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小血管で良好な前拡張が得られればDCBはDESと同等に優れる(解説:上田恭敬氏)-919

 直径3mm未満の小血管に対するPCIにおいて、良好な前拡張が得られた症例を対象として、12ヵ月のMACE(cardiac death, non-fatal myocardial infarction, and target-vessel revascularization)を主要評価項目とした、DCBのDESに対する非劣性を示すためのRCTの結果が報告された。DCB群に382症例、DES群に376症例が無作為に割り付けられた。 MACEの頻度は、DCB群で7.5%、DES群で7.3%となり、統計的に非劣性が証明された。すなわち、このような症例においては、DESを留置しなくてもDCBで十分であることが示された。 このエビデンスに従えば、不要なステントの留置を回避することができるので、臨床的に非常に有用な臨床試験であったといえる。ただし、「小血管はDESを留置しなくてもDCBでよい」という間違った結果が独り歩きしないように注意が必要である。 この試験の最大のポイントは、エントリー基準にあるように「前拡張によって解離やslow flow、残存狭窄がなく良好に開大された症例」に対象を限定した結果であることである。いわゆるstent-likeな結果が得られれば、DESを留置しなくても、DCBを行えば結果は同じと解釈できる。 他にもいくつかのLimitationが指摘されている。DESの中にpaclitaxel-eluting Taxus Element stentとeverolimus-eluting Xience stentの2種類が含まれており、MACEの頻度は統計的有意ではないものの12.8% vs.5.7%とTaxus群で高くなっている。また、DCB後に解離などのためにDESが追加された症例があり、MACEの頻度は統計的有意ではないものの15.8% vs.7.0%とDCB+DES群においてDCB単独群に比して高くなっている。そのため、DESとして「Xienceを使えば」という限定も付くように思われる。実際、論文中でも、DCB群とTaxus群の比較ではHRが0.52(0.26ー1.04、p=0.0649)、DCB群とXience群の比較ではHRが1.21(0.63ー2.32、p=0.5751)と報告している。さらに、本試験では、DCBとしてpaclitaxel-coated balloon SeQuent Pleaseが用いられており、他のDCBにおいて同じ結果となるか否かはわからない。 以上より、多少言い過ぎかもしれないが、本試験の結果は、「3mm未満の小血管に対するPCIで、前拡張によってstent-likeに仕上がれば、Xienceを留置する場合とSeQuent PleaseでDCBを行う場合のMACEはほぼ同等である」と解釈できるだろう。ただし、論文中の図5を見ると、DCB後に追加ステントが必要となる頻度が高くなれば、初めからXienceを留置するほうが優れているかもしれないし、DCB後に追加ステントが必要となる頻度を低くできれば、DCBのほうが優れているかもしれないと思われる。

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EBMの威力を痛感させたGLOBAL LEADERS試験(解説:後藤信哉氏)-914

 ステント留置後の血栓性閉塞にはアスピリン・チクロピジン併用療法が画期的効果を示した。その後、多くの抗血小板薬が冠動脈インターベンション、急性冠症候群を対象として開発された。血栓イベントを恐れるあまり、欧米では大容量の抗血小板薬が使用され、出血イベントが増えた。その結果、抗血小板薬の早期中止を求めて「必要期間短縮」を目指すランダム化比較試験が計画された。本研究でも12ヵ月のアスピリン・P2Y12受容体阻害薬(クロピドグレルまたはチカグレロル)を標準治療として、アスピリン・チカグレロル1ヵ月使用後、チカグレロル単剤にするプロトコールと比較された。実臨床に近い試験としてエンドポイントは冠動脈の閉塞を反映するQ波性心筋梗塞と総死亡とされた。 世界の実臨床を反映する試験として、試験結果以上にベースラインの各項目が興味深い。登録された症例の半数弱は急性冠症候群であった。70%以上の症例は橈骨動脈アプローチが選択されている。インターベンション施行前から75%程度の症例ではTIMI 3の血流があり、インターベンション後に99%以上になった。カテーテルの術者にとってステント血栓症、Q波性心筋梗塞に興味が集中しがちだが、これらのイベントは総死亡の半数以下であった。総死亡の詳細は示されていない。心血管死亡でなく総死亡であることに注目する必要がある。急性冠症候群、冠動脈インターベンション後の症例は血栓イベントリスクが高いとして抗血小板薬の開発標的となっていた。今回のGLOBAL LEADERS試験は半数に急性冠症候群を選択しても、冠動脈インターベンション後の症例の予後は現在の標準治療にて十分に良好であることを示した。多数の薬剤を開発し、多数のランダム化比較試験を施行した結果、疾病の予後がシステム的に改善された好例である。まさに仮説検証を繰り返し、標準治療をシステム的に改善させたEBMの威力を実感させた試験であった。

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チカグレロル併用DAPT1ヵ月+単剤23ヵ月を標準DAPTと比較/Lancet

 経皮的冠動脈インターベンション(PCI)後2年の全死因死亡あるいは新規Q波心筋梗塞の抑制という点で、チカグレロルとアスピリンによる抗血小板薬2剤併用療法(DAPT)1ヵ月→チカグレロル単剤療法23ヵ月は、標準的DAPT 12ヵ月→アスピリン単剤療法12ヵ月と比較し優越性は認められなかった。ベルギー・ハッセルト大学のPascal Vranckx氏らが、18ヵ国130施設で実施した無作為化非盲検優越性試験「GLOBAL LEADERS」の結果を報告した。アスピリンとの併用において、チカグレロルはクロピドグレルより主要有害心イベントと全死亡率を有意に低下するが、アスピリン150mg/日以上がチカグレロルの治療効果を弱めることが示唆されていた。Lancet誌オンライン版2018年8月24日号掲載の報告。DES留置患者約1万6千例で検討したGLOBAL LEADERS試験 GLOBAL LEADERS試験の対象は、PCIを施行しバイオリムスA9薬剤溶出性ステント(DES)を留置する安定冠動脈疾患(安定CAD)/急性冠症候群(ACS)患者。アスピリン(75~100mg/日)+チカグレロル(1日2回90mg)を1ヵ月間、その後チカグレロル単剤療法を23ヵ月間行う介入群と、標準的DAPT(アスピリン75~100mg/日+クロピドグレル75mg/日[安定CAD患者]またはチカグレロル1日2回90mg[ACS患者])を12ヵ月間、その後アスピリン単剤療法を12ヵ月間行う対照群に、1対1の割合で無作為に割り付けた。 主要評価項目は、2年時点の全死因死亡または中央評価による新規の非致死性Q波心筋梗塞の複合(評価者盲検)。主な副次安全性評価項目は、施設報告によるBARC出血基準Grade3または5の出血で、intention-to-treat解析で評価した。 2013年7月1日~2015年11月9日に、1万5,968例が介入群7,980例と対照群7,988例に無作為に割り付けられた。全死因死亡および非致死性心筋梗塞の発生に有意差なし 2年時点における死亡または非致死性新規Q波心筋梗塞の発生は、介入群で304例(3.81%)、対照群で349例(4.37%)に認められた(率比:0.87、95%信頼区間[CI]:0.75~1.01、p=0.073)。事前に定義したACSと安定CADのサブグループ解析においても、主要評価項目に関する治療効果に差はなかった(p=0.93)。 Grade3または5の出血は、介入群163例ならびに対照群169例で確認された(2.04% vs.2.12%、率比:0.97、95%CI:0.78~1.20、p=0.77)。 著者は、今回の試験は非盲検で行われており、全死因死亡と2年時点の複合エンドポイントに関して検出力不足であったことなどを研究の限界として挙げている。

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FFRジャーナルClub 第11回

FFRジャーナルClubでは、FFRをより深く理解するために、最新の論文を読み、その解釈を議論していきます。第11回目の今回は、ステント内再狭窄(in-stent restenosis:ISR)の重症度評価をFFR-CTによって行った、という症例報告です。単なる症例報告ですが、何が面白いか、気づきましたか? Heart Flow社の提供するFFR-CTは、ステントが留置されている症例では計測できませんでした。最近1枝にステントが留置されているものは計測可能となりましたが、それでもステント留置血管自体のFFR-CTは計測できません。ステント部の血管内腔のトレースが不確実であるからです。それを可能とするテクノロジーの進歩、すなわちFFR-CT計算方法のブラックボックス、とされていた部分が垣間見られる報告と思います。このような計算も行っていたのだ、という眼で読んでいきましょう。第11回 ステント内狭窄の重症度評価Andreini D, et al, Severe in-stent restenosis missed by coronary CT angiography and accurately detected with FFR-CT. Int J Cardiovasc Imaging.2017;33:119-120.Sand NPR, et al. PRrospEctive Comparison of FFR Derived From Coronary CT Angiography With SPECT PerfuSion Imaging in Stable Coronary ArtEry DiSeaSe: The ReASSESS Study. J Am Coll Cardiol Img.2018 Jun 9.[Epub ahead of print]冠動脈CTを用いたISR評価においては、ステントストラットによるアーチファクトのため、判定が困難なことが多い。非侵襲的に冠動脈CTデータからFFRを計算するFFR-CTは、その臨床使用における有用性、安全性が報告されているが、冠動脈ステントの評価に関する有効性は検討されていない。症例は62歳、男性。3枝に計4つのステントが留置されている。ステント留置1年後に胸痛を生じたため冠動脈CTにより精査された。冠動脈CT上は新規病変を認めず、また明らかなISRも認めなかった。それぞれのステント内腔の染影も良好と思われた。右冠動脈では、CT値(Hounsfield Units:HU)が、ステント近位部571HU、ステント内遠位端付近555HU、ステント遠位約10mmの部位529HU、であり、ステント遠位において軽度の低下を認めるのみであった。一方、FFR-CTによる解析では、右冠動脈遠位部のFFR-CT値<0.50と有意な低値を示し、ステント内再狭窄が疑われた。その後冠動脈造影により、右冠動脈ステント内遠位部に99%のISRが確認され、drug-eluting balloonによる治療が行われた。考察(勝手な想像を含む)いたってシンプルな症例報告(Images in CV applications)であり、計測を可能としたアルゴリズムについてのコメントは一切ない(上記が本文のほぼすべてである)。なので、ここからは私自身の想像により、そのブラックボックスを少しだけ開けてみたい。ステントストラットの影響により内腔がトレースできない、というのは、人間の目を用いて解析する前提の話である。コンピュータ技術(いやスーパーコンピュータ技術)をもって、内腔を決定するためのある一定のアルゴリズムを作れば、ステント部であっても常に客観的に内腔を決定することはできるはずである。その内腔が正しいかどうか、症例を積み重ねることにより正確性を増すと考えられる。コンピュータを使う利点は、常に同じ基準で正確に内腔を決定できる、という点が挙げられる。ステント同様、冠動脈CTで内腔評価が難しい病変として石灰化病変が挙げられる。通常の冠動脈CTでは評価が困難と思われる程度の石灰化病変であっても、FFR-CTでは計算できることも少なくない。人間の目よりも、コンピュータの眼のほうが優れている、と言えばそれまでだが、客観的に同じ基準で評価している、ということの信頼感は大きい。また本症例では、冠動脈内のCT値が提示されている。その変動は大きくないように見えるが、おそらくこのような情報もFFR-CT計算に用いられているのだろう、と推察できる。冠動脈CTは安静時血流下での撮影となるが、その条件下でもCT値の変動を捉えられるとうことは、最大充血時の血流低下を推測する一助となりうる。今後ますます技術革新が進み、ステント留置血管においてもFFR-CTが応用できるとなれば、その臨床的役割はさらに増すことが予想される。このFFR-CTは、日本においても近々臨床使用が可能となる見込みである。実臨床での安定狭心症診断Treeはさまざまなオプションが考えられるが、冠動脈CTにより中等度以上の狭窄が検出された場合、(1)そのまま侵襲的冠動脈造影(場合によって侵襲的FFR計測)、(2)負荷心筋シンチグラムSPECT、そして(3)FFR-CT、という3つからの選択となると考えられる。FFR-CTがSPECT同様十分に信頼される検査法となれば、侵襲的冠動脈造影のgate-keeperとして働くことが可能となる。ReASSESS studyは、安定狭心症診断のfirst lineとして冠動脈CTを行い、まず正常冠動脈、明らかな重症冠動脈病変を診断し、それらを除いた中等度病変を有する患者にFFR-CTを用いる場合の診断制度をSPECTと比較した。有意病変の診断精度、FFR guideにてPCI施行が必要と判断された症例を検出する精度に関して、両者は同等であったが、FFR-CTはとくに感度において良好な結果であった。冠動脈CTが多く行われている日本の診断Treeに近いプロトコールでの有用性が示されたものと思われる。画像を拡大する画像を拡大する

