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ziltivekimab、中等~重度CKDでhs-CRP値を抑制/Lancet

 残存炎症リスクを有する中等度~重度の慢性腎臓病(CKD)の患者において、インターロイキン(IL)-6リガンドを標的とする完全ヒト型モノクローナル抗体ziltivekimabはプラセボと比較して、炎症マーカーである高感度C反応性蛋白(hs-CRP)値を有意に抑制することが、米国・ブリガム&ウィメンズ病院のPaul M. Ridker氏らが実施した「RESCUE試験」で示された。Lancet誌オンライン版2021年5月17日号掲載の報告。3つの用量を評価する無作為化プラセボ対照第II相試験 本研究は、米国の40施設が参加した二重盲検無作為化プラセボ対照第II相試験であり、2019年6月~2020年1月の期間に患者登録が行われた(Novo Nordiskの助成による)。 対象は、年齢18歳以上、中等度~重度(ステージ3~5)のCKD(CKD-EPI式による推算糸球体濾過量[eGFR]>10~<60mL/分/1.73m2)で、残存炎症リスク(hs-CRP≧2mg/L)を有する患者であった。 被験者は、ziltivekimab 7.5mg、同15mg、同30mgまたはプラセボを皮下投与する群に、1対1対1対1の割合で無作為に割り付けられ、24週の投与が行われた。 主要アウトカムは、hs-CRPのベースラインから12週までの変化率とされた。主解析はintention-to-treat集団で行われた。忍容性も良好 264例が登録され、4つの群に66例ずつが割り付けられた。全体の年齢中央値は68歳(IQR:60.0~74.5)で、49%が女性であった。ベースライン時のCKDのステージは、3aが29%、3bが41%、4が23%、5が6%であった。hs-CRP中央値は5.75mg/L、IL-6中央値は5.55pg/mL、eGFR中央値は36.83mL/分/1.73m2だった。 12週時のhs-CRP中央値は、ziltivekimab 7.5mg群で77%、15mg群で88%、30mg群で92%それぞれ低下したのに対し、プラセボ群では4%の低下であった。ziltivekimab群とプラセボ群のhs-CRP変化率の群間差中央値は、7.5mg群が-66.2%、15mg群が-77.7%、30mg群が-87.8%であり、いずれも有意な差が認められた(すべてp<0.0001)。これらのziltivekimabの効果は、24週の投与期間を通じて安定していた。 また、ziltivekimab群では、ベースラインから12週までの期間に、フィブリノゲン、血清アミロイドA、ハプトグロビン、分泌型ホスホリパーゼA2、リポ蛋白(a)が、用量依存性に低下した。 ziltivekimab群は忍容性も良好であり、総コレステロール/HDLコレステロール比に影響を及ぼさず、重篤な注射部位反応や、持続性のGrade3/4の好中球減少、血小板減少は発現しなかった。 著者は、「将来のアテローム性動脈硬化症の治療では、積極的な脂質低下に加え、自然免疫のIL-1~IL-6経路を阻害する標的化抗炎症療法が取り入れられる可能性がある。今回の第II相試験の有効性と安全性のデータに基づき、CKD、CRP上昇、心血管疾患の患者を対象に、心血管アウトカムに関するziltivekimabの大規模臨床試験を行う予定である」としている。

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腸内細菌叢から健康状態を測れるか

 健康的な食習慣に関連する腸内細菌群は、良好な心血管代謝および食後マーカーに関連する腸内細菌群と重なることが、イタリア・トレント大学のFrancesco Asnicar氏らによって示された。疾患を持たない個人では、健康レベルごとに腸内細菌叢を階層化できる可能性があるという。Nature Medicine誌2021年2月号の報告。 腸内細菌叢は食事によって形作られ、宿主の代謝に影響を与える。しかし、これらの関連性は複雑で、個人ごとに異なると考えられている。 したがって本研究では、Personalised Responses to Dietary Composition Trial(PREDICT 1)試験に登録された1,098人を対象に1,203の腸内細菌叢のメタゲノム解析を実施し、食習慣および、空腹時と食後の心血管代謝マーカーとの関連性を分析した。 主な結果は以下のとおり。・多くの微生物は、特定の栄養素や食品、食品群、普通食の指標との間に有意な関連性を示した。・微生物とこれらとの関連性は、植物由来の健康的な食品が複数種類含まれると、より強まった。・肥満の微生物バイオマーカーは、他のコホート研究の結果を再現しており、心血管疾患におけるリスク指標の血液循環代謝物と一致していた。・Prevotella copriやBlastocystis spp.などの一部の微生物は、良好な食後糖代謝の指標であることが示された。・腸内細菌叢全体の組成は、空腹時および食後血糖、高脂血症、炎症などの心血管代謝マーカーを包括的に予測していた。

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第61回 新たなコロナウイルス2つがヒトに侵入

マレーシアで2017~18年に肺炎で入院した患者8人からイヌのコロナウイルス、ハイチで2014~15年に急な発熱を呈した小児3人からブタのコロナウイルスが検出されました。マレーシアでの研究1-3)は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が流行し始めの頃にデューク大学の感染症疫学者Gregory Gray氏が抱いた疑問に端を発しています4)。Gray氏は別の流行を引き起こしかねない他のコロナウイルスがすでにヒトを害しているかもしれないと考え、未知のものも含むあらゆるコロナウイルスの検出法の開発を大学院生に頼みました。大学院生のLeshan Xiu氏は期待以上に良い手法を生み出し、マレーシアのボルネオ島の病院に2017~18年に入院した肺炎患者301人の鼻拭い液検体がその手法で調べられました。その結果、1人を除いてあとはすべて小児の8人(2.7%)からそれまでにない新たなコロナウイルスが検出されました。見つかったウイルスのゲノムを調べたところイヌコロナウイルスとブタコロナウイルスの混成(キメラ)の様相を呈していましたが、大部分はイヌから過去に同定された2つのコロナウイルスに最も近く、培養イヌ細胞で増えることができました。オハイオ州立大学の動物コロナウイルス研究専門家で著者の一人Anastasia Vlasova氏によるとイヌのコロナウイルスがヒトに感染するとはこれまで考えられておらず、その報告もありませんでした4)。CCoV-HuPn-2018と名付けられたそのウイルスが患者の肺炎を引き起こしたのかどうかは不明ですが、もしそうであるならヒトを害する病原性コロナウイルスは8つに増えます。病原性が不明なのと同様にCCoV-HuPn-2018がヒトからヒトに感染するかどうかも分かっていません。他のイヌコロナウイルスにはなくてヒトに感染するコロナウイルスには存在する欠損変異がCCoV-HuPn-2018にはあります。その変異のおかげで種の垣根を越えうるようになったのかどうかを今後調べる必要がありますが、CCoV-HuPn-2018がヒトに広まる病原体となる可能性は否定できないとVlasova氏は言っています5)。今後の課題として、肺炎患者にCCoV-HuPn-2018がどれぐらい頻繁に認められるかどうかをさらに多くの検体を使って調べ、動物実験で病原性を確かめる必要があります。ハイチでの研究は同国の就学児の病気の把握を2012~20年に担当したチームの手によります6)。チームは急な発熱を呈した小児から2014~15年に採取した369の血液検体を調べ、その結果3人からブタのデルタ(δ)コロナウイルスが見つかりました。コロナウイルスはα、β、γ、δの4種類あり、ヒトに最も危険なコロナウイルス・SARS-CoV、SARS-CoV-2、MERS-CoVはどれもβコロナウイルスに属します7)。ハイチの小児からの同定株が属するδコロナウイルスはかつて鳥にのみ感染すると考えられていました。しかしおそらく鳴禽類(songbird)から感染したらしいδコロナウイルスが2012年に香港のブタに認められています。2014年には同じδコロナウイルスが米国でブタに深刻な下痢疾患流行を引き起こしています。δコロナウイルスがヒトに流行した例はないもののヒト細胞に感染しうることは分かっています。マレーシアで新たに見つかったイヌ起源コロナウイルスが含まれるαコロナウイルスもδコロナウイルスと同様にヒトに流行したためしはありません。しかしいまやどちらもヒトで検出されており、今後も流行の心配はないと安心してはいられません5)。コロナウイルスはこれまで考えられていた以上に動物界を駆け巡っているようであり、調べれば調べるほどコロナウイルスが至るところで種の垣根を越えていることが判明するだろうとアイオワ大学のウイルス学者Stanley Perlman氏はScienceに話しています7)。われわれの与り知らないところですでにヒトに適応し始めている動物ウイルスが存在するかもしれず、ウイルスがヒトに病気を引き起こすようになる前にそれらを探し出さねばなりません。動物からヒトへのコロナウイルスの感染の頻度やヒトからヒトへの感染の可能性をもっと調べる必要があります7)。参考1)Vlasova AN, et al. Clin Infect Dis. 2021 May 20. [Epub ahead of print]2)New human coronavirus that originated in dogs identified/Ohio State University 3)Surveillance turns up new coronavirus threat to humans/Eurekalert4)New Coronavirus Detected In Patients At Malaysian Hospital; The Source May Be Dogs/NPR5)Two New Coronaviruses Make the Leap into Humans / TheScientist6)Emergence of porcine delta-coronavirus pathogenic infections among children in Haiti through independent zoonoses and convergent evolution. medRxiv. March 25, 2021.7)Two more coronaviruses can infect people, studies suggest/Science

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アントラサイクリン心筋症 見つかる時代から見つける時代へ【見落とさない!がんの心毒性】第2回

