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早期乳がん、21遺伝子アッセイと内分泌療法反応性による治療ガイドは有用か/JCO

 ドイツ・West German Study Group(WGS)によるWSG-ADAPT HR+/HER2-試験において、再発スコアと内分泌療法への反応に基づく薬物療法のガイドが臨床で実行可能であり、リンパ節転移3個以下の閉経前および閉経後患者は化学療法なしですむことが示唆された。Journal of Clinical Oncology誌オンライン版2022年4月11日号に掲載。 本試験では、早期乳がんの薬物療法について、21遺伝子アッセイ(再発スコア)と3週間の術前内分泌療法への反応の組み合わせによるガイドを検討した。ベースラインと内分泌療法後のKi67については中央で評価した。・対象:病理学的局所リンパ節転移(pN)0~1(リンパ節転移0~3個)の乳がん患者・試験群:再発スコア12~25点で、内分泌療法に反応した(内分泌療法後のKi67が10%以下)患者・対照群:再発スコア11点以下の患者試験群、対照群とも内分泌療法のみ実施。上記以外の患者(内分泌療法に反応しなかったN0~1、再発スコア12~25点の患者を含む)は、dose-dense化学療法後、内分泌療法を受けた。・評価項目[主要評価項目]5年無浸潤疾患生存期間(iDFS)[副次評価項目]遠隔DFS、全生存率(OS)など 主な結果は以下のとおり。・ITT集団は2,290例(試験群1,422例、対照群868例)、閉経前女性は試験群26.3%、対照群34.6%、pN1は試験群27.4%、対照群24.0%だった。・5年iDFS差の片側95%下方信頼限界は-3.3%で、事前設定による非劣性が認められた(p=0.05)。・5年iDFSは、試験群92.6%(95%CI:90.8〜94.0)、対照群93.9%(95%CI:91.8〜95.4)、5年遠隔DFSは、試験群95.6%、対照群96.3%、5年OSは、試験群97.3%、対照群98.0%だった。年齢とリンパ節転移別のサブグループにおいても結果は同様だった。・N0~1、再発スコア12~25点の患者では、内分泌療法に反応した患者(内分泌療法のみ実施)の結果は、50歳超では内分泌療法に反応しなかった患者(化学療法実施)の結果と同等であり、50歳以下では優っていた。・アロマターゼ阻害薬(主に閉経後女性)がタモキシフェン(主に閉経前女性)に比べて内分泌療法への反応が高かった(78.1% vs.41.1%、p<0.001)。・内分泌療法に反応したのは、再発スコアが0~11点で78.8%、12~25点で62.2%、25点超で32.7%だった(4,203例、p<0.001)。

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国・地域により評価が分かれる研究(解説:野間重孝氏)

 チカグレロルはcyclo pentyl triazolo pyrimidine (CPTP)系の薬剤に分類される抗血小板薬である。クロピドグレルやプラスグレルなどのチエノピリジン系の薬剤がプロドラッグであり肝臓で代謝されることにより活性体となるのに対し、チカグレロルは自身が活性体であるためその作用の出現が速やかであるとともに肝代謝による影響を受けることがない。いずれの系統の薬剤も血小板のP2P12受容体に結合することによりその作用を発揮するが、チエノピリジン系の結合が非可逆的なものであるのに対し、チカグレロルの結合は可逆的である。そのため中止後の効果消失も速やかであるが、その反面作用時間が短いため1日2回の服用が必要である。 チカグレロルが注目を浴びるようになったのはPLATO studyによるものだったと言ってよい。同studyでは急性冠症候群患者(ACS)を対象としてアスピリンと併用する血小板2剤併用療法(DAPT)の比較研究がなされ、チカグレロル維持量90mg×2/日とクロピドグレル維持量75mg/日の比較において、死亡・心筋梗塞・脳卒中の発生頻度を減少させる点で、チカグレロルがクロピドグレルに比して優れているとの結果が得られたのである。この研究を踏まえ、欧州心臓病学会(ESC)では、ACSに対する際には使用禁忌がない場合にはアスピリン+チカグレロルを第1選択薬とした。しかしPLATO studyの事後サブグループ解析において非ST上昇型ACSにおいて総死亡率の低下が見られるいう結果は主要評価項目ではなかったため、あくまで探索的なものだったのではないかとの疑問もあった。事実、その後いくつか行われた臨床研究においてもチエノピリジン系薬剤に対してはっきりとした優位を示す結果は提出されていない。ACC/AHAガイドラインでは第1選択薬としての使用は認めているものの推奨度は低い(IIaB)。 JCSのガイドラインにおいては、East Asian paradoxという言葉があるように東アジア地域においては欧米よりも出血リスクが高く、血栓リスクが低いことが示されていることが勘案され、「アスピリンを含むDAPTが適切である場合で、かつ、アスピリンと併用する他の抗血小板薬の投与が困難な場合に限る」とされた(アテローム血栓症の発生頻度がとくに高いことが予想される病態がいくつか追加的適応として挙げられているが、ここでは省略する)。種々の研究において、チカグレロルはチエノピリジン系薬剤に比して出血の合併症が多いことが示されていたためである。なお、それ以外に呼吸困難感が比較的高頻度で生じることも知られている。このような理由からわが国においてはチカグレロルはほとんど使用されることがないが、わが国の臨床家たちがとくに不便を感じたという話を聞かない。さらに2020年の改訂で、チエノピリジン系がDAPT終了後の単独投与薬剤として認められたことも大きい(チカグレロルは認められていない)。 そこで本論文をどう評価するかという本題に入るが、この評価はESCのガイドラインを順守している国・地域であるのかどうかによってその価値評価が大きく異なることがまず指摘されなければならない。確かに本研究は著者らが言うように、いわゆるde-escalation therapy(この用語の妥当性自体が問題なのだが)が効果的かつ安全であることを示した初めての大規模臨床研究であると言える。しかし、もともとチカグレロルを第1選択薬としていない地域の医師たちにとっては関係のない論題だと言えるからである。そういう意味でこの研究の発端自体がESCのガイドラインに依存したものだったと言わなくてはならない。評者は、当たり前に思えることであってもあらためて証明することには価値があるということをこの欄で常々述べてきたが、この研究課題は普遍的な課題とはいえないと言わざるを得ないと思う。チカグレロルを第1選択薬とする必要がないことは米国や日本における血栓事故の発生率を見れば明らかなのだが、いったん決められたものを改めるには然るべき手続き(この場合研究)が必要だったと解釈される。 一方、本論文中で論じられている内容で、わが国の医師・国民の関心が薄い問題があることを指摘しておかなければならない。費用の問題である。韓国での薬価については調べることができなかったが、わが国ではクロピドグレル75mg錠が52.3円、チカグレロル(ブリリンタ)90mg錠が142円、つまり1日142×2=284円ということになる。わが国では国民皆保険制度が当たり前となっているため、薬価に対する関心が薄い。話題になるのは驚くほど高価な抗がん剤などが発売された場合などに限られるのではないだろうか。しかし一般諸外国ではこうした一般治療薬の価格についてもかなり関心が高く、議論の発端となりうることは知っておく必要がある。あらためて指摘する必要もないであろうが、わが国の保険財政は逼迫していることを忘れてはならない。 最後になるが、内容とは離れてこの論文の形態について一言述べておきたい。本論文では4ページ以上にわたってdiscussionが書かれているのだが、このような長大な考察を書く必要があったのだろうか。この研究の内容は決して分かりにくいものではなく、その内容も長く論述する必要のあるものとは思えない。評者は何年かにわたって『ジャーナル四天王』の論文評を担当させていただいているが、最近論文のスタイルの崩れが目立つように感じられてならない。仮にもLancet掲載論文なのである。評者が現役であった頃はこうした雑誌の査読者、編集者たちは論文の形態・形式についてもかなり厳しい注文をつけてきたことを記憶している。この論文評の最後にこのような一般的なことまで含めて書くのは申し訳ないとは思うが、一言苦言を呈したかったことをご理解いただきたい。

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新時代のタニマチをMASTER DAPT試験から考える【Dr.中川の「論文・見聞・いい気分」】第41回

