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発作性AFの第1選択、クライオバルーンアブレーションvs.抗不整脈薬/NEJM

 第1選択としてのクライオ(冷凍)バルーンによるアブレーションは、発作性心房細動患者の心房性不整脈再発予防において抗不整脈薬より優れており、重篤な手技関連有害事象は少ないことが示された。米国・クリーブランドクリニックのOussama M. Wazni氏らが、米国の24施設で実施した多施設共同無作為化試験「STOP AF First試験(Cryoballoon Catheter Ablation in Antiarrhythmic Drug Naive Paroxysmal Atrial Fibrillation)」の結果を報告した。薬物療法の効果が得られない症候性の発作性心房細動患者では、洞調律維持のため抗不整脈薬よりカテーテルアブレーションが有効である。しかし、第1選択としてのクライオバルーンアブレーションの安全性と有効性は確立されていなかった。NEJM誌オンライン版2020年11月16日号掲載の報告。クライオバルーンアブレーション群を抗不整脈薬群と比較検証 STOP AF First試験の対象は、症候性の発作性心房細動が再発した18~80歳の患者で、抗不整脈薬(クラスIまたはIII)による7日以上の治療歴などがある患者は除外した。 対象患者を、抗不整脈薬(クラスIまたはIII)群またはクライオバルーンアブレーション群に1対1の割合で無作為に割り付け、後者では無作為割付後30日以内にクライオバルーンを用いた肺静脈隔離術を施行した。ベースライン時、1、3、6ヵ月および12ヵ月時点で12誘導心電図を含む不整脈モニタリングを、また、毎週および3~12ヵ月は症状がある場合に電話モニタリングを、さらに6ヵ月および12ヵ月時点で24時間ホルターモニタリングを実施した。 有効性の主要評価項目は、12ヵ月時点の治療成功(手技不成功、心房細動手術または左房に対するアブレーション、90日以降の心房性不整脈再発・除細動・クラスI/III抗不整脈薬使用の各イベントの回避と定義)であった。安全性の主要評価項目は、クライオバルーンアブレーション群における手技関連およびクライオバルーンシステム関連の重篤な有害事象の複合エンドポイントとした。クライオバルーンアブレーション群の治療成功率74.6%、抗不整脈薬群45.0% 2017年6月~2019年5月までに225例が登録され、このうち治療を受けた203例(クライオバルーンアブレーション群104例、抗不整脈薬群99例)が解析対象となった。クライオバルーンアブレーション群における手術の成功率は97%であった。 12ヵ月時点の治療成功率(Kaplan-Meier推定値)は、クライオバルーンアブレーション群74.6%(95%信頼区間[CI]:65.0~82.0)、抗不整脈薬群45.0%(34.6~54.7)であった(log-rank検定のp<0.001)。 クライオバルーンアブレーション群で安全性の主要評価項目である複合エンドポイントのイベントが2件発生した(12ヵ月以内のイベント発生率のKaplan-Meier推定値は1.9%、95%CI:0.5~7.5)。

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認知症診断後1年以内の自殺リスク

 重度の認知症であれば、自殺を実行するための機能が損なわれることで自殺を防ぐことができるが、初期および軽度の認知症の場合、認知機能が比較的保たれているため、疾患の進行による将来への不安を醸成し、自殺の実行を助長する可能性がある。韓国・延世大学校のJae Woo Choi氏らは、認知症診断を受けてから1年以内の高齢者の自殺リスクについて調査を行った。Journal of Psychiatry & Neuroscience誌オンライン版2020年10月29日号の報告。アルツハイマー型認知症は自殺リスクが高かった 国民健康保険サービスのシニアコホートデータを用いて、2004~12年に認知症と診断された高齢者3万6,541例を抽出した。認知症の定義は、ミニメンタルステート検査(MMSE)スコア26以下および臨床的認知症評価尺度(CDR)スコア1以上またはGlobal Deterioration Scale(GDS)スコア3以上とし、アルツハイマー型認知症、血管性認知症、その他/特定不能の認知症を含めた。性別、年齢、併存疾患、インデックス年で1:1の傾向マッチングを行い認知症でない高齢者を対照群として抽出し、2013年までフォローアップを行った。認知症診断後1年以内の自殺による死亡の調整済みハザード比(aHR)を推定するため、時間依存的Cox比例ハザードモデルを用いた。 認知症診断を受けてから1年以内の高齢者の自殺リスクの調査の主な結果は以下のとおり。・認知症診断後、最初の1年間で46例の自殺が確認された。・認知症高齢者は、対照群と比較し、自殺リスクが高かった(aHR:2.57、95%信頼区間[CI]:1.49~4.44)。・アルツハイマー型認知症(aHR:2.50、95%CI:1.41~4.44)またはその他/特定不能の認知症(aHR:4.32、95%CI:2.04~9.15)の高齢者は、対照群と比較し、自殺リスクが高かった。・他の精神疾患を合併していない認知症患者(aHR:1.96、95%CI:1.02~3.77)および合併している認知症患者(aHR:3.22、95%CI:1.78~5.83)は、対照群と比較し、自殺リスクが高かった。・統合失調症(aHR:8.73、95%CI:2.57~29.71)、気分障害(aHR:2.84、95%CI:1.23~6.53)、不安症または身体表現性障害(aHR:3.53、95%CI:1.73~7.21)と認知症を合併している患者は、認知症を合併していない各疾患の患者と比較し、自殺リスクが高かった。 著者らは「本研究は、自殺率の高い韓国の高齢者を対象とした試験であり、異なる背景を有する集団に本結果をそのまま当てはめるには、注意が必要である」としながらも「認知症診断後1年以内での自殺リスクの上昇が認められた」としている。

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第24回 風邪薬1箱飲んだら、さぁ大変!【救急診療の基礎知識】

●今回のPoint1)若年者の嘔気・嘔吐では必ず鑑別に!2)拮抗薬はきちんと頭に入れておこう!【症例】26歳女性。ご主人が帰宅すると、自宅で繰り返し嘔吐している患者さんを発見し、辛そうにしているため救急要請。救急隊からの情報では、リビングの机の上には市販薬の空箱が数箱あり、嘔吐物には薬塊も含まれていた様子。●受診時のバイタルサイン意識10/JCS血圧119/71mmHg脈拍98回/分(整)呼吸25回/分SpO299%(RA)体温36.2℃瞳孔3/3 +/+既往歴特記既往なし内服薬定期内服薬なし最終月経2週間前風邪薬の成分とはみなさん風邪薬を服用したことがあるでしょうか? 医療者はあまり使用することはないかもしれませんが、一般の方は風邪らしいなと思ったら薬局などで購入し、内服することは多いでしょう。救急外来や診療所に発熱や咳嗽を主訴に来院する患者さんの中には、市販薬が効かないから来院したという方が一定数いるものです。市販薬を指定されている量を内服している場合には、それが理由でとんでもない副作用がでることはまれですが、当然服用量が過剰になればいろいろと問題が生じます。風邪薬の成分は、アセトアミノフェンやイブプロフェンなどの解熱鎮痛薬、クロルフェ二ラミンマレイン酸塩などの抗ヒスタミン薬、ジヒドロコデインリン酸塩などの鎮咳薬、そして無水カフェインが含まれている商品が多いです。今回は救急外来で遭遇する頻度が比較的高い「アセトアミノフェン中毒」について重要な点をまとめておきます。その他、カフェイン、ブロン、ブロムなども市販薬の内服で起こり得る中毒のため、是非一度勉強しておくことをお勧めします。アセトアミノフェンの投与量以前、アセトアミノフェンは1日最大量1,500mg(1回最大量500mg)と少量の使用しか認められていませんでしたが、2011年1月から1日最大量4,000mg(1回最大量1,000mg)と使用可能な量が増えました。また、静注薬も発売され、みなさんも外来で痛みを訴える患者さんに対して使用していることと思います。高齢者に対しても、肝機能障害やアルコール中毒患者では2,000〜3,000mg/日を超えないことが推奨されていますが、そうでなければ1回の投与量は10〜15mg/kg程度(1,000mgを超えない)が妥当と考えられています。アセトアミノフェン中毒とはアセトアミノフェンは、急性薬物中毒の原因物質として頻度が高く、救急外来でもしばしば遭遇します。最も注意すべきは肝障害であり、アセトアミノフェン中毒で急性肝不全を呈した患者の3週間死亡率は27%と非常に高率です1)。そのため、十分量使用しながらも中毒にならないように管理する必要があります。アセトアミノフェンの大部分は肝臓で抱合され尿中に排泄されますが、一部は肝臓で分解され、N-アセチル-p-ベンゾキノンイミン(NAPQI)を生成し、これをグルタチオンが抱合することで尿中に排泄されます。NAPQIは毒性が高いのですが、アセトアミノフェンが適正の量であれば、グルタチオンによって解毒されます。しかし、過剰量の場合には、グルタチオンが枯渇し、正常の30%程度まで減少するとNAPQIが蓄積、肝細胞壊死へと進行してしまいます2)。そのため、アセトアミノフェンを過剰に摂取した場合には、グルタチオンを増やすことが必要になるわけです。NACとは中毒診療において重要なこととして、拮抗薬の存在が挙げられます。拮抗薬が存在する薬剤は限られるため頭に入れておきましょう(参考:第7回 意識障害その6 薬物中毒の具体的な対応は?)。アセトアミノフェンに対する拮抗薬はN-アセチルシステイン(NAC)です。NACは、グルタチオンの前駆体であり、中毒症例、特に肝細胞壊死へと至ってしまうような症例では必須となります。タイミングを逃さず、NACの投与が開始できれば肝不全は回避できます。ちなみにこのNAC、投与経路は経口です。静注ではありません。臭いをかいだことがある人は忘れない臭いですよね。腐った卵のあの臭い…。NACはいつ投与するかそれではいつNACを投与するべきでしょうか。アセトアミノフェンの血中濃度が迅速に判明する場合には、その数値を持って治療の介入の有無を判断することがある程度することが可能です。ちなみに、アセトアミノフェン摂取後の経過時間を考慮した血中濃度で判断する必要があり、内服直後の数値のみをもって判断してはいけません。一般的には4時間値が100μg/mLを超えているようであればNAC開始が望ましいとされます(以前は150μg/mLでしたが、肝障害発症の予防を強固に、そして医療費の削減のため基準値が下げられました)。“Rumack-Matthewのノモグラム”は有名ですね2)。そのため、摂取時間を意識した測定、経過観察が大切です。測定が困難な場合には、内服した量から推定するしかありません。アセトアミノフェンを150mg/kg以上(50kgであれば7,500mg)服薬していた場合にはNAC療法が推奨されます。この7,500mgという量をみてどのように思いますか? 前述した通り、アセトアミノフェンの1日の最大投与量として許容されている量は4,000mgです。中毒量が目の前に存在することがよくわかると思います。痛みに悩む患者さんは多く、処方されている薬を飲み過ぎてしまうと、簡単に中毒量に達してしまう可能性があるため注意が必要なのです。1箱飲んだら危険製品にもよりますが、アセトアミノフェンが含有される風邪薬や頭痛薬など鎮痛薬と称される市販薬は、1錠に含まれるアセトアミノフェンは80~200mg程度と少量の物が多いのですが、1箱80錠のものも存在します。また、インターネット上で購入しようと思えば500mg錠100錠など、中毒量を購入することは簡単にできてしまうのが現状です。初療時のポイントは、本症例のように嘔気・嘔吐を認める患者など過量内服患者を拾い上げること、そしてNACの適応となり得る量を内服していないかを血中濃度や推定内服量から見積もり判断することです。さいごにアセトアミノフェンは使用し易く、処方する機会は多いと思います。しかし、使用方法を間違ってしまうと肝不全へ陥ってしまう可能性のある恐い薬でもあります。安全な薬というイメージが強いかもしれませんが、いかなる薬もリスクであるため、処方する際には正しい内服方法を丁寧に患者さんに説明しましょう。また、過量内服患者ではNACの適応を理解し、肝障害を防ぎましょう。1)Ostapowicz G,et al. Ann Intern Med. 2002;137:947-954.2)Heard KJ. N Engl J Med. 2008;359:285-292.

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臨床試験の利益相反、研究者の理解に大きなばらつき/BMJ

 臨床試験に関連する利益相反とは何か、どのような場合にそれを報告すべきかについての研究者の理解には、かなりのばらつきがあり、非営利的な金銭的利益相反(政治的な意図を持つ政府系医療機関による試験への資金提供など)の重大さを認識しつつも、その報告と管理は困難と考える研究者もいることが、デンマーク・オーデンセ大学病院のLasse Ostengaard氏らの検討で示された。研究の成果は、BMJ誌2020年10月27日号で報告された。営利組織からの資金提供と、著者の金銭的な利益相反は、統計学的に有意な結果や好意的な結論の報告の頻度が高いことと関連する。また、利益相反は、試験のデザインや運営、解析、報告の仕方に影響を及ぼす可能性があるとの懸念が広まっている。利益相反が、試験の特定のデザインの特徴やバイアス、問題を最小化するための管理戦略に及ぼす適切でない影響に関連するメカニズムは、十分には理解されていないという。20人の研究者へのインタビューによる定性的研究 研究グループは、臨床試験の研究者は自分が携わった試験に適切でない影響を及ぼす利益相反をどのように認識しているか、その潜在的な影響を最小限に抑えるためにどのような管理戦略を行っているかを評価する目的で、インタビューによる定性的研究を行った(研究助成は受けていない)。 対象は、臨床試験の方法論や統計学の専門知識を持ち、10件以上の臨床試験に参加したことのある研究者であった。インタビューの対象となる研究者は、Web of Scienceの検索と機縁法(snowball sampling)で特定された。52人の臨床試験研究者に電子メールでインタビューを申し込み、20人(38%)が応じた。インタビュー時間中央値は24分(範囲:15~58)だった。 インタビューは、2017年12月~2018年7月の期間に電話で行われ、録音して逐語的に文字に起こされた。文字起こしは分析ソフト(NVivo 12)で読み込まれ、体系的にテキストを凝縮して解析された。半構造化インタビューは、金銭的および非金銭的な利益相反に重点が置かれた。利益相反の定義や閾値を使い分け、報告時期の基準も異なる インタビューの対象となった研究者が参加した臨床試験の件数中央値は37.5件(IQR:20~100)であった。20人の内訳は、医師が12人、他の医療従事者が2人、生物統計学者が4人、他の専門家が2人で、男性が18人、女性は2人だった。10人(50%)は企業が資金を提供した試験、19人(95%)は企業が資金を提供したが独立に運営された学術的試験、18人(90%)は非営利的な資金提供による試験を経験していた。主に薬剤の試験に参加した研究者が11人(55%)、主に薬剤以外の試験に参加した研究者が6人(30%)、薬剤と非薬剤の試験がほぼ同じ割合の研究者が3人(15%)だった。 事前に規定された2つのテーマ(利益相反の影響、管理戦略)と、2つの追加テーマ(利益相反の定義と報告)について検討した。利益相反の影響として認識された例には、質的に劣る比較対象の選択、無作為化の手順の操作、試験の早過ぎる中止、データの捏造、データへのアクセスの妨害、情報操作(spin、たとえば、結果の過度に好意的な解釈)などが挙げられた。 利益相反を管理する戦略の例としては、情報開示手続き、試験のデザインと解析からの資金提供者の除外、独立委員会の設置、データへの完全なアクセスを保証する規約、解析と報告に関して資金提供者による制限がないことなどが挙げられた。 また、臨床試験研究者は、利益相反と考えられることの定義や閾値を使い分けており、利益相反の報告の時期に関して異なる基準を示した。さらに、非営利的な金銭的利益相反(たとえば、政治的な意図を持つ政府系医療機関による試験への資金提供)の重大さは、営利的な金銭的利益相反(たとえば、製薬企業や医療機器企業による資金提供)と同等またはそれ以上であるが、その報告と管理はより困難と考える研究者もいた。 著者は、「これらの結果は、臨床試験における利益相反を評価するツール(TACIT)の開発のためのエビデンスの基盤として不可欠な要素である。TACIT(tool for addressing conflicts of interest in trials)は、臨床試験報告の読者に、利益相反の情報へのアクセスの仕方、その情報の処理の仕方の指針を示すことを目的とし、とくに系統的レビューを実施する際に、利益相反のある臨床試験の結果をどう解釈するかについての思考様式を提供するものである」としている。