連載の第1回では、循環器医ががん医療に参画し始めた背景について向井先生が解説しました。第2回ではアントラサイクリン心筋症・心不全にも新たなアプローチが求められていることについて、大倉が解説します。重篤な心不全で見つかる時代から、そうなる前に見つける時代になったことを感じていただければ幸いです。アントラサイクリンによる心不全は3回予防できるドキソルビシンが1975年にわが国で使われ始めて、もうすぐ半世紀が経とうとしています。よく効くので、今尚がん医療の現場で広く使われています。心毒性があるため心機能異常またはその既往歴のある患者には禁忌です。とはいえ心臓病でもアントラサイクリンを使わざるを得ない状況は患者の高齢化とともに増加傾向にあります。献身的ながん医療の成果が10年生存率の改善(58.3%)という形で表れています。一方、一部のアントラサイクリン使用患者では、心毒性により化学療法を中断したり、QOL(生活の質)が損なわれたりしています。心不全で亡くなることもあります。循環器医は“アントラサイクリンによる心不全は早期発見で3回予防できる”と考えています。(1)心機能の低下予防 (2)心不全の発症予防 (3)慢性心不全の増悪予防の3回です(図)。実際のところ、がん医療の現場でこの考え方はあまり共有されていません。そのため1回も予防されずに重症化した心不全がん患者を診ることもあります。(図)心不全の進展ステージとアントラサイクリン心筋症の予防機会画像を拡大する2021年3月、“脳卒中と循環器病対策基本法”の行動計画の核心である脳卒中と循環器病克服第二次5ヵ年計画が公表されました1)。心不全は重要3疾患の1つに掲げられ、悪性腫瘍に合併する心不全の管理も重点項目として指定されました。“心不全は予防と早期発見”という考えが国民に向けて発信されることで、がん医療にも徐々に馴染んでゆくものと思われます。発生率と危険因子アントラサイクリンによる心機能障害は用量依存性に発生します。ドキソルビシン換算で累積投与量が 400 mg/m2で3~5%、550 mg/m2で7~26%、700 mg/m2で18~48%に起こります2)。累積投与量以外にも、65歳以上の高齢者、小児、胸部・縦隔への放射線照射、トラスツズマブなど心毒性を有する他の薬剤の使用、基礎心疾患の既往や合併、心血管リスク(喫煙、高血圧症、糖尿病、脂質異常症、肥満)の合併などで、起こりやすくなるため注意が必要です。この段階で併存心疾患や心血管リスクを治療し心機能低下を予防します3)(図:1回目の予防)。近年、ゲノムワイド関連解析(GWAS:genome-wide association study)により、拡張型心筋症の原因となる遺伝子変異の一つで、サルコメア蛋白のタイチンをコードする遺伝子の切断型変異(Titin-truncating variants)があると、アントラサイクリンの心毒性に対して脆弱になることが報告されました4)。5ヵ年計画にはファーマコゲノミクス(PGx)の推進が盛り込まれており、抗がん薬の心毒性に関与する遺伝子を5年間に2個同定しようとしています。Onco-cardiologyの分野でもゲノム医療が始まろうとしています1)。心毒性の機序アントラサイクリンは一部の患者に不可逆的な心筋障害を起こします。失われた心筋細胞が復活することはありません。ミトコンドリアの鉄の蓄積と活性酸素の過剰な産生を惹起し、ミトコンドリアや細胞内小器官が障害されます。DNAの修復に欠かせないトポイソメラーゼIIβを阻害し、DNA二重鎖切断とアポトーシスを誘導します。心筋細胞の恒常性に欠かせない周囲の血管内皮細胞も障害され、後々の心筋細胞の適応性や生存性の低下に繋がります。心筋の線維芽細胞や前駆細胞も複雑に関与しています4)5)。経過・治療古典的には心毒性は急性、慢性早期、慢性晩期に分類されていました(表1)。(表1)アントラサイクリンによる心毒性の古典的な臨床分類画像を拡大する現在では、詳細な経過観察により、心筋細胞レベルの障害が最初に起きて、それが潜在進行性の心機能低下を惹起し、代償機転が破綻して心不全に至るという連続性が確認されています。心不全を起こす患者では、アントラサイクリン投与後に、血清トロポニンが一過性に上昇し、左室駆出率(LVEF)が低下します。心保護薬で治療すると、ほとんどの患者でLVEFは不完全ながら回復傾向を示しますが、一部の患者はLVEFが悪化して、心不全を発症します。Cardinaleらによれば、アントラサイクリン投与後に9%の患者に心毒性(LVEF50%未満への低下)が認められました。心毒性の98%は化学療法終了後1年以内(中央値3.5ヵ月)に現れました。エナラプリルとカルベジロールで治療をすると82%に回復傾向を認めました6)。無症候性心機能低下(図:ステージB)のうちに発見し、心保護薬で予防をすることで悪化を食い止め、心不全(図:ステージC)を予防できます(図:2回目の予防)。そのため、ここでの介入が最も効果的と考えられています。しかし、この予防機会を失えば、心不全を発症します。こうなると、非可逆的な心筋障害であるため、治療に難渋し、ステージDへの進行を防げない可能性があります。潜在患者の早期発見に有用な検査定期的に全員に心エコーをすれば早期発見は可能ですが、医療資源は限られているため、ハイリスク群を優先することが欧米の腫瘍学会でコンセンサスを得ています(表2)。(表2)最新ガイドラインに見るアントラサイクリン使用に関連した強い推奨[A、B]画像を拡大するリスクの層別化には、アントラサイクリン治療後のトロポニン測定に期待が寄せられています。上昇しない患者はその後の心不全が起きにくいことが分かっており、心エコーの頻度を減らすことができます7)。一方、上昇し、その後も上昇が持続する患者では、心不全が起きやすいため、心保護薬を開始したり、心エコーの頻度を増やしたりします。わが国の保険制度ではそのようなトロポニンの使われ方は認められておりません。採血のタイミングやカットオフ値の標準化については今なお研究段階です。アントラサイクリン治療を終えて数ヵ月以上経過している患者の心不全の早期発見は、危険因子による層別化や、BNPやNT-proBNPによる補助診断に頼ることになります。フラミンガムの一般住民を対象にした疫学調査によると、BNP はLVEF40%以下の心機能低下に対する感度は良好でしたが、LVEF50%前後に対してはよくありませんでした8)。ステージBの中でもCに近い患者の検出には使えそうです。BNP検査によるアントラサイクリン心筋症の早期発見については、小児やAYA世代のがんサバイバーでの有用性については否定的な報告があります9)。それでも特性を理解すれば、たいへん便利な検査ですので、BNP検査については正書や学会ホームページをご覧ください10)11)。心エコーでは、無症候性心機能低下(ステージB)の中で、更に早い段階の異常を捉えようとしています。スペックルトラッキング法を用いたGlobal longitudinal strain (GLS)は、薬剤性心筋障害をLVEFよりも早期に感度良く検出できるようです。欧米の腫瘍学会ガイドラインでも測定を推奨していますが、人間の感覚を超えた領域なので慣れるのに時間がかかりそうです12)。心機能低下はがん治療終了後1年以内に始まるので、半年後と1年後の心エコーを推奨していますが、異常を見落としたり、その後に異常が明らかになることもあるため、その後のフォローも欠かせないでしょう。フォローの内容や間隔については、危険因子が多いほど綿密にします。なぜ重症化してから見つかるのか?「患者や医師が、息切れ、むくみ、疲れ易さを、がんのせいと勘違いする」「医師や薬剤師が累積使用量の上限を超えなければ心不全は起きないだろうと油断もしくは勘違いする」「がん治療が済んで患者がフォローアップされなくなる」「フォローされてもクリニックの先生方と心不全への懸念が共有されない」などが原因で、発見が遅れ重症化の引き金になると考えられます。慢性晩期のアントラサイクリン心筋症には、認識不足や連携の脆弱さといった医療システムの問題が少なからず関係しています。心不全全般に言えることですが、脳卒中や心筋梗塞や糖尿病と比べ、心不全についての認知度が低いことは、かなり前から指摘されており世界共通の課題でした13)。アントラサイクリンで治療した患者に、心不全のセルフチェックを促すには、心不全についての知識の普及が肝要です。心不全発症に早めに気づいて治療することで重症化が予防できます(図:3回目の予防)。今、試されるチーム力最新のESMOガイドライン2020では“がんサバイバーから目を離すな”とうたっています。アントラサイクリンで治療した乳がん患者で薬剤性心筋障害を起こすのは、3~6%程度ですが、軽んずることなく解決への道を開けば、将来の患者の利益になります。院内ではがん診療科と多職種の連携が解決への糸口となり14)、晩期障害の早期発見にはクリニックの先生方の協力が不可欠です。地域医療への知識の普及には、大学や医師会の役割りが大きいです。システムの問題が心不全に関与しているのならば、システムを修正すれば良いのです。心不全についての知識は一般の方には伝わりにくいことが世界共通の課題ですが、“脳卒中と循環器病対策基本法”の下、行政による後押しで国民への啓蒙が始まろうとしています。高齢化に伴い、がん患者の心臓病が増加しています15)。がんと心不全の古くからの関係は新しい時代を迎えました。1)日本脳卒中学会・日本循環器学会編. 脳卒中と循環器病克服第二次5ヵ年計画 ストップCVD(脳心血管病)健康長寿を達成するために. 20212)Zamorano JL, et al. Eur Heart J. 2016;37:2768-2801.3)日本腫瘍循環器学会編集委員会編. 腫瘍循環器診療ハンドブック. メジカルビュー社;2020.p10-11.(赤澤 宏 心機能障害/心不全 アントラサイクリン系薬剤)4)Garcia-Pavia P, et al. Circulation. 2019;140:31-41.5)Kadowaki H, et al. Circ J. 2020;84:1446-1453.6)Cardinale D, et al. Circulation. 2015;131:1981-1988.7)Cardinale D, et al. 2004;109:2749-2754.8)Vasan RS, et al. JAMA. 2002; 288:1252-1259.9)Michel L, et al. ESC Heart Fail. 2020;7:423-433.10)猪又孝元ほか The Manual心不全のセット検査. メジカルビュー社;2019.11)日本心不全学会:血中BNPやNT-proBNP値を用いた心不全診療の留意点について12)日本心エコー図学会編.抗がん剤治療関連心筋障害の診療における心エコー図検査の手引13)Okura Y, et al. J Clin Epidemiol. 2004;57:1096-1103.14)日本腫瘍循環器学会編集委員会編. 腫瘍循環器診療ハンドブック. メジカルビュー社;2020.p.176-178.(大倉 裕二、吉野 真樹 腫瘍循環器診療における連携のコツと工夫 多職種連携)15)Okura Y, et al. Int J Clin Oncol. 2019;24:983-994.講師紹介

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PCI患者の抗血小板療法、ガイド下 vs.標準治療/Lancet

