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ニボルマブ、尿路上皮がん術後補助療法と切除不能な進行、再発または転移性食道扁平上皮がん1次治療に対して欧州委員会より承認取得/BMS

 2022年4月5日、ブリストル マイヤーズ スクイブは、PD-L1発現レベル1%以上の根治切除後の再発リスクが高い筋層浸潤性尿路上皮がんの術後補助療法、切除不能な進行、再発または転移性食道扁平上皮がん(ESCC)の1次治療薬として、ニボルマブ(商品名:オプジーボ)が欧州委員会より承認を受けたことを発表した。ESCCに関してはニボルマブとイピリムマブの併用療法、ニボルマブとフルオロピリミジン系およびプラチナ系薬剤を含む化学療法の併用療法の2つで承認を取得した。今回発表されたのは、CheckMate-274試験(尿路上皮がん)、CheckMate-648試験(ESCC)の結果に基づいたものである。 CheckMate-274試験において、DFSの中央値はニボルマブで未達、プラセボでは8.41ヵ月で、ニボルマブがプラセボと比較して、再発または死亡のリスクを47%低減させた(ハザード比[HR]:0.53、95%信頼区間[CI]:0.38~0.75、p=0.0005)。ニボルマブの忍容性は全体的に良好で、安全性プロファイルはこれまでに報告されたニボルマブの固形がん患者における試験のものと一貫していた。 CheckMate-648試験において、ニボルマブとイピリムマブの併用療法では、OSの中央値はニボルマブとイピリムマブの併用療法群で13.70ヵ月(95%CI:11.24~17.02)、化学療法群で9.07ヵ月(95%CI:7.69~9.95)であった(HR:0.64、95%CI:0.46~0.90、p=0.0010)。PFSの中央値は、ニボルマブとイピリムマブの併用療法群で4.04ヵ月(95%CI:2.40~4.93)、化学療法群で4.44ヵ月(95%CI:2.89~5.82)であった(HR:1.02、95%CI:0.73~1.43、p=0.8958)。  ニボルマブと化学療法の併用療法では、OSの中央値はニボルマブと化学療法の併用療法群で15.44ヵ月(95%CI:11.93~19.52)、化学療法群で9.07ヵ月(95%CI:7.69~9.95)であった(HR:0.54、95%CI:0.37~0.80、p<0.0001)。PFSの中央値は、ニボルマブと化学療法の併用療法群で6.93ヵ月(95%CI:5.68~8.34)、化学療法群で4.44ヵ月(95%CI:2.89~5.82)であった(HR:0.65、95%CI:0.46~0.92、p=0.0023)。

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無症状の濃厚接触者、「抗原検査が陰性なら出勤」は正しい?

 家庭内感染により自身が濃厚接触者になっても、医療者は抗原検査で陰性が確認されているなどの一定の要件を満たせば出勤することができる1)。ところが抗原検査キットには、有症状の患者データを基に承認されている物2)3)もある。また、海外では無症状者のみを対象にスクリーニングすると感度や特異性が低いとの評判も抗原検査キットにはある。そこで、米国・Weill Cornell MedicineのBradley A. Connor氏らはニューヨークのある企業の従業員をスクリーニングし、無症状者のPCR検査と抗原検査の結果の有効性と推定精度を比較・分析した。その結果、従業員スクリーニングのプログラム参加者に抗原検査を繰り返した場合、新型コロナウイルスのPCR検査で真陽性と判定される推定精度が38%から92%に増加したことが示唆された。JAMA Network Open誌3月18日号のリサーチレターでの報告。無症状者の抗原検査キット、1回目陽性で2回目陰性だった人の95%はPCR陰性 この後ろ向き研究では2020年11月27日~2021年10月21日の期間、訓練を受けた担当者が参加者の中鼻甲介検体をスワブで採取し、抗原検査キットとしてQuidel社のSofia2 SARS Antigen Fluorescent Immunoassay(陽性一致率[PPA]:96.7%、陰性一致率[NPA]:100%)とAbbott 社のLumiraDx(PPA:97.6%、NPA:96.6%)、およびAbbott 社のBinaxNOW(PPA:84.6%、NPA:98.5%)を使用して検査を行った。ただし、新型コロナウイルス感染症の主要な症状をいずれかでも有する者はスクリーニングから除外された。 また、抗原検査結果が陽性だった場合には、最初の検査結果から1時間以内に2回目の抗原検査用に鼻咽頭スワブ検体を提供した。さらに鼻咽頭スワブ検体は、確認用RT-qPCR検査のために、CLIA(Clinical Laboratory Improvement Amendments)認定された検査機関にも送られた。推定精度として、PCR検査も陽性だった2回目の抗原検査陽性の割合を算出した。 無症状者の抗原検査の有効性と推定精度を比較・分析した主な結果は以下のとおり。・抗原検査を受け、分析に含まれたのは17万9,127例で、年齢中央値は36歳(範囲:18~65歳)、男性が58%、女性が36%、6%が性別不明だった。・2020年11月~2021年10月に実施された抗原検査の陽性率は0.35%(623例)で、彼らをPCR検査したところ、38%(238例)が真陽性、62%(385例)が偽陽性だった。・抗原検査の陽性者623例のうち569例(91%)では2回目の抗原検査が行われた。一致した結果が得られた224セット(異なる2つの抗原検査で連続して陽性結果を得た)のうち、PCR検査で陽性だったのは207セット(92%)だった。・最初の抗原検査が陽性で、2回目の抗原検査が陰性だった345例のうち328例(95%)はPCR検査で陰性だった。・2回目の抗原検査の全体的な推定精度は94%だった。

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リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 学術誌、論文、著者の影響力の指標 その1【「実践的」臨床研究入門】第18回

前回は、個別の論文(1次情報)を調べるときによく用いられる代表的な検索データベースの違いについて解説しました。今回からは、学術誌、個別の論文、論文著者の影響力や評価の指標の違いについて解説します。学術誌の影響力の指標皆さんご存知のインパクトファクター(Impact factor:IF)は、個別の論文ではなく、その論文が掲載された学術誌の影響力の指標です。IFの定義をあらためて紹介すると、「対象年の前2年間に、当該学術誌に掲載された論文の対象年の平均引用回数」となります。少しわかりにくいと思いますので、下記に当該学術誌の対象年(2020年)のIFの計算式を示します。A=当該学術誌が2018、2019年に掲載した論文数B=当該学術誌の2018年、2019年の掲載論文が2020年に引用された回数当該学術誌のIF(2020年)=B÷A前回、代表的な論文検索データベースのひとつとして紹介したWeb of Scienceは IFが付与されている学術誌をすべて収載しています。言い換えると、IFはWeb of Science収載論文から算出されているということです。個々の学術誌のIFはWeb of Scienceと同様にクラリベイト・アナリティクスが提供するJournal Citation Reports(JCR)で調べられます(有料契約公開)。一方、Elsevierが提供する検索データベースであるScopusでは、IFと類似したCiteScoreという指標で学術誌の影響力を表しています。CiteScoreとIFの違いは、上記計算式の掲載論文数カウント期間が2年間ではなく3年間であることです。また、CiteScoreはScopus収載論文から算出されます。その結果、学術誌によっては両者の点数に乖離が生じることがありますが、現在のところはIFの方がCiteScoreより広く認知されているでしょう。インパクトファクターをPubMedで表示する方法JCRは大学などの研究教育施設では機関契約しているところも多いと思います。しかし、無料で各々の学術誌のIFを調べるためには、その雑誌のホームページで確認するなど少し手間がかかります。実は、個別の論文が掲載された学術誌のIFはPubMedでも表示することができます。そのためには、WebブラウザのGoogle Chromeの拡張機能である“Pubmed Impact Factor”のインストールが必要です。“Pubmed Impact Factor”は無料ですので、ぜひインストールしてみてください。“Pubmed Impact Factor”のインストールに成功したら、PubMedのトップページを開いてみましょう。試しに、われわれのリサーチ・クエスチョン(RQ)の「Key論文」のひとつであるコクラン・フル・レビュー論文1)の最新版(連載第13回参照)を検索してみます。検索窓に「Key論文」のタイトルもしくはDOI(連載第15回参照)をコピー&ペーストして、“Search”をクリックします。すると、下記またはリンクのように学術誌名の横のカッコ内にIFの数値と“JCR Quartile”が追加で表示されるようになります。Cochrane Database Syst Rev (IF: 9.27; Q1)“JCR Quartile” Q1とは、その学術誌が含まれる研究分野(Cochrane Database Syst RevはJCRでMEDICINE, GENERAL & INTERNALというカテゴリに分類されています)で、Quartile(四分位範囲)のトップ25%以内に位置しているということを示しています。繰り返しますが、今回解説したIFやCiteScoreは学術誌の影響力の指標であって、その学術誌に掲載された個別の論文や著者の影響力や評価の指標ではありません。IFが高い学術誌は、投稿論文数が多く査読も厳しいので採択率も低く、掲載された論文の質は概ね高いとは言えるでしょう。だからと言って、高IF学術誌に掲載された論文の研究結果を鵜呑みにはせず、自身でよく読み込んでキチンと吟味することが重要です。また、IFやCiteScoreの絶対値を異なる研究分野間で比較することは難しいとされています。なぜなら、研究分野ごとに学術誌の数、年間の出版論文数や研究者の数などが違うからです。一方、“JCR Quartile”は、その研究分野での当該学術誌の相対的な位置付けの指標なので、影響度の異なる研究分野間での比較にも使えます。今回紹介したIF、CiteScoreやJCR Quartileという学術誌の影響力の指標は、いずれも被引用回数に基づいたものです。関連研究レビューの際に、論文の信頼性、妥当性の評価のひとつの指標として参考にしてみてください。1)Hahn D et al. Cochrane Database Syst Rev 2020:CD001892.doi: 10.1002/14651858.CD001892.pub4.

