での使用を避けるよう啓発する姿勢が求められる。 参考 1) マンジャロ個人間売買、厚労相「法違反は厳正に対処」 注意喚起強化(朝日新聞) 2) 糖尿病治療薬「マンジャロ」上野厚労相が適正な使用を呼びかけ(NHK) 3) 厚労相「法違反、厳正に対処」 マンジャロ個人売買の横行受け(毎日新聞) 4) 「やせ薬」危険な個人売買 糖尿病薬「マンジャロ」取引横行 許可なくSNSで販売疑い異例の立件(同) 5) マンジャロ無許可販売で書類送検、買う側には「罰則なし」? それでも弁護士が購入を勧めないワケ(弁護士ドットコム) 3.外来医師過多区域で新規開業対応を強化、9医療圏を候補に提示/厚労省厚生労働省は、2027年度から始まる第8次医療計画後期に向け、「外来医療に係る医療提供体制の確保に関するガイドライン」を都道府県に通知した。今回の見直しは、都市部など診療所医師が集中する地域で新規開業への対応を強める一方で、医師不足地域では診療所の承継・開業支援を進めるもので、外来医療における偏在策が具体化しつつある。ガイドラインでは、外来医師偏在指標と可住地面積当たり診療所数を基に、とくに外来医師が多い「外来医師過多区域」の候補として、東京・区中央部、区西部、区西南部、区南部、区西北部、京都・乙訓、大阪市、福岡・糸島、神戸の9つの2次医療圏を提示した。外来医師過多区域では、無床診療所の新規開設希望者に対し、原則として開設6ヵ月前までの事前届出を求める。届出では、夜間・休日の初期救急、在宅医療、発熱外来、学校医・予防接種、警察医会への協力など、地域で不足する医療機能を担う意向の有無や内容を示す必要がある。要請や勧告に従わない場合には、内容の公表に加え、保険医療機関の指定期間を通常より短縮する対応も想定される。その一方で、制度は一律の開業抑制ではない。親の死亡に伴う急な診療所承継や、自治体の求めに応じて地域外来医療を担う場合などは、事前届出の猶予・免除の対象となり得る。また、診療所の全医師が育児や介護で夜間・休日対応ができない場合など、地域で不足する医療機能を担えない「やむを得ない事情」も例示された。医師不足地域では、国と都道府県による診療所の承継・開業支援が始まっている。2024年度補正予算で102億円、2026年度当初予算で20億円が措置され、施設整備、医療機器購入、職員給与や材料費などの運営経費を支援する。青森県では県内全6つの2次医療圏を重点医師偏在対策支援区域に定め、2025年度に19診療所が交付対象となった。承継10施設、新規開業9施設で、内科に加え産科や小児科の開業も含まれた。県内診療所数の減少幅は緩やかになっており、県や医師会からは支援事業を評価する声が出ている。外来医療の偏在対策は、開業の自由と地域に必要な医療機能の確保をどう両立させるかが焦点となる。都市部では新規開業医に地域で不足する医療機能への協力を求め、医師不足地域では経済的支援で承継・開業を後押しする「要請と支援」の両輪が動き出した。今後は、地域医療構想、かかりつけ医機能報告、外来機能報告のデータを活用しつつ、長期的な財源確保と、地域ごとの実効性ある協議が問われる。 参考 1) 外来医療に係る医療提供体制の確保に関するガイドライン~第8次(後期)~」について(厚労省) 2) 開業規制の医師過多区域、5都府県の9圏域候補 国がガイドラインで示す(CB news) 3) 第8次後期外来医療計画のGLを通知、外来医師過多区域の取り組みを記載-厚労省(日本医事新報) 4) 第8次後期の外来計画でGL 過多区域の「特例」示す(MEDIFAX) 5) 重点区域の診療所支援、偏在是正に一定の効果 「長期的な財源確保」を(同) 4.出生率1.14で過去最低、周産期・小児医療の集約化議論へ/厚労省厚生労働省が公表した2025年人口動態統計(概数)で、わが国の出生数は前年比1万4,937人減の67万1,236人となり、10年連続で過去最少を更新した。合計特殊出生率は1.14で、3年連続の過去最低となった。出生数の減少率は2.2%と、近年の5%台からは縮小したが、死亡数158万9,489人との差である自然減は91万8,253人に達し、19年連続の人口減少となった。婚姻件数は48万9,119組で2年連続増加したが、この10年では14万組余り減っており、少子化の基調は変わっていない。都道府県別の出生率は、沖縄1.52、宮崎1.46、福井1.45が高く、東京0.96、北海道・宮城1.00と低かった。関東以北で低く、西日本で高い「西高東低」の傾向がみられた。この背景には、所得・雇用の不安定さ、出会いの少なさ、子育て費用、仕事と育児の両立困難、固定的な性別役割分担意識の地域差など、複数の要因が絡むとされる。政府は児童手当の拡充、子供誰でも通園制度、育児休業給付の充実、出産費用無償化などを進めるが、尾崎 正直官房副長官は「少子化に歯止めがかかっていない」との認識を示している。医療現場への影響はすでに顕在化している。国内の分娩取扱施設は2006年の3,098施設から2025年には1,856施設へ約4割減少し、診療所は初めて1,000施設を下回った。埼玉県本庄市では地域最後の分娩施設が少子化による経営難などを理由に分娩を休止し、妊婦健診は地域診療所、分娩は近隣施設で担うセミオープン型へ移行した。小児医療でも、低出生体重児や小児外科症例の減少により、NICU・GCUの空床、専門医・指導医育成の症例確保、こども病院の赤字が課題となっている。NICUは出生1万人当たり46.2床と、かつての整備目標を大きく上回る一方で、GCUの病床利用率が50%未満の地域周産期母子医療センターも多い。第9次医療計画に向けて、国は周産期・小児医療の病床数見直し、集約化、都道府県を越えた広域連携の検討を始める。少子化は単なる人口政策ではなく、分娩、小児救急、NICU、小児外科、思春期医療まで含む医療提供体制の再編問題である。安全性を維持しながら、患者・家族の移動負担や地域アクセスをどう支えるかが、今後の医療政策の焦点となる。 参考 1) 人口動態統計月報(概数)(令和7(2025)年12月分(年計を含む))(厚労省) 2) 13県で出生率上昇も…少子化に歯止めかからず 対策の拡充不可避 令和7年人口動態統計(産経新聞) 3) 出生率1・14、過去最低を更新 出生数は最少の67万人 令和7年人口動態統計(同) 4) 閉じる分娩施設、減る小児の症例数 世界最高水準を誇る医療の未来は(朝日新聞) 5) 少子化で経営成り立たず 地域最後のお産休止、空床増えるこども病院(同) 6) 去年の出生数67万人 過去最少 少子化対策ポイントは(NHK) 5.外科医への退職強要で大津市民病院側に100万円支払い命令/大津地裁大津市立大津市民病院に勤務していた外科医3人が、業績不振を理由に退職を強要され、パワーハラスメントを受けたとして、病院を運営する地方独立行政法人や前理事長、前院長に慰謝料や未払い退職金など計約2,900万円の支払いを求めた訴訟で、大津地裁は6月5日、原告のうち1人に対する退職強要を認め、病院側に慰謝料100万円の支払いを命じた。パワハラについては3人とも認めず、残る2人への退職強要も否定した。判決によると、前理事長らは2021年4~9月、外科などの業績不振を理由に「改善の兆しが見えないということで決断せざるを得ない」などと発言。同年9月の面談では、元副院長に対し、「外科の医師には退職してもらい、別の大学のチームに来てもらうよう頼む」趣旨の発言をした。田野倉 真也裁判官は、外科の経営低迷が元副院長らの責任とは認められないにもかかわらず、退職を求めた言動は「社会通念上相当と認められる退職勧奨の範囲を超えた」と判断。自由な退職意思の形成を妨げる退職強要に当たるとして、精神的苦痛と退職を余儀なくされたことへの慰謝料を認めた。その一方で、残る2人の医師については、問題となった面談に出席しておらず、前理事長らの意向を元副院長から伝えられたに過ぎないとして、退職を強要されたとは評価できないとした。また、原告側が主張したパワハラについても、3人いずれについても認定しなかった。前理事長が元副院長に対して名誉毀損を理由に550万円を求めた反訴も棄却された。今回の判決は、病院経営の改善や診療科再編を理由とする人事対応であっても、特定医師に退職を既定方針として繰り返し伝える行為は、適法な退職勧奨の範囲を超え得ることを示した。医師不足や経営悪化を背景に診療体制の見直しを迫られる医療機関では、業績評価の根拠、面談記録、本人の自由意思の確保、配置転換や業務改善の選択肢提示など、手続きの透明性が一層問われる。 参考 1) 大津市民病院の損賠訴訟 退職強要認め100万円支払命令 地裁判決(産経新聞) 2) 「退職の決定」何度も通知するパワハラ…市立病院側に医師1人に100万円の支払い命じる判決(読売新聞) 3) 大津市民病院の前理事長ら、医師に退職強要 100万円の損害賠償支払い命令、大津地裁(中日新聞) 6.私物PCとクラウド利用に警鐘、患者情報1,365件漏えいの可能性/藤田医大藤田医科大学病院は、6月3日に看護師の私物パソコン(PC)に保存されていた患者情報1,365件が外部に漏えいした可能性があると発表した。対象は、末期腎不全、腹膜透析、腎代替療法指導を受けた一部患者で、氏名、性別、生年月日、患者ID、病名、転帰、入退院日、検査データなどが含まれる。現時点で不正利用は確認されていないが、病院は対象患者への謝罪と経過報告、相談窓口の設置、全職員研修、個人情報の取扱実態調査を進める。今回の事案で注目すべきは、病院本体の電子カルテが直接侵害されたのではなく、職員が規定に反して患者情報を私物PCに保存し、自宅でサポート詐欺型の不正侵入を受けた点である。看護師は学会発表資料の作成などを目的に、2020年ごろからクラウドを介して患者情報を私物PCと共有していた。5月25日、自宅でウェブサイトを閲覧中に偽の警告画面が表示され、表示された連絡先やURLに応じた結果、第三者による遠隔操作を受けたとみられる。その後、ウイルス駆除名目の金銭請求、身に覚えのないクレジット請求、携帯電話アカウント変更通知などがあり、専門業者からサポート詐欺と情報漏えいの可能性を指摘された。医療機関のサイバー対策は、ランサムウェア対策のみを想定すれば足りる段階ではなくなっている。偽警告、遠隔操作、クラウド同期、私物端末、学会・研究用データの持ち出しが組み合わされば、重大な個人情報漏えいにつながる。とくに、匿名化が不十分な症例リストや検査データ、紹介状、退院サマリーを、発表準備や在宅作業のために個人端末へ移す運用は、診療所でも起こり得る。厚生労働省は5月29日に開かれた「医療等情報利活用ワーキンググループ」で示した「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン第7.0版(案)」は、病院だけでなく、一般診療所、歯科診療所、薬局、訪問看護ステーション、介護事業者も対象とする。医療情報を保存するシステムに限らず、医療情報を扱う情報システム全般が対象であり、私物PCやクラウド利用も管理外ではなくなっている。さらに令和8年度版チェックリスト案では、二要素認証、パスワード要件、端末・サーバ・ネットワーク機器の台帳管理、アクセス権限管理、USBなど外部記録媒体の制限、不要ソフトの停止、インシデント時の連絡体制、サイバー攻撃を想定した事業継続計画(BCP)の策定が重視されている。まず、クリニックなどでも「患者情報をどの端末、クラウド、USB、メールに置いているか」を確認し、私物PC端末への保存禁止、学会・研究用データの匿名化手順、クラウド共有の承認制、偽警告が出た際に電話しない・URLを開かないなどのセキュリティ教育が必要となる。サイバー対策はもはや医療情報システム部門だけの課題ではなく、診療情報の持ち出しルールと緊急時対応を明文化するなど、医療機関の経営者にとって重要な課題になっている。 参考 1) 個人情報漏洩に関するご報告とお詫び(藤田医科大病院) 2) 第32回 健康・医療・介護情報利活用検討会 医療等情報利活用ワーキンググループ(厚労省) 3) 患者情報1,365件漏えいか 藤田医科大病院 相談窓口設置へ(読売新聞) 4) 藤田医科大病院で1,300件超の患者情報漏えい 私物PCでサポート詐欺被害(CB news) 5) 藤田医大病院 私用パソコンに保存 患者の個人情報流出か(NHK)

