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第143回 運動意欲を腸内細菌が支える

病気の数々を防ぐ最も効果的な習慣である運動の意欲向上にどうやら腸内細菌が一役買っていることがマウス実験で示されました1)。先立つ研究で腸の微生物が筋肉や心肺機能、さらには脳の生理に関わることが知られています2)。ペンシルバニア大学の微生物学者Christoph Thaiss氏等はそれらの成果を紡ぎ、筋肉・心肺機能・脳を含むより多くの関わりによって生み出されるであろう運動能力への腸内微生物の貢献を調べることを試みました。Thaiss氏等はマウス199匹を用意し、抗生物質いくつかを使ってそれらマウスの腸内細菌を減らすか排除したときの運動性能を2つの手段を使って調べました2)。1つはしばらくの間走ることを強いて持久力を調べるトレッドミルで、もう1つはいつでも好きなだけ走ることができる回し車(wheel)です。どのマウスも飼育カゴの中で同様に自由に動き回ることが可能でしたが、腸内細菌が減ったマウスは腸内細菌がまともなマウスに比べてトレッドミル運動で疲れやすく、運動意欲が乏しくて回し車をあまり使いませんでした。行動を定着させる神経伝達物質・ドーパミンの生成に携わる脳の線条体神経の遺伝子の発現を調べたところ、運動の最中に発現するそれら遺伝子が腸微生物を欠くマウスでは鈍っていました。それらの神経を阻害して運動中のドーパミン生成を妨げたときの運動能力は腸微生物を制限するか完全に除去したときと同じように劣りました。以上の結果は脳でのドーパミン生成が運動意欲に確かに貢献しており、腸の微生物の構成がその調節に何らかの役割を担っていることを意味します。次の疑問は腸内細菌と脳のドーパミンを関連づける仕組みです。その解明のために胃腸と脳をつなぐ神経を阻害してトレッドミルと回し車の実験を再び行いました。その結果、腸-脳連結神経が遮断されていると腸微生物はまっとうでも腸微生物が乏しいマウスと同様の運動低下が生じ、マウスがどれだけ運動するかはその神経の刺激にかかっていると示唆されました。何がその神経を刺激するのかが次に調べられ、2つの細菌・Eubacterium rectale(ユウバクテリウム レクターレ)とCoprococcus eutactus(コプロコッカス ユウタクタス)が生み出す代謝物・脂肪酸アミド(FAA)から作られる神経伝達物質・内在性カンナビノイドが運動中に胃腸神経の受容体を刺激し、脳のドーパミン生成に至ることが判明しました。その腸-脳経路を刺激するとマウスはより走れるようになり、かたや末梢の内在性カンナビノイド受容体の阻害、脊髄の神経除去、ドーパミン阻害は腸微生物排除と同様にマウスをより走れなくしました。運動中の腸の細菌の働きのおかげで運動する意欲がより高まって運動がより身につくことを今回の結果は裏付けました。これまでの研究で運動能力が高いマウスは痛みの感じ難さを示すランナーズハイがより強烈であることが示されており、腸内細菌はよく知られるその高揚感にも携わっているかもしれません。今回のマウス実験で示されたのと同じ腸-脳経路がヒトでも存在するかどうかを研究チームは次に調べる予定です。ヒトでの研究が進めば巷の人に走る習慣を身に付けさせたり一流アスリートの運動能力を最適化する安上がりで安全な食事ベースの手段が実現するかもしれません。また、依存やうつ病で支障を来した気分や意欲の回復手段を生み出せる可能性もあります3)。参考1)Dohnalova L, et al. Nature. 2022 Dec 14. [Epub ahead of print]2)Mice With a Healthy Gut Microbiome Are More Motivated to Exercise / TheScientist3)Gut microbes can boost the motivation to exercise, Penn Medicine study finds / Eurekalert

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第141回 退院COVID-19患者に抗凝固薬アピキサバン無効

抗凝固薬は重度の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)患者の回復を助けると広く考えられてきましたが、英国での無作為化試験結果によるとどうやらそうとはいえず、むしろ有害かもしれません。英国全域で実施されている無作為化試験HEAL-COVIDの結果、退院COVID-19患者に経口の抗凝固薬・アピキサバン(apixaban)を投与しても死亡や再入院のリスクは残念ながら低下しませんでした1)。COVID-19患者のその病気との戦いは退院して一件落着というわけにはいかず、心臓、肺、循環器がしばしば絡む症状の新たな発生や悪化、俗に言うlong COVIDをおよそ5人に1人が退院後に被ります。命を落とす人も少なくなく、退院したCOVID-19患者の10人に1人を超える12%は半年以内に死亡しています2)。HEAL-COVID試験はCOVID-19患者のそういった長引く症状や死亡を予防するか減らしうる治療に目星をつけ、それらの治療がCOVID-19患者の長期の経過を改善しうるかどうかを調べることを目当てに実施されています。被験者はCOVID-19で入院した患者から募り、自宅へと退院する少し前にアピキサバン投与群か病院それぞれのいつもの退院後治療群(標準治療群)にそれら患者を割り振りました。アピキサバン投与群の患者は同剤を1日2回2週間経口服用しました3)。1年間の追跡の結果、アピキサバン投与群と標準治療群の死亡か再入院の発生率はほとんど同じでそれぞれ29.1%と30.8%であり、アピキサバンの死亡や再入院の予防効果は残念ながら認められませんでした。アピキサバンは抗凝固薬なだけにHEAL-COVID試験でも出血と無縁ではなく、同剤投与群402人のうち数名は大出血により同剤服用を中止しています。COVID-19患者の退院後の手当として有用と広くみなされていた抗凝固薬は実際のところ死亡や再入院を減らす効果はなく、むしろ危険らしいことを示した今回の試験結果をうけてCOVID-19患者への本来不要な同剤投与がなくなることを望むと試験主導医師Mark Toshner氏は言っています。今回の結果は無益な治療で患者に害が及ぶのを断ち切る重要な役割を担うことに加え、COVID-19患者の長い目でみた回復、すなわちlong COVIDの解消を助ける治療を引き続き探していかねばならないことも意味します1)。HEAL-COVID試験でもその取り組みは続いており、コレステロール低下薬アトルバスタチン(atorvastatin)1年間投与の検討が進行中です。同剤は抗炎症作用があり、COVID-19患者にみられる炎症反応を緩和しうると目されています4)。long COVIDは本連載第140回で紹介したとおり英国では230万人、米国ではその10倍の2,300万人に達すると推定されており、その影響は医療に限らず雇用、障害年金、生命保険、家のローン、老後の備え、家計に波及します5)。それらをひっくるめてlong COVID が米国に強いる負担は4兆ドル近い(3.7兆ドル)とハーバード大学の経済学者David Cutler氏は予想しており6)、その額は実にサブプライムローン絡みの2000年代後半の大不況(Great Recession)の負担に匹敵します。目下のところCOVID-19といえば感染してすぐの時期に目が行きがちですが、感染がひとまずおさまった後の長患いの最適な治療をいまや急いで確立する必要があります1)。参考1)Blood thinning drug does not help patients recover from Covid / Cambridge University Hospitals NHS Foundation Trust2)About HEAL-COVID3)HEAL-COVID試験(Clinical Trials.gov)4)Blood Thinner Ineffective for COVID-19 Patients: Study / TheScientist5)Long Covid may be ‘the next public health disaster’ - with a $3.7 trillion economic impact rivaling the Great Recession / CNBC6)Cutler DM.The Economic Cost of Long COVID: An Update

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認知症における抗精神病薬処方を合理化するための介入

 認知症介護施設の入居者に対する不適切な抗精神病薬投与は問題となっている。この問題に対処するため、施設スタッフの教育やトレーニング、アカデミック・ディテーリング、新たな入居者評価ツールで構成された「認知症に対する抗精神病薬処方の合理化(RAPID:Rationalising Antipsychotic Prescribing in Dementia)」による複合介入が開発された。アイルランド・ユニバーシティ・カレッジ・コークのKieran A. Walsh氏らは、認知症介護施設の環境下におけるRAPID複合介入の利用可能性および受容性を評価するため、本研究を実施した。また、向精神薬の処方、転倒、行動症状に関連する傾向についても併せて評価した。その結果、RAPID複合介入は広く利用可能であり、関係者の受容性も良好である可能性が示唆された。著者らは、今後の大規模研究で評価する前に、実装改善のためのプロトコール変更やさらなる調査が必要であるとしている。Exploratory Research in Clinical and Social Pharmacy誌2022年10月10日号の報告。 2017年7月~2018年1月にアイルランドの大規模介護施設において、混合法による利用可能性介入研究を実施した。介護施設のスタッフおよび一般開業医によるフォーカスグループと半構造化インタビューを3ヵ月のフォローアップ期間終了後に実施し、参加者を評価した。定量測定には、介入前後の評価および向精神薬の処方率を含めた。 主な結果は以下のとおり。・2日間のトレーニング研修に介護施設スタッフ16人が参加し(参加率:21%)、一般開業医4人がアカデミック・ディテーリングセッションに参加した(参加率:100%)。・フォーカスグループとインタビューに参加した18人は、教育およびトレーニングが自身の業務に有益であると認識し、本調査完了後も新規スタッフの教育を継続したいと回答した。・しかし、施設入居者評価ツールの使用は限定的であった。・参加者からは、介入を強化するための推奨事項も挙げられた。・定期的な抗精神病薬の処方が行われていた認知症入居者の割合は、介入前3ヵ月間45%(18例)、ベースライン時44%(19例)であったが、介入3ヵ月後では36%(14例)とわずかな減少が認められた。・認知症入居者に投与される1ヵ月当たりの向精神薬頓服処方の絶対数は、ベースライン時の90から介入3ヵ月後の69へと大幅に減少した。

