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1.

アブレーションしたら抗凝固薬やめられる?(解説:後藤信哉氏)

 筆者は20年以上、発作性心房細動に悩んでいる。臨床エビデンスにかかわらず、患者として直感的に洞調律の維持が予後の改善に役立つことを感じている。長年、抗不整脈薬にて洞調律を維持した。脳卒中予防の重要性はわかるが、ワルファリン、DOAC共に年間3%程度の重篤な出血イベントリスクと考えると、とても抗凝固薬に手は出せなかった。薬による洞調律の維持に限界を感じてカテーテルアブレーションを受けることにした。アブレーションには心タンポナーデなどの重篤な合併症リスクがあることは承知した。アブレーションに内膜障害が起こるので短期間は抗凝固薬が必須と考え、内膜障害が消失するまで数ヵ月はDOACも使用することにした。アブレーションが成功して洞調律に戻れば抗凝固薬はやめられるか? 年間3%の重篤な出血イベントリスクから離れられる価値は、きわめて大きい。本試験の結果には医師としても患者としても注目したい。 アブレーションによる内膜障害が改善すれば、心房細動自体による血栓性の亢進は著しくないと推定される。実際、リバーロキサバンとアスピリンの比較でも、リバーロキサバンによる脳卒中減少効果は、アブレーション成功後1年以上経過した症例では明確ではなかった。リバーロキサバンを世界の標準用量の20mgから15mgに減量したこともあり、重篤な出血リスクは年間3%には達しなかったがリバーロキサバン群にてアスピリン群より多かった。 DOACについては各独占企業の特許が切れるので、出血イベントリスクとの案分における至適使用法の確立を目指す臨床的研究が活発になることを期待したい。

2.

災害避難で車中泊は危険なのか?【実例に基づく、明日はわが身の災害医療】第11回

災害避難で車中泊は危険なのか?大規模災害の後、体育館が避難所として運営され、多くの避難者が生活していますが、避難所ではなく自家用車の中で生活している避難者も多くいるようです。避難所管理医師として、車中泊をする避難者の健康管理を行政から依頼されました。どのようなケアをすればいいでしょうか?車中泊する人は多い大規模災害時、避難所の収容限界や感染対策、プライバシーの問題から「車中泊」を選ぶ避難者は少なくありません。車中泊であれば、他人の物音に悩まされることもなく、周囲に気を使わずに夜中でもパソコンやスマートフォンを操作できます。実際、2016年の熊本地震では、避難者の6~7割が一時的に車中泊を経験しました1)。一方、震災関連死した被災者の約3割が車中泊経験者でした2)。こうした経緯から、車中泊は「避けるべきリスク」として語られがちです。しかし、指定避難所が満員である場合や、家族・ペットの事情などを考慮すると、多くの被災者にとって「積極的に選ばれる避難手段」となっているのが現実です。車中泊は血栓症のリスクなのか?医療者が注目すべきは、この避難様式が深部静脈血栓症(DVT)や肺血栓塞栓症(PTE)のリスク因子となる点です3~5)。熊本地震後の調査では、車中泊経験者のDVT発症率は約10%に達し、心肺停止に至る重症PTEの症例も報告されています6)。このような事実から、「車中泊は極力避けるべき」と主張する支援者もおられます。しかし近年の研究では、問題の本質は「車中泊」そのものではなく、その過ごし方と環境にあることが示されています。とくに以下の要因がリスクを高めるといわれています。長時間の下肢屈曲保持(座席での就寝など)トイレ不足による水分制限 → 脱水・血液濃縮下肢運動不足 → 筋ポンプ機能の低下高齢、肥満、静脈瘤、悪性腫瘍、妊産婦、血栓症などの家族歴経口避妊薬や睡眠薬などの服薬歴寒冷環境や強いストレスによる交感神経の緊張車中泊中の血栓症の予防はどうするか?これらのリスクを有する避難者に対しては、車内でも可能な非薬物的予防が有効であり、避難所を預かる医師として、以下のような適切なアドバイスが必要です。足を伸ばせる姿勢を確保する弾性ストッキングや保温具を活用し、下肢を冷やさない1~2時間ごとの足関節運動や体位変換を行う簡易トイレを活用してトイレの不安を減らし、水分を十分に摂取するハイリスク群に対しては、薬物療法としてDOAC(直接作用型経口抗凝固薬)の予防的投与も一案です。しかし、腎機能障害時の出血リスクが高まり、とくに災害時は脱水環境になりやすいため、慎重な判断が求められます。現実的には薬物よりも、まずは非薬物的な予防と環境整備を優先すべきでしょう。災害時の車中泊を一律に「危険」と断じるのではなく、適切な介入と支援を行うことで、DVTやPTEは予防することができます。われわれ医療者は、やみくもにリスクばかり強調するのではなく、避難行動の多様性を尊重しながら、あらゆる状況で被災者の健康を守れる体制を事前に整えておく必要があります。 1) 熊本県. 平成28年熊本地震における車中泊の状況について. 2023年10月15日 2) 日本経済新聞. 熊本地震1年 関連死の犠牲者、3割が車中泊を経験. 2017年4月16日 3) 日本循環器学会/日本高血圧学会/日本心臓病学会合同ガイドライン. 2014年版 災害時循環器疾患の予防・管理に関するガイドライン 4) Sato K, et al. Risk Factors and Prevalence of Deep Vein Thrombosis After the 2016 Kumamoto Earthquakes. Circ J. 2019;83:1342-1348. 5) Sueta D, et al. Venous Thromboembolism Caused by Spending a Night in a Vehicle After an Earthquake (Night in a Vehicle After the 2016 Kumamoto Earthquake). Can J Cardiol. 2018;34:813.e9-813.e10. 6) 坂本 憲治ほか. 熊本地震後に発生した静脈血栓塞栓症と対策プロジェクト. 日本血栓止血学会誌. 2022;33:648-654.

3.

75歳以上における抗凝固薬と出血性脳卒中の関連~日本の後ろ向きコホート

 高齢者における抗凝固薬使用と出血性脳卒中発症の関連を集団ベースで検討した研究は少ない。今回、東京都健康長寿医療センター研究所の光武 誠吾氏らが、傾向スコアマッチング後ろ向きコホート研究で検討した結果、抗凝固薬を処方された患者で出血性脳卒中による入院発生率が高く、ワルファリン処方患者のほうが直接経口抗凝固薬(DOAC)処方患者より発生率が高いことが示唆された。Aging Clinical and Experimental Research誌2025年11月13日号に掲載。 本研究は、北海道のレセプトデータを用いた後ろ向きコホート研究で、2016年4月~2017年3月(ベースライン期間)に治療された75歳以上の高齢者を対象とした。曝露変数はベースライン期間中の抗凝固薬処方、アウトカム変数は2017年4月~2020年3月の出血性脳卒中による入院であった。共変量(年齢、性別、自己負担率、併存疾患、年次健康診断、要介護認定)を調整した1対1マッチングにより、抗凝固薬処方群と非処方群の入院発生率を比較した。 主な結果は以下のとおり。・71万7,097例中、6万6,916例(9.3%)が抗凝固薬を処方されていた。・傾向スコアマッチング後、抗凝固薬処方群(383.2/100万人月)が非処方群(252.2/100万人月)より出血性脳卒中による入院発生率が高かった(ハザード比[HR]:1.64、95%信頼区間[CI]:1.39~1.93)。・1種類の抗凝固薬を処方された患者(6万1,556例)において、マッチング後、ワルファリン処方群がDOAC処方群より出血性脳卒中による入院発生率が有意に高かった(HR:1.67、95%CI:1.39~2.01)。 著者らは「本研究の結果は、高齢者への抗凝固薬、とくにワルファリンの処方において、出血性脳卒中リスクを最小限にすべく慎重な検討が必要であることを強調している」とまとめている。

4.