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Orforglipronは抗肥満薬として2型糖尿病を合併した肥満症に対して有効である(解説:住谷哲氏)

 GLP-1はG蛋白質共役受容体(G-protein coupled receptor:GPCR)の1つであるGLP-1受容体に結合して細胞内にシグナルを伝達するが、そのシグナルにはGタンパク質依存的シグナルとβアレスチン(arrestin)依存的シグナルとがある。前者はcAMPなどのセカンドメッセンジャーを介して細胞内Ca濃度を上昇させることでGLP-1作用を発揮する。後者は従来GLP-1受容体の脱感作を誘導すると考えられてきたが、近年その他の多様な細胞内シグナル伝達を担っていることが明らかになりつつある。 本試験で用いられたorforglipronは、もともと中外製薬で中分子医薬品として創薬されたOWL833が2018年にEli Lillyに導出されて臨床開発が継続されてきた薬剤であり、GLP-1受容体に結合してGタンパク質依存的シグナルのみを活性化しβアレスチン依存的シグナルを活性化しないことが知られている。このようにGPCRを介したGタンパク質依存的シグナルとβアレスチン依存的シグナルとを選択的に活性化させる分子はバイアスドリガンド(biased ligand)と呼ばれる1)。 本試験はorforglipronの体重減少効果を主要評価項目として、2型糖尿病を合併した肥満患者を対象として実施された。結果は、36mgの投与による72週後の体重変化量は-9.6%であった。これはATTAIN-1で示された2型糖尿病を合併しない肥満患者における体重変化量の-11.2%と比較するとやや小さかった2)。参考までにこれまで報告されているGLP-1受容体作動薬の体重減少効果については、リラグルチド3mgの-6.0%、セマグルチド2.4mgの-9.6%、チルゼパチド15mgの-14.7%、経口セマグルチド14mgの-4.7%、同25mgの-7.3%と比較するとセマグルチド2.4mgとほぼ同等の体重減少効果が認められたことになる。 現在わが国では、GLP-1受容体作動薬のセマグルチドとGIP/GLP-1受容体作動薬のチルゼパチドが抗肥満薬として承認されているが、いずれも注射薬である。一方で、米国FDAは経口セマグルチド25mgを昨年12月に抗肥満薬として承認して、本年より発売開始予定である。経口セマグルチドはペプチドホルモンであるためバイオアベイラビリティが低く、服薬方法にかなりの制約があるのが難点であるが、orforglipronはその問題点をクリアしている。したがって、服薬アドヒアランスの点ではorforglipronに一日の長があるといえよう。いずれにせよ熾烈な抗肥満薬開発競争は、まだまだ続きそうである。

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炭酸脱水酵素阻害薬は睡眠時無呼吸症候群を改善(解説:山口佳寿博氏/田中希宇人氏)

