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2017年の世界のがん患者2,450万例、がん死960万例/JAMA Oncol

 世界におけるがん罹患、がん死の詳細な現状と格差をもたらす要因が明らかにされた。世界のがん疾病負荷(Global Burden of Disease Cancer:がんGBD)共同研究グループが、1990~2017年における29種のがんについて調べ、世界・地域・国別のがん罹患率や死亡率などを発表。がんGBDは国によって大きくばらつきがあり、背景にはリスク因子曝露、経済、生活習慣、治療アクセスやスクリーニングの差があることが示されたという。JAMA Oncology誌オンライン版2019年9月27日号掲載の報告。 研究グループは、がん対策計画に必要なデータを提供するため、1990~2017年の195ヵ国29種のがんについてがん負荷の実態を明らかにした。GBD研究評価方法を用いて、がん罹患率、死亡率、障害生存年数(YLD)、損失生存年数(YLL)、および障害調整生存年数(DALY)を算出。結果は、国別、社会人口統計指標(SDI)別、複合指標(収入、教育レベル、合計特殊出生率)別に示した。また、がん罹患への疫学的な影響と人口転換(多産多死型から多産少死型へ、さらに少産少死型へと変化すること)の影響の比較も行った。 主な結果は以下のとおり。・2017年において、がん罹患は世界で2,450万例(非メラノーマ皮膚がん[NMSC]を除外すると1,680万例)、がん死は960万例であった。・2017年において、男性で最も多く発症したがん種はNMSC(430万例)で、次いで気管・気管支・肺(TBL)がん(150万例)、前立腺がん(130万例)であった。また、死亡およびDALYが最も高値であったのはTBLがん(死亡130万例、2,840万DALYs)で、次いで肝がん(死亡57万2,000例、1,520万DALYs)、胃がん(死亡54万2,000例、1,220万DALYs)であった。・女性で最も多く発症したがん種はNMSC(330万例)で、次いで乳がん(190万例)、大腸がん(81万9,000例)であった。また、死亡およびDALYが最も高値であったのは乳がん(死亡60万1,000例、1,740万DALYs)で、次いでTBLがん(死亡59万6,000例、1,260万DALYs)、大腸がん(死亡41万4,000例、830万DALYs)であった。

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乳がんとNAFLDの意外な関連

 乳がんは女性で最も頻度の高いがんであり、主な死亡原因である。そして、非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)は世界中で急速に増加している。この2つの疾患は密接に関連する可能性が高いが、有病率や予後への影響についての詳細な報告は少ない。今回、韓国・高麗大学校のYoung-Sun Lee氏らは、NAFLDは乳がん患者に高頻度で発症すること、またNAFLDは乳がん手術後の再発率を高める可能性があることを示した。大規模後ろ向きコホート研究による報告で、Medicine(Baltimore)誌2019年9月号に掲載された。 研究グループは、2007年1月~2017年6月の間に新たに乳がんと診断された1,949例を本試験に登録した。男性患者、ほかに活動性腫瘍を有する患者、検証不能な脂肪肝患者、追跡不能となった患者などは、本試験から除外した。 脂肪肝は腹部単純コンピュータ断層撮影(CT)スキャンにより評価した。肝臓と脾臓のCT値をそれぞれ3回測定し、肝臓の平均CT値が40 Hounsfield Unit(HU)以下だった場合、または肝臓と脾臓の平均CT値の差が10 HU以下だった場合に、NAFLDと診断した。対照として123人の健康成人も評価した。 乳がん患者におけるNAFLDの有病率は15.8%(251/1,587)と、健康対照者(8.9%、11/123)より有意に高かった(p=0.036)。 NAFLDの有無によって、乳がん患者の全生存率に有意差はなかった(p=0.304)。一方、乳がんの無再発生存率は、NAFLDなしの群でNAFLDありの群よりも有意に高かった(p=0.009)。NAFLDは、乳がん治癒手術後の再発に対する有意な危険因子であった(HR:1.581、95%CI:1.038~2.410、p=0.033)。 これらの結果から研究グループは、乳がん患者の管理においてNAFLDの診断的評価は重要であると述べている。

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潰瘍性大腸炎、非侵襲性マーカーに新知見

 潰瘍性大腸炎(UC)において、内視鏡検査は侵襲的であり、症状を悪化させることもある。そのため、代わりとなる信頼性の高い非侵襲性マーカーが求められてきた。今回、韓国・釜山大学校のDae Gon Ryu氏らは、糞便マーカーである便中カルプロテクチン(Fcal)と免疫学的便潜血検査(FIT)がUCの内視鏡的活動度とよく相関することを確認した。また、便中カルプロテクチンは内視鏡的活動度の予測、免疫学的便潜血検査は粘膜治癒の予測に有用である可能性が示された。Medicine(Baltimore)誌2019年9月号に掲載された報告。 試験期間は2015年3月~2018年2月まで。期間中に、大腸内視鏡検査、便中カルプロテクチン、免疫学的便潜血検査を受けたUC患者128例から得た合計174件の結果を、後ろ向きに評価した。このうち、診断不明の6件、内視鏡検査日に糞便検体未提出の15件は除外された。 評価した項目は、各糞便マーカーと内視鏡的活動度の相関および予測精度、粘膜治癒を評価するうえでの各糞便マーカーの感度、特異度、陽性/陰性的中率であった。内視鏡的活動度はMayo内視鏡スコア(MES)、内視鏡的重症度指数(UCEIS)の両方により評価し、予測精度はROC曲線下面積(AUC)により評価した。また、MES 0かつUCEIS 0~1を粘膜治癒と定義した。 各糞便マーカーと内視鏡的活動度は、いずれも統計的に有意な相関を示した(MES Fcal:r=0.678、p<0.001、FIT:r=0.635、p<0.001、UCEIS Fcal:r=0.711、p<0.001、FIT:r=0.657、p<0.001)。 便中カルプロテクチンは免疫学的便潜血検査より、内視鏡的活動度の予測精度で統計的に優れていた(MES AUC:0.863 vs.0.765、p<0.001、UCEIS AUC:0.847 vs.0.757、p<0.001)。一方、粘膜治癒を評価する感度は、免疫学的便潜血検査のほうが便中カルプロテクチンよりも優れていた(MES:98.0% vs.78.4%、UCEIS:94.9% vs.74.6%)。 これらの結果から研究グループは、便中カルプロテクチンは、活動期のUC患者において粘膜病変の活動性および治療反応性評価に使用できる可能性があり、免疫学的便潜血検査は、粘膜治癒後のUC患者において、再発モニタリングに使用できる可能性がある、との見解を示した。

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大手術時の麻酔深度、1年死亡率と関連する?/Lancet

 大手術後の合併症リスクが高い患者において、浅い全身麻酔は深い全身麻酔と比較して1年死亡率を低下しないことが示された。ニュージーランド・Auckland City HospitalのTimothy G. Short氏らによる、高齢患者を対象に検討した国際多施設共同無作為化試験「Balanced Anaesthesia Study」の結果で、著者は「今回の検討で、処理脳波モニターを用いて揮発性麻酔濃度を調節した場合、広範囲にわたる麻酔深度で麻酔は安全に施行できることが示された」とまとめている。麻酔深度の深さは、術後生存率低下と関連することがこれまでの観察研究で示されていたが、無作為化試験でのエビデンスは不足していた。Lancet誌オンライン版2019年10月20日号掲載の報告。術後合併症リスクが高い高齢者で、浅麻酔と深麻酔での1年全死因死亡率を比較 研究グループは7ヵ国73施設において、明らかな併存疾患を有し手術時間が2時間以上かつ入院期間が2日以上と予想される60歳以上の患者を登録し、大手術後の合併症リスクが高い患者を、bispectral index(BIS)を指標として浅い全身麻酔(浅麻酔群:BIS値50)または深い全身麻酔(深麻酔群:BIS値35)の2群に手術直前に無作為に割り付けた(地域別の置換ブロック法)。なお、患者および評価者は、割り付けに関して盲検化された。また、麻酔科医は、各患者の術中の平均動脈圧を適切な範囲に管理した。 主要評価項目は、1年全死因死亡率で、解析にはlog-rank検定およびCox回帰モデルを使用した。1年全死亡率は両群で有意差なし 2012年12月19日~2017年12月12日の期間に、スクリーニングされ適格基準を満たした1万8,026例中、6,644例が登録および無作為化された(intention-to-treat集団:浅麻酔[BIS50]群3,316例、深麻酔[BIS35]群3,328例)。 BIS中央値は、浅麻酔群で47.2(四分位範囲[IQR]:43.7~50.5)、深麻酔群で38.8(36.3~42.4)であった。平均動脈圧中央値はそれぞれ84.5mmHg(IQR:78.0~91.3)および81.0mmHg(75.4~87.6)であり、浅麻酔群が3.5mmHg(4%)高かった。一方、揮発性麻酔薬の最小肺胞濃度は、それぞれ0.62(0.52~0.73)および0.88(0.74~1.04)であり、浅麻酔群が0.26(30%)低かった。 1年全死因死亡率は、浅麻酔群6.5%(212例)、深麻酔群7.2%(238例)であった(ハザード比:0.88[95%信頼区間[CI]:0.73~1.07]、絶対リスク低下:0.8%[95%CI:-0.5~2.0])。 Grade3の有害事象は、浅麻酔群で954例(29%)、深麻酔群で909例(27%)に、Grade4の有害事象はそれぞれ265例(8%)および259例(8%)に認められた。最も報告が多かった有害事象は、感染症、血管障害、心臓障害および悪性新生物であった。 なお、著者は、両群で目標BIS値に到達していなかったこと、1年全死因死亡率が予想より2%低かったこと、揮発性麻酔薬で維持した全身麻酔に限定され、プロポフォール静脈投与による麻酔の維持に関する情報がないことなどを研究の限界として挙げている。

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【GET!ザ・トレンド】ニューモシスチス肺炎の今日的意義(前編)