アブレーション後のAF患者、長期DOAC投与は必要か/NEJM

 1年以上前に心房細動に対するカテーテルアブレーションが成功している脳卒中リスク因子を有する患者において、直接作用型経口抗凝固薬(DOAC)リバーロキサバンの投与は抗血小板薬アスピリンと比較して、3年後の時点での脳卒中、全身性塞栓症、新規潜因性塞栓性脳卒中の複合アウトカムの発生率を低減せず、大出血の頻度は同程度だが、小出血および臨床的に重要な非大出血の発生率が高いことが示された。カナダ・McGill UniversityのAtul Verma氏らOCEAN Investigatorsが国際的な臨床試験「OCEAN試験」の結果を報告した。NEJM誌オンライン版2025年11月8日号掲載の報告。6ヵ国の前向き無作為化試験 OCEAN試験は6ヵ国56施設で実施した研究者主導型の前向き非盲検(アウトカム評価者盲検)無作為化試験であり、2016年3月~2022年7月に参加者の無作為化を行った(Bayerなどの助成を受けた)。 試験登録の1年以上前に、非弁膜症性心房細動に対するカテーテルアブレーションに成功し、CHA2DS2-VAScスコア(0~9点、高スコアほど脳卒中のリスクが高い)が1点以上(女性および血管疾患がリスク因子の患者では2点以上)の患者1,284例(平均年齢66.3[SD 7.3]歳、女性28.6%、平均CHA2DS2-VAScスコア2.2[SD 1.1]点、同スコア3点以上の患者の割合31.9%)を対象とした。 これらの参加者を、アスピリン(施設の所在地域の入手可能状況に応じて70~120mg/日)群643例、またはリバーロキサバン(15mg/日)群641例に無作為に割り付け、3年間追跡した。 有効性の主要アウトカムは、脳卒中、全身性塞栓症、新規潜因性塞栓性脳卒中(MRI上で大きさが15mm以上の新規梗塞が1つ以上と定義)の複合とした。主要アウトカムの構成要素にも差はない 主要アウトカムのイベントは、リバーロキサバン群で5例(0.8%、0.31件/100人年)、アスピリン群で9例(1.4%、0.66件/100人年)に発生し、両群間に有意な差を認めなかった(相対リスク:0.56、95%信頼区間[CI]:0.19~1.65、3年時の絶対リスク群間差:-0.6%ポイント、95%CI:-1.8~0.5、p=0.28)。 副次アウトカムである脳卒中(リバーロキサバン群0.8%vs.アスピリン群1.1%、相対リスク:0.72、95%CI:0.23~2.25)、全身性塞栓症(0%vs.0%)、新規潜因性塞栓性脳卒中(0%vs.0.3%、0)の発生率は両群間に差がなかった。また、15mm未満の新規脳梗塞の頻度にも差はみられなかった(3.9%vs.4.4%、0.89、0.51~1.55)。主要複合安全性アウトカムも同程度 3年の時点で致死的出血および大出血の複合(主要複合安全性アウトカム)は、リバーロキサバン群で10例(1.6%)、アスピリン群で4例(0.6%)に発現した(ハザード比[HR]:2.51、95%CI:0.79~7.95)。致死的出血の報告はなく、大出血がそれぞれ10例(1.6%)および4例(0.6%)にみられた(2.51、0.79~7.95)。 一方、臨床的に重要な非大出血(リバーロキサバン群5.5%vs.アスピリン群1.6%、HR:3.51、95%CI:1.75~7.03)および小出血(11.5%vs.3.1%、3.71、2.29~6.01)は、リバーロキサバン群で高頻度であった。 著者は、「脳卒中および新規潜因性塞栓性脳卒中の発生率は、両群とも予想を大きく下回った。全体の96%の患者では、3年後のMRIで新規脳梗塞を認めなかった」「心房細動アブレーションが成功し、脳卒中リスク因子を有する患者では、脳卒中の発生はまれであり、抗凝固療法継続の有益性はみられなかった」「本試験の参加者と同程度の脳卒中リスクを有するアブレーション成功後の心房細動患者では、アスピリンまたは抗凝固療法のいずれかを継続することが妥当と考えられるが、患者は抗凝固療法には臨床的に重要な出血リスクの増加が伴うことを認識すべきだろう」としている。

5.

左心耳閉鎖手技(LAAO)の行く末を占う(OPTION試験)(解説:香坂俊氏)

 このOPTION試験は、心房細動(AF)アブレーションを受け、かつCHA2DS2-VAScが高い患者を対象に、「その後もふつうに抗凝固薬を飲み続けるか」「左心耳閉鎖手技(LAAO)に切り替えるか」を1:1で比較した国際RCTとなります。1,600例を組み入れ、LAAO群はWATCHMANで閉鎖した後所定期間だけ抗血栓を行い、その後半年ほどで中止し、対照群はDOACを含む標準的な内服抗凝固薬を続けるという設計で行われました。結果として、主要安全エンドポイント(手技に直接関係しない大出血+臨床的に問題となる非大出血)は36ヵ月でLAAO 8.5%vs.OAC 18.1%でLAAO群に少なく(p<0.001)、主要有効性エンドポイント(全死亡・脳卒中・全身性塞栓の複合)は5.3%vs.5.8%で非劣性となりました。 アブレーション後にLAAOまで一緒にやってしまう発想は現実的です。ただ、自分が考える問題点は大きく2つあります。第一に、本試験のOAC群の出血率が実臨床のDOAC単剤よりやや高めで、近年のリアルワールドで見られる年間1%以下の大出血とは開きがあります。※OPTION試験の主要安全エンドポイントは「手技に関係しない大出血+臨床的に問題となる非大出血(CRNM)」で、36ヵ月でLAAO 8.5%vs.OAC 18.1%。一方、同試験での「大出血(手技関連も含めて)」という副次安全エンドポイントは3.9%vs.5.0%/36ヵ月で、これは年間に直すとおおむね1.3%/年vs.1.7%/年程度。 第二に、LAAOにはperidevice leak(閉じ残り)という固有の弱点が残ります。最近の報告でも、WATCHMANでも20〜30%、一部シリーズでは30〜40%近くで遅発性のリークが見つかり、このリークがあると脳梗塞・全身塞栓が増えるという相関がはっきりしてきています(このことはOPTION試験に関するNEJMのCorrespondenceでも強調されています)。OPTIONでは36ヵ月までで有効性はOACと同等でしたが、リークが増えてくるのはそれ以降となる可能性があり、すると「閉じたはずの左心耳からまた血栓が…」ということが起こりえます。また、第一の問題点と逆で、DOACのような「単純化された介入(ワルファリンと比較して)」に対して、LAAOのような「より複雑な介入」はRCTよりもリアルワールドでの成績が悪くなる傾向にある、というところも気掛かりな点となります。 この領域では今回のOPTION試験のほかに、PRAGUE-17(Osmancik P, et al. J Am Coll Cardiol. 2020;75:3122-3135.)という高出血リスクのAFでLAAOとOACを直接ぶつけた試験があります(4年フォローで非劣性)。このPRAGUE-17とOPTIONで少しずつ「どういう患者群にLAAO?」というところは埋まってきていますが、オーソドックスなコメントとなりますが、より大規模・長期の試験結果を待つ必要があるかと感じます(2026年以降、CHAMPION-AF試験など本当に大きな規模のRCTの結果が公表されてくる予定です。Rationale and design of a randomized study comparing the Watchman FLX device to DOACs in patients with atrial fibrillation - ScienceDirect)。それまでは、LAAOの実施に当たっては、(1)リークのリスク、(2)DOAC最適投与と比べたときの安全性、(3)高齢化・心不全合併などリアルな患者群でのpreference、というところがカギとなるでしょう。

6.

アブレーション後は抗凝固薬をやめてよい?(解説:後藤信哉氏)

 筆者は自ら長年非弁膜症性心房細動を患っているので、この論文は他人事ではない。心房細動だからといって、みんなが抗凝固薬を使う必要はない。現在の抗凝固薬では年間に3%程度の症例に重篤な出血イベントが起こることが、DOAC開発のランダム化比較試験にて示されている。長期間に抗凝固薬を使用すれば重篤な出血イベントリスクは身近な問題となる。筆者は20年程度、抗不整脈薬にて自らの心房細動をコントロールしてきた。しかし、いよいよ薬剤の調節が難しくなったのでアブレーションを受けた。アブレーション後に内膜が焼灼されるので、内膜の回復までは抗凝固薬が必要と考えた。心房細動のリスクがなくなった場合に抗凝固薬をやめられることが明確に示されればアブレーション治療の価値は大きく増加する。本研究の症例数は840例と多くないが、必須であった薬剤が不要になることを示せば患者さんにとっても医療経済的にも価値が大きい。 術後に不整脈が起こらない症例に限れば、抗凝固薬の中止により血栓イベントなどが増加しないことを示した本研究の価値は大きい。抗凝固薬をやめれば出血リスクが減少する。出血が減れば、出血により抗凝固薬を比較的にやめることによるリバウンドも減る。この研究成果は心房細動の症例にとっては価値が大きいと思う。