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尿崩症の診断におけるコペプチンの測定(解説:吉岡成人氏)-906

中枢性尿崩症とバゾプレッシン 中枢性尿崩症は、バゾプレッシン(arginine vasopressin:AVP)の分泌障害によって腎臓の集合管における水の再吸収が障害され、多尿をきたす疾患である。検査所見では、尿浸透圧/血漿浸透圧比は1未満であり、血漿AVP濃度は血漿浸透圧に比較して低値となる。水制限試験、高張食塩水負荷試験、ピトレッシン(DDAVP)負荷試験などの負荷試験を行い、最終的な診断を下すこととなる。 臨床の現場において血漿AVPを測定する際にはいくつかの問題がある。まず、AVPはアミノ酸9個からなる分子量約1,000の小さなペプチドホルモンであり抗体の作成が難しく、構造の類似したオキシトシンと交差反応を引き起こす。また、プロテアーゼによる分解を受けやすく、EDTA入りの採血管で採血を行い、採血後の検体は氷冷のうえ、速やかに血漿分離を行い冷凍保存する必要がある。さらに、血中AVPは半減期が短く、その約90%は血小板と結合しているため、採血後、検体を長時間放置すると血小板と結合したAVPが血漿中に遊離して見かけ上の高値を呈する。コペプチンとは AVPの前駆体であるプロバゾプレッシンはバゾプレッシン、ニューロフィジンII、コペプチンの3つのタンパク物質からなるホルモンであり、下垂体後葉の分泌顆粒の成熟に伴いプロセッシング、末端修飾を受けて、分泌刺激に応じて放出される。AVPが放出される際には同時に等モル(1:1の割合)でコペプチンが放出される。コペプチンは安定性が高く、2006年にドイツのBRAHMS社でEIAによる測定系が確立されており、血漿AVP濃度と良好な相関があること、血漿浸透圧の変動に対しても生理的な応答を示すことが確認されている。しかし、水代謝異状における血漿コペプチン測定の意義は確立されていない。中枢性尿崩症におけるコペプチン測定の意義 NEJM誌に発表された論文では、尿崩症が疑われる患者141名に対して水制限試験、高張食塩水負荷試験を実施し、中枢性尿崩症、心因性多飲、腎性尿崩症の鑑別を行っている。水制限試験で鑑別ができた症例は108例(診断精度76.6%)、高張食塩水負荷試験を行い、コペプチン濃度のカットオフ値を>4.9pmol/Lとした際に正確に鑑別診断ができたのは136例(診断精度96.5%)であった。また、コペプチンのカットオフ値を6.5pmol/Lとすると感度は94.9%、特異度100%で診断精度は97.9%となっている。時間のかかる水制限試験よりも、高張食塩水負荷試験を行い血漿コペプチン濃度を測定することで、尿崩症が疑われる患者に対してより正確な診断を行うことができるという報告である。 コペプチン濃度を心不全患者や肺塞栓患者の予後予測のマーカーとして測定するなどの臨床的な研究報告が散見されるが、診断の場でコペプチンが応用されるかどうか今後のさらなる検討が待たれる。

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乾癬に対するイキセキズマブ vs.ウステキヌマブ

 インターロイキン(IL)-17Aを標的とする生物学的製剤は、臨床で安全なプロファイルを有し、尋常性乾癬のプラークを迅速に除去できる。フランス・ポール・サバティエ大学のCarle Paul氏らは、抗IL-17A抗体イキセキズマブの尋常性乾癬に対する有効性および安全性をIL-12/23阻害薬ウステキヌマブと直接比較したIXORA-S試験において、52週時の有効性はイキセキズマブがウステキヌマブより優れており、安全性は類似していることを報告した。Journal of the American Academy of Dermatology誌オンライン版2018年6月30日号掲載の報告。 IXORA-S試験の対象である尋常性乾癬患者を、イキセキズマブ群(136例)およびウステキヌマブ群(166例)に無作為に割り付け、承認された用法・用量で52週間それぞれ投与した。 主要評価項目は、52週時のPsoriasis Area and Severity Index(PASI)の達成率(PASI 90)と、static Physician Global Assessment(sPGA)の0または0/1の達成率であった(脱落例はノンレスポンダーとして数えた)。安全性は、治療下で発現した有害事象(TEAE)などで評価した。 主な結果は以下のとおり。・52週時において、イキセキズマブ群はウステキヌマブ群と比較し、PASI 90(104例、76.5% vs.98例、59.0%)、sPGA 0(72例、52.9% vs.60例、36.1%)およびsPGA 0/1(110例、82.1% vs.108例、65.1%)が、いずれも有意に高かった(p<0.01)。・TEAEおよび重篤な有害事象(AE)の発現率、ならびに試験中止率は、両群間で差はなかった。・注射部位反応は、イキセキズマブ群がウステキヌマブ群より高頻度であった(22例、16.3% vs.2例、1.2%、p<0.001)。

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クローズドループシステムの人工膵臓、入院中の2型DMに有用/NEJM

 非集中治療下の2型糖尿病(DM)患者において、クローズドループ型インスリン注入システム、いわゆる人工膵臓の使用は、従来のインスリン療法と比較して、低血糖リスクは上昇せず血糖コントロールを有意に改善することを、スイス・ベルン大学のLia Bally氏らが、非盲検無作為化試験で明らかにした。DM患者は、入院すると急性疾患に対する代謝反応の変動、食事摂取の量やタイミングの変化、薬物性の一時的なインスリン感受性の急速な変化などによって、血糖コントロールの目標達成が難しくなることがある。クローズドループ型インスリン注入システムは、1型DM患者において血糖コントロールを改善できるという報告が増えていた。NEJM誌オンライン版2018年6月25日号掲載の報告。人工膵臓と従来のインスリン療法の血糖コントロールを比較 研究グループは、英国とスイスにある第3次病院において、一般病棟に入院中のインスリン療法を必要とする18歳以上の2型DM患者136例を、クローズドループ型インスリン注入システム(人工膵臓)群(70例)と、従来の皮下投与によるインスリン療法を受ける対照群(66例)に無作為に割り付けた。 両群とも、血糖値はAbbott Diabetes Care社の持続血糖測定器(CGM)Freestyle Navigator IIを用いて測定した。人工膵臓群では、インスリン注入は完全に自動化され、CGMの低血糖アラームは63mg/dLに設定された。対照群では、CGMのデータは盲検下で、臨床チームが末梢血の随時血糖測定によりインスリン投与量の調整を行った。 主要評価項目は、最大15日間あるいは退院までの期間における、CGMによる血糖値が目標範囲内(100~180mg/dL)であった時間の割合で、intention-to-treat解析にて評価した。人工膵臓群で血糖コントロールが良好 血糖値が目標範囲内であった時間の割合(平均±SD)は、人工膵臓群65.8±16.8%、対照群41.5±16.9%、群間差は24.3±2.9ポイント(95%信頼区間[CI]:18.6~30.0、p<0.001)で、人工膵臓群が有意に高値であった。また、目標範囲を超えていた時間の割合は、それぞれ23.6±16.6%および49.5±22.8%、群間差は25.9±3.4ポイント(95%CI:19.2~32.7、p<0.001)であった。 平均血糖値は、人工膵臓群154mg/dL、対照群188mg/dLであった(p<0.001)。低血糖(CGMによる血糖値が54mg/dL未満)の期間(p=0.80)や、インスリン投与量(投与量中央値は人工膵臓群44.4単位、対照群40.2単位、p=0.50)に関しては、両群で有意差は認められなかった。 重症低血糖あるいは臨床的に重大なケトン血症を伴う高血糖は、両群ともに発生がみられなかった。

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FFRジャーナルClub 第10回

FFR Journal Clubでは、FFRをより深く理解するために、最新の論文を読み、その解釈を議論していきます。第10回目の今回は、急性心筋梗塞モデルにおいて、局所の心筋ダメージの、責任血管・非責任血管のFFR・微小循環機能に及ぼす影響を検討した論文を読んでみたいと思います。急性心筋梗塞の非責任病変評価におけるFFRの有用性に関しては、種々の報告があります。急性期にも評価可能であるとする報告のほか、心筋梗塞急性期の微小循環障害は、非責任病変にも及び、左室拡張末期圧上昇も相まって、冠血流の低下、ひいては圧較差の減少・FFR値の偽高値を来しうると考察するものまでさまざまです。本研究はその議論に対する1つの考察として行われました。第10回 ST上昇型心筋梗塞におけるFFRLee JM, et al. Influence of Local Myocardial Damage on Index of Microcirculatory Resistance and Fractional Flow Reserve in Target and Nontarget Vascular Territories in a Porcine Microvascular Injury Model. JACC Cardiovasc Interv. 2018; 11: 717-724.Argyrios Ntalianis, et al. Fractional flow reserve for the assessment of nonculprit coronary artery stenoses in patients with acute myocardial infarction. J Am Coll Cardiol Intv. 2010; 3: 1274-1281.麻酔下ヨークシャー豚(体重20〜35kg)モデルを用いた。経大腿動脈アプローチにて7Frガイドカテーテルを左冠動脈に使用した。IVUSにてLAD、LCXの血管径を確認したのち、それぞれの径に合わせて1.5〜2.0mmバルーンを拡張させ狭窄を作成した。Abbott社製圧・温度センサー付きガイドワイヤーを用いて、LADおよびLCXにおけるFFR / IMRを計測した。最大充血惹起においては、血圧低下を招かないようニコランジル2mgの冠動脈内投与を使用した。BaselineのFFR / IMR計測を行ったのち、マイクロスフェア(100μm、105)を、over-the-wire balloon先端からLADに選択的に注入することにより微小循環障害を生じさせた。マイクロスフェアは5回注入し、各注入後にFFR / IMRを計測した。また安静時の圧記録データを抽出し、自動解析アルゴリズムを用いてiFRを計算した。バルーン拡張により作成された狭窄の面積狭窄率area-stenosisは、LAD 48.1%、LCX 47.9%と同等であった。微小循環障害を生じる前のFFRはLAD 0.89±0.01、LCX 0.94±0.01と、LADで有意に低値であった。IMRはLAD 18.4±5.8 U、LCX 17.9±1.2 Uと、有意差は認めなかった。LADへのマイクロスフェア初期容量の注入により、IMRは18.4±5.8 Uから、30.6±6.8 Uと上昇した。またFFR値も0.89±0.01 から、0.93±0.01へ上昇した。マイクロスフェア5回の注入後には、IMRは77.7±15.7 Uまで上昇、FFRも0.98±0.01と著明に上昇した。IMRの上昇は、主にTmn(mean transit time)の増加によるもので、Pd(冠動脈遠位部圧)には変化は見られなかった。また左室拡張末期圧は、投与前5.5±1.1 mmHgから、5回投与後9.7±0.7mmHgと上昇した。画像を拡大する画像を拡大する一方、LCXにおいては、FFR、IMRとも変化を認めなかった。IMR値は、baselineではLADとLCXで同等の値であったが、マイクロスフェア投与後にはLADで有意に高値となった。FFR値に関しては、baselineでは(LAD、LCXの狭窄率は同等であったが)LADの方がLCXより低値を示したが、マイクロスフェア投与後にはLADで有意に高値となった。iFRおよびresting Pd/Paについても観察されているが、LADではFFR同様に増加する傾向が見られたが、その変化は有意なものではなかった。またLCXにおけるiFR、resting Pd/Paは、マイクロスフェア投与後も変化を認めなかった。画像を拡大する画像を拡大する(本論文Supplementary Appendixより引用)考察・私見AMI症例における急性期PCIの際にFFRガイドは使用できるか? この疑問は古くから存在し、FFR初期にも多くの研究がなされている。心筋梗塞領域では、急性期には微小血管塞栓・破綻、心筋浮腫・出血など、多くの要因から冠動脈ステント治療後にも冠血流が阻害されている。その最も高度な状況がNo-flow現象である。冠血流が低下すると、冠動脈狭窄部における圧損失は減少し、FFR値は上昇する。完全なNo-flowの状態では、高度狭窄が残存していても、FFR値はほぼ1.0となる。その微小循環障害の影響がどの程度存在するかは、心筋側の要素も大きいため、予測が困難であることから、梗塞責任血管においては、FFRは使用できない。一方、STEMI症例における非梗塞責任血管の狭窄評価にFFRは適応できるのか? 心筋梗塞発症の基となる微小血管機能障害は、梗塞血管のみならず非梗塞責任血管にも存在している、という報告もある(Uren NG, et al. N Engl J Med. 1994;331:222-227.)。非梗塞責任血管に微小血管機能障害が存在すれば、その程度に応じて最大充血時の冠血流は低下、そのためFFR値では狭窄を過小評価しうることになる。また理論的には、左室拡張末期圧の上昇も冠血流を阻害し、FFR値に影響を及ぼしている可能性がある。これらの因子は、非梗塞責任血管におけるFFR値の偽高値を来しうることになる。しかし、今回の論文では、非梗塞責任血管における微小循環障害の所見は認めず、左室拡張末期圧などの影響も少ないことがわかる。STEMI症例の非梗塞責任血管におけるFFR値の正確性が確認されたことになる。Ntalianisらは、臨床AMI例において、非梗塞責任血管に存在する中等度病変のFFRを、急性期primary PCI直後、慢性期に再評価し比較した。結果、その再現性は高く、急性期の評価も妥当と考えられるものであった。われわれの施設からも8例を登録し、急性期、約30日後に再計測したが、LVEDPが17mmHgから13mmHgへ低下したのに対し、FFR値は4例でまったく一致、残りの4例でも変化は0.02程度であった。最近、DEFINE-FLAIR試験のサブ解析から、ACS症例の非責任血管ではその後のイベント予測にFFRよりもiFRが有用である可能性につき報告された(Gotberg M, et al. J Am Coll Cardiol. 2017;70:1379-1402.)。画像を拡大する画像を拡大する(上記論文より引用)しかし、もともとACS症例においては、非梗塞責任血管に存在する病変も、安定狭心症の病変と比しハイリスクであると考えられている。FFRで見られた差は妥当な範囲とも考えられる。今回読んだ本論文の結果から考察すると、非梗塞責任血管のFFR値は、通常時に計測するものと同等であり、急性期に計測すること自体は問題ないと考えられる。ただし、その治療方針に関しては、急性期の血行動態を考慮し総合的に判断する必要があり、deferした病変においては通常の病変より不安定である可能性を考慮し、慎重な扱いが必要であったことが示唆される。一方、安静時の血流は非梗塞責任血管において多少増加している可能性があり、iFR値は偽低値を示す可能性がある。このことはiFRによりPCI適応を判断すると、通常の安定狭心症に用いた場合よりもover indicationとなる可能性がある。しかし、前述のFLAIRのデータでは、予後の悪化につながっておらず、逆に妥当とも言える結果であった。非梗塞責任血管の安静時血流増加の機序を考えると、梗塞による心機能低下に対し健常部が代償的に過収縮となり、その需要の増大に伴い冠血流が増加していると考えられる。すなわちある程度大きな範囲の梗塞であることが予測され、そのような病態では非責任血管の病変もその後のリスクが高くなり、そのようなハイリスク病変の識別にiFRが有効であった可能性も考えられる。同一症例で、FFR / iFRを計測し、FFR高値、iFR低値と乖離を示す病変の予後を観察する必要があり(FLAIR studyのFFR計測群では、各施設にはブラインドであるが、安静時データからiFRのデータが中央解析されており)、FLAIRのサブ解析が待たれる。

