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慢性リンパ性白血病〔CLL : chronic lymphocytic leukemia〕

1 疾患概要■ 定義慢性の小型成熟Bリンパ球の単クローン性の腫瘍であり、末梢血、骨髄、リンパ節で増殖する。リンパ節外の病変はなく、末梢血では5,000/mm3以上の腫瘍細胞が観察される。通常腫瘍細胞はCD5とCD23との両者を発現する。■ 疫学欧米の成人の白血病のなかでは最も多く、10万人当たり3.9人の発症率であるが、東アジアでは少なく、日本では、およそ0.48人とする報告がある1)。欧米のアジア系移民でも少ないので、遺伝的素因が考えられている。■ 病因他の白血病、リンパ性腫瘍と同様、ゲノム異常によると考えられている。第13番染色体のmiR 15、16の欠失によるBCL2の活性化を始めとして、NOTCH1、MYD88、TP53、ATM、SF3B1などの遺伝子異常が複数関与している2)。■ 症状多くはまったく無症状であり、血液検査による異常値で発見される。一部、リンパ節腫脹、肝脾腫、体重減少、発熱、全身倦怠感、貧血症状を呈する例や繰り返す感染症から発見される例がある。また頻度は低いが、自己免疫性溶血性貧血、赤芽球癆、自己免疫性血小板減少症、無顆粒球症、低γグロブリン血症を合併することが知られている。■ 分類近縁疾患に、単クローン性B細胞リンパ球増加症(monoclonal B-cell lymphocytosis: MBL)と小リンパ球性リンパ腫(small lymphocytic lymphoma : SLL)がある。MBLは、健常人に認められるモノクローナルなBリンパ球の増殖である。臨床症状はなく、Bリンパ球は、CLLと同様の細胞表面抗原を呈していることが多いが、5,000/μL以下であるのでCLLの定義は満たさない。CLLへ進行することが知られている。SLLは、末梢血や骨髄への浸潤がないCLLと同一の腫瘍と考えられ病期や治療は低悪性度B細胞リンパ腫として扱われる。■ 予後一般に緩徐な経過をたどることが知られているが、初回診断時からの生存期間は症例により2~20年と大きなばらつきがあり、生存期間中央値は約10年といわれている。そのため治療開始時期の決断が困難であり、病勢を評価し、予後を予測するための臨床病期分類がいくつか報告されている。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)■ 診断基準末梢血中のリンパ球絶対数が3ヵ月以上にわたって、継続的に5,000/mm3を超えている。末梢血塗抹標本では、細胞質をほとんど持たない成熟小型リンパ球が一様に増加しており、フローサイトメトリーで、Bリンパ球がモノクローナルに増殖している。細胞表面抗原は、Tリンパ球抗原であるCD5およびBリンパ球抗原であるCD19、CD20、CD23が発現している。細胞表面免疫グロブリンやCD20の発現レベルは、正常Bリンパ球に比べて低いことが多い。免疫グロブリン軽鎖はκ型またはλ型のいずれかのみを発現している。■ 鑑別診断リンパ球数が増加する他の疾患との鑑別が問題となる。結核、梅毒、伝染性単核球症、百日咳、トキソプラズマ症などの感染症では、リンパ球増多を呈するが、いずれも反応性であり数週間で正常化する。CLL以外のリンパ増殖性疾患との鑑別も重要であり、hairy cell leukemia、prolymphocytic leukemia、large granular cell lymphocyte leukemia、mantle cell lymphomaを代表とする、リンパ腫の白血化などがある。■ 病期分類現在広く使われている病期分類には2種類ある。Rai分類(表1)は米国で、Binet分類(表2)は欧州で用いられており、リンパ節病変数および貧血、血小板減少の有無により分類する。画像を拡大する画像を拡大する■ その他の予後予測因子RaiおよびBinet分類により予後分類を行うが、low risk群に分類された症例のなかでも急速に進行する例がある。そのため、分子生物学的研究により、新たな予後因子も近年では提唱されている。(1)短いLymphocyte doubling time(LDT)(2)高い血清マーカー(LDH、β2 microglobulin、β2M)(3)免疫グロブリン重鎖変異(IgVH mutation)がない(4)CD38陽性(5)ZAP70(Zeta chain associated protein 70)が発現している(6)細胞遺伝学的検査での11q欠失・17p欠失が予後不良とされる。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)■ 治療開始時期Rai分類low risk群およびBinet分類A群の症例では、診断早期の治療が推奨されない。Rai分類intermediate・high risk群およびBinet分類B・C群の症例で治療開始が勧められる。ただし、intermediate risk群・B群においては、症状の出現まで経過観察が一般的である。一方で、リヒター症候群と呼ばれるトランスフォームを起こし、急速にリンパ節腫大を生じ、予後不良となることがある。無治療経過観察中に一転して、治療が無効となるので、患者説明の際に留意する。■ 治療薬剤現状ではCLLに対する標準治療は確立されていない。治療の選択肢が広がり、アルキル化剤に加えプリンアナログ、モノクローナル抗体が登場している。1)アルキル化剤クロラムブチルは、わが国では本疾患には未承認である。単剤治療について奏効率は40~60%で、完全寛解(complete response:CR)は4~10%であった3)。わが国では、シクロホスファミド(商品名: エンドキサン)が使用される。差違はほとんどないとされており、伝統的に併用療法中で用いられることが多いが、アントラサイクリンを加えるメリットはない4)。2)プリンアナログフルダラビンは(同: フルダラ)、わが国では静注薬に加え経口薬も承認されており、同等の効果が知られている。北米のintergroup studyでの、未治療CLLに対するフルダラビン単剤治療の第III相比較試験の結果5)では、奏効率60~70%であり、CR率も20~40%と良好なものであった。奏効率は有意差をもってクロラムブチルに優っており、無増悪生存期間(PFS)も有意に延長していた。しかし、クロスオーバーデザインであったためか、生存率の有意差は得られていない。3)モノクローナル抗体CD20に対する抗体のリツキシマブ(同: リツキサン)は、CLLに対しては単剤では奏効率10~15%と結果は乏しい6)。毒性として輸注関連反応が強く出現する可能性がある。オファツムマブ(同: アーゼラ)は、再発・難治性の場合に使用される。リツキシマブに比べてCD20エピトープに高い親和性で結合することと、結合後の解離速度が遅いことが特徴である7)。CD52に対するモノクローナル抗体であるアレムツズマブ(同:マブキャンパス)も再発・難治性の場合に用いられる。クロラムブチルとの第III相比較試験が行われ、奏効率83%、CR率24%でより高かったが、T細胞も抑制するためサイトメガロウイルスを始めとするウイルス感染の管理が重要である8)。4)併用療法フルダラビンとシクロホスファミドとの併用(FC療法)は、奏効率80~90%、CR率30~40%とフルダラビン単剤と比較して有効性が高い。PFSも有意に延長していたが、全生存期間(OS)については、観察期間が短い影響か、有意差は認められていない9)。フルダラビンとリツキシマブの併用(FR療法)も同様にフルダラビン単剤と比較して優れていることが示されている。リツキシマブとフルダラビンの同時投与法と連続的投与法の比較では、前者で奏効率90%(CR率47%)、後者で77%(CR率28%)であり、同時投与法が有意に優れていた10)。さらにフルダラビン、シクロホスファミド、リツキシマブの3剤併用(FCR療法)は、FC療法と比較され、CR率、OSで有意に優れていた11)。5)新規抗がん剤ベンダムスチン(同:トレアキシン)は、アルキル化剤とプリンアナログの両者の作用特徴を有する静注薬である。悪性リンパ腫に対する有効性が報告されているが、CLLに対しても第III相比較試験にてクロラムブチルよりも優れた有効性を示している12)。わが国でも、再発例に対して承認申請され認可待ちである(平成28年5月末現在)。BTKシグナルの抑制薬であるイブルチニブ(同:インブルビカ)が欧米だけではなく、わが国でも再発・難治例に対して承認され、米国ではPI3Kδを抑える idelalisibが認可されている。いずれも経口薬である。イブルチニブ13)は、オファツムマブに対して第III相比較試験で有効性のため中途終了、 idelalisibはリツキシマブ単独に比べて14)リツキシマブとの併用療法でPFSで優っていた。さらに高齢化などのために全身状態の悪い症例でchlorambucilとの併用で、あらたなCD20抗体であるobinutuzumab(GA101)は、リツキシマブよりPFSで有意に優っており15)、米国で承認されている。6)造血幹細胞移植若年者を主体に治癒を目指して同種造血幹細胞移植が行われ、40~50%の長期生存が報告されている。リツキシマブ、フルダラビン、ベンダムスチンを用いた骨髄非破壊的前処置を用いた移植成績は、第II相比較試験の結果ではきわめて良好であった16)。■ 合併症治療CLL患者では、正常リンパ球が低下しており、免疫不全状態にあることが多く、感染症の合併には常に注意を払う必要がある。P. jiroveciによるニューモシスチス肺炎、CMV感染、帯状疱疹を発症する危険性が高く、ST合剤や抗ウイルス薬の予防内服を検討する。4 今後の展望わが国でも米国発の経口薬である新薬が、使用できるように期待したい。5 主たる診療科血液内科、血液腫瘍科、血液・腫瘍科、造血器科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)アメリカ国立がん研究所のCLLの総合情報のページ(医療従事者向けの情報)1)Tamura K, et al. Eur J Haematol.2001;67:152-157.2)Puente XS, et al. Nature.2011;475:101-105.3)Dighiero G, et al. N Engl J Med.1998;338:1506-1514.4)CLL Trialists' Collaborative Group. J Natl Cancer Inst.1999;91:861-868.5)Rai KR, et al. N Engl J Med.2000;343:1750-1757.6)O'Brien SM, et al. J Clin Oncol.2001;19:2165-2170.7)Cheson BD. J Clin Oncol.2010;28:3525-3530.8)Lemery SJ, et al. Clin Cancer Res.2010;16:4331-4338.9)Flinn IW, et al. J Clin Oncol.2007;25:793-798.10)Byrd JC, et al. Blood.2005;105:49-53.11)Tam CS, et al. Blood.2008;112:975-980.12)Hillmen P, et al. J Clin Oncol.2007;25:5616-5623.13)Byrd JC, et al. N Engl J Med.2013;369:32-42.14)Furman RR, et al. N Engl J Med.2014;370:997-1007.15)Goede V, et al. N Engl J Med.2014;370:1101-1110.16)Kahr WH, et al. Blood.2013;122:3349-3358.公開履歴初回2014年07月01日更新2016年06月21日