第41回 新時代のタニマチをMASTER DAPT試験から考える2021年8月末に開催されたESC(欧州心臓病学会)においてMASTER DAPT試験の結果が報告されました。冠動脈内に薬剤溶出性ステントを留置した後は、ステント血栓症を予防するために抗血小板薬を2剤服用(DAPT)することが必要となります。高齢患者である場合や、他の疾患のため経口抗凝固薬の服用を余儀なくされる場合では、出血性合併症のリスクが高く、DAPT期間をどの程度に設定するかが問題となります。MASTER DAPT試験は、ステント留置から1ヵ月が経過した時点でDAPTから単剤治療に変更する群(短縮群)と、さらに最低2ヵ月以上DAPTを継続する群(継続群)にランダマイズし、割り付けから335日経過時点で両群の安全性と有効性を比較しています。心臓および脳の有害事象と出血イベントの複合として定義される主要評価項目で、短縮群と継続群の間で非劣性が満たされました。とくに出血イベントでは短縮群は継続群に対し優越性を示しました。このように、出血性合併症リスクの高い患者において、DAPT期間の短縮は予後の改善につながることを明らかにしました。本試験の結果は、発表と同時にNEJM誌に論文が公表されました(N Engl J Med. 2021 Aug 28. [Epub ahead of print])。このMASTER DAPT試験は、欧州、日本、アジア、オーストラリア、南米地域の30ヵ国の140施設が参加し遂行されました。特筆すべき点は、この研究に登録された患者のすべてのステント治療は、日本企業であるテルモ社のUltimaster(アルチマスター)ステントを用いて行われたことです。DAPT期間の差異を正確に評価するためには、患者によってバラバラではなく統一したステントを用いるべきです。さらに、そのステントは現代のPCI治療に要求されるレベルをクリアしていなければなりません。この研究の結果がNEJM誌に掲載されるという快挙を成し遂げたことは、研究の根幹をなす治療器具であるステントが、世界規模の研究に求められる基準を満たしていることを意味します。こういった大規模な研究を推進し完遂するには大きな資金が必要となります。その金額は、おそらく読者の皆さまが思い浮かべる額よりも、ゼロが後ろに何個も必要な莫大なものです。営利企業の関与が大きいほど、研究という学術行為の社会的責任と産学連携活動に伴い生じる利益が衝突・相反する状態が必然的に発生します。医学系研究の独立性が損なわれたり、結果公表で企業寄りのバイアスも懸念されます。日本においても過去に社会問題化する事件もありました。MASTER DAPT試験に対してテルモ社が資金援助していることはNEJM誌の論文内にもしっかり記載されています。隠すのではなく堂々と開示することが求められる時代です。それに加えて、金銭的な援助はするが、研究デザイン・患者募集・モニタリング・解析・データ解釈・原稿執筆のいずれにもテルモ社は一切関与していないことまで具体的に論文に記載されています。「金は出すが口は出さない」ことが求められるのです。大相撲で、力士のひいき筋・後援者のことをタニマチ(谷町)と呼ぶ隠語があることはご存じでしょう。明治の末ごろ、大阪谷町筋4丁目の相撲好きの外科医である薄恕一(すすき・じょいち)が相撲取りからは治療代を取らなかったことに由来するそうです。タニマチの援助は、繁華街等での豪遊まで広範囲に及んでいたそうです。援助を受ける方にも、提供されるものは相手を精査せずに何でも頂く「ごっつぁん体質」があったようです。現在の社会では容認されない考え方です。我が家には、援助を受けることを当然として生きている、「ごっつぁん体質」の権化がいます。そうです。飼い猫のレオです。猫は支援を獲得する天才です。我が家は猫を飼っているのではなく猫に居ていただいている、猫に遊んでいただいている、援助させていただいているという謙虚な気持ちでお世話しております。これは猫をサポートすることによって、われわれ人間側が享受する歓びがあまりに大きいから成立しているのでしょう。研究を資金面で援助する企業が目に見える形の利益を求めるのではなく、もっと大きな社会的な歓びを獲得できることが肝要と思います。MASTER DAPT試験におけるテルモ社の役割から、新時代のタニマチのあり方を感じ取ってもらえればと思います。あらためまして、MASTER DAPT試験の成功おめでとうございます!Congratulations!

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PCI後心筋梗塞、クロピドグレルによるde-escalation戦略が好結果/Lancet

 経皮的冠動脈インターベンション(PCI)後の安定した急性心筋梗塞(AMI)患者において、チカグレロルからクロピドグレル(ローディングなし)への非ガイド下でのde-escalation抗血小板薬2剤併用療法(DAPT)戦略は、虚血リスクを増大することなく出血リスクを有意に低下し、12ヵ月までの臨床イベントリスク低下がチカグレロルを継続するDAPT戦略よりも優れている。韓国・カトリック大学議政府聖母病院のChan Joon Kim氏らによる同国32施設で実施した医師主導の多施設共同無作為化非盲検非劣性試験「TALOS-AMI試験」の結果を報告した。PCI後のAMI患者に対しては、クロピドグレルよりも強力なP2Y12受容体阻害薬を最大1年間投与することが推奨されているが、維持期に出血リスクが高い状態が続くことが懸念されていた。Lancet誌2021年10月9日号掲載の報告。チカグレロルからクロピドグレルへの切り替えの安全性と有効性を検証 研究グループは2014年2月26日~2018年12月31日の期間にPCIが成功したAMI患者をスクリーニングし、同意が得られた患者に1ヵ月間アスピリン+チカグレロルによるDAPTを行い、主要有害虚血/出血イベントが認められなかった患者をde-escalation群(アスピリン+クロピドグレル)または継続群(アスピリン+チカグレロル)に、1対1の割合に無作為に割り付けた。 de-escalation群では、チカグレロルからクロピドグレルへ切り替える際、チカグレロル最終投与後の次の投与予定時刻(例:チカグレロル最終投与から約12時間後)に、クロピドグレル75mg(ローディングなし)を投与した。 主要評価項目は、1~12ヵ月までの心血管死、心筋梗塞、脳卒中、出血(BARC出血基準の2、3、5)の複合エンドポイントであった。非劣性マージンは、層別Cox比例ハザードモデルによるde-escalation群の継続群に対するハザード比(HR)が1.34(intention-to-treat集団で絶対差3.0%に相当する)とし、非劣性が認められた場合は優越性を検証した。ローディングなしクロピドグレルへのde-escalation戦略、複合エンドポイントを改善 計2,901例がスクリーニングを受け、2,697例が無作為に割り付けられた(de-escalation群1,349例、継続群1,348例)。 12ヵ月時点で、主要評価項目のイベントはde-escalation群で59例(4.6%)、継続群で104例(8.2%)確認された。HRは0.55(95%信頼区間[CI]:0.40~0.76、非劣性のp<0.001)であり、de-escalation群が有意に優れていた(優越性のp=0.0001)。 心血管死、心筋梗塞および脳卒中の複合では、de-escalation群(2.1%)と継続群(3.1%)で有意差はなかったが(HR:0.69、95%CI:0.42~1.14、p=0.15)、出血(BARC出血基準の2、3、5)はde-escalation群が少なかった(3.0% vs.5.6%、HR:0.52、95%CI:0.35~0.77、p=0.0012)。 なお、著者は研究の限界として、非盲検試験であること、非劣性マージンの幅が広いことなどを挙げ、多枝病変や複雑病変を有するAMI患者へのde-escalation戦略の適用には限界があるとの見解を述べている。

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MASTER DAPT試験とその解釈、出血イベント定義の難しさ(解説:中川義久氏)

 MASTER DAPT試験は、テルモ製のUltimasterステントを留置後に、高出血リスク患者における最適な抗血小板療法を検証した試験である。2021年欧州心臓病学会での発表と同時にNew England Journal of Medicine誌に論文が公表されるという快挙を達成した。日本発のステントを用いた研究であり、日本人医師としては悪い気はしないというか、爽快感もあるのが率直な感想である。このMASTER DAPT試験は、ステント留置から1ヵ月が経過した時点でDAPTから単剤治療に変更する群(短縮群)と、さらに最低2ヵ月以上DAPTを継続する群(継続群)にランダマイズし、割り付けから335日経過時点で両群の安全性と有効性を以下の3つの項目で評価している。(1)純臨床有害事象(全死因死亡、心筋梗塞、脳卒中、大出血の複合)(2)主要心臓・脳有害事象(全死因死亡、心筋梗塞、脳卒中の複合)(3)大出血・臨床的に重要な非大出血 統計学的な比較検定の方法として、(1)と(2)は非劣性検定、(3)については優越性検定を用いて評価が行われている。結果として(1)と(2)は非劣性が達成され、(3)は優越性が示された。そして、出血性合併症リスクの高い患者において、DAPT期間の短縮は予後の改善につながることを示したと結論している。この3つの評価項目と比較方法は研究開始前に定められたもので、それに従い解析された結果に異議を挟むものではない。しかし、あえて評価項目の設定について考察させていただきたい。MASTER DAPT試験の出血イベントの定義は、BARCの出血基準に従ってなされている。BARCはARC(Academic Research Consortium)が提案する出血の基準で以下に紹介する。BARCの出血基準●タイプ0:出血なし●タイプ1:医学的に問題とならない(not actionable)、患者が予定外の検査、入院、治療のため医療機関を受診する要因とならない出血。患者が医療専門家に相談せず、患者自身の判断により治療を中止した場合も含む。●タイプ2:明白で、医学的に対応すべき(actionable)出血徴候で(例:臨床状況から想定される以上の出血。画像検査のみで検出される出血を含む)、タイプ3、4、5の基準には該当しないが、下記の基準の1つ以上を満たすもの:(1)医療専門家による非外科的介入を要するもの、(2)入院またはケアレベルの引き上げを要するもの、(3)評価を要するもの。●タイプ3:明白な出血+3g/dL以上のヘモグロビンの低下または、明白な出血に伴う輸血●タイプ4:CABG関連出血●タイプ5:致死的出血 評価項目(1)の純臨床有害事象においては、出血イベントは、「BARCタイプ3、タイプ5」の大出血としている。一方、評価項目(3)での出血イベントは、BARCタイプ2の「臨床的に重要な非大出血」と、タイプ3またはタイプ5の「大出血」を併せたものとしている。実際のMASTER DAPT試験の出血イベントを見ると、短縮群ではBARCタイプ2の出血の累積発生率が継続群に比較して低かった(4.5%対6.8%、差:-2.25%ポイント、95%CI:-3.59~-0.90)。一方で、大出血の累積発生率は両群とも同程度であった。つまり、MASTER DAPT試験の出血イベント評価におけるポジティブ(優越性)な結果は、BARCタイプ2の「臨床的に重要な非大出血」の差によりもたらされている。BARCタイプ2は、定義が少し緩い基準で、やや客観性に欠ける点が指摘されている。さらに、BARCタイプ2の出血イベント減少の臨床的な価値を、実臨床の現場でどのように解釈するかがポイントとなる。 ここでは詳しくは述べないが、同じく短期間DAPTについて検討した、STOPDAPT-2 ACS試験の結果も欧州心臓病学会で発表された。その結果として、短期間DAPTは標準的DAPTに対する非劣性証明を達成することができなかった。STOPDAPT-2 ACS試験での出血イベントの定義は、「TIMI Major or Minor」である。この「TIMI Major or Minor」は「BARCタイプ3、タイプ4、タイプ5」に相当する。BARCタイプ4のCABG関連出血はかなり少ないので、「BARCタイプ3、タイプ5」が「TIMI Major or Minor」とほぼ等価値の評価基準となる。つまり、STOPDAPT-2 ACS試験では、BARCタイプ2のレベルの出血を、イベントとはカウントしていない。仮定の話をするのはルール違反であるが、もしBARCタイプ2をSTOPDAPT-2 ACS試験の評価項目に加えていれば解析結果が異なる可能性もある。 このように、臨床研究の評価は微妙なバランスの上に構成されている。研究結果の解釈においては個々のイベント定義が重要であることを理解いただきたい。仮定の話を展開することは適切ではないことは重々理解しているが、あえて私的な考察を述べたことお許しいただきたい。

