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過体重・肥満者の変形性膝関節症による痛みをメトホルミンが緩和

 経口血糖降下薬の一種であるメトホルミンが、変形性膝関節症による痛みを抑制するとする研究結果が、世界変形性関節症研究会議(OARSI2025、4月24~27日、韓国・仁川)で報告された。モナッシュ大学(オーストラリア)のFeng Pan氏らの研究によるもので、24日の発表に合わせて「Journal of the American Medical Association(JAMA)」に論文が掲載された。 前臨床試験およびヒト対象の予備的な研究から、メトホルミンには炎症抑制や軟骨保護作用があり、変形性膝関節症患者の疼痛を改善する可能性が示唆されている。Pan氏らはこの効果を、ランダム化二重盲検プラセボ対照並行群間比較試験によって検討した。 6カ月以上にわたり膝の痛みがあり、疼痛スコアが100mmビジュアルアナログスケール(VAS)で40mmを超え、BMIが25以上であることを適格条件として、2021年6月16日~2023年8月1日に、オーストラリア・ビクトリア州の地域広告やソーシャルメディアを通じて225人を募集した。適格性評価の結果、このうち107人(48%)がランダム化された。平均年齢は58.8±9.5歳、女性68%だった。 1群(54人)には経口メトホルミン2,000mg/日、他の1群(53人)にはプラセボを投与。88人(82%)が6カ月間の介入を完遂し、2024年2月8日に最終追跡調査が実施された。 主要評価項目である100mmVASの変化量は、メトホルミン群が-31.3mm、プラセボ群は-18.9mm、群間差-11.4mm(95%信頼区間-20.1~-2.6)であり、メトホルミン群の改善幅が有意に大きく(P=0.01)、効果量(標準化平均差)は0.43(同0.02~0.83)であった。頻度の高い有害事象として、下痢(メトホルミン群で8件〔15%〕、プラセボ群で4件〔8%〕)、腹部不快感(同順に7件〔13%〕、5件〔9%〕)が報告された。 著者らは、「得られた結果は、疼痛を有する過体重・肥満の変形性膝関節症患者に対して、メトホルミンを使用することを支持するものである。ただし研究参加者数が少ないため、より大規模な臨床試験による検証が求められる」と述べている。また論文の上席著者である同大学のFlavia Cicuttini氏は大学発のリリースの中で、「メトホルミンは一般臨床医に広く知られており、低コストで安全性の高い薬だ。同薬により膝の痛みが軽くなり、身体活動の負担が抑制されるなら、その結果、人工膝関節置換術の施行を延期できるケースもあるのではないか」と記している。

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コンサルテーション―その2【脂肪肝のミカタ】第5回

コンサルテーション―その2Q. 消化器科における肝疾患ハイリスク症例の絞り込みはどうすべきか?脂肪性肝疾患(SLD)の診断は画像診断または組織診断によって脂肪化を診断することとされる1,2-4)。非侵襲的検査の時代の潮流から、消化器専門家においても画像診断に基づく診療が主体になっていくことが予測される。肝細胞脂肪化の所見は、腹部超音波(BモードやControlled attenuation parameter[CAP])、MRI Proton density fat fraction(PDFF)で診断と定量が可能である。肝臓の線維化進行度も、画像診断のエラストグラフィ(Vibration-controlled Transient Elastography[VCTE]、Shear Wave Elastography[SWE]、MR Elastography[MRE])や採血によるEnhanced Liver Fibrosis(ELF) test*で定量が可能である(図1、2)1,5)。*線維化の3つのマーカー(ヒアルロン酸、プロコラーゲンIII[P-III]ペプチド、TIMP-1)を血液検査で測定し、スコアを算出することで、肝線維化の程度を非侵襲的に評価する検査図1. MASLDの肝線維化診断における画像診断の有用性画像を拡大する図2. MASLD診療は非侵襲的診断の時代になる画像を拡大する一方、最近では肝がんの高危険群としてat-risk MASH(組織学的診断でNAFLD activity score≧4点かつ肝線維化≧2点のMASH)という概念が提唱されているが、こちらの診断は画像と採血の組み合わせだけで十分とはいえない。そもそもMASHの診断には風船様変性と小葉内炎症を確認するためにも組織学的診断が必要である1)。米国肝臓学会では、at-risk MASHの診断における肝生検の必要性も示している5)。肝臓の線維化と活動性の両方を加味した真の肝疾患ハイリスク症例の非侵襲的な拾い上げの面からは、課題が残されている(図2)。1) European Association for the Study of the Liver (EASL) ・ European Association for the Study of Diabetes (EASD) ・ European Association for the Study of Obesity (EASO). J Hepatol. 2024;81:492-1542.2)Rinela ME, et al. J Hepatol. 2023;79:1542-1556.3)Rinella ME, et al. Hepatology. 2023;78:1966-1986.4)Rinella ME, et al. Ann Hepatol. 2023;29:101133.5)Rinella ME, et al. Hepatology. 2023;77:1797-1835.

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降圧薬服用は、朝でも夜でもお好きなほうに―再び(解説:桑島巖氏)

 「降圧薬の服用は朝か夜か?」の問題については、2022年にLancet誌上で発表されたTIME studyのコメントで発表しているが、今回JAMA誌に発表されたGarrisonらのBedMed randomized clinical trial論文でもまったく同じコメントを出さざるを得ない。 TIME studyと同様、本研究でも降圧薬の時間薬理学を理解していれば、服薬は朝(6~10時)でも夜(20~0時)でもどちらも同じ結果(心血管イベント、心血管死)をもたらすというのは当然の結論である。降圧薬の心血管予防効果は24時間にわたる降圧効果の持続と相関することはすでに知られており、現在処方されている降圧薬のほとんどは血中濃度に依存して降圧効果を発揮するが、24時間以上持続する降圧薬はアムロジピンとサイアザイド系、非サイアザイド系降圧利尿薬のみである。ACE阻害薬やARBはいずれも24時間持続性がない。 本試験はオープン試験(PROBE法:結果の評価はブラインド)であることから、診療現場では、患者の降圧が不十分であれば複数の降圧薬を併用することになる。本研究においてはACE阻害薬、ARBが各々30%前後使用されているが、カルシウム拮抗薬や利尿薬あるいは配合剤(combination pill)も高頻度で使用されていることから、これらの持続性の高い降圧薬の併用により、朝服用でも夜服用でも持続的降圧が得られたために、エンドポイントに差が認められなかった。TIME studyと同じ結果であるのは当然である。 現場では、患者さんの飲み忘れがないような選択をすることが重要である。

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既治療進行胃がんに対するCLDN18.2特異的CAR-T細胞療法(satri-cel)と医師選択治療との比較:第II相試験(解説:上村直実氏)

 切除不能な進行胃がんおよび食道胃接合部がん(以下、胃がん)に対する化学療法のレジメはHER2陽性(20%以下)とHER2陰性(約80%)に区別されている。HER2陰性の進行胃がんに対する標準的1次治療はフルオロピリミジンとプラチナベースの化学療法であるFOLFOXやCAPOXなどが推奨されてきたが、全生存期間(OS)の中央値が12ヵ月未満であり、無増悪生存期間(PFS)の中央値は約6ヵ月程度と満足できる成績ではなかった。最近になって、標準化学療法にドセタキセルを上乗せしたFLOT療法(3剤併用化学療法)さらに免疫チェックポイント阻害薬(ICI)や抗claudin-18.2(CLDN18.2)抗体のゾルベツキシマブ(商品名:ビロイ)を組み合わせた新しい併用療法の有効性が報告されている。しかしながら、これらのレジメを用いた国際的共同試験におけるOSの中央値は12~18ヵ月程度にとどまっているのが現状である。 今回、既治療のCLDN18.2陽性進行胃がん症例を対象として自家CLDN18.2特異的キメラ抗原受容体(CAR)T細胞療法(satri-cel)の有効性と安全性の評価を目的とする非盲検無作為化実薬対照比較第II相試験の結果が2025年6月のLancet誌に掲載された。CAR-T細胞療法は、患者自身の免疫細胞であるT細胞に遺伝子導入して作成されたCAR-T細胞を患者に再び投与する治療法であり、日本でも2019年から悪性リンパ腫再発後の治療が保険適用となっているが、固形がんに対するCAR-T細胞療法に関するランダム化比較試験は本研究が世界初の報告である。 少なくとも2回の前治療が奏効せず、腫瘍組織がCLDN18.2陽性であった症例を対象として、CAR-T群と担当医が選択した標準治療群を比較した結果、主要評価項目のPFS中央値(3.25ヵ月vs.1.77ヵ月)およびOS中央値(7.92ヵ月vs.5.49ヵ月)は共にCAR-T群が有意に延長した。一方、安全性に関しては、CAR-T群はGrade3以上の有害事象が99%にみられ、血球減少、消化器症状、頻脈、肝障害、電解質異常、蛋白尿、皮疹、腹痛、体重減少など広範な臓器にわたり30〜90%の頻度で出現していたが、「サイトカイン放出症候群」の重篤化により死亡した症例は皆無であった。 種々の治療法によっても手術不能胃がん患者の生存率の飛躍的向上が認められていない現状では、新たな治療法であるCAR-T細胞療法に期待したいところである。しかしながら、報告された第II相試験の結果からは臨床現場における有効性と安全性を担保できるものとはいえず、今後予定されている精緻な研究デザインによる第III相試験の結果を待つ必要があると思われた。

