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新型コロナ、マスク着用率95%で米国死者数は3分の1に?

 米国では、2020年2月初旬に新型コロナウイルス感染症(COVID-19)による初の死亡者が記録されて以来、9月21日までの累計死者数は19万9,213人と報告されている。そんななか、米国ではマスクの着用について今でも論争の的となっており、米国居住者で“常に”公共の場でマスクを着用しているのはわずか49%である。州レベルで見ると、バージニア州、フロリダ州、カリフォルニア州での着用率は60%超の状況である。このように人口全体でのマスク着用率95%の達成および維持は高い閾値のように見えるが、ニューヨーク州のように達成している地域もある。 今回、社会的距離の確保やマスク着用などさまざまな生活規制がどのような効果を生み出すのかを検証するため、米国・IHME* COVID-19 Forecasting Teamの研究員らが独自のCOVID-19死亡数予測モデルを作成した。その結果、米国全土で2021年2月28日までにCOVID-19による累積死亡者数は51万1,373人(46万9,578~57万8,347)にのぼると予測された。*:IHME=Institute for Health Metrics and Evaluation 一方で、マスクの着用が普遍的となれば、2020年9月22日~2021年2月末までの間に12万9,574(8万5,284~17万0,867)の命を救うことができると研究者らは明らかにした。仮にマスク着用率を85%とした場合は、着用率95%よりは少なくなるものの、9万5,814人(6万731~13万3,077)の命を救うことができることから、公共の場でのマスク着用率95%、つまりユニバーサルマスクの達成が多数の州での流行復活の最悪な状況の打開策になることが示された。Nature Medicine誌オンライン版10月23日号掲載の報告。 まず、予測モデルを構築するために研究者らは3つの境界シナリオを確定。1つ目は州が社会的距離の規制を緩和し、人と人との接触の数が増加した場合の結果を予測した。2つ目は、州が再び社会・経済活動を人口100万人あたり8人の死亡率、つまり90パーセンタイルの閾値でロックダウンすると仮定して、パンデミックの進展を予測した。ここでは州が過去に社会的距離の規制を実施したときに観測された分布を分析し、社会的距離の規制が6週間で緩和することを前提とした。さらに、マスクの有効性に関する新たなデータが利用可能になったことから、3つ目にユニバーサルマスク実施時の予測を加えた。ここでの“ユニバーサル”を公共の場でのマスク着用者95%と定義したのは、これまでのCOVID-19パンデミック時の世界(とくにシンガポール)でのマスク着用の報道に基づいている。  このなかで、州が社会的距離の緩和を行ったという予測モデルでは、米国全体の累積死亡者数は2020年9月22日~2021年2月28日までに105万3,206人(75万9,693~145万2,397)に達する可能性があることも明らかにした。その死亡者の約3分の1はカリフォルニア州で14万6,501人(8万4,828~22万1,194)、フロリダ州で6万6,943(4万0,826~9万6,282)、ペンシルベニア州で4万6,943(4万826~9万6,282)と3州で発生することが見込まれていた。 研究者らはユニバーサルマスクや社会的距離の維持を達成すれば、多数の州で経済への損害を最小限に抑えながら多くの命を救える可能性があるとしている。

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セマグルチド、NASH治療に有効な可能性/NEJM

 非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)の治療において、セマグルチドはプラセボに比べ、肝線維化の悪化を伴わないNASH消散が達成された患者の割合が有意に高いが、肝線維化の改善効果には差がないことが、英国・バーミンガム大学のPhilip N. Newsome氏らの検討で示された。研究の成果は、NEJM誌オンライン版2020年11月13日号で報告された。NASHは、脂肪蓄積と肝細胞損傷、炎症を特徴とする重度の非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)であり、肝線維化や肝硬変と関連し、肝細胞がんや心血管疾患、慢性腎臓病、死亡のリスク増大をもたらす。また、インスリン抵抗性は2型糖尿病と肥満に共通の特徴で、NASHの主要な病因とされる。2型糖尿病治療薬であるグルカゴン様ペプチド-1(GLP-1)受容体作動薬セマグルチドは、肥満および2型糖尿病患者の減量に有効で、血糖コントロールを改善し、アラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)値や炎症マーカーを抑制すると報告されているが、NASH治療における安全性や有効性は明らかにされていない。16ヵ国143施設が参加したプラセボ対照無作為化第II相試験 本研究は、セマグルチドが組織学的なNASHの消散に及ぼす効果を評価する目的で実施された二重盲検プラセボ対照無作為化第II相試験であり、日本を含む16ヵ国、143施設が参加し、2017年1月~2018年9月の期間に患者登録が行われた(Novo Nordiskの助成による)。 対象は、年齢18~75歳(日本は20~75歳)、生検でNASHが証明され、ステージF1、F2、F3の肝線維化を有し、2型糖尿病の有無は問われず、BMI>25の患者であった。被験者は、3つの用量(0.1、0.2、0.4mg)のセマグルチドまたはそれぞれに対応するプラセボを1日1回皮下投与する群に、各用量群とも3対1の割合で無作為に割り付けられた。 主要エンドポイントは、72週の時点における肝線維化の悪化のないNASHの消散とした。NASH消散は、NASH Clinical Research Networkの分類で炎症性細胞の軽度残存以下(スコア0~1点)で、かつ肝細胞の風船様腫大がない(スコア0点)場合と定義された。副次エンドポイントは、NASHの悪化がなく、かつ肝線維化の1ステージ以上の改善であった。これらのエンドポイントの解析は、肝線維化がステージF2またはF3の患者に限定して行われ、他の解析は全ステージの患者で実施された。肝酵素や体重減少も用量依存性に改善 320例(肝線維化のステージF2、F3は230例)が登録され、セマグルチド0.1mg群に80例、同0.2mg群に78例、同0.4mg群に82例、プラセボ群には80例が割り付けられた。全体の平均年齢は55歳、61%が女性、62%が2型糖尿病であり、平均体重は98.4kg、平均BMIは35.8であった。肝線維化のステージ別では、F1が90例(28%)、F2が72例(22%)、F3は158例(49%)だった。 72週時において線維化の悪化がなくNASHが消散した患者の割合は、0.1mg群が40%、0.2mg群が36%、0.4mg群が59%で、プラセボ群は17%であった。0.4mg群のプラセボ群に対するオッズ比(OR)は、6.87(95%信頼区間[CI]:2.60~17.63)であり、0.4mg群で有意に優れた(p<0.001)。一方、72週時の肝線維化の1ステージ以上の改善は、0.4mg群では43%、プラセボ群では33%の患者で達成されたが、両群間に有意な差は認められなかった(OR:1.42、95%CI:0.62~3.28、p=0.48)。 ALTおよびアスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST)は、いずれもセマグルチドの用量依存性に低下し、72週時のベースライン時に対する測定値の比は、0.4mg群が0.42であったのに対し、プラセボ群は0.81だった(比が小さいほど、低下率が大きい)。また、72週時の体重減少率は用量依存性に増加し、0.4mg群が12.51%、プラセボ群は0.61%であった。セマグルチド群では、2型糖尿病の有無を問わず、糖化ヘモグロビン値の低下率が大きかった。 0.4mg群はプラセボ群に比べ、悪心(42% vs.11%)、便秘(22% vs.12%)、嘔吐(15% vs.2%)の発生率が高かった。悪性新生物は、セマグルチド群で3例(1%)報告されたが、プラセボ群ではみられなかった。全体として、新生物(良性、悪性、詳細不明)の発生率はセマグルチド群で15%、プラセボ群では8%と報告され、特定の臓器での発生のパターンは観察されなかった。 著者は、「NASH消散と用量依存性の体重減少に関して大きな有益性が得られたとはいえ、肝線維化の改善に有意差がなかったという事実は予想外であった。肝線維化の重症度が高い患者が多かったことから、72週という期間では、肝線維化のステージの改善が明確になるまでの時間が十分でなかった可能性がある」としている。

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院外心停止・難治性心室細動、早期ECMO蘇生vs.標準的ACLS/Lancet