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第136回 ウイルス2種が融合して免疫をかいくぐる

異なる呼吸器ウイルス2種が融合し、免疫をより回避する新たな素質を備えうることが示されました1,2)。2つ以上のウイルスの共感染は呼吸器ウイルス感染の10~30%に認められ、とくに子供ではよくあることですが、それがどういう結末をもたらすのかは定かではありません。共感染したところで経過にどうやら変わりはないという試験結果がある一方で肺炎が増えたという報告もあります。共感染者の細胞内での2つ以上のウイルスの相互作用もよく分かっていませんが、細胞内での直接的な相互作用でウイルスの病原性が変わるかもしれません。たとえば別のウイルスの表面タンパク質を取り込んでそのウイルスもどき(pseudotyping)になるとかウイルスゲノムの再編が起きる可能性があります。ゲノムの再編は新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)やパンデミックインフルエンザウイルスのような世界的に流行しうる新たなウイルス株の原因となりうる現象です。世界で500万人を超える人が毎年インフルエンザAウイルス(IAV)感染で入院しています。呼吸器合胞体ウイルス(RSV)は5歳までの小児の急な下気道感染症の主因となっています。新たな研究で英国グラスゴー大学の研究者等は一緒に出回ることが多くて重要度が高いそれら2つの呼吸器ウイルスをヒトの肺起源の細胞内に同居させて何が起きるかを調べました。生きた細胞の撮影や顕微鏡で観察したところIAVとRSVの双方からの成分を併せ持つ融合ウイルス粒子(HVP)が確認され、HVPは他の細胞に感染を広げることができました。HVPに抗IAV抗体は歯が立たないらしく、その感染細胞に抗IAV抗体を与えても感染の他の細胞への広がりを防ぐことはできませんでした。HVPはRSVからの糖タンパク質を流用して抗IAV抗体を逃れることができるのです。一方、抗RSV抗体は依然としてHVPと勝負できるらしく、HVPの細胞から細胞への広がりを防ぎました。著者によるとIAVがRSVからの授かりものを使って免疫を回避できるようになるのとは対照的にRSVはIAV糖タンパク質に細胞侵入を手伝わせることはできないようです。“IAVはRSVとの融合によりより重症の感染を招く恐れがある”と今回の研究には携わっていない英国リーズ大学のウイルス学者Stephen Griffin氏は同国のニュースTheGuardianに話しています3,4)。RSVは季節性インフルエンザに比べてより奥の肺に下って行こうとします。よってインフルエンザがRSVと同様に肺へと深入りするとより重症化するおそれがいっそう高まるかもしれません。体外での研究で今回認められたようなウイルス融合の人体での発生はまだ観察されておらず、ウイルス融合が人の健康に影響するのかどうかを今後の研究で調べる必要があります。IAVとRSVが手を取り合うのとは真反対に一方がもう一方を抑えつける関係もどうやら存在します。たとえば、風邪ウイルスとして知られるライノウイルスとSARS-CoV-2が細胞内でそういう排他的関係にあるらしいことが昨年3月の報告で示されています5,6)。その報告によるとライノウイルスはSARS-CoV-2複製を防ぐインターフェロン(IFN)反応を誘発し、ライノウイルスがいる呼吸上皮細胞でSARS-CoV-2は増えることができません。巷にあまねく広まるライノウイルスとSARS-CoV-2の相互作用は計算によると世間全般に及ぶ影響があり、ライノウイルス感染が増えるほどSARS-CoV-2感染は減るらしいと推定されています5)。参考1)Haney J, et al. Nat Microbiol. 2022;7:1879-1890.2)NEW RESEARCH SHEDS LIGHT ON HIDDEN WORLD OF VIRAL COINFECTIONS / University of Glasgow3)Immune system-evading hybrid virus observed for first time / TheGuardian4)Flu/RSV Coinfection Produces Hybrid Virus that Evades Immune Defenses / TheScientist5)Dee K, et al. J Infect Dis. 2021;224:31-38.6)Coronavirus: How the common cold can boot out Covid / BBC

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転移乳がんへの局所療法はescalationなのか?/日本癌治療学会

 転移乳がんに対する積極的な局所療法の追加は、がんが治癒しなくても薬剤使用量を減らすことができればescalationではなくde-escalationかもしれない。第60回日本癌治療学会学術集会(10月20~22日)において、岡山大学の枝園 忠彦氏は「転移乳がんに対する局所療法はescalationかde-escalationか?」と題した講演で、3つのクリニカルクエスチョンについて前向き試験の結果を検証し、転移乳がんにおける局所療法の意義について考察した。 転移乳がんにおいて治癒は難しいが、ある特定の患者ではきわめて長期生存する可能性があり、近年そのような症例が増えてきているという。枝園氏はその背景として、PETなどの画像検査の進歩により術後早期に微小転移の描出が可能となったこと、薬物療法が目まぐるしく進歩していること、麻酔や手術が低侵襲で安全になってきていること、SBRT(体幹部定位放射線治療)が保険適用され根治照射が可能になったことを挙げた。この状況の下、3つのクリニカルクエスチョン(CQ)について考察した。CQ1 転移乳がんに対する局所療法は生存期間を延長するか?(escalationとしての局所療法の意義) de novo StageIV乳がんに対して原発巣切除を行うかどうかは、すでに4つの臨床試験(ECOG2018、India、MF07-01、POSITIVE)でいずれも生存期間を延長しないことが明らかになっており、現時点でescalationとして原発巣切除をする意義はないと考えられると枝園氏は述べた。なお、一連の臨床試験の最後となるJCOG1017試験は、今年8月に追跡期間が終了し、現在主たる解析中で来年結果を報告予定という。 一方、オリゴ転移に対する局所療法の効果については、杏林大学の井本 滋氏らによるアジアでの後ろ向き研究において、局所療法を加えた症例、単発病変症例、無病生存期間が長い症例で予後が良いことが示されている。前向き試験も世界で実施されている。SABR-COMET試験はオリゴ転移(5個以下)に対する積極的な放射線療法を検討した試験で、SBRT群が通常の放射線療法に比べ、無増悪生存期間だけでなく全生存期間の延長も認められた。ただし、本試験には乳がん症例は15~20%しか含まれていない。 それに対し、乳がんのオリゴ転移(4個以下)に対するSBRTの効果を検討したNRG-BR002試験では、SBRTによる有意な予後の延長は認められなかった。しかしながら、本試験で薬物療法がしっかりなされているのか疑わしく、また転移検索でPET検査を実施していないため転移が本当に4個以下だったのか曖昧であることから、この試験結果によって「オリゴ転移に対する局所療法は有効ではない」という結論にはなっていないという。 国内でも、枝園氏らがオリゴ転移(3個以下)を有する進行乳がんに対する根治的局所療法追加の意義を検証するランダム化比較試験(JCOG2110)の計画書を作成中で、年末もしくは来年早々に登録を開始予定である。CQ2 転移乳がんに対する局所療法は局所の状態を改善するか?(escalationとしての局所療法の意義) このCQに関するデータとしては、de-novo StageIV乳がんに対する原発巣切除のデータしかないが、局所コントロールは手術ありで非常に良好で、手術なしに比べて局所の悪化を半分以下に抑えている。また、先進国であるECOGの試験では、手術なしでも4分の3は局所が悪化しておらず、枝園氏は、全例に対して局所コントロールの目的で手術が必要というわけではないとしている。手術ありのほうが術創の影響などで18ヵ月後にQOLスコアが悪化したという試験結果もある。CQ3 転移乳がんは治癒するか?(de-escalationとしての局所療法の意義) 枝園氏は、転移乳がんが局所切除によって本当に治癒するのであれば、薬物療法を中止できることからde-escalationなのではないかと述べ、自身が経験したホルモン陰性HER2陽性StageIV乳がんの52歳の女性の経過を紹介した。本症例ではトラスツズマブの投与で転移巣が完全奏効(CR)し、原発巣の残存病変については切除した。その後トラスツズマブを継続し、再燃がみられないため中止、そのまま無治療で8年間再燃していないことから、この手術はde-escalationとなったのではないかと考察している。 また、転移乳がんに対する薬物療法の効果はサブタイプによって大きく異なり、たとえば1次治療におけるCR率はHER2陽性では28%、ER陽性ではわずか2%である。薬物療法だけでCRを達成できるなら局所療法は不要であり、それらを見極めたうえで局所療法をうまく使わないといけないと枝園氏は述べた。 さらに、CRを達成したら薬物を中止できるのかという問いに関して、枝園氏は、データとして出すことはできないが、HER2陽性転移乳がんに1次治療としてトラスツズマブを投与しCRを達成した患者において、投与中止患者の80%が10年以上生存していたとのJCOGの多施設後ろ向き研究のデータを提示した。 最後に、枝園氏は3つのCQを総括したうえで「それぞれのescalation、de-escalationで良し悪しがあり、もう少しデータが必要ではないか」と述べ、講演を終えた。

