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「乳腺外科医事件」裁判の争点 【後編】

手術直後の女性患者への準強制わいせつ罪を問われた執刀医が、逮捕・勾留・起訴された事件。一審では無罪判決が言い渡されたが、検察は控訴し、争いは現在も続いている。この事件に関しては、ネットを中心として被害者とされる女性に対するバッシングと、医療者に対するバッシングがそれぞれ見られる。しかし、本件では「麻酔(注:本件ではプロポフォールやセボフルラン、笑気等が使用されていた)の影響で幻覚を体験した可能性がある」 として無罪判決が下されており、事件の本質からすると、女性も医師もある意味で被害者といえる。担当弁護人の1人である水沼 直樹氏に、実際に法廷で論じられた2つの争点について、前・後編で解説いただく本企画。前編に引き続き、今回は術後せん妄の有無についての裁判の経過と、このような事案を防ぐために考えられる医療安全対策を取り上げる。後編:術後せん妄か否かをめぐり、何が争点となったのか1.麻酔薬による術後せん妄の可能性本件の良性腫瘍摘出術では、麻酔薬としてプロポフォール200mgのほか、笑気ガスとセボフルランを継続的に投与し、鎮痛薬としてペンタゾシン5mg、坐薬等を投与していました(患者:30代前半、体重約50kg)。患者には、せん妄の準備因子の1つである脳の器質的障害は認められませんでしたが、誘発因子の1つとされる疼痛については、患者が術後に痛みを訴えています。また、直接因子とされる手術侵襲や上記の麻酔薬、オピオイド(ペンタゾシン)の使用も本件ではあります。弁護側証人は、乳房手術は全身麻酔後の覚醒時せん妄リスクが高い(オッズ比:5.19)と報告1)されていることを証言し、また、検察側証人がせん妄の可能性が低い理由の1つとして若年者であることを挙げたことに対し、せん妄の発症には必ずしも年齢による有意差があるわけではないと証言しました。実際に、小児麻酔においても術後せん妄が問題となり2)、学会などでも取り上げられていることも言及しています。麻酔薬と性的幻覚の症例報告は世界中にあり3)、プロポフォールについていえば、同薬により生々しい性的幻覚を見たという症例が世界中で報告されています4-7)。2.医師のDNAが患者の乳房に付着する可能性執刀医は、手術前に病室で患者の両胸を触診し、術前マーキングを実施していました。また、手術室内でも再度触診し、上級医と術式確認をしながら切開部を狭めるための再マーキングを行っています。これらの際、医師は通常どおり素手で触診しました。3.裁判所の判断患者が痛みを訴えていたことや術後にバイタルチェックを受けたこと等の記憶が無いこと、専門家の証言等を総合した結果、患者が「せん妄状態に陥っていた可能性は十分にあり、また、せん妄に伴って性的幻覚を体験していた可能性が相応にある」と判断しました。また、現場に臨場した警察官が、左胸以外の他の部分からも付着物を採取していれば、何らかの事実が判明でき真相解明につながった可能性がある、という旨が述べられました。なお、顔と両胸が写されていたこと等から、性的興味があったのではないかと検察官が指摘した医師が撮影した写真も、すべてマーキングされたものです。裁判所は、医師が医学的な目的以外で撮影したとはいえないと判断しました。詳細については、拙稿となりますが『医療判例解説 Vol.079』8)にも経緯をまとめています。4.医療安全対策この事件から得られた対策は、3つ考えられるでのはないでしょうか。1つは、患者の回診(とくに女性患者の回診)には、医療者1人で訪室しないことです。あらぬ疑いをかけられたり、また実際に犯行の機会を作ったりせずに済むからです。家族の立ち会いを求めるのも一案です。2つ目は、せん妄の診断基準としてはDSMやICD等がありますが、簡易版のスクリーニングツールも複数あります。CAMは、(1)急激な発症・症状の変動、(2)注意の障害、(3)解体した思考、(4)意識の障害の4項目から構成されるツールで、(1)(2)があり、かつ(3)または(4)があればせん妄と診断するという簡便なツールとなっています。これらを活用し、患者のせん妄を早期に医療機関が把握し、放置しないことが重要です。最後に、せん妄の可能性を患者や家族に対して、あらかじめ説明しておくことも重要です。英国立医療技術評価機構(NICE)のガイドラインや、厚生労働省制作の、せん妄に関する啓発動画9)を活用することも一案かと思います。参考1)Lepousé C et al. Br J Anaesth. 2006;96:747-53.2)Morgan E et al. Plast Reconstr Surg. 1990;86:475-8; discussion 479-480.3)Schneemilch C et al. Anaesthesist. 2012 ;61:234-41.4)Balasubramaniam B et al. Anaesthesia. 2003;58:549-53.5)Yang Z et al. J Anesth. 2016;30:486-8.6)Martínez Villar ML et al. Rev Esp Anestesiol Reanim. 2000;47:90-2.7)Marchaisseau V et al. Therapie. 2008;63:141-4.8)医療判例解説Vol.079 . 医事法令社;2019.9)厚生労働省委託緩和ケア普及啓発事業企画制作/日本サイコオンコロジー学会企画制作協力.『あれ?いつもと様子が違う=せん妄とは?』講師紹介

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経済毒性を日本人がん患者対象に要因別に評価した結果

 先ごろ約3,500万円の医薬品が登場し社会的関心を集めたが、高額な治療費・医薬品費がどのような“副作用”をもたらすのか。愛知県がんセンター中央病院の本多 和典氏らは、米国で開発されたがん患者の経済毒性(financial toxicity)を測定するツール「COmprehensive Score for Financial Toxicity:COST」の日本語版を作成し、これまで予備的研究として日本人がん患者におけるCOSTツールの使用可能性を少数例で評価していた。その実績を踏まえて今回、同氏らはCOSTツールを用いて日本人がん患者の経済毒性を評価する前向き調査を行い、日本人がん患者における経済毒性を要因別に評価した。著者は、「今回の結果は、日本におけるがん対策政策にとって重要な意味を持つだろう」とまとめている。Journal of Global Oncology誌2019年5月号掲載の報告。経済毒性が高い項目は非正規雇用やがんによる退職など 研究グループは、2ヵ月以上化学療法を継続している20歳以上の固形がん患者を対象に、アンケート用紙と医療記録を用い、COSTツールの質問項目に加えて社会経済的な項目に関するデータを収集して解析した。 日本人がん患者における経済毒性を要因別に評価した主な結果は以下のとおり。・191例に協力を依頼し、156例(82%)から回答を得た。・156例の内訳は、大腸がん77例(49%)、胃がん39例(25%)、食道がん16例(10%)、甲状腺がん9例(6%)、頭頸部がん4例(3%)、その他11例(7%)であった。・COSTスコア(低スコアほど経済毒性が高いことを示す)の中央値は21(0~41)、平均値±SDは12.1±8.45であった。・多変量解析の結果、COSTスコアと正の相関(すなわち経済毒性が低い)を示した項目は、高齢(β:0.15/歳、95%CI:0.02~0.28、p=0.02)と世帯貯蓄の多さ(β:8.24/1,500万円、95%CI:4.06~12.42、p<0.001)であった。・COSTスコアと負の相関(経済毒性が高い)を示した項目は、非正規雇用(β:-5.37、95%CI:-10.16~-0.57、p=0.03)、がんによる退職(β:-5.42、95%CI:-8.62~-1.37、p=0.009)、がんの治療費を何らかの方法で捻出(β:-5.09、95%CI:-7.87~-2.30、p<0.001)であった。

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SGLT2阻害薬カナグリフロジンの腎保護作用が示される:CREDENCE試験/国際腎臓学会

 2型糖尿病患者に対する心血管系(CV)イベントリスクの低下を検討したランダム化試験から、SGLT2阻害薬による腎保護作用が示唆された。しかし、あくまで副次的解析であり、対象は腎機能が比較的保たれた例に限られていた。4月12~15日にオーストラリアで開催された国際腎臓学会(ISN)-World Congress of Nephrology(WCN)2019で報告されたCREDENCE試験では、SGLT2阻害薬カナグリフロジンが、慢性腎臓病(CKD)を合併した2型糖尿病患者の腎・心イベントを抑制することが明らかになった。Vlado Perkovic氏(オーストラリア・ニューサウスウェールズ大学)が報告した。対象は全例、腎機能の低下した2型糖尿病患者 CREDENCE試験では、CKDを合併し、最大用量のレニン・アンジオテンシン系(RAS)阻害薬またはACE阻害薬を服用し、腎機能増悪高リスクの2型糖尿病患者4,401例が対象(日本からは110例)。CKDの基準は「eGFR:30~90mL/分/1.73m2」かつ「尿中アルブミン/クレアチニン比(UACR):300~5,000mg/gCr」とした。 平均年齢は63歳でHbA1c平均値は8.3%。腎機能は、eGFR平均が56.2mL/分/1.73m2、UACR中央値が927mg/gCrだった。また99.9%がRAS阻害薬を服用し、加えて69%がスタチンを併用していた。カナグリフロジンは腎・心イベントを有意に抑制 これら4,401例は2週間のプラセボ服用期間後、カナグリフロジン100mg/日群(2,202例)とプラセボ群(2,199例)にランダム化され、二重盲検法で追跡された。主要評価項目は「末期腎不全・血清クレアチニン(Cr)倍増・腎/心血管系死亡」の腎・心イベントである。 2018年7月、中間解析の結果、主要評価項目発生数が事前に設定された基準に達したため、試験は早期中止となった。その結果、追跡期間中央値は2.62年(0.02~4.53年)である。 主要評価項目発生率は、カナグリフロジン群:43.2/1,000例・年、プラセボ群:61.2/1,000例・年となり、カナグリフロジン群におけるハザード比(HR)は、0.70(95%信頼区間[CI]:0.59~0.82)の有意低値となった。 カナグリフロジン群における主要評価項目抑制作用は、「年齢」、「性別」、「人種」に有意な影響を受けず、また試験開始時の「BMI」、「HbA1c」、「収縮期血圧」の高低にも影響は受けていなかった。「糖尿病罹患期間の長短」、「CV疾患」や「心不全既往」の有無も同様だった(いずれも、交互作用 p>0.05)。カナグリフロジン群は腎イベントのみで比較してもリスクが有意に低減 副次評価項目の1つである、腎イベントのみに限った「末期腎不全・血清Cr倍増・腎死」も、カナグリフロジン群における発生率は27.0/1.000例・年であり、40.4/1.000例・年のプラセボ群に比べ、HRは0.66の有意低値だった(95%CI:0.53~0.81)。 同様に副次評価項目の1つである「CV死亡・心筋梗塞・脳卒中」(CVイベント)も、カナグリフロジン群におけるHRは0.80(95%CI:0.67~0.95)となり、プラセボ群よりも有意に低かった。 なお、総死亡、あるいはCV死亡のリスクは、カナグリフロジン群とプラセボ群の間に有意差を認めていない。カナグリフロジン群とプラセボ群で下肢切断、骨折の有意差認めず 有害事象のリスクも、カナグリフロジン群で有意に低かった。 プラセボ群と比較した「全有害事象」のHRは0.87(95%CI:0.82~0.93)、「重篤な有害事象」に限っても、0.87(95%CI:0.79~0.97)である。 また「下肢切断」のリスクだが、発生率はカナグリフロジン群:12.3/1,000例・年で、プラセボ群:11.2/1,000例・年との間に、有意なリスクの差は認めなかった(HR:1.11、95%CI:0.79~1.56)。なお本試験はCANVAS Programの報告を受け、2016年に安全確保のためプロトコールを改訂。以降、全例で「受診時の下肢チェック」と「下肢切断リスク上昇可能性時の試験薬一時中止」が求められるようになった。 「骨折」の発生リスクにも、カナグリフロジン群とプラセボ群の間に有意差はなかった。 本試験は報告と同時に、NEJM誌でオンライン公開された。また、学会で掲出されたスライドは、The George Institute for Global HealthのHP からダウンロードが可能である。専門家はこう見る:CLEAR!ジャーナル四天王SGLT2阻害薬カナグリフロジンの腎保護作用がRAS抑制薬以来初めて示される(解説:栗山 哲 氏)-1039 コメンテーター : 栗山 哲( くりやま さとる ) 氏東京慈恵会医科大学客員教授