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中枢神経系作用薬による高齢者入院リスクは

 認知障害に対する中枢神経系(CNS)作用薬の効果を評価したほとんどの研究は、個々の薬剤使用に焦点を当ててきた。他のCNS作用薬を追加した際の認知機能への影響は、よくわかっていない。南オーストラリア大学のLisa M Kalisch Ellett氏らは、CNS作用薬の併用薬剤数および標準用量(1日用量)の増加と高齢患者における錯乱、せん妄、認知症による入院リスクとの関連を検討した。Journal of the American Medical Directors Association誌2016年6月1日号の報告。 2011年7月~2012年6月までのhealth claimsデータを用いた、後ろ向きコホート研究。対象は、試験開始前に少なくとも年1回はCNS作用薬を使用した、65歳以上のオーストラリア住民7万4,321例。錯乱、せん妄、認知症、緩和ケアを受けるための入院歴のある患者は除外された。主要アウトカムは、錯乱、せん妄、認知症による入院とした。 主な結果は以下のとおり。・1年間の研究期間中、401例が錯乱、せん妄、認知症のために入院した。・調整後の分析による入院リスクは、CNS作用薬未使用患者と比較し、2剤使用していた患者では、2.4倍(発生率比[IRR]:2.39、95%CI:1.79~3.19、p<0.001)、5剤以上使用していた患者で19倍以上(IRR:19.35、95%CI:11.10~33.72、p<0.001)であった。・同様に、入院リスクは、未使用患者と比較し、標準1日用量が1.0~1.9(IRR:2.64、95%CI:1.99~3.50、p<0.001)および2.0~2.9(IRR:3.43、95%CI:2.07~5.69、p<0.001)で有意に増加していた。 著者らは「CNS作用薬の多剤併用または高用量での使用は、錯乱、せん妄、認知症による入院リスク増加と関連していた。専門医は、錯乱やせん妄を呈した患者におけるCNS作用薬の影響を考慮し、治療負担を軽減しうる治療戦略を検討する必要がある」とまとめている。関連医療ニュース せん妄治療への抗精神病薬投与のメタ解析:藤田保健衛生大 認知症者への抗精神病薬投与の現状は 注意が必要、高齢者への抗コリン作用

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ESS留置後のDAPT、6ヵ月と12ヵ月の比較

 薬剤溶出ステント(DES)留置後は、ステント血栓症を防ぐため、12ヵ月間の抗血小板薬2剤併用療法(dual antiplatelet therapy:DAPT)が推奨されている。近年の無作為化試験では、新世代のDES留置後のDAPTの3~6ヵ月投与は12ヵ月投与と同等の成績が得られることが報告されており、また新世代DESの死亡、心筋梗塞、ステント血栓症のリスクがベアメタルステントや第1世代のDESと比べて低いことも示唆されている。しかし、新世代のエベロリムス溶出ステント留置後のDAPTの最適な投与期間について、適切に計画、実施された試験は少ない。 今回、韓国の20施設で、エベロリムス溶出ステント(商品名:Xience Prime)留置後のDAPT 6ヵ月投与を12ヵ月投与と比較する医師主導型の前向き無作為化試験が実施され、JACC Cardiovascular Interventions誌オンライン版2016年5月11日号に発表された。主要評価項目に有意差なし 本試験では、2010年10月~2014年7月の間に、エベロリムス溶出ステントを留置した1,400例(平均ステント長45mm超)のうち、699例をDAPT(アスピリン100mg/日とクロピドグレル75mg/日)6ヵ月投与群に、701例を12ヵ月投与群に無作為に割り付けた。 主要評価項目は1年後の心臓関連死亡、心筋梗塞、脳卒中、およびTIMI基準による大出血の複合とし、intention-to-treatを用いて解析を行った。 主要評価項目の発生は、6ヵ月群で15例(2.2%)、12ヵ月群で14例(2.1%)であった(HR:1.07、p=0.854)。definiteもしくはprobableのステント血栓症は6ヵ月群で2例(0.3%)、12ヵ月群でも2例(0.3%)発症した(HR:1.00、p=0.999)。686例の急性冠動脈症候群の患者(両群とも2.4%、HR:1.00、p=0.994)と糖尿病を有する506例(6ヵ月群 2.2% vs. 12ヵ月群 3.3%、HR:0.64、p=0.428)の間で、主要評価項目の有意な差は認められなかった。 2014年にThe New England Journal of Medicine誌に発表された大規模無作為化試験であるDAPT試験では、新世代のDES後でも12ヵ月を超えるDAPTの有用性が示されており、DAPTの最適な使用期間については答えが出ていない。報告者らは、今後、大規模な無作為化試験での1年超の追跡が必要であると結論付けている。(カリフォルニア大学アーバイン校 循環器内科 河田 宏)関連コンテンツ循環器内科 米国臨床留学記

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米国医師の年収格差、男女間で1千万円強/BMJ

 米国医師の年収について、男性医師では人種間(白人と黒人)に有意な格差がみられる一方、女性医師では人種間に有意差はみられないが、全体的に男性医師よりも有意に低いことが、米国ハーバード・メディカル・スクールのDan P Ly氏らによる断面サーベイ調査の結果、明らかにされた。結果について著者は、「さらなる検討を行い、これらの格差が、就業機会の格差によって生じているのかを調べる必要がある」と提言している。米国社会では、黒人と白人の経済格差がみられるが、医師に関する人種間格差については限定的な推察にとどまっていたという。BMJ誌オンライン版2016年6月7日号掲載の報告より。全米医師を対象にした2つのサーベイで分析 調査は、全米の代表的なサンプル医師を含んだ2000~13年全米コミュニティ・サーベイ(American Community Survey:ACS)の対象者で、白人男性医師4万3,213人、黒人男性医師1,698人、白人女性医師1万5,164人、黒人女性医師1,252人。また、2000~08年保健制度改革研究センター(Center for Studying. Health System Change:HSC)のサーベイ対象医師で、白人男性医師1万2,843人、黒人男性医師518人、白人女性医師3,880人、黒人女性医師342人であった。 主要評価項目は年収で、ACS対象者については年齢、労働時間、調査年、居住状況を補正して算出。HSC医師サーベイ対象者については、年齢、専門分野、労働時間、調査年、診療経験、診療タイプ、メディケア/メディケイドからの収入が占める割合を補正して算出し、評価した。白人と黒人の男性医師の年収差は6万ドル、男性と女性の年収差は10万ドル 白人男性医師は、黒人男性医師よりも、年収中央値が有意に高かった。一方で、女性医師の収入中央値について、人種との関連性は一貫して認められなかった。 具体的には、ACS対象者では、白人男性医師の補正後年収中央値は25万3,042ドル(95%信頼区間[CI]:24万8,670~25万7,413ドル)であったのに対し、黒人男性医師は18万8,230ドル(同:17万844~20万5,616ドル)であった(差:6万4,812ドル、p<0.001)。 一方、白人女性医師は16万3,234ドル(95%CI:15万9,912~16万6,557ドル)で、黒人女性医師は15万2,784ドル(同:13万7,927~16万7,641ドル)であり、有意な差はなかった(差:1万450ドル、p=0.17)。 10万ドルは、換算すると約6万9,000ポンド(8万9,000ユーロ)である。格差のパターンについて、HSC医師サーベイ対象者で専門性や診療特性で補正して調べたが、変化はみられなかった。

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喫煙者は被害者!?