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チオ硫酸Na、シスプラチン誘発難聴予防に有効/NEJM

 標準リスク肝芽腫の小児において、チオ硫酸ナトリウムをシスプラチンによる化学療法終了後に追加投与することで、全生存と無イベント生存に影響することなく、シスプラチン誘発難聴の発生率が低下した。英・Great Ormond Street HospitalのPenelope R. Brock氏らが、シスプラチンによる聴覚障害に対するチオ硫酸ナトリウムの予防効果を検討した評価者盲検無作為化第III相臨床試験(SIOPEL6試験)の結果を報告した。標準リスク肝芽腫の小児に対するシスプラチンと外科手術は有効な治療法であるが、多くの患者に不可逆的な聴覚障害を引き起こすことが知られていた。NEJM誌2018年6月21日号掲載の報告。シスプラチン単独投与とチオ硫酸ナトリウム追加投与で、最小可聴値を評価 研究グループは、2007~14年に12ヵ国52施設において、生後1ヵ月超~18歳未満の標準リスク肝芽腫(肝病変3区域以下、転移なし、α-フェトプロテイン値>100ng/ml)小児116例を登録し、シスプラチン単独投与群(80mg/m2体表面積を6時間以上かけて投与)と、チオ硫酸ナトリウム追加併用投与群(シスプラチン投与終了6時間後に、20g/m2体表面積を15分以上かけて静脈内投与)に無作為に割り付け、いずれも術前4クールおよび術後2クール投与した。 主要評価項目は、最低年齢3.5歳時における純音聴力検査による最小可聴値で、聴覚障害はBrockグレード(0~4、グレードが高いほど聴覚障害が重度)で評価した(中央判定)。主な副次評価項目は、3年全生存および無イベント生存などであった。チオ硫酸ナトリウムの追加投与により、聴覚障害の発生率が半減 登録された116例中113例が無作為化され、不適格症例を除く109例(チオ硫酸ナトリウム追加併用群57例、シスプラチン単独群52例)が解析対象(intention-to-treat集団)となった。 絶対聴覚域値の評価可能症例101例において、Brockグレード1以上の聴覚障害の発生率はチオ硫酸ナトリウム追加併用群33%(18/55例)、シスプラチン単独群63%(29/46例)であり、チオ硫酸ナトリウム追加併用により聴覚障害の発生が48%低下することが確認された(相対リスク:0.52、95%信頼区間[CI]:0.33~0.81、p=0.002)。追跡期間中央値52ヵ月における3年無イベント生存率は、チオ硫酸ナトリウム追加併用群82%(95%CI:69~90)、シスプラチン単独群79%(95%CI:65~88)、3年全生存率はそれぞれ98%(95%CI:88~100)および92%(95%CI:81~97)であった。 重篤な副作用は16例に認められ、このうちチオ硫酸ナトリウムと関連があると判定されたのは8例(Grade3の感染症2例、Grade3の好中球減少2例、Grade3の輸血を要する貧血1例、腫瘍進行2例、Grade2の悪心嘔吐1例)であった。

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世界のがん患者、10年で28%増加/JAMA Oncology

 世界におけるがん患者が2016年までの10年間で28%増加したことを、世界のがんの疾病負担を調査するGlobal Burden of Disease(GBD)studyの研究グループが報告した。一方、平均年齢調整死亡率は世界195の国や地域のうち143で減少したという。JAMA Oncology誌オンライン版2018年6月2日号に掲載。 本研究は、29のがん種について、195の国や地域における年齢・性別ごとのがん罹患率、死亡率、障害生存年数、損失生存年数、障害調整生命年(DALY)を評価。レベルと傾向は社会人口統計学的指標(SDI)別および経時的に分析された。罹患患者における変化は、疫学転換vs人口転換による変化で分類された。世界のがんの平均年齢調整罹患率は増加、平均年齢調整死亡率は減少 主な結果は以下のとおり。・2016年における世界のがん患者は1,720万例、死亡例は890万例であった。・がん患者は2006年から2016年の間に28%増加した。・高SDI諸国では最も増加が小さかった。・世界において、この変化に対する寄与割合は、人口の高齢化が17%、人口の増加が12%、年齢別比率の変化が-1%であった。・世界的に、男性における最も多いがんは前立腺がん(140万例)であった。・がん死亡およびDALYの主因は、気管・気管支・肺がん(死亡120万例、2,540万DALY)であった。・女性では、乳がんが最も多く(170万例)、がん死亡およびDALYの主因であった(死亡53万5,000例、1,490万DALY)。・2016年のがんによるDALYは、男女合わせて世界で2億1,320万DALYであった。・2006~16年において、世界のがん全体の平均年齢調整罹患率は195の国や地域のうち130の国や地域で増加し、平均年齢調整死亡率は195の国や地域のうち143の国や地域で減少した。 GBD studyの結果はすべて、下記サイトで見ることができる。https://vizhub.healthdata.org/gbd-compare/

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侍オンコロジスト奮闘記~Dr.白井 in USA~ 第61回

第61回:ALK-TKIの使い分け、irAEへのステロイド長期使用(視聴者からの質問)キーワード肺がんメラノーマALK-TKIアレクチニブirAE動画書き起こしはこちら音声だけをお聞きになりたい方はこちら //playstopmutemax volumeUpdate RequiredTo play the media you will need to either update your browser to a recent version or update your Flash plugin.こんにちは。ダートマス大学腫瘍内科の白井敬祐です。今日はこのプログラムを見てくださっている方からの質問があるので、お答えしたいと思います。1つ目はALKインヒビターをどのように使っているか、ということなんですけども、J-ALEX、Global ALEX study両方で、アレクチニブのPFSの結果がでたので、アレクチニブを1stラインに使うことが多くなっています。ただ、アレクチニブが効かなくなったときはどうするのかということで、リキッドバイオプシーを使って研究を進めるという話を聞いたことあるんですけど、そこに使われるGUARDANTという会社のキット、ALKインヒビター耐性のさまざまなミューテーションについて結果を出してくるので、それを使うことが多くなっています。リキッド・バイオプシーのメリットとしては、病気が進行したときに、繰り返しできる…やはりティシュー・バイオプシーに比べるとやりやすいということなんですけど、ただコストがかかるので、日本では1回の診断につき1回のみと聞いたことがありますが、アメリカでもそれを何回まで許すか、どこまで保険会社が払ってくれるかというのは、まだはっきりしてないようです。数年前にAlice Shaw先生というMGH(Massachusetts General Hospital)の先生が出した論文でも、そういうものを使うことで、kinaseインヒビターをリサイクルできるということがあったので、刻々と変わってく可能性があるものを追跡するというのは、学問的には非常に興味のあるところです。ただ、耐性のミューテーションに対して、この薬が効くとか効かないとか、今一覧表みたいなものが出てるんですけれども、必ずしもそれでは一概には言えないようなこともあるのでそれがまだ難しいところですね。ローラチニブという薬が今、compassionate use、まだFDAには認可されてないけども、そういう特殊なミューテーションがあった場合にはFDAに手紙を書くことで、使うことが許可されるというような状況になっています。効果があることがわかっている薬を、少しでも早く患者さんに届けようというところでしょうか。実際、イピリムマブでも認可数ヵ月前から使いましたし、キイトルーダもそういう状況にありました。もう1つの質問はirAEですね。Immune relaed adverse eventに対してステロイドを長期に使用することがあるかもしれないですけど、どういったところに注意をするかというご質問をいただいたんですけど、ほとんどのirAEのステロイドというのは、僕の印象では9割5分以上は結局中止できるんですけども、確かに中には多発性筋痛症のような感じの方で、5mgとか10mg程度のプレドニゾロンを長く使われている方はいます。何回も7.5とか5とかにテーパリンしようとすると痛みが強くなって日常生活に支障を来たす方はおられますね。そういう方には、骨粗鬆症も考えてビタミンDとカルシウムを飲んでもらったりしてるんですが、それも実際どの程度効果があるのか、わからないところは多いです。あと、やはりホルモン補充…たとえば甲状腺ホルモンとか、副腎不全になってステロイドの補充が必要という人は、ほとんどの場合、長く補充することが必要なようです。2月24日に、NCCNとASCOの共同のirAEに対するガイドラインが出たことは、以前も紹介させていただいたと思うんですけれども。流れとしては昔に乗り比べると、ステロイドから早めにインフリキシマブなどを使うことが多くなってきている印象はあります。抗炎症薬も、新しいものが出てきているので、消化器の先生と一緒に診ながら、新しいインフリキシマブではない抗炎症薬を使っている患者も数人います。この間アジュバントのニボルマブが認可になったんですけれども、クローン病をアクティブに治療されてる方が、StageIIIのメラノーマで来られて、その方は今ニボルマブとクローン病に対するmab(monoclonal antibody)を併用しながら治療しています。どういう結果になるかは、まだわからないですけれど、StageIVに関しては、自己免疫疾患に対するmabを使いながら、メラノーマに対するmabを使っても抗腫瘍効果があったという報告が、ケースレポートレベルでは出ています。大きな臨床試験グループ、ALLIANCEなどではそういう自己免疫疾患がある患者に対する、抗PD-1抗体あるいは抗PD-L1抗体を使うことに対する臨床試験(正確にデータを取ろうということなんですけど)そういう臨床試験も始まるようです。ハーバードとかスローンケタリングになると、たとえば消化器の先生でもirAEのcolitisといった消化器症状を専門にした、若手の研究者の方がたくさん出てきて(います)。そういうことで臨床の知見、経験値は上がってくるものだと考えています。アレクチニブ、未治療ALK陽性非小細胞肺がんに奏効/NEJMShaw AT,et al.Resensitization to Crizotinib by the Lorlatinib ALK Resistance Mutation L1198F.N Engl J Med.2016;374:54-61