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急性期脳梗塞の血栓除去療法、直接吸引術併用は有効か/JAMA

 大血管閉塞による急性期脳梗塞患者の機械的血栓除去療法では、直接吸引術(ADAPT)とステント型血栓回収機器(ステントリトリーバー)の併用はステント型血栓回収機器単独と比較して、血栓除去療法終了時のほぼ完全/完全な再灌流の達成率を改善せず、ほとんどの有効性の副次エンドポイントにも差はないことが、フランス・University of Versailles and Saint Quentin en Yvelines, Foch HospitalのBertrand Lapergue氏らが実施した「ASTER2試験」で示された。研究の詳細は、JAMA誌2021年9月28日号で報告された。フランスのエンドポイント盲検化無作為化試験 本研究は、フランスの11の包括的脳卒中センターが参加した非盲検・エンドポイント盲検化無作為化試験であり、2017年10月~2018年5月の期間に参加者の登録が行われた(Foch Hospitalによる助成を受けた)。 対象は、年齢の上限を設けない成人で、前方循環系の大血管閉塞に伴う急性期脳梗塞が疑われ、症状の発現から8時間以内の患者であった。被験者は、初回血栓除去療法として、バルーン付きカテーテルを用いた直接吸引術とステント型血栓回収機器による併用治療を受ける群(介入群)、またはステント型血栓回収機器単独による治療を受ける群(対照群)に、1対1の割合で無作為に割り付けられた。 主要アウトカムは、治療終了時のexpanded Thrombolysis In Cerebral Infarction(eTICI)スコアの2c(ほぼ完全な再灌流)と3(完全再灌流)の達成率とされた。治療終了時eTICI 2c/3達成率:64.5% vs.57.9% 405例(平均年齢73歳、女性54%)が解析に含まれ、203例が介入群、202例は対照群に割り付けられた。ベースラインの全体の平均NIHSSスコア(0[無症状]~42[最重度の神経学的障害]点)は16.2(SD 6.3)点で、85.2%に無作為化前の初回非侵襲的画像検査で中大脳動脈の閉塞が認められた。 治療終了時のeTICI 2c/3の達成率は、介入群が64.5%(131/203例)、対照群は57.9%(117/202例)と、両群間に有意な差は認められなかった(リスク差:6.6%、95%信頼区間[CI]:-3.0~16.2、補正後オッズ比[OR]:1.33、95%CI:0.88~1.99、p=0.17)。 事前に規定された14項目の有効性の副次エンドポイントのうち、12項目では有意差は示されなかったが、2項目は介入群で良好であった。すなわち、割り付けられた治療による初回介入後の再灌流(eTICI 2b50/2c/3)率は、介入群が86.2%と、対照群の72.3%に比べて高く(補正後OR:2.54、95%CI:1.51~4.28、p<0.001)、ほぼ完全/完全な再灌流(eTICI 2c/3)の達成率は、それぞれ59.6%および49.5%であり、介入群で優れた(1.52、1.02~2.27、p=0.04)。 著者は、「本試験は、両群間の小さな差を示すには検出力が十分でなかった可能性がある」としている。

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HR+/HER2+早期乳がん、de-escalateした術前補助療法に適した症例は?(ADAPT TP)/ESMO2021

 ホルモン受容体陽性HER2陽性(HR+/HER2+)早期乳がんに対するT-DM1(トラスツズマブ エムタンシン)でのde-escalateした術前補助療法において、治療前の腫瘍免疫原性が高いほど病理学的奏効(pCR)率が高く予後良好なことが、ドイツ・West German Study Group(WSG)によるADAPT triple positive(TP)試験で示された。WSGのNadia Harbeck氏が欧州臨床腫瘍学会(ESMO Congress 2021)で発表した。 ADAPT TP試験はWSGによる第II相試験で、ADAPTアンブレラ試験の一部である。すでに主要評価項目であるpCR率はT-DM1投与群で40%を超え、副次評価項目の生存アウトカムも良好だったことが報告されている。今回は、もう1つの副次評価項目であるトランスレーショナルリサーチについて、治療前の生検で分析されたバイオマーカーにより検討された。・対象:HR+/HER2+早期乳がん 375例・試験群A:T-DM1(3週ごと)12週 119例・試験群B:T-DM1(3週ごと)+内分泌療法12週 127例・試験群C:トラスツズマブ(3週ごと)+内分泌療法12週 129例術後または12週の生検後(pCRが得られない場合)は標準化学療法が推奨され、pCRが得られた場合は化学療法の省略が許容された。・評価項目[主要評価項目]pCR率(ypT0/is/ypN0)[副次評価項目]安全性、5年無浸潤疾患生存(iDFS)率、5年全生存率、トランスレーショナルリサーチ 早期奏効は、3週時点の生検でKi67が治療前の30%以上減少または低細胞密度(腫瘍細胞数が500個未満)の場合とした。腫瘍浸潤リンパ球とIHCの免疫マーカー(CD8、PD1、PDL1)、PIK3CA変異の有無、遺伝子(RNA)発現を治療前の検体で評価した。 主な結果は以下のとおり。・治療前におけるCD8発現やPD-L1発現が良好なpCRと関連し、また、良好なiDFSとより強い関連がみられた。iDFSのハザード比(HR)は、CD8A発現で0.61(95%信頼区間[CI]:0.36~1.01)、CD8 mRNA発現で0.66(95%CI:0.47~0.92)、免疫細胞PD-L1発現で0.32(95%CI:0.10~1.07)だった。・PIK3CA変異は16.32%に認められ、pCR率および5年iDFS率の低下と関連していた。すべての患者で予後が悪化したが、とくにT-DM1投与患者では5年iDFS率に22%の差があった(野生型90.2%、変異型68.4%、p=0.007)。・本試験における分子サブタイプは、luminal Aタイプが55.9%、luminal Bタイプが22.69%、HER2-enrichedタイプが21.3%、basal-likeタイプが0.93%であった。pCR率はHER2-enrichedタイプが最も高かったが、5年iDFS率はluminal Aタイプが89.8%と最も高く、HER2-enrichedタイプは80.9%と低かった。 Harbeck氏は、「HR+/HER2+早期乳がんにおいて、治療前における腫瘍免疫原性はde-escalateした術前補助治療後の高いpCR率と予後良好に関連していた。PIK3CA変異がある患者は、T-DM1を投与し術後に化学療法とトラスツズマブを投与しても予後不良であった。luminal Aタイプの患者は、HER2標的治療後にpCR率が低くても最も予後が良好だった」と結果をまとめ、「今後のde-escalation戦略については、luminal AタイプではpCR率と生存率、HER2-enrichedタイプではpCRによるアプローチが有望」とした。

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脳卒中治療ガイドラインが6年ぶりに改訂、ポイントは?