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ESMO2022 レポート 消化器がん

レポーター紹介ESMO2022を見て考えたこと昨年、一昨年と参加できなかったESMOであるが、abstract締め切りとなる2022年5月ごろはコロナも一段落していて今年こそは参加できる、と非常に心待ちにしていた。今回筆者は投稿演題がポスターとしてacceptとなり参加する気満々でいたのだが、7月ごろからの第7波の影響をもろに受け、今年も参加できなかった。仕方なくSNSを介して学会の様子を味わいつつ、レポートを書くこととなってしまった。今年のESMOで筆者が注目したのは大腸がんに対する免疫チェックポイント阻害薬の開発である。MSS大腸がんに対する免疫チェックポイント阻害薬の開発:迷路はゴールから解け?連戦連敗を続けていたMSS大腸がんに対する免疫チェックポイント阻害薬であるが、こうすればうまくいくかも? というヒントが提示された。C-800 studybontesilimabはFc部分を改良し、APCやNK細胞のFcγIIIとの結合能を向上させた新規の抗CTLA-4抗体であり第1世代抗CTLA-4抗体と比して、活性化樹状細胞の割合、T細胞のプライミング、増殖(拡大)、メモリー化、Tregを減少させる能力が向上し、さらに有害事象が減少する、とされている。C-800試験(NCT03860272)はさまざまながん種を対象とした抗PD-1抗体balstilimab(BAL、3mg/kg Q2W)と抗CTLA-4抗体botensilimab(BOT、1 or 2mg/kg Q6W)併用療法のfirst-in human phase I試験である。今回、MSS大腸がんコホートの結果が2022年6月29日から7月2日にかけてバルセロナで開催されたWorld Congress on Gastrointestinal Cancer(ESMO-GI)のLate breaking abstractとして発表された。標準治療に不応となったMSS大腸がん41例が登録された。前治療ラインの中央値は4(2~10)であり、14例(34%)が何らかの免疫療法を過去に投与されていた(!)。RAS変異は21例(51%)、BRAF変異は2例(5%)に認められた。部分奏効(partial response:PR)は10例に認められたが完全奏効(complete response:CR)は認めず、奏効率(overall response rate:ORR)は24%であった。病勢制御率(disease control rate:DCR)は73%であった。10例の奏効例のうち8例は報告時点で治療効果が持続しており、3例は1年以上持続していた。フォローアップ中央値が5.8ヵ月と短いがduration of response(DOR)の中央値は未到達であった。有害事象としてGrade4以上のものはなく、いずれも既知のものであった。注目を集めたのは以下の解析結果である。登録症例44例のうちactiveな肝転移を有さない症例が24例であった(肝転移となったことがない19例と切除ないし焼灼し現在肝転移がない5例)。この「肝転移がない」症例に限って解析を行うと、ORRが42%(10/24)、DCRが96%(23/24)という結果であった。何らかの免疫療法で加療された後の症例を34%含む集団ということを考えれば期待の持てる有効性と感じた。また肝転移という臨床的な要素での患者選択による治療開発の方向性を示唆する結果であった。RIN上記結果報告から2ヵ月後のESMOにおいて、レゴラフェニブ (REG)、イピリムマブ (IPI)、ニボルマブ(NIVO)併用療法(RIN)のphase I試験の結果が報告された。対象となったのはフッ化ピリミジン、オキサリプラチン、イリノテカン、および左側RAS野生型およびBRAF変異症例においては抗EGFR抗体に不応となったMSS大腸がんである。Dose escalationパート(9例)にてレゴラフェニブ 80mg QD、ニボルマブ 240mg Q2W、ipilimumab 1mg Q6W(すなわちlow-dose IPI+NIVO)が決定され、Dose expansionパート(20例)に移行した。今回は両パートを合わせたMSS大腸がん29例の結果が報告された。前治療ラインの中央値は2(1~6)であり、免疫療法を過去に投与された症例は適格性から除外されている。RAS変異は9例(31%)、BRAF変異は3例(10.3%)に認められた。TMBの中央値は3(1~11)であった。懸念される安全性については以下の通りである。免疫チェックポイント阻害薬関連Grade3以上の毒性としては斑点状・丘面状発疹(37.9%)、AST/ALT上昇(17.2%)、リパーゼ・アミラーゼ上昇(10.3%)であり、REGが加わることにより毒性はやや増す印象を持った。有効性については上述のC-800試験の結果を受けたものと想定されるが、肝転移の有無も情報として加えられている。全体のORRは40.9%(9例)であったが、奏効はすべて肝転移なし症例であった。全体のDCRは65.5%であり、肝転移なし群で72.7%、肝転移あり群で42.9%であった。無増悪生存期間(progression-free survival:PFS)の中央値は全体で4ヵ月、肝転移なし群で5.0ヵ月、肝転移あり群で2ヵ月であった。以上のようにここでも肝転移の有無によって治療効果が明瞭に分かれる結果であった。今後の展開肝転移を有する症例で免疫チェックポイント阻害薬ないし(殺細胞性抗がん剤を用いない)免疫チェックポイント阻害薬の併用療法が効きづらいという現象は他がん種で複数報告されており、真実であるように思える。しかしこれを前向きに評価した研究は筆者の知る限りこれまでにない。肝転移の有無という非常にシンプルな臨床パラメータで症例を絞るという開発ができれば成功が見えてくるのではないかと感じた。複雑な迷路を解く簡単な方法は何かといえばゴールから解くことである。All comerでの勝利を目指さず、まず「勝てそう」な手堅い対象(たとえsmall populationであっても)から承認を得て、徐々に広げていくという戦略が必要と強く感じている。とはいえMSS大腸がんに対する免疫チェックポイント阻害薬治療の開発はこれまで連敗続きであり、一筋縄ではいかないのは周知の事実である。結局はphase IIIの結果を見るまではわからないと思っている。MSI-H大腸がんに対する免疫チェックポイント阻害薬の開発:過ぎたるは及ばざるが如し?2022年ASCO最大の話題の1つがNEJM誌に同時掲載されたStage II/III dMMR直腸がんに対する抗PD-1抗体dostarlimab(500mg Q3W)の単剤療法の結果であろう(Cercek A, et al. ASCO2022, #LBA5. Cercek A, et al. NEJM 2022)。MSKCCの単施設で行われたphase II試験であるが、12例のcase seriesとして報告された。この試験では、前治療歴のないdMMR Stage II/III直腸がん患者に対し、dostarlimabを合計6ヵ月間投与した。臨床的完全奏効(cCR)が得られた場合、患者は非手術管理と経過観察を行いcCRが認められない場合は、化学放射線療法(放射線療法+カペシタビン同時併用療法)に続き、TMEを行うこととした。結果、全例がcCRが得られるという驚愕の結果であった。重要なことは、これらの症例には化学放射線療法および/または手術が行われなかったという点である。この結果はdMMR Stage II/III 直腸がんに対しては免疫チェックポイント阻害薬での治療が標準となることを強く予感させるものであった。NICHE-2この試験は先行したNICHE-1試験の発展版である。NICHE-1試験(NCT03026140)は、Stage I~III dMMRまたはpMMR結腸直腸がん患者に対する術前NIVO+IPI(といってもIPI 1mg/kg併用は初回サイクルのみ。2サイクル目はNIVO 3mg/kgで終了という短期投与であるが)の安全性と忍容性を主要評価項目として行われた。治療の忍容性は良好で、全症例で根治的切除術を受けた(主要評価項目を達成した)。NIVO+IPI投与群のうち、dMMRでは、20例全例で病理学的効果(patholigic response:PR)が認められ、19例のmajor pathological response (MPR、残存生存腫瘍10%以下)、12例の病理学的完全奏効が認められた(Chalabi M, et al. Nat Med. 2020:566-576.)。NICHE-2試験はcT3以上の腫瘍を有する切除可能 dMMR結腸がんに対する術前治療としてのニボルマブ(NIVO)+イピリムマブ(IPI)併用療法(治療は上記と同様)の安全性と忍容性、3年の無病生存期間(disease-free survival:DFS)を主要評価項目とした試験である。95%の症例で手術が予定通りに行われた場合に安全性と忍容性があり、有効な3年DFSとして93%以上と定義された。この設定により95症例が必要と算出された。120例がスクリーニングされ112例が加療され107例で有効性解析が行われた。Stage I/IIが13%、低リスクStage IIIが13%、高リスクStage III(T4a/4b、N2)が74%であった。右側原発が68%、横行結腸原発が17%と全体の大勢を占めた。一方リンチ症候群の割合は31%であった。Grade3以上の有害事象は4%であった。98%の症例で切除術を遅延なく受けることができ、安全性と忍容性について主要評価項目を達成した。一方、病理学的有効性に関してはmajor pathological response 95%、67%の症例でpCRが得られており「This is the waterfall plot」という、まさに滝が落ちるようなvisualで聴衆を圧倒した(らしい)。有意差はなかったもののリンチ症候群の方が孤発性よりpCR率が高い結果であった。3年DFSは今後発表予定である。今後の展開さてこの結果をどう考えるか、である。そもそもdMMR大腸がんはとくにStage IIでは手術単独で3年DFSが90%程度あり(Sargent DJ, et al. J Clin Oncol. 2010;28:3219-3226.)予後良好であることが知られている。dMMR結腸がんの特徴としてcStageとpStageの乖離があると筆者は考えている。dMMR腫瘍はimmunogenicな免疫環境を反映し、腫瘍内に著明なリンパ球浸潤を来す。そのため腫瘍径としてはT4が多く、また近傍のリンパ節では活発に免疫応答を生じるためradiologicalにはN(+)と判断される。しかしこうした症例を手術すると、累々と腫脹していたリンパ節は実は免疫応答の結果でありそこに腫瘍細胞は存在しない(N=0)ことがあり、cStage IIIが実はpStage II(high-risk)だった、ということをdMMR大腸がんでしばしば経験する。つまり今回の試験で定義されている高リスクStage IIIはdMMR腫瘍の典型であり実際にはStage IIなのではないかという懸念がある。ところが全例で術前にNIVO+IPIが入るため、見た目(clinical stage)と実際(pathological stage)の違いがわからなくなってしまっている。今回3年DFS 93%以上で有効と定義しているが、全体の集団が実はStage II dominantであった場合にこれが妥当といえるだろうか。実はdMMRはStage IIの15%、Stage IIIの10%程度に存在する決して珍しいとはいえない存在である。ランダム化試験での検証が望ましいが、結局上述のcStageとpStageの乖離が悩ましいところである。さらに、Stage II/IIIに対して抗PD-1抗体以上の免疫チェックポイント阻害薬が必要かどうかについても興味がある。上述のdostarlimab試験で100%のCRが得られた、という結果を見て「おや」と感じられた方もおられると思う。未治療の進行・再発MSI-H/dMMR結腸直腸がんを対象としたKEYNOTE-177試験ではpembrolizumab単剤の奏効率が43.8%であり病勢進行(progressive disease:PD)が29.4%も認められたことと大きく相違するからである。この違いは何に由来するのか。そもそもMSI-H/dMMRというimmunogenicな腫瘍がなぜ「進行がん」として存在するかであるが、チェックポイント分子の発現によって免疫環境から逃避できているから、かもしれない。Stage II/IIIで留まっているということは、腫瘍増殖と免疫機能が腫瘍とその近傍で拮抗している状態であり、おそらくPD-1が免疫逃避において大きな役割を果たしている。したがって抗PD-1抗体単剤で非常に高い効果が得られる、と理解できる。一方でそうした拮抗状態を乗り越えさらに腫瘍増悪を来している状態(進行・再発)では、さらなるチェックポイント分子の発現を獲得している可能性があり、それゆえ抗PD-1抗体単剤の治療効果はある程度で頭打ちであり、さらなるチェックポイント分子に対する加療(たとえば抗CTLA-4抗体の追加)が必要なのではないかと考えている。この仮説が正しいかどうかはNIVO monotherapy vs.NIVO+IPI vs.標準化学療法というデザインで現在ongoingのphase III試験(CheckMate-8HW、NCT04008030)の結果を待ちたい。さらにこの試験の結果により、どういう症例にIPIが必要かという使い分けができればと期待しているし、それによりNICHE-2デザインが本当に必要かはさらに明らかになると考えている。最後にコロナ第7波もようやく収束に向かい、徐々にリアルの学会・研究会が復活してきているが、やはりリアルの会の良さを感じている。単純に情報の交換だけではないsomethingが学会・研究会会場にはあると思うし(例えばwaterfall plotの件)、それが自身の活力となっていると感じる。というわけで、来年こそは参加したいESMO、である。皆さま、マドリードでお会いしましょう!