ニューモシスチス肺炎(PCP)は、かつて「カリニ肺炎」と呼ばれHIVの合併症として注目を集めていました。しかし今日のPCPはもはや、HIV感染例に特異的な疾患ではありません。HIV例のPCP(HIV-PCP)と表現型や病態、予後がまったく異なる、非HIV感染例が発症するPCP(non-HIV PCP)の特徴と対策についてご紹介したいと思います。HIVとは無関係のPCPが著増よく知られているとおり、PCPはHIVに限らず、「免疫不全」を基礎とする呼吸器疾患です。そのため、ステロイド、あるいは臓器移植後の免疫抑制薬使用頻度の増加、さらに新規の抗がん剤やリウマチ治療薬などの登場に伴い、この免疫不全を引き起こす状態はHIVに限られることなく、多岐にわたるようになりました。その結果、著明に増加したのが、HIV感染を伴わないnon-HIV PCPです。英国のデータでは、HIV PCP例の入院数が経時的に減少を続けているにもかかわらず、PCP入院例の総数は逆に増え続けています(図1)[Maini R, et al. Emerg Infect Dis. 2013;19:386-392.]。この増加のほとんどは、non-HIV PCPと考えられます。図1.英国におけるニューモシスチス肺炎患者数の推移non-HIV PCPは病態進行が早く予後は悪いnon-HIV PCPの表現型は、HIV PCPとまったく異なります。最大の相違点は「病態の進行速度」です。緩徐に進行するHIV PCPと対照的に、non-HIV PCPは「日~週単位」で病態が増悪します。さらに予後も良くありません。台湾からの報告によれば、診断後30日間の死亡率は、HIV PCP例の6.7%に対し、non-HIV PCPでは50%という高値でした[Su YS, et al. J Microbiol Immunol Infect. 2008;41:478-482.]。したがって、早期の診断と治療開始が必要となります。HIV PCP例を診るのと同じ感覚で経過観察していると、取り返しのつかない事態に追い込まれかねません。診断は困難、まず患者背景からリスクを評価しかし困ったことに、「診断が困難」なのもnon-HIV PCPの特徴です。すなわち、HIV PCPのような定型的臨床像や画像を示す患者はきわめてまれです。また、HIV PCPと異なり菌体量が少ないため、検出も困難です。では、non-HIV PCPをどのように診断すればいいでしょう? 最も重要なのは、「鑑別疾患としてnon-HIV PCPを想起する」という点につきます。最初に注目すべきは「患者の背景因子」です。先述のとおり、non-HIV PCPも背景にあるのは免疫不全です。したがって、免疫を低下させるステロイドや免疫抑制薬、ある種の抗がん剤など、特定の薬剤(表1)を用いている場合、「高リスク」と認識します。また、non-HIV PCP発症率の高い疾患も明らかになっています。フランスにおける1990年~2010年までのnon-HIV PCP患者データの解析からは、小・中血管炎、血液がん、固形臓器移植(とくに腎移植)、関節リウマチ例における高い発症率が報告されています[Fillatre P, et al. Am J Med. 2014;127:1242.e11-7.]。これらの背景因子からまず、non-HIV PCP高リスクを否定できるか考えます。表1.ニューモシスチス肺炎の発症と関連が示唆されている薬剤「傍証」を集め、総合的に判断背景因子からnon-HIV PCPを除外できなければ、迅速に検査を始めます。「血清β-d-グルカン濃度」は、non-HIV PCPを疑う良い指標となります。高値を示す場合、その理由が説明できないならば、non-HIV PCPを疑います。ただし、除外診断には必ずしも有用とは言えません。発症からしばらく経過しないと、低値が維持されるケースがあるためです。そのうえで、疑いがあれば、気管支肺胞洗浄液(BAL)や誘発喀痰を用いて、Diff-Quik染色、ギムザ染色(栄養体の検出)、あるいはグロコット染色(嚢子の検出)をします。PCR法は定着菌を判断している可能性が否定できないため、血清検査や画像など傍証を集めて総合的に判断する必要があります。また染色やPCR法では「偽陰性」の可能性もかなりありますので、陰性であっても、それだけではnon-HIV PCPを除外できません。問題は、施設内でグロコット染色ができない場合です。外注の場合、結果を待っている間に、non-HIV PCPならば症状は著明に増悪します。そのような場合、先述の「高リスク例」であればnon-HIV PCPであるという前提で治療を開始するのも(見切り発車)、予後を考えれば選択肢の1つとなるかもしれません。

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大腸がん術後補助化学療法、ctDNAによる評価(A GERCOR-PRODIGE)/ESMO2019

 フランス・European Georges Pompidou HospitalのJulien Taieb氏は、StageIIIの結腸がんでの術後補助化学療法では血液循環腫瘍DNA(ctDNA)が独立した予後予測因子であり、ctDNAが陽性か否かにかかわらず、術後補助化学療法は6ヵ月のほうが無病生存期間(DFS)が良好な傾向が認められたと欧州臨床腫瘍学会(ESMO2019)で報告した。 今回の結果はIDEA FRANCE試験に参加した患者の血液検体を用いたA GERCOR-PRODIGE試験に基づくもの。IDEA FRANCE試験は、大腸がんの術後補助化学療法としてのFOLFOX療法またはCapeOX療法の投与期間について、3ヵ月間と6ヵ月間を比較した6つの前向き第III相無作為化試験を統合解析したIDEA collaborationに含まれる試験の1つ。 IDEA collaboration では全体として6ヵ月投与群に対する3ヵ月投与群の非劣性は確認されなかった。とくにCapeOX療法の患者の低リスク群では、3ヵ月投与は6ヵ月間投与と同様の有効性を示した。ただ、FOLFOX療法の患者の高リスク群では、6ヵ月間投与群でより高いDFSが得られたという結果になっている。 A GERCOR-PRODIGE試験の対象はIDEA FRANCE試験参加者のうち805例。検体採取は化学療法施行前にEDTA採血管を用いて行われている。検体の解析はWIF1遺伝子と神経ペプチドY(NPY)のメチル化マーカーをデジタルPCRによって解析した。最終的に805例のうち、ctDNA陰性群は696例、ctDNA陽性群は109例であった。 主な結果は以下のとおり。・2年DFS率はctDNA陽性群が64.12%、ctDNA陰性群が82.39%でctDNA陽性群は予後不良であった(ハザード比[HR]:1.85、95%信頼区間[CI]:1.31~2.61、p<0.001)。・多変量解析では、ctDNA陽性(HR:1.85、95%CI:1.31~2.61、p=0.0005)、N2(≧4)(HR:2.09、95%CI:1.59~2.73、p<0.0001)は予後不良因子であった。・治療期間別にみると、6ヵ月投与は3ヵ月投与に比べ予後が良好だった(HR:0.6、95%CI:0.45~0.78、p=0.0002)・ctDNA陽性・陰性別と治療期間の関係では、ctDNA陽性群で治療期間3ヵ月間でのDFS率が最も低かった(p<0.0001)。・T4またはN2(≧4)あるいはその両方を有する高リスクStage IIIではctDNA陽性群のDFS率が有意に低かった(p<00001)。・T1-3かつN1(1-3)の低リスクStage IIIではctDNA陽性群とctDNA陰性群の間でDFS率に有意差は認めなかった(p=0.07)。 今回の結果についてTaieb氏は「術後補助化学療法の3ヵ月間はとりわけctDNA陽性結腸がん患者では不十分なアウトカムに関連している可能性がある」と述べている。

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新たなJAK阻害薬、中等症~重症の成人アトピー性皮膚炎に有効

 アトピー性皮膚炎(AD)に対するJAK阻害薬の開発が進んでいる。開発中の経口JAK1選択的阻害薬abrocitinib(PF-04965842)について、中等症~重症の成人ADに対する短期使用の有効性および忍容性が、第IIb相プラセボ対照無作為化試験で確認された。カナダ・SKiN Centre for DermatologyのMelinda J. Gooderham氏らが報告した。abrocitinibは、ADの病理生理学的特性に重要な役割を担うサイトカイン(IL-4、IL-13、IL-31、インターフェロンγなど)のシグナル伝達を阻害する。今回の第II相試験では、200mg、100mg、30mg、10mgの各用量を1日1回投与し、プラセボとの比較検証を行った。なお、本試験の結果を受けてabrocitinibの200mgと100mgの有効性と安全性を評価する第III相試験が行われている。JAMA Dermatology誌オンライン版2019年10月2日号掲載の報告。 試験は2016年4月15日~2017年4月4日に、オーストラリア、カナダ、ドイツ、ハンガリー、米国の58施設で行われた。試験デザインには二重盲検並行群間比較が用いられた。 被験者は、中等症~重症との診断を受けてから1年以上、局所療法の効果不十分または禁忌(12ヵ月間で4週間以上)の18~75歳の患者267例であった。 被験者を無作為に1対1対1対1対1の5群に割り付け、abrocitinib(200mg、100mg、30mg、10mg)またはプラセボを12週間投与した。 主要アウトカムは、医師による全般的評価(IGA:Investigator's Global Assessment)による改善度が、12週時にベースラインから2グレード以上改善し、消失(0)またはほぼ消失(1)に達した患者の割合とした。副次アウトカムは、EASIスコア(Eczema Area and Severity Index)のベースラインから12週時の変化率とした。 有効性はFAS(full analysis set)で評価した。試験薬を1投与以上受けた全患者を包含し、1試験地での4例を除く修正intention-to-treat集団(263例)を対象とした。 主な結果は以下のとおり。・267例のうち144例が女性であった(平均年齢40.8[SD 16.1]歳)。abrocitinib群(200mg群55例、100mg群56例、30mg群51例、10mg群49例)、プラセボ群56例であった。・12週時点で、主要アウトカムを達成した患者の割合は、abrocitinib 200mg群21/48例(43.8%、両側検定のp<0.001)、100mg群16/54例(29.6%、p<0.001)で、プラセボ群は3/52例(5.8%)であった。30mg群は4/45例(8.9%、p=0.56)、10mg群は5/46例(10.9%、p=0.36)であった。・上記の結果は、最大効果モデルベースの推定値では、200mg群44.5%(95%信頼区間[CI]:26.7~62.3)、100mg群27.8%(14.8~40.9)、プラセボ群6.3%(-0.2~12.9)に相当した。・EASIの低下率は、200mg群82.6%(90%CI:72.4~92.8、p<0.001)、100mg群59.0%(48.8~69.3、p=0.009)で、プラセボ群35.2%(24.4~46.1)であった。・治療関連有害事象(TEAE)は、184/267例(68.9%)、計402件報告されたが、そのほとんどが軽症であった。・TEAEはいずれの群でも3例以上報告があった。最も頻度が高かったのは、アトピー性皮膚炎の悪化、上気道感染症、頭痛、悪心、下痢であった。・abrocitinib群では用量依存の血小板数の減少が観察されたが、4週以降はベースライン値へと上昇に転じた。

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PPCI前の遠隔虚血プレコンディショニング、STEMI予後に有意義か/Lancet