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1990~2016年の世界のてんかん負荷調査の分析結果

 てんかんによる発作やその影響は、早期死亡や残存症状などの健康被害の原因となりうる。てんかんの負荷に関するデータは、健康管理計画やリソース配分において必要とされている。世界の疾病負荷(Global Burden of Disease:GBD)2016のてんかん共同研究者らは、てんかんによる健康被害を年齢、性別、年、場所別に定量化することを目的に、GBDのデータを用いて分析を行った。The Lancet. Neurology誌2019年4月号の報告。 1990~2016年の195の国と地域におけるてんかん負荷の評価を行った。年齢、性別、年、場所、社会人口統計学的指標(1人当たりの所得、教育、出生率の複合尺度)による、死亡、罹患率、障害調整生命年(disability-adjusted life-years:DALY、定義は損失生存年数[years of life lost:YLL]と障害生存年数[years lived with disability:YLD]の合計)として負荷を測定した。死亡に関する情報は人口動態登録と口頭剖検(verbal autopsy)より入手し、てんかんの有病率や重症度に関するデータは住民代表調査より得た。すべての推定値は、95%不確実性区間(UI)で算出した。 主な結果は以下のとおり。・2016年の活動性てんかん(特発性および2次性てんかん)の患者数は4,590万人(95%UI:3,990~5,460万)であった(年齢標準化有病率:621.5人/10万人、95%UI:540.1~737.0)。・このうち、活動性特発性てんかん患者は2,400万人(95%UI:2,040~2,770万)であった(有病率:326.7人/10万人、95%UI:278.4~378.1)。・活動性てんかんの有病率は年齢とともに増加し、5~9歳(374.8人/10万人、95%UI:280.1~490.0)および80歳以上(545.1人/10万人、95%UI:444.2~652.0)でピークに達していた。・活動性特発性てんかんの年齢標準化有病率は、男性で329.3人/10万人(95%UI:280.3~381.2)、女性で318.9人/10万人(95%UI:271.1~369.4)であり、SDIの五分位において類似していた。・特発性てんかんの世界的な年齢標準化死亡率は、1.74人/10万人(95%UI:1.64~1.87)であり、男性では2.09人/10万人(95%UI:1.96~2.25)、女性では1.40人/10万人(95%UI:1.23~1.54)であった。・年齢標準化DALYは、182.6人/10万人(95%UI:149.0~223.5)であり、男性では201.2人/10万人(95%UI:166.9~241.4)、女性では163.6人/10万人(95%UI:130.6~204.3)であった。・男性のDALY率が高値であったのは、女性と比較し、YLL率が高値のためであった。・特発性てんかんの年齢標準化有病率の変化は、6.0%(95%UI:-4.0~16.7)と有意ではなかったが、年齢標準化死亡率(24.5%、95%UI:10.8~31.8)および年齢標準化DALY率(19.4%、95%UI:9.0~27.6)では有意な減少が認められた。・SDIの五分位が低い国と高い国との年齢標準化DALY率の違いは、低所得環境におけるてんかん重症度の高さによるものが1/3を占め、SDIが低い国におけるYLL率の上昇が2/3を占めていた。 著者らは「1990~2016年にかけて疾病負荷が減少しているにもかかわらず、てんかんはいまだに障害や死亡に関連する重大な問題である。てんかんに関するデータが不十分な国では、標準化されたデータ収集を強化すべきである。低所得国における既存治療へのアクセス改善や世界的な新規薬剤の開発は、てんかんの負荷を減少させる可能性がある」としている。■関連記事てんかん患者の突然死、腹臥位がリスク因子か世界のてんかん研究を解析、有病率に影響を与える要因は医学の進歩はてんかん発症を予防できるようになったのか

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糖尿病患者の身体活動継続に行動介入は有効か/JAMA

 2型糖尿病患者において、行動介入戦略は、標準ケアと比較し身体活動の持続的な増加と座位時間の減少をもたらすことが示された。イタリア・ローマ・ラ・サピエンツァ大学のStefano Balducci氏らが、ローマの糖尿病クリニック3施設で実施した無作為化非盲検試験(評価者盲検優越性試験「Italian Diabetes and Exercise Study 2:IDES_2」)の結果を報告した。身体活動/座位行動の変化が、2型糖尿病患者で長期的に持続されうるかは不明であった。JAMA誌2019年3月5日号掲載の報告。行動介入群と標準ケア群で、身体活動と座位時間を比較 研究グループは、行動介入戦略により身体活動の増加が持続し座位時間が減少するかを検証する目的で、2012年10月~2014年2月に、あまり運動をせずいつも座ってばかりの生活をしている2型糖尿病患者300例を、行動介入群または標準ケア群に、施設、年齢および糖尿病治療で層別化して1対1の割合で無作為に割り付け、それぞれ3年間治療した(追跡調査期間2017年2月まで)。 全例に対して、米国糖尿病学会ガイドラインの推奨に準じたケアを行うとともに、行動介入群(150例)では、3年間毎年、糖尿病専門医による個別の理論的なカウンセリングを1回と認定運動療法士による個別の理論的・実践的カウンセリングを隔週8回実施した。標準ケア群(150例)は、一般医の推奨(日常の身体活動を増やし座位時間を減らすこと)のみとした。 複合主要評価項目は、身体活動量、軽強度ならびに中~強強度の身体活動時間、座位時間とし、加速度計によって測定した。行動介入により、持続的な身体活動の増加と座位時間の減少を確認 無作為化された300例(平均[±SD]年齢61.6±8.5歳、女性116例[38.7%])のうち、267例(行動介入群133例、標準ケア群134例)が試験を完遂した。追跡期間中央値は3年であった。 行動介入群と標準ケア群でそれぞれ、身体活動量(代謝当量[MET]、時間/週)は13.8 vs.10.5 MET(両群差:3.3、95%信頼区間[CI]:2.2~4.4、p<0.001)、1日の中~強強度の身体活動時間は18.9 vs.12.5分/日(6.4、5.0~7.8、p<0.001)、軽強度の身体活動時間は4.6 vs.3.8時間/日(0.8、0.5~1.1、p<0.001)、座位時間は10.9 vs.11.7時間/日(-0.8、-1.0~-0.5、p<0.001)であった。 両群の有意差は試験期間中持続していたが、1日の中~強強度の身体活動時間については、両群の差が6.5分/日から3年目には3.6分/日に低下した。セッション外での有害事象は、行動介入群で41例、標準ケア群で59例確認された。行動介入群におけるセッション中の有害事象は30件報告され、大半は一般的な筋骨格系の外傷/不快感と軽度の低血糖であった。 著者は、研究の限界として、食事に関する情報が解析データに含まれていないこと、加速度計の使用が標準ケア群での身体活動を増進する可能性があることなどを挙げたうえで、「今回の結果を一般化し臨床現場で介入を実施するには、さらなる検証が必要である」とまとめている。

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ドライアイに新規シクロスポリン点眼液が有効

 シクロスポリン(CsA)点眼液CyclASol(0.1%、0.05%含有の2規格)は、中等度~重度ドライアイ(DED)に対し、有効性、安全性ならびに忍容性が良好であることが、米国・Eye Research FoundationのDavid L. Wirta氏らによる第II相臨床試験で示された。角膜および結膜染色による評価でCyclASolと実薬対照を比較したところ、投与開始後2週間という早期で効果が認められ、とくに視覚機能として重要な角膜の中央領域で有効性が顕著であった。著者は、「優れた安全性・忍容性および快適性のプロファイルは、有望なベネフィット・リスク比を有するDED治療薬として、この新しいCsA点眼液を支持するものである」とまとめている。Ophthalmology誌オンライン版2019年1月28日号掲載の報告。 研究グループは、CyclASolの有効性および安全性を評価する目的で、多施設共同無作為化試験を行った。 対象は、DED既往患者207例で、2週間の導入期間(SystaneTM Balance点眼液1日2回投与)の後、CyclASol 0.05%群:51例、0.1%群:51例、プラセボ群:52例、実薬対照(RestasisTM:CsA0.05%点眼液)群:53例を1対1対1対1の割合で4つの治療アームに無作為に割り付け、それぞれ1日2回16週間投与した。CyclASolの両濃度群およびプラセボ群は二重盲検、実薬対照群は非盲検であった。 主要評価項目は、角膜フルオレセイン染色、結膜染色、DEDの自覚症状で、VAS(visual analog scale)とOSDI(Ocular Surface Disease Index)で評価した。 主な結果は以下のとおり。・CyclASol群は、プラセボ群および実薬対照群と比較し、角膜および結膜染色時間の改善が治療終了16週まで一貫して認められ、効果発現も14日目と早かった。・混合効果モデルによる解析の結果、CyclASol群の有効性はプラセボ群より有意に優れていた(全角膜染色領域p<0.1、中央角膜染色p<0.001、結膜染色p<0.01)。・自覚症状のパラメータであるOSDIも、CyclASol群で有意に優れていた(p<0.01)。・眼の有害事象件数は、すべての治療群で低かった。

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英語勉強の工夫【Dr. 中島の 新・徒然草】(260)