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第16回 オンライン診療でインフルエンザと診断してよいか?

政府から示されたオンラインスキームインフルエンザ流行るぞ!という意見が台頭してきましたが、未来のことは誰にもわかりません。しかし、新型コロナ第8波とインフルエンザ流行がかぶると、発熱外来の逼迫は必至です。そのため、政府としても、医療が必要な人以外はできるだけ病院に来ないよう策を講じる必要がありました。ここで示されたのが、「新型コロナ自己検査+インフルエンザオンライン診断」の流れです1)。病院に来なくても、新型コロナとインフルエンザが診断できる「かもしれない」、というスキームです。具体的には図のようになります。オンライン診療というのが結構カッコイイ感じになっていますが、Zoomなどの診療を整備している施設は少数派で、実際には電話診療が多いと思います。電話って個人的には「オンライン」じゃなくて「オフライン」だと思っているのですが…。まあいいでしょう。画像を拡大する図. 新型コロナ・インフルエンザ同時流行時のスキーム(筆者作成:イラストは看護roo!、イラストACより使用)遠隔でインフルエンザ診断さて、このフローで気になるのは、検査なしでオンライン診療によるインフルエンザの確定診断が可能という点です。必要があれば、オセルタミビルなどのインフルエンザ治療薬を遠隔で処方することができます。確かにインフルエンザは、(1)突然の発症、(2)高熱、(3)上気道炎症状、(4)全身倦怠感などの全身症状がそろっていれば、医師の判断でそうであると診断することができるので、検査が必須というわけではありません。インフルエンザだと典型的な症状で類推できるとは思いますが、新型コロナ陰性ならインフルエンザだ!というロジックです。オンライン診療という名の電話診察だけでも抗ウイルス薬を処方してしまってよいのか、少しモヤモヤが残ります。限られた医療資源で対応していくしかないのでしょうが、どんどんフローが複雑化していき、一体病気になった時どこに連絡していいのかわからないという患者さんが増えていくのではないかという懸念もあります。インフルエンザ治療薬の考え方日本は医療資源が潤沢ですから、インフルエンザと診断されれば抗ウイルス薬がほぼルーティンで投与されます。今シーズン(2022年10月~2023年3月)の供給予定量(2022年8月末日現在)は約2,238万人分とされています2)。タミフル(一般名:オセルタミビルリン酸塩 中外製薬)約462万人分オセルタミビル(一般名:オセルタミビルリン酸塩 沢井製薬)約240万人分リレンザ(一般名:ザナミビル水和物 グラクソ・スミスクライン)約215万人分イナビル(一般名:ラニナミビルオクタン酸エステル水和物 第一三共)約1,157万人分ゾフルーザ(一般名:バロキサビル マルボキシル 塩野義製薬)約137万人分ラピアクタ(一般名:ペラミビル水和物 塩野義製薬)約28万人分現状、インフルエンザの特効薬のような位置付けになっていますが、合併症のリスクが高くない発症48時間以内に治療を行ったとしても、有症状期間が約1日短縮される程度の効果であることは知っておきたいところです。■オセルタミビル20試験・ザナミビル46試験を含むレビューでは、オセルタミビルは成人インフルエンザの症状が緩和されるまでの時間を16.8時間(95%信頼区間[CI]:8.4~25.1)、ザナミビルは0.60日(14.4時間)(95%CI:0.39~0.81)短縮した3)。■バロキサビル マルボキシルまたはプラセボによる治療を受けた12歳以上の外来のインフルエンザ2,184例を含んだランダム化試験において、バロキサビル マルボキシル治療は症状改善までの期間を中央値で29.1時間(95%CI:14.6~42.8)短縮した4)。参考文献・参考サイト1)厚生労働省 新型コロナ・インフル同時流行対策タスクフォース2)厚生労働省 令和4年度 今冬のインフルエンザ総合対策について3)Jefferson T, et al. Neuraminidase inhibitors for preventing and treating influenza in adults and children. Cochrane Database Syst Rev . 2014 Apr 10;2014(4):CD008965.4)Ison MG, et al. Early treatment with baloxavir marboxil in high-risk adolescent and adult outpatients with uncomplicated influenza (CAPSTONE-2): a randomised, placebo-controlled, phase 3 trial. Lancet Infect Dis. 2020 Oct;20(10):1204-1214.

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がん治療による放射線関連心疾患、弁膜症を来しやすい患者の特徴/日本腫瘍循環器学会

 9月17、18日に開催された第5回日本腫瘍循環器学会にて、塩山 渉氏(滋賀医科大学循環器内科)が「放射線治療による冠動脈疾患、弁膜症」と題し、放射線治療後に生じる特異的な弁膜症とその治療での推奨事項について講演した(本シンポジウムは日本放射線腫瘍学会との共催企画)。 がんの放射線治療による放射線関連心疾患(RIHD:radiation-induced heart disease)の頻度は医学の進歩により減少傾向にあるが、それでもなお、食道がんや肺がん、縦隔腫瘍でのRIHD発症には注意を要する。2013年にNEJM誌に掲載された論文1)によると、照射から20年以上経過してもなお、主要心血管イベントリスクが8.2%(95%信頼区間:0.4~26.6)も残っていたという衝撃的な報告がなされた。それ以来、RIHDは注目されるようになり、その1つに弁膜症が存在する。放射線治療時の心臓への影響予測にAMC これら放射線治療時の心臓の予後予測のために見るべき点として、「上記のような弁膜症を発症する症例にはAorto-mitral curtain(AMC、大動脈と僧帽弁前尖の接合部)に進行性の弁の肥厚や石灰化が進行しやすいという特徴がある」と同氏は述べ、「肥厚をきたしている場合は予後が悪いとの報告2)もあることから、放射線治療時の診断マーカーになるのではないかとも言われている」とコメントした。また、心臓手術による死亡率を予測する方法として用いられるEuroSCORE(European System for Cardiac Operative Risk Evaluation)は本来であればスコアが高ければ予後が悪いと判定されるが、「AMCが肥厚している症例ではスコアにかかわらず予後不良である」と汎用される指標から逸脱してしまう点についても触れた。放射線治療における心毒性に対するESCガイドラインでの推奨 先日行われた欧州心臓病学会(ESC)2022学術集会において、初となる腫瘍循環器ガイドラインが発刊された。そこでは放射線治療における心毒性に関してもいくつか推奨事項が触れられており、がん治療患者の急性冠症候群(ASC)に対するPCI施行の可否についてはその1つである。ガイドラインによれば、「STEMIまたは高リスクのNSTE-ACSを呈し、予後6ヵ月以上のがん患者には侵襲的な治療戦略が推奨される(クラスI、レベルB)」とされ、予後6ヵ月未満の方については薬物療法を検討することが記載されているが、「がん治療による血小板減少を伴う患者に対しては、抗血小板薬の使用を慎重にならざるを得ないため、“アスピリンやP2Y12阻害薬の使用は推奨されない”(クラスIII、レベルC)」と薬物療法介入時の注意点を説明した。心臓に直接影響のある放射線量やドキソルビシン投与有無で分類 次に、がんサバイバーの外科治療による予後はどうか。外科的弁置換術(SAVR)において、放射線治療を受けた重度の大動脈弁狭窄症患者では放射線治療歴のない患者と比較して長期死亡率が有意に高いことが明らかになっているため、2020年改訂版『弁膜症治療のガイドライン』(p.69)でも、TAVIを考慮する因子として“胸部への放射線治療の既往 (縦隔内組織の癒着)”と明記されている。さらに、胸部放射線照射後の予後を調査した論文3)によると、胸部放射線照射群におけるTAVIは、対照群と比較して30日死亡率、安全性、有効性が同等であるものの、1年死亡率や慢性心不全の増悪が高いことが示された。ただし、両治療法の転帰について比較した報告4)を踏まえ、TAVI群では完全房室ブロックの発症やペースメーカーの挿入率が多かったことを念頭に置いておく必要がある。 そのほか、放射線治療の平均心臓線量と関連する心毒性を確認する推奨項目としてESCガイドラインに掲載されている「ベースラインCVリスク評価とSCORE2またはSCORE-OPによる10年間の致死的および非致死的CVDリスクの推定が推奨される(クラスI、レベルB)」「心臓を含む領域への放射線治療前に、CVDの既往のある患者にはベースライン心エコー検査を考慮するべきである(クラスIIa、レベルC)」「重症弁膜症を有するがんサバイバーの手術リスクを協議し、その判定を行うために、多職種チームによるアプローチが推奨される(クラスI、レベルC)」「放射線による症候性重度大動脈弁狭窄症で、手術リスクが中程度の患者にTAVI手術を行う(クラスIIa、レベルB)」を紹介。最後に同氏は「MHD(Mean heart dose)による評価が大切であり、心臓に直接影響のある放射線量やドキソルビシン投与有無などで低リスク~超ハイリスクの4つに分類する点などもESCガイドラインに記載されているので参考にして欲しい」と締めくくった。