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COVID-19流行下の仕事再開期におけるメンタルヘルス問題の調査

 中国・大連医科大学のYuan Zhang氏らは、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)流行下の仕事再開期における不安症、うつ病、不眠症に影響を及ぼす因子について調査を行った。Journal of Psychosomatic Research誌2020年11月号の報告。 中国・山東省で2020年3月2日~8日に、割当抽出法(quota sampling)と機縁法(snowball sampling)を組み合わせた多施設横断調査を実施した。不安症、うつ病、不眠症の評価には、それぞれ全般性不安障害尺度(GAD-7)、こころとからだの質問票(PHQ-9)、不眠症重症度指数(ISI)を用いた。影響を及ぼす因子を調査するため、多変量ロジスティック回帰分析を用いた。 主な結果は以下のとおり。・3施設より4,000通のアンケートを送付し、有効な回答3,237件を収集した。・各評価尺度に基づく不安症、うつ病、不眠症の有病率は19.5~21.7%であった。そのうち、2.9~5.6%は重症であった。・複数の症状を合併していた患者は、不安症とうつ病の合併2.4%、不安症と不眠症の合併4.8%、うつ病と不眠症の合併4.5%であった。・不安症と不眠症のスコアおよびうつ病と不眠症のスコアには、正の相関が認められた。・不安症、うつ病、不眠症のリスク因子は、50~64歳、30日以上に1回のみの屋外活動であった。・COVID-19流行期に、心理的介入を受けていた人は17.4%、個別の介入を受けていた人は5.2%であった。 著者らは「COVID-19流行下の仕事再開期には、メンタルヘルス問題の発生率が通常時よりも増加していた。現行の心理的介入は不十分であり、早期に有効な心理的介入を実施すべきである」としている。

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中等~重症アトピー性皮膚炎、バリシチニブ+TCSの有効性・安全性を確認

 経口JAK1/2阻害薬バリシチニブについては、外用コルチコステロイド薬(TCS)で効果不十分な中等症~重症アトピー性皮膚炎(AD)への単独療法の有効性および安全性が、これまでに2件の第III相試験の結果で報告されている。今回、ドイツ・ハンブルク・エッペンドルフ大学医療センターのKristian Reich氏らは、バリシチニブとTCSの併用療法について検討し、中等症~重症ADに対してバリシチニブ1日1回4mg+TCSが症状を有意に改善することを明らかにした。安全性プロファイルは、バリシチニブのこれまでの試験で既報されているものと変わらなかった。JAMA Dermatology誌オンライン版2020年9月30日号掲載の報告。 研究グループは、TCS治療では効果不十分であった中等症~重症AD成人患者について、TCSを基礎療法としながらバリシチニブ4mgまたは2mg用量の有効性と安全性を評価する、二重盲検プラセボ対照第III相無作為化試験「BREEZE-AD7試験」を実施した。 試験は2018年11月16日~2019年8月22日まで、アジア、オーストラリア、欧州、南米の10ヵ国、68の医療センターで行われた。被験者は、18歳以上のTCSで効果不十分の中等症~重症AD患者であった。 被験者は無作為に3群(1対1対1)に割り付けられ、バリシチニブ1日1回2mg(109例)、同4mg(111例)、プラセボ(109例)のいずれかを16週間投与された。基礎療法として、低度~中等度効能のTCSの使用が認められた。 主要評価項目は、Validated Investigator Global Assessment for AD(vIGA-AD)スコアが16週時点の評価でベースラインから2ポイント以上改善し、0(改善)または1(ほとんど改善)を達成した患者の割合であった。 主な結果は以下のとおり。・被験者329例は、平均[SD]年齢33.8[12.4]歳、男性216例(66%)であった。・16週時点でvIGA-ADスコア0または1を達成した患者は、プラセボ群16例(15%)に対し、バリシチニブ4mg群34例(31%)、同2mg群26例(24%)であった。・対プラセボのオッズ比(OR)は、バリシチニブ4mg群2.8(95%信頼区間[CT]:1.4~5.6、p=0.004)、同2mg群1.9(0.9~3.9、p=0.08)であった。・治療関連有害事象の報告は、バリシチニブ4mg群で64/111例(58%)、同2mg群で61/109例(56%)、プラセボ群で41/108例(38%)であった。・重篤な有害事象の報告は、バリシチニブ4mg群4例(4%)、同2mg群2例(2%)、プラセボ群4例(4%)であった。・最も頻度の高い有害事象は、鼻咽頭炎、上気道感染症、毛包炎であった。・なお試験完了後、被験者は4週間のフォローアップもしくは拡大延長(長期)試験に登録された。

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ESMO2020レポート 肝胆膵腫瘍

レポーター紹介はじめにESMO VIRTUAL CONGRESS 2020はASCO 2020 Virtualに引き続き、オンラインでの開催となった。開催会場を模したトップページ上から各会場へとアクセスでき、これまでの開催のように人々が集う様子には新型コロナウイルス感染症の収束への願いが現れていた。本稿では肝胆膵領域からいくつかの演題を紹介したい。巨大肝細胞がんに対するFOLFOXを用いたHAICの有効性が示されるHepatic arterial infusion chemotherapy (HAIC) with oxaliplatin, fluorouracil, and leucovorin (FOLFOX) versus transarterial chemoembolization (TACE) for unresectable hepatocellular carcinoma (HCC): A randomised phase III trial 【Presentation ID:981O】Intermediate stageの手術不能でかつ穿刺局所療法の対象とならない多血性肝細胞がんに対して行われるTACEの有効性は、巨大な肝細胞がんに対しては病勢制御割合は50%未満、全生存期間は9~13ヵ月といまだ十分とは言えない。FOLFOXを用いたHAICの第II相試験での良好な抗腫瘍効果を受けて、巨大な切除不能肝細胞がん患者におけるFOLFOXを用いたHAICおよびTACEを比較する無作為化第III相試験の結果が報告された。最大径7cm以上で大血管への浸潤もしくは肝外転移のない切除不能肝細胞がんを有する、Child-Pugh分類A、ECOG PS0または1の患者が適格とされた。登録された患者はHAIC(オキサリプラチン130mg/m2、ロイコボリン400mg/m2、1日目にフルオロウラシルボーラス400mg/m2、およびフルオロウラシル注入2,400mg/m2を24時間、3週間ごとに繰り返し6サイクルまで投与)またはTACE(エピルビシン50mg、ロバプラチン50mg、リピオドールおよびポリビニルアルコール粒子)に1対1で割り付けられた。主要評価項目は全生存期間(OS)、副次評価項目として無増悪生存期間(PFS)、客観的奏効割合(ORR)および安全性が評価された。データカットオフは2020年4月でフォローアップは継続されている。HAIC群に159例、TACE群に156例が登録された。患者背景に大きな差はなく、HAIC群/TACE群のHBV陽性例が88.1/90.4%、AFP 400ng/mL以上は52.2/48.1%であった。最大腫瘍径の中央値はHAIC群9.9cm(範囲:7~21.3)、TACE群9.7cm(7~19.8)であり、腫瘍数が3個以下であった症例はHAIC群51.6%、TACE群47.7%であった。治療回数の中央値はHAIC群で4回(2~5)、TACE群で2回(1~3)であった。治療のクロスオーバーはTACE群で多く、HAIC群では後治療として切除が行われた症例が多かった(p=0.004)。RECIST ver.1.1によるHAIC群のORRは45.9%とTACE群の17.9%に比べ有意に高かった(p< 0.001)。Modified RECISTによる評価でも同様にHAIC群が有意に高い結果であった(48.4% vs.32.7%、p=0.004)。主要評価項目であるOS中央値はHAIC群23.1ヵ月(95%信頼区間:18.23~27.97)、TACE群16.07ヵ月(95%信頼区間:14.26~17.88)であり、HAIC群で有意な延長を認めた(HR=0.58、95%信頼区間:18.23~27.97、p<0.001)。PFS中央値は、HAIC群9.63ヵ月(95%信頼区間:7.4~11.86)、TACE群5.4ヵ月(95%信頼区間:3.82~6.98)であり、HAIC群で有意に延長した(HR=0.55、95%信頼区間:0.43~0.71、p<0.001)。Grade3以上の治療関連有害事象はHAIC群で19%、TACE群で30%とHAIC群で少なかった(p=0.03)。巨大な切除不能肝細胞がんを有する患者に対するFOLFOXを用いたHAICはTACEに比べて有効性および安全性ともに良好であった。これまで本邦では5-FUおよびシスプラチンを併用したHAICは外科的切除およびその他の局所治療の適応とならない肝細胞がんを対象としてソラフェニブへの上乗せ効果を第III相試験で示すことができなかったことなどを含めて、標準治療とされてこなかった。しかし、今回のような巨大肝細胞がんに対するHAICの有効性の報告、および門脈腫瘍栓を有する肝細胞がんに対するHAICの有効性の報告などが続いており、今後の開発に注目していきたい。転移を有する膵管腺がんおよび神経内分泌腫瘍(NEN)に対する免疫チェックポイント阻害薬の併用療法が検討されるThe Canadian Cancer Trials Group PA.7 trial: Results of a randomized phase II study of gemcitabine (GEM) and nab-paclitaxel (Nab-P) vs. GEM, Nab-P, durvalumab (D) and tremelimumab (T) as first line therapy in metastatic pancreatic ductal adenocarcinoma (mPDAC)【Presentation ID:LBA65】ゲムシタビンおよびnab-パクリタキセル併用療法(GnP)は転移を有する膵がんに対する標準的な1次治療として確立されている。一方で、DNAミスマッチ修復機構の欠損(mismatch repair deficient:dMMR)を呈する場合を除き膵がんに対する免疫チェックポイント阻害薬の有効性は限られたものとされるが、線維芽細胞を含めた腫瘍環境因子による免疫チェックポイント阻害薬の耐性はゲムシタビンおよびnab-パクリタキセル併用により克服されるとの報告がある。これらを受け、抗PD-L1抗体であるデュルバルマブ(D)および抗CTLA-4抗体であるtremelimumab(T)をGnP療法に上乗せする4剤併用療法は、11例のsafety run-inコホートでの安全性が確認されたうえで、その有効性がランダム化第II相試験で検討された。試験はカナダ全域より28施設が参加し行われた。全身状態の保たれた未治療の転移のある膵管腺がんを有する患者が適格とされ、GnP群(ゲムシタビン、nab-パクリタキセルそれぞれ1,000mg/m2、125mg/m2を1日目、8日目、15日目に投与、28日を1サイクル)または4剤併用群(GnP療法に加えてD 1,500mgおよびT 75mgを1日目に投与)の2群に2対1の割合でランダム割り付けされた。ECOG PS、術後補助化学療法歴の有無により層別化が行われた。主要評価項目はOS、副次評価項目はPFS、安全性、ORRが設定された。OSの中央値をGnP群8.5ヵ月に対して4剤併用群13.1ヵ月(HR=0.65)、両側αエラー0.1、統計学的検出力0.8として150イベントが必要であると算出された。データカットオフは2020年3月15日とされた。4剤併用群に119例、GnP群に61例が割り付けられ、患者背景は両群に差はなかった。ECOG PS0/1は4剤併用群で22.7/77.3%、GnP群で23/77%、術後補助化学療法歴は4剤併用群で10.1%、GnP群で11.5%が有しており、アジア人が4剤併用群に8.4%、GnP群に9.8%含まれる集団であった。主要評価項目であるOSの中央値は4剤併用群9.8ヵ月(90%信頼区間:7.2~11.2)、GnP群8.8ヵ月(90%信頼区間:8.3~12.2)であり4剤併用群の優越性は示されなかった(層別HR=0.94、90%信頼区間:0.71~1.25、p=0.72)。PFSの中央値は4剤併用群5.5ヵ月(90%信頼区間:3.8~5.7)、GnP群5.4ヵ月(90%信頼区間:3.6~6.6)であった(層別HR=0.98、90%信頼区間:0.75~1.29、p=0.91)。ORRは4剤併用群30.3%、GnP群23.0%(オッズ比1.49、90%信頼区間:0.81~2.72、p=0.28)であり、PFS、ORRいずれも両群に有意な差はなかった。治療期間中のGrade3以上の有害事象は両群に差はなく4剤併用群で84%、GnP群で76%に認められ、倦怠感、血栓塞栓イベント、敗血症などが多かった。治療期間中のGrade3以上の検査値異常はおおむね同等であったが、リンパ球減少が4剤併用群で38%、GnP群で20%と4剤併用群で有意に高かった(p=0.02)。GnP療法へのデュルバルマブおよびtremelimumabの上乗せはOS、PFS、ORRいずれにおいても有意に改善することができなかった。現在cfDNAの網羅的遺伝子解析を用いて免疫学的観点からの有効性の探索が行われている。A multi-cohort phase II study of durvalumab plus tremelimumab for the treatment of patients (pts) with advanced neuroendocrine neoplasms (NENs) of gastroenteropancreatic or lung origin: The DUNE trial (GETNE 1601)【Presentation ID:1157O】TMB(tumor mutational burden)、PD-L1蛋白発現、およびリンパ球浸潤がいずれも低い、いわゆる「cold」な腫瘍である神経内分泌腫瘍(NEN)に対する免疫チェックポイント阻害の意義は限られたものである。しかしながら昨今、免疫チェックポイント阻害薬の併用がNENに対して良好な抗腫瘍効果を報告しており、今回抗PD-L1抗体であるデュルバルマブと抗CTLA-4抗体であるtremelimumabの併用療法がマルチコホート第II相試験で検討された。標準治療後に増悪した消化管、膵または肺を原発とする進行NENを有する患者が適格とされ、C1:ソマトスタチンアナログ(SSA)および分子標的薬または化学療法の治療歴を有する定型/非定型肺カルチノイド、C2:SSAおよび分子標的薬もしくは放射性核種療法の治療歴を有するGrade1/2消化管NEN、C3:化学療法、SSA、分子標的薬のうち2~4の治療歴を有するGrade1/2膵NENおよびC4:白金製剤を含む化学療法の治療歴を有するGrade3消化管および膵NENの4つのコホートに登録された。登録された患者はデュルバルマブ1,500mgおよびtremelimumab 75mgを4週ごとに4サイクルまで投与を受けた後、デュルバルマブ単剤療法を9サイクルまで継続して投与された。主要評価項目はC1からC3ではRECIST ver.1.1による9ヵ月時点の臨床的有効割合とされ、C4では9ヵ月時点の生存割合とされた。副次評価項目として安全性、PFS、OS、ORRおよび奏効期間(duration of response:DOR)が評価された。C1からC3では臨床的有効割合の閾値を30%、期待値を50%、C4では生存割合の閾値を13%、期待値を23%とし、片側αエラーを0.05、統計学的検出力を0.8として仮説検定に必要な症例数をそれぞれ28例および30例に設定された。C1/C2/C3/C4にそれぞれ27/31/32/33例が登録され、患者背景は以下のようであった。画像を拡大するC1からC3では主要評価項目である9ヵ月時点の臨床的有効割合はC1/C2/C3で7.4/32.3/25%であった。ORRはC1/C2/C3で0/0/6.9%(RECIST ver.1.1)および7.4/0/6.3%(irRECIST)であった。PFSはC1/C2/C3で5.3ヵ月(95%信頼区間:4.52~6.06)/8.0ヵ月(95%信頼区間:4.92~11.15)/8.1ヵ月(95%信頼区間:3.80~12.46)であった。C4では主要評価項目である9ヵ月時点の生存割合は36.1%(95%信頼区間:22.9~57)であった。ORRは7.2%(RECIST ver.1.1)および9.1%(irRECIST)であった。PFSは2.5ヵ月(95%信頼区間:21.5~2.75)であった。すべてのコホートにおける有害事象は倦怠感(43.1%)、下痢(31.7%)、掻痒(23.6%)などであった。進行消化管、膵および肺原発NETに対するデュルバルマブおよびtremelimumabの併用療法の抗腫瘍効果は十分なものではなかった。WHO grade3のNENに対する併用療法は事前に設定した統計学的設定を満たす結果であり、さらなる検討に資するものであった。これまで膵管腺がんおよび神経内分泌腫瘍はいずれもcold tumorとされ、免疫チェックポイント阻害薬の有効性は十分に示されていない。耐性克服のひとつの方向性として併用療法に大きな期待が寄せられていたが、今回の結果もまた厳しいものであった。免疫チェックポイント阻害薬の進行中のバイオマーカーの検討の結果が待たれるとともに、その他の薬剤との併用療法の開発などにも期待し、この領域における免疫療法の開発が継続していくことに期待したい。1次治療中にも転移を有する膵がん患者のQOLは損なわれているThe QOLIXANE trial - Real life QoL and efficacy data in 1st line pancreatic cancer from the prospective platform for outcome, quality of life, and translational research on pancreatic cancer (PARAGON) registry【Presentation ID:1525O】転移を有する膵がんは病勢が早く予後は不良である。GnP療法(ゲムシタビン+nab-パクリタキセル)はMPACT試験などの結果により転移を有する膵がんに対する1次治療として確立されているが、これを受ける患者のQOLに関する報告はいまだなかった。本研究は独95施設が参加する多施設共同前向き観察研究として行われ、GnP療法を受ける転移を有する膵がんが対象とされた。主要評価項目はITT集団における3ヵ月時点でのEORTC QLQ-C30のQoL/Global Health Status(GHS、全般的健康)が維持された患者の割合とされた。ベースラインと比較してスコアの変化が10ポイント未満であった場合に「QoL/GHS Scoreは維持された」と定義された。600人が登録され、患者背景は年齢の平均は68.7歳、男性/女性が58.2/41.8%、ECOG PS 0/1/2/3が32.0/48.7/12.3/1.5%、進行/再発は85.1/13.7%、膵頭部/体部/尾部は48.7/18.2/19.2%であった。GnP療法の投与サイクル数中央値(範囲)は4.0サイクル(0~12)で、45.7%で用量調整が行われており、後治療移行割合は48.5%であった。無増悪生存期間中央値は5.85ヵ月(95%信頼区間:5.23~6.25ヵ月)、全生存期間中央値は8.91ヵ月(95%信頼区間:7.89~10.19ヵ月)であった。Grade3以上の治療関連有害事象は貧血3.9%、好中球減少症5.1%、白血球減少4.3%などで、22例(3.8%)の治療関連死亡が報告された。EORTC QLQ-C30はベースラインでは588例(98%)、3ヵ月時点、293例(48.8%)で評価が可能であった。主要評価項目である3ヵ月時点でQoL/GHS Scoreが維持された患者の割合は61%であった。QoL/GHS Scoreが維持された期間の中央値は4.68ヵ月(95%信頼区間:4.04~5.59ヵ月)であった。単変量解析ではその他のサブスケールと同様にベースラインのQoL/GHS Scoreは生存に有意に寄与した(HR=0.86、p<0.0001)。多変量解析ではEORTC QLQ-C30の各サブスケールのうち、機能スケールでは身体機能(HR=0.86、0.82~0.96、p=0.004)、症状スケールでは悪心・嘔吐(HR=1.06、1.01~1.13、p=0.33)がそれぞれ生存に有意に寄与するものであった。これまでゲムシタビン単剤療法、mFOLFIRINOX療法およびオラパリブなどの第III相試験におけるQOLに関する報告はされていたものの、GnP療法を受ける転移を有する膵がん患者のQOLの情報は不足していた。今回はリアルワールドデータとしてGnP療法を受ける患者のQOLに関する検討が報告された。実臨床でも実感することであるかもしれないが、GnP療法を継続できている患者においても病勢増悪より先にQOLが低下している。転移を有する膵がんに対して、本邦でも今年ナノリポソーム型イリノテカンが承認されるなど治療の選択肢は着実に広がっている。治療をつなぐためにも、このような検討がさらに進んでいくことに期待したい。おわりに今回紹介しきれなかったが、胆道がんにおけるmFOLFIRINOX療法の有効性の報告や、欧州らしく免疫チェックポイント阻害薬以外にも多くの神経内分泌腫瘍に関する演題が多く報告されていた。ASCOに引き続くオンライン開催であったが、世界の最新のエビデンスに日本にいながらにして触れることができるなどオンラインだからこそのメリットもある。新型コロナウイルス感染症の早い収束を願うとともに、がん克服に向けた努力がさらに加速することに期待したい。