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HER2+乳がんへの術後化学療法+トラスツズマブへのペルツズマブ追加、N-でベネフィットのある患者は?(APHINITY)

 APHINITY試験はHER2陽性乳がんの術後化学療法+トラスツズマブへのペルツズマブの上乗せを検証した第III相試験で、HER2陽性乳がん患者全体とリンパ節転移のある患者で無浸潤疾患生存(iDFS)が大幅に改善することが報告されている。今回、米国・ダナファーバーがん研究所のRichard D. Gelber氏らは、リンパ節転移陰性(N-)でペルツズマブ追加によるベネフィットが得られるサブグループ、リンパ節転移陽性(N+)でde-escalationを考慮すべきサブグループについて検討した。European Journal of Cancer誌オンライン版2022年3月18日号に掲載。 著者らは、STEPP(subpopulation treatment effect pattern plot:サブグループ別治療効果パターンプロット)を用いて、臨床的複合リスクスコア、腫瘍浸潤リンパ球(TIL)の割合、HER2コピー数(FISH)によるサブグループについて、全体およびリンパ節転移の有無別に、6年iDFS率のカプラン-マイヤー差(ペルツズマブ群-プラセボ群:Δ±SE)を推定した。 その結果、6年iDFS率の絶対増加の平均は、患者全体で2.8±0.9、N+患者で4.5±1.2、N-患者で0.1±1.1だった。増加が最大だったのは、臨床的複合リスクが中等度(全体:5.3±1.9、N+:6.9±2.3、N-:4.0±3.0)、TILの割合が最大(全体:6.3±1.7、N+:7.4±2.4、N-:3.2±1.7)、HER2コピー数が中等度(全体:2.8±1.9、N+:7.4±2.5、N-:-1.3±1.9)の患者だったが、サブグループ別治療効果の異なったパターンを示す明らかなエビデンスはなかった。 今回の検討では、N-におけるSTEPPでペルツズマブ追加によって明らかにベネフィットがあるサブグループを特定できず、N+におけるSTEPPでde-escalationが妥当なサブグループを特定できなかった。臨床的複合リスクスコアよりTILの割合のほうが、ペルツズマブの治療効果を予測できるようであった。

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広範囲梗塞の患者にも経皮的脳血栓回収術の有効性が示された(解説:高梨成彦氏)

 ASPECTS 5点以下の大きな虚血コアを有する症例に対する、経皮的脳血栓回収術の有効性を示唆する後方視的研究はこれまでいくつか報告されている。本研究はランダム化比較試験で、主要評価項目である90日後のmRSが0~3であった患者の割合は内科治療群が13%であったのに対して、血管内治療群が31%と有意な予後改善効果が示された。虚血コアが大きいことで再開通後の出血が危惧されるところであるが、すべての頭蓋内出血こそ血管内治療群で58%と多かったものの症候性出血は内科治療群が5%で血管内治療群が9%と有意差はなかった。 発症6時間以内の患者に対する経皮的脳血栓回収術の有効性を示した4つの試験、MR CLEAN、ESCAPE、SWIFT PRIME、REVASCATはいずれも虚血コア領域を頭部CT検査を基にしたASPECTSで評価している。各試験における血管内治療群のASPECTSは下表のとおりであった。この結果を基にこれまでは、経皮的脳血栓回収術をASPECTS 6点以上の患者に適用することが推奨されていた。 本研究は経皮的脳血栓回収術の積極的な適応拡大に道を開くものであり、治療の恩恵を受ける患者が増えることが期待される。ただし本邦に特徴的なこととして頭部MRI検査で急性期脳梗塞を診断する施設が多く、これは小梗塞でも明瞭に描出されるため領域ごとの減点法であるASPECTSでは梗塞体積が小さくともASPECTSは低くなってしまう傾向にある。MR-ASPECTSはCTよりも1点程度低くなるともいわれている。本研究も大半の症例が頭部MRI検査で評価されているので、他の人種/地域における試験との比較には注意が必要である。

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短期曝露の大気汚染、乾癬フレアのトリガーに?

 大気汚染への短期曝露が乾癬フレアのトリガー要因である可能性が示唆された。イタリア・ベローナ大学のFrancesco Bellinato氏らが症例クロスオーバーと断面調査法による観察試験の結果を報告した。 再燃と寛解を繰り返す慢性炎症性疾患の乾癬は、感染症やストレスフルなライフイベント、薬剤など特定の環境要因によって再燃が引き起こされる可能性が示唆されているが、大気汚染がトリガー要因なのかについては不明なままである。JAMA Dermatology誌オンライン版2022年2月16日号掲載の報告。 研究グループは、大気汚染への短期曝露が乾癬フレアに関連するかどうかを調べるため、症例クロスオーバーと断面調査法の両者を取り入れた観察試験を行った。2013年9月~2020年1月に縦断的に集めたデータを後ろ向きに解析。対象は、ベローナ大学病院の外来皮膚科クリニックを受診した慢性尋常性乾癬患者であった。 症例クロスオーバー解析には、「3~4ヵ月の期間中における2つの連続した評価時点の間にPASIが5以上上昇した場合」と定義された乾癬フレアを、1回以上有した患者を含んだ。断面的解析には、6ヵ月以上あらゆる全身性治療を受け、2回連続して行ったPASIの評価結果がグレード2以上であった患者を包含した。 主要評価として、乾癬フレア群と対照受診群の、それぞれ先行する60日間における大気汚染物質(一酸化炭素、二酸化窒素、その他の窒素酸化物、ベンゼン、粗大粒子状物質[PM10、直径2.5~10μm]、微小粒子状物質[PM2.5、直径<2.5μm])の平均および累積(曲線下面積[AUC])濃度を比較した。 主な結果は以下のとおり。・解析には、計957例の患者(フォローアップ受診4,398回)が包含された。平均年齢は61歳(SD 15)、男性602例(62.9%)であった。・イタリア環境保護研究所(ISPRA)の公式オープンソースの速報から取得した1万5,000超の大気汚染物質の濃度測定値を用いて解析を行った。・全体コホートのうち乾癬フレアを有する患者369例(38.6%)が、症例クロスオーバー解析に包含された。・すべての汚染物質の濃度は、乾癬フレア前60日間(フレア時のPASI中央値:12[IQR:9~18])のほうが、対照となる受診前60日間(PASI中央値:1[1~3])よりも有意に高かった(p<0.001)。・断面解析では、評価前60日間のPM10曝露平均20μ/m3超(補正後オッズ比[aOR]:1.55、95%信頼区間[CI]:1.21~1.99)およびPM2.5曝露平均15μ/m3超(1.25、1.0~1.57)が、PASI 5以上の悪化のリスクと関連していた。・さまざまな曝露の遅れや治療タイプを補正して評価のトリメスターを層別化した感度解析でも、同様の結果が得られた。