 今年7月、『脳卒中治療ガイドライン2021』が発刊された。2015年の前版(2017年、2019年に追補発行)から6年ぶりの全面改訂ということで、表紙デザインから一新。脳卒中治療ガイドライン2021では追補の内容に加え、関連学会による各指針など最新の推奨が全面的に取り入れられている。そこで、脳卒中ガイドライン委員会(2021)の板橋 亮氏(岩手医科大学内科学講座脳神経内科・老年科分野 教授)に、近年目覚ましい変化を遂げる脳梗塞急性期の治療を中心として、主に内科領域の脳卒中治療ガイドライン2021の変更点について話をうかがった。脳卒中治療ガイドライン2021の変更点にエビデンスレベルの追加 まず脳卒中治療ガイドライン2021の1番大きな変更点としては、追補2019までは推奨文にエビデンスレベルはついておらず、文献のエビデンスを踏まえた推奨度のみが記載されていたが、2021年版では推奨文に推奨度(ABCDE)とエビデンス総体レベル(高中低)の両方が記載された。すべての引用文献に、エビデンスレベル(1~5)が示されている。 さらに、脳卒中治療ガイドライン2021では今回初めてクリニカルクエスチョン(CQ)方式が一部に採用され、重要な臨床課題をピックアップしている。利便性を考慮し、あえてCQ方式と従来の推奨文方式の両方にて記載した内容もある。 また、脳卒中治療ガイドライン2021の全般的な構成の変更点として、前版までリハビリテーション関連の内容はすべて後半のページにまとめられていたが、今回から急性期に関してのリハビリテーションは前半ページ(目次I「脳卒中全般」)に記載された。脳卒中治療ガイドライン2021脳梗塞急性期の変更点 脳卒中治療ガイドライン2021の具体的な内容に関しては、たとえば目次II「脳梗塞・一過性脳虚血発作(TIA)」項の冒頭に、CQ「脳梗塞軽症例でもrt-PA(アルテプラーゼ)は投与して良いか?」「狭窄度が軽度の症候性頸動脈狭窄患者に対して頸動脈内膜剥離術(CEA)は推奨されるか?」が追加された。 また、脳卒中治療ガイドライン2021では、脳梗塞急性期における抗血小板療法の推奨として、DAPT(抗血小板薬2剤併用療法)の推奨度が見直され、発症早期の軽症非心原性脳梗塞患者の亜急性期までの治療法として、推奨度BからA(エビデンスレベル高)に引き上げられた(なお、高リスクTIAの急性期に限定した同療法は、DAPTの効果の大きさと出血リスク上昇を総合的に勘案し、推奨度Bで据え置きとなっている)。これに伴い、従来経静脈投与で用いられていた抗凝固薬アルガトロバン、抗血小板薬オザグレルNaは、推奨度BからCに引き下げられている。 さらに、脳梗塞急性期の抗凝固療法における直接阻害型経口抗凝固薬(DOAC)についての推奨、脳梗塞慢性期の塞栓源不明の脳塞栓症における抗血栓療法についての推奨などが、脳卒中治療ガイドライン2021には新たに追加された。 全体的には、『静注血栓溶解(rt-PA)療法適正治療指針 第三版』『経皮経管的脳血栓回収用機器 適正使用指針 第4版』などの推奨に準じた内容で、目新しさには欠けるかもしれないが、それが脳卒中治療ガイドライン2021として1つにまとめられたことは大きな意義を持つだろう。 詳細は割愛するが、塞栓源となる心疾患に対するインターベンションについての記載も充実した。たとえば、脳梗塞慢性期の奇異性脳塞栓症(卵円孔開存を合併した塞栓源不明の脳塞栓症を含む)については、『潜因性脳梗塞に対する経皮的卵円孔開存閉鎖術の手引き』に準じた推奨が、出血の危険性が高い非弁膜症性心房細動患者については、『左心耳閉鎖システムに関する適正使用指針』に準じた推奨が追記されている。脳卒中治療ガイドライン2021にテネクテプラーゼを記載 機械的血栓回収療法は、急性期治療の中でもとくに注目されており、軽症例や単純CTで広範な早期虚血が見られる例に関して、国際的な無作為化試験が行なわれている。本治療に関するエビデンスはここ数年で変わる可能性が高い。 また、海外ではCTPT系P2Y12拮抗薬チカグレロルとアスピリンによるDAPTの臨床試験が行われ,米国ではすでに脳卒中領域の承認を得ているが、わが国で導入される見通しは不明である。このように、推奨文にするほどではない、もしくはわが国では保険適用がない場合でも、臨床医に知っておいてほしい情報は、脳卒中治療ガイドライン2021の解説文の中にコラム形式で記載されている。 推奨文としては書いていないが、脳卒中治療ガイドライン2021の脳梗塞急性期の経静脈的線溶療法の解説文には、海外の一部で使われ始めているテネクテプラーゼについても記載がある。おそらく、無作為化試験の結果が揃えば、今後アルテプラーゼに代わって使われるようになるだろう。国内での臨床試験も行われる予定だが、わが国で導入できる目途は立っていないため、こちらも今後の展開に注目されたい。脳卒中治療ガイドライン2021は読みやすさを重視した構成 驚くことに、脳卒中治療ガイドライン2021は、前版から解説文の文字数を半分近くに減らしたという。現場で参照することを第一に、各項目はできる限り2ページ以内に収めるなど、読みやすさを重視した工夫が凝らされている。板橋氏は、「推奨文だけ読めば最低限の重要事項が確認できるように作られてはいるが、推奨度そしてエビデンスの根拠となる解説文の内容も是非確認していただきたく、できるだけ読んでもらえるように短くまとめた」と語った。また、手元に置いておきたくなるような脳卒中治療ガイドライン2021のスタイリッシュなデザインは、委員会事務局の黒田 敏氏(富山大学脳神経外科 教授)が選んだこだわりの青色が採用されたという。脳卒中治療ガイドライン2021の電子版は11月に発売予定だ。『脳卒中治療ガイドライン2021』・発行日 2021年7月15日・編集 一般社団法人日本脳卒中学会 脳卒中ガイドライン委員会・定価 8,800円(税込)・体裁 A4判、320ページ・発行 株式会社協和企画

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冠動脈ステント留置後のDAPT期間、1ヵ月に短縮の可能性/NEJM

 薬剤溶出型冠動脈ステント留置による経皮的冠動脈インターベンション(PCI)を受けた出血リスクが高い患者において、抗血小板薬2剤併用療法(DAPT)の34日間投与は193日間投与と比較して、純臨床有害事象および主要心臓・脳有害事象のリスクが非劣性で、大出血・臨床的に重要な非大出血のリスクは有意に低いことが、スイス・Universita della Svizzera ItalianaのMarco Valgimigli氏らが実施した「MASTER DAPT試験」で示された。研究の成果は、NEJM誌オンライン版2021年8月28日号に掲載された。30ヵ国140施設の無作為化試験 本研究は、薬剤溶出型冠動脈ステント留置後の出血リスクが高い患者におけるDAPTの適切な投与期間の評価を目的とする医師主導の非盲検無作為化非劣性試験であり、2017年2月~2019年12月の期間に日本を含む30ヵ国140施設で参加者のスクリーニングが行われた(Terumoの助成を受けた)。 対象は、急性または慢性の冠症候群で、生分解性ポリマーシロリムス溶出型冠動脈ステント(Ultimaster、Terumo製)留置によるPCIが成功し、出血リスクが高いと判定された患者であった。 被験者は、DAPTを1ヵ月施行した時点で、抗血小板薬を1剤に切り換えることでDAPTの期間を短縮する群、またはDAPTをさらに2ヵ月以上継続投与する群(標準治療群)に、1対1の割合で無作為に割り付けられた。 主要アウトカムは、次の3つの順位化された項目の、335日の時点での累積発生率であった。(1)純臨床有害事象(全死因死亡、心筋梗塞、脳卒中、大出血の複合)、(2)主要心臓・脳有害事象(全死因死亡、心筋梗塞、脳卒中の複合)、(3)大出血・臨床的に重要な非大出血。(1)と(2)は、per-protocol集団における非劣性(累積発生率の差の両側95%信頼区間[CI]の上限値が、(1)は3.6ポイントを超えない、(2)は2.4ポイントを超えない)の評価が、(3)はintention-to-treat集団における優越性(同様に上限値が0.0ポイントを超えない)の評価が行われた。主に臨床的に重要な非大出血の差が大きい 4,579例(intention-to-treat集団、平均年齢76.0歳、男性69.3%)が登録され、短縮群に2,295例、標準治療群に2,284例が割り付けられた。全体の33.6%が糖尿病、19.1%が慢性腎臓病、18.9%が心不全、12.4%が脳血管イベントの既往、10.6%が末梢血管疾患を有しており、36.4%は経口抗凝固薬の投与を受けていた。per-protocol集団は4,434例で、短縮群が2,204例、標準治療群は2,230例だった。 PCI施行後のDAPT投与期間中央値は、短縮群が34日(IQR:31~39)、標準治療群は193日(102~366)であった。短縮群では、抗血小板薬単剤療法として53.9%でクロピドグレルが使用され、標準治療群ではDAPTの1剤として78.7%で同薬が用いられた。 335日時点のper-protocol集団における純臨床有害事象の発生率は、短縮群が7.5%(165例)、標準治療群は7.7%(172例)であり、短縮群は標準治療群に対し非劣性であった(ハザード比[HR]:0.97[95%CI:0.78~1.20]、リスク差:-0.23ポイント[95%CI:-1.80~1.33]、非劣性のp<0.001)。 また、同集団における主要心臓・脳有害事象の発生率は、短縮群が6.1%(133例)、標準治療群は5.9%(132例)と、短縮群の標準治療群に対する非劣性が認められた(HR:1.02[95%CI:0.80~1.30]、リスク差:0.11ポイント[95%CI:-1.29~1.51]、非劣性のp=0.001)。 一方、intention-to-treat集団における大出血・臨床的に重要な非大出血の発生率は、短縮群が6.5%(148例)と、標準治療群の9.4%(211例)に比べ有意に低かった(リスク差:-2.82ポイント[95%CI:-4.40~-1.24]、優越性のp<0.001)。この差は、主に臨床的に重要な非大出血(BARC タイプ2)の発生率の差によるものであった(4.5% vs.6.8%)。 著者は、「出血リスクが高くない患者や、他の種類のステントを留置された患者には、本試験の結果は当てはまらない可能性がある」と指摘し、「本試験では、ステント内再狭窄やステント血栓症の患者は除外されている。また、純臨床有害事象と主要心臓・脳有害事象の発生率は予想よりも低く、非劣性マージンの範囲は広かった。したがって、短縮群のこの投与期間におけるこれらのイベントの発生率は、もう少し高い可能性が否定できない」と考察している。

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冠動脈血行再建術後のP2Y12阻害薬vs. DAPTのメタ解析/BMJ