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バリシチニブ、中等~重症アトピー性皮膚炎への単剤有効性・安全性を確認

 経口JAK1/2阻害薬は、COVID-19重症患者のサイトカインストーム治療に有用と報告されている。その1つ、経口JAK1/2阻害薬バリシチニブは、わが国を含め70ヵ国で関節リウマチの治療薬として承認されているが、外用コルチコステロイド薬で効果不十分な中等症~重症アトピー性皮膚炎(AD)への同薬剤の有効性と安全性を検討した、米国・オレゴン健康科学大学のE. L. Simpson氏らによる、2件の第III相試験の結果が報告された。投与16週以内で臨床徴候と症状の改善が認められ、かゆみが速やかに軽減、安全性プロファイルは既知の所見と一致しており、新たな懸念は認められなかったという。これまで第II相試験において、バリシチニブと外用コルチコステロイド薬の併用が、ADの重症度を軽減することが示されていた。British Journal of Dermatology誌2020年8月号掲載の報告。 外用コルチコステロイド薬で効果不十分な中等症~重症AD患者に対する、バリシチニブの有効性と安全性の評価は、2件の多施設共同無作為化二重盲検並行群間比較プラセボ対照試験「BREEZE-AD1試験(2017年11月~2019年1月)」「BREEZE-AD2試験(2017年11月~2018年12月)」で検討された。 試験は欧州、アジア、中南米、オーストラリアの173施設で実施。中等症~重症AD成人患者を4群(1日1回のプラセボ、バリシチニブ1mg/2mg/4mg)に、2対1対1対1の割合で無作為に割り付けた(地域、ベースラインの疾患重症度による層別化も施行)。 有効性の主要エンドポイントは、バリシチニブ4mgまたは2mgのプラセボに対する優越性で、ベースラインから16週目にValidated Investigator's Global Assessment(vIGA)-ADスコアが2ポイント以上改善し、0(改善)または1(ほとんど改善)を達成した患者の割合で評価した。vIGA-ADは5段階評価(0[改善]~4[重症])で、医師の全体的な疾患重症度の印象で評価する。 主な結果は以下のとおり。・BREEZE-AD1試験(AD1)には624例、BREEZE-AD2試験(AD2)には615例が登録された。ベースラインの被験者特性は、割付治療群間で類似していた(平均年齢:AD1:35~37歳、AD2:33~36歳、女性の割合:33.3~40.6%、33.3~47.2%など)。ベースラインのvIGA-ADスコア4の被験者割合は、AD1が40%、AD2が50%だったが、EASIおよびSCORADスコアは同等であった。4mg群とプラセボ群は試験中断率が低く、試験完遂率はAD1が86.9%、AD2が88.0%だった(これらの被験者は、長期追跡の延長試験BREEZE-AD3試験に組み込まれている)。・16週時点で2試験ともに、4mg群と2mg群がプラセボ群と比べて、主要エンドポイントを達成した患者割合が有意に高率であった。・AD1では、プラセボ群4.8%に対し、バリシチニブ4mg群16.8%(プラセボ比較とのp<0.001)、2mg群11.4%(p<0.05)、1mg群11.8%(p<0.05)。AD2では、プラセボ群4.5%に対し、バリシチニブ4mg群13.8%(p=0.001)、2mg群10.6%(p<0.05)、1mg群8.8%(p=0.085)であった。・かゆみの改善は、4mg群は1週目から、2mg群は2週目からと、早期に達成された。・夜間覚醒、皮膚の疼痛、QOLの改善は、4mgと2mgの両方で1週目に観察された(すべての比較のp≦0.05)。・バリシチニブ投与群で最も頻度の高かった有害事象は、鼻咽頭炎、頭痛であった。・すべての用量のバリシチニブ投与群で、心血管イベント、静脈血栓塞栓症、消化管穿孔、重大な血液学的変化、死亡は観察されなかった。

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卵巣がん・卵管癌・腹膜癌治療ガイドライン 2020年版発刊

 日本婦人科腫瘍学会は、「卵巣がん・卵管癌・腹膜癌治療ガイドライン 2020年版」を8月31日に発刊した。5年ぶりの改訂となる2020年版には、妊孕性温存や漿液性卵管上皮内癌(STIC:Serous tubal intraepithelial carcinoma)、分子標的薬、PARP阻害薬などに関する新たな情報も追加され、手術療法、薬物療法のクリニカルクエスチョン(CQ)が大幅に更新された。そのほか、推奨の強さの表記は「推奨する」「提案する」に一新され、臨床現場ですぐに役立つ治療フローチャートや全45項のCQが収載されている。 三上 幹氏(日本婦人科腫瘍学会ガイドライン委員会委員長)は本書の序文において、「日本婦人科腫瘍学会ガイドライン委員会が2002年に設置され、初版の『卵巣がん治療ガイドライン2004年版』が発刊されて以降、子宮頸癌治療、外陰がん・膣がん治療など、さまざまなガイドラインが臨床の現場で活用されている。今回、『卵巣がん2015年版(第4版)』を5年の歳月を経て、名前を変更し『卵巣がん・卵管癌・腹膜癌治療ガイドライン2020年版(第5版)』の発刊に至った。最初のガイドライン発刊より16年が経過しており、とても感慨深く感じる」とコメント。 さらに、「今回の改訂では、“Minds 診療ガイドライン作成マニュアル2017”にできる限り準拠して行うことを目標にした。そのポイントは、(1)作成委員として医師以外に看護師、薬剤師、患者、一般の方(女性・男性)が参加、(2)CQにPICO形式*を導入したこと、(3)推奨グレード・エビデンスの表現法を変更したこと、(4)エビデンス総体の考え方を導入したこと、(5)参考文献は研究デザインで分類したこと、(6)一部のCQについてSystematic Reviewを施行したこと、(7)各CQ・推奨について投票を行い、合意率を推奨の後に記載したこと」と述べている。*:P(patient・対象となる患者集団)、 I(Intervention・治療や検査などの介入 )、C(Comparison・比較となる介入)、 O(Outcome・介入による影響) 主な記載内容は以下のとおり。フローチャート1:卵巣癌・卵管癌・腹膜癌の治療フローチャート2:再発卵巣癌・卵管癌・腹膜癌の治療フローチャート3:上皮性境界悪性卵巣腫瘍の治療フローチャート4:悪性卵巣胚細胞腫瘍の治療フローチャート5:性索間質性腫瘍の治療本ガイドラインにおける基本事項I 進行期分類・第1章 ガイドライン総説・第2章 卵巣癌・卵管癌・腹膜癌・第3章 再発卵巣癌・卵管癌・腹膜癌・第4章 上皮性境界悪性腫瘍・第5章 胚細胞腫瘍・第6章 性索間質性腫瘍・第7章 資料集II 略語一覧III 日本婦人科腫瘍学会ガイドライン委員会業績IV 既刊の序文・委員一覧

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AFIRE試験が世界に投げかけたこと(解説:香坂俊氏)-1281

AFIRE試験がNEJM誌に発表された。そのデザインや主要な結果に関しては、さまざまな学会や研究会で議論がなされており、その解釈に関しても広く議論がなされている。AFIREのデザインと主要な結果・心房細動を持つ安定冠動脈疾患の患者さんを対象に「リバーロキサバン(経口抗凝固 薬)単独」と「リバーロキサバン+抗血小板薬併用」との比較を行ったわが国の多施 設共同のランダム化比較研究。・2017年9月末までに2,240例が登録され、2年以上の観察期間を予定していたが、データ 安全性モニタリング委員会の勧告に基づき2018年7月に研究を早期終了。・最終的に2,215例(1,107例の単独療法vs.1,108例の併用療法)が研究解析対象となり、 患者さんの平均年齢は74歳、男性79%、PCI施行70.6%[CABG施行11.4%]) であった。・有効性主要評価(脳卒中、全身性塞栓症、心筋梗塞、血行再建術を必要とする不安定 狭心症、総死亡の複合エンドポイント)では、リバーロキサバン単独療法群がsuperior (優越)であり、さらに安全性主要評価(重大な出血性合併症)においても、 リバーロキサバン単独療法群が優越であった。さまざまなメッセージを含んでいる試験であるが、自分としては日本独自の用量設定を行った試験で世界に向けて結果を出した、というところに注目したい。リバーロキサバンは薬効動態評価の結果を踏まえて15mgあるいは10mgという日本独自の用量設定で認可されている(国際的には20mgあるいは15mgという用量設定)。自分はこうした国別の独自の用量設定というのにかなり懐疑的な人間であったのだが(国際的なRCTの結果のほうを信用する傾向がある)、ただ抗凝固薬や抗血小板薬が日本人に効きすぎるというのは帰国してからの日常臨床でも経験し、また自分達で出したデータでも確かにそのような傾向がみられた(Numasawa Y, et al. J Clin Med. 2020;9:1963.)。AFIRE試験は、このような事情を踏まえてわが国独自の用量設定を用いて行われた試験であるが、その結果がNEJMという最高峰のジャーナルに取り上げられたことの意義は大きい。とくに抗凝固療法・抗血小板薬(抗血栓薬として総称される)に関してはGlobalにも個別の用量設定を考えていかなければならないということを語ってくれているように思われる。この試験は、いろいろな場面における抗凝固療法の使い方に指針を示してくれたことも事実であるが、自分としてはわが国独自の抗血栓薬のDosingについて「世界はどう思うのか?」というより幅広い側面での議論の活性化も期待したい。