 プライマリ経皮的冠動脈インターベンション(PPCI)を受けるST上昇型心筋梗塞(STEMI)患者では、PPCI前に遠隔虚血コンディショニング(remote ischaemic conditioning:RIC)を行っても心臓死/心不全による入院は減少しないことが、英国・ユニバーシティ・カレッジ・ロンドンのDerek J. Hausenloy氏らが行ったCONDI-2/ERIC-PPCI試験で示された。研究の成果は、Lancet誌オンライン版2019年9月6日号に掲載された。RICは、上腕に装着したカフの膨張と解除を繰り返すことで、一時的に虚血と再灌流を引き起こす。これにより、PPCIを受けるSTEMI患者の心筋梗塞の大きさが20~30%縮小し、臨床アウトカムが改善すると報告されていたが、十分な検出力を持つ大規模な前向き研究は行われていなかった。欧州4ヵ国33施設の医師主導無作為化試験 本研究は、英国、デンマーク、スペイン、セルビアの33施設が参加した医師主導の単盲検無作為化対照比較試験であり、2013年11月~2018年3月の期間に患者登録が行われた(英国心臓財団などの助成による)。 対象は、年齢18歳以上、胸痛がみられてSTEMIが疑われ、PPCIが適応とされた患者であった。被験者は、PPCI施行前にRICを行う群または標準治療を行う群(対照群)に、1対1の割合で無作為に割り付けられた。 RIC群では、上腕に装着した自動カフの膨張(5分間)と収縮(5分間)を交互に4回繰り返すことで、間欠的に虚血と再灌流を誘発した。英国の施設のみ、対照群にシャムRICを行った。 データ収集とアウトカムの評価を行う医師には、治療割り付け情報がマスクされた。主要複合エンドポイントは、12ヵ月後の心臓死と心不全による入院の複合とし、intention-to-treat解析を行った。新たな心臓保護の標的の特定が必要 5,115例(intention-to-treat集団)が登録され、RIC群に2,546例(平均年齢63.9[SD 12.1]歳、女性24.0%)、対照群には2,569例(63.1[12.2]歳、22.4%)が割り付けられた。 12ヵ月後の主要複合エンドポイントの発生率は、RIC群が9.4%(239/2,546例)、対照群は8.6%(220/2,569例)であり、両群間に有意な差は認められなかった(ハザード比[HR]:1.10、95%信頼区間[CI]:0.91~1.32、p=0.32)。 同様に、12ヵ月後の心臓死(3.1% vs.2.7%、HR:1.13、95%CI:0.82~1.56、p=0.46)および心不全による入院(7.6% vs.7.1%、1.06、0.87~1.30、p=0.55)にも、両群間に差はみられなかった。 事前に規定されたサブグループ解析では、年齢、糖尿病の有無、PPCI前のTIMI血流分類、梗塞部位、first medical contact to balloon timeの違いによる主要複合エンドポイントの発生に関して両群間に有意な差はなかった。 主要複合エンドポイントのper-protocol解析の結果も、intention-to-treat解析ときわめて類似しており、両群間に差はなかった(RIC群9.0% vs.対照群8.1%、HR:1.11、95%CI:0.90~1.36、p=0.35)。 30日以内の心臓死と心不全による入院の複合、および個々のイベントの発生には両群間に有意差はなく、30日以内の主要心血管イベント/脳有害事象(全死因死亡、再梗塞、予定外の血行再建、脳卒中)、および個々のイベントの発生にも差はなかった。また、12ヵ月以内の植え込み型除細動器の施術の頻度にも差は認められなかった。 また、試験治療関連の予想外の有害事象はみられなかった。RIC群で皮膚点状出血が2.8%、一過性の疼痛や知覚障害が5.8%で報告された。有害事象による治療中止はなかった。 著者は「RICは、STEMI発症後の臨床転帰改善の最も有望な心臓保護戦略であり、他の選択肢は少ない。それゆえ、新たな心臓保護の標的を特定し、複数の標的への併用治療のような革新的な保護アプローチを開発するために、新たな研究を要する」としている。

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HFrEFへのsacubitril-バルサルタンは動脈スティフネスを改善?/JAMA

 左室駆出率(LVEF)が低下した心不全(HFrEF)患者において、sacubitril/バルサルタンはエナラプリルと比較し中心動脈スティフネスを有意に改善しないことが示された。米国・ブリガム&ウィメンズ病院のAkshay S. Desai氏らが、sacubitril/バルサルタンによるHFrEFの治療が中心動脈スティフネスおよび心臓リモデリングを改善するかについて検証した無作為化二重盲検臨床試験「EVALUATE-HF試験」の結果を報告した。sacubitril/バルサルタンは、エナラプリルと比較しHFrEF患者の心血管死および心不全による入院を減少させることが示されており、血行動態や心臓リモデリングの改善と関連する可能性があった。著者は「今回の結果は、HFrEFに対するsacubitril/バルサルタンの作用メカニズムを理解するうえで手掛かりとなるだろう」とまとめている。JAMA誌オンライン版2019年9月2日号掲載の報告。HFrEF患者約460例でsacubitril/バルサルタンvs.エナラプリル 研究グループは、2016年8月17日~2018年6月28日に米国の85施設にて、LVEF 40%以下の心不全患者464例を、sacubitril/バルサルタン群(目標用量:97/103mg、1日2回、231例)とエナラプリル群(同10mg、1日2回、233例)に無作為に割り付け、12週間投与した(2019年1月26日追跡調査終了)。 主要評価項目は、中心動脈スティフネスの尺度である大動脈の特性インピーダンス(Zc)の、ベースラインから12週までの変化とした。また、NT-proBNP、LVEF、左室全体の長軸方向ストレイン(global longitudinal strain:GLS)、僧帽弁輪弛緩速度、僧帽弁E/e'比、左室収縮末期容積係数(LVESVI)、左室拡張末期容積係数(LVEDVI)、左房容積係数および心室血管整合比の、ベースラインから12週までの変化も副次評価項目として事前に規定された。特性インピーダンスの変化に両群間で有意差なし 464例(平均[±SD]年齢67.3±9.1歳、女性23.5%)のうち、427例が試験を完遂した。 Zcは、12週時においてsacubitril/バルサルタン群では低下し、エナラプリル群では増加したが、ベースラインからの変化は両群間で有意差は確認されなかった(群間差:-2.2dyne×s/cm5、95%信頼区間[CI]:-17.6~13.2、p=0.78)。 副次評価項目9項目のうち、LVEFを含む4項目(GLS、僧帽弁輪弛緩速度、心室血管整合比)でベースラインからの変化に有意な群間差はなかった。残りの、左房容積係数、LVEDVI、LVESVI、僧帽弁E/e'などの項目は、エナラプリル群よりsacubitril/バルサルタン群でベースラインからの減少が大きいことが示された。 有害事象については、低血圧症(sacubitril/バルサルタン群3.9%、エナラプリル群1.7%)も含め両群で類似していた。

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第28回 空飛ぶ心電図~患者さんの命を乗せて~(後編)【Dr.ヒロのドキドキ心電図マスター】