 院外心停止(OHCA)および難治性心室細動を呈した患者において、早期の体外式膜型人工肺(ECMO)を用いた蘇生法は、標準的な二次心肺蘇生法(ACLS)と比べて、生存退院率を有意に改善することが、米国・ミネソタ大学のDemetris Yannopoulos氏らによる第II相の単施設非盲検無作為化試験「ARREST試験」の結果、示された。OHCAや心室細動を呈した患者では、半数以上が初期の標準的なACLSに反応せず難治性心室細動を呈する。研究グループは、より高度な再灌流戦略の適応性、安全性および有効性を確認するため、OHCAと難治性心室細動患者を対象にECMO蘇生法と標準的ACLSを比較する、米国で初となる無作為化試験を行った。Lancet誌オンライン版2020年11月13日号掲載の報告。生存退院を主要アウトカムに、単施設無作為化試験 研究グループは、ミネソタ大学医療センターに搬送された18~75歳でOHCAおよび難治性心室細動を呈し、3回の電気ショック後も心拍再開なし、機械的CPR装置(Lund University Cardiac Arrest System:LUCAS)を使用、搬送時間が30分未満の患者を対象に試験を行った。 患者は病院到着時に、ランダムに変化するブロックサイズを有する置換ブロック法で作成された安全なスケジュールを使用して、早期ECMO蘇生法群と標準的ACLS群に無作為に割り付けられた。割り付けの秘匿を達成するため、情報を知るためには表面を削り取る必要があるスクラッチカードが用いられた。 主要アウトカムは、生存退院とし、副次アウトカムは、退院時および退院後3ヵ月・6ヵ月時点の安全性、生存率、機能評価であった。すべての解析は、ITTベースで行われた。本試験では、インフォームド・コンセントによる除外が認められていた。生存退院率、早期ECMO蘇生法群43%、標準的ACLS群7% 2019年8月8日~2020年6月14日に、適格患者36例が搬送され、6例を除外後、30例が標準的ACLS群(15例)または早期ECMO蘇生法群(15例)に無作為化された。早期ECMO蘇生法群の1例が退院前に試験から離脱した。 被験者の平均年齢は59歳(範囲:36~73)、25/30例(83%)が男性であった。 生存退院は、標準的ACLS群1/15例(7%、95%確信区間[Crl]:1.6~30.2)、ECMO蘇生法群6/14例(43%、21.3~67.7)であった(群間リスク差:36.2%[95%Crl:3.7~59.2]、ECMO優越性の事後確率:0.9861)。 ECMO優越性の事後確率が事前規定のモニタリング限界値を上回っていたため、被験者30例の登録後にData Safety Monitoring Boardから全会一致の推奨を受けて、米国国立心肺血液研究所(NHLBI)による初回の事前計画中間解析を行った時点で試験は終了となった。 累積6ヵ月生存率は、標準的ACLS群よりも早期ECMO蘇生法群が有意に優れていた(ハザード比:0.16、95%信頼区間:0.06~0.41、log-rank検定のp<0.0001)。予期せぬ重篤有害事象は観察されなかった。

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新人看護師の燃え尽き症候群が長期アウトカムに及ぼす影響

 看護師や助産師が、燃え尽き症候群を経験することは少なくない。スウェーデン・カロリンスカ研究所のAnn Rudman氏らは、看護師のキャリア初期における燃え尽き症候群エピソードが、卒後10年間の認知機能、抑うつ症状、不眠症に及ぼす長期的な影響について調査を行った。EClinicalMedicine誌2020年10月5日号の報告。看護師キャリア初期の燃え尽き症候群は認知機能低下と睡眠障害と関連 本研究では、看護師を対象とした3つのコホート研究の縦断的観察研究として実施した。26件の看護プログラムより看護学生を募集した。燃え尽き症候群の症状は、卒後3年間は毎年調査し、卒後11~15年の長期調査を1回実施した。フォローアップへの参加に同意した看護師は、2,474人(62%)であった。燃え尽き症候群、認知機能、抑うつ症状、睡眠障害の測定には、それぞれ、Oldenburg Burnout Inventory、本研究特有の方法、うつ病調査票、カロリンスカ眠気尺度を用いた。キャリア初期の燃え尽き症候群と関連する因子は、フォローアップ時の燃え尽き症候群のレベルで調整した後、ロジスティック回帰分析を用いて特定した。 看護師のキャリア初期における燃え尽き症候群が及ぼす長期的な影響を調査した主な結果は以下のとおり。・卒後3年間で高レベルの燃え尽き症候群を報告した看護師は299人(12.3%)であった。・看護師キャリア初期の高レベルの燃え尽き症候群は、現在の燃え尽き症候群のレベルを考慮すると、10年後の認知機能低下、抑うつ症状、睡眠障害と有意な関連が認められた。・現在の燃え尽き症候群の症状やほかのアウトカム変数で調整した後、キャリア初期に燃え尽き症候群が認められた看護師は、認知機能低下と睡眠障害の頻度が高かったが、抑うつ症状との関連は認められなかった。 著者らは「看護師は、キャリアの早い段階から、慢性的であらがうことのできないストレスによって引き起こされる有害な問題を抱えており、早期より看護教育や新人研修の一部として予防的介入を進めるべきである」としている。

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大腸にテントウ虫を認めた1例【Dr. 倉原の“おどろき”医学論文】第175回

大腸にテントウ虫を認めた1例Wikipediaより使用基礎疾患のない59歳の男性の下部消化管内視鏡スクリーニング検査中、検査医はビックリしました。なぜって、横行結腸にテントウ虫がいたからです!!!えええええっ!Tahan V, et al.An Unusual Finding of a Ladybug on Screening ColonoscopyACG Case Rep J . 2019 Aug 15;6(8):e00174.ナミテントウですよ。横行結腸にいたのは。 ちょっと待って、口か肛門、どっちから入ったの!?テントウ虫を飲み込んだら普通、消化されますよね。 しかし、下部消化管内視鏡検査をしたら、大腸に虫がいたという報告は実はいくつかあります。 “異物界"で有名なのが「横行結腸のゴキブリ」です1)。これは、ゴキブリの外殻がうまく消化されないことがあって、ゴキブリの形が残ってしまうという現象です。 おええ。よくよく考えると、テントウ虫が肛門から入って、ヨイショヨイショと横行結腸まで来るというのは考えにくいです。となると、やはり上から来たと考えるのが妥当ですよね。例のごとく、著作権の問題があってココに画像を貼れないのが残念ですが、上にあるWikipediaの写真のような、かわいいテントウ虫が横行結腸に転がっていたのです。 ぜひ原文をチェックしてみてください。テントウ虫の生死については書いていませんでしたが、たぶん死んでいたと思います。考察には、処置前に飲んだポリエチレングリコールが、胃や小腸の消化酵素でテントウ虫を消化するのを防いだのかもしれないと書かれていました。「ladybug」をPubMedでタイトル検索すると、わずか18件しか見つからず、 そのうち異物として報告されたのは、これが初めての例になります。1)Kumar AR, et al. An unusual finding during screening colonoscopy: a cockroach! Endoscopy. 2010;42 Suppl 2:E209-10.

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統合失調症患者に対する筋力トレーニングの効果

 統合失調症スペクトラム障害患者は、下肢の骨格筋力(最大筋力[1RM]、急な動き)が損なわれており、機能的パフォーマンスが低下しているといわれている。ノルウェー科学技術大学のMona Nygard氏らは、統合失調症スペクトラム障害患者に対する12週間の最大筋力トレーニング(MST)の効果について検討を行った。Scandinavian Journal of Medicine & Science in Sports誌オンライン版2020年10月28日号の報告。 12週間のMSTの効果について、次の3項目について調査を行った。(1)下肢の骨格筋力と機能的パフォーマンスレベルが基準レベルまで回復するか(2)患者の活動性やQOLを向上させるか(3)下肢の骨格筋力や機能的パフォーマンスレベルの改善と症状重症度、1日投与量、罹病期間、患者の活動性レベルとの関連。統合失調症スペクトラム障害の外来患者48例を対象に、トレーニング群(T群)または対照群(C群)にランダムに割り付けた。T群には、レッグプレスMSTを週2回90%1RMで実行した。C群は、2度の入門トレーニングセッションと独立したトレーニングを実施するよう勧めた。レッグプレス1RM、急な動き、一連の機能性テスト、精神の健康管理への積極性評価尺度(Patient Activation Measure-13)、健康関連QOL尺度(SF-36)を調査した。健康な対照者より下肢の骨格筋力と機能的パフォーマンスのベースラインテストを実施した。 主な結果は以下のとおり。・研究を完了した患者は36例(T群:17例、C群19例)であった。・T群では、1RM(28%)および急な動き(20%)に関して健康な対照者と同レベルまでの改善が認められたが(各々p<0.01)、C群では変化が認められなかった。・T群における急な動きの改善は、1日投与量と逆相関が認められた(r=-0.5、p=0.05)。・両群ともに、30秒間立位テストのパフォーマンス向上が認められ(p<0.05)、これは急な動きの改善と関連が認められた(r=0.6、p<0.05)。 著者らは「12週間のMSTは、統合失調症スペクトラム障害患者の下肢の骨格筋力を健康な人と同程度のレベルまで改善し、30秒間立位テストのパフォーマンスの改善が認められた」としている。

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プラスグレル治療におけるde-escalation?(解説:上田恭敬氏)-1319