 経皮的冠動脈インターベンション(PCI)を受ける患者の抗血小板療法は、血小板機能検査等に基づいた選択により、標準治療と比較して複合および個々のイベントに対する有効性が改善され、安全性についても良好な結果を得られることが、米国・フロリダ大学のMattia Galli氏らによるシステマティックレビューおよびメタ解析で明らかにされた。PCIを受ける患者の抗血小板療法については、検査等に基づいた抗血小板療法の選択が標準治療と比較して転帰の改善に有用かどうか、依然として議論の余地があった。Lancet誌2021年4月17日号掲載の報告。システマティックレビューとメタ解析で有効性および安全性を評価 研究グループは、2020年8月20日~10月25日の期間に、MEDLINE(PubMed経由)、Cochrane、EmbaseおよびWeb of Scienceを用い、PCIを受ける患者において血小板機能検査または遺伝子検査に基づいた(ガイド下)抗血小板療法と標準抗血小板療法を比較した無作為化比較試験および観察研究を、言語は問わず検索した。2人の研究者が独立して研究の適格性を評価し、データを抽出するとともにバイアスリスクを評価した。リスク比(RR)および95%信頼区間(CI)は、研究間の不均一性(I2)に従い、ランダム効果モデルまたは固定効果モデルを用いて算出した。 主要評価項目は、試験で定義された主要有害心血管イベント(MACE)および、あらゆる出血であった。主な副次評価項目は、全死因死亡、心血管死、心筋梗塞、脳卒中、probable/definiteステント血栓症、および大出血/小出血とした。約2万例のデータの解析で、ガイド下抗血小板療法は予後改善に関与 3,656報がスクリーニングされ、無作為化比較試験11件および観察研究3件、計2万743例が解析対象となった。 標準抗血小板療法と比較してガイド下抗血小板療法は、統計学的に有意ではないものの、MACE(RR:0.78、95%CI:0.63~0.95、p=0.015)および出血(0.88、0.77~1.01、p=0.069)の減少と関連していた。 また、心血管死(RR:0.77、95%CI:0.59~1.00、p=0.049)、心筋梗塞(0.76、0.60~0.96、p=0.021)、ステント血栓症(0.64、0.46~0.89、p=0.011)、脳卒中(0.66、0.48~0.91、p=0.010)、および小出血(0.78、0.67~0.92、p=0.0030)は、標準抗血小板療法と比較し、ガイド下抗血小板療法で減少した。 全死因死亡および大出血のリスクは、ガイド下抗血小板療法と標準抗血小板療法の間に差はなかった。治療成績は治療法によって異なり、escalation治療では安全性が低下することなく虚血性イベントが有意に減少し、de-escalation治療では有効性が低下することなく出血が有意に減少した。

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第57回 運動が良いのはヒスタミンのおかげ/抗老化成分がヒト試験で効果/mRNAワクチンの威力

運動はおそらく骨格筋順応を介して体調を上向かせ、骨格筋の衰えは老化を招きます。そんな健康維持に不可欠な骨格筋にまつわる2つの研究成果を紹介します。また、mRNAワクチンの威力を示した介護施設での感染解析結果を簡単にお知らせします。運動はヒスタミン受容体を介して体を鍛えるヒスタミンに関わる研究といえば主にアレルギー・炎症・胃酸分泌ですが、運動とのおそらく重要な関わりが随分古くから知られており、今から遡ること100年近く前の1935年には犬の静脈血のヒスタミンが筋肉収縮で増えることが報告されています1)。そのおよそ20年後の1958年には人の血中のヒスタミンが運動で増えることを示した報告2)があり、同時期の報告では人の前腕や手の動脈でヒスタミンが血管拡張作用を担うことが確認されています3)。時代は進んで今世紀初めの2006年の報告では人の運動後の骨格筋の血流増加(postexercise hyperemia)にヒスタミンH1/H2受容体が携わることが示され、幾つかの報告をまとめるとヒスタミンは運動後の回復に与る血管拡張にどうやら寄与すると示唆されました4)。有酸素運動はなんであれ体によく、心疾患などの慢性疾患の治療や予防に大変役立ちます。運動が健康に良いことを支える仕組みはよく分かっていませんでしたが、Science Advances誌に今月中頃に発表された試験報告によるとヒスタミンは運動後の回復に与するのみならず運動の健康増進作用にもなくてはならない働きをどうやら担っているようです5,6)。ベルギーのゲント大学の運動生理学者Wim Derave氏らのチームは健康な男性20人を募り、きつめのインターバル運動を6週間にわたって週3回繰り返してもらいました。男性の半数は運動の1時間前にヒスタミン受容体H1とH2を遮断する薬フェキソフェナジンとラニチジンかファモチジンを服用し、残り半数はプラセボを服用しました。そうして6週間後、ヒスタミン受容体遮断薬を服用した男性はプラセボ服用男性に比べて運動性能指標やミトコンドリアのエネルギー生成の改善が劣りました。また、血中の糖を細胞に移すインスリンの働きはプラセボ群では改善していたのにヒスタミン受容体遮断薬服用群ではそうなっていませんでした。ヒスタミン受容体遮断薬服用群では脚の筋肉の毛細血管形成が少なく、内皮細胞の形成に不可欠な内皮型一酸化窒素合成酵素の上昇が見られませんでした。先達の研究でも示唆されている通りヒスタミンは運動後の筋肉血流の最適化に関わって運動への全身反応を指示するのかもしれないと著者は考察しています。ヒスタミンH1/H2受容体が体調を整える仕組みや慢性疾患がヒスタミン作用にどう影響するかを今後調べることで新たな薬の標的の発見や運動の最適化の道が開けそうです5)。抗老化成分NMNでヒトのインスリンの働きもマウスと同様に改善マウスの老化の弊害を食い止めて代謝を改善することが知られる細胞成分・ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD)の元となるニコチンアミドモノヌクレオチド(NMN)を糖尿病になりそうな太った女性に投与した無作為化試験で有望なことにインスリン感受性改善が認められました7)。糖尿病の水準には至っていないものの血糖値が高めで太り過ぎか肥満の女性25人が試験に参加しました。13人はNMN 250 mgを10週間毎日服用し、残り12人にはプラセボが同じように投与されました。その結果、骨格筋に糖を受け取らせるインスリンの働きがNMN投与で改善し、骨格筋の構えや作り変え(remodeling)に関わる遺伝子発現も向上しました。ただし、血糖値や血圧は残念ながら下がりませんでした。それに血液中の脂質や肝臓のインスリン感受性の改善も認められず、肝臓の脂肪も減りませんでした。骨格筋のインスリン感受性が改善すればたいてい他の代謝指標も同様に改善するのですが今回の試験ではそうなりませんでした。とはいえ今回の試験結果は抗老化治療の開発を確かに一歩前進させるものです。インスリンは筋肉の糖の取り込みや貯蔵を促し、その効果が衰えると2型糖尿病を生じ易くなります。その衰えをどうやら食い止めるらしいNMNが骨格筋でどう働くかを今後の研究で詳しく把握する必要があります。また、前糖尿病や糖尿病を予防したり乗り切るのにNMNが役立つかどうかを試験しなければなりません。NMNは雌のマウスにとくに有効なので今回の試験は女性を募りましたが、男性も含めた試験に研究者はすでに着手しています8)。介護施設でmRNA COVID-19ワクチン接種が威力を発揮Pfizer/BioNTechかModernaのmRNAワクチンを去年12月から接種し始めた米国イリノイ州シカゴの75の介護施設で3月末までに居住者7,931人と職員6,834人が2回目接種を済ませ、その期間に新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染した627人のうちワクチン2回目接種から14日以降に感染したのはわずか22人(4%;22/627人)のみでした9,10)。感染したとはいえそれら22人の6割以上14人は無症状で、22人から施設の他の人への感染は認められませんでした。また、PCR検査結果によると22人のウイルス量は少なめでした。同国ケンタッキー州の介護施設1つでのCOVID-19感染流行を調べた別の報告でもPfizer/BioNTechのmRNAワクチンの効果を裏付ける結果が得られています。2回目のワクチン接種から2週間が過ぎた居住者や職員の感染率はおよそ87%低かったと推定されました11)。参考1)McCord JL,et al. J Appl Physiol (1985). 2006 Dec;101:1693-701. 2)DUNER H, et al. Scand J Clin Lab Invest. 1958;10. :394-6.3)DUFF F, et al. J Physiol. 1954 Sep 28;125:581-9.4)Luttrell MJ, et al.Exerc Sport Sci Rev. 2017 Jan;45:16-23.5)Van der Stede T, et al. Sci Adv. 2021 Apr 14;7:eabf2856.6)Regular HIIT Exercise Enhances Health via Histamine / TheScientist7)Yoshino M, et al. Science. 2021 Apr 22:eabe9985. [Epub ahead of print]8)Anti-aging compound improves muscle glucose metabolism in people / Eurekalert9)Postvaccination SARS-CoV-2 Infections Among Skilled Nursing Facility Residents and Staff Members - Chicago, Illinois, December 2020-March 2021. MMWR. April 21, 2021.10)US administers 200 million COVID-19 vaccine doses / University of Minnesota11)COVID-19 Outbreak Associated with a SARS-CoV-2 R.1 Lineage Variant in a Skilled Nursing Facility After Vaccination Program - Kentucky, March 2021. COVID-19 Outbreak Associated with a SARS-CoV-2 R.1 Lineage Variant in a Skilled Nursing Facility After Vaccination Program - Kentucky, March 2021. MMWR. April 21, 2021.

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第56回 COVID-19の自宅ステロイド治療が有望/血栓症はワクチン後よりCOVID-19後の方が多い