 スイス・ベルン大学のMarco Valgimigli氏は、無作為化比較試験6件のメタ解析を行い、P2Y12阻害薬単独療法は抗血小板薬2剤併用療法(DAPT)と比較して、死亡、心筋梗塞および脳卒中のリスクは同等であるが、P2Y12阻害薬単独療法の有効性は性別によって異なり、出血リスクはDAPTより低いことを明らかにした。BMJ誌2021年6月16日号掲載の報告。P2Y12阻害薬単独vs.DAPTの無作為化比較試験6件、2万4,096例をメタ解析 研究グループは、Ovid Medline、Embaseおよび3つのWebサイト(www.tctmd.com、www.escardio.org、www.acc.org/cardiosourceplus)を検索して、2020年7月16日までに発表された、経口抗凝固療法の適応がない患者における冠動脈血行再建術後の経口P2Y12阻害薬単独療法とDAPTの有効性を比較(中央判定)した無作為化比較試験を特定し、個々の患者レベルでのメタ解析を行った。 主要評価項目は全死因死亡・心筋梗塞・脳卒中の複合(非劣性マージン:ハザード比[HR]:1.15)であり、安全性の主要評価項目はBARC(Bleeding Academic Research Consortium)出血基準タイプ3または5の出血とした。 メタ解析には、6件の無作為化試験(合計2万4,096例)が組み込まれた。死亡・心筋梗塞・脳卒中の複合リスクは同等、出血リスクはP2Y12阻害薬単独が低い 主要評価項目のイベントは、per protocol集団においてP2Y12阻害薬単独療法群283例(2.95%)、DAPT群315例(3.27%)に認められた(HR:0.93、95%信頼区間[CI]:0.79~1.09、非劣性のp=0.005、優越性のp=0.38、τ2=0.00)。intention to treat集団ではそれぞれ303例(2.94%)、338例(3.36%)であった(0.90、0.77~1.05、優越性のp=0.18、τ2=0.00)。 治療効果は、性別(交互作用のp=0.02)を除くすべてのサブグループで一貫していた。P2Y12阻害薬単独療法は、女性では主要評価項目イベントのリスクを低下させるが(HR:0.64、95%CI:0.46~0.89)、男性では低下させないことが示唆された(1.00、0.83~1.19)。 BARC出血基準タイプ3または5の出血リスクは、P2Y12阻害薬単独療法群がDAPT群より低かった(0.89% vs.1.83%、HR:0.49、95%CI:0.39~0.63、p<0.001、τ2=0.03)。この結果は、P2Y12阻害薬の種類(交互作用のp=0.02)を除くすべてのサブグループで一貫しており、クロピドグレルではなく新しいP2Y12阻害薬をDAPTレジメンに使用した場合に有益性が高いことが示唆された。

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限界はあるが必要だった研究(解説:野間重孝氏)-1403

 アスピリンは世界で初めて人工合成された医薬品で、ドイツ・バイエル社がこの開発に成功したのは1897年にさかのぼる。ところが、低用量アスピリンに血小板凝集抑制作用があることが発見されたのは1967年のことだった。Gruentzigが経皮的冠動脈形成術(PTCA)を初めて行ったのが1977年であることを考えると、不思議な暗合を感じてしまうのは評者だけではないと思う。 PTCAは確かに画期的な技術ではあったが、バルーンによる拡張のみでは血管壁の解離、リコイルを防ぐことができず、高頻度に発生する急性冠動脈閉塞や慢性期再狭窄率の高さが問題となっていた。これに解決策を与えるべく開発されたのが冠動脈ステントだった。慢性期に対する効果はSTRESS、BENESTENT両試験により証明されたが、亜急性期ステント血栓症(SAT)にはなかなか解決策が見いだされなかった。当初アスピリンとワルファリンの併用による効果が期待されたが、十分な効果は得られなかった。90年代初めに開発されたチエノピリジン系薬剤であるチクロピジンとアスピリンの併用、つまり抗血小板薬2剤併用療法(DAPT)が初めてこの問題に解決策を与えたのである。 ステント開発によって術成績は飛躍的に向上し、とくに急性期合併症は激減したのだが、慢性期再狭窄による再血行再建術が必要になる率はそれでも15~30%に上るとされた。これに対して開発されたのが薬物溶出ステント(DES)であった。しかしDESの登場は新たな問題を引き起こした。金属のみによるステントでは比較的早くストラットが内膜により覆われるのに対し、DESでは内膜による皮膜形成に時間がかかり、ストラットがむき出しになっている期間が長いため、別のメカニズムからSATが問題となってきたのである。この頃にはチエノピリジン系薬剤も第2世代となり、クロピドグレルが主役となっていた。現在チエノピリジン系薬剤は第3世代の開発も進み、また違った機序の新規血小板機能抑制剤も開発されているが、それでもクロピドグレルの市場占有率は高いまま推移しているのは本論文にあるとおりである。アスピリン、クロピドグレル併用によるDAPTは確かにSATの発生を抑えたが、今度はDAPTをいつやめればいいのか、またやめた後にどちらの薬剤を残すのかが新たな問題として浮上した。 一方、ステント開発メーカーも手をこまねいていたわけではない。ストラットの菲薄化、形状の工夫、ポリマーの生体適合性の改善などを通して機材面からSAT発生率の低下が図られた。この結果、現在米国心臓病学会(ACC)、米国心臓協会(AHA)、欧州心臓病学会(ESC)のガイドラインで、出血リスクの低い患者では6ヵ月以上のDAPTを推奨するものの、出血リスクのある患者では1~3ヵ月のクロピドグレルの併用を推奨するというところにまでなったのである。SATの予防と出血リスクは、いわばトレードオフの関係にあるのである。 本論文は残ったもうひとつの問題、つまりDAPTをやめた後にどちらの薬剤を残すのかという問題を中心に据えた初めての大規模臨床研究である。ただし、これには少しただし書きが必要である。というのは、DAPTの期間を検討する一連の研究の中で、この問題は併せて扱われてきたからである。とくに最近のGLOBAL LEADERS試験、SMART-CHOICE試験、STOPDAPT-2試験などで短期間のDAPTとチエノピリジン系薬剤による耐容性はすでに十分議論されており、理由はさまざまであるにせよ、持続する薬剤としてはチエノピリジン系薬剤が選択されているのである。そもそも出血傾向はアスピリンで強く、またアスピリンでは胃腸障害などの副作用も問題になるからである。しかし著者らの言うとおり、この問題のみを正面から扱い、さまざまなレベルの冠動脈疾患を対象とした大規模臨床研究は、確かにこの研究が最初といえるのである。そしてこの問題について明快な解答を与えたことは評価されなければならないだろう。 しかし指摘されなければならないのは、これはあくまでクロピドグレルの成績だ、ということである。つまり、本研究からはDAPTの相手がプラスグレルであったり、チカグレロルであったらどうなのか、という点には言及できないということである。とくに第3世代チエノピリジン系薬剤であるプラスグレルは、代謝による効果のバラツキがほとんどないこと、さらに効果発現が速やかであることから、急性期の処置が必要な症例ではこちらのほうが選択されるケースが多いのではないだろうか。評者の周囲では、プラスグレルの場合もそちらを残すことを選択する臨床医が増えている印象がある。なお本稿は論文評であって総説ではないため解説できないが、なぜプラスグレルやチカグレロルがクロピドグレルに替わって標準治療薬とならなかったのかについての歴史的経緯は、若い方々には調べてみると参考になる点が多いと思うのでお勧めする。 気になった点をもうひとつ挙げると、著者ら自身がdiscussionの中で第3番目のlimitationとして認めているように、プロドラッグであるクロピドグレルでは肝臓における代謝は個人差が大きく、とくに東洋人でこの代謝酵素であるCYP2C19の欠損が報告されるケースが目立つことに関する議論である。この論文が韓国から発表されていることを考えると、著者らがこうした代謝の個人差の検討が行われていないことに対して、少し強いコメントをせざるを得ないことは理解できる。しかし、著者らが“The clinical significance of clopidogrel resistance is still under debate”と書き、さらにaspirin resistanceの問題を持ち出すなどの論述姿勢は適当だったのだろうか。また同国からクロピドグレルの効果についてAsian paradoxなる報告があるというが、これは定説といえるのだろうか。臨床研究において明らかになった事実を、自分たちはただ淡々と発表したのだと言えばよかったのではないだろうか。 評者はこの論文評欄において、一見当たり前であるように思われていることや類推が可能である事柄であっても、しっかり証明することの重要性を強調してきた。そういう意味でこの論文は評価されなければならないのは当然であるが、上記のように結果解釈の応用に限界がある点は指摘されなければならない。

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HR-/HER2+乳がん術前治療、トラスツズマブ+ペルツズマブ±PTXの予後(ADAPT)/ASCO2021

 ホルモン受容体陰性HER2陽性(HR-/HER2+)の乳がん患者に対する、トラスツズマブ+ペルツズマブ±パクリタキセルによる術前療法の予後に関する有望な結果が、米国臨床腫瘍学会年次総会(2021 ASCO Annual Meeting)において、ドイツ・West German Study Group(WSG)のNadia Harbeck氏から報告された。 このADAPT試験はWSGにより実施されたオープンラベルの第II相無作為化比較試験である。この試験のpCR率の結果は2017年に公表されており、今回はその生存に関する報告である。また、本試験と同じデザインでのHR-/HER2+集団に対するpCR率の良好な結果は2020年のESMOで公表されている。・対象:遠隔転移のないHR-/HER2+乳がん134例(5:2の割合で2群に割り付け)・試験群A:トラスツズマブ(初回8mg/kg、その後3週ごとに6mg/kg)+ペルツズマブ(初回840mg、その後3週ごとに420mg)(TP群:92例)・試験群B:トラスツズマブ+ペルツズマブ+パクリタキセル(80mg/m2を1回/週)(TPPtx群:42例)・評価項目:[主要評価項目]pCR率(乳房内の浸潤がんとリンパ節転移がない例[ypT0/is ypN0]におけるpCR率と、非浸潤がんも含めて完全に残存腫瘍のない例[ypT0 ypN0]におけるpCR率)[副次評価項目]無浸潤疾患生存期間(iDFS)、遠隔無再発生存期間(DDFS)、全生存期間(OS)、安全性、バイオマーカー検索など 3週間目にKi67値がベースライン比30%以上低下、もしくは浸潤がん細胞数が500個以下への減少が認められた症例などを早期奏効例とした。 主な結果は以下のとおり。・患者背景は、50歳未満が33~41%(年齢中央値:52~54歳)、N0が54~62%、核異形度3が88.0%、HER2-IHC3+が86~91%、ベースラインのKi67値は50%であった。・既報のpCR率は、ypT0/is ypN0でTP群34.4%、TPPtx群90.5%であった。また、ypT0 ypN0ではTP群24.4%、TPPtx群78.6%であった。・iDFS率は、5年時点でTP群87%、TPPtx群98%、ハザード比[HR] 0.32(95%信頼区間[CI]:0.07~1.47)、p=0.144であった。・OS率は、5年時点でTP群94%、TPPtx群98%(死亡は1名のみ)、HR 0.41(95%CI:0.05~3.55)、p=0.422であった。・pCRが得られた症例(69例)と得られなかった症例(63例)でiDFSを比較した場合、pCR例は5年時iDFS率が98%、non-pCR例では82%、HRは0.14(95%CI:0.03~0.64)、p=0.011であった。・TP群において、pCRが得られなかったIHC1+/2+およびFISH陽性例や、Basalタイプ、または早期奏効を得られなかった症例を、non-sensitive症例(31例)として、その他の症例とiDFSを比較した場合、5年時のiDFS率はnon-sensitive79%、その他93%、HRは1.99、p=0.255であった。 演者のHarbeck氏は「化学療法の有無によらず、両群とも優れたpCR率と生存率を示した。また、抗体2剤のみによる術前治療は早期奏効が得られた場合に有望であり、今後はさらにIHC3+症例やBasalタイプ以外、RNAなどで選別した症例でも検討する必要がある」と述べた。