 韓国の35病院において、PCIを施行したACS患者2,338例を対象として、1ヵ月間の標準療法(プラスグレル10mgとアスピリン100mg)後に、標準療法を続ける群とde-escalation群(プラスグレル5mgとアスピリン100mg)に無作為に割り付けを行い、1年間の予後を比較した試験の結果が報告された。主要エンドポイントは全死亡、心筋梗塞、ステント血栓症、再血行再建術、脳卒中、BARC grade2以上の出血イベントの複合エンドポイントである。75歳以上、体重60kg未満、あるいは一過性脳虚血発作・脳卒中の既往がある人は除外されている。 結果としては、標準治療群に比してde-escalation群の非劣性が示され、さらに主要エンドポイントを有意に低下させたことが示された(HR:0.70[95%CI:0.52~0.92]、p=0.012)。内訳としては、出血性イベントを有意に低下させた(HR:0.48[0.32~0.73]、p=0.0007)が、虚血性イベントの有意な増加は認めなかった(HR:0.76[0.40~1.45]、p=0.40)。 この論文で議論されているのは、「虚血性イベントのリスクはACS発症あるいはPCI直後には高く次第に低下してくるのに対して、出血性イベントのリスクは同様に継続することから、虚血性イベントのリスクが低下すると考えられる1ヵ月後にde-escalationすることに意義がある」ということである。次に、「de-escalationの方法には、投与量を減らす方法とクロピドグレルのような効果の弱い薬剤へ変更する方法があるが、投与量を減らす方法を検討したのは本試験が初めて」としている。また、本試験が、出血性イベントが多く虚血性イベントが少ない「east Asian population」で行われたことも、このような結果が得られた背景として指摘している。 ここで、日本人として注意すべきことがある。まず、日本におけるプラスグレルの標準投与量は3.75mgであり、この試験の結果は適用できない。そもそも同じ「east Asian population」である韓国と日本で異なった標準投与量が承認されていることに対して疑問がある。韓国が欧米の標準投与量をそのまま採用したのに対して、日本はPRASFIT-ACSという独自の試験によって、プラスグレル3.75mgが従来のクロピドグレル治療よりも虚血性イベントを低下させるが、出血性イベントを増やさないことを確認して、標準投与量として承認している。この結果は、「CYP2C19 loss-of-function alleles」を持つ人が多い「east Asian population」では、そのためにクロピドグレルの効果が不十分となるのに対して、プラスグレルではこの遺伝子多型に依存せずに十分な効果が得られることに起因すると考えられている。すなわち、クロピドグレルの効果を十分に得られていた人においては、同等の効果が得られるようにプラスグレルの投与量が決められているため、出血性イベントが有意に増加しなかったと考えられる。そのため、日本においてプラスグレル3.75mgをクロピドグレルへ変更することは、一部の遺伝子多型の人を効果不十分にするだけで「de-escalation」とは言えない。プラスグレルを3.75mgよりもさらに低用量にすることにメリットがあるかどうかはわからないが、今回報告されている5mgは、同じ「east Asian population」である韓国において、まだ多すぎるのではないだろうか。 話は変わるが、本試験の結果がLancet誌に採択されたのは、国際標準投与量をベースとして減量を検討したことと、1ヵ月以後虚血性イベントのリスクが減るだろうという仮説に沿った結果を示したことが要因と推測する。その点において本試験の結果は、欧米にもある程度適用可能であるからである。もし、プラスグレル3.75mgをベースとした大規模な試験が行われても、その結果がLancet誌に採択されるかどうか、国際的公平性の観点から気になるところである。

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EGFR陽性肺がんに対するオシメルチニブのアジュバント:ADAURA study【肺がんインタビュー】 第55回

第55回 EGFR陽性肺がんに対するオシメルチニブのアジュバント:ADAURA study出演:国立がん研究センター東病院 呼吸器外科 坪井 正博氏局所進行EGFR変異陽性非小細胞肺がんに対するオシメルチニブのアジュバント第III相ADAURA study。Co-PI坪井正博氏にESMO2020での発表を再現いただいた。Yi-Long Wu, et al. Osimertinib in Resected EGFR-Mutated Non-Small-Cell Lung Cancer.383:1711-1723.

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第34回 まさかの激高!?ノーベル賞候補者のプライドを刺激した1通の文書

研究目的で生体試料を保管する「バイオバンク」を巡り、医療人の間でバトルが展開されている。一方の当事者は、中村 祐輔氏(がん研究会がんプレシジョン医療研究センター所長)。ノーベル賞の有力候補として名前が挙がった人物だ。そしてもう一方は、木下 賢吾氏(東北大学大学院教授)である。事の発端は、木下氏が東京大学医科学研究所バイオバンク・ジャパンに宛てて送った1通の文書だった。(略)コホートの種類の数だけ同意書が存在するように、DAC(データ利活用委員会)もコホートの数だけ存在すると考えて良い状態であり、例えばToMMo(東北大学東北メディカル・メガバンク機構)では試料情報分譲審査委員会がDACであり、J-MICC(日本多施設共同コホート研究)では運営委員会、BBJ(東京大学医科学研究所バイオバンク・ジャパン)では試料等利用審査会などがある。そのため、利用者がデータを利用する際には、各コホート・バイオバンクの定める手続きに従ってそれぞれのDACで可否判断を受ける必要があり、大きな利活用推進の一つの足かせになっているつまり木下氏は、自らが所属する東北大学をはじめ、さまざまな大学に設置されているバイオバンクへのデータアクセスには、個々のDACに諮る必要があり、多施設共同の横断的な研究や解析の妨げになっていることを問題提起したようだ。これに対し中村氏は、10月31日付のブログで猛反論を展開した。東京大学医科学研究所にバイオバンク・ジャパンのデータアクセスを批判する文章が私の手元に届いた。2020年の基準で、2002年に計画したバイオバンクのデータアクセス権を批判するなど、アホ以外の何物でもない。2002年、バイオバンク・ジャパン計画を作成したのは私だ。(略)木下君、ユーチューブの前で対談をセットするのではっきりと何が問題なのか、公開で議論をしようではないか!その時に私は合わせて約100報のNature、Nature Genetics、Nature Communication論文を含めた約300論文を持参していく。その実績も含めジックリと東北メディカル・メガバンク機構の実績と展望、東大のバイオバンク・ジャパンの実績と展望を話ししたい。発表した300の論文を利用すれば、その気になれば、産業応用はいくらでもできる。東北メディカル・メガバンク機構には、相関解析ができるほどの症例数が揃っているのかどうかも明確にしてほしい。また、東北大学バンクに参加している人たちから何の審査もなく、自由に利用してもらっていいというインフォームドコンセントを取っているのかどうかも確認したいものだ。事実に基づかない陰口ではなく、事実を示したうえで、バイオバンク・ジャパンのどこに問題があるのか、どこが東北で優れているのか、公開で議論しよう書きぶりからも相当な怒り具合が伝わってくるが、よくよく読んでみると、バイオバンクの利活用のあり方から、なぜか東北大対東大の構図に論点がすり替わっている。中村氏は大阪大学医学部卒だが、東京大学医科学研究所ヒトゲノム解析センター長・教授を務め、東大名誉教授でもあるためか、BBJに思い入れがあるのだろう。ブログの見出しも「受けて立とうバイオバンク・ジャパンへの批判;出てこい東北大学」である。第三者からすると、感情的過ぎて違和感がある。中村氏を知る人は、彼について「批判に対して感情的に反応しやすい性格」と評す。このやりとりを心配した関係者が、両者の仲介を買って出る動きもあり、週刊誌もゴシップ的な関心を寄せているようだ。しかし、こんなことでノーベル賞候補者としての品位が傷ついたら、それこそ「アホ以外の何物でもない」のではないだろうか。

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COVID-19の血栓症発生率、他のウイルス性肺炎の3倍

 血栓症は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の際立った特徴だが、COVID-19以外のウイルス性呼吸器疾患による血栓症の発生率は不明である。今回、米国・ニューヨーク大学のNathaniel R. Smilowitz氏らが、米国でCOVID-19以外の急性ウイルス性呼吸器疾患で入院した患者における血栓症の発生率を調べた結果、2020年にニューヨークにおいてCOVID-19で入院した3,334例での血栓症発生率より有意に低かった。American Heart Journal誌オンライン版2020年11月9日号に掲載。 本調査の対象は、2002~14年にCOVID-19以外のウイルス性呼吸器疾患で入院した18歳以上の成人で、主要アウトカムは、ICD-9による心筋梗塞(MI)、急性虚血性脳卒中、静脈血栓塞栓症(VTE)などの静脈および動脈血栓イベントの複合とした。 主な結果は以下のとおり。・2002~14年にウイルス性呼吸器疾患で入院した95万4,521例(平均年齢62.3歳、女性57.1%)のうち、動脈または静脈血栓症の発生率は5.0%であった。・各血栓イベントの発生率は、急性MIが2.8%、VTEが1.6%、虚血性脳卒中が0.7%、その他の全身性塞栓症が0.1%であった。・血栓症を合併した患者は合併していない患者より院内死亡率が高かった(14.9% vs.3.3%、p<0.001)。・血栓症を合併した患者の割合は、2020年のCOVID-19患者(年齢中央値64歳、女性39.6%)に比べ、2002~14年のウイルス性呼吸器疾患の患者のほうが有意に低かった(5.0% vs.16.0%、p<0.001)。