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ASCO2025 レポート 肺がん

レポーター紹介ASCO Lung、Lung ASCOと呼ばれるほど、肺がんに関しては当たり年であった2024年のASCOとは異なり、2025年のASCOは肺がんのPlenary演題もないなど、やや小ぶりな前評判であった。ただ、実際に演題が発表されてみると、DeLLphi-304試験では小細胞肺がん(SCLC)の二次治療において初めて全生存期間(OS)を延長したタルラタマブの成績が報告され、肺がんのコミュニティとしてはPlenaryセッションでもよかったのではとの声も聞こえてきた。さらに日本では未承認であるが、進展型SCLC(ES-SCLC)の維持療法として、lurbinectedinが、無増悪生存期間(PFS)、OSともに延長を示したIMforte試験にも注目が集まった。IMforte試験の演者はスペインのLuis Paz-Ares先生で、くしくもPARAMOUNT試験において非小細胞肺がん(NSCLC)におけるペメトレキセドの維持療法をASCOで発表したのもPaz-Ares先生であり、印象的であった。これらの日常診療を変えうる発表に加え、将来につながる発表が、周術期領域、抗体医薬品の開発に関連して複数発表されている。周術期領域においては、EGFR遺伝子変異陽性肺がんに対してNeoADAURA試験の結果が、ALK遺伝子転座陽性肺がんに対してALNEO試験の結果が報告された。抗体医薬品の開発は引き続き盛んであり、抗体薬物複合体(ADC)、T-cell Engager(TCE)、さらにはCAR-T療法など、今後に期待が持たれる発表が、とくに中国から続いた。そんななか、新薬を使うのでも、手術をするのでもなく、免疫チェックポイント阻害薬の投与タイミングにより、治療効果に大きな違いをもたらした臨床試験の結果が中国から発表された。免疫チェックポイント阻害薬の奥の深さを感じるとともに、このようなタイムリーな研究成果が中国から報告されることに、新規薬剤の開発だけでなく、臨床試験の実施体制としても中国の成熟が感じられた。[目次]DeLLphi-304試験IMforte試験NeoADAURA試験ALNEO試験CheckMate 816試験HERTHENA-Lung02試験抗体医薬品の展開Time-of-Day試験最後にDeLLphi-304試験再発SCLCに対する治療選択肢の1つとして期待されているDLL3とCD3を標的としたTCEであるタルラタマブの有効性と安全性を評価した第III相試験がDeLLphi-304試験である。本試験は、プラチナ製剤ベースの初回化学療法を終了後、病勢進行を経験した再発SCLC患者を対象に、タルラタマブ(0.3mgで開始後、10mgを2週ごと投与)と化学療法(トポテカン、lurbinectedin、アムルビシン)を比較する国際共同多施設無作為化比較試験で、全体で509例が登録された。主要評価項目はOS、副次評価項目にはPFSや奏効割合(ORR)、安全性が設定された。主要評価項目であるOSにおいて、タルラタマブ群は化学療法群と比較して有意な生存期間延長を示し、OSの中央値はタルラタマブ群で13.6ヵ月、化学療法群で8.3ヵ月であり、ハザード比は0.60(95%CI:0.47~0.77)、p<0.001と統計学的に有意であった。PFSについても良好な傾向が認められ、中央値は4.2ヵ月と3.7ヵ月、ハザード比は0.71(95%CI:0.59~0.86)であった。ORRについても40%と17%とタルラタマブ群で良好であった。安全性の観点では、タルラタマブ群に特徴的なサイトカイン放出症候群(CRS)は56%にみられたが、大半はGrade1~2で管理可能であり、免疫エフェクター細胞関連神経毒性症候群(ICANS)などの神経学的有害事象も既知のプロファイルと一致した。治療関連死亡はなかった。今回のDeLLphi-304試験の成功により、20年以上にわたって進展のなかった再発SCLC治療において、新たな標準治療の登場が視野に入った意義深い試験結果である。DLL3はSCLCに特異的かつ高発現する治療標的として注目されており、新たなモダリティとしてTCEが治療の基軸になる状況が現実となった。今後、初回治療や限局型への展開、あるいは他がん腫への応用など、免疫系を活用した治療開発の広がりが期待される。IMforte試験ES-SCLCでは一次治療後の病勢進行率が高く課題とされてきた。lurbinectedinはアルキル化作用を持つ転写阻害剤であり、プラチナ製剤ベース化学療法後に病勢進行したSCLC患者において抗腫瘍活性が示されてきた。IMforte試験は、ES-SCLC患者において一次導入化学療法(アテゾリズマブ+カルボプラチン+エトポシド)後に病勢進行しなかった患者を対象として、アテゾリズマブによる維持療法にlurbinectedinを上乗せすることの意義を検証する国際共同多施設無作為化非盲検第III相試験である。患者はlurbinectedin(3.2mg/m2)とアテゾリズマブ(1,200mg)を3週ごとに併用投与する試験治療群、またはアテゾリズマブ(1,200mg)を3週ごとに単独投与する標準治療群に1:1の割合で無作為に割り付けられた。主要評価項目はIRF-PFS(独立画像判定によるPFS)およびOSとされた。試験治療群には242例、標準治療群には241例が登録された。試験治療群はIRF-PFSにおいて標準治療群に対して、PFS中央値5.4ヵ月と2.1ヵ月、ハザード比0.54(95%CI:0.43~0.67)、pNeoADAURA試験EGFR遺伝子変異陽性の切除可能なNSCLCに対する術前治療として、オシメルチニブ単剤または化学療法併用の有効性と安全性を検証する第III相試験がNeoADAURA試験である。本試験は、StageII~IIIB(N2)に相当する切除可能EGFR遺伝子変異陽性(Exon19delまたはL858R)NSCLCを対象に、術前オシメルチニブ単剤群、オシメルチニブ+化学療法併用群、化学療法単独群を比較する国際共同無作為化試験で、全体で358例が登録された。主要評価項目はmajor pathologic response(MPR)であり、副次評価項目には無イベント生存期間(event-free survival;EFS)、病理学的完全奏効割合(pCR)、ORR、手術実施率、R0切除率、安全性などが含まれた。MPRにおいては、化学療法群で2%であったのに対して、オシメルチニブ単剤、併用群では25%、26%であり、オシメルチニブ併用による統計学的な優越性が確認された。pCRにおいては、化学療法群が2%であったのに対して、併用群で4%、オシメルチニブ単剤群で9%という結果であった。R0切除率はいずれの群でも90%以上と高率であり、手術遅延や手術不能例も少なく、安全に根治切除に導ける治療であることが示唆された。まだイベント数が少ない状態ではあるがEFSについても報告され、化学療法群に対して、ハザード比は併用療法群で0.50、オシメルチニブ単剤群で0.73であった。術後治療としては全例にオシメルチニブによる補助療法が予定されており、長期予後の追跡が期待される。ADAURA試験で術後オシメルチニブの有効性が示されて以来、EGFR遺伝子変異陽性NSCLCの治療パラダイムは大きく変化したが、本試験は術前段階からEGFR-TKIを導入することの意義を検討している。免疫チェックポイント阻害薬において病理学的奏効割合は高めだが画像上の奏効は50%程度にとどまっているという課題を有しており、画像上の高い奏効割合が期待できるEGFR-TKIの立ち位置については、今後さまざまな議論が展開されることになる。ALNEO試験ALNEO試験では、アレクチニブ600mgを1日2回術前に投与し、手術後も術後療法として継続することの有効性と安全性を検討する第II相試験である。主要評価項目はBICRによるMPRとされた。本試験にはイタリアの20施設が参加し、2021年5月から2024年7月にかけて患者が登録された。33例が登録され、全例が術前治療を完了し、28例が手術を受け、26例が術後療法を開始した。手術を受けなかった5例のうち、2例は患者の拒否、2例は臨床的判断、1例は臨床的進行のためであった。術後療法を受けなかった2例は、いずれもR0切除が得られなかったことがその理由であった。主要評価項目であるBICRによるMPRは42%(95%CI:28~58)であり、信頼区間の下限が事前に設定された閾値の20%を超えたことから、統計学的にも有意な結果であった。pCRは12%であった。副次評価項目として、ORRは67%であった。特筆すべきは、同時に報告されたNeoADAURA試験やこれまでのオシメルチニブによる術前治療において、pCRが0~10%未満にとどまっているのに対して、アレクチニブにおいては若干高めのMPRやpCRが報告されており、同じドライバー陽性肺がんにおいても標的や薬剤によって病理学的奏効に違いがあることが示唆されている点にある。今後、術前治療にドライバー遺伝子変異に伴うTKIを中心とした治療が導入されていくことが期待されているが、他の標的、他の薬剤による病理学的効果を含む効果についても注目したい。