二百六十の段 英語勉強の工夫今年の私の2つの目標は、「1ヵ月に1キロずつ痩せる」「英語リスニング能力の向上」ですが、今回は後者の進捗状況について述べたいと思います。中身に入る前に一言。よく考えてみれば、「ダイエット」「英語」というのは、あのライザップがターゲットとして掲げている領域でもありますね。結局、日本人の頭の中にある願望は皆一緒ということかもしれません。ちなみにライザップは次の領域として、ゴルフと料理をターゲットにしているようです。それはさておき、私自身の英語学習について語りましょう。「これを理解できたらなあ」と思って始めた、映画「トロン:レガシー」の聞き取りですが、まだ終わっていません。半分をすぎた程度。なんせ知らない単語が多い、多過ぎる! ちょっと例を挙げてみましょう。wasteland、 cutlery、 weary、 apprentice、 terrain、 vanquish、 luminary、 freak、 rectify、 reconvene、 prank、 ardentなど、まだまだたくさんあります。同業者の英語名人が「英語リスニングのカギは、音の聞き取りではなく知識の量だ」とおっしゃっていましたが、まさしくその通り、単語を知らなければ聞き取りようがありません。というわけで次に考えたのが、楽しみながらボキャブラリーを増やす方法です。ちょうど今、取り組んでいることが2つあって、1つがニューヨーク・タイムズの「Crossword」、もう1つがアメリカ版の巨大掲示板である「reddit」です。Crosswordの方はスマホのアプリで、もっぱら5×5マスの小さいものに挑戦しています。これがアメリカ人向け生の英語といった風情で難しい。たとえば、“Monday Night Football' channel(月曜の夜のアメフトのチャンネル)”とか“Sound of a scissors cut(ハサミで切る音)”とか。答えはそれぞれ“ESPN”と“SNIP”になるのですが、知らんがなそんなもん!しかし、このクロスワードを始めてみると案外面白く、手加減なしのアメリカ人向け英語にハマってしまいます。とくにイライラして眠れない夜にこれをやると、日常の些事を忘れつつ心の安寧を得ることができます。もう1つのredditのほうは英語の「2ちゃんねる」といったところ。世界中のあらゆる事を話題にして皆が好き放題書いているのですが、笑えるものばかりです。たとえば、「人に言いたいけど、会話には適さない話ある?」というスレッド。1人が「俺、メイン州で作家のスティーヴン・キングの近所に住んでいるんだけど」という話を始めると、皆がスティーヴン・キングについての経験をそれぞれに語り始めます。子供の頃、あちこちでアルバイトをしていたら複数の場所でスティーヴン・キングに出くわしたんだ。もちろん彼がスティーヴン・キングだってことは知っていたけど、むこうも僕の顔を覚えていて、笑いながら「坊主、俺につきまとうのはやめな」と言ってスクリューと木材を買っていったんだ。買ったばかりのスティーヴン・キングの小説を映画館のロビーで読んでいたら、「その小説、気に入ってくれたかい。サインしようか?」と声をかけられた。なんと、本物のスティーブン・キングだったよ。友達が僕をサプライズで本屋に連れていってくれたんだけど、スティーブン・キングがサイン会をしていたわけ。僕は彼の大ファンだったから、列に並んでいる間に泣いてしまって。そしたらスティーブン・キングが「心配するな。俺だって自分に会ったら泣いちまうよ」って声をかけてくれたんだ。エピソードは面白いのですが、使われている単語はなじみのないものばかりです。pimp、 extortion、 mugshot、 lick、 tit、 lumber、 fluff、 surreal、 statutory、 dudeなど。lumberなんかは、「なんだ、腰椎穿刺じゃねえか」と思った先生もおられるかもしれませんが、腰椎穿刺はlumbar punctureなので微妙にスペルが違います。でも、このような単語でもアメリカ人にとっては日常的だというのが現実なので、調べては覚えるしかありません。というわけで、「英語リスニングは知識勝負だ」という言葉を信じて、ひたすら勉強しております。最後に1句レディットで 結果にコミット 英会話

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自殺率の世界的傾向は/BMJ

 自殺による年齢調整死亡率は、1990年以降、世界的に大幅に減少しているが、依然として死亡の重大な寄与因子であり、地域や性別、年齢別に変動がみられることが、米国・ワシントン大学のMohsen Naghavi氏らGlobal Burden of Disease Self-Harm Collaboratorsの調査で示された。研究の詳細は、BMJ誌2019年2月6日号に掲載された。自殺は、世界中で公衆衛生上の関心事となっている。世界保健機関(WHO)の報告によれば、毎年、世界で約80万人が自殺で死亡しており、女性や中年成人に比べ、男性、若年成人、高齢者の自殺率が高いという。GBD 2016のデータで自殺死亡のパターンと経時的傾向を解析 研究グループは、2016年の世界疾病負担研究(Global Burden of Disease Study 2016:GBD 2016)のデータを用いて、世界の自殺死亡のパターンを評価し、1990~2016年の経時的な傾向を系統的に解析した(Bill and Melinda Gates Foundationの助成による)。 自殺による粗死亡率と年齢調整死亡率、および損失生存年数を、195の国と地域において年齢別、性別、社会人口統計学的指標(総出生率、1人当たりの所得、教育年数の統合指標)の差に基づいて算出した。年齢調整自殺死亡率は27年間で約3分の2に、女性の減少率が高い 自殺による死亡は、1990~2016年の27年間に世界で6.7%(95%不確定区間[UI]:0.4~15.6%)増加し、2016年には81万7,000人が自殺死したが、年齢調整自殺死亡率は32.7%(27.2~36.6%)減少しており、これは全死因による年齢調整死亡率の低下(30.6%)とほぼ同等の数値であった。 自殺は、高所得アジア太平洋地域における年齢調整損失生存年数の最も重要な原因であった。また、東欧、中欧、西欧、中央アジア、オーストララシア、ラテンアメリカ南部、高所得北米地域では、自殺は年齢調整損失生存年数の主要な原因の上位10位以内に入っていた。 15~19歳を除き、地域、国、年齢にかかわらず、男性が女性よりも自殺死亡率が高かった。また、自殺死亡率の男性に対する女性の比率にはばらつきがみられたが、社会人口統計学的指標が低い集団ほど、女性の比率が高い傾向がみられた。女性の自殺死亡率は、1990年との比較で2016年に49.0%(95%[UI]:42.6~54.6%)減少し、男性の23.8%(15.6~32.7%)に比べ減少率が高かった。 著者は、「自殺という公衆衛生上の継続的な懸案事項に対処するには、地域および国の状況に高い感度を示す効果的な介入のエビデンスを構築するための研究を続けねばならない」としている。

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日本人の脳卒中生涯リスク:4人に1人が脳卒中になる(解説:有馬久富氏)-1000

 Global Burden of Disease(GBD)研究2016より、全世界における脳卒中の生涯リスクがNEJM誌に報告された1)。その結果、25歳以降に脳卒中を発症するリスクは25%であった。日本における脳卒中の生涯リスクは全世界よりも少し低い23%であり、約4人に1人が脳卒中に罹患する計算になる。また、日本では1990~2016年までの間に生涯リスクが3%減少していた。 一方、東アジアで脳卒中の生涯リスクが最も高いのは中国(39%)であり、約2.5人に1人が罹患する計算になる。さらに中国では、1990~2016年までの間に生涯リスクが9%も増加していた。中国において高血圧の未治療者や、降圧目標を達成できていない者が多いこと2,3)が、高い脳卒中生涯リスクの一因かもしれない。 脳卒中は予防可能な疾病である。INTERSTROKE研究では、管理可能な危険因子をすべてコントロールすることにより、現在起こっている脳卒中の約90%を予防できる可能性が示されている4,5)。国民全体の生活習慣を改善するポピュレーション予防戦略と高血圧・糖尿病などに適切な医療を提供するハイリスク予防戦略を組み合わせて、脳卒中の生涯リスクを今後さらに低下させてゆくことが可能となるであろう。

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第4回 痛みの強さの測定法【エキスパートが教える痛み診療のコツ】

第4回 痛みの強さの測定法痛みは第5のバイタルサインと呼ばれています。そのために、患者さんを診察するうえで痛みについての関心が高まってきておりますが、痛みは患者さん自身にしかわからない主観的な感覚であるために、それを科学的に研究する対象とはなりにくかったと思われます。その一方で、痛みは病気の兆候として最も多く、誰もが苦しむ原因となっています。「痛みはない」と患者さんがおっしゃれば、それでよろしいと思われますが、痛みが存在する場合には、その強さの程度を測定することは、痛みを治療するためにも重要な検査となります。今回は、現在用いられている「痛みの強さの測定法」についてお話しします。痛みの強さを測る代表スケール1)視覚的評価スケール(Visual Analogue Scale:VAS)従来、臨床の場で広く使用されている評価尺度です。100mmの直線上に、左端(0mm)を「痛みなし」、右端(100mm)を「想像できる最高の痛み」あるいは「今まで経験した最大の痛み」として、患者さん自身に現在の痛みがその直線の上でどの位置にあるかをチェックしてもらう測定法です。痛みの強さを左端からの長さ(mm)で表示します。画像を拡大する2)顔表現的評価スケール(Face Pain Rating Scale:FRS)VASに比較して小児や高齢者にとって、わかりやすく痛みの強さを示すことが期待できます。「0:痛みのない顔」から「5:我慢ができない流涙の顔」までの5ないし6段階の顔の苦痛表現を用いて、患者さんに自分の痛みの程度に相当する表情の顔を指し示してもらう測定法です。3歳から判定できると考えられています。もちろん顔と顔の間は、患者さんに想像していただかなくてはなりません。画像を拡大する3)数値的評価スケール(Numerical Rating Scale:NRS)痛みの強さを0~10までの11段階で表し、0は「痛みなし」、10は「これ以上ない痛み」として、現在の痛みの強さを数値で記載する測定法です。VASに比較して数値が明確なので、患者さんにもわかりやすいようです。画像を拡大する4)口頭式評価スケール(Verbal Rating Scale:VRS)「1:痛くない、2:すこし痛い、3:痛い、4:すごく痛い」というように、数段階の痛みの強さを表す言葉を用いて患者さんに示してもらう測定法です。VRSは、患者さんにとっても理解しやすく、おおまかな変化を知るうえで有用です。画像を拡大する5)カラード・フェイス・ビジュアル・アナログ・スケール(Colored Face Visual Analogue Scale)痛みの程度を色で表し、顔の変化も加えています。暖かい色は比較的楽な状態で、青い色は痛みが強くなり顔も厳しくなります。また、0mmはこれから痛みが始まる顔です。したがって、そこに至るまで痛みを感じない状態ですので、もっと笑顔が見られてもよいと思います。画像を拡大する6)フェイス・ビジュアル・アナログ・スケール(Faced Visual Analogue Scale)FRSとVASを組み合わせて、裏面にVASに変換しやすいようにセッティングした測定器です。とくに、高齢者に使いやすいと考えられています。画像を拡大する7)マクギル痛みの簡易質問表(Short Form of McGill Pain Questionnaire)痛みの程度もさることながら、その性質を質問するツールです。画像を拡大する痛みを測定して患者さん間で比較する前述のこれらの痛みの評価方法は、同一患者さん自身での経時的変化や治療効果の判定に対しては威力を発揮してきましたが、患者さんの間での比較は不可能です。それに対しては、患者さんの間で比較できるような装置が使用されています。・知覚・痛覚定量分析装置(Pain VisionTM)患者さんが感じている痛みを、痛みを伴わない異種感覚に置き換えて定量的に評価する装置です。現在、臨床使用ができます。画像を拡大するこれによって、痛みの程度を患者さんの間で比較評価できる可能性が高まりました。痛みを発生させないようなAβおよびAδ線維をパルス状電流波(低周波電流、50Hz、0~150μA、パルス幅0.5ms)を用いて皮膚の刺激量を増大させながら、患者さんが電気刺激を最初に感じた値を「最小感知電流」と定義します。また、患者さんが有する痛みと一致した感覚刺激の大きさになった電流値を「痛み対応電流」と定義します。それらの2点値から痛み度を算出します。痛み度=100×(痛み対応電流-最小感知電流)/最小感知電流下図は痛みの程度(痛み度)を測定しているところです。画像を拡大するVAS値と痛み度の変化は相関していますが、同じVAS値において痛み度が同様とは限らず、患者さんによって、さまざまな痛み度を呈しています。VASは、他の患者さんとの比較はできないですが、痛み度においては、他の患者さんとの比較ができます。VAS値が高く、激痛を訴えている患者さんでも意外と痛み度は低く、患者さんが思っているほどでもないことがわかると、患者さん自身も安心することがあります。逆にVAS値が低くても、痛み度が高く、痛みに対する我慢度が高い患者さんも存在します。また、疾患別に痛み度の強さが異なるのか、痛みの表現によって痛み度が異なるのか、治療法によって痛み度の低下に差異があるのか、性差があるのかなど、さらなる検討が必要です。それによって、痛み度に関して臨床への応用度が今後高まるものと考えられます。以上のいずれの測定法でも痛みの程度が観察できます。日常診療のときに、痛みの有無、痛みの程度が測定されることを望んでおります。次回は「全身痛」について解説する予定です。1)花岡一雄ほか監修. 痛みマネジメントupdate 日本医師会雑誌. 2014;143:10-13.