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英語で「違法薬物」は?【1分★医療英語】第19回

第19回 英語で「違法薬物」は?Do you use any recreational drugs?(娯楽目的の薬物を使っていますか?)I’ve never use them.(一度も使ったことがありません)《例文1》Do you take any medications or drugs for recreational purposes?(医薬品や薬物を娯楽目的で使用していますか?)《例文2》This patient has a history of recreational drug-induced seizure.(この患者は薬物使用によるてんかんの病歴があります)《解説》米国での臨床においては、すべての患者さんに、違法かどうかにかかわらず娯楽目的で医薬品や薬物を使用しているかを確認しています。その際、薬物の種類が限定的にならないよう、“For example, medications that have not been prescribed to you, or any street drugs.”(たとえば、処方されていない薬やストリート・ドラッグなどのことです)と付け加えます。私が住むカリフォルニア州では、娯楽用途のマリフアナ使用は認められているため、マリフアナについては処方薬や違法薬物とは別に「タバコを吸いますか?」という質問の流れで「マリフアナを吸ったり食べたりしますか?」と聞くようになりました。一方で、オピオイド中毒も深刻な問題となっており、「痛み止め等の薬を服用していますか?」という点も念入りに確認します。おまけの知識として、薬は“medication”や“drug”ですが、今回の会話例のように“drug”は使い方次第では、「違法・娯楽薬物」を連想させることがあります。日本語の場合も「薬」と「ドラッグ」では、ニュアンスが少し違いますよね。「~の薬を飲んでいる」という表現は、前置詞の“on”を使って、“I’m on antihypertensive medication.”(高血圧の薬を飲んでいます)となりますが、“What drug are you on?”(何の薬を飲んでいるのですか?)という表現にすると、“on”と“drug”の組み合わせによって、「何の(違法・娯楽)薬物を使っているの?」というニュアンスにも聞こえるので、私は仕事においては“drug”より“medication”を多く使います。ただ、医療現場では“drug”もよく使われており、多くの場合、問題は生じていません。講師紹介

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ニボルマブ+化学療法の食道扁平上皮がん1次治療、CHMPで推奨/BMS

 ブリストル・マイヤーズ スクイブは、2022年2月25日、欧州医薬品庁(EMA)の医薬品委員会(CHMP)が、PD-L1発現1%以上の切除不能な進行、再発または転移のある食道扁平上皮がん(ESCC)成人患者の1次治療薬として、ニボルマブとフルオロピリミジン系およびプラチナ系薬剤を含む化学療法の併用療法の承認を推奨したことを発表した。 今回のCHMPの肯定的な見解は、第III相CheckMate-648試験の中間解析の結果に基づいている。同試験で、ニボルマブと化学療法の併用療法は化学療法と比較して、PD-L1発現1%以上の切除不能な進行、再発または転移のあるESCC患者において、統計学的に有意かつ臨床的に意義のある全生存期間(OS)のベネフィットを示した(OS中央値:15.4ヵ月 vs.9.1ヵ月、ハザード比:0.54、99.5%信頼区間:0.37~0.80、p<0.001)。

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若者がADHD治療薬の使用を中止する理由

 注意欠如多動症(ADHD)は、成人期まで継続する可能性のある神経発達障害である。ADHD治療薬は、継続的に使用することが重要であるにもかかわらず、若者の多くは成人期にやめてしまうことが少なくない。そのため、成人期よりADHD治療薬を再開することもあり、中止が時期尚早であった可能性が示唆されている。英国・エクセター大学のDaniel Titheradge氏らは、若者がADHD治療薬を中止してしまう理由について、調査を行った。Child: Care, Health and Development誌オンライン版2022年1月31日号の報告。 CATCh-uS(Children and Adolescents with ADHD in Transition between Children's services and adult Services)プロジェクトの定性データを用いて、ADHD治療薬の使用中止理由を調査した。若者を次の3群に分類した。(1)成人向け治療介入移行前の若者21例(2)成人向け治療介入への移行が成功した若者22例(3)小児向け治療介入離脱後、成人向け治療介入を再度受けた若者21例。対象患者には、半構造化面接を実施し、主題分析およびフレームワーク分析を行った。 主な結果は以下のとおり。・ADHD治療薬の使用を中止した理由は、以下のとおりであった。 ●薬物治療のベネフィットと副作用のバランス ●小児期のADHDの認識および教育障害 ●若者の生活環境と治療介入へのアクセスの課題 著者らは「ADHDの若者における長期的な予後やQOL改善のためには、ADHD治療薬の中止に対処するための多元的アプローチ、非薬理学的治療へのアクセスや心理教育の改善などが必要とされる。これら、若者のADHD治療薬の中止理由は、ADHD特有のものではないため、小児でみられる他の慢性疾患においても、服薬アドヒアランスと関連していると考えられる」としている。

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ニボルマブ+イピリムマブの食道扁平上皮がん1次治療、CHMPで推奨/BMS

 ブリストル・マイヤーズ スクイブは、2022年2月25日、欧州医薬品庁(EMA)の医薬品委員会(CHMP)が、PD-L1発現1%以上の切除不能な進行・再発または転移のある食道扁平上皮がん(ESCC)の成人患者の1次治療薬として、ニボルマブとイピリムマブの併用療法の承認を推奨したことを発表した。 この肯定的な見解は、第III相CheckMate-648試験の中間解析に基づくもの。同試験で、ニボルマブとイピリムマブの併用療法は、フルオロピリミジン系およびプラチナ系薬剤を含む化学療法と比較して、PD-L1発現1%以上の切除不能な進行、再発または転移性ESCC患者において統計学的に有意かつ臨床的に意義のある全生存期間(OS)のベネフィットを示した(OSの中央値:13.7ヵ月 vs .9.1ヵ月、ハザード比:0.64、98.6%信頼区間:0.46~0.90、p=0.001)。 ニボルマブとイピリムマブの併用療法の安全性プロファイルは、これまでに報告された試験のものと一貫していた。

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英語で「ズキズキする痛み」は?【1分★医療英語】第16回

第16回 英語で「ズキズキする痛み」は?Could you describe your pain?(どのような痛みか教えてもらえますか?)I have a cramping pain in my lower belly.(下腹部にズキズキするような痛みがあります)《例文1》My left leg is cramping right now.(今ちょうど、左足がつっています)《例文2》Do you have menstrual cramps?(月経痛はありますか?)《解説》筋肉が激しく収縮することによって生じるズキズキとした痛みを“cramp”といいます。“menstrual cramp”は月経痛、“muscle cramp”は筋痙攣(筋肉がつること)を意味します。“cramp”は名詞としても動詞としても使える単語で、“cramping pain”は筋肉がつるような痛み、ズキズキするような痛みを意味します。また、“throbbing pain”という表現もあり、これも同様に「ズキズキする痛み」を意味します。その他の痛みを描写する表現としては“sharp”(鋭い)、“dull”(鈍い)、“shooting”(電撃が走るような)、“pounding”(拍動するような)、“burning”(焼けるような)、“pressure-like”(圧迫されるような)といった表現があり、覚えておくと問診に役立ちます。なお、腹部は医学用語では“abdomen”ですが、一般用語としては“belly”や“stomach”を使います。「おなかに痛みはありますか?」は、“Do you have any pain in your belly?”と言うと患者に理解されやすいでしょう。講師紹介