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小児および青年期における抗精神病薬誘発性のプロラクチン変化~メタ解析

 抗精神病薬誘発性のプロラクチン変化は、思春期患者の成長や発達に対し重大な有害反応(AR)を引き起こす可能性がある。デンマーク・Mental Health ServicesのSabrina Meyer Kroigaard氏らは、小児や青年において、抗精神病薬がプロラクチンレベルに及ぼす影響と関連する身体的ARを評価するため本検討を行った。その結果、小児および青年における抗精神病薬誘発性のプロラクチン変化は、リスペリドン、パリペリドン、オランザピンで有意に上昇し、アリピプラゾールで有意に減少することが示唆された。しかし、プロラクチンレベルの有意な変化があるにもかかわらず、ARの報告はほとんどないことも明らかとなった。Journal of Child and Adolescent Psychopharmacology誌2022年9月号の報告。 18歳以下の小児および青年を対象とした抗精神病薬のプラセボ対照ランダム化試験を、PubMed、CENTRALよりシステマティックに検索し、プロラクチンレベルおよび関連するARを評価するため、ランダム効果メタ解析を実施した。バイアスリスクは、risk of bias version 2(ROB2)を用いて評価した。 主な結果は以下のとおり。・分析対象は、ランダム化比較試験32件(患者数:4,643例、平均研究期間:6週間、平均年齢:13歳、男性の割合:65.3%)。・ドメインのバイアスリスクは、低いまたは不明であった。・比較された薬剤は、アリピプラゾール(810例)、アセナピン(506例)、ルラシドン(314例)、オランザピン(179例)、パリペリドン(149例)、クエチアピン(381例)、リスペリドン(609例)、ziprasidone(16例)、プラセボ(1,658例)であった。・プラセボと比較して統計学的に有意なプロラクチンレベルの上昇が認められた薬剤は、リスペリドン(平均差[MD]:28.24ng/mL)、パリペリドン(MD:20.98ng/mL)、オランザピン(MD:11.34ng/mL)であった。・アリピプラゾールは、プラセボと比較し、プロラクチンレベルを有意に低下させた(MD:-4.91ng/mL)。・クエチアピン、ルラシドン、アセナピンのプロラクチンレベルの変化は、プラセボと比較し、有意な差は認められなかった。・本研究のziprasidoneにおける結果は単一試験に基づいており、結論を導き出すには不十分であった。・概して、抗精神病薬で治療された患者の20.8%で高プロラクチン血症が認められたが、プロラクチンレベルに関連するARが報告された患者は、わずか1.03%であった。・長期的な影響に関するデータは、非常に限られていた。

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デュピルマブ、6歳未満のアトピー性皮膚炎にも有効/Lancet

 6歳未満のアトピー性皮膚炎患児の治療において、インターロイキン(IL)-4とIL-13を標的とする完全ヒト型モノクローナル抗体デュピルマブはプラセボと比較して、皮膚症状や徴候を有意に改善し、安全性プロファイルも許容範囲であることが、米国・ノースウェスタン大学のAmy S. Paller氏らが実施した「LIBERTY AD PRESCHOOL試験」で示された。研究の成果は、Lancet誌2022年9月17日号に掲載された。北米と欧州の第III相無作為化プラセボ対照比較試験 LIBERTY AD PRESCHOOL試験は、中等症~重症のアトピー性皮膚炎の幼児におけるデュピルマブの有効性と安全性の評価を目的とする第II/III相試験であり、今回は第III相の二重盲検無作為化プラセボ対照比較試験の結果が報告された(SanofiとRegeneron Pharmaceuticalsの助成を受けた)。本研究は、北米と欧州の31施設で行われ、2020年6月30日~2021年2月12日の期間に参加者が登録された。 対象は、生後6ヵ月~<6歳の中等症~重症のアトピー性皮膚炎で、糖質コルチコイドによる局所治療の効果が不十分な患児であった。被験者は、low-potencyの糖質コルチコイド(酢酸ヒドロコルチゾン1%含有クリーム)による局所治療に加え、デュピルマブまたはプラセボを4週ごとに16週間、皮下投与する群に無作為に割り付けられた。 主要エンドポイントは、16週時のInvestigator’s Global Assessment(IGA)スコア0~1点(皮膚症状が消失またはほぼ消失)とされた。主要エンドポイント:28% vs.4% 162例(年齢中央値4.0歳、男児61%)が登録され、デュピルマブ群に83例、プラセボ群に79例が割り付けられた。それぞれ82例(99%)および75例(95%)が、試験薬の投与を完遂した。 16週時に、IGAスコア0~1点を達成した患児は、デュピルマブ群が23例(28%)と、プラセボ群の3例(4%)に比べ有意に優れた(群間差:24%、95%信頼区間[CI]:13~34、p<0.0001)。 主な副次エンドポイントであるEczema Area and Severity Index(EASI)のベースラインから16週までの75%以上の改善(EASI-75)を達成した患児は、それぞれ44例(53%)および8例(11%)であり、デュピルマブ群で有意に割合が高かった(群間差:42%、95%CI:29~55、p<0.0001)。 また、EASIのベースラインから16週までの変化率(デュピルマブ群-70.0% vs.プラセボ群-19.6%、群間差:-50.4%、95%CI:-62.4~-38.4、p<0.0001)および最悪の痒み/掻破の数値評価尺度(NRS)スコアのベースラインから16週までの変化率(-49.4% vs.-2.2%、-47.1%、-59.5~-34.8、p<0.0001)は、いずれもデュピルマブ群で有意に良好だった。 16週の投与期間中に、1つ以上の治療関連有害事象を発現した患児は、デュピルマブ群が83例中53例(64%)、プラセボ群は78例中58例(74%)であり、両群で同程度であった。とくに注目すべき有害事象として、デュピルマブ群で結膜炎が3例(4%)に認められた(プラセボ群は0例)。デュピルマブ関連の有害事象では、アトピー性皮膚炎のフレアによる治療中止が1例みられたが、重篤な有害事象は発現しなかった。 著者は、「これらの結果は、アトピー性皮膚炎の幼児におけるデュピルマブの有効性に関する重要な臨床データであり、世界中の臨床現場に有益な情報を提供し、変化をもたらす可能性がある」としている。

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アジア人の小児期自閉スペクトラム症に伴う易刺激性に対するアリピプラゾールの長期的な有用性

 韓国・Severance HospitalのByoung-Uk Kim氏らは、6~17歳のアジア人小児期自閉スペクトラム症に伴う易刺激性に対するアリピプラゾールの長期的な改善効果と安全性を評価するため、本研究を実施した。その結果、アリピプラゾールは、小児期自閉スペクトラム症患者の問題行動や適応機能を改善し、その効果は治療開始から1年近くまで持続しており、忍容性も良好であることを報告した。Journal of Child and Adolescent Psychopharmacology誌2022年9月号の報告。 自閉スペクトラム症患者に対する12週間のアリピプラゾール治療の有効性および安全性を評価した先行研究の後に、52週間の非盲検フレキシブルドーズ(2~15mg/日)による延長試験を実施した。有効性の評価には、異常行動チェックリスト(ABC)、臨床全般印象度(CGI)、子供のYale-Brown強迫尺度(CY-BOCS)、Vineland適応行動尺度(VABS)、PSI育児ストレスインデックスショートフォーム(PSI-SF)を用いた。安全性および忍容性の評価には、有害事象、バイタルサイン、心電図検査、臨床検査、体重、錐体外路症状(EPS)を含めた。 主な結果は以下のとおり。・52週間の治療期間中に、ABC、CGI、CY-BOCS、VABS、PSI-SFのスコアを含むすべての有効性の改善が認められた。・安全性では、治療による有害事象(TEAE)を経験した患者の割合は、58.62%(58例中34例、75件)であった。・最も一般的なTEAEは、鼻咽頭炎20.69%(58例中15例)であり、発生率10%以上のTEAEは体重増加(18.97%、58例中11例)であった。・薬剤性副作用は27.59%(58例中16例、28件)で認められ、体重増加(15.52%、58例中9例)が最も多かった。・重篤な有害事象の発生率は5.17%(58例中3例、3件)で認められた。発現した骨端線離開、発作、自殺企図は、薬剤性の副作用ではなかった。・EPSの評価においては、臨床的に有意な変化は観察されなかった。

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非重度のうつ病治療における運動介入と薬物療法の比較~メタ解析

 中国・香港大学のFrancesco Recchia氏らは、重度でない成人うつ病の抑うつ症状軽減に対する運動介入、抗うつ薬治療、これらの併用療法の有効性を比較するため、システマティックレビューおよびメタ解析を実施した。その結果、重度でない成人うつ病患者の抑うつ症状軽減に対し、運動介入と薬理学的介入の効果に差はないことを報告した。著者らは、「本結果は、このような患者に対する抗うつ薬治療の代替療法または補助療法として、運動療法の検討を支持するものである」としている。British Journal of Sports Medicine誌オンライン版2022年9月16日号の報告。 対象研究は、1990年以降に報告された重度でない成人うつ病患者を対象に、運動介入、抗うつ薬治療、これらの併用療法の有効性について単独または対照/プラセボと比較したランダム化比較試験とし、Embase、MEDLINE、PsycINFO、Cochrane Library、Web of Science、Scopus、SportDiscusより検索した。バイアスリスク、非直接性、ネットワークの全体的な信頼性の評価は、2人の独立した研究者により行った。抑うつ症状の重症度における介入後の群間比較を行うため、ネットワークメタ解析を実施した。介入後の治療中止は、治療に対する受容性として評価した。 主な結果は以下のとおり。・25件の比較を含む21件のランダム化比較試験(2,551例)を分析に含めた。・運動介入、抗うつ薬治療、これらの併用療法の治療効果に差は認められなかった。ただし、すべての治療は、対照群よりも有益であった。 ●運動介入vs.抗うつ薬治療(標準化平均差[SMD]:-0.12、95%CI:-0.33~0.10) ●併用療法vs.運動介入(SMD:0.00、95%CI:-0.33~0.33) ●併用療法vs.抗うつ薬治療(SMD:-0.12、95%CI:-0.40~0.16)・運動介入は、抗うつ薬治療よりも治療中止率が高かった(リスク比:1.31、95%CI:1.09~1.57)。・不均一性は、中程度であった(τ2=0.03、I2=46%)。