CheckMate 816試験すでに実臨床に導入されているCheckMate 816試験は、切除可能なStageIB(腫瘍径4cm以上)~IIIAのNSCLC患者(TNM分類第7版による)を対象とした第III相試験で、既知のEGFR遺伝子変異またはALK転座がない患者が登録された。患者はニボルマブ360mgと化学療法を3週間ごとに3サイクル併用するニボルマブ群、または化学療法単独を3週間ごとに3サイクル行う化学療法群に1:1の割合で割り付けられた。主要評価項目は、独立中央病理審査(BIPR)によるpCRおよびEFSで、OSは有意水準αも割り付けられた主要な副次評価項目として設定され、今回、最低5年間の追跡期間で最終解析が行われた。ニボルマブ群は化学療法群に対して、ハザード比0.72(95%CI:0.523~0.998)、p=0.0479と統計学的に有意なOSの改善を示し、5年OS割合も65%と55%であり、10%の上乗せを示した。ニボルマブと化学療法の併用は、肺がん特異的生存期間においても化学療法単独と比較して継続的な効果を示した。安全性プロファイルはこれまでの報告と一貫していた。CheckMate 816試験は、切除可能な固形がんにおいて、術前化学免疫療法のみ(3サイクル)が統計学的に有意なOSのベネフィットを示すことを検証した唯一の第III相試験であり、術前+術後化学免疫療法によるKEYNOTE-671試験に続いて、周術期免疫チェックポイント阻害薬においてOSの延長を示した重要な試験となった。術前のみ、術前+術後いずれの免疫チェックポイント阻害薬による補助療法においてもOSの延長が示された状況は肺がんにおいてのみであり、術前+術後の治療方法しか存在しない他のがん腫との明らかな違いが生じている。今後その違いに基づき、さらなる議論が展開されることは間違いないと考えられる。HERTHENA-Lung02試験HERTHENA-Lung02試験は、第3世代EGFR-TKI後に病勢進行した局所進行または転移を有するEGFR変異陽性NSCLC患者を対象とした国際共同多施設無作為化非盲検第III相試験である。患者は、HER3-DXd(5.6mg/kg、3週ごと)群または標準治療(シスプラチンまたはカルボプラチンを3週ごとに4サイクル投与後、ペメトレキセド維持療法実施)群に1:1の割合で割り付けられた。主要評価項目は、BICRによるPFSとされ、主要な副次評価項目はOS、それ以外の副次評価項目として安全性、頭蓋内PFS、HER3タンパク発現と有効性の関連性評価とされた。本試験には586例の患者が登録され、HER3-DXd群に293例、標準治療群に293例が割り付けられた。HER3-DXd群のPFS中央値は5.8ヵ月であったのに対し、標準治療群は5.4ヵ月であり、ハザード比は0.77(95%CI:0.63~0.94)、p=0.011で、統計学的に有意な結果であった。ただ、中央値での差異は0.4ヵ月にとどまっていた。さらに、今回OSの解析結果として、OSの中央値がHER3-DXd群、標準治療群それぞれで16.0ヵ月、15.9ヵ月、ハザード比0.98(95%CI:0.79~1.22)であり、OSについてはNegative trialであることが明らかになった。ポジティブな結果が多かった今年のASCOにおいて、期待されていたADCについてNegativeな結果が報告されたことのインパクトは大きかった。DXd(デルクステカン)ベースのADCとしては、昨年TROP2-ADCであるDato-DXdが、同様の肺がん二次治療において、全体集団でのOSでNegativeであったことが報告されている。Dato-DXdについてはTROP2の発現についてAIも用いたタンパク発現の評価方法TROP2 QCS-NMR(Normalized Membrane Ratio of TROP2 by Quantitative Continuous Scoring)が効果予測になりうることが報告されている。そのため、HER3-DXdにおいても、HER3の発現について今後同様の試みがされることに期待したい。抗体医薬品の展開BL-B01D1(iza-bren)は、EGFRとHER3の二重特異性ADCであり、新規のトポイソメラーゼI阻害薬(Ed-04)をペイロードとしている。EGFR遺伝子変異陽性NSCLCに対しては、63.2%のORRを示したことがすでに報告されている。今回は、上記以外のドライバー遺伝子変異を持つNSCLC患者83例が登録され、EGFR exon20挿入変異・Uncommon mutation(14例)、HER2変異(19例)、ALK/ROS1/RET融合(24例)、KRAS/BRAF/MET変異(26例)を有する患者が登録された。全患者のORRは46.2%、PFS中央値は7.0ヵ月であった。ORRはそれぞれ、EGFR exon20挿入変異・Uncommon mutation 69.2%、HER2変異52.9%、KRAS/BRAF/MET変異40%、KRAS G12C変異44.4%、ALK/ROS1/RET融合34.8%であった。ABBV-400(Telisotuzumab Adizutecan、Temab-A)はc-Met標的抗体(Telisotuzumab)とトポイソメラーゼIペイロードを組み合わせたものである。今回、プラチナベース化学療法およびTKIによる治療を受けた進行固形がん患者を対象とし、3ライン以上の治療歴のあるEGFR変異非扁平上皮NSCLCコホートのデータが報告された。その結果、ORRは63%であり、耐性変異の有無にかかわらず幅広い効果が確認された。ABBV-706は、高悪性度神経内分泌腫瘍(NENs)に発現しているSEZ6(Seizure-Related Homolog Protein 6)を標的としたTop1阻害薬をペイロードとしたADCである。NEN全体を対象としたコホートでは、ORRが36.9%、PFS中央値が7.62ヵ月であり、LCNECに限定した解析結果では、ORRが33.3%、PFS中央値が5.78ヵ月であることが報告された。低酸素応答性CEA CAR-T細胞療法の再発NSCLCに対する第I相試験についても報告された。ORRは47%、DCRは87%であり、一定の効果が示されたが、奏効期間(DoR)中央値は2ヵ月であり、この点についてはまだまだ改善の余地があることが示された。PRを達成した患者では、ベースライン血清CEAレベルが有意に高いなどのサブグループ解析も報告された。Time-of-Day試験Time-of-Day(ToD)試験は、進行NSCLC患者における化学免疫療法を、早めの時間(15:00より前)と遅い時間(15:00以降)で投与した場合の比較を行った無作為化第III相試験である。概日リズムは睡眠、疾患、治療に影響を与えることが知られており、前臨床試験では概日リズムと免疫細胞機能・分布の関連性、および免疫療法の有効性への影響が示唆されていた。また、20報以上の後ろ向き研究のメタ解析では、免疫チェックポイント阻害薬の投与が「遅い時間」よりも「早い時間」に行われた場合に効果の改善が示されている。StageIIIC~IV期のNSCLC患者210例が、標準化学療法と免疫チェックポイント阻害薬(ペムブロリズマブまたはsintilimab)の初回4サイクルについて、早めの時間(15:00より前)または遅い時間(15:00以降開始)に無作為に割り付けられた。主要評価項目はBICRによるPFS、副次評価項目はOS、BICRによるORR、全血リンパ球サブセット解析であった。早い時間に投与した場合のPFS中央値は11.3ヵ月であったのに対し、遅い時間では5.7ヵ月であり、ハザード比は0.42(95%CI:0.31~0.58)、p<0.0001で、統計学的に有意に早い時間に投与することの優越性が示された。OSにおいても、中央値がNot reachedと16.4ヵ月、ハザード比は0.45(95%CI:0.30~0.68)、p<0.0001であり、明らかに早い時間の投与で延長することが示された。有害事象発現割合については、若干の違いは認めるものの大きな違いは認められなかった。循環T細胞の解析では、早い時間群でCD8+T細胞とCD4+T細胞の有意な増加が示された一方で、遅い時間群では減少傾向がみられ、今回の試験結果を裏打ちする情報として示された。高額の薬剤を用いて新たな治療方法が模索されるなかで、投与時間の調整のみで大きなPFS、OSの違いをもたらした結果が、中国で実施された臨床試験から得られたことを会場の参加者は驚きをもって受け止めた。今後おそらくいくつかの追試が実施されるとともに、最適な投与時間のカットオフ(15時が最適か)についても検討が進められる見込みである。最後に今年のASCOは、肺がんによるPlenary演題はなかったものの、Plenaryであってもおかしくないインパクトを有する演題は複数発表された。注目すべきは、抗体医薬品を中心とした新たな薬剤の発表が続いたことだけでなく、周術期や免疫チェックポイント阻害薬の投与タイミングなど、肺がんの治療開発が実に幅広い領域で展開していることである。引き続き目が離せない状態が続くと考えられる。