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日本と世界の平均寿命は2040年にどうなるか?(解説:有馬久富氏)-979

 日本人の平均寿命は、戦後右肩上がりで延び続け、世界でもトップクラスの長寿国となった。2017年の平均寿命は、男性で81年、女性で87年と報告されている1)。先日、Global Burden of Diseases, Injuries, and Risk Factors Study(GBD)研究2016のデータを用いて、2040年の世界平均寿命を予測した成績がLancetに掲載された2)。その結果、世界の平均寿命は、男女ともに平均4.4年延び、日本の平均寿命も85年を超えて世界のトップクラスにあり続けると予測された。 同時に、各国の保健政策が有効に機能しなかった場合には平均寿命がほとんど変化しないとも予測されている2)ので、日本においても油断することはできない。論文のsupplementalファイルには国別にリスク要因を検討した結果が示されているが、日本においてとくに改善が必要なのは、喫煙、肥満、高血圧、飲酒および高血糖であった。これらのリスク要因に関して、国民全体の生活習慣を改善するポピュレーション予防戦略と高血圧・糖尿病・高度肥満者などに適切な医療を提供するハイリスク戦略を組み合わせて、さらなる健康長寿につなげてゆきたいところである。 一方、サハラ以南のアフリカでは平均寿命が短く、一部の国々では2040年になっても平均寿命が65年に到達しないと予測されている2)。日本などの長寿国に比べると、20年以上のギャップが存在することになる。これらの国々においては、保健・医療システムを含めた社会基盤の整備および貧困の解消に向けたサポートを継続してゆく必要があろう。

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Dr.須藤のやり直し酸塩基平衡

第1回 基本的な生理学的知識 第2回 酸塩基平衡異常の基本第3回 血液ガスの読み方とケーススタディ01&02第4回 ケーススタディ03&04 第5回 K代謝の生理学とケーススタディ05 第6回 ケーススタディ06 第7回 ケーススタディ07 第8回 ケーススタディ08 第9回 ケーススタディ09 そして低K血症の鑑別診断の手順 第10回 尿中電解質の使い方 酸塩基平衡に苦手意識を持っていませんか?酸塩基平衡は、最低限の生理学的な基本を理解したうえで、個々の患者さんに応用できるようになると、これほど面白い分野はないといっても過言ではありません。このシリーズでは、達人Dr.須藤が酸塩基平衡の基本ルールをしっかりとレクチャー。シリーズ後半には、症例を基に、実用的な応用について、解説します。これで、あなたも酸塩基平衡が好きになる!第1回 基本的な生理学的知識 まずは、酸塩基平衡の生理学的な基本知識から解説します。酸の生成や負荷に対する生体の反応そして、基本用語の整理など、これまでぼんやりと知っていたことが、すっきりと整理され、理解できます。また、覚えづらいHenderson-Hasserbalch 式など、Dr.須藤ならではの覚えるコツもお教えします。第2回 酸塩基平衡異常の基本 酸塩基平衡異常は何らかの病的プロセス(代謝性・呼吸性)、(アシドーシス・アルカローシス)が複数参加した綱引きです。正常な状態であれば、綱は地面に置かれており、中央はpH7.40であるが、何らかの異常があると綱引き開始!綱引き勝負の行方は?Dr.須藤ならではの綱引きの図を使って、詳しく解説します。まずは、代謝性アシドーシスと代謝性アルカロ―シスの機序についてしっかりと理解してください。第3回 血液ガスの読み方とケーススタディ01&02 今回は基本的な血液ガスの読み方をレクチャー。血ガスは基本的な6つのステップをきちんと踏んでいくことで、患者さんの状態を読み解いていくことができます。また、今回から症例の解析に入ります。Dr.須藤が厳選した症例で、基本ルールのマスターと臨床の応用について学んでいきましょう。第4回 ケーススタディ03&04 今回は、2症例を基に混合性の酸塩基平衡異常を解説します。“Medical Mystery”と名付けられた症例03。pHは一見正常、でも患者の状態は非常にsick。さあ、患者にいったい何が起こっているのでしょう。そして、酸塩基平衡や電解質の異常をたくさん持っているアルコール依存症の患者の症例を取り上げるのは症例04。それらをどう解読していくのか、Dr.須藤の裏ワザも交えて解説します。第5回 K代謝の生理学とケーススタディ05 カリウム代謝異常(とくに低Kを血症)合併することが多い酸塩基平衡異常。今回は、カリウム代謝に関する基本的な腎生理学から学んでいきましょう。まずは、重要な尿細管細胞について。NHE3?NKCC2?ROMK?ENAC?・・・が何だか!!!心配いりません。Dr.須藤がこのような難しいことを一切省いて、臨床に必要なところに絞って、シンプルに解説します。第6回 ケーススタディ06 ケース06は「原因不明の腎機能障害を認めたの48歳の小柄な男性」。多彩な電解質異常、酸塩基平衡異常を来した今回の症例。Dr.須藤が“浅はか”だったと当時の苦い経験を基に解説します。ピットフォールはなんだったのか?また、AG正常代謝性アシドーシスの鑑別診断に、重要な意味を持つ尿のAnion GAPについても確認しておきましょう。第7回 ケーススタディ07 「クローン病治療にて多数の腸切除と人工肛門増設がある41歳男性の腎機能障害」の症例を取り上げます。さまざまな病態、酸塩基異常、電解質異常などを呈するこの患者をどう診断し、どこからどのように治療していくのか。臨床経過-血液ガスの数値と治療(輸液)の経過-を示しながら、診断と治療について詳しく解説します。第8回 ケーススタディ08 今回の症例は「腎機能障害と原因不明の低K血症で紹介された48歳女性」検査所見は、低K血症とAG正常代謝性アシドーシス、そして、尿のAGはマイナス!そう、この組み合わせで一番に考えられるのは「下剤濫用」。しかしながら、導き出される鑑別と、患者から得られる病歴が一致しない。時間稼ぎにクエン酸NaとスローKで外来で経過をみながら考えることを選択。だが、完全に補正されない・・・。思考停止に陥ったDr.須藤。その原因と診断は?第9回 ケーススタディ09 そして低K血症の鑑別診断の手順 「著明な低カリウム血症の35歳女性」を取り上げます。Dr.須藤の初診から1週間後、診察室に訪れた患者。なんと30分間も罵倒され続けることに!!一体患者に、、Dr.須藤に何が起こったのか!そして、いくつかのケーススタディでみてきた低カリウム血症の鑑別診断を、手順に沿って、シンプルにわかりやすく解説します。これまで何度も出てきた“KISS”と“尿血血”というキーワード。ついにその全貌が明らかに!第10回 尿中電解質の使い方 「クローン病治療にて多数の腸切除と人工肛門増設がある41歳男性の腎機能障害」の症例を取り上げます。さまざまな病態、酸塩基異常、電解質異常などを呈するこの患者をどう診断し、どこからどのように治療していくのか。臨床経過-血液ガスの数値と治療(輸液)の経過-を示しながら、診断と治療について詳しく解説します。

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呼吸器疾患死亡率、英国vs.EU15+諸国/BMJ

 1985~2015年の期間に、英国、およびEU15+諸国(英国を除く欧州連合[EU]加盟15ヵ国に、オーストラリア、カナダ、米国を加えた国々)では、いずれも呼吸器疾患による死亡率が全体として低下したが、閉塞性・感染性・間質性呼吸器疾患死亡率については英国がEU15+諸国に比べて高いことが、米国・ハーバード大学のJustin D. Salciccioli氏らの調査で明らかとなった。研究の成果は、BMJ誌2018年11月28日に掲載された。世界疾病負担(Global Burden of Disease)などの報告によれば、英国は、医療制度が同程度の他国に比べて呼吸器疾患死の割合が高い可能性が示唆されていた。全呼吸器疾患死とサブカテゴリー別の死亡を検討 研究グループは、英国における呼吸器疾患による年齢標準化死亡率を、医療制度が同程度のEU15+諸国と比較する観察研究を行った(研究助成元は申告されていない)。 1985~2015年の世界保健機関(WHO)の死亡データベースを用いて、英国、EU15+諸国の全19ヵ国のデータを収集した。EU15ヵ国はオーストリア、ベルギー、デンマーク、フィンランド、フランス、ドイツ、ギリシャ、アイルランド、イタリア、ルクセンブルク、オランダ、ポルトガル、スペイン、スウェーデン、ノルウェー。 全呼吸器疾患死、および感染性(インフルエンザ、肺炎、結核を含む)、腫瘍性(気管支、肺、胸膜の悪性腫瘍を含む)、間質性(特発性肺線維症を含む)、閉塞性(慢性閉塞性肺疾患、喘息、気管支拡張症を含む)、その他(肺水腫、気胸を含む)の呼吸器疾患による死亡について解析を行った。 混合効果回帰モデルを用いて国別の差を経時的に解析し、局所的に重み付けされた散布図平滑化(locally weighted scatter plot smoother)で評価した呼吸器疾患のサブカテゴリーの傾向を検討した。英国の女性は全サブカテゴリーで死亡率が高い 1985~2015年の期間に、英国、およびEU15+諸国の全呼吸器疾患死は、男性では低下したが女性では変化せずに維持されていた。呼吸器疾患による年齢標準化死亡率(10万人当たりの死亡件数)は、英国では男性は151件から89件に低下したのに対し、女性は67件から68件と、ほとんど変化しなかった。EU15+諸国についても、男性は108件から69件へ低下したが、女性は35件から37件と、大きな変化はなかった。 英国はEU15+諸国に比べ、女性ではすべてのサブカテゴリー(感染性、腫瘍性、間質性、閉塞性、その他)の呼吸器疾患による死亡率が高く、男性では感染性、間質性、閉塞性、その他の呼吸器疾患による死亡率が高かった。 著者は、「これらの国々の呼吸器疾患患者の医療費、医療制度、健康行動の違いを明らかにするために、さらなる検討を要する」と指摘している。