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第131回 感染症後の体調不良(sickness behavior)を誘発する脳神経を同定

感染症は病原体を直接の原因とはしない食欲低下、水分を摂らなくなる(無飲症)、倦怠感、痛み、寒気、体温変化などのとりとめのない種々の症状や生理反応を引き起こします。ともすると新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の罹患後症状の一因かもしれないそういう体調不良(sickness behavior)に寄与する脳の神経がマウス実験で同定されました1)。よく知られているとおり人体は絶えずある種の均衡を保とうとし、体温、食欲、睡眠などを調節しています。われわれが日々健康に生きられるのも恒常性と呼ばれるその均衡のおかげです2)。しかし病気になってその均衡が崩れると上述したような一連の症状や生理的反応が生じます。sickness behaviorの少なくとも幾らかは脳幹に端を発することが先立つ研究で示唆されています3)。今は米国バージニア州のJanelia Research Campusに籍を置くAnoj Ilanges氏やその同僚はさらに突き詰めて脳幹のどこがsickness behaviorの発端なのかを同定することを目指しました。最初にIlanges氏らは細菌感染と同様にsickness behaviorを引き起こす細菌毒素・リポ多糖(LPS)をマウスに注射し、続いて脳のどこが活性化するかをFOSと呼ばれるタンパク質を頼りに探りました。FOSは神経発火の後で発現することが多く、神経活動の目安となります2)。そのFOSがLPS注射マウスの脳幹で隣り合う2つの領域・孤束核(NTS)と最後野(AP)に多く認められました。LPSに反応するとみられるそれら2領域を活性化したところLPSがなくともsickness behaviorが生じ、NTS- AP領域こそsickness behaviorに寄与する神経の在り処であることが確かになりました。さらなる研究によりそれら神経はタンパク質(神経ペプチド)ADCYAP1を発現していることも判明し、ADCYAP1発現神経を活性化するとNTS- AP領域の活性化の時と同様にLPSが誘発するsickness behaviorが再現されました。また、それらADCYAP1発現神経を阻害するとLPS投与後に見られる食欲低下、無飲症、運動低下を解消とはいかないまでも和らげることができました。sickness behaviorに寄与するのはNTS- AP領域の神経のみというわけではなさそうで、今回の報告と同様にNatureに掲載された別のチームの最近の研究では発熱、食欲低下、暖を取る行動などのsickness behavior症状に視床下部の神経が不可欠なことが示されています4)。今回の研究で対象外だった睡眠障害や筋痛などの他のsickness behaviorの出どころの検討も興味深いところです2)。NTS-AP領域は脳と各臓器の連絡路・迷走神経からの信号を直接受け取り、血中に放たれたタンパク質などの体液性信号を感知することが知られています。今回の研究ではsickness behaviorを引き起こすNTS-AP神経の反応がどの生理成分を頼りにしているのかはわからず仕舞いでした。ウイルスや非細菌感染症でもNTS-AP神経が果たして活性化するのかどうかも調べられていません。ロックフェラー大学在籍時に今回の研究を手掛けたIlanges氏は今の職場であるJanelia Research Campusで続きに取り組む予定であり、他の研究者の加勢も期待しています。Ilanges氏等の今回の結果は何らかの理由でsickness behaviorが解消しない患者の治療の開発に役立ちそうです。たとえば慢性的に不調の患者の食欲を回復させる薬が実現するかもしれません。また、広い意味では感染症への対抗に脳の役割が不可欠なことを示した今回の成果を契機にADYAP1発現神経活性化後の脳の反応、sickness behaviorの持続の調節の仕組み、COVID-19の罹患後症状などの感染後慢性症状へのNTS-AP経路の寄与の検討5)などのさまざまな研究が今後続いていくでしょう2)。参考1)Ilanges A, et al.Nature.2022;609:761-771.2)Research Pinpoints the Neurons Behind Feeling Ill / TheScientist3)Konsman JP, et al. Trends Neurosci.2002;25:154-9. 4)Osterhout JA, et al.Nature.2022;606:937-944.5)Infection Activates Specialized Neurons to Drive Sickness Behaviors / Genetic Engineering & Biotechnology News.

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TILsを有するTN乳がんへの術前ニボルマブ±イピリムマブ、高い免疫活性示す(BELLINI)/ESMO2022

 術前化学療法への免疫チェックポイント阻害薬(ICI)の追加による、早期トリプルネガティブ(TN)乳がん患者の転帰改善が報告されているが、どのような患者にICIが有効なのか、そしてどのような患者で術前化学療法のde-escalationが可能なのかは分かっていない。また早期TN乳がんでは、抗PD-1抗体への抗CTLA-4抗体の追加は検討されていない。オランダ・Netherlands Cancer InstituteのMarleen Kok氏らは、ニボルマブ±低用量イピリムマブの投与が、TILsを有するTN乳がんにおいて免疫応答を誘発するという仮説の検証を目的として、第II相非無作為化バスケット試験(BELLINI試験)を実施。その最初の結果を欧州臨床腫瘍学会(ESMO Congress 2022)で発表した。・対象:T1c~T3、TILs≧5%のTN乳がん患者 31例・試験群:ニボルマブ群(NIVO群):ニボルマブ(240mg)×2サイクル 16例ニボルマブ+イピリムマブ群(NIVO+IPI群):ニボルマブ(240mg)×2サイクル+イピリムマブ(1mg/kg)×1サイクル 15例※両群ともにTIL5~10%:5例、TIL11~49%:5例、TIL≧50%:5例※両群ともに4週間後患者は術前化学療法あるいは手術を受ける・評価項目:[主要評価項目]4週間後のCD8+T細胞および/またはIFN-γ発現の2倍変化で定義される免疫活性化[副次評価項目]安全性、放射線学的反応(RECIST1.1)、トランスレーショナル解析※Simonの2段階デザインにより、30%の患者で免疫活性が確認された場合、コホートの拡大が可能となる。 主な結果は以下のとおり。・ベースライン時点の年齢中央値はNIVO群48歳、NIVO+IPI群50歳。grade3腫瘍が93.8%、73.3%。BRCA1/2変異有が18.8%、20.0%だった。無作為化されていないため、NIVO群ではN0が81.3%と最も多かったのに対し、NIVO+IPI群ではN1が60.0%と最も多かった。・4週間後の放射線学的部分奏効(PR)は7/31例(23%)で認められ、うちNIVO群3例(19%)、NIVO+IPI群4例(27%)であった。また、7例のうち3例はTIL≧50%、4例はTIL11~49%だった。・主要評価項目である4週間後の免疫活性化はNIVO群8例(53.3%)、NIVO+IPI群9例(60.0%)でみられ、コホート拡大基準(30%)を満たした。・PRを示した患者ではベースライン時点のIFN-γ発現量が多かった(p=0.014)。・ベースライン時点のCD8+T細胞レベルは奏効と相関しなかったが、空間解析により、CD8+T細胞が腫瘍細胞により隣接していることが奏効と強く関連していることが明らかになった(p=0.0014)。・ベースライン時点では全体の83%の患者でctDNA陽性が確認されたが、4週間後のctDNAクリアランスは24%の患者で確認された。・安全性については、Grade3以上の有害事象はNIVO群1例(6%、甲状腺機能亢進症)、NIVO+IPI群1例(7%、糖尿病)のみであった。 Kok氏らは、TILsを有するTN乳がん患者の多くが、わずか4週間のICI投与で免疫活性の上昇を示し、臨床効果が得られたことから、TN乳がん患者に対する術前化学療法なしのICI投与の可能性が示唆されたと結論付けている。そのうえで同氏は今後の展望として、NIVO群vs. NIVO+IPI群のシングルセル解析や、TIL>50%・N0の患者群における6週間のニボルマブ+イピリムマブ投与後手術を行った場合のpCR率の評価が必要とした。

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臨床留学の最大の魅力…それはバケーション!【臨床留学通信 from NY】第37回

第37回:臨床留学の最大の魅力…それはバケーション!臨床留学の最大の魅力…それはバケーションです。日本の病院だとどうも忙しいですし、有給があってもなかなか取りづらい。2週間も休むことはまずありませんでした。祝日は日本のほうが多いですが、ゴールデンウィークなどの連休は、循環器科は病院にいなければならない当直業務が多く、結局当該科が半分ずつ分担しながら休む程度で、長い休みを取ることはありませんでした。しかしながら、米国において臨床医はおおむね年4週間の休暇が取れます。ほとんどは2週間ずつ取る形でした。渡米後5年目になりますが、留学当初は日本に帰ることはありましたが、コロナの関係で帰りづらくなり、また、だんだんと帰りたい欲もなくなってきました。丸々2週間出掛けることは外食続きになってしまいなかなか難しく(もちろん金銭的にもですが)、旅行は4~5泊程度にしています。コロナのピーク時はまったくどこにも出掛けないこともありましたが、それでも2週間は仕事から(すなわち英語から)離れてリフレッシュできるというのは、日本ではなかなかできないと言えるでしょう。これまでの家族旅行としては、渡米当初に奮発したディズニー・クルーズで、フロリダからカリブ海の島々へ行ったり、最近ではカリブ海に浮かぶアメリカ領のプエルトリコに行ったりしました。日本の時より収入が格段に減っていて、かつ生活費が2~3倍以上にまで膨れ上がってる現状において、贅沢旅行は難しいですが、それでも家族と過ごす貴重な時間です。この夏の休暇に家族で訪れたプエルトリコ(FUJIFILM X-T4で撮影)米国心臓協会(AHA)/米国心臓病学会(ACC)などの学会にかこつけて、ラスベガス、ロサンゼルス、サンディエゴ、ニューオリンズ、フィラデルフィア、フロリダなども家族で旅行することもできましたし、世界三大瀑布の1つであるナイアガラの滝までロードトリップで7~8時間ドライブしたのもいい思い出です。ボストン、ワシントンD.C.といった東海岸の主要都市も非常に近く、車で3~4時間の距離です。日本からよりも比較的近いヨーロッパなどは行きたいところですが、ビザの関係で行きづらくなっています。それでも当面は、アメリカ国内旅行で十分かと思っております。Column当方グループから出した抗血小板薬2剤併用療法(DAPT)に関する論文を、Circulation誌の姉妹誌であるCirculation: Cardiovascular Intervention誌の8月号に掲載することができました。循環器関連誌四天王のJACC、Circulation、JAMA Cardiology、European Heart Journalにすべてリジェクトされましたが、なんとかCirculation 姉妹誌で落ち着かせることができました。Kuno T, et al. Comparison of Unguided De-Escalation Versus Guided Selection of Dual Antiplatelet Therapy After Acute Coronary Syndrome: A Systematic Review and Network Meta-Analysis. Circ Cardiovasc Interv. 2022;15:e011990.