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アジアの小児自閉スペクトラム症の過敏性に対するアリピプラゾールのオープンラベル試験

 アジアの小児および青年(6~17歳)の自閉スペクトラム症の過敏性に対する、アリピプラゾールの有効性および忍容性を調査するため、韓国・蔚山大学校のHyo-Won Kim氏らは、12週間の多国籍多施設オープンラベル試験を実施した。Journal of child and adolescent psychopharmacology誌オンライン版2018年4月24日号の報告。 小児および青年の自閉スペクトラム症患者67例(10.0±3.1歳、男子:52例)を対象に、アリピプラゾールをフレキシブルドーズ(平均投与量:5.1±2.5mg、範囲:2~15mg)で12週間投与を行った。 主な結果は以下のとおり。・アリピプラゾールは、異常行動チェックリストのサブスケールにおいて、過敏性、無気力/引きこもり、常同行動、多動性、不適切な話し方の介護者評価スコアの平均値を、ベースラインから12週目までに有意に減少させた(各々、p<0.001)。・臨床全般印象・重症度スコア(Clinical Global Impression Severity of Illness scale score)も、ベースラインから12週目までに改善した(p<0.001)。・最も多く認められた有害事象は、体重増加であった。また、アリピプラゾールでの治療に関連する重篤な有害事象は認められなかった。 著者らは「本結果より、アジアの小児自閉スペクトラム症の過敏性に対する治療で、アリピプラゾールは、有効かつ忍容性のあることが示唆された。今後は、より大規模なサンプルサイズ、より長期間の研究が求められる」としている。■関連記事日本人自閉スペクトラム症に対するアリピプラゾールの効果は日本人自閉スペクトラム症に対するアリピプラゾールの長期効果は自閉症とADHD症状併発患者に対する非定型抗精神病薬の比較

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2040年のユニバーサル・ヘルス・カバレッジ達成には?/Lancet

 米国・ワシントン大学のJoseph L. Dieleman氏らGlobal Burden of Disease Health Financing Collaborator Networkは、保健医療費、および保健医療費とユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(universal health coverage:UHC)との関連について、将来のシナリオを作成し、すべての国が持続可能な保険財源を持つことが、UHCの達成に重要であることを報告した。UHCの達成には、家計への過度の金銭的負担を強いることなく主要な医療サービスを提供する、保険医療システムが必要とされている。しかし、どのような財源が将来的なUHC達成を可能とするのか、あるいは制限するかについては、明らかになっていなかった。Lancet誌オンライン版2018年4月17日号掲載の報告。188ヵ国の1995~2015年のデータから、2040年までの保健医療費を予測 研究グループは、1995~2015年における188ヵ国の国内総生産(GDP)および保健医療費のデータを抽出し、2015年から2040年までの年間GDP、健康開発支援、および政府財源(一般政府管掌健康保険、社会健康保険)・自己負担支出(サービス提供時点の全費用と自己負担分)・民間前納支出(民間保険と民間公益団体の支出)の保健医療費を推定した基本シナリオを作成した。それぞれの推定値は、主要な人口統計学的および社会経済学的決定要因を変数としたアンサンブルモデルを用いて算出した。 推定値を基に、過去の保健医療費増加率の世界分布に基づいて代替シナリオ(良いシナリオと悪いシナリオ)を作成し、確率フロンティア分析を用いて、保険財源とUHC指標(世界の疾病負担研究[Global Burden of Diseases, Injuries, and Risk Factors Study:GBD]2016で開発された各国のUHCサービス範囲の測定尺度)との関連性を検証した後、将来的なUHCの実績と将来の3つのシナリオ下で保障される人数を推定した。1人当たりの保険財源がUHC達成の可否を握る 基本シナリオでは、世界の保健医療費(米ドル)は、2015年の10兆ドル(95%不確実性区間[UI]:10兆~10兆)から、2040年には20兆ドル(95%UI:18兆~22兆)まで増加すると予測された。 1人当たりの保健医療費は、高中所得国で1年当たり4.2%(95%UI:3.4~5.1)と急増し、続いて低中所得国(4.0%、95%UI:3.6~4.5)、低所得国(2.2%、95%UI:1.7~2.8)の順であった。1人当たりの保健医療費は世界的に増加するが、低所得国は2015年40ドル(95%UI:24~65)から2040年は413ドル(95%UI:263~668)に、低中所得国は140ドル(95%UI:90~200)から1,699ドル(95%UI:711~3,423)に増加するという予測であった。 世界的に、保険財源で賄われる保健医療費の割り当ては、ナイジェリアの19.8%(95%UI:10.3~38.6)から、セーシェルの97.9%(95%UI:94.6~98.5)と、ばらつきは大きいままだと考えられた。 過去のUHC指標達成の実績は、1人当たりの保険財源と有意に相関していた。代替シナリオでは、2030年にはUHCは、51億人(95%UI:49億~53億)~56億人(95%UI:53億~58億)に対して達すると推定された。

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バッド・キアリ症候群〔BCS:Budd-Chiari Syndrome〕