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第17回 米国10代で肥満症治療薬「セマグルチド」使用が50%急増、期待と懸念が交錯

アメリカの若者の間で深刻化する肥満。この問題に対し、新しい治療の選択肢として登場したGLP-1受容体作動薬の肥満症治療薬セマグルチド(商品名:ウゴービ[Wegovy])の使用が、10代の若者たちの間で急増しています。ロイター通信が報じた最新のデータによると、その使用率は昨年1年間で50%増加しました1)。これは、長年有効な対策が限られていた若年層の肥満治療における大きな転換点であると同時に、専門家の間では期待と懸念の意見が交錯しています。深刻化する肥満と「最後の手段」としての新薬このニュースの背景には、米国の若者をめぐる深刻な健康問題があります。現在、米国の12~19歳の約23%、約800万人が肥満であるとされ、この割合は1980年の5%から大幅に増加しています。肥満は将来の糖尿病や心臓病のリスクを高めるため、長年、食事療法や運動といったライフスタイルの改善が推奨されてきましたが、それだけでは効果が不十分なケースが少なくありませんでした。こうした状況の中、製薬大手ノボ ノルディスク ファーマの開発したセマグルチドが、2022年後半に12歳以上の青少年への使用を承認されました。この薬には強力に食欲を抑える効果があり、臨床試験で高い有効性が示されています。米国小児科学会(AAP)も2023年1月に、12歳以上の肥満の子供に対し、生活習慣の改善と並行して減量薬を使用することを推奨するガイドラインを発表しています2)。こうした流れが、医師や患者家族の間でセマグルチドに対する信頼感を高め、使用の拡大につながったとみられています。50%増でも「氷山の一角」、使用率が示す現実ロイターが報じた分析によれば、セマグルチドの処方率は2023年の青少年10万人当たり9.9件だったのが、昨年(2024年)には14.8件と50%増加し、今年(2025年)の最初の3ヵ月では17.3件にまで伸びています。このデータは、全米130万人の12~17歳の電子カルテを分析したものです。しかし、この数字はまだ「氷山の一角」にすぎないという指摘もあります。実際、肥満の青少年は10万人当たり推定2万人いるとされており3)、現在の処方率はそのごくわずかにすぎません。残る長期的な安全性への懸念使用が拡大する一方で、懸念の声も上がっているのは事実です。とくに、体の発達において重要な時期にある青少年への長期的な影響については、まだデータが十分ではないという懸念です。また、これらの薬は使用を中止すると体重が元に戻る可能性があり、長期にわたって使い続ける必要があるかもしれないという課題も指摘されています。製造元のノボ ノルディスク ファーマは、臨床試験においてセマグルチドが「成長や思春期の発達に影響を与えるようにはみえなかった」として、その安全性と有効性に自信を示していますが、十分なエビデンスがあるとはいえません。確かにセマグルチドの登場は、これまで有効な手段が乏しかった青少年の肥満治療に大きな希望をもたらしています。しかし一方で、長期的な安全性や費用、そして「痩せ薬」として安易に使用されている現状への懸念など、社会が向き合うべき課題は少なくありません。この新しい治療法が、今後どのように若者たちの健康に影響を与えるのか、慎重に見守っていく必要があるでしょう。 参考文献・参考サイト 1) Terhune C, et al. Wegovy use among US teens up 50% as obesity crisis worsens. Reuters. 2025 Jun 4. 2) Hampl SE, et al. Clinical Practice Guideline for the Evaluation and Treatment of Children and Adolescents With Obesity. Pediatrics. 2023;151:e2022060640. 3) CDC. Childhood Obesity Facts. 2024 Apr 2.

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進行肛門扁平上皮がん、標準治療vs. retifanlimab上乗せ/Lancet

 プラチナ製剤化学療法中に病勢進行した進行肛門管扁平上皮がん(SCAC)において、retifanlimabは抗腫瘍活性を示すことが報告されている。英国・Royal Marsden Hospital NHS Foundation TrustのSheela Rao氏らPOD1UM-303/InterAACT-2 study investigatorsは、本疾患の初回治療における、カルボプラチン+パクリタキセル療法へのretifanlimab上乗せを前向きに評価する、第III相の国際多施設共同二重盲検無作為化対照試験「POD1UM-303/InterAACT-2試験」を行い、臨床的ベネフィットが示され、安全性プロファイルは管理可能であったことを報告した。著者は、「結果は、retifanlimab+カルボプラチン+パクリタキセル併用療法が、進行SCAC患者に対する新たな標準治療と見なすべきであることを示すものであった」とまとめている。Lancet誌2025年6月14日号掲載の報告。日本を含む12ヵ国70施設で試験 POD1UM-303/InterAACT-2試験は、EU、オーストラリア、日本、英国、米国の12ヵ国70施設で行われた。対象者は、18歳以上、切除不能の局所再発または転移のあるSCACでECOG performance status が0または1、全身療法歴なし、HIVのコントロール良好(CD4陽性Tリンパ球数200/μL超、ウイルス量検出限界未満)な患者を適格とした。 被験者は、標準治療のカルボプラチン+パクリタキセルに加えてretifanlimab 500mgまたはプラセボを4週ごと静脈内投与する群に1対1の割合で無作為に割り付けられ、最長1年間投与された。プラセボ群の被験者は、病勢進行が確認された場合にretifanlimab単独投与への切り替えが可能であった。 主要評価項目は、RECIST 1.1に基づく独立中央判定の無増悪生存期間(PFS、すなわち無作為化の日から最初に記録された病勢進行またはあらゆる原因による死亡の日まで)とした。有効性はITT集団で評価した。PFS中央値はretifanlimab群9.3ヵ月、プラセボ群7.4ヵ月、HRは0.63 2020年11月12日~2023年7月3日に、376例が適格性の評価を受け、308例がretifanlimab+カルボプラチン+パクリタキセル群(154例)またはプラセボ+カルボプラチン+パクリタキセル群(154例)に無作為化された。222/308例(72%)が女性で、86/308例(28%)が男性であった。 PFS中央値は、retifanlimab群9.3ヵ月(95%信頼区間[CI]:7.5~11.3)、プラセボ群7.4ヵ月(7.1~7.7)であった(ハザード比[HR]:0.63[95%CI:0.47~0.84]、片側p=0.0006)。 重篤およびGrade3以上の有害事象は、retifanlimab+カルボプラチン+パクリタキセル群(47.4%および83.1%)がプラセボ+カルボプラチン+パクリタキセル群(38.8%および75.0%)より発現頻度が高かった。最も多かったGrade3以上の有害事象は、好中球減少症(それぞれ35.1%vs.29.6%)および貧血(19.5%vs.20.4%)であった。 致死的有害事象4例がretifanlimab+カルボプラチン+パクリタキセル群で発現したが、治療に関連したものは1例(汎血球減少症)のみであった。また、プラセボ+カルボプラチン+パクリタキセル群では致死的有害事象が1例発現したが、治療に関連していなかった。

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CLLの1次治療、I-V併用vs.イブルチニブ単独vs.FCR/NEJM

 慢性リンパ性白血病(CLL)患者において、イブルチニブ+ベネトクラクス(I-V)併用療法はイブルチニブ単独またはフルダラビン+シクロホスファミド+リツキシマブ(FCR)療法と比較して、測定可能残存病変(MRD)陰性および無増悪生存期間(PFS)延長の達成割合が高かったことが示された。英国・Leeds Cancer CentreのTalha Munir氏らUK CLL Trials Groupが第III相の多施設共同非盲検無作為化試験「FLAIR試験」の結果を報告した。同試験のPFSの中間解析では、MRDに基づいて投与期間を最適化するI-V併用療法はFCR療法に対する優越性が示されていたが、イブルチニブ単独と比較した有効性は不明であった。NEJM誌オンライン版2025年6月15日号掲載の報告。2年以内の骨髄MRD陰性、PFSなどを評価 FLAIR試験は英国の99病院で行われ、18~75歳、未治療のCLLまたは小リンパ球性リンパ腫(SLL)で、治療担当医師によりFCR療法の適応と判定された患者を対象とした。 被験者は、I-V群、イブルチニブ単独群、FCR群に1対1対1の割合で無作為に割り付けられ、追跡評価を受けた。 主要評価項目は、イブルチニブ単独群と比較したI-V群の2年以内の骨髄MRD陰性、およびFCR群と比較したI-V群のPFSであった。 検出力のある副次評価項目は、イブルチニブ単独群と比較したI-V群のPFSとした。その他の副次評価項目は全生存期間などであった。I-V群の2年以内の骨髄MRD陰性率はイブルチニブ単独群と有意差 2017年7月20日~2021年3月24日に、786例が無作為化された(I-V群260例、イブルチニブ単独群263例、FCR群263例)。被験者の人口統計学的および臨床特性は3群間でバランスが取れていた。被験者の年齢中央値は62歳(四分位範囲:56~67)、65歳以上の割合が31.4%で、男性が71.1%であった。 2年以内の骨髄MRD陰性を達成した患者は、I-V群172/260例(66.2%)に対し、イブルチニブ単独群0/263例(p<0.001)、FCR群は127/263例(48.3%)であった。 追跡期間中央値62.2ヵ月で、病勢進行または死亡の報告は、I-V群18例(6.9%)であったのに対し、イブルチニブ単独群59例(22.4%)であり(ハザード比[HR]:0.29、95%信頼区間[CI]:0.17~0.49、p<0.001)、FCR群112例(42.6%)であった(0.13、0.08~0.21、p<0.001)。5年PFS率は、I-V群93.9%、イブルチニブ単独群79.0%、FCR群58.1%だった。 死亡は、I-V群11例(4.2%)であったのに対し、イブルチニブ単独群26例(9.9%)であり(HR:0.41、95%CI:0.20~0.83)、FCR群39例(14.8%)であった(0.26、0.13~0.50)。突然死は、I-V群3例、イブルチニブ単独群8例、FCR群4例で報告された。

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社会との関わりが高齢者の寿命を延ばす?