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がんと心房細動、合併メカニズムと臨床転帰/日本腫瘍循環器学会

 がん患者では心房細動(AF)が高率に発症する。がん患者の生命予後が改善していく中、その病態解明と適切な管理は喫緊の課題となっている。第8回日本腫瘍循環器学会学術集会では、がん患者におけるAFの発症メカニズムおよび活動性がん合併AF患者の管理について最新の大規模臨床研究の知見も含め紹介された。がん患者におけるAFの発症メカニズム 東京科学大学の笹野 哲郎氏はがん患者におけるAF発症について、がん治療およびがん自体との関連を紹介した。 肺がんや食道がんに対する心臓近傍への手術や放射線照射では、術後炎症や心筋の線維化がAF発症と関連している。AF発症が高率な薬剤としてドキソルビシンなどのアントラサイクリン系薬剤やイブルチニブなどのBTK阻害薬が代表的である。これらの抗がん剤は心筋細胞の脱落や線維化など構造的な変化と電気生理的な変化によってAFを発症する。 また、腫瘍細胞の直接浸潤は催不整脈性を有し、AF発症の原因となる。これには腫瘍によるギャップ結合チャネルの低下や心房の線維化によるAF誘発の可能性が示唆されている。しかし、発症メカニズムについては未解明な部分も多い。大規模レジストリで明らかになったAF患者へのがん合併の影響 東邦大学大学院医学研究科の池田 隆徳氏は、全国的に実施された高齢者の心房細動のANAFIE(All Nippon AF in Elderly)レジストリのサブスタディとして、活動性がんの合併がAF患者の血栓塞栓症や出血性イベントおよび死亡に与える影響を発表した。 ANAFIEレジストリに登録された3万例を超える高齢患者のうち11%に活動性がんの合併が確認された。非がん群と比較してがん群ではCHADS2スコアおよびHAS-BLEDスコアが高く、ハイリスク例が多かった。経口抗凝固薬(OAC)の投与実態を見ると、がん群においてDOACの使用率が高いことが明らかになった。 臨床転帰を見ると、がん群と非がん群における有効性イベント(脳卒中、全身性塞栓症)の発現率は同程度であったが、安全性イベント(大出血、頭蓋内出血、全死亡、ネットクリニカルアウトカム)はがん群で高率であった。OACの投与は非がん群、がん群ともに7割がDOACであった。DOACとワルファリンの臨床イベントを比較すると、非がん群ではDOACのワルファリンに対し優位性が認められた。一方、がん群ではDOACのワルファリンに対する優位性は認められなかった。

8.

脳卒中治療ガイドライン2021〔改訂2025〕

近年の知見を反映し52項目を改訂!2022年1月から2023年12月までの2年間に発表された論文のうち「レベル1のエビデンス」「レベル3以下だったエビデンスがレベル2となっていて、かつ、とくに重要と考えられるもの」を採用する方針で、該当する項目(140項目中52項目)を改訂しました。主な改訂点「改訂のポイント」を新設担当班長・副班長がまとめた「改訂のポイント」を各章の冒頭に新設しました。前版から改訂した箇所や改訂の経緯などについて把握する際に、ぜひご活用ください。近年の知見をタイムリーに・広範囲に反映各疾患の治療選択肢として登場したGLP-1受容体作動薬や抗アミロイド抗体治療薬に対する知見、諸々の背景を持つ患者さんへのDOAC(直接作用型経口抗凝固薬)や抗血小板薬による治療の知見、日進月歩ともいえるMT(経動脈的血行再建療法)の臨床研究成果など、近年の知見を反映した改訂を行いました。画像をクリックすると、内容の一部をご覧いただけます。※ご使用のブラウザによりPDFが読み込めない場合がございます。PDFはAdobe Readerでの閲覧をお願いいたします。目次を見るPDFで拡大する目次を見るPDFで拡大する脳卒中治療ガイドライン2021〔改訂2025〕定価8,800円(税込)判型A4判頁数352頁発行2025年8月編集日本脳卒中学会 脳卒中ガイドライン委員会ご購入はこちらご購入はこちら

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定義変更や心肺合併症患者の分類に注意、肺高血圧症診療ガイドライン改訂/日本心臓病学会

 『2025年改訂版 肺血栓塞栓症・深部静脈血栓症および肺高血圧症ガイドライン』が2025年3月に改訂された。本ガイドラインが扱う静脈血栓塞栓症(VTE)と肺高血圧症(PH)の診断・治療は、肺循環障害という点だけではなく、直接経口抗凝固薬(DOAC)の使用や急性期から慢性期疾患へ移行していくことに留意しながら患者評価を行う点で共通の課題をもつ。そのため、今回より「肺血栓塞栓症および深部静脈血栓症の診断、治療、予防に関するガイドライン」「肺高血圧症治療ガイドライン」「慢性肺動脈血栓塞栓症に対するballoon pulmonary angioplastyの適応と実施法に関するステートメント」の3つが統合され、VTEの慢性期疾患への移行についての注意喚起も、狙いの1つとなっている。 本稿では本ガイドライン第5~13章に記されているPHの改訂点について、本ガイドライン作成委員長を務めた田村 雄一氏(国際医療福祉大学医学部 循環器内科学 教授/国際医療福祉大学三田病院 肺高血圧症センター)が第73回日本心臓病学会学術集会(9月19~21日開催)で講演した内容をお届けする(VTEの改訂点はこちらの記事を参照)。PHの定義が変わった 本ガイドラインは、PHにおける改訂目的の1つを「どの施設でも適切な診断・初期治療が行えること」とし、診断基準の変更と第7回肺高血圧症ワールドシンポジウム(WSPH)で提案された概念を世界で初めてガイドラインに取り入れた点を改訂の目玉として作成された。田村氏は「これまで議論されてきた診断基準は、WSPHならびに日本の研究を踏まえ、PHの定義をRHC検査により測定した安静仰臥位の平均肺動脈圧(mPAP)>20mmHg(推奨クラスI、p.68)とした」と説明。しかし、治療の側面からはこの定義の解釈に注意が必要で、「肺動脈性肺高血圧症(PAH)を対象とした臨床試験はmPAP≧25を対象に行われていることから、21~24mmHgではPH治療薬のエビデンスが乏しい状況にある。そして、PHの第4群に該当する慢性血栓塞栓性肺高血圧症(CTEPH)の場合、慢性血栓塞栓性疾患(CTED)の概念でこの21~24mmHgというボーダーラインも治療されるケースがあるため、CTEPHとPAHでの解釈の違いにも注意してほしい」とコメントした。 次に「肺血管抵抗(PVR)を2.0以上」としたことも世界と足並みを揃えた点だが、この解釈についても「体格の小さい日本人は心拍出量が欧米人よりも少ないため、PVR 2.0をたまたま超えてしまうケースもある。ボーダーライン患者の場合、背景に病気の有無を確認することが重要」と、同氏は本指標の判断に対して注意喚起した。また、WSPHでも議論された「肺動脈楔入圧(PAWP)の引き下げについては、現状は変更せず15mmHgの基準を維持、13~15mmHgに該当する患者については心疾患合併を考慮してほしい」と説明した。臨床的分類、第3群に変化 臨床的分類はバルセロナ分類2024を引き継ぐかたちになっている。とくに注目すべきは、第3群において機能別(閉塞性、拘束性など)で表記されていたものが、ほかの群と同様に「慢性閉塞性肺疾患(COPD)に伴うPH」「間質性肺疾患(ILD)に伴うPH」のように疾患と紐付けることでそれぞれのエビデンスが変わる点を明確化した。このほか、第1群にCa拮抗薬長期反応例、第2群に特定心筋症(肥大型心筋症または心アミロイドーシス)が追加されたことにも留意したい。初期対応/鑑別アルゴリズムを明確に 日本において、PHの症状発現から診断までに費やされる平均期間は18.0ヵ月と報告されている(PAHは20.2ヵ月、CTEPHは12.2ヵ月)。加えて、就学・就業率は罹病期間が長期化するにつれて経時的に減少することが明らかになっている1)。このような現状において、プライマリ・ケアや地域中核病院、専門医が共に患者をフォローアップしていくためには、PHの初期対応アルゴリズム(図14、p.80)と鑑別アルゴリズム(図15、p.81)の活用が大きなポイントとなる。同氏は「初期対応アルゴリズムでは医療機関や専門医の役割を明確化した。心疾患や肺疾患の評価を行うなかで医師らが相互にコンサルトすることで、CTEPHを見逃さないだけではなく、第2群や第3群の要素の評価を目指す。PHセンターへ早期に紹介すべき患者像も明確化できるようにしている」とし、「鑑別アルゴリズムについては、急性血管反応試験を実施する対象を規定したほか、PAWP 13~15mmHgやHFpEFリスクを有する患者は純粋な1群と判断しかねるため、心肺疾患をもつPAHの特徴を明記し、2群などとの鑑別を念頭に置いてもらえるようなフローを作成した」と改訂の狙いを説明した。新規PH患者も高齢化、治療前の合併症評価を 典型的なPAH患者というと若年者女性を想像するが、近年では新規診断患者の高齢化がみられ、心肺疾患合併例が増加傾向にあるという。この心肺疾患合併の有無は治療選択時の重要なポイントとなることから、まずは心肺疾患合併PAHを示唆する特徴を捉え、単なるPHではなく第3群の要素も併せ持っているか否かを判断し(図17、p.90)、その後、治療アルゴリズム(図18、p.92)に基づいた治療介入を行う。 この流れについて、「心肺疾患合併がある場合に併用療法を行ってしまうと肺水腫のような合併症リスクを伴うため、それらを回避するための手立てとして、まずは単剤での開始を考慮してほしい。決して併用療法を否定するものではない」と説明した。またPAWPが高めのPAHの分類や治療時の注意点として、「PAWPが12~18mmHgの患者は境界域として解釈に注意すべきゾーンであるため、PAWPだけで分類評価をするのではなく、病歴や画像所見、負荷試験結果などを複合的に評価してほしい」ともコメントした。 さらに、診断時/フォローアップ時のリスク層別化については、国内レジストリデータに基づいたJCSリスク層別化指標(表30、p.83)が作成されており、これにのっとり薬物治療を進めていく。低リスク・中リスクの場合にはエンドセリン受容体拮抗薬(アンブリセンタンあるいはマシテンタン)+PDE5阻害薬タダラフィルの2剤併用療法を行い(推奨クラスI)、高リスクの場合は静注/皮下注投与によるプロスタグランジン製剤(エポプロステノール、トレプロスチニル)+エンドセリン受容体拮抗薬+PDE5阻害薬の3剤併用療法を行う(推奨クラスI、エビデンスレベルB)。薬物療法開始後の注意点としては「初回治療開始後は3~4ヵ月以内に評価」「薬剤変更・追加後は6ヵ月以内に再評価」「中リスク以上の場合はカテーテル検査実施」が明記された。 なお、ガイドライン発刊後の2025年8月にアクチビンシグナル阻害薬ソタテルセプトが日本でも発売され、第1群の治療強化という位置付けで本ガイドラインにおいても推奨されている(推奨クラスIIa、エビデンスレベルB)。 このほか、CTEPHの治療について、心臓外科医らとの丁寧な協議を進めた結果、従来は手術適応の有無が最初に評価されていたが、本ガイドラインでは完全血行再建を目指すなかで肺動脈内膜摘除術(PEA)、バルーン肺動脈形成術(BPA)、あるいはハイブリッドという選択肢のなかで最適な方法を多職種チーム(MDT)で選択して治療を進めていくことが重視される。 最後に同氏は「ガイドラインの終盤には専門施設が満たすべき要素や患者指導に役立つ内容も記載しているので、ぜひご覧いただきたい」と締めくくった。