1 疾患概要バッド・キアリ症候群(Budd-Chiari Syndrome:BCS)とは、肝静脈の主幹あるいは肝部下大静脈の閉塞や狭窄により門脈圧亢進症に至る症候群をいう。わが国では両者を合併している病態が多い。重症度に応じ易出血性食道・胃静脈瘤、異所性静脈瘤、門脈圧亢進症性胃腸症、腹水、肝性脳症、出血傾向、脾腫、貧血、肝機能障害、下腿浮腫、下肢静脈瘤、胸腹壁の上行性皮下静脈怒張などの症候を示す1)。■ 概念・定義肝静脈の主幹あるいは肝部下大静脈の閉塞や狭窄により門脈圧亢進症に至る症候群。■ 疫学2004年の年間受療患者数(有病者数)の推定値は、190~360人である(2005年全国疫学調査)。男女比は約1:0.7とやや男性に多い。確定診断時の年齢は、20~30代にピークを認め、平均は約42歳である2)。2013年の門脈血行異常症に関する定点モニタリング調査では、発症時平均年齢が32.2歳、診断時平均年齢が44.7歳であった3)。■ 病因本症の病因は明らかでない例が多く、わが国では肝部下大静脈膜様閉塞例が多い。肝部下大静脈の膜様閉塞や肝静脈起始部の限局した狭窄や閉塞例は アジア、アフリカ地域で多く、欧米では少ない。発生は、アランチウス静脈管の異常をもとに発症するとする先天的血管形成異常説が考えられてきた。最近では、本症の発症が中高年以降で多いこと、膜様構造や肝静脈起始部の狭窄や閉塞が血栓とその器質化によって、その発生が説明できることから後天的な血栓説も考えられている。これに対して欧米では、肝静脈閉塞の多くは基礎疾患を有することが多い。基礎疾患としては、血液疾患(真性多血症、発作性夜間血色素尿症、骨髄線維症)、経口避妊薬の使用、妊娠出産、腹腔内感染、血管炎(ベーチェット病、全身性エリテマトーデス)、血液凝固異常(アンチトロンビンIII欠損症、protein C欠損症)などが挙げられる。多くは発症時期が不明で慢性の経過(アジアに多い)をたどり、うっ血性肝硬変に至ることもあるが、急性閉塞や狭窄により急性症状を呈する急性期のBCS(欧米に多い)もみられる。アジアでは下大静脈の閉塞が多く、欧米では肝静脈閉塞が多い。分類として、原発性BCSと続発性BCSとがある。原発性BCSの病因はいまだ不明であるが、血栓、血管形成異常、血液凝固異常、骨髄増殖性疾患の関与が疑われている。続発性BCSを来すものとしては肝腫瘍などがある。■ 症状BCSは発症形式により急性型と慢性型に分けられる。急性型は一般に予後不良であり、腹痛、嘔吐、急速な肝腫大および腹水にて発症し、1~4週間で肝不全により死の転帰をたどる重篤な疾患であるが、わが国ではきわめてまれである。一方、慢性型は80%を占め、多くの場合は無症状に発症し、次第に下腿浮腫、腹水、腹壁皮下静脈怒張、食道・胃静脈瘤を認める。重症度に応じ易出血性食道・胃静脈瘤、異所性静脈瘤、門脈圧亢進症性胃腸症、腹水、肝性脳症、出血傾向、脾腫、貧血、肝機能障害、下腿浮腫、下肢静脈瘤、胸腹壁の上行性皮下静脈怒張などの症候を示す3)。■ 分類1)病型杉浦らは本症の病型を以下の4つに分類している(図1)4)。図1 BCSの病型画像を拡大する(文献4より引用改変)I型:横隔膜直下の肝部下大静脈の膜様閉塞例、このうち肝静脈の一部が開存する場合をIa、すべて閉塞している場合をIbII型:下大静脈の1/2から数椎体にわたる完全閉塞例III型:膜様閉塞に肝部下大静脈全長の狭窄を伴う例IV型:肝静脈のみの閉塞例出現頻度は各々34.4%、11.5%、26.0%、7.0%、5.1%と報告がある。2)発症形式発症形式により急性型と慢性型に分けられる。上記の症状でも既述したが、急性型は一般に予後不良であり、腹痛、嘔吐、急速な肝腫大および腹水にて発症し、1~4週間で肝不全により死の転帰をたどる重篤な疾患であるが、わが国ではきわめてまれである。一方、慢性型は80%を占め、多くの場合は無症状に発症し、次第に下腿浮腫、腹水、腹壁皮下静脈怒張、食道・胃静脈瘤を認める。わが国においては慢性型が典型例として考えられている。■ 予後慢性の経過をとる場合、うっ血性肝硬変に至る。また、病状が進行すると肝細胞がんを合併することがある。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)■ 診断基準本症は症候群として認識され、また病期により病態が異なることから一般検査所見、画像検査所見、病理検査所見によって総合的に診断されるべきである。確定診断は、造影CTや肝静脈造影による下大静脈・肝静脈閉塞(狭窄)と、肝臓の病理組織学的所見に裏付けされることが望ましい。1)一般検査所見血液検査:1つ以上の血球成分の減少を示す。肝機能検査:正常から高度異常まで重症になるにしたがい、障害度が変化する。内視鏡検査:しばしば上部消化管の静脈瘤を認める。門脈圧亢進症性胃腸症や十二指腸、胆管周囲、下部消化管などにいわゆる異所性静脈瘤を認めることがある。2)画像検査所見(1)超音波、CT、MRI、腹腔鏡検査肝静脈主幹あるいは肝部下大静脈の閉塞や狭窄が認められる(図2)。超音波ドプラ検査では肝静脈主幹や肝部下大静脈流ないし乱流が見られることがあり、また、肝静脈血流波形は平坦化あるいは欠如することがある。脾臓の腫大を認める。肝臓のうっ血性腫大を認める。とくに尾状葉の腫大が著しい。肝硬変に至れば、肝萎縮となることもある。図2 BCSの腹部造影CT(門脈相)像画像を拡大する2A:水平断、2B:冠状断、2C:矢状断。肝部レベルで下大静脈が高度狭窄している(矢印)。肝静脈の3主幹および分枝も閉塞し、造影されない。肝内は粗雑化し、硬変様に変化し、肝表に腹水も見られる。また、肝内に腫瘍性病変も出現している(矢頭)。(2)下大静脈、肝静脈造影および圧測定肝静脈主幹あるいは肝部下大静脈の閉塞や狭窄を認める(図3)。肝部下大静脈閉塞の形態は膜様閉塞から広範な閉塞まで各種存在する。また、同時に上行腰静脈、奇静脈、半奇静脈などの側副血行路が造影されることが多い。著明な肝静脈枝相互間吻合を認める。肝部下大静脈圧は上昇し、肝静脈圧や閉塞肝静脈圧も上昇する。図3 BCSの下大静脈造影像画像を拡大する右大腿静脈からカテーテルを入れて造影した。肝部下大静脈の一部分が完全に狭窄化し、血流がほとんど途絶している。3)病理診断(1)肝臓の肉眼所見急性期のうっ血性肝腫大、慢性うっ血に伴う肝線維化、さらに進行するとうっ血性肝硬変となる。(2)肝臓の組織所見急性のうっ血では、肝小葉中心帯の類洞の拡張が見られ、うっ血が高度の場合には中心帯に壊死が生じる。うっ血が持続すると、肝小葉の逆転像(門脈域が中央に位置し、肝細胞集団がうっ血帯で囲まれた像)や中心帯領域に線維化が生じ、慢性うっ血性変化が見られる。さらに線維化が進行すると、主に中心帯を連結する架橋性線維化が見られ、線維性隔壁を形成し、肝硬変の所見を呈する。■ 重症度分類表に重症度分類を示す。画像を拡大する● 重症度重症度I:診断可能だが、所見は認めない。重症度II:所見を認めるものの、治療を要しない。重症度III:所見を認め、治療を要する。重症度IV:身体活動が制限され、介護も含めた治療を要する。重症度V:肝不全ないしは消化管出血を認め、集中治療を要する。● 付記1.食道・胃・異所性静脈瘤(+):静脈瘤を認めるが、易出血性ではない。(++):易出血性静脈瘤を認めるが、出血の既往がないもの。易出血性食道・胃静脈瘤とは『食道・胃静脈瘤内視鏡所見記載基準(日本門脈圧亢進症研究会)』『門脈圧亢進症取扱い規約(第3版、2013年)』に基づき、F2以上のもの、またはF因子に関係なく発赤所見を認めるもの。異所性静脈瘤の場合もこれに準じる。(+++):易出血性静脈瘤を認め、出血の既往を有するもの。異所性静脈瘤の場合もこれに準じる。2.門脈圧亢進所見(+):門脈圧亢進症性胃腸症、腹水、出血傾向、脾腫、貧血のうち1つもしくは複数認めるが、治療を必要としない。(++):上記所見のうち、治療を必要とするものを1つもしくは複数認める。3.身体活動制限(+):当該3疾患による身体活動制限はあるが歩行や身の回りのことはでき、日中の50%以上は起居している。(++):当該3疾患による身体活動制限のため介助を必要とし、日中の50%以上就床している。4.消化管出血(+):現在、活動性もしくは治療抵抗性の消化管出血を認める。5.肝不全(+):肝不全の徴候は、血清総ビリルビン値3mg/dL以上で肝性昏睡度(日本肝臓学会昏睡度分類、第12回犬山シンポジウム、1981)II度以上を目安とする。6.異所性静脈瘤門脈領域の中で食道・胃静脈瘤以外の部位、主として上・下腸間膜静脈領域に生じる静脈瘤をいう。すなわち胆管・十二指腸・空腸・回腸・結腸・直腸静脈瘤、および痔などである。7.門脈亢進症性胃腸症組織学的には、粘膜層・粘膜下層の血管の拡張・浮腫が主体であり、門脈圧亢進症性胃症と門脈圧亢進症性腸症に分類できる。門脈圧亢進症性胃症では、門脈圧亢進に伴う胃体上部を中心とした胃粘膜のモザイク様の浮腫性変化、点・斑状発赤、粘膜出血を呈する。門脈圧亢進症性腸症では、門脈圧亢進に伴う腸管粘膜に静脈瘤性病変と粘膜血管性病変を呈する。■ 鑑別診断特発性門脈圧亢進症、肝外門脈閉塞症、肝硬変との鑑別を要する。BCSは進行すれば肝硬変に至り鑑別困難になることが多いが、肝静脈や下大静脈の閉塞・狭窄の有無がポイントとなる。閉塞部(狭窄部)を開存させる治療で症状の著明な改善が望まれる。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)肝静脈主幹あるいは肝部下大静脈の閉塞ないし狭窄に対しては臨床症状、閉塞・狭窄の病態に対応して、カテーテルによる開通術や拡張術、ステント留置あるいは閉塞・狭窄を直接解除する手術、もしくは閉塞・狭窄部上下の大静脈のシャント手術などを選択する。急性症例で、肝静脈末梢まで血栓閉塞している際には、肝切離し、切離面-右心房吻合術も選択肢となる。肝不全例に対しては、肝移植術を考慮する。門脈圧亢進の症候に対する治療法は以下のとおりである。■ 食道静脈瘤に対して1)食道静脈瘤破裂による出血中の症例では、一般的出血ショック対策、バルーンタンポナーデ法などで対症的に管理し、可及的速やかに内視鏡的硬化療法、内視鏡的静脈瘤結紮術などの内視鏡的治療を行う。上記治療によっても止血困難な場合は緊急手術も考慮する。2)一時止血が得られた症例では状態改善後、内視鏡的治療の継続、または待期手術、ないしはその併用療法を考慮する。3)未出血の症例では、食道内視鏡所見を参考にして内視鏡的治療、または予防手術、ないしはその併用療法を考慮する。4)単独手術療法としては、下部食道を離断し、脾摘術、下部食道・胃上部の血行遮断を加えた「直達手術」、または「選択的シャント手術」を考慮する。内視鏡的治療との併用手術療法としては、「脾摘術および下部食道・胃上部の血行遮断術(Hassab手術)」を考慮する。■ 胃静脈瘤に対して1)食道静脈瘤と連続して存在する噴門部の胃静脈瘤に対しては、上記の食道静脈瘤の治療に準じた治療によって対処する。2)孤立性胃静脈瘤破裂による出血中の症例では一般的出血ショック対策、バルーンタンポナーデ法などで対症的に管理し、可及的速やかに内視鏡的治療を行う。上記治療によっても止血困難な場合は、バルーン閉塞下逆行性経静脈的塞栓術(balloon-occluded retrograde transvenous obliteration:B-RTO)などの血管内治療や緊急手術も考慮する。3)一時止血が得られた症例では状態改善後、内視鏡的治療の継続、B-RTOなどの血管内治療、または待期手術(Hassab手術)を考慮する。4)未出血の症例では、胃内視鏡所見を参考にして内視鏡的治療、血管内治療、または予防手術を考慮する。5)手術方法としては「脾摘術および胃上部の血行遮断術(Hassab手術)」を考慮する。■ 異所性静脈瘤に対して1)異所性静脈瘤破裂による出血中の症例では、一般的出血ショック対策などで対症的に管理し、可及的速やかに内視鏡的治療を行う。 上記治療によっても止血困難な場合は、血管内治療や緊急手術を考慮する。2)一時止血が得られた症例では状態改善後、内視鏡的治療の継続、血管内治療、または待期手術を考慮する。3)未出血の症例では、内視鏡所見を参考にして内視鏡的治療、血管内治療、または予防手術を考慮する。■ 脾腫、脾機能亢進症に対して巨脾に合併する症状(疼痛、圧迫)が著しいとき、および脾腫が原因と考えられる高度の血球減少(血小板5×104以下、白血球3,000以下、赤血球300×104以下のいずれか1項目)で出血傾向などの合併症があり、内科的治療が難しい症例では、部分的脾動脈塞栓術(partial splenic embolization:PSE)ないし脾摘術を考慮する。4 今後の展望國吉 幸男氏(琉球大学大学院 医学研究科 胸部心臓血管外科学講座)らが行っている直達手術(senning手術)が根治手術として有名であり、好成績をおさめている5,6)。肝移植も有効なことが多いが、ドナーの問題などから、わが国ではあまり行われていない。しかし、根治的治療として今後の期待がかかった治療法といえる。外科治療に至るまでの間に、カテーテル治療による閉塞部拡張術やステント挿入術(経頸静脈的肝内門脈静脈短絡術)が行われることもあり、良好な効果を得ている。5 主たる診療科消化器内科、消化器外科、血管外科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報「難治性の肝・胆道疾患に関する調査研究」(厚生労働科学研究費補助金 難治性疾患政策研究事業) バッド・キアリ症候群(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)1)Moriyasu F, et al. Hepatol Res. 2017;47:373-386.2)廣田良夫ほか. 2005年全国疫学調査. 厚生労働科学研究費補助金 難治性疾患等克服研究事業「門脈血行異常に関する調査研究」平成25年度研究報告書;2013.3)廣田良夫ほか. 門脈血行異常症に関する定点モニタリングシステムの構築. 厚生労働科学研究費補助金 難治性疾患等克服研究事業「門脈血行異常に関する調査研究」平成25年度研究報告書;2013.4)Okuda H, et al. J Hepatol. 1995;22:1-9.5)國吉幸男ほか, 日本心臓血管外科学会雑誌. 1991;20:919-921.6)Pasic M, et al. J Thorac Cardiovasc Surg. 1993;106:275-282.公開履歴初回2018年05月08日

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侍オンコロジスト奮闘記~Dr.白井 in USA~ 第58回

第58回:肺がんのEGFR-TKI、1次治療選択は何?(視聴者からの質問)キーワード肺がんメラノーマ動画書き起こしはこちら音声だけをお聞きになりたい方はこちら //playstopmutemax volumeUpdate RequiredTo play the media you will need to either update your browser to a recent version or update your Flash plugin.視聴者からの質問1「肺がんEGFR-TKI、1次治療は何?」薬剤師さんからご質問をいただいたとのことです。昨年のESMOでオシメルチニブ vs. エルロチニブの1stラインの臨床試験がEGFR陽性肺がんに対して行われました。そこで、PFSが17ヵ月と非常に大きな延長認めたんのすが、アメリカではまだオシメルチニブの1stラインの認可はとれていません。(FDAは2018年4月18日、オシメルチニブの1stラインを認可しました。このビデオは、その前に撮影したものです)ただ、なかには副作用でアファチニブが使えなかったとか、あるいはタルセバを使い出したけど、副作用が強かったという人は、比較的早期にスイッチするような形になってきています。実臨床では、T790Mを証明しなくてもスイッチするようなことが起こってきています。ただ、実際どうなるかというのは、まだわからないですよね。よく僕らが言うのは、Big Gunを先に使う方が良いのか、先にアファチニブ、エルロチニブ、ゲフィチニブを使って、進行してT790Mがある患者、あるいはT790Mがなくても進行した患者に、オシメルチニブを使うほうが良いのか?臨床試験をしないことには結局のところ分からないのですが…僕が興味あるのはオシメルチニブを1stラインで使った患者さんで再発が起こった場合に、どのような治療行われて、どのようなレスポンスであったかということ。まだ発表はされていないようですけれども、興味がありますね。視聴者からの質問2「ALKインヒビターの使い分けは?」ALKインヒビターでは、アレクチニブが、Global ALEX study…日本ではJ-ALEX…クリゾチニブに比べて画期的にPFSを伸ばすということで、アメリカでは認可になっています。それで、ものすごいマーケティング攻勢があって、自宅にも病院のオフィスにも送られてくるいろいろな雑誌があるんですけども、その雑誌の中に袋とじで入ってくることが多いです。ビニール袋の中に、このような販促のパンフレットが入っています。厚紙で非常にしっかりしてるのですが、これを見ると「Alencensa is FDA approved for first-line treatment on ALK positive metastatic non-small cell lung cancer」と。ここには「Category 1 reffered NCCN」NCCNで奨められていると。非常に丁寧でわかりやすいですが、少なくとも、もう10通ぐらい、このような同じものをもらっています。こういうふうに、一度FDAの認可があると、マーケティング攻勢がかけられるという状況です。僕からすると、こういうところに使うお金があったら、ほかのところに使ったほうが、いいんじゃないかな?と思うんですけれども、製薬会社の担当の方に言わせると、こういうOpportunityがあるのに、それを知らないのは、患者さんにとって不利益だと。だから、そういうことがないように、多くの人に知ってもらいたいんだ、といったことを言われます。同じように、PACIFIC trialの結果で、durvalumabがStageIIIの肺がんで化学放射線療法終了後に1年consolidationのような形で使われることが、認可になったのですけど、それもいろいろな販売促進のアピールがなされています。ここら辺が、オプジーボとかキイトルーダのTVコマーシャルが普通に送られてるアメリカと日本の違いだと思います。