喫煙者は被害者?! 禁煙化が進む欧米では、喫煙者をタバコの被害者と見なし、その救済に社会全体で取り組む姿勢を見せています。 ニコチン依存症は、社会が責任を持って治療支援すべき疾患であるという考えの下、政府が無料の電話相談窓口、クイットライン(Quitline)を設け、禁煙の支援を受けるよう促しています。タバコ販売店舗ではクイットラインの案内板表示が義務付けられている(オーストラリア)禁煙は治療です。積極的に支援を受け、禁煙に取り組みましょう!社会医療法人敬愛会 ちばなクリニック 清水 隆裕氏Copyright © 2016 CareNet, Inc. All rights reserved.

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Vol. 4 No. 4 心房細動患者におけるDAPTを考える

掃本 誠治 氏熊本大学大学院生命科学研究部循環器内科学はじめに高齢化で増加している心房細動には、抗凝固薬が必須である。経皮的冠動脈インターベンション(PCI)施行症例、心筋梗塞、それぞれに合併する心房細動頻度は、海外では約10%、本邦では6~8%程度と報告されている1-3)。心房細動とステントを伴うPCIを合併すれば、DAPT+抗凝固薬の3剤併用と考えるが、出血リスクが上昇する4-6)。心房細動合併PCIあるいは急性冠症候群(ACS)患者に対する抗凝固薬と抗血小板薬の組み合わせは、原疾患による血栓塞栓症リスクと抗血栓薬による出血リスクの有効性と安全性を考慮することが重要である。WOEST試験WOEST試験7)は、心房細動や機械弁留置後に抗凝固薬を服用する患者で、冠動脈ステント挿入後、クロピドグレルと抗凝固薬の2剤併用群[経口抗凝固薬(ワルファリン)+クロピドグレル284例]と、抗血小板薬2剤併用療法(DAPT)と抗凝固薬の3剤併用群(ワルファリン+クロピドグレル+アスピリン289例)で、安全性と有効性を比較した試験で、平均年齢70歳、男性80%、抗凝固薬投与の理由として、心房細動が2剤併用群で69.5%、3剤併用群では69.2%、機械弁はそれぞれ10.2%と10.7%だった。結果として、1年間の出血イベントは、3剤併用群が有意に高値だった(3剤44.4% vs. 2剤19.4%)。また心血管イベントは、2剤併用群が有意に低かった(複合エンドポイント;1次エンドポイント+脳卒中+全死亡+心筋梗塞+ステント血栓症+標的血管再血行再建術;3剤併用群17.6% vs. 2剤併用群11.1%)。抗凝固薬を服用している患者でステント留置術を受けたとき、アスピリンを止めてチエノピリジン系抗血小板薬単剤と抗凝固薬の合計2剤にするというこれまでの発想とは異なることが不可能ではないことを示した意義は大きい。また、心房細動合併のステント留置術後の患者において、CREDO-Kyoto PCI/CABG Registryコホート2が日本の実情を表している3)。2005年~2007年、26施設、1,057例、退院時ワルファリン群506例(48%)、非ワルファリン群551例(52%)を5年間フォローし、脳卒中(虚血性、出血性)、全死亡、心筋梗塞、大出血を評価。非ワルファリン群は、高齢、急性心筋梗塞、頭蓋内出血、貧血が多く、男性、薬剤溶出性ステント(DES)、末梢動脈疾患(PAD)が少なかった。そもそも、心房細動があってもDAPTで上記の因子が複数あれば、臨床現場においてはワルファリンを躊躇するのかもしれない。脳卒中は、ワルファリン群と非ワルファリン群で有意差がなく、虚血性、出血性でも有意差はみられず、心筋梗塞は、ワルファリン群で少なかった。プロトロンビン時間国際標準比(PT-INR)治療域内時間(TTR)が65%以上群では、65%未満群に比し脳卒中発症率が低値だった。非弁膜症性心房細動(NVAF)ACSやPCI直後ではない非弁膜症性心房細動(NVAF)患者を対象として、本邦からJAST試験においてNVAF患者へのアスピリン150~200mg/日投与は、大出血が多く、無効と報告されている8)。海外では、ACTIVE W試験において、脳卒中リスクの高い心房細動患者に対し(17.4%に心筋梗塞既往)、DAPT(クロピドグレル+アスピリン)は、OAC(経口抗凝固薬)に比し心血管イベント抑制効果を示せなかった9)。さらに、NVAFでワルファリン不適合者に対するアスピリンとクロピドグレルのDAPTはアスピリン単独に比し脳梗塞抑制効果がみられたが、心筋梗塞死、血管死は差がなく、大出血イベントが多かった10)。以上の結果は、心房細動には抗血小板薬より抗凝固薬が必要であることを示している。ワルファリンのエビデンス冠動脈疾患には低用量アスピリンを終生投与するのが現在のガイドラインであるが、ワルファリンは50年以上日常臨床で使用されている薬剤で、急性心筋梗塞後のワルファリン vs. プラセボの大規模臨床研究でワルファリンの有効性が示されている11)。さらに心筋梗塞後、アスピリン vs. ワルファリン vs. アスピリン+ワルファリンの3群での比較研究では、アスピリン+ワルファリン併用群、ワルファリン群、アスピリン群の順に心血管イベント抑制効果が優れていた12)。しかし、この試験でのPT-INRは2.8~4.2と現在の実臨床より高値で設定されており、出血合併症が多かったこともあり推奨されなかった。安定冠動脈疾患を合併した心房細動患者のデンマークでのコホート研究では、ワルファリンに抗血小板薬を追加しても心血管イベントリスクは減少せずに出血リスクが増加した13)。以上は、出血リスクが低ければ、抗凝固薬が冠動脈疾患にも有効であることを示唆するものである。実臨床においては、本来抗凝固療法の適応でありながら、あえてコントロール不要の抗血小板薬を投与して、ワルファリンが躊躇される症例が存在した。そのようななかで、脳出血が少なく、PT-INRのコントロールが不要なNOACの登場は実臨床においては魅力的である。心房細動患者におけるACS合併またはステント留置時のガイドライン欧州心臓病学会からACS合併あるいはPCI施行の心房細動患者での抗血栓薬のjoint consensus documentが2014年に発表された14)。(1)脳卒中リスク CHA2DS2-VAScスコア(2)出血リスク HAS-BLEDスコア(3)病態 安定冠動脈疾患か急性冠症候群(待機的か緊急か)(4)抗血栓療法 どの抗血栓薬をどのくらい使用するか基本的には、出血リスクの高い3剤併用(DAPT+抗凝固薬)の期間を上記の条件にしたがって層別化し、可能なら抗血小板薬単剤+抗凝固薬に減量し、12か月以上では、左冠動脈主幹部病変などを除き可能なら抗凝固薬単剤への切り替えが推奨されている。また、VKAはTTR70%以上が推奨されており、VKAとクロピドグレルand/orアスピリンの症例ではINRは2.0~2.5が推奨されている。また、アクセス部位は橈骨動脈穿刺が推奨されている。AHA/ACC/HRSの心房細動ガイドライン2014でも、PCI後CHA2DS2-VAScスコアが2点以上では、慢性期にはアスピリンを除いて、抗凝固薬+抗血小板薬単剤が合理的であると記載されている15)。現在進行中の試験ACSあるいはPCIを受けた心房細動患者に対するNOACの臨床試験が進行中である(本誌p16の表を参照)16)。 RE-DUAL PCI試験は、ステント留置を伴うPCIを受けた非弁膜性心房細動患者を対象に、ダビガトランの有効性および安全性を評価する試験である。PIONEER AF-PCI試験は、ACS合併心房細動患者において、抗血小板薬に追加するリバーロキサバンの用量を検討する試験で、アピキサバンでも同様の試験が進行している。これらはステント留置術後急性期からの試験だが、本邦ではステント留置術後慢性安定期の心房細動合併患者を対象としたOAC-ALONE試験やAFIRE試験が進行しており、結果が待たれるところである。今後現在進行中の試験から新たなエビデンスが創出されるが、個々の患者において最適な治療法を見つけ出す努力は常に必要とされる(表)。表 ステント留置AF患者における抗血栓療法画像を拡大する文献1)Kirchhof P et al. Management of atrial fibrillation in seven European countries after the publication of the 2010 ESC Guidelines on atrial fibrillation: primary results of the PREvention oF thromboemolic events--European Registry in Atrial Fibrillation (PREFER in AF). Europace 2014; 16: 6-14.2)Akao M et al. Current status of clinical background of patients with atrial fibrillation in a community-based survey: the Fushimi AF Registry. J Cardiol 2013; 61: 260-266.3)Goto K et al. Anticoagulant and antiplatelet therapy in patients with atrial fibrillation undergoing percutaneous coronary intervention. Am J Cardiol 2014; 114: 70-78.4)Toyoda K et al. Dual antithrombotic therapy increases severe bleeding events in patients with stroke and cardiovascular disease: a prospective, multicenter, observational study. Stroke 2008; 39: 1740-1745.5)Uchida Y et al. Impact of anticoagulant therapy with dual antiplatelet therapy on prognosis after treatment with drug-eluting coronary stents. 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Triple antithrombotic therapy in atrial fibrillation patients with acute coronary syndromes or undergoing percutaneous coronary intervention or transcatheter aortic valve replacement. EuroIntervention 2015; 10: 1015-1021.