 長生きしたいのなら、社会と関わりを持ち続けることが大切なようだ。新たな研究で、他者との交流、スポーツや趣味のグループへの参加、慈善活動などを通して社会的関わりを持っている高齢者では、孤独な高齢者に比べて死亡リスクの低いことが明らかになった。米カリフォルニア大学サンフランシスコ校(UCSF)のAshraf Abugroun氏らによるこの研究結果は、「Journal of the American Geriatrics Society」に5月21日掲載された。 Abugroun氏は、「社会的関わりを持つことは単なるライフスタイルの選択ではなく、健康的な老化と長寿に密接に関連している」と同誌の発行元であるWiley社のニュースリリースの中で述べている。 社会的関わりは健康的な老化に寄与することが知られているが、社会的関わりと死亡リスクをつなげるメカニズムは十分に解明されていない。この研究では、現在も継続中の健康と退職に関する研究(Health and Retirement Study;HRS)に参加している60歳以上の米国人2,268人を追跡調査し、両者の関係を媒介する因子について検討した。HRS参加者は2016年に、心理社会的側面とライフスタイルに関する質問票に回答するとともに血液サンプルを提供していた。社会的関わりは、9項目の「HRS社会参加質問票」を用いて評価され、「低い」「中程度」「高い」の3つのカテゴリーに分類された。 解析の結果、社会的関わりが高い群と中程度の群では低い群と比べて、4年間の追跡期間における死亡リスクがそれぞれ42%(調整ハザード比0.58)と47%(同0.53)低いことが明らかになった。有意な死亡リスクの低下と関連していた具体的な社会的関わりは、ボランティアや慈善活動(51%の低下)、社交クラブやスポーツクラブへの参加(28%の低下)、孫と頻繁に遊ぶこと(18%の低下)の3つだった。また、社会的関わりが高い群は中程度の群や低い群と比較して、生物学的年齢の中央値が低く、抑うつ症状のある人の割合が有意に低く、運動や喫煙などの健康的な行動の指標が有意に良好だった。社会的関わりが死亡リスクを低下させる効果は、定期的な身体活動(16%)と生物学的年齢の遅延(15%)によって部分的に媒介されていた。一方、抑うつ症状の強さや過度の飲酒、喫煙などの因子は有意な媒介効果を示さなかった。 Abugroun氏は、「これらの結果は、地域社会との関わりの維持が高齢者の健康増進にいかに寄与するかを強調している」と述べている。

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がん診断後の運動習慣が生存率と関連

 がんと診断された後の運動習慣が、生存率と関連しているとする研究結果が報告された。年齢やがんのステージなどの影響を考慮しても、運動量が多いほど生存率が高いという。米国がん協会(ACS)のErika Rees-Punia氏らの研究によるもので、詳細は「Journal of the National Cancer Institute」に5月21日掲載された。 運動が健康に良いことは古くから知られている。しかしがん診断後には、がん自体や治療の影響で体力が低下しやすく、運動が困難になることも少なくない。たとえそうであっても習慣的な運動が予後にとって重要なようだ。Rees-Punia氏は、「われわれの研究結果は、がん診断後に活動的に過ごすことが生存の確率を有意に高める可能性を示唆する、重要なエビデンスだ」と述べている。 この研究は、米国を拠点として行われた6件のコホート研究のデータを統合し、がんサバイバー9万844人(診断時の平均年齢67±10歳、女性55%)を対象として実施された。習慣的な運動量は、がん診断後1年以上経過した時点で評価されていた。10.9±7.0年の追跡期間中に4万5,477人が死亡。死亡リスクに影響を及ぼし得る因子(年齢、性別、人種/民族、喫煙・飲酒状況、がんのステージ・治療内容)は、統計学的に調整した。 解析の結果、運動を全くしていない人に比べ、ある程度の運動を行っている人の死亡リスクは平均約29%低いことが明らかになった。また、ガイドラインで推奨されている運動量(週に中強度運動を150分、または高強度運動を75分)を満たしている人ではリスクが平均約42%低く、さらに推奨量の2~3倍の運動をしている人は約57%低リスクだった。なお、米疾病対策センター(CDC)は、中強度の運動の例として、早歩き、社交ダンス、軽い庭仕事、ヨガなど、高強度運動の例として、ランニング、水泳、高速でのサイクリング、土の掘り起こしといった庭仕事などを挙げている。 運動により死亡リスクが抑制される可能性のあるがんは10種類あり、ガイドラインが推奨する運動を行っていた場合のリスク低下の程度(ハザード比〔95%信頼区間〕)は以下のとおり。口腔がん(0.44〔0.27~0.73〕)、子宮内膜がん(0.50〔0.34~0.76〕)、肺がん(0.51〔0.38~0.68〕)、直腸がん(0.51〔0.36~0.71〕)、呼吸器がん(0.51〔0.29~0.72〕)、膀胱がん(0.53〔0.40~0.72〕)、腎臓がん(0.53〔0.37~0.77〕)、前立腺がん(0.60〔0.49~0.74〕)、結腸がん(0.61〔0.50~0.76〕)、乳がん(0.67〔0.55~0.81〕)。なお、これら10種類のがんのうち8種類については、追跡開始後の最初の2年以内に死亡した参加者を除外した解析でも有意なリスク低下が認められた。 Rees-Punia氏はこの結果に基づき、「がん治療によって肉体的・精神的な消耗を来しやすいため、運動は大変だと感じられるかもしれない。しかし、全く運動をしないよりは少しでもした方が良い。自分が楽しめる運動を見つけたり、友人と一緒に運動してみたりすると良いのではないか」とアドバイスしている。

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統合失調症に対する簡易心理的介入の有効性~メタ解析

 統合失調症患者に対する認知行動療法(CBT)は、国際的な臨床ガイドラインで推奨されているにもかかわらず実施率が低い。そのため、CBTで推奨される最低16セッションより短い、簡易な短期の個別心理的介入の開発が進められてきた。英国・Hampshire and Isle of Wight Healthcare NHS Foundation TrustのBlue Pike氏らは、統合失調症患者に対する既存の簡易介入(brief intervention)をシステマティックに特定し、その有効性を評価する初めてのメタ解析を実施した。Psychological Medicine誌2025年5月13日号の報告。 5つの電子データベース(PsycINFO、MEDLINE、CINAHL、EMBASE、Web of Science)より、コミュニティ環境で実施された簡易な個別心理的介入に関する査読済みのランダム化比較試験(RCT)または実験的研究をシステマティックに検索した。対象研究の異質性を考慮し、エフェクトサイズを統合するためランダム効果メタ解析を用いた。 主な結果は以下のとおり。・30項目の臨床アウトカムを測定し、6種類の介入タイプ(簡易CBT、記憶トレーニング、デジタル動機付けサポート、推論トレーニング、心理教育、仮想現実)を含む14件の研究が特定された。・全体として、簡易心理的介入は、精神症状(標準化平均差[SMD]:-0.285、p<0.01)、妄想(SMD:-0.277、p<0.05)、データ収集(SMD:0.380、p<0.01)、うつ病(SMD:-0.906、p<0.05)、ウェルビーイング(SMD:0.405、p<0.01)に有効であることが示唆された。・介入タイプ別では、簡易CBTは精神症状に有効であり(SMD:-0.320、p<0.001)、推論トレーニングはデータ収集に有効であった(SMD:0.380、p<0.01)。 著者らは「簡易心理的介入は、統合失調症に関連するいくつかの主要な障害に有効である。本研究結果が、新規統合失調症患者の治療アクセスおよび治療選択肢を改善するきっかけとなることが望まれる」としている。

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術後大腸がん患者への運動療法、DFSとOSを改善/NEJM