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心血管疾患へのアスピリン、用量による有効性・安全性の差なし/NEJM

 心血管疾患患者のアスピリン治療において、1日用量81mgは同325mgと比較して、心血管イベントや大出血の頻度について統計学的に有意な差はなく、投与中止や用量変更の割合は325mgで高いことが、米国・デューク大学のW. Schuyler Jones氏らが実施した「ADAPTABLE試験」で示された。研究の成果は、NEJM誌2021年5月27日号に掲載された。適切な用量を無作為化試験で評価 研究グループは、心血管疾患患者における死亡、心筋梗塞、脳卒中のリスクを抑制し、大出血の発生を最小化する適切なアスピリンの用量を検討する目的で、実践的デザインの非盲検無作為化試験を行った(米国患者中心アウトカム研究所[PCORI]の助成による)。参加者の募集は、米国のPCORnetに参加する40施設において、2016年4月に開始され2019年6月に終了した。 各施設の電子カルテのデータから、アテローム動脈硬化性心血管疾患と確定された患者が選出された。被験者は、アスピリン1日1回81mgの投与を受ける群または同様に325mgの投与を受ける群に無作為に割り付けられた。 有効性の主要アウトカムは、全死因死亡、心筋梗塞による入院、脳卒中による入院の複合とし、生存時間(time-to-event)解析が行われた。安全性の主要アウトカムは大出血による入院とし、同様に生存時間解析で評価された。割り付け用量の曝露日数も325mg群で短い 1万5,076例が登録され、アスピリン81mg群に7,540例、同325mg群に7,536例が割り付けられた。全体の年齢中央値は67.6歳で、68.7%が男性であった。ベースライン時に、35.3%に心筋梗塞の既往歴が、53.0%に過去5年以内の冠動脈血行再建術の既往歴が認められた。 無作為化の前に、1万3,537例(アスピリン使用の事前情報が得られた患者の96.0%)がすでにアスピリンを投与され、このうち85.3%が81mg、2.3%が162mg、12.2%が325mgの連日投与を受けていた。追跡期間中央値は26.2ヵ月(IQR:19.0~34.9)だった。 有効性の主要アウトカムは、81mg群が590例(追跡期間中央値の時点での推定値7.28%)、325mg群は569例(同7.51%)で発生し、両群間に差はみられなかった(ハザード比[HR]:1.02、95%信頼区間[CI]:0.91~1.14)。複合アウトカムの個々の構成要素(全死因死亡、心筋梗塞による入院、脳卒中による入院)にも、両群間に差はなかった。 大出血による入院(安全性の主要アウトカム)は、81mg群が53例(0.63%)、325mg群は44例(0.60%)で発生し、両群間に差は認めなかった(HR:1.18、95%CI:0.79~1.77)。 アスピリンの投与中止は、81mg群が7.0%、325mg群は11.1%で発生した。また、81mg群に比べ、325mg群は用量変更の頻度が高く(7.1% vs.41.6%)、割り付けられた用量のアスピリン曝露日数中央値が短かった(650日[IQR:415~922]vs.434日[139~737])。 著者は、「用量を時変共変量とする感度分析では、325mgの投与を継続した患者は経時的にイベント発生率が低下したが、無作為化後の他の分析と同様に、この分析にも患者の行動や医師の見解、アウトカムに影響を及ぼす可能性のある有害事象など多くのバイアスの寄与が考えられる」としている。

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PCI後のDAPT終了後、クロピドグレル単剤が有効/Lancet

 経皮的冠動脈インターベンション(PCI)として薬剤溶出ステント(DES)留置術を施行され、6~18ヵ月の抗血小板薬2剤併用療法(DAPT)を受けた後、抗血小板薬単剤による長期の維持療法を要する患者において、クロピドグレルはアスピリンと比較して、死亡や血栓性疾患、出血を含む複合エンドポイントのリスクが低いことが、韓国・ソウル大学病院のBon-Kwon Koo氏らが実施した「HOST-EXAM試験」で示された。Lancet誌オンライン版2021年5月16日号掲載の報告。韓国37施設の非盲検無作為化試験 本研究は、韓国の37施設が参加した医師主導の非盲検無作為化試験であり、2014年3月~2018年5月の期間に患者登録が行われた(韓国・ChongKunDangなどの助成による)。 対象は、年齢20歳以上、DESによるPCI施行後に、臨床的イベントを発症することなく6~18ヵ月のDAPTを終了した患者であった。虚血性および大出血性の合併症を有する患者は除外された。 被験者は、長期維持療法期の抗血小板薬単剤療法として、クロピドグレル(75mg、1日1回)またはアスピリン(100mg、1日1回)の経口投与を受ける群に、1対1の割合で無作為に割り付けられた。投与期間は24ヵ月間であった。 主要エンドポイントは、全死因死亡、非致死的心筋梗塞、脳卒中、急性冠症候群(ACS)による再入院、BARC(Bleeding Academic Research Consortium)出血基準タイプ3以上の複合とされ、intention-to-treat解析が行われた。血栓関連エンドポイントや全出血も良好 5,530例が登録され、このうち5,438例(98.3%)が無作為化の対象となった。クロピドグレル群に2,710例(49.8%)、アスピリン群に2,728例(50.2%)が割り付けられた。主要エンドポイントの確認は5,338例(98.2%)で完了した。 全体の平均年齢は63.5(SD 10.7)歳で、74.5%が男性であった。PCI施行時の診断名の割合は、安定狭心症が25.5%、不安定狭心症が35.5%、非ST上昇型心筋梗塞が19.4%、ST上昇型心筋梗塞が17.2%だった。 24ヵ月の追跡期間における主要エンドポイントの発生は、クロピドグレル群が152例(5.7%)と、アスピリン群の207例(7.7%)に比べ有意に良好であった(ハザード比[HR]:0.73、95%信頼区間[CI]:0.59~0.90、p=0.0035)。 血栓関連複合エンドポイント(心臓死、非致死的心筋梗塞、脳卒中、ACSによる再入院、ステント血栓症[definite/probable])の発生は、クロピドグレル群が99例(3.7%)、アスピリン群は146例(5.5%)で(HR:0.68、95%CI:0.52~0.87、p=0.0028)、全出血(BARCタイプ2以上)の発生は、それぞれ61例(2.3%)および87例(3.3%)であり(0.70、0.51~0.98、p=0.036)、いずれも有意な差が認められた。 著者は、「これまでの研究で、PCI施行後の長期維持療法期にどの抗血小板薬単剤療法が最良の臨床結果をもたらすかに関して重要な仮説が提起されてきたが、DESによるPCI施行後の安定した同質の患者集団を対象とした今回の研究により、大規模な無作為化試験で初めてこれらの知見を確認することができた」としている。

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トシリズマブとサリルマブ、重症COVID-19患者に有効/NEJM

 集中治療室(ICU)で臓器補助(organ support)を受けた重症の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)患者において、インターロイキン6(IL-6)受容体拮抗薬のトシリズマブとサリルマブによる治療は、生存を含むアウトカムを改善することが認められた。英国・インペリアル・カレッジ・ロンドンのAnthony C. Gordon氏らが、現在進行中の国際共同アダプティブプラットフォーム試験である「Randomized, Embedded, Multifactorial Adaptive Platform Trial for Community-Acquired Pneumonia:REMAP-CAP試験」の結果を報告した。重症COVID-19に対するIL-6受容体拮抗薬の有効性は、これまで不明であった。NEJM誌オンライン版2021年2月25日号掲載の報告。アダプティブプラットフォーム臨床試験でトシリズマブとサリルマブの有効性を評価 研究グループは、ICUで臓器補助開始後24時間以内のCOVID-19成人患者を、トシリズマブ(8mg/kg体重)群、サリルマブ(400mg)群、または標準治療(対照群)のいずれかに無作為に割り付けた。 主要評価項目は、21日以内の非臓器補助日数(患者が生存し、ICUで呼吸器系または循環器系の臓器補助を要しない日数)で、患者が死亡した場合は-1日とした。 統計にはベイズ統計モデルを用い、優越性、有効性、同等性または無益性の事前基準を設定。オッズ比>1は、生存期間の改善、非臓器補助期間の延長、あるいはその両方を示すものとした。標準治療と比較しトシリズマブ、サリルマブで非補助日数が増加、90日生存も改善 トシリズマブ群およびサリルマブ群のいずれも、事前に定義された有効性の基準を満たした。 解析対象は、トシリズマブ群353例、サリルマブ群48例、対照群402例であった。非臓器補助期間の中央値は、トシリズマブ群10日(四分位範囲:-1~16)、サリルマブ群11日(0~16)、対照群0日(-1~15)であった。対照群に対する補正後累積オッズ比中央値は、トシリズマブ群1.64(95%信頼区間[CI]:1.25~2.14)、サリルマブ群1.76(1.17~2.91)で、対照群に対する優越性の事後確率はそれぞれ99.9%、99.5%であった。 90日生存についても、トシリズマブ群とサリルマブ群のプール解析群で改善が認められ、対照群に対するハザード比は1.61(95%CI:1.25~2.08)、優越性の事後確率は99.9%超であった。 その他のすべての副次評価項目についても、これらIL-6受容体拮抗薬の有効性が支持された。