本邦における閉塞性睡眠時無呼吸症候群の疫学と治療の現状 本邦における閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSA:Obstructive Sleep Apnea)の人口当たりの発症頻度は男性で3~7%(40~60代に多発)、女性で2~5%(閉経後に多発)と報告されており、男女合わせて500万例以上、総人口の約4%にOSA患者が存在すると考えられている。本邦における成人OSAに対する有効な治療法としては経鼻/経口の持続陽圧呼吸(CPAP:Continuous Positive Airway Pressure)が中心的位置を占める。CPAP不適あるいは不認容の非肥満(BMI<30kg/m2)患者に対する植込み型舌下神経(XII神経)電気刺激も有効な方法である。その他、比較的軽症のOSA患者に対するマウスピースや特殊な原因に対する耳鼻科的・口腔外科的手術/処置が有効な場合もある。いずれにしろ、OSA患者に施行されている治療はCPAPに代表される機械的治療が中心であり、現在のところ、有効性が確認され、かつ、保険適用を受けた薬物治療は存在しない。 本邦におけるOSA患者に対するCPAPの導入率はCPAP必要患者の15%前後と低く、米国の70%を大きく下回っている。その意味で、本邦におけるOSA患者に対する治療は不十分であり、OSAを“扇の要”として関連する種々の疾患(病的肥満、糖尿病、治療抵抗性高血圧、冠動脈疾患、心房細動、心不全、脳卒中、大動脈解離、認知症など)の管理に少なからず影響を与えている(OSAを頂点とするMetabolic Domino現象)。さらに、OSA患者では明確な機序不明であるがメラノーマ、腎臓がん、膵臓がんなどの悪性腫瘍の発生率が高いことも注意すべき事項の1つである。以上の諸点を鑑みると、今回論評の対象としたRanderath氏らの論文で明らかにされた内服の炭酸脱水酵素(CA:Carbonic Anhydrase)阻害薬のOSA抑制効果は近未来のOSAに対する治療を質的に変化させる可能性がある。抗糖尿病薬GIP/GLP-1受容体作動薬であるチルゼパチド(商品名:マンジャロ)もOSAを改善することが報告されている(Malhotra A, et al. N Engl J Med. 2024;391:1193-1205.)。しかしながら、チルゼパチドは、あくまでも肥満の軽減を介して2次的に無呼吸頻度を低下させるものであり、OSA自体を1次的に改善させるものではない。それ故、チルゼパチドは今回の論評には含めない。 睡眠時無呼吸症候群(SAS:Sleep Apnea Syndrome)には中枢性のもの(CSA:Central Sleep Apnea)も存在するが、その頻度はOSAに比べ有意に低いこと(SAS全体の10%以下)、発症機序に不明な点が多いことなどから本論評においては詳細な評価を割愛した。炭酸脱水酵素(CA)と睡眠時無呼吸の関係 CAは生体細胞に広く分布し、細胞内代謝の結果として産生されるCO2とH2Oとの反応を触媒しH2CO3を産生する。H2CO3はH+とHCO3ーに自然解離し、HCO3ーはクロライド・シフトを介して細胞外に排出、H+は細胞内の蛋白に吸着され細胞内pHは一定に維持される(生理的pH下ではγ-グロブリン以外の蛋白は陰イオンとして存在しH+と結合)。生体には臓器特異的に15~16種類に及ぶCAのアイソザイムが存在することが報告されており、各臓器において細胞内pHの恒常性維持に寄与している。このような細胞内環境下でCAの活性を阻害すると、細胞内でのCO2処理が遅延し細胞内CO2濃度が上昇、細胞内アシドーシスが招来される。その結果として、脳幹部(延髄、橋)に局在する呼吸中枢神経群(延髄表層に存在するCO2感受性の中枢化学受容体を含む)のCO2感受性が亢進し、換気応答が活性化される。さらに、細胞内アシドーシスは咽頭/喉頭に存在する上気道筋群の筋緊張を維持する。以上の機序を介して、CAの阻害は睡眠時の閉塞性無呼吸の発生を1次的に抑制するとされているが、これ以外の未知の機序が関係する可能性も指摘されている。CA阻害薬の分類と臨床 臨床的に使用可能なCA阻害薬には点眼薬と内服薬の2種類が存在する。点眼薬(商品名:ドルゾラミド、ブリンゾラミドなど)は主として眼圧低下と緑内障治療薬として使用される。内服薬のうち1954年に緑内障治療薬としてFDAに承認された歴史的薬剤であるアセタゾラミド(商品名:ダイアモックス)は静注薬としても使用可能であり、緑内障以外にてんかん、メニエール病、急性高山病、尿路結石症の発作予防など幅広い保険適用を獲得している。最近認可された内服CA阻害薬として本論評の対象としたスルチアム(商品名:オスポロット)が存在するが、スルチアムは、本邦においては精神運動発作(てんかん)のみに使用が限定されている。CA阻害薬のOSAに対する治療効果-大規模研究の結果 SAS(OSA、CSA)発症にかかわる重要な因子としてCAが関与する化学反応が長年注目されてきたが確証が得られるには至らなかった。しかしながら、2020年、Christopher氏らはアセタゾラミド内服薬のSAS抑制効果に関して28研究(OSA:13研究、CSA:15研究)を基にメタ解析を施行した(Schmickl CN, et al. Chest. 2020;158:2632-2645.)。彼らの解析結果によると、アセタゾラミド内服(36~1,000mg/日)によってSAS患者の無呼吸/低呼吸指数(AHI:Apnea-Hypopnea Index)が37.7%(絶対値として13.8/時)低下すること、さらには、AHIの低下はOSA患者とCSA患者でほぼ同等であることが示された。アセタゾラミドによる無呼吸抑制効果は投与量依存性を示し、薬剤量が高いほど顕著であった。Christopher氏らの解析結果は、アセタゾラミドの内服がOSAのみならずCSAの治療にも有効である可能性を示している。 本論評の対象としたRanderath氏らの論文は、OSAに対するCA阻害薬スルチアムの効果を解析した第II相二重盲検無作為化プラセボ対照用量設定試験(FLOW試験)の結果を報告した(欧州5ヵ国、28病院における治験)。対象は未治療、中等症以上のOSA患者298例で、プラセボ群(75例)、スルチアム100mg群(74例)、同200mg群(74例)、同300mg群(75例)の4群に振り分けられた。観察期間は、薬物投与量が一定になってから12週間(薬剤投与開始から15週間)と設定された。スルチアムの1日1回就寝前投与は、AHI、夜間低酸素血症、日中の傾眠傾向(Epworth Sleepiness Scaleによる評価)などOSAに付随する重要な症状を用量依存的に改善した。スルチアム投与によって重篤な有害事象は認められなかったが、知覚異常を中心とする中等症以下の多彩な有害事象が発生した。“治療効果と副反応”の比はスルチアム200mgの連日投与で最も高く、この用量がOSA治療に最も適していると結論された。 以上のように、OSA治療におけるCA阻害薬の有効性が実証されつつあり、本邦においてもCPAPにかわる新たな治療法としてCA阻害薬の内服治療の有効性を検証する臨床治験が早急に実施されることを期待するものである。この問題に関連して、2025年4月、本邦の塩野義製薬は米国Apnimed社と合弁会社を設立し(Shionogi-Apnimed Sleep Science)、睡眠時無呼吸症候群に対するスルチアムを含めた新たな薬物治療戦略を世界レベルで開始しており、今後の動向が注目される。

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肥満症の治療にアミリン受容体作動薬は登場するか?(解説:小川大輔氏)

 肥満症の治療において最も基本となるものが食事療法と運動療法であるが、これらに取り組んでも効果が不十分な場合は薬物療法が検討される。GLP-1受容体作動薬やGIP/GLP-1受容体作動薬は糖尿病治療薬として開発されたが、体重減少効果もあるため近年は肥満症治療薬としても承認されている。GIPやGLP-1以外にも肥満症の新しい治療標的が探索されているが、その1つがアミリン(amylin、別名:IAPP)と呼ばれるホルモンである。 アミリンは、インスリンと共に膵臓のβ細胞から分泌されるホルモンで、胃の動きを遅らせて糖の吸収を穏やかにする、あるいはグルカゴン分泌を抑制するなど、血糖値の調節に関わることが知られている。また脳に作用して満腹感を高める作用もあり、食欲抑制に重要な役割を果たしていると考えられている。アミリンの働きを模倣するアミリンアナログが糖尿病や肥満症の治療薬として開発され、米国ではすでにpramlintideが糖尿病の治療薬として承認されているが、作用時間が短く1日3回の注射製剤のため使用は限定的である。 eloralintideは長時間作用の選択的アミリン受容体作動薬で、今回肥満患者を対象とした第II相試験の結果が発表された1)。プラセボ群と比較しeloralintide投与群では48週後の体重の平均変化率が9~20%減少と、有意な体重減少効果を認めた。主な有害事象としては悪心、便秘、下痢などの消化器症状と疲労であった。 肥満症の治療薬としてGLP-1受容体作動薬やGIP/GLP-1受容体作動薬がすでに使用されており、今後「トリプルアゴニスト」と呼ばれるGIP/GLP-1/グルカゴン受容体作動薬や、新規の経口GLP-1受容体作動薬が登場する予定である。アミリン受容体作動薬としては2021年にcagrilintideが第II相試験で肥満症に対して有効性が確認され2)、さらに2025年にcagrilintideとGLP-1受容体作動薬セマグルチドの配合薬が肥満・過体重の減量に効果があることが報告された3)。今後eloralintideを含め、アミリン受容体作動薬が肥満症の治療薬として日本で使用できるようになるか、引き続き注目したい。