 前臨床研究および観察研究では、運動が大腸がんを含むがんのアウトカムを改善する可能性が示唆されている。カナダ・アルバータ大学のKerry S. Courneya氏らCHALLENGE Investigatorsは「CHALLENGE試験」において、大腸がんに対する術後補助化学療法終了から6ヵ月以内に開始した3年間の構造化された運動プログラムは、これを行わない場合と比較して、無病生存期間(DFS)を有意に改善し、全生存期間(OS)の有意な延長をもたらすことを示した。研究の成果は、NEJM誌オンライン版2025年6月1日号に掲載された。運動の有効性を評価する国際的な無作為化第III相試験 CHALLENGE試験は、カナダとオーストラリアを主とする55施設で実施した無作為化第III相試験であり、2009~24年に参加者を登録した(Canadian Cancer Societyなどの助成を受けた)。 StageIIIまたは高リスクのStageIIの大腸腺がんで、切除術を受け、過去2~6ヵ月の間に術後補助化学療法を完了し、中等度から高強度の身体活動の時間が週に150分相当未満の患者を対象とした。 被験者を、標準的なサーベイランスに加え身体活動と健康的な栄養摂取を奨励する健康教育資料の提供のみを受ける群、または健康教育資料+3年間の構造化運動プログラムを受ける群に1対1の割合で無作為に割り付けた。 主要評価項目はITT集団におけるDFSとし、無作為化の時点から大腸がんの再発(局所または遠隔)、新規の原発がん、2次がん、全死因死亡のいずれか最初に発現したイベントまでの期間と定義した。5年DFS率は80.3%vs.73.9%、8年OS率は90.3%vs.83.2% 889例を登録し、運動群に445例、健康教育群に444例を割り付けた。全体の年齢中央値は61歳(範囲19~84)、51%が女性で、90%の病変がStageIII、61%が術後補助化学療法としてFOLFOX(フルオロウラシル+ロイコボリン+オキサリプラチン)を受けていた。ベースラインで、患者報告による中等度から高強度の身体活動の代謝当量(MET)は週に11.5MET・時で、予測最大酸素摂取量は毎分体重1kg当たり30.7mLであり、6分間歩行距離は530mであった。 追跡期間中央値7.9年の時点で、DFSイベントは224例(運動群93例、健康教育群131例)で発現した。DFS中央値は、健康教育群に比べ運動群で有意に延長し(ハザード比[HR]:0.72[95%信頼区間[CI]:0.55~0.94]、p=0.02)、年間イベント発生率は運動群3.7%、健康教育群5.4%であった。また、5年DFS率は、運動群80.3%、健康教育群73.9%だった(群間差:6.4%ポイント[95%CI:0.6~12.2])。 DFSの結果は、健康教育群よりも運動群でOS中央値が長いことを裏付けるものであり(HR:0.63[95%CI:0.43~0.94])、年間死亡率は運動群1.4%、健康教育群2.3%であった。また、8年OS率は、運動群90.3%、健康教育群83.2%だった(群間差:7.1%ポイント[95%CI:1.8~12.3])運動介入による有害事象は10% 36-Item Short Form Survey(SF-36)の身体機能のサブスケールの評価では、ベースラインから6ヵ月(7.1 vs.1.3)、1年(6.8 vs.3.3)、1.5年(7.2 vs.2.4)、2年(6.1 vs.2.6)、3年(6.1 vs.3.0)のいずれの時点においても、健康教育群に比べ運動群で改善度が大きかった。 介入期間中の有害事象は、運動群の351例(82.0%)、健康教育群の352例(76.4%)で発現した。筋骨格系の有害事象は、運動群で79例(18.5%)、健康教育群で53例(11.5%)に発現し、運動群の79例中8例(10%)は運動による介入に関連すると判定された。Grade3以上の有害事象は、運動群で66例(15.4%)、健康教育群で42例(9.1%)に認めた。 著者は、「運動による無病生存期間の改善は、主に肝の遠隔再発(3.6%vs.6.5%)と新規原発がん(5.2%vs.9.7%)の発生が低率であったことに起因しており、運動はさまざまなメカニズムを介して大腸がんの微小転移を効果的に治療し、2次がんを予防する可能性が示唆される」「運動群では、ベースラインから週当たり約10MET・時の中等度から高強度の身体活動の増加という目標を達成し、この増分は約45~60分の速歩を週に3~4回、または約25~30分のジョギングを週に3~4回追加することに相当する」「本試験の結果は、構造化運動プログラムのがんの標準治療への組み込みを支持するものだが、知識だけでは患者の行動やアウトカムを変えることは困難であるため、意味のある運動の増加を達成するには医療システムによる行動支援プログラムへの投資が求められるだろう」としている。

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新ガイドラインの導入で肺移植待機患者の死亡率が大きく改善

 米国では、2023年に肺移植の新たな臓器配分ガイドラインが導入されて以降、移植待機中に死亡する移植希望者の数が大幅に減少したことが最新の研究で明らかになった。米コロンビア大学アーヴィング医療センターのMary Raddawi氏らによるこの研究結果は、米国胸部学会国際会議(ATS 2025、5月16〜21日、米サンフランシスコ)で発表された。 米国ではかつて、ドナー肺の配分が地理的な近さに基づいて決定されており、ドナーの近くに住む人が優先的にドナー肺へのアクセス権を与えられていた。しかし2017年に、肺移植を必要としていた女性が、臓器配分のポリシーが医療的な緊急度よりも居住地を優先しているのは不公平だとして訴訟を起こした。 この訴訟を受けて臓器配分の地理的範囲が広域化されるとともに、UNOS(全米臓器配分ネットワーク)と臓器調達・移植ネットワーク(OPTN)は新たなガイドラインの策定に着手した。2023年3月に導入された新たなガイドラインでは、従来の地理的優先順位に基づく配分方法に代わり、患者の医療的な緊急度や予測される生存期間、ドナーとの適合性などの他の要素を総合的に評価する「複合配分スコア(Composite Allocation Score;CAS)」が導入された。 Raddawi氏らは今回の研究で、肺移植待機リスト登録患者の転帰が、2017年以前と地理的範囲が拡大された2017年以降(2017年11月〜2023年3月)、およびCASが導入された2023年以降(2023年3月〜2024年3月)でどのように変化したかを調査した。 その結果、待機リスト登録患者のうち待機中に死亡またはリストから除外された割合(以下、待機中の死亡/除外率)は、2017年以前で11.2%であったのが、2017年以降では8.4%、2023年以降では4.1%にまで低下したことが明らかになった。このような死亡/除外率の改善は、特に医療的な緊急度が最も高い上位5%の患者で顕著であり、待機中の死亡/除外率は2017年以前で34.5%であったのが、2017年以降では22.2%、2023年以降では6.5%にまで低下していた。 Raddawi氏は、「われわれが臓器配分システムに変更を加える際には常に、特に重症患者の転帰が確実に改善されるようにしたいと考える。今回の研究結果は、肺移植が正しい方向に進んでいることを裏付けるものだ」と述べている。同氏はまた、「現行のシステムが、医療的な緊急度などさまざまな要素に重点を置いていることを考えると、待機リストに登録されている重症患者の死亡率が低下するのは当然のことだが、それでも実際に低下した数字を見るのは喜ばしいことだ」と語っている。 研究グループは、臓器提供のスコアリングで考慮される特定の要素が他の要素よりも良い転帰につながるのかどうかを確認するために、今回の結果をより詳細に調べる予定だとしている。 なお、学会発表された研究結果は、査読を受けて医学誌に掲載されるまでは一般に予備的なものと見なされる。

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ビタミンD3は生物学的な老化を抑制する?

 ビタミンD3サプリメント(以下、サプリ)は、本当に「若返りの泉」となって人間の生物学的な老化を遅らせることができる可能性のあることが、新たな臨床試験で示された。ビタミンD3を毎日摂取している人は、染色体の末端にありDNAを保護する役割を果たしているテロメアの摩耗が抑えられていたことが確認されたという。米ブリガム・アンド・ウイメンズ病院予防医学部門長のJoAnn Manson氏らによるこの研究結果は、「American Journal of Clinical Nutrition」に5月21日掲載された。 靴ひもの先端をカバーするプラスチック製の覆いに例えられるテロメアは、加齢とともに劣化する。そのため研究者は、出生から経過した年数に基づく暦年齢ではなく、実際に体がどれだけ老化したかを表す生物学的年齢の指標としてテロメアを用いている。 この臨床試験では、ビタミンD3サプリおよびオメガ3脂肪酸サプリの効果の検証を目的とした大規模臨床試験であるVITAL試験(試験参加者2万5,871人)のデータが用いられた。VITAL試験では、試験参加者がビタミンD3(1日2,000IU)またはオメガ3脂肪酸(1日1g)のサプリを毎日摂取する群にランダムに割り付けられていた。今回は、VITAL試験参加者のうち、試験開始時とサプリの摂取開始から2年後および4年後にテロメアの長さが評価された1,054人を解析対象とした。研究グループによると、テロメアが短くなると遺伝子の安定性が低下し、がんや心疾患、死亡、慢性疾患のリスクが高まると考えられている。 臨床試験からは、ビタミンD3サプリの摂取群で、プラセボ摂取群と比べて4年間のテロメア短縮が有意に抑制されていたことが明らかになった。一方、オメガ3脂肪酸摂取群では、テロメアの長さに対する明確な効果は見られなかった。 研究論文の筆頭著者である米オーガスタ大学ジョージア医科大学のHaidong Zhu氏は、「今後さらなる研究が必要ではあるが、この結果は、特定の対象に絞ったビタミンDの補給が生物学的な老化のプロセスに対抗する有望な戦略となり得ることを示唆している」とマス・ジェネラル・ヘルスのニュースリリースの中で述べている。 ただし、まだビタミンD3の錠剤を買いだめするのは時期尚早だとManson氏らは警告するとともに、今回の試験で示されたポジティブな効果を、他の研究で検証する必要があるとの見解を示している。Manson氏は、「われわれは、今回の結果は有望であり、さらなる研究の実施に値するものだと考えている。ただし、ビタミンD摂取に関するガイドラインを変更する前に、再現性を確認することが重要だ」とWashington Post紙に語っている。また同氏は、ビタミンD3のサプリ摂取がテロメアに有益な影響をもたらす可能性はあるものの、健康的な食事や日常的な運動の代わりとして位置付けられるべきではないと強調している。 Manson氏は、「繰り返し指摘してきたが、重点を置くべきはサプリではなく、食事と生活習慣である」とWashington Post紙に語っている。その上で、「炎症レベルが高い人や、明らかに炎症に関連した慢性疾患のリスクが高い人などのハイリスク層では、特定のビタミンD3の補給が有益である可能性がある」と付け加えている。

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第272回 悪名高きピロリ菌の有益なアミロイド疾患防御作用を発見