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冠動脈小血管に対するDCBとDESの長期成績(解説:上田恭敬氏)-1354

 径が3mm以下の冠動脈小血管に対するDCBとDESの成績を比較した、all-comerの無作為化非劣性試験であるBASKET-SMALL 2において、3年の長期成績が報告された。本試験では、1年でのDCBのDESに対する非劣性がすでに報告されている。 対象患者はDCB群382症例とDES群376症例であり、今回の解析では、3年間のMACE(心臓死、心筋梗塞、TVR)を主要評価項目としている。DAPT期間は、ACS症例では両群とも12ヵ月、非ACS症例ではDCB群で1ヵ月、DES群で6ヵ月が推奨された。DCB群の5%で、ベイルアウトのステント留置が必要であった。 MACE(15%、HR=0.99、p=0.95)、心臓死(5% vs.4%、HR=1.29、p=0.49)、心筋梗塞(6%、HR=0.82、p=0.52)、TVR(9%、HR=0.95、p=0.83)のいずれにおいても、DCB群とDES群の群間に差を認めなかった。ステント血栓症、major bleedingにも有意差を認めなかった。DESとしてTaxus ElementとXienceが用いられているが、DCBとXienceの成績にも差はなさそうである。すなわち、3年の長期にわたって、DESと同等のDCBの成績が示されたことになる。 本試験の結果から判断すると、3mm以下の冠動脈小血管に対しては、DCBとDESは同等、あるいはステントレスである(体内留置異物がない)こととDAPT期間を短くできることを加味すれば、DESよりもDCBが優れているようにも思われる。ただし、ステントを必要としない良好な拡張が得られることが必要である。もう一つ、血管の開存・虚血の解除という点で、必ずしもDCBとDESが同等とは限らないことに注意が必要である。3mm以下の小血管では再狭窄が必ずしもTVRにつながらない可能性が、3mm以上の血管よりも大きいであろう。このことは理解したうえで、「径が3mm以下の冠動脈小血管」に対しては、DESと同等のDCBの有用性・安全性が確認された結果といえる。

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消化性潰瘍の予防法が明確に-『消化性潰瘍診療ガイドライン2020』

 消化性潰瘍全般の国内有病率は減少傾向を示す。しかし、NSAIDs服用患者や抗凝固薬、抗血小板薬服用患者の潰瘍罹患率は増加の一途をたどるため、非専門医による予防対策も求められる。これらの背景を踏まえ、今年6月に発刊された『消化性潰瘍診療ガイドライン2020』(改訂第3版)では、「疫学」と「残胃潰瘍」の章などが追加。また、NSAIDs潰瘍と低用量アスピリン(LDA:low-dose aspirin)潰瘍の予防に対するフローチャートが新たに作成されたり、NSAIDsの心血管イベントに関する項目が盛り込まれたりしたことから、ガイドライン作成委員長を務めた佐藤 貴一氏(国際医療福祉大学病院消化器内科 教授)に、おさえておきたい改訂ポイントについてインタビューを行った(zoomによるリモート取材)。消化性潰瘍診療ガイドライン2020で加わった内容 消化性潰瘍診療ガイドライン2020では、主に治療や予防に関する疑問をCQ(clinical question)28項目、すでに結論が明らかなものをBQ(background question)61項目、今後の研究課題についてFRQ(future research question)1項目に記載し、第2版より見やすい構成になっている。CQとFRQにはそれぞれ「出血性潰瘍の予防」「虚血性十二指腸潰瘍の治療法」に関する内容が加わった。佐藤氏は、「NSAIDs潰瘍やLDA潰瘍の治療、とくに予防においてはフローチャートに基づき、プロトンポンプ阻害薬(PPI)による適切な対応をしていただきたい」と話した。 続いて、高齢者診療で慢性胃炎、他剤の副作用回避のために処方されることが多いPPIやヒスタミン2受容体拮抗薬(H2RA)の長期処方時に注意すべきポイントについては、「PPI服用による、肺炎、認知症、骨折などの有害事象が観察研究では危惧されているが、昨年報告された3年間にわたるPPIとプラセボ投与の大規模無作為化試験1)で有意差が見られたのは腸管感染症のみだった。とはいえ、必要以上に長期にわたってPPIを投与するのは避けるべき」と漫然処方に対し注意喚起した。一方で、H2RAは、せん妄など中枢神経系の副作用が高齢者でみられることが報告され注意が必要なため、「PPIやH2RAの有害事象を今後のガイドラインに盛り込むかどうか検討していきたい」とも話した。消化性潰瘍診療ガイドライン2020で強く推奨された服用例 H.pylori陰性、NSAIDsの服用がない患者で生じる特発性潰瘍は増加傾向を示し、2000~03年の潰瘍全体の中の頻度は約1~4%であったのが、2012~13年には12%となっている。同じくLDA服用者において、Nakayama氏ら2)が2000~03年と2004~07年の出血性潰瘍症例を比較した結果、 LDA服用者の比率が9.9%から18.8% へと有意に増加(p=0.0366)していたことが明らかになった。この背景について、同氏は「LDA服用例に消化性潰瘍や出血性潰瘍の予防がなされていなければ、それらの患者はさらに増加する恐れがある。LDA服用例の出血性胃潰瘍症例は2000年代前半より後半で有意に増加したと報告されている」とし、「すでに循環器内科医の多くの方はPPIを用いた潰瘍予防を行っている。今後は消化性潰瘍既往のある患者はもちろん、既往のない場合は保険適用外のため個別の症状詳記が必要になるが、高齢者にはPPI併用による潰瘍予防策を講じていただきたい」と話した。消化性潰瘍診療ガイドラインでは、抗血小板2剤併用療法(DAPT)時にPPI併用による出血予防を行うよう強く推奨している。消化性潰瘍診療ガイドライン2020でおさえておきたい項目 今回の消化性潰瘍診療ガイドライン2020の改訂でおさえておきたいもう1つのポイントとして、「BQ5-13:NSAIDsは心血管イベントを増加させるか?」「CQ5-14:低用量アスピリン(LDA)服用者におけるCOX-2選択的阻害薬は通常のNSAIDsより潰瘍リスクを下げるか?」の項目がある。NSAIDsの心血管イベントの有害事象については、これまでナプロキセン(商品名:ナイキサン)服用者のリスクが低いとされてきた。しかし、今回の文献検討では必ずしもそうではなかったと同氏は話した。「潰瘍出血のNSAIDsとLDA服用例で、セレコキシブ(商品名:セレコックス)+PPI群とナプロキセン+PPI併用群の上部消化管出血再発を比較したRCT3)では、セレコキシブ群で再発率が有意に低く心血管イベントの発生には差を認めなかったため、LDA服用の心血管疾患例でNSAIDs併用投与時にはセレコキシブ+PPIが有用」と説明。また、セレコキシブの添付文書には心血管疾患者への投与は禁忌とあるが、これは冠動脈バイパス術の周術期患者のみに該当し、そのほかの心血管患者は慎重投与であることから、個々の患者の状態に応じた柔軟な治療選択を提唱した。消化性潰瘍診療ガイドライン2020の治療フローチャート このほか、消化性潰瘍の治療フローチャートには治療に残胃潰瘍、特発性潰瘍の診断が消化性潰瘍診療ガイドライン2020に追加された。残胃潰瘍とは、外科的胃切除術後の残胃に生じる潰瘍を示す病態だが、現時点では有病率のデータはない。同氏は「近年では残胃で潰瘍を経験するなど実臨床で遭遇する機会が増えているため、新たに章立てしフローチャートに追加した。胃亜全摘術後の胃と小腸の吻合部分の潰瘍は吻合部潰瘍として知られており、これまで吻合部潰瘍が取り上げられていた。しかし、吻合部だけでなく、残胃内に潰瘍が生じることが多いため、今回取り上げた。その中にはNSAIDs潰瘍もあるが、ピロリ陽性、陰性の潰瘍もある」とコメントした。 最後に佐藤氏は「日常診療において、ピロリ菌除菌時に処方される薬剤、とくにクラリスロマイシンは併用注意薬や併用禁忌薬が多い。そのため、患者の紹介を受けた際には常用薬に該当薬剤が含まれていないか注意しながら治療選択を進めている」と、消化器潰瘍の診察時ならではの見逃してはいけないポイントを話した。

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PCI後プラスグレルのde-escalation法、出血リスクを半減/Lancet