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皮膚有棘細胞がんになりやすい職業

 皮膚有棘細胞がん(皮膚扁平上皮がん、以下cSCC)の職種間の相対危険度の差は社会経済的要因に関連し、職業性曝露にある程度関連する可能性があることが、ノルウェー・National Institute of Occupational HealthのJose Hernan Alfonso氏らによるフィンランド、アイスランド、ノルウェー、スウェーデンでの45年間の追跡調査で明らかになった。Journal of the American Academy of Dermatology誌オンライン版2016年6月1日号に掲載。 北欧諸国におけるcSCCの年齢調整罹患率は過去60年間で増加しており、職種間のcSCCの相対リスクの違いの同定は、予防的な意味合いを持つ可能性がある。 この研究は、1961~2005年の1,290万人の国勢調査データとがん登録データを結合した記録に基づいた歴史的前向きコホート研究である。各国の国民全体のcSCC罹患率を基準として用い、53職種におけるcSCCの標準化罹患比を推定した。 主な結果は以下のとおり。・追跡期間中、8万7,619例のcSCC発症が国のがん登録に報告された。・参加したすべての国で、船員、軍人、保安職業従事者、技術者、教師、輸送関連労働者、医師、歯科医師、看護師、その他の医療従事者、宗教関連労働者、事務従事者、管理者、販売代理人において、標準化罹患比の有意な増加が認められた(1.08~1.77)。

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リアルワールドの成績はどう読み解くべき?

 無作為化比較試験(RCT)の結果を基に承認された薬剤が、実臨床でも開発試験と同様の成績が得られるかを確認するためのリアルワールド・エビデンス。その特性や限界、結果を読み解く際の注意点について、井上 博氏(富山県済生会富山病院 院長/富山大学名誉教授)が、6月8日都内にて、バイエル薬品株式会社主催の会合で講演した。リアルワールド・エビデンスの特性と限界 開発試験で行われるRCTはエビデンスレベルの高い試験であり、治験薬の有効性や安全性を検証するために必要である。しかし、開発試験では重篤例や高齢者など複雑な対象は除外され、また周到な監視の下で厳密な経過観察が必要とされているため、一般人口や日常診療に常に当てはめることはできない。そこで、治験薬承認後にも、レジストリ等の前向き観察研究や後ろ向きデータベース研究などで、リアルワールドでの安全性・有効性を確認することが重要である。 リアルワールド(実臨床)で得られたエビデンスの特性として、自然歴、危険因子、治療の実施状況、長期予後、真の患者集団での治療方針のリスク、広範な患者集団でのニーズとギャップ、開発試験では見つからない低頻度の有害事象が明らかになるということが挙げられる。 一方、リアルワールド・エビデンスの限界として、年齢などの交絡因子を調整できない、単一施設であることが多い、追跡期間が比較的短い、非投与群や他の治療という対照を設定しにくい、データベース解析では得られる情報に限りがある、他のリアルワールド・エビデンスとの比較が難しいといったことのほか、研究資金提供元の影響の可能性、対象集団とRCT参加集団との差なども挙げられる。井上氏は「これらを知ったうえで成績を読み解いてほしい」と述べた。複数のリアルワールド・エビデンスで確認することが重要 井上氏は、実際のリアルワールド・エビデンスの例として、ワルファリンの実臨床における有効性と安全性を検討した2つのレジストリ研究の結果を紹介した。 1つは、参加施設の多くが一般開業医であったFUSHIMI AFレジストリで、この研究では、脳卒中または全身性塞栓症、重大出血のイベントの発生率にワルファリン投与の有無による差が認められなかった。この理由として、井上氏は、ワルファリンの投与量が十分ではなかったためではないかと考察している。もう1つの研究は、主に循環器専門医によるJ-RHYTHMレジストリで、この研究ではワルファリン投与群で有意な血栓塞栓症の低下と重大出血の増加が示された。 このように、市販後、実施される臨床研究では、さまざまな特性や限界があるため、実臨床における薬剤の安全性・有効性については、複数のリアルワールド・エビデンスで確認することが重要であると強調した。DOACにおけるリアルワールド・エビデンス 現在、心房細動患者の塞栓症予防に4剤の直接作用型経口抗凝固薬(direct oral anticoagulant:DOAC、旧名称:NOAC)が承認されており、すでにリアルワールド・エビデンスが報告されつつある。現在も、各領域の抗凝固薬使用に関する“unmet medical needs”の解決を目的として、さまざまな臨床研究が進行中であり、井上氏は「今後、さらにDOACの位置付けが明らかになることが期待される」と結んだ。

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“テレヘルス”は第4の医療になりうるか/BMJ

 心血管疾患高リスクの患者に対しデジタル医療技術を駆使した“テレヘルス(telehealth)”による介入は効果があるのか。英国・ブリストル大学のChris Salisbury氏らが、プラグマティックな多施設共同無作為化試験を行った結果、エビデンスベースに基づくテレヘルスでも臨床的効果は小さく、平均リスクの全体的改善には結び付かなかったことが示された。ただし、一部の心血管リスク因子や健康行動、またケアサポート・アクセスの患者認識について改善が認められたという。慢性疾患の増大で、低コストでケア提供を拡大するための新たな医療供給や自己管理サポートの方法が必要とされている。政策立案者の間では、テレヘルスの利用拡大が有効な策になると楽観視されているが、テレヘルス介入効果のエビデンスはあいまいで、リアルワールドでの効果のエビデンスはほとんど示されていないのが現状だという。BMJ誌オンライン版2016年6月1日号掲載の報告。非医療スタッフでもテレヘルスで患者管理が可能かを検証 研究グループは、非医療スタッフがテレヘルスを活用することで、心血管疾患高リスク患者の管理を効果的に行うことができるかを調べる試験を行った。 英国内3地域、42人の一般医(GP)の協力を得て、2012年12月3日~2013年7月23日に、40~74歳で10年心血管疾患リスクが20%以上、心血管イベントの既往歴はなく、1つ以上の修正可能なリスク因子(収縮期血圧140mmHg以上、BMI 30以上、現在喫煙)を有し、電話・インターネット・電子メールにアクセス可能な641例を集めた。被験者を自動無作為化法にて、介入群(325例)または対照群(316例)に割り付けた。その際、試験地による層別化、実地医療およびベースラインリスクスコアによる最小化も行われた。 介入群には、「Healthlines」(alongside usual care)サービスが提供された。これは、専門家ではない訓練を受けた健康アドバイザーからの定期的な電話連絡が、インタラクティブなソフトウェアによって生成されたスクリプトに従って行われるというもの。アドバイザーは、リスク因子を減らすオンラインリソース使用をサポートしたり、薬物使用の最適化や治療アドヒアランスの改善を図り、より健康的なライフスタイルを奨励するなどして患者の自己管理の促進を図った。一方、対照群には通常ケアのみが行われた。 主要アウトカムは、治療効果(12ヵ月後の心血管リスクの保持または減少で定義)が認められた患者の割合とした。アウトカムは、盲検下で無作為化後6ヵ月、12ヵ月時点で集められ解析が行われた。治療効果の有意差は認められず、ただし一部の臨床値改善や行動変容に効果 治療効果が認められた患者の割合は、介入群50%(148/295例)、対照群43%(124/291例)で、実質的な差は認められなかった(補正後オッズ比[OR]:1.3、95%信頼区間[CI]:1.0~1.9、治療必要数[NNT]:13、p=0.08)。 介入により、血圧の低下(平均差;収縮期血圧-2.7mmHg[95%CI:-4.7~-0.6]、拡張期血圧-2.8mmHg[同:-4.0~-1.6])、体重減(-1.0kg、95%CI:-1.8~-0.3)、BMI低下(-0.4、同:-0.6~-0.1)がみられたが、コレステロール値(-0.1、-0.2~1.0)、喫煙状態(補正後OR:0.4、0.2~1.0)の改善はみられなかった。また、全体的な心血管リスクも保持されたままであった(-0.4、-1.2~0.3)。 ただし、介入により、食事、運動、服薬アドヒアランスが改善し、ケアアクセス、受療、ケアコーディネーションに関する満足感は認められた。 重篤な有害事象の発生は、血圧低下による入院の1件が報告された。

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気管支内コイル治療は重症肺気腫患者の運動耐容能を改善させるのか?(解説:山本 寛 氏)-549