悪名高きピロリ菌の有益なアミロイド疾患防御作用を発見ピロリ菌は身を寄せる胃の上皮細胞にIV型分泌装置を使って毒素を注入します。CagAという名のその毒素の意外にも有益な作用をカロリンスカ研究所主体のチームが発見しました1-3)。その作用とはタンパク質の凝集によるアミロイドの形成を阻止する働きです。アミロイドはアルツハイマー病、パーキンソン病、2型糖尿病、細菌感染などの数々の疾患と関連します。CagAはそれらアミロイド関連疾患の治療手段として活用できるかもしれません。ピロリ菌が住まうヒトの胃腸は清濁入り交じる細菌のるつぼです。消化や免疫反応促進で不可欠な役割を担うヒトに寄り添う味方がいる一方で、胃腸疾患や果ては精神不調をも含む数多の不調を引き起こしうる招かれざる客も居着いています。ピロリ菌は世界の半数ほどのヒトの胃の内側に張り付いており、悪くすると胃潰瘍や胃がんを引き起こします。腸の微生物に手出しし、細菌の代謝産物の生成を変える働きも知られています。ピロリ菌がヒトに有害なことはおよそ当たり前ですが、カロリンスカ研究所のチームが発見したCagAの新たな取り柄のおかげでピロリ菌を見る目が変わるかもしれません。ピロリ菌はCagAを細胞に注入してそれら細胞の増殖、運動、秩序を妨害します。ヒト細胞内でCagAはプロテアーゼで切断され、N末端側断片と病原性伝達に寄与するC末端側断片に分かれます。カロリンスカ研究所のGefei Chen氏らは構造や機能の多さに基づいてN末端側断片(CagAN)に着目しました。大腸菌や緑膿菌などの細菌が作るバイオフィルムは宿主の免疫細胞、抗菌薬、他の細菌を寄せ付けないようにする働きがあります。バイオフィルムは細菌が分泌したタンパク質がアミロイド状態になったものを含みます。ピロリ菌は腸内細菌の組成や量を変えうることが知られます。その現象は今回の研究で新たに判明したCagANのバイオフィルム形成阻止作用に起因しているのかもしれません。緑膿菌とCagANを一緒にしたところ、バイオフィルム形成が激減しました3)。アミロイド線維をより作るようにした緑膿菌のバイオフィルム形成もCagANは同様に阻止しました。CagANの作用は広範囲に及び、細菌のアミロイドの量を減らし、その凝集を遅らせ、細菌の動きを鈍くしました。ピロリ菌で腸内細菌が動揺するのは、ピロリ菌の近くの細菌がCagANのバイオフィルム形成阻止のせいで腸内の殺菌成分により付け入られて弱ってしまうことに起因するかもしれないと著者は考えています1)。バイオフィルムを支えるアミロイドは細菌の生存を助けますが、ヒトなどの哺乳類の臓器でのアミロイド蓄積は種々の疾患と関連します。病的なアミロイド線維を形成するタンパク質は疾患ごとに異なります。たとえばアルツハイマー病ではアミロイドβ(Aβ)やタウ、パーキンソン病ではαシヌクレイン、2型糖尿病は膵島アミロイドポリペプチドがそれら疾患と関連するアミロイド線維を形成します。CagANはそれらのタンパク質のどれもアミロイド線維を形成できないようにする働きがあり、どうやらタンパク質の大きさや電荷の差をものともせずアミロイド形成を阻止しうるようです。Googleの人工知能(AI)AlphaFold 3を使って解析したところ、CagANを構成する3区画の1つであるDomain IIがアミロイド凝集との強力な結合相手と示唆されました。Domain IIを人工的に作って試したところ、アルツハイマー病と関連するAβのアミロイド線維形成がきっちり阻止されました。アミロイド混じりのバイオフィルムを作る薬剤耐性細菌感染やアミロイド蓄積疾患は人々の健康に大きな負担を強いています。今回の研究で見出されたCagANの取り柄がそれら疾患の新たな治療法開発の足がかりとなることをChen氏らは期待しています2,3)。 参考 1) Jin Z, et al. Sci Adv. 2025;11:eads7525. 2) Protein from bacteria appears to slow the progression of Alzheimer's disease / Karolinska Institutet 3) A Gut Pathogen’s Unexpected Weapon Against Amyloid Diseases / TheScientist

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心筋梗塞後の便秘、心不全入院リスクが上昇~日本人データ

 心筋梗塞患者において、退院後6ヵ月間における便秘は心不全による入院リスクの上昇と強く関連していることを、仙台市医療センター仙台オープン病院の浪打 成人氏らによる研究の結果、示唆された。浪打氏らは以前、急性心不全後に便秘のある患者は心不全による再入院リスクが高いことを報告しており、今回、便秘による心筋梗塞患者の予後への影響を心不全入院で評価し、BMC Cardiovascular Disorders誌2025年5月28日号に報告した。 本研究では、2012年1月~2023年12月に仙台オープン病院に入院した心筋梗塞患者1,324例(平均年齢:68±14歳、男性:76%)を対象とし、便秘患者は下剤を定期的に使用している患者と定義した。 主な結果は以下のとおり。・追跡期間(中央値2.7年)中に、115例が心不全で死亡し、99例が再入院した。・ランドマークKaplan-Meier解析の結果、0~0.5年における便秘のある患者とない患者の心不全による入院率は7.8%と2.1%(log-rank検定:p<0.0001)、0.5~3年においては4.8%と3.9%(同:p=0.17)であった。・調整Cox比例ハザード解析では、便秘のある患者はない患者と比較して、0~0.5年における心不全による入院リスクが有意に高いことが明らかになった(ハザード比[HR]:2.12、95%信頼区間[CI]:1.07~4.19、p=0.032)。0.5~3年では有意差はみられなかった(HR:0.86、95%CI:0.47~1.57、p=0.63)。 今回の結果から、著者らは「便秘が心筋梗塞後の心不全発症を予防するための新たなターゲットとなる可能性がある」としている。

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男女の認知症発症リスクに対する性ホルモンの影響

 認知症は、世界的な公衆衛生上の大きな問題であり、そのリスクは性別により異なることが知られている。女性のアルツハイマー病およびその他の認知症発症率は、男性の約2倍であるといわれている。テストステロン値は、高齢者の認知機能に影響を及ぼすと考えられているが、これまでの研究では一貫性のない結果が報告されており、性ホルモンと認知症との関係は、依然として明らかになっていない。中国・山東大学のYanqing Zhao氏らは、大規模データベースを用いて、男女の認知症発症リスクに対する性ホルモンの影響を検討した。Clinical Endocrinology誌オンライン版2025年5月11日号の報告。 英国バイオバンクのデータを用いて、検討を行った。血清中の総テストステロン値および性ホルモン結合グロブリン(SHBG)値の測定には、免疫測定法を用いた。血清中の遊離テストステロン値の算出には、vermeulen法を用いた。認知症およびアルツハイマー病の発症は、入院患者のデータより抽出した。性ホルモンと認知症との関連性を評価するため、年齢およびその他の変数で調整したのち、Cox比例ハザード回帰分析を実施した。用量反応関係を定量化するため、制限付き3次スプラインモデルを用いた。 主な結果は以下のとおり。・対象は、男性18万6,296人(平均年齢:56.68±8.18歳)、閉経後女性12万6,109人(平均年齢:59.73±5.78歳)。・12.0年間(四分位範囲:11.0〜13.0)のフォローアップ調査後、認知症を発症した対象者は、男性で3,874例(2.08%)、女性で2,523例(2.00%)。・遊離テストステロン値の最高五分位の男性は、最低五分位と比較し、すべての原因による認知症(ハザード比[HR]:0.63、95%信頼区間[CI]:0.56〜0.71)およびアルツハイマー病(HR:0.49、95%CI:0.60〜0.72)リスクの低下が認められた。・一方、SHBG値の最高五分位の男性は、最低五分位と比較し、すべての原因による認知症(HR:1.47、95%CI:1.32〜1.64)およびアルツハイマー病(HR:1.32、95%CI:1.11〜1.58)リスクの上昇が認められた。・閉経後女性では、遊離テストステロン値が第4五分位の際、すべての原因による認知症(HR:0.84、95%CI:0.78〜0.95)およびアルツハイマー病(HR:0.76、95%CI:0.63〜0.91)リスクの低下が認められた。・更年期女性では、SHBG値の上昇は、すべての原因による認知症(HR:1.35、95%CI:1.28〜1.55)およびアルツハイマー病(HR:1.52、95%CI:1.25〜1.85)リスクの上昇との関連が認められた。 著者らは「SHBG値の上昇および遊離テストステロン値の低下は、すべての原因による認知症およびアルツハイマー病の発症率上昇と関連している可能性が示唆された。これらの因果関係を明らかにするためにも、さらなる研究が求められる」と結論付けている。

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GLP-1受容体作動薬使用時にすべき生活習慣介入の優先事項とは