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英国ガイドラインにおける年齢・人種別の降圧薬選択は適切か/BMJ

 非糖尿病高血圧症患者の降圧治療第1選択薬について、英国の臨床ガイドラインでは、カルシウム拮抗薬(CCB)は55歳以上の患者と黒人(アフリカ系、アフリカ-カリブ系など)に、アンジオテンシン変換酵素阻害薬/アンジオテンシンII受容体拮抗薬(ACEI/ARB)は55歳未満の非黒人に推奨されている。しかし、英国・ロンドン大学衛生熱帯医学大学院のSarah-Jo Sinnott氏らによる同国プライマリケア患者を対象としたコホート試験の結果、非黒人患者におけるCCBの新規使用者とACEI/ARBの新規使用者における降圧の程度は、55歳未満群と55歳以上群で同等であることが示された。また、黒人患者については、CCB投与群の降圧効果がACEI/ARB投与群と比べて数値的には大きかったが、信頼区間(CI)値は両群間で重複していたことも示された。著者は、「今回の結果は、最近の英国の臨床ガイドラインに基づき選択した第1選択薬では、大幅な血圧低下には結び付かないことを示唆するものであった」とまとめている。BMJ誌2020年11月18日号掲載の報告。12、26、52週後の収縮期血圧値の変化を比較 研究グループは、英国臨床ガイドラインに基づく推奨降圧薬が、最近の日常診療における降圧に結び付いているかを調べるため観察コホート試験を行った。英国プライマリケア診療所を通じて2007年1月1日~2017年12月31日に、新規に降圧薬(CCB、ACEI/ARB、サイアザイド系利尿薬)の処方を受けた患者を対象とした。 主要アウトカムは、ベースラインから12、26、52週後の収縮期血圧値の変化で、ACEI/ARB群vs.CCB群について、年齢(55歳未満、または以上)、人種(黒人またはそれ以外)で層別化し比較した。2次解析では、CCB群vs.サイアザイド系利尿薬群の新規使用者群の比較も行った。 ネガティブなアウトカム(帯状疱疹の発症など)を用いて、残余交絡因子を検出するとともに、一連の肯定的なアウトカム(期待される薬物効果など)を用いて、試験デザインが期待される関連性を特定できるかを判定した。ACEI/ARB服用約8万8,000例、CCB約6万7,000例、利尿薬約2万2,000例を追跡 52週のフォローアップに包含された各薬剤の新規使用者は、ACEI/ARBが8万7,440例、CCBは6万7,274例、サイアザイド系利尿薬は2万2,040例だった(新規使用者1例当たりの血圧測定回数は4回[IQR:2~6])。 非糖尿病・非黒人・55歳未満の患者について、CCB群の収縮期血圧の低下幅はACEI/ARB群よりも大きく相対差で1.69mmHg(99%CI:-2.52~-0.86)だった。また、55歳以上の患者の同低下幅は0.40mmHg(-0.98~0.18)だった。 非糖尿病・非黒人について6つの年齢群別で見たサブグループ解析では、CCB群がACEI/ARB群より収縮期血圧値の減少幅が大きかったのは、75歳以上群のみだった。 非糖尿病患者において、12週後のCCB群とACEI/ARB群の収縮期血圧値の減少幅の差は、黒人群では-2.15mmHg(99%CI:-6.17~1.87)、非黒人では-0.98mmHg(-1.49~-0.47)と、いずれもCCB群でACEI/ARB群より減少幅が大きかった。

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永遠の命題PCI vs.CABG、SYNTAXスコアII 2020開発は、本当に進化か?(解説:中川義久氏)-1318

 冠血行再建におけるPCI vs.CABGは永遠の命題なのであろう。次々と情報が提供される。その度に、霧が晴れるようにスッキリしていくのではなく、出口のない迷宮をさまよう気持ちになる。 PCI vs.CABGの比較において、最も重要で代表的な臨床試験が2005年から2007年に施行されたSYNTAX試験である。3枝疾患または左主幹部病変を有する患者を、PCIかCABGに無作為に割り付けて比較したものである。このSYNTAX試験の登録患者を10年後まで追跡するSYNTAX Extended Survival(SYNTAXES)試験から、長期予後の予測モデルである「SYNTAXスコアII 2020」が開発されたことが、2020年10月8日付のLancet誌に報告された。筆頭著者は、当該施設に留学していた日本人であり、その努力と貢献はうれしく、賞賛に値する。 ここで復習してみよう。古典的には、冠動脈病変の重症度は1枝疾患、2枝疾患や3枝疾患といった罹患病変枝数や左前下行枝近位部の有無によって評価されてきた。しかし、同じ3枝病変であっても重症度に幅があることは臨床現場で認識されていた。これを受け、冠動脈病変の形態と重症度について、とくにPCIを実施する立場から客観点にスコア化したものがSYNTAXスコアである。病変枝数や部位だけでなく、完全閉塞・分岐部・入口部・屈曲・石灰化病変などに応じて点数を付ける。 次に開発されたのが、SYNTAXスコアIIである。SYNTAXスコアに患者背景を組み入れた指標として提唱された。SYNTAXスコアに加えて年齢、性別、クレアチニンクリアランス、左室駆出率、左主幹部病変、末梢動脈疾患、COPDなどを背景因子として組み入れて算出する。これはCABGまたはPCI術後の4年後の予測に有用であるという。 今回、SYNTAXスコアIIを基に「SYNTAXスコアII 2020」が開発された。この、SYNTAXスコアII 2020は、SYNTAXスコアに加えて、3枝病変か左主幹部病変かの分類、年齢、クレアチニンクリアランス、左室駆出率、末梢動脈疾患、COPD、喫煙、糖尿病などの背景因子から算出される。このスコアは、その患者にPCIを適用した場合とCABGを適用した場合の、10年後の総死亡予測および5年後の主要心血管イベントの予測に有用であるという。 「SYNTAXスコア」から「SYNTAXスコアII」そして「SYNTAXスコアII 2020」への推移は、本当にモデル構築の進化なのだろうか? この進化によって日常臨床のレベルが向上し、患者がより幸せになることに貢献するのであろうか。確かにモデルに組み入れる因子の数が多いほど緻密にモデルを構築できるであろう。これは、ある種当然といえる。最初にSYNTAXスコアが紹介されたときには、大きな感動を覚えた。これまで、1枝疾患、2枝疾患や3枝疾患といった大雑把な評価しかなかったが、臨床現場では動脈硬化の進行度や複雑性の違いを実感していた。「SYNTAXスコアすごい! これが、俺たちが表現したかったものだ!」という気持ちであった。SYNTAXスコアII 2020には、残念ながらこの感動はない。糖尿病患者の予後が不良であること、それもCABGに比してPCI患者において顕著に作用する因子であることなど先刻承知のことであり、現時点でも治療方針選択においては当然のように考慮されている因子である。それを、わざわざ組み込んだモデルだからといっても、その斬新性は低い。  数多くの因子から複雑に算出するモデルを構築して、ようやく差異を認識できるまでに、PCIとCABGが拮抗してきたのである。その場合に、モデルの示す数値の差よりも、患者の希望(選好)のほうが実臨床の現場では大切なのではないだろうか。考え出すと迷宮から抜け出すことは一層困難となる。いっそのこと判断は、AI様に任せる時代になるのであろうか。

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再び複数形で祝福だ!高齢者を国の宝とするために【Dr.中川の「論文・見聞・いい気分」】第30回