 本研究は、肺気腫に対する気管支内コイル治療の効果と安全性を検討するため、2012年12月から2015年11月まで、北米21施設、欧州5施設が参加して315例を対象に行われた。患者は、ガイドラインに準拠した通常ケア(呼吸器リハビリテーション、気管支拡張薬の投与)のみを行う群(n=157)と、これに加えて両側気管支内にコイル治療を行う群(n=158)とに無作為に割り付けている。コイル治療群では、2回の治療を4ヵ月間隔で行い、1肺葉当たり10から14個のコイルを気管支鏡を用いて埋め込んだ。治療前と治療12ヵ月後の6分間歩行距離の変化を主要評価項目とし、6分間歩行距離の改善割合、SGRQ (St. George’s Respiratory Questionnaire)を用いたQOL(Quality of Life)の変化、そして1秒量の変化率がそれぞれ副次評価項目として設定されている。 その結果、6分間歩行距離の12ヵ月間での変化量はコイル治療群で+10.3m、通常ケア群で-7.6mであった。その群間差は14.6m(97.5%CI:0.4m~∞、片側p値:0.02)であり、有意にコイル治療群で優れていた。1秒量の変化率は中央値で7.0%(97.5%CI:3.4%~∞、片側p値0.01)であり、やはりコイル治療群で大きな改善が示された。SGRQスコアの群間差は-8.9ポイント(97.5%CI:-∞~-6.3ポイント、片側p値<0.001)で、コイル治療群において有意な改善が示された。 一方、コイル治療群において主要な合併症が34.8%も発生している。通常ケア群においては19.1%であり、コイル治療群では有意に合併症の頻度が高かった(p=0.002)。コイル治療群では、肺炎が20%(通常ケア群では4.5%)、気胸が9.7%(通常ケア群では0.6%)とそれぞれ有意に高頻度に認められた。 以上の結果から、肺気腫患者に対する気管支内コイル治療が、6分間歩行距離やQOL、肺機能の改善に有効であると結論することは早計である。主たる評価項目である6分間歩行距離の改善はわずかであり、設定されたMCID(minimal clinical important difference)=29mを超えるものではない。しかも、重大な合併症の頻度も高く、長期的な効果についても不明である。 しかし、本研究には残気量が予測値の225%以上という高度のair trappingを示す肺気腫症例が多く(235例)登録されている。探索的評価項目のうち、残気量と残気率に関しては、コイル治療を行うことによってそれぞれ0.31Lの減少、3.5%の減少が得られている。サブグループ解析の結果、air trappingが225%以上と高度で、heterogeneousな気腫症例においては、6分間歩行距離で+29.1m、1秒量で+12.3%、SGRQで-10.1ポイントと、臨床的にも意味のある効果が示されている。今後は、本治療法の長期効果についての追加報告がなされること、またheterogeneousな気腫分布を示す、air trappingが高度な肺気腫を調査対象としたランダム化比較試験が行われることが期待される。

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喘息様症状、COPD増悪に影響せず

 喘息様症状を有するCOPD患者は、適切な治療の下では良好な臨床経過をたどることが、北海道大学医学部の鈴木 雅氏により報告された。American Journal of Respiratory and Critical Care Medicine誌オンライン版2016年5月25日号掲載の報告。 COPD患者の中には、喘息の臨床的診断こそつかないものの、喘息様症状を有する患者が存在する。しかし、こうした喘息様症状とCOPDが重複する病態の臨床的意義は明確ではない。本研究では、北海道COPDコホート研究による10年間の追跡結果を用いて、適切な治療を行った場合に喘息様症状がCOPD患者の臨床経過にどのような影響をもたらすのかを評価した。 対象者は、呼吸器専門医によって喘息ではないと診断されたCOPD患者268例であった。喘息様症状には、気管支拡張薬による可逆性(ΔFEV1≧12% かつ ≧200mL)、血中好酸球の増多(≧300/μL)、アトピー(抗原吸入に対するIgE陽性反応)を含めた。初めの5年間は毎年、気管支拡張薬吸入後のFEV1変化率およびCOPDの増悪を観察し、死亡率は10年間を通して追跡した。 主な結果は以下のとおり。・全対象者のうち、57例(21%)が気管支拡張薬による可逆性、52例(19%)が血中好酸球の増多、67例(25%)がアトピーを持っていた。・気管支拡張薬吸入後のFEV1年間低下速度は、血中好酸球の増多がみられた患者で有意に遅かった。気管支拡張薬による可逆性とアトピーは影響しなかった。・いずれの喘息様症状も、COPD増悪との関連はみられなかった。喘息様症状が複数ある場合でも、気管支拡張薬吸入後のFEV1低下とCOPD増悪率は喘息様症状が1つ以下の患者と同様であったが、10年死亡率は喘息様症状が1つ以下の患者と比べて有意に低かった。■「COPD増悪」関連記事COPD増悪抑制、3剤併用と2剤併用を比較/Lancet(ケアネット 細川 千鶴)【訂正のお知らせ】本文内の表記に誤りがあったため、一部訂正いたしました(2016年6月15日)。

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CLIの創傷治癒を改善した足首以下の血行再建「RENDEZVOUSレジストリ」

Investigators InterviewCLIの創傷治癒を改善した足首以下の血行再建「RENDEZVOUSレジストリ」末梢動脈疾患(PAD)に対する治療は、末梢血管インターベンション(EVT:endovascular treatment)の進歩により大きく発展している。しかしながら、膝下病変については有効な治療法が確立していない。そのような中、膝下以下に病変を有する重症虚血肢(CLI:critical limbs ischemia)における足動脈形成術(PAA:pedal artery angioplasty)が創傷治癒率を改善することを明らかにした「RENDEZVOUSレジストリ」が発表された。今回は同レジストリのinvestigatorである宮崎市郡医師会病院 循環器内科 仲間達也氏に試験の背景とその結果について聞いた。講師紹介

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カテーテル関連尿路感染症への国家的予防プログラム/NEJM

 米国で国家的プロジェクトとして行われているカテーテル関連尿路感染症(UTI)の予防介入プログラムが、成果を挙げていることが、米国・ミシガン大学のSanjay Saint氏らにより報告された。全体で発生率比は14ポイント低下し、また集中治療室(ICU)以外の部門では、カテーテル関連UTIの発生低下のみならず尿カテ自体の利用も有意に減少したことが認められたという。NEJM誌2016年6月2日号掲載の報告。ICUおよび非ICU別に介入効果を検証 プログラムは、ICUおよび非ICUのカテーテル関連UTIの減少を目的とし、医療研究品質庁(Agency for Healthcare Research and Quality:AHRQ)の助成を受けて行われた全米規模の部門ベース統合安全プログラム(Comprehensive Unit-based Safety Program)である。 カテーテル関連UTI予防では、技術的要因(カテーテルの適正使用、無菌挿入、適正維持)および社会的適応要因(病院部門の文化や行動変容など)が重視されている。その点も踏まえてプログラムは、病院支援組織(Hospital Engagement Networksなど)や各病院への情報の普及、データ収集、予防の技術的・社会的適応のキー要因に関するガイダンスを主な特徴とした。 研究グループは、カテーテル使用とカテーテル関連UTIについて、3フェーズ(ベースライン:3ヵ月、導入期:2ヵ月、継続期:12ヵ月)にわたってデータ収集を行い、マルチレベル・ネガティブ二項モデルを用いて、カテーテル使用およびカテーテル関連UTIの変化を評価した。非ICUでは、感染症発生の低下だけでなく、カテ使用率自体も有意に低下 データは、全米32州とコロンビア特別区およびプエルトリコの603病院926部門(ICU 40.3%、非ICU 59.7%)から集められた。全体で補正前カテーテル関連UTIの発生率は、1,000カテーテル日当たり2.82から2.19に低下していた。 補正後解析では、カテーテル関連UTIは、同2.40から2.05への有意な低下が認められた(発生率比:0.86、95%信頼区間[CI]:0.76~0.96、p=0.009)。 また非ICUでは、カテーテル使用率も20.1%から18.8%へ有意に低下し(同:0.93、0.90~0.96、p<0.001)、カテーテル関連UTIの頻度は1,000カテーテル日当たり2.28から1.54に有意に低下していた(同:0.68、0.56~0.82、p<0.001)。 一方、ICUでは、カテーテル使用およびカテーテル関連UTIともに大きな変化は認められなかった。不均一性(ICU vs.非ICU)に関する検証の結果、カテーテル使用(p=0.004)、カテーテル関連UTI(p=0.001)ともに有意性が認められた。 これらの結果を踏まえて著者は、「国家的規模の予防プログラムは、非ICUにおけるカテーテル使用およびカテーテル関連UTIを低減させるようだ」とまとめている。

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海外で進む厳格なタバコ規制

海外で進む厳格なタバコ規制…プレーン・パッケージ法 海外では、ブランドごとの独自デザインを禁止し、タバコ包装を画一化するプレーン・パッケージ法の導入が広がりをみせています。 ほぼ全面を写真付きの有害警告表示とし、商品名は決められた位置と書体でのみ記載することが可能。これは、広告効果を防ぎ、タバコ消費量を削減することを目的としています。世界で最初にプレーン・パッケージ法を導入したオーストラリアの市販のタバコ包装。この過激な警告表示が功を奏したか、導入後、政府の禁煙電話相談窓口への相談件数が大幅に増加したという。タバコのパッケージにこんな警告…それでも買いますか?タバコによる健康被害、他人事ではありません!社会医療法人敬愛会 ちばなクリニック 清水 隆裕氏Copyright © 2016 CareNet, Inc. All rights reserved.