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全身性エリテマトーデス〔SLE:Systemic Lupus Erythematosus〕

1 疾患概要■ 概念・定義全身性エリテマトーデス(Systemic Lupus Erythematosus:SLE)は、自己免疫異常を基盤として発症し、多彩な自己抗体の産生により多臓器に障害を来す全身性炎症性疾患で、再燃と寛解を繰り返しながら病像が完成される。全身に多彩な病変を呈しうるが、個々人によって障害臓器やその程度が異なるため、それぞれに応じた管理と治療が必要となる。■ 疫学本疾患は指定難病に指定されており、令和元年(2019年)度末の特定医療費(指定難病)受給者証所持者数は6万1,835件であり、計算上の有病率は10万人中50人である。男女比は1対9で女性に多く、発症年齢は10~30代で大半を占める。■ 病因発症要因として、遺伝的背景要因に加えて、感染症や紫外線などの環境要因が引き金となり、発症することが考えられているが、不明点が多い。その病態は、抗dsDNA抗体を主体とする多彩な自己抗体の出現に加え、多岐にわたる免疫異常によって形成される。自然免疫と獲得免疫それぞれの段階で異常が指摘されており、樹状細胞・マクロファージを含めた貪食能を持つ抗原提示細胞、各種T細胞、B細胞、サイトカインなどの異常が病態に関与している。体内の細胞は常に破壊と産生を繰り返しているが、前述の引き金などを契機に体内の核酸物質が蓄積することで、異常な免疫反応が惹起され、自己抗体が産生され免疫複合体が形成される。そして、それらが各臓器に蓄積し、さらなる炎症・自己免疫を引き起こし、病態が形成されていく。■ 症状障害臓器に応じた症状が、同時もしくは経過中に異なる時期に出現しうる。初発症状として最も頻度が高いものは、発熱、関節症状、皮膚粘膜症状である。全身倦怠感やリンパ節腫脹を伴う。関節痛(関節炎)は通常骨破壊を伴わない。皮膚粘膜症状として、日光過敏症や露光部に一致した頬部紅斑のほかに、手指や四肢体幹部に多彩な皮疹を呈し、脱毛、口腔内潰瘍などを呈する。その他、レイノー現象、腎炎に関連した浮腫、肺病変や血管病変と関連した労作時呼吸困難、肺胞出血に伴う血痰、漿膜炎と関連した胸痛・腹痛、神経精神症状など、さまざまな症状を呈しうる。■ 分類SLEは障害臓器と重症度により治療内容が異なる。とくに重要臓器として、腎臓、中枢神経、肺を侵すものが挙げられ、生命および機能予後が著しく障害される可能性が高い障害である。ループス腎炎は組織学的に分類されており、International Society of Nephrology/Renal Pathology Society(ISN/RPS)分類が用いられている。神経精神ループス(Neuropsychiatric SLE:NPSLE)では大きく中枢神経病変と末梢神経病変に分類され、それぞれの中でさらに詳細な臨床分類がなされる。■ 予後生命予後は、1950年代は5年生存率がおよそ50%であったが、2007年のわが国の報告では10年生存率がおよそ90%、20年生存率はおよそ75%である1)。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)検査所見として、抗核抗体、抗(ds)DNA抗体、抗Sm抗体、抗リン脂質抗体(ループスアンチコアグラント、抗カルジオリピン抗体、β2GPⅠ依存性抗カルジオリピン抗体など)が陽性となる。また、血清補体低値、免疫複合体高値、白血球減少(リンパ球減少)、血小板減少、溶血性貧血、直接クームス陽性を呈する。ループス腎炎合併の場合はeGFR低下、蛋白尿、赤血球尿、白血球尿、細胞性円柱が出現しうる。SLEの診断では1997年の米国リウマチ学会分類基準2)および2012年のSystemic Lupus International Collaborating Clinics(SLICC)分類基準3)を参考に、他疾患との鑑別を行い、総合的に判断する(表1、2)。2019年に欧州リウマチ学会と米国リウマチ学会が合同で作成した新しい分類基準4)が提唱された。今後はわが国においても本基準の検証を元に診療に用いられることが考えられる。画像を拡大する表2 Systemic Lupus International Collaborating Clinics 2012分類基準画像を拡大するループス腎炎が疑われる場合は、積極的に腎生検を行い、ISN/RPS分類による病型分類を行う。50~60%のNPSLEはSLE診断時か1年以内に発症する。感染症、代謝性疾患、薬剤性を除外する必要がある。髄液細胞数、蛋白の増加、糖の低下、髄液IL-6濃度高値であることがある。MRI、脳血流シンチ、脳波で鑑別を進める。貧血の進行を伴う呼吸困難、両側肺びまん性浸潤影あるいは斑状陰影を認めた場合は肺胞出血を考慮する。全身症状、リンパ節腫脹、関節炎を呈する鑑別疾患は、パルボウイルス、EBV、HIVを含むウイルス感染症、結核、悪性リンパ腫、血管炎症候群、他の膠原病および類縁疾患が挙がるが、感染症を契機に発症や再燃をすることや、他の膠原病を合併することもしばしばある。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)SLEの基本的な治療薬はステロイド、免疫抑制薬、抗マラリア薬であるが、近年は生物学的製剤が承認され、複数の分子標的治療が世界的に試みられている。ステロイドおよび免疫抑制薬の選択と使用量については、障害臓器の種類と重症度(疾患活動性)、病型分類、合併症の有無によって異なる。治療の際には、(1)SLEのどの障害臓器を標的として治療をするのか、(2)何を治療指標として経過をみるのか、(3)出現しうる合併症は何かを明確にしながら進めていくことが重要である。SLEの治療選択については、『全身性エリテマトーデス診療ガイドライン2019』の記載にある通り、重要臓器障害があり、生命や機能的予後を脅かす場合は、ステロイド大量投与に加えて免疫抑制薬の併用が基本となる5)(図)。ステロイドは強力かつ有効な免疫抑制薬でありSLE治療の中心となっているが、免疫抑制薬と併用することで予後が改善される。ステロイドの使用量は治療標的臓器と重症度による。ステロイドパルス療法とは、メチルプレドニゾロン(商品名:ソル・メドロール)250~1,000mg/日を3日間点滴投与、大量ステロイドとはプレドニゾロン換算で30~100mg/日を点滴もしくは経口投与、中等量とは同じく7.5~30mg/日、少量とは7.5mg/日以下が目安となるが、体重により異なる6)(表3)。ステロイドの副作用はさまざまなものがあり、投与量と投与期間に依存して必発である。したがって、副作用予防と管理を適切に行う必要がある。また、大量のステロイドを長期に投与することは副作用の観点から行わず、再燃に注意しながら漸減する必要がある。画像を拡大する画像を拡大する寛解導入療法として用いられる免疫抑制薬は、シクロホスファミド(同:エンドキサン)とミコフェノール酸モフェチル(同:セルセプト)が主体となる(ループス腎炎の治療については別項参照)。治療抵抗性の場合、免疫抑制薬を変更するなど治療標的を変更しながら進めていく。病態や障害臓器の程度により、カルシニューリン阻害薬のシクロスポリン(同:サンディミュン、ネオーラル)、タクロリムス(同:プログラフ)やアザチオプリン(同:イムラン、アザニン)も用いられる。症例に応じてそれぞれの有効性と副作用の特徴を考慮しながら選択する(表4)。画像を拡大するリツキシマブは、米国リウマチ学会(American College of Rheumatology:ACR)および欧州リウマチ学会(European League Against Rheumatism:EULAR)/欧州腎臓学会-欧州透析移植学会(European Renal Association – European Dialysis and Transplant Association:ERA-EDTA)の推奨7,8)においては、既存の治療に抵抗性の場合に選択肢となりうるが、重症感染症や進行性多巣性白質脳症の注意は必要と考えられる。わが国ではネフローゼ症候群に対しては保険承認されているが、SLEそのものに対する保険適用はない。可溶型Bリンパ球刺激因子(B Lymphocyte Stimulator:BLyS)を中和する完全ヒト型モノクローナル抗体であるベリムマブ(同:ベンリスタ)は、既存治療で効果不十分のSLEに対する治療薬として、2017年にわが国で保険承認され、治療選択肢の1つとなっている9)。本稿執筆時点では、筋骨格系や皮膚病変にとくに有効であり、ステロイド減量効果、再燃抑制、障害蓄積の抑制に有効と考えられている。ループス腎炎に対しては一定の有効性を示す報告10)が出てきており、適切な症例選択が望まれる。NPSLEでの有効性はわかっていない。ヒドロキシクロロキン(同:プラケニル)は海外では古くから使用されていたが、わが国では2015年7月に適用承認された。全身症状、皮疹、関節炎などにとくに有効であり、SLEの予後改善、腎炎の再燃予防を示唆する報告がある。短期的には薬疹、長期的には網膜症などの副作用に注意を要し、治療開始前と開始後の定期的な眼科受診が必要である。アニフロルマブ(同:サフネロー)はSLE病態に関与しているI型インターフェロンα受容体のサブユニット1に対する抗体製剤であり、2021年9月にわが国でSLEの適応が承認された。臨床症状の改善、ステロイド減量効果が示された。一方で、アニフロルマブはウイルス感染制御に関与するインターフェロンシグナル伝達を阻害するため、感染症の発現リスクが増加する可能性が考えられている。執筆時点では全例市販後調査が行われており、日本リウマチ学会より適正使用の手引きが公開されている。実臨床での有効性と安全性が今後検証される。SLEの病態は複雑であり、臨床所見も多岐にわたるため、複数の診療科との連携を図りながら各々の臓器障害に対する治療および合併症に対して、妊娠や出産、授乳に対する配慮を含めて、個々に応じた管理が必要である。4 今後の展望本稿執筆時点では、世界でおよそ30種類もの新規治療薬の第II/III相臨床試験が進行中である。とくにB細胞、T細胞、共刺激経路、サイトカイン、細胞内シグナル伝達経路を標的とした分子標的治療薬が評価中である。また、異なる作用機序の薬剤を組み合わせる試みもなされている。SLEは集団としてヘテロであることから、適切な評価のためのアウトカムの設定方法や薬剤ごとのバイオマーカーの探索が同時に行われている。5 主たる診療科リウマチ・膠原病内科、皮膚科、腎臓内科、その他、障害臓器や治療合併症に応じて多くの診療科との連携が必要となる。※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報難病情報センター 全身性エリテマトーデス(公費対象)(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)患者会情報全国膠原病友の会(膠原病患者とその家族の会)1)Funauchi M, et al. Rheumatol Int. 2007;27:243-249.2)Hochberg MC, et al. Arthritis Rheum. 1997;40:1725.3)Petri M, et al. Arthritis Rheum. 2012;64:2677-2686.4)Aringer M, et al. Ann Rheum Dis. 2019;78:1151-1159.5)厚生労働科学研究費補助金難治性疾患等政策研究事業 自己免疫疾患に関する調査研究(自己免疫班),日本リウマチ学会(編):全身性エリテマトーデス診療ガイドライン2019.南山堂,2019.6)Buttgereit F, et al. Ann Rheum Dis. 2002;61:718-722.7)Hahn BH, et al. Arthritis Care Res (Hoboken). 2012;64:797-808.8)Bertsias GK, et al. Ann Rheum Dis. 2012;71:1771-1782.9)Furie R, et al. Arthritis Rheum. 2011;63:3918-3930.10)Furie R, et al. N Engl J Med. 2020;383:1117-1128.公開履歴初回2018年04月10日更新2022年02月25日

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1分でわかる家庭医療のパール ~翻訳プロジェクトより 第44回