第30回 再び複数形で祝福だ!高齢者を国の宝とするために日本で行われた素晴らしい臨床研究であるELDERCARE-AF試験の結果がNEJM誌に掲載されました(N Engl J Med 2020;383:1735-1745)。心房細動があるとはいえ、通常用量の抗凝固療法がためらわれるような、出血リスクが高い80歳以上の高齢日本人を対象とした試験です。低用量NOACによる抗凝固療法が、大出血を増やすことなく脳卒中/全身性塞栓症を抑制することを示しました。この研究の参加者の平均年齢は86.6歳で、過半数の54.6%が85歳超えでした。このような高齢者は、ランダマイズ研究の除外基準に該当するのが常でした。高齢者に適応可能なエビデンスが存在しない中で、現場の医師は高齢の心房細動患者への対応を迫られています。脳卒中の減少と出血増加のバランスにおいて、試験の結果を慎重に解釈する必要がありますが、高齢者を対象としたエビデンスが登場したことは高く評価されます。日本社会は、高齢化において世界のトップランナーです。65歳以上の高齢者が全人口に占める割合である高齢化率が、7%を超えると「高齢化社会」、14%を超えると「高齢社会」、21%を超えると「超高齢社会」とされます。日本は1970年に高齢化社会、1994年に高齢社会、2007年に超高齢社会へと突入しました。高齢化社会から高齢社会となるまでの期間は、ドイツは42年、フランスは114年を要したのに対し、日本はわずか24年で到達しています。今後も高齢化率は上昇し、2025年には約30%、2060年には約40%に達すると予測されます。ある日の小生の外来診察室の風景です。「昨日、誕生日だったんですね。おめでとうございます!」電子カルテの年齢欄に、87歳0ヵ月と表示された女性患者さんに誕生祝いの声がけをしたのです。電子カルテは、誕生日を迎えたばかりの方や、間もなく誕生日の方が簡単にわかるので便利です。「87歳にもなって、めでたくなんかないですよ。これ以上、年はとりたくない」患者さんは、一見ネガティブな返答をしますが満面の笑みです。「今日まで長生きできてよかったね。年をとれることは素晴らしいことですね。おめでとう」外来では、誕生日の患者さんに必ず祝意を伝えることにしています。誕生日を祝福する意味はなんでしょうか。その意味は、その方の存在を肯定することにあります。子供の誕生日に成長を祝うこととは、少し意味合いが違います。自己の存在を肯定されることは、人間にとって最も満足度の高いことで、その節目が誕生日です。高齢人口が急速に増加する中で、医療、福祉などをどのように運用していくかは喫緊の課題です。逃げることなく正確に現状を把握し、次の方策を練ることは大切です。その議論の過程で、負の側面を捉えて嘆いていてもはじまりません。歴史上に類を見ない超高齢化社会の日本を世界が注目しています。対応に過ちがあれば同じ轍を踏むことがないようにするためです。今、必要なのは高齢者の存在を肯定する前向き思考です。高齢者を国の宝として活用するのです。その具体的成功例が、このELDERCARE-AF試験ではないでしょうか。高齢者医療のエビデンスを創出し、世界に向けて発信していくことは、高齢化社会のトップランナーである日本であるからこそ可能であり、むしろ責務です。あらためて、ELDERCARE-AF試験に関与された皆様に敬意を表し、複数形で祝福させていただきます。Congratulations!

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第34回 コロナ禍の意外な恩恵? インフル・喘息大幅減、受診抑制も体調変化なし…

コロナ禍が他疾患の発症抑制に働くこんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。大方の人の予想通り、冬の到来を前に新型コロナウイルス感染症の感染者が各地で急増しています。というわけで、この3連休、私は「Go Toトラベル」「Go Toイート」にも乗らず、自宅でのんびりスポーツ観戦をして過ごしました。大相撲の千秋楽の貴景勝と照ノ富士の本割相撲と優勝決定戦を堪能、小倉で行われた競輪祭における郡司 浩平選手(神奈川)のG1初制覇に感動しました。今ひとつだったのは日本シリーズの第1、2戦です。巨人の情けないほどの弱さは、今のセ・リーグ全体の弱さとも言えます。この問題については、また日を改めて。さて、今回は、コロナ禍における他疾患の動向や患者の受療行動の動向に関するニュースです。クラスター発生や医療機関のコロナ患者の受け入れ態勢が逼迫している、といった報道の陰で、コロナ禍がほかの疾患の発症抑制にも働いている、といった報告や報道が散見されるようになってきました。喘息による入院数が劇的に減少11月16日のNHKニュースは、「コロナ拡大以降 “ぜんそく入院患者 大幅減”マスク着用影響か」と題し、今年2月以降、喘息のため入院する患者が例年に比べて大幅に減ったとする調査結果を東京大学大学院医学系研究科の宮脇 敦士助教らのグループが発表した、と報じました。それによると、全国 272 ヵ所の急性期病院における入院診療データを分析した結果、新型コロナウイルス感染症の流行期間(2020年2月24日以降)は、前年までの同時期に比べて、喘息による入院数が劇的に減少(55%減)していた、とのことです。同グループは、新型コロナウイルス感染症の流行期間中の生活様式の変化により、喘息患者が増悪要因に曝される機会が減少し、喘息のコントロールが改善したためと考えられる、としてます。なお、肺がんや気胸など、新型コロナウイルスの影響を受けない呼吸器の病気では大きな変化は見られなかったそうです。同研究は、10月14日付で、米国アレルギー・喘息・免疫学会(AAAAI)の公式機関誌Journal of Allergy and Clinical Immunologyのウェブサイトに掲載1)されています。インフルエンザ、流行期に入らず?季節性インフルエンザについても、その発症は例年より大幅に少ないとの報告が出ています。厚生労働省が11月20日に発表した、 11月9~15 日の1週間のインフルエンザの発生状況(全国およそ5,000ヵ所の定点医療機関から報告があった患者数)は前週から1人減り、わずか計23人でした。インフルエンザは、1医療機関当たりの1週間の患者数が全国で1人を超えると「全国的な流行期」入りとされます。しかし、この時点では0.005人とこの基準を大きく下回っています。まだまだ楽観視はできないものの、今シーズンはインフルエンザの大流行は来ないかもしれません。受診抑制の7割が「体調が悪くなったとは感じない」このように、マスク着用や3密回避といった人々の行動変容が、従来からあった疾患の様相を変える事例は、今後も多く出てくるかもしれません。日本医師会は11月5日に最新の診療所の経営状況を発表しました。その中で、とくに小児科と耳鼻咽喉科で入院外の総件数・点数が大きく落ち込んでおり(小児科で約3割、耳鼻咽喉科で約2割前後)、経営が深刻な状況にあるとの見解を示しています。しかし、小児科と耳鼻咽喉科はそもそも感染症やアレルギー性疾患の患者が多く、単にコロナ禍だけではなく、疾患そのものが減っていることも大きな要因であることも認識する必要があるでしょう。そんな折、11月5日、健康保険組合連合会(健保連)が興味深い調査結果を発表していました。「新型コロナウイルス感染が拡大していた今年4~5月に、持病があって通院を控えた人の7割が『体調が悪くなったとは感じない』と考えていることが、調査結果から明らかになった」というのです。健保連は大企業などがつくる健康保険組合の全国組織です。この調査は、全国の20~70代の男女4,623人を対象に今年9月、オンラインで実施されました。その結果、高血圧症や脂質異常症といった持病をもつ3,500人のうち、865人(24.7%)が通院の頻度を少なくしたり、取りやめたりして受診を抑制していました。そして、受診抑制した人の69.4%が「体調が悪くなったとは感じない」と回答。さらに、10.7%が「体調が少し悪くなったと感じる」、1.5%が「体調がとても悪くなったと感じる」と答えた一方で、「体調が回復した」とする人も7.3%いたとのことです。つまり、「受診控え」で体調悪化する人の増加が懸念されていたにもかかわらず、実際に体調悪化を感じたとの回答は1割に過ぎなかったのです。老人保健施設で元気になった高齢者「できるだけ医療機関を受診して欲しくない(医療費負担を減らしたい)」という思惑のある健保連の調査である、というバイアスはあるものの、これはとても面白い結果です。私は今から約30年前、老人保健施設が創設された頃のエピソードを思い出しました。ご存じのように、老人保健施設は薬剤費が包括化されており、薬を使えば使うほど施設側の持ち出しになる、という制度設計になっています。そのため、当初老人病院から老健施設に転所した高齢者の多くが、病院入院時よりも投与する薬を大幅に減らされました。結果、どうなったか…。認知症が改善したり、むしろ元気になったりする高齢者が続出したのです。今回のコロナ禍は、ひょっとしたら外来診療における過剰診療・過剰投薬を改めて浮き彫りにするかもしれません。コロナ禍における外来患者の受療動向や、診療内容、病態の経緯などについて、専門家による詳細な分析結果を早く知りたいところです。参考1)Abe K , et al. J Allergy Clin Immunol Pract. 2020 Oct 14.[Epub ahead of print]新型コロナ流行時に喘息入院が減少、生活様式の変化が奏功か