 肥満症の治療にGLP-1受容体作動薬が使用される際に、その効果を維持などするために患者の食事や運動など生活習慣に引き続き介入する必要がある。米国・タフツ大学フリードマン栄養科学政策学部のDariush Mozaffarian氏らの研究グループは、GLP-1受容体作動薬を使用する際に、食事内容や生活習慣介入での優先事項をアメリカ生活習慣病医学会、アメリカ栄養学会、肥満医学協会、および肥満学会の団体とともに共同指針として策定した。この指針はThe American Journal of Clinical Nutrition誌2025年5月29日号オンライン版に掲載された。GLP-1受容体作動薬の使用でも引き続き生活習慣介入は必要 研究グループは、GLP-1受容体作動薬を使用する際、食事による栄養摂取とほかの生活習慣介入に関する事項について文献を評価し、関連するトピック、優先事項、および新しい方向性を特定した。  主な結果は以下のとおり。・GLP-1受容体作動薬は臨床試験で体重を5~18%減少させているが、リアルワールドの分析ではやや低い効果を示し、複数の臨床的な課題が示されている。・安全性などの課題では、とくに消化器系の副作用、カロリー制限による栄養不足、筋肉や骨の減少、長期的なアドヒアランスの低さとその後の体重増加、高コストによる効果の低さがある。・多くの実践ガイドラインでは、肥満成人に対しさまざまな根拠に基づく食事療法と行動療法を推奨しているが、GLP-1受容体作動薬との併用は広く普及していない。・先述の課題に対応するための優先事項には以下の項目がある。(a)体重減少と健康に関する目標を含む患者中心のGLP-1受容体作動薬の導入(b)通常の食習慣、感情要因、摂食障害、関連する医療状態を含んだベースラインスクリーニング(c)筋力、運動機能、体組成評価を含む総合的な検査(d)社会的健康決定要因のスクリーニング(e)有酸素運動、筋力トレーニング、睡眠、精神的ストレス、薬物使用、社会的つながりを含む生活習慣の評価・GLP-1受容体作動薬使用中は、消化器系副作用への栄養的・医療的管理が重要であり、変化した食事の好みや摂取量への対応、栄養不足の予防、有酸素運動と適切な食事による筋骨格量の維持、補完的な生活習慣介入も不可欠である。・サポート戦略として、グループベースでの患者訪問、管理栄養士によるカウンセリング、遠隔医療およびデジタルプラットフォーム、「食事は薬」への啓発などの介入が挙げられる。・肥満の程度にかかわらず薬剤へのアクセス、食事と栄養への不安、栄養と調理に関する知識は、GLP-1受容体作動薬を用いた者に影響を及ぼす。・今後の研究の重点領域には、内因性GLP-1の食事による調節、アドヒアランス向上の戦略、使用中止後の体重維持のための栄養上の優先事項、組み合わせまたは段階的による集中的な生活習慣管理、臨床的肥満の診断基準が挙げられる。 以上から研究グループは、「エビデンスに基づく栄養と生活習慣の介入戦略は、GLP-1受容体作動薬による肥満治療における主要課題に対処する上で重要な役割を果たし、臨床医が患者の健康向上を促進する上でより効果的になることを可能にする」と結んでいる。

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中硬膜動脈塞栓術で、慢性硬膜下血腫の再発リスクは軽減するか/JAMA

 慢性硬膜下血腫(CSDH)に対する開頭術後の再発リスクが高い患者において、標準的な薬物療法単独と比較して標準治療に中硬膜動脈(MMA)塞栓術を追加しても、6ヵ月後の再発率を改善せず、同側CSDH再発に対する再手術やCSDH関連の累積入院期間にも差はないことが、フランス・Pitie-Salpetriere HospitalのEimad Shotar氏らが実施した「EMPROTECT試験」で示された。研究の詳細は、JAMA誌オンライン版2025年6月5日号で報告された。フランスの無作為化試験 EMPROTECT試験は、フランスの12施設で実施した非盲検(エンドポイント評価は盲検下)無作為化試験であり、2020年7月~2023年3月に参加者を募集した(Programme Hospitalier de Recherche Clinique[PHRC]などの助成を受けた)。 年齢18歳以上、初発CSDHまたは再発CSDHで開頭術を受け、CSDHの再発リスクが高い患者を対象とした。被験者を、薬物療法に加え手術から7日以内に塞栓術(300~500μmエンボスフィア、Merit Medical製)を受ける群(介入群)、または標準的な薬物療法のみを受ける群(対照群)に1対1の割合で無作為に割り付けた。 主要エンドポイントは、6ヵ月の時点でのCSDH再発率とし、独立審査委員会が盲検下に評価した。6ヵ月後のCSDH再発率、介入群14.8%vs.対照群21.0% 342例(年齢中央値77歳[四分位範囲[IQR]:68~83]、男性274例[80.1%])を登録し、介入群に171例、対照群に171例を割り付けた。308例(90.1%)が試験を完了した。ベースラインで、237例(69.3%)が抗血小板薬または抗凝固薬の投与を受けていた。CSDHは、257例(75.1%)が片側性、85例(24.9%)が両側性だった。 6ヵ月後のCSDH再発率は、介入群が14.8%(24/162例、同側CSDH再発22例、死亡[神経学的原因または原因不明]2例)、対照群は21.0%(33/157例、32例、1例)と、両群間に有意な差を認めなかった(オッズ比:0.64[95%信頼区間[CI]:0.36~1.14]、補正後絶対群間差:-6%[95%CI:-14~2]、p=0.13)。塞栓術関連合併症の発現、重度1例、軽度3例 副次エンドポイントはいずれも両群間に有意差はなかった。同側CSDH再発に対する再手術は、介入群の7例(4.3%)、対照群の13例(8.3%)で行われた(p=0.14)。1ヵ月後および6ヵ月後の機能障害(修正Rankinスケールスコア≧4点)と死亡にも差はみられなかった。CSDH関連の直接または間接的な累積入院期間中央値は、介入群が10日、対照群は9日であった(p=0.12)。 また、介入群における塞栓術関連合併症は、重度が1例(0.6%[頸動脈カテーテル留置中に発生した頭蓋内中大脳動脈閉塞に対する機械的血栓回収術])、軽度が3例(1.8%[一過性神経脱落症候2例、軽度頭痛1例])に発現した。 著者は、「効果の大きさは、非接着性液体塞栓物質を用いたMMA塞栓術の有益性を示した試験など、最近の他の試験と一致しており、これらの知見を総合的に考慮することで、今後の研究や、CSDH管理におけるこの治療法の活用に役立つ可能性がある」としている。

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ドナー心の冷却保存時間の延長に新たな可能性

 ドナーから摘出された心臓を移送中のダメージから守ることにつながる新たな発見によって、今後、移植に使用できる心臓(以下、ドナー心)の数が増えるかもしれない。米メイヨー・クリニックの心臓血管外科医であるPaul Tang氏らが、冷却保存している間にドナー心が損傷を受ける生物学的なプロセスを特定したとする研究結果を、「Nature Cardiovascular Research」に5月19日発表した。 さらに喜ばしいことに、Tang氏らはすでに心疾患の治療に使用されているある薬が、ドナー心の損傷の予防にも活用できることを突き止めた。Canrenoneと呼ばれるこの薬を使用して保存されたドナー心では、同薬を使用しなかったドナー心と比べてポンプ機能が約3倍に強化されたことが示されたという。 Tang氏は、「私は心臓血管外科医として、手術室でドナー心の保存時間の1時間の延長が移植後のドナー心の回復にどれほど影響するかを目の当たりにしてきた。今回の発見によって、心臓の保存中にその機能を維持し、移植のアウトカムを向上させ、患者の命を救う移植へのアクセスを改善するための新たなツールを手に入れることができるかもしれない」とメイヨークリニックのニュースリリースの中で述べている。 Tang氏らは研究の背景情報の中で、ドナー心のうち最終的に移植に使われる心臓は半数に満たないと説明している。その主な理由の一つは、ドナーから摘出した心臓を移植可能な状態に保てる時間が比較的短いことにある。これは、冷却保存の時間が長過ぎるとドナー心の機能が低下する恐れがあるためだ。そのような心機能低下の結果として生じる合併症の一つが、移植された心臓が効率的に血液を送り出せない状態に陥る原発性移植片機能不全(primary graft dysfunction)で、移植患者の最大20%に生じる。 このようなドナー心の損傷がなぜ起こるのかを明らかにするために、Tang氏らは、冷却保存プロセスに対する分子レベルの反応を個々の細胞レベルで調査した。その結果、心筋細胞内にあるミネラルコルチコイド受容体(MR)と呼ばれるタンパク質がドナー心の損傷に関与している可能性が示された。具体的には、冷却保存中にはMRの産生が大幅に増加し、それらが細胞核内で集まって液滴状の構造物を形成する。タンパク質が細胞の他の部分から凝集するこのようなプロセスは、相分離と呼ばれる。研究グループは、この相分離によってMRが自己活性化され、その結果、心筋細胞へのストレスと損傷を大幅に増大させることを突き止めたのだ。 次に、このプロセスを防げるかどうかを調べるため、Tang氏らはMRの働きを阻害する薬剤であるcanrenoneをドナー心に投与した。その結果、移植された心臓のポンプ機能が大幅に向上したほか、血流の改善や細胞傷害を示す兆候の大きな減少が見られたという。 この結果を踏まえ、canrenoneはドナー心を安全に保存できる期間を延長させるのに役立つ可能性があるとTang氏らは結論付けている。なお、Tang氏らによると、これと似たようなタンパク質の凝集は、腎臓や肺、肝臓などの他のドナー臓器でも冷却保存中に起こるという。そのため、同様の戦略が他の臓器の保存時間を延ばすのにも役立つ可能性が期待されている。

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