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インクレチン製剤がもたらす 肥満合併HFpEFの新たなパラダイム【心不全診療Up to Date 2】第5回

インクレチン製剤がもたらす肥満合併HFpEFの新たなパラダイムKey Points肥満の評価は、BMIでいいのか?HFpEF患者の多くに中心性肥満を認め、これがHFpEF発症の重要な病態因子と考えられるセマグルチドは肥満合併HFpEF患者の症状と運動耐容能を有意に改善し、チルゼパチドは心不全イベントを38%減少させたBMI 25~30程度の軽度肥満患者における有効性の検証が今後の課題であるはじめに左室駆出率の保たれた心不全(HFpEF)は、高齢化を背景に本邦の心不全患者の半数以上を占める主要な表現型となっており、高齢、高血圧、心房細動、糖尿病、肥満など多彩な併存症を背景とする全身性の症候群として捉えるべき病態である1)。HFpEFがこのように心臓に限局しない全身的症候群であることが、心臓の血行動態のみを標的とした過去の治療薬が有効性を示せなかった一因と考えられる。そして近年、SGLT2阻害薬やGLP-1受容体作動薬、GIP/GLP-1受容体作動薬といった、代謝など全身へ多面的に作用する薬剤が成功を収めたことは、この病態の理解を裏付けるものである。本稿では、肥満合併HFpEFに対するインクレチン製剤の臨床エビデンス、作用機序、進行中の臨床試験、そして今後の展望について解説する。HFpEFにおける肥満の重要性HFpEF患者において肥満は極めて高頻度に認められる。従来、BMI≧30kg/m2で定義される肥満はHFpEF患者の60~70%に存在するとされてきた2)。しかし、BMIは骨格筋量や骨量の影響を受けるため、とくに民族差のある集団では脂肪量の正確な評価指標とはならない。より重要なのは内臓脂肪の蓄積である。ウエスト・身長比(≧0.5)で評価した中心性肥満は、HFpEF患者の95%以上に認められることが報告されており、画像診断による脂肪量の定量化でもこの高い有病率が確認されている3)。さらに、複数の前向きコホート研究において、内臓脂肪の蓄積がHFpEF(HFrEFではない)の発症を特異的に予測することが一貫して示されている4,5)。なお、アジア人集団では、欧米に比べてBMIは低いものの内臓脂肪が蓄積しやすい「内臓脂肪型肥満」の表現型が知られている6)。肥満合併HFpEFの病態生理肥満合併HFpEFの病態は多因子的であり、複数の機序が複雑に絡み合っている。内臓脂肪の蓄積が、炎症、循環血漿量の増加、心外膜および胸壁脂肪の増加を促進し、心室の相互依存性を増幅させることで、最終的にHFpEFの発症と進行を促進することを示すエビデンスが蓄積している7)。そのなかでも、最近Packer博士らにより提唱された「アディポカイン仮説」は、肥満合併HFpEFの病態を統一的に説明しようとする試みである(図1)8)。(図1)画像を拡大するこの仮説では、内臓脂肪組織の拡大と機能不全により、脂肪細胞から分泌される生理活性物質(アディポカイン)のバランスが崩れることが、HFpEF発症の中心的機序であるとされる。このアディポカイン不均衡が、神経体液性因子の活性化、全身性炎症、心筋肥大・線維化、血漿量増加を引き起こし、HFpEFを発症させるという概念である。アディポカイン仮説は現時点ではあくまで仮説の段階であり、今後のさらなる検証が必要であるが、後述するインクレチン製剤の作用機序を理解する上で、有用な枠組みの一つを提供している。インクレチン製剤の作用機序と期待される効果GLP-1受容体作動薬GLP-1受容体作動薬(GLP-1RAs)は、膵β細胞に作用して血糖依存的にインスリン分泌を促進する消化管ホルモン(インクレチン)の一つであるglucagon-like peptide-1(GLP-1)の作用に基づく2型糖尿病治療薬である。体重減少効果もあることから、2023年に肥満症治療薬としても承認されている。GLP-1RAsは、心血管代謝リスク因子に良好な影響を及ぼすとされ9)、肥満症患者と糖尿病患者のいずれにおいても動脈硬化性疾患や心不全新規発症イベントのリスクを減少させるという報告があり、肥満合併心不全患者への効果も期待されてきた10)。心血管系への作用機序として、次の3つのことが考えられている。第1に、体重減少を介した効果として、循環血漿量の減少、左室充満圧の低下、心臓への機械的負荷軽減が挙げられる。第2に、直接的な心血管保護作用として、心筋細胞のアポトーシス抑制、抗炎症作用、酸化ストレスの軽減、内皮機能改善が報告されている。第3に、代謝改善として、インスリン抵抗性の改善、脂質代謝改善、血糖コントロール改善(糖尿病合併例)がある。さらに、脂肪組織への直接作用として、内臓脂肪の選択的減少(体重減少を上回る)、心外膜脂肪組織の縮小、脂肪組織の炎症抑制、アディポカインプロファイルの改善(抗炎症性アディポカインの増加、炎症性アディポカインの減少)が示されている11)。GIP/GLP-1受容体作動薬もう一つの主要なインクレチンであるglucose-dependent insulinotropic polypeptide(GIP)の受容体にも作用するGIP/GLP-1受容体作動薬(チルゼパチド)は、単独のGLP-1作動薬を上回る体重減少効果を示す。GIP受容体を介した追加作用として、脂肪細胞での脂肪分解促進、白色脂肪組織での無駄なカルシウムサイクリング誘導(エネルギー消費増加)、インスリン感受性改善が報告されている11)。持続的なGIP受容体刺激が、大幅な体重減少に大きく寄与すると考えられている。インクレチン製剤の臨床エビデンス肥満合併HFpEF患者に対するGLP-1RA(セマグルチド)の有効性を検証したSTEP-HFpEF試験では、2.4mgのセマグルチド週1回皮下投与が、肥満合併HFpEF(LVEF≧45%かつBMI≧30kg/m2)患者のKCCQ-CSS(Kansas City Cardiomyopathy Questionnaire clinical summary score)により評価される健康関連QOLをプラセボと比較して有意に改善させ、体重も有意に減少させた(図2)12)。(図2)STEP-HFpEF試験:主要エンドポイント画像を拡大するさらに、2型糖尿病を有する肥満合併HFpEFを対象としたSTEP-HFpEF DM試験でも同様の結果が得られている13)。なお、STEP-HFpEF DM試験ではSGLT2阻害薬を併用した症例が33%含まれていたが、SGLT2阻害薬併用の有無にかかわらず、セマグルチドの心不全関連転帰に対する効果は一貫していた。GIP/GLP-1受容体作動薬も、肥満合併HFpEF(LVEF≧50%かつBMI≧30kg/m2)患者を対象にその有効性を検証したSUMMIT試験において、複合心不全イベント(心血管死または心不全増悪イベント)リスクを38%低下させ、KCCQ-CSSで評価された健康関連QOLを有意に改善させたと報告されている(図3)14)。(図3)SUMMIT試験:主要エンドポイント画像を拡大するただし、悪心・嘔吐などの消化器症状や食欲減退といった副作用には注意が必要であり15)、患者ごとの病態や既存の治療との併用状況を考慮した上で投与方針を検討することが求められる。このように、肥満合併HFpEF患者に対するインクレチン製剤の有効性は確立しつつある一方、わが国に多いBMI 25~30程度の内臓脂肪型肥満を呈する症例において、同薬が有効かどうかは不明であり、今後の試験が期待される16)。次世代インクレチン製剤の開発現在、複数の次世代インクレチン関連薬が開発されている(図4)17)。(図4)現在臨床試験が進行しているインクレチン関連薬画像を拡大するGLP-1/グルカゴン(GCG)受容体二重作動薬(cotadutide、survodutideなど)は、グルカゴン受容体刺激により、肝臓での細胞外分泌因子FGF21産生が増加する。FGF21は脂肪組織の炎症抑制、褐色脂肪活性化、内臓脂肪減少をもたらすため、さらなる代謝改善と体重減少が期待される。代謝機能障害関連脂肪肝炎(MASH)を対象とした第II相試験ではMASH組織改善効果を認め18)、肥満患者を対象とした第III相試験は現在進行中であり19)、HFpEFへの応用が期待される。GLP-1/GIP/GCG受容体三重作動薬(retatrutideなど)は、3つの受容体を同時に刺激し、最大限の代謝改善を目指す薬剤である。肥満患者での第II相試験で顕著な体重減少を示しており20)、HFpEFへの応用が期待される。おわりに肥満合併HFpEF患者に対するインクレチン製剤は、STEP-HFpEF試験とSUMMIT試験により、症状改善、運動耐容能向上、そして心不全イベント減少という明確なエビデンスが示された。今後、次世代インクレチン製剤(GLP-1/GCG受容体二重作動薬、GLP-1/GIP/GCG受容体三重作動薬)の臨床開発や、治療反応性を予測するバイオマーカーの確立により、より個別化された効果的な治療が可能になることが期待される。肥満合併HFpEFの病態理解は急速に進展しており、これらの知見を臨床に活かし、エビデンスに基づいた最適な治療を提供することが、今後の日本のHFpEF診療における重要な課題である。 1) Hamo CE, et al. Nat Rev Dis Primers. 2024;10:55. 2) Obokata M, et al. Circulation. 2017;136:6-19. 3) Peikert A, et al. Eur Heart J. 2025;46:2372-2390. 4) Oguntade AS, et al. Open Heart. 2024;11:e002711. 5) Sorimachi H, et al. Eur Heart J. 2021;42:1595-1605. 6) WHO Expert Consultation. Lancet. 2004;363:157-163. 7) Borlaug BA, et al. Cardiovasc Res. 2023;118:3434-3450. 8) Packer M. J Am Coll Cardiol. 2025;86:1269-1373. 9) Kosiborod MN, et al. Diabetes Obes Metab. 2023;25:468-478. 10) Ferreira JP, et al. Diabetes Obes Metab. 2023;25:1495-1502. 11) Nogueriras R, et al. Nat Metab. 2023;5:933-944. 12) Kosiborod MN, et al. N Engl J Med. 2023;389:1069-1084. 13) Kosiborod MN, et al. N Engl J Med. 2024;390:1394-1407. 14) Packer M, et al. N Engl J Med. 2025;392:427-437. 15) Kushner R, et al. JAMA. 2025;334:822-823. 16) 吉池信男ほか. 肥満研究. 2000;6:4-17. 17) Melson E, et al. Int J Obes(Lond). 2025;49:433-451. 18) Sanyal AJ, et al. N Engl J Med. 2024;391:311-319. 19) Kosiborod MN, et al. JACC Heart Fail. 2024;12:2101-2109. 20) Jastreboff AM, et al. N Engl J Med. 2023;389:514-526.