COVID-19のステロイド治療で回復が早まり、悪化を減らしうる非入院の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)患者が入院せずに済むようにしうる治療幾つかをまとめて調べている英国の無作為化試験PRINCIPLE1)でステロイド・ブデソニド(商品名:パルミコート)吸入の効果が判明しました。65歳以上か持病がある50歳以上のCOVID-19患者の回復までの日数は通常療法に加えてブデソニドを14日間1日2回吸入する群751人の方が通常療法のみの群1,028人に比べて約3日間(3.011日間)短かったのです2,3)。入院率はブデソニド吸入群では8.5%、通常療法のみの群では10.3%でした。その差のベイズ95%確信区間(-0.7%~+4.8%)上限は0を超えており、今回の途中解析では残念ながらブデソニドが入院を減らす効果は示せませんでした。しかしPRINCIPLE試験の担当医一覧にも名を連ねるMona Bafadhel氏等が率いた別の無作為化試験STOICでは有望なことにブデソニド治療で救急科(ED)受診や入院を含む急な医療動員を減らすことができました。Lancet Respiratory Medicine誌4)に最近掲載されたSTOIC試験はPRINCIPLE試験よりも小規模で被験者数は146人です。PRINCIPLE試験では重症化の恐れが大きい高齢者への効果が調べられたのとは違ってSTOIC試験の被験者はより若く、18歳以上の患者を対象としました。軽度のCOVID-19発症から7日以内のそれら被験者の住まいに看護師が出向いて同意を得、通常療法かブデソニド吸入群に無作為に振り分け、吸入器を渡し、PCR検査用の鼻喉の拭い液を回収しました。患者には研究チームが毎日電話して酸素飽和度や体温が確認され、有害事象が把握されました。患者とそのようにやり取りして28日間追跡した結果、咳には蜂蜜(honey)、発熱症状にはアセトアミノフェンやアスピリン等の解熱剤使用が指示された通常療法群73人では15%(11/73人)がED受診や入院を含むCOVID-19関連の急な医療の出番を要しました。一方、残り半分73人のブデソニド吸入群でのその割合は僅か3%(2/73人)で済みました。ブデソニド吸入はCOVID-19感染初期に有効な治療として世界で広く利用しうると著者は言っています。今後の課題の一つとしてSTOIC試験で示されたCOVID-19悪化予防効果がブデソニドに限るのかそれともどの吸入コルチコステロイドにもあまねく備わっているのかを調べる必要があります5)。稀な血栓症・脳静脈血栓症はCOVID-19後の方がワクチン後より生じ易いAstraZenecaやJohnson & Johnson(J&J)のワクチンの稀な血栓症・脳静脈血栓症が心配されていますが、ではそれらワクチンで防ぎうるCOVID-19後はどうなのか?米国の8,100万人を網羅する医療情報集TriNetX Analyticsを使った解析によると脳静脈洞血栓症(CVST)とも呼ばれる脳静脈血栓症はどうやらワクチン後に比べてCOVID-19の後の方がずっと生じ易いようです6)。TriNetX Analyticsに記録されたCOVID-19患者51万3,284人のうち20人がその診断から2週間以内に脳静脈血栓症を発現しました。Pfizer/BioNTechやModerna のmRNAワクチンを接種した48万9,871人での発現数は2人のみでした。100万人当たりに換算するとCOVID-19後2週間の脳静脈血栓症発現数は39例、かたやmRNAワクチン接種後2週間は僅か4例であり、COVID-19後はmRNAワクチン接種後より10倍ほど生じ易いことが示されました。著者が言及している最近の欧州医薬品庁(EMA)推定によるとAstraZenecaのCOVID-19ワクチン接種後の脳静脈血栓症の発生率は100万人あたり5人です。AstraZeneca と同じくアデノウイルスを下地とするJ&Jワクチンがどうかは今回の解析では言及されていません。Pfizerは今回の結果に納得しておらず、同社のmRNAワクチンと血栓塞栓症は無縁との見解を科学ニュースThe Scientistに送っています7)。米国の疾病管理センター(CDC)や英国の医薬品医療製品規制庁(MHRA)の最近の検討でもPfizerワクチンと血栓症の関連はないと判断されていると同社は言っています。参考1)PRINCIPLE Trial2)Asthma drug budesonide shortens recovery time in non-hospitalised patients with COVID-19 / PRINCIPLE Trial3)Inhaled budesonide for COVID-19 in people at higher risk of adverse outcomes in the community: interim analyses from the PRINCIPLE trial. medRxiv. April 12, 20214)Ramakrishnan S, et al. Lancet Respir Med. 2021 Apr 9:S2213-2600.00160-0. 5)Agusti A, et al. Lancet Respir Med. 2021 Apr 9:S2213-2600.00171-5.6)Cerebral venous thrombosis: a retrospective cohort study of 513,284 confirmed COVID-19 cases and a comparison with 489,871 people receiving a COVID-19 mRNA vaccine. Center for Open Science. 2021-Apr-157)Blood Clot Risk from COVID-19 Higher than After Vaccines: Study / TheScientist

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急性期精神科病棟における音楽療法と鎮静薬使用との関係

 音楽療法は、患者の興奮状態を落ち着かせる手助けとなるだけでなく、全体的な頓服薬の投与を減少させる可能性がある。米国・SUNY Upstate Medical UniversityのTrevor Scudamore氏らは、精神科病棟での興奮のマネジメントにおいて薬理学的な介入の補助または代替として音楽療法が有効であるか、その実現可能性について、検討を行った。BMC Psychiatry誌2021年3月6日号の報告。 対象は172例。試験期間は、音楽なしの3ヵ月間と音楽のde-escalation(段階的縮小)オプションのある3ヵ月間で構成された6ヵ月間。音楽療法期間中、患者は好みのジャンルを選択し、最大30分間ワイヤレスヘッドホンの提供が行われた。興奮および不安症状に対して投与された頓服薬(経口、舌下、筋注)の数は、薬局の記録より収集した。患者および看護師より、音楽介入に関する自己報告調査を収集した。 主な結果は以下のとおり。・音楽療法実施期間中の頓服薬の週間平均投与量は、音楽なしの期間と比較し、ハロペリドールおよびオランザピンのいずれにおいても有意な減少が認められた。 ●ハロペリドール:8.46±1.79(p<0.05)→5.00±1.44(p<0.05) ●オランザピン:9.69±2.32(p<0.05)→4.62±1.51(p<0.05)・一方、ロラゼパムの投与量は、有意ではないものの増加傾向が認められた。 ●ロラゼパム:3.23±1.09(p<0.05)→6.38±2.46(p<0.05)・音楽療法に対する患者の回答は、96%が鎮静効果に同意するまたは強く同意するであった。・看護師の回答では、音楽療法の簡便性に同意が得られ、56%が患者を落ち着かせるうえで役立つことに同意するであった。・その他の探索的な結果として、平均入院期間の減少、隔離回数の減少が観察された。 著者らは「音楽療法は、急性期精神科病棟における鎮静薬の頓服使用を減少させるうえで、重要な役割を果たす可能性がある。音楽療法が、その他の治療結果に及ぼす影響を調査するためには、さらなる研究が求められる」としている。

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食道扁平上皮がん1次治療、ニボルマブ+化学療法とニボルマブ+イピリムマブが生存ベネフィット示す(CheckMate-648)/BMS

 ブリストル マイヤーズ スクイブは、2021年4月8日、切除不能な進行または転移のある食道扁平上皮がん(ESCC)患者を対象に、ニボルマブと化学療法の併用療法およびニボルマブとイピリムマブの併用療法を評価した第III相CheckMate-648試験の肯定的なトップラインの結果を発表した。 同試験の中間解析において、ニボルマブと化学療法の併用療法は、主要評価項目であるPD-L1陽性患者の全生存期間(OS)および副次評価項目である全無作為化患者集団でのOSで統計学的に有意かつ臨床的に意義のあるベネフィットを示した。加えて、PD-L1陽性患者での盲検下独立中央判定(BICR)評価による無増悪生存期間(PFS)で統計学的に有意かつ臨床的に意義ある改善を示した。 ニボルマブとイピリムマブの併用療法も、PD-L1陽性患者でのOSおよび全無作為化患者集団でのOSで統計学的に有意かつ臨床的に意義のある改善を達成した。しかし、PD-L1陽性患者でのBICRの評価によるPFSの改善は達成しなかった。 同社は、CheckMate-648試験のデータの評価を完了させ、今後の学会で結果を発表するとともに、規制当局と共有する予定だとしている。

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第55回 透析しながらフィットネス/血栓症をAZ社ワクチン副作用と欧州が判断

透析中の自転車漕ぎ運動で心臓の調子が改善透析患者は年々増えており、2019年の調査では日本人のおよそ1,000人に3人(100万人当たり2,732人)が慢性透析患者でした1)。それら透析頼りの患者の死亡原因で最も多かったのは心不全であり、死亡原因の22.7%を占め、心不全に加えて脳血管障害と心筋梗塞も含む心血管疾患全般は死亡原因の約1/3の32.3%を占めました。慢性疾患患者の心血管疾患予防には運動が良いことが報告されています。血液透析頼りの末期腎疾患(ESRD)患者はとくにじっとしていがちであり、運動で心血管機能や体調の改善が期待できるでしょう。とはいえ透析に出向いて4時間透析を受けて帰宅することを多くの場合週に3回繰り返す患者がその他のことをする時間は非常に限られています2)。ではその長い透析の最中に運動してもらったらいいじゃないかということで実施されて好成績を収めた無作為化試験の結果が国際腎臓学会(ISN)発行のKidney International誌に掲載されました3)。試験は英国の血液透析センター3ヵ所で実施され、130人が参加しました。半数の65人は週3回の透析中に30分間自転車漕ぎ運動をしてもらい、残り半数はいつもの治療を受けました。6ヵ月後のMRI写真を調べたところ自転車漕ぎ運動をした患者の心臓の大きさは正常化しており、心臓の瘢痕が減っていました。血管にも良い影響を及ぼしたらしく大動脈硬化の指標が改善しました。また、自転車漕ぎ運動をした患者の入院はより減り、1人当たりの6ヵ月間の医療費はそうしなかった患者に比べて諸費用・装置導入や人件費(理学療法士の給与)差し引きで1,418ポンド少なくて済みました4)。透析の都度自転車漕ぎ運動をすれば否が応でも運動習慣を身につけることができ、長い透析がより有意義なものになるでしょう2)。透析中の自転車漕ぎ運動は心血管の調子を改善するようであり、果ては生存改善につながるかどうかを今後の試験で調べる必要があると著者は言っています。血栓症をAZ社ワクチンの非常に稀な副作用と欧州が判断~J&Jワクチンでも同様の血栓症が発生血小板減少を伴う普通じゃない血栓症をAstraZeneca社COVID-19ワクチンVaxzevria(AZD1222)の非常に稀な副作用と欧州医薬品庁(EMA)が結論しました5,6)。およそ2,500万人がAstraZenecaワクチン接種済みの欧州地域から主に自主的に3月22日までに報告された脳静脈洞血栓症(CVST)62例と内臓静脈血栓症(splanchnic vein thrombosis)24例を詳しく調べてEMAはその結論に至りました。欧州連合(EU)の薬剤安全性データベースEudraVigilanceに集まったそれら86例のうちおよそ5例に1例(18例)は死亡しています。その約2週間後の4月4日時点でのEudraVigilanceへのCVST報告数は3月22日までより3倍近い169例、内臓静脈血栓症は2倍以上の53例に増えています。とはいえ血小板減少を伴う血栓症は非常に稀であり、AstraZenecaワクチンのCOVID-19予防効果は副作用リスクを上回るとEMAは依然として考えています。先週紹介したヘパリン起因性血小板減少症(HIT)様の免疫反応を原因の一つとEMAは想定しています。心配なことにJ&JのCOVID-19ワクチンでも同様の血栓症が発生してEMAは調査を開始しています7)。また、AstraZenecaワクチンの別の安全性懸念・毛細管漏出症候群の調査も始まっています。毛細管漏出症候群は血管の液漏れを特徴とし、組織を腫らして血圧低下を招きます。参考1)新田孝作ほか. 透析会誌. 53:579~632,2020 2)Cycling study transforms heart health of dialysis patients / Eurekalert 3)Matthew P.M.et al. Kidney International. April 08, 2021. [Epub ahead of print]4)Daniel S. M.et al.Kidney International. April 08, 2021.[Epub ahead of print]5)AstraZeneca’s COVID-19 vaccine: EMA finds possible link to very rare cases of unusual blood clots with low blood platelets / EMA6)Blood Clots a Very Rare Side Effect of AstraZeneca Vaccine: EMA / TheScientists7)Meeting highlights from the Pharmacovigilance Risk Assessment Committee (PRAC) 6-9 April 2021 / EMA

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大うつ病性障害のない認知症患者の抑うつ、非薬物療法が有効/BMJ