第28回:空飛ぶ心電図~患者さんの命を乗せて~(後編)前回に引き続き、クラウドを利用した12誘導心電図伝送システムの救急現場での活用について、谷口先生にお話を伺います。2回シリーズの後編は、やや非典型例も扱いつつ、プロジェクト成功の秘訣や苦労した点、課題、さらには今後の展望までDr.ヒロがズバッとインタビューします!◆聞き手:Dr.ヒロ(以下、ヒロ)◆ゲスト:谷口 琢也先生(以下、谷口)谷口 琢也氏京都府立医科大学医学部卒業。松下記念病院で心筋虚血(核医学)に関する薫陶を受け、2007年より国立循環器病センター心臓血管内科CCUに所属、モバイルテレメディシンシステムに触れる。2013年からは京都府立医科大学附属北部医療センターで心不全レジストリなどの臨床研究を主導すると共に、クラウド型12誘導心電図伝送システムを導入。2018年に京都大学大学院で臨床疫学の方法論を系統的に学び、現在、母校にて社会に還元できる臨床研究の推進に取り組む。医学博士、社会健康医学修士、総合内科専門医、循環器専門医、心血管カテーテル治療専門医を取得。趣味は美食探訪、得意な家事は皿洗い。(ヒロ)今回も谷口 琢也先生を迎え、京都府立医科大学附属北部医療センターで取り組まれた、救急現場におけるクラウド型心電図伝送システムについて教えていただきます。<質問内容>【質問1】心電図伝送の試みを開始しようと思ったキッカケはありますか?【質問2】この心電図伝送システムが適応された症例の原因疾患の内訳はどうでしょうか?【質問3】実際に伝送された心電図所見の内訳はどのようになっていますか?【質問4】急性冠症候群(ACS)/STEMI以外で有用と思われる病態はありますか?【質問5】心電図伝送システムが適用された症例のうち、急性冠症候群など「ではなかった」印象的な症例はありますか?【質問6】心電図はどこに保存しますか?カルテに取り込むのですか?【質問7】心電図伝送システムと電子カルテを紐付けしていますか?【質問8】伝送された心電図データの保存期間はありますか?【質問9】心電図伝送システムのハード面、ランニングコストや通信費用はどれくらいですか?【質問10】実際に病院が払うコストはどれくらいですか?【質問11】心電図伝送システムの長所は何ですか?【質問12】この心電図伝送システムが成果を上げることができた要因はなんですか?【質問13】実際の成果で学術論文になったものはありますか?【質問14】このシステム上で「正しい心電図をとる」ために救急スタッフ(救急隊)への指導や教育、啓蒙活動などの運用についての取り組みはありますか?【質問15】市町村や地域住民に向けた広報活動、そのほかメディアへの拡散はどのように行っていますか?【質問16】今後の方向性や新しい取り組みに関して、将来ビジョンを教えて下さい。【質問1】心電図伝送の試みを開始しようと思ったキッカケはありますか?(谷口)以前から病院前心電図の重要性を認識していました。この心電図伝送の試みは、地域の消防組合とタイアップして行っています。宮津与謝消防組合が管轄するエリアから北部医療センターへの救急搬送率は、ほぼ100%。病院派遣型救急ワークステーションが院内にあり救命救急士とも顔の見える関係なので、心電図伝送を用いた救急医療に地域として取り組みましょうということになったんです。(ヒロ)病院と地域の消防との間に普段から良好な関係があったからこそ、機運が高まったのですね。救急隊と病院の“1:1対応”というのも、心電図や患者をどこに送るか悩む必要がなく、プレホスピタル心電図伝送に適した状況ですよね。(谷口)2016年にトライアルを行い運用するメリットが確認できたため、2017年12月1日から本稼働することになりました。宮津与謝消防組合が有する救急車4台すべてにシステムを搭載して運用を開始しました。【質問2】この心電図伝送システムが適応された症例の原因疾患の内訳はどうでしょうか?(谷口)約半数が循環器疾患です(図1)。(図1)心電図伝送システムの適応疾患と詳細画像を拡大する(ヒロ)心電図をとる範囲を広く設定しても、やはり半数は心疾患なのですね。胸と“みぞおち”(心窩部)を含むので肺とか胃腸疾患が入ってくるのも納得です。【質問3】実際に伝送された心電図所見の内訳はどのようになっていますか?(谷口)円グラフで示しました(図2)。これも前回お話した2017年の152例のデータです。STEMI(ST上昇型急性心筋梗塞)は11例、類縁疾患を含むST上昇が14例(9%)、ST低下が13例(9%)です。(図2)伝送された心電図所見の内訳画像を拡大する(ヒロ)これも貴重なデータですね。心房細動も24例(16%)と多いですね。正常心電図が約3分の1(33%)な点も興味深いです。約半数を占める心外疾患の多くはここでしょうしね。【質問4】急性冠症候群(ACS)/STEMI以外で有用と思われる病態はありますか?(谷口)この疾患(病態)というのは明確に言えない面もありますが、もしかしたら心室頻拍(VT)や心室細動(VF)も検出できるかもしれないですね。(ヒロ)不整脈ですね。心房細動・粗動や発作性上室性頻拍などは、救急要請がなされても病院に到着する前に停止してしまっていることも、しばしばです。現着後間もない心電図を記録することで、動悸などの“原因”が分からずじまいという、もどかしい状況が減るかも知れませんね。【質問5】心電図伝送システムが適用された症例のうち、急性冠症候群など「ではなかった」印象的な症例はありますか?【症例】84歳、男性。【主訴】胸部絞扼感、倦怠感、呼吸苦【現病歴】高血圧症で内服中。COPDによる入院歴あり。ADLは自立。2017年12月X日、昼食時にお茶を飲むときにむせて、その直後から強い喘鳴を伴う呼吸苦と胸部絞扼感が出現したため、救急搬送となった。【身体所見】脈拍数:91/分・整、呼吸数25/分、血圧220/93mmHg、酸素飽和度89%(マスク8L/分)(ヒロ)なるほど。食事中に出現した呼吸苦と胸部しめつけ感ですね。この方の伝送心電図はどのような波形を示していたのでしょうか?(谷口)以下に示します(図3)。心拍数は100弱/分で右軸偏位、不完全右脚ブロック、一部にST変化もあります。(図3)伝送された12誘導心電図画像を拡大する(ヒロ)これも同時相、5秒間の心電図ですね。前回のSTEMI症例よりはノイズが目立ちますが、十分に評価できるレベルですね。5拍目に心房期外収縮(PAC)もありますね。ほかには時計回転の所見も指摘したいですね。先生ご指摘の所見も含めて右心系負荷を考えたくなります。酸素飽和度も低いようですが、原因は何だったのですか?(谷口)気胸でした。痛みで著明な高血圧と心不全も呈していました。(ヒロ)確かに、そう言われると、胸部誘導は上から下までR波がほとんど増高していませんね。そうか!よく心電図の教科書でも取り上げられている「左」の気胸ですか、これは?(谷口)いえ、実際は「右」気胸でした。(ヒロ)なるほど。勉強になります。COPDもあるようですから、自然気胸以外にお茶でむせた時にブラが破裂した可能性なんかもあるんですかね。病院に以前の記録があったら比べたいですが…。図3のような心電図では、このほかに肺塞栓症や肺炎も大事な鑑別疾患ですね。(谷口)もちろん、気胸は伝送心電図だけで診断するものではないですが、ACS以外でも有用な情報を与えてくれることがある、という一例でした。【質問6】心電図はどこに保存しますか?カルテに取り込むのですか?(谷口)本システムでは、心電図はクラウドに保存され、電子カルテには取り込まれません。しかし、電子カルテにプレホスピタルの情報として入れている施設があると聞いています。【質問7】心電図伝送システムと電子カルテを紐付けしていますか?(谷口)心電図データは電子カルテに紐付けされないので、管理はわれわれ医師がしています。(ヒロ)場合によっては、紙ベースで印刷した物を残したり、スキャンしたりでしょうかね。【質問8】伝送された心電図データの保存期間はありますか?(谷口)受信側の病院は1週間、送信側の救急隊は1ヵ月(30日間)、データを見ることができます。【質問9】心電図伝送システムのハード面、ランニングコストや通信費用はどれくらいですか?(谷口)費用は施設ごとに異なる可能性もありますが、初期費用として心電計、伝送用のタブレット端末やスマートフォンの購入費用が必要です。メンテナンス費用には各機材の保証も含まれているので、タブレットが割れても大丈夫です。レンタルプランもあるようです。【質問10】実際に病院が払うコストはどれくらいですか?(谷口)救急車4台すべてに心電計を搭載し、この費用は市町と病院が半分ずつ負担して運用しています。【質問11】心電図伝送システムの長所は何ですか?(谷口)このシステムの長所は、何よりもDoor To Balloon Time(DTBT)を短縮し、予後改善できるということだと思います。(ヒロ)前回提示いただいた症例もそうでしたね。どのプロセス・時間が短縮できているのでしょうか?(谷口)ACSが疑われたらカテラボを立ち上げる1)のが重要ですが、そこに時間がかかります。その準備時間を短縮できることが重要だと思います。peak CK、壊死心筋量を少なくするとよく言われますが、VT/VFのリスクにさらされる時間が減ることも予後改善につながっているのではと考えています。(ヒロ)DTBT短縮は、保険診療上のメリットもあると聞きますが…。(谷口)はい。平成26年度の診療報酬改定から、急性心筋梗塞に対して冠動脈インターベンション(PCI)を行った場合、DTBTが90分以内では10,000点が加点できます(症状発現後12時間以内の来院症例)。1)カテ室のセットアップと各部署(看護師、放射線技師、臨床工学技士など)への連絡や人員確保のこと【質問12】この心電図伝送システムが成果を上げることができた要因はなんですか?(谷口)いくつかあると思いますが、北部医療センターは丹後医療圏で唯一、救急の受け入れを断らない病院であり、競合病院も少ないため救急隊が搬送先に悩む必要がない点です。(ヒロ)救急応需率100%は素晴らしいですね。しかも“1:1対応”というか、行く先が決まっている点も好都合ですね。これは都心部ではなかなか難しい点ですかね。消防組合との関係性も良好だったのですね。(谷口)ええ。また、院長の働きかけにより市町から援助・協力をいただけ、そして何より院内の風通しが良く、救急科やコメディカル・スタッフのおかげでシステム導入にあたってのハードルが低かった点でしょうか。【質問13】実際の成果で学術論文になったものはありますか?(谷口)われわれの成果は、まだ論文として報告していないのですが、12誘導心電図伝送の“SCUNA”(スクナ)というシステムからは論文が3報出ていると聞いています2)、3)、4)。(ヒロ)ぜひとも谷口先生グループの成果も、論文で読んでみたいです。2:Takeuchi I, et al. Int Heart J. 2013;54:45-47.3:Takeuchi I, et al. Int Heart J. 2015;56:170-173.4:Yufu K, et al. Circ Rep. 2019;1:241-247.【質問14】このシステム上で「正しい心電図をとる」ために救急スタッフ(救急隊)への指導や教育、啓蒙活動などの運用についての取り組みはありますか?(谷口)本システムでは、救急隊員が現場で患者に接触、心電図を取る必要があるかを判断して、はじめて伝送が行われるシステムです。ですから、救急隊員の意識を高めることはとても重要です。北部医療センターでは、月に1回、救急隊員と救急室ナース、われわれ循環器医などが集まって「心電図伝送症例を見直す会」というのを開催しています。(ヒロ)ブラボー! 関係スタッフみんなで良い意味での「反省会」をしているのですね。年150症例とのことでしたから、毎月12~13件ですかね。(谷口)ええ。心電図伝送がどれだけ有効であったのかを現場にフィードバックすることで、救急隊の方々も自分のしている行為がどれだけ現場に還元できているのかを、身を持って感じることができるはずです。その結果、12誘導心電図をもっと知りたい、講義をして欲しいという意識が高まり地域としても非常に良いと思います。【質問15】市町村や地域住民に向けた広報活動、そのほかメディアへの拡散はどのように行っていますか?(谷口)本システムの導入にあたり、新聞社などから取材を受けました。また、NHK京都放送局が取り組みに対する特集を組んでくれたおかげで、それがメディアに流れ非常に反響が大きかったというのがあります。【質問16】今後の方向性や新しい取り組みに関して、将来ビジョンを教えて下さい。(谷口)今実施している地域のみならず、近隣にも範囲を拡充し、もう少し広いエリアで本システムを導入したいと考えています。具体的には京丹後市の隣接地域がすべて網羅できれば、丹後医療圏という二次医療圏すべてにおいて包括的にこのシステムを導入できるので、それができれば理想かなと考えています。(ヒロ)まずは二次医療圏の制覇ですね。都市部への展開も魅力的ですが、要請数や医療施設数も多く、一筋縄ではいかなそうです。(谷口)もう一つの可能性として、このシステムは心電図のみならず、動画情報も送ることができます。身体所見、外表面の状況という現場の緊迫感も含めて伝送することで、病院にいる医師の受け入れ体勢の改善や準備、診断への時間短縮にもつながるので、そのような方向での応用も考えています。(ヒロ)心臓病以外の疾患にも使っていく方向性はどうですかね。具体的には、時間との戦いである脳卒中とか、交通外傷や災害医療トリアージなどにも使えそうですね。前編・後編の2回に分けて、救急現場でのクラウド型12誘導心電図伝送システムの有用性についてお話いただき、非常に魅力的なインタビューとなりました。国内の救急医療において、こうしたシステムが都心・地方を問わず“どこでも”、そして“当たり前”に使われる日は意外にそう遠くはないのかもしれません。谷口先生、どうもありがとうございました!1)The firefighter. 近代消防社;2018.p.100-105.【古都のこと~松花堂弁当のルーツ~】皆さんは「松花堂弁当」を聞いたこと、あるいは食したことがありますか? ご推察の通り、前回紹介した松花堂にルーツがあるそうです。松花堂(八幡市)で隠居していた僧昭乗は、内側を十字型に区切った「四つ切り箱」を煙草盆や絵具箱として用いていました。もとは農家の種入れ器だったようで、斬新なセンスの光る自己流アレンジでしょうか。そして時は流れ昭和初期、茶会に登場した“昭乗箱”にピンときた主が湯木貞一*に同器を用いた茶懐石弁当の創作を命じたそうです(西田幾多郎ら)。それはいつしか「松花堂弁当」と呼ばれるようになり、今ではちょっと高級な和食弁当の代名詞にもなっています。洗練された見た目の美しさに加えて、パーテーションの存在が各料理の味・香り・温度を別々に供する実用性を提供しています。京都吉兆はボクお気に入りの市外おもてなしスポットですが、至高の景観を前に由縁を知って松花堂店で食す弁当は格別でした。*:のちに料亭「(京都)吉兆」の創始者となった。

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外傷医学的に一番危ない球技はどれか?【Dr. 倉原の“おどろき”医学論文】第146回

外傷医学的に一番危ない球技はどれか?いらすとやより使用球技って、球そのものが凶器と化すので、スポーツの中ではリスクの高い部類に属します。もちろん、ハンマー投げのハンマーのほうが破壊力は高いですが…。2017年に男子高校生が投げたハンマーが、女性生徒の頭に直撃して、搬送先の病院で亡くなったという痛ましい事故もありました。Fraser MA, et al.Ball-Contact Injuries in 11 National Collegiate Athletic Association Sports: The Injury Surveillance Program, 2009-2010 Through 2014-2015.J Athl Train. 2017;52:698-707.これは、2009~2010年および2014~2015年における11の国立大学体育協会(NCAA)スポーツにおけるボール外傷のデータをまとめた疫学研究です。対象となったスポーツは、男子サッカー、女子フィールドホッケー、女子バレーボール、男子野球、女子バスケットボール、男子ラクロス、女子ラクロス、女子サッカーです。なんとなくですが、ホッケーが一番怖そうです。ものすごいスピードで飛んできますもんね、ボールが。顔面に当たったらもうトラウマになりそう…。さて、球技によるボール外傷の頻度を調査したところ、1,123のボール外傷がありました。アスリート曝露(AE)という単位ごとにその頻度を評価しました。AEというのは1人のアスリートが1回の競技に参加した場合に1と定めたものです。「人年」みたいな感覚でよいですね。これに基づくと、最も頻度が高かったのは女子ソフトボールで、1万AEあたり8.82という結果でした。私が高いかなと予測していた女子フィールドホッケーは7.71、その次は男子野球で7.20でした。また、女子のほうが男子よりも脳震盪と診断されたボール外傷の頻度が高いことが分かりました。アメリカの女子ソフトボールは、ヘルメットの大きさや保護部位などに、厳密な規定がないそうで、それが外傷を増加させた可能性があります。

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成人軽症~中等症喘息の発作治療、ICS/LABA vs.SABA/Lancet