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アトピー性皮膚炎にはやはりステロイド外用薬か

 アトピー性皮膚炎の治療において、カルシニューリン阻害外用薬はステロイド外用薬の代替となり得るが、コストが高く、皮膚熱感およびそう痒感などの有害事象が多い。オーストラリア・Royal North Shore HospitalのJoris A. Broeders氏らが、システマティックレビューとメタ解析を行い明らかにした。著者は、「アトピー性皮膚炎には、ステロイド外用薬が推奨されることをエビデンスレベル-1aで支持する結果である」とまとめている。Journal of the American Academy of Dermatology誌オンライン版2016年5月11日号の掲載報告。 研究グループは、アトピー性皮膚炎の治療におけるカルシニューリン阻害外用薬とステロイド外用薬の有効性および有害事象を比較する目的で、4つのデータベース(MEDLINE 、EMBASE、Cochrane Library、Web of KnowledgSe Conference Proceedings Citation Indexe-Science)を用い、小児および成人患者において両薬剤を比較した無作為化試験を検索した。 方法論的な質は、バイアス・リスクの評価により行い、臨床転帰とコストを比較した。 主な結果は以下のとおり。・無作為比較試験12件(カルシニューリン阻害外用薬3,492例 vs.ステロイド外用薬3,462例)が組み込まれた。・カルシニューリン阻害外用薬とステロイド外用薬の有効性は、同等であった。  改善率:81% vs.71%、リスク比(RR):1.18(95%信頼区間[CI]:1.04~1.34)、p=0.01。  治療成功率:72% vs.68%、RR:1.15(95%CI:1.00~1.31)、p=0.04。・カルシニューリン阻害外用薬はステロイド外用薬より有害事象が多かった。  有害事象発現率:74% vs.64%、RR:1.28(95%CI:1.05~1.58)、p=0.02。  皮膚熱感:30% vs.9%、RR:3.27(95%CI:2.48~4.31)、p<0.00001。  そう痒感:12% vs.8%、RR:1.49(95%CI:1.24~1.79)、p<0.00001。 ただし、萎縮、皮膚感染、重篤または投与中止を要する有害事象の発現に差はなかった。・コストについて報告した試験は少数であったが、カルシニューリン阻害外用薬はコストが高いことが示唆された。

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心房細動患者の肥満パラドックス、日本人で検証

 日本人の非弁膜症性心房細動患者において、低体重者は正常体重者に比べて全死因死亡および心血管死亡リスクが高く、過体重や肥満は死亡率増加に関連しないことが、J-RHYTHMレジストリデータの事後解析にて示唆された。The American journal of cardiology誌オンライン版2016年5月5日号に掲載。 肥満は心房細動(AF)の危険因子であるが、一方で、AF患者では肥満者のほうが死亡率が低く、このことは「肥満パラドックス」として知られている。AF患者の心原性塞栓症リスクにおける体重の影響について、これまでの研究結果は一貫していない。今回、富山県済生会富山病院の井上 博氏らはJ-RHYTHMレジストリの観測データを用いて、日本人の非弁膜症性AF患者におけるBMIと予後との関係を事後解析した。 被験者をBMIにより、低体重(18.5未満)、正常(18.5~24.9)、過体重(25.0~29.9)、肥満(30以上)に分類。エンドポイントは、血栓塞栓症、大出血、全死因死亡率、心血管死亡率であった。非弁膜症性AF 7,406例のうち、ベースライン時のBMIデータのある6,379例(70±10歳、BMI:23.6±3.9)を研究対象とした。 主な結果は以下のとおり。・2年間の追跡期間中、血栓塞栓症は111例、大出血は124例にみられ、159例が死亡した。・Cox比例ハザードモデルを用いた多変量解析では、BMIカテゴリのいずれも血栓塞栓症の独立した予測因子ではないことが示唆された。・しかし、低体重は、正常体重を対照とした場合に、全死因死亡(ハザード比[HR]:2.45、95%信頼区間[CI]:1.62~3.69、p<0.001)および心血管死亡(HR:3.00、95%CI:1.52~5.91、p=0.001)の独立した予測因子であった。・過体重は、低い全死因死亡率の予測因子であった(HR:0.60、95%CI:0.37~0.95、p=0.029)。

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統合失調症患者の過体重、アジア諸国の調査

 アジア諸国の統合失調症患者における過体重の割合や人口統計学および臨床的相関を、中国・マカオ大学のFei Wang氏らが調査した。International journal of clinical pharmacology and therapeutics誌2016年6月号の報告。 東アジアにおける向精神薬の国際共同処方調査であるREAP (psychotropic prescription patterns)のデータベースより、9つのアジア諸国と地域における統合失調症入院患者1,534例のデータを収集し、1ヵ月間の臨床面接により補完した医療ファイルによりレビューした。患者の社会人口統計学、臨床的特徴、向精神薬処方、BMIを標準化プロトコルとデータ収集手順で登録した。分析では、過体重をBMI 25以上と定義した。 主な結果は以下のとおり。・過体重率は、全体で35.8%(549/1,534例)、女性で39.7%(224/564例)、男性で33.5%(325/970例)(p=0.01)であり、各国間でばらつきがあった。・試験地で調整後の多重ロジスティック回帰分析では、過体重は気分安定薬の頻繁な使用(p<0.001、OR 1.4、95%CI:1.1~1.8)、罹患期間の長さ(p<0.001、OR 1.6、95%CI:1.2~2.1)と独立して関連していたが、この傾向は男性患者ではみられなかった(p=0.003、OR:0.7、95%CI:0.5~0.8)。 結果を踏まえ、著者らは「アジアの統合失調症患者の過体重率は、欧米諸国で報告されているよりも、有意に低かった。そして、アジア諸国・地域の中でも有病率にはばらつきがある」とまとめている。関連医療ニュース 日本人統合失調症患者のMets有病率を調査:新潟大学 非定型抗精神病薬による体重増加・脂質異常のメカニズム解明か オランザピン誘発性体重増加を事前に予測するには:新潟大学

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黄斑下血腫、ラニビズマブ硝子体内注射は有用

 黄斑下血腫に対し、組み換え組織プラスミノーゲン活性化因子(rt-PA)ラニビズマブおよびガス硝子体内注射は血腫の移動と病変改善に有用であることを、日本大学 医学部視覚科学系眼科学分野の北川 順久氏らが前向き研究により示した。著者は、「視力の改善・維持には、治療後の再発を早期に発見し、必要に応じて血管内皮増殖因子(VEGF)阻害薬硝子体注射を行うことが大切」とまとめている。Ophthalmology誌2016年6月号(オンライン版2016年3月2日号)の掲載の報告。 研究グループは、加齢黄斑変性(AMD)またはポリープ状脈絡膜血管症(PCV)に伴う黄斑下血腫患者連続20例(20眼)を対象に、rt-PA(25μg/0.05mL)ラニビズマズおよび100%パーフルオロプロパン(0.3mL)の硝子体内注射を行った。注射後2日間はうつ伏せとした。 主要評価項目は、治療6ヵ月後の最高矯正視力(BCVA)、副次的評価項目は中心窩網膜厚、中心窩網膜色素上皮剥離厚、中心窩ellipsoid zoneの検出率、再発率および合併症であった。 主な結果は以下のとおり。・基礎疾患は滲出性AMD1眼、PCV19眼、黄斑下血腫は2~31乳頭径の大きさであった。・黄斑下血腫の完全移動は17眼(85%)、部分移動は3眼(15%)で得られた。・BCVAは、治療前20/139から治療6ヵ月後には20/65まで改善した(p=0.0061)。・ETDRSスコアのベースラインからの平均変化量は、+13文字(p=0.0040)であった。・中心窩網膜厚平均値は治療前599μm、治療6ヵ月後208μm(p<0.0001)、中心窩網膜色素上皮剥離厚はそれぞれ188μmおよび88μm(p=0.0140)で、いずれも有意に改善した。・術後合併症は硝子体出血が3眼、網膜剥離が1眼に認められたが、いずれも手術により6ヵ月後にはBCVAの有意な改善が得られた(p=0.0012)。・治療6ヵ月以内に10眼(50%)で再発したが、視力はVEGF阻害薬硝子体内注射の必要に応じた(PRN)投与により維持された。・治療6ヵ月後のBVCAに影響する要因は、治療前および治療後中心窩ellipsoid zone検出率(それぞれp=0.0366およびp=0.0424)、治療前BCVA(p=0.0015)、治療前および治療後中心窩網膜色素上皮剥離厚(p=0.0046、p=0.0021)であった。

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日本人の死因の約6割を占めるNCD関連疾患、改善のカギは…