 大うつ病性障害のない認知症患者の抑うつ症状の治療において、認知活性化療法やマッサージ/接触療法などを用いた非薬物的介入は、臨床的に意義のある症状の改善効果をもたらすことが、カナダ・セント・マイケルズ病院のJennifer A. Watt氏らの検討で示された。研究の成果は、BMJ誌2021年3月24日号で報告された。抑うつや孤立感、孤独感などの症状を軽減するアプローチとして、地域で患者に非薬物的介入を行う「社会的処方(social prescribing)」への関心が高まっている。また、非薬物療法(たとえば、運動)が認知症患者の抑うつ症状を低減することが、無作為化試験で示されている。一方、大うつ病性障害の診断の有無を問わず、認知症患者の抑うつ症状に関して、薬物療法と非薬物療法の改善効果を比較した研究は知られていないという。抑うつ症状の軽減効果をネットワークメタ解析で評価 研究グループは、認知症の神経精神病学的症状としての抑うつを経験するか、大うつ病性障害の診断を受けた認知症患者における抑うつ症状の軽減効果を、薬物療法と非薬物療法とで比較する目的で、系統的レビューとネットワークメタ解析を行った(カナダ・Alberta Critical Care Strategic Clinical Networkの助成による)。 2020年10月15日の時点で、5つのデータベース(Medline、Embase、Cochrane Library、CINAHL、PsycINFO)に登録された文献を検索した。また、灰色文献(grey literature)や、選出された研究の引用文献も調査した。対象は、認知症患者の抑うつ症状に関して、薬物療法または非薬物療法を、通常ケアまたはその他の介入と比較した無作為化試験とした。通常ケアは、「患者の要求や好みに基づく、医療(医師または看護師への受診)および社会的ケア(入浴などの日常生活動作の介助)の適切な利用」と定義された。 8人の研究者が2人1組で、個々の文献から集計レベルのデータを抽出し、Cochrane risk of bias toolを用いて個々の無作為化対照比較試験のバイアスのリスクを評価した。次いで、ベイズ流の変量効果ネットワークメタ解析と従来のペアワイズメタ解析を行い、コーネル認知症抑うつ尺度(CSDD)の標準化平均差と逆変換平均差を導出した。大うつ病性障害を有する患者の解析はできなかった 256件の試験(認知症患者2万8,483例)が系統的レビューに含まれた。試験の91%は平均年齢が70歳以上であり、73%は女性が50%以上を占めていた。個々の試験の知見をレビューする際の最大のリスクは、データの欠損であった。 抑うつ症状を経験し、大うつ病性障害の診断を受けていない認知症患者のネットワークメタ解析(213件の試験、2万5,177例、試験間分散[τ2]0.23[中等度])では、以下の7つの非薬物的な介入法が、通常ケアと比較して抑うつ症状の低減効果が優れていた。 認知活性化療法(平均群間差:-2.93、95%信用区間:-4.35~-1.52)、認知活性化療法とコリンエステラーゼ阻害薬の併用(-11.39、-18.38~-3.93)、マッサージ/接触療法(-9.03、-12.28~-5.88)、集学的ケア(-1.98、-3.80~-0.16)、作業療法(-2.59、-4.70~-0.40)、運動と社会的交流と認知活性化療法の併用(-12.37、-19.01~-5.36)、回想法(-2.30、-3.68~-0.93)。 大うつ病性障害の診断を受けていない認知症患者における抑うつ症状の低減に関して、マッサージ/接触療法、認知活性化療法とコリンエステラーゼ阻害薬の併用、認知活性化療法と運動と社会的交流との併用は、いくつかの薬物療法と比較して改善効果が優れていた。これら以外では、薬物療法と非薬物療法の効果には、統計学的に有意な差は認められなかった。 大うつ病性障害を有する認知症患者の抑うつ症状の低減に関しては、介入の効果を比較した研究(22件、1,829例)では、臨床的および方法論的な異質性のため、ネットワークメタ解析を行うことはできなかった。 著者は、「薬物療法単独では、通常ケアを超える効果はないことも明らかとなった」としている。

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完全人工膵臓開発における熾烈な競争(解説:住谷哲氏)-1371

 筆者は本連載1167回の『完全人工膵臓実現へのさらなる一歩』で、高血糖時に投与するcorrection bolusを自動化したControl-IQシステムについてコメントした。この点でControl-IQシステムに一歩遅れをとっていたMedtronicが新たに開発したシステムであるadvanced hybrid closed-loop system(AHCL)についての報告である。Medtronicはすでにhybrid closed-loop system(HCL)としてMiniMed 670Gを市場に送り出していたが、MiniMed 670Gにcorrection bolus投与自動化アルゴリズムを持つMD-Logic artificial pancreas algorithm(DreaMed Diabetes[イスラエル、ペタフ・ティクバ])を組み込んだAHCLを新たに開発した。MiniMed 670Gとハード(インスリンポンプとCGM)はまったく同一で、新しいソフトを搭載した機種になる。 試験の対象となったのは1型糖尿病のなかでも血糖管理が困難とされている思春期・若年成人(adolescents and young adults)1型糖尿病患者113人である。機種の違いを比較する試験でありmaskingは不可能であるが、対象患者間の個体差を最小にするために無作為化クロスオーバーデザインが用いられた。Correction bolus投与自動化による有益性を評価するのが試験目的であるので、日中における血糖値>180mg/dLの時間と、<54mg/dLの時間との2つの主要評価項目coprimary endpointが設定された。結果は、血糖値>180mg/dLの時間がHCL期間で34%、AHCL期間で37%(p<0.001)でありAHCLで有意に減少していた。 それではControl-IQシステムとadvanced MiniMed 670G(今回検討された新機種)のどちらが優れているだろうか? 両機種には機能に種々の相違点があるが、この疑問は両者のhead-to-head試験が実施されない限り(その実現可能性はきわめて低いが)答えられない。しかしControl-IQシステムは自己血糖測定によるCGMの較正が不要であるのに対して、MiniMed 670Gに搭載されたCGMは12時間ごとの較正が必要であり、この点ではControl-IQシステムが利便性に勝る。Control-IQシステムvs.MiniMed 670Gの勝者がいずれになるかは、食事の前に投与するmeal bolusの自動化をどちらが達成するかにかかっていると思われる。

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第53回 Pfizerワクチン接種者に待望の胚中心が認められた

Pfizer/BioNTechのmRNAワクチンBNT162b2が引き出す新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)抗体免疫はどうやら長続きすることを示す確かで息長い胚中心(germinal center)反応がマウスに続いて待望のヒト試験でも認められました1,2)。リンパ節に形成される胚中心は長く備わる抗体生成B細胞を生み出します。胚中心の暗領域(dark zone)ではそれぞれ独自の抗体を備えたB細胞が数多く作られ、明領域(light zone)で教官役のT細胞と手合わせして目当てのタンパク質の認識性能が検査されます。不合格のB細胞は暗領域に戻されて洗練されるか消され、合格したB細胞は不死化してメモリーB細胞かプラズマ細胞になって抗体が担う防御効果を数年あるいは長ければ何十年も発揮し続けます。胚中心反応はPfizer/BioNTechのmRNAワクチン接種2回を済ませた12人のリンパ節検体の観察で明らかになりました。細針吸引で採取したリンパ節検体にはSARS-CoV-2スパイクタンパク質に結合する胚中心B細胞が1回目接種の後に12人全員に認められました2)。2回目の接種後に胚中心B細胞の割合は上昇し、ほとんどの人で少なくとも7週間後まで高い水準を保ち、メモリーB細胞やプラズマ細胞の順調な生成が伺われました。胚中心反応が長いほど抗体生成B細胞はより徹底的な訓練を受けることができ、メモリーB細胞やプラズマ細胞へとより分化することができます。去年12月にImmunity誌に発表された報告3)によるとマウスへのSARS-CoV-2 mRNAワクチン接種の胚中心反応はタンパク質ワクチンを上回ります。非mRNAワクチンのヒトでの胚中心反応はまだ不明ですが、現状ではmRNAワクチンにどうやら分があるようです。mRNAワクチンに分がありそうなことは他にもあります。たとえば、Pfizer/BioNTechのmRNAワクチン接種者のリンパ節のスパイクタンパク質標的形質芽細胞の多くは血中を巡るIgG抗体を作るものでしたが、意外にも、大抵は感染した鼻や腸などの粘膜組織で作られるIgA抗体を作る形質芽細胞もかなり存在しました2)。それらIgA生成細胞は先立つ季節性コロナウイルスの上気道感染で備わったIgA生成メモリーB細胞を起源とするのかもしれません。mRNAワクチンが引き出すIgA生成細胞の効果がどれほどのものかはこれから調べる必要がありますが、おそらくはIgG抗体を上回る働きを担う粘膜組織に出向いて感染防御機能を担うのでしょう1)。また、興味深いことにスパイクタンパク質を標的とする胚中心B細胞のいくつかはSARS-CoV-2以外の風邪原因コロナウイルス(季節性ベータコロナウイルスOC43やHKU1)のスパイクタンパク質に反応しました2)。mRNAワクチンは新顔を生み出すだけでなく先立つ感染で備わった古参のメモリーB細胞を胚中心で再び訓練するように仕向ける働きもあるようです。mRNAワクチンがまさに期待通りの効果を担うことを示した今回の結果はどのコロナウイルスも抑制する抗体や防御するワクチンを見つける取り組みを助けるだろうとワシントン大学の免疫学者Ali Ellebedy氏は言っています1)。今回の研究を率いた同氏等はインフルエンザワクチン接種後の胚中心反応を数年前から調べ始めてその成果、血球凝集素に結合する胚中心B細胞の発見を天下の科学誌Natureに昨夏に報告4)しており、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)ワクチン接種が始まる頃にはそれらではどうかを調べる準備ができていました1)。参考1)Pfizer Vaccine Induces Immune Structures Key to Lasting Immunity / TheScientist2)SARS-CoV-2 mRNA vaccines induce a robust germinal centre reaction in humans. Research Square. 09 Mar, 20213)Lederer K,et al, Immunity.2020 Dec 15;53:1281-1295.e5.4)Turner JS, Nature. 2020 Oct;586:127-132.