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第21回 COVID-19の知見惜しみなくシェア・拡散、医学論文も“新たな様式”へ

公益財団法人ときわ会常盤病院乳腺外科医の尾崎 章彦氏らがCOVID-19に関する学術論文をリスト化し、NPO法人医療ガバナンス研究所のホームページで公表している1)。公開されている18本の学術論文(2020年8月26日現在)は、尾崎氏をはじめとする同研究所に関わる医療者および研究者らによる執筆だ。同氏はこの取り組みの意義について、「データがオープンにシェアされれば、大学や研究機関に所属しない在野の医療者でもCOVID-19についての研究ができる。この流れは、医療以外の社会の流れと相まって、ますます大きな潮流になっていくのでは」と話す。彼らの活動の最大の特徴は、海外の医師・研究者との共同研究が多くあることだ。実際、掲載論文の多くがネパールの医師・研究者との共同研究により執筆されている。例えば、COVID-19の流行がネパールの観光業に与えた影響についての論説論文は、Journal of Travel Medicineという渡航医学の専門雑誌に掲載された2)。驚くべきことに、論文作成の過程におけるコミュニケーションは、もっぱらSNSやメールだという。海外の医師・研究者と知り合うきっかけは、知人の紹介や論文を読んでコンタクトを取ったこと、また科学者・研究者向けのSNS「ResearchGate」などで、実際に臨床で一緒に仕事をしたり、会ったりしたことがないメンバーがほとんどだという。日本の場合、研究はアカデミアで行うものというイメージが強い。実際、大規模調査などは大学や公的な研究機関だからこそできるものもある。一方で、ネットワークや公開データを用いれば、小規模でもコツコツと調査を実施したり論文を書いたりすることはできる。尾崎氏は福島県内の一般病院の常勤医として、それを実践した。「さまざまなテクノロジーを使えば、あらゆる課題についてフットワーク軽く海外の人とも協同して仕事ができることが改めてわかった」。彼らの取り組みに関してもう一つの特徴を挙げるとすれば、2011年の東日本大震災の被災地の状況に研究の着想を得ていることだ。尾崎氏は「放射能災害とCOVID-19は、原因となる物質が目に見えず、目に見えないことが恐怖をもたらすという点で共通点がある」と述べる。同氏らは震災後、被害地の乳がん患者を診療・調査を行った結果、症状自覚後に受診が長期的に遅れるような未診断乳がん患者が震災後に増加したことを明らかにした3)。さらに、増加傾向は震災から5年が経過した時点まで続いていたこともわかった。この研究により、医療機関の受診を躊躇するような行動様式の変化が、患者自身に生じたことが浮き彫りになった。尾崎氏らは、医療体制が復旧した後もなお、がんを自覚しながら患者が受診をためらったように、COVID-19に関しても同様の現象が増える可能性を考え、論文にまとめた。その内容は、Journal of Global Healthという国際保健の専門雑誌に掲載されている4)。COVID-19に関する論文バブル、世界の一流医学専門誌での論文取り下げが相次ぐ中、尾崎氏は「フットワーク軽く調査に取り組みつつも、データの正確さや倫理面は当然担保しながら進めていくことが極めて重要だ」と語る。大学や研究所、一般病院といった所属や立場に縛られず、それぞれのフィールドで柔軟に調査・研究を行うことの重要性を改めて感じる。今や世界共通課題であるCOVID-19に関してはなおさらで、日本発の研究のアウトプットを増やしていくのは国際社会に対する責務でもある。参考1)https://www.megri.or.jp/covid-19論文2)https://academic.oup.com/jtm/advance-article/doi/10.1093/jtm/taaa105/58683043)https://bmccancer.biomedcentral.com/articles/10.1186/s12885-017-3412-44)http://www.jogh.org/documents/issue202002/jogh-10-020343_AU.pdf

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抗糸球体基底膜抗体病〔anti-glomerular basement membrane(GBM) disease〕

1 疾患概要■ 定義抗糸球体基底膜抗体病(anti-glomerular basement membrane disease:抗GBM病)とは、抗GBM抗体によって引き起こされる予後不良の腎・肺病変を指す。このうち腎病変を「抗GBM抗体型(糸球体)腎炎」または「抗糸球体基底膜腎症」と呼ぶ。本疾患の最初の記載は古く1919年Goodpastureによるが、のちに肺と腎に病変を生ずる症候群として後に「Goodpasture症候群」と呼ばれるようになった1,2)。■ 疫学頻度は比較的まれであり、発症率は人口100万人当り0.5~1.0人/年とされる。厚生労働省の調査によると、平成18年度までに集積された1,772例の急速進行性糸球体腎炎(RPGN)症例のうち抗GBM抗体型腎炎は81例(4.6%)、肺出血を伴うGoodpasture症候群は27例(1.5%)、抗GBM病は合計6.1%であった。抗GBM抗体型腎炎の平均年齢は61.59歳(11~77歳)、Goodpasture症候群の平均年齢は70.88歳(57~93歳)と高齢化が進んでいる3)。■ 病因自己抗体である抗GBM抗体が原因と考えられており、腎糸球体と肺胞の基底膜に結合し、基底膜を破綻させて発症する。抗GBM抗体の対応抗原は、糸球体基底膜や肺毛細血管基底膜に分布するIV型コラーゲンα3鎖のC末端noncollagenous domain1(NC1ドメイン)の、N末端側17-31位のアミノ酸残基(エピトープA:EA)ないしC末端側127-141位のアミノ酸残基(エピトープB:EB)である4,5)。このうち、EBエピトープを認識する抗体が腎障害の重症化とより関連すると推定されている。IgGサブクラスでは、IgG1とIgG3が重症例に多いとの報告もある。α5鎖のNC1ドメインEA領域も抗原となりうる。通常の状態においては、これらの抗原エピトープはIV型コラーゲンα345鎖で構成された6量体中に存在し、基底膜内に埋没している(hidden antigen)。抗GBM抗体型腎炎では、感染症(インフルエンザなど)、吸入毒性物質(有機溶媒、四塩化炭素など)、喫煙などにより肺・腎の基底膜の障害が生じ、α345鎖の6量体が解離することで、α3鎖、α5鎖の抗原エピトープが露出し、これに反応する抗GBM抗体が産生される。この抗GBM抗体の基底膜への結合を足掛かりに、好中球、リンパ球、単球・マクロファージなどの炎症細胞が組織局所に浸潤し、さらにそれらが産生するサイトカイン、活性酸素、蛋白融解酵素、補体、凝固系などが活性化され、基底膜の断裂が起こる。腎糸球体においては、断裂した毛細管係蹄壁から毛細血管内に存在するフィブリンや炎症性細胞などがボウマン囊腔へ漏出するとともに、炎症細胞から放出されるサイトカインなどのメディエーターによってボウマン囊上皮細胞の増殖、すなわち細胞性半月体形成が起こる。後述のように、以前より抗GBM抗体と抗好中球細胞質抗体(ANCA)の両者陽性の症例の存在が知られており、抗GBM抗体型腎炎症例の多くで、発症の1年以上前から低レベルのANCAが陽性となっているとの報告がある。ANCAによりGBM障害が生じ、抗原エピトープが露出する可能性が推測されている。最近、MPOと類似構造をもつperoxidasinに対する抗体が抗GBM病の患者から発見されたと報告され、病態における意義が注目される6)。また、以前より感染が契機になることが推測されているが、最近、Actinomycesに存在するα3鎖エピトープと類似のペプチド断片がB細胞、T細胞に認識され抗GBM病の発症に関与することを示唆する報告がなされている7)。■ 症状・所見症状は、肺出血による症状のほか、倦怠感や発熱、体重減少、関節痛などの全身症状が高頻度で見られる8)。初発の症状としては、全身倦怠感、発熱などの非特異的症状が最も多い。肉眼的血尿も比較的高頻度で見られる。タバコの喫煙歴、直近の感染の罹患歴を調べることも重要である。■ 分類2012年改訂Chapel Hill Consensus Conference(CHCC)分類では、抗GBM病は、基底膜局所でin situ免疫複合体が形成されて生ずる病変であるため、免疫複合体型小型血管炎に分類されている9)。抗GBM病は、(1)腎限局型の抗GBM抗体型腎炎、(2)肺限局型抗GBM抗体型肺胞出血、(3)腎と肺の双方を障害する病型(Goodpasture症候群)の3つに分けられる。肺胞出血を伴う場合と伴わない場合があり、遅れて肺出血が見られることもある。2012年に改訂されたChapel Hill Consensus Conference(CHCC)分類では、抗GBM抗体陽性の血管炎を抗GBM病(anti-GBM disease)とし、肺と腎のどちらかあるいは両者が見られる病態を含むとしている。腎と肺の双方を障害する病型はGoodpasture症候群と呼ばれる。■ 予後予後規定因子としては、治療開始時の腎機能、糸球体の半月体形成率が挙げられる。Levyらは85例の抗GBM抗体型腎炎患者の腎予後を後ろ向きに検討し、治療開始の時点で、血清Cr値が5.7mg/dL以上または透析導入となった重症例、半月体が全糸球体に及ぶ場合は腎予後不良としている10)。抗GBM抗体価と腎予後・生命予後については、一般に、高力価の抗GBM抗体陽性所見は予後不良因子と考えられている。Herodyらは、診断時の腎機能、無尿、腎生検所見とともに抗GBM抗体価が有意な腎予後不良因子であったと報告している11)。2001年のCuiらの報告でも、抗GBM抗体価が患者死亡の独立した予知因子であることが示されている12)。抗GBM抗体が陰性となり、臨床的に寛解に至ればその後の再燃はまれである。ただし、初発時より長年経過して再発した例も報告されているため、経過観察は必要である。ANCA同時陽性例では抗GBM抗体単独陽性例よりも再燃が多い傾向にある。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)■ 検査所見全例で、血尿と腎炎性尿所見、血清クレアチニン値の急上昇、強い炎症所見(CRP値高値)を認める。肉眼的血尿のこともある。尿蛋白もさまざまな程度で見られ、時にネフローゼレベルに達することもある。貧血も高度のことが多い。抗GBM抗体が陽性となり、確定診断に必須である。抗GBM抗体値は病勢とほぼ一致し、治療とともに陰性化することが多い。抗GBM抗体とANCA(とくにMPO-ANCA)の両者が陽性になる症例が存在し、抗GBM抗体型腎炎のANCA陽性率は約30%、逆に、ANCA陽性患者の約5%で抗GBM抗体が陽性と報告されている13)。腎生検、高度の半月体形成性壊死性糸球体腎炎の病理所見が見られる。蛍光抗体法では、係蹄壁に沿ったIgGの線状沈着を示す。■ 診断と鑑別診断診断基準は以下の通りである。1)血尿(多くは顕微鏡的血尿、まれに肉眼的血尿)、蛋白尿、円柱尿などの腎炎性尿所見を認める。2)血清抗糸球体基底膜抗体が陽性である。3)腎生検で糸球体係蹄壁に沿った線状の免疫グロブリンの沈着と壊死性半月体形成性糸球体腎炎を認める。上記の1)および2)または1)および3)を認める場合に「抗糸球体基底膜腎炎」と確定診断する。鑑別としては、臨床的に急速進行性糸球体腎炎を示す各疾患(ANCA関連腎炎、ループス腎炎など)や急性糸球体腎炎を示す疾患が挙げられるが、検出される抗体により鑑別は通常容易である。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)治療の目標は、可及的速やかに腎・肺病変を改善すると同時に、病因である抗GBM抗体を取り除くことである。腎予後が期待できず、肺出血が見られない場合を除き、ステロイドパルス療法を含む高用量の副腎皮質ステロイドと血漿交換療法による治療を早急に開始する12,14)。シクロホスファミドの併用が推奨されている。血漿交換は、血中から抗GBM抗体が検出されなくなるまで頻回に行う。重要なのは、治療が遅れると腎予後は著しく不良となる、腎機能低下が軽度の初期の段階で、全身症状・炎症所見・腎炎性尿所見などから本疾患を疑うことである。初期治療時は通常6~12ヵ月間免疫抑制療法を継続する。通常、抗GBM抗体が陰性であればそれ以上の長期維持治療は必要ない。末期腎不全患者に対する腎移植は、抗GBM抗体が陰性化してから6ヵ月後以降に行う15)。4 今後の展望B細胞をターゲットとした抗CD20抗体(リツキシマブ)が有効であったとの症例報告があるが、有用性は不明である。黄色ブドウ球菌由来のIgG分解活性を持つエンドペプチダーゼ(imlifidase:IdeS)の臨床試験が現在進行中である(NCT03157037)。5 主たる診療科腎臓内科、呼吸器内科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報難病情報センター 抗糸球体基底膜腎炎(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)1)Goodpasture EW. Am J Med Sci. 1919;158:863-870.2)Benoit, LFL,et al. Am J Med. 1964;37:424-444.3)Koyama A, et al. Clin Exp Nephrol. 2009;13:633-650.4)Pedchenko V, et al. N Engl J Med. 2010;363:343-354.5)Chen JL, et al. Clin J Am Soc Nephrol. 2013;8:51-58.6)McCall AS, et al. J Am Soc Nephrol. 2018;29:2619-2627)Gu Q, et al. J Am Soc Nephrol. 2020;31:1282-1295. 8)Levy JB, et al. Kidney Int. 2004;66:1535-1540.9)Jennette J, et al. Arthritis Rheum. 2012;65:1-11.10)Levy JB, et al. Ann Intern Med. 2001;134:1033-1042.11)Herody M, et al. Clin Nephrol. 1993;40:249-255.12)Cui Z, et al. Medicine(Baltimore). 2011;90:303-311.13)Levy JB, et al. Kidney Int. 2004;66:1535-1540.14)KIDIGO Clinical Practice Guideline. Anti-glomerular basement membrane antibody glomerulonephritis. Kidney Int. 2012(Suppl2):233-242.15)Choy BY, et al. Am J Transplant. 2006;6:2535-2542.公開履歴初回2020年08月18日

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緑茶は血圧を1mmHgだけ下げる【Dr. 倉原の“おどろき”医学論文】第168回