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ケレンディア、2型糖尿病を合併するCKD患者に関する最新データ発表/バイエル

 バイエル薬品の2022年8月30日付のプレスリリースによると、欧州心臓病学会(ESC)学術集会2022において、2型糖尿病を合併する慢性腎臓病患者(CKD)の死亡率にケレンディア(一般名:フィネレノン)が及ぼす影響を示した最新データが発表された。ケレンディアで2型糖尿病を合併するCKD患者の全死因死亡の発現率減少 2型糖尿病を合併するCKD患者を対象としたフィネレノン第III相臨床試験プログラムは、FIDELIO-DKDとFIGARO-DKDの2つの試験で構成されている。この2つの試験を含むFIDELITYは2型糖尿病を合併するCKD患者1万3,000名以上を対象に、心腎アウトカムを検討した最大規模の第III相臨床試験プログラムである。FIDELITYの全体集団では、全死因死亡および心血管死に対するフィネレノンの効果は統計学的有意差にわずかに至らなかったものの、FIDELITYの事前規定した探索的on-treatment解析から得られた最新データによると、本集団ではフィネレノン群がプラセボ群と比べ、全死因死亡の発現率(ハザード比[HR]:0.82[95%信頼区間[CI]:0.70~0.96]、p=0.014)および心血管死の発現率(HR:0.82[95%CI:0.67~0.99]、p=0.040)を有意に減少させることが示された。追跡期間4年時点での心血管死までの時間に関するイベント確率解析では、ベースライン時点の推算糸球体濾過率(eGFR)および尿中アルブミン/クレアチニン比(UACR)に関係なくフィネレノンの有用性は一貫しており、eGFRが60mL/min/1.73m2以上の場合、プラセボと比べフィネレノンのより顕著な効果が示された。 Bayer(ドイツ)医療用医薬品部門の経営委員会メンバーで、研究開発責任者であるクリスチャン・ロンメル氏は、「最適な血糖値や血圧に管理しているにもかかわらず、2型糖尿病を合併するCKD患者さんの多くは腎不全に移行し、心血管死のリスクが著しく高くなっている。本日発表された探索的解析は、このような脆弱な患者さんの死亡リスクを低下させ、より長く健康な状態を維持するフィネレノンの可能性を示している」と述べた。 ケレンディアは2021年7月に米国食品医薬品局(FDA)、2022年2月に欧州委員会(EC)、2022年6月に中国国家薬品監督管理局(NMPA)よりそれぞれ販売承認を取得している。また、日本では2022年3月に厚生労働省より承認取得した。さらに他複数の国で審査当局の承認が得られたほか、現在販売認可の承認申請中である。

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第127回 インフルエンザワクチン高用量投与で高齢者の死亡リスク低下

およそ20万人を募る大規模試験を無理なく実施するための下調べ試験DANFLU-1で早くも高齢者へのインフルエンザワクチン高用量投与の死亡予防効果が認められました1)。インフルエンザと心血管疾患(CVD)の関連を調べた試験は幾つかあり、たとえばその1つではインフルエンザ感染判明後1週間は心筋梗塞を約6倍生じ易いことが示されています2)。別の試験ではインフルエンザの季節の心不全入院のおよそ19%がインフルエンザにどうやら起因していました3)。インフルエンザ入院成人の退院時データを調べたところ約12%が急な心血管イベントを被っていたという試験結果もあります4)。そういう心血管イベントの予防にインフルエンザワクチンがどうやら有効なことが観察試験5)や無作為化試験6)で示唆されています。目当てのインフルエンザウイルス株の血球凝集素(HA)抗原60μgを含む高用量ワクチンはほとんどの国で65歳以上の高齢者に使うことが承認されています。また幾つかの国では60歳以上から使えるようになっています。しかしながら高齢者にまず投与すべきを高用量ワクチンとしている国は数えるほどしかなく、ゆえにその接種はあまり普及していません1)。高用量ワクチンはHA抗原量15μgの標準用量ワクチンに比べてインフルエンザやインフルエンザ関連死亡をより防ぐことを裏付ける試験結果は増えてはいます。しかし巷の高齢者の入院や死亡などの深刻な事態の予防効果を高用量ワクチンと標準用量ワクチンで比較した無作為化試験はこれまでありませんでした。そういう無作為化試験では多くの被験者を募らなければならず、その実現のためには無理なく実施できるようにする工夫が必要です。DANFLU-1試験はその工夫の検証のために準備され、デンマークで実施されてその結果が今回ESC Congress 2022で発表されました。試験には65~79歳の高齢者が参加し、1対1の割合で高用量4価ワクチンか標準用量4価ワクチン投与に割り振られました。1,000回を超えるそれらの接種の場はワクチン販売会社が手配しました。各地で得られた被験者の情報は1箇所に集められ、デンマーク人の健康情報登記簿(administrative health registries)と紐づけすることでそれら被験者のワクチン接種後の経過や安全性情報が追跡されました。必要な情報のほぼすべてはその健康情報登記簿から入手します。よって試験で被験者が必要とする来院はわずか1回きりであり、被験者と試験担当者の負担を大幅に減らすことができました。DANFLU-1試験の主な目的はやがて実施予定の大規模試験の被験者数などの仕様の検討であり、副次的目的として高用量ワクチンと標準用量ワクチンの効果が比較されました。最終的な解析対象の被験者は12,477人で、高用量ワクチンにそのうち6,245人、標準用量ワクチンには6,232人が割り振られました。試験の要である健康情報登記簿からのデータ取得は実現可能であり、被験者のほぼ全員(99.97%)の必要な経過情報すべてが手に入りました。被験者の特徴はデンマークの巷の65~79歳高齢者と同等でした。たとえば慢性心血管疾患の有病率はどちらも20%ほどです(被験者は20.4%、巷の高齢者は22.9%)。副次的目標であった効果も早速認められ、高用量ワクチン接種群のインフルエンザや肺炎での入院率は標準用量ワクチン接種群の半分で済んでいました(0.2% vs 0.4%)。その結果によると高用量ワクチンの標準用量ワクチンに比べたそれら入院の予防効果は64.4%(95%信頼区間:24.4~84.6%)です。高用量ワクチンは死亡もより減らしました。死亡率は高用量ワクチンでは0.3%、標準用量ワクチンでは0.7%であり、高用量ワクチンは標準用量ワクチンに比べて死亡リスクをおよそ半分に抑えました(効果:48.9%、95%信頼区間:11.5~71.3%)。深刻な有害事象に有意差はありませんでした。以上のようなDANFLU-1試験結果からデンマーク国民の健康情報登記簿のデータを拠り所とする無作為化試験の実施が可能と分かりました1)。次はいよいよ高齢者への高用量ワクチンと標準用量ワクチンを比較する本番の試験です。被験者数はおよそ20万人になる見込みです。参考1)Innovative randomised trial hints at mortality benefits with high-dose influenza vaccines/European Society of Cardiology2)Kwong JC,et al. N Engl J Med. 2018 Jan 25;378:345-353.3)Kytomaa S, et al. JAMA Cardiol. 2019 Apr 1;4:363-369.4)Chow EJ, et al. Ann Intern Med. 2020 Oct 20;173:605-613.5)Modin D, et al. Circulation. 2019 Jan 29;139:575-586.6)Frobert O, et al. Circulation. 2021 Nov 2;144:1476-1484.

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リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 1次情報源の活用 PubMed検索 その3【「実践的」臨床研究入門】第23回