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妊婦における境界性パーソナリティ障害の有病率や特徴

 周産期リエゾン精神科サービスに紹介された妊婦における境界性パーソナリティ障害(BPD)の有病率や特徴について、オーストラリア・Child and Adolescent Mental Health ServicesのKatharina Nagel氏らは、調査を行った。The Australian and New Zealand Journal of Psychiatry誌オンライン版2021年2月26日号の報告。 周産期リエゾン精神科サービスに紹介された女性318人を対象に、人口統計学的および臨床的データ、DSM-V基準による診断データを18ヵ月間記録した。データ分析には、記述統計およびロジスティック回帰分析を用いた。 主な結果は以下のとおり。・最も多かった診断は、うつ病(25.5%)であり、次いで不安症(15.1%)であった。・BPDと診断された女性は10.1%で、そのうち5人に1人は2つ以上のBPD特性を有していた(19.5%)。・BPD女性は、他の診断を受けた患者と比較し、以下の割合が高かった。 ●予定外妊娠 ●パートナーの不在 ●妊娠中の物質使用障害 ●現在または過去の子供に対する児童保護サービスの関与・BPD女性の40%超は、現在の妊娠中に児童保護サービスとの関与が認められた。・BPD診断により、子供の児童保護サービスへの関与リスクは約6倍に増加した(オッズ比:5.5、95%CI:1.50~20.17)。 著者らは「BPD女性は、サポートが必要なハイリスク群であり、BPDに関連するサービスへの投資は、優先度が高いと考えられる」としている。

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第52回 南ア変異株を取り入れたCOVID-19ワクチンはより心強い

南アフリカでの新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染症流行第二波で台頭した変異株(南ア変異株)B.1.351の感染はSARS-CoV-2の古参も新顔も手広く相手する抗体一揃いを生み出すようで、その配列を取り入れたワクチンはどうやらより頼りがいがあるようです。同国での去年9月初めまでの流行第一波の後の10月に見つかって瞬く間に広まった1)B.1.351は回復者血漿(convalescent plasma)やモノクローナル抗体を効き難くするかまったく効かなくする変異を有し、取り急ぎ認可されたワクチンの効果にも差し障るのではないかと懸念されました。その懸念は杞憂ではなく、AstraZenecaのSARS-CoV-2ワクチンChAdOx1 nCoV-19(AZD1222)の試験ではB.1.351感染者の発症を防げませんでした2)。それに、Pfizer-BioNTechやModernaのワクチン接種者の血清(抗体)のB.1.351中和はかなり劣りました3)。その結果を踏まえてModernaはB.1.351の配列を取り入れたワクチンmRNA-1273.351を仕立てており、早くも今月前半には第II相試験でその投与が始まっています4)。mRNA-1273.351はB.1.351を含むSARS-CoV-2変異株も相手できるように免疫反応の幅を広げることを目指します。南アフリカの中心都市ヨハネスブルグのウィットウォータースランド大学の ペニー・ムーア(Penny Moore)氏のチームが今月11日にbiorxivに発表した報告5)によるとmRNA-1273.351はその狙い通りの効果をもたらしてくれそうです。ムーア氏等はB.1.351が免疫の網をかいくぐることなく強力な免疫反応を引き出しうると期待し6)、ケープタウンの病院にB.1.351感染で入院した89人の血清(抗体)のSARS-CoV-2代理ウイルス(pseudovirus)阻止効果を調べました。代理ウイルスはSARS-CoV-2スパイクタンパク質を使って細胞に感染するように加工したHIVです6)。結果はムーア氏等の期待に沿うもので、B.1.351感染者の抗体はB.1.351変異を有する代理ウイルスの阻止のみならずB.1.351台頭前の流行第一波の代理ウイルスやブラジルで見つかった変異株501Y.V3 (P.1)代理ウイルスも食い止めました5)。P.1もB.1.351と同様に手強く、抗体が効きにくいことが知られています。B.1.351も相手しうるワクチンの取り組みはModernaのみならずPfizer-BioNTechやその他のワクチン開発会社も進めています。それらのワクチンはおそらくより高性能であろうとムーア氏は言っています6)。変異株感染は総じてSARS-CoV-2を手広く相手する免疫反応を引き出すかというとそうではなさそうです。たとえば英国で見つかった変異株B.1.1.7感染で備わる抗体は南ア変異株や先立って流行したウイルスの面々の認識や抑制がより不得手です7)。南ア変異株B.1.351感染でSARS-CoV-2あれこれへの手広い免疫反応が備わる仕組みは不明で、これから調べる必要があります。もしかするとB.1.351は変異株の間で共通するスパイクタンパク質特徴を認識する抗体を引き出すのかもしれません6)。参考1)Emergence and rapid spread of a new severe acute respiratory syndrome-related coronavirus 2 (SARS-CoV-2) lineage with multiple spike mutations in South Africa. medRxiv. December 22, 20202)Madhi SA,et al, N Engl J Med.2021 Mar 16. [Epub ahead of print]3)Wang P, et al.Nature.2021 Mar 8. [Epub ahead of print]4)Moderna Announces First Participants Dosed in Study Evaluating COVID-19 Booster Vaccine Candidates / businesswire5)SARS-CoV-2 501Y.V2 (B.1.351) elicits cross-reactive neutralizing antibodies. bioRxiv. March 11, 20216)Rare COVID reactions might hold key to variant-proof vaccines / Nature7)Reduced antibody cross-reactivity following infection with B.1.1.7 than with parental SARS-CoV-2 strains. bioRxiv. March 01, 2021.

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BRACE-CORONAにより“COVID-19とRA系阻害薬問題”はどこまで解決されたか?(解説:甲斐久史氏)-1360

 2020年9月、欧州心臓病学会ESC2020で発表され、論文公表が待たれていたBRACE-CORONAがようやくJAMA誌に報告された。COVID-19パンデミック拡大早期から危惧された「レニン・アンジオテンシン(RA)系阻害薬が、新型コロナウイルス感染リスクおよびCOVID-19重症化・死亡に悪影響を与えるのではないか?」というクリニカル・クエスチョンに基づく研究である。2020年4月から6月の間に、ブラジル29施設に入院した軽症および中等症COVID-19患者のうち、入院前からアンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬やアンジオテンシン受容体拮抗薬(ARB)を服用していた659例がRA系阻害薬中止群(他クラスの降圧薬に変更)と継続群にランダム化され、入院後30日間の臨床転帰が比較検討された。主要評価項目は、30日間の生存・退院日数。副次評価項目は、入院日数、全死亡、心血管死亡、COVID-19進行(COVID-19悪化、心筋梗塞、心不全の新規発症または増悪、脳卒中など)であった。主要評価項目およびいずれの副次評価項目についても両群間に差はなかった。また、年齢、BMI、入院時の症状・重症度などのサブグループ解析でも主要評価項目に差はみられなかった。以上から、軽症/中等症COVID-19入院患者において、RA系阻害薬をルーチンとして中止する必要はないと結論付けられた。 本研究は、“COVID-19とRA系阻害薬問題”に関する初めての多施設ランダム化臨床試験(RCT)である。これによって、何らかの症状を有した急性期COVID-19の重症化・予後悪化に関してのRA系阻害薬悪玉説は否定されたと考えてもよいだろう。ただし、本研究の対象は高血圧患者で、心不全は約1%(1年以内に心不全入院を有するものは除外)、冠動脈疾患は約4.5%しか含まれないことには注意したい。とはいえ、心不全や冠動脈疾患はCOVID-19重症化・予後悪化の危険因子であり、また、パンデミック下での臨床経験から重症COVID-19による心不全治療においてもRA系阻害薬は有用とされる。したがって、これらの病態を対象に、あえてRA系阻害薬を中止するRCTを行う必要は、理論的さらには倫理的観点からもないであろう。一方、ARB新規投与がCOVID-19入院患者および非入院患者の急性期予後を改善するかについて、感染拡大早期からそれぞれRCTがなされていた。今年2月にようやく症例登録が終了したようである。RA系阻害薬善玉説の観点からの検討であり、その公表が待たれる。 しかし、われわれが最も知りたいことは、このような急性効果ではない。高血圧、腎疾患、さらには心不全や冠動脈疾患といった心疾患に対して、日頃から長期間処方しているRA系阻害薬により、患者さんを感染や重症化のリスクに曝していないかということである。ワクチンや抗ウイルス薬とは異なり、従来の大規模な多施設RCTによる検証は、RA系阻害薬長期服用の感染予防・重症化予防に関してはなじまないであろう。この命題に関しては、中国での感染拡大初期から、単施設や小規模コホートでの後ろ向き登録研究が多くなされた。中にはRA系阻害薬の有用性を強調した報告もみられる。しかし、欧州・米国さらにわが国からの大規模な後ろ向きおよび前向き登録研究、それらを含めた観察研究のメタ解析が次々に報告され、感染確認前のRA系阻害薬服用は、SARS-CoV-2検査陽性、COVID-19重症化や死亡のリスクを増大させることも抑制させることもなく、明らかな影響を与えないことが示されている。有用性評価には依然検討の余地があるが、RA系阻害薬は感染性増大や重症化・予後悪化といった有害事象を増加させないという点では、コンセンサスが得られるのではなかろうか。 そもそも、“COVID-19とRA系阻害薬問題”は、ACE2に関する基礎研究において、「RA系阻害薬がACE2発現を増加させる」「SARSなど急性肺障害モデルにおいてRA系阻害薬が臓器保護的に働く」といった一部の報告が強調され、それぞれ、悪玉説と善玉説の根拠とされている。しかしながら、別稿で詳述したように、これまでの基礎研究を網羅的かつ詳細に検討すると、いずれの主張もその根拠はどうも薄弱なようである(甲斐. 心血管薬物療法. 2021;8:34-42.)。急性期COVID-19に関しては、両仮説ともその妥当性から見直す必要があるかもしれない。最近、急性期に無症候性であった患者も含めて、味覚・嗅覚異常、脱毛、倦怠感、brain fogといった精神症状、息切れなどの症状が数ヵ月間持続するlong COVIDに注目が集まっている。心臓MRIで慢性的な心筋炎症がみられるなど、long COVIDには全身の慢性心血管炎症が関与する可能性が示唆されている。今後、long COVIDの発症予防・治療に対するRA系阻害薬を含めスタチンなどの薬剤の有用性についてRCTを含めた検証を進める意義があろう。 “COVID-19とRA系阻害薬問題”を通じて、質の高い観察研究・ビッグデータ解析の必要性が痛感された。実際にCOVID-19パンデミックをきっかけに、電子診療データやAIを活用したデータの収集、スクリーニング、解析などの各分野に目覚ましい革新が引き起こされている。災い転じて、臨床疫学によるエビデンス構築の新時代を迎えようとしているようである。ちなみに、BRACE-CORONAは、ブラジル全国規模のCOVID-19 registryに基づくregistry-based RCTである。電子診療データなどのリアルワールドデータシステムの枠組み内にRCTを構築することにより、膨大かつ検証可能なデータプールから、自動的に対象症例を抽出し、経時的にデータを収集することができるのみならず、1つのシステム内に複数のRCTを走らせることも可能となる。わが国も遅れをとらないように、情報インフラ・診療情報データベース構築を推し進めなければならない。

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第49回 米国FDAの大忙しの週末~ネアンデルタール人から授かったCOVID-19防御