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若年2型糖尿病に対するチルゼパチドの検討(解説:小川大輔氏)

 若年発症の2型糖尿病は、成人発症と比べて早期に糖尿病合併症を発症することが知られている。そのため食事療法や運動療法、薬物療法を組み合わせて適切な糖尿病治療を行うことが必要とされる。今回、10歳から18歳までに2型糖尿病を発症した患者99例を対象に、GIP/GLP-1受容体作動薬チルゼパチドの効果を検討した第III相試験の結果が発表された1)。従来の治療で血糖コントロール不十分であった若年発症の2型糖尿病患者において、チルゼパチドはプラセボと比較し、血糖コントロールや肥満を改善することが報告された。 若年発症の糖尿病といえば1型糖尿病やMODY(Maturity-Onset Diabetes of the Young)、ミトコンドリア糖尿病など遺伝性糖尿病が知られているが、今回の試験では対象が2型糖尿病に限定されている。患者背景を確認すると、BMIの平均値が35.4であり、高度の肥満を合併している症例が多く含まれていたことがわかる。試験前の治療としては、メトホルミンが92%、インスリンが31%の症例で使用されていた。しかしベースラインのヘモグロビンA1c値は8.04%とコントロール不十分の状態で、チルゼパチドあるいはプラセボを30週間投与し効果を検討した。その結果、チルゼパチド投与群では30週時のヘモグロビンA1c値変化量は-2.23%、BMI変化率は-9.3%であり、プラセボ群より有意な減少を認めた。主な有害事象は胃腸障害であったが軽度から中等度であった。 若年発症2型糖尿病患者の治療法を比較検討した研究(TODAY2追跡試験)の参加者では、2型糖尿病診断後15年以内に60%が糖尿病関連合併症を発症し、約3分の1が複数の合併症を発症していたと報告された2)。つまり若年発症例は成人発症例と比べてより早期に複数の糖尿病合併症を発症することが明らかになり、合併症の予防や進行抑制のために発症時から厳格な血糖コントロールが重要であることが示唆された。今回の研究により、チルゼパチドが若年2型糖尿病に対する治療の選択肢の1つとなりうることが報告された。今後さらにGLP-1受容体作動薬やGIP/GLP-1受容体作動薬の検討が進むことを期待したい。

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チルゼパチド、血糖コントロール不良の若年2型糖尿病患者に有効/Lancet