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英語で「鼻詰まり」は?【1分★医療英語】第12回

第12回 英語で「鼻詰まり」は?Hi, how can I help you today?(こんにちは、どうされましたか?)I have a stuffy nose and my eyes are really itchy.(鼻が詰まっていて目がとても痒いです)《例文1》患者Can you prescribe something to unblock my stuffy nose?(鼻詰まりを解消できる薬を処方してくれませんか?)医師Okay, so you are saying you have a runny nose, stuffy nose, and frequent sneezing, correct?(なるほど、鼻水、鼻詰まり、頻繁にくしゃみが出る、ということで合っていますか?)《解説》医療者であれば、「鼻詰まり」を訴える患者を一度は診察したことがあるでしょう。とくに春や秋の季節の変わり目、または小児科外来においては年中かもしれませんね。しかし日常で頻繁に使われる割には、日本であまり習わない英語表現ではないでしょうか。“stuffy”は空気の通りが悪い、詰まった、といった意味の形容詞になり、“I have a stuffy nose.”というフレーズで「鼻詰まりがある」という意味でよく使われます。“stuffy nose”はカジュアルな表現で、患者や一般の方が日常的に使用します。医療者同士で鼻詰まりの症状を伝える際は、もう少し専門的な“nasal congestion”という表現を用います。“He complains of nasal congestion.”は、訳すと「彼は鼻閉を訴えています」といった感じでしょうか。ちなみに、“unblock a nose”“unstuff a nose”“clear a nose”といったさまざまな動詞によって「鼻詰まりを解消する」という表現になります。「鼻詰まり」の1つをとっても、さまざまな表現や単語があることがわかります。講師紹介

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第92回 英国でもオミクロン株入院リスクが低いと判明

新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)オミクロン(Omicron)株感染者の入院リスクはデルタ株感染者に比べて20~25%低いとの英国データ解析結果(Report 50)を同国の大学Imperial College Londonが先週22日水曜日に発表しました1,2)。その入院の定義はPCR検査でのSARS-CoV-2感染(COVID-19)が判明してから14日以内の事故/救急科(Accident and Emergency department;A&E)受診を含む来院記録があることです1)。オミクロン株感染者の1泊以上の入院リスクはより小さく、デルタ株感染者を40~45%下回りました。今月中旬16日の報告(Report 49)の段階ではオミクロン株感染者の入院全般(hospitalisation attendance)や症状のデルタ株との差は認められていませんでした3)。オミクロン株感染者の入院リスクがデルタ株感染者に比べてより低いことは英国政府の保健安全保障庁(UKHSA)の解析でも示されています4)。UKHSAの報告によると今月20日までのイングランドのオミクロン株感染者数は5万6,066人で、そのうち132人が病院で治療(admitted or transferred from emergency department)を受けました。14人がオミクロン株感染判明から28日以内に死亡しました。UKHSAの報告でのオミクロン株感染者の入院リスクはImperial College Londonの解析結果よりどうやらさらに小さく、デルタ株感染者より62%(95%信頼区間では50~70%)低いことが示されました。オミクロン株感染者は救急も含む入院(emergency department attendance or admission)にも至りにくく、デルタ株感染者より38%(95%信頼区間では31~45%)少ないという結果も得られています。オミクロン株感染者の入院リスクが他の変異株感染者に比べて低いらしいことは好ましい兆候だがひとまずの結果であって更なる検討が必要だとUKHSAの長Jenny Harries氏は言っています5)。オミクロン株感染がどうやら軽症らしいのはワクチン接種の普及または先立つ感染で備わった免疫のおかげかもしれません。またはウイルス自体の変化が軽症で済むようにさせている可能性もあります6)。参考1)Report 50 - Hospitalisation risk for Omicron cases in England / Imperial College London2)Some reduction in hospitalisation for Omicron v Delta in England: early analysis / Imperial College London3)Report 49 - Growth, population distribution and immune escape of Omicron in England. MRC Centre for Global Infectious Disease Analysis / Imperial College London4)SARS-CoV-2 variants of concern and variants under investigation in England / UKHSA5)UKHSA publishes updated Omicron hospitalisation and vaccine efficacy analysis / UK Health Security Agency (UKHSA) 6)Omicron cases at much lower risk of hospital admission, UK says / Reuters

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心血管疾患2次予防にインフルエンザワクチンは必要か

 急性冠症候群の治療期間中における早期のインフルエンザワクチン接種によって、12ヵ月後の心血管イベント転帰改善が示唆された。本研究は、スウェーデン・Orebro UniversityのOle Frobert氏らにより欧州心臓病学会(ESC 2021)にて報告された。Circulation誌2021年11月2日号に掲載。 実施された国際多施設共同二重盲検ランダム化比較試験(IAMI trial)は、2016年10月1日~20年3月1日の4シーズンに8ヵ国(スウェーデン、デンマーク、ノルウェー、ラトビア、英国、チェコ、バングラデシュ、オーストラリア)30施設で参加者を登録。急性心筋梗塞(MI)または高リスクの冠動脈疾患患者を対象に、入院から72時間以内にインフルエンザワクチンまたはプラセボを接種する群に1:1でランダムに割り付けた。 なお、過去12ヵ月間にインフルエンザワクチン接種を受けた者、入院したシーズン中にワクチン接種を受ける意思がある者は除外された。 主な結果は以下のとおり。・試験には2,571例が参加し、ワクチン群1,272例、プラセボ群1,260例に割り付けられた。 ・登録患者の平均年齢は59.9±11.2歳で、女性18.2%、男性81.8%だった。また喫煙者が35.5%含まれ、21.1%が糖尿病を合併していた。両群に有意な差はなかった。・参加者のうち、1,348例(54.5%)がST上昇型心筋梗塞、1,119例(45.2%)が非ST上昇型心筋梗塞、8例(0.3%)が安定冠動脈疾患で入院していた。・主要評価項目である12ヵ月後の全死亡、MI、ステント血栓症の複合発生率は、プラセボ群7.2%(91例)に対し、ワクチン群では5.3%(67例)と有意にリスクが低下した。(ハザード比[HR]:0.72、95%CI:0.52~0.99、P=0.040)。・それぞれの発生率について、全死亡はワクチン群2.9%(37例)vs.プラセボ群4.9%(61例)、心血管死はそれぞれ2.7%(34例)vs. 4.5%(56例)で、いずれのリスクもワクチン群で有意に低下した(全死亡のHR:0.59、95%CI:0.39~0.89、p=0.010/心血管死のHR:0.59、95%CI:0.39~0.90、p=0.014)。・MIの発生率はワクチン群2.0%(25例)vs.プラセボ群2.4%(29例)で両群に有意な差はなかった(HR:0.86、95%CI:0.50~1.46、p=0.57)。 この結果により、研究者らは心血管疾患患者における毎年の季節性インフルエンザワクチン接種の重要性を強調している。 なお、本試験は登録患者4,400例を目標にしていたが、新型コロナウイルス感染症の世界的流行の影響で、目標の58%が登録された時点(2020年4月7日)でデータ安全監視委員会(DSMB)により早期中止された。

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第91回 オミクロン株がより広まりやすいことに寄与しうる特徴