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受動喫煙と高血圧症との関連~日本人3万人の横断研究

 受動喫煙の直後に血圧は一時的に上昇するが、受動喫煙と慢性的な高血圧症との関連については明らかではない。今回、日本多施設共同コーホート研究(J-MICC研究)の横断研究で、多くの潜在的交絡因子を制御し、その関連について評価を行った。その結果から、高血圧予防においてタバコ煙を制御する重要性が示唆された。Medicine(Baltimore)誌オンライン版で2018年11月に掲載。 本研究の対象者は、J-MICC研究に参加した生涯非喫煙者3万2,098人(男性7,216人、女性2万4,882人)である。受動喫煙は自記式調査票を用いて評価した。受動喫煙への曝露時間は、「時々またはほとんどなし」、「ほぼ毎日、1日2時間以内」、「ほぼ毎日、1日2~4時間」、「ほぼ毎日、1日4~6時間」、「ほぼ毎日、1日6時間以上」の5つの選択肢で把握した。高血圧症有病は、収縮期血圧140mmHg以上または拡張期血圧90mmHg以上、あるいは降圧薬の服用のいずれかを満たす者とした。高血圧症の多変量調整オッズ比(OR)および95%信頼区間(CI)について、ロジスティック回帰モデルを用いて、受動喫煙の曝露レベルごとに推定した。 その結果、受動喫煙にほぼ毎日曝露された人の高血圧症の多変量調整ORは「時々またはほとんどなし」の人(基準群:OR=1.00)に比べて、1.11(95%CI:1.03~1.20)であった。また、受動喫煙の曝露時間が1日1時間増加することによる高血圧症の多変量調整ORは、1.03(95%CI:1.01~1.06、傾向性のp=0.006)であった。この関連は男性においてより強く観察された。男性における受動喫煙への曝露1日1時間当たりの高血圧症の多変量調整ORは1.08(95%CI:1.01~1.15、傾向性のp=0.036)、女性では1.03(95%CI:1.00~1.05、傾向性のp=0.055)であった。

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統合失調症の世界的な疫学と負担

 世界の疾病負荷(global burden of disease:GBD)研究より、統合失調症による疾患推定の詳細、疫学、負荷を導き出すことができる。オーストラリア・クイーンズランド大学のFiona J. Charlson氏らは、年齢、性別、年、すべての国における統合失調症の推定有病率、推定負荷についてGBD 2016において報告を行った。Schizophrenia bulletin誌2018年10月17日号の報告。 統合失調症に関連する有病率、発症率、寛解率および/または超過死亡率を報告した研究を特定するため、システマティックレビューを行った。20の年齢層、7つの大都市、21の地域、195の国と地域における統合失調症の有病率を特定するため、包含基準を満たした研究の推定値は、GBD 2016で用いられたベイズ・メタ解析ツールに入力された。統合失調症の急性および慢性状態の疾患推定値は、性別、年齢、年、地域に特有の有病率の掛け合わせや、これらの状態で経験した障害を代表して2つの障害の重み付けにより導いた。 主な結果は以下のとおり。・システマティックレビューでは、合計129件の個別データソースが抽出された。・2016年の統合失調症の年齢標準化された世界的なポイント有病率は、0.28%と推定された(95%不確定性区間[UI]:0.24~0.31)。・有病率の性差は認められなかった。・統合失調症の年齢標準化されたポイント有病率は、国や地域により大きな違いはなかった。・世界的な有病数は、1990年の1,310万人(95%UI:1,160万~1,480万)から2016年の2,090万人(95%UI:1,850万~2,340万)に増加した。・統合失調症は、世界の疾病負荷に伴う1,340万人の障害生存年数に影響を及ぼす。 著者らは「統合失調症の有病率は低いものの、疾病負荷は大きい。われわれのモデリングでは、とくに中所得国において、人口の著しい増加と高齢化が統合失調症による疾病負荷の大幅な増加につながっていると示唆された」としている。■関連記事統合失調症の推定生涯有病率、最新値は何%統合失調症の再発、コスト増加はどの程度日本における認知症の総合的なコスト~公式統計に基づく経時分析

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DCS vs.DES:大腿動脈領域はパクリタキセル戦争(解説:中野明彦氏)-948

【EVTとPCI】 同じインターベンションでも冠動脈領域(PCI)と末梢動脈領域(EVT)には似て非なる点が多い。まずは両者の違いを列挙してみる。・対象血管の太さ:冠動脈と比較すると腸骨動脈は2~3倍、浅大腿~膝窩動脈は1.5~2倍、膝下動脈は同程度。・病変の長さ:末梢動脈のほうが数倍長い。・ステントプラットホーム:冠動脈では菲薄化と強い支持力を可能とするCoCrやPtCrを用いたballoon-expandable(バルーン拡張型)が、末梢動脈では屈曲・伸展・捻れのストレスにさらされるため柔軟性と支持力を兼ね備えたNitinolを用いたself-expandable(自己拡張型)が主体。・再狭窄のピーク:冠動脈では半年程度だが、自己拡張型ステントにより血管へのストレスが遷延するためか末梢動脈では1年以降も緩徐に再狭窄が進行する。・対象症例・マーケットの大きさ:最新の循環器疾患診療実態調査報告書では国内の症例数はPCI:EVT=4:1である。したがってEVT分野では大規模な臨床試験が遂行しにくい。【大腿~膝窩領域は群雄割拠】 さらに、病変部位によって治療戦略や成績が異なるのがEVTの大きな特徴である。腸骨動脈ではbare metal stentとくにbare nitinol stent(BNS)が5年開存率80~90%と安定した結果を残しているのとは対称的に、重症下肢虚血のみが適応となる膝下領域では閉塞性病変も多く、とくにバルーン治療しか適応されない本邦においては、その高い再狭窄率を打開する糸口が見いだせていないのが現状である。 そして大腿~膝窩動脈は最もホットな領域で、デバイスの進化と相まってガイドラインが改定されるたびに適応病変も拡大している。デバイスは従来のバルーン・BNSに加え、薬剤コーティングステント(DCS)・薬剤溶出性ステント(DES)・薬剤コーティングバルーン(DCB)、さらにはステントグラフト・アテレクトミーまで多岐に渡る。進化の過程はPCIのそれに類似するが、再狭窄予防に用いられる薬剤はlimus系が席巻しているPCIと異なり、冠動脈では一線を退いたパクリタキセルが主役を演じている。この分野にも依然として残るデバイスラグにより、本邦ではバルーン・BNS・DCS・ステントグラフトのみが使用可能であったが、新たに2017年12月からDCB:Paclitaxel-coated balloon(IN. PACT Admiral)が保険適用となった。【IMPERIAL studyについて】 本試験は大腿~膝窩動脈領域のEVTにおいて、非吸収ポリマー被覆・パクリタキセル溶出性ステント(Eluvia)の非ポリマー・パクリタキセル被覆ステント(Zilver PTX)に対する非劣性を検証した多施設単盲検無作為試験である。Eluvia stentはPCI領域(Xience stent / Promus stent)と同じポリマーにより薬剤溶出スピードがコントロールされ、再狭窄のピークとされる1年後までパクリタキセルを放出し続ける。対してポリマーのないZilver PTX stentは24時間で95%のパクリタキセルが放出され、約2ヵ月で血管壁からも消失する。すなわち前者はDrug-Eluting Stent(DES)であり、後者はDrug-Coated Stent(DCS)なのである。 試験の詳細は別項に譲るが、病変長8cm台と長くはないものの、完全閉塞が3割、高度石灰化30~40%のリアルワールドに近い病変が対象で、1年後の有効性・安全性のエンドポイントにおいてEluviaの非劣性が示されただけではなく、1次開存率はEluviaが勝り、再治療率・ステント血栓症もZilver PTXのおよそ半分だった。【Eluvia stentへの期待と懸念】 DESの優劣にはステントプラットホーム、ポリマー、薬剤とその溶出期間などが複合的に影響する。PCI領域でのCypher stent(Sirolimus-eluting stent)に少し遅れ、EVT領域で2000年代に相次いで登録されたlimus系DES:Sirolimus-eluting stent(SIROCCO I・II study)やEverolimus-eluting stent(STRIDES study)は、BNSへの優位性が示せず早々に表舞台から姿を消した。その後のZilver PTXの登場はCypher stentの時のような期待感を抱かせたが、今回のEluvia stentはPCI領域での第2世代DESのイメージである。 しかしまだ1年間の結果であり、課題も多い。たとえばパクリタキセルが溶出し終えた1年以降の長期成績が未確定である。現時点ではfirst-in-manのMAJESTIC試験(n=57、病変長:7cm、完全閉塞:46%、高度石灰化:65%)が3年次までを報告、TLR回避率85.3%と悪くない結果だった。一方、薬剤長期溶出の懸念についてはMunster all-comers registry(n=62、病変長:20cm、完全閉塞:79%、中~高度石灰化:42%)が1年後に8%の動脈瘤形成(あるいは高度の陽性リモデリング)を報告している。 いまだこのDESを持たない日本では、ステントを留置しない「leave nothing behind」の概念が注目されDCB市場がにわかに活気付いている。冠動脈とは比較にならないほどの大量の新生内膜への対応策が確立していないためである。臨床試験もIN. PACT AdmiralによるIN. PACT SFA試験(n=220、病変長:8.9cm)の3年間1次開存率は69.5%、TLR回避率84.8%と良好である。しかし完全閉塞:26%、高度石灰化:8%と重症病変は少なく、7%でステントの追加留置が必要だった。当然のことながらステント(DES・DCS)とDCBは競合的ではなく補完的に使い分けるべきなのだろう。 2016年2月にCEマークを取得、本年9月FDAに認可されたEluvia stentは、おそらく来年にはわれわれの手元に届く。今後の長期成績を見据えながら、各デバイスをどう使い分けていくのかが問われることになる。 Eluviaが“帝国”を築けるかどうか、今後も大腿~膝窩動脈領域のパクリタキセル戦争に注目である。