 経皮的冠動脈インターベンション(PCI)を行った急性冠症候群(ACS)患者に対し、術後1ヵ月間プラスグレル10mg/日を投与した後、5mg/日に減量する、プラスグレルをベースにしたde-escalation法は、1年間のネット有害臨床イベントを低減することが、韓国・ソウル大学病院のHyo-Soo Kim氏らが同国35病院2,338例を対象に行った「HOST-REDUCE-POLYTECH-ACS試験」の結果、示された。イベントリスクの低減は、主に虚血の増大のない出血リスクの減少によるものであった。PCI後のACS患者には1年間、強力なP2Y12阻害薬ベースの抗血小板2剤併用療法(DAPT)が推奨されている。同療法では早期の段階において薬剤の最大の利点が認められる一方、その後の投与期には出血の過剰リスクが続くことが知られており、研究グループは、抗血小板薬のde-escalation法が虚血と出血のバランスを均衡させる可能性があるとして本検討を行った。Lancet誌2020年10月10日号掲載の報告。韓国35病院で2,338例を無作為化、有害臨床イベント発生を比較 HOST-REDUCE-POLYTECH-ACS試験は、韓国35病院で行われた多施設共同無作為化非盲検非劣性試験。PCIを実施したACS患者を1対1の割合で無作為に2群に割り付け、全例に術後1ヵ月間プラスグレル10mg/日+アスピリン100mg/日を投与した後、一方の群ではプラスグレルを5mg/日に減量(de-escalation群)、もう一方の群には10mg/日を継続投与した(対照群)。 主要エンドポイントは、1年時点のネット有害臨床イベント(総死亡、非致死的心筋梗塞、ステント血栓症、血行再建術の再施行、脳卒中、BARC出血基準2以上の出血)の発生で、絶対非劣性マージンは2.5%とした。 主な副次エンドポイントは、有効性アウトカム(心血管死、心筋梗塞、ステント血栓症、虚血性脳卒中)と安全性アウトカム(BARC出血基準2以上の出血)だった。de-escalation群、虚血リスクの増大なし、出血リスクは半減 2014年9月30日~2018年12月18日に3,429例がスクリーニングを受け、うち1,075例がプラスグレル適応基準を満たさず、16例が無作為化エラーにより除外され、2,338例がde-escalation群(1,170例)、対照群(1,168例)に割り付けられた。 ネット有害臨床イベントの発生は、de-escalation群82例(Kaplan-Meier法による予測値:7.2%)、対照群116例(10.1%)で、de-escalation群の非劣性が示された(絶対リスク差:-2.9%、非劣性のp<0.0001、ハザード比[HR]:0.70[95%信頼区間[CI]:0.52~0.92]、同等性のp=0.012)。 de-escalation群は対照群に比べ、虚血のリスク増大はみられず(HR:0.76、95%CI:0.40~1.45、p=0.40)、出血イベントリスクは有意に減少した(0.48、0.32~0.73、p=0.0007)。

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遺伝子型ガイドのP2Y12阻害薬選択は本当に無効なのか?(解説:中川義久氏)-1288

 血小板凝集では、周囲からの刺激に反応してADPが血小板から放出され、これが血小板のADP受容体P2Y12を介してさらなる血小板凝集の連鎖を引き起こす。この受容体へのADPの結合を阻害し、血小板の凝集と血栓の形成を抑制する代表的な薬剤がチエノピリジン系抗血小板薬である。BMSが導入された時期には、第1世代チエノピリジン系抗血小板薬のチクロピジンのみであった。現在では副作用の発生頻度がチクロピジンよりも少ない第2世代チエノピリジン系薬剤であるクロピドグレルが多く使用されている。クロピドグレルは肝臓のCYP2C19で代謝されて活性化するが、CYP2C19の遺伝子多型により薬効が異なる。代謝能の低い遺伝子型である機能喪失型(loss-of-function:LOF)を持つ患者では効きが弱い、すなわち血小板凝集が十分に抑制されない。プラスグレルは第3世代のチエノピリジン系薬剤である。チカグレロルはADP受容体阻害薬ではあるが、チエノピリジン系ではなく、シクロペンチルトリアゾロピリミジン系薬剤に分類される。この新規のADP受容体阻害薬である、プラスグレルとチカグレロルは、CYP2C19遺伝子多型による低反応性はない。 PCI後の抗血小板薬の選択を、CYP2C19のLOFの有無に基づいて行う「TAILOR-PCI試験」の結果が2020年8月25日付のJAMA誌に掲載された。これは3月のACC.20/WCCのLate-Breaking Clinical Trialsセッションで発表された内容が論文化されたものである。 遺伝子型ガイド群ではCYP2C19のLOF保有者にはチカグレロルを、従来治療群にはクロピドグレルを投与している。LOF保有者のみを解析対象としている。全患者にアスピリンが投与され、DAPTが継続されている。12ヵ月時点の心血管死・心筋梗塞・脳卒中・ステント血栓症・重度虚血再発の複合で定義される主要評価項目は、遺伝子型ガイド群で4.0%、従来治療群で5.9%に認められ、ハザード比:0.66、p=0.06と有意差はなかった。副次評価項目である出血イベントにも有意差は認められなかった。本研究の公式の解釈は、遺伝子型ガイドのP2Y12阻害薬の選択戦略は無効ということになる。 しかし、本当に遺伝子型ガイドによる個別化した治療戦略に意味がないと言い切ってもよいであろうか? 本試験の後付け解析ではあるが、初期3ヵ月に限ればハザード比:0.21、p=0.001と、遺伝子型ガイドが主要評価項目の発生を8割近く抑制している。イベント発生のリスクの高い時期でなければ差異は表出されない可能性がある。この研究が計画されたのは2012年であり、2013~18年と6年間も時間を要している。この間にDESは進化し、植込み技術の向上も相まってステント血栓症は激減した。このイベント率の低下によって研究デザインのパワーが不足することになった可能性もある。 PCI術後にDAPTを中止し単剤とする場合に、アスピリンを中止しADP受容体阻害薬のみを継続する方向への動きがある。またDAPT期間そのものが短縮化している。その代表的な研究がSTOPDAPT-2試験(Watanabe H, et al. JAMA. 2019;321:2414-2427.)である。単剤投与であれば、一層と遺伝子型ガイドによって有効な薬剤を選択する価値が高まる可能性もある。 少なくとも、この「TAILOR-PCI試験」の結果から、遺伝子型ガイドによるP2Y12阻害薬を選択する治療戦略には意味がないと、結論付けることはできない。CYP2C19のLOF保有者が多いとされる日本から決着をつける研究が望まれる。

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抗凝固薬非適応TAVI例、アスピリン単独 vs.DAPT/NEJM

 経口抗凝固薬の適応がない経カテーテル大動脈弁留置術(TAVI)を受けた患者では、3ヵ月間のアスピリン投与はアスピリン+クロピドグレル併用に比べ、1年後の出血や出血・血栓塞栓症の複合の発生が有意に少ないことが、オランダ・St. Antonius病院のJorn Brouwer氏らが実施したPOPular TAVI試験のコホートBの検討で示された。研究の成果は、NEJM誌オンライン版2020年8月30日号に掲載された。長期の抗凝固療法の適応のない患者におけるTAVI後の出血や血栓塞栓症イベントに及ぼす効果について、抗血小板薬2剤併用(DAPT)と比較した1剤の検討は十分に行われていないという。抗凝固薬非適応の患者のTAVI施行後3ヵ月間に抗血小板薬投与 本研究は、欧州の17施設が参加した医師主導の非盲検無作為化試験であり、2013年12月~2019年3月の期間に患者登録が行われた(オランダ保健研究開発機構の助成による)。 対象は、TAVIが予定されており、長期の経口抗凝固薬投与の適応のない患者であった。被験者は、TAVI施行後の3ヵ月間に、抗血小板薬アスピリン単独(80~100mg、1日1回)またはアスピリン(80~100mg、1日1回)+クロピドグレル(75mg、1日1回)の抗血小板薬2剤併用の投与を受ける群に、1対1の割合で無作為に割り付けられた。 主要アウトカムは、12ヵ月以内の全出血(小出血、大出血、生命を脅かす/障害を伴う出血)、および非手技関連出血の2つであった。TAVI穿刺部位出血の多くは非手技関連出血とされた。副次アウトカムは、1年後の心血管死、非手技関連出血、脳卒中、心筋梗塞の複合(第1複合副次アウトカム)、および心血管死、脳梗塞、心筋梗塞の複合(第2複合副次アウトカム)の2つの非劣性(非劣性マージン7.5%ポイント)および優越性とした。抗凝固薬非適応TAVI例は抗血小板薬1剤で出血イベントが有意に少ない 抗凝固薬の適応のない患者のTAVI施行665例が登録され、アスピリン単独の抗血小板薬1剤群に331例、アスピリン+クロピドグレルの抗血小板薬2剤併用群には334例が割り付けられた。全体の平均年齢は80.0±6.3歳、女性が48.7%であった。 出血イベントは、アスピリン単独群では50例(15.1%)、併用群では89例(26.6%)に認められ、単独群で有意に少なかった(リスク比[RR]:0.57、95%信頼区間[CI]:0.42~0.77、p=0.001)。また、非手技関連出血は、それぞれ50例(15.1%)および83例(24.9%)にみられ、単独群で有意に少なかった(0.61、0.44~0.83、p=0.005)。 第1複合副次アウトカムは、単独群で76例(23.0%)、併用群では104例(31.1%)に発現し、単独群の併用群に対する非劣性(群間差:-8.2%、95%CI:-14.9~-1.5、非劣性のp<0.001)および優越性(RR:0.74、95%CI:0.57~0.95、優越性のp=0.04)が確認された。 第2複合副次アウトカムは、それぞれ32例(9.7%)および33例(9.9%)で発現し、単独群の併用群に対する非劣性(群間差:-0.2%、95%CI:-4.7~4.3、非劣性のp=0.004)は認められたが、優越性(RR:0.98、95%CI:0.62~1.55、p=0.93)は示されなかった。 試験期間中に、経口抗凝固薬の投与を開始したのは、アスピリン単独群が44例(13.3%)、アスピリン+クロピドグレル併用群は32例(9.6%)で、TAVI施行後の投与期間中央値はそれぞれ12日(IQR:4~59)および6日(3~66)だった。経口抗凝固薬開始の主な理由は、心房細動の新規発症であった。 著者は、「これらの結果は、大出血の発生(2.4% vs.7.5%、RR:0.32、95%CI:0.15~0.71)の差が、主な要因であった」としている。

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