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双極性障害と統合失調症の診断予測因子

 初回エピソード精神病(FEP)コホートにおける双極性障害と統合失調症の診断予測に役立つ可能性のあるベースライン特性と臨床的特徴を特定するため、スペイン・バルセロナ大学のEstela Salagre氏らが、検討を行った。The Journal of Clinical Psychiatry誌2020年11月3日号の報告。 本研究は、2009年4月~2012年4月に募集したFEP患者355例のコホートを評価したプロスペクティブ自然主義的研究である。12ヵ月のフォローアップ期間にDSM-IV診断で最終的に双極性障害および統合失調症と診断された患者のベースライン特性を比較した。フォローアップ時の双極性障害診断の予測因子を評価するため、バイナリロジスティック回帰モデルを用いた。 主な結果は以下のとおり。・12ヵ月のフォローアップ期間に双極性障害と診断された患者は47例、統合失調症と診断された患者は105例であった。・最終的に双極性障害と診断された患者は、統合失調症と診断された患者と比較し、以下の割合が有意に高かった。 ●気分障害の家族歴:有病率38.2% vs.18.0%(p=0.02) ●より良好なベースライン時の病前適応:病前適応尺度(PAS)38.4 vs.50.6(p<0.01) ●より良好な心理社会的機能:簡易機能評価検査(FAST)23.6 vs.33.7(p=0.001) ●より良好な認知的柔軟性:ウィスコンシンカード分類検査(WCST)の誤答数14.2 vs.19.7(p=0.01) ●躁症状の多さ:ヤング躁病評価尺度(YMRS)14.1 vs.7.3(p<0.01) ●陰性症状の少なさ:陽性・陰性症状評価尺度(PANSS)陰性症状尺度15.0 vs.22.3(p<0.001) ●精神疾患の未治療期間の短さ:144.2日 vs.194.7日(p<0.01)・バイナリロジスティック回帰モデルでは、フォローアップ時の双極性障害診断と有意に関連していた因子は以下のとおりであった。 ●FASTスコアの低さ(オッズ比[OR]:0.956、p=0.015) ●PANSS陰性症状スコアの低さ(OR:0.93、p=0.048) ●WCSTの誤答数の少なさ(OR:0.946、p=0.35) 著者らは「FEPコホートにおいて12ヵ月のフォローアップ時に双極性障害診断と関連が認められた因子は、より良好な心理社会的機能、陰性症状の少なさ、より良好な認知的柔軟性であった」としている。

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乾癬患者における、COVID-19の重症化因子は?

 COVID-19への決定的な対策はいまだ見いだされていないが、入院・重症化リスクを捉えることで死亡を抑え込もうという世界的な努力が続いている。本稿では、乾癬患者のCOVID-19に関する国際レジストリ「PsoProtect」へ寄せられた25ヵ国からの臨床報告に基づき、英国・Guy's and St Thomas' NHS Foundation TrustのSatveer K. Mahil氏らが乾癬患者の入院・重症化リスクを解析。「高齢」「男性」「非白人種」「併存疾患」がリスク因子であることを明らかにした。また、乾癬患者は複数の疾患負荷と全身性の免疫抑制薬の使用によってCOVID-19の有害アウトカムのリスクが高まる可能性があるとされているが、これまでデータは限定的であった。今回、著者らは「生物学的製剤の使用者は、非使用者と比べて入院リスクが低かった」とも報告している。Journal of Allergy and Clinical Immunology誌オンライン版2020年10月16日号掲載の報告。 研究グループは、乾癬患者におけるCOVID-19の臨床経過を明らかにし、入院と関連する因子を特定するため、国際レジストリ「PsoProtect」を通じて、COVID-19確認/疑いと臨床医が報告した乾癬患者を対象に、多重ロジスティック回帰法にて、臨床/人口統計学的特性と入院との関連を評価した。また、患者自身が報告する別のレジストリ「PsoProtectMe」のデータから、リスクの回避行動を明らかにした。 主な結果は以下のとおり。・評価は、臨床医からの報告症例である25ヵ国374例(確認例172例[46%]、疑い例202例[54%])の患者を対象に行われた。36%が英国、21%がイタリア、15%がスペインの患者で、年齢中央値は50歳、男性61%、白人種85%であった。喫煙歴なし54%、現在喫煙者は15%だった。・71%の患者が生物学的製剤による治療を受けていた。非生物学的製剤による治療を受けていた患者は18%、全身療法が行われていなかったのは10%だった。・COVID-19から完全に回復したのは348例(93%)であった。入院を要したのは77例(21%)、死亡は9例(2%)であった。・入院リスクの増大因子は、高齢(多変量補正後オッズ比[OR]:1.59/10歳、95%信頼区間[CI]:1.19~2.13)、男性(2.51、1.23~5.12)、非白人種(3.15、1.24~8.03)、慢性肺疾患の併存(3.87、1.52~9.83)であった。・入院率は、生物学的製剤使用患者よりも非使用患者で高率だった(OR:2.84、95%CI:1.31~6.18)。生物学的製剤のクラスの違いによる有意差はなかった。・患者報告のデータ(48ヵ国1,626例)から、生物学的製剤使用患者と比べて非使用患者はソーシャルディスタンスのレベルが低いことが示唆された(OR:0.68、95%CI:0.50~0.94)。

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機械学習モデルは統計モデルよりも優れるか/BMJ

 機械学習および統計モデルについて、同一患者の臨床的リスクの予測能を調べた結果、モデルのパフォーマンスは同等だが、予測リスクはさまざまに異なることが、英国・マンチェスター大学のYan Li氏らによる検討で示された。ロジスティックモデルと一般的に用いられる機械学習モデルは、中途打ち切りを考慮しない長期リスクの予測には適用すべきではなく、QRISK3のような生存時間分析モデルが、中途打ち切りを考慮し説明も可能であり望ましいことが示されたという。結果を踏まえて著者は、「モデル内およびモデル間の一貫性のレベルを評価することを、臨床意思決定に使用する前にルーチンとすべきであろう」と指摘している。QRISKやフラミンガムといった心血管疾患のリスク予測モデルは、臨床で幅広く使われるようになっている。これらの予測にはさまざまな技術が用いられるようにもなっており、最近の研究では、機械学習モデルがQRISKのようなモデルよりも優れているといわれるようになっていた。BMJ誌2020年11月4日号掲載の報告。19のモデルについてリスク予測能の一貫性を検証 研究グループは機械学習と統計モデルの、個別の患者レベルおよび集団レベルにおける心血管疾患リスクの一貫性と、リスク予測の中途打ち切りの影響について評価する長期コホート試験(1998年1月1日~2018年12月31日)を行った。被験者は、イングランドの一般診療所391ヵ所でClinical Practice Research Datalinkに登録された患者360万人で、入院および死亡記録とひも付けして評価した。 主要評価項目は、モデルパフォーマンス(識別、較正)およびモデル間の同一患者におけるリスク予測の一貫性であった。検討したモデルは19で、それぞれ異なる予測技術を有するものであったが、機械学習モデルが12個(R言語で機械学習を行うパッケージCaretやSklearn、h2oに基づくロジスティックモデル、random forest、neural networkなど)、Cox比例ハザードモデルが3個(local fitted、QRISK3、フラミンガム)、パラメトリック生存モデルが3個(Weibull、Gaussian、logistic distribution)、ロジスティックモデルが1個(統計的因果関係フレームワーク適合モデル)であった。機械学習モデルはリスクをかなり過小評価 集団レベルでは、モデル間のパフォーマンスは類似していた(C統計値はおよそ0.87で較正も同等)。 一方で、個人レベルでは、ばらつきが大きく、また機械学習や統計モデルの種別ごとに違いが認められた。ばらつきなどはとくに高リスクの患者について大きかった。 QRISK3で9.5~10.5%とリスクが予測された患者は、random forestでは2.9~9.2%、neural networkでは2.4~7.2%の予測リスクであった。QRISK3とneural networkの予測リスクの差は、95%範囲値でみた場合-23.2~0.1%にわたった。 また、中途打ち切りを考慮しないモデル(すなわち打ち切られた患者はイベントフリーと仮定する)は、心血管疾患リスクをかなり過小評価していた。QRISK3で7.5%超の心血管疾患リスクを有していた患者22万3,815人のうち、その他のモデルを用いた場合は57.8%が7.5%未満に再分類された。

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70歳以上、ビタミンD・ω3・運動による疾患予防効果なし/JAMA