緑茶は血圧を1mmHgだけ下げるpixabayより使用緑茶は体にいい!それは間違いないと思うのですが、血圧に対してはどうでしょうか。緑茶に含まれるカフェインの利尿作用が血圧を下げることに加えて、抗酸化作用があるとかないとか……。こうなったらメタアナリシスを実施して、血圧がどのくらい下がるか調べてみよう!というのが今回の研究。Xu R, et al.Effect of green tea supplementation on blood pressure: A systematic review and meta-analysis of randomized controlled trials.Medicine (Baltimore). 2020 Feb;99(6):e19047. doi: 10.1097/MD.0000000000019047.過去の観察研究や動物の研究では、緑茶によって収縮期血圧を下げられることが示されていますが、ランダム化比較試験ではいまだに結論が出ていません。今回、ランダム化比較試験を集めたメタナアリシスをおこない、緑茶が収縮期血圧を低下させるかどうかを調べました。電子データベースにおいて、2019年8月までの文献を検索しました。研究の質はJadadスコアによって評価され、出版バイアスについても評価しました。週2回以上の緑茶摂取の習慣があることが前提とされました(量は規定されず)。1,697人の被験者を対象とした24試験がメタアナリシスに含まれました。これらをプール解析したところ、緑茶の摂取は収縮期血圧(平均差-1.17 mmHg、95%信頼区間[CI]:-2.18~-0.16mmHg、p=0.02)および拡張期血圧(平均差-1.24 mmHg、95%CI:-2.07~-0.40mmHg、p=0.004)を有意に低下させることが示されました。……平均差が1mmHgちょいなので、もうぶっちゃけほとんど変わらないといっても過言ではない気がしますが。いずれの血圧パラメータも異質性がみられたものの、出版バイアスは明らかではありませんでした(p=0.674およびp=0.270)。というわけで、ちょびーーっとだけ血圧が下がる効果はあるかもしれません。それに何を期待すればよいのかはともかく。

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米国Moderna社の新型コロナワクチン、サルでの有効性確認/NEJM

 開発中の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)ワクチン「mRNA-1273」は、非ヒト霊長類において、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)の中和活性と上気道・下気道の速やかな保護を誘導し、肺組織の病理学的変化は認められなかった。米国・ワクチン研究センターのKizzmekia S. Corbett氏らが、アカゲザルにおけるmRNA-1273の評価結果を報告した。mRNA-1273は、SARS-CoV-2の膜融合前安定化スパイクタンパク質をコードするmRNAワクチンで、第I相試験を含むいくつかの臨床試験において安全性および免疫原性が確認されているが、上気道・下気道でのSARS-CoV-2増殖に対するmRNA-1273の有効性を、ヒトと自然免疫やB細胞・T細胞レパートリーが類似している非ヒト霊長類で評価することが重要とされていた。NEJM誌オンライン版2020年7月28日号掲載の報告。mRNA-1273の2用量を4週間間隔で2回筋肉内投与し有効性を評価 研究グループは、米国国立衛生研究所(NIH)の規定を順守し、ワクチン研究センターの動物実験委員会(Animal Care and Use Committee of the Vaccine Research Center)ならびにBioqualの承認を得て本試験を実施した。 インド原産アカゲザル(雄と雌各12匹)を3群に割り付け(性別、年齢、体重で層別化)、0週目および4週目にmRNA-1273の10μg、100μgまたはリン酸緩衝生理食塩水1mL(対照)を右後脚に筋肉内投与した。その後、8週目に、すべてのサルにSARS-CoV-2(合計7.6×105PFU)を気管内および鼻腔内投与した。 抗体およびT細胞応答をSARS-CoV-2投与前に評価するとともに、PCR法を用いて気管支肺胞洗浄(BAL)液および鼻腔スワブ検体中のウイルス複製とウイルスゲノムを評価し、肺組織検体にて病理組織学的検査とウイルス定量化を実施した。高い免疫応答の誘導と感染抑制効果を確認 mRNA-1273を2回投与後4週時の生ウイルス中和抗体価幾何平均値(reciprocal 50% inhibitory dilution:log10)は、10μg投与群で501、100μg投与群で3,481であり、ヒトの回復期血清のそれぞれ12倍および84倍高値であった。ワクチン投与によって、1型ヘルパーT細胞(Th1)に依存したCD4 T細胞応答が誘導されたが、Th2またはCD8 T細胞応答は低いかまたは検出できなかった。 10μg投与群および100μg投与群のいずれも8匹中7匹で、SARS-CoV-2投与2日目にはBAL液中のウイルス複製が検出されず、100μg投与群の8匹は、SARS-CoV-2投与2日目には鼻腔スワブ検体でもウイルス複製が検出されなかった。また、いずれのワクチン投与群も、肺検体における炎症、検出可能なウイルスゲノムや抗原は限られていた。

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緑茶は乳がんの予防になる?【Dr. 倉原の“おどろき”医学論文】第166回

緑茶は乳がんの予防になる?ぱくたそより使用最近緑茶にハマッてまして、個人的にもいろいろ調べているんです。緑茶って万物の長かっていうくらいたくさんの臨床試験が実施されています。PubMedで「Green Tea」で検索してみてください。恐ろしい数の文献がヒットしますから。もちろん、論文の質自体は玉石混交なのですが、乳がんに対するメタアナリシスを報告したのがこちら。Yu S, et al.Green tea consumption and risk of breast cancer: A systematic review and updated meta-analysis of case-control studies. Medicine (Baltimore). 2019 Jul;98(27):e16147. doi: 10.1097/MD.0000000000016147. なんでもかんでも論文を登録するとワケがわからなくなるので、オッズ比やリスク比を報告している中国語か英語の症例対照研究で、緑茶と乳がんリスクの低減効果を調べたものを対象としました。14研究がメタアナリシスの選択基準を満たし、計1万4,058人の乳がん患者と1万5,043人の対照被験者が登録されました。結果、緑茶を飲む習慣のある個人は、将来の乳がんリスクと負の関連があることが判明しました(オッズ比:0.83、95%信頼区間:0.72~0.96)。ただ、異質性がかなり高いことが、本メタアナリシスのリミテーションです(P<0 .00001、I2=84%)。Newcastle-Ottawa Scale(NOS)、研究実施地域、登録患者数などで層別化したサブグループ解析でも、同様の結果が得られました。なお、日本の乳癌診療ガイドライン1)においては、「これまでの研究結果にばらつきがあり、近年の信頼性の高い論文はその関連を否定するものが多く、日本人の研究に限ってもそれは同様である。以上より、緑茶の摂取が乳癌発症リスクを減少させるかどうかは、結論付けられないと判断した。」と記載されており、今回のメタアナリシスが、今後のガイドラインに影響を与えるのかどうかは不明です。いずれにしても、保護的な効果は臨床で実感するほどのものではないと確信しています。1)日本乳癌学会. 乳癌診療ガイドライン.

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経口JAK1阻害薬、中等症~重症ADに有用

 中等症~重症アトピー性皮膚炎(AD)に対する、1日1回服用の経口JAK1阻害薬abrocitinibの、第III相プラセボ対照無作為化試験の結果が発表された。米国・ジョージ・ワシントン大学のJonathan I. Silverberg氏らによる報告で、12歳以上の同患者における有効性および忍容性が確認された。JAMA Dermatology誌オンライン版2020年6月3日号掲載の報告。 試験は青年および成人について、同一試験デザインを用いて、二重盲検・並行群間比較にて行われた。被験者は12歳以上で、少なくとも1年以上の中等症~重症ADと臨床診断され、直近6ヵ月以内に4週間以上の外用薬治療を受けたが十分な奏効が得られなかった患者とした。オーストラリア、ブルガリア、カナダ、中国、チェコ、ドイツ、ハンガリー、日本、韓国、ラトビア、ポーランド、英国、米国の計115施設で2018年6月29日~2019年8月13日に被験者の登録が、2019年9月13日~10月25日にデータ解析が行われた。 適格患者は、2対2対1の割合で(1)経口abrocitinib(1日1回)200mg群、(2)同100mg群、(3)プラセボ群に無作為に割り付けられ、12週間投与を受けた。 主要評価項目は2つで、12週時点でInvestigator Global Assessment(IGA)反応(0:クリア、1:ほぼクリアのうち2グレード以上の改善を伴う)を達成した患者の割合、同じくEczema Area and Severity Indexスコア75%以上改善(EASI-75)を達成した患者の割合であった。 主な副次評価項目は、12週時点のPeak Pruritus Numerical Rating Scale(PP-NRS)反応(4ポイント以上の改善)を達成した患者の割合。その他の副次評価項目は、EASIスコア90%以上改善(EASI-90)を達成した患者の割合であった。安全性は、有害事象および検査室モニタリングにより評価した。 主な結果は以下のとおり。・計391例(男性229例[58.6%]、平均年齢35.1[SD 15.1]歳)が、解析に含まれた(abrocitinib 200mg群155例、同100mg群158例、プラセボ群78例)。・12週時点でデータが入手できた被験者において、200mgおよび100mg群は、プラセボ群と比べて、2つの主要評価項目がいずれも有意に高かった。 IGA達成の割合:59/155例(38.1%)・44/155例(28.4%)vs.7/77例(9.1%)、p<0.001 EASI-75達成の割合:94/154例(61.0%)・69/155例(44.5%)vs.8/77例(10.4%)、p<0.001・PP-NRS達成の推定割合も有意に高かった(55.3%[95%CI:47.2~63.5]・45.2%[37.1~53.3]vs.11.5%[4.1~19.0]、p<0.001)。・EASI-90達成の割合も高かった(58/154例[37.7%]・37/155例[23.9%]vs.3/77例[3.9%])。・有害事象は200mg群102例(65.8%)、100mg群99例(62.7%)、プラセボ群42例(53.8%)で報告され、重篤な有害事象は2例(1.3%)、5例(3.2%)、1例(1.3%)で報告された。・200mg群で、血小板数の減少(2例[1.3%])、検査室で確認された血小板減少症(5例[3.2%])が報告された。

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カリウムイオンを補足する非ポリマー型高K血症治療薬「ロケルマ懸濁用散分包5g/10g」【下平博士のDIノート】第53回

カリウムを便中に出す非ポリマーの高カリウム血症治療薬「ロケルマ懸濁用散分包5g/10g」今回は、高カリウム血症改善薬「ジルコニウムシクロケイ酸ナトリウム水和物(商品名:ロケルマ懸濁用散分包5g/10g、製造販売元:アストラゼネカ)」を紹介します。本剤は、体内に吸収されない非ポリマーの無機陽イオン交換化合物で、消化管内のカリウムイオンを選択的に捕捉して便中に排泄させることにより、血清カリウム値を低下させます。<効能・効果>本剤は高カリウム血症の適応で、2020年3月25日に承認され、2020年5月20日より発売されています。なお、本剤は効果発現が緩徐であるため、緊急の治療を要する高カリウム血症には使用できません。<用法・用量>通常、成人には開始用量として1回10gを水で懸濁して1日3回、2日間(血清カリウム値や患者の状態に応じて最長3日間まで)経口投与します。以後の維持量は1日1回5gですが、血清カリウム値や患者の状態に応じて1日1回15gを超えない範囲で適宜増減できます。なお、増量を行う場合は5gずつとし、1週間以上の間隔を空けます。血液透析施行中の場合は、初回から1回5gを水で懸濁して、非透析日に1日1回経口投与します。なお、最大透析間隔後の透析前の血清カリウム値や患者の状態に応じて、1日1回15gを超えない範囲で適宜増減します。<安全性>本剤承認の根拠となった主要な第III相試験(非透析患者を対象としたHARMONIZE Global試験、J-LTS試験および慢性血液透析患者を対象としたDIALIZE試験)において確認された主な副作用は、浮腫、体液貯留、全身性浮腫、末梢性浮腫、末梢腫脹、便秘(いずれも10%未満)などでした(承認時)。なお、重大な副作用として、低カリウム血症(11.5%)、うっ血性心不全(0.5%)が報告されています。<患者さんへの指導例>1.このお薬は、消化管内で吸収される前のカリウムを吸着し、便とともに排泄することで、血液中のカリウム値を低下させます。2.分包された薬剤を容器にすべて出してから、約45mL(大さじ3杯)の水と合わせて服用します。この薬は水に溶けないため、よくかき混ぜて、沈殿する前に飲んでください。飲んだ後に容器に薬が残っていたら、水を追加して再度かき混ぜてすべて服用してください。3.飲み忘れた場合は、1回飛ばして、次に飲む時間に1回分を飲んでください。絶対に2回分を一度に飲まないでください。4.いつもと違う手足のだるさ、力が抜ける感じ、筋肉のこわばり、呼吸のしにくさ、めまい、動悸などがある場合は、薬が効き過ぎている可能性があるため、すぐにご連絡ください。<Shimo's eyes>通常、カリウムは腎臓から排泄されて血中のカリウム値は一定の範囲に保たれますが、慢性腎臓病患者や透析患者では、腎機能の低下によりカリウム排泄が低下するため、高カリウム血症を発症しやすくなります。高カリウム血症に用いる既存のカリウム吸着薬としては、ポリスチレンスルホン酸ナトリウム製剤(商品名:ケイキサレート)およびポリスチレンスルホン酸カルシウム製剤(同:カリメート、アーガメイトゼリーなど)があり、いずれもポリマーで構成された陽イオン交換樹脂製剤です。既存薬には独特の味と舌触りがあり、投与量が多いことも相まって、患者さんが継続服用するのが困難な場合があります。飲みにくさを改善するために、ゼリー製剤やフレーバーが開発されているだけでなく、複数の医療機関から飲みやすさの工夫に関する研究結果も報告されています。また、ポリマー性吸着薬は水分によって膨張するため、便秘や腹痛、腹部膨満感などの懸念があります。本剤は国内初となる非ポリマー無機陽イオン交換化合物で、消化管内のカリウムイオンを選択的に捕捉して便中に排泄させます。無味無臭の白色粉末で、開始時は10gを1日3回経口投与であるものの、3日目からは通常5gを1日1回となり、服用量・回数共に比較的少ないため、アドヒアランスの向上が期待できます。本剤の相互作用については、胃内pHの上昇によって、アゾール系抗真菌薬、チロシンキナーゼ阻害薬などの溶解性低下が起きることがあるので、注意が必要です。生活指導としては、腎臓への負担を少しでも減らすために、カリウムを多く含む食品の過剰摂取に注意することや、茹でたり水にさらしたりするなどの調理方法の工夫を伝えましょう。参考1)PMDA 添付文書 ロケルマ懸濁用散分包5g/ロケルマ懸濁用散分包10g

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ASCO2020レポート 消化器がん(胆膵がん)