10.

「高齢者の安全な薬物療法GL」が10年ぶり改訂、実臨床でどう生かす?

 高齢者の薬物療法に関するエビデンスは乏しく、薬物動態と薬力学の加齢変化のため標準的な治療法が最適ではないこともある。こうした背景を踏まえ、高齢者の薬物療法の安全性を高めることを目的に作成された『高齢者の安全な薬物療法ガイドライン』が2025年7月に10年ぶりに改訂された。今回、ガイドライン作成委員会のメンバーである小島 太郎氏(国際医療福祉大学医学部 老年病学)に、改訂のポイントや実臨床での活用法について話を聞いた。11領域のリストを改訂 前版である2015年版では、高齢者の処方適正化を目的に「特に慎重な投与を要する薬物」「開始を考慮するべき薬物」のリストが掲載され、大きな反響を呼んだ。2025年版では対象領域を、1.精神疾患(BPSD、不眠、うつ)、2.神経疾患(認知症、パーキンソン病)、3.呼吸器疾患(肺炎、COPD)、4.循環器疾患(冠動脈疾患、不整脈、心不全)、5.高血圧、6.腎疾患、7.消化器疾患(GERD、便秘)、8.糖尿病、9.泌尿器疾患(前立腺肥大症、過活動膀胱)、10.骨粗鬆症、11.薬剤師の役割 に絞った。評価は2014~23年発表の論文のレビューに基づくが、最新のエビデンスやガイドラインの内容も反映している。新薬の発売が少なかった関節リウマチと漢方薬、研究数が少なかった在宅医療と介護施設の医療は削除となった。 小島氏は「当初はリストの改訂のみを行う予定で2020年1月にキックオフしたが、新型コロナウイルス感染症の対応で作業の中断を余儀なくされ、期間が空いたことからガイドラインそのものの改訂に至った。その間にも多くの薬剤が発売され、高齢者にはとくに慎重に使わなければならない薬剤も増えた。また、薬の使い方だけではなく、この10年間でポリファーマシー対策(処方の見直し)の重要性がより高まった。ポリファーマシーという言葉は広く知れ渡ったが、実践が難しいという声があったので、本ガイドラインでは処方の見直しの方法も示したいと考えた」と改訂の背景を説明した。「特に慎重な投与を要する薬物」にGLP-1薬が追加【削除】・心房細動:抗血小板薬・血栓症:複数の抗血栓薬(抗血小板薬、抗凝固薬)の併用療法・すべてのH2受容体拮抗薬【追加】・糖尿病:GLP-1(GIP/GLP-1)受容体作動薬・正常腎機能~中等度腎機能障害の心房細動:ワルファリン 小島氏は、「抗血小板薬は、心房細動には直接経口抗凝固薬(DOAC)などの新しい薬剤が広く使われるようになったため削除となり、複数の抗血栓薬の併用療法は抗凝固療法単剤で置き換えられるようになったため必要最小限の使用となっており削除。またH2受容体拮抗薬は認知機能低下が懸念されていたものの報告数は少なく、海外のガイドラインでも見直されたことから削除となった。ワルファリンはDOACの有効性や安全性が高いことから、またGLP-1(GIP/GLP-1)受容体作動薬は低体重やサルコペニア、フレイルを悪化させる恐れがあることから、高齢者における第一選択としては使わないほうがよいと評価して新たにリストに加えた」と意図を話した。 なお、「特に慎重な投与を要する薬物」をすでに処方している場合は、2015年版と同様に、推奨される使用法の範囲内かどうかを確認し、範囲内かつ有効である場合のみ慎重に継続し、それ以外の場合は基本的に減量・中止または代替薬の検討が推奨されている。新規処方を考慮する際は、非薬物療法による対応で困難・効果不十分で代替薬がないことを確認したうえで、有効性・安全性や禁忌などを考慮し、患者への説明と同意を得てから開始することが求められている。「開始を考慮するべき薬物」にβ3受容体作動薬が追加【削除】・関節リウマチ:DMARDs・心不全:ACE阻害薬、ARB【追加】・COPD:吸入LAMA、吸入LABA・過活動膀胱:β3受容体作動薬・前立腺肥大症:PDE5阻害薬 「開始を考慮するべき薬物」とは、特定の疾患があった場合に積極的に処方を検討すべき薬剤を指す。小島氏は「DMARDsは、今回の改訂では関節リウマチ自体を評価しなかったことから削除となった。非常に有用な薬剤なので、DMARDsを削除してしまったことは今後の改訂を進めるうえでの課題だと思っている」と率直に感想を語った。そのうえで、「ACE阻害薬とARBに関しては、現在では心不全治療薬としてアンジオテンシン受容体ネプリライシン阻害薬(ARNI)、β遮断薬、ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(MRA)、SGLT2阻害薬が登場し、それらを差し置いて考慮しなくてもよいと評価して削除した。過活動膀胱治療薬のβ3受容体作動薬は、海外では心疾患を増大させるという報告があるが、国内では報告が少なく、安全性も高いため追加となった。同様にLAMAとLABA、PDE5阻害薬もそれぞれ安全かつ有用と評価した」と語った。漠然とした症状がある場合はポリファーマシーを疑う 高齢者は複数の医療機関を利用していることが多く、個別の医療機関での処方数は少なくても、結果的にポリファーマシーとなることがある。高齢者は若年者に比べて薬物有害事象のリスクが高いため、処方の見直しが非常に重要である。そこで2025年版では、厚生労働省より2018年に発表された「高齢者の医薬品適正使用の指針」に基づき、高齢者の処方見直しのプロセスが盛り込まれた。・病状だけでなく、認知機能、日常生活活動(ADL)、栄養状態、生活環境、内服薬などを高齢者総合機能評価(CGA)なども利用して総合的に評価し、ポリファーマシーに関連する問題点を把握する。・ポリファーマシーに関連する問題点があった場合や他の医療者から報告があった場合は、多職種で協働して薬物療法の変更や継続を検討し、経過観察を行う。新たな問題点が出現した場合は再度の最適化を検討する。 小島氏らの報告1,2)では、5剤以上の服用で転倒リスクが有意に増大し、6剤以上の服用で薬物有害事象のリスクが有意に増大することが示されている。そこで、小島氏は「処方の見直しを行う場合は10剤以上の患者を優先しているが、5剤以上服用している場合はポリファーマシーの可能性がある。ふらつく、眠れない、便秘があるなどの漠然とした症状がある場合にポリファーマシーの状態になっていないか考えてほしい」と呼びかけた。本ガイドラインの実臨床での生かし方 最後に小島氏は、「高齢者診療では、薬や病気だけではなくADLや認知機能の低下も考慮する必要があるため、処方の見直しを医師単独で行うのは難しい。多職種で協働して実施することが望ましく、チームの共通認識を作る際にこのガイドラインをぜひ活用してほしい。巻末には老年薬学会で昨年作成された日本版抗コリン薬リスクスケールも掲載している。抗コリン作用を有する158薬剤が3段階でリスク分類されているため、こちらも日常診療での判断に役立つはず」とまとめた。