米国FDAはこの週末大忙しだったに違いなく、25日木曜日にはPfizer/BioNTechの新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染症(COVID-19)予防ワクチン接種施設を増やしうる保管方法を許可し、25日と翌日26日には稀な病気2つの新薬と運動選手の脳を守る首輪を承認し、27日土曜日には大方の予想通りJohnson & Johnson(J&J)のCOVID-19ワクチンを取り急ぎ許可しました。25日に報告された興味深い研究成果、ネアンデルタール人から授かったと思しきCOVID-19防御因子の発見も併せて紹介します。COVID-19ワクチンをいっそう推進溶解前の冷凍状態のPfizerワクチンの保管温度はこれまで超低温の零下80~60℃とされてきましたが、より一般的な冷凍庫の温度である零下25~15℃で最大2週間保管することが許可されました1,2)。また、零下25~15℃での保管後に一回のみ零下80~60℃に戻すことが可能です。超低温冷凍庫をわざわざ購入する負担が減ってワクチンを扱える場所が増えるだろうとFDAの審査部門(Center for Biologics Evaluation and Research)長Peter Marks氏は言っています1)。Pfizerワクチンと違って受け取り後に冷凍不要のJ&JのCOVID-19ワクチンは26日金曜日の諮問委員会での満場一致の賛成の翌日27日土曜日に18歳以上の成人への使用が早々と取り急ぎ認可されました3)。J&Jのワクチンバイアルの針刺し前の保管温度は2~8℃であり、冷凍してはならず、最大12時間は9~25℃で保管可能です4)。J&Jは接種1回のそのワクチン2,000万人超への投与分を今月末までに出荷できる見込みです5)。また、今年前半には米国人口の約3分の1相当の1億人への投与分が出荷される予定です。稀な病気の新薬FDAは25日に稀な病気・デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)の治療薬Amondys 45(casimersen)、翌日26日には世界での診断数150人未満の超稀な病気・モリブデン補因子欠損症(MoCD)A型の治療薬Nulibry(fosdenopterin)を承認しました。Amondys 45は筋肉細胞に必要なタンパク質ジストロフィンをエクソン45スキッピングという作用機序を介して増やします。その作用が通用する変異を有するDMD患者への同剤使用が承認されました6)。DMD患者のおよそ8%がその変異を有します。MoCD A型は男児3,600人あたりおよそ1人に生じるDMDよりさらに稀で、世界で確認されている患者数は150人未満です。Nulibry(fosdenopterin)はFDAが承認した初のMoCD A型治療薬となりました7)。10万人あたり0.24~0.29人の発生率と推定されるMoCD A型患者は遺伝子変異のせいでcPMP(環状ピラノプテリン一リン酸)という分子が作れません7,8)。Nulibry はcPMPを供給することで尿中の神経毒Sスルホシステインを減らします。Nulibryの生存改善効果が13人への投与で示されています。それらの患者の84%は3年間生存し、非投与群18人のその割合は55%でした。MoCD A型の患者数は診断数より多いらしく、米国と欧州(EU)で毎年22~26人が診断されないままと推定されています9)。運動選手の脳を守る”首輪”運動選手の頭部の衝撃から脳を守る首輪Q-Collarは26日に米国FDAに承認されました10)。頭部が衝撃を受けると頭蓋内で脳が揺れて神経が捻れたり切れたりして脳が傷みます。首にはめたQ-Collarは頸静脈を圧迫することで頭蓋内の血液量を増やして脳をより固定させ、衝撃を受けてもグラグラと揺れないようにします。米国の13歳以上のフットボールチーム員284人が参加した試験などでQ-Collarの効果や安全性が示されています。その試験でQ-Collarを使用した139人の脳のMRI写真を調べたところおよそ8割(77%)107人の神経信号伝達領域(白質)は無事でした。一方、非使用群145人では逆にほとんどの73%(106/145人)に有意な変化が認められ、Q-Collarの脳保護効果が示唆されました。Q-Collar使用に伴う有意な有害事象は認められませんでした。ネアンデルタール人から授かったらしいCOVID-19防御COVID-19患者最大1万4,134人と対照群最大128万人を調べたところ、RNAウイルスに対する自然免疫の一部を担うオリゴアデニル酸シンセターゼ(OAS)の一つ・OAS1の血中量が多いこととCOVID-19になり難いことやたとえCOVID-19になっても入院、人工呼吸器使用、死に至り難いことが示されました11,12)。さらに504人の経過を調べたところ血漿OAS1量が多いことは後にCOVID-19になり難いことやCOVID-19による入院や重病に至り難いことと関連しました。OAS1はいくつかの種類(アイソフォーム)があります。興味深いことに、数万年前にネアンデルタール人と交わったときに受け継いだp46というアイソフォームがどうやらCOVID-19防御作用を担うと示唆されました。幸いなことにOAS1を増やす前臨床段階の化合物13)が存在するのでそれらを最適化してCOVID-19への効果を臨床試験で調べうると著者は言っています。参考1)Coronavirus (COVID-19) Update: FDA Allows More Flexible Storage, Transportation Conditions for Pfizer-BioNTech COVID-19 Vaccine / PRNewswire2)EMERGENCY USE AUTHORIZATION (EUA) OF THE PFIZER-BIONTECH COVID-19 VACCINE TO PREVENT CORONAVIRUS DISEASE 2019 (COVID-19) / FDA3)FDA Issues Emergency Use Authorization for Third COVID-19 Vaccine / PRNewswire4)EMERGENCY USE AUTHORIZATION (EUA) OF THE JANSSEN COVID-19 VACCINE TO PREVENT CORONAVIRUS DISEASE 2019 (COVID-19) / FDA5)Johnson & Johnson COVID-19 Vaccine Authorized by U.S. FDA For Emergency Use / PRNewswire6)FDA Approves Targeted Treatment for Rare Duchenne Muscular Dystrophy Mutation / PRNewswire7)FDA Approves First Treatment for Molybdenum Cofactor Deficiency Type A / PRNewswire8)Nulibry PRESCRIBING INFORMATION9)BridgeBio Pharma and Affiliate Origin Biosciences Announce FDA Approval of NULIBRYTM (fosdenopterin), the First and Only Approved Therapy to Reduce the Risk of Mortality in Patients with MoCD Type A / GLOBE NEWSWIRE10)FDA Authorizes Marketing of Novel Device to Help Protect Athletes' Brains During Head Impacts / PRNewswire11)Zhou S,et al.Nat Med. 2021 Feb 25. [Epub ahead of print]12)Discovery: Neanderthal-derived protein may reduce the severity of COVID-19 / EurekAlert13)Wood ER, et al. J Biol Chem. 2015 Aug 7;290:19681-96.

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乳がん手術療法のDe-escalation、検討中の4つの方向性/日本臨床腫瘍学会

 乳がん治療における手術療法はHalsted手術以降、一貫して縮小してきており、早期乳がんに対する胸筋温存、乳房温存などが一般的に実施されている。腋窩リンパ節郭清に関してもセンチネルリンパ節生検が広く行われるようになり、その後、センチネルリンパ節に転移を認めても条件を満たせば郭清を省略するようになっている。現在、さらなる手術縮小の可能性が前向きに検討されているが、具体的な4つの方向性について現在進行中の試験を含めて、第18回日本臨床腫瘍学会学術集会(JSMO Virtual2021)におけるシンポジウム「乳がん治療におけるDe-escalationを考える」の中で、岡山大学の枝園 忠彦氏が紹介した。1)術前薬物療法実施症例でのセンチネルリンパ節生検 術前薬物療法の実施後にセンチネルリンパ節生検を実施したACOSOG Z1071(Alliance)、SENTINA(Arm C)、SN FNACの各試験を、術前薬物療法なしでセンチネルリンパ節生検を実施したNSABP B-32試験と比較すると、NSABP B-32試験ではセンチネルリンパ節生検の同定率は97.2%、偽陰性率9.8%であるのに対し、他の3試験では同定率は減少し偽陰性率は増加した。しかしながら、センチネルリンパ節を多め(3個以上)に摘出もしくは腫瘍の大きさをT2までに限ることで、センチネルリンパ節生検を可能にすることが示されている。 また、偽陰性率を下げるための工夫として、転移のあったリンパ節に術前にクリップなどのマーキングをして手術で確実に切除することにより偽陰性率が低く抑えられた結果が報告されており、現在、多くの施設でさらなる検討が実施されている。 さらに、もともとリンパ節転移があり術前薬物療法でリンパ節転移が消失した症例にセンチネルリンパ節生検が有用かどうかについて前向き試験で検討されており、結果が待たれている。2)術前に臨床的にリンパ節転移が認められない症例でのリンパ節郭清の省略 現在、センチネルリンパ節生検は、術後薬物療法の実施を決定するための「診断」として利用されることが多いことから、術後薬物療法はホルモン療法のみの予定のER陽性の高齢の乳がん症例において、センチネルリンパ節生検省略の安全性と有効性を検討する試験が組まれている(NCT02564848)。 また、超音波画像で転移がないことが明らかであればセンチネルリンパ節生検は不要ではないかとのことから、超音波検査で転移陰性を診断したうえで省略するという前向きのSOUND試験(NCT02167490)も実施されている。 同様に、術前薬物療法が実施され、画像上完全奏効が得られている症例で、術後薬物療法を実施することが決定しているトリプルネガティブまたはHER2陽性症例において、センチネルリンパ節生検の省略を検討する前向き試験(NCT04101851)が実施されている。3)低悪性度のDCIS症例における手術の省略 マンモグラフィの進歩によって、石灰化を伴うごく小さな非浸潤性乳管がん(DCIS)が発見されるようになった。他方、低悪性度のDCISでは手術の有無にかかわらず予後は変わらないことが報告されている。また、すべてのDCISが浸潤がんに進行するわけではないが、進行リスクの高い患者を予測する方法がないため、すべてのDCIS症例に手術や放射線治療がなされてきた。 このような背景から、現在、世界では4つの前向き試験が実施されており、日本でもLORETTA試験(JCOG1505)が症例登録中で、いずれも低~中悪性度でER陽性のDCISを対象に、経過観察のみもしくは経過観察+ホルモン療法の安全性を検討している。枝園氏は、これらの試験の結果によっては、低悪性度の場合は手術しないというのもオプションの1つになると思われると期待を述べた。4)術前薬物療法で臨床的完全奏効が得られた症例における手術の省略 術前薬物療法は早期乳がんの標準治療の1つになっており、完全奏効が得られる症例が多くなっている。とくにHER2陽性乳がんでは半数以上がHER2阻害薬と化学療法で病理学的完全奏効(pCR)が得られると報告されている。しかし、現状では手術なしでpCRを確認する方法がないため、全例に手術を行うのが標準になっている。 それに対して、海外では診断精度を高めるために、針生検を実施してがんの残存を確認する前向き試験が実施されているが、実際には完璧にpCRを予測するのが難しいとされている。 そこで、わが国では、HER2陽性乳がんで術前薬物療法(化学療法+HER2阻害薬)により画像上で腫瘍が消失した患者に対して、手術なしでも予後は変わらないことを前向きに確認するAMATERAS試験(JCOG1806)を現在実施している。 最後に枝園氏は、「手術の縮小は症状が出ることを避け、整容性を向上させることを目的としているが、逆に局所再発の増加を引き起こす。データ上、局所再発は生存に影響ないが長期的には影響が出てくるため、手術縮小と引き換えに全身療法や放射線療法が必要となる」と述べ、「これら3つの組み合わせによって手術縮小と治療を両立させることが重要である」と講演を締めくくった。