レポーター紹介2020年のASCOは、2020年5月29日からWebで開催された。これは、COVID-19の影響で、Virtual meetingとなったためである。Virtual meetingとは、Oral presentation、Poster discussion、Poster presentationもすべてASCOのWeb site上にスライドがUploadされ、発表者が発表内容を録音しているものを聞くだけで、相互のDiscussionがあるわけではない。Oral presentationとPoster discussionにはDiscussantが付いていて、それぞれの演題にコメントをしているが、質疑応答があるわけでもなく、ちょっと物寂しい感じが否めなかった。私も気合を入れて、現地時間の朝8時(日本時間の5月30日の夜中12時)からの開催に胸を弾ませスタンバっていたが、その前からスライドは閲覧可能であり、先んじて見ることができた。むしろ夜中12時からはアクセスが集中し過ぎて、ASCOのサイトに入れない状況であり、なんだか肩透かしを食らった感じであった。今年のASCOのテーマは「Unite & Conquer: Accelerating progress together」で、「皆で団結して、がんを征服しよう:共に進歩を加速させよう」ということで、がん研究を一緒に分かち合い、国際的な共同研究を行い、がんの克服を目指して、協力していこうという、会長の意思がよくわかる学会である。そして、本学会の会長はHoward A. Burris III先生であり、膵がんを担当している先生なら知らない人はいないはず。そうです、1997年にゲムシタビンと5FUの比較試験の報告をした先生であり、とうとう会長にまで登り詰めたんだと、非常に感慨深いものがあった。さて、今年の胆膵領域では、Oral presentationで膵がんが2演題、Poster discussionで膵がんが2演題、胆道がんが1演題、胆膵がんその他が1演題、取り上げられていた。Poster発表では、膵がんが28演題、胆道がんは14演題、神経内分泌腫瘍は8演題などであった。やはり膵がんは全世界的にも患者は増加傾向であり、治療成績も十分ではないため、喫緊の課題である。このことを反映してか演題数も多かった。とくに、Trial in progressの発表は膵がんが14演題と圧倒的に多く、次いで胆道がんが5演題、神経内分泌腫瘍が1演題であった。やはり、今後の開発は膵がんが圧倒的に注目されていることを表す結果だと思われた。膵がんmFOLFIRINOX療法とゲムシタビン+ナブパクリタキセル併用療法による周術期化学療法の比較試験(SWOG S1505) 1)膵がんの周術期の治療は、日本ではPrep02/JSAP05試験により、ゲムシタビン(Gem)+S-1併用療法による術前補助化学療法と、S-1による術後補助化学療法が標準治療となったが、世界的には術前化学療法は標準治療としては確立していない。しかし、術前補助化学療法は、早期から遠隔転移を抑制することができ、化学療法を効率よく行うことができ、切除を行ってもすぐに再発するような予後不良な患者を除外することができ、真に切除が必要な患者を選択できるため、臨床試験としてさまざまな取り組みが世界中で試みられている。本試験は、術前術後の補助化学療法として、modified FOLFIRINOX(mFFX)とGem+ナブパクリタキセル(Gem+nab-PTX)を比較したランダム化第II相試験(SWOG S1505)であった。主な適格規準は、膵がんに対する治療歴がない切除可能膵がん患者である。mFFX(フルオロウラシル 2,400mg/m2、オキサリプラチン 85mg/m2、イリノテカン 180mg/m2、2週ごと)とGem+nab-PTX(Gem 1,000mg/m2、ナブパクリタキセル 125mg/m2、3投1休)に1対1の割合で割り付けられた。術前化学療法を12週行った後に画像評価し、切除可能と判断された場合は切除を行い、さらに術後に術前と同じレジメンの化学療法を12週間行った。主要評価項目は2年生存割合として、閾値を40%とし、検出力88%、片側αを0.05として、期待値58%を超えた治療を有望な治療と判断することとした。2015年10月から登録を開始し、2018年4月に147例の集積が完了し、最終的に102例の適格症例が登録された。mFFX群に55例、Gem+nab-PTX群に47例が割り付けられた。2年生存割合はmFFX群が43.1%、Gem+nab-PTX群が46.9%であり、両群とも閾値の40%を統計学的有意に超えることができなかった。全生存期間(中央値)は22.4ヵ月および23.6ヵ月であった。外科切除を行った患者のうち、R0切除割合は両群ともに85%であり、N0で切除できた症例はそれぞれ40%および45%であった。病理学的奏効割合はmFFX群が25%に対して、Gem+nab-PTX群が42%と若干良好であり、その分、術後の無病生存期間もmFFX群10.9ヵ月に対して、Gem+nab-PTX群14.2ヵ月と良好であった。有害事象は両群ともに同様であり、忍容可能と考えられた。コメント本試験の結果、両群ともに期待値に到達せず、“no winner(勝者はなし)”という結果になった。病理学的奏効割合はGem+nab-PTX群が40%と、mFFXの25%よりも良好であった。術後補助療法では有意な結果を示せなかったGem+nab-PTXであるが、術前補助療法としての有用性はまだ期待できる可能性が示された。本試験では、術前化学療法の有効性を示すことはできなかったが、現在、mFFXの術後治療6ヵ月と術前4ヵ月+術後2ヵ月を比較したAlliance 021806試験が進行中であり、その結果が待たれるところである。切除境界可能膵がんに対するImmediate surgeryとゲムシタビン+カペシタビン、mFFX、化学放射線療法の術前治療のランダム化第II相試験 2)切除境界可能膵がん(BR膵がん)に対するImmediate surgery(術前治療を行わない群)とゲムシタビン+カペシタビン(Gem+Cape)、mFFX、化学放射線療法の4群を比較し、どの術前治療が有効かを明らかにするランダム化第II相試験であった。主要評価項目は、R1+R0切除割合と症例集積割合で、副次評価項目は、R0切除割合、有害事象と全生存期間であった。主要評価項目のR1+R0切除割合は、Immediate surgery群で62%、術前治療群(Gem+Cape、mFFX、化学放射線療法をあわせた群)で55%であり、有意差は認めなかった(p=0.668)。また、R0切除割合もImmediate surgery群で15%、術前治療群で23%であり、有意差は認めなかった(p=0.721)。症例集積割合は、1年当たり20.74例であり、症例集積にはかなりの時間を要することが示された。12ヵ月生存割合は、Immediate surgery群で42%、術前治療群で77%であり、有意に良好であった(ハザード比:0.28、95%信頼区間[CI]:0.14~0.57、p<0.001)。また、術前治療別の12ヵ月生存割合は、Gem+Capeが79%、mFFXが84%、化学放射線療法が64%であり、mFFXが最も良好であった。Immediate surgery群と術前治療群で、切除率に差は認めなかったが、12ヵ月生存割合は術前治療で有意に良好であり、なかでもmFFXが最も良好な治療成績であった。BR膵がんに対しては、術前治療を行うことを考慮すべきであり、レジメンとしてはmFFXが良好な可能性が示された。コメント著者らは術前治療推しの結語にしているが、実際には主要評価項目は達成しておらず、副次評価項目である生存期間が良好であったのが、術前治療であったため、BR膵がんに対しては術前治療を行うことを考慮すべきと結論付けている。少しずるい感じは否めないが、BR膵がんに対するUpfront surgeryと術前化学放射線療法を比較したランダム化比較試験の結果も術前治療群で有意に良好な結果が報告されているため、その結果に引っ張られる形での結語になっている。世の中の流れ的にも、BR膵がんは術前治療ありきだし、レジメンとしても最強なレジメンであるmFFXを考慮することは十分考えられうることであり、この結語に対する皆の受け入れは良いと思われる。ESPAC-4:術後補助化学療法Gem+Cape vs.Gemの第III相試験の5年後の経過観察 3)術後補助化学療法の第III相試験(ESPAC-4)において、Gem+Cape群は、Gem群と比べて有意に良好な生存期間が示され、標準的な術後補助化学療法として確立している。今回は、ESPAC-4試験の5年の長期経過観察後の結果の発表であった。Gem群366例、Gem+Cape群364例が解析対象であり、生存期間(中央値)はGem群26.0ヵ月、Gem+Cape群27.7ヵ月であり、有意差が得られたままであった(ハザード比:0.84、95%CI:0.70~0.99、p=0.049)。多変量解析においても、切除断端陽性、術後CA19-9高値、術前CRP高値、低分化型、リンパ節転移陽性、最大腫瘍径と共に、有意な予後因子として、術後補助化学療法が選択された。術後補助化学療法のGem+CapeはGemと比べて有意に生存期間の延長に寄与することが、長期経過観察の結果からも示された。コメント大規模な術後補助化学療法の5年の長期経過観察後の発表であるが、とくに驚くことのない試験結果であり、この演題がPoster discussionであることのほうがむしろ驚きである。今年はあまり採択すべき演題がなかったのかなと思ってしまった。膵がん切除後補助化学療法Gem+nab-PTX vs.Gem aloneの第III相試験(APACT)の生存期間のUpdateと地域ごとの治療成績 4)ちょうど1年前のASCOで発表された、膵がん切除後の補助化学療法としてのGem+nab-PTXとGem aloneを比較した第III相試験(APACT)の結果は、主要評価項目である中央判定による無病生存期間の延長は認めなかったため、標準的な術後補助化学療法としては位置付けられていない。しかし、副次評価項目である全生存期間の延長を認めており、担当医判断の無病生存期間においても有意な差が認められていたため、中央判定が良くなかったのではないかとまで言われている試験であった。この試験は、全世界179施設、21ヵ国で行われたGlobal試験であり、今回、このAPACT試験の生存期間のUpdateと地域ごとの治療成績の違いについて発表された。膵がん(T1-3、N0-1、M0)に対してR0またはR1切除を行い、術後に再発を認めず、CA19-9が100 U/mL未満に低下した患者をGem+nab-PTX群432例とGem alone群434例にランダムに割り付けた。Updateされた全生存期間(中央値)は、Gem+nab-PTX群41.8ヵ月とGem alone群37.7ヵ月であり、ハザード比0.82(95%CI:0.687~0.973、p=0.232)と、主解析時点と同様の結果が得られた。欧州、北米、アジア、オーストラリアの4地域における患者背景、生存期間、有害事象の違いも報告された。患者背景では、オーストラリアの患者でPerformance statusが0の患者とR0切除割合がGem+nab-PTX群で低率であったこと以外は両群で有意差は認めなかった。また、地域ごとの違いでは、アジアの患者で、R0切除、N0の患者が最も多く認められ、投与状況では累積投与量がアジアの患者でやや多かった。生存期間は、どの地域でもGem+nab-PTX群で良好な傾向が認められており、地域によらず一定の効果が認められた。Gem+nab-PTXの生存期間(中央値)は、欧州41.8ヵ月、北米38.5ヵ月、アジア46.8ヵ月、オーストラリア31.5ヵ月と患者背景を反映してか、アジアで良好であった。有害事象に関しては、これまでの報告と同様にGem+nab-PTX群でGrade3以上の治療関連有害事象発現割合が高く、その内訳は好中球減少、貧血、白血球減少、末梢神経障害、疲労など、既知のものだった。また、地域ごとの違いはほぼ認められなかった。このように、4年の追跡調査結果は主解析と同様の結果であり、地域別の解析でも、全体での解析結果と同様の結果だった。コメント膵がん切除後の補助化学療法として、Gem+nab-PTXとGemを比較した第III相試験(APACT)の生存期間のUpdateの結果と地域による治療成績の違いを検討した結果が報告された。くしくも、このAPACT試験の生存期間のハザード比は0.82であり、ESPAC-4試験でPositiveな結果となったGem+Capeのハザード比0.84と同等からやや良好な結果が示されており、生存期間(中央値)もGem+nab-PTXは41.8ヵ月、Gem+Capeは27.7ヵ月であり、患者背景が違うため、単純に比較はできないが、APACT試験の結果が良好であった。あえてこのように並べて発表したのかはわからないが、Gem+nab-PTXの術後補助化学療法の有効性を示唆する結果であった。また、地域による治療成績の違いの検討は、肝細胞がんでは地域による違いが問題になることもあるが、膵がん切除後の補助化学療法においては、地域による患者背景や治療成績に違いはほぼないことがわかり、今後、Global試験を行ううえで、非常に重要な結果が示されたと考えている。胆道がん進行胆道がんの初回治療例に対するGem+Cisplatin+Durvalumab+Tremelimumab vs.Gem+Cisplatin+Durvalumabの第II相試験 5)切除不能または再発胆道がんの初回治療例に対して、Gem+Cisplatin(GC)+Durvalumab(D)+Tremelimumab(T)のバイオマーカーコホート30例とGC+Dコホート45例、GC+D+Tコホート46例の第II相試験の結果が韓国から報告された。奏効割合は、バイオマーカーコホート50.0%、GC+Dコホート73.4%、GC+D+Tコホート73.3%と非常に良好であり、奏効までの期間(中央値)も2.3ヵ月と良好であった。無増悪生存期間(中央値)と生存期間(中央値)はそれぞれ、バイオマーカーコホート13.0ヵ月と15.0ヵ月、GC+Dコホート11.0ヵ月と18.1ヵ月、GC+D+Tコホート11.9ヵ月と20.7ヵ月と、まだ打ち切り例が多いが、非常に良好な結果が報告された。バイオマーカーコホートで、1サイクル後のPD-L1の発現によって無増悪生存期間に違いが出る可能性が示唆された。全Gradeの有害事象は、悪心59.5%、好中球減少54.5%、掻痒55.4%に認めたが、忍容性は良好であったと解釈された。現在、GC+D vs.GCの第III相試験(TOPAZ-1: NCT03875235)が進行中であることが報告された。コメント胆道がんにおける免疫チェックポイント阻害剤は期待されており、GC+免疫チェックポイント阻害剤の併用療法の第III相試験がいくつか進行中である。今回、GCにDまたはD+Tを併用することで非常に良好な治療成績が報告されているが、現在、進行中の第III相試験は、GC+D vs.GC+プラセボの第III相試験(TOPAZ-1)であり、Tの併用はない。今後、GC+T+Dのレジメンの開発がどうなるのかは、まったくわからない状況であった。胆道がんに対するその他の治療開発は、1次治療としてGC+ペムブロリズマブvs.Gem+プラセボの第III相試験(KEYNOTE-966)、GC+Bintrafusp alfa(M7824)vs.GC+プラセボの第II/III相試験(Trap0055)が進行中であり、2次治療以降では、ゲムシタビン、シスプラチンおよびS-1の前治療歴がある胆道がん患者を対象としたニボルマブの治験、職業関連胆道がん患者を対象としたニボルマブ単剤による医師主導治験などが進行中であり、やはり注目度は高い。胆膵がんその他ctDNAと組織でのクリニカルシーケンスの比較:SCRUM-Japan GI-Screen vs. GOZILA 6)SCRUM-Japanで行われてきた組織でのクリニカルシーケンス(GI-Screen)と血液でのctDNA(GOZILA)を比較した検討結果が、JCOG肝胆膵グループの若手のホープである国立がん研究センター中央病院の大場先生から報告された。SCRUM-Japanでは、消化器がんを中心にがん遺伝子のクリニカルシーケンスの研究として行ってきた。今回、組織でのクリニカルシーケンスであるGI-Screen研究に参加された2,952例と、リキッドバイオプシーであるctDNAによるがん遺伝子検査のGOZILA研究に参加された632例の患者背景、検査結果が判明するまでの時間、同定されたActionable遺伝子異常、臨床試験への参加割合と参加までの期間、臨床試験での奏効割合と無増悪生存期間を比較検討した。患者背景では、GOZILA研究に膵がんの患者が多く登録されており、膵がんは組織が採取しにくく、リキッドバイオプシーが好まれる傾向にあることが示された。検査結果が判明するまでの時間(中央値)は、GI-Screenでは37日、GOZILAでは12日と、GOZILAで有意に短かった(p1)Davendra Sohal, Mai T. Duong, Syed A. Ahmad, et al. SWOG S1505: Results of perioperative chemotherapy (peri-op CTx) with mfolfirinox versus gemcitabine/nab-paclitaxel (Gem/nabP) for resectable pancreatic ductal adenocarcinoma (PDA). J Clin Oncol 38: 2020 (suppl; abstr 4504)2)Paula Ghaneh, Daniel H. Palmer, Silvia Cicconi, et al. ESPAC-5F: Four-arm, prospective, multicenter, international randomized phase II trial of immediate surgery compared with neoadjuvant gemcitabine plus capecitabine (GEMCAP) or FOLFIRINOX or chemoradiotherapy (CRT) in patients with borderline resectable pancreatic cancer. J Clin Oncol 38: 2020 (suppl; abstr 4505)3)John P. Neoptolemos, Daniel H. Palmer, Paula Ghaneh, et al. ESPAC-4: A multicenter, international, open-label randomized controlled phase III trial of adjuvant combination chemotherapy of gemcitabine (GEM) and capecitabine (CAP) versus monotherapy gemcitabine in patients with resected pancreatic ductal adenocarcinoma: Five year follow-up. J Clin Oncol 38: 2020 (suppl; abstr 4516)4)Michele Reni, Hanno Riess, Eileen Mary O'Reilly, et al. Phase III APACT trial of adjuvant nab-paclitaxel plus gemcitabine (nab-P + Gem) versus gemcitabine (Gem) alone for patients with resected pancreatic cancer (PC): Outcomes by geographic region. J Clin Oncol 38: 2020 (suppl; abstr 4515)5)Do-Youn Oh, Kyung-Hun Lee, Dae-Won Lee, et al. Phase II study assessing tolerability, efficacy, and biomarkers for durvalumab (D) ± tremelimumab (T) and gemcitabine/cisplatin (GemCis) in chemo-naive advanced biliary tract cancer (aBTC). J Clin Oncol 38: 2020 (suppl; abstr 4520)6)Akihiro Ohba, Yoshiaki Nakamura, Hiroya Taniguchi, Masafumi Ikeda, et al. Utility of circulating tumor DNA (ctDNA) versus tumor tissue clinical sequencing for enrolling patients (pts) with advanced non-colorectal (non-CRC) gastrointestinal (GI) cancer to matched clinical trials: SCRUM-Japan GI-SCREEN and GOZILA combined analysis. J Clin Oncol 38: 2020 (suppl; abstr 3516)