治療で除去されたヒト組織を使った香港大学の研究の結果、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)オミクロン(Omicron)株は去年2020年のSARS-CoV-2元祖やデルタ株に比べておよそ70倍も早く気管支で増えることができました1)。オミクロン株が人から人により広まりやすいゆえんかもしれません。一方、肺でのオミクロン株の複製はよりゆっくりでSARS-CoV-2元祖の10分の1足らずでした。もしオミクロン株感染がより軽症であるとするなら肺で増え難いことがその一因かもしれません。スパイクタンパク質に無数の変異を有するオミクロン株の感染しやすさが他のSARS-CoV-2を上回ることにはヒト細胞のACE2との相性の良さも寄与しているようです。SARS-CoV-2代理ウイルス(pseudovirus)を使った実験の結果、SARS-CoV-2がヒト細胞に感染するときの足がかりとなる細胞表面受容体であるACE2へのオミクロン株スパイクタンパク質の結合はデルタ株やSARS-CoV-2元祖のどちらにも勝りました2,3)。著者によるとオミクロン株代理ウイルスの感染しやすさは調べた他のSARS-CoV-2変異株のどれをも上回りました。重症度はどうかというと、南アフリカ最大の保険会社の先週14日の発表を含む同国からの一連の報告ではオミクロン株感染入院率がデルタ株に比べて一貫して低く、オミクロン株感染は比較的軽症らしいと示唆されています4)。その保険会社Discovery Healthの解析ではオミクロン株感染が同国で急増した先月11月中旬(15日)から今月12月初旬(7日)のおよそ8万件近くを含む21万件超のSARS-CoV-2感染症(COVID-19)検査情報が扱われ、オミクロン株感染者の入院率は同国での昨年2020年中頃のD614G変異株流行第一波に比べて29%低いことが示されました5,6)。それに、入院した成人がより高度な治療や集中治療室(ICU)に至る傾向も今のところ低く5)、入院後の経過も比較的良好なようです。とはいえ、他国の状況を鑑みるにオミクロン株感染は軽症で済むとまだ断定はできないようです。英国の大学インペリアル・カレッジ・ロンドンの先週16日の報告7,8)によると、同国イングランドでのオミクロン株感染の重症度はデルタ株と異なってはおらず、南アフリカからの報告とは対照的に入院が少なくて済んでいるわけではありません4)。ただしイングランドでの入院データはまだ十分ではありません。いずれにせよオミクロン株感染の重症度はまだ症例数が少なすぎて結論には至っておらず4)、さらなる調査が必要なようです。オミクロン株感染の増加が医療を圧迫する恐れ今後の研究で幸いにしてオミクロン株感染の重症化や死亡のリスクが低いと判明したとしてもその感染数が莫大ならとどのつまり重症例も多くなります。その結果医療への負担は大きくなり、他の病気の治療に差し障るかもしれません4)。たとえば英国バーミンガム大学が率いた研究では、オミクロン株流行で入院が増えることで同国イングランドのこの冬(今年12月~来年4月)の待機手術およそ10万件が手つかずになりうると推定されました9,10)。待機手術を受け入れる余力を残しておく必要があると著者は言っています。参考1)HKUMed finds Omicron SARS-CoV-2 can infect faster and better than Delta in human bronchus but with less severe infection in lung / University of Hong Kong 2)mRNA-based COVID-19 vaccine boosters induce neutralizing immunity against SARS-CoV-2 Omicron variant. medRxiv. December 14, 2021 3)Preliminary laboratory data hint at what makes Omicron the most superspreading variant yet / STAT4)How severe are Omicron infections? / Nature5)Discovery Health, South Africa’s largest private health insurance administrator, releases at-scale, real-world analysis of Omicron outbreak based on 211 000 COVID-19 test results in South Africa, including collaboration with the South Africa / Discovery Health6)Covid-19: Omicron is causing more infections but fewer hospital admissions than delta, South African data show / BMJ7)Report 49 - Growth, population distribution and immune escape of Omicron in England. MRC Centre for Global Infectious Disease Analysis8)[Summary] Report 49 - Growth, population distribution and immune escape of Omicron in England. MRC Centre for Global Infectious Disease Analysis9)COVIDSurg Collaborative.Lancet. December 16, 2021 [Epub ahead of print] 10)Omicron may cause 100,000 cancelled operations in England this winter / Eurekalert