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第47回 COVID-19伝播の阻止や変異株への抗体反応をワクチンが助け、抗原検査が検診を一変しうる

新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)ワクチンを接種すればたとえ感染しても抑えが効いてウイルスは他人を感染させるほどには増え難いらしく、他人を感染させうる人のみを見分ける抗原検査はその感染(COVID-19)の検診の有り様を一変させるかもしれません。また、2社のmRNAワクチンは変異株に対抗する中和抗体をどうやら底上げするようです。PfizerのCOVID-19ワクチンはウイルス量を抑えて感染伝播を減らしうるイスラエルでPfizer/BioNTechのCOVID-19ワクチンBNT162b2接種済みの人と非接種の人の感染の程度を比較したところ1回目接種後12~28日のウイルス量はワクチン非接種の人の4分の1ほどに抑えられており、同ワクチンはすでに裏付けられている発症予防に加えて他人を感染させ難くする効果もあると示唆されました1,2)。ウイルス量が多い人ほど他人を感染させやすいことはLancet Infectious Diseases誌に最近掲載された別の試験で示されています。SARS-CoV-2に感染した282人とそれらと密接に接触した753人を調べたその試験の結果、他人を感染させたのは3人に1人(90人;32%)のみで、ウイルス量が多い人ほど他人を感染させていました3,4)。また、咳がある人とない人の他人への感染伝播に差はありませんでした。ということはウイルス量が多い感染者に接触した人の追跡がとくに重要なようであり4)、次に紹介する試験ではウイルス量が多くて他人を感染させやすい人の同定に抗原検査が重宝しうることが示唆されています。BD社の抗原検査はCOVID-19を移しうる有症者の検出でPCR検査に勝るようだCOVID-19を他人に感染させうる患者の検出を比較した試験でベクトン・ディッキンソン(BD)社のわずか15分ほどで済む抗原検査(製品名Veritor)がウイルスのRNAを検出するPCR検査を凌ぐと示唆され5,6)、抗原検査はCOVID-19検診の有り様をやがて一変させるかもしれません7)。試験にはCOVID-19発症患者251人が参加し、気道検体の抗原検査とPCR検査が培養検査の結果とどれだけ一致するかが調べられました。培養検査は増殖しうるウイルスが採取検体に存在するかどうかを調べます5)。培養細胞でウイルスが増えれば検体に生きているウイルスが存在することを意味し、感染可能なウイルスがいたことを示唆します。一方、培養細胞でウイルス増殖がなかった検体の患者には他人に移って感染しうるほどの生存ウイルスは恐らく存在しません。試験の被験者251人のうち培養検査で陽性だったのは28人でした。PCR検査では培養検査陽性28人とその他10人を含む38人が陽性でした。PCR検査では陽性で培養検査では陽性でなかったその差し引き10人は検体採取時点で他人を感染させる心配は恐らくなかったようです。PCR検査はそれら10人の検体のウイルスRNA断片か無欠だが少量のSARS-CoV-2を検出したのしょう。PCR検査とは対照的にBD社の抗原検査の陽性判定は培養検査とより一致していました。抗原検査で陽性の27人は培養検査でも陽性で、抗原検査と培養検査の陽性判定が食い違っていたのは1人のみでした。目下のCOVID-19流行下での検査の主な目標の1つは他人を感染させうる人を同定して暫く出歩かないようにしてもらうことです5)。安価でより多くに届けうる抗原検査は日々の暮らしでのCOVID-19伝播を封じることに大いに貢献すると今回の試験主導医師の1人Charles Cooper氏は言っています5)。今回の試験と同様にPCR検査が他人を感染させそうにない人を無闇に検出してしまうことは先立つ幾つかの試験でも示唆されています8-11)。それらの試験によると発症後8日の検体のほとんどは、PCR検査ではウイルスRNAが検出されたのとは対照的に感染可能ウイルスを有していませんでした。PCR検査のように感染可能なウイルスが存在しない人を無闇に陽性判定しない抗原検査を使うことで感染者の隔離期間をより短縮できるかどうかの検討が必要と今回の試験の著者は言っています6)。また、今回の試験は有症者が対象でしたが、無症状の人の抗原検査の性能を調べる試験をBD社はすでに進めています7)。Pfizer/BioNTech やModernaのワクチンで新型コロナウイルス変異株阻止抗体を底上げしうる南アフリカで見つかって広まる心配なSARS-CoV-2変異株B.1.351(南ア変異株)に対抗する中和抗体反応をPfizer/BioNTech やModernaのワクチン1回の接種で強力に底上げしうることが感染を経た人へのそれらワクチン接種前後の血液検体比較で示されました12,13)。米国・ワシントン州シアトルのがん研究センターFred Hutchinson Cancer Research CenterのAndrew McGuire氏のチームはCOVID-19を経た10人から血液を採取し、続いてPfizer/BioNTech かModernaのワクチンの1回目接種後に再び血液を採取しました。Pfizer/BioNTech とModernaのワクチンはどちらも中国の武漢市で見つかったSARS-CoV-2元祖株(Wuhan-Hu-1)スパイクタンパク質を作るmRNAでできています。採取した血液を使ってその元祖株と南ア変異株の細胞感染を阻止する中和抗体活性を調べたところ、ワクチン接種前の時点で元祖株への中和抗体活性は弱いながらもほとんど(10人中9人)が有しており、南ア変異株への中和抗体活性を有していたのは半数の5人のみでした。ワクチン接種後には元祖株と南ア変異株への中和抗体がどちらもおよそ1,000倍上昇していました。すでに感染を経ている人へのPfizer/BioNTech やModernaのmRNAワクチン接種はたとえ1回でも有意義であり、スパイクタンパク質に対してすでに備わる抗体反応を底上げすればワクチンが目当てとするウイルスのみならず新たに出現する変異株への中和抗体も有意に増強できそうです13)。参考1)Pfizer’s COVID-19 Vaccine Reduces Viral Load: Study / TheScientist2)Decreased SARS-CoV-2 viral load following vaccination. medRxiv. February 08, 20213)What makes a person with COVID more contagious? Hint: not a cough / Nature4)Marks M,et al. Lancet Infect Dis. 2021 Feb 2:S1473-3099,30985-3. [Epub ahead of print]5)New Clinical Data Shows BD Antigen Test May Be More Selective In Detecting Infectious COVID-19 Patients Than Molecular Tests / PRNewswire6)Pekosz A, et al. Clin Infect Dis. 2021 Jan 20:ciaa1706. [Epub ahead of print]7)Antigen tests could change Covid-19 screening culture / Evaluate8)Wolfel R, et al. Nature. 2020 May;581:465-469.9)La Scola B, et al. Eur J Clin Microbiol Infect Dis. 2020 Jun;39:1059-1061.10)Bullard J, et al. Clin Infect Dis. 2020 May 22:ciaa638. [Epub ahead of print]11)Repeat COVID-19 Molecular Testing: Correlation with Recovery of Infectious Virus, Molecular Assay Cycle Thresholds, and Analytical Sensitivity. medRxiv. August 06, 2020. 12)Vaccines spur antibody surge against a COVID variant / Nature13)Antibodies elicited by SARS-CoV-2 infection and boosted by vaccination neutralize an emerging variant and SARS-CoV-1. medRxiv. February 08, 2021

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低・中所得国は、がん手術後の転帰が不良/Lancet

 がん患者の80%が手術を必要とするが、術後の早期の転帰に関する低~中所得国(LMIC)の比較データはほとんどないという。英国・エディンバラ大学のEwen M. Harrison氏らGlobalSurg Collaborative and NIHR Global Health Research Unit on Global Surgeryの研究グループは、とくに疾患の病期や合併症が術後の死亡に及ぼす影響に着目して、世界の病院のデータを用いて乳がん、大腸がん、胃がんの術後転帰を比較した。その結果、(1)LMICでは術後の死亡率が高いが、これは病期が進行した患者が多いことだけでは十分に説明できない、(2)術後合併症からの患者救済能力(capacity to rescue)は、有意義な介入のための明確な機会をもたらす、(3)術後の早期死亡は、一般的な合併症の検出と介入を目指した、周術期の治療体制の強化に重点を置いた施策によって抑制される可能性があることなどが示された。Lancet誌2021年1月21日号掲載の報告。82ヵ国428病院の前向きコホート研究 研究グループは、全身麻酔または脊髄幹麻酔(neuraxial anaesthesia)下に施行される皮膚の切開を要する手術を受けた原発性の乳がん、大腸がん、胃がんの成人患者を対象に、国際的な多施設共同前向きコホート研究を実施した(英国国立健康研究所[NIHR]グローバル健康研究ユニットの助成による)。 主要転帰は、術後30日以内の死亡または重度合併症とした。マルチレベルロジスティック回帰により、病院および国別の患者における3段階のネストモデル内の関連性を解析した。病院レベルのインフラストラクチャー効果は、3要因媒介分析で評価した。 2018年4月~2019年1月の期間に、82ヵ国の428病院から1万5,958例(乳がん8,406例[52.7%]、大腸がん6,215例[38.9%]、胃がん1,337例[8.4%])が登録された。高所得国(31ヵ国)が9,106例、高中所得国(23ヵ国)が2,721例、低・低中所得国(28ヵ国)が4,131例であった。低・低中所得国で、胃がん、大腸がん、合併症による死亡率が高い LMICは高所得国に比べ、より進行した病変を持つ患者が多かった。30日死亡率は、胃がんが低・低中所得国(補正後オッズ比[aOR]:3.72、95%信頼区間[CI]:1.70~8.16)で高く、大腸がんは高中所得国(2.06、1.11~3.83)および低・低中所得国(4.59、2.39~8.80)で高かった。乳がんでは死亡率の差は認められなかった。 重度合併症の発現後に死亡した患者の割合は、低・低中所得国(aOR:6.15、95%CI:3.26~11.59)および高中所得国(3.89、2.08~7.29)で高かった。 合併症発現後の術後死亡は、60%が患者要因で、40%は病院または国の要因で説明が可能であった。LMICでは、一貫して利用可能な術後ケア施設がないことが、重度合併症100件当たり7~10件以上という高い死亡率と関連していた。また、がんの病期だけでは、国別の死亡率や術後合併症発現の早期のばらつきは、ほとんど説明がつかなかった。 著者は、「LMICでは、周術期死亡率が過度に高く、これががん生存の劣悪さに寄与している。術後の一般的な合併症の発現後に、回避可能な死亡を防ぐには、LMICの医師の主導により、実践的な周術期介入を緊急に評価する必要がある」としている。

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