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急性間欠性ポルフィリン症、RNAi薬givosiranが有効/NEJM

 急性間欠性ポルフィリン症患者の治療において、RNAi(RNA interference:RNA干渉)治療薬givosiranはプラセボに比べ、ポルフィリン症発作をはじめとする諸症状の抑制に高い効果を発揮する一方で、肝臓や腎臓の有害事象の頻度が高いことが、米国・マウントサイナイ・アイカーン医科大学のManisha Balwani氏らが実施した「ENVISION試験」で示された。研究の成果は、NEJM誌2020年6月11日号に掲載された。急性肝性ポルフィリン症の急性発作と慢性症状の病因の中心となるのは、δ-アミノレブリン酸(ALA)とポルフォビリノーゲン(PBG)の蓄積をもたらす肝臓のδ-アミノレブリン酸合成酵素1(ALAS1)のアップレギュレーションと考えられている。givosiranは、ALAS1のmRNAを標的とするRNAi治療薬であり、ALAとPBGの蓄積を防止するという。18ヵ国36施設のプラセボ対照第III相試験 本研究は、日本を含む18ヵ国36施設が参加した二重盲検プラセボ対照第III相試験であり、2017年11月16日~2018年6月27日に患者登録が行われた(Alnylam Pharmaceuticalsの助成による)。 対象は、年齢12歳以上、症候性の急性肝性ポルフィリン症で、尿中ALAとPBG濃度が正常上限値の4倍以上に上昇した患者であった。 被験者は、givosiran(2.5mg/kg体重)を月1回皮下投与する群、またはプラセボを投与する群に無作為に割り付けられ、6ヵ月の治療が行われた。 主要エンドポイントは、急性間欠性ポルフィリン症(急性肝性ポルフィリン症の最も頻度の高いサブタイプ)患者における複合ポルフィリン症発作の年間発生率とした。複合ポルフィリン症発作は、入院、医療施設への緊急受診、自宅での静脈内ヘミン投与を行った場合とした。 重要な副次エンドポイントは、急性間欠性ポルフィリン症患者におけるALAとPBGの濃度、ヘミンの使用日数、1日最大疼痛スコア、および急性肝性ポルフィリン症患者における発作の年間発生率などであった。主要エンドポイントが74%低下、ALAは86%、PBGは91%低下 94例が登録され、givosiran群に48例、プラセボ群には46例が割り付けられた。全体の平均年齢は38.8±11.4歳、女性が84例(89%)であった。94例中89例が急性間欠性ポルフィリン症だった。 急性間欠性ポルフィリン症患者における6ヵ月後の複合ポルフィリン症発作の平均年間発生率は、givosiran群が3.2、プラセボ群は12.5であり、givosiran群で74%低かった(p<0.001)。複合発作の3つの構成要素である入院、緊急受診、静脈内ヘミン投与はいずれも、givosiran群で低下の程度が大きかった。また、複合発作の年間発生率の中央値では、givosiran群が1.0、プラセボ群は10.7であり、givosiran群で90%低かった。急性肝性ポルフィリン症でも、ほぼ同様の結果だった。 急性間欠性ポルフィリン症患者では、givosiran群はプラセボ群に比べ、尿中のALA(3ヵ月、6ヵ月)およびPBG(6ヵ月)の濃度が低く(いずれもp<0.001)、ヘミンの使用日数が少なく(p<0.001)、1日最大疼痛スコアが良好だった(p=0.046)。また、急性肝性ポルフィリン症患者における発作の年間発生率も、givosiran群で低かった(p<0.001)。ALAとPBG濃度の低下は、介入期間中を通じて持続し、6ヵ月時のベースラインからの低下の割合中央値は、ALA濃度が86%、PBG濃度は91%だった。 givosiran群で頻度が高かった重要な有害事象は、アラニン・アミノトランスフェラーゼ(ALT)値上昇(8% vs.2%)、血清クレアチニン値上昇または推定糸球体濾過量低下(15% vs.4%)、注射部位反応(25% vs.0%)であった。givosiran群の10%に、慢性腎臓病が発現した。 重篤な有害事象の割合は、givosiran群で高かった(21% vs.9%)。また、ALT値が正常上限値の3倍以上の患者の割合はgivosiran群で高く(15% vs.2%)、投与開始から3~5ヵ月後に発生した。ALT値が正常上限値の9.9倍に達した1例は、治療中止となったが、6ヵ月後には正常値に回復した。これ以外に、治療中止や脱落した患者はなかった。 著者は、「肝臓や腎臓の有害事象が多かったものの、安全性プロファイルは許容できるものであった」としている。これらの知見に基づき、givosiranは急性肝性ポルフィリン症の成人患者の治療薬として、2019年11月20日に米国食品医薬品局(FDA)の、2020年3月3日に欧州医薬品庁(EMA)の承認を得ており、EMAは12歳以上での使用を承認しているという。

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MRワクチン【今、知っておきたいワクチンの話】各論 第1回