 不健康な食事や運動不足、喫煙、過度の飲酒…。これらは、さまざまな疾患の入り口になりうる悪しき生活習慣だが、その改善により予防可能な疾患の総称であるNCD(non-communicable diseases、WHOの定義では「非感染性疾患」)への関心が世界的に高まっている。5月31日、NCD関連疾患の啓発や情報提供を行っている塩野義製薬株式会社が、国内のNCD関連疾患患者を対象にした実態調査の結果をまとめた。同日のセミナーに登壇した寺本 民生氏(帝京大学臨床研究センター)は、患者自身の疾患や治療に関するリテラシーの低さを指摘し、「前向きな治療意識と生活満足度が疾患コントロール意識と密接につながっている。医療従事者や家族、地域コミュニティの関わりなども含めたトータルケアが重要」と述べた。 NCDとは、高血圧や脂質異常症、糖尿病など、いわゆる生活習慣病を中心とした継続的な治療が必要な慢性疾患の総称である。厚生労働省の調査によれば、近年このNCDに関連した疾患は、日本人の死因の約6割、国民医療費の約3割を占めている。 塩野義製薬は今年3月、国内の20~60代のNCD関連疾患患者を対象にインターネット調査「T-CARE NCD Survey」を実施(n=3,031)。そこから、NCD関連疾患特有の患者像が浮かび上がってきた。現在抱えている病気の治療について尋ねた項目では、「治療を継続しなければならない」(77.2%)「前向きに治療に取り組んでいる」(58.1%)など、半数以上が高い意識で治療に臨んでいることをうかがわせたが、「自分なりの治療目標がきちんとある」と答えた人は27.8%にとどまっていた。さらに、「定期的に通院する」(87.1%)、「定期的に薬を服用する」(71.6%)など、治療への取り組みはきわめて真面目な人が多い一方、「自分の治療方法については、医師の判断に任せる」(66.1%)、「自分の治療方法は、自分で決めたい」(38.6%)など、受け身の姿勢で臨んでいる人が多いこともわかった。 では、こうしたNCD関連疾患患者に対して必要な施策とは一体何か。寺本氏は3つの意識を高めることが重要であると述べる。すなわち、「前向きな治療意識」「疾患コントロール意識」「生活満足度」、である。これらは、「前向きな治療意識」と「生活満足度」の高さが、相乗効果的に「疾患コントロール意識」を高めるという関係性にある。「前向きな治療意識」に影響を与えるのは、(1)薬への信頼・期待、(2)病状理解、(3)治療効果の理解、(4)医療従事者の患者視点に立った診療、(5)内科・専門内科の個人病院やクリニックにおける患者視点の診療および親しみやすさ、(6)内科・専門内科の総合病院や大学病院などの大規模病院における患者視点の診療および治療解説、の6項目である。一方、「生活満足度」には(1)治療の見通し、(2)心配事の解消、(3)家族との関係、自己開示および尊重、(4)職場や学校でのコミュニケーション、の4項目が影響するという。こうした意識をバランスよく、高く維持するには、患者の頑張りだけ、あるいは医師の一方的な働きかけだけでは不十分である。 寺本氏は、「NCDの治療は、他の疾患以上に患者自身が主体的に病気と向き合わなければならない。診療の場面で医師は、患者との“共同作業”において治療方針を考え、時には患者自身による決定を促すことが重要だ」と述べた。

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結節性多発動脈炎〔PAN: polyarteritis nodosa〕