 メトホルミンや基礎インスリンで血糖コントロール不十分の若年発症2型糖尿病患者において、GIP/GLP-1受容体作動薬チルゼパチドの週1回投与はプラセボと比較し、血糖コントロールおよびBMIを有意に改善し、その効果は1年間持続した。米国・Indiana University School of MedicineのTamara S. Hannon氏らがオーストラリア、ブラジル、インド、イスラエル、イタリア、メキシコ、英国および米国の39施設で実施した、第III相無作為化二重盲検プラセボ対照試験「SURPASS-PEDS試験」の結果で示された。若年発症2型糖尿病に対する治療選択肢は限られており、成人発症2型糖尿病と比較し血糖降下作用が低いことが知られている。若年発症2型糖尿病患者に対するチルゼパチドの臨床エビデンスは不足していた。Lancet誌オンライン版2025年9月17日号掲載の報告。チルゼパチド(5mg、10mg)群とプラセボ群を比較 SURPASS-PEDS試験の対象は、10歳以上18歳未満、体重50kg以上、BMI値が当該国または地域の年齢・性別集団の85パーセンタイル超の2型糖尿病患者で、メトホルミン(1,000mg/日以上)や基礎インスリンによる治療で血糖コントロールが不十分(スクリーニング時のHbA1c値6.5%超11%以下)の患者であった。 研究グループは、最長4週間のスクリーニング期の後、適格患者をチルゼパチド5mg群、10mg群またはプラセボ群に1対1対1の割合で無作為に割り付け、30週間の二重盲検投与期にそれぞれ週1回皮下投与した。無作為化では、年齢層(14歳以下、14歳超)および血糖降下薬使用状況(メトホルミン、基礎インスリン、その両方)で層別化した。 チルゼパチドは2.5mgから開始し、割り付けられた用量まで4週ごとに2.5mgずつ増量した。二重盲検投与期に引き続き、22週間の非盲検延長期に移行し、プラセボ群の患者にはチルゼパチド5mgを投与した。 主要エンドポイントは、チルゼパチド併合(5mgおよび10mg)群とプラセボ群との比較におけるベースラインから30週時までのHbA1c値の変化量であった。 主要な副次エンドポイント(第1種過誤を制御)は同HbA1c値の変化量のチルゼパチド各用量群とプラセボ群の比較、ベースラインから30週時までのBMI値の変化率(チルゼパチド各用量群および併合群とプラセボ群との比較)などであった。主要エンドポイントおよび副次エンドポイントは52週時においても評価した。30週時のHbA1c値変化量は-2.23%vs.+0.05%、BMI値変化率は-9.3%vs.-0.4% 2022年4月12日~2023年12月27日に146例がスクリーニングされ、99例が無作為化された(チルゼパチド5mg群32例、10mg群33例、プラセボ群34例)。患者背景は、女性60例(61%)、男性39例(39%)、平均年齢14.7歳(SD 1.8)、ベースラインの平均HbA1c値は8.04%(SD 1.23)であった。 30週時におけるHbA1c値の変化量は、チルゼパチド併合群で平均-2.23%に対し、プラセボ群では+0.05%であり、チルゼパチド併合群の優越性が検証された(推定群間差:-2.28%、95%信頼区間:-2.87~-1.69、p<0.0001)。チルゼパチドの血糖降下作用は52週まで持続し、52週時におけるHbA1c値の変化量は、チルゼパチド5mg群で-2.1%、10mg群で-2.3%であった。 30週時におけるBMI値の変化率は、チルゼパチド併合群-9.3%、5mg群で-7.4%、10mg群で-11.2%、プラセボ群-0.4%であり、チルゼパチド群はいずれもプラセボ群より有意な減少であった(対プラセボ群の併合群のp<0.0001、5mg群のp=0.0001、10mg群のp<0.0001)。 二重盲検期における有害事象の発現率は、プラセボ群44%(15/34例)、チルゼパチド5mg群66%(21/32例)、10mg群70%(23/33例)であった。チルゼパチド群で最も頻度の高かった有害事象は胃腸障害で、いずれも軽度~中等度であり、用量漸増期に発現し、経時的に減少した。投与中止に至った有害事象はチルゼパチド5mg群で2例(6%)に認められた。チルゼパチドの安全性プロファイルは成人での報告と一致した。試験期間中の死亡例は報告されなかった。

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薬物療法【脂肪肝のミカタ】第9回

薬物療法Q. 併存疾患に対する薬物療法は?併存疾患に対する薬物療法として、糖尿病治療薬(GLP-1受容体作動薬、GIP/GLP-1受容体作動薬、SGLT2阻害薬)、肥満症治療薬(GLP-1受容体作動薬、GIP/GLP-1受容体作動薬)、脂質異常症治療薬(スタチン、ぺマフィブラート)が肝臓の採血所見、画像所見、組織所見の改善に繋がるという報告は複数発表されている。チアゾリジン誘導体やビタミンEの肝臓の組織改善作用に関しては、近年は賛否両論がある1-3)。いずれの薬剤もMASLDに対する治療薬ではないことを把握した上で処方する必要がある。将来的な治療方針として、MASLD最大のイベントである心血管イベントの抑制まで視野に入れた治療が期待される。心血管イベント抑制作用における高いエビデンスを有する糖尿病治療薬(GLP-1受容体作動薬、SGLT2阻害薬)の併用を視野に入れた薬剤開発が期待される(図1)4,5)。(図1)心血管系イベントにおける糖尿病治療薬の長期インパクト(2型糖尿病を対象とした海外データ)画像を拡大するQ. 今後期待される薬物療法は?最近の臨床試験の対象は、肝硬変(Stage 4)を除外した線維化進行例(Stage 2~3)である1,2)。主要評価項目も以前は肝臓の線維化改善を重視していたが、最近は活動性改善も同時に重視する傾向にある。2024年3月、経口の甲状腺ホルモン受容体β作動薬(resmetirom)がStage 2~3の線維化が進行したMASHを対象に初の治療薬として米国食品医薬品局で承認されたが2)、本邦では臨床試験が行われておらず、現時点では使用することができない。2024年11月、米国肝臓学会で、Stage 2~3の線維化が進行したMASHを対象としたGLP-1受容体作動薬セマグルチドの72週の第III相プラセボ対照試験(ESSENCE Study)の成績が報告された。肝炎活動性と線維化を共に改善し、主要評価項目を達成したことが報告された(図2)6)。本臨床試験は本邦でも行われており、今後の上市が期待されている。(図2)MASH(Stage 2~3)を対象としたGLP-1受容体作動薬の治療効果[ESSENCE Study]画像を拡大する最後に、MASLDの新薬開発における将来の展望として、まずはメタボリックシンドローム由来の心血管イベントを抑制することが課題である。よって、食事/運動療法や糖代謝改善薬は肝臓の線維化進行度に関わらず重要である。さらに、肝臓の炎症や線維化が進行してくると肝疾患イベントが抑制されることも課題となる。肝臓の脂肪化、炎症、線維化を改善する薬剤を開発し、併用していく時代になると考えている(図3)。(図3)MASLD新薬開発における将来の展望画像を拡大する 1) Rinella ME, et al. Hepatology. 2023;77:1797-1835. 2) European Association for the Study of the Liver (EASL) ・ European Association for the Study of Diabetes (EASD) ・ European Association for the Study of Obesity (EASO). J Hepatol. 2024;81:492-542. 3) 日本消化器病学会・日本肝臓学会編. NAFLD/NASH診療ガイドライン2020. 南江堂. 4) Marso S, et al. N Engl J Med. 2016;375;311-322. 5) Zinman B, et al. N Engl J Med. 2015;373:2117-2128. 6) Sanyal AJ, et al. N Engl J Med. 2025;392:2089-2099.

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セマグルチドやペムブロリズマブなど、重大な副作用追加/厚労省

 厚生労働省は7月30日、セマグルチドやペムブロリズマブなどに対して、添付文書の改訂指示を発出。該当医薬品の添付文書の副作用の項に、重大な副作用が追記されることとなった。 該当医薬品と改訂内容は以下のとおり。GLP-1受容体作動薬:セマグルチド(商品名:ウゴービ、オゼンピック、リベルサス)GIP/GLP-1受容体作動薬:チルゼパチド(同:マンジャロ、ゼップバウンド)インスリン/GLP-1受容体作動薬配合薬:インスリン グラルギン/リキシセナチド(同:ソリクア配合注ソロスター) イレウス関連症例を評価した結果、重大な副作用の項に「イレウス」(腸閉塞を含むイレウスを起こすおそれがある。高度の便秘、腹部膨満、持続する腹痛、嘔吐等の異常が認められた場合には投与を中止し、適切な処置を行うこと)を追記。また、合併症・既往歴等のある患者の項に「腹部手術の既往又はイレウスの既往のある患者」を追記した。抗PD-1抗体:ペムブロリズマブ(同:キイトルーダ) 血管炎関連症例を評価した結果、重大な副作用の項に「血管炎」(大型血管炎、中型血管炎、小型血管炎[ANCA関連血管炎、IgA血管炎を含む]があらわれることがある)を追記した。抗PD-L1抗体:アベルマブ(同:バベンチオ) 硬化性胆管炎関連症例を評価した結果、重大な副作用の項の「肝不全、肝機能障害、肝炎」に「硬化性胆管炎」を追記した。また、重要な基本的注意の項の「肝不全、肝機能障害、肝炎」に関する記載に「硬化性胆管炎」に関する注意を追記した。チロシンキナーゼ阻害薬:アファチニブマレイン酸塩(同:ジオトリフ)抗エストロゲン薬:フルベストラント(同:フェソロデックス) 各製剤においてアナフィラキシー関連症例を評価した結果、重大な副作用の項に「アナフィラキシー」を追記した。キナーゼ阻害薬:スニチニブリンゴ酸塩(同:スーテント) 高アンモニア血症関連症例を評価、専門委員の意見も聴取した結果、肝機能異常を伴わずに発現する高アンモニア血症の症例が認められ、本剤との因果関係が否定できない症例が集積したことから、重大な副作用の項に「高アンモニア血症」を追記した。