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特発性肺線維症〔IPF : idiopathic pulmonary fibrosis〕

特発性肺線維症特発性肺線維症のダイジェスト版はこちら1 疾患概要■ 概念・定義間質性肺炎は、肺の間質と呼ばれる肺胞(隔)壁などに傷害と炎症が生じ、不可逆的な線維化を起こす疾患群である。この間質性肺炎には、薬剤性、膠原病性、大量の粉塵吸入など原因が明らかなものと、原因が不明な特発性間質性肺炎とがある。主な特発性間質性肺炎は7つの病型に分類されているが、そのうち患者数が最も多く、かつ予後不良の中心的疾患が特発性肺線維症(idiopathic pulmonary fibrosis:IPF)である。IPFは慢性、進行性の疾患であり、高度の線維化が肺底部、肺の末梢領域から肺全体へ広がって、不可逆性の蜂巣肺と呼ばれる病変を形成する、きわめて予後不良の疾患である。IPFの病理組織像はusual interstitial pneumonia (UIP)と呼ばれている所見である。従来、有効な治療法のない疾患であったが、近年、2つの抗線維化薬が治療薬として注目されている。■ 疫学近年まで特発性間質性肺炎、IPFの患者数についての正確な調査は行われておらず、まったく不明であったが、厚生労働省難治性疾患克服研究事業「びまん性肺疾患に関する調査研究班」により2008年以来、北海道において詳細な疫学研究が行われ、実態が明らかにされてきた。これによると、特発性間質性肺炎の有病率は10万人あたり10.0人であり、日本全体では少なくとも約1万3千人の患者数となり、その多くがIPFであることから、少なくみても1万数千人以上のIPF患者が日本には存在すると考えられる。■ 病因定義で述べたように、IPFの原因は不明であるが、リスク・ファクターとして喫煙、職場の粉塵(とくに金属粉塵)、ウィルスなどが考えられている。家族性で遺伝的素因が強くうかがわれる例もある。■ 症状IPFはゆっくりと進行する疾患であるが、個々の患者によって比較的急速に進行する例もある。主な症状は労作時の呼吸困難とさまざまな程度の乾性咳嗽である。労作時の息切れは、来院する6ヵ月~数年前から存在しており、聴診ではほとんどの例で、背部下肺野に捻髪音(fine crackle)を聴取する。半分~1/3の例で「ばち指」を認める。進行し末期に至ると、肺性心、末梢性浮腫、チアノーゼなどがみられてくる。■ 分類背景因子として、粉塵吸入の目立つ例、C型肝炎例、糖尿病合併例、膠原病が疑われる症状のある例、過敏性肺炎との鑑別が難しい例、家族性の例などさまざまなサブタイプの存在するheterogeneousな疾患といえる。近年、欧米からの指摘により日本でも再注目されているのが、上肺に気腫が存在し、下肺に線維化がある「気腫合併肺線維症」(CPFE:combined pulmonary fibrosis and emphysema)である。本病態は喫煙と強い関係があり、呼吸機能上、気腫と線維化が相殺されて、1秒率 (FEV1/FVC)は一見正常に近いが、肺拡散能が低下しているという特徴を有する。本病態では、肺がんの高率合併や症例によっては強い肺高血圧症を合併することからも注意が必要である。分類ではないが、IPFの病態としてきわめて重要なものに「急性増悪」と肺がん合併がある。急性増悪を一旦起こすと、死亡率約80%ともいわれ、きわめて予後不良である。■ 予後IPFはきわめて予後不良の疾患で、わが国のある調査では、初診時を起点とした平均生存期間は約5年であった。また、欧米での診断確定後の平均生存期間は28~52ヵ月とされる。しかしながら、IPFの予後にはきわめて多様性があり、数ヵ月で急性増悪などにより死亡する例から10数年以上生存する例までさまざまである。ただ、全体的にはきわめて予後不良の疾患であることは間違いのないところである。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)IPFの診断については基本的には図1の「IPF診断のフローチャート」に沿って行われる。まず、原因の明らかな他の間質性肺疾患を除外し、つぎにHRCT所見で典型的なUIPパターン(表1)を示す場合には、臨床的にIPFと確定診断される。外科的肺生検が実施された例では、HRCT所見と病理所見の組み合わせで判断していく(表2)。HRCTで典型的なUIPパターンを示さない場合でもpossible UIPパターンで、臨床経過がIPFに合致するような肺機能低下を示す(disease behavior)例ではIPFと臨床診断されることも可能である。こういった診断の際には間質性肺疾患の診断経験を十分に積んだ呼吸器専門医、画像診断医、病理診断医がMDD(multi-disciplinary discussion:多職種による合議)を行い、総合的に判断していくことがIPFの正確な診断に重要とされている。血液検査所見としては、従来LDHのみであったが、近年、新しい間質性肺炎マーカーとしてKL-6、SP-D、SP-Aが導入された。これらは、診断と共に活動度の判定にも有用である。呼吸機能としては、通常肺活量(VC)や全肺気量(TLC)の低下がみられ、拘束性換気障害のパターンを示し、また同時に肺拡散能の低下も認められる。ただし、気腫合併肺線維症ではこの限りではないことは前述した。IPFとの鑑別が必要な主な疾患として、表3のようなものがあげられる。画像を拡大する■MDD(multidisciplinary discussion)の取り扱いMDD:下記のとおり、呼吸器内科医、画像診断医、病理診断医が総合的に診断するMDD-A:画像上他疾患が考えられる場合、気管支鏡検査あるいは外科的肺生検で他疾患が見込まれる場合MDD-B:外科的肺生検は積極的UIP診断の根拠になる場合が多いため、患者のリスクを勘案の上、可能な限り施行するMDD-C:IPF症例で非典型的な画像(蜂巣肺が不鮮明など)を約半数で認めるため、呼吸機能の低下など、進行経過(behavior)を総合して臨床的IPFと判断する症例があるMDD-D:病理検査のない場合の適格性を検討する各MDDにおいて最終診断が変わりうる可能性がある画像を拡大する画像を拡大する画像を拡大する3 治療今まで、IPFの生存率や健康関連QOLに対して明らかな有効性が証明された薬物治療法はなかったが、2008年に新しく上市された抗線維化薬ピルフェニドン(商品名:ピレスパ)、さらに2015年に上市されたニンテダニブ(同:オフェブ)が大きく注目されている。IPFは治癒が期待できない難治性疾患であるため、その治療目標は改善ではなく、むしろ悪化防止(現状維持)が現実的である。予後不良因子である急性増悪の予防(感冒・心不全などの予防、無理をしないなど)、合併症の肺がん、肺高血圧症の早期発見と対応が求められる。後述する薬剤治療に関しても、治療効果と副作用を考えて選択することが重要である。次に、薬剤治療について述べる。1)N-アセチルシステイン(NAC:N-acetylcysteine)は、グルタチオンの前駆物質であり、抗酸化作用を有すると共に、活性酸素のスカベンジャー作用、炎症性サイトカイン産生の抑制作用などがある。IPFの病変部ではグルタチオンが減少し、レドックスバランスの不均衡が生じていることからも、NACの有用性が考えられる。NACの経口薬については欧州を中心とした臨床試験において効果が示されていたが、近年PANTHER試験で経口薬は無効とされた。しかし、日本ではNACはすでに吸入薬の形で去痰薬として長い歴史がある。吸入薬の形によるNACのIPFに対する検証がわが国でも厚生労働省の研究班を中心に行われ、一定の効果が示されている。NACの利点は副作用が少ない点であるが、吸入療法のため、アドヒアランスに欠点がある。吸入薬のNACについては、抗線維化薬との併用を含めさらに検討が必要である。2)抗線維化薬ピルフェニドンピルフェニドンは米国で創薬された薬剤であり、TNF-αなどの炎症性サイトカイン抑制、線維芽細胞のコラーゲン産生抑制といった抗炎症、抗線維化作用を有する薬剤である。わが国において軽症および中等症のIPFを対象とした第II相試験が行われ、歩行時低酸素血症の改善、呼吸機能の悪化抑制が認められた。さらに第III相試験が行われ、%VC悪化の有意な抑制、無増悪生存期間の改善が認められ、2008年12月に世界初の抗線維化薬として市販された。副作用として当初は光線過敏症が注目されていたが、実際に使用してみるとむしろ問題になるのは胃腸障害である。その後の研究でピルフェニドンはIPF患者のVC/FVCの低下を抑制し、無増悪生存期間の延長、6分間歩行距離の低下抑制を示した。とくに軽症例においてVC低下抑制、無増悪生存期間の延長が際立っていた。いくつかのトライアルの統合解析において、ピルフェニドンはIPF患者の全死亡率、疾患関連死亡率の低下を示したという。3)抗線維化薬ニンテダニブニンテダニブは、ベーリンガーインゲルハイム社によって開発された経口薬である。肺の線維化に関係する3つの分子、VEGF受容体、PDGF受容体、FGF受容体を阻害する低分子トリプリチロキンシナーゼ阻害薬である。わが国では2015年に第2の抗線維化薬として承認され市販された。ニンテダニブは全世界的規模のトライアルにおいてIPF患者の呼吸機能の年間低下率を約50%抑制した。主な副作用は下痢であり、その他肝機能障害などがみられる。4)ステロイド、免疫抑制剤これらの抗炎症薬のIPFに対する効果は基本的に否定されているが、IPFの終末期など症例によっては一定の効果をみる場合もある。また、急性増悪の際の治療としては、頻用されている。その他、進行例では在宅酸素療法が行われ、呼吸リハビリテーションも重要である。進行例で基準を満たせば肺移植の適応でもある。4 今後の展望前述の2つの抗線維化薬に対して、今後どのような重症度から投与するのか、長期の安全性、2つの薬の使い分けまたは併用の可能性などの多くの明らかにすべき課題がある。5 主たる診療科呼吸器内科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報難病情報センター 特発性間質性肺炎(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)日本呼吸器学会(医療従事者向けのまとまった情報)1)日本呼吸器学会びまん性肺疾患診断・治療ガイドライン作成委員会編. 特発性間質性肺炎診断と治療の手引き.改訂第3版:南江堂;2016.2)「びまん性肺疾患に関する調査研究」班特発性肺線維症の治療ガイドライン作成委員会編. 特発性肺線維症の治療ガイドライン2017. 南江堂;2017.3)杉山幸比古編.特発性肺線維症(IPF) 改訂版.医薬ジャーナル社;2013.4)杉山幸比古編、特発性間質性肺炎の治療と管理.克誠堂出版;2013.公開履歴初回2013年02月28日更新2018年11月13日