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心房細動による脳塞栓症に対するDOAC開始のタイミング(解説:内山真一郎氏)

 心房細動による脳塞栓症の再発予防に直接経口抗凝固薬を開始する適切なタイミングは確立されていなかった。本研究は、脳梗塞後の開始時期が4日以内と5日以後の効果を比較した4件の無作為化比較試験(TIMING、ELAN、OPTIMAS、START)のメタ解析である。1次評価項目は、30日以内の脳梗塞再発、症候性脳内出血、または分類不能の脳卒中であった。 結果は、4日以内に開始したほうが1次評価項目の複合エンドポイントが有意に少なく、脳梗塞の再発は少なく、脳内出血は増加しなかった。日本脳卒中学会の『脳卒中治療ガイドライン2021(改訂2025)』でも、「非弁膜症性心房細動を伴う急性期脳梗塞患者に、出血性梗塞のリスクを考慮して発症早期(例えば発症後4日以内)から直接作用型経口抗凝固薬(DOAC)を投与することは妥当である(推奨度B、エビデンスレベル中)」となっており、このメタ解析により推奨度とエビデンスレベルは確実に上昇した。ちなみに、日本で行われた観察研究であるSAMURAI-AFとRELAXEDの統合解析から、DOACの開始時期はTIA、軽症、中等症、重症別に「1-2-3-4 day rule」が提唱されている。

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心房細動を伴う脳梗塞のDOAC開始、早期vs.遅延~メタ解析/Lancet

 急性虚血性脳卒中と心房細動を有する患者において、直接経口抗凝固薬(DOAC)の遅延開始(5日以降)と比較して早期開始(4日以内)は、30日以内の再発性虚血性脳卒中、症候性脳内出血、分類不能の脳卒中の複合アウトカムのリスクを有意に低下させ、症候性脳内出血を増加させないことが、英国・ユニバーシティ・カレッジ・ロンドンのHakim-Moulay Dehbi氏らが実施した「CATALYST研究」で示された。研究の成果は、Lancet誌オンライン版2025年6月23日号に掲載された。DOAC開始の早期と遅延をメタ解析で比較 研究グループは、急性虚血性脳卒中発症後におけるDOACの早期開始と遅延開始の有効性の評価を目的に、無作為化対照比較試験の系統的レビューと、個別の患者データのメタ解析を行った(英国心臓財団などの助成を受けた)。 医学関連データベースを検索し、2025年3月16日までに発表された無作為化対照比較試験を選出した。対象は、事前登録を行い、無作為化され、臨床アウトカムを評価し、急性虚血性脳卒中と心房細動を有する患者を、承認を受けた用量のDOACの早期開始(4日以内)または遅延開始(5日以降)に割り付けた臨床試験であった。 主要アウトカムは、無作為化から30日以内の再発性虚血性脳卒中、症候性脳内出血、分類不能の脳卒中の複合とした。早期開始で再発が有意に少なく、症候性脳内出血は増加しない 4つの臨床試験(TIMING、ELAN、OPTIMAS、START)を同定した。データ共有に応じなかった参加者や、DOACの開始が4日以内または5日以降に割り付けられなかった参加者を除外したうえで、5,441例(平均年齢77.7[SD 10.0]歳、女性2,472例[45.4%]、NIHSSスコア中央値5点)をメタ解析に含めた。主要アウトカムのデータは5,429例から得た。 30日の時点における主要アウトカムの発生率は、遅延開始群が3.02%(83/2,746例)であったのに対し、早期開始群は2.12%(57/2,683例)と有意に低かった(オッズ比[OR]:0.70[95%信頼区間[CI]:0.50~0.98]、p=0.039)。絶対リスクの群間差は-0.0093(p=0.039)であった。また、1件の主要アウトカムを防止するための治療必要数は108(95%CI:55~2,500)だった。 30日時の再発性虚血性脳卒中は早期開始群で有意に少なく(1.68%[45/2,683例]vs.2.55%[70/2,746例]、OR:0.66[95%CI:0.45~0.96]、p=0.029)、症候性脳内出血は早期開始群で増加しなかった(0.37%[10/2,683例]vs.0.36%[10/2,746例]、1.02[0.43~2.46]、p=0.96)。また、早期開始群では頭蓋外の大出血の増加も認めなかった。90日後の主要アウトカムには差がない 一方、90日後の主要アウトカムの発生率は、早期開始群で低かったが、両群間に有意な差はなかった(3.10%[83/2,678例]vs.3.51%[96/2,738例]、OR:0.88[95%CI:0.65~1.19]、p=0.40)。 著者は、「これらの知見は、実臨床におけるDOACの早期の投与開始を支持するものである」「本研究のデータは、脳内出血への懸念から、脳卒中の重症度を問わず、抗凝固療法を最大で2週間遅らせるという一般的に行われている治療法を支持しない」「今後のCATALYSTサブグループ解析では、DOACの早期開始のリスクとベネフィットについて、さらに検討を進める予定である」としている。

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DOACによる消化管出血での死亡率~20研究のメタ解析

 抗凝固薬による消化管出血は、発生頻度や死亡リスクの高さから、その評価が重要となる。しかし、重篤な消化管出血後の転帰(死亡を含む)は、現段階で十分に特徴付けられておらず、重症度が過小評価されている可能性がある。今回、カナダ・ブリティッシュコロンビア大学のNicholas L.J. Chornenki氏らは、直接経口抗凝固薬(DOAC)関連の重篤な消化管出血が30日全死亡率の有意な上昇と関連していることを明らかにした。Thrombosis Research誌2025年5月24日号掲載の報告。 研究者らは、静脈血栓塞栓症または心房細動と診断されDOACを処方された成人を対象とした大規模ランダム化比較試験とコホート研究について、データベース(MEDLINE、EMBASE、Cochrane CENTRAL)で検索し、消化管出血の発生件数に対する死亡件数で測定した消化管出血後の30日全死亡率を主要評価項目とした。また、対象研究のバイアスリスクをmodified QUIPS(Quality In Prognosis Studies)で評価し、逆分散法を用いて要約推定値を算出した。 主な結果は以下のとおり。・7,824件の研究から646件をレビューし、20件が解析に含まれた。・解析対象は、全20研究においてDOAC治療後に重篤な消化管出血を来した3,987例であった。・30日全死亡率の統合推定値は8.4%(95%信頼区間[CI]:4.9~12.5、I2=83%)であった。・サブグループ解析では、以下の結果が示された。◯前向き研究(9研究) 主な消化管出血:675例、30日全死亡率:10.3%(95%CI:6.5~14.7、I2=24%)◯後ろ向き研究(11研究) 同:3,312例、同:7.3%(95%CI:2.2~14.4、I2=90%)◯バイアスリスクが高いと判断された研究(9研究) 同:387例、同:12.9%(95%CI:6.3~21.1、I2=44%)◯バイアスリスクが低いと判断された研究(10研究) 同:3,562例、同:6.1%(95%CI:2.9~10.1、I2=89%)※1件の研究はバイアスリスクが不明であった。 なお研究者らは、「本集団における死亡原因と寄与因子について、さらなる研究を行うことで高リスク患者を特定し、リスクを軽減できる戦略を策定していく必要がある」としている。