MEDLINE(PubMed)のような1次情報源を活用した文献検索においては、できる限り多くの関連研究を収集できるように、網羅的かつ客観的で再現可能な検索式の構築が必要となります。そのために有用なツールであるMeSH(Medical Subject Headings)や(連載第21回参照)、検索式構成のための基本的なポイント(連載第22回参照)について説明しました。今回からは、実践的な検索式構築について解説していきます。MeSHとテキストワードの両方を使い、タグを活用して検索これまで、検索式構築におけるMeSHの有用性について強調してきましたが、MeSHにも弱点があります。MeSHでは、新しい概念や略語、薬剤の製剤名などはカバーされていないことが多いです。また、とくに新しい論文ほど個々の文献へのMeSHの付与(連載第21回参照)が漏れていることもあるようです(近年は自動化が進んでいるようですが)。そのため、実際の検索式では、MeSHだけでなくテキストワードも用いることが一般的です。テキストワードでは、MeSHで拾えない同義語・関連語、(アメリカ英語とイギリス英語で)異なるスペル、略語や(薬剤の)固有名詞など、を指定します。たとえば、前回PICOの例として取り上げた、われわれのコクラン・システマティックレビュー(SR: systematic review)論文1)のP(対象)の構成要素の概念である「透析」"dialysis"のMeSHは"Renal Dialysis"でした(連載第22回参照)。"MeSH Database"で"Renal Dialysis"を調べると、リンク(および下記)のように"Renal Dialysis"の説明がなされています(連載第21回参照)。"Therapy for the insufficient cleansing of the blood by the kidneys based on dialysis and including hemodialysis, peritoneal dialysis, and hemodiafiltration."「(自己の)腎臓による血液浄化が不充分な場合の、血液透析、腹膜透析、血液濾過透析を含む透析(という技術)に基づく治療法(筆者による意訳)。」"hemodialysis"や"hemodiafiltration"はイギリス英語のスペルではそれぞれ、"haemodialysis"、"haemodialysis"となります。"peritoneal dialysis"は"CAPD"などの略語で示されることもあります。また、この論文1)のI(介入)の構成概念である"aldosterone receptor antagonist"のMeSHは"Mineralocorticoid Receptor Antagonists"でしたが、具体的な個別の薬剤の固有名詞はカバーできないおそれがあります。そこで、検索式に"spironolactone"や"eplerenone"などの製剤名をテキストワードで加えて対応します。「タグ」を活用した検索項目の指定方法についても説明します。検索ワードの末尾に「タグ」を付けることにより、検索項目を限定することが出来ます。「タグ」で指定できる検索項目の一覧は、PubMedトップページの左下のリンク、FAQs & User Guideのページを下にスクロールすると"Search Field descriptions and tags"という小見出しの後に列記されていますので、ご参照ください。ここでは、検索式で良く使うタグを紹介します。実践的には、MeSHとテキストワードを併用し、タグを活用して検索式を組み立てるのです。1)Hasegawa T,et al. Cochrane Database Syst Rev. 2021 Feb 15;2:CD013109.

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脳梗塞の血栓除去前のtirofiban投与、機能障害の改善認めず/JAMA

 脳主幹動脈閉塞による急性期虚血性脳卒中で血管内血栓除去術を受けた患者では、血栓除去術前の血小板糖蛋白IIb/IIIa受容体阻害薬tirofibanの投与はプラセボと比較して、90日時の機能障害の重症度に有意な差はなく、症候性頭蓋内出血の頻度にも差を認めないことが、中国・人民解放軍第三軍医大学のQingwu Yang氏らが実施した「RESCUE BT試験」で示された。研究の詳細は、JAMA誌2022年8月9日号で報告された。中国の医師主導無作為化プラセボ対照比較試験 RESCUE BT試験は、脳主幹動脈閉塞による急性期虚血性脳卒中の治療における、血管内血栓除去術前のtirofiban静注の有効性と有害事象の評価を目的とする医師主導の二重盲検無作為化プラセボ対照比較試験であり、2018年10月~2021年10月の期間に、中国の55ヵ所の病院で参加者の登録が行われた(中国・Lunan Pharmaceutical Groupなどの助成を受けた)。 対象は、年齢18歳以上(上限は設けず)、最終健常確認から24時間以内の急性期虚血性脳卒中で、NIHSS(0~42点、点数が高いほど神経障害が重度)スコアが30点以下、ASPECTS(0~10点、点数が高いほど梗塞巣が小さい可能性を示唆)が6点以上であり、CT血管造影またはMR血管造影、デジタル差分血管造影により頭蓋内内頸動脈または中大脳動脈(M1、M2)の閉塞が認められる患者であった。 被験者は、tirofibanまたはプラセボの静脈内投与を受ける群に、1対1の割合で無作為に割り付けられた。試験薬は、10μg/kgのボーラス投与後、0.15μg/kg/分で最長24時間持続的に静脈内注入された。全例が血管内治療を受けた。 主要アウトカムは、術後90日の時点における機能障害の程度とされ、修正Rankin尺度(0[まったく症候がない]~6[死亡]点)で評価された。安全性の主要アウトカムは、48時間以内の症候性頭蓋内出血の発生で、Heidelberg出血分類に準拠して評価が行われた。画像評価による症候性頭蓋内出血は有意に高率 948例(年齢中央値67歳[IQR:57~74]、女性391例[41.2%])が無作為化の対象となり、全例が試験を完了した。463例がtirofiban群、485例がプラセボ群に割り付けられた。 最終健常確認から無作為化までの時間中央値は、tirofiban群が405分、プラセボ群は397分で、病院到着から試験薬の静脈内投与開始までの時間中央値はそれぞれ121分および116分、動脈穿刺から再灌流の達成または手技終了までの時間中央値は67分および70分だった。 90日時のmRSスコア中央値は、tirofiban群が3点(IQR:1~4)、プラセボ群も3点(IQR:1~4)であり、補正後共通オッズ比(OR)は1.08(95%信頼区間[CI]:0.86~1.36)と、両群間に有意な差は認められなかった(p=0.50)。 また、臨床的有効性に関する6つの副次アウトカム(90日時のmRS 0~1点の達成または発病前のスコアへの回復、NIHSSスコアのベースラインからの変化、90日時のQOL[EQ-5D-5Lスコア]など)は、いずれも両群間に有意差はみられなかった。 48時間以内の症候性頭蓋内出血についても両群間に有意な差はなく、発生率はtirofiban群が9.7%(45/462例)、プラセボ群は6.4%(31/483例)であった(群間差:3.3%[95%CI:-0.2~6.8]、補正後OR:1.56[95%CI:0.97~2.56]、p=0.07)。 一方、画像評価による症候性頭蓋内出血は、tirofiban群で発生率が有意に高かった(34.9%[161/462例]vs.28.0%[135/483例]、群間差:6.9%[95%CI:1.0~12.8]、補正後OR:1.40[95%CI:1.06~1.86]、p=0.02)。90日死亡率には有意差がなかった(18.1% vs.16.9%、1.2%[-3.6~6.1]、1.09[0.77~1.55]、p=0.63)。 著者は、「tirofibanは、血管内治療のアウトカムを改善しないことが示された」とまとめ、「本試験におけるプラセボ群の実質的な再灌流達成率は90.5%(tirofiban群は92.2%、p=0.38)と高く、これはステント型血栓除去デバイスに関する5つの無作為化試験のメタ解析での達成率(71%)を上回る。この差は、この間の血管内治療技術の進歩を反映していると考えられ、結果として、tirofiban投与によるさらなる改善の余地は限られたものであった」と考察している。

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第125回 気疲れは脳のグルタミン酸蓄積の仕業?

プロのチェス選手でさえ試合で4~5時間も経つと間違えをするように1日中試験や発表(プレゼン)で過ごした後で頭が回らなくなるという経験は誰しも覚えがあるでしょう。そういう気疲れ(精神的疲労)に神経伝達物質・グルタミン酸の脳での蓄積が寄与しうることが新たな試験で示唆されました1)。運動している時の筋肉がそうであるように、より頭を使う難解な課題で気疲れするのは簡単な課題に比べてエネルギーがより消費されて枯渇するのが原因とするというこれまでの通説とは異なる結果であり、その試験結果はちょっとした物議を醸しています2)。Cellの姉妹誌Current Biologyに結果が発表された今回の新たな試験で研究者は集中の維持や予定を立てるときに働く脳領域・外側前頭前野のグルタミン酸濃度が気疲れした時によくある振る舞い・克己心の欠如などと関連するかどうかを調べました。被験者40人は2つに分けられ、一方は気疲れを誘う難解な課題に取り組み、もう一方はより簡単な課題をしました。それら課題をしている6時間半の間に気疲れのほどや外側前頭前野のグルタミン酸濃度が何度か調べられました。気疲れのほどは、後で手に入る大金のために目先の小銭を我慢する自制心を問う質問などで評価されました。その結果、より難解な課題の群は簡単な課題の群に比べて克己心を失った衝動的な選択が10%ほど多く、外側前頭前野のグルタミン酸濃度が8%ほど上昇していました2)。より簡単な課題の群ではそのようなグルタミン酸濃度上昇は認められませんでした。今回の試験結果はあくまでも関連を示しただけであり、知能の酷使が脳でのグルタミン酸の有害な蓄積を引き起こすと結論づけるものではありません。米国・ブラウン大学の神経科学者Sebastian Musslick氏はグルタミン酸の上昇は気疲れの主因ではなく何らかの役割を担っていると考えています2)。われわれの脳は臓器と絶えず通信し、いつ食べたり飲んだり寝たりすればいいかを知らせてくれます。それと似たような脳内の保守に前頭前野のグルタミン酸も携わっているのではないかと同氏は想定しています。また、プリンストン大学のJonathan Cohen氏もグルタミン酸のような余剰物を気疲れの主因とする考えを疑っています。脳はより手の込んだ処理で膨大な情報を捌いているに違いなく、余剰物の上げ下げといった単純な仕組みで事足りる筈がない(It just can‘t be that easy)と言っています。今後の課題として、代謝の残り滓を洗い流して脳を掃除する睡眠や休息でグルタミン酸濃度が落ち着くかどうかを調べる必要があります。先立つ研究によると睡眠中にグルタミン酸がシナプスから取り除かれることはかなり確かなようです3)。脳疾患の多くでグルタミン酸の異常な伝達が認められており、うつ病治療に使われるエスケタミンやアルツハイマー病症状を治療するメマンチンなどの神経のグルタミン酸受容体を狙う薬がすでに存在します。また、最近のアルツハイマー病や脊髄小脳失調症(SCA)の試験で残念ながら効果を示すことはできませんでしたが、グルタミン酸除去薬troriluzoleも臨床試験段階に進んでいます。外傷性脳損傷(TBI)、多発性硬化症、新型コロナウイルス感染(COVID-19)後にも生じうるらしい筋痛性脳脊髄炎(ME)/慢性疲労症候群(CFS)などの脳を酷使させる病気の研究に今回のような成果は重要な意義を持ち、その議論を前進させる筈とKessler Foundationの神経学者Glenn Wylie氏は言っています4)。参考1)Wiehler A, et al.Curr Biol. 2022 Aug 4:S0960-9822.01111-3.2)Mentally exhausted? Study blames buildup of key chemical in brain / Science3)Why thinking hard makes you tired / Eurekalert4)Neurotransmitter Buildup May Be Why Your Brain Feels Tired / TheScientist

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