 併存疾患のない70歳以上の高齢者において、ビタミンD3、オメガ3脂肪酸、または筋力トレーニングの運動プログラムによる介入は、拡張期または収縮期血圧、非脊椎骨折、身体能力、感染症罹患率や認知機能の改善について、統計学的な有意差をもたらさなかったことが、スイス・チューリッヒ大学のHeike A. Bischoff-Ferrari氏らが行った無作為化試験「DO-HEALTH試験」の結果で示された。ビタミンD、オメガ3および運動の疾患予防効果は明らかになっていなかったが、著者は「今回の結果は、これら3つの介入が臨床アウトカムに効果的ではないことを支持するものである」とまとめている。JAMA誌2020年11月10日号掲載の報告。8群に分けて3年間介入、血圧、身体・認知機能、骨折、感染症などへの影響を評価 研究グループは、ビタミンD3、オメガ3、筋力トレーニングの運動プログラムについて、単独または複合的介入が、高齢者における6つの健康アウトカムを改善するかを検討した。70歳以上で登録前5年間に重大な健康イベントを有しておらず、十分な活動性があり認知機能が良好な高齢者2,157例を対象に、二重盲検プラセボ対照2×2×2要因無作為化試験を実施した(2012年12月~2014年11月に登録、最終フォローアップは2017年11月)。 被験者は無作為に、次の8群のうちの1つに割り付けられ3年間にわたり介入を受けた。2,000 IU/日のビタミンD3投与・1g/日のオメガ3投与・筋力トレーニングの運動プログラム実施群(264例)、ビタミンD3・オメガ3投与群(265例)、ビタミンD3投与・筋トレ実施群(275例)、ビタミンD3投与のみ群(272例)、オメガ3投与・筋トレ実施群(275例)、オメガ3投与のみ群(269例)、筋トレ実施のみ群(267例)、プラセボ群(270例)。 主要アウトカムは6つで、3年間にわたる収縮期・拡張期血圧(BP)の変化、Short Physical Performance Battery(SPPB)、Montreal Cognitive Assessment(MoCA)、非脊椎骨折および感染症罹患率(IR)であった。6つの主要エンドポイントを複合比較し、99%信頼区間(CI)を示し、p<0.01を統計学的有意差と定義した。いずれも有意な影響はみられず 無作為化を受けた2,157例(平均年齢74.9歳、女性61.7%)のうち、1,900例(88%)が試験を完了した。フォローアップ期間中央値は2.99年であった。 全体的に、3年間の個別の介入または複合介入について、6つの主要エンドポイントに対する統計学的に有意なベネフィットは認められなかった。 たとえば、収縮期BPの平均変化差は、ビタミンDあり群とビタミンDなし群の比較では-0.8(99%CI:-2.1~0.5)mmHgで有意差なし(p=0.13)、オメガ3あり群とオメガ3なし群の比較では-0.8(-2.1~0.5)mmHgで有意差なし(p=0.11)であった。拡張期BPの平均変化差は、オメガ3あり群とオメガ3なし群では-0.5(-1.2~0.2)mmHgで有意差なし(p=0.06)であり、また、オメガ3あり群とオメガ3なし群の感染症罹患率の絶対差は-0.13(-0.23~-0.03)、IR比は0.89(0.78~1.01)で有意差はなかった(p=0.02)。 SPPB、MoCA、非脊椎骨折のアウトカムへの影響は認められなかった。 全体で死亡は25例で、群間で差はなかった。

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第35回 母乳保育は子にCOVID-19防御免疫を授けうる

新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染(COVID-19)後の出産女性の大半の母乳にはSARS-CoV-2への抗体反応が備わっており1)、それらの女性の母乳保育は子に抗ウイルス免疫を授けうると示唆されました。ニューヨーク市のマウントサイナイ医科大学(Icahn School of Medicine at Mount Sinai)の免疫学者Rebecca Powell氏等はPCR検査でSARS-CoV-2が検出された8人と検査はされなかったけれども感染者との濃厚接触などがあって恐らく感染した7人の感染期間終了から数週間後の母乳を集めてSARS-CoV-2への抗体を調べました。その結果15人全員の母乳にSARS-CoV-2スパイク(S)タンパク質に反応する抗体が認められました。また、15人中12人(80%)の母乳には細胞感染阻止(neutralization)に重要なSタンパク質抗原決定基・受容体結合領域(RBD)への結合抗体も認められました。目下のCOVID-19流行の最中(2月30日~4月3日)に41人の女性からCOVID-19経験の有無を問わず集めた母乳を解析した別の試験2)でもSタンパク質反応抗体がほとんどの女性から検出されています。それらの女性のSARS-CoV-2感染の有無の記録はなく、SARS-CoV-2に反応する抗体の出処は不明ですが、SARS-CoV-2以外のウイルスの貢献が大きいようです。Sタンパク質に反応するIgG抗体レベルは先立つ1年間に呼吸器ウイルス感染症を経た女性の方がそうでない女性に比べて高く、SARS-CoV-2へのIgAやIgM抗体の反応はSタンパク質に限ったものではなさそうでした。2018年に採取された母乳でもSARS-CoV-2タンパク質へのIgAやIgM抗体反応が認められ、目下のCOVID-19流行中に採取された母乳と差はなく、どうやらSARS-CoV-2以外のウイルスに接したことがSARS-CoV-2にも反応する抗体を生み出したようです。母乳中に分泌される抗体はSARS-CoV-2への抵抗力を含む幅広い免疫を授乳を介して子に授けうると研究チームの主力免疫学者Veronique Demers-Mathieu氏は言っています3)。この8月にJAMA誌オンライン版に掲載された試験でCOVID-19感染女性の母乳から生きているウイルスは検出されておらず4)、今回の結果も含めると、女性はCOVID-19流行のさなかにあっても少なくとも安心して母乳保育を続けることができそうです。もっと言うなら母乳保育は子にCOVID-19疾患の防御免疫を授ける役割も担うかもしれません。マウントサイナイ医科大学のPowell氏等は次の課題として母乳中の抗体がSARS-CoV-2の細胞感染を阻止しうるかどうかを調べます。また、母乳中のSARS-CoV-2反応抗体はCOVID-19疾患を予防する経口の抗体薬となりうる可能性を秘めており2)、Powell氏等のチームはCOVID-19を食い止める抗体を母乳から集める取り組みをバイオテック企業Lactigaと組んで進めています3)。参考1)Fox A, et al. iScience. 2020 Nov 20;23:101735.2)Demers-Mathieu V, et al. J Perinatol. 2020 Sep 1:1-10c3)Breastmilk Harbors Antibodies to SARS-CoV-2/TheScentist4)Chambers C, et al. JAMA. 2020 Oct 6;324:1347-1348.

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テネット【なんで時間を考えるのが癒しになるの?(アクセプタンス&コミットメント・セラピー[ACT])】Part 1