 軽症~中等症の成人喘息患者の治療では、症状緩和のためのブデソニド/ホルモテロール配合薬の頓用は、低用量ブデソニド維持療法+テルブタリン頓用に比べ、重度喘息増悪の予防効果が優れることが、ニュージーランド・Medical Research Institute of New ZealandのJo Hardy氏らが行ったPRACTICAL試験で示された。研究の成果は、Lancet誌オンライン版2019年8月23日号に掲載された。軽症の成人喘息患者では、発作時の単剤治療としての吸入コルチコステロイド(ICS)と即効性長時間作用性β2刺激薬(LABA)の配合薬は、短時間作用性β2刺激薬(SABA)による発作時治療に比べ、重度増悪の抑制効果が高いと報告されている。ICS/LABAとSABAの有用性を比較する無作為化試験 本研究は、ニュージーランドの15施設が参加した多施設共同非盲検無作為化対照比較試験であり、ブデソニド/ホルモテロール配合薬よる発作時治療と、低用量ブデソニド維持療法+テルブタリン(SABA)頓用の併用治療の有用性を比較する目的で実施された(ニュージーランド保健研究会議[HRC]の助成による)。 対象は、年齢18~75歳、患者が自己申告し、医師により喘息と診断され、割り付け前の12週間に発作時SABA治療単独、または発作時SABA治療+低~中用量の吸入コルチコステロイドによる維持療法を行っていた患者であった。 被験者は、ブデソニド/ホルモテロール配合薬(1噴霧中にそれぞれ200μgおよび6μgを含有、症状緩和のために必要時に1吸入)による治療を行うICS/LABA群、またはブデソニド(1噴霧中に200μg含有、1回1吸入、1日2回)+テルブタリン(1噴霧中に250μg含有、症状緩和のために必要時に2吸入)による治療を行うSABA群に、1対1の割合で無作為に割り付けられた。患者は、割り付け時と4、16、28、40、52週時に受診した。 主要アウトカムは、intention to treat集団における患者1例当たりの重度増悪の年間発生とした。重度増悪は、喘息による3日間以上の全身性コルチコステロイドの使用、もしくは全身性コルチコステロイドを要する喘息による入院または救急診療部への受診と定義された。ICS/LABA群の重度増悪が31%減少、症状は同等でステロイド減量 2016年5月4日~2017年12月22日の期間に885例が登録され、ブデソニド/ホルモテロール配合薬頓用のICS/LABA群に437例(平均年齢43.3[SD 15.2]歳、女性56%)が、ブデソニド維持療法+テルブタリン頓用のSABA群には448例(42.8[16.7]歳、54%)が割り付けられた。 1例当たりの重度増悪の年間発生は、ブデソニド/ホルモテロール配合薬頓用のICS/LABA群がブデソニド維持療法+テルブタリン頓用のSABA群に比べ、31%有意に低かった(絶対発生率:0.119 vs.0.172、相対値:0.69、95%信頼区間[CI]:0.48~1.00、p=0.049)。 重度増悪の初発までの期間は、ブデソニド/ホルモテロール配合薬頓用のICS/LABA群が、ブデソニド維持療法+テルブタリン頓用のSABA群よりも長かった(HR:0.60、95%CI:0.40~0.91、p=0.015)。また、中等度~重度増悪の初発までの期間も、ブデソニド/ホルモテロール配合薬頓用のICS/LABA群のほうが長かった(0.59、0.41~0.84、p=0.004)。 治療失敗による投与中止の割合は、両群間に差はみられなかった(ブデソニド/ホルモテロール配合薬頓用のICS/LABA群9例、ブデソニド維持療法+テルブタリン頓用のSABA群11例、相対リスク:0.84、95%CI:0.35~2.00、p=0.69)。また、five-question version of the Asthma Control Questionnaire(ACQ-5、前週の喘息症状に関する5つの質問への回答で、0[障害なし]~6[最大の障害]点に分類)のスコアにも、すべての評価時点で両群間に差はなかった(平均差:0.06、-0.005~0.12、p=0.07)。 ブデソニドの平均1日用量は、ブデソニド/ホルモテロール配合薬頓用のICS/LABA群のほうが少なかった(差:-126.5μg/日、95%CI:-171.0~-81.9、p<0.001)。 1件以上の有害事象を発現した患者は、ブデソニド/ホルモテロール配合薬頓用群が385例(88%)、ブデソニド維持療法+テルブタリン頓用群は371例(83%)であった。最も頻度の高い有害事象は、両群とも鼻咽頭炎だった(154例[35%]、144例[32%])。 著者は「これらの知見は、吸入コルチコステロイド/ホルモテロール配合薬による発作時治療は、軽症喘息患者への低用量吸入コルチコステロイド毎日投与の代替レジメンであるとする2019 Global Initiative for Asthma(GINA)の推奨を支持するものである」としている。

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第27回 空飛ぶ心電図~患者さんの命を乗せて~(前編)【Dr.ヒロのドキドキ心電図マスター】