1 疾患概要■ 概念・定義主として中型の筋性動脈が侵される壊死性動脈炎である。国際的な血管炎の分類であるChapel Hill Consensus Conference 2012分類(CHCC2012)1)では、血管炎を障害される血管のサイズにより分類しており、本疾患はmedium vessel vasculitis(中型血管炎)に分類されている。剖検時に動脈に沿って粟粒大から豌豆大の小結節が多発して認められる場合があり、KussmaulとMaierにより結節性動脈周囲炎として1866年に提唱された。現在では、結節性多発動脈炎(polyarteritis nodosa:PAN)の呼称が一般的に用いられている。本症の壊死性動脈炎は、肝臓、胆嚢、脾臓、消化管、腸間膜、腎泌尿生殖器、皮膚、骨格筋、中枢神経系、心臓、肺など全身に認め、とくに血管の分岐部が侵されやすい。肺では気管支動脈に病変を認め、肺動脈が侵されることはまれである。原則として腎糸球体は侵されない。■ 疫学50~60歳に好発し、男女比では男性にやや多い。厚生労働省より結節性動脈周囲炎として、特定疾患医療受給者証を交付された患者数は2011年の時点でおよそ9,000人であるが、この中には顕微鏡的多発血管炎の患者も含まれているので、PANの患者が実際にどのくらい存在するかは不明である。しかしながら、PANの患者数は顕微鏡的多発血管炎に比べて圧倒的に少なく、500人未満と推定される。2006年以降、PANと顕微鏡的多発血管炎は別個に登録されるようになったため、今後その実数が明らかになるものと思われる。■ 病因不明である。アデノシンデアミナーゼ2(adenosine deaminase 2: ADA2)の一塩基多型による先天的機能欠損が、小児期のPAN類似血管症の原因となることが報告されている2、3)が、成人例でADA2の量的または質的異常があるとの報告はない。本疾患に特徴的な自己抗体は知られていない。■ 症状発熱や全身倦怠感、体重減少のほか、急速進行性腎障害、高血圧、中枢神経症状、消化器症状、紫斑、皮膚潰瘍、末梢神経障害などの多彩な症状を呈する。■ 分類本症の組織学的病期はArkinにより、I期:変性期、II期:炎症期、III期:肉芽期、IV期:瘢痕期に分類されている(Arkin分類)。変性期には内膜から中膜にかけて、浮腫とフィブリノイド変性が認められる。炎症期には中膜から外膜にかけて、好中球、時に好酸球、リンパ球、形質細胞が浸潤し、フィブリノイド壊死は血管全層に及ぶ。その結果、内弾性板は破壊され、断裂、消失する。炎症期が過ぎると、組織球や線維芽細胞が外膜より侵入し、肉芽期に入る。肉芽期には内膜増殖が起こり、血管内腔が閉塞するほど高度になることがある。瘢痕期では、炎症細胞浸潤はほとんどみられず、血管壁は線維性組織に置換される。このような場合でも、弾性線維染色を行うと内弾性板の断裂が認められ、診断に有用である。また、これら各期の病変が、同一症例内に同時期に混在して認められることも特徴である。■ 予後本症の予後は急性期の治療によるところが大きい。副腎皮質ステロイドによる治療を基本としたフランスの臨床研究では、57例中48例(84.2%)が初期治療により寛解し、残りの9例中8例も免疫抑制薬の併用などにより寛解導入されている4)。しかしながら、寛解導入された56例中、26例(46.4%)で再燃しており、再燃率は比較的高いといえる。5年生存率は90%強である。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)厚生労働省指定難病診断基準(難治性血管炎に関する調査研究班2006年改訂)に基づいて行われる(表1)。重症度に応じて、1度~5度に分類される(表2)。表1 結節性多発動脈炎の診断基準(厚生労働省難治性血管炎に関する調査研究班2006年改訂)【主要項目】1) 主要症候(1)発熱(38℃以上、2週以上)と体重減少(6ヵ月以内に6kg以上)(2)高血圧(3)急速に進行する腎不全、腎梗塞(4)脳出血、脳梗塞(5)心筋梗塞、虚血性心疾患、心膜炎、心不全(6)胸膜炎(7)消化管出血、腸閉塞(8)多発性単神経炎(9)皮下結節、皮膚潰瘍、壊疽、紫斑(10)多関節痛(炎)、筋痛(炎)、筋力低下2) 組織所見中・小動脈のフィブリノイド壊死性血管炎の存在3) 血管造影所見腹部大動脈分枝(とくに腎内小動脈)の多発小動脈瘤と狭窄・閉塞4) 判定(1)確実(definite)主要症候2項目以上と組織所見のある例(2)疑い(probable)(a)主要症候2項目以上と血管造影所見の存在する例(b)主要症候のうち(1)を含む6項目以上存在する例5) 参考となる検査所見(1)白血球増加(10,000/μL以上)(2)血小板増加(400,000/μL以上)(3)赤沈亢進(4)CRP強陽性6) 鑑別診断(1)顕微鏡的多発血管炎(2)多発血管炎性肉芽腫症(旧称:ウェゲナー肉芽腫症)(3)好酸球性多発血管炎性肉芽腫症(旧称:アレルギー性肉芽腫性血管炎)(4)川崎病動脈炎(5)膠原病(SLE、RAなど)(6)IgA血管炎(旧称:紫斑病性血管炎)【参考事項】(1)組織学的にI期:変性期、II期:急性炎症期、III期:肉芽期、IV期:瘢痕期の4つの病期に分類される。(2)臨床的にI、II期病変は全身の血管の高度の炎症を反映する症候、III、IV期病変は侵された臓器の虚血を反映する症候を呈する。(3)除外項目の諸疾患は壊死性血管炎を呈するが、特徴的な症候と検査所見から鑑別できる。表2 結節性多発動脈炎の重症度分類●1度ステロイドを含む免疫抑制薬の維持量ないしは投薬なしで1年以上病状が安定し、臓器病変および合併症を認めず、日常生活に支障なく寛解状態にある患者(血管拡張剤、降圧剤、抗凝固剤などによる治療は行ってもよい)。●2度ステロイドを含む免疫抑制療法の治療と定期的外来通院を必要とするも、臓器病変と合併症は併存しても軽微であり、介助なしで日常生活に支障のない患者。●3度機能不全に至る臓器病変(腎、肺、心、精神・神経、消化管など)ないし合併症(感染症、圧迫骨折、消化管潰瘍、糖尿病など)を有し、しばしば再燃により入院または入院に準じた免疫抑制療法ないし合併症に対する治療を必要とし、日常生活に支障を来している患者。臓器病変の程度は注1のa~hのいずれかを認める。●4度臓器の機能と生命予後に深く関わる臓器病変(腎不全、呼吸不全、消化管出血、中枢神経障害、運動障害を伴う末梢神経障害、四肢壊死など)ないしは合併症(重症感染症など)が認められ、免疫抑制療法を含む厳重な治療管理ないし合併症に対する治療を必要とし、少なからず入院治療、時に一部介助を要し、日常生活に支障のある患者。臓器病変の程度は注2のa~hのいずれかを認める。●5度重篤な不可逆性臓器機能不全(腎不全、心不全、呼吸不全、意識障害・認知障害、消化管手術、消化・吸収障害、肝不全など)と重篤な合併症(重症感染症、DICなど)を伴い、入院を含む厳重な治療管理と少なからず介助を必要とし、日常生活が著しく支障を来している患者。これには、人工透析、在宅酸素療法、経管栄養などの治療を要する患者も含まれる。臓器病変の程度は注3のa~hのいずれかを認める。注1:以下のいずれかを認めることa.肺線維症により軽度の呼吸不全を認め、PaO2が60~70Torr。b.NYHA2度の心不全徴候を認め、心電図上陳旧性心筋梗塞、心房細動(粗動)、期外収縮あるいはST低下(0.2mV以上)の1つ以上を認める。c.血清クレアチニン値が2.5~4.9mg/dLの腎不全。d.両眼の視力の和が0.09~0.2の視力障害。e.拇指を含む2関節以上の指・趾切断。f.末梢神経障害による1肢の機能障害(筋力3)。g.脳血管障害による軽度の片麻痺(筋力6)。h.血管炎による便潜血反応中等度以上陽性、コーヒー残渣物の嘔吐。注2:以下のいずれかを認めることa.肺線維症により中等度の呼吸不全を認め、PaO2が50~59Torr。b.NYHA3度の心不全徴候を認め、胸部X線上CTR60%以上、心電図上陳旧性心筋梗塞、脚ブロック、2度以上の房室ブロック、心房細動(粗動)、人口ペースメーカーの装着のいずれかを認める。c.血清クレアチニン値が5.0~7.9mg/dLの腎不全。d.両眼の視力の和が0.02~0.08の視力障害。e.1肢以上の手・足関節より中枢側における切断。f.末梢神経障害による2肢の機能障害(筋力3)。g.脳血管障害による著しい片麻痺(筋力3)。h.血管炎による肉眼的下血、嘔吐を認める。注3:以下のいずれかを認めることa.肺線維症により高度の呼吸不全を認め、PaO2が50Torr 未満。b.NYHA4度の心不全徴候を認め、胸部X線上CTR60%以上、心電図上陳旧性心筋梗塞、脚ブロック、2度以上の房室ブロック、心房細動(粗動)、人口ペースメーカーの装着、のいずれか2つ以上を認める。c.血清クレアチニン値が8.0mg/dLの腎不全。d.両眼の視力の和が0.01以下の視力障害。e.2肢以上の手・足関節より中枢側の切断。f.末梢神経障害による3肢以上の機能障害(筋力3)、もしくは1肢以上の筋力全廃(筋力2以下)。g.脳血管障害による完全片麻痺(筋力2以下)。h.血管炎による消化管切除術を施行。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)2006~2007年度合同研究班による『血管炎症候群の診療ガイドライン』の中で、「寛解導入療法と寛解維持療法の指針」が示されているので、以下に示す。■ 寛解導入療法1)副腎皮質ステロイドプレドニゾロン0.5~1mg/kg/日(40~60mg/日)を重症度に応じて経口投与する。腎、脳、消化管など生命予後に関わる臓器障害を認めるような重症例では、パルス療法すなわちメチルプレドニゾロン大量点滴静注療法(メチルプレドニゾロン500~1,000mg + 5%ブドウ糖溶液500mLを2~3時間かけ点滴静注、3日間連続)を行う。後療法としてプレドニゾロン0.5~0.8mg/日の投与を行う5)。2)ステロイド治療に反応しない場合シクロホスファミド点滴静注療法(intravenous cyclophosphamide:IVCY)または経口シクロホスファミド(CY)の経口投与(0.5~2mg/kg/日)を行う。IVCYは、シクロホスファミド500~600mg/生理食塩水または5%ブドウ糖溶液500mLを2~3時間かけて点滴静注し、4週間間隔、計6回を目安に行う6、7)。IVCY治療中は白血球減少に注意し3,000/㎜3以下にならないように次回のIVCY量を減量する。なお、CYは腎排泄性のため腎機能低下に応じて減量投与を行う(クラスIIb、レベルC)8)。表3に年齢、腎機能に応じたIVCY量を示す。なお、IVCYは経口CYに比べて有効性は同等だが副作用が少ないと報告されている9)。画像を拡大するその他の免疫抑制薬としてアザチオプリン、メトトレキセートも用いられる(クラスIIb、レベルC)9)。いずれも腎排泄性である。アザチオプリンは腎機能低下時には減量が必要であり、メトトレキセートは腎不全には禁忌である。3)重要臓器傷害の重症例肺・腎・消化管・膵などの重要臓器を2ヵ所以上傷害された重症例では、ステロイドパルスと共に血漿交換療法を行い、生命予後を改善させるようにする(クラスIIb、レベルC)10、11)。4)HBウイルス肝炎併発例活動性のHBウイルス肝炎を伴っている場合には、抗ウイルス薬および免疫複合体除去目的で血漿交換療法を併用する(クラスIIb、レベルC)5、6)。■ 寛解維持療法初期治療による寛解導入後は、再燃のないことを確認しつつ副腎皮質ステロイド薬(プレドニゾロン)を漸減し維持量(5~10mg/日)とする。副腎皮質ステロイド薬や免疫抑制薬の治療期間は原則として2年を超えない(クラスIIb、レベルC)12)。CYは3ヵ月間用い、その後寛解維持薬として、より副作用の少ないアザチオプリンに変更し、半年~1年間用いる(クラスIIb、レベルC)13)。なお、免疫抑制薬、血漿交換療法は、本疾患に対する保険適用薬でないため、投薬時には十分なインフォームドコンセントが必要である。4 今後の展望血管炎症候群の中でも、顕微鏡的多発血管炎などのANCA関連血管炎の病因・病態解明が進み、新規治療法が考案されてきているのに対し、PANに対する基礎研究ならびに臨床研究は、ここ数年あまり大きな進展が得られていないのが実情である。とはいえ、厚生労働省難治性血管炎に関する調査研究班をはじめとする地道な基礎的・臨床的研究が継続されており、その中からブレイクスルーが生まれることが期待される。5 主たる診療科膠原病・リウマチ科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報難病情報センター 結節性多発動脈炎(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)日本血管病理研究会(医療従事者向けのまとまった情報)1)Jennette JC, et al. Arthritis Rheum. 2013;65:1-11.2)Zhou Q, et al. New Engl J Med.2014;370:911-920.3)Navon Elkan P, et al. New Engl J Med.2014;370:921-931.4)Samson M, et al. Autoimmun Rev. 2014;13:197-205.5)中林公正ほか. ANCA関連血管炎の治療指針. 厚生労働省厚生科学特定疾患対策研究事業難治性血管炎に対する研究班(橋本博史編). 2002;19-23.6)Gayraud M, et al. Br J Rheumatol. 1997;36:1290-1297.7)Guillevin L, et al. Arthritis Rheum. 2003;49:93-100.8)難病医学研究財団/難病情報センター 免疫疾患調査研究班(難治性血管炎に関する調査研究班). IVCY治療における年齢、腎機能に応じたシクロホスファミドの投与量設定表. 難病情報センター. (参照 2015.1月26日)9)Jayne D. Curr Opin Rheumatol. 2001;13:48-55.10)Guillevin L, et al. Arthritis Rheum. 1995;38:1638-1645.11)寺田典生ほか. 日内会誌. 1988;77:494-498.12)Guillevin L, et al. Arthritis Rheum. 1998;41:2100-2105.13)Jayne D, et al. N Engl J Med. 2003;349:36-44.公開履歴初回2015年05月15日更新2016年06月07日

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