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天疱瘡〔Pemphigus〕

1 疾患概要■ 概念・定義天疱瘡は、表皮細胞間接着に働くデスモグレイン:Dsg(カドヘリン型細胞接着分子)にIgG自己抗体が結合し、その接着機能を阻害するために皮膚・粘膜に水疱を形成する自己免疫性水疱症である。天疱瘡は、尋常性天疱瘡、落葉状天疱瘡と、尋常性天疱瘡の亜型とされる増殖性天疱瘡や、腫瘍随伴性天疱瘡、落葉状天疱瘡の亜型とされる紅斑性天疱瘡、疱疹状天疱瘡などを含むその他の天疱瘡の3型に大別される。■ 疫学2015年の天疱瘡による受給者証所持数は5,777人、2017年は3,347人、2019年は3,091人であった1)。2017年以降の減少については、2015年に「難病の患者に対する医療等に関する法律(難病法)」が施行され、制度が変更されたことや経過措置の期限に伴う変動が考えられる。受給者証保持数の年齢分布は50~60歳台が多く、60歳台が最も多い1)。発症年齢は50歳台に多く、男女比はおおむね1:1.5と女性にやや多いとされる。病型については、世界では落葉状天疱瘡が多いブラジルなど地域により病型の頻度が異なる地域もあるが、一般的には尋常性天疱瘡が最も多く、わが国では尋常性天疱瘡が65%程度を占めており、落葉状天疱瘡が次に多く20%程度を占める2)。■ 病因前述のように、IgG自己抗体がDsgに結合することにより表皮細胞間接着機能を阻害することが天疱瘡における水疱形成の主な病態であると考えられている。接着機能阻害の機序として、自己抗体の結合によりDsgを直接阻害するほか、自己抗体結合後の細胞内シグナル伝達を介したDsgの細胞内への取り込みや抗原特異的T細胞およびB細胞、制御性T細胞の病態への関与などが考えられているが、今なお自己抗体が産生される原因は不明である。■ 症状尋常性天疱瘡は、粘膜皮膚型と粘膜優位型に分類され、粘膜皮膚型では抗Dsg3抗体と抗Dsg1抗体が、粘膜優位型では抗Dsg3抗体がみられる。各病型の症状を説明する上で、デスモグレイン代償説が知られている。Dsg3は皮膚では表皮下層優位に、粘膜では全層に強く発現し、Dsg1は皮膚では表皮全層に上層優位に、粘膜ではほぼ全層で弱く発現している。粘膜皮膚型尋常性天疱瘡では、両抗体により粘膜・皮膚ともに障害され、基底層直上で水疱を形成する。口腔内粘膜症状が初発症状となることが多い。水疱は弛緩性で破れやすく容易にびらんとなり、また、一見正常にみえる部位にも圧力によってびらんを来すNikolsky現象がみられる。一方、粘膜優位型尋常性天疱瘡では、阻害されたDsg3の機能をDsg1が代償しきれない粘膜で主に症状を呈するが、皮膚ではDsg1が代償し、症状がみられないかもしくは軽度に留まる。落葉状天疱瘡では、抗Dsg1抗体により、Dsg3の代償がない表皮上層に水疱が形成される。頭部や胸背部などの脂漏部位に小紅斑を伴う水疱とびらんがみられることが多いが、広範囲の紅斑を呈する場合もある。粘膜では阻害されたDsg1の機能をDsg3が代償するため、通常粘膜病変はみられない。リンパ系疾患に伴うことが多い腫瘍随伴性天疱瘡では、難治性の口腔内びらん・潰瘍や眼粘膜病変が特徴的であり、消化管や陰部の病変を伴うこともある。閉塞性細気管支炎を併発し得る。■ 予後一般に尋常性天疱瘡は、落葉状天疱瘡に比し重症であることが多いが、2010年に天疱瘡診療ガイドラインが示され2)、治療導入期の集中的治療が標準的になった近年、天疱瘡は寛解や軽快を達成し得る疾患となっている。施設間にもよるが、治療導入により一旦臨床的に寛解した症例は80~90%超などの報告がある3、4)。しかし、重症難治例や軽快しても再燃を起こす例がみられ、寛解後も病勢の変化に注意して経過観察する必要がある。また、本疾患は第1選択であるステロイド内服療法が長期となる場合が多いことから、感染症、糖尿病、脂質異常症、高血圧症、消化管潰瘍などの合併症に十分留意する必要がある。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)天疱瘡診療ガイドラインに示されている診断基準を下記に示す2)。天疱瘡の診断基準(1)臨床的診断項目[1]皮膚に多発する、破れやすい弛緩性水疱[2]水疱に続発する進行性、難治性のびらん、あるいは鱗屑痂皮性局面[3]口腔粘膜を含む可視粘膜部の非感染性水疱、あるいはびらん[4]Nikolsky現象陽性(2)病理組織学的診断項目表皮細胞間接着障害(棘融解 acantholysis)による表皮内水疱を認める。(3)免疫学的診断項目[1]病変部ないし外見上正常な皮膚・粘膜部の細胞膜(間)部にIgG(時に補体)の沈着を直接蛍光抗体法により認める。[2]血清中に抗表皮細胞膜(間)IgG自己抗体(抗デスモグレインIgG自己抗体)を間接蛍光抗体法あるいはELISA法により同定する。[判定および診断][1](1)項目のうち少なくとも1項目と(2)項目を満たし、かつ(3)項目のうち少なくとも1項目を満たす症例を天疱瘡とする。[2](1)項目のうち2項目以上を満たし、(3)項目の[1]、[2]を満たす症例を天疱瘡とする。前述した臨床症状の他、皮膚生検による組織学的および免疫学的項目が必須となる。病理組織学的に棘融解を伴う表皮内水疱をみとめ、免疫学的に蛍光抗体直接法(DIF)にて表皮細胞間にIgGの沈着や、蛍光抗体間接法(IIF)にて表皮細胞間にIgG自己抗体を認める。また、enzyme-linked immunosorbent assay(ELISA法[現在は多くの場合、chemiluminescent enzyme immunoassay(CLEIA法)]に移行している)にて自己抗体を検出する。また、重症度の判定としては現在、皮膚・頭皮・粘膜の皮疹を元に算出するPemphigus Disease Activity Index(PDAI)が主に用いられている2)。PDAIは急性期の病勢指標として優れており、また、治療維持期の病勢指標としては、ELISAもしくはCLEIA法による抗Dsg抗体価の追跡が有用である。しかし、抗Dsg抗体価は臨床的に寛解後も陽性のまま経過する場合も散見され、急性期に比し寛解期では陽性であっても低値となることが多いことが報告されているが5)、その値や経過は個人間によって異なるため、抗体価による評価は他症例との間でなく患者個々の経過の中で行うべきである。また、症状とELISAもしくはCLEIA法、DIF・IIFなどの検査間の乖離がみられる例もあり、病勢や経過の評価には総合的な判断が必要である。鑑別診断としては、水疱性類天疱瘡やDuhring疱疹状皮膚炎、後天性表皮水疱症などを含む表皮下水疱症、また、TEN(toxic epidermal necrolysis)・Stevens-Johnson症候群を含む重症薬疹や伝染性膿痂疹、多型紅斑などが挙げられる。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)天疱瘡の治療は治療導入期と治療維持期とに分かれる。治療導入期には、プレドニゾロン(PSL)が第1選択となり、重症から中等症ではプレドニゾロン1.0mg/kg/日の投与が標準的である。天疱瘡では初期治療が重要であり、ステロイド単剤で十分な効果が得られない場合には、速やかに免疫抑制剤やγグロブリン大量静注療法(intravenous immunoglobulin:IVIg)、二重膜濾過血漿交換療法(double filtration plasmapheresis:DFPP)を主流とする血漿交換、ステロイドパルス療法などの集中的治療を考慮すべきである。免疫抑制剤としては、アザチオプリンがガイドラインにて推奨度Bである他、シクロスポリン、シクロホスファミドなどがC1とされている2)。病勢が制御できた後の治療維持期においてはステロイドの減量を行い、PSL20mg/日以上では1~2週で1回に5~10mg/日、20mg/日以下では1~2ヵ月で1回に1~3mg/日を減量する。免疫抑制剤を併用している場合は、ステロイドを十分減量した後に免疫抑制剤を減量する。治療においては、PSL0.2mg/kg/日もしくは10mg/日以下で臨床的に症状を認めない状態、すなわち寛解を維持することを目標とする。4 今後の展望わが国において2010年に天疱瘡診療ガイドラインが作成され、診断、重症度、治療アルゴリズムなどが示された2)。治療導入期のDFPPやIVIgを含めた集中的治療が標準化した現在、適切な初期治療を行うことにより、多くの症例で寛解もしくは無症状の状態を維持することが可能となった。一方で、重症難治例や臨床的に寛解に至ってもステロイドを減量することが困難な例や再燃を繰り返す例が存在するのも事実である。近年、天疱瘡の病態機序については、自己抗体による直接的な細胞接着障害の他、細胞内シグナルの活性化によるDsgの細胞内への取り込みや、抗原特異的T細胞およびB細胞、さらには制御性T細胞の病態への関与が知られるようになった6-9)。抗原特異的B細胞をターゲットとしたヒトCD20に対するモノクローナル抗体であるリツキシマブやキメラ自己抗体受容体T細胞を利用した治療は、より標的を絞った今後の治療として注目されている10-12)。天疱瘡に対する治療は目覚ましく発展しており、今後さらに予後が改善されることが期待されている。5 主たる診療科皮膚科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報日本皮膚科学会ホームページ(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)難病情報センター 天疱瘡(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)稀少難治性皮膚疾患に関する調査研究班ホームページ(医療従事者向けのまとまった情報)患者会情報天疱瘡・類天疱瘡友の会(患者とその家族および支援者の会)1)難病情報センター 天疱瘡2)天谷雅行ほか. 日皮会誌. 2010;120:1443-1460.3)込山悦子,池田志斈. 日皮会誌. 2008;118:1977-1979.4)Kakuta R, et al. J Eur Acad Dermatol Venereol. 2020;6:1324-1330.5)Kwon EJ, et al. J Eur Acad Dermatol Venereol. 2008;22:1070-1075.6)Jolly PS, et al. J Biol Chem. 2010;285:8936-8941.7)Takahashi H, et al. J Clin Invest. 2011;121:3677-3688.8)Takahashi H, et al. Int immunol. 2019;31:431-437.9)Schmidt T, et al. Exp Dermatol. 2016;25:293-298.10)Joly P, et al. N Engl J Med. 2007;57:545-552.11)Ellebrecht CT, et al. Sience. 2016;353:179-184.12)Joly P, et al. Lancet. 2017;389:2031-2040.公開履歴初回2021年12月16日

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脳梗塞の血栓除去術、発症6h以降でも機能障害を改善/Lancet