第27回:空飛ぶ心電図~患者さんの命を乗せて~(前編)心電図と言えば、生理検査室や診療所、病棟などのベッド上で記録し、病院内で閲覧する“静”なイメージがありませんか? でも、最近では、大切なメッセージを届けてくれる伝書鳩のように、遠くで記録された心電図が病院に届く技術があるんです。いわば“空飛ぶ心電図”かな(笑)。正式には「伝送心電図」と言いますが、院外の救急現場で記録され、電子データとして心電図が病院に送られます。このシステムが、診療の質や効率を向上させることが確認されてきています。この、伝送心電図の活用法について、京都での実際の取り組みを谷口 琢也先生(京都府立医科大学循環器内科)へDr.ヒロが取材しました。2回シリーズの前編をどうぞ!◆聞き手:Dr.ヒロ(以下、ヒロ)◆ゲスト:谷口 琢也先生(以下、谷口)谷口 琢也氏京都府立医科大学医学部卒業。松下記念病院で心筋虚血(核医学)に関する薫陶を受け、2007年より国立循環器病センター心臓血管内科CCUに所属、モバイルテレメディシンシステムに触れる。2013年からは京都府立医科大学附属北部医療センターで心不全レジストリなどの臨床研究を主導すると共に、クラウド型12誘導心電図伝送システムを導入。2018年に京都大学大学院で臨床疫学の方法論を系統的に学び、現在、母校にて社会に還元できる臨床研究の推進に取り組む。医学博士、社会健康医学修士、総合内科専門医、循環器専門医、心血管カテーテル治療専門医を取得。趣味は美食探訪、得意な家事は皿洗い。(ヒロ)Willem Einthoven先生が発明した心電図は、100年以上も前から有用性が裏付けられており、今もなお臨床の最前線で活用されています。そんな歴史を有する“レジェンド検査”が、現代の情報技術(IT)と融合し、さらなる進化を遂げています。救急現場で12誘導心電図を記録し、いち早く専門医の元に届ける「伝送心電図システム」は、循環器系救急のトピックの一つでもありますが、“時間との闘い”的な側面の強い心血管疾患の診療に革新をもたらす可能性のある技術だと思います。心電図や不整脈に関して、ボクは普段から情報収集を怠っていないつもりでしたが、同システムを用いた救急診療を先導した経歴を持つ先生が学内にいるのを見落としていました(笑)。「一度、イイネ!と思った企画は必ずやる」-ボクの信条が今回も実現しました。全国の読者の方々にもきっとお役に立つかと思い、本日は、心電図の伝送システムの現状と課題について伺います。(谷口)よろしくお願いします。<質問内容>【質問1】伝送心電図の概略について教えてください。【質問2】この伝送心電図の取り組みは、どこの地域・どこの病院で行われていますか?【質問3】なぜ、この地域(京丹後医療圏)が選ばれたのでしょうか?【質問4】全国のほかの地域で同様な取り組みをしている場所はありますか?【質問5】心電図はどこでとるのですか? 【質問6】プライバシー面での配慮はありますか? 同意をとっていますか?【質問7】心電図検査の要否、クラウド送信などの判断は、どの時点で誰がするのでしょうか?【質問8】伝送された心電図は「誰」が「どこ」で読むのでしょうか?【質問9】心電図の記録、送信、到着までの時間は大体どれくらいですか?【質問10】心電図はいつ伝送しますか?救急車が出発してから送るのですか?【質問11】心電図の記録や送信に時間がかかったことで、診断や治療が遅れたケースはありますか?【質問12】この伝送心電図システムが最もターゲットとしている疾患は何でしょうか?【質問13】伝送心電図が有効だった典型例を教えて下さい。【質問14】“狙い通り”のSTEMI症例は、実際に年間どれくらいの件数がありますか?【質問1】伝送心電図の概略について教えてください。(谷口)正式名称は「クラウド型12誘導心電図伝送システム」といい、救急車に搭載されるものです。このシステムのポイントは、これまでの救急現場で心電図といえば3点モニターだけが定番であったのを、病院と同じ12誘導にしていることです。(ヒロ)いわゆる「プレホスピタル心電図」(病院前心電図)を12誘導で行おうということですね。(谷口)病院前心電図には、病院到着前の段階で、いち早く心電図診断を行い、治療が必要な患者を同定し、その準備も同時並行で行うことができるメリットがあります。(ヒロ)治療というのは、具体的には“心臓カテーテル検査・治療”のことですか?(谷口)はい。緊急冠動脈造影・カテーテル治療(CAG/PCI)が必要な急性心筋梗塞を含む急性冠症候群(ACS)の患者の血流再開までの時間を短くして、予後を改善するのが本システムの一番の目的です。(ヒロ)「胸痛」を訴えた患者ということですか?(谷口)いや。実はACSの症状は多岐にわたります。ですから、今回は、下顎から心窩部の範囲、これに両上肢も含めて何らかの症状があった場合に心電図を記録するよう救急隊にお願いしました。(ヒロ)なるほど。間口を広くとることで“漏れ”が少なくなりそうです。実際に記録された心電図は、その後どうなるのですか?(谷口)記録された心電図はMFER(Medical waveform Format Encoding Rules、医用波形記述規約)というデータ形式でクラウドに飛ばして、それを搬送先の病院医師が見る、という流れになります。オンコール医師は院外(自宅など)にいても、スマホからクラウドにアクセスして12誘導心電図を確認し、緊急性を判断することができます。なお、われわれが用いたのは株式会社メハーゲンのSCUNA(スクナ)というシステムで、キャリアはNTTドコモです(図1)。(図1)クラウド型12誘導心電図伝送システム画像を拡大する【質問2】この伝送心電図の取り組みは、どこの地域・どこの病院で行われていますか?(谷口)京都府の二次医療圏としては、最北の丹後医療圏*1にある京都府立医科大学附属北部医療センターで行われています。(ヒロ)有名な天橋立がある風光明媚な場所ですね。先生が以前そこにお勤めだったと聞いています。ほかに京丹後市のアピールポイントは?(谷口)実際に病院があるのは、京丹後市ではなく、与謝郡与謝野町です。ここは歌人与謝野 晶子が住んでいた場所であり、絹織物(丹後ちりめん)の名産地でもあります。食に関しても、あのブランド蟹である「間人ガニ」の漁港が近いなど、魚介類をはじめ、ご飯がとてもおいしい地域です。とくに宮津では、5~6月に収穫される「丹後とり貝」も有名です。(ヒロ)日本海が近いですから、海産物はテッパンでしょうね。とり貝はボクも大好きです。そして、“空”には心電図が飛び交っているわけですね(笑)。*1:人口約10万人。宮津市、与謝野町、伊根町、京丹後市の約845km2からなるエリア。【質問3】なぜ、この地域(京丹後医療圏)が選ばれたのでしょうか?(谷口)丹後医療圏は国内でも長寿地域の一つなんです。なかでも京丹後市は歴代最高齢の男性*2としてギネスに登録された方が暮らしていた場所としても知られています。(ヒロ)当科の的場 聖明教授が主導されている健康長寿に関するコホート研究が行われているのも、このエリアですよね?(谷口)ええ。的場教授のご指導もあり、同地域で救急領域での伝送心電図活用プロジェクトが立ち上がりました。*2:木村 次郎右衛門氏(きむら じろうえもん、116歳没)。【質問4】全国のほかの地域で同様な取り組みをしている場所はありますか?(谷口)最初に沖縄で導入された実績があります。あとは、八戸(青森県)、大分は県全域、岩手県、そして津(三重県)など、かなり広いエリアで同様の取り組みがされています。淡路島でも行われていると聞いています。【質問5】心電図はどこでとるのですか?(谷口)伝送システムは救急車内にあるので、救急隊が現着して、患者と接触後、救急車内に収容した段階で心電図を記録します。【質問6】プライバシー面での配慮はありますか? 同意をとっていますか?(谷口)現場で患者の心電図をとってそれを病院に送りますが、とくに患者や家族の同意をとらず、患者は救急車内に収容されたら、12誘導心電図をとられる仕組みになっています。顔は写りませんので、プライバシーの問題はクリアできていると思っています。(ヒロ)切迫した状況のことも多く、やむを得ない面があるのでしょうね。【質問7】心電図検査の要否、クラウド送信などの判断は、どの時点で誰がするのでしょうか?(谷口)心電図をとる必要性についての判断は、現場の救急隊が行っています。ちょっとでも疑わしければ心電図をとるようお願いしています。とった心電図はすべて病院に送信してもらい、必ず医師が確認するようにしています。(ヒロ)なるほど。ここでも“できるだけ漏らすまい”という姿勢がうかがえますね。【質問8】伝送された心電図は「誰」が「どこ」で読むのでしょうか?(谷口)読むのは循環器内科のオン・コール(またはファースト・コール)と呼ばれる役割の医師です。伝送心電図が病院に飛んでくると、救急ナースからその医師に「心電図を見てください」と一報が入り、その時点で医師が確認します。院内にいればもちろん、スマホさえあれば自宅でも屋外でも伝送された心電図を見ることができます。【質問9】心電図の記録、送信、到着までの時間は大体どれくらいですか?(谷口)心電図をとったらすぐに伝送できるので、実際には心電図をとるべきか判断して記録するまでの時間が律速になるかもしれません。現着から心電図伝送までは、85%のケースが12分以内に済んでいます。(ヒロ)ACSガイドラインにも記されている、「思わせぶりな胸部症状なら10分以内に心電図」がほぼ達成されているわけですね。【質問10】心電図はいつ伝送しますか?救急車が出発してから送るのですか?(谷口)伝送の約3/4(76%)は現場を出発する前でしたが、出発前に伝送したケースでは、現場の滞在時間が2分ほど長くなるなどのデメリットもありました。(ヒロ)難しいトレードオフ(trade-off)ですね。実際の所要時間は?(谷口)現着から医師の心電図確認までは、出発前伝送で14分、出発後伝送で20分でした。郊外型病院の特性で病院到着までの時間は患者が発生した場所次第でまちまちでしたが、心電図を確認した段階で、次にどう動くべきか判断できるので、救急車が病院に到着する頃には、受け入れ態勢(カテーテル室の立ち上げなど)がかなり整いました。(ヒロ)そういう意味でもできるだけ早く「出発前伝送」を心がけるべきなのでしょうね。事がスムーズに進めば、患者接触から15分程度で専門医が心電図にアクセスできるわけですから。【質問11】心電図の記録や送信に時間がかかったことで、診断や治療が遅れたケースはありますか? (谷口)現時点ではありません。(ヒロ)システムが優秀なこともあるのでしょうが、これは送る側と受ける側が1:1対応で“あうんの呼吸”だからですね。都心部のように受け取る病院が複数で、件数自体が増えればシステムトラブルなどが出てくる可能性もあるため、対策は必要だと思います。【質問12】この伝送心電図システムが最もターゲットとしている疾患は何でしょうか?(谷口)やはりACSです。最も早くカテーテル治療が必要で、救命効率が高い疾患ということになります。カテ室の準備にかなり時間がかかるものですから、そこを短縮するという意味でも、やはりACSが一番のターゲットになります。【質問13】伝送心電図が有効だった典型例を教えて下さい。(谷口)2016年10月~2017年1月までのトライアル期間において、17件の伝送例のうち3例で緊急カテーテルが行われました。このうちの1例がSTEMI(AMI:急性心筋梗塞)であり、その例を提示します。【症例1】58歳、男性。【主訴】胸部不快感、意識消失【現病歴】2016年11月X日、新聞配達の仕事中、午前3時頃にコンビニでタバコを買い、店を出た直後に胸が“えらく”なり、ムカムカして意識が遠のくような感じがした。その後、車を運転中に意識消失し、気がついたら電柱にぶつかっており、近隣住民によって救急要請された。救急搬送時にはNRS(Numerical Rating Scale)7/10の胸部症状が持続していた。【身体所見】意識清明、会話可能。脈拍数:49/分・不整、血圧95/61mmHg、呼吸音:清。(ヒロ)割合とリスクに乏しい男性の深夜の胸部症状ですか。車を電柱にぶつけていますから、意識がない時間があったのですね。心電図伝送の時間経過は?(谷口)3時13分に現着、車内収容が3時18分で心電図伝送が3時22分です。心電図確認は3時35分でした。3時23分に現地を出発し、病院搬入が3時40分(搬送距離9.1km)でした。(ヒロ)実際に伝送された心電図は?(谷口)図2です。II、III、aVF誘導でST上昇、胸部誘導で対側性ST変化があります。救急外来でとった心電図に比べてより振幅が大きいのですが、ノイズもなく、ほぼ遜色なく評価可能だと思います。(図2)伝送された12誘導心電図画像を拡大する(ヒロ)波形としては、同時相の12誘導波形ですね。3拍目は補充収縮でしょうから、「2度以上」、おそらくは「高度」の範疇に入る「房室ブロック」もありそうです。これが意識消失の原因ですかね。こういう場合、閉塞部位は大半が近位部ですし、V1誘導のST低下が相対的に軽めで血圧も低めですから、右室枝の関与(右室梗塞)も気になります。実際の心カテの様子はどうでしたか?(谷口)カテ室入室が4時12分、穿刺が4時20分です。右冠動脈が近位部(図内↗)で完全閉塞しており、左冠動脈にも狭窄がありましたが、当日はこちら(右冠動脈)を治療しています(図3)。血栓吸引をして、型通りのPCIにてTIMI 3を得て終了しています。peak CK 2,311U/Lでした。(図3)右冠動脈造影画像を拡大する(ヒロ)Door-to-Balloon-Time(DTBT)はいかがでしょう?(谷口)血栓吸引までが58分、バルーンまでですと69分で、これがDTBTになります。(ヒロ)DTBTは90分が一つの指標だと思いますが、余裕でクリアしていますね。“勝因”の一つは、伝送心電図の“事前情報”ですかね。(谷口)ええ。胸の症状があって心電図が送られてきたということで、われわれは“アラート”(alert)として受け止め、病院としても受け入れ体制で待ちます。プレホスピタル心電図のクラウド伝送を行うことで、診断が早くつき、病院到着後の流れが非常にスムーズになる可能性が十分あると思います。(ヒロ)まったくその通りですね。【質問14】“狙い通り”のSTEMI症例は、実際に年間どれくらいの件数がありますか?(谷口)2017年12月1日から1年間のデータがあります。心電図伝送されたのが152例(平均年齢79歳[29~96歳])あり、そのうちSTEMIの症例が11例であったという状況です。(ヒロ)割合としては7%が“ホンモノ”(本物)なんですね。いやー、今回のお話、非常に魅力的でした。“空飛ぶ心電図”の前半はここまでにしましょう。次回はプロジェクトの成功秘話や苦労した点について伺います。お楽しみに!【古都のこと~松花堂~】松花堂は、岩清水八幡宮に程近い、京都市中心部から電車でも車でも1時間弱の八幡市にあります。その社僧で瀧本坊なる寺坊の住職を務めた昭乗が晩年、泉坊一角に方丈の草庵*1を結び、「松花堂」と名付けたとされます。昭乗は今で言う“マルチ人間”で、書道(能書)*2、絵画、茶の湯などに優れた才能を発揮しました。敷地内には広大な庭園が広がっていますが、平成30年の大阪北部地震(6月)と台風21号(8月)による被害のため、一時閉園に追い込まれたという苦難の年がありました。懸命の復旧作業が行われ、同年10月下旬に再開されたものの、自然の猛威の爪痕は深く、令和元年2019年9月現在、外園のみ限定公開のため、草庵や書院、3つある茶室*3を目にすることはできません。ただ、その周囲を歩くだけでも優美さに心奪われ、いつまでも残したい名園だと誰しもが感じるでしょう。多数の竹とともに春は椿、秋は隠れ紅葉スポットとして、皆さんにもぜひ一度訪れてもらいたいです。*1:廃仏毀釈の際に現在の場所に移築され、旧地(松花堂跡)より南方に位置する。*2:光悦寺で有名な本阿弥光悦、近衛信尹とともに「寛永の三筆」とされ、将軍家の書道師範も務めた。*3:松隠・竹隠・梅隠が茶会に利用されていた。

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IL-23p19阻害薬グセルクマブ、中等症~重症の乾癬に有効/Lancet