第44回:CKD(慢性腎臓病)の評価方法監修:表題翻訳プロジェクト監訳チーム 2002 年に米国で提唱されたChronic Kidney Disease(慢性腎臓病:CKD)の概念は、現在、世界中に普及し、日常の外来でも多く遭遇します。厚生労働省「平成26年患者調査の概況」によると、国内のCKD総患者数は29万6,000人(男性18万5,000人、女性11万人)とされています。 今回は、CKDの検出や初期評価に関してまとめましたので、参考にしてみて下さい。なお、国内では「CKD診療ガイド」1)や「エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン」2)が上梓されています。この機会にぜひ併せてご覧ください。 以下、American family physician 2017年12月15日号3)より【CKD定義・重症度分類】本邦指針では、下記の定義が定められている1)。(1)尿異常、画像診断、血液、病理で腎障害の存在が明らか。とくに、0.15 g/gCr 以上の蛋白尿(30 mg/gCr 以上のAlb尿)の存在が重要(2)GFR<60 mL/分/1.73 m2(1)、(2)のいずれか、または両方が3 ヵ月以上持続する。CKDの重症度分類に関しては、2012年KDIGO(Kidney Disease Improving Global Outcomes)において、従来の糸球体濾過量(GFR)のみによる病期分類がGFR と尿蛋白Alb尿を組合せた形式となり、著聞されている通りです。【CKD評価時のClinical recommendation】CKD評価時のClinical recommendationとしては、下記の項目が挙げられている。なお、Evidence RatingはいずれもC(=consensus, disease oriented evidence, usual practice, expert opinion, or case series)である。GFRの初期評価には、血清Cre値と血清Cre値を用いたeGFRを用いるべきである。CKD患者の初期評価における早朝スポット尿のAlb/Cre比は、タンパク尿評価よりも好ましい。血中シスタチンCは、血清Cre値が上昇しているが、既知のCKD、危険因子、Alb尿症も有しない患者において、GFRの減少が偽陽性かどうかを決めるときに測定すべきである。CKDは、eGFRおよびAlb尿症の程度を用いて分類されるべきである。CKDを有する患者は、少なくとも年一回、血清Hb値を測定すべきであり、CKDの重症度でその頻度を増す。骨密度のルーチン評価は、結果が不正確である可能性があるため、eGFR<45mL /分/1.73m2の患者では行わない。ステージ3a~5の CKD(eGFR<45mL /分/1.73m2)の患者評価には、血清Ca、P、副甲状腺ホルモン、ALPおよび25‐ヒドロキシビタミンD値の測定が含まれるべきである。【CKDを疑う際の初期診断アプローチ】下記の表を参考に、CKDのリスクや病因を評価する。※本内容は、プライマリケアに関わる筆者の個人的な見解が含まれており、詳細に関しては原著を参照されることを推奨いたします。 1) 社団法人 日本腎臓学会編「CKD診療ガイド2012」 2) 社団法人 日本腎臓学会編「エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2013」 3) Gaitonde DY, et al. Am Fam Physician. 2017 Dec 15.

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FFRジャーナルClub 第9回

FFRジャーナルClubでは、FFRをより深く理解するために、最新の論文を読み、その解釈を議論していきます。第9回目の今回は、PCI手技中のバルーン拡張による冠動脈閉塞解除後の反応性充血が、薬剤による最大充血とほぼ同等の効果が得られることを、岐阜ハートセンターの川瀬 世史明先生が報告されましたので、その論文を読んでみたいと思います。第9回 古くて新しいバルーン拡張によるFFR測定ステント後のFFRは、ステントの圧着・拡張状態のみならず、同一血管内の残存病変の重症度を反映しており、その後の予後予測において有用な情報を与えてくれる。しかしステント後にプレッシャーワイヤーを挿入し、さらに最大充血を惹起する薬剤(アデノシン/ATP)を投与することは時間的・経済的な障壁となり、ステント後FFRはあまり計測されていないのが現状といえる。そこで、バルーン拡張により虚血を惹起し、その解除後の反応性充血状態によりFFRを計測する手法を用いることにより、容易にFFR計測が可能となると考え、その妥当性につき検討された。Kawase Y, et al. Postocclusional hyperemia for fractional flow reserve after percutaneous coronary intervention. Circ Cardiovasc Interv. 2017 Dec;10:e005674.対象は2016年3〜8月にFFR計測を行った102例のうち、急性冠症候群、CTO、左主幹部病変、ATPが使用できなかった症例(気管支喘息、徐脈のため)を除外した98症例98病変。プレッシャーワイヤーはOpsens社製OptoWireを用いた。その後のPCI手技においてはプレッシャーワイヤーをそのままregular wireとして用いた。IVUSガイド下に第2世代薬剤溶出ステントを留置し、良好な拡張が得られたことが確認された時点で、Post-PCI FFRを計測した。balloon occlusionによるFFR(FFRoccl)計測法としては、バルーンをステント内で12気圧60秒拡張した。バルーン拡張中の圧(wedge pressure)を、拡張30秒の時点で計測した。60秒にてバルーン拡張終了後、素早くバルーンをガイディングカテーテル内まで引き込み、カテ内を生食にてフラッシュし、ガイディングカテーテルを冠動脈入口部より外した状態でFFRocclを計測した。計測手技に要する時間、最大充血状態の持続時間も計測された。その後、塩酸パパベリン冠注によりFFRを計測(FFRpap)、さらにATP 150μg/min/kgの静注によりFFRを計測した(FFR-ATP)。計測に伴う副作用としては、塩酸パパベリンによるVT 2例(2%)、VF 1例(1%)、ATPによる房室ブロック2例(2%)を認めた。低血圧(大動脈平均圧60mmHg以下)は、塩酸パパベリンで5%、ATPで6%、バルーン閉塞で1%に認めた。それぞれの手法により計測されたFFR値は、お互い非常に良好な相関関係を認めた。画像を拡大する最大充血の持続時間は、FFRocclのほうが、FFRpapよりも長かった(70±22 vs.51±25sec、p<0.01)。ただし、得られる最大充血持続時間には多少のばらつきを認めた。画像を拡大する計測時の血行動態変化としては、塩酸パパベリン、ATPで有意に大動脈圧が低下したのに対して、バルーン閉塞は血圧の変動を認めなかった。心拍数は3手法とも有意な変動を認めなかった。FFRを用いた研究に関するよもやま話冠動脈に冠血流を一定に保つ自己調節能auto-regulationが存在すること、その調節の主体が抵抗血管(微小血管)に存在すること、冠血流を完全に遮断し虚血を生じると、その後虚血を補うよう血流の増加がみられること、その血流の増加は虚血時間が20秒以上となると最大となり、それ以上の虚血時間では充血状態の持続時間が長くなること、これら冠循環を理解するための基礎的事項はすべて1960年代を中心に基礎・動物実験が数多く行われ証明されてきた。その後Gouldにより冠血流予備能(Coronary Flow Reserve:CFR)の概念が提唱され、臨床での最大充血惹起が必要となったため、血流遮断の代替手段として薬物投与による手法が導入されてきた。バルーンにより血流遮断を生じれば、その後最大充血を惹起しうることは、当然の現象といえるのだが、実際にそれを記録するためには圧センサーの性能(ドリフトの問題)、プレッシャーワイヤーのワイヤーとしての性能、PTCAバルーンの扱いにくさ、術者の手技自体の問題など、多くの障害が存在し、その単純であるが確実な最大充血惹起の手法は行われることはほとんどなかった。今回PCIデバイス・手技の進歩に加え、プレッシャーワイヤーの大きな革新が生まれたことにより、この古くて新しい“バルーン拡張によるFFR計測”という手法が報告された。すなわち、圧計測が今まで圧トランスデューサーを用いていたのに対し、このOptoWireは最新の光センサーを用いている。これにより測定圧のドリフトが減少し、手技の最中に何度も着脱を繰り返しても、正確な計測が可能となった。またワイヤー自身の操作性も向上し、その意味でもPCI用のworkhorse wireとして使うことが可能となった点も大きい。計測時にワイヤーを入れ直す煩雑さがなくなり、手技中・手技後の計測を容易にした。今回の報告では、塩酸パパベリンやATP静注と比べて、薬剤投与による副作用が少なく、安全であることが示された。60秒の拡張を行うことにより、塩酸パパベリンと同等以上の充血持続時間が得られるため、圧引き抜き記録も可能と考えられる。ただしその持続時間には大きなばらつきがあり、引き抜き記録を行う際には注意が必要である。著者も考察内で述べているが、側副血行血流の存在が、バルーン拡張中の虚血状態に影響を及ぼしうるため、本研究結果にも影響しうる。冠動脈wedge pressureが計測されているが、18±11mmHgとやや高めの症例が含まれていることがうかがわれる。すなわち、ある程度の側副血流を受けている症例が含まれていると考えられる。wedge pressureなどの指標から、惹起される充血持続時間を推測することが可能となれば、より使いやすい方法論になると思われる。20年前プレッシャーワイヤーが導入された初期の時代にも、wedge pressureや拡張手技前後の圧測定のさまざまな研究が行われていたが、圧センサーの正確性の問題から実臨床での応用にはなかなかつながらなかった。しかし、ワイヤーの技術的革新がなされた今となっては、また多くの研究をリバイバルさせる意味があると思われる。文献検索を90年代までさかのぼるとヒントが見つかるかもしれない。

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TNF受容体関連周期性症候群〔TRAPS:Tumor necrosis factor receptor-associated periodic syndrome〕