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「ロマネンパー」とはなんぞや?【Dr. 中島の 新・徒然草】(246)

二百四十六の段 「ロマネンパー」とはなんぞや?何ヵ月か前の事。とある国際学会の昼食でたまたま座った4人席で、英語地獄を見ました。私以外の3人は、カナダ人夫婦とオーストラリア人女性。この3人が超高速の英語で盛り上がっては「ガッハッハッハ!」と大声で笑うのです。笑いながらも目で私に共感を求めてくるので、我が国伝統のアルカイック・スマイルで対応せざるを得ませんでした。話の中身といっても大したものではなく、宗教の話とかどこの国が住みやすいとか、そんなところです。そのような苦しい思いの後に私は決意しました。「こうなったらリスニングだ、リスニングしかない!」と。以来、色々な手段で英語を聴いております。で、一番いいのはYouTubeではないか、と思うに至りました。とくにリスニングを鍛えるのに良いのは、いくつかの例を挙げれば・映像が美しい・聴き取れない部分が少なく、学習意欲を萎えさせない・字幕をONにすることができる・時には難解なスコットランド訛りとかにも挑戦するといった動画です。結局、字幕で確認しないことには、聴き取れない所はいつまで経っても理解できません。最近、よく見ているのは、The World From Aboveというチャンネルで、英語のナレーションつきで世界の町や村を上空から撮影しているものです。しゃべっているのは歴史的な内容とか建物の由来ですが、集中すれば聴き取れるレベルの英語なので、「うん、わかるぞ。わかる、わかる」という満足感とともにどんどん見てしまいます。さて、冒頭の「ロマネンパー」が出てきたのは、“Italy from Above our best sights from Verona,Venice,Vicenza in High Definition(HD)”というタイトルの動画の冒頭、1分39秒付近です。「ネン」にアクセントのある「ロマネンパー」って何のことだか読者の皆様はおわかりでしょうか? 字幕で確認すると、何と! “Roman Empire”だったのです。Romanの“n”とEmpireの“E” がひっついて「ネ」になり、しかもそこにアクセントが来るので、私の耳には「ロマネンパー」としか聴こえなかったのです。もう“Roman Empire”と聴き取ろうとするよりも、「ロマネンパー」と聴こえたらそれは“Roman Empire”だ、と思ったほうが実用的かもしれません。そう居直ってしまえば、苦しいはずの英語リスニングも“ビックリ発音コレクション”の場として楽しめます。いくつかの例を挙げれば・「フェスティバル」→ first of all・「ロボコム」→ global economy・「カリキャン」→ current account・「カロメター」→ kilometer・「カースル」→ castleとなり、私の耳の悪さがバレてしまいます。太字の部分はアクセントのあるところです。医学英語も笑えるものばかりです。・「マイエリンシー」・「ハーピース」・「アミーナスィッド」・「ニーミック」なんじゃこりゃ?と皆さんは思うかもしれませんが、順に“myelin sheath”、“herpes”、“amino acid”、“anemic”が、私の耳にはそう聞こえたのです。ちなみに、この英語と医学が同時に勉強できる有難いYouTubeサイトはOsmosisというチャンネルで、なぜか漢字では「浸透」と翻訳されています。“Guillain-Barre Syndrome -causes, symptoms, diagnosis, treatment, pathology”をはじめとして、何十何百というテーマが10分ほどにまとめられているので便利です。普段、自分達が好き勝手に発音している医学英語、正しい発音を耳にする良い機会になります。皆さんもぜひ一度聴いてみてください。最後に1句ロマネンパー 僕の聴力 サッパリだ

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2040年の全世界平均余命、2017年から4.4歳延長/Lancet

 米国・ワシントン大学のKyle J. Foreman氏らは、195の国・地域における2016~40年の平均余命、全死因死亡、250項目の死因別死亡を予測し、多くの国では死亡率の継続的な低下と平均余命の改善が示されることを明らかにした。一方で、良い/悪いシナリオについて差がみられ、将来の展望は不安定であることも示唆された。著者は、「技術革新の継続と、世界の貧困層の人々に対する開発援助を含む医療費の増加は、すべての人が寿命を全うし健康な生活を送ることができる将来図を描くために不可欠な要素である」とまとめている。Lancet誌オンライン版2018年10月16日号掲載の報告。世界疾病負担(GBD)研究2016のデータを用い、新たなモデルで評価 研究グループは、2017~40年の予測を立てるために、GBD(the Global Burden of Diseases, Injuries, and Risk Factors Study)2016のデータを用い、250の死因および死因分類を作成した。この予測枠組みは、79の独立した健康要因の変化に基づいている。 3つの構成要素(リスク因子の変化と選択された介入に起因する要素、1人当たり所得・学歴・25歳未満の合計特殊出生率に応じた各死因の基礎となる死亡率、時間との関連が不明の変化に対する自己回帰和分移動平均モデル)から成る死因別死亡のモデルを開発し、さらに、健康に関する良いシナリオと悪いシナリオ(GBDのすべてのリスク因子、1人当たり所得、学歴、選択された介入の範囲、過去の25歳未満の合計特殊出生率に関する年換算変動率の、それぞれ85および15パーセンタイル)を作成した。そしてこれらのモデルを用い、年齢・性別ごとの全死因死亡率、平均余命、および250の死因に関する損失生存年数(YLL)を算出した。世界の平均余命は2040年で男女とも4.4歳延長するも、シナリオによって差 世界的に、ほとんどの独立した健康要因が2040年までに改善するが、36の健康要因は悪化すると予測された。世界の平均余命は、2040年までに男性で4.4歳(95%UI:2.2~6.4)、女性で4.4歳(2.1~6.4)上昇すると予測されたが、良い/悪いシナリオに基づくと、曲線は、男性で7.8歳(5.9~9.8)上昇から0.4歳(-2.8~2.2)低下まで、女性で7.2歳(5.3~9.1)上昇から変化なし(0.1歳[-2.7~2.5])の範囲にあった。2040年における平均余命は、日本、シンガポール、スペイン、スイスでは男女共に85歳を超え、中国を含む59ヵ国では80歳を超えると予測された。一方、中央アフリカ共和国、レソト、ソマリア、ジンバブエでは65歳未満になると予測され、生存期間の世界格差は継続する可能性がある。 YLL予測値は、人口増加や加齢が部分的に関与するいくつかの非感染性疾患(NCD)による死亡の増加を示唆した。参照シナリオと代替シナリオの差は、HIV/AIDSで最も顕著であり、2016~40年の悪いシナリオにおいて、YLLが120.2%(95%UI:67.2~190.3)増加する可能性がある。2016年と比較すると、2040年までにNCDはすべてのGBDにおいてYLLの大部分(67.3%)を占めるが、依然として多くの低所得国においては感染性・妊産婦・新生児・栄養に関する疾患(CMNN)が2040年のYLLの大部分を占めると予想された(例:サハラ以南のアフリカでYLLの53.5%)。ほとんどの国では、医療の適応となる代謝系リスク(例:高血圧や空腹時血糖高値)と、集団レベルなどで最も目標とされるリスク(例:タバコ、高BMI、微小粒子状物質汚染)に、参照シナリオと良いシナリオとの間の最も大きな差が確認された。ただし、サハラ以南のアフリアは例外で、多くのリスク(例:危険な水と衛生、家庭内空気汚染、小児栄養失調)が貧困と発展レベルの低さに関連していることが示唆された。

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乳児血管腫(いちご状血管腫)〔infantile hemangioma〕