今回のキーワードアクセプタンスマインドフルネスコミットメントブリーフセラピーお葬式のメタファー人生の価値皆さんは、時間を忘れるのが癒しだと思いますか?確かに、時間に追われて生活していればそう思うことはあるでしょう。ただ一方で、時間を考えるのが癒しになることもあります。どういうことでしょうか?この理由を説明するために、今回は、タイムトラベルをテーマにしたSF映画「テネット」をお送りします。そして、アクセプタンス&コミットメント・セラピー(ACT、アクト)という最新のセラピーを重ね合わせます。この記事で時間を考えることを、物理学的な娯楽としてだけでなく、心理学的な癒しとしても見つめ直してみましょう。なお、より良い理解のために、この記事の2ページ目にネタバレのコーナーも用意しています。これからこの映画を見る人は、2ページ目にご注意ください。 なんで時間を考えるのが癒しになるの?-ACTの要素主人公はもともとCIAのエージェント。この映画では名もなき男と呼ばれ、あえて名前が付けられていません。彼は、第三次世界大戦を防ぐために、なかば強引にテネットという組織のメンバーにさせられます。そして、協力者として現れたニールと一緒に任務を遂行することになります。実は、このニールこそが陰の主人公であることに、私たちは映画の最後で気付くことになります。ここから、ニールの2つのセリフをACTの2つの要素に重ね合わせ、時間を考えるのが癒しになる訳を考えてみましょう。(1)「起きたことが起きた」-過去と現在の受け入れ-アクセプタンス名もなき男とニールが黒幕に迫っていく中、時間が逆行する装置の存在により、時間を逆行する人が出現して混沌となります。この映像体験は、私たちの常識を吹き飛ばします。そんな中、ピンチになった時にニールは口癖のように「起きたことが起きた(起きたことは仕方ない)」と言い、淡々と自分にできることをするのです。これは、名もなき男が、テネットの研究所で逆行する銃弾を見せられ当惑した時、研究者に言われたセリフ「考えないで。感じて」にも通じます。1つ目は、過去と現在の受け入れです。自分がどんなにうまくいっていなくても、その自分自身を受け止めること、つまり良い悪いの価値判断を無意識にしていることに気付くことです。これは、ACTのアクセプタンスに重なります。私たちは、問題が起きると、その葛藤による苦しみをコントロールしようとします。もちろん、苦しみをコントロールできるなら、それはそれで良いでしょう。しかし、どうしてもコントロールできない時は、どうなるでしょうか? 苦しみをコントロールできないという新たな「苦しみ」が生まれてしまいます。つまり、苦しみから逃れられないと突き詰めて考えること自体でさらに苦しくなるということです。これは、コントロールするという手段にばかり気をとられて、目的を見失ってしまいます。「手段の目的化」というよくある心理です。たとえば、それは、がんや難病による疼痛、全身倦怠感、身体的不自由です。予期不安もそうです。これは、不安(パニック発作)がまた起きると考えて(予期して)、不安になることです(パニック障害)。また、障害のある子の養育、最愛の人との死別、夫婦関係や親子関係の葛藤なども当てはまります。新たな苦しみは、本来あるべき健康な状態が前提になっています。その前提は、私たちがとらわれている、こうあるべきという常識(主流秩序)です。その常識から外れてしまった自分の状態に苦しみ、絶望しているのです。よって、その常識そのものにまず気付き、そのままにする、つまり苦しみをコントロールしようと思わないようにすることです。そして、苦しみはあるものの、そのままの人生を生きていくことです。そのために、「その行動は、そうあるべきと思っているから?」と自分自身に問いかけ、義務感や体裁を生み出す常識(主流秩序)に自分がコントロールされていないかを確かめる必要があります。ACTのアクセプタンスとは、こうあるべきという心を萎ませることとも言えます。これは、マインドフルネスに重なります。この詳細については、末尾の関連記事1をご参照ください。なお、アクセプタンスは、支持療法の「受容」とはまったく意味合いが違う点にご注意ください。 (2)「運命。俺にとっては現実だよ」-未来への思い入れ-コミットメントニールが名もなき男に「運命。俺にとっては現実だよ」と悟ったように答えるシーンがあります。また、「俺がどんな人生を送ってきたか、この事件が終わって片付いたときに生きていたら、話してあげたいよ」と意味ありげに話してもいます。ニールは一体何者なのでしょうか?私たちが映画を見終わってからニールの正体に勘づいた時、その言葉の重みと彼の任務への思い入れの強さに打ちのめされます。これから彼を待ち受けている「現実」を知ってしまった私たちは切なくなりますが、それでも彼はその「現実」を生きる価値があると思ったのでしょう。2つ目は、未来への思い入れです。自分はどんなふうに人生を送りたいのかという人生の目標を掲げて目指すこと、つまり自分の人生の価値をはっきりさせ行動することです。これは、ACTのコミットメントに重なります。もちろん、衣食住が満たされればそれ以上求めないという人は、それはそれで良いでしょう。しかし、一方で、とくに先ほど触れたような苦しみがもともとある場合は、このコミットメントに意識を向けることで、苦しみにばかり意識が向かなくなり、苦しみに振り回されることが減っていき、アクセプタンスが進むでしょう。もちろん、アクセプタンスがもともとある程度進んでいることで、現在の苦しみから未来に目が向き、コミットメントがはっきりしてくるでしょう。このように、アクセプタンスとコミットメントは、相互作用します。それでは、以下のケースはどうでしょうか? 難病によって大好きだった野球ができない人生は終わりだと嘆くクライアントがいます。彼のコミットメントは、野球をすることでしょうか? すると、彼にはコミットメント自体がないことになるでしょうか? そんなことはないです。彼のコミットメントとして、野球そのものではなく、野球をすることで得られる価値を考えてもらうことができます。それは、チームプレイによる信頼感、野球のゲーム性の魅力、体を動かす喜びなどいろいろ考えられます。それをはっきりさせて、その価値に沿う新たな行動をしてもらうのです。たとえば、それは仕事仲間とのコミュニケーションを増やしたり、野球の観戦をしたり、難病に差し障らない運動をすることです。また、うつ病によって結婚できずに子どももいない人生は意味がないと嘆くクライアントがいます。彼女のコミットメントは、家庭生活を送ることでしょうか? すると、彼女にはもうコミットメントを見いだすことは難しいでしょうか? そんなことはないです。彼女のコミットメントとして、家庭生活そのものではなく、家庭生活で得られる価値を考えてもらうことができます。それは、支え合う安心感、お世話をする喜びなどが考えられます。それをはっきりさせて、その価値に沿う新たな行動をしてもらうのです。たとえば、それはピアサポート(自助グループ)に参加したり、シェアハウスに入居したり、趣味の仲間同士でつながったり、友人の相談に乗ったり、ペットを飼うことです。コミットメントは、「お葬式のメタファー」でイメージアップすることができます。まず、「もしも自分が今死んだとしたら、お葬式に誰が来る?」「その人たちは何て言う?」と考えます。次に、「何十年か生きたあとで死んだとしたら、誰に来てほしい? 何て言ってほしい?」とさらに考えます。この2つの質問の答えの違いから分かることは、自分は何(誰)を大切にしたいのか、そして自分はどうなりたいのかという人生の方向性です。これが、人生の価値です。それは、ゴールとして終わるものではなく、方向として果てしなく続くプロセスです。そして、またその方向のほとんどは、人とつながることです(向社会性)。その「人生の地平線」に向かって、自分が日々どう行動するかは自分自身が一番よく知っているというわけです。ちなみに、映画のラストで戦いが終わり、立ち去るニールが名もなき男に見送られるシーンは、この「お葬式のメタファー」を想起させます。ACTのコミットメントは、こうありたいという心を膨らませることとも言えます。これは、ブリーフセラビーの「北極星のメタファー」、対人関係療法の「重要な他者」、マズローの「自己実現欲求」に重なります。ブリーフセラピーの詳細については、末尾の関連記事2をご参照ください。また、自己実現欲求や人生の価値が向社会性である理由やその起源の詳細については、末尾の関連記事3をご参照ください。 癒しにならないクライエントは?ACTの要素にニールのセリフを重ね合わせて、ACTの意味や効果を説明しました。ACTの適応対象は、セラピーとして幅広いです。ただし、やはり万能ではありません。ここから、癒しにならない場合、つまり適応対象にならないクライエントのケースを挙げてみましょう。知的障害や認知機能低下(認知症)など考えることにそもそも限界がある(知的レベルが低い)何(誰)かを大切にしたいという発想がそもそもなく自己本位である(向社会性が低い)こうあるべき(主流秩序)を貫くことが自分の生き方(価値)であると確信している苦しみを表現して周りからの援助を引き出すことが本人の生き方(アイデンティティ)になっている(シックロール)時間を考えるとは?動物は、過去を振り返ることも未来を見通すこともなく、時間を考えることはありません。その瞬間を本能的に反射的に生きています。そして、苦しみがあっても、コントロールしようとはしないです。人間(人類)も、20万年前まではそうでした。しかし、20万年前から言葉を話すようになり、言葉によって世界を認識し、時間を認識し、世界をコントロールするようになりました。一方で、人間は、言葉に、自分が学習した善悪のイメージ(認知)を融合させてしまうようにもなりました(認知的フュージョン)。皮肉にも、その言葉によって、自分が思い浮かべた言葉のイメージに引っ張られる、つまり、逆にコントロールされてしまい、コントロールできなくなることに苦しむようにもなったのでした。たとえば、いきなり「自殺」という言葉を聞いたら、その瞬間、私たちは緊張が走ります。差別用語や放送禁止用語なら、なおさらでしょう。また、特定の言葉を聞いただけで、かつての嫌な記憶を思い出して苦しむことも当てはまります。ACTの核心は、まさにこの言葉とイメージの融合を分離して、言葉そのものに間合いをとることです(脱フュージョン)。たとえば、先ほどの「自殺」という言葉を「ジ・サ・ツ」と単調に繰り返し言い続けていると、逆にこの言葉の意味が分からなくなることに気付きます(意味の飽和)。このように、言葉の「魔力」の揺らぎを感覚的に理解することができます。言葉を俯瞰することが、アクセプタンスです。そして、時間を俯瞰することが、コミットメントとも言えます。私たちは苦しみにぞっとして絶望を抱くことも、その苦しみをそっとしておいて希望を抱くこともできます。そのどちらの「地平線」に向かうのか、向かいたいのかはやはり私たち次第であるということです。ニールたちは、時間を逆行しました。私たちは、時間を逆行することはできないですが、未来への視点(価値)を持ち、逆算して今どう行動すれば良いかを考えることができます。これこそが、時間を考えることと言えるのではないでしょうか? ■関連記事1.「ZOOM」「RE-ZOOM」【どうキレキレに冴え渡る?(マインドフルネス)】2.東京タラレバ娘【ブリーフセラピーとは?】3.恥ずかしいけど口に出したら幸せになるカード【これで「コロナ離婚」しなくなる!(レクリエーションセラピー)】1)テネット映画パンフレット:岩田康平、松竹株式会社、20202)マインドフルネスそしてACTへ:熊野宏昭、星和書店、20113)こころのりんしょうa・la・carte ACT:熊野宏昭ほか、星和書店、2009 2ページ目【ネタバレ】これからこの映画を見る人は、2ページ目はネタバレになりますので、ご注意ください。(1)ニールの正体は?(2)ニールのコミットメントは?(3)なんで戦いのラストシーンが「お葬式のメタファー」なの?次のページへ >>

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