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国内DOAC研究が色濃く反映!肺血栓塞栓症・深部静脈血栓症ガイドライン改訂/日本循環器学会

 『2025年改訂版 肺血栓塞栓症・深部静脈血栓症および肺高血圧症ガイドライン』が3月28~30日に開催された第89回日本循環器学会学術集会の会期中に発刊され、本学術集会プログラム「ガイドラインに学ぶ2」において田村 雄一氏(国際医療福祉大学医学部 循環器内科学 教授/国際医療福祉大学三田病院 肺高血圧症センター)が改訂点を解説した。本稿では肺血栓塞栓症・深部静脈血栓症の項について触れる。DOACの国内エビデンスの功績、ガイドラインへ反映 静脈血栓塞栓症(VTE)と肺高血圧症(PH)の治療には、直接経口抗凝固薬(DOAC)の使用や急性期から慢性期疾患へ移行していくことに留意しながら患者評価を行う点が共通している。そのため、今回よりVTEの慢性期疾患への移行についての注意喚起のために、「肺血栓塞栓症および深部静脈血栓症の診断、治療、予防に関するガイドライン」「肺高血圧症治療ガイドライン」「慢性肺動脈血栓塞栓症に対するballoon pulmonary angioplastyの適応と実施法に関するステートメント」の3つが統合された。 肺血栓塞栓症(PTE)・深部静脈血栓症(DVT)のガイドライン改訂は2018年3月以来の7年ぶりで、当時は抗凝固療法におけるDOACのエビデンスが不足していたが、この7年の歳月を経て、DOACを用いたVTEの治療は飛躍的に進歩。DOAC単独での外来治療、誘因のないVTEや担がん患者の管理、長期治療などの国内の結果が明らかになり、改訂に大きく反映された。田村氏は、「本ガイドラインは、循環器専門医のみならず、呼吸器科、膠原病内科など多彩な診療科の協力の基に作成された。本領域は日本からのエビデンスが多いため、本邦独自の診断・治療アルゴリズムと推奨を検討した」とコメントした。VTE予後予測、PESIスコアや誘因因子評価を推奨 四肢の深筋膜より深部を走行する深部静脈に生じた血栓症を示すDVTと深部静脈血栓が遊離し肺動脈へ流入することで発症するPTEを、一連の疾患群と捉えてVTEと総称する。これらの予後に関しては推奨表2「VTEの予後に関する推奨とエビデンスレベル」(p.20)に示され、とくに急性期PTEでは治療方針の検討のために、近年普及している肺塞栓症重症度指数(PESI)ならびにsPESIを用いた患者層別化が推奨された(推奨クラスIIa、エビデンスレベルB)。また、国内の観察研究JAVA(Japan VTE Treatment Registry)やCOMMAND VTE Registryに基づくVTE再発予後についてもガイドライン内に示されている(p.21-22)。前者の研究によると、ワルファリン治療中のVTE再発率は2.8例/100患者・年であったが、治療終了後には8.1例/100患者・年に増加したという。そして、後者の研究からは、VTE診断後1年時点での再発率は、一過性の誘因のある患者群では4.6%、誘因のない患者群では3.1%、活動性のがんの患者群では11.8%であることが明らかになった。PTE診断と治療、判断に悩む中リスク群を拾えるように 急性PTEの診断については、「低血圧やショックがみられる場合には早期にヘパリン投与を考慮する、検査前臨床的確率を推定する際にWellsスコアあるいはジュネーブスコアを用いる、ルールアウトにはDダイマー測定を行う、最終的な確定診断にゴールドスタンダードの造影CT検査/緊急時の心エコー評価、ECMO導入後診断は肺動脈造影も考慮する(p.32)」と述べた。重症度別治療戦略については、前ガイドラインで曖昧であった2つの指標を挙げ、「右心機能不全では(1)右室/左室比が0.9 or 1.0以上、(2)右室自由壁運動低下、(3)三尖弁逆流血流速上昇を、心臓バイオマーカーについてはトロポニンI/TやBNP/NT-proBNPの評価を明確化したことで、判断が難しい中リスク群における血栓溶解療法と抗凝固療法との切り分けができるフローを作成した(p.36)」と解説。治療開始後の血栓溶解療法に関する推奨においては、「循環動態の悪化徴候がみられた場合には、血栓溶解療法を考慮する」点が追記(p.39)されたことにも触れた。 PTEの治療については、DOAC3剤の大規模臨床試験によるエビデンスが多数そろったことでDOACによるVTE治療は推奨クラスI、エビデンスレベルAが示され(p.40)、「低リスク群で“入院理由がない、家族や社会的サポートがある、医療機関の受診が容易である”といった条件がそろえば、DOACによる外来治療も可能となったことも非常に大きな改訂点」と説明した。DVT治療、中枢型と末梢型でアプローチに違い DVTにおいてもPTE同様に検査前臨床的確率の推定や下肢静脈超音波検査/造影CT検査を実施するが、今回の改訂ポイントは「中枢性・末梢性で治療アプローチが異なる点を明確に定義した」ことだと同氏は説明。「中枢性DVTの場合は初期(0~7日)または維持治療期(8日~3ヵ月)に関しては、PTE同様にワルファリンとDOACの使用とともに、すべての中枢性DVTに対して、抗凝固薬の禁忌や継続困難な出血がない場合には少なくとも3ヵ月の抗凝固療法を行うことが推奨されている(いずれも推奨クラスI、エビデンスレベルA、p.47)。一方で、末梢型DVTにおいては、「画一的な抗凝固療法を推奨するものではなく、症候性で治療を行う場合には3ヵ月までの治療を原則とし、無症候性でも活動性がん合併の患者においてはリスクベネフィットを考慮しながらの抗凝固療法が推奨される(推奨クラスIIb、エビデンスレベルB)」と説明した。カテ治療、血栓溶解薬併用と非併用に大別 急性PTEに対するカテーテル治療は、末梢でのコントロールが難渋する例、国内でのデバイスラグなども考慮したうえで、血栓溶解薬併用と非併用に大別している。非併用について、「全身血栓溶解療法が禁忌、無効あるいは抗凝固療法禁忌の高リスクPTEに対し、熟練した術者、専門施設にて血栓溶解薬非併用カテーテル治療を行うことを考慮する。また、抗凝固療法により病態が悪化し、全身血栓溶解療法が禁忌の中リスク急性PTEに対し、熟練した術者、専門施設にて血栓溶解薬非併用カテーテル治療を行うことを考慮する(いずれも推奨クラスIIa、エビデンスレベルC)」と示されている。 このほか、冒頭で触れた慢性疾患への移行については「慢性期疾患患者が急性期VTEを発症することもあるが、PTEが血栓後症候群(PTS)へ、DVTがPTS(血栓後症候群)へ移行するリスクを念頭に治療を行い、発症3~6ヵ月後の評価の必要性を提示していること(推奨表3、p.22)が示された。またCOVID-19での血栓症として、中等症I以下では画一的な抗凝固療法は推奨しない(推奨表1:推奨クラスIII[No benefit]、エビデンスレベルB)ことについて触れた。 最後に同氏は「誘因のないVTEや持続性の誘因によるVTEに対する抗凝固療法の長期投与の際に、未承認ではあるが長期的なリスクベネフィットを考慮したDOACの減量投与などを、今後の課題として検討していきたい」とコメントした。(ケアネット 土井 舞子)そのほかのJCS2025記事はこちら

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非弁膜症性心房細動に対するDOAC3剤、1日の服薬回数は治療効果に影響せず?