1 疾患概要■ 概念・定義乳児血管腫(infantile hemangioma)は、ISSVA分類の脈管奇形(vascular anomaly)のうち血管性腫瘍(vascular tumors)に属し、胎盤絨毛膜の微小血管を構成する細胞と類似したglucose transporter-1(GLUT-1)陽性の毛細血管内皮細胞が増殖する良性の腫瘍である1,2)。出生時には存在しないあるいは小さな前駆病変のみ存在するが、生後2週間程度で病変が顕在化し、かつ自然退縮する特徴的な一連の自然歴を持つ。おおむね増殖期 (proliferating phase:~1.5歳まで)、退縮期(消退期)(involuting phase:~5歳ごろ)、消失期(involuted phase:5歳以降)と呼ばれるが、経過は個人差が大きい1,2)。わが国では従来ある名称の「いちご状血管腫」と基本的に同義であるが、ISSVA分類にのっとって乳児血管腫が一般化しつつある。なお、乳幼児肝巨大血管腫では、肝臓に大きな血管腫やたくさんの細かい血管腫ができると、血管腫の中で出血を止めるための血小板や蛋白が固まって消費されてしまうために、全身で出血しやすくなったり、肝臓が腫れて呼吸や血圧の維持が難しくなることがある。本症では、治療に反応せずに死亡する例もある。また、まったく症状を呈さない肝臓での小さな血管腫の頻度は高く、治療の必要はないものの、乳幼児期の症状が治療で軽快した後、成長に伴って、今度は肝障害などの症状が著明になり、肝移植を必要とすることがある。■ 疫学乳児期で最も頻度の高い腫瘍の1つで、女児、または早期産児、低出生体重児に多い。発生頻度には人種差が存在し、コーカソイドでの発症は2~12%、ネグロイド(米国)では1.4%、モンゴロイド(台湾)では0.2%、またわが国での発症は0.8~1.7%とされている。多くは孤発例で家族性の発生はきわめてまれであるが、発生部位は頭頸部60%、体幹25%、四肢15%と、頭頸部に多い。■ 病因乳児血管腫の病因はいまだ不明である。腫瘍細胞にはX染色体の不活性化パターンにおいてmonoclonalityが認められる。血管系の中胚葉系前駆細胞の分化異常あるいは分化遅延による発生学的異常、胎盤由来の細胞の塞栓、血管内皮細胞の増殖関連因子の遺伝子における生殖細胞変異(germline mutation)と体細胞突然変異(somatic mutation)の混合説など、多種多様な仮説があり、一定ではない。■ 臨床症状、経過、予後乳児血管腫は、前述のように他の腫瘍とは異なる特徴的な自然経過を示す。また、臨床像も多彩であり、欧米では表在型(superficial type)、深在型(deep type)および混合型(mixed type)といった臨床分類が一般的であるが、わが国では局面型、腫瘤型、皮下型とそれらの混合型という分類も頻用されている。superficial typeでは、赤く小さな凹凸を伴い“いちご”のような性状で、deep typeでは皮下に生じ皮表の変化は少ない。出生時には存在しないあるいは目立たないが、生後2週間程度で病変が明らかとなり、「増殖期」には病変が増大し、「退縮期(消退期)」では病変が徐々に縮小していき、「消失期」には消失する。これらは時間軸に沿って変容する一連の病態である。最終的には消失する症例が多いものの、乳児血管腫の中には急峻なカーブをもって増大するものがあり、発生部位により気道閉塞、視野障害、哺乳障害、難聴、排尿排便困難、そして、高拍出性心不全による哺乳困難や体重増加不良などを来す、危険を有するものには緊急対応を要する。また、大きな病変は潰瘍を形成し、出血したり、2次感染を来し敗血症の原因となることもある。その他には、シラノ(ド・ベルジュラック)の鼻型、約20%にみられる多発型、そして他臓器にも血管腫を認めるneonatal hemangiomatosisなど、多彩な病型も知られている。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)臨床像などから診断がつくことが多いが、画像診断が必要な場合がある。造影剤を用いないMRIのT1強調画像と脂肪抑制画像(STIR法)の併用は有効で、増殖期の乳児血管腫は微細な顆粒が集簇したような形状の境界明瞭なT1-low、T2-high、STIR-highの病変として、脂肪織の信号に邪魔されずに描出される。superficial typeの乳児血管腫のダーモスコピー所見では、増殖期にはtiny lagoonが集簇した“いちご”様外観を呈するが、退縮期(消退期)になると本症の自然史を反映し、栄養血管と線維脂肪組織の増加を反映した黄白色調の拡がりとして観察されるようになる。病理診断では、増殖期・退縮期(消退期)・消失期のそれぞれに病理組織像は異なるが、いずれの時期でも免疫染色でグルコーストランスポーターの一種であるGLUT-1に陽性を示す。増殖期においてはCD31と前述のGLUT-1陽性の腫瘍細胞が明らかな血管構造に乏しい腫瘍細胞の集塊を形成し、その後内皮細胞と周皮細胞による大小さまざまな血管構造が出現する。退縮期(消退期)には次第に血管構造の数が減少し、消失期には結合組織と脂肪組織が混在するいわゆるfibrofatty residueが残存することがある。鑑別診断としては、血管性腫瘍のほか、deep typeについては粉瘤や毛母腫、脳瘤など嚢腫(cyst)、過誤腫(hamartoma)、腫瘍(tumor)、奇形(anomaly)の範疇に属する疾患でも、視診のみでは鑑別できない疾患があり、MRIや超音波検査など画像診断が有用になることがある。乳児血管腫との鑑別上、問題となる血管性腫瘍としては、まれな先天性の血管腫であるrapidly involuting congenital hemangiomas(RICH)は、出生時にすでに腫瘍が完成しており、その後、乳児血管腫と同様自然退縮傾向をみせる。一方、non-involuting congenital hemangiomas(NICH)は、同じく先天性に生じるが自然退縮傾向を有さない。partially involuting congenital hemangiomas(PICH)は退縮が部分的である。これら先天性血管腫ではGLUT-1は陰性である。また、房状血管腫(tufted angioma)とカポジ肉腫様血管内皮細胞腫(kaposiform hemangioendothelioma)は、両者ともカサバッハ・メリット現象を惹起しうる血管腫であるが、乳児血管腫がカサバッハ・メリット現象を来すことはない。房状血管腫は出生時から存在することも多く、また、痛みや多汗を伴うことがある。病理組織学的に、内腔に突出した大型で楕円形の血管内皮細胞が、真皮や皮下に大小の管腔を形成し、いわゆる“cannonball様”増殖が認められる。腫瘍細胞はGLUT-1陰性である(図1)。カポジ肉腫様血管内皮細胞腫は、異型性の乏しい紡錘形細胞の小葉構造が周囲に不規則に浸潤し、その中に裂隙様の血管腔や鬱血した毛細血管が認められ、GLUT-1陰性である。画像を拡大する3 治療 (治験中・研究中のものも含む)多くの病変は経過中に増大した後は退縮に向かうものの、機能障害や潰瘍、出血、2次感染、敗血症の危険性、また将来的にも整容的な問題を惹起する可能性がある。これらの可能性を有する病変に対しては、手術療法(全摘・減量手術)、ステロイド療法(外用・局所注射・全身投与)、レーザー、塞栓/硬化療法、イミキモド、液体窒素療法、さらにはインターフェロンα、シクロホスファミド、ブレオマイシン、ビンクリスチン、becaplermin、シロリムス、放射線療法、持続圧迫療法などの有効例が報告されている。しかし、自然消退傾向があるために治療効果の判定が難しいなど、臨床試験などで効果が十分に実証された治療は少ない。病変の大きさ、部位、病型、病期、合併症の有無、整容面、年齢などにより治療方針を決定する。以下に代表的な治療法を述べる。■ プロプラノロール(商品名:ヘマンジオル シロップ)欧米ですでに使われてきたプロプラノロールが、わが国でも2016年に承認されたため、本邦でも機能障害の危険性や整容面で問題となる乳児血管腫に対しては第1選択薬として用いられている3,4)。局面型、腫瘤型、皮下型とそれらの混合型などすべてに効果が発揮でき、表面の凹凸が強い部位でも効果は高い(図2)。用法・容量は、プロプラノロールとして1日1~3mg/kgを2回に分け、空腹時を避けて経口投与する。投与は1日1mg/kgから開始し、2日以上の間隔を空けて1mg/kgずつ増量し、1日3mg/kgで維持するが、患者の状態に応じて適宜減量する。画像を拡大する副作用として血圧低下、徐脈、睡眠障害、低血糖、高カリウム血症、呼吸器症状などの発現に対し、十分な注意、対応が必要である5)。また、投与中止後や投与終了後に血管腫が再腫脹・再増大することもあるため、投与前から投与終了後も患児を慎重にフォローしていくことが必須となる。その作用機序はいまだ不明であるが、初期においてはNO産生抑制による血管収縮作用が、増殖期においてはVEGF、bFGF、MMP2/MMP9などのpro-angiogenic growth factorシグナルの発現調節による増殖の停止機序が推定されている。また、長期的な奏効機序としては血管内皮細胞のアポトーシスを誘導することが想定されており、さらなる研究が待たれる。同じβ遮断薬であるチモロールマレイン酸塩の外用剤についても有効性の報告が増加している。■ 副腎皮質ステロイド内服、静注、外用などの形で使用される。内服療法として通常初期量は2~3mg/kg/日のプレドニゾロンが用いられる。ランダム化比較試験やメタアナリシスで効果が示されているが、副作用として満月様顔貌、不眠などの精神症状、骨成長の遅延、感染症などに注意する必要がある。その他の薬物治療としてイミキモド、ビンクリスチン、インターフェロンαなどがあるが、わが国では本症で保険適用承認を受けていない。■ 外科的治療退縮期(消退期)以降に瘢痕や皮膚のたるみを残した場合、整容的に問題となる消退が遅い血管腫、小さく限局した眼周囲の血管腫、薬物療法の危険性が高い場合、そして、出血のコントロールができないなど緊急の場合は、手術が考慮される。術中出血の危険性を考慮し、増殖期の手術を可及的に避け退縮期(消退期)後半から消失期に手術を行った場合は、組織拡大効果により腫瘍切除後の組織欠損創の閉鎖が容易になる。■ パルス色素レーザー論文ごとのレーザーの性能や照射の強さの違いなどにより、その有効性、増大の予防効果や有益性について一定の結論は得られていない。ただ、レーザーの深達度には限界がありdeep typeに対しては効果が乏しいという点、退縮期(消退期)以降も毛細血管拡張が残った症例ではレーザー治療のメリットがあるものの、一時的な局所の炎症、腫脹、疼痛、出血・色素脱失および色素沈着、瘢痕、そして潰瘍化などには注意する必要がある。■ その他のレーザー炭酸ガスレーザーは炭酸ガスを媒質にしたガスレーザーで、水分の豊富な組織を加熱し、蒸散・炭化させるため出血が少ないなどの利点がある。小さな病変や、気道内病変に古くから用いられている。そのほか、Nd:YAGレーザーによる組織凝固なども行われることがある。■ 冷凍凝固療法液体窒素やドライアイスなどを用いる。手技は比較的容易であるが、疼痛、水疱形成、さらには瘢痕形成に注意が必要で熟練を要する。深在性の乳児血管腫に対してはレーザー治療よりも効果が優れているとの報告もある。■ 持続圧迫療法エビデンスは弱く、ガイドラインでも推奨の強さは弱い。■ 塞栓術ほかの治療に抵抗する症例で、巨大病変のため心負荷が大きい場合などに考慮される。■ 精神的サポート本症では、他人から好奇の目にさらされたり、虐待を疑われるなど本人や家族が不快な思いをする機会も多い。前もって自然経過、起こりうる合併症、治療の危険性と有益性などについて説明しつつ、精神的なサポートを行うことが血管腫の管理には不可欠である。4 今後の展望プロプラノロールの登場で、乳児血管腫治療は大きな転換点を迎えたといえる。有効性と副作用に関して、観察研究に基づくシステマティックレビューとメタアナリシスの結果、「腫瘍の縮小」に関してプロプラノロールはプラセボと比較し、有意に腫瘍の縮小効果を有し、ステロイドに比しても腫瘍の縮小傾向が示された。また、「合併症」に関しては、2つのRCTでステロイドと比し有意に有害事象が少ないことが判明し、『血管腫・血管奇形診療ガイドライン2017』ではエビデンスレベルをAと判定した。有害事象を回避するための対応は必要であるが、今後詳細な作用機序の解明と、既存の治療法との併用、混合についての詳細な検討により、さらに安全、有効な治療方法の主軸となりうると期待される。5 主たる診療科小児科、小児外科、形成外科、皮膚科、放射線科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報「難治性血管腫・血管奇形・リンパ管腫・リンパ管腫症および関連疾患についての調査研究」班(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)『血管腫・血管奇形・リンパ管奇形診療ガイドライン2017』(医療従事者向けのまとまった情報)日本血管腫血管奇形学会(医療従事者向けのまとまった情報)国際血管腫・血管奇形学会(ISSVA)(医療従事者向けのまとまった情報:英文ページのみ)ヘマンジオル シロップ 医療者用ページ(マルホ株式会社提供)(医療従事者向けのまとまった情報)乳児血管腫の治療 患者用ページ(マルホ株式会社提供)(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)患者会情報混合型脈管奇形の会(患者とその家族および支援者の会)血管腫・血管奇形の患者会(患者とその家族および支援者の会)血管奇形ネットワーク(患者とその家族および支援者の会)1)「難治性血管腫・血管奇形・リンパ管腫・リンパ管腫症および関連疾患についての調査研究」班作成『血管腫・血管奇形診療ガイドライン2017』2)国際血管腫・血管奇形学会(ISSVA)3)Leaute-Labreze C, et al. N Engl J Med. 2008;358:2649-2651.4)Leaute-Labreze C, et al. N Engl J Med. 2015;372:735-746.5)Drolet BA, et al. Pediatrics. 2013;131:128-140.公開履歴初回2018年10月23日

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