 発症後6~24時間で、可逆的な脳虚血の証拠が確認された急性期脳梗塞患者の治療において、血管内血栓除去術はこれを施行しない場合と比較して、90日後の修正Rankin尺度(mRS)で評価した機能障害が良好であり、日常生活動作の自立(mRS:0~2点)の達成割合も高いことが、米国・Cooper University Health CareのTudor G. Jovin氏らが実施した「AURORA試験」で示された。研究の成果は、Lancet誌オンライン版2021年11月11日号で報告された。6つの無作為化対照比較試験のメタ解析 研究グループは、発症から6時間以上が経過した脳梗塞患者における、血管内治療のリスクとベネフィットを評価する目的で、無作為化対照比較試験の系統的レビューを行い、個々の患者データに基づくメタ解析を実施した(Stryker Neurovascularの助成を受けた)。 医学データベース(MEDLINE、PubMed、Embase、ClinicalTrials.gov)を用いて、2000年1月1日~2021年3月1日の期間に発表された文献が検索された。最後に健常な様子が目撃されてから6時間以上経過した前方循環系の大血管閉塞による脳梗塞患者において、第2世代血栓回収デバイス(ステント型血栓回収機器、大口径吸引カテーテル)+標準的薬物療法(介入群)と標準的薬物療法単独(対照群)を比較した無作為化対照比較試験を適格とした。 主要アウトカムは、90日の時点における修正Rankin尺度(mRS、0[障害なし]~6[死亡]点)で評価した機能障害の程度とされ、順序ロジスティック回帰分析で評価された。主な安全性アウトカムは、症候性脳出血と90日以内の死亡であった。 スクリーニングの対象となった17の試験のうち6つの試験(DAWN、DEFUSE 3、ESCAPE、REVASCAT、POSITIVE、RESILIENT)が、この研究の基準を満たした。1例でmRSを1点以上低下させる必要治療数は3 6試験の参加者505例(介入群266例、対照群239例、平均年齢68.6歳[SD 13.7]、女性259例[51.3%])が解析に含まれた。ベースラインのNIHSSスコア(0~42点、点数が高いほど脳卒中の重症度が高い)中央値は16点、発症から無作為化までの時間中央値は625分(IQR:472~808)、ASPECTS(0~10点、点数が高いほどCT画像上の早期虚血性変化を呈する中大脳動脈領域が少ない)中央値は8点(IQR:7~9)であった。 主要アウトカムの解析では、補正前の共通オッズ比(OR)は2.42(95%信頼区間[CI]:1.76~3.33、p<0.0001)、補正後の共通ORは2.54(1.83~3.54、p<0.0001)であり、血栓除去療法の利益が確認された。1例の患者でmRSを1点以上低下させて機能障害を改善するのに要する治療必要数は、3であった。 また、介入群は対照群に比べ、90日時点の日常生活動作の自立(mRS:0~2点)の割合が高かった(45.9%[122/266例]vs.19.3%[46/238例]、率比:2.37、95%CI:1.69~3.33、p<0.0001)。一方、90日死亡率(16.5%[44/266例]vs.19.3%[46/238例])および症候性脳出血の発生率(5.3%[14/266例]vs.3.3%[8/239例])は、両群間に有意差はみられなかった。 主要アウトカムに関して、すべてのサブグループ(年齢、性、ベースラインの脳梗塞の重症度、血管の閉塞部位、ベースラインのASPECTS、発症時の状況[目撃者あり、起床時、目撃者なし])で血栓除去療法の治療効果が認められ、発症後12~24時間に無作為化された患者(共通OR:5.86、95%CI:3.14~10.94、p<0.0001)は、6~12時間に無作為化された患者(1.76、1.18~2.62、p=0.0060)に比べ治療効果が高かった(p interaction=0.0087)。 著者は、「この研究結果は、保健施策の検討や臨床現場にいくつかの示唆を与え、現行のガイドラインの変更につながる可能性がある」とし、「これらの知見は、前方循環系の大血管近位部閉塞による脳梗塞患者では、高齢であることやベースラインのCT検査で梗塞サイズが中等度であること、中等度または重度の臨床的障害、発症状況、発症後6~24時間という時間枠を理由に、血管内血栓除去術を控えるべきではないことを示唆する」と指摘している。

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併用療法の有効性が示唆される結果となった(解説:高梨成彦氏)

 経皮的脳血栓回収術では、血栓吸引カテーテルとステントリトリーバーの2種類のデバイスが使用される。基本的にはそれぞれ単独で使用するが、効率的な回収を期待して両者を組み合わせた併用療法も行われている。 本研究は併用療法がステントリトリーバー単独療法よりも有効性が高いという作業仮説を証明するために組まれた、オープンラベルのランダム化比較試験である。 主要評価項目は手術終了時のTICI 2c/3の有効再開通率と設定され、最終的に408例の患者が参加した。年間100例以上の脳血栓回収術を行っている施設のみが参加しており、術者は血栓吸引法とステントリトリーバー法をそれぞれ10例以上経験していることが条件である。 治療手技プロトコールとして注目すべきなのは、いずれの群も割り付けられた治療法を3回試行した後には、rescue therapyとして治療方法を切り換えることが認められている点である。これは実臨床に沿ったプロトコールであり、またRCTに起こりうる倫理的問題を回避しているともいえる。 主要評価項目に関しては併用群と単独群との間で有意差が示されなかった(64.5% vs.57.9%、p=0.17)。 しかし単純に併用療法の優位性が示されなかったと解釈すべきではないと考えられる。まず考察で述べられているように、研究計画当初よりも器材の性能が改善し全体の治療成績が向上しており、併用による上乗せが期待できる割合が少なくなった。さらにrescue therapyの効果によって単独療法に対する併用療法の有効性が曖昧にならざるを得ない。その証拠に、割り付けられた治療方法が終了した時点でのTICI 2b以上の再開通率は併用療法群が有意に高く(86.2% vs.72.3%)、さらに併用療法群ではrescue therapyを要した割合が少なかった。 また穿刺から再開通までに要した時間は両群でほとんど同じであった。併用療法は2種の器材を使用するために準備や手技が複雑にならざるを得ない。しかし少ない試行回数で確実に血栓を回収できるために、全体として手技時間はほぼ同じになったと解釈できる。 本研究の結果から併用療法か単独療法いずれを第1選択としてもrescue therapyへの切り替えを適切に行えば臨床的有効性に決定的な差はないともいえるが、手技としては併用療法に軍配が上がるという印象を強く受ける。主要評価項目における有意差は示されなかったがRCTとして失敗したと評価するべきではなく、きわめて重要な示唆に富む結果をわれわれに示してくれた貴重な臨床試験として評価したい。

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国・地域により評価が分かれる研究(解説:野間重孝氏)