 中等症~重症の乾癬の治療において、インターロイキン(IL)-23p19阻害薬グセルクマブはIL-17A阻害薬セクキヌマブに比べ、約1年の長期的な症状の改善効果が良好であることが、ドイツ・ハンブルク・エッペンドルフ大学医療センターのKristian Reich氏らが行ったECLIPSE試験で示された。研究の成果は、Lancet誌オンライン版2019年8月8日号に掲載された。乾癬治療薬の臨床試験では、最長でも12週または16週という短期的な有効性の評価に重点が置かれてきたが、乾癬は慢性疾患であるため、長期的なエンドポイントの評価が求められていた。2剤を直接比較する無作為化第III相試験 本研究は、グセルクマブとセクキヌマブを直接比較する二重盲検無作為化第III相試験であり、2017年4月27日~2018年9月20日の期間に、9ヵ国(オーストラリア、カナダ、チェコ、フランス、ドイツ、ハンガリー、ポーランド、スペイン、米国)の142施設で実施された(Janssen Research & Developmentの助成による)。 対象は、年齢18歳以上、中等症~重症の局面型皮疹を有する乾癬と診断され、光線療法または全身療法の適応とされた患者であった。中等症~重症は、乾癬面積重症度指数(Psoriasis Area and Severity Index:PASI、0~72、点数が高いほど重症)≧12、医師による全般的評価(Investigator's Global Assessment:IGA)≧3、6ヵ月以上持続するbody surface area involvement(BSA)≧10%と定義された。 被験者は、グセルクマブ(100mg、0、4週、その後は8週ごと)またはセクキヌマブ(300mg、0、1、2、3、4週、その後は4週ごと)を皮下投与する群に無作為に割り付けられ、44週の治療が行われた。フォローアップは56週まで実施された。 主要エンドポイントは、intention-to-treat集団における48週時のベースラインから90%以上のPASIの改善(PASI 90)の達成割合とした。副次エンドポイントは、12週および48週時のPASI 75、12週時のPASI 90、12週時のPASI 75、48週時のPASI 100、48週時のIGAスコア0(皮膚病変なし)、48週時のIGAスコア0または1(軽度)の達成割合であった。安全性の評価は、0~56週に1回以上の投与を受けた患者で行った。48週時PASI 90達成割合 84% vs.70%、12/48週時PASI 75達成割合は非劣性 1,048例が登録され、グセルクマブ群に534例、セクキヌマブ群には514例が割り付けられた。全体の年齢中央値は46.0歳(IQR:36.0~55.0)、女性が33%含まれた。平均罹患期間は18.4(SD 12.4)年、平均BSAは24.1(13.7)%、IGAは3(中等度)が76%、4(重度)が24%、PASIは平均値20.0(7.5)、中央値18.0(15.1~22.3)であった。 48週時のPASI 90達成割合は、グセルクマブ群が84%(451例)と、セクキヌマブ群の70%(360例)に比べ有意に優れた(差:14.2ポイント、95%信頼区間[CI]:9.2~19.2、p<0.0001)。 主要な副次エンドポイントである12週および48週時のPASI 75の達成割合は、グセルクマブ群のセクキヌマブ群に対する非劣性(マージンは10ポイント)が確認された(85%[452例] vs.80%[412例]、p<0.0001)が、優越性は認めなかった(p=0.0616)。 そのため、他の副次エンドポイントの統計学的な検定は実施されなかった(12週時のPASI 90はグセルクマブ群69% vs.セクキヌマブ群76%、12週時のPASI 75は89% vs.92%、48週時のPASI 100は58% vs.48%、48週時のIGAスコア0は62% vs.50%、48週時のIGAスコア0または1は85% vs.75%)。 全Gradeの有害事象(グセルクマブ群78% vs.セクキヌマブ群82%)、重篤な有害事象(6% vs.7%)、感染症(59% vs.65%)の頻度は両群でほぼ同等であった。頻度の高い有害事象として、鼻咽頭炎(22% vs.24%)と上気道炎(16% vs.18%)がみられた。活動性の結核や日和見感染は認めなかった。セクキヌマブ群でクローン病が3例報告された。 著者は「これらの知見は、乾癬治療の生物学的製剤の選択において、医療従事者の意思決定に役立つ可能性がある」としている。

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認知機能低下と入院の関連、外科と内科で違いは/BMJ

 手術による2泊以上の入院は、平均的な認知機能の経過(the cognitive trajectory)にわずかながら影響を及ぼしたが、非外科的入院ほどではなかった。重大な認知機能低下のオッズは、外科手術後で約2倍であり、非外科的入院の約6倍よりも低かったという。米国・ウィスコンシン大学のBryan M. Krause氏らが、加齢に伴う認知機能の経過と大手術との関連を定量化する目的で行った前向き縦断的コホート研究の結果を報告した。手術は長期的な認知障害と関連する可能性があるが、これらの関連性を検討した先行研究では、認知機能低下が加齢に伴い加速するという認知機能の経過を考慮しておらず、方法論的な問題のため一貫した結果が得られていなかった。著者は、「本研究の情報は、インフォームドコンセントの際に、手術による健康上の有益性の可能性と比較検討されるべきである」とまとめている。BMJ誌2019年8月7日号掲載の報告。Whitehall IIコホート研究の参加者を対象に19年間追跡 研究グループは、Whitehall II研究において1997~2016年の間に認知機能の評価を5回行った成人7,532例を対象に、Hospital Episode Statistics(HES)データベースを用いて、手術と加齢に伴う認知機能の経過との関連を解析した。 注目した曝露は入院で、追跡期間中の2泊以上の入院を“大きな入院”と定義し、主要評価項目は論理的思考、記憶、音素流暢性(phonemic fluency)、意味流暢性(semantic fluency)を含む認知機能検査一式から得られた全般的認知機能スコア(global cognitive score)とした。 ベイズ線形混合効果モデルを用いて入院後の加齢に伴う認知機能の経過における変化を算出するとともに、手術によって引き起こされた重大な認知機能低下(最初の3回の認知機能評価データに基づく予測経過から標準偏差1.96を超えると定義)のオッズも同様に算出した。重大な認知機能低下のオッズは、外科的入院で約2倍、内科的入院で約6倍 加齢に伴う認知機能の経過を考慮した後でも、大手術(“大きな入院”を要した手術)はわずかな認知機能低下と関連があり、平均して5ヵ月未満の加齢に相当した(95%信用区間[CrI]:0.01~0.73)。一方、内科疾患および脳卒中による入院は、それぞれ1.4年(95%CrI:1.0~1.8)と13年(95%CrI:9.6~16)の加齢と関連していた。 重大な認知機能低下は、非入院患者の2.5%、外科入院患者の5.5%、内科入院患者の12.7%で確認された。“大きな入院”をしていない患者と比較すると、外科的または内科的イベントを伴う"大きな入院"をした患者は、認知機能の予測経過からかなり低下する傾向にあった(外科的入院オッズ比:2.3[95%CrI:1.4~3.9]、内科的入院オッズ比:6.2[95%CrI:3.4~11.0])。 なお、著者は研究の限界として、因果関係は不明で、麻酔投与のデータは限られており、長期的な認知機能の変化における麻酔の影響は評価していないことなどを挙げている。

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tanezumabが疼痛コントロール不良の変形性関節症に有効/JAMA

 標準的鎮痛薬による痛みのコントロールが不十分な中等症~重症の股関節・膝変形性関節症(OA)患者において、ヒト化モノクローナル抗体tanezumabはプラセボと比較して、疼痛や身体機能などを有意に改善することが、米国・ノースウェスタン大学のThomas J. Schnitzer氏らによる多施設共同無作為化二重盲検試験の結果、示された。一方で改善はわずかで、治験薬投与を受けた患者の関節に関する安全性イベントおよび全関節置換の発生はより多かった。結果を踏まえて著者は、「さらなる研究を行い、今回示された有効性および有害事象の所見の臨床的重要性を確認する必要がある」と述べている。JAMA誌2019年7月2日号掲載の報告。tanezumabを1日目、8週目に計2回投与 研究グループは2016年1月~2018年5月14日(最終患者受診日)にかけて、中等症~重症の股関節/膝OAで、OA鎮痛薬による疼痛コントロールが不十分であり、急速に進行するOAなど、事前に規定した関節の安全性に関する状態がX線像で認められなかった18歳以上の患者698例を対象に試験を行った。 被験者を無作為に3群に分け、第1日目と第8週目にtanezumab 2.5mgを皮下投与(231例)、第1日目にtanezumab 2.5mgを、第8週目に同5mgを投与(233例)、第1日目と第8週目にプラセボ投与(232例)を、それぞれ実施した。 tanezumab投与についての主要評価項目は、(1)ベースラインから第16週までのWOMAC(Western Ontario and McMaster Universities Osteoarthritis Index)疼痛サブスケール(0[痛みなし]~10[極度の痛み])の変化、(2)WOMAC身体機能サブスケール(0[問題なし]~10[極度に困難])の変化、(3)患者によるOAの総合的評価(patient global assessment of osteoarthritis[PGA-OA]、1[非常に良好]~5[非常に不良])の変化だった。tanezumabでWOMAC疼痛・身体機能スコア、PGA-OAともに有意に改善 被験者698例のうち試験薬の投与を1回以上受けた例は696例(平均年齢:60.8歳[SD 9.6]、女性65.1%)、試験を完了したのは582例(83.6%)だった。 ベースラインから第16週までのWOMAC疼痛スコアは、tanezumab 2.5mg群が7.1から3.6へ、tanezumab 2.5/5mg群が7.3から3.6へ、プラセボ群が7.3から4.4へ、それぞれ低下した。対プラセボ群との最小二乗平均差は、tanezumab 2.5mg群-0.60(95%信頼区間[CI]:-1.07~-0.13、p=0.01)、tanezumab 2.5/5mg群-0.73(同:-1.20~-0.26、p=0.002)だった。 同期間のWOMAC身体機能スコア平均値は、tanezumab 2.5mg群が7.2から3.7へ、tanezumab 2.5/5mg群が7.4から3.6へ、プラセボ群が7.4から4.5へとそれぞれ低下した。プラセボ群との差は、tanezumab 2.5mg群が-0.66(95%CI:-1.14~-0.19、p=0.007)、tanezumab 2.5/5mg群が-0.89(-1.37~-0.42、p<0.001)だった。 同期間のPGA-OAスコアも、tanezumab 2.5mg群が3.4から2.4へ、tanezumab 2.5/5mg群が3.5から2.4へ、プラセボ群が3.5から2.7へ減少した。プラセボ群との差は、tanezumab 2.5mg群が-0.22(同:-0.39~-0.05、p=0.01)、tanezumab 2.5/5mg群が-0.25(-0.41~-0.08、p=0.004)だった。 なお、急速進行OAの発生がtanezumab治療群にのみ認められた(2.5mg群5例[2.2%]、2.5/5mg群1例[0.4%])。全関節置換術を行ったのは、tanezumab 2.5mg群は8例(3.5%)、tanezumab 2.5/5mg群が16例(6.9%)、プラセボ群は4例(1.7%)だった。

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ステントを捨てんといてな! 薬剤コーティングバルーンの好成績(解説:中川義久氏)-1074

 薬剤コーティングバルーン(Drug-coated balloon:DCB)は、ステント再狭窄病変や小血管への治療において有効とされてきた。血管径が十分に維持されたde-Novo病変を、バルーン拡張のみで終了することは、急性冠閉塞の危険性も高く再狭窄の懸念もあることから、金属製ステントの適応とされてきた。とくに薬剤溶出性ステント(DES)の成績向上とともに、DESの使用は確立したものと考えられていた。その確信に風穴を開けるような報告がLancet誌オンライン版2019年6月13日号にデビューした。その名も「DEBUT試験」である。出血リスクが高い患者に対するPCIにおいて、DCBはベアメタルステントに比べて勝っていることを示したものである。前拡張を適切に行い、血流を障害するような解離もなく、強いリコイルもないことを確認した場合にDCBで薬物を塗布して終了するという治療戦略である。確かに、この方法で急性閉塞や再狭窄などのイベントなく経過できれば、leave nothing behind(異物を残さない)というコンセプトを実現することができる。 一方で克服すべき課題もある。実臨床の現場から退場宣告を受けた状態にあるベアメタルステントへの優越性を証明したところでインパクトは小さい。比較すべきは、DCB vs.DESであろう。また、DCBのみで終了しても急性冠閉塞のリスクが本当にないのかは懸念がある。かつてバルーンのみでのPCI(当時はPTCAと呼んでいた)の時代に、急性冠閉塞の怖さを体験している自分には、その不安は払拭できないというのが正直な気持ちである。末梢動脈疾患へのDCB治療を巡る混乱についても注意が必要である。これは、大腿動脈・膝窩動脈へのパクリタキセルコートバルーンによる治療で死亡リスクが増すのではないかという懸念である。冠動脈領域であれば末梢動脈領域への治療よりも薬剤の曝露量は少ないことは推測される。しかし、この懸念へのエビデンス提示も必要と考えられる。 このような課題があるとはいえ、かつて生体吸収性スキャホールドが達成しようとして挫折した理想をDCBが具現化しようとしていることは興味深い。DCBは世界に先駆けて日本での使用実績が多い分野でもあり、本邦からの情報発信に期待したい。