 非弁膜症性心房細動(NVAF)に対する第Xa因子(FXa)阻害薬の治療効果において、3剤間で安全性プロファイルが異なる可能性が示唆されており、まだ不明点は多い。そこで諏訪 道博氏(北摂総合病院循環器内科臨床検査科 部長)らがリバーロキサバン(商品名:イグザレルト)、アピキサバン(同:エリキュース)、エドキサバン(同:リクシアナ)の3剤の有効性と安全性を評価する目的で、薬物血漿濃度(plasma concentration:PC)と凝固活性をモニタリングして相関関係を調査した。その結果、1日1回投与のリバーロキサバンやエドキサバンの薬物PCはピークとトラフ間で大きく変動したが、凝固活性マーカーのフィブリンモノマー複合体(FMC)は、1日2回投与のアピキサバンと同様に、ピーク/トラフ間で日内変動することなく正常範囲内に維持された。本研究では3剤の時間経過での薬物PCのピークの変動も調査したが、リバーロキサバンについては経時的に蓄積する傾向がみられた。Pharmaceuticals誌2024年10月25日号掲載の報告。 この結果より研究者らは「用法が1日1回と1日2回では、ピークの血中濃度は異なる傾向にあるが、凝固能を示すFMCはピークとトラフのいずれにおいても抑制された。血栓症の既往があり二次予防目的で本剤を使用する場合、2回投与のほうがトラフは維持されるため血栓症が発生しにくいと考えられているが、DOACに関して言えば、変わらないと判断できる」としている。なお、用量の違い(標準用量と低用量)では差異は見られなかった。 本研究は多施設共同観察研究で、NVAFで直接経口抗凝固薬(DOAC[リバーロキサバン:72例、アピキサバン:71例、エドキサバン:125例])を服用している外来患者268例を対象に、薬物PCと凝固活性マーカー(フィブリノーゲン[FIB]とFMC)のピーク(服薬3時間後[服薬開始後1ヵ月後:peak 1、3~4ヵ月後:peak 2、6~12ヵ月後:peak 3の3回測定])とトラフ(服薬直前[1ヵ月後、3~4ヵ月後の2回測定])をモニタリングした。投与量は各薬剤の用量調整基準に基づいて調整された。主要評価項目は投薬開始から12ヵ月までの出血および血栓症の発生とDOACの血中濃度、副次評価項目は投薬開始から12ヵ月までの凝固活性マーカーの測定値であった。 主な結果は以下のとおり。・本研究(摂津DOAC Registry)では、出血イベントが発生した8例(リバーロキサバン3例、アピキサバン2例、エドキサバン3例)のうち、2例(リバーロキサバンとエドキサバン各1例)では薬物PCのピークは出血イベント予測のカットオフ値を下回り、出血が薬剤由来ではない可能性が示唆された。・薬物PCはピークからトラフまで大きく変動したが、凝固活性を反映するFMC値は、薬物PCの変動に関係なく正常範囲(<6.1μg/mL)内に留まっていた。・各薬剤の抗凝固作用は薬物PC、投与量、投与回数に関係なく、1日中持続することが示された。・さらに薬物PCのピークの経時的変化において、peak1~3における薬物PC上昇患者数を評価したところ、リバーロキサバン(50.9%)、アピキサバン(37.5%)、エドキサバン(31.7%)と差異が見られ、時間経過での薬物PC上昇率はエドキサバンで低かった。・経時的に薬物PCの上昇がみられた患者のうち、peak3で薬物PCがわれわれの先の試験において設定された出血予知のカットオフ値を超えた患者数は、リバーロキサバン(44.8%)、アピキサバン(22.2%)、エドキサバン(12.5%)とエドキサバンで最も低頻度で、リバーロキサバンはエドキサバンより蓄積傾向が高く、出血事象発現の可能性が高率であると予想された。 なお、本研究内容の一部は2025年3月28日~30日に横浜で開催される第89回日本循環器学会学術集会でも発表が予定されている。

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抗凝固薬―長期投与は減量でよい?(解説:後藤信哉氏)

 深部静脈血栓症の症例への予防的抗凝固薬の投与期間は確定されていない。さじ加減を重視する日本の臨床家として「長期投与するなら減量で!」と考える医師は多いと思う。一般に血栓症の再発リスクは時間とともに低減するから、減量して長期投与することは正しそうに思う。 それでもランダム化比較試験にて自分の直感を検証したいと考える欧米人が、本研究を施行した。欧米のDOACはアピキサバンとリバーロキサバンが標準なのでアピキサバン (2.5mg twice daily) と リバーロキサバン(10mg once daily)を比較した。静脈血栓症の発症から1~2年経過すれば血栓イベントリスクは十分に低下している。減量しても静脈血栓症の再発リスクは増えなかった(ハザード比[HR]:1.32、95%信頼区間[CI]:0.67~2.60)。重篤な出血リスクは減少した(HR:0.61、95%CI:0.48~0.79)。仮説検証試験として結論が出たわけではないが、医師の直感的判断を支持する試験結果であった。

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ランダム化試験より個別最適化医療の論理が必要?(解説:後藤信哉氏)

 心房細動の脳梗塞予防には抗凝固薬が広く使用されるようになった。しかし、脳内出血の既往のある症例に抗凝固薬を使用するのは躊躇する。本研究は過去に頭蓋内出血の既往のある症例を対象として、心房細動症例における抗凝固薬介入の有効性と安全性の検証を目指した。319例をDOAC群と抗凝固薬なし群に割り付けて中央値1.4年観察したところ、DOAC群の虚血性脳卒中は0.83(95%信頼区間[CI]:0.14~2.57)/100人年、抗凝固薬なし群では8.60(同:5.43~12.80)/100人年と差がついた。 しかし、頭蓋内出血イベントはDOAC群が5.00(95%CI:2.68~8.39)/人年、抗凝固薬なし群では0.82(同:0.14~2.53)/人年であった。 ランダム化比較試験としては事前に設定した有効性、安全性エンドポイントに対する仮説検証が目標となるが、臨床家は結果に基づいて実臨床における治療選択を考える。「頭蓋内出血の既往のある心房細動」でもDOACで虚血性脳卒中リスクを低減できるが、頭蓋内出血リスクは増える。未来に虚血性脳卒中リスクの高い個別症例を選別してDOACをのませる、などの個別最適化医療への方向転換が必要である。

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再発高リスクのVTE患者、DOACは減量可能か?/Lancet

 再発リスクが高く長期の抗凝固療法が必要な静脈血栓塞栓症(VTE)患者において、直接経口抗凝固薬(DOAC)の減量投与は全量投与に対して、非劣性基準を満たさなかった。しかしながら両投与群ともVTEの再発率は低く、減量投与群のほうが臨床的に重要な出血が大幅に減少し、減量投与は治療選択肢として支持可能なことが示されたという。フランス・Centre Hospitalier Universitaire BrestのFrancis Couturaud氏らRENOVE Investigatorsが、多施設共同無作為化非盲検エンドポイント盲検化非劣性試験「RENOVE試験」の結果を報告した。再発リスクが高くDOACの長期投与が適応のVTE患者において、その最適な投与量は明らかになっていなかった。結果を踏まえて著者は、「さらなる試験を行い、抗凝固薬の減量投与をすべきではないサブグループを特定する必要があるだろう」と述べている。Lancet誌2025年3月1日号掲載の報告。減量投与群vs.全量投与群、症候性VTEの再発を評価 RENOVE試験は、フランスの47病院で行われた。急性症候性VTE(肺塞栓症または近位深部静脈血栓症)を呈し、長期の抗凝固薬療法が適応で連続6~24ヵ月の抗凝固薬全量投与を受けた18歳以上の外来患者を適格とした。適格患者は、初発の特発性VTE、再発VTE、持続性リスク因子の存在、その他の再発リスクが高いと考えられる臨床的状態のいずれかに分類された。 被験者は、双方向ウェブ応答システムを用いた中央無作為化法により、減量投与群(アピキサバン2.5mgを1日2回またはリバーロキサバン10mgを1日1回)または全量投与群(アピキサバン5mgを1日2回またはリバーロキサバン20mgを1日1回)に、無作為に1対1の割合で割り付けられた。コンピュータ乱数生成ジェネレーターを用いたシーケンス生成法でブロックサイズの差異のバランスを取り、無作為化では試験施設、DOACの種類、抗血小板薬による層別化を行った。試験担当医師および被験者は治療割り付けを盲検化されなかった。VTEの再発、臨床的に重要な出血、全死因死亡は治療割り付けを盲検化された独立委員会によって判定された。 主要アウトカムは、治療期間中に判定された症候性VTEの再発(致死的または非致死的な肺塞栓症もしくは孤立性の近位深部静脈血栓症などを含む)であった(非劣性マージンは、ハザード比[HR]の95%信頼区間[CI]の上限が1.7、検出力90%に設定)。重要な副次アウトカムは、治療期間中に判定された重大な出血(国際血栓止血学会[ISTH]の基準に従い定義)または臨床的に重要な非重大出血、および治療期間中に判定されたVTEの再発、重大な出血または臨床的に重要な非重大出血の複合とした。主要アウトカムと最初の2つの副次アウトカムは、階層的に評価した。VTEの5年累積発生率は減量投与群2.2%、全量投与群1.8%で非劣性は認められず 2017年11月2日~2022年7月6日に2,768例が登録され、減量投与群(1,383例)または全量投与群(1,385例)に無作為化された。970例(35.0%)が女性、1,797例(65.0%)が男性で、1例(<0.1%)は性別が報告されていなかった。追跡期間中央値は37.1ヵ月(四分位範囲[IQR]:24.0~48.3)。 症候性VTEの再発は、減量投与群で19/1,383例(5年累積発生率2.2%[95%CI:1.1~3.3])、全量投与群で15/1,385例(1.8%[0.8~2.7])に報告された(補正後HR:1.32[95%CI:0.67~2.60]、絶対群間差:0.40%[95%CI:-1.05~1.85]、非劣性のp=0.23)。 重大または臨床的に重要な出血は、減量投与群で96/1,383例(5年累積発生率9.9%[95%CI:7.7~12.1])、全量投与群で154/1,385例(15.2%[12.8~17.6])に報告された(補正後HR:0.61[95%CI:0.48~0.79])。 有害事象の発現は、減量投与群で1,136/1,383例(82.1%)、全量投与群で1,150/1,385例(83.0%)に報告された。Grade3~5の重篤な有害事象の発現はそれぞれ374/1,383例(27.0%)、420/1,385例(30.3%)であった。試験期間中の死亡はそれぞれ35/1,383例(5年累積死亡率4.3%[95%CI:2.6~6.0])、54/1,385例(6.1%[4.3~8.0])であった。