 チカグレロルはcyclo pentyl triazolo pyrimidine (CPTP)系の薬剤に分類される抗血小板薬である。クロピドグレルやプラスグレルなどのチエノピリジン系の薬剤がプロドラッグであり肝臓で代謝されることにより活性体となるのに対し、チカグレロルは自身が活性体であるためその作用の出現が速やかであるとともに肝代謝による影響を受けることがない。いずれの系統の薬剤も血小板のP2P12受容体に結合することによりその作用を発揮するが、チエノピリジン系の結合が非可逆的なものであるのに対し、チカグレロルの結合は可逆的である。そのため中止後の効果消失も速やかであるが、その反面作用時間が短いため1日2回の服用が必要である。 チカグレロルが注目を浴びるようになったのはPLATO studyによるものだったと言ってよい。同studyでは急性冠症候群患者(ACS)を対象としてアスピリンと併用する血小板2剤併用療法(DAPT)の比較研究がなされ、チカグレロル維持量90mg×2/日とクロピドグレル維持量75mg/日の比較において、死亡・心筋梗塞・脳卒中の発生頻度を減少させる点で、チカグレロルがクロピドグレルに比して優れているとの結果が得られたのである。この研究を踏まえ、欧州心臓病学会(ESC)では、ACSに対する際には使用禁忌がない場合にはアスピリン+チカグレロルを第1選択薬とした。しかしPLATO studyの事後サブグループ解析において非ST上昇型ACSにおいて総死亡率の低下が見られるいう結果は主要評価項目ではなかったため、あくまで探索的なものだったのではないかとの疑問もあった。事実、その後いくつか行われた臨床研究においてもチエノピリジン系薬剤に対してはっきりとした優位を示す結果は提出されていない。ACC/AHAガイドラインでは第1選択薬としての使用は認めているものの推奨度は低い(IIaB)。 JCSのガイドラインにおいては、East Asian paradoxという言葉があるように東アジア地域においては欧米よりも出血リスクが高く、血栓リスクが低いことが示されていることが勘案され、「アスピリンを含むDAPTが適切である場合で、かつ、アスピリンと併用する他の抗血小板薬の投与が困難な場合に限る」とされた(アテローム血栓症の発生頻度がとくに高いことが予想される病態がいくつか追加的適応として挙げられているが、ここでは省略する)。種々の研究において、チカグレロルはチエノピリジン系薬剤に比して出血の合併症が多いことが示されていたためである。なお、それ以外に呼吸困難感が比較的高頻度で生じることも知られている。このような理由からわが国においてはチカグレロルはほとんど使用されることがないが、わが国の臨床家たちがとくに不便を感じたという話を聞かない。さらに2020年の改訂で、チエノピリジン系がDAPT終了後の単独投与薬剤として認められたことも大きい(チカグレロルは認められていない)。 そこで本論文をどう評価するかという本題に入るが、この評価はESCのガイドラインを順守している国・地域であるのかどうかによってその価値評価が大きく異なることがまず指摘されなければならない。確かに本研究は著者らが言うように、いわゆるde-escalation therapy(この用語の妥当性自体が問題なのだが)が効果的かつ安全であることを示した初めての大規模臨床研究であると言える。しかし、もともとチカグレロルを第1選択薬としていない地域の医師たちにとっては関係のない論題だと言えるからである。そういう意味でこの研究の発端自体がESCのガイドラインに依存したものだったと言わなくてはならない。評者は、当たり前に思えることであってもあらためて証明することには価値があるということをこの欄で常々述べてきたが、この研究課題は普遍的な課題とはいえないと言わざるを得ないと思う。チカグレロルを第1選択薬とする必要がないことは米国や日本における血栓事故の発生率を見れば明らかなのだが、いったん決められたものを改めるには然るべき手続き(この場合研究)が必要だったと解釈される。 一方、本論文中で論じられている内容で、わが国の医師・国民の関心が薄い問題があることを指摘しておかなければならない。費用の問題である。韓国での薬価については調べることができなかったが、わが国ではクロピドグレル75mg錠が52.3円、チカグレロル(ブリリンタ)90mg錠が142円、つまり1日142×2=284円ということになる。わが国では国民皆保険制度が当たり前となっているため、薬価に対する関心が薄い。話題になるのは驚くほど高価な抗がん剤などが発売された場合などに限られるのではないだろうか。しかし一般諸外国ではこうした一般治療薬の価格についてもかなり関心が高く、議論の発端となりうることは知っておく必要がある。あらためて指摘する必要もないであろうが、わが国の保険財政は逼迫していることを忘れてはならない。 最後になるが、内容とは離れてこの論文の形態について一言述べておきたい。本論文では4ページ以上にわたってdiscussionが書かれているのだが、このような長大な考察を書く必要があったのだろうか。この研究の内容は決して分かりにくいものではなく、その内容も長く論述する必要のあるものとは思えない。評者は何年かにわたって『ジャーナル四天王』の論文評を担当させていただいているが、最近論文のスタイルの崩れが目立つように感じられてならない。仮にもLancet掲載論文なのである。評者が現役であった頃はこうした雑誌の査読者、編集者たちは論文の形態・形式についてもかなり厳しい注文をつけてきたことを記憶している。この論文評の最後にこのような一般的なことまで含めて書くのは申し訳ないとは思うが、一言苦言を呈したかったことをご理解いただきたい。

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第85回 経口レムデシビルがフェレットのCOVID-19に有効~感染伝播も阻止

近い将来には、手軽に投与しうる経口薬が発症後間もない外来の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)患者の治療のおそらく主流となっていくことを予感させるニュースが先週末に相次ぎました。木曜日には米国・メルク社の経口COVID-19薬molnupiravir(モルヌピラビル)の世界初の承認を英国医薬品庁(MHRA)や同社が発表し1,2)、その翌日金曜日にはそれに負けじとファイザー社が同じく経口のCOVID-19薬Paxlovid(PF-07321332+ritonavir)が第II/III相試験でCOVID-19患者の入院または死亡リスクを89%低下させたことを報告しました3)。ギリアド社が世に送り出したCOVID-19治療薬の先駆けレムデシビル(日本での販売名:ベクルリー)はより重症の患者向けで、点滴静注を要し、メルク社やファイザー社の経口薬とは違って外来患者には不向きです4)。そこでギリアド社は米国・ジョージア州立大学と協力し、メルク社やファイザー社の経口薬と同様に外来の初期段階のCOVID-19患者に使えるようにレムデシビルに一工夫施した化合物GS-621763を開発しています。GS-621763は経口投与でより吸収されやすく、レムデシビル静注後と同一の活性代謝物(GS-443902)を体内で生み出します。その効果のほどをイタチ科の哺乳類・フェレットで検討した研究成果が先週金曜日にネイチャー姉妹誌Nature Communicationsに掲載されました5)。新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)はフェレットに感染可能で、SARS-CoV-2感染フェレットはヒトのSARS-CoV-2感染特徴の多くを呈します。フェレットにGS-621763を1日2回経口投与したところSARS-CoV-2量が検出不可能な水準近くまで減りました。GS-621763はSARS-CoV-2の複製を効率よく阻止し、より広まりやすい(high transmissibility)ことで知られるSARS-CoV-2変異株VOC γ感染フェレットにGS-621763を投与したところ感染フェレットと同居するフェレットへの伝播を完全に防ぐことができました。GS-621763のような経口の抗ウイルス薬は世間で幅を利かす感染しやすいSARS-CoV-2変異株への強力な対抗手段となりうると著者は言っています4)。一番乗りの見返りは大きいどこの世界でも同じだと思いますが、一番乗りというのはやはり大事なことのようで、COVID-19薬市場を切り開いたレムデシビルは依然として世界でよく使われています。ギリアド社の直近の業績発表によると、今年9月末までの3ヵ月間(第3四半期)の同剤の売り上げは74億ドルであり、需要の増加を受けて昨年同期より13%多い額となりました6)。一番乗りが得をするのはワクチンでも同様なようです。米国FDA認可に最初に漕ぎ着けたファイザー社のCOVID-19ワクチンの第3四半期売り上げは100億ドルの大台を軽々と超える130億ドルであり7)、僅か1週間ほど遅れて二番目にFDA認可に達したモデルナ社のワクチンの同期売り上げ48億ドル8)を3倍近く引き離しています。今後もその差は開いていくようです。ファイザー社が今年1年間のCOVID-19ワクチンの売り上げを360億ドルへと上方修正したのとは対照的にモデルナ社は今年1年間のCOVID-19ワクチン出荷量予想を8~10億回投与分から7~8億回投与分に下方修正しています。モデルナ社のワクチンは心筋炎リスクの懸念にも大いに巻き込まれており、12~17歳小児への同社COVID-19ワクチンのFDA認可審査がその安全性懸念を背景にして長引いていることが先月10月末に発表されました9)。ファイザー社のCOVID-19ワクチンの同年齢層の小児への使用はすでに取り急ぎ認可または承認されています10)。COVID-19ワクチンの開発は失敗したもののCOVID-19経口薬の一番手となったメルク社とそれに肉薄するファイザー社の域にギリアド社の経口レムデシビルが辿り着くのにあとどれだけの時間を要するのかはわかりませんが、実現したとすれば、よく知った薬と根本は同じという馴染みの力を頼りに活躍の場を得ることができそうです。参考1)First oral antiviral for COVID-19, Lagevrio (molnupiravir), approved by MHRA / MHRA 2)Merck and Ridgeback’s Molnupiravir, an Oral COVID-19 Antiviral Medicine, Receives First Authorization in the World / BUSINESS WIRE 3)Pfizer’s Novel COVID-19 Oral Antiviral Treatment Candidate Reduced Risk of Hospitalization or Death by 89% in Interim Analysis of Phase 2/3 EPIC-HR Study / BUSINESS WIRE4)Gilead Sciences Inc. partners with Center for Translational Antiviral Research to test oral Remdesivir variant / Eurekalert5)Cox RM,et al Nat Commun. 2021 Nov 5;12:6415.6)Gilead Sciences Announces Third Quarter 2021 Financial Results / BUSINESS WIRE7)PFIZER REPORTS THIRD-QUARTER 2021 RESULTS / BUSINESS WIRE8)Moderna Reports Third Quarter Fiscal Year 2021 Financial Results and Provides Business Updates / BUSINESS WIRE9)Moderna Provides Update on Timing of U.S. Emergency Use Authorization of its COVID-19 Vaccine for Adolescents / BUSINESS WIRE10)Comirnaty and Pfizer-BioNTech COVID-19 Vaccine / FDA

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