ワクチンで予防できる疾患(疾患について・疫学)ワクチンで予防できる疾患、VPD(Vaccine Preventable Disease)は、数えられるほどしかない。しかし、世界ではいまだに多くの子供や大人(時に胎児も)が、ワクチンで予防できるはずの感染症に罹患し、後遺症を患ったり、命を落としたりしている。わが国では2012~2013年の風疹大流行(感染者約17,000人)に引き続き1)、2018~2019年にも流行した(感染者5,000人以上)。その影響もあり、日本は下記期間において世界3位の風疹流行国となっている2)(図1、表1)。風疹ワクチンのもっとも重要な目的は先天性風疹症候群(Congenital Rubella Syndrom:CRS)の予防である。それには、風疹が流行しないよう、風疹含有ワクチン接種により集団免疫を高めることが何より重要である。図1 2019年3月~2020年2月(1年間)の風疹発生数と発生率(100万人当たり)画像を拡大する表1 風疹患者数(上位10ヵ国)Global Measles and Rubella Monthly Update (Accessed on April 24, 2020)より引用画像を拡大する一方、麻疹は、世界で約14万人の命を奪う(2018年推計)ウイルス感染症である。麻疹の死亡率は先進国でさえも約1,000人に1人といわれており、重症度の高い感染症である。感染力も強いため、風疹と同様、予防接種により高い集団免疫を獲得する必要がある。しかし、日本国内での麻疹の散発的流行はいまだ絶えない。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に係る緊急事態宣言が解除された今なお、予防接種は不要不急だと考え接種を控えるケースが見受けられる。しかし「ワクチンと新型コロナウイルスと検疫」でも述べられているように、予防接種(特に小児)は適切な時期に受けることが重要であり、接種を延期する必要はない。過度な制限や自粛により、予防できるはずの感染症に罹患してしまうことは避けなければならない3)。麻疹・風疹の概要VPDの第1弾として、「麻疹・風疹」を取り上げる。麻疹・風疹ワクチンともに、経済性、安全性、有効性に優れており費用対効果も高い。日本国内における麻疹・風疹の感染流行の首座は、小児よりも青年・成人である。そのため、あらゆる年代、あらゆる受診機会に触れるプライマリケア医からの啓発が、非常に重要かつ効果的である。麻疹について1)麻疹の概要感染経路:空気感染、飛沫感染、接触感染潜伏期:10~12日周囲に感染させうる期間:症状出現1日前~解熱後3日間感染力(R0:基本再生産数):12-18感染症法:5類感染症(全数報告、直ちに届出が必要)学校保健安全法:第2種(出席停止期間:解熱後3日経過するまで)注)R0(基本再生産数):集団にいるすべての人間が感染症に罹る可能性をもった(感受性を有した)状態で、一人の感染者が何人に感染させうるか、感染力の強さを表す。つまり、数が多い方が感染力は強いということになる。2)麻疹の臨床症状麻疹の特徴は、感染力の強さと重症度の2つである。空気感染する感染症は、麻疹以外では結核と水痘がある。感染力を表すR0(アールノート)は、インフルエンザが1-2、COVID-19が1.3-2.5(5月時点)なので、麻疹はこれらの約10倍に相当する極めて強い感染力をもつ。典型的な麻疹の臨床経過は、10~12日程度の潜伏期ののち、3つの病期を経る。感染力がもっとも強いカタル期(2~4日間)には、高熱、上気道症状、目の充血、コプリック斑などが出現する。その後、一旦解熱し、再度高熱(二峰性発熱)と全身性の紅斑(発疹期)が拡がる(3~5日間)。発疹が出て3~4日後に徐々に解熱し回復する(回復期)。麻疹に対する免疫をもたない人が感染すると、約3割に合併症が生じ、肺炎や脳炎、中耳炎、心筋炎などを来す。肺炎や脳炎は2大死亡原因と言われ、乳児では麻疹による死亡例の6割が肺炎に起因する。まれではあるが罹患してから数年後に発症する亜急性硬化性全脳炎(SSPE)という重篤な合併症を来すこともある。病歴や臨床症状から疑い、血清学的検査(IgM抗体、IgG抗体など)やPCR検査(咽頭、尿など)などにより確定診断をする(詳細は「医療機関での麻疹対応ガイドライン 第7版」4)を参照)。特異的な治療法はないため、対症療法が中心である。3)麻疹の疫学麻疹の感染者は、全数報告が開始された2008年が約1万1,000例だったが、2009年以降は、毎年数十~数百例の報告数である。2016年は165例、2017年は186例、2018年282例と続き、2019年は744例と多かった。かつては5歳未満の小児が主な感染者であったが、2011年頃からは20~30代の患者が半数以上占めている5)。2019年は感染者の56%が20~30代であり、主な感染者は接種歴のない乳児を除いて、30代をピークとした成人であることがわかる(図2、3)。図2 年齢群別接種歴別麻疹累積報告数 2019年第1~52週(n=744)画像を拡大する図3 年齢別麻疹累積報告数割合 2019年第1~52週(n=744)国立感染症研究所 感染症発生動向調査 2020年1月8日現在より引用画像を拡大する4)麻疹の抗体保有率抗体保有率は麻疹の感受性調査として、ほぼ毎年国立感染症研究所より報告されている。抗体価はあくまで免疫能の一部を表しているに過ぎないため、抗体価が基準を満たせば良い、という単純な話ではない(総論第4回 「抗体検査」参照)。しかし、年代と抗体保有率との相関性をみることで、ある程度の傾向が把握できるため紹介する。麻疹の抗体保有率(PA法16倍以上:図4赤線)は1歳以上の全年代で95%以上を維持しているが、修飾麻疹を含めた発症予防可能レベルは128倍以上が望ましい6)(図4:緑線)。10代と60代以上で128倍の抗体価を下回る人が多く、注意が必要である。また、すべての年代で128倍未満のものがいることから、輸入麻疹による感染拡大の危機は常につきまとうことになる。図4 麻疹の抗体価保有状況 2019年感染症流行予測調査より(2020年2月暫定値)国立感染症研究所 2019年感染症流行予測調査(2020年2月暫定値)より引用画像を拡大するわが国は2015年3月27日にWHOによる麻疹排除認定を受けた。麻疹排除認定の定義とは「質の高いサーベイランスが存在するある特定の地域、国等において、12ヵ月間以上継続した麻疹ウイルスの伝播がない状態」とされている。これは土着の麻疹ウイルスが国内流行しなくなった状態を意味するだけであり、土着でない、海外から持ち込まれた“輸入麻疹”は、麻疹排除認定後も、2020年現在まで国内で散発的にみられている(図5)。近年の代表的な事例として、2018年には海外からの旅行者を発端とした沖縄での集団感染(101例)や、2019年にはワクチン接種率の低い三重県の宗教団体関係者を中心とした集団感染(49例)などがある。その感染力の高さから4次や5次感染を来した事例も複数報告されている7)。その他、医療関係者、教育関係者、空港職員などが感染した事例も多く、不特定多数の人に接触しうる職種は特に、あらかじめワクチン接種により免疫を獲得しておくことが重要である。図5 麻疹累積報告数の推移 2013~2020年第15週 (2020年4月15日現在)国立感染症研究所 感染症発生動向調査より引用画像を拡大する麻疹はアジア・アフリカ諸国を始め、世界各国で流行が続いており、2019年は40万人以上が罹患したと報告されている。一方で、わが国への出入国者数は年々増加し、年間5,000万人を超えている。つまり、日本全体が麻疹に対する強固な集団免疫を獲得しないと、世界各国とのアクセスが容易な現代においては、“ふと”やってくる輸入麻疹を防げないのである。風疹について1)風疹の概要感染経路:飛沫感染、接触感染潜伏期:14~21日周囲に感染させうる期間:発疹出現前後1週間感染力(R0:基本再生産数):5-7感染症法:5類感染症(全数報告、直ちに届出が必要)学校保健安全法:第2種(出席停止期間:発疹が消失するまで)2)風疹の臨床症状風疹は、比較的予後の良い急性ウイルス感染症である。しかし、妊婦が風疹に罹患すると、その胎児に感染し、先天性風疹症候群(Congenital Rubella Syndrome:CRS)が発生する可能性がある(後述)。風疹の主な感染様式は、風邪やインフルエンザと同様に飛沫感染であり、感染力は比較的強い(R0は5-7)。風疹の臨床経過について。2~3週間の潜伏期の後、軽い発熱と淡い全身性発疹が同時に出現する。その他、耳下や頸部リンパ節腫脹も特徴的で、関節痛を伴うこともある。発疹は3~5日程度で消失するため、風疹は“三日はしか”とも言われる。風疹ウイルスに感染した成人の約15%は不顕性感染(感染していても症状がでない)であり、たとえ症状がでても軽度なことも多い。そのため、自分が感染していることに気付かず、他人に感染させてしまう可能性がある。診断方法:臨床症状から疑い、血清検査(IgMやIgGなど)にて確定診断を行う。治療:CRSも含め、風疹に特異的な治療法はなく対症療法が中心となる。そのため、ワクチンがもっとも有効な予防方法となる。予後は基本的には良好だが、時に血小板減少性紫斑病や脳炎を合併することがある。3)先天性風疹症候群(Congenital Rubella Syndrome:CRS)冒頭で述べたように、日本では2012~13年および2018~19年に風疹が流行した。2012~13年には17,000人以上の風疹感染者と45人のCRSが、2018~19年には5,000人以上の風疹感染者と5人のCRSが届出された。妊婦の風疹感染により流産や胎児死亡が起こりうることから、より多くの妊婦と胎児が風疹感染の犠牲となった可能性がある。CRSとは、風疹に対する免疫が不十分な妊婦が、妊娠中に風疹に罹患し、経胎盤感染により胎児が罹患する症候群である。3大症状は難聴、先天性心疾患、白内障であり、その他、肝脾腫、糖尿病、精神運動発達遅滞などを来す。妊婦(風疹に対する免疫が不十分な場合)の風疹感染によるCRS発生率は妊娠週数によって異なり、妊娠初期の感染は80%以上と非常に高率である(妊娠4~6週で100%、7~12週で約80%、13~16週で45~50%、17~20週で6%、20週以降で0%8))。2012~13年に発生したCRS45人の追跡調査で、11人が死亡していたことがわかり、致死率は24%と報告された。そのほとんどが重度の先天性疾患が死因となった1)。一方、CRS児の母親の年代は14~42歳と幅広く、風疹含有ワクチン接種歴が2回確認された母親はいなかった(接種歴1回が11例、なしが19例、不明が15例)。妊娠可能年齢の女性に対する風疹ワクチンの2回接種がいかに重要であるかがわかる。また、4例の母親には妊娠中に感染症状がなかった(31例は症状あり、10例は不明)ことから、不顕性感染によるCRSであったことが推測される。CRSもワクチンで予防できるVPDである。また、風疹流行は、妊婦にとって脅威である。妊娠可能年齢の女性やそのご家族には、積極的に風疹ワクチン2回の接種歴を確認し、不足回数分の接種を推奨いただきたい。4)風疹の疫学と抗体保有率近年の風疹流行の首座は成人(感染者の9割以上)であり、中でも20~50代の男性が約7~8割を占める9)。これらの年代は働き盛り、かつ子育て世代でもあることから、職場や家族内感染が主な感染源と推定された10)。一方、女性の感染者では妊娠可能年齢の20~30代が女性感染者全体の6割を占め、CRS予防の観点からも、憂慮すべきデータである。抗体保有率も上記の年代で低いことがわかる(図6)。風疹抗体価についてはHI法8倍以上(図6:赤線)で陽性とされるが、感染予防には16倍以上(図6:黄線)、さらにはCRS予防には32倍以上(図6:青線)が望ましい。男性については30~50代において抗体価が低いことがよくわかる。近年の風疹流行の首座の年代である。この年代で抗体価が低いのは、後述する過去の予防接種制度の煽りを受けたことが原因であり、昨年度から全国で開始された「風疹第5期定期接種」の対象年齢(1962~1979年生まれ)が含まれる。一方、女性では、HI法8、16倍以上の抗体保有率は高いものの、CRS予防に望ましい32倍以上(図6:青線)の抗体保有率は妊娠可能年齢(10~40代)では7~8割にとどまる。やはり小児期に2回の定期接種が義務付けられていなかった年代が含まれており、男性のように成人に対する定期接種制度はないため、日常診療における接種歴の確認が重要となる。図6 男女別の風疹抗体保有率 2018年画像を拡大する国立感染症研究所 年齢別/年齢群別の風疹抗体保有状況、2018年より引用画像を拡大する妊娠可能年齢の女性やその家族には、あらかじめ風疹ワクチンでの予防措置を講じておくことが非常に重要である。ワクチンの概要(効果・副反応、生または不活化、定期または任意、接種方法) 1)麻疹・風疹ワクチン(表2)画像を拡大する効果(免疫獲得率)麻疹ワクチン:1回接種により免疫獲得率93~95%以上、2回接種で97~99%3)風疹ワクチン:1回接種による免疫獲得率は95%、2回接種では約99%11)副反応:一部(10~30%)に軽度の麻疹様発疹や風疹様症状(発熱、発疹、リンパ節腫脹、関節痛など)を伴うことがあるが、いずれも軽度で数日中に消失する一過性のものである。その他、ワクチン接種による一般的な副作用以外に、MRワクチンに特異的な副反応報告はない。禁忌:発熱や急性疾患に罹患中の人、妊婦、明らかな免疫抑制状態にある人、このワクチンによる重度のアレルギー症状(アナフィラキシーなど)を呈した既往がある人注意事項:生ワクチン接種後は、2ヵ月間は妊娠を避ける。ただし、この期間に妊娠しても、母体や胎児に問題が生じた報告はない。また、輸血製剤またはガンマグロブリン製剤投与後は6ヵ月の間隔をあけてから接種する。麻疹風疹(MR)ワクチンは、2006年から小児に対して2回の定期接種(1期、2期)が定められた。1期(1歳)の接種率は目標の95%以上を維持しているが、2期(5~6歳)についてはいまだ93~94%で推移している12)。あらゆる機会を利用してキャッチアップを行うことにより、すべての人が生涯で計2回のワクチン接種が受けられるような啓発や取り組みが喫緊の課題である。2)麻疹の緊急ワクチン接種麻疹患者との接触者で、麻疹に対する免疫がない人は、接触後72時間以内に麻疹含有ワクチンを接種することで、発症を予防できる可能性がある(緊急ワクチン接種)4)。1歳未満の乳児でも、生後6ヵ月以降であれば曝露後接種は可能である(自費)。しかし、この場合は母親からの移行抗体によりワクチンウイルスが中和されてしまう可能性もあるため、必ず1歳以降で2回の定期接種を受ける必要がある。3)接種のスケジュール(小児/成人)麻疹・風疹ワクチンは、いずれも1歳以上で生涯計2回接種することで、麻疹・風疹ウイルスに対する免疫能を高率に獲得できる。血清検査で診断された罹患歴がなければ、不足回数分の接種を推奨する。ウイルス抗体価の測定は必須ではない。理由は前述の「抗体検査」で述べられたとおりであり、改定された日本環境感染学会のワクチンガイドラインでも同様の考えに基づくアルゴリズムが提示されている13)。抗体価は参考値として測定することはあっても、あくまで接種歴の方が重要度としては高い。よって、抗体価を測定せずに、接種歴の情報を元に接種回数を決めてよい。接種歴がわからない(もしくは、接種した記憶はあるが、記録がない)場合は、接種しすぎることによる害はないため「接種歴なし」として、1ヵ月以上の間隔をあけて、2回の接種を推奨する。4)小児期に2回の麻疹・風疹ワクチン接種が定期接種となった年代麻疹・風疹(それぞれ単独)ワクチン:2000年4月2日生まれ以降の人(表3)は、小児期に麻疹・風疹含有ワクチンが定期接種化されている年代である。ただし、1990年4月2日生まれ~2000年4月1日生まれまでの人(特例措置の年代)の接種率は80%台と低かった。どの年代においても接種歴の確認が重要である。特例措置:麻疹または風疹ワクチンの2回目を、中学1年生(第3期)と高校3年生相当(第4期)に対象者を拡大して5年間の期間限定で接種が行われた。表3 出生年月日および性別別の早見表:麻疹(上段)、風疹(下段)画像を拡大する5)成人に対する風疹第5期定期接種14)1962年4月2日生まれ以降~1979年4月1日生まれの年代(41~58歳)は、小児期の予防接種制度の影響で、小児期に風疹含有ワクチンを2回接種する機会がなかった。そのため、先述したように風疹抗体保有率が低く、風疹流行の首座となってしまった。この世代に対して、2019年度から全国で該当者(風疹含有ワクチンの接種歴がなく罹患歴もないなど)には無料で風疹の抗体価測定を行い、抗体価が不足している場合(HI法8倍以下)は、無料でMRワクチンを接種できる“風疹第5期定期接種”が開始された。しかし、2020年4月時点でクーポン券を使用した抗体検査実施率は16.2%、予防接種実施割合は3.4%と低迷している15)。プライマリケア医による能動的な情報提供、啓発が望まれる。日常診療で役立つ接種のポイント(例:ワクチンの説明方法や接種時の工夫)繰り返しになるが、麻疹・風疹ともに、罹患歴がなければ1歳以上で生涯2回の接種が必要である。接種歴がないまたは不明の場合は、接種しすぎることによる害はないため、任意接種であれば、1ヵ月あけて2回の接種を推奨する。麻疹または風疹のいずれか一方のみの接種を希望する人がいた場合、2回の接種歴が記録で確認できなければ、MRワクチンでの接種を推奨する。下記、MRワクチン接種を負担なく啓発できる工夫について何点かご紹介する。1)外来における工夫(1)小児の受診時受診理由に関わらず、母子手帳の提出をルーチン化する。電話予約時に一言添える、受付時や看護師の予診時などに提出をお願いする。これを習慣化すると、受診者全体に徐々にその文化が根付いていく。医師が診療前後に母子手帳の接種記録を確認し、不足しているものがあれば推奨する。ワクチンスケジュールの知識がある看護師などが担当してもよい。(2)カルテ記録プロブレムリストに「ヘルスメンテナンス」または「予防接種歴」を追加する。医師自身がリマインドできるシステムを作る。外来で扱う主要なプロブレムが落ち着いたときに、患者さんに一言接種歴の確認をするだけでも良い。余裕ができたときに、不足しているワクチンについて紹介、接種の推奨をする。(3)ポスターを掲示するワクチン接種についてのポスターを待合室に掲示する。リーフレットとして配布してもよい15)。2)積極的にワクチン接種を推奨したい対象者(1)妊娠可能年齢の女性とその家族あらゆる感染症は、妊婦の流産早産に関連しうる。CRSを含めたVPDとそのワクチンについて情報提供する。特に、妊娠中は接種が禁忌となる生ワクチン(風疹・麻疹・水痘・ムンプス)について、妊娠前にあらかじめ免疫をつけておくことが重要であることを情報提供する。妊娠希望の女性に対して、MRワクチン接種の助成がある自治体も多い。自治体によっては、そのパートナーにも助成を出しているところもある。あらかじめ自身の自治体の助成制度の確認を行い、該当者がいれば渡せるように当該ページを印刷しておくとよい。(2)風疹第5期定期接種の対象者(41~58歳:2020年4月中旬時点)接種率の低さから、自宅に風疹対策のクーポン券(無料で受けられる風疹抗体検査の受診券)が届いていても、それに気付いていない、またはその重要性を知らず放置している例も多いことが考えられる。定期接種の対象である年代については、受付などで、対象者であることを示す札や目印を作成し、受診時に医療スタッフから制度利用の推奨・案内をできるようにしておくとよい。自宅に定期接種のクーポン券が届いていないかどうか事前に確認し、検査を推奨する。届いていなければ地域の保健所に問い合わせるよう促せば対応してくれる。(3)海外渡航予定のある人海外では麻疹流行国が多数ある。渡航先に関わらず、海外渡航時はルーチンワクチンをキャッチアップする良い機会である。あれば母子手帳をもとに、なければ麻疹を含めたVPDについてしっかり話し合う。長期出張の場合は会社からの補助がでないか、家族同伴の場合は家族の予防接種状況も含めて、安心かつ安全な海外渡航となるよう、サポートする。(4)不特定多数の人と接触する職業(空港など)・医療職・教育関係者などこれらの職業の人は、感染リスクが高く、感染した場合の公衆衛生学的なインパクトも大きい。これらの職業に携わる人には、積極的にワクチン接種歴の確認をし、不足回数分の接種を推奨する。今後の課題・展望世界では、世界保健機関(WHO)などにより、麻疹および風疹排除を加速させる活動が進められている(Global Vaccine Action Plan 2011-2020)。わが国では、2015年に認定された麻疹排除認定を取り消されることがないよう、小児定期接種の高い接種率(1、2期ともに95%以上)を目指すと同時に、海外から麻疹ウイルスを持ち込まれても、国内流行につながらない高い集団免疫を目標にしなければいけない。風疹については、2014年3月に厚生労働省が「風疹に関する特定感染症予防指針」を策定した。この指針は、早期にCRSの発生をなくし、2020年度までに風疹排除(適切なサーベイランス制度のもと、土着株による感染が1年以上確認されないこと)を達成することを目標としている(なお、2020年1~4月の風疹感染者数は73人とCRSが1人、4~5月は3人、CRSは0人15,17))。プライマリケア医には、既存の制度(自治体の助成制度や風疹第5期定期接種など)の積極的利用の促進、また、日常診療内で幅広い年代に対する能動的な啓発および接種歴の確認・推奨を行うことが望まれる。参考となるサイト(公的助成情報、主要研究グループ、参考となるサイト)こどもとおとなのワクチンサイト予防接種啓発ツール 厚生労働省1)2012~2014年に出生した先天性風疹症候群45例のフォローアップ調査結果報告(IASR;Vol.39:p33-34.)2)Global Measeles and Rubella Monthly Update(pptx). Measeles and Rubella Surveillansce Data WHO (Accessed on March,2020)3)新型コロナウイルス感染症に対するQ&A 日本小児科学会 予防接種・感染症対策委員会(2020年4月20日更新)4)医療機関での麻疹対応ガイドライン第7版 国立感染症研究所 感染症疫学センター (2018年4月17日)5)国立感染症研究所 病原微生物検出情報 麻疹[2019年2月現在](IASR Vol.40.p.49-51.)6)国立感染症研究所 病原微生物検出情報 麻疹の抗体保有状況2018年(IASR.Vol.40.p.62-63.)7)多屋馨子. モダンメディア. 2019;65:29-37.8)Ghidini A,et al. West J Med. 1993;159:366-373.9)風疹および先天性風疹症候群の発生に関するリスクアセスメント第3版(国立感染症研究所 2018年1月24日)10)風疹流行に関する緊急情報:2019年12月25日現在(国立感染症研究所 感染症疫学センター)11)風疹Q&A[2018年1月30日改定](国立感染症研究所)12)麻疹風疹予防接種の実施状況(厚生労働省)13)医療関係者のためのワクチンガイドライン 第3版(日本環境感染学会)14)風疹の追加的対策 専用ページ(厚生労働省)15)風疹に関する疫学情報 2020年4月8日現在(国立感染症研究所 感染症疫学センター )16)予防接種啓発ツール(厚生労働省)17)風疹に関する疫学情報 2020年6月3日現在(国立感染症研究所 感染症疫学センター)講師紹介

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