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薬剤コーティングバルーンが高出血リスク患者へのPCIに有効/Lancet

 出血リスクが高い患者に対する経皮的冠動脈インターベンション(PCI)において、薬剤コーティングバルーンはベアメタルステントに比べ優れていることが示された。フィンランド・North Karelia Central HospitalのTuomas T. Rissanen氏らが、同国内5施設で実施した単盲検無作為化非劣性試験「Drug-Eluting Balloon in stable and Unstable angina Trial:DEBUT試験」の結果を報告した。抗血小板療法や抗凝固療法の進歩、あるいは新世代薬剤溶出ステント(DES)の導入にもかかわらず、現状では、高出血リスク患者におけるPCIの最適な技術はわかっていない。Lancet誌オンライン版2019年6月13日号掲載の報告。薬剤コーティングバルーンで治療可能な出血リスク因子1つ以上、対象血管径2.5~4.0mmの新規患者が対象 DEBUT試験の対象は、薬剤コーティングバルーンで治療可能な、対象血管径が2.5~4.0mmの新規冠動脈虚血性病変のある、1つ以上の出血リスク因子(経口抗凝固薬内服中、80歳以上、貧血または血小板減少症、活動性悪性腫瘍、脳梗塞または頭蓋内出血の既往、重度の腎機能障害または肝不全、BMI<20、治療を要する重大な出血など)を有する患者である。ST上昇型心筋梗塞患者、2つのステントを要する分岐部病変、ステント内再狭窄、前拡張後の標的血管の重度血管解離または高度再狭窄(>30%)を有する患者は除外された。 標的病変の前拡張成功後、対象患者を、パクリタキセルとイオプロミドでコーティングされたバルーンを用いるPCI(バルーン群)、またはベアメタルを用いるPCI(ベアメタル群)のいずれかに1対1の割合で無作為に割り付けた。 主要評価項目は、9ヵ月時点での主要心血管イベント(MACE;心血管死、非致死性心筋梗塞、虚血による標的血管再血行再建の複合)である。絶対リスク差が3%未満の場合に非劣性とし、非劣性が検証された場合は優越性の検定を行った。intention-to-treat集団を対象に解析を行った。薬剤コーティングバルーンの優越性をMACEに関して確認 2013年5月22日~2017年1月16日の期間で、220例が募集され、そのうち208例がバルーン群(102例)とベアメタル群(106例)に無作為に割り付けられた。9ヵ月時点のMACEはバルーン群で1例(1%)、ベアメタル群で15例(14%)に発生した(絶対リスク比:-13.2ポイント[95%信頼区間[CI]:-6.2~-21.1]、リスク比:0.07[95%CI:0.01~0.52]、非劣性のp<0.00001、優越性のp=0.00034)。ベアメタル群ではステント血栓症(definite)が2例発生したが、バルーン群では急性の血管閉塞は確認されなかった。 著者は、予定より症例数が少なく、MACEの発生も予想より低かったことなどを研究の限界として挙げたうえで、「薬剤コーティングバルーンは出血リスクが高い患者に対する新しい治療戦略であり、今後、新世代DESを用いたPCIとの無作為化比較試験が必要である」とまとめている。

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「乳腺外科医事件」裁判の争点 【後編】

手術直後の女性患者への準強制わいせつ罪を問われた執刀医が、逮捕・勾留・起訴された事件。一審では無罪判決が言い渡されたが、検察は控訴し、争いは現在も続いている。この事件に関しては、ネットを中心として被害者とされる女性に対するバッシングと、医療者に対するバッシングがそれぞれ見られる。しかし、本件では「麻酔(注:本件ではプロポフォールやセボフルラン、笑気等が使用されていた)の影響で幻覚を体験した可能性がある」 として無罪判決が下されており、事件の本質からすると、女性も医師もある意味で被害者といえる。担当弁護人の1人である水沼 直樹氏に、実際に法廷で論じられた2つの争点について、前・後編で解説いただく本企画。前編に引き続き、今回は術後せん妄の有無についての裁判の経過と、このような事案を防ぐために考えられる医療安全対策を取り上げる。後編:術後せん妄か否かをめぐり、何が争点となったのか1.麻酔薬による術後せん妄の可能性本件の良性腫瘍摘出術では、麻酔薬としてプロポフォール200mgのほか、笑気ガスとセボフルランを継続的に投与し、鎮痛薬としてペンタゾシン5mg、坐薬等を投与していました(患者:30代前半、体重約50kg)。患者には、せん妄の準備因子の1つである脳の器質的障害は認められませんでしたが、誘発因子の1つとされる疼痛については、患者が術後に痛みを訴えています。また、直接因子とされる手術侵襲や上記の麻酔薬、オピオイド(ペンタゾシン)の使用も本件ではあります。弁護側証人は、乳房手術は全身麻酔後の覚醒時せん妄リスクが高い(オッズ比:5.19)と報告1)されていることを証言し、また、検察側証人がせん妄の可能性が低い理由の1つとして若年者であることを挙げたことに対し、せん妄の発症には必ずしも年齢による有意差があるわけではないと証言しました。実際に、小児麻酔においても術後せん妄が問題となり2)、学会等でも取り上げられていることも言及しています。麻酔薬と性的幻覚の症例報告は世界中にあり3)、プロポフォールについていえば、同薬により生々しい性的幻覚を見たという症例が世界中で報告されています4-7)。2.医師のDNAが患者の乳房に付着する可能性執刀医は、手術前に病室で患者の両胸を触診し、術前マーキングを実施していました。また、手術室内でも再度触診し、上級医と術式確認をしながら切開部を狭めるための再マーキングを行っています。これらの際、医師は通常どおり素手で触診しました。3.裁判所の判断患者が痛みを訴えていたことや術後にバイタルチェックを受けたこと等の記憶が無いこと、専門家の証言等を総合した結果、患者が「せん妄状態に陥っていた可能性は十分にあり、また、せん妄に伴って性的幻覚を体験していた可能性が相応にある」と判断しました。また、現場に臨場した警察官が、左胸以外の他の部分からも付着物を採取していれば、何らかの事実が判明でき真相解明につながった可能性がある、という旨が述べられました。なお、顔と両胸が写されていたこと等から、性的興味があったのではないかと検察官が指摘した医師が撮影した写真も、すべてマーキングされたものです。裁判所は、医師が医学的な目的以外で撮影したとはいえないと判断しました。詳細については、拙稿となりますが『医療判例解説 Vol.079』8)にも経緯をまとめています。4.医療安全対策この事件から得られた対策は、3つ考えられるでのはないでしょうか。1つは、患者の回診(とくに女性患者の回診)には、医療者1人で訪室しないことです。あらぬ疑いをかけられたり、また実際に犯行の機会を作ったりせずに済むからです。家族の立ち会いを求めるのも一案です。2つ目は、せん妄の診断基準としてはDSMやICD等がありますが、簡易版のスクリーニングツールも複数あります。CAMは、(1)急激な発症・症状の変動、(2)注意の障害、(3)解体した思考、(4)意識の障害の4項目から構成されるツールで、(1)(2)があり、かつ(3)または(4)があればせん妄と診断するという簡便なツールとなっています。これらを活用し、患者のせん妄を早期に医療機関が把握し、放置しないことが重要です。最後に、せん妄の可能性を患者や家族に対して、あらかじめ説明しておくことも重要です。英国立医療技術評価機構(NICE)のガイドラインや、厚生労働省制作の、せん妄に関する啓発動画9)を活用することも一案かと思います。参考1)Lepousé C et al. Br J Anaesth. 2006;96:747-53.2)Morgan E et al. Plast Reconstr Surg. 1990;86:475-8; discussion 479-480.3)Schneemilch C et al. Anaesthesist. 2012 ;61:234-41.4)Balasubramaniam B et al. Anaesthesia. 2003;58:549-53.5)Yang Z et al. J Anesth. 2016;30:486-8.6)Martínez Villar ML et al. Rev Esp Anestesiol Reanim. 2000;47:90-2.7)Marchaisseau V et al. Therapie. 2008;63:141-4.8)医療判例解説Vol.079 . 医事法令社;2019.9)厚生労働省委託緩和ケア普及啓発事業企画制作/日本サイコオンコロジー学会企画制作協力.『あれ?いつもと様子が違う=せん妄とは?』講師紹介

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経済毒性を日本人がん患者対象に要因別に評価した結果

 先ごろ約3,500万円の医薬品が登場し社会的関心を集めたが、高額な治療費・医薬品費がどのような“副作用”をもたらすのか。愛知県がんセンター中央病院の本多 和典氏らは、米国で開発されたがん患者の経済毒性(financial toxicity)を測定するツール「COmprehensive Score for Financial Toxicity:COST」の日本語版を作成し、これまで予備的研究として日本人がん患者におけるCOSTツールの使用可能性を少数例で評価していた。その実績を踏まえて今回、同氏らはCOSTツールを用いて日本人がん患者の経済毒性を評価する前向き調査を行い、日本人がん患者における経済毒性を要因別に評価した。著者は、「今回の結果は、日本におけるがん対策政策にとって重要な意味を持つだろう」とまとめている。Journal of Global Oncology誌2019年5月号掲載の報告。経済毒性が高い項目は非正規雇用やがんによる退職など 研究グループは、2ヵ月以上化学療法を継続している20歳以上の固形がん患者を対象に、アンケート用紙と医療記録を用い、COSTツールの質問項目に加えて社会経済的な項目に関するデータを収集して解析した。 日本人がん患者における経済毒性を要因別に評価した主な結果は以下のとおり。・191例に協力を依頼し、156例(82%)から回答を得た。・156例の内訳は、大腸がん77例(49%)、胃がん39例(25%)、食道がん16例(10%)、甲状腺がん9例(6%)、頭頸部がん4例(3%)、その他11例(7%)であった。・COSTスコア(低スコアほど経済毒性が高いことを示す)の中央値は21(0~41)、平均値±SDは12.1±8.45であった。・多変量解析の結果、COSTスコアと正の相関(すなわち経済毒性が低い)を示した項目は、高齢(β:0.15/歳、95%CI:0.02~0.28、p=0.02)と世帯貯蓄の多さ(β:8.24/1,500万円、95%CI:4.06~12.42、p<0.001)であった。・COSTスコアと負の相関(経済毒性が高い)を示した項目は、非正規雇用(β:-5.37、95%CI:-10.16~-0.57、p=0.03)、がんによる退職(β:-5.42、95%CI:-8.62~-1.37、p=0.009)、がんの治療費を何らかの方法で捻出(β:-5.09、95%CI:-7.87~-2.30、p<0.001)であった。

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