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肥満症治療に変革をもたらすチルゼパチドへの期待/リリー

 食事療法と運動療法が治療の主体である肥満症は、近年では肥満症治療薬が増えてさまざまな知見がリアルワールドで集積している。肥満症を適応とする持続性GIP/GLP-1受容体作動薬チルゼパチド(商品名:ゼップバウンド)を製造する日本イーライリリーは、都内でメディア向けのセミナーを開催し、わが国の肥満・肥満症の現況、医療費への影響、チルゼパチドの最新臨床試験データなどを説明した。高度肥満は少数でも総医療費を押し上げる可能性 「肥満症治療の社会的意義 ~最新の肥満症に関する研究結果を受けて~」をテーマに、同社の宗和 秀明氏(研究開発・メディカルアフェアーズ統括本部 ダイアベティス・オベシティ・心・腎領域バイスプレジデント/医師)が、肥満症に関係する情報を解説した。 BMI25以上の肥満と定義される人は、わが国に約2,800万人いると推計され、40~50代での割合が高く、その数は増加している。肥満になる原因としては、遺伝、生理的、環境、社会文化、行動要因などさまざまな要因が交絡している。その一方で肥満は、個人の要因とされ、偏見や差別(スティグマ)の温床となっている。こうした心理的負担は、患者を消極的にさせて医療者に相談するまで約3年を要するという海外からの報告もある。 わが国の日本肥満症学会の定義や国際的な定義でも「肥満」だけでは、病気とはいえないとしている。診療すべき肥満について、わが国では「肥満症」の定義をBMIが25以上、かつ、(1)肥満による11種の健康障害(耐糖能障害、脂質異常症、高血圧など)が1つ以上ある、または(2)健康障害を起こしやすい内臓脂肪蓄積がある場合としている。また、BMI35以上は高度肥満とされ、この定義は国際的な基準ともおよそ合致しているとされる。 そして、肥満症が医療費に与える影響について触れ、「総医療費」「外来医療費」「入院医療費」「薬剤費」の項目で肥満群に高い傾向がみられた。また、経年的に肥満群と非肥満群で差が広がる傾向も見受けられたほか、因子別に総医療費を解析した結果、BMI、年齢、外来受診の頻度で変化が大きく、BMIが高い群は少数でも医療費を大きく増加させていたことから、肥満人口の減少が医療費抑制につながる可能性が示唆された。チルゼパチドのSURMOUNT-5試験結果では体重、腹囲をともに減少 はじめに同社が行った「わが国の肥満症の疫学と疾病負担について」の研究結果について、その内容を説明した。本研究は、IMPACT-O STUDYとしてわが国の医療データベースを用いた後ろ向きコホート研究。解析の結果、わが国の肥満症の人では、BMIが高いほど健康障害を合併する割合が増加し、健康な肥満者と比較し、大きな併存疾患の負担になることがわかった。 本研究では、肥満者6万8,567例と肥満症該当者4万3,278例を比較し、健康障害の有無などを調査・解析した。その結果、肥満症該当者についてベースライン時に2つ以上の肥満関連の健康障害を併存している割合は56.4%あり、BMIが高い群ほど高い傾向が示された。また、肥満症該当者において、併存割合が高かった肥満関連の健康障害は高血圧(54.9%)、2型糖尿病(39.5%)、脂質異常症(28.2%)の順で多く、BMIが高い群ほど2型糖尿病や耐糖能異常を併存する割合が高くなる傾向が認められた。そのほか、閉塞性睡眠時無呼吸症候群の併存割合では、BMI35以上で高い傾向が認められたという。 続いてこうした肥満症治療で使用されるチルゼパチドのSURMOUNT-5試験の最終結果が発表されたことに触れ、その内容を説明した。 本試験は、米国など32施設の751例を無作為化し、72週にわたり行われた。その結果、ベースラインからの体重変化の直接比較試験で、チルゼパチド投与群で平均20.2%減少、セマグルチド投与群で13.7%減少し、セマグルチドに対する優越性を示した。また、目標の体重減少を達成した試験参加者の割合は、チルゼパチド投与群が31.6%に対して、セマグルチド投与群は16.1%だった。チルゼパチド投与群における腹囲の減少は平均18.4cmであり、セマグルチド投与群の13.0cmに対して優越性を示した。安全性に関しては、チルゼパチドとセマグルチドの両剤で最も多く報告された有害事象は、消化器関連のものであり、おおむね軽度~中等度だった1)。 宗和氏は「肥満症とともに生きる人の健康とケアの向上のために、当社は研究開発や関係する人々との活動を通じて、最善を尽くしていきたい」と今後の展望を述べ、説明を終えた。

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第250回 高齢者薬物療法ガイドライン10年ぶり改訂、慎重投与薬と開始推奨薬を更新/老年医学会