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脳出血既往AFに対する脳梗塞予防、DOACは有用か?/Lancet

 直接経口抗凝固薬(DOAC)は、心房細動を伴う脳内出血生存者の虚血性脳卒中予防に有効ではあるが、その有益性の一部は脳内出血再発の大幅なリスク増加により相殺されることが示された。英国・インペリアル・カレッジ・ロンドンのRoland Veltkamp氏らPRESTIGE-AF Consortiumが、欧州6ヵ国75施設で実施された第III相無作為化非盲検評価者盲検比較試験「PRESTIGE-AF試験」の結果を報告した。結果を踏まえて著者は、「これら脆弱な患者集団における脳卒中予防を最適化するには、さらなるエビデンスと無作為化データのメタ解析が必要である。特定の患者に対しては、より安全な薬物療法または機械的代替療法の評価も求められる」と述べている。DOACは、心房細動患者において血栓塞栓症の発症頻度を低下させるが、脳内出血生存者に対するベネフィットとリスクは不明であった。Lancet誌オンライン版2025年2月26日号掲載の報告。脳内出血発症後14日~1年のAF患者をDOAC群と抗凝固薬非投与群に無作為化 研究グループは、脳内出血発症後14日~12ヵ月(当初は6ヵ月)以内で、心房細動を有し、抗凝固療法の適応があり、修正Rankinスケール(mRS)スコアが4以下の18歳以上の患者を、脳内出血の部位と性別によって層別化し、DOAC群または抗凝固薬非投与群に1対1の割合で無作為に割り付けた。 血管奇形または外傷に起因する脳内出血、左心耳閉鎖デバイスによる治療予定または既治療患者などは除外した。 DOAC群では、各地の試験担当医師の判断によりアピキサバン、ダビガトラン、エドキサバンまたはリバーロキサバンが投与された。抗凝固薬非投与群では、試験担当医師の判断で抗血小板薬(例:アスピリン100mg 1日1回)を投与または非投与した。 主要エンドポイントは2つで、初回虚血性脳卒中と脳内出血の初回再発とし、ITT集団で優越性と非劣性に関する階層的検定を実施した。脳内出血に関する非劣性マージンは、ハザード比(HR)の90%信頼区間上限が1.735未満とした。安全性についても、ITT集団を対象に解析した。DOAC群で虚血性脳卒中リスクは減少、脳内出血再発リスクは増大 2019年5月31日~2023年11月30日に319例が登録され、DOAC群(158例)および抗凝固薬非投与群(161例)に無作為に割り付けられた。患者背景は、年齢中央値が79歳(四分位範囲[IQR]:73~83)で、女性113例(35%)、男性206例(65%)であった。 追跡期間中央値1.4年(IQR:0.7~2.3)において、初回虚血性脳卒中の発症頻度は、DOAC群が抗凝固薬非投与群より低かった(HR:0.05、95%CI:0.01~0.36、log-rank検定p<0.0001)。すべての虚血性脳卒中イベントの発症頻度(100患者年当たり)は、DOAC群で0.83(95%CI:0.14~2.57)に対し、抗凝固薬非投与群では8.60(5.43~12.80)であった。 脳内出血の初回再発については、DOAC群は事前に規定された非劣性マージン(<1.735)を満たさなかった(HR:10.89、90%CI:1.95~60.72、p=0.96)。すべての脳内出血の発症頻度(100患者年当たり)は、DOAC群5.00(95%CI:2.68~8.39)に対し、抗凝固薬非投与群は0.82(95%CI:0.14~2.53)であった。 重篤な有害事象は、DOAC群で158例中70例(44%)、抗凝固薬非投与群で161例中89例(55%)に発現した。DOAC群では16例(10%)、抗凝固薬非投与群では21例(13%)が死亡した。

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妊娠糖尿病とメトホルミン―「非劣性試験で有意差なし」の解釈は難しい(解説:住谷哲氏)

 妊娠糖尿病患者が食事療法のみで血糖管理が困難になれば、インスリンを投与するのがゴールドスタンダードである。わが国では妊娠糖尿病に対するメトホルミン投与は禁忌であるが、米国での妊娠糖尿病患者の69%はメトホルミンまたはグリブリド(グリベンクラミドと同じ)が投与され1)、英国では薬物療法が必要となった妊娠糖尿病患者の59%にメトホルミンが投与されているとのデータがある2)。さらに英国のNICEガイドラインではメトホルミンが妊娠糖尿病に対する第一選択薬に推奨されている3)。 妊娠糖尿病に対するメトホルミンの有効性を検討した試験にMiG試験がある4)。同試験の主要評価項目は新生児複合アウトカムであり、メトホルミン群は必要であればインスリンが追加投与されている。Discussionに“a methodologic limitation”として記載されているが、試験デザインはインスリンのメトホルミンに対する優越性を検証する優越性試験であった。しかし、事後解析として実施された非劣性デザインを用いた解析において、メトホルミンのインスリンに対する非劣性が証明された。ちなみに同論文の付属論説では明確にnon-inferiority trialとしている。 本試験はMiG試験とは異なり、メトホルミン投与で血糖が管理できなかった際にインスリンではなくグリブリドを投与する群と、最初からインスリンを投与する群との比較である。また主要評価項目は、LGA(large for gestational age)の発生率である。さらに試験デザインはインスリン群に対するメトホルミン群の非劣性を検証する非劣性試験である。結果は絶対リスク差4.0%(95%信頼区間[CI]:-1.7~9.8、p=0.09)であり、95%CIの上限が設定した非劣性マージンの8%を超えており、結論は「非劣性が証明されなかった」となった。 「非劣性が証明されなかった」試験の正しい解釈は、有効性に関して介入群は対照群と比較して「優越 superior」でも「同等 equivalent」でも「劣性 inferior」でもなく、統計学的に「判定不能」である。つまり本試験の結果からは、群間差について統計学的には何も言えないことになる。 近年、非劣性試験は多用される傾向にある。糖尿病領域でもほとんどのCVOTは非劣性試験であり、循環器領域でのワルファリンに対するDOACの有用性を検討した試験も同様である5)。冒頭に述べたように、妊娠糖尿病患者にメトホルミンの使用ができないわが国ではリスクとベネフィットを天秤に掛ける必要はないが、メトホルミンへの追加薬剤としてはインスリンが無難だろう。

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