1 疾患概要■ 概念・定義TNF受容体関連周期性症候群(Tumor necrosis factor receptor-associated periodic syndrome:TRAPS)は、常染色体優性形式をとる家族性の周期性発熱・炎症疾患である。本疾患は1982年にWilliamsonらが再発性の発熱、皮疹、筋痛、腹痛を呈するアイルランド/スコットランドの1家系を見いだし、“familial Hibernian fever”として報告したことに始まる。1999年にMcDermottらが1型TNF受容体の遺伝子変異が本疾患の原因であることを報告し“TRAPS”と命名した1)。その論文において、自己炎症という新しい疾患概念が提唱された。TRAPSは自己炎症疾患(autoinflammatory disease)の代表的疾患であり、自己抗体や自己反応性T細胞によって生じる自己免疫疾患(autoimmune disease)とは異なり、自然免疫系の異常によって発症すると考えられている。本症は2015年1月1日より医療費助成対象疾患(指定難病、小児慢性特定疾病)となった。■ 疫学欧米人、アジア人、アフリカ系アメリカ人などさまざまな人種において、まれな疾患として報告されている。「TNF受容体関連周期性症候群(TRAPS)の病態の解明と診断基準作成に関する研究」研究班(研究代表者:堀内孝彦[九州大学] 平成22-24年度 厚生労働省)が行った全国調査では、わが国には少なくとも33家系51例の患者がいることが明らかになった2)。■ 病因1型TNF受容体遺伝子(TNFRSF1A)の変異で生じる。1型TNF受容体は455個のアミノ酸より構成され、細胞外ドメインの4つのCRD(cysteine-rich domain)と細胞膜貫通部、細胞内ドメインと細胞内のDD(death domain)という特徴的な構造を持っている。TRAPSで報告されている変異のほとんどはCRD1とCRD2をコードしているエクソン2-4の単一塩基ミスセンス変異である。なかでもタンパクの高次構造に重要な働きをしているジスルフィド(S-S)結合を形成するシステイン残基の変異が多い。これらの変異がTRAPSの病態形成にいかに関与するかは、いくつかの仮説が提唱されてきた。現時点では次のように考えられている。高次構造の異常によるmisfolding(タンパク質の折り畳みの不良)のため、変異1型TNF受容体は細胞表面へ輸送されずに小胞体内に停滞する。小胞体内の変異1型TNF受容体は、ミトコンドリアからのROS産生を介して細胞内のMAPキナーゼ脱リン酸化酵素を阻害することにより、定常状態でのMAPキナーゼを活性化状態にする。これだけでは炎症性サイトカイン産生の誘導は起こらないが、細菌感染などでToll様受容体からのシグナルが加わることにより、IL-1、IL-6、TNFなどの炎症性サイトカイン産生誘導が起こると考えられる。また、マクロファージなどのTNF産生細胞では、片方の対立遺伝子由来の正常なTNF受容体からのシグナルにより、炎症がパラクライン的に増幅されると考えられる3)。■ 症状TRAPSは常染色体優性の遺伝形式をとり、典型的な変異を示すものでは浸透率は85%以上と高い。発症年齢は同一家族内でも一定ではなく、乳児期から成人期に至るまで幅広い。症状の種類については2002年にHullらが提案したTRAPS診断指針を参照いただきたい(表1)4)。発作時には、38℃以上の発熱はほぼ必発であり、それに加えて腹痛、筋痛、皮疹、結膜炎、眼窩周囲浮腫、胸痛、関節痛などの随伴症状をともなう。わが国のTRAPS患者での個々の症状の頻度を表2に示す2)。表1 TRAPS診断指針1. 6ヵ月を超えて反復する炎症症状によるエピソードの存在(いくつかは同時にみられることが一般的)(1)発熱(2)腹痛(3)筋痛(移動性)(4)皮疹(筋痛を伴う紅斑様皮疹)(5)結膜炎・眼窩周囲浮腫(6)胸痛(7)関節痛、あるいは単関節滑膜炎2. エピソードの持続期間が(エピソードごとにさまざまだが)平均して5日を超える3. ステロイドに反応するがコルヒチンには反応しない4. 家族歴あり(いつも認められるとは限らない)5. どの人種、民族でも起こりうる画像を拡大する1)発熱最も特徴的でありTRAPSを疑うきっかけになる。1ヵ月~数ヵ月の間隔で不規則に繰り返す。発熱の期間は通常1~4週間であることが多く、平均21日程度である。2)腹痛日本人の頻度は欧米人に比べて少ない。腹膜炎や腸炎、腹壁の筋膜炎によって生じる。嘔気や便秘を伴うこともある。3)筋痛原因は筋炎というよりも筋膜炎と考えられている。症状は通常1ヵ所に起こり、発作期間中に寛解と増悪を繰り返す。4)皮疹(図1A)遠心性に移動性の紅斑であり筋痛の位置に一致することも多い。熱感と圧痛を有し、自然消退する。5)結膜炎・眼窩周囲浮腫(図1B)片側性または両側性の結膜炎、眼窩周囲浮腫、眼窩周囲痛が発作期間中に出現する。6)胸痛胸膜炎や胸壁の筋膜炎による症状である。7)関節痛非破壊性、非対称性で下肢の大関節に起きることが多い。画像を拡大する■ 予後TRAPSの長期予後については不明な点が多いが、経過とともに症状が増悪していく症例も、軽症化していく症例もみられる。長期的な経過では、ステロイド治療の副作用や、アミロイドーシスの合併が問題となる。欧米ではアミロイドーシスは10%の合併頻度であるが、わが国の全国調査ではアミロイドーシス合併例の報告はない。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)2002年、Hullらは症状、家族歴などから構成される「TRAPS診断指針」を発表したが、これは診断基準ではなく、遺伝子検査の適応を判断するための指針であった(表1)。TRAPS診断のgold standardは遺伝子検査である。疾患関連性が明確なTNFRSF1A遺伝子異常は、CDR1、CDR2のシステインの変異、T50M変異などである。これらが認められれば診断は確定する。その一方で、病的意義の明らかではない多型も存在する。その代表は、欧米ではP46LとR92Qである。これらは欧米の健常人の数%に認められるため、病的意義について議論がある。P46LとR92QのTRAPSは浸透率が低く、軽症で予後が良い。わが国ではT61Iが最も多くのTRAPS患者から報告されているが、健常人にも約1%の対立遺伝子頻度で認めるため病的意義については議論がある6)。TNFRSF1A遺伝子異常のリストは、INFEVER websiteで参照できる。「自己炎症疾患とその類縁疾患に対する新規診療基盤の確立」研究班(研究代表者:平家俊男[京都大学]平成24-26年度 厚生労働省)では、前述の厚生労働省堀内班の研究結果を踏まえてTRAPS診療フローチャートを作成した。この診断フローチャートは、指定難病、小児慢性特定疾病の診断基準として利用されている(図2)。6ヵ月以上の炎症兆候の反復を必須条件とし、家族歴などの補助項目を満たす場合に遺伝子検査を推奨している。最終的な診断は遺伝子検査による。遺伝子検査結果の解釈は専門家への相談が必要である。画像を拡大する2015年、ヨーロッパの小児リウマチ学会(Paediatric Rheumatology International Trials Organisation:PRINTO)は、ヨーロッパを中心とした自己炎症症候群患者のデータベース(Eurofever registry)のデータを元に、家族性地中海熱、メバロン酸キナーゼ欠損症、クリオピリン関連周期熱症候群、TRAPSの予備的臨床的診断基準を作成し発表した(表3)7)。作成にあたり遺伝子検査で診断が確定した患者がgold standardとされた。TRAPSのP46LとR92Qのような浸透率の低い遺伝子異常や疾患関連性が不明な遺伝子異常は除外された。陰性対照群としてPFAPA症候群を加えた5疾患の患者群の臨床所見について多変量解析が行われ、各疾患を区別する項目が抽出され、そして、各項目をスコア化して診断基準が作成された。診断基準の適用については、感染症や他のリウマチ性疾患などを除外していることが重要な前提条件である。この予備的臨床的診断基準は、遺伝子検査の適応の判断や、疾患関連性が不明な遺伝子異常を有する患者の診断において参考にできる。将来的には、検査値や遺伝子検査と組み合わせた診断基準の作成が期待される。画像を拡大する症状は典型的な有熱性エピソードに関連してなければならない(感染症などの併存疾患を除外する)。†:末梢側へ向かって移動する紅斑であり、最も典型的には筋痛の部位を覆い、通常四肢または体幹に生じる。‡:東地中海:トルコ人、アルメニア人、非アシュケナージ系ユダヤ人、アラブ人  北地中海:イタリア人、スペイン人、ギリシャ人略称FMF:家族性地中海熱 MKD:メバロン酸キナーゼ欠損症 CAPS:クリオピリン関連周期熱症候群 TRAPS:TNF受容体関連周期性症候群■ 検査本症に疾患特異的なバイオマーカーはない。発作時に血沈、CRP、フィブリノゲン、フェリチン、血清アミロイドA蛋白などの急性期反応物質の増加が認められる。好中球の増加、慢性炎症に伴う小球性低色素性貧血、血小板の増加なども認められる。これらの検査値は発作間欠期にも正常ではないことがある。筋症状があっても、CK、アルドラーゼの上昇は認められない。最も重篤な合併症であるアミロイドーシスでは腎病変の頻度が高く、蛋白尿が認められるため、早期発見のために定期的な尿検査が推奨される。血清中の可溶型1型TNF受容体濃度の低値が特徴的とされていたが、TRAPSに特異的な所見とはいえず診断的意義は乏しいと考えられる。■ 鑑別診断ほかの周期性発熱を呈する疾患が挙げられる。ただし、筋痛や腹痛などが前景に立ち高熱が認められない症例、炎症性エピソードが周期的(反復性)ではなく慢性的に持続する患者などでもTRAPSの可能性はある。具体的には、家族性地中海熱、メバロン酸キナーゼ欠損症、クリオピリン関連周期熱症候群などの自己炎症疾患や全身型若年性特発性関節炎、成人スティル病、ベーチェット病などが鑑別に挙がる。TRAPS様症状の家族歴は、遺伝子異常の存在を予測する最も重要な因子である。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)前述したわが国のTRAPS診断フローチャートに、治療(TRAPS診療の推奨)についての記述がある(表4)。また、2015年にPRINTOからTRAPSを含む自己炎症疾患の診療に関するエビデンスに基づいたレコメンデーションが発表された(表5)。発作時の短期的なNSAIDsもしくはステロイド投与が基本治療である。発作が軽症で頻度も年1、2回などと少ない場合、NSAIDsによる症状緩和のみでも対応可能である。わが国の診断フローチャートにある、経口プレドニゾロン(PSL)1mg/kg/日で開始し7~10日で減量・中止する方法(表4)は、HullらがTRAPS診断指針を発表した論文で推奨した方法である。留意事項に記載されているとおり、必要なステロイドの投与量や期間は、症例毎に、また同一症例でも発作ごとに異なり、状況に応じて判断していく必要がある。ステロイドは、当初効果があった症例でも次第に効果が減弱し、増量や継続投与を強いられる場合がある。重度の発作が頻発する場合、追加治療としてTNF阻害薬のエタネルセプト(商品名:エンブレル)とIL-1阻害薬カナキヌマブ(同:イラリス)が推奨されている。エタネルセプトは受容体製剤であるが、同じTNF阻害薬でも抗体製剤であるインフリキシマブ(同:レミケード)とアダリムマブ(同:ヒュミラ)はTRAPSで著しい増悪を起こした報告があり使用が推奨されない。また、エタネルセプトもステロイドと同様に効果が減弱するとの報告がある。PRINTOのレコメンデーションは、IL-1阻害薬の推奨度をより高く設定し、欧州医薬品庁(European Medicines Agency:EMA)は、TRAPSに対するIL-1阻害薬のカナキヌマブの使用を認可している。わが国でも2016年12月にカナキヌマブがTRAPSに対して適応が追加された。画像を拡大する表5 TRAPS診療の推奨画像を拡大するL:エビデンスレベル1B(randomised controlled study)、2A(controlled study without randomisation)、2B(quasi-experimental study)、3(descriptive study)、4(expert opinion)S:推奨の強さA(based on level 1 evidence)、B(based on level 2 or extrapolated from level 1)、C(based on level 3 or extrapolated from level 1 or 2)、D(based on level 4 or extrapolated from level 3 or 4 evidence)略称TRAPS:TNF受容体関連周期性症候群 MKD:メバロン酸キナーゼ欠損症 CAPS:クリオピリン関連周期熱症候群4 今後の展望TRAPSは国内の推定患者数が数十例の極めてまれな疾患だが、不明熱の診療などで鑑別疾患に挙がることは少なくない。TRAPS様症状の家族歴があるときには遺伝子検査が診断に最も有用であるが、保険適用はなく施行できる施設も限られており、容易にできる検査とは言い難い。日本免疫不全・自己炎症学会では、TRAPSを含めた関連疾患の遺伝子検査の保険適用を将来的に目指した検討を進めている。5 主たる診療科小児科、膠原病内科、血液内科、感染症内科、総合診療科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療研究情報INFEVER website(医療従事者向けのまとまった情報)一般社団法人日本免疫不全・自己炎症学会(医療従事者向けのまとまった情報)1)McDermott MF, et al. Cell. 1999;97:133-144.2)Ueda N, et al. Arthritis Rheumatol. 2016;68:2760-2771.3)Simon A, et al. Proc Natl Acad Sci USA. 2010;107:9801-9806.4)Hull KM, et al. Medicine (Baltimore). 2002;81:349-368.5)Lachmann HJ, et al. Ann Rheum Dis. 2014;73:2160-2167.6)Horiuchi T. Intern Med. 2015;54:1957-1958.7)Federici S et al. Ann Rheum Dis. 2015;74:799-805.公開履歴初回2018年03月27日

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心房細動と認知症リスク~1万3千人を20年追跡

 これまでに心房細動(AF)と認知機能低下および認知症との関連が報告されている。しかし、これらの研究は追跡期間が限られ、ほとんどが白人や選択された集団に基づいており、また認知機能の減衰を考慮していなかった。今回、ミネソタ大学のLin Y. Chen氏らは、ARIC(Atherosclerosis Risk in Communities)研究において、認知機能の20年間の変化(減衰を考慮)および認知症発症との関連を評価した。その結果、虚血性脳卒中と関係なく、AFが認知機能のより大きな低下や認知症リスクの増加と関連することが示された。Journal of the American Heart Association誌2018年3月7日号に掲載。 本研究(ARIC-NCS:ARIC Neurocognitive Study)は、1万2,515人の参加者(1990~92年における平均年齢:56.9歳[SD:5.7歳]、女性56%、黒人24%)の1990~92年から2011~13年までのデータを分析。AF発症は心電図検査と退院コードで確認した。認知テストは、1990~92年、1996~98年、2011~13年に実施し、認知症発症は臨床医の判断とした。AFと認知テストにおけるZ scoreの変化および認知症発症との時間依存性の関連について、一般化推定方程式(GEE)とCox比例ハザードモデルを用いて評価した。 主な結果は以下のとおり。・20年間に2,106人がAFを発症し、1,157人が認知症を発症した。・虚血性脳卒中などの心血管リスク因子を調整後、global cognitive Z scoreの20年にわたる低下の平均は、AFがない参加者よりAFのある参加者のほうが大きく、0.115 (95%CI:0.014~0.215)であった。MICE(連鎖方程式による多変量補定)により減弱を調整すると、関連はさらに強くなった。・さらに、虚血性脳卒中を含む心血管リスク因子について調整すると、AF発症は認知症リスクの増加と関連していた(ハザード比:1.23、95%CI:1.04~1.45)。 著者らは、「認知機能低下は認知症の前段階であるため、この結果から、AF患者の認知機能低下を遅らせ、認知症を予防するAFの治療法を調べるために、さらなる調査が推進される」としている。

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