<先週の動き> 1.高齢者薬物療法ガイドライン10年ぶり改訂、慎重投与薬と開始推奨薬を更新/老年医学会 2.転院搬送GLを改訂、病院救急車・民間搬送活用で救急逼迫緩和へ/厚労省 3.医療差し控えも選択肢、尊厳守る終末期ケアを/日本老年医学会 4.マイナ保険証スマホ対応拡大9月から本格化、導入費用も支援/厚労省 5.医療政策左右する参院選がスタート、診療報酬改定がカギに/日医ほか 6.高齢者世帯が3割超、単身900万世帯に、支援体制構築が急務/厚労省 1.高齢者薬物療法ガイドライン10年ぶり改訂、慎重投与薬と開始推奨薬を更新/老年医学会日本老年医学会は10年ぶりに『高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2025』を改訂し、「特に慎重な投与を要する薬物」と「開始を考慮するべき薬物」のリストを更新した。主に75歳以上の高齢者や要介護者を対象に、薬物有害事象のリスク軽減を目的とする。新たな知見や800を超える論文を基に改訂され、多職種連携や高齢者総合機能評価(CGA)の活用も重視されている。「特に慎重な投与を要する薬物」には、糖尿病治療で使用が広がるGLP-1受容体作動薬やGIP/GLP-1受容体作動薬が追加され、吐き気・下痢・体重減少といった副作用がサルコペニアやフレイルを悪化させるリスクが指摘された。また、ベンゾジアゼピン系睡眠薬や抗不安薬、抗精神病薬、NSAIDs、利尿薬、抗糖尿病薬など28系統が慎重投与リストに含まれる。その一方で、H2受容体拮抗薬はリストから削除された。「開始を考慮するべき薬物」には、COPD治療薬のLAMA、LABA、副作用が少ないβ3受容体作動薬やPDE5阻害薬が追加された。ACE阻害薬やARB、DMARDsは削除された。さらに、「日本版抗コリン薬リスクスケール」が初めて導入され、抗コリン作用を持つ薬剤158種のリスクを3段階で評価。ポリファーマシー対策や服薬支援に役立つ指標となる。ガイドラインでは、患者のADL、認知機能、生活状況を多職種で共有し、処方の見直しや必要最小限の薬物療法への移行を推奨。漫然と処方し続けることによる健康リスクを防ぐことが求められている。医療現場では、薬剤の必要性を常に再評価し、患者個別の状況に応じた柔軟な対応が重要だ。 参考 1) 高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2025(日本老年医学会) 2) 「日本版抗コリン薬リスクスケール(JARS)WEB版評価ツール」 公開のお知らせ(同) 3) 高齢者に「慎重な投与を要する薬」リスト公表 老年医学会が改定(毎日新聞) 4) 10年ぶりに改訂された「高齢者の安全な薬物療法ガイドライン」、どう変わった?日経メディカル) 2.転院搬送GLを改訂、病院救急車・民間搬送活用で救急逼迫緩和へ/厚労省救急搬送件数が3年連続で過去最多の記録を更新する中、消防庁と厚生労働省は『転院搬送ガイドライン』を改訂し、救急車の適正利用を推進する新たな方針を示した。今回の改訂では、緊急性の低い転院搬送において、医療機関が病院救急車や救急救命士を活用し、医療主導で搬送体制を整備することを明記し、2024年度の診療報酬改定で新設された「救急患者連携搬送料」の活用も促している。一方、消防庁の調査では、民間の患者等搬送事業者による転院搬送が2024年度に35万7,265件となり、前年比11.7%増と大きく伸びた。事業所数も増加し、救急現場の逼迫緩和に一定の効果を示している。消防庁は、患者等搬送事業者の一覧を各消防本部のホームページに掲載するよう周知し、市民への認知度向上にも努めている。限られた救急資源を本当に必要な事案に投入するためには、医療機関・民間搬送事業者・消防の役割分担が不可欠であり、地域ごとの合意形成と搬送体制整備が喫緊の課題となっている。 参考 1) 転院搬送における救急車の適正利用の推進について(厚労省) 2) 転院搬送GL、病院救急車の活用追加 消防庁・厚労省が改訂(MEDIFAX) 3) 患者等搬送事業者の転院搬送、12%増の36万件 24年度 消防庁(CB news) 3.医療差し控えも選択肢、尊厳守る終末期ケアを/日本老年医学会日本老年医学会は6月27日、人生の最終段階における医療・ケアに関する「立場表明2025」を発表した。2001年、2012年に続く改訂で、75歳以上が2,000万人を超える超高齢社会を背景に、「すべての人が最期まで『最善の医療・ケア』を受ける権利を持つ」と明言した。病気や障害を問わず緩和ケアの推進を掲げ、医療やケアの選択は「本人の満足」を基準とすべきと訴えている。年齢による差別(エイジズム)に反対し、がん以外の心疾患、腎不全、認知症などでも緩和ケアの重要性が増していると指摘。とくに認知症では苦痛の訴えが困難なことから啓発の必要性を強調した。人生の最終段階は、病状や老衰が不可逆的で回復困難な状態にあり、医療・ケアチームが本人の意向を尊重した上で、人生の「最終章」と捉えられる場合と定義。本人の尊厳や苦痛への配慮から、医療行為の差し控えや終了も選択肢とし、その判断は安楽死や自殺ほう助とは異なるとした。胃ろうや人工呼吸器の使用については慎重な検討を求める一方で、急変時の治療は「生命の擁護」に必要と位置付けている。 参考 1) 高齢者の人生の最終段階における医療・ケアに関する立場表明2025(日本老年医学会) 2) 病気問わず緩和ケア推進を 人生の最終段階、学会見解(共同通信) 4.マイナ保険証スマホ対応拡大9月から本格化、導入費用も支援/厚労省厚生労働省は、マイナンバーカードと健康保険証を一体化した「マイナ保険証」をスマートフォンで利用できる仕組みの全国展開を進めている。7月から関東15の医療機関で実証実験が始まり、9月以降、環境が整った施設から順次導入される。専用のカードリーダー購入費用は8月から補助され、病院3台、薬局や診療所1台が目安となる。iPhone・Android双方が対応し、スマホ単体での本人確認と資格確認が可能となる。従来の保険証では他人利用や有効期限切れの問題があったが、スマホ化で厳密な本人確認と医療データ活用が期待される。一方、マイナンバーカード本体と電子証明書は2025年から大量の更新期限を迎え、更新忘れによる保険証利用不可や医療機関でのトラブルが懸念されている。政府は次期カードへの切り替えや周知も進め、マイナ保険証の利用率向上と医療DXの推進を目指す。利便性の向上とともに、制度理解と更新手続きの周知が急務となっている。 参考 1) スマホでマイナ保険証利用 医療機関の導入費用補助へ 厚労相(NHK) 2) スマホ搭載のマイナ保険証、受け付け機器導入費を補助 厚労省(日経新聞) 3) スマホを使った「マイナ保険証」の実証実験スタート スマホ1台で保険診療が受けられる(ITmedia) 4) マイナンバーカード2025年問題 迫る2つの期限切れ、何が起きる?(日経新聞) 5.医療政策左右する参院選がスタート、診療報酬改定がカギに/日医ほか2025年7月3日に公示された第27回参議院議員選挙は、医療・介護・福祉の未来を左右する重要な選挙として、医療関係団体が強い関心を寄せている。日本医師会の松本 吉郎会長は「わが国の医療・介護・福祉の未来を問う選挙」と位置付け、診療報酬改定や財源確保の必要性を訴えている。とくに2025年度補正予算や2026年度診療報酬改定に向け、物価高や賃金上昇に対応した医療機関経営の安定化が急務とされている。日本病院会の相澤 孝夫会長も、日病の提言に賛同する候補を積極的に支援する方針を示し、病院経営支援や入院基本料引き上げ、かかりつけ医機能強化を訴えた。また、釜萢 敏氏(日本医師会副会長)が組織内候補として比例区から出馬し、「医療施設の突然の崩壊防止」「医療従事者の処遇改善」に全力を尽くす決意を表明した。一方、政府は「骨太の方針2025」で社会保障費の伸びを一定程度容認しつつも、医療費抑制策を打ち出している。その一環としてOTC類似薬の保険適用除外が検討され、患者負担増加への懸念が高まっている。これに対し医療界からは、必要な治療薬の負担増が患者の健康や生活を脅かすと反対の声が上がっている。今回の選挙には医師資格保持者20人が立候補し、医療・介護・福祉に関する政策が争点となっている。とくに日本医師会の政治団体である日本医師連盟が擁立した釜萢氏は、新型コロナ対応や医療現場の声を政治に届ける実績を持ち、今後は「持続可能な医療提供体制」「限りある財源の公平な配分」に注力するとしている。日医は40万票超の得票を目指し、医療界の結束を呼び掛けている。OTC薬の保険適用除外による国民負担増問題や、診療報酬改定の行方など、参院選後も医療界と政治の関係は緊密な対応が求められる。医師としての視点からも、医療政策と財源確保への理解と関心が重要となる。 参考 1) 釜萢常任理事を次期参議院選挙比例区(全国区)の推薦候補者として擁立することを決定(日医) 2) 日医・松本会長 参院選は「我が国の医療・介護・福祉の未来を問う選挙」 医療財源の確保に決意(ミクスオンライン) 3) 石破政権「医療費改悪」でOTC類似薬が保険適用除外へ 解熱剤は40倍、湿布薬は36倍に自己負担額増加 “安く作れるクスリの保険適用”をなぜやめるのか(マネーポストWEB) 6.高齢者世帯が3割超、単身900万世帯に、支援体制構築が急務/厚労省厚生労働省が発表した2024年「国民生活基礎調査」によると、全国の世帯総数は約5,482万5,000世帯で、65歳以上の高齢者がいる世帯は約2,760万世帯と半数を超え、単身の高齢者世帯は初めて900万世帯を突破し、過去最多となった。とくに75歳以上の高齢者や女性の割合が高く、孤立や生活支援の必要性が指摘されている。一方、18歳未満の子供がいる世帯は約907万世帯と過去最少で、全体の16.6%に止まった。生活が「苦しい」と感じている世帯は全体の6割に上り、子供がいる世帯では64.3%ととくに高く、物価高の影響も背景にある。子育て世帯の母親の就業率は80.9%と過去最高となり、正規雇用34.1%、非正規36.7%と、生活維持のため女性就労が不可欠な状況が鮮明になっている。また、副業・兼業の普及は進まず、実施者は全体の3%に止まっており、労働時間管理の煩雑さが障壁となっている。政府は2026年の労働基準法改正を目指し、労働時間の通算管理の見直しを検討。高齢化、子育て世帯の減少、生活苦、人手不足など、多層的な社会課題が浮き彫りとなっている。 参考 1) 2024(令和6年) 国民生活基礎調査の概況(厚労省) 2) 高齢者世帯 数・割合とも過去最高-厚労省(CB news) 3) 子育て世帯「母親が仕事」8割超す 厚労省調査で過去最高(日経新聞) 4) 65歳以上の「単身高齢者」 初めて900万世帯超